1: 2015/02/23(月) 00:18:51.55 ID:LFS9tmoH0
咲(暑い・・・)


月に一度の全校集会は、直射日光が満開のグラウンドで行われる。

咲は流れてくる汗と一緒に少し伸びた前髪をかきあげた。

髪の毛をつまんだ手は、紅色に染まった頬に比べるとひんやりして心地よい。


『続いては、校長先生のお話です』


ここからがまた長いんだよね、とため息をはきそうになりながらも。

咲の視線は朝礼台の上に立っている一人の人物に注がれていた。
咲-Saki- 25巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)
4: 2015/02/23(月) 00:25:52.44 ID:LFS9tmoH0
清澄高校 学生議会副会長。

最近付き合いはじめた咲の恋人。

遠くで誰かがしている雑談も、

目の前で校長が話している世界情勢も、

風の音すら耳に入らない。

彼がまばたきする、その瞬間だけに耳を澄ましていたい。

6: 2015/02/23(月) 00:30:38.93 ID:LFS9tmoH0
頭上には雲ひとつない真っ青な空が広がっている。

一度そちらに視線を転じて、咲はもう一度前方を見つめた。


一太(・・・!)

咲(あ、気付いた)


ふっと彼がこちらを見やって、唇だけで笑ったのが分かった。

見えすぎるくらいに見える。

その一瞬で余計なフィルターが吹っ飛んで、

まるで2人しかいないような錯覚を覚える。

8: 2015/02/23(月) 00:33:57.65 ID:LFS9tmoH0
咲(おはようございます)


声に出さず、口の形だけでそう告げた。

それを見た彼が全開の笑顔でうなずく。

上気した頬がさらに少し赤くなった気がする。

彼の反応が嬉しくて、何かリアクションを起こしたくて。

両手の指を動かしたが行き場もなくて。

もう一度前髪をかきあげた。


咲(早く直接話したいな・・・)


胸からあふれ出る想いが灼熱の太陽を焦がす。

9: 2015/02/23(月) 00:37:16.16 ID:LFS9tmoH0
『続いて、学生議会からのお話です』


会長である久は欠席のため、副会長の彼が中央に立った。

途端に彼の視線は自分だけのものではなくなってしまう。

それでも咲は視線をそらさない。

髪を風に舞い上げて、白いシャツで姿勢よく立った彼が話し出す。

話の内容はほとんど頭に入らなかった。

ただ、彼のその姿だけを目に焼き付ける。

10: 2015/02/23(月) 00:43:37.76 ID:LFS9tmoH0
朝一緒に登校するとき。

お昼を一緒に食べるとき。

放課後に二人で下校するとき。

そのぐらいしか、彼とともにいる時間はない。

それでも彼と過ごす時間は咲にとって大切なものだから。

今は耳に心地よく響く彼の声に、ただ聞き入った。

11: 2015/02/23(月) 00:48:01.26 ID:LFS9tmoH0
咲(あれ・・・何だかすごく、暑い・・・)

酷く眩暈がした。

それでも視線は前に残す。

と、驚いたことに彼もこちらを見ていた。

咲(・・・?)

声は明朗としている。

けれどその視線がとても不安な色を映していた。

12: 2015/02/23(月) 00:52:35.09 ID:LFS9tmoH0
咲(あ、れ・・・)

咲(一太さんが、見えな・・・い・・・)


突然ぐらぐらと視界が揺れた。

さっきまで鮮明だった彼の表情がただの縞模様になって。

空が。

さかさまになった。

13: 2015/02/23(月) 00:56:56.37 ID:LFS9tmoH0

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14: 2015/02/23(月) 01:04:03.68 ID:LFS9tmoH0
全校生徒のうち、副会長の話に熱心に耳を傾けていた8割の生徒が驚いた。

彼は話の途中で突然叫んだのだ。


一太「生活のリズムを崩さないよう――――咲ちゃん!?」


叫んだのみならず、そのまま朝礼台を飛び降りて。

一年生の並ぶ列へと駆け出した。

自然と副会長が駆けていった方へ生徒たちの視線も集まる。

列の真ん中で、華奢な少女がうつぶせに倒れていた。

15: 2015/02/23(月) 01:10:48.86 ID:LFS9tmoH0
一太「咲ちゃん!!」


心配げに見やるクラスメイトたちを掻き分けて咲に手を伸ばし。

そのまま彼女をひょいと抱きかかえた。


一太「軽い日射病のようです。保健室に運びます」


先ほどと同じくよく通る声で。

ただし視線は心配そうに少女に向けられたまま。

彼は前で唖然としている教師たちに告げた。

16: 2015/02/23(月) 01:18:39.54 ID:LFS9tmoH0
一太「遠めで見ても具合が悪そうだったから、ずっと気が気じゃなかったよ」

腕の中で荒い息をしている咲にだけ聞こえるように。

そっと囁くと、咲はふっと笑った。

咲「あは・・・分かっちゃいましたか・・・」

一太「体調が悪い時くらい学校を休んでいいのに」

薄れゆく意識のなかで彼の体温を感じて胸が温かくなる。

咲「だって・・・毎日でも一太さんに会いたいから」

ぼそりと呟かれた言葉に、彼が嬉しそうに微笑むから。


咲(だいすき)

口には出さず、囁いた。

17: 2015/02/23(月) 01:21:51.66 ID:LFS9tmoH0
誰より先に、私を見つけてくれて。

だから今日は休みたくなかったの。

私以外の誰かが

あなたのこと熱心に見つめてたら嫌だから。


微笑む彼に視線を返しながら。

咲はそっと、目をとじた。

18: 2015/02/23(月) 01:26:50.86 ID:LFS9tmoH0
後日。


『副会長にとって宮永さんはかなり重要な存在』

『麻雀部期待のルーキーだから目をかけているのかも』


などと正しいような間違っているような話題が囁かれたが。

2人の関係を知る麻雀部員や学生議会議員たち、

そして当の本人たちもあえて誤りを訂正しようとはしなかった。


ごく内輪だけ、その事実は語られた。


『別に咲が麻雀部でなくても、副会長は同じ行動をとっただろうね』と。


カン

21: 2015/02/23(月) 01:33:51.13 ID:uZJayjT/O
乙です

引用: 咲「あなたと過ごす時間」