1: 2011/04/14(木) 19:59:59.99 ID:nfEtU/3H0
私が不登校になってから、1年が過ぎた。

不登校になったのは、中学2年の春。

中学1年の頃は、杉ちゃんや宮なんとかさん達と同じクラスでなんとかやっていけていたけど、

中学2年のクラス替えで、親しかった友達と離れてしまい、新しい友達も作れず、

クラスに馴染めないまま、だんだん学校へ行かなくなっていった。

そして今では家にひきこもり、杉ちゃんからもらったノートパソコンで、

いろいろなアダルトサイトを巡回する日々が続いている。

……杉ちゃんは、今なにをしているんだろう。

私はGoogleにアクセスして、試しに『"杉崎みく"』と入力してみた。

僅かな可能性に賭けて、検索ボタンをする。

検索結果、23件。

1件目には、『杉崎みくのプロフ』と表示されている。

早速リンクをしてみた。

4: 2011/04/14(木) 20:02:59.96 ID:nfEtU/3H0
【HN】杉崎みく

【性別】女♪

…………

【住んでいるところ】上尾市

【職業】鴨中生

5: 2011/04/14(木) 20:06:00.04 ID:nfEtU/3H0
……間違いない、杉ちゃんだ。

でもネットで実名を出すなんて……まあいいか。

Myリンクの欄を見てみると、『私はセ・レ・ブ!』と書かれたリンクがあった。

きっと杉ちゃんのサイトだろう。

すると、目がチカチカするような配色のサイトが表示された。

とりあえずリアルのリンクをしてみる。

誰々と遊んだとか、先生がムカつくだとか、

どうでもいいようなことがたくさん書かれている。

次にアルバムのリンクをしてみる。

プリクラで撮ったのであろう画像がたくさん表示された。

杉ちゃんは友達と楽しそうにプリクラに写っている。

久々に杉ちゃんの顔を見て、なんだか懐かしくなったけど、

杉ちゃんは私のことを覚えているのだろうか。

忘れられているかもしれないと思うと、少し寂しくなった。

7: 2011/04/14(木) 20:08:59.03 ID:nfEtU/3H0
最後にリンク集を見てみよう。

見覚えのある名前がちらほらとある。

ん? これは……。

『宮下のホムペ』。

宮なんとかさんもサイト作ってたんだ……。

ちょっと覗いてみよう。

杉ちゃんのサイトよりは見やすい配色だ。

トップページにバスケットボールの画像が使われている。

そういえば宮なんとかさんはバスケやってたんだっけ。

……宮なんとかさんのことはどうでもいいか。

さて、そろそろ夕食作らないと。

私はノートパソコンを閉じて、台所へ向かった。

11: 2011/04/14(木) 20:12:00.05 ID:nfEtU/3H0
出来上がった料理を、無言でテーブルの上に並べる。

不登校になり始めてから、私は家族の前で口を開いていない。

家族との会話も、私の一方的な筆談でしている。

はじめのうちはみんなで私をしゃべらせようとしていたけれど、今では諦めているようだ。

いつかの明るい雰囲気は、もうなくなっていた。

一家団欒とは言いがたい食事が終わり、食器を洗って部屋に戻る。

いつものようにアダルトサイトを見ていると、パパが部屋にやってきた。

「ひとは、松岡さんから電話だ」

松岡さんから……?

「話が終わるまでパパは2階で待ってるから、ゆっくり話しておいで」

私は1階に降りて、電話のある居間へと向かった。

12: 2011/04/14(木) 20:14:59.93 ID:nfEtU/3H0
ゆっくりと受話器に手を伸ばし、耳に当てる。

「もし……もし……」

久々に出した声は、かすれていた。

少し間を置いて、受話器から懐かしい声が聞こえてきた。

「三女さん……久しぶり!」

「あの……」

「ちゃんと出てくれてよかったぁ! 突然ごめんね?」

「どうして今頃……」

「なんとなく三女さんと話したいなって思ったの」

絶対嘘だ。でも一応信じたふりをする。

15: 2011/04/14(木) 20:18:00.00 ID:nfEtU/3H0
「そう……なんだ」

「元気にしてた?」

「ま、まあまあ……かな」

「そっかぁ。ねえ、三女さん」

「なに?」

「パソコン、持ってるんだよね?」

「持ってるけど……」

「スカイプ、インストールしてる?」

スカイプ……数カ月前になんとなくインストールしたままずっと使っていない。

ネットとはいえ、人とコミュニケーションをとるのは苦手だからだ。

17: 2011/04/14(木) 20:21:00.00 ID:nfEtU/3H0
「一応……相手はいないけど」

「私とボイスチャットしない?」

「あ……無理」

「どうして?」

「マイク、持ってないから」

「なら、ただのチャットしましょう?」

「いいけど……」

「じゃあ、ID教えるわね」

松岡さんにIDを聞いて、早速コンタクトをとってみることにした。

18: 2011/04/14(木) 20:24:00.05 ID:nfEtU/3H0
チクビ☆: こんばんは

サキ: こんばんは! 三女さん♪

松岡さんのハンドルネーム、もっとおどろおどろしいものだと思ってた……。

サキ: 三女さんは、最近なにしてるの?

チクビ☆: インターネット、見たりとか……

サキ: どんなサイトを見てるの?

チクビ☆: 教えられない

サキ: そっか……わかった

あれ? 以前はなにかと霊にこじつけてもっと食い下がってきたのに……。

21: 2011/04/14(木) 20:26:59.97 ID:nfEtU/3H0
チクビ☆: 松岡さんは、最近どう?

サキ: 最近? 元気にしてるよ!

チクビ☆: 夜な夜なお経とか唱えてるの?

……妙な間があった。

サキ: 今は心霊とか興味ないの

チクビ☆: あんなに好きだったのに、どうして?

サキ: ちょっと……ね

何故かその話題には触れてほしくないようだった。

サキ: あと三女さんのこと、天才美少女霊媒師って勝手に決めつけちゃったりして、ごめんね?

チクビ☆: 今は気にしてないから

サキ: そう……

23: 2011/04/14(木) 20:29:03.41 ID:nfEtU/3H0
それからしばらく無駄話をして、私はスカイプを閉じた。

松岡さんの様子は、明らかに変だ。

なんとなく私と話したくなったという嘘をついたこと。

オカルトを嫌いになってしまったこと。

いったい松岡さんに何があったのだろう。

そんなことを考えていると、みっちゃんが話しかけてきた。

「さっきチャットしてた相手って、松岡?」

私は無言で頷いた。

「そう。で、松岡は何か言ってた?」

『何かって?』とパソコンに打ち込む。

「その様子じゃ聞いてないみたいね」

みっちゃんは一呼吸おいて、ゆっくりと口を開いた。

「松岡ね……学校、来てないのよ」

24: 2011/04/14(木) 20:31:59.91 ID:nfEtU/3H0
どうして松岡さんが不登校になったのか聞いてみたけれど、

みっちゃんも詳しいことはよく知らないと言った。

ただ、私が不登校になって1ヶ月ほど経った頃から、学校に来なくなったらしい。

オカルトを嫌いになったことと、なにか関係があるのだろうか。

今度チャットをするときに聞いてみよう。

26: 2011/04/14(木) 20:34:59.92 ID:nfEtU/3H0
翌日、早速松岡さんからコンタクトがあった。

サキ: 三女さん! こんばんは!

チクビ☆: こんばんは

サキ: 今日もいい天気だったわね!

チクビ☆: 外出てないから知らない

サキ: じゃあ今日はずっと家の中にいたのね

チクビ☆: うん

そこで私は思い切って、例の話題を持ち出してみた。

チクビ☆: 松岡さん、学校行ってないんだって?

……返事がない。

30: 2011/04/14(木) 20:37:59.94 ID:nfEtU/3H0
チクビ☆: 松岡さん?

サキ: 誰に聞いたの? お父様?

今度は返事があった。

チクビ☆: みっちゃんから聞いた

サキ: そう……

チクビ☆: どうして学校に行かなくなったの?

サキ: ごめんなさい、今は言いたくない

チクビ☆: わかった

31: 2011/04/14(木) 20:40:59.96 ID:nfEtU/3H0
サキ: 三女さんは?

チクビ☆: え?

サキ: 三女さんは、どうして学校行かなくなったの?

まさか私が聞かれるとは、思ってもみなかった。

サキ: もしかして、私のせいだったりする?

チクビ☆: 松岡さんは関係ないよ

サキ: そうなんだ……よかった

どうして松岡さんは自分のせいだと思ったんだろう。

でもなんとなく聞きづらい気がして、そのまま流してしまった。

36: 2011/04/14(木) 20:43:59.88 ID:nfEtU/3H0
朝、目を覚ますと、時計の針は10時7分を指していた。

どうやら私は寝坊したようだ。

この時間だともうパパは仕事に行っているし、みっちゃんとふたばも学校だ。

朝ご飯はどうしたんだろう。

1階へ降りて居間を覗くと、謎の物体が乗ったお皿にラップがかけられていた。

ふたばが朝ご飯を作ったらしい。

でもこの料理はいったいなんなのだろう。

少し視線をずらすと、お皿の横にメモがあった。

37: 2011/04/14(木) 20:46:59.99 ID:nfEtU/3H0
『ひとはへ 朝ごはんのハンバーグ、食べてね! ふたば』

ハンバーグ……だったんだ。

それにしても朝からハンバーグとは、みっちゃんが喜びそうだ。

でも味はハンバーグとは別物なんだろうなあ。

とりあえず私は、それをレンジで温めることにした。

温まったハンバーグを、早速口に運ぶ。

うん、ハンバーグじゃないけど美味しい。

これは早めの昼食ということにしておこう。

40: 2011/04/14(木) 20:49:59.91 ID:nfEtU/3H0
後片付けをして、2階へ上がる。

パソコンを立ち上げて、スカイプを起動させると、松岡さんはすでにオンラインになっていた。

松岡さんは私もオンラインになったことに気づいたようで、チャットをとばしてきた。

サキ: おはよう! 三女さん!

チクビ☆: おはよう

サキ: 今起きたとこ?

チクビ☆: さっき目が覚めて、ちょっと早めのお昼を食べたところ

サキ: 何を食べたの?

チクビ☆: ハンバーグ?

サキ: どうして疑問形なの?

チクビ☆: タイプミスだよ

説明するのが面倒なので、適当にごまかしておいた。

41: 2011/04/14(木) 20:53:01.47 ID:nfEtU/3H0
サキ: そっか。そうそう! 今日ね、小学生の頃の夢を見たの!

チクビ☆: そうなんだ

サキ: 懐かしかったなあ……杉ちゃん達、元気かなあ

杉ちゃん……そういえばこの前サイトを見つけたっけ。

せっかくだから松岡さんにも教えてあげよう。

チクビ☆: 杉ちゃんならサイトを作ってるから、よかったらアドレス教える

サキ: ほんとに!? 教えて教えて!

私は杉ちゃんのサイトのアドレスを松岡さんに教えた。

サイトを見ているのか、松岡さんの発言がとまる。

42: 2011/04/14(木) 20:56:00.04 ID:nfEtU/3H0
しばらくすると、再びチャットがとんできた。

サキ: 杉ちゃん、元気そうね!

チクビ☆: そうだね

サキ: 宮ちゃんもサイトやってるなんて、びっくり!

チクビ☆: 宮方さんはどうでもいいけどね

サキ: 杉ちゃんにサイト教えてもらったの?

チクビ☆: いや、自分で見つけた

サキ: へえー、よく見つけたわね

チクビ☆: たまたまだよ

サキ: でも、ゆきちゃんはサイトやってないのかしら?

45: 2011/04/14(木) 20:58:59.89 ID:nfEtU/3H0
そういえば、吉岡さんのサイトは杉ちゃんのリンク集になかった。

携帯を持っていたから、作ろうと思えば作れるはずだけど……。

親に禁止されているのだろうか?

……思い出してみると、杉ちゃんのサイトでは、吉岡さんの話題がなかった気がする。

私はチャットを切り上げて、もう一度杉ちゃんのサイトを見なおしてみることにした。

まず、リアルを遡ってみる。

しかし、半年ほど前にリセットしたのか、それ以前の書き込みは見ることができなかった。

46: 2011/04/14(木) 21:02:00.05 ID:nfEtU/3H0
次に日記を覗いてみたが、今年の3月に一度更新されているだけで、

吉岡さんについてはなにも書かれていなかった。

今度はアルバムを覗いてみる。

1ページずつ画像を見ていく。

10数ページ見たところで、吉岡さんの写っている画像を見つけた。

それ以前の画像には、普通に吉岡さんが写っている。

もう一度、最後に吉岡さんが写っていた画像を見る。

日付は11ヶ月前――ちょうど松岡さんが不登校になり始めた頃だった。

47: 2011/04/14(木) 21:04:59.98 ID:nfEtU/3H0
私はみっちゃんとふたばの去年の連絡網を引っ張り出した。

その中から吉岡さんの名前を探す。

みっちゃんの連絡網には……ない。

じゃあ、ふたばの連絡網に……あった!

ひとまず、吉岡さんの電話番号をメモしておいた。

ふたばが帰ってきたら、吉岡さんについてちょっと聞いてみよう。

49: 2011/04/14(木) 21:07:59.97 ID:nfEtU/3H0
「ゆきちゃんスか?」

私は頷く。

「さっちゃんのすぐ後に、学校来なくなったっスよ」


なんとなくそんな気はしていたけれど、吉岡さんまで不登校だったなんて……。

しかし、私の知り合いが二人も立て続けに不登校になったのは、ただの偶然なのだろうか。

もしかすると、二人が不登校になった原因は、私にあるのかもしれない。

50: 2011/04/14(木) 21:11:00.04 ID:nfEtU/3H0
次の日、真相を知るため、私は勇気を振り絞って吉岡さんに電話をかけてみることにした。

呼び出し音が2コール鳴ったところで、吉岡さんのお母さんが電話に出た。

「はい、吉岡です」

「あの……丸井ひとはです。小学生の頃、ゆきさんと同じクラスだった……」

「ああ……ゆきに用事?」

「はい」

「ちょっと待っててね」

吉岡さんを呼びに行ったのだろう。

電話の保留音が流れだした。

55: 2011/04/14(木) 21:15:00.01 ID:nfEtU/3H0
2分ほど経ったところで、保留音が途切れる。

再び電話に出たのは吉岡さんではなく、吉岡さんのお母さんだった。

「ごめんなさい。ゆき、今は話したくないみたい」

「そうですか……。失礼しました」

そう言って、私は電話を切ろうとした。しかし……。

「でも、せっかく電話をくれたんだから、ゆきの携帯番号教えるわね」

「いいんですか……?」

「ええ。出てくれるかはわからないけど……」

こうして私は、吉岡さんの携帯番号を手に入れた。

57: 2011/04/14(木) 21:17:59.78 ID:nfEtU/3H0
その日も私は、松岡さんとチャットをした。

サキ: えっ? ゆきちゃんも不登校だったの?

チクビ☆: そうみたい。それで今日電話してみたんだけど……

サキ: 出てくれなかったの?

チクビ☆: うん

サキ: そっか……

チクビ☆: 松岡さんも電話かけてみてくれない?

サキ: 私が?

チクビ☆: 吉岡さんと、付き合い長いんでしょ?

サキ: まあね

チクビ☆: お願い

58: 2011/04/14(木) 21:21:10.78 ID:nfEtU/3H0
サキ: わかったわ。じゃあ、今からかけてみる!

すると緑色のアイコンが、黄色に変わった。

今まさに電話をかけているのだろう。

しかし、2分も経たないうちに、アイコンの色が元に戻った。

チクビ☆: だめだった?

サキ: うん……留守電に切り替わっちゃった

チクビ☆: じゃあ私、明日また電話かけてみる

サキ: 出てくれるかしら?

チクビ☆: わからない。一応松岡さんも定期的に電話してみて

サキ: オッケー

61: 2011/04/14(木) 21:23:59.94 ID:nfEtU/3H0
翌日、吉岡さんの携帯に電話をかけてみた。

呼び出し音が鳴る。

1回……2回……3回……。

4回鳴ったところで、吉岡さんは電話に出てくれた。

「もしもし……? 誰……?」

「吉岡さん? 私、ひとはだけど……」

「っ!」

私が名乗った瞬間、電話を切られてしまった。

何故吉岡さんは私からの電話を拒絶するのだろう。

私は、吉岡さんに何かしてしまったのだろうか。

62: 2011/04/14(木) 21:27:00.04 ID:nfEtU/3H0
サキ: そっか、切られちゃったんだ

チクビ☆: うん……私、吉岡さんに嫌われてるのかな

サキ: そんなことないわよ、きっと

チクビ☆: 松岡さんは、吉岡さんに電話してみた?

サキ: うん、一応ね

チクビ☆: どうだった?

サキ: 出てくれなかった

チクビ☆: 切られたの?

サキ: えっ?

チクビ☆: 電話、呼び出し中に切られたの?

64: 2011/04/14(木) 21:30:00.15 ID:nfEtU/3H0
サキ: 切られてはいないわ。留守電に切り替わっただけで

チクビ☆: つまり、吉岡さんは松岡さんからの電話は拒否してないってことだよね?

サキ: どういうこと?

チクビ☆: 最初から出る気のない電話なら、終話ボタンを押すはず。でも吉岡さんはそうしなかった

チクビ☆: きっと吉岡さんは悩んでいるんだよ。松岡さんからの電話に出るか、出ないか

サキ: じゃあもしかしたら、ゆきちゃんは電話に出てくれるかもしれないってこと?

チクビ☆: 松岡さんからの電話にはね

サキ: 三女さんからの電話はだめなの?

チクビ☆: 多分ね。だから松岡さん、なんとか吉岡さんと連絡を取れるように頑張ってみて

サキ: わかった! 三女さんのために、私頑張る!

66: 2011/04/14(木) 21:33:00.00 ID:nfEtU/3H0
それから数日間、松岡さんは吉岡さんに電話をかけつづけた。

しかし吉岡さんが電話にでる気配は、一向になかった。

サキ: ねえ、三女さん。もう諦めない?

チクビ☆: えっ?

サキ: きっとゆきちゃん、何度電話しても出てくれないよ

松岡さんは、もう諦めているようだ。

でも私は諦められない。

私のせいで不登校になったかもしれないんだ。

放っておけるわけがない。

67: 2011/04/14(木) 21:35:59.89 ID:nfEtU/3H0
チクビ☆: 私は諦めない

サキ: 三女さん……

チクビ☆: 松岡さんは、もう電話しなくてもいいよ

サキ: でも……

チクビ☆: あとは私一人で何とかする

サキ: 手伝えることがあったら、なんでも言ってね?

チクビ☆: ありがとう、松岡さん

69: 2011/04/14(木) 21:38:59.91 ID:nfEtU/3H0
その日から、私は毎日吉岡さんに電話をかけた。

何度も何度も、電話をかけつづけた。

一度試しに公衆電話からかけてみると、吉岡さんは電話に出てくれた。

しかし私が喋った瞬間、電話を切られてしまった。

留守電に吹き込めば……と思っても、

呼び出し中に切られてしまうからどうしようもない。

かけては切られ、かけては切られ……。

そんな静かな攻防を繰り返していた。

73: 2011/04/14(木) 21:42:00.01 ID:nfEtU/3H0
サキ: 今日もだめだったの?

チクビ☆: うん……

サキ: でも、諦めないんでしょ?

確かに私は、諦めないと言った。

でも……。

チクビ☆: 諦めようかな……

サキ: えっ?

チクビ☆: 吉岡さんと話ができても、私に何かできるわけじゃないし

チクビ☆: そもそも私が勝手に吉岡さんのことを知りたがってるだけだから

サキ: 私が何とかする!

松岡さんはそのままチャットを終わらせてしまった。

74: 2011/04/14(木) 21:45:00.07 ID:nfEtU/3H0
何とかするって、松岡さんはいったい何をするつもりなんだろう。

おかしなことをしなければいいけど……。

「ひとは、電気消すわよ」

私はみっちゃんを一瞥して頷いた。

みっちゃんは電気を消して、ベッドに入っていく。

私も布団をかぶって、眠りについた。

75: 2011/04/14(木) 21:48:00.05 ID:nfEtU/3H0
今日は久々にガチレンジャーを観よう。

早速プレーヤーにビデオをセットする。

ガチレンジャーの放送が終わってから2年。

長いようで短かった。

テレビからあのお馴染みのテーマソングが流れる。

やっぱりガチレンジャーは素晴らしい。

ガチピンクの握手会以降、先生ともガチレンの話をよくしたなあ。

先生、元気にしてるかな。

チクビも、元気にしてるといいな。

でも今の私に、それを確かめる術はない。

77: 2011/04/14(木) 21:50:59.95 ID:nfEtU/3H0
ガチレンジャーを見終わって、部屋に戻り、

パソコンを立ち上げてスカイプを起動した瞬間、

松岡さんがチャットをとばしてきた。

サキ: 三女さん!

チクビ☆: いきなり何?

サキ: ゆきちゃんに電話してみて!

チクビ☆: 吉岡さんに?

サキ: そう! きっと出てくれるから!

チクビ☆: どういうこと?

サキ: いいからかけてきて! いい結果、待ってる!

それだけ言うと、松岡さんはオフラインになってしまった。

きっと出てくれると言っていたけど、本当なのだろうか。

私は半信半疑のまま、吉岡さんに電話をかけてみた。

80: 2011/04/14(木) 21:53:59.99 ID:nfEtU/3H0
呼び出し音が鳴り出す。

3回ほど鳴っても、吉岡さんは終話ボタンを押す気配がない。

そして5コール目で、吉岡さんは電話に出た。

「もしもし、三女さん……?」

「吉岡さん……やっと出てくれた」

「あの……私は、何を話せばいいの……?」

「単刀直入に言うよ」

「うん……」

「吉岡さんは、どうして学校に行かなくなったの?」

「……三女さんは、それが聞きたくて私に電話したの?」

「うん」

「……わかった。話すね」

吉岡さんは、ゆっくりと話し始めた。

82: 2011/04/14(木) 21:56:59.78 ID:nfEtU/3H0
「三女さんが学校に来なくなって何日か経った頃から、さっちゃん、いじめられるようになったの」

驚いた。

松岡さんがいじめられていたなんて……。

「いじめの原因は……三女さん」

私がいじめの原因?

「三女さんが不登校になったのはさっちゃんのせいだって言いがかりをつけられて、
 毎日悪口を言われたり、目の前で物を壊されたり、暴力を振るわれたりしたの。
 先生にも三女さんのことで追及されたりして、さっちゃんは学校に来れなくなったんだ」

「ちょっと待って、どうして私が不登校になったのが松岡さんのせいになるの?」

「さっちゃん、三女さんによくくっついてたでしょ?
 それが三女さんの負担になって、不登校になったって……」

きっとオカルトが嫌いになったのは、それが私の不登校の原因だと思ったからだろう。

84: 2011/04/14(木) 22:00:00.01 ID:nfEtU/3H0
「そうだったんだ……。松岡さんが不登校になった理由はわかった。でも、吉岡さんはどうして?」

「さっちゃんを、助けられなかったから。
 さっちゃんがいじめられてること、わかってたのに、私はなにもできなかった。
 私が手を差しのべていたら、さっちゃんは不登校にならなかったかもしれないのに……。
 さっちゃんを見頃しにした私には、学校に行く権利なんて、ないよ……」

吉岡さんは泣き出していた。

おそらく松岡さんからの電話に出られなかったのも、今のと同じような理由だろう。

では私の電話に出てくれなかった理由と、今日電話に出てくれた理由はなんだろう。

吉岡さんに聞いてみる。

86: 2011/04/14(木) 22:02:59.86 ID:nfEtU/3H0
「今まで、私からの電話に出てくれなかったのは? どうして今日は出てくれたの?」

「それは……さっちゃんが不登校になったのは、三女さんのせいだって思っちゃって。
 本当は三女さんは悪くないってわかってるんだけど、なかなか割り切れなくて……。
 でもね、さっちゃんが留守電にメッセージを吹きこんでくれて」

「なんてメッセージ?」

「ごめんなさい、さっちゃんに言っちゃダメって言われてるの」

いったい松岡さんは吉岡さんにどんなメッセージを送ったのだろう。

私がそれを知ることは、おそらく永遠にない。

89: 2011/04/14(木) 22:06:00.00 ID:nfEtU/3H0
チクビ☆: 吉岡さんから全部聞いたよ

サキ: そっか

チクビ☆: 私のせいで学校行けなくなったんだよね。ごめん

サキ: そんな謝らないでよー! 三女さんは悪くないんだから!

サキ: 私をいじめた人も、三女さんのことだけが理由じゃないだろうし

チクビ☆: でも、ひとつわからないことがあるんだけど

サキ: なに?

チクビ☆: 松岡さんが私に電話してきたのはどうして? なんとなくなんて嘘だよね?

サキ: うん

松岡さんはあっさり嘘を認めた。

90: 2011/04/14(木) 22:08:59.92 ID:nfEtU/3H0
サキ: 実はあの日、私のお母さんと三女さんのお父様が偶然会ったんだって

サキ: それでお母さんがお父様から三女さんのこと聞いたみたいで

サキ: 私に三女さんがひきこもってるって教えてくれたの

サキ: でも、三女さんがひきこもるなんて信じられなくて……

チクビ☆: なるほどね

サキ: あの時は本気で三女さんは私のせいで不登校になったと思ってたから、出てくれるか心配だったわ

チクビ☆: 私が出なかったらどうするつもりだったの?

サキ: わからない。でも、今こうして三女さんと普通に話が出来てるんだから、それでいいじゃない

チクビ☆: まあね

93: 2011/04/14(木) 22:11:59.93 ID:nfEtU/3H0
サキ: 三女さんがどう思ってるかはわからないけど、私は友達だと思ってるの

サキ: 私に友達だって思われるのは、嫌?

チクビ☆: 嫌じゃないよ

サキ: ありがとう。じゃあ、私のことさっちゃんって呼んでくれない?

チクビ☆: えっ、どうして?

サキ: 心霊スポットのトンネルで、さっちゃんって呼んでたの、三女さんよね?

チクビ☆: それは……

サキ: 部屋を片付けてる時に、あの時のテープを見つけたの

サキ: あの声、よく聞いたら三女さんの声だった

サキ: 私、気づいたときすっごく嬉しかったの

サキ: だから、これからはさっちゃんって呼んでほしいな

94: 2011/04/14(木) 22:14:59.90 ID:nfEtU/3H0
私は今、すごく恥ずかしい。でもバレてしまったらしょうがない。

チクビ☆: わかった

サキ: これからもよろしくね、三女さん!

チクビ☆: 私のことは名前で呼ばないの?

サキ: だって、三女さんは三女さんだもん

もしかしたら、松岡さん……さっちゃんは私の名前を覚えてないんじゃないだろうか。

サキ: そうだ! 次はチャットにゆきちゃんを誘わない?

チクビ☆: 吉岡さんを?

サキ: うん! 3人で楽しく話しましょう!

吉岡さんも一緒に。まあ、それも……。

チクビ☆: 悪くないかもね

98: 2011/04/14(木) 22:18:00.00 ID:nfEtU/3H0
それから、私とさっちゃんと吉岡さんの3人でチャットをするようになった。

吉岡さんはタイピングに慣れていないようで、ゆっくりと発言するが、

それでも楽しそうに私達と会話してくれる。

そして時は流れて3月半ば、パパが私に卒業式出ないかと話しかけてきた。

当然私は断った。

2年も行っていない学校に、どんな顔をして行けばいいのか、私にはわからない。

「じゃあ、不登校の子だけが出る卒業式はどうだ?」

そんな卒業式があるんだ。

でも私は、あまり行く気にはなれない。

「決めるのは今じゃなくていい。ゆっくり考えなさい」

そう言ってパパは部屋を出て行った。

102: 2011/04/14(木) 22:21:01.09 ID:nfEtU/3H0
私はとりあえずスカイプを起動する。

幸い、さっちゃんも吉岡さんもオンラインだった。

早速チャットをとばしてみる。

チクビ☆: あの……

サキ: なに? 三女さん

ゆき: ??

チクビ☆: 卒業式の話、聞いた?

サキ: 聞いてないわ

ゆき: 私は聞いたよ

104: 2011/04/14(木) 22:23:59.94 ID:nfEtU/3H0
サキ: どんな話?

チクビ☆: 不登校の生徒だけが出る卒業式があるんだって

サキ: へえ

チクビ☆: 二人は出る?

サキ: 三女さんは出るの?

チクビ☆: 私は……二人が出るなら

サキ: じゃあ、私は出るわ!

ゆき: 私も……

二人はあっさりと出席を決定した。

ああ言った手前、やっぱりやめるというわけにもいかず、私も出席することにした。

107: 2011/04/14(木) 22:26:59.94 ID:nfEtU/3H0
卒業式当日。

式は午後からなので、朝からパソコンをいじっていた。

すると式の20分ほど前に、さっちゃんがチャットをとばしてきた。

サキ: 三女さん、準備してる?

チクビ☆: まだだけど……

サキ: 私も。ねえ、三女さん

チクビ☆: なに?

サキ: 卒業式が終わったら、すぐ帰っちゃうの?

チクビ☆: 多分、そうだと思う

サキ: 私の家に来ない?

チクビ☆: 何のために?

109: 2011/04/14(木) 22:29:59.99 ID:nfEtU/3H0
サキ: 久しぶりに、会って話したいなって

チクビ☆: うーん

サキ: ダメかな? ゆきちゃんも誘おうと思ってるんだけど

チクビ☆: ちょっと考えさせて

サキ: わかった。じゃあそろそろ時間だから準備するわね。三女さんもちゃんと準備してね?

チクビ☆: うん

さて、それじゃあ私も準備しよう。

久しぶりに制服を着る。

2年も経っているのにサイズがぴったりで、なんだかイラッとする。

そんなことはどうでもいいか。

準備が整った私は、パパと一緒に学校へと向かった。

110: 2011/04/14(木) 22:32:59.95 ID:nfEtU/3H0
久しぶりに来た学校は、2年前となにも変わっていなかった。

校長室に入ると、少し来るのが早かったのか、まだ他の生徒は来ていなかった。

しかし、しばらくすると他の生徒がやってきた。

さっちゃんと吉岡さんもちゃんといる。

集まったのは全部で5人。

きっとここにはいない不登校の生徒もいるんだろう。

そんなことを考えていると、卒業証書の授与が始まった。

一人が卒業証書を受け取り、さっちゃんの順番が来た。

「松岡咲子」

「はい」

「卒業おめでとう」

そう言って校長はさっちゃんに卒業証書を渡す。

111: 2011/04/14(木) 22:35:59.96 ID:nfEtU/3H0
次に呼ばれるのは、私だ。

「丸井ひとは」

名前を呼ばれたが、私は無言で立ち上がる。

「卒業おめでとう」

校長は、私に卒業証書を差し出した。

私はそれを受け取り、素早く席に戻った。

「吉岡ゆき」

「はい」

小さな声で、吉岡さんは応える。

「卒業おめでとう」

吉岡さんは小さくお辞儀をして、卒業証書を受け取った。

114: 2011/04/14(木) 22:38:59.95 ID:nfEtU/3H0
そうして、最後の一人も終わり、これでおしまいかと思ったが……。

「校歌斉唱」

校歌斉唱が始まった。

先生達がアカペラで校歌を歌い始める。

殆どの生徒が校歌を歌っていない。

私も校歌なんて忘れてしまったので、歌わずにただ時間が過ぎるのを待った。

校歌斉唱が終わり、最後に担任の先生から一言もらって、卒業式は終わった。

119: 2011/04/14(木) 22:41:59.82 ID:nfEtU/3H0
校舎を出ると、親達でなにか話をし始めた。

私はパパの横でその話を聞き流す。

するとさっちゃんが話しかけてきた。

「ねえ、三女さん。さっきの話なんだけど……」

さっきの話……か。

「私の家、来ない? ゆきちゃんは来るって言ってるんだけど」

どうしようか悩んでいると、パパは私に言った。

「行ってきたらどうだ? 久しぶりに友達と遊んでおいで」

パパに背中を押してもらって、私はさっちゃんの家に行くことにした。

123: 2011/04/14(木) 22:44:59.79 ID:nfEtU/3H0
初めて来るさっちゃんの部屋は、意外と綺麗だった。

「どうぞ、座って!」

さっちゃんが座布団を敷く。

「ありがとう」

「ありがとう、さっちゃん」

私と吉岡さんは、さっちゃんにお礼を言って座布団に座る。

「ジュースとお菓子、持ってくるわね!」

そう言ってさっちゃんは部屋を出ていった。

黙っているのもなんなので、吉岡さんに話しかける。

127: 2011/04/14(木) 22:47:59.96 ID:nfEtU/3H0
「あの、吉岡さん」

「なに?」

「吉岡さんってさっちゃんの部屋、何度か来てるよね?」

「ちょっと待って!」

吉岡さんは私を見つめる。

「今、さっちゃんって言ったよね?」

「言ったけど……」

「三女さん、前は松岡さんって呼んでたはず! どうして呼び方が変わったの!? ま、まさか……」

吉岡さんはとんでもない勘違いをしているようだ。

133: 2011/04/14(木) 22:51:00.04 ID:nfEtU/3H0
「違うよ……」

「またまたー! ほんとは付き合ってるんでしょ? どっちから告白したの!?」

「私、そういうの興味ないから……」

「私は三女さんが女の子好きでも気にしないよ! 愛の形は人それぞれだもん!」

「あの、吉岡さん……」

「お待たせ、二人とも!」

さっちゃんが戻ってきた。

「あっ! さっちゃん! 三女さんと付き合ってるんだよね! いつから付き合ってるの!?」

吉岡さんはしばらく、その話題から離れてくれなかった。

135: 2011/04/14(木) 22:53:59.91 ID:nfEtU/3H0
気づけば外は夕焼けで赤く染まっていた。

「私、そろそろ帰る。夕飯、作らないと」

私は立ち上がった。

「じゃあ、私も帰ろうかな」

吉岡さんも立ち上がる。

「気をつけて帰ってね」

私達はさっちゃんに見送られ、家を後にした。

138: 2011/04/14(木) 22:56:59.91 ID:nfEtU/3H0
しばらく吉岡さんと一緒に歩く。

すると吉岡さんが突然謝ってきた。

「ごめんなさい、三女さん」

「え? 何が?」

「三女さんのこと、悪く思ったりして」

「いいよ、気にしてないから」

「……三女さんは優しいね」

「そうかな?」

140: 2011/04/14(木) 22:59:59.89 ID:nfEtU/3H0
「優しいよ。私のこと心配して、電話かけてくれるんだもん」

なんだか照れくさくなってきた。

「じゃあ、私こっちだから」

交差点に差し掛かったところで、私は言った。

「よかったら、また遊ぼうね」

吉岡さんは笑顔で言う。

「うん」

私も、笑顔で返した。

142: 2011/04/14(木) 23:03:00.02 ID:nfEtU/3H0
家に帰り、玄関のドアを開けると、チブサが座って待っていた。

チブサの頭を軽く撫でて、台所へ行く。

手を洗って冷蔵庫の中身を確認する。

うん、特に買い足す必要はなさそうだ。

「お、ひとは。帰ってたのか」

パパが話しかけてきた。

「楽しく遊んできたか?」

私は頷く。

「そうか。よかったな」

パパはそう言うと、嬉しそうに笑った。

144: 2011/04/14(木) 23:05:59.98 ID:nfEtU/3H0
一旦2階に上がり、部屋に入る。

……もう、殻にこもるのはやめよう。

「みっちゃん」

「なに?」

「夕飯、何が食べたい?」

「そうねぇ……って、ひとは今……」

みっちゃんはぽかんと口を開けて驚いている。

「みっちゃん、ひとはが、ひとはが……!」

ふたばも目を丸くして私を見つめている。

次の瞬間、二人はすごい勢いで1階へ駆け下りていった。

部屋に残された私が息をつくと、下からパパの歓声が聞こえてきた。


丸井家に再び、明るさが戻ってきたような気がした。

148: 2011/04/14(木) 23:09:00.00 ID:nfEtU/3H0
エピローグ


私は今、とあるアパートの前にいる。

階段を登り、302号室のドアの前に立つ。

表札には『矢部』の文字。

ゆっくりとチャイムを押す。

「はーい」

と懐かしい声が聞こえた。

ドアが開く。

ドアの向こうにいたのは間違いなく、私の担任だった矢部先生。

「あれっ、ひとはちゃん?久しぶり!」

先生は、なにも変わっていなかった。

「……チクビに、会いにきました」

「そう。どうぞ、上がって」

152: 2011/04/14(木) 23:12:00.00 ID:nfEtU/3H0
先生の部屋は相変わらず汚い。

そこら中にエOチ本が落ちているし、きっとゴキブリも……嫌なことを思い出してしまった。

「チクビ、ひとはちゃんが来たよ」

先生の言葉に反応して、チクビが巣から顔を出した。

私の顔を見た途端、チクビはゲージに張り付いて大喜びした。

「長生きだよねぇ」

「意外としっかり世話してたんですね」

「意外とって……」

「おいで、チクビ」

チクビを呼ぶと、手のひらに乗ってくる。

久しぶりにしっぽをいじると、チクビは気持よさそうに鳴いた。

「チクビ……」

155: 2011/04/14(木) 23:15:00.07 ID:nfEtU/3H0
チクビと戯れた後、私は先生と話をしていた。

「中2から、学校行ってなかったんだ」

「……はい」

「今は何してるの?」

「高校に通ってます。通信制ですけど」

「そっか。元気そうでよかったよ」

「先生はどうですか?」

「えっ?」

「彼女、できましたか?」

私の質問に、先生は動揺した。

160: 2011/04/14(木) 23:17:59.86 ID:nfEtU/3H0
「もっ、もちろんいるよ!」

「いないんですね」

「ぐぬぬ……」

「早くしないと、栗山先生を他の男に取られてしまいますよ」

「そうだよね……どうすればいいと思う?」

「さあ?」

「さあってさあ……」

そこで私は立ち上がった。

161: 2011/04/14(木) 23:20:59.82 ID:nfEtU/3H0
「帰ります」

「あれ?もう帰っちゃうの?」

「はい。また来ます」

「うん、待ってるよ」

私は先生に見送られながら、部屋を後にする。

夏を告げる温かい風が、私の髪を揺らした。



164: 2011/04/14(木) 23:22:39.59 ID:H1HJ0pFF0

168: 2011/04/14(木) 23:22:59.89 ID:nfEtU/3H0
お粗末様でした。

引用: ひとは「みっちゃん、夕飯、何が食べたい?」