81: 2006/12/21(木) 03:31:42.22 ID:fOTJ7Kfy0

前作:【ローゼンメイデン】雛苺「天秤」

『薔薇の指輪(仮)』

「すこやかにーのびやかにー」
翠星石が店先に咲いた花たちに水をあげると、花たちは嬉しそうに揺れました。
以前のようにはいかないけれど、花たちの言いたい事は何だか伝わってきます。
「もう陽が出てきたですねぇ」
軒先の日除けを伸ばすと、レンガ造りの歩道に影が落ちました。
季節は初夏。もうすっかり暖かくなって、半袖でもいいくらいです。
翠星石は店内にある在庫を確認しました。普段では絶対にありえないくらいの量の真っ赤な薔薇。
それは蕾でもその美しさを充分に誇示していました。
来週には一斉に咲き誇る事でしょう。
来週の、結婚式の頃には……

83: 2006/12/21(木) 03:51:35.46 ID:fOTJ7Kfy0
「やっぱり、契約を解除するですか?」
10年前、薔薇水晶との戦いの後、ジュンは契約を解除しようって言ってきました。
チビ人間のくせに生意気です。
「ど、どうしてそんな事いいやがるですか?翠星石に何か不満でもあるですか!?」
とってもかっこ悪い事を言ってしまいました。
まるで男にすがりつくダメ女みたいじゃないですか。
「違うんだよ、翠星石。もう君達は戦う必要なんか無いし、それに人形なんかじゃない。
 だから、僕とこんな契約なんてしてる必要ないんだ」
ジュンは翠星石の気持ちなんか全然わかってません。本当にダメダメです。
「でも……翠星石は……」
ジュンが翠星石の頭を撫でました。
「翠星石、僕だって寂しいよ。でも、契約が無いからって一緒にいられないわけじゃない。
 これからもいつだってみんなとは会えるだろ?」
「さ、寂しいなんて誰も言ってねーですぅ!か、勘違いすんな、ですぅ!」
慌ててジュンから視線を逸らすと、その先にいた真紅と偶然に目が合いました。
真紅は何かを察したように優しく微笑むと、こっちに歩いてきました。
「翠星石、心配しなくていいわ。私も、ジュンとの契約は解除するわ」
そう言うと、真紅はジュンの手を取り、薔薇の指輪にそっと唇を寄せました。
指輪は一瞬光に包まれると、音も無く消えました。
「さぁ、あなたも」
真紅に促されて、翠星石もジュンの指輪に唇を合わせました。
「これで、お前達は本当に『自由』なんだよ?」
ジュンにそう言われた時、どうしてでしょう、涙が溢れてきました。
そして、翠星石とジュンの契約は終わりました。

85: 2006/12/21(木) 04:09:33.97 ID:fOTJ7Kfy0
いよいよ明日は結婚式です。
会場に薔薇を全て運び終わった店内はがらんとして、何だかとても寂しいです。
「翠星石?そろそろ時間だよ?」
気が付くと、店の入り口に蒼星石が立っていました。
「あ、もうそんな時間ですか」
簡単に身繕いをすると、蒼星石と一緒に店を出ました。
今日は、桜田家にジュン以外みんな集まる事になってました。
女の子だけで前夜祭?みたいなものです。

久し振りの、のりの料理はやっぱり最高でした。
のりは調理師になって色んな料理を考えているらしいです。
今度、料理の本を出すって聞きました。
でもやっぱり翠星石的には『花丸ハンバーグ』が一番です。
今日もボーっとしてる雛苺のを取ってやろうと思います。
パーティーも終わりに近付いて、何とはなしに真紅の方を見ました。
とても、とても幸せそうに明日の事を話しています。
「明日からは隣町の新居に移るのかしらー」
「ええ、そうよ。いつでも遊びに来て頂戴。私もジュンも歓迎するわ」
何とも言えない気持ちになって翠星石は席を立ちました。
立ち上がったついでにプレゼントに持ってきた薔薇をそのままにしてたのを思い出し、
のりに断って花瓶に活けました。
赤い、紅い薔薇の花。明日の舞台を彩る、祝福の花。
「……っ!」
左手の薬指に痛みが走り、赤い血が流れました。
棘に抜き忘れがあったみたいです。
「あらあら、翠星石ちゃん、大丈夫?」
集まる視線の中、のりが駆け寄ってきました。
「だ、大丈夫ですぅ。ちょっと手を流して来るですぅ」
翠星石はのりが持ってきた絆創膏を受け取ると、洗面所に向かいました。

86: 2006/12/21(木) 04:18:56.42 ID:fOTJ7Kfy0
「遊びになんて行けるわけないですぅ……」
呟きながらふと上を見上げると、鏡に蒼星石が映りました。
「蒼星石……」
「貸して。ボクが貼ってあげるよ」
蒼星石は翠星石から絆創膏を受け取ると、指に巻いてくれました。
「ありがとうですぅ」
「翠星石、痛む?何だか元気ないよ?」
「そんな事はないですけど……」
蒼星石は絆創膏の包み紙を丸めて、近くにあったゴミ箱に入れると、
「ちょっと、外の空気を吸いに行かない?」
翠星石は黙って頷きました。

88: 2006/12/21(木) 04:24:01.78 ID:fOTJ7Kfy0
「真紅とジュン君のことだよね?」
「え……」
いきなり核心を突いた事を言われて戸惑います。
「そ、そんな事ねぇですよ……」
蒼星石は笑顔で首を振りました。
「ダメだよ、翠星石。ボクらはお互いに隠し事なんてできない……」
そう、双子の翠星石と蒼星石は姉妹の中でも特に結び付きが強いです。
隠し事なんてしてもしょうがないってわかってたのに。
「翠星石は、ひどいやつなんですぅ……真紅はあんなに嬉しそうなのに、
 翠星石は、翠星石は素直に祝福してあげられないんですぅ……」
ぽつりと足元に涙が落ちました。
「翠星石……」
蒼星石が優しく抱きしめてきました。
「翠星石は、ジュン君の事、好き?」
翠星石は無言で頷きます。
「じゃあ、真紅の事は?嫌い?」
「そ、そんなわけねぇですよ!好きに決まってますぅ!」
思わず蒼星石の顔を見上げます。
「でも真紅はジュン君を持っていってしまうんだよ?それでも、好き?」
「蒼星石……なんでそんな意地悪言うんですか……」
蒼星石は翠星石の肩を掴むと力強く目を見ました。
「そうだよ、翠星石。君は真紅の事を嫌いになんてなれない。
 確かに、心の底ではジュン君が真紅を選んだ事を悲しんでいる。
 でも、それ以上に2人には幸せになって欲しいって思ってる。違うかい?」
翠星石は黙って首を振りました。
「だからさ、今は黙って2人を祝ってあげようよ。
 真紅の姉妹として……ジュン君の友達として……」
その言葉を聞いたとき、涙が溢れました。
蒼星石の胸に顔を押し付けて声を押し頃すのに精一杯です。
こんな風に泣くのは、いつ以来でしょうか。

89: 2006/12/21(木) 04:31:37.22 ID:fOTJ7Kfy0
結婚式当日、咲き誇る薔薇の花以上に華やかな笑顔の2人。
真っ白なウェディングドレスはジュンと金糸雀の元・マスターの手作りらしいです。
本当に器用な奴らです。
雛苺はウエディングケーキを物欲しそうに見ています。
意地汚い奴です。後で雛苺の分まで食べてやろうと思います。
のりが感極まって号泣しています。みっともない奴です。
友人代表のスピーチは蒼星石です。
なんでもそつなくこなす、自慢の妹です。

今日の真紅は、本当にきれいでした。
2人は、本当に幸せそうでした……

結婚式も終盤になり、真紅が手にしたブーケを空高く投げました。
美しいアーチを描いたそれは、先を競って奪い合っていた雛苺と金糸雀の手に弾かれて、
自然と翠星石の手の中に飛び込んできました。
「あら~、次は翠星石ちゃんの番なのねー」
後ろに立っていたのりが嬉しそうに言いました。
どう考えても、順番から行ってのりが先です。ちょっとはあせった方がいいです。
真紅とジュンはこっちを見てにっこりと微笑むと、そのまま会場の外に歩いていきました。

90: 2006/12/21(木) 04:33:13.11 ID:fOTJ7Kfy0
「さ、2人を見送りに行こうよ」
蒼星石に促されて2人の後を追いました。
本当に、幸せそうな2人です。
新婚早々、新居に遊びに行って新婚生活を邪魔してやろうと思います。
ブーケを手に、そんな事を考えていると何だか可笑しくなりました。
「どうしたの?」
突然笑い出した翠星石を怪訝そうに見る蒼星石。
何でもないですよ?

ふと左手の薬指を見ると、昔は薔薇の指輪があったその場所には
薔薇の傷を覆う可愛らしい絆創膏が巻かれていました。

<了>

91: 2006/12/21(木) 04:39:59.45 ID:fOTJ7Kfy0
自分の事を名前で呼んだり、喋り方に特徴がある人物の一人称は難しいですね。
雛苺のときは巴で強引にごまかしたけど、翠星石はどうにも……w
一人称に拘る意味も無いんですが……

相変わらず推敲しないと文章ボロボロですね。
でも何だかこの即興の書き方が楽しくなってきた今日この頃。
読んでくれた人はありがとう。

お休み!

引用: 本妻は真紅、不倫相手に水銀燈 冬の特別編