1: 2015/01/05(月) 01:07:24.84 ID:iRbKXnSZ.net
もしもやさぐれのんたんが、ポンコツえりちのいるオトノキザカに転校してきたら。
※のぞえりです。μ'sは存在してません。
ーーー
希「東條希です、よろしくお願いします」
生まれてこのかた、一体何度このセリフを口にしたのだろう。
最初の転校の時は、緊張したせいで噛み噛みになってしまったのを覚えている。
二回目の時は、少しでも良い印象を持ってもらえるようにと何か冗談を一緒に添えた気がする。
三回目のことは、もう覚えていない。
そして四回目以降は、もうずっとこの一言のみだ。
どうせまた、もう何度目か分からない次がやって来る。最初の一歩は私には必要ない。
諦めたわけではなく学んだんだ。
全てが簡単に済む方法を。
自分が傷付かずに済む方法を。
担任「じゃあ東條の席はーーー」
隣に立つ担任が話すのを、他人事のように聞き流す。
たくさんの人の視線と好奇心が突き刺さることにももう慣れた。
こんなことは最初だけで、新しいものに対する人間の興味なんて3日続けば良いほうだから。
たくさんの視線を躱すようにして窓の外を見ると、見るからに冷たそうな風が吹いていた。
ふと、思う。
次の季節が訪れる時、私はどこに居るのだろう。
※のぞえりです。μ'sは存在してません。
ーーー
希「東條希です、よろしくお願いします」
生まれてこのかた、一体何度このセリフを口にしたのだろう。
最初の転校の時は、緊張したせいで噛み噛みになってしまったのを覚えている。
二回目の時は、少しでも良い印象を持ってもらえるようにと何か冗談を一緒に添えた気がする。
三回目のことは、もう覚えていない。
そして四回目以降は、もうずっとこの一言のみだ。
どうせまた、もう何度目か分からない次がやって来る。最初の一歩は私には必要ない。
諦めたわけではなく学んだんだ。
全てが簡単に済む方法を。
自分が傷付かずに済む方法を。
担任「じゃあ東條の席はーーー」
隣に立つ担任が話すのを、他人事のように聞き流す。
たくさんの人の視線と好奇心が突き刺さることにももう慣れた。
こんなことは最初だけで、新しいものに対する人間の興味なんて3日続けば良いほうだから。
たくさんの視線を躱すようにして窓の外を見ると、見るからに冷たそうな風が吹いていた。
ふと、思う。
次の季節が訪れる時、私はどこに居るのだろう。
2: 2015/01/05(月) 01:09:01.54 ID:iRbKXnSZ.net
担任「隣の絢瀬は生徒会役員だから、何かあったら頼るといいぞ」
希「…分かりました」
担任が黒い出席名簿で指した先、そこには誰も座っていない席がひとつ。その右隣には、蒼い瞳と金色の髪をした女の子が座っていた。
絵里「東條さん?よろしくね」
私の席は1番左の列だから、隣の絢瀬、はこの子しかいない。貼り付けた笑顔で「よろしく」と挨拶すれば、彼女はにっこりと微笑んだ。
波風は立てない。誰の記憶にも残らない。これも私が学んだこと。
希「…分かりました」
担任が黒い出席名簿で指した先、そこには誰も座っていない席がひとつ。その右隣には、蒼い瞳と金色の髪をした女の子が座っていた。
絵里「東條さん?よろしくね」
私の席は1番左の列だから、隣の絢瀬、はこの子しかいない。貼り付けた笑顔で「よろしく」と挨拶すれば、彼女はにっこりと微笑んだ。
波風は立てない。誰の記憶にも残らない。これも私が学んだこと。
4: 2015/01/05(月) 01:15:25.52 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「東條さん、次は移動教室よ」
転校して来てから最初の休み時間、さっきまで使用していた教科書を纏めていると絢瀬さんが話しかけてきた。
さっきから教科書を手に持った生徒たちが教室を後にしていたから、大方移動教室だろうとは予想していたけれど。
私の隣で教科書を持ったまま直立不動な絢瀬さんはおそらく、教室まで案内してくれるつもりなのだろう。
希「ごめんね、教室分からないから教えてくれる?」
絵里「もちろん」
彼女なりに、生徒会役員としての義務感とか担任から言い付けられた責任感とかがあるのだろう。
ごめんね、3日もあれば全部覚えるからと、歩き出したその背中に語りかけたつもりだったのに。
ふたつの蒼い瞳が、突然振り返って私を見た。
絵里「別に、謝ることじゃないわ」
笑ったせいで、さっきよりも細められた蒼い瞳。ああ綺麗な瞳だなと、ただそれだけを思った。
絵里「2年の秋に転校なんて、ずいぶん中途半端な時期にしなくちゃいけなくなったものね」
希「そうかな?夏休み一週間前に転校したこともあったから」
絵里「…大変なのね」
希「まぁ、両親には夏休みなんてないからね。両親の苦労に比べれば大したことないよ」
絵里「……そう」
希「私の話はどうでもいいんだけど、絢瀬さん、ここどこ?」
絵里「あ!化学室はこっちじゃなかったわ!」
希「大丈夫かな……」
転校して来てから最初の休み時間、さっきまで使用していた教科書を纏めていると絢瀬さんが話しかけてきた。
さっきから教科書を手に持った生徒たちが教室を後にしていたから、大方移動教室だろうとは予想していたけれど。
私の隣で教科書を持ったまま直立不動な絢瀬さんはおそらく、教室まで案内してくれるつもりなのだろう。
希「ごめんね、教室分からないから教えてくれる?」
絵里「もちろん」
彼女なりに、生徒会役員としての義務感とか担任から言い付けられた責任感とかがあるのだろう。
ごめんね、3日もあれば全部覚えるからと、歩き出したその背中に語りかけたつもりだったのに。
ふたつの蒼い瞳が、突然振り返って私を見た。
絵里「別に、謝ることじゃないわ」
笑ったせいで、さっきよりも細められた蒼い瞳。ああ綺麗な瞳だなと、ただそれだけを思った。
絵里「2年の秋に転校なんて、ずいぶん中途半端な時期にしなくちゃいけなくなったものね」
希「そうかな?夏休み一週間前に転校したこともあったから」
絵里「…大変なのね」
希「まぁ、両親には夏休みなんてないからね。両親の苦労に比べれば大したことないよ」
絵里「……そう」
希「私の話はどうでもいいんだけど、絢瀬さん、ここどこ?」
絵里「あ!化学室はこっちじゃなかったわ!」
希「大丈夫かな……」
5: 2015/01/05(月) 01:19:16.31 ID:iRbKXnSZ.net
転校して来て一週間、それはいつも通りの流れだった。
質問攻めに合うのは最初だけ。どこから来たの、転校は何回目なの、共学だとどんな感じなの。
訊かれたことにだけ答えを返し、決して自分からは話さない。
そうすると私の予想通り、興味を持たれるのは最初の3日だけだった。
希「…しまった」
だからこそ、こういうことにならないように気を付けていたのに。
授業で使う数学の教科書を忘れてしまった。同じクラスの人でさえ頼れる人はいないのに、他のクラスの人に借りに行くなんてもっと無理な話だ。
仕方ない諦めるかと思った時、左肩をつんとつつかれた。
絵里「東條さん、教科書忘れたの?」
希「あー、うん」
絵里「だったら私のを見せてあげるわ」
いや大丈夫だよと言う前に、20cmほど開いていた机の距離を一気に詰められた。
机と机の間に置かれた数学の教科書、少し肩を動かせば絢瀬さんのそれとぶつかりそうになる。
下へ流れる金髪は、さらさらと音がしそうなほど綺麗だなと何となく思った。
質問攻めに合うのは最初だけ。どこから来たの、転校は何回目なの、共学だとどんな感じなの。
訊かれたことにだけ答えを返し、決して自分からは話さない。
そうすると私の予想通り、興味を持たれるのは最初の3日だけだった。
希「…しまった」
だからこそ、こういうことにならないように気を付けていたのに。
授業で使う数学の教科書を忘れてしまった。同じクラスの人でさえ頼れる人はいないのに、他のクラスの人に借りに行くなんてもっと無理な話だ。
仕方ない諦めるかと思った時、左肩をつんとつつかれた。
絵里「東條さん、教科書忘れたの?」
希「あー、うん」
絵里「だったら私のを見せてあげるわ」
いや大丈夫だよと言う前に、20cmほど開いていた机の距離を一気に詰められた。
机と机の間に置かれた数学の教科書、少し肩を動かせば絢瀬さんのそれとぶつかりそうになる。
下へ流れる金髪は、さらさらと音がしそうなほど綺麗だなと何となく思った。
6: 2015/01/05(月) 01:19:48.55 ID:iRbKXnSZ.net
教師「じゃあ東條、次の問いの答えは」
希「…はい!?」
突然の教師の声で、どこかへ飛んでしまっていた意識を慌てて引き戻した。
名前を呼ばれた勢いで立ち上がったけれど、次の問いがどの問いなのかも分からない。
絵里「…6よ」
隣から聞こえてきた絢瀬さんの声。
今の私に、他のことを考える余裕はなかった。
希「、6です!」
教師「……東條、」
答えの選択肢は4までしかないぞと教師が答えると、クラス内でどっと笑いが起きた。
何が起きたのか分からないまま隣の絢瀬さんを見ると、彼女は下を向いて笑いを堪えていた。
そこでやっと全てを把握して、顔が赤くなるのを感じながら椅子に座り直す。
希「…酷い」
絵里「だって、まさか本当に答えるとは思わなかったんだもの」
希「絢瀬さんのこと、信用してたのに」
そこまで言って、自分の体の動きがはたと止まった。信用してた?私が絢瀬さんのことを?まだ出会って一週間も経っていない人のことを?どうして。何で。
自分の首をゆっくりと左に向ければ、柔らかく笑う絢瀬さんと目が合った。
希「…はい!?」
突然の教師の声で、どこかへ飛んでしまっていた意識を慌てて引き戻した。
名前を呼ばれた勢いで立ち上がったけれど、次の問いがどの問いなのかも分からない。
絵里「…6よ」
隣から聞こえてきた絢瀬さんの声。
今の私に、他のことを考える余裕はなかった。
希「、6です!」
教師「……東條、」
答えの選択肢は4までしかないぞと教師が答えると、クラス内でどっと笑いが起きた。
何が起きたのか分からないまま隣の絢瀬さんを見ると、彼女は下を向いて笑いを堪えていた。
そこでやっと全てを把握して、顔が赤くなるのを感じながら椅子に座り直す。
希「…酷い」
絵里「だって、まさか本当に答えるとは思わなかったんだもの」
希「絢瀬さんのこと、信用してたのに」
そこまで言って、自分の体の動きがはたと止まった。信用してた?私が絢瀬さんのことを?まだ出会って一週間も経っていない人のことを?どうして。何で。
自分の首をゆっくりと左に向ければ、柔らかく笑う絢瀬さんと目が合った。
11: 2015/01/05(月) 01:48:14.23 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「さっきのお詫びに、昼食をご一緒しない?」
希「それがお詫びになる意味がわからないんですけど」
絵里「まだ怒ってるの?」
希「…絢瀬さん」
絵里「なに?あ、ちょっと待って」
希「私に構わないで。お昼はひとりで食べたいから」
そう言うと、絢瀬さんが眉を下げた。なんだか耳の奥の方で、空気が割れる音がする。
でも、これでいいんだ。
たいせつなものはつくってはいけない。
どうせまた、すぐになくすことになるんだから。
絵里「…私としてはね、屋上か中庭がお勧めなんだけど」
希「え?あ、ちょっと絢瀬さん!」
絵里「今日は天気が良いから、外で食べたほうが絶対に楽しいわ」
希「ちょっと、手を離して、」
絵里「うーん、やっぱりこっちのほうがいいかしら」
希「絢瀬さん!手、」
離して!と叫びながら、絢瀬さんに捕まえられていた自分の左手を勢い良く振りほどこうとした瞬間。まるでそれを狙っていたかのように、絢瀬さんの手がぱっと離された。
絵里「着いたわ」
このドアの向こうが屋上よと、また蒼い瞳を細めて綾瀬さんは笑った。
希「それがお詫びになる意味がわからないんですけど」
絵里「まだ怒ってるの?」
希「…絢瀬さん」
絵里「なに?あ、ちょっと待って」
希「私に構わないで。お昼はひとりで食べたいから」
そう言うと、絢瀬さんが眉を下げた。なんだか耳の奥の方で、空気が割れる音がする。
でも、これでいいんだ。
たいせつなものはつくってはいけない。
どうせまた、すぐになくすことになるんだから。
絵里「…私としてはね、屋上か中庭がお勧めなんだけど」
希「え?あ、ちょっと絢瀬さん!」
絵里「今日は天気が良いから、外で食べたほうが絶対に楽しいわ」
希「ちょっと、手を離して、」
絵里「うーん、やっぱりこっちのほうがいいかしら」
希「絢瀬さん!手、」
離して!と叫びながら、絢瀬さんに捕まえられていた自分の左手を勢い良く振りほどこうとした瞬間。まるでそれを狙っていたかのように、絢瀬さんの手がぱっと離された。
絵里「着いたわ」
このドアの向こうが屋上よと、また蒼い瞳を細めて綾瀬さんは笑った。
12: 2015/01/05(月) 02:24:05.43 ID:iRbKXnSZ.net
ちょっと抜けたところもあるのかなと思うど、第一印象の通り、絢瀬さんはやっぱり真面目な人だった。
生徒会に所属しているからか、生徒だけじゃなく教師からの人望も厚い。ただそこに居るだけで、周りに人が集まってくるような人。
だからこそ余計に、どうしてこんな人が私に興味を持つのだろうと。
それが不思議でしょうがなかった。
絵里「ね、そのおかず頂けないかしら?」
希「やだ」
絵里「冷たいわねぇ」
そんなこと欠片も思っていないような声色で、くくくと絢瀬さんは笑う。
いつの間にか絢瀬さんと一緒にお昼を食べるのが習慣になってしまっていることに、4日目あたりで気が付いた。
昼休みになった瞬間、「一緒に食べましょう」と迫ってくる絢瀬さんから逃げるようにしていたつもりだったのに。
いつの間にか一緒に教室を後にしていつの間にか一緒に屋上に居るもんだから、もう抵抗はすまいと諦めた。
絵里「東條さんは、音ノ木坂で卒業を迎えられるの?」
希「…さぁ。父親の仕事の都合が関わってくるから、こればっかりは私にも分からない。ただ、同じ場所で同じ季節を2回迎えられたことはないかな」
絵里「……そう」
そう呟いた絢瀬さんの心情は、私には分からない。
屋上に吹く秋の風は、もうすっかり冷たかった。
生徒会に所属しているからか、生徒だけじゃなく教師からの人望も厚い。ただそこに居るだけで、周りに人が集まってくるような人。
だからこそ余計に、どうしてこんな人が私に興味を持つのだろうと。
それが不思議でしょうがなかった。
絵里「ね、そのおかず頂けないかしら?」
希「やだ」
絵里「冷たいわねぇ」
そんなこと欠片も思っていないような声色で、くくくと絢瀬さんは笑う。
いつの間にか絢瀬さんと一緒にお昼を食べるのが習慣になってしまっていることに、4日目あたりで気が付いた。
昼休みになった瞬間、「一緒に食べましょう」と迫ってくる絢瀬さんから逃げるようにしていたつもりだったのに。
いつの間にか一緒に教室を後にしていつの間にか一緒に屋上に居るもんだから、もう抵抗はすまいと諦めた。
絵里「東條さんは、音ノ木坂で卒業を迎えられるの?」
希「…さぁ。父親の仕事の都合が関わってくるから、こればっかりは私にも分からない。ただ、同じ場所で同じ季節を2回迎えられたことはないかな」
絵里「……そう」
そう呟いた絢瀬さんの心情は、私には分からない。
屋上に吹く秋の風は、もうすっかり冷たかった。
13: 2015/01/05(月) 02:26:12.06 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「じゃあ、今度は東條さんの番ね」
希「は?」
絵里「さっき私が質問したから、今度は東條さんが質問する番よ。何でも訊いてね」
希「いや…」
絵里「あら、そんなに質問したいことがあるの?」
突然何を言っているのか、この人は。
あなたに訊きたいことなんて何もないし、そもそも交互に質問しなきゃいけないなんてルールの意味がわからないし、
それに何より、すぐにこの人のペースにのせられてしまうことに腹が立つ。
希「は?」
絵里「さっき私が質問したから、今度は東條さんが質問する番よ。何でも訊いてね」
希「いや…」
絵里「あら、そんなに質問したいことがあるの?」
突然何を言っているのか、この人は。
あなたに訊きたいことなんて何もないし、そもそも交互に質問しなきゃいけないなんてルールの意味がわからないし、
それに何より、すぐにこの人のペースにのせられてしまうことに腹が立つ。
14: 2015/01/05(月) 02:27:50.06 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「ほら、何でもいいから」
目を輝かせてこっちを見るこの人は、決して自分の主張を譲るつもりはないのだろう。
この人のペースにのせられたわけじゃない、このどうでもいい会話を早く終わらせるためだと自分に言い聞かせて、ため息をひとつ吐いた。
希「じゃあ…絢瀬さんは、あだ名とかないの?」
私に質問に目を丸くする絢瀬さんを見て、しまった質問を間違えたと思った。だってこれじゃあまるで、私が絢瀬さんのことをあだ名で呼びたいと言ってるようなものじゃないか。
どうしてこんなことを訊いたのか、私は。
絵里「そうね、小さい頃は『かしこいかわいいエリーチカ』なんて言われてたけれど」
日本に来てからはずっと『絢瀬さん』ね、と彼女は笑った。
希「…日本に来てから?」
絵里「ああ、私昔はロシアに居たのよ。クォーターってやつね」
希「そうなんだ」
絵里「ええ。…で?」
希「で?」
絵里「東條さんは、何て呼んでくれるの?」
希「絢瀬さん」
絵里「…今の会話のくだりでそれは酷いわ」
希「絢瀬さん」
絵里「もう!認められないわぁ!」
希「…はぁ。仕方ないなあ」
そう言うと絢瀬さんは大きな瞳をきらきらと輝かせて、これ以上ないぐらいの「期待してます!」って顔で私を見てきた。
もう本当に、この人は。正直鬱陶しいと思うんだけど。
希「エリーチカ…えりち?」
えりち、と彼女が復唱する。
目を輝かせてこっちを見るこの人は、決して自分の主張を譲るつもりはないのだろう。
この人のペースにのせられたわけじゃない、このどうでもいい会話を早く終わらせるためだと自分に言い聞かせて、ため息をひとつ吐いた。
希「じゃあ…絢瀬さんは、あだ名とかないの?」
私に質問に目を丸くする絢瀬さんを見て、しまった質問を間違えたと思った。だってこれじゃあまるで、私が絢瀬さんのことをあだ名で呼びたいと言ってるようなものじゃないか。
どうしてこんなことを訊いたのか、私は。
絵里「そうね、小さい頃は『かしこいかわいいエリーチカ』なんて言われてたけれど」
日本に来てからはずっと『絢瀬さん』ね、と彼女は笑った。
希「…日本に来てから?」
絵里「ああ、私昔はロシアに居たのよ。クォーターってやつね」
希「そうなんだ」
絵里「ええ。…で?」
希「で?」
絵里「東條さんは、何て呼んでくれるの?」
希「絢瀬さん」
絵里「…今の会話のくだりでそれは酷いわ」
希「絢瀬さん」
絵里「もう!認められないわぁ!」
希「…はぁ。仕方ないなあ」
そう言うと絢瀬さんは大きな瞳をきらきらと輝かせて、これ以上ないぐらいの「期待してます!」って顔で私を見てきた。
もう本当に、この人は。正直鬱陶しいと思うんだけど。
希「エリーチカ…えりち?」
えりち、と彼女が復唱する。
15: 2015/01/05(月) 02:28:38.68 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「いいわね、それでお願い。…希」
希「のぞみ……」
絵里「そう、希。えー、改めまして。えりちこと、絢瀬絵里です。よろしくね、希」
希「……」
絵里「ほら。よろしくね、希」
希「のぞみ……」
絵里「そう、希。えー、改めまして。えりちこと、絢瀬絵里です。よろしくね、希」
希「……」
絵里「ほら。よろしくね、希」
16: 2015/01/05(月) 02:29:23.28 ID:iRbKXnSZ.net
希「……うち、東條希。よろしくな、えりち」
私の中の何かが動く音がしたけれど、それには聞こえないふりをした。
私の中の何かが動く音がしたけれど、それには聞こえないふりをした。
32: 2015/01/05(月) 07:46:39.54 ID:iRbKXnSZ.net
音ノ木坂に転校してきてから一ヶ月、えりちは相変わらず私にまとわりついていた。転校生への興味なんて3日続けばと思っていたのに、どうやらこの人は例外らしい。
クラスの中心人物的なこの人がいつもがそばにいるせいで、一度離れたはずの人だかりが再び私の周りに出来るようになった。
絵里「しかし驚いたわ、希って関西出身だったのね」
希「え、あ、いや…出身ではないんやけど、関西の方にも住んでたから。色々混じっちゃってなぁ」
絵里「そっちの方が可愛いわよ」
希「…そう?じゃあこれからそうするなぁ」
クラスの中心人物的なこの人がいつもがそばにいるせいで、一度離れたはずの人だかりが再び私の周りに出来るようになった。
絵里「しかし驚いたわ、希って関西出身だったのね」
希「え、あ、いや…出身ではないんやけど、関西の方にも住んでたから。色々混じっちゃってなぁ」
絵里「そっちの方が可愛いわよ」
希「…そう?じゃあこれからそうするなぁ」
33: 2015/01/05(月) 07:48:00.58 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「ねぇ、他には?」
希「え?」
絵里「希のこと、他にも教えてよ」
希「…こないだのことといい今といい、えりちは質問しいなの?」
絵里「ううん、そういうわけじゃないと思うけど…なんか知りたいって思うのよ、希のことは」
希「……はぁ。で、何が訊きたいん?」
絵里「そうね、じゃあ好きな音楽は?」
希「とくにないなぁ」
絵里「ええ?じゃあ好きな芸能人とかは?」
希「…いない」
絵里「……じゃあ、好きな人は?」
希「……そんなん、今までおったことないよ」
絵里「私のことを鬱陶しがってただけかなと思ってたけど、もしかして希、……好きなもの、ないの?」
希「そうやねえ、ないわけやないんやけど…作らないようにしてた、が本当かなぁ」
絵里「どうして?」
希「…好きなものを作っちゃうとね、捨てるときが辛いんよ」
絵里「捨てる…」
希「そう。こんな生活をしてるとね、好きなものを作る前に捨てるときのことを考えちゃうの」
希「好きな本を買ったら、引っ越すときに纏めるのが大変になっちゃう。好きなキャラクターのグッズを集めたら、やっぱり引っ越すときに荷物になっちゃう」
希「…好きな人を作ったら、いつか来る別れが辛くなっちゃう」
希「今までずっと、転校続きやったから。いつも身軽でいないと、引っ越すときが大変やろ?」
絵里「、そんなの、」
希「いいんよ。これはうちなりの処世術やから」
絵里「……わかったわ」
希「…えりち?」
絵里「希が、捨てちゃうって言うのなら。捨てきれないぐらいのものを、私があなたにあげるわ」
希「え、えりち、ちょっと待って、」
絵里「最初から全部諦めたなんて、そんな悲しいことを言わないで。一度きりの人生よ、楽しまなきゃ損でしょう?」
覚悟しとくのよ、と笑うえりちは。
やっぱり何よりも綺麗だった。
希「え?」
絵里「希のこと、他にも教えてよ」
希「…こないだのことといい今といい、えりちは質問しいなの?」
絵里「ううん、そういうわけじゃないと思うけど…なんか知りたいって思うのよ、希のことは」
希「……はぁ。で、何が訊きたいん?」
絵里「そうね、じゃあ好きな音楽は?」
希「とくにないなぁ」
絵里「ええ?じゃあ好きな芸能人とかは?」
希「…いない」
絵里「……じゃあ、好きな人は?」
希「……そんなん、今までおったことないよ」
絵里「私のことを鬱陶しがってただけかなと思ってたけど、もしかして希、……好きなもの、ないの?」
希「そうやねえ、ないわけやないんやけど…作らないようにしてた、が本当かなぁ」
絵里「どうして?」
希「…好きなものを作っちゃうとね、捨てるときが辛いんよ」
絵里「捨てる…」
希「そう。こんな生活をしてるとね、好きなものを作る前に捨てるときのことを考えちゃうの」
希「好きな本を買ったら、引っ越すときに纏めるのが大変になっちゃう。好きなキャラクターのグッズを集めたら、やっぱり引っ越すときに荷物になっちゃう」
希「…好きな人を作ったら、いつか来る別れが辛くなっちゃう」
希「今までずっと、転校続きやったから。いつも身軽でいないと、引っ越すときが大変やろ?」
絵里「、そんなの、」
希「いいんよ。これはうちなりの処世術やから」
絵里「……わかったわ」
希「…えりち?」
絵里「希が、捨てちゃうって言うのなら。捨てきれないぐらいのものを、私があなたにあげるわ」
希「え、えりち、ちょっと待って、」
絵里「最初から全部諦めたなんて、そんな悲しいことを言わないで。一度きりの人生よ、楽しまなきゃ損でしょう?」
覚悟しとくのよ、と笑うえりちは。
やっぱり何よりも綺麗だった。
35: 2015/01/05(月) 07:50:30.73 ID:iRbKXnSZ.net
それからのえりちは宣言通り、私にたくさんのものをくれた。
それはえりちの妹がハマっているというアイドルのCDだったり、えりちが面白すぎて徹夜して読んだという本だったり、えりちと何かをしたという『想い出』だったり。
学校にいるときはもちろん、週末になればほぼ一方的に予定を入れられて、よくわからないままよくわからないところに連れ出されることもあった。
でも私にとって、それは不思議と嫌ではなかった。
希「…えりち、それは?」
絵里「約束ノート、よ。これからの予定はね、全部このノートに書いていくの。いい?このノートに書かれたことは絶対よ」
希「…えりち、日本にはな、『小さなお節介大きなお世話』って言葉があるんよ」
絵里「あら、初耳ね。でも希、それって迷惑に感じてるときに使うんでしょう?」
希は迷惑なの?と言わんばかりに首を傾げるえりちに、はぁっと大きな溜息をひとつ吐く。
希「…これだからクォーターは。いつだって自信満々過ぎるんよ」
絵里「ああ、それはよく言われるわ」
キラキラと笑うえりちは、いつだって眩しくて。その眩しさに目がくらんでしまいそうだったけど、私はいつだって『処世術』を忘れないようにしていた。
いつか必ず、終わりが来る。この人との時間が、楽しいからこそ。楽しいからこそ、余計に。私の『処世術』は、忘れてはいけない。
それはえりちの妹がハマっているというアイドルのCDだったり、えりちが面白すぎて徹夜して読んだという本だったり、えりちと何かをしたという『想い出』だったり。
学校にいるときはもちろん、週末になればほぼ一方的に予定を入れられて、よくわからないままよくわからないところに連れ出されることもあった。
でも私にとって、それは不思議と嫌ではなかった。
希「…えりち、それは?」
絵里「約束ノート、よ。これからの予定はね、全部このノートに書いていくの。いい?このノートに書かれたことは絶対よ」
希「…えりち、日本にはな、『小さなお節介大きなお世話』って言葉があるんよ」
絵里「あら、初耳ね。でも希、それって迷惑に感じてるときに使うんでしょう?」
希は迷惑なの?と言わんばかりに首を傾げるえりちに、はぁっと大きな溜息をひとつ吐く。
希「…これだからクォーターは。いつだって自信満々過ぎるんよ」
絵里「ああ、それはよく言われるわ」
キラキラと笑うえりちは、いつだって眩しくて。その眩しさに目がくらんでしまいそうだったけど、私はいつだって『処世術』を忘れないようにしていた。
いつか必ず、終わりが来る。この人との時間が、楽しいからこそ。楽しいからこそ、余計に。私の『処世術』は、忘れてはいけない。
36: 2015/01/05(月) 07:52:35.16 ID:iRbKXnSZ.net
音ノ木坂に転校してきてから二ヶ月が経ったころ、その日は唐突に訪れた。
学校から帰宅すると、リビングにはすでに父親の姿があった。仕事に生きるこの人が、私よりも早く帰宅した姿を見るのは今までに数回ほど。そしてその数回は漏れなく全部、父が私に新しい引越し先を伝えた日だった。
父「希、そこに座りなさい」
まだ二ヶ月しか経ってないのに早すぎるんじゃない、と思ったけれど。父であるこの人に対して娘の私ができることはただひとつ、何を言われても笑って頷くことだけだ。
希「なに、お父さん」
ちゃんと笑えているはずだと思うけど、両頬が引きつったように痛い。
なんでか、どうしてか、えりちの笑顔が思い浮かぶ。
『希!』
『…希?』
『のーぞーみー!』
『希』
たった二ヶ月。
たった二ヶ月だったけど、私、えりちのことーーー
父「引越しのことで、話があるんだ」
学校から帰宅すると、リビングにはすでに父親の姿があった。仕事に生きるこの人が、私よりも早く帰宅した姿を見るのは今までに数回ほど。そしてその数回は漏れなく全部、父が私に新しい引越し先を伝えた日だった。
父「希、そこに座りなさい」
まだ二ヶ月しか経ってないのに早すぎるんじゃない、と思ったけれど。父であるこの人に対して娘の私ができることはただひとつ、何を言われても笑って頷くことだけだ。
希「なに、お父さん」
ちゃんと笑えているはずだと思うけど、両頬が引きつったように痛い。
なんでか、どうしてか、えりちの笑顔が思い浮かぶ。
『希!』
『…希?』
『のーぞーみー!』
『希』
たった二ヶ月。
たった二ヶ月だったけど、私、えりちのことーーー
父「引越しのことで、話があるんだ」
43: 2015/01/05(月) 13:43:32.98 ID:iRbKXnSZ.net
希「えりち!」
叫びながら教室のドアを開けると、教室にいた生徒たちの視線が全部私へと向けられた。朝から走ったせいでただでさえしんどいのに、この仕打ちは酷すぎる。…とは言っても、突然大声を出した私が悪いのだけれど。
絵里「どうしたの、希」
私に名前を呼ばれた張本人は、自分の席についたままふわりと柔らかく笑っている。
希「あのね、私…うち…音ノ木坂で卒業できるの!」
絵里「ええ?」
希「昨日父親に言われたん。もう引越しはせんからって。転校ももうしなくていいから、って」
絵里「…本当に?」
希「ほんまに!」
絵里「ハラショー!良かったわね、希!」
希「うん!…これで、」
絵里「ん?」
希「…ううん。何でもないよ」
絵里「なぁに?変な希。でも、とにかく良かったわね!」
希「うん!ずっとオトノキに居られる!」
絵里「…良かった、本当に良かったわ、希」
これで、ずっとえりちと居られる。喜ぶ声を隠さない代わりに、気付き始めた小さな想いに蓋をした。
叫びながら教室のドアを開けると、教室にいた生徒たちの視線が全部私へと向けられた。朝から走ったせいでただでさえしんどいのに、この仕打ちは酷すぎる。…とは言っても、突然大声を出した私が悪いのだけれど。
絵里「どうしたの、希」
私に名前を呼ばれた張本人は、自分の席についたままふわりと柔らかく笑っている。
希「あのね、私…うち…音ノ木坂で卒業できるの!」
絵里「ええ?」
希「昨日父親に言われたん。もう引越しはせんからって。転校ももうしなくていいから、って」
絵里「…本当に?」
希「ほんまに!」
絵里「ハラショー!良かったわね、希!」
希「うん!…これで、」
絵里「ん?」
希「…ううん。何でもないよ」
絵里「なぁに?変な希。でも、とにかく良かったわね!」
希「うん!ずっとオトノキに居られる!」
絵里「…良かった、本当に良かったわ、希」
これで、ずっとえりちと居られる。喜ぶ声を隠さない代わりに、気付き始めた小さな想いに蓋をした。
45: 2015/01/05(月) 13:46:00.53 ID:iRbKXnSZ.net
ーーー
絵里「…あら、希」
希「えりち、まだ学校におったん?」
ある日の放課後、誰もいないと思って教室のドアをがらりと開けると、そこにはえりちがひとり席についてプリントに何かを書き込んでいた。
絵里「…ええ、ちょっと生徒会の仕事を会長に頼まれてね。希は?」
希「転校生としての手続きが色々残ってるからって、先生に呼ばれてたんよ」
絵里「手続き?」
希「提出しなきゃいけない書類とかが色々あってな。でももう全部提出したから、これでおしまい」
絵里「そう。お疲れ様」
希「…転校生としての手続きは、紙面上では終わったんだけど。このクラスの人にとって私が『転校生』でなくなる日は、いつか来るんかなぁ」
絵里「…馬鹿ね、何を言ってるの、希。あなたはもう充分このクラスの一員よ。ほら、あなたの前の席に座ってる子。『希ちゃんの占いってすごく当たるんだよ!』ってこの前クラスで話してたから、あなたのところに依頼が殺到するんじゃない?」
希「ああ、あの子…」
絵里「それに昨日なんて、あの子とあの子が話してたんだけど…」
希「ふふ」
絵里「?」
希「いや、えりちはとっても周りを見てるんやなって思って。…そんなえりちには、生徒会長はぴったりの仕事やと思うで」
絵里「…あら、希」
希「えりち、まだ学校におったん?」
ある日の放課後、誰もいないと思って教室のドアをがらりと開けると、そこにはえりちがひとり席についてプリントに何かを書き込んでいた。
絵里「…ええ、ちょっと生徒会の仕事を会長に頼まれてね。希は?」
希「転校生としての手続きが色々残ってるからって、先生に呼ばれてたんよ」
絵里「手続き?」
希「提出しなきゃいけない書類とかが色々あってな。でももう全部提出したから、これでおしまい」
絵里「そう。お疲れ様」
希「…転校生としての手続きは、紙面上では終わったんだけど。このクラスの人にとって私が『転校生』でなくなる日は、いつか来るんかなぁ」
絵里「…馬鹿ね、何を言ってるの、希。あなたはもう充分このクラスの一員よ。ほら、あなたの前の席に座ってる子。『希ちゃんの占いってすごく当たるんだよ!』ってこの前クラスで話してたから、あなたのところに依頼が殺到するんじゃない?」
希「ああ、あの子…」
絵里「それに昨日なんて、あの子とあの子が話してたんだけど…」
希「ふふ」
絵里「?」
希「いや、えりちはとっても周りを見てるんやなって思って。…そんなえりちには、生徒会長はぴったりの仕事やと思うで」
46: 2015/01/05(月) 13:47:03.38 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「……知ってたの?」
希「さっき職員室にいたときに、生徒会長さんと先生が話してるのを聞いちゃったんよ。時期生徒会長は絢瀬さんがいいと思いますって、会長さんが自信満々に言っとったよ」
絵里「もう、気が早いのよ会長は。立候補するとも言ってないのに…」
希「立候補の受付はいつまでなん?」
絵里「…一週間後、よ」
希「ありゃ、あんまり時間はないんやね。明日から三連休やし。…でも、ええんやない?えりちが生徒会長。うちも応援しとるよ」
絵里「…じゃあ、もし私が生徒会長に立候補したら、希が副会長になってくれる?」
希「ええ?うちはまだオトノキに転校して来たばっかやし…」
絵里「あら、さっきも言ったでしょう?希はもうとっくに、音ノ木坂の一員よ。…私が生徒会長で、希が副会長。そんな学校生活も楽しいかもしれないわね」
希「…えりち?」
絵里「なーんてね、生徒会長の件はまた考えてみるわ。それより希、今日は一緒に帰りましょうか。このプリントを職員室に持って行けばそれで終わりだから」
希「え?う、うん」
希「さっき職員室にいたときに、生徒会長さんと先生が話してるのを聞いちゃったんよ。時期生徒会長は絢瀬さんがいいと思いますって、会長さんが自信満々に言っとったよ」
絵里「もう、気が早いのよ会長は。立候補するとも言ってないのに…」
希「立候補の受付はいつまでなん?」
絵里「…一週間後、よ」
希「ありゃ、あんまり時間はないんやね。明日から三連休やし。…でも、ええんやない?えりちが生徒会長。うちも応援しとるよ」
絵里「…じゃあ、もし私が生徒会長に立候補したら、希が副会長になってくれる?」
希「ええ?うちはまだオトノキに転校して来たばっかやし…」
絵里「あら、さっきも言ったでしょう?希はもうとっくに、音ノ木坂の一員よ。…私が生徒会長で、希が副会長。そんな学校生活も楽しいかもしれないわね」
希「…えりち?」
絵里「なーんてね、生徒会長の件はまた考えてみるわ。それより希、今日は一緒に帰りましょうか。このプリントを職員室に持って行けばそれで終わりだから」
希「え?う、うん」
47: 2015/01/05(月) 13:51:53.32 ID:iRbKXnSZ.net
もう誰もいない校庭を、えりちと2人でゆっくりと歩く。校庭に吹き抜ける風は冷たくて、それはまるで秋の終わりを告げるような風だった。
絵里「…ねぇ、希」
希「ん?」
絵里「この学校ってね、春になるととても綺麗な桜が見られるのよ」
希「そうなん?」
絵里「ええ。私がこの学校に入学した理由の一つでもあるって言えるぐらい、あの景色は本当に美しいの」
希「そうなんや…」
絵里「秋が終わって、冬が来て。そうしてすぐに春が来るわね」
希「なぁん、えりち。まだちょっと気が早いよ」
絵里「ふふ、そうね。…でも、秋が終わって冬が来て、そうして春が来ても、希はここに居られるのね。本当に、ハラショーだわ」
希「……えりち」
絵里「ん?」
希「桜、一緒に見ようね」
絵里「…ええ。楽しみにしているわ」
希「ふふ。明日からの三連休も楽しまんとなー!」
絵里「…ねぇ、希」
希「ん?」
絵里「この学校ってね、春になるととても綺麗な桜が見られるのよ」
希「そうなん?」
絵里「ええ。私がこの学校に入学した理由の一つでもあるって言えるぐらい、あの景色は本当に美しいの」
希「そうなんや…」
絵里「秋が終わって、冬が来て。そうしてすぐに春が来るわね」
希「なぁん、えりち。まだちょっと気が早いよ」
絵里「ふふ、そうね。…でも、秋が終わって冬が来て、そうして春が来ても、希はここに居られるのね。本当に、ハラショーだわ」
希「……えりち」
絵里「ん?」
希「桜、一緒に見ようね」
絵里「…ええ。楽しみにしているわ」
希「ふふ。明日からの三連休も楽しまんとなー!」
53: 2015/01/05(月) 15:42:33.09 ID:iRbKXnSZ.net
三連休明けの教室は、いつもよりざわついているように感じた。連休は何をしたとかどこに行ったとか、中には冬休みの予定をを話してる子たちもいる。
ちょっと気が早いと思わないこともないけれど、でもあと一ヶ月と少しで冬休みはやって来る。今の私には、一ヶ月なんてあっという間に思えた。
担任「はい席につけー」
担任の一声でみんな席についたというのに、私の左隣は空席のままだった。お前ら、長期休暇の前にテストを忘れるなよーと担任が言えば、教室のあちこちから不満の声が起きる。そんな声に隠れるように、私は机の下でえりちにメールをした。
えりち、風邪引いたん?放課後お見舞い行こうか?そこまで文字を打って送信ボタンを押そうとした瞬間、聞こえてきた担任の声に耳を疑った。
ということで、本当に急だが絢瀬はーーー
担任「ご両親の都合で、ロシアに行くことになった」
全身から血の気が引いて、身体の熱が一気に冷める感じがした。
担任「生まれ育った場所とはいえ、異国の地で頑張っているんだからなー。お前らも頑張れよー」
ロシア?生まれ育った場所?異国の地?
頑張って"いる?"
音が消えた世界に、自分ひとりだけ取り残されたみたいだった。
次に気が付いたときには、HRの終わりを告げる鐘が鳴り響いていた。
ちょっと気が早いと思わないこともないけれど、でもあと一ヶ月と少しで冬休みはやって来る。今の私には、一ヶ月なんてあっという間に思えた。
担任「はい席につけー」
担任の一声でみんな席についたというのに、私の左隣は空席のままだった。お前ら、長期休暇の前にテストを忘れるなよーと担任が言えば、教室のあちこちから不満の声が起きる。そんな声に隠れるように、私は机の下でえりちにメールをした。
えりち、風邪引いたん?放課後お見舞い行こうか?そこまで文字を打って送信ボタンを押そうとした瞬間、聞こえてきた担任の声に耳を疑った。
ということで、本当に急だが絢瀬はーーー
担任「ご両親の都合で、ロシアに行くことになった」
全身から血の気が引いて、身体の熱が一気に冷める感じがした。
担任「生まれ育った場所とはいえ、異国の地で頑張っているんだからなー。お前らも頑張れよー」
ロシア?生まれ育った場所?異国の地?
頑張って"いる?"
音が消えた世界に、自分ひとりだけ取り残されたみたいだった。
次に気が付いたときには、HRの終わりを告げる鐘が鳴り響いていた。
54: 2015/01/05(月) 15:43:44.91 ID:iRbKXnSZ.net
1現目が始まるまでの休み時間、クラスメイトたちの喧騒に紛れるように電話をかけてみたけれど、聞こえてきたのは女の人の機械的な音声だけだった。
作っておいたメールも送信してみたけれど、送ったと同時にわけのわからない英語のメールが送り返されて来ただけだった。
あっという間に視界が滲んでいく。クラスメイトたちのざわついた声が、どんどん遠くへ離れていく。
国内ならまだしも、ロシアということは。もしかすると、いやたぶんきっと間違いなく、私が転校して来る前から決まっていたことなのだろう。なのにえりちはそれをお首にも出さず、今までずっと私と一緒に居たというのか。
まさか、自分が"捨てられる側"になるなんて、そんなこと一瞬たりとも想像したことはなかった。
ねぇ、えりちはこの数ヶ月、私と一緒にいたこの数ヶ月を、一体どんな気持ちで過ごしていたの?
希「っ、えりちなんか、ほんまに、だいっきらいや…」
休日になる度に『次は何をする?』って言いながら、あんなに嬉しそうに約束ノートを取り出していたのに。
今度の三連休では連休の話題すら出されなかったことに、今更気付いて情けなくなった。
作っておいたメールも送信してみたけれど、送ったと同時にわけのわからない英語のメールが送り返されて来ただけだった。
あっという間に視界が滲んでいく。クラスメイトたちのざわついた声が、どんどん遠くへ離れていく。
国内ならまだしも、ロシアということは。もしかすると、いやたぶんきっと間違いなく、私が転校して来る前から決まっていたことなのだろう。なのにえりちはそれをお首にも出さず、今までずっと私と一緒に居たというのか。
まさか、自分が"捨てられる側"になるなんて、そんなこと一瞬たりとも想像したことはなかった。
ねぇ、えりちはこの数ヶ月、私と一緒にいたこの数ヶ月を、一体どんな気持ちで過ごしていたの?
希「っ、えりちなんか、ほんまに、だいっきらいや…」
休日になる度に『次は何をする?』って言いながら、あんなに嬉しそうに約束ノートを取り出していたのに。
今度の三連休では連休の話題すら出されなかったことに、今更気付いて情けなくなった。
55: 2015/01/05(月) 15:46:28.04 ID:iRbKXnSZ.net
「…希」
ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、本来の使用主ではない人が私の左隣の席に座っていた。
希「…にこっち」
にこ「あいつ、本当に何も言わないまま行ったのね」
希「…にこっちは、知ってたの?」
にこ「希にも言いなさいよって、ひっ叩く寸前までキレたんだけどね。『希を頼むわ』って最後までカッコつけて、馬鹿じゃないの?あいつ」
希「……」
にこ「…今ならまだ、間に合うと思うから。あいつとっ捕まえて、にこのぶんまで殴ってきて」
希「にこっち…」
にこ「言っとくけどね!希に殴らせるためにあのとき絵里をひっ叩くのを我慢したのよ!?希が間に合わなかったらにこの我慢が無駄になるでしょうが!」
だからほら、早く!行って来い!
にこっちに背中をぐいと押されて、私は教室を飛び出した。
ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、本来の使用主ではない人が私の左隣の席に座っていた。
希「…にこっち」
にこ「あいつ、本当に何も言わないまま行ったのね」
希「…にこっちは、知ってたの?」
にこ「希にも言いなさいよって、ひっ叩く寸前までキレたんだけどね。『希を頼むわ』って最後までカッコつけて、馬鹿じゃないの?あいつ」
希「……」
にこ「…今ならまだ、間に合うと思うから。あいつとっ捕まえて、にこのぶんまで殴ってきて」
希「にこっち…」
にこ「言っとくけどね!希に殴らせるためにあのとき絵里をひっ叩くのを我慢したのよ!?希が間に合わなかったらにこの我慢が無駄になるでしょうが!」
だからほら、早く!行って来い!
にこっちに背中をぐいと押されて、私は教室を飛び出した。
56: 2015/01/05(月) 15:48:28.47 ID:iRbKXnSZ.net
教室を飛び出す前ににこっちに渡された紙には、駅の名前と、おそらくえりちが乗るであろう電車の発車時刻が書かれていた。
まだあんまりこの辺りの地理には詳しくないけれど、ここの駅はえりちと一緒に利用したことがあるから場所は分かる。
希(えりちのあほ、あほあほあほ!)
少しでも速く走りたいのに、頭に体がついて来ない。汗が制服のシャツを濡らすけど、そんなこと気にしてはいられない。とにかく走れ、動け、脚。
えりちがいろんなものを私にくれるせいで、私の部屋には物が増えた。
ベッドの上には、『これかわいいな』と私が呟いたキャラクターのぬいぐるみが並んでいるし、えりちに借りたCDや本で返しきれていないものがたくさんあるし、
何より勉強机の上には、えりちと一緒に撮った写真が写真立てに入れられて飾ってある。
こんなにもたくさんのものを、私にくれたというのに。一番大切な存在を、鮮やかに消し去ろうとしているなんて。
希「、そんなん、絶対にっ…!許すわけ、ないやんっ!」
『私が生徒会長で、希が副会長ーーー』
そんな未来は無いなんて、最初から知ってたくせに。
『…ええ。楽しみにしているわ』
次の春は自分はここにいないんだって、わかってたくせに。
言いたいことはたくさんある。言わなきゃいけないことはもっとある。私はまだ、何ひとつさええりちに伝えられていない。このまま行かせるもんか。絶対に、絶対に。
どうしてもえりちに伝えたいことが、ただ、ひとつだけ。
まだあんまりこの辺りの地理には詳しくないけれど、ここの駅はえりちと一緒に利用したことがあるから場所は分かる。
希(えりちのあほ、あほあほあほ!)
少しでも速く走りたいのに、頭に体がついて来ない。汗が制服のシャツを濡らすけど、そんなこと気にしてはいられない。とにかく走れ、動け、脚。
えりちがいろんなものを私にくれるせいで、私の部屋には物が増えた。
ベッドの上には、『これかわいいな』と私が呟いたキャラクターのぬいぐるみが並んでいるし、えりちに借りたCDや本で返しきれていないものがたくさんあるし、
何より勉強机の上には、えりちと一緒に撮った写真が写真立てに入れられて飾ってある。
こんなにもたくさんのものを、私にくれたというのに。一番大切な存在を、鮮やかに消し去ろうとしているなんて。
希「、そんなん、絶対にっ…!許すわけ、ないやんっ!」
『私が生徒会長で、希が副会長ーーー』
そんな未来は無いなんて、最初から知ってたくせに。
『…ええ。楽しみにしているわ』
次の春は自分はここにいないんだって、わかってたくせに。
言いたいことはたくさんある。言わなきゃいけないことはもっとある。私はまだ、何ひとつさええりちに伝えられていない。このまま行かせるもんか。絶対に、絶対に。
どうしてもえりちに伝えたいことが、ただ、ひとつだけ。
57: 2015/01/05(月) 15:50:37.42 ID:iRbKXnSZ.net
「えりち!!!!」
人目も気にせず、改札の向こうに見えた姿に思い切り叫んだ。本当は改札なんて飛び越えて行きたいぐらいだけど、さすがにそういうわけにもいかない。
「そこから動いたら、絶対許さんからな!」
ブレザーのポケットに入れていた小銭を券売機に突っ込んで、一番安い値段のところを押した。このお金は、にこっちが渡してくれた紙に包まっていた。
改札を通り抜ければ、えりちは私に言われた通り一歩も動かずに、綺麗な金髪をひときわ輝かせてホームに立っていた。本当は駆け出したいところだけれど、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
絵里「……希」
希「どういうつもりなん、えりち」
絵里「…たまには、学校をサボるのもいいかなと思って」
希「こんな時まで、そういう嘘を吐くんやね」
絵里「っ、」
希「…あんな。うちがオトノキにずっと居られるって喜んでたのは、ここにえりちが居たからなんよ?…なのに、それなのに、」
絵里「…希」
希「うちにこんなにもたくさんのものを一方的に残したくせに、自分の存在だけ切り取ったみたいにいなくなるとか。…ほんま、えりちのあほ。ばか」
絵里「希、ごめん…泣かないで」
希「うるさい。あほちか」
人目も気にせず、改札の向こうに見えた姿に思い切り叫んだ。本当は改札なんて飛び越えて行きたいぐらいだけど、さすがにそういうわけにもいかない。
「そこから動いたら、絶対許さんからな!」
ブレザーのポケットに入れていた小銭を券売機に突っ込んで、一番安い値段のところを押した。このお金は、にこっちが渡してくれた紙に包まっていた。
改札を通り抜ければ、えりちは私に言われた通り一歩も動かずに、綺麗な金髪をひときわ輝かせてホームに立っていた。本当は駆け出したいところだけれど、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
絵里「……希」
希「どういうつもりなん、えりち」
絵里「…たまには、学校をサボるのもいいかなと思って」
希「こんな時まで、そういう嘘を吐くんやね」
絵里「っ、」
希「…あんな。うちがオトノキにずっと居られるって喜んでたのは、ここにえりちが居たからなんよ?…なのに、それなのに、」
絵里「…希」
希「うちにこんなにもたくさんのものを一方的に残したくせに、自分の存在だけ切り取ったみたいにいなくなるとか。…ほんま、えりちのあほ。ばか」
絵里「希、ごめん…泣かないで」
希「うるさい。あほちか」
58: 2015/01/05(月) 15:52:01.36 ID:iRbKXnSZ.net
好きなものなんていらなかった。大切なものなんて私には必要なかった。何も持たずに身軽でいた方が、私にはずっと都合が良かった。
なのに、えりちがあんまりにもたくさんのものをくれたから。私の心はもう、大切なものでいっぱいになってしまった。
希「どうしてくれるん、ほんまに」
絵里「…ごめん」
希「にこっちだって、えりちがおらんかったら知り合うことさえなかったのに。にこっちと会う度に、えりちのことを思い出してしまうやん」
絵里「…ごめん」
希「にこっち、すっごいええ子やのに。あほなえりちのせいで、にこっちが悪いみたいになってまうやん」
絵里「……」
希「だいたい、人との距離感とか、好きなものとか、大切とか、そういうこと気にしてるのはえりちの方やんか」
人のことばっかり気にして、周りばっかり見てて。自分のことを二の次にするせいで、肝心なところは鈍感で。私の気持ちになんて1ミリたりとも気付いてない癖に、意味わかんないとこでカッコつけて。
でも、でも。
私はこの人の、そういうとこがーーー
希「えりちのあほ!!」
まっすぐ、ただひたすらまっすぐ脚を進めて、離れていたえりちとの距離を詰めていく。えりちの顔が一瞬怯えた気がするけど気にしない。
最後の一歩は、何よりも、力強く。
希「好きだ、ばか!!!」
なのに、えりちがあんまりにもたくさんのものをくれたから。私の心はもう、大切なものでいっぱいになってしまった。
希「どうしてくれるん、ほんまに」
絵里「…ごめん」
希「にこっちだって、えりちがおらんかったら知り合うことさえなかったのに。にこっちと会う度に、えりちのことを思い出してしまうやん」
絵里「…ごめん」
希「にこっち、すっごいええ子やのに。あほなえりちのせいで、にこっちが悪いみたいになってまうやん」
絵里「……」
希「だいたい、人との距離感とか、好きなものとか、大切とか、そういうこと気にしてるのはえりちの方やんか」
人のことばっかり気にして、周りばっかり見てて。自分のことを二の次にするせいで、肝心なところは鈍感で。私の気持ちになんて1ミリたりとも気付いてない癖に、意味わかんないとこでカッコつけて。
でも、でも。
私はこの人の、そういうとこがーーー
希「えりちのあほ!!」
まっすぐ、ただひたすらまっすぐ脚を進めて、離れていたえりちとの距離を詰めていく。えりちの顔が一瞬怯えた気がするけど気にしない。
最後の一歩は、何よりも、力強く。
希「好きだ、ばか!!!」
59: 2015/01/05(月) 15:53:56.11 ID:iRbKXnSZ.net
絵里「の、希!?ちょ、痛い痛い痛い!」
希「…うるさい。殴られんやっただけでもマシやで」
えりちの身体を、力いっぱいぎゅうぎゅうに抱き締める。かわいいけどかしこくないエリーチカは、思い知ればいいんだ。にこっちの気持ちを、私の気持ちを。
絵里「……希」
希「…なに」
絵里「約束ノート、書き足して欲しいことがあるんだけど」
希「…うるさい。殴られんやっただけでもマシやで」
えりちの身体を、力いっぱいぎゅうぎゅうに抱き締める。かわいいけどかしこくないエリーチカは、思い知ればいいんだ。にこっちの気持ちを、私の気持ちを。
絵里「……希」
希「…なに」
絵里「約束ノート、書き足して欲しいことがあるんだけど」
60: 2015/01/05(月) 15:55:54.11 ID:iRbKXnSZ.net
* * * *
にこ「…希?何してるの?ノート?」
希「ちょ、にこっち!覗きは犯罪やで!」
にこ「覗いたんじゃないわ、見えたのよ」
希「覗き魔はみんなそう言うんや!にこっちのえOち!変態!貧O!」
にこ「ちょっと!?最後のは関係ないでしょう!?」
希「えーーん。にこっちの貧Oー」
にこ「最早ただの悪口じゃない…!てか、そんなうっすいノートに黒の油性マジックなんて使ったら、裏写りとか半端じゃないわよ?」
希「ああ!やっぱり見てるやん!」
にこ「だから見たじゃなくて見えただって言ってるでしょうが!」
『そんな約束、守れるかどうかわからんで?』
『あら、言ったでしょう?約束ノートに書かれたことは絶対よ』
約束ノートに、他のそれとは比べものにならないぐらい大きな字で書かれたひとつの約束は、いつ見たって笑いが込み上げてくる。
そのうちにこっちに『何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い』なんて言われそうだけど仕方がない。だってこの約束だけは忘れないように、絶対に守らないといけないものだから。
"冬休みは、一緒にロシアで過ごす!"
『そうね、黒の油性マジックで書いてくれると嬉しいわ。そしたら文字が消えることもないでしょうし、見る度に希が嬉しくなれるでしょう?』
『……えりちの、あほ』
終
にこ「…希?何してるの?ノート?」
希「ちょ、にこっち!覗きは犯罪やで!」
にこ「覗いたんじゃないわ、見えたのよ」
希「覗き魔はみんなそう言うんや!にこっちのえOち!変態!貧O!」
にこ「ちょっと!?最後のは関係ないでしょう!?」
希「えーーん。にこっちの貧Oー」
にこ「最早ただの悪口じゃない…!てか、そんなうっすいノートに黒の油性マジックなんて使ったら、裏写りとか半端じゃないわよ?」
希「ああ!やっぱり見てるやん!」
にこ「だから見たじゃなくて見えただって言ってるでしょうが!」
『そんな約束、守れるかどうかわからんで?』
『あら、言ったでしょう?約束ノートに書かれたことは絶対よ』
約束ノートに、他のそれとは比べものにならないぐらい大きな字で書かれたひとつの約束は、いつ見たって笑いが込み上げてくる。
そのうちにこっちに『何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い』なんて言われそうだけど仕方がない。だってこの約束だけは忘れないように、絶対に守らないといけないものだから。
"冬休みは、一緒にロシアで過ごす!"
『そうね、黒の油性マジックで書いてくれると嬉しいわ。そしたら文字が消えることもないでしょうし、見る度に希が嬉しくなれるでしょう?』
『……えりちの、あほ』
終
61: 2015/01/05(月) 16:00:48.77 ID:5DL0ZOuq.net
乙 おもしろかったとっても良かった
63: 2015/01/05(月) 16:15:36.76 ID:Y8jfZkDm.net
つらい
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります