1:2017/06/13(火) 21:50:12.477 ID:M/KrXAeu0.net
― 城 ―

女王「なんじゃ、この不味い食事は! 作り直せ!」

女王「こんなみすぼらしいドレスが着れるか! 破り捨てて職人に叩き返せ!」

女王「税を上げて、城の装飾をもっと派手にするのじゃ!」

大臣「は……ははーっ!」



女王「わらわはこの国でもっとも偉いのじゃ! しかも若くて美しい!」

大臣「おっしゃる通りでございます!」

女王「なのになぜ、未だに独身なのじゃろう」

大臣(そりゃそうだろう……誰だって嫌だよ、こんなワガママ女)

女王「まあいい、今のうちにわらわの美貌を絵として残しておきたい」

女王「大臣よ、国一番の画家を呼べ。わらわの肖像画を描かせるのじゃ!」

大臣「ははーっ!」
4:2017/06/13(火) 21:53:24.731 ID:M/KrXAeu0.net
画家「参上しました」

女王「おぬしが、国一番の画家か?」

画家「……そう称されることもございます」

女王「その堂々たる佇まいを見れば、実力があることは分かる」

女王「よかろう、わらわの肖像画を描いてくれぬか」

画家「かしこまりました」
6:2017/06/13(火) 21:56:34.975 ID:M/KrXAeu0.net
画家「……」サラサラ

画家「できました」トンッ

女王「むぅ~」

画家「なにか?」

女王「こんな絵では、わらわの美貌を表現しきれてはおらぬ!」

画家「しかし、私はあなたのお姿を忠実に描いたつもりですが……」

女王「黙れ! わらわに歯向かうつもりか! わらわの注文通りに描き直せ!」

画家「かしこまりました」
7:2017/06/13(火) 21:59:24.893 ID:M/KrXAeu0.net
画家「どのようにいたしましょう?」

女王「まず……まつ毛はもっと伸ばして」

画家「はい」

女王「鼻はもうちょっと高く」

画家「このぐらいですか?」

女王「もっと!」

画家「これでどうです?」

女王「もう一声!」

画家「……はい」
8:2017/06/13(火) 22:01:13.792 ID:C5qvw4dlr.net
注文の多い女王様
9:2017/06/13(火) 22:02:36.466 ID:M/KrXAeu0.net
女王「肌ももっと白く! 白雪のような感じで頼む!」

画家「はい」

女王「唇はもっと色っぽく! 思わずキスしたくなるように!」

画家「これでいいですか」

女王「顎も多少削ってしまえ。ザクザクッと」

画家「分かりました」

女王「ついでに胸も増量しておこうか」

画家「……」
10:2017/06/13(火) 22:05:04.232 ID:M/KrXAeu0.net
画家「いかがでしょう?」

女王「うむ、完璧じゃ! これでよい!」

女王「この肖像画を街のいたるところに置き、民どものわらわへの忠誠心をさらに高めるのじゃ!」

画家「……」



大臣(うわぁ、もはや原型をとどめてない……)
11:2017/06/13(火) 22:05:56.201 ID:C5qvw4dlr.net
うわぁ
12:2017/06/13(火) 22:10:31.883 ID:M/KrXAeu0.net
― 街 ―

ザワザワ…… ガヤガヤ……

「綺麗だわ~」 「女王様ってこんな美人なんだ!」 「お美しい……」





― 城 ―

大臣「市民たちの話題は、女王様の容姿のことで持ちきりでございます」

女王「フフフ、そうじゃろう、そうじゃろう」

女王「よし、ではちゃんと“実物”を見せてやるとするか」

大臣「えっ、それはおやめになった方が……」

女王「おぬし如きにわらわを止める権利があるのか?」

大臣「あ、ありません……失礼いたしました」

大臣(嫌な予感がする……)
13:2017/06/13(火) 22:13:58.520 ID:M/KrXAeu0.net
女王「市民ども! わらわがおぬしたちの女王じゃ!」


ワァッ!!!


娘「ねーねー、パパー」

父「ん?」

娘「あの女王様、なんだか絵と違わない? 絵の方がずっと美人……」

父「シーッ!」



女王「……!」ガーン
14:2017/06/13(火) 22:15:48.292 ID:C5qvw4dlr.net
だよね
15:2017/06/13(火) 22:16:27.315 ID:M/KrXAeu0.net
― 城 ―

女王「このクサレ画家め!」

女王「おぬしのせいでガッカリされてしまったではないか!」

画家「……申し訳ありません」

大臣(なんという理不尽……)

女王「もう、絵の方が美人といわれるのは我慢ならん!」

女王「今度は……そうじゃな。もっとわらわをブサイクに描くのじゃ!」

女王「最初に下げておけば、後は上がるしかないって寸法よ!」

画家「……かしこまりました」
16:2017/06/13(火) 22:19:30.150 ID:M/KrXAeu0.net
女王「まず……目つきは鋭く、まつ毛はなくして眉毛を太くしよう」

女王「鼻はぺしゃんこにして、鼻毛を伸ばして、頬にもあばたをつけて……」

女王「唇は分厚く……顎も二重顎にしよう。ヒゲも生やしてしまえ」

女王「あと……歯並びも悪くして、醜悪な笑みを浮かべさせて……」

画家「全てあなたのおっしゃる通りにいたします」

大臣「わしにも見せて」

画家「どうぞ」

大臣(うおっ……ブサイクというか、もはやバケモノだな)
17:2017/06/13(火) 22:23:41.832 ID:M/KrXAeu0.net
大臣「女王様!」

大臣「街じゅうの子供たちが、女王様怖い、女王様怖い、と泣き叫んでおります!」

大臣「あまりに女王様の肖像画が怖いので、他国に逃げようとする輩も……」

女王「ううう……なんたることじゃ! これでは国力が弱まってしまう!」

女王「全ておぬしのせいじゃぞ!!!」

画家「申し訳ありません」

大臣(わし、絵が不得意でよかった……)
18:2017/06/13(火) 22:26:30.597 ID:M/KrXAeu0.net
女王「ううっ、どうすればよいのじゃ……」

画家「ならばいっそ大胆にデフォルメしましょう」

女王「デフォルメ?」

画家「対象をあえて変形して描くことをそういうのですが……」

画家「ここはいっそ、美人でもブスでもなく、可愛らしくしてみるのはいかがでしょう?」

女王「自信があるようじゃな……やってみせい!」
19:2017/06/13(火) 22:26:42.056 ID:C5qvw4dlr.net
大臣いいキャラしてんな
20:2017/06/13(火) 22:29:33.568 ID:M/KrXAeu0.net
画家「完成しました」

画家「二頭身のあなた、≪クイーンちゃん≫です」

女王「おおっ、可愛い! しかもわらわの外見的特徴も残している! わらわっぽい!」

女王「これはいい! これは素晴らしいぞ!」

画家「お褒めの言葉をいただき、ありがとうございます」

女王「いいなぁ……これ……えへへ……」

大臣(へえ、女王様って可愛い物好きだったんだ……意外……)
21:2017/06/13(火) 22:31:14.994 ID:dsgKkXs2K.net
かわいい
22:2017/06/13(火) 22:32:32.386 ID:M/KrXAeu0.net
女王「よくやったぞ! おぬしが描いたクイーンちゃんは好評のようじゃ」

画家「ありがとうございます」

女王「大臣!」

大臣「はっ!」

女王「絵本作家や人形職人を使い、クイーンちゃんを広めさせるのじゃ!」

女王「そうすれば、わらわの人気上昇間違いなしじゃ!」

大臣「承知いたしました!」
23:2017/06/13(火) 22:36:59.548 ID:M/KrXAeu0.net
大臣「絵本の売上、人形の売上、ともに好調です」

大臣「街ではクイーンちゃんブームなるものも巻き起こっております」

女王「ふむ、結構結構」

女王「よし、絵本も人形もどんどん増産させるのじゃ!」

大臣「え!? しかし、これ以上無理をさせると死人が……」

女王「過労死の人間を何人出してもかまわん! 奴らなどしょせん使い捨てじゃ!」

女王「わらわの命令は、人命よりも優先されなければならぬ!」

大臣「は……ははーっ!」

画家「……」
24:2017/06/13(火) 22:42:44.732 ID:M/KrXAeu0.net
女王「画家! おぬしのおかげでわらわの人気は急上昇じゃ!」

女王「街の人間は、口々に女王陛下バンザイと唱えていると聞く」

女王「ハッハッハ……笑いが止まらんのう!」

画家「……それはよかったですね」

画家「ところで女王様」

女王「なんじゃ?」

画家「クイーンちゃんはあまりにデフォルメされすぎてて、やはり肖像画とはいいがたいです」

女王「まあ、そうじゃな。本来の目的から脱線してしまったともいえる」

画家「あなたの肖像画……ここらで本気で描かせてもらってもよろしいですか?」

女王「本気で……?」
25:2017/06/13(火) 22:45:42.908 ID:M/KrXAeu0.net
画家「いかがでしょう」トンッ



女王「!!!」ビビビッ

女王「す、すごい! これはすごいぞ!」

女王「わらわを写実的に描きながらも、より美しく可愛らしく描かれておる!」

女王「クイーンちゃんなど比べ物にならん! 今までで最高の出来じゃ!」

女王「んもー、最初からこれを描いてくれればよかったのに!」

女王「たっぷりと褒美を取らすぞ、画家!」
27:2017/06/13(火) 22:48:33.111 ID:M/KrXAeu0.net
画家「あ、すみません、間違えました」

女王「へ?」

画家「これは無し」ポイッ

女王「ちょっ」

画家「やっぱりあなたに相応しい肖像画は……こちらでした」トンッ

女王「え……」
28:2017/06/13(火) 22:51:22.948 ID:M/KrXAeu0.net
女王「うおお!? なんじゃこれは!?」

女王「鬼のような形相の女が、うなだれる臣下や民衆を踏みつけにしている絵……」

女王「まさか、これがわらわというつもりではあるまいな!?」

画家「これが……あなたです」

画家「私から見た女王様を、忠実に再現してみました」

女王「……! きぃ……さぁ……まァ……!!!」



女王「死刑じゃ、おぬしは死刑じゃ!!!」
30:2017/06/13(火) 22:56:27.267 ID:M/KrXAeu0.net
― 処刑台 ―

兵士「セッティング完了です」

大臣「女王様、処刑の準備が整いました」

女王「ご苦労」

女王「フン……国一番の画家とはいえ、ギロチン台に首を置いている姿は無様なものじゃな」

女王「……だが」

女王「おぬしにあの鬼のようなわらわの肖像画を見せられてから」

女王「わらわの心が激しく揺さぶられてたまらぬ!」

女王「あんなものを描いたら、ただでは済まぬと分かっていたはず!」

女王「なぜじゃ! なぜ、命を捨ててまであんなものを描いた!!!」

画家「……」
33:2017/06/13(火) 23:01:07.199 ID:M/KrXAeu0.net
画家「あなたに目を覚まして欲しかったからです……」

女王「……!」

女王「わらわを目覚めさせるだと……!?」

画家「はい、口よりも絵の方が効果があると思いました」

女王「そんなことで死んでも悔いはないというのか!」

画家「ありません」

女王「命乞いもせぬというのか!」

画家「しません」

画家「私は画家として、己が正しいと思うことをしたのですから」

女王「……」
35:2017/06/13(火) 23:05:11.454 ID:M/KrXAeu0.net
女王「わらわは女王になってからというもの……」

女王「威勢よく振る舞いつつも、自分が正しいと心から確信できたことは一度もなかった」

画家「女王様……」

大臣(え、そうなの!?)

女王「だが、今はじめて、自分が心から正しいと思うことをしようと思う」

女王「大臣! この画家を処刑台から下ろせ!」

大臣「ははーっ! 待ってました!」

大臣「あれ、これどうやって外すの……」ガチャガチャ

兵士「私がやりますよ、大臣! ――そこ触っちゃダメ! 刃が作動しちゃう!」

画家(た、助けて……っ!)
37:2017/06/13(火) 23:08:51.019 ID:M/KrXAeu0.net
女王「まったく、おぬしのおかげで目が覚めたわ」

画家「たかが画家の分際で、とんでもないことをしてしまいました……お許し下さい」

女王「謝らんでもよい」

女王「これからは……性格を少しおしとやかにし、もっと下々に目を向けた女王になろうと思う」

大臣「そしたらきっと、結婚したいって男も現れますよ!」

女王「……」ギロッ

大臣「すみませぇん!」
39:2017/06/13(火) 23:11:14.363 ID:M/KrXAeu0.net
女王「さて……そうと決まれば、さっそく今までにわらわがやった政策の練り直しじゃ」

女王「いたずらに民を虐げるのはやめ、ワガママも控えよう」

女王「そして……真に人気のある女王を目指そうと思う」

女王「そうすれば、わらわももっと自分を好きになれるかもしれぬからな」ニコッ



画家「……!」

画家「あ、あの……」
41:2017/06/13(火) 23:16:26.407 ID:M/KrXAeu0.net
画家「今の女王様の自然な笑顔……とても素晴らしかったです」

女王「え……」ドキッ

画家「ぜひ、スケッチさせていただけないでしょうか?」

女王「え、こう?」ニヤッ

画家「違います!」

女王「こうだっけ?」ニタァ~

画家「全然違います! もっとちゃんとやって下さい!」

女王「わわわ、すまん!」



大臣(フッ……この二人、すっかり仲良くなっているな)

――――

――
42:2017/06/13(火) 23:20:40.756 ID:M/KrXAeu0.net
――

――

男「なるほどなるほど……」

友「たまには歴史の本を読んでみるのも面白いもんだな」

友「で、この二人は結局どうなったんだ?」

男「女王は善政を敷き、後世に伝わる名君となり、画家は世界有数の絵描きになったそうだ」

男「あと、女王と画家は子供を作って、その子供が次の王になったらしい」

友「へぇ~、ヤッたんだ!? 逆玉じゃん!」

男「だけど、正式に結婚はせず、画家は最後まで市井の人として女王を支えたんだってさ」

友「俺だったら、女王の夫になって、権力がっつり使いまくるけどなぁ……もったいない」

男「芸術家だから、権力に興味はなかったんだろうさ」
43:2017/06/13(火) 23:24:30.635 ID:M/KrXAeu0.net
友「にしても、この女王は肖像画が多いな。多すぎてどれが実物に近いか分からねえよ」

男「たしかに……ものすごく美しく描かれてるのもあれば、醜いのもあるな」

男「中には二頭身で描かれてるのまで……」

友「俺は芸術には疎いけど……個人的にはこの笑ってるやつが一番いいと思う!」

男「ああ、俺もそう思う」







                                   ~おわり~
45:2017/06/13(火) 23:26:16.896 ID:vYyN9J+R0.net
クイーンちゃん歴史に残ったのか
46:2017/06/13(火) 23:27:07.672 ID:/k0cgY/r0.net
お疲れ
49:2017/06/13(火) 23:29:23.031 ID:Sm0q561+0.net
イイハナシダナー(;∀;)
50:2017/06/13(火) 23:30:42.379 ID:g0gZnuSGr.net
いい話だった乙
女王「わらわの肖像画を描いてくれぬか」画家「かしこまりました」
引用元:http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1497358212