1: 2009/12/30(水) 22:08:34.02 ID:gPMln2y+0

3: 2009/12/30(水) 22:10:51.09 ID:gPMln2y+0



( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです



第二章 黄色のコイン  第十二話「模造」


 ―黄の国 暫定首都近郊 古代遺跡―

 ―入口―

 遺跡は森の中に佇んでいた。
 暗い入口が口を開け、砕けたガラスが何故か散らばっている。
 コケが繁殖した壁は木々に密接して森の一部ともとれる朽ちた遺跡。
 もっとも、それは外観だけであって内部は魔物がひしめく危険地帯だ。

( ^ω^)「何という雰囲気」

ξ゚⊿゚)ξ「実際魔物いるわよ」

 僕とツンは首だけ覗かせて入口から中を見てみる。
 内部からは微かに風が吹いており、僕のマントがなびく。
 結局何も見えなかったので諦めて背後のショボン達に向き直る。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
4: 2009/12/30(水) 22:12:53.04 ID:gPMln2y+0
 ショボンは武器として先端に大きな装飾の付いた杖を携えていた。
 おおよそ木製にしかに見えないそれは、杖型の魔法器だ。
 服装は白地に黄色い模様が走る法衣を着ている。
 この出で立ちなら【地の賢者】と呼ばれても格好がつく。

(´・ω・`)「はいはい、魔法使える人はこの辺に整列して。
      …そうでも無い人は治療班をお願いするよ」

 僕達だけでどうにかなると考える程この国の守護者はうかつではない。
 数十名からなる小隊を作り、各個撃破で数を減らそうと考えている様だ。
 もちろん中心となり戦うのはショボンだ。
 僕やツンは基本的に素人だが魔法の属性により前線を任されていた。

( ^ω^)「うーん…松明とかも必要かお?」

(´・ω・`)「何のための魔法だと思ってるのさ。だいたい発光の効果があるよ」

( ^ω^)「そう言えばそんな効果もあったお」

(´・ω・`)「君は赤の魔法と…珍しいけど緑の魔法まで使えるんだよね?
      どっちも明るい色で良かったじゃない」

 考えた事も無かったが目立つ色と目立たない色があるのは当然だ。
 どっちがいいのかは人によると思うが。

(´・ω・`)「それに赤の魔法なら炎も付けられるしさ」

( ^ω^)「あ、そりゃ無理だお。僕は炎なんかだせないんだお」

(´・ω・`)「魔力の凝縮が出来ないのかな? 赤の魔法は扱いやすいって聞いたけど」

5: 2009/12/30(水) 22:14:56.12 ID:gPMln2y+0
 これでも扱いやすい方なのか。
 今までは適当に頭の中でイメージを作るだけだったが、理論も知っておいた方がいいかもしれない。
 遺跡に突入しようという今になって慎重になっている自分に気が付いた。

ξ゚⊿゚)ξ「準備できたみたい。ブーンは特に気を付けて」

(;^ω^)「どういう意味だお」

ξ゚⊿゚)ξ「赤の魔法は戦いとなると極端に効果範囲が狭いのよ。
      アンタの場合は特に、手の届く範囲まで行かないと攻撃出来ないし…」

 まったくな話だった。
 他に集まっている人達は遠くからでも戦えるのかもしれない。
 僕は器用に何かを飛ばす様な魔法は覚えてないし、もともとの魔力も強くない。

ξ゚⊿゚)ξ「とにかく! 今度大ケガしたら、わたしがアンタを頃す!」

( ^ω^)「今ひどいツンデレを見た!」

(´・ω・`)「…何でもいいけど、君達二人は僕の背後が立ち位置だよ。
       それと基本的に召喚は無しね、遺跡は狭いし魔力の消費が馬鹿にならないからね」

 こうして賑やかに遺跡制圧作戦は始まったのだ。

 ―遺跡 内部―

 遺跡の入口から続く階段は、ただ下へと向かって伸びていた。
 薄暗く狭い通路に三色の色が浮かぶ。
 赤と青、背後には多くの黄色の光で最低限の視界は確保されていた。

9: 2009/12/30(水) 22:16:59.74 ID:gPMln2y+0
 いつ襲われてもいいようにと全員が魔法を発動しているのだ。

 階段が終わると、そこは直線ではあったが広い空間だった。
 大木と言える立派な木が一本、足元から天井を貫いて生えている。
 木の位置はちょうど遺跡の中央だろう。
 
 遺跡全体が石で作られている様だが凹凸は無く、完全に平らな面で囲まれていた。
 所々に白い線の様な物も引いてある。

 透き通った匂いのする奥に目を向けると、真横に曲がる通路の一部を境に、
 雑草のような葉っぱも見えている。これが件の薬草らしい。

 国を救う薬草がある場所は率直な意見を言えば、変な場所、だった。

(;^ω^)「何やったらこんな所に木や草が生えるんだお」

(´・ω・`)「静かに。その辺に魔物がいるだろうからね」

 ショボンが言い終わると同時に地面から抜ける木の影が動く。
 即座に杖の先端に黄色い光が集中し、振ると軌跡を残す。

(´・ω・`)『グランドバイト』

 石造りの地面が刃を作り、鋭く突き出し、影を貫く。
 揺れる空気が収まらない中、攻撃に移る前に魔物は動かなくなった。

 僕が手を上げて突き出した地面を照らすと鉄の部品を散らしながら、
 手足を力なく垂らしている魔物のネズミだった。

ξ゚⊿゚)ξ「魔王の影響ね。普通の動物でも機械の体になるらしいわ」

11: 2009/12/30(水) 22:19:00.86 ID:gPMln2y+0
( ^ω^)「物騒な話だお」

 僕は短く答えながら青の国マタンキを思い出した。
 彼は何故機械の体になっていたのだろう。

(´・ω・`)「…来たよ」

 ショボンが目を細めながら遠くを杖で指す。
 暗がりの中に黄色い光が幾つも、うっすらと見えていた。

 
 サスガ兄弟と共に戦った時とは全く違う安定感で作戦は進んでいる。
 大部分が犬やネズミの半身が機械化した低級の魔物だった。
 黄の魔法を纏っていてもショボン一撃で終わるか、
 壊れた魔法の隙間に僕達が攻撃を加えるかで事がすむ。

 僕は適当に殴ってもダメージになり、直撃なら魔物を行動不能にできる。
 ツンの場合は正確な攻撃が可能なのでやはり問題はない。

 しかし高い魔力を持つショボンはいいが、自警団の魔法使いはそうもいかない。
 ショボンと同系の魔法を三人合わせて魔物の魔法を壊せるかどうかだ。
 だがこれも僕達が打ち漏らしを追撃する形で戦えば確実に倒せる。
 
 そのため僕達を先頭とした矢のような隊列でゆっくりと進んでいた。
 現在、道は続いているが左右の通路からの攻撃を警戒して迎撃に徹している。

(´・ω・`)「二人とも僕はここで守ってるからさ、ちょっと通路見に行って来てよ!
       自警団も何人か付いて行って!」

13: 2009/12/30(水) 22:21:03.06 ID:gPMln2y+0
( ^ω^)「把握したお!」

ξ゚⊿゚)ξ「左から行くわ!」

 僕とツンは隊列からいったん下がった。
 後ろから何人か魔法使いが付いてきたのを確認して、僅かな隙間から左の通路へと向かっていく。

( ^ω^)「…何も無いみたいだお!」

 あったのは大きな石の破片。恐らく天井が崩れて落ちてきた物だ。
 足元には薬草が多く生えている。
 僕の声を聞いて最後尾にいたツンが返事をしながら向かい側に向かって走り出す。
 こちらとしてはツンにケガをさせない、という前提がある。

(;^ω^)「ちょっ、ツン! あぶねーお!」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ!」

 僕の考えを知って知らずかそんな答えが返ってきた。
 もっとも僕よりツンの方が強いが。

 急いで追うべく振り返った僕は背後からの音にまた振り返る事になった。

(;^ω^)「!?」

 犬型の魔物だ。石の破片の真下に隠れていたのか。
 すでに飛びかかって来ている。黄色に輝く牙が向かってくる。
 僕は両手を構えていない。

15: 2009/12/30(水) 22:23:06.11 ID:gPMln2y+0
 思考が一瞬で繋がっていく。
 だが思考の完成を待たずして僕の体が勝手に動いた。

(#^ω^)『ッ!』

 赤い塵が舞った。
 腰を大きくひねり右足が魔物の顔面を捉える。
 黄の魔法が砕け、魔物が壁に叩きつけられた。
 目の前で機械の体が崩れていく。

 自分の右足が地面に着いたときに思考が繋がる。
 ツンは無事か。背後ではツンが右側通路の確認を終えたところだった。

(´・ω・`)「前に進むよ、全員隊列を戻して!」

(;^ω^)「…」

 ショボンの声が聞こえてから体が動くようになるまで妙な気分だった。

 微かに赤い光が残る右足に視線を移す。
 何か掴めそうだったが、隊列を組むために急いで駆けだした。


 遺跡はこの空間だけでは無かった。
 魔物が途切れた先にはさらに階段があった。
 ここまでで見つかった薬草が思ったよりも少なかったため更に下の階層に進む。

(´・ω・`)「一部は薬草回収を頼むよ。元気な人達は先に進むからね」

16: 2009/12/30(水) 22:25:08.22 ID:gPMln2y+0
 そう言ってショボンは階段を確認しながら下り始める。
 壊れた扉を踏みつけ中を見ると人四人が立てる位の空間が見えた。

ξ゚⊿゚)ξ「青の国の為に皆にケガさせるのって…申し訳ないわね」

 先に見えた空間から伸びる鉄製の階段を下る。
 
(´・ω・`)「前大戦から、各国は協力するって決めてるからね。
       紫の国はどうか分からないけど…魔王を呼ばない為さ。気にしないでよ」

( ^ω^)「…この遺跡って何階まであるんだお?あの変な木も結構大きそうだし…」

 探索の空気にも慣れてきた僕達は会話をしながらでも周囲に注意を向けている。
 狭い幅の階段、天井には金属の部品が突き出ており、ここが古代の遺跡だと確認できた。

(´・ω・`)「魔物が住み着く前に調べたけど、道はこの下までだったよ。
       まぁ、ここは遺跡だし隠し部屋の一つもあるだろうけどね」

( ^ω^)「それで充分薬草が取れるのかお?」

(´・ω・`)「うん。葉っぱ一枚で結構薬が作れるからね。そろそろ出るよ、気を付けて」


 視界が開けると今度は、ただ広いだけの空間だった。
 低めの天井を相変わらず中央を木が貫いている。
 足元には白い線が途切れ途切れに四角を描いていた。
 地面の石の隙間から生える薬草は一階よりも多い。

ξ゚⊿゚)ξ「……ねぇ、アレ何?」

17: 2009/12/30(水) 22:27:11.80 ID:gPMln2y+0
 姿が見られない魔物のかわりにツンが何かを見つけた。
 ツンが指さす先は向かいの壁、もたれるように巨大な人型の物体が埋まっている。
 
 錆びついた鉄の体、その上半身が石の地面からいきなり現れている。
 人型とはいえ装甲で固められ内側から覗く機械は、どう見ても魔物のそれだ。

(´・ω・`)「アレは前もあったよ。何か分からないけど」

 ショボンが周囲を見回している。

(´・ω・`)「魔物がいない…?」

 怪訝そうな顔で前のオブジェへと顔を映した。
 
 後ろで皆が揃ったのを確認し注意しながら前へと進む。
 僕は徐々にオブジェが放つ異様な空気を感じだしていた。
 それはここにいる全員が気づいているはずだ。

( ^ω^)「何か不思議な感じがするお」

 鋭利な爪、半分砕けた顔からは色を失ったレンズが覗く。
 近くで見れば相当大きいらしい。僕の身長の二倍半はある。

 暗い空間にぽつりと佇む。 
 ここに在るべきである、ここにあるべきでは無い。
 頭の中で矛盾が飛び交っていた。

 確実に古い時代の存在だった。
 それでも分かる。
 この存在は恐らく、何かを傷付けるべく悪意を持って存在していた。

18: 2009/12/30(水) 22:29:11.75 ID:gPMln2y+0
 畏怖の念。
 僕はコレに古代の神々しさと、魔物と同じ驚異を感じていた。

 同時に嫌な予感も。

ξ゚⊿゚)ξ「わたし、コレに近づかない方がいい気がしてきたわ」

(´・ω・`)「奇遇だね、僕もだよ。今回のコレは…」

 二人とも僕と同じ考えのようだ。
 前に見た時とは違うらしい、ショボンが離れて薬草回収を促そうとした時だった。


 ―……ジ…ヲ、ホ…ソク―


 頭に響く声が、空間にこだまする。
 聞き取れない物であった。

(´・ω・`)「!」

 ショボンが振り返りながら杖で飛来する岩を弾く。

ξ;゚⊿゚)ξ「やっぱりね、コレは…」

 ツンは青い光を広げ、盾にして石から味方を守る。

(;^ω^)「古い…魔物、かお?」

 僕は赤い線を残し岩を砕く。

21: 2009/12/30(水) 22:31:13.78 ID:gPMln2y+0
 振り返った先に見えたのはオブジェだった存在。
 六角形の破片が巨大な体を流れ、錆びや破壊箇所を修復していく。
 
 巨大な上半身が色を取り戻し、黄金の光を目と腕に纏い、僕達を睨んでいた。

(´・ω・`)「全員部隊に分かれて散開! 何が来るか分からないよ!」

 そう叫びながらショボンが一部に撤退のサインを出す。
 しかしその先では降りてきた階段に鉄の壁が降りて来ていた。
 
(;^ω^)「…逃げられないお」

 状況を端的に言えば、僕達は魔物の罠にかかったのだ。


 往々にして生者には生者の、氏者には氏者の時間が流れている。
 僕達がこの魔物に感じたのは前者だったという事だ。

(´・ω・`)「…少し距離をとって陣形を組んで! 取り敢えずは僕が相手をする!」

 魔物が振り上げた拳を意にも介さず、守護者が駆ける。
 僕とツンはそれぞれ左右に分かれて自警団達と隙を窺う。

 巨大な腕が振り下ろされる。
 その姿からは想像も出来ないほどの速度。
 僕には魔物の動きを追う事は出来なかった。

(´・ω・`)『…グランドランス』

23: 2009/12/30(水) 22:33:14.79 ID:gPMln2y+0
 僕は目を狙う。
 緑の魔法で突っ込む。
 そう決めて間合いを測り始めた。

 その時、右腕を貫いていた石の槍が砕け散る。

(´・ω・`)「ちっ…左翼! 注意して!」

( ^ω^)「…え…?」

 僕が声を聞いたのは魔物の腕が目の前に来た時だった。
 気付いた時にはそこにあったのだ。

 魔物の一撃は僕の目の前に叩きつけられていた。

 視界が下にずれる。
 砕けた地面が視界を上に向かって流れていく。

 重力に引きずられていると分かったのはすぐだった。

(;^ω^)「おおおおおおおお!?」

 僕の立っていた地面が砕けて下へと落ちて行く。
 何も見えない黒の中へと。

(´・ω・`)「ブーン!!」

25: 2009/12/30(水) 22:35:16.85 ID:gPMln2y+0
 守護者の声が途中で途切れ、視界が黒く染まっていく。
 意識はある。単に地面から落ちて暗くなっただけだ。
 そう冷静に考えてはみたが著しく動揺した精神状態では緑の魔法を使えるはずもない。

 上に伸ばした手が赤い軌跡を残して、砕けた地面から漏れる光を掴もうとしていた。


 確実に衝撃で意識を失うだろうと予測していたが、
 赤の魔法で強化された僕の体は上手く受身を取っていた。

 微かに漂う小さな薄白い光が周囲を浮かび上がらせていた。

 上を見上げても黒一色で塗りつぶされている。


 『暗いと思わない?』


 不意に声が聞こえる。

(;^ω^)「お…何だお…?」

 周囲を見回しても何も見えない。
 次の返答は姿と共にやってきた。
 

( ∵)「暗いなら照らせばいい…その為の『力』だ」

28: 2009/12/30(水) 22:37:38.89 ID:gPMln2y+0
 その姿はよく見えた。
 闇の中にぽつりと突如として出現する。
 汚れも装飾も無い『白い』ローブ。
 そして、フードの下から覗く仮面。

(;゚ω゚)「仮面の…!!」

 僕は震えた声を出すと同時に魔法を発動している。

( ∵)「彼とは違う、私はビコーズ。初めまして、ブーン」

 なぜ名前を知っている。
 男か女かも分からないくぐもった声が響く中、僕の頭を疑問が行きかう。 

(;゚ω゚)「彼って…」

( ∵)「ゼアフォーだよ。君と彼は面識があると思ったが?」

 仮面の魔法使い、ゼアフォー。
 モララーが言っていた名は本当だったのだ。

( ∵)「…どちらでもいいか。私は自分の目的を果たす」

 ビコーズはローブを翻して僕の前を通りすぎて行く。
 その先に見えるのは…

(;゚ω゚)「……ドラゴン【龍】…!?」

29: 2009/12/30(水) 22:39:41.04 ID:gPMln2y+0
 鈍く光を返しながら、四本の腕を持つ首だけの龍が照らし出されていた。
 緑色に透き通る鱗が軋む。
 首から火花を散らしながらゆっくりと動き出している。

 鋼鉄の体を持つ最強、最大の生物。
 無学な僕でも人間一人が勝てる存在ではない事を知っている。
 目撃された例などあっただろうか。
 大陸でも人の辿りつかない秘境に存在しているはずである。

 そんな事はどうでもいい。
 何故そんな物がここにいるかだ。

( ∵)「恐れる事は無い。これは模造品だ」

 食物連鎖の頂点に立つ存在を模倣出来るのか。
 恐らくは古代の力だろう。
 だが模造品だろうが何だろうが、こいつは龍なのだ。
 
 早く逃げなければ。
 こんな時に限って体が動かない。
 感覚も曖昧になり、体が恐怖に支配されている。
 僕が動けないまま立ち尽くしていると龍の目に光が灯った。

( ∵)「…の無い模造か。愚かな…」

 ビコーズの足元が急激な閃光を放つ。
 照らし出される空間。
 龍の体は途中で『消えて』その背後には水晶のような物体が置かれている。
 水晶は守られる様に機械に埋もれていた。

30: 2009/12/30(水) 22:41:46.34 ID:gPMln2y+0
 一瞬で光がビコーズの右手に集まる。
 強くなった光、反射的に目をつぶる。

 次に目を開けた時に見えたのは、色のない、透き通った、『透明の光』。
 光源が存在しないそれはビコーズを包むだけで他の色を遮る事は無い。
 ただ明るいだけであった。

 それを真上から振り下ろし、声が響く。

( ∵)『イミテーション・ソード』

 仮面の魔法使いビコーズは『透明の光』に包まれた、『水晶の剣』を握っていた。


第二章 黄色のコイン  第十二話「模造」 完



32: 2009/12/30(水) 22:43:48.64 ID:gPMln2y+0


 試練の先にある物


 目的の合一



( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第二章 黄色のコイン  第十三話「正位置の『恋人』」

34: 2009/12/30(水) 22:46:07.79 ID:gPMln2y+0
( ∵)『イミテーション・ソード』

 音にも似た光が剣からはなたれる。
 視認も出来れば聞く事も出来る、その光にはそんなイメージを持っていた。
 あくまで僕の目に映るのは明りと透明な剣だけだ。

 これは魔法なのか。

 透明の閃光が埋め尽くし、部屋全体が照らされる。
 機械を背に、全貌を露わにした模造品の龍が首をたわめる。
 口から放った金色の光がビコーズを狙い直線を消し飛ばす。

 ビコーズは透明な剣を構えることなく、歩くように一歩踏み出した。
 彼の姿はそれで消えた。

 僕は目で金色の光を追う。

 消し飛ばした先には龍の首が落ちていた。
 間の道には四本、龍の手が突き刺さっている。

( ∵)「今まで…御苦労さま」

 両者の光が収まり、龍がいた場所にはビコーズが立っている。
 最強の存在は一瞬で砕け散ったのだ。

 透明な魔法を纏う彼はやってのけたのだ。
 たった一人で、一瞬で、龍頃し【ドラゴンスレイヤー】を。

(;゚ω゚)「…!?」

35: 2009/12/30(水) 22:48:10.72 ID:gPMln2y+0
 何が起きている。
 理解できなくても、彼が動きを止めるはずはない。

( ∵)「そしてこちらも、か。見てごらん」

 目が慣れてきて見える。
 ビコーズの背後には機械の中で薄らとぼやけている黄色い水晶。
 彼が指さす先は水晶を包む機械の上だった。
 太い糸のような物体が何本も束になり天井と向かっている。

 ちょうど、僕達が戦っていた魔物がいた位置へと伸びていた。

 ツン達はどうなっている。
 よぎった考えは繋がらず、すぐに視線をビコーズへと移す。
 ゆっくりと手を伸ばして水晶を取り出す。
 一瞬だけ眺めた後、力を込めた。

 ガラスが砕け散る様な軽い音が響く。

 砕けた水晶片が地面に落ちる音。
 この部屋に落ちてきた時と同じような青白く、か細い光が舞う。

( ∵)「ブーン、君とはまた会いそうな気がするよ」

 ビコーズの白いローブが翻る。
 微かに起きた風圧が光を押し、広がっていく。

 後方にあった出口をゆっくりと出て行ったのを見届けるのと、
 僕が瓦礫の山に背中から倒れこむのは、ほぼ同時だった。

37: 2009/12/30(水) 22:50:15.50 ID:gPMln2y+0
(;゚ω゚)「……」

 何も考える事が出来なかった。
 こう一度に出来事が連続されては思考が追い付かない。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!」

 何とビコーズが出て行った所からツンが入って来た。

(´・ω・`)「無事みたいだね…」

 ショボンも遅れて入って来た。足に何かをぶつけて地面を確認する。

(´・ω・`)「……ドラゴン…!?」

 ショボンの下には最強の魔物の頭。
 さすがのショボンも驚きを隠せていない。

 もうこの時点で僕は意識が朦朧(もうろう)としていた。
 二人の声を聞きながら眠るように意識が遠ざかっていった。
 
 ―黄の国 暫定首都―

 ―学校 医務室―

 気付けば僕は街の医務室で寝ていたのだった。
 時間は昼。一日近く意識を失っていた。
 起きた時には質問責めにあったが、そのまま話をしたら…

38: 2009/12/30(水) 22:52:17.07 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)『うん、ゆっくりでいいんだ』

ξ;゚⊿゚)ξ『大丈夫よ。ブーンが整理出来るまで待ってるわ』

 等と言われたのが悔しかった。
 『お前らも龍の頭見ただろうが』とも言ったが現在検証中との事だ。
 検証も何も普通に実在しているだろうに。

 一方、戦い続けていたショボン達だが魔物は急に動かなくなったらしい。
 倒された龍から抜き取られた水晶が関係しているのだろうか。

 
 僕にしてみればつい先ほどの出来事。
 椅子に座りながら、何度も思い出していた。
 背もたれが軋む音を聞きながら目の前の青い光を延々と眺める。

 時間はさほど経っていない。まだ正午を過ぎた位だ。

( ^ω^)「いやもうホント大丈夫だお」

ξ゚⊿゚)ξ「何言ってんの、細かいケガが…」

( ^ω^)「コレは下に落っこちた時にかすっただけだお」

ξ゚⊿゚)ξ「それに…ドラゴンがいたなんて…」

( ^ω^)「……」

 確かにツン達が言うのも正しい事である。
 龍【ドラゴン】が首都の近くにいたなどという話は洒落にならない。

39: 2009/12/30(水) 22:54:28.86 ID:gPMln2y+0
 最近は発見報告が無いとは言え、
 下手をすれば街一つを壊滅させる事が出来る存在らしい。

ξ゚⊿゚)ξ「遺跡の多い青の国でも見つかったなんて聞かないのに」

( ^ω^)「…あれはドラゴンじゃないって言ってたお」

ξ゚⊿゚)ξ「ビコーズって魔法使いが? その人はどこ行ったのよ?」

(;^ω^)「そこだお。ツン達は本当にすれ違ってないのかお?」

 ツン達の行動をまとめるとこうだ。
 僕が下の階層に落ちビコーズや龍と会っている間、ツン達は巨大な魔物と交戦。
 急に動かなくなった魔物を警戒しつつ以前は無かった階段を下る。
 そこでビコーズを見送った僕と会う。

 当然、ビコーズとすれ違わなければならない。

ξ゚⊿゚)ξ「自警団のみんなと降りて来たし、下の階層には続いて無かったし…」

(;^ω^)「うーん…やっぱ分からんお」

(´・ω・`)「薬草回収のついでに調べてみたけど特に何も見つからなかったしね」

 急に聞こえた声に顔を向けるとショボンが部屋の入口から入って来た。

(´・ω・`)「ところでツン、君の手紙と一緒に薬草を送っておいたよ…まずは船五隻分」

 ショボンは手にしていた一枚の紙をツンに手渡し、近くの椅子に座る。
 僕と同じく、木が軋む音が小さく鳴った。

40: 2009/12/30(水) 22:56:30.66 ID:gPMln2y+0
ξ゚⊿゚)ξ「ありがとう…これで青の国は助かるのね」

 ツンが受け取った紙を見ると船の出港状態だった。

( ^ω^)「良かったお!」

 分からない事だらけだが青の国へと薬草が渡ったなら、
 それで目的は達成したことになる。

(´・ω・`)「ブーンの言う事は後から調べるとして、暫くこの街で休んでてよ」

( ^ω^)「少しの間動く気にはならないお」

 僕が座ったまま背伸びをすると視界の右上に曇り空が映っていた。

(´・ω・`)「そうかもしれないけどさ、ちょっと意味合いが違うよ。
       薬草が無事に着くって確証はある?」

ξ゚⊿゚)ξ「もしかしたら紫の国が妨害してくる可能性もあるって事ね?」

 ツンは資料から目を上げ、ショボンと目を合わせる。

(´・ω・`)「うん。保険って言っちゃなんだけど…ツンには青の国からの手紙を、
       守護者しぃの筆跡か判断して欲しいんだ」

 僕にしてみれば丁度いい。
 慣れない長旅に加えて遺跡の探索で疲れている。
 手紙が来るまで時間はかかるだろうが、体力を回復するには必要な時間だ。
 ツンに関しても同じ事が言えるだろう。

42: 2009/12/30(水) 22:58:33.65 ID:gPMln2y+0
ξ゚⊿゚)ξ「分かったわ。ブーンもいい?」

( ^ω^)「把握だお」

 そう言い終わった後、僕の腹が鳴った。

( ^ω^)「ショボン、飯くれお」

ξ゚⊿゚)ξ「恥は無いのか」

(´・ω・`)「ハハハ、そう言うと思ってお願いしといたよ。ツンの分もね」

 ショボンは苦笑を浮かべながら食事が運ばれて来るのを待つ。
 僕とツンも解けた緊張から頬を緩める。
 
 窓の外、曇り空は色を濃くして雨の匂いが部屋に入って来ていた。



 それから六日が経つ。
 結局、僕の身に起きた事は保留という事でまとまった。
 病は無いかとベッドに縛り付けられての数日は実に息苦しかった。

( ^ω^)「ふー、やっぱり森の空気はいいお!」

 医務室から解放され学校の目の前で深呼吸する。
 街の中心へと続く土の道、その上を少しずつ進んでいく。
 雲は多いが天気もいい。
 途中で、子供たちと遊んでいたツンに軽く散歩に出ると伝えた。

43: 2009/12/30(水) 23:00:50.72 ID:gPMln2y+0
 僕は久しぶりの散歩を始めたのだった。

 景色が流れていく。
 木々の合間に建てられた石の家が見える。雑然を体現したかの様な町並み。
 雑踏が聞こえだすと、森の中とはいえ生活をしている姿が見えてくる。

 その中を進んでいく。
 
 枯葉を踏む音、マントを揺らしながら駆け抜ける風、何かを焼く匂い。
 国を動かす人々は厚手の服を着てそれぞれの仕事をこなしている。
 誰も忙しそうにしている人はいない。
 ここだけ時間の流れが穏やかなのではないかと錯覚してしまう。
 
 ここで暮らしていけるとは羨ましい。
 もちろんどこで暮らしてもそれなりの苦労はあるはずだが。
 そう思いつつ整備されてなさそうな脇道を見ると水路もあれば井戸もあった。
 
 視線を戻して目指す場所をいっぱいに捉える。
 緩やかな階段状に作られた街の頂上には、大きすぎて目に入らない物がある。
 この街に来た時にも見た巨木だ。
 離れた場所からでもはっきりと見えるそれは確かに街のシンボルと言って差し支えない。

 やはり名物らしい物は見ておきたい。
 自分でも下らないと思う野次馬根性で歩みを速めたのだった。

 
 相変わらず森の距離間はあてにならない。
 僕が件のシンボルの目の前に着いたのは太陽が傾きかけた頃だった。
 実際は迷路のような街で迷ったのが理由なのだが。

44: 2009/12/30(水) 23:02:51.65 ID:gPMln2y+0
(;^ω^)「三時間は迷ったかお?」

 辿り着いた巨木の下で座り込み首をまっすぐ上まで持ってくる。
 広げた枝で視界が埋め尽くされて、近づけばなおさら大きさが誇張された。
 空には赤色が混じりだして陽光が巨木の影を変えていく。

 地面から跳ねた光が目の前の木に隙間がある事を露わにした。

( ^ω^)「…?」

 三角形に開いた木の穴は大人が通るにも十分な大きさだ。
 いつも通りの中途半端な好奇心でそこへ向かって行った。


( ^ω^)「何だおコレ?」

 石とも鉄ともつかない物質の空間。
 左前には少し上の階へと階段が続いている。
 残るは本棚が並ぶだけだった。

 真横から夕日が差し込み、入口は明るい。
 所々カンテラが置いてあるため室内は最低限の視界は確保されている。

(´・ω・`)「やあ、ようこそバーボンハウスへ」

 階段の上から声がかかる。

( ^ω^)「何してんだお? ハウス?」

(´・ω・`)「うん、罠にはまった人に言ってるんだよ」

45: 2009/12/30(水) 23:05:00.96 ID:gPMln2y+0
(;^ω^)「何の罠だお。で、何してんだお?」

(´・ω・`)「調べ物かな。ここは古代の図書館だからね」

 階段を上ると足音が響く。
 自分の足音を聞きながらショボンの方へと進む。

(´・ω・`)「ま、文字は意味分かんないけどさ」

 ショボンが目の前に広げた分厚い本には、見た事も無い文字がうねっていた。
 久々に目眩が起きた。

(;^ω^)「閉じるお、拒否反応で階段から落ちたらどうするお」

(´・ω・`)「そんな大袈裟な。案外楽しい物さ、考古学って」

 ショボンは薄汚れた椅子に腰かけて本を閉じる。
 それを机に置いて僕を指さす。
 僕の後ろにはショボンが座っている物と同じ椅子。

 ここは二階からはみ出たテラスらしい。一階の様子はここからよく見える。
 座りながら奥を見ると一階とさほど変わらない見栄えだった。
 ただ階段に隠れていたのか、一本の木が建物を貫いて生えていた。
 どうやらこの図書館を巻き込みながら巨木が生えていた様だ。

(´・ω・`)「しかし君も災難だね、赤の国からこんな大事に巻き込まれたなんて」

( ^ω^)「…まあ、いい経験だお。ツンとまた会えたし」

(´・ω・`)「旅もやってみれば楽しい物、かな?」

47: 2009/12/30(水) 23:07:01.77 ID:gPMln2y+0
 ショボンは来ていた服のポケットに手を入れながらテラスの端へと歩いて行く。

( ^ω^)「つまらなくは無かったお」

 僕が肯定の意を表すと、ショボンは待っていたとばかりに笑顔を作った。

(´・ω・`)「じゃあ僕も考古学の良さを教えてあげないとね」

( ゚ω゚)「…」

(´・ω・`)「まぁここは目立つからね。どうせ来ると思ったよ、これが罠ってやつさ」

 構わず話は進む。
 今までの旅はつまらなかった。そう言いたい気分だ。

(´・ω・`)「……昔々、まだ神が人の近くにいた頃の話」

 笑顔を浮かべながらショボンがそう続ける。
 この始まり方ではただの昔話ではないのか。

(´・ω・`)「ある機械職人の男が『機械の翼』を作りました。
      それを付けて青空の遥か上へ、夢を叶えるため神様に会いに行きました」

(;^ω^)「…?」

(´・ω・`)「しかし心の狭い神様達は自分の領地に人間が入るのを良く思いません。
      男は、怒った神様に月に閉じ込められてしまいました」

 青の国で聞いた話とは随分と違う話だな。
 そんな事を考えながら黙ってショボンの話を聞く。

48: 2009/12/30(水) 23:09:03.40 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)「男が月でどうなったか知る者はいません。
       ただ、月が徐々に黒く染まって来たのです。
       夜に深淵が生まれる事は神様も嫌い、新しい月を作りました」

 二つの月。
 どこの伝承でもそれが出てくると聞いた事がある。
 青の国で聞いた話とショボンの話にも出てきたのだった。

(´・ω・`)「神様は古い月を隠してしまい、それ以来世界は新しい月に照らされています。
      その後も神様に会いに行った人はいましたが全員行方は分かりません
       ただ最初の男以来、月の光が変わる事はありませんでしたとさ」

 …なんだと。

(´・ω・`)「終わり。お疲れさん」

(;^ω^)「いやいやいや、納得いくかお!」

 あまりにも適当、もとい理不尽。

(´・ω・`)「納得いかなくても終わってしまうのが伝承ってものさ」

(;^ω^)「この話は何が言いたいんだお…」

(´・ω・`)「君は『機械の翼』を作った男をどう思う?」

 どうと言われても困る。
 神の領地に入ったのだから自業自得か。
 大体、男の夢って何なんだ。
 思った通りをショボンに伝える。

51: 2009/12/30(水) 23:11:22.50 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)「まぁ、そう思うよね。でもさ…この話が実話だったらどう?」

( ^ω^)「ハァ?」

(´・ω・`)「だから空に神がいて、もう一つの月があったらって事さ」

( ^ω^)「…実際に『星の海』まで行って隠された月で男と会談でもするかお?」

 僕はそう言いながら天井を指さす。
 『星の海』とは太陽が沈んだ後に現れる夜空の事だった。

(´・ω・`)「いいね、一発で真相究明できる。
      問題は男が生きているか分からないし、神様の怒りに触れちゃうって事だけど…」

(;^ω^)「……」

 結局何が言いたいのか分からないのはショボンも同じだった。
 湧いてきた小さな憤りに答えるようにポケットから何かを取り出した。

(´・ω・`)「数年前だけどさ、空に近い場所に行った人がいたんだ」

 おもむろにそう言った。

(´・ω・`)「僕の兄。シャキンって言うんだけど、『塔』を調べにいった」

 世界の中心に立つ『塔』。
 樹海、パンデモニウムに囲まれた地に行く人間がいたのだ。

53: 2009/12/30(水) 23:13:22.81 ID:gPMln2y+0
 ショボンがポケットから取り出しいた物を弾くと、金属の音が響く。
 空中をゆっくりと回転して落ちて行くそれはコインだ。
 黄色のコインがまたゆっくりとショボンの手におさまった。

(´・ω・`)「…出発して以来連絡は無し、これはほぼ兄の形見かな」

 いつも通りの笑顔でショボンは僕を見ていた。
 それでいいのか、とは聞かない。
 何もしないのは僕も同じなのだから。

(´・ω・`)「ブーンだったら、どうする?」

 中身がはっきりしない質問。
 ならば僕もしっかりしない答えを返してやろう。

( ^ω^)「…僕は、失くした物を取り戻す事は出来なかったお」

 緑の国で失った物。
 僕の全てだったそれは、僕を動かし始める力にはなってくれなった。
 いや、別に力にしようとはしなかったのか。

( ^ω^)「でも、取り敢えず普通に生きれてるお」

 大した意味も無いが、僕の今を端的に表すとそうなる。
 置いて逃げていた過去は、今、僕と同じ方向を向いている。
 意外と軽いものだった。僕の過去は。

(´・ω・`)「僕はさ、今の生活に意外と満足しているんだよ。
       だから探そうとも思わないんだろうね。
       兄も先生やってたんだけど」

54: 2009/12/30(水) 23:15:24.91 ID:gPMln2y+0
 ショボンは目を細めながらコインをずっと見ている。

(´・ω・`)「だけど兄は満足いかなかったのかも」

 コインから視線をはずして僕と目が合う。

(´・ω・`)「結局、その人にとっての『今』なんて自己満足なんだろうね。
       疑問を持つことの無い時間ならそれが一番」

 なら、僕はどうだ。

( ^ω^)「…出来る事なんてさほど無いんだお。
      僕が自分の生き方の疑問に対してやった事は、
      せいぜい過去を振り返る位だお」

(´・ω・`)「うん、ずっと考えていたよ。大層な過去なんか無いけどね」

 自分に疑問を持たない人がいるのだろうか。
 ショボンも考えていたのだから、そういう事なんだろう。
 何でもない一般人でも、国をまとめる守護者でも、変わりは無い。
 生きる意味、生きている理由は探すのは皆同じなのだ。

 きっと、答えを見つけた人はいない。
 何でもない僕が出来るのは、無駄でも生きる事だけだから。

( ^ω^)「いくら考えてもしょうがないお。
      疑問なんか無視して何も考えずに生きるのもいいんじゃないかお?」

 そうだ。今の僕はそれでいいと思っているのだ。

56: 2009/12/30(水) 23:17:18.23 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)「…そだね。でも色々考えちゃうんだよ、歳取ると」

(;^ω^)「そう言われると話が終わるお」

(´・ω・`)「まあ、楽しく生きられればそれがいいよね」

 『今』より後の事はその時の自分に考えてもらえばいい。
 後悔しても、退屈でも、それを感じたなら生きている事は確実。
 思う事があるなら人生全部損では無いだろうから。

( ^ω^)「……」

 そしてそれは全員違うのだ。
 僕は僕、ショボンはショボンの『今』を生きている。
 寸分違わず同じ人は存在しない。
 だから昔から『人生それぞれ』と言われているのだろう。


 気が付くと夕日は強みを増して真横まで傾いていた。
 入り口を通り、カンテラを越えて僕たちを赤く染めている。

(´・ω・`)「さて、帰って夕飯にでもしようか」

 ショボンがそう言いながら立ち上がる。
 同時にコインを弾くと、反響しながら一つの金属音が残った。
 それを手の甲と手の平で包むようにキャッチする。
 右手を離しコインを見た。

57: 2009/12/30(水) 23:19:21.00 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)「…裏だ」

 最近の雨は続くようで、外は湿気が強くなっていた。




 薬草の返事を待って、僕たちは青の国まで戻る予定だった。
 しぃからの手紙に何の問題も無ければだが。
 実際に手紙は問題無くしぃの物だったが、『おまけ』が問題だった。

 黄の国への礼状に加えてもう一つ。
 ミミズがうねったような字で書きなぐられた手紙が入っていたのだ。

(´・ω・`)『…緑の国の内情ワカンネ、ちょっとついでにヒートに会って来てくれね?』

(;^ω^)「この適当な文面は…」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちっちゃく『ブーンとツンへ byジョルジュ&しぃ』って書いてあるわね」

 恐らくしぃは勝手に名前を使われたのだろう。

(´・ω・`)「勝手にって訳でもなさそうだけどね」

 僕の顔から心を読んだのか、変に真面目な顔をして手紙を眺めるショボン。

(´・ω・`)「緑の国だけが動いていない。加えて手紙も返ってこない」

 学校に泊めてもらっていた僕たちは事あるごとに客間に集まらねばならなかった。
 ツンの掃除で幾分整理された机の上には地図が広がっている。

59: 2009/12/30(水) 23:21:22.88 ID:gPMln2y+0
 紫の国と黄の国を隔てる障壁、赤と青の国の防衛ライン。
 残すは緑の国の防衛ラインだった。

( ^ω^)「ツン、守護者から頼まれたら行くしかないんじゃないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、『何かありそうならカエレ!』とも書いてあるし…様子を見る位なら」

( ^ω^)「けど、ほとんど喧嘩売っている文には腹が立つお」

 一般人を危険そうな場所に放り込むのだから多少の配慮は無いのだろうか。
 そう思いながらも、故郷へと戻る機会だ。
 楽しみだと思う自分も否定はできなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ『把握した』って返事しとくわね」

(´・ω・`)「あー内密に僕も行くって書いといて。国内に伝えたい事もあるしね」

 ショボンがアクビをしながら言った。
 冷静に考えれば褒められる話ではない。

(;^ω^)「守護者が国を離れるのはまずくないかお?」

(´・ω・`)「あくまで内密さ。国境を閉鎖して安全確保もしたいしね」

ξ;゚⊿゚)ξ「…書けって言うならいいけど、その間内政とかはどうするの?」

(´・ω・`)「ここは民主制だよ。何人かに任せれば少しの間は問題ないって」

 何でもない様に席を立ち、部屋から出て行く。
 途中思い出したように振り返った。

61: 2009/12/30(水) 23:23:25.89 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)「出発は二日後でいいかな?」

ξ゚⊿゚)ξ「明日でもいいわ」

( ^ω^)「今日でもおk」

(´・ω・`)「じゃあ二日後で。
       長旅になるから、尚更準備はしっかりしないと。
       お金は机の中にあるからね」

 今度こそ部屋を出て行く。
 手紙を書くためにツンも急いで動き出した。
 後で用意をしようと考えていたら動いていないのは僕だけになっていた。


 ジョルジュ達からの手紙には了承の知らせと書状が二つ入っていた。
 もし緑の王に謁見が出来たら、僕とツンがそれぞれ渡せばいいらしい。
 追放された人間を使者として使っていいのだろうか。
 どうでもいい事を考えている内に時間が過ぎた。
 
 出発の日はあいにくの雨。
 あれから食料等を調達しただけの僕は馬車の前に立っていた。
 建物からはみ出した屋根の下でツンとショボンを待つ。

 遅れてきた二人と共に馬車に乗り込むと、ゆっくりと車輪が回り出す。
 約十日ぶりだが久しぶりに感じられる振動に身を任せる。

( ^ω^)「緑の国までは何日だったかお?」

62: 2009/12/30(水) 23:25:26.92 ID:gPMln2y+0
(´・ω・`)「ちゃんと憶えてよ…長くみて二ヶ月だよ」

( ^ω^)「へぇ…」

( ゚ω゚)「…長げえええええぇッ!」

 そこまでの時間がかかる物なのか。
 個人的に持ってきたおやつには乾燥食料を増やしておいて正解だった。

ξ゚⊿゚)ξ「と言っても村に寄ったりするから厳しい旅じゃないわね」

(´・ω・`)「そういう事さ。どうせ暇だしカードとか持ってきたよ」

 ショボンが鞄を開けると、食料よりも『暇つぶし用品』が多い。
 どさくさに紛れて暇などとのたまう人間に守護者が勤まっていいのだろうか。
 それ以前に何を持ってきているのだ。

ξ゚⊿゚)ξ「あれ…この辺りって…」

 地図に目を通していたツンが窓の外へと目を向ける。
 僕もつられて顔を動かした。
 緩やかに落ちる雨が、木々をつたって地面に落ちる。

(´・ω・`)「近くに湖があるよ。『名物』もね」

 その時、森が開けて視界が薄青く染まった。
 湖と言うにはあまりに大きなそれは水平線を形づくっている。
 そして雨のためぼやける水平線は、『名物』によって二つに分断されていた。

64: 2009/12/30(水) 23:27:27.72 ID:gPMln2y+0
 筒のような物体が湖から斜めに突き出しているのだ。
 灰色に霞がかったそれは、とにかく巨大だ。
 遠くを走る馬車からでも分かる大きさなのだから、相当な物だろう。

 倒れる寸前の灯台、といった様相の遺跡はコケなども生えている。
 雨水が伝って湖の影に波紋を作っていた。

( ^ω^)「灯台か何かが壊れたのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、地図に何か書いてある。…詳細不明…?」

 ショボンから見れば僕達は不思議そうな顔をしているだろう。
 少しだけ顔をずらして雨を恨めしそうに見ながら声をだした。

(´・ω・`)「灯台には大きすぎるでしょ。古代の遺跡なんだろうけど」

 湖にぶつかり、そこを曲がったために遺跡は窓を右に流れていく。

(´・ω・`)「あの遺跡、今日みたいな日に魔力を宿す事があってね。
      ほら、見てごらん」

( ^ω^)「……!」

 赤、青、黄、緑、紫…
 斜めに突き出したそれの周りを光が舞っている。
 雨の日に降る雪の様にも見えた。

 その姿も雨のためはっきりと見えない。
 ただそのお陰で幻想的に見え、古代の力を思い知らされた。

68: 2009/12/31(木) 00:02:11.68 ID:gPMln2y+0
途中でさるってしまいました。
以上で投下を終了します、おつかれさまでした。

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです