519: 2010/06/17(木) 22:02:43.51 ID:KfRKkG20
>>1です。
作中では矛盾点やご都合主義もたくさん出てくると思うのでそれは勘弁して頂けると幸いです。。。
あと雑談は基本、各自の判断に任せます。
さすがに1日に100レスも雑談で埋まってたり全く関係ない話題に逸れるていのは驚きますが。
あとあまり喧嘩しないで頂けると嬉しいです。
名無しの方々にあれこれ強要するのは控えたいのですが、今日だけは一応口を挟ませてもらいました。すいません。
ということで、投下していきます。

美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」【前編】

522: 2010/06/17(木) 22:08:43.62 ID:KfRKkG20
常盤台中学女子寮・管理人室――。

黒子「………………」ジロリ

寮監「そう睨まないでくれるか? これから先、仲良くやる身だ」

黒子「………仲良く? ただの監視のくせに?」

黒子は今、寮の管理人室にいる。美琴は、スキルアウトを壊滅したという疑いが掛かっているため、1人で謹慎用の部屋に閉じ込められているが、黒子の場合、謹慎用の部屋は管理人室だった。
つまり、黒子は見張り役の寮監と当分の間、管理人室で寝食を共にしなければならなかった。

寮監「ふん、言っておくが能力を使用しないことだな。さっきも説明したが、この部屋は女性警備員が監視カメラで交代で絶えず監視している。異常が起これば、寮内の全警備員が速やかに対処できるようなっているからな」

脅すように寮監は黒子に説明する。

黒子「…プライバシーさえ無いのですのね」

寮監「それは私も同じだ。悪いが、この部屋にいる限りは私の指示に従ってもらうからな」

黒子「………………」

黒子は横を向き、1つ溜息を吐いた。
とある魔術の禁書目録 30巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

523: 2010/06/17(木) 22:13:26.57 ID:KfRKkG20
とある寮――。

初春「はぁ……佐天さんたち、どうしてるかな?」

そう言って初春は覗き窓を覗く。警備員が2人、背中を見せて立っているのが見えた。

初春「……この謹慎処分って、いつまで続くんだろう?」
初春「ケータイも没収されちゃったし、電話も使えなくされちゃったし、パソコンも取り上げられちゃった……」
初春「おまけに、監視もされちゃってるんだよね……」

チラッと初春は部屋の一角を見る。取り付けられたばかりの監視カメラが初春をジッと見つめていた。

初春「落ち着くことも出来ないや……」

ベッドに腰を降ろすと、彼女は本棚に置いてあるネットワークセキュリティ関係の本を読み出した。

524: 2010/06/17(木) 22:17:30.45 ID:KfRKkG20
また別の寮――。

佐天「……………」シャカシャカシャカ

ゴロン

佐天「……………」シャカシャカシャカ

ベッドの上に寝転がりながら、音楽を聴く佐天。

ゴロン

佐天「……………」シャカシャカシャカ

彼女はうっとおしそうに何度も体勢を変える。

佐天「……………」シャカシャカシャカ

佐天「だーもう!! カメラが気になって集中できない!!!」

立ち上がり、天井の隅につけられたカメラを指差し、佐天は抗議の声を上げる。

佐天「見てなさいよ!! 絶対出し抜いてやるんだからぁ!!!」

525: 2010/06/17(木) 22:22:43.43 ID:KfRKkG20
常盤台中学女子寮・管理人室――。

テレビ『アンチスキルによると今朝、第5学区で発生した爆発事件は、テロの可能性が濃厚なものとして……』

ガチャッ

黒子がボーッとテレビを眺めていると、扉が開かれる音がした。

寮監「テロテロテロ、世知辛くなったもんだな」

黒子「………………」

黒子は横目で寮監を窺う。

テレビ『また、3日前に殺害された田中重工の取締役は、学園都市の上層部と繋がりが深く……』

寮監「そして要人暗殺か。若いうちからこんな物騒なものまじまじと見るんじゃない」ポチッ

机の上に置かれてあったリモコンを取り、寮監はテレビの電源を消した。途端に、部屋の中の静けさが増した。

黒子「……これでも、ジャッジメントですので。情報の取得は欠かせませんの」

寮監「どちらにしろそういった凶悪事件はアンチスキルの担当だ。そして今のお前はジャッジメントも停職中の身。謹慎が解けるまでこの部屋からは出られん。間違っても、私の目を盗んで御坂を助けに行こうと思わないことだな」

黒子「お姉さまがどの部屋にいるのかも分からないのに、そんな馬鹿な真似はしませんわ」

526: 2010/06/17(木) 22:28:49.86 ID:KfRKkG20
寮監「はぁ……ったく、無愛想だな。一緒の部屋にいるのに。なんなら私を本当の母親と思って甘えてくれてもいいんだぞ?」

黒子「ご冗談がきつすぎますわ」

寮監「はっは、言ってくれる」

コンコン

と、その時、扉をノックする音が響いた。

寮監「はい」

警備員「謹慎中の生徒に面会人です」

寮監がドア越しに返事をすると、見張りについていた警備員がそう告げてきた。

寮監「どうぞ」

ガチャッ

黒子「貴女は……」

開かれた扉の方に注意を向け、黒子は意外な者を見るように僅かに目を大きくした。



婚后「ご機嫌いかが白井さん? ま、そんなおブサイクなお顔では元気とも言えませんわね」



そこには、黒子のよく知る人物――常盤台中学2年の婚后光子が、扇子を口元で扇ぎながら立っていた。

528: 2010/06/17(木) 22:36:18.59 ID:7YWEbyI0
黒子「……見ない間に毒舌は進化したようですわね婚后さん。で、何のご用かしら?」

いささか顔を引きつらせながら、黒子が訊ねる。

婚后「まーったく、アンチスキルの殿方ったら、私の身体を身体検査と称してベタベタ触るのですもの。嫌になりますわね」

黒子「…まあ、私が謹慎中の身ですから仕方がありませんわ」

婚后はチラッと寮監のほうを見る。寮監は椅子に座って雑誌を読んでいる。
次いで、婚后は顔を動かさずに視線だけをグルリと部屋中に巡らせた。

婚后「………………」

一点で彼女の視線が止まる。それは、天井の隅に向けられていた。

黒子「で、何しにいらっしゃったのかしら? 私を蔑みでも?」

黒子が言葉を掛けると、それに気付いた婚后の表情が一転した。

婚后「……泡浮さんと湾内さんの件については、お世話になりましたわね」

黒子「!」

婚后「何でも、無茶をしてまで、あの子たちの行方を追おうとしたとか……」
婚后「アンチスキルの黄泉川という方からお聞きしたのですが、あの2人が既に手遅れな可能性もあるとか……」

黒子は寮監の方を一瞥した。友達との面会ということで気を利かしてくれているのか、寮監は黙ったまま雑誌を読み続けている。

婚后「確定の情報ではないので、公表は控えているようですが……。でも、私はあの2人がまた戻ってくると信じていますわ」

黒子「……………」

529: 2010/06/17(木) 22:42:26.03 ID:7YWEbyI0
婚后の表情はいつもの高飛車な彼女のものとは信じられないほど、暗い。と言うのも、婚后は泡浮と湾内の2人と親しく、最近ではよく一緒にいることが多かったのだ。

黒子「………………」

黒子は婚后から顔を背ける。
彼女は、泡浮や湾内がどのような末路を辿ったのかを2人を誘拐した犯人の口から直接聞いている。もちろん今ここで、2人の顛末を語ることも出来たが、僅かでも希望を抱いている婚后の様子を見ると、出来なかった。

婚后「どうかなされましたか?」

ギュッと黒子の手が握られているのを見て、婚后が不審に思ったのか扇子越しに見つめ訊ねてきた。

黒子「…いえ、別に……」

婚后「ハァ……まったく。張り合いがありませんわね。いつまでもここにいてもつまりませんから、そろそろお暇させて頂きますわ」

黒子「え?」

そう言って、婚后は立ち上がる。

婚后「では寮監様。失礼いたしますわ」

寮監「うむ。分かった」

ガチャッ

ドアを開けると、婚后は1度立ち止まった。

婚后「白井さん。私も諦めませんから、貴女も元気になってくださいね」

黒子「………え…」

バタン

どこか辛そうな笑顔を浮かべたまま、婚后は部屋を出て行った。

黒子「………………」

残された黒子は、握っていた拳に更に力を込めた。

530: 2010/06/17(木) 22:49:52.23 ID:sZZFADU0
その頃、とある場所――。

上条「……………」

一方通行「おい」

上条「………………」

一方通行「おい!」

上条「…………………」

一方通行「聞いてンのか上条?」

上条「え? あ、何だ?」

ようやく反応があったことを確かめると、一方通行はやれやれ、と言うように溜息を吐いた。

一方通行「ったく……それでリーダーの自覚あンのかねェ?」

上条「……悪い。んでどうした? 何か用か?」

我に返った上条が一方通行の顔を見上げる。
すると、一方通行は顎をしゃくった。その先にいたのは御坂妹だった。



御坂妹「……………………」




531: 2010/06/17(木) 22:56:52.25 ID:HbEzq6Y0
一方通行「2人っきりで話したいンだとよ」

上条「そ、そうなのか……。入れよ、御坂妹」

一方通行「じゃあ俺はお邪魔かもしれねェからなァ、出て行くぜェ」

ニヤリと笑みを浮かべ、一方通行は部屋から出て行った。

上条「で、どうした?」

上条が訊ねると、ほとんど無表情で彼の顔を見つめていた御坂妹が口を開いた。

御坂妹「ここ最近、貴方が物思いに耽っていることが多かったので、とミサカは不安を率直に述べます」

上条「そうか? 気のせいじゃねぇか?」

そう言って上条は立ち上がり、コーヒーを淹れた紙コップを御坂妹に手渡した。

御坂妹「………………ズズズ」

一口だけ仰ぐと、御坂妹は紙コップを両手に持ち上条を見据えた。

御坂妹「お姉さまのことを……考えていらっしゃるのですね? とミサカはズバッと真正面から斬り込みます」

バシャア、と上条は持っていた紙コップの中身をぶちまけた。

上条「やっべ、零しちゃったよ。あはは…何だよいきなりお前はもう…」

慌てたように上条は床に広がった液体を見やる。

御坂妹「図星ですね、とミサカは追い討ちを掛けます」

上条「…………布巾はどこにあったかな…?」

目にした雑巾を手に、上条は床に零れたコーヒーを拭いていく。

御坂妹「ま、あれほど突き放せば逆に気になるのも無理はないでしょうね。それにミサカたちがやっていることもやっていることですし……」

532: 2010/06/17(木) 23:03:24.14 ID:HbEzq6Y0
御坂妹「残念ですが、お姉さまはあれで諦めるとは思えませんよ。むしろ逆に、貴方が宿敵なら立ち向かってくるでしょうね。わざわざ貴方が出て行かなくても良かったのに、とミサカは今更ながら意見を唱えてみます」

上条「……………」

コーヒーを啜る音に混じり、御坂妹の絶え間ない言葉の数々が後ろから上条の背中を貫く。
それでも上条は、彼女に背中を見せながらひたすら床を拭いている。

御坂妹「わざわざ貴方が非難の的になる必要はないのに。それとも、修羅の日々の合間に、お姉さまの顔が見たかったのですか? …と、ミサカは多少の嫉妬を覚えつつも切り込んでみます」

やがて、上条は立ち上がる。

上条「………俺が一方通行と一緒に、あいつらの前に出て行ったのは、あいつら自身の身の丈を分からせるためだ」

御坂妹「…嘘ばっかり。貴方も、そんなことされてもお姉さまが諦めない人だって最初から分かってるくせに、とミサカは見透かしてみます」

上条「………どっちでもいいさ。またあいつらがでしゃばって来たら、何度でも完膚無きまでに叩きのめすまで。あいつにしたって…何度もやっても無駄だと分かっているのに、いつまでも友達を巻き込んだまま愚行を続けるほど馬鹿じゃない」

御坂妹「あのお姉さまに、恨まれたままになるのですよ? 既に1人、大事な方を失くしている貴方にしてみればお姉さまは……」

上条「関係ねぇよそんなこと…」

そう言って上条は棚に両手をかけ、目の前にある壁を見つめる。

上条「目的を完遂するためには、俺たちは修羅道に落ちる必要があるんだよ」

534: 2010/06/17(木) 23:10:32.99 ID:4Ycj0Xc0
どこか悲しそうな声を窺わせる上条。それを見て御坂妹は飲み干したコーヒーカップを机に置き、上条に近付くと、そのまま彼の身体にピタリと寄り添い、上条の肩にそっと頭を預けた。

御坂妹「貴方は、多くのものを背負い過ぎています…。それだけは初めて出会った時と変わっていませんね」

上条「……………」

御坂妹「ミサカも、貴方と最後まで人生を共にすると誓った身……。お姉さまには敵わないかもしれませんが、せめて貴方の苦しみや悲しみをミサカにも分けてください…と、ミサカは呟きます」

上条「……………」

2人はそのまま、しばらく無言の時を過ごす。

御坂妹「………………」

上条「………………」

しかし…

打ち止め「ねー10032号! いつもと同じように寝る前に本読んでー! とミサカはミサカはお願いしてみたり!」

唐突に、その場にそぐわない明るい子供の声が聞こえてきた。
振り返ると、入り口のところに打ち止めが笑顔で立っていた。

御坂妹「チッ…まったく空気の読めないガキはこれだから……とミサカは愚痴りながらも上位個体の指示に従います」

打ち止め「早く早くー!」

御坂妹「はいはい、今行きます今行きます、とミサカは嫌がりつつも何故かいつも言う通りにしてしまう自分に多少呆れ返ります」

御坂妹の手をとりながら、打ち止めは部屋を出て行った。
それを笑顔で見送っていた上条の表情はやがて、徐々に暗くなっていった。

上条「………………」

576: 2010/06/19(土) 22:19:49.81 ID:89/qlxo0
数日後・常盤台中学女子寮・食堂――。

昼食時、広大な面積を持つ豪華絢爛な食堂に、常盤台中学の女子生徒たちがずらりとテーブルに並んで食事をとっていた。
さすがはお嬢様学校といったところか、昼食のメニューも豪勢で、ご飯を口に運ぶ生徒たちの動きも繊細で優雅だ。

婚后「ふー……」

その中の1人、婚后が突如顔を蒼くして溜息を吐いた。

生徒「あら? どうなされたのですか婚后さん? 食事が進んでいませんわよ?」

彼女を心配した横の女子生徒が声を掛ける。

婚后「ええ。少しばかり気分が悪くて……」

生徒「まあそれは大変ですわね。寮監様に途中退席を願い出てみては如何ですか?」

婚后「そうさせてもらいますわ…」

額に手を当て、気持ち悪そうな顔で婚后は寮監の元へ歩いていく。
それに気付いた寮監が眉をひそめて婚后に訊ねた。

寮監「なんだ? 食事中だぞ? 無断で歩くな」

婚后「いえ……少々、気分が悪くて食欲が無くて……。出来るなら部屋で休ませて頂きたいのですが……?」

婚后の声は弱々しく、今にも吐き出して倒れてしまいそうだった。

579: 2010/06/19(土) 22:26:32.67 ID:89/qlxo0
寮監「そうなのか…。なら仕方ないな。いいだろう。部屋に戻ってよし」

婚后「ありがとうございますわ」フラフラ

そう言って、頭を抱えたまま婚后は食堂を出て行く。
彼女はそのまま、廊下を曲がり、食堂が見えなくなった時点で物陰にサッと隠れた。

婚后「…………………」ニヤリ

婚后の様子が一変する。

婚后「……フン、この常盤台の婚后光子に掛かればちょろいものですわね」

扇子を口元に、婚后は笑う。
明らかにそれは、病人とは思えない健康な人間のものだった。

婚后「毎日健康に気を使っているこの私の体調がそう易々と不調になるはずがないでしょう。そう……私が途中退席した本当の目的は…っと。来ましたわね」ササッ

婚后は身を引っ込める。すると、彼女の目の前を、食器を乗せたお盆を持った1人の女性が通り過ぎていった。
姿形こそ、普通のスーツを着た若い女性だったが、婚后には違和感だらけに写っていた。

婚后「ふふん。大方、男性で無ければ怪しまれずに済むと考えたのでしょうが甘いですわね。あの歩き方、事件の際によく見かけるアンチスキルの方の訓練されたそれですわ。私の眼力は欺けませんわよ」

どや顔で婚后はスーツ姿の女性を観察する。

婚后「ここ最近毎日、違った女性が食事の時間に食堂に姿を現しては生徒たちと一緒に食事もせずにお盆だけを持って出て行っていますが……ただの来客や賓客がそんな怪しい行動をするはずがないでしょう」

彼女はお盆を持った女性の跡を密かに尾ける。
相手もプロだと思われるので、あくまで慎重に進む。

婚后「ずばり、あの方の正体はアンチスキルに所属する女性隊員、と言ったところでしょうか」

583: 2010/06/19(土) 22:34:12.95 ID:nG9oKnM0
婚后は、黒子が謹慎されていた寮監の部屋を思い出す。その時、彼女は、天井の隅にカメラのようなものがついているのを確認している。

婚后「管理人室にあったカメラは、白井さんの室内での行動を監視するために取り付けられたもの。恐らく、寮内のどこかで女性隊員が絶えずモニターを窺っているのでしょう。あの女性はそのうちの1人でしょうね……」

サササと婚后は足音を立てないよう気をつけながら、スーツ姿の女性を追う。

婚后「この女子寮で男性の、しかも装甲服を着たアンチスキルの方が無闇やたらに動き回れば、目立つ上に警戒されますからね」

美琴が謹慎を受けている部屋番号は秘密にされている。それは、彼女が外部の人間と接触を取らせないようにするための処置だ。
だが、美琴の仲間による不穏な動きを想定しての寮内の巡回や、美琴への食事の運搬など、アンチスキルはどうしても寮内を頻繁に動き回る必要性が出てきてしまう。しかし、装甲服姿の男性警備員が寮内をうろついていれば、それだけで生徒の目を引き、それが原因で美琴がいる部屋の場所を特定される恐れも出てくるのだ。

婚后「だから一般人を装った女性隊員を使っているのですわね」

そう言った理由から、男性警備員は美琴と黒子が謹慎中の部屋の見張りだけに役割を固定させて、寮内での巡回や食事の運搬は、監視カメラのモニターを見張っている女性警備員が交代で担当しているのだった。

婚后「この寮に派遣されてきた警備員は全て男性、と聞いていますが、それも私たち生徒の目を欺いて御坂さんたちの監視をスムーズに行うための嘘でしょうね……」

婚后は数m先のスーツ姿の女性の背中をキッと見据える。

婚后「ですが、毎日毎日、見たこともない女性が食堂から食事をお盆に乗せて持って行ったら、さすがにこの私が気付きますわよ」

彼女の表情は真剣そのものだ。

婚后「大方、生徒たちが食事に夢中になっていると思って油断していたのでしょうが、私の目はごまかせまんわ」

584: 2010/06/19(土) 22:41:25.93 ID:nG9oKnM0
絶対に気付かれないよう注意しながら、婚后は物陰から物陰へ移って、アンチスキルと思われる女性の後を追う。
と、フロアを3階ほど登ったところで婚后は少し足を止めた。

婚后「ここは……普段から立ち入りを控えるように寮監様から厳命されているフロアのはず…。まあ、こんなじめじめした薄暗い場所など、誰も近付かないのですが……」

彼女が視線を向けると、階段からフロアに繋がる道の真ん中に、コーンバーによって繋がれたロードコーンが置かれていた。コーンバーの真ん中には紙が貼り付けられており『立ち入り禁止』と書かれている。

婚后「…ふん、もし誰かがこのフロアまで上がってきた時のための保険策といったところでしょうか。ですが、何者であってもこの常盤台の婚后光子を通せんぼすることなど出来ませんわよ」

彼女は簡単にロードコーンの横を素通りする。
短い廊下を数mほど進み、そして……

婚后「見つけましたわ!」

角から少し顔を覗かせ、廊下を窺う婚后。
見ると、十数m先の向かいの壁のドアの前に装甲服姿のアンチスキルが2人立っていた。

女性「御坂への昼食です」

アンチスキル「ご苦労」

スーツ姿の女性に声を掛けられると、2人のアンチスキルが敬礼し、それぞれ横に移動した。
スーツ姿の女性がコンコンとドアを叩く。

女性「御坂さん。昼食を持ってきたわ」

婚后「(ちゃんと部屋の位置を記憶するのよ婚后光子…。私の手に、御坂さんや白井さんの命運が掛かっているのだから)」

スーツ姿の女性は、ドアの中央部分に設置された投函口を開け、お盆をそのまま中に入れる。
室内でお盆が受け取られたことを確認すると、彼女は投函口を閉め一歩下がった。

婚后「……さて、用は済みましたわ。早いところ撤収しましょう」

腕時計を見る。あと5分ほどで昼食後の点呼が始まる。点呼が終われば、恐らく寮監は婚后の様子を見るため、真っ先に彼女の部屋へ訪れるだろう。その時に、婚后の姿が無ければ怪しまれてしまう。
足音を立てぬよう気をつけながら、婚后はその場を離れていった。

586: 2010/06/19(土) 22:48:31.85 ID:nG9oKnM0
管理人室――。

寮監「なるほど。そんなことが……分かりました」

寮監はソファに座りながら、チラッとベッドの方を一瞥した。

黒子「スースー………」

謹慎中の黒子が子供のような寝顔を浮かべて眠っている。
なんだかんだ言って子供だな、と思いつつ寮監は目の前の人物――昼食時、美琴の部屋まで食事を運んでいったスーツ姿の女性に顔を戻した。

寮監「それで? 黄泉川先生には報告したんですか?」

女性「ええ。既に」

寮監「何ておっしゃってました?」

女性「対策を考えるとのことです。取り敢えず明日までには決まるので、それまではいつも通りに見張りを続けるようにと言われてます」

寮監の質問に、スーツ姿の女性はきびきびと答えていく。

寮監「ああ、確か『環境保全ルーム』でモニター監視しているんでしたっけ?」

女性「え? あ、まあ…」

少し言い淀み、スーツ姿の女性はベッドの方に視線を流した。
黒子は眠っているようだが、謹慎を受けている彼女に、カメラによる監視を行っている部屋の場所はあまり知られなくなかったのだ。
が、しかし、どうせ知られたところで今の彼女に何が出来たわけでもないので、スーツ姿の女性は気にしないことにした。

寮監「なるほど。分かりました。それではまた明日、対策内容が決定したら教えて下さい」

女性「はい。それでは私はこれで失礼させて頂きます」

寮監「お仕事ご苦労様です」

そう言って寮監はスーツ姿の女性をドアの外まで送る。
背後にその動きを感じつつ、黒子は密かに両目を開いた。

黒子「(お姉さま……)」

594: 2010/06/20(日) 22:14:30.83 ID:YN0H3jM0
翌日――。

女子生徒「遅刻だ遅刻! 遅刻しちゃうよ~~」ダダダダ

1人の女子生徒が、筆記用具を手にしながら寮内の1階を駆けていた。
もし寮監にその姿が見つかれば、廊下を走ったということでただ事では済まなかったが、最近、遅刻を連発している彼女にとって、そんなことを考える余裕は無かった。

女子生徒「わーーーー!! あと5分もないよー!!!」
女子生徒「っとととととと」キキーッ

とある十字路で立ち止まる女子生徒。
彼女は電気が点いていない左の暗い道を見つめる。

女子生徒「このエリアはお客様とか学校の先生が使う部屋が多いから、普段から生徒は余り通らないよう注意されてるけど……近道になるんだよね」

寮内には、立ち入りを禁じるようなフロアやエリアがいくつかある。
1階にあるここも、その1つだった。

女子生徒「寮監様に見つかったら怒られるけど……行っちゃえ!」

ダダダと彼女は再び走り出す。

女子生徒「ん?」

ふと、違和感を覚え女子生徒は、ある部屋の前で立ち止まる。
立ち止まりながらも、彼女の足だけはその場で走り続けている。

女子生徒「?? 『環境保全ルーム』? 何その使いどころも無いような存在してるだけで邪魔になりそうな意味不明な部屋は?」

キョトンとした顔で女子生徒は部屋のドアに近付いてみた。

女子生徒「でもなんだろ? 部屋の中から話し声が聞こえる…?」

彼女は耳を澄ましてみた。

女子生徒「んー?」

595: 2010/06/20(日) 22:22:32.97 ID:YN0H3jM0
午後――。

現在、相次ぐテロ事件を受けて、学園都市の全ての学校は、一部例外を除き休校中である。
通常の学校では、休校中の処置として宿題が出されていたのだが、常盤台中学には「宿題」と呼べるものはない。
しかし、常盤台中学は学園都市の中でも5本の指に入るほどの名門校。非常事態とはいえ、生徒たちの学力低下を恐れた理事会は、代案として寮内での授業を行うこととした。

婚后「さてと、次の授業は確か家庭科でしたわね」

準備を整えると、婚后は自分の部屋を出て行く。
ドアを開けたところでクラスメイトに会った彼女は一緒に向かうことにした。

クラスメイト「寮内での学業も、新鮮ですわね。ただし、代わりの教室は学校のものとは随分違いますけど」

次は5限目で、授業は家庭科。その日の内容は調理実習だが、寮に家庭科室は無いので厨房を使うことになる。
厨房、と言っても常盤台中学学生寮のものは普通の学校とは違い広大なので、1クラス分の生徒が実習を行えるだけのスペースはある。その上、常盤台中学には寮が2つあり、授業もそれぞれ2つの寮で分かれて行われているので、クラスメイトの数もいつもより少なく全員分が入れるだけの余裕は十分にあった。

婚后「まあ、何にしてもこの常盤台の婚后光子にかかれば、環境の違いなんて関係ありませんわ! オーッホッホッホ!!」

扇子を口元に高笑いを上げる婚后を見て、クラスメイトは苦笑いする。
と、その時クラスメイトはあることを思い出した。

クラスメイト「あ、そう言えばご存知ですか? 2年生の御坂さまのこと」

婚后「!」
婚后「え、ええ…確か問題を起こして、とある部屋で謹慎中だとか…」

クラスメイト「そう、その件なのですが、確か急に予定を変更して、放課後御坂さんをどこかへ移送させるそうですわ」

婚后「なんですって!!!!????」

596: 2010/06/20(日) 22:28:28.34 ID:YN0H3jM0
大声を上げる婚后。クラスメイトがその反応にビクついた。

婚后「そ、それは本当ですの?」

クラスメイトに詰め寄り、婚后は慌てふためくように訊ねる。

クラスメイト「は、はい……いや、私も噂でしか聞いていないのですが……」

婚后「噂?」

婚后の眉がひそめられる。

クラスメイト「何でも隣のクラスの子が、普段は使われていない部屋の前を通りがかった時に、会話を聞いたらしいですわ。大人の女性たちの声で『今日の放課後、御坂さんをアンチスキルの支部へ移送させる』と…」

婚后「!?」

クラスメイト「私も人づてに聞いたので本当かどうか分からないのですが、どうなのでしょう?」

婚后「………………」

クラスメイト「この寮内に寮監様以外の大人の女性って何人もいたでしょうか? それとも特別な事情で、外部のお客様が宿泊されているのでしょうか? アンチスキルの殿方なら御坂さまと白井さんがいる部屋の見張りで来ているのは知っているのですが…」

597: 2010/06/20(日) 22:34:44.24 ID:YN0H3jM0
時が止まったように固まり、クラスメイトの話を聞く婚后。
彼女は口を開けたまま、しばらく思いを巡らせる。

婚后「(ただの噂……? いえ、待って…。もしその声が聞こえてきた、とある部屋というのが、御坂さんと白井さんを監視カメラで見張っている女性警備員たちの詰め所だとしたら……。有り得なくは無いかもしれませんわ…)」

閉じた扇子の先を顎に添え、婚后は黙考する。

婚后「(でも、何故急にアンチスキル支部への移送などと……)」

クラスメイト「どうなされました?」

婚后「その、会話を聞いた隣のクラスの子は誰か分かりますか? 他に何て言っていたかとかも」

クラスメイト「さぁ、そこまでは。ただ、その子も次の授業に急いでいたそうなので、聞こえた内容はそれだけかと…」

婚后「その子がその会話を耳に入れたのはいつ?」

クラスメイト「それも分かりませんが、結構な速さで噂は広まっているようなので、早くても3限目か4限目の始め頃ではないかと」

婚后「………っ」

婚后は軽く唇を噛む。
さすがは女の子が通う女子校である。お嬢様であっても話の種になるような噂が広がる速度は尋常ではない。

クラスメイト「さすがに、アンチスキルの支部にまで移送させられるとなると、皆さんも気になるようで。そこまで御坂さまは大変なことを仕出かしたのかと、色んな憶測が立っていますわ」

598: 2010/06/20(日) 22:40:26.64 ID:YN0H3jM0
婚后「(一体何故、急に? やはり御坂さんと白井さんを同じ寮内に置いておくのは危険と判断したため? いえ、それとも……)」

婚后は昨日のことを思い出す。

婚后「(まさか私の動きが勘付かれていた?)」

確かに、婚后は昨日の昼食時、適当な理由をつけて食堂から抜け出し、アンチスキルの隊員と思われるスーツ姿の女性の後を尾け、御坂が謹慎されている部屋を見つけたが、勘付かれた様子は無かった………はずだ。

婚后「(ふん…さすがはプロ、と言ったところでしょうか。恐らく私の姿を確認していなくても、誰かが尾行している、ということぐらいは見抜いていたかもしれませんわね…)」ギリッ

クラスメイト「?」

婚后「(いえ、それほどでなくても…多少の違和感を覚えたのでしょうか。どちらにせよ、万が一のことを考えて移送させることにしたのでしょうねきっと……随分な念の入れようだこと)」

婚后は扇子を握る手にギュッと力を込める。

婚后「………………」

美琴と黒子のためにやった、処罰をも覚悟に入れての行動だったが、まさかそれが裏目に出るとは思っていなかった。
美琴と黒子が同じ寮内にいれば、状況を覆すだけのチャンスもいくらかあったかもしれないが、2人が極端に離れ離れになってしまえば、それも困難になってしまうだろう。
これでは、婚后が自ら進んでそのチャンスを潰したようなものだ。

婚后「(ならば……私が責任を持ってなんとかしないと……)」

600: 2010/06/20(日) 22:46:22.80 ID:YN0H3jM0
クラスメイト「あ、もう5限目が始まりますわ」

腕時計を見てクラスメイトが呟いた。

婚后「………………」

もし、美琴が放課後、アンチスキルの支部へ移送させられるならば、婚后が手を尽くせる時間は残り少ない。

婚后「(かと言ってまた適当な理由をつけて授業を抜け出すと、寮監様に怪しまれかねないですし……。何とか手はありませんか? 考えるのよ婚后光子!!)」

彼女は、何か策が無いものかと深く深く考える。

婚后「…………………」

しかし、こんな時に限って妙案というものは思い浮かんでこない。その上、時間も無いのだ。
焦燥心が婚后をジワジワと煽り立てる。
と、その時だった。

クラスメイト「婚后さん、急ぎましょう。今日は調理実習ですから準備も必要なんですよ?」

婚后「!」

ふと、何かに気付いたように婚后は顔を上げた。

クラスメイト「?」

クラスメイトを呆然と見つめる婚后に、クラスメイトは首を傾げる。

婚后「……………今、何て仰いました?」

クラスメイト「はい?」

602: 2010/06/20(日) 22:53:51.06 ID:skkhT860
婚后「今、何て仰いました!?」

クラスメイト「いえ…だから、次の5限目は調理実習で準備も必要ですから、急ぎましょうと……」

婚后「!!!!」

クラスメイト「???」

何やら様子がおかしい婚后に、クラスメイトは奇異の目を寄せる。

婚后「(そうですわ……これなら…!!)」
婚后「申し訳ありませんが、先に行っておいて頂けません?」

クラスメイト「え!? でも、もう始まってしまいますよ」

婚后「大丈夫ですわ。少し忘れ物をしただけですから。授業が始まるまでには厨房に着くので」

クラスメイト「分かりました。ではまた後で」

婚后「ええ」

一瞬、不思議そうな表情を浮かべたが、クラスメイトはすぐにその場を去っていった。

婚后「…………………」

走っていくクラスメイトの後ろ姿が廊下の角に消えていったのを確認すると、婚后は持っていた筆記用具から適当にペンを取り出した。
そして、同じく胸に抱えていたノートの端を丁寧に破くと、壁を下敷きに何かを書き出した。

婚后「これで完璧……」

10秒も経たず書き終えると、婚后はその切れ端を、持っていたエプロンのポケットにしまいこんだ。
そして、腕時計を確認すると厨房に急ぐため走り出した。

626: 2010/06/22(火) 21:40:48.43 ID:E60pkZs0
とある部屋――。

バタン、という音とともに、来客は出ていった。

美琴「………これで、チェックメイトかしら?」

愚痴を吐き捨てるように美琴はベッドに仰向けに倒れ込んだ。
壁の上部に設置された格子付きの細い窓から僅かに青空が見える。

美琴「今、ちょうど5時間目が始まったところかしら?」
美琴「となると2、3時間後には移送されることになるわね」

ついさっき、部屋に訪れたスーツ姿の女性警備員は、放課後、美琴をアンチスキル支部へ移送する、という旨を伝えにきた。何でも、突如決まったものらしく理由は聞かされていない。
更に、移送中は手錠をかけられるらしく、抵抗した場合は、同様に謹慎を受けている黒子や佐天、初春の罪も一気に重くなる、とのことだ。黒子たちがどこで謹慎を受けているのか知らない以上、下手に動くのも逆効果だった。

美琴「別に退学になるってわけじゃないけど、これでしばらくは黒子たちと会うことも難しくなるわね。そうなったら本格的に、私たちは動けなくなる」

美琴は窓に映える青空を眺めながら、ボーッとした口調で独り言を呟く。

美琴「で、学園都市の学生たちはあの2人に好きなように誘拐蹂躙殺害されまくるわけね」

彼女は、とある少年――もとい、とある宿敵の顔を思い出す。

美琴「私らの協力も無しに、あの2人を捕まえることなんて出来るのかしら? つかそもそもアンチスキルはやる気無さすぎでしょ」

目を閉じ、美琴は空中に溜息を吐く。

美琴「はぁ…」
美琴「何とかならないかな……。せめて、この状況から逃げ出すことが出来れば……」

ピリピリッと美琴は空中に上げた右手から電気を発する。

美琴「本当に…私が超能力者である意味……あるのかしら?」

力を抜いた右手をバフッとベッドの上に下ろすと、彼女は沈んだ目で空を眺め続けた。

627: 2010/06/22(火) 21:48:19.09 ID:E60pkZs0
管理人室――。

現在、寮内の時間割は5限目が終わって6限目までの10分休憩の最中である。
裏で美琴の移送計画が進んでいることも知らず、黒子は本を読んで過ごしていた。

トントン

寮監「ん?」

ドアが叩かれた音がし、寮監と黒子はそちらの方に顔を向ける。
すぐに、見張りについていた警備員の声が聞こえた。

警備員「白井への面会人です」

黒子「(面会人……はて、誰でしょう?)」

寮監「どうぞ」

警備員「面会人が『白井への差し入れがある』と言っておりますが、どうしましょう? 許可しますか?」

寮監「差し入れ? 何です?」

寮監が眉をひそめて訊ねる。

警備員「どうやら見た限り、弁当のようですが…」

黒子「(お弁当の差し入れ?)」

寮監「どこの弁当ですか? 寮の外で販売されているものとか?」

警備員「いえ、彼女によるとつい先程の調理実習で作製したものとか」

寮監「……調理実習で作ったばかりのもの…か」

数秒ほど考え込み、寮監は答えた。

寮監「構いません。彼女を室内に入れて下さい」

警備員「了解しました」

ガチャッとドアが開かれる。


婚后「おーっほっほっほ!!!! 白井さん、相変わらずおブサイクな顔のままですわね!!」


黒子「こ、婚后光子!!!」

628: 2010/06/22(火) 21:54:25.67 ID:E60pkZs0
そこには、胸に弁当箱らしきものを抱え、上品らしい下品な笑い声を上げる婚后が立っていた。
後ろでドアが閉まると、彼女は黒子に近付いてきた。

婚后「あらおブサイク。ホント、おブサイク。謹慎を受けてからずっとおブサイクな顔ですわよ」

黒子「……………」ピキッ
黒子「そ、それで? お弁当を差し入れしてくれたようですが、私を哀れんでのことでしょうか? いえきっとそうでしょうね、貴女なら!」

黒子の額に青筋が浮かぶ。

婚后「ハァ…うるさいですわね。せっかく、私が作ってここまで持ってきたのに」

寮監「婚后、一応その弁当見せてくれ」

横から尋ねてきた寮監に、婚后はパカッと弁当の蓋を開けて中を見せる。
直径3cm~4cmぐらいの、オムライスをおにぎり状にしたものが2つ、仕切りを隔てて野菜とおかずが所狭しと入っていたが、どこか豪華な感じがした。

寮監「ん。もういいぞ」

婚后「本当は差し入れは厳禁なのでしょうけど」

寮監「わざわざお前が白井の分まで作ってくれたんだからな。拒否するのも酷い話だろうし、食べるなら温かいうちがいいだろう」

婚后「ご厚意に感謝しますわ寮監様」

すまし顔で婚后は礼を述べた。



婚后「“とても助かりますわ”」




629: 2010/06/22(火) 22:00:26.36 ID:E60pkZs0
黒子「しかし、何故貴女が私にお弁当を? 気味が悪くて寒気がしますわ」

寮監「こら、白井。そういうことを言うもんじゃないぞ」

黒子「だって…」

本当に不思議がるように言った黒子を寮監が諌めた。

婚后「気になりますか? 理由は簡単ですわ。さっきも言ったように謹慎を受けてからというもの、白井さんがおブサイクに見えて不憫に思えて」ホロ

黒子「…」イラッ

婚后「そういうわけで、この常盤台の婚后光子が作ったお弁当を食したら、貴女も少しはおブサイクレベルがマシになるでしょう? ほら? 如何です? それともこの私が慈悲で恵んであげたお弁当をいらないとでも?」

黒子「………フン。せっかく作ってもらったのですから、食べさせて頂きますわ」

不満な表情を浮かべたまま、黒子は弁当を受け取る。

婚后「さっさと食べることですわね。冷めたら私の慈悲のパウワーが低下しますから」

黒子「はいはい。分かっておりますの」

婚后「ちなみに、そのオムライスおにぎり。私の自信作なのですわ」

黒子「自信作?」

弁当を手にした黒子が訝しげに横目で質した。

婚后「ええ。今まで人類が味わったことがないほどの隠し味を入れてますの。それはもう、信じられないほどのお味でしょうね! まあ貴女の貧相な舌に合うかどうかは分かりませんが」

黒子「……そ、そう。不吉な予感しかしませんが、それは楽しみにさせてもらいますわ」

婚后「ええ。是非」パチ

黒子「?」

630: 2010/06/22(火) 22:08:03.09 ID:E60pkZs0
一瞬、婚后は真剣な表情を浮かべ、ウインクを飛ばしてきた。
婚后の背後にいる寮監はその表情を見ることは出来なかったが、黒子は見逃さなかった。

黒子「(何なんでしょう今のウインクは?)」

婚后「あーっと! まずいですわ。もう6限目が始まる頃ですの。そろそろ行かなければ!」

婚后は慌てたように、ドアに向かう。

黒子「あ…婚后さん!」

婚后「何でしょう?」

振り返る婚后。

黒子「貴女に感謝を述べるのには抵抗がありますが…わざわざ私のために作ってもらったものです。ぜひ食べさせて頂きますわ」

婚后「フフン。素直じゃないですこと。きっと次、貴女が私に会ったときは、そのお弁当がどれほどの美味か記憶に留めている頃。私に頭が上がらぬほど感謝しているに違いませんわ! オーッホッホッホ!!」

扇子を口元に、婚后は高笑いを上げる。

黒子「(……ムカつきますの)」ピキキ

婚后「では寮監様、私はこれで失礼させて頂きます」

寮監「うむ。授業に遅れぬようにな」

婚后「白井さん、  機  会  が  あ  れ  ば  またお会いしましょう。アデュ~」

最後まで黒子を小馬鹿にしたまま、婚后は部屋から出て行った。
警備員によって閉められたドアを背後に、婚后は口元に覆った扇子の中で小さな笑みを浮かべる。

婚后「(さて白井さん。私が出来ることはここまでです。あとは、貴女次第ですわ)」
婚后「(この常盤台の婚后光子の厚意をフイにしてヘマなどしたら、許しませんわよ)」

彼女は次の授業に向かうため、管理人室を離れていった。

631: 2010/06/22(火) 22:14:26.87 ID:E60pkZs0
寮監「どうした? 食べんのか? せっかく婚后がお前のために作ってきてくれたんだ。冷めてしまうぞ」

黒子「いえ…なんだか食材に不気味なものでも使われていないかと」

弁当箱の箱を開け、まじまじと観察する黒子。

寮監「いらんなら私が食う」

黒子「い、いえ冗談ですの。ぜひ頂きますわ」

椅子の上に腰を降ろし、黒子は箸を取り出す。
寮監は再びソファに座り雑誌を読み始めた。

黒子「(さて、いただきますの)」

まずはパクッとおかずのハンバーグ(黒毛和牛)を口に入れてみる。

黒子「(あらあらまあ……これはこれは。とても美味しいではありませんか)」

更に一口、と黒子の手は進む。

黒子「(以前はカレーライスも作れなかったというのに、随分と進歩したじゃありませんか)」

本当に美味しいのか、彼女は次々とおかずを口に運ぶ。

黒子「(これは本当に後で感謝せねばなりませんわね)」

お嬢さまらしい優雅な食べ方で、おかずが徐々に消えていく。

632: 2010/06/22(火) 22:20:13.65 ID:E60pkZs0
そして、彼女はようやく、婚后自慢のオムライスおにぎりに手をつける。

黒子「(さて。これが婚后さんの自信作……とてつもない隠し味を秘めているということですが…)」

黒子は箸で掴んだオムライスおにぎりを見つめる。
卵で作られた皮が、丸く球体状に握られた橙色のご飯の面積を半分ほど包んでいる。

黒子「(では、いざ行かん)」

パクッ

顎の下で左手の掌を上に向けながら、彼女は優雅にオムライスおにぎりを口に運ぶ。
お嬢さま用に作られたせいか、おにぎりは小さく、二口か三口もあれば黒子の小さな口でも食べきれるサイズだった。

黒子「(あら…あらあら……。美味しいではありませんの)」
黒子「(隠し味、というものですからどれほど奇抜なものかと覚悟を決めていたのに…。このおかずの中で一番の味を兼ね備えていますわ)」

ホクホクと笑みを浮かべ黒子はオムライスおにぎりを食べる。

黒子「………………」モグモグ

しかし、その美味も長くは続かなかった。


黒子「うっ!」


ふと、黒子は口の中に違和感を覚えた。

633: 2010/06/22(火) 22:26:15.70 ID:E60pkZs0
黒子「(な、何ですの? 明らかに異物と思われるものが混入してますの…)」

寮監「?」

突如、口を覆った黒子の様子を見て、寮監が怪訝な目を向ける。

黒子「……………っ(この感触は……)」
黒子「(…………紙!?)」

と、そこで黒子は思い出す。



   ――「ちなみに、そのオムライスおにぎり。私の自信作なのですわ」――



何故、婚后が『自信作』と豪語してまで、オムライスおにぎりを薦めたのか。



   ――「ええ。今まで人類が味わったことがないほどの隠し味を入れてますの。それはもう、信じられないほどのお味でしょうね! まあ貴女の貧相な舌に合うかどうかは分かりませんが」――



『隠し味』と言った婚后。それの意味するところは、おにぎりに異物を混入させて嫌がらせをするためなのか。
いや、違う。憎まれ口を叩きながらも、彼女からはそんな雰囲気は一切感じ取れなかった。

635: 2010/06/22(火) 22:32:11.20 ID:E60pkZs0
  


   ――「ええ。是非」パチ――



気になるのは一点。オムライスおにぎりの話をしていた時、彼女は一瞬だけ真剣な表情を浮かべ、ウインクをした。
ウインク…映画などでよく見かける、至近距離での仲間内での秘密の合図、またはメッセージ。

そう、もし婚后が、何らかの“メッセージ”を密かに黒子に伝えようとしていたとしたら……。



   ――「白井さん、  機  会  が  あ  れ  ば  またお会いしましょう。アデュ~」



そして、彼女が最後に放った言葉。
『機会があればまた』……一見、何の不思議も無いように思われる。しかし、前回や今回のように、婚后は面会のために気軽に寮監の部屋を訪れている。友達の部屋を訪れる感覚で面会に来ていた彼女の言葉としてはどこか不自然だ。




黒子「(…………………)」




この間、5秒――。

636: 2010/06/22(火) 22:37:13.43 ID:E60pkZs0
寮監「どうした白井?」

黒子「………」ギラリ

一瞬、黒子は寮監の顔を見据えた。

寮監「?」

黒子「う……」

寮監「??」

黒子「ううっ!!」

ダダダッ

突如、黒子が走り出す。

寮監「白井!?」

バタァァン!!

口元を抑えたまま、黒子はトイレに駆け込み、ドアを勢いよく閉めた。

637: 2010/06/22(火) 22:42:11.67 ID:E60pkZs0
黒子「………………」

そのまま彼女はトイレの中で静止する。
お嬢さまの身分としては、少し汚い行為だと思ったが、彼女は口の中から違和感の原因である異物を取り出すと、残りは全て飲み干した。
そして……

黒子「えぐっ!! ううええっ!!! ゲホッ!! えぐぅっ!!!」

まるで、嘔吐しているような声を出す。
ドンドンとトイレのドアが叩かれる。

寮監「どうした白井!? まさか弁当の中に悪いものでも入ってたのか!?」

黒子「………………」
黒子「えぐっ!! ゲホッ!!」

演技を続ける黒子。
そのまま彼女は、異物の正体だった紙を見る。三重に畳まれていたそれを開くと、そこには歪つな文字でこう書かれていた。

『御坂 放課後 移送
 部屋番 315』

黒子「…………………」

急いで書いたかのような崩れた文字を無言で見つめる黒子。

638: 2010/06/22(火) 22:47:25.73 ID:E60pkZs0
寮監「おい! 大丈夫か!?」ドンドン

黒子は背後に視線をチラッと移す。
彼女は紙を再び折り畳み、便器の中に放り込むと、水洗ボタンを押した。

ガラガラガラジャーーーー

水が流れる音が聞こえ、しばらくすると黒子はドアを開けトイレから出てきた。

寮監「白井? どうした?」

見ると、黒子は胸をさすりながら、蒼ざめた顔をしている。

黒子「うっぷ…言っていた通り、凄まじい隠し味でしたの……」

寮監「弁当か?」

黒子「ええ…あまりの不味さに耐えられなくなって…つい…はしたないことを」

寮監「あいつ…何てものを作っているんだ」サーッ

黒子に影響されたのか、寮監の顔も蒼ざめる。

黒子「………………」

トボトボと黒子は寮監の横を通り過ぎると、彼女は椅子に腰を降ろした。
そして再び箸を取る。

639: 2010/06/22(火) 22:53:11.88 ID:E60pkZs0
寮監「お、おい。まだ食べる気か?」

見ると、弁当箱の中にはオムライスおにぎりがまだ1つ残っている。

黒子「ええ…。これでも婚后さんが丹精込めて作ってくれたんですもの…。最後まで食べないと……」

ホロッと、今にも泣き出してしまいそうな、そんな悲しい顔を浮かべ黒子は言葉を紡ぐ。

寮監「いや、何も目に涙を溜めてまで食べなくてもいいと思うが」

黒子「なら、寮監様が食べます?」

黒子は寮監に見えるように弁当を傾ける。オムライスおにぎりがコロッと動いた。

寮監「……………」ゴクリ
寮監「い、いや。やめておこう」

黒子「そうですの」

オムライスおにぎりを口に入れる黒子。
念のための確認作業だったが、どうやらこっちには紙のようなものは入っていなかった。

黒子「うっ!!」
黒子「うおええええええええええ!!!!!!」

ダダダダ…ガチャッ…バタン!!

再び、口元を抑えながら黒子がトイレに駆け込んだ。

黒子「うげげげげ…うえ……ゲロゲロゲロゲー……」

寮監「白井ーーーーーっ!!!!」

それが彼女の演技とは露知らず、寮監は必氏に叫ぶ。
チラッと寮監は、黒子を今まさに地獄に突き落としていた原因の弁当箱を見る。
全てのおかずを食べきったのか、中にはもう何も残っておらず、空の弁当箱があるだけだった。

658: 2010/06/23(水) 21:41:13.65 ID:TAK3oYM0
とある場所――。

御坂妹「……情報によると、お姉さまはアンチスキルの小隊によって、第7学区にあるアンチスキル支部へそろそろ移送させられるらしいです」

上条「そうか」

一方通行「となると、超電磁砲とあの白井とかいうテレポーターは離れ離れになるわけかァ」

狭い部屋の中央にある、横長のソファに腰を降ろす上条と一方通行の2人。
彼らを前にして、御坂妹は立ったまま状況を伝える。

一方通行「超電磁砲のグループはたった4人。うち2人は無能力者と低能力者。つまりは主力は残りの超電磁砲とテレポーター、と言うことになるなァ」

顎に手を添えるように一方通行は推理する。

一方通行「いや、違うなァ……。どちらかと言うと、アイツらは超電磁砲を中心としたグループだ。テレポーターは超電磁砲の補佐的役割が強い。つまりだァ…絶対的な影響力を持つ超電磁砲さえいなきゃ、ただの子猫ちゃンの集団ってわけだなァ」

楽しそうに一方通行は笑う。

一方通行「超電磁砲とテレポーターが離れりゃ、行動も制限されるわなァ」

御坂妹「離れる、と言うよりもお姉さまは更に限られた環境に隔離されるわけです。それもアンチスキル支部の施設に。あのツインテールの少女が今後、自由の身になったとしてもお姉さまに会うにはかなり難しい状況になるのでは、とミサカは推測します」

一方通行「アイツら、4人で動いてたようだし、事情が事情だけに協力者もいねェだろうなァ…。ハッ、これは詰ンだな超電磁砲」

上条「何にせよ、ようやくこれで俺たちも“活動”に専念出来るというわけだ」

スクッと上条は立ち上がる。

一方通行「余裕だねェ。詰ンだとは言え、俺はアイツらがそう簡単に諦めるとは思えねェけどなァ。きっと無様にも最後まで泥の中であがき続けると思うぜェ」
一方通行「まァ、またちょっかいかけて来るなら来るで何度でもぶっ潰すまでだがなァ」

上条「俺だって、あいつらがそう簡単に諦めるとは思ってないし、油断をするつもりはないさ」
上条「だが、御坂が戦線を離脱させられる以上、少なくともしばらくは行動出来なくなるはずだ。お前の言うように、協力者なんてそうそういないだろうし」

スタスタと上条は扉の無い出口へ向かっていく。

御坂妹「では、お姉さまたちの件についてはしばらく放置、ということで?」

上条「ああ…一先ずこれで御坂たちはチェックメイトだ」

背後も振り向かずに、それだけ呟くと上条は部屋を出て行った。

659: 2010/06/23(水) 21:48:16.25 ID:TAK3oYM0
とある密室――。

黒子「………………」

拳を握り締め、正面を見据え、黒子はその場に立つ。

黒子「婚后さん、手作りのお弁当ありがとうございますわ。貴女が仰ったように、人生で一度も味わったことがないほどの隠し味でしたの」

密室の中、彼女は1人呟く。

黒子「悔しいですが、貴女には頭が上がらぬほど感謝せねばならないようですわ」
黒子「婚后さん、機会があればまたお会いしましょう」

強い意志が彼女の心に火を点ける。

黒子「そして…上条当麻、一方通行。貴方たちには返しても返し切れない借りがあります。待っていなさい。必ず私たち4人でそれを返しに行きますから」

そして最後に、彼女は『315』という数字を頭に浮かべ、上を見る。

黒子「お姉さま、待ってて下さい。今、行きます」

660: 2010/06/23(水) 21:54:13.44 ID:TAK3oYM0
常盤台中学学生寮・廊下――。

寮監「わざわざご苦労様です」

黄泉川「それはこっちの台詞です。あの勝気な白井と一緒の部屋だと疲れるでしょう?」

長くて瀟洒な廊下を、寮監と装甲服に身を包んだ黄泉川が歩いていた。

寮監「まあ、反抗期の女の子はあれぐらいのほうが丁度いいのでしょう」
寮監「あ、女性警備員の方々が詰めていらっしゃるモニタールームはこちらです」
寮監「部屋に着いたら、改めて御坂の移送後の詳細について説明をお願いしますね」

黄泉川「その前に、白井の顔を見ておきたいんですが宜しいですか?」

寮監「はあ…それぐらいは構いませんが、もし貴女と会えば、御坂の移送について勘付かれませんかね? あいつ、勘は鋭いので」

黄泉川「まあ、その辺りは『2人の様子を見に来た』とか適当なことを言っておけば大丈夫でしょう」

寮監「そうですか。あ、ここが管理人室です」

ガチャッとドアを開け、寮監が室内に入る。それに黄泉川が倣う。

寮監「あら?」

ふと、寮監が立ち止まった。
黄泉川も立ち止まり、部屋の中を見回すと後ろから呟いた。

黄泉川「白井のやつがいませんが……」

寮監「ああ、トイレですよ。電気が点いているでしょう?」

スタスタと寮監は歩き、トイレのドアを叩く。

寮監「コラ白井。黄泉川先生が来ている。挨拶ぐらいしないか」ドンドン

黄泉川「………………」

寮監「聞いてるのか? ったく…。いいか? 早く用を済ませて出て来い」

言うだけ言って、トイレから離れると寮監は再び客を迎えるための顔になった。

寮監「すみません黄泉川先生。どうやら本当に反抗期らしくて……ホホホホ」

黄泉川「反抗期か……。なら、いいんだが……」

寮監「え?」

661: 2010/06/23(水) 22:01:18.45 ID:TAK3oYM0
黄泉川「白井! 黄泉川だ! 返事しろ!!」ドンドンドン!!!

トイレに近付くと、黄泉川は大声で叫びながらドアを叩き始めた。

寮監「黄泉川先生?」

黄泉川「嫌な予感がするじゃん」ボソッ

寮監「は?」

黄泉川「白井! 今すぐ返事しろ!! 返事しないとドアをぶち破るぞ!!」ガチャガチャガチャドンドンドン!!!

寮監「黄泉川先生!?」

更に黄泉川は力強くドアを叩く。同時にドアノブも回してみるが、鍵がかかっているのか反応はない。

黄泉川「白井!!!」ドンドンドン!!!

が、ドアの向こうからはうんともすんとも言わない。呆然と口を開けその様子を見つめる寮監。
彼女の脳裏に嫌な不安が過ぎる。何か、異常が起こりつつある――。

黄泉川「白井!!!!」

ドンッ!!!!

最後に1回、黄泉川は大きなノックを叩き込んだ。

黄泉川「チッ」

舌打ちをし、一歩下がると黄泉川は右太腿に巻いていたレッグホルスターから拳銃を取り出した。

寮監「黄泉川先生!!??」

パン! パァン!!

黄泉川は引き抜いた拳銃をドアノブに向かって2発、撃ち抜く。

662: 2010/06/23(水) 22:07:19.84 ID:TAK3oYM0
黄泉川「子供には向けてないから私のルール外じゃん」

そう言って、黄泉川はドアを蹴っ飛ばした。

黄泉川「白井!!」

外開きであるはずのドアが、嫌な音を立てて内側に開いた。

黄泉川「しら……!!」

寮監「いない!?」

奥に向けて細く作られたトイレの中には、誰もおらず、電灯だけが空しく光を放っているだけだった。
2人は3秒ほど呆然としていたが……

黄泉川「………クソッ!」ダッ

振り向いたと同時、走り出す黄泉川。

寮監「先生!」

黄泉川「御坂の部屋の鍵を持って私と一緒に来るじゃん!!」

叫びながら既に黄泉川は部屋から出ていた。

寮監「分かりました!」

慌てて、御坂が謹慎されている部屋の鍵を持ち、寮監は黄泉川の後を追いかける。

663: 2010/06/23(水) 22:13:10.90 ID:TAK3oYM0
黄泉川は1秒も無駄に出来ないと言うように、無線を取り出すと怒号を上げた。

黄泉川「こちら黄泉川! 白井が脱走した!! 見張りの隊員は襲撃に備え部屋の防護を固めろ!! それからモニター室! どうなってる!? 現在の管理人室と御坂の部屋の様子を報告せよ!!!」

見張りの隊員からは、「了解!」と声が上がったが、モニター室からは何の反応も無い。
無理も無かった。モニター室――正しくは『環境保全ルーム』にいた3人の女性警備員たちは全員気絶し、モニターも全て破壊されていたのだから。

黄泉川「モニター室!! 応答せよ!!」
黄泉川「チッ!」

そうこうしている間に、黄泉川と寮監は件の部屋があるフロアに辿り着いた。
ライフルを構えた2人の男性警備員が黄泉川の姿を見つけると、「隊長!」と叫び腕を上げた。
黄泉川と寮監は、御坂が謹慎中の部屋の前で足を止める。部屋番号は―――『315号室』だ。

黄泉川「寮監さん、早く!」

黄泉川の声に押されるように、寮監は特殊な素材で出来た鍵を鍵穴に通す。
そして、開錠の音を聞くと同時、寮監は315号室のドアを開けた。

寮監「御坂!!!」

寮監と黄泉川はほぼ同時に室内に足を踏み込む。

664: 2010/06/23(水) 22:18:46.05 ID:TAK3oYM0
が、そこには無人の空間が広がっているだけだった。

寮監と黄泉川は2人して、動きを止める。

寮監「な………」

寮監が唖然とした声を上げる一方、一足早く我に返った黄泉川は室内を駆け、トイレや浴室の扉を次々と開けていった。
だが、どこを開けようが誰もいなかった。

黄泉川「…………っ」

もう室内に隠れられる場所はない。かと言って、壁や天井を破壊して逃げた跡もない。となると、考えられる状況は1つだけだ。
浴室のドアを開けたまま一瞬固まっていた黄泉川は、やがてその場を離れ右に薙いだ拳で手近の壁を殴りつけた。

黄泉川「クソッ!!」ドンッ!!

その行動に、寮監と2人の男性警備員が一瞬肩を震わせた。

黄泉川「やってくれるじゃんよぉ~白井ぃ………」

低い声で呟く黄泉川は、恨めしそうな顔を主のいなくなった室内に向ける。

665: 2010/06/23(水) 22:23:12.84 ID:TAK3oYM0
そして、僅かな無言の後、装甲服に包まれた背中を見せながら、黄泉川は搾り出すような声で寮監に質した。

黄泉川「……白井がトイレに入った時間がいつか、分かりますか?」

寮監「は? え…あ…さ、さあ、どうでしょう。ただ、私が黄泉川先生を迎えるために管理人室を出たのは10分ほど前です。その時は、白井も部屋の中で本を読んでいたのですが……」

黄泉川「…10分前か」

寮監「はい」

黄泉川「……まだ、間に合うかもしれん」

寮監「え?」

黄泉川は、無理矢理笑みを刻んだ。

黄泉川「勝負はまだ終わってないじゃん、白井……っ!!」

666: 2010/06/23(水) 22:27:12.05 ID:TAK3oYM0
とある寮A――。

近くに停められていた大型の黒い輸送バスの後部ドアから、黒服の集団がダカダカと飛び出してくる。
全員、装甲服に身を包み、専用のアサルトライフルやジュラルミンの盾を装備している。――アンチスキルだ。

『こちら隊長の黄泉川! 常盤台中学学生寮から謹慎中の御坂と白井が15分ほど前に脱走した。状況から鑑みて、両名はそちらの寮に向かうものと推測される。現場に待機中の小隊は直ちに部隊を展開、寮の全ての出入り口を封鎖せよ!! 御坂と白井を見つけた場合、全力をもってこれを捕縛。よほどのことが無い限り発砲はなるべく控えろ』

黄泉川から入った無線報告を受け、総勢20名あまりのアンチスキルたちは寮の周囲に展開していく。

『部屋の見張りについている隊員は直ちに室内の監視対象を確保。小隊本部の下、厳重に監視し御坂・白井両名との接触に備えろ。なお、万が一、御坂・白井両名と室内で鉢合わせする場合を想定して、部屋に踏み込む際には、完全武装すること。以上!!』

黄泉川の指示を受け、訓練された警備員たちはきびきびと動いていく。
一方、そこから少し離れた場所にある、とある寮Bでも黄泉川から同じ指示を受けたアンチスキルが展開していた。

2つの寮が騒然となる。
その中心点――監視対象の部屋の見張りに就いていた隊員は、後からやって来た3名ほどの増援と共に、部屋の扉の前で拳銃を構える。



とある寮A――。

小隊長『状況開始!』

小隊長の無線の指示を合図に、2人の警備員が室内に踏み込む。
彼らが目指すは部屋の中央部。
しかし………

667: 2010/06/23(水) 22:33:08.79 ID:TAK3oYM0
とある寮B――。

小隊長『状況開始!』

同様の展開は、とある寮Bでも起きていた。
部屋の前で待機していた2人の隊員が拳銃を持ち、室内を進む。
もしもの事態――御坂や白井との遭遇――を懸念して慎重に歩む。
が………

警備員「アンチスキルだ! 一緒に来てもらお……っ!!」

先頭を歩いていた警備員が突然、言葉を失くした。

警備員「いない……!?」



とある寮A――。

警備員「何!?」

拳銃を部屋の中に向け、固まる2人の警備員。

警備員「……………!!」

部屋の中は空っぽだった――。

668: 2010/06/23(水) 22:38:40.76 ID:TAK3oYM0
常盤台中学学生寮・モニター室――。

黄泉川「やられたじゃん……!!」

ガシャアアアン!!!

持っていた無線機を放り投げる黄泉川。

寮監「では…御坂たちは……」

黄泉川「……残念ながら……」

寮監「……っ」

315号室から御坂が消えたのを確認した後、黄泉川は寮監と共にモニター室に来ていた。
今は、鉄装ら他の警備員たちによって、気絶した女性警備員の応急手当てと監視カメラのモニターの復旧作業が始まっている。

黄泉川「子供だと思って甘く見てたじゃん……」

寮監「は?」

黄泉川「食事の運搬も、生徒たちが一斉に食堂に集まる時間に行ってたから、誰かに尾行される恐れははないと思ってたが……。御坂にしても、誰も滅多に近付かないような、寮の奥深くの部屋で謹慎させてたはずじゃん」

悔しそうに黄泉川は言う。

黄泉川「そもそも、寮監さんと監視カメラで見張られている白井は、どうやって御坂の部屋番号を知ったんだ……?」

寮監「御坂の部屋番号を知っていたのは、寮内でも私と見張りについていた警備員だけです。生徒たちは知らないはずですが……」

それを聞き、黄泉川は少し顔を逸らして呟いた。

黄泉川「…………………」
黄泉川「……………いや」ボソッ
黄泉川「…内部に協力者がいるな……」ボソッ

寮監「え?」

黄泉川「まあいいか」

スクッと黄泉川は立ち上がる。

黄泉川「まだ終わってないじゃん。人間は追われる側になって初めて自分が劣勢にあるのを自覚するじゃん」

669: 2010/06/23(水) 22:45:13.58 ID:TAK3oYM0
黒子「上手くいきましたわね」

とある寮からさほど離れていない裏路地の一角――。そこで黒子は呟いた。

美琴「黒子のお陰で何とか脱出出来たわね」

初春「突然、部屋に現れた時は驚きましたけどね」

佐天「でもギリギリでしたね。あたしの部屋から逃げる時は既に、部屋の外のアンチスキルたちが騒ぎ始めてましたから」

美琴は裏路地の陰から表の通りを覗くように窺う。

美琴「黒子には無理をさせたわね」

黒子「いえいえ」

寮内の協力者から、美琴のアンチスキル支部への移送計画の情報を密かに得た黒子は、移送直前に行動に出たのだった。
まず同室にいた寮監が部屋から出たところで、監視カメラの隙をつくためトイレに篭り、そのすぐ後『環境保全ルーム』までテレポート。モニターで監視を行っていた3人の女性警備員を奇襲によって気絶させ、モニターを破壊。その後、予め得ていた情報から美琴が謹慎されていた部屋にテレポートしたのだ。
そのまま美琴と共に連続テレポートで常盤台中学学生寮から全速で離れた黒子は、順に初春、佐天が謹慎されていた寮まで飛び、彼女たちを密かに部屋から連れ出すことに成功したのだった。

黒子「礼ならまず婚后さんに。あの方の協力が無ければ、ここまで来れませんでしたから」

美琴「そうね。全部終わったら、みんなで婚后さんに礼を言いに行きましょう」

黒子初春佐天「はい!」

美琴「……で、こっからどうするか、ね」

美琴は再び表通りに顔を向ける。

670: 2010/06/23(水) 22:51:18.23 ID:TAK3oYM0
美琴「さっき2台ほど、アンチスキルの車が通り過ぎて行ったけど……」

黒子「十中八九、私たちを探すためのものですわね。恐らく黄泉川先生の部隊でしょう。きっと間も無く、この付近を中心に捜査網が敷かれますわ。指名手配、とまではいかないでしょうけど表通りを歩くのは自殺行為ですわ」

初春「もし、黄泉川先生が他の部隊や支部に協力を仰げば、第7学区全体にも捜査網が広がるかもしれません……」

佐天「うええ…最悪じゃん」

黒子「私も一度にテレポート出来るのは、私自身を入れて3人までですし。いちいち行って戻ってテレポートを繰り返してたら、下手に無駄な時間を費やしてしまってアンチスキルに発見されかねませんわ」

美琴「どちらにしろ表通りに出たら、完全に監視カメラに映るわね」

初春「監視カメラで見つけられない、となれば衛星を使ってくることも考えられますし……」

3人は頭上の先――少し赤く染まりかけた空を眺める。

佐天「でも、そこまでやるかな? ちょっと大げさ過ぎじゃない?」

黒子「首謀者は、レベル5の超能力者である超電磁砲(レールガン)ですし、アンチスキルの中には、スキルアウトの一団を壊滅したのはお姉さまであると疑ってる人間もいるようですから、場合によってはそうなる可能性も否めませんわ」

佐天「にしても、何か黄泉川先生やあたしの見張りに就いてたアンチスキルたちもどこか大袈裟、って言うかやり過ぎな感じがしたんだけど……」

初春「よっぽど私たちが目障りなんでしょうか」

黒子「まあ、確かに執拗な感じはしますけどね」

美琴「…………………」

671: 2010/06/23(水) 22:57:46.49 ID:TAK3oYM0
黒子「でも今は、ここからどう逃げるか、ですわね。そしてこれからどこに隠れるか、も」

佐天「うわぁぁ、脱出出来たと思ったら、問題が山積みだあ」

黒子「どちらにしろ、このまま放っておけば上条当麻と一方通行は更に学園都市の学生を誘拐・殺害しかねません。アンチスキルが頼りにならない以上、私たちで動くしか手はありませんわ」

初春「でもどうやって逃げれば……」

美琴「うーん……」

顎に手を添え、美琴は黙考する。
時間が刻々と過ぎれば過ぎるほど、彼女たちの状況も悪くなってしまう。しかし、そう易々と逃走ルートや隠れ場所を確保出来ないのも現実だった。寮からの脱走に必氏で、そこまで考える余裕は無かったのだ。

美琴「(となれば、やっぱり黒子に数回に分けて私たちをテレポートさせてもらって逃げるしか……。でもどこに? それにそんなことしたら、黒子の体力がもたない…。それに、そんなこと黒子1人に任せられないし」チラッ

黒子「?」

美琴「(駄目ね。でも一体どうすれば……)」
美琴「………ん?」

視界の隅に何かを捉え、美琴は黒子に据えていた視線をそのまま横に流す。

美琴「あれは……」

何かを視認した瞬間、美琴は裏路地の奥に向かって走り出した。

黒子「お姉さま!?」

佐天初春「御坂さん!」

672: 2010/06/23(水) 23:04:13.82 ID:TAK3oYM0
慌てて黒子たちもついてくる。
美琴が立ち止まった裏路地の一角。彼女の足元にあったのは、古びたマンホールだった。

黒子「マンホール?」

美琴はそのマンホールを見つめている。そのマンホールの蓋の中央には、『D-14』と刻まれていた。

美琴「“D-14”………」

その番号には見覚えがあった。美琴はその番号を初めて目にした時の状況を、なるべく詳しく思い出そうとする。




   ――「じゃあこの『A-25』とか『D-14』って英数字がマークの横に書かれてる線は何?」――

   ――「それは地下のルートだ」――

   ――「地下?」――

   ――「ああ。主に今では使われなくなった『共同溝』を利用したルートだ。ただし、ルートによっては、今も使われている共同溝を一部に組み込んだものもある。まあ、ちゃんと監視カメラやセキュリティを避けたエリアを組み込んでるし問題はないんだがな」――

   ――「で、その『A-24』だの『D-14』って言う数字は入口のことだ」――

   ――「入口?」――

   ――「ああ、入口と言っても大層なもんじゃなく、ただのマンホールなんだけどな。その数字はマンホールの蓋に刻まれてるものだ」――

   ――「マンホールって言っても、設置箇所は色々あるようでな。例えば、人目がつくような大通りの道路にあるマンホールは『A-○○』、人目につかないような裏路地にあるマンホールは『D-○○』って言うようにアルファベットでランク分けされてるんだ。『A』ランクのマンホールは今でもバンバン使われている共同溝に繋がってるが、逆に『D』ランクぐらいになると、今では使われていない、点検もほとんど行われていない共同溝に繋がってる」――

   ――「じゃあ、アルファベットの後ろにくっついてる数字のほうは?」――

   ――「それは単に、『同じ数字が刻まれたマンホールとマンホールは一直線で繋がってますよ』って印だ。まあ実際には曲がり道もあるし、階段の上り下がりもあるんだけどな」――




美琴「…………………」

673: 2010/06/23(水) 23:11:13.91 ID:TAK3oYM0
そう、その番号はマンホールとマンホールを繋ぐ共同溝への入口だった。

美琴「D-14……」

美琴は思い出す。
『D-14』と蓋に刻まれたマンホール。ここを始点とする共同溝の終点のマンホールの場所は………

黒子「お姉さま?」

佐天「一体どうしたんですか急に?」

初春「マンホールの蓋に何か書いてたりするんですか?」

急に黙りこくった美琴を不思議に思ったのか、3人が顔を覗き込むように訊ねてきた。

美琴「フフ……」

黒子佐天初春「え?」

妙な笑みを零したかと思うと、美琴は急に振り返った。

美琴「隠れ場所、見つかったわ!」

692: 2010/06/24(木) 21:31:18.41 ID:WLYl2ZQ0
とある場所――。

一方通行「逃げただと?」

御坂妹「はい」

窓も無い狭い部屋の中、一方通行は目を細めて御坂妹に質していた。

御坂妹「手に入れた情報によると移送直前、お姉さまは常盤台中学学生寮から白井さまと一緒に脱走したようです」

一方通行「………………」

御坂妹「それだけでなく、佐天さまや初春さまも寮の部屋から消えたようですね、とミサカは報告します」

淡々と、御坂妹は説明する。

一方通行「………………」

御坂妹「…………………」

一方通行「…ハッ!」

ドカッと一方通行はソファに腰を降ろす。

一方通行「やってくれるねェ、超電磁砲……」

御坂妹「恐らく現在も第7学区にいると思われますが、まだアンチスキルも消息は掴めていないようです、とミサカは多少驚きつつ現状を報告してみます」

一方通行「今更逃げたところで何が出来るンだか……。罪に罪を重ねてるだけじゃねェか」

御坂妹「それほどお姉さまたちは本気、ということでは?」

一方通行「くっだらねェ。何度歯向かってきても叩き潰すまでだ。無駄だと言うのが分かンねェのかアイツら」
一方通行「が、しかしだ…。出し抜かれたのは気に入らねェなァ……」

低い声で呟く一方通行。イライラしているわけではなさそうだが、どこか納得出来ないといった表情だった。

一方通行「オマエ、本当はアイツらが逃げ出すって、予想ついてたンじゃねェの?」

腕を組み、正面を見据えたまま一方通行は横に座る人物に訊ねた。

上条「…………………」

一方通行「いや、そこまでいかなくとも、本当はアイツらの脱走成功を心のどこかで願ってたンじゃねェか?」

上条「……冗談も休み休み言えよ」

693: 2010/06/24(木) 21:38:52.92 ID:borzRdo0
一方通行の言を、上条は軽く流した。

御坂妹「………………」

一方通行「フン」

上条「まあ、詳しい状況は後で聞くとして、あいつらが逃げたのは本当なんだな?」

御坂妹「はい。4人とも寮内から消えました。何なら、こちらから捜索部隊を出しましょうか? 街中にいる妹達(シスターズ)にコンタクトを取ればすぐにでも……」

上条「いや」

御坂妹「?」

上条「……俺たちは本来の目的に専念したい。人員も減ってるんだ。無駄なことは出来ない」

一方通行「無駄なこと、ねェ……」

横合いから挟まれた言葉を無視し、上条は続ける。

上条「あいつらの動きは大して脅威にならない。だけど、1つだけやっておくことがある」

御坂妹「……協力者の発見、ですね?」

上条「ああ。現状を鑑みるに、御坂たちは自力で脱出出来たとも思えない。恐らく、誰かから協力を得ている。その協力者の輪郭がぼやけたままでは、こちらも如何ともし難い。相手が何らかのプロであったら、こっちの活動に支障をきたす恐れがあるからな」

御坂妹「プロ……お姉さまたちがそんな人間を雇えるでしょうか? とミサカは疑問を口にします」

上条「まあ超能力者とは言え、まだ中学生だからな。が、どっち道だ。協力者がプロであれ素人であれ、その素性を知っておく必要はある」

御坂妹「それで、その協力者を見つけたら如何なさいますか?」

上条「場合によっては、力ずくでの対処も辞さない」

御坂妹「……………なるほど。承知しました」

ペコと一礼すると、御坂妹は部屋を出て行った。

上条「………………何だよ?」

一方通行「べっつゥにィ~」

上条が横目で一方通行を窺うと、彼は下らなさそうに言った。

上条「文句でもあんのか?」

一方通行「ねェよ。ただ俺なら、不満の芽はどンだけ小さかろうが、確実に潰しておくンだがなァ。優しいこった」

上条「ふん」

694: 2010/06/24(木) 21:44:51.23 ID:borzRdo0
美琴「ここが、私たちの隠れ場所よ」

佐天「これはこれは……何というか」

初春「ほぇー…」

黒子「随分とまあ…どんよりとした場所ですこと」

美琴「あはは…」

美琴たちは今、暗く、ゴミやダンボールなどが無造作にひっちろげられた空間の中心にいた。
そのフロアの電灯はほとんどが割れており、窓ガラスはひびの入ったものばかり。おまけに埃っぽくジメジメとして居心地としては最悪だった。

黒子「遠路はるばる寂れた共同溝を歩いてきたと思ったら、今度は廃ビルですか」

美琴「これでも追われる身なのよ。贅沢言わないの」

第7学区のとある裏路地で『D-14』と蓋に刻まれたマンホールを見つけた美琴たち。
そのマンホールは、以前、美琴が接触を図ったスキルアウトの集団が利用していた地下の秘密ルートの1つだったのだ。
かくして彼女たちは長い時間をかけ、今は使われなくなった共同溝をひたすら歩き、再び『D-14』と刻まれたマンホールの出口から目的の場所に辿り着いたのだ。
その目的の場所とは………

佐天「でも、ここって御坂さんが誘拐犯の情報を得るためにコンタクトをとっていたスキルアウトのアジトですよね?」

美琴「そうよ」

佐天「確か、スキルアウトがあの誘拐犯の人たちに壊滅されたことを受けてアンチスキルが捜査を行ったはずじゃ……。大丈夫なんですかね?」

美琴「その点は心配ないわ。どうやらもう全ての現場検証は終えたようだし、部隊も完全撤収したみたいだしね。それに、私はそのスキルアウト壊滅の張本人だって疑われてるのよ? 普通に考えて、犯人が現場に戻って来るなんて考えないでしょ?」

黒子「それはお姉さまの仰る通りですが……」

佐天「御坂さん強いですねー。心臓に毛が生えてるんじゃないですか?」

美琴「なんだとー?」ウガー

佐天「あはは、冗談ですって」

初春「でも……」

美琴黒子佐天「?」

初春は膝を折り、優しい仕草で床に触れた。

初春「1週間ちょっと前に、ここでスキルアウトの人たちは殺されたんですよね……。私たちに関わったばかりに……」

悲しそうな表情を浮かべ、初春は床を見つめる。

695: 2010/06/24(木) 21:50:59.07 ID:borzRdo0
美琴「“私たち”じゃないわ。“私”よ……。私が勝手にスキルアウトと接触図ったから、彼らは一方通行に虐殺されたのよ。だから、初春さんや黒子や佐天さんが負い目を感じる必要無いわ…」

4人は一斉に黙り込む。
言うまでもなく、そこはスキルアウトたちが殺害された現場であった。普通なら、そんな場所を隠れ家にするのは抵抗がありそうなものだが、今の彼女たちはそういったことを気持ち悪いと思うには至らなかった。寧ろ、氏んだスキルアウトたちを偲んでいるようにも見える。

美琴「どの道、私たちは止まらない。いえ、止められないわ。あいつらの元へ再び辿り着くまでわね。そのためにここに来たんだから」

黒子佐天初春「…………………」

美琴「もう、寮や学校には戻れない。私たちは追われる身。ある意味で、私たちはスキルアウトになったようなものなのよ。だから、止められない。進むしかないのよ。あの2人に向かって一直線にね……」

美琴は3人を見据える。

美琴「だから、今度こそ決氏の覚悟を決めなさい。半端な覚悟なら、上条当麻と一方通行は倒せないわよ! いいわね!?」

黒子佐天初春「はい!!」

真剣な表情で返事を返した3人の顔を、美琴は交互に見る。

美琴「よし。じゃあ、早速行動に移りましょう。まずはこの建物の構図を把握。2人1組で行動すること。それと何でもいいから使えるものを探しましょう。例えば、机や椅子の代わりになるものとか、布団の代わりになるものとか、ね。外に出てもいいけど、あくまで建物の周辺だけね」

美琴はトコトコとフロアを歩いて、割れた窓ガラスから既に暗くなった外の風景を見る。

美琴「見たところ、外周はほとんど建物も無い空き地のようだけど、このビルから出る時もやっぱり2人1組でね。特に、初春さんや佐天さんは私か黒子を連れて出てね。暴漢でも潜んでたら危ないから」

初春佐天「はい」

美琴「じゃあ、まずはそんな感じでいくわよ。いいわn」

グ~~~

初春佐天「………………」

黒子「お姉さま……」

美琴「//////////////」
美琴「……/// い、一番大事なこと忘れてたわ/// 食料や飲み水も何とかしないとね。そう簡単に街へ出れないからね////」

黒子初春佐天「クスクス……はーい!」

美琴「も、もう! さあ、笑ってないで行動開始!!」

こうして、美琴を筆頭に女子中学生4人の隠遁(ホームレス)生活が始まった――。

697: 2010/06/24(木) 21:56:51.58 ID:borzRdo0
常盤台中学学生寮・モニター室――。

美琴と黒子が寮から脱走してから数時間後、黄泉川の部隊によって315号室と管理人室の調査が始まっていた。
隊長の黄泉川は鉄装や数人の警備員、寮監と共にモニター室にいた。

黄泉川「ほら見るじゃん。16時26分頃…。寮監さんが私を迎えるために管理人室から出た直後、寮監さんの机の棚から何かを取り出して見ているじゃん」

ノートパソコンに映った再生映像の中の黒子の行動を指でなぞって追う黄泉川。
管理人室を監視していたモニターは全て破壊されていたが、映像を記録していた媒体は幸いにも生きていたため、現在、ノートパソコンを使って再生・検証している最中だった。

黄泉川「もう一度」

鉄装「はい」

鉄装が映像を巻き戻す。

黄泉川「ほらこれだ」

白黒の画面の中、本を読んでいた黒子が、寮監が部屋を出たと同時にベッドから降り寮監の棚に近付いているのが分かる。

寮監「この棚は……」

黄泉川「心当たりが?」

寮監「彼女が手に広げてるもの、多分、寮内の見取り図です」

黄泉川「見取り図?」

寮監「ええ。常盤台中学学生寮の内部が描かれてるものなんですが……」

黄泉川「なるほど。恐らく白井は、この見取り図を使って、このモニター室と御坂がいた315号室の間取りを調べてたんだな…。それで……」

画面の中の黒子の動きに合わせるように、黄泉川も説明を続ける。

黄泉川「トイレに入り、監視カメラの隙をつき、テレポートしたと……」

しばらくすると、黄泉川と寮監が管理人室に入ってきた映像が流れた。
画面の中の黄泉川はトイレに向かって何事か叫び拳銃を発砲している。

黄泉川「この間に、ここの部屋でモニターを監視していた私の部下を奇襲、モニターも破壊して御坂の部屋へテレポートし、まんまと逃げおおせたわけじゃん」

寮監「しかし、白井はどこでモニター室と御坂の謹慎部屋の情報を得たのでしょう?」

黄泉川「それについてはやはり……」

Prrrrrr.....

会話を切るように、黄泉川の携帯電話が鳴った。
寮監たちの側を離れ、黄泉川は電話を受ける。

698: 2010/06/24(木) 22:03:10.72 ID:borzRdo0
黄泉川「はい黄泉川」
黄泉川「……え?……ああ……こちらも同様に…」

いくつかの会話の応酬の後、黄泉川は電話を切った。

鉄装「どちらですか?」

黄泉川「ん? ああ、“本部”じゃん」

鉄装「……なるほど」

寮監「……………」

鉄装「で? 本部の方はなんと?」

黄泉川「どうやら本部も私の考えと同じ…やはり寮内に協力者がいるものとの意見じゃん」

寮監「寮内の…協力者。となると、生徒ですかね?」

黄泉川「可能性としてはそれが一番可能性高いからねぇ。寮監さん、この1週間、白井と接触した生徒について、覚えてる限り思い出してほしいじゃん」

黄泉川に訊ねられ、寮監が人差し指の先を顎に当てて考え込む。

寮監「えっと……確か、この1週間で管理人室に来た生徒は10人もいなかったと思います」

黄泉川「その10人の生徒が誰だったか、覚えてるじゃん?」

寮監「はい、それは。寮監として、そういったことは記憶に留めるようにしていますし、寮内の生徒の顔と名前も全員把握しているつもりですから」

黄泉川「では、来室した10人の生徒の中で、怪しい挙動をした者は…?」

寮監「それは…いなかったと思いますが」

黄泉川「では、白井と話したのは?」

寮監「みんな白井とは一言ぐらい話していた気はしますよ。でも、特に怪しい言動は無かった気が……。特異のある行動をしていれば、私がしっかりと覚えてますし」

黄泉川「その10人の生徒は一体、どう言った理由で来室を?」

寮監「部屋のことやスケジュール、または寮内での悩みなど一般的な相談事ですね。みんなそのついでに白井に声をかけた感じだったので……」

黄泉川「…うーむ」

寮監の証言を聞き終えると、黄泉川は腕組みをして唸った。

寮監「あ、待って下さい」

黄泉川「ん?」

699: 2010/06/24(木) 22:09:40.12 ID:borzRdo0
黄泉川と鉄装が同時に寮監の顔を見る。

寮監「1人だけ、正式な面会でやって来た生徒がいます。それも2回も」

黄泉川「何?」ピク

黄泉川の表情が急に変わった。

寮監「1回目は3、4日前に。2回目は昨日に」

黄泉川「昨日……」

それを聞き、黄泉川と鉄装は顔を見合わせる。

寮監「そうです! 昨日の面会時には、調理実習で作った弁当の差し入れに来たんですよ確か!」

黄泉川「弁当か…」

寮監「でも私も白井が食べる前に弁当の中身を見ましたけど、特に変わったものはありませんでした。さすがに白井の脱走と弁当では関係は無いのでは……?」

寮監が自分なりに組み立ててみた推測を口にしてみる。

黄泉川「いや」

寮監「え?」

黄泉川「工夫すれば弁当の差し入れだけでも、御坂の部屋番号を内密に伝えられる方法はあるじゃん。恐らくその弁当の差し入れ時に、何らかの情報提供が行われた可能性が高いな」

寮監「でも、あの時確かに怪しい様子は……」

しかし、寮監の疑問を否定するように、黄泉川が告げる。

黄泉川「まあ考えるのは後じゃん」

アンチスキルとしての洞察力を備えた彼女の目が鋭くなった。

黄泉川「それで寮監さん、白井に弁当を差し入れしたその生徒の名は?」

700: 2010/06/24(木) 22:17:15.26 ID:borzRdo0
とある廃ビル(美琴たちのアジト)――。

佐天「初春、見て見て! 地下の床収納庫で食材見つけたよ!」

缶詰やペットボトルのミネラルウォーターを両手に、佐天が初春に向けて満面の笑みを浮かべてきた。

初春「わぁ! すごいじゃないですか! これで数日は食料の心配はありませんね!」

両手を合わせ、歓喜の声を上げる初春。

美琴「地下は、あんまり散らかってなかったわ。あそこなら寒くもないし、寝るにはいいかもね」
美琴「ちなみに布団は見つからなかったけど、毛布やタオルは何枚か見つけたわ」

そう言って美琴は手に持った毛布を見せる。
彼女たちは今、二手に分かれてビル内を調べ上げ、使えるものが無いか探していたのだ。

初春「良かったー…固い床だと眠れないんじゃないかと心配だったので」

佐天「そういう初春たちは何か見つけたの? 何か胸に抱えてるけど」

初春「あ? これですか? ちょっと白井さんと一緒に建物の周辺を探してみたんですけど、ゴミの中からパソコン見つけたんですよ!」

初春は胸に抱えていたものを美琴と佐天に見せる。
どうやら、15インチぐらいのノートパソコンのようだ。しかし、汚れも付着しており、いくつか傷も見受けられ新品の状態とは程遠かった。

初春「ただ、バッテリーの電池が切れてるんですよね……。当然と言えば当然なんですけど」

トホホと初春は残念がる。

701: 2010/06/24(木) 22:22:51.68 ID:borzRdo0
黒子「その他にも、こんなものも見つけましたわ」

美琴「あら? 何それ? 白板?」

黒子が手にしていたのは、横1m、縦50cmほどの小さなホワイトボードだった。

黒子「ええ…使い道はないかもしれませんが、一応。周りにマジックペンも落ちてましたが、これもインクが出るかどうか……」

彼女の左手には黒と赤のマジックペンの2本が握られていた。

初春「あとはこんなものもありましたけど、需要無いですよね?」

一度ノートパソコンを抱え直すと、初春は背中のスカートの裾にでも挟んでいたのか、1つの如雨露を取り出した。

佐天「如雨露って……はっ! 初春! そっか…初春は頭のお花に水をやらないと氏んじゃうもんねー」

からかうように佐天は笑う。

初春「ち、違いますよ! 目についたから拾って来たんですよ!」

佐天「あっはっは、冗談冗談」ケラケラ

美琴「まあまあ。でもガラクタと言えど結構集まったじゃない。工夫すれば何かに使えるかもしれないわよ?」

何に使うかは明日決めるとして、と前置きして美琴は腕時計を見る。

美琴「もう随分夜ね。今日は疲れてるし、取り敢えず地下行って寝よっか!」

黒子「そうですわね。それで明日早く起きて色々考えていきましょう」

佐天「賛成! もうあたしクタクタでさー」

初春「私もですー」

702: 2010/06/24(木) 22:28:45.65 ID:borzRdo0
午前1時過ぎ・廃ビルの地下――。

捨て置かれた机や椅子が隅っこに捨てられている以外は、特に何も無い小オフィスほどの空間の中、美琴たち4人は毛布を一列に並べて横たわっていた。

美琴「………………」

黒子「………………」

佐天「………………」

初春「………………」

彼女たちにとって、とても長い1日だったと言える。
これまでのこと、これからのことを考えると簡単に眠りに就けそうにはなかった。

佐天「ねぇ…初春」ボソッ

佐天が隣で眠っている初春に声を掛ける。

佐天「もしかして、もう寝ちゃった?」ヒソヒソ

初春「起きてますよ」ヒソヒソ

佐天「そうなんだ。実は眠れなくてさ」ヒソヒソ

初春「私もですよ」ヒソヒソ

佐天「じゃあ御坂さんたちは……」

グルリと佐天は体勢を変える。

美琴「起きてるわよ」

黒子「右に同じく」

佐天「なんだー結局みんな起きてるんじゃないですかー」

美琴「だって眠れないものは眠れないんだもん」

黒子「目が覚めてしまってどうにも……」

佐天「ですよね。現実的に見たら今、あたしたち逃亡者の身ですし…。あの誘拐犯の2人のこと頭に浮かべると、ムカついてきて……。こうなったのも元はといえばあいつらの責任ですからねー」

と、そこで佐天が愚痴を零した時点でみんなが一斉に黙った。
よく見ると、みんな顔が暗く少し俯き加減だ。

703: 2010/06/24(木) 22:34:54.57 ID:borzRdo0
佐天「(わわ、やばい。気まずい)」
佐天「ご、ごめんなさい! 空気悪くしちゃって!」

美琴「ん? いやいや何言ってるの。私も同じこと考えてたんだから佐天さんが気にすることないわ」

黒子「そうそう。仰ったように悪いのは全てあの類人猿と白ウサギですから」

初春「全くです。お猿さんはお猿さんらしく山でバナナでも食べて、白ウサギさんは檻の中で孤独に打ちひしがれてればいいんですよ!」プンプン

美琴黒子佐天「(腹黒い……)」

美琴「ところでさ佐天さん」

それまでの流れを変えるように、美琴が佐天に訊ねた。

佐天「何ですか?」

美琴「佐天さんって好きな人いるの?」

佐天「ブーーーーーーーーー!!!!!」

盛大に噴き出す佐天。

美琴「え? 何? 変なこと聞いちゃった?」

佐天「いや、唐突過ぎて…」

初春「あ、でもそれ私も興味あります! 佐天さん、仲の良い男子結構いますもんねー」ニヤニヤ

黒子「あら本当ですの?」

佐天「いや、あんな幼稚な男子どもを好きになるわけないじゃないですか。あたしはもっと、大人っぽくて一緒にいると楽しい人がいいの! うちのクラスにそんな気のきいた男子がいるわけないじゃん」

初春「うわぁ…手厳しい発言ですね(佐天さん、裏では結構モテてるのに知らないんでしょうね…)」

佐天「つーか、初春はどうなのよ?」

704: 2010/06/24(木) 22:40:58.56 ID:borzRdo0
初春「ふぇぇ/// 私ですか? そんなのまだいませんよー」

黒子「そう言っておきながら、本当は初春のような子女が密かに裏で殿方と密会したりしているんですのよねん」

佐天「そうそう」ニヤニヤ

初春「そんなわけないじゃないですか///」

佐天「じゃあどんなタイプがいいのよ?」

初春「え? 私ですか? うーんと、そうですねー…白馬の王子様みたいな…?」

美琴黒子佐天「白馬の王子様!?」キョトン
美琴黒子佐天「……………………」
美琴黒子佐天「プププーwwwww」

初春「私のピンチの時に駆けつけてくれるんですよ! って何笑ってるんですかそこの3人!」

美琴「いやだって…ププw」

黒子「今時白馬の王子様ですか…クスクスw」

初春「だって!/////」

佐天「恋に恋してるって感じだねー」

初春「それを言うなら佐天さんだってそうじゃないですか」

佐天「んなわけないじゃん。つーか、その白馬の王子様(笑)だっけ? クラスの男子の中で当てはまる子とかいないの?」

初春「いませんよ。みなさん普段から破廉恥な話ばかりしてるのに……」

佐天「初春も言うねー(初春、裏では結構モテてるのに知らないんだろうなー)」

初春「そう言えば、御坂さんはどうなんですか?」

美琴「え? 私?」

初春「はい」

佐天「あ、それ知りたーい! 常盤台の超能力者ってどんな男の人を好きになるのか知りたいです!」

707: 2010/06/24(木) 22:47:38.03 ID:k3jx1aU0
美琴「えーっと………」

数秒ほど、沈黙が訪れる。
自分からふっておきながら、まさか自分に質問が返ってくるとは思わなかったのか美琴はたじろいでしまう。

美琴「なんだろね」

黒子「………………」

明らかに複雑そうな顔を見せた美琴を見て黒子は黙り込んだ。
黒子は美琴が想いを寄せている意中の人物が誰であるのか、大体検討はついている。しかし、その意中の人物は今………。

美琴「………………」

佐天初春「?」

恐らく美琴の中にある恋心は今この時も、複雑な感情を渦巻いているはず。それを察知したのか、黒子は横から挟み込むように声を上げた。

黒子「決まってるじゃないですか! お姉さまが好きなのは誰よりもこの私! そうですわよねーんお姉さま~ん(はぁと」ガバッ

黒子が美琴に飛びつこうとする。

美琴「んなわけねーでしょうが!!」ビリビリビリッ

黒子「はぁぁぁぁううん!!! 久しぶりの快感ですわっ!!!!」

2人の即席コントを見て、佐天と初春は顔を見合わせて笑う。

佐天「何だかそのやり取り久しぶりですねー」

初春「そうそう、随分見てなかった気がします」

黒子「お姉さま、油断は禁物ですわようふふのふ」キラーン☆

美琴「ホント、あんたってば異性に興味ないのね!!」

初春「そうだ、白井さんはどんな男の人が好きなんですかー?」

佐天「あ、それ知りたーい」

709: 2010/06/24(木) 22:54:04.81 ID:k3jx1aU0
再び場の雰囲気が最初に戻る。

美琴「そうよ黒子。あんたのも聞かせなさい」

黒子「はん! そもそも私はお姉さま一筋。天と地がひっくり返ろうが、殿方をお好きになることなど一生ありませんわ!」キッパリ

美琴「……あんた、独身で過ごす気か」

佐天「白井さんらしいですねー」

初春「将来、同性同士の結婚が法律で認められたら御坂さんピンチですねー」

美琴「なっ! ふ、不吉なこと言わないでよ!」

黒子「でへへへへへへ」

佐天「あ、そういや初春、おっOい大きくなった?」

初春「ブーーーーーーーーー!!!!!」
初春「いいいいいいいいきなりなな何言ってるんですか!?/////」

美琴「つーか今の話のどこに変換点(ターニングポイント)が?」

佐天「いやぁ、相変わらず初春は成長しないなあって…」チラッ

初春「どこ見てるんですか!//// って言うか佐天さんの成長速度がおかしいんですよ!」

美琴「そ、そうよ! 反則だわ反則!」

黒子「レッドカードですわ!」

佐天「そうかなあ?」ポフポフ

美琴黒子初春「自分の手で掴むなああああああ!!!!!!//////」

4人の少女のガールズトークは弾み、その後も彼女たちは1時間も話し通していた。
まさに普通の女子中学生の、修学旅行のような夜はこうして更けていった。

710: 2010/06/24(木) 23:01:16.24 ID:k3jx1aU0
その頃・とある部屋――。

上条「婚后光子。常盤台中学の2年生だ」

バサッという音と共に、件の人物が映った写真が貼り付けられた資料が机の上に置かれた。
窓も無い狭い部屋の中、上条の隣に座っていた一方通行が興味無さげにそれを掴み上げる。

一方通行「コイツが、例の超電磁砲の協力者か」

上条「ああ。内部からの情報と照らし合わすと、そうなる。恐らく彼女でビンゴだろうな」

一方通行「能力は? むァた、空間移動とか厄介なもンじゃねェだろうなァ?」

上条「いや、彼女は…」

御坂妹「レベル4の『空力使い(エアロハンド)』」

上条が説明するより早く、目の前に立っていた御坂妹が手にした資料を読み上げた。
2人は彼女に視線を移す。

御坂妹「任意の物体に目に見えないブースターのようなものを取り付け、ミサイルのように吹き飛ばしてしまう、といった能力のようですね、とミサカは説明します」

一方通行「エアロハンド……空気を操るってわけかァ」
一方通行「で、超電磁砲たちとの接点は?」

御坂妹「今までに何度か交友があるようです。水着モデルの撮影会でも一緒になった仲だとか。お姉さまたちが、テレスティーナ=木原=ライフラインと戦った時にも、援軍に駆けつけて敵に相当なダメージを与えています。レベル4の大能力者の中では、白井さまと並んで数少ないかなりの実力の持ち主ですね」

一方通行「ふゥん。形は何にせよ、あの外道木原ちゃンに敵対したってわけかァ。つまりは、それほど親しい仲ってわけだァ」

上条「都合がいいな」

一方通行「ン?」

上条「御坂と白井脱走の協力者で、御坂たちの友人。条件は揃ってる」

御坂妹「と言うと…もしかして彼女を…?」

上条「ああ決まりだ」

上条は立ち上がり、言った。

上条「次のターゲットは婚后光子。彼女だ」

726: 2010/06/25(金) 21:07:31.09 ID:uAOqQxg0
とある廃ビル――。

太陽の位置も真上に近付いてきた頃、黒子は3階の窓から外を眺めていた。

黒子「………………」

廃ビルの周りは空き地で、様々な高低の草が生い茂っており、少し離れた所には綺麗な小川もあった。
彼女はそんな風景よりも、少し遠くに見える街並みに視線を据えていた。
その建物群の間から黒い煙が立ち昇っているのが見て取れた。

美琴「どうしたの黒子?」

背後から、美琴が近付いてきた。
黒子は街並みを見つめたまま答えた。

黒子「いえ…街の様子を眺めていたのですが……」

美琴「街?」

黒子「ほら、煙が一筋見えませんか?」

美琴「あ、確かに」

黒子「きっとまたテロか爆発騒ぎでもあったんでしょうか」

美琴「……かもね」

黒子の言に、美琴は静かに答えた。

黒子「この1週間、外の情報は遮断されていたので忘れていましたが、やはりテロや要人暗殺は今も続いているのでしょうか」

美琴「休校措置が解除されてないとすると、恐らく毎日のように起こってるんでしょうね」

728: 2010/06/25(金) 21:13:23.34 ID:uAOqQxg0
黒子「……私、何だか恐いですの。近々、何かとてつもなく恐ろしいことが学園都市に起こるのではないかと……。こんな地獄みたいに化した学園都市を見てるとそう思いますの。あのネット上にあった噂通り、本当に学園都市の崩壊は近いのではないかと思うと恐くて恐くて……」

美琴「……大丈夫よきっと。学園都市はそんなヤワじゃないから」

黒子を褒める美琴だが、そんな彼女の表情も暗かった。

黒子「そう言えば、あの上条当麻と一方通行は確か固法先輩をも手に掛けていましたよね?」

美琴「…………そうね」

黒子「固法先輩は、無差別爆発に巻き込まれて氏にましたわ。もし、爆弾を仕掛けたのもあの2人の仕業だったとすれば、あの2人は誘拐殺人だけでなく、テロも行っていることになりますわ」

美琴「うん…。だからさ黒子……」

黒子「はい」

美琴「それを止めるのが、今私たちがやるべきことでしょ?」

黒子「……そう、でしたわね」

美琴「じゃ、1階に来てちょうだい」

黒子「1階ですか?」

美琴は気持ちを変えるように笑みを浮かべた。

美琴「ええ。奴らを倒すための作戦会議を開くわよ!」

729: 2010/06/25(金) 21:19:16.48 ID:uAOqQxg0
1階――。

1階に降りてきた美琴と黒子。
ふと部屋の端を見ると、そこだけ試着室のようなカーテンに遮られた空間が出来上がっていた。

美琴「何あれ?」

佐天「お、来た来た。見て下さいよこれー」

佐天に呼びかけられ、美琴と黒子は部屋の一角に向かって歩いていく。

佐天「即席ですけど、カーテンレール作ってみました。カーテンは2階にあったものを利用してます」

見ると、カーテンによって部屋の隅に一辺2mぐらいの空間が作られている。視線を上に移すと、壁と壁を繋ぐように、L字型のレールらしきものがカーブを描いて取り付けられていた。

美琴「何なのこれ?」

佐天「シャワールームですよ」

美琴黒子「はぁ?」

2人が頓狂な声を上げた時、カーテンが開けられ中から初春が出てきた。

初春「これですよこれ」

初春がカーテンの空間から出ると、そこには床にタライらしきものが、頭上にはペットボトルらしきものが逆さに吊られていた。
ペットボトルは1リットルのものらしく、逆さにされた底の近い部分に紐がグルグルと巻かれてあり、その紐の両端は空間に対角線を作るように、それぞれカーテンレールの一部分に結ばれていた。ペットボトルの底は、何故かくり貫かれてあり、何より不思議だったのは、ペットボトルの蓋の部分に如雨露の先がくっついていたことだ。

美琴「もしかしてこれがシャワー?」

佐天「そう! と言っても、お湯も出ませんし、大したものじゃありません。汚れを落とすぐらいしか使い道はありませんから」

初春「近くに綺麗な小川が流れていたでしょう? そこから水を汲んできてこのペットボトルの底から流せば、水がシャワー状に出てくるってわけです」

佐天「まあ…何だかんだ言って女の子ですからね! 服の替えは無くても身体だけは清潔にしておかないと! 妥協に妥協を重ねた案なんですけどね」

黒子「いや、しかし……」

美琴と黒子は顔を合わせ、感心したような声を上げる。

美琴「…よく考えたわね」

730: 2010/06/25(金) 21:26:12.84 ID:uAOqQxg0
それからしばらくして、彼女たちの作戦会議が始まった。議題は、『上条当麻および一方通行の凶行阻止について』。
部屋の一角に、ビル内部から見つけてきた机と椅子を並べ、片方に佐天と初春が、向かい合うようにして黒子が座っている。美琴は、壁に吊られたホワイトボードの前に立ち、マジックペンで何かを書き込んでいる。どうやら、美琴が知る限りの、上条と一方通行の詳細データだった。

美琴「これがあいつらの簡単なプロフィールよ」

佐天「『幻想頃し(イマジンブレイカー)』……どんな能力も打ち消してしまう、って……本当にあたしと同じ無能力者(レベル0)なの?」

初春「そしてもう1人が『一方通行(アクセラレータ)』。どんなベクトルの向きも操ってしまう、事実上、学園都市最強の超能力者(レベル5)……」

彼女たちの顔が、僅かに蒼くなる。
無理も無かった。1度あいまみえていたとはいえ、改めて説明されると想像以上だったからだ。

1人は、どんな能力ですら消滅させてしまう右手を持ち、更にその人物は日常茶飯事に厄介事に巻き込まれていて、美琴の見立てでは初春や佐天たちとは比べられないほど相当の氏線や修羅場を潜っているとのこと。たとえ、拳銃などの物理的な攻撃が有効であっても、ここは能力が全ての『学園都市』。佐天や初春もその街の住人ゆえ『能力が1番』という意識が強い。しかも、彼女たちは普段から身近で美琴や黒子などの高レベル能力者の戦闘を見てきたのだ。そんな美琴と黒子の能力が一切効かない相手、というのは彼女たちにとって反則と呼べるほどイレギュラーで未知数の脅威だった。
そしてもう1人は、この『学園都市』で230万人もの頂点に君臨する最強の超能力者(レベル5)。美琴と同じレベル5とはいえ、その人物の序列は第1位。第3位の美琴であっても、その実力には大きな隔たりがあるとのことだ。しかもデフォルトで反射を適用しているらしく、どんな攻撃ですら跳ね返してしまう身体をしているという。そればかりか、僅かに手を触れただけで身体中の血流を逆流させ即氏させることも出来るらしい。いくらレベル5の美琴たちと様々な事件を解決してきたとはいえ、その超能力者は彼女たちにとって、遥か雲の上――別次元に住む人間だった。

その2人は佐天と初春にとって、信じられない存在だった。彼女たちが日頃から目にしていた美琴の戦闘、美琴の存在こそ、この学園都市の最高位の領域に位置するものだと思っていたが、上条当麻と一方通行の出現によってその常識は覆された。まるで、美琴がいた最高位の領域の更に上に、新たな領域がまた1つ出来上がったような、そんな感じだった。

731: 2010/06/25(金) 21:34:17.57 ID:uAOqQxg0
一斉に、無言になる。
どうやら、百戦錬磨の美琴と黒子ですら、佐天や初春と似たようなことを考えているらしく、微妙に顔が俯き加減だ。
実際、4人は既に1度、上条と一方通行と対峙してその力を目の当たりにし、完膚無きまでに倒きのめされている。しかもその時の戦闘ですら、彼らは本気の実力を出していないだろう、とのことだから『反則』や『別次元』というレベルではない。なまじ実体験してるだけに、美琴が説明した彼らのプロフィールには信用がある。まさに、『格が違う』とはこのことなのかもしれない。

美琴「…………………」

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

今まで4人で様々な事件を解決し、修羅場を一緒に潜り抜けてきた彼女たち。それでも疑問は浮かぶ。
彼女たちが抱く疑問はただ1つ。




―――『自分たちに勝てるのか』―――




誰も何も言わない、それとも言い出せなかったのか、時間ばかりが刻々と過ぎていった――。

732: 2010/06/25(金) 21:41:18.66 ID:uAOqQxg0
その頃・常盤台中学学生寮――。

婚后「……御坂さんと白井さん、今頃上手くやってるかしら?」

扇子を片手に廊下を歩く婚后光子。そんな彼女に不意に後ろから声が掛けられた。

寮監「婚后!」

婚后「ひゃい!!」ビクウ!!

振り返る婚后。見ると、寮監がそこに立っていた。

婚后「(まさか今の独り言、聞かれてませんですわよね?)」アタフタ
婚后「な、何でしょう寮監様?」

寮監「お前、今暇か?」

婚后「は? え? あ…ま、まあ暇と言えば暇ですが何か?」

寮監「なら頼みがあるんだが、ちょっと買い物を頼まれてくれんか?」

婚后「か、買い物? この常盤台の婚后光子が雑用などと……」ブツクサ

寮監「嫌ならやらんでよい。買い物ですら出来ないお嬢さまに用は無いんでな!」

明らかに挑発じみた口調で寮監は言った。その言葉に婚后は額に青筋を浮かべる。

婚后「……」ヒク
婚后「……いいでしょう。この常盤台の婚后光子にとって買い物など造作もないこと! やってあげましょう!」

寮監「そうかそれは助かる。じゃ、この金で向かいにあるコンビニでコピー用紙30枚入りを買ってきてくれ」フフン

プライドの高いお嬢さまの扱いに手馴れているのか、言うは一転、寮監は婚后の手に二千円札を握らせた。

733: 2010/06/25(金) 21:47:12.81 ID:uAOqQxg0
婚后「……コピー用紙ですのね」プクー

不服と言わんばかりに頬を膨らまし婚后は聞き返す。

寮監「そうだ。じゃ頼んだぞ」

婚后「あ、待って下さいまし」

何かを思い出したのか、婚后は寮監を呼び止める。

寮監「何だ?」

婚后「確か今は外出禁止中なのでは?」

寮監「まあそうだが、私も仕事があって忙しいんでな。仕方がない。それにすぐそこのコンビニに行って帰るだけだ。問題無いだろ。大体お前はレベル4の大能力者なんだから、心配するようなことはないだろ」

婚后「そ、そうですか。ならよいのですが」

寮監「じゃ、なるべく急いで頼む」

それだけ残すと、寮監はスタスタと去っていった。

寮を出、婚后は表の道路を横切る。コンビニはすぐ目の前にあった。
しかし、彼女は気付かなかった。彼女の行動を見張る自動車が寮のすぐ側に止まっていたことを――。

「来たか」

「彼女だ」

734: 2010/06/25(金) 21:52:44.19 ID:uAOqQxg0
婚后「何故私が、コンビニで買い物などと……」ブツブツ

袋を片手に、愚痴を垂れながら婚后はコンビニから出る。と、そこへ……

若い男「すいませーん!」

婚后「何故私が庶民じみた袋を……」ブツブツ

若い男「ありゃ? す・い・ま・せ・ー・ん・!」

婚后「って、はい? 何ですか貴方は?」

コンビニを出たところで、婚后は若い男に呼び止められた。
外見はフリーターっぽく、若者らしい、しかしどこか地味な服を着込んだ男だった。

婚后「(あら、少しハンサム/// 服装は庶民ですけど)」

若い男「あの、ちょっと話いいですか?」

その言葉に婚后は眉をひそめる。

婚后「何ですのお昼時から? ナンパなら他所でやってくれませんこと? そもそも貴方のような庶民がこの常盤台の婚后光子をデートに誘えるとでも思って? いえそもそもデートに誘おうとする考えが身の程を……」

若い男「あ、やっぱり常盤台の婚后さんですね?」

婚后「?」

若い男「あ、いやいや、怪しいもんじゃないですし、ナンパでもありません!」

婚后「いえ、十分怪しいですし、何故私のお名前を?」

若い男「いやだって、常盤台の婚后光子って有名でしょ! 常盤台と言えば、あの超電磁砲と肩を並べる……いや、ダントツで有名ですから!」

婚后「そ、そう? オホホホホホ。まあ当然ですわね! オホホホホホ」

若い男「あははははは」

扇子を口元に笑う婚后。

婚后「で、ナンパなら他所でやって頂きたいのですが?」ジロリ

若い男「あ、だからナンパじゃなく……参ったな。僕、こういうものです」

そう言って若い男はポケットから名刺を取り出し婚后に渡した。
そこには『能力平和利用研究所  真堂場 上』と書かれていた。 

婚后「貴方のお名前……ま…まどうば? まどば? …うえ?」

若い男「『まどうじょう のぼる』です」

738: 2010/06/25(金) 21:59:26.42 ID:uAOqQxg0
婚后「『能力平和利用研究所』など、聞いたことがありませんが?」

若い男「あれ? ないですか? おかしいな。結構科学者の間では有名なところですよ」

婚后「となると、貴方、研究者か何かですか?」

若い男「いや、僕は下っ端の雑用です。宣伝とかやらせてもらってます」

テヘヘと言うように若い男は髪をかく。見た目、チャラチャラしているわけではないが、どこか頼り無さそうな感じだった。

婚后「それで? そんな方が私に何の御用で?」

若い男「ぶっちゃけて言うと、婚后さんのお力を貸してほしいんですよ」

婚后「私の力? どういう意味ですか?」

若い男「ほら、今、学園都市って結構やばい状況じゃないすか。テロだの要人暗殺だの、誘拐だのって。アンチスキルがどれだけ頑張っても、事件は毎日のように起こる始末」

婚后「まあ、確かにそうですわね……」

若い男「それで、僕たち…って言うか、うちの研究所が能力者の学生を募集してるんですよ。何とかこの状況を打開するためのね」

婚后「募集?」

若い男「はい。この状況を改善するためにおあつらえ向きな能力者を集めて、色々話し合ったり、計画を練ったりしてるんです。ただ、僕たちは研究者ですので、アンチスキルのように犯人グループのアジトに突入とか、そんな軍事行動はしないんですけどね。どっちかと言うと、事件で傷ついた多くの人たちを速やかに効率よく治療したり、未然に事件を防ぐ手段を考えたりと言った、ソフト面でのことです」

婚后「へぇ、初耳ですがそれは大変、殊勝ですわね」

少し感心したのか、婚后はその話に興味を覚えたようだった。

739: 2010/06/25(金) 22:05:13.97 ID:uAOqQxg0
若い男「で、ここで問題なんですが、やっぱりどうやっても能力者の人員が足りないんですよ。そ・こ・で・! 婚后さんにも手伝ってもらえないかなと思って声を掛けたってわけなんす」

婚后「え? 私に!?」

若い男「はい! と言うのも、レベル2やレベル3の学生は結構いるんですけど、やっぱりどうしてもレベル4の協力者が少ないんですよね」

婚后「それで……私に手伝ってほしいと?」

若い男「ええ。婚后さんの能力なら、かなりの人を救えると思いますし、何より常盤台のレベル4と言ったらそれだけで百人力ですからね! 勝手なお願いなんですけど……」

婚后「………………」

しばらく、婚后は無言になっていた。
若い男の話が本当ならば、自分の能力を使って困ってる人を助けられるかもしれない。今現在、学園都市で起こっている凶事を僅かながら止めることが出来るかもしれない。そう考えると、ハナから断るような話でもなかった。
しかし、あと一歩というところで目の前の男を信じきれられなかった。どうも、胡散臭い感じもするのだ。

婚后「それって……」

今すぐ決めなければいけないことなのだろうか。一旦、寮に戻って改めて考え直してから出なければいけないのか。そう思った婚后は疑問を述べようとしたが……

若い男「婚后さんの周りにテロや事件の影響で被害に遭われた方はいませんか? そういった方々を救えるんですよ! ぜひ力を貸して下さい!」

若い男は婚后に期待を寄せるように言った。
その言葉を耳にしたとき、婚后の脳裏に、美琴や黒子の顔が、そして今は消息を絶った泡浮や湾内の顔が蘇ってきた。

婚后「あの……もう少し詳しい話をお聞かせ願いませんか?」

彼女は即答していた。

740: 2010/06/25(金) 22:12:28.15 ID:uAOqQxg0
とある廃ビル(美琴たちのアジト)――。

作戦会議中であるにも関わらず、自分たちが倒すべき敵の詳細を知り、言葉を失くしていた美琴たち4人。
しかし、このままでは士気が下がるだけだと思ったのか、ようやく黒子が口を開いた。

黒子「まあ、とにかく……」

一斉に美琴たちが黒子の顔を見る。

黒子「物理攻撃が可能な上条当麻はともかく、どんな攻撃も問答無用で跳ね返してしまう一方通行は厄介ですわね」

佐天「そ、そうですよ…。触れることも出来ないなんて反則じゃないですか」

初春「それじゃ、御坂さんの超電磁砲(レールガン)ですら効かないってことですよね?」

黒子の言葉を切っ掛けに、佐天と初春の2人も我に返り再び会議の場に戻ってきた。

美琴「超電磁砲、雷撃の槍、砂鉄剣、どれを使っても傷つけられないでしょうね……」

黒子「ですが、相手も所詮は人間。必ずどこかに隙があるはずです。まずはそれを考えてみては如何でしょう?」

美琴「そうね…」

実際、打開策など浮かぶかどうかすら不明だったが、そこで立ち止まってるわけにもいかないので美琴は強引に話を進めようとした。

美琴「じゃあまず、これからそれぞれ何をするか決めましょうか」

黒子「私は今言ったように、一方通行の打開策を考えてみますわ。あと、上条当麻のほうも。私の空間移動をどのように使えば、最も効率的に彼らに打撃を与えられるか、と。それと、出来うる限り空間移動(テレポート)の能力も磨きたいと思います。そう簡単に伸びるかどうか分かりませんがね」

美琴「分かったわ。じゃあ佐天さんはどうする?」

佐天「あたしですか? うーん…ぶっちゃけ、あたしのような無能力者に何が出来るかどうか。一方通行に攻撃が効かないなら、上条当麻との肉弾戦用に何か対策でも考えとこうかな……。ああ、あとバットの素振りも頑張りたいと思います。メジャーリーガー級にバッティング能力を上げてみますよ!」

美琴「そう。頼もしいわね。了解したわ。頑張ってね!」
美琴「初春さんはどうしようか」

初春「私は…パソコンを使って色々と対策を考えてみたいと思います。ネットワークに接続出来れば、過去の誘拐事件についてまた調査出来るかもしれませんし」

佐天「でも、あのパソコンって使えたっけ? 確かバッテリー切れてたはずじゃ…」

初春「あ…」
初春「どーしよー」ウルウル

742: 2010/06/25(金) 22:18:42.00 ID:uAOqQxg0
美琴「バッテリーが切れてるだけでしょ? それじゃあ私の電気で充電してあげるわよ」

初春「あ、そんな手がありましたか!」

美琴「後で持って来なさい。ちゃぁんと使えるようにしてあげるから」

初春「ありがとうございます!」

佐天「うーむやっぱり心強い能力ですねぇ」

黒子「お姉さまはどうしますの?」

美琴「私も黒子と同じように、自分の能力の訓練ぐらいしか出来ないけど、他にもあいつら2人と戦闘に突入した時のシミュレーションのパターンを出来うる限り捻出してみるわ。どういう組み合わせでどういう風に戦えば、あいつらに打撃を与えられるか、ってね。今でこそ第3位の頭脳をフルに生かす場面だからね!」

黒子「なるほど、相変わらず頼もしいですわね」

美琴「それから、みんなに言っておくけど、自分のことばかりに集中しては駄目よ。自分のやるべきことをやる間に、他の3人ともそれぞれ一緒に何か考えてみたり、対策を組み合わせてみたりするのよ。そうすることで、より奴らを倒す道筋が開けてくるってもんよ」

佐天「なるほど。それは一理ありますね」

美琴「ええ。だから定期的に今回のような合同作戦会議も開くわよ。各々が出した成果をまとめた上で、より明確な形にするためにもね。分かった?」

佐天「はい!」

初春「分かりました!」

黒子「承知しました」

美琴「じゃあ、早速取り掛かるわよ」


美琴「超電磁砲(レールガン)組、ファイトオオオオオッ!!!」



美琴黒子佐天初春「ファイトオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!」



自分の長所を生かすため、4人の少女たちは全力で行動を開始する。
しかし、彼女たちの上条当麻・一方通行に辿り着くまでの道は、まだ遠い――。

743: 2010/06/25(金) 22:24:57.78 ID:uAOqQxg0
とある喫茶店――。

若い男から、現在、学園都市で発生しているテロや事件を解決するための協力を申し出された婚后。
自分の能力で少しでも被害者たちを救えるのではないか、と考えた彼女はより深い話を聞くため、若い男と共に喫茶店に来ていた。

若い男「本当にすみませんね。別に強制ではないので、無理して受ける必要もないんすよ?」

婚后「いえ、そういうわけにはいきませんわ。私の能力で少しでも助かる人がいるなら、断る理由はありませんもの」

若い男「いやあ、優しい人だなー。きっと、被害者の方たちも救われる思いでしょう」

それを聞き、婚后は淡い笑みを浮かべた。

婚后「それにしても、その研究者の方はまだなのですか?」

若い男「遅いっすよね。そろそろ来ると思うんですけど」

若い男によると、『能力平和利用研究所』の支所が近くにあるらしく、より詳しい話を聞くにはそこに所属する研究者の話が必要とのことだ。そういうわけで、婚后は若い男と共にその研究者を待っていたのだ。

若い男「あ、来た来た! こちらです!」

若い男が手を振ると、真っ黒なスーツを着込んだ1人の男が歩いてきた。

婚后「(この方が研究者……)」

一目見て、婚后はどこか違和感を覚えた。
別に研究者であっても、公の場に出る時はスーツぐらい着ても何の不思議もないのだが、それ以前にどこか不思議な感じがしたのだ。似合わない、と言うよりもスーツを着慣れていない感じだった。

若い男「こっちへ」

促され、スーツ姿の研究者は婚后の向かいの席に座る。

研究者「どうも初めまして。以後、お見知りおきを……」

ボソボソと喋るように、研究者は名刺を差し出してきた。

婚后「『甲津 法一(こうつ ほういち)』さんですのね?」

研究者「…………………」

婚后「……あ、よ、宜しくお願いしますわ……」タジタジ

746: 2010/06/25(金) 22:31:47.83 ID:6SiNaDs0
若い男「駄目っすよ甲津さん。可愛い女性を前にしたからってwww 無愛想なのは嫌われますよww」

どこか、無口でいて人見知りをしそうな人だな、と婚后は研究者を見て思った。別にそれでも問題無かったのだが、次の瞬間、婚后は研究者を見て寒気を覚えた。

研究者「………………」キッ

研究者が、軽口を叩いた若い男を睨むように横目で窺ったのだ。その視線は、まるで殺意でも込められているようなものだった。

婚后「………っ」

若い男「あ、すんませんww やだなあ、ただのジョークなのにwww」

しかし、そんな殺気だらけの目を向けられても、若い男は普段から慣れているのか軽い対応で簡単に流した。

婚后「………………」

若い男「でー…すいませんね。じゃ、早速本題に入っていきますね」

婚后「あ、はい、どうぞ……」

若い男「じゃあまずこちらの資料からなんすけど…」

それから小一時間ほど、若い男による説明は続いた。
休校措置の影響からか、店内はまばらに人がいるだけで学生の姿はほとんどない。常盤台の制服を着た女子生徒が若い男たちと一緒にいれば目を引きそうなものだったが、誰も対して気にはしていないようだった。

婚后「………………」

若い男「――――――」ペチャクチャ

研究者「………………」

若い男「――――――」ペチャクチャ

ほとんど若い男が一方的に喋るだけで、研究者はよほど重要なことでない限り口を開かなかった。婚后はそんな研究者をたまに横目で窺ったが、彼は腕を組んで黙ってるだけでどこか興味無さげに虚空を見つめていた。

若い男「じゃあ、まずは今から研究所に伺ってみますか?」

婚后「え? あ、はい…そうですわね」

研究者「……………」ガタッ

婚后が答えるがすぐ、研究者が立ち上がった。
婚后はここで拒否することも出来たのだが、研究者に気を取られていた彼女は成り行きで承諾してしまったのだ。かと言って、若い男の説明を聞いた限り、断る理由も特に無かった。

若い男「……………」Prrrrrrr....
若い男「あ、傘見さん? 俺っす、真堂場っす。運転手に喫茶店近くまで来るように伝えてくれます?」
若い男「ん? ええ、はい、そこですそこ。宜しくお願いしまっす!」ピッ

750: 2010/06/25(金) 22:38:53.20 ID:NjsOlXM0
若い男「あ、すんません時間取らせて。じゃあ行きましょうか?」

婚后「え、ええ……」

若い男「研究所にいる他の能力者さんたち、婚后さんが来ると知って大喜びしてるようっすよ」

婚后「そうなの?」

若い男「ええ、もちろん! やっぱりみんなの期待の星ですからねぇ!」

婚后「ま、まあ当然ですわ」

照れを隠すように婚后は扇子を口元に寄せる。
そして、婚后は若い男と研究者に連れられ喫茶店を出た。少し歩くと、自動車が1台停まっていた。

若い男「ああ、あの車です。すんません傘見さん、わざわざ」

若い女「いえいえ、これが私の仕事ですから……」

自動車の側で立っていた1人の若い女性。彼女もまた女性用のスーツを着ていた。
見たところ、若い男の同僚なのかもしれないが、婚后は何故か彼女とどこかで会ったような気がした。

若い女「どうぞ」ガチャッ

若い女が後部座席の扉を開けると、研究者が先にドカッと無遠慮に乗り込んだ。
婚后はジッと若い女の顔を見つめながら、車に乗り込む。

婚后「…………」ジッ…

若い女「…………」

バタン

婚后が乗り込んだ後、若い女も後部座席に乗り込み扉を閉めた。

若い男「じゃあみんな乗りましたね? 運転手さん、宜しくお願いしやっす」

助手席に乗った若い男が運転席に座る男に話しかける。運転手はただ頷いただけだった。

婚后「あの……」

若い女「はい?」

婚后「貴女、常盤台中学の超電磁砲(レールガン)、御坂さんに似ていません?」

若い女「よく言われます、と傘見は返答します」

婚后「ふーん、世の中は狭いですわね……」

751: 2010/06/25(金) 22:47:47.14 ID:O2Utmr60
婚后を乗せた自動車が出発する。
学園都市の街中を抜け、やがて車は高速道路に入り込む。その間、助手席に座る若い男がペチャクチャと話していたが、婚后の両隣に座る研究者と若い女は直接何かを訊ねられた時以外、口を開くことはなかった。

婚后「(何故この2人はこんなにもローテンションなんですの?)」

研究者「………………」

左を見れば、でかい態度で腕組みをしたまま窓の外も見ず正面を見据えているスーツ姿の研究者。どこか眠たそうだ。

若い女「………………」

右を見れば、揃えた足の上に行儀よく両手を添え窓の外を見ているスーツ姿の若い女。どこか感情が無いような印象を受ける。

婚后「……………(気まずいですわ)」
婚后「(と言うか何ですのこの重苦しい雰囲気は!? 1人で喋り立てている助手席の男が空しく見えますわ)」
婚后「(それにさっきから、妙に軽い頭痛を覚えますわね……。はぁ、とにかくもう少し我慢ですわ)」

それからも時間を掛けて車は進んだ。しかし、1時間経ってもまだ目的地に着く気配は無かった。

婚后「(随分かかりますわね…。いい加減早くしてくれないかしら? 頭痛も治まりませんし…)」
婚后「あの…真堂場さん……」

若い男「ん?何すか?」

婚后「まだ、お着きになりませんの?」

若い男「ああ、後もう少しっすよ。ねえ運転手さん?」

婚后「後もう少しって……」

気軽に答える若い男に、一言も発せずただ頷くだけの運転手。そして両隣には寡黙な研究者と若い女。どこか怪しい面子を見回し、婚后は僅かながら不安を覚えた。

婚后「あの……本当に『能力平和利用研究所』に向かっているのですわよね?」

若い男「そっすよwwwwww」

婚后「………にしては随分時間がかかっているような……」

不安が高まる中、婚后はふと窓の外を眺めた。

婚后「…………え?」

いつの間にか高速道路を降りていたらしいが、どうも周囲の景色がおかしい。明らかに都市部から離れ、建物が少ない地域を走っている。

婚后「ちょ、ちょっと! もう1度お聞きしますけど、本当に『能力平和研究所』に向かっているのですよね!?」

若い男「……………そうですよ……」

婚后「!?」

752: 2010/06/25(金) 22:53:13.31 ID:O2Utmr60
若い男の声の抑揚がさっきと違う。
ルームミラーに目をやると、運転手の顔が映ったが、帽子を深く被り込んでいるのか目元が暗くなっててよく見えない。

婚后「…………」ゾクッ
婚后「い、いい加減にして下さらない? もう2時間近く経っているんですわよ!!」

助手席に手をかけ、婚后は叫ぶ。

若い男「…落ち着いて下さいよ。目的地はすぐそこですから……」

婚后「さっきからそればっかりじゃないですの!」

と、婚后は何か背後から嫌な気配を感じ取った。振り返ると、研究者と若い女がジッと婚后の顔を見つめていた。

研究者「………………」

若い女「………………」

婚后「な…何ですの!? その目は? あ、貴方たち、本当に研究者なんでしょうね!?」

若い男「……………そうですよ」

相変わらず、若い男は後ろを見ずに答える。

婚后「嘘をおつきなさい!! 私を騙しましたわね!!」

若い男「…騙しただなんてそんな……」

婚后「この私を常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですこと!?」

若い男「…狼藉だなんて、難しい言葉知ってますねー」

婚后「…っ」イラッ
婚后「車を今すぐに停めなさい!! これは警告ですわよ!! 私はレベル4の大能力しゃ……」

若い男「この頃、いい音楽ありませんよねー」

婚后「はぁ!?」

婚后の声を遮るように若い男は話を変えた。

若い男「でも、最近良い歌を手に入れたんですよー」

婚后「何を言ってるの?」

753: 2010/06/25(金) 22:59:30.39 ID:O2Utmr60
若い男「あれ? さっきから、流してるのに気付きませんでしたか?」

婚后「歌なんて聴いてもいませんわ! それより早く車を……」

若い男「おかしいな。頭痛くなったりとかしてません?」

婚后「………え?」
婚后「どうしてそれを……?」

若い男「この歌、特定の聞き手に頭痛を起こさせるんですよ。ある種の音波を使ってね。ただ、この歌…って言うかこのCD、戦利品みたいなもんですし試作品のようなものですから1つしかないし、1回きりしか使えないんすよね」

婚后「………!?」

婚后は訳も分からず若い男の話を聞き続ける。しかし、頭痛にも似たような症状がずっと彼女を苛んでいるのもまた事実だった。

若い男「ただ改良版ですから、頭痛を起こさせる聞き手の条件を選べるんですよ。例えば、『レベル2』の能力者だとか『レベル3』の能力者とかね」

婚后「!!!」

若い男「あ、気付きました? 今、婚后さんのために『レベル4』能力者用に設定してあります」

婚后「何を……」ズキズキ

頭痛は続く。

若い男「知らないなら教えてあげますよ。この曲名……」





若い男「『キャパシティダウン』って言うんですよ」





振り返ったと同時、若い男はCDプレーヤーのボリュームを上げた。

婚后「くっ!! ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

755: 2010/06/25(金) 23:05:41.69 ID:O2Utmr60
キイイイイイイイイイイイイイイインという超音波にも似た音が婚后を襲う。
彼女は耐え切れず頭を抱える。

若い男「本当はこんな手荒な真似したくなかったんすけど、すいませんね……」

婚后「やっぱり……貴方たち、研究者では……くっ」

若い男「嘘をついたことについては謝ります」

婚后「ふざけ……」

若い男「それより、貴女が御坂と白井の脱走の手助けをしたんですよね?」

婚后「!!!!」

若い男「やっぱり、ビンゴだったか」

若い女「カマをかけた甲斐がありましたね、と傘見はいい加減鬱陶しくなってきた偽名に辟易しながら答えます」

若い男「まぁな。しかし相手はレベル4の大能力者。これぐらいやらないと下手にこっちがやられかねんから」

婚后「……貴方たちが……泡浮さんと…湾内さんを誘拐した張本人……くっ」

若い男「彼女たちの知り合いですか。残念ながら、彼女たちはこの世界にいませんよ?」

婚后「!!!!????」

若い男「“氏んでる”んですよ。今は天国にいると思います」

婚后「そんな!!!!!!」

757: 2010/06/25(金) 23:11:43.28 ID:O2Utmr60
若い男「色々と事情があるんですよ。くんで下さい」

婚后「ふ、ふざけないで……」

若い男「ふざけてなんていません。我々は本気です」

婚后「あ、貴方たちに……御坂さんを止められるとでも……お思いで?……うぐっ…」

若い男「…………………」

婚后は何とか状況を打開しようと、辺りを見回し、そして左隣にいた研究者と目が合った。
相変わらず研究者は無言で婚后を見つめているが、どうもさっきまでとは様子が違うように見える。と言うよりも、その研究者は初めから外見からして違和感だらけだった。何故なら…… 


  黒  い  ス  ー  ツ  に  白  い  髪  は  あ  ま  り  に  も  不  釣  合  い  だ  っ  た  か  ら  だ 


若い男「抵抗はやめたほうがいいですよ。その男、レベル5の超能力者ですから」

婚后「レベル5!?」

驚き、婚后はもう1度スーツ姿の研究者を見る。そして、絶望の色を顔に浮かべた彼女は体勢を変え、反対の扉から逃げ出そうと試みた。

婚后「た、助けて!!」

若い男「まあ今は狭いスペースに3人もいるので、反射は切ってるようですけどね」

研究者「………………」

婚后「くぅ…あ、頭が……」

扇子が床に落ちる。左手で頭を抑えながら、婚后は右手を扉のノブに伸ばす。そんな彼女を見ても、何故かスーツ姿の若い女は何も動こうとしなかった。まるで、その行動が無駄だと言うように。

婚后「もう少し……」

若い女に乗り上げる格好で、婚后は更に手を伸ばす。

婚后「あと少しで……」

ようやく、ドアノブに手が届いた。
と、その時だった。

758: 2010/06/25(金) 23:18:27.99 ID:O2Utmr60



ガッシィッ!!!



と、後ろから肩を強く掴まれた。振り返る婚后。


そこには、見たこともないような不気味で狂気を孕んだ笑みを浮かべた研究者の姿があった。



研究者「あはははははははははははははははは!!!!!! ひゃはははははははははははははははははは!!!!!!!!」



婚后「!!!!!!!」ゾクウッ!!

グググッ、と婚后の肩を掴む研究者の力が強まる。

婚后「い、いや……」カタカタブルブル

逃げようとも逃げ切れず、研究者の怪物にも似た笑顔が近付いてくる。

婚后「やだ……来ないで……」ガクガクブルブル

そして、怪物はニヤァと笑みを浮かべながら震える婚后に告げた。






「  氏  ン  で  く  れ  ね  ェ  か  ?  」






婚后の黒い瞳に、絶望が襲い掛かった――。

807: 2010/06/26(土) 21:38:52.90 ID:HBnTjmI0
とある廃ビル(美琴たちのアジト)――。

カタカタカタと、キーボードを叩く音がフロアに鳴り響く。初春が机の上でノートパソコンを使っているのだ。

初春「これをこうやって……こうして…」

実はそのノートパソコンは拾い物で、バッテリーの電池も切れていたのだが、美琴の電気によって回復させたのだった。

佐天「うーん?」

隣では、佐天がどこからか見つけてきたラジオをトントンと叩いている。

美琴「どう? 初春さん調子は?」

初春「あ、御坂さん。またバッテリー切れそうなので、充電お願いします」

美琴「はいはいお安い御用だ」ビリビリッ

初春「おーさすがです。ありがとうございます」

美琴「今どれぐらい進んでるの?」

初春「パソコンのスペックをあらかた調べて、どんなことが出来るのか調べてみました。そんなに古くない機種で助かりました。CPUも高性能で私にはおあつらえ向きですね。今、ネットワークのデバイスを改造して、何とか近くの無線LANを拾えないか試みてるところです」

美琴「結構進んでるじゃない。さすが初春さん」

初春「えへへ」

美琴「その調子で頑張ってね。それで……佐天さんは何やってるの?」

顔を反対に向ける美琴。見ると、佐天が古びたラジオ相手になにやら格闘していた。

佐天「これ拾ったラジオなんですけど…うんともすんとも言わなくて…」

黒子「あらあら皆さんお揃いで。どうかいたしましたの?」

と、そこへ黒子も話の輪に加わってきた。

美琴「なんか佐天さんがラジオ拾ったみたいなのよ」

佐天「ええ、でもぜんぜん動かなくて」

808: 2010/06/26(土) 21:45:10.86 ID:HBnTjmI0
美琴「ちょろっと貸してみて」

美琴は佐天からラジオを受け取り、手の中に収めると、電気を発した。

ビリッ

ジジジジ……

すると、数秒ほど空電ノイズが響いた後、

『続いてのニュースです……』

なんと、ラジオが復活した。

佐天「おおお、聞こえたーーーー」

『………今朝、第5学区の廃墟で爆発があり……』

黒子「お姉さまにかかればどんな電化製品も永久に使えますね」

『………調べでは、廃墟は学園都市に潜入中のテログループのアジトと……』

初春「コンセントいらずで助かりますよー」

『………目撃談では、1人の外国人と思われる男が廃墟に入り数分後に爆発した模様で……』

美琴「こーら。私はどこぞの電気系モンスターじゃないのよ?」

『………外国人の外見は、赤い髪に教会の神父のような服を身に纏い……』

佐天「でもこれで多少は便利になりましたね」

『………現場では外国人の男も含め生存者がいる可能性は絶望的と見られ……』

初春「とにかく、あと少しで独自のネットワーク構成に成功しそうです。そうなったら、ネットも使えるようになりますから、情報も得られるようになります」

美琴「やるわねぇ。頼むわよ。上条当麻と一方通行に辿り着くためなんだから」

初春「はい」

美琴が初春の肩をポンポンと優しく叩いて褒めると、初春は照れくさそうに返事をした。

809: 2010/06/26(土) 21:52:00.21 ID:HBnTjmI0
佐天「………そう言えば気になってたんですけど」

不意に、佐天が美琴に訊ねてきた。

美琴「なぁに?」

佐天「あたしたちが、上条当麻と一方通行に負けた時、もう1人小さい女の子がいませんでしたか?」

美琴「…」ピク

美琴が小さく反応した。

黒子「ああ、確かにいましたわね。10歳ぐらいの女の子が、一方通行に連れられて」

佐天「初春、あの子のこと知ってる素振りだったけど、知り合いなの?」

初春「いえ、知り合いじゃないです。ただ以前、街を歩いてた時に一時だけお世話をしただけで、名前も素性も全く知りません。私は『アホ毛ちゃん』って呼んでるんですけど、一方通行とはどんな関係があるんでしょうね」

佐天「でも…引っ掛かってるんだけど、あの子、御坂さんに似てるよね?」

その言葉を機に、一気に3人分の視線がザッと美琴に寄せられた。

美琴「………っ」

美琴は思わず、と言うように反射的に顔を逸らしてしまう。

黒子「お姉さま確かあの時、あの子のこと『打ち止め(ラストオーダー)』って呼んでいましたが……やはりお姉さまの知り合い…いえ、身内ですか? やたらお姉さまに似てる感じがしたのですが…」

美琴「…………………」

黒子「お姉さま?」

黙ったまま顔を僅かに俯け、美琴は3人と視線を合わせようとしない。

810: 2010/06/26(土) 22:02:02.63 ID:HBnTjmI0
『打ち止め(ラストオーダー)』―― 一方通行(アクセラレータ)の『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』において生産された2万体の美琴のクローン―『妹達(シスターズ)』の司令塔とも呼べる存在。
美琴は彼女のことや彼女と一方通行の関係については知っていたが、何故彼女が、誘拐殺人を働いている一方通行と共にいるのかは分からなかった。
思い出す限り、彼女が無理矢理従わされているような感じはしなかった。そもそも一方通行は打ち止めに対しては、どんな内容であっても強要はしないだろう。

佐天「親戚とかですか?」

初春「おーい御坂さーん」

美琴「………………」

となれば、打ち止めは自らの意思で一方通行の誘拐殺人行為に幇助している可能性が高い。そして、打ち止めが協力していると仮定するならば、妹達(シスターズ)も彼らに関係していると見るのが妥当だ。
妹達も自らの意思で協力しているのか、それとも打ち止めに命令されて協力しているのかは分からないが、少なくとも学園都市に残っている10人の妹達は何らかの形で関与しているはずだ。

黒子「…………お姉さま…」

美琴「ん?」

黒子「あの子供との間にどんな因果があるのかは存ぜませぬが、まだその関係を打ち明けられないとなれば、別に今すぐ無理矢理話す必要もありませんわ」

黙ったままの美琴を見て何かを察したのか、黒子が助け舟を出す。

初春「そうですね。別に今すぐ聞きたいってわけでもないですし」

佐天「また落ち着いて余裕があったらその時に話して下さい」

美琴「……………みんな、ありがとう…」
美琴「…お言葉に甘えさせてもらうわ」
美琴「ちょっと喉渇いたから、ペットボトル取りに行くわね」

元気の無い声でそれだけ告げると、美琴は部屋を出て行った。
彼女の後ろ姿を見送りながら、黒子は心配するように言う。

黒子「やはり、何かあるのですね」

佐天「ええ。何なんでしょうね?」

初春「まあそう簡単には話せない複雑な事情があるんでしょう。今はそっとしておきましょう」

美琴の寂しそうな背中がフロアから消えていった。

811: 2010/06/26(土) 22:11:36.29 ID:HBnTjmI0
廃ビルの地下――。

床に広げられた毛布の上に仰向けに転がり、美琴は組んだ両手の上に頭を乗せる。

美琴「『打ち止め(ラストオーダー)』か……」

美琴は、自分の幼い頃の姿に瓜二つな少女の顔を思い出す。

美琴「そして『妹達(シスターズ)』……」

美琴にとって、妹達(シスターズ)が生まれた経緯や、その顛末はあまり他人に口外したくないことだ。それが一番親しい仲である黒子や佐天、初春ならば尚更だった。
妹達の存在と、『絶対能力進化実験』は学園都市の闇にも繋がることだ。彼女自身、学園都市の闇はほとんど知らないが、それでも黒子たちには全く縁の無い世界。その片鱗を少しでも語ってもいいのか、垣間見せてもいいのか、美琴は迷っていた。
何より、彼女の個人的な感情でも、妹達のことは親友でもある黒子たちには知られなくなかったのだ。唯一、それを心から打ち明けられた存在はこの世にたった1人――。でも、その1人は今は………。

美琴「はぁ…駄目ね私ったら……」
美琴「でも、あいつらと対決する以上、黒子たちに隠し通すのは悪いわ。あの子たちは、私を信じ、頼ってくれてるんだから……」
美琴「……後ちょっとだけ。後ちょっと心の整理がついたら、あの子たちにも全て話そう…。うん、そうしよう……」

深く溜息を吐き、右腕を顔の上に覆うように置くと、彼女は目を閉じた。

813: 2010/06/26(土) 22:16:26.15 ID:HBnTjmI0
とある部屋――。

一方通行「はァ…肩凝ったぜェ~」

打ち止め「お疲れ様ー、ってミサカはミサカは缶コーヒーを渡してみる」

一方通行「おう、あンがとよ」

打ち止めから缶コーヒーを受け取り、ソファに腰を降ろすと一方通行は首をコキコキと鳴らした。

一方通行「ったくよォ…スーツなんて俺に似合わねェだろォが」

上条「まあそう言うなよ。レベル4の大能力者を嵌めるには、一芝居打つぐらいしないと逆にこっちが危ないんだからさ」

一方通行「けっ、何が一芝居だ。クソつまンねェ」

打ち止め「でも、スーツ姿の貴方も格好よかったなぁ、ってミサカはミサカは頬を赤くしてみるキャハ///」

御坂妹「馬子にも衣装……」ボソッ

一方通行「あァ? なンか言ったかァ?」

御坂妹「いえ別に…」

上条「そう言う御坂妹もスーツ、似合ってたぜ」

御坂妹「えっ……そ、それは、その…お褒めのお言葉ありがとうございます//// とミサカは突然掛けられたコトバニシンゾウガドキドキ……」ボソボソ

一方通行「イチャつくのもいいけどよォ、上条」

御坂妹「イチャ…っ!?///」

一方通行「でェ、どうすンだよ? あの常盤台の高飛車お嬢さまを氏なすのは上手くいったが……いずれ超電磁砲たちに知られる羽目になンぞォ」

上条「それがどうかしたか?」

至極簡単に、上条は答えた。

一方通行「分かってるだろ? いずれ超電磁砲どもがそのことを知ったら、余計に俺たちに抵抗して悪あがきすンぞ。アイツらが俺らに歯向かってくるたび、相手すンのも面倒くせェだろ」

御坂妹「………………」

打ち止め「………………」

一方通行「だったら、ンなちまちまやってねェで、いっそのこと超電磁砲どもを先にターゲットにしちまえまいいンだ」

御坂妹「…その意見にはある程度同意します。先にお姉さまたちを何とかして動けなくしたほうが我々の計画もスムーズにいくのではないでしょうか、とミサカは推測してみます」

一方通行の主張に、御坂妹が倣う。しかし、2人の意見を聞いても上条は表情を変えなかった。

815: 2010/06/26(土) 22:23:34.56 ID:HBnTjmI0
上条「………………」

御坂妹「いずれにしても、今のお姉さまたちの行動は目障りなだけです。あれだけ『深く関わるな』と言っているのに……。何なら、このミサカが直接出て行って話をつけてきましょうか?」

パリパリッと御坂妹の手に青白い電気が発生する。

一方通行「オマエが行ってもオリジナルに返り討ちにされるだけだろォが」

御坂妹「いえ、お姉さまや白井さまはともかく、残りの2人はレベル1の低能力者とレベル0の無能力者。2人がお姉さまと白井さまから離れた隙に襲撃して、ある程度のダメージを与えることが出来れば、お姉さまたちの行動に亀裂を生み出すことが出来ます」

一方通行「2人やられたぐらいで諦めると思うかァ?」

御坂妹「『諦める』のと『出来なくなくなる』のは別物です。確かに、佐天さまと初春さまは、能力者としての純粋な力は持ち合わせていません。ですが、お姉さまをサポートするには十分な知恵や技術を持っていると思われます。いえ、それ以前にお姉さまたちは『4人一緒』でいることが第一条件なのです」
御坂妹「そこに亀裂を生じてさせてしまえば、お姉さまたちの行動をかなりの確率で阻止出来る、とミサカは推測します」

上条「……そのために、2人を傷つけるのか?」

御坂妹「別に頃すわけではありません。一時的に、病院に収容されるレベル程度の傷を負わせれれば十分だとミサカは確信します」

上条「駄目だ」

上条は即答していた。

御坂妹「えっ…」

一方通行「………………」

上条「あいつらを真っ先にターゲットにしたら本末転倒だ。最初に言っただろ」

816: 2010/06/26(土) 22:30:14.04 ID:HBnTjmI0
御坂妹「ですがこのまま……」

上条「あいつらはさして脅威にならない。構ってるだけ時間の無駄だ。目の前に近付いてきた時だけ相手してやりゃいいんだ」

一方通行「まァ、視界の端でウロチョロされンのは鬱陶しいが、所詮、人間様の足元でウロチョロしてるネズミみたいなもンだからなァ」

上条「…………」

御坂妹「では、やはり放っておくのですか、とミサカは訊ねます」

不服そうな顔をして、御坂妹は上条を見据える。

上条「ああ、当初の予定通りにな」

御坂妹「……」

上条「話は以上だな? じゃ、俺は地上にいる仲間に現状報告してくるからな」

部屋を後にする上条。取り残される3人。
しばらくして一方通行が口を開いた。

一方通行「あのヤロウも優しいねェ。反吐が出るほどに……ケッ」

打ち止め「むーそんなこと言ったら可哀想だよ、ってミサカはミサカは説教してみる」

一方通行「あーはいはい」

御坂妹「…………………」

817: 2010/06/26(土) 22:36:24.37 ID:HBnTjmI0
第7学区・とある大通り――。

空が橙色に染まる頃、御坂妹は1人、バッグを掲げて大通りを歩いていた。

御坂妹「…………………」

特に目的もなくトボトボと歩く御坂妹。
休校措置はまだ解除されていなかったが、自分がテロや事件に巻き込まれるとは露とも思っていないのか、何人かの学生たちは随所に見かけられた。



   ――「あいつらはさして脅威にならない。構ってるだけ時間の無駄だ。目の前に近付いてきた時だけ相手してやりゃいいんだ」――



御坂妹「あの人は甘すぎます。相手がお姉さまだから半端な対応をとっているのでしょうか。作戦や計画と言ったものは、不安要素を全て排除して初めて成功するものです、とミサカは溜息を吐きます」

彼女は愚痴を零しつつ、歩みを進める。

御坂妹「まあ、今は文句を言ったところで始まりません。気分転換に喫茶店にでも入りますか」

キョロキョロと辺りに喫茶店らしきものがないか、彼女は顔を振ってみた。

御坂妹「…ありませんね」
御坂妹「……ん? あれは…?」

ふと、裏路地の方に注意がいった。

御坂妹「!!!!!!!」

驚き、絶句する御坂妹。――無理も無かった。そこには、いるはずのない人物が2人立っていたからだ。

818: 2010/06/26(土) 22:42:33.45 ID:HBnTjmI0
御坂妹「……佐天さまと、初春さま………」

見ると、佐天と初春の2人が裏路地の陰から身を隠すようにして表通りを覗いている。何をしているのかはよく分からなかったが、初春の胸元には開かれたノートパソコンらしきものが抱えられていた。ときたま、初春はそっちの画面をチラッと窺っている。

御坂妹「……何て…危機感の無いお二方なのでしょう……。今、ご自分たちが逃亡中で追われの身であることを理解しているのでしょうか? ……てっきりどこかの隠れ家に篭っているとでも思っていたのですが……」

佐天と初春は裏路地の陰に隠れているものの、よく目を凝らせばすぐにその姿を視認できる。まるで、『自分たちはここにいますよ』とアピールしているかのように。そのことに気付いているのか気付いていないのか、2人は普通に何かを話し合っていた。

御坂妹「………………」



   ――「あいつらはさして脅威にならない。構ってるだけ時間の無駄だ。目の前に近付いてきた時だけ相手してやりゃいいんだ」――



御坂妹「…………………」

上条の言葉が脳内に響く。
しかし………

御坂妹「目の前に無力な子猫を見つけておきながら、これを取り逃がす空腹の犬がいるでしょうか……」

初春と佐天は、変わらず隙だらけの姿で裏路地にいる。

御坂妹「貴方の意向に逆らった形になりますが、全ては我々の計画完遂のため。今は、たとえ彼女たちであっても障害となる不安要因は排除すべきです……とミサカは心を鬼にします」

彼女は視界の先にいる2人を据え、掲げたバッグの重みを確かめると、静かにその場を離れた。

820: 2010/06/26(土) 22:48:39.00 ID:HBnTjmI0
その頃、自分たちが狙われているのも露知らず、初春と佐天は相変わらず裏路地の陰にいた。

佐天「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

初春「そうですね。もう十分だと思います」

初春は抱えているノートパソコンの画面を見る。

佐天「今日の夕飯はなんだろね」

初春「缶詰や保存食品に決まってるじゃないですか」

佐天「うー…そろそろ普通の食事が恋しくなってきたー」

初春「まだ2日目ですよ?」

彼女たちは踵を返し、路地の奥へと歩いていく。

佐天「帰ったら素振りの練習しよっと」

初春「佐天さん、バットを構える姿がサマになってきましたからねー」

佐天「えっへっへ、どんなもんだい。ま、あの上条当麻と一方通行を倒すためには、努力しないといけないからね!」





「残念ですが、その努力もここまでです」





佐天初春「え?」





御坂妹「……と、ミサカは本気モードに移行します」






822: 2010/06/26(土) 22:54:20.64 ID:HBnTjmI0
佐天と初春が振り返ったその先……別の路地の細道に、常盤台中学の制服を着た1人の少女がそこにいた。何故か……
  顔  に  ゴ  ー  グ  ル  を  覆  い  、  胸  に  ラ  イ  フ  ル  の  よ  う  な  も  の  を  抱  え  な  が  ら  。

佐天「!!!!!!」

初春「!!!!!!」

暗闇が支配する裏路地の中、その少女――御坂妹は僅かな夕日の明かりを背に、徐々に佐天と初春に近付いてくる。

御坂妹「貴女がたの逃亡生活もここで終わりです」

佐天「な………」

初春「え………」

正体不明の突然の闖入者を前に、佐天と初春が恐怖の色を浮かべる。
そして御坂妹は、佐天と初春の2人を見据えると、ただ一言だけ告げた。





御坂妹「……と、ミサカは狩りの開始をここに宣言します」





ゴーグルの奥の彼女の目が、ギラリと不気味に光った――。

869: 2010/06/27(日) 21:35:21.34 ID:CsFSpKQ0
佐天「誰あんた……?」

佐天は目の前に唐突に現れた1人の少女に質問する。
少女――それだけなら佐天も初春も彼女に恐怖を覚えることなどなかったはずだ。
しかし、その少女の顔半分をゴーグルらしきものが覆い、胸に黒光りするライフルのようなものを見せられれば、話は違った。

御坂妹「ミサカはミサカです、とミサカは告げます」

そう言って御坂妹はゴーグルを上に押し上げた。

佐天「!!??」

初春「!!??」

佐天初春「御坂さん!!??」

驚き、佐天と初春は同時に叫ぶ。

御坂妹「……妹です、とミサカは必要最低限の説明だけ付け加えます」

佐天「妹?」

初春「妹って……」

御坂妹「……妹は妹です、とミサカは再度述べます」

佐天「何を………」

御坂妹「何を? 簡単なことです。ミサカは貴女たちの排除に来ました」

佐天初春「!!!!????」

870: 2010/06/27(日) 21:41:25.70 ID:CsFSpKQ0
御坂妹「分かりませんか? ミサカは貴女がたの宿敵・上条当麻と一方通行の仲間です、とミサカは衝撃的事実を打ち明けます」

佐天「仲間!?」

初春「あの2人の!?」

それだけで十分だった。それだけで彼女たちは動揺し、冷静さを失っていた。
佐天と初春は横目で視線を交わす。
彼女たちの足元にあるのは1つのマンホール。蓋に『D-14』と刻まれた、隠れ家への通路の入口だ。逃げ場所はすぐ真下にあるのに、佐天と初春は、敵を前にして何も出来なかった。

御坂妹「お話も飽きました。そろそろ、始めましょうか」

佐天初春「!!!!」

御坂妹「恨むなら、逃亡中でありながら愚かにも堂々と街に姿を現したご自分を恨んでくださいね、とミサカは準備が整ったことを告げます」

カチャッ

御坂妹の持つFN F2000の銃口が佐天と初春に向けられた。
初めて間近で見るアサルトライフルの銃身を見て、2人が慄く。

ダッ!!

御坂妹「!」

次の瞬間、佐天と初春は駆け出していた。

御坂妹「逃げますか……」

2人は更に路地の奥へと向かっていった。

御坂妹「まあそれぐらいのハンデなら構わないでしょう」

ガチャン

御坂妹はライフルの遊底を引くと、2人を追い始めた。

871: 2010/06/27(日) 21:47:39.68 ID:CsFSpKQ0
初春「佐天さん、どうしよう……?」

佐天「どうしようって、分かんないよそんなの…!!」

御坂妹と遭遇し、何とかその場から逃げ出してきた佐天と初春は今、必氏になって迷路のような路地を走り回っていた。

初春「妹って……どうして御坂さんの妹さんが上条当麻と一方通行の仲間なんですか!?」

佐天「だから分かんないってば!!」

焦りと緊張が2人の心を揺らぶる。
と、その時だった。

パパパン!!!

佐天初春「!!!???」

空気を切り裂くような金切り音が彼女たちの頭上に響いた。
急いで2人は振り返った。

御坂妹「鬼ごっこもいいものですね。ミサカは鬼ではありませんが、とミサカは当たり前のことを言って2人を追いかけます」

佐天初春「わあああああああああああああ!!!!!!」

佐天と初春の走るスピードが上げる。

御坂妹「頃しはしませんし、相手は戦闘の『せ』の字も知らないただの子供……フルオートの必要はありませんね」

ボソボソと呟きながら、御坂妹はライフルのセレクターを、フルオートからスリーショットバーストへ切り替えた。

御坂妹「ま、少し痛い目に遭ってもらうのは事実ですが……ん?」

不意に、御坂妹の視界から2人が消えた。どうやら角を曲がって逃げたようだ。

御坂妹「……貴女がたの足でミサカから逃げられると思っているのでしょうか、とミサカは呟いてみます」

872: 2010/06/27(日) 21:53:49.91 ID:CsFSpKQ0
容赦を知らない追跡者から逃れる佐天と初春。
不安と恐怖に苛まれた彼女たちが行き着いた先は、建設途中で工事が中止されたビルの跡地だった。

佐天「うわ! 行き止まり!?」

初春「お、追いつかれますよ!」

2人は振り返る。
そこに御坂妹の姿はない。だが、油断は出来なかった。

佐天「………よし!」

初春「え?」

ダッ

佐天は初春の手を掴んで、工事現場の中に入っていく。

873: 2010/06/27(日) 21:58:57.45 ID:CsFSpKQ0
御坂妹「建設途中で放棄されたビルですか……」

しばらくして、御坂妹がビルの工事現場までやって来ていた。彼女は、暗くシートで閉ざされた空を見上げる。

御坂妹「隠れても無駄ですよ、とミサカは予め注意しておきます」

ローレディーの体勢でライフルを構え、彼女は一歩、一歩と奥へ進んでいく。

御坂妹「…………………」

ヒュッ

御坂妹「!」

振り返り、音がした方に銃口を向ける御坂妹。

御坂妹「!!」

見ると、彼女に向かって、両手大のコンクリートの破片が飛んできた。

御坂妹「無駄な足掻きを……」

パパパァン!!!

バガァン!

しかし、御坂妹はいとも簡単に、破片をF2000で粉微塵にした。

ヒュッ

今度は背後から音がし、彼女は軽快にターンすると、同時にライフルを発砲した。

パパパァン!!!

バガァン!

連続で発射された3発の5.56mm弾がコンクリート片を粉微塵にし、御坂妹の目の前をバラバラと落ちていく。

御坂妹「一体何のつもり………ん?」

タタタタタタ……

背後から足音が聞こえた。御坂妹が振り返ると、障害物から飛び出した佐天が全速力で走っているのが見えた。どうやら彼女は数m先の、数段に重ねられた土嚢の陰に逃げ込もうとしているようだった。

御坂妹「……飛んで火に入る夏の虫」カチャッ

容赦なく彼女は、佐天に銃口を向ける。

御坂妹「頃しはしません。ほんの少し怪我を負わせれば簡単に勝負がつきます、とミサカは彼女の足を狙ってみます」

874: 2010/06/27(日) 22:06:38.40 ID:CsFSpKQ0

パパパァン!!! パパパァン!!!

佐天「!!!!!」

驚いた佐天の顔が強張り、全力疾走で走っていた彼女が更にスピードを上げる。
佐天の足を貫くべく御坂妹から放たれた銃弾は、彼女の足跡を辿るようにバスッバスッと地面に着弾していく。

パパパァン!!!

しかし、上手く逃げ切った佐天は素早く土嚢の陰に隠れてしまった。

パパパァン!!!

ドスッ! ドスッ! ドスッ!

と、その時だった。
止まることのなかった御坂妹の銃弾が土嚢を突き破った瞬間。

御坂妹「!!!???」

土嚢から撒き散らされた石灰が、一気に周囲に浸透した。

御坂妹「これは……」

――目くらまし。わざわざ佐天が姿を晒してまで走ったのはこれが狙いだったのだ。
ダットサイトから目を離し、御坂妹は周りに警戒の視線を流す。

御坂妹「しかし、これで逃げ切れると思っているのでしょうか。だとしたら…とんだ勘違いですね、とミサカは忠告しておきます」

石灰に覆われた視界の奥にいるだろう佐天に向けて彼女は言葉を発する。

御坂妹「工事現場から出るためにはミサカの側を通り抜ければなりません。それをミサカが見逃さないとでも?」

しかし、相手からは何も返事が無い。

御坂妹「………………」

ヒュッ!

その時、前方から音がした。
咄嗟にライフルの銃口をそちらに向けた御坂妹が見たのは、彼女に向かって飛んでくる破片だった。

御坂妹「またそれですか」

パパパァン!!!

御坂妹は飛来した破片に向けて発砲する。
が………

御坂妹「なっ………」

876: 2010/06/27(日) 22:13:03.38 ID:CsFSpKQ0
実際にはそれはコンクリートの破片ではなく、スプレー缶か空き缶のような円柱形のものだった。
無論それだけなら危険は無いのだが、問題は御坂妹が破壊したその物体の中に、大小様々な石が詰められていたことだ。

御坂妹「くっ……」

石つぶてが彼女を襲う。鋭い角を持った石が彼女の頬を軽く裂いた。
御坂妹は降り注ぐ石から反射的に左手で顔を覆ったが、それが仇となった。

初春「わああああああああああ」

御坂妹の背後から初春が現れた。石灰によって視界を極端に狭められていたため、気付かなかったのだ。

御坂妹「!!!!????」

カチャッ

右手だけで銃口を向けようとするが、それを予測していたのか初春は持っていた鉄パイプで彼女の右手を叩いた。

御坂妹「チッ……!!」

御坂妹の右手がライフルのグリップから滑り落ちる。
3点スリングで肩に提げていたため、地面に落ちることはなかったが、それでも彼女の手元から唯一の得物は放れてしまった。

初春「うわああああああああ!!!!」

その重さにつられているにも関わらず、初春は鉄パイプを御坂妹に向けて振り下ろさんとする。

御坂妹「くっ!」

877: 2010/06/27(日) 22:19:33.47 ID:CsFSpKQ0

ドガッ!!!

咄嗟に御坂妹は、左足を強く地面に踏みしめ、遠心力も使ってその細い右足を力一杯薙ぎ、初春のパイプを蹴り飛ばした。

初春「あっ!!」

カランカラーン!!!

初春の手元から鉄パイプが放れていく。

バチバチッ!!!

当然、その隙を見逃さなかった御坂妹は、がら空きになった初春の身体に向かって左手から発した電撃を食らわせようとした。
が、しかし…

佐天「でえええええええええええええいい!!!!!」

御坂妹「!!!!!?????」

初春に気を取られていたためか、御坂妹は後ろから飛び掛ってくる佐天に気付く余裕が無かった。
鉄パイプを持った佐天が御坂妹の顔を狙う。

佐天「もらったああああああああ!!!!!」
佐天「!!!???」

ビリビリビリッ!!!

御坂妹の右手から電気が発した。そして、彼女の右手は牽制するように佐天の目の前でピタと止められた。

878: 2010/06/27(日) 22:25:19.25 ID:CsFSpKQ0
佐天「うっ…くそっ……」

御坂妹「ハァ…ゼェ…ハァ…」

切れた頬から血を垂らしながら、御坂妹は佐天を見据える。

佐天「………っ」

初春「佐天さん!」

御坂妹「動かないで下さい、とミサカは少々苛立った声で忠告します」

佐天の顔の目の前では御坂妹の右手から電気が発しており、逆に初春の顔の目の前でも同様に御坂妹の左手から電気を発せられていた。

佐天「……『電撃使い(エレクトロマスター)』!?」

場は一時、こう着状態となる。

御坂妹「ミサカの得物がライフルだけだと思ったのですか? 貴女はどうせミサカが生まれた経緯もご存知ないようですが、ミサカはお姉さまと同じ能力を使えるのですよ? もっとも、威力は劣りますが……」

佐天「そんな……」

御坂妹「と言っても、本気で電撃を放てばミサカでも人を頃すことは出来ます、とミサカは説明しておきます」

佐天「チクショー……」

879: 2010/06/27(日) 22:31:38.13 ID:CsFSpKQ0
御坂妹「無闇には頃しません。ただ、貴女がたの存在は“色んな意味で”厄介なのです。だから、病院送りになるほどの怪我だけは覚悟して下さいね」

佐天「…………っ」

初春「ううう……グスッ」

御坂妹「これは一応貴女がたのためでもあるのですよ?」

佐天「ふざけんな……」

初春「ヒグッ……グスングスン…」

御坂妹「さて……」

佐天と初春を順に横目で窺う御坂妹。

御坂妹「お喋りも飽きました。少し痛いかもしれませんが、貴女がたには病院でしばらく世話になるぐらいの火傷を負ってもらうとしますか、とミサカは両手の電撃の威力を強めます」ビリビリッ

佐天初春「!!!!????」

御坂妹「最初から貴女がたのような、経験も無い、ろくに戦闘も出来ない、暗部の世界も知らないただの中学生にミサカを倒すことなど無理な話だったのです。そんな貴女がたがミサカよりも強いあの2人に勝てるとお思いですか」

佐天初春「………っ」

突き放すように語る御坂妹の言葉に、佐天と初春は無言になる。

880: 2010/06/27(日) 22:32:27.32 ID:CsFSpKQ0
御坂妹「無闇には頃しません。ただ、貴女がたの存在は“色んな意味で”厄介なのです。だから、病院送りになるほどの怪我だけは覚悟して下さいね」

佐天「…………っ」

初春「ううう……グスッ」

御坂妹「これは一応貴女がたのためでもあるのですよ?」

佐天「ふざけんな……」

初春「ヒグッ……グスングスン…」

御坂妹「さて……」

佐天と初春を順に横目で窺う御坂妹。

御坂妹「お喋りも飽きました。少し痛いかもしれませんが、貴女がたには病院でしばらく世話になるぐらいの火傷を負ってもらうとしますか、とミサカは両手の電撃の威力を強めます」ビリビリッ

佐天初春「!!!!????」

御坂妹「最初から貴女がたのような、経験も無い、ろくに戦闘も出来ない、暗部の世界も知らないただの中学生にミサカを倒すことなど無理な話だったのです。そんな貴女がたがミサカよりも強いあの2人に勝てるとお思いですか」

佐天初春「………っ」

突き放すように語る御坂妹の言葉に、佐天と初春は無言になる。

882: 2010/06/27(日) 22:36:42.08 ID:CsFSpKQ0
御坂妹「では、現実を思い知ったところで貴女がたに休息を与えてあげるとしましょう。地獄の日々ともこれでお別れです。まあ、もっとも今の学園都市には安心して暮らせる場所などどこにもないので、お別れとは言い難いのでしょうが……」

バチバチバチッ!!!

佐天初春「!!!!!!」

御坂妹「取り敢えず今は夢の世界にでも現実逃避しておいて下さい、とミサカは電撃を直撃させます」

佐天初春「………!!」

佐天と初春が思わず目を閉じる。






「その2人であんたを倒せなくても、私ならあんたを倒せるのかしら?」






御坂妹「!!!!!!!!」

886: 2010/06/27(日) 22:42:56.51 ID:CsFSpKQ0
佐天初春「!?」

その時、チャリンという音とともに、御坂妹の背後から1つの声が響いた。

御坂妹「…………っ!!」

振り返る御坂妹。


美琴「どうする? ここで姉妹喧嘩始めちゃう?」


そこには、コインを手に身体中に青白い光を纏う御坂美琴(オリジナル)が立っていた。

美琴「もっとも、妹が喧嘩で姉に勝てるとは思わないけどね」

御坂妹「お姉さま……っ!!」

不適な笑みを見せ、美琴は手元のコインの照準を御坂妹の顔に向けている。

美琴「この位置関係なら、あんたの頭だけでも吹き飛ばすことぐらい出来るわよ?」

御坂妹「………くっ」

美琴「でも私は、あんたを頃したくない。それは、分かるでしょ? “あいつ”に助けてもらったあんたならね……」

御坂妹「………………」

美琴「もっとも、今は“あいつ”もあんたや一方通行と一緒になって悪の組織を作ってるようだけど?」

御坂妹「何を得意げになっているかは存じませぬが、お姉さま……。お姉さまがミサカを殺せないのなら、ミサカの優勢は変わりませんよ? と、ミサカは豪語してみます」

美琴「へぇ? 人質もいないのに?」

御坂妹「?」
御坂妹「!!!!!」

その言葉を聞き、何かに気付いたのか御坂妹は視線を両隣に向けてみた――さっきまでいたはずの佐天と初春の姿がない。

御坂妹「………っ」



黒子「まぁったく、お姉さまに妹君がいらっしゃるのなら、教えて下さってもいいのに」



御坂妹「!!」

887: 2010/06/27(日) 22:49:41.72 ID:CsFSpKQ0
不意に、あらぬ方向から発せられる新しい声。
御坂妹が再び顔を戻すと、美琴の側に佐天と初春が、そして黒子が立っていた。

御坂妹「空間移動(テレポート)…っ!」

美琴「さて、どうすんの妹? 一気に形成逆転だけど?」

美琴の手中には、いまだ発射可能なコインが握られている。
無論、さっき美琴自身が言ったように彼女には御坂妹を頃す気は無かっただろうが、油断は出来なかった。
相手は学園都市・第3位の超能力者(レベル5)。その気になれば、コインを使わなくても御坂妹を一瞬で攻撃不能に出来るはずだ。

御坂妹「チッ……」

明らかに、状況が不利になったのを感じ、御坂妹は美琴を睨みつける。

美琴「おー恐い恐い。この子ったらいつから反抗期になったのかしら? お姉ちゃん、悲しいわ」

御坂妹「………………」

御坂妹の顔を見、彼女は戦意喪失したと美琴は判断した。

美琴「さて、あんたに一杯聞きたいことがあるんだけど?」

御坂妹「『妹達(シスターズ)』は元は、一方通行の実験にあてがわれるため、使用する銃器も改造されてあります」

美琴「?」

御坂妹「それは、こういったものでも例外ではありません」

突如、懐から細長い物体を取り出す御坂妹。

美琴「!!」

黒子「手榴弾!?」

美琴と黒子が物体の正体に気付くやいなや、御坂妹はそれを地面に叩きつけた。

美琴「伏せて!!!!」

ドォォン!!!

美琴が叫んだと同時、乾いた音と共に小爆発が起こった。

888: 2010/06/27(日) 22:55:08.64 ID:CsFSpKQ0
美琴「…………?」

しかし、いつまで経っても爆風が発生しない。不審に思った美琴が両腕の中に埋めていた顔を上げた。

美琴「!!」

辺り一面は、白色の煙で覆われていた。

美琴「煙幕……ゴホッ」

黒子「……やられましたわね…ゴホッ」

美琴「……私たちが顔を伏せている数秒の間の隙と、視界を遮る煙幕で自分が逃げる確率を高めたってわけね」

黒子「……やってくれますわね」

2人は鼻と口を覆いながら、周囲の状況を確かめる。

黒子「お姉さまの妹君さまは、あの2人に協力してるようですが理由はご存知で?」

美琴「さぁ。知らないわよあんな反抗期の妹……」

何か含んだ口調で言う美琴。やはりどうも、あの美琴の妹は普通の妹ではないようだ。

黒子「………………」

佐天「うわ…これは一体……ゴホッ」

佐天が顔を上げ、真っ白になった工事現場を見て驚いた。

黒子「あまり口を大きく開けないほうがいいですの」

美琴「佐天さん、大丈夫?」

佐天「私は大丈夫ですけど、初春は?」
佐天「あ…」

佐天は傍らにいる初春に気付く。うつ伏せのまま、彼女は動かない。

889: 2010/06/27(日) 23:01:26.57 ID:CsFSpKQ0
佐天「初春! 初春!?」

黒子「初春!」

美琴「初春さん!」

初春「う……うーん」

3人が必氏に声を掛ける。
数秒ほど気を失っていたのか、初春がゆっくりと目を開いた。

佐天「初春! 大丈夫!?」

初春「佐天さん……私は、大丈夫です…」

佐天「良かったー…」

黒子「冷や冷やしましたの」

美琴「安心したわ。とにかくみんな大丈夫のようね」

初春「……御坂さんの妹さんは…?」

美琴「逃げたわ……」

4人は正面を見据える。
晴れていく白煙の中、その先には無人の工事現場が広がっていた――。

890: 2010/06/27(日) 23:06:33.52 ID:CsFSpKQ0
夜・廃ビル(美琴たちのアジト)――。

御坂妹の襲撃の後、周囲の安全を確かめた美琴たち4人は再び『D-14』のマンホールから共同溝を使い隠れ家である廃ビルに戻ってきていた。

初春「うんうん、出来てます出来てます♪」

机の上でノートパソコンを覗きながら初春が満足した声を上げる。
カーテンによって全ての窓が遮られたフロアの中、美琴の電力供給で灯りが点いた部屋に彼女と佐天はいた。

佐天「やっぱり危険冒してまで外出た甲斐あったねー」ブンブン

部屋の中央では佐天がバットを振っている。元がスキルアウトのアジトだからか、彼女が簡単にビル内で発見したのだった。

初春「でもやはり、ジャッジメントのセキュリティも並大抵ではありません。そのせいか、監視カメラの乗っ取りも最大で10分が限度ですね」

佐天「ま、10分あれば十分っしょ」ブンブン

実は、彼女たちが夕方、第7学区まで出向いたのには理由があった。それは、街中に設置された監視カメラの調査だった。
初春は昨夜、廃ビルの側で1台のノートパソコンを拾っていたが、彼女はそのパソコンで独自のネットワークと強固なセキュリティシステムを構成、一番近い場所にある無線LAN経由で、幾重ものファイアウォールに阻まれたジャッジメントのサーバーに侵入し、そこを経由して監視カメラのモニターセンターを一時的に乗っ取ったのだった。

初春「えへへ~私の臨時ノートパソコン『ハイビスカスちゃん』の威力、思い知ったかー♪」

佐天「(げ! 初春ってもしかして自分の使うパソコンに名前つけるタイプ?)」

初春はまず、第7学区の表通りの一角を監視していたカメラを10分ほど乗っ取り映像を録画。その録画映像を別の時間帯に再生することで、一時的に偽の監視映像を流すことに成功したのだ。

初春「本当はマイパソコン『ラフレシアちゃん』を使うのが一番なんですけど、謹慎中にアンチスキルに没収されちゃいましたし仕方ないですよね」

佐天「そ、そだね……」

891: 2010/06/27(日) 23:13:21.71 ID:CsFSpKQ0
夕方、第7学区に初春たちが出向いたのは、その偽の監視映像が実際に流れるかどうかを確かめるためだった。
彼女は、録画した偽の監視映像を、乗っ取ったモニターセンターから10分ほど再生。その映像をノートパソコン上で確認しながら、実際の現場の様子と見比べ、ハッキングに成功していたのか確かめたのである。

初春「ジャッジメント第177支部に置いてあるデスクトップパソコン『ウツボカズラちゃん』も使いたかったですけど、そっちには今行けませんし」

佐天「う、うん……(『ウツボカズラ』って…)」

結果、10分間とは言え、見事ハッキングは成功し偽の監視映像が流されたのである。

初春「そう言えば、実家に置いてある『ウィッチウィードちゃん』は元気にしてるかなー。知ってます佐天さん? 『ウィッチウィードちゃん』はこの10年間ずっと現役なんですよ?」

佐天「へ、へぇー……」

いつの間にか佐天が素振りを止め、初春の話に耳を傾けていた。

初春「でもジャッジメントのセキュリティも強固ですね。全くタイプの違うセキュリティをエリアごとに構成していて、どうしても街の一部分の映像しか乗っ取れません。しかも10分が限度だなんて……」

佐天「そうかな? それだけでも十分だと思うけど」

初春「再びあの上条当麻と一方通行に会うためにはどうしても地上へ出る必要がありますし、その時2人に辿り着くまで街中で監視カメラで捉えられたら洒落になりませんからね」

佐天「大丈夫だって。何とかなるよ」

黒子「初春、佐天さん」

と、2人が話している最中、黒子が部屋に入ってきた。

初春「あ、白井さん」

佐天「どうしたんですか?」

黒子「お姉さまが大事な話があるようなのですの。地下へ来て欲しいとのことですわ」

顔を見合わせる初春と佐天。恐らく、大事な話とは“あの”ことだ。
2人は黒子に従い、地下へ降りていった。

892: 2010/06/27(日) 23:19:32.93 ID:CsFSpKQ0
地下――。

美琴「あ、来たわね」

黒子たちの姿を見ると、床に敷かれた毛布の上で美琴は声を上げた。

黒子「さて、皆さんお揃いになりましたけど」

佐天「大事な話ってなんですか?」

初春「もしかして……」

美琴「うん、妹のことよ」

黒子と佐天と初春が自分の毛布の上に座る。
佐天の手にはバットが、初春の手元にはノートパソコンが置かれているが、これはもしもの時に手放さないための策だった。

美琴「つーよりも、“妹達”のことかな?」

佐天「達?」

黒子「もしかしてまだ妹君がおられるのですか?」

初春「へぇ、何人姉妹なんですか?」

美琴「んーっとね……」

一瞬、美琴は目に陰りを灯したが、構わず彼女は言い切った。

美琴「9970人姉妹かな?」

黒子佐天初春「は?」

一斉に、3人の目が点になる。
口を開けたままの彼女たちを気にせず、美琴は続ける。

美琴「何ようその目は? 冗談じゃないわよ」

黒子「いやいやお姉さま」

佐天「さすがに、1人の夫婦から9970人も子供が…しかも連続して女の子が生まれますかね?」

初春「もはや世界新記録どころじゃないと思うんですけど」

美琴「って言うか、正確には20001人姉妹だったわ」

黒子佐天初春「は?」

893: 2010/06/27(日) 23:25:22.69 ID:CsFSpKQ0
再び、3人の目が点になる。

黒子「えーっと、それは……」

1拍置いて、美琴は口を開く。しかし、それは今までのどこか明るい口調と違っていた。

美琴「ごめんねー…皆に隠しててさ……。本当はこれ、学園都市の闇に繋がることだから、貴女たちには言いたくなかったのよ……」

佐天「学園都市の……」

初春「……やみ?」

すぐには理解出来なかったのか、キョトンとした表情で彼女たちは反芻する。
無理も無かった。彼女たちは、学園都市の『暗部』とは本来、もっとも遠い位置にいるような普通の女子中学生なのだから。

黒子「『置き去り(チャイルドエラー)』のようなものですか?」

彼女たちがせめて連想出来るのは、木山春生や春上衿衣たちが関わっていた実験ぐらいのものだった。

美琴「さあ、闇の世界の“実験”に質の優劣があるのかどうか知らないけど」

黒子佐天初春「実験?」

不吉な言葉を聞いてしまったかのように、彼女たちの顔が少し曇った。

美琴「私の『妹達(シスターズ)』が、“とある実験”のために生まれたのは事実よ」

黒子「……それは…」

佐天「……ど、どういう意味で?」

初春「実験って、一体何があったんですか?」

嫌な予感がしているのか、不安そうな表情を浮かべ、3人は訊ねる。
どうも彼女たちは今一つ要領を得ないらしい。想像しようにも、その材料となるものが少なすぎて手探り状態に等しかったからだ。

美琴「…………………実はね……」

目を深く閉じ、美琴はかつて自分の身に起こった忌まわしい記憶を語り始めた。

914: 2010/06/28(月) 21:47:26.22 ID:iCw20D20
一方通行「さァっすが御坂美琴(オリジナル)のクローン、猪突猛進なのは姉妹でそっくりだなァ」

御坂妹「………………」

狭い部屋の下、一方通行はニヤニヤと不気味な笑みを描いた。

一方通行「やっぱり遺伝ってヤツかァ?」

御坂妹「………………」

上条「あれほど言っただろ。あいつらには手出しする必要は無い、放っておけばいいって……」

打ち止め「わざわざミサカネットワークをログアウトしてまですることだったのかな? ってミサカはミサカは10032号を叱ってみる」

上条と打ち止めから叱責を受け、御坂妹は借りてきた猫のようにシュンとしていた。
無論、叱責の理由は、勝手に佐天と初春を襲い、傷つけようとしたことだ。

上条「今あいつらに手出ししても本末転倒なだけだ。どうせ、いずれはあいつらも目標になるんだ。無駄に傷つけても意味無いだろ。それほど脅威にもならないだろうし……」

御坂妹「………」

打ち止め「しかもお姉さまとツインテお姉ちゃんに逆に追い詰められるなんて。2人が近くにいることは考慮しなかったのかな、ってミサカはミサカは疑問を呈してみたり」

上条「御坂はお前のこと無駄に頃したりはしないだろうけど、本気になれば簡単に重傷を負わせることぐらい出来るんだぞ。お前まで失ったら、俺たちはどうすりゃいいんだよ」

御坂妹「………………」

一方通行「もういいじゃねェの。2人して責めることでもねェンじゃねェの?」

横から一方通行が御坂妹を援護するが、どことなく彼の顔は笑っている。

打ち止め「貴方は黙ってて、ってミサカはミサカは怒鳴ってみる」

一方通行「あーうっせェうっせェ」

打ち止め「もう!」

一方通行「ソイツはアイツらの行動が目障りだったから、子猫ちゃンたちを襲ったンだろ。上条、オマエが『あいつらは大して脅威にならない』って言ってるのには同意だが……」

上条「……………」

916: 2010/06/28(月) 21:54:18.46 ID:iCw20D20
一方通行「やっぱり不安の種は完全に摘み取っとくもンだと思うぜェ? 誰だって自分の側を蚊が飛び回ってたらうざってェだろ? いいじゃねェか、それだって1つの方法って言うもンだ。コイツはそれを実行しただけだ」

御坂妹「……………」

一方通行「まァ、超電磁砲やテレポーターの存在を考慮しないで、無謀にも突っ込ンでいったのは危機感無さ過ぎだけどなァ」ニヤニヤ

上条「はぁ……。とにかく、今後あいつらを見かけても手出しはするな。いいな? あいつらが何度、歯向かってきてもその都度、簡単に相手してやれば済むんだから」

一方通行「半分同意で半分不同意だな」

御坂妹「分かりました」

上条「ん?」

御坂妹「ごめんなさい……」

それだけ残すと、御坂妹は小走りで部屋を出て行った。

上条「あ……」

一方通行「あ~あ~あ、泣ーかしたァ、泣~かしたァ♪ せェェンせェェに言ってやろォ♪」

上条「…………」

一方通行「フラれちまったなァ」ニヤニヤ

打ち止め「もう、茶化さないの!」

一方通行「ンだよ。オマエはどっちの味方だよ」

打ち止め「そりゃ、10032号がミサカたちの今後のことを考えて行動したってのは分かるよ。痛いほどにね。でも、やっぱりやり方は間違ってるよ……ってミサカはミサカは複雑な心情を吐露してみたり」

一方通行「まあ俺はどっちでもいいがよォ」

興味が無いように、一方通行は立ち上がり、ミニ冷蔵庫から缶コーヒーを取り出した。

一方通行「アイツはオマエを思ってやったってのも事実なンだぜ?」

ニヤニヤと笑みをつくり、一方通行は缶コーヒーを扇いだ。

上条「………………」

917: 2010/06/28(月) 22:08:17.69 ID:iCw20D20
寝室の壁を、上条はノックする。
寝室と言っても大したものでもなく、ベッドが1つと一人用の椅子が2つあるだけだ。御坂妹は、就寝時はこの部屋で打ち止めと一緒に眠っていた。

上条「入るぞ?」

ガチャッ

背中を見せながら、御坂妹はベッドの端に座っていた。

上条「………………」

御坂妹の元まで上条は歩き、そして声を掛ける。

上条「座ってもいいか?」

御坂妹「……どうぞ、とミサカは俯き加減になりながらも答えます」

上条「フー」ドサッ

御坂妹「………………」

上条は御坂妹に並ぶようにベッドに腰掛けた。
対して、御坂妹は顔をそっぽ向けているようだった。彼女の頬に貼られたばかりの絆創膏が見て取れた。

上条「あのさ……」

御坂妹「先程は不躾な態度をとり、申し訳ありませんでした、とミサカは謝ります」

上条より先に御坂妹が話を切り出していた。

上条「ん? え? ああ……気にしてないよ。俺も言いすぎた」

御坂妹「………………」

上条「………………」

しばらく沈黙が訪れたが、やがて再び御坂妹が口を開いた。

御坂妹「いえ……ミサカの行動が貴方がたに迷惑を掛けたのは事実です、とミサカは認めます。ただ、ミサカは、貴方のために、どうしても目の上のたんこぶだけは取り除いておきたかったのです……」

上条「…………………」

御坂妹「身の丈を弁えない言動だとは承知しています。しかし、貴方の目標を完全に叶えるためにも、ここでお姉さまたちを足止めしておく必要があると思ったのです。たとえ本末転倒だろうと」
御坂妹「でも……貴方の目標は、我々の、そしてミサカの目標でもあります。最後に行き着くところは、貴方と同じであることは、嘘偽りありません。それだけは、知っていて頂きたいのです、とミサカは打ち明けます」

静かに、淡々と御坂妹は言葉を紡ぐ。

918: 2010/06/28(月) 22:13:19.18 ID:iCw20D20
上条「……………ああ、分かってるさ」

御坂妹「?」

上条「ありがとな御坂妹。お前が俺たちのために、自分自身のためにやったっていうことは別に責められることじゃない。俺や打ち止めが責めてるのは、その方法だけ。何も、お前を真っ向から否定しているわけじゃないんだ。それだけは覚えといてくれ」

御坂妹は、隣に座る上条の顔をジッと見つける。

御坂妹「…そうですよね。貴方の仰る通りなのに、ミサカは自分の存在が否定されたように思えてつい逃げ出してしまいました……ごめんなさい」

懸念が取り払われたためか、御坂妹の顔が少し緩んだ。
彼女の左手は、首から掛けられているハート型のネックレスに添えられている。

上条「気にすんな。俺も言いすぎた。だから…勝手にいなくなったりすんなよ? お前を頼りにしてるんだからさ」

御坂妹「………ミサカは、貴方に最後まで付いていく、と誓った身です。何があっても貴方を置いて先に逃げたりはしません。それだけは確かです、とミサカは宣言しておきます」

それを聞き、上条はうんうんと頷く。

上条「ありがとな」

御坂妹「こちらこそ」

僅かに笑みを浮かべ合う2人。
しかし、ここまでの会話は彼女たちにってプライベートでの範疇に入るものだ。

上条「で、次のターゲットの件なんだが」

御坂妹「はい」

途端に、2人の顔つきが変化する。
仕事の話となれば、彼らはプライベートと全く違う顔を見せるようになる。

上条「もう、日数も足りない。今夜、これから出発するが、構わないか?」

御坂妹「ええ。何の問題もありません」

上条「婚后光子の件と合わせて、連続になるけど、疲れないか?」

御坂妹「まさか。それだけで疲れるなら、とっくにミサカはダウンしています」

上条「分かった。それじゃあ部屋に戻ろう。次のターゲットの詳細を説明する」

御坂妹「承知しました、とミサカは答えます」

2人は新たなる仕事をこなすため、寝室を後にする――。

919: 2010/06/28(月) 22:20:22.85 ID:iCw20D20
とある廃ビル(美琴たちのアジト)――。

黒子「絶対能力(レベル6)……進化(シフト)…実験……」

佐天「ただ、殺されるためだけの……2万人のクローン……」

初春「既に、10031人が虐殺されている………」

顔を真っ青に染め上げ、3人はただ、今聞かされた単語を口中で呟くしかなかった。

美琴「………………」

彼女たちの顔を見、美琴は目を伏せた。
無理も無かった。美琴が今語ったのは、御坂妹をはじめとする『妹達(シスターズ)』が生まれた経緯、その顛末だ。常人なら、その余りにも非人道的な内容に言葉を失くすほどの話だ。実際、目の前の彼女たちは今まさにそんな感じで、顔を蒼くするばかりか、動くことも出来ないようだ。

黒子「……そんなことが……実際に、行われたのですか?」

信じられない、という目で黒子が美琴に質す。

美琴「………ええ。全て、事実よ」

黒子「……『神ならぬ身にて天井の意志に辿り着くもの』……」

佐天「…一方通行はかつて絶対能力(レベル6)に進化しようとしていたって……」

初春「そのために、2万人もの人間がただ殺されるためだけに生み出されたんですか?」

美琴「そうよ………」

やはり、黒子たちは簡単に理解出来ていない。と言うよりも、理解したくない感じだった。それもそのはずで、美琴が今語ったことは、彼女たちの日常の学園都市の世界とは余りにもかけ離れていて、想像を絶するものだったからだ。

美琴「………これが、学園都市の『暗部』の  一  端  よ」

黒子佐天初春「一端……」

まだそれだけでも一端だと言うのだから、黒子たちの驚き様は増すばかりだ。しかもそれ以上のことは、レベル5の美琴ですら知らないと言うのだから、彼女たちにとってそれは未知の世界とも言えた。

美琴「でも心配しないで。さっきも言ったように、その実験は全て中止になってるから。一方通行も改心して今では、妹達(シスターズ)とは切っても切れない間柄だからね」

黒子「……でも、理解出来ません」

美琴「何が?」

黒子「……その実験の『加害者』だった一方通行、『被害者』だったお姉さまの妹君たち、そしてその実験を中止に追い込み、お姉さまたちを助けて下さったあの上条当麻。何故、その3者が今、手を組んで学園都市の学生を誘拐・殺人する必要があるのですか?」

920: 2010/06/28(月) 22:28:38.18 ID:iCw20D20
美琴「それは……私にも分からない。そう、正直分からないのよ。今の一方通行が何の罪も無い一般人に手を出すことなんて有り得ないし、妹達だってクローンって言ってもちゃんと1人ずつ人間らしい個性や感情がついて成長している。人を頃すことの意味なんて理解しているはずなのよ」

言っていて自分でも信じられないのか、美琴の表情が複雑なものとなる。

美琴「そして何より、信じられないのはあいつ……。何の利益や不利益も関係なく、ただ、目にした困った人を助け続けてたあいつが!! 殺人なんて……そんな誰かが不幸になることをするはずないのよ!!」

ギュッと握られた美琴の拳がワナワナと震えている。

黒子「お姉さま……」

佐天初春「御坂さん……」

美琴「……あいつらの目的も、何故そうするに至ったのかその経緯すら私には分からない。だから、困ってるのよ……」

頭を抱え、美琴は慟哭した。

黒子佐天初春「………………」

正直、黒子たちは美琴が『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』において、どんな苦い思いを味わったのか、そしてそれが中止になった時にどんな気持ちだったのか想像はつかない。
ただ、目の前の美琴を見ていると、彼女が今どれほど苦しんでいるかは見て取るように分かる。再び非人道的な行為が、自分の知り合いの、しかも被害者側も含めた実験の当事者たちによって行われようとしている。それがどんな複雑な感情を生み出すかは、彼女の様子を見るに一目瞭然だった。

黒子佐天初春「………………」

しかし、その複雑な感情がどれほどのものかは黒子たちには分からない。ただ、1つだけ言えることはある。美琴はそれでも、上条たちを止めようとしている――1人の「敵」として。否、それ以前に相手が上条たちだからこそ止めようとしているのだろう。

美琴「ごめん……」
美琴「引いちゃったかな?」

苦しそうな笑みを見せる美琴。

美琴「………………」

黒子「まさか」

美琴「え?」

黒子「そんなことで、黒子はお姉さまを見限ったり気味悪がったりしませんわ」

美琴「黒子……」

佐天「確かに、驚きましたよ。余りにもスケールが大きい話でしたから。でも、実験に関しては御坂さん、何の非もないじゃないですか。だって、元は筋ジストロフィー患者を助けるためったんでしょう? 寧ろその思いは褒められるべきことですよ」

美琴「佐天さん……」

初春「そうですよ。これで私たちが御坂さんと絶交しちゃうとか、そんなこと考えているのならそれは心外です」

美琴「初春さん……」

美琴は3人の顔を交互に見る。みな、嘘は言っていない。明らかに本音だと思われる表情をしていた。

921: 2010/06/28(月) 22:34:29.36 ID:iCw20D20
美琴「でも……」
美琴「でも………!」
美琴「私は、あんたたちに全てを隠してたんだよ? その上で勝手に氏のうともしてたんだよ? なのに……」

黒子「関係ありません。聞いた限り、簡単に他人に口外出来るような話とは思えません。私も同じ立場なら、自らの命を差し出してでも実験を止めようとしたでしょうし」

佐天「あたしの場合は、きっと何も出来ずにスルーしちゃうかもしれません。そんなのに比べたら、御坂さん、とても強いし勇気がありますよ」

初春「それに御坂さんは私たちを巻き込まないように、敢えて話さなかったのでしょう? 私だったら、真っ先に誰かに助けを求めてます。御坂さんが責められる謂れはありません」

美琴「みんなぁ……グス」

美琴の視界がにじむ。
普段の彼女とは全く違った、普通の女子中学生の顔。彼女は、そんな自分の弱い部分も、黒子や佐天や初春だったからこそ見せられたのかもしれない。

黒子「お姉さま、ありがとうございます。話すだけでも相当な勇気が必要だったでしょう。でも、私たちの関係は何も変わりません。それだけは唯一無二の事実ですわ」

美琴「うっ……ひぐっ」

思わず美琴は両手で目の下を拭う。

黒子「何故、上条さんたちが今もあんな凶行を繰り返しているのか。お姉さまにとってはそのことを考えるだけでも心苦しく理解に悩むところでしょう。しかし今は、私たちがついています。だから、今回は悩み、苦しみ、悲しくなればいつでも、私たちを思う存分、頼り、助けを求めてくださいまし」

佐天「遠慮なんていりませんよ。ここまで来たら、一心同体なんですからね」

初春「私たちは、4人で一つの『超電磁砲(レールガン)組』ですもんね」

黒子「さあ、お顔をお上げになって」

美琴「黒子ぉ……佐天さぁん……初春さぁん……ヒグッ…グスッ」

黒子と佐天と初春は、美琴の肩に優しく手を添える。それに甘えるかのように、美琴は大粒の涙を流した。
それは、彼女が滅多に見せることのない、レベル5の超能力者が密かに隠し持つ、繊細で脆弱な一面だった。
しかし、この件を機に、彼女たち4人の絆はより一層深まった――。

922: 2010/06/28(月) 22:40:28.68 ID:iCw20D20
翌日――。

朝日が昇ってから数時間が経ち、美琴たちはそれまでと同じく、自分で自分に課したカリキュラムをこなそうとしていた。
2階フロアでは、初春がノートパソコン相手に睨めっこをし、佐天はその側でバットを振り続けている。もはや彼女のフォームはプロ野球選手なみだった。
3階では黒子が空間移動(テレポート)の精度を上げるため、1人、ダンボールや机や椅子を用いた訓練を行っていた。

初春「むむむむ……これがこうしてこうでこうやって……」カタカタカタ

佐天「でぇい! やぁ! とう! そりゃあ!」ブンブンブン

黒子「もう1度ですの!!」シュン

三者三様、やっていることは全く別物だったが、その気迫だけは凄まじいものがあった。明らかに昨日までとは違い、本気の度合いが増している。

初春「……暗視モードには………こうじゃなくて………衛星のほうは……」

佐天「やってやる! このスーパー超合金バットで、脳天打ち砕いてやる!!!」

黒子「もっと…素早く…正確に……テレポートと肉弾戦を合体させた新空間移動格闘術を編み出す勢いで!」

彼女たちは昨夜、美琴の話を聞いてからというもの、ずっとこの調子だった。
今、彼女たちはただ、美琴の力になるべく、そして上条と一方通行を倒すべく、赤く滾った炎のように燃え盛っていた。

924: 2010/06/28(月) 22:45:30.36 ID:iCw20D20
地下――。

美琴「いや待って……これは違うか……」ボソボソ

フロアの中心で、毛布の上に腰を降ろし美琴が何事か呟いていた。
彼女の手にはホワイトボードが抱えられており、そこにはホワイトボードが黒板に見えるほど、様々な文字や計算式、図や絵が書き込まれていた。
彼女は今、学園都市第3位の頭脳をフルに用い、上条当麻と一方通行を倒すためのあらゆるシミュレーションを何パターンにも亘って捻出していた。

美琴「厄介なのは、上条当麻の右手……『幻想頃し(イマジンブレイカー)』ね。能力を全て打ち消すんだから、それに対処するには、どうしても肉弾戦の必要性も増してくる」
美琴「でも、私たち女子中学生の身体で、あいつに勝てるかしら? 黒子なら空間移動(テレポート)を利用すれば何とか攻略出来る可能性もあるかもだけど」

うーんと、美琴は唸る。

美琴「問題は、『一方通行(アクセラレータ)』ね。こいつの攻略方法だけはどうやっても何も浮かんで来ないわ。全ての攻撃を跳ね返すって言うんだから、手の出しようがないわね。随分前に完全復活も遂げて全盛期の力を取り戻してるし」

布切れでホワイトボードの一部を消し、またマジックペンで書き直すという作業を何度も繰り返す。

美琴「もーう、ずっと考えてるのに何もいい案が出ないわ」

バタッと美琴は仰向けになる。
お腹にホワイトボードを乗せたまま、彼女は天井を見上げて黙考する。

美琴「(一方通行に勝つ方法……勝つ方法……方法……)」

目を閉じてみるものの、良いアイディアは生まれてこない。

美琴「(全ての攻撃を跳ね返し、あらゆるベクトルの向きを操る……)」

と、そんな時だった。

925: 2010/06/28(月) 22:51:29.77 ID:iCw20D20
美琴「(待って……)」

前回、一方通行に倒された時の情景のをふと思い出した瞬間だった。一瞬、何かが、脳裏を掠めたのだ。

美琴「(あいつ……あの時、確か……。何だろ? 何か頭に引っ掛かってる……)」

美琴は、更に前回の戦闘時の様子を思い出そうと試みる。

美琴「(思い出すのよ、隅々と……一から最後まで…。あいつが話した全ての言葉と行った全ての動作を……)」

なるべく詳細に、美琴は順序立てて記憶の底を探っていく。

美琴「(何か……後もうちょっとで何かが……)」

一方通行の邪悪で不気味な笑みが美琴の脳内に再生される。

美琴「(…………あいつはあの時確か……)」

そして、彼女は閃いた――。

美琴「そうだ!!!!」

ガバッと美琴は上体を起こす。

美琴「あった!! これだ!!!」

彼女は右腕でガッツポーズを作る。



美琴「……あいつに勝てる方法、見つけたわ!!!」



美琴は地下フロアに響き渡るほどの音量で歓喜の声を上げる。

美琴「フフ……フフフ…これよ、これだわ…。これなら、私たちでも一方通行に勝てる……」

思わず、と言ったように美琴の口から笑みが零れる。

美琴「何よ…フフ…簡単じゃない。……何で、こんなことも分からなかったのかしら? あはは、最初の最初から、答えは提示されてたのに……。ヒントも何もないわ……あははは」

自分の愚かさに呆れるように彼女は笑い続ける。

美琴「あははは……フフフ……」
美琴「さぁーて! ゴールは目の前ね!! もう1度、シミュレーション組み直してみますか!!」

929: 2010/06/28(月) 22:58:35.64 ID:iCw20D20
黒子「あらお姉さま、どうされたんですの?」

廃ビルの3階。
黒子は大量の汗を流しつつ、部屋に入ってきた美琴に声を掛けた。

美琴「うひゃあ、すごい汗……頑張ってるわね」

黒子「これも訓練ですの」

美琴「すごいわね、この部屋の散らかりよう。全部、あんたが?」

黒子「そうですわよ」

見ると、フロアのあちこちに段ボール箱や机、椅子といったものが無造作に散らばっていた。

黒子「それに見て下さいまし」

黒子は窓に近付き、外を指差した。

美琴「ん? 何? 外にダンボールやらゴミやらが散らかってるわね」

黒子「部屋の中ではどうしても距離に限りがあるので、こうやって必要無さそうな物を外に飛ばして、どれだけテレポート出来るか試してるんですの」

廃ビルから見渡せる空き地のあちこちに、ダンボールなどが散らばっている。どうやら黒子が全て訓練のためにテレポートしたものらしい。

美琴「頑張るわね。でも無理はしないでね。今ここで倒れたら洒落にならないでしょ?」

黒子「それも十分考慮した上でやってますの」

そう言って黒子はミネラルウォーターのペットボトルを口に含む。

美琴「あれは何?」

部屋の隅に視線を向ける美琴。そこには1m四方のボックスらしきものが置かれていた。

黒子「ああ、テレポートに使えるものがないかその辺りを探していたら出てきましたの。ただのガラクタのようですわ」

美琴「ふーん」

興味が無さそうな返事をする美琴だが、一応覗いてみることにした。
ボックスの中には、ゴチャゴチャと使い物にならないような物がたくさん入っていた。美琴はいくつかを手にとってみる。

美琴「壊れた時計に…これは、熊の置き物? ププッ何それ。あ、デジタルピストルもあるわね。あとは、セロテープに台座、ストロボカメラ…これは煙幕弾か。ホントガラクタばかりね」

黒子「それで、何かご用で?」

美琴「ええ、また作戦会議よ」

930: 2010/06/28(月) 23:05:23.90 ID:iCw20D20
1階――。

美琴「ぶっちゃけ言うわ。一方通行(アクセラレータ)に勝つ方法、思いついたわ」

黒子佐天初春「え!?」

壁に掛けられたホワイトボードを背に、美琴は机を囲む3人にどや顔で言い切った。
黒子たちは信じられない、と言うように目を大きく見開いた。

黒子「そ、それは……」

佐天「本当ですか御坂さん?」

初春「だって、一方通行って物理攻撃も能力も全て跳ね返すんでしょ? そんな簡単に攻略方法が見つかるわけないと思ってたんですけど……」

美琴「嘘じゃないわ。大マジよ」

黒子たちは戸惑ったように互いの顔を見合わせたが、やがてその表情も変わった。

佐天「す、すごいじゃないですか御坂さん!」

初春「ビックリしましたよ!!」

黒子「さっすがお姉さまですわね」

美琴「えへへー」

黒子「して、その肝心の方法とは?」

美琴「あ、うん、その前に色々と確認しておきたいんだけど……初春さん」

初春「はい?」

美琴「どう? そっちの作業は? どれくらい進んだかな?」

初春「えーっと…今日1日あれば全ての準備は終わりますね」

訊ねられ、初春は今答えられるだけの返事をした。

931: 2010/06/28(月) 23:11:25.58 ID:iCw20D20
美琴「そう、さすがね。じゃあ気を抜かないように頑張ってね」

初春「はい!」

美琴「佐天さんはどう?」

佐天「あたしは別に終わりとかないですから、いつでも大丈夫ですよー」

佐天が片手をヒラヒラさせながら気軽に答えた。

美琴「なるほど。じゃあ黒子は?」

黒子「私も自分の目標には届いたので、問題はありません。ただ、最後にもう少しだけ煮詰めておきたいですわ」

黒子も現在の自分の状況を鑑み言った。
3人の現在の状況を確かめると、美琴は1回頷いてみせた。

美琴「分かったわ」
美琴「さて、残りの問題は1つ。どうやって、あいつらを捕捉するか、ね……」

それを聞き、初春がパソコンに向けていた顔を上げる。

初春「それに関しては、やっぱり私のパソコンで情報を集めるのが一番じゃないでしょうか。ジャッジメントやアンチスキルの本部のサーバーにでも侵入すれば、何か有力な情報を得られるかもしれませんし」

美琴「……現時点ではそれが一番の方法ね。よし、じゃあそうしましょう。でもその前に初春さんは、自分の作業頑張ってね。焦らなくていいから」

初春「はい。分かりました!」

黒子「ああ、そうでしたわ。で、お姉さま、どうやって一方通行を倒すのですか?」

思い出したように黒子が訊ねた。佐天や初春も美琴に注目する。

美琴「ふっふ~ん♪ それはね……」

人差し指を鼻の前で立てウインクする美琴。

黒子佐天初春「?」

どんな奇抜な策なのか、不安混じりに期待をする3人だった。

934: 2010/06/28(月) 23:25:18.64 ID:iCw20D20
アンチスキル第73活動支部――。

黄泉川「………………」

だだっ広いオフィスのようなフロアの中、アンチスキルの服装を身に纏い、パソコンをボーッと眺める黄泉川が1つのデスクに腰掛けていた。
と、そこに声が掛けられた。

鉄装「黄泉川さん」

鉄装だった。

黄泉川「あ? 何……?」

鉄装「支部長がお呼びですけど。例の誘拐犯についてどうなっているのかと」

黄泉川「チッ、またかよ。面倒くさいじゃん」

鉄装「そう言えば、御坂さんたちの消息は掴めましたか?」

黄泉川「いや、全然」

鉄装「いいんですか?」

黄泉川「構わんだろ。今のあいつらに何が出来る? どこに隠れてるのか知らんが。超電磁砲(レールガン)がいるとはいえ、何の支援も無い状態なんだ。どうせ今頃どっかで路頭に迷ってるはずじゃん。所詮は子供じゃん」

素っ気無く黄泉川が言う。

鉄装「でも、その子供にしてやられたのは私たち大人ですよ」

黄泉川「……………確かにな」

黄泉川は再び顔をパソコンに向ける。



   ――「“子供”を舐めないことね。“子供”ってのは“大人”の気付かないうちに、成長してるもんなんだから……」――



黄泉川は、美琴たちをジャッジメントの支部から連れ出そうとした時のことを思い出す。

黄泉川「ホント、あいつの言う通りだったな……」ボソッ

その時、黄泉川はふと鉄装の手元に目を向けた。

黄泉川「ん? 何だそれは? 本か?」

鉄装「あ、これですか?」

935: 2010/06/28(月) 23:32:25.79 ID:iCw20D20
鉄装は持っていた本の表紙を黄泉川に見せる。

黄泉川「芥川龍之介…『蜘蛛の糸』か……」

鉄装「ええ、授業で使おうと思って。知り合いの警備員から借りたんです」

黄泉川「私も子供の頃によく読んだことがあるじゃん」

鉄装「いい本ですよね。地獄から蜘蛛の糸で逃げようとするカンダタ。だけど、他の地獄に落ちた罪人も一緒に蜘蛛の糸を登ろうとして、糸が切れるんじゃないかと心配した彼は罪人たちに降りるように言うんです。でもそれが原因で蜘蛛の糸は切れ、カンダタは再び地獄へ逆戻り……」

黄泉川「そういえばそんな話だったな」

鉄装「でも、私も昔は子供心にカンダタが可哀想だと思いましたよ。後もう少しだったから、お釈迦さまも助けてあげればよかったのに、って」

黄泉川「……そうだな」

鉄装「どうしたんですか?」

黄泉川「いや……その時のお釈迦さまの心情はどんなものだったのかって思ってな」

鉄装「?」

黄泉川「お釈迦さまでも、地獄から多くの人間を極楽浄土に引き上げることは難しかったんだろうか……」

鉄装「いや、でもそれはカンダタが自分のことしか考えなかったからで」

黄泉川「まあ、それはそうなんだけどさ……」

鉄装「?」

ピーピー

鉄装「あ、内線鳴ってますよ!」

黄泉川「はい黄泉川」ガチャッ

『黄泉川一等警備士!! 何をしておる!! 早く来んか!!』

黄泉川「はいはい今すぐ行くじゃん」ガチャン

敬語も使わずに答えると、黄泉川はだるそうに立ち上がった。

黄泉川「まあ、どちらにしろだ」

鉄装「はい?」

黄泉川「これ以上、あいつらのことを気にする必要も無くなったじゃん」

それだけ残すと、黄泉川は後ろで長く纏めた髪をかきながらデスクを離れていった。

937: 2010/06/28(月) 23:39:22.64 ID:iCw20D20
夕方になり、空も徐々に淡い群青色に染まってきた頃、とある廃ビルのアジトにて初春は驚嘆の声を上げた。

初春「そんな……!! こんなことって……」

ノートパソコンの画面を見、明らかに動揺を示す彼女の顔は蒼ざめている。

初春「み……御坂さん!! 白井さん!! 佐天さん!!」

椅子から転げ落ちるように、初春は3人を呼びにいく。
ノートパソコンの画面には、1つの記事を載せたニュースのサイトが映っていた。

美琴「これは………」

しばらくして、慌てた初春に呼び止められた美琴たちは、パソコンの前に集合していた。

黒子「何てことを……」

佐天「酷い…」

絶句する彼女たち。
画面に映された記事には、『第7学区にて常盤台の女子生徒失踪! 誘拐事件再びか!?』という見出しが記載されていた。

『昨日、アンチスキルの捜査によって常盤台中学の女子生徒でレベル4の大能力者・婚后光子さんが失踪したことが発覚した。アンチスキルによれば、婚后さんは昨日昼頃、寮の管理人からお使いを頼まれ学生寮向かいのコンビニへ向かったという。しかし、いつまで経っても戻ってこない婚后さんを不審に思った管理人が寮やコンビニを中心に周辺を探してみたところ、どこにもいないことが判明した。調べでは、婚后さんは失踪直前、コンビニの入口付近でフリーター風の若い男と談笑している姿が目撃されており、アンチスキルは婚后さんが何らかの事件に巻き込まれたとして……』

改めて記事を読んでみると、今、何が起こっているのかがよく見て取れた。

佐天「あの婚后さんが、失踪……」

黒子「誘拐……若い男………」

初春「私も今さっき知って驚いたんです! まさか婚后さんがこうなってたなんて……」

初春は今にも泣きそうに叫ぶ。

佐天「白井さん、この若い男って……」

黒子「恐らく、あの2人のうちのどちらかでしょう……」

佐天「じゃ、じゃあ婚后さんは…婚后さんは……」

黒子「彼女が、私たちの脱走の手助けをしたと、どこからか聞き知ったのでしょう。それで恐らくはその制裁として婚后さんを……」

佐天「そんなぁ……そんなぁ…酷い、酷すぎるよ……」

初春「何で……グスッ……直接……あの人は…ヒグッ……関係ないのに……」

涙を浮かべる佐天。初春の方は、顔を両手で覆うように泣いている。

黒子「こうすることで、私たちへの脅しになると踏んだのでしょう。不覚でしたわ。私たちに協力させてしまったばかりに婚后さんは……」

938: 2010/06/28(月) 23:46:27.13 ID:iCw20D20
冷静を装うとしていた黒子だったが、最後の方は言葉が震えていた。

美琴「……ざけんじゃないわよ」

黒子佐天初春「?」

3人に背中を見せつつ、美琴がふと何か呟いた。

美琴「……それが、あんたたちのやり方だって言うのね……」

怒りに呼応するかのように、彼女の身体中にパリパリッと紫電が纏わりつく。

美琴「ふざけんな!!!!」ドンッ

瞬間的に放電が大きくなったかと思うと、美琴は右手を壁に叩き込んでいた。

黒子佐天初春「!!!!」ビクゥ!!

美琴「なるほどね……。それがあんたたちのやり方ってわけね…」
美琴「なら、正々堂々と受けてやろうじゃないの……」

目元に影をつくり、俯くように美琴は言葉を紡ぐ。

美琴「いいわよ……。理不尽な暴力で、何でもかんでも自分たちの思い通りに出来るって思ってるなら……」

グググッと美琴は壁につけた腕に力を込める。

美琴「そんな舐めた考え方で、私たちを退けられると思ってるなら……」

顔を上げ、美琴は叫ぶ。





美琴「まずはそのふざけた幻想をぶち頃す!!!!!」






942: 2010/06/28(月) 23:52:22.04 ID:iCw20D20
とある部屋――。

狭く、あまり明るいとも言えない部屋の下、上条たちは小さな机を囲むようにソファに座っていた。
全員、上条に注目している。

上条「さてと……」

上条は胸に抱えていた厚い紙束のうちから、1つの資料を取り出し机の上に置く。

上条「固法美偉…」ドサッ

続いて、同じように資料を机の上に投げる。

上条「泡浮万彬…」ドサッ

次々と、資料を机の上に重ねていく上条。

上条「湾内絹保…」ドサッ

御坂妹「…………」

上条「婚后光子…」ドサッ

一方通行「…………」

上条「そして、昨晩の3人…」ドサッ

上条の手元から紙束が無くなる。

943: 2010/06/28(月) 23:57:42.89 ID:iCw20D20
上条「見ての通り、以上がこの半月で成功した目標(ターゲット)たちの資料だ」

御坂妹「お姉さまたちの妨害もありましたが、全て上手くいってよかったですね」

上条「ああ」

一方通行「多くの犠牲を出しながらも、他の学区の学生どもを拉致ってた時に比べたらマシだなァ。不幸中の幸い、ってヤツかァ?」

上条「まあな。何にしろ、御坂たちの深い関係者は以上だ。彼女たちは氏んだ。まずはその成果を喜ぼうぜ」

御坂妹「大事の前に全ての目標を達成出来たのは良かったですね、とミサカは一息つきます」

一方通行「おいおい、こンなところで安心してンじゃねェよ。まだその、大事が控えてるンだからよォ」

御坂妹「おっと、そうでしたね」

一方通行「まあでも、だ。あれから2週間近く。アイツらもこれ以上ちょっかい掛けてこねェだろうし、超電磁砲どものことは気にする必要ねェのは確かだな。やれやれ、これでようやく本番に専念出来るなァ……」

上条「2人とも忘れんなよ。これからはそっちに専念するとしても、最終的には……」

一方通行「いちいち言わなくても分かってるよ」

上条「ならいいんだが。とにかく、だ」

上条は目の前の2人に顔を据える。

上条「最終的なターゲットは御坂たち4人なんだからな」

964: 2010/06/29(火) 21:34:40.57 ID:HC6QIv60
翌日・廃ビル(美琴たちのアジト)――。

机や椅子がポツンと置かれた2階のフロアから、カタカタと何かを叩く音とブンブンと何かを振り回す音が鳴り響く。

初春「………………」カタカタカタ

佐天「………………」ブンブンブン

初春がパソコンを使い、佐天がバットを振っているのだ。
彼女たちはこの1時間、一言も言葉を交わしていない。

初春「………………」カタカタカタ

佐天「………………」ブンブンブン

それは、別に喧嘩しているからでもなく、彼女たちはただ、自分がやるべきことに異常なまでに集中していたからだった。
そしてそれは3階で1人、テレポートの訓練を行っていた黒子も例外ではなかった。

黒子「ハァ……ハァ…」

彼女もまた一言も発せず、訓練に熱中していた。無駄な動きが削られたためか、流れ出る汗の量も少ない。

初春「…………………」カタカタカタ

佐天「………………」ブンブンブン

黒子「ゼェ……ハッ……ハァ」

彼女たちがこうなっているのには訳がある。
と言うのも、前日の夕方、婚后の失踪が発覚した時のことだった。

965: 2010/06/29(火) 21:40:30.37 ID:HC6QIv60

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

佐天「御坂さぁん…グスッ……婚后さんまで…誘拐されちゃったよ……」

初春「ヒグッ…婚后さん……ヒグヒグッ……どうなって…グスッ…るんでしょうか…ヒグッ」

もはや、言葉とも嗚咽とも区別がつかない声を佐天と初春は搾り出す。

黒子「今までの件を考えると、恐らく彼女は……」

初春「そんなぁ……うえええええん!!」

佐天「初春ぅ…」

初春の背に手を添えながらも、佐天もまた今にも泣き出しそうだった。

佐天「あたし、絶対許せない……あいつら絶対許せない!」

黒子「私も同じ気持ちですわお姉さま。もう今のままでは彼奴らを滅多刺しのボロ雑巾にしただけでは気が済みませんの……」

黒子と佐天は、憎しみと恨みが篭った口調で言う。



美琴「ダメよ」



黒子佐天初春「え?」

美琴「今の“私たち”の精神状態じゃあいつらには勝てないわ」

3人に背中を見せながら、美琴が呟いた。

黒子「ど、どういう意味ですか?」

『勝てない』という言葉が納得出来なかったのか、黒子の言葉に苛立ちが垣間見えた。

美琴「そのままの意味よ。今の精神状態で、上条当麻と一方通行には勝てないって言ったの」

佐天「そんなことないですよ!!!」

初春「!」ビクッ!

佐天が怒鳴る。初春が一瞬肩を震わせた。

美琴「そうかしら? 今の自分を鏡で見てみたら? あんたたち顔が鬼婆のようになってて、きっと内面も恨みや憎しみだらけで負の感情で満たされてるわよ?」

966: 2010/06/29(火) 21:47:27.19 ID:HC6QIv60
黒子佐天初春「!」

佐天「だってそれは……っ!」

美琴「うん、怒りたいのも当然よ。それは私も同じなんだから」

目立った怒りを見せていなくても、恐らく美琴も黒子たちと同じ心情だったのだろう。だからさっき、敢えて“私たち”という言葉を使ったのだ。

美琴「だけどそれじゃ、奴らに勝てない。奴らの並外れた強さは桁違いだから。そんな奴らに、ただ感情的になって暴走したような状態で勝てると思う? 私は思わないわ」

美琴の腕が震えている。
恐らく、今この場で一番怒り狂いたいのは彼女だろう。本当なら超電磁砲を上階のフロアを全てぶち抜いてでも暴れたかったはずだ。しかし、彼女は堪えた――リーダーとして、年長者として、超能力者として――。

美琴「そんなんであいつらに挑んでも、逆にこっちの暴走を利用されて終わり。簡単に足元を払われるだけでしょうね」

黒子佐天初春「………………」

美琴「だから怒ったら駄目。泣いてもいいけど怒ったら駄目。ちゃんと冷静になるの。それでも、どうしても我慢し切れない時は、外側に怒りを発散させるんじゃなくて、内側で静かに怒りを発散させなさい」

美琴の背中は静かに語り続ける。

美琴「いっそのこと、憎しみや恨みは捨てるの。その上で、心の中で静かに怒って、ただ冷静にあの2人を倒すために、自分はどうすればいいのか、どうしたら効率的に自分の仕事をそつ無くこなせるのか、それだけ考えるの」
美琴「そうすれば、私たちの勝率は格段に上がる。憎しみと恨みで我を忘れて感情的になってたらまず勝てない。いいわね?」

そこで、頭を上げ、美琴はようやく振り向いた。

美琴「だから、冷静に、女の子らしく凛として、頑張りましょう」

彼女は怒っていなかった。ただ、笑っていた。頬に涙の筋だけを残して――。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



時を戻して現在――。

初春「…………………」カタカタカタ

佐天「………………」ブンブンブン

黒子「ゼェハァ………ハァ」

美琴はあの2人に対して憎しみも恨みも見せなかった。ただ、冷静に心の中で怒っていただけだった。不屈の闘志と共に――。
誰よりも、一番に怒り狂いたかったであろう彼女は、黒子と佐天と初春に教示するためだけに自身に我慢を強いた。それは、大人でもなかなか真似出来ない、4人の年長者としての威厳と貫禄があった。
だから3人もそれに従う。憎しみも恨みも持たず、ただ、敵を倒すことを目標に自分のすべきことをこなす。それはただ、感情に勢いを任せた中身の無いものではなく、あくまで冷静に、それでいて身体の中では青い炎が静かに燃え滾っているような、そんな状態だった。

968: 2010/06/29(火) 21:54:22.28 ID:A6Ri6so0
美琴「ハァ……ハァ……」

その頃、1階のフロアでは、美琴が身体から電気を発しながら、次々と様々な動きや体勢をとっていた。

美琴「こうじゃないわね……」

もはや黒板と化したホワイトボードを美琴は隅々まで見る。

美琴「こういう感じかしら?」パリパリッ

彼女は今、上条と一方通行と戦闘に入ったときのイメージトレーニングを行っていた。

佐天「御坂さーん!」

と、そこへ佐天が2階に繋がる階段から降りてきた。

美琴「ん? どうしたの佐天さん?」

佐天「初春が、ちょっと来てほしいって。何かパソコン使ってたら、おかしなことを発見したとか言ってます」

美琴「おかしなこと?」

美琴が佐天と一緒に2階に上がると、机の側でノートパソコンをじっくりと覗き込む初春と黒子の姿が見えた。

美琴「初春さん、何かあったの?」

美琴と佐天もノートパソコンを覗き込む。

初春「実は、誘拐犯…つまり上条当麻と一方通行の情報を得ようと、アンチスキル第73活動支部のサーバーに侵入したんですけど……」

美琴「第73支部って言うと…」

黒子「ほら、黄泉川先生の部隊があるところですわ」

美琴「ああ、そっか」

初春「ええ。第7学区で起こった大半の誘拐事件が黄泉川先生の部隊の管轄地域で行われてましたから、何か新しい情報を得られるんじゃないかと思ったんですよ。で、第73活動支部の誘拐事件に関する資料を漁ってたんですけど……」

ポチッと初春は画面をする。すると、1つのブラウザが開かれ、pdfファイルらしき形式で資料が表示された


美琴「これがどうしたの?」

初春「ほら、見て下さい。これ、泡浮さんと湾内さんが失踪した時の事件の詳細なんですけど、失踪日時が18日午前0時30分から午前2時30分頃になってますよね?」

佐天「あれ? それっておかしくない?」

黒子「そうなんですのよ」

美琴「えっえOちょっと何? 何がおかしいわけ?」

969: 2010/06/29(火) 22:02:09.80 ID:DPS9e.I0
佐天「だって、18日午前0時30分って言ったら……」

初春「ええ、私たちが上条当麻と一方通行と戦ってた時間帯です」

美琴「え?」

佐天「やっぱりおかしい」

美琴「え? え?」

まだ理解していないのか、美琴は置いてけぼりをくらったような顔をしている。

初春「つまりですね、辻褄が合わないんですよ。私たちが初めて上条当麻たちと対峙したのが18日の午前0時30分頃なんです。で、泡浮さんと湾内さんが失踪したのは11日から12日にかけてなんですよ。実際、アンチスキルも12日の夜に常盤台の寮に通報を受けて捜査しに来ています」

佐天「それが、この報告書では失踪日時が18日になってる。日数として6日もずれてるんですよ。おかしくありませんか?」

美琴「……………は?」

頓狂な声を上げる美琴。どうやら彼女もその異常に気付いたらしい。

黒子「まあ、ただの勘違いやキーボードの打ち間違いかもしれませんが……」

佐天「6日も間違うかな?」

初春「で、気になって泡浮さんと湾内さんの失踪事件を扱ったニュース記事を探したんですけど、無いんですよね。検索してもどこにも見つからないんです」

美琴「な、何で?」

初春「この報告書見て下さい。ここ」

そう言って初春は画面を指差す。

初春「ほら『この件は関係者以外への情報提供を禁ず』って書かれてます。つまり、何故か報道管制が敷かれたんですよね。特に隠す事件でもないのに」

初春「でも、上条当麻と一方通行は『自分たちが泡浮さんと湾内さんを誘拐して頃した』と明言しています。ね、おかしくありませんか?」

美琴「………………???」

上条と一方通行は自分たちが泡浮と湾内を誘拐して頃したと明言した。そしてその泡浮と湾内の誘拐は11日から12日に掛けて行われたと思われる。実際、12日の夜には寮監の通報を受けて黄泉川の部隊のアンチスキルが常盤台中学学生寮まで捜査しに来ている。しかし、その捜査を担当した部隊の報告書では、2人が失踪したのは18日午前0時30分~午前2時30分頃と記載されている。が、18日午前0時30分頃と言えば、美琴たちが丁度、上条と一方通行と戦闘を行っていた時間だ。そして泡浮と湾内2人の失踪事件は何故か報道管制が敷かれている。

美琴「何それ? 何か矛盾だらけなんだけど……」

970: 2010/06/29(火) 22:09:53.83 ID:29qn51o0
黒子「だから、アンチスキルの間違い、って可能性もあるのですが……確かに気に掛かりますわね」

初春「じゃあ、ちょっとアンチスキル本部のサーバーに侵入して他に情報が無いか調べてみましょうか」

美琴「そ、そうね」

再び初春はパソコンに画面を向けると、手馴れた手つきで操作していく。

初春「ジャッジメント以上に強固なセキュリティを構築してますねー」

そう言うが、初春の口調はどこか軽い。

初春「ファイアウォールも一筋縄じゃいきませんね」

しばらくして彼女はアンチスキル本部のサーバーに侵入することに成功した。

初春「さて、これですね……。『学園都市で最近頻発中の誘拐事件について』。『誘拐殺人』じゃなくて『誘拐』となっているのは、アンチスキルが、誘拐された学生たちが本当に殺されてることを知らないからでしょうね」

美琴「で、どうなの?」

初春「今見てみます」

素早く初春はマウスポインタを動かす。

初春「ありました! 泡浮さんと湾内さんの事件資料です」

佐天「日付はどうなってる?」

初春「『第73活動支部・黄泉川中隊の報告によれば、事件発生日時は……18日午前0時30分頃から2時30分頃だと思われる……』」

美琴「こっちも18日!?」

佐天「あれー何でー? さっきの資料は勘違いやキーボードの打ち間違いじゃなかったってこと?」

黒子「いやいや、実際に事件が起こったのは11日から12日のはず」

美琴たちは顔を見合わせる。何か、嫌な予感がする。

初春「と、とにかくもっと読み進めていきましょうか」

スクロールすると、画面に表示された資料も同時に上へ上へと流れていく。と、途中で、彼女たちの目に信じられないものが飛び込んできた。



『なお、誘拐犯は既に氏んでいると思われる』



美琴黒子佐天初春「!!!!????」

971: 2010/06/29(火) 22:18:05.26 ID:29qn51o0
美琴「な、何ですって!?」

黒子「氏んでる?」

佐天「ど、どういう意味?」

初春「……わ、分かりません。もうちょっと見てみましょうか……」
初春「『黄泉川中隊は、捜査の過程において、第7学区に隠れ家を持つスキルアウトが一連の誘拐事件の真犯人である可能性が高いと推定。同部隊は17日に隠れ家に強行突入するも、現場にてスキルアウトの多数の氏体を発見。この件について同部隊は現場の状況から、突入直前に何者かによってスキルアウトの集団が壊滅させられと断定。……なお、現場に落ちていた毛髪のDNA鑑定から、レベル5の超能力者・御坂美琴が頻繁に隠れ家に出入りしたと思われ……』」

自然と、初春の喋るスピードが遅くなっていく。

初春「『部内の意見では、御坂美琴がスキルアウトを壊滅した張本人との説が多数を占め………』」

初春が恐る恐る美琴の顔を窺う。

美琴「な……何で? ど、どういうこと?」

佐天「確かに、アンチスキル内では御坂さんがスキルアウトを壊滅させた犯人だって疑ってる人が多い、ってのは前に黄泉川先生が言ってたけど……」

黒子「スキルアウトが真の誘拐犯? 黄泉川先生は一体どういう捜査をしてますの?」

訳の分からないまま、彼女たちは困惑の声を出す。

黒子「初春、もっと続きを」

初春「あ、はい」

再び初春は画面に注目する。

初春「『更に、学園都市中の学生たちの間で「幻想御手(レベルアッパー)」にも似た、副作用の出ない能力上昇装置の存在が噂となって流れていることが同部隊の調査で判明。恐らく、その噂の発信元は前述したスキルアウトと思われ、噂を真に受けた学生たちがスキルアウトの隠れ家を求めて、失踪したのではないかとの見方が強く……』」

佐天「レベルアッパーにも似た、副作用のない能力上昇装置?」

黒子「そんな噂、聞いたこともありませんわ」

初春「私もです」

美琴「………………」

初春「ん? え?」

突如、画面を見て初春が愕然とした表情を見せた。

佐天「どうしたの?」

初春「……報告書の最後らへんにこんなことが書いてる……」
初春「『以上の理由から、誘拐再発の可能性は低いと思われ、アンチスキルは黄泉川中隊の助言通り、当誘拐事件の優先捜査度を低レベルに再設定し直すものとする』!!??」

美琴黒子佐天「!!!!????」

972: 2010/06/29(火) 22:25:39.42 ID:29qn51o0
美琴「な、何でそうなるのよ!?」

黒子「有り得ませんわ!! 現に婚后さんが誘拐されたと言うのに……」

佐天「それもそうですけど、何で誘拐犯がスキルアウトになってるんですか!? 真犯人は上条当麻と一方通行でしょ!!」

それぞれ、理解不能と言いたげに驚愕する一同。

初春「どういうことでしょう? 何かもうメチャクチャですよこれ……」

美琴「……………っ」

黒子「黄泉川先生の目は節穴ですの!? こんな大事な事件の優先捜査度を下げるだなんて」

佐天「じゃあ実質、誘拐事件の捜査は終わったってこと? でもまた誘拐事件が起こったらどうするつもりなの??」

黒子「恐らく、別の犯人として処理するとか?」

佐天「な、何で?」

黒子「知りませんよ。何となく、この文面を見てるとそんな感じがしますの。どんな理由があるのかは存じませんが、それほどアンチスキルはこの一連の誘拐事件を軽く扱いたいような印象がありますわ」

美琴「………………」

初春「そんなことになったら、余計に上条当麻と一方通行の逮捕が遠のくじゃないですか」

美琴「…………………」

佐天「あーもう! こんなにもアンチスキルが頼りにならないなんて!」

美琴「おかしいと思ったのよね……」

黒子佐天初春「え?」

3人の議論を中断するように、美琴がボソッと呟いた。

美琴「何で黄泉川先生があんなに執拗に私たちを止めようとしていたのか……」

黒子佐天初春「は?」

美琴「なるほど、そう言うことだったの……」

黒子「何がそう言うことなんですの?」

974: 2010/06/29(火) 22:32:32.72 ID:29qn51o0
1人で納得している美琴の言葉が気になったのか黒子が訊ねた。

美琴「分からない?」

黒子佐天初春「??」

美琴「泡浮さんと湾内さんの失踪を、常盤台中学学生寮まで来て捜査したのは、黄泉川先生の部隊。事件が起こった日付を11日や12日じゃなくて18日と報告したのは黄泉川先生の部隊。私が接触していたスキルアウトのアジトに突入したのは黄泉川先生の部隊。そこから、アジトに出入りしていた私の毛髪を見つけたのも黄泉川先生の部隊」

黒子「まさか……っ!!」

佐天初春「?」

何かに気付いたように黒子が驚嘆の声を上げた。

美琴「レベルアッパーにも似た能力上昇装置の存在が学生たちの間で噂になって流れてる、って報告したのも黄泉川先生の部隊。以上の理由から、本部に誘拐事件の優先捜査度を低くするよう助言したのも黄泉川先生の部隊」

美琴「そして、やたら私たちを縛り付けて行動を制限しようとしていたのも、黄泉川先生の部隊……」

佐天「え……それって…」

初春「もしかして……」

ようやく2人も真実に辿り着いたようだ。しかし、2人はどこか蒼ざめた顔をしている。

美琴「ええ。おかしいわよね? この資料読んでると、まるで黄泉川先生たちが、上条当麻や一方通行を誘拐犯にさせたくないように報告してるみたい。それで何故か2人を追っていた私たちを状況的に動けないようにさせている。……もう分かったわよね?」

3人の顔を見、1拍置いてから美琴は言い切った。





美琴「黄泉川先生は上条当麻たちとグルよ」





黒子佐天初春「!!!!????」

975: 2010/06/29(火) 22:40:40.69 ID:29qn51o0
佐天「黄泉川先生が!? そんなことって……」

初春「でも、確かに黄泉川先生は執拗に私たちを止めようとしていました」

黒子「ではお姉さま、黄泉川先生はずっと上条当麻や一方通行の凶行に手を貸していたと?」

美琴「手を貸していた、って言うよりアンチスキルの立場を利用して奴らになるべく疑いが掛からないよう工作していたんでしょうね。それも黄泉川先生1人じゃ出来ないだろうから、恐らく先生の部隊も丸ごと、奴らの協力者でしょうね」

初春「そ、そんな……アンチスキルの一部隊までもが、あの2人に協力してるって言うんですか!?」

美琴「そうでもないと、ここまでのこと出来ないでしょ」

佐天「アンチスキルまで向こうの味方なら、事件は永遠に解決出来ないよ……」

黒子「黄泉川先生の部隊丸ごとなら、恐らく100人前後でしょうか。しかしもっと最悪の可能性を考えると、第73活動支部…いえ、アンチスキル全体まであの2人の魔手が及んでる可能性も……」

佐天「それじゃ、手の出しようがないじゃないですか」

新たに出現した大きな壁を前に、彼女たちは絶望の声を次々と上げる。

美琴「いえ…きっとグルなのは黄泉川先生の中隊だけでしょう」

佐天「え?」

美琴「アンチスキル全てが奴らの仲間だったら、学園都市中の全ての部隊を動かしてでも私たちを捜索してるはず。もしそうだったら、今頃私たちは見つかってるわよ。それこそ私たち4人が寮から脱走することも、より困難になってたでしょうね」

初春「じゃあ、上条当麻たちと通じてるのはアンチスキルの中でも黄泉川先生の部隊だけなんですね?」

美琴「恐らくね」

黒子「しかし何故、黄泉川先生はあの2人に与したのでしょう?」

976: 2010/06/29(火) 22:47:37.25 ID:29qn51o0
美琴「さぁね。ただ、泡浮さんと湾内さんの誘拐日時を6日もずらして報告したのは、あの2人を容疑者から遠ざけるため。何で誘拐日時を私たちがあの2人と会ってる時間帯、つまり18日の午前0時30分頃から2時30分頃にしたのか。それは万が一、私たちがアンチスキル本部の取り調べで上条当麻と一方通行を犯人だと証言した時のための対策でしょう。私たちがあいつらと会ってたのなら、その同時間帯に誘拐は行えないからね。黄泉川中隊の正式な報告書をアテにするなら、私たちの証言が何の根拠も無い子供の戯れ言になるって寸法ね」

黒子「しかし、常盤台中学学生寮の関係者は泡浮さんと湾内さんが失踪したのは11日から12日からだと思ってます。実際、12日の夜にその件でアンチスキルが寮まで捜査しに来たのですから」

美琴「そのための報道規制よ。もし事件を公表すれば、誘拐事件をネットで調べようとした寮内の関係者に、日付の矛盾がバレてしまう。でも、そもそも情報自体を遮断してしまえば? 誰もその矛盾に気付けなくなる」

黒子「確かに……。しかし、新聞やテレビ、ネットなどで情報が1つも見当たらなければ、中には不審に思う人間も出てくるのではないでしょうか? 特に、寮内の生徒とか。まあ、寮内の生徒が不審に思ったところで所詮は学生。出来ることも限られるのでしょうが、逆に、大人の立場ならどうでしょう? 例えば、寮監とか……」

美琴「いえ、寮監が不審に思うことは無いわ」

黒子「は? 何故?」

顎に添えていた手を止めながら、黒子は怪訝な視線を美琴に向けた。

美琴「特別な場合に限って、ね」

黒子「どういう意味ですか?」

美琴「分からない?」

黒子「?」




美琴「  寮  監  も  誘  拐  犯  の  協  力  者  だ  っ  た  場  合  よ  」





977: 2010/06/29(火) 22:54:41.11 ID:29qn51o0
黒子「!!!!????」
黒子「何ですって!!??」

佐天「え、え、えっーーー???」

初春「ど、どういうことですか? 常盤台中学の寮監さんまで、あの2人とグルだったってことですか?」

美琴「恐らくねー」

突然水をぶっ掛けられたように3人は驚愕する。
無理も無い。アンチスキルの黄泉川の他に、更に身近に誘拐の協力者がいると言われれば、驚くなというほうが無茶な話だった。

黒子「ですが何故!? あの寮監が!?」

美琴「考えてもみなさいよ。恐らく上条当麻と一方通行は、寮内の見張りについていた黄泉川先生たちから、私たちの協力者のことを聞き知ったんだと思うけど、じゃあその黄泉川先生たちは一体どうやって、私たちの脱走を手助けしたのが婚后さんだって分かったと思う? 寮内のことや生徒たちの関係について特に詳しいわけでもないのに。それに加えて黄泉川先生の部隊は全体で100人前後…寮内の見張りについていた警備員にしても10人ぐらいしかいなかったのに、そんな少数で寮内から私たちの協力者を見つけ出せると思う?」

黒子「じゃあ……」

続きを促すように黒子は美琴に目を向ける。

美琴「寮内に詳しく、生徒たちの関係も全て把握していた人物の助けが無ければ、私たちの協力者を炙り出すことは不可能よ。それに、どういう基準で上条当麻たちが今まで私たちの友達を誘拐してたのか知らないけど、誘拐するには対象の人物の詳細なプロフィールも必要なはず。恐らく、寮監はそういったデータも上条当麻たちに事前に渡していたんでしょうね」

黒子佐天初春「……………………」

美琴の怒涛の推理の連続に、黒子たちは言葉を失くす。

黒子「(全て仮定の話とは言え、アンチスキルの資料からここまで辿り着いてしまうとは…。本当に恐ろしいですわね、第3位の頭脳は……)」

焦りを浮かべた表情の中に、僅かな笑みを刻み、黒子は美琴を見る。
そこへ、佐天が突き出した両腕をふって話を遮った。

佐天「いやいやいや、ちょっと待って下さい」

美琴「どうしたの?」

佐天「でもそれ、全部仮定の話でしょ? まだ黄泉川先生たちが上条当麻たちの協力者だって決まったわけじゃないですよね?」

初春「そ、そうですよ。憶測だけで疑うのもどうかと思いますし……」

まだ信じられないのか、それとも信じたくないのか佐天と初春は疑問を述べる。

美琴「それもそうね…。じゃあ、ちょっと確かめてみましょうか」

佐天「え? どうやって?」

美琴「初春さん、黄泉川先生と寮監の私用パソコンに侵入できる?」

初春「え? まさか…」

978: 2010/06/29(火) 23:01:21.77 ID:29qn51o0
美琴「うん。2人のパソコンから、上条当麻たちに繋がる証拠は無いか、探してみるの」

黒子「なるほどそれなら、一番手っ取り早い方法ですわね」

初春「で、でも…さすがに何の根拠も無いまま個人のパソコンに不正侵入するのはどうかと……」

躊躇うように、初春は呟く。

美琴「初春さん、ここで確かめておかないと後でもっと困ったことになる可能性もあるのよ。それに、あの2人に辿り着くための情報も手に入れられるかもしれないの」

初春「むぅ……」

黒子「大丈夫ですわ。目的のものを手に入れたら、すぐ引き上げればいいんですの」

美琴「逆に黄泉川先生と寮監が無実だったって分かる場合もあるわ。それならそれで、スッキリするでしょ?」

初春「………分かりました。やってみます」

美琴「ありがとう」

佐天「いやでも、どうやって2人のパソコンに侵入するんですか?」

初春「まあ、それなら大丈夫です。これでもパソコンスキルだけでジャッジメントに入った身ですから。恐らく黄泉川先生のほうは、アンチスキル第73活動支部のデータベースを漁ったら、私用パソコンのメールアドレスぐらい分かるでしょう。寮監さんのほうは……」

美琴「寮監のほうも、メールアドレスなら知ってるけど、それで大丈夫?」

初春「それならいけます。ただ、時間を少し頂けると嬉しいんですけど……」

美琴「分かったわ。じゃあ、焦らないでお願いね」

初春「はい。やってみます」

そう言うと、初春は再びパソコンの方に向かった。

980: 2010/06/29(火) 23:07:33.42 ID:29qn51o0
夜――。

それぞれがやるべきことに没頭し数時間。美琴たちはいつものように地下で一時の食事を味わっていた。
そして食後、事態は大きく一変する。

初春「御坂さん! 白井さん! 佐天さん!」

ノートパソコンを覗いた初春が声を上げた。

美琴「どうしたの?」

3人が初春の下に集まってくる。

初春「反応がありました。これで、黄泉川先生と寮監さんのパソコンに侵入出来ます!!」

美琴「本当!?」

おおおっ、と3人は驚嘆の声を上げ顔を見合わせる。

初春「ウイルスを添付したメールを2人のパソコンに送っておいたんです。見た目は普通のメールですし、添付ファイルを開いても向こうのセキュリティソフトに異常は察知されませんが、確実にウイルスはパソコンに侵入しています。後はそのウイルスが作り出したセキュリティホールを使って、パソコン内部にアクセスするだけです。ここまで時間が掛かったのは、黄泉川先生と寮監さんがメールに気付いて開くまで時間が掛かったからでしょう」

美琴「やったわね。お疲れさま初春さん」

初春「いえいえ、まだこれからですよ」

謙遜しながらも、初春は滑らかに画面中の矢印を動かしていく。

初春「さて、どこから見ていきましょうか」

美琴「一番怪しいのはメールボックスね」

初春「メールボックス?」

美琴「恐らくだけど、もしかしたら上条当麻たちとメールで連絡を取り合ってるのかもしれない。だとしたら、それに関する送信メールか受信メールがあるはず……」

初春「なるほど…」

982: 2010/06/29(火) 23:13:36.98 ID:29qn51o0
縦に並べられた大量のメールの件名を4人掛かりで調べていく。たまに目についたメールのデータを開いてみるが、変わったものはない。

初春「ありませんね……」

佐天「待って、これはどう?」

佐天が何かに気付き、画面を指差した。最新の受信メールで、どうやらまだ開かれてないらしい。

黒子「送信者は……名前で表示されてませんね。ただのアドレスだけで表示されてますが、見るからに使い捨てのメールアドレスですわね」

美琴「初春さん」

初春「はい」

初春がポチッとすると、メールの内容が表示された。そして、それを見て4人は目を丸くした。

美琴「これだ……」

黒子「ええ! 間違いなく、上条当麻と一方通行からのメールですわ!」

ついに美琴たちは、目的の証拠まで辿り着いたのだった。

佐天「やっぱり、黄泉川先生はグルだったんだ……」

初春「………………」

分かっていたようだが、自分たちの知り合いが敵側についていたという事実は彼女たちにとって僅かながらショックだったようだ。

美琴「2人とも、そう、しょげないで。残念なのは分かるけど、これでようやく念願の有力情報を得られたんだから」

佐天初春「はい……」

黒子「では、寮監の方も見ておきましょうか」

上条と一方通行に叩きのめされ、更に手足をもがれたような状況に落とされた美琴たち。
しかし、彼女たちはそれでもめげず、ただ自分たちの目的を果たすために敵の手がかりの一端を掴むことに成功したのだった。

983: 2010/06/29(火) 23:19:12.06 ID:29qn51o0
しばらくして――。

初春の周りに集う美琴たち。彼女たちは今、ノートパソコンを前に確信していた。

美琴「これで決まりね。黄泉川先生と寮監は、上条当麻と一方通行の協力者。つまり、グルってこと」

黒子「まさかあの寮監までグルとは……信じられませんわ」

美琴「まあね。でも、寮監のパソコンにも、上条当麻と一方通行からメールが届いていた。それも、黄泉川先生に送られたメールと同じ文面のものがね」

佐天「信じたくないですけど、これ以上信用出来る証拠もありませんし……」

初春「どうして黄泉川先生たちは、上条当麻に協力しようと思ったんでしょうか?」

美琴「それは分からないわ。だけど、1つだけ得られたことがある」

黒子「ええ」

4人は頷き合う。

美琴「上条当麻と一方通行は、3日後の深夜、第7学区の郊外にやって来る」
美琴「そう、この場所にね……」

美琴は、パソコンの画面に表示された地図の一点を指差す。そこには、赤く太い矢印で特定の場所が示されていた。

美琴「私たちは、そこで待ち伏せして奴らに奇襲を加える。いいわね?」

佐天「はい!」

初春「ええ!」

黒子「はいですの!」

美琴「残り3日間、自分がすべきことに全力を注ぐのよ。ただし、無理して怪我はしないようにね。あと、作戦会議も煮詰めるわよ。そして、実際に上条当麻と一方通行と戦闘に入ったときのシミュレーションを数パターン、4人で演じてみるの。当日、本番で上手くいくようにね」

黒子佐天初春「はい!!」

3人の元気で力が篭った返事を聞き、美琴は1度だけ頷くと、次いで横目でパソコンの画面を窺った。
赤い矢印で示された場所を見つめ、美琴は胸中に思う。

美琴「(ようやく辿り着いたわよ上条当麻、一方通行。今度こそ私たち4人で、貴方たちを打ち負かしてやるわ!!!)」

984: 2010/06/29(火) 23:20:01.78 ID:29qn51o0

引用: 美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」