70: 2014/05/25(日) 17:38:56.46 ID:l+0epy/j0

前回:やよい「はいたーっち!」 P「えいっ」ふにっ

社長「……こ、これは……」

小鳥「えっ、と……」

律子「ぷ、プロデューサー……?」

P「…………」

P(……やっぱり……)

P(……え? 俺今なんて言った? いや、思った?)

P(『やっぱり』? 『やっぱり』って思ったのか? 俺……)

P(……違う……)

P(……そうじゃない。そうであるはずが……ない……)

社長「え、ええと、君……?」

P「えっ、あっ、はい」

社長「その、なんだ、ここに書かれてあることは……」

P「え、ああ、えっと、その、これはですね……」

小鳥「…………」

律子「…………」

P(ぐっ……。社長はともかく、女性二人の俺を見る目が……)

P(やばい……これはやばいぞ……)

P(落ち着け……まずは落ち着いて、今の状況を整理するんだ……)
アイドルマスター 高槻やよい 1/8スケール PVC製 塗装済み完成品フィギュア
71: 2014/05/25(日) 17:58:35.29 ID:l+0epy/j0
P(ええとまずは……そうだ、記憶を整理しよう……)

P(ここに書かれてある日……そうだ、あの日確かに、やよいは俺とハイタッチをしようとして、俺に向かって手の平を差し出してきた……そう、いつものように……)

P(そして俺は、そこで……そうだ、ほんの一瞬、魔が差してしまって……)

P(……やよいの、胸を……?)

P(い……いやいや!)

P(違うだろう! それは違うだろう! お、俺がやよいにそんなことするわけ……)

P(…………)

P(……いや、でも確かにあのとき、俺はやよいの身体に触った……手の平ではない、他の場所に……)

P(…………)

P(……でも、それだとやっぱり……)

P(い、いや違う。そんなことあるはずがない。ああそうだ、あるはずがない)

P(確かにあのとき、変な魔が差してしまった。それは認めよう)

P(あるいはそのとき、そう、ほんの一瞬だけ……『やよいの胸を触ろう』……と、思ってしまったかもしれない)

P(でも、でも決して……そう決して! 実行には移していないはずだ! ただ心の中で思っただけで!)

P(だってそうだろ? もしそうだったら……真っ先に、そのことを疑うはずじゃないか! やよいが俺を避けている理由として!)

P(だから違う……違うんだ。俺は……俺はそんなことはやってない!)

社長「……き、君……?」

P「あ、ああ社長、すみません。少し、記憶を整理していまして……結構、日が経っていましたので……」

社長「あ、ああ……そうかね……」

小鳥「…………」

律子「…………」

社長「そ、それでその……なんだ。その……こ、この書面に書いてあることは……事実なのか、どうなのか……」

P「……はい。今から、記憶の通りに、お話致します」

P(やってない……俺は絶対に、やってない!)

72: 2014/05/25(日) 18:10:20.24 ID:l+0epy/j0
P「ええと、まずですね……確かにこの日、やよいは俺にハイタッチをしようとしてきました。それは事実です」

社長「ふむ……」

小鳥「あの、いつもの『はい、たーっち!』ってやつですよね?」

P「ええ、そうです」

律子「…………」

P「(律子の視線が怖いな……)そ、それでですね、俺もまあ、いつものように、手の平にパシン、ってしてやればよかったんですが……」

社長「……しなかった、と……?」

P「……はい」

小鳥「…………!」

律子「…………」

社長「で、ではやはり……」

P「ああ、待って下さい。違います。俺は……やよいの胸なんか、触ってはいません」

社長「? と、いうと……?」

P「俺が触ったのは……やよいの、お腹です」

社長「えっ……」

小鳥「お、お腹……ですか?」

P「はい」

律子「…………」

社長「も、もう少し、詳しく話してくれんかね?」

P「……はい。これもまあ、ふとした出来心というか、魔が差してしまったというか……」

社長「…………」

P「ほら、お腹って、急に突っつかれたりしたら、ビクッてなるじゃないですか」

小鳥「そ、それはまあ……」

P「だからその、ちょっと、やよいをからかってやるつもりで……」

社長「……高槻君のお腹を触った、と……?」

P「……はい」

律子「…………」


74: 2014/05/25(日) 18:26:09.57 ID:l+0epy/j0
P(そうだ……そう考えれば、全ての辻褄が合う)

P(俺がやよいの胸なんか触るはずがない……でも、俺がやよいの身体のどこかに触れてしまったのは事実)

P(だとしたら、胸以外で、つい魔が差して触ってもおかしくないような場所は……お腹しかない)

P(確かにあのとき、俺はやよいに対して謝った……でもそれは、やよいがびっくりしたような反応をしたからだ)

P(誰だって、手の平に来ると思っていた感触がお腹に来たらびっくりするだろうし……)

P(それに俺が謝ったら、やよいも、今度から気を付けてくださいね、って感じですぐに普通になったし……)

P(本当に胸を触っていたら、それどころじゃ済まなかったはずだ。うん、だからこう考えるのが自然だ)

P(だからやよいも翌日以降、普通に事務所に来ていたし……俺も俺で、この件がそんなに尾を引くなんて思っていなかったから、だから……やよいが俺を避けている理由として、この件が思いつかなかったんだ)

P(……まあ、もしかしたらほんの一瞬、『やよいの胸を触ろう』とか、思ってしまったかもしれないが……)

P(……今、そこまで言うと話がややこしくなるし……実際触ってないんだから、あえて言う必要も無いだろう)

律子「でも……それって、変じゃないですか?」

P「えっ」

社長「……律子君?」

律子「だって、触った方はともかくとしても……触られた方は、胸を触られたかお腹を触られたかなんて、間違えるはずがないと思うんですが……」

小鳥「それは……確かに」

社長「……ふむ……」

P「……そ、それは……」

律子「やよいが間違えているのでなければ、やよいが嘘をついている、ということになりますが……」

小鳥「それは……いくらなんでもないでしょう」

社長「うむ。高槻君がそんな無意味な嘘をつくとは思えん」

P「…………」

80: 2014/05/25(日) 18:46:52.97 ID:l+0epy/j0
P(あ……あれ? なんか変な方向になってきたぞ……)

P(い……いや、大丈夫、大丈夫だ。……落ち着け、俺。俺は何も……そう何も! やましいことなんて……やってないんだから!)

社長「では……君の方は、どうだったのかね?」

P「え? な、何がですか?」

社長「いや、その、なんだ、女性の前でする話としては、適切ではないかもしれんが……場合が場合だけに、大目に見てほしい」

小鳥「…………」

律子「…………」

P「……と、言いますと?」

社長「つまりその……感触だよ、感触」

P「感触……?」

社長「ああ。今、律子君は『触った方はともかくとしても』という言い方をしたが……実際、やはり触った方としても、感触で、胸だったのかお腹だったのかくらいは、分かるんじゃないかと思うんだが……そのあたりは、どうだったのかね?」

P「……それは……」

P(……感触? あのときの感触って、確か……こう……)

P(……『ふにっ』って……感じで……)

P(い……いやいや! 『ふにっ』だと、なんかいかにも胸を触ったときの感触みたいじゃないか!)

P(そ、そんなはずはないだろう……だって俺は、やよいの胸なんか、触ってないんだから……)

P(えーと、ってことは、つまり……そうだ、もうちょっと、こう……『ぷにっ』って感じだったんじゃないか?)

P(うん……そうだ。きっとそうだ。今思えば、そうだったような気がしてきた)

P(やよいはあんまり筋肉質じゃないし……お腹を突っついたとしたら、きっとそういう感触になるはずだ。うん)

P「……そ、そうですね……こう、『ぷにっ』とした感触だったように思います」

社長「……『ぷにっ』……か……」

小鳥「それはどう……なんでしょう?」

律子「まあ……お腹のようにも思えるし、胸のようにも思えます、かね……?」

P「うっ……。(ま、まあそうか……。『ふにっ』か『ぷにっ』かなんて、感覚的な違いでしかないよな……)」

81: 2014/05/25(日) 19:12:13.40 ID:l+0epy/j0
律子「すみません、プロデューサー」

P「……え?」

律子「私も何も、あなたが嘘をついていると思っているわけじゃないんです。そもそも、あなたがそんなことをするなんて、とても思えませんし」

P「……律子……」

律子「ただ、あなたの話を前提にすると、どうしても腑に落ちないというか……納得のいかない部分があって」

P「…………」

社長「……ふむ。しかし、私も彼が嘘をついているとは思えん。これはやはり、高槻君の勘違い、あるいは思い込みという線が濃厚なんじゃないかね……?」

小鳥「いや、でも社長。胸とお腹ですよ? さっき律子さんも言ってましたけど、ちょっと勘違いというのは……」

P「…………」

社長「うーむ。でも君としては、お腹を触ったという記憶なのだろう? 感触も『ぷにっ』というものだったそうだし」

P「え、ええ」

社長「それならやはり、お腹だったのではないかと思うんだが……」

律子「……では、こういう可能性はどうでしょうか?」

P「え?」

律子「プロデューサーは確かにやよいのお腹を触ろうとしていた……そして実際、触った」

P「…………」

律子「でもそれは、実際には、やよいのお腹ではなく胸だった。つまり……何かの拍子に、お腹を触ろうとしていたプロデューサーの手が、やよいの胸に当たってしまった……という可能性です」

社長「ほう」

律子「ただそれは一瞬の事だったから、元々やよいのお腹を触ろうと思っていたプロデューサーは、意図通りにやよいのお腹を触ったものと認識していた。しかし実際に触ったのは胸だったから、やよいの方は、単純に『プロデューサーに胸を触られた』という認識を持った……こう考えると、両者の認識の齟齬にも説明がつきませんか?」

P「…………」

社長「ふむ……確かにそれは、一理あるかもしれんな。……君は、どう思うかね?」

P「え? えっと、ですね……」

P(お、お腹だと思って触ったら胸だった? そ……そんなことってあるのか?)

P(い、いやでも、確かにあのときの感触はどっちかというと……)

P(…………)

P(……それに確かに、やよいの方が間違えているとは考えにくいし、ましてややよいが嘘をつくはずもないし……)

P(で、でもどうなんだ? ここで『触ってしまったかもしれません』なんて言ってしまってもいいのか?)

P(く、くそ……お、俺はどうしたらいいんだ……?)

83: 2014/05/25(日) 19:35:04.81 ID:l+0epy/j0
小鳥「うーん……でもやっぱり、さっき社長が言っていたように、触った方でも、感触で分かるような気はするんですけどね……」

P「…………」

律子「でも小鳥さん。やよいは胸が大きい方じゃないですし……一瞬触れただけなら、お腹と勘違いする可能性も否定できないと思いますよ」

小鳥「そういうものでしょうか……。でもそれ以前に、お腹を触ろうとしていた手が胸に当たる、っていう状況も、ちょっと想像しにくいような……」

P(……確かに……)

律子「まあでも、プロデューサーとやよいとじゃ30センチ近い身長差がありますからね。上から手を伸ばす形になる分、多少は手元が狂ったりとかも」

小鳥「……うーん……」

社長「あるいは、お腹を触られそうになった高槻君が驚いて、咄嗟に身体を動かした結果……ということも、あるかもしれないな」

P(……あるか実際? そんなこと……)

小鳥「……プロデューサーさんは、どう思います?」

P「えっ」

小鳥「今、社長や律子さんが言ったようなことがあったかもしれないって……思いますか?」

P「そ、そう……ですね……」

P「…………」

P(……流石に、ここで全面否定するのはおかしいよな……そうしたら、やよいが勘違いをしているか、嘘をついているか、ってことになっちゃうし……)

P(でも俺、さっき、『お腹を触った』って明言しちゃってるしな……)

P(……よし。ここは少し、曖昧な感じに……)

P「……まあ、俺としては、あくまでも、お腹を触ったという認識ですが……確かに、やよいが勘違いをしているとか、ましてや嘘をついているなんてとても思えないので……今、律子や社長が言ったような可能性も……否定はできないかもしれませんね」

小鳥「……そう、ですか……まあ、当のプロデューサーさんがそう言うなら、そういう可能性もあるのかもしれませんね……」

社長「うむ……。高槻君が勘違いをしているなどというよりは、まだ、その可能性の方が高そうだな」

P(……でもこれだと、意図はともかく、俺がやよいの胸を触ったってことにはなるんだよな……それってやっぱまずいんじゃ……)

85: 2014/05/25(日) 19:59:06.41 ID:l+0epy/j0
律子「ああ、それとプロデューサー」

P「な、何だ?」

律子「実際に触ったのがお腹か胸かはさておくとしても……実際、そのときのやよいはどんな様子だったんですか?」

P「え?」

律子「つまり、あなたに身体を触られた時のやよいの反応ですよ。それによっても、ある程度は、触った部位の推測ができるのではないかと思うんですが」

社長「ああ、確かにそこは重要なポイントになるね」

小鳥「……どうだったんですか? プロデューサーさん」

P「あ、ああ……えっと……」

P(あのときのやよいの反応……あのときは確か……)

P(……『はわっ』って感じで驚かれて、その後、確か……)

P「確か……『プロデューサー、そこじゃないです』って……言われましたね」

律子「『そこじゃない』……ですか?」

P「ああ」

社長「ふむ……そう聞くと、割と普通の反応、というか……」

小鳥「少なくとも、不意に胸を触られた際のリアクション、という感じじゃないですね……」

律子「……じゃあ、やよいは『胸触らないでください』とかは言ってないんですね?」

P「ああ。それは絶対に言ってない。『胸』という単語自体、絶対出てない」

律子「…………」

社長「では逆に、お腹を触られていたとしたら……」

小鳥「……『そこじゃないです』……つまり『お腹じゃないです。手の方です』という程度の意味で、言葉を返していたとしても……特におかしくはありませんね。まあ多少、びっくりはしていたかもしれませんが」

社長「うむ。しかしそうすると、やはり高槻君が勘違いをしていたということに……?」

小鳥「……うーん……」

律子「……まあ、とりあえずこの点についてはこのへんにしておきましょう。プロデューサーの記憶からも、今以上の内容は出てこないでしょうし」

社長「……そうだな。とりあえず、君の認識としては、高槻君の胸ではなくお腹を触った。しかし実際には、何かの拍子で、お腹ではなく胸に手が当たってしまったという可能性も否定はできない、と……とりあえず今は、こういうことでいいかね?」

P「は……はい」

P(だ、大丈夫だよな……うん。大丈夫……)

87: 2014/05/25(日) 20:16:08.94 ID:l+0epy/j0
社長「しかし君、こういうことがあったのなら、何故私が聞いたときに言ってくれなかったのかね?」

P「えっ」

社長「高槻君が事務所に来なくなった時と、一週間前、高槻君の親御さんから連絡があった時だよ。私はいずれも聞いたじゃないか。どんな些細な事でもいいから、心当たりがあるなら言ってくれと……」

P「あ、ああ、それはですね、その……」

律子「…………」

P「お、俺としては、本当に、お腹を触ったという認識しかありませんでしたし、実際、やよいも、さっき言ったような反応しかしなかったんで、その……そのまま、取るに足らない出来事として、忘れてしまっていたんです……すみません」

社長「ふむ……まあ、過ぎたことを言っても仕方がないが……今後は、こういったことはないようにしてくれたまえよ」

P「はい」

社長「で、次だが……この、高槻君が最後に事務所に来た日の事だがね……」

P「あ…………」

社長「これは……どういうことなのかね? 君から聞いていた話と、かなり違う印象を受けたが……」

P「え、ええと……これはですね……」

律子「…………」

小鳥「…………」

P(そうだった……俺、この部分、皆に嘘ついちゃったんだよな……)

P(今思えば、ここで嘘つく意味なんてなかったよな……なんで嘘ついちゃったんだろう……)

P(…………)

P(……まあ、仕方ない。正直に言うしかないか)

P(やよいが直接、皆の前で当時の状況を説明でもしたら、流石に誰も疑わないだろうしな……やよいがそんな嘘をつく意味も全く無いし……)

88: 2014/05/25(日) 20:37:35.93 ID:l+0epy/j0
P「……すみません、社長。この部分については、嘘をついていました」

社長「!」

小鳥「えっ!」

律子「! …………」

社長「で、では……ここに書いてあることは、実際にあったことなのかね?」

P「ええ、まあ……概ね……」

小鳥「…………」

律子「…………」

社長「な、何故そんな嘘を……?」

P「え、えっとですね……とりあえず、順を追って説明します」

社長「う……うむ」

P「まず、この頃……俺が、やよいから避けられているような気がしていたのは、本当です」

社長「…………」

P「ですが、当時の俺には、その理由が全く思い浮かびませんでした。さっきも言ったように、『ハイタッチ』の件は、その日のうちに終わったこととして、記憶から抜け落ちてしまっていたので……」

社長「……ふむ……」

P「だからこの日、やよいに、『最近、やよいに避けられているような気がする。もし俺に非があるのなら謝りたいから、理由があるなら教えてほしい』と……確か、こういうことを言いました。ただ、この書面に書かれているように、『語気鋭く詰問した』とか、そんなことはしていません。あくまでも、いつも通りの口調で聞いただけです」

社長「……それで?」

P「はい。ただ、やよいは『大丈夫です』とか『何もありません』とか言うばかりでした」

社長「…………」

P「でも俺には、やよいが、どこか無理をしているというか、嘘をついているようにも思えたので……もう一度、聞いたんです。『本当のことを言ってくれ』と」

社長「…………」

P「そしたら、やよいが急に……ええと確か、花の水替えをしなきゃ、とかなんとか言って、部屋を出ようとしたんです。それで、咄嗟に……」

社長「……高槻君の手首を掴んだ、と?」

P「……はい。あっ、でも、そんな、全然強くとかじゃないです。こう、パッって感じで、反射的に」

律子「……で、あなたに手首を掴まれたやよいは、どうしたんですか?」

P「あ、えっと……咄嗟のことだったから、やっぱり驚いたみたいで、こう、振り払われて……」

社長「……ふむ……」

小鳥「……それで、そのまま事務所を出て行っちゃったんですか? やよいちゃん……」

P「え……ええ。そうです」

律子「…………」

90: 2014/05/25(日) 20:54:45.16 ID:l+0epy/j0
社長「なるほど……まあ、話は分かった。しかし何故、君は嘘をついていたのかね?」

P「えっと……あの後すぐ、音無さんが事務所に来られたんです。それで、いつもなら朝早くから来ているやよいがいなかったから、音無さんが気付いて……」

小鳥「ええ、確かにそうでした。でもそのときのプロデューサーさん、やよいちゃんがいないことに気付いてなかったみたいでしたけど……」

P「……すみません。あのとき、正直に言えばよかったんですけど、俺も気が動転してて……。やよいが出て行った理由が自分にあるのかもしれないって思ったら、その……言えなかったんです」

社長「ふむ……つまり咄嗟に誤魔化してしまった、と」

P「……はい。で、音無さんに最初に嘘をついてしまったものだから、その、社長や他の皆にも、本当のことを言うことができなくなってしまって……つい、そのままに……」

小鳥「……そうだったんですか……」

律子「…………」

社長「なるほど……。まあ、上司である私にまで嘘をついていたことは非常に問題だが……今は他に対処すべき問題があることだし……この際、不問としよう。今こうして、正直に話してくれたことだしな」

P「すみません社長……どうもありがとうございます」

社長「ただし次は無いからね。肝に銘じておいてくれたまえ」

P「はい」

92: 2014/05/25(日) 21:24:21.43 ID:l+0epy/j0
小鳥「まあでも、これで一応、やよいちゃんが事務所に来なくなった理由は分かりましたね」

社長「うむ……真実がどうであれ、高槻君としては、『プロデューサーに胸を触られた』という認識を持っていたであろうことは、ほぼ間違いないだろうからね……」

P(……そうだよな……でもそれって本当に大丈夫なんだろうか……俺……)

律子「…………」

小鳥「でも、そうするとどうします? 社長……この、弁護士さんからの書面への回答……」

社長「そうだね……うちに顧問弁護士はいないが……私の古くからの知り合いで、弁護士をやっている者なら何人かは知っている。とりあえず、相談だけでもしてみるとするよ。その上で、回答内容を検討しよう」

小鳥「分かりました。あと、事務所の他の子たちには……」

社長「そうだな……とりあえず、高槻君が当分事務所に来れなくなったということは、言わざるをえないだろう。そしてその理由は、本人のプライバシーに深く関わる問題だから教えられない、ということにしよう。加えて、今は本人も気持ちが不安定だから、連絡を取らないように……と」

小鳥「分かりました」

社長「……君も、そういうことでいいかね?」

P「はい。大丈夫です」

社長「よし。ではこの書面への回答の件については、後は私の方で対応しよう。君達は、残ったアイドル諸君の活動に支障が出ないよう、いつも以上に緻密なケアを心がけてくれたまえ。特に、高槻君の件で色々と問い詰められるだろうと思うが、決して、今言った以上のことは言わないように。いいかね?」

P「はい」

小鳥「はい」

律子「……はい」

93: 2014/05/25(日) 21:40:45.18 ID:l+0epy/j0
P(やよいが当面、事務所に来れなくなったこと――名目上は、長期休暇となっている――については、音無さんと律子が、『やよいのためにも、今はそっとしておいてあげてほしい』と懇切丁寧に話したことで、他の皆も、そこまで大きく取り乱すようなことはなかった)

P(……といってもやはり、伊織だけは、最後まで納得のいかないような表情をしていたが……)

P(まあ何にせよ、これで事務所内では一段落ついたといえるだろう。しかしあとは、事務所外のこと……)

P(俺自身、この先どうなるのかと考えると……正直、不安で仕方がない)

P(どこまで本気か分からないが、あの弁護士からの書面には、刑事告訴も検討する、みたいなことも書いてあったし……)

P(まあ、社長も知り合いの弁護士に相談するって言ってたから、今俺にできることなんて何もないんだけど……)

P(…………)

P(それにしても……頭に浮かぶのはやはり……やよいのことだ)

P(今もつい考えてしまう。やっぱり俺はあのとき、やよいの胸を……)

P(…………)

P(……いや、違う。そんなはずはない……決してない)

P(確かに、何かの拍子で手が当たってしまったとか、そういう可能性は否定しきれないが……)

P(間違っても、俺が故意にやよいの胸に触ったとか……そんなことは、絶対にない。そう、あるはずがないんだ)

P(……そう。決して……)

P「…………」

ガチャッ

律子「……プロデューサー?」

P「ああ、律子か。お疲れ。もう上がり?」

律子「ええ。……プロデューサーも、ですか?」

P「そうだな……俺ももう上がろうかな。今日は色々あって、疲れたし……」

律子「……プロデューサー」

P「ん?」

律子「……お疲れのところ、すみません。今、少しだけお話……良いですか?」

P「…………え?」

94: 2014/05/25(日) 21:58:39.86 ID:l+0epy/j0
P「は……話って……やよいのことか?」

律子「……ええ」

P「別にいいけど……正直、昼に社長室で話したこと以上には……」

律子「……そのこと、なんですけど……」

P「?」

律子「プロデューサー、言ってましたよね? ……『やよいのお腹を触ったことは事実だが、取るに足らないことだったから、記憶から抜け落ちていた』って……」

P「あ、ああ……それが、どうかした?」

律子「それって……本当にそうだったんですか?」

P「…………え?」

律子「……すみません。あなたを疑ってるわけではないんです。ただ、どうしても腑に落ちなくて……」

P「ど、どういうことだよ律子? お、俺は嘘なんかついてないぞ」

律子「……ええ、分かっています。あなたにその、意識がないってことは」

P「い……意識?」

律子「……はい」

P「どういう……ことだよ?」

律子「えっと、ですね……私も、上手く言えないんですが……」

P「…………」

律子「……もしかしたら、プロデューサーは……例のやよいとの『ハイタッチ』の件……忘れていたんじゃなくて……考えないようにしていたんじゃないですか?」

P「えっ……?」

律子「……それも多分、無意識のうちに……」

P「ちょ、ちょっと待ってくれ律子。律子が何を言っているのか、分からない」

律子「……すみません。私もまだ、完全には整理できていないんです。でも、そう考えると納得がいくというか……」

P「…………」

律子「……やっぱり、変なんですよ、普通に考えて……やよいが事務所に来なくなったとき、いいえ、もっと言えば、やよいに避けられてると、あなたが感じるようになったとき」

P「…………」

律子「……何故そこで、『ハイタッチ』の件が頭に浮かばなかったのか……」

P「だ、だからそれは……」

律子「……ええ。分かってます。あなたとしては、やよいのお腹に触っただけという認識で、しかもやよいの方も、特に過度な反応もしていなかったから、些末な出来事だと片付けて、忘れてしまっていた……そういうことでしたよね?」

P「あ、ああ……そうだよ」

律子「でも、たとえそうだとしても……他に思い当たる理由が無い以上、そのことが一切脳裏をよぎらないというのは……やはり、おかしいと思うんです」

P「……………」

99: 2014/05/25(日) 22:29:07.08 ID:l+0epy/j0
律子「……プロデューサー。よく思い出して下さい。『ハイタッチ』の日の事……」

P「…………」

律子「本当は……もっと何か、あったんじゃないですか? やよいがあなたを避けるようになるだけの、理由となるようなことが……」

P「…………」

律子「そしてあなたも、本当はそのことに気付いていた。だから無意識のうちに、そのことを考えないようにしてしまっていた。考えてしまうと、自分がやよいに避けらるような行為をしたこと、そして、自分の所為でやよいが事務所に来なくなってしまったことを……認めてしまうことになるから」

P「……ち……」

律子「……そして、それを認めてしまったら、もう、アイドルのプロデューサーなんて続けられなくなる。だから、あなたは――……」

P「違う!」

律子「!?」ビクッ

P「お……俺は……俺は皆の……765プロのアイドル皆の、プロデューサーなんだ!」

律子「……ぷ、プロデューサー……?」

P「そ、そんな俺が、そんな、そんなこと……するわけないじゃないか!」ドンッ

律子「!」ビクッ

P「なあ律子! お前だって、俺と同じプロデューサーだろ!?」ガシッ

律子「! ちょっ……!」

P「今までずっと、ずっとずっと! 苦楽を共にしてきた仲間じゃないか! なのに何で……何で今になって、急にそんなこと言うんだよ!?」

律子「ぷ……プロデューサー……いた……」

P「お、俺は……765プロのプロデューサーで……皆の夢を……そう! 担当アイドルを、全員! トップアイドルにするっていう、夢を持って……なあ、律子!」

律子「……っ」

P「だから俺たちは、その夢のために、毎日一生懸命……」

律子「……て」

P「…………え?」

律子「……離して……」

P「えっ……あっ! わ、悪い!」バッ

律子「…………」ハァハァ

100: 2014/05/25(日) 22:30:17.30 ID:l+0epy/j0
P「ご、ごめん律子、えっとその……今のは……」

律子「……大丈夫、です。別に、今ので暴行どうこうなんて、言うつもりはありませんよ」ニコッ

P「……律子……ほ、本当に、ごめん……」

律子「……いえ……気にしないで下さい。私の方こそ、憶測でものを言って……すみませんでした」

P「あ、いや……」

律子「……やっぱり、私も疲れていたみたいですね。本当にすみません。さっき言ったことは、全部忘れてください」

P「……律子……」

律子「……それでは、お先に失礼します。お休みなさい」

P「あ、ああ……おやすみ」

バタン

P「…………」

P「……くそっ……」

P「……何やってんだ、俺は……」

P「…………」

P(……なあ、やよい)

P(……お前は今、何してる? もう随分長い間、お前の笑顔を見てないような気がする)

P(…………)

P(……なあ、やよい)

P(……やっぱりお前は、そう思ってるのか? 俺にひどい事されたって、そう……思ってるのか?)

P(…………)

P「……やよい……」

102: 2014/05/25(日) 22:49:34.34 ID:l+0epy/j0
~高槻家・やよいの部屋~

コンコン

高槻父「……やよい。お父さんだ。入っていいか?」

やよい「あ……うん。いいよ」

ガララ

高槻父「どうだ? 調子は……」

やよい「うん……大丈夫だよ」

高槻父「そうか……」

やよい「…………」

高槻父「やよい」

やよい「……ん?」

高槻父「……お前は、何も心配しなくていいからな」

やよい「……お父さん」

高槻父「大丈夫だ。何があっても、お父さんとお母さんは、絶対にやよいの味方だから。な?」

やよい「……うん」

高槻父「…………」

やよい「……お父さん?」

高槻父「ああ、いや……なんでもない。じゃあまた明日な。お休み、やよい」

やよい「はい。おやすみなさい」

ガララ

高槻父「…………」

高槻母「あなた……やよいはどう?」

高槻父「ん? ああ……昨日よりは元気そう……かな」

高槻母「そう……」

高槻父「くそっ……。なんで、なんでやよいがこんな目に……」

高槻母「でも、あなた……」

高槻父「ん? なんだ?」

高槻母「その……弁護士の先生にお願いしてる件だけど……これって、やっぱりどうなのかしら……」

高槻父「? どうって?」

高槻母「なんというか……これでいくらお金が支払われても、やよいの心の傷が癒えるわけじゃないし……」

高槻父「それは……まあ……そうかもしれんが……」

高槻母「いくら、もう辞めるといっても、やよいにとっては、お友達がたくさんいる事務所だし……こういう紛争みたいな状態をこの先も続けるのは、正直どうなのかなって……」

高槻父「……でも、だからってこのまま泣き寝入りってのは……あまりにもやよいが……」

高槻母「……うん。そう、ね……」

高槻父「…………」

高槻母「…………」


105: 2014/05/25(日) 22:59:16.16 ID:l+0epy/j0
やよい「…………」

やよい(……今日も、家族の皆としか話さなかったな……)

やよい(……学校も、そろそろ行かないとな……)

やよい(…………)

やよい(……ああ、そうか。私、もう765プロ辞めちゃったんだ……)

やよい(……皆、元気にしてるかな……)

やよい(…………)

やよい(……プロデューサーは、……)

やよい(…………)

やよい(……いや、いいや)

やよい(…………)

やよい(……今日はもう、寝ようっと……)

やよい(…………)

106: 2014/05/25(日) 23:00:15.67 ID:l+0epy/j0
ζ*'ヮ')ζ<今日はここまで

次回『和解と訴訟』

107: 2014/05/25(日) 23:05:36.84 ID:EHJtqnk7o
おつ!楽しみに待ってるぜ!

110: 2014/05/25(日) 23:22:44.32 ID:ifd1dvbDO
やよい…怪しい過ぎる…全力顔パン準備しとくか

引用: やよい「はいたーっち!」 P「えいっ」ふにっ