1: 2010/07/15(木) 00:04:39.14 ID:nRM8KM20

9: 2010/07/15(木) 22:31:30.20 ID:RKTAF8E0
黄泉川「ハァ……ハァ……ゼェ…」

鉄装「ゼェ……ハッ……ハァ…」

追っ手を引き付ける囮となるため、通りを逆走していた黄泉川と鉄装は前方100mほど先に武装兵たちの姿を視認すると、通りの脇に停車されていた軽自動車のバンパーの陰に咄嗟に身を隠した。

ダカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!

それに気付いた武装兵たちが発砲し、銃弾が車体に降り注ぐ。
黄泉川と鉄装は、着弾によって発生した微振動を車体越しに感じ取った。

黄泉川「先遣隊、ってところじゃん。恐らくこの後メインの勢力が追いついて来るじゃん」

鉄装「でも、主力部隊どころか先遣隊も通す気はないんですけどね」

黄泉川「あったり前じゃん」

2人はニヤッと笑みを交わすと、バンパーに上半身を乗り出し、SIG 550アサルトライフルの折りたたみ式銃床を肩にガッチリ固定した。そして、狙いを定めると思いっきり引き金を引いた。

ダララララララララララララララララ!!!!!!

2つ分の斉射が武装兵たちに振るわれる。武装兵たちは物陰に身を隠した。

ダカカカカカ!!!!!! ダカカカカ!!!! ダカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!

次いで、反撃が行われる。

黄泉川「チッ」

黄泉川と鉄装は咄嗟に車体に身を隠し、ものの数秒で弾倉を切り替え遊底を引く。

鉄装「敵兵の数は7、8名といったところでしょうか」

黄泉川「ああ。数の上では不利じゃん。問題は、どれだけ時間を稼げるか、じゃん」

鉄装「もちろんそのつもりですよ!」

敵の銃弾が止んだ隙をつき、再び黄泉川と鉄装は射撃を開始する。

ダララ!!! ダラララララララ!!!! ダララララララララララララララ!!!!

黄泉川はダットサイトを覗き、アンチスキルで得た射撃テクニックを駆使して敵兵を薙ぎ払っていく。
鉄装もまた同様に、容赦なく武装兵たちに銃弾を浴びせていた。
とある魔術の禁書目録 30巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

10: 2010/07/15(木) 22:37:26.91 ID:RKTAF8E0
鉄装「!!」

車体に身を隠す鉄装。

黄泉川「どうした!?」

前方を見据え発砲しながら黄泉川が訊ねる。

鉄装「弾切れです。ここまでの道中で使い切ってしまったようです」

黄泉川「そうか……おっと」

黄泉川も車体に身を隠した。

黄泉川「こっちも弾切れじゃん」

鉄装「…………………」

黄泉川「…………………」

鉄装「でも、まだ……」

黄泉川「諦めるわけにはいかないじゃん?」

再び2人はニヤッと笑い、右腿に巻かれていたレッグホルスターからサイドアームの拳銃を取り出すと、車体に身を乗り出し発砲し始めた。
敵はまだ4名は残っている。黄泉川と鉄装の不利は変わらない。寧ろ、この状況で敵1個分隊の半数を2人だけで戦闘不能にしたほうが奇跡的だった。

鉄装「あっ……!!」



ドサッ



突如、鉄装が後ろに倒れた。

黄泉川「鉄装!!!!」

見ると、鉄装の肩口から血が流れ出ている。恐らくライフル弾を浴びたのだろう。

11: 2010/07/15(木) 22:43:25.25 ID:RKTAF8E0
だが、鉄装はそれでも立ち上がる。

鉄装「まだ……です」

黄泉川「鉄装!?」

鉄装「生徒たちを悪漢から守るのが……アンチスキルの……大人の……教師としての役目でしょう?」

ヨロヨロと上半身を起こす鉄装を呆然と見ていた黄泉川だったが、すぐに彼女に笑みが戻った。

黄泉川「その通りじゃん」ニヤッ

鉄装「なら、まだ諦めません!」

バッと車体から身を乗り出し、鉄装は拳銃を向ける。
しかし、その瞬間だった。

ドッ!! ドドッ!!

という鈍い音を轟かせ、敵のライフル弾が鉄装の身体を貫いた。
鮮血が飛び散る。

鉄装「…………っ」

黄泉川「鉄装!!!!!!!!!」

更にもう数回、

ドドドッ!!! ドッ!!

と鈍い音が鼓膜を揺さぶったかと思うと、黄泉川もまた後ろに倒れていた。
視界がゆっくりと流れ、血が闇夜に飛び散るのが見えた。



ドサッ



鉄装に並ぶように、黄泉川が地面に仰向けに倒れた。

12: 2010/07/15(木) 22:49:21.02 ID:RKTAF8E0
黄泉川「…………………」

撃たれた、という認識はしていたが何故か恐怖は無かった。
黄泉川は頭を起こし、自分の身体を見てみる。ボディアーマーに穿たれた複数の穴から血が流れ出るのが確認出来た。
試しに触れてみる。黒い手袋を更に塗りつぶすように黒色の液体がへばりついた。

黄泉川「……………致命傷か」

それだけボソッと呟く。
何故か痛みを感じず、どちらかというと熱かった。
そのまま黄泉川は横に顔を向ける。笑顔でこちらを見る鉄装の顔が側にあった。

鉄装「黄泉川……さん……」

ニコッと笑う彼女の喉元からは僅かに、ヒューヒューという音が聞こえてくる。

黄泉川「鉄装……大丈夫か?」

体勢はそのままで黄泉川は鉄装の顔に手を伸ばす。

鉄装「あの子たち……幸せになれると……いいですね……」

鉄装が小さな声で言う。

黄泉川「それが……教師として生徒へ1番に望むことじゃん……」

その言葉を聞くと、鉄装は笑顔のまま動かなくなった。

黄泉川「…………………」

黄泉川は顔を正面に戻す。星が煌くのが見えた。

黄泉川「ハァ………」

1つ、溜息をしてみる。

黄泉川「まさかこんな結末になるとはな」
黄泉川「生徒の安全を守るために、アンチスキルに入隊して……訓練を積んで……過ちで生徒を撃って………色々あったじゃん。だが、子供たちを守るために殉職、って言うのも教師冥利に尽きるじゃん。なぁ、鉄装?」

黄泉川は上を向いたまま横にいる鉄装に訊ねる。もちろん彼女は何も答えない。

黄泉川「私は時間稼ぎぐらいしか出来ないが、あの子たちが少しでも遠く逃げおおせられるのならそれで十分じゃん」

そう呟くと黄泉川は自分の腰に巻いてある弾帯ベルトのポーチに目を向けた。そして、そこから、あるものを取り出した。

13: 2010/07/15(木) 22:55:36.77 ID:RKTAF8E0
その頃、上条たちを追っていた主力部隊の先遣隊である武装兵4名は、急に敵の攻撃が止まったことを不審に思い銃撃を一旦中止していた。
しかし、いつまでもジッと待っているわけにはいかない。それに、敵を仕留めた手応えも僅かながらあった。
隊長らしき武装兵はハンドサインを出し、生き残っていた3名の部下と共に物陰から身を乗り出した。

武装兵「………………」

ゆっくりと彼らは前進する。手に抱えるM-4E2アサルトライフルのグリップを握る手が少しながら強張る。
やがて武装兵4名は敵が倒れていると思われる軽自動車の側に到達した。
ここまで来て攻撃が無いということは、本当に敵は戦闘不能に陥っているのだろう。彼らは2手に分かれて挟み込むように車体の陰に回り込んだ。

武装兵「………………」

そこには、仰向けになって氏んでいる敵兵と、うつ伏せになって氏んでいる敵兵の遺体が転がっていた。
1人の武装兵が、氏亡を確認するためうつ伏せのまま転がっている敵兵の遺体に近付く。

バッ!!

そして武装兵は足をつかってその遺体を仰向けにさせた。
と、その時だった。



ピン!



という小気味良い音が聞こえたと同時、氏んでいたはずの遺体がニヤリと笑みを刻んだ。

武装兵「!!!!!!!!!!」

敵兵の手の中には2人分の計4つの手榴弾が握られており、そのうちの1つのピンが外れていて………





ドォォォン!!!!!!!





直後、閃光と爆音が辺りにほとばしった――。

14: 2010/07/15(木) 23:02:52.03 ID:RKTAF8E0
美琴「ハッ……ハァ……ゼッ……」

暗闇の中、遠く背後に爆発音や銃声音を聞きながら、美琴は走る。
誰も何も発しない。脱出地点を目前にして彼女たちは黙々と走っていた。

黒子「ハァ……ゼェ……ハァ」

佐天「ゼェ……ハッ……ハァ」

初春「ハァ……ハァ……ゼェ」

今、彼女たちは既に街を抜け、周囲に建物がほとんど見られない地帯を走っている。
足元には雑草などが生えており、アスファルトの地面を離れてからだいぶ時間が経っていた。

上条「………………」

一方通行「………………」

そんな美琴たちを守るように併走する上条と一方通行。

打ち止め「…………………」

打ち止めは一方通行に抱えられている。

美琴「(黄泉川先生……鉄装先生……)」

美琴は時間稼ぎのために街に残った黄泉川と鉄装を思い出す。

美琴「(寮監……木山先生……ゲコ太……)」

そして、自らの身を挺して氏んでいった大人たちの最期の姿が脳裏を過ぎる。
彼らは、美琴たちを逃がすために氏んだのだ。その氏に様は、美琴たちでは真似出来ない、信念と責任感のある立派な大人のケジメのつけ方だった。

美琴「(警備員の人たち……妹達……)」

もうここまで来て泣き言は言ってられなかった。
氏んでいった人たちのために自分たちが出来るのは、脱出を成功させること。
美琴は湧き出る涙を無理矢理抑えてひたすら走った。



上条「こっちだ!!!」



上条が叫ぶ。

美琴黒子佐天初春「!!!」

15: 2010/07/15(木) 23:08:11.37 ID:RKTAF8E0
美琴たちは方向を変え、背の高い草を掻き分けていく上条に続く。
殿を一方通行が走る。

上条「ここだ!」

やがて彼らは草村を抜けると、水路にも似た1つの川の側に辿り着いた。川の大きさは幅10m余りだろうか。
その川岸に、草に隠れるようにして1つのボートが木の杭に繋げてあった。

美琴「これが……?」

思わず、口に出す。

上条「ああ、これがそうだ」

上条と一方通行がボートに近付き準備を始める。
美琴たちは息を切らしつつ、互いの顔を見た。

美琴「(遂にこれで……)」

そう、遂にここまで来たのだ。後は、このボートに乗ってしまえば全て終わり。もう、恐怖と緊張に苛まれて足を酷使して走る必要も自分たちの代わりに誰かが氏ぬことも無い。そして、学園都市の内戦や崩壊の危険に巻き込まれることなく『外』に逃げ切れるのだ。

上条「このボートは予め設定した目的地に自律航行で連れて行ってくれる。1度始動すると目的地までは止まらないシステムになっている」

一方通行「一種のモーターボートみたいなもンだが、学園都市製の無音モーターボートだ。音で発見されることはない」

上条と一方通行は説明する。
彼らの説明通りだと、大きな音を出して敵に見つかる恐れはないとのこと。おまけに今は深夜で川は道から数mほど下を流れているのだ。それに背の高い草も都合の良い隠れ蓑になるだろう。
そう、これでもうほとんど安心だ。

上条「朝には目的地の学園都市の『外』と『中』の境界付近に着いているはずだ。後は、以前説明した通りそこから秘密の抜け穴を歩いていけばもう『外』に出られる」

説明しながら上条はボートに取り付けられたディスプレイを操作する。
彼の言葉に美琴たちは僅かに笑みを浮かべ合った。
いよいよだ。いよいよ脱出出来る――。

16: 2010/07/15(木) 23:14:23.73 ID:RKTAF8E0
上条「よし準備は完了した。さあ、みんな乗り込め」

一方通行「揺れるから落ちないように気を付けろよ」

上条「どうした? 時間が無い」

上条は美琴たちを見る。どうも彼女たちはなかなか足を踏み出せずにいるようだ。

美琴「みんな、行きましょう」

美琴が言う。それで他の3人も決心が着いたのか、1歩進み出た。

上条「よし来い」

上条は片足だけボートのヘリに置き手を伸ばすと、先頭にいた佐天を手伝うように彼女をボートに乗せた。

佐天「うお……すごい乗り心地」

一方通行「さァ早くしな」

上条「次だ」

再び上条が手を伸ばし、今度は初春をボートに乗せた。

初春「うわ、ボートなんて久しぶりに乗りましたよ」

上条「ほら」

チョイチョイと上条が促し、今度は黒子をボートに乗せる。

黒子「なるほど。思った以上に快適ですわね」

上条「御坂」

呟き、上条は美琴に手を伸ばす。

美琴「あ、うん。ありがとう……」スッ

上条「気にすんな」ガシッ

笑顔で応じる上条。
美琴と上条の手が一瞬繋がられる。
そして美琴もボートに乗り込んだ。

美琴「これで目的地まで行くのね……」

4人は、最新式のボートに乗って多少はしゃいでいるように見えた。

一方通行「さァてと……」

17: 2010/07/15(木) 23:20:34.57 ID:RKTAF8E0
一方通行が呟く。
そして彼は横に立っていた打ち止めの脇を両手で持ち上げた。

一方通行「ンじゃ、コイツも頼むわ」

そう言って一方通行は打ち止めを美琴に渡す。

美琴「あ、うん。分かった。おいで打ち止め」

打ち止め「…………え?」

美琴は胸の中に抱くように打ち止めをボートに乗せた。
しかし、そこで打ち止めは不可解な表情をして一方通行に訊ねていた。

打ち止め「どういうこと一方通行?」

一方通行「…………………」

一方通行は何も答えない。
不審に思った美琴が打ち止めに質す。

美琴「ん? 何? どうしたの?」

と、そこで何かに気付いたように美琴は上条と一方通行の顔を見て聞いていた。

美琴「そういやあんたたちも早く乗りなさいよ。敵が来ちゃうでしょ」

上条「…………………」

一方通行「…………………」

一方通行は背中を向けるように立っており、上条にいたっては1つ、淡い笑みを浮かべるだけだった。
そこで、美琴は嫌な予感を覚えた。

美琴「まさか………」






上条「俺たちは行かない」






美琴「……………え?」

18: 2010/07/15(木) 23:27:21.20 ID:RKTAF8E0
初めは、その言葉が信じられなかった。余りにもその言葉の意味と上条の笑顔にギャップがあったからだ。
もう1度、上条は言う。




上条「俺たちはここに残る」




美琴「……………ウソ…だよね?」

それだけしか出てこなかった。

黒子「……何をおっしゃっているんですの? 初めから全員で脱出するはずだったじゃありませんの!?」

佐天「そ、そうですよ! あたしたちもてっきりそのつもりでここまで来たのに!!」

初春「ど、どういうことか事情を説明して下さい!!」

信じられない、と言うように黒子と佐天と初春も声を上げた。

打ち止め「違うの! 初めから、お姉さまたち4人以外はみんな学園都市に残る、って決めてたの!」

思い切ったように打ち止めが説明した。

黒子「……な…」

佐天「何で? え? どうして? わ、訳が分からないよ!!」

初春「私たちは全員で脱出するって聞いてたんですよ!?」

打ち止め「よく考えてみてよ! こんなボートに10人以上も乗れるわけないでしょ!!」

黒子佐天初春「あ…………」

打ち止め「だけど……これはどういうことなの一方通行!? ミサカまで一緒に逃げるなんて聞いてないよ!!」

黒子たちは上条と一方通行を見る。2人とも黙ったままだ。

美琴「そんな…………」

美琴は呆然と顔を2人に向けた。手が震えているのが分かる。
信じられない。信じられないのだ。今、起こっていることが。
その不安を掻き消すように彼女は叫んでいた。

20: 2010/07/15(木) 23:33:53.34 ID:OIb6.QI0
美琴「ね、ねぇ待って! 何があったのか知らないけど、予定変更だって有り得るでしょ? だからさ、あんたたちも一緒に乗ろうよ! ねぇ?」

まるで命乞いをするかのように美琴は言う。

上条「無理だ。そのボートの定員は5名。それ以上、俺たちは乗れない」

だが、上条は初めから決定していたことを捻じ曲げるつもりはない、と言いたげにキッパリと即答していた。

美琴「……………そんなの………」

言葉が出てこない。

黒子「ずるいですわよ! どうしてそんなこと黙ってたんですの!?」

佐天「そうですよ! 何でいつもあたしたちだけ蚊帳の外なんですか!?」

初春「もう……誰かを置いてくなんて……嫌ですよ!!」

涙を浮かべながら彼女たちは訴える。

打ち止め「一方通行!! 訳が分かんないよ!! 嫌だよ……ミサカは……あなたと離れたくないのに!!!」

打ち止めの双眸からは既に大量の涙が流れ出ていた。

一方通行「っせェよ。オマエらに言ったらどうせ自分たちも残るとか言いかねないから教えなかったンだ」

背中を向けつつ一方通行は語る。

打ち止め「一方通行!!!」

それでも、打ち止めは彼の名を叫ぶ。

打ち止め「アナタがいないなんて……ミサカは1人で生きていけないよ……ううう」

一方通行「黙れクソガキ!!!」

打ち止め「!!!!」ビクッ

打ち止めに振り向いたと同時、一方通行が怒鳴った。

一方通行「オマエはこれから『外』の世界で新しい人生を送るンだよ!! これ以上、学園都市の闇に生きるゲスどもに利用されないようにな!!」

打ち止め「でも……そんなのって……ひどいよ……ヒグッ」

一方通行「あのカエル顔の医者の知り合いが、オマエの体調を管理してくれる手筈になっている。それに『外』には1万人近い妹達(シスターズ)とそれに、超電磁砲(レールガン)がいる。何かあったらソイツらを頼れ」

打ち止め「ミサカには……グスッ……ミサカには……ヒグッ……誰よりもアナタが一番なの!! アナタがいない人生なんて、ミサカは……信じられない!!!」

打ち止めは涙でグシャグシャになった顔を一方通行に見せる。

21: 2010/07/15(木) 23:39:35.03 ID:OIb6.QI0
一方通行「……………っ」

1度、耐えられないように視線を外した一方通行は打ち止めの両肩を掴んだ。
そして一方通行は打ち止めの顔を見据えた。

一方通行「わがまま言ってンじゃねェ!! 俺だってオマエと気持ちは同じなンだよ!!! オマエと離れたくないンだよ!!!」

打ち止め「……ううっ……グスッ……あくせられぇたぁぁ……」

一方通行「生きろ」

打ち止め「!」

一方通行「そしていつでもいい。辛くなったら、悲しくなったら、俺のことを思い出せ!! 俺はずっとオマエの側にいる。だから……ダチをたくさん作って、好きなヤロウでも見つけて、大人になって円満な家庭でも作りやがれ!! それが、オマエに託す俺の最後の望みだ!!!」

それだけ言うと、一方通行は打ち止めを抱き締めその耳元で静かに付け足した。

一方通行「俺の分も生きろ」

打ち止め「あくせら……れぇた……」

そして、一方通行は名残惜しそうに打ち止めから手を離した。
彼は打ち止めの泣きじゃくる顔を最後に1度だけ見ると、背中を向け踵を返した。

上条「もういいのか?」

一方通行「ああ。後頼むわ。先行ってる」

それだけ言い、一方通行はもと来た道を歩き始めた。

打ち止め「………グスッ……ヒグッ」

一方通行「…………………」ピタッ

もう1度、一方通行が足を止めた。そして優しく彼は呟いた。

一方通行「打ち止め……」

打ち止め「?」

一方通行「オマエといた時間は、俺の最低最悪な人生の中でも一番輝いてたぜ。…オマエに出会えて嬉しかった。ありがとな………」

打ち止め「一方通行……」

一方通行「幸せになれよ」

こうして、一流の悪党は暗闇の中にその姿を没していった。最愛の少女を守るために。
ボートには、いつまでも泣きじゃくる打ち止めの嗚咽が響いていた。

22: 2010/07/15(木) 23:46:09.12 ID:OIb6.QI0
上条「さて……と。俺もそろそろ行かないとな………」

一方通行の背中を見、静かに呟くと上条はボートの航行ボタンを押すべく手を伸ばし………



ガシッ



と、その両腕を誰かが掴んだ。

上条「……………御坂」

美琴「お願い。行かないで」

美琴が搾り出すように懇願する。
2人は、至近距離で見つめ合う。

上条「…………ごめん。でもあいつ1人だけにさせるわけにはいかないし、どの道このボートに俺は乗れない」

美琴「やだよ……。私を置いてかないで………」

上条と美琴の会話を、黒子と佐天と初春は黙って見つめている。
打ち止めは初春の胸の中でいまだ泣き続けていた。

美琴「あんたと……離れたくない」

上条の腕を掴む美琴の手に力が込められる。

美琴「電撃食らわして気絶させても連れて行くわよ……」

上条「はは…それは恐いな。そっか、もう…お前とも馬鹿みたいな一晩中電撃浴びせ浴びせられ鬼ごっこも出来なくなるんだよなぁ」

美琴「…………グスッ。そうよ…私は……あんた以外に電撃を浴びせるやつなんて…『外』にはいない………」

2人は思い出す。初めて出会った日のことを。そして、一晩中追いかけっこをしていた日々のことを。

上条「だけど、ごめん。これだけは無理なんだ御坂。そういうことだ……」

美琴「でも……!!」

23: 2010/07/15(木) 23:52:52.27 ID:OIb6.QI0
上条は黒子たちに顔を向ける。

上条「白井」

黒子「……はい」

上条「佐天」

佐天「……はい」

上条「初春」

初春「……はい」

上条「お前ら、こいつのこと宜しく頼んだぜ。強気だけど、こんな風に本当は弱いやつなんだからさ」

声を掛けられ、一瞬黒子たちは戸惑うような表情を浮かべたが、すぐにそれは笑顔になった。

初春「任せて……下さい」

佐天「あたしたち3人とも、御坂さんの大切な親友ですから。大丈夫です」

黒子「貴方には色々お世話になりましたね。ありがとうございます。お姉さまのことなら、ご心配なさらずに。私たちがついていますから」

それだけ聞くと上条は頷く。

上条「なら、安心だ」

そして彼は打ち止めに視線を移す。

上条「打ち止め」

打ち止め「………グスッ……」

上条「一方通行の望み、叶えてやれよ」

打ち止めは小さくコクンと首を縦に振った。

上条「じゃ、そういうことだ。もう時間が惜しい」

そう言って上条はボタンを押す。
ゆっくりと、モーターが始動する音が聞こえ始めた。
と、そんな上条を無理矢理振り向かせるように美琴が突然、上条の頬に両手を添えた。

上条「!?」

黒子佐天初春「あ…………」

24: 2010/07/15(木) 23:59:05.31 ID:OIb6.QI0







美琴上条「「―――――――――――――」」








25: 2010/07/16(金) 00:04:14.42 ID:xYR0ZPE0
永遠のような一瞬が2人の間に流れた――。

美琴「…………………」

ややあって、ゆっくりと美琴は上条から顔を離し、潤んだ目で彼を見つめた。

上条「…………………」

モーターボートが川岸から離れ出す。

美琴「私……あんたのことが………当麻のことが大好きだった」

そして、美琴は言っていた。

美琴「ずっと……ずっと……当麻のことが……好きだったの……」

美琴は僅かに俯く。
静寂がその場を漂う。
モーターが動く音だけが徐々に大きくなっていく。






上条「俺もお前のことが好きだ美琴」






美琴「…………え…?」

26: 2010/07/16(金) 00:09:32.39 ID:xYR0ZPE0
顔を上げ、美琴は上条の顔を見た。彼は、優しく微笑んでいた。

上条「俺も、ずっと美琴のことが好きだった」

美琴「当麻……」

ボートは川岸から離れていく。それと同期するように上条と美琴の距離も開いていく。

美琴「当麻!!!」

美琴はボートのヘリに掴まり、遠くなっていく上条に叫ぶ。

美琴「私……待ってる!! 当麻のこと!! 10年も50年も……100年も!!」

上条「俺もだ美琴!! 俺も…たとえ氏んだってお前に会いに行く!!」

美琴「絶対だよ!!」

上条「ああ、約束だ!!」

そこで美琴は名残惜しそうに一瞬俯いたが、すぐに顔を上条に戻した。

美琴「私、当麻のこと愛してる!! ずっと……今までも……そしてこれからも!! ずっと……ずっと……」

上条「俺もだ!! 俺も…美琴のことずっと愛してるよ……」

美琴「ずっとだよ?」

上条「ああ、ずっとだ」

2人の仲を切り裂くように、ボートは進んでいく。
だが、彼女たちの絆は決して裂くことは出来ない。何があっても――。

上条「美琴………」

美琴「当麻………」

最後に、彼らは愛し合っていた人の名前を交互に呟いた。
2人は、お互いの姿が見えなくなるまでずっと見つめ合っていた。




モーターボートはようやく全力で航行し始めた。
美琴は遠くなっていく街並を見続ける。彼女の胸の中にあるのは、1枚のCD-ROMと、永遠に交わることのない1つの愛の絆だった――。

27: 2010/07/16(金) 00:15:14.97 ID:xYR0ZPE0
一方通行「遅いぞ」

上条「悪い」

後ろから響いた足音に気付き、ポケットに両手を入れて立っていた一方通行が振り向きもせず声を掛けた。

一方通行「ちゃンと、後始末やって来たンだろうな?」

上条「大丈夫だ。モーターボートはちゃんと出発した」

上条が一方通行に並ぶ。

一方通行「そっちのことじゃねェよ」

上条「ん? ああ、そのことか。それなら、大丈夫さ………」

僅かに瞳を揺らし上条は呟く。そんな彼を横目で窺って一方通行は言った。

一方通行「やれることはやった。後1つを除いてな」

2人は前方を見据える。
彼らが今立っているのは大通りの中心だ。

一方通行「おでましだ」

上条「………………」

彼らが視線を向けた先、大通りの向こうに人影がパラパラと現れ始めた。
ある者は白衣を着、ある者は私服の姿をし、ある者はその手にライフルを抱えていた。
その人影が徐々に、増えていく。

上条「なぁお前……」

一方通行「なンだ?」

上条「今、立ってられるだけで精一杯なんじゃないのか?」

一方通行「………チッ、バレてたかよ」

上条「キャパシティダウンか?」

上条は一方通行の足に視線を向ける。彼の足が僅かに震えていた。

一方通行「アイツら、正規の改良版キャパシティダウンを完成させてたようだな。任意でレベル設定が出来る代物だ」

恐らく、視線の先の集団の誰かが改良版キャパシティダウンを今も流しているのだろう。任意によって対象をレベル5に設定されたそれは、一方通行に悪影響を及ぼしているのだ。

28: 2010/07/16(金) 00:21:41.48 ID:eo4pN5k0
上条「大丈夫か?」

一方通行「ったりまえだろが」

大丈夫なはずがない。足を震えさせているのがその証拠だ。並の能力者なら頭を抑えて地面を転がり回ってるはずだ。本当は今この時も、一方通行の脳内には激しい激痛が襲っているのだろう。だが、それでも彼は平然と立っている。それはまさに、学園都市最強の超能力者として相応しい姿と言えた。

一方通行「まぁ、反射もベクトル操作もかなり精度が落ちるかもしンねェがなァ」

上条「だが、もう後悔はしてないだろう? あいつらを逃がせたんだから」

一方通行「まァな。だが……未練が無いと言えば、嘘になるかもなァ……」

2人は笑みを浮かべる。互いを認め合うように。

一方通行「さて、そろそろだな」

上条「ああ」

彼らの視線の先には、彼らを討つべくやってきた研究者や魔術師、武装兵たちがいた。
その数およそ200越え――。
圧倒的な不利であるのに関わらず、上条と一方通行は笑みを絶やさない。




ドオオオオン!!!!!!




その時、莫大な衝撃波が2人を襲った。
恐らく能力者の研究者から放たれたものだろう。2人はその場に倒れ込んだ。
そんな上条と一方通行を見て、容赦を知らない敵の主力部隊は更に歩みを進める。

29: 2010/07/16(金) 00:27:26.38 ID:eo4pN5k0
だが、彼ら2人はこれで終わるようなタマじゃない。それを証明するように、上条と一方通行は前方を見据え、ゆっくりと立ち上がろうとする。


上条「いいぜ……」


一方通行「オマエらが、そう簡単に俺たちを倒せると思ってンなら……」


その目に闘志が宿る。



上条「美琴たちを捕らえられると思ってるなら………」



2人は同時に勢い良く立ち上がり、ただ一言叫んだ。







上条一方通行「「まずはそのふざけた幻想をぶち頃す!!!!!!!!!」」







咆哮のような雄叫びを上げ、上条と一方通行は走り出していた。
彼らは拳を握る。愛する人たちを守るために――。

30: 2010/07/16(金) 00:33:14.64 ID:eo4pN5k0
美琴「………グスッ……」

黒子「………ズズッ」

佐天「…………グスッ」

初春「…………ヒッグ」

打ち止め「……うううっ……グスッ…エッグ……」

美琴たちは、自律航行するボートの上にいた。
5人分の嗚咽だけがその場に聞こえていた。




ズズウウウウウウウウウン!!!!!!




その時だった。遠くになりつつある街の方から轟音と、続き銃声音が聞こえてきた。

美琴黒子佐天初春打ち止め「!!!!!」

美琴たちはそちらの方角を見る。
暗闇の中に浮かぶ街の建物群が、爆炎らしき光で照らし出されるのが見えた。

打ち止め「一方通行………」

美琴の胸の中にいた打ち止めが嗚咽混じりに呟いた。
美琴も同様に呟く。

美琴「当麻………」

美琴たち4人は涙を流しながら、街を見つめていた。
学園都市の崩壊はまだ始まったばかりだった。

31: 2010/07/16(金) 00:38:17.93 ID:eo4pN5k0
同時刻・学園都市の『外』――。

連合NGO団体の巨大施設に彼らはいた。
その2人――1人の少年とその傍らに佇む1人の少女は遠くに見える学園都市を眺めていた。
ここからでも爆発音が聞こえ、学園都市のいたる所から煙が上がっているのが見えた。

「現在時刻0時丁度。……いよいよ始まったんだな」

「こわいの……?」

「まさか。でも、あの街は俺とお前が出会った場所だからな。寂しいと言えば寂しいかもしれないな」

「そうだね……」

「本当言うと、あいつも一緒に3人で逃げたかったけど。あいつは俺たちを逃がすために氏んじまったからなぁ……」

「………………」

不意に、少女が少年の手をギュッと握った。少年もまた少女の手をギュッと握り返した。

「心配するな。何があってもお前は絶対守ってやっからさ。一生かけてでも」

「うん……」

「幸せになろうな?」

「うん………」

2人は寄り添い、遥か遠くの落日の街を見つめる。
爆炎によって照らし出されたその街は、夜空にオレンジ色の光を何度も映えさせていた。

33: 2010/07/16(金) 00:45:27.28 ID:eo4pN5k0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




翌日――。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


34: 2010/07/16(金) 00:48:37.05 ID:eo4pN5k0
霧も深い早朝。美琴たち4人を乗せたモーターボートは川の終点で止まっていた。
小鳥たちの囀る声に混じって、モーターボートのディスプレイからピピピと音が鳴った。終点に着いたという合図だった。

美琴「う……ん……」

そんな中、美琴はゆっくりと目を覚ました。

ピピピピピピ

美琴「なに……?」

徐々に意識がはっきりしてくる。ふと気付くと、胸の中で泣き疲れた打ち止めが眠っているのが見えた。
ボートを見回してみると、黒子と佐天と初春が寄り添って眠っていた。

ピピピピピ

ボートの外は霧に包まれていたが、どうやらそこが終点であることは何となく分かった。

美琴「そっか、着いたんだ……」

美琴はディスプレイを操作し、音を止めた。

美琴「打ち止め、ほら、起きなさい。着いたわよ」

打ち止め「……う…ん?」

揺さぶられ目を覚ました打ち止めが目をこする。

美琴「ほら、黒子、佐天さん、初春さん。起きて」

黒子たちを起こす美琴。

黒子「ん……どうしたんですのお姉さま?」

佐天「ふぁーぁ……あれ? えっとここどこ?」

初春「むぅー……よく寝た…」

美琴「ほら、よく見なさい。目的地に着いたのよ」

打ち止め「あ、本当だ…ってミサカはミサカは重い瞼をこすりながら辺りを見回してみる」

黒子「そうですか、ようやく着いたのですね」

佐天「いつの間にか朝になってたんだ」

初春「疲れちゃったので寝てました」

美琴「ほら、みんなしっかり。後もう一踏ん張りよ」

35: 2010/07/16(金) 00:54:33.06 ID:eo4pN5k0
美琴たちはボートを降りる。
どうやらそこは川の終点のようで、川の先は下水になっているのか柵が下ろされていた。

美琴「確か、この辺りに抜け道があるはずだけど」

葉っぱに覆われた下水施設の壁を、美琴は手探りに調べてみた。
川が下水に流れていく音が心地良く響く。

黒子「もうここは学園都市の『外』に近い場所なんですわよね?」

佐天「そうらしいですねー。にしても、抜け穴なんて見つかりませんね」

初春「でもここのはずですよ」

黒子たちも手伝って、傾斜になっている壁の葉っぱの裏を覗いてみたり草を掻き分けてみたりと色々試す。

美琴「ん? もしかしてこれじゃないかしら?」

美琴が葉っぱをめくってみると、確かにそこには古びた蓋らしきものが壁にくっついていた。
黒子たちが駆け寄って来る。

黒子「確か、上条さんの話によれば蓋に『作業員用非常出入り口』と刻まれてるはずだと」

美琴「ええ、ちゃんとあるわよ」

確かに、蓋には『作業員用非常出入り口』と彫られていた。ここで、間違いない。

パカッ

美琴「おっと」

少し力を入れてみると、蓋が簡単に開いた。
中を覗き込んでみる。直径2mぐらいの暗闇がずっと続いていた。

佐天「うひゃあ、じめじめしてそう。変な虫とかいないかな?」

初春「そう言えば、ボートに懐中電灯があるから使え、って言ってましたね」

そう言って初春はボートを簡単に探してみると、すぐに懐中電灯を見つけた。

初春「はい、ありました」

美琴「ありがとう」
美琴「さて、じゃあ行きますか」

黒子たちが頷く。

美琴「打ち止め、行くわよ!」

36: 2010/07/16(金) 01:00:31.52 ID:eo4pN5k0
美琴がボートの側で屈んでいる打ち止めに声を掛けた。

美琴「どうしたの打ち止め?」

何やら打ち止めは、草の上にいる動物と戯れている。

ニャ~

美琴「猫?」

見ると、1匹の三毛猫が尻尾を振って打ち止めと遊んでいた。

打ち止め「ねぇお姉さま、このネコちゃんも連れて行っていい? ってミサカはミサカはキラキラした目で訴えてみたり」

美琴「まあ、それぐらいならいいけど……って、ん? ちょっと待って、その子……」

美琴が打ち止めに近付いた。

打ち止め「どうしたのお姉さま?」

美琴「この子、スフィンクスじゃない」

打ち止め「スフィンクス?」

ニャ~と三毛猫は久しぶりに会った知り合いを見て嬉しそうに鳴いた。

美琴「当麻たちが寮で飼ってた猫よ」

まさかここで会うとは、と美琴は少し驚いた。それよりも飼い主の不在期間が長く続いたというのにこの猫は1匹でたくましく生きていたのだと思うと、彼女は素直に感心した。

打ち止め「そうなんだ。おいでスフィンクス~」

美琴「慣れてるのかしら? 私たちみたいな電撃系能力者でも平気そうね」

ニャ~

スフィンクスは打ち止めの胸の中に飛び込む。
ここで彼と再会したのも何かの縁なのかもしれない。

美琴「まあいいわ。その子も連れて来ていいから、そろそろ行くわよ」

打ち止め「はーい!」

こうして、美琴たちは抜け穴に忍び込んだ。

39: 2010/07/16(金) 01:06:33.83 ID:eo4pN5k0
懐中電灯を持つ美琴を先頭に、スフィンクスを服の中に抱えた打ち止め、佐天、初春、黒子が続く。
事前の情報通りなら抜け穴は1本道。但し、暗い上に何度も角を曲がらなければならないらしく、出口に着くまでは結構時間が掛かるとのことだった。

美琴「…………………」

ゆっくりと、四つん這いの格好で彼女たちは進む。
多少、熱さを感じたが何とか我慢出来るものだった。
そして、1時間が過ぎた頃……。

佐天「まだですかね?」

初春「だいぶ疲れてきちゃいましたぁ」

打ち止め「あぅーミサカも手が疲れてきちゃった、ってミサカはミサカはグウの音を出してみたり」

ニャ~

黒子「こらこら。恐らくもうそろそろでしょうし、頑張りましょう」

美琴「ええ……その通りね。どうやら出口が見えてきたみたい」

それを聞き、4人の顔が一斉に明るくなった。

打ち止め「それって本当に? ってミサカはミサカは期待の色を浮かべた顔をしてみる」

美琴「ええ、前方10mほど先に恐らくは地上に向かうための垂直の空間があるわ。あそこに見える梯子を上れば恐らく……」

佐天「おお、ゴールは目の前ですね」

初春「よかったー」

黒子「ささ。ラストスパートですわ。ゴールが見えてきたのですから、頑張りましょう」

41: 2010/07/16(金) 01:11:27.26 ID:eo4pN5k0
数分後、彼女たちは円柱形の空間に辿り着いた。何とかそこは5人分が立てるだけのスペースはあった。
美琴は懐中電灯を頭上に向かって照らしてみる。

美琴「あった。蓋よ。恐らくあれが出口ね」
美琴「梯子が脆くなってないか心配だから1人ずつ上りましょう。まずは私が行くわ」

黒子「分かりました。落ちないようお気を付けて」

美琴「ええ」

美琴は懐中電灯を口に咥え、梯子を上り始めた。耐久度はどうやら大丈夫のようだ。

美琴「………………」

ゆっくりと美琴は梯子を上る。真ん中まで来たところでチラッと彼女は下を見てみた。
4人が心配そうにこちらを見上げている。
彼女たちの顔を確認すると、美琴は引き続き残りの梯子を上り始めた。
そしてようやく彼女は天辺の出口まで辿り着いた。

美琴「(いよいよね……)」

美琴が片手で手を伸ばし、蓋の取っ手口に手を掛けた。

黒子「さて、遂に世紀の瞬間ですわね」

打ち止め「ワクワクドキドキってミサカはミサカは興奮してみる」

ニャ~

佐天「何が待っているか」

初春「解禁ですね」

黒子たちが期待と不安の混じったコメントを口にする。
美琴自身もまた、自分の胸の鼓動が早くなるのを感じていた。
取っ手に力を込める。



ガコッ……



開いた――。

そのまま蓋を開けきると、円柱形の空間に眩い光が降り注いだ。
思わず目を細める梯子の下の4人。
美琴はググッと力を込めて最後の梯子を上り終えた。

42: 2010/07/16(金) 01:17:32.58 ID:eo4pN5k0
美琴「…………………」

穴の中から顔を覗かせ周囲を見渡す。そこは、どこかの土手だった。右手に大きな川が見えた。
間違いなくそこは、学園都市の『外』だった。

美琴「着いたのね……」

と、その時、美琴の横合いから1人の男が手を差し伸べてきた。

「大丈夫かい?」

「おい! 学園都市から逃げてきた生徒たちだ! 手伝ってくれ」

4人の若い男たちが近付いて来るのが見えた。恐らく、上条が言っていたNGO団体の職員だろう。
そしてその周りには迷彩服を着込んだ兵士らしき姿をした人間が自動小銃らしきものを構え立っていた。護衛任務を受けた自衛隊かもしれない。

男たちに手伝われて、美琴は久しぶりに地上に足をつけた。
続けて、梯子を上ってきた打ち止め、佐天、初春、黒子も同じように地上に足を下ろした。

「お疲れ様だ。早速、あのトラックに乗ってNGO団体の連合施設まで行ってもらうけど大丈夫だね?」

美琴「あ、はい……」

美琴たちは久しぶりに学園都市の『外』の空気を吸う。どこか、新鮮な感じがした。
そこで彼女たちは気付く。風景の向こうに佇む学園都市を。
5mほどの壁に遮られた空間の内部からは、いくつかの煙が上がっているのが見えた。

美琴「学園都市が………」

横に並び、彼女たちは呆然とその光景を見つめる。
所々破けた服も、汚れや傷がついた肌も、気にする素振りすら見せず、美琴たちはずっと学園都市を眺めていた。


今、彼女たちの長い長い旅路は終わりを迎えた――。

72: 2010/07/16(金) 23:40:50.46 ID:7wBXR5.0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




1ヵ月後――。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


74: 2010/07/16(金) 23:45:59.77 ID:7wBXR5.0
打ち止め「ブーン、ってミサカはミサカは飛行機になった気分で走ってみたり~」

大きくて広いメインホールを、元気な声を発しながら打ち止めが駆けていく。

「わっ」

「きゃっ」

「おっと」

打ち止め「どいてどいてー! ミサカ20001系は急には止まりませーん! ってミサカはミサカははしゃいでみたり!」

ホールを行き交う人と人の間を、打ち止めは忍者のように素早くすり抜けていく。
ホールには、学園都市から逃げてきた学生、NGO団体の職員、研究者たち、政府関係者など様々な人がいたが、誰も打ち止めのことを鬱陶しそうに見る人はいなかった。

打ち止め「ちなみにミサカは逆戻り出来ませーん! だって一方通行だもーん、ってミサカはミサカはブーン」

この施設にいる子供と言えば、学園都市から逃げてきた子供しかいない。従って、そんな子供たちを邪険に扱う人は誰もいなかったのだ。

黒子「打ち止めちゃん、あまりはしゃいでいるとこけますまわよ!」

そんな打ち止めを後ろから注意する黒子。本来なら打ち止めのお目付け役は美琴がするはずだったが、色々と事情があって今は黒子がその役を仰せつかっていた。

黒子「まったく…何故私があの子の世話を……。まあ、彼女の笑顔を見ているとそう悪いものではないのですがね」

はしゃぐ打ち止めを見て黒子は笑みを浮かべる。

打ち止め「大丈夫大丈夫~、ってミサカはミサカは…あう!!」

ドシャ!

黒子「あ」

黒子が予感していた通り、打ち止めは転倒してしまった。

黒子「まったく…だから言わんこっちゃない……」

打ち止め「あうううう……鼻が痛い……ん?」

黒子「あら?」

打ち止めが見つめる床に、1つの小さな影が現れた。打ち止めが顔を上げると、そこには男の子2人、女の子1人が心配そうに彼女を見つめていた。どうやらみんな打ち止めと同じ年頃らしい。恐らくは上条たちとは別ルート経由で学園都市から逃げてきた子供だろう。

女の子「大丈夫?」

男の子A「気を付けろよな」

男の子B「痛くない?」

76: 2010/07/16(金) 23:51:26.46 ID:7wBXR5.0
初対面であるにも関わらず、子供たちは転んだ打ち止めを心配する言葉を掛ける。

打ち止め「…………………」

そんな子供たちの顔を呆然と見つめ返す打ち止め。

黒子「(これは……しゃしゃり出ないほうがいいですわね)」

黒子は少し離れた場所で打ち止めの様子を見守ることにした。

女の子「ほら立って」

打ち止めに向かって手を伸ばす女の子。

打ち止め「え? あ…うん」

打ち止めは一瞬キョトンとしたが、恐る恐る女の子に手を伸ばしてみた。

ギュッ

恥ずかしそうな表情を浮かべながら、女の子に手伝われて打ち止めは立ち上がった。

打ち止め「あ…ありがとう……ってミサカはミサカは感謝してみる……」

女の子「どういたしまして」ニコッ

打ち止め「………………」

満面の笑みを浮かべる女の子を見て、打ち止めはどう対応していいのか分からなかったのか視線を逸らした。

男の子A「お前、学園都市から逃げてきたんだろ?」

打ち止め「え?」

男の子B「違うの?」

と、男の子たちが打ち止めに話しかけてきた。

打ち止め「そ、そうだけど……」

女の子「じゃあさ、友達にならない?」

打ち止め「え……」

女の子「わたしたちもここで知り合ったんだけど、もっと友達を増やしたかったの」

男の子A「お前なら歓迎するぜ?」

男の子B「そうだよなろうよ友達」

77: 2010/07/16(金) 23:57:53.82 ID:7wBXR5.0
打ち止め「あ……う……」

一瞬、打ち止めは少し顔を俯かせた。

女の子「ね、友達になろう!」

しかし、再び女の子の笑顔を見ると打ち止めは恥ずかしながらも答えていた。

打ち止め「うん……じゃ、じゃあ…こんなミサカでよかったらお友達に……」ボソボソ

女の子「やったぁ!」

男の子A「今からお前俺たちの仲間な!」

男の子B「君、名前何て言うの?」

打ち止め「えっと……『打ち止め(ラストオーダー)』?」

女の子男の子A男の子B「らすとおーだぁ?」

打ち止め「あ、じゃなくて『ミサカ』! 『ミサカ』でいいよ!」

女の子「そうなんだ。じゃあ『ミサカ』ちゃんって呼ぶね! わたしの名前はね……」

つい先程知り合ったばかりだと言うのに、もう彼女たちは仲良さそうだった。

黒子「………クス」

新しく…と言うよりも初めて出来た友達と嬉しそうに話す打ち止めを見て黒子は微笑みを浮かべた。

打ち止め「……うん、これからも宜しくね! ってミサカはミサカは満面の笑顔で答えてみる!」

黒子「(あの殿方の影響からか、打ち止めちゃんは強い子ですわね。しかし、問題は………)」

黒子はその顔から笑みを消すと、不安な表情をつくって虚空を仰ぎ見た。

78: 2010/07/17(土) 00:02:50.14 ID:plNqHvA0
連合NGO団体施設に設けられた、学生たちの居住区エリア。その一室に美琴はいた。

コンコン

部屋の扉をノックする音が聞こえた。

黒子「お姉さま、私ですの」

美琴「…………開いてるわよ」

どこか元気の無い声で美琴は答えた。

ガラッ

黒子「お姉さま……」

黒子が中に入ると、部屋はカーテンで締め切っており昼間だと言うのに夜のように暗かった。
そんな広くも無い、トイレや風呂、テレビなど必要最低限の施設が備えられたその部屋の中央のベッドの上に彼女はいた。うつ伏せになりながら。

黒子「お姉さま、こんなお昼からカーテンも締め切って健康に悪いですわよ?」

美琴「放っといてよ……」

黒子「…………………」

振り向きもせず、美琴は鬱陶しそうに答える。

黒子「もう学園都市から離れて1ヶ月近く……そろそろ規則正しい食生活に移行した方が……。もうすぐ例の“カリキュラム”も始まりますし……」

美琴「……………私の勝手でしょ」

黒子「じきに学生たちには両親との面会期間も設けられます。いつまでもそんなことしてる場合では……」

79: 2010/07/17(土) 00:07:33.90 ID:plNqHvA0
美琴「うるさい!!」

黒子「!!」ビクッ

美琴「……………もう、出てって……」

黒子「…………………」

美琴の言葉に、黒子はただ黙るしかなかった。

黒子「…………分かりました」

黒子は部屋から出、ドアに手をかけた。

黒子「………そう言えば…ついさっきのことですけど、打ち止めちゃん、友達が3人出来たようですわ」

美琴「……………………」

黒子「なるべく彼女にも会って下さいませ」

ガララ……ピシャッ

ドアが閉められ、部屋は再び暗闇と静寂に包まれた。

美琴「……………………」

孤独感が美琴を襲う。

美琴「……………ふぐぅ……当麻ぁ………」

嗚咽混じりに、彼女は布団をギュッと掴んだ。

80: 2010/07/17(土) 00:12:48.39 ID:plNqHvA0
佐天「いっただきまーす!」

初春「いただきまーす!」

明るい声が響きわたった。

黒子「では、いただきますの」

施設に設けられた食堂の1つ。そこに今、黒子と佐天と初春は昼食を食べるべく同じテーブルに集まっていた。

佐天「モグモグ……意外にもおいしいね」

初春「そうですね。もっと質素なんじゃないかと思ってたんですけど…ムシャムシャ」

目の前に広げられたピザやスープ、ハンバーグなどの洋食を食べながら彼女たちは談笑する。

黒子「学園都市のレストランにあった、よく意味の分からない実験的料理のように先鋭的な味はしませんが、それでも食事出来るだけ贅沢なものですわね」

佐天「確かにそうですよね」

初春「そう言えば、昨日また婚后さんに会いましたよ」

黒子「ほう? これで何回目でしょうかね」

初春「泡浮さんや湾内さんと一緒にいました。みんなお嬢さまですけど、ここの生活環境にも随分慣れたようですね」

佐天「あたしてっきり、お嬢さまってこういった俗世間と混ざったら消滅するのかと思ってました」

黒子「佐天さんはどういう考え方をしていますの……」

佐天「あはは。でも結局良かったじゃないですか。みんなと再会出来て」

それを聞き、黒子と初春が頷く。

初春「固法先輩に婚后さん、泡浮さん、湾内さん。春上さんや枝先さんたち。みんな元気そうでしたよ」

佐天「アケミやむーちゃん、マコちんもね」

黒子「あすなろ園の子供たちもみんな無事だったようですわね」

81: 2010/07/17(土) 00:18:28.92 ID:plNqHvA0
佐天「みんなちゃんと生きてて学園都市から逃げれたんですよね」

初春「全部、あの人たちのお陰なんですよね……」

黒子佐天初春「…………………」

そこで一旦、食事が止まった。彼女たちは誰かを思い出しているようだった。

佐天「そういや、御坂さんはどうです?」

黒子「え?」

初春「やっぱり、まだ元気が無いまま引きこもってるんですか?」

佐天と初春が心配そうな顔を黒子に向けてきた。

黒子「ええまあ……。さっきも伺ってみましたが、相変わらず。カーテンも締め切って、レベル5の超能力者とは思えないほど……。何だか最近以前よりも痩せてきたようにも思えますし……心配ですわ」

佐天「もうだいぶまともに会ってないですよね」

初春「……でも、やっぱり仕方ないと思います。あんな別れ方をしたら……」

黒子「打ち止めちゃんはようやく友達も出来たんですがね……。お姉さまも元気を出してくれればいいのですが……」

黒子佐天初春「…………………」

再び、食事が止まった。

初春「私はそんな経験無いからよく分からないですけど、両想いが発覚した瞬間、失恋ってどんな気持ちなんでしょうか……」

佐天「失恋って言うより、今生の別れだよね。……恋が叶った途端、今生の別れだなんて……」

黒子「確かに。お姉さまにとってあの方の存在は計り知れないほど大きなものでした。そう簡単に立ち直るのは難しいでしょう。それこそおよそ10年掛かるかもしれませんわね。いえ、その存在そのものを忘れることは一生掛かっても無いでしょう……」

佐天初春「御坂さん……」

黒子「今は、そうっとしておきましょう。……ですが、私は信じていますわ。お姉さまが元気を取り戻して私たちにあの凛々しくも美しい笑顔を再び見せてくれることを……」

そう言って黒子は食堂に設置された窓に顔を向けた。佐天と初春もそれに倣った。
そこから見える空は青かった。

82: 2010/07/17(土) 00:24:37.58 ID:plNqHvA0
学生の居住区エリア。その一室。
カーテンも締め切り電気も点いていない部屋の中、壁際に設置されたテレビが僅かな光を漏らし、暗い空間を淡く浮かび上がらせていた。

テレビ『学園都市内部では、今も研究者勢力とテログループの戦闘が行われ………』

机の上に置かれたノートパソコンには、学園都市崩壊に関する記事を載せたいくつかのサイトが複数のブラウザで表示され、床には同じく学園都市の記事を扱った新聞が散らばっていた。

美琴「……………当麻ぁ」

全て、美琴が上条の行方の手掛かりを少しでも得るために集めたものだった。

美琴「どうして……どうして……私を置いて……行っちゃったの……?」

布団の中にくるまりながら、美琴は涙を流し悲しみに明け暮れる。

美琴「やだよ……会いたいよ当麻………もう1回、その笑顔を見せてよ……ううう…グスッ」

ここ1ヶ月、ずっと美琴はこの調子だった。忘れようとしても忘れられない想い人の笑顔が、共に過ごした日々が何度もフラッシュバックするのだ。

美琴「………何で……何でよ………」

美琴はギュゥッと自らの身体を抱き締める。

美琴「当麻……」

学園都市から逃げる1週間ほど前、共に御坂妹の氏を悲しんだ時、美琴は上条と寄り添い互いの悲しみを慰め合った。
その時の、自分を抱き締めてくれた上条の大きな身体が、温もりが、匂いが、いまだ忘れられないのだった。

美琴「えうっ……ヒグッ…」

彼女は自分の唇に触れてみた。
上条の人肌の最後の感触が唇を触れたびに蘇るのだった。

美琴「……当麻………」

彼女の双眸から涙が止まることはなかった。

84: 2010/07/17(土) 00:30:43.59 ID:plNqHvA0

上条「俺もお前のことが好きだ美琴」


――私も!! 私も当麻のことが好きだった……!――


上条「俺もだ!! 俺も…美琴のことずっと愛してるよ……」


――私も……私もずっと愛してる……っ――


上条「またな……美琴」


――やだ……行かないで!! お願い待って!! 私を置いてかないで!! 当麻!!――


上条「………」ニコッ


――やだ……1人にしないで……やだよ……うう……グスッ」――


――どうして……行っちゃうの? ……私たち、せっかく結ばれたのに……――


――やだよ……当麻がいないと……私……――


――もう、氏にたい………――


――…………………………――


『ダメなんだよ美琴』


――え……?――


『せっかくとうまが生かしてくれた命なのに、氏んじゃダメなんだよ』


――誰……? 誰かそこにいるの?――


87: 2010/07/17(土) 00:36:26.29 ID:plNqHvA0


『美琴もよく知ってると思うよ』


――?――


『美琴……とうまはね、美琴の幸せを誰よりも願ってるんだ。美琴が幸せになることを望んで戻っていったんだよ?』


――でも……私は……――


『ここで美琴がずっと悲しんでたり、それどころか氏んじゃったりしたら、とうまはとても悲しむんだよ』


――貴女、もしかして……――


『だから、生きるんだよ美琴。そして幸せになるんだよ』


――ねぇ、貴女!――


『それが、とうまの願いなんだよ』


――インデックス!!!――




ガバッ!!!!




美琴「………ハァ………ハァ………ゼェ………」

90: 2010/07/17(土) 00:42:58.56 ID:plNqHvA0
息を切らし、美琴は飛び起きた。

美琴「夢……?」

いつの間にか眠っていたようだ。

美琴「………夢か……」

暗闇の中、テレビの光が部屋を淡く照らしていた。
ふと頬に手を当ててみると、水滴がついた。どうやら寝ながら泣いていたらしい。

美琴「…………………」

しかし、どこか頭はスッキリしていた。
と、カーテンの隙間から光が差し込んでいるのが見えた。

美琴「…………………」

何の意図も無い、無意識のうちの行動だったが、美琴はベッドから降り、カーテンを開けてみた。

美琴「うわ」

その瞬間、夕焼けの光が彼女の顔を照らした。

美琴「………綺麗」

かつて上条と共に学園都市から見たものよりもとても美しく綺麗な夕焼けだった。

91: 2010/07/17(土) 00:48:11.33 ID:plNqHvA0
美琴「こんなにも綺麗だったなんて……」
美琴「……………………」

しばらく美琴はその光景に目を奪われていた。

美琴「………よし!」

そして彼女は、何かを思い立ち、適当に髪を整えると、部屋のドアを開け久しぶりに外に飛び出した。



しばらくして、美琴は頂上に大きな木が生えた小さな丘の上に来ていた。
すぐ近くから、はしゃぐ子供たちの声が聞こえた。

美琴「…………………」

美琴は、とある方向に視線を据えてみた。その先にあったのは、かつて彼女が暮らしていた街―『学園都市』だった。

美琴「学園都市か………」

風が吹き、彼女の髪を優しく揺らした。

美琴「当麻……ありがとう」

風に揺れる髪を押さえながら、彼女は学園都市に向かって呟いた。

美琴「……………………」

その顔には、もう涙も悲しみもなかった。
ただ、凛々しく美しい笑顔が浮かんでいるだけだった。


まるで彼女を慰める風に包まれながら、美琴はいつまでも学園都市を眺めていた――。

98: 2010/07/17(土) 01:00:39.38 ID:plNqHvA0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




10年後――。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


103: 2010/07/17(土) 01:07:17.22 ID:plNqHvA0
東京・都心部――。

多くの人が行き交うビジネス街。その一角にあるオープンカフェのテーブルにその女性は座っていた。
ボブショートに切り揃えられたシャンパンゴールドの髪。細くて、しかしどこか力強さを感じる白い腕。理想的な体型に整えられたその肉体は、並のモデルでも思わず見とれてしまうほどだった。
凛とした顔は鋭く、化粧も程ほどに薄いのにも関わらず、それでいてみずみずしい美しさを保っている。

彼女の名前は御坂美琴――。かつて、超能力が科学として認められた街『学園都市』で、レベル5第3位の超能力者だった女性だ。

美琴「待ち合わせの時間までもう少しかしら?」

今、彼女は本を読みながら人を待っていた。学園都市で出会った友人たちを。

美琴「学園都市……か」

美琴は思い出す。かつて住んでいた街のことを。そしてその顛末を。

10年前、美琴たちは、とある少年たちの手を借りて、崩壊間近の学園都市から逃げ出した。
初めは不安だらけだった。何しろ、久しぶりの『外』の世界だ。一般人から白い目で見られるのではないかと思ったほどだった。
だが、実際は違い、一時的に預けられたNGO施設の職員たちは優しく接してくれ、親身になって相談に乗ってもらったりもした。その後も、施設の中で先に脱出していた友人たちや、心配になって面会に来てくれた両親とも再会し、時は穏やかに流れていった。
やがて施設を出ると、都内の学校に入学。学園都市から来たと打ち明けても誰も恐がったり避けたりもせず、たくさんの友達に恵まれた。
振り返ってみれば、とても充実した幸せな10年だった――。

「あ、いましたよ!」

「御坂さーん!」

「ご無沙汰しておりますの!」

ふと、我に返る美琴。見ると、3人の旧友たちが歩いてくる姿が見えた。

佐天「久しぶりです!!」

初春「相変わらず元気そうで何よりです」

黒子「ああ、お姉さま、とても会いたかったですわ。しかも会うたびに綺麗になられて黒子はとても嬉しいですの♪」

白井黒子、佐天涙子、初春飾利。かつて共に学園都市で戦い、共に青春を生きた掛け替えのない一生ものの親友だった。
彼女たちを見て、美琴は微笑んだ。




美琴「久しぶり、みんな!」





182: 2010/07/17(土) 22:34:43.15 ID:m4txh7.0
美琴「黒子! 佐天さん! 初春さん!」

思わず美琴は叫んだ。久しぶりに見る旧友を前に笑顔が零れた。

黒子「あああんお姉さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 会うたびに綺麗になられて黒子は感激ですの~!!!」

美琴「ええい、あんたのそれだけは10年前から変わらないわね!」

佐天「あははは、やっぱりこれ見ると御坂さんと白井さんって感じがしますねー」

初春「ホント、いいコンビですよね!」

美琴と久しぶりに再会した旧友である黒子、佐天、初春が席に着く。みんな、この10年でとても美しい女性に育っていた。
黒子は、昔のようなツインテールではなく髪を肩口付近まで伸ばしている。癖っ毛への苦肉の策としてウェーブを掛けているらしく、それが昔とは別の意味で大人っぽさを醸し出していた。体型は昔のように小柄だったが、繊細で華奢なスタイルは保っているようだ。
初春は逆に髪を背中まで伸ばしているが、花飾りだけはいまだ装着しているようだった。但し、どうも昔と比べて花飾りのボリュームが増しているように見える。服装は緩やかでおとなしめの女性の雰囲気を窺わせた。
佐天の美しい黒髪は変わっていなかったが、今は後ろで束ねてアップにしている。今時の女性らしい格好にスラッとした身体は男も女も羨むほどだった。

黒子「お姉さまああああああああああ!!!!」スリスリスリ

「うわあああああああああん!!!!」

と、そこで赤ん坊の泣き声が聞こえた。

黒子「Oh,これは失礼ですの!」

美琴の胸に抱かれた赤ん坊だった。

美琴「もーう何やってるの黒子ったら」

佐天「うっは、また一段と可愛くなってますねその子」

初春「えい、このこの」プニプニ

赤ん坊が笑った。

初春「可愛いー」

佐天「美女4人を前にして照れてるのかな?」

黒子「にしてもホントお姉さまにも似て可愛いですわね。食べちゃいたいぐらいですわ♪」

美琴「あんたが言うと洒落に聞こえないわ……」

ご覧のように、美琴は今、一児の母だった。

189: 2010/07/17(土) 22:45:49.07 ID:m4txh7.0
彼女は1年前に結婚していたのだ。
大学を卒業した頃、美琴は両親より見合い話を持ち出された。何でも相手は大企業の社長のご子息らしく、社長の友人だった父親の強い薦めによる見合い話だった。

黒子「あら? 至って普通の意味で言ったつもりですわよ? ウフフフ」

美琴「どうだか」

もちろん美琴は当初、猛烈に断った。まだ早すぎる、それどころか自分は一生結婚しないと決めていると言って断ろうとした。両親は何よりも娘である美琴の気持ちを最優先するような性格だったが、さすがに一生独り身というのは親として納得出来なかったのか、そのお見合いだけは半ば強引にセッティングされてしまったのである。

佐天「でもこの子男の子ですよね? 御坂さんに似てとても元気そうじゃないですか。それにイケメンだし」

美琴「だって。良かったね、イケメンだって」

お見合い相手は、文武両道でおまけにハンサム、しかも性格は完璧で非の打ち所がなかった。それにはさすがに美琴も感心したのだが、それでも彼女は承諾出来ず、丁寧に断った。どうも美琴にとってその完璧過ぎる性格は己の中の理想像と一致しなかったのだ。

初春「将来有望ですね」

美琴「ヤンチャにならなきゃいいけどね」

だが、お見合い相手は美琴のことを気に入ったのか、諦めずに何度もアタックを掛けてきた。そこには傲慢さもわがままも無かった。学園都市の話でも親身になって相談してもらい、美琴も徐々に心を打ち明けていった。そして1年ぐらいが経過した後、その男性の猛烈なアタックと両親からの強い薦めもあって結婚にいたったのだ。

佐天「それにしても御坂さん幸せそうですね~」

初春「旦那様も優しい方のようで羨ましいです!」

美琴「(幸せ……か)」

確かにその通りだ。今の生活を幸せではない、と言ったら多くの人に妬まれそうである。それほど、今の生活は幸せだった。
夫は優しく子供は可愛い。友達にも恵まれていて別に経済的に苦しいわけでもない。友達のような両親との付き合いも何の不満もない。で、あるのに何かが足りない。何か、心の中が一部分ポッカリと空いている気がする。そしてそれを思い出すたび、1人のとある少年の顔が脳裏にちらつくのであった。

佐天「幸せって、あたしにはあんたも幸せに見えるけどな?」

初春「えへへへー」

191: 2010/07/17(土) 22:51:38.81 ID:m4txh7.0
初春が照れるようにお腹をさする。

佐天「何ヶ月だっけ?」

初春「8ヶ月です! 元気な女の子ですよー」

実は、初春も既に結婚し妊娠していたのであった。マタニティドレスを着込んだ彼女のお腹はまん丸と元気そうにふくれている。

佐天「いいなー」

初春「そういう佐天さんだって、彼氏さんと上手くいってるじゃないですか」

佐天「むふふふふふふふふふ」

初春「わー! わー! すんごい幸せそうな笑顔!」

美琴「確か、次の6月に結婚式だっけ?」

佐天「そうです! 待ってて下さいねー綺麗なドレス姿見せてあげますから!」

嬉しそうに報告する佐天。今彼女は大学で知り合った男性と婚約中の身であった。

初春「ワクワク。楽しみです!」

黒子「実に喜ばしいことですわね。ですがみなさま、ゆめゆめ男性に現を抜かし過ぎないように」

美琴「そういうあんたはどうなのよ黒子」

黒子「さ、さぁて何のことやら?」

美琴「3日に1日は若旦那様との惚気話をメールでしてくるじゃないの」

黒子「あら? 身に覚えがありませんわねオホホホホホ」

佐天「うっわー白井さん、ラブラブ♪」

初春「まさかあの白井さんが結婚するとは思いませんでした。男性に好かれるような性格じゃないのに」

黒子「だから貴女はいつも一言多いですのよ初春コノヤロ」

初春「ぎゃあああ、花飾りだけは花飾りだけはむしらないで下さい!!」

言いながら黒子はどこか嬉しそうだ。意外かもしれないが、実は彼女は新婚ホヤホヤだった。

黒子「ご心配なくお姉さま! 私は殿方と結婚してもお姉さま一筋なのは変わりませんから」キラキラ

美琴「それはそれで問題だと思うけどね」

初春「あ、そう言えば打ち止めちゃんはどうしてますか? あの子も大きくなったでしょう?」

193: 2010/07/17(土) 22:57:20.61 ID:m4txh7.0
美琴「あの子は大学で頑張ってるわ。科学者になるって夢に向かってね。ただこの前も『講義のレポート手伝ってぇ』とか言ってきて困ったわ。この間もね、あの子の部屋に行った時のことだけど……」

――――2週間前・打ち止めの部屋――――

打ち止め「わーい、お姉ちゃんに久しぶりに会えて感激、ってミサカはミサカはお姉ちゃんに抱きついてみたり」ダキッ

美琴「こーら、もう20歳でしょ? いつまでも甘えてないの」

打ち止め「いいじゃない久しぶりなんだし、ってミサカはミサカは笑顔を浮かべてみる」

美琴「まったくあんたは……」

打ち止め「だって私のお姉ちゃんなんだもん」

美琴「確かにそうだけどね。あんたの高校入学式の時もお母さんの代わりに私が出席したぐらいだし?」

打ち止め「お、お母さんやお父さんも好きだよ? もちろん妹達だってみんな好き。だけど一番好きなのは美琴お姉ちゃんだから……ってミサカはミサカは照れてみたり」

美琴「まったく、可愛いこと言ってくれんじゃないの」

打ち止め「えへへ……///」

ニャ~

美琴「あ、スフィンクスも久しぶり」ナデナデ

ニャォォ ニャァァン 

美琴「で、この子たちが……」

打ち止め「天凰ちゃんに、サニーちゃんだよ、ってミサカはミサカは猫ちゃんの名前を説明してみる」

美琴「そうだったわよね。よしよし」ナデナデ

打ち止め「ふふ。みんな仲良しでしょ」

美琴「ええ。……あ、そう言えば、あんた今日は学校は?」

打ち止め「講義は午前しかないから大丈夫。バイトは夜からだし今はフリーだよ」

美琴「何のバイトしてるんだっけ?」

打ち止め「ウェイトレスだよ、ってミサカはミサカは胸を張ってみる」

美琴「そ。楽しそうで何より。勉強もバイトもちゃんと両立しなさいよ」

打ち止め「分かってる分かってる、ってミサカはミサカはウインク」

Prrrrrrr....

196: 2010/07/17(土) 23:03:32.15 ID:m4txh7.0
打ち止め「あ、ごめんなさいちょっと電話出るね」

美琴「ええ」

打ち止め「はいもしもし。え? あ、うん。明日? 多分大丈夫だよ。本当に? じゃあ私も行くね。うん、楽しみにしてるから。はーい、バイバイ」

美琴「お友達?」

打ち止め「うん。明日一緒にカラオケ行かないか誘われちゃった、ってミサカはミサカは答えてみる」

美琴「あんたさ……友達の前では普通に喋るのに私の前では語尾に『ミサカミサカ』ってつくのね……」

打ち止め「うー…つい昔からの癖で、ってミサカはミサカは…おう」

美琴「いいわよ無理しなくても。でもあんたが青春楽しんでそうで良かったわ」

打ち止め「あれ? もしかして若さに嫉妬してたりする?」

美琴「何だとー? たった4歳しか違わないのにって言うかあんただっていつかはおばさんになんのよ!」

打ち止め「あーやめて…それだけは聞きたくなーい、ってミサカはミサカは頭を抱えてみる」

美琴「ふふ。でも心配しなくても大丈夫よ。あんたは私の妹なんだから。十分モテる顔してるわよ」

打ち止め「それって遠回しに自分褒めてない? ってあー頭グリグリしないでせっかくセットしてるのにーってミサカはミサカはお姉ちゃんに抵抗してみたり」

美琴「まあいいわ。あんたの成長見られて嬉しいし。それに最近では、色気づいてきたようだしねー?」ニヤニヤ

打ち止め「うっ…そ、それは別にその……////」

美琴「初めての恋人なんでしょ? 仲良くしなさいよ」

打ち止め「………////////」

美琴「にしてもまさか甘えん坊のあんたに彼氏が出来るなんてね? お姉ちゃん寂しいなー」

打ち止め「だ、だって……あの人にどこか似てたんだもん//// いつも1人でいるくせに、本当は周りに優しいとことか……私が困ってる時はいつも助けてくれるし////」

美琴「あらあら。惚気? キャーうちの妹は現在絶賛恋愛中でーす」

打ち止め「はぅぅ……////」

美琴「ま、それもあいつが望んだことだしね」ポン

打ち止め「!」

美琴「幸せになりなさいよ、“琴美”?」

打ち止め「うん!!」ニコッ

201: 2010/07/17(土) 23:09:45.90 ID:m4txh7.0
――――時を戻して現在――――

美琴「……とまあ、そんなわけ。すっかり今時の女の子だわ。でも大学生になったんだからそろそろ姉離れしてほしいわ」

佐天「いいじゃないですか。まだまだお姉さんに甘えたいんですよ」

美琴「ま、そうなんだけどね。彼氏いるくせに『お姉ちゃんお姉ちゃん』言うのもどうかなーって」

初春「確かその彼氏さんって、一匹狼みたいな人なんですよね?」

佐天「一匹狼とか……語感が古いよ。ただ1人でいるのが好きなだけなんじゃないの?」

黒子「しかし琴美ちゃんも結構変わったタイプの殿方がお好きのようで」

美琴「でも琴美はあれでもしっかりしてるし、過去の経験から物事の良し悪しの判断はちゃんと出来る子だから心配ないわ」

美琴の話を聞き、黒子たちは満足そうに頷く。

美琴「あ、それから『妹達(シスターズ)』もそれぞれ世界中で色んな生活送ってるわ。保母さんになったり、看護師になったり、アイドルなったり、どっかの怪しい探検隊に入って秘境の奥地にUMA探しに行ったり……結婚して子供を生んだ子も少なからずいるようね。あと、1番驚いたのはハリウッド女優になってた子ね。あの子、どこまで個性を伸ばすのかしら?」

初春「いいじゃないですか。それぞれの人生を歩んでるなら」

佐天「ちゃんと治療も完治してますからね。後は1人の人間として生きていくのみ」

黒子「確かに。素晴らしいことですわ」

美琴「ま、確かに姉としては嬉しいからねー」

そう語る美琴の顔は本当に嬉しそうだった。

美琴「あ、そういえば初春さん、この間隣に引っ越してきた夫婦が学園都市出身とか言ってなかった?」

初春「あ、そうそう、そうなんですよ」

黒子「へー学園都市出身のご夫婦が隣人だなんて偶然ですわね」

佐天「なんか心強いですね」

初春「ええ。とても仲の良さそうなおしどり夫婦です。5歳ぐらいの子供もいるようですけど、とってもラブラブで幸せそうなんですよー。せわしない旦那さんとおっとりとした奥さんで、たまにお茶しながら学園都市での話してますよー」

美琴「いいわね。学園都市の学生たちも色んな形で自分の人生送ってんのね」

208: 2010/07/17(土) 23:15:47.73 ID:m4txh7.0
佐天「そういや今思い出したんですけど、婚后さん、世界的に有名なIT企業の大富豪と結婚したようですよ」

黒子「うへーあの方らしいですの」

美琴「確かに。イメージぴったり来るわ」

初春「何だか常盤台のお嬢さまから財閥の奥様に格上げした、って感じですね」

黒子「ちなみに、泡浮さんと湾内さんはお2人でカレーライス屋さんを開いてますの」

初春「ぬっふぇ! 意外ですね。あのお嬢さまたちが」

黒子「何でも若者に人気らしく、将来はチェーン店を目指すのだとか」

美琴「なるほどね。あの子たち、昔はカレーの作り方すら知らなかったから随分成長したわね。なんなら今度みんなで食べにいきましょうか」

佐天「賛成賛成!」

初春「どれだけ美味しくなってるか楽しみです」

黒子「因みに、固法先輩は警察の生活安全部でバリバリ活躍中ですの。この間会いにいったのですが、制服姿がとても似合っていましたわ」

美琴「へー固法先輩らしいわね」

佐天「大人になっても同じような仕事ついて頑張ってるなんて、かっこいいなー」

黒子「まさに昔のままですわ。やはりあの方には凛々しい姿がお似合いですわね」

美琴「そうねー。そう言えば、春上さんとかはどうしてるのかしら?」

初春「春上さんや枝先さんたちはみんなで大学の教育学部に通ってるそうですよ。何でも木山先生みたいに教師になるのが夢だとか」

黒子「それは何よりですわね」

美琴「恩師の跡を追いかけるとか素晴らしいじゃない。立派な夢ね」

佐天「こうして振り返ってみると、みーんなそれぞれの道を歩いてるんですよねー」

初春「あのまま学園都市に残ってたら、私たち今頃どうなってたんでしょうかね」

黒子「さあ、それは分かりませんの。ただ、1つだけ言えることは、今は与えられた幸せを噛み締めることが1番大事ですわ」

4人は思いを馳せる。自分たちが幼い頃に育った学園都市での生活を。その顛末を。そしてその結果としてある今の幸せを。

黒子「それに……」

黒子が静かに呟く。

黒子「もう、私たちには学園都市の名残りである能力もありませんしね……」

209: 2010/07/17(土) 23:23:22.47 ID:m4txh7.0
美琴「……………………」

佐天「ま、あたしには元々無かったんですけどね」

初春「私も大した能力でありませんでしたけど、たまにコンビニの弁当を遠地で買ったりしたらちょっと不便に思います」

どこか懐かしそうに語る3人。
彼女たちは10年前、学園都市の『能力開発(カリキュラム)』で手に入れた能力を完全に失った。
かつて『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』と呼ばれた名医が学生たちの幸せを願って作成した音声データ。学園都市の『外』で能力者のままいれば、その生活に危険が及ぶ可能性があるとして彼はそれを生み出したのだった。そしてその音声データによって、黒子たちを含む学園都市から逃げてきたほぼ全ての生徒が能力を失ったのである。

黒子「お姉さまはレベル5の超能力者でしたからね。やはり、能力を手放すを決めたときはとても逡巡したのではありませんか?」

黒子が美琴に訊ねる。それを受け美琴は一言だけ答えた。

美琴「………………そうね」

彼女たちは無言になる。どうやら、学園都市での能力生活を思い出しているようだった。

「うああああああああああん」

美琴「おっと、どうしたのかな?」

急に、美琴の胸に抱かれていた赤ん坊が泣き出した。

「うああああああああああああ」

美琴「よしよし、ほらほら男の子でしょ。泣かないの!」

赤ん坊をあやす美琴。

黒子「もしかして暗い空気になっていたのでそれを感じ取って泣き出したのでは?」

佐天「あはは、能力者みたいですね。お姉さんたち悪いことしちゃったかなー?」

初春「ごめんねー」プニプニ

ようやく赤ん坊が泣き止んだ。

美琴「むーじゃあ、そろそろ行きますか」

黒子「そうですわね。いつまでも話しているわけにはいきませんし」

佐天「今日はこれが一番の目的ですからね」

初春「早く行ってあげましょう」

美琴「ええ。じゃ出発!」

4人は席を立ち上がった。

249: 2010/07/18(日) 21:56:44.93 ID:HSrZc2g0
久しぶりに再会した美琴、黒子、佐天、初春の4人。
彼女たちは、1時間あまり会話に没頭すると、ある目的地に向かうため席を立った。

佐天「着きました。ここですねここ」

初春「お花がたくさん添えてありますね」

彼女たちが着いたのは、とある巨大モニュメントの足元だった。
多くの石碑が広場一杯に並んであり、そこにはたくさんの名前が連なっている。モニュメントの少し後ろに目をやると、その先には瓦礫がたくさん散乱していた。

美琴「学園都市の跡地か……」

黒子「ここに来ると10年前を思い出しますわ」

佐天「まだ行方不明の人もたくさんいるんですよね」

初春「5年経った今でも時折調査が行われるぐらいですからね」

彼女たちが訪れたのは、かつての学園都市の廃墟だった。
美琴たちが10年前に学園都市から逃れた後も、学園都市内部では内戦や“能力者狩り”が行われ、その期間はゆうに5年にも及んだ。
たまに、奇跡的に学園都市から脱出してきた学生がニュースで取り沙汰されることもあったが、それでも氏者や行方不明者の数の方が圧倒的に多かった。

美琴「もう学園都市は存在してないのよね……」

黒子「……………………」

佐天「……………………」

初春「……………………」

美琴は、1歩前へ進み出て花束をモニュメントに添える。

250: 2010/07/18(日) 22:01:27.34 ID:HSrZc2g0
美琴「リアルゲコ太……木山先生……寮監……黄泉川先生……鉄装先生……警備員の人たち……20人の妹達……妹……」
美琴「………そして………」

そこで美琴は言葉を切った。

美琴「今の私たちの幸せがあるのは貴方たちのおかげです。とても感謝しています」
美琴「ありがとうございます」

美琴が頭を垂れる。

黒子佐天初春「ありがとうございます」

彼女に倣い、黒子と佐天と初春も頭を垂れた。

美琴「さて………」

美琴が振り返る。

美琴「帰りましょうか」

彼女の顔に笑顔が浮かぶ。

黒子佐天初春「はい」

こうして、彼女たちは学園都市の廃墟を後にした――。

251: 2010/07/18(日) 22:06:10.28 ID:HSrZc2g0
再び、街に戻ってきた美琴たちは混雑した大通りを歩く。

美琴「さぁ、これからどうする?」

黒子「久しぶりに会いましたし、まだ帰るのはもったいないですね」

佐天「じゃ、ちょっと早いですけど飲みに行きますか?」

初春「あ、ちょっとそれは遠慮したいです。お腹の子にさわりますし」

美琴「私もこの子がいるからお酒は駄目ね」

佐天「あ、そっか。ごめんなさーい」

黒子「カラオケ……も妊婦や赤ん坊を連れて行く所ではありませんわね」

美琴「んーじゃあ無難に夕食でも食べに行っか」

黒子佐天初春「さんせーい!」

美琴「どこがいい?」

黒子「そうですわね……」

わいのわいのと彼女たちは10年前に戻ったように話し合う。

佐天「それじゃあ、あそこは………」

初春「あの店高くないですか……?」

その光景は、まるで制服を着た4人の少女が仲良く寄り添って歩いているようだった。

252: 2010/07/18(日) 22:11:36.21 ID:HSrZc2g0
黒子「たまにはお洒落なお店でも……」

美琴「お洒落ねー……」

左端を歩く美琴は話に夢中で視線を前方には向けていない。

美琴「ふふ、そうね……」

彼女の視界の端に、前方から歩いてくる1人の男が映ったような気がしたが、こんな混雑した場所では大して珍しいことでもない。

美琴「ああ、いいかもねそれ……」

徐々に、男との距離が狭まる。
それでも、美琴は話に夢中で視線をそちらには向けない。

美琴「もう! 分かったわよ……」

男との距離1m――。
そこで美琴は初めて意識をその男に向けた。
何の意図もない、距離が近かったから注意を一瞬向けただけのこと。ただ、それだけ。それだけだった

美琴「うん……だから……ね………」

その寂びれたような男はポケットに両手を突っ込み、ヨレヨレの服を着て、しかし歩調はしっかりとしており、そしてどこかやる気のない目をし、髪がツンツンで………





美琴「!!!!!!!!」





すれ違ってから気付いた――。
今の男は……………。

253: 2010/07/18(日) 22:16:26.17 ID:HSrZc2g0
唐突に振り返る美琴。

美琴「……………っ」

彼女は無言でその場に固まる。

美琴「(いない……)」

人だかりに向けてあちこちに視線を巡らす美琴。だが、今すれ違ったはずの男の姿はどこにもない。
通行人たちが、道の真ん中で立ち止まった美琴を鬱陶しそうに見ながら歩き去る。

黒子「どうしたんですのお姉さま?」

佐天「何かあったんですか?」

初春「御坂さん?」

美琴「え? あ…うん……」

不審に思った黒子たちに声を掛けられ、美琴が我に返る。

美琴「何でもない……」

黒子佐天初春「?」

もう1度、彼女は人だかりに視線を向けてみたが、やはり変わったことは何もなかった。

美琴「(気のせい……よね……)」

佐天「御坂さーん」

初春「いつまでも立ち止まってると他の人に迷惑掛かっちゃいますよ」

黒子「早く行きましょう、お姉さま」

美琴「うん、ごめん。そうだね………」

それだけ言うと、美琴は名残り惜しそうにしながらも再び歩き始めた。

美琴「それで、どこに行くんだったっけ?」

そう……そんなはずがない。そんなはずがないのだ。
美琴の初恋は10年前に終わりを迎えたはず。今更、何らかの奇跡に恵まれてあの少年と再会出来るわけがないのだ。それは当然だ。10年間、そう信じやってきたのだから。

美琴「あはは、私はねー………」

それだけ胸中に復唱すると、彼女は今あったことを強引に心の奥底に閉じ込め、再び親友たちとの幸せな一時に身を預けた――。

254: 2010/07/18(日) 22:22:25.66 ID:HSrZc2g0

人間の営みなど知ったことではないように、月日は流れる。流れていく。

それを止めることなど何人にも出来ない。

とある少女が抱いた、とある少年への淡い恋心も叶われることもなく無情にも時は過ぎていく。

だが、どれだけ長い時が流れようが、とある少女の心から、とある少年の存在が消えたことは1度もなかった。

5年経とうが、10年経とうが、50年経とうが、90年経とうが………。


255: 2010/07/18(日) 22:26:07.83 ID:HSrZc2g0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




御坂美琴・最期の日――。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


256: 2010/07/18(日) 22:32:55.92 ID:HSrZc2g0
静かで、どこか趣きのある部屋の一角。そのベッドの上に彼女はいた。
御坂美琴・御年ちょうど100歳。
もはや、皺だらけのその身体は若かりし頃のような美麗さは保たれていない。だがしかし、どこか優雅で立派な印象を受けた。

美琴「……………………」

老眼鏡を掛け、真っ白に染まった髪からは100年分の苦労が見て取れた。
彼女は今、末期の病気に冒され余命幾ばくの身だった。

美琴「(色々……あったわね………)」

美琴は自らの人生を振り返る。
学園都市に入学した時のこと。初めて自らの身に能力が宿った時のこと。必氏で努力して能力レベルを上げたこと。1万人以上の自分のクローンが殺されたこと。そして、初恋相手である、とある少年との忘れようのない日々………。

美琴「(当麻………)」

その少年は、自らの身をもってして美琴に幸せを与えてくれた。そうして彼女は順風万版な人生を送ることが出来たのだ。
普通に友達と遊び、普通に結婚して、普通に子供を生んで、普通に子供の成長を見届けて、普通に孫の誕生に涙を流して、普通に友達の氏に涙して……。
だが、不幸だと思ったことはない。とある少年が与えてくれた人生は、幸せそのものだった。


チカチカと電気が明滅しているのが分かる。恐らく電池が切れかかっているのだろう。
美琴はヨレヨレと手を空中に挙げると、そこから青白い光を発した。
それに合わせて電気の光が少し復活した。

美琴「(この能力を使うのも……最期かしらね……)」

かつて、学園都市で手に入れた唯一自分のアイデンティティーを示す電撃能力。
彼女は思い出す。とある少年の言った言葉を。



      ―――お前の電撃には何度も追い掛け回されたからなぁ―――



      ―――言わばそれはお前との思い出の日々みたいなもんだ―――



      ―――だから俺としては、お前には今のままでずっといてもらいたい―――



ニコリと笑う美琴。あの少年の言葉があったからこそ、彼女は100年この能力と共に生きてきた。
そして指先から青白い光を出すたび、彼との楽しかった日々が蘇るのだった。

257: 2010/07/18(日) 22:38:21.83 ID:HSrZc2g0
美琴は腕をベッドの側の机の上に伸ばした。
そこにあったものを手に取り、顔の前に持ってくると彼女は目を細めた。

美琴「ああ………」

それは写真だった。少女時代に仲の良かった友達4人とピクニックに行った時に撮った写真。
みんな可愛らしい私服を着ており、仲良く寄り添って写真に写っている。
だが、そこに映ってる少女は今、美琴を除いて1人もいない。彼女たちは何十年も前に美琴を置いて既にこの世を旅立っている。

美琴「もう1度……貴女たちに……会いたいわ……」

不意に、目頭が熱くなり涙が溢れてきた。

美琴「もう1度……あの頃に……戻りたいわね……」

涙が零れ出る。電気の灯りが再び明滅し始める。

美琴「神様……もし……この老いぼれの願いを叶えてもらえるなら………もう1度……あの人に……会いたい………」

徐々に、彼女の視界が闇に染まっていく。それと共に手元から力が抜けていく。
そうして彼女は最期に一言だけ呟いた。






美琴「当麻………」






彼女の目が完全に閉じられ、その腕は写真を手にしたままパタンと降ろされた。
そして電気の灯りが完全に切れ、部屋に暗闇が訪れた。

258: 2010/07/18(日) 22:44:17.39 ID:HSrZc2g0






美琴「はっ!!!」






唐突に、美琴は目を覚ました。

美琴「…………………あれ?」

周囲を見渡してみる。何だか、ポワポワとした夢の世界のような、どこか不思議で煌びやかなモヤが彼女を渦巻いていた。

美琴「………は? どこここ? 私って、氏んだはずじゃ……」

呆然とする彼女は自分の身体をふと見てみる。

美琴「……って、ええ!? 何これ!?」

美琴が驚いたのも無理は無い。何故なら彼女は子供用の制服を着ていたのだから。

美琴「常盤台中学の制服? 何でそんなもん着てんの!?」
美琴「でも懐かしいなぁ……」

と、その時、制服の触り心地を確かめていた美琴はあることに気付いた。

美琴「!?」

咄嗟に彼女は自分の両手を目の前に持ってくる。

美琴「皺が無い……」

次いで顔に手を当ててみた。

美琴「顔もなんだか異常に綺麗で若々しいような……。って言うか私ってこんな子供みたいな可愛い声してたっけ?」

そこで美琴は気付いた。

美琴「あれ? もしかして私、若返ってる? って言うか氏んだはずよね? その前にここどこ?」

困惑する彼女の疑問に答えるように、突然誰かが声を発した。

259: 2010/07/18(日) 22:50:14.86 ID:HSrZc2g0






「学園都市だよ」







260: 2010/07/18(日) 22:53:21.72 ID:HSrZc2g0
美琴「え? 誰?」

見ると、前方のモヤの中に誰かのシルエットが見てとれた。

美琴「誰かそこにいるの?」




「いやだなぁ短髪ったら。もしかして私のこと忘れちゃったの?」




美琴「だ、誰よ……?」

『短髪』という言葉を聞き、美琴は何か懐かしさを覚えた。随分昔に、とある女の子にそう呼ばれていた記憶がある。
シルエットが鮮明になっていく。美琴は目を細める。

美琴「あ……あんたは……」

彼女の目が大きくなった。





インデックス「久しぶりなんだよ、みこと!」





美琴「インデックス!!!???」

261: 2010/07/18(日) 22:58:13.07 ID:HSrZc2g0
そこに立っていたのは、真っ白い修道服を着た1人の少女――インデックスだった。
何十年も前に、とある街で知り合った外国人の修道女だ。

美琴「何であんたがここに!?」

インデックス「むぅ、そんな言い方はないんじゃないかな? 久しぶりに会ったのに」

インデックスが頬を膨らませる。

美琴「いや、だっておかしいでしょ? 私はお婆さんになって氏んだはずで……」

と、そこまで言ったところでインデックスが手鏡を取り出してきた。

美琴「な、何よ!?」

インデックスは手鏡に美琴の顔を映すように押し付けてくる。

美琴「って、ええええええええええええええ!!!???」

インデックス「むふふ」ニコッ

美琴「何これ!? 何で私が若返ってんの!?」

驚きの声を上げる美琴。鏡には、ちょうど14歳ぐらいの時の美琴の顔が映っていた。
シャンパンゴールドの肩まで伸びた髪、髪留め、そして綺麗な白い肌。
彼女は久しぶりに見る自分の幼い時の顔に、驚きを隠せない。

インデックス「だから言ったじゃない。ここは学園都市なんだって。学園都市は学生の街でしょ?」

美琴「は? いや、学園都市って言われたって。そんな大昔のこと……」

インデックス「なら、その目で確かめるといいんだよ。みんな、みことのこと迎えに来てくれてるから」

インデックスが優しい笑顔を見せる。

美琴「みんな……って?」

美琴が怪訝な表情をした時だった。




「お待ちしてましたわよお姉さま」





262: 2010/07/18(日) 23:03:23.31 ID:HSrZc2g0
出し抜けに、懐かしい声が聞こえた。
美琴はそちらの方を見る。

美琴「黒子!!」

黒子「はい、お姉さま♪」

名前を呼ばれ、そこに立っていたツインテールの少女――白井黒子が美琴に抱きついてきた。

美琴「ど、どういうこと? 何であんたまでここに?」

黒子「だから、みんなでお迎えに上がりに来ましたの」

美琴の胸の中で黒子はそう言う。そして彼女は美琴から離れると、誰かを紹介するように腕を伸ばした。

黒子「ほら」


佐天「久しぶりです御坂さん!」


初春「うわぁ、懐かしいですねー」


モヤの中から、制服を着た佐天涙子と初春飾利が現れた。

美琴「佐天さん? 初春さん?」

驚く彼女をよそに、佐天と初春は嬉しそうに会話する。

佐天「何年ぶりかなぁ? 2、30年は待ってたよね」

初春「この姿で考えると、およそ90年ぶりですね♪」

美琴「貴女たち……」

佐天と初春が微笑む。
と、美琴の周囲を覆っていたモヤが突然晴れていった。
そして、その先にはたくさんの懐かしい面々が美琴を見つめながら微笑み、立っていた。

美琴「あ………」

インデックス「みーんな、みことのことを待ってたんだよ!」

263: 2010/07/18(日) 23:08:34.05 ID:HSrZc2g0
一方通行「ようやく来たかよ超電磁砲(レールガン)」

打ち止め「ね、だから言ったでしょ。待ってればお姉さまが必ずやって来る、ってミサカはミサカは久しぶりの再会に喜んでみる」

そこには、一方通行と打ち止めが手を繋いで立っていた。

御坂妹「どうやら相変わらず元気そうで何よりです、とミサカはお姉さまの顔を見れて安堵しました」
御坂妹「あ、ちなみにここには2万人の全ての妹達(シスターズ)がいるので後で挨拶に行ってあげて下さい、とミサカは結構無茶なことを要求してみます」

そこには、御坂妹と何人かの妹達(シスターズ)が立っていた。

カエル医者「どうやら何も問題はないようだね?」

寮監「ふむ。遅刻だぞ御坂。後でお仕置きだ」

黄泉川「お転婆なのは変わってないようじゃん」

鉄装「いきなりで驚かせちゃったみたいで悪いですね」

そこには、カエル顔の医者が、寮監が、黄泉川が、鉄装が立っていた。

木山「やはり君には一番その顔が似合う」

そこには、春上や枝先ら置き去り(チャイルドエラー)の子供たちと手を繋ぐ木山が立っていた。

美琴「みんな………どうして……」

他にもよく見れば、固法、婚后、泡浮、湾内など美琴の知る人たちが、昔の姿で美琴のことを見つめていた。
そして、彼女たちの後ろにはどこか見覚えのある近未来的な街が佇んでいて………

美琴「学園都市……?」

佐天「みーんな御坂さんのこと待ってたんですよ」

初春「そうそう。今日、御坂さんが来るって知ってみんなで迎えに来たんです」

佐天と初春が美琴に近付いてきて言った。

黒子「あの『学園都市』には能力開発もありませんし能力者も1人もいません。しかし、安心なさって下さい。同様に、あそこには暗部も闇も、非人道的なことも何1つ存在していませんから。あの学園都市には、多くの学生や教師たちが一緒に未来を夢見て楽しく生活しておりますの」

黒子が美琴の腕を掴みながら説明する。

美琴「………………本当に?」

黒子「本当ですわ」ニコッ

美琴「そうなんだ……」

美琴の顔に、淡い笑みが刻まれた。

264: 2010/07/18(日) 23:14:09.08 ID:HSrZc2g0
インデックス「これからはみんなで幸せに、永遠にあそこで暮らせるんだよ、みこと」
インデックス「ね、とうま?」

美琴の正面にいたインデックスがそう告げる。

美琴「え………? “とうま”」

インデックスの言葉に驚く美琴。
そして彼女の前に、1人の少年が現れた。

267: 2010/07/18(日) 23:16:16.14 ID:HSrZc2g0







上条「美琴、久しぶりだな」








268: 2010/07/18(日) 23:20:15.30 ID:HSrZc2g0
そこには、美琴がずっとずっと想いを抱いていた、あの少年――上条当麻が笑顔で立っていた。

美琴「………とうま………?」

上条「ああ」

美琴「当麻!!!!」

思わず、彼女の口からその名前が出た。同時に、笑みも零れる。

美琴「会いたかったよ! 当麻!!!」

駆け寄り、上条の胸元に飛び込む美琴。そんな彼女を上条は優しく抱き締める。

上条「俺もだ、美琴」

100年の時を経て、少年と少女は再会する――。
2人はしばらくの間、互いの顔を愛しげに見つめ合っていた。

佐天「じゃ、そろそろ」

初春「行きましょうか」

黒子「そうですわね」

黒子と佐天と初春が、美琴のために道を開ける。上条が1歩後ろへ下がり、その側にインデックスが立つ。





インデックス「学園都市へ!!!」






269: 2010/07/18(日) 23:26:23.45 ID:HSrZc2g0
上条が、静かに美琴に手を伸ばす。美琴はその伸ばされた腕を見て、次いで上条の顔を見た。
上条が、笑った。
それに応えるかのように美琴はその手を掴んだ。





上条「さ、行こう!」





美琴は満面の笑みで応えた。





美琴「うん!」





一斉に、みんなが走り出した。

向かう先は何の痛みも苦しみもない、希望と未来に満ち溢れた街『学園都市』――。

上条に手を引かれ美琴は走る。








こうして、彼女は永遠の幸せを手に入れた―――。








                                            ~Fin~

270: 2010/07/18(日) 23:26:55.35 ID:HSrZc2g0
以上で「 美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」 」
の話は全て終わりとなります。
この1ヶ月半の長い間、支援して頂き、読んで頂いた方々には本当に感謝します。
ありがとうございました。

272: 2010/07/18(日) 23:28:17.23 ID:FiroYTQ0
乙。

273: 2010/07/18(日) 23:28:27.08 ID:OODy.CAo
ただ乙。よく走りきった。面白かったぜ

引用: 美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」3