1: 2011/04/09(土) 13:35:00 ID:Cp6K5AtkO


( <●><●>)「つらいのですか」

( <●><●>)「…つらいですか、いや…」


( <●><●>)「私は大丈夫」

( <●><●>)「…………、大丈夫ですよ、あなたは気にしなくていいのです」




( <●><●>)「わかって、います」

2: 2011/04/09(土) 13:35:23 ID:Cp6K5AtkO




( <●><●>)綺麗すぎる街のようです




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3: 2011/04/09(土) 13:35:55 ID:Cp6K5AtkO


彼はベッドのそばにある窓を見ている。窓の外の、深い、ミルクのような霧を見ている。霧の向こうに見える、綺麗な街を見ている。天使が住んでいるような、綺麗な街を見ている。綺麗で、白い絶望を漂わせた街を見ている。


( <●><●>)「………」


目を見開いて、呼吸をして。
ベッドで眠る彼を見て、苦しそうな顔をした。

( <●><●>)「怖いのでしょうか」


首をかしげ、やっぱり彼を見る。でも、見ても何も変わらないことを彼は知っている。

だから、わかんないです、という口癖の、かつての愛しい友人が横たわるベッドのそばの窓を、もう一度見た。

4: 2011/04/09(土) 13:36:12 ID:Cp6K5AtkO



(綺麗な街。
ここはとても綺麗な街。

でも、
どんなに綺麗な街でも、

暗い暗い、物があって。



だから怖い。僕は怖い。
この美しさが僕を支配する。
綺麗な街。僕の生まれ育った。



虐待も権力も虐めも暴力もある、そんな、
綺麗な街。

綺麗に見せかけたこの外面。

わからない。僕にはわからない。)



あなたは、繊細すぎたのか。

5: 2011/04/09(土) 13:36:51 ID:Cp6K5AtkO


( <●><●>)「………大丈夫ですよ、ビロード」


( <●><●>)「、私がいます」



自分の声が届くことはないことも、
自分がビロードを見つめても何も変わらないことも、
ビロードが自分を一生見られないことも、


全て彼は知っている。
知っているのだ。

6: 2011/04/09(土) 13:37:37 ID:Cp6K5AtkO



( <●><●>)「………」

ビロードの顔は、嬉しそうで悲しそうで、笑いそうで怒りそうで、幸せそうで泣きそうで、いつも憂いを帯びた瞳をまぶたに閉じ込めて。



( <●><●>)「私が、」



( <●><●>)「私がいるのに。」

7: 2011/04/09(土) 13:38:01 ID:Cp6K5AtkO



(それは甘い誘惑。

綺麗な街の、綺麗な学校に通う、悪魔達による誘惑。

その誘惑は僕を安心させて。
でも、毎日空虚な気持ちに捕らわれた。

仕方がなかったからと自分に言い訳をして、僕は誘惑から逃れようとしない。


白い。白い。白い。白い。
絶望。



僕も悪魔になった。

僕は悪魔になった。)

8: 2011/04/09(土) 13:38:28 ID:Cp6K5AtkO


―今日のニュースを――します―――中学の――君が―車に――自殺を――原因は――


テレビを消した。


( <●><●>)「………」


彼は思う。彼は考える。
ビロードと喋るために、何か手段はないのかと。

しかしそれは絶対に無理だ、と理解して、すぐやめる。


最近の彼の癖だ。

9: 2011/04/09(土) 13:38:50 ID:Cp6K5AtkO



( <●><●>)「…全部、わかっているのですよ」

( <●><●>)「わかっていたのです」


( <●><●>)「だから私は耐えたのに。あなたが耐えられなくて、どうするのですか、ビロード」


あなたの為ならあれくらい、と彼は、ガーゼに血が滲むように、静かに呟いた。

10: 2011/04/09(土) 13:39:13 ID:Cp6K5AtkO


(ワカッテマスとは幼なじみで。
でも僕は親の仕事で、小学校の時に、この街に転校した。

彼と遊べないのはすごく悲しかったけれど、また会えるからって自分を励まして。


頑張って、この綺麗な街に僕は。

中学生になって、僕がすっかり馴染んでしまった時、

ワカッテマスが、僕の学校に、転校してきた。


悲しい悲しい、奇跡だった。

悪魔が笑った。)

11: 2011/04/09(土) 13:39:41 ID:Cp6K5AtkO




再び、窓を見ている。


( <●><●>)「夕方のこの街は…」


綺麗な街の高級住宅街は、茜色に輝いていた。
技巧を凝らしたいかにもお金をかけていそうな家、お洒落なデザインの可愛らしい家。

端正に、正しく、きらきらと輝いて。

しかしこの美しさの裏を考えると、彼は吐き気を感じ、
そしてこの汚い街にずっと耐えていた友人のことを思うと、涙が出そうになった。

12: 2011/04/09(土) 13:40:22 ID:Cp6K5AtkO

( <●><●>)「…この街には、天使など、住んでいない」

彼も耐えていたのに、彼も苦しみに、いや、彼はビロードより、むしろビロードのせいで、苦しい思いをしていたに違いないのに、

彼はビロードを心から愛し、同情し、ビロードがこの街で一番可哀想だと思っている。

13: 2011/04/09(土) 13:42:43 ID:Cp6K5AtkO


(ワカッテマスは誘惑を断った。

彼は悪魔に敵対してしまった。
蹴られ、殴られ。
怒鳴られ、殺されかけて。

彼はあらゆる方法で、悪魔達に虐められた。

でも僕は知らないふりをした。
僕は、悪魔だったから。

彼は正しいのに。
彼は優しいのに。


彼は、僕の一番の、友達なのに。



彼は、ワカッテマスは全部知ってて、だから、悪魔になった僕を怒らないで。

怒らないで、彼は。)

14: 2011/04/09(土) 13:43:03 ID:Cp6K5AtkO

( <●><●>)「………ビロード、起きてください」

( <●><●>)「あなたになら私は、いっそ虐められてもよかったのです。私はわかっていたのです、あなたが好きで、私に知らないふりをしている訳ではなかったことを」

だってあなただけは、私に暴力を奮ったり、罵倒したりしなかった。
そして、たまに目を腫らして、学校に来ていた。

( <●><●>)「とても、つらそうに…していたことも」

15: 2011/04/09(土) 13:43:19 ID:Cp6K5AtkO



( <●><●>)「私は、あなたを苦しめたくなくて、だから、だったのですよ」

( <●><●>)「私によって、この街が、あの学校が、あなたが変わることを願っています」



いつも見守っています。

16: 2011/04/09(土) 13:43:41 ID:Cp6K5AtkO






彼は。

17: 2011/04/09(土) 13:44:08 ID:Cp6K5AtkO







ワカッテマスが氏んで、何年もたって。



( ><)「皆さん、おはようございます」

ビロードは、先生をしていた。

あの、綺麗な街で。

18: 2011/04/09(土) 13:44:42 ID:Cp6K5AtkO


もうあんな、悪魔の学校にしないために。食い止めるために。綺麗すぎる街にしないために、彼は教師になったのだった。
もう、5年目になる。

( ><)「(あんなことは、もう二度と)」

ビロードは強い決心とともに、まぶしい笑顔の生徒に笑いかけ、いつものようにホームルームを終わらせた。

19: 2011/04/09(土) 13:45:38 ID:Cp6K5AtkO


しかし、その教室に、氏んだ眼をした生徒が沢山いることに彼はずっと気付いていない。


氏んだ、空虚な、悲しい眼をした生徒は。
教室の窓から、綺麗な街を。




( <●><●>)綺麗すぎる街のようです


終わり

20: 2011/04/09(土) 13:47:59 ID:Cp6K5AtkO


凄く短編ですが、終わりです。
ありがとうございました。

質問、感想、指摘などあればどうぞ。
よろしくお願いします。

21: 2011/04/09(土) 14:35:29 ID:x.Un77760

ピロード生きてたのか
氏んでるかと…

22: 2011/04/09(土) 16:04:29 ID:Cp6K5AtkO
>>21
ありがとうございます。
生きていたのですが、ビロードはワカッテマスが氏んだショックで何日か寝ていました。
そういう描写もはさむべきだったかもです、すみません。

23: 2011/04/09(土) 16:57:04 ID:viP.tBEYO

見えにくい世界観は霧と関係あった?

24: 2011/04/09(土) 19:10:11 ID:Cp6K5AtkO
>>23
ありがとうございます!
いえ、霧は関係なかったかもです。綺麗な街に何か繋げたかったというか…すみません多分深く考えてないかもorz

引用: ( <●><●>)綺麗すぎる街のようです