1: 2007/12/22(土) 05:52:06.96 ID:W8AIFi1QO
「知らなかったの? それはね、ここがカチカチ山だからだよ。」
でも怖い。こんな音、聞いた事無いよ。
「怖がりだね。ほら、手を握ってあげるから。」
ありがとう。……でも、ボウボウって音も聞こえる。
「それは今、カチカチ山を過ぎてボウボウ山に入ったからなの。安心して。」
うん。
「いい天気だね。狸くんと来て良かったな。」
兎さん、ぼく背中が熱い。
「気のせいだよ。」
熱いよ。兎さん、手を放して。
「それは、この山が、ええと……なんだっけ。」
熱い、熱い。
「本当に、いい天気。」
ふらいんぐうぃっち(13) (週刊少年マガジンコミックス)

3: 2007/12/22(土) 05:55:18.20 ID:W8AIFi1QO
「久しぶり。」
あっ、兎さん。こんにちは。
「こんにちは。傷の具合はどう? 大丈夫?」
まだ布団から出られないんだ。せっかく来てくれたのに、ごめんね。
「いいよ。ほら、火傷に効く軟膏を持って来てあげたよ。」
ありがとう。兎さんって、優しいね。
「……塗ってあげるから、布団をどけるね。」
うん。
「ちょっと染みるけど。」
うん。……痛っ。
「これが効くの。この薬は私の特製だからね。」
すごい。兎さん、何でも出来るんだね。
「ひりひりする?」
ひりひりする。すっごく痛い。けど、我慢する。
「そうだね。我慢しようね。これから毎日塗りに来てあげるから。」
うん。

4: 2007/12/22(土) 05:57:02.71 ID:W8AIFi1QO
「狸くん、二人で食べようと思ってお昼ご飯を作ったよ。」
こんなに沢山? すごく美味しそうだね。
「さあ、食べて食べて。」
いただきまぁす。
「召し上がれ。……どう?」
美味しい。兎さんってお料理も上手なんだね。
「もっと食べていいんだよ。」
うん。でも、兎さんは食べないの?
「実は、味見し過ぎちゃって。」
こんなに美味しいんだもんね。じゃあ、ぼくが兎さんのぶんまで食べていい?
「嬉しいな。私の料理をこんなに気に入って貰えて。」
……げほっ。
「どうしたの?」
ちょっと、気持ち悪くて。げほっげほっ。
「風邪かな? 大丈夫?」
おええ。
「あっ。」
……ごめんなさい、あの、吐いちゃって。
「いいよ。片付けてあげる。狸くんは座ってて。」
ごめんなさい。ごめんなさい。
「いいのいいの。ご飯なんて、また作ればいいんだから。」

7: 2007/12/22(土) 05:58:22.65 ID:W8AIFi1QO
「狸くん、こんなところに洞窟があるよ。」
ほんとだ。
「ねえ、肝試ししようか。ここに一人で入って、奥まで行ってから戻るの。」
やだよ。怖いよ。
「大丈夫。実は私、ここに入った事あるけど何も出なかったよ。」
ほんと?
「ほんと。」
じゃあ、……行く。
「ちゃんと奥まで行くんだよ?」
うん。
「いってらっしゃい。」
兎さんはここで待っててね。絶対だよ。
「ちゃんと待ってるよ。」
……あれ? 今、洞窟の奥から吠え声が聞こえたような……?
「空耳だよ。」

9: 2007/12/22(土) 06:00:48.48 ID:W8AIFi1QO
「狸くん、火傷には針治療っていうのが効くみたいだよ。」
何、それ?
「体に針を刺すと、怪我や病気が治るんだって。ちょっと試してみよう。」
痛そう……。いつものお薬だけでいいよ。
「でも、この軟膏は君にはあんまり効かないみたいだし、別の治療を試してみないと。」
……うん。分かったよ兎さん。
「じゃあ、刺すね。」
ぎゃっ。
「人間は針を千本くらい刺して治すみたいだけど、
狸くんの体の大きさなら百本くらいでいいかな。」
良かった。ぼく、針を千本も刺されたら氏んじゃうよ。
「そうだね。百本で良かったね。」
うん。……あの。
「ん?」
効かないかもしれないけど、火傷にお薬塗るの、やめないでね。
「うん、分かった。」

13: 2007/12/22(土) 06:02:46.37 ID:W8AIFi1QO
「ねぇ、釣りをしに行かない? 良い釣り場を見つけたの。」
釣り?
「そう。あの湖に小舟を出して、舟釣り。」
ぼく、舟なんて乗った事無いよ。怖いよ……。
「大丈夫。絶対沈まない舟を作ってあげるから。」
沈まない舟?
「そう。その道の通はみぃんな、その舟を漕いで釣りをするの。」
へええ。

14: 2007/12/22(土) 06:03:12.57 ID:kBQhIarMO
狸さんカワイソス…

15: 2007/12/22(土) 06:03:18.56 ID:eXQZ4JEUO
まあおばあさん惨頃してるからな

19: 2007/12/22(土) 06:05:58.42 ID:W8AIFi1QO
「どう? これが絶対沈まない泥の舟だよ。作るのが大変だったんだから。」
かっこいい。でも、二人で乗るには小さいみたい……。
「泥が思ったより少なくて。私は木の舟に乗るから、狸くんはこっちに乗って。」
ありがとう、兎さん。
「どっちがたくさん釣れるか競争しようね。」
うん。あっ、兎さん、体が泥で汚れてるよ。洗ったら?
「このくらい、後で洗うよ。」
兎さんの白い毛皮が汚れっ放しじゃ駄目だよ。勿体無いよ。
「勿体無い? それって、どういう意味?」
え? えっと……せっかく白くて綺麗なのに勿体無い、っていう意味……。
「あはは。」
ごめんなさい。変な事言っちゃって。
「体、洗ってあげる?」
えっ。
「いつもの軟膏でベタベタするでしょう、あなたの体も。一緒に洗ってあげるよ。」
……うん。

22: 2007/12/22(土) 06:08:31.74 ID:W8AIFi1QO
兎さん、泥の舟が沈んじゃった。
「それはそうだよ。泥の舟だもの。」
ぼくも沈んじゃう。泳げないから。
兎さんは泳げるの?
「ちょっとだけね。」
すごい。じゃあ木の舟が沈んでも大丈夫だね。
「木の舟は沈まないよ。」
そっか。安心した。……ねぇ、兎さん。
「ん?」
……やっぱり、言えない。
「気になるなぁ。」
えっと、いつもお薬を塗ってくれたり、さっき体を洗ってくれたりした時、
ドキドキした。
「こっちもドキドキしてた。」
いつも遊んでくれてありがとう。さよなら。
「さよなら。」

28: 2007/12/22(土) 06:10:17.35 ID:W8AIFi1QO
……
「……」
……
「木の舟も沈めばいいのに。」

41: 2007/12/22(土) 06:20:21.24 ID:W8AIFi1QO
「お爺さん、お鍋をするから野菜を分けてよ。」

「……あの狸、氏んじゃった。
泥の舟に乗って、湖に出てしまったんだよ。馬鹿だったから。」

「私は、あの子がお婆さんに怪我をさせたなんて事、信じてなかったのに、
頃しちゃった。」

「お腹なんて全然空かないの。でも、食べないときっと無駄になるから。」

「野菜をありがとう。お爺さん、お婆さんによろしくね。」

「……そうよ、狸汁。お爺さんにはあげないわ。ひとりで食べるの。」

「さよなら。」

17: 2007/12/22(土) 06:05:20.32 ID:JYPBuevU0
なんか太宰治のカチカチ山思い出すな・・・

84: 2007/12/22(土) 09:33:09.90 ID:W8AIFi1QO
・とりあえず「さよなら。」のやりとりを書きたかった。
・サディストも書きたかった。
・元ネタは>>17。
・続きは無理。
・また今度。

引用: 狸「兎さん、ぼくの後ろからカチカチって音が聞こえる。」