1: 2017/03/03(金) 19:09:15.686 ID:70cFPG5S00303.net
暗い夜道――

男「あーあ、予備校で自習してたらすっかり遅くなっちゃった」

男「こんな夜道は……幽霊かなんか出てきそうで怖いなぁ……」

お冷や娘「あのー……」ボァァ…

男「うわぁぁぁっ! マジで出たぁぁぁっ!」

男「お願いします! 俺、受験を控えてるんです! だから助けて……!」

お冷や娘「お冷やいかがですか?」

男「へ?」
ふらいんぐうぃっち(13) (週刊少年マガジンコミックス)

5: 2017/03/03(金) 19:12:15.121 ID:70cFPG5S00303.net
男「え、と……じゃあいただきます」

お冷や娘「どうぞ」

男「……」ゴクゴク

男「うまい! こんなおいしい水は初めてだ!」

お冷や娘「本当ですか? ありがとうございます!」

お冷や娘「よろしければ、お冷やのお代わりいかがですか?」

男「ありがとう!」

7: 2017/03/03(金) 19:15:17.476 ID:70cFPG5S00303.net
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「いや……もういいよ。五杯も飲んだし」

男「ところで、君は何者なの?」

お冷や娘「私は“お冷や娘”という妖怪なんです」

男「へぇ~、妖怪なんだ。見かけは普通の女の子なのに……」

お冷や娘「あ、あの……」

男「なに?」

お冷や娘「私、今までも色んな人にお冷やをおすすめしたんですけど、飲んでもらえなくて……」

お冷や娘「あなたみたいな人、初めてで……」

男「……」

お冷や娘「これからもあなたのためにお冷やを入れてもよろしいですか?」

男「もちろんいいとも! こんなおいしい水なら大歓迎だよ!」

お冷や娘「ありがとうございます!」

8: 2017/03/03(金) 19:17:30.437 ID:70cFPG5S00303.net
―自宅―

男(○○大学目指して、勉強、勉強っと……)カリカリカリカリ…

男「ノドが渇いたなぁ……」

お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「おっ、ありがとう! 喜んでいただくよ!」

男「……」ゴクゴク

男「よーっし、勉強再開だ!」

男(この子の入れてくれた水を飲むと、頭がスカッと冴えるんだよな~)

13: 2017/03/03(金) 19:20:13.834 ID:70cFPG5S00303.net
―予備校―

男「やったー! 模試の成績がグンとアップした!」

お冷や娘「おめでとうございます!」

男「これも君のお冷やのおかげかもしれないな」

お冷や娘「でしたら……お冷やのお代わりいかがですか?」

男「もちろんいただくよ!」

男「……」ゴクゴク

男「よーっし、受験本番まで残りわずか! 水を飲んでラストスパートだ!」

14: 2017/03/03(金) 19:23:18.805 ID:70cFPG5S00303.net
試験当日――

―受験会場―

男「ううう~……緊張してきた……」

男(まずいな……こんなんじゃ実力の半分も出せるかどうか……)

男(あの子のお冷やが飲みたい……)

お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「さすが妖怪! こんなところまでついてくるなんて!」

男「いただきます!」ゴクゴク

15: 2017/03/03(金) 19:26:09.865 ID:70cFPG5S00303.net
――

男「303番、303番……あった! あったぞ!」

男「やったーっ! 志望校に合格した!」

お冷や娘「やりましたね!」

男「うん……長年の苦労が報われたよ!」

お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「いただきます!」ゴクゴク

男「ぷはーっ、うまい! よーし大学生活をエンジョイしてやるぜ!」

16: 2017/03/03(金) 19:30:32.670 ID:70cFPG5S00303.net
―大学―

学生A「おーい!」

男「ん?」

学生A「今日、飲み行こうぜ!」

男「え、でも、こないだ飲み会やったばかりじゃん」

学生B「可愛い女の子もいっぱいくんのよ~」

男「マジ? なら行く行く!」

男(大学入ってからは、酒飲んでばかりでお冷やあまり飲まなくなったな……)

18: 2017/03/03(金) 19:33:42.660 ID:70cFPG5S00303.net
―居酒屋―

カンパーイッ!!!


学生A「ウェーイ!」

学生B「ウェ~~~イ!」

女子大生「キャハハ、やだぁ~!」

男「ウェイウェイウェ~イ!」グビグビッ

男(楽しいぃ~! 毎日、飲んで酔っ払ってドンチャン騒ぎ! 大学生ってのはこうでなくちゃ!)

19: 2017/03/03(金) 19:36:41.378 ID:70cFPG5S00303.net
お冷や娘「あの……」

男「うわ、ビックリした! いきなり出てくんなよ!」

お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「お冷やぁ~?」

男「いやいらないよ……。酒飲んでるし、いい感じに酔ってるし」

お冷や娘「そう……ですか」

男(こんなにノリにノッてるのに、水なんか飲んだら文字通り水差されちまうよ)

21: 2017/03/03(金) 19:39:32.945 ID:70cFPG5S00303.net
学生A「あれ? 今、そこに女の子がいなかったか?」

学生B「ああオレもたしかに見えた」

男「!」

男「え、あ……気のせいだろ? さ、つまらんことは気にせず、ガンガン飲もうぜ!」

男「イッキイッキ!」

男「ウェイウェイウェ~~~~~~~~~イ!!!」

ウェーイッ!!!

22: 2017/03/03(金) 19:43:06.225 ID:70cFPG5S00303.net
男(あー……すっかり酔っ払っちまったな……いい気分だ……)ヒック…

男(これで、女の子と知り合えれば最高なんだけど……)

女子大生「ねえねえ」

男「……ん?」

女子大生「あたし、なんだか酔っちゃったかな~なんて……」ヨロッ…

男(おいおいマジかよ! お持ち帰りチャ~ンス!)

男「じゃさじゃさ、俺この近くでアパート借りてるから、そこ行こうよ!」

女子大生「いいけど、変なことしないでよ?」

男「しないしない!(するする!)」

24: 2017/03/03(金) 19:47:05.185 ID:70cFPG5S00303.net
―アパート―

男「ささ、どうぞどうぞ! 上がって上がって!」

女子大生「へ~、結構キレイにしてるんだね」

男「もちろん!」

男「ほら、布団もバッチリ……」

女子大生「ほぉら~、やっぱり下心あるんじゃない~」

男「ハハ、まぁね……」

女子大生「でも、とりあえずまずは水を飲みたいなぁ~」

男「ああ、水ね、うんうん。ちょっと待っててね、すぐ持ってくるから」

男(水を飲ませたら……やったるでぇ!)

25: 2017/03/03(金) 19:49:01.559 ID:70cFPG5S00303.net
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」




男「!?」

女子大生「!?」

26: 2017/03/03(金) 19:53:04.504 ID:70cFPG5S00303.net
男(ちょっ……なんで今出てくんだよ……!)

男「いらない! いらないから! さ、早く消えろ!」

お冷や娘「ええっ……でも……その女の人、お冷やを……」

男「いいから消えろ!」

女子大生「……」

女子大生「ちょっとぉ、今の子なんなの?」

男「あ、いや、親戚の子で……」

女子大生「そんな子が来てるなら、最初に言ってよ! あ~あ、もうすっかり冷めちゃった」

女子大生「あたし帰るね」バタンッ

男「……」

男(ふざけやがって~……!)ギリッ…

27: 2017/03/03(金) 19:55:43.335 ID:70cFPG5S00303.net
やがて――

―アパート―

男「よしっ! いよいよ就職活動だ!」

男「スーツよし、ネクタイよし、ヘアスタイルよし、バッグよし!」ビシッ

男「面接にしゅっぱーつ!」

男(絶対一流企業に入社してやるぞ……!)

28: 2017/03/03(金) 19:58:26.295 ID:70cFPG5S00303.net
―面接会場―

面接官「それではまず……志望動機をお答え下さい」

男「は、はいっ!」

男「えぇ~と、私は、私は御社の……えぇ~と……あの、その……」

男「なんと申しますか……その……隠蔽体質が素晴らしいと思いまして……」

男(まずい……うまく声が出せない……!)

面接官「落ち着いて、ゆっくり話して下さい」

男「すみません、緊張してノドが……」

29: 2017/03/03(金) 20:02:32.350 ID:70cFPG5S00303.net
お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「うわっ!?」

面接官「え!?」

男「いらねえよ!」

お冷や娘「ひっ!」

男「なんでこんな大事な場面で出てくんだよ! 空気読めよなぁ~!」

お冷や娘「ご、ごめんなさい……」

面接官「あの……私はいただこうかな」

お冷や娘「はいっ!」

男「……」イライラ…

男(あ~もう落ちたよ、この面接! こいつのせいで!)

30: 2017/03/03(金) 20:06:13.286 ID:70cFPG5S00303.net
―アパート―

男「……」

お冷や娘「あの……今日はごめんなさい……」

お冷や娘「今度からは出てくるタイミングに気をつけますから……」

男「……出てけよ」

お冷や娘「え」

男「俺ももういい大人だ! もうお冷やなんていらねーんだよ!」

男「酒を飲みたいし、コーヒー飲みたいし、紅茶飲みたいし、緑茶飲みたいんだよ!」

男「バイトだってやってるし、就職するし、水が飲みたきゃ自分でミネラルウォーター買うわ!」

男「もうお前なんかいらねえんだよ!」

男「――出てけっ!!!」

33: 2017/03/03(金) 20:10:25.688 ID:70cFPG5S00303.net
お冷や娘「分かりました……出ていきます……」

お冷や娘「失礼します……」フッ…



男「……」

男(これでよかったんだ……)

男(俺だってもう社会人になるんだ……)

男(いつまでもあいつにつきまとわれたんじゃ、たまったもんじゃないからな)

34: 2017/03/03(金) 20:13:33.425 ID:70cFPG5S00303.net
―会社―

プルルル…

男「お電話ありがとうございます、××株式会社です」

男「はい……はいっ……! あ、すみません、すぐ確認します!」

男「はいっ、すみませんでした……」ガチャッ

男「あ~……毎日忙しい。水分補給するヒマもねーや」

男「おーい、お冷や!」



男(……って、あいつはもういないんだった……)

35: 2017/03/03(金) 20:16:55.203 ID:70cFPG5S00303.net
男「あのー、OLさん」

OL「なに?」

男「お茶を入れてくれたら、嬉しいなぁ~……なんて……」

OL「ハァ? 女子社員をお茶くみ係扱いするなんてサイテー!」

OL「セクハラよ、セクハラ! 訴えてやる! 社会的に抹頃してやる!」

男「ひっ、すみません! 訴えないで下さい!」



男「……はぁ」

男(なんつうか、あいつがいなくなってから、調子悪くなったような気がする……)

37: 2017/03/03(金) 20:20:17.854 ID:70cFPG5S00303.net
課長「君ィ!」

男「は、はいっ!」

課長「なにをやっとるんだ!」

課長「こんな初歩的なミスをしでかすなんて! 損害は1000万を超えるぞ!」

男「申し訳ありません! 申し訳ありません!」ペコペコ

課長「謝って済む問題じゃないだろう!」

男(あぁ~……俺としたことが、なんでこんな凡ミスを……!)

男(頭を落ち着かせるためにお冷やを飲みたい……でも、あいつはもういない……!)

39: 2017/03/03(金) 20:23:23.212 ID:70cFPG5S00303.net
そして――

男「お話しとはなんでしょう、課長」

課長「うむ、君のサハラ砂漠支社への転勤が決定した」

課長「頑張ってくれたまえ」

男「!」ガーン

男(サハラ砂漠支社勤務っていったら、左遷中の左遷だ……流刑みたいなもんだ……)

男(終わったな……俺の人生)

42: 2017/03/03(金) 20:27:41.538 ID:70cFPG5S00303.net
―サハラ支社―

男(辞めることもできず、本当に来ちゃったよ、サハラ砂漠……)

サハラ課長「この書類をオアシスにある取引先まで届けてくれたまエ!」

男「は、はい……」

男「あのー、オアシスってどうやって行けばいいんですか?」

サハラ課長「ここから西へ500kmほどダ」

男「500km!?」

男「ここには営業車も電車もありませんし……まさか……徒歩で?」

サハラ課長「ラクダがあるヨ」

男(マジかよ……)

45: 2017/03/03(金) 20:32:12.958 ID:70cFPG5S00303.net
―サハラ砂漠―

ラクダ「……」ポッコポッコ

男「ハァ、ハァ、ハァ……」

男(見渡す限りの砂、砂、砂……)

男(いったいどこまで続くんだ、この砂漠は……)

男(しかも昼はクソ暑いし、夜はクソ寒いし、空気は乾いてるし……生き地獄とはこのことだな……)

男「……」グビグビ…

男(やべえ、水もうなくなっちまった……ペース配分ミスった)

男(今日中にオアシスにたどり着かないと……氏んじまう……!)

46: 2017/03/03(金) 20:35:53.424 ID:70cFPG5S00303.net
男「ハァ、ハァ、ハァ……」

男「ううっ……」ドサッ…

ラクダ「……」

男「ラクダ、助けて……」

ラクダ「お前がいない方が楽だ」ポッコポッコ

男「そんな……見捨てないで……!」

ポッコポッコ…

男「あああ……!」ガクッ

51: 2017/03/03(金) 20:40:10.951 ID:70cFPG5S00303.net
男(もう……体が、動かない……)

男(体がみるみるうちに干からびていく……)

男(俺はここで氏んでミイラになるのか……)

男(ノド渇いた……水飲みたい……)

男(日本にいる時は、水がこんなに大切なものだなんて分からなかった……)

男(水が……お冷やが……飲みたいよぉ……!)

53: 2017/03/03(金) 20:42:30.320 ID:70cFPG5S00303.net
「お冷やのお代わりいかがですか?」





男「……え!?」

54: 2017/03/03(金) 20:46:30.674 ID:70cFPG5S00303.net
お冷や娘「なんていってる場合じゃありませんね」

お冷や娘「さ、飲んで下さい! ムリヤリ飲ませますよ!」グイッ

男「……」ゴクゴク

男「っぷはっ! あ、ありがとう! 生き返ったよ!」

お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「もちろんいただくよ!」

ゴクゴク…

男「うまい! もう一杯!」

お冷や娘「喜んで!」

57: 2017/03/03(金) 20:49:11.950 ID:70cFPG5S00303.net
男「ありがとう……助かった……。おかげで、生きてオアシスまでたどり着けそうだ……」

お冷や娘「いえいえ」

男「でも、どうして……!? どうして戻ってきたんだ!? 俺はあんなひどいこといったのに……」

お冷や娘「ひどいことって……私があなたの邪魔をしたのは事実ですし」

お冷や娘「それに……あなたが私のお冷やを必要とすれば、どこへでも駆けつけますよ!」

お冷や娘「たとえ火の中水の中、砂漠の中!」

男「うっ……」グスッ…

60: 2017/03/03(金) 20:53:39.229 ID:70cFPG5S00303.net
男「ごめんよ!」ギュッ…

お冷や娘「あっ……」ポッ…

男「あんなひどいこといって、本当にごめん!」

男「だけど、もし許してくれるなら……まだ俺にお冷やを入れてくれるっていうなら……」

男「これからずっと……一生……俺にお冷やを入れてくれ! ――俺のために!」

お冷や娘「……!」

お冷や娘「……はいっ」


――――

――

62: 2017/03/03(金) 20:57:07.983 ID:70cFPG5S00303.net
―サハラ支社―

サハラ課長「おーい、この書類仕上げてくレ!」

男「分かりました!」

サハラ課長「いやー、このところ君の仕事ぶりはめざましいネ」

サハラ課長「この調子なら、日本の本社に帰れる日も近いだロウ」

男「いやー、俺はこのままサハラ砂漠に骨をうずめてもいいですけどね」

男「砂漠生活もすっかり気に入っちゃいましたし」

サハラ課長「ハハハ……お世辞でもそういってもらえると嬉しいヨ」

64: 2017/03/03(金) 21:00:32.686 ID:70cFPG5S00303.net
男「しっかし、今日も暑いな~、サハラ砂漠は」

男「俺も砂漠にだいぶ適応してきたけど、ノドが渇いてきちゃった」

男「ってわけで……」

お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」

男「ありがとう!」





―おわり―

66: 2017/03/03(金) 21:02:26.623 ID:dpAIPs4l00303.net

67: 2017/03/03(金) 21:02:53.235 ID:5fpqtdV0r0303.net
終わってたのか乙

引用: お冷や娘「お冷やのお代わりいかがですか?」男「ありがとう!」