241: 2010/08/18(水) 11:32:38.99 ID:Y9zNDNHUO
242: 2010/08/18(水) 11:35:03.17 ID:Y9zNDNHUO
オカルト研の部室のドアは意外にもシンプルで、装飾も何も無い。
内装の禍々しさとは正反対だ。
そのドアの前に、私と和ちゃんが2人で立っている。
「……唯、そろそろ説明してもらえるかしら?
どうして私が、オカルト研の部室に連れて来られたのか」
和ちゃんはいつもの調子で、淡々と私に疑問をぶつけてきた。
だから私もいつもの調子で、それに答える。
「だって和ちゃん、呪いなんて暗示にかかっただけだ、って言ったでしょ。
だから、呪いは本物だって信じてもらうために連れて来ました!」
「どうやって私に信じさせるつもり?」
「実際に和ちゃんが呪われるんだよ」
「……はぁ?」
呆れた表情と声。これも、いつも通りの和ちゃんだ。
「澪ちゃんも最初は疑ってたけど、自分が呪われたら信じるようになったんだよ」
「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」
決め台詞を残して、和ちゃんは向こうへ歩き出した。
内装の禍々しさとは正反対だ。
そのドアの前に、私と和ちゃんが2人で立っている。
「……唯、そろそろ説明してもらえるかしら?
どうして私が、オカルト研の部室に連れて来られたのか」
和ちゃんはいつもの調子で、淡々と私に疑問をぶつけてきた。
だから私もいつもの調子で、それに答える。
「だって和ちゃん、呪いなんて暗示にかかっただけだ、って言ったでしょ。
だから、呪いは本物だって信じてもらうために連れて来ました!」
「どうやって私に信じさせるつもり?」
「実際に和ちゃんが呪われるんだよ」
「……はぁ?」
呆れた表情と声。これも、いつも通りの和ちゃんだ。
「澪ちゃんも最初は疑ってたけど、自分が呪われたら信じるようになったんだよ」
「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」
決め台詞を残して、和ちゃんは向こうへ歩き出した。
245: 2010/08/18(水) 11:40:31.00 ID:Y9zNDNHUO
「逃がさないよ!」
「……もう、離してよ」
「実は和ちゃん、呪われるって聞いて怖くなった?」
和ちゃんに抱きついて、その歩みを止めて、単刀直入に聞いてみる。
ちょっと今、私の顔はニヤけてるかも。
だって、たぶん、これは和ちゃんの本音だと思うんだ。
「……そんな訳、ないでしょ」
「じゃあ別に構わないよね。和ちゃんは呪いなんて信じてないんだし」
「霊的な力の存在を認めない、って言ってるだけよ」
あれっ、なんか期待してたリアクションと違うような?
本心を言い当てられて、焦っちゃう和ちゃんが見られると思ったのに。
すごく冷静というか、冷酷な態度でビックリしちゃうよ。
「だからって、誰かが私への悪意をもって儀式を執り行うのは、不愉快でしょ。
そんな儀式を目の前で見せられて、笑って許せるほど大人じゃないわ」
「うぅ……」
「もう私、本当に行くからね。用事もあるし」
「……もう、離してよ」
「実は和ちゃん、呪われるって聞いて怖くなった?」
和ちゃんに抱きついて、その歩みを止めて、単刀直入に聞いてみる。
ちょっと今、私の顔はニヤけてるかも。
だって、たぶん、これは和ちゃんの本音だと思うんだ。
「……そんな訳、ないでしょ」
「じゃあ別に構わないよね。和ちゃんは呪いなんて信じてないんだし」
「霊的な力の存在を認めない、って言ってるだけよ」
あれっ、なんか期待してたリアクションと違うような?
本心を言い当てられて、焦っちゃう和ちゃんが見られると思ったのに。
すごく冷静というか、冷酷な態度でビックリしちゃうよ。
「だからって、誰かが私への悪意をもって儀式を執り行うのは、不愉快でしょ。
そんな儀式を目の前で見せられて、笑って許せるほど大人じゃないわ」
「うぅ……」
「もう私、本当に行くからね。用事もあるし」
249: 2010/08/18(水) 11:44:03.87 ID:Y9zNDNHUO
再びこの場を去ろうとする和ちゃんに、思わず大声で呼び掛けてしまった。
今、焦っているのは、私の方だ。
「の、和ちゃん!
本人がいなくても呪いはかけられるんだよ!」
「……どういう意味よ?」
「和ちゃんの髪の毛、こっそり取っちゃったからね!」
おかしいな、こんな言い方する筈じゃなかったのに。
確かに、念のため、と思って和ちゃんの髪の毛は事前調達しておいた。
けど、こんな脅すような使い方をするためじゃなかった筈だよね。
どうしよう、売り言葉に買い言葉で、思ってもない事が口から出ちゃう。
「……それがあれば、私に呪いをかけられる、って言いたいのね」
「そうだよ!」
「ちょっと理解できないわね。私、そこまで唯に恨まれるような事をしたかな」
「違う、違うよ、そうじゃなくて!」
「わかってる? 今、私、すごく怒ってるのよ」
あっ、なるほど。
空気が凍るって、こういう事を言うんだ。
今、焦っているのは、私の方だ。
「の、和ちゃん!
本人がいなくても呪いはかけられるんだよ!」
「……どういう意味よ?」
「和ちゃんの髪の毛、こっそり取っちゃったからね!」
おかしいな、こんな言い方する筈じゃなかったのに。
確かに、念のため、と思って和ちゃんの髪の毛は事前調達しておいた。
けど、こんな脅すような使い方をするためじゃなかった筈だよね。
どうしよう、売り言葉に買い言葉で、思ってもない事が口から出ちゃう。
「……それがあれば、私に呪いをかけられる、って言いたいのね」
「そうだよ!」
「ちょっと理解できないわね。私、そこまで唯に恨まれるような事をしたかな」
「違う、違うよ、そうじゃなくて!」
「わかってる? 今、私、すごく怒ってるのよ」
あっ、なるほど。
空気が凍るって、こういう事を言うんだ。
251: 2010/08/18(水) 11:48:34.93 ID:Y9zNDNHUO
どうしてこんな事になっちゃったのかな。
和ちゃんは結局、怒って生徒会に行っちゃうし。
オカルト研の部室前で、1人で立ち尽くしていると、ドアが開いた。
「……ごめんなさい、中から話を聞いていた」
「真鍋和は行ってしまったようだけど、どうする?」
出てきたのは、例の怪しい衣装ではなく、制服を着たオカルト研の2人。
今は昼休みだから、制服を着ているのは当たり前なんだけどね。
「もう知らないよ、和ちゃんなんて」
怒りとか、悲しみとか、色々グチャグチャの感情が、そのまま言葉になった。
そして気が付けば私は、恐ろしい事を口に出していた。
「和ちゃんなんか、呪われちゃえばいいんだ!」
「……本当にいいの?」
「いいよ、呪いをかけちゃって!
軽い呪いじゃなくてもいいよ、和ちゃんはどうせ信じないんだから!」
和ちゃんは結局、怒って生徒会に行っちゃうし。
オカルト研の部室前で、1人で立ち尽くしていると、ドアが開いた。
「……ごめんなさい、中から話を聞いていた」
「真鍋和は行ってしまったようだけど、どうする?」
出てきたのは、例の怪しい衣装ではなく、制服を着たオカルト研の2人。
今は昼休みだから、制服を着ているのは当たり前なんだけどね。
「もう知らないよ、和ちゃんなんて」
怒りとか、悲しみとか、色々グチャグチャの感情が、そのまま言葉になった。
そして気が付けば私は、恐ろしい事を口に出していた。
「和ちゃんなんか、呪われちゃえばいいんだ!」
「……本当にいいの?」
「いいよ、呪いをかけちゃって!
軽い呪いじゃなくてもいいよ、和ちゃんはどうせ信じないんだから!」
252: 2010/08/18(水) 11:52:20.86 ID:Y9zNDNHUO
元々の計画では、こうなる筈だった。
1. 和ちゃんをオカルト研に連れて来て「呪いをかける」と伝える
2. 拒否したら「それなら呪いが存在する事を認めて」と迫る
3. 認めなければ、一番軽い呪いをかけて、認めざるを得なくする
そもそも、なんでこんな計画を立てたのか。
呪いで苦しんでる澪ちゃんに、和ちゃんは「そんなの思い込みよ」と言った。
なんだか、すごく澪ちゃんに対して失礼だと思った。
だから、和ちゃんに、呪いが存在する事を信じてほしかった。
それだけ、たったそれだけの話だったんだよ。
別に和ちゃんを苦しめたいとか、和ちゃんが嫌いだとか、そんな訳ないじゃん。
「終わった。真鍋和には『囚われのロキ』という呪いがかけられた」
「言霊によって、真鍋和は拷問の痛みに身体を苛まれる」
「鍵となる言霊は……」
色々な事を考えているうちに、儀式は終わっていた。
オカルト研の2人の説明を、私は半ば放心状態で聞いていた。
1. 和ちゃんをオカルト研に連れて来て「呪いをかける」と伝える
2. 拒否したら「それなら呪いが存在する事を認めて」と迫る
3. 認めなければ、一番軽い呪いをかけて、認めざるを得なくする
そもそも、なんでこんな計画を立てたのか。
呪いで苦しんでる澪ちゃんに、和ちゃんは「そんなの思い込みよ」と言った。
なんだか、すごく澪ちゃんに対して失礼だと思った。
だから、和ちゃんに、呪いが存在する事を信じてほしかった。
それだけ、たったそれだけの話だったんだよ。
別に和ちゃんを苦しめたいとか、和ちゃんが嫌いだとか、そんな訳ないじゃん。
「終わった。真鍋和には『囚われのロキ』という呪いがかけられた」
「言霊によって、真鍋和は拷問の痛みに身体を苛まれる」
「鍵となる言霊は……」
色々な事を考えているうちに、儀式は終わっていた。
オカルト研の2人の説明を、私は半ば放心状態で聞いていた。
256: 2010/08/18(水) 11:57:10.56 ID:Y9zNDNHUO
「失礼します」
「はい、……なんだ、唯じゃない」
ちゃんとドアをノックしてから、生徒会室に入る。
この時期の生徒会室にはあまり人がいないから、和ちゃんが1人でいる事が多い。
特に、昼休みにわざわざこの部屋に来るのは、和ちゃんくらいだ。
「何よ、謝りに来たの?」
「謝るのは和ちゃんの方だよ」
私はもう、完全に意固地になっていた。
「澪ちゃんやりっちゃんが苦しんでるのに、そんなの思い込みだって……。
そんな事を言う和ちゃんには、呪いをかけちゃったからね!
自分の身体で、思い知ればいいんだよ!」
涙目で、大声で、私は言霊を叫ぶ。
「ブーリブリチャカ、ビガッビガッ!!
ブーリブリチャカ、ビガッビガッ!!」
「はい、……なんだ、唯じゃない」
ちゃんとドアをノックしてから、生徒会室に入る。
この時期の生徒会室にはあまり人がいないから、和ちゃんが1人でいる事が多い。
特に、昼休みにわざわざこの部屋に来るのは、和ちゃんくらいだ。
「何よ、謝りに来たの?」
「謝るのは和ちゃんの方だよ」
私はもう、完全に意固地になっていた。
「澪ちゃんやりっちゃんが苦しんでるのに、そんなの思い込みだって……。
そんな事を言う和ちゃんには、呪いをかけちゃったからね!
自分の身体で、思い知ればいいんだよ!」
涙目で、大声で、私は言霊を叫ぶ。
「ブーリブリチャカ、ビガッビガッ!!
ブーリブリチャカ、ビガッビガッ!!」
258: 2010/08/18(水) 12:01:39.93 ID:Y9zNDNHUO
その瞬間、和ちゃんの身体が、ビクンと跳ねた。
少し遅れて、生徒会室に悲鳴が轟いた。
「きゃああああっっ!?」
悲痛な叫びに驚いて、私は我に返った。
和ちゃんは椅子から転げ落ちて、床にうずくまっている。
動作は、肩で大きく息をするばかりで、立ち上がる気配すら見せない。
「の、和ちゃん!?」
「……い、痛いよぉ」
絞り出すような声で、和ちゃんが呟いた。
真っ赤な顔で、涙をポロポロと流している。
こんな和ちゃん、見た事がない。
いつもしっかり者で、毅然とした態度の和ちゃんが、こんな……。
ようやく私は、自分が犯した過ちに気付いた。
『囚われのロキ』の効果は、茨のムチに叩かれる痛み。
お尻を叩かれなきゃいけないのは、和ちゃんじゃない。
悪い子は、私だ。平沢唯だ。
少し遅れて、生徒会室に悲鳴が轟いた。
「きゃああああっっ!?」
悲痛な叫びに驚いて、私は我に返った。
和ちゃんは椅子から転げ落ちて、床にうずくまっている。
動作は、肩で大きく息をするばかりで、立ち上がる気配すら見せない。
「の、和ちゃん!?」
「……い、痛いよぉ」
絞り出すような声で、和ちゃんが呟いた。
真っ赤な顔で、涙をポロポロと流している。
こんな和ちゃん、見た事がない。
いつもしっかり者で、毅然とした態度の和ちゃんが、こんな……。
ようやく私は、自分が犯した過ちに気付いた。
『囚われのロキ』の効果は、茨のムチに叩かれる痛み。
お尻を叩かれなきゃいけないのは、和ちゃんじゃない。
悪い子は、私だ。平沢唯だ。
263: 2010/08/18(水) 12:06:50.21 ID:Y9zNDNHUO
午後の授業に、和ちゃんの姿は無かった。
とてもそんな状態ではないと判断して、私が保健室に連れて行った。
たまたま保健の先生がいなかったけど、ベッドだけは使わせてもらえた。
2時間くらい安静にしていれば、きっと快復する。……するよね?
キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン
放課後になった。
近くにいたムギちゃんに、一言だけ伝えて、私は教室を飛び出す。
「ごめん、今日は遅くなるよ。もしかしたら部活に行けないかも!」
……もちろん、向かう先は保健室だ。
ドアに掛けられたホワイトボードには「本日、保険医不在」の文字。
もしかしたら和ちゃんは、眠っているかもしれない。
そっとドアノブを握って、静かにドアを開けた。
「失礼します……」
途端に、悲鳴のような、和ちゃんの声が聞こえてきた。
「あぁっ、はぁっ、はぁっ……」
まだ痛いんだ。まだ苦しいんだ。
私の心は罪悪感でいっぱいになった。
とてもそんな状態ではないと判断して、私が保健室に連れて行った。
たまたま保健の先生がいなかったけど、ベッドだけは使わせてもらえた。
2時間くらい安静にしていれば、きっと快復する。……するよね?
キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン
放課後になった。
近くにいたムギちゃんに、一言だけ伝えて、私は教室を飛び出す。
「ごめん、今日は遅くなるよ。もしかしたら部活に行けないかも!」
……もちろん、向かう先は保健室だ。
ドアに掛けられたホワイトボードには「本日、保険医不在」の文字。
もしかしたら和ちゃんは、眠っているかもしれない。
そっとドアノブを握って、静かにドアを開けた。
「失礼します……」
途端に、悲鳴のような、和ちゃんの声が聞こえてきた。
「あぁっ、はぁっ、はぁっ……」
まだ痛いんだ。まだ苦しいんだ。
私の心は罪悪感でいっぱいになった。
265: 2010/08/18(水) 12:10:03.74 ID:Y9zNDNHUO
静かに、静かに、和ちゃんのベッドに近づいた。
吐息の多く混じった声が、断続的に聞こえる。
でも、次の瞬間、私は自分の耳を疑った。
「もう一回、だけ……
ブーリブリチャカ、ビガッビガッ……」
えっ、ダメだよ、その言霊を唱えたら……
「あふぁっ、あふぁっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
なんで、なんで自分から言霊を?
和ちゃんは誰に謝ってるの?
訳がわからないまま立ち尽くしていると、寝返りをうった和ちゃんと目があった。
「はぁっ、はぁっ、えっ、ゆっ、唯!?」
息を荒くした和ちゃんは、恋する乙女のようなトロンとした目で、私の顔を見た。
私は何も言えないまま、妙に色っぽい和ちゃんの寝姿を眺めていた。
「ちがっ、これは、違うの、その、えーと……」
慌てて何か言おうとして、和ちゃんはしどろもどろになった。
……と思ったら、急にため息をついて、ムクッと起き上がった。
「はぁっ、誤魔化そうと思っても無駄ね。バッチリ見られちゃってるし。
ねぇ、唯。正直に話すから、私の事を軽蔑しないでね?」
吐息の多く混じった声が、断続的に聞こえる。
でも、次の瞬間、私は自分の耳を疑った。
「もう一回、だけ……
ブーリブリチャカ、ビガッビガッ……」
えっ、ダメだよ、その言霊を唱えたら……
「あふぁっ、あふぁっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
なんで、なんで自分から言霊を?
和ちゃんは誰に謝ってるの?
訳がわからないまま立ち尽くしていると、寝返りをうった和ちゃんと目があった。
「はぁっ、はぁっ、えっ、ゆっ、唯!?」
息を荒くした和ちゃんは、恋する乙女のようなトロンとした目で、私の顔を見た。
私は何も言えないまま、妙に色っぽい和ちゃんの寝姿を眺めていた。
「ちがっ、これは、違うの、その、えーと……」
慌てて何か言おうとして、和ちゃんはしどろもどろになった。
……と思ったら、急にため息をついて、ムクッと起き上がった。
「はぁっ、誤魔化そうと思っても無駄ね。バッチリ見られちゃってるし。
ねぇ、唯。正直に話すから、私の事を軽蔑しないでね?」
271: 2010/08/18(水) 12:16:49.37 ID:Y9zNDNHUO
私は黙って、和ちゃんの告白を聞く事にした。
どんな話を聞いたって、私が和ちゃんを軽蔑なんかする訳ない。
「ずっと秘密にしてたんだけどね、私はマゾヒストなのよ。
あっ、マゾヒストって意味、わかるかしら?」
うん、言葉の意味は知ってるよ。
だけど、和ちゃんの言ってる意味が全然わからないよ。
「特定のパートナーがなかなか見つからないから、
ずっと自分で自分を虐めてたんだけど、物足りなくてね。
特にムチ打ちなんて、自分の身体に当てるのは難しいから」
なんか吹っ切れた様子で色々語ってくれるのはいいんだけど、
聞く方にも少しは心の準備をさせてくれないかな?
こう見えて、結構ショックを受けてるんだよ、私。
「でも呪いをかけられて、言霊を唱えれば痛みを感じられるようになった。
しかも外傷が残らないから、後処理の必要も無い。
最初こそ驚いたけど、そう気付いたら嬉しくなっちゃってね。
保健室で何十回も、セルフスパンキングしちゃった。ふふっ」
こんな和ちゃんの素顔、知りたくなかったなぁ。
スパンキングって言葉は意味がわからないけど、
出来れば知らないままでいた方が、いいような気がするよ……。
どんな話を聞いたって、私が和ちゃんを軽蔑なんかする訳ない。
「ずっと秘密にしてたんだけどね、私はマゾヒストなのよ。
あっ、マゾヒストって意味、わかるかしら?」
うん、言葉の意味は知ってるよ。
だけど、和ちゃんの言ってる意味が全然わからないよ。
「特定のパートナーがなかなか見つからないから、
ずっと自分で自分を虐めてたんだけど、物足りなくてね。
特にムチ打ちなんて、自分の身体に当てるのは難しいから」
なんか吹っ切れた様子で色々語ってくれるのはいいんだけど、
聞く方にも少しは心の準備をさせてくれないかな?
こう見えて、結構ショックを受けてるんだよ、私。
「でも呪いをかけられて、言霊を唱えれば痛みを感じられるようになった。
しかも外傷が残らないから、後処理の必要も無い。
最初こそ驚いたけど、そう気付いたら嬉しくなっちゃってね。
保健室で何十回も、セルフスパンキングしちゃった。ふふっ」
こんな和ちゃんの素顔、知りたくなかったなぁ。
スパンキングって言葉は意味がわからないけど、
出来れば知らないままでいた方が、いいような気がするよ……。
273: 2010/08/18(水) 12:21:15.51 ID:Y9zNDNHUO
「そうだ、唯。ひとつ謝らせてもらうわ」
「えっ、何を?」
「呪いは確かに実在するのね。疑って悪かったわ。
この身体で体感してみるまで、イメージだけで語っていた自分が恥ずかしいわ。
澪や律も、素敵な呪い体験ができて良かったわね」
そう言って和ちゃんは、ニッコリと笑った。
私も笑顔で返そうとしたけど、絶対に引きつってるよね、これ。
「わ、私こそ、ごめんね。和ちゃんの気持ちを考えないで、勝手に呪いをかけちゃって」
「唯は謝る必要なんて無いわ。
だって私、呪われて、むしろ感謝してるもの!」
えーっと、今回の目的は、和ちゃんに呪いが存在する事を認めさせる。
だから目的は達成。……達成でいいのかな、本当に?
最初の計画と、だいぶ違う結末を迎えたような気がするけど……。
あー、もういいや。これでOKって事にします!
おわり?
「えっ、何を?」
「呪いは確かに実在するのね。疑って悪かったわ。
この身体で体感してみるまで、イメージだけで語っていた自分が恥ずかしいわ。
澪や律も、素敵な呪い体験ができて良かったわね」
そう言って和ちゃんは、ニッコリと笑った。
私も笑顔で返そうとしたけど、絶対に引きつってるよね、これ。
「わ、私こそ、ごめんね。和ちゃんの気持ちを考えないで、勝手に呪いをかけちゃって」
「唯は謝る必要なんて無いわ。
だって私、呪われて、むしろ感謝してるもの!」
えーっと、今回の目的は、和ちゃんに呪いが存在する事を認めさせる。
だから目的は達成。……達成でいいのかな、本当に?
最初の計画と、だいぶ違う結末を迎えたような気がするけど……。
あー、もういいや。これでOKって事にします!
おわり?
274: 2010/08/18(水) 12:24:07.56 ID:Y9zNDNHUO
番外編その2は、夕方以降だよ!
>>264
同じ人です
本編は台本形式、番外編は地の文形式でお送りします
>>264
同じ人です
本編は台本形式、番外編は地の文形式でお送りします
301: 2010/08/18(水) 18:53:07.49 ID:Y9zNDNHUO
やべっ、もうこんな時間だ…
…
という訳で番外編その2、前半だけですがどうぞ
…
という訳で番外編その2、前半だけですがどうぞ
302: 2010/08/18(水) 18:54:54.50 ID:Y9zNDNHUO
真っ白なテーブルクロスの上に、幾つもの綺麗な皿が並んでいる。
もちろん皿だけじゃなくて、料理も美味しいものばかり。
私がグラスを空けると、メイドがすぐにフレッシュジュースを注ぎに来た。
「お父様、お仕事の調子はどう?
最近、海外に出掛けられる事も少なくなったわね」
「若手の部下が育ってきたから、仕事を任せられるようになったのさ。
紬も近い将来、その一員として活躍してもらわないとな」
お父様はそう言って、ワインを飲み干した。
間髪入れずにメイドがボトルを持って来たが、それを柔らかく断る。
メイドは頭を下げて、元の場所へ戻っていった。
私のお父様は、琴吹グループの実質的な最高責任者だ。
その一人娘である私には、後継者としての役割が期待されている。
とはいえ、能力の無い者に世襲を認めるほど、世間は甘くない。
一日も早く、琴吹グループのトップにふさわしい人物となるために、
私には普通の高校生よりも高いハードルが設定されている。
もちろん皿だけじゃなくて、料理も美味しいものばかり。
私がグラスを空けると、メイドがすぐにフレッシュジュースを注ぎに来た。
「お父様、お仕事の調子はどう?
最近、海外に出掛けられる事も少なくなったわね」
「若手の部下が育ってきたから、仕事を任せられるようになったのさ。
紬も近い将来、その一員として活躍してもらわないとな」
お父様はそう言って、ワインを飲み干した。
間髪入れずにメイドがボトルを持って来たが、それを柔らかく断る。
メイドは頭を下げて、元の場所へ戻っていった。
私のお父様は、琴吹グループの実質的な最高責任者だ。
その一人娘である私には、後継者としての役割が期待されている。
とはいえ、能力の無い者に世襲を認めるほど、世間は甘くない。
一日も早く、琴吹グループのトップにふさわしい人物となるために、
私には普通の高校生よりも高いハードルが設定されている。
304: 2010/08/18(水) 18:56:53.39 ID:Y9zNDNHUO
「……お父様。実はまた、素晴らしい逸材を見つけたのよ」
「……ほう、今度はどんな人だい?
また先日のように、単なる勘違いじゃないだろうね?」
「前回はごめんなさい。でも、今度こそ本物よ。
いとも簡単に呪術を使いこなす、才気に溢れる2人組を紹介したいの」
「呪術、か。詳しく話を聞かせてもらおうか?」
お父様は身を乗り出して、私の話に興味を示した。
権力者になるほど、科学で説明できない、オカルト的なものを信じる割合が増えるという。
きっと、お父様もその1人なんだ。
桜ヶ丘高校の卒業生には、どういう訳か、大きな成功を収める女性が多い。
学力偏差値だけで見れば、決して全国トップクラスの進学校ではないのに。
お父様はそれを知ってか、私が桜高に入学するとき、一つの課題を与えた。
「将来、琴吹グループの戦力となるような、金の卵を探すんだ。
これは、と思う才能の持ち主がいたら、私に直接紹介してほしい」
「……ほう、今度はどんな人だい?
また先日のように、単なる勘違いじゃないだろうね?」
「前回はごめんなさい。でも、今度こそ本物よ。
いとも簡単に呪術を使いこなす、才気に溢れる2人組を紹介したいの」
「呪術、か。詳しく話を聞かせてもらおうか?」
お父様は身を乗り出して、私の話に興味を示した。
権力者になるほど、科学で説明できない、オカルト的なものを信じる割合が増えるという。
きっと、お父様もその1人なんだ。
桜ヶ丘高校の卒業生には、どういう訳か、大きな成功を収める女性が多い。
学力偏差値だけで見れば、決して全国トップクラスの進学校ではないのに。
お父様はそれを知ってか、私が桜高に入学するとき、一つの課題を与えた。
「将来、琴吹グループの戦力となるような、金の卵を探すんだ。
これは、と思う才能の持ち主がいたら、私に直接紹介してほしい」
305: 2010/08/18(水) 18:59:03.09 ID:Y9zNDNHUO
入学直後、私は立て続けに『才能の持ち主』と出会う事ができた。
1人は澪ちゃん。
ファンクラブを擁するほどの美貌と人徳、そして他に類を見ない言語感覚。
圧倒的なカリスマとなる素質を、澪ちゃんは持っていた。
1人は唯ちゃん。
やる気を出した途端に、凡人の数年間の努力を、あっという間に追い抜いてしまう。
天才としか形容できない、特別なものを持っていた。
当時はまだ中学生だったけど、憂ちゃんも金の卵の1人。
一点集中型の唯ちゃんに対して、万能型の憂ちゃん。
どちらも琴吹グループに欲しい人材だと、お父様も太鼓判を押した。
あっ、りっちゃんには何の才能も無かったみたい。
ごめんなさい、でも平凡は悪い事じゃないの。
どこにでもある平和な家庭を築いて、幸せに過ごしていけるって事なんだから。
1人は澪ちゃん。
ファンクラブを擁するほどの美貌と人徳、そして他に類を見ない言語感覚。
圧倒的なカリスマとなる素質を、澪ちゃんは持っていた。
1人は唯ちゃん。
やる気を出した途端に、凡人の数年間の努力を、あっという間に追い抜いてしまう。
天才としか形容できない、特別なものを持っていた。
当時はまだ中学生だったけど、憂ちゃんも金の卵の1人。
一点集中型の唯ちゃんに対して、万能型の憂ちゃん。
どちらも琴吹グループに欲しい人材だと、お父様も太鼓判を押した。
あっ、りっちゃんには何の才能も無かったみたい。
ごめんなさい、でも平凡は悪い事じゃないの。
どこにでもある平和な家庭を築いて、幸せに過ごしていけるって事なんだから。
306: 2010/08/18(水) 19:02:06.87 ID:Y9zNDNHUO
でも、それ以降はなかなか『才能の持ち主』を見つける事ができなかった。
次第に私は焦り始めて、だんだん選球眼が鈍ってきてしまった。
つい先日も、同じクラスのエリちゃんをお父様に紹介したところ、
「日本の伝統工芸を守り抜くほどの人物と聞いたが……。
ただのにわか仏像ファンじゃないか、勘違いも甚だしい」
と、お叱りを受けてしまった。
そんな訳で今回、オカルト研の2人をお父様に紹介するのは、
私にとって名誉挽回・一発逆転の大チャンス!
「呪い、か……。その話が本当なら、彼女たちの力は非常に有用だね」
「この目で実際に見たのよ、すごい効果だったわ」
「よし、その子たちに一度会ってみたいな。
ただし、その時に呪いの効果も一緒に見せてほしい」
「わかった、そのように手配しておくわね!」
久々にお父様に認められるチャンスを迎え、私は浮かれていた。
ここで軽率に、その条件を受け入れてしまった事が、後々で悩みの種となった。
次第に私は焦り始めて、だんだん選球眼が鈍ってきてしまった。
つい先日も、同じクラスのエリちゃんをお父様に紹介したところ、
「日本の伝統工芸を守り抜くほどの人物と聞いたが……。
ただのにわか仏像ファンじゃないか、勘違いも甚だしい」
と、お叱りを受けてしまった。
そんな訳で今回、オカルト研の2人をお父様に紹介するのは、
私にとって名誉挽回・一発逆転の大チャンス!
「呪い、か……。その話が本当なら、彼女たちの力は非常に有用だね」
「この目で実際に見たのよ、すごい効果だったわ」
「よし、その子たちに一度会ってみたいな。
ただし、その時に呪いの効果も一緒に見せてほしい」
「わかった、そのように手配しておくわね!」
久々にお父様に認められるチャンスを迎え、私は浮かれていた。
ここで軽率に、その条件を受け入れてしまった事が、後々で悩みの種となった。
308: 2010/08/18(水) 19:05:31.75 ID:Y9zNDNHUO
「……それは光栄な話」
「私たちは喜んで、琴吹の剣となり盾となる」
オカルト研の2人にこの話をしたところ、快諾してもらう事ができた。
普通、お父様に紹介する前に趣旨を伝える事は滅多にない。
事前に伝えておきながら、お父様のお眼鏡に適わなかった場合、とても失礼になってしまうから。
でも今回の場合、そうしないと、呪いの実演なんて出来ないからね。
「……ところで、ひとつ疑問がある」
「呪いの効果を見せるとは、どのようにすればいいだろう」
「えーと、そうね。お父様の目の前で、誰かに呪いをかけてくれないかしら?」
「……つまり、ターゲットもその場にいる必要がある」
「既に呪いのかかった秋山澪、田井中律、真鍋和を除く誰かを、そこに連れて行かなければ」
「その通りね。安心して、ターゲットの手配は私に任せてちょうだい!」
とは言ったものの、そんな依頼を誰にしようか?
呪われてください、と頼まれて、はいそうですか、と引き受けてくれる人なんて……。
校内の友達を、ひとりひとり思い浮かべてみる。
うーん、こんな事、どんなに仲の良い子でも頼みづらい。
ならば、屋敷の使用人やメイド?
いや、立場的に断れない人に、こんな役を押し付けるなんて非道すぎる。
「私たちは喜んで、琴吹の剣となり盾となる」
オカルト研の2人にこの話をしたところ、快諾してもらう事ができた。
普通、お父様に紹介する前に趣旨を伝える事は滅多にない。
事前に伝えておきながら、お父様のお眼鏡に適わなかった場合、とても失礼になってしまうから。
でも今回の場合、そうしないと、呪いの実演なんて出来ないからね。
「……ところで、ひとつ疑問がある」
「呪いの効果を見せるとは、どのようにすればいいだろう」
「えーと、そうね。お父様の目の前で、誰かに呪いをかけてくれないかしら?」
「……つまり、ターゲットもその場にいる必要がある」
「既に呪いのかかった秋山澪、田井中律、真鍋和を除く誰かを、そこに連れて行かなければ」
「その通りね。安心して、ターゲットの手配は私に任せてちょうだい!」
とは言ったものの、そんな依頼を誰にしようか?
呪われてください、と頼まれて、はいそうですか、と引き受けてくれる人なんて……。
校内の友達を、ひとりひとり思い浮かべてみる。
うーん、こんな事、どんなに仲の良い子でも頼みづらい。
ならば、屋敷の使用人やメイド?
いや、立場的に断れない人に、こんな役を押し付けるなんて非道すぎる。
309: 2010/08/18(水) 19:08:52.69 ID:Y9zNDNHUO
色々と考えるうちに、ふと気付いた。人に呪いをかけるには、それなりの大義名分が必要だ。
強い恨みや憎しみであったり、あるいは、誰かを守るためであったり。
そんな大義名分の成り立つターゲットならば、本人の承諾がなくても、遠慮なく呪いをかけられる。
「まったく……。酷い目にあったな、律」
「ちょっとイタズラにしちゃ度が過ぎてるよな。澪もそう思うだろ?」
ちょうど私がそんな事を考えている時に、澪ちゃんとりっちゃんが話し合っていた。
数日前、梓ちゃん・純ちゃん・憂ちゃんによる演奏のせいで、2人とも大変な事になった。
演奏後まともに歩けるようになるまで、確か30分くらいかかったっけ?
「さすがに我慢の限界だ。梓にお灸を据えてやらないと」
「おうっ。ビシッと仕返ししてやらないと、ますます調子に乗るからな!」
……見つけた、大義名分。
「ねぇ、澪ちゃん、りっちゃん」
私は、トーンを抑えた声色と、溢れんばかりの笑顔で話した。
新しい提案をする時は、謙虚かつ自信満々の態度で臨まなければならない。
「その手配、私に任せてくれない? いい考えがあるの」
強い恨みや憎しみであったり、あるいは、誰かを守るためであったり。
そんな大義名分の成り立つターゲットならば、本人の承諾がなくても、遠慮なく呪いをかけられる。
「まったく……。酷い目にあったな、律」
「ちょっとイタズラにしちゃ度が過ぎてるよな。澪もそう思うだろ?」
ちょうど私がそんな事を考えている時に、澪ちゃんとりっちゃんが話し合っていた。
数日前、梓ちゃん・純ちゃん・憂ちゃんによる演奏のせいで、2人とも大変な事になった。
演奏後まともに歩けるようになるまで、確か30分くらいかかったっけ?
「さすがに我慢の限界だ。梓にお灸を据えてやらないと」
「おうっ。ビシッと仕返ししてやらないと、ますます調子に乗るからな!」
……見つけた、大義名分。
「ねぇ、澪ちゃん、りっちゃん」
私は、トーンを抑えた声色と、溢れんばかりの笑顔で話した。
新しい提案をする時は、謙虚かつ自信満々の態度で臨まなければならない。
「その手配、私に任せてくれない? いい考えがあるの」
341: 2010/08/18(水) 23:04:29.64 ID:Y9zNDNHUO
土曜日の早朝、私の家の最寄り駅に、梓ちゃんがやって来た。
斉藤の運転する車の窓から、チョイチョイと手招きする。
「おはようございます、ムギ先輩」
「おはよう、梓ちゃん。こんな早い時間から来てもらっちゃって、ありがとう」
「いえ、ムギ先輩のお宅にお邪魔できるなんて嬉しいですから」
梓ちゃんの笑顔に、一瞬だけ胸が痛んだ。
でも澪ちゃんやりっちゃんへの狼藉を思い返すと、情状酌量の余地は無し。
心を鬼にするのよ、私、ファイト!
「もうすぐ着くわ、ここが私の家よ」
「うわぁ、大きいですね……」
車窓から母屋を見上げて、梓ちゃんはぽかんと口を開けた。
澪ちゃんを連れて来た時も、唯ちゃんと憂ちゃんを連れて来た時も、
こんな感じのリアクションだった事を思い出す。
いつか、りっちゃんも家に来てほしいなぁ……。
梓ちゃんの右肩には、ギターケースが掛かっている。
今日は一応、練習の名目で梓ちゃんを呼び出しているからね。
斉藤の運転する車の窓から、チョイチョイと手招きする。
「おはようございます、ムギ先輩」
「おはよう、梓ちゃん。こんな早い時間から来てもらっちゃって、ありがとう」
「いえ、ムギ先輩のお宅にお邪魔できるなんて嬉しいですから」
梓ちゃんの笑顔に、一瞬だけ胸が痛んだ。
でも澪ちゃんやりっちゃんへの狼藉を思い返すと、情状酌量の余地は無し。
心を鬼にするのよ、私、ファイト!
「もうすぐ着くわ、ここが私の家よ」
「うわぁ、大きいですね……」
車窓から母屋を見上げて、梓ちゃんはぽかんと口を開けた。
澪ちゃんを連れて来た時も、唯ちゃんと憂ちゃんを連れて来た時も、
こんな感じのリアクションだった事を思い出す。
いつか、りっちゃんも家に来てほしいなぁ……。
梓ちゃんの右肩には、ギターケースが掛かっている。
今日は一応、練習の名目で梓ちゃんを呼び出しているからね。
343: 2010/08/18(水) 23:07:36.74 ID:Y9zNDNHUO
「大きな音を出すから、地下の部屋を使おうか。こっちに来てね」
「地下室まで備わってるんですね、本当に凄い……」
階段を下りて、廊下の奥の小部屋まで歩く。
教室よりちょっと狭いくらいの小部屋は、防音設備が万全になっている。
窓も無いし、出入り口の扉は一つだけ。おまけに携帯電話も通じない。
これだけ聞くと、都市部の貸しスタジオみたいだけど、ちょっと違う。
「この部屋よ。梓ちゃん、どうぞ」
「わぁ、広々としてますね。あれっ、でも……」
「どうかしたの?」
「なんでベッドがあるんですか。トイレも剥き出しで置いてあるし」
私に促されるまま部屋に入った梓ちゃんは、簡素なベッドと洋式トイレをすぐ発見した。
何も無い空間に、その二つだけ置かれていれば、当然目に付くんだけどね。
「……ムギ先輩。なんかこの部屋、スタジオというよりも、まるで監獄みたいな」
ガチャン
「えっ、ムギ先輩?」
部屋の中にいた梓ちゃんと、部屋の外にいた私は、強化ガラスの扉で隔てられた。
きょとん、とした表情でガラス越しに私を見つめる梓ちゃん。
閉じ込められた、という現状を把握するまで、もう少し時間がかかりそうだ。
「地下室まで備わってるんですね、本当に凄い……」
階段を下りて、廊下の奥の小部屋まで歩く。
教室よりちょっと狭いくらいの小部屋は、防音設備が万全になっている。
窓も無いし、出入り口の扉は一つだけ。おまけに携帯電話も通じない。
これだけ聞くと、都市部の貸しスタジオみたいだけど、ちょっと違う。
「この部屋よ。梓ちゃん、どうぞ」
「わぁ、広々としてますね。あれっ、でも……」
「どうかしたの?」
「なんでベッドがあるんですか。トイレも剥き出しで置いてあるし」
私に促されるまま部屋に入った梓ちゃんは、簡素なベッドと洋式トイレをすぐ発見した。
何も無い空間に、その二つだけ置かれていれば、当然目に付くんだけどね。
「……ムギ先輩。なんかこの部屋、スタジオというよりも、まるで監獄みたいな」
ガチャン
「えっ、ムギ先輩?」
部屋の中にいた梓ちゃんと、部屋の外にいた私は、強化ガラスの扉で隔てられた。
きょとん、とした表情でガラス越しに私を見つめる梓ちゃん。
閉じ込められた、という現状を把握するまで、もう少し時間がかかりそうだ。
344: 2010/08/18(水) 23:11:05.22 ID:Y9zNDNHUO
「ごめんね、梓ちゃん」
それだけ言い残して、私は小部屋の前から去った。
強化ガラス越しに、この声は梓ちゃんに届いたのかな?
こちら側からは、ドンドン、と内側から扉を叩く音しか聞こえない。
梓ちゃんは、何やら叫んでいるみたいだったけどね。
「皆さん、お待たせしました」
リビングではお父様と、先に来ていたオカルト研の2人が待っていた。
「やっと来たか、紬。お客様を待たせてしまったぞ」
「……大丈夫」
「それで、うまくいったの?」
「えぇ。ちょっとモニターを付けてくれる?」
モニターの電源を入れると、複数の角度から撮影された、小部屋の様子が映し出された。
梓ちゃんは相変わらず、強化ガラスの扉を叩いていた。
「……小部屋には現在ターゲットが一人だけ。
今からこの小部屋に音楽を流すから、変化を観察してみてね」
それだけ言い残して、私は小部屋の前から去った。
強化ガラス越しに、この声は梓ちゃんに届いたのかな?
こちら側からは、ドンドン、と内側から扉を叩く音しか聞こえない。
梓ちゃんは、何やら叫んでいるみたいだったけどね。
「皆さん、お待たせしました」
リビングではお父様と、先に来ていたオカルト研の2人が待っていた。
「やっと来たか、紬。お客様を待たせてしまったぞ」
「……大丈夫」
「それで、うまくいったの?」
「えぇ。ちょっとモニターを付けてくれる?」
モニターの電源を入れると、複数の角度から撮影された、小部屋の様子が映し出された。
梓ちゃんは相変わらず、強化ガラスの扉を叩いていた。
「……小部屋には現在ターゲットが一人だけ。
今からこの小部屋に音楽を流すから、変化を観察してみてね」
346: 2010/08/18(水) 23:13:25.09 ID:Y9zNDNHUO
ブーンブンシャカブブンブーン♪
聞き慣れたフレーズを耳にして、梓ちゃんはキョロキョロと辺りを見回した。
もっとも、スピーカーは壁に埋め込まれているから、見つけられないと思うけど。
「目立った変化は無いようだが?」
「えぇ、お父様。だってターゲットは『まだ』呪いにかけられていないから」
「……なるほど。こちらの2人が、今から呪いをかけてくれるのか」
「そういう事よ。じゃあ、お願いしていいかしら?」
オカルト研の2人が、スッと立ち上がった。
けれども、その表情には、まだ若干の躊躇いがあった。
「……最後に確認したい」
「本当に、三種の呪いを複合させてもいいのか」
思わず私は微笑んでしまった。
無感情な人たちだと思っていたけれど、意外に人間らしいところがある。
でも、その覚悟の壁を越えて来てくれないと、琴吹グループの戦力にはなれないの。
「……構わないわ。あなた達の、ベストパフォーマンスを見せて!」
聞き慣れたフレーズを耳にして、梓ちゃんはキョロキョロと辺りを見回した。
もっとも、スピーカーは壁に埋め込まれているから、見つけられないと思うけど。
「目立った変化は無いようだが?」
「えぇ、お父様。だってターゲットは『まだ』呪いにかけられていないから」
「……なるほど。こちらの2人が、今から呪いをかけてくれるのか」
「そういう事よ。じゃあ、お願いしていいかしら?」
オカルト研の2人が、スッと立ち上がった。
けれども、その表情には、まだ若干の躊躇いがあった。
「……最後に確認したい」
「本当に、三種の呪いを複合させてもいいのか」
思わず私は微笑んでしまった。
無感情な人たちだと思っていたけれど、意外に人間らしいところがある。
でも、その覚悟の壁を越えて来てくれないと、琴吹グループの戦力にはなれないの。
「……構わないわ。あなた達の、ベストパフォーマンスを見せて!」
347: 2010/08/18(水) 23:18:07.56 ID:Y9zNDNHUO
儀式が始まった。3種類分だから、とても時間がかかる。
意味不明な呪文を唱えるオカルト研の2人を、お父様は真剣な表情で眺めていた。
私はリビングの椅子に座って、紅茶に口を付けた。少しだけ、ぬるい。
ブーンブンシャカブブンブーン♪
「ふにゃぁっ、ひゃぁぁぁぁっ!?」
……どうやら、一つ目の呪いが発動し始めたらしい。
梓ちゃんの様子から察するに『快楽天』かしら。
ブーンブンシャカブブンブンブーン♪
「きゃはははっ、ひゃっ、きゃははははははっっ!?」
……続いて『エンゼルフェザー』も。
二つ目の呪いが、一つ目の呪いを上書きする事はないらしい。
つまり今、梓ちゃんの身体には『悪魔の快楽』と『天使の愛撫』が共存している。
ブーリブリチャカビガッビガッ♪
「ぎゃはああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……最後は『囚われのロキ』。
しばらく痛いかもしれないけど、すぐに慣れると思うから頑張ってね、梓ちゃん!
意味不明な呪文を唱えるオカルト研の2人を、お父様は真剣な表情で眺めていた。
私はリビングの椅子に座って、紅茶に口を付けた。少しだけ、ぬるい。
ブーンブンシャカブブンブーン♪
「ふにゃぁっ、ひゃぁぁぁぁっ!?」
……どうやら、一つ目の呪いが発動し始めたらしい。
梓ちゃんの様子から察するに『快楽天』かしら。
ブーンブンシャカブブンブンブーン♪
「きゃはははっ、ひゃっ、きゃははははははっっ!?」
……続いて『エンゼルフェザー』も。
二つ目の呪いが、一つ目の呪いを上書きする事はないらしい。
つまり今、梓ちゃんの身体には『悪魔の快楽』と『天使の愛撫』が共存している。
ブーリブリチャカビガッビガッ♪
「ぎゃはああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
……最後は『囚われのロキ』。
しばらく痛いかもしれないけど、すぐに慣れると思うから頑張ってね、梓ちゃん!
350: 2010/08/18(水) 23:21:02.88 ID:Y9zNDNHUO
「……終わった」
「中野梓には、三種の呪いがかけられた」
オカルト研の2人は、かなり消耗した様子だった。
呪いを1つかけるだけでも、たぶん相当な体力と精神力を使うはず。
本当に、頑張ってくれた2人に、拍手を送りたい。
「明らかにターゲットの様子が変わったようだね」
「えぇ、お父様。それぞれの呪いについては、そちらの書類に詳しくまとめてあるわ」
「ふふっ。手際が良くなったね、紬。
では申し訳ないが、そろそろ私は行かなければならないので、失礼させてもらうよ」
お父様はこれから泊まりがけで仕事に出掛ける。
帰宅するのは、明日、日曜の夜だ。
「2人とも、本当に素晴らしい才能をお持ちのようだ。
今後ともお付き合いをさせて頂きたい。どうぞ、よろしく」
「……ありがとう」
「こちらこそ、よろしく」
「では、明日の夜に結果を確認させてくれ。頼んだぞ、紬」
「中野梓には、三種の呪いがかけられた」
オカルト研の2人は、かなり消耗した様子だった。
呪いを1つかけるだけでも、たぶん相当な体力と精神力を使うはず。
本当に、頑張ってくれた2人に、拍手を送りたい。
「明らかにターゲットの様子が変わったようだね」
「えぇ、お父様。それぞれの呪いについては、そちらの書類に詳しくまとめてあるわ」
「ふふっ。手際が良くなったね、紬。
では申し訳ないが、そろそろ私は行かなければならないので、失礼させてもらうよ」
お父様はこれから泊まりがけで仕事に出掛ける。
帰宅するのは、明日、日曜の夜だ。
「2人とも、本当に素晴らしい才能をお持ちのようだ。
今後ともお付き合いをさせて頂きたい。どうぞ、よろしく」
「……ありがとう」
「こちらこそ、よろしく」
「では、明日の夜に結果を確認させてくれ。頼んだぞ、紬」
352: 2010/08/18(水) 23:24:19.96 ID:Y9zNDNHUO
お父様が出掛けた後、役目を終えたオカルト研の2人も帰ってしまった。
帰り際に見た2人の表情から、迷いは消えていた。
依頼された仕事に対する、冷酷なまでの責任感。
琴吹グループに貢献するために、最も必要なものを、わかってくれたんだと思う。
「……さて、梓ちゃんの様子はどうかな?」
モニターを覗き込むと、梓ちゃんは小部屋の真ん中でのたうち回っていた。
エンドレスリピートの『ミツバチ』は、着実に梓ちゃんにダメージを与えているみたい。
特に『囚われのロキ』の痛さは、なかなか耐え難いものかもしれない。
でもね、安心して。その痛さは単独じゃないから。
『快楽天』の気持ちよさと、『エンゼルフェザー』のくすぐったさと、セットなの。
次第に、痛さを感じれば、同時に気持ちよさを感じるような回路が出来上がる。
そうすれば、ずっとずっと気持ちいい、最高の状態になっちゃうわ!
……本音を言うとね。
それくらい壊れてくれないと、困っちゃうの。
お父様は、まだ完全には満足していない様子だった。
お父様は、もっと強烈な効果を呪いに求めているみたい。
だから明日の夜、お父様が帰って来るまでに、もっとグチャグチャになってほしいの。
私も全力で梓ちゃんを壊してあげるから、よろしくね♪
帰り際に見た2人の表情から、迷いは消えていた。
依頼された仕事に対する、冷酷なまでの責任感。
琴吹グループに貢献するために、最も必要なものを、わかってくれたんだと思う。
「……さて、梓ちゃんの様子はどうかな?」
モニターを覗き込むと、梓ちゃんは小部屋の真ん中でのたうち回っていた。
エンドレスリピートの『ミツバチ』は、着実に梓ちゃんにダメージを与えているみたい。
特に『囚われのロキ』の痛さは、なかなか耐え難いものかもしれない。
でもね、安心して。その痛さは単独じゃないから。
『快楽天』の気持ちよさと、『エンゼルフェザー』のくすぐったさと、セットなの。
次第に、痛さを感じれば、同時に気持ちよさを感じるような回路が出来上がる。
そうすれば、ずっとずっと気持ちいい、最高の状態になっちゃうわ!
……本音を言うとね。
それくらい壊れてくれないと、困っちゃうの。
お父様は、まだ完全には満足していない様子だった。
お父様は、もっと強烈な効果を呪いに求めているみたい。
だから明日の夜、お父様が帰って来るまでに、もっとグチャグチャになってほしいの。
私も全力で梓ちゃんを壊してあげるから、よろしくね♪
355: 2010/08/18(水) 23:27:25.97 ID:Y9zNDNHUO
携帯電話の着信音が鳴った。相手は澪ちゃんだ。
「いや~、ムギ。順調みたいだな!」
「うん、バッチリよ! オカルト研の2人には感謝しなきゃ」
「律なんか興奮しちゃって、呪いも発動してないのに笑いが止まらないみたい」
「あははっ、りっちゃんも喜んでくれてるのね」
澪ちゃんとりっちゃんは、別の場所でモニターの映像を見ている。
音声を流すと大変な事になっちゃうから、もちろんミュートでね。
「ところでムギ、梓の様子を見て、ひとつ気付いた事があるんだ。
ビクンビクン跳ね上がってる時と、わりと落ち着いてる時と、両極端じゃないか?」
指摘を受けて改めてモニターを見ると、確かにその通り。
曲のサビの部分には言霊が多く含まれているから、呪いも多く発動する。
でも、それ以外の部分には言霊がほとんど無いから、何も起こらない。
私は澪ちゃんにお礼を言って、すぐに斉藤を呼んだ。
「『ミツバチ』のCDを10枚と、CDプレーヤーを10個用意して!」
解決策は、至極単純だ。
タイミングをズラして、何重にも曲を流せばいい。
「いや~、ムギ。順調みたいだな!」
「うん、バッチリよ! オカルト研の2人には感謝しなきゃ」
「律なんか興奮しちゃって、呪いも発動してないのに笑いが止まらないみたい」
「あははっ、りっちゃんも喜んでくれてるのね」
澪ちゃんとりっちゃんは、別の場所でモニターの映像を見ている。
音声を流すと大変な事になっちゃうから、もちろんミュートでね。
「ところでムギ、梓の様子を見て、ひとつ気付いた事があるんだ。
ビクンビクン跳ね上がってる時と、わりと落ち着いてる時と、両極端じゃないか?」
指摘を受けて改めてモニターを見ると、確かにその通り。
曲のサビの部分には言霊が多く含まれているから、呪いも多く発動する。
でも、それ以外の部分には言霊がほとんど無いから、何も起こらない。
私は澪ちゃんにお礼を言って、すぐに斉藤を呼んだ。
「『ミツバチ』のCDを10枚と、CDプレーヤーを10個用意して!」
解決策は、至極単純だ。
タイミングをズラして、何重にも曲を流せばいい。
357: 2010/08/18(水) 23:30:03.26 ID:Y9zNDNHUO
ブーンブンシャカブブンブーン♪
超マニアック 特攻隊長 本日も絶好調♪
ブーンブンシャカブブンブンブーン♪
胸ドキドキワクワク体ノリノリ♪
ガンバンベ! 踊れミツバチ♪
ブーリブリチャカビガッビガッ♪
ダッセー飛び方でもいいから上へ飛べデッケー夢持って♪
ブーリブリチャカビガッビガッ♪
ブーンブンシャカブブンブーン♪
草食系とかマジ勘弁♪
「ぎにゃあああっっっ、ぎにゃあああっっっ!!!
あふぅ、あひゃぅぅ、たしゅけてぇぇぇっっっ!!!
やっ、やすみぃ、なしぃ、わっ、むりぃぃぃっっっ!!!」
超マニアック 特攻隊長 本日も絶好調♪
ブーンブンシャカブブンブンブーン♪
胸ドキドキワクワク体ノリノリ♪
ガンバンベ! 踊れミツバチ♪
ブーリブリチャカビガッビガッ♪
ダッセー飛び方でもいいから上へ飛べデッケー夢持って♪
ブーリブリチャカビガッビガッ♪
ブーンブンシャカブブンブーン♪
草食系とかマジ勘弁♪
「ぎにゃあああっっっ、ぎにゃあああっっっ!!!
あふぅ、あひゃぅぅ、たしゅけてぇぇぇっっっ!!!
やっ、やすみぃ、なしぃ、わっ、むりぃぃぃっっっ!!!」
362: 2010/08/18(水) 23:33:40.65 ID:Y9zNDNHUO
10個の音源から『ミツバチ』を流し始めてから、梓ちゃんは一切の休憩なく、
気持ちよさと、くすぐったさと、痛さを感じ続ける事になった。
でも、この状態があんまり長く続くと、ショックで本当に氏んでしまうかもしれない。
「……そろそろ、いいかしらね。音楽を全部止めて!」
私の合図から数秒と経たずに、すべての音源のスイッチが落とされた。
私はメイドを一人携えて、地下の小部屋へと向かう。
「梓ちゃん、調子はどう?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
梓ちゃんの身体は軽い痙攣を続けていた。
医者を呼ぶような症状でない事を確認して、メイドに水分と糖分を補給させる。
口の中に押し込まれたものを飲み込むくらいの力は、まだまだ残っている。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。そろそろ練習を始めましょうか?」
「はぁっ、はぁっ、……えっ?」
メイドが梓ちゃんのギターケースからムスタングを取り出した。
放心状態の梓ちゃんを立ち上がらせ、ストラップを肩に掛けさせる。
気持ちよさと、くすぐったさと、痛さを感じ続ける事になった。
でも、この状態があんまり長く続くと、ショックで本当に氏んでしまうかもしれない。
「……そろそろ、いいかしらね。音楽を全部止めて!」
私の合図から数秒と経たずに、すべての音源のスイッチが落とされた。
私はメイドを一人携えて、地下の小部屋へと向かう。
「梓ちゃん、調子はどう?」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
梓ちゃんの身体は軽い痙攣を続けていた。
医者を呼ぶような症状でない事を確認して、メイドに水分と糖分を補給させる。
口の中に押し込まれたものを飲み込むくらいの力は、まだまだ残っている。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。そろそろ練習を始めましょうか?」
「はぁっ、はぁっ、……えっ?」
メイドが梓ちゃんのギターケースからムスタングを取り出した。
放心状態の梓ちゃんを立ち上がらせ、ストラップを肩に掛けさせる。
365: 2010/08/18(水) 23:37:32.99 ID:Y9zNDNHUO
「どうしてキョトンとした顔をしてるの、梓ちゃん?
今日は元々、練習するために、私の家に来たんでしょ?」
「えっ、あっ、はい……」
「実は梓ちゃんのために、用意しておいたものがあるの。
純ちゃんのベースと、憂ちゃんのドラムを録音した、練習用テープ!」
「あっ、えーと、ありがとう、ございます……」
梓ちゃんの思考は、まともに働かなくなっているみたい。
それだけ『ミツバチ』10重奏は過酷だったのね。
「今からこのテープを流すから、梓ちゃんはギターとボーカルで合わせるのよ?」
「わ、わかりました……」
「それじゃ、始めるわね。曲は『ミツバチ』よ!」
「……えっ?」
今日は元々、練習するために、私の家に来たんでしょ?」
「えっ、あっ、はい……」
「実は梓ちゃんのために、用意しておいたものがあるの。
純ちゃんのベースと、憂ちゃんのドラムを録音した、練習用テープ!」
「あっ、えーと、ありがとう、ございます……」
梓ちゃんの思考は、まともに働かなくなっているみたい。
それだけ『ミツバチ』10重奏は過酷だったのね。
「今からこのテープを流すから、梓ちゃんはギターとボーカルで合わせるのよ?」
「わ、わかりました……」
「それじゃ、始めるわね。曲は『ミツバチ』よ!」
「……えっ?」
367: 2010/08/18(水) 23:40:22.51 ID:Y9zNDNHUO
カンッカンッカンッカンッ
憂ちゃんがスティックを鳴らす音。
この曲は出だしからボーカルが入るから、梓ちゃんは最初から歌わないといけない。
「梓ちゃん、ボーッとしてる間に曲が始まっちゃったわよ?」
「あっ、すみません……」
そうこうしている間にイントロ部分が終わり、ベースとドラムの音がテープから流れた。
この音だけでも呪いが発動して、梓ちゃんの身体はピクピクと反応する。
でも今は練習なんだから。梓ちゃんはギターを弾いて、歌わなきゃ、ダメだよ?
「ほら、ギターボーカル、しっかり頑張って!」
「うぅ……、行き先イケメン、ハイビスカス♪ うぅ……」
「ちゃんと全部の歌詞を言わなきゃ!」
「ブ……、ブーリブリチャカビガッビガッ!!」
自分で発した言霊によって、梓ちゃんの身体はピクンと跳ね上がった。
これに耐えるのも練習のうちだから、仕方ないわね。
憂ちゃんがスティックを鳴らす音。
この曲は出だしからボーカルが入るから、梓ちゃんは最初から歌わないといけない。
「梓ちゃん、ボーッとしてる間に曲が始まっちゃったわよ?」
「あっ、すみません……」
そうこうしている間にイントロ部分が終わり、ベースとドラムの音がテープから流れた。
この音だけでも呪いが発動して、梓ちゃんの身体はピクピクと反応する。
でも今は練習なんだから。梓ちゃんはギターを弾いて、歌わなきゃ、ダメだよ?
「ほら、ギターボーカル、しっかり頑張って!」
「うぅ……、行き先イケメン、ハイビスカス♪ うぅ……」
「ちゃんと全部の歌詞を言わなきゃ!」
「ブ……、ブーリブリチャカビガッビガッ!!」
自分で発した言霊によって、梓ちゃんの身体はピクンと跳ね上がった。
これに耐えるのも練習のうちだから、仕方ないわね。
368: 2010/08/18(水) 23:43:27.65 ID:Y9zNDNHUO
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「情けないわね、梓ちゃん。たった一回、通しで練習しただけじゃない」
「だっ、だって、ムギ先輩……」
「言い訳をするような子は、武道館に行けないよ?
さぁ、もう一回、通しでいきましょうか?」
梓ちゃんの表情は、次第に絶望的なものに変わっていた。
私はそれに気付かないふりをして、練習用テープを再生した。
「38℃の真夏日、うぅっ……。夏祭り、ぐすっ……。こんな日は♪」
「ほらほら、明るい曲なんだから、泣きながら歌っちゃダメよ」
「ひぐっ、ガンバンベ! 踊れミツバチ♪」
「そうそう、その調子よ!」
「ブーンブンシャカ、はぐぅ、ブブンブーン♪」
「もっと笑顔で歌って!」
「情けないわね、梓ちゃん。たった一回、通しで練習しただけじゃない」
「だっ、だって、ムギ先輩……」
「言い訳をするような子は、武道館に行けないよ?
さぁ、もう一回、通しでいきましょうか?」
梓ちゃんの表情は、次第に絶望的なものに変わっていた。
私はそれに気付かないふりをして、練習用テープを再生した。
「38℃の真夏日、うぅっ……。夏祭り、ぐすっ……。こんな日は♪」
「ほらほら、明るい曲なんだから、泣きながら歌っちゃダメよ」
「ひぐっ、ガンバンベ! 踊れミツバチ♪」
「そうそう、その調子よ!」
「ブーンブンシャカ、はぐぅ、ブブンブーン♪」
「もっと笑顔で歌って!」
370: 2010/08/18(水) 23:46:04.61 ID:Y9zNDNHUO
およそ30分の練習を終えて、私はリビングに戻って来た。
5分ほど休憩を与えられた梓ちゃんは、床に寝転がって、微動だにしない。
せっかくだからベッドの上で寝ればいいのに。
そして再び、10個の音源から『ミツバチ』が流れ始めた。
梓ちゃんの絶叫が、マイク越しに聞こえる。
大体30分くらいこのまま放置しておいて、その後また練習にしよう。
……30分練習、30分鑑賞。
『ミツバチ』尽くしの素敵なサイクルが完成した。
よし、日曜の夜まで、このサイクルを延々と繰り返す事にしよう。
そうすればお父様が帰って来る頃には、梓ちゃんもすっかり素敵な状態になっているはず。
きっとお父様も喜んでくれるわね!
次の日は月曜だから、学校か。
澪ちゃんとりっちゃんに、イタズラしてごめんなさい、って謝ってもらわないと。
その後、純ちゃんと憂ちゃんと一緒に演奏して、練習の成果を見せてもらおう。
耳栓をするから音は聞こえないだろうけど、澪ちゃんとりっちゃんも喜んでくれるわ!
「だから、頑張ってね、梓ちゃん♪」
「にゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」
おわり!
5分ほど休憩を与えられた梓ちゃんは、床に寝転がって、微動だにしない。
せっかくだからベッドの上で寝ればいいのに。
そして再び、10個の音源から『ミツバチ』が流れ始めた。
梓ちゃんの絶叫が、マイク越しに聞こえる。
大体30分くらいこのまま放置しておいて、その後また練習にしよう。
……30分練習、30分鑑賞。
『ミツバチ』尽くしの素敵なサイクルが完成した。
よし、日曜の夜まで、このサイクルを延々と繰り返す事にしよう。
そうすればお父様が帰って来る頃には、梓ちゃんもすっかり素敵な状態になっているはず。
きっとお父様も喜んでくれるわね!
次の日は月曜だから、学校か。
澪ちゃんとりっちゃんに、イタズラしてごめんなさい、って謝ってもらわないと。
その後、純ちゃんと憂ちゃんと一緒に演奏して、練習の成果を見せてもらおう。
耳栓をするから音は聞こえないだろうけど、澪ちゃんとりっちゃんも喜んでくれるわ!
「だから、頑張ってね、梓ちゃん♪」
「にゃああああぁぁぁぁっっっっ!!!!」
おわり!
371: 2010/08/18(水) 23:49:59.32 ID:Y9zNDNHUO
これで本当に終わり!
本編、番外編ともに支援ありがと!
ドM和ちゃんまで書いて終わらせる筈だったのに、みんな梓に仕返ししろって言うから続けてみたら、えらい鬼畜になってしまった
本編、番外編ともに支援ありがと!
ドM和ちゃんまで書いて終わらせる筈だったのに、みんな梓に仕返ししろって言うから続けてみたら、えらい鬼畜になってしまった
372: 2010/08/18(水) 23:50:21.07 ID:vTx53luzO
オワタ
374: 2010/08/18(水) 23:51:11.80 ID:1a/FIDLsP
乙
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