1: 2011/06/11(土) 23:52:47 ID:.O3tusdU0
ブンカメまとめ代わり

感想とか気になったこととか、怪人のアイデア
自分が好きなライダーとか

2: 2011/06/11(土) 23:53:25 ID:.O3tusdU0
‐プロローグ‐


 某県美津蒲市三丁目――時刻は深夜の三時。

 草木も眠ると謂うところの時刻もとうに過ぎて、月もすっかりその身を潜めた頃。
 水商売の店が立ち並ぶわけでもない、主が住宅地であるこの町では、夜の帳に静寂だけが満ちていた。
 今でも盛んに動くのは、路地裏で縄張り争いをする野良犬ぐらいのものである。

 だが、そんな町においても、未だ煌々と蛍光灯の光を放つ家があった。

 何の変哲もない、ごく普通の二階建ての一軒家。
 住んでいるのは共に五十を越えた夫婦と、その一人息子である。

 そして、その目立つ灯りは、二階にある一人息子の部屋から見えていた。

「……」

 モニターを睨めつけながら、キーボードが間髪なく叩かれる。
 ネットの巨大掲示板、2ちゃんねるにおいて、書き込みをしているのだ。

「ざけんなっつーの……アレのどこが神アニメなんだよ」

 そう呟く顔は無表情であったが、彼が書き込む文章はどれも辛辣なものばかりであった。

 一通り書き終えると、くわえていた煙草の灰を横のコーヒーの空き缶へと落とす。
 そのままぷかぷかと煙を吐きつつ、マウスを持った腕は終始動かしている。

3: 2011/06/11(土) 23:54:31 ID:.O3tusdU0
「……あぁ?」

 ふと、スレッドに書き込まれた返答の一つに彼の目が止まる。
 それは、この2ちゃんねるという掲示板においては特に珍しくもない、単なる悪口。
 「黙ってろよ、ニート」というものであった。

「はっ……返す言葉もないからニート、ですか。はいはい、ニートですけどそれがなにか?」

 画面を見つめながら、悪びれる様子もなくそう呟く。
 とは言っても、その後彼は馬鹿正直にその事実を書き込むようなことはしない。
 そんなことをすれば、あっという間にスレッドが同じような書き込みで溢れるからだ。

「……大体、親が子供を世話するのは当然だろうが」

 首をごきごきと鳴らし、大きく欠伸。
 このようなやり取りは慣れたものなのか、その書き込みは無視してマウスの操作を続ける。

 そして、再び一服の後に灰を捨てようとした時――彼の動きがぴたりと止まった。

「……え?」

 気の抜けた声の後、彼は横目に見えた“それ”を、しっかり確認しようと首を動かす。
 視線の先には、部屋に一つだけ存在するガラスの窓があった。
 そして、視線を定めた時、彼は動きだけでなく、その呼吸さえも止めることになる。

 ――窓の向こう側には、何も無い空間に浮くようにして佇む、黒い外套の人物の姿があった。

4: 2011/06/11(土) 23:56:14 ID:.O3tusdU0
「えっ? えっ?」

 彼は最初、それを幽霊の類かと思った。
 だが、あくまで彼の幽霊に対するイメージによるものだが、その姿はぼんやりとではなく、はっきりとそこに存在している。
 まるで、それこそテレビで見た奇術のように、人が宙に浮いているように見えるのだ。

 ガラガラガラ――

 音を立てて開かれたのは、鍵を掛けていたはずのガラス窓である。

 そして、謎の人物はごく普通に外から窓を開けると、ごく普通に部屋の中へと足を踏み入れた。

「え、あ……」

 その光景を、部屋主であるはずの彼は口をぽかんと開けて眺めていた。
 だが、全身からは汗が噴き出し、頭の中では危険信号のようなものが鳴り響いている。
 例え認識が追い付かなくとも、すぐさま逃げるべき状況なのは明白であった。

 しかし、彼は動くことができなかった。
 まるで蛇に睨まれた蛙のように、同じ体勢のまま、立ち上がることすらできないでいた。

 やがて、謎の人物はゆっくりと彼の傍に立ち――その口を開いた。

「……○○××、二十八歳……適正あり、素体サンプルとして連行する」

「あ、俺の……な、まえ……」

 そうして、彼は自分へ伸びてくる腕すらも、ただぼんやりと眺めていた。

5: 2011/06/11(土) 23:56:40 ID:.O3tusdU0


( ン○W○)ブーンが仮面ライダーになるようです

 第一話 「ヒーロー誕生? 捻じ曲げられた運命!」

6: 2011/06/11(土) 23:59:58 ID:.O3tusdU0
    ‐1‐


 来る初夏に向け、穏やかな気温の変化を感じる五月の朝。

 荷物を載せた一台のバイクが、山林を切り拓いた自動車道を疾走していた。

( [ ^ω^])「……」

 フルフェイスのヘルメットを被り、上は白いシャツに黒のダウンベスト、下はブルーのジーンズ。
 そして、バイク用の黒いレザーグローブをはめており、それだけ妙に年季が入っている。

 彼の名は、内藤文太郎(ないとうぶんたろう)。年齢は二十三歳。

 地元の大学を卒業した後、バイトをいくつか経験し、今は実家を離れて美津蒲市一丁目にある知り合いの喫茶店に下宿している。
 その喫茶店では社会勉強という名目でアルバイトもしており、今は少し遠出をしての買出しからの帰り道であった。

( [ ^ω^])(……もうちょいスピード出せるかお?)

 山林の中とはいえ、市と市を結ぶ一本道なので、舗装はしっかりとされており、横幅も広い。

 なので、通る車も多いはずなのだが、この日は週末にも関わらず、他に走る車は数えるほどでしかなかった。

( [ ^ω^])「ようし……」

 それを確認すると、内藤は揚々と右手でグリップを捻る。
 途端にエンジンが熱を起こし、ぶうんという音と共にバイクの速度が跳ね上がった。

7: 2011/06/12(日) 00:00:13 ID:R1WYyezM0
 速度の上がったバイクは、流れるような背景を尻目にぐんぐん白線をなぞっていく。
 カーブでもスピードを維持したまま滑らかに車輪が曲線を描き、そのハンドリングは大したものであった。

 ミラーも設置され、対向車の危険性も低いが、如何せん山道なのでガードレールで隔たれた先には深い谷底が待っている。

 だが、内藤は全く物怖じせず、それどころか速度が上がる様に心地良さを覚えていた。

( [ ^ω^])(たまらんお……)

 内藤は少し前傾姿勢を深くし、走る感覚を体全体で意識する。
 高速で後ろに流れていく背景、首筋を過ぎていく冷えた風、そして、唸るようなエンジン音。

 それらは全て、彼にとって最高のカンフル剤であった。

( [ ^ω^])「ぶーん……ぶううううん!」

 聞こえてきた重低音を真似て、子供のように唸る。
 バイクで走っていて興奮した時にする、内藤の癖であった。

 この癖が出ると、ほとんどの場合、彼は自分の世界へと浸る。
 風を切って走る感覚、それが何よりも好きであるが故だった。

 そうやって悦のまま走り続け、気が付いたら目的地間近であった、なんてことが少なくない。

 そして、今回も――

( [ ^ω^])「……おっ?」

 気が付けば、すっかりと山道を抜け、美津蒲市一丁目の入り口が見えていた。

8: 2011/06/12(日) 00:01:13 ID:R1WYyezM0
( [ ^ω^])「おっとっと……」

 人通りが増えたことを確認して、内藤はバイクの速度を緩める。

 そのまま知った道を交通法規に従って進み、何度か信号を曲がって、少し細い路地を抜けたところでバイクは止まった。
 そこが丁度、目的地である喫茶店“バーボンハウス”の裏口である。

( ^ω^)「ふぅ……」

 ヘルメットを脱ぎ、どこか満足げな表情で内藤はバイクから降りる。

 そして、荷台に括りつけておいた品物を解いていると、後ろから彼に近付いてくる人物の姿があった。

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン、お帰り」

 声をかけたのは、可愛らしい金髪の少女であった。

 服装は白いカットシャツとブラウンのショートパンツに、膝までの黒いエプロン。
 ツインテールになるよう結んだ金髪も眩しいが、すらりと伸びた健康的な脚も目立っている。
 エプロンの胸のところには、デザイン文字で「喫茶店バーボンハウス」と書かれていた。

( ^ω^)「ただいまだお、憐ちゃん」

 彼女の名は、津出憐(つでれん)。

 年齢は十五歳で、美津蒲市にある高校の一年生である。
 彼女の両親がこのバーボンハウスのマスターと知り合いであり、そのよしみでアルバイトとして雇われている。

 ちなみに、「ブーン」とは彼女独自の内藤に対するあだ名で、彼の口癖をそのまま付けたものであった。

10: 2011/06/12(日) 00:02:24 ID:R1WYyezM0
ξ゚⊿゚)ξ「早かったねー……相変わらず」

( ^ω^)「おっ? そりゃあもちろん寄り道とかしてないお」

ξ゚⊿゚)ξ「違うっての。は・や・す・ぎ・る・の……またバイクかっ飛ばしてきたでしょ」

( ;^ω^)「おっ……べ、別に早いに越したことはないんじゃないかお?」

ξ゚ー゚)ξ「まーねー? ガソリン代はブーンの給料から出てますからー? いいんですけどねー」

( ;^ω^)「あうあう……」

 憐は両手を腰に当てて、おどけてにやにやと笑って見せる。
 一回り近く歳が離れている二人だが、内藤はこうやって手玉に取られることがほとんどであった。

ξ゚⊿゚)ξ「はいはい、いいから早く荷物持っていってよ」

( ^ω^)「おっおっおっ、持っていったらすぐに戻ってくるお」

ξ゚⊿゚)ξ「あー、いいからいいから。バイクはあたしが仕舞っておくから」

( ^ω^)「ありがとうだお。ツンちゃんの半分は優しさでできているお」

ξ゚⊿゚)ξ「なにその中途半端な! あと、その呼び方やめろってば!」

 「ツン」とは憐のあだ名で、普段のつんけんした態度から付けられたものだった。

 彼女自身としてはあまり気に入ってはいないらしく、内藤も大方彼女をからかう目的で使っている。
 内藤の憐に対する数少ない反撃手段なので、このあだ名を使うのは専ら彼だけであった。

11: 2011/06/12(日) 00:03:39 ID:R1WYyezM0
ξ゚⊿゚)ξ「あーもう! いいから早く行け!」

 そうして、急かされる形で内藤は積んだ荷物を抱えると、裏口から店の中へと入る。
 入った先は店のスタッフルームであり、ストックの香ばしいコーヒー豆の香りが鼻孔をくすぐった。

 そして、抱えた荷物をどうしようか周りを見渡していると、店側の扉がガチャリと開かれた。

(´・ω・`)「お帰り、内藤くん」

( ^ω^)「おっ、ただいまですお、しょぼっさん」

 現れたのは、チェックのポロシャツとグレーのスラックス、そして、憐と同じエプロンを身に付けた壮年の男性であった。

 男性は荷物を抱えた内藤を見ると、ぱたぱたと傍らへ歩み寄った。

(´・ω・`)「どれ、僕も手伝うよ」

( ^ω^)「サンキューですお」

 彼の名は、塩田凡(しおだぼん)。年齢は四十五歳。

 この喫茶店バーボンハウスのマスターであり、温和で人当たりの良い人物である。
 生まれつきしょぼくれたような顔をしているため、内藤たちや馴染みの客からは「しょぼっさん」という愛称で親しまれている。

 二人はそれぞれ荷物を手分けして、棚や冷蔵庫に置いていく。
 遠出をしたとはいえ、大荷物というわけでもないので、ものの数分で作業は終わった。

12: 2011/06/12(日) 00:05:01 ID:R1WYyezM0
(´・ω・`)「内藤くん、ご苦労様」

( ^ω^)「お安い御用ですお」

(´・ω・`)「じゃあ僕は店の方に戻るから」

 そう言って、塩田は元来た扉の方へと歩いていく。
 そして、取っ手に手を掛けたところで、ふとその足が止まった。

(´・ω・`)「……そういえば、内藤くん。最近の連続失踪事件、知ってる?」

 その姿を見送っていた内藤だが、言われて一瞬ぽかんと呆けた表情になる。

 だが、すぐさま頭の中に一つの事柄が思い浮かんだ。

( ^ω^)「あっ、ああ、知ってますお。なんか無職の人ばっかが消えるっていう……」

 最近、テレビやネットのメディアで、ひっきりなしに報道される一つの事件があった。

 それは、年齢を問わず、全国で謎の失踪を遂げる人物が急増しているというものだ。
 原因は常に不明で、以前からそういう発言があったなど、そのようなことも決してない。
 
 本当に、“ある日突然前触れもなく人が消える”――そんなことが、何件も発生していた。

 だが、そんな摩訶不思議な事件でも、調査を進めていくとある一つの関連性が見つかった。
 それは、失踪する人物がいずれも“無職”ということである。

13: 2011/06/12(日) 00:05:46 ID:R1WYyezM0
(´・ω・`)「怖いよね……突然人が消えるってのは」

( ^ω^)「確かに怖いですお……でも、しょぼっさんはお店を持っているし、心配ないんじゃないですかお?」

(´・ω・`)「そうかもしれないけど、わからないよ?」

( ^ω^)「おっ? わからない?」

(´・ω・`)「無職の人ばかりが狙われるって言うけどさ、それだけじゃないかもしれないでしょ?」

( ^ω^)「まあ……確かに……」

(´・ω・`)「内藤くんだって……狙われるかもしれないよ?」

( ;^ω^)「ちょ、怖いこと言わないでくださいお!」

(´・ω・`)「ははは、ごめんごめん」

 塩田はおどけて笑うが、顔つきのせいでどこか泣き笑いのようになっていた。

( ^ω^)「あっ、そうだお、しょぼっさん。何か特別にやることありますかお?」

(´・ω・`)「ん? そうだね……あ、じゃあ百円玉に両替してきてくれるかい」

( ^ω^)「把握しましたお!」

14: 2011/06/12(日) 00:06:00 ID:R1WYyezM0
 塩田は財布から千円札を三枚取り出し、内藤に手渡した。

(´・ω・`)「じゃあ、よろしく」

( ^ω^)「すぐに戻りますお」

(´・ω・`)「うん……あ、失踪しないように気を付けてね?」

( ^ω^)「からかわないでくださいお! じゃ、行って来ますお」

 軽く会釈をし、内藤は裏口から店を後にした。
 ここから数分歩いた場所に大きなゲームセンターがあり、両替はいつもそこでしているのだ。

 少し歩いて、店の表口前まで辿り着くと、内藤は中で作業をする燐の姿を見つけた。
 そして、こちらに気付くかと思い、立ち止まって外から大袈裟に手を振って見せる。
 燐はすぐに気付き、「早く行け」と言わんばかりに手で払って見せた。

( ^ω^)「おっおっおっ、はいはい、行きますおー」

 内藤はひらひらと手を動かし、再び歩を進める。

 早朝で店の中にはまだ一人、二人しか客はいなかったが、休日の喫茶店に客足が増えるのはむしろこれからである。
 当然それを知っている内藤も、自然とその足は速くなっていた。

( ^ω^)「……謎の失踪かぁ……ま、僕には関係のないことだお」




 ――しかし、その後、内藤が店に戻ってくることはなかった。

15: 2011/06/12(日) 00:10:44 ID:R1WYyezM0
    ‐2‐


 誰も知らない、どこかの場所に。誰も知らない、その洞窟は存在していた。

 人間どころか、小さな動物さえも迷い込まぬよう、巧妙に隠蔽された入り口。
 中を進むと、やがて奥へと進む近代的な通路が姿を現す。

 通路の向かう先は、洞窟のさらに奥深く。
 外壁に金属探知機の反応しない特殊な材質が用いられ、無数に設置されたライトが昼夜関係なく照らし続ける、近未来的な空間。
 何物の進入をも拒むその場所は、秘密裏に建造された基地であった。

 そして、その最深部。いくつものモニターと電子機器が存在する、司令室。

 その中心で、一人の男が気だるげに椅子へと腰掛けていた。

('A`)「……」

 グレーのスウェットパーカーとパンツ。靴などは履いておらず、組んだ脚のつま先が何もない宙を遊ぶ。
 椅子は装飾の施されたロッキングチェアーで、男が体重を乗せる度に椅子が上下している。

('A`)「……おい、大佐。キカンボウ大佐」

(・∀ ・)「ハッ! お呼びでしょうか首領!」

 男が呟くと、どこからか現れた軍服の男がその前に躍り出る。
 続けて、きびきびとした動作で敬礼を行った。

16: 2011/06/12(日) 00:11:09 ID:R1WYyezM0
('A`)「例の……あの改造計画な、あれどうなってる」

 首領と呼ばれる男がそう尋ねた瞬間、軍服の男――キカンボウ大佐は口元に冷酷な笑みを浮かべた。

(・∀ ・)「ハッ、全て順調です。既に一体が完成し、今も二体目の改造に取り掛かっております」

('A`)「そうか、そりゃあいい」

 男が視線をモニターに動かすと、すぐさま画面が何かを映し出す。
 それは企業であったり工事現場であったり、様々な職業の映像であった。

('A`)「今の世の中さー……働かないと生きていけないけどさー……」

 働く人々を眺めながら、男がぽつりぽつりと語り出す。

 それは、側にいるキカンボウ大佐にではなく、画面の向こうに対して告げるように。

('A`)「働きたくなんかさー、ないもんなー」

(・∀ ・)「そのためには……」

('A`)「……この世をさ、支配しちまえばいいよなー」

 抑揚なく、男はただはっきりとそう呟いた。

 そして、男の背後にある一際巨大なモニターに、ある文字が浮かび上がる。

 「N.E.E.T.S」――そこには、そう書かれていた。

17: 2011/06/12(日) 00:12:32 ID:R1WYyezM0
        *        *        *




( -ω-)「……」

「ちょっと、起きなよ」

( -ω^)「ぅん……え?」

 瞼を開くと、途端に強烈な光が内藤の目に突き刺さる。
 見たこともない天井を見上げながら、彼は自分が仰向けに寝そべっていることに気付いた。

( -ω^)「え……? なんだ、お……?」

 内藤が辺りを見渡すと、そこまで広くはない一室に、自身を囲むように置かれた様々な設備が目に入った。

 そして、どこか薄っすらと漂う薬品の匂いに気が付く。
 設備は全て医療機器であり、彼の体は手術台の上に寝かされていたのだ。

( ;^ω^)「えっ? なんだお、これ? 動けないお?」

 まだ意識がはっきりとしないまま、内藤は体を起き上がらそうとするが、その手足が何かによって阻まれる。
 見ると、服装などは変わっていないが、台に固定するための枷が取り付けられていた。

 なんとか外せないものかと内藤は体をよじらせるが、とてもできそうにない。

 加えて、動かしてみてわかったが、その全身は強烈な気だるさを帯びていた。
 それは薬物投与によるものだったが、当然そのことを内藤がわかるはずもなかった。

18: 2011/06/12(日) 00:13:39 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「な、なんだお……なんで……」

「ねえ君、いい加減こっちにも気付いてくれるかな」

( ;^ω^)「えっ?」

 現在の心情とは大分かけ離れた一言に、内藤は視線を自分の隣へと動かす。

 すると、そこには黒いシャツの上にベージュのジャケットを羽織った青年の姿があった。
 内藤の見知らぬ人物で、手術台に固定されたその姿を、まるでなんでもないことのように見下ろしている。

( ;^ω^)「あ、あの誰ですかお? ここどこですかお? なんで僕はこんなことになってるんですかお?」

「ああ、やっぱりまだ脳改造はされてないね。君は拉致されたんだよ、N.E.E.T.Sの奴らにさ」

( ;^ω^)「ニ、ニーツ?」

「そうさ、ここは奴らの基地。君を改造して、世界征服の戦力にしようとしてるんだよ」

 青年は、内藤の質問にすらすらと答えてみせる。
 だが、耳に入ってくるその言葉を、内藤がしっかりと理解するには未だ時間が必要であった。

( ;^ω^)「か、改造? 改造ってなんですかお?」

「なんですかと言われてもねえ。自分の体で確かめてみたらどうだい? もう改造されているんだからさ」

( ^ω^)「……は?」

19: 2011/06/12(日) 00:14:06 ID:R1WYyezM0
 お前は何を言っているんだ、というのが内藤の素直な反応であった。

 突然連れ去られ、気付いたら知らない場所で寝かされ、理由を聞いたら夢物語のような話――
 しかも、自分は既に改造手術を施されているという。

 内藤とて、いや誰であろうと、にわかに信じられることではない。
 だが、青年はあくまで平然と、その後も突飛な話を続けてみせた。

「実は、君達の改造手術に使われる生体部品の一つが、なかなかのお宝でね」

( ^ω^)「え、あの」

「僕はそれを盗みに来たんだけど、どうやら君からはもう無理なようだね」

( ^ω^)「いや、なにを」

「まあ、まだ当てがあるからね。そっちから盗むことにするよ。じゃあね」

( ;^ω^)「いや、ちょ、ちょっ、まっ、ちょっと待ってくださいお!!」

 聞いてはいたが、内藤はその話のほとんどが頭に入って来なかった。

 とにかく、この青年をこのまま行かせてはならない。
 その時まともに考えが及んだのは、果たしてこれだけであった。

「……何かな? そろそろ気付かれるだろうから、さっさと行きたいんだけど」

( ;^ω^)「と、とりあえず、これ……この動けないの、外してくださいお……」

20: 2011/06/12(日) 00:14:51 ID:R1WYyezM0
 内藤は頭の中で理解できない情報が錯綜し、とても冷静になれる状況ではなかった。 
 だが、あまりに現実離れした内容のせいか、なんとかパニックになることだけは免れる。
 その中で導き出せた言葉は、一先ずはこの現状の改善、というところであった。

 しかし、それに返ってきたのは、青年のいかにも億劫そうな表情だった。

「えぇー……無駄な時間を使いたくないんだけど」

( ;^ω^)「そ、そんなこと言わずに! どうか助けてくださいお……」

「そんなことしたら、すぐに奴らに気付かれ……ん?」

 すると、急に青年は何かを考え込む表情になる。

 やがて、その考えがまとまったのか、にやりと口元が綻んだ。

「そうだな……その騒ぎに乗じて……」

( ;^ω^)「あ、あの?」

「……ねえ君、ナマコは好きかい?」

( ^ω^)「へっ?」

21: 2011/06/12(日) 00:15:38 ID:R1WYyezM0
「どうなんだい? ナマコだよ」

( ^ω^)「え、あの……まあ、好きってわけじゃ……」

「そう……」

 青年は、そこでくるりと背を向ける。

 内藤はその動作に冷や汗が噴き出したが、次の瞬間――

「……僕も、嫌いなんだよ!」

 振り返った青年の右手に、普通は両手で扱うような大型の銃が持たれていた。

( ;゚ω゚)「えっ!? うわああっ!?」

 銃口が自分へと向けられていることに気付いた内藤は、思わず目を瞑って体を硬直させる。

 そして、瞬時に吐き出される四発の銃弾とマズルフラッシュ。
 がきんがきんと、重なったような甲高い金属音が鳴り響く。
 事が終わって内藤に残ったのは、手足に感じたわずかな衝撃と、漂う硝煙の臭いであった。

「目を開けたまえ」
 
( ;-ω^)「うぁ……」

 言われて内藤がゆっくりと目を開けると、そこには自由になった自分の姿があった。

22: 2011/06/12(日) 00:16:48 ID:R1WYyezM0
 続けて、青年は銃口を向こうの壁へと動かすと、今度はやたらめったら引き金を引いてみせる。
 途端に無数の銃弾が壁へと撃ち込まれ、炸裂する衝撃でいくつもの火花が上がる。
 やがて、もうもうとした煙の中から現れたのは、人一人が通るには十分な、外へと続く穴であった。

「さ、行きたまえ」

( ;^ω^)「は……はい」

 言われるがまま、内藤は手術台から起き上がり、ふらふらと壁の穴へと向かう。
 気だるさは未だ残るが、すぐさま支障が出るほどではなかった。

( ;^ω^)「あ、あの……あなたは……」

「ん?」

( ;^ω^)「あなたは、何者なんですかお……?」

 外へ出る前に、内藤は一度だけ振り返り、一言だけそう尋ねる。

 すると、青年は銃を顔の横に構え、まるで用意してあったかのように言い放った。

「……通りすがりの怪盗さ、憶えて……おかなくてもいいよ」

 けたたましいサイレンの音が、その返答への懐疑を吹き飛ばす。

 内藤もそれ以上聞くことはなく、ただひたすらにその場から駆け出していった。

23: 2011/06/12(日) 00:17:45 ID:R1WYyezM0
    ‐3‐


 一体どれほどの距離を走ったのか。

 どこかもわからない山道を抜け、何故かもわからずに森林を過ぎ、やっと見つけた横へと広がるアスファルト。

 果たしてここはどこなのか、自分はどこへと連れ去られていたのか。
 そんなことは、内藤にとってもはやどうでもいいことだった。

 ただひたすらに町を、そこに宿る人々の存在自体を求める。

 道路を駆ける内藤の足は、安堵して緩むどころか、ますますその速度を上げていく。
 その速さがもはや人間離れしたものであること、自分が未だほとんど息が上がっていないこと。

 今の内藤に、そこまで気付ける余裕はなく――いや、気付きたくない、という気持ちもあったかもしれなかった。

( ;^ω^)「ま、町だお……!」

 果たして、内藤がその町を見つけるまでに一時間もかからなかった。

 通った場所が場所だけに、内藤は辺境の土地かと思っていたが、しっかりとした沿線地域であり、人通りも少なくない。
 線路沿いの金網から駅の構内を覗くと、師縁吾駅という文字が見えた。

( ;^ω^)「師縁吾……美津蒲からは遠いのかお……?」

 来たことのない場所だったが、自分は助かったのだと内藤は心底安堵する。
 構内にあった時計を見ると、針は十六時近くを指していた。
 早朝に連れ去られてから、かなりの時間が過ぎていたことになる。

24: 2011/06/12(日) 00:18:09 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「きっと心配してるお……まずは電話しないと」

 内藤は半ば祈る思いでジーンズのポケットに手を入れる。
 すると、折りたたまれた千円札の感触を見つけた。

( ^ω^)「よかったお……あとは公衆電話を……」

 内藤は線路沿いを進んでいき、歩道橋を渡って駅の方へと近付く。
 その間、駅の構内に公衆電話を見つけていた。
 
 やがて、電話の元へと辿り着き、紙幣を両替しようと辺りを見回す。すぐに飲料の自動販売機が見つかった。

( ^ω^)「あっ、切符買えばよかったお……」

 そう呟きながら、内藤は少し眉を顰める。続けて、がこん、と缶ジュースが落ちてきた。

( ^ω^)「まあいいかお、何か飲みたかったし」

 内藤はしゃがんで缶を取り出し、蓋を開けようと手に力を込める。
 すると、缶を掴む指先に、何やらおかしな感触があった。

( ;゚ω゚)「えっ!?」

 何かと思い、手の力を緩めた瞬間、その表情が驚愕のものへと変わる。
 内藤の掌を、缶の中身と思われる液体が伝っていたのだ。
 慌てて缶を持つ手を持ち替えると、途端に五本の水流が地面へ向かって流れ出した。

25: 2011/06/12(日) 00:18:49 ID:R1WYyezM0
( ;゚ω゚)「……」

 中身をほとんどぶちまけたスチール製の缶には、見事に五つの穴が開いていた。
 試しに自分の指を当てはめてみると、全てがぴったりと合わさる。

 内藤は口を付けることもなく、缶をすぐ近くのゴミ箱に捨てると、そのままふらふらと公衆電話へと向かった。

(  ω )「……」

 硬貨を投入し、震える指で受話器を取る。潰してしまわないよう慎重に喫茶店の番号を押していく。

(  ω )(僕は……僕は……本当に……?)

 コール音が鳴り続ける間、内藤はあの青年の言葉を思い出していた。

 君はもう改造されている――あの時、彼は確かに内藤へとそう告げた。
 しかし、正直なところ、内藤自身は今までその言葉を半信半疑に受け止めていた。

 そもそも、ずっと意識がなかった上に、あまりにも現実離れした内容である。
 混乱していたというのもあるが、そう易々と認識できるものではない。 
 
 だが、たった今内藤は、紛れもない“現実”を直視したのだ。
 
 今後、同じような現実がいくつもその身に降りかかることが容易に想像足り得る。
 そして、その度に思い知るのだ。改造手術を受けたということが、一体どういうことなのか。

 力が強くなった、足が速くなったなどは、所詮おまけでしかない。
 変わったのは、全ての根本。人間としての軸。

 彼、内藤文太郎は――もう、人ではなくなったのである。

26: 2011/06/12(日) 00:19:22 ID:R1WYyezM0
「……はい、もしもし」

( ^ω^)「……あっ……あの、しょぼっさん、ですかお」

「っ! 内藤くんかい!? 良かった、無事だったんだね!」

 本来ならば、一緒になって歓喜の声を上げるところである。
 だが、そんなことができるはずもない。普通に会話することすら、今の内藤には精一杯であった。

「一体どうしたんだい! 朝に出かけたきりいなくなってしまって……」

( ^ω^)「はい……すいませんでしたお……」

「憐ちゃんだってすごく心配して……とにかく、事情を話してごらんよ」

( ;ω;)「はい、あ、の……じ、つは……」

 普通に会話することも、もはや限界であった。声が震え、止め処なく涙が溢れ出す。

 怒ればいいのか、悲しめばいいのか、それすらも内藤はわからなかった。ただひたすら、爆発する感情が心に渦巻く。

 それでも、受話器の向こうの塩田に語る言葉は止まらなかった。
 もはや事情を説明するというより、ただ感情を吐き出していることに近かった。

「……内藤くん。それは、本当なのかい?」

( ;ω;)「はい……信じられないかも、しれませんけどお……」

 嘘ならどれほど良かったか、内藤は心からそう思った。

27: 2011/06/12(日) 00:20:16 ID:R1WYyezM0
「いや、信じるよ。君がその……力を得たというのは、本当のことなんだろう」

( ;ω;)「はい……」

「……実際、見てきたからね……」

( ;ω;)「えっ? それは、どういう――」

 その時であった。

 耳を劈くような、人々の悲鳴。それが、内藤の言葉を遮った。
 そして、悲痛な表情に包まれた人の波が一挙に構内へと雪崩れ込む。

 まるで終末のようなその光景は、思わず内藤も息を呑むほどであった。

( ;^ω^)「えっ? な、なんだお?」

「「うわああああ!!!!」」
「「いやああああ!!!!」」

 叫び声を上げる人々は、皆一様に何かから逃げているようだった。
 内藤は人々が来た方向へと視線を動かすが、原因はわからず、ただ唖然とその光景を見つめる。
 ただ、悲鳴の中から時折、「怪物」や「人頃し」などの言葉が聞こえていた。

「内藤くん? 大丈夫かい、なんだかやけに騒がしく聞こえるよ?」

( ;^ω^)「あっ、いや、なんだかすごい数の人が逃げ惑っていて……」

28: 2011/06/12(日) 00:20:50 ID:R1WYyezM0
「逃げ惑う? どうして?」

( ;^ω^)「わかんないですお。ただ、なんか怪物とか人頃しとか……」

「……怪物、だって?」

 その時、内藤は受話器の向こうで話していた塩田の様子が変わったように感じた。
 何か考え事をしているのか、押し黙って時折唸るのが聞こえてくる。
 
( ;^ω^)「しょぼっさん? どうかしましたかお?」

「……内藤くん。驚かないで欲しいんだけど、その怪物というのは……」

( ;^ω^)「え?」

「……恐らく、君と同じく改造された人物だと思う」

( ;゚ω゚)「!?」

 内藤は、当然ながら塩田が言ったことの意味が理解できなかった。
 この常軌を逸した光景の原因が、自分と同じ被害を被った人物だと言うのだ。

( ;゚ω゚)「ど、どういうことですかお!?」

「きっと、その人物は脳まで完全に改造されたんだ。そして、そのN.E.E.T.Sという組織の手先になった……」

 内藤の脳裏に、再びあの青年の言葉が蘇る。
 確かにあの時、青年は「まだ脳改造はされていない」とも言っていた。

29: 2011/06/12(日) 00:21:15 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「じゃ、じゃあ! その完全に改造されたのが人を襲っているってことですかお!?」

「人頃しなんて声も聞こえるのなら……そうなのだろうね」

( ;^ω^)「そ、そんなことって……ん?」

 内藤の視線の隅に、小さな何かが入り込む。

 それは、親とはぐれてしまったのか、一人きりになってとぼとぼと歩く少年の姿だった。
 人の波に混じって逃げることはせず、柱の陰でうずくまり、そのままわんわんと泣き出す。
 大勢の声にかき消されているが、その口はずっと親の名前を呼んでいるようだった。
 
( ;^ω^)「……」

「内藤くん? どうかしたのかい?」

( ;^ω^)「いや、一人になった子供が……早く警察がどうにかしてくれるといいんですけどお」

「……内藤くん、恐らく警察じゃどうにもできないよ。きっとその程度の相手じゃないから」

( ;^ω^)「え……じゃ、じゃあ自衛隊とか?」

「そうだね、本来ならそのレベルだろう。でも、自衛隊はまず間に合わない」

 塩田は何の遠慮もなく、内藤に対してそう答えてみせる。 

 その口ぶりはまるで、相手がどのようなものかを知っているようだった。

30: 2011/06/12(日) 00:22:14 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「じゃ、じゃあ、あの子はもう助からないん……ですかお」

「……内藤くん、その子を助けたいと思うかい?」

( ;^ω^)「え? そ、そりゃあ、助かるものなら……」

「……内藤くん、君なら助けられるんじゃないかな」

 そこで、塩田の口調ははっきりと変わった。

 内藤を落ち着かせたりするものや、普段の優しげなものではなく、諭すような、とても力強い声であった。

( ;^ω^)「え……」

「内藤くん、もしその場の人々を助けられるとしたら、それは君だよ」

 そう言った塩田の声に、躊躇いは感じられなかった。
 ただ事実を突きつけるようなものではないが、それはしっかりとした理由を伴ってのものに聞こえる。

 内藤とて、その理由がどのようなものかわからなくはない。
 相手は警察や自衛隊ではどうにもできないが、内藤ならばできるかもしれない。
 それは、内藤が同じく改造手術を施された人物であるからだ。

 それに、実際に自分には力があると理解できる機会も経験していた。
 内藤はそのことも塩田に話していたので、そこからも判断したのだと言える。

 だが、今の内藤にとって、これほど残酷な言葉もなかった。

31: 2011/06/12(日) 00:22:27 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「そ、そんな……無理ですお……」

「もちろん君が逃げたとしても、誰も君を責めることはできないよ……」

( ;^ω^)「……」

「でも、これだけは知っていて欲しい……。内藤くん、人々を助けることができるのは、きっと世界中で君だけなんだ」

 その時、一際大きな悲鳴が上がる。
 だが、その言葉ははっきりと内藤の耳に届いていた。

 そして、そこで無情にも電話は切れてしまう。硬貨の有効時間が過ぎたのだ。
 内藤は再び電話をかけることはせず、そっと受話器を元に戻した。

( ;^ω^)「そんな……」

 塩田に対して、内藤は返事をすることができなかった。
 だが、あのまま電話が繋がっていたとしても、とても答えられていたとは思えない。

 それでも、弱音ぐらい――そう思うほど、内藤は追い詰められていた。
 
( ;^ω^)「僕、が……?」

 何も言われなければ、内藤はすぐにでも逃げるつもりであった。
 だが、何故だかその足は張り付いたかのように動かない。
 塩田の言葉を信じるべきなのか、それすらも内藤はわからないままである。 
 
( ;^ω^)「……」 
 
 いくら考えたところで、迷いが晴れるとは思えない。だが、その足はどこかへと動き出していた。

32: 2011/06/12(日) 00:25:03 ID:R1WYyezM0
    ‐4‐


 駅から少し離れた、多くの店舗が立ち並ぶ商店街。
 いつもなら人々の活気で溢れているはずのその場所は、今や阿鼻叫喚の光景でひしめいていた。

(= ∀∴∀)「……クックック」

 路上を悠々と闊歩する、異形の怪人。
 その姿は、まるで巨大な蜘蛛と人間が融合したようであった。

 顔面には蜘蛛のような二本の牙と複眼があり、手足とは別に背中から四本の脚が生えている。
 加えて、その脚の先はサーベルのように鋭利なものであった。

「わああああ!!」

(= ∀∴∀)「シューワッ!」

 逃げ遅れた男性に対し、蜘蛛怪人の口から大量の糸が放出される。
 それはあっという間に男性の体を取り巻き、ミイラのようにしてしまった。

(= ∀∴∀)「シュワシュワシュワ……」

「……! ……!」

 体をねじりながら呻くしかないその男性に、蜘蛛怪人はゆっくりと近付いていく。
 そして、その体に二本の牙を突き立てると、音を立てて何かを吸い取っていった。
 すると、みるみる内に吸われた男性は萎んでいき、最後には巻かれた糸だけがその場に残された。

33: 2011/06/12(日) 00:25:27 ID:R1WYyezM0
(= ∀∴∀)「光栄に思うがいい! 貴様らはN.E.E.T.Sの力を知る名誉を授かったのだ!」

 怯える人々に対し、蜘蛛怪人は高らかに宣言してみせる。
 その言葉は、怪人がN.E.E.T.Sによって造られた改造人間であることを示していた。

(= ∀∴∀)「出て来い! ヒカゲロイド!」

 そう叫んだ瞬間、様々な場所の影が蠢き、そこから何かが生み出される。
 それは人の形をしていたが、全身は黒一色であり、顔には大きな一つ目が存在していた。

(= ∀∴∀)「行け、ヒカゲロイド! 逃げる奴らを捕らえろ!」

( <●>) 「ジョーコー!」

 蜘蛛怪人の号令で、無数の影達が人々に向かって襲い掛かる。

 ヒカゲロイドと呼ばれるこの者達も、N.E.E.T.Sによって造られた戦闘員であった。
 蜘蛛怪人のように特別な力は持っていないが、数や潜伏能力に優れ、忠実に命令をこなす兵士である。
 
*(;‘‘)*「あっ!」

( <●>) 「ジョーコー!」

 やがて、散開したヒカゲロイドの一体が、その目に一人の少女を捉える。

 少女は親とはぐれてしまい、建物の陰に隠れていたのだが、運悪く見つかってしまったのだ。

34: 2011/06/12(日) 00:26:11 ID:R1WYyezM0
*(;‘‘)*「い、いやっ! 来ないで!」

( <●>)「ジョーコー!」

 どんなに叫ぼうと、その声が届くことはない。
 ヒカゲロイドには、命令遂行以外の考えが存在していないからだ。

 不気味な一つ目が見定めるかの如くぎょろぎょろと動き、最後にぴたりと少女を見下ろす形で止まる。

 果たして、その手が少女の腕を掴もうとする、その時であった。

「や、やめろおおおおっ!!」

( <●>)「ジョッ!?」

 突然、声と共に何者かがヒカゲロイドに体当たりする。
 
 吹っ飛んだヒカゲロイドは凄まじい勢いで壁にぶつかり、そのまま影の中に沈んでいった。

( ;^ω^)「だ、大丈夫かお?」

*(‘‘)*「あ、ありがとうお兄ちゃん!」

 少女を助けたのは、他ならぬ内藤であった。

 しかし、その表情は決意したようなものではなく、むしろ青ざめたものに近い。

 実は、塩田の言葉は理解に足るものだったが、やはり内藤には踏ん切りのつく問題ではなかったのだ。
 ここへ来たのもただ様子を見るためで、襲われているのを見つけたのも全くの偶然なのである。

35: 2011/06/12(日) 00:26:30 ID:R1WYyezM0
 とはいえ、少女をヒカゲロイドから助けたのは、何の躊躇いも持たずに行ったことだった。
 それによってどうにかなるわけではないが、少女が無事なことを確認すると、内藤はほっと胸を撫で下ろした。

( ;^ω^)「さあ、今の内に早く逃げるんだお」

*(‘‘)*「うん、お兄ちゃんも気を付けてね」

 内藤は少女がその場から離れていく間、慎重に周囲を警戒する。
 そして、十分な距離まで離れた後、建物の影を隠れるように移動していった。

( ;^ω^)(……あれが、N.E.E.T.Sの改造人間……僕と、同じ……)

 気付かれぬよう、内藤は背後の位置から蜘蛛怪人のことを覗く。
 相変わらず、ヒカゲロイドが連れてきた人物を糸で絡めとる行為を続けている。
 その足元に、何体ものミイラが転がっているのが確認できた。

( ;^ω^)(でも、なんであんな……)

 蜘蛛怪人がN.E.E.T.Sの改造人間であることは間違いないが、内藤は一つの疑問を抱いていた。

 それは、あまりにも自分と姿が違っていることである。
 共に改造手術を受けた身であるのなら、どうしてここまで容姿に差があるのか。

 加えて、蜘蛛怪人が特殊な能力を持っているのに対して、内藤は自分の身にそのようなものは確認できない。
 例え、同時期に改造されたのではなかったとしても、ここまで違いがあるのは流石におかしいと言えた。

( ;^ω^)(なんでだお? 僕はそこまで改造されてないのかお?)

( <●>)「ジョーコー!」

36: 2011/06/12(日) 00:27:36 ID:R1WYyezM0
( ;゚ω゚)「う、うわっ!!」

(= ∀∴∀)「むっ! そこにいるのは誰だ!」

 内藤は、そこで自分のすぐ近くに来ていたヒカゲロイドの姿に驚く。
 考えることに夢中になり過ぎて、接近に気付くことができなかったのだ。

( ;^ω^)「う、うあ……」

(= ∀∴∀)「……ん? 貴様は……」

 何故だか内藤の姿を見た瞬間、蜘蛛怪人の動きが止まる。
 その顔の表情を読むことはできないが、どうやら何かを思い出しているようだった。

 内藤はその隙に逃げようかとも思ったが、あっという間に周りをヒカゲロイドが包囲してしまう。
 さっきは体当たりもして見せたが、あれは無我夢中だった故にできたことである。
 今となっては、この状況に思わず足がすくんでしまっていた。

(= ∀∴∀)「……そうか! 貴様は改造途中で逃げ出した者だな!」

( ;^ω^)「うっ……」

(= ∀∴∀)「ハッハッハ! 心配するな、今からでも戻ればN.E.E.T.Sは貴様を受け入れてやるぞ」

( ;^ω^)「え……?」

 それは、思っていたよりも意外な反応であった。
 自分は脱走したとして、犯罪者のような扱いを受ける――内藤も、そうなるであろうと思っていた。
 だが、実際は何かするでもなく、蜘蛛怪人はそのままじっと内藤の返事を待っている。それは、なんとも奇妙な光景であった。

37: 2011/06/12(日) 00:27:51 ID:R1WYyezM0
(= ∀∴∀)「俺はマシンガンスパイダー! 貴様も改造を終えれば、俺のような力が手に入る!」

( ;^ω^)「……力、が……」

(= ∀∴∀)「そうだ! 力だ! なんだってできるぞ!」

( ;^ω^)「……な、い……」

(= ∀∴∀)「ん? なんと言ったのだ?」

( ;^ω^)「いら、ない……そんな力は、いらないお……」

(= ∀∴∀)「……なに?」

( ;^ω^)「人頃しをするための力なんて……いらないお!」

 蜘蛛怪人――マシンガンスパイダーの複眼が、一斉に自分に向けられた気がして、内藤は心底恐怖する。

 こんなことを言えば相手を逆上させることなど、当然彼もわかっていた。
 事実、言い終えた後に内臓を氷に浸されたような、なんともいえない感覚に陥る。

 だが、内藤はその時、果たしてそれ以外の答えが思いつかなかった。
 自分でも何故かわからないほどに、気付いたら口が勝手に動いてしまっていたのだ。
 
(= ∀∴∀)「そうか……それが貴様の答えか」

( ;^ω^)「あ、いや……」

38: 2011/06/12(日) 00:29:22 ID:R1WYyezM0
(= ∀∴∀)「ヒカゲロイド!」

( <●>)「ジョーコー!」

 その場に十数体ほどいたヒカゲロイドの全てが、じりじりと内藤への距離を詰める。
 大勢の黒い一つ目が近付いてくる様子は、なんとも形容しがたい不気味さに満ちていた。

( <●>)「ジョーコー!」

( ;^ω^)「うわっ!?」

 側にいた一体が、内藤に向かって殴りかかる。
 まともに喧嘩などしたことはない内藤だが、反射的にそれを腕で防ごうとした。

( <●>)「ジョッ!」

( ;^ω^)「え……あ、あれ?」

 内藤は奇妙な感覚だった。確かにヒカゲロイドの拳が腕に当っているのだが、痛みがほとんどないのである。
 まるで子供が大人に殴りかかったような、そんな感触であった。

 だが、そんな考えを持ったせいで内藤の意識は鈍り、別の一体が振り上げた足に気付くことができなかった。

( ;^ω^)「ぐうっ……」

 受けた脇腹に、流石に痛みが走る。だが、それも動けなくなるほどではない。
 内藤はすぐに二体のヒカゲロイドから距離を離し、とりあえずの構えをとって見せる。

 その脳裏には、一つの気になることが浮かんでいた。

39: 2011/06/12(日) 00:29:37 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「……」

( <●>)「ジョーコー!」

( ;^ω^)「こ、このっ!」

 危険であるのはわかっていたが、内藤は迫り来るヒカゲロイドに拳を繰り出す。
 技術も何もない大振りのものだったため、それは相手の防御する腕に吸い込まれた。

 ところが次の瞬間、防いだはずのヒカゲロイドの体が、殴った衝撃で後方に吹っ飛んだのである。

( ;^ω^)「や、やっぱり……!」

 吹っ飛ばされたヒカゲロイドは地面でのたうち、やがて影の中へと沈んでいく。
 その光景を見て、内藤はある一つの確信を持った。

( ;^ω^)「こいつら……大したことないお!」

( <●>)「ジョーコー!」

( ;^ω^)「こ、来いっ!」

 未だヒカゲロイドの一体を倒しただけだが、既に内藤の恐怖心は薄れていた。

 一度に襲われぬよう、内藤は場所を移動しながら、少数ずつヒカゲロイドを相手にすることを選ぶ。
 素早く繰り出される拳、手刀、蹴りなども、一つずつならば十分対処できるからだ。

 そして、いざ余裕ができてみると、内藤は相手の動きが目で捉えられることに気が付く。
 数体のヒカゲロイドを倒した頃には、攻撃を防ぐことに加え、ひらりと身をかわすことまでできていた。

40: 2011/06/12(日) 00:31:45 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)「たあっ!」

( <●>)「ジョッ!」

( ;^ω^)(僕が……こんなことができるなんてお……)

 ほとんどのヒカゲロイドを倒し、内藤は自らの力に驚きを隠せないでいた。
 身体能力が上がっていることは理解していたが、まさかここまでとは思わなかったのだ。
 
 しかも、夢中であったとはいえ、自分が戦いというものをこなせていることに、若干の興奮すら憶えていた。

(= ∀∴∀)「シュワシュワシュワ……やるではないか、ええ? 裏切り者よ!」

( ;^ω^)「……っ!」

 挑発する声に、内藤はすぐさま視線を動かす。

 あれだけのヒカゲロイドがやられたというのに、当のマシンガンスパイダーは慌てる素振りさえ見せていない。
 それどころか、これぐらいはやって当たり前、とさえ言いたげである。
 まさか試されていたのかと思うと、内藤の内には再び恐怖が募っていった。
 
(= ∀∴∀)「今度は俺が相手をしてやろう! シューワッ!」

 言うが早いか、マシンガンスパイダーの口元から糸が発射される。

 すると、内藤はすぐさま横に回避し、吐き出された糸は何もない空間を泳ぐ。

 実は、内藤は予め相手の口を注視していたのだ。
 既に目にしていた攻撃だったので、きっと行うであろうことは予想できたのである。

41: 2011/06/12(日) 00:32:02 ID:R1WYyezM0
(= ∀∴∀)「シュワシュワ……よく避けたな。しかし、次は避けられるかな?」

( ;^ω^)「あ、あの糸に捕まったら終わりだお……!」

(= ∀∴∀)「シューワッ!」

 今度は糸が連続して、その名の通り機関銃の如く発射される。
 これには流石に口元を注意していた位でどうにかできるものではない。
 内藤はとにかく道端にある木や電柱を盾にし、必氏でその場を逃げ回った。

(= ∀∴∀)「ハッハッハ! 逃げ回るだけかー!?」

 発射されるのが糸とはいえ、高速で連発されればその衝撃は銃弾に迫る。
 隠れていた木や電柱が削れていき、間近で聞く炸裂音に内藤は肝を冷やした。

( ;^ω^)(こ、このままじゃ逃げられないお……)

(= ∀∴∀)「隠れても無駄だ! 出て来い!」

( ;^ω^)(や、やるしかない……!?)

 危機的な状況は、その判断力を徐々に焦りへと変えていく。

 特に策も無いまま、内藤は糸を避けながらマシンガンスパイダーへと近付くように移動する。
 そして、丁度いい距離の木にまで隠れると、その攻撃が途切れる瞬間を待った。

( ;^ω^)(止まれ……止まれ……)

(= ∀∴∀)「……」

42: 2011/06/12(日) 00:32:48 ID:R1WYyezM0
( ;^ω^)(今だお!)

 わずかに攻撃の手が緩み、内藤は一気にその場から飛び出す。

 意外にも接近することは容易で、そのままの勢いで拳を相手の胸の辺りに叩き込む。
 それは内藤にとって渾身の一撃であったが――

( ;゚ω゚)「な……」

(= ∀∴∀)「気付かないとでも思ったか?」

 その拳は、果たして相手の体には届かなかった。
 用意していた掌で受け止められ、そのまま内藤は至近距離で対峙という、最も危険な状況に陥る。

( ;゚ω゚)「わ、わざと攻撃を……!」

(= ∀∴∀)「馬鹿め! シューワッ!」
 
( ;゚ω゚)「あっ!?」

 吐かれた糸が、内藤の両足にへばりつく。
 あっという間に地面に張り付けられ、立ったままの姿勢で下半身の身動きが取れなくなる。
 無理矢理引き剥がそうともしてみるが、まるで溶接されたかのように糸はびくともしなかった。

(= ∀∴∀)「シュワシュワ……俺は獲物を前に舌舐めずりなどはせん」

( ;゚ω゚)「う、うああ……」

(= ∀∴∀)「このまま貴様の体液を全て吸い取ってやるわ!!」

43: 2011/06/12(日) 00:33:53 ID:R1WYyezM0
 内藤はもがいて抵抗するも、すぐにマシンガンスパイダーの六本の腕がそれを抑え込む。
 正に絶体絶命。鋭い二本の牙が、じりじりと目前に迫る。

 これを突き立てられればどうなるか、数分前の無残な光景が思い出される。 
 内藤は襲い来る氏への恐怖に、今にも気を失いそうだった。

 そして、いざ牙が突き立てられようとした瞬間――内藤は“ある音”を耳にした。 

 この窮地で聞こえたそれは、内藤に一瞬走馬灯のようなものかと考えさせる。
 何故ならば、それが彼の最も愛する音だったからだ。

 内藤が聞いた音、それは――

( ;^ω^)(バイクの、音……?)

 それは、決して聞き間違いなどではなかった。

 道の向こうから、猛烈なスピードで迫る、一台のバイクの姿があったのだ。

「待てぃっ!!」  

(= ∀∴∀)「ぬうっ!? 何者だ!」

「とうっ!」

 バイクに乗っていた人物は、掛け声一閃、軽業師の如くシートの上からジャンプする。

 長い滞空時間の後、そのままマシンガンスパイダーの体に足の爪先をめり込ませた。

44: 2011/06/12(日) 00:34:12 ID:R1WYyezM0
(= ∀∴∀)「ぐああああっ!!」

 体重を乗せたキックによって、マシンガンスパイダーがまるでゴム毬のように吹っ飛ぶ。
 吹っ飛んだ先でもその勢いは殺せず、ごろごろと道の上を転がり、やがて建物の壁に衝突する。

 飛び蹴りを行った人物は危なげなく着地すると、そのまま内藤の前へと躍り出た。

(= ∀∴∀)「ぬう、ぐぐぐ……き、貴様……!」

( ::::::::::::::)「少し様子を見させてもらったが……」

( ;^ω^)「あ、あなたは……」

( (;;)w(;;))「……どうやら、君は奴らとは違うようだな」

 内藤の前に颯爽と現れたその人物。

 それは、緑の仮面に、真紅のマフラー。
 嵐と共にやって来て、悪を蹴散らす嵐の男。 

 仮面ライダー一号――本郷猛であった。




                                       つづく

45: 2011/06/12(日) 00:34:26 ID:R1WYyezM0
  次回予告


 何もわからぬまま、無慈悲なN.E.E.T.Sの手によって改造人間とされてしまった内藤!


 そこへ、N.E.E.T.Sの恐るべき怪人マシンガンスパイダーの魔の手が襲い掛かる!


 内藤、そして本郷は、果たしてこれを退けることができるのか!


 そして、本郷は内藤に改造人間となって戦うことの意味を伝えようとする!


 “変身”……その本当の意味を知った時、内藤はどうするのか!?




( ン○W○)ブーンが仮面ライダーになるようです

 第二話 「初変身! 変われ! 何もかも!」 


 ご期待ください

46: 2011/06/12(日) 00:36:48 ID:R1WYyezM0
ちなみに俺が好きなライダーはXとBLACK
まあ皆好きだけど。ライスピも大好き

次回もキバって行こうぜー

51: 2011/06/26(日) 23:11:45 ID:y3Nj4umU0


( ン○W○)ブーンが仮面ライダーになるようです

 第二話 「初変身! 変われ! 何もかも!」

52: 2011/06/26(日) 23:12:19 ID:y3Nj4umU0
    ‐1‐


( (;;)w(;;))「はっ!」

( ;^ω^)「あ、ありがとうございますお……」

 1号が手刀を振り下ろし、内藤の足元に絡まっていた糸が真っ二つに千切れる。

 内藤は糸を振り解くと、そのまま一号の斜め後ろに立ち、その姿をまじまじと見つめた。

 悪の秘密結社ショッカーを始め、幾多の魔の手から人類を救った伝説の英雄、仮面ライダー1号。
 内藤にとっては、もはや御伽噺の登場人物のような存在である。

 赤いマフラーをたなびかせ、勇ましく立ち尽くすその背中に、内藤は伝説が事実であることを感じていた。

(= ∀∴∀)「ぐぐ……貴様、日本に戻って来ていたのか……!」

 マシンガンスパイダーは蹴られた箇所を庇いながらよろよろと起き上がる。
 まだしっかりと息はあるが、相当なダメージがあるように見えた。

( (;;)w(;;))「ある人物から不可思議な事件が相次いでいると聞き、戻ってきたのだ!」

(= ∀∴∀)「ふん……誰だか知らんが余計なことをした奴がいるものだ」

( (;;)w(;;))「何故人々をさらうか、聞かせてもらうぞ!」

 そう言って、1号は構えを取る。

 戦いは一触即発――かと思われたが、そこへ意外な返事が返って来た。

53: 2011/06/26(日) 23:13:00 ID:y3Nj4umU0
(= ∀∴∀)「ククク……だったら教えてやろうか? 我らの目的をな……」

( (;;)w(;;))「なにっ……!」

( ^ω^)「あっ、あの、それなら僕が知って……」

(= ∀∴∀)「ああそうだ、お前も知りたいだろう? どうして自分が連れ去られたかを」

( ;^ω^)「!」

 言われて、思わず内藤がその場から一歩飛び出す。

 N.E.E.T.Sが人々をさらう目的だけなら、内藤には既に知っていることだ。
 謎の青年やマシンガンスパイダー自身から、世界征服の手先に改造するためと聞かされたのである。
 
 だが、それならばどうして自分がさらわれたのか。無職ではない自分の何が原因なのか。
 言われてみれば、それは是が非にも知りたいことであった。

( ;^ω^)「そ、そうだお! なんで僕が選ばれるんだお! 無職じゃないのに!」

(= ∀∴∀)「まあ待て、まずは改めて教えてやる。人々をさらうのは、改造人間として我々の戦力とするためだ」

( (;;)w(;;))「やはりショッカーと同じように……!」

(= ∀∴∀)「ショッカー? ふん、あんな壊滅した組織より、我々N.E.E.T.Sの改造人間の方が優秀だ!」

( ;^ω^)「そんなことどうだっていいお! どうして僕は連れ去られたんだお!」

54: 2011/06/26(日) 23:14:25 ID:y3Nj4umU0
(= ∀∴∀)「ククク、そう焦るな。まず、貴様は勘違いしているぞ」

( ;^ω^)「か、勘違い?」

(= ∀∴∀)「そうだ、我々は無職の人間を連れ去るのではない。連れ去る人間が多くの場合無職なだけだ」

( ;^ω^)「え……?」

(= ∀∴∀)「我々が連れ去るのは、働く意欲が無い人間。所謂ニートという奴らだ」

( ;^ω^)「ニート……い、いやでも! 僕はニートじゃないお!」

(= ∀∴∀)「まだ話は終わっていない。そういう完全に働く気が無い奴……それは、こうなる」

 そう言うと、マシンガンスパイダーはぱちんと指を鳴らす。途端、その影からヒカゲロイドが一体飛び出した。

( <●>) 「ジョーコー!」

(= ∀∴∀)「所詮は働く気が無い奴らだ。使うには一から作り変えるしかない」

( ;^ω^)「そ、そんな……じゃあ、ヒカゲロイドは元々……人間……」

 内藤は、改めて出現したヒカゲロイドを見つめる。

 その黒一色の姿から、生気のようなものは全く感じられない。
 ただ、命令をこなすだけのロボット。きっとそのようなものだと思っていた。
 それ故に、彼は躊躇無く拳を使うことができたのである。

 だが、元が人間という言葉を聞いた途端、なんとも言えない嫌な感覚が心に宿る。
 思わず内藤はその視線をヒカゲロイドから逸らしてしまった。

55: 2011/06/26(日) 23:15:06 ID:y3Nj4umU0
( (;;)w(;;))「……君、今は余計なことを考えるな」

( ;^ω^)「え、あっ……は、はい」

 果たして、表情からその心を読み取ったのか、1号が内藤に声をかける。
 それだけでも、内藤は気持ちを大分落ち着けることができていた。

( (;;)w(;;))「貴様らが人を連れ去る目的はわかった。では、何故彼をさらった」

(= ∀∴∀)「フ……俺のように力を持った改造人間を造るためには、そいつのようなのが必要なのだよ」

( (;;)w(;;))「なに……?」

(= ∀∴∀)「完全に働く意識が欠けた者ではなく、働く意思はあるが、その先はない人間……」

( ;^ω^)「え……」

(= ∀∴∀)「今を生きていればそれでいい人間……将来やりたいことが無い人間……」

( ;^ω^)「な……! な……!」

(= ∀∴∀)「夢を持たない人間……そういう奴が必要なのだ」

( ;^ω^)「ふ、ふざけるなおッ!!」

 吐き出される激しい怒りの感情。その言葉は、侮辱されていることに違いない。

 内藤は今にも飛び掛ろうとするが、それは1号によって制止される。
 その様子を見て、マシンガンスパイダーはくつくつと嫌らしい笑い声を発した。

56: 2011/06/26(日) 23:15:51 ID:y3Nj4umU0
(= ∀∴∀)「おいおい、何を怒っている?」

( ;^ω^)「冗談じゃないお! 僕はそんな人間じゃないおッ!!」

(= ∀∴∀)「そうか……では、貴様の将来の夢とはなんなのだ?」

( ;^ω^)「そ、そんなの決まってるお! 良い会社に入って、出世して……」

(= ∀∴∀)「では、最近はどの会社の面接を受けた? 入社するために何か努力をしているか?」

( ;^ω^)「そ、それは……」

 言われて、内藤は思わず口ごもってしまう。

 大学を卒業して一年経つが、確かにそういったことを今の自分が全くしていなかったからだ。
 喫茶店で働くのは元々社会勉強のためだが、その居心地の良さに、すっかりその気持ちを忘れてしまっていたのである。

( ;^ω^)「で、でも……今からだって努力すれば……」

(= ∀∴∀)「ほう……だがな、忘れていないか?」

( ;^ω^)「な、なにを……」

(= ∀∴∀)「貴様、もう普通の人間ではないんだぞ?」

(  ゚ω゚)「あ――」

57: 2011/06/26(日) 23:16:10 ID:y3Nj4umU0
 ――その時、内藤は自分の中で、何かがガラガラと音を立てて崩れていくような気がした。

 小さな、子供の吐息のようにか細い声が一つだけ、その喉から吐き出される。 
 そして、当然のようにそこから続く言葉はなく、内藤は無表情のまま膝から崩折れた。

( (;;)w(;;))「! おい、君! しっかりするんだ!」

(= ∀∴∀)「隙あり! シューワッ!」

 倒れる内藤を介抱しようとする1号に、マシンガンスパイダーの糸が発射される。

 1号は空いた腕で内藤を庇おうとするが、それは彼を狙っての仕業ではなかった。
 撃たれた糸は次々と地面に着弾し、みるみる内にその場に積み上がっていく。
 気が付けば、あっという間にそり立つ白い壁が出来ていた。

( (;;)w(;;))「くっ! ライダーパンチ!」
 
 繰り出された拳が、糸の壁を一撃で粉砕する。
 だが、視界が晴れた時、既にマシンガンスパイダーとヒカゲロイドの姿は無くなっていた。

( (;;)w(;;))「逃げられたか……」

 1号は仮面の奥で眉を顰める。そして、腕に抱いていた内藤がずしりと重くなるのを感じた。

( (;;)w(;;))「む……」

(  ω )「――」

58: 2011/06/26(日) 23:16:26 ID:y3Nj4umU0
( (;;)w(;;))「気を失ったか……無理もない……」

 周囲に安全が戻ると、1号はベルトの風車ダイナモの動きを収める。
 途端に風力エネルギーの流れが止まり、彼はライダーから本郷猛へとその姿を変えた。

本郷「こうなっては連れて行くしかないか……」

 本郷は気絶した内藤を背負い、離れたバイクの元へと戻る。

 そして、その体をシートの後ろへと座らせると、ホルダーから予備のヘルメットを取り外した。
 頭にしっかりと着用させ、自らもシートの定位置へと腰掛ける。
 その際、内藤の体勢を自らに寄りかかるよう整えた。

 本郷は自分もヘルメットを被り、グリップの握り心地を少し確かめる。
 シールドから覗く口元には、何かを思い出すように笑みが浮かべられていた。
 
本郷「さて……しょぼっさんは元気にしているかな」  

 やがて、唸るようなエンジン音と共に、二人を乗せたバイクは勢い良く道を走っていった。

59: 2011/06/26(日) 23:18:44 ID:y3Nj4umU0
    ‐2‐


( -ω^)「う、ん……?」

 部屋中に漂うコーヒー豆の香りに、内藤は目を覚ます。

 ぼやけた視界で辺りを見回すと、そこは見慣れたバーボンハウスのスタッフルームであることに気が付いた。
 体は備え付けのソファに寝かされており、身をよじらせると背中にわずかな痺れを憶える。

 横になった状態から起き上がり、座る姿勢で背もたれに寄りかかると、内藤はしばらく呆けて佇む。
 その時、かすかに外から雀の鳴き声が聞こえていた。
 部屋には時計が置かれていないが、どうやら結構な時間を眠っていたのだと認識する。

 やがて、彼がソファから立ち上がろうとした時、店側の扉から誰かが入ってくるのを目にした。

(´・ω・`)「内藤くん、起きたかい?」

( ^ω^)「あ……しょぼっさん」

(´・ω・`)「ああ! 良かった、目を覚ましたんだね」

 部屋に入ってきたのは塩田であった。

 いつものエプロンを着けた服装で、内藤の元に駆け寄るその手には湯気の立つカップが持たれている。

(´・ω・`)「コーヒーを淹れたんだけど、いるかい?」

( ^ω^)「あ、はい……頂きますお」

60: 2011/06/26(日) 23:19:02 ID:y3Nj4umU0
 内藤はカップを受け取り、そのまま口元に運ぶ。
 味付けは彼の好きな甘口で、体の中に優しい温かさが染み込んでいくようだった。

(´・ω・`)「……」

( ^ω^)「……」

 少しだけ、二人の間に沈黙が流れた。

 内藤は視線を合わせようとはせず、ただ静かにコーヒーを啜る。
 塩田の方は宙を見上げて立ち尽くし、何を話すかじっと考えている。

 やがて、どちらかが話しかけるより先に、店側の扉からコンコンとノックの音が聞こえた。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、マスター……」

 扉が静かに開かれ、おずおずと憐が顔を出す。
 その表情はいつもと違い、ひどく青ざめたものであった。

ξ゚⊿゚)ξ「あっ、文太郎起きたの!? な、なんともないの!?」

 ソファに座る内藤の姿を見つけると、憐は心配げに声を上げる。
 
 だが、言われた内藤は顔を上げることもなく、ただ黙っているだけであった。

ξ;゚⊿゚)ξ「どうしたの……? どこか具合が悪いの……?」

(´・ω・`)「憐ちゃん、内藤くんの様子を見に来たのかい?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ、あの、それもありますけど……本郷さんが」

61: 2011/06/26(日) 23:20:05 ID:y3Nj4umU0
( ^ω^)「え……?」

 聞きなれない名前を耳にし、内藤は視線を憐の方へと動かす。

 そして、憐が扉を全て開けると、その後ろから一人の人物が姿を現した。
 ピンクのシャツと赤茶の背広、ベルボトムの白いスラックスというレトロなファッションを着こなしている。

本郷「気が付いたようだね」

( ^ω^)「え、あなたは……?」

(´・ω・`)「おっと……燐ちゃん、悪いんだけど席を外してくれるかい?」

ξ゚⊿゚)ξ「あ……はい、私は店の方に戻りますね」

 最後にもう一度だけ内藤に視線を送り、憐は扉の奥へと引っ込んでいった。

本郷「内藤くん、だったね。体はなんともないかい?」

( ;^ω^)「あ、あの、どこかでお会いしましたかお?」

(´・ω・`)「ふふ、命の恩人をもう忘れてしまったのかい?」

( ^ω^)「え……」

本郷「いやだなあ、よしてくださいよ」

( ;゚ω゚)「……え!?」

62: 2011/06/26(日) 23:20:25 ID:y3Nj4umU0
 瞬間、内藤の瞼が勢い良く開く。そう言われて、思いつく人物が一人しかいなかったからだ。

( ;゚ω゚)「じゃ、じゃあ、あなたが仮面ライダー……」

 内藤は自分で言った言葉に昂りを憶える。それを受けて、本郷は静かに頷いた。

本郷「どうにも噂が独り歩きしているようだね……」

(´・ω・`)「何を言っているんだい、実際ショッカーやゲルショッカーを壊滅させたのは君じゃないか」

本郷「いや、あれは決して俺一人の力じゃありませんよ」

( ;^ω^)「あ、あの……二人はお知り合いなんですかお?」

(´・ω・`)「おっと、そうだね。実は、彼は僕にとっても命の恩人なんだよ」
 
 内藤は親しげに話す二人を見て、思っていた疑問をぶつける。
 そうして、塩田は自分と本郷との出会いについて語り出した。

 今より数年前、未だゲルショッカーが世界に対して猛威を奮っていた頃、塩田はそのゲルショッカーの怪人に襲われたことがあった。
 あわや一巻の終わりかと思われたが、それを救ったのが他ならぬ仮面ライダー1号、本郷猛だったのである。

 そして、その礼として塩田は自慢のコーヒーを振る舞い、それを本郷がいたく気に入って二人は親交を深めていった。
 今でもたまに本郷は店に立ち寄り、塩田も何かおかしなことがあれば今回のように連絡を取るようにしているのだ。

(´・ω・`)「いやあ、あの時のライダーの雄姿、内藤くんにも見せてあげたいねえ……」

( ^ω^)「そうだったんですかお……」

 そう語る塩田の様子は、普段から想像できないくらい雄弁なものであった。

63: 2011/06/26(日) 23:20:48 ID:y3Nj4umU0
本郷「……ところで、内藤くん」

( ^ω^)「え、な、なんですかお」

 言われて、内藤は思わずソファに寄りかかっていた背筋を伸ばす。
 口を開いた本郷の眼差しが、思いの他真剣なものだったからだ。

本郷「……君の事情は、しょぼっさんから聞かせてもらった」

(  ω )「……っ!」

 その言葉で、内藤は再び現実を思い知らされる。

 何かで忘れることができていても、その事実が消えることは決してない。 

 途端に口が閉じられ、うつむいて瞳がどんよりと曇っていく。
 そのなんとも悲痛な姿は、まるで体から生気を失っていくようだった。

本郷「しょぼっさん、彼と二人きりにしてくれますか」

(´・ω・`)「……ああ」

 促され、塩田は素直に扉の方へ向かう。そうする彼とて、実際は心配で気が気でない。
 だが、今の内藤と話ができるのは、本郷を置いて他ならないことも彼は重々理解している。

 そうして、塩田が部屋を後にする間も、本郷は内藤を真っ直ぐ見据えていた。

64: 2011/06/26(日) 23:21:51 ID:y3Nj4umU0
本郷「……隣、いいかい」

 聞かれた内藤の返事はなかったが、本郷はそのままソファに腰掛ける。
 そして、視線を合わせようとしない内藤を一度だけ見て、自身も宙を見つめながら話し出した。

本郷「内藤くん、私は君の気持ちがわかるんだ。私自身、君と同じ目に遭ったのだからね……」

( ^ω^)「えっ……!? ほ、本郷さんも……?」

 その言葉を本来の意味で使えるのは、間違いなくこの場に本郷ただ一人であった。
 彼もショッカーに目をつけられ、否応なく改造手術を施されたという過去を持つ。
 その事実を聞き、内藤は二人が同じ境遇であることを理解していた。

本郷「だが、私には満足に苦悩する時間もなかった……ショッカーの追っ手がいたからね」

( ^ω^)「どうして……」

本郷「うん?」

( ^ω^)「どうして……ショッカーと戦ったんですかお」

 聞こえたのは、喉から搾り出したような小さい声だった。
 そして、本郷はその答えに対して少し考え込む。

本郷「……人々を守るため、私を救ってくれた人の遺志を継ぐため……そして、ショッカーへの復讐の意味もあった」

( ^ω^)「……!」

65: 2011/06/26(日) 23:22:36 ID:y3Nj4umU0
 内藤はその“復讐”という言葉に少しだけ動揺する。

 彼にとって仮面ライダーとは世界を救った英雄であり、復讐をするようなイメージが全くなかったからだ。
 その生々しさを伴う理由は失望でないにしろ、彼になんともいえない感覚を味わわせる。

 だが、そこで内藤はふと気付く。

 自分が今抱いている感情こそ、当時本郷が抱いた感情そのものではないかということだ。
 心が張り裂けそうなほどの悲しみが激しい怒りに変わったのなら、その理由は容易に納得がいく。

( ^ω^)「本郷さんは、復讐のための戦いを……?」

本郷「始めはそれもあった……だが、その感情は次第に消えていったよ」

( ^ω^)「消えたん……ですかお……」

本郷「ああ。私が戦う理由はただ一つ、か弱き人々を悪の魔の手から救うためだ」

 本郷はそうやって、まるで当たり前であるかのように言葉にしてみせる。
 だが、それを実行することが、どれほどの覚悟を持ち合わせることなのか。

 今にも押し潰されそうな負の感情の一切を押し頃し、あくまで人類の自由のために戦う。
 その気高き選択が、ただの一個人によって為されている。

 内藤とて、その凄まじさをおぼろげながら感じていた。

( ^ω^)(やっぱりすごいんだお、本郷さんは……本郷さん、は……)

 そこで初めて、内藤は自分に対して新たな考えが浮かぶ。
 同じ立場の者として、自分はどうなのだろうか、と。

66: 2011/06/26(日) 23:22:54 ID:y3Nj4umU0
本郷「内藤くん、昨日の怪人と君との違いはなんだと思う?」

( ^ω^)「それは……脳改造をされていないこと……ですかお?」

本郷「その通りだ。そして、それがどういうことかわかるかい?」

( ^ω^)「え……」

本郷「例え改造された体であっても、君の心は人間のままだということだ」

( ^ω^)「……!」

本郷「君の悲しみは承知している。だが、そうやって悲しむことができるのは、君がまだ人間の心を持っているからなんだ」

( ^ω^)「……人間の、心……」

本郷「内藤くん。君にはまだ、人としてできることがあるんだよ」

( ^ω^)「僕に、できること……」

本郷「ああ。普通の人として生きるよう努力することだってでき……」

( ^ω^)「――あの!」

 急に強くなった語気に、本郷は視線を隣へと動かす。
 すると、そこには真っ直ぐ本郷を見つめる内藤の顔があった。

本郷「……なんだい?」

( ^ω^)「僕も、本郷さんみたいに……仮面ライダーに、なれますかお……?」

67: 2011/06/26(日) 23:25:05 ID:y3Nj4umU0
    ‐3‐


本郷「……」

( ;^ω^)「……」

 初めに二人が交わしたのは、沈黙だった。
 だが、次第に本郷の目つきが鋭いものに変わる。
 それは怒りといったものではないが、内藤には量りかねるものだった。

本郷「……内藤くん」

( ;^ω^)「は、はい」

本郷「私が戦う理由には、自分と同じ境遇の人を増やしたくない、というのもある」

( ;^ω^)「あ……」

 それは、ほぼ否定されているようなものであった。

 本郷が言っているのは、何も仮面ライダーという存在のことだけではない。
 望まぬ被害に遭う者、その全てを指してのことである。

本郷「……過去には、自ら私欲のために改造手術を受けた者もいたが……」

( ^ω^)「……」

本郷「そもそも改造人間なんて、存在してはいけないのだと私は思う……」

68: 2011/06/26(日) 23:25:19 ID:y3Nj4umU0
 そう話す本郷の姿はとてもちっぽけで、弱々しいものだった。

 内藤が自分と同じ立場だからなのか、彼がここまで話そうと思っていたかどうかは定かではない。
 だが、それは世界を救った英雄とて、決して完全ではないことを感じさせる姿だった。

( ^ω^)「……あ、あの、このまま普通に生活するんじゃ、僕は悪に屈したような気がするんですお」

本郷「内藤くん、それは……」

( ^ω^)「わかってますお、そうじゃないってことは……それに、本気で本郷さんみたいになれるとも思っていませんお」

本郷「内藤くん、私はそんな立派な存在ではないよ……」

( ^ω^)「……でも、本郷さんは逃げることより戦うことを選びましたお! 僕は……僕は、それでもあなたに近付きたいんですお!」

 内藤は、本郷の瞳を射抜くかの如く見つめる。 
 強く言葉に表すだけでは、彼は不十分だと感じていた。
 とにかく思いつくままに、自分が本心であることを必氏で伝えようとしたのだ。
 
本郷「……単なる憧れなら命を落とすぞ!」

 怪人と相対した時のように、本郷は内藤へと気を吐く。

 その姿に、先刻の弱さは微塵も感じられない。
 不遜も謙遜もなく、あくまで目の前の若者へ対する警告。
 同時に、その否定は彼の本心から来る願いなのかもしれなかった。

( ^ω^)「でも……でも、僕は……! 目の前で泣いている人がいた時、助けることを選びたいんですお……!」

69: 2011/06/26(日) 23:26:46 ID:y3Nj4umU0
 そう叫ぶ内藤の脳裏に、ある光景が浮かんでいた。

 それは座り込んで泣き続ける少年の姿であり、悪の魔の手に襲われそうになっている少女の姿。

 自らに渦巻く絶望の最中で、一度は逃げない選択をすることができた。
 だが、今普通の生活に戻ることを選んでしまったら、内藤は二度と同じ選択ができなくなるように思えたのだ。

 言葉を出し尽くした二人は、意思を確かめ合うように視線だけを交差させる。

 幾ばくかの時が流れた後、漏れる息と共に本郷の表情が崩れた。

本郷「フ……そういうことなら、もう私に止めることはできないな」

( ;^ω^)「あ、ありがとうございますお……」

本郷「礼はいらんさ。……だが、君は最も厳しい道を選んだということは理解してくれ」

( ^ω^)「はい!」

本郷「うむ……意思は固いようだ」

( ;^ω^)「あ、あはは、僕もライダーに変身できれば良かったんですけどお」

本郷「……内藤くん、ライダーに変身するとは……変身とは、そういうことではないよ」

( ^ω^)「え……」

 内藤は、ほんの冗談を口にしたつもりだった。

 しかし、その続きを聞くよりも、血相を変えて部屋に飛び込んできた塩田の報せを聞く方が先であった。

70: 2011/06/26(日) 23:27:49 ID:y3Nj4umU0
        *        *        *




 飛び交う悲鳴、荒ぶる靴音。

 美津蒲市のシンボルとして一丁目に建設された大型展示施設、美津蒲メッセ。
 多くの人波と歓声で包まれることがこの場所の常であるが、今だけは逃げ惑う人々の悲鳴が木霊していた。

(= ∀∴∀)「ハーッハッハ! やれっ! もっと暴れろ!」

( <●>)「ジョーコー!」

 急遽現れたマシンガンスパイダーとヒカゲロイドは、入場客を手当たり次第に襲っていく。
 メッセ前の広場には幾つもの糸の残骸が転がり、そこに無残な中身の無い衣服が覗けている。

(;^o^)「と、止まれっ! 止まらんと撃つぞっ!」

(= ∀∴∀)「フン、警察か……。カスが! 邪魔をするな!」

(;^o^)「くっ、やむを得ん!」

 駆けつけた警察官が、震える手で数度引き金を引く。
 銃弾は正確にマシンガンスパイダーの胸元を捉えたが、どれも跳ね返って足元のコンクリートに沈んでいった。

(= ∀∴∀)「そんなものが通用するか……シューワッ!」

(;^o^)「うわっ!?」

71: 2011/06/26(日) 23:28:05 ID:y3Nj4umU0
 発射された糸が拳銃を持つ手に当たり、その勢いに体ごと引っ張られていく。
 そうして、近くにあった柱のオブジェに警察官ごと着弾した。

(;^o^)「こ、この……! は、外れない……!」

(= ∀∴∀)「シュワシュワシュワ……お前も餌食にしてやろう」

(;^o^)「お、おわ……た、助けて……」

(= ∀∴∀)「ククク……ゆっくりと氏の恐怖を味わえ」

「マシンガンスパイダー! 獲物の前で舌なめずりはしないんじゃなかったのか!」

(= ∀∴∀)「むっ! 誰だ!」

( <●>)「スパイダー様! あそこです!」

 ヒカゲロイドの一人が、とある方向を指差す。
 そこには、この場所で一際目立つ凱旋門が設置されていた。
 
 そして、門を見つめるマシンガンスパイダーの視線が、どんどん上へと動いていく。

 やがて辿り着いたのは、その天辺。そこに、悠然と構える本郷の姿があった。

(= ∀∴∀)「来たか! 本郷猛!」

本郷「私が来たからには、これ以上の悪事はできないと思え!」

72: 2011/06/26(日) 23:28:47 ID:y3Nj4umU0
本郷「トオッ!」

 本郷は体を伸ばしながら跳躍し、そのまま空中で弧を描きながら広場へと着地する。
 それは新体操の演技と錯覚しそうな美しいジャンプであった。

(= ∀∴∀)「フッフッフ……ようやく来たな!」

本郷「なに……?」

(= ∀∴∀)「目当ては最初から貴様よ! 行けヒカゲロイド!」

( <●>)「ジョーコー!」

 その場にいたものに加え、あらゆる暗がりから新たにヒカゲロイドが飛び出す。
 
 その手元にはククリナイフや長柄の棒が握られており、それぞれが本郷を威嚇する。
 目視できるだけでも、ざっと十を超える数が確認できていた。

本郷「むっ!」

 流石の本郷も、その数を見て改めて全身に気を張る。
 ヒカゲロイドらは一定の距離を保ちながら本郷へと接近し、そのまま円の形に包囲していく。
 包囲しきった後も動き続け、さながらそれは彼を中心とした独楽の様であった。

( <●>)「ジョーコー!」

本郷「はっ!」

73: 2011/06/26(日) 23:29:09 ID:y3Nj4umU0
 背後からナイフを振りかざす一体にいち早く気付き、本郷は身を翻す。
 ナイフは宙を舞い、体勢を崩した相手に後頭部へ手刀を浴びせた。

 打撃音と確かな手応えの後、ヒカゲロイドはその場で派手に転がる。そのまま起き上がれないよう、本郷は倒れた背を踏みつけた。

 そして、今一度周囲を睨み、その威圧感だけで他のヒカゲロイドをたじろがせる。

本郷「どうした、来い!」

( <●>)「ジョーコー!」

 正面と側面から襲い掛かる二体のヒカゲロイド。
 それを本郷はすぐさま後退し、同時に攻撃させることを阻止する。

 側面から来た一体の攻撃をかわし、丁度もう一方の壁になるよう殴り飛ばす。
 二体は衝突し、おまけとばかりにそこへ本郷は蹴りを叩き込んだ。

( <●>)「ジョッ!?」

(= ∀∴∀)「ええい……! 不甲斐ない……!」

「……さあ、今の内に……」

「……あ、ありがとうございます……」

(= ∀∴∀)「ぬうっ!? 何をしている!」

 戦闘を忌々しく見つめていたマシンガンスパイダー。突如、その背後で動く何者かの気配に気付く。

 慌てて視線を動かすと、その正体は警察官を逃がす内藤であった。

74: 2011/06/26(日) 23:29:44 ID:y3Nj4umU0
(= ∀∴∀)「き、貴様ぁ!! シューワッ!」

(  ;゚ω゚)「う、うわっ!?」

 拳を振り下ろすマシンガンスパイダーの迫力に、内藤は思わず目を瞑る。
 がん、という衝撃音が耳に届くが、その体のどこにも拳の感触がないことに気付く。
 恐る恐る目を開けてみると、そこには内藤を庇う本郷の姿があった。

本郷「ぐ、う……」

(  ;゚ω゚)「本郷さん!!」

本郷「たあっ!」

 拳を肩に受けた本郷は、そのまま身を翻して右足の爪先を振り上げる。
 至近距離であったが、マシンガンスパイダーはそれを避けながら後方へと距離を離した。

(= ∀∴∀)「ククク……馬鹿めが! 庇って自分が受けるとはな!」

本郷「く……」

(  ;゚ω゚)「本郷さん! しっかりしてくださいお!」

本郷「……内藤くん、そういえば話の続きがまだだったな……」

( ;^ω^)「え……」

 一度は崩れ落ちそうになる本郷だったが、その気力ですっくと立ち上がってみせる。
 そして、再び構えを取り、視線は合わせずに背後の内藤へ対して話し続けた。

75: 2011/06/26(日) 23:30:02 ID:y3Nj4umU0
本郷「我々仮面ライダーは戦う力を得るためだけに変身するんじゃない……」

( ;^ω^)「……」

本郷「変身によって姿は変わるが、真に変えるのは……その心」

( ^ω^)「心……」

本郷「そうだ……自らの心を、悪を倒す正義の心へ変える……!」

( ^ω^)「……正義の心……」

本郷「“ヘンシン”とは、“変心”! そして、仮面ライダーという正義の戦士に自らを変える!」

(= ∀∴∀)「ええい! 何をごちゃごちゃと! かかれ!」

 マシンガンスパイダーの号令で、未だ多くの数を残すヒカゲロイドが二人の元へ押し寄せる。
 本郷はそれにたじろぐどころか、あえて前へと踏み込んで見せた。
 
本郷「見せよう……その姿!」

 本郷は左の拳を腰に置き、右腕を頭の左斜め上に振り上げる。

本郷「ライダー……変身!!」

 振り上げた右腕をゆっくりと反対の右斜め上まで動かし、腰の左腕を入れ替えるようにして振り上げる。

 そして、掛け声と共に空高くその体は舞い上がった。

76: 2011/06/26(日) 23:31:42 ID:y3Nj4umU0
    ‐4‐


 腰に巻かれたライダーベルト。その中心のダイナモが解放され、急速に周囲の風を取り込んでいく。
 ベルトに溜められた風力エネルギーは、本郷の改造された体をより強靭にするための姿へと変貌させた。

( (;;)w(;;))「内藤くん、よく見たまえ。ライダーの戦いを!」

( <●>)「ジョーコー!」

( (;;)w(;;))「トオッ!」

 複数のヒカゲロイドが、携えた棒の先端を一斉に突き出す。
 しかし、1号がその場から跳び上がり、それらは全て地面へと叩きつけられた。

( (;;)w(;;))「ふん!」

( <●>)「ジョッ!?」

 ヒカゲロイドらの背後へと着地し、そのまま近くの一体へ拳を繰り出す。
 変身したことによって強化された拳は、一撃でその体を弾き飛ばした。

 続いて、体勢を持ち直した一体が頭部を割らん勢いで棒を振り下ろす。
 それを1号は左腕一本で受け止め、棒を掴んで引き寄せたところで腹部へ蹴りを叩き込んだ。
 くぐもった呻き声を上げつつ、その一体が地面へと沈む。

 倒れたヒカゲロイドは影の中へと消えていくが、それを確認する間もなくまた別の一体が背後から襲い掛かった。

 だが、それを見越していた1号は身を低くしてその足元に腕を差し出す。
 思わぬ障害にヒカゲロイドは痛烈に転び、その体にとどめの拳をめり込まされた。

77: 2011/06/26(日) 23:31:58 ID:y3Nj4umU0
( ^ω^)「……すごい……すごいお……」

 内藤の目の前で、瞬く間に1号はヒカゲロイドを薙ぎ倒していく。

 いなし、かわし、防ぎ、そして急所に一撃を叩き込む。

 その勢いは正に竜巻のようであり、暴れまわる姿はまるで嵐のようであった。

( ^ω^)(僕も……僕も、あんな風に……)

 見つめる内藤の体が、内側から熱を帯びていく。
 その瞳は子供のような眼差しで、しかして決して見逃さぬよう動いていた。

( <●>)「ジョッ!?」

(= ∀∴∀)「ええい! どけい!」

 殴り飛ばされたヒカゲロイドを跳ね除け、マシンガンスパイダーは自ら1号へと向かう。
 背中から生えた鋭利な四本の脚が、一斉にその体へ伸ばされた。

( ;^ω^)「あっ! 危ないおライダー!」

( (;;)w(;;))「むっ!」

(= ∀∴∀)「シューワッ!」

 間一髪、その声を聞いた1号は脚の軌道から身をかわす。
 続けざまに手刀を肩口に振り下ろし、追撃の手を食い止めた。

(= ∀∴∀)「くっ、余計な真似を……!」

78: 2011/06/26(日) 23:32:22 ID:y3Nj4umU0
( ;^ω^)「うっ……」

 マシンガンスパイダーの鋭い視線を当てられ、内藤はその足が一歩後ろに下がる。

( ;^ω^)(っ! だめだお!)

 だが、それはすぐに戻された。精一杯の気力で、その視線を睨み返す。

( ;^ω^)「だめなんだお! 単なる憧れじゃ!」

(= ∀∴∀)「ヒカゲロイド! こいつもやってしまえ!」

( <●>)「ジョーコー!」

( (;;)w(;;))「! 内藤くん!」

( ^ω^)「ライダー! 来ないでくださいお!」

 1号を声でせき止め、内藤は構えを取る。
 ナイフを持ったヒカゲロイドが眼前に迫るが、決してたじろぐことはしなかった。

( <●>)「ジョーコー!」

( ^ω^)「たあっ!」

 ヒカゲロイドの襲い来る腕より素早く、その顔面に拳を叩き込む。

 迎え撃たれ、その手からはナイフが滑り落ちる。そこへ、内藤はもう一度顔面に拳を振り抜いた。
 その一撃が、ヒカゲロイドを空中へと放り出す。

79: 2011/06/26(日) 23:33:04 ID:y3Nj4umU0
( ;^ω^)「心を、変える……! 自分が変わってみせるんだお!」

(= ∀∴∀)「おのれぇ!」

( (;;)w(;;))「お前の相手はこっちだ!」

 マシンガンスパイダーは内藤へ迫ろうとするが、その目前に1号が躍り出る。
 それを見て、忌々しげに舌を鳴らした。

(= ∀∴∀)「ええい、鬱陶しい! ヒカゲロイドよ、爆弾を使え!」

( <●>)「ジョーコー!」

 言われた途端、ヒカゲロイドらは自身の影の中へと手を突っ込む。
 そして、戻された手には小型の爆弾が握られていた。

( (;;)w(;;))「! 避けろ内藤くん!」

( <●>)「ジョーコー!」

( ^ω^)「うああああっ!!」

 一斉にその手の爆弾が内藤へ向かって放り投げられる。
 初めに投げられた一つが炸裂音と共に起爆し、それが引き金となって耳を劈く轟音が響き渡る。
 爆発が爆発を呼び、いくつもの火柱が内藤の立つ地面から吹き上がった。

( (;;)w(;;))「くっ!」

 1号は身を屈めつつ、内藤の姿を確認しようとしたが、すぐにその視界を爆炎が覆う。
 だが、一瞬だけその目は凄まじい速度で飛び出す何かを捉えていた。

80: 2011/06/26(日) 23:33:24 ID:y3Nj4umU0
( (;;)w(;;))「……!? 今のは……」

 一通りの爆発が収まり、1号は立ち昇る煙の中から内藤の姿を探す。

 やがて、段々と中から一つのシルエットが浮かび上がるが、見えたのは彼に驚愕を与えるものであった。

( (;;)w(;;))「!?」

( ン○W○)「はあ……はあ……」

 荒い息を吐きながら、煙の隙間より現れた人影。
 それは人の形をしていたが、人の姿をしていなかった。

 肉体を包み込む緑色の甲殻に、フルフェイスのヘルメットのような頭部。
 二つの大きな丸く赤い目と、二本の触角。そして、昆虫のような噛み砕くための顎――

 それは、人間とバッタを組み合わせて造られた、仮面ライダーの姿に酷似していた。

( (;;)w(;;))「その姿……内藤くん、君なのか……」

( ン○W○)「えっ……こ、これって……!?」

 呼ばれて反応し、それが変貌した内藤の姿であることが確認される。
 
 自身もその変化に気付いていなかったようで、内藤は戸惑いつつその体を凝視した。

(= ∀∴∀)「ぐ……だからなんだというのだ!」

 マシンガンスパイダーはその場から動かない内藤へ向かって一気に距離を詰める。
 そして、背中の脚の一本がサーベルの如く突き出された。

81: 2011/06/26(日) 23:34:08 ID:y3Nj4umU0
( ン○W○)「っ!」

(= ∀∴∀)「な……!」

 突いた脚が、伸びきる前に空中でその動きを止める。
 マシンガンスパイダーの驚愕する表情の先には、その脚をしっかと掴む内藤の姿があった。

( ン○W○)「たあっ!」

(= ∀∴∀)「ぐうおっ!」

 動きの止まったその体に、内藤は体勢を横にしながら渾身の蹴りを放つ。
 爪先は腹部へと深くめり込み、彼はその足裏に確かな手応えを感じる。
 マシンガンスパイダーの体は衝撃で人形のように宙を舞い、そのままの勢いで地べたに叩きつけられた。

 吹っ飛ぶ際に細かな金属片が撒き散らされ、見れば内藤の手には引き千切れた脚の一つが残っていた。
 彼はそれをすぐにその場に手放すが、その威力にしばし呆然と自分の体を見つめる。

( (;;)w(;;))「なんという……力だけなら私以上かもしれん……」

( ン○W○)「……ライダー!」

( (;;)w(;;))「よし! 共に戦うぞ!」

 二人は足並みを揃え、今一度敵の方へと向き直る。
 
 恐怖という感情を取り除かれたはずのヒカゲロイドらも、その重圧に足を踏み出せない程だった。

82: 2011/06/26(日) 23:35:02 ID:y3Nj4umU0
(= ∀∴∀)「ぐく……何をしている! 奴らを倒せ!」

( <●>)「ジョーコー!」

( (;;)w(;;))「トオッ!」

 1号はヒカゲロイドに三方向から襲われるが、まずカウンターで正面の一体を殴り飛ばす。
 続いて横から迫る一体の腹部を殴りつけ、下がった頭をサッカーボールのようにキック。
 三体目は背後から首を絞めようとのしかかったが、その勢いを殺さずに背負い投げで弾き飛ばした。

( <●>)「ジョーコー!」

( ン○W○)「させるかお!」

 ナイフで1号を狙おうとするヒカゲロイドを、内藤が腕を掴んで阻止する。
 そのまま体を引っ張りつつ自らも移動し、十分に距離が離れたところでその体を投げ飛ばす。
 
( ン○W○)「来い! こっちだお!」

 内藤が挑発し、ヒカゲロイドらがその後を追う。

 そうして、その場を移動しながら近付いてくるものを片っぱしから殴り、蹴り倒す。
 気付けばヒカゲロイドの数は半分以下になり、残りも全て内藤が相手していた。

( ン○W○)「ライダー! 今ですお!」

( (;;)w(;;))「よし、わかった!」

(= ∀∴∀)「くっ!」

83: 2011/06/26(日) 23:35:22 ID:y3Nj4umU0
 手薄になったマシンガンスパイダーと1号が対峙する。

 間合いを計りながら睨み合う二人だが、すぐにその静寂は破られた。
 接近させることを望まないマシンガンスパイダーが、糸を連射したのだ。

(= ∀∴∀)「シューワッ!」

( (;;)w(;;))「むっ! トオッ!」

 1号はその場から相手に向かってジャンプし、空中でその身に捻りを加える。
 そうすることで地面に着地した時に相手の背中と向かい合う形になり、1号は素早くその体を振り向かせる。

( (;;)w(;;))「ふん! トオッ!」

(= ∀∴∀)「ぐあっ!」

 左右からブーメランのように繰り出される拳が、何度となくマシンガンスパイダーの顔面を叩く。
 改造人間同士が戦う、金属のぶつかるような打撃音が連続し、1号は一気呵成に追い詰める。
 
 最後は一際強く殴られ、マシンガンスパイダーは大きく後ずさって膝をついた。

(= ∀∴∀)「シュワシュワシュワ……」

( (;;)w(;;))「終わりだ! マシンガンスパイダー!」

(= ∀∴∀)「シュ、シューワッ!」

 手痛いダメージを負ったマシンガンスパイダーは今一度糸を連射する。
 苦し紛れかと思われたが、糸はあっという間に地面の上に白い壁を積み立てていく。
 前回と同じ方法で、この場から逃げようとしたのである。

84: 2011/06/26(日) 23:35:59 ID:y3Nj4umU0
( (;;)w(;;))「逃がさん! トオッ!」

 その様子を知っている1号は、空高くジャンプする。
 目前のそり立つ壁を踏み台とし、さらに勢いをつけて飛び上がった。

( ン○W○)「! あ、あれは!」

 全てのヒカゲロイドを始末し、内藤は駆け付けた先でその姿を目にした。

 1号の体は空中で回転し、それによって十分な滞空時間を生じさせる。
 その合間にベルトの風力エネルギーは一気に右足へ収束し、凄まじい破壊力が作り出されていく。
 
( (;;)w(;;))「ライダァァァキィーック!!」

 落下時の加速も合わせた、稲妻のような一撃。その威力は、大型トラックの正面衝突にも匹敵する。

 衝撃で弾き飛ばされるマシンガンスパイダーの姿は、どう見ても致命的なものであった。
 
(= ∀∴∀)「シュ、シュワシュワ……シュワーッ!!」

 断末魔の後、地べたでのたうつマシンガンスパイダーの体からぼこぼこと白い泡が噴き上がる。

 それはマシンガンスパイダー最期の光景であり、その体が泡の中へと溶けていく。

 やがて、泡自体も消えてなくなると、そこには何もない地面だけが残された。

85: 2011/06/26(日) 23:37:05 ID:y3Nj4umU0
( (;;)w(;;))「……」

 新たに現れた怪人を倒し、1号は何を思うのか。

 仮面で表情こそ見えないが、その胸に去来するものは一つではない。

 世界征服を企む新勢力の台頭、犠牲となった人々、同士としての可能性を秘めた若者。
 そして、今も世界に蔓延る黒い悪魔の存在――

 未だ、彼に安住の時が来る気配はない。

 しかし、来るべき時に向け、今はただ自らが倒した相手に思いを馳せる。

( ン○W○)「これが……これが、仮面ライダー……」

 内藤はそこから少し離れた場所で、佇む背中をいつまでも見つめていた。




                                       つづく

86: 2011/06/26(日) 23:37:39 ID:y3Nj4umU0
  次回予告


 N.E.E.T.S第一の刺客、マシンガンスパイダーを退けた内藤と本郷!


 仮面ライダーの戦う姿を教え、本郷は日本を去って行った!


 突如として変身した自分への戸惑いが消えない内藤だが、そこへ第二の刺客イカクジラが襲いかかる!


 自らの意思で自由に変身することができず、大いに苦戦する内藤!


 しかし、時期を同じくして、バーボンハウスへとある人物が訪問する!


 それは、強さと優しさを併せ持つ、野生の戦士であった!




( ン○W○)ブーンが仮面ライダーになるようです

 第三話 「吼えろアマゾンライダー! 涙に散った最後の良心!」


 ご期待ください

87: 2011/06/26(日) 23:41:28 ID:y3Nj4umU0
まだまだ怪人のモチーフ募集中
あの怪人が印象に残っている、とかでも

次回もキバっていこうぜー

88: 2011/06/27(月) 00:16:41 ID:0GyX6WPE0
実際これは思っている人がいるかもなんで、一応言っときます

避難所の方にも投下するのは、>>1にも書いたけどまとめサイトの代わりってことです
基本は一話完結だけど、続いていく要素もあるので

89: 2011/06/27(月) 19:32:37 ID:0GyX6WPE0
VIPで案の定荒らされたんですけど、その中には事実もあったと思います

これは信じてくれとしか言えないんですが、俺は本当に仮面ライダーシリーズが大好きです
ただ、そのために原作(主にTV版)にとらわれ過ぎているかも、という考えはあります

TVで見たシーンを文章化しようとしたんですが、凄まじく難解に思えました
俺はライダーの戦い方(特に昭和)ってこんな感じかなーって風に書いてみたんですが、確かに退屈とか単調に思えるかもしれないです
だから、そのやり方は自分に合っていないのかもしれません

それでも、自分の理解しているカッコイイ本郷猛のイメージは崩れていないと思ってます
それは絶対にそうです

なんでこんなこと書くのかというと、今後「荒らしに負けずに投下し続ける作者」みたいに思われたら嫌だったからです
あと、こうして心情を吐露することが次に繋がると思ったのもあります

確かに凹みはしましたが、これを同情のような気持ちで受け取らないでもらえると嬉しいです

90: 2011/06/27(月) 19:37:46 ID:0GyX6WPE0
あと、VIPで投下し続けることにおいて、個人的に自分は書く早さが重要だと思っています
二話は正直少しでも早く仕上げるって思いで書いてもいました

でも、書き方について改めて考えてみたいし、無理してまで書くのは違うと思うので、VIPでの投下はやめるかもしれません
これを避難所でいうのもどうかと思うんですが、一応ということで

91: 2011/06/27(月) 21:40:51 ID:LRRDkQFcO
ひゅぅー乙だぜ!

引用: ( ン○W○)ブーンが仮面ライダーになるようです 再放送