1: 2008/03/03(月) 00:15:34.85 ID:jz7YTcDW0
朝起きると、いつもどおり学校へと向かう準備をする。
台所では、母さんが忙しそうに朝食の準備をしている。
カツオ「お母さん、おはよう」
フネ「ええ、おはよう」
カツオ「姉さんはもう出かけたの?」
フネ「ええ。いつも早くて大変よね」
二年前、父さんがなくなってからは、姉さんも働きに出ている。
そりゃそうだよな。マスオ兄さんだけの収入じゃ、この家は立ち行かないんだから。
フネ「お弁当、いつものところにおいてあるから」
カツオ「うん。ありがとう」
丁寧に包んである弁当を鞄に押し込むと、既に用意してあった朝ごはんを食べた。
カツオ「今日も、頑張ろう」
時は流れ、物事に変化をもたらす。父さんの氏しかり、姉さんの仕事しかり。みんなそうだ。
……そして僕は、高校一年生になった。
台所では、母さんが忙しそうに朝食の準備をしている。
カツオ「お母さん、おはよう」
フネ「ええ、おはよう」
カツオ「姉さんはもう出かけたの?」
フネ「ええ。いつも早くて大変よね」
二年前、父さんがなくなってからは、姉さんも働きに出ている。
そりゃそうだよな。マスオ兄さんだけの収入じゃ、この家は立ち行かないんだから。
フネ「お弁当、いつものところにおいてあるから」
カツオ「うん。ありがとう」
丁寧に包んである弁当を鞄に押し込むと、既に用意してあった朝ごはんを食べた。
カツオ「今日も、頑張ろう」
時は流れ、物事に変化をもたらす。父さんの氏しかり、姉さんの仕事しかり。みんなそうだ。
……そして僕は、高校一年生になった。
3: 2008/03/03(月) 00:18:39.78 ID:jz7YTcDW0
ワカメ「お兄ちゃん、今日も早いのね」
カツオ「お、ワカメ。おはよう」
目を擦りながら、ワカメがおきて来た。髪はぼさぼさだ。
カツオ「昨日も夜遅くまで勉強してたな。あんまりしすぎもよくないぞ」
ワカメ「駄目よ。少なくともおにいちゃんよりもいい高校に行かないと格好がつかないわ」
カツオ「そうは言ってもね……」
どの高校がいいとか、どの高校が上とか。
そんなもの、なんでもないのに。
ワカメ「お兄ちゃんみたいに、努力していいとこいきたいのよ」
カツオ「まぁ、頑張れよ」
カツオ「お、ワカメ。おはよう」
目を擦りながら、ワカメがおきて来た。髪はぼさぼさだ。
カツオ「昨日も夜遅くまで勉強してたな。あんまりしすぎもよくないぞ」
ワカメ「駄目よ。少なくともおにいちゃんよりもいい高校に行かないと格好がつかないわ」
カツオ「そうは言ってもね……」
どの高校がいいとか、どの高校が上とか。
そんなもの、なんでもないのに。
ワカメ「お兄ちゃんみたいに、努力していいとこいきたいのよ」
カツオ「まぁ、頑張れよ」
4: 2008/03/03(月) 00:22:05.35 ID:jz7YTcDW0
季節は、夏だ。
僕にとって、決定的なものとなった夏から一年目の夏。
カツオ「今日もあついな……」
早川さん「磯野君、おはよう」
カツオ「早川さん、おはよう」
早川さん「ふふふ。いまだに信じられないね。まさか磯野くんがあたしと同じ高校に行くことになるなんて」
カツオ「またそれかよ」
早川さん「だって、磯野くん、こういっちゃ悪いけど中学の時は野球しか……あ」
カツオ「……」
早川さん「ご、ごめん」
カツオ「……いいさ、謝らなくても」
僕は、地元では中堅上位クラスの高校に進学した。
僕なりに頑張った結果だった。そうさ、結果はちゃんとついてきた。
カツオ「でも……」
その代わりに、失ったものが多すぎる気がする。
僕にとって、決定的なものとなった夏から一年目の夏。
カツオ「今日もあついな……」
早川さん「磯野君、おはよう」
カツオ「早川さん、おはよう」
早川さん「ふふふ。いまだに信じられないね。まさか磯野くんがあたしと同じ高校に行くことになるなんて」
カツオ「またそれかよ」
早川さん「だって、磯野くん、こういっちゃ悪いけど中学の時は野球しか……あ」
カツオ「……」
早川さん「ご、ごめん」
カツオ「……いいさ、謝らなくても」
僕は、地元では中堅上位クラスの高校に進学した。
僕なりに頑張った結果だった。そうさ、結果はちゃんとついてきた。
カツオ「でも……」
その代わりに、失ったものが多すぎる気がする。
6: 2008/03/03(月) 00:24:29.92 ID:jz7YTcDW0
早川さん「でも……もう一年ね」
カツオ「……そうだね」
曇った顔をこちらに向けて、早川さんは無理に笑顔を作っている。
僕もなんとか笑顔を作る。
カツオ「そう、一年前の、今日だ」
早川さん「あ、そうだったんだ……」
カツオ「うん」
一年前の今日。
僕の友人、ちょっとうっとおしくも感じていたけど、大切だった僕の友人。
花沢さんが、何者かに殺された。
カツオ「……そうだね」
曇った顔をこちらに向けて、早川さんは無理に笑顔を作っている。
僕もなんとか笑顔を作る。
カツオ「そう、一年前の、今日だ」
早川さん「あ、そうだったんだ……」
カツオ「うん」
一年前の今日。
僕の友人、ちょっとうっとおしくも感じていたけど、大切だった僕の友人。
花沢さんが、何者かに殺された。
10: 2008/03/03(月) 00:28:24.19 ID:jz7YTcDW0
犯人はまだ捕まっていない。
大体の犯人像すら、つかめていない。
犯行現場は近くの公園だった。
僕らの野球の最後の試合の打ち上げ、その帰りで、彼女は一人で帰っていた。
そこを襲われたらしい。
花沢さんは、喉をペンでさされて氏んでいた。
その姿は、無惨な姿だったという。
カツオ「……だから、今日はちょっと早く帰るよ」
早川さん「うん、そうだね。あたしも付き合おうか?」
カツオ「一人に、なりたいんだ。ごめんね」
花沢さんの衣服は乱れていた。
つまり……そういうことだ。
カツオ「……くそ」
大体の犯人像すら、つかめていない。
犯行現場は近くの公園だった。
僕らの野球の最後の試合の打ち上げ、その帰りで、彼女は一人で帰っていた。
そこを襲われたらしい。
花沢さんは、喉をペンでさされて氏んでいた。
その姿は、無惨な姿だったという。
カツオ「……だから、今日はちょっと早く帰るよ」
早川さん「うん、そうだね。あたしも付き合おうか?」
カツオ「一人に、なりたいんだ。ごめんね」
花沢さんの衣服は乱れていた。
つまり……そういうことだ。
カツオ「……くそ」
15: 2008/03/03(月) 00:31:51.17 ID:jz7YTcDW0
ベスト8まで勝ち残った夏の大会。
僕らの実力を考えれば、大健闘だった。
僕らは皆浮かれ、中学生ながら軽くアルコールも入っていたから多少悪ノリしていた。
花沢さんがもう帰る、といっていたのに、誰も送っていこうとはしなかった。
夜は遅かった。
大丈夫だろう、と思っていた。思ってしまっていた。
花沢さん『うん、じゃあ……磯野くん、またね』
そう言って別れた花沢さんの姿は、僕が見た花沢さんの最後の姿となったのだ。
僕らの実力を考えれば、大健闘だった。
僕らは皆浮かれ、中学生ながら軽くアルコールも入っていたから多少悪ノリしていた。
花沢さんがもう帰る、といっていたのに、誰も送っていこうとはしなかった。
夜は遅かった。
大丈夫だろう、と思っていた。思ってしまっていた。
花沢さん『うん、じゃあ……磯野くん、またね』
そう言って別れた花沢さんの姿は、僕が見た花沢さんの最後の姿となったのだ。
18: 2008/03/03(月) 00:34:50.92 ID:jz7YTcDW0
花沢さんが氏んだ。
そう姉さんに聞いたとき、僕は頭のなかが真っ白になった。
何故?
どうして?
そんな言葉が頭の中をめぐり、自分を責める言葉に収束していった。
お前が悪い。お前が送って行きさえすれば。
カツオ「……」
頭を振って、思考を捨てた。
今は、早川さんが隣にいる。
落ち込ませるわけにはいかない。明るく、そうだ。
カツオ「もうすぐ、夏休みだね」
つくり笑顔で、そういった。
そこで見上げた空は、高かった。
そう姉さんに聞いたとき、僕は頭のなかが真っ白になった。
何故?
どうして?
そんな言葉が頭の中をめぐり、自分を責める言葉に収束していった。
お前が悪い。お前が送って行きさえすれば。
カツオ「……」
頭を振って、思考を捨てた。
今は、早川さんが隣にいる。
落ち込ませるわけにはいかない。明るく、そうだ。
カツオ「もうすぐ、夏休みだね」
つくり笑顔で、そういった。
そこで見上げた空は、高かった。
21: 2008/03/03(月) 00:39:10.65 ID:jz7YTcDW0
余計な考えが介入しない分、勉強は楽だった。花沢さんの氏を忘れさせてくれたから。
中島「よーう、磯野」
カツオ「よう」
早川さん「おはよ、中島君」
それは、中島も同じだったらしく、揃って同じ高校に進学することが出来た。
中島「磯野、今日、俺んちこないか?新しくゲーム買ったんだ」
早川さん「中島君っ……」
カツオ「いいんだ、早川さん」
中島「あ……そうか」
カツオ「……いいさ」
中島「ごめん……」
中島は、もう花沢さんのことを忘れて前に進むことが出来ているのだろうか。
では僕は?
僕は。
……無理、だ。
中島「よーう、磯野」
カツオ「よう」
早川さん「おはよ、中島君」
それは、中島も同じだったらしく、揃って同じ高校に進学することが出来た。
中島「磯野、今日、俺んちこないか?新しくゲーム買ったんだ」
早川さん「中島君っ……」
カツオ「いいんだ、早川さん」
中島「あ……そうか」
カツオ「……いいさ」
中島「ごめん……」
中島は、もう花沢さんのことを忘れて前に進むことが出来ているのだろうか。
では僕は?
僕は。
……無理、だ。
24: 2008/03/03(月) 00:42:41.80 ID:jz7YTcDW0
花沢さんを辱めて、そして頃して自分はのうのうと生きている。
そんなことがまかり通っていいのだろうか。
そんなことが。
犯人は捕まっていない。
僕には、それが納得できなかった。
現場に残された犯人の遺品は、凶器となったシャープペンだけだった。
それはどこにでもあるようなシャープペンで、特に手がかりになるようなものではないという。
カツオ「今日、体育の授業でプールあるんだよな」
中島「あれ、そうだっけ?」
カツオ「おいおい。今日は水泳だよ。忘れたのかぁ?中島」
中島「いけね。ちょっと家に帰って取ってくるよ!」
走り出す中島。その背中を、早川さんと二人で見送る。
早川さん「行こうか」
そんなことがまかり通っていいのだろうか。
そんなことが。
犯人は捕まっていない。
僕には、それが納得できなかった。
現場に残された犯人の遺品は、凶器となったシャープペンだけだった。
それはどこにでもあるようなシャープペンで、特に手がかりになるようなものではないという。
カツオ「今日、体育の授業でプールあるんだよな」
中島「あれ、そうだっけ?」
カツオ「おいおい。今日は水泳だよ。忘れたのかぁ?中島」
中島「いけね。ちょっと家に帰って取ってくるよ!」
走り出す中島。その背中を、早川さんと二人で見送る。
早川さん「行こうか」
31: 2008/03/03(月) 00:47:38.97 ID:jz7YTcDW0
学校の授業も、どうも身が入らない。
せっかくいい学校に入ったのにな、と、苦笑してしまう。
数学1Aでついていけなくなった僕には、既に理系の道は絶たれてしまっているようだ。
カツオ(文型……頑張らないと人生詰むな。隣の元浪人生みたいにならないようにしないとな)
隣の浪人生、甚六さんは、結局二浪して大学の青山学院大学の法学部へ行った。
すごいですね、と本人に言うと、
甚六『二浪で青山は……うーん』
なんて、苦笑で返されてしまった。
人がほめているのだから、素直に受け取れば良いのに。
せっかくいい学校に入ったのにな、と、苦笑してしまう。
数学1Aでついていけなくなった僕には、既に理系の道は絶たれてしまっているようだ。
カツオ(文型……頑張らないと人生詰むな。隣の元浪人生みたいにならないようにしないとな)
隣の浪人生、甚六さんは、結局二浪して大学の青山学院大学の法学部へ行った。
すごいですね、と本人に言うと、
甚六『二浪で青山は……うーん』
なんて、苦笑で返されてしまった。
人がほめているのだから、素直に受け取れば良いのに。
36: 2008/03/03(月) 00:52:13.75 ID:jz7YTcDW0
中島「はぁーっ、はぁーっ。すみません、遅刻しましたあっ」
ガラリ、と扉が開いて、中島が入ってきた。
先生「遅いぞ中島。ほら、早く席に着け」
中島「すみません……」
カツオ「(どうしたんだよ、随分遅かったな)」
中島「(いやさ、なんか駅前の予備校の人に捕まって話聞かされてたんだよ)」
カツオ「(そんな話、いままで聞くことなんてなかったんだからいいじゃないか)」
中島「(そうかなぁ)」
先生「そこ、うるさいぞっ!」
投げられたチョークを、元野球部らしく華麗にキャッチする僕ら。
ガラリ、と扉が開いて、中島が入ってきた。
先生「遅いぞ中島。ほら、早く席に着け」
中島「すみません……」
カツオ「(どうしたんだよ、随分遅かったな)」
中島「(いやさ、なんか駅前の予備校の人に捕まって話聞かされてたんだよ)」
カツオ「(そんな話、いままで聞くことなんてなかったんだからいいじゃないか)」
中島「(そうかなぁ)」
先生「そこ、うるさいぞっ!」
投げられたチョークを、元野球部らしく華麗にキャッチする僕ら。
37: 2008/03/03(月) 00:54:33.25 ID:jz7YTcDW0
帰り道。
早川さんと中島とは駅で別れ、僕は一人普段とは違う道を選んだ。
カツオ「……ここにくるのも、久しぶりだな」
小学校の時は事あるごとに呼び出されて、ここの大きなソファに座って彼女の話を聞いたものだ。
カツオ「まさかこんなことになるなんて思わなかったからな……」
花沢不動産。
カツオ「……」
花沢さんの、葬式以来だ。
早川さんと中島とは駅で別れ、僕は一人普段とは違う道を選んだ。
カツオ「……ここにくるのも、久しぶりだな」
小学校の時は事あるごとに呼び出されて、ここの大きなソファに座って彼女の話を聞いたものだ。
カツオ「まさかこんなことになるなんて思わなかったからな……」
花沢不動産。
カツオ「……」
花沢さんの、葬式以来だ。
40: 2008/03/03(月) 00:57:27.59 ID:jz7YTcDW0
花沢父「お、カツオ君」
カツオ「こんにちは。……あの」
花沢父「判ってるよ。……さぁ、どうぞ」
カツオ「お邪魔します」
ゆっくりと、家の中に案内される。
一年ぶり。すごく、懐かしい。
かつては和気藹々としていた空気も、今ではひんやりとした空気になってしまっている。
花沢父「ここだよ」
カツオ「はい」
本来いるべき人がいないから、こんな空気になるんだろうな。
カツオ「……ふぅ」
目の前に、その、『本来いるべき人』の写真が飾ってある。
カツオ「一年ぶりだな……」
カツオ「こんにちは。……あの」
花沢父「判ってるよ。……さぁ、どうぞ」
カツオ「お邪魔します」
ゆっくりと、家の中に案内される。
一年ぶり。すごく、懐かしい。
かつては和気藹々としていた空気も、今ではひんやりとした空気になってしまっている。
花沢父「ここだよ」
カツオ「はい」
本来いるべき人がいないから、こんな空気になるんだろうな。
カツオ「……ふぅ」
目の前に、その、『本来いるべき人』の写真が飾ってある。
カツオ「一年ぶりだな……」
46: 2008/03/03(月) 01:00:48.06 ID:jz7YTcDW0
中学三年生の時の花沢さん。
小学生のときよりずっと綺麗な花沢さん。
カツオ「綺麗になったでしょ!?って、いっつも聞いてきてたな……」
線香をあげながら、僕はそう独り言をもらす。
カツオ「実際、綺麗になってるから困る。……困る?いや、困らないか」
困らないはずが、なかった。
カツオ「花沢さん、僕らは、うん。大丈夫。いつもどおりさ。花沢さんがいなくても、元気にやってるよ。本当さ」
遺影は答えない。
当然さ。
小学生のときよりずっと綺麗な花沢さん。
カツオ「綺麗になったでしょ!?って、いっつも聞いてきてたな……」
線香をあげながら、僕はそう独り言をもらす。
カツオ「実際、綺麗になってるから困る。……困る?いや、困らないか」
困らないはずが、なかった。
カツオ「花沢さん、僕らは、うん。大丈夫。いつもどおりさ。花沢さんがいなくても、元気にやってるよ。本当さ」
遺影は答えない。
当然さ。
49: 2008/03/03(月) 01:03:46.68 ID:jz7YTcDW0
花沢父「お。もういいのかい?」
カツオ「ええ、挨拶は、すみました」
花沢父「そうかい。よかった。あの子も喜んでるよ」
カツオ「そうだと、いいですね」
部屋の外で待っていた花沢さんのお父さん。
顔には出していないが、やはり辛いのだろう。
去年よりもいくぶん痩せて見える。
カツオ「……では、僕はこれで」
花沢父「あ、カツオ君。待ってくれ」
カツオ「?」
花沢父「……ありがとう、な」
僕に向かって、頭を下げるお父さん。
カツオ「……はい」
そう、答えることしか出来ない僕。
カツオ「ええ、挨拶は、すみました」
花沢父「そうかい。よかった。あの子も喜んでるよ」
カツオ「そうだと、いいですね」
部屋の外で待っていた花沢さんのお父さん。
顔には出していないが、やはり辛いのだろう。
去年よりもいくぶん痩せて見える。
カツオ「……では、僕はこれで」
花沢父「あ、カツオ君。待ってくれ」
カツオ「?」
花沢父「……ありがとう、な」
僕に向かって、頭を下げるお父さん。
カツオ「……はい」
そう、答えることしか出来ない僕。
53: 2008/03/03(月) 01:07:36.34 ID:jz7YTcDW0
夕暮れの道を帰りながら、犯人を捜すクセがついたのはいつごろだったか。
犯人の具体像がわからないのに、見つかるはずがない。
でも、さがさないわけにはいかなかった。
それが、何も出来ない僕の。僕に向かっての免罪符だった。
カツオ「……おや、タラちゃん」
タラヲ「あ、カツオ兄ちゃん」
一人で、遊具で遊んでいるタラちゃん。友達は、帰ってしまったのだろうか。
カツオ「一人かい?タラちゃん。いつも一人は危ないよって、言ってるよね」
タラヲ「それはカツオ兄ちゃんもおんなじですー」
カツオ「……迎えにきてくれていたのかい?」
タラヲ「そうです。えへんですー」
カツオ「そっか……。じゃあ、一緒に帰ろうか」
犯人の具体像がわからないのに、見つかるはずがない。
でも、さがさないわけにはいかなかった。
それが、何も出来ない僕の。僕に向かっての免罪符だった。
カツオ「……おや、タラちゃん」
タラヲ「あ、カツオ兄ちゃん」
一人で、遊具で遊んでいるタラちゃん。友達は、帰ってしまったのだろうか。
カツオ「一人かい?タラちゃん。いつも一人は危ないよって、言ってるよね」
タラヲ「それはカツオ兄ちゃんもおんなじですー」
カツオ「……迎えにきてくれていたのかい?」
タラヲ「そうです。えへんですー」
カツオ「そっか……。じゃあ、一緒に帰ろうか」
56: 2008/03/03(月) 01:10:22.29 ID:jz7YTcDW0
晩御飯の匂い。
家に帰ってきたことを、感じさせてくれるにおい。
カツオ「ただいま」
タラヲ「ただいまですぅ」
サザエ「タラちゃん!どこ行ってたの?!」
タラヲ「カツオ兄ちゃんを迎えにいっていたですぅ」
サザエ「駄目じゃない!こんな時間に外に出たら!」
タラヲ「で、でも……」
カツオ「姉さん」
サザエ「何よ」
カツオ「タラちゃんの気持ちも、汲んであげようよ」
サザエ「……」
無事に帰れた。それでいいじゃないか。
家に帰ってきたことを、感じさせてくれるにおい。
カツオ「ただいま」
タラヲ「ただいまですぅ」
サザエ「タラちゃん!どこ行ってたの?!」
タラヲ「カツオ兄ちゃんを迎えにいっていたですぅ」
サザエ「駄目じゃない!こんな時間に外に出たら!」
タラヲ「で、でも……」
カツオ「姉さん」
サザエ「何よ」
カツオ「タラちゃんの気持ちも、汲んであげようよ」
サザエ「……」
無事に帰れた。それでいいじゃないか。
60: 2008/03/03(月) 01:13:19.78 ID:jz7YTcDW0
寝る前に、ワカメの勉強を見てやる。
なるほど、こいつはなかなか出来る。努力すれば、僕より上の高校も可能性が見えてくるだろう。
ワカメ「お兄ちゃんには負けられないもの」
カツオ「それなら、僕も頑張らないとな」
ワカメ「頑張ったって無駄よ!あたしはもっと頑張るもん!」
カツオ「その意気が大事だよ」
結局、子供部屋の電気が消えたのは12時だった。
僕とワカメが布団にはいって一時間後。
その、一時間後。扉の向こうで、物音がした。
なるほど、こいつはなかなか出来る。努力すれば、僕より上の高校も可能性が見えてくるだろう。
ワカメ「お兄ちゃんには負けられないもの」
カツオ「それなら、僕も頑張らないとな」
ワカメ「頑張ったって無駄よ!あたしはもっと頑張るもん!」
カツオ「その意気が大事だよ」
結局、子供部屋の電気が消えたのは12時だった。
僕とワカメが布団にはいって一時間後。
その、一時間後。扉の向こうで、物音がした。
67: 2008/03/03(月) 01:17:18.15 ID:jz7YTcDW0
カツオ(……なんだ!?)
襖をはさんだ廊下。そこに、誰かいる。
誰だかは判らないが、確実に、そこに誰かがいる。
カツオ(ワカメっ)
襖を凝視しながら、片手でワカメをゆすって起こす。
なぁにぃ、と、目を擦りながらワカメが目を覚ます。
ワカメ「どうしたのよぉ……」
カツオ(時刻は……一時……か)
口でしっ、と、声を出さないように制する。
そして、僕より前に出ないように、と目で合図する。
ワカメ「う、うん……」
困惑した様子で、ワカメは頷いた。
僕は、中三以来触っていなかったバットに手を伸ばした。
襖をはさんだ廊下。そこに、誰かいる。
誰だかは判らないが、確実に、そこに誰かがいる。
カツオ(ワカメっ)
襖を凝視しながら、片手でワカメをゆすって起こす。
なぁにぃ、と、目を擦りながらワカメが目を覚ます。
ワカメ「どうしたのよぉ……」
カツオ(時刻は……一時……か)
口でしっ、と、声を出さないように制する。
そして、僕より前に出ないように、と目で合図する。
ワカメ「う、うん……」
困惑した様子で、ワカメは頷いた。
僕は、中三以来触っていなかったバットに手を伸ばした。
70: 2008/03/03(月) 01:19:13.38 ID:jz7YTcDW0
ドクンドクン、と心臓が高鳴る。
カツオ(……っ)
一歩一歩、襖へと足を進めていく。
カツオ「……だ」
襖に、手をかけた。
カツオ「誰だっ!?」
黒い何かが、目に飛び込んできた。
カツオ(……っ)
一歩一歩、襖へと足を進めていく。
カツオ「……だ」
襖に、手をかけた。
カツオ「誰だっ!?」
黒い何かが、目に飛び込んできた。
76: 2008/03/03(月) 01:21:58.43 ID:jz7YTcDW0
カツオ「っ!!」
何かいる!と思ってバットを振りかざした。
その時、僕の後ろで大声がした。
ワカメ「タラちゃん!!」
カツオ「え……?」
そこにいたのは。
タラヲ「カツオ兄ちゃん。僕、一人じゃトイレに行けないんですぅ……」
タラちゃんだった。
カツオ「……な、な、なんだ……」
タラヲ「ど、どうしたですかぁ?」
カツオ「いや、なんでもない。なんでもないよ」
僕は笑って、手に持ったバットを床に置いた。
なんだ、杞憂か。杞憂。
要らない心配だ。はぁ。
何かいる!と思ってバットを振りかざした。
その時、僕の後ろで大声がした。
ワカメ「タラちゃん!!」
カツオ「え……?」
そこにいたのは。
タラヲ「カツオ兄ちゃん。僕、一人じゃトイレに行けないんですぅ……」
タラちゃんだった。
カツオ「……な、な、なんだ……」
タラヲ「ど、どうしたですかぁ?」
カツオ「いや、なんでもない。なんでもないよ」
僕は笑って、手に持ったバットを床に置いた。
なんだ、杞憂か。杞憂。
要らない心配だ。はぁ。
87: 2008/03/03(月) 01:26:12.51 ID:jz7YTcDW0
翌朝。
フネ「昨日はゴメンね。タラちゃんのトイレに付き合ってくれてたみたいね」
カツオ「いいよ。姉さんもマスオさんも朝早いし。起きれないのも、無理ないよ」
フネ「そう……」
いつもどおり、出来上がった弁当を鞄に押し込み、朝食を食べる。
つけっぱなしのテレビは、朝のニュース。
「イージス艦と漁船が……」
カツオ「……ギョーザのニュースはどうした。花沢さんの事件はどうした」
花沢さんの事件に進展はなかったかどうか。
それを、チェックするのも毎日の日課。
フネ「昨日はゴメンね。タラちゃんのトイレに付き合ってくれてたみたいね」
カツオ「いいよ。姉さんもマスオさんも朝早いし。起きれないのも、無理ないよ」
フネ「そう……」
いつもどおり、出来上がった弁当を鞄に押し込み、朝食を食べる。
つけっぱなしのテレビは、朝のニュース。
「イージス艦と漁船が……」
カツオ「……ギョーザのニュースはどうした。花沢さんの事件はどうした」
花沢さんの事件に進展はなかったかどうか。
それを、チェックするのも毎日の日課。
94: 2008/03/03(月) 01:29:14.52 ID:jz7YTcDW0
学校。
中島「磯野っ」
カツオ「おう。中島」
中島「……昨日は」
カツオ「ああ、ちゃんと行ったよ」
中島「なぁ磯野、あのさ」
カツオ「……なんだ?」
中島「こんなこと言うのもあれだけど……僕らもう、花沢さんの事件は忘れるべきじゃないのかな……」
カツオ「何をっ……」
中島「だってさ!」
中島が、言葉を強くする。
中島「僕らには、どうしようもないんだ!僕らイチ学生には、なんにも出来やしないんだよ!
警察だって手をこまねいているのに……」
カツオ「……てめぇ」
中島「磯野っ」
カツオ「おう。中島」
中島「……昨日は」
カツオ「ああ、ちゃんと行ったよ」
中島「なぁ磯野、あのさ」
カツオ「……なんだ?」
中島「こんなこと言うのもあれだけど……僕らもう、花沢さんの事件は忘れるべきじゃないのかな……」
カツオ「何をっ……」
中島「だってさ!」
中島が、言葉を強くする。
中島「僕らには、どうしようもないんだ!僕らイチ学生には、なんにも出来やしないんだよ!
警察だって手をこまねいているのに……」
カツオ「……てめぇ」
96: 2008/03/03(月) 01:32:28.59 ID:jz7YTcDW0
右手に力が入り、気づいたときには。
中島「ぐっ……」
中島を、殴っていた。
カツオ「……あ」
早川さん「磯野君!何してるの!」
カツオ「……あ、す、すまん!中島!」
慌てて、地に頭をつけて謝る僕。
どうしてだ。殴る相手は、中島じゃないはずなのに。
中島「……いや、いいさ。僕が悪かった。でもさ、磯野。いつまでもこうやって、うじうじ花沢さんのことを引きずのを、
花沢さんは望んでいると思うか?」
カツオ「それは……」
中島「前に進んで欲しい、と思ってるとは思わないか……?」
カツオ「……ぐ」
そんなこと。
そんなこと。僕だってわかってるんだ。
中島「ぐっ……」
中島を、殴っていた。
カツオ「……あ」
早川さん「磯野君!何してるの!」
カツオ「……あ、す、すまん!中島!」
慌てて、地に頭をつけて謝る僕。
どうしてだ。殴る相手は、中島じゃないはずなのに。
中島「……いや、いいさ。僕が悪かった。でもさ、磯野。いつまでもこうやって、うじうじ花沢さんのことを引きずのを、
花沢さんは望んでいると思うか?」
カツオ「それは……」
中島「前に進んで欲しい、と思ってるとは思わないか……?」
カツオ「……ぐ」
そんなこと。
そんなこと。僕だってわかってるんだ。
103: 2008/03/03(月) 01:36:08.02 ID:jz7YTcDW0
僕はそのまま駆け出してしまった。
早川さん「磯野君!」
早川さんが僕を呼ぶ。
僕は、止まらなかった。
――駅前――
気づいたら、駅前にいた。
カツオ「……」
この街で、一番繁華なこの地域。
その騒音が、今の僕にはこのうえなく不快だった。
予備校職員「あ、キミ!あの学校の生徒だよね!どう?キミもいい大学を目指してみない?」
空気を読んで欲しい。
そうは思っていても、半ば強引にパンフレットを渡された。シャープペンつきの、分厚い冊子。
カツオ「……ん?」
このシャープペンに、見覚えがあった。
早川さん「磯野君!」
早川さんが僕を呼ぶ。
僕は、止まらなかった。
――駅前――
気づいたら、駅前にいた。
カツオ「……」
この街で、一番繁華なこの地域。
その騒音が、今の僕にはこのうえなく不快だった。
予備校職員「あ、キミ!あの学校の生徒だよね!どう?キミもいい大学を目指してみない?」
空気を読んで欲しい。
そうは思っていても、半ば強引にパンフレットを渡された。シャープペンつきの、分厚い冊子。
カツオ「……ん?」
このシャープペンに、見覚えがあった。
107: 2008/03/03(月) 01:37:52.55 ID:jz7YTcDW0
カツオ「○○予備校……」
どこかで見たことがある。
思い出せ。そうだ。決して忘れてはいけないものだったはずだ。
思い出す。
そうだ。
これは。
カツオ「花沢さんが殺されたときの……」
あのときのシャープペンと、同じものだ。
カツオ「……あ」
どこかで見たことがある。
思い出せ。そうだ。決して忘れてはいけないものだったはずだ。
思い出す。
そうだ。
これは。
カツオ「花沢さんが殺されたときの……」
あのときのシャープペンと、同じものだ。
カツオ「……あ」
111: 2008/03/03(月) 01:39:48.73 ID:jz7YTcDW0
予備校。
僕が中学三年生の時。近所で、予備校に通っていたのは誰だ?
浪人生なんて、そんな。
そうたくさんいるものじゃない。あんな免罪符を持ったニートなど、そうたくさんいては国が滅ぶ。
カツオ「…・・・まさか」
そんな人、僕の知り合いの中には一人しかいない。
カツオ「……!!」
気がついたら、走り出していた。
僕が中学三年生の時。近所で、予備校に通っていたのは誰だ?
浪人生なんて、そんな。
そうたくさんいるものじゃない。あんな免罪符を持ったニートなど、そうたくさんいては国が滅ぶ。
カツオ「…・・・まさか」
そんな人、僕の知り合いの中には一人しかいない。
カツオ「……!!」
気がついたら、走り出していた。
123: 2008/03/03(月) 01:43:08.64 ID:jz7YTcDW0
カツオ「母さん!」
フネ「カツオ?!どうしたの?!」
カツオ「青山学院大学って、どこだ?!」
フネ「青山……?どうして、あなた学校は?」
カツオ「良いから!教えてよ!」
母さんはたじろいで、目をしばしばさせながら考える。
えっと、あ、そうだ。
フネ「青山学院って、甚六さんが行ってるとこじゃない?
そうそう、確かあそこは渋谷の……」
カツオ「判った!」
証拠は、このペンだけ。
あってるかどうかなんて、そんな。
今、気にすべきことじゃない。
フネ「カツオ?!どうしたの?!」
カツオ「青山学院大学って、どこだ?!」
フネ「青山……?どうして、あなた学校は?」
カツオ「良いから!教えてよ!」
母さんはたじろいで、目をしばしばさせながら考える。
えっと、あ、そうだ。
フネ「青山学院って、甚六さんが行ってるとこじゃない?
そうそう、確かあそこは渋谷の……」
カツオ「判った!」
証拠は、このペンだけ。
あってるかどうかなんて、そんな。
今、気にすべきことじゃない。
128: 2008/03/03(月) 01:45:00.33 ID:jz7YTcDW0
電車を乗り継いで。
知らない街まで。
手にはペン。こいつが、多分全てを語ってくれる。
カツオ「甚六さん!」
甚六「……カツオ君?」
日差しが強い、空の下。
目の前には甚六さん。
僕の息は切れ切れ。
甚六「どうしたんだい?」
知らない街まで。
手にはペン。こいつが、多分全てを語ってくれる。
カツオ「甚六さん!」
甚六「……カツオ君?」
日差しが強い、空の下。
目の前には甚六さん。
僕の息は切れ切れ。
甚六「どうしたんだい?」
136: 2008/03/03(月) 01:47:31.04 ID:jz7YTcDW0
カツオ「はぁっ……はぁっ……これを」
甚六「……なんだい?これは。……あ」
僕が渡したシャープペンを、握る甚六さん。
カツオ「それに、見覚えは?」
甚六「……んん」
カツオ「どうですか?」
甚六「ないね」
カツオ「……本当に?」
甚六「本当さ」
さぁ、賭けだ。
甚六「……なんだい?これは。……あ」
僕が渡したシャープペンを、握る甚六さん。
カツオ「それに、見覚えは?」
甚六「……んん」
カツオ「どうですか?」
甚六「ないね」
カツオ「……本当に?」
甚六「本当さ」
さぁ、賭けだ。
142: 2008/03/03(月) 01:49:33.55 ID:jz7YTcDW0
カツオ「甚六さんに、聞きたいことがあるんだ」
甚六「何かな?僕、こう見えても忙しいんだ」
カツオ「忙しい?んん。そうだろうね。これから逃げる準備だ」
甚六「何をっ……!!」
判りやすい。
これだけで証拠になりそうじゃないか。
カツオ「僕、甚六さんが花沢さんを頃したんじゃないかって、思ってるんだ」
僕は言い放った。
甚六「何かな?僕、こう見えても忙しいんだ」
カツオ「忙しい?んん。そうだろうね。これから逃げる準備だ」
甚六「何をっ……!!」
判りやすい。
これだけで証拠になりそうじゃないか。
カツオ「僕、甚六さんが花沢さんを頃したんじゃないかって、思ってるんだ」
僕は言い放った。
154: 2008/03/03(月) 01:54:38.13 ID:jz7YTcDW0
僕らの間に、一吹きの風。
青い葉っぱが宙を舞って、僕らの間に落ちる。
この、距離。
僕の、捜し求めていた人物との距離。
甚六「……僕が、花沢さん……を?」
カツオ「そうだ。甚六さんが、花沢さんを、頃した」
甚六「なんで、何を証拠に。これかい?このペンが証拠、とでも言うのかい?」
カツオ「前に、姉さんが言ってたんだ」
甚六「何を?」
カツオ「姉さんは、いつもあの道を通ってたんだ。そう、花沢さんが、殺されたあの公園のあるあの道」
甚六「キミの姉さんが仕事?そんなの初めて聞いたよ」
カツオ「朝早いからね。昔と違って、日中家にいるわけではない甚六さんが知ってなくても不思議じゃない」
甚六「……」
青い葉っぱが宙を舞って、僕らの間に落ちる。
この、距離。
僕の、捜し求めていた人物との距離。
甚六「……僕が、花沢さん……を?」
カツオ「そうだ。甚六さんが、花沢さんを、頃した」
甚六「なんで、何を証拠に。これかい?このペンが証拠、とでも言うのかい?」
カツオ「前に、姉さんが言ってたんだ」
甚六「何を?」
カツオ「姉さんは、いつもあの道を通ってたんだ。そう、花沢さんが、殺されたあの公園のあるあの道」
甚六「キミの姉さんが仕事?そんなの初めて聞いたよ」
カツオ「朝早いからね。昔と違って、日中家にいるわけではない甚六さんが知ってなくても不思議じゃない」
甚六「……」
164: 2008/03/03(月) 01:59:24.82 ID:jz7YTcDW0
カツオ「姉さんは言ってた。甚六さんを見たって」
甚六「……っ」
カツオ「あの道で、甚六さんを見たって。あの日だけ。なんでだろうねって、言ってたんだ」
甚六「たまたま、ということがある。そうだ、ちょっとコンビニに行ってたんだよ、あの日は」
カツオ「……本当に?」
甚六「そうさ!週刊誌を買いにいったんだ!」
カツオ「もう夜遅かったよね?」
甚六「買い忘れくらい、するだろ?」
カツオ「そう。……甚六さんはコンビニに行った。そして、あの道を通った。そうなんだね?」
甚六「そうだよ。なんなら、家に帰って雑誌を見せようか?残ってるかどうか判らないけど」
カツオ「いや、これだけで十分だよ」
甚六「……?」
カツオ「だって、姉さんが甚六さんを見たっていうのは、嘘っぱちなんだから」
甚六「……っ」
カツオ「あの道で、甚六さんを見たって。あの日だけ。なんでだろうねって、言ってたんだ」
甚六「たまたま、ということがある。そうだ、ちょっとコンビニに行ってたんだよ、あの日は」
カツオ「……本当に?」
甚六「そうさ!週刊誌を買いにいったんだ!」
カツオ「もう夜遅かったよね?」
甚六「買い忘れくらい、するだろ?」
カツオ「そう。……甚六さんはコンビニに行った。そして、あの道を通った。そうなんだね?」
甚六「そうだよ。なんなら、家に帰って雑誌を見せようか?残ってるかどうか判らないけど」
カツオ「いや、これだけで十分だよ」
甚六「……?」
カツオ「だって、姉さんが甚六さんを見たっていうのは、嘘っぱちなんだから」
174: 2008/03/03(月) 02:03:40.46 ID:jz7YTcDW0
甚六「!!」
カツオ「甚六さんは、間違いなく、あの道を通っていたんだ」
甚六「……」
カツオ「こんな軽いひっかけに見事に引っかかるとはね……」
甚六「……」
カツオ「で、どうなのさ。甚六さん」
甚六「……」
カツオ「……甚六さん、法学部だったよね」
甚六「……」
カツオ「……二年かけてやっと学ぶことが出来たことを、裏切ってるかもしれないんだよね」
甚六「……で」
カツオ「……甚六さん。お願いです。本当のことを、言ってください」
カツオ「甚六さんは、間違いなく、あの道を通っていたんだ」
甚六「……」
カツオ「こんな軽いひっかけに見事に引っかかるとはね……」
甚六「……」
カツオ「で、どうなのさ。甚六さん」
甚六「……」
カツオ「……甚六さん、法学部だったよね」
甚六「……」
カツオ「……二年かけてやっと学ぶことが出来たことを、裏切ってるかもしれないんだよね」
甚六「……で」
カツオ「……甚六さん。お願いです。本当のことを、言ってください」
183: 2008/03/03(月) 02:06:34.62 ID:jz7YTcDW0
視線が交錯する。
僕の目と、甚六さんの目と。
その視線が交じり合う、その数秒。
どれだけ長い時間に思えただろう。
僕の一年越しの答えが、そこにあるかもしれなくて。
僕は、胸の高鳴りが抑え切れなくて。
そして、そのながいながい時間の終わりに、ゆっくりと、甚六さんが口を開いた。
甚六「本当のことを話そう」
カツオ「……!」
賭けに、勝っ……た?
僕の目と、甚六さんの目と。
その視線が交じり合う、その数秒。
どれだけ長い時間に思えただろう。
僕の一年越しの答えが、そこにあるかもしれなくて。
僕は、胸の高鳴りが抑え切れなくて。
そして、そのながいながい時間の終わりに、ゆっくりと、甚六さんが口を開いた。
甚六「本当のことを話そう」
カツオ「……!」
賭けに、勝っ……た?
189: 2008/03/03(月) 02:09:58.10 ID:jz7YTcDW0
甚六「僕は、そうだ。共犯、と言っていい」
カツオ「共犯?」
甚六「共犯。凶器は確かに、僕のシャープペンだ」
カツオ「そして犯人はあなただ」
甚六「だから、共犯だって言っただろ?犯人は、もう一人いるんだ」
カツオ「……なに?」
甚六「キミの、よく知っている人さ」
カツオ「何……だと……」
甚六「あの公園で、いつも遊んでいたのは、誰だい?」
カツオ「共犯?」
甚六「共犯。凶器は確かに、僕のシャープペンだ」
カツオ「そして犯人はあなただ」
甚六「だから、共犯だって言っただろ?犯人は、もう一人いるんだ」
カツオ「……なに?」
甚六「キミの、よく知っている人さ」
カツオ「何……だと……」
甚六「あの公園で、いつも遊んでいたのは、誰だい?」
198: 2008/03/03(月) 02:11:55.58 ID:jz7YTcDW0
カツオ「まさか!」
昨日の出来事とが脳裏によぎる。
甚六「キミが、弟のように可愛がっている」
頭が、爆発しそうになる。
甚六「タラちゃんさ」
カツオ「……そんなの信じれるか!」
その時、僕の後ろに、誰かが立っている気配がした。
昨日の出来事とが脳裏によぎる。
甚六「キミが、弟のように可愛がっている」
頭が、爆発しそうになる。
甚六「タラちゃんさ」
カツオ「……そんなの信じれるか!」
その時、僕の後ろに、誰かが立っている気配がした。
213: 2008/03/03(月) 02:14:00.28 ID:jz7YTcDW0
タラヲ「やっぱり、昨日、頃しておくべきだったですねぇ~」
カツオ「タラちゃん!」
そこにいたのは、あのタラちゃんだった。
包帯の巻かれた包丁をすっと、とりだして、はらはらと包帯を解いた。
太陽の光が、その刀身を輝かせている。
タラヲ「……そうです。花沢さんを頃したのは、僕です」
カツオ「そんな……」
カツオ「タラちゃん!」
そこにいたのは、あのタラちゃんだった。
包帯の巻かれた包丁をすっと、とりだして、はらはらと包帯を解いた。
太陽の光が、その刀身を輝かせている。
タラヲ「……そうです。花沢さんを頃したのは、僕です」
カツオ「そんな……」
224: 2008/03/03(月) 02:16:10.11 ID:jz7YTcDW0
タラヲ「一年。一年待ちました。そして、カツオ兄ちゃんが花沢さんを忘れてくれるようなら、生かしてあげようと思ってました」
カツオ「……」
言葉も出ない。
タラヲ「でも、カツオ兄ちゃんは花沢さんを忘れませんでしたねぇ。だから昨日は殺そうと思ったんです~」
カツオ「でも、でも、なんで!なんで花沢さんを!」
タラヲ「女の人の体がどうなってるのか、知りたかっただけですぅ」
いつもどおりの顔で、タラちゃんは言う。
カツオ「……」
言葉も出ない。
タラヲ「でも、カツオ兄ちゃんは花沢さんを忘れませんでしたねぇ。だから昨日は殺そうと思ったんです~」
カツオ「でも、でも、なんで!なんで花沢さんを!」
タラヲ「女の人の体がどうなってるのか、知りたかっただけですぅ」
いつもどおりの顔で、タラちゃんは言う。
239: 2008/03/03(月) 02:20:57.56 ID:jz7YTcDW0
タラヲ「最初はママに聞きました。でも、まだ早いって教えてくれなかったんです。その後は、ワカメ姉ちゃんに聞きました。
教えてくれませんでした」
カツオ「……」
タラヲ「ふてくされて公園に行きました。そしたら、花沢さんがいたんですぅ」
カツオ「それで、花沢さんは……」
タラヲ「でもよくわからなかったし騒がれちゃったから、甚六さんにもらったシャープペンで刺したんですぅ」
カツオ「!」
甚六「僕も……僕が何気なくあげたシャープペンが、あんなことに使われているなんて思いもしなかったんだ……」
頭を抱えて、座り込む甚六さん。
タラヲ「抜けなくなったって、甚六さんに伝えにいったんですぅ。そしたら、すぐに逃げちゃいましたねぇ」
カツオ「……っ」
震えたまま、立ち上がらない甚六さん。
教えてくれませんでした」
カツオ「……」
タラヲ「ふてくされて公園に行きました。そしたら、花沢さんがいたんですぅ」
カツオ「それで、花沢さんは……」
タラヲ「でもよくわからなかったし騒がれちゃったから、甚六さんにもらったシャープペンで刺したんですぅ」
カツオ「!」
甚六「僕も……僕が何気なくあげたシャープペンが、あんなことに使われているなんて思いもしなかったんだ……」
頭を抱えて、座り込む甚六さん。
タラヲ「抜けなくなったって、甚六さんに伝えにいったんですぅ。そしたら、すぐに逃げちゃいましたねぇ」
カツオ「……っ」
震えたまま、立ち上がらない甚六さん。
249: 2008/03/03(月) 02:24:17.62 ID:jz7YTcDW0
つまり、そういうことなんだ。
甚六さんは、直接的な犯人ではない。
直接手を下して、直接花沢さんをあんな姿にしたのは。
カツオ「タラちゃん……」
タラヲ「僕だっていつまでも子供じゃないんですぅ。女の人に、興味だってありますぅ」
カツオ「そんな……狂ってるよ……」
握り締めた手から力が抜け。
ひざの力も抜ける。
タラヲ「カツオ兄ちゃんが氏ねば、ほんとのことを知ってるひとはいないですぅ」
ぎらり、と、刃が光る。
足に力は、入らない。
タラヲ「しねっ!」
甚六さんは、直接的な犯人ではない。
直接手を下して、直接花沢さんをあんな姿にしたのは。
カツオ「タラちゃん……」
タラヲ「僕だっていつまでも子供じゃないんですぅ。女の人に、興味だってありますぅ」
カツオ「そんな……狂ってるよ……」
握り締めた手から力が抜け。
ひざの力も抜ける。
タラヲ「カツオ兄ちゃんが氏ねば、ほんとのことを知ってるひとはいないですぅ」
ぎらり、と、刃が光る。
足に力は、入らない。
タラヲ「しねっ!」
262: 2008/03/03(月) 02:27:13.06 ID:jz7YTcDW0
僕の首が飛んで、花沢さんと同じところにいくのもあと数秒。
そうか。タラちゃんだったのか。
犯人がわかった安堵以上の、その相手に対する驚きと、恐怖。
こんなやつと、同じ屋根の元ですごしていたのか。
氏ねない。
ワカメ、姉さん、母さん。そしてついでにマスオさんの顔が浮かんだ。
このままではいけない。
でも、足に力が入らない。
だめだ。
カツオ「っ!」
刃が、すぐそこまで迫ったその時。
甚六「カツオくん!」
聞きなれた声。
そうか。タラちゃんだったのか。
犯人がわかった安堵以上の、その相手に対する驚きと、恐怖。
こんなやつと、同じ屋根の元ですごしていたのか。
氏ねない。
ワカメ、姉さん、母さん。そしてついでにマスオさんの顔が浮かんだ。
このままではいけない。
でも、足に力が入らない。
だめだ。
カツオ「っ!」
刃が、すぐそこまで迫ったその時。
甚六「カツオくん!」
聞きなれた声。
278: 2008/03/03(月) 02:29:46.47 ID:jz7YTcDW0
そして飛びちる鮮血と、倒れる甚六さんと。
タラヲ「ちっ!」
カツオ「甚六さん!」
慌てて体を起こす。傷は、深い。血が、止まらない。
甚六「う……」
中島「磯野っ!!」
早川さん「磯野君!」
駆けてくる二人。その後ろには、母さんだ。
タラヲ「しまった……!」
タラヲ「ちっ!」
カツオ「甚六さん!」
慌てて体を起こす。傷は、深い。血が、止まらない。
甚六「う……」
中島「磯野っ!!」
早川さん「磯野君!」
駆けてくる二人。その後ろには、母さんだ。
タラヲ「しまった……!」
291: 2008/03/03(月) 02:32:44.85 ID:jz7YTcDW0
タラヲ「くそ!ですぅ!」
中島「逃がすかよ!」
投げられる白球。50メートルほどの距離を、白球は一直線に走り、タラちゃんの包丁を弾いた。
タラヲ「ですぅ!?」
早川さん「逃がさないわよ!」
そして、その後ろからタラちゃんを抑える早川さん。
タラヲ「く……う……」
観念したらしく、ひざをつく。
カツオ「甚六さん……!」
僕は甚六さんに目を落とす。
カツオ「母さん、救急車だ!」
中島「逃がすかよ!」
投げられる白球。50メートルほどの距離を、白球は一直線に走り、タラちゃんの包丁を弾いた。
タラヲ「ですぅ!?」
早川さん「逃がさないわよ!」
そして、その後ろからタラちゃんを抑える早川さん。
タラヲ「く……う……」
観念したらしく、ひざをつく。
カツオ「甚六さん……!」
僕は甚六さんに目を落とす。
カツオ「母さん、救急車だ!」
317: 2008/03/03(月) 02:37:57.74 ID:jz7YTcDW0
甚六「……ああ、カツオ君。ごめんよ、僕がタラちゃんに……」
カツオ「いいんだ。僕のほうこそ……」
甚六さんは、肩で息をしながらなんとか僕の方を見ている。
目は、氏んでない。目は、そうだ。
カツオ「もうすぐ、救急車がくる。頑張って!」
甚六「……ああ、頑張るよ。でも、どうだい?
二年越しの、念願の大学。そこが僕の氏に場所とは、上出来じゃないか」
カツオ「何を……」
甚六「……カツオ君……ごめん」
カツオ「甚六さんっ!」
ぐったりとする甚六さん。
到着する救急車。
タンカの上の甚六さん。
遅すぎた救急車。
タンカの上の……
僕が覚えているのはそこまでだ。
カツオ「いいんだ。僕のほうこそ……」
甚六さんは、肩で息をしながらなんとか僕の方を見ている。
目は、氏んでない。目は、そうだ。
カツオ「もうすぐ、救急車がくる。頑張って!」
甚六「……ああ、頑張るよ。でも、どうだい?
二年越しの、念願の大学。そこが僕の氏に場所とは、上出来じゃないか」
カツオ「何を……」
甚六「……カツオ君……ごめん」
カツオ「甚六さんっ!」
ぐったりとする甚六さん。
到着する救急車。
タンカの上の甚六さん。
遅すぎた救急車。
タンカの上の……
僕が覚えているのはそこまでだ。
322: 2008/03/03(月) 02:40:39.80 ID:jz7YTcDW0
気がつけば病院の、手術室の前に座っていた。
治療中のランプ。
隣で祈る母さん。早川さん。
カツオ「……中島は?」
早川さん「タラちゃんといっしょに、警察に……」
カツオ「そっか……」
僕は手術室を見やった。
まだ、出てくる様子はない。
カツオ「少し、一人にさせて欲しい」
僕は席を立って、屋上に向かった。
治療中のランプ。
隣で祈る母さん。早川さん。
カツオ「……中島は?」
早川さん「タラちゃんといっしょに、警察に……」
カツオ「そっか……」
僕は手術室を見やった。
まだ、出てくる様子はない。
カツオ「少し、一人にさせて欲しい」
僕は席を立って、屋上に向かった。
334: 2008/03/03(月) 02:46:05.11 ID:jz7YTcDW0
既に夜だった。
夏でも、少しひんやりとした風が、僕の顔をなでた。
カツオ「犯人、やっと見つけたってのにな……」
達成感というより、脱力感。
脱力感というより、無力感。
カツオ「まさかタラちゃんだったとはなぁ……」
あの体で、よくも。あの花沢さんを。
カツオ「男の欲の力は恐ろしい……僕ももしかしたらああなってしまうのかな」
でもとりあえず、終わったんだ。
この事件がどういう結果で終わるかはわからない。だけど、これで、一区切りだ。
カツオ「……一年。長かったなぁ……」
床に寝転んで、空を見た。高い空。
カツオ「……もう、前に進まないとなぁ……」
夏でも、少しひんやりとした風が、僕の顔をなでた。
カツオ「犯人、やっと見つけたってのにな……」
達成感というより、脱力感。
脱力感というより、無力感。
カツオ「まさかタラちゃんだったとはなぁ……」
あの体で、よくも。あの花沢さんを。
カツオ「男の欲の力は恐ろしい……僕ももしかしたらああなってしまうのかな」
でもとりあえず、終わったんだ。
この事件がどういう結果で終わるかはわからない。だけど、これで、一区切りだ。
カツオ「……一年。長かったなぁ……」
床に寝転んで、空を見た。高い空。
カツオ「……もう、前に進まないとなぁ……」
339: 2008/03/03(月) 02:47:43.84 ID:jz7YTcDW0
どうなんだろう。
僕は本当に前に進めるのだろうか。
でも、頑張らなきゃな。
花沢さんのためにも、頑張らないとだな。
カツオ「頑張ろう」
おわり!
僕は本当に前に進めるのだろうか。
でも、頑張らなきゃな。
花沢さんのためにも、頑張らないとだな。
カツオ「頑張ろう」
おわり!
348: 2008/03/03(月) 02:48:54.56 ID:jz7YTcDW0
これで終わり!
矛盾とか、至らないところとかはすまない。こういうの初めてやったけど、難しくて大変だった。
夜遅くまでさんきゅー。
俺明日は休みだぜwwwwwwwwwwwwwwwwwww
矛盾とか、至らないところとかはすまない。こういうの初めてやったけど、難しくて大変だった。
夜遅くまでさんきゅー。
俺明日は休みだぜwwwwwwwwwwwwwwwwwww
349: 2008/03/03(月) 02:49:07.76 ID:TAMHdEt6O
乙
引用: カツオ「今日も、頑張ろう」



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