1: 2010/08/13(金) 18:24:37.77 ID:9rzUs7PhO
梓「はぁ…」

家に帰る、このことを想像するだけでため息が漏れる。

私、中野梓は大学一年生。

唯先輩達と一緒のN女子大に進学することができ、今はHTTを再結成しバンド活動をしている。

でも、私はこの大学生活をエンジョイすることはできなかった。

このビールが大量に入った袋を見れば理解できるだろう。

梓「ただいま…」

私はゆっくりと玄関のドアを開けた。
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3: 2010/08/13(金) 18:29:49.91 ID:9rzUs7PhO
梓「お、お父さん…買ってきたよ…」

私はリビングの机に両足を乗せながら缶ビールを飲んでいる父に袋を差し出した。

梓父「あぁ!?おせぇんだよこの糞女!!」

梓「ッ!?」

父は机に積んであった空の缶を一つ手に取り私に投げつけた。その缶は私のデコにあたって地面に落ちた。

梓父「買い物もろくにできねぇのかよ糞が!!」

父は私に向かって叫び散らした。

梓「ご、ごめんなさいお父さん…ごめんなさい…」

5: 2010/08/13(金) 18:35:18.49 ID:9rzUs7PhO
梓父「くそっ!!もう寝る!!」

父はビールの入った袋を乱暴に手に取ってリビングから出ていった。

梓「……」

そんな父を見ても何も思わない。もう慣れてしまったから。

私は台所からふきんを持ってきて、床に大量にこぼれた酒を丁寧に拭き取った。

梓「……どうして…こうなっちゃったのかな…」

床に四つん這いになっていると、机に不安定に乗っていた缶ビールが私の上に落ちてきた。しかもまだ半分以上入っていたらしく、私は頭から酒を浴びることになった。

6: 2010/08/13(金) 18:41:04.91 ID:9rzUs7PhO
梓「……」ポタポタ

私の前髪から雫が落ちる。服が濡れてしまった…

梓「洗濯、しないと…」

私はふきんをそのままにして洗面所に向かった。

鏡の前に立つと、もう一人の私が鏡に映る。髪の毛と服はずぶ濡れ、目の下にはクマ。

私は服を脱いだ。腕や背中には殴られた跡がたくさんある。改めて見るとけっこうひどい。

梓「はは…とても女の子の体には見えないや…」

私は、自分が涙を流していることにやっと気づいた。



7: 2010/08/13(金) 18:47:34.30 ID:9rzUs7PhO
次の日。

唯「あ~ずにゃん」

梓「!?」

私は唯先輩に後ろから抱き着かれた。いつものことだが、寝不足の体には少々キツい。

足元が少しふらついた。

唯「?あずにゃん大丈夫?」

梓「は、はい。ちょっとバランス崩しただけですよ」

澪「でも、梓最近クマできてるぞ。しっかり寝れてるのか?」

梓「……大丈夫ですよ」


8: 2010/08/13(金) 19:16:30.10 ID:9rzUs7PhO

先輩達には気づかれたくなかった。私の暮らしのこと、あの父親のこと。

梓「昨日はちょっと遅くまでテレビ見ちゃって。でも全然大丈夫ですから」

心配そうに私を見てくる皆からそう言って目をそらした。

梓「さ、練習しましょう練習!!」

唯「よーしやるぞ~」

唯先輩達も大学生になってからは割と真面目に練習するようになった。それでもティータイムがなくなったわけではないけれど。

私はギターを握って定位置についた。そのときあの父親のことを考えて少し憂鬱になった。

9: 2010/08/13(金) 19:28:56.74 ID:9rzUs7PhO
帰り道。

梓「じゃあ、私はこれで」

私は律先輩と澪先輩と別れて唯先輩と二人で歩いた。

二人きりの帰り道。会話がない。

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「……はい?」

そのとき唯先輩が口を開いた。

唯「なにか悩み事があるなら私達にいわなきゃダメだよ?」

ドキっとする。唯先輩はいつになく真面目な顔をしていた。

梓「……わかってますよ。でも本当にただ寝不足なだけですから。」

10: 2010/08/13(金) 19:35:06.11 ID:9rzUs7PhO
梓「ただいま…」

私はドアを開けた。でも人の気配がない。

梓「いない、のかな…」

私はそのままリビングへ向かった。やはりそこには父の姿はない。

でも、私はもう一つなくなっているものがあることに気づいた。

梓「!?お母さんのギターは…!?」

何も持たずに家を出ていったお母さんが残していったギター。いつも通りだったらリビングのはじに置いてあるはず。

でも今日はそれがなかった。

11: 2010/08/13(金) 19:50:40.35 ID:9rzUs7PhO
ガチャッ

梓「……!!」

私がやけになって台所付近を探していると、玄関に人の気配がした。

梓父「あ~…飲んだ飲んだ」

ベロベロによったお父さんがリビングに入ってくる。私はまさか、と思って父に聞いた。

梓「あ、あのさお父さん…お母さんのギター…知らない…?」

梓父「あ?あ~あれなら売っちまったよ。」

梓「……え?」

父が言ったことが数秒間頭の中をまわって、私は立ち尽くした。

16: 2010/08/13(金) 20:14:34.65 ID:9rzUs7PhO


梓「売ったって…え?」

父はふらふらしながらソファに倒れ込んだ。

梓父「酒飲む金なかったから売ったんだよ。まぁ大した金にもならんかったけどな…」

信じられなかった。

誰のせいでお金がなくなってるのか。誰のせいで私達がこんな暮らししなきゃならなくなったのか。

誰のせいでお母さんが出ていったのか。

あなたはわかってるのか?

梓父「もういねぇ女のギターなんかいらねぇだろ?それともなんだ、欲しかったのかおまえ」

梓「………ろす…」

18: 2010/08/13(金) 20:20:50.92 ID:9rzUs7PhO

頃してやる。

もうこんな父親いらない。頃してやる。私達の人生をめちゃくちゃにしたこの男を。

私の手は知らない内に置いてあった包丁に伸びていた。二本あったから二本とも握った。

迷いはなかった。

梓父「おい、あずさァ。ビール」

父はソファに寝転がりながらテレビを見ていたため、私に気づいていない。

そのままゆっくりと父に近づいた。

梓父「あずさァ!?ビールッつって…」

そのとき父はようやく私に気づいた。両手包丁を持った私に。


19: 2010/08/13(金) 20:26:36.84 ID:9rzUs7PhO
そのころ。

唯「あずにゃん、大丈夫かなぁ」

私はあずにゃんの家に向かっていた。手に手提げカバンを持って。おばあちゃんからもらったお土産をあずにゃんにも分けようと思って。

唯「………」

信号が赤に変わったから、私はその場で止まった。

律「お~い、唯~!!」

唯「あ、りっちゃんと澪ちゃん」

向こうから手を振って二人が歩いてきた。

律「どうしたんだ?こんな時間に」

唯「あずにゃんちに行こうと思って。りっちゃん達は?」

澪「なんだ奇遇だな。私達も行こうと思ってたところなんだよ」

20: 2010/08/13(金) 20:34:51.15 ID:9rzUs7PhO
唯「あずにゃん、最近元気ないよね~」

私達は三人で道を歩いた。あずにゃんの家はそんなに遠くないからもうすぐ。

澪「そうだな…まぁ私達もそれが心配できたんだけど」

律「悩み事でもあるんだろ?まぁ今日はパーッと行こうぜ。ほらっ」ガサッ

りっちゃんの手には缶ビールが数本入った袋が握られていた。

唯「わ~!りっちゃんすご~い!」

律「冷蔵庫からくすねてきた!!」フンスッ

澪「り、りつっ!?私達まだ未成年だぞ!?」

律「だ~いじょうぶだって」

そうこうしている内にあずにゃんの家が見えた。

21: 2010/08/13(金) 20:43:58.58 ID:9rzUs7PhO
梓父「あ、あずさ!?お前何して!?」

父はソファから転げ落ちた。酔いも一気に醒めたらしく、顔が青ざめている。

梓「みてわからない?あなたをころそうとしてるんだよおとうさん」

梓父「ま、待て…!!」

父ははいずり回っている。みじめ。

梓「なにをまつの?わたしたちはあなたがまえみたいにぎたーをひいてくれるのをずっとまってたのに?ねぇ」

梓父「ひっ…!!」ブルッ

父はとうとう部屋の角に追い込まれた。私は右手を振りかぶった。


ドスッ


生々しい音とともに父の右肩に包丁が突き刺さった。

22: 2010/08/13(金) 20:51:04.04 ID:9rzUs7PhO
梓父「うぁあぁあああぁぁあ!!!??」

床に血がたれる。

梓「もういいでしょ?おとうさん」

私は今度は左手を振りかぶった。








「さよなら」










25: 2010/08/13(金) 20:59:22.96 ID:9rzUs7PhO
あずにゃんの家の玄関の前に立つ。インターホンを一回押した。

ピンポーン





…………。

唯「出ないね?」

律「でも電気ついてるぞ」

澪「もう一回鳴らしてみたら?」

私は澪ちゃんが言うよりも早くドアを開けた。

唯「開いてる」

律「よし、入るか」

澪「お、おい!!それはまずいだろ!!」

唯「あずにゃーん!!お邪魔しまーす!!」

やはり返事はなかった。電気つけっぱなしで出かけたのだろうか。だが、足元を見るとあずにゃんがいつも履いてる靴があった。

26: 2010/08/13(金) 21:05:28.69 ID:9rzUs7PhO
律「やっぱいるんだろ?いこうぜ」

りっちゃんが靴を脱いで上がっていった。私もそれに続く。澪ちゃんは少しためらってたけど結局ついてきた。





唯「……りっちゃん?」

りっちゃんはリビングのドアを開けたところで立ち尽くしていた。なにかあったんだろうか。

唯「りっちゃんどうしたの?はやくすすんでよ~」

私はりっちゃんを背中から押した。でも無反応。



律「あ、ずさ…?」

りっちゃんの小さな声が確かに聞こえた。

28: 2010/08/13(金) 21:23:40.03 ID:9rzUs7PhO

私は振り返った。そこには律先輩、後ろには唯先輩と澪先輩がいた。

なんできちゃったのだろう。

律「あずさ…そこで倒れてるのなんだよ…」

澪「ひっ!!」

律先輩は父だったものを指差していった。澪先輩はそれを見た瞬間、口を押さえながら玄関まで戻った。

律「梓…!!答えろよ!!」

唯「あ、あずにゃん…」

梓「先輩達が思ってるとおりで間違いないと思いますよ?」

私は感情のこもってない声で話す。

律「ッ…」

唯「え…?わかんないよ…なんなのこれ…」


29: 2010/08/13(金) 21:32:35.49 ID:9rzUs7PhO

梓「私が頃したんですよ」

律「梓…!!」

唯「え……え…?」

唯先輩は本当にわけわからなくなってるみたいだ。それもそうだろう。後輩の家にきたらいきなり氏体が転がってたのだ。誰だってそうなる。

律「なんで、だよ…」

梓「……」

こんな状況でも私に真相を聞く余裕があるなんてさすがは律先輩。

梓「無理だったんですよ」

律「…!?」

梓「こんな父親の世話で遊ぶ余裕もない。ギターの練習もまともにできない。もう無理ですよ」


30: 2010/08/13(金) 21:50:39.39 ID:9rzUs7PhO

梓「それで、どうしますか?通報しますか?」

律「………あぁ」パチン

律先輩はポケットから携帯を出して開いた。



終わった。なにもかも。



唯「り、りっちゃん!!」

律「唯、仕方ないことなんだ。梓は人を頃したんだよ」

梓「……」

律「警察に言わないと、あいつのためにもならないんだ…。」

律先輩の指が順番に動いていった。




「その必要はないわ」



31: 2010/08/13(金) 21:56:46.49 ID:9rzUs7PhO
律「ム、ムギ!?」

律先輩の言ったとおり、そこにはムギ先輩が立っていた。

ムギ「回収しなさい」

ムギ先輩が指をパチンと鳴らすと後ろから黒服の男が二人出てきてお父さんの氏体を担ぎあげた。

梓「な、なにを…」

何が起こってるかわからなかった。先輩二人も同じのようだ。

ムギ「………」ピッピッピッ

ムギ「もしもし、斎藤?今から重傷人を一人。病院に連絡しておいて。えぇ。私のポケットマネーならいくらつかっても構わないわ。じゃ」ピッ

パタン


34: 2010/08/13(金) 22:00:46.60 ID:MRVjTmnQO
ムギぱねぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

37: 2010/08/13(金) 22:18:52.25 ID:9rzUs7PhO
梓「あ、ちょ…」

私が言う前に、黒服二人は家から出ていってしまった。先輩二人はア然した表情で動かなかった。

梓「ムギ先輩…一体なにを…」

ムギ「あなたのお父さんはまだ生きてるわ」

梓「!!?」

そんな馬鹿な。確かに心臓にささってはずなのに。

ムギ「本当に危かったけどね。致命傷は避けてるわ。」

ありえない。なんで?

なんで?

なんで?

ムギ「ありえない…なんて思ってないかしら?」

梓「……!!」

38: 2010/08/13(金) 22:30:14.83 ID:9rzUs7PhO

ムギ「梓ちゃん、ギター誰に教えてもらったか覚えてる?」

梓「………」

覚えてる。他でもない、お父さんだから。私が小学生のとき、ギターを弾くお父さんに無理言って教えてもらった。

梓「そんなこと、なんの関係が…」

ムギ「あるわ」

梓「………!?」

ムギ先輩は私の手を取った。血がこびりついている汚れた手を。

ムギ「心では頃すといっても、この手がズラしちゃったんでしょ。きっとこの手は覚えてたんでしょう。梓ちゃんのお父さんの温もりを。」

梓「……あ…」


39: 2010/08/13(金) 22:44:38.00 ID:9rzUs7PhO

そうだ。

手が小さくて弦もまともに押さえられなかったころ。

私はすねてギターをやめるって言った。

でもお父さんはそんな私を怒ることもなく、優しく笑っていた。

そして手を添えて一から教えてくれたんだ。

その手は本当温かかった。


梓「う、うわあああああああ!!!!!!」

私は頭を抱えてその場に座り込んだ。

涙が止まらなかった。今までどんなに辛い生活を強いられても決して出ることがなかった涙が。まるで線が切れてしまったように。

律「………」

ムギ「…………」

唯「……あずにゃん…」

41: 2010/08/13(金) 22:55:44.83 ID:9rzUs7PhO
律視点。

律「梓…」

梓はその場で座り込んで泣きじゃくっていた

ムギ「りっちゃん、ここは任せてもいい?」

ムギに話し掛けられてビクッとなった。今日のムギはいつもと違う。なんというか、声に凄みがある。

律「あ、あぁ。でもムギは…?それに梓は…」

ムギ「この件は琴吹家総力をもってもみ消すわ。任せて。」

その言葉になんだがゾクッとしたが気のせいだろう。ムギは玄関に歩いていった。

律「ムギっ…」

ムギ「大丈夫。私に任せて。でも一つだけお願い。」

律「……?」

ムギ「梓ちゃんを頼んだわ。また、5人でお茶会しましょう」

ムギは振り返って微笑んだ。

律「……あぁ」

43: 2010/08/13(金) 23:04:53.33 ID:9rzUs7PhO

その後、あずにゃんはりっちゃんの家でしばらく住むことになりました。

あの事件は公になることはなく、あずにゃんは逮捕もされてません。

ムギちゃんが頑張ってくれたみたいです。

あずにゃんの家の片付けもムギちゃん家の使用人がやってくれたみたいで、あずにゃんはまた自分の家で暮らしはじめました。

でも、あずにゃんが大学にこなくなってからもう一ヶ月です…。

44: 2010/08/13(金) 23:13:22.16 ID:9rzUs7PhO
唯「あずにゃん、こないね…」

澪「……」

律「……」

あれからHTTはほとんど練習してない。ムギちゃんも後始末があるっていって最近は大学も休みがちだ。



ガチャッ

ムギ「みんな~」

唯「ムギちゃん!?」

突然、ムギちゃんが部屋に入ってきた。しかもあの仕事モードではなく、おっとりした雰囲気で。

後始末は終わったのかな?


46: 2010/08/13(金) 23:27:23.64 ID:9rzUs7PhO

ムギ「ちょっと時間かかっちゃった。でもこれで大学はこれるわ」

ムギちゃんは嬉しそうにコーヒーを入れた。でもまだ肝心の人がきてないんじゃ…。

唯「ムギちゃん…あずにゃんは…」

ムギ「クスッ、入っていいわよ~」

律「……あ…」

澪「………!!」プルプル

唯「あず…にゃん…」






    「ただいま…です」




48: 2010/08/13(金) 23:33:09.58 ID:9rzUs7PhO

2ちゃんねるを利用しているあなた。

あなたは親に向かってうざい、馬鹿野郎などの暴言を吐いたことはないだろうか?

Yesと答えたあなたは、今すぐ胸に手を当てて考えてみてほしい。

幼いころ、転んだあなたを優しく慰めてくれたのは誰か?

ネットしかないあなたに、毎回食事を運んできてくれるのは誰か?

今一度、考えてみてほしい。

最近では子供が親を頃す、なんて事件も増えてきている。とても嘆かわしいことだ。

あなた達がこんな事件を起こさないためにも、このスレが多くの人間に見られることを願って…。

梓「ムギ先輩…なんですか?これ」

ムギ「後始末の一環よ。いいから最後まで読んで」ゴオッ

梓「は、はひっ」

49: 2010/08/13(金) 23:33:54.14 ID:9rzUs7PhO






梓「どうしてこうなった」

完。




引用: 梓「どうしてこうなった」