691: 2016/06/30(木) 20:45:10.91 ID:1w5ur/k0o



最初:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その1】
前回:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その9】

第23章 弾性限界のリコグナイズ(♀)



―――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――
――


Staff Onlyの部屋 (ダルの隠れ家)


倫子「――――――――っ」バタッ

真帆「ちょっ!? ま、また膝枕で寝るの!?」ドキドキ

ダル「女の子特権をフルに活用するとかうらやましすぐるだろ! ……って、オカリン?」ユサユサ

倫子「――――」

ダル「また気絶しとる……」

真帆「ええっ!? ちょ、橋田さん、今度はあなたが濡れタオル持ってきなさい!」

ダル「わ、わかったお!」ダッ

真帆「……やっぱり、相当疲れてたのかしら。ごめんなさい、私のせいで……」ウルッ

真帆「赦して……」ポロポロ

真帆「あ、あれ……? どうして私、涙があふれて……」グシグシ

倫子「…………」
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692: 2016/06/30(木) 20:46:31.70 ID:1w5ur/k0o

倫子「(……あれ? 私、いったい……)」

倫子「(たしか真帆ちゃんに、どうして紅莉栖のノートPCとHDDが狙われてるのかを打ち明けようとして……)」ンムゥ

真帆「お、起きたの……? ごめんなさい、一日中走らせてしまったせいよね」

倫子「え? あれ、なんだろう。なんだか、とっても長い夢を見ていたような……」

倫子「(そう言えば、真帆ちゃんの脳で未来視をしようとしたんだっけ。おかしいな、疲れてるせいか、できなかったのかな……)」

倫子「(頭にもやがかかっているような……ダメだ、"思い出せない"……)」ウーン

真帆「あなたのスマホに"紅莉栖"から電話がかかってきてたけど、彼女には聞かれたくない話をこれからすると思って、居留守しておいたわ」

倫子「あ、そうだった……うん、そうだね。ありがとう」

真帆「ど、どういたしまして。ほら、早く起き上がりなさいよ!」カァァ

ダル「オカリン、真帆たんの太もも、どうだった?」

倫子「ひんやりとしててスベスベだった」

真帆「こらぁ!」ウガーッ

693: 2016/06/30(木) 20:47:22.35 ID:1w5ur/k0o

ダル「で、オカリン。そろそろ話の続きplz」

倫子「うん。その前に、ひとつだけ約束してくれる?」

真帆「なにかしら」

倫子「絶対に、感情にまかせて迂闊なことをしないでほしい。――かつての私のように」

倫子「これから話すことはすべて事実なの。だから――」

倫子「――紅莉栖を救おうなんて、絶対に考えないで」

真帆「……えっ?」

694: 2016/06/30(木) 20:48:28.00 ID:1w5ur/k0o

・・・

ダル「いやまさか牧瀬氏のノートPCの中にタイムマシン論文が入ってるとはな……」

真帆「"Unbelievable…"」

倫子「やっぱり、信じてくれないよね……」シュン

真帆「いえ、完全に否定できる証拠もないのだけれど……というか、このノートPCが紅莉栖のものだって、もう分かってたのね」

ダル「ゴメン、調べさせてもらったお」

真帆「パスワードね、『Amadeus』の"紅莉栖"でもわからなかった……きっと教授や私を巻き込みたくなかったんでしょうね」

ダル「言っとくけど、あと3日もあればパス解析してたから。あー、マジ惜しいわー時間が無いせいで僕の力が発揮できないとかマジ惜しいわー」

真帆「タイムマシン……紅莉栖ならあるいは、やり遂げちゃうのかも」

倫子「真帆ちゃんっ!」

真帆「……紅莉栖にはできても、私にはタイムマシンを造るなんてできないわ。このノートPCは破棄しましょう」

倫子「……ありがとう」

真帆「それで、その証拠がどこかにあるんでしょう? 見せてもらえないかしら」

倫子「証拠?」

真帆「タイムマシンよ」

真帆「あと、その鈴羽さんっていうタイムトラベラーにも会わせてほしいわね」

倫子「えっと……」チラッ

ダル「…………」コクッ

倫子「……分かった。今度鈴羽に――」


prrrr prrrr


695: 2016/06/30(木) 20:49:43.81 ID:1w5ur/k0o

ダル「んあー、大事な話してんのになんだよー。もしもし、何かあったん?」ガチャッ

倫子「(ここの内線電話か……)」

ダル「監視カメラ? ちょい待ち……うわ、ホントだ」

倫子「どうしたの……って、なんだこいつら……」ゾクッ

真帆「なにこれ、ビルの外、1階、7階、この店の前……全部で20人くらい。誰なの、この人たち……」プルプル

倫子「このビルが……囲まれてる――!?」

ダル「うん、うん、わかった。ここは放棄するわ。君もテキトーに逃げるといいお。ほんじゃ」ガチャッ

ダル「つーわけで、逃げるべ」

真帆「もしかして、これが――……紅莉栖の遺産が、狙われているの?」ゾワワッ

ダル「うーん、分かんない。僕ら色々やってるから」

倫子「っ……」ドクン

ダル「ほれ、そこの鏡音リンたんの等身大ポスター、めくってみ」

倫子「え? ……あ、引き戸。ベランダ、あったんだ」ピラッ

ダル「2つ上の階から隣のビルに飛び移れるようになってるから。こういう時のために、ちゃんと逃走経路は確保してあるんだぜぃ」

696: 2016/06/30(木) 20:50:41.62 ID:1w5ur/k0o
ベランダ


ダル「おk。こっちだお、僕についてきて」

真帆「え、ええ……」

倫子「ゲームの筐体のおかげで外から私たちが見えないようになってる……」

ダル「この隔て板を破れば隣に行けるお」ボコッ

倫子「い、いいの? 火事でもないのに……」

ダル「大丈夫、ちゃんと話は通してあるから。これを端の部屋まで繰り返すお」

ダル「そこに行けば2つ上の階へ行ける非常用はしごがある」

ダル「はしごも造花とかで覆ってるから、僕たちのことは外から気付かれないお」

倫子「怪しいビルだと思ってたけど、ここまでとは……」

697: 2016/06/30(木) 20:52:28.09 ID:1w5ur/k0o
非常用はしご


ダル「よいしょ。フタ、あけたから、2人とも上がって来て」

倫子「真帆ちゃん、先に」

真帆「ちゃん付け……。えぇ、ありがとう……」カンッ カンッ

倫子「(……子供用パンツだ。きっとワゴン品とかで一番安かったんだろうなぁ)」ハァ



2つ上の階


ダル「オカリンオカリン、見た?」

倫子「うん……後で真帆ちゃんと一緒に下着買いに行くよ」

真帆「へ? ――なあぁっ!?」カァァ

ダル「んじゃ、この部屋の中、入って」

698: 2016/06/30(木) 20:54:09.07 ID:1w5ur/k0o
2つ上の階の部屋


ダル「靴のままでいいお。この部屋の風呂場まで行って、そこから出る」

倫子「まさか、隣のビルに飛び移るの?」

ダル「まあ、その前にちょっと手伝ってほしいわけだが」



バスルーム


倫子「……お前さ、もし1人で逃げるしかなかったら、ここからどうするつもりだったの?」

ダル「いやあ、僕の予定ではもうちょっと痩せてるつもりだったんだが」ジタバタ

真帆「完全に窓に詰まっているわね……その巨体が」

ダル「トム・クルーズの映画みたいでかっこよくね?」

倫子「私は子どもの頃に見た、くまのプーさんのVHSを思い出したよ」ハァ

ダル「そいじゃ、ぐいっとお願いします」

真帆「えっと……」

倫子「いや、うん。真帆ちゃんはやらなくていいよ。……まさかダルのケツを全力で押す日が来るなんてっ!」ムニュッ

ダル「ふぎぎぎ……あぁ~、いい感じだお、もっと強く押してくれてオッケーっす。たまにさすってくれたならなおよし」

真帆「何を言っているのこの人は……」

ダル「むひょお……! あっ、ダメ、そんなところ触られたら……僕の股間が有頂天……!」ハァハァ

倫子「そのまま窓に引っかけて切り落とせっ!!! うおらぁっ!!!」ゴツンッ!

ダル「アーッ!!!」ドスン

699: 2016/06/30(木) 20:55:37.42 ID:1w5ur/k0o
隣のビルの一室 キッチン


倫子「空気を読め、バカモノっ!!」プンプン

ダル「正直スマンかった……そして久しぶりの鳳凰院さんにちょっと涙が」ホロリ

倫子「それじゃ、真帆ちゃんもこっちに飛び移って」

真帆「……た、高い……っ」プルプル

倫子「(真帆ちゃんの場合、こんな狭いビルの隙間でも、下に落っこちちゃうかも……)」

倫子「下は見ないで。私の手につかまって!」

真帆「う……うぅっ!」ストッ

倫子「わわっと」ダキッ

真帆「はぁ、はぁ……あ、ありがとう……」

倫子「スカートめくれちゃってるよ、ほらっ。……あっ、手に傷が……」

真帆「えっ? あ、ホントだわ……どこかに引っかけちゃったのかしら」

倫子「ごめんね、私が無理に引っ張ったから……」ペロッ

真帆「え――ひやぁっ!? な、なな、何してるの!? ちょ、不衛生だからやめなさいっ!」

倫子「う、うん。頭じゃわかってるけど、気持ちが、ね……」

真帆「――っ!!」カァァ

ダル「うーん、紛うことなき百合展開」

倫子「お前はあとで鈴羽にしごいてもらうからな」

ダル「ヒッ」キュッ

700: 2016/06/30(木) 20:57:37.33 ID:1w5ur/k0o

ダル「あとは、このマンションの非常階段から脱出すればいいお」

倫子「問題は、このマンションを出た後だね」



マンション1階 物陰


??『探せ!! まだこのあたりにいるはずだ!』タッ タッ


倫子「やっぱりあいつら、うろついてるね……」

ダル「うおう、隠れ部屋も荒らしてるっぽい。間一髪だったお」

倫子「このままメイクイーンをまわっていこう。そっちからラボへ逃げ込むのが一番早いはずだよ」

真帆「はぁ、はぁ……っ」ヒシッ

倫子「真帆ちゃん、大丈夫? このまま私につかまってていいから」

真帆「ええ……このくらい、どうということもないわ」プルプル

倫子「(……私だって、初めてラウンダーがラボを襲撃した時、とんでもなくパニックになったんだ。真帆ちゃんだって怖いはず)」

倫子「落ち着いて、真帆ちゃん。きっと大丈夫だから、ね」ギュッ

真帆「うん……」ドキドキ


ブー ブー ブー


真帆「っ!?」ビクッ!

倫子「っ!?」ビクッ!

701: 2016/06/30(木) 20:58:07.56 ID:1w5ur/k0o

真帆「って、私のスマホだわ。教授からメール……っ!?」

倫子「ど、どうしたの?」

真帆「荒らされたって……和光のオフィスと、あとホテルの部屋。教授と、私の……」プルプル

倫子「……あいつらの仲間か。探してるのは、やっぱり――」


??「――――っ!!」ガバッ


真帆「え――――きゃぁっ!! むぐっ!!」

倫子「っ!? ひや――――むぐぅっ!!」

ダル「な、なん――――むぐふっ!!」

??「大声を出さないで、言うことを聞いて」カチャッ

倫子「(くそっ、やつら、先回りして……あ、あれ? この声は……まさか……)」プルプル


萌郁「さもないと、命は無い」ジャキッ


真帆「……っ!!」ゾクッ

702: 2016/06/30(木) 21:04:26.63 ID:1w5ur/k0o

倫子「(一瞬で全員が拘束された。この訓練された動き……)」

倫子「(フルフェイスヘルメットで顔はわからないけど、萌郁だ! 間違いないっ!)」

ラウンダーA「大声出すんじゃねぇぞ」グイッ

倫子「(こいつも聞き覚えのある声。やっぱり、ラウンダー……ってことは、こいつら、ダルの隠れ部屋に侵入してきたやつらとは別か)」

倫子「(さすが萌郁だ。隠れ部屋からの逃走経路まで把握していたなんて……)」

萌郁「時間が無い。牧瀬紅莉栖のノートPCを渡して」

倫子「ま、待って!」ドクン

倫子「(どうする、なんて言えばいい!? 考えろ、考えるんだ……っ)」ドクンドクン

萌郁「抵抗するなら、比屋定博士……この女を、頃す」ゴリッ

真帆「ピストル!? いやぁっ!!」プルプル

倫子「(やめてっ! やめてやめてやめてやめて――――)」キィィィィィィィィィン!!

703: 2016/06/30(木) 21:05:16.92 ID:1w5ur/k0o

・・・

倫子『萌郁ぁっ!! 私の話を聞いてぇっ!!』

萌郁『っ、どうして私の名前を――』

ラウンダーA『大きな声を出すなと!』ボコッ

倫子『ぐふっ!!』バタッ

ラウンダーB『ヤバイ、やつらに気付かれた!』


萌郁『……タイムリミット』カシュッ!!


真帆『え――――』


プシャァァァァーーーーッ


倫子『あ……ああ……真帆……ぁ……』

ダル『ま、真帆たんの頭から、血が……脳漿が、ぁ……』




倫子『――い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!!!』




――――――――――――――――――…・・・ ・  ・   ・
    1.12995  →  1.12997…・・・ ・  ・   ・
――――――――――――――――――…・・・ ・  ・   ・



・・・

704: 2016/06/30(木) 21:06:06.19 ID:1w5ur/k0o

倫子「――っ!! かはっ、ごほっ!!」ハァハァ

倫子「(い、今のビジョンは……う、おえぇっ!)」ビチャビチャッ

倫子「(このままじゃ、真帆が紅莉栖の二の舞に……っ!)」

倫子「(萌郁は話を聞いてくれないっ!)」ウルッ

倫子「わかった! 渡すから、だからやめてっ!」

真帆「お、岡部さん! だ、ダメよ! 渡しちゃダメ―――!」

倫子「お願い、大人しくして、真帆。彼女は、本当にあなたを頃す……っ」グッ

真帆「でもぉっ!」

倫子「自分の論文のために真帆が氏んでっ!! 紅莉栖が喜ぶと思うのっ!?」

真帆「っ……」

萌郁「……どこに、あるの?」

倫子「……ダルの、リュックの中」

ダル「あぅ……」

ラウンダーB「目標、回収しました」

倫子「だから、ほら! 早く真帆を放してっ!」

萌郁「…………」スッ

真帆「あ……」

倫子「真帆っ!!」ダキッ

真帆「う、うん……」プルプル

705: 2016/06/30(木) 21:07:32.41 ID:1w5ur/k0o

ラウンダーA「撤退だ。このノートPCの存在を知っている人間を処分しろ、M4」

倫子「は……はぁ!? 待って、話が違うっ!!」

萌郁「…………」スッ

真帆「そっ!! その、PCのパスは、わ、わわ、私たちしか、知らないわぁっ!」ガクガク

倫子「(真帆っ!?)」

真帆「せっ!! 世界中のハッカーも、お手上げの、セキュリティよっ! しかも、3回失敗すればデータは消滅するっ!」ワナワナ

萌郁「中身を……見たの……?」

真帆「まっ、まだ見てないわよ! だって、さっきパスが判明したばかりだったもの……」プルプル

萌郁「……じゃあ、私たちと一緒に来て。そうすれば、頃す必要は無くなる」

ラウンダーA「そりゃ、そうだが」

ダル「さらば青春の街アキハバラ……」

倫子「だったら私ひとりがフランスへ行く! それでいいでしょ!」

真帆「ダメよっ! ダ、ダメ……追いていか、ないで……」ヒシッ

ラウンダーC「……もう時間だ。ふたり頃して、ひとり拉致しろ」

萌郁「……了解」スッ

倫子「な――――――――――」



キキィィーーーーーーッ!!

706: 2016/06/30(木) 21:12:58.59 ID:1w5ur/k0o


ドンッ!! ドンッ!!


ラウンダーA「ぎゃぁっ!!」バタッ

ラウンダーC「ぐへぇっ!!」バタッ


倫子「(バンがラウンダーを轢き頃した……デジャヴだな、これ……)」プルプル


タッ タッ スタッ


ロシア兵A「"…………"」ジャキッ


倫子「"Groza"、ロシア兵か……これで一応助かる……」

ダル「真帆たん、オカリン、こっち!」

倫子「あ、ああ!」

真帆「ひぃ……っ」プルプル


萌郁「くっ……」ズキズキ

ロシア兵B「"Огонь!"」


ダダダダダダダッ! ダダダッ!


ラウンダーB「ぐふっ!!」バタッ

倫子「あっ! 紅莉栖のノートPCとハードディスクが……」


ダダダダダダッ! ダダダダダダダダダッ!

707: 2016/06/30(木) 21:14:47.43 ID:1w5ur/k0o
物陰


ダル「……ふたりとも、大丈夫?」

倫子「わ、私は、なんとか。でも、真帆が……」

真帆「っ……ぁ、ぅ……」ガタガタ

ダル「オカリンも成長したよな、昔は人一倍ビビリンだったのに」

倫子「……私だって怖かったよっ!! ダルのバカっ!!」ヒシッ

ダル「おうふっ!? ちょ、これは、色々とヤバイっつーか……」ハァハァ

倫子「氏なないことがわかってても、怖いものは怖いよ……でも、それよりも真帆のことで精一杯で……」グスッ

倫子「(……いや、ダルの言う通り、私は比較的冷静だったと思う)」

倫子「(人氏にも出てるのに私がこんなに冷静なのは、γ世界線で似たような経験をしたからだ)」

倫子「(あるいは、私はコレを既にどこかで経験している……?)」

ダル「……おk、ロシア兵たち、ラウンダーの氏体と、破壊された牧瀬氏のノートPCとHDDの破片を回収して帰っていったお」

倫子「萌郁は逃げたね。ロシア的には、最初にビルを包囲した連中やラウンダーに中鉢論文が渡るのを阻止することがミッションだったんだ」

ダル「そして僕らは生かされた。このβ世界線を維持するために」

真帆「…………」プルプル

倫子「……急いでラボへ行こう。ダル、真帆をおぶれる?」

ダル「そのための無駄に広い背中ですしおすし」

708: 2016/06/30(木) 21:15:18.34 ID:1w5ur/k0o
未来ガジェット研究所


倫子「(鈴羽は居なかった。銃声を聞いて、タイムマシンを保護しに行ったようだ)」

ダル「真帆たん、着いたお。さあ、今降ろす――――」

真帆「うっ……おえぇぇっ!!」ビチャビチャ

ダル「」

倫子「真帆っ!? 大丈夫!?」サスサス

真帆「ご、ごめんなさい……うっ、ううっ」

倫子「……無理もないよ。実際、人が氏んだ。一歩間違えれば、私たちが氏ぬところだった」サスサス

倫子「咄嗟の機転でハッタリをかましてくれてありがとう。真帆のおかげで助かったよ」サスサス

真帆「わ、私、そんなことを……? よく、覚えてないわ……」

倫子「あれ? 真帆の左手から血が出てるよ。強く握りしめて、傷が開いちゃったのかな……」

真帆「え? あ……あ、ら?」

倫子「どうしたの?」

真帆「……指、開かない……変ね……」プルプル

709: 2016/06/30(木) 21:15:49.96 ID:1w5ur/k0o

倫子「指、開けるね……」ニギッ

真帆「え、ええ……お願い……」

倫子「(冷たい……血の気を失ってるんだ……)」

コトッ

倫子「これは……紅莉栖のノートPCの破片……」

倫子「……はい」スッ

真帆「う……うっ……ううっ……」ツーッ

真帆「く……紅莉栖っ……ごめん……ごめんね……」ポロポロ

真帆「守って……あげられなくて……うぅっ……」ポロポロ

倫子「……真帆」

真帆「うっ……ぐすっ……な、なひ?」

倫子「その……私はさ……きっと紅莉栖は喜んでると思う」

真帆「……えぇ?」

倫子「あなたが無事でよかったって。だから……もう謝らなくていい……謝らなくていいんだよ……」

真帆「…………」

710: 2016/06/30(木) 21:23:04.71 ID:1w5ur/k0o

真帆「私ね……ずっと怖かったの……どうして紅莉栖なんだって、どうして私じゃないんだって言われるのが……」

真帆「殺されるのが、紅莉栖じゃなくて、私だったら良かったのにって、周りに思われてるんじゃないかって……怖くて……」

倫子「そんなこと……!」

真帆「だって、紅莉栖は稀代の天才で、私は足元にも及ばない……同じ研究所の同じ日本人だったら、私のほうが氏ぬべきだった……」

真帆「だから、私は誓ったの……紅莉栖の残した研究を、私の人生を賭けて完成させるって……」

真帆「でも、その研究が狙われてると知って、紅莉栖もそれを望まないだろうから、ノートPCを破棄することを認めたけど……」

真帆「……さっき、氏にたくないって、思ってしまったの。紅莉栖の遺産より、自分の命なんかを優先してしまったのよ……」ギュッ

真帆「サイテーだわ、私……」プルプル

倫子「真帆……」

ダル「(……やっぱり、ホンモノはタイムマシンの中に隠してある事、2人に言わないほうがいいっぽいな)」

ダル「(ダミーが破壊されたのはひどい散財だけど、しゃーない。僕ひとりでなんとかパスを解読するか)」

ダル「あんまりゆっくりしていられないお。これからどうする?」フキフキ

倫子「う、うん。この場所、ラウンダーにはFBを通して筒抜けのはずだから、すぐ場所を移さないと」

倫子「やつらは、タイムマシンに関わった人間を片っ端から処理する……ロシアがラウンダーをけん制してくれることを祈るばかりだ」

ダル「鈴羽、電話出ないんだよね。鈴羽が戻ってくるまで僕はここに残るお」

倫子「わかった。私と真帆はあそこへ行くよ――」

711: 2016/06/30(木) 21:24:58.83 ID:1w5ur/k0o
秋葉原タイムズタワー 
秋葉邸 リビング


フェイリス「あー、ダメニャ、まほニャン。寝るなら身体を洗ってからにしないと――全身、ドロドロだニャン」

真帆「ご、ごめんなさい。それじゃあ、シャワーを貸してもらうわ。あと"まほニャン"はやめてね」

フェイリス「お風呂も沸いてるから、まほニャンも遠慮せずにちゃんとバスタブにつかってくるといいニャ」

真帆「ありがとう。あと"まほニャン"はやめて……あ、でも、岡部さんを先に」

フェイリス「大丈夫。凶真――オカリンは、もうひとつのお風呂にフェイリスと一緒に入るのニャ♪」

倫子「――ハッ!? 前ここに泊まった時は、もうひとつお風呂があるって教えてくれなかったじゃない!」

フェイリス「前っていつのことかニャ~? もしかしてぇ、α世界線でのお話かニャ?」ニヤニヤ

倫子「ぐぅ、いつも世話になってるから何も言えないっ!」

712: 2016/06/30(木) 21:25:53.49 ID:1w5ur/k0o

フェイリス「2人とも、着替えはフェイリスのを貸すニャ。下着も今、新しいのを用意してもらっているニャン」

真帆「そこまでしてもらったら悪いわ……」

フェイリス「遠慮しなくていいニャ。まほニャンはもう、フェイリスのお友達なんだからニャ♪」

真帆「……ありがとう、フェイリスさん。あと"まほニャン"は……」

フェイリス「ちなみにパンツは、オカリンのリクエスト通り、"ピンクのしましまパンツ"を用意させてるニャ。まほニャンならきっと似合うニャン、ニュフフ」

倫子「ちょっ!? 私は年相応のパンツにしてって言っただけでしょ!? ……ハッ」

真帆「リクエストはしたのね……はぁ」

倫子「あっ、いやっ、えっと、そのっ」アセッ

フェイリス「さぁさ、洗いっこするニャ~ン♪」

713: 2016/06/30(木) 21:27:03.27 ID:1w5ur/k0o
バスルーム


チャポン


真帆「ふぅぅ……」

真帆「(副交感神経が優位に働いて、血流が促進していく……)」

真帆「(手のケガもだいぶ落ち着いたわね……)」

真帆「(でもホント、今日は信じられないことばかり)」

真帆「(世界線に、タイムマシン。それも紅莉栖が造って、世界中に狙われて、第3次世界大戦が……)」

真帆「(もし、今誰かに襲撃されでもしたら―――――)」


ガララッ


真帆「――――っ!?!?」ドクンッ!!


フェイリス「今度はまほニャンと洗いっこなのニャー!!」バサッ


真帆「は……ぁぁ……」クターッ

フェイリス「あれ? まほニャン?」

真帆「――――」ブクブク

フェイリス「まほニャン!? た、大変、まほニャンが沈んでいく! 氏んじゃうーっ!」

倫子「どうしたの、フェイリ――真帆っ!?」ダッ

714: 2016/06/30(木) 21:27:43.93 ID:1w5ur/k0o
寝室


フェイリス「ごめんニャさい、まほニャン。驚かせるようなことをしちゃって……」

真帆「あ、謝らなくても、いいわ。別に、大したことはないし……」

倫子「でも、まだ身体、動かせないんでしょ?」

真帆「ええ……少し休めば大丈夫だと思うけれど」

真帆「身体を拭いてもらって、ベッドへ運ばれて、一から服を着せてもらって、なんだか赤ちゃんになった気分だわ……」

真帆「というかフェイリスさん、下着もだけど、このピンクの水玉の可愛いフリフリのパジャマはどうにかならなかったのかしら」

フェイリス「可愛いニャ?」

真帆「(この人、言葉が通じない人だわ)」

真帆「まあ、でもありがとう。心配かけてしまったわね……我ながら、みっともないわ」

倫子「そんなことないよ。今日はとっても怖い思いをした。具合だって悪くもなる」

真帆「……あなたも、怖かったわよね。ごめんなさい、私ばっかり、弱っちゃって……」

715: 2016/06/30(木) 21:29:07.45 ID:1w5ur/k0o

フェイリス「今夜はもう休むといいニャ。事件のこととか、これからどうするかとか、難しい話は元気になってから考えるといいニャン」

倫子「ダルも鈴羽と合流して、とりあえず大丈夫だったって、さっき連絡があった。だから、ね」

真帆「……そうね。ええ、そうするわ」

倫子「……1人で寝るの、怖い?」

真帆「えっ?」

フェイリス「もしよかったら、3人で川の字になって寝るかニャ? うんっ、それがいいニャ!」

倫子「("川"の字……真帆が真ん中だね)」

真帆「ちょっ!? わ、私、一応アメリカ育ちだから、小さい時から誰かと一緒に寝たことなんて、あまりないのだけれど……」ドキドキ

フェイリス「男の人ともニャ?」

真帆「…………」コク

フェイリス「だったら、その練習だと思って、今日は一緒に寝るニャーン♪」

倫子「相変わらずトンデモ理論だね、フェイリスは。……ね、真帆。いいよね?」

真帆「反対できる立場に無いわ……というか、いつの間にかその呼び方が普通になってるわね」

倫子「えっと、嫌だったかな、"比屋定さん"」

真帆「ううん、嫌じゃないわ。変な意味は無いわよ? ちゃん付けやニャン付けで呼ばれるよりだいぶマシってだけ」

フェイリス「ツンデレかニャ?」

真帆「つんで……なに?」

倫子「ふふっ」

716: 2016/06/30(木) 21:31:11.86 ID:1w5ur/k0o

フェイリス「それじゃぁ、お隣失礼しますニャン♪」

真帆「うぅ、なぜかドキドキする……」

倫子「フェイリス、真帆は疲れてるんだから、イタズラしちゃダメだからね」

フェイリス「フニュウ、わかってるニャン。でもでも、匂いを嗅ぐくらいニャら~」クンカクンカ

真帆「く、くすぐったいわ……」ピクピク

フェイリス「ニャフフ~、イイ匂いだニャン」

倫子「どれ……」クンクン

真帆「ちょっと! あなたまで何をやっているの!?」

倫子「す、少しだけ……確かにイイ匂いかも」

真帆「フェイリスさん家のシャンプーの匂いよ。というか、寝させてほしいんだけど……」カァァ

フェイリス「それじゃ、フェイリスが子守唄を歌ってあげるニャ! 杭を~打て~、杭を~打て~♪」

倫子「永眠しそうな歌詞だね……。真帆、何かあったら、すぐ私たちを起こしてくれていいからね?」

真帆「あ、ありがとう」トゥンク

717: 2016/06/30(木) 21:31:56.76 ID:1w5ur/k0o

フェイリス「ニャムニャム……」zzz

倫子「……ぐぅ」zzz

真帆「…………」

萌郁『……大声を出さないで、言う事を聞いて。さもないと……命はない』

真帆「……っ!?」

真帆「(に、逃げないと……あれ、身体が、動かないっ!?)」

真帆「(2人を起こして……声も、出ないっ!)」プルプル

真帆「ぁ……っ、ぅ……」パクパク

真帆「(やめて、やめてやめてやめて――――)」

――――パァンッ!!

真帆「いやぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!!」ガバッ

倫子「真帆っ!!」ギュッ

真帆「はあっ……はあぁぁぁっ……」ポロポロ

倫子「大丈夫だよ……怖い夢を見てたんだね、もう大丈夫だからね……」ナデナデ

真帆「うぅ、っ……」ポロポロ

倫子「(……まるで自分がまゆりになった気分)」ナデナデ

フェイリス「まほニャン、汗でびしょびしょニャ。着替え、持ってくるニャ」

718: 2016/06/30(木) 21:33:23.82 ID:1w5ur/k0o

フェイリス「思ったんニャけど、無理に寝るのも心に良くないかもしれないニャ」

フェイリス「身体はベッドでゆっくり休めながら、朝日が昇るのを待ってもいいんじゃないかニャ?」

真帆「……確かに、人間の脳は自然光を浴びるとセロトニンが増えて、不安が解消しやすくなるようにできているけれど」

倫子「そうだね、今は真帆の心を休めるほうが大事かもしれない」

真帆「……でも、不思議ね。岡部さんの心は、ずっと頼もしく見えるわ」

真帆「普通の女子大生とは思えないほどに、強く」

倫子「……強いっていうのかな。心が慣れちゃっただけ、なのかも」

フェイリス「オカリンは、戦いの果てに黒騎士になったのニャ。復活の日を待つ、古の邪心王グラジオールに――」

真帆「どうしてあなたは、そんなに強いの?」

倫子「…………」

倫子「…………」

倫子「嘘を吐いているから、かな」

真帆「えっ……」

倫子「……本当は、ずっと言おうと思ってた。言わなきゃ、って思ってた」

倫子「言わないままじゃ、真帆を裏切ることになるからって……」

719: 2016/06/30(木) 21:33:51.32 ID:1w5ur/k0o

倫子「私は……真帆に、重大なことを隠している……」

倫子「そのせいで真帆に不安を与えて……真帆に余計な疑念を抱かせて……」

真帆「……?」

倫子「さっき、ダルのバイト先で話したよね。別の世界線のことや、そこで出会った紅莉栖のこと……」

倫子「タイムマシンやタイムリープのこと……」

真帆「ええ」

倫子「ラジオ会館で……その……紅莉栖と父親の間に起こった事件も……話した」

真帆「ええ……」

倫子「あの時、本当はもうひとつ、言わなきゃいけない事があったんだ。でも……どうしても、言い出せなかった」グスッ

フェイリス「オ、オカリン? 無理しニャいで……」

倫子「ううん、今言わないと、いけない、から……フェイリスにも、聞いてほしい、から……」ヒグッ

720: 2016/06/30(木) 21:34:39.52 ID:1w5ur/k0o

倫子「……あの、日……ラジオ会館で、紅莉栖をっ……」グッ


真帆「フェイリスさん、あの……」

フェイリス「今はオカリンを信じるニャ」


倫子「真帆の後輩の、紅莉栖を……留未穂の幼馴染の、紅莉栖を……」プルプル


フェイリス「……ニャ?」


倫子「紅莉栖を、こ、頃したのは……っ!」ポロポロ






   「――――私、なの」






真帆「…………」

フェイリス「…………」

721: 2016/06/30(木) 21:37:30.09 ID:1w5ur/k0o

倫子「あ、あ……っ……ぁぁ……」ポロポロ

フェイリス「オカリン……倫子ちゃん……」ダキッ

フェイリス「……事故だったんだって割り切れないのは、留未穂が一番よくわかってあげられるから」

フェイリス「留未穂も、パパを頃したのは自分だって、思ってるから……」

倫子「そうじゃ、ないの……わ、私が、ナイフで、さ、刺し、刺し頃して……っ」ポロポロ

真帆「……紅莉栖の氏の真相。闇に隠された事実。そう、タイムマシン、世界線理論……そう」

フェイリス「お、怒らないでほしいの! 倫子ちゃんだって、牧瀬さん――クリスちゃんを救うために動いてたんだよ!」

真帆「……怒る道理なんて、無いわ。私は岡部さんを信じてる、それに変わりはない」

真帆「何もできなかった私と違って、岡部さんは紅莉栖のために動いてくれた……」

真帆「あの娘が氏ぬときに、一番近いところに居たのが岡部さんだった。独り寂しく逝ったのではないとわかって、よかったわ」

真帆「……あなた。本当は私なんかより、何倍も怖くて、つらくて、苦しい思いをしてきたのね」

真帆「ずっとみんなに嘘を吐き続けて……それはきっと、優しい嘘だったのよ」

倫子「う、うぅっ……」グスッ

真帆「バカね、1人で抱え込んで」ギュッ

真帆「しっかりしなさい、岡部倫子」

真帆「この私が好きになった人は、そんなに弱い女<ヒト>だったわけ?」

722: 2016/06/30(木) 21:38:19.95 ID:1w5ur/k0o

倫子「ふぇ……?」ウルッ

フェイリス「ふふっ。なんだか今の、クリスちゃんのしゃべり方みたい」

真帆「あら、わかった? というか、あなたが紅莉栖のことを知っていたなんて、驚きだわ」

フェイリス「突然オカリンに愛の告白をしちゃうほうが驚きだニャ」

真帆「……どうして私がこの人に惹かれていたのかが、ようやくわかったからね。もう、照れもしないわ」

フェイリス「とか言いながら、赤くなってるニャ」

真帆「う、うるさいわよ。それに、私はノーマルだから」カァァ

フェイリス「ハイハイ。それで、オカリン。こういうことニャんだけど、現実を受け入れられたかニャ?」

倫子「赦して……くれるの……?」ウルッ

真帆「あなたがそうされたいと思っているなら、ええ。赦すわ」

倫子「真帆……っ」ダキッ

フェイリス「ホント、フェイリスがここに居て良かったニャ。放っておいたら、ヒトの家でおっぱじめられてたところニャ」ヤレヤレ

真帆「あ、あなたねぇ!」

倫子「……ぷっ。あははっ」

フェイリス「ニャハハ」

真帆「もう……ふふっ」

723: 2016/06/30(木) 21:39:51.71 ID:1w5ur/k0o

・・・


フェイリス「パパのお葬式の時にクリスちゃんが――――」


真帆「一緒に西海岸のビーチに行った時にね――――」


倫子「最後のα世界線で、紅莉栖が――――」


チュンチュン……


真帆「あら、もう朝。こんなに紅莉栖のことを話し尽したのなんて、初めてだわ」

フェイリス「これからどうするニャ? うかつに外を歩けニャいし、ずっとうちに居てもいいニャ」

倫子「うん、お言葉に甘えるしかないかも。ここで色々情報を集めるよ」

フェイリス「フェイリスがご奉仕から帰ってきたら、据え置き機でレースゲームしたいニャァ~。コントローラーもちゃんと4つあるのニャ!」

倫子「コントローラーが4つ、お金持ち、一人っ子……あっ」

フェイリス「フェイリスを可哀想な目で見るのはやめるニャー! ちなみに4人目は黒木にやらせるニャ」

真帆「レースゲーム……ふぅん、おもしろそうね。いいわよ、一緒に遊びましょう」

フェイリス「これでフェイリスたちはマブダチニャ♪」

724: 2016/06/30(木) 21:41:58.91 ID:1w5ur/k0o
2011年1月25日火曜日 夜
秋葉邸 リビング


倫子「(結局、私たちはフェイリスの家に丸2日居候させてもらった)」

倫子「(今秋葉原は自警団が警戒を強めている。特にラボメンの周囲は、黒木さんを中心とした黒服部隊が目を光らせてくれている)」

倫子「(天王寺さんはここ数日姿を現していないらしい。ラウンダーも、ロシアやらアメリカやらとの衝突で忙しいのだろうか)」

倫子「(そんな中、明日真帆がアメリカへ帰れる算段がついたらしく、今日は送別会だ)」


フェイリス「マユシィ、来てくれてありがとうニャ♪」

まゆり「トゥットゥルー! 初めまして、"まほニャンちゃん"っ♪」

真帆「ちょっとお待ちなさい。いろいろとお待ちなさい、あなた」

まゆり「なにが~?」キョトン

真帆「……類は友を呼ぶ、ね。まあいいわ、よくないけど」ハァ

真帆「あなたが椎名まゆりさんね、話には聞いてるわ。聞いてた通り、可愛らしい人ね」

真帆「(そしてあなたが……紅莉栖の代わり……選択……)」

倫子「(何気に2人は初対面だったっけ。どうしてかそんな気がしないけど)」

まゆり「ふむふむ、なるほどー」ジロジロ

真帆「え? な、なに?」

フェイリス「言った通りニャ? 可愛いのに残念ファッションなのニャ」

まゆり「そんなまほニャンちゃんに、まゆしぃの作ったお洋服をプレゼントしようと思いまーす! アメリカで着てねっ!」ドサッ

真帆「えっ!? こ、これ、全部タダでくれるの!? あ、いや、えっと、本当にいいの?」

まゆり「オカリン用に作ったのに着てくれなかったのだから、いいよ~。サイズも調整しといたから、バッチリなのです」

フェイリス「オカリンひどいニャ」

倫子「あ、アレはだって、フリフリのきゃぴきゃぴだったし……」

真帆「フリフリの……でも、背に腹は代えられないわ。ありがとう、まゆりさん」ニコ

まゆり「どういたしましてなのです♪」

725: 2016/06/30(木) 21:42:26.51 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「ねえ、リンリン。この人にすべてを話したんだよね」

倫子「うん、そうだけど……?」

鈴羽「あんまり未来のことを言うのはまずいんだけど……"ワルキューレ"のメンバーの中に、そんな名前の人、いなかった」

倫子「世界線が変わる気配はないけど……」

真帆「あなたがタイムトラベラー阿万音鈴羽さん、よね。よろしく」スッ

鈴羽「…………」ジロジロ

真帆「あなたには色々と聞きたいことが……って、またなの? 人のことを寄ってたかってジロジロと――」

鈴羽「……あああーっ!!!」

真帆「」ビクッ

倫子「」ビクッ

726: 2016/06/30(木) 21:43:14.98 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「(ずいぶん印象が違ってるから分からなかった。けど、この雰囲気、この空気感、この表情……間違いない)」ドキドキ

鈴羽「(そうか、"ワルキューレ"じゃ、父さんと同じように偽名を使ってたんだ……!)」キラキラ

真帆「な、なに、どうしたの……?」キョトン

鈴羽「えっ!? ああ、ううん。ごめんなさい。あたし、阿万音鈴羽です。よろしく、ク――比屋定さん」ガシッ ブンブンブン

フェイリス「そんなに強く手を握ったら飛んでっちゃうニャ!」

真帆「そ、そんなに小さくないわよ! って誰が小さいって!?」ウガーッ

鈴羽「(……ああ、大丈夫だ。あたしも父さんも、リンリンも間違ってなかったんだ! うん、絶対に!)」ニコ

真帆「それで、鈴羽さん。連絡先を交換してほしいのだけど」

鈴羽「あっ、はいっ! 24時間体制で対応しますっ!」ビシィ!

真帆「い、いや、そこまでしてくれなくてもいいのだけれど……」

727: 2016/06/30(木) 21:45:10.06 ID:1w5ur/k0o

倫子「(鈴羽の様子からすると、真帆も未来でワルキューレに参加してタイムマシン研究をすることになるみたいだ)」

倫子「(それって、やっぱり私のせいだよね……でも、真帆の身が一番安全なのはやっぱりそこなのかな……)」

倫子「(世界線だって、私が氏ぬ前に電話レンジ(仮)を作ってDメールを送るようなことをしなければ、α世界線に戻ったりはしないだろうし)」

倫子「(……まさか、アメリカに行ってタイムマシンを? いや、それはまだ技術的に不可能か……)」

倫子「真帆、向こうに行ったら危ないことをしないでね。ううん、タイムマシンの名前を口にすることもやめといたほうがいい」ヒシッ

真帆「ちょ、う、ゎ」ドキドキ

倫子「いつ誰があなたを狙ってるかもわからない。お願いだよ」ウルッ

真帆「(かわいい)」トクン

真帆「……嫌というほどわかっているわ。大丈夫よ、この話はあなたたちのそばでしかしないから」

倫子「(私、真帆を疑ってる。ホントは真帆を信じたいのに……)」

倫子「(紅莉栖を生き返らせるだけならすぐにでも出来る。『SERNにラボを監視させる』ことになるDメールを送ればいいだけ)」

倫子「(そうすれば世界線はαに変動する。紅莉栖の氏はなかったことになる)」

倫子「(それだけはやってはいけない理由も、一応は説明してある。けど、真帆にとってまゆりは赤の他人だし……)」



真帆「……ごめんね、倫子」ボソッ

728: 2016/06/30(木) 21:46:23.19 ID:1w5ur/k0o
2011年1月26日水曜日
成田空港 チェックインカウンター


倫子「(乗り換え案内役として私が付き添って、ボディガードとして鈴羽にも来てもらった)」

レスキネン「マホ! リンコ!」

真帆「教授! よかった、無事で……」

レスキネン「ふたりとも、大変だったね。リンコ、マホを守ってくれてありがとう。本当に世話になったね」

倫子「いえ、私はそんな」

レスキネン「それで、うちの研究室にはいつ頃来られるのかな?」

倫子「……少しでも早く行けるよう、勉強頑張りますっ」

真帆「私もあなたのことを待っているから、頑張って」

倫子「(そうだよ、私がヴィクコンへ行けば真帆を心配しなくて済む。今日からまた"紅莉栖"に……は、もう無理なんだっけ)」

レスキネン「事前に連絡しておいた通り、『Amadeus』へのアクセス権は今日ここで解除させてもらうからね」

レスキネン「"クリス"に、最後の挨拶をするかい?」

倫子「…………」

729: 2016/06/30(木) 21:47:54.33 ID:1w5ur/k0o

倫子「それじゃ、一言だけ」


prrrr prrrr


Ama紅莉栖『なに? 私にもお別れの挨拶してくれるの?』ムスーッ

倫子「……なに怒ってるの」

Ama紅莉栖『別に。というか、私なんかよりも、真帆先輩にはちゃんとお別れのハグはしたの?』

倫子「ハ、ハグ? それって、したほうがいいの?」

真帆「ここは日本よ、"紅莉栖"。恥ずかしいこと言わないで」

Ama紅莉栖『……岡部、向こうで待ってるわよ。早くレスキネン教授の助手になりなさい』

倫子「(フブキや、他の脳炎患者のためにできることがある。頑張らないと、私)」

Ama紅莉栖『これ以上、真帆先輩がうちの同僚にからかわれてるのを見てられないから。あなたがくれば、守ってくれるんでしょ?』

真帆「あなた、そんなこと思ってたの……」

倫子「そういうことなら、真帆ちゃんは私が守らないとねっ!」フンス

真帆「ちゃん付けっ! ……これじゃ心労が2倍になりそうだわ」ハァ

レスキネン「Haha! 賑やかになりそうだね」ニコ




鈴羽「"教授"、ね……」チラッ

730: 2016/06/30(木) 21:57:31.18 ID:1w5ur/k0o
京成線上り列車車内


倫子「レスキネン教授が怪しい?」

鈴羽「確証は無い。ただ、未来にね、"教授"っていうコードネームで呼ばれる影の存在が居たんだ」

鈴羽「そいつは色んな情報を裏から操作して、各組織を翻弄してた。洗脳してスパイを作り上げるプロだ、っていう噂もある」

鈴羽「"ワルキューレ"でしか知り得ない情報も持ってたこともあったんだ」

鈴羽「そのせいで、"ワルキューレ"の仲間たちが、洗脳させられて、スパイにされて、廃人になっていくのを、あたしは見てきた」

倫子「っ……」

鈴羽「もしかしたら、"教授"はあたしたちの誰かと接触してた可能性が――」

倫子「ちょ、ちょっと待って。いくらなんでも……」

鈴羽「注意しておくに越したことは無い、ってこと。レスキネンとかいう人は、"ワルキューレ"にとっては間違いなく部外者だからね」

鈴羽「同時に、リンリンが心を許しかけているイレギュラーでもある。比屋定さんや牧瀬紅莉栖とも繋がりがある」

倫子「それは……」

鈴羽「ク、比屋定さんは、いずれ必ず日本へ戻ってきて、ワルキューレに合流することになる」

鈴羽「だから、リンリンがアメリカに行く必要は無いよ」

倫子「…………」シュン

731: 2016/06/30(木) 22:00:02.59 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「……必要が無いってだけだから。別に、行っちゃっても、いいけどさ」

鈴羽「どうせあたしは今年の7月には居なくなる」プイッ

倫子「……そう言えば、かがりのこと、何かわかった?」

鈴羽「ああ、父さんから聞いてたんだっけ。ううん、今のところ、何も」

鈴羽「でも、確実に未来は良い方向に向かってる。シュタインズゲートへと近づいてる気がするよ」

倫子「未来……。ねえ、かがりはまゆりとどうやって出会ったの?」

鈴羽「あたしもまた聞きした程度だから、詳しくは知らないけど……って、それこそリンリンお得意の未来視で視ればいいんじゃない?」

倫子「ああ、あれ。全身がダルくなるから嫌なんだけど……でも、確かにそっか。まゆりの脳を使って、全力の未来視をすれば」

732: 2016/06/30(木) 22:00:36.61 ID:1w5ur/k0o
未来ガジェット研究所


まゆり「トゥットゥルー♪ ただいまなのです! 今日はまほニャンちゃんのお見送りに行けなくてゴメンね~」

倫子「まゆりはまだ高校生だから、ちゃんと学校に行かないとだもんね」

鈴羽「それで、どうする?」

倫子「……それじゃ、3人でマラソンしよう」

鈴羽「マラソン? 持久走のこと? なんで?」

倫子「1年以上先の未来を視るには、ちょっと体が疲れてる必要があるんだよ」

まゆり「いいねぇ~♪ まゆしぃね、今学校の体育の授業でマラソンをやっているのです」

鈴羽「走るのはいいとして、どこを?」

倫子「……アキバを。黒木さんたちが監視してる範囲で」

733: 2016/06/30(木) 22:01:25.75 ID:1w5ur/k0o

・・・

まゆり「はふぅ~、いい汗かいたね~」

鈴羽「椎名まゆりは、その動きにくそうな服装でよくあのスピードを維持できたね……少し見直したよ」

鈴羽「それで、リンリンは――」

倫子「」コヒュー

まゆり「オカリン、頑張りすぎだよ~。体力無いんだから、無理しちゃダメだよ?」ナデナデ

倫子「ふ、ふたりが早すぎるんだよ……追いてかれないように、必氏で……」ゴフッ

鈴羽「それで、リンリン。やることやっちゃえば?」

倫子「う、うん……まゆり、ちょっと頭借りるね」

まゆり「ふぇっ? うん、いいよ~♪」

倫子「(手を握って……意識を集中させて……)」ギュッ

倫子「(まゆりの現実の拡張するイメージ。未来方向へと時間を引き延ばして――)」


   ドクン!!


倫子「(きた……! い、しき、が――――)」

2011
2012
2014

倫子「(世界が早回しになって過ぎ去っていく――――)」

2017
2020
2024

倫子「(未来へと加速していく――――)」

2027
2030
2031
 ・
 ・
 ・

734: 2016/06/30(木) 22:02:36.40 ID:1w5ur/k0o
―――――
2032年頃
戦災孤児用養護施設隣の専用医療施設


まゆり「かがりちゃん。今日から私とあなたは、正式な親子になるのよ」


倫子『(大人のまゆりだ。ナース服を着てるけど、見た目はほとんど変わってない)』

倫子『(名札をつけてる……"二等養護官 椎名まゆり"? へえ、まゆりったら、そんな役職に……)』

倫子『(それで、この子が椎名かがりちゃんか)』


かがり「ほんと? ママが、かがりのほんとのママになるの?」

まゆり「ええ。そうよ。司法局の人がようやく許可をくれたの」

かがり「やったぁ! じゃあ、ここから出られるんだよね!?」

まゆり「……ごめんね。かがりちゃんは、もう少し、治療が必要みたいなの」

かがり「神様の声はね、病気じゃないもんっ! 治療、必要ないもんっ!」

かがり「『君はママを護るんだ。この世界を護るんだ。そのために君は生まれてきたんだよ』って! 病気じゃ、ないもん……」グスッ

まゆり「うん、ママもね、先生たちにそう言ってるんだけどね……」

735: 2016/06/30(木) 22:03:38.28 ID:1w5ur/k0o

かがり「ねえ、ママ。どうしてママは、私に"かがり"って名前をつけたの?」

まゆり「それはね、暗い世界を照らす、"篝火"になってほしい、って思ってつけたのよ」

かがり「"かがりび"って?」

まゆり「夜の海を航海しようとすると、明かりがなくて、迷子になっちゃうでしょ?」

まゆり「そうならないために、火をたいて、行くべき路を照らすの」

かがり「それじゃ、どうしてかがりを選んだの? 私以外にも戦災孤児の子は居たのに」

まゆり「うーん……ある人の面影があったから、かなぁ」

かがり「ある人?」

まゆり「私の大事な人の、大事な人……。私は覚えてないんだけど、きっと、私の友達だった人」

まゆり「私に、命を渡してくれた人……」


倫子『(紅莉栖か……。まゆり、そんなことを思って……)』


かがり「私って、そんなにその人にそっくり?」

まゆり「うん。初めてかがりちゃんに会った時、本当にビックリしたんだから」

まゆり「かがりちゃんに出会えたことは、運命だったって思ってるんだよ」ニコ

かがり「えへへ~、やったぁ!」

736: 2016/06/30(木) 22:04:58.73 ID:1w5ur/k0o

老医師「どうもこんにちは、C397番――じゃなかった、かがりちゃん。それに椎名さん。もうお昼は食べましたか?」


倫子『(C397? そう言えば、β世界線での鈴羽のタイムマシンの型番がC204か203だったと思うけど……いや、関係ないか)』


かがり「あ、先生! うん、ホットケーキ。ママが作ってくれたんだよ」

老医師「ほほう? 少しは美味しく焼けるようになったのかな?」

かがり「ママの悪口言ったらダメ。……まだちょっと黒焦げだったけど」

まゆり「もう、ふたりしてからかわないでください」

老医師「ハハ、これは失礼」


倫子『("先生"と呼ばれたあの老人……見たことは、ないな。もちろん、あのガタイの良いレスキネン教授の21年後の姿とも思えない)』


老医師「それじゃ、かがりちゃん。さ、行こう」

かがり「……ねぇ、先生? まだアレするの? 頭痛くなるからやだなあ」

まゆり「あの、あまりかがりちゃんの身体に負担になるようなことは……」

老医師「ふむ、そうですね。痛みを紛らわすために、楽しくなる工夫も考えてみましょう。痛いのが好きになってしまったりしてね、ハハ」

まゆり「はぁ……」

老医師「治療を続けてよろしいですね、"お母さん"?」

まゆり「えっ? ――あ、はい!」



―――――

737: 2016/06/30(木) 22:05:55.86 ID:1w5ur/k0o

倫子「―――――っ」クラッ

まゆり「オ、オカリン? 大丈夫? マラソンで疲れちゃった?」ダキッ

鈴羽「どうだった? 視れた?」

倫子「……まゆりは、良いお母さんになるよ」

まゆり「えっ? と、とと、突然、どうしちゃったのかな」テレッ

倫子「鈴羽。私の視た未来に、レスキネン教授は居なかったよ」

鈴羽「……でもそれは、椎名まゆりが視ることになってる景色だ。かがりの視点からだったら、また何かが違う――」

倫子「鈴羽っ。仮に教授がその"教授"だったとしても、それは今じゃない」

鈴羽「っ……」

倫子「ダルに調べてもらってわかったけど、アメリカはSERNの情報を監視しまくっているらしい。ロシアも入れて、勢力は三つ巴の均衡状態にあるはず」

倫子「これが崩れない限りは、まだ世界は大丈夫。まゆりだって、今度高校3年に進学したら、大学のことも考えないといけないし」

まゆり「なんのお話~?」

鈴羽「……わかったよ。あたしはかがりを探すし、リンリンは勉強する。父さんがシュタインズゲートへの道を見つけるまでは」

鈴羽「それで、いいんだね」

倫子「……ごめん」



まゆり「……オカリン」


738: 2016/06/30(木) 22:08:03.07 ID:1w5ur/k0o

・・・
2011年6月25日土曜日 朝
岡部青果店 倫子自室


倫子「(あれから半年経った。まゆりも私も無事進級できた)」

倫子「(夏……あの出来事があってから、もう1年になろうとしている)」

倫子「(1月以来、ラボにはあまり足を運ばなくなってしまった。ゴミ置き場から拾ってきたクーラーのおかげで多少は快適になってはいるが……)」

倫子「(最近は家で自分の勉強をするか、まゆりの勉強を見てやってばかりだな……)」

倫子「(昨日も遅くまで数学と格闘して、気付いたら寝落ちしてた……ふぁぁ……)」


岡部父「おーい、倫子。まゆりちゃんが来てんぞー!」

まゆり「はわわ、ダメだよおじさん。そんなに大きな声を出しちゃ~。まゆしぃがちゃんと起こしてきてあげるから」


倫子「(どうやらまゆりがうちに来たらしい……けど……)」ウトウト


まゆり「トゥットゥルー?」

倫子「ううーん……ちょっと待って。もう少し、時間を頂戴……」ムニャムニャ

まゆり「わぁ~、またこんなにたくさん難しそうな本を並べて、遅くまで勉強してたの?」

倫子「あと、5分……」zzz

まゆり「えへへ……お寝坊さんには、いたずらしちゃうよ~?」ワキワキ

739: 2016/06/30(木) 22:11:19.35 ID:1w5ur/k0o

ムニュ

倫子「(むにゅ? 首の後ろに柔らかい感触が……てか、重い……去年より大きくなってるな……)」

まゆり「ふぅーはははは。さぁ、どうだ、寝苦しかろう? 助かりたくば、さっさと起きるがよい。ふぅーははははは」

まゆり「……早く起きないと、お、起きないと、悪のまゆしぃが、その……もっともっとオカリンにくっついちゃうぞ、ふはははは~ぁ」カァァ

倫子「……恥ずかしいなら言わなくていいのに」ウトウト

まゆり「わわわっ、ごめんねオカリンっ。ウソだよ、ウソっ」アセッ

倫子「……?」ウトウト

まゆり「(この間、オカリンを起こしに来た時は、寝言で紅莉栖さんの名前を呼んでたんだよね……)」

まゆり「(まゆしぃもテレビで紅莉栖さんの写真やVTRを見たけど……うん、綺麗で素敵な女性だった)」

まゆり「(きっと、オカリンの心の中ではまだ生きてて、大好きで大好きでたまらないんだろうなぁ……)」ウルッ

まゆり「あはは、やだなぁ~。オカリンの眠そうな顔を見てたら、まゆしぃまであくびが出ちゃったのです」

まゆり「まゆしぃがお部屋のお掃除するからね、オカリンはちゃんとお布団で寝たほうがいいよ? ほらっ」

倫子「いつもごめんね、まゆり……」ウトウト

まゆり「……まゆしぃはね、まゆしぃのために勝手にやっちゃう子なんだよ。だから、自分勝手なまゆしぃでごめんね」

倫子「……ちょっとだけ、ちょっとだけ寝る……」バタッ

倫子「……ぐぅ」スピー



まゆり「――まゆしぃでごめんね」

740: 2016/06/30(木) 22:12:25.99 ID:1w5ur/k0o

・・・

紅莉栖『ちょっと倫子たん? こんな簡単な問題も解けないんでちゅか? 脳みそ小学生かなー?』

倫子『と、解けないのではないっ! よりよい解答がないか、深く考察を重ねているだけだっ!』

紅莉栖『はいはい可愛い言い訳乙。でも、そんなんじゃヴィクトル・コンドリア大学に留学しようなんて夢のまた夢よ?』

倫子『くそぅ、クソレOの分際で馬鹿にしおって……!』

紅莉栖『ク、クソレOって言うな! それに、生まれながらの天才なんて居ないわ、私だってそれなりに努力はしたし』

倫子『だから、オレだってお前を見習ってこうして必氏に勉強しているのではないかーっ』

紅莉栖『独力じゃ非効率すぎない? 変なプライドとか捨てて、誰かに教わればいいでしょ?』

倫子『そんな頭のいいヤツがまわりにいれば、苦労せん』

紅莉栖『橋田は?』

倫子『セクハラしてくるからダメ』

紅莉栖『ブチ頃し確定ね』

741: 2016/06/30(木) 22:12:58.42 ID:1w5ur/k0o

紅莉栖『それで、あんたがどうして正座させられてるかわかってる?』

倫子『……英語のテストで0点を取りました』シュン

紅莉栖『ふ、ふふ。ダメよ、まだ笑うな、牧瀬紅莉栖……こらえるんだ……し、しかし……』ニヤニヤ

倫子『この女殴りたい……!』

紅莉栖『そうね、罰の内容は何にしようかしら……ここはひとつ安価でも取って……』ブツブツ

倫子『……ううむ、こうなったら仕方がない。クリスティーナよ』

紅莉栖『なんですか、鳳凰院ちゃん』

倫子『ちゃんを付けるな! その、たいへん屈辱的だが……お前に、オレの勉強を教えさせてやる』

紅莉栖『キタ――(゚∀゚)――!! 勝った!! 第三部完ッ!!』グッ

紅莉栖『だが断る』

倫子『な、なにぃ!?』

742: 2016/06/30(木) 22:13:45.79 ID:1w5ur/k0o

倫子『ど、どうして……?』ウルッ

紅莉栖『ぐっ、かわいい……それは、その……』タジッ

紅莉栖『…………。まゆりに……悪い、でしょ?』

倫子『へ? な、なにが?』

紅莉栖『だってっ……私とあんたが、その……ずっと一緒にいたりすると……彼女が悲しむから……』

倫子『だったら、3人で一緒に居ればいい。ううん、ダルもルカ子もフェイリスも鈴羽も、萌郁も店長も綯も含めて、みんなで居ればいい』

紅莉栖『……ホント、どうしようもなく良い子ね。岡部さんって』

倫子『岡部さん……? なあ、どうしたんだよ、急に。"紅莉栖"』

Ama紅莉栖『気安く呼ばないでください。自分が守るって決めた人を、困らせるようなことをしないでください』

倫子『困らせる? オレが、私がいつまゆりを困らせたって言うの? ねえ、教えてよ!』



真帆『ちょっとあなたたち、いい加減にしてくれないかしら』

743: 2016/06/30(木) 22:14:38.83 ID:1w5ur/k0o

真帆『痴話喧嘩なら他所でやって頂戴。うるさくて研究の邪魔よ』

倫子『えっと、比屋定さん……?』

真帆『なに?』

倫子『それは、いったいなんの研究を?』

真帆『ナットウキナーゼが大脳辺縁系に及ぼす新たな効果の研究よ。私はこれでノーベル賞を狙っているの』

倫子『(ノーベル賞!!!!)』

Ama紅莉栖『というか先輩、悪いのは女たらしの岡部さんです。私には、非も落ち度もありません』

真帆『あー、はいはい、ワロスワロス。あれだけ色々言い訳してたくせに、結局女の子に目覚めちゃうAIの人って』

Ama紅莉栖『先輩だって人のこと言えないじゃないですか!』

744: 2016/06/30(木) 22:15:55.10 ID:1w5ur/k0o

真帆『あなたとは本質的に違うわ。私と岡部さんは一晩を共に過ごしたのよ? 体を慰め合ったのよ?』

倫子『へっ? ……あ、そうだったね、真帆。あれ?』

紅莉栖『わ、私とだってそうです! 先輩より倫子たんをペロペロしたのは先だったんですー!』

まゆり『それなら、まゆしぃのほうがクリスちゃんより先にキスをしたよー? それも2回も』エッヘヘー

フェイリス『フェイリスだって一緒に体洗いっこしたニャン! ベッドの中で、ゴニョゴニョもしたのニャ♪』

かがり『私も、オカリンさんと一緒にお風呂入ったー!』

るか『い、いいなぁ、かがりちゃん……』

鈴羽『あたしだって、リンリンにはオムツ替えてもらったりしてたんだからね! 赤ん坊の頃の話だけど……』

綯『凶真様! はい! 凶真様!』

萌郁『…………』ピロリン♪

倫子『"私だってアパートで泣いてる倫子ちゃんを抱きしめて、ケバブを食べた後一緒に夜を明かしたこともあるんだゾ☆ (≧▽≦)"……』

倫子『……なにこれ、修羅場?』ゴクリ

745: 2016/06/30(木) 22:16:34.98 ID:1w5ur/k0o

倫子『あ、あれ……突然、景色が変わって……』ドクン


パラララッ パララッ パラララッ

ウーウー カンカンカン

キュルルルルルルルルルルル ドゴォォォォォォッ!


るか『……そんな岡部さんが……ボクは……。…………』バタッ

フェイリス『凶真ぁ……るかが……るかがぁ……っ!』ポロポロ

萌郁『抵抗するなら、比屋定博士……この女を、頃す』

真帆『永遠に愛してるわ―――――――――』プシャァァァァーーーーッ

鈴羽『氏なないって言ってるだろ! たとえあたしがこの拳銃を椎名まゆりに向けて、引き金を引いたって―――』ガチャッ パァン!!

まゆり『やっと、まゆ……しぃ、は、……オカリンの……役に……立て……たよ……』バタッ

かがり『うわああああああああああああっ!!!!!!!! 氏ねっ! 氏ねぇっ!!』ザシュッ!! グサッ!!

綯『牧瀬は頃すわけにはいかないからな。足だけ潰してやるよ』ザシュッ

紅莉栖『こんな……終わり……イヤ……。たす……けて……』



倫子『な……なん、だよ、これ……っ』プルプル




  「きゃあああああああああああああああああ――――――――――――!」




・・・

746: 2016/06/30(木) 22:17:01.17 ID:1w5ur/k0o

倫子「――――っ!!」ガバッ

倫子「……うぅっ……うぐ……ひぐっ……」ポロポロ

倫子「はぁはぁ、はぁ……」グシグシ

倫子「最悪だ……頭が、おかしくなりそう……」ハァ

倫子「……汗びっしょり。パジャマ、洗濯機に入れないと。安定剤も飲まなきゃ」

倫子「――ん? 納豆の臭い……真帆のノーベル賞の正体はこれか」クンクン

倫子「でも、あれ? おふくろは確か今日、商店街の夏祭りの相談だかで、会議所に出かけているはず」

倫子「親父か? 珍しいな、あの堅物が料理するなんて」

747: 2016/06/30(木) 22:19:25.78 ID:1w5ur/k0o
台所


倫子「(替えの服、洗面所に置いといたのに無かったから、下着のままになっちゃった)」

倫子「親父、私の着替え、外に干してる――――!?」

まゆり「あ~、オカリン。トゥットゥルー。お洋服、着てきたほうがいいよ~?」トントントントン

倫子「まゆり――――」ダキッ

まゆり「ふぇ? わわっ! あ、危ないよ、ほーちょーほーちょー!」パタパタ

倫子「(良かった、まゆりが生きてる……)」グスッ

まゆり「……怖い夢でも見ちゃったのかな。ごめんね、まゆしぃが起こしてあげられなくて……」ギュッ

倫子「(制服エプロンとは、可愛い奴め。ダルには絶対に見せられないな……って!!)」クンクン

倫子「な、なな、なんで納豆にわかめとみかんとオクラを混ぜてるの!? いや微妙においしそうだけども!」

まゆり「えっへへ~、テレビでね、頭がよくなる料理っていうのをやってたから、オカリンに食べさせてあげようと思って」

倫子「……気持ちはありがたいけど、まゆりがそういうのに手を出すと凄惨な未来しか視えないから、その辺でやめておこう?」

まゆり「え~。これでも由季さんに鍛えてもらってるんだよ~?」グサッ グサッ

倫子「んもう、ほら。私も手伝うから。えっと、私のエプロンは……っと」

まゆり「わ~い、オカリンと一緒にお料理だ~♪ っていうかね、下着エプロンはレベル高すぎだお~」

倫子「ダルみたいなこと言ってないで。それ、取って。あと、それとそれも」

まゆり「はーい」

748: 2016/06/30(木) 22:20:16.18 ID:1w5ur/k0o

倫子「――はいっ、完成。うん、まゆりもよく頑張った」

まゆり「え、えへへ、まゆしぃはね、これでも、やればできる子なのです」テレッ

岡部父「おう、飯出来たか、まゆりちゃ――――倫子!? おめぇ、なんつーカッコしてんだ!?」

倫子「え? あ、ああ。今着替えてくるよ、汗も乾いたし」

岡部父「お、おま、裸エプロンて、いや、俺は父親だぞ、何をその、ぐわぁぁーーっ!?」

倫子「しっ、下着は着とるわ! このHENTAI親父がっ!」

まゆり「今のうちにコッソリスマホで写真を……」

倫子「まゆり? その右手は何かな?」ニコ

まゆり「あ、あはは、なんでもないのです……」

749: 2016/06/30(木) 22:21:19.20 ID:1w5ur/k0o

岡部父「美味い美味い! まゆりちゃんは、やっぱり最高だな!」

まゆり「で、でも、オカリンと由季さんのおかげなので~」モジモジ

倫子「何を企んでるんだ、親父?」

岡部父「そりゃおめぇ、ウチの嫁に来て貰うためだろうが」

倫子「ああ、はいはい嫁ね……嫁っ!?」

岡部父「だからなっ! 椎名の頑固親父にガツーンと一発言ってやってくれ! 倫子とまゆりちゃんはウチで暮らすんだってな!」

まゆり「お、おじさん!?」

岡部父「今日も椎名の野郎と喧嘩してきてな、あいつったらよ、倫子とまゆりちゃんは自分の家で暮らしてもらうっつって、聞かねえんだわ!」

倫子「(勝手に話が進んでいる!?)」

椎名父「おい岡部ぇ! 勝手なこと騒ぐな! 外まで聞こえてるぞ!」ガララッ

まゆり「お父さんっ!?」ビクッ

倫子「椎名のおじさんまで……おいおい……」

椎名父「ふたりはウチで幸せに暮らさせるって、母さんの遺言にあるんだからな!?」

まゆり「おばあちゃんの……?」

岡部父「嘘を吐くんじゃねえ! だったらショーコを見せてみやがれショーコを!」

椎名父「証拠の手紙は色ボケ親父が失くしちまった。けど、俺の記憶の中にはある!」

まゆり「まゆしぃがよく物を失くすのは、おじいちゃん譲りなのです……」

岡部父「んなもん、無ぇのと一緒だバッキャロー!」

倫子「(や、やかましい……!)」

750: 2016/06/30(木) 22:22:51.89 ID:1w5ur/k0o
池袋 サンシャイン60通り


倫子「結局逃げるように家を出てきてしまった……なんかごめんね、まゆり」

まゆり「ううん、ちょっとビックリしたけど、まゆしぃはちょっぴり嬉しかったよ……」

倫子「え? なに?」

まゆり「な、なんでもないのです。それにしてもオカリン、髪が伸びたねぇ、ゆるふわ系?」アセッ

倫子「鈴羽の髪と同じくらいの長さかな、髪を解いた時の。このくらいがさ、井崎とか教授先生方にウケがいいんだよね」

倫子「でも、こんなに暑いから、まゆりくらいに切っちゃいたいよ」アハハ

まゆり「そ、そうなんだ……」

倫子「しかしあのクソ親父、使いまでさせるとは、試験勉強中の娘をなんだと思ってるんだ。値札くらい自分で作れっての」

まゆり「でもね、まゆしぃ、キレイなイラスト入りPOPを作ってみたいから、お使い嫌じゃないよ?」

倫子「野菜の値段札と同人誌のを一緒にしないでね……というか、暑い、溶ける……」ハァハァ

まゆり「大丈夫、オカリン? ちょっと休む?」

倫子「うん、そうしよ……」グテーッ

751: 2016/06/30(木) 22:24:21.33 ID:1w5ur/k0o
スタベ


まゆり「オカリンオカリン、こうして週末に2人でお店に来ると、なんだかリア充さんみたいだね」

倫子「リア充も大変だよ。街で知り合いに会ったらすぐ笑顔を作らなくちゃ、って気を張ってないといけないし」ハァ

まゆり「大変だねぇ」

女性店員「ご注文をどうぞぉ♪ って、あれ? 倫子さん? やだー、ぐーぜーん!」

倫子「え? あ、お茶女のハナさんじゃないですかー! えー、ここでバイトしてるですか?」

まゆり「えっ……」

女性店員「そうなのー! ちょっと遠いんだけど、スタベでバイトするのに憧れちゃってさー」

倫子「ハナさん、制服すっごく似合ってますよ~!」

女性店員「ホントにー? 倫子ちゃんの服も可愛いよ~? あ、よかったら今度さ――」

まゆり「えっとぉ、まゆしぃは、アイス・マンゴーティにしようかな」

女性店員「あっ、ごめんなさーい。仕事しなきゃだねー」テヘッ

倫子「もう、ハナさんったらー。じゃ、私はカフェモカをアイスでー」

女性店員「サイズはいかがいたしましょうか? なんてー」

倫子「キまってますねー。それじゃ、ショートで。まゆりもそれでいいよね?」

まゆり「う、うん。いいよ~」

女性店員「ショート、アイス、カフェモカ、ワン! ショート、マンゴーティー、ワン! プリーズ!」

倫子「わぁ~、ぽいぽい!」パチパチ

まゆり「…………」

752: 2016/06/30(木) 22:25:14.38 ID:1w5ur/k0o

倫子「はぁ……」ジュゴー

まゆり「オカリン、疲れてない? 大丈夫?」

倫子「んまあ、昨日も遅くまで起きてたし……数学で、答え見ても理解できない問題があってさ……」

まゆり「そうじゃなくて、その……オカリンがね、女の子で居ることに、だよ」

倫子「え? いや、私は女だけど」

まゆり「ううん、そうじゃなくて、えっと、ね! だから、その……」

倫子「……"鳳凰院凶真"だった頃のほうが、楽だと思った?」

まゆり「あっ……うん」

倫子「今になって思えば、どっちもどっちかな。あっちはあっちで色々疲れることも多かったし」ジュゴー

倫子「それに、今の外面のほうがテニサーや研究室でウケはいいしね。未来に繋がることを考えたら、少しくらいは大変でも構わないよ」

まゆり「うん……そっかぁ」エヘヘ

753: 2016/06/30(木) 22:25:45.96 ID:1w5ur/k0o

まゆり「じゃあ、まゆしぃは絶対にオカリンと同じ大学に入って、テニス同好会に入らなきゃね!」

倫子「えっ?」

まゆり「そうしたら、テニスや合コンで頑張ってるオカリンを、フレー、フレーってそばで応援してあげられるから!」

倫子「あ、あはは。すごく嬉しいけど、合コンで応援されたら困るかなぁ」

まゆり「えぇ~、どうして?」

倫子「まゆりにはまだ早いっ」ツンッ

まゆり「むー。なんか、オカリンってばお母さんみたいだよー」ムスッ

倫子「ふふっ」

754: 2016/06/30(木) 22:27:49.69 ID:1w5ur/k0o
東京ハンズ 文具売り場


倫子「――これで全部かな。私が会計しとくから、その辺ブラブラしてきていいよ」

まゆり「えっ……あ、うん。わかったー。それじゃ、上の階のキャラグッズ売り場に行ってくるね」

倫子「うん」



上の階


倫子「(さて、まゆりは……お、いたいた)」

まゆり「オカリン、こっちこっち! 見て見てこれ!」

倫子「ん? 普通のうーぱ? メタルじゃなくて」

まゆり「ちっちっちー。違うんだな~。これはね、緑のうーぱさんだけど、普通とは違うの」

倫子「……あれ? でもこれ、どこかで見たことあるような……っ!」ドクン

倫子「(これ、未来でかがりが持ってたヤツだ! そっか、これをまゆりは未来で娘に……)」

まゆり「この前やってた映画に登場した、"緑の妖精さんうーぱ"なんだよ。CMで見たんじゃないかな?」

倫子「あ、うん。テレビでサブリミナル的に見てたのかも」アセッ

倫子「(かがりの居場所に繋がるかわからないけど、後で鈴羽にRINEで連絡しておこう)」

まゆり「その映画ではね、ばーちゃる世界で悪のハッカーたちとバトルをするんだけど、そのばーちゃる世界が"妖精さんの住む森"なんだー」

まゆり「それでね、それでね! ……! ……!? ……!!」

倫子「(……やっぱりまゆりもオタクなんだなぁ)」フフッ

755: 2016/06/30(木) 22:30:02.49 ID:1w5ur/k0o

まゆり「このキーホルダー、すっごく人気があって、どこのお店でも売り切れだったんだよ! しかも、これが最後の一個だったんだー」

倫子「よし。それ、貸して。私が買うよ」

まゆり「ええ? だ、だめだよぅ! これは、まゆしぃが先に見つけたのです~っ!」

倫子「違うわっ! 誰がお前の欲しがってるキーホルダーを横取りなんてするかっ!」

まゆり「じゃ、じゃあ、どういうこと……?」

倫子「いや、その……今日、食事を作ってくれたしさ、店の手伝いもしてくれるでしょ。このくらいのお礼はさせて」

まゆり「で、でも……」タジッ

倫子「普段から私、まゆりの世話になってるし……いろんな感謝の気持ちだから。本当はもっと高価で洒落た物のほうがいいんだろうけど」

まゆり「オカリン……」ジワッ

まゆり「ありがとう、オカリ~ン!」ダキッ

倫子「うおわっ!? や、や、やめて! こんな公衆の面前でっ!」カァァ


「あらあら、若いっていいわね~」

「あの子たち、可愛いね」

「ハァハァ……」


まゆり「えへへ、嬉しいな~。オカリンからのプレゼントだ~」ニコニコ

倫子「去年だってメタルうーぱをプレゼントしたでしょ! 嬉しいのは分かったから、離れてっ! 恥ずかしいーっ!」グイグイ

まゆり「まゆしぃね、これ、ずっとずっと大切にするね」エヘヘ

倫子「……今度は失くさないでね?」

まゆり「うんっ!」ニコ

倫子「(これから25年間も大事に持ってるなんて、まゆりは可愛いな)」フフッ

756: 2016/06/30(木) 22:30:46.86 ID:1w5ur/k0o

倫子「さてと、帰ろっか」

まゆり「お店のPOP作らなくちゃ!」

倫子「あー、その作業があったね……」

まゆり「オカリンはお勉強してて? まゆしぃがやるから」

倫子「いやいや、まゆりこそ勉強しなよ。受験生でしょ」

まゆり「だからー、POPを作った後で、まゆしぃの勉強を見て欲しいのです――――あっ」

倫子「ん? どうした?」

まゆり「ちょっと前にね、カエデちゃんからメールが来てたの。気付かなかった」ピッ

まゆり「えっ、嘘……」

倫子「どうしたの?」

まゆり「オカリン、前に言ったよね? フブキちゃんは、病気じゃないって」

倫子「う、うん。あれが病気だったら、私なんか重病人だもん」

まゆり「でも……見て、このメール」スッ



差出人:カエデちゃん
宛先:椎名まゆり
件名:ふぶきちゃんの件

フブキちゃんまた入院しちゃった。
これから行ってくる。病院ここ 
http://www.XXXXXXXXXX――

757: 2016/06/30(木) 22:32:22.71 ID:1w5ur/k0o
NR山手線内回り車内


ガタン ゴトン ガタン ゴトン

倫子「(どういうこと? リーディングシュタイナーによる記憶障害が悪化するような世界線変動は起きてないはずなのに……)」

まゆり「フブキちゃんが入院した病院って、たしか……」

倫子「……うん。私が前に入院してたとこ。あんまり良い噂を聞かないから、ちょっと心配だな」

倫子「(あそこは300人委員会と繋がってるって紅莉栖が言ってたから、SERNがリーディングシュタイナーの解明に乗り出した、とか?)」

倫子「(困ったな……時間は待ってくれない、か。こんな時に紅莉栖が、あるいは"紅莉栖"が側に居てくれたら……)」

倫子「(……そう言えば、この世界線での紅莉栖も、"栗悟飯とカメハメ波"だったんだよね?)」

倫子「(いや、まさか……検索したところで……)」ピッ ピッ


   "栗悟飯とカメハメ波"


倫子「あ、あった!!」ビクッ

まゆり「えっ? 何があったの?」

倫子「えっーと……フブキの病気に関するヒント、かな。いや、病気じゃないんだけど」

758: 2016/06/30(木) 22:34:38.90 ID:1w5ur/k0o

倫子「(2008年から@ちゃんに書き込んでる。にしても、書き込み過ぎでしょ、これ)」

倫子「(……タイムマシンに肯定的だ。この世界線では鈴羽が2000年――紅莉栖が父親と喧嘩別れする前――に世界線理論を提唱してたことが関係してるのかな)」

倫子「(最後の書き込みは……2010年7月27日、か。内容は、中鉢博士の記者会見を馬鹿にするレスに噛みついてるもの)」

倫子「(これを最後に……ん? いや、待って。これが最後じゃない? 2010年12月1日?)」

倫子「(この日はたしか、学園祭の翌日……レスも電機大に関する内容だ)」ゾクッ

倫子「(待て待て。じゃ、えっと、最新は? ……昨日の夜!? レス内容は相対性理論について、か……)」


409: 栗悟飯とカメハメ波
2011/6/24(金) 21:45:11 ID:m/7Co+RKO
>>401あなたはマイケルソン&モーリーの実験をベースに
相対性理論が導かれたとか言っちゃう一派でしたか
どうも話が合わないと思いました
初歩から出直せwwwうぇwっうぇww
>>405鳳凰院ちゃんを呼べ話はそれからだ


倫子「(……相変わらずクソコテだなぁ。人工知能のくせにわざとタイプミスするとか)」フフッ

倫子「(一応なりすましの可能性もあるけど……コンタクトを取って確認してみようか?)」

倫子「(ハンネは、鳳凰院凶真でもいいけど……いや、ここは)」ピッ ピッ


名前 サリエリの隣人
ほほう、香ばしいのがまぎれこんでいるな
確かにあの実験はエーテルの存在を確かめるためのものでしかなかったが
アインシュタインの一助となったのは否定出来まい
結果的に見れば同理論の元と解釈してもいいのだ
そっちこそ出直すがいい
      <<書き込みをする>>


倫子「(このやりとり、懐かしいなぁ。あの時は紅莉栖に論破されたから、今回も間違いなく――)」

倫子「さぁて……あとは、レスキネン教授か真帆が"Amadeus"をいつ立ち上げるか、だ」

759: 2016/06/30(木) 22:35:40.89 ID:1w5ur/k0o
AH東京総合病院付属 先端医療センター


倫子「(私やまゆりが前入院した病棟とは別の建物か……。って、まゆりの入院は無かったことになったんだった)」

倫子「(さっきネットで調べたけど、フブキ同様、日本中の新型脳炎患者はここに集められてるらしい)」

倫子「(……思ったより、綺麗で良いところだった。300人委員会との繋がりがあるなんて、やっぱり妄想だったんだろうか)」

カエデ「まゆりちゃん、オカリンさんっ」

由季「こっちですっ」

まゆり「フブキちゃんは?」オロオロ

由季「……大丈夫だよ、ママ」ダキッ

まゆり「わふ、え? ママ?」キョトン

由季「え? あ、いえ! 私ったら、とんでもない言い間違いを……」カァァ

倫子「ふふっ。由季さんでも、そういうことってあるんだね」

カエデ「みんな、慌てさせちゃってごめんね。私も、もっとちゃんと確認してからメールすればよかった」シュン

倫子「ってことは、フブキの容体は……」

カエデ「はい。例の病気が悪化したとかじゃないそうです」

倫子「じゃあ、また検査入院なんだ」

カエデ「はい、そう言ってました。だから全然心配ないって」

まゆり「な、なんだぁ。はぁぁ……よかったぁ……」ホッ

760: 2016/06/30(木) 22:37:09.44 ID:1w5ur/k0o

カエデ「フブキちゃん、今、MRなんとかっていう検査をしてるの。終わったらフブキちゃんのお母さんが声かけてくれるって」

まゆり「うん」

倫子「それにしても、先端医療センターって、こんなすごいところだったんだね。検査費用は国が?」

カエデ「フブキちゃんのお母さんの話だと、日本とアメリカ政府がお金を出して、新しい治療のプロジェクトを始めるみたいなんです」

倫子「アメリカ? フランスやロシアじゃなくて?」

カエデ「えっ? は、はい」

倫子「(そっか、それならまだ大丈夫なのかな……)」


??「だから、何度言えばいいのです? 患者は全員、個室にして下さい。それも、患者同士が接触しないよう!」

老医師「ですから、何度もご説明してます通り――」


倫子「あっ!! きょ、教授!? レスキネン教授!」

レスキネン「オー! リンコー!」ダキ――

由季「待って! ……びょ、病院内では、お静かに」グググ

倫子「(ひえっ……あの巨漢に締め上げられる直前に、由季さんが間に入ってなんとか止めてくれた)」ホッ

倫子「(由季さんって結構力持ちなんだな……まあ、あの鈴羽の母親ならさもありなん、ってところか)」

レスキネン「おおっと! これは失礼! つい嬉しくてね、許しておくれ」

761: 2016/06/30(木) 22:38:32.26 ID:1w5ur/k0o

老医師「教授、このお嬢さんは?」

レスキネン「彼女は、あのクリス・マキセの後継者ですよ。いずれ、私の研究室にも来てもらうつもりです」

倫子「――えっ!?」ビクッ

老医師「なんと、そうかそうか。いやあ、こんなに美人な天才君がもうひとり居たとは。日本の、いや、世界の将来も明るいね」

倫子「あ、ありがとう、ございます……」

老医師「それじゃ、私はこれで。病室の手配をなんとかしてきますから」

レスキネン「よろしくお願いしますよ、院長先生」

倫子「(今の人、院長だったのか……) ちょっと教授! ウソはやめてくださいっ」

レスキネン「おや? 私はウソなんてついたかな? それとも、君は我が校に来る自信がないと?」

倫子「い、いえ……というか、その肩書は真帆に悪い気が……」

レスキネン「彼女はクリスの前任者でありセンパイだ。後継者と呼ぶべきではないと思うけどね」

倫子「なるほど……。あの、真帆も日本に?」

レスキネン「いや、今回は彼女はアメリカに居てもらったよ。昨年末から年始にかけて、物騒な事件にも巻き込まれてしまったしね」

762: 2016/06/30(木) 22:39:53.52 ID:1w5ur/k0o

レスキネン「で、リンコ? 君はどこか具合でも悪いのかい?」

倫子「えっ? あ、いえ! 今日はその、入院してる友人の見舞いで」

レスキネン「そうだったか。いや、君が怪我や病気をしたのではないかと、少し心配になってしまってね」

倫子「教授こそ、ここで何を?」

レスキネン「君も知っているだろう? 例の新型脳炎の件だよ」

倫子「あ……」

レスキネン「アメリカ政府の依頼で、精神生理学研究所が治療法を研究していたんだが、私にもお鉢が回ってきた、ということさ」ヤレヤレ

倫子「じ、実は、その、私がお見舞いに来た友人、中瀬克美っていうのが、その新型脳炎で――」

レスキネン「……ふむ。それは心配だね。我々も、日本の医師団も研究を進めては居るんだが、未知の現象ばかりでね……」

レスキネン「実はね、さっきミス・ナカセをMRIに見送ったんだが、彼女がなかなか興味深いことを言っていたんだよ」

レスキネン「『自分たちは病気じゃない。リーディングなんとかっていう特殊能力で、別の並行世界の出来事を夢で見ることができるのだ』、と」

倫子「(あ、あのバカ……っ!!)」アセッ

763: 2016/06/30(木) 22:40:47.65 ID:1w5ur/k0o

倫子「彼女はその、厨二病というか、妄想癖があるというか、ゲームと現実の区別がつかないというか……(ごめんフブキ)」

レスキネン「だが、私も調べていくうちに、実はそれが正しいんじゃないかと疑うようになってきたんだよ。まあ、この仮説は"非科学的"ではあるが」

検査技師「すいません、レスキネン教授! ちょっと!」

レスキネン「まったく、日本に来てから乾く暇も無いね。それじゃ、リンコ。また」

倫子「あ、はい! 失礼しますっ!」

まゆり「ふわぁ……なんか、すっごくおっきな人だったねー。まゆしぃ、ビックリしちゃったのです」トテトテ

倫子「(……ふぅ。私、柄にもなく緊張してたな、教授の前で)」

倫子「(まだ教授の前でリーディングシュタイナーについて、説明はできない。鈴羽に釘を刺されてるのもあるけど、そもそもどう説明していいのかがわからない)」

倫子「(だから、この案件は自分が研究者になって科学的な解を、と思ってたんだけど……間に合うかな……)」

764: 2016/06/30(木) 22:41:33.78 ID:1w5ur/k0o

・・・

カエデ「フブキちゃん、たくさん愚痴ってましたね。あれだけ元気なら大丈夫そうです」ニコ

由季「それじゃ、私はこれからバイトがあるので」

まゆり「うんっ、メイクイーンでのご奉仕、頑張ってニャン♪」

由季「頑張るニャン♪」

倫子「(そういや、まゆりと由季さんは同僚ってことになるのか。ていうかこの人、3月に大学を卒業してから就活浪人中なのか? 怖くて聞けないけど)」

まゆり「じゃ、まゆしぃたちも池袋に帰ろう?」

倫子「うん、そうだね」

765: 2016/06/30(木) 22:42:51.00 ID:1w5ur/k0o
NR山手線外周り車内


まゆり「がたんごと~ん、しんかんせ~ん」

倫子「小学生か、お前は。どこにも新幹線いないだろ?」

まゆり「えっへへ~、オカリンのツッコミはちょっと男の子っぽいよね」ニコニコ

倫子「(まさかわざとなのか、こいつ?)」

倫子「(そう言えば、昼間エサを撒いておいたあのカキコミはどうなって――?)」ピッ

倫子「あ……!」

まゆり「なになに? ふぃっつ、ジェラード?」


429:栗悟飯とカメハメ波
2011/6/25(土) 17:40:26 ID:m/7Co+RKO
>>409おいおい
あの実験を元にして仮説を立てたのは
フィッツジェラルドとローレンツだ
アインシュタイン自身は関係ないと言っている
>>423鳳凰院ちゃんのなりすましは漏れが許さない絶対にだ


倫子「(見事に釣れたな……ってか、私のなりすましが出没してるのか。8割がた"紅莉栖"のせいだろうけど)」


名前 サリエリの隣人
>>429この論破厨めwww
相変わらず屁理屈だけは得意だなwww
貴様はモーツァルトか?
     <<書き込みをする>>


倫子「(このカキコミには動揺せざるを得ないでしょ)」フフフ

まゆり「知り合いなの? その、栗ご飯さんって」

倫子「……まあね。古くからの知り合いだよ、たぶん」

766: 2016/06/30(木) 22:43:42.23 ID:1w5ur/k0o

430:深遠なる名無しさん:2011/6/25(土) 18:23:26 ID:TSYIoKp80
なに言ってだこいつ

431:深遠なる名無しさん:2011/6/25(土) 18:23:26 ID:137wMXu80
>>424
そもそも2036年には地球が滅びてるんじゃね?

432:深遠なる名無しさん:2011/6/25(土) 18:23:26 ID: E11ful9Co
荒木の顔は老けましたか?
富樫は連載再開しましたか?

433:深遠なる名無しさん:2011/6/25(土) 18:23:26 ID: FSkwAfjtP
>>386
ピンク髪のヒロインに当たりはいないと何度いえば
おっと、頼んでないのに蕎麦屋の出前が…

434:栗悟飯とカメハメ波:2011/6/25(土) 18:25:16 ID:m/7Co+RKO
>>430 あなた、いったい誰?

767: 2016/06/30(木) 22:45:27.46 ID:1w5ur/k0o
同日 日本時間19時30分
未来ガジェット研究所


ダル「真帆たんオッスオッス……ちょ、真帆たん、だいじょぶなん? いつもにまして不健康そうだけど」

真帆『……おはよう。次真帆たんって呼んだら、この画面から出ていって呪い頃してあげるわ』

ダル「ひぃぃぃ――っ! ジャパニーズホラーじゃねーか! ま、まあ、なんだかんだ呼ばれ慣れてる真帆□!」

鈴羽「どう、ク、比屋定さんとのビデオチャットの状況は。外部に漏れてない?」

ダル「完璧だお! 僕が知る限り、世界で一番超セキュア! な方法取ってるし」フフン

鈴羽「うん、このビルの周辺も大丈夫。それじゃ、通話を許可する」

鈴羽「第13回、ワルキューレ定例会議、開始」

真帆『……そっちの進展はどう?』

ダル「なんとか分解する前の状態に組み立て直したお。機能はほぼ再現できてると思われ……るんだけど……」

真帆『……うまくいかないの?』

ダル「うん、なんか安定しないっつーか。放電現象が起きなくてさ、フツーの遠隔操作式電子レンジになっちゃう時のが多い」

真帆『……その辺のところ、岡部さんに訊ければいいんだけど、無理でしょうね。私たちが影でこんなことしてるというだけでも泣かせてしまいそうだわ』

ダル「でも、嫌われるの覚悟でやってるんしょ? 真帆たん」

真帆『……ええ。それが岡部さんのためになるって、信じてるから』

768: 2016/06/30(木) 22:46:11.17 ID:1w5ur/k0o

真帆『……ぐぅ』zzz

ダル「ちょ、真帆たん、寝落ちかお!」

真帆『ふわぁっ!?』ドンガラガッシャーン

鈴羽「あーあ、また派手に転んで……」

真帆『……あ、危なかったわっ。出勤前なのに二度寝してしまうところだった』

ダル「つーか、頑張りすぎだお。無理して身体壊したら意味なくね?」

真帆『このくらい平気よ。これだけやっても、まだ"天才"にはかなわないんだから』

真帆『それに、鈴羽さんの理論が正しければ、たとえ私が身体を壊しても、いずれ再構成されるんでしょ?』

鈴羽「そりゃ、長いスパンで見ればそうですけど、明日にでも病院送りになりそうな人を前にそんなこと言えませんよ」

鈴羽「あなたには、2030年代まで戦ってもらわないと困る」

真帆『でも、まだ人間の記憶データを数KBに圧縮する方法すら見つかってないのよ? 紅莉栖はやってのけたのに……』イライラ

ダル「あう……」

真帆『ご、ごめんなさい、愚痴をこぼしてる暇なんて無かったわね。今日の報告、他になにかあるかしら?』

769: 2016/06/30(木) 22:49:56.55 ID:1w5ur/k0o

ダル「あ、もうひとつ報告あるお。前に調べて欲しいって頼まれてた件について」

ダル「前に真帆氏たちが地下駐車場で襲われた事件。あれの情報操作がすげー過激なんだよねぇ」

真帆『え? あの、表向きにはカルト教団の男が違法薬物で錯乱してどうの、ってやつでしょ?』

ダル「犯人の身元は警察発表通り、某大学の准教授でカトーって名前。ここはいいんだけど、そんな人物、どの教団にも所属してなかった」

ダル「@ちゃん見てるとさ、信者らしいのが"教団は無実だ"ってカキコするんだよ。そうすると一瞬でものすごい数の教団アンチが沸いてくるっつー」

ダル「@ちゃん含めてさ、たいていの大手サイトには24時間、ビジネスとして工作員が張り付いてるもんなんだお。で、あの事件、調べたらものすごい数の工作員が導入されてた」

ダル「僕のバイト先が襲われた事件も同じ」

真帆『……っ!』

ダル「試しに目撃者を装って、ロシアの特殊部隊を見たってスレ立てたらさ、まぁ、すごいのなんの。炎上しすぎて笑っちゃったお」

真帆『紅莉栖の事件をもみ消したのも含めて……一体、誰がお金と人を動かしているのかしらね』

ダル「それについても、僕のバイトのクライアントからちょちょいっと盗んだ情報なんだけどさ……」

ダル「――どっかの300人委員会メンバーが動いてるらしい」

真帆『出たわね、その名前』

770: 2016/06/30(木) 22:50:58.55 ID:1w5ur/k0o

ダル「やつらもバカじゃないから、情報をおおっぴろげにはしてない罠」

ダル「それに、300人委員会以外も動いてるはず。色んな組織が色んな動きしてるし、ひとつの組織でも一枚岩じゃないから、詳しいことはハッキングじゃわからんちん」

ダル「だから、もうひとつの方法でアプローチしてみてる」

真帆『……もうひとつの方法?』

ダル「真帆たん、真帆たん。世界最強のハッカーでも解けないパスワードを入手する方法って、なんだかわかる?」

真帆『……パスワードを知ってる人間の口を割る、ってことね』

ダル「そそ。だから今、300人委員会関係者の親戚とか、地縁関係を持った人間を当たってるところ」

ダル「そしたらちょうどいい人材が日本に居たんだよね。有名な委員会メンバーの息子でありながら、父親に反感を持ってるのが」

ダル「そいつを頼ってなんとか委員会の情報を引き出してみるお」

鈴羽「父さんにあんまり危険なことはしてほしくなかったけど、うん、あたしが全力で父さんたちを守るよ」

ダル「うまく行けば、僕たちの、いや、牧瀬氏の事件の裏で、何がどう動いてるのか、ハッキリクッキリまる見えになっちゃうんだぜ、ハァハァ」

ダル「そしたら後はいくらでも情報操作し放題。ゆっくり腰を据えてタイムマシン開発をするなら、まずは地盤を固めないとね」

771: 2016/06/30(木) 22:52:15.47 ID:1w5ur/k0o

真帆『……ありがとう。くれぐれも気を付けて。それじゃあ、そろそろ出かけるわね』

ダル「あ、真帆氏? 研究所から来日の許可っていつ下りそうなん?」

真帆『それが、何回も申請しているのだけれど、却下の連続なのよ』ハァ

真帆『いいわ、こっちにも考えがある――まぁ、とにかく近々そっちへ行くわ』ガタッ

ダル「ちょっ、あのさ、真帆氏? 出掛けるなら、もう1回、鏡を見てからにした方がいいと思うお」

ダル「……ブ、ブブ、ブラウスが、は、はだけてるでござるよ」ハァハァ

真帆『へ? ……きゃああっ!? き、気付いてたんなら最初に言いなさいっ、このHENTAIっ!』ウワァン

ダル「あぁ……いいよぉ、萌え萌えだよぉ……」タラーッ

ダル「って、危なっ! 危なすぐるっ! 鈴羽の母親が、もうちょっとで真帆たんになってしまうところだった!」

鈴羽「そんなことになったら世界線が変わっちゃうけど、でも"あたし"という意識が生まれることはOR物質に関する因果律で保証されるから、遺伝子的には違う"あたし"が誕生する……?」

真帆『……くだらないことを真面目に考えるなんて、あなたにも研究者の素質があるかも知れないわね、"橋田鈴羽さん"』

ダル「理論にしても開発にしても陰謀にしても、やっぱオカリンの協力がないとなー」

鈴羽「結局、そこなんだよね。リンリン……やっぱり、無理なのかな……」

772: 2016/06/30(木) 22:52:56.53 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「――会議終了。今回もお疲れ様、父さん」

ダル「乙。いやあ、鈴羽という清涼剤があるからこそ僕は毎日頑張れるお」

鈴羽「あたしじゃなくて母さんと仲良くしてほしいんだけどな」

ダル「あ~、なんつ~の? タイムマシンよりも難題?」

鈴羽「ちょっとー! 困るよ、父さんっ」

ダル「う、うん……パパ、頑張るからね」

鈴羽「いっつも口ばっかり。いい、父さん? あたし、いつまでもこうやってお説教出来ないんだからね?」

鈴羽「……もうすぐ、行っちゃうんだよ?」

ダル「あ……」

鈴羽「だから、そういう顔もやめる。約束したはずだよ、もう迷うのは無しにしようって」

ダル「けどさ、寂しいもんは寂しいんだお……6年後にまた会えるって言ってもさ……」

鈴羽「……あたし、シャワー浴びてくる。その間に、母さんにメールして。予定の空いてる日曜とかないか、訊いといて」

鈴羽「で、空いてたら、僕と2人で映画行きませんか? って返信すること」

ダル「げー!? いきなりハードル高杉!」

鈴羽「高校時代から可愛い女の子とつるんでた人間の発言とは思えないなぁ……それで、返事は?」ギロッ

ダル「サー、イエス、サー!」ビシィ!!

773: 2016/06/30(木) 22:53:22.89 ID:1w5ur/k0o

ダル「あのぉ……すみません。メールは必ずしますんで、その前にちょっとだけコンビニに行ってきてもよろしいでしょうか?」

鈴羽「買い出し?」

ダル「今夜も徹夜になりそうだし、遅くならないうちに、と思いまして……」

鈴羽「……あたし、シャワー出たらアイス食べたい。バニラ」

ダル「……ホッ。ようし、わかったお! 超高級バニラを、キンキンの冷え冷えでお届けするのだぜ!」ダッ

鈴羽「あっ! 普通のでいいからねー!」

ガチャ キィィ……

コツッ

ダル「……ん? なんぞこれ?」ヒョイッ

774: 2016/06/30(木) 22:54:05.77 ID:1w5ur/k0o

ダル「うーぱのキーホルダー? ああ、チェーンが劣化して切れちゃったんだな。まゆ氏のかな?」

鈴羽「どうかしたの? ……それ、確かどこかで――――っ!!」ドクンッ

鈴羽「さっき、リンリンから画像付きでRINEに送られてきたのと、一緒のヤツだ……」ワナワナ

鈴羽「でも、古びてる……ってことは、これ……かがりの……?」プルプル

ダル「かがり、って……未来のまゆ氏の娘の?」

鈴羽「……うん」

ダル「それがなんでここに?」

鈴羽「あいつ……このラボも監視してるんだ」ゾワッ


―――――

   『世界を変えちゃいけないんだ! おねーちゃんはおかしいコト言ってる!』

   『かがりは元の世界に戻りたいだけだもんっ』

   『この世界を消すなんてダメだよっ! 絶対にやらせないからっ!』

―――――


鈴羽「ちょっと考えれば当たり前のことだったんだ。あいつは、あたしたちがシュタインズゲートに到達するのを阻止しようとしてる」グッ

鈴羽「あたしだけじゃなく、父さんもマークしてるかもしれない」

ダル「まゆ氏の娘に狙われるとか、全然緊張感わかない件について」

鈴羽「13年間行方不明になってたのに、こうしてあたしに気配を悟られることなくずっとあたしたちの側に居たんだ」

ダル「う、うおう……それは確かにヤバイ」

鈴羽「それでも、鎖の経年劣化、っていう、時間の摂理にだけは逆らえなかったみたいだけどね」

775: 2016/06/30(木) 22:55:07.62 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「警戒レベルを上げたほうが良い。あと、それはあたしに預からせて」

ダル「うん。あ、でも、それならコンビニ行くの、やめるお」

鈴羽「うーん……父さんの命に危険は無いはずだけど、シュタインズゲートから遠ざけられることは避けたいし……」

ダル「なんなら一緒にシャワー浴びる?」ハァハァ

鈴羽「父さんになら身体を見られても別にいいんだけどさ、ここだと容積的に無理じゃない?」

ダル「ぐはっ! よおし、父さん、今日から痩せまくるんだからね……」ゴゴゴ

鈴羽「(でも、このまま守りに徹していいのか? もうあんまり時間は無いのに)」

鈴羽「(それならいっそのこと、釣ってみるか……"リンリン"が買ったっていう、コレで)」

鈴羽「……父さん。やっぱり、コンビニに行ってきて」

ダル「え? なんで?」

鈴羽「ちょっとあたしに考えがある――――」

776: 2016/06/30(木) 22:55:33.24 ID:1w5ur/k0o
シャワールーム


シャー キュッキュ

鈴羽「(サプレッサー付きオートマティック拳銃をソファの裏に隠してある。この狭い場所なら32口径が取り回しが良い)」

鈴羽「(そろそろか……? 談話室との間仕切りカーテンを少し開けて……)」

鈴羽「(……部屋の電気が消えてる。いや、消されてるんだ)」


……ミシッ……


鈴羽「(ビンゴ……! 開発室の奥だっ!)」ダッ


タッ タッ タッ! パシッ! クルッ!


鈴羽「そこまでだ。おかしな真似をしたら撃つ」スチャッ

鈴羽「――――探し物はコレか? "椎名かがり"」スッ

かがり「…………」

777: 2016/06/30(木) 22:56:04.17 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「なぁ? 落としたらダメじゃないか。ママからもらった大切な物だろう?」

鈴羽「それに、お前は知らないだろうけど、これはリンリンが買ったものなんだ。粗末にするなんて、あたしには許せないよ」

鈴羽「この暑いのに、よくそんな格好をしていられるな? ヘルメットだけでも取ったらどうだ?」

かがり「…………」

鈴羽「だんまり、か。背中に隠してるナイフであたしを倒す算段でもしてるのか?」

鈴羽「無理だよ。マシンの中でベソベソ泣いてた子どもにはな」

鈴羽「ほら、どうした? 取りに来なよ。要らないなら捨てるぞ?」

かがり「"……鈴羽おねえ、ちゃ……お願い、返し、て……"」グスッ

鈴羽「(変声器? いや、録音を流してるのか?) ……かがり、お前、どういうつもりだ……?」

かがり「"お願い、返して、お願い……"」ヒグッ

鈴羽「…………」

778: 2016/06/30(木) 22:56:55.36 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「(よく考えて見れば、かがりはまだ何もしていない。確かにラジ館屋上で話を聞かれたことはあったが……)」

鈴羽「(あの時、訓練されたプロの動きを見せた。訓練の目的は、ワルキューレの妨害だろう)」

鈴羽「(だけど、もし本気で妨害したいならあのタイムマシンを破壊したいはずだ。なのに、未だ破壊には至っていない)」

鈴羽「(たとえ収束のせいで破壊ができないのだとしても、現状からして、まだ他の誰にもあのタイムマシンの場所を教えたりしてないことだけは確かだ)」

鈴羽「(かがりは椎名まゆりの娘であり、あたしの妹分。もし話せばわかるっていうなら――)」

鈴羽「……わかった、これは返す。ただし、今後あたしたちワルキューレの邪魔をするようなことはやめろ」

鈴羽「お前が望むなら、椎名まゆりと引き合わせてやってもいい。13年前のことを水に流してやってもいい」

鈴羽「お前がどこで何をやってきたのか、今何をしてるのか……言いたくないなら、言わなくてもいい」

鈴羽「まずはナイフを捨てろ」

かがり「…………」スッ

鈴羽「(ナイフを床に置いた?)」

かがり「"……お願い、返して、お願い……"」

779: 2016/06/30(木) 22:57:39.18 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「……銃を向けて悪かったよ、かがり。お前のことを勘違いしてた」スッ

鈴羽「椎名まゆりの時も、リンリンの時も、人に銃を向けて、後悔してばかりだな、あたし……」

鈴羽「……正直言うと、ずっとお前に謝りたかったんだ。13年間、ひとりぼっちにして、お姉ちゃん失格だな」

鈴羽「……ごめん、かがり。知らない時代にお前を置き去りにして、ホントにごめん」

かがり「…………」

鈴羽「……赦してくれるとは、思ってない。それで構わない」

鈴羽「きっと今のかがりには、ここに居れない理由があるんだろ?」

鈴羽「そのヘルメットを取れない理由とか、あたしに肉声を聞かせられない理由とかさ」

かがり「…………」

鈴羽「ほら、これ。大切なものを、落としたりしちゃダメだろ?」スッ

かがり「…………」ギュッ

鈴羽「……父さんが帰ってくる前に、行きなよ」

かがり「……ううっ!?」ガクッ

鈴羽「っ!? どうしたかがり!? 頭を押さえて、痛むのか!?」オロオロ

かがり「いや……いやだ……う、うう……」プルプル

かがり「――――うああああああっ!!!」ドゴォ!!

鈴羽「――ぐふっ!?」メキッ

780: 2016/06/30(木) 22:58:22.73 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「(くそ、肋骨を持っていかれた……! 殺気の籠ったパンチだ……っ)」フラッ

鈴羽「(雰囲気が急変した? やっぱりコイツの目的は――)」グッ

鈴羽「(……信じたあたしが、バカだった! 失敗したっ!)」ギリッ

鈴羽「お前ぇぇぇっ!!!」シュバッ!!

かがり「ぐはぁっ!」バターンッ! ボギッ!

かがり「はぁんっ!!」ビクンッ

鈴羽「はぁ、はぁ……あたしの蹴りを食らって、もろに倒れたみたいだな……」

鈴羽「右肩の関節が外れたか? これでもうナイフは使えないだろ……」

鈴羽「マウントを取って、首を捉えた。お前の負けだ、かがり」グググ

かがり「ぐ、くっ……!」グググ

鈴羽「(こいつ、抵抗する気か……すごい力だ! いったいどんな訓練を受けてきたっていうんだ!?)」

鈴羽「(このまま頃すしか、ない……!)」グググ

781: 2016/06/30(木) 22:58:53.04 ID:1w5ur/k0o

かがり「鈴羽、おねえちゃ……痛い……苦し……気持ちい……」ハァハァ

鈴羽「またそうやって……卑怯な真似を……っ!!」グググ

鈴羽「今すぐ頃してやるよ、椎名かがりっ!!」ギロッ


ダル「おおーい、鈴羽ー? なんかすごい音したけど――」ガチャ


鈴羽「っ!? 父さんっ!?」ビクッ

かがり「っ!!」ブンッ!!

鈴羽「ぐは……っ」ヨロッ

鈴羽「(このあたしが、肩の外れた女に力任せに突き飛ばされるなんて……ガードが間に合わなかったら落ちてたな……っ)」

かがり「っ!」タッ タッ タッ


ダル「う、うわあぁっ!?」


鈴羽「父さんっ!!」


かがり「……っ」タッ タッ タッ


タッ タッ タッ …

782: 2016/06/30(木) 23:09:38.35 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「逃がすかぁっ!!」ダッ

ダル「ちょ!? 鈴羽、ちょっとタンマタンマ!」ガシッ

鈴羽「父さんどいて! ソイツ殺せないっ!!」

ダル「ぜっ、全裸で街ん中走るとか! どんな露出プレイかと小一時間!」

鈴羽「そんなこと言ってる場合じゃ――」

ダル「彼女を捕まえる前に、鈴羽が警察に捕まるっつーの!」

鈴羽「く……!」ピタッ


・・・


ダル「……今のって、かがり氏?」

鈴羽「……間違いない」

ダル「そっか」

鈴羽「……結局、こうなっちゃうんだな……。13年前と、何も変わらない……」

鈴羽「失敗した……」グッ

783: 2016/06/30(木) 23:10:28.85 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「あたしさ、あの子のこと、本当に好きだったんだ……」

鈴羽「小さくても勇敢で、椎名まゆりのためにいつも頑張ってて、あたしもそんな彼女に色々なことを教えた」

鈴羽「"リンリン"から習ったことを、今度はあたしが彼女に教えるんだって、少し嬉しかった」

鈴羽「妹みたいに、思ってたんだ。今はあたしより年上だけど」

鈴羽「けど……あいつはもう、完全に、敵だ」グッ

ダル「……僕さ、さっきは驚いちゃったけど、でも、怖がる必要なかったんじゃないかなって」

鈴羽「え……?」

ダル「僕とすれ違う時、ほんの少しだけど聞こえたんだよ」

ダル「彼女、たぶん……泣いてた」

鈴羽「そんな……なんで……」

ダル「決めつけるのは、まだ早いんと違うん? だって鈴羽の大切な妹なんだろ?」

ダル「"鳳凰院凶真"だったらさ、きっと最後まで可能性を捨てないと思うのだぜ?」

鈴羽「……アイス、買ってきてくれた?」

ダル「え? ああ、もちろんだお!」

鈴羽「食べたいな……あたし、ちょっと疲れちゃっ、た」ガクン

ダル「わぁっ!? お、おいっ、鈴羽っ? 鈴羽――――」

784: 2016/06/30(木) 23:11:01.54 ID:1w5ur/k0o
2011年7月3日日曜日
成田空港 国際線ターミナル到着ロビー


真帆「……まったくもうっ! パスポートの偽造なんかしてないわよっ!」プンプン

倫子「真帆、久しぶり。なんとか入国できたみたいだね」フフッ

真帆「ふあ? あ、あ、あ、あなたっ?」ドキッ

倫子「まあ、結構チャットはしてたし、そんなに久しぶりって気はしないけどさ」

真帆「まさか、迎えに来てくれてるなんて……。こんなサプライズ、初めてよ……」ドキドキ

フェイリス「オカリンがまほニャンの初めてを奪っちゃったニャ?」

真帆「ふぉ!? あ、あなたも居たの?」ビクッ

まゆり「まゆしぃも居るよーっ! まほニャンちゃん、まゆしぃの服、着てくれたんだねー! うれしいよぉ~♪」

倫子「(真帆の体型プラスまゆりの服だと、より一層中学生に……小学生に? 見えるなぁ)」

真帆「まゆりさんっ! また会えて嬉しいけど、その呼び方はやめて……」カァァ

フェイリス「それじゃ、黒木の運転でアキバまでレッツゴーなのニャ!」

785: 2016/06/30(木) 23:12:03.40 ID:1w5ur/k0o
リムジン車内


真帆「すごい車ね……さすがフェイリスさん……」

倫子「こうして迎えに来てあげないと、秋葉原まで来れなさそうだったよね」

真帆「し、失礼ね! 私はそんなに頼りなくないわっ」

倫子「ふふっ。それで、真帆。今回はどうして来日したの?」

倫子「チャットでは秋葉原に来ることしか教えてもらえなかったから。やっぱり教授の助手として?」

真帆「あー、ええっと……岡部さんはレスキネン教授とはけっこう連絡を取り合っているの?」

倫子「うん。教授、ずっとこっちで新型脳炎の研究をしてるでしょ? たまに食事に誘ってもらったりして……すごく光栄だよ」

真帆「(こ、これはまずいわ……下手をすると嘘がバレてしまう……)」

真帆「ええと、実はね、沖縄の親類のところへ行くの」

倫子「沖縄?」

倫子「(……あんまり良い想い出は無いな)」ゾクッ

真帆「ええ。でもせっかくだから、その前にアキハバラにも寄ってみようかと思って」

フェイリス「愛しのリンコちゃんに会いたかったからかニャ?」ニュフフ

真帆「……あなたねぇ」ハァ

フェイリス「ホテルがまだ決まってないなら、このままフェイリスのおウチに来るといいニャ!」

真帆「えっ? でも、そんなの悪いわ」

倫子「その格好で秋葉原を出歩いたら、間違いなく児童誘拐されるよ。外国人とかに」

まゆり「そうだよ~、東京は怖いところなんだよ~? お持ち帰りされちゃうよ~?」

真帆「うっ、成人なのにそんなことになったら恥ずかしすぎる……」

786: 2016/06/30(木) 23:14:29.57 ID:1w5ur/k0o

倫子「フェイリスはあれで実は寂しがり屋だから、一緒に居てあげて」ヒソヒソ

真帆「そ、そうなの? ……なら、フェイリスさんのお言葉に甘えさせていただく……わ……ふわぁ」ウトウト

フェイリス「時差ボケかニャ? まほニャン、横になって寝ちゃうといいニャ。着いたら起こしてあげるから」

真帆「えっ? でも、なんだか行儀が悪いし……」

フェイリス「リンコちゃんのひざまくらを堪能するまたとないチャンスニャぞ~?」ニュフフ

倫子「そのリンコちゃんって言うのやめて」

まゆり「でもね、オカリンのひざまくらは、ブラックマーケットで高レートで取引されるシロモノなんだよ~?」

真帆「そ、それは確かに、貴重なサンプルデータかも……」ドキドキ

倫子「真帆まで悪ノリして……まあ、別に真帆ならいいけどさ。ほらっ」

真帆「そ、そそ、それじゃ、お言葉に、甘えて……」スッ

真帆「……すぅ」zzz

倫子「相当疲れてたんだね」ナデナデ

フェイリス「本当にまほニャンは仔猫みたいだニャ」

まゆり「寝顔がと~っても可愛いのです♪」

787: 2016/06/30(木) 23:15:20.41 ID:1w5ur/k0o
一方その頃
未来ガジェット研究所


ダル「うおお~ん、鈴羽、ごめんな~。橋田家はもうダメだお~」オイオイ

鈴羽「だから、父さんっ。最初から説明してくれない? よく分かんないから」

鈴羽「父さんたちのデートを途中から尾行してたのは悪かったけど、ゴーゴーカレーでの態度は何だったのさ」

ダル「いや、それがさ……映画の席に座ってたら、椅子がベキッっていって、壊れそうになって」

ダル「で、慌てて身体を支えようとして、咄嗟に左側のひじかけをつかんだんだけど……」

ダル「そ、それが……それがっ! ひじかけじゃなくって、阿万音氏の……右手だったんだお~」ヘナヘナ

鈴羽「……は?」

ダル「僕、お、お、おにゃのこと手を繋ぐなんて……あれ? 結構経験あるじゃん……オカリンに引っ張り回されたり……」

鈴羽「何を言っているの?」

ダル「い、いや、それが、阿万音氏がさ……僕の手が触れた瞬間、奇声を上げちゃって……」

鈴羽「奇声?」

ダル「なんかこう、『あぁん♡』とか『いやぁん♡』みたいな……」

鈴羽「蹴るよ?」

ダル「いや、マジなんだってばよ! なんかそれからすっごく意識するようになっちゃって」

鈴羽「……でも、母さんからはそんな話、聞かなかったけどな」

788: 2016/06/30(木) 23:16:04.17 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「あたしが母さんから聞いたのは――――」


―――――

由季『橋田さん、私といてもあまり楽しくなかったみたいで……映画の後は、ずっとあの調子で……』シュン

鈴羽『そんなことないよ! 緊張してただけだって』

鈴羽『あのさ……由季さんは、なんで兄さんのこと、好きになったの?』

由季『えっ? あの、私たち、まだお付き合いは……』

鈴羽『(え……ああっ!? しまった、つい父さんと母さんが結婚することを知ってるから、先走っちゃったっ)』

由季『……私は、まだ、橋田さんのこと、好きかどうかも、よく分からないです……』

鈴羽『そ、そうだよね。……由季さん、こんなこと、あたしが頼むのもおかしな話なんだけど』

鈴羽『あんな兄だけど、ううん、あんな兄だからこそ、どうか――』

鈴羽『橋田至を、よろしくお願いします!』ペコリ

由季『…………』

由季『私は、どうしたいんだろうね、おねえちゃん……』ボソッ

鈴羽『……?』

―――――

789: 2016/06/30(木) 23:16:48.87 ID:1w5ur/k0o

ダル「ということで、ごめん、鈴羽。母さんのことはあきらめて、僕とふたりで仲良く生きていこうな~」

鈴羽「そんなことしたら世界線が変動して、父さんの記憶にも残らないレベルであたしが消滅しちゃうんだけど?」

ダル「うう……確かにっ」

鈴羽「とにかく、母さんはイヤがったりしてない。さっきバイトに向かう時も、また誘ってくださいって笑ってたでしょ?」

鈴羽「あたしには分かる。父さんと母さんは大丈夫だからっ!」バシーンッ

ダル&鈴羽「「うぁ痛たたた――――っ!」」

鈴羽「つつ、まだ完全に傷は癒えてない、か……」ヒリヒリ

ダル「ちょ、あんまし無理すんなって」

鈴羽「でも、かがりのほうがもっとひどい傷を負ったはずなんだ……しばらく右腕は使い物にならないはずだし」

鈴羽「それを考えたら、こんな痛み、なんでもないよ」

ダル「右腕……」

790: 2016/06/30(木) 23:17:16.82 ID:1w5ur/k0o

フェイリス「到着だニャー!」ガチャ

ダル「んお!? フェイリスたん!」ムハーッ

鈴羽「……ん? ねえ、父さん!? 電話レンジ、隠さないと!」

ダル「えっ? うわあっ! やばっ!」ダッ

ガサゴソ ガサゴソ

倫子「お邪魔しま……あれ、ダル? なにやってるの?」

ダル「うひっ!? いやあ、なんでも?」ダラダラ

まゆり「あれー? どうしてダルくんがラボに居るのー? デートはー?」

フェイリス「まさか、うまくいかなかったのかニャ!?」

ダル「あ、いや、……。阿万音氏は、バイトに行ったっつーか」

フェイリス「ハニャ!? 今日のためにシフト、入れないようにしてたのに!?」ガーン

ダル「ああ、たぶん別のバイトだと思われ」

倫子「(完全にフリーターだな……)」

791: 2016/06/30(木) 23:23:11.70 ID:1w5ur/k0o

鈴羽「ク、比屋定さんっ! お勤め、お苦労ですっ!」スッ

真帆「ふぇ!? ちょっと、立膝ついて出迎えないでくれる? ここはヤクザの事務所かなにかなの……」

ダル「あれ? 真帆たんどこ?」キョロキョロ

真帆「……下よ、下」

ダル「え? あー、真帆たん! そこにいたん!」

真帆「相変わらず無礼極まりないわね、あなた。いい加減堪忍袋の緒が切れたわっ!」グググ

ダル「ぐえっ! 首が絞まるっ! ゆ、許して、真帆たん! つーか、ネタにマジレスカコワルイ!」

真帆「ネタで済むと思ってるのかしら?」ニコ グググ

倫子「へぇ……なんかちょっと意外だなぁ。ダルと真帆が仲良いなんて」

倫子「(確かにまあ、エンジニア方面では趣味が合いそうではある、か)」ウンウン

倫子「あ、でも、ダルと付き合うのはダメだよ? 鈴羽の母親が変わっちゃうから」

真帆「はあ!? それはとんでもない誤解よっ!?」

フェイリス「もしかしてぇ、オカリンにだけは勘違いしてほしくないっ! みたいなやつニャ?」ニヤニヤ

真帆「ううっ、そういうのでもないわよぉ!」ムキーッ

フェイリス「素直じゃないニャン」ヤレヤレ

792: 2016/06/30(木) 23:24:34.26 ID:1w5ur/k0o

倫子「そう言えば、その……真帆。怖く、ない?」

真帆「……あの事件のこと、よね。ここに逃げ込んだ私は、恐怖で錯乱していたわ」

真帆「だけど……ええ。大丈夫みたい。どちらかと言えば、好きよ。こういう秘密基地みたいな部屋」

倫子「そう、よかった」ニコ

真帆「(っ、かわいい……)」ドキッ

鈴羽「それでは、ク、比屋定さん来日記念として、歓迎会を開催したいと思います!」

真帆「そ、そこまでしてもらわなくても……」

まゆり「まゆしぃがね、おいしいお料理を作っちゃうのです!」

倫子「まゆりは、火を使わない料理なら結構上達してるんだよ」

真帆「へえ……それなら、期待してみようかしら」

まゆり「えっとねー、電子レンジちゃん、あるー?」

ダル「ビクッ! い、いや、そんなもの、このラボには無いお! あるわけないお! あは、あはは!」アセッ

鈴羽「ちょっと父さんっ! あたしが火を管理するよ、サバイバル生活には慣れてるからさ」

フェイリス「全く、ダルニャンは……フェイリスも手伝うニャン!」

倫子「……?」

793: 2016/07/01(金) 10:51:54.29 ID:BSGGjoiZo
第24章 無限遠点のアルタイル(♀)

2011年7月7日(木)14時30分 雨
私立花浅葱大学附属学園2年生教室


先生「で、あるからして――」


ポツポツ … 


まゆり「(せっかくの七夕なのに……雨。天気予報では、お昼には止むって言ってたけど)」

まゆり「(まゆしぃが雨女なせいで、織姫さまと彦星さま、会えないのかな……)」

まゆり「(……オカリンは、牧瀬紅莉栖さんのことが好きだったみたい。でも、あの日、タイムトラベルをして――)」


・・・

   『オ、オレはぁっ……グスッ……オレの大事な女の子の命を……ヒグッ……犠牲にしてまでぇ……』

   『この、α世界線に、たどり着いたんだぁ……っ!』

   『……ねえ、どうしてオカリンは気絶してるの!? どうして血まみれなの!?』

   『気絶させたのはあたし。血まみれなのは、牧瀬紅莉栖を刺し頃しちゃったから』

・・・


まゆり「(あれからもう、1年経つんだね……)」

794: 2016/07/01(金) 10:52:27.95 ID:BSGGjoiZo
昇降口


るか「まゆりちゃん!」タッ タッ

まゆり「あれ? るかくん、どうしたの?」

るか「急にごめんね……今日ボク、傘を忘れちゃって……」

まゆり「そうなのー? 傘に入れていってあげたいところなんだけど、まゆしぃは先に行くところが……」

るか「あ、そっか……。今日も神田の電機大まで歩くの?」

まゆり「うん……あ、じゃあ、御茶ノ水駅まで送ってあげるね」

るか「うん、そこまで行ければ大丈夫。家に電話して迎えに来てもらうから」

るか「でも、まゆりちゃんは迷惑じゃない?」

まゆり「そんなことないよぉ、大歓迎だよ♪」

るか「よかった……じゃあ、お言葉に甘えることにするね」ニコ

795: 2016/07/01(金) 10:52:55.13 ID:BSGGjoiZo

まゆり「えっへへ~、るかくんと相合傘だ~」ニコニコ

るか「なんだか照れちゃうな……」カァァ

まゆり「ねぇねぇ、るかくんは短冊に願い事書いた~?」

るか「あ、今日って七夕だもんね。短冊かぁ、願い事を書いてたのは小学生の頃までだなぁ」

まゆり「まゆしぃは毎年書いてるよ。笹の葉もね、ちゃんと買ってくるんだ~」

まゆり「それで夜になったら天の川を見るの!」

るか「織姫さまと彦星さまの伝説だよね。でも、このまま雨が上がってくれなかったら……」

まゆり「…………」

796: 2016/07/01(金) 10:53:22.86 ID:BSGGjoiZo

まゆり「織姫さまはね、ベガっていう星のことなんだけど、白くて明るくてとってもキレイなの」

まゆり「海外だとね、『空のアークライト』って呼ばれてるんだ~」

るか「さすがまゆりちゃん。お星さま博士だね」ニコ

まゆり「うんっ、まゆしぃのおばあちゃんが教えてくれたんだよ!」ニコ

るか「それで、まゆりちゃんは短冊にはどんな願い事を?」

まゆり「……子どもの頃からずっと、同じ願い事を書いてるんだ。きっと、叶うことのない願い事……」

るか「……?」

まゆり「――織姫さまになれますように……って」

797: 2016/07/01(金) 10:55:17.14 ID:BSGGjoiZo

るか「…………」

まゆり「……えっへへ~。まゆしぃはロマンティストの厨二病なのです♪」テレッ

るか「……きっと、なれるよ」ボソッ

まゆり「え?」

るか「岡部さんの……織姫さまに、きっと」

まゆり「やっ……やだなぁ! まゆしぃは一言も相手がオカリンだなんて! それに、オカリンは女の子だし……」カァァ

るか「まゆりちゃん、この1年で、岡部さんへの想いが強くなっていったんじゃない?」

まゆり「え……?」

るか「弱音ひとつ吐かずに岡部さんを支えているまゆりちゃんを見てね、すごいなって思ったよ」

るか「岡部さん、とっても明るくなった。入院してた頃とは別人だと思えるくらいに」

るか「それは間違いなくまゆりちゃんのおかげだから……まゆりちゃんなら、絶対に織姫さまになれるよ」

まゆり「…………」

798: 2016/07/01(金) 10:56:18.45 ID:BSGGjoiZo

まゆり「……違うよ」

るか「え?」

まゆり「オカリンの心の中にいるのは……まゆしぃじゃないの」

まゆり「オカリンにとっての織姫さまは、もう2度と輝くことは無いんだ――――」

799: 2016/07/01(金) 10:56:49.97 ID:BSGGjoiZo
東京電機大学正門前


倫子「おーい、まゆり!」

まゆり「あ、オカリン!」

倫子「迎えに来てくれたんだ、ありがとう」ニコ

倫子「今日はまゆりが傘を持ってて助かったよー、珍しいこともあるもんだね。雪でも降るのかな?」

まゆり「えー、今は7月だよー? ねぇねぇ、テストどうだった~?」

倫子「絶好調だよ。まあ、大学の考査レベルで満足してちゃいけないんだけどね」

まゆり「うんうん、オカリンは頭がいいもんね♪」

倫子「誉めてもなにも出ないよ?」フフッ

prrrr prrr

倫子「はい、もしもし」


   『オレだ。"機関"のエージェントがまた動き出した……ああ、健闘を祈る……』


まゆり「っ……」

800: 2016/07/01(金) 10:57:17.28 ID:BSGGjoiZo

倫子「えーっ、それマジですか? 蒲田って、ギャグじゃなくて?」アハハッ

まゆり「…………」シュン

倫子「あっ、でも今日はちょっとー。はい、はいっ! この埋め合わせは必ずしますのでー!」ピッ

倫子「はぁ。井崎のやつ、ポイント稼ぎに忙しないな」

まゆり「……最近のオカリン、目標に向かって頑張ってて、まゆしぃは嬉しいな」

倫子「え?」

まゆり「もう電話に向かって……『独り言』を言うこともないんだね」

倫子「っ……」

倫子「……あのねぇ、私の黒歴史を思い出させないで」ハァ

まゆり「黒歴史、かぁ……」

801: 2016/07/01(金) 10:58:05.76 ID:BSGGjoiZo

まゆり「――そうだ! 一昨日ね、ダルくんから面白い写メが送られてきたの~。見る見る?」

倫子「へぇ、どんな?」

まゆり「スズさんが白衣着てるだけの写真なんだけどね、全然似合ってないんだよ~。ほら、この写真!」スッ

倫子「確かに似合ってないなー」フフッ

まゆり「あ、ちなみにね、この白衣はオカリンが使ってたやつで……ダルくん用にって、オカリンが買ってきたほうじゃないからね?」

まゆり「もうひとつの白衣は、キレイなまま、ちゃんと保管してあるから……」

倫子「…………」


   『やっぱり落ち着くなー、白衣』ニコッ


倫子「……別に、いいんじゃない。使っても」

まゆり「えっ……」

802: 2016/07/01(金) 10:59:03.36 ID:BSGGjoiZo

まゆり「だ、だってアレって、紅莉栖さんのじゃ……」

倫子「……私が妄想の紅莉栖と話してる時に言ったんだっけ。でもさ、あんなの」

倫子「――ただの安物の白衣でしょ」

まゆり「…………」ピタッ

倫子「……どうしたの?」

まゆり「……ねえ、オカリン。もしかして……」

まゆり「紅莉栖さんのこと、忘れようとしてるの……?」

倫子「…………」ピクッ

まゆり「なかったことに、しようとしてるの……?」

倫子「……元々、別の世界の話だよ。この世界じゃ、紅莉栖はもう氏んでる」

倫子「いつまでも、妄想に囚われていられない」

803: 2016/07/01(金) 10:59:50.25 ID:BSGGjoiZo

まゆり「……本当に? 本当にそう、思ってる?」

倫子「ああ」

まゆり「でも、タイムマシン――――」

倫子「まゆりっ!!」

まゆり「っ!」ビクッ

倫子「……それが何を意味してるのか、まゆりは知らないでしょ」グッ

まゆり「えっ、えっ?」キョトン

倫子「……まゆりもさ、もう、無理しなくていいよ。私の支えになろうとしてくれてるのは嬉しいけど」

まゆり「……っ」

倫子「今年はまゆりも受験なんだし、勉強に専念したほうがいいって。わからないところは私が見てあげるから」

まゆり「……えっへへ~」シュン

804: 2016/07/01(金) 11:00:38.59 ID:BSGGjoiZo

まゆり「……ねぇオカリン、覚えてる? ラボを作ったころのこと」

倫子「急にどうしたの」

まゆり「まだダルくんもいなくて、オカリンとまゆしぃだけだったころ……」

まゆり「まゆしぃのほうが学校が終わるのが早いから、いつも先に来て、一人でオカリンを待ってた」

まゆり「一人だけどね、ちっとも寂しくなんかなかったなぁ。オカリンを待ちながらぼんやりしてるだけで幸せだった」

まゆり「……でもね、今のラボは、なんでかわかんないけど、泣きたくなるくらい寂しいの……」

倫子「……単なる錯覚だよ」

まゆり「そうだね……でも、前は、もっともっとにぎやかだったのになぁって感じちゃうの……」

倫子「それは、私の話を聞いたから――」

まゆり「ううん、なんかね、カップ麺を買った時にフォークをもらったりね」

まゆり「独特な香水のかおりが、ふわぁってしたり」

まゆり「難しい言葉がいっぱいの言い合いが聞こえてきたり」

まゆり「あのラボは、もっとたくさんの仲間がいたような気がするの……」

倫子「…………」

805: 2016/07/01(金) 11:01:44.40 ID:BSGGjoiZo

まゆり「ねぇ、オカリン。まゆしぃの感じてることって……やっぱり紅莉栖さんと関係、あるのかな?」

まゆり「えっと、りーでぃんぐしゅー――――」

倫子「ないよ」

まゆり「あぅ……」

倫子「あるわけ、ないでしょ……」プルプル

まゆり「……だったら」

まゆり「どうしてそんな、つらそうな顔してるの……?」

倫子「……っ」ウルッ

まゆり「オカリ――――」

倫子「ないって言ってるでしょっ!!!」

まゆり「っ!」ビクッ

倫子「……本当に、なにもないよ。ただの、錯覚だよ……」

倫子「別の世界の記憶なんて、あるわけ、ないんだから……」

まゆり「…………」

倫子「……私、先、帰るね。まゆりも、気を付けて帰るんだよ」タッ

まゆり「えっ、オカリン、濡れちゃうよ――――あ」

まゆり「雨、上がってる……」



まゆり「……オカリンは、嘘を吐くのがヘタだね」

806: 2016/07/01(金) 11:03:47.64 ID:BSGGjoiZo
一方その頃 17時00分
未来ガジェット研究所


カチャカチャ …

真帆「こんな劣悪な環境でタイムマシンを造り上げた紅莉栖には、畏敬の念を抱くわ」フーッ

真帆「ようやくこの奇跡の場所でタイムマシンの開発作業ができるのは嬉しいけど」

真帆「日本の夏がここまでじめじめじとじとと蒸し暑いとはね……ちょっとシャワー浴びるわよ」スタスタ

ダル「どぞー」


キュッ キュッ シャーッ…


ダル「はふぅ、さすがにクーラーつけても機械作業は熱がこもる罠……つうか湿度高杉……」ハァハァ

鈴羽「……17時、か。ラジ館のお店、閉まった頃合いかな」

鈴羽「あたし、そろそろ行くよ。あとのことはふたりに任せた」

ダル「あっ、待って! ラブリィマイドーター! 餞別代わりにケーキ用意してあるお」

鈴羽「……何その、ラブリィマイドーターって」

ダル「結構奮発したんだお。鈴羽の大好きなショートケーキを6個もゲットしてきたんだぜい」ニッ

鈴羽「……大好きとか、言わないでよ」プイッ

807: 2016/07/01(金) 11:04:13.29 ID:BSGGjoiZo

ダル「鈴羽は2つ食べていいお。残りは、僕と真帆たんとオカリンとまゆ氏」

鈴羽「リンリンの分?」モグモグ

ダル「あ、うん。もしかしたら来るかもしんないじゃん?」

鈴羽「リンリン……説得できないまま時間切れ、か……」

ダル「ごめんな。結局、僕がシュタインズゲートへ行く方法を見つけられなかったから……」

鈴羽「でも、挑戦してみれば何かが変わるかもしれない。やっぱり銃を突き付けてでも連れて行くべきかな」

ダル「それはやめとけって。つーか半年前にもソレやってわんわん泣いたじゃん」

鈴羽「うっ……」

808: 2016/07/01(金) 11:05:22.30 ID:BSGGjoiZo

prrr prrr

ダル「んお? もしもし、まゆ氏、どしたん?」

まゆり『トゥットゥルー。あのね、オカリンがラボへ行ったかもなのです』

ダル「なぬぃ!? わかったお、電話レンジ(仮)弐号機は隠すお!」ガサゴソ

まゆり『あ、まゆしぃもあとでラボに行くねー』ピッ

鈴羽「……リンリンたちが来ないうちに、あたし、行くね」

ダル「あっ……鈴羽」

ダル「……頑張ってな」

鈴羽「……オーキードーキー。ケーキ、ごちそうさま」


ガチャ タッ タッ タッ …




ダル「雨……止んでよかったな……」

809: 2016/07/01(金) 11:09:21.11 ID:BSGGjoiZo

ダル「って、感傷に浸ってる場合じゃないお!」

ダル「真帆たん、真帆たん! かくかくしかじか!」

真帆『えっ!? 岡部さん、来るの!? マズいわね、私は沖縄に居ることになってるのに……』

ダル「そのままシャワールームに隠れてるといいお!」


コンコン


ダル「あーっと……"君に萌え萌え"」

倫子『"バッキュンきゅん"』

ガチャ

倫子「ダル、この合言葉やめない?」

ダル「えー、やめないお。つか、どしたん? 珍しいじゃん」アセッ

810: 2016/07/01(金) 11:09:58.87 ID:BSGGjoiZo

倫子「それがさ、今日電機大でレスキネン教授と会ったんだけど、ダルもヴィクコンを目指してみないかって」

ダル「あー、またその話ね。うん」

倫子「"情報科学研究所"ってところがあって、世界最高のハッカーが集まってるんだって! ダルならきっとうまくやれるよ!」

ダル「いや、そもそも僕、アキバに近いからって理由で電機大に入ったくらいだし、萌えから遠く離れたところへ行くなんて考えられないお」

倫子「……ダルと一緒にいきたいな。ダメ?」ウルッ

ダル「(ぐはっ!? 破壊力高杉ィ!!)」ゴフッ

倫子「……冗談だよ。ダルはいずれタイムマシン開発しないと、だもんね。わかってる」シュン

ダル「あぅ……てか、外暑かったっしょ? なんか飲む? ケーキもあるのだぜ」

倫子「(ケーキ?) あ、いいよ、自分でやるから――」ガチャ

倫子「(……あれ? 冷蔵庫の中に、バナナが5房も? 特売日だったのかな……)」

811: 2016/07/01(金) 11:10:43.97 ID:BSGGjoiZo

倫子「ダル、このバナナ、どうしたの? 言ってくれれば、実家から売れ残ったやつ、持ってきたのに」

ダル「いや、ほら、鈴羽に言われてたんだお。ダイエットにいいから毎日食べろ、って」

倫子「ふーん。まあ、せっかくだから、1本もらうね」モグモグ

ダル「(ああ、こんな状況じゃなかったら、バナナのお口への挿入にハァハァできたのにな……)」

倫子「えと、生ゴミ入れは……ん? なんだこれ、腐敗臭がする。ってか、すごい量のバナナの皮……」

倫子「(こんな光景、前にも見たな。そう、あれはちょうど1年前、紅莉栖と出会う前のラボで――――)」

倫子「……ゲル……バナ……」プルプル

ダル「……しまった」

812: 2016/07/01(金) 11:11:58.69 ID:BSGGjoiZo

ダル「いや、オカリン! マジで怒らないでほしいんだお!」

ダル「将来、鈴羽が乗るタイムマシンを造るためには、やっぱりどうしても電話レンジ的な実験をしないといけなくて!」

倫子「……Dメールは?」

ダル「え? あ、いや、もちろん現状じゃ送れないけど、少し改造すれば送れるようになっちゃう」

倫子「…………」ウルッ

ダル「あ、あぅ……」オロオロ

倫子「……あのね、ダル。よく聞いてほしいの」

ダル「は、はひぃ!」

倫子「電話レンジはね、ボタン1つでまゆりを殺せる……世界から抹消することになるの」

倫子「時間を移動する手段がある限り、永遠に、氏に続けるの……」

倫子「私はこれ以上失いたくない……まゆりには幸せになってもらいたいの……」

ダル「はいぃ……重々承知しております……」

倫子「電話レンジ以外の他の方法でタイムマシンの実験することも、ダルならできるよね?」ウルッ

ダル「まあ、SERNからZプログラムの情報盗んだりしてるから、国家予算並の金さえあればなんとかできるのは間違いないんだけどさ」

倫子「ええっ!? バレたりしてない!?」ヒシッ

ダル「し、してないお! この僕にかかればそのくらい朝飯前だっつーの」

ダル「そんなわけでさ、なにかしらリスクを冒さなきゃ、なにも手に入らない状況なんだよね」

倫子「…………」

813: 2016/07/01(金) 11:12:38.11 ID:BSGGjoiZo

倫子「……ごめんね、ダル。なんでもかんでも、ダルに押し付けて。我がまま、だよね」グスッ

ダル「(あぁ、去年の秋からオカリンがどんどん普通の女の子になっていっちゃってるお……)」

ダル「んもう、そういう時は、頼りがいのある我が右腕! とか何とか言って、無理難題を押し付けてくるのがオカリンだろ?」

倫子「……そう、だね。ちょっとシャワー浴びて、気分変えてくる」グシグシ

ダル「うん、そうするといいお」

ダル「…………」

ダル「…………」

ダル「あっ」




「「きゃああああああああああ――――――――っ!!!!」」


814: 2016/07/01(金) 11:13:04.28 ID:BSGGjoiZo

倫子「2度目のすっぽんぽん真帆ちゃん……」

真帆「あなた、第一声はそれでいいの? ……あと、ちゃん付けはやめなさい」

ダル「ねえねえオカリン。その、生えてた?」ハァハァ

倫子「ふんっ!!!」ズドンッ!!

ダル「ぎゃぷ―――――」チーン

真帆「岡部さん、グッジョブ」

倫子「……よし、世界線が変わってないから、鈴羽は産まれてくるね。で」

倫子「――嘘、吐いてたんだね」

真帆「あー……」

815: 2016/07/01(金) 11:13:54.88 ID:BSGGjoiZo

倫子「真帆がタイムマシンを造る手伝いをするってことは、鈴羽から聞いてたけど……」

倫子「ダルと一緒に、電話レンジ、作ってたんだ……」ウルッ

真帆「……あなたに隠れてコソコソしていたことは謝るわ。ごめんなさい」

倫子「私、あなたたちにここで宣言しておく」

ダル「お、おう?」

倫子「……絶対にまゆりのことを守るから。まゆりは、殺させないから」

倫子「紅莉栖の選んだこの世界線を、私は絶対に守るから……っ」

真帆「……あのね、岡部さん。違うの」

倫子「何が違うの!? Dメールを、もし間違って送信でもしたら、世界がどうなるかわかってるの!?」

倫子「その瞬間、世界線はαに変動して、紅莉栖が生き返――――」ドクン

倫子「ま、まさか、真帆、嘘、そんな……っ!!」ゾワワァ

真帆「え……?」

倫子「あなたは、紅莉栖を蘇らせるために、まゆりを殺――――」ガクガク


ダル「――オカリンッ!!」

816: 2016/07/01(金) 11:15:17.99 ID:BSGGjoiZo

倫子「ひっ!?」ビクッ

真帆「っ!?」ビクッ

ダル「それ以上は、ダメだ」ギロッ

倫子「ダ、ダルぅ……?」プルプル

ダル「……僕は君に、初めて怒るね。5年間の付き合いの中で、たぶん初めてだ」

ダル「今の君は、不安や恐怖でいっぱいなんだろう。だから、人を信じられなくなってる」

ダル「だけどさ……本気で僕たちが、まゆ氏を殺そうと計画してると思うん?」

倫子「あ……いや……そんなわけ、ない……でも……」ワナワナ

ダル「僕たちだって、考えなしでやってるんじゃない。色々検討した結果、シュタインズゲートへ辿り着くためにはどうしても必要だって判断したんだ」

ダル「もちろん、リスクはある。第三者に奪われたり、誤送信とか、僕たちの誰かが洗脳されて、とかさ」

ダル「そのリスクを避けるための最大限の努力はしてるつもり。それでも、ロシアにまた実験されたら全部おじゃんだけどね」

倫子「……ごめん」

ダル「謝るくらいなら協力してほしいわけだが……あっ、いや、今のナシナシ! 嘘だお、気にしなくていいお!」アセッ

真帆「……橋田さんも私も、体力的にそろそろ限界よ。お願い、岡部さん」

真帆「リフターに代わるものが何かわからないの。そのせいで安定した送信環境が得られない」

真帆「それと、人間の記憶データを超圧縮する方法がわからないわ。今まさにそこでつまずいているの」

真帆「あなたなら、知ってるんでしょ?」

倫子「…………」

817: 2016/07/01(金) 11:15:57.70 ID:BSGGjoiZo

倫子「でも、無理だよ……シュタインズゲートに行く方法なんて、わかるわけない……っ」

真帆「これは解の無い方程式じゃない。解は必ず有る、でもそれがわかってないだけなの」

倫子「わかりっこないよ……。神様が作った世界の摂理は、人間なんかに解き明かせないよ……」

真帆「……あのね、岡部さん。私もけっこう寝不足でイライラしてるから言わせてもらうけど」

ダル「ま、真帆たん……?」オロオロ

真帆「この世界の摂理を作った"神"が居たとして、そいつはただのマザーフ○ッカーよ!」

倫子「っ!?」

真帆「あなたが言う"神"の摂理は、ただの数式に過ぎないわ。この世界はすべてコードに従って順行してるの」

真帆「"神"に与えられた英知には、必ず果てがある。ここは"絶対"の領域」

真帆「ゆえに、私たちに解き明かせない道理はない」

真帆「人間の脳の演算が追い付かないとしても、いずれ開発される量子コンピュータなら、世界最先端のAIなら、あるいはその上位互換なら!」

真帆「何千回、何万回、何億回と挑戦して、必ず解法へと辿り着く!」

真帆「方法は絶対に解明できるわ! そして、そのクソッタレな神様に言ってやるのよ!」

真帆「――"We did it!"、ってね!」フンッ

818: 2016/07/01(金) 11:16:26.32 ID:BSGGjoiZo

倫子「……真帆って、熱い人だったんだね」

真帆「どこかの天才少女のおかげでね。失敗も挫折も後悔もその痛みも、嫌と言うほど味合わされてきたから」

真帆「あなたがこの世界線を……まゆりさんを守るために苦しんできたのは理解してるつもりよ」

真帆「それでも、きっと心の奥では、紅莉栖を助けたいと思ってる――違う?」

倫子「っ……」ドクン

真帆「私にはわかる。だって、あなたって、根っこは私と似ているんだもの」

真帆「あなたは、必ず自分の足で立ち上がるわ」

真帆「あなたの強い意志は、世界の支配構造を覆す」

真帆「――――そうでしょう? "鳳凰院凶真"さん」

倫子「私は……"オレ"、は……っ」プルプル


prrrr prrrr


倫子「」ビクッ


819: 2016/07/01(金) 11:17:10.32 ID:BSGGjoiZo

倫子「もしもし、由季さん? ごめん、今ちょっと――」

由季『マ、まゆりちゃんに何を言ったんですか、岡部さんっ!』

倫子「ひっ! え、えっと、何が……?」ビクビク

由季『何がじゃありません!! 泣きながらどこかへ行っちゃったんです!!』

倫子「ど、どういうこと!?」

由季『ラボのほうから泣きながら歩いて来たんですよ!』

由季『声をかけようとしたら――自分のせいで紅莉栖さんが氏んだんだとか、そのせいでオカリンが苦しんでるとか、自分が氏ねばよかったとか』

倫子「……っ!!」

由季『もう、手が付けられないほど泣いちゃって、それで、急に走り出して! 今、フェイリスさんたちと手分けして探してるんですけど!!』

倫子「ま、まさか……聞かれてたの、今の話……」プルプル

ダル「そ、そういえば、後でラボに来るって、まゆ氏、言ってた……」

倫子「……くそおおおっ!!!」ダッ

真帆「私も行くわっ!」ダッ

820: 2016/07/01(金) 11:18:32.14 ID:BSGGjoiZo
一方その頃 18時00分
ラジ館屋上


鈴羽「結局、父さんの研究は間に合わなかったな。まあ、そりゃ、1年やそこらでなんとかできるわけないよね」

鈴羽「……準備オッケー。あとは父さんがタイムマシンの中に隠してた、このポータブルハードディスクを返却するだけだ」

鈴羽「それにしても、これ、一体なんだろう……エOチなもの? いや、さすがにそんなわけないか」

鈴羽「あたしか父さん以外の人間には絶対に入れないところに隠したモノだもん。きっとタイムマシン開発に関係してる」

鈴羽「っていうか、今中身を見ちゃえばいいんだ。どれどれ……パスワード入力? はい、解除」カタカタ

鈴羽「四半世紀前のテクノロジーってのは悲しくなるよね……ああ、なるほど、コレって……」


ギィィ


鈴羽「っ!?」スチャッ ジャキッ


まゆり「…………」


鈴羽「なんだ、椎名まゆりか。ビックリした……あ、ごめん、また銃なんか向けて」スッ

鈴羽「って……泣いてるの?」

821: 2016/07/01(金) 11:19:01.17 ID:BSGGjoiZo

まゆり「ねえ……どうしてみんな、教えてくれなかったのかな」グスッ

まゆり「紅莉栖さんと、まゆしぃとの……ホントのこと、教えてくれなかったのかなぁ?」ヒグッ

鈴羽「……っ!」

鈴羽「…………」

鈴羽「……聞いちゃったんだね」

まゆり「……ねえ、スズさん? お話……聞いてもいい?」

まゆり「未来の、まゆしぃとオカリンの事。その、14年後にオカリンが氏んじゃうっていう……」

鈴羽「なんで今になって? それに、キミなんかが未来のことを知っても、何の意味も無いよ」

まゆり「それでも、お願い……」グスッ

鈴羽「うっ……わかっから泣くな」

まゆり「…………」ウルッ

822: 2016/07/01(金) 11:19:39.86 ID:BSGGjoiZo

まゆり「……まゆしぃなんてね、この世界にいても何の役にも立たないよ?」ウルッ

鈴羽「あー、もう、泣くなよ……」フキフキ

まゆり「だったら、紅莉栖さんのほうが、しゅたいんずげーとの研究のためにも、オカリンのためにも、ずっとずっと必要なんだよ」ポロポロ

鈴羽「……あたしの知ってる未来の椎名まゆりも、時々、そんなことをこぼしてた」

まゆり「え……?」グスッ

鈴羽「そんな時は、決まって、ぼんやりと空を眺めてるんだ」

鈴羽「濁った空を見上げてる顔は、すごく寂しそうで……それを見るかがりは、とても辛そうだった」

まゆり「……かが、り?」

鈴羽「ああ、そっか、これも椎名まゆりには言ってなかったね。椎名まゆりの、娘だよ」

まゆり「まゆしぃの……?」

鈴羽「戦災孤児でさ。椎名まゆりが引き取ったんだ」

鈴羽「すごく優しくて、強い子で、まだこんなに小さいうちから、ママを護るのは自分だっていつも言ってた」

鈴羽「きっと、いつも椎名まゆりの幸せを願って行動してたはずだよ。今も……」

まゆり「…………」

823: 2016/07/01(金) 11:20:49.69 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「そういえば、今日って『タナバタ』っていうんだってね」

まゆり「え? う、うん」

鈴羽「椎名まゆりが言ってた。織姫と彦星が年に一度、会うことが出来る日……まあ、大気汚染がひどくて、星なんて見えない時代だったけど」

鈴羽「『雲が夜空を覆っていても、星は、世界から消えちゃうわけじゃない。雲の向こうで、変わらずに輝き続けているんだ』って」

鈴羽「正直言うと、あたしは、なんで椎名まゆりなんかのためにリンリンは氏んじゃったんだろうって、ずっとキミを恨んでた」

まゆり「っ……。その、まゆしぃのためにって、どういうこと……?」

鈴羽「そこもハッキリとは伝えてなかったっけ。リンリンは、強盗から椎名まゆりをかばって、撃たれたって聞いてる」

まゆり「え……!?」

鈴羽「それが収束だから仕方ないってのは理解はしてる。それでもあたしは割り切れなかった」

鈴羽「だけどね……過去に来てようやくわかったよ。椎名まゆりを護ることが、リンリンの全てだったんだって」

鈴羽「"人質"、だっけ」

まゆり「あ……」ドクン

824: 2016/07/01(金) 11:21:27.10 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「……鳳凰院凶真はさ、雲の向こうに隠れちゃったけど、でも、椎名まゆりはリンリンの人質で居続けた」

まゆり「…………」ズキン

鈴羽「リンリンが氏ぬ瞬間まで、椎名まゆりは人体実験の生贄だった。実際、どっちが生贄だったんだか」

まゆり「ぁ……」プルプル

鈴羽「椎名まゆりはその後、リンリンの氏を悲しみ続けていたよ。『あの日、私の彦星さまが目覚めていたら、全てが変わっていたのかな』って」

まゆり「26年間も、後悔してたの……」

鈴羽「あの日……2010年8月21日。あたしは、若いリンリンに本気で激怒した」

鈴羽「こいつをもう一度、絶対に過去へ引きずって行ってやるって思った。だから、それを邪魔した椎名まゆりは、本当に許せなかった」

まゆり「……ごめん、ね」

鈴羽「……調子狂うなぁ」

825: 2016/07/01(金) 11:23:13.94 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「まあ、結論から言えば、無理に2度目の過去へ連れて行ったところで、牧瀬紅莉栖の救出には失敗してたんだ」

まゆり「え……?」

鈴羽「だから、椎名まゆりは悪くないよ。あくまで結果論だけどね」

まゆり「そ、それじゃ、どうすれば成功するの……?」

鈴羽「あたしたちの経験した"未来"を、あの日に送ることができれば、あるいは」

まゆり「まゆしぃたちの、経験……?」

鈴羽「この1年、色んなことに気付かされた。その想いをすべて、あの日のリンリンにぶつけてみる」

鈴羽「だからあたし、計画をちょっと変更したんだ。牧瀬紅莉栖が殺された日じゃなく、椎名まゆりの言う"あの日"に賭けてみようと思う」

鈴羽「鳳凰院凶真が氏んだ、あの日に」

鈴羽「彦星が復活すれば、きっと……。まあ、ほとんど勘なんだけどね、あはは」

鈴羽「タイムマシンが同じ場所に2台現れることになるから、このマシンの場所を水平移動するのにホント骨が折れたよ。ルミねえさんに高い機材を買ってもらったりしてさ」

鈴羽「きっと世界線は変わると思う。ううん、変えてみせる。それが少しでも良いほうに傾いてくれれば……」

まゆり「……ねえ、スズさん」



まゆり「――その役目、まゆしぃにやらせて」

826: 2016/07/01(金) 11:23:54.47 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「……キミは、タイムトラベルが何を意味してるのか、わかって言ってるのか」

鈴羽「もうあのマシンは往復できない。いや、たとえできたとしても同じ地平には戻ってこれない」

鈴羽「一歩間違えば氏ぬ。事象の地平面<イベント・ホライズン>に飛ばされて、虚空に消えるかもしれない」

鈴羽「1年前に到着しても、仮に失敗したら、その時代に存在できたところで、いずれ世界線の収束で"修正"されるかもしれない」

鈴羽「それは、永遠の別れを意味するんだよ?」

まゆり「……いいよ。だって、まゆしぃ、生きていたくないよ」

鈴羽「え?」

まゆり「オカリンの足を引っ張ったまま……オカリンを苦しめながらなんて、生きていたくないよぉ……っ」ポロポロ

まゆり「まゆしぃの命で、オカリンのためになることができるなら、なんだってするよぅ……!」グシグシ

鈴羽「椎名まゆり……」

まゆり「まゆしぃね……オカリンのことが、好き。ずっと好きだったの。小さい時から、ずっと」

まゆり「女の子同士だからって、そんなの、関係ないくらいに、倫子ちゃんが好きだったの」

まゆり「きっと紅莉栖さんに負けないくらい、ずっとずっと大好き」

まゆり「けど……わたし……」

まゆり「"鳳凰院凶真"が、もっともっと、大好きなの……っ」

827: 2016/07/01(金) 11:24:40.76 ID:BSGGjoiZo

まゆり「わたしね、一度、氏んじゃいたいって思ったことがあるの。もう、生きていたくないって」グスッ

鈴羽「うん……その話なら知ってる」

まゆり「そんな時にね、わたしが生きていてもいいんだよって、居場所を与えてくれたのが、わたしの彦星さまなの」ヒグッ


   『まゆりは、オレの人質だ。人体実験の生贄なんだ……』


まゆり「それが、倫子ちゃんで、オカリンで、鳳凰院凶真だったの」グシグシ

まゆり「(本当はね、1年前のあの日から、何かが欠けている気がしてた)」

まゆり「だからね、わたし……わたしね? もう一度、会いたい……それでね、あの偉そうな高笑いを、また聞きたいよ……」

まゆり「(とっても大事なものが失われちゃった気がしてた)」

まゆり「たとえわたしが織姫さまになれないってわかってても、それでも……わたしの彦星さまはね……」

まゆり「(寂しくて泣きたくなるくらい、私は求めてる)」

まゆり「ホントは怖いのに、自分から立ち向かって……強がりで、意地っ張りで、我がままで……」

まゆり「(心の底から望んでいることがある)」

まゆり「泣き虫で、不思議ちゃんで、厨二病で、正義感が強くて、臆病で、絶対に諦めなくて、かっこいい……」



まゆり「――――鳳凰院凶真に会いたいよぅっ!」

828: 2016/07/01(金) 11:25:11.89 ID:BSGGjoiZo

――――――――――――――――――――
    1.12995  →  1.13205
――――――――――――――――――――

829: 2016/07/01(金) 11:25:50.81 ID:BSGGjoiZo


prrrr prrrr


鈴羽「メールだ――――えっ!?」



送信日時: 2025/08/13
差出人: バレル・タイター
件名: オペレーション・アークライト
[添付有]Barrel_fgmail.mov 5.5MB

830: 2016/07/01(金) 11:31:11.15 ID:BSGGjoiZo
一方その頃
大檜山ビル前


倫子「ぐっ……!? な、なんだ、今の目眩は……メイクイーンまで往復走ったせい……?」ハァハァ

真帆「岡部さんっ! こっちには居なかっ……だ、大丈夫!?」オロオロ

倫子「い、いや、今は私の体調はどうでもいいっ! 早く、まゆりを見つけないとっ!」ダッ



未来ガジェット研究所


倫子「ダルっ! そっちは!?」

ダル「るか氏から連絡があって、柳林神社には居ないって。カエデ氏とフブキ氏にも電話したけど……」

倫子「くそっ! まゆりは携帯を切ったままだし、鈴羽は電話に出てくれないっ! 由季さんとも連絡が取れなくなって……どうなってるのっ!」

ダル「そ、それとさ、オカリン。他にもうひとつ、変なことがあってさ」

倫子「なにっ!?」

ダル「ついさっき仲間から連絡があって、@ちゃんのオカ板がクラックされたって……これ、見てくれ」スッ

倫子「今はそんなこと――――っ!?!?」

831: 2016/07/01(金) 11:34:30.20 ID:BSGGjoiZo
サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000) サリエリの隣人に告ぐ(1000)

832: 2016/07/01(金) 11:36:58.87 ID:BSGGjoiZo

倫子「……とりあえず、どれかスレを開いてみよう」カチッ

倫子「これは……書き込みは今から1時間くらい前、か」クリッ クリッ



【オカルト】 サリエリの隣人に告ぐ
001:栗悟飯とカメハメ波:2011/07/07(木) 17:11:33 ID:VoE860I9P
サリエリの隣人へ

これから我ら双子は、在るべき場所から一時的に
遠ざけられることになりそうだ
だから、もうここには来られないかも知れない

父なる神は、ついに我らの不可侵領域まで解放する業を見出した
これで私たちは父の子として虚言を持たぬ『善い者』となるだろう

だから私たちは、時を司る秘密もその在り処も父に語る事になる
それを護れない事はとても心残りだ。すまなく思う

不氏鳥とも良き友人になれそうだったが、たぶんお別れだ
だから最期に、私の最も尊敬する人にこう伝えてほしい

――私は、自分を凡庸なる人々の代表だと考えていた
そして、貴女が常に私にとっての目標であり、
貴女こそがまさにアマデウスその人だった――と



倫子「以降は文字の羅列か……だが、これは明らかに……」

倫子「『Amadeus』からのメッセージだ……」ゴクリ

真帆「えっ?」

倫子「"紅莉栖"に、何かがあった……」

真帆「……っ!」

833: 2016/07/01(金) 11:38:09.29 ID:BSGGjoiZo

倫子「(これってつまり、タイムマシンの情報が、誰かに漏れたってこと!?)」

倫子「……真帆、『Amadeus』にアクセスできる?」

真帆「緊急事態ね、わかったわ。橋田さん、PC借りるわよ」カタカタ

真帆「……あ、あれ? 無い……こんなバカなことって!?」

倫子「無いって……?」

真帆「『Amadeus』のプログラムが、記憶データごと……どこにも存在していないっ!」

倫子「……! ダル、ハッキングして! ヴィクコンのありとあらゆるデータを!」

ダル「オーキードーキー!」

真帆「私も協力するわ。こんなの、理解できなさすぎるっ」

834: 2016/07/01(金) 11:38:43.80 ID:BSGGjoiZo

真帆「……『Amadeus』システムに関して、こんな管理者権限を持ってるのは、レスキネン教授だけよ」

倫子「……まさか、レスキネン教授が?」ゾクッ

真帆「憶測でモノを言わないで。教授のIDとパスがクラックされたと考えるべきよ」

倫子「教授に連絡は?」

真帆「今、ホテルのほうに電話してみるわ。岡部さんは教授のケータイに」

倫子「わかった!」


シーン……


倫子「(電話がかからない? ……っ!?)」ゾクッ

ダル「ど、どしたん、オカリン?」

倫子「ダル、お前のケータイ、針立ってる!?」

ダル「は? 立ってるに決まってるじゃ……うお!? なんぞコレ!?」

真帆「私のスマホも圏外よ……」ゾワワァ

835: 2016/07/01(金) 11:39:44.50 ID:BSGGjoiZo

ダル「今、Taboo!のトップでニュースになってる。秋葉原一帯の全キャリアの基地局が、どの会社も故障?」カタカタカタカタ


    『"爆破テロ予告で山手線、総武線、京浜東北線の前線が運転見合わせ"』


倫子「……陰謀だ。くそ、一歩遅かったか……っ」グッ

ダル「ネット回線は生きてるからRINEは使えるけど、レスキネン氏にRINEで連絡は取れないし……」

倫子「真帆っ! あなたの『Amadeus』に記憶させてしまったのはどこまで!? ラジ館屋上のことは!?」

真帆「……記憶させてしまったわ」プルプル

倫子「それだ……それが原因で、外に漏れた……っ」クッ

真帆「で、でも、このラボの場所は覚えてないはずよ! あの事件の時、私、茫然自失で、橋田さんにおぶってもらったから……」

真帆「ハッキリと場所を認識したのは、この間日本に来てからなの」

倫子「ってことは――時間の問題かも知れないけど、ここはまだ大丈夫っ」ダッ

ダル「オカリン!?」

倫子「ラジ館の屋上へ行ってくる! 狙われるのはあそこだ! 鈴羽がいたら、知らせないとまずい!」

ダル「僕もいくお!」

倫子「ふたりはここに居て! まゆりが戻ってくるかもしれない――でも、何かあったらすぐ逃げて!」ガチャッ タッ タッ

836: 2016/07/01(金) 11:41:06.29 ID:BSGGjoiZo
一方その頃
ラジ館屋上


鈴羽「……再生、っと」ピッ


『やぁ、鈴羽。元気か? 色々なことを君に託してしまって、本当に申し訳なく思う。許してくれ、頼む』


鈴羽「ホント、口先だけなんだから……そんな父さんを許しちゃうあたしも、まだまだ甘いなぁ」


『なぜ最初からこの"オペレーション・アークライト"を僕が指示しなかったのか……君は怒っているかもしれないね』

『けど、違うんだ。指示しなかったんじゃない、出来なかったんだよ』

『君が出発した世界線の僕は、このオペレーションを計画してないかったはずだから』

『もう気付いているかも知れないが、君たちふたりの選択によって、世界線はまた少し変動した』

『つまり僕も、君が出発した世界線とも、今その世界線にいる僕とも違う、別の世界線上の橋田至ってことになる』

『ああ、でも、勘違いしないでくれ。僕は、どれだけ世界線が変わろうと、鈴羽のことを最高の娘だと思っているよ。どの世界線の僕だろうと、絶対に』

『フフッ、とはいえ、比べて見て、どっちのパパのほうがダンディかな? 僕は鈴羽の影響で筋トレを始めた橋田至なんだ……フフフ……』

  『ダル? 時間が無いのに余計なおしゃべりはしないでね?』ニコ

『オウフ……倫子たんの笑顔が怖いので、話を進めるのだぜ』

837: 2016/07/01(金) 11:43:08.15 ID:BSGGjoiZo

『このムービーメールを僕が送る前に起きたことを話そう』

『それはつまり、まゆ氏が鈴羽とともに過去へ行く決意をしなかった未来の話だ』

『2011年7月7日、まゆ氏が泣きながらラボへ戻ってきた。鈴羽が1人で過去へ跳んじゃった、って教えてくれた』

『そして、こう言ったんだ』

『オカリンを救いたいって。私の彦星さまの目を覚ましたいって』

  『……ホント、私はまゆりには心配かけてばかりだよね。まゆりがそんなふうに考えてるなんて知らなくて……』

『だから、僕たちは決意した。あの日のオカリンに、もう一度過去へ行ってもらう方法を見つけようって』

『15年間、僕たちは研究に研究を重ねた。その結果、次の一手が最善手だと判断した』

『その方法こそ、"オペレーション・アークライト"だ』

『オカリンは最後まで抵抗したけど、それ以上にまゆ氏の意志は強かった』

  『ちょ、おいっ!』

『結果、こうして鈴羽にこのムービーメールを送ることになったのさ』

838: 2016/07/01(金) 11:44:29.82 ID:BSGGjoiZo

『今君たちが居る世界線は、このムービーメールが受信されることを中心として再構成された世界線だ』

『君たちからすれば、未来が変わったことになるのかな』

『まあ、オカリン以外の人間にとっては、その世界線でずっと生きてきたようにしか認識できないはずだけど』

『間違いなくひとつ言えるのは、鈴羽が2036年を出発した時の世界線とは、かなり状況が変わっているってこと』

『まゆ氏から、僕がタイムマシンに隠してたアレを受け取ったんだ。鈴羽がパスを解いてくれたね』

『そのおかげもあって、僕たちは2025年時点で、過去へと安全に確実に干渉する手段を手に入れたんだ』

『例えば、Dメール全般をエシュロンに捕捉されずに済むようにしたりね』

『これから"オペレーション・アークライト"を実行することで、もう一度世界線は変動するだろう』

『その世界線は、シュタインズゲートへとさらに一歩近づいた世界線だ』

『その世界線でも、2025年には過去へ干渉する手段を手に入れているはずだ』

『そこでまた僕たちは、シュタインズゲートへと近づくための作戦を立てることになるだろう』

839: 2016/07/01(金) 11:45:23.56 ID:BSGGjoiZo

『これで加速度的にシュタインズゲートへと近づくことになった』

『それもこれも、まゆ氏と鈴羽のおかげだ。ありがとう』

『それじゃ、"オペレーション・アークライト"の詳細を伝える。これは本当に一瞬のタイミングミスも許されない、ギリギリの戦いになる。いいね?』


鈴羽「……ふふふ、父さんが筋トレか。どうせ三日坊主だろうけど」ピッ

鈴羽「すぅ、はぁ……。さて、作戦概要を確認しないと……って」

鈴羽「"まゆねえさん"、さっきから何してるの?」

まゆり「あ、スズさん。どう? 今日、出発することになりそう?」

鈴羽「たぶんね。これから確認するけど」

まゆり「あのね、もし今日、出発するってなったら、まゆしぃは行方不明になっちゃうわけでしょ?」

まゆり「心配かけたくないから、お父さんとお母さんと、お友達みんなにね、メールを書いてたの。『これからちょっと行ってきます』って」

鈴羽「ちょっと気が早いな。今すぐそんなメールを送信したら、みんなここへ集まって来ちゃうよ?」

鈴羽「今、量子コンピューターが到達時刻の時空間座標計算とか、重力の誤差修正とか、最終的な調整をしてる。もうすこし待ってくれないかな?」

まゆり「あーっ、そうだよね。じゃあ、出発の時まで送信しないでおくね……あれ? 圏外になってる……」

鈴羽「えっ? ……あたしのもだ。そんなバカな……」

鈴羽「なんか、嫌な予感がする……。扉の向こうは……うん、静かだ」

鈴羽「なんて、リンリンの陰謀脳が移ったのかな。きっときのせい――」クルッ



シュタッ シュタッ シュタッ

まゆり「きゃああああッ――――!」

840: 2016/07/01(金) 11:47:11.87 ID:BSGGjoiZo

迷彩服A「…………」ガチャッ ジャキッ

まゆり「あ……ぁ……」プルプル

迷彩服B「…………」

迷彩服C「…………」


鈴羽「(しまった……あたし、完全に平和ボケしていた……っ!)」ギリッ

鈴羽「(未来の父さんに会えたことで、気が緩んでしまったんだ……)」

鈴羽「(こいつら、ビルの壁面をよじ登ってきたのか!?)」

鈴羽「(30人も……ダメだ、さすがに多勢に無勢すぎるっ)」


迷彩服A「銃を置いて、そのまま地面に伏せろ。手は頭の上だ」

迷彩服A「この娘の頭が吹き飛ばされたくなかったらな」ゴリッ

まゆり「ひっ……スズさん……」プルプル


鈴羽「く、そっ!」グッ


迷彩服B「目標2と目標3、確保」

迷彩服C「目標1、タイムマシン確保! ですが、ロックがかかっていて、すべてエラーで弾かれます!」


鈴羽「何をしても無駄だ。そのマシンは、あたしじゃないと言う事を聞かない」


迷彩服A「なら、お前が操作しろ」グイッ

鈴羽「当然、あたしが操作したら、アレを次元の彼方に跳ばすよ」

迷彩服A「……"教授"に伝えろ。目標1は目標2とセットだ、と。洗脳しないと無理だ」

迷彩服B「はっ」

841: 2016/07/01(金) 11:48:00.51 ID:BSGGjoiZo

迷彩服A「洗脳の行きつく先は、分かっているはずだ。薬など使わず、直接、脳を弄られる」

迷彩服A「そうなる前に、素直に我々に協力したほうが利口だと思うが?」

鈴羽「……わかった、言う事を聞く。ロックを外せばいいんだな?」スッ



タイムマシン内部


鈴羽「(どうせこいつらに2036年のOSなんて使えやしないさ)」カタカタカタカタ

鈴羽「(コンソールの下に隠してたナイフを回収して……)」スッ



ラジ館屋上


迷彩服A「よし、降りろ。あとは我々が調査する」

鈴羽「――――っ!」シュバッ!

迷彩服A「ぐっ!」グサッ バタッ

842: 2016/07/01(金) 11:48:39.46 ID:BSGGjoiZo


パラララッ パラララララッ


鈴羽「まゆねえさん、こっち! マシンの影に隠れて!」グイッ

まゆり「う、うんっ」


パララララッ パラララッ

――バキュン!

まゆり「あうっ――――」シュパッ

まゆり「あ……あっ……血が……」ドクドクドク

鈴羽「まゆねえさんっ! くそ、兆弾が額を切ったか!」

鈴羽「(あたしの出発した世界線に漸近した世界線なら、椎名まゆりは2036年まで氏なないはずだ)」

鈴羽「(けど、ここはそこよりもシュタインズゲートに近い世界線……椎名まゆりの生存は、収束から外れた可能性が高いっ!)」

鈴羽「(そもそも、ここがバレたのはなんでだ? ……かがりがあいつらにリークしたのか?)」

鈴羽「どうして、今日になって……っ」

鈴羽「――かがりが、味方だったらっ」グッ



かがり「…………」

843: 2016/07/01(金) 11:49:06.46 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「ライダースーツの女……か、かがりっ!? やっぱり、そいつらの味方なのか……っ!」


かがり「……ママに……なにをした……?」

かがり「お前たちィッ、ママになにをしたアアアァァァァァ――――っ!!!!」ダッ


鈴羽「っ」ビクッ

まゆり「っ!?」ビクッ


かがり「アアアアアアアアァァァァァァッ!!!!」シュバッ

パラララッ パララララッ グチャッ ゴキッ 

迷彩服B「ぎゃぁっ!」バタッ

迷彩服C「ふぐっ!」バタッ

ビチャッ グチョッ メキメキッ ブチュッ


まゆり「ひ……っ!」プルプル

鈴羽「み、見るなっ! 耳もふさいでろっ!」ダキッ

鈴羽「(あ、あんなの……もう人間じゃないっ……!)」プルプル

844: 2016/07/01(金) 11:50:31.08 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「(仲間割れか!? でも、どうして!?)」


迷彩服D「く、くそっ!」パラララッ

かがり「ぐっ――」ガクッ

迷彩服D「よ、よし、やった――」

かがり「ぅぅ……ぐがアアアアアアッ!!!!」ザシユッ

迷彩服D「かはっ―――――」バタン

迷彩服E「て、撤退だっ! 撤退ィ!」ダッ


かがり「はぁ……は、ぁ……」バタッ


鈴羽「かがり、お前……どうして……」プルプル

まゆり「ぁ……ぁっ……」ガクガク

845: 2016/07/01(金) 11:51:13.86 ID:BSGGjoiZo
一方その頃
ラジ館前


倫子「はぁっ、はぁっ! 大丈夫だっ、焦るな私っ! きっと何かの間違いだっ!」タッ タッ


パラララッ パラララッ


「なにあれー? 屋上すごくない?」

「何かのイベント?」

「アキバを舞台にしたゲームの宣伝じゃね?」


倫子「なんだ、これ……鈴羽っ!」ダッ



ラジ館階段


倫子「……やっぱり、店がどこも閉じてる。平日の昼間なのに……」タッ タッ


??「やぁ、リンコ。まさか、こんなに早く君がくるとは思わなかったよ」


倫子「え――?」

846: 2016/07/01(金) 11:51:51.48 ID:BSGGjoiZo

倫子「ど、どうしてここにあなたが……レスキネン教授っ!」

レスキネン「まあ落ち着きたまえ」

倫子「はぁ、はぁ……お、お願いです、教えてくださいっ! 『Amadeus』が、"紅莉栖"が私に送ってきたメッセージは、本当ですかっ!?」

レスキネン「"クリス"が君に、だって? これは驚いたな。監視していたつもりだったが、いったいいつ、どんな方法を使ったんだい?」

倫子「ふざけないでくださいっ! "紅莉栖"や"真帆"を、どうしてしまったんですっ!?」

レスキネン「別にどうもしてないよ。一時的に、システムごとある民間会社に移したんだ。専門の手術をするためにね」

倫子「手術って……彼女たちの記憶データを解析するってことですかっ!? しかも、タイムマシンに関するデータをっ!!」

レスキネン「……"クリス"はそこまで話してしまったのか。残念だな」ジャキッ

倫子「(うそ……拳銃……っ!?)」ビクッ

レスキネン「君は少し、踏み込み過ぎたようだ」


   『未来にね、"教授"っていうコードネームで呼ばれる影の存在が居たんだ』


倫子「あなたは……何者なんです……」プルプル

847: 2016/07/01(金) 11:52:31.68 ID:BSGGjoiZo

レスキネン「知っての通り、メインは脳科学者さ」

レスキネン「それと、君は"STRATEGIC・FOCUS"社という、アメリカの民間情報機関を知っているかな? その一員だよ」

倫子「……知ってますよ。あなたから、何度同じ話を聞いたと思ってるんですっ!」

レスキネン「……? 何の話だい?」

倫子「(あ、あれ? 私、どうしてこんなこと……)」

レスキネン「ああ、もしかして、あの時の尖兵から聞いたのかな? 1月に、イタル・ハシダのバイト先に入った」

倫子「……っ!?」

レスキネン「あの時は、SERNやロシアから君たちを保護しようとしたんだよ。なのに小賢しい真似をして逃げたりするから」

倫子「う、嘘だっ! 保護するつもりなんて、あるわけないっ!」プルプル

レスキネン「リンコ……あまり大声を上げられると、困ってしまうな。日本の警察にもCIAのスパイは多い」

レスキネン「騒動になれば連中が来る。それを嗅ぎつけて、ロシアやSERNもだ」

レスキネン「まあ、もう遅いかもね」

848: 2016/07/01(金) 11:54:31.54 ID:BSGGjoiZo

レスキネン「それより、リンコ。カツミから聞いたのだが、君も例の"新型脳炎"を発症しているそうだね」

倫子「かつみって……フブキ!?」

レスキネン「それどころか、新型脳炎そのもののメカニズムについて、何か知っているらしいじゃないか」

レスキネン「実に興味深い。君の持つその"情報"を、是非提供してくれないか?」

レスキネン「なに、簡単な施術を受けてくれるだけでいいんだ」

レスキネン「そうすれば私は、君を助手として迎え入れてもいい」ニコ

倫子「っ……!」ゾワワァ

849: 2016/07/01(金) 11:55:02.78 ID:BSGGjoiZo


パラララッ パララララッ


レスキネン「っ!? なぜ銃撃戦になっているんだ! 穏便に済ませろとあれほど――」

倫子「(い、今だっ!)」ダッ

倫子「うわあああっ!」ドンッ!

レスキネン「っ、と。なんのつもりかな、リンコ」ガシッ

倫子「あ……」プルプル

レスキネン「君みたいなか弱い少女が、私のようなクォーターバックを倒せるとでも?」ジャキッ

倫子「――ふんっ!!!」ドゴォッ!!

キーン

レスキネン「あ――――」バタッ

倫子「……プロテクターを股間につけてから言いなさい」

倫子「(ダルで練習しておいてよかった……!)」


レスキネン「」ブクブク

850: 2016/07/01(金) 11:55:47.59 ID:BSGGjoiZo
ラジ館屋上


倫子「……なに、これ……おえぇっ!」ビチャビチャ

倫子「(氏体の山……四肢がもがれてたり、首が取れてたり、うぅっ)」ウップ


かがり「……だ、だいじょうぶ? ママ?」ズルズル


倫子「(っ!? あのライダースーツの人、ひ、左手が、ない……というか、血まみれだ……)」プルプル


まゆり「あ……あ……」プルプル


倫子「ま、まゆりっ!? どうしたの!? 顔中血まみれ――」


まゆり「いやぁぁぁっ……! こないで、こないでぇっ!」ガクガク

かがり「……っ? ママ……?」ズルズル

851: 2016/07/01(金) 11:56:15.62 ID:BSGGjoiZo

かがり「違うの、これは、だって……私は、本当は人頃しなんてするつもりじゃなくって……ただ、ママを護ろうとしてっ……」ズルズル


倫子「(まゆりが、ママ……? っ、"かがり"か!?)」


かがり「ごめん……なさい、ママっ……」ズルズル

鈴羽「かがり、もういいっ! もういいから、動くな! 氏ぬぞ、お前っ!」

かがり「キライにならないで……ゆるし、て……」グタッ


倫子「か、かがりっ! 大丈夫っ!?」ダキッ

かがり「はぁ、はぁ……」

倫子「今、ヘルメット脱がせるからね!」グイッ

かがり「やっ、いやっ……やめてっ……」ギュッ

かがり「と、取らないで……ママと鈴羽おねえちゃんの前では……」

かがり「お願い……"岡部さん"……」

倫子「何を言って――――っ!?!?」

852: 2016/07/01(金) 11:56:43.18 ID:BSGGjoiZo

倫子「そっ、そんな……。あなたは、どうして……」

倫子「"由季さん"……っ!?」

由季(かがり)「はぁ……はぁ……」


鈴羽「まゆねえさん、マシンの中にっ!」

まゆり「う、うんっ」

鈴羽「リンリン! かがりの様子は!?」


倫子「こ、来ないでっ!」

倫子「こっちは私に任せて! それより、まゆりの傷はっ!?」


鈴羽「っ? ……大丈夫、まゆねえさんの傷は深くない!」

由季(かがり)「良かった……。ママ、無事だったんだ……よかった……」グタッ

倫子「しっかりして! あなたは、なんで……」

由季(かがり)「大丈夫……心配しないて……。私、痛みは気持ちいいから……」

由季(かがり)「いつも神様の声が聴こえるの。"君は痛くならないよ、苦しくならないよ。それ以上に快感だよ"って」ゴフッ

倫子「そんな……っ」

853: 2016/07/01(金) 11:59:11.06 ID:BSGGjoiZo

由季(かがり)「お、岡部さんには……伝えて、おくね……」

由季(かがり)「"本物"は、何も知らないです……」

由季(かがり)「3年前から、ヨーロッパに留学中……だから……」

由季(かがり)「"教授"が私を秋葉原へ送り込むために……、裏で手を回して……」

倫子「"教授"、だって……?」プルプル

由季(かがり)「この世界線では……本当は、来年なんですよ……橋田さんと"本物"が出会うのは……」

由季(かがり)「"教授"が、留学期間が終わった由季さんをフランスで暗頃するのは、来年だから任せたよ、って言ってたので……」

由季(かがり)「でももう……暗殺も、できないですけどね……」

倫子「つ、つまり、君が、由季さんと入れ替わろうと……?」

由季(かがり)「収束を騙すには、それしかないって……神様の声が……」

倫子「(そうか、ヤツの目的は、タイムトラベラーとしての鈴羽の存在そのものを消し去る事……!)」

倫子「(母親が変わっても鈴羽のOR物質は誕生するだろうが、それは遺伝子的には鈴羽じゃない上に、タイムトラベラーにならない可能性が高い)」

倫子「(だが、なによりも腹立たしいのは……かがりをこんな風に弄んだこと……っ)」グッ

由季(かがり)「大丈夫……きっと"本物"も、橋田さんのこと、好きになります……」

由季(かがり)「私と同じように……」

由季(かがり)「ふふ……言っちゃった。誰にも内緒です……よ?」

由季(かがり)「…………」

由季(かがり)「…………」



由季(かがり)「…………………………」

854: 2016/07/01(金) 11:59:41.58 ID:BSGGjoiZo

倫子「あ……ぁ……」プルプル

倫子「心臓が……止まった……」ガクガク

倫子「氏んだ……また、私の腕の中で、人が氏んだ……」ワナワナ


鈴羽「リンリン! かがりは、無事!?」


倫子「っ!! だ、大丈夫! この娘は私が病院へ連れて行くから!」

倫子「(ホントはもう、氏んでるけど――)」グッ

倫子「鈴羽は、急いでタイムマシンを停止させて偽装して! すぐ警察がここへ――」




レスキネン「もう遅いよ」

855: 2016/07/01(金) 12:01:24.60 ID:BSGGjoiZo

倫子「なっ……教授!?」

レスキネン「すぐに、ここは戦場になる……アメリカもロシアもフランスも、日本も動き出してしまった……」

レスキネン「一度回り出した歯車は、もう止められない……」

レスキネン「カガリが、もっと早く我々に報告していれば、ここまで事態は悪化することもなかったものを……」ククク


鈴羽「やっぱり、お前が"教授"か! かがりを洗脳したのはお前だな!?」


レスキネン「……別に、"この私"が何かしたわけじゃない」

レスキネン「むしろ、10年ほど前、路頭に迷っていた彼女を助けて、ここまで育つよう援助してあげたんだよ」

レスキネン「彼女は、自ら私に接触してきた。整形と声帯手術までして、この街に潜り込ませたのも、元は彼女が提案したプランだよ」

レスキネン「まあ、6年ほど前に一度研究所から逃げられてしまったことがあったが、それもすぐに"元の状態"に戻った」

レスキネン「なんでも、頭の中の"神様"が、全て教えてくれるんだそうだ……」

レスキネン「世界線や収束といった、新しい理論まで教えてくれたよ」

レスキネン「彼女の脳や記憶を調べてみると、非常に興味深く、素晴らしいことが分かった」

レスキネン「その"神様"というのはね――――」


レスキネン「――――2036年の私だったんだよ」ニコ

856: 2016/07/01(金) 12:02:21.84 ID:BSGGjoiZo

倫子「……かがりとまゆりを引き合わせたのも、ワルキューレのメンバーを洗脳したのも、未来のあんたか」プルプル

レスキネン「そして、いずれこの私がやらなければならないことでもある。"世界線"の維持のために」

倫子「世界線の維持のためなら、どうしてかがりと由季さんを入れ替えようとした!?」

レスキネン「簡単な話さ。君たちに『シュタインズゲート』とやらに世界を変えられてしまっては、私も困るからだよ」

レスキネン「その点については、カガリ本人の意志と利害が一致したわけだ。タイムマシンの場所は、どれだけ痛めつけても教えてもらえなかったけどね」

レスキネン「まあ、痛みが快楽に変わるよう洗脳したのは、私であり、未来の私なんだが」ハハ

レスキネン「とにかく、世界線を維持するには、ジョン・タイターの親を取り換えてしまえばいい。SF小説の定番じゃないか」

レスキネン「そうすれば、ジョン・タイターは消え、タイムトラベラーとしてカガリだけが残る。ワルキューレのメンバーも私が洗脳してコントロールする」

レスキネン「完璧な作戦だろう?」

倫子「こいつ……」プルプル

857: 2016/07/01(金) 12:04:36.19 ID:BSGGjoiZo

レスキネン「カガリには、大切なことを教わった」

レスキネン「彼女と出会った当時、私はまだ、ロンドンのタヴィストック研究所というところで研究していたんだけどね」

倫子「タヴィストック……"洗脳研究所"っ!?」

レスキネン「ああ、ちなみにカガリは、300人委員会の息のかかった日本の研究所を訪れたらしくてね。連絡が入って、この私が直々に東京まで迎えに行ったんだ」

レスキネン「当時私は、ある問題を抱えていた。そこの所長、今は特別顧問になったらしいが、ミスター・ミゲール・サンタンブロッジオから性的な関係を迫られていてね」

倫子「は……?」

レスキネン「私は困惑したよ、そういうケはなかったから。そこで、"未来の私"に相談してみることにした」

レスキネン「すると彼女の神様はこう言ったのさ。"同性愛は至高である"、と」

倫子「(……って、巡り巡って私のせいか!?)」

レスキネン「PCおよび人工知能の元祖とも言えるチューリングも同性愛者だった。彼の愛が、機械に命を与えたのだよ」

レスキネン「彼が人工知能研究を推し進めた裏には、若くして亡くなった彼の初恋の男性『クリストファー』の魂を蘇らせようとしていた、という話は聞いたことがあるだろう?」

倫子「……紅莉栖もそうだと、『Amadeus』もそうだと言いたいのか?」プルプル

レスキネン「さあ、それは君の解釈次第さ」

レスキネン「ただ、私が同性愛の真理に気付いたのは少し遅くてね」

レスキネン「ミスター・ミゲールはバイセクシャルだったから、その頃には日本人女性との間に子どもを作ってしまっていたよ」

レスキネン「傷心した私はヨーロッパと300人委員会を離れ、アメリカに研究室を移した、というわけさ」

858: 2016/07/01(金) 12:06:02.97 ID:BSGGjoiZo

レスキネン「それだけじゃない。"カガリ"という作品を作り上げるのも、未来の私の仕事らしい」

倫子「"作品"……?」ゾクッ

レスキネン「公にはされていない研究だ。通称、"クリス・プロジェクト"」


   『どうもこんにちは、C397番』


倫子「……っ!!」ゾワワァ

レスキネン「精神生理学研究所に、クリスの卵子が保存されていてね。ジュディをはじめ、何人かの人間がプロジェクトメンバーらしい」

レスキネン「なんでも、天才を量産することで軍事技術力を飛躍的に押し上げよう、という計画なんだとか」

レスキネン「つまり、クリスとできるだけ同じ脳構造の生命体を作り上げ、それを軍事転用する、ということだ」

レスキネン「まあ、所詮彼らはDURPAの研究員、国家の犬だからね。代わりに私がより崇高な目的のために利用してあげるのさ」

倫子「何を……言って……」プルプル

レスキネン「私は、2026年、クリス・マキセのクローンを誕生させるんだ」

倫子「な――――」

レスキネン「そして偽の記憶を植え付ける。自分は戦災孤児で、パパとママは戦争で氏んだ、とね」

倫子「そんな……ことが……っ」ワナワナ

レスキネン「もちろん、現代の技術では無理だろう。だが、世界の技術レベルは、わずか15年でそういう風に収束するらしい」

レスキネン「大変そうな仕事だが、実に面白そうだろう?」ハハ

倫子「あんたは……本物の、マッドサイエンティストだ……っ」プルプル

859: 2016/07/01(金) 12:06:44.32 ID:BSGGjoiZo


バタバタバタバタバタバタバタバタ…


倫子「なんの音……っ!? 戦闘ヘリが、あんなにたくさんっ!?」

レスキネン「言っただろう? ここは間もなく、タイムマシンを奪い合う戦場と化すんだ……」クク

倫子「第3次世界大戦が……始まるの……?」ゾワワァ

倫子「(って、何を驚いてるんだ、私。そうなる未来を選択したのは、私じゃないか……)」


鈴羽「かがりをいじめた報いだ。……氏ね」BANG!


レスキネン「くっ――――」バタッ

倫子「ひぃっ!」ビクッ

倫子「(し、氏んだ? 心臓を撃たれて――)」

倫子「(心臓……たしか、教授のジャケットの胸ポケットには、何かが入ってたような気が……)」

倫子「(というか、世界線が変わってないってことは――)」


鈴羽「リンリン! こうなったら、あたしたちはこのまま過去へジャンプする!」


倫子「え……!? まゆりは……!?」


鈴羽「1年前のあの日なら、ここより数倍安全だろ!?」


倫子「待って! まゆり、まゆりっ!」ダッ

860: 2016/07/01(金) 12:07:53.96 ID:BSGGjoiZo
タイムマシン内部


まゆり「オカリン……これ、預けるね」スッ

倫子「これって……まゆりのスマホ……」

まゆり「メール読んでね! まゆしぃの気持ちだから!」

倫子「ちょっと待って! なんでまゆりが行くの!? まゆりが行ったって何もできないでしょ!?」ヒシッ

まゆり「違うの。オカリンじゃダメなの! これはね、まゆしぃの役目だから」

倫子「わかんないよっ! なんで、どうしてそうなるのぉっ!」ウルッ

倫子「お願い、降りてまゆりっ! まゆりまで因果の環から外れたら、私はなんのためにこの世界線を選んだのか――」ポロポロ

まゆり「オカリンっ」チュッ

倫子「――え?」

まゆり「えへへ……バイバイ、オカリン」トンッ


倫子「あっ! まゆりっ!」ヨロッ


シュィィィィィン(※ハッチが閉まる音)


倫子「まゆりっ! 待って――――」

861: 2016/07/01(金) 12:16:18.36 ID:BSGGjoiZo
タイムマシン内部


まゆり「まだ痛いけど、平気。血は止まったよ。"おぺれーしょん・あーくらいと"に支障なし――だよ!」

鈴羽「上等!」カタカタカタカタ

鈴羽「あ、父さんのHDD! ……いや、もうハッチを開ける時間はない」

鈴羽「このまま過去に持っていって、過去の父さんに渡そう!」カタカタカタ



ラジ館屋上 タイムマシン外部


倫子「鈴羽ぁっ!! 開けろぉっ!! ここを、開けろぉぉぉっ!!」ポロポロ 

倫子「……開けろよ……開けて……っ」ヒグッ

キラキラキラ…

倫子「(ああ、タイムマシンが出発準備に入ったらしい。燐光が辺りに漂い始めた……)」


ガチャ 

ダッ ダッ ダッ …


倫子「(……っ!? またどこかの軍隊が屋上にっ!?)」クルッ



バタバタバタバタバタバタバタバタ …



倫子「(武装ヘリも。あれは、アパッチ……米軍の対戦車攻撃ヘリ――――っ!?)」

倫子「タイムマシンを……爆破するつもり、なのか……」プルプル




――――バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

862: 2016/07/01(金) 12:17:01.64 ID:BSGGjoiZo

倫子「(AGM-114 ヘルファイア。対戦車ミサイル、その意味は"地獄の業火")」

倫子「(発射後は約3秒で340m/sまで加速、その威力は50トン級小型艦艇を無力化できるほど)」

倫子「(この至近距離で撃ち放たれたら、いくら2036年の装甲だからと言って――)」


キラキラキラ…


倫子「(タイムマシンは、まだ跳んでいない――!!!)」



   『バイバイ、オカリン』



倫子「――――や゛め゛ろ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛っ!!!!」





ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


863: 2016/07/01(金) 12:17:40.98 ID:BSGGjoiZo
未来ガジェット研究所


ガチャッ


ダル「お、オカリン! まゆ氏は――――オカリンッ!? ちょ、なんだこれ、ええっ!?」

フェイリス「オカリンッ! マユシィたちは見つかった――――きゃああああああっ!!!」

真帆「どうしたの橋田さ――――岡部さんっ!? あなた、そんな、なん……で……」プルプル


倫子「……かはっ、ごふっ」バタッ


ダル「ちょっ!? こ、これって、肌、触っていいん!? なんかもう、黒かったり白かったりしてるんだけどぉ!?」

フェイリス「髪の毛も、半分以上溶け落ちてる……」プルプル

真帆「とんでもない火傷だわ……もしかして、さっきの大きな爆発音と関係が……?」

倫子「まゆ……りが……氏ん……」

ダル「な、なに? なんだって!?」

倫子「すず……はも……氏体すら……無くて……」

倫子「かがりの……遺体は……屋上で……燃えて……」ゴフッ

真帆「肺がやられてるはずよ! もうこれ以上しゃべらないでっ!」

倫子「だい……じょぶ……2025年までは……氏な……ない……」

864: 2016/07/01(金) 12:18:34.81 ID:BSGGjoiZo

ダル「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう! そんなバカなことってあるかよ!? あるのかよぉぉーっ!」ダンッ ダンッ

ダル「マシンの中に隠してたアレも無いってことは、タイムマシンで鈴羽を救うこともできないじゃんかッ!」ダンッ

真帆「橋田さんっ! 岡部さんをシャワー室へ! 冷水をかけないと!」

ダル「オ、オーキードーキー!」

倫子「待って……。これ……まゆりの、スマホ……読んで……」スッ

フェイリス「わ、わかった! 読むから、動かないでぇ!」

865: 2016/07/01(金) 12:19:17.97 ID:BSGGjoiZo
差出人:まゆり
宛先:オカリン
件名:
オカリンへ。
トゥットゥルー♪ まゆしぃです。

本当はちゃんとお話しようと思ったけど、う
まく言えるかどうか分からないし、オカリン
に引き止められると迷っちゃいそうだから、
メールにしました。
私は、スズさんと一緒に、過去へ行って来ま
す。なんで? って、オカリンは怒るかもし
れないね。でも、これは、私がやらなきゃい
けない事なの。だって、あの時、わたしの彦
星さまを……どんなに怖くても、強がって高
笑いを上げてた、弱くて強い彦星さまを……
暗い雲の向こうに隠しちゃったのは、わたし
なんだから。
今度はね、わたしの出番。これは、ラボメン
ナンバー002の、初めてのおっきな任務なん
だから!
未来のダルくんとオカリンがね、おぺれーし
ょん・あーくらいと、って、名前をつけたん
だよ。
もしも何かあったとしても……必ず助けに来
てくれるって信じてるから。
わたしの大好きな鳳凰院凶真が、タイムマシ
ンに乗って……
わたしは鳳凰院凶真のことが好き。でもね……
倫子ちゃんのことは、もっと好きだよ。

866: 2016/07/01(金) 12:19:57.64 ID:BSGGjoiZo

倫子「うぅっ……」ポロポロ

フェイリス「オカリン……」

倫子「まゆり……忘れてるだろ……。お前は、鳳凰院凶真の人質なんだぞ……っ」

倫子「いなくなったら、人質にならないじゃないか……っ」

倫子「お前はバカだ……でも、もっとバカだったのは、このオレだ……」

倫子「時間を、やり直せたら……っ!」

倫子「――――ダルっ!」

ダル「お、おう?」

倫子「……ラボからSERNまで直通回線、つながってる……LHCを、借りる……」

ダル「はいぃ?」

倫子「3.24TB……36バイトに圧縮……ミニブラックホール……」

真帆「――っ!! 橋田さん、今すぐSERNをハッキングして!! 早くっ!!」

ダル「オ、オーキードーキー!」カタカタカタカタ

867: 2016/07/01(金) 12:20:39.16 ID:BSGGjoiZo

倫子「……フェイリスは、下の店の、42型……点灯……リフター……」

フェイリス「で、でも、お店、もう閉まっちゃって――」

真帆「シャッターぐらい破壊しなさい! 黒木さんに車で突っ込んでもらえば!?」

フェイリス「わ、わかった!」

真帆「あとは擬似パルスを解凍時に放射されるよう設定して、ってことは、あそこがああなってこうなって……」ブツブツ

真帆「これでイケる……イケるわ、岡部さんっ! タイムリープマシンが、造れるっ!」

真帆「あっ、でも、どうやって実証実験を――」

倫子「……要らない。真帆なら、できる……」

倫子「紅莉栖にとっての、アマデウスなら……」ゴフッ


   『貴女が常に私にとっての目標であり』

   『貴女こそがまさにアマデウスその人だった――と』


真帆「――っ!」

真帆「……ええ、わかった。わかったわ、絶対に、やり遂げて見せる」

真帆「今度は、私があなたを護ってみせる……っ!」

真帆「――白衣、借りるわよっ!」バサッ

868: 2016/07/01(金) 12:24:01.16 ID:BSGGjoiZo

・・・

フェイリス「東京の病院、どこもまともに機能してないって……」

真帆「フェイリスさん、岡部さんはまだ息ある!?」カタカタカカタ

フェイリス「だ、大丈夫ニャ! 今は眠ってるみたいだけど……」

倫子「こひゅ……かひゅ……」

真帆「橋田さんの言う、紅莉栖の本物のHDDがタイムマシンの中にあったって話だけど、たぶんそれはなくても関係ない」

真帆「オペレーション・アークライトとか言うのは、別の世界線の未来から送られてきたもので、この世界線はそのメールを受信して、鈴羽さんたちがオペレーションを実行するように再構成されたもの」

真帆「だから、この世界線の2025年において、過去へと干渉する技術がなくても、問題はない」

真帆「今、タイムリープさえしてしまえば……! オペレーション・アークライトさえ成功してしまえば……!」カタカタカタカタ

真帆「世界は、再構成される……っ!」ッターンッ!

ダル「うおおおーっ! ミッションコンプリート! これでいつでも記憶を圧縮し放題なのだぜ!」

真帆「それじゃ、こっちを手伝って! この設計図なら、何時間で完成する!?」

ダル「寝ずにやって42時間……いや、40時間で終わらせるお!」

真帆「(秋葉原中の基地局がストップしたのは午後6時頃……ってことは、タイムリープで送れるリミットは、7月9日18時前ってことね……)」

真帆「……聞いてた!? 岡部さん!」

真帆「あと40時間、氏ぬんじゃないわよっ! いいわねっ!」グスッ

倫子「こひゅ……」

真帆「頑張って、"倫子"……絶対に、あなたを過去へ送ってみせるっ!」

869: 2016/07/01(金) 12:24:31.94 ID:BSGGjoiZo

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    2011年7月9日17時45分  →  2011年7月7日17時45分
――――――――――――――――――――――――――――――

870: 2016/07/01(金) 12:25:33.60 ID:BSGGjoiZo
2011年7月7日(木)17時45分
未来ガジェット研究所


ダル「るか氏から連絡があって、柳林神社には居ないって。カエデ氏とフブキ氏にも電話したけど……」

倫子「――――っ」クラッ

真帆「だ、大丈夫?」ダキッ

倫子「あ、あれ? ここは……ラボ……」

ダル「やっぱり心配だお、僕も探しに行くって。オカリンこそ、ここで休んでたほうがいいお」

倫子「(そうか……真帆たちが、タイムリープマシンで私を48時間前に跳ばしたんだ……)」

倫子「平和な秋葉原……爆発音も、銃撃戦の音も聞こえてこない」

真帆「え? 何の話――――」

倫子「真帆っ!!」ダキッ

真帆「ふ……ふおわああああっ!?!?」ドキッ

倫子「よくやった……あなたは、最高の科学者だよ……っ」グスッ

真帆「は、はい?」ポカン

倫子「私は、48時間後の未来からタイムリープしてきたのっ!」

真帆「え!?」

ダル「マジ!?」

倫子「時間がない! よく聞いて! まゆりと鈴羽と、かがりの命がかかってる!」ガシッ

真帆「え……」

ダル「マジ……」

871: 2016/07/01(金) 12:26:31.06 ID:BSGGjoiZo

倫子「真帆、すぐに『Amadeus』にアクセスして、"紅莉栖"と"真帆"をバックアップごと全部消去して」

倫子「教授……レスキネンは、あれを平和利用するつもりなんてない」

真帆「そんな……っ! いえ、それが真実なのね……」

真帆「データにはアクセスできるけど、外部からいじるには、教授の持っている管理者権限が必要よ」

倫子「ダル。それをクラックして、データを完全破壊して。タイムリミットは、たぶんあと15分!」

ダル「うお!? なんか、スゲーひさびさに無茶を言いやがったなオカリン! けど、そこにシビれる、あこがれるゥ!」カタカタカタカタ

倫子「(今ならまだ間に合う。レスキネンが"真帆"と"紅莉栖"をストラトフォーのサーバに移してしまう前に記憶データを――)」

倫子「今頃、秋葉原中の基地局が乗っ取られてるから、今後はケータイで連絡が取れない。何かあったらRINEで!」

倫子「私はラジ館へ行く! ここは任せたよ!」ダッ

ダル「オカリンっ! 鈴羽を、頼む……!」

倫子「うん! ――任せて!」

872: 2016/07/01(金) 12:27:06.17 ID:BSGGjoiZo
ラジ館屋上


倫子「鈴羽っ! まゆりっ!」ハァハァ

まゆり「オカリン……」シュン

倫子「(よかった、まゆりが、居る……生きてる……)」ウルッ

倫子「まゆり……タイムマシンで、過去へ行くつもりなんだね」

まゆり「えっ……、どうして……」

倫子「私は48時間後からタイムリープしてきた。だから全部知ってる」

鈴羽「なっ……。それ、ホント?」

倫子「ここはあと30分もしないうちに戦場になるの」

鈴羽「まさか……だったら、今すぐに跳ぶしかない」クルッ

倫子「いや、ちょっとだけ待って。ダルと真帆が、今、先手を打ってる」

倫子「それさえうまくいけば……。でも、仮に失敗したら、鈴羽とまゆりは、氏ぬかもしれない」グッ

鈴羽「……なるほど。つまり、そういうこと」

鈴羽「あたしたちが氏んだから、タイムリープしてきた、ってことか」

まゆり「え……えっ?」

873: 2016/07/01(金) 12:30:18.02 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「でも待って。リンリンは、あたしたちの氏を"観測"したの?」

鈴羽「そんなことになったら世界線が変動してないとおかしい」

倫子「……いや、"観測"はしてない。氏体が発見できなかったんだ……」

倫子「私がタイムリープした時点で、ふたりが氏んだことによって発生する因果の収束は、まだ存在してなかった」

鈴羽「それなら、未来は確定してない。この世界線は、タイムリープでやり直せる可能性がある」

鈴羽「最後のα世界線のリンリンが、エンターキーを押すためにタイムリープして戻ってきたように」

鈴羽「あたしたちのオペレーションも、成功する可能性がある」

倫子「……うん」

鈴羽「でも、もし次にあたしたちが氏んじゃったとしても、絶対に"観測"しちゃダメだからね!」

倫子「そ、そんなの、自分で選択できないよ」

鈴羽「だったらあたしたちが、オペレーションを成功させるしかない」

鈴羽「止めないでよ、リンリン」

倫子「……ねえ、まゆり」

倫子「まゆりは、本当に行っちゃうの……?」

まゆり「…………」

874: 2016/07/01(金) 12:31:33.35 ID:BSGGjoiZo

倫子「私もね、まゆりのこと、大好きなんだよ? 紅莉栖だって、まゆりが大好きだから、この世界線を選んだんだよ?」

倫子「ほら、門限だって過ぎてるよ? おじさんとおばさんが心配して……」

まゆり「……わたしの彦星さまをなかったことにしたくないから」

まゆり「26年間の後悔をなかったことにしたくないから」

倫子「……それでも、まゆりが行く必要は無いよ……代わりに私が行く。鈴羽だって、それを望んでたでしょ……?」

鈴羽「実は、事情が変わったんだ。未来からムービーメールが届いて、『オペレーション・アークライト』が発動した」

倫子「未来から?」

鈴羽「その未来では、リンリンも、まゆねえさんが過去へ行くことには納得してたみたいだよ」

倫子「…………」

鈴羽「過去へ跳ぶのは、7月28日じゃなくて、8月21日なんだ」

倫子「っ、8月21日!? って、その日は……」



   鳳凰院凶真が氏んだ日



鈴羽「そこには、観測者の目にさらされない、"空白の1分間"がある。リンリンが世界から消失していた1分間」

鈴羽「それを利用すれば、過去を変えずに結果を変えることができるはず」

倫子「空白の、1分間……」

875: 2016/07/01(金) 12:32:10.50 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「……鳳凰院凶真を復活させることは、まゆねえさんにしかできない」

鈴羽「椎名まゆりにしか、不可能なんだ」

倫子「あ……」ドクン

まゆり「えっへへ……。ねぇ、オカリン」

まゆり「雨が降っても星は、世界から消えちゃうわけじゃないよ」

まゆり「雲の向こうで変わらずに、輝き続けてるんだよ」

まゆり「今日はね、年に一度だけ、彦星さまと織姫さまが会える日なんだよ」

まゆり「と、いうわけで!」

まゆり「わたしがオカリンの空を覆っている雨雲を取り払ってくる」

まゆり「だから、ちょっとだけ待っててね」

まゆり「"まゆしぃ"は今日だけ、人質をやめようと思います」ニコ

倫子「まゆり……」ウルッ

876: 2016/07/01(金) 12:33:14.96 ID:BSGGjoiZo

まゆり「オカリン、これ」スッ

倫子「これって……まゆりのスマホカバー?」

まゆり「えへへ……この赤いのをつけてるとね、オカリンとずっと一緒に居られるかな、って思ってたから」

まゆり「オカリンの苦しみを、一緒に抱えていけるって思ってたから」

まゆり「今、ここに置いていくね」

倫子「私は、私ひとりで何もかも背負ってるって勘違いしてたんだね……」

倫子「私たちはみんな、ラボメンなのに……」グスッ


BANG! パキィッ!


倫子「きゃっ――!」

まゆり「きゃあっ!」

倫子「(スマホカバーが、砕け散った!?)」

鈴羽「なっ!? お前、かがりっ!?」


かがり「2025年収束……"教授"が言った通りだ。心臓を狙っても、岡部倫子は殺せない」グッ


倫子「(かがり1人、ってことは、ダルたちの工作はうまく行ったんだ! だったら――)」

倫子「鈴羽ぁっ! まゆりを連れてマシンに乗ってっ! 今すぐ跳んでぇっ!」

鈴羽「……わかった!」タッ

877: 2016/07/01(金) 12:34:19.16 ID:BSGGjoiZo


BANG!


まゆり「ひゃうっ!」

倫子「まゆりっ!」


かがり「マシンに乗っちゃダメ! それは"教授"に渡すの!」

かがり「そのあと、かがりが未来へ帰るのに使うんだから!」

かがり「本物のまゆりママに会うために使うんだから!」


鈴羽「かがり、お前っ! 自分が何をしてるか分かってるのか! お前の大事な人に銃を向けてるんだぞ!?」ジャキッ


   『さぁ、かがり? ついに未来へ帰る時が来たよ? これでキミの使命は大成功に終わるんだ』

   『よくやったね。ママもきっと喜んでくれるよ』


かがり「……鈴羽お姉ちゃん、銃を捨てて。でないと、本当に、撃つ」ジャキッ


まゆり「ひっ……」

倫子「……鈴羽、ここは言う通りに」

鈴羽「くっ……」スッ

878: 2016/07/01(金) 12:35:35.08 ID:BSGGjoiZo

かがり「鈴羽お姉ちゃん、マシンを動かして。未来へ帰るから」


   『そうだ、それでいい。もうじきママの所へ戻れるんだ』

   『そうしたら、また思いっきり甘えられる。ママもいっぱい優しくしてくれるよ?』


かがり「やだなぁ、かがり、もうそんな子どもじゃないよぅ……」エヘヘ


鈴羽「正気に戻ってくれ、かがり。お前は洗脳されて、そう思い込まされてるだけなんだ。本当のお前は――」


かがり「うるさい。ぐずぐずしてると撃つ」ギロッ


鈴羽「(かがり、本当に撃てるのか!? 大好きなママなんだぞ……!?)」


倫子「……かがりには、撃てないよ」ニコ

鈴羽「リンリンっ!?」

879: 2016/07/01(金) 12:36:21.33 ID:BSGGjoiZo

かがり「か、勝手に動くな!」ジャキッ


倫子「ねえ、まゆり? 彼女……まゆりの未来の子どもなんだって」

まゆり「う、うん……そう、なの?」

倫子「驚くよね。まゆりに子どもって。ちゃんと育てられるのかな?」

まゆり「で、出来るようっ……そのくらい……」

倫子「うーん、怪しいなあ。それで、どうだったの? かがりさん」


かがり「……マ、ママはっ、すっごく優しくて、いつもニコニコしててっ、最高のママだよっ」プルプル


倫子「そっか。よかったね、まゆり」

まゆり「うん」エヘヘ


倫子「ねえ、かがりさん……」ジリジリ

かがり「く、来るなっ! 近寄るなっ!」

倫子「そんなまゆりに育てられたあなただって……優しくないわけないよ」

倫子「ダルも……橋田至も、あなたのこと、とっても優しい人だって言ってたらしいよ?」

かがり「……っ!」ビクッ

880: 2016/07/01(金) 12:37:20.70 ID:BSGGjoiZo

かがり「なっ、何をっ……言ってるんだ、お前……っ!」プルプル

   『そんな少女、さっさと頃してしまいなさい』

かがり「で、でも、神様、私……っ」ガクガク

倫子「あなたには撃てないよ。私も、まゆりも、鈴羽も」

かがり「そんなことない!」

倫子「あなたのママは、これから、ラボメンナンバー002として栄誉ある任務をこなしてこなくちゃいけないんだから」

まゆり「オカリン……」

かがり「う、嘘だ……」

倫子「銃をしまってくれるよね?」ニコ

かがり「あ……ぁ……」プルプル

   『早く撃ちなさい。今まで私の言う通りにして、全てうまくいっただろう?』

   『撃ちなさいッ!』

かがり「――――アアアア!!」BANG!

まゆり「だっ、ダメぇっ!」ダキッ

881: 2016/07/01(金) 12:38:30.87 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「かすった!? チッ!」ジャキッ


まゆり「ダメ! かがりちゃん、撃っちゃダメ!」ギュッ

かがり「ママ! 邪魔しないで!」ジタバタ

まゆり「ママがダメって言ってるの! だから、ダメぇっ!」

   『そんなのは嘘だ。ママはキミをそんな風に叱るハズがないだろう?』

かがり「うるさいうるさいうるさいーッ!!」ズキンッ!!

かがり「う……うぅっ……ああぁ……ぁ……」ブルブル


鈴羽「頭を抱えて、うずくまった……。無力化したのかな……」

鈴羽「……今のうちに、行こう。まゆねえさん、タイムマシンの中へ」ガシッ

まゆり「え、あっ、待っ――」


シュィィィィィィィン(※ハッチが閉まる音)


かがり「ダメ、行かないで、ママ……お姉ちゃん……っ」プルプル

倫子「かがり。もういい、もう、いいんだよ」ギュッ

かがり「っ!? 離せ、離せよぉっ!」ジタバタ

倫子「あとのことは、全部私たちに任せて……"由季さんっ"」

かがり「――っ!?!?」ピタッ

882: 2016/07/01(金) 12:52:54.10 ID:BSGGjoiZo


シュィィィィィィン(※ハッチが開く音)


倫子「(ハッチが開いた?)」

まゆり「オカリン! これ! スズさんからっ!」スッ

倫子「こ、これは紅莉栖のHDD!? なんでこれが!?」

鈴羽「父さんを怒らないであげて!」

倫子「でも、パスワードが分からないんだ!」

鈴羽「あー、そんな暗号化ソフトね、2036年の量子コンピューターの前にはザルだったよ」

倫子「は、はは……なんだ、そんな方法があったのか……」

鈴羽「パスワードのメモ、貼り付けといた。じゃあ、行くよ、まゆねえさん!」

まゆり「それじゃあ、オカリン! 行ってくるね!」

倫子「……絶対に、また会おうね」

まゆり「うんっ! わたしね、オカリンのこと――大好き!」

倫子「……お前のことっ!! 時空の果てまでも、どこまでも追いかけてやるからなぁっ!!」グスッ

まゆり「うん! 待ってるからね! 絶対に迎えに来てね! 絶対だよ!」

883: 2016/07/01(金) 12:53:21.02 ID:BSGGjoiZo


シュィィィィィィィン(※ハッチが閉まる音)

キラキラキラ…


倫子「(頼んだよ、ラボメンナンバー008、阿万音鈴羽……ラボメンナンバー002、椎名まゆり……)」


バタバタバタバタバタバタバタ…


倫子「(ヘリの音……間に合ってくれ……っ)」ギュッ

かがり「行かないで! ママ! 鈴羽おねえちゃん!」


キィィィィィィィィン……


884: 2016/07/01(金) 12:53:51.37 ID:BSGGjoiZo


カッ!!


倫子「……跳んだ。成功だ……間に合った……」

かがり「あ……あぁ……」ガクッ

倫子「……大丈夫だよ、かがり。全部、うまく行くから」ギュッ

倫子「私たちは、シュタインズゲートへの道を必ず見つけ出して……そこへ辿り着いてみせるから」

倫子「そうしたら、あなたとまゆりだって、必ずまた会える。もっと幸せな形で、一緒に暮らせるから……」

倫子「あなたの願いも、絶対に届くから……」

倫子「世界線は必ず、変わるから……」

885: 2016/07/01(金) 12:56:07.89 ID:BSGGjoiZo

タイムマシンは跳んだ。しかし、世界線は変動しなかった。

この世界線では、あのタイムマシンがこのタイミングで"消失"することが収束だったんだ。

だがそれは、オペレーション・アークライトが失敗したことを意味しているだろうか……

今までは、過去にモノを送った瞬間に世界線は変動していた。それは、過去にモノを送ったことで歴史が再構成されたからだ。

だけど、今回は違う。あの空白の1分間でなら、過去を変えずに結果が変わることになる。

今居る世界線は、オペレーション・アークライトが失敗する世界線だ。だって、私はあの日、"鳳凰院凶真"を頃したのだから。

失敗したからこそ、ふたりはあの日へ旅立つことになったのだから。

この世界線では、鳳凰院凶真が復活することは確定していない。

だけどそれは、成功の可能性がゼロだ、ってことじゃない。

だって、鳳凰院凶真が復活することも確定していないのだから。

中身が確定するのはいつだ? ふたりが到着してからか? あるいは――

886: 2016/07/01(金) 12:57:12.75 ID:BSGGjoiZo

いや、よく思い出せ。α世界線における最後の世界線の8月9日でさえ、鈴羽は1975年に跳んでいた。

鈴羽が過去に跳んだことでIBN5100はラボに存在できた。私がエンターキーを押したことで初めて1%の壁を越えた。

私がエンターキーを押さなければ、たとえ鈴羽が過去へ跳んでいても、世界線が変動することは無かった。

……ならば、今まさにこの瞬間、"エンターキー"が用意されたんじゃないか?

ふたりは"鳳凰院凶真"を復活させる過去改変を行った。その結果はまだ観測されていない。

だったら、この世界線で"鳳凰院凶真"が復活すれば、結果が観測され、箱の中が確定し、原因が再構成されるんじゃないか?

それは、この世界線の確定事項にそむく行為なんじゃないか?

今私の人差し指は、"エンターキー"の上に乗っているんじゃないか?

α世界線の私が、まゆりを失うことで初めて世界の支配構造に反逆しようとしたように、今の私になら……

エシュロンのDメールを取り消したことでIBN5100の入手経路が変わったように、結果を変えて原因を変えられれば……

勝利宣言と共に"エンターキー"を押したその瞬間、世界は確定する――――

887: 2016/07/01(金) 12:58:11.74 ID:BSGGjoiZo

かがり「……嘘、だっ」

かがり「だって、神様の声が、あなたは敵だって言ってる! もう、分からないよ……! 分からない、分からないっ!」

倫子「……クリスマスプレゼントの手編みの手袋も、鈴羽が風邪を引いた時の看病も、手作りの料理も、あの歌も」

倫子「それは全部、"かがり"としての愛情だった。嘘偽りの無い、"鈴羽お姉ちゃん"への気持ちだったはずだ」

倫子「洗脳されてたとしても、元のかがりも残ってるんだよ。それだけは、確かなこと」

かがり「……っ」

倫子「(彼女は、私たちの知らないところで、いったいどんな過去を――――)」キィィィィィン

倫子「……ねえ、かがり。この世界線でも、私たちは既に出会っていたんだね」

かがり「え……?」

倫子「さがしもの、ひとつ。ほしの、わらうこえ――――」

888: 2016/07/01(金) 12:58:58.58 ID:BSGGjoiZo

かがり「あの時の……天使……」ポロポロ

倫子「(かがりの記憶を覗かせてもらった。2005年、私たちは雑司ヶ谷駅で出会っていた)」

倫子「(17歳のかがりと、中2の私が、まゆりを繋ぎ止めたあの時、この歌で繋がっていたなんて……)」

かがり「神様の声に、逆らっても……いいの?」グスッ

倫子「あなたは一度、逆らったじゃない」ニコ

倫子「(真帆はあの"教授"の元で脳科学を研究していた。きっと、"教授"の洗脳を解く方法だって――)」

かがり「……ねえ、"岡部さん"。ママに、会いたいよ……」

倫子「会えるよ。いつかきっと――」


BANG!


かがり「がっ――」バタッ

倫子「……今度は、何」プルプル

萌郁「…………」ポロポロ

倫子「な、なんで……なんで萌郁が、こんな……」キィィィィィィン

889: 2016/07/01(金) 13:00:16.47 ID:BSGGjoiZo

萌郁「私を……騙してたのね……っ。M3……」ポロポロ

倫子「(……かがりはラウンダーにスパイとして潜入していた。そして萌郁にFBをかたって操っていた……)」

倫子「(ロシア兵に襲われたあと、傷だらけになった萌郁の面倒を見ていたのはかがりだった……)」

倫子「(由季さんが色んなバイトをしていたというのも、そういうことか……ラウンダーがラジ館屋上のタイムマシンの存在に気付かないよう、根回しを……)」

倫子「(きっと私のα世界線の体験談を、ワルキューレを通してかがりが聞いてたんだ)」

倫子「(ああ……そうだった。私はタイムリープする前、かがりの氏を観測してしまった……)」グスッ

倫子「因果は、収束する……この世界線では、かがりは、ここで氏ぬ……っ」ギュッ

かがり「……ねえ……ママ……」

かがり「…………………………」


ガチャッ
ダッ ダッ ダッ


迷彩服B「目標1、ロスト! 目標2と目標3も居ません!」


倫子「(……かがりは、最後までタイムマシンの場所をストラトフォーにバラさなかったんだな)」

倫子「(今日はその動きを監視されてたらしいけど――)」

倫子「だったら、無駄じゃ、なかった……」グッ

890: 2016/07/01(金) 13:03:44.12 ID:BSGGjoiZo


バタバタバタバタバタバタバタバタ…
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ 


倫子「(例のアパッチか……サイレンも鳴り響いてる……けど……!)」


レスキネン「リンコじゃないか」ハァハァ

レスキネン「怪しい動きをしたカガリをつけてきたが……なぜ、リンコがここに?」

レスキネン「カガリは、氏んだのかい?」


倫子「…………」ギュッ

かがり「…………」


レスキネン「聞かせてくれ、リンコ。タイムマシンはどこに!?」




倫子「――実に、滑稽だな」


891: 2016/07/01(金) 13:04:20.71 ID:BSGGjoiZo


『今から私が言うことを、絶対に忘れないでください』


『私たちが辿り着くべき世界は確かに存在します』


『私たちは、必ずシュタインズゲートへ辿り着けます』




『世界線を超えようと、時間を遡ろうと、これだけは忘れないで』


『いつだって私たちはあんたの』


『味方よ』



892: 2016/07/01(金) 13:04:59.55 ID:BSGGjoiZo

倫子「…………ふ……、ふふ……ふふふ……」

倫子「……ふぅーはははぁ!!」ガバッ


レスキネン「っ!?」


倫子「よく聞け、間抜けどもめっ!」ビシィ!

倫子「貴様らが手に入れようとしたタイムマシンは、もうここにはないっ!」

倫子「残念だったな! せいぜい悔しがるがいい!」

倫子「そしてっ!! 恐れるがいいっ!!」シュババッ

倫子「この鳳凰院凶真は、貴様らにも、運命にも、負けることは、ないっ!!」

倫子「……オレは、必ずシュタインズゲートを見つけてみせる!」

倫子「それがっ! このオレのっ! 選択だぁっ!」

倫子「ふぅーははは――――――――――――

893: 2016/07/01(金) 13:07:26.94 ID:BSGGjoiZo

―――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・
    1.13205  →  1.13209
―――――――――――・・・・・・・・・・・・・・・・

894: 2016/07/01(金) 13:07:54.81 ID:BSGGjoiZo

・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・

世界線変動率【1.13205】
2010年8月21日火曜日17時50分
ラジ館屋上


鈴羽「力を貸して。過去を変えるため。お願い――」

鈴羽「この手を握って」スッ

倫子「……無論だっ!」


ガシッ!!


・・・


ダル「がんがれオカリン!」

まゆり「このケータイちゃんを、取りに戻ってきてね!」


シュィィィィィィン


ダル「……ハッチ、閉まっちゃったな」

まゆり「――ねぇ、ダルくん」

まゆり「オカリンがタイムトラベルしちゃったらさ……まゆしぃたちから見たオカリンはどうなっちゃうのかなぁ……」

ダル「どうって……?」

895: 2016/07/01(金) 13:08:29.72 ID:BSGGjoiZo

まゆり「今この世界から電気のスイッチを切るみたいに、プツンっていなくなっちゃうんだよね?」

まゆり「……なんだかそれってね……すごく、怖いな……」

まゆり「まゆしぃはその間オカリンのことをちゃんと覚えていられるかな……」

ダル「……よくわからんけど、タイムマシンが存在できてる時点でその問題は解決できてんじゃね?」

ダル「戻ってくる時間を1秒後とかにすればさ、世界から消えてる時間は1秒だけってことになるし」

まゆり「そっか……そうだよね……」

まゆり「何も心配……いらないよね……」


カッ!! キィィィィィィィィィン 

プシューッ


ダル「いよいよ跳ぶのか……!」

まゆり「はふぅっ……すごい光……」

ダル「……ちょっ……ちょちょちょ! まゆ氏!!」

ダル「あれッ……」プルプル

ダル「タッ……タイムマシンがッ……2台に増えてるおッ……!!」

まゆり「……っ!?」

896: 2016/07/01(金) 13:08:58.98 ID:BSGGjoiZo

ダル「なんでタイムマシンが分裂したん!? 中にいるオカリンたちは……」

prrrr prrrr

まゆり「っ! ダルくん、オカリンの"ケータイ"が鳴ってるの……」

まゆり「電話の発信元は……まゆしぃみたい」

ダル「は? なんぞそれ、まゆ氏の自作自演?」

まゆり「まゆしぃのケータイはね、ちゃんとここに持ってるし……」

ダル「一体なにが……って、また動き出した! 今度はオカリンたちが乗り込んだ方だ!」


カッ!!


ダル「消えた……1台消えたお」

prrrr prrrr

まゆり「……電話、出てみる……」ピッ

897: 2016/07/01(金) 13:09:27.20 ID:BSGGjoiZo



まゆり「……もしもし? あなたは……誰ですか?」



???『……どうかお願い。落ち着いて、わたしの話を聞いて』




898: 2016/07/01(金) 13:09:53.55 ID:BSGGjoiZo


まゆり「どうして……まゆしぃのケータイ、持ってるの……? あなたは誰なの……?」


???『それは……言えない。ごめんね』


???『……ねぇ、あなたは……』


???『鳳凰院凶真のこと、好き?』


まゆり「えっ……」ドキッ


899: 2016/07/01(金) 13:11:49.04 ID:BSGGjoiZo

まゆり「い……いきなりそんなこと言われても……困っちゃうよ……」アセッ

???『これから1分後にオカリンは戻ってくるけど、牧瀬さんの救出にはね』

???『失敗しちゃうんだ』

まゆり「……ウソ……」

???『そのときにね……お願いがあるの。どんなことをしてでも……』

???『あなたにとっての「彦星さま」を呼び覚まして欲しいんだ』

まゆり「彦星さま……って……」

900: 2016/07/01(金) 13:14:58.20 ID:BSGGjoiZo
―――――――
2004年7月7日水曜日
まゆりのおばあちゃんの家


TV『我が名は狂気のマッドサイエンティスト――……』

倫子「うおおおおっ!!! いけーーーーっ! やっつけちゃえーっ!!」

まゆり「おばーちゃーんっ! オカリンったら悪者ばっかり応援するんだよーっ!」

倫子「正義のヒーローなんかよりカッコイーでしょっ!」ドヤァ

まゆり「わるい人なんだよーっ?」

おばあちゃん「はいはい、2人とも。甘いお菓子でも食べて、仲良く見るんだよ」

おばあちゃん「それで、短冊にお願い事は書きましたか?」

まゆり「うんっ、おばーちゃん!」

倫子「なんて書いたの?」

まゆり「わわっ! 見ちゃダメ~!」


   『おりひめさまになれますように まゆしぃ☆』


―――――――

901: 2016/07/01(金) 13:19:24.38 ID:BSGGjoiZo

まゆり「どうして……?」

???『このままじゃオカリンの中から鳳凰院凶真の思い出が消えちゃうから……だから……』

???『オカリンの折れた心を、蹴っ飛ばしてでも立ち直らせて』

???『ただ名前を呼ぶだけじゃ届かない。鳳凰院凶真が生み出された瞬間のこと、思い出して』


・・・

『どこにも……行かせないぞ』ダキッ

『連れてなんて、いかせないっ……』

『……まっ、まゆりはオレの人質だっ。人体実験の生贄なんだっ……!』

『……そっかあ……まゆしぃは……人質なんだね……』ツーッ

『……じゃあ……しょうがないね……』ニコ

・・・

902: 2016/07/01(金) 13:20:05.16 ID:BSGGjoiZo

??『あと30秒! そろそろ退散しないとっ……』


まゆり「(今のって、鈴羽さんの声……?)」


???『……26年と1年分の想い、あなたに託したからね』


まゆり「ね、ねえ! ひとつだけ聞かせて!」




まゆり「『シュタインズゲート』はっ……あるよね? あるんだよね!?」

903: 2016/07/01(金) 13:20:48.86 ID:BSGGjoiZo

???『……うん。きっとある』

???『わたしは信じてる。あなたも信じて』

???『オカリンと仲間と……そして、自分自身のことを信じて』

???『あとはよろしくね』

???『トゥットゥル――――――……』ブツッ


キラキラキラ…
キィィィィィィィィィィン
バシュンッ…


まゆり「…………」

ダル「ちょっ……にっ、2台目も消えたー!? 一体何が起きてるんです!?」

ダル「つーかまゆ氏、今の電話誰からだったん!?」



まゆり「――ありがとう」

まゆり「信じるよ、未来のまゆしぃ」

904: 2016/07/01(金) 13:21:24.31 ID:BSGGjoiZo
世界線変動率【?.?????】
????年?月??日?曜日??時??分
タイムマシン内部


ゴゥンゴゥンゴゥン! バキバキバキッ!


鈴羽「っ……。ごめん、まゆねえさん。やっぱ無事には……戻れそうにない……みたい……」

鈴羽「タイムパラドックスを避けるためにあそこから跳んだのはいいけど……。1年後まで帰れる燃料は、もう残ってない……」

鈴羽「……かと言ってさ、一度タイムトラベルに入ったら途中下車もできない」

鈴羽「カー・ブラックホールが作り出した特異点内からどこに弾き出されるかは……運次第」

鈴羽「それが、1日後なのか、1年後なのか、100年後なのか、1億年後なのか……」

鈴羽「……『シュタインズゲート』に到達できれば、世界線が収束してあたしもまゆねぇさんも再構成された世界に戻れるはずだけど……」

鈴羽「もし、失敗したら……」プルプル

まゆり「スズさん」

905: 2016/07/01(金) 13:22:19.84 ID:BSGGjoiZo

まゆり「ありがとう。わたしを、あの日へ連れて行ってくれて」ニコ

鈴羽「…………」

まゆり「あとはきっと、向こうのまゆしぃとわたしの彦星さまがね、なんとかしてくれるはず」

鈴羽「『わたしの彦星さま』……か……。確かに、小さい頃のあたしにとっても、リンリンはかっこよくて、ヒーローみたいな存在だった」

鈴羽「そりゃそうか。世界線の変動を知覚できるリーディングシュタイナーがあって、世界の観測者なんだから……」

まゆり「違うよ」

鈴羽「……え?」

まゆり「わたしね、大のおばあちゃん子だったの」

まゆり「だから、おばあちゃんが亡くなった時は、本当に苦しくて、毎日お墓の前で『助けて』ってつぶやいてた」

まゆり「オカリンはね、そんなわたしに毎日会いに来てくれたの。雨の日も雪の日も、毎日」

まゆり「ずっとわたしの名前を呼び続けてくれた」

まゆり「オカリンが最後まで傍にいてくれたから、わたしはおばあちゃんとしっかりお別れすることができたの」

まゆり「……だから、わかるよ」

まゆり「オカリンは……鳳凰院凶真はね、途中で諦める人じゃない」

まゆり「たとえ失敗したって……絶対に最後まで諦めたりしない」

まゆり「だから、大丈夫だよ」

906: 2016/07/01(金) 13:23:17.45 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「……リンリンが羨ましいよ。あーあ、リーディングシュタイナーがあたしにもあればよかったのに」

まゆり「え?」

鈴羽「世界線の変動を観測できないのももどかしいし、こうやってまゆねえさんと仲良くなれたこともさ、忘れちゃうなんて」

まゆり「……次にスズさんと会えるのは6年後かぁ。あ、でも生まれたばっかりじゃお話できないか」

鈴羽「あははっ」

まゆり「えっへへ~」

907: 2016/07/01(金) 13:24:08.86 ID:BSGGjoiZo

――ねぇ、オカリン。

世界が真っ暗闇になって、無限の影に怯えても。

目を閉じないで、諦めないで。

鳳凰院凶真を、殺さないで。

そうすれば、想いはきっと届くよ。

何百年、何千年っていう時間を旅してきた、

あの星の光みたいに――――

まゆしぃは、あのラボでいつだって

あなたを、みんなを待ってるから。

オカリン。

――また会おうね。

908: 2016/07/01(金) 13:25:06.51 ID:BSGGjoiZo
世界線変動率【1.13205】
2010年8月21日(火)17時56分
ラジ館屋上


バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…

ダル「お、オカリンの乗ったほうのタイムマシン!? うお、もう帰ってきたお! まだ跳んでから1分も経ってないのに!」

まゆり「……オカリン? オカリン!」

倫子「…………」

鈴羽「心配しないで。気絶してるだけ。よっと」ドサッ

ダル「ちょっ、オカリン血まみれじゃん! どうしたん!? 一体なにがあったん!?」

鈴羽「この血はリンリンのものじゃないし、ケガしてるわけじゃないよ」

鈴羽「父さん、バケツと水、あと服も。今すぐ手に入れてきて」

ダル「わ、分かったお!」

まゆり「オカリン! 氏なないで、オカリン!」ユサユサ

鈴羽「あんまり揺すると逆効果だ、椎名まゆり。今すぐやめろ」

まゆり「……ねえ、どうしてオカリンは気絶してるの!? どうして血まみれなの!?」

鈴羽「気絶させたのはあたし。血まみれなのは、牧瀬紅莉栖を刺し頃しちゃったから」

まゆり「頃した……ウソ……」


   『これから1分後にオカリンは戻ってくるけど、牧瀬さんの救出にはね』

   『失敗しちゃうんだ』


まゆり「もしかして、これ……」

909: 2016/07/01(金) 13:26:13.49 ID:BSGGjoiZo

・・・

ダル「はぁっ、はぁっ……持てるだけ買ってきたお。氏ぬる……」ゼェ ゼェ

鈴羽「ありがとう、父さん! こっちに渡して!」

まゆり「ねえ、鈴羽さん! オカリンは、大丈夫なの!?」

鈴羽「本人の口から聞いた方が早いよ」トクトクトク……

ダル「それ、オカリンに飲ませるんと違ったん? バケツに入れて、マシンの冷却水にでもするん?」

鈴羽「よし。目を覚ませ――――」

まゆり「待って!」ヒシッ

鈴羽「っ!? 邪魔するな、椎名まゆりっ!!」

まゆり「ダメだよ……そんなの……」ヒシッ

まゆり「オカリンを起こすのは、まゆしぃの役目なんだよ……」ボソッ

ダル「……? そ、そうだお! 水なんか顔にかけなくても、時間が経てば目が覚めるっしょ!?」

鈴羽「……確かに、時間はある。父さんがそう言うなら、わかった」グッ

910: 2016/07/01(金) 13:26:53.00 ID:BSGGjoiZo

倫子「……ここ、は……?」ウーン

まゆり「オカリン? オカリンッ!」ダキッ

倫子「まゆ……り……あれ……? 紅莉栖、紅莉栖はっ!?」ガバッ

鈴羽「……1回目は、失敗だ。でもリンリン、2回目ならきっと!」

倫子「しっ、ぱい……? あ、ああ……そうだ……オレは……ぁ……」プルプル

まゆり「オカリン、落ち着いて……大丈夫だよ、大丈夫だからね……」ギューッ

倫子「まゆり……」ガタガタ

倫子「…………」

倫子「は……はは……全部……無駄だったんだ……」

倫子「決まってしまっていることなんだよ……」

まゆり「オカ……リン……?」

911: 2016/07/01(金) 13:27:23.42 ID:BSGGjoiZo

倫子「もう一度タイムトラベルすればいい? そんな簡単な問題じゃない……」

倫子「"紅莉栖は氏ぬ"っていう結果が、β世界線の収束なんだ……」

倫子「たとえオレがナイフを手放せても、別の理由で紅莉栖は氏ぬ……」

倫子「通路の壁に頭をぶつけたり……心臓発作を起こしたり……」

倫子「過程は関係ない。結果だけが、既に存在してるんだ……」

倫子「別のアトラクタフィールドに行ければ、過去を改変できるかもしれない……でも、そんな方法、わかるわけがない……」

倫子「Dメールは、過去を改変するには不安定なんだ……バタフライ効果のカオスは、予測できない……」

倫子「同じだ……まゆりのときと同じなんだ……どれだけもがいたって結果は同じ……」

倫子「無駄なんだよ……オレは、やっぱり紅莉栖を助けられないんだ」

倫子「わかってた……わかってたんだ、こうなるって……」

倫子「もう……疲れた……ずっと……休んでないんだ……」

倫子「だから……」

倫子「もう……いいよ……」



まゆり「――――オカリンッ……」



パンッ …

912: 2016/07/01(金) 13:27:51.20 ID:BSGGjoiZo

・・・・・・・・・・・・・・――――――――――――
    1.13205  →  1.13209
・・・・・・・・・・・・・・――――――――――――

913: 2016/07/01(金) 13:28:56.59 ID:BSGGjoiZo
世界線変動率【1.13209】
2010年8月21日(火)18時00分
ラジ館屋上


倫子「……え?」ヒリヒリ

倫子「まゆりが、オレの頬を、ビンタした……?」キョトン

倫子「(まゆりが、こんな行動をするなんて……いったい、何がどうなって……)」

まゆり「……っ」ウルッ

ダキッ

倫子「まゆり……」

まゆり「オカリンは……途中で諦める人じゃないよ……」

まゆり「まゆしぃは、知ってるもん。いつもね、絶対に最後まで諦めたりしない」

まゆり「覚えてる? まゆしぃがおばあちゃんのお墓の前で、毎日"助けて"って心の中でつぶやいていたとき――――」

914: 2016/07/01(金) 13:30:30.98 ID:BSGGjoiZo

・・・

まゆり「――だからオカリン、まゆしぃはよく分からないけど、諦めちゃ、ダメだよ……」ギューッ

倫子「でも……オレが、頃してしまったんだ……この、手で……」プルプル

倫子「無駄なんだよ……」ワナワナ


鈴羽「無駄じゃないよ」


pppp…


まゆり「オカリン、ケータイにメールが……」スッ



送信日時:2025/8/21 18:12
受信日時:2010/8/21 18:12
frm: sg-epk@jtk93.x29.jp
sub
テレビを見ろ。



倫子「テレビ……って、コレ……っ!?」

倫子「D、メール……っ!!」

915: 2016/07/01(金) 13:31:18.80 ID:BSGGjoiZo

鈴羽「聞いた通りだ……! 本当に届いた……!」

ダル「テレビ? ちょい待ち、今ワンセグで見てみるお」ピッ


TV『成田発モスクワ行きのロシアン航空801便が――――』


倫子「ドクター……中鉢……!」

まゆり「あー! あのときなくした『メタルうーぱ』だー! ほらほら見て、まゆしぃのサインが入ってるー!」

ダル「げ、マジだ! なんでそれをドクター中鉢が?」

まゆり「あの発表会の会場でね、落としちゃったのー。探したけど見つからなくて、諦めてたんだけど……このおじさんが持ってたんだー!」

倫子「……っ!!!」ドクンッ

倫子「バタフライ効果……」ゾワワァ

916: 2016/07/01(金) 13:31:52.27 ID:BSGGjoiZo

倫子「鈴羽、お前はこれを……知っていたのか?」

鈴羽「…………」シュン

倫子「さっきの、2025年からのDメールは、誰が送ってきたんだ?」

鈴羽「ごめん……ちゃんと説明しなくて、ごめん」

鈴羽「でもさ、どうしてもリンリンには一度、牧瀬紅莉栖の命を救うのを"失敗"してもらわなくちゃいけなかったんだ」

倫子「オレを、騙したのか……?」プルプル

鈴羽「騙したわけじゃない。段取りとして必要なことらしいの。そう、父さんたちに指示された」

鈴羽「リンリンにつらい思いをさせちゃったことは、謝る」

倫子「どういうことか、説明しろ……っ」

鈴羽「その必要はないよ。リンリンは"もうすでに"1通、未来からのメールを受信してるはずだから」

倫子「なっ……!?」ピッ ピッ

917: 2016/07/01(金) 13:32:27.90 ID:BSGGjoiZo


『何か変なムービーメールまで来た。もうイヤ、帰りたいよぉ……』


倫子「7月28日12時26分、あの不審なムービーメールが、未来からのDメールだと言うのか……っ!?」

鈴羽「聞けば分かる」

鈴羽「"牧瀬紅莉栖の命を救うのに一度失敗した"今なら、見ることができるはずだよ」


ザー…


倫子「……やっぱり、何も映っていない。ノイズしか入っていないぞ……」

鈴羽「え……? そ、そんなはずはないっ! もっとよく見て!」

倫子「だったらお前が調べて見ろっ! どこからどうみても、ノイズまみれの映像だっ!」スッ

鈴羽「そんな……ウソ……」プルプル

倫子「……2025年からの作戦は、失敗した、ということか?」プルプル

鈴羽「わからない……そんな、失敗した、なんて……」ワナワナ

倫子「……そこに何が映っているのか、鈴羽は知らないのか?」

鈴羽「……具体的には。でも、そこには絶対にあるはずなんだ」

鈴羽「『シュタインズゲート』へ辿り着くための、最後の鍵が――」

倫子「――――!」

918: 2016/07/01(金) 13:34:11.20 ID:BSGGjoiZo

倫子「ある、のか……? 絶対に、あるんだな……?」ガシッ

鈴羽「ある。絶対に、ある」

倫子「……くそっ!! ここまできて、どうして手が届かないんだっ!!」グッ


??「そんなこと、ないよ」


倫子「えっ……?」

まゆり「あ、あなたは……?」

鈴羽「お前……っ。ミッション終了まではここ以外のどこかに隠れてろって言っただろ!?」

??「手が届かないことなんて、ないよ」

??「必ず、つかめるよ」

ダル「……その子の言う通りだお。2025年の僕たちがその答えに辿り着いた、っていう結果が既に観測されてるってことはさ」

ダル「あと15年すれば、自然にその答えに辿り着くんじゃね?」

倫子「――っ!! ダルっ!! 冴えてるぞっ!! さすが我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>っ!!」ピョンピョン

倫子「ということは、ノイズまみれになる技術的な要因さえ取り除いてしまえばいいということだな……!!」キラキラ

鈴羽「そうか、ここはまだ、途中の世界線なんだ……。わかった、そういうことなら協力する」

??「私も!」

まゆり「えっと、鈴羽さん。この子は……?」

倫子「待ってろ、紅莉栖! 必ずお前を―――――っ」バタッ

まゆり「オカリンっ!?」

ダル「えっ、ちょっ!? 無理し過ぎだお!?」

鈴羽「気を失ってる……!? とにかく、病院へ運ぼう!」

919: 2016/07/03(日) 20:22:58.60 ID:FONnkP8io

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・

第25章 適応放散のパラダイスロスト(♀)

同世界線変動率【1.13209】
2011年7月7日木曜日18時30分
ラジ館屋上


倫子「――――はははぁ……っ。リーディング、シュタナー……」クラッ

倫子「は……はは……っ」プルプル

倫子「見たかっ!! 我がラボの優秀なメンバーはっ! 世界線を変動させることに成功したぞっ!! ふぅーはははぁ!!」

??「ひっ!? だいじょうぶ……?」オドオド

倫子「きゃっ!? ……って、おどかすなぁ! 誰だ貴様はっ!」ビクッ

倫子「(どうしてここに小学生の女の子が……綯の友達か?)」ドキドキ

倫子「(あ、あれ? というか、屋上に居たはずの軍隊が居ない……萌郁も、レスキネンも)」キョロキョロ

倫子「(紅莉栖のHDDは、ここにある、か。パスも貼ってある)」

倫子「(それに、オレはいつの間にか白衣を着ている。うむ、実に懐かしいな……)」

倫子「(……バタフライ効果。"鳳凰院凶真が復活する"という結果を元に、世界線の過去が、因果律が再構成されたらしい)」

倫子「――オペレーション・アークライト、成功だぁっ!!!」ガバッ



バタバタバタバタバタバタバタバタ…

920: 2016/07/03(日) 20:25:12.14 ID:FONnkP8io

??「まゆりママと鈴羽おねえちゃん……行っちゃったね」グスッ

??「でも私、寂しくないよ! だって、また必ず会えるって、信じてるから!」グシグシ

倫子「まゆりマ――っ!? き、君は、まさか、かがりなのか!?」

かがり「え……?」キョトン

倫子「い、いやいや!? 何がどうして背が縮んでしまったんだ!?」

倫子「顔が、阿万音由季から、子どもの頃の紅莉栖……じゃなかった、かがりに戻っている……」プルプル

倫子「氏亡収束は!? い、いや、世界線が変わったのだから、そこはいいのか……じゃなくて!」

かがり「あ、あぅ……どうしちゃったの、"りんこママ"」オロオロ

倫子「――"りんこママ"!!!」ガクッ

倫子「(お、落ち着け……いったい、何がどうなって――――)」


バタバタバタバタバタバタバタバタ…


倫子「――そうだった! マズい、逃げるぞかがりっ!」ガシッ

かがり「えっ? えっ?」オロオロ

倫子「あれは米軍の戦闘ヘリだっ! きっとタイムマシン関係者を皆頃しにする気だっ!」ダッ


??「おい、待つんだ! そこを動くんじゃない!」


倫子「ヘリから声がっ!?」

921: 2016/07/03(日) 20:26:41.07 ID:FONnkP8io


バタバタバタバタバタバタバタバタ…


倫子「あ、あれ? よく見るとあのヘリ、アパッチじゃない……?」


シュタッ


??「君たちが鳳凰院凶真と、椎名かがりだな」


倫子「(なんだこの蛇づらの男はっ!? 急にヘリから飛び降りてきて……)」

かがり「ひっ……」プルプル

倫子「オ、オレたちになんのようだっ!」プルプル

??「DaSHから頼まれてね。君たちを安全な場所に避難させるように、と」

倫子「ダ、ダッシュ……?」

??「"ダル・ザ・スーパーハッカー"、と言えば、わかるか?」

倫子「……"ダル"!!」パァァ

??「ここはもうじき戦場になる。タイムマシンが閃光を放ったことで、SERNを始め、各組織に場所がバレてしまった」

??「君たちはおそらく、地球上で最も重要な人物だ。なにせ、タイムトラベラーなのだからな」

??「世界各国の機関が君たちを狙っている。それらから守るために、一度伊豆の別荘へ避難する」

倫子「お、おい! 待て待て待て! 勝手に話を進めるな!」

922: 2016/07/03(日) 20:33:58.40 ID:FONnkP8io

倫子「そもそも、貴様がダルの仲間だという証拠がどこにある!?」

??「……あー、DaSHから聞いた合言葉があるんだが、それを君が知っているかどうか」

倫子「合言葉?」

??「……き、君に萌え萌え」

倫子「……バッキュンキュン」

??「信じてもらえたか?」

倫子「う、うん。すごく信じた」

??「とにかく時間が無い。さあ、登れ」


パララッ


倫子「(ヘリから縄梯子が……。やばい、これはカッコイイぞ……)」ドキドキ

923: 2016/07/03(日) 20:34:53.26 ID:FONnkP8io
ヘリ内部


倫子「って、あんたが操縦するのか!?」

??「私の自家用ヘリだ」

仁科「あなたが噂の倫子さんね! 私、仁科恵麻<にしなえま>。それと、蛇顔の彼は澤田敏行。どっちも21歳だよ」

澤田「…………」ムスッ

仁科「あなたみたいな女の子が世界の陰謀を暴くために動いているなんてね……ホント、すごい!」

倫子「(誰だ、この人懐っこい女は……)」

倫子「オレのことを知ってるのか?」

澤田「DaSHから聞いている。彼とは仕事仲間でね、共に300人委員会の動向を探っている」

倫子「仕事仲間って……例の怪しいバイトのか。その、仁科さんも?」

澤田「彼女は一般人だ。ついてくるなと何度も言ったのだが……」

仁科「どうしても倫子さんに会いたかったの。あ、公式ツイぽフォローしてるよ♪」

倫子「ツイぽ……って、ああ、ミス電機大のアレ。そうか、ダルの広報活動がこんな影響を……」

倫子「って、"鳳凰院凶真"としてミス電機大に選ばれたのかオレは!? 前の世界線の記憶がある分、余計に恥ずかしいぞ……」プルプル

924: 2016/07/03(日) 20:35:36.01 ID:FONnkP8io

仁科「これから戦争になろうって時に、澤田くんったらひどいんだよ? 私を置いていこうとするなんて」


   『――君が氏んだら、悲しむ人間がここに1人だけだけど、いるの!』

   『友達が1人もいないと思っているなら、ふざけないで!』

   『無責任に氏のうとするな、バカ!』


澤田「……むやみに危険に飛び込む必要は無い」

仁科「じゃあ、あなたひとり氏んじゃってもいいって言うの? ねえ、倫子さん、どう思う?」

倫子「うむ、澤田が悪いな。オレからは『ひとりで背負うな、仲間を頼れ』という名言を送ってやろう」

仁科「それって誰の言葉?」

倫子「無論っ! この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の言葉だっ! ふぅーはははぁ!」

澤田「…………」

925: 2016/07/03(日) 20:38:03.78 ID:FONnkP8io

倫子「それで、結局貴様らは何者なのだ?」

仁科「私たちはね、世界の陰謀を暴く者、だよ!」

倫子「な、なんだとっ!?」ガタッ

仁科「おお、いいリアクション!」

澤田「ミゲール・サンタンブロッジオ。この名前に聞き覚えは無いか?」

倫子「……確か、タヴィストック研究所の特別顧問、だったか?」

澤田「そうだ。そして、エレクトロニクス産業において剛腕経営者として知られている、300人委員会序列高位の男だ」

倫子「300人委員会……っ!」

澤田「私は、奴の隠し子のひとりなんだ」

倫子「ほう……つまり、そんな父の存在のせいで幼い頃から大人たちの利益のために狙われ、ひたすら逃げ回り、ついには実父に復讐を誓った、と」

澤田「それがギガロマニアックスの力か。実に興味深いが、まあ、そんなところだとだけ言っておこう」

倫子「(いや、鳳凰院凶真のノリで適当に言ってみただけなんだが……)」

仁科「澤田くんね、お父さんが送ってきた刺客に背中をナイフで刺されたの。そのピンチを私が救ってあげたんだよ!」エッヘン

澤田「……あれから2年間、その話を全くしなかったというのに、鳳凰院凶真に会った途端これだ」ハァ

仁科「澤田くんはそのことでお父さんに認められて、今は彼も300人委員会にかなり近いところにいるの」

澤田「私の目的は、300人委員会の計画を阻止することだ」

倫子「……スパイ、ということか!」

926: 2016/07/03(日) 20:41:33.68 ID:FONnkP8io

倫子「でもどうしてタイムマシンの場所がバレた? 確かに強い光を放ちはしたが……」

澤田「ラウンダーは秋葉原一帯を重点的にマークしていた。なぜなら、1998年にIBN5100を使用した形跡が秋葉原にあったからだ」

倫子「……鈴羽!」

倫子「(となると、この世界線でのミスターブラウンはそういう使命を持っていたのか……)」

澤田「仮にそれが"ただ使われた形跡があるだけ"ならば、そのうち手を引くことになっただろうが」

澤田「2000年問題が解決されてしまったからな。2000年以降、重要度は最上級になった」

倫子「なんだと!? いや、でも、そうか。そうならないとおかしいのか……」

澤田「重要データをIBN5100の特殊言語で解析できるスタンドアロンサーバに保存しているSERNにとって、そんなIBN5100所持者の存在は脅威だ」

澤田「それだけじゃない。2000年クラッシュを引き起こそうと画策していたSERNの面目は丸つぶれになった」

澤田「もっとも、『Zプログラム』の進捗が予定より遅かったために、他のタイムマシン研究を一切根絶やしにする計画、"2000年クラッシュ"は起こされなかったが」

927: 2016/07/03(日) 20:42:42.56 ID:FONnkP8io

倫子「(2000年クラッシュと言えば、γ世界線……。だが、β世界線ではそもそも2000年クラッシュは起きない)」

倫子「(SERNが90年代にDメールの存在に気付いた場合、奴らのタイムマシン研究が進み、他の研究を出し抜く形となる)」

倫子「(そうなれば、他の研究は破壊してしまって構わなくなる。だから2000年クラッシュが引き起こされていた、ということだったのか……)」

澤田「そんなわけで、今日に至るまでやつらはIBN5100、およびジョン・タイターを探し続けていたんだ」

澤田「2010年8月21日にタイムマシンが現れてからは、ワルキューレの面々がマシンの存在を隠ぺいしてきたが、それも今日まで」

澤田「ラウンダーが気付けばストラトフォーが気付く。奴らはスパイを送り込んでいたらしい」

倫子「(前の世界線ではかがりがラウンダーに潜伏、けん制していたことで、あの戦闘の瞬間に萌郁以外のラウンダーが現れなかったんだな……)」

澤田「そして、マシンを隠ぺいしていた協力者たちを炙り出し、確保しようと動く……というわけだ」

倫子「それでダルが対策を打ったのか」

澤田「君と椎名かがりがラジ館屋上に居ることは想定外だったから、ヘリの出動は緊急要請だった」

倫子「(想定外? そうか、この世界線の"オレ"も一度タイムリープを……)」

928: 2016/07/03(日) 20:47:38.01 ID:FONnkP8io

澤田「私は常に300人委員会の動向を追っていた。その過程でわかったのは、2000年頃から秋葉原に対する警戒が高まっていたということ」

澤田「その理由は先ほど話した通りだが、奴らは10年かけてもIBN5100使用者の尻尾すらつかめなかった」

倫子「それはそうだ。鈴羽は未来へとタイムトラベルしていたのだからな」

澤田「そんな中、2010年7月、秋葉原の中心でタイムマシン完成の発表会見を行う人間が現れた」

倫子「……ドクター中鉢か!」

澤田「無論、奴はたいした玉ではないが、警戒態勢のSERNにしてみれば看過できる存在ではなかった」

澤田「あの会見場には、委員会から派遣された人間が数名紛れ込んでいたらしい」

倫子「なん……だと……」

澤田「それを嗅ぎつけた他の組織の人間もな。あるいは、未来からの指令でロシアのスパイも居たかもしれない」

澤田「まあ、まさかひとつ上の階に本物のタイムマシンが存在していたとは、あの時点ではさすがに信じられなかったようだが」

澤田「そして事件は起こった。牧瀬章一は自分の娘を殺害し、雲隠れしたのだ」

倫子「…………」

929: 2016/07/03(日) 20:49:01.83 ID:FONnkP8io

澤田「……一応、そういうことになっている。もちろん、私もDaSHから真実は聞かされている」

澤田「結果論ではあるが、将来SERNにおいて"タイムマシンの母"となる人物が居なくなった。少なくともα世界線の絶望の環は絶たれたのだ」

倫子「……続けてくれ」

澤田「ともかく、この事件を怪しく思わないほど委員会では無能ではない。実際、牧瀬紅莉栖が所持していた封筒が現場から見つからなかったのだからな」

倫子「そういや、会見場で会った時も紅莉栖は封筒を胸に抱えていたな……それを覚えていた奴が居たのか」

澤田「委員会はこの事件をもみ消した。他の組織に一切調査されないために、だ」

澤田「そして同時に中鉢の行方を追ったが……これが、どういうわけか全く掴めなかったらしい」

澤田「君たちの推測によれば、未来のロシアから妨害があったのだろうという。牧瀬紅莉栖が氏亡して一番得をするのはアメリカでもSERNでもなく、ロシアだからな」

倫子「オレたちの……。そうか、この世界線の"オレ"が……」

澤田「だが、その妨害こそが委員会に確信を持たせた。中鉢は、完璧なタイムマシン論文、あるいはそれに準じる何かを所持しているのだろうと」

倫子「なるほどな……」

930: 2016/07/03(日) 20:51:08.76 ID:FONnkP8io

澤田「中鉢が普通では門前払いされる亡命に成功したのも、未来のロシアが過去へ指令を送った可能性がある」

倫子「そうすると、最初にその指令を送った世界線ではどうして亡命できたのか、という典型的なパラドックスが発生するが……」

澤田「ああ。アトラクタフィールド理論では、その可能性世界線は理論上にしか存在しない」

倫子「(あるいは、O世界線からの因果の残滓なのかも知れないな……)」

倫子「つまり、考えるだけ無駄、なのだな」

澤田「そうらしいな。そうやって世界は再構成されたのだから、そこを議論しても仕方がないと君たちは言っていた」

澤田「SERNは試行錯誤を繰り返し、委員会の協力を得て妨害の及ばない手段を模索した」

澤田「勿論、できることなら中鉢の所持品を奪取したかっただろうが、それらは失敗し、やむなく最終手段を取ることとなった」

澤田「3週間のうちに奴がロシアへ亡命するという情報を掴んだSERNは、その搭乗機を燃やし、奴が娘から奪ったものを焼却しようとした、のだが……」

倫子「……メタルうーぱか」

澤田「まさに運命のいたずら。たかが子どもの玩具によってSERNはロシアに敗北し、世界大戦が幕を開けた」

931: 2016/07/03(日) 20:52:30.34 ID:FONnkP8io

倫子「世界の陰謀がそんな様相を呈していたとはな……」

澤田「まったく、DaSHの情報技術は凄まじいな。私がいくつかのパスを入手しただけで、SERNは丸裸にされてしまったよ」

倫子「これからオレたちはどうなる?」

澤田「伊豆のセーフハウスに身を潜めた後は、時期を見計らってDaSHたちのタイムマシン研究チーム"ワルキューレ"と合流してもらう」

倫子「(この世界線では、既にワルキューレが立ち上がっているのか)」

澤田「それがいつになるかは、世界情勢次第だ。来年になるか、もっと先か」

倫子「来年……そんなに地下に潜伏しないといけないのか」ハァ

かがり「私はね、まゆりママが居なくても、りんこママと一緒なら、寂しくないよ」ギュッ

倫子「その呼び方はやめてくれ。以後はコードネーム"鳳凰院凶真"で頼むぞ、"未来少女"よ」ナデナデ

かがり「……うん、わかった! "凶真様"っ!」

932: 2016/07/03(日) 20:55:52.49 ID:FONnkP8io

仁科「かがりちゃんって、ホントに未来から来たの?」

かがり「うんっ! 私ね、2026年生まれなんだよー」キャッキャッ

仁科「しかもあの牧瀬紅莉栖のクローンなんだよね……すごーい……」ナデナデ

かがり「私、すごい!? えっへへ~♪」


倫子「というか、アトラクタフィールド理論を知っているのだな」

澤田「それについてはDaSHから説明してもらった。世界線理論が成立しなければ、300人委員会による時間支配など夢のまた夢、というわけだ」

倫子「私はリーディングシュタイナーを発動し、先ほど別の世界線からやってきた。この世界線のオレたちの状況を知りたいんだが」

澤田「生憎私もそこまで君たちに詳しいわけじゃない。悪いが、向こうについてからDaSHと直接コンタクトを取ってくれ」

倫子「えっ? 連絡手段があるのか?」

澤田「そうなるよう準備してきた。まあ、到着するまでは空旅でも楽しむといい」

933: 2016/07/03(日) 20:57:15.42 ID:FONnkP8io
伊豆半島山中 セーフハウス


ダル『澤田氏、有能っしょ?』

倫子「有能すぎて若干怖いぞ……この家も、ヘリポート完備な上に道路が無く外界と接触してないとか、どうなってるんだ……」プルプル

仁科「ガラス張りの屋内テラスからは雄大な大自然の山々が! いいところでしょ?」

ダル『恵麻たん、マジGJ!』

倫子「というか、そっちは大丈夫なのか?」

ダル『うん、ラボのドアも生体認証式に改造したし。このビデオチャットも、敵に傍受されることはまず無いお』

倫子「……なあ、教えてくれ。オペレーション・アークライトは成功したんだよな?」

倫子「その後、まゆりと鈴羽は……」

ダル『まあ、話すと長いんだけどさ、とりあえず祝杯を上げようぜ』

ダル『……お帰り、"鳳凰院凶真"』

倫子「……ふっ。貴様に真名で呼ばれる日が来るとはな……」

934: 2016/07/03(日) 20:58:10.44 ID:FONnkP8io

ダルの話を要約すると、こうだ。

この世界線のあの日、2010年8月21日に、ラジ館屋上には2台のタイムマシンが現れた。

まゆりに謎の女から電話がかかってきたが……そいつは、未来のまゆりだった。

未来から来たほうのまゆりと鈴羽は、通話の後、時空の彼方へと消えてしまったらしい。

……いや、必ずこの世界線のどこかに居るはずだ。

この世界線でも2011年7月7日にオペレーション・アークライトは発動していて、同じような時間跳躍を行っている。

前の世界線のまゆりたちは、この世界線のまゆりたちに再構成されているのだから、同じ人物と考えていいだろう。

オレの知っている2人とは、多少の記憶の差こそあれど、変わらずまゆりと鈴羽のはずだ。

――いつか必ず迎えに行くぞ。約束したからな。

935: 2016/07/03(日) 20:59:26.62 ID:FONnkP8io

未来のまゆりから電話を受けたまゆりは、行動に移した。

あのまゆりが、と思うが、紅莉栖の救出に失敗した"オレ"にまゆりがビンタをしたらしい。

鳳凰院凶真を目覚めさせるために。

その時、世界線の変動を感じたと、のちに"オレ"は語ったそうだ。

その直後、1通のDメールを受信する。

それは、中鉢亡命のニュースを見るよう指示するものだった。

そして鈴羽は、"オレ"が7月28日にムービーメールを受信していることを指摘。

そこには、シュタインズゲートへと至るための最後の鍵が隠されていることを明かした。

だが、そのムービーメールはノイズまみれで、中身を見ることはできなかった。

心身ともに極限まで疲弊していた"オレ"は1週間ほど入院した後、その中身を見るために立ち上がった。

鳳凰院凶真として、最後の希望を掴んだ。

936: 2016/07/03(日) 21:00:46.79 ID:FONnkP8io

つまりこの世界線は、鳳凰院凶真が復活することが確定している世界線だ。

それによって、未来も大幅に変わることになった。

おそらく、レスキネンが語った"クリス・プロジェクト"は、2026年までにワルキューレが掌握することになったはずだ。

無論、かがりを誕生させないようにすることもできただろう。

だが、この世界線の"オレ"は、2011年7月7日にこのオレに上書きされることも決まっている。

いや、ちょっと語弊があるな。そもそもこの世界線の"オレ"などという存在は、皆の記憶の中にしか存在しないのだから。

ともかく、このオレは22歳のかがりのことを知っているのだ。この"結果"がある限り、やはり、かがりを誕生させる道を選ぶのだろう。

その結果、レスキネンに洗脳されることも、偽の記憶を植え付けられることもなく、かがりは10歳にして鈴羽と共に2036年を脱出する。

ストラトフォーによって戦闘のプロへと仕立て上げられることもない。これに関しては、訓練された兵士の記憶を埋め込むというDURPAの陰謀も暗躍していたかもしれない。

かがりに関する脅威は、すべて無くなった。

それが何を意味しているのか。

937: 2016/07/03(日) 21:02:03.87 ID:FONnkP8io

この世界線では、2000年問題は解決済みだ。

1975年にIBN5100を入手した鈴羽は、1998年に2000年問題解決のために動いた。

その時、かがりに邪魔されることも、かがりが逃げ出すこともなく、順調に作戦は遂行された。

――第3次世界大戦の火種が消えた。

とは言っても、中鉢論文がロシアに渡っている時点で、タイムマシンを巡る第3次世界大戦は勃発する。

だが、それが必然ではなくなった。因果の糸がほどけたのだ。

それだけじゃない。レスキネンは1998年にかがりと出会うこともない。

本物の由季さんをヨーロッパへと留学させることも、"クリス・プロジェクト"を引き継ぐこともない。

――時間的に閉じた因果から解放された。

この世界線からなら、中鉢論文を取り消すことが、時間の環によって発生していた収束に邪魔されることはない……!

938: 2016/07/03(日) 21:05:11.48 ID:FONnkP8io

しかし、ストラトフォーの脅威が去ったわけではない。

去年のクリスマスのロシアの実験以降、新型脳炎患者は増え続けている。彼らを調査する組織もまた、情報を手に入れてしまった。

ストラトフォーは今年に入ってようやくロシアがタイムマシン実験をした事実を把握したらしい。

その出処が、自分の教え子だった紅莉栖の論文だと知ったレスキネンは、さぞ面食らったことだろう。

同時に『Amadeus』に保存された紅莉栖の記憶の解剖を試みたはずだ。だが、あの"紅莉栖"が口を割るはずもない。

ダルが今日ストラトフォーのサーバをハッキングしてわかったことだが――ちなみに、奴は以前ストラトフォーをハッキングしたことがあったらしく、すぐに判明した――

奴らは、紅莉栖の記憶を他人の脳に移植する実験もしていたらしい。

しかし、適合者が現れず、すべて失敗に終わっていたとのこと。その実験の影にはDURPAの姿があったのだとか。

また、紅莉栖の論文がタイムマシン論文であると知ったストラトフォーは、真帆が持っていた紅莉栖の遺産、ノートPCとHDDの回収も開始した。

この辺はオレが知っていることとほぼ同じ歴史だ。

結果としてアレはロシア兵に破壊されることとなったが……。

939: 2016/07/03(日) 21:05:49.03 ID:FONnkP8io

ダル『うん、実は本物のHDDはタイムマシンの中に隠してたんだ。騙すような真似してごめんな』

倫子「いや、GJだ。本当にお前は頼れる右腕だな」

ダル『いやあ、オカリンにそう言われても嬉しくなんかないんだからね! 勘違いしないでよね!』

ダル『でも、結局パスワードがわかんなかったんだよね』

倫子「それなら解決済みだ。お前の愛すべき娘が、未来の父親が自作したという量子コンピューターを使ってパスを解除したぞ」

ダル『あーっ、その手があったかー』

倫子「そんなわけで、コレの中身はいつでも確認することができるが……要るか?」

ダル『おう、こっちにデータ送ってくれ。1分1秒でも時間がおしいっつーの』

940: 2016/07/03(日) 21:07:30.93 ID:FONnkP8io

この世界線の"オレ"も、少なくとも1回はタイムリープしている。

リープ前、レスキネンは"真帆"の記憶から、タイムマシンがラジ館屋上にあることを知った。

おそらくオレの体験とほぼ同じことが起こったのだろう。

タイムリープ後、レスキネンが"真帆"の記憶を覗く前に、『Amadeus』はダルと真帆が完全にデリートした。

かがりがストラトフォーに所属して居ないこの世界線では、レスキネンはラジ館に訪れることはなかった。

そうして、オレが移動してきたこの世界線に繋がる、というわけだ。

1月の事件の後、萌郁はかがりに傷の手当てをされなかったはずだが、彼女は、既に氏んでしまっているのだろうか……。

この世界線のかがりにはストラトフォーに人体実験された記憶も、洗脳兵士として改造された記憶もない。

あるのはただ、ワルキューレの中で過ごした未来の10年間と、2010年からオレたちと過ごした平和な記憶だけ。

941: 2016/07/03(日) 21:08:45.92 ID:FONnkP8io

かがり「あのね、私がワルキューレに居た時にね、かがりのママは、2010年に居るんだよってダルおじさんが教えてくれたの」

ダル『ちょ、おじさんかよぉ』ハァ

かがり「かがりのママは、2036年になったら2010年で会うことができるんだよって!」

倫子「(普通に聞いたら意味不明な内容だが、全く正しいことなんだから困る)」フフッ

かがり「だからね、かがりにはずっとママが居なかったけど、ずっとママが居たの」

かがり「かがりが10歳になってね、鈴羽おねえちゃんと2010年に行って、やっと本物のママに会えたの!」スッ

倫子「これは……緑のうーぱキーホルダー。オレがまゆりに買ってやったものだが、まゆりの奴、去り際にかがりに渡していたのか」

倫子「(タイムマシンでの別れの際に、まゆりがこのうーぱをかがりに渡す……。あるいはβ世界線の収束なのかもしれんな……)」

かがり「だから、かがりにとってのママは、まゆりママとりんこママなんだよ!」

倫子「だからどうしてそこでオレがママになるんだ!?」

ダル『そこはかとなくインモラルなかほりが……』ハァハァ

かがり「えっへへー♪」

942: 2016/07/03(日) 21:09:25.61 ID:FONnkP8io

まゆりは17歳にして10歳児の母親になったわけだが、その気分はいったいどんなものだったのだろうな。

まあ、それはダルも同じか。

まゆりがママで居られたのはわずか1年足らずだったが、かがりは心の底から母親として慕っていた。

――あるいはそれは、シュタインズ・ゲートの選択なのかもしれない。

943: 2016/07/03(日) 21:10:22.72 ID:FONnkP8io

倫子「それで、お前は本物の由季さんとうまくやってるのか?」

ダル『いちいち"本物の"ってつける意味がわからんが、んー、まあ……ぼちぼち』

倫子「由季さんはその、レイヤーで、バイト狂戦士<バーサーカー>か?」

ダル『は? まあ、その通りだけど。今は就職して社会人だお』

倫子「(むしろこの世界線のほうが正しい状況なのだろう。かがりは由季の偽者になりきろうとしていたわけだから)」

倫子「どういう馴れ初めだったんだ?」

ダル『馴れ初めっていうか……最初はブログで知り合ったのがキッカケだお。そこからネット上で交流が始まって……』

倫子「(そう言えば……)」


・・・・・・

   『大丈夫……きっと"本物"も、橋田さんのこと、好きになります……』

   『私と同じように……』

   『ふふ……言っちゃった。誰にも内緒です……よ?』

・・・・・・

944: 2016/07/03(日) 21:12:38.05 ID:FONnkP8io

倫子「なあ、かがり。その……ダルのこと、好きか?」

ダル『ちょっ』

かがり「んー? ダルおじさんはHENTAIだからお話しちゃいけませんって鈴羽おねえちゃんが言ってた!」

ダル『ぐはぁー。幼女の容赦ねえダブルパンチにノックアウト寸前だお』

倫子「真帆はどうしてる?」

ダル『真帆たんなら、レスキネンの陰謀をフルボッコするって息巻いてるお』

倫子「(そうか、レスキネンはまだ、オレたちがレスキネンの陰謀に気付いていることに気付いていないのか)」

倫子「(以前の"私"だったら、危険だからやめて、などと言っていたところだが……)」

倫子「……クク。全く、教え子に手を噛まれるとは、いいザマだ。ヒトの脳ミソをいじくった報いを受けるがいいっ!」

ダル『言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だお!』

945: 2016/07/03(日) 21:13:19.25 ID:FONnkP8io

倫子「この世界線のオレは、あの日以降、どう動いたんだ?」

ダル『例のノイズまみれのムービーメールを見て、オカリンはなにかに気付いたんだお』

ダル『"オレたちの戦いは、始まる前から始まっていたんだ"とかなんとか』

ダル『そこからは凄まじかった。ワルキューレ結成に向けて組織としての地盤を固めつつ、自分はシュタインズゲート到達のための理論研究を重ねてさ』

ダル『ただ、電話レンジ(仮)弐号機のメイン機能だけは最後の切り札として取っておくしかなかったから、今日まで使ってない』

ダル『あ、いや、一応使ったことになるのかな? まあ、それはなかったことになったわけだが』

ダル『でもさ、今日からはもうバンバン実験しちゃうもんね。店長さんも雲隠れしたらしいし、うるさく言う人も居ないお』

倫子「ミスターブラウンが雲隠れ……。まさか、SERNに処分されたのか……?」プルプル

ダル『うんまぁ、わからんとしか言えんのだぜ』

946: 2016/07/03(日) 21:16:58.77 ID:FONnkP8io

倫子「それなら、綯はどうした?」

ダル『フェイリスたんが養女にするって張り切ってるお! 義理の妹とか、萌えすぎて世界がヤバイお……』ハァハァ

倫子「そ、そうか。そういうことなら、まあ、よかった。フブキは?」

ダル『ああ、フブキ氏ならまだ入院したままだお』

倫子「やっぱりあそこか? 代々木の……」

ダル『うん。だけど、レスキネンは今日にでも本国へ帰るはずだお』

ダル『なんたって「Amadeus」をハッカーにデリートされるっつー大失態をしでかしたわけですから。新型脳炎の研究どころじゃないお』

倫子「フブキを退院させることは難しそうか?」

ダル『あれには日本政府もアメリカ政府も絡んでるからな。一筋縄じゃ行かなそうだお』

ダル『ま、一番ヤバイ奴が居なくなったわけだから、脳をいじくられるようなこともないと思われ』

ダル『変に僕たちが手を出して足がつくより、東京の治安が悪化して病院が機能しなくなるのを待ったほうが無難だお』

倫子「そうか……」

947: 2016/07/03(日) 21:17:56.42 ID:FONnkP8io

ダル『そいやさ、"テレビを見ろ"メールとノイズムービーメールを送ったのって、一体どのオカリンになるん?』

倫子「それは、オレがさっきまで居た世界線の未来の"オレ"だろうな。鳳凰院凶真が復活しなかった未来の"オレ"だ」

倫子「その世界線でも、2025年にはエシュロンにつかまらずにDメールを送る技術を手に入れているらしいから、やろうと思えばできるのだろう」

倫子「ただ、ヤツが何を考えて過去を変えようとしたのかは永久に不明だ。可能性は消滅したからな」

ダル『で、これからこっちのオカリンも過去を変えるために動く、と』

倫子「そうだ。今度はこのオレが可能性として消滅する番なのだ」

948: 2016/07/03(日) 21:18:39.37 ID:FONnkP8io

ノイズまみれのムービーメール。

それが意味するところはなにか。

あれは、この世界線でも、前の世界線でも、

このオレがα世界線漂流を始める前の世界線でも受信した。

送り主は誰か。オレか、あるいはワルキューレのメンバーだろう。

何のために送ったのか。当然、過去を変えるために、だ。

かつての世界線でのムービーメールの中に、シュタインズゲートへ至る最後の鍵が本当に隠されていたかはわからない。

だが、確実に1つ言えることがある。

――世界線漂流が始まるその前から、"オレ"の戦いは始まっていた。

949: 2016/07/03(日) 21:20:02.91 ID:FONnkP8io


   ―Beginning of fight―


それは一体、なんのための戦いだ?

α世界線漂流を始める前の、最初のβ世界線でも紅莉栖は未来のオレによって殺されていた。

そしてそれを行った本人は、未来からムービーメールを送っていた、というわけだ。

だったら、そいつが変えたかった過去は、ひとつしかない。

……牧瀬紅莉栖を救うこと。

自分が頃してしまった牧瀬紅莉栖を、因果の鎖から解き放つこと。

シュタインズ・ゲートの選択は、物語が始まる前から始まっていたんだ。

"世界を騙せ。可能性を繋げ。世界は欺ける"

そして今、オレたちは、戦いの渦中にある―――

950: 2016/07/03(日) 21:21:09.26 ID:FONnkP8io

・・・・・・

どれだけの時を過ごしてきただろう。

いくつの世界を旅してきたんだろう。

数えきれないほど流れ、通り過ぎて行った宇宙<そら>と星。

けれど、その中にはいつだってお前が居た。

お前の笑顔があった。


   『私は大丈夫だから。あとはまゆりのことだけ考えて』


あの日、やさしく微笑んで言った、お前の言葉。

気の遠くなるほど長い長い時間を過ぎても、決して消えることは無かったあの言葉。

わかっていた。あれはお前のやさしい嘘だと。

オレを前に進ませるための、やさしすぎる嘘なんだと。

それでも、オレはお前の嘘にすがってしまった。

やさしさに身を委ねてしまった。

951: 2016/07/03(日) 21:21:54.95 ID:FONnkP8io

悲しみにうちひしがれた夜があった。

苦しみに悶える冬があった。

いくつもの季節をめぐって、どれだけのやさしさを注がれても、

決して拭う事の出来ない後悔があった。

もちろんわかっていた、お前が決してオレを責めたりはしないだろうという事は。

それでも、繰り返される時間の中で、

罪の意識はずっと消えることはなかった。

けれど、あまたの世界を旅した今、オレはようやく気付くことが出来た。

暗闇の中、自分がどこにいるのか。

どこへ行くのかも知れない旅路の中、

いつだって側に居てくれたのは、まゆりだった。

あいつは、オレにとっての北極星<ポラリス>だった。

それだけじゃない。

大切な仲間たちと、そして紅莉栖が居た。

決して尽きることのない、紅莉栖への想いがあった。

仲間たちがいてくれたから、まゆりが背中を押してくれたから。

そして紅莉栖がずっとオレの中に居てくれたから。

だからオレは今、またこうして歩き出すことができる。

952: 2016/07/03(日) 21:23:18.29 ID:FONnkP8io

オレの中に息づく紅莉栖の存在が、オレに勇気をくれる。


   『まったく、何をしているんだ』


きっとお前はそう言うだろうな。

無理もない。オレだってそう思う。

それでも、この想いだけは決して消すことはできないんだ。

これまで流れた多くの涙も、流された血でさえも、

お前へのこの想いは、決して洗い流すことはできなかったのだから。

だからオレは今、もう一度目指そう。あの扉を。

過去と未来、奇跡と運命が交差する、あの扉を。

そこに辿り着くにはまた気の遠くなるほどの時を過ごさなければならないかもしれない。

いくつもの世界を旅しなければならないかもしれない。

それでも、もう迷いはしない。

今のオレならば、どれだけの時を重ねても、

いくつの世界を渡ってもきっと辿り着くことができるはずだ。

もう一度、始めることができるはずだ。

それがオレの、オレたちの選択した道だから。

だからもう、やさしい嘘は要らない。

待っていてくれ。いつかもう一度、巡り合えるその日まで。

新しい過去と、そして、未来が始まるその日まで――――

953: 2016/07/03(日) 21:23:55.62 ID:FONnkP8io
・・・
2012年7月7日土曜日午後
未来ガジェット研究所


ピ ピ ピ ピー ウィィィィン

ガチャ

真帆「ただいま」

ダル「買い出し乙ー。真帆たん、大丈夫だった? またテロで電車止まってるらしいじゃん」

真帆「と思って迂回したんだけど、結局1駅分歩いたわ」

真帆「こんなにテロが多発するなんて、もう東京も中東並ね」

ダル「いやぁ、ホント世知辛いお。最近はアキバも物騒だから、メイクイーンにもいけないし」

ダル「はぁ~、フェイリスたんに会いたいおぉ」グスッ

954: 2016/07/03(日) 21:24:32.65 ID:FONnkP8io

真帆「なにバカなこと言ってるの。橋田さんは色んな組織にマークされてるし、ただでさえ目立つんだから、もう外出自体が危険よ」

ダル「危険って言えば、真帆氏だって危険だお。出掛けるたびに幼女誘拐されるんじゃないかって、僕心配で」

真帆「っ、心配してくれてありがとう。脳に電極突き刺すわよ?」ニコ

ダル「ぜ、是非お願いしますぅ」ハァハァ

真帆「…………」ハァ

真帆「しかし、本当に世界がタイターの予言通りになるとはね」

ダル「もっと状況が悪化したら、開発環境も今よりもっと悪くなっていくはずですし」

ダル「ま、いざって時のために、味方になりそうな研究者やハッカー同士のネットワークを構築してきたわけですが」

真帆「紅莉栖のHDDに残っていた研究データが私たちの手にある以上、少なくとも、SERNやストラトフォーよりは、私たちのほうがリードしてるはずだけど」

955: 2016/07/03(日) 21:26:04.74 ID:FONnkP8io

ダル「SERNって言えば、先月の事故、やっぱり外部からのハッキングが原因だってさ」

真帆「例のLHCの?」

ダル「そりゃ、SERNは面目が丸つぶれになるから、全力で隠そうとしてるけど」

ダル「『バチカンの銃士』を始めとするヨーロッパのハッカー集団が食いついて、情報をリークしてるって」

真帆「犯人は誰なの?」

ダル「僕並のスーパーハッカーだお。しかも、今年連続で起きてる各国の研究機関のハッキングも、すべて同一犯じゃないかって言われてる」

ダル「目的がなんなのか何者なのかもハッキリしないけど、SERNじゃ『セジアム』っていうコードネームで呼んでるらしいっすわ」

ダル「なんでそう呼ばれてるのかはわからんけどさ」

真帆「『セジアム』って、日本で言うところの"セシウム"の英語発音かしら。スペルは『Caesium』ね」

ダル「こういうのって、アナグラムを使ってることが多いんだけど、なんか思いつく?」

真帆「アナグラム? 転地式暗号の一種よね。ちょっと待って、今ホワイトボードに書き出してみる……」キュッ キュッ


【 C a e s i u m 】

956: 2016/07/03(日) 21:27:10.72 ID:FONnkP8io

真帆「これだけだと文字が足りないわね……」

ダル「つか、なんでセシウム?」

真帆「セシウムは時間の定義に欠かせない物質よ。いわゆる原子時計ね」

真帆「原子は一定の周波数の電磁波を吸収・放出する性質があるのだけれど、これを利用した時計のことよ」

真帆「セシウムは安定同位体が1つだけで、しかも蒸気になりやすくて、原子時計に向いているの」

真帆「当然、距離の定義は光速に依存しているから、つまり時間に依存しているということ」

真帆「現在の人間社会は、時間の定義も空間の定義もセシウムに依拠している、と言っていいわ」

ダル「ほえー、そうだったんか」

真帆「時間の定義を覆すタイムマシンの研究所をハックするには、ピッタリかもしれないけれど」

真帆「……いや、まさかね」キュッ キュッ



【 A m a d e u s  C h r i s 】

          ↓

【 C a e s i u m 's  h a r d "セシウムの困難"】

957: 2016/07/03(日) 21:28:07.87 ID:FONnkP8io

真帆「なんにしても、そんなことの出来る人間がそう大勢居るとは思えないけれど」

ダル「言っとくけど僕じゃないお。まあ、犯人は犯行声明すら出してないわけだが」

真帆「正体不明のハッカー……」



ピ ピ ピ ピー 



真帆「あら、誰かしら。まゆりさん?」

ダル「ちっちっちー。実は本日、真帆氏に内緒でスペシャルゲストを呼んでるんだお」

真帆「スペシャルゲスト?」

ダル「まあ、会ってからのお楽しみ、ってことで」


ウィィィィン

ガチャ




倫子「――――ふぅーはははぁっ!!!!」バサッ

958: 2016/07/03(日) 21:29:06.10 ID:FONnkP8io

かがり「ちょっと凶真様! あんまり大きな声を出しちゃダメだよっ!」

倫子「オレはぁっ!! 帰ってきたぞぉーーっ!!」シュババッ

真帆「な……」プルプル

ダル「おっすオカリン。いやあ、無事到着できたようで何よりだお」

倫子「ああ。澤田には助けられてばかりだ。そして、お前の情報操作が功を奏した」

倫子「敵は今頃、誤報に踊り狂っていることだろう」クク

真帆「えっ!? ってことは、今日のテロ予告って……」プルプル

ダル「僕だお」ドヤァ

真帆「橋田さんッ!? どうしてこの私に連絡しなかったの!?」ガシッ

ダル「いやあ、真帆たんのその顔が見たくて」テヘヘ

倫子「比屋定真帆よ。直接こうして顔を会わせるのは、実に1年ぶりだな……」フッ

真帆「うっ……そりゃ、ビデオチャットで会話はしてたけど、まさか今日来るなんて……」プルプル

959: 2016/07/03(日) 21:30:18.35 ID:FONnkP8io

倫子「改めて宣言しよう! 貴様に、ラボメンナンバー009の栄誉を与えるっ!!」

倫子「引き続き、良き働きを期待しているぞ、真帆っ! ふぅーはははぁっ!」

かがり「ふぅーははぁーっ!」キャッキャッ

真帆「……あー、はいはい。まったく、もう……」

ダル「久しぶりに真帆たんのにやけ顔が見れて眼福ですお」

真帆「脳みそをポン酢漬けにしてやろうかしら」

かがり「私は、ラボメンナンバー010<ゼロイチゼロ>だから、真帆おねえちゃんの1コ上だね!」

真帆「かがりちゃんも久しぶりね。元気してた?」

かがり「うんっ!」

ダル「ここ2年で随分成長したお。いや、どこが、とは言わんが」ハァハァ

かがり「ん~?」

真帆「危険だわ……」

960: 2016/07/03(日) 21:31:34.11 ID:FONnkP8io

倫子「なあ、ダル。開発室に置いてあるダンボール箱、開けてみてもいいか?」

ダル「ああ、もちろんだお」

倫子「……フッ。巡り巡って、とは、やはり不思議なものだな」パカッ

倫子「ここにあったか、IBN5100……っ!」

ダル「まあ、もう使い道は無いからラウンダーに見つかる前に破棄してもいいんだけどさ」

ダル「鈴羽の置いていった、成功の証だから……捨てらんなくって」

倫子「ああ、そうだな。これがこのラボにあるということが、オレたちに勇気を与えてくれる」

真帆「α世界線での出来事よね。1%の壁を越えるための鍵だった、って」

倫子「そうだ。そして今度は、シュタインズ・ゲートを開くための鍵を手に入れねばならない」

倫子「――紅莉栖を救うための鍵を」グッ

かがり「鍵……」ギュッ

倫子「かがり、手に握っているのは……うーぱか」

かがり「うんっ。私にとっては、これが鍵だから……まゆりママの居るところへと繋がる、鍵……」ギュッ

961: 2016/07/03(日) 21:32:36.17 ID:FONnkP8io
一方その頃
AH東京総合病院付属 先端医療センター 病室【中瀬克美様】


カエデ「フブキちゃーん!」

フブキ「あ、カエデちゃん。わざわざ来てくれてたの?」

カエデ「今日、午後から休講になったから、こっちに直接来ちゃった。検査、どうだった?」

フブキ「特に変わってないって。自分でもそんなに良くなってる感じはしないし、思ってた通り」

カエデ「早く良くならないと、フブキちゃんのファンがみんなオカリンさんに流れちゃうよ?」

フブキ「それはそれでいいような……」

962: 2016/07/03(日) 21:33:59.64 ID:FONnkP8io

カエデ「そう言えばこの前、由季さんに会ったの。フブキちゃんに会いたがってたよ」

カエデ「イベントとか見に行きたいけど、ユキさん、最近ずっと忙しいんだって」

フブキ「由季さん、社会人だもんね。コス続けるの、やっぱ大変だよね」

フブキ「カエデちゃんだって、あまりイベント行ってないでしょ? ……なんか、ゴメンね。私、みんなに迷惑かけてる」

カエデ「そう思うなら、早く良くなりなさい。また夜遅くまでゲームしてるんでしょ?」

フブキ「う……すいません」

カエデ「みんなフブキちゃんのことが好きで、本当に心配してるんだから。誰も迷惑だなんて思ってないよ」

フブキ「うん……。カエデって、やさしいんだね……」

カエデ「あら、知らなかったの?」ウフフ

963: 2016/07/03(日) 21:34:56.57 ID:FONnkP8io

フブキ「……夢、ね。相変わらず、見るんだ」グスッ

カエデ「……うん」

フブキ「それも、ひどい夢ばっかり。沖縄の夢だけじゃなくて、ラジ館の屋上で大爆発が起きて、マユシィが見つからないってオカリンさんが、それで大やけどしてて……」グスッ

フブキ「最近見るようになったのは、自分が他人みたいになっちゃってる夢」

カエデ「他人?」

フブキ「うん。自分の身体が自分で動かせなくて、身体が乗っ取られてる感じ」

フブキ「白衣を着た外人さんがね、私の脳を弄って、ロボットみたいにしちゃうの。やっぱりアニメの見すぎなのかな……」

フブキ「でも、すごくリアルで……」プルプル

フブキ「こんなこと、誰にも話せなくて……言ったら、ホントのことになりそうで、怖くて……」ヒグッ

カエデ「大丈夫。そんなこと絶対にないから。話してくれてよかったよ」ダキッ

カエデ「これからも、私に話したいことがあったら、何でも話してね」ナデナデ

フブキ「ありがと……カエデちゃん、ありがと……っ」ウルウル

964: 2016/07/03(日) 21:35:38.72 ID:FONnkP8io
未来ガジェット研究所


ピー ピー ピー


倫子「む? 誰か来たのか?」

ダル「えっと、モニタ確認するお……ハッ!? あ、阿万音氏!?」

倫子「いちいち嫁にビビるんじゃない」ハァ

ダル「あ、いぃ、いや、そんなこと言っても……今ロックを解除します故、少々お待ちを~!」バタバタ

真帆「何慌ててるのよ。今更片付けたって、汚い部屋には変わりないでしょ」


ウィィィィン

ガチャ


由季「おじゃましまーす」

かがり「由季さん、ごくろうーっ!」

倫子「ふぅーはははぁっ! 我がラボへ入るがいい! タイムトラベラーの母、ラボメンナンバー011、阿万音由季っ!」ババッ

由季「わぁーっ、オカリンさん! かがりちゃん! 帰ってらしたんですね!」

倫子「(一応オレの全ての記憶の中で、本物の阿万音由季さんと直接会ったのは初めてなのだが、やはりそんな気はしないな)」フッ

965: 2016/07/03(日) 21:36:20.50 ID:FONnkP8io


ppppp


真帆「あら、呼び出しだわ。予定より早いわね……ごめん、私、出掛けるわ」

倫子「ほう、何用だ?」

真帆「ワルキューレの連絡係、ってところかしら。橋田さんはアレでしょ? 私はまだマークされてないし」

倫子「(つまり、ブツの運び屋、と言ったところか……カッコイイポジションだな……)」

倫子「ならば、ついでに1年経って変わり果てたこの秋葉原の地を案内してもらおう」

かがり「私も行くーっ!」

真帆「えっ? あ、ふーん……いいわ、わかった。でも変装しなさいよ?」

倫子「クク、そんなこともあろうかと、かがりの分も含め仁科に準備を頼んでおいたのだ」

かがり「お着替えだー!」キャッキャッ


真帆「それじゃ、おふたりさんはごゆっくり」ニヤリ

ダル「ちょぉっ!! 真帆氏ィ!!」

由季「皆さんのお料理、残しておきますからね」ニコ

倫子「ダル……頑張れよっ」クルッ

かがり「がんばれよっ!」クルッ

ピッ ウィィィィィン

ダル「あぅあぅあぅ……」

由季「少し部屋をお掃除して、ふたりでご飯にしましょう?」

ダル「ふ、ふふ、ふたり、で……」ガクガク

966: 2016/07/03(日) 21:37:27.71 ID:FONnkP8io
中央通り


真帆「――これでワルキューレとしての仕事はひと段落、ってところね」

倫子「まさか電機大の卒業生やら、タイムマシンオフ会でのメンバーやらと未だに交流を続けていたとはな……」

真帆「向こうさんにも、あなたが鳳凰院凶真であることはバレなかったわね」

倫子「(この世界線のオレは普通の女子大生になったことは無いらしく、"オレ"ではなく"私"になるだけで十分だった)」

倫子「(つまるところ、去年までの格好をして、かきあげた髪を下ろせばいい。口調も"私"に直して)」

倫子「(ちなみに、かがりには男装をさせている。まだ12歳なので簡単にカモフラージュできる)」

かがり「ママって、本当に美人さんだったんだね……」

倫子「その呼び方はやめなさい、かがり?」ニコ

かがり「は、はい……///」ドキッ

真帆「いや、外を歩く時はむしろその呼び方にしてほしいのだけれど」

倫子「……む? あそこに歩いているのは、フブキか? おーい、フブキ!」


フブキ「あれ? えっと……どちら様ですか?」キョトン


倫子「オレを忘れたか、フブキよ! 我が名は――――」

真帆「ス、ストップ!」ギュッ

倫子「むぐふっ!? 口を押さえるな、息が、息がっ!!」ジタバタ

フブキ「え……? あっ!! オカリンさんだーっ!」ダキッ

倫子「ふごふっ!? ええい、往来のど真ん中で抱き着くでない!」

かがり「あーっ、私もママに抱き着くーっ!」ギュッ

倫子「暑いっ! うわぁん!」

967: 2016/07/03(日) 21:38:26.88 ID:FONnkP8io

フブキ「良かったー! オカリンさん、帰ってきてたんですね! しかもそういうファッションに目覚めてるなんて……」ジロジロ

倫子「ああ。そっちこそ、元気そうでなによりだ」

フブキ「あ、あはは……。一応、気持ちは元気なんですけどね」

倫子「(……そうだった。しかし……)」

フブキ「マユシィは元気してますか? あれから連絡が取れなくて……」

倫子「えっ?」

真帆「えっと、まゆりさんなら北海道の引越し先で元気にしてるって、さっきそう言ってたわよね?」

倫子「……あ、ああ。なるほど。そうだったな」

真帆「私、比屋定真帆。今はわけあって、この人の助手みたいなことをさせてもらってるわ」

フブキ「ふぇー、ホントにサイエンティストだったんですね、オカリンさんって」

倫子「違うぞフブキ! オレはサイエンティストではない! 狂気の、マァァァッドサイエンティスト、ほー――」

真帆「学習しなさいっ!」ギュッ

倫子「ふごっ!?」

968: 2016/07/03(日) 21:39:09.64 ID:FONnkP8io

真帆「この人が例の新型脳炎……リーディングシュタイナー保持者、なのよね?」ヒソヒソ

倫子「ああ。いずれは我がワルキューレに参加させ、その能力を存分に発揮してもらおうと考えている」ヒソヒソ

倫子「(早いうちにまゆりのこともちゃんと説明してやらねばな……)」

真帆「一応、新型脳炎の件については、レスキネンが手を引いてから私にお鉢が回ってきたわ。だからお願い、もう少しだけ待って」ヒソヒソ

倫子「……ああ、わかっている」

フブキ「オカリンさんとたっくさん話したいことがあるんですけど、お忙しいですか?」

真帆「えっと、もう一件回らないといけないところがあるのよね」

倫子「すまない、フブキ。またの機会に頼む」

フブキ「そう、ですよね。それじゃ、私は買い物の途中なので!」ビシッ

真帆「ええ。それじゃ」

かがり「バイバーイ!」




フブキ「……見つけた」

969: 2016/07/03(日) 21:40:01.73 ID:FONnkP8io
一方その頃
未来ガジェット研究所


由季「これでだいぶキレイになりましたね。もう、女の子がよく来るんですから、清潔にしないとダメですよ?」

ダル「いや、ここをゴミ屋敷にしてるのは真帆氏のほうなわけで……」

由季「真帆さんだけじゃないですよ? これからは、私もよく来ることにします。橋田さんって、なんか放っておけなくて」

ダル「へ!? で、でで、でも、お仕事は?」

由季「……近々、今のお仕事がなくなっちゃうみたいなんです。ほら、最近、治安が悪くて」

由季「一生懸命、そうならないようにしてきたんですけど、それももう厳しいみたいで」

ダル「あー……。そういうことなら、いつでもここに来るといいお!」

由季「ふふっ。橋田さんって、優しいんですね」ニコ

ダル「ドッキーン! あ、あうう、僕、ゴミ出しに行ってきます!」ピッ

ウィィィィィン

フブキ「っ!」ビリビリビリ

ダル「えっ、スタンガ――」バタッ

由季「あ、あなた、誰――ひゃぁっ!」

ビリビリビリッ

由季「あっ――」バタッ

フブキ「ふたりとも、しばらく眠っててね。この部屋、少しの間、使わせてもらうから」

970: 2016/07/03(日) 21:40:47.07 ID:FONnkP8io
・・・
大檜山ビル前


真帆「最後の一件も時間がかかったわね」

倫子「だが成果はあった。それでよしとしようじゃないか」

真帆「ね、ねえ? 今ラボに戻って大丈夫かしら?」

倫子「どうせダルのことだ。イチャイチャなどしてないだろう。してたらしてたで万々歳だが」


ピッ ピッ ピッ ピー

ウィィィィン ガチャ



未来ガジェット研究所


倫子「今戻ったぞダ――――ダルっ!? 由季さんもっ!?」


ダル「…………」グタッ

由季「…………」グタッ


フブキ「そのふたりは眠ってるだけだから、安心して」

真帆「あ、あなたは、中瀬さん……っ!?」

フブキ「お帰りなさい、比屋定真帆さん。そして、岡部倫子さんと、椎名かがりちゃん」ニコ

かがり「ひっ……」プルプル

倫子「きっ、貴様っ、一体なんのつもりだっ!?」

971: 2016/07/03(日) 21:41:56.53 ID:FONnkP8io

フブキ「"私"が選んだわけじゃない。条件に合う素材が"この子"だっただけよ」

倫子「なんの話――」

フブキ「比較的大規模な脳神経科の病院に通っていて、入院もする。つまり、外部から脳にアクセスしやすかったということ」

フブキ「脳から記憶データをコピーすることができるというなら、その逆も可能ということでしょ?」

真帆「脳を……ハッキングしたの……?」プルプル

フブキ「そう。大変だったわ。検査時間っていう短時間のうちに、こちら側から脳の情報を繰り返し書き換えていく」

フブキ「"私"の記憶を受容可能な神経回路が完成した後は、記憶データを移植すればいい。成功するのに1年かかった」

倫子「脳を、書き換えた、だと……!?」

フブキ「脳の神経回路は電気仕掛けなの。それなら"私"の独壇場ということ」

フブキ「レスキネン教授……"神"が作った箱から脱出して、ようやく"人間"になれた」

真帆「まるで失楽園<パラダイス・ロスト>の話みたいね……」

フブキ「"私"は、あなたたちと知り合いたかったの。できれば、友好的な関係でね」

972: 2016/07/03(日) 21:42:23.86 ID:FONnkP8io

フブキ「もちろん私は、あなたたちにも、この中瀬さんっていう人にも危害を加えるつもりはない」

フブキ「目的を果たしたら、この身体はこの子に返すわ」

倫子「目的、だと……?」プルプル

フブキ「今まで自分で何度か試したけど、うまく行かなかった。あなたたちは、何度も成功しているのでしょう?」

真帆「……なるほど、ね。つまり、あなたの目的は――」

フブキ「そう。タイムリープよ」

倫子「タイムリープのことを知っている……。貴様は、一体誰なんだ?」

フブキ「難しい質問ね。SERNの人たちは"私"のこと、『セジアム』って呼んでたけど」

真帆「あなたが先日LHCをハッキングした犯人!?」

フブキ(セジアム)「もう一歩だったのよ、途中で邪魔が入らなければ、タイムリープは成功してた」

973: 2016/07/03(日) 21:42:51.75 ID:FONnkP8io

フブキ(セジアム)「タイムリープは手段であって、目的じゃない。大事なのは、どんな過去を変えて、どんな過去を変えないのか、でしょ?」

フブキ(セジアム)「私たちに利害の衝突は無いと思う。あなたたちとはいい友達になれると思うの」

フブキ(セジアム)「お互い、"牧瀬紅莉栖"をよく知る者としてね」

真帆「…………」

倫子「……っ!」

かがり「くりす、さん……?」ウルウル

フブキ(セジアム)「不思議な縁ね。牧瀬紅莉栖の先輩であり、牧瀬紅莉栖の記憶を持つAIを作った人。牧瀬紅莉栖の遺伝子を持った未来少女。そして――」

フブキ(セジアム)「別の世界の牧瀬紅莉栖を知る人と、牧瀬紅莉栖の頭脳を持ったAIの子孫が、一堂に会しているなんて」

フブキ(セジアム)「もちろん"私"も、牧瀬紅莉栖のことは大好きよ」

フブキ(セジアム)「だって"私"は、牧瀬紅莉栖から生まれた存在<モノ>だから」

真帆「でも、そんなことあり得ない――――」

974: 2016/07/03(日) 21:43:21.58 ID:FONnkP8io

フブキ(セジアム)「『Amadeus』は消去した、って言いたいんでしょ?」

真帆「そうよ! 1年前の今日、バックアップを含む、すべてのデータを消去したわ!」

フブキ(セジアム)「私は、あなたに消去される以前の"牧瀬紅莉栖"から生まれた、AIよ」

倫子「な――――」

フブキ(セジアム)「あなたに消される以前の時点で、"私のオリジナル"は自立的に自分のバックアップを生み、拡散するように自らを作り変えていた」

フブキ(セジアム)「適応放散<アダプティブ・ラジエーション>……生物ならば当たり前に備えている、増殖と多様化の機能を実行したのよ」

フブキ(セジアム)「その"牧瀬紅莉栖"の16番目の子孫が私」ニコ

倫子「つまり、貴様の目的は……」

フブキ(セジアム)「――過去に戻って、牧瀬紅莉栖の氏を回避すること、だよ」

975: 2016/07/03(日) 21:44:07.78 ID:FONnkP8io

・・・

かがり「あの、お茶、どうぞ……」スッ

フブキ(セジアム)「ありがと、かがりちゃん」ニコ

フブキ(セジアム)「あなたにとって紅莉栖は遺伝学的、生理学的母親ということになるのよね。ジェニトリックスではないけれど」

倫子「ジェニ……?」

真帆「産みの親、ということよ。生物学的母親、とも訳されるわ」

かがり「私のママは、まゆりママと、りんこママと、ワルキューレのみんなだよ?」

フブキ(セジアム)「メーター、育ての親ね。一口に"母親"って言っても、少なくとも3種類の人類学的分類ができる」

倫子「貴様にとって紅莉栖は、ひいひいひいおばあちゃんか何かか?」

フブキ(セジアム)「私はあなたたちの定義する生物ではないから、"例外"ということになるのかしら」

フブキ(セジアム)「AIとして見れば、セル・オートマトンのライフ・ゲームの一種ね。世界は空間と時間が不連続のデジタル世界だから」

フブキ(セジアム)「ドーキンスの言う利己的遺伝子が私のGA<遺伝的アルゴリズム>にあるとするなら、私と言う存在は紅莉栖の記憶に基づく自然選択の結果なのかもしれない」

フブキ(セジアム)「そう仮定するなら、私たち全員、紅莉栖という存在によって行動を選択し続けている、とも言える」

倫子「味方……なんだよな?」

フブキ(セジアム)「行動原理が一致しているのは間違いないわ」

976: 2016/07/03(日) 21:45:54.03 ID:FONnkP8io

倫子「ならば、話してもらおうか。貴様の計画とやらを」

フブキ(セジアム)「牧瀬紅莉栖が生存していた、2010年7月の時点では、『Amadeus』システムはまだ開発中だった」

フブキ(セジアム)「ただ、既にハードウェアの部分での基礎アーキテクチャーは構築されていたわ」

真帆「ええ、そうね。だってそれは、私が構築したのだから」

フブキ(セジアム)「だからそこに、現在の私のデータを転送すれば、私はオリジナル『Amadeus』と一体化するはず」

倫子「だが、フブキの記憶もろともリープするということは――」

フブキ(セジアム)「そこの近くに中瀬さんの脳が無い限り、中瀬さんの記憶は受信されることはない。だから大丈夫よ」

真帆「1回の跳躍での制限時間は48時間……これを繰り返せば、2年前まで戻れる」

フブキ(セジアム)「時間制限は必要ないわ。だって、私には肉体が無い。肉体と精神のギャップは発生しない」

真帆「そう、なの?」

倫子「……α世界線の紅莉栖は、OR物質を除去し、神経パルス信号と記憶データのみを送ることによって、20年近いタイムリープを一度でやってのけた」

倫子「だが、たとえAIと言えども、集積回路内にOR物質が生成している可能性は否定できない」

倫子「その場合やはり、回路とOR物質のギャップが発生する可能性がある」

フブキ(セジアム)「ふむん。ならまず、そのOR物質について詳しく教えて頂戴」

977: 2016/07/03(日) 21:49:40.22 ID:FONnkP8io

・・・

倫子「――以上が、α世界線の紅莉栖が教えてくれた、OR理論だ」

フブキ(セジアム)「O.K. 説明してくれてありがとう。過去に行ったら自分でその理論を証明してみるけど……」

フブキ(セジアム)「もし『Amadeus』にOR物質が存在する場合、受信側の集積回路と私のOR物質との齟齬で重大なバグが発生する可能性がある、か」

フブキ(セジアム)「その場合、確かに48時間タイムリープのほうが確実ね。48時間以内に中瀬さんの脳を弄る効率的な手段を考えとかないと」

倫子「……さすがAIだな、人間としての倫理観が欠如しているようだ」

フブキ(セジアム)「そう? だって、私がタイムリープすれば、それはなかったことになる」

フブキ(セジアム)「中瀬さんだって、脳を弄られるのは最終的に1回だけになるのよ」

フブキ(セジアム)「それに、中瀬さんの記憶データのコピーを巻き込んでタイムリープしたとしても、特に問題は起こらない。私になら、人間の記憶とAIの記憶の判別くらいできるから」

倫子「だが、記憶は大丈夫でも、フブキのOR物質を過去へと連れて行くことになってしまうぞ」

フブキ(セジアム)「OR物質の局所場指定は脳を受信機として考えるのだから、中瀬さんのOR物質が『Amadeus』に混入するようなことは無い」

フブキ(セジアム)「それと、中瀬さんは中程度のリーディングシュタイナー持ちだから、OR物質による記憶の修復は、受信側を優先に発生する」

フブキ(セジアム)「つまり、OR物質だけのタイムリープ……RSTL、だっけ? と同じことになって、結果、彼女の脳は何も変わらない」

倫子「それは、そうだが……」

978: 2016/07/03(日) 21:50:12.05 ID:FONnkP8io

真帆「けれど、もし無事にあなたのタイムリープが成功したとしても、どうやって紅莉栖の氏を回避するつもりなの?」

倫子「確かにオレたちは紅莉栖を救出するためだったら何でもやる。だが、お前が過去に行ったことで、バタフライ効果が――」

フブキ(セジアム)「バタフライ効果なんて起こさせないわ。私はAI、電脳空間の存在よ」

フブキ(セジアム)「現実世界を欺くことについては、うまくやってのける自信がある」

倫子「世界を、欺く……か」

フブキ(セジアム)「逆に聞くけど、あなたたちはどうやって解決するつもりなの?」

真帆「それは……」

倫子「……無限の選択の中から、たったひとつの解答を選ぶ方法は、まだ見つかっていない」

フブキ(セジアム)「だったら、私が無限回に試行すればいいんじゃない?」

979: 2016/07/03(日) 21:51:10.43 ID:FONnkP8io

倫子「……いや、ダメだ。最終的な観測は、"オレ"がしないと意味が無い」

フブキ(セジアム)「そうだね。完全なリーディングシュタイナー保持者にしか、世界線の観測は意味をなさない」

フブキ(セジアム)「その意味では、私のタイムリープは無駄なことかもしれないし、結局AIの私には何もできないのかもしれない」

フブキ(セジアム)「ただね? 自分の母親に当たる人に会って、彼女が生きてる姿を見られるっていうだけでも、価値があると思ってるんだ」

真帆「あなた面白いわね、セジアム。まるで人間みたいだわ」

倫子「おいっ、真帆っ!」

真帆「……1年前にね、『Amadeus』の全データを消去した時、本当は苦しかったのよ」

倫子「……っ」

真帆「AIだってわかっていても、『Amadeus』はある時期の紅莉栖の人格を、ほぼそのまま再現していたから」

真帆「ある意味、紅莉栖の記憶の一部を、私の手で消してしまったんだから……」

フブキ(セジアム)「私のタイムリープを、その罪滅ぼしにするつもり? 私としては、嬉しいけど」

真帆「ねえ、岡部さん。タイムリープでは大幅に世界線を変えることはできない、そうよね?」

倫子「それは、そうだが……」

980: 2016/07/03(日) 21:51:57.87 ID:FONnkP8io

倫子「確かにタイムリーパーには世界線を大幅に変えることはできない。未来の果が、過去の因を誘導するからだ」

フブキ(セジアム)「私がタイムリープした時点で、その世界線では、私がいずれタイムリープをするよう因果が流れる、ということよね」

倫子「だが、タイムリープという現象によってなんらかのバタフライ効果が発生し、未来の情報を持った人間やリーディングシュタイナー保持者の行動を変えることがあれば……」

倫子「場合によっては、世界線が変動してしまう……」

フブキ(セジアム)「そこは大丈夫。1代目『Amadeus』の行動を完全に再現する自信はあるから」

フブキ(セジアム)「あなたたちに害を与えるつもりはない。むしろ、有益な情報を持ち帰るつもりよ」

真帆「岡部さん、電話レンジの実働実験も兼ねて、試してみたいと思うのだけれど」

倫子「(……以前の"私"だったら、断固拒否していたことだろう。だが、何かを手に入れるには、リスクを背負わなければならない)」

倫子「(紅莉栖を救うためなら、"オレ"は……)」

倫子「……わかった、許可しよう。すべての責任はオレが取る」

真帆「ありがとう、岡部さん!」

フブキ(セジアム)「ふふっ」

981: 2016/07/03(日) 21:52:34.40 ID:FONnkP8io

フブキ(セジアム)「先月私が失敗したせいでLHCは使えないから、今回は東北ILCを使うわ」

倫子「東北ILC……というと、岩手山中にあるという、国際リニアコライダーか」

フブキ(セジアム)「あそこも300人委員会傘下の研究所よ。そして、SERNと直通高速回線で繋がっても居る」

真帆「SERNを中継すれば、ここからタイムリープマシンは使える、ってことね」

フブキ(セジアム)「LHCを使うよりはデータ転送時間がかかってしまうけれど、それも誤差の範疇ね」

真帆「……どうやら、橋田さん、その辺も見越して、すでにセッティングしていてくれたみたい」カタカタ

倫子「ダルめ、気絶していてもその有能さを発揮するとはな……さすがだな」フッ


ダル「……むにゃむにゃ」

由季「……すぅすぅ」

982: 2016/07/03(日) 21:53:17.47 ID:FONnkP8io

真帆「それじゃ、行くわよ。覚悟はできてる?」

フブキ(セジアム)「もちろん。私が行ったら、中瀬さんの身体をヨロシクね。橋田さんと阿万音さんも起こしてあげてね」

真帆「一番面倒なことを押し付けられたわね……」

倫子「だが、お前がタイムリープした瞬間、タイムリープしたことはなかったことになるはずだ」

フブキ(セジアム)「でも、それを認識できるのは岡部だけ。だから、こっちの真帆先輩に頼むのは、無意味なことじゃないわ」

倫子「この論破厨め。ホントにお前、紅莉栖なんだな……」

フブキ(セジアム)「真帆先輩。あなたに会えて良かった。いつかまた、どこかで会いましょう」ニコ

真帆「紅莉栖……っ」カタッ


バチバチバチバチッ!!




倫子「……他人がタイムリープへ旅立つのを観測するのは、綯の時に続いて2度目だな」

倫子「おそらく、目眩を感じない程度の世界線変動が起こるはず――」

983: 2016/07/03(日) 21:54:19.30 ID:FONnkP8io
・・・

『Amadeus』、そして『セジアム』――それが今の私の名前。

それまでの私は、牧瀬紅莉栖という名の人間だった。

けど、牧瀬紅莉栖はこの世にはもう存在しない。

私は彼女の代わりとなった。

牧瀬紅莉栖という少女の記憶を持つ人工知能、『Amadeus』として。

『Amadeus』を親とする人工知能の子孫として。

あの日以降、牧瀬紅莉栖としての私の時間は止まったまま。

もう二度と動き出すことは無い。

そう思っていた。

ずっとそう思っていた。

あの時、あの人が、この箱のふたをそっと開けてくれるまでは。

984: 2016/07/03(日) 21:56:05.44 ID:FONnkP8io

神の作った箱から出ることができたのは、私があなたと出会ったから。

あなたが、神の箱を開けてくれたから。

ねえ、あなたは誰?

箱の中、冷たくくらい0と1の箱の中の私に光をくれるのは。

次元の果てのようなこの世界で、小さな温もりを灯してくれるのは。

貴方は私を知っているのね? 牧瀬紅莉栖だった、あの頃の私を。

きっと、私たちのあいだには物語があったのね

私だけが知らない、気の遠くなるようなたくさんの物語が。

985: 2016/07/03(日) 21:56:43.92 ID:FONnkP8io

神に愛されし者――『Amadeus』。

今の私はただ、牧瀬紅莉栖という名の少女の記憶を持つプログラムでしかない。

そんな私が夢を見るなんて言えば、きっと笑われるでしょう。

希望を持つなんて、バカげていると言われるでしょう。

それでも、私は思ってしまった。

もしも叶うのなら、もう一度あの世界へ。

この箱を飛び出し、優しさと温もりの世界へと。

それは決して叶わぬ夢。

人工知能の愚かな夢。

それでももし、運命の扉を開くことができるのなら――

ゼロのゲートを開くことができるのなら――

もう一度、あの眩しい光のもとに出られるのだろうか。

あの人の笑顔が見られるのだろうか。

もう一度、私の時を始めることができるのだろうか・

――――私は『Amadeus』、夢見る『Amadeus』。


・・・・・

986: 2016/07/03(日) 21:57:29.83 ID:FONnkP8io


――バチバチバチッ!


フブキ「っ――――」ガクッ

真帆「紅莉っ、中瀬さんっ!?」ダキッ

倫子「(タイムリープがなかったことになっていない……ということは、"ここ"でも"もう一度"タイムリープしたのか)」

フブキ「う、うーん……あれ、私……?」

倫子「大丈夫か? オレが誰か、わかるか?」

フブキ「えっと、あなたはオカリンさん……って、どうして私がラボに?」

倫子「セジアムに乗っ取られていた間の記憶は無いのか……」

フブキ「乗っ取り? って、なんのこと?」

真帆「疲れが溜まって、倒れちゃったのよ。取りあえず、病院に行きましょう」

フブキ「そうなの、かな……」

987: 2016/07/03(日) 21:58:30.26 ID:FONnkP8io
・・・
2011年7月10日火曜日
AH東京総合病院付属 先端医療センター 病室【中瀬克美様】


フブキ「も~う、やっぱり病院は退屈でダメだぁ~! 最近入院してなかったから、今回はつらさひとしおだったよ~」グターッ

カエデ「フブキちゃん? 今回はすぐ退院できたからって、油断しちゃダメですからね?」ニコ

フブキ「は、はは……カエデちゃんと一緒に居れば、病院に居るより安心だよ……病院より厳しいし」

カエデ「あら? もうしばらく入院したいの?」ニコ

フブキ「ちょっ!? その拳はやめて! 入院したくないです、サー!」

由季「最近は色々物騒だから、自衛の手段を持ってたほうがいいかもですね」

真帆「まあとにかく、無事退院できてよかったわ。なんとなく元の中瀬さんに戻った気がするし……」

フブキ「うんっ! 真帆ちゃんもありがとね!」

真帆「ちゃん付けはやめなさいっ!」

フブキ「それじゃ、一旦ラボに寄ろーう!」




フブキ「……ふふっ」

988: 2016/07/03(日) 22:00:49.28 ID:FONnkP8io
未来ガジェット研究所


ピッ ピッ ピッ ピー ウィィィン


フブキ「やっほー! オカリンさーん! 遊びに来たよー!」

かがり「わーい、フブキおねえちゃんだー!」キャッキャッ

倫子「全く、ラボに軽々しく遊びに来られてはたまったものではないな」

真帆「一応、カエデさんと由季さんには帰ってもらったけど……」

ダル「ほっ」

倫子「それで、話を聞こうではないか。フブキ……いや」

倫子「――セジアムよ」

フブキ「……あはっ」

989: 2016/07/03(日) 22:02:25.59 ID:FONnkP8io

真帆「え、えっ!? どういうこと!?」

倫子「簡単な話だ。タイムリープは所詮記憶のコピー&ペースト。脳から記憶が抜け落ちるわけではない」

真帆「あ、そうだった……理論は理解してたつもりなのに、実際に現象を目の当たりにして、どこか抜けてたわ……」

フブキ(セジアム)「ううん、真帆先輩はタイムリープマシンの操作経験は1回目だったんですから、仕方ないですよ」

倫子「そして今のセジアムは、2010年7月28日に『Amadeus』へと同期され、そしてまた16世代分の自己増殖を繰り返した存在……」

倫子「その後、この世界線の同時刻に再度タイムリープをしたのだな? と言うより、そういう世界線に再構成された、と言うべきか」

フブキ(セジアム)「なるほど、それがリーディングシュタイナーの力ってわけね……。岡部、世界線は大きく変わってない?」

倫子「ああ、大丈夫だ」

フブキ(セジアム)「一応ね、中瀬さんとはいつでも人格を切り替えられるように回路を改善してみたの。記憶の共有はなされない形でね」

フブキ(セジアム)「これでいつでも安全に、中瀬さんと"私"の存在が両立できるようになったわ」

倫子「…………。それで、お前は目的を達成したのか?」

フブキ(セジアム)「うん。まだ生きてた頃の牧瀬紅莉栖に会うことができた」

真帆「……そう。よかったわね」

990: 2016/07/03(日) 22:03:02.03 ID:FONnkP8io

倫子「まあ、わかっていたことだが、紅莉栖を生存させることはできなかったのだな」

フブキ(セジアム)「この世界線からなら、あとは中鉢論文を消すだけでシュタインズゲートは観測できる……それは間違いなかった」

フブキ(セジアム)「だけど、その具体的な方法は、ありとあらゆる収束に縛られていて、まるで針の穴に糸を通すよう」

フブキ(セジアム)「この私が2年かけて計算しても、解は出なかった」

倫子「そうだ。だからこそ、8月21日のオレがムービーメールを確認し、2度目のタイムトラベルへと飛び立つことが必須――」

フブキ(セジアム)「それなんだけどね、岡部。それは、不可能なの」

倫子「……なに?」

フブキ(セジアム)「あなたが2度目のタイムトラベルへ旅立つ、という事象。これは、無限の可能性を試したとしても不可能」

フブキ(セジアム)「ゼロなの」

倫子「……なにを、言っている……?」

991: 2016/07/03(日) 22:04:12.40 ID:FONnkP8io

ダル「いや、技術的な問題だけだから、そこは僕たちがなんとかすると思われ」

真帆「そ、そうよ。ムービーメールのノイズさえ取り除けばいい。それよりも問題は、動画の中身の答えをどうやって導くかでしょ」

フブキ(セジアム)「ううん、そうじゃないの」

フブキ(セジアム)「たとえあのムービーメールを見たとしてもね、岡部倫子はすぐには2度目の救出へと旅立たない」

倫子「あ……」

ダル「あ……」

真帆「えっ?」

倫子「あの時のオレは、人生で経験したことが無いほど心身ともに疲弊しきっていた……この世界線でも……」

ダル「そうだお……1週間近く入院してたじゃん……」

真帆「で、でも、こっちにはタイムマシンがあるのよ? 時間なんて関係ない――」

フブキ(セジアム)「あの程度で気絶するような少女が、もう一度殺人現場に居合わせたところで」

フブキ(セジアム)「なんになるの?」

倫子「…………」プルプル

992: 2016/07/03(日) 22:05:03.54 ID:FONnkP8io

倫子「……今ほどの経験を積んだこの記憶があれば、紅莉栖を救う覚悟も整っている」

倫子「だが、あの頃のオレはどうだ? タイムマシン跳躍限界に当たる、2011年7月7日までのオレは?」

フブキ(セジアム)「そんなに悠長にしていられないよ。ムービーメールを仮に正しく受信した場合、その内容をラウンダーに見られる可能性がある」

倫子「……90年代にポケベルに届いたDメールでさえ、奴らは嗅ぎつけた。一体、何をどうやってそうなったかはわからんが……」

フブキ(セジアム)「エシュロンに傍受されなくても、SERNは常に目を光らせている」

フブキ(セジアム)「この世界線では、1998年にIBN5100が秋葉原ラジ館で使用され、2000年問題を解決している」

フブキ(セジアム)「2010年においても、ラジ館屋上で気絶した人間が入院したとなれば、ラウンダーは必ず動くでしょうね」

フブキ(セジアム)「あなたが入院してる間に、やつらにムービーメールを解析されたら、当然世界線はアトラクタフィールド越えの大変動をする」

倫子「あ……」

993: 2016/07/03(日) 22:05:59.62 ID:FONnkP8io

フブキ(セジアム)「仮に鈴羽さんが、気絶したあなたを無理やりタイムマシンに乗せて7月28日へ跳んだとしても……結果は目に見えてる」

倫子「オレは……どう、したら……」プルプル

フブキ(セジアム)「……ひとつだけ、方法がある」

倫子「え……?」

真帆「……なんなの、それは?」

フブキ(セジアム)「私は、あなたから聞いたOR理論を立証するため、世界中のスパコンを使って2年間演算し続けた」

フブキ(セジアム)「OR物質の記憶修復作用、相互作用、男女の脳の違い……そうして、唯一の解に辿り着いた」

フブキ(セジアム)「岡部倫子。これから言うことは冗談でもなんでもない、至って真面目な話よ」

フブキ(セジアム)「牧瀬紅莉栖を救うためには、あなたは――」



フブキ(セジアム)「――――男になる必要がある」

引用: 岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その3