1:◆NirOX0FMME 2010/05/14(金) 21:17:06 ID:tp8OPgmU0

2: 2010/05/14(金) 21:18:01 ID:tp8OPgmU0





 かつての勝利と解放

 征服の思惑


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第三章 緑色の剣  第十四話「正位置の『戦車』」

―黄、緑の国 国境付近―


 黄の国出発から一か月と少々。

 大陸の端側に点在する街を回り、警戒を強めるように厳命しつつ、
 地味な年越しを祝いながら僕達は変わらず森の中を馬車に揺られている。
 慣れきった、枝を揺らす音。
 唯一少しだけ温かく変わった気温は、その分、旅を楽にした。

 手元の地図では森の終わりも近い。
 この先にあるものは。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
3: 2010/05/14(金) 21:19:09 ID:tp8OPgmU0
 暗い森が、消えた。
 光が差し込み、満ちていく。
 森の外に広がる草原は風を受けて草の波紋を流す。
 雨が去った後の空は雲ひとつ無い。

 馬車の動きが緩やかになると同時に、それに気付く。

 懐かしい匂いがあった。
 草がなびく音が響き、潮が香っている。
 遥か遠く、緑と青の境界線に違う青が混ざっていた。
 空よりも青い海が、止まりゆく景色にはっきりと見える。

 止まった馬車の扉を一番に開け、茶色い道に降りた。

( ^ω^)「……海、だお」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、綺麗な所ね」

 遅れて降りたショボンが馬車の御者と何やら話していた。
 話が終わると馬車は反転して森へと戻って行った。

 ここは世界の隙間、誰の領地でもない。
 黄の国と緑の国は互いに直通の馬車を通していない。
 草原に点在する村から馬車に乗り込む必要があるため、
 少しの間は歩いて進むのだ。

4: 2010/05/14(金) 21:19:49 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「長くなりそうだね」

 気の抜けた声でショボンが後ろから喋りかけてきた。
 久しぶりに歩いての移動が始まる。


( ^ω^)「しっかし広いところだお」

ξ゚⊿゚)ξ「当たり前よ。この辺りは世界最大の草原地帯なんだから。
       来たこと無いけど」

( ^ω^)「へぇ…海も懐かしいお。この海は見たこと無いけど」

(´・ω・`)「この海は陸の間に流れ込んでるんだよ」

 歩き初めて数日目の夜。
 日も暮れて、そろそろ休もうとしている所だった。

ξ゚⊿゚)ξ「今日はこの辺でいいんじゃない?」

(´・ω・`)「そうだね。ブーン、火お願い」

( ^ω^)「おっおっお、任せるお」

 馬車での移動中、僕は簡単な魔法の練習をしていた。
 赤の魔法の専門家ではないショボンだが、魔力の集め方だけを教えてくれた。

 ジョルジュからもらった手袋をはめる事はせずに、
 バックから出した薪を並べて上に手をかざす。

5: 2010/05/14(金) 21:20:36 ID:tp8OPgmU0
 体内の魔力を消費して赤い光が薪に灯る。
 手をどけると小さな火が確認できた。
 この程度なら詠唱も必要ない。

(´・ω・`)「もう手馴れたもんだね」

ξ゚⊿゚)ξ「一ヶ月かけてこれだけとか……」

 小さくゆらめく炎をみながらツンが荷物をいじる。

(;^ω^)「ほっとけお、役に立つんだから問題ないお」

 僕は持ってきた内、残った薪をバックに戻す。
 それぞれが役割分担して道具を持ってきている。

(´・ω・`)「炎を生み出せるってのは旅人としては便利なものさ。
       もちろん、水を操れるのもね」

ξ゚⊿゚)ξ「え? 私の魔法も旅に使えるの?」

 バックから取り出したパンを持ったままツンの視線がショボンへと移る。

(´・ω・`)「だってある程度の水の浄化、操作が出来るのは大きいでしょ」

( ^ω^)「黄の魔法は何ができるんだお?」

(´・ω・`)「時間をかければ周囲の状況が分かるよ。地形とか隠れている人とか。
       一瞬だけしか時間が無いなら体の周りだけしか分からないけど」

6: 2010/05/14(金) 21:21:26 ID:tp8OPgmU0
 ツンの手元からビンを開ける音が聞こえた。

( ^ω^)「意味分からんお」

(´・ω・`)「分かんなくてもいいよ、要するに道に迷いにくい的な…」

( ^ω^)「ふーん。それも便利だお」

 火の上から何かを焼く匂いが漂ってきた。

ξ゚⊿゚)ξ「こんなものね、ハイ」

 ツンが火であぶっていたパンを僕に手渡す。
 軽く火にあてただけの物だが、旅の間には十分な食料だ。

( ^ω^)「おっおっお、うまそうだお」

 近くに置いてあったジャムが入ったビンから、少量をパンに乗せる。
 
(´・ω・`)「これ安かったよね。季節がらオレンジか」

 爽やかな匂いのジャムはオレンジを砂糖で煮込んだものらしい。

ξ゚⊿゚)ξ「今日は食べたらさっさと寝た方がいいわね。
       出来れば明日の間に馬車を捕まえたいし」

( ^ω^)「ハムっ。でも、そう急ぐ話かお? 
      これまで寄った街なんか平和そのものだったお」

7: 2010/05/14(金) 21:22:10 ID:tp8OPgmU0
 ジャムの乗った、ちぎられたパンをかじる。
 オレンジの皮が入ったジャムが小麦の甘さを補強していた。

(´・ω・`)「うまいこと海沿いの町を回れたけど、確かに平和だったね」

 でも、とショボンは炎を見つめながら言う。

(´・ω・`)「数年前の魔王大戦の時も、そうだったよ」

( ^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 平和な一日と信じていた。
 それが急に壊れた。
 戦い、特に戦争はそうなる。

 僕達はそれを憶えているはずなのだ。
 忘れてしまうのは、それが僕にとってどうでもいい事だからなのか。

(´・ω・`)「ま、万が一にならない様に今は旅をしてるのさ」

 一瞬だけの沈黙。

ξ゚⊿゚)ξ「もう休んだ方がいいわね」

 それぞれの思いを斬るように、会話が終わる。
 僕達の繋がりは何なのだろう。
 草の上に寝転びながら、そんな言葉が頭をよぎった。

8: 2010/05/14(金) 21:23:46 ID:tp8OPgmU0


 赤の国でゼアフォーに会った。
 青の国でツンと再開した。
 黄の国で多くの人に助けられた。

 守護者、魔王。
 何者か分からない仮面の魔法使い達。
 僕は何一つ分かっていないのだ。
 もっとも、何を知りたいのも分からない。
 
 息を吸い込むと、若い草の匂いが胸を満たす。
 小さく弾ける様な火の音が定期的に鼓膜を打つ。

 星が照らす、明るい夜空。
 空を切り裂いて光が流れていった。
 いつか見た流れ星と同じだ。

 目の前に広がっている星の海からなら世界を見渡せるのだろうか。
 この世界を見ている神は、いるのだろうか。
 もし居たのならば世界をどう思って眺めているのだろう。

 そこまで考えて、また一つ思いついた。

 神が世界を動かしているのかもしれない。
 守護者も魔王も人の生き氏にまでも。
 だとしたら、酔狂だ。
 何が楽しいのか想像も付かない。

9: 2010/05/14(金) 21:24:34 ID:tp8OPgmU0
 眠る寸前の下らない思考は徐々に黒く染まり、
 僕の意識は闇の中へと落ちていった。



 変わらない草原が続く。
 その方が楽だったのかもしれない。
 次の日、まだ暗いうちに立った僕達は日の出と同時に何かを見つけた。

 草原の遥か遠くに点が見える。
 近づくにつれて大きくなった点は、現在僕達の目の前に立っている。
 多少整備された道で互いに立ち止まったのだ。
 周りには大きな岩などが幾つも見えた。

 女性だが異質な雰囲気を感じる。
 羽織った上着は皮の様な質感、ズボンは濃い青色の丈夫そうな物。

 腰に巻かれたベルトにはホルダーが付いている。
 そこにぶら下げられた、反り返った鞘が印象的である妙な形の剣。
 旅人と取れなくは無いが、怪しさは十分にある。

川 ゚ -゚)「……」

 そして確実に一般の人間ではないと思われる眼光。
 とても女性とは思えない迫力があった。
 それ以前に何故僕達が睨まれなければならないのか。

(´・ω・`)「……」

10: 2010/05/14(金) 21:25:19 ID:tp8OPgmU0
 いつもよりやや鋭くなったショボンの目は向かいの女性の動きを捕らえている。
 少しだけ動いて、左右にも瞳を走らせた。
 ショボンの目が細められる。

川 ゚ -゚)「お前らが地の賢者か」

 清んだ、綺麗な声だった。

(;^ω^)「いや、賢者はこの人だけですお」

 隣にいたショボンを前に押し出す。

(´・ω・`)「…いきなり僕を売るの?」

ξ゚⊿゚)ξ「でも用があるみたいだけど」

(´・ω・`)「用って…確実に平穏な話じゃないよ。見てあの目、怖えぇ」

(;^ω^)「当人の前で言うなお」

 僕達が話し込んでいると、目の前の女性から大声が届く。

川 ゚ -゚)「とにかく、賢者はお前でいいんだな?」

 女性は確かにショボンを見ていた。

(´・ω・`)「うん、まぁそうだよ」

川 ゚ -゚)「…そうか」

11: 2010/05/14(金) 21:26:04 ID:tp8OPgmU0

 周囲の空気が凍った。
 そう錯覚させる、鈴の様な音が響く。


 太陽の光に反射し、輝く剣が女性の手に握られていた。
 切っ先をショボンへと向ける。

川 ゚ -゚)「私の名前はクー=スナオ。守護者ショボン、御命頂戴する」

 反り返った剣の根元から緑の光がうっすらと刃に走る。
 この光を放つのは、僕もよく知る魔法だ。
 クーと名乗った女性は緑の魔法使いと考えて間違いない。

(´・ω・`)「…ほーら、物騒な話じゃないか」

 うんざりしたような声を出しながら杖を回転させつつ先を地面に向ける。

川 ゚ -゚)「参る!」

 声と共に緑色をまとった烈風が僕達を襲う。
 風と共に消えたクーの影がショボンの前に現れる。

(´・ω・`)「…!」

 金属同士が衝突した音。
 金色と緑の瞬き。
 ショボンの持っていた杖の先端にクーの刃が食い込んでいる。

13: 2010/05/14(金) 21:26:49 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「仕込み…!」

(´・ω・`)「スナオ…守護者ヒートの血縁かな?」

 ショボンは杖の先端に手をかけて、すぐに放しながら杖を振りぬく。
 見越していた様にクーも真後ろに飛ぶ。

 ショボンの杖の先端がそのまま外れて、軽い音を立てた。

(´・ω・`)「…ブーン、ツン。僅かでいいからあの刀を止めて欲しい」

 かたな、とはクーの持つ剣の事だろう。
 緑の国出身だが知らなかった。

(;^ω^)「…無茶言うなお」

ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫、二人がかりなら…」

 僕はツンの一言に後押しされて。
 二人も魔法を起動する。
 
 赤、青、黄の光。
 僕は両手に、ツンはリングを付けた右腕に。
 そしてショボンは杖の先端をはずした先に現れた刃に。

川 ゚ -゚)「……他国の者か」

 クーが息を整えて次の動きへと入る。
 僕と目が合った。
 振り上がった刀が軌跡を描く前に再び消失する。

14: 2010/05/14(金) 21:28:32 ID:tp8OPgmU0
(;^ω^)『ウインド…』

 確信があった。
 僕は体を低めながら詠唱を開始する。

川 ゚ -゚)「はあッ!」

( ^ω^)『ダッシュ!』

 やはり僕に向かってきた。
 気合の一撃に対して、逃れるべく真後ろに逃げる。
 僕のマントの端に切れ目が入った。
 地面に足を叩きつけて今度は反撃のためにクーへと突進する。

川 ゚ -゚)「!?」

 確かに驚いた顔をしたクーだが、やはりただの魔法使いではないらしい。
 意表をつけただけでも良しとするしかない。

 返す刀で僕の一撃を止める。
 クーの右側からツンの攻撃を加える。
 刀はふさがっている、これで行動不能に出来れば御の字だ。
 同時に、防ぎきられれば僕達の不利は確実。

川 ゚ -゚)『ッ!!』

(;^ω^)「おぉ!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「!」

15: 2010/05/14(金) 21:30:32 ID:tp8OPgmU0
>>12
URLすみません。
トリ変わってますか?
避難所での投下は初なので詳しい事は分からないのですが。

16: 2010/05/14(金) 21:31:24 ID:tp8OPgmU0
 クーが自分の周囲の空気を動かした。
 突如として巨大な石をぶつけられたかの如き衝撃が僕達の周りに響く。
 集められた風が僕とツンをよろめかせた。

 その隙に一歩踏み込んだクーは刀の柄頭で僕の鳩尾を強打する。
 ただ押されただけの感覚の後に鈍痛が駆けた。

(; ω )「ぐっ…あ」

 更に反動を利用してツンに蹴りを放つ。
 体重の軽いツンはそれで吹き飛ばされた。
 特別な訓練をしていない僕達では動きを止める事も出来ないのか。

 僕への追撃のために刀を握り直したところでショボンの詠唱が届く。

(´・ω・`)『グランドランス!』

 クーの足元が輝き、石の槍が姿を現す。

川 ゚ -゚)『…!』

 魔法と共に跳躍し、上空へと逃げたクーの目が何かを捕らえたらしい。
 ショボンの魔法は地面から糸の様に曲がった。
 クーを追う事はせずに岩場の後ろへと伸びる。

(; ゚¥゚)「ぐあッ!」

 目だけ出ている覆面を着けた者が血を流しながら倒れた。
 ショボンが杖を振り回すと合わせる様に、幾つもの石の槍が走る。

17: 2010/05/14(金) 21:32:04 ID:tp8OPgmU0
(;^ω^)「いてて…誰? ってこれじゃこの人氏ぬお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「それより、この紋章って…」

 想像以上の出欠をして倒れている人物を見て思わず後ずさった。

川 ゚ -゚)「この者達は…!?」

(  ゚¥゚)「…!」

 クーにも空中で斬りかかっている。
 手に握られているのは紫に光る武器。
 どうやら数は多いらしい。

(´・ω・`)「捕らえたよ…二人とも前に走って!」

 ショボンが発動した岩の槍が、覆面を着けた者達の逃げ場を塞ぐ。

 一本道の両側にある岩場が炸裂した。
 僕達の背後から砕けて倒壊を始める
 いつの間にかショボンのもう一つの詠唱が終了し、足元に魔方陣が展開していたのだ。

(;^ω^)「おおおおおお!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「どうなってんの!?」

 岩の雪崩と雨が爆音を生む。
 金色の魔力が満ちる中をツンと二人で頭を守りながら走る。
 平気な顔をしているショボンの元へと。

18: 2010/05/14(金) 21:32:55 ID:tp8OPgmU0
 岩の雪崩と雨が爆音を生む。
 金色の魔力が満ちる中をツンと二人で頭を守りながら走る。
 平気な顔をしているショボンの元へと。

 土が巻き上がり、煙が視界を塞ぐが構わず走る。
 止まれば生き埋めだ。
 岩が砕ける音が近づく。

 真横にいるツンを抱えて緑の魔法を詠唱した。
 地面を蹴ると風を受けて一気に緑と青の世界へと戻る。
 すかさずショボンに向かってツンをパスした。

ξ;゚⊿゚)ξ「きゃあ!」

 普段からは想像も付かない様な声を出し、ツンの安全が確保された。
 変わらず飛んでいく僕はといえば。

(; ω )「おうふっ!」

 地面を三回ほど転がり何とか停止した。
 クーに打たれた腹部が痛いのだが、他の部分も十分に痛い。

(´・ω・`)「ナイスパス、逃げるよ」

 ツンを下ろしたショボンが来て僕を立ち上げる。

(; ω )「ナイス…キャッチ、逃…げる…お」

ξ;゚⊿゚)ξ「わたしはボールか!」

19: 2010/05/14(金) 21:33:39 ID:tp8OPgmU0
 だが忘れてはならない者が一人。

川 ゚ -゚)「ショボン! お前の伏兵か!」

 頭は良さそうな顔をしているが、状況判断が出来ないらしい。
 クーは空中から魔法によって危なげなく着地すると再度ショボンに向かう。

(´・ω・`)「知らないよ…後ろ!」

 知らない派手な魔法だったが当然、敵全員を巻き込む事は出来ない。
 無傷の覆面を着けた魔法使いがクーの背後に立っている。

川 ゚ -゚)「…!」

(  ゚¥゚)「…」

 クーは振り下ろされた剣を確認せずに弾いた。
 目にも止まらぬ速さで向きを変えたクーの斬撃が覆面の下を通り抜けた。
 返り血から離れる様にクーが飛びのく。

 更にクーの真横へと走りこんだショボンが血溜りの地面へと杖を向ける。

(´・ω・`)『グランドウォール』

 地面が割れた。
 詠唱の完成を待って、地面から斜めに壁が飛び出した。
 その外観から石で出来ていると感じられるが所々に金色の光が見える。
 僕達が走って通った岩場を覆う天井のようだった。

(´・ω・`)「これで少しは時間が稼げるかな…ブーン、ツン、いくよ!」

20: 2010/05/14(金) 21:34:22 ID:tp8OPgmU0
 このまま覆面集団を撒く。
 ショボンの瞳はそういっている。
 踵を返し、ショボンはクーから離れた。

川 ゚ -゚)「待て、ショボン!」

 クーの叫び声が走る僕達の背中にあたった。

(´・ω・`)「話くらいは聞いてあげるから来なよ!」

 顔だけ回してショボンが返答する。
 止まっているクーと僕達の距離は随分と差ができているはずだ。
 僕も顔だけで背後を見る。

川 ゚ -゚)「……」

 不服そうな顔のクーが刀を鞘に収めている最中だった。

( ^ω^)「この距離で追いつけんのかお?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それよりわたし達の体力が問題ね…」

( ^ω^)「お?」

川 ゚ -゚)「…村までは多少かかるぞ」

 疲れ顔のツンの向こう側へと視線を送る。
 足元から輝く緑の塵を発生させてショボンの隣にはすでにクーが走っていたのだ。
 このまま四人で最寄の村まで暫くのマラソンをする事となった。

21: 2010/05/14(金) 21:35:05 ID:tp8OPgmU0
 楽観は出来るはずもない。
 先ほどの連中が何人動ける状態なのか、何人か残っているのか。
 装飾や装備から紫の国の関係者らしい事しか僕達には分かっていないのだ。


―空白草原 黄の国側の村―

 岩場を抜けた草原の先には確かに村があった。
 村と呼ぶには小規模な気がするが、幾つかの家が並んでいる。
 見れば、どのあばら家にも何かしらの看板が下がっていた。

 草の上に無理矢理生活環境を付加したような村だ。
 遊牧民達の休憩場にもなっているのだろう。

(´・ω・`)「それで? 噂で僕を頃しに来たと?」

川;゚ -゚)「むう、噂ではなく…」

 村に逃げ込んだ僕達はすぐに適当な宿の片隅を占領した。
 さすがに手馴れたもので、全員が体力の回復できそうな物を注文した。
 当然目立たない様にだ。

 議題はもちろん、いきなり斬りかかって魔法剣士クー。
 加えて紫の魔法を使う覆面集団だ。

( ^ω^)「ツン、この魚は…まさか干物かお!?」

ξ゚⊿゚)ξ「…懐かしいけど今は違うでしょ」

 僕が久しぶりに見た魚の干物は話題にならないらしい。

23: 2010/05/14(金) 21:35:48 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「いやだから、何でその辺で統合性皆無の噂を聞いたくらいで…」

 聞けばクーは周辺の村で聞いた、
 ―黄の国の守護者が攻撃のために緑の国へと向かっている―
 という確認の取れない妙な噂を信じたらしい。

川;゚ -゚)「私とておかしいとは思ったさ。
      しかし、移動中に黄の魔法で襲撃されたのでな」

(´・ω・`)「…どんな?」

川 ゚ -゚)「こう…足元から岩の様な物が…
      後は巨大な岩の剣も飛んで来たな。飛んで来ただけだったが」

 身振り手振りで魔法の説明をするのは妙に滑稽だった。
 クーを襲撃した何者かが黄の国からの者だとすれば、
 それならばクーがショボンを攻撃する理由にはなるかもしれない。

( ^ω^)「ショボンは岩の剣なんて出せるのかお?」

(´・ω・`)「恐らく、大魔法だね。知ってる人で使えるのは師匠くらいだと思うけど…」

川 ゚ -゚)「…ならばやはり!」

 腰からぶら下がっている刀に手をかけるクーをなだめながら、
 ショボンが相変わらず面倒そうな顔で言った。

(´・ω・`)「師匠でもこの魔法器が無いと姿を見せずには使えないよ。
       高純度の原石なんて、そうは手に入らないからね」

25: 2010/05/14(金) 21:39:03 ID:tp8OPgmU0
 ショボンは持っていた杖を持ち上げる。
 豪奢な装飾は飾りであり、内部には核となる原石、刃が仕込まれている。
 先ほどクーの刀が食い込んだ、先端の飾り鞘には一筋の傷が残っていた。

川 ゚ -゚)「だが…何故緑の国へと向かっている?」

ξ゚⊿゚)ξ「赤、青、黄の国との連絡を回復するためよ。
       もう守護者が動いてるから直接なんだけど」

川 ゚ -゚)「…? 緑の国からの手紙を返さないのはそちらではないのか」

(´・ω・`)「…どうやら第三者の介入は決定的だね。
       あと、君は緑の国の関係者かな?」

川 ゚ -゚)「ああ、守護者ヒートは私の姉だ」

 成る程、国の関係者なら魔法器を持っていても納得だ。

川 ゚ -゚)「ちなみに目的は武者修行と各地の状況確認だ」

(´・ω・`)「その修行が利用されたみたいだね」

 お互いの事が大体分かってきた所で、問題はこの後だ。
 第三者が紫の国だとすれば覆面集団の狙いは守護者の殺害。
 および各国の弱体化だろう。

 だが、わざわざ戦争を起こして世界統一をしようとすれば魔王が来る。
 この一点だけは紫の国の意図が読めない。
 七年前の大戦も混乱の中で戦争が始まり、魔王が復活したのだ。

26: 2010/05/14(金) 21:39:46 ID:tp8OPgmU0
 世界への被害を考えると納得がいかない。

( ^ω^)「前の戦争の事を考えると…
      やっぱ魔王がもう動いてるんじゃないのかお?」

 魔王の意思を実行する存在は前大戦から確認されている。
 やはり、誰でもこう考えるだろう。
 しかし王に即位したかつての守護者が魔王に踊らされるものだろうか。

川 ゚ -゚)「とはいえ、紫、緑の国間にはどちらも軍を配していないぞ」

(´・ω・`)「赤、青の国との国境は閉鎖されているけどね。
       それも謀略と考えた方が無難かな」

 とにかく僕達が攻撃を受けたという事実があれば、
 各国を警戒させるには十分だろう。
 果ては世界大戦などとなっては冗談ではすまされない。

ξ゚⊿゚)ξ「早く緑の国の王に知らせるべきね」

( ^ω^)「そうだお。さっさと食べるお」

(´・ω・`)「でも優雅に馬車で行って大丈夫かな。
       恐らく偵察隊だよ、さっきの覆面集団。
       万が一本隊とかが控えていたら召喚魔法でも捌ききれないよ」

 ショボンの噂を流した者。暗殺を企てる者。
 この空白草原は誰の土地でもないため国の問題には出来ない。
 僕達が殺されれば、それで終わりだ。

27: 2010/05/14(金) 21:40:33 ID:tp8OPgmU0
 しかし誰がいるにしても僕達が行く道は限られている。
 一本に連なる草原の村々以外の道は無い。

(;^ω^)「うーん…襲われたら強行突破かお」

ξ゚⊿゚)ξ「さっきは上手くいったけどねぇ」

 僕達が考え込んでいるとクーが腰のポーチから紙を取り出した。
 薄汚れているが綺麗に折りたたまれていた。

川 ゚ -゚)「…多少時間がかかるが迂回出来る道はあるぞ」

 広げると地図だった。
 緑の国から草原地帯、紫の国の近くまでを描いた物らしい。
 何のきなしに僕は自分が住んでいた村の辺りに目を走らせていた。

 緑の国の中では北西にあたる森。
 もうなくなっているだろう村だが、地図には村の印が残されていた。
 地図は古い物だ。

 だが、確かに残っている印を見て僕はなぜか安堵をついた。

(´・ω・`)「…なるほど、ここだね」

 ちらりと一瞬見ただけでショボンが草原の北を指す。
 やや内陸部に入り込んだ場所は、周りとは違う色で表わされていた。
 印には北部湿原、と書いてあった。

28: 2010/05/14(金) 21:41:49 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「そうだ、この湿原には抜け道が幾つもある。
     私もこちらに来るときに通ったが隠れながら進むには悪くない」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、困ったらそっちを通ればいいんじゃない?」

 ツンの意見に皆が同意するとショボンが立ち上がる。
 僕達の移動経路は定まった。

(´・ω・`)「決まりかな、準備してさっさと行こうか。君はどうする?」

 別段クーを疑う様子も無い。
 彼の視線がだいたいクーの目に合っていた事から、
 情報の正確性に検討をつけたのだろう。
 思い出した様にクーへと言葉を投げかけた。。

川 ゚ -゚)「私も国へ戻る。どうやら一番危険なのは緑の国らしいしな」

 刀に手をかけながらクーも立ち上がった。

( ^ω^)「お? じゃあ一緒に行くお!」

 僕以外の三人とも驚いた様な顔をしている。

川 ゚ -゚)「ブーン、君は刃を向けた相手と旅が出来るのか?」

 どうやらクーが三人の気持ちを代弁したらしい。

( ^ω^)「でもさっきのは誤解なんだお。なら問題無いお」

29: 2010/05/14(金) 21:42:33 ID:tp8OPgmU0
 僕としては旅の連れは多いほうが安心だ。
 特にクーは悪い人間ではなさそうである。
 再び襲撃された時には心強い味方になる事は間違いない。

ξ゚⊿゚)ξ「…そう、かもね」

(´・ω・`)「お人よしだね。別に構わないけどさ」

 六つの瞳と向き合ったクーは真っ直ぐにこう言った。

川 ゚ -゚)「…分かった、よろしく頼む。ブーン、ツン、ショボン殿」

(´・ω・`)「ショボンでいいよ。君は緑の国の人なんだから」

 背を向けながらショボンが宿を出て行く。
 追って出て行こうとした僕達は宿の主人に止められた。
 飲食の勘定を払い忘れていたのだ。

 それをただ平謝りする、という事が僕達四人の初の作業となった。


―北部湿原 周辺の村―


( ^ω^)「検問だお」

ξ゚⊿゚)ξ「検問ね」

30: 2010/05/14(金) 21:43:18 ID:tp8OPgmU0
 クーを加えた僕達四人は一週間程馬車で草原を移動して来た。
 どうやら狙われているショボンは適当に変装をしながらの旅だった。
 僕達も顔は知られていると思った方がいいのかもしれない。
 こうして立派な検問まで作っているのだから。

 十数名の騎士ふうの男達が並んでいる。
 何名かの旅人が止められたり、質問されている。
 そんな光景を少しばかり離れた場所から伺っていた。

川 ゚ -゚)「ふむ、紫の紋章だな」

 僕は村の前で貰った紙を再度見る。
 名目は罪人の取り締まりらしいが、
 状況を考えれば狙いは僕達だろう。

(´・ω・`)「凄い視力だね。僕には見えないんだけど」

 検問を眺めながらショボンが言う。
 空白草原はどの国も治めていない。
 一時的に軍を動かして駐留させる位の自由はあるのだ。
 治めていない土地なのだから、他国から干渉も受けにくい。

 争いを起こさないために作られた仕組みだが、
 上手く利用されてしまっている。

( ^ω^)「やっぱり湿原を通るのかお…」

(´・ω・`)「あの数を振り切るのは難しいと思うよ、それに本隊があるだろうし。
       馬車なら真っ直ぐ行けたんだけど、時間はかかるなぁ」

31: 2010/05/14(金) 21:44:05 ID:tp8OPgmU0
 頭を掻きながら湿原のある方向へと顔を向ける。
 村の先には確かに湿原が見えていた。
 地平線の先まで続いているようだった。

川 ゚ -゚)「何、ほんの一ヶ月で着く」

( ^ω^)「…」

ξ゚⊿゚)ξ「…」

(´・ω・`)「…え? 抜け道は?」

 三者三様の目でクーを見つめる。
 ちなみに馬車に乗れば数日で着く道のりだ。
 徒歩なのは仕方ないが通常の約三倍かかるのは素人目に見ても長い。

川 ゚ -゚)「全て使った上での計算だ。
     私は来るときは迷いに迷って二ヶ月を要したが、今度は迷わない」

( ^ω^)「どこにそんな根拠が…」

ξ゚⊿゚)ξ「わたしたちに言えた事じゃないけどね…」

(´・ω・`)「いや待って、二ヶ月って…食料は? 缶詰だけじゃ重過ぎるよね」

 変わらず胸を張ってクーはこう言った。

川 ゚ -゚)「魔物から生の部分を取って食していた。
     他には木の根とか…あぁ、当然草も重宝したな。
     あの草は美味かったが、何という名前なのだろう」

32: 2010/05/14(金) 21:44:54 ID:tp8OPgmU0
 クー以外からため息がもれた。
 僕も例外ではない、何が悲しくてわざわざ極限状態にならねばならないのか。

ξ゚⊿゚)ξ「じ、自給自足ね!」

( ^ω^)「無理すんなお」

川 ゚ -゚)「自ら作ってはおらんぞ。全ては自然から頂いた物だ」

(´・ω・`)「ていうか魔物出るの!? あの辺に遺跡は無いと思ったけど」

川 ゚ -゚)「ひっきり無しに現れるのは勘弁願いたかったな。
     道が悪かったのかもしれないが、いい修行にはなった」

 遂には頭を抱えたショボンを背にクーからの一言。
 自身を持ってお勧めする道のりだ、と訳の分からないお墨付きを聞き届けた。
 
 この後、僕達は湿原への突入準備に丸一日を使う事になったのだ。


―北部湿原― 


 腰の下まである草本の感触。
 変わらずにどこまでも先に見える。
 これまでに人が通ったらしい細い道がその中に数本走っていた。
 大きな雲の流れる明るい空が小さな道を照らしている。

33: 2010/05/14(金) 21:45:39 ID:tp8OPgmU0
 少し首を曲げれば、湿原たる所以である水面が不均等に並ぶ。
 風が無いため水は動かない。
 極端に音の少ない空間だった。
 
 緑の間にあるのはまるで鏡、水面を雲が横切って行くだけ。
 僕は湿原の中に空があるかのような錯覚にとらわれていた。

ξ゚⊿゚)ξ「魔物出ないわね」

(´・ω・`)「いい事じゃない」

 不安要素だけで始まった湿原の旅は、予想に反して快適なものだった。
 湿原に侵入してから数時間経っても誰の襲撃もない。
 背後を見れば小高い丘が空の下に見えるだけ。
 緩急の付いた湿原の土地は高台の先に道を隠してくれていた。

 広く、上下に入り組んだこの場所で、そうそう軍隊に見つかる事は無いと思えた。

( ^ω^)「平和だお」

 背伸びをしながら僕がそう呟く。

川 ゚ -゚)「これはこれで修行にならんな…」

 それを聞いたクーの残念そうな声が聞こえた。
 クーにはすまないが、魔物に襲われるのは遠慮したい。
 ただそんな事を思いながら二週間ほど歩いていた。

34: 2010/05/14(金) 21:46:32 ID:tp8OPgmU0
 その日も雨が降った事以外には何の問題も起きていない。
 雨水を湛えた草本が西日を受けて輝いていた。
 赤く染まっていく景色が僕に物悲しさを感じさせている。

 大戦の前に見た、夕日だった。

( ^ω^)「…」

 ただ夕日を受ける。
 空も、水面も、草も。
 全てが赤く変わっていく。

 光の中を歩いている気分だった。
 いつの間にか音も消えて、感覚も消えた。

(;^ω^)「…ん?」

 それはおかしい。
 感覚まで消えたら僕はどこにいるのだ。

(;^ω^)「ツン? ショボ…」

 振り返ってみると誰もいない。
 はぐれたのだろうか。
 周囲には夕日と同じ光が満ちているだけだった。

 足元を見ると地面も草も無い。
 どこ、ではなく、何だ。
 僕が最初に出した結論だった。

35: 2010/05/14(金) 21:47:20 ID:tp8OPgmU0
(;^ω^)「えぇ…」

 やがて僕はここが空だと確信した。
 真下に黒い大地が現れ始めたのだ。
 何やら大きな影が幾つも動いている。

( ^ω^)「ショボンのゴーレム?」

 何故かは分からない。
 僕は、僕が空から見ている景色に疑問を感じなかった。



 排煙と轟音が支配してた。
 焦げた草原と汚れた湿原に無数の巨体がうごめく。
 巨体に隠れる様に、小さな人影が逃げ惑う。

 巨大な両腕と剣の様な足は、召喚されたゴーレム。
 一体ではない。何体ものゴーレムが立ち並んで地面を揺らし、砕き、進んでいく。
 僕の足元の空には前にゼアフォーが召喚していた鳥の影が飛び交っている。

 ゴーレムに向かい合う草原には高々と炎が上がっている。
 立ち並ぶ巨兵と向かい合いながら炎も進んでいた。
 やがて炎は剣と盾を持った騎士の姿を幾つも生み出し、巨兵とぶつかる。

 巨人達の戦いが烈風を伴って始まった。

36: 2010/05/14(金) 21:48:04 ID:tp8OPgmU0
 振り上げた炎の剣がゴーレムの腕を貫き、繰り出された巨拳が炎の盾を砕く。
 雷の怪鳥達は空を走り、雷を落とす。
 どの動きもが真下の人影を潰し、消していく。
 消えていく人々の声が聞こえてくる様だった。

 これは戦争の景色なのだろうか。
 まるで地獄だ。

 倒れて行く巨人の後ろから更なる召喚が続いていた。


(;^ω^)(…なんて夢だお)

 戦いが続く中、目の前の空にもう一人、誰かがいる事に気付いた。
 深くかぶったフードと体格を隠す黒いローブ。
 僕は誰だか分からない様な者によくよく縁があるらしい。

 思考の嵐。
 まさに夢だ。

(   )『別にお前が特別という訳ではない』

 ゼアフォーとビコーズの二人の仮面を思い出していた僕の疑問に答えている。
 
 目の前の人物が言う事を僕は何故か『理解』していた。

( ^ω^)「たまたま通った人、何人かに見せてるだけかお?」

(   )『確率の問題だ。特別と言えなくもないか』

37: 2010/05/14(金) 21:48:54 ID:tp8OPgmU0
 ローブの下の素顔も正体も分からない。
 しかし彼の現時点での目的である、
 ―映像を見せる事―
 だけが僕の思考の裏側に確信を持って迫っていた。

( ^ω^)「で、僕はどうなるんだお?」

(   )『すぐに戻る。それよりお前はこの映像をどう思った?』

 形式的な問。僕の考えも相手は『理解』できているはずだ。
 奇妙な会話が成り立つ。

( ^ω^)「分かっているはずだお。
      途方もない過去の戦争ってだけだお。
      普通の人が見たら大体はそう思うはずだお」

 過去、僕はそう言った。
 だがそれは僕の知らないはずの情報だ。
 
(   )『その通りだ。だがいつまでもお前達は戦いを続けている。
      いったい何年経ったと思っているのだ』

( ^ω^)「それこそ僕じゃなくてお偉いさんだお。
      平和な村に住んでいる様な人達はいい迷惑だお」

 僕は結局、自分から行動した事はない。
 戦争を好き好んで始めるのは自分から行動する人間だ。
 ならば僕は相対的にだが争いを起こす人間ではなくなる。

38: 2010/05/14(金) 21:49:39 ID:tp8OPgmU0
(   )『間違いではないな。戦いという理を避けるのは賢い者だ。
     多くの人間と同じ様に』

 そこまでフードの人物が喋り、ローブが翻った。
 急速に世界が現実味を増していく。

(   )『そしてそれは正解だ。当たり前の、だが。
     お前の世界を返す。理を避けて生きるといい』

 体の感覚が戻り、ぶれた思考が追い付く。
 誰だ、今の人は。
 当然の疑問を引きずりながら草を揺らす音が聞こえた。
 ローブの人物は既に消えて、僕はいつの前にか湿原に戻っていた。

 意識ははっきりと現実を感じて、夢を回想する。

(;^ω^)「っ!」

 朝、目が覚めた時と同じ気分だった。
 体がだるい事を除けば。
 湿原の夕日は沈み、辺りには闇が訪れていた。


ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?」

 背後には変わらない様子で三人が付いて来ていた。

(;^ω^)「え? …今何時だお?」

39: 2010/05/14(金) 21:50:19 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「そろそろ休もうよ。明日は更に疲れるらしいし」

 辺りを注意深く確認しながらショボンが言う。

川 ゚ -゚)「確かにな。ほら、明日はあそこを通る」

 微かに聞こえてくる水の音。
 湿原の先には、岩の壁が横たわっている。

川 ゚ -゚)「渓谷を渡る事になるから、しっかり休んだ方がいい」

( ^ω^)「……」

 久しぶりに聞いた水の流れる音に記憶を流されたらしい。
 夢と同じように、はっきりと思い出せない。
 ただ、間違いなく僕の本音があったはずだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ここでいいわね」

 ツンが見つけた平らな隙間に野営の準備をしながら、
 先ほどのおぼろげな記憶を皆に伝える事にした。

 空に浮かぶ小さな三日月が僕を笑っているように思えた。


第三章 緑色の剣  第十四話「正位置の『戦車』」 完

40: 2010/05/14(金) 21:51:05 ID:tp8OPgmU0
続けて投下します。

41: 2010/05/14(金) 21:51:50 ID:tp8OPgmU0



 己が正義

 線に両立する意思



( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第三章 緑色の剣  第十五話「正位置の『正義』」


―緑の国 首都南部 風の渓谷―

 流れて行った強い風から顔を守る。

 そろそろ僕も変人と思われだしたかもしれない。
 かつての天才も変人と呼ばれていたらしいが、その気持ちが分かる。

( ^ω^)(いや…天才がどんな気持ちだったかは分からないお)

 考えれば夢と同じ様な話だ。
 よく分からないローブの人物に空で会ったなどと言う突拍子も無い事を、
 信じろと言われても僕ならば信じない。

42: 2010/05/14(金) 21:52:36 ID:tp8OPgmU0
 どちらにせよ僕は平均以下の人間だ。
 虚しい様な悲しい様な悶々とした気持ちで一夜を過ごし、
 次の日の夕方には渓谷に入る事が出来た。

 ローブの男など記憶の片隅に留める事もせずに少しの間山岳地帯を進む。
 足場の悪い砂利道は、馬車や平地を進んで来た僕には妙に新鮮に感じた。
 そんな傾斜を数時間も歩けばやがて足元には土の地面がつらなる。

 水が流れる音が目の前から聞こえだす。
 神が巨大な岩を断ち切り、間に水通した。
 そう思える程、雄大な渓谷が現れた。

(´・ω・`)「こりゃまた…挟み撃ちされたら大変だ」

川 ゚ -゚)「ここは手前の地形にうまく隠れた場所だ。
     奇襲の心配は他の道に比べたら少ないだろう」

 道は一直線。
 切り立った崖にぴったりと足場が張り付いていた。

ξ゚⊿゚)ξ「これって崖の上から弓とかで撃たれてもいやね」

 水が流れる音に混じり鳥の声が頭上を通りぬけた。
 透き通ったその声に顔を空に向ける。
 崖にはさまれた一本の青い線にしか見えない空があった。
 上にある足場からなら僕達を狙い撃つ事は容易だろう。

( ^ω^)「嫌って言うか氏ぬお」

川 ゚ -゚)「私の魔法に弓矢は効かん」

43: 2010/05/14(金) 21:53:45 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「普通の弓ならね。
      でも魔力を帯びていれば意外と風の守りを突き抜けてくるよ?」

川 ゚ -゚)「なんと…」

 真横にある切り立った崖を手すりにしながら進んで行く。
 尖った岩の感触が手袋の上からでも少しだけ痛かった。
 所々崩れる足場に肝を冷やしながらも、周囲に気を配る。
 今まで広い道を来た感覚からか地味な移動である。

( ´ω`)(眠…)

 気を抜いた瞬間に右の足場が崩れた。

(;^ω^)「ふおおおぉッ!」

 左手で崖壁を掴み体勢を整える。
 これで三度目だ。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン」

 ツンに呼ばれて振り返ると、顔に冷たい水がかかった。

( ´ω`)「何すんだお…」

 ふと気が付いてツンの横を見ると一本の青い線がツンの横に現れていた。
 どうやら崖の下を流れる水を手元まで操作しているらしい。
 思い起こせばツンの魔法は水を操る物が大部分だ。
 ツンもこの周辺ならば鍛えた兵士にも劣らない魔法使いだろう。

44: 2010/05/14(金) 21:54:43 ID:tp8OPgmU0
ξ゚⊿゚)ξ「目は覚めた?」

( ´ω`)「かわりに体力が減ったお…」

 楽しそうな笑顔のツンにそう言って前を向くと、道は登り坂に変わっていた。

 ツンにぶつけられた水を思いだす。
 基本的に水は上から下に落ちる。
 だが魔法は逆を可能とする。
 明らかに普通ではない方向に物事を変えるのだ。

 魔法とは何なのだろう。
 僕はたまにだが、そう思う事がある。
 

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても魔物も出ないわね」

川 ゚ -゚)「うむ、来る時も同じ場所を通ったが相当数を斬ったからな。
     大人しくしているのではないか?」

(´・ω・`)「それならいいけど。もしかしたら討伐されたのかもね」

( ^ω^)「なら安心だお」

(´・ω・`)「…紫の国の兵士が討伐したんなら最悪だけど」

(;^ω^)「……」

45: 2010/05/14(金) 21:55:37 ID:tp8OPgmU0
 渓谷に流れる水も本をただせば上流から集まるものだ。
 足元を幾つにも枝分かれした水が走って行く。
 森、と言う程でも無く、林、と言う程人の手も感じない。
 言うなれば程良く木々が並んでいる。

 足元で水を割る音、周囲から聞こえる小さな生き物の音。
 春も近いこの地には音があふれていた。
 
 同時に自分が全く緑の国を知らない事に気が付いた。
 僕の住んでいた村と首都は近くは無い。
 それでも、少し足をのばせば想像も出来ない様な世界があった。
 
 水場を避けつつ、岩を使いながら途切れがちな道を行く。
 やはり新鮮な体験だ。

 目の前で岩に張り付いた苔に足を取られたツンがバランスを崩す。

(;^ω^)「おっ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「…!」

 右腕を伸ばしツンの背中を支える。
 軽い体だった。

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、ありがとう」

(;^ω^)「気を付けるお、濡れたら風邪ひくお」

ξ;゚⊿゚)ξ「怪我とかじゃないんだ…」

46: 2010/05/14(金) 21:56:27 ID:tp8OPgmU0
 こんなやり取りも二、三回を数えて、数日が経っていた。
 ほぼ全員が登山も嫌になって来た頃だ。
 薄汚れた服などを見て、ツンとショボンが溜息をつく。
 クーという例外を除けば明るい顔の者はいない。

川 ゚ -゚)「さあ、そろそろ山も下りだろう。
     各自気を抜かぬように!」

(´・ω・`)「元気だねぇ…まだ半分か」

ξ;゚⊿゚)ξ「今日はあの辺の洞窟でいいわね…」

 向かいの道には幾つかの横穴が開いていた。
 野営には丁度よさそうだ。

(;^ω^)「今日も歩いたお…」

 伸びをしつつ顔を空に向ける。
 木々の間から暗闇が僕達を覗く。
 曇った夜空には星も月も見えなかった。

47: 2010/05/14(金) 21:57:10 ID:tp8OPgmU0


 往々にして旅の夜は暇で、そして不安だ。
 寝床にあり付けた安堵感、いつ何が襲って来るか知れない緊張感。
 色々な注意が混ざり合い、何とも言えない感覚を生み出す。

 僕が物思いにふけるのは旅に出た後からの話だ。
 その癖も馬車の中はまだいい。
 多少の安全が確保されている場所なのだから。

 それが、例えば草原、例えば岩場、例えば洞窟。
 危険極まる場所では命取りだ。
 暗い洞窟の少し奥で火を囲みながら、そう書いてあった本を眺めていた。

 ニューソク地方トラベラー。
 
 僅か数か月前に住んでいた地方が遠く思えた。
 住めば都とはよく言ったもので、すっかり赤の国に慣れていたのだろう。
 流されるままに旅をして来た僕にも感慨の様な物が生まれていた。

 火の音だけが支配する空間に澄んだ声が響いた。

川 ゚ -゚)「そうだ、ブーンは何故緑の魔法が使える?
     ニューソク地方は赤の国だろう」

ξ゚⊿゚)ξ「私とブーンは緑の国出身。
       前の大戦で二人とも他の国へ運ばれちゃったの。
       私はもう緑の魔法は使えないけど」

48: 2010/05/14(金) 21:58:13 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「…二色の魔法を使えるのか。
     だが二人は同じ時期に他国へ行ったのだろう?
     随分と魔力に差があるのだな。
     赤の魔法を修めるのはそれほどまでに困難なのか」

( ^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「…?」

ξ゚⊿゚)ξ「そっとしておいてあげて。本人気にしてるから」

(;^ω^)「ちょっ、それこそ放っとけお。ていうか別に気にしてないお」

 正直、魔力が低い事は多少の気負いがある。
 しかし世の中には魔法を使えない人もいるのだ。
 そういう訳で僕は下を見て生きている。

(´・ω・`)「そろそろ寝なよ。明日も早いんだから」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね、見張りの時は適当に起こして」

(´・ω・`)「ブーンもだよ」

( ^ω^)「把握だお」

 手にしていた本をしまいながら目をつぶる。
 背中に当たる石の感覚で普段なら寝れないだろうが、
 歩き続けていた一日の疲れがすぐに体を重くする。
 薄れていく意識の中で二人の声が聞こえた。

49: 2010/05/14(金) 21:59:02 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「ショボン、取り敢えず私が見張りをしよう。
     魔法を展開し続けるのは楽ではあるまい」

(´・ω・`)「へえ、気付いてたんだ。
お言葉に甘えようかな。でもすぐに起こしてよ。
       これまでに引っ掛かった奴が三人いるからさ」

川 ゚ -゚)「分かっている。こちらはまだ捕捉されていないがな」

(´・ω・`)「相手も派手には動けないだろうしね」

川 ゚ -゚)「首都まで僅かだが、油断はできんな」

(´・ω・`)「そりゃそうでしょ」

 気になる話だが、眠気には勝てなかった。
 次に起きた時でいい。
 
 そう思った瞬間に目を開けると木々の隙間の空は灰色の光を取り戻している。
 一夜が瞬き一回で終わった事に気を落としながら、何とか体を持ち上げた。

 薄く聞こえる音に嫌な予感を感じながら洞窟の入り口を注意して見てみる。
 霞が晴れるとそこには幾つもの水の線。
 雨天の、気だるい一日になりそうだ。


(´・ω・`)「計四人か…」

 出発前にショボンが呟いた。

50: 2010/05/14(金) 21:59:46 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「見つからずに逃げきれるだろうか?」

( ^ω^)「そう言えば昨日の夜から何の話だお」

(´・ω・`)「決まってるじゃない、軽鎧を着た人間の接近さ。
      これまでに僕の索敵に引っ掛かったのが四人。
      恐らくは紫の国の兵士さんだろうねぇ」

ξ;゚⊿゚)ξ「…え、嘘?」

川 ゚ -゚)「嘘をついてどうする。こちらの事はまだばれていないようだが」

 刀を確認していたクーが顔を上げた。

(;^ω^)「何でそんな大事な事を教えてくれないんだお」

(´・ω・`)「だって君達、言ったら意識するでしょ」

(;^ω^)ξ;゚⊿゚)ξ「…まあ」

(´・ω・`)「分かったら準備」

(;^ω^)「……」

(´・ω・`)「その顔むかつくからやめろ」


 僕達四人をはたから見たらどう評価されるのだろう。
 ショボン、ツンはそれぞれのフードをかぶって簡単に雨を遮っている。
 クーはコートのかわりにワラの帽子とマントを羽織っていた。

51: 2010/05/14(金) 22:00:37 ID:tp8OPgmU0
 僕はといえば、薄汚れたマントを頭まで持って来て首の下でとめている。
 代わり映えのしない格好だった。
 しかし、全く文化の違う服をそれぞれ四人が着ているのは奇妙な光景だ。

 雨の中を進むのは思った以上に体力が必要である。
 木々の間を通るにしても雨に打たれる事は避けられない。
 何より問題は奪われる体温だった。

 雨宿り出来るような巨木や、洞窟を見つけては休憩しつつの移動が続く。
 今までが随分と楽だった事を痛感出来た。
 そして何とか数日の道のりを進んだ僕達は、
 緑の国首都の一歩手前まで到達していた。


 その日も雨だった。
 春も前だが梅雨の様に雨天が続いている。
 葉からも落ちる水滴が無数の雨と交わって視界を狭めた。

川 ゚ -゚)「あと二日ほどだろう。さほど遠くなかったな」

(ヽ^ω^)「…まだ二日あるのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「首都まで付けばお風呂に入れるかしら?」

(´・ω・`)「んなことは着いてからでいいよ」

 いつもの様にぼやきながら僕達は雨を掻い潜り進んでいる。
 地面には石や岩が目立つ地形に変わり、僕達への最後の障害となっている。
 そのとき僕は右側にある木に手をかけながら岩を登ろうとしていた。

52: 2010/05/14(金) 22:01:23 ID:tp8OPgmU0
 気配だった。
 刹那、右手の更に外側に何かが刺さった。
 少しだけ走った痛みに目を向ける。

 矢だ。

 紫色に輝く弓矢が木へと突き刺さっている。

(ヽ^ω^)「……お?」

 振り返る前に頭を押される。

川 ゚ -゚)「伏せろ!」

 全員が体勢を下げたのを確信し、背後へと目を向ける。
 かなり遠くに五名ほどが紫色に光る弓を構えて僕達を狙っていた。
 ここに来てついに僕達は『敵』と出会う事となった。

(´・ω・`)「見つかったみたいだね…」

 ショボンが僕の横で背負っていた杖を取り出す。

ξ;゚⊿゚)ξ「これってまずいんじゃないの?」

 一応素人の僕とツンはしゃがんだままだ。

川 ゚ -゚)「五人…のはずはないか」

 クーが刀を抜く。
 雨の日の小さな光が集まって、一瞬だけ白い光を返した。

53: 2010/05/14(金) 22:02:13 ID:tp8OPgmU0
(;^ω^)「どうすんだお!?」

(´・ω・`)「そうだね、とりあえず…」

川 ゚ -゚)「…逃げるぞ!」

 僕達の周りに更に一発づつ矢が飛んでくる。
 どれも近い所に当たっており、敵兵は弓に慣れているようだ。

 二人とも武器は取り出したが戦う気は無いらしい。
 木々の隙間へ、岩場の影へ。
 身を隠す場所へと逃げ走る。

 地形は僕達に味方していた。
 弓矢をいくら正確に撃って来ても木が盾の役割をはたしてくれる。
 この先にあるだろう丘を下りきれば、緑の国の保護を受けられる事だろう。
 その前に包囲されれば僕達が無事ですむはずはない。

 考えを巡らせた矢先に前方右手から紫色に輝く剣を構えた戦士が三人飛び出して来た。
 さすがに相手は専門家だ。
 クーが瞬時に斬り込まなければ僕は剣に貫かれていただろう。

 刀が舞う。
 雨を打ち壊しながら、空間を滑り、最前線の戦士の腹へとぶつかる。
 何故か血は出ないまま戦士は崩れ落た。

 そのままクーは右足を踏み込む。
 上段から振り下ろされた刀が二人目の頭に叩きつけられる。
 意識を失ったその戦士の脇をすり抜け、更に前へ。

54: 2010/05/14(金) 22:02:59 ID:tp8OPgmU0
 体を真横に一回転させ裏拳の要領で三人目の腹に刀の柄を埋め込む。

 魔法も使わず、音もなく三人の戦士を撃破したクーの右腕には返して握られた刀。
 全て峰打ちで戦っていたのだ。

(´・ω・`)「えいっ」

 ショボンは倒れた三人の戦士を茂みに隠して先を確認する。
 木々の間とはいえ僕達は全員水浸しであった。

川 ゚ -゚)「やはり魔法は不味いか」

(´・ω・`)「光るからね。今のでもっと集まってくると思うよ」

(;^ω^)「マジで今の紫の国の兵士さんかお!?」

川 ゚ -゚)「間違いないな。動きが傭兵や素人の物では無かった。
     何故こうまでして守護者を消したいのかは、想像もつかんが」

 注意しつつ進むと狭い道になっていた。
 
 少し道を変えつつも、急いで木々をかき分けて行く。
 強くなった雨は僕達の体力を容赦なく奪い、
 いつ来るかもしれない敵は精神力を削る。

 間違いなく、今までで最も過酷な状況である。
 ただ、覚悟も無くこの状況に追い込まれた僕には特に危機感もない。
 何とかなるだろうと思いながら数時間急ぎ行き、現在は岩場の横穴に隠れている。
 体力の回復を待って移動を開始するつもりだ。

55: 2010/05/14(金) 22:04:09 ID:tp8OPgmU0
 移動していない状況ならばショボンの魔法特性が生きる。
 杖の発光を抑えつつ、周囲の地形へと意識を走らせていた。

(´・ω・`)「引っかからないね。どんな布陣なんだか」

 閉じていた目を開けるとショボンがそう言った。
 追われている事に変わりは無いが、少し安心出来た。

川 ゚ -゚)「ここはあくまで緑の国領内だからな。
     下手を打てば緑の軍と鉢合わせになり向こうが危機に陥る。
     慎重になるのが人情ではないか?」

ξ;゚⊿゚)ξ「それにしてもクー。あなた元気そうね?」

川 ゚ -゚)「どんな状況でも己を鍛える為の物と思えば大した事は無い」

( ^ω^)「家訓か何かかお。それよりさっきは助かったお」

川 ゚ -゚)「気にするな。ブーン、ツン、お前達は寝ておけ。
     この雨の中を逃げるのは鍛えていない者にはつらいだろう」

 僕とツンはクーの言葉に大人しく従い、凹凸の激しい石の地べたへと横になった。
 時間はまだ昼だったがすぐに睡魔が襲って来る。
 自分でも気付かない間に相当の体力を奪われていたのだ。


 ぼやけた思考でそう考えていたら目が覚めた。
 暗くなった外は、もう夜なのだろうか。
 目を閉じようとした時に何処からか声がかかる。

56: 2010/05/14(金) 22:05:04 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「気分はどうかな?」

 春だという時期だが寒く、体はだるさが支配している。

( ´ω`)「すごく…最悪…です……」

(´・ω・`)「だろうねぇ、まぁ何か食べなよ。
       乾肉と水しかないけどさ」

 鉛の様に重い体を持ち上げると小さな炎が僕の左側で揺れていた。
 
川 ゚ -゚)「むぐ…ほれ、これは鹿の肉か? なかなかいける」

 向かいからクーが乾肉とグラスに入った水を手渡してくる。
 夢心地で肉を口に放り込み、水を流し込んだ。
 噛むのすら疲れる。

 干された肉が僅かに戻り、柔らかくなる。
 塩の味の中にようやく肉の味が現れた。
 臭みがひどい肉でも味は悪くない場合があるのだ。

 繊維と繊維がほぐれたところで噛み砕く。
 独特と言える肉の味が鼻に抜けて、舌の上では水と共に広がった。

( ´ω`)「…もふもふ……げほっごほっ」

(´・ω・`)「重症だね。ほら水」

( ´ω`)「ありがとうだお…ごくっ……?」

57: 2010/05/14(金) 22:05:50 ID:tp8OPgmU0
 視線を外に向けると相変わらず雨が降っているらしい。
 規則的な音が聞こえてくる。

( ´ω`)(規則的…?)

 雨が規則的なはずはない。
 気になって外を注意深く見てみると、幾つかのグラスが置いてある。
 中身を揺らしながら水がたまっていく。

( ´ω`)「……」

 視線をずらすと、手元のグラスと同じものだった。

(´・ω・`)川 ゚ -゚)「…基本だ(よ)」

( ´ω`)「…そうなのかお」

 反論するのも面倒臭いと思い、壁に背を預ける。
 
 危険と言って差し支えない状況だが妙な気分だった。
 随分と昔にこんな気分になった事がある。
 あれはいつだったのだろう。

 例えるなら真夜中に目覚めた時のぼやけた世界。
 雨の音を背景にそれが再現されていた。

(´・ω・`)「夜だけどもうすぐ出発しようよ。
       明日の昼には多分首都に入れる」

58: 2010/05/14(金) 22:06:47 ID:tp8OPgmU0
 それを聞いて少し気が楽になった。
 近くに寝ているツンを見ると、少しやつれた顔をしている。
 ぼやけた感覚は薄れ急に視界が現実味を増す。
 地べたの石も、体に巻かれたマントも、外の雨の音も。

 当たり前の事が確実にあった。

 それでも、懐かしい感覚を残す雨の夜。
 僕達が出発したのは暫く時間が過ぎてからだった。
 
 また気の抜けない移動が始まる。


 暗闇に慣れた目で空を見ると一面紫色の天井がある。
 想像よりも早く落ちる雨がフードで弾かれ、目のすぐ前を飛んで行った。
 寒さに耐えながら森を進む。
 足元の水溜りは増えて、波紋を幾つも作っている。

 自分で踏んだ水溜りの音に驚き周囲を見ると、誰もいない。
 精神をすり減らしながら黙々と進む。
 幸いな事に誰にも見つからずに森を抜ける事が出来た。

 森の先は広い丘になっていた。
 いつの間にか雨は止み、遠くの山々の縁に赤い線が現れている。

 そこかしこの水滴が朝日を受けて輝いていた。

 広がった地形には遮蔽物は何も無い。
 一歩踏み出せば、確実に捕捉される。

59: 2010/05/14(金) 22:07:33 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「最後の一直線だね」

川 ゚ -゚)「…行こう」

( ^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 クーの言葉に全員が頷く。
 正面をショボン、背後をクーが守りながら駆けだした。

 随分と久しぶりに見えた太陽。
 丁度全て登りきっている。
 丘の向こうまでを一気に照らし出す。

 風を切り裂いて走る。
 水滴で輝く丘へ、僕達以外の影が現れた。

 振りかえると幾つも矢が空を覆っている。
 緩やかな坂道で振り返るとショボンとクーが武器を構える。
 僕とツンも魔法を起動して丘の上へと走る。

 全員で、首都まで行く。
 絶対に。

60: 2010/05/14(金) 22:08:13 ID:tp8OPgmU0
―緑の国 首都手前の丘―


 吹き抜ける風が弓矢を逸らし、石の壁が道を塞ぐ。 
 背後と側面からの攻撃をいなしつつ丘を登りきった。
 信じられない速さで接近して来た紫の国の戦士を、クーが押し返す。

 多くの敵を巻き込みながらショボンの魔法が地面を砕く。
 敵の行動を遅らせる事だけで手一杯であった。

 前方には誰もいない。
 そして見えた、首都への道を断つ崖、その横穴。
 あの小さな洞窟の先が緑の国の首都だ。

 何とか敵勢と距離を空けたショボンとクーと共に再び走り出す。
 あと五分も走れば洞窟へと到達できそうな所で正面へと回りこまれた。
 統率された軍隊の機動力は凄まじい物がある。

(´・ω・`)「僕が行く!」

川 ゚ -゚)「二人も行け! 背後は私一人でもどうにかなる!」

 明らかにクーの勝ち目は無いが、僕達が前方を掃討しきれれば話は別だ。
 洞窟に入りショボンの魔法で入口を塞げばそれで逃げ切れる。
 いかに相手が強くても全力でぶつかるしかない。
 
 目の前に並ぶ八人は全員高い能力を持った魔法使いだろう。
 ショボンならまだしも一対一で戦って勝てる相手ではない。
 各個撃破できる状況へと持って行く。
 打ち合わせは済んでいる。

61: 2010/05/14(金) 22:09:21 ID:tp8OPgmU0
 走りながらショボンの詠唱が完了して地面に亀裂が走って行く。
 一人が亀裂に巻き込まれ動きが取れなくなっている。
 続けて石の槍が数本飛び出して二人を突き刺す。

 一瞬にして三人を行動不能にしたショボンは更に僅かな隙に魔法を使う。
 地面から発生した黄金の壁が二人を隊列から断ち切る。
 迂回してくるまでに多少の時間が出来た。

 これで僕達が相手にするのは三人。

 仕込み槍を抜いたショボンは虚をついて目の前の一人を斜めに斬り裂いた。
 同時に僕とツンも飛びこむ。
 赤く光る右手を打ち出すと紫色の斧に阻まれる。
 
 ツンが僕の止めた戦士を追撃する。
 地面の水滴を集めた針が戦士の足を貫き、崩れた防御の上から僕が殴り倒す。
 僕達の頭上を飛び越えながらショボンが三人目の腹を貫いた。

 返り血を受けながらも壁の横から姿を現した二人を注視する。
 ショボンが槍を振り魔法が発動、金色の光を伴う岩が左手の戦士を穿つ。
 地面を蹴り光を纏ったままの槍を振り上げ右手の戦士の首を落とす。

 普段の穏やかな彼からは想像もつかない動きだ。
 躊躇なく四人を絶命させて更に前へと走る。
 魔法で現れていた壁が透けて消える。
 最初に動けなくなっていた戦士の首をはねて八人の内七名を撃破した。

(;^ω^)「クー!」

 声を上げながら背後を振り返ると、そこに疾風が吹き荒れていた。

62: 2010/05/14(金) 22:10:09 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「ッ!」

 合計八名を相手にしていたクー、振り下ろした剣圧が魔法の風に乗る。
 轟音と共に敵が吹き飛んで行く。
 風の爆発を受けてクーが僕達のいる辺りまで飛び下がると全員に目くばせする。

 後は目の前の洞窟を抜けるだけだ。

(´・ω・`)「!」

 どんな時でも予想外の状況は発生するものだ。
 
 紫の矢が僕達の頭上を飛び越えて行く。
 先頭を行くショボンが空を見上げるのと目の前の崖が崩れるのは同時だった。
 砕けた岩が洞窟への入口を塞ぐ。
 一瞬でどかしきれる規模ではない。

ξ;゚⊿゚)ξ「道が…!」

川 ゚ -゚)「退け! …!!」

 クーは正眼に構えた刀を振り上げ振り下ろす。
 確かに切り裂いた岩だが奥にはまだ幾つもの大岩が並んでいた。

(´・ω・`)「…仕方ないね。ツン、岩を少しづつでもいいから壊して欲しい」

ξ゚⊿゚)ξ「わかったわ。これだけ水があれば何とかなるはずよ」

 ツンは周囲の草原で照り返す水滴を見ながら岩へと向き直る。

63: 2010/05/14(金) 22:10:51 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「残る僕達は……つまりはそういうことさ」

 背後では戦士達が隊列を組みながら僕達を包囲する。
 崩れた崖を背にしているため、逃げ場など無い。

川 ゚ -゚)「問題無い。魔力はまだある」

(;^ω^)「僕は戦力になんのかお?」

 周囲に視線を送りながら、ツンを守るように円形に広がる。

(´・ω・`)「なるわけないよ。向こうは専門家集団なんだから」


(;^ω^)「じゃあどうしろって言うんだお」

川 ゚ -゚)「私達が撃ちもらした手負いを迎撃してくれ。
     先ずは来ればな、まぁ大丈夫だろう」

 本当に大丈夫なのだろうか。
 とはいえ、少し離れた場所にいる紫の国の戦士が発動している魔法。
 あの剣や斧の攻撃を受けて生き残れる可能性は低い。

 そう考えると、急に全てが現実味を帯びてくる。

64: 2010/05/14(金) 22:11:46 ID:tp8OPgmU0
 ここから見える敵勢は大体200人程。
 誰もが訓練を受けた戦士やハンターだと考えれば、
 目の前の守護者でも勝てるとは思えない。
 他国に中隊規模でやってくる勇気にも感服する。

 息を吸い込み、吐き出す。
 何度か潜り抜けた戦闘がある。
 そのどれよりも僕は冷静だった。
 
 勝てるはずのない戦いでも、何故か負ける気はしなかった。

 ショボンが、クーが、ツンがいて、負けるはずはない。
 敵勢を見据えながら構えを取った。


 機と見たのだろう。
 どこからか聞こえたのか分からない掛け声の後、敵がゆっくりと近づいて来る。
 静寂の中にあるべき朝焼けの丘が戦場へと変わろうとしていた。

 ところが戦いが始まり暫く立っても硬直状態が続いている。
 ショボンの魔法が地面を砕いて道を隆起させ、
 クーの魔法が烈風を生み動きを止める。

 僕達は時間さえ稼げればいいのだ。
 無理に戦う必要はない。
 崖に向かったツンが水を操り岩を割る音が聞こえる。

川;゚ -゚)「そろそろ…限界、か」

65: 2010/05/14(金) 22:12:35 ID:tp8OPgmU0
(´・ω・`)「そうだね、いくよ!」

 ショボンが言うよりも早く、僕とクーがそれぞれ左右へと広がる。
 僕達は全員、一度魔法の起動を『終了』させていた。
 止んだ魔法に合わせる様に紫の兵士達が向かって来た。

(´・ω・`)『……』

 聞きなれない詠唱が流れた。
 金色の光がショボンの足元に広がる。
 遠く離れた僕の近くまで届く巨大な魔法陣だった。

(´・ω・`)『召喚、ゴーレム!』

 轟音が空間を支配した。
 一瞬満ちた閃光の中から石の巨兵が立ち上がる。
 大きな岩の篭手に覆われた両腕、短いが剣の鋭さを放つ両足。
 黄金の両眼の下に見える牙が開き、咆哮する。

 地響きとも思える叫びが僕達を揺らす。
 
 その時、ゴーレム付近にいた紫の兵士達の魔法が、壊れた。
 砕け散り霧散していく剣や斧や弓、それを確認する前に僕達が走りだす。
 加えてゴーレムも一気に戦士達を撃破しようと動く。

 事前に聞いていたゴーレムの咆哮の力。
 近くにいた者の『発動された魔法』を一時的に破壊する魔の叫び。
 これほど近距離ならば再度僕とクーが魔法を発動して戦える。

 これが、『切り札』だ。

66: 2010/05/14(金) 22:13:30 ID:tp8OPgmU0
 巨大な腕が振り上げられ、地面へと落とされる。
 魔法を封じられた戦士が五人程見えなくなった。
 ショボンもクーも最前列に並ぶ兵士たちを切り裂く。

 生身相手でも苦戦しそうな僕は取り敢えず向かって来た一人を殴って気絶させた。

 このまま行けると思った矢先にゴーレムが一歩後退する。

(´・ω・`)「そう甘くもないか…」

 魔法矢の雨。
 無差別に撃とうが正確に撃とうが、巨大なゴーレムならば当たる確率は高い。
 敵勢のほとんどは魔法を封じられていないのだ。
 
 腕を振り、奮戦するゴーレムだが長くは持たない。
 ショボンの魔力にも限界はある。
 ゴーレムが全力を持って稼働できる時間は45秒。
 最初から限定された戦力だ。

(;^ω^)「ショボン! 前の凄い魔法は使えないのかお!?」

 サスガ兄弟の村では魔物を全滅させたゴーレム。
 あの魔法が使えれば、と考えた。

(´・ω・`)「撃ってもいいけど僕の魔力ほとんど持ってかれるよ!
       今撃っても、範囲が狭いからあんまり巻き込めないのさ!」

 ショボンが魔法を使えなくなれば全滅は必至。
 やはりこのまま戦うしかない。

67: 2010/05/14(金) 22:14:44 ID:tp8OPgmU0

ξ;゚⊿゚)ξ「あと少しよ!」

 ツンの声が聞こえた時には、僕達は傷だらけになっていた。
 一瞬で隊列を立て直した紫の軍勢はゴーレムの行動を制限し、
 クーへと魔法の詠唱を妨げる攻撃を繰り返している。

 ゴーレムの影に隠れながら立ち回る僕には、
 不利な状況である事がよく分かった。
 絶えず降り注ぐ魔法の弓矢が左足をかすめる。

川;゚ -゚)「ぐっ!」

 紫の雷撃に足元を撃たれ、余波を受けたクーが下がる。

(´・ω・`)「…! もうなりふり構っていられないか」

 かろうじて敵兵と距離を取ったショボンが背後に目をやると、
 僕が手を添えていたゴーレムの左足が透けている。

 召喚の限界時間だ。
 僕達が今まで耐えてきた要因、その根本が消えようとしている。
 その瞬間、ショボンが地面から石の槍を放って敵兵の動きを止める。
 走りだしてゴーレムの前で手にした魔法器を掲げた。

 広がる黄金の光がゴーレムを包む。

 ショボンの意を表わした様な鋭い瞳に、金色の光が宿っていた。

68: 2010/05/14(金) 22:16:29 ID:tp8OPgmU0
 黄金の紋章がゴーレムの前に現れる。
 サスガ兄弟の村で魔物を一掃した、ゴーレムと共に発動する魔法。
 僕達にはもう手札が無い。
 ショボンはほとんどの魔力を使ってでも、時間を稼ぐつもりらしい。

 巨人が掲げた腕に合わせる様に巨大な壁が地面から発生する。

 壁の内側に閉じ込められた敵勢はせいぜい20名。
 やはり召喚魔法への対処法も心得ているらしい。

 ゴーレムが両手を組み、金色の光が臨界を迎える。
 ショボンが杖を振り下ろすと同時に巨人が腕を地面に叩きつける。
 音と光が空間に満ちて、その発信源を消滅させた。

 熱い風が吹き抜けた後には、ゴーレムはその姿を消している。
 大きく穴の開いた地面の縁でショボンが呟いた。

(´・ω・`)「あとは運、かな」

 消えた前線を流し見て、突撃してくる兵士達に向かって構える。

川;゚ -゚)「しかし…もう魔力は無いぞ」

(;^ω^)「まだあんなに残ってるお…」

 すぐに僕達は互いの距離を縮めてツンのすぐ後ろまで下がっていた。
 再度気合いを入れて構えを取った僕の背中に声が当たった。

69: 2010/05/14(金) 22:17:16 ID:tp8OPgmU0
ξ;゚⊿゚)ξ「! 行けるわ!」

 ツンの前からは一筋の光が差し込んでいる。
 道は、開けたのだ。

(´・ω・`)「よし、逃げ…」


 そこまで言いかけたショボンを何かが貫く。
 禍々しく光る紫の弓矢が守護者の左肩に残った。

(;´・ω・`)「…くっ…!」

 ショボンが片膝をつく。
 敵の軍勢が迫る。
 上空には矢の雨が覆う。
 背後への道へと進まねばならない。

 一直線に並んだ全ての状況。
 僕は、どうすればいい。

(;^ω^)「……っ!」

 どうすればいいか分からないまま、左足で踏み込んだ。

ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン!」

 僕はショボンの前へと飛びだした。
 右腕を振り上げ、弓矢を撃ち落とそうとする。
 上手く一発は逸らせた。

70: 2010/05/14(金) 22:18:09 ID:tp8OPgmU0
 同時に迫る一人の兵士。
 右腕が上に上がっている僕に出来る動きは一つだけだった。

 赤い閃光。
 右腕を振り下ろしながら右足を上げる。
 膝を上げ、その勢いで目の前の兵士の顎を蹴り上げる。
 使えないはずの、足への魔法を起動しながら。

川;゚ -゚)「…! 下がれ!」

 そう聞こえた時には僕は剣に貫かれていた。
 僕の攻撃は受け流され、反撃されたのだ。
 外側に逸れているが脇腹を貫通していた。
 
 確認した時には体から力が抜けていた。
 しかし踏み込んだクーが兵士の首を撃ち、僕は止めを免れた。

 僕は力の入らない足を引きずり、一歩二歩と後退する。
 その時に見えたクーの氏角の影。
 口が動かない。

 思った時には影が倒れていた。

(;´・ω・`)「…」

 ショボンが自身の魔法器である槍を投げたのだ。
 寸分違わず兵士の胸を突き刺した槍は、そのまま兵士の胸に残っている。

71: 2010/05/14(金) 22:19:00 ID:tp8OPgmU0
 すぐ近くに逃げ道がある。
 全員で行く。
 そう決めたはずだった。
 
 だが、このままでは。

(;´・ω・`)「…間に合ったかな」

ξ;゚⊿゚)ξ「何言ってんの!?」

川;゚ -゚)「援軍が来るとしても時間はかかるぞ!」

 声が出ない。
 出血が酷い僕は黙って聞くしかない。

(;´・ω・`)「大丈夫さ…ここまで派手にやれば。
       もう来る」

 絞り出すように声を出したショボン。

(;^ω^)「…早く、逃げないと…!」

 何を言っているのか分からない。
 無い力を振りしぼっても体は動かない。


『逃げる必要は無い!』

 刹那、丘に声が響いた。

72: 2010/05/14(金) 22:19:41 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「!」

 混乱した様に全員が周囲を確認する。
 クーとショボンは前を見たままだった。

『何故ならば、ここは緑の国の領地だからだッ! 我が国では領地に入った旅人は保護する!』

 背後から突き抜けた風。
 嵐の様な疾風が僕達の視界を覆う。
 閉じた眼の裏からでも、強力な発光が感じられた。

 音が止んだ後、僕達に背を向けて立っていたのは二本の刀を手にした女性だった。
 緑の光を纏い長いコートを翻す。
 彼女の長い髪も風に流れていた。

 かなり近くまで接近していた紫の兵士は一人も彼女の前にいなかった。

ノパ⊿゚)「ヒート=スナオ、ここに在りいぃ!!」

 右手に持った刀を前に突き出しながら名乗り。
 先ほどから言っている事は何だかよく分からないが、
 僕達三人の思考は一致していたはずだ。

(;^ω^)ξ;゚⊿゚)ξ(;´・ω・`)(…暑苦しいな)

ノパ⊿゚)「いっくぞー悪漢ども!」

 女性一人だが軍勢を目の前にしても臆する事は無い。

73: 2010/05/14(金) 22:20:24 ID:tp8OPgmU0
 両手に構えた刀を優雅に回し一回転という所で、その姿が消失した。
 微かな風の動き。
 ヒートが紫の兵士達の遥か上空へと出現し、再び消える。

 離れた地点だが、はっきりと見えた。
 一筋立ち上った緑色の光。
 すぐに空間を歪ませるかのような竜巻が発生した。

 それが紫の兵士達を全て飲み込む。

 竜巻が無くなり、空中から兵士達が頭から地面に落ちる。
 弾けた風が僕達を追い越していった。
 たったこれだけで今まで僕達が苦労して逃げてきた者を行動不能にした。
 その力が示すのは彼女の二つ名。

 【風の奏者】

 緑の国の守護者、ヒート=スナオその人に違いない。


ノパ⊿゚)「旅の方々ー! 大丈夫かー!」

 何故僕達が旅人と分かったのか。
 そもそも、どちらが自国にとって問題あるのか等は気にせずにヒートが叫ぶ。
 小走りで向かって来る彼女を尻目に僕達はツンから傷の手当を受けている。

川 ゚ -゚)「姉上!」

 近くでクーが手を挙げた。
 ヒートの動きが止まる。

74: 2010/05/14(金) 22:21:10 ID:tp8OPgmU0
パ⊿゚)「……」

ノハ;⊿;)「!!」

 緑色の閃光と共にヒートが消える。

川;゚ -゚)「うわっ!」

 真横にいたクーの姿も消えている。
 次いで僕たちを間を烈風が駆け抜けた。

ノハ;⊿;)「クー!! クーじゃないか! うわああああああぁッ!!」

 どこから聞こえてくる喚き声かと思えば、背後、それもかなり離れた位置らしい。

ξ;゚⊿゚)ξ「何あれ?」

 無理やり首を回すとヒートがクーに抱きついていた。
 そのまま地面に倒れこんでいる。
 クーはヒートにマウントを取られている様にも見える。

川 ゚ -゚)「ああ、私で間違いない。取り敢えず離してくれ」

ノハ;⊿;)「何故だ!? 何故お姉ちゃんに何も言わずに出て行ったんだ!?
      アタシはッ!! お姉ちゃんはなあぁッ!!」
  
 この位置からうるさいのだ。
 相当な声量だろう。
 クーはヒートをどけようと相当な力を込めているらしいが、一向にはがれる気配はない。

75: 2010/05/14(金) 22:22:02 ID:tp8OPgmU0
川 ゚ -゚)「よしよし、ところで八部衆から誰か来るのか?」

ノハつ⊿;)「うっ…えぐ…はちぶしゅう? たぶんもうすぐ…ってクー!
       ケガしてるじゃないか!? ちくしょう!! どうなっているんだッ!?」


(;^ω^)(あの人はどうなってるんだお?)


(´・ω・`)(痛たい…知らないよ…)

 重傷である僕達はツンの止血と魔法での回復を受けて、
 目の前の寸劇を眺めていた。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、何か来たわよ」

 高速で移動して来た黒い影がクーとヒートの前に跪く。
 恐らく、はちぶしゅうの誰か、なのだろう。

( ゚∋゚)「……」

 件の影は黒い装束を着ているが、目立つ大男だった。
 クーとヒートは同時に叫ぶ。

川 ゚ -゚)「よし! 頼む、姉上を城まで帰してくれ!」

ノハつ⊿;)「クーを助けて!」

( ゚∋゚)「……」

76: 2010/05/14(金) 22:22:47 ID:tp8OPgmU0
 一瞬迷うように天を仰ぎ、二人に頷いた。
 次に手を振り上げてヒートの首筋を強打する。

ノハつ⊿;)「いたっ!? 何!?」

(´・ω・`)「普通気絶……いや氏ぬよ、あれ」

( ^ω^)「丈夫な人だお……」

 薬などをクーに渡しながらヒートの首には湿布が貼られた。
 クーから離れたヒートを抱えて、空高く飛び去っていった。
 
ノハ;⊿;)「え? 何するんだ! クー!!」

 丘の中すべてに響くような大声が離れていった。
 ようやく朝の静寂が帰ってくる。

川 ゚ -゚)「やれやれ…」

 そうしている間に埃を払いながらクーが立ち上がった。

川 ゚ -゚)「八部衆が動いているなら向こうの連中は上手くやってくれるだろう」

 遠くの向かい側で倒れている紫の軍勢を一瞥して僕達の近くまで来た。

ξ゚⊿゚)ξ「…何も言わない方がいいの?」

川 ゚ -゚)「ん? ああ…あれが私の姉だ。
     守護者ヒートと言えば分かりやすいか?」

77: 2010/05/14(金) 22:23:30 ID:tp8OPgmU0
ξ゚⊿゚)ξ「そうじゃなくて…」

(´・ω・`)(あれが噂のブラコンってやつか…)

( ^ω^)(シスコンじゃないかお?
      どっちにしろ今ケンカしたらショボンでも負けるから黙っとくお)

(´・ω・`)(絶好調でも守護者ヒートには勝てないけどね)

 よく分からないが疲れが出た。
 もっとも僕とショボンは大ケガをしているので当然と言えば当然だ。
 とはいえ長居も出来ない。

(´・ω・`)「…行こうか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうね。ブーン、歩ける?」

( ^ω^)血も止まったお。これなら大丈夫だお」

川 ゚ -゚)「こっちだ」

 明るくなっていく空には登り切らない太陽が霞んでいた。
 やがて光に満ちるであろう丘。
 そこを僕達が発ったのは、まだ昼にもなっていない時間の事であった。
 

第三章 緑色の剣  第十五話「正位置の『正義』」  完

81: 2010/05/20(木) 21:15:03 ID:.AYWYIvs0
このままここで投下させていただきます。

82: 2010/05/20(木) 21:15:48 ID:.AYWYIvs0


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第三章 緑色の剣  第十六話「未明に咲く」


―緑の国 首都―


 首都に入り、すぐに王の居城まで移動した。
 つまり僕達は傷だらけの体で謁見している。

 王の前に正座で座る僕達。
 天井は低く内装は木製である。
 たたみ、と言うらしい床では履物を脱ぐ決まりだ。

 僕達の両脇には緑の国の大臣達が並ぶ。
 背後に開けられた、しょうじ、の間から光が差し込んでいた。
 水路を流れる水の音が高い位置にあるこの部屋を満たしている。

 自分の出身国だが、ここまで文化が違うとなると既に他国だ。
 若干緊張しながら僕はツン共に頭をさげていた。 

(´・ω・`)「お初にお目にかかります」

爪'ー`)y‐「長旅、大義でした。守護者ショボン殿、そして使者のお二人」

 緑の国の王フォックス=スナオが一番奥の座敷に座っている。
 笑みを絶やさない優しそうな男性だった。

83: 2010/05/20(木) 21:16:32 ID:.AYWYIvs0
爪'ー`)y‐「お話はクーより聞きました。
       やはり紫の国は動いていたのですね…」

(´・ω・`)「ええ、私達を襲撃したのも守護者を消す為。
      各国の連携を防ぐ為、理由は幾らでもあるでしょう」

爪'ー`)y‐「成程…西方の国々はどうされていますか?」

 今まで黙っていたツンが横で顔を上げた。

ξ゚⊿゚)ξ「青の国についてはわたしが…」

 ツンは懐にあらかじめ手紙を入れていたらしい。
 それを取り出しながら座り直す。

ξ゚⊿゚)ξ「青の国、守護者しぃの従者、ツン=デレと申します」

 聞きながらフォックスが一度頷いた。

ξ゚⊿゚)ξ「青の国では紫の国に対して防衛ラインを引きました。
       幾度も守護者しぃが紫のギコ王に書状を送っていますが、
       これまでに返事はありませんでした」

爪'ー`)y‐「紫の国が攻勢に出たのですか?」

ξ゚⊿゚)ξ「攻め込まれてはおりません。
      紫の国は西方に軍を配して、国境を閉鎖したのです」

爪'ー`)y‐「国境を…こちらでは閉鎖までは行っていませんが、
       ここ最近は少し慌ただしそうでしたね」

84: 2010/05/20(木) 21:17:15 ID:.AYWYIvs0
ξ゚⊿゚)ξ「これは青の国からの書状です」

 控え目に差し出した書状を王の隣にいた側近が持って行く。

爪'ー`)y‐「確かに青の国からの書状、受け取りました」

 それを聞いてツンは頭を下げた。

爪'ー`)y‐「あなたは赤の国から来たのでしたね?」

 そうだった。
 僕もジョルジュの頼みで書状を預けなければならないのだ。
 数か月前に受け取った手紙の中に入っていた書状を取り出す。
 形式的とは言え失礼を働く訳にもいかない。

 ところで王と話せる程、僕は情勢に詳しくない。
 それをこなしたツンは凄いのだろうが僕はどうするべきなのだろう。

(;^ω^)「えーと…赤の国の、使者? ブーン=ホライゾン…ですお」

 ツンが少しだけ顔を動かしながら僕を睨む。

ξ;゚⊿゚)ξ(ちゃんとやりなさいよ!)

 そう言われても僕には王室の心得は無い。
 どうしたものか迷っていると王が声を出した。

爪'ー`)y‐「使者の皆さん、少しお待ちください」

85: 2010/05/20(木) 21:18:02 ID:.AYWYIvs0
 側近に耳打ちすると僕達の側にいた大臣達へと何かを伝えていく。
 驚いた顔をした大臣達がフォックスを見るが、笑顔で頷いていた。
 その後、何故か大臣達が部屋を後にした。
 
 同じ時に外へ出た側近たちから呼ばれたのだろう。
 入れ違いで二人の女性が入って来た。

ノハつ⊿;)「うっ…ヒート=スナオ…入るぞ…」

川 ゚ -゚)「クー=スナオ、失礼いたします」

 泣き顔のままのヒートと皺だらけの道着を着たクーが入って来た。

爪;'ー`)y‐「まだ泣いていたんですか…」

ノハつ⊿;)「! だってクーが帰って来たんだぞ!?」

爪;'ー`)y‐「分かりましたから座ってください」

ノハつ⊿;)「うぅ…分かった…」

 フォックスは近くに座った二人を見てから咳払いをして話を進める。

爪'ー`)y‐「話を戻しましょう。ブーンさん、気にせず話してみて下さい。
       うるさい家老達も席をはずしてもらいましたので」

(;^ω^)「お? あ、ああ…赤の国は紫の国に対して防衛ラインを築き…」

86: 2010/05/20(木) 21:18:47 ID:.AYWYIvs0
 慣れないながらも説明を始め手紙を前に出す。
 防衛線以上に何かやったのだろうか。
 ここで僕の知りうる前情報が出尽くしていた。

( ^ω^)「あ、そうだ。これを読めば大体…」

 手紙を前に差し出す前にショボンの杖で顔面を打たれ、
 僕は再び床に平伏する事となった。

(´・ω・`)「失礼を…」

爪;'ー`)y‐「いえ…構いませんよ。赤の国からの書状、確かに受け取ります」

 ショボンは僕の前の封筒を取り前に差し出す。
 そして杖を床に置き、フォックスに向き直る。

(´・ω・`)「…西方は同盟の通り、紫の国に対して共闘戦線を敷いております。
       黄の国は【灰色の障壁】のお陰で攻め込まれる事は避けられるでしょう。
       我ら東方二国も同盟に加わり紫の国を包囲。
       ギコ王を追い詰め、軍を動かしたその真意を問うべきかと」

爪'ー`)y‐「紫の国が様々な工作を巡らせている事が分かったのです。
       当然私達緑の国も同盟に加わりましょう」

 しかし、と言いながらフォックスは外へと目を向けた。
 紫の国の方角だった。

爪'ー`)y‐「それで紫の国が何事もなく対話を受け入れてくれればいいのですが…」

(´・ω・`)「はい。しかし、四国の同盟が成れば可能性は低く無いでしょう」

87: 2010/05/20(木) 21:19:36 ID:.AYWYIvs0
爪'ー`)y‐「魔王大戦の再来は防がねばなりませんからね」

 意を決した様にフォックスが僕達を見る。

爪'ー`)y‐「クー、ヒート、分かりましたね?」

 そのまま二人へと目を向ける。
 もしかしての事態に備える様に、そう言っているらしい目だ。

ノハつ⊿;)「…え…何が?」

川 ゚ -゚)「姉上、紫の国の動きについてだ」

 それを聞いてヒートの目が変わる。

ノパ⊿゚)「ああ、それなら問題ない!
     何せ王をやっているのはあのギコだぞ?
     きっと考えがあって動いているに違いない!」

爪'ー`)y‐「あの若者が魔王の復活を望むはずがないのは分かります。
       しかし魔王の策略に踊らされている可能性もあります。
       手先である魔物や四天王も完全に消えた訳では無いでしょう?」

ノパ⊿゚)「え? 四天王は倒したけど、復活するの?」

爪;'ー`)y‐「大体の歴史で確認されているのですから、そうなります」

ノパ⊿゚)「またあいつらと戦うのか…強いんだよなぁ…」

88: 2010/05/20(木) 21:20:21 ID:.AYWYIvs0
 ヒートの中では何故か魔王が復活する前提らしい。
 七年前の大戦を思い出すようにヒートが呟く。
 様子を見ていたフォックスがクーに言う。

爪;'ー`)y‐「クー…ヒートを部屋に戻して下さい」

川 ゚ -゚)「心得ました」

 ヒートを引きずりながら部屋を出て行くクー。
 見届けたフォックスが溜息を吐いた。

爪'ー`)y‐「お見苦しいところを…」

(´・ω・`)「いえ……」

爪'ー`)y‐「ともかく、同盟へと参加しましょう。正式な発表は後日になります。
       その間に傭兵達も募って軍の力も底上げしておきましょう。
       近い内に集会を開きますので、皆さんに参加して頂きたいのですが」

(´・ω・`)「分かりました」

爪'ー`)y‐「では城下に宿を手配しますので暫くの間そこで休んで下さい。
       長旅を終えてすぐにお話につき合わせてすみませんでした」

(´・ω・`)「恐れ入ります。では私達はこれで…」

 傾き始めた太陽が部屋を赤く染め、夜の訪れを告げていた。
 僕達は最後に一度頭を下げて部屋を後にする。
 長い一日がもうすぐ終わるのだ。

89: 2010/05/20(木) 21:21:28 ID:.AYWYIvs0
―緑の国 城下町―
 

 案内に従い町を行く。
 日も暮れて夕闇の中に町が溶け込んでいた。
 風景は詳しく分からなかったが、
 町中を走る川や水路の水が軒先の明かりに揺らめいている。

 城に程近い大きな屋敷へと辿り着き、部屋に案内された。
 それぞれ個室を用意されていた。
 詳しい話は明日にしようと言い合わせ、二人は部屋へと消えていく。
 僕も部屋に入ると広い空間に真新しい匂いが鼻をついた。

 二か月の旅を終えた。
 その達成感を感じる間も無いまま寝床を探す。
 部屋の中ほどにベッドの上の部分だけを取り出した様な物があった。
 これがベッド代わりの、ふとん、であろう。
 考えるのも億劫になった僕はそのままふとんに倒れこむ。

 硬い地面に慣れた体が違和感を訴えている。
 少しでも柔らかい場所で休める事がありがたかった。
 何を考える事も出来ないまま、気が付けば意識を落としていた。


 次の日の朝はゆっくりと始まった。
 目が開く、明るさの具合から昼前だろうか。
 旅をしている最中は早朝が主だったのでどことなく懐かしい。
 小鳥の声が聞こえて、空へと消えた。

( ^ω^)「……」

90: 2010/05/20(木) 21:22:18 ID:.AYWYIvs0
 しょうじ、を開けると太陽の光が飛び込んできた。
 青空を見た体が目を覚ましていく。
 見てすらいなかった部屋の内装も分かってくる。
 たたみが一面に敷き詰められ、低いテーブルの様な物もある。

 奥の方では一個分高くなった床。
 壁には長方形の紙に絵が書いてあった。

( ^ω^)「ホントにここ緑の国かお?」

 かつて生活していた村とはまるで違う。
 今思えば僕の村は紫の国に近かったため、
 そちらの影響を受けたのかもしれない。

 小さく石を打つ音が聞こえたため庭へと目を向ける。
 竹で作られた小さな道を水が通り、それが元に戻って音を立てる。
 ずっと音は鳴っていたらしい。
 定期的に竹が石を叩く音が響く。

ξ゚⊿゚)ξ「入るわよ」

( ^ω^)「お? …ツンかお」

 庭の先は壁に阻まれており、この宿に囲いがあるらしい事を知らせている。

(´・ω・`)「いやぁ寝たね、すっかり寝過した」

 背後からショボンの声が聞こえる。

91: 2010/05/20(木) 21:23:09 ID:.AYWYIvs0
( ^ω^)「二人とも何かあったのかお?
      ああ、もう城から召集が…」

ξ゚⊿゚)ξ「違うわ。わたし達はわたし達で話す事があるでしょ?」

( ^ω^)「何かあるのかお?」

 もう緑の国へと書状は渡し、僕達の目的は達せられた。
 する事も特には思いつかない。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、アンタはこれからどうする?
       赤の国戻るって手もあるけど……」

 なるほど、僕達のこれからを考える必要があるのか。
 僕は旅の終わりをまったく考えていなかった。

( ^ω^)「あー…」

ξ゚⊿゚)ξ「こんな話しておいてなんだけど…その前に顔でも洗ってきたら?」

 よく考えれば起きたばかりだ。
 ツンの言う事ももっともなので顔を洗うために洗面所へと向かった。

 戻って来ると、布団はたたまれていた。
 広くなった部屋に二人が座っている。
 ツンが入れたらしい緑茶が湯気を立てて盆に載っている。
 それを一口飲んだショボンが口を開いた。

92: 2010/05/20(木) 21:24:12 ID:.AYWYIvs0
(´・ω・`)「僕は緑の国に残る予定だよ。
       黄の国については守護者長期不在時の政策があるからね。
       まあ連絡はするけど、連携が回復したし」

 ショボンは守護者としての使命を全うするのだ。
 国を、世界を魔王から守るため、停戦のために行動をするのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「わたしは…そうね。しぃさんから連絡待ちかしら。
       でも残る事になると思う。帰っても出来る事は少なそうだし。
       こっちで誰かの手伝いが出来ればいいわ」

 ツンは自分するべき事を決めていた。
 忘れてはいないのだろう。
 かつての魔王の脅威を。

 そして、僕はどうする。
 力も無く、誰かを助けようという熱意もない。
 いつも通りなのかもしれないが。

( ^ω^)「……」

 答えに困っていると、部屋の扉が叩かれた。
 ショボンが扉を開くと先には郷土の服を着た兵士が立っていた。

(´・_ゝ・`)「失礼します。黄の守護者様達はこちらでしょうか?
       城からお迎えに上がりました」

(´・ω・`)「はい、分かりました。ブーン、ツン、用意してよ」

93: 2010/05/20(木) 21:25:19 ID:.AYWYIvs0
 上手く質問をかわせた。
 だが、結局先延ばしにしただけなのだろう。
 準備を始めながら、そんな考えが廻っていた。


 外に出ると町並みが飛び込んできた。
 城下は緩やかな階段状になっているらしく、家が立ち並ぶ景色が見えた。
 ほとんどの家の屋根は黒い。
 瓦を使った建築は僕達の村でもあった技術だ。

 整然と並んで綺麗に区分けされた街並み。
 白い石畳に青い水路、黒い線で作られた様な街は、
 美しさすら感じさせていた。

 反対側にある城は高台の横に建てられているらしい。
 何を考えるでもなく歩きだした時、温かい風が通り抜けた。

( ^ω^)「…?」

 何処から吹いたのか見ようとしたところをツンに呼ばれ急いでついて行く。
 今は集会の方が重要か。
 そう思って道を急ぐ事にした。

94: 2010/05/20(木) 21:26:07 ID:.AYWYIvs0
―緑の国 首都の城―

 赤の国の城と緑の国の城は大きく違う。
 色合い自体は似ているのかもしれないが、建築様式の時点で差がある。
 前者は石を多く使って頑強だが鈍重そうに映ったものだ。
 比べると今の目の前に見えている、そとぼり、これが既に異質である。

 城の門、そのすぐ外側には大きな水路の様な物がある。
 有事の際には敵勢を食い止めるのに活躍するらしい。

 昨日は暗さと疲れで興味も湧かなかったが、
 城の中を進みながらだと様々な物に気を取られる。
 しょうじによって区切られた部屋。
 部屋から見る景色は城と一体化しているかのようだった。

 少し階段を上ると昨日集まった部屋よりも少し広い部屋についた。
 恐らくは重鎮だろう方々が並んで座っている。
 僕は目立たないように隅に座っておいた。
 クーとヒートも前の方に姿が見える。

爪'ー`)y‐「皆さんお揃いですね」

 フォックスが部屋に入ってきて話が始まる。
 確認が真面目に意見を出し合っている集会は、
 使者とは名ばかりの僕には退屈な内容であった。

 紫の国への対策。
 同盟参加への発表時期。
 東方二国の守護者がどう動くべきか。
 紫の守護者が表に出てこない事。

95: 2010/05/20(木) 21:27:34 ID:.AYWYIvs0
 もっぱら行動を起こすのは何時にすべきか。
 それが焦点になっているらしかった。
 何でもいいので戦争は回避してもらいたいところだ。

 聞いている間に眠くなり、暫く目を瞑っていたら集会は終わりに近づいていた。
 ツンにつつかれて部屋から退散する。
 通路を歩きながら誰ともなく声をだした。

( ^ω^)「で、結局どうなったんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「えーと、緑の国も機を見て国境を閉鎖するんだって。
       上手い事牽制になってくれればいいらしいわ。
       ってやっぱり聞いて無かったのね……」

( ^ω^)「あんな長話、僕が付いていける訳ないお」

(´・ω・`)「…一応僕達もどうなるか決まったけどね」

 呆れ顔の二人がそう言った。
 僕もそろそろ世間の動きを知るべきなのかもしれない。

( ^ω^)「放置かお?」

(´・ω・`)「そうだよ。宿はそのまま使っていいらしいね」

ξ゚⊿゚)ξ「私はしぃさんとジョルジュさんに手紙を送っておいたけど…
       ブーンは何かするの?」

( ^ω^)「何も無いお。ツンが連絡してくれたなら僕も待ちに入るお」

96: 2010/05/20(木) 21:28:22 ID:.AYWYIvs0
ξ゚⊿゚)ξ「そう、ショボンは忙しくなりそうね?」

(´・ω・`)「全くだよ、先生しながら本でも読んでいたかったね」

 未だに気だるい体を引きずり、僕達三人は宿へと引き返すべく歩く。
 長旅をして来たのだから積もる話もあるのだろうが、
 やはりまだ調子が戻らないのがよく分かった。
 目の前から現れた影にも平気で挨拶をしていた。

川 ゚ -゚)「む、ここにいたか」

( ^ω^)「クーかお。ヒートさんの様子はどうだお?」

川 ゚ -゚)「昨日の夕飯時には治っていた。
     何事もあまり気にしない人だからな」

(´・ω・`)「…それはともかく用でもあったの?」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだ。ブーンとツン、何かやるべき事は決まったか?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、わたしはどこかで雑用でもしようと思ってたけど」

( ^ω^)「連絡来るまで暇だお」

 それを聞いて満足そうに頷いたクーが楽しそうに言う。

川 ゚ -゚)「ならば丁度いい。お前たちちょっと体を鍛えてみないか?」

 内容は絶望的な物であった。

97: 2010/05/20(木) 21:29:12 ID:.AYWYIvs0
川 ゚ -゚)「万が一という事もあるだろう?
     戦争になった時、戦わないにしても身を守れる位の力は必要だ。
     時間があるならやって損は無いと思うんだが」

 冗談ではない。
 ようやく終わった旅の次は戦闘訓練では体力が持たない。

(;^ω^)「あー、いえ…丁重にお断わ…」

ξ゚⊿゚)ξ「いいわね! 明日からブーンと一緒に始めるわ!」

 目を輝かせたツンが僕の言葉を遮った。
 いったい何がそんなにうれしいのか。

(;゚ω゚)「よくねぇお! 僕は…」

 だが既にクーは背を向けようとしていた。

川 ゚ -゚)「はは、そうか。では明日にでも迎えに行く。
     言っておくが中々厳しいぞ?」

ξ゚⊿゚)ξ「望む所よ! 
       しぃさんの訓練について行った私達の力を見せてやるわ!」

 急いでどこかへと走り去るクーの背中にツンの言葉がぶつかった。

(;゚ω゚)「待つお! クー待つんだお!」

 僕の言葉は届かなかった。
 後に残ったのは明日への憂鬱だけ。

99: 2010/05/20(木) 21:29:58 ID:.AYWYIvs0

(´・ω・`)「あーあ、大変だね」

 そんなショボンの言葉に肩を落とす僕だった。
 下手をすれば旅の二か月以上に過酷な戦いが待っているのだ。
 窓の覗く二月半ばの空は明るさを増していった。


 
 さて、赤の国から緑の国まで直線距離ならばさほどの物ではない。
 だが紫の国は通れないため黄の国を経由する事になる。
 同盟四国を最短の道で駆け抜けるにせよ、それば往復となれば、
 長い時間がかかる。

 僕とツンはそれぞれ連絡待ちだ。
 つまり、手紙がこないのならそれだけ鍛えられる時間が延びる。
 たとえ自分の意思ではなくても。

 現在、暇な守護者ヒートと教官による軍事演習並みの訓練が続いていた。
 緑の魔法を操る兵士達の中で僕とツンの魔法は浮いていた。
 
 連絡はいつになったら来るのやら。
 今日で早二か月が経っていた。
 四月の半ば、春の訪れを感じてもいい時期だ。
 もちろん季節の移りなどを感じる余裕は無かったが。

 夜明け前に起き、何も考えずに道場へと足を向けた。
 気が付けば目を開けると道場の壁に背中を預けていた。
 今日も阿鼻叫喚の戦いだ。
 毎度の事だがツンは倒れ、クーは崩れ、僕もそろそろ限界かもしれない。

100: 2010/05/20(木) 21:32:08 ID:.AYWYIvs0
 例外として、かの大戦の英雄は元気そのものだった。
 その英雄の運動量は他の三倍以上はあるのだが。

(ヽ゚ω゚)「はっ!」

 訓練に慣れていたためか、居眠りから跳ね起きる。
 そして目の前のヒートを確認する。
 構えを取りながら。

(ヽ゚ω゚)「いや、寝てませんお! 本当に!」

 仁王立ちで突っ立っているヒートが相変わらずの大声で叫ぶ。

ノパ⊿゚)「寝ていた! 間違いなくな!」

 この二月、魔力の強化訓練で目の前に立っていたヒート。
 本質的にジョルジュと似た空気を持っているが、
 扱いづらいことに変わりはない人物である。

(ヽ゚ω゚)「何をおっしゃるお!? アレはばれないはずだお!」

ノパ⊿゚)「フハハハハハッ! 守護者を甘く見るな! 空気の動きで分かるわッ!!」

(ヽ゚ω゚)「なん…だと…?」

 僕達二人だけが道場の隅で何故か大声で叫びあっている。
 入り口から現れたクーがヒートの背後から顔を出す。

101: 2010/05/20(木) 21:33:34 ID:.AYWYIvs0

川 ゚ -゚)「姉上…やっぱり来ていたか。
     昨日も告知されていたが、軍議があるから今日から訓練は休みだぞ。
     姉上も軍議に召集されているだろう?」

ノパ⊿゚)「……」

 ヒートのとぼけた顔に焦りが走る。

ノハ;゚⊿゚)「やべぇ!」

川 ゚ -゚)「うむ。城でやっているから急ぐんだ」

ノハ;゚⊿゚)「分かった!」

 緑色の閃光が道場を覆う。
 ここまで派手に魔法を使う必要もないと思う。
 とはいえ相手は規格外の魔力を持った守護者だ。
 幾ら下級魔法を使ったところで影響も起きないのだろう。

川 ゚ -゚)「…ふぅ」

 緑の閃光が残る道場でクーが僕に向き直る。

(ヽ゚ω゚)「…休みかお……」

 壁を支えに立ちあがる。
 木製の床の軋む音が聞こえた。

102: 2010/05/20(木) 21:34:26 ID:.AYWYIvs0
川 ゚ -゚)「先程見てきたが、ツンは寝ているらしい。
     話をしっかり聞いていたようだな」

(ヽ゚ω゚)「……お?」

川 ゚ -゚)「帰って寝ろ。後で滋養剤でも届けさせる」

(ヽ゚ω゚)「ふひひ……はあくした、お」

川 ゚ -゚)(大丈夫なのか? これ)

 思っている事が顔に書いてある。
 クーに見送られながら宿に戻るとふとんに潜りこんだ。
 無駄な早起きであった、そう思いながら。 


 すぐに目を開けた。
 前より気分がいい。
 外が暗い所を見ると夜まで寝てしまったのだろう。
 部屋の入口には縦長の瓶に入った液体が見える。

 クーが言っていた滋養剤に違いない。
 寝ている間に届けられたのだろう。
 部屋にあった蝋燭に火を灯しつつ、瓶を手に取る。
 滋養剤の色は緑。
 
 蓋をあけて匂いを嗅ぐと草の強い臭いが鼻をつく。
 体に悪そうな気がしてきた。
 しかし、良薬口に苦しだ。
 氏ぬ事もないだろうと、一気にあおってみた。

103: 2010/05/20(木) 21:35:13 ID:.AYWYIvs0
(ヽ゚ω゚)「ゴフッ!!」

 一瞬意識が遠くまで飛んだ。
 苦いなどと生易しい物ではない。
 もっと恐ろしい恐怖の片鱗を味わった僕だが、
 体には効いたのかもしれない。

 寝たという気分も相まって体が軽くなった気がする。
 明るい気分に反して外は相変わらず暗かった。
 別にする事も無い、外にある厠に行こうと腰を上げた。

 少し進んで宿の扉を開ける。
 温かい風が路地を抜けて行った。
 紫色と言うよりは藍色の空。
 無音の空間に僕の足音だけが響く。

 用を足した僕が厠の戸を開くと目の前をクーが走っていた。

川 ゚ -゚)「む、ブーンか」

( ^ω^)「何してるんだお、こんな夜中に」

 一瞬不思議そうな顔をしたクーが小さく笑いながら空を見る。

川 ゚ -゚)「今は早朝だ。どうやら一日中寝ていたらしいな?」

( ^ω^)「…一日寝たのかお。体が軽いのもうなずけるお」

104: 2010/05/20(木) 21:36:08 ID:.AYWYIvs0
 僕も顔を上へと向ける。
 どうりで空が青いはずだ。
 太陽を迎える少し前の空は紫色ではない。

川 ゚ -゚)「暇なら少し付き合わないか?
     私の日課の走り込みなんだが、散歩がてら」

 散歩で走るのはどうかと思うが町を見るには悪くないだろう。

( ^ω^)「おっお、速度を落としてくれるなら」

川 ゚ -゚)「すぐそこまでだ。今のブーンなら疲れはしないだろう」

 クーが先を指さす。
 追ってみると城の横の高台を指しているらしい。

( ^ω^)「分かったお。あの辺りは見晴らしよさそうだお」

川 ゚ -゚)「じゃあ行くぞ」

 急に走り出したクーを僕も追っていく。
 久しぶりに気楽な時間が流れそうだ。

 やはり静かな路地に今度は二人分の足音が響く。
 やや冷えた空気を切り裂いて進む。
 塀に囲まれているため視界は良くないが坂道であると分かる。
 そのうち上まで到達するだろう。

105: 2010/05/20(木) 21:37:17 ID:.AYWYIvs0


 朝の空が広くなる。
 辿り着いた場所には一本の木があった。

川 ゚ -゚)「今日だったみたいだな」

 両手を大きく広げるように伸びた枝。
 その先に咲き乱れる花。
 歩きながら近づいて行くと、眼下に白黒の街並みが映る。

( ^ω^)「これは…」

 見た事がある。
 名前は何だっただろう。
 七年前の大戦で国を離れて以来だった。
 空の色は明るく変わりつつある。

川 ゚ -゚)「こいつだけは周りより少しだけ早く咲くんだ」

 クーが木の腹に手をかけながら言った。
 木を避けて先に見える町を一望する。
 独自の建築様式で建てられた城と城下町、
 ここからなら見える反対側の港は全く違う様式だった。

川 ゚ -゚)「昔から変わり映えのない町並みなんだがな……」

 クーは町の更に先を見ているかのように一点を眺めている。
 丁度、城と港の間だった。

106: 2010/05/20(木) 21:38:27 ID:.AYWYIvs0
 黒く霞んでいた山々を縁取り、一気に世界が反転した。
 眩いばかりの太陽が昇る。
 僕達の背後には影が伸びていく。

 夜明けを見るのは久しぶりに思った。

川 ゚ -゚)「綺麗に二つに分かれているだろう?」

 視線を変えないクーが一歩だけ前にでた。

( ^ω^)「確かに……違う国が隣にあるみたいだお」

 率直な感想だった。
 何故このように分かれているのか分からないが、
 どちらも趣のある景色だ。

川 ゚ -゚)「何と言えばいいんだろうな。この場所は私なんだ」

(;^ω^)「哲学ですかお」

川 ゚ -゚)「そんな大層な物じゃない。ただ……いや、難しいな」

 クーはその場に座り込んで木に背中を預ける。
 目を瞑って考えている。

川 ゚ -゚)「…例えばだ、私達もずっと寺子屋に通っている訳にはいかない。
     それで目の前ににはとりあえずの道がある」

 重々しく開いた口と街の堺を指す指。

107: 2010/05/20(木) 21:39:27 ID:.AYWYIvs0
川 ゚ -゚)「どうしたものか?」

(;^ω^)「知るかお!」

 意外と速く太陽が昇りきった。
 靄が晴れるように街並みが鮮明さを増した。

川 ゚ -゚)「……むぅ」

 そう言われても困るのは僕だ。

( ^ω^)「クーは国の事をやる人になるのかお?
      それともヒートさんみたいに守護者に……」

川 ゚ -゚)「守護者は姉上がやっているから…私は国を継ぐのかもな」

 クーはやはり迷うように腕を組んでいる。

( ^ω^)「んー、いいんじゃないかお? 
      王様なんてそうはなれないお」

 視線を動かしたクーが城を眺める。
 朝やけにそびえる城からは迫力を感じる。

川 ゚ -゚)「なったとしても簡単に辞める事は出来ん。
     民を束ね、国を動かす力がなければ王にはなれない。
     そして王の意味を作るのは民だ。
     信用と力が無ければ民はついてはこない」

108: 2010/05/20(木) 21:40:11 ID:.AYWYIvs0
( ^ω^)「やっぱり簡単じゃないのかお。
      王様をやらない時はどうするんだお?」

 僕などには想像もつかない苦労が王にはあるのだろう。
 今度は反対の港を向いたクーが遠くを眺めている。

川 ゚ -゚)「民になる、と思う。
     それは城に関係した業務をする事にはなるだろうが。
     一見こちらの方が楽に思える」

( ^ω^)「違うのかお?」

川 ゚ -゚)「民として王たる者を信用しきれるかだ。
     責任は無いが耐える力が必要になるだろう」

 悩み疲れたのかクーが頭を垂れる。
 僕はどちらか選ぶのは今ではないとも思えた。
 何せ戦争が起こりそうな時期だ。
 終わってからでいいとすら考えられる。

( ^ω^)「大差ないんじゃないかお」

 だが、敢えて言うならこうだ。

( ^ω^)「どっちに行っても、たぶんそれぞれ後悔があるお。
      でも行かないと分からない事だお」

109: 2010/05/20(木) 21:40:59 ID:.AYWYIvs0
 そうだ、どうせ後悔するなら早めに。
 対岸が輝いて見えるのならそこまで歩いて行けばいい。
 後の事などどうでもいい。
 責任を負わないのは僕の信条だ。

川 ゚ -゚)「皆そう言うな。姉上なんかは気付けば守護者だ。
     やらなければ分からない世界、か」

( ^ω^)「クーなんかまだいい方だお。
      僕なんか予定がないお」

川 ゚ -゚)「いいじゃないか、自由なのは望ましい事だ」

 誰でも他人の立場を羨ましく思うのかもしれない
 道がある者。
 自由な者。

( ^ω^)「でも僕は王様なんかになれるほど立派じゃないお。
      街で地味な仕事をしている方が性に合う気がするお」

川 ゚ -゚)「私は気に入らない政策があれば城に怒鳴り込む覚悟はあるな。
     とはいえ生まれついたのが城だから、恐れもないのだろうが」

 誰もが、このぼんやりとした現実を追っている。
 あっという間に過ぎ去る時間に流されながら。

( ^ω^)「僕はたまに昔の自分は何を思っていたのか考えるんだお。
      そうしたら意外簡単な悩みだったんだお」

110: 2010/05/20(木) 21:42:06 ID:.AYWYIvs0
川 ゚ -゚)「……」

( ^ω^)「そんな悲観するものじゃないお。
      ……まぁ僕の場合の話かお」

 僕の人生に確たる目的はない。
 何をする必要もない。
 目的が見つかるまで。
 ただし、目を凝らしながらならば。

 こんな僕でもいつか何かを見つけられるかもしれない。

川 ゚ー゚)「……」

(;^ω^)「なんだお」

 口元を上げて、珍しく笑顔を見せたクーがこちらを向いた。

川 ゚ー゚)「いや、聞いたとおり適当だなと」

(;^ω^)「誰がそんな失礼な事を」

川 ゚ー゚)「ツンだ」

(;^ω^)(怒ったら返り討ちだお…)

 僕はその場に座り込みながら頭を覆う物を見る。
 明るい桃色の天井が朝の空を削っている。

111: 2010/05/20(木) 21:42:59 ID:.AYWYIvs0
川 ゚ー゚)「だが君に聞いて良かった。
      ある種の達観を感じたよ、内容はどうあれな」

 クーも頭の上を覆う花へと視線を移す。
 
川 ゚ー゚)「まずは魔王を向こう三十年動けないようにしないとな」

( ^ω^)「なんか過激だお。でも二度と表には出てこないでほしいお」

 思い出した、この木の名前。
 
 光と影が遠近を付けて町が大きく見える。
 立ち上がったクーが刀を抜きながら丘の頂上に立つ。

川 ゚ー゚)「ああ、だから私は…今は戦うとしよう。
      前の大戦で何もできなかった分までな」

 一瞬だけ悲しそうな目になったクーが目を閉じる。
 クーは想いを決めたように刀を太陽に向けて振り上げた。
 刀を掲げるのは訓練の最中にも見かけた、名乗りの様な儀式だろう。
 一陣の風と共に緑色の剣が呼応する。

112: 2010/05/20(木) 21:44:08 ID:.AYWYIvs0
 緑の塵が落ちる中、桃色の欠片が宙を舞っていた。
 背後の木から落ちる花びらが街を彩る。
 
 桜の吹雪を眺めながら一瞬の、しかし長い時間が過ぎた。


―緑の国 城下―


ξ゚⊿゚)ξ「ブーン!」

 ひとしきり桜と街を眺めていた僕とクーは城下まで戻った。
 待っていたのはツンと王の従者。

(´・_ゝ・`)「お館さまが皆さんをお呼びしております。
      クー様も準備が整い次第、本丸までお越しください」

川 ゚ -゚)「分かった、二人ともまた後でな」

 自室まで走るクーを見送り従者に声をかけた。

( ^ω^)「ほんまるって何だお?」

(´・_ゝ・`)「敷地内の大きい方の建物です」

ξ゚⊿゚)ξ「あれね」

 ツンの視線の先には最初にフォックスに謁見した建物があった。

113: 2010/05/20(木) 21:45:30 ID:.AYWYIvs0
( ^ω^)「一々分かりづらいお……」

 僕から情勢に関わる意見等はあるはずもない。
 つまり面倒なのだが、すぐに本丸まで移動する事にした。
 思えば城に入るのも久しぶりだ。


 室内には重い空気が漂っていた。
 僕達にも見えるように部屋の中には大きな地図が広げられていた。
 奥に鎮座するフォックスが鋭い視線を部屋の中央へと向けている。
 
爪'ー`)y‐「皆さん揃いましたね」

 部屋の中には国の重要人物達が並ぶ。
 ヒートやショボンも王の近くに座っている。

爪'ー`)y‐「単刀直入に言います。
       紫の国が挙兵しました。
       今は東の国境線に正規兵を配しているようです」

 情報を知らなかった人間は立ち上がる者、隣りと話す者、様々だ。
 部屋も騒がしくなる。

(´・ω・`)「四国同盟で追い詰められると思いましたが…
       逆に打って出てくるとは」

爪'ー`)y‐「ええ、いかな紫の国と言えどこの包囲を破るのは不可能。
       ギコ王が操られてたとしても、勝ち目の無い戦はしないと思ったのですが。
       何にしても私達から攻撃はしない事を頼りにしているのは間違いありません」

114: 2010/05/20(木) 21:47:25 ID:.AYWYIvs0
 魔王の影響力はそこまで及んでいるのだろうか。
 地図に引かれた線には紫の国が動かした兵の位置が示されている。
 赤と青の国が動かした兵も同じく駒として表わされていた。

爪'ー`)y‐「そして西方の国々からの連絡も届きました。
       アラマキ王、守護者しぃ両名も正規軍で国境を固め、前進を開始。
       牽制を行うとのことです」

 手元に持っていた書状を眺め、また一枚めくった。

爪'ー`)y‐「しかしながら、このままではただの時間稼ぎ。
      西には大戦の英雄が二人います。
      守護者ジョルジュは単身、紫の国へと潜入するようです」

ノパ⊿゚)「ジョルジュが!? なら私も…」

爪'ー`)y‐「まだ赤の守護者が潜入を開始した訳ではありません。
       それにあなた自身が牽制にもなっています。
       簡単に氏地に行ってもらう訳にはいきません」

 比較的高い国力を持つ赤の国ならではの行動だろう。
 守護者を敵地へと送りこみ直にギコ王に接触するつもりなのだ。
 単身であれば潜入も可能ではあるだろう。
 加えて東と西に兵力を裂いているなら首都に残る兵は減る。

爪'ー`)y‐「ですが適任な人物を送り込むのは悪くないと思います。
       問題は誰が行ってくれるかです」

115: 2010/05/20(木) 21:49:06 ID:.AYWYIvs0
(´・ω・`)「では私はどうでしょう? 
       大きな戦では私の力など誤差の範囲。     
       しかし単身ならば紫の兵士に遅れはとりません」

 謙遜かどうか分からないがショボンが控えめな声で言う。

爪'ー`)y‐「あなたの力が前線にあればそれだけで士気は上がるのですが…
       いや、戦いにならない事が肝要ですね。
       紫の国へと向かってくれるのですか?」

(´・ω・`)「ええ、黄の国は大きな戦力は持ちません。
       私がお役に立てるのはこの位でしょう」

爪'ー`)y‐「申し訳ありません、我が国にも強い力を持つ者がもう少しいれば。
       しかしお一人では難しい前提があります」

(´・ω・`)「……?」

 多くの家臣とも意見を交わしながら少しずつ話がまとまる。
 
爪'ー`)y‐「では私達も正規軍を国境まで上げましょう。
       紫の国も戦闘準備が整うまでに時間がかかるはず。
       皆の者、戦の準備を」

 軍団を束ねる者もいたのだろう。
 気合いの入った声と共に要人達が消えていく。

116: 2010/05/20(木) 21:50:03 ID:.AYWYIvs0
爪'ー`)y‐「ブーンさんとツンさんへの手紙も同封されていました。
       こちらを」

 残った僕達に向かい一言。
 フォックスが差し出した手紙を頭を下げながら受け取る。
 一国の王が使者に手紙を渡すなど珍しいにもほどがある。

( ^ω^)「……」

 ツンが開いた手紙を見ると相変わらずミミズがうねった様な文であった。
 
ξ;゚⊿゚)ξ「え、えーと……」

 何とか解読してみると『危なそうじゃないなら、緑の国を手伝ってもいい』らしい。
 ただし『危険な事は避けろ』と三度も書いてある。
 ジョルジュなりに心配しているのだろう。

爪'ー`)y‐「ジョルジュ殿は何と?」

ξ;゚⊿゚)ξ「多分ですけど…こちらのお手伝いをしろと…」

爪'ー`)y‐「そうですか、今は猫の手も借りたいくらいです。
       よろしければ手を貸して下さい」

川 ゚ -゚)「殿、私はどうします?」

爪'ー`)y‐「……そうですね、あまり前線に行って欲しくはありません」

 何故かクーにだけは親の顔になるフォックスは目を細め、そう言った。
 不服そうなクーへとヒートが抱きつく。

117: 2010/05/20(木) 21:51:21 ID:.AYWYIvs0
ノパ⊿゚)「全くだ! 今度はアタシが付いて…」

爪'ー`)y‐「ヒート、あなたは召喚で一足先に現地へ」

ノパ⊿゚)「分かった!」

 ヒートがすぐにクーから離れると廊下を走って出ていく。
 親であるだけに娘の扱い方をわきまえている。

爪'ー`)y‐「それで先程の話ですが…」

(´・ω・`)「前提、ですか」

爪'ー`)y‐「そうです。国境が閉鎖された以上陸路は難しい。
       となれば使うのは地の下。
       ショボン殿には海底洞窟を通ってもらう事になるでしょう」

(´・ω・`)「海底……なるほど、シベリア海溝の辺りですか」

 緑の国と紫の国の間にある深い海。
 小規模な海域だが、潮の流れは速い。

爪'ー`)y‐「……そこに障害があるのです」

(´・ω・`)「……! そうだ、忘れていました」

爪'ー`)y‐「かつての英雄でも撃破までは届かなかった。
       【龍】が……」

118: 2010/05/20(木) 21:52:15 ID:.AYWYIvs0
(´・ω・`)「確かに私の手には余りそうです。
       通り抜けるだけでも出来るかどうか」

 難しい顔をして二人が論議している。
 僕とツン、クーは蚊帳の外だった。

(´・ω・`)「問題は連携してドラゴンを出しぬけるかです。
       一人では算段すらつきません」

爪'ー`)y‐「ええ、八部衆から誰かに…」

 その時ふとショボンと目があった。
 僅かに考えてひらめいた様に一言。

(´・ω・`)「そうだ。ブーン、ちょっと一緒に来ない?」

( ^ω^)「……は?」

 何を言っているのだろう。
 王の前だと言うのに気の抜けた声を出してしまった。

爪'ー`)y‐「それは…危険だと思います」

(´・ω・`)「彼は一度ドラゴンと会っているのです」

爪;'ー`)y‐「何と、生きて帰ったのですか。
       それ程の魔力を持つとは知らず……」

119: 2010/05/20(木) 21:53:08 ID:.AYWYIvs0
 話が違う方向に進んでいる気がした。
 だが、ショボンについて行く事は不思議と怖くはなかった。
 この二か月の修練に比べれば龍の一匹や二匹、どうという事はない。

(´・ω・`)「いえ、戦った訳では無いと思います。
       経験以前に属性という点でも力にはなるでしょう」

爪'ー`)y‐「洞窟のドラゴンは緑の属性でしたね。
       ……ショボン殿は私よりもお詳しいらしい。
       人選の件はお任せした方がよろしいでしょうか?」

(´・ω・`)「私がフォックス王に勝る物などありません。
       ですが、力ある兵をお貸しいただければ必ずや吉報を」

 含み笑いを漏らしながらフォックスが立ち上がる。
 
爪'ー`)y‐「私は王の器ではありませんよ。
       では、私も準備を」

川 ゚ -゚)「殿もご出陣に?」

爪'ー`)y‐「…王だけ黙って座している訳にはいきません」

川 ゚ -゚)「そうですか。
     では私も紫の国へと潜入する事をお許しください。
     前線に出られないのであれば、こちらに行きます」

(´・ω・`)「それは助かるね。
       君の力は僕も把握しているし、十分だよ」

120: 2010/05/20(木) 21:54:05 ID:.AYWYIvs0
爪'ー`)y‐「……」

 一瞬、時が止まったような気がした。

爪;'ー`)y‐「いやいや! 駄目です、何考えているんですか!」

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「何故です、私も緑の国の剣士。
     ドラゴンにむざむざ討たれはしません
     それに王の娘が黙っている訳にもいきません」

爪;'ー`)y‐「あなたは娘だから控えていて下さい!」

川 ゚ -゚)「姉上は!?」

爪;'ー`)y‐「ヒートは昔からあんな感じです!
       息子みたいなものです!」

 相当に動揺しているらしい。
 少し問題になりそうな事まで飛び出してきた。

(´・ω・`)「で、ブーンは来てくれるの?」

(;^ω^)「向こうの二人はいいのかお!?
      その前に僕なんか戦力にはならないんじゃ…」

121: 2010/05/20(木) 21:55:17 ID:.AYWYIvs0
(´・ω・`)「なる訳ないでしょ。
       ただし全員が生き残ってドラゴンを突破するなら、
       扱いやすい人がいた方がいい」

(;^ω^)「馬鹿にされた気分だお…」

 今まで黙っていたツンが席を立つ。

ξ゚⊿゚)ξ「なら、わたしも扱いやすい人に入るのかしら?」

(´・ω・`)「うん。三人いれば何とかなるかな、多分」

(;^ω^)「え、ツンも行くのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「手伝いになるし、悪くないと思うけど」

 いや駄目だ。
 ツンが何故ドラゴンと顔を合わせねばならないのか。
 今までの戦いが悪い冗談だとしても今回はまずい。

(;゚ω゚)「悪いお! 何考えてんだお!」

(´・ω・`)「…ここにも保護者がいたか」

ξ゚⊿゚)ξ「何って…いい手伝いでしょう?」

(;゚ω゚)「桁が違うお! 頼むからここで大人しくしてろお!」

122: 2010/05/20(木) 21:57:00 ID:.AYWYIvs0
ξ#゚⊿゚)ξ「何でアンタにそこまで言われんのよ!
       そう言えばこれまで前に出るなと言ってたわね?
        しぃさんに頼まれたか何か知らないけど…」

 部屋の中は一気に喧騒に包まれる。
 誰がこうなると予想しただろう。

爪;'ー`)y‐「…それにそろそろ嫁入りの準備を…」

川#゚ -゚)「しません! 今日こそは聞いて頂きましょう。
      私はこれまで剣士となるべく…」

 奥では王とクーが。

ξ#゚⊿゚)ξ「ふざけんじゃないわよ!
       七年前まで表に出れなかったのに、
        たまにどっか行くって言えばこれか!」

(#゚ω゚)「痛ッ! 内股を蹴るなお!
     たまにって…その前に相手はドラゴンだお!?
     そりゃ止めもするお! 行くなら別んとこ行けお!!」

 部屋の中では僕とツンが。

(´・ω・`)「あー、フォックス王、私は宿に戻っています」

 聞こえない退出の言葉を吐きながら入口へと向かうショボン。
 入口に集まっていた侍女に適当に言い訳しながら、
 廊下を歩いて行く。

123: 2010/05/20(木) 21:59:30 ID:.AYWYIvs0
 その日、僕達の声が城から消える事は無かった。
 後に城内で妙な噂が立つ事など考えず、無駄に大声で叫びあった。

 何となくだが分かっていた気もする。
 僕達の旅が続く予感があったのだ。
 不思議と魔法を使っている最中はそう思えた。

 城の外では桜の木がすっかり咲いて見事な桃色の絨毯を作っている。
 霞かかった空間に桜の花はただ、風に揺れていた。


第三章 緑色の剣 完 第十六話「未明に咲く」 完

124: 2010/05/20(木) 22:00:21 ID:.AYWYIvs0
本日の投下を終了します。
おつかれさまでした。

125: 2010/05/20(木) 22:31:52 ID:xA9D4Mok0
乙ー

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです