1: 2010/08/21(土) 20:56:35.14 ID:9SYRm8HO0

2015年、10月17日―。


都内のK大学



田井中律は、桜ケ丘高校を卒業し、1年浪人してこのK大学に入学した。

しかし、面倒くさがりな性格からか学校をサボりがちで単位を取り損ねてしまった。

1年浪人、1年留年。という形で律はこのK大学にいまだに在学中である。


いつもの自販機で80円のカップ紅茶を買う。

そしていつものベンチに座り、周りの生徒たちを観察しながら紅茶を口にする。

律「むぎの紅茶、また飲みてぇなぁ…」

5年前、軽音楽部の5人でお茶をしていたあの頃を思い出して、律は苦笑した。

律「もうすぐ…5年か…」

律「そういや…もうすぐ唯の命日だったな…」

2010年、10月19日……

平沢唯は氏んだ―。
けいおん!Shuffle 3巻 (まんがタイムKRコミックス)

3: 2010/08/21(土) 20:58:31.21 ID:9SYRm8HO0
2010年、10月19日

今日は桜ケ丘女子高の文化祭の日。

軽音楽部の出し物はもちろんライブ演奏である。

部長でドラムの田井中律、ベースの秋山澪、キーボード琴吹紬、リズムギター、1年後輩の中野梓。

そして、リードギター&ボーカル平沢唯。

文化祭の日の朝のことだった。

HRが終わった3-2の教室で3人は話していた。

澪「ったく唯の奴、昨日遅刻するなって言ったのに…。今日はみんな空き時間がかぶってるから少し練習したかったけど…」

律「ま、唯の事だ。また寝坊でもしたんだろ」

紬「まぁ、ライブは13時半からだから…。後でメールしてみるわ」

澪「うん…そうだな。」

しかし、唯からのメールの返信はなかった。

時間はもう10時。何かあったのか心配になった3人は唯の妹の憂に聞いてみようと1学年下の2-1の教室に顔を出した。

律「こんにちわーっと、」

梓「あっ、律先輩」

4: 2010/08/21(土) 20:59:19.22 ID:9SYRm8HO0
律「おっ梓、憂ちゃんは?」

梓「憂、まだ来てないんですよ…めずらしく遅刻かな…」

律「えっ?」

梓「唯先輩からなにか聞いてないですか?」

澪「そっそれが…唯も来てないんだ…」

梓「えっ?唯先輩もっ!?」

紬「それで憂ちゃんが何か知らないかなと思って聞きに来たの」

梓「そ…そうだったんですか…」

律「どういうことだ…」

梓「ちょ、ライブ…どうするんですか?唯先輩とは連絡取れたんですか?」

紬「それが…さっき電話もかけてみたんだけど電源が入ってないみたいで…」

梓「そんな…何かあったんですかね…私も憂に電話してみますっ」

澪「頼む梓。私たちは職員室に行ってさわ子先生に聞いてみよう。学校に連絡が行ってるかもしれない」

律「そうだな。」

急いで3人は教室を出た。

5: 2010/08/21(土) 21:01:09.37 ID:9SYRm8HO0
2010年、10月19日

08:05

いつもの通学路、唯と憂は2人並んで歩いていた。

今日は珍しく唯が早起きをしたため2人で余裕を持って家を出ることができた。


憂「お姉ちゃん、今日ライブ頑張ってね!」

唯「ありがと憂~今日は新曲披露なんだよ~」

憂「お姉ちゃん家でもたくさん練習してたもんね!楽しみだな♪」


いつもしているような雑談を繰り広げながら2人はいつも必ず通る大きな交差点に差し掛かった。

今日は運が良かった。学校までにいくつかある信号機、雨の日は必ずと言っていいほど引っかかる。

別に今日は雨の日ではないが1回も赤信号に引っかかることなくこの大きな交差点の横断歩道に差し掛かった。

勿論、運は良く青信号。歩くスピードを落とすことなく横断歩道を横断した。

ちょうど横断歩道の真ん中に差し掛かった時。それは起きた。

7: 2010/08/21(土) 21:02:18.37 ID:9SYRm8HO0
グオ――――――ッッ!!
ぼんっ!!


物凄い音とともに、憂の左隣にいた唯が消えた。



キキイイイイィィィッッ!!!ガシャ――――ン!!プ―――――――――――――――――



憂「えっ?」



割り込むように1台の乗用車が唯と入れ替わりで憂の左隣に入ってきた。

そして憂は左腕の感覚がないことに気付く。

憂はようやく状況を把握した。



憂「お姉ちゃんッッ!!お姉ちゃんッッ!!!」




ピーポーピーポーピーポー

8: 2010/08/21(土) 21:03:39.35 ID:9SYRm8HO0
憂「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!大丈夫!?しっかりしてお姉ちゃん!!」

医師「ほら、君も大人しくしていなさい!左手が折れているんだよ」

憂「そんな…っ!私の怪我よりお姉ちゃんがっ!!」

医師「最善の努力はします。後の事は私たちに任せて、君は早く自分の治療を―」

憂「ううっ…お姉ちゃん…っ」


―手術中―


刑事「時速50kmですか…?」

警部「ああ。登校中の女子高生の真後ろから直撃だったそうだ…」

刑事「そんな…その女子高生は…?」

警部「後ろからまともに跳ねられたらしいからな…助かるかどうか…今、治療中だそうだ…」

刑事「そうですか…。運転手のほうは…?」

警部「運転手も重症だそうだ」

刑事「そうですか…無事だと…いいですね」

10: 2010/08/21(土) 21:04:24.19 ID:9SYRm8HO0
同日
10:40

律、澪、紬の3人は小走りで1階の職員室に向かった。

この時、この3人は唯と憂がこんな状況になっているなど思ってもいなかった。

コンコン

律「失礼しまーす。さーわこ先生っ…え…」

職員室、入ってすぐ左手のさわ子のデスク。

さわ子はなにやら電話で誰かと話しているようだった。

澪「電話中だ…ちょっと待ってよう」

律「うん…」

1分くらい待つとさわ子は受話器を置いた。

律「さわちゃん!」

さわ子「りっちゃん…あなたたち…」

律「どしたの?なんか急用?」

さわ子「あっいや…」

13: 2010/08/21(土) 21:05:34.19 ID:9SYRm8HO0

律「そんなことよりさわちゃん、唯と憂ちゃんがまだ登校してきてないんだ。学校に連絡来てる?」

さわ子「……」

澪「さわ子先生…?」

さわ子の表情に、3人は戸惑いを見せる。
何かあったのか

律「えっ?……どうしたんだよ…さわちゃん」

さわ子「ちょっと、来て―」

そう言うとさわ子は3人を職員室の外に連れ出した。

今日は文化祭で各階にはいろいろな飾りやポスターが飾ってあったが、この1階だけはいつもと変わらない。

各クラスの出し物の宣伝ポスターがちらほら貼ってあるくらいだろうか。

さわ子「あなたたちにだけ…特別に言うけど…」

律「何?」

さわ子「唯ちゃんと憂ちゃん…今朝、交通事故にあったの。いま病院よ」

一同「…えっ?」

15: 2010/08/21(土) 21:06:48.02 ID:9SYRm8HO0
3人は耳を疑った。

交通事故だって…?

唯と憂が?


律「えっ?ちょっ…それ本当なのか!?」

さわ子「ええ、今治療中だそうよ」

澪「そっそんな…」

紬「そっそれでっ!よ…様態の方は…?」

さわ子「そこまではまだ…」

この時、実はさわ子は知らされていた。2人とも「重症」だと。

特に唯の方が大変危険な状態だということが。

あえて言わなかったのだ。この3人の事だから学校などそっちのけで病院に駆けつけかねない。

しかし―。

律「さわちゃん、病院どこ!?」

さわ子「えっ!?駄目よ。教えられないわ。あなたたち一応文化祭とはいえ授業中なのよ?」

18: 2010/08/21(土) 21:07:56.62 ID:9SYRm8HO0
律「そんな…」

澪「2人は無事なんですか!?」

さわ子「本当にまだ詳しい情報が入ってきてないのよ。」

律「あたしらが病院行って確認してくる!中央総合病院?」

さわ子「駄目よ!!ほら、クラスの出し物の準備始めなさい。」

紬「こんな状況で文化祭の事なんか考えてられませんっ!」

さわ子「・・・」

紬「教えてください…先生…」

さわ子は紬の今にも泣き出しそうな声を聞いて、仕方ないわねという表情で口を開いた。

さわ子「……中央総合病院よ。自分たちのライブの時間までには帰ってきなさいよ。」

律「さわちゃん…」

さわ子「絶対よ。帰ってきなさいよ。約束だからね!」

一同「はい!!」

さわ子「このことは絶対に他言しないこと。あなたたちに特別に言ったんだからね」

律「うん。わかった。ありがとさわちゃん!よし、行くぞっ!」

20: 2010/08/21(土) 21:08:53.56 ID:9SYRm8HO0
3人は走った。教室を出て病院に向かって全力で走った。

一番足の速い律が2番手に付けている紬を2、30m近く離し、学校を出てから1番最初の交差点に差し掛かった。

律「はぁ、はぁ…どこだっけ!?中央病院」

澪「まっすぐ!ずっとまっすぐだ!」

遠くから聞こえた澪の声を聞き、律はまた走り出す。

律(唯…憂ちゃん……無事だよな…?頼む無事でいてくれ…っ!)




11:10

―桜が丘中央総合病院―


1度も止まることなく律は病院にたどり着いた。

体育の授業でたまにある地獄の持久走の時はいつもサボりがちで何周走ったか誤魔化すくらいだったが、今日は走った。

律「はぁっはぁ…着いた…どこだ…どこに行けばいいんだ…?」

紬「りっちゃんっ!…はぁはぁ…」

2、30秒遅れで紬が病院に到着した。澪はまだのようだ。

21: 2010/08/21(土) 21:10:09.02 ID:9SYRm8HO0
律「これ、どこに行きゃいいんだ?」

紬「受付の人に聞いてみましょう…」

病院はさほど混んではいなかった。受付のカウンターの前は誰もいなかった。

律「あのっ!」

受付「はい?」

律「今朝、交通事故でっ…女子高生2人が運ばれたと思うんですけど…っ!」

受付「少々お待ち下さい」

ここでようやく澪が到着した。

澪「はあ……はぁ…律…どうだった!?」

律「まだわかんない…」

受付「えーとですね…そちら左手の通路をまっすぐ進んで頂いて、階段を1つ降りて、右に進んで頂いて、突き当たりの手術室の方でただいま治療中ですね」

律「ありがとうございます!!行くぞっ!!」

病院なのでさすがに走ってはまずいと思ったのか、律は早歩きで階段に向かう。

律「階段降りてどっちだっけ?」

紬「右の突き当たりよ」

25: 2010/08/21(土) 21:11:44.53 ID:9SYRm8HO0
3人は階段を下りて右に曲がった。

律「あれ…?誰かいるぞ…」

そこには1人の女性が座っていた。年齢は40歳くらいだろうか。

女「あっ…」

律「ど…どうも」

3人は軽く会釈をした。

女「あの…桜高の…?あの…唯の」

律「あっ!ハイ。あのっ唯ちゃんのお母さん…ですか…?」

ほんわかとした、どこからか唯を想像させるような顔立ちに、律は唯の母親だと気付いた。

3人は、唯の家には何度も行ったことはあるが、唯の母親に会ったことはなかったため、すぐには気付かなかった。

唯母「はい。いつも唯がお世話になっております。あの…軽音楽部の…」

律「はい、学校で聞いて…それで…」

唯母「ありがとうございます…っ」

紬「あ、あの、唯ちゃんは…?」

27: 2010/08/21(土) 21:12:51.68 ID:9SYRm8HO0
唯母「今、治療中なんです…それが、すごく重症だそうで…うっ…」

律「重症!?そ…そんな…」

澪「あの…憂ちゃんの方は…?」

唯母「憂は大丈夫です。腕を骨折しただけで済みました…でもっ…唯がっ…ううっ…」

一同「・・・」

一呼吸置いて唯の母は重い口を開いた。

唯母「もう…助からないかも…って…」

「えっ?」

そんな…嘘だ。

昨日までいつも通り放課後部室でお茶してお菓子食べて練習して

いつもの交差点でバイバイって別れて…また明日ねって…

それで…

唯母「ううううっうっ…うっ…」

唯の母親が、もう叫びたいほどに涙を流しているのを見て、3人は固まってしまった。

これは夢じゃない。これは現実なんだ。夢であって欲しかった…。

30: 2010/08/21(土) 21:14:40.46 ID:9SYRm8HO0
11:45

カッ!!

手術室の上にある手術中のランプが消えた。

こんなシーン、ドラマでしか見ることがないものだと思っていた。

一同「!!」

手術室のドアが開く。

唯母「先生っ!!」

医師「申し訳ありません…最善の努力はしました。」

血の気が引いた。心臓が大きく動いた。


医師「11時20分…ご臨終です…。」


唯の母親はその場に膝から崩れ落ちた。

律「そんな…嘘だろ…?」

澪「嘘だ……」

紬「唯ちゃん…嘘…」

31: 2010/08/21(土) 21:15:21.29 ID:9SYRm8HO0
律「おいっ!!嘘だろ!!嘘って言ってくれ!!唯は!!唯が氏んだなんて嘘だ!!」

律は医師の服を掴みながら叫んだ。

律「何でですか!!なんで助からなかったんですか!!!ちゃんと…っ!!ちゃんと手術したのかよおぉッ!!!」

澪「やめろ律っ!!」

制止に入った澪の目からは涙がこぼれていた。

紬は唯の母親を体で支えて起こしてあげた。

律「そんなっ…唯っ!!うわああああああああああん」

律は声に出して泣き崩れた。

医師「申し訳ありません…」


・・・・・・・・・・・・・・

33: 2010/08/21(土) 21:17:42.06 ID:9SYRm8HO0
4時限目の授業を終えた律は、教室を出て帰るところだった。

律「………雨かよ」

外は結構な雨だった。

律「くっそ、傘持ってきてないぞ…。仕方ない、やみそうにないし売店で買うか…」

仕方なく売店で傘を買ったが、500円の出費。アルバイトの給料日前の律には無駄な痛い出費だった。

そして、値段の割に大きいビニール傘を広げ駅に向かった。

電車に20分ほど揺られ、地元の桜が丘駅に到着。
改札を出て外に出ると、もう雨など降っていなかった。

律「……」

空には大きな虹がかかっていた。

律「ちっ今日はついてないな……にしてもでっけぇ虹だ。綺麗だなぁ。この大きな虹を500円払って見たと考えれば………安くねぇ」

はぁとため息をこぼし、家に向かって歩き出した。
途中でコンビニに寄って、いつも買っているお気に入りのスナック菓子を買って帰った。

律「ただいまー…って誰もいないか」

両親は共働きで、母親はホームヘルパーの仕事をしている。そのためいつも夕方の5時ごろ帰宅する。
父親はごく普通のサラリーマンで、いつも夕飯時の7時過ぎに帰ってくる。
弟の聡は桜が丘から少し離れた私立の男子高に入学。今年は大学受験で勉強に励んでいるが、
この時期はまだ部活があるので、帰りはいつも6時過ぎだった。そのためこの時間、家には律1人しかいない。

36: 2010/08/21(土) 21:19:24.26 ID:9SYRm8HO0
律「あーあ、疲れた。」

今日は週3日のアルバイトも休みで、この後は何も予定がない。
だいたいこういう時は家に帰ってゲームをしていることが多いのだ。
今日もその予定でお菓子を買って帰った。

律は高校を卒業してからアルバイトを始めた。大学受験で志望校のK大学にできず、大学進学の道を諦めた。
しかし、このままフリーターをだらだら続けるのはまずいと思い、改めて大学進学を目指した。
なぜ、こんな風に思ったのか律自身もわからない。とにかく、まずいと思ったのだ。

軽音部で一緒だった澪はJ大学に進学。紬は第一志望だったT女子大に入学。
生徒会長だった和は高校を卒業して、名門のS大学に進学したが、途中で進路変更し、イギリスのG大学に留学した。
唯がいたら、唯の進路はどうなっていただろうと律は何度も考えたことがあった。
集中してやればなんでもできる天才肌の唯のことだ。きっと志望校に進学していただろうなと、考えては毎回苦笑していた。

そして1年間アルバイトをしながら大学進学に向けて勉強した。
1年浪人したので、結果的に同じ軽音部だった1年後輩の梓と同じ時期に大学に入学という形になった。

この1年間は梓も受験生ということもあり、2人で図書館等で勉強会をすることも多々あった。
このとき後輩ながら梓に勉強を教えてもらったり、既に進学した澪や紬に勉強を見てもらったりと色々世話になっていた。

1年間の勉強の甲斐あってか、無事に律と梓は志望校に入学することができた。

そして、1年は留年したものの、無事今年は卒業できそうだった。



今日も1日のノルマを終えた律は、ベッドに横になりあの日の事を思い出していた。

37: 2010/08/21(土) 21:20:47.62 ID:9SYRm8HO0
―桜が丘中央総合病院―

霊安室―。

唯の母親が、唯の顔にかかった布をそっと取ると、見慣れない唯の顔がそこにはあった。
肌は、健康的な肌色ではなく、もう真っ白になってなっていた。

こうして氏んだ人間をまともに見るのは始めてだったが、生きている人間の肌の色ではないとすぐにわかった。
そんな真っ白になった唯の顔を見た瞬間、律、澪、紬の3人はまた堪え切れない涙がこみ上げてきた。
もう立っていられなくなって、3人はその場に崩れ落ちた。

律「ううううっあっ……ゆい…うっ…」

澪「唯…ふぇっ…ゆいいいいい」

紬「唯ちゃん…ゆいちゃん…」

律「なんでだよっ…なんで唯がこんな目に合わなくちゃいけないんだよおおおおおおおっ!!!」



3人は線香をあげた後、あまりのショックからかしばらく立てずに霊安室の中にいた。
部屋の中は、泣き声と鼻をすする音だけ。誰も何も言えずに、ただ泣くことしかできなかった。
しかし、ここで律が口を開いた。

律「あれ…唯のお母さんは…?」

紬「さっきここを出て行ったわ。」

澪「憂ちゃんのところに行ったのかもしれない。それか親戚や学校に電話してるか…」

39: 2010/08/21(土) 21:22:14.52 ID:9SYRm8HO0
律「憂ちゃんのところにも行ってあげようぜ…」

紬「そうね…じゃあ、りっちゃんと澪ちゃん行って来てあげて」

澪「むぎは?」

紬「私はここで待ってるわ。唯ちゃん1人じゃかわいそうだから…」

律「そうだな。ありがとなむぎ。」

紬「ううん。」


律は受付で憂の病室を聞き、3階にある憂の病室へ向かった。

コンコン。

律「失礼します…憂ちゃ…」



憂「やめてえええっ!!離して!!!やめてやめてえっ!!」

律「!?」

澪「憂ちゃん!?」

そこには、暴れてる憂を唯の母親と看護婦2人が必氏に押さえてる姿があった。

律「どっどうしたんですか!!」

41: 2010/08/21(土) 21:23:37.33 ID:9SYRm8HO0
唯母「憂がっ…!自頃するってっ!!」

澪「えっ!!」

律「憂ちゃん!!あたしだ!!律だ!!」

律は憂の肩に手を乗せ必氏に呼びかけた。
澪も同様、憂の名前を叫んだ。

憂「律さん…澪さん…」

律「そうだよ。律と澪だ。」

憂「お姉ちゃんがっ…お姉ちゃんがああっっ!!!!私のせいなんです私があの時もっと注意してたらっ!!」

律「落ち着いて憂ちゃん…っ!」

憂「私が左側を歩いてればよかったんだっ!!私のせいっ!!嫌だ嫌だっ!!!氏ぬっ!もう氏ぬううううっ!!」

澪「憂ちゃん!憂ちゃんのせいじゃない!!」

律「自分を責めちゃ駄目だっ落ち着いて憂ちゃんっ!」

憂「いやああああああああああああああああ」

いつも礼儀正しくて、落ち着いた憂を見てきた律と澪にとっては、憂のこんな姿を見るのは衝撃的だった。
無理もない。本当に心から愛していたたった1人の姉が、もうこの世にはいないのだから…
ここで取り乱さない方がどうかしてる。

44: 2010/08/21(土) 21:25:17.71 ID:9SYRm8HO0
律「憂ちゃん…っ」

律はそっと憂を抱きしめ、耳元で囁いた。

律「駄目だ。氏ぬなんて言ったら…」

憂「でもっ!お姉ちゃんがっ!!私のお姉ちゃんがっ!!私のせいで…っ!」

律「憂ちゃんのせいじゃないっ!」

憂「……」

律「今憂ちゃんが氏んだら唯が一番悲しむぞっ!」

律「唯のためを思うなら…ここで氏んだりなんかしちゃだめだっ」

憂「………うっ」

澪「憂ちゃん…」

憂「うわあああああああああああああああああああんわあああああああああん」

憂は律にしがみついて思いっきり声を出して泣き叫んだ。
律は、涙を必氏に堪えた。

46: 2010/08/21(土) 21:26:37.06 ID:9SYRm8HO0
・・・・・・・・・・・

律「月曜、みんなで墓参り行かなきゃ」

唯がこの世を去ってから今年で5年になるが、この4年間、毎年唯の命日にはみんなでお墓参りに行っていた。
今年もそのつもりだ。

どうせ明後日の日曜辺りに澪か紬から連絡が来るだろうと思い、律はメールをするのをやめた。
そんな事を考えながら、机の上にある携帯電話から目を逸らそうとしたその時だった。




ヴー、ヴー、ヴー





律「噂をすればってか…?」

律はクスッと笑みをこぼし、携帯電話を手に取った。
しかし、携帯の画面を見た瞬間に、その笑みは一瞬にして消えた。

着信画面を見てみると、そこには…

 平沢 唯
 080 XXXX XXXX

律「えっ?」

49: 2010/08/21(土) 21:28:55.64 ID:9SYRm8HO0
律は一瞬何が何だかわからなかった。
確かに、唯の電話番号とメールアドレスは消せずにまだ律の携帯に登録されたままだった。
しかし、おかしい。なぜ唯の携帯から着信が…?

恐る恐る、律は携帯電話の通話ボタンを押す。

そして、そっと右耳に携帯を当てる。

律「…もし…もし?」

?「……し…プッ……ぉし…ザザッ」

ノイズのせいで声が聞きとれない。

律「えっ?…もしもし??」

?「………しもし?」

律「もしもし?えっ?」

唯「もしもし?りっちゃん?ごめーん、なんか切れちゃった~」

律「えっ?」

唯「ほえ?どしたの?」

律「えっ……って……唯…?」

唯「ほーだよ?なに?どしたの?りっちゃん?」

51: 2010/08/21(土) 21:30:35.59 ID:9SYRm8HO0
背筋が凍りついた。それは確かに唯の声だった。
ほんわかとした、ちょっと間の抜けたような、どこか懐かしい、可愛らしい声―。

律「ちょっと待て、本当に唯なのか?」

唯「え~?なにそれ~?今まで電話してたじゃん」ブーブー

律「はっ!?えっ!?なんでだよ……」

唯「何が??りっちゃんおかしいよ?」

律「いや、待て。おかしいのはお前だ。」

唯「ひどい~!」

間違いない。この声は唯だ。律は確信した。
しかし、何故氏んだはずの唯から電話が?一気に頭が混乱した。

律「唯、今どこにいるんだ?」

唯「え?今家だよ」

律「家?憂ちゃんは?」

唯「憂いるよー。なんで??」

律「えっ………………えっ!?」

唯「え?」

55: 2010/08/21(土) 21:32:20.67 ID:9SYRm8HO0
憂は今、平沢家にはいない。
あの日憂は、一時的に平常心を取り戻したものの、精神的にも深い傷を負ってしまった。
複雑骨折のため入院していた憂はその入院中、なんども自殺未遂を繰り返していたため、精神科で見てもらうことになった。
自殺に使えそうなものが近くにあると、それを使ってどうにか氏のうと何度も手首を切ったり、首を絞めたりしてしまう。
かなりの重症だった。

5年経って今はだいぶ元気を取り戻してきたが、自殺癖はまだ消えないらしい。
でも、今はリハビリ中で、病院の子たちとも仲良くなったようで憂の両親も安心していた。
律たちも、たまにお見舞いに行っている。その時は昔のように普通に会話ができる程度にまで回復したが―


今平沢家に居るはずがないのだ。憂は今入院中。

それ以前の問題に、唯が居るのがおかしいわけだが。

心臓の鼓動が聞こえてくるくらい強く鳴っていた。

律「どういうことだ?」

唯「なになに??りっちゃんさっきからおかしいよ。さっきまで普通だったのに」

律「さっき?」

唯「さっきまでしゃべってたじゃん!記憶喪失になっちゃったのー?」

律「えっ?」

わけがわからなかった。
唯の言ってることが…いや、今話してる相手が唯なのかすらもわからない状況だ。
律は自分がおかしいのか?自分が夢を見ているのか?そう思った。

56: 2010/08/21(土) 21:34:02.08 ID:9SYRm8HO0
唯「りっちゃん?」

律「さっきまであたしたちは何を話していたんだ?」

唯「えー?ほら、明日むぎちゃんがなんのお菓子持ってくるか当てっこしようって…」

律「むぎのお菓子…?」

唯「そんで、私が勝ったらりっちゃんの分ももらうからねーって」

律「唯…」

唯「ほえ?」

律「お前、今高校生なのか…?」

唯「何言ってんのりっちゃん。私たちはピチピチの女子高生じゃないかっ」

律「私たち…って…」

まさかとは思ったが、律は恐る恐るその唯とやらに訊いた。

律「唯……今、西暦何年…?何月何日だ?」

唯「それぐらいわかるよー!えーと…2010年だったかな…今日はーちょっと待って…えー10月17日だ!」

律「えっ?」

何を言ってるんだ?違う…今年は2015年だ。そして今日は10月17日、これは合っている。
明後日は唯の5回忌だから皆でお墓参りに……って、えっ?2010年?10月17日?唯が生きてる…?

60: 2010/08/21(土) 21:36:38.07 ID:9SYRm8HO0
律「おいっ!」

唯「あわわ、なになに??」

律「今日は本当に2010年の10月17日なのかっ!?」

唯「えっ?ちょ…な、なんか不安になってきた…ちょっと待って」

唯『うーいー!!』

憂『なーにー?』

唯『今年って西暦何年ー?』

憂『2010年だよー!』

唯「ほれ!」フンス

律「憂ちゃんっ!?」

唯「ね!りっちゃん感覚おかしくなった?まさか本当に記憶喪失に―」

律「唯っ!!本当なんだな!!本当にお前は平沢唯なんだなっ!!」

唯「そうだよ?りっちゃん…?」

律「わかった。あたしはお前を信じるぞ…唯!」

唯「う…うん」

62: 2010/08/21(土) 21:37:50.23 ID:9SYRm8HO0
律「いいか唯、落ち着いてよーく聞いてくれ。」

唯「わかった!」

律「あたしは田井中律だ。」

唯「うん、知ってる!」

律「あたしは今、23歳だ。」

唯「………」

律「おい、聞いてるか?」

唯「…ぷっはははははははは!!」

律「笑うなっ!本当なんだっ!」

唯「やっぱり今日りっちゃんおかしー」

律「おかしくない!!あたしは今年の8月で23になった。今大学4年生だっ!」

唯「え?ちょっとりっちゃん…」

律「信じてくれ…っ!」

唯「……なんで?なんでりっちゃん、こないだまで18歳の高校生だったじゃん…」

65: 2010/08/21(土) 21:39:29.74 ID:9SYRm8HO0
律「違うんだ。今の唯は過去の唯…じゃなくて…あたしは今、過去の唯と話してる」

唯「えっ?過去の私?」

律「そうだ。そしてお前は今、未来の田井中律と話している」

唯「え?…意味がわからないよ…?」

律「だから、なんかわからないけど、過去の唯と………プッ……がってる……ザザッ……んだ」

唯「えっ?もしもし?りっちゃん!?」

律「…………過去…の………プッ」

ツーツーツー。

唯「切れちった……。変なのー。過去の私と、未来のりっちゃん…?」

唯も律の話を聞いて混乱していた。律の言っていることは本当だったのか…

考えてみると、不可解な点はいくつかあった。
まず、携帯の電波がないわけでもないのに突然切れた電話。
そして律の真剣な声。律があんな本気で冗談を言う人ではないことは唯も知っていた。が、しかし
未来の人間と会話をする。そんな漫画のような話がこの世にあるだろうか。

考えるのが苦手な唯は、もう深く考えるのはやめた。
きっと、律の冗談だろう。そう思うことにした。明日学校で聞けばいいのだ。

唯「うーいー、ご飯まだー?」

68: 2010/08/21(土) 21:41:44.13 ID:9SYRm8HO0
2015年 10月17日 16:00

律「もしもし!?もしもし唯っ!?くっそ…切れた…っ!」

軽く舌打ちをすると、もう一度着信履歴から先ほどかかってきた唯の番号の画面を開き、
祈る思いでコールボタンを押した。

プップップッ―。

律「頼む…っ!出てくれ唯っ」

『お客様がおかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになって―』

律「えっ!?」

顔面から冷や汗が吹き出してきた。
何故繋がらない?さっき確かにこの電話番号から…唯の電話番号からかかってきたはずなのに
律は耳を疑い、もう一度かけなおしてみる。

が、結果は同じ。繋がらない。

律「なんでだ!?確かにこの唯の番号からっ!」

携帯の画面を見てみると、

15/10/17  15:46
平沢 唯
080 XXXX XXXX

律「確かにさっきの履歴だ…なんなんだよコレ…どういうことなんだ…っ!?」

70: 2010/08/21(土) 21:43:40.72 ID:9SYRm8HO0
2010年 10月18日

朝―

唯「おはおー…はぁはぁ」

律「おはよ。また走ってきたな」

紬「おはよー」

澪「おはよ、遅刻ギリギリだぞ」

和「おはよう。唯、また寝坊?」

唯「違うんだよ。昨日遅くまでTV見てて、寝るのが遅くなっちゃったの。それで朝起きれなかったんだよ」

律「それを寝坊と言うのだよ。」

和「まったく、憂も大変ね…」

さわ子「はーい、みんな席ついてー。ホームルーム始めまーす。」

唯「あわわわ」

さわ子「明日は文化祭です。みんな遅くまで残るのは構わないけど、最低下校時間までには―」

唯「(ん…?あれ?そういえば昨日りっちゃんおかしなこと言ってたよね…あれ?後で聞いてみようっと)」

唯「(未来から来たりっちゃん成人だー!星人じゃないぞ成人だ!とかなんとか。ぷぷっ変なのー)」

71: 2010/08/21(土) 21:45:24.36 ID:9SYRm8HO0
―放課後―

澪「唯ー!部室行くぞー」

唯「あーちょっと待って……ギー太を…よっと…よし!」

澪「もう律とむぎは行ってるみたいだから」

唯「うん!明日のために今日はむぎちゃんのお菓子食べてからたくさん練習しないとね!」

澪「どっちみちお菓子は食べるんだな…」

唯「(あれ?…りっちゃんに昨日のこと聞くの忘れてた…後で聞いてみよう…)」

―部室―

紬「今日のお菓子はシュークリームよー」

唯「おお!でかい!!これはうまい!!」

梓「まだ食べてないのに…」

唯「食べなくてもわかるんだよ!このサクサクしてそうな生地、そしてこのボリューム感!」

律「さー食べようぜー」

梓「明日は文化祭ですからね!食べ終わったらすぐ練習ですよ?」

唯「わーかってるよ~あずにゃ~ん」

72: 2010/08/21(土) 21:46:53.74 ID:9SYRm8HO0
唯「あー、そういえばさ、りっちゃん」

律「んー?何?」

唯「昨日さ、電話で―」

律「あー、そういえば…ごめんごめん、何回かかけなおしたんだけど繋がらなくてさ」

唯「え?」

律「また明日のお菓子の話だろうと思って、まあいっかって」

律「あ、そういえば2人とも予想外れたな。絶対今日はクッキー系が来ると思ったんだけどな~」

唯「違うよりっちゃん、その後の話だよ」

律「へ?その後って……だから電話が切れちゃって…んでかけなおしても繋がらなかったからって今―」

唯「え?私がかけ直したらりっちゃん出たじゃん。」

律「え?いつ」

唯「いや、その後すぐだよ」

律「何を言ってるんだい?君は?」

唯「あー!りっちゃんずるいー!!そうやって私を馬鹿者扱いするんだ!ぶーぶー」

律「いや待て待て、あたしは唯の言ってる事の意味がわからないぞ。昨日はあれで電話終わっただろ?」

74: 2010/08/21(土) 21:48:47.61 ID:9SYRm8HO0
唯「えっ?」

律「唯、記憶がおかしくなってないか?夢でも見てたのか?」

唯「なっ!記憶喪失だったのはりっちゃんのほうじゃ~ん」

律「はい?」

唯「未来から来たー!とか言って」

律「いや、言ってない。」

澪「なにさっきから訳のわからないこと言ってるんだよ2人とも」

唯「違うんだよ澪ちゃん、りっちゃんが私は大学生で23歳になったんだとか言ってたんだよ」

澪「律、お前寝ぼけて電話取ったんじゃないか?」

律「いや、待てって、あたしはそんなこと……本当に言ったのか?」

唯「そうだよ。なんか昨日りっちゃんおかしかったよ?大丈夫?」

律「あーうん、大丈夫だけど…(あれー?おっかしーな…本当に記憶喪失になっちまったか?)」

梓「さあ、食べ終わったなら練習しますよー」

唯「えー!まだ食後の一服タイムが残ってるよ!」

梓「そんなおじさんみたいなこと言ってないで練習しますよ!」

75: 2010/08/21(土) 21:49:53.66 ID:9SYRm8HO0
唯「えー!!」

梓「みなさん先輩方にとっては最後の文化祭ですよ?必ず成功させましょう!」

紬「そうね!頑張りましょう!」

澪「そうだな!」

律「よーし、やるか……(なんかおかしいなぁ…)」

唯「むーん」

この時唯は、律がふざけて冗談を言ったものだと完全に思った。

律の記憶がおかしくなっているものだと思った。

しかし、

この時2人とも正常。

2人とも間違ったことは言っていない。

おかしいのは、昨日起きた、怪奇現象だった。


5人はいつも通り、音楽準備室で明日の文化祭に向けての練習を始めた。

76: 2010/08/21(土) 21:54:10.61 ID:9SYRm8HO0
2015年 10月18日


律「くっそ…あれから何度も電話してるのに…繋がらない…っ!」

律「昨日のはいったい何だったって言うんだ!?確かに着信履歴も残ってる…っ」

昨日のこの不可解な出来事を1日中考えていた。
しかし、電話が繋がらない以上何をどうすることもできない。
昨日のアレは夢だったのではないか。と考えるも、着信履歴を見れば夢じゃなかったことがわかる。

律「明日…明日なんだよ…っ!もし、本当に過去の…2010年10月17日の唯と電話が繋がっていたんだとすれば…」

律「教えてあげることができた…っ!のにっ!くそっ!!」

律「何故昨日言わなかったんだ…っ!文化祭の日の朝は気をつけろって…くそっ!!!」

激しく後悔した。
しかし、改めて考えてみると…

律「待てよ…。仮に過去の唯に、この交通事故の事を教えて、その日は事故に会わずに助かったとする…」

律「するとどうなる…?」

それもそうだが、他にもいくつかの疑問点はあった。
まず、昨日電話が繋がった5年前の2010年10月19日の唯の世界では、その日の朝に本当に交通事故は発生するのだろうか。
次に、仮に5年前の事故を未来の律が教えてあげたとして、それをはたして回避できるのか。
そして……もし、その事故を回避した場合、唯はどうなる?唯は2010年10月19日に氏んだことにはならない…のか。
氏んだことにならなかった場合、今はどうなる?過去が変わった場合…未来はどうなるんだ?

79: 2010/08/21(土) 21:58:27.10 ID:9SYRm8HO0
考えるだけ無駄だった。
こんな前代未聞の現象、いくら考えたって答えが導き出せる筈がなかった。
律は最後にもう一度、唯の番号に電話をかけて繋がらないことを確認して、携帯電話をそっと机の上に置いた。

律は立ち上がり、部屋を出ようとしたその時、机の上にあった携帯電話が唸りだした。

ヴー、ヴー、ヴー

律「!?」

律は激しく期待、興奮し、携帯電話を開く。
しかし、そこにあったのは律の期待したものではなかった。

秋山 澪
080 XXXX XXXX

律「なんだ、澪か…」

心の興奮がまだ治まっていなかったが、とりあえず電話に出た。

律「もしもし澪?」

澪「おー律久しぶり、明日どうする?」

律「へ?明日?なんもないけど…」

澪「なに言ってるんだよ。明日は唯の命日だろ?お墓参り行くだろ?」

律「ああ、そうか…」

80: 2010/08/21(土) 22:02:00.85 ID:9SYRm8HO0
律は完全に唯の墓参りの事など忘れていた。
何せ、その唯から昨日、電話がかかってきたのだから。

澪「ったく、忘れてたのかよ。私今日は仕事まだ残ってるから、後で皆に連絡頼むぞ?」

律「ああ。」

澪「私は仕事休みもらったから、私らは昼頃合流でいいよな。その後予定合えばみんなでご飯でも食べよう。詳しい時間とか後でメールしてくれ」

律「わかった…でも、どっちみち車出すから待ち合わせはうちでいいだろ…って、あのさ、澪」

澪「んー?」

律は昨日の事を澪に言うか言わまいか迷った。
はたして言ったところで信じてもらえるだろうか。
しかし、ここで言わないでいつ言うんだ…っ!

律「昨日…さ、唯から電話がかかってきたんだ…」

澪「はっ?」

律「いや、あの、過去の唯から。5年前の唯から何かわかんないけど電話がかかってきたんだ…それでっ」

澪「っはははは、なに言ってんだよりつー」

律「いや、本当なんだって!信じてくれ!」

澪「夢だろ?なんだかんだで唯の命日近かったから頭の中で考えちゃってたんだろう」

律「ち…違うんだっ!!」

83: 2010/08/21(土) 22:04:07.50 ID:9SYRm8HO0
澪「律、最近疲れてんのか?せっかくだしストレス発散に今度休みの日飲みにでも行こうよ」

律「だーかーらー、そうじゃなくて、本当に夢じゃないんだ」

澪「学校の子たちと飲みに行ったりしないのか?」

律「いや、そりゃたまにはあるけど…いま金欠なんだ。」

澪「そうか…学生だもんな…」

澪「じゃあまた後で時間だけメールくれよ。電話でもいいけど。」

律「ああ、わかった………って、そんな話じゃなくて本当にっ」

ツーツーツー

律「切れてやがる…………まぁ、普通そうなるわなぁ~」

こんな感じで軽くあしらわれることも薄々わかっていたが、信じてもらえなかったのは少しショックだった。
まあ、こんな漫画のような話、いきなり聞かされて信じろと言うのも無理があるが。

律「しょうがないか…明日みんなに話してみよう。着信履歴を見れば…きっと信じてくれる」

84: 2010/08/21(土) 22:06:16.06 ID:9SYRm8HO0
2010年 10月18日

律「じゃあ、また明日なー」

澪「唯、明日は遅刻するなよー」

唯「わかった!大丈夫!!じゃあね~ばいばーい」

唯と紬と梓の3人は、いつもの交差点で、2人を見送って別れた。

唯「明日楽しみだねー。むぎちゃん、私たちにとったら最後の文化祭だよ!緊張するね~」

梓「全然緊張してる風に見えないですけど…」

紬「そうね、なんだか寂しい感じもするけど、悔いを残さないように頑張ろう!」

唯「うん!!」

そして3人は駅前の交差点についた。いつも紬と別れる所だ。
紬は軽音部の5人の中で唯一、電車通学なのだ。

唯「じゃあむぎちゃん、また明日ね~」

梓「お疲れ様でしたー」

紬「うん。ばいばーい!また明日ね~」

2人は紬を見送った後ゆっくりと歩き始めた。

86: 2010/08/21(土) 22:07:21.42 ID:9SYRm8HO0
梓「なんか天気があやしくなってきましたね…」

唯「ひとっぷり来るかもね!」

梓「なんでちょっと嬉しそうなんですか…」

梓「雨降ってこないうちに早く帰りましょう」

唯「そだね」

2人は自然と早歩きになった。
早歩きと行っても、いつもの歩くスピードの1.5倍くらいだろうか。

唯「トンちゃんにもライブ見せてあげたいね」

梓「さすがに講堂には持って行けないですよ」

唯「だよね~。せっかく最後のライブだからトンちゃんにも演奏見せてあげたいのにな~」

梓「トンちゃんも軽音部の一員ですからね!でも、私たちの演奏なら毎日部室で聞いてますよ」

唯「そっか~ならいっか~」

くだらない雑談をしているうちに、梓と別れるポイントまで着いた。雨は降ってこなかった。

唯「じゃあね、あずにゃん。また明日ね~」

梓「はい!それじゃまた明日です。先輩、遅刻しないでくださいよ!」

唯「わかってるよ~。ばいばーい」

87: 2010/08/21(土) 22:08:56.61 ID:9SYRm8HO0
ポッ―ポッ―ポッ―。

唯「げっ!雨降ってきた~?」

唯「走れー!」

ザ――――――――――――――――――

唯「ぎゃあああああああああああ」

唯「ギー太っ!ギー太が濡れるううううっっ!!」

唯「サビるうううううう!!ごめんねギー太!!」


唯はギターケースを両手で抱えながら走った。
まるでバケツに溜まった水をひっくり返したかのような大雨。

いつも朝走り慣れていたせいか、ものの数分で家に着いた。
しかし、走っても走らなくても同じだったかもしれない。
唯の身体はもう既にびしょ濡れだった。

唯「ふええええぇぇ、ただいまぁ…うい~」

憂「お姉ちゃん雨大丈夫だった!?ってびしょびしょだよ!」

唯「ギー太がぁ…」

憂「早く上がって!お風呂沸かしておいたから入っておいで」

88: 2010/08/21(土) 22:11:15.14 ID:9SYRm8HO0
唯「ありがと~うい~」

憂「ギー太はちゃんと拭いといてあげるからね」

唯「うん、ありがとう。行ってくるね~」

憂「うん!……ってああ!お姉ちゃんタイツ脱いでーっ!」

憂は、おもむろに脱ぎ捨てられた唯の靴を綺麗に並べた後、洗面所からタオルを持ってきた。
そしてギターケースから唯の愛用のレスポールを取りだした。

憂「あれ?そんなに濡れてないよ?」

唯が体で守って走ってきたおかげか、レスポールはあまり濡れていなかった。
憂は、きっと唯が体を張ってギターを守ったんだなと思い少し苦笑した。

すこし湿っていた部分をタオルで拭き取り、レスポールを唯の部屋に立て掛けてて置いてきた。
ギターケースを乾かそうと、リビングに戻ると

憂「あれ夕陽が………。雨……止んでる……」

雨はもう降っていなかった。ちょうど唯が帰ってくるときに、たまたま雨雲が桜が丘を通過した
ただの夕立だった。

憂「あっ……綺麗な虹だぁ…」


ガチャ―。

89: 2010/08/21(土) 22:12:13.16 ID:9SYRm8HO0
唯「ふふふふふふふ、ふふふふーふふふふふ♪」

憂「お姉ちゃん、ギー太拭いて部屋に置いておいたよー」

唯「ありがとうい~」

憂「ご飯7時だから」

唯「うん。わかった~!明日文化祭だから練習してくるね~」

憂「うん、頑張ってね~」

唯は階段を上り3階の自分の部屋に向かった。

唯「ギー太!…濡れてなかった?憂にお礼言わなきゃだね~」

レスポールを抱き上げ、ベッドの上に座ると、早速明日演奏予定の「ふわふわ時間」を弾き始めた。
このふわふわ時間、唯は1年の頃から弾いている曲、軽音部に入って初めて作った曲ということもあってか、一番得意な曲だった。
しかし、家にギターアンプがなかったため、さほど綺麗な音は出なかった。

唯「寝ちゃお寝ちゃおー(そー寝ちゃおー)あーあーかーみさーま」

曲がちょうど最後のサビに入ったところで2階から憂の声が聞こえた。

憂「お姉ちゃーん、電話鳴ってるよー!鞄持っていかなかったのー?」

唯「あっ!忘れてた!」

唯はレスポールをベッドの上に置いて部屋を出た―。

93: 2010/08/21(土) 22:16:56.31 ID:9SYRm8HO0
2015年 10月18日
18:00

思い立ったように律は言った。

律「駄目なんだよっ!明日じゃっ!!」

律「明日がその日なんだっ!!唯に教えなくちゃっ!!…でも……電話は繋がらない…っ!」

いつでも電話が鳴っていいように、律は昨日から携帯電話を肌身離さず持っていた。
用を足すときも、風呂に入る時も。

律「唯から電話がかかってくるのを待つしかないのか…!?」

律「いや…やれることはやった方がいいな…」

そう言うと律は携帯電話の画面を開き、着信履歴を見る。

律「ちょくちょく電話をかけてみよう…この唯の電話番号から電話がかかってきて話したのは事実だっ!」

律「またきっと…繋がるはずっ!」

律は祈る思いで発信ボタンを押した。

プップップ

律「頼む頼む頼むっっ!!」

プルルルルルルルルルル―。

94: 2010/08/21(土) 22:22:21.62 ID:9SYRm8HO0
律「!!繋がった…っ!!」

なんと。繋がったのだ。
律は間違えてかけていないか確認するためにもう1度携帯の画面を見た。

   呼び出し中
平沢唯 080 XXXX XXXX

間違っていなかった。心臓の鼓動が高まる。

律「頼む!出てくれ唯…っ!」

プルルルルルルルル―。

プルルルルルルルル―。

プルルルルルルルル―。

律「なんで!!!なんで出ないんだっ!!せっかく繋がったのにっ!よりによって!」

プルルルルルルルル―。

律「駄目か…」

プルルルルッ―。

唯「もしもし、りっちゃん?ごめんごめ~ん携帯2階に置いてきちゃってた~」

律「唯っ!!」

95: 2010/08/21(土) 22:25:38.19 ID:9SYRm8HO0
唯「うん、どうしたの~?」

律「唯!唯なのかっ!?」

唯「ほだよ~」

律「あたしだ!律だ!」

唯「うん、わかるよ~」

律「わかってくれたか!唯!」

唯「りっちゃん大丈夫~?昨日の事思い出した?」

律「えっ?なにが?」

唯「ほら、りっちゃんが言ってた冗談だよ~。未来から来たっていう」

律「だから!!冗談じゃないんだってば!!あたしは田井中律23歳だ!」

唯「あ!また言ってる~りっちゃん、昨日の続き~?もうそのネタはいいよ~」

律「違う!!頼む唯…っ!信じてくれ……っ」

律は今までにないほど真剣に言った。

唯「りっちゃん…?」

律「本当なんだ…っ!あたしの話を聞いてくれっ!聞くだけでいいからっ!!」

100: 2010/08/21(土) 22:32:11.84 ID:9SYRm8HO0
唯「証拠…」

律「えっ?」

唯「証拠見せてよ。りっちゃんが未来から来たっていう証拠」

律「そんな…それは…」

唯「じゃないと私信じないもんぬ~」

まさか唯の口から証拠を見せろなんて言葉が出てくるとは、律も思わなかった。
突然の事で律も黙ってしまった。

唯「ほら~証拠ないんじゃん」

律「ちょ…ちょっと待ってくれっ!」

律は必氏に考えた。自分が未来人だという証拠を必氏に探した。
しかし、時間がない。
この間みたく数分足らずでまた電話が急に切れてしまうかもしれない。
とにかく明日のアレを伝えなきゃという気持ちが押しあげてきた。

律「唯、とりあえず、落ち着いて話を聞いてくれ」

唯「なあに?」

律「5年前の2010年、10月19日にお前は氏んだ。朝、通学途中、交通事故で」

唯「えっ?」

105: 2010/08/21(土) 22:49:16.07 ID:9SYRm8HO0
律「今日、夜7時から生放送で野球があるはずだ。クライマックスシリーズの第3戦だ。」

唯「え~?野球わかんないよ~」

律「いいから!これであたしが未来から来たってことが証明できるかもしれないっ!」

唯「え!なになに??」

律「今日やるのは………っと、中日VS阪神だろ。」

唯「え~?だからわかんないよ~」

律「憂ちゃんにでも聞いてくれ!頼むっ!!これでこの野球の結果が見事一致すれば未来から来たって証明になるだろ!」

唯「う~、うん…」

律「メモってくれ!!」

唯「え~」

律「早くっ!!一生のお願いだっ!!」

唯「わかったよ~」

律「結果は2-1で中日が勝つ。勝ち投手チェン、負け投手久保田―」

唯「え~なになに?勝ち投手がジャッキーチェン???」

律「ちげえ!チェンだ!んで、負けが久保田」

112: 2010/08/21(土) 22:53:41.41 ID:9SYRm8HO0
唯「うんうん、くぼっちだね。」

律「そうだ。で、7回に阪神が1点入れて、9回に中日が逆転サヨナラ2ラン!」

唯「ふむふむ、さようならっつー…らん?」

律「で、ホームラン打ったのが………ザザッ…プープッ………新…」

唯「え?なんて??」

律「……から、新井……………っ……田ザッ……」

唯「新井……と、あとなんて?ダ?」

ツーツーツーツー。

唯「ありゃ、切れちった…」

唯「本当かな~?」


ちゅうにち はんしん
2対1
かちとうしゅ、ジャッキーチェン
まけ、くぼっち
7回に1点、9回目でぎゃくてんさようならっつーラン
ホームラン、あらい、ダ


唯「こんなんでいいのかな…?憂に見せてみよっと」

115: 2010/08/21(土) 22:55:46.77 ID:9SYRm8HO0
2015年 10月18日

律「くそっ!!まただっ!また切れた…」

もう一度、携帯電話の発信履歴から、唯の電話番号にかけてみたが、結果は先日同様、繋がらなかった。

律「一体なんだって言うんだ…繋がったりいきなり切れたり、繋がらなかったり…」

律「でも…肝心なことは伝えた……頼むぞっ…唯っ!」

そして、携帯電話の録音機能の設定画面を開いて、携帯を耳に当てた。
そう、律は途中からではあるが、携帯電話の録音機能で唯との会話を録音していたのだ。
作戦は成功、ちゃんと唯の声は録音されていた。

律「これで…明日信じてもらえるかな…」

律「なんか…落ち着いていられないぞ……肝心なことは伝えたのに…」

明日、唯が交通事故を回避したところでどうなるかはわからない。
しかし、もしかしたら、過去を変えることによって、未来が変わるかもしれない。
期待と緊張でこの日律はろくに寝れなかった。

117: 2010/08/21(土) 22:58:26.87 ID:9SYRm8HO0
2010年 10月18日

唯「ういー」

憂「なあに?お姉ちゃん?」

唯「今日野球やるの?」

憂「うん、おとといからクライマックスシリーズ始まってるよ?お姉ちゃん野球に興味持ち始めたの?」

唯「ううん、りっちゃんがね、今日の野球は憂に聞いてでも見ろって…」

憂「律さんが?どうしたんだろう…」

唯「なんかね、りっちゃん最近おかしいんだよ」

憂「えっ?」

唯「未来から来たって言うんだよ~」

憂「え??」

唯「だから、今日の野球の結果がわかるんだって!」

憂「そうなんだ~なんか律さんらしいね」

唯「これ、りっちゃんが言うには、この通りになるんだって…」

唯はそう言うと、さっきメモした紙を憂に渡して見せた。

121: 2010/08/21(土) 23:02:47.32 ID:9SYRm8HO0
憂「これ…?」

唯「うん…」

憂「中日対阪神…2対1……勝ち投手ジャッキーチェン??律さん本当にこう言ったの?」

唯「うん!」

憂「…」

憂「えーっと、負け投手くぼっち…???」

唯「でへへ~」

憂「7回に1点、9回にさようならっつーらん??……サヨナラ2ランだよ、お姉ちゃん…」

唯「野球わかんないもん…」

憂「ホームランが新井選手か…あと…ダ??すごい詳しく予想したんだね、律さん」

唯「これで当たったら、私が未来から来た証拠になるって…」

憂「……本当に?……でも…なんで?」

唯「さあ?わかんない…」

憂「せっかくだし、野球見てみようか」

126: 2010/08/21(土) 23:06:28.78 ID:9SYRm8HO0
20:10

唯「ねえ、憂、全然だめじゃん。こんなんじゃずーっと0対0だって。つまんないよ~」

憂「でもその肝心な7回はまだ始まったばっかりだから…」

『打ったー!これは大きいっ!阪神ファンの待つレフトスタンド一直線っ!ホームラン!!』

『7回まで沈黙だったこのナゴヤドーム、ついに均衡が破られましたっ!』

『新井、クライマックスシリーズ第1号、ソロホームラン!』

憂「えっ?」

唯「え?なになに??すごいの?」

憂「律さんの言った通りだ…」

唯「えっ?嘘?」

そう言うと憂はさっき唯からもらったメモ用紙を見直した。

憂「7回に1点…ホームラン…新井…」

唯「本当に!?りっちゃんすごーい!」

憂「そんな……たまたま…?これでもし…9回に…」

唯「次は!?次はどうなるの??」

129: 2010/08/21(土) 23:08:55.50 ID:9SYRm8HO0
憂「次は9回だからまだ先だよ…」

唯「えー」

―20:50

『さあ、タイガース、ピンチです。9回2アウトランナー2塁。ホームランが出ればサヨナラの場面でバッターは和田!』

『おーっと?ここでタイガース、ピッチャー交代のようです。』

『ここで久保田がマウンドに上がります。』

憂「えっ?久保田…?くぼっち…?」

憂「お姉ちゃん!くぼっちって久保田選手のこと?」

唯「あーうん、そうだったかも…」

憂「そんな…こんなことって………まさかね…」

『初球低めの変化球を打った―――――――――――!!』

憂「えっ?」

『打球はバックスクリーン一直線っっ!!』

『入ったーーーー!和田!逆転サヨナラ2ランホームラーーン!!』

憂「そっ…そんな…」

134: 2010/08/21(土) 23:14:36.56 ID:9SYRm8HO0
唯「え?なになに??どうなったの??」

憂「お姉ちゃん…全部律さんの言った通りだよ…」

唯「え…うそ…」

憂「全部っ…ホームランを打った人も、点が入る場面も…試合結果も…全部このメモの通り…ダって和田選手の事だったんだ…」

唯「すごい!りっちゃん凄い!!エスパーだよ!!」

憂「でも…なんでわかったんだろう…こんな正確に…律さん、本当に未来から来たって言ってたの?」

唯「うん…23歳の大学生だって…」

憂「…なんで??こんなことって…」

唯「明日りっちゃんに聞いてみるよー」

憂「えっ?でも、その未来から来たって言ってる律さんは、今いる律さんと違うんじゃ…?」

唯「そうなの?」

憂「うん、多分…。でもなんでこんな未来から来たことを証明するために…?」

唯「…さあ?」

憂「その未来の律さんとはどこで話したの?」

唯「えっ?夕方電話で…」

136: 2010/08/21(土) 23:17:29.08 ID:9SYRm8HO0
憂「電話…?」

唯「そだよ?」

憂「うーん…」

憂もまた、律が冗談で野球の結果を予想して、たまたま当たったものだと思った。
そもそも、未来からの人間と電話で話して、見事野球の結果を当てた。という方が納得できない

憂「そっか…じゃあ明日律さんに詳しく聞いてみて?」

唯「わかった」

憂「お姉ちゃん…本当にそれだけ?」

唯「え?」

しかし憂は気になっていた。万が一、いや億が一、本当に未来の律からのメッセージだったとすると
他に何かがあるような気がしてならなかった。
何か、もっと大事なことを唯に伝えたかったのではないか、と。
なぜ唯が興味すらわかないであろう野球の結果で自分が未来から来たという証明を?それくらい焦っていたのか…?

唯「あっ!!」

憂「なに!?お姉ちゃん!」

唯「りっちゃんね、私が明日氏ぬって…」

憂「えっ!?」

141: 2010/08/21(土) 23:19:25.22 ID:9SYRm8HO0
憂「ちょっ、それ本当なの?お姉ちゃん!」

唯「知らないよ~りっちゃんに聞いてよ~」

憂「律さんなんて言ってたの?」

唯「え~?なんか明日は遅刻して来いって…」

憂「え?」

唯「おかしいよね~、私が明日交通事故で氏ぬって言うんだよ?」

憂「…」

唯「…本当かな…本当だったらちょっと怖いよね…はは」

憂「そんな…お姉ちゃんが氏んじゃうなんて…あり得ないよっ」

唯「だよね~」

憂「ちょっと律さんも冗談が過ぎてるかもね…ははは」

憂「お姉ちゃん、そろそろお風呂入って寝ないと!明日大事な文化祭なんだから」

唯「そだね~、じゃあおやすみ憂~」

憂「うん、おやすみ。お風呂の電気ちゃんと消してね」

唯「ほほ~い」

152: 2010/08/21(土) 23:28:15.51 ID:9SYRm8HO0
2015年 10月18日

律「あっ…やっべ…みんなに連絡するの忘れてた…」

唯の事ばかり考えていて、明日のお墓参りの連絡するのを忘れていた律は携帯を開いた。
電話帳のあいうえお順の一番最初にあった紬に電話をかける。

指でちまちまと小さいボタンを押して、長ったらしい文章を作るのは律の性格上苦手だった。
いつも、少しの要件があるときでも、メールではなく電話で済ませてしまう。
そのせいか、そんなちょっとした用で電話した時に、ついつい話が弾んで長電話をしてしまい
携帯電話料金の請求に泣かされることも多々あった。

プルルルルルルルー。

紬「もしもし?りっちゃん?」

律「むぎー、久しぶり!明日どうする?唯の命日だけど、予定どうなってる?」

紬「久しぶりー。もちろん、休み取ってあるわ」

律「おーよかった、あたしと澪は昼前に合流する予定なんだけど、むぎも来るか?」

紬「うん、何時にするの?」

律「ん~11時くらいにあたしんちでいい?」

紬「わかったわ!りっちゃんちね!りっちゃんの家行くの久しぶりだわ~」

律「なーんも変わってないけどな。片付けしとかないと」

158: 2010/08/21(土) 23:33:19.53 ID:9SYRm8HO0
紬「じゃあ、11時きっかりに行くわ」

律「おう、待ってるわー……って、あのさ、むぎ…」

紬「なあに?」

律「その…唯なんだけどさ…」

紬「唯ちゃん…?どうしたの?」

律「過去の唯と電話で話したんだ…」

紬「えっ?」

律「信じてもらえないかもしれないけど…ちゃんと声も録音したっ!明日聞いてみてくれ…!」

紬「え…そんな…信じられないことだけど…本当なの?」

律「本当なんだ…明日の事も言った。お前は明日事故にあって氏ぬって…だから気をつけろって伝えた…」

紬「…信じるわ、りっちゃん」

律「むぎ!」

紬「りっちゃんはこんな冗談言わないっ!そのくらい私にもわかるっ!」

律「むぎ…ありがとう…だから、ひょっとしたら―」

紬「うん、もし明日唯ちゃんが事故にあわなければ…」

161: 2010/08/21(土) 23:34:12.99 ID:9SYRm8HO0
律「そう…」

紬「期待しましょう…っ!どうなるかわからないけど…待ってるわ!明日…その唯ちゃんの声、聞かせて?」

律「わかった!!ありがとうむぎっ!!」

紬「それじゃあ、また明日ね?おやすみなさい」

律「おやすみ…」

律はなにより嬉しかった。信じてもらえた。
この流れで、他のみんなにも信じてもらえると信じ、梓に電話をかけた。

プルルルルルルル―。

梓「もしもし、律先輩!」

律「おーう、梓久しぶりー」

梓「連絡待ってましたっ」

律「遅くなってごめんっ」

梓「明日は休みとってありますよ!何時にします?」

律「そのことなんだけどさ…」

梓「はい?」

162: 2010/08/21(土) 23:36:06.99 ID:9SYRm8HO0
律「唯が…あ、いや、過去の唯から電話がかかってきて、話した。」

梓「えっ?」

律「いや、いきなりこんなこと言って信じてもらえないかもだけど―」

梓「ほっ本当なんですか!?それ!?」

律「うん…唯が事故にあった日の事、伝えた」

梓「そ…それって…」

律「もしかしたら唯、事故で氏ななくて済むかもしれないんだっ!」

梓「それ…本当の本当なんですか!?」

律「本当だ梓っ!信じてくれっ!」

梓「冗談だったら…私も怒りますよ…?」

律「冗談でこんなこと言うかっ!本当だ…声も録音したっ!」

梓「そんな…まさか…そんなことって…」

律「明日詳しく話す…11時にあたしんちに来てくれ…」

梓「わかりました…信じますよ、律先輩…」

律「ああ、信じてくれっ」

169: 2010/08/21(土) 23:39:11.12 ID:9SYRm8HO0
ごめん!!!1個すっ飛ばしてたwwww
>>163で気付いたww


>>100と>>105の間

172: 2010/08/21(土) 23:40:34.40 ID:9SYRm8HO0
律「こっちの世界ではそうだった。今この世に唯はいない…。」

唯「そんな…そんなの嘘だよ…」

律「本当なんだっ!それで、お前は昨日、今日は17日だと言った。つまり今日は10月の18日だな!?2010年の」

唯「うん…今日は18日…明日は文化祭だもん…」

律「間違いないっ!!唯!!明日の朝は時間通りに来るな!遅刻して来い!憂ちゃんもだっ!」

唯「えっ?ちょっと待ってよりっちゃん、そんなこと急に言われても…」

律「頼む唯っ!お前を氏なせたくないんだっ!!明日は2人とも遅刻して来てくれ!」

唯「そんな…駄目だよ……。明日は高校生最後の文化祭だもん…失敗できないし…」

律「少しだけ遅刻してくればいいんだ!それにっ…じゃないと…高校最後どころか人生最後の演奏もできなくなるっ!」

唯「えー?それは嫌だー」

律「だろ?だから―」

唯「でも、そんないきなり未来から来たって言われてもりっちゃんの冗談にしか思えないよ…私を遅刻させようとしてる?」

律「違うっ!!だからっ!……そうだっ!」

律は思い立ったように机の上にあったノートパソコンの電源を入れる。
20歳の誕生日に、成人のお祝いにと叔父が買ってくれたものだった。

唯「なあに?」

173: 2010/08/21(土) 23:43:00.66 ID:9SYRm8HO0
2010年 10月19日―。
7:00

ジリリリリリリリリリリリリ

唯「はっ!」

唯「よし、起きたっ!」

この日唯は珍しく時間通りに起床した。
普段は憂に起こされても起きないくらい目覚めが悪かったが
この日は文化祭という大事なイベント、楽しみと緊張もあってか、すんなり目が覚めた。

唯「ういーおはよー」

憂「おはよう、お姉ちゃん。あのさ、昨日の律さんの言ってたことなんだけど…」

唯「ほえ?ああ~」

憂「やっぱり、今日は少し遅刻して行こう?」

唯「え~!今日せっかく早起きしたのに~!」

憂「でも…やっぱり昨日の事があったから…万が一に備えて…」

唯「う~ん…」

憂「お願いお姉ちゃんっ!!お姉ちゃんが氏ぬなんて…絶対やだっ!」

唯「憂…」

178: 2010/08/21(土) 23:47:11.59 ID:9SYRm8HO0
憂は昨日の夜、ずっと考えていた。
偶然にしては出来過ぎている。律もそこまで野球に興味はないだろうし、
ここまでしてくるってことは、もはや万が一ではなく、本当に未来からのメッセージかもしれない。
もし、本当だった場合、失うものはもう元には戻らない。
そう考えると、選択肢は1つしかなかった。

憂「お願い…一生のお願いだよう…お姉ちゃん」

唯「わかったよ…憂がそこまで言うなら…」

憂「ありがとうお姉ちゃんっ!!」

多少これで遅刻してしまうものの、憂はこれが正しい選択だと思った。

憂の作った朝ご飯をしっかり食べた2人は、いつも家を出る8時より少し遅い8時半に家を出ることにした。
これだけ時間をずらせば大丈夫だろうと、憂は思ったのだ。

8時半まで、2人はTVを見ることにした。
いつもは見ないTVのニュースのコーナーを見た2人は少し新鮮な感じがした。

ニュース番組のエンタメのコーナーが始まろうとしたとき、ふと時計を見るともう8時25分を過ぎていた。

憂「そろそろ、行こっか、お姉ちゃん」

唯「うん」

憂「ごめんね…もう遅刻の時間だよね…」

唯「ううん、気にしないで!憂のお願いだもん」

182: 2010/08/21(土) 23:49:21.27 ID:9SYRm8HO0
2人はいつもの通学路を、普段より歩くスピードを遅くして登校した。
今日は信号によく引っかかる。家を出るタイミングが悪かったか。

今日は雨の日でもないのに…

しかし、憂は目の前の信号が赤になるたびに安堵した。
なるべく普段より時間をずらしたい。その気持ちでいっぱいだった。

こうして2人並んで登校することはしょっちゅうだが、今日は2人の口数も少なかった。
特に憂の方が、黙ってばかりだった。それだけ心配していたのだ。律が言っていたことを―。

家を出てから大体200mくらい歩いたところにある大きな交差点。

その30mくらい前の小さなT字路を左折し、その大きな交差点が目に見えた。


そこには大量の人の群れがあった。
思わず憂は声を漏らした。

憂「えっ?」

唯「なんだろう…?」

憂「お姉ちゃんっ!まさかっ…あれって…」

憂は気付いた。1番気にしていたこ光景がそこにはあった。


―交通事故。

183: 2010/08/21(土) 23:50:17.65 ID:9SYRm8HO0
そこには数台のパトカーと、救急車があった。
ざわざわ、と何を言っているか聞きとれないほどの野次馬のざわめきもあった。

2人は小走りで、交差点に向かった。

憂「嘘…」

その光景を目にした2人は言葉を失った。

交差点を右折したところ、いつも渡る横断歩道を突っ切ったと思われるタイヤの後。
その横断歩道の先のガードレールに衝突している白い乗用車。

フロントバンパーの部分は大破していて、エンジンルームがあらわになっている。
フロントガラスはもうガラスとは言えないほど真っ白になっていた。
ガラスの破片が横断歩道に散らばっている。太陽の光に反射してキラキラと光っている。

憂「お姉ちゃん……っ!」

唯「りっちゃん………?本当に……事故……教えてくれたの……?」

憂「うわあああああああああああんお姉ちゃあああああああああああん」

涙を見にいっぱいためながら憂は唯に抱きついた。

唯「憂…」

憂「よかった…っ!……本当にっ…律さんの言ってたこと本当だったんだっ……!本当によかったよおおおっっ!」

唯「ありがとう…憂………………未来のりっちゃん―。」

197: 2010/08/21(土) 23:53:19.09 ID:9SYRm8HO0
2015年10月19日
9:00

律「今どうなってる……っ!!」

今日もろくに寝れなかった律は、朝早くに起きてシャワーを浴びて、化粧も終え、もう準備は万端だった。
しかし唯のことが気になって、いつも時間つぶしにやる携帯ゲームすらやる気が起きなかった。

律「どうした?どうなった?5年前は今どうなってるんだっ!?」

もう何時間部屋の中で右往左往していることだろう。

律「そうだっ!パソコン…!」

何かにひらめいた律は机の上のノートパソコンの電源を入れた。

律「調べるのが一番早い!」

いつも利用している検索サイトで5年前の今日について調べた。

律「2010年…10月19日…桜が丘……交通事故…と」

律「!!あった!」

そこにあったのは小さなニュース記事だった。
その記事をして、小さく書かれた文字を最初から読んで行く。

全神経を集中させて…

心臓の鼓動が早くなっていくのが自分でもわかった。

202: 2010/08/21(土) 23:54:44.39 ID:9SYRm8HO0
律「なになに…」

律「2010年8月ごろ、桜が丘○丁目交差点で、交通事故が発生した…」

律「乗用車はガードレールに激突。大破した。車に乗っていたのは33歳の男性1人、事故直後すぐに病院に搬送されたが…」

律「意識不明の重体…運転していたのは桜が丘に住む会社員○○さん…………って、こんなのはどうでもいいんだよ!」

律「唯の事は…っ!?」

律「えーっと………この事故で、現場に居合わせた通勤途中の20代男性1人が軽傷を負った………」

律「えっ?」

律「唯の事は…っ!?唯!!助かったのかっ!?嘘だろ…っ!?」

そこのニュース記事には唯の事は一切書いてなかった。
事故に巻き込まれたのは20代男性1人だけ。
すると唯は事故に巻き込まれなかったということになる。

律「唯っ!」

律は慌てて携帯電話を手にして、唯の電話番号に電話をかける。

プップップップ―。

『おかけになった電話番号は、現在使われておりません―』

律「…えっ?なんで…」

207: 2010/08/21(土) 23:56:20.83 ID:9SYRm8HO0
2010年 10月19日
9:00

憂「お姉ちゃん…律さんの事…」

唯「わかった。なにも言わないよ…」

憂は、軽音部の皆には今日あったことを言わないよう唯に言い聞かせた。
律が未来から来たと言うのはおそらく本当だろう。
こんなことは普通じゃありえない。

今、この世界にいる律や、軽音部の皆に言ったところで何も変わらない。
ここ3年2組にいる高校生の律と、電話がかかってきた大学生の律は同一人物ではあるが、まったくの別人と言っていい。

今日のこの話をしたところでおそらく信じてもらえないだろう。
もう今日あったことは、未来の律に深く感謝をし、もう2人は忘れることにした。

憂「うん…じゃあ、また後でね」

唯「うん…ありがとうね。憂」

ガチャッ―

さわ子「平沢さん、遅刻よ?はやく席につきなさい」

唯「ごめんなさい…でへへへ」

和「唯…また寝坊?」

唯「うん…ちょっと…」

211: 2010/08/21(土) 23:58:04.49 ID:9SYRm8HO0
2015年 10月19日
10:30

律は何度も何度も唯の携帯に電話をかけた。
しかし、1度も繋がらない。

律「唯は助かったんじゃないのか!?なんでだよっ!!なんで繋がらないんだ!!」

電話をかけては、パソコンで事故の事を調べ、それを繰り返しているうちに時間はもう10時を過ぎていた。

平沢家に電話をかけようとも思ったが、さすがにそれはやめた。
今、あの家には唯の両親しかいないため、電話に出るのは父親か母親のどちらかだった。

そこに電話をかけ、「唯ちゃんいますか?」など馬鹿げたことを聞けるわけがない。

今は、この電話をかけてはパソコンで調べるという、意味があるのかないのかわからない作業を続けるしかなかった。

ピーンポーン。

律「唯!!唯っ!?」

もし、過去が変わったなら、今も変わっているかもしれない。唯が生きてこの世界にいるかもしれない。
あわてて部屋を飛び出し、階段を降りる。この時間帯は、両親は仕事に行き、弟の聡は学校だったため、家には律1人だった。

階段を素早く駆け下り、走って玄関まで行って裸足のままドアを開けた。

ガチャ―。

律「唯っ!」

214: 2010/08/21(土) 23:59:19.21 ID:9SYRm8HO0
澪「律」

律「なんだ…澪…」

澪「なんだってなんだよ…」

律「もうそんな時間だったか…」

澪「なんなんだよ唯って」

律「あー、いや…まぁとりあえずあがれよ」

澪「おじゃましまーす…って律1人か?」

律「ああ、今日お母さん忙しい日だから」

律は自分の部屋を片付けていなかった事に気付き、まずいと思ったが今更そんなこと気にしないことにした。
世間話を軽く繰り広げながら、2人は律の部屋に入った。

澪「汚いな…」

律「わり…」

澪「なんでこう読みかけの漫画が何冊も散らばってるんだよ。読み終わってから別の読めよ」

律「はは…ゴミとかないからまだいいだろっ。んなことはいいから、座れって」

澪「変わってないなぁ律は」

澪はちょっと笑みをこぼすと、持っていたビニール袋を置き、いつも座る定位置に座った。

223: 2010/08/22(日) 00:01:23.92 ID:Y/yMUajA0
律「ん?なんだそれ?」

澪「これ?ほら、唯の好きだった『オレンヂマン』と『ぽてちょ』だ」

律「ああ…」

澪「むぎと梓何時に来るって?」

律「11時って言ったからもうすぐ来るだろ…っていうか、澪、昨日の事なんだけど…」

澪「昨日?」

律「ほら、唯の…唯から電話来たって…」

澪「まだ言ってるのかよ」

律「いや、本当なんだって!これ見てくれっ!」

そう言うと携帯電話の着信履歴を澪に見せた。
そこには確かに2015年10月17日の唯からの着信履歴があった。

澪「えっ…」

律「これで信じてくれたか?」

澪「この番号って…本当に…?」

律「そうだ!唯のだ!自分で確かめてみてみ?」

澪は自分の携帯電話を開き、唯の携帯番号と照らし合わせた。

226: 2010/08/22(日) 00:02:15.99 ID:Y/yMUajA0
澪「ちょ…これ…本当に…っ!?かかってきたのか!?この番号からっ!」

律「そうだ!かけ直しても繋がらないんだっ!」

澪「え…」

ピーンポーン。

律「あ、来たかな…?」

律はベッドから立ち上がり、部屋を出ようとした。

澪「律ぅ!」

律「わわっ!なんだよ!」

澪「ちょ…置いて行かないで…怖い…」

律「えー…」

まあ無理もない。澪の怖がりは相変わらずだ。2人は階段を下りて、一緒に玄関に行き、ドアを開けた。

ガチャ―

紬「こんにちわー」

梓「お久しぶりです律先輩!澪先輩も先来てたんですね!お久しぶりです」

律「おー2人一緒だったか、あがってあがって」

232: 2010/08/22(日) 00:04:00.84 ID:9SYRm8HO0
澪「久しぶり。むぎも」

紬「うん。そうそう、ちょうどそこで梓ちゃんと会ったの。ね」

梓「はい、とびっきりの美人がいたのでむぎ先輩ってすぐわかりました。」

紬「あら///」

律「はは、梓も言うようになったなぁ」

4人はわらわらと律の部屋に入った。

律「まあ、適当に座ってくれ。」

梓「散らかってますね…それになんでこう読みかけの漫画がいくつもry」

律「あーはいはい、今度からは読み終わってから別の読みますよ」

梓「え」

澪「さっき私が同じこと言ったんだ」

梓「そうだったんですか…」

澪「むぎ、花買ってきてくれたのか。」

紬「うん。通り道だったから」

律「サンキューなむぎ」

241: 2010/08/22(日) 00:07:50.30 ID:Y/yMUajA0
律「本題に入るぞ。」

澪「そうだ!!みんな聞いてくれ!律の携帯に唯から電話がっ!」

律「そう、そのことは昨日言ったよな?」

紬「本当なのね?りっちゃん」

梓「その…唯先輩から電話がかかってきたっていう」

律「証拠か、これだっ」

そう言うと紬と梓にも先ほど澪に見せた着信履歴を見せた。

紬「…2015年…10月17日、15時46分………えっ…これって…」

梓「これっ本当に唯先輩の電話番号なんですかっ!?」

律「唯の番号まだ残ってるなら確かめてみ?本当だから…」

2人は携帯を取りだした。どうやらここの4人は皆、唯の電話番号を電話帳から削除していなかった。
確認は梓より紬の方が早かった。

紬「こっ……本当だわ…確かに唯ちゃんの…」

梓「そんな…こんなことって…」

紬「かけ直してみた?」

律「ああ、繋がらないっ…現在使われておりませんって…」

243: 2010/08/22(日) 00:08:45.78 ID:9SYRm8HO0
紬「こんなこと…あるのかしら…」

律「それで、これが録音した唯の声だっ!聞いてくれ…」

3人は全身に鳥肌が立った。
怖いというのもあったが、唯の声が聞けるという期待もあった。

律はスピーカーに切り替え、再生ボタンを押した。

律『唯、とりあえず、落ち着いて話を聞いてくれ。』
唯『なあに?』
律『5年前の2010年、10月19日にお前は氏んだ。朝、通学途中、交通事故で。』
唯『えっ?』
律『こっちの世界ではそうだった。今この世に唯はいない…。』
唯『そんな…そんなの嘘だよ…』
律『本当なんだっ!それで、お前は昨日、今日は17日だと言った。つまり今日は10月の18日だな!?2010年の。』
唯『うん…今日は18日…明日は文化祭だもん…』
律『間違いないっ!!唯!!明日の朝は時間通りに来るな!遅刻して来い!憂ちゃんもだっ!』
唯『えっ?ちょっと待ってよりっちゃん、そんなこと急に言われても…』
律『頼む唯っ!お前を―』

ピー。

録音はここで終わっていた。

紬「唯ちゃん…」

梓「唯先輩だ…」

澪「おい、これ…本当に…っ」

249: 2010/08/22(日) 00:11:59.65 ID:Y/yMUajA0
律「そうだっ!間違いなく唯だ!」

紬「そっ…それで…その、5年前の今日よね…?」

律「そうなんだ…伝えることは伝えたんだ…で、これを見てくれっ!」

律はパソコンを開き、スリープモードを解除すると、さっきまで見ていたニュース記事を皆に見せた。

律「これを見てくれ、5年前の今日の事故の記事だ」

3人はパソコンを見た。
記事を頭から読んでいき、問題の記事までたどり着いた。

紬「えっ…」

澪「唯の事は…?唯の事が書いてない…っ」

梓「そっそれじゃあ、唯先輩が事故を回避したってことですかっ!?」

律「そうであってほしい…っ」

澪「もし、5年前の今日に唯が事故に会わなかったとすると…どうなるんだ…っ?」

律「そこなんだ…」

紬「唯ちゃんにもう1度電話をかけてみたら?」

律「さっきかけたけど…繋がらなかった…」

紬「もう1度かけてみましょう!」

251: 2010/08/22(日) 00:14:08.35 ID:Y/yMUajA0
・・・・・・・

律「駄目だ…繋がらない……っ!クソッ!!」

律「せっかくのチャンスだったのにっ……唯を……っ!うう…」

澪「律……」

梓「今から唯先輩の家に行ってみませんか?」

紬「だめよ…」

梓「えっ?」

紬「もし、なにも変わっていなかったら…」

律「でも実際、過去は変わった……あの日、唯は事故にあわなかったんだっ」

澪「確かに…ニュース記事には被害者は男の人1人…」

紬「もしかして…」

一同「えっ?」

紬「もしかして…過去が変わってしまったせいで…また過去に何かあったのかも…」

律「どういうことだ?」

澪「つまり…また唯の身に何かあったってことか…?」

257: 2010/08/22(日) 00:17:21.96 ID:Y/yMUajA0
紬「ええ、本来なら唯ちゃんは5年前の10月19日に事故で亡くなる筈だった…」

紬「それが、その日、唯ちゃんは氏ななかった。」

澪「その後、何かあったってことか…!」

律「あたしたちの…知らない過去…」

梓「そんな…なんで…唯先輩がまた…」

紬「考えられるのは…私たちの知らない過去で…」

律「また…唯が氏んだのか…?」

紬「その可能性は十分にあり得るわね…」

澪「そうなると…唯の家には行きにくいな…」

律「憂ちゃんは…?憂ちゃんはどうなってる…?」

紬「今このままここにいたんじゃ唯ちゃんの事も憂ちゃんの事もわからないわ…」

澪「とりあえず…」

紬「唯ちゃんのお墓に行ってみましょう。なにかわかるかもしれないわ…それに、今日はその予定だったし…」

澪「で、いつも通り帰りは憂ちゃんの病院に行ってみるか…」

律「そうだな…車出すよ…」

260: 2010/08/22(日) 00:18:14.53 ID:Y/yMUajA0
いつも4人は唯の墓参りに行った後、憂の入院している病院にお見まいに行くのが恒例となっていた。
平沢家の墓は桜が丘にはなく、電車だと1時間以上かかる少し離れたところにある。

高校を卒業してからの次の年は皆で電車に乗って墓参りに行ったが、その次の年からは律が車の免許を取得したため、
いつも律の親の車を借り、律の運転で墓参りに行っていた。今日もその予定だった。

律は玄関を出ると、ガレージの車に乗り込み、キーを挿し、エンジンをかけた。

律「なんか天気悪くなってきたな…」

澪「雨降らなきゃいいけど…」

助手席に澪、後部座席に紬と梓が乗る形となった。これも毎年恒例の席だった。

紬「りっちゃん、飲み物あるから欲しくなったら言ってね?」

律「おう、ありがとうむぎ」

律と澪がほぼ同時にシートベルトを締めた。




そして、4人を乗せた車はゆっくりと発進した。

264: 2010/08/22(日) 00:19:33.95 ID:Y/yMUajA0
2010年10月19日
12:00

―部室―

律「唯、また昨日夜更かししたのか?」

唯「いや~ちょっとね…えへへ」

澪「まあ、練習普通にできたし、よかったよ」

梓「もうすぐですよ先輩、機材運ばないと」

律「そうか…そろそろか…あたしたちの最後の文化祭…」

澪「なんだかんだ3年間、長いようで短かったな…」

紬「みんなと演奏できて本当良かったわ」

律「おいおい、まだ卒業式じゃないぞっ」

梓「そうですね…」

律「梓は、今年あたしら卒業しちゃうけど…軽音部頼んだぞ!今年新入部員確保できなくて悪かったな…」

梓「律先輩までもう卒業みたいなこと言わないで下さいよっ」

律「っはは、わりーわりー」

266: 2010/08/22(日) 00:20:36.77 ID:Y/yMUajA0
唯「みんな…頑張って演奏しよう!頑張ろう!!」

一同「おー!!」

律「なんだ?唯、珍しく気合い入ってるな!まぁ最後の学際ライブだしな…」

唯「うん…!」

しかし、唯のこの気合いは
高校生活最後の学園祭ライブをさせてくれた未来の律への感謝からだった。

本当に人生最後にろくな演奏もできずに氏んでしまうところだったのだから。

唯「りっちゃん…本当にありがとうね」

律「へ?なにが?」

唯「ううん、なんでもない」

律「ふふっ、変な唯」

澪「私らキーボード運ぶから、唯と梓アンプ頼んだぞー」

唯「ほほーい」

梓「ドラムセットどうします?」

律「あたし運ぶから、終わった人から手伝ってくれっ」

一同「はーい」

283: 2010/08/22(日) 00:24:56.67 ID:Y/yMUajA0
2015年 10月19日

紬「運転ごくろう様」

梓「お疲れ様です律先輩、休憩できなかったから疲れたでしょう」

澪「ちょっとそこの喫茶店で休むか?」

律「へーきへーき、行こうぜ」

4人はお墓に着いた。平沢家の墓は階段を結構登ったところにある。
紬が水桶に水を汲み、澪が花と持ってきたお菓子を持ち、平沢家の墓までの階段を上った。

この急な階段を上るのも4人は1年ぶりだった。

律「ん?意外と綺麗だな」

澪「最近誰か来たのかな…」

紬「それより、唯ちゃんは…っ!」

律「あっ!そうだった!」

律は墓石の脇を見た。氏んだ人の名前が彫ってあるところだ。

紬「なんて?なんて彫ってあるの!?」

律「…書いてある……唯の名前……」

一同「えっ?」

285: 2010/08/22(日) 00:26:17.67 ID:Y/yMUajA0
墓石に書いてあったのは、過去に亡くなった平沢家の人物。
そして、最後に平沢唯の名前があった。

澪「そんな…」

律「なんだっ!どういうことなんだ!?意味がわからないぞっ!」

梓「唯先輩、結局氏んじゃったってことですか!?」

紬「…」

律「また唯の身になにかあったのかっ!?」

紬「待って…っ!没年月日はなんて書いてある!?」

律「そうかっ!」

律はまた墓石を覗き込む。
そこに書いてあった没年月日を見た律は言葉を失った。

律「えっ…なんで…?」

澪「なんだ!?」

律「日付が変わってる…10月19日じゃない…っ」

一同「え!?」

律「2011年………2月25日…」

301: 2010/08/22(日) 00:29:27.15 ID:Y/yMUajA0
紬「そんなっ!」

澪「次の年かっ!」

律「なんでだよ…何があったっていうんだよ!」

梓「皆さん、調べましょう!その2月25日の事をっ」

紬「そうね…とりあえず何があったかわからないことにはどうしようもないわ…」

澪「今この2015年と5年前の2010年は比例して時間が進んでるんだろ?」

律「おそらくな…」

紬「りっちゃんの録音した唯ちゃんとの会話を聞いてもそう取れるわね…」

梓「なら…まだ時間はありますね…」

律「唯の事をまた助けられるかもしれない…っ」

澪「ここに来る途中に、図書館があったろ?」

律「ああ、すぐそこの…」

澪「行って調べてみよう」

紬「そうね、パソコンもあるし…」

律「よし、行くか…」

313: 2010/08/22(日) 00:35:45.91 ID:Y/yMUajA0
4人は、唯の墓に買って来た花を添えて、お菓子を置いた。
そんなに汚れていなかったが、軽く墓石と墓周りの掃除もした。
最後に、線香をあげて黙祷した。

このとき4人はおそらく同じことを願っただろう。
唯が、助かりますように。と。


そして4人は律の車に乗って、墓からすぐの図書館に足を運んだ。

律「よし、さっそく2月25日について調べるぞ!」

2人がけの席の前に一昔前の古いパソコンがあった。
結構小さな図書館ということもあってか、パソコンを使える席は、空いてる席ではここしかなかった。
そこに律と梓が座った。

律「なんだよ、このパソコン。古いなあ…使い方がよくわかんねぇ。どこでインターネット見るんだ?」

梓「ちょっと貸して下さい」

律は梓にモニターの前の席を譲った。

律「おお!スゲーな梓、お前オタクだったのか?」

梓「冗談言ってる場合ですか…ちょっと古いせいか重たいですね…このパソコン」

澪「そういや梓は昔からパソコンいじってたもんな…」

梓「澪先輩まで…っ」

317: 2010/08/22(日) 00:37:45.72 ID:Y/yMUajA0
梓は律が使っていたものとは違う検索サイトを呼び出した。
そこに「2011年 2月25日 桜が丘 事故」と検索をかけた。

律「うはー、タイピング早っ!」

梓「少し黙っててください」

律「はい…」

澪「どうだ?梓…」

梓「鉄道の人身事故ばっかりですね…」

澪「唯って電車あんまり使わないよな…」

梓「ましてや高校時代でしたからね…」

梓はそう言うと「-鉄道」「-電車」と追加入力してもう1度検索をかけた。

律「なにやってんだ?それ」

梓「これで、鉄道と電車というワードを省いて検索できるんです」

3人「へ…へぇ~…」

梓「駄目ですね…それらしき記事は見当たらないです」

澪「事故じゃないのか…?」

律「事故じゃないとなると…」

327: 2010/08/22(日) 00:41:53.10 ID:Y/yMUajA0
紬「自殺か、他殺……」

3人「えっ…」

紬「それしかないわ…事故じゃないとすると…病気で、とは考えにくいし…」

澪「名前で検索かけてみたらどうだ?」

梓「やってみましょう」

梓は、いったん検索ワードを全て消し、「平沢唯」と検索した。

律「おい、『もしかして 平沢進?』って言われてるぞ…」

澪「P-MODELのメンバーの人だ…」

梓「検索省いてみましょう」

しかし

紬「駄目ね…名前占いばっかり…同姓同名らしき人はいるけど、唯ちゃんは見当たらないわ…」

梓「さすがに本名は出てないんじゃないですかね…」

律「…………………」

紬「でも、事故でそれらしき記事が見当たらなかったってことは…やっぱり…」

澪「そんなっ!!」

336: 2010/08/22(日) 00:44:26.90 ID:Y/yMUajA0
紬「しっ…澪ちゃん、ここは図書館よ」

澪「ごめん…」

律「あっ!!」

紬「りっちゃん!!」

律「あっ…ごめん…」

梓「いま注意したばっかりなのに…」

紬「で、どうしたの?」

律「思い出したんだ…っ!5年前の事件…」

紬「事件…?」

律「桜が丘の…ほら…」

紬「あっ!!!」

梓「むぎ先輩っっ!!」

紬「あっ、ごめんなさい…」

澪「なんだよ…?5年前の事件って…」

律「忘れたか?あの桜が丘で起きた…通り魔事件だっ!」

341: 2010/08/22(日) 00:46:30.80 ID:Y/yMUajA0
梓「ああっ!!」

3人「しーーっ!!!」

梓「ごっ…ごめんなさいです…」

澪「通り魔事件って……あの…そうか!確かに5年前だっ!」

紬「卒業式前で、かなり話題になったわよね…」

梓「ありましたね…そんなの…たしか1人で帰るのはなるべく避けてって…」

澪「おい、まさかそれに巻き込まれてって……」

律「十分にありえるだろ…」

梓はまた急いで検索をかけた。

梓「ありましたっ!!2011年2月25日の桜が丘の通り魔事件…っ!」

律「どれ!!」

律「なになに…女子高生ばかりを狙った悪質通り魔事件………被害者は…っと……」

澪「被害者は近くの聖南学校に通う18歳の高校生3人と、桜が丘女子高校に通う……18歳の高校生と17歳の高校生っ!!」

律「何っ!?」

澪「そうだ!あの時たしか聖南の生徒が被害にあってて…こっちには来ないでほしいなって話してた記憶があるっ!」

346: 2010/08/22(日) 00:48:47.18 ID:Y/yMUajA0
紬「待ってこれって…もしかして…唯ちゃんと憂ちゃん!?」

澪「そんなっ!!」

律「待て待て、墓石には憂ちゃんの名前はなかったぞ!?」

梓「待って下さいっ!続きがありますっ!」

律「なに!?」

梓「聖南高校の女子生徒3人は、顔や足をナイフで切られ重傷。桜が丘女子高の女子生徒1人も重傷…」

梓「もう1人は…腹をナイフで切られ、すぐに病院に搬送されたが大量の出血のため、氏亡した…」

律「おいっ!!なんで!これ、唯の事かよ!!」

澪「桜高の重症の子って…もしかして憂ちゃん!?」

紬「あり得るわ…!というか間違いないっ!私たちの同級生で、被害にあった子は絶対に居なかったはずよ!!」

梓「そんなっ!なんでこんなことになるんですかっ!!」

役員「あのー…お客様、他の方のご迷惑になるので、もう少し静かにして頂けますか?」

一同「あっ…はい、ごめんなさい…」

澪「注意されちゃっただろっ!」

律「なんであたしに言うんだよ…!」

354: 2010/08/22(日) 00:50:50.67 ID:Y/yMUajA0
紬「りっちゃんちでも言ったけど…過去が変わったせいで、また私たちの知らないところで過去が変わった…」

梓「なるほど…」

紬「そう考えるのが正しいわ…」

澪「私たちの記憶にも残っててもいいもんだけどな…」

梓「でも、私たちは経験してない過去ですからね…」

律「つまり、唯は5年前の今日氏んだから、あの通り魔の被害には合わなかったのか…」

梓「まあ、氏んでいるわけですし、そうなりますね…」

律「で、その日助かったがために、2月の通り魔事件に遭遇してしまった…」

澪「なんて不運なんだ…」

律「もうここまで来ると不運ってレベルじゃないけどな…」

紬「これ…犯人もまだ逮捕されてないみたいね。不快だわ」

律「なに?」

紬「どこにも書いてないもの…」

358: 2010/08/22(日) 00:52:34.97 ID:Y/yMUajA0
律「えっ…」

澪「もう5年も経ってるのに…」

梓「通り魔ですからね……犯人を特定できる情報が少なすぎるんですよ…」

律「これは殺人だぞっ!何やってんだよ警察は…」

紬「それより…このことを唯ちゃんに伝えないと…っ!」

律「伝えるって言っても…どうやって…」

紬「ひたすら唯ちゃんに電話をかけてみましょう。みんなで」

澪「そうだな…それしかない…」

4人は申し訳なさそうな表情で役員がいるカウンターの前を通り過ぎ、図書館を後にした。
少し歩いて、駐車場にある自分たちの車の前に着いた。

律「さあ、この後は憂ちゃんのとこだな…」

澪「律っ、運転、大丈夫か……?かっ……変わろうか…??」

律は一瞬固まった。澪からそんな言葉が出るとは思わなかった。
澪も高校を卒業してから車の免許を取ったが、ペーパーだった。

律「危なっかしくて乗ってらんねーよっ。大丈夫、ありがとな澪」

ちょっと笑みを浮かべ、優しく言った。

379: 2010/08/22(日) 00:58:37.87 ID:Y/yMUajA0
2010年 10月19日

梓「皆さん、お疲れ様ですっ!」

律「大成功だったな!」

澪「唯もよく頑張ったな!ふでぺんのソロのところ、ちょっと心配だったんだけど、いつの間に練習したんだ?」

紬「梓ちゃんとの絡みも完璧だったしね」

唯「でへへへ~」

律「でも…これで本当に最後なんだな…」

唯「うん…」

律「1年の時、唯が喉からして、澪が歌うことになってさ…」

律「んで最後、澪の奴―」

澪「やっ、やめろおおおお!!」

紬「あの時はまだ皆、演奏がぎこちなくて…」

律「2年の時は梓が入ってきて…」

澪「あの時も唯が風邪引いて…」

梓「さわ子先生が最初演奏してくれたんですよね」

384: 2010/08/22(日) 01:00:45.84 ID:Y/yMUajA0
律「懐かしいな~、もう卒業だもんな…長いようで短かったな…」

澪「そうだな…これからは部活もほとんど休みになるし、うちら4人は受験勉強だな」

律「はあ~……嫌だな」

澪「嫌なんて言ってられないだろ?人生を決める大事な進路なんだ」

律「そーだけどさー」

澪「梓も、1人になっちゃうけど…」

梓「私は大丈夫です!皆さん受験勉強頑張ってください!来年は必ず新入部員獲得しますから」

律「梓、軽音部のこと頼んだぞっ」

梓「はいっ!」

唯「本当にありがとう皆!!本当に!みんなと演奏できて本当に楽しかったよ!!」

律「あたしもだっ!」

澪「私も」

紬「私もよ」

梓「もちろんっ!私もです!」

桜高最後の文化祭は大成功に終わった。
そう、未来の律のおかげで―

389: 2010/08/22(日) 01:04:28.51 ID:Y/yMUajA0
2015年 10月19日

―聖南病院―

憂の入院している病院に着いた4人は、受付のすぐ向かいにあるエレベーターに乗った。


律「憂ちゃんの病室は確か3階だったな」

澪「ああ」

紬「303号室よ」

4人は3階に着くと、憂の病室を探す。
何度も来たことはあったので、憂の病室があった場所をだんだん思い出してきた。

律「ここだここだ」

紬「あれ?」

律「ん?」

梓「ちょっ!憂の名前がないっ!!」

律「えっ!?」

澪「そんな…病室変わったのかな…」

本来ある筈の憂の病室に憂の名前がなかった。
4人は、3階にある病室をぐるりと1周回ってみたが名札に憂の名前が書いてある病室はなかった。

392: 2010/08/22(日) 01:06:35.18 ID:Y/yMUajA0
澪「受付の人に聞いてみよう」

4人はまた、エレベーターを降り、1階に向かった。

律「あのー、すみません…」

受付「はい?」

律「平沢憂さんの病室ってどこですか…?」

受付「少々お待ち下さい」

受付の年配のナースがパソコンで調べ始めた。

受付「えーと、ごめんなさい…平沢……何さんですか?」

律「憂です。憂鬱の『ゆう』って書いて『うい』です」

受付「…………平沢憂さんはこの病院に入院されてないですね…」

一同「えっ?」

紬「え、あの、退院されたとかは…?」

受付「入院されてた記録がございません…ね」

一同「えっ?」

400: 2010/08/22(日) 01:11:23.55 ID:Y/yMUajA0
4人は耳を疑った。
確かにこの病院に憂は入院していた。
また過去が変わったせいで今も変わってしまっているのか?

仕方なく4人は病院を出て、駐車場に止めてある車に戻った。

律「どういうことだ…?」

澪「また過去が変わったせいで今も変わってしまったと考えるのが妥当だな」

梓「もう八方ふさがりですね…唯先輩には連絡付かないし…憂も…」

紬「唯ちゃんの家に行ってみましょう」

一同「えっ?」

紬「それしかないわ。もしかしたら新しい情報が得られるかもしれないわ」

澪「…そうだな。唯の両親には墓参りに言って来たと言って挨拶しに行こう」

律「ひょっとしたら憂ちゃんが退院して家にいるかもしれないしな…それで行こう」

梓「…ですね」

4人は早速、唯の家に向かい車を出した。

409: 2010/08/22(日) 01:14:12.96 ID:Y/yMUajA0
15分くらいだろうか、平沢家に到着した。
車を家の前に止めて、4人は車を降りた。

梓「なっ、なんか緊張しますね…」

律「行くぞ」

梓の言葉を無視し、律はなんのためらいもなくインターホンを押した。

ピーンポーン

唯母「はーい」

律「あっ、どうも。ご無沙汰してます」

唯の母親が普通に出てきた。

澪「あの、唯ちゃんのお墓参りに行ってきました」

唯母「あら、わざわざ遠いのに、ありがとうね…唯もきっと喜んでるわ」

唯母「どうぞ、上がって。お茶でも飲んで行ってください」

律「どうも、すみません。じゃあ、おじゃましまーす」

家に入ると4人は、まず1階の和室に行き、仏壇の前に腰を下ろした。
1人1本ずつ、順番に線香をあげて、4人は唯の母親に案内され、階段を上り2階のリビングに到着した。
平沢家は相変わらずだった。高校時代によく行った唯の家そのままだった。

唯母「でも、なんでこの時期に?」

413: 2010/08/22(日) 01:16:36.66 ID:Y/yMUajA0
律「えっ?いや、今日は唯の―」

ここで紬が割り込んだ。

紬「久しぶりに4人集まったので、お墓のお掃除も兼ねて…ね!」

澪「そっ、そうそう」

律はしまったという表情を見せた。
そう、今はもう変わっている。唯の命日は今日の10月19日ではない。来年の2月25日だ。

唯母「そうだったの。ありがとうね、私たちもそろそろ行こうとは思っていたんだけど―」

唯母「ついこの間、山中先生がお墓参りに行ってくれたみたいで…」

梓「さわ子先生がですか」

ここで4人はようやく把握した。どうりでお墓があまり汚れていなかったわけだ。
次に、律が恐る恐る聞いてみた。

律「あ…あのー……憂…ちゃんは…?」

唯母「ああ!あの子、お客さん来たのになにやってるのかしら。ちょっと待ってね」

一同「えっ?」

憂がいる!?憂が平沢家にいるだと?
今が変わる前まで、憂は病院に入院していたはず。この家には唯の両親しかいない筈だった。

こんな体験をしたことのない4人は、だんだん胸が熱くなってきた…こんな事が本当にあるのか…?

419: 2010/08/22(日) 01:18:56.19 ID:Y/yMUajA0
憂「あっ!皆さんだったんですか!梓ちゃんも久しぶりー」

律「おっ、おう、憂ちゃん久しぶり…」

なんだかぎこちない感じで律は答えた。他の3人は唖然とした表情で憂を見つめていた。
黙っていた梓に律が何か言うよう促す。

梓「うっ、憂!ひ、久しぶりだね……元気そうで良かった」

思った以上に憂は普通だった。
5年前のあのころを見てきた4人は不思議な感じがした。

憂「お姉ちゃんのお墓参り行って来てくれたみたいで、ありがとうございます」

紬「いえいえ、憂ちゃんは最近どう?忙しいの?」

ここで紬が上手く探りを入れた。

憂「最近はアルバイトばっかりで…でも特に忙しくはないです」

紬「そう…あ!そうだわ。久しぶりに唯ちゃんのお部屋見せてもらってもいいかしら?」

憂「え?」

律「おう!いいなむぎ!あたしも久しぶりに見たい」

憂「なにも変わってないですよ?」

律「変わってないからいいんじゃん!せっかくみんな集まったんだしさ!」

430: 2010/08/22(日) 01:22:05.13 ID:Y/yMUajA0
5人は憂の案内のもと、3階にある唯の部屋に向かった。

律「おじゃましまーっす」

澪「本当に何も変わってないな…高校の頃来た時と」

紬「なんか懐かしいわね」

憂「みなさん、どうぞ座ってください」

憂がテーブルのまわりに座布団を敷く。
4人は、その上に高校時代いつも座っていた席順で腰を下ろした。

憂「そういえば皆さん、なにか食べましたか?」

律「あっ…そういや何も…」

憂「よかったらお寿司でも取るので食べて行って下さい」

律「本当に!?」

憂「ええ」

澪「こら!」

澪は軽く律に突っ込みを入れた。

澪「でっでも、少し寄っただけだし、悪いよ…」

憂「いえいえ、気にしないでください」

434: 2010/08/22(日) 01:25:41.76 ID:Y/yMUajA0
そう言うと、憂は小走りで唯の部屋を出て行った。

律「おい、どういうことだよ!」

小声で強く律は言った。

紬「わからないわ…唯ちゃんが亡くなったことには変わりないのに。憂ちゃんは入院してないわ…」

澪「しかも、ましてや事故じゃなくて、通り魔で…」

梓「あんまりショックじゃなかったんですかね…?」

紬「そんな…憂ちゃんに限ってそんなこと…」

律「憂ちゃんさ、5年前、私のせいだってずーっと言ってたよな…」

澪「そういえば…私のせいで唯がって…」

紬「今回の通り魔の場合は2人とも同じ被害に遭って、奇跡的に憂ちゃんだけ助かった…とすると…」

澪「なるほど」

梓「どういうことですか?」

紬「精神的ダメージが全く違うのよ」

律「つまり、事故で唯が氏んだ場合は、憂ちゃんが逆側を歩いていれば唯は助かった=私のせい。とも取れるけど…」

澪「通り魔の場合、2人同じようにナイフで切りつけられて重症、運悪く唯は氏んだ…=私のせい。とはなりにくい…ってことか」

437: 2010/08/22(日) 01:28:55.24 ID:Y/yMUajA0
紬「まあ、そう考えるのが1番納得できるわね…」

律「でも今憂ちゃんぴんぴんしてるぞ」

澪「そりゃ5年もたてば、傷も癒えるだろ…」

紬「どうする…?」

律「へ?何が?」

紬「この、過去の唯ちゃんと連絡が取れて、今が変わってしまった事を憂ちゃんに言ってみる?」

一同「えっ?」

澪「うーん……言っても…」

律「待て、でもその5年前の通り魔の時の記憶はあたしたちには一切ないんだぞっ」

梓「そうですね…どこからも情報が得られなくなりますね…」

澪「かといって、こんな不幸な事件を思い出させて、憂ちゃんに詳しく聞くのも…」

律「くそっ!なんで記憶がないんだ…唯が氏んだ時の…っ!」

梓「ん?待って下さい…おかしくないですか?」

律「ん?何がだ?」

梓「律先輩に、この唯先輩から電話がかかってきたことを聞いたのは今日、10月19日の11時くらいですよね?」

445: 2010/08/22(日) 01:33:37.71 ID:Y/yMUajA0
律「そうだったな…」

梓「つまり、律先輩にこの話を聞くまで私たちは、唯先輩が10月19日に氏んだという記憶はなかったはずですよね?」

梓「今日の朝から、律先輩に話を聞くまでの11時くらいまで、私たちには通り魔事件の記憶があったはずです」

紬「それはわからないわ。唯ちゃんが亡くなったのは10月19日の午前11時過ぎよ」

梓「えっ?」

紬「過去の記憶がなくなるのは、どのタイミングかわからないってことよ」

澪「なるほど、5年前の唯が氏んだ時間に変わるのか、事故を回避した瞬間に変わるのか…」

律「つまり、今日この時間帯に皆に会ってれば、お前ら3人には唯が通り魔に遭ったという記憶が残ってたのか」

紬「その可能性はあったかもしれないわね…。でもどこで記憶が入れ替わってるか、それは神のみぞ知るってとこだけどね…」

澪「私たちは今、唯が交通事故に遭った記憶しかない。」

梓「…どっちみち新しい情報を得られそうにないですね…」

律「ん?」

律は、唯の部屋の奥にあったギターに気付いた。
唯のお気に入りで、なによりも愛していたギブソンのレスポールこと『ギー太』

律「あれっ…ギー太だ…懐かしいな…」

澪「本当だ…確か、唯のギターはあの時…」

456: 2010/08/22(日) 01:38:43.58 ID:Y/yMUajA0
2010年 10月19日、唯が交通事故に遭った過去―。
後ろから車で跳ねられたせいもあり、唯のギターは大破した。
何せ、後ろに背負っていたのだから…

律「そうか、過去が変わっちまえば壊れたギターも元通りになるってか…」

梓「なんか、本当に不思議ですね…」

この日、結局4人は憂には何も言わないことにした。
そのままお昼をご馳走になった4人はその後すぐに帰った。

律は、紬と梓を家まで送った後、澪を助手席に乗せたまま田井中家に戻った。

澪「お疲れ様、律」

律「ああ、今日はなんだか色んな意味で疲れたよ…」

律「ま、上がってけよ。なんもないけど」

澪「うん」

澪の家は律の家から徒歩でものの数分のところだったので、澪はそのまま律の車に乗って田井中家まで来た。
話したいことも山ほどあった。

律母「あら、澪ちゃんいらっしゃい。久しぶりねー」

澪「あ!おばさん、久しぶりです。」

律母「いや、ちょーっと見ない間に本当に綺麗になっちゃって、彼氏とか出来たのー?」

459: 2010/08/22(日) 01:41:30.54 ID:Y/yMUajA0
澪「あっはは、いやあ…」

律母「律なんてもう、大学もろくに行かないし今年やっと卒業できるみたいで、男の気配も全くなくて―」

律「……」

澪「いやあ…ははは」

律母「あらなに?今日はお仕事お休みなの?なら久しぶりに家でご飯食べて行く?聡も澪ちゃんに会うの久しぶりだろうし」

澪「いえっ!そんなご飯まではっ」

律母「聡もすっかり思春期で、最近夜コソコソと誰かと電話してるのよ!まぁ彼女の1人や2人―」

律「だーっ!!うるせぇ!!余計なことまでペラペラしゃべるなよっ!行くぞ澪っ!」

澪「あ、うん………あはは、それじゃぁ失礼しまーす」

律母「はーい、ゆっくりしていってねー」

律「ったく…」

澪「ははは…お母さん、相変わらずだな」

律「しゃべりだすと止まらないからな…」

ようやく2人は律の部屋に辿り着いた。
昼に家を出たときと何も変わっていない。
とりあえず、律は読みかけのマンガを本棚に片付けた。

462: 2010/08/22(日) 01:42:56.45 ID:Y/yMUajA0
澪「聡も元気か?今家にいるのか?」

律「ああ、もう帰ってきて、きっと部屋でゲームでも………」

澪「ん?」

律「あっ!!」

澪「わわっ、なんだよ」

律「聡だ!あいつなら何かわかるかもしれないっ!」

そう言うと律は部屋を飛び出して聡の部屋のドアを勢いよく開けた。

バンッ―!

聡「うおっ!?ちょっ、何だよ!ノックしてって言ってるだろっ!」

律「あー?何やってんだよお前…」

聡「べっ…別になんもしてねーよっ」

律「まあいい、あたしの部屋に来い」

聡「え?なんでさ?」

律「いいから早くっ!!」

聡「ちょっ姉ちゃんっ」

469: 2010/08/22(日) 01:45:36.14 ID:Y/yMUajA0

聡を連れて澪のいる部屋に戻った。

聡「あっ、澪姉…久しぶり…」

澪「久しぶり聡、背大きくなったなぁ!前は律より全然小さかったのに…今じゃ私より大きいぞ」

聡「へへへ…」

律「まあ座れ、聡」

聡は、2人の前に胡坐をかいて座った。

聡「で?何?」

律「お前、唯はわかるよな?」

聡「…ああ、平沢さん?」

律「そうだ」

聡「がどうしたの?」

律「唯の事についてお前の知ってることを教えてくれ」

聡「え?どういうこと??俺なんかより姉ちゃんたちのが詳しいんじゃないの?」

律「わからないから聞いてるんだよっ」

聡「なになに?記憶喪失にでもなったの??澪姉もわからないの?」

471: 2010/08/22(日) 01:49:04.01 ID:Y/yMUajA0
澪「いや、唯さ…私らが高校の時にさ…」

聡「ああ、うん……」

律「そう、その時の事、詳しく教えてくれないか?」

聡「その時の事って…えー?……うーん……お葬式行って……とかそういうことでいいの?」

律「そうだ!そういうことでいい。覚えてる限りで話してくれ!できればその日の事を知りたいんだっ!」

聡「その日の事?…えーっと……たしか、そうだ!姉ちゃんその日家に帰ってこなかったんだ!」

律「うん、それで?」

聡「で、俺が学校行くころに姉ちゃん帰ってきてさ…」

律「ほうほう(全く記憶にないぞ…)」

聡「で、その日の夜お通夜に行って…」

律「ちょっと待て、話がいきなり飛んだぞ」

聡「わかんねーよ俺学校行ってたもん。たしか」

律「まあいい、で?」

聡「それからずっと姉ちゃん元気なくて…しばらく俺も話しかけづらかった…」

律「……」

474: 2010/08/22(日) 01:50:27.46 ID:Y/yMUajA0
律「その時のお前の心境なんか誰も聞いてねえよっこのアホンダラ!お前に聞いたあたしが馬鹿だったよ。もう行っていいぞ」

聡「なっ!!いきなり呼び出して人が…っ」

律「あーん?人が…なんだって?」

聡「なんでもないっ!!じゃあ…またね、澪姉///」

澪「うん、ありがとな」

聡はそそくさと律の部屋を出て行った。
そして、聡の部屋の扉が閉まる音がしてから律は口を開いた。

律「夜…か。夜に憂ちゃんと2人でどっか行ってたのか」

澪「いや、放課後2人で帰ってる途中に襲われて、病院で治療、その後私たちに連絡が入った。という可能性もある」

律「確かに、それなら夜でもおかしくないな…もっと詳しく知ってる人いないかな…」

澪「和は今イギリスだしな…」

律「やっぱり憂ちゃんに話した方がいいのかな」

澪「純ちゃんに聞いてみるか…?」

律「おお!そいつはいい!!…あっでも連絡先が…」

澪「梓だ。梓に聞こう」

そう言うと澪は鞄から携帯電話を取りだした。

479: 2010/08/22(日) 01:54:35.98 ID:Y/yMUajA0
プルルルルルルルル―。

梓「はい、澪先輩?」

澪「梓、いきなりで悪いけど純ちゃんの電話番号とかわかるか?」

梓「え?純ですか?ちょっと待って下さい…」

梓『純、澪先輩が番号教えてほしいって…』

澪「!?」

澪「梓、今純ちゃんと一緒なのか?」

梓「あ、ハイ、今2人でお茶してます」

澪「ちょうどよかった!聞きたいことがあるんだ。私と律と今から行っていいか?」

梓「え?あ、いいですよ!聞きたいことって…?」

澪「それは後で話す。どこにいるんだ?」

梓「駅前のMAXバーガーです」

澪「わかった、すぐ行く」

律「ラッキーだったな。そんじゃ行くか。」

澪は電話を切るとすぐに立ち上がった。続いて律も立ち上がる。
外は雨が降りそうな天気だった。

488: 2010/08/22(日) 01:57:03.53 ID:Y/yMUajA0
―駅前のMAXバーガー―

律「ふぅ、まさか雨降ってくるとはな…あっ、ダブルマックスバーガーのポテトセット…飲み物はコーラで」

澪「おいっ」

律「え?」

澪「食うのかよっ!さっき唯んちで寿司食べただろ」

律「だって、何も頼まないで入るわけにはいかないだろ?」

澪「そりゃそうだけど、飲み物だけでいいだろう」

律「あ、澪は飲み物だけ?じゃ一緒に頼んじゃおーぜー!あ!すいまーせーん、単品でアイスティーも追加で」

澪「やれやれ…」

澪は財布を出し、律に100円玉を渡した。
しばらくすると、ハンバーガーとドリンク2つが乗ったトレイを店員に渡された。ポテトはまだ時間がかかるらしい。
番号札をトレイの上に乗せ、律と澪は梓たちを探した。

澪「あ!いたいた」

梓「あ、澪先輩、律先輩、どうも。どうしたんですか?話って」

律「急に押しかけてごめんね。久しぶり、純ちゃん」

純「お久しぶりです、私に聞きたいことがあるんですか?」

501: 2010/08/22(日) 02:01:12.12 ID:Y/yMUajA0
澪「そうなんだ。でもその前に梓、あの事は純ちゃんに話したのか?」

梓「いえ…」

澪「ようし、ならよかった。」

純「あのことって…?」

律「ズバリ聞くけど、唯が氏んだのっていつだったっけ?」

澪梓「(ストレートすぎるっ!!)」

純「えっ!!あっ…えーっと…卒業式の前だったので……3月くらいじゃ……」

律「よしきた!」

澪「その時のことを詳しく聞きたいんだ!教えてくれないか?」

純「え…いいですけど…5年も前の話だからなぁ…」

純「でも、どうしてそんなことが知りたいんですか?ていうか、澪先輩たちなら私より詳しいんじゃ…?」

澪「うん…今は事情があって今は話せないんだ…後で話すよ」

純「わかりました…」

純の記憶は正常だった。まだ、過去が変わったことを知らないからだ。唯が氏んだ日は3月25日と記憶に残っている。
そして、今純に、唯からの電話があって、過去が変わったことを話してしまうと、3月25日の記憶がなくなってしまう可能性がある。
と、澪と律は考えたのだ。実際はいつ、澪や紬や梓のように記憶が変わってしまうかはわからないが…。

516: 2010/08/22(日) 02:05:59.39 ID:Y/yMUajA0
純「あの日の夜、憂のお母さんから電話が来たんです」

律「なんて?」

純「唯先輩が氏んじゃったって…」

純「それで憂の携帯に電話かけ直したんですけど繋がらなくて…」

澪「何時頃だったかわかる?」

純「えーっと……確か夜でした」

律「そっか…(聡の証言と一緒だな)」

店員「お待たせいたしましたーセットのポテトになりまーす」

律「あ、どーも……あっゴメンゴメン、続けて?」

純「みなさんとても悲しんでました…特に軽音部の皆さんは…」

澪「…」

純「その、憂が聞いた話によると皆さん―」

ピリリリリリリリリリリリリ―

律「!?」

澪「おいっ!まさか…!」

519: 2010/08/22(日) 02:07:25.60 ID:Y/yMUajA0
律「来たっ!!唯からだっ!!」

梓「!!本当ですかっ!!」

純「え?……えっ?」

律「出るぞ!」

澪「ちょ、でもっ純ちゃんの記憶が…っ」

律「いつかかってくるかわからないんだ!こっちが優先だ!!」

梓「ですね!」

純「えっ?……記憶??えっ??」

当然純は混乱した。3人は唯から電話がかかってきたと騒いでいる。
事実を知らない人間から見たらただの危ない人である。

律「出るぞ!……もしもし、唯か!?」

唯「りっちゃん?」

律「唯!!唯っ!!無事だったのか!唯ィィッ!!」

唯「えっ?……未来のりっちゃん…?」

律「そうだ!わかってくれたか!?唯!」

唯「未来のりっちゃん…………ありがとう」

524: 2010/08/22(日) 02:08:53.33 ID:Y/yMUajA0
律「いいんだ!!唯が無事でなによりだっ!!」

澪「私もっ!私も唯の声聞きたいっ!」グイグイ

梓「わっ、私もです!」グイグイ

純「・・・」

律「わっ、ばか、やめろ」

唯「ほえ?」

律「あーんや、なんでもないっ」

唯「りっちゃん、本当にごめんなさい。私本当に今日までりっちゃんの言ってたこと信じてなかったよ…」

528: 2010/08/22(日) 02:11:39.26 ID:Y/yMUajA0
律「いいんだっ!!唯、それより…落ち着いて聞いてくれ!」

唯「え?なあに??」

律「唯……お前は不幸にも……来年の2月25日に……」

唯「…えっ」

律「また氏ぬ…っ!!」

唯「!?」

純「!?」

唯「えっ!?どういうこと!!りっちゃん!!」

律「調べたんだ…5年前の今日の事件の事……」

純「(えー…話が見えないよ……それに…この2人…)」チラッ

澪「りつうう」グイグイ

梓「私もっ……」グイグイ

純「・・・一体なんなの?唯先輩と話してる…??なんで??」

律「今日実は、お前の墓参りに行ったんだ。本来なら唯の命日だからな…」

律「そして、墓石を見たら氏んだ日の日付が変わっていたんだ…2011年の、2月25日に…」

536: 2010/08/22(日) 02:15:19.08 ID:Y/yMUajA0
唯「そんなっ……私…また氏んじゃうの…っ?」

律「大丈夫だ唯っ!!調べた!2月25日、唯と憂ちゃんが下校中に通り魔に遭遇するっ!」

純「えー…」

律「だから早くっ!そのh………ザッ……プッ―…」

唯「え??なに?りっちゃん!」

律「……のひ…………くっ………………るんだっ!プッ」

唯「もしもしりっちゃ……」

プーップーップーップー

唯「切れちゃったよぅ……未来のりっちゃん……ううぅ、私…また氏んじゃうのかなぁ…うぅ…」


・・・

律「くっそ!!切れやがったっ!!まただ!!」

ゴツン!!

律「あいったーっ!!なっ、何すんだよ澪!!」

澪「なんで唯の声聞かせてくれなかったんだよっ!!」

梓「そうです!!律先輩だけ唯先輩とたくさん話してずるいです!!」

541: 2010/08/22(日) 02:16:45.33 ID:Y/yMUajA0
純「・・・」

律「しょうがねえだろっ!?いつ切れるかわからない電話なんだから!のんきに『私だ!澪だーわかるかー?』とか」

律「『あずにゃんですーお久しぶりです唯先輩!』とか自己紹介してる時間はないんだよっ!」

澪「でも…少しくらい…」ウッ

梓「私はそんなこと言わないです!そうですよ。少しくらい声聞きたかったですよ…」

律「わっ…悪かったって……………ん?」

澪「ん?」

梓「え?」

純「…過去の…唯先輩からの電話…??えっ?」

律「あっ…いやー、これはっ…アハハハハー」

純「あっ…いやごめんなさい。話が読めないなーと思って…あははは」

741: 2010/08/22(日) 03:50:23.29 ID:Y/yMUajA0
あと30レスくらいで終わりなんですが…これはwwww
ここに書いて良いのか・・・っ!?

757: 2010/08/22(日) 03:54:47.31 ID:Y/yMUajA0
澪「純ちゃんにも…話そう…」

律「待て、…純ちゃん。もう一度聞くけど、唯が氏んだ日っていつだったっけ?」

純「えっ……5年前の…文化祭の日に……」

律「NA☆ZE☆DA!!」

純「!?」

梓「なっ……なんでっ…記憶がっ……」

純「えっ?えっ??」

澪「純ちゃんの記憶も変わってしまった……」

律「駄目だ…もう…」

純「(えー……)」

律「もう…憂ちゃんしかいない…」

澪「でも…憂ちゃんには…」

律「うん…言えない…憂ちゃんの事を考えると…またこんな嫌な過去をほじくり返すようなこと…聞けないっ」

759: 2010/08/22(日) 03:55:45.09 ID:Y/yMUajA0
澪「ありがとね、純ちゃん」

律「なんだかごめんね…」

純「いえいえ…………って、えっ?」

律「じゃあ、うちら帰るから!じゃあな梓、純ちゃんも。ありがとう」

澪「じゃあね。また今度」

梓「はい!それじゃあ」

純「えwwwちょwww」

澪と律は、手を振りながらMAXバーガーを後にした。

純「ちょっと梓!!」

梓「なっなに!?」

純「どういうことなの!!」

梓「えっ?あー…」

もう話してもいいかと思い、梓は純に全てを話した。

764: 2010/08/22(日) 03:56:40.97 ID:Y/yMUajA0
律「伝えるには伝えたけど…どうする…」

澪「どうするって…唯と電話が繋がらない以上…これ以上は」

律「いつ繋がるかはわからない。いつかかってくるかもわからない…」

律「そして…もうかかってこないかもしれないし、繋がらないかもしれない…っ」

澪「そんなっ!!」

律「皆で暇ありゃ唯の番号にかけてみようぜ。それで連絡取れ次第、唯に2月25日の事を報告する」

澪「うん…それでいくしかないな…」

律「あ、そういえばさ、澪。来年、あたし卒業じゃん」

澪「おお!そうだったな!おめでとう!」

律「いやいや、で、それで卒業ライブみたいなの学校でやろうと思うんだ」

澪「卒業ライブ…?」

律「まだまだ先だけどさっ、それで、放課後ティータイム再結成!ってのはどうだ?」

澪「いいな!それ!!でも…私ら部外者だけど…」

律「大学の卒業ライブにそんなの関係ねえよっ。あたしは関係者だ!」キリッ

澪「ふふっ、楽しみだな」

765: 2010/08/22(日) 03:57:54.59 ID:Y/yMUajA0
律「唯も……唯も来てくれることを信じてさっ―」

澪「…そうだな」

唯が生きて過去から帰ってくることを信じて、律は卒業ライブの計画を立てることにした。

澪「にしても雨…止んでよかったなぁ~」


律「だな!まさか降ってくるとは…………」

律「・・・」

澪「?」

律「雨…」

澪「どうした?律?」

律「唯から電話がかかってきたときには雨が降ってる日だった気がする…っ」

澪「何!?」

律「そうだ!最初の時も!!雨が降った後だった!!おっきな虹が出てて―」

澪「虹…?」

律「そうか!虹だ!!さっきも雨降ってたし…虹は見えなかったけど…どこかで虹が出てたんだ!」

澪「そんなことが…」

771: 2010/08/22(日) 03:59:10.07 ID:Y/yMUajA0
澪「じゃあ、虹が出てる時しか唯と電話は繋がらない…?」

律「いや待てよ…2回目は確か雨なんか降ってなかったぞ…」

澪「なんだよ…どういうことだ…?」

律「5年前の唯の世界で虹が出ていた…?」

澪「まあ…その可能性はあるけど…」

律「ていうか!そもそも虹が出ることなんてそんなにないぞっ!!」

澪「と、とにかく!雨が降ってるときや虹が出てるときにひたすら唯に電話かけてみよう」

律「そうだな…やってみるしかないな」

澪「律の卒業ライブのために…放課後ティータイム再結成のために……そしてっ―」


澪律「唯のためにっ!!」


2人は、律の家の前で別れた。
今日は色々あって疲れた。律はそう思いながらフラフラと自室に入り、ベッドに横になった。

律「唯…必ず助けてみせるからなっ!」

773: 2010/08/22(日) 04:00:26.20 ID:Y/yMUajA0
2015年、10月22日

―K大学―

律は、卒業ライブの申請をするべく、学校に向かった。

しかし、卒業ライブのステージはもう一杯だった。

律たちが演奏する時間はない。と言われた。

しかし、律は諦めることができなかった。入学したてのころ、少し入っていた音楽サークルに行った。

サークル内でバンドを結成していて、当然卒業ライブの日もステージに上がる。

その時間を少しだけ譲ってもらおうと頼みに行ったのだ。

1曲だけでいい。5分だけでいい。と律はお願いした。

その結果―

男「いいよ!1曲とは言わず、2曲3曲やっちゃえよ!多少時間延びても問題ないって!」

律「ほっ本当か!!」

男「俺たちのゲストって形で紹介すりゃなんの問題もないだろ。それにガールズバンドだし、盛り上がるぜきっと」

律「ありがとう!!本当にありがとうっ!!」

男「いいっていいって!律たちが高校時代にやってたバンドメンバーでの演奏…俺らも聞いてみたいしなっ!」

778: 2010/08/22(日) 04:01:34.91 ID:Y/yMUajA0
律「で、卒業ライブって3月だよな?」

男「うんにゃ、今年はちょっと早いんだ」

律「え?いつ?」

男「2月25日だけど…」

律「!?」

男「えっ?」

律「2月…25日…!?」

男「え?何予定あるの?」

律「あーいやっ、そんなんじゃないんだけど…」

2月25日は…そう、通り魔事件の日だ。
卒業ライブは、その日に行われる。

律「おまえらのステージの時間はっ!?」

男「4時から45分の予定だけど…」

律「ギリギリ…か…」

男「律?予定あるなら無理すんなって―」

律「いや、あたしの予定じゃないんだ。大丈夫だって!」

780: 2010/08/22(日) 04:02:08.72 ID:Y/yMUajA0
男「ならいいけど…」

律「本当にありがとなっ!!楽しみにしてるっ!」

男「おう!頑張れよ!っていってもまだまだ先だけどな」

律「だな。じゃ、ありがとなー」ノシ

その日、唯と憂を早く下校させて、唯が助かったとしてもこのライブの時間に間に合うかどうかはわからなかった。
おそらく間に合ってもギリギリになるだろう。
唯と。放課後ティータイムで1曲できればそれでいい。律はそう思っていた。

そのためには、自分たちも楽器の練習。

そして何より、このことを唯に伝える必要があった。

仮説にすぎないが、唯と電話が繋がる可能性があるのは、雨の降っている日か、もしくは虹の出ているとき。
しかし、この虹。なかなか出るものではない。

10月19日に家に帰ってから、早速パソコンで天気予報を見てみたが雨の降る日は当分来そうにない。
これが梅雨の時期ならよかったのになぁと律は思った。

天気は、自分たちがどう頑張っても変えられるものではない。
天に…神に祈るしかなかった。

785: 2010/08/22(日) 04:04:25.63 ID:Y/yMUajA0
2015年 10月30日 15:45

律「雨の野郎…全然仕事しねえっ!!」

あれから雨が降ることはなかった。
雨が降ってない日でも唯の携帯に4人で何回か電話をかけ続けていたが、繋がることはまずなかった。

幸運にも事件が起きるのは来年の2月。まだまだ時間はあるが、心配で仕方なかった。
もちろん、他の3人も。


天気予報では、この週は雨は降らない。

律「冬に入っちまったらもう、雨降っても虹なんか出ねえよ……クソッ!!」


律「・・・」


律「あっ、やべっ、バイト行かなきゃ」


律は自転車にまたがり、いつもの道を軽快に走り抜けた。

律「ふあーーーすっずしいいいいい」

ポツ―ポツ―

律「えっ?…雨!?」

790: 2010/08/22(日) 04:06:21.48 ID:Y/yMUajA0
ザ―――――――――――――――――――――ッ!!

律「うわっ!!馬鹿っ!!」

律「この野郎!!夕立とはっ!!こしゃくな~!!」

律「いそげええええええっっ!!」

空には太陽が出ているというのに、この大雨。
自転車のペダルを必氏にこいでバイト先まで急いだ。
しかし、バイト先の居酒屋に着いたころには律の服はびしょ濡れだった。

律「トホホ…」

律「ん?……雨!!」

律「そうだ!!夕立!!雨!!虹!!」

律「唯にっ…唯に電話だっ!」

ポケットに入れていた携帯電話は少し濡れていたが、機能には問題なかった。
そして律は携帯電話を開き、唯の番号に発信する。

プップップップップ

律「頼むっ!唯…繋がってくれっ!!」

びしょ濡れの律は、もはやバイトの時間など忘れていた。

律「繋がってくれっ!!」

793: 2010/08/22(日) 04:07:18.88 ID:Y/yMUajA0
プルルルルルルルルルルッ!

律「!?来た!繋がった!!間違ってなかった…雨の日に…」

律「虹はっ!?………見当たらないけど、まあ繋がったからいい!」

プルルルルルルルルルル―。

プルルルッ

唯「もしもし?」

律「唯!!来た!やっと繋がった!!唯なんだな!」

唯「未来のりっちゃん!?りっちゃん!」

律「唯、また電話がいつ切れるかわからない。手短に話すぞ」

唯「うんっ!」

律「メモっておくんだっ!事件はだいぶ先だ。それに、今後いつこうやって電話が繋がるかわからない…」

唯「わかったよりっちゃん」

律「いいか?2011年の2月25日だ。間違えるなよ。2月25日。だ。」

唯「に…がつ……にじゅうご…にち。っとおっけー!!」

律「よし、その日は憂ちゃんと早く下校するんだ!ていうか、そのメモを憂ちゃんに見せろ」

797: 2010/08/22(日) 04:08:13.23 ID:Y/yMUajA0
唯「了解ですっ!」フンス

律「よし、これでオッケーだ。唯、その日は絶対に早く下校するんだぞ!」

唯「うん!」

律「そんで、忘れないうちにすぐ!憂ちゃんにそのメモ見せるんだ!あたしが今言ったこともだ。」

唯「わかった…」

律「ん?どした?」

唯「りっちゃん…本当に…ありがとうね…」

律「ばっ…ばか///改まってなんなんだよっ!」

唯「私、昔から誰かの助けがないと何もできない子だったんだ。」

律「・・・」

唯「今もこうやって……今に限っては命を救ってもらってる…っ」

律「ばーか、気にすんなって…あたしら5人は最高の仲間で…最高の親友だっ!」

802: 2010/08/22(日) 04:09:18.16 ID:Y/yMUajA0
唯「ううぇっ…りっちゃんっ…」

律「そうだ唯!来年さ、うちの大学で卒業ライブやるんだ!!」

唯「えっ?ライブ!?」

律「あたし、今年で卒業だからさ。だから唯も来いよ!」

唯「えっ…でも…」

律「ほら、あそこのK大学だ。あたし、あそこに進学したんだ~。1年留年だけどな」

唯「そうなんだ~すごいりっちゃん!!」

律「んで……実は…その卒業ライブも2月25日なんだ」

唯「えっ?」

律「だから…絶対来いよっ!唯!!あたしたちのライブは4時から5時までだ。夕方のな。」

唯「待ってっ!!行くっ!私も行って…みんなと演奏したい!!」

律はクスッと笑みを浮かべた。

律「待ってるぞ…唯っ!2月25日、4時からK大学だっ」

唯「わかった!!メモった!!」

律「でもお前…その日の事は忘れるなよ…。いいな。憂ちゃんと早く下校するんだ。それが終わってからだぞ」

809: 2010/08/22(日) 04:10:50.60 ID:Y/yMUajA0
唯「わかってるっ……本当にありがとうっっ未来のりっちゃんっ…びえっっううっっ」

律「泣くなって!唯、絶対来てくれっ!みんな…お前の事を待ってるっ!!さ、電話……プッ……ザッ」

唯「もしもし?りっちゃん??」

律「ザッ――――――プッ」

ツーツーツーツー

唯「りっちゃん…本当にありがとうっ」



律「切れたか……伝えることは伝えた」

律「あとは…唯と憂ちゃんを信じるだけだ。」

律「やっべ!!バイト…遅刻だっ!!」






律は、紬と梓にもこのことを伝えて4人で律の卒業ライブに向けての練習をした。
高校を卒業してからは、なかなか4人で集まることも少なかったが、この日から4人で集まってたくさん練習した。

放課後ティータイム再結成ライブに向けて―。

817: 2010/08/22(日) 04:11:45.72 ID:Y/yMUajA0
クリスマス、お正月と時を経て、時は2016年になった。

そして月は2月に突入した。

あれから、唯と電話が繋がることはなかった。

雨が降った日は何度もあったが、駄目だった。

4人は各自、雨の日が来ては唯の携帯に電話をかけていたが、呼び出し音ではなく

おかけになった番号は現在使われておりませんというアナウンスが流れるだけだった。

しかし、2月25日の通り魔事件の事についてはきちんと律が唯に伝えた。

問題ない。あとは、本当に2011年の唯と憂を信じるしかなかった。


律たちも、皆の時間が合えば、紬の家に集まって練習していた。

高校を卒業してからほとんどやらなくなった楽器も、練習していくにつれてだんだん感覚を戻してきた。

もう、ライブへの準備はばっちりだった。

あとは、2月25日に…唯と憂を待つだけ…



そして―。

825: 2010/08/22(日) 04:13:05.78 ID:Y/yMUajA0
2011年 2月25日

―放課後―

律「あれ?唯は…?」

紬「なんか急いで教室を出て行ったわ。何か用事があったのかしら…」

律「ほーん、んじゃま、帰りますか!」


―2年の教室―

唯「憂っ!!」

憂「お姉ちゃんっ!遅かったね」

唯「ごめんっ!HRが無駄に長くってさぁ」

憂「急ごう!お姉ちゃんっ!!早く帰ろう!!」

唯と憂は、走って学校を出た。
いくら早く下校するとは言っても、5分10分しか変わらない。

5分10分で通り魔に遭わなくて済むのか…それはわからなかったがとにかく早く家に帰宅する。
ましてや家まで走って帰れば通り魔の犯人も見逃してくれるかもしれない。

2人は手をつないで走った。

833: 2010/08/22(日) 04:14:20.69 ID:Y/yMUajA0
律「おっ、梓ー」

梓「あ、皆さん。」

律「1人か?憂ちゃんや純ちゃんは?」

梓「憂は先帰っちゃいました。純はなんか用があるみたいで…」

澪「じゃあ唯と憂ちゃんは一緒に帰ったのかな?」

紬「そうみたいね。2人で何か家の用事でもあったのかしら?」

律「まーいーや、一緒に帰ろーぜー」

律たちがこんな事をしている間に、唯と憂たちはもう既に家の近くまで来ていた。

そして―。

憂「はあ……はあ……」

唯「はぁ…はぁ…走ったねぇ…ういー」

憂「お姉ちゃん…よかった…何もなかったよ!!無事家に着いたよ!!」

唯「本当に……本当に……未来のりっちゃんに感謝しないとね…」

憂「そうだね…」

836: 2010/08/22(日) 04:15:01.35 ID:Y/yMUajA0
唯「5年後…ちゃんとお礼言わなきゃね!」

憂「でも…お姉ちゃん。5年後にお礼言っても、その律さんは今の律さんだから…」

唯「あっそっか!!なんかややこしいね…」

憂「でも…律さんのおかげで助かったのは事実…っ!本当にありがとう!未来の律さん!」

今日は疲れた…。
唯は、未来の律にお礼の電話をしたかったが、繋がるわけもないのでやめた。

心の中で…心の底から感謝した。

今の唯にはそれしかできない。

私は助かったんだ!!りっちゃんのおかげで…助かったんだっ!!

これから5年後…律の卒業ライブがある。忘れてない。

律はK大学に進学して、2016年の2月25日の4時から…卒業ライブ―!
放課後ティータイム再結成!

私が今、こうやって生きていられるのも、全部…未来のりっちゃんのおかげ…ありがとう。

ありがとう…未来のりっちゃん……助けてもらってばっかりでごめんね…本当にありがとう…


唯は、知らぬ間に眠りについていた。

843: 2010/08/22(日) 04:16:02.80 ID:Y/yMUajA0
チュン―チュン―

目を開けると、雀の鳴き声が真っ先に耳に入ってきた。

唯は何か長い夢を見ていたような気分だった。

起き上がると、何か感覚が違う。



―全てを思い出した。


未来の律に救ってもらって…それでっ―

ふと目を枕の横に向けると見慣れない携帯電話があった。

心臓がドクンと1回大きく動いた。

携帯電話を開いて待ち受け画面を見る。

そこにあったのは…


2016年 2月25日(木)12:01


唯は飛び起きて、家を出る支度をした。

845: 2010/08/22(日) 04:16:35.92 ID:Y/yMUajA0
唯は、自分の部屋の洋服ダンスから適当な服を出して着替えた。
化粧なんてしない。とにかく急いだ。

唯「みんなが…待ってるっ!」

ベッドの横にある、ギー太ことギブソンのレスポール。

心の中でギー太に声をかけて、ギターを背負った。


6年前の当時唯たちが2年生の文化祭の日、

唯は階段を下りたリビングのところですべって転びそうになった。

しかし、唯は階段を下りて躓くことなくスムーズに玄関に向かった。

勢い良く家を飛び出した唯は、高校生の頃よく走った道を全速力で走った。

律から聞いた…今日、律の卒業ライブがある。

律「唯、絶対来てくれっ!みんな…お前の事を待ってるっ」

律の通うK大学に向けて、唯は走った。


電車に乗って20分。律の学校のあるK大学に到着した。
少し、道に迷ってしまったが、なんとかK大学までたどり着くことができた。

時間は大丈夫。まだ間に合うっ!

854: 2010/08/22(日) 04:17:28.64 ID:Y/yMUajA0
唯「りっちゃんっ!澪ちゃんっ!むぎちゃん!あずにゃん!!」

唯「待ってて!今っ!」



唯「今行くからっ―!」

レスポールを背負った唯が、学校の門をくぐる。

そしてライブ会場―。

ステージの上―。





唯が待ちわびていた…軽音部の4人の姿が―







そこにはなかった。

865: 2010/08/22(日) 04:18:31.84 ID:Y/yMUajA0
唯「えっ……」


そこにあったのは、全く知らない男子学生4人の姿。

唯「な…なんで…?みんなはっ!?」








唯「―!!」






唯「そうだ……あの日………2月25日に氏んだのは―」







唯「私じゃない……っ!!」

874: 2010/08/22(日) 04:19:19.08 ID:Y/yMUajA0
すべては、2010年 10月30日に起きた。

未来の律から事情を聞いた唯は、憂と2人で先に下校した。

もちろん、当時の事件に遭遇した時間をずらして下校したため2人は通り魔に遭うことはなかった。

しかし―。

後に下校した軽音部の4人




そう、2011年、2月25日。桜が丘通り魔事件で被害にあったのは




軽音部の4人っ!!





唯「そっ……なんでっ…」

886: 2010/08/22(日) 04:20:10.37 ID:Y/yMUajA0
憂と唯は時間をずらして帰った。なのに…


2015年、10月19日。

墓参りの帰りに、図書館で見た記事。

氏亡1人、重症1人。

氏亡したのは唯。これは間違いない。
そして、重症になった1人。これが憂だったというのは律たち4人のとんだ勘違い。


あの日、重傷を負ったのは…梓だった。


純の言葉をよく聞いていなかったせいもあってか、あの後律たちは気付くことはなかった。
最初の勝手な思い込みで…被害にあったのが唯と憂だったと


いつも通り5人で下校していた軽音部の5人を襲った通り魔―

ナイフで切られたのは後ろを歩いていた唯と梓だった。

前を歩いていた、紬、澪、律は犯人に突き飛ばされた程度で、怪我を負うことはなかった。

が。

唯と律はその場に倒れて、救急車で運ばれた。

893: 2010/08/22(日) 04:21:02.67 ID:Y/yMUajA0
つまり…帰る時間をずらさなくてはいけなかったのは、むしろ律たちの方だった。

2011年、過去が変わったこの日に

事件に遭遇したのは…当然この4人っ!

不運にも…並んで歩いてた、この4人は…全員通り魔に切り裂かれた…

人通りの少ない道…4人全員被害にあったため…119番への通報が遅れた。



唯「……思い出した…っ」

唯「なんでっ……なんでっっ!!」



出血多量…っ!

4人は…助からなかった…。







過去が変われば、未来も変わる・・・。

908: 2010/08/22(日) 04:22:43.05 ID:Y/yMUajA0


K大学に一人取り残された唯は、その場に崩れ落ちた…。





唯「私のせいで…っ!みんな…みんながあああああああああああああああああああああああ」



















END

919: 2010/08/22(日) 04:23:35.37 ID:Y/yMUajA0
乙でした。長い間お付き合いいただきありがとうございました

942: 2010/08/22(日) 04:26:06.83 ID:Y/yMUajA0
憂と唯は時間をずらして帰った。なのに…


2015年、10月19日。

墓参りの帰りに、図書館で見た記事。

氏亡1人、重症1人。

氏亡したのは唯。これは間違いない。
そして、重症になった1人。これが憂だったというのは律たち4人のとんだ勘違い。


あの日、重傷を負ったのは…梓だった。


純の言葉をよく聞いていなかったせいもあってか、あの後律たちは気付くことはなかった。
最初の勝手な思い込みで…被害にあったのが唯と憂だったと


いつも通り5人で下校していた軽音部の5人を襲った通り魔―

ナイフで切られたのは後ろを歩いていた唯と梓だった。

前を歩いていた、紬、澪、律は犯人に突き飛ばされた程度で、怪我を負うことはなかった。

が。

唯と梓はその場に倒れて、救急車で運ばれた。

961: 2010/08/22(日) 04:27:23.95 ID:PSk2vgL3O
面白かった、乙です
ジャックフィニィの愛の手紙かと思った

963: 2010/08/22(日) 04:27:40.82 ID:Em+I+2/MO
いいバッドエンドだった

過去は過去サ!
無理だったものは無理なのサ!
変えられなイ、変わらないのサ!
でも未来は変わるヨ、変えられル!るるル!
なんかこのスレ見てたらこんな台詞思い出した

977: 2010/08/22(日) 04:30:35.44 ID:Y/yMUajA0
いろいろ言い訳させてほしいけど・・・・言い訳しないでおこうwww


みんなも乙!!長い間、こんな遅くまで付き合ってくれてありがと~乙カレーのちライス!

995: 2010/08/22(日) 04:33:49.98 ID:L1R7UdWt0
ういーお別れだよー

996: 2010/08/22(日) 04:34:02.86 ID:cWDoB8ZP0
おねえちゃん・・・じゃあね・・・

引用: 律「そういや…もうすぐ唯の命日だったな…」