1:◆7LFvdKsUsKcU 2009/06/20(土) 19:35:57.23 ID:jVra6IYa0

2: 2009/06/20(土) 19:37:58.90 ID:jVra6IYa0
 北西。永久表土の大地に構える【赤の国】。
 南に位置する砂漠、【青の国】。
 
 南東にある森の陸地【黄の国】。
 北東に存在する海と街の境界【緑の国】。
 
 そして世界の中心地、蒸気立ち込める技術国、【紫の国】。

 世界のバランスは危うくも保たれていた。

3: 2009/06/20(土) 19:40:00.08 ID:jVra6IYa0


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです


 規律を守る者達

 相対するは無慈悲なる異形



第二章 黄色のコイン  第十話「正位置の『教皇』」

 見えた。
 月明かりに浮かぶ紫の光と銀の反射。
 暗闇に隠れた魔物達に向かい合う二人。

( ´_ゝ`)「多いな、なんだってこんな辺境に」

(´<_ ` )「時に多いってレベルじゃないぞ、アニジャ」

 アニジャは左手に、オトジャは右手に紫の光を宿している。
 軌跡を残しながら二人は魔法の手を振り上げた。

( ´_ゝ`)「そしてこの魔物を相手に一歩も退かない俺」

 兄弟の手の甲がぶつかる。
 魔力が広がる中、二人同時に空間を掴んだ。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
4: 2009/06/20(土) 19:42:01.84 ID:jVra6IYa0

(´<_ ` )「……足元はしっかりな、アニジャ」

 二人の手が真下に向かい振り下ろされた。
 
( ´_ゝ`)(´<_ ` )『サンダーアーチ!』

 一筋、紫の光が魔物に向かい放射線状に流れていく。
 それが地面に着いた瞬間に魔物達が吹き飛んだ。
 宙を舞う魔物の姿が遠くからでも良く見えた。

 狼の影だが、体は鉄の装甲が覆っている。
 青の国で見たマタンキと同じく生物と鉄の中間とも言える姿だった。
 
( ^ω^)「アニジャさん! オトジャさん!」

 ようやく二人の背後まで追い付いた僕は声を上げた。

ξ゚⊿゚)ξ「…とんでもない数ね!」

(;´_ゝ`)「お前ら何で来てんの!?」

 僕達の顔を見て心底驚いた顔のアニジャが叫ぶ。

(´<_ `;)「…危険だ。さっさと戻れ!」

 紫の塊を掴みながらオトジャも振り返る。
 驚いた顔をしているが冷静に僕の顔を見ていた。

5: 2009/06/20(土) 19:44:01.89 ID:jVra6IYa0
( ^ω^)「二人とも避難するんですお! この数じゃ追い払える訳ないですお!」

ξ゚⊿゚)ξ「早く! もう目の前です!」

 焦っているのは僕達の方かもしれない。
 迫る魔物達の眼光が、足音が、最悪の状況を予感させる。

( ´_ゝ`)「…断る。せめて非難が終わるまでだ」

(´<_ ` )「悪いな、何かあったら俺達は村に恩返しするって決めてたんだ」

 危険を顧みない二人を説得するのは無理だったのかもしれない。
 僕は、無理やりにでも連れ帰るのか、それとも…
 
 やはり、こうなる事は予感していた。

( ^ω^)『…ファイアグローブ』

 赤い軌跡と共に、僕は右手を振り払う。

(;´_ゝ`)「何やってんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ『ウォーターエンチャント』

 ツンも同じ考えなのだろうか。
 彼女の右手に青い球体が出現した。
 手首の青いリングも光を帯びて、魔法器の役割を果たす。

(´<_ `;)「…まさか」

6: 2009/06/20(土) 19:46:03.05 ID:jVra6IYa0
 僕達は二人と共に時間を稼ぐ。
 覚悟したはいいが、僕に策は無い。

( ^ω^)「ツン! どうすればみんな助かるかお?」

 僕は三人に向き直る。
 赤の紋章が輝く両手。青の魔力が集まる右手。
 そして紫の魔力が作り上げた、巨大な弓矢の発射装置。

ξ;゚⊿゚)ξ「わたしに聞くの? 
       …とりあえずアニジャさん達が『それ』で数を減らて、
       私達が魔物を二人に近づけないようにすればいいんじゃないかしら?
       後はゆっくり後退すれば、時間は…」

 ツンはそう言いながら兄弟の持つ紫の塊を指さす。

( ^ω^)「じゃあそれで!」

( ´_ゝ`)「お前ら…よろしく頼む!」

(´<_ ` )「軽く言うな。アニジャ…これは二人の命かかってるんだ」

 何にせよ思い付く事は他にないのだ。
 魔物の軍勢を見据える。
 月の光の下に、全員が映った。

 この四人で軍勢を抑えてやる。

 全員が息を吸い込み、それぞれが動き出した。

7: 2009/06/20(土) 19:48:04.11 ID:jVra6IYa0
( ^ω^)「ツン! 危なくなったらすぐ逃げろお!」

 こうなってしまっては無意味かもしれない。
 それでもツンには出来るだけ危険を避けて欲しい。
 聞こえたかどうか分からなかったが一応走りながら叫んだ。

 紫の閃光を背に、僕が正面から突っ込む。
 ツンは少し離れて僕の後ろを固める。ここなら危険も少ないだろう。
 囲まれては元も子も無いので初めに数を減らすのは、
 敵の左右の軍勢だ。

(#^ω^)「うおおおおおおぉッ!!」

 魔物というものは初めて見る。勝てる自信も無い。
 だが、いつもの様にさしたる恐怖も無かった。

 だからといって退く訳にはいかない。
 相変わらず自分の感覚がはっきりしないまま、
 魔物達の先頭に向かって踏み込んだ。

 鋼の狼が飛びかかって来る。

 腰を回し、右手を打ち出す。

 僕に牙が届く前に、狼の顔の横に当たった。
 あっけなく吹き飛ぶ魔物。
 
 確かな手ごたえだ。

9: 2009/06/20(土) 19:50:04.83 ID:jVra6IYa0
( ^ω^)(いけるお…!)

 構えを作りながらそう思った。

 魔物達の攻撃が始まる。
 僕は反撃に徹して体力の消費を抑える。
 討ちもらした魔物はツンがカバーし、サスガ兄弟の弓矢で数を減らす。
 上手く連携を取りながら時間を稼いでいた。 

(;^ω^)「このまま下がれば…」

 何十体目かの魔物を吹き飛ばし、僕が数歩後退した時だった。
 森の奥が輝いた。

(;^ω^)「!?」

 波が襲ってきたかの様な感覚があった。

 魔物が増えた。
 奥に援軍を隠していたのだ。魔物に出し抜かれるとは。

 魔物の群れの中に、熊の様な姿をした大きな影が見えた。
 恐らくは群れのボスだろう。
 歩き方が不自然だ、手負いなのだろうか。
 周囲を守る様に何匹もの狼型の魔物が駆けてくる。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン! こっちに!」

 背後でツンが叫ぶ。
 だが、増えた魔物が前に進み、僕とツンの間も移動して来た。

10: 2009/06/20(土) 19:52:06.09 ID:jVra6IYa0
 僕達の隊列は断ち切られた。
 結果、僕は敵陣で孤立する。
 奥に見えた大きな魔物も、多くの狼の影に遮られていた。

(;^ω^)(くっ…!)

 周囲からひっきりなしに襲い来る魔物を殴り飛ばす。
 何とかツンの元へ移動したい。

 しかし、どれくらい戦い続けている。
 今日の疲れが確かに僕の動きに影響を及ぼし始めていた。

 微かに薄れた集中が、僕に大きな隙を作った。

(; ω )「ぐあああああぁッ!?」

 後ろに回していた右足に牙が突き立てられた。
 硬直した体は前方からの一撃をかわせない。

 左腕に深々と牙が刺さる。
 冷たい感覚。遅れて熱さを伴う痛みが走る。

(; ω )「ぐ…おおおおおぉ!!」

 自らの黒い鮮血が舞う。膝をたたみながら右肘で背後の魔物を打つ。
 反動で伸ばして右手で左腕に噛みつく魔物を殴り飛ばす。
 僕は体勢を戻せずに両膝を地面についた。
 

11: 2009/06/20(土) 19:54:08.06 ID:jVra6IYa0
(; ω )「はぁ…はぁ……ぐっ!」

 腕と足の出血がひどい。
 寒い。
 体が痺れる。
 視界が、揺れた。

 仮面の魔法使いに殺されかけた時には思わなかった。

 擦れる景色の中に瞬く、魔物の装甲。
 彼らの唸り。
 力を込めて見れば、ゆっくりとした光景だった。 

 僕だけの命がかかっている訳じゃ無い。
 ツンもアニジャもオトジャも村の人たちもいる。
 今度は諦められない。

 湧きだした恐怖を打ち消すために無事な手を前に伸ばした。
 同時に世界はいつもの速度を取り戻した。
 
 いつの間に、ここまで来たのだ。

 群れのボスであろう熊の魔物が腕を振り上げていた。
 爪が鈍く輝く。

12: 2009/06/20(土) 19:56:09.11 ID:jVra6IYa0
(; ω )(まだだお…!)

 気付けば僕の足は地面を踏みしめていた。
 何を思う訳でもなく、右腕を力なく放った。

 僕の一撃は当たらなかった。

 いや、魔物の方が数歩下がっている。

(‘_L’)「負傷者を救出する! このまま包囲を突破し、サスガ兄弟と合流するぞ!!」

 馬の足音。
 はっきりしない意識の僕が理解する前に、銀の剣が闇夜に軌跡を描く。
 僕を囲む魔物達を真横から突き破り、一瞬で包囲を破壊していた。

(; ω )「うぅ…?」

(‘_L’)「少し我慢してください。 …後退するぞ!」

 僕は訳も分からにまま馬に乗せられ、主戦場から下がる事になった。
 魔物達の叫びがこだましていた。

 もともとツン達とは離れていない。
 少しの間馬に揺られると聞き覚えのある声が聞こえた。

(;´_ゝ`)「フィレンクトさん…ってブーン!」

(´<_ `;)「酷いケガだな。やはり厳しかったか…」

13: 2009/06/20(土) 19:58:16.16 ID:jVra6IYa0
(‘_L’)「すぐ手当を…え? 青の魔法使いがいるのですか?」

 僕を地面に下ろしながら各々が喋っている。
 どうでもいいが耳元で騒がないで欲しい。
 そんな事を思った直後、体が軽くなった。

ξ゚⊿゚)ξ「……ふぅ」

 ツンの回復魔法が効いた様だ。
 いつ戻って来たのか気付かなかった。

(;^ω^)「う…お?」

 徐々に意識がはっきりしてくる。

(‘_L’)「大丈夫ですか?」

(;^ω^)「お…おkですお」

 目の前の人が、意識は問題ないですね、
 などと言いながら傷口の確認に動く。
 自分で見てもしっかり塞がっている傷に驚いていた。

(‘_L’)「問題無いみたいですね…私は指揮に戻りますので皆さんはここに」

 そう言い残して馬に飛び乗る。
 僕は馬が暗闇に見えなくなるまで、それを見ていた。
 めまぐるしく時間が流れている。

14: 2009/06/20(土) 20:00:18.13 ID:jVra6IYa0
(;^ω^)「…はぁ…これで一安心だお。ツン、ありがとうだお」

ξ゚⊿゚)ξ「…ええ…」

 ツンは小さく言うと、その場に倒れこんだ。

(;^ω^)「ツン!? …これは…寝てるのかお?」

 急いで抱きかかえる。

(´<_ `;)「魔力の使い過ぎに加えて、まぁ疲れだろうな」

 つまりは僕のせいか。
 ツンには申し訳無い事をした。
 僕が悔いていると真横でアニジャも声を上げる。

(;´_ゝ`)「俺も疲れたから魔法解いていい?」

(´<_ ` )「俺達は魔力尽きるまで撃つぞ、アニジャ」

 何十発目かも分からない弓矢が放たれた。

 ツンを抱えながら戦場を見渡す。
 囲まれて全く見えなかった物がよく見える。

 四対大勢だった当初よりは幾分マシだが、
 いまだ数で圧倒的に負けている。
 それ以前に…

17: 2009/06/20(土) 20:02:20.07 ID:jVra6IYa0
(;^ω^)「あの人達誰だお…」

 僕の呟きを聞いたのか、オトジャが向き直る。

(´<_ ` )「フィレンクトさん率いる自警団だ。隣町にいるはずなんだが、
      騒ぎを聞きつけてくれたのかもしれない」

 僕はそれを聞いて再度視線を戦場へと向けた。
 真横に一列の防衛ラインを作り、別動隊が各個撃破に努めている。
 それでも数の差は埋まらない。
 少しずつだが自警団がこちらに近づいている。

 魔法の発光が無い。
 自警団の人たちは魔法が使えないのだろう。
 なら、素人でケガ人でも魔法使いがいれば役には立つはず。

(;^ω^)「また僕も行って来ますお!」

( ´_ゝ`)「やめろ。傷は回復しても血が足りてないだろ」

 一蹴された。
 しかしこのままでは魔物に押し切られて村が全滅する。

 そう思った時、また森が光った。

 魔物が増えた時を思い出す。
 この上増援が来たら避難民全滅もありうる。


18: 2009/06/20(土) 20:04:21.17 ID:jVra6IYa0

 突如として爆音が響く。急激な大地の揺れに誰もが立っていられない。
 蛍の様な金色の光が同時に立ち上っていく。

 次に森から現れたのは木々よりも背の高い巨人だった。

 木々をなぎ倒し、地面を隆起させ、立ち上がるようにしていきなり出現した。
 月の光が遅れて届く。
 
 体は石の塊。巨大な両腕が地面にぶつかっている。
 足は短いが鋭利で太い剣の様な形だ。
 
 金色の眼光と共に口が開かれると鋭利な石の牙が見える。

(;゚ω゚)「……」

(;´_ゝ`)(´<_ `;)「……」

 今度は何が現れたのか。
 僕達は予測もしない出現に声を失う。

 月下に巨人の咆哮が轟いた。


第二章 黄色のコイン  第十話「正位置の『教皇』」 完

19: 2009/06/20(土) 20:06:22.19 ID:jVra6IYa0


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです


第二章 黄色のコイン  第十一話「蒼天」


 轟音が満月の下に響いていた。

 岩で構成された姿。巨大な篭手をそのまま手にしたかの様な両腕。
 踏みしめている地面には剣の鋭さを持つ足が沈んでいる。

 現れた巨人は戦場にいる者達の視線を一身に受けていた。

(;゚ω゚)「……」

 僕は相変わらず動けないままだった。
 目の前の巨人が何なのか、出るはずもない答えを探していた。

 咆哮が止む。

 巨人が、動いた。

 開いた両腕に金色の光が宿る。
 巨大な影が奇跡を残し、右腕を振り上げる。
 そのまま真下の地面に叩きつけた。

21: 2009/06/20(土) 20:08:23.93 ID:jVra6IYa0
 地面が砕けた。
 世界が消えるかの様な錯覚を覚えたが、僕はまだ動けない。
 持ち上がっていく大地の破片が、魔物達を巻きあげる。
 満月が地面と魔物達で隠れた。
 
 空中に上がった物は重力に従い落ちて来る。
 次に巨人は両手の平を前に突き出す。
 大地の欠片と魔物が降る中、巨大な両手の前に紋章が広がる。

 揺れ続ける大地。
 地面を切り裂き、巨人が掲げた両腕に合わせて二枚の壁が空に向かって走る。
 二枚の壁の間から巨人が手を組むのが見えた。 
 僕達から見えなくなった壁の向こう側にはほとんどの魔物が閉じ込められている。

 巨人が両腕を地面へとぶつけた。

 真夜中に金色の光が周囲の空間を埋める。
 僕達の視界は遮られた。
 
 次に見えたのは全滅した魔物と立ち尽くす自警団の姿だった。
 いつの間にか巨人は消えて、戦場は地面がひび割れて隆起している。 

 僅かな、ほんの僅かな時間で、魔物の軍勢が全滅した。

(;´_ゝ`)「……召喚魔法か?」

 尻もちをついているアニジャが小さく言った。

23: 2009/06/20(土) 20:10:25.09 ID:jVra6IYa0
 呆けている僕達は目の前の自警団が集まっていくのを見て、立ち上がる。
 先程助けてもらったフィレンクトが小さな影と話している様だ。

(;^ω^)「僕達も行きますかお?」

 何もしない訳にもいかないと思い、誰ともなく言ってみた。

(´<_ `;)「…そうだな。何かこっち見てるし…」

 僕はツンを背負い直し、サスガ兄弟は魔法を解く。
 目の前の一団に向かって歩きだした。


 微妙に歩きづらい地面を踏みしめてようやく辿りついた。

(‘_L’)「あ、皆さん。こちらです」

 フィレンクトが奥で手を振っている。
 装備している甲冑が音を立てていた。

(´<_ ` )「フィレンクトさん! これはどうなってるんですか?」

 僕達が駆け寄ると他の自警団の人も挨拶をしてくれた。

(;´_ゝ`)「氏ぬかと思ったぞ…」

(;^ω^)「さっきはありがとうございましたお。僕は氏んだに等しいですお」

24: 2009/06/20(土) 20:12:27.13 ID:jVra6IYa0
 僕はお礼を言い悪態をつき、周囲を見回す。
 これ程の召喚魔法を使える人を一目見てみたかった。

(‘_L’)「救援が遅れて申し訳ありません。途中で待ち伏せがありまして…」

 増援を隠したり、待ち伏せをしたりと最近の魔物は頭がいいものだ。
 半ば感心しながら奥に目を移すと誰かが歩いてきた。

(´・ω・`)「……」

 背の低い少年だ、ツンより少し高い位か。
 フィレンクトの背後まで来ると高い声で喋り始めた。

(´・ω・`)「どうやら最近の魔物の活性化と関係ありそうだね。
      怖いよねーこういうの」

 明らかに場違いだが、何やら難しそうな事を言っている。
 気付いたフィレンクトが振り向くと変わらず敬語で声を上げる。

(‘_L’)「ショボン様、これは南の村ともラインを作った方が…」

(´・ω・`)「うん、東西の村ともに避難ルートが必要だろうね」

 研究者の助手か何かだろうか。

( ^ω^)「フィレンクトさん。この坊やは誰ですかお?
      まだ魔物の残党がいるかもしれないし、子供がいるのは危険ですお」

25: 2009/06/20(土) 20:14:29.08 ID:jVra6IYa0
 我慢しきれずに聞いてみた。
 ちなみにツンを背負ったままだったので細かい話は面倒だと思ったのも理由になる。

(´・ω・`)「………」

(;‘_L’)「いえ…あの…」

( ^ω^)「君も危ないからさっさと戻った方がいいお。下手したら僕みたいな目に会うお」

 疲労していた僕はフィレンクトの様子がおかしい事にも気付かなかった。

( ´_ゝ`)「ブーン、お前歳は?」

 満点の笑顔でアニジャが言った。

( ^ω^)「お? もう19ですお」

(´<_ ` )「…楽しそうだな、アニジャ」

 どうも周りの様子がおかしい。何かあったのだろうか。
 僕は少年に向き直る。

( ^ω^)「まあ、そういう事だから帰って寝るお。
      大体何でこんな時間に君は起きてんだお」

 高々と上った月が明るかった。
 変わらず夢の中にいる気分だ。
 戦いが終わって気が抜けていたのかもしれない。

27: 2009/06/20(土) 20:16:51.11 ID:jVra6IYa0

ξ゚⊿゚)ξ「…ブーン、多分その人が【地の賢者】ショボンよ」

(‘_L’)「ええ。調査で近くに来ていたらしいです。
    先程の召喚魔法はショボン様の物です」

  背後と真横から、そう聞こえた。

(´・ω・`)「それと、僕はもう23歳だよ」

 前で守護者がそう言った。



 あの後、自警団は他の村に走り、
 要件を離しながら僕達は守護者とサスガ兄弟の家に泊めてもらった。


 現在は日が昇ってから時間も経ち昼前である。
 魔力の多量消費のお陰で僕とツン、サスガ兄弟はずっと寝ていたのだ。
 ショボンの作った昼食の匂いに誘われて寝惚け眼の四人がテーブルについていた。

( ´ω`)「ショボンさん…眠いですお」

(´・ω・`)「『さん』はいらないって寝る前に言ったでしょ。
      それと村の人達が色々持って来てくれたから使ってみたよ」

 目の前には村人が持ってきた材料で作った昼食が置かれていく。
 並べられた物は米など腹にたまりそうな物が多い。

28: 2009/06/20(土) 20:18:53.01 ID:jVra6IYa0
(´<_ ` )「申し訳ありません、本来なら俺達が準備しなければならない物を……」

 並べられた物を見ながらオトジャはすまなそうに頭を下げている。

( ´_ゝ`)「…食っていい?」

 アニジャの方は悪びれる様子も無く、軽い。
 昨日の激戦も特に気にしていないのだろうか。

(´・ω・`)「うん、さっさと食べちゃってよ。村長とは話をつけてきたから、後は『君達』の方かな。
      食べ終わってからでいいけどね」

 ショボンが僕から視線を外すと思い思いに食事が始まった。


 どの様な手品か知らないが食事が終わると僕達の体力は全快に近かった。
 料理も作り方次第で変わる物だな。
 などと旅の豆知識を考えながら外を眺める。
 森にぽっかり開いた平原の上に浮かぶ青空には雲が流れていた。

ξ゚⊿゚)ξ「ショボン様。青の国からの手紙は届いたのでしょうか?」

(´・ω・`)「『様』も敬語もいらないよ。君達は客人だからね。
      手紙はちゃんと届いてるよ」

 ショボンは横に視線を泳がせながら声を出した。
 手紙の内容は知っているが何か思うところがあるのかもしれない。

29: 2009/06/20(土) 20:20:57.17 ID:jVra6IYa0
(´<_ ` )「さて、俺達は飛行機関の様子でも見て来るか」

( ´_ゝ`)「え? 何か重要な話っぽいじゃん?」

(´<_ ` )「空気を読め、アニジャ」

 アニジャを引きずりながらオトジャが外へと出て行った。
 国家レベルの話ゆえに自ら退いてくれたらしい。
 ここは彼らの家なのだから変な話だが。

(´・ω・`)「…青の国は疫病の予兆、紫の国の国境閉鎖。
      大きな話になりそうだね」

 ここからの問題は薬草があるかどうかなのだ。
 僕は薬学は知りたくもないのでどんな物かは知らないが、
 一国に供給しなければならない物なので相当量が必要なのだろう。

(´・ω・`)「首都…暫定的な首都ね。そこに少し貯えがあるんだ」

 あるなら幸いだ。しかし『少し』と言うのは気になる。
 暫定的な首都と言う言葉も変だ。

( ´ω`)(疲れは無いけど…眠いお……)
 
 普段使わない部分を使うのは疲れる。
 話を聞いているだけで眠くなる感覚は久しぶりだ。
 昨夜は地味に大怪我をしているので、そのせいかもしれなかった。

31: 2009/06/20(土) 20:22:59.79 ID:jVra6IYa0
(´・ω・`)「首都近くの遺跡に一杯あるにはあるんだ。
      …うん、今ちょっとこの国も面倒な事になっててね。
      原因は分からないけど魔物が増えて各地に被害がでてるんだ。
      自警団に掃討してもらってるけど、遺跡まで手が回ってるかどうか…」
      
 ショボンはポケットに手を入れて地図を取り出す。
 僕たちが持っている物より随分と新しそうだ。
 幾つか赤い丸が付いている地図の上をショボンの指がなぞっていく。

(´・ω・`)「何にせよ行かないと確認取れないし…
      王のいない民主制だから誰かが動かないとね」

 だから公式な首都が無いらしい。
 要するに青の国と同じく守護者がまとめ役になるのだろう。
 地図の上。赤い丸印の中心辺りで指が止まる。

(´・ω・`)「ここが首都。この村からは南、今から馬車で移動することになるね。
      もう少ししたら馬車が来るよ」

 見るとここは紫の国方面への国境に程近い村だった。
 視線を更に地図の上へとずらすと黄の国と紫の国の間に一本灰色の線が引いてある。

32: 2009/06/20(土) 20:25:01.18 ID:jVra6IYa0
(´・ω・`)「それが黄の国と紫の国を隔てる【灰色の障壁】だよ。
      陸地を分けちゃってる相当な大きさの壁なんだ。
      いつからあるのか文献も無いけど、何やっても傷一つ付かないんだよね。
      魔法すら効かないから研究対象としては有名だよ」

 僕の視線を捕らえたのか横から説明してくれた。
 知らない物はいくらでもある。世界とは広いものだ。

ξ゚⊿゚)ξ「コレのお陰で紫の国の人はこっちに来れないの。
      戦っても属性的に不利だし」

(´・ω・`)「楽観視も出来ないけどね。黄の国に軍隊が無いのは事実だし、
      魔法使えない人も多いんだ。義務教育って訳じゃないし」

 紫の国の国境閉鎖。
 やはり問題になっているのだろう。

(´・ω・`)「手紙には確か…赤と青の国が防衛線を引いたんだっけ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、今は何も起こってませんけど…」

( ^ω^)「……」

 ようやく眠気も晴れてきた。
 窓の外に少しだけ見えている空には大きめの雲が流れていた。

( ^ω^)「緑の国はどうなってるんですかお?」

35: 2009/06/20(土) 20:27:02.75 ID:jVra6IYa0
 少し気になっていた。
 ジョルジュは連絡があったと言っていた。
 しかし、ここに来ても動きだけは見えていないのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 ツンにも思うところがあるのだろう。

(´・ω・`)「さあ? まだ手紙も帰ってきてないしね。変な動きはないけど…」

( ^ω^)「…そうですかお」

 自分の出身国が戦争を起こそうとしているとは思いたくない。
 今は薬草を手に入れる事を考えよう。
 外を眺めながら馬車が来る方向を探した。


 その後サスガ兄弟に礼を言い、今日立つことを伝えた。
 
( ´_ゝ`)「おう、もう行くのか? ゆっくりしていけばいいものを…」

(´<_ ` )「ブーン達にもいろいろ事情はあるさ、アニジャ。
      またいつでも来い。待ってるぞ」

 と言って送り出してくれた。

36: 2009/06/20(土) 20:29:03.32 ID:jVra6IYa0
 こんな出会いがあるなら旅も悪くない、と思えた。

 到着した馬車に乗り込んだ後もサスガ兄弟は見送ってくれた。
 馬車旅は僕としてみれば小慣れたものだがツンにはそうでもないらしい。
 珍しそうに小部屋を見ていた。


 それから数日の間馬車に揺られる。
 気候が違う為なのか木の上は枯れ葉に変わっていた。
 急激に変わる景色を眺めつつ、移動中はショボンとツンとの雑談に終始していた。
 どうせこれから面倒な事になりそうなのであくまで下らない話だけであった。

 それでも一日中顔をつき合わせているとショボンの性格も分かってくる。
 有事の際以外は学校で教師をやっているらしい。
 軽い言葉の節々には生徒への思いも感じられる。
 今は魔物を鎮めて戦争が起きないように動き出したい、と言っていた。

 適当そうな言動とは裏腹に、守護者として国の事を考えている人でもある様だ。
 
 案外勤勉なツンとは馬が合い、何やら難しい話をしていた。
 目的地に着く頃には僕たちは随分と息の合った会話が出来るようになっていた。

( ^ω^)「おっおっお。いい空気だお! 木も凄いお!」

 森を抜けると、そこには奇妙な町が広がっていた。 
 木と言うには余りに大きな樹木が町の中心にそびえている。
 そこから、下に下がっていく様に家々が立ち並ぶ。

37: 2009/06/20(土) 20:31:07.89 ID:jVra6IYa0
 木々の背景は変わらずだが、木で出来た屋根に塗料が乗っている。
 高台から見渡すと久しぶりに明るい色が目に入ってきた。
 何故か中央の巨木だけは緑の葉を茂らせていた。
 
(´・ω・`)「まあ森のど真ん中だしね。あの木はシンボルみたいなもんだよ」

( ^ω^)「で、ショボンの家はどこだお?」

 目の前にいるのは仮のも守護者だが、本人の希望で敬語では喋らなくなった。
 やはり堅苦しいのは嫌い、との事だ。

(´・ω・`)「もう近いよ。外れの方だから」

 雑然とした町の中を通る。村の人は皆、麻の服の上からそれぞれ適当な物を羽織っていた。
 郊外へと出ると、どこかで見覚えのある建物が目にとまった。

( ^ω^)「…学…校……?」

 どうやら小学校の様だ。
 三階程の小さな物だが、年季の入った趣があった。

ξ゚⊿゚)ξ「いいじゃない。学校なんか見るの久しぶりよ?」

 僕達が住んでいた村と似た造りの学校だ。

(´・ω・`)「僕の家さ。住み込み教師かな?」

39: 2009/06/20(土) 20:33:15.80 ID:jVra6IYa0
 ショボンが一瞬僕を見て視線を戻す。
 静かだった道に声が響きだした。

( ><)「先生がかえってきたんです!」

( <●><●>) 「ビロード君、あまり騒いでは…」

(*‘ω‘ *)「かえってきたっぽ!」

 少年少女達が学校からショボンに手を振っている。

(´・ω・`)「ただいまー」

 ショボンの方はというと気の抜けた返事だ。

ξ゚⊿゚)ξ「ずいぶん慕われてるのね」

(´・ω・`)「ハハハ、僕としては向いてないと思うけどね」

( ^ω^)「小さいのがいっぱいだお!」

 ツンとショボンを差し置いて、久々に見る光景に見入っていた。
 いろんな意味で。

( ><)「ショボン先生! こっちにきて遊ぶんです!」

 授業中ではないのか。
 利発そうな少年が二階の窓から乗り出して手を振っている。

40: 2009/06/20(土) 20:35:17.91 ID:jVra6IYa0
(´・ω・`)「遊ぶのはいいけど宿題やったの?」

 僕達は学校と離れた位置にいるが、良く通る声で会話していた。

( ><)「やってないんです!」

 少年は顔のわりに不真面目だった。

(´・ω・`)「……掘るぞ?」

 ぼそりと呟いた。

(;^ω^)「……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

(;><)「……」

 何と学校にまで声が届いたらしい。
 生徒達は無言で窓を閉めた。
 こうして道には静けさが戻ったのだった。



 ショボンは生徒達と軽く過ごした後、客室に戻ってきた。
 外観の通り薄汚れた部屋だがどこか懐かしかった。

41: 2009/06/20(土) 20:37:19.72 ID:jVra6IYa0
(´・ω・`)「じゃあ、報告を頼むよ」

( ・-・ )「はい」

 ショボンは革の鎧を着た人物を伴っていた。
 顔等の細かい所は気にしないでおいた。

( ・-・ )「件の遺跡付近までは制圧が完了しました。
      しかし遺跡内は魔力を持った魔物が多く住み着いていまして…」

( ^ω^)「魔物が魔法を使うのかお?」

 先日戦った魔物にはそんな気配は無かった。
 もし魔法を使われていたら今頃僕は墓の下だ。
 砂漠にいたマタンキは例外中の例外だと思いたい。

ξ゚⊿゚)ξ「しぃさんから聞いた事があるわね。
      でも、そんなのは山奥とか…人里離れた所にいるって言ってたわ」

( ・-・ )「ええ、最近の魔物の活性化が関係しているのかと…
      私達、魔法を使える者も手を尽くしましたが怪我人が増える一方で」

(´・ω・`)「魔王だって魔法使うらしいから不思議は無いけどねぇ。
      やっぱり僕が行ってくるよ」

42: 2009/06/20(土) 20:39:21.16 ID:jVra6IYa0
 そう言った瞬間ツンも声を上げる。

ξ゚⊿゚)ξ「わたし達が行くわ。青の国の問題だし…」

(´・ω・`)「僕も時間はあるよ。みんなで行ってみようか」

 凄まじく危険な話だ。
 しかし、青の国を助ける為には行くしかない。
 気が付けばスケールの大きな話だ。 

 何にしても行くなら情報は多い方がいい。
 没個性的な顔に向かって質問を投げかけた。

( ^ω^)「魔物の属性はどうなってるんだお?」

( ・-・ )「属性…ですか。黄の属性が多かったと思いますが、
      何やら変な色も見かけたと聞きました」

(´・ω・`)「…変な色?」

( ・-・ )「はい。
      確か『透明な光』と言っていましたがその者が現在意識不明でして、
      真偽の程は分かりません」

 ショボンは一瞬考える仕草を見せたがすぐに顔を戻した。

(´・ω・`)「…頭の片隅にでも留めておくよ。さて、準備しようか?」

 ツンもその事は考えるのを止めて立ち上がった。

43: 2009/06/20(土) 20:41:24.72 ID:jVra6IYa0
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。まずは買出しかしら」

 馬車の長旅が終わってやっと着いたと思えばすぐに出発する事になりそうだ。
 最近はめまぐるしく状況が動く。

( ^ω^)(最近戦ってばっかだお)

 ことさら闘争には無縁だった僕は二人と道を歩きながら、そんな事を思っていた。

 古代遺跡に魔物。
 またここに戻れる事を、青空を流れる雲に祈った。



第二章 黄色のコイン  第十一話「蒼天」 完




44: 2009/06/20(土) 20:44:00.01 ID:jVra6IYa0
以上で投下を終了します。
沢山の支援、ありがとうございました。

今後は一話ごとが長くなる傾向があります。

それでは失礼します。

45: 2009/06/20(土) 21:00:36.72 ID:vemVII790
おっつ
話の長さなんて気にしないぜ

46: 2009/06/20(土) 21:19:17.02 ID:1pg3SDhP0
乙!
むしろ長い方がたっぷり読めていいよ

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです