376: ◆Lw8TjwCkqM 2014/08/23(土) 13:46:07.94 ID:C0b4zR+Q0
今日は夜11時とはいきませんが、12時過ぎには投下できると思います
【咲-Saki-】京太郎「虹の見方を覚えてますか?」【前編】
【咲-Saki-】京太郎「虹の見方を覚えてますか?」【前編】
378: 2014/08/24(日) 00:35:53.04 ID:Kj8oLy2S0
________
_____
__
練習が終わると、(俺と)洋榎さんは神社の境内から少し離れたところに、客間を用意された
木造の建物で落ち着きがある。大阪ではこういうものは中々無かったので新鮮さを感じる
京太郎・洋榎「ふぃー、疲れたー」
洋榎さんにその場その場の危険を伝えるだけの簡単なお仕事のはずなのだが
これは思っていた以上に集中力を使う
京太郎「くっ…これが『能力』の使い過ぎの『代償』なのかっ…!」
京太郎「だめだ、これ以上意識が……」
洋榎「京太郎、京太郎っ!?だめや、目を閉じたらアカン!」
洋榎「うちの目を見るんや!!アイズ・オン・ミーや!!」
京太郎「どうやら俺は……ここまでのようです」ゴホッ
洋榎「京太郎っ…」ポロポロ
京太郎「洋榎さん…お願いだから…泣かないでください」
京太郎「せっかくの綺麗な顔が台無しだ」
洋榎「……」ゴシゴシ
京太郎「最後に一つだけ……いいですか?」
洋榎「……」コクリ
京太郎「家族に……愛していると…つた……え」
京太郎「……」ガク
洋榎「京太郎ーーーっっ!!」
379: 2014/08/24(日) 00:36:45.52 ID:Kj8oLy2S0
コンコン
初美「ご飯できましたよー」
京太郎「……」ムクリ
京太郎・洋榎「はーい」
洋榎「メニューなんやろなぁ。今から楽しみや!」ウキウキ
京太郎「俺一回、鹿児島奄美の鶏飯ってのを食べてみたかったんですよ」
京太郎「後で誰かに作り方聞いてもらえません?隣でメモするんで」
洋榎「ええよええよ」
京太郎「よしっ!帰ったら雅恵さんと絹恵さんにも、ぜひ食べてもらいましょう」
洋榎「おっ、それええな」
京太郎「さあ、行きましょうか」
380: 2014/08/24(日) 00:38:56.58 ID:Kj8oLy2S0
永水の皆と食事を済ませた
九州男児もびっくりの量の料理が用意されていたので、洋榎さんの分を少しいただいた
どの料理も素晴らしかったが、特に豚骨料理がめっちゃ美味しかった。大阪に帰っても作ってみようと思う
あと、食後に出された餡の入っていない軽羹(かるかん)も、素朴な郷土料理といった風情で楽しむことができた
約束通り、洋榎さんに頼んで鹿児島料理のレシピを教えてもらった
驚いたのは、石戸さんや狩宿さんよりも薄墨さんが最も料理に詳しかったことだ
ただの露出口リ枠と思って侮っていたが……大変申し訳ありませんでしたっ!!
そして、お風呂も済ませ、歯磨きを終わらせると、いよいよ寝るだけとなった
このまま床に就くのも悪くはないが、それでは味がなさすぎる
洋榎さんも見当たらないし、外をブラブラしますか
381: 2014/08/24(日) 00:40:43.20 ID:Kj8oLy2S0
外に出ると満点の星空。大阪では中々お目にかかることができなかった光景だ
山奥の夜ということもあり、空気が澄みきっている
神社が近いので、雰囲気も抜群に良い
見晴らしのよい場所を求めてさまよっていると、二人の女性の後ろ姿を発見した
洋榎さんと狩宿さんである
二人の赤みがかった髪の色を後ろから眺めると、本物の姉妹よりもよっぽど姉妹らしい
もちろん、狩宿さんのほうがお姉さんだ
二人は霧島山の方を向いて、何か喋っているようだ
巴「ここからの眺め、綺麗でしょう?」
巴「今はまだ雪化粧してますけど、春になると緑が顔を出してくるんですよ」
巴「5月の終わり頃になるとミヤマキリシマ(深山霧島)も咲き始めて、それはもう綺麗で」
洋榎「ミヤマキリシマ…?」
巴「ツツジの一種で、ピンクの花がとても綺麗なんですよ。それこそ一面に咲いて」
洋榎「ツツジ…?」
だめだこりゃ
382: 2014/08/24(日) 00:43:21.63 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「ほら、よく道路脇に植えてあって、春頃に咲く花のことです」
洋榎「!」ピクッ
京太郎「子供のころ、よくその花の蜜を吸ったことがあると思いますよ」
洋榎「ああ…」
巴「?」
巴「今度来る時があったら友達と一緒に、その頃来るといいですよ。みんなで案内しますから」
洋榎「うん、そん時は頼むわ」
巴「ええ」
巴「じゃあ、私はそろそろ行きますね。愛宕さんはまだここに?」
洋榎「もうちょっとだけ」
巴「分かりました。身体が冷えないように気を付けてくださいね。お休みなさい」
洋榎「うん、おやすみ」
巴「……」
巴「あと、頑張ってください。愛宕さんはそのままでも十分すぎるほど魅力的だから、大丈夫ですよ」
洋榎「あ、ありがとう…//」
京太郎「?」
383: 2014/08/24(日) 00:45:33.58 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「行ったか…」
洋榎「さて、乙女の会話を盗み聞きするとはええ度胸してるなぁ」
京太郎「すみません。プライベートな会話をしているようではなかったのでつい」
洋榎「そ、そうか…?なら最初の会話は──」ゴニョゴニョ
京太郎「はい?」
洋榎「いや、なんでもあれへん。気にせんといて」
京太郎「はぁ」
洋榎「何しにここへ?」
京太郎「外に出たら星が綺麗だったので、眺めのいいところを探してたんです」
洋榎「せやったん」
京太郎「大阪ではここまで星がよく見えないんで、ここで見溜めしとこうと思いまして」
洋榎「見溜め、ねぇ」
京太郎「さっき狩宿さんも話してましたけど、星だけじゃなく霧島山も綺麗ですよね」
洋榎「むっ。お、大阪にだって天保山あるし!」
京太郎「天保山ってあーた…せめて愛宕山ぐらいは挙げときましょうよ」
洋榎「はは、うちだけに愛宕ってか!こら一本取られたなー!」
京太郎・洋榎「あっはっはっはー!!」
洋榎「って、やかましいわ!!」ビシッ
京太郎「……」
洋榎「……」
384: 2014/08/24(日) 00:50:03.62 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「なぁ、京太郎」
京太郎「なんです?」
洋榎「…こんなとこまで来て、牌遊びに夢中になって、アホみたいやな」
どうしたんだ、急にそんな。らしくない
京太郎「そう、ですね」
そうなのだろうか?
洋榎「そや!せっかくやから、星のこと教えてくれへん?」
京太郎「ん…ああ、もちろん構わないですよ」
京太郎「今は見頃なんで、ネタはたくさんありますから」
京太郎「この時期は、一年でも最も多い数の1等星を見ることができるんです」
洋榎「1等星?」
京太郎「特に明るい星のことをそう言うんです」
京太郎「オリオン座は分かりますね?」
洋榎「そんくらいなら」
京太郎「例えば、今見えているオリオン座の、あの左上の星はベテルギウスっていうんですが、あれも1等星です」
洋榎「ふーん」
385: 2014/08/24(日) 00:53:41.28 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「それでオリオン座の真ん中に、三つの星が並んでいるベルトがあるじゃないですか」
洋榎「うん」
京太郎「その少し下にぼんやりと光る雲みたいなもの見えません?」
洋榎「うーん…うっすらとあるような、ないような」
京太郎「大阪では見えませんでしたけど、それオリオン大星雲っていう星の赤ちゃんみたいなものなんですよ」
洋榎「星の赤ちゃん?」
京太郎「ええ」
京太郎「初期の宇宙に存在した元素はほとんどが水素で、ごくわずかにヘリウムがあったと言われています」
京太郎「水素はとても軽い元素ですが、質量があるので重力を及ぼします」
京太郎「なので、長い時間をかけると水素の集団ができてくるんですよ」
京太郎「オリオン大星雲もそうやってできた、水素の大集団なんです」
洋榎「なるほど」
386: 2014/08/24(日) 00:55:03.54 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「もちろん、水素が集まってはい終わり、というわけじゃありません」
京太郎「さらに水素が集まって重力が増していくと温度が上昇して、ついには核融合が起こります」
洋榎「核融合?」
京太郎「この場合は、より重い元素を作る過程と思ってもらって結構です」
京太郎「つまり、水素を元にして、炭素や酸素などのより重い元素が核融合でどんどん作られていくんですね」
洋榎「星も料理をするんやな。えらいやっちゃ」
京太郎「おもしろい例えですね。まさにそんな感じです」
京太郎「だけど、この核融合は鉄を作ったところで止まってしまうんですよ」
洋榎「なんで?」
京太郎「鉄はとても安定な元素なんで、この条件下ではそれ以上核融合が起こってくれないんです」
洋榎「ふむ」
387: 2014/08/24(日) 00:57:03.59 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「けど、ここで疑問が湧きません?」
洋榎「何が?」
京太郎「例えば、洋榎さんが今持ってるスマートフォンなんか鉄より重い元素たくさん使ってますよね?」
京太郎「それだけじゃありません。金・銀・銅などはもとより、ウランなんか鉄よりはるかに重い元素ですよ」
京太郎「世の中に鉄より軽い元素が存在する理由は、さっきの説明でなんとなくは納得できます」
京太郎「では、それよりも重い元素は一体どうやって作られたんでしょうか?」
洋榎「う~ん…ギューン、バーン!、てな感じで?」
京太郎「適当ですけど、かなりいい線いってますよそれ」
洋榎「マジ?」
京太郎「大マジです」
京太郎「実は、ある質量以上の星は鉄の核融合が終わったあと、超新星爆発ってのを起こすんです」
京太郎「この爆発、まるで新しく星が誕生するように見えるんで、爆発するのに『新星』なんて名前が付いているんです」
京太郎「おもしろいでしょう?」
洋榎「矛盾してるやん」
京太郎「いえ、必ずしもそうとは言えません。この爆発の後には中性子星やブラックホールなどの新しい『星』が残るからです」
京太郎「これらの星は、それ単体でも非常におもしろい性質を持ったものなんですけど、ここではその話は横に置いておきますね」
洋榎「ええー」
京太郎「今度暇なときにでも、話しますよ」
388: 2014/08/24(日) 00:58:27.52 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「さて、話が少し逸れましたけど、この超新星爆発が起こる時に、実は鉄より重い元素ができるんです」
京太郎「そして、その爆発と共に今まで作られてきた様々な元素も宇宙にバーンとばら撒かれるわけですね」
京太郎「こうやってばら撒かれた星の欠片が、何十億年かけて巡り巡って、今の地球に様々な元素をもたらしたんです」
洋榎「宇宙の営み、壮大すぎるで…」
京太郎「そうですね」
京太郎「数十億年以上かけて、これらのことが起こっているって言うんですから」
京太郎「もはや人間の100年なんて短すぎて、宇宙の欠伸にも満たないですよ」
京太郎「あのオリオン大星雲もいつかは核融合が起こして、超新星になって、新たな星の元になるのかもしれません」
京太郎「そして、オリオン座を形作っているベテルギウスは近いうちに超新星になると言われています」
京太郎「まぁ、近い内といっても明日かもしれませんし、数万年後かもしれませんし、よく分かりません」
京太郎「ただ、生きているうちに見ることができないかもってのは、ちょっと悔しいですね」
洋榎「オリオン座なくなってまうん?」
京太郎「星座といえど、不変じゃないんですよ」
京太郎「……」
389: 2014/08/24(日) 01:13:13.25 ID:Kj8oLy2S0
ああ、なるほど。このモヤモヤとした感じ、分かったぞ
京太郎「さっき洋榎さんが、"牌遊び"って言って、俺もそれに同意しましたけど」
洋榎「うん」
京太郎「その台詞、取り消します」
洋榎「は」
京太郎「確かに、麻雀なんか星の歴史に比べれば、それこそ地球から見た軌道上のデブリのようなものかもしれません」
洋榎「……」
京太郎「けど、俺はそうは思いません」
京太郎「麻雀は単なる牌を使ったルールの集合で、その牌にしたってただの樹脂の塊です」
京太郎「それ自体には何の意味もありません」
洋榎「……」
京太郎「最初は大した戦略もない、運任せのゲームだったのかもしれません」
京太郎「しかし、勝ち方が分かってくれば、戦略や戦術が生まれていきます」
京太郎「勝ち方分かるなら、それはもはやゲームの枠を超えて競技なります」
京太郎「けど、いくら技術的なことが幅を利かせても、運の要素を排除することはできません」
京太郎「これこそ、勝負事の妙ですね。野球なんかもそうですが」
390: 2014/08/24(日) 01:15:46.48 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「今まで、洋榎さんや雅恵さんの対局を何度も間近で見ていて、気付いたことがあるんです」
京太郎「"流れ"とかいうオカルト的なものが、その場を支配しているように見える時がありましたし」
京太郎「数学的な統計上の判断が、命運を分けることがありましたし」
京太郎「ミスとさえ言えないようなわずかなズレが、驚くほど明確に優劣を分けることがありました」
京太郎「洋榎さんは、長いこと打ってるからこんなこと既にご存知ですよね?」
洋榎「……」
京太郎「けど俺は、こんな身体になって初めて実感することができたんです」
京太郎「今まで真剣に、麻雀に取り組んだことがなかったからでしょう」
京太郎「悪いことも、悪いばっかりじゃありません」
洋榎「……うん」
京太郎「あの、たった70センチ四方程度の卓上に、これまで数えきれないほど様々な思惑が駆け巡ったに違いありません」
京太郎「賭け事として使われることもあったでしょうし、単に自身の矜持のためだったのかもしれません」
京太郎「その中には人生を左右するようなこともあって、中には将来や夢を決定づけることも…」
洋榎「……」
京太郎「現代ではあれほどの競技人口があるんです」
京太郎「長い歴史の中には、表に出ることもなく忘れ去られた人の数の方が多いのでしょう」
391: 2014/08/24(日) 01:17:17.94 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「俺には、もはやあの牌はただの樹脂の塊には見えません」
京太郎「麻雀はルールの集合で、プレイヤーはそれに従っているだけなのだ、とは口が裂けても言えません」
京太郎「"牌遊び"、と言うにはあまりにも勿体ない何かが、そこにあるように思えます」
洋榎「……」
京太郎「あっ、偉そうにしてすみません。話が長すぎました。最近俺、こんなんばっかですね」
京太郎「イラチな洋榎さんにはきつかったでしょう?」
洋榎「はっ、なに言うてんだか」
京太郎「……」
京太郎「俺は洋榎さんが麻雀しているとこ見るの、好きですよ」
京太郎「だから、そんなこと言う必要はないです」
京太郎「惚れ惚れするくらい、かっこいいんですから」
洋榎「…うん」
392: 2014/08/24(日) 01:19:57.67 ID:Kj8oLy2S0
しばらく沈黙が続いた後、それとなく視線を少し上げてみる
本当に星が綺麗だ。それに比べて人間とはなんとちっぽけなことか
でも、それでいいんだ。うん、それで
洋榎「ハー…」
京太郎「手、寒いですか?」
洋榎「少し」
京太郎「ちょっと待ってください。確かコートの中に予備のカイロがあったはず」
京太郎「……」ゴソゴソ
京太郎「……」
京太郎「あー、洋榎さん。ボビー・オロゴンの出身地は?」
洋榎「ナイジェリア」
京太郎「現在セリエAのローマに所属していて、ベルギー代表歴もあるサッカー選手と言えば?」
洋榎「ナインゴラン」
京太郎「ナイジェ♪ナイン♪」
洋榎「…なかったんやな」
京太郎「人生なかなか、ままならないものですね」
洋榎「せやな」
393: 2014/08/24(日) 01:21:43.60 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「あ」
突然、何か気付いたような素振りをみせた
洋榎「あー……//」モジモジ
京太郎「……」
洋榎「あ、あんなぁ……その…///」チラチラ
京太郎「……」
視線をあちこちに漂わせながら、手と手を合わせてモジモジさせている
もしかして、ナックルカーブの練習だろうか?
京太郎「洋榎さん、ボールの変化については流体力学でいうところのマグヌス効果の理解が重要でして──」
洋榎「変化球の練習ちゃうわ!」
京太郎「はは、冗談です。少しからかいすぎましたね、ごめんなさい」
洋榎「もう、知らんっ!」プイッ
うーむ、怒らせてしまったようだ。これはこれで、かわいいのだが……困ったぞ
こうなれば、実力行使しかあるまい
394: 2014/08/24(日) 01:24:37.54 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「すみません、失礼します」
ギュ
洋榎「えっ」
洋榎「~~っ!?///」
京太郎「どう、でしょうか?」
洋榎「……ま、まままままぁ、悪くはない、な///」ゴニョゴニョ
京太郎「ならよかったです」
洋榎「う、うん」
京太郎「これなら温かいですね」
洋榎「うん///」
顔を赤らめながら、少し俯いたその姿はあまりにも可憐で健気だった
それこそ、抱き締めたくなるほどに
だが、急にそんなことしたりはしない。俺は紳士なのだ
ほのかな温かさをその手に感じながら、二人でしばらく天球に張り付く星々を眺め続けた
不覚にも、顔に熱がこもるのを感じてしまったが、これは洋榎さんには内緒だ
男子といえど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ
395: 2014/08/24(日) 01:26:10.21 ID:Kj8oLy2S0
──2月上旬 鹿児島
2日目の練習も終わり、俺たち二人は境内の外を歩いていた
今日はこのまま帰途に着くことはせず、このまま福岡の新道寺女子高校に行く予定だ
時間と経費の削減だ
京太郎「どうでした?」
洋榎「なにが?」
京太郎「収穫ありました?」
洋榎「うーん……まだよう分かれへん」
京太郎「そうですか」
洋榎「でも、手ごたえってわけやないんやけど、何というか…」
京太郎「?」
洋榎「変わったような、変わらんような…」
京太郎「どっちですか?」
洋榎「言うたやん、分からんって」
396: 2014/08/24(日) 01:27:15.62 ID:Kj8oLy2S0
確かに、対局を見ていても、前より打ち筋が変わってきているとは思う
もちろん、良いか悪いかは別にして。というか、俺には雀士の繊細な機微などよく分からないのだが
調子もだんだん取り戻してきているし、前の状態に戻るのは時間の問題だろう
だが、前の状態に戻ったところで、あの大会で出会った彼らのような人間に勝てるわけではない
俺の見立てでは、彼らを最初に見たときに感じたような危険な雰囲気を、洋榎さんからはまだ感じ取れない
まあ、それはいいや。今は次の新道寺でどう成長できるかだ
けど、あそこの人達、あんまりおもちがなかったんだよなぁ…残念
京太郎「さぁ、行きますか」
洋榎「りょーかい」
397: 2014/08/24(日) 01:29:35.75 ID:Kj8oLy2S0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
巴「行ってしまいましたね」
霞「あっという間だったわね。少し寂しいわ」
初美「光陰矢の如し、ですねー」
春「うん……」ポリポリ
小蒔「私、今日の対局中の記憶、ほとんどありません…」
霞「神様降ろしちゃったから、仕方がないわね」
初美「ですねー」
小蒔「愛宕さん、大丈夫でしょうか?」
巴「確かに心配ですね。全国大会のときに比べて、らしくありませんでしたし」
霞「まるで、メジャーの固いマウンドにまだ慣れていない状態で、新しい変化球を試しているようなものだったわね」
「「……」」
霞「…ごめんなさい、分かりずらかったわね」
初美「まるで、適正ポジションは左サイドバックなのに、急遽ボランチを任されてしまったかのような状態でしたよー」
「「……」」
初美「…ごめんなさい、分かりずらかったですねー」
398: 2014/08/24(日) 01:30:41.03 ID:Kj8oLy2S0
小蒔「あっ、私それ知ってます。『天丼』って言うんですよね」
春「姫様、どこでそれを?」
小蒔「愛宕さんから直接教えてもらいました」ドヤッ
巴「姫様、よかったですね」
小蒔「えへへ」
霞「そういえば、小蒔ちゃんが今日降ろした神様は…?」
巴「えーと、確か。ニニギの──」
霞「え」
巴「どうかしました?」
霞「い、いえ……私てっきり一番弱い神様だったのかと思ってて」
巴「どうしてですか?」
霞「あら、見てなかった?だって彼女、危うく姫様を完──」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
399: 2014/08/24(日) 01:32:28.25 ID:Kj8oLy2S0
──2月中旬 長野
鹿児島の後は、福岡の新道寺女子
その後も全国各地を飛び回り、奈良、広島、東京などどこにでも行った
そして、いよいよ全国(ほぼ)女子高巡りも最終目的地
洋榎「うーん、なーんもあれへんなぁ」
京太郎「何もない、があるんですよ!!」
洋榎「べ、別にムキにならんでもええやん…」
京太郎「まぁ、ほんとに何もないんですけどねー」
俺たちは今、長野県の清澄高校
言わずもがな、俺の母校に向かって歩いている
洋榎「……」キョロキョロ
京太郎「どうしたんですか、キョロキョロして」
京太郎「そんなことしてると、県警にマークされますよ」
洋榎「いやな、京太郎はここで育ったんやなぁ思て」
京太郎「それはそうですけど、楽しいですか?」
洋榎「楽しいっちゅうか、興味深い」
京太郎「……」
どうしよう。かなり嬉しいぞ、これ
400: 2014/08/24(日) 01:35:00.50 ID:Kj8oLy2S0
________
_____
__
─清澄高校
半年ぶりくらいか、ここに来るのは
みんな元気にしているだろうか?
あれからもっと強くなることはできたのだろうか?
早く会いたいような、でもそうでもないような。変な気分だ
手に汗が溜まるのを感じる。だめだ、なんだか緊張している
洋榎さんが部室の扉をノックしようとしている。しかし、止めてはいけない
コンコン
洋榎「失礼します」
京太郎「……」
ガチャ
401: 2014/08/24(日) 01:35:57.59 ID:Kj8oLy2S0
和「うおぉーーー!!咲さーーんっ!!うおぉぉぉーーーーーー!!!!」
咲「ちょ、なんでこういう時に限ってみんないないの!?」
洋榎「……」
京太郎「……」
和「そないなこと言うても、ここはもう大洪水になってるやないか。ぐへへ」
咲「何言っているの!?これ、さっきこぼした花瓶の水でしょ!!」
洋榎「……」
京太郎「……」
和「あぁ~ん、咲さぁ~ん。私たち以外誰もいないんだから、いいかげん素直になっ…ても……?」
咲「い、い、い…やぁー……?」
和・咲「──あれ?」
洋榎「……」
京太郎「……」
403: 2014/08/24(日) 01:38:03.95 ID:Kj8oLy2S0
バタン
京太郎「ごめんなさい、洋榎さん。どうやら俺がいない間に部室の位置変わってたみたいです」
洋榎「ハハ、そうみたいやな」
バンッ!!
咲「ちょ、ちょっと、助けてくれてもいいじゃないですか!」
洋榎「え?てっきり長野では一般的なプレイなのかと……」
咲「どうみても私、襲われてたじゃないですか!?」
洋榎「せやったの?ごめんごめん」
咲…どうやら元気そうだが、その……貞操の方は大丈夫だろうか
和「すみません、お見苦しいところを。ですけど、もう安心してください」
和「咲さん成分はたっぷり頂いたので、あと5時間は持つはずですから」ニコリ
だめだこいつ、あれからさらに悪化してやがる
しかも、たった5時間って…家にいる時はどうしているんだろうか?想像したくない
404: 2014/08/24(日) 01:39:21.57 ID:Kj8oLy2S0
まこ「ああ、もう来ておったんか。遅れて申し訳ないのう」
洋榎「いやいや、こっちが勝手にやってることやから」
まこ「わしがここの部長の染谷まこじゃ。よろしゅう」
洋榎「うちが姫松高校麻雀部の元主将、愛宕洋榎や。よろしく」
染谷先輩は前より頼もしくなっている気がする。部長らしくなったというか
この口調を聞くと、清澄に戻ってきたんだなと実感する
優希「大阪の人、久しぶりだじぇ」
洋榎「えーと、誰やったけ?」
優希「ひどいじぇ!清澄のエース・オブ・エースを忘れるとは!」
洋榎「嘘や嘘。ちゃんと覚えてる。清澄のタコス娘やろ」
優希はうーん……いつも通り。相も変わらずといった感じか
しかし、恐らく染谷先輩と共に和のストッパーになっているのだろう
後で、洋榎さんに頼んでタコス渡してやるからな
405: 2014/08/24(日) 01:40:53.45 ID:Kj8oLy2S0
久「ハロー、久しぶりね」
洋榎「おお、ほんまに久しぶりやな。元気にしとった?」
久「まぁね、おかげさまで元気にしてたわ」
まさか、竹井先輩まで来るとは思っていなかった
この様子だと、大学も受かって暇してる感じなのだろう。よかった
まこ「さて、挨拶はこれくらいにして、と」
挨拶もそこそこに、早速練習モードだ
部長の声を皮切りに、いよいよ最後の修業が始まった
406: 2014/08/24(日) 01:42:15.88 ID:Kj8oLy2S0
_______
____
__
洋榎「お疲れさま。んじゃ、うちはちょっと」
久「あら、どこ行くの?今日はここに泊まっていくはずでしょ?」
洋榎「行きたいところがあんねん」
久「そうなの、ならいいけど。夕飯までには、ちゃんと帰ってくるのよ」
洋榎「うちは小学生か……ほなな」
パタン
京太郎「どこ行くんですか?洋榎さん、ここら辺の土地勘ないでしょう?」
洋榎「んー、まぁ、ちょっとな」
407: 2014/08/24(日) 01:43:19.06 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「何ですかそれ?」
洋榎「ついて来れば、そのうち分かると思うで」
京太郎「はぁ」
自分で言うのもなんだが、何にもないぞここら辺
実は重度の鉄オタで、JR七久保駅にどうしても行きたかった、というなら話は別だけど
清澄高校を出ると、スマートフォンを取り出して、何かを見ているようだった
特に言葉を交わすこともなく、しばらく洋榎さんの後を付いていく
うーん、なんだろうこの道筋は。すごく懐かしいような……
あっ
408: 2014/08/24(日) 01:44:46.16 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「…洋榎さん、ちょっとそのスマホ見せてもらってもいいですか?」
洋榎「ほい」
京太郎「やっぱり、グー○ルマップだ!」
洋榎「グー○ル様様やで、ほんまに」
京太郎「どこでうちの住所を!?言った覚えありませんよ!」
洋榎「机の上に、部員名簿ほっぽりぱなしやったからそん時」
京太郎「おのれ部長めっ!」
洋榎「ええやないか、減るもんでもないし」
京太郎「個人情報ってなんだっけ?」
洋榎「ほら、アホやってるうちにもう着いたみたいやで」
洋榎「ほな行こ」
京太郎「ええー…」
409: 2014/08/24(日) 01:47:15.55 ID:Kj8oLy2S0
ここまで来てしまったので、仕方なく洋榎さんを家に上げることにする
しかし、この時間帯、父さんは仕事でいないが母さんは中にいるはずだ。どうしよう?
俺の部屋がある2階には、滅多に来ることはないから……よしっ!それでいこう
京太郎「すみません、少し窮屈かもしれませんけど、そこのカドで待ってて貰えませんか?」
洋榎「ああ、うん」
京太郎「そこなら、氏角になっているので見つかる心配はありません」
京太郎「俺が合図したら、そこの段差を使って二階によじ登ってください。洋榎さんならできるでしょう?」
洋榎「余裕余裕。今日はスカートじゃなくてよかったなぁ」
当たり前だ。誰が他人に見せてやるものか
さて、やり方が決まったところで、俺はいたって普通に合鍵を使って家に入った
台所を見ると、久しぶりに母さんの後ろ姿が…
この香りは何だろうか?この料理は何だろうか?誰のために作っているのだろうか?
ほんの少しだけ、目頭が熱くなった
410: 2014/08/24(日) 01:48:30.77 ID:Kj8oLy2S0
階段を上り、自分の部屋に入ると、驚くほど何も変わっていなかった
まぁ、当たり前なのだが
しかし、ホコリはかなり積もっている。半年近く放置していたのだ。こうもなる
10分ほど簡単に掃除をして、窓の鍵をあけると、スマホを使って洋榎さんに合図を送る
京太郎『こちらα1、準備が完了した』
洋榎『こちらα2、了解した。作戦行動に移る』
段差を利用し、器用に屋根まで登ると、あっという間に俺の部屋に侵入することができた
京太郎「慣れてますね」
洋榎「昔、絹と一緒にこういう事して遊んでたから」
洋榎「ふーむ、しかし。これが京太郎の部屋か…普通やな」
京太郎「いったい何を期待していたのだか」
洋榎「工口本、ドーン!脱いだ服、バッサー!みたいな?」
京太郎「俺、綺麗好きなんで」
洋榎「おもんないわぁ」
412: 2014/08/24(日) 01:49:58.85 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「しかし、庭にプールとは恐れ入ったわ。ほんまに金持ちやったんやね」
洋榎「さすが、うちの分の旅費も出してくれるだけのことはある」
京太郎「別に金持ちってわけじゃないですよ」
洋榎「金持ちはみんなそう言うんやで」
京太郎「前にもの同じようなやり取りしましたけど、金持ちじゃなくてもそう言いますから」
京太郎「それに、これは俺の金じゃなくて親の金です。自分で稼いだわけではありませんので」
洋榎「相変わらず、かったいなぁー」
京太郎「あと、言っておきますと。あのプールはうちのカピ専用のものなんで」
洋榎「カピ?」
京太郎「カピバラです」
洋榎「あのヌートリアに似てる?」
京太郎「ああそういえば、天王寺動物園にヌートリアいましたね。あんな感じです」
洋榎「すごいな…後で見せて見せて!」
京太郎「いいですよ」
413: 2014/08/24(日) 01:50:54.86 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「おっ、早速卒業アルバムはっけーん!まずは幼稚園のころからやな」ワクワク
京太郎「そこからっすか」
洋榎「ほわ~、中々かいらしいなぁ」
京太郎「そうですか?」
洋榎「ちょっと見てみぃこれ、今と変わらんアホ面してるで」ケラケラ
京太郎「いや、洋榎さん。俺の顔写真でしか見たことないでしょ」
洋榎「あかん、これ泣いてるやないか。どないしたの?」
京太郎「ああ、これはですね──」
414: 2014/08/24(日) 01:52:05.32 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「ほいじゃ次は、中学校や」
京太郎「はいはい」
洋榎「おっ、京太郎めっけ。あれ?横におるのって…」
京太郎「ああ、咲のやつですね」
洋榎「仲良かったんやなぁ」
京太郎「腐れ縁みたいなものですよ」
洋榎「京太郎!、かと思たらまた咲ちゃん…」
京太郎「あいつ、いつも一人で本読んでましたから。俺とその他数人とくらいしか喋ってるの見たことなかったな」
洋榎「そ、そうか」
洋榎「集合写真やな、どーれ京太郎は……ってまた咲ちゃんやんか!」
京太郎「あの頃は結構べったりでしたからねえ」
洋榎「むぅ…」
京太郎「今ではそんなことありませんけど、中学時代の咲はですね──」
415: 2014/08/24(日) 01:54:11.30 ID:Kj8oLy2S0
アルバムを眺めながら、昔話をしているとあっという間に時間が過ぎた
そして、清澄への帰り道
京太郎「すみませんって、洋榎さん…」
洋榎「ふんっ!うちが隣にいるちゅうのに、他の女の話に夢中になって!」
他の女って…昼ドラみたいだな
京太郎「悪かったですって、今度おいしいものでも奢りますから機嫌直してくださいよ」
洋榎「……」
洋榎「じゃあ、たこ焼きとお好み焼きと串カツとラーメン」
京太郎「…太りますよ?そのくらいならいいですけど」
洋榎「ただしっ!」
京太郎「?」
洋榎「京太郎と一緒に、やからな…//」ゴニョゴニョ
京太郎「……」
これは反則ではなかろうか
416: 2014/08/24(日) 01:56:00.62 ID:Kj8oLy2S0
ポトリ
京太郎「あっ、洋榎さん。何か落としましたよ」
洋榎「え」
?「あら、あなた。何か落としたわよ」
洋榎「え」
え、この声
京太郎「げっ、母さん!?」
洋榎「え」
母「あらどうしたの?豆鉄砲食らった鳩みたいな顔してるわよ」
洋榎「い、いえ…なんでもありません。ありがとうございます」ペコリ
母「うーんと、もしかしてあなた、観光客の方かしら?」
洋榎「そ、そんなところです」
417: 2014/08/24(日) 01:57:36.38 ID:Kj8oLy2S0
母「変わってるわねー。ここら辺何もないでしょう?私が言うのも何だけどね」
洋榎「はぁ」
母「あらいやだ。思わず引き止めちゃったわ。ごめんなさい」
洋榎「いえ、こちらこそ。わざわざありがとうございました」
母「礼儀正しい娘ね。偉いわー。じゃあ、はい、これ」
洋榎「えーと、これは?」
母「あら、大阪のおばちゃんは見知らぬ人にも飴をあげるって聞いたんだけど」
飴ちゃんいる?、てか
洋榎「私、大阪から来たなんて一言も…」
母「イントネーションがちょっと変わってたし」
母「それに、清澄が全国大会に出てた時に、チラッとあなたのことをテレビで見たことあるわ」
母「大阪の姫松だったかしらね」
洋榎「その通りです」
418: 2014/08/24(日) 01:59:39.71 ID:Kj8oLy2S0
母「私、麻雀なんてほんとは興味ないのにね。なんで、わざわざ見てたのやら」
京太郎「……」
母「あら、ごめんね。また時間取らせちゃって。歳取るとほんとにダメね」
洋榎「いえ、そんな」
母「何もないところだけど、ゆっくりしていってね。じゃあ、さようなら」
洋榎「はい。さようなら」
洋榎「……」
洋榎「……」
洋榎「あの、一つ聞いてもよろしいですか?」
母「?」
洋榎「須賀京太郎、ってご存じないですか?」
母「須賀?ここら辺だとうちくらいなものね、その苗字は」
母「でもごめんなさい、知らないわ」
洋榎「そう、ですか…」
母「でも、もし──」
洋榎「?」
母「もし私に子供がいたなら、そんな名前を付けたかもしれないわね」
419: 2014/08/24(日) 02:04:48.65 ID:Kj8oLy2S0
_______
____
__
洋榎「ごめん、京太郎」
京太郎「何がですか?」
洋榎「ごめん…」
京太郎「……」
京太郎「母さんから貰った飴食べましょうよ。ちょうど2つでしたし」
洋榎「うん…」
洋榎さんと一緒に、夕暮れの歩道を歩いていく。影のできない不思議な光景が目に映った
マッジックアワーだ、と思った。しかし、いつもみたいに洋榎さんにそれを説明する気にはなれなかった
楽しいことも、辛いことも。この飴みたく、最初から分け合うことができたらよかったのに
京太郎「甘いですね」
洋榎「甘いな」
439: 2014/08/24(日) 16:56:22.37 ID:Kj8oLy2S0
──2月中旬 長野
2日目の練習もいよいよ終わりに差し掛かってきた
少し休憩をとっていると、洋榎さんは何か目に付いたようだ
洋榎「あの写真は?」
咲「ああ、あれですか。夏の、全国大会の時の写真です」
"みんな"で最後に撮った、集合写真だ
久「綺麗に撮れてるでしょー。どうやら私、写真の才能もあるみたいなのよね」フフン
優希「先輩、前にも同じこと言ってたじぇ」
まこ「優希、久は受験の影響で脳が、もう……」
優希「先輩…」
久「ちょっとひどくない、それ」
和「……」グッ
久「仲間!、みたいな仕草やめて。まだまだ和ほどじゃないから」
和「ちっ」
440: 2014/08/24(日) 16:56:56.20 ID:Kj8oLy2S0
咲「よく撮れているかは別にして、その写真がどうかしましたか?」
久「咲まで…」
洋榎「いや、ここに…」
咲「?」
洋榎「ここにさっ…」
京太郎「洋榎さん」
洋榎「っ…」
咲「どうかしました?」
洋榎「いや…なんでも」
441: 2014/08/24(日) 16:57:45.40 ID:Kj8oLy2S0
久「いやー、しかし。時が経つのは早いわね」
まこ「そうじゃな、もう半年くらいかのう」
優希「二人とも年寄りくさいじぇ。まあ、私はまだまだピチピチだけど」
久・まこ「なぬっ」
久「この頃はまだ、和も比較的まともだったのにね」
咲「そうですね」チラッ
和「なんですか、咲さん?じっくりねっとりこっちを見て。ついに私に興味を持ってくれましたか」
咲「まず、その発言がちょっときつい」
和「そんなぁ~」
442: 2014/08/24(日) 16:59:04.77 ID:Kj8oLy2S0
久「まぁ、でも。そんな和や咲、それに優希が入ってくれたから全国に行けたんだけど」
まこ「それまでは、団体戦やる人数すらおらんかったからのう」
久「ふふ、そうね。部室に二人だけだったころが懐かしいわ」
咲「今じゃ毎日賑やかですもんね」
久「だから、あなた達3人には本当に感謝してるわ。もちろん、まこもね」
優希「照れるじぇ」
和「そう言われると、悪い気はしませんね」
咲「わ、私はそんな──」
洋榎「あんまりや…」ボソ
咲「?」
443: 2014/08/24(日) 17:00:26.05 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「これじゃ、あんまりや」
咲「愛宕、さん?」
洋榎「いくら京太郎が、地区予選敗退の麻雀ド素人で雑用くらいしか取り柄がない言うてもっ!」
いや、そこまで言わなくてもいいのでは…
洋榎「それは、あんまりやっ!!」
久「ちょ、ちょっと、どうしたのよいきなり!?」
洋榎「……」
洋榎「咲ちゃん、和ちゃん、それに久。打つで」
優希「仲間はずれだじぇ」
まこ「お、おい…」
洋榎「もちろん、本気で。半荘や」
「「……」」
444: 2014/08/24(日) 17:01:22.20 ID:Kj8oLy2S0
久「ふぅー…分かったわ。何があなたを怒らせたかは知らないけど、やりましょう」
まこ「久…」
久「ブランクがあるとはいえ、私は強いわよ」
洋榎「望むところや」
和「私は構いませんよ。ただし、さっきまでのようにただの練習相手と思わない方がいいでしょう」
洋榎「言うねぇ」
咲「何だかよく分かりませんけど、みんなのこと侮辱された気分です」
咲「手加減なしの本気でいかせてもらいます」
洋榎「特に咲ちゃん、あんたには負けへんで。いや、負けられへんのや」
洋榎「あと、京太郎。今回はアドバイスいらんから」
もはや、俺がいること隠す気ないな、この人
京太郎「……分かりました」
洋榎「ほな、行くで!」
445: 2014/08/24(日) 17:02:07.79 ID:Kj8oLy2S0
_______
____
__
久「じゃあ、またね」
洋榎「おう」
久「しかし、あなたも熱くなることあるのねぇ。意外だったわ。普段は飄々としてるくせに」
洋榎「うっ…あれは忘れてもらえるとありがたいわ//」
久「ふふ、そうしとくわ」ニヤリ
あ、悪い顔してる。絶対覚えておいて、後で何かあった時にこのこと使う気だな
洋榎さんは気付いてないみたいだけど
まったく…この人も変わらない
446: 2014/08/24(日) 17:03:15.14 ID:Kj8oLy2S0
久「でもあなた、前と少し雰囲気変わったわね。最初は気付かなかったけど」
洋榎「んー、麻雀の話?」
久「それもあるけど……なんというか。柔らかくなったというか、前はもっとツンツンしてたわ」
洋榎「なんやそれ?」
久「綺麗になったわよ」
洋榎「…その台詞は、男の口から聞きたかったけどな」
久「あら、私は女の子から聞いても嬉しいけど?」
洋榎「はは、らしいな」
久「あー、そろそろ時間ね」
久「愛宕さん、今のあなたならきっと大丈夫。私が保証するわ」
洋榎「うちに負けたのに、よう言うわ」
久「はは、違いないわね」
久「さようなら。また会いましょう」
洋榎「ああ、またな」
447: 2014/08/24(日) 17:06:57.91 ID:Kj8oLy2S0
──2月下旬 大阪 大会会場
ついに、ここまで来た
1月に洋榎さんが負けてから、ほぼ1ヶ月
背油チャッチャの超濃厚とんこつスープよりも
3年間、発酵・熟成させた自然食品よりも
アイスボックした、ロシアン・インペリアル・スタウトよりも
さらにはるかに濃密な1ヶ月だったように思う
今日は、雅恵さん、絹恵さんの他に何人も応援に駆け付けていた
末原さん、真瀬さんに上重さん。それに後輩と思われる人もちらほらと
うむ。雅恵さん、絹恵さん、上重さんの3人は素晴らしいものをおもちだ
南大阪の三重士と命名しよう
あと、下手な変装をした赤阪監督の姿もかすかに目に入ったが、黙っておく
448: 2014/08/24(日) 17:08:48.50 ID:Kj8oLy2S0
俺は控室から試合を眺める
どんどん試合は進んでいく
洋榎さんは負けない。勝ち続ける。強い
だが、ここまではある程度想定通りだ。洋榎さんは元からそれくらいの実力を持っている
問題はそこではない。問題は"彼ら"といかにして戦うか、ということだ
さっき、競技者の名簿を見たが、あった。"ヤツ"の名前がぬるりと
ここまで来て、俺は確信する
以前、ほのかに抱いた推論に過ぎなかったものは、確かに正しかった
洋榎さんを審査している人間は、観客席にはいない
かといって、どこか別の場所で映像越しに対局を眺めているわけでもない
人を評価する際の最も簡単な方法は、実際にその人と対面することだ
そしてそれは、自然であればあるほど良い
ならば答えは極めて単純だ
そう、洋榎さんを審査する、本当の試験官は──!!
アカギ「ククク……狂気の沙汰ほどおもしろい……!」
450: 2014/08/24(日) 17:10:41.18 ID:Kj8oLy2S0
_______
____
__
京太郎「洋榎さん、いよいよ次ですね」
洋榎「ああ」
京太郎「大丈夫ですか?」
洋榎「うーん、だめかも」
京太郎「ええー…」
洋榎「ふふ、嘘や。じょーだん」
京太郎「洒落にならないですよ、それ」
洋榎「ごめんごめん」
451: 2014/08/24(日) 17:11:31.28 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「なんかここまで、えらい長い道来た気ぃするわ」
京太郎「色々ありましたからね」
洋榎「京太郎と初めて会ったとき追いかけっこしたのが、めっちゃ懐かしく感じる」
京太郎「はは、俺もです」
洋榎「なぁ、もしこの試合。うちが勝てたら…」
京太郎「?」
洋榎「…いや、何でもあれへん」
京太郎「は、はぁ」
452: 2014/08/24(日) 17:12:23.45 ID:Kj8oLy2S0
放送が鳴る
京太郎「呼ばれたみたいですね」
洋榎「みたいやな」
京太郎「行かないんですか?」
洋榎「……」
洋榎「なぁ、行く前にちょっとギュってしてもらってもええかな?」
え?
ギュ?……ギョギョギョ~~!
いや、違うな。ギュ、だ。ギュッ!
えーと、それはつまり、俺の推論が正しければ、抱き締めるということで間違いないだろうか?
抱き締める?ハグ?
それってあれだよな?
こう…互いに腕を回して、2点間の距離をゼロにして、接触を図るあれだよな?
453: 2014/08/24(日) 17:13:57.01 ID:Kj8oLy2S0
いやしかしこれは、健全な男女関係を今まで構築してきた俺と洋榎さんにとって、
著しく重大な意味を持つ行為になり得る可能性が極めて高く、であるならば時間的
かつ質的により丁寧な議論と吟味を重ねる必要があり、その後発生するであろう
関係の変化及び永続的な心理的影響も考慮するべきなのだが、このことを考察する上で
必須となる心理学・生理学・物理学・生物学・医学の知識を総括しまとめることで得られる
既知の理論だけではなく人間が持つ普遍的な曖昧さから生じる量子論的な世界観に近いそれは
やはり人の脳髄で演繹するのに無理があるのでここでの正しいアプローチ仕方は確率・統計の
極めて集団的な母集団に依るのが一般的であるのだがそれは個の持つ非線形性を否定するような
ものに感じられしかしそれは量子電磁気学における繰り込みの計算の気味悪さが現実をうまく表し
てしまうことに近似しているようであたかもウィトゲンシュタインが述べたような語り得ないこと
についての考えに肉薄してようでもあり進化論的立場から生物が目指している進化の方向性と
エピジェネティクスの持つ可能性が──────
京太郎「……」
京太郎「はい!」
洋榎「また、えらいかかったな…」
京太郎「男の葛藤というやつでして
454: 2014/08/24(日) 17:16:14.17 ID:Kj8oLy2S0
でも、ここが他の人に声が届かないところとはいえ
京太郎「変な人に思われるかもしれませんよ?」
洋榎「それでも、や」
京太郎「…分かりました。では、いきますね」
洋榎「うん」
洋榎さんに近付き、その身体を包み込むようにして腕をまわす
身長差もあって、肩の上から抱きかかえるような形になった
恥ずかしそうに身を強張らせる洋榎さんを安心させるように、思い切って力を込めて抱き寄せる
微かにビクッと反応するが、すぐに向こうの方からも腕もまわしてきて、身体を預けてくる
心臓音がすごい。間違いなく洋榎さんにも聞こえてる
しかし、そんなささいなことは不思議と気にならなかった
それくらい、心地よい感覚
こうして、身体全体で誰かの体温を感じるのはいつ以来だろう?
自分の存在を感じた
455: 2014/08/24(日) 17:16:55.54 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「ん…」
名残惜しかったが10秒ほど経ったところで、身体を離す
洋榎「もう大丈夫や」
京太郎「はい」
洋榎「それじゃ……ん?あれ??」ゴシゴシ
洋榎「え?、え!?」ゴシゴシ
京太郎「どうかしました?」
洋榎「いや、あれっ?おかしいな……今確かに、京太郎が…」
京太郎「はい?」
洋榎「い、いや…気のせいやったみたいや」
京太郎「?」
456: 2014/08/24(日) 17:17:58.01 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「んじゃ、そろそろ」
京太郎「はい、行ってらっしゃい……うーん、いや違うな」
洋榎「?」
京太郎「おはようおかえり、洋榎さん」
洋榎「ははっ、行ってきます!」
後ろを振り返らずに、片手だけ挙げてこれに答えてくれた
どうやら、俺にできることはもう無いようだ
あとは、遠くから見守るだけ。なんとももどかしい
戦地へ赴く夫を見送る妻の気持ちとは、こういうものなのかもしれない
俺は男だけども
京太郎「洋榎さん…」
457: 2014/08/24(日) 17:19:26.49 ID:Kj8oLy2S0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アカギ「久しぶりだな……と言っても、1ヶ月くらいか……」
洋榎「今日は他の2人はいないみたいやな」
アカギ「ああ、ちょっとしご……いや用事があってな…」
洋榎「?」
アカギ「しかし、お嬢ちゃんにとってはそっちの方が都合が好いだろう……?」
洋榎「せやな。確かにあんたら3人をいっぺんに相手にするのは、正直言うて無理や」
アカギ「……ほう」
洋榎「でも、うちをこの前のままの木偶と思うてもろたらは困るで」
アカギ「ククク……言うねぇ……!」
洋榎「御託はここまでや、行くで!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
459: 2014/08/24(日) 17:21:21.95 ID:Kj8oLy2S0
運命の試合が始まった
俺は控室から観客席に移動し、雅恵さんや絹恵さんと洋榎さんを見守る
雅恵「うぁ~…、ほんまに大丈夫やろか洋榎のやつ」
雅恵「こんな大事な時に、お父ちゃんおれへんしまったく、娘の一大事に……」ブツブツ
雅恵「帰ったらアルゼンチン・バックブリーカーで……」ブツブツ
絹恵「お母さん、試合見よう」
恭子「それにしても、洋榎。打ち方少し変わったやん、うまく言えへんけど」
由子「そう?」
恭子「前から、勘とか読みは鋭かったんやけど、今はそれにも増してって感じやな」
由子「ふーん」
絹恵「前の大会でボロ負けして、それからいきなり『修業やー!』言うて全国飛び回ってましたけど」
由子「それがよかったんかな?」
絹恵「どうなんでしょう」
漫「この前、部活で少し打たしてもらった時なんかも、確かにちょっと変でしたね」
郁乃「でも、めちゃめちゃ強くなったで~。見違えるようやな~」
「「!?」」
460: 2014/08/24(日) 17:23:41.08 ID:Kj8oLy2S0
試合が進んでいく
対戦相手は、アカギさんと他の二人は洋榎さんより少し年上であろう女性だ
この二人は、今までの対戦成績を見る限り、そこまでの打ち手じゃない
それを自ら察しているのか、この二人は最初から守りに入った無難な戦略を取っているようだ
しかし、そんな痩せた考えの腑抜けた打ち方を、アカギさんが見逃すはずもない
彼は根っからの勝負師だ。弱者を瞬時に明確に見分ける
そして、むしり取る。どこまでも、執拗に、氏なない程度に、いつまでも
洋榎さんの点数は3万ちょい、アカギさんとは1万点以上離れている
だけど、焦りはない。虎視眈々とチャンスを狙っている
形の上では四人の戦いだが、実質的には洋榎さんとアカギさんの独擅場になっている
そして、南入。ここからが勝負だ
461: 2014/08/24(日) 17:25:08.23 ID:Kj8oLy2S0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
─清澄高校
久「彼女、そろそろ対局してる頃かしら?」
まこ「何の話じゃ?」
久「ほら、愛宕さんよ」
和「そういえば、確か今日って言ってましたね」
咲「……」
久「咲、どうしたの急に黙っちゃって?」
咲「いえ、愛宕さんは大丈夫だと思いますよ」
咲「少なくとも、私レベルの打ち手となら問題なく勝てるはずです」
優希「でも、大阪のおねーさん、最後はのどちゃんに負けてたじぇ」
咲「まあ、そうなんだけど…」
優希「?」
462: 2014/08/24(日) 17:26:22.12 ID:Kj8oLy2S0
咲「はいこれ、その時の牌譜。ちょっと見てみて優希ちゃん」
優希「うーん、いたって普通としか」
久「確かに変なところはなかった思うわよ。一緒に打った私でもそう感じたわ」
和「……なるほど。プラスマイナスゼロですね。偶然でしょうけど」
優希「ああ、咲ちゃんが…最近は全くやらなくなってたから気付かなかったじぇ」
まこ「けど、なんで咲はわざわざこんなことしたんじゃ?」
久「確か、対局前は本気で打つって言ってたわよね?」
優希「矛盾してるじょ」
咲「いいえ、私は本気で打ちましたよ。間違いなく」
「「えっ?」」
463: 2014/08/24(日) 17:28:00.17 ID:Kj8oLy2S0
咲「おそらく、愛宕さんのあの対局での目標は私に勝つことだったんです。それも徹底的に」
咲「理由はよく分かりませんけど」
久「確かに、咲に対しては異様に執念燃やしてたしね」
咲「しかも、私の点数をプラマイゼロに調整してなお且つ、1位になることが目標だったんです」
咲「いかにも屈辱的でしょう?」
まこ「そんなこと可能なんか?それに自分の点数調整ならまだともかく…」
和「そんなオカルトありえません」
咲「結果だけ見ると、和ちゃんが1位になったので不可能だったんでしょうけど」
咲「それでも、できるという確信があったのかもしれません」
咲「愛宕さんは、私にも見えない何かを卓上で見ていたはずなんです」
464: 2014/08/24(日) 17:28:53.57 ID:Kj8oLy2S0
─アカギ
なるほど、これは確かに前とは違う……
タン
勘が鋭いとか、ツキが味方しているとか……もはやそんな言葉では済まされなくなった……!
タン
こいつの……これはっ……!!
タン
洋榎「ロン、6400」
アカギ「……」
洋榎「どや?今のは、流石に痛かったんちゃう?」
ふっ……ガキが……!
465: 2014/08/24(日) 17:30:14.15 ID:Kj8oLy2S0
─愛宕洋榎
やっと、1000点差まで詰め寄ったで
ここまで、ほんまに長かった。こちとら1ヶ月、あんたを追い詰めることだけ考えて打ってきたんや
そしてついに、この化け物の首が見えた。安手で上がっても十分捲れる位置、うちの射程圏や
このオーラス、うちの親!ここで確実に仕留めるっ!!
タン
不思議な気分や。いままで、数えきれないぐらい対局してきたけど、こんなん初めてや
タン
分かる。聴牌気配が、危険牌が、安牌が。理屈やない、感じる
タン
別に、オカルトが覚醒したわけやない。それは分かる
京太郎の感覚をトレースしているのか、あるいはパターンを無意識に学習したのか
理屈が何であれ、もしそうなら、これが京太郎の見ている世界なのかもしれない
だとしたら、また少し見えないものに近づけた気がして嬉しくなる
はっきり言うて、負ける気せぇへん
466: 2014/08/24(日) 17:31:07.10 ID:Kj8oLy2S0
タン
アカギ「一つ聞いてもいいか?」
タン
洋榎「なんや、急に?」
タン
アカギ「何がおまえをここまで強くした……?」
何が?新手の精神攻撃か、これは?
うーん、でも考えたこともあれへんなぁ、そないなこと
才能?指導者に恵まれたこと?切磋琢磨できる友人がいたこと?ライバルの存在?
確かにそうゆうのもあるんやろうけど…
洋榎「正直言うて、うちにもよくわからん。けど敢えて言うなら」
467: 2014/08/24(日) 17:32:27.61 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「それは、あんたには見えへんもんや」
タン
アカギ「……なるほど、な」
タン
アカギ「それは、狂気だ……間違いない……孤独と言ってもいい……」
洋榎「……」
タン
アカギ「お嬢ちゃん、あんたは今…間違いなく自分の勝利を確信している……」
タン
アカギ「しかし、後学ために一つ教えておいてやろう……」
タン
アカギ「勝利とは…それを確信した瞬間から、はるか彼方に遠ざかってしまうものだということを……!!」
タン
はたして、そうかなっ!
来たでっ!!
468: 2014/08/24(日) 17:33:11.90 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「リーチ!!」
「あ、それロンです」
洋榎「へ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
469: 2014/08/24(日) 17:33:48.19 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「へ」
雅恵「へ」
絹恵「へ」
恭子「へ」
由子「のよー」
漫「へ」
郁乃「へ」
「「…………」」
「「えっ!?!!?」」
472: 2014/08/24(日) 17:35:33.48 ID:Kj8oLy2S0
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_____
__
洋榎さんのところに駆け付けようとしたが、もうすでに皆に取り囲まれて近づけない
茫然自失といった感じで、魂ここにあらず状態だ
洋榎「あはは~、ほらおかん見て見て~」
洋榎「あそこリバー・フェニックスとクリスティアーノ・ロナウドとクレイントン・カーショーが来てるで~」
洋榎「みんなで阪神に入団すんやって~、心強いな~、あはは」
雅恵「洋榎!阪神にカーショーの給料は払えへんのや!それに前の二人は野球関係あれへんで、しっかりするんや!!」ガクガク
絹恵「いや、お母さん。ロナウドの身体能力なら適応できればあるいは…」
漫「何言うてるんですか、先輩。カーショーはうちのチームのファースト守る約束なんですよ」
由子「私はミゲレラのバッティングを一年通して見てみたいのよー」
恭子「プイーグみたいな、野性味溢れるプレーも魅力的やね」
郁乃「チャップマンのファストボールも捨てがたいで~」
雅恵「いやいや、シモンズの守備の方が見応えあると思うわ」
なぜか、野球談話が始まった
というか、洋榎さんの話をしましょうよ。みなさん
473: 2014/08/24(日) 17:37:30.95 ID:Kj8oLy2S0
この状態の洋榎さんに話し掛けても、どうしようもないと思い、少し時間を置くことにした
落ち着いてから、いくらでも話を聞いてあげよう
それに結果はまだ出てないのだ。慰めるにはまだ早い
京太郎「ん?」
アカギさんが外に向かう姿目に映った。もう帰るのだろうか?
不思議に思って、近づいていくと、ちょうど電話をしているようだった
アカギ「ああ…終わったよ…もう帰るところだ……」
アカギ「他の対局は棄権した……用は済んだからな……」
アカギ「結果?……思った以上だ……俺の首元に手か届くところだった……」
アカギ「思わず、本気を出しちまうところだった……それくらいだ…」
474: 2014/08/24(日) 17:38:59.21 ID:Kj8oLy2S0
アカギ「十分合格だ」
京太郎「!!」
アカギ「ああ、またな……もう若くないんだから身体には気を付けるんだな」
ピッ
アカギ「ククク……宮永姉妹…神代に天江、それに愛宕洋榎か……つくづく俺を楽しませてくれる……」
アカギ「やはり……狂気の沙汰ほどおもしろい……!」
どうやら、洋榎さんのことをちゃんと見ていてくれたみたいだ
京太郎「ありがとうございました」ペコリ
アカギ「ん、気のせいか…?」
475: 2014/08/24(日) 17:40:32.33 ID:Kj8oLy2S0
________
_____
__
洋榎「うちはう○こなんや。う○こ製造機以下のゴミやったんや……」
洋榎「だから、これから下水処理場に行って、きれいな水に生まれ変わるんや……」
京太郎「年頃の女性がう○こなんて汚い言葉使っちゃダメでしょ」
洋榎「うちはハエや、蛆虫や、ゴキブリや、ゲジやったんや…」
京太郎「ゲジはあの見た目で益虫なんで、その括りはちょっとかわいそうですね」
京太郎「それに蛆虫だって、すごくきれいに腐肉を食べてくれるんで治療の役に立つこともあるんですよ」
洋榎「んなもん、知らんわ…」
京太郎「そういえば、他の皆さんは?」
洋榎「ラウンジで、NPBで通用する外人選手の特徴は何か、について語ってる……」
京太郎「ま、まあ、そういうこともありますよ…」
洋榎「変な慰めやめて…」
476: 2014/08/24(日) 17:41:33.67 ID:Kj8oLy2S0
京太郎「はぁー……」
こりゃあ、後の試合にも影響するかもしれないな。仕方がない人だ
京太郎「ほんとはちゃんとした連絡が来るまで、黙っているつもりでしたけど、言いますね」
洋榎「?」
京太郎「合格です。おめでとうございます、洋榎さん」
洋榎「合格…?クズ人間検定が合格ってこと?」
京太郎「どこまで卑屈なんですか…違いますよ。見事、麻雀プロ合格です」
洋榎「へ」
京太郎「春からプロとして活動できるんですよ」
洋榎「なんで…だってまだ…?」
京太郎「なんで、ですか。うーん……実はテレパシー能力も獲得したみたいでして」
京太郎「そういう信号をピーンとキャッチしたんです」
477: 2014/08/24(日) 17:42:36.33 ID:Kj8oLy2S0
洋榎「嘘や」
京太郎「まあ半分嘘ですけど、洋榎さんが合格したのは本当です」
洋榎「嘘や」
京太郎「俺が、洋榎さんを傷つけるために嘘をつくことなんてありえませんね」
洋榎「嘘やぁ…」ジワァ
京太郎「洋榎さん、もう安心してください。もう大丈夫ですから」
洋榎「嘘や。だって、うちの負け方無様やったもん…」ウルッ
京太郎「確かに、最後のなんかアカギさんのことしか見えてませんでしからね」
洋榎「だって……だって…」ポロポロ
いくら俺だって、こういう時どうすればいいのかぐらい分かる
今度は、自然に抱き締めることができた
堰を切ったように泣く洋榎さんを、しばらくそのままにしておいてあげた
普段は表に出さないが、この1ヶ月間ずっと緊張しっぱなしだったのだろう
だけど、それもたった今で終わりだ。お疲れ様、洋榎さん
478: 2014/08/24(日) 17:43:48.41 ID:Kj8oLy2S0
こうして、俺たちの長い長い物語は終わりを迎えた
これから何度も同じような困難が、俺たちの前に立ちはだかって来るのだろう
だけど、俺たちは負けない。今回だってできたんだ。これかもきっとできるさ
時は移ろい、処変われど、人の営みは変わらない
俺たちはこれからも、生きていく。この世界を生き抜いて見せるぜ!
オレはようやくのぼりはじめたばかりだからな
このはてしなく遠い麻雀坂をよ……
カンッ!!
いや待て、違うだろう須賀京太郎。一番大事な事忘れてるじゃん
なんか一仕事終えたみたいになって、その雰囲気に流されるとこだった
だって、俺、俺…
京太郎「全然戻れてねえ!!」
500: 2014/08/24(日) 23:59:28.66 ID:Kj8oLy2S0
──3月下旬 大阪
─阿倍野
大会からさらに1ヶ月。俺はまだ大阪にいる
あれっ、俺そろそろやばいんじゃないか?もしかして、一生このままインビジブル!?
そういう考えが、頭の片隅にすら残らなくなってきた今日この頃。今なら悟りが啓けそう
でも、今日はそんなことどうでもいいのだ
天気は雨。俺は今、阪堺電気軌道の上町線を使って阿倍野まで来ていた
傘を差しながら、人を待っているのだ
服は2週間かけて選んだ。たぶん、おそらく大丈夫だ。他の人には見えないんだけど
髪も綺麗にカットできたと思う。もう慣れたはいえ、やはり美容院のようにはうまくいかない
うん、これは仕方がない、忘れよう。まあ、他の人には見えないんだけど
501: 2014/08/25(月) 00:00:53.11 ID:XldGYtG70
今日という日を、どれほど待ちわびたことか
ああ絶対俺、今気持ち悪いほどニヤニヤしてる。他の人から見たら、怪しまれること間違いなしだ
こういう時に限り、消えていることに感謝したい
ダメだ待ち遠しい。この早い心拍数の状態も悪くはないが、やはり心臓にはよくなさそうだ
今すぐ傘を放り出して、雨の中で歌い、気ままに踊りたい気分だ。ああ、雨に唄えば!
恥ずかしような、嬉しいような…期待に胸を膨らませるが、プランクスケール程度の不安もあり、胸のあたりがムズムズする
咲が読んでた恋愛ものの小説バカにしてたもんだけど、今の俺は少女漫画の恋する乙女と区別がつかない
それもそのはず。だって、今日は、待ちに待った──
502: 2014/08/25(月) 00:02:15.46 ID:XldGYtG70
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
雅枝「ふわぁ~…おはよ…洋榎」ゴシゴシ
洋榎「おはよう。おかん髪の毛爆発してるで」
雅枝「……」ギュッギュッ
雅枝「どや…?」
洋榎「ばっちしや。今日も綺麗やで」ニコッ
雅枝「機嫌ええな」
洋榎「へへ~、まっあね~!」
雅枝「それ似合てるで」
洋榎「えへへ、そう?よかった~。絹と一緒に選んだんや、これ」
503: 2014/08/25(月) 00:08:48.08 ID:XldGYtG70
雅枝「ふーん。で、そないやつしてどこに行くねん?まだ、朝やんか…ふわぁ~…」
洋榎「知りたい?」
雅枝「何や、もったいぶって」
洋榎「ふふ、デートや!」
雅枝「へぇ~…」
雅枝「え゛」
洋榎「んじゃ、行ってきまーす!」
バタン
雅枝「……」
雅枝「……」
雅枝「お父ちゃーん、洋榎がついにおかしくなってもうたー…」
愛宕父「ふぇ~…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
504: 2014/08/25(月) 00:11:15.19 ID:XldGYtG70
約束した待ち時間からまだ30分近くある
そろそろ、来てもおかしくないかもしれない
じいっと改札口を眺めていると、来た!洋榎さんだ
辺りをキョロキョロ見回しているが、一向に見つからない
当たり前だ
やはり、この身体で待ち合わせるのは無理があったか……
トントン
京太郎「ここです、洋榎さん」
洋榎「どっひゃあー!?!!」ビクッ
京太郎「!」ビクッ
洋榎「し、心臓止まるかと思うたわっ!!」
京太郎「す、すみません」
505: 2014/08/25(月) 00:18:20.05 ID:XldGYtG70
洋榎さんの服装を上から順に見てみる
よく手入れのされた髪の毛は、艶がありとても美しい。最近さらに綺麗になったのではないだろうか?
いつものように後ろでまとめた髪型はポニーテールで、洋榎さんにはやはりこれが一番似合う
上にはデニムジャケットを羽織り、中には膝が隠れるくらいの趣味のいい白のワンピース着用している
肩からは斜めに小さい鞄をかけており、こじんまりとしていてかわいらしく素敵だ
靴はブーツで、色はブラウン。シンプルだが全体の色やシルエットとよくマッチしている
まぁ、そのつまり、総合的かつ客観的に、しかしいくらか独断と偏見をもって評価するなら
かわいい、かわいすぎる!今すぐ抱き締めたいぐらいだ!!
こんな素敵な人がこの世に存在していていいのだろうか?
かわいい
ああ、脳細胞が溶けていく。確実におバカになっていくのが分かる
かわいい
ダメだ、危険すぎる。ここは一旦距離を取って態勢を立て直さなければ──
洋榎「ど、どうやろ…//その…似合てる、かな?///」モジモジ
507: 2014/08/25(月) 00:25:41.69 ID:XldGYtG70
プツン
京太郎「ふああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!」
洋榎「!?」ビクッ
京太郎「ふぅー……危なかった」
洋榎「何がっ!?」
京太郎「はい、最高に似合ってます!!」
洋榎「そ、そう…よかった//」
洋榎「後で絹に感謝やな」ボソ
京太郎「?」
京太郎「じゃあ、早速行きましょうか」
洋榎「うん!」
508: 2014/08/25(月) 00:31:32.91 ID:XldGYtG70
>>506
申し訳ありません。絵心がありませんのでちょっとそれは…
ですが、『ジャケット ワンピース』などでぐぐるとそれらしいのは出てくるみたいですね
あとは妄想力を使って想像してください
申し訳ありません。絵心がありませんのでちょっとそれは…
ですが、『ジャケット ワンピース』などでぐぐるとそれらしいのは出てくるみたいですね
あとは妄想力を使って想像してください
509: 2014/08/25(月) 00:33:22.80 ID:XldGYtG70
洋榎さんと並びながら、あべの筋を歩いていく
最初の目的地はもちろん、例の映画館だ
洋榎「せっかくのデートやのに、雨なんて最悪や…」ブツブツ
京太郎「はは、確かにツイていませんでしたね」
京太郎「でも、雨の日もそう悪いもんじゃないと思いますよ」
洋榎「そりゃあ、そうかもしれへんけど…時と場合っちゅうもんがあるやろ」
京太郎「また次がありますよ」
洋榎「そ、そうか…ほんなら、ええかもな//」
かわいい
でも、本当にそうなのだろうか?
京太郎「あ、着きましたね」
512: 2014/08/25(月) 00:35:16.05 ID:XldGYtG70
________
_____
__
洋榎「いやー、めっちゃええもん見たわ!!なっ、京太郎!」
京太郎「そ、そうですね。最高でしたよ!」
どうしよう、あまりにつまらなくて途中で寝てしまったなんて言えない…
洋榎「どこが良かった?」
京太郎「え、えーと…ですね。ほらっ、あの戦闘機がビューンでドカーンなシーン最高でしたよ!」
洋榎「せやろー、やっぱアクション映画はこうでなくちゃな」
京太郎「ですよね、最近のCG技術の進歩には度肝を抜かされますよ」
洋榎「うんうん……まぁでも、戦闘機なんて出てこーへんかったけどな」
京太郎「え」
洋榎「……」ニヤニヤ
京太郎「す、すみませんでしたっ!わたくし実は寝ておりましたっ!!」
洋榎「まーったく、せっかくのデートが台無しやわぁ。傷ついてもうたわぁ」チラ
京太郎「今度何か奢らせてください、お願いします!!」
洋榎「そこまで言うなら、奢られてやらんこともないかなぁ」ニヤニヤ
京太郎「ははー、感謝の極みでございます!」
513: 2014/08/25(月) 00:36:47.82 ID:XldGYtG70
館長「今日は、如何でしたか?」
洋榎「めっちゃよかったです。安心のセレクトですよ、ほんま」
京太郎「いや、無しですね無し」
館長「ありがとうございます」
館長「あ、そうそう。今、いつも当館をご利用いただいているお客様だけに、特別にお渡ししているものがあるんです」
館長「よろしかったら、どうぞ」
洋榎「えーと……入場引換券、ですか?」
館長「ええ、いつもご利用いただいていますから、そのささやかなお礼と思ってください」
洋榎「でも、2枚も…」
館長「大丈夫です。それで間違いありません」
洋榎「はぁ」
514: 2014/08/25(月) 00:38:20.78 ID:XldGYtG70
館長「いいですか、それは引換券です」
館長「何か大事なものを得ようとするとき、しばしば引換券が重要になることがあります」
館長「これは単なる紙ですが、それ以上の意味を持つことがあるんです」
洋榎「えーと…テリーの話?」
京太郎「こら」
館長「だから大事にとっておくことです」
館長「人生においては、その時重要に見えないことが、後になって重大な意味を持ってくることがままありますから」
館長「そのことをゆめゆめ忘れぬよう、お願い致します」
洋榎「うーん…」
館長「決して離さないことです。そう、決して……」
京太郎「……」
515: 2014/08/25(月) 00:41:05.63 ID:XldGYtG70
洋榎「うーん、さっきのは何やったんやろ?」
京太郎「ちょっと分かりかねますね」
洋榎「まぁ、ええわ。じゃあ、はい、これ1枚」
京太郎「いいんですか?」
洋榎「ええよ、別に。お金には困ってへんし。せやから、これ使ってまた2人で来ーな」ニコッ
かわいい、笑顔も素敵だ
京太郎「もちろんです、喜んで!」
洋榎「しかし、微妙な時間やなぁ。どないする?」
京太郎「そうですねぇ、じゃあお昼ご飯食べちゃいませんか?」
京太郎「実は朝ごはん、あまり食べられなかったんでお腹空いてるんですよね」
緊張で、だけど
洋榎「あ……実は、うちも…///」モジモジ
京太郎「え、具合でも悪いんですか?」
洋榎「いやいや!ピンピンしてるで、ほらっ!」
京太郎「なら、いいですけど…」
もし、同じ理由だったら少し嬉しいかな
京太郎「じゃあ、場所はどこにします?」
洋榎「そんなの決まってるやんか、難波の──」
516: 2014/08/25(月) 00:43:01.82 ID:XldGYtG70
─食事処『男女兼用』
あっ、久しぶりに来たが看板が変わってる。ネーミングセンスゼロだな、つーかマイナスだな
前もお客さんいなかったけど、これじゃあ誰も来ないよ。さらに
ていうか、俺もあまり入りたくはないよ…
カランカラン
店長「あら~、いらっしゃい。待ってたわよ、可愛らしいお嬢さん」
洋榎「お久しぶりです」
店長「んも~、最近来てくれないから私のこと忘れちゃったんじゃないかと思って心配したんだからぁ~」
洋榎「相変わらず、お客さんいないんですね…」
店長「なんでかしらねぇ、お姉さんまったく分からないわ…」
いや、まず表の看板を直した方がよいかと
あと、定食の名前も変えたほうがいい
517: 2014/08/25(月) 00:44:46.72 ID:XldGYtG70
洋榎「さて、今日は何にしようかなー」
店長「だったら、いいのがあるのよ。新メニュー、試してみない?」
洋榎「なら、それにしようかな」
店長「あ・り・が・と、後で感想聞かせてね」
洋榎「はい。ああ、あと……」
店長「ん、なに?」
洋榎「男日照り定食一丁」ニヤリ
店長「ふっ、相変らずの底なしね」
京太郎「いや、勝手に頼まないでくれません。それ絶対俺のでしょ」
518: 2014/08/25(月) 00:46:14.66 ID:XldGYtG70
________
_____
__
店長「あらあら、行かず後家定食はともかく、男日照り定食も一緒に完食しちゃうなんて…お姉さん嫉妬」
店長「まったく、大した娘よ」
洋榎「いやー、相変らず最高でした。定食屋にしておくのがもったないぐらいです」
京太郎「まったくですね。これがワンコインっていうんだから、驚異的です」ゲフ
店長「いや、うちはこのままでいいのよ」
洋榎・京太郎「?」
店長「この街のイイ男たちが、私の料理をおいしそうに食べてくれる。それだけで十分だから」
洋榎「くっ…」ウルッ
京太郎「店長…」ウルッ
店長「正直、見てるとムラムラするの」
洋榎「この人、最悪やぁ!!」
519: 2014/08/25(月) 00:49:22.75 ID:XldGYtG70
店長「それじゃあ、またね」
洋榎「ほなまた」
カランカラン
京太郎「しかし、デートの食事が定食屋っていうのは、少し色気がありませんでしたかね?」
洋榎「うちは全然かめへんよ。あそこおいしいし」
京太郎「うーん、それでもやっぱり、男の意地みたいなのも確かにありまして…」
洋榎「ええかっこしいやなー」
京太郎「大体の男なんてそんなもんですよ」
洋榎「うちはあそこがよかったんや」
京太郎「なぜです?」
洋榎「だって……京太郎とな…初めて外で食べたんがあそこやったんや…せやから、な///」ニコリ
521: 2014/08/25(月) 00:52:56.54 ID:XldGYtG70
ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
もうっ!!!
かわいすぎるっ!!!
洋榎「ん、どないしたん?」
京太郎「はっ!いえ、少しだけ脳内宇宙旅行をしていただけですから」
洋榎「大丈夫かいな…?」
京太郎「さっ、お腹もいっぱいになりましたし、次行きましょうか」
洋榎「うん、そうしよ」
531: 2014/08/25(月) 22:34:32.56 ID:XldGYtG70
─梅田
地下鉄四つ橋線を使って、大阪キタの中心地、梅田にやってきた
梅田と言えば、新宿に匹敵する地下街、高層ビルの数々などが存在する、大阪随一の大都会だ
大阪駅舎を含む大阪ステーションシティや新梅田シティ、グランドフロント大阪などが最近のトレンドだろうか
ここに来れば、大体なんでも揃う。ここはそういうところだ
歴史的には、この梅田は1909年のキタの大火や第二次大戦の大阪大空襲でだいぶボロボロになったらしい
歴史的建造物のほとんども、その時になくなってしまったという
しかし、それからたった100年余りでここまで発展を遂げるとは
なるほど、人間のすごさとはこういうものなのかもしれない
さて、俺たちの目的は観光ではなく買い物だ
春から、洋榎さんの一人暮らしが始まるので、必要なものを買いに来たのだ
532: 2014/08/25(月) 22:35:07.89 ID:XldGYtG70
─百貨店
ちなみに、大阪ではデパートとは言わないで百貨店と呼ぶことが多い
それを洋榎さんに尋ねてみたところ
洋榎『デパートより百貨店の方がいろいろ揃ってそうやろ?』
だそうだ。これが大阪というものか
京太郎「今日は何買うんですか?」
洋榎「必要なもんは大体買うたから、今日は食器とか調理器具とかやな」
それなら、俺にも手伝えるかもしれない
京太郎「よし、俺も微力ながら力になりますよ」
533: 2014/08/25(月) 22:36:15.89 ID:XldGYtG70
洋榎「なぁなぁ、これどうやろ」
京太郎「だめですよ、そんな深いコップ買っちゃ。洗うとき大変でしょう?」
洋榎「う…そうやな」
洋榎「おお、このお皿かいらしいなぁ。これにきーめた!」
京太郎「うーん…これもダメですね」
洋榎「な、なんでや!?」
京太郎「まず、この角ばってるところがすごく洗いにくいです。マイナスですね」
京太郎「あと、この表面少しざらついた加工してあるでしょう?これスポンジがだめになりやすいんですよね」
京太郎「それにこの皿、裏に取っ掛かりがないんで、洗剤で洗うとき滑って落とす可能性が高いです」
洋榎「主婦視点。洗う時のことしか考えてへん…」
京太郎「大体一人暮らしの人間が、こんなに大きいお皿をどう使うっていうんですか」
洋榎「ほ、ほら!最近じゃあ、女子会ちゅうのもあるみたいやし、必要になるかもしれへん!」
京太郎「そもそも、洋榎さんってあまり料理しないですよね」
京太郎「こう言っちゃあなんですけど、そのシチュエーション自体ありえないと思いますけど」
洋榎「ぐぬぬ」
京太郎「普段使いのものは、シンプルで使いやすいのに限ります」
京太郎「ほら、こういうのだったどうですか?」
洋榎「あっ、意外と悪うない。せやけど、何か負けた気ぃするな…」
534: 2014/08/25(月) 22:37:17.03 ID:XldGYtG70
洋榎「このフライパンすごそう、これにしよう」
京太郎「あーた、何言ってやがるんですか」
洋榎「今度は何や…」
京太郎「フライパンの上に食器をのっけて運んで、雅枝さんに怒られたの忘れましたか?」
洋榎「あんなん怒らんでもええのになぁ」
京太郎「喝っ!!!!!」
洋榎「!!」ビクッ
京太郎「何言ってるんですか、洋榎さん。あの程度で済んでよかったと感謝するべきですね」
京太郎「本来、閻魔さまに舌引っこ抜かれても文句言えませんよ。あの行為は」
洋榎「ええー…そこまで言わんでもええやん」
京太郎「朝、フライパンで焦げなく綺麗に目玉焼きを作れることは、その日の家事の質を左右するんですよ」フッ
洋榎「ええー…」
京太郎「料理をするようになれば、その内この気持ちも分かります」シミジミ
洋榎「主婦と言うより、もはや小姑の域やな…」
535: 2014/08/25(月) 22:38:04.54 ID:XldGYtG70
─中之島
梅田で買い物も済ませたので、今度は歩いて中之島まで来た
百貨店での買い物では、なぜかデートっぽいことができなかったので、今度こそ
いや、まあ、俺が悪いんだけどさ
中之島は梅田から少し南に位置する中州で、都市化の進んだエリアだ
堂島川と土佐堀川に挟まれた細長い島で、科学館、美術館などの文化施設
日本銀行大阪支店や中之島図書館、中央公会堂などの重厚な建造物もある
東へ行くと中之島公園もあり、散歩をするのが楽しそうな場所だ
また中州ということもあり、橋も数多く架かっていて、建築物マニアにはうってつけの場所かもしれない
536: 2014/08/25(月) 22:38:56.72 ID:XldGYtG70
京太郎「ここへは、確かに晴れのときに来たかったですね」
洋榎「まったくやな」
少し先の方を眺めていると、雲の隙間が光った
1、2、3、4……、7秒
少し遅れて、空気を裂く強烈な音がゴロゴロと響いた
京太郎「雷ですね」
洋榎「大丈夫やろか?」
京太郎「ああ、それなら安心してください、だって──」
洋榎「ここから、約2300メートル離れてるから。せやろ?」ニヤリ
京太郎「…はは、これは一本取られましたね」
洋榎「音は1秒で約330メートル進むから、7秒で約2300メートルや」
京太郎「その通りです。もちろん、光が音に比べてはるかに速いからこそできる近似ですけどね」
洋榎「ふふん、褒めてくれてもええねんで」ドヤッ
京太郎「はいはい、すごいすごい」
まさか、全く同じことを考えていたとは。嬉しいな
537: 2014/08/25(月) 22:39:52.07 ID:XldGYtG70
それからも、2人並んで、傘を差しながら歩いていった
雨の中ということもあってか、人はかなりまばらだった
おかげで気兼ねなく、洋榎さんと外で話をすることができた。やはり雨というのも悪くない
科学館、美術館を通り過ぎ、そのまま道なりに進んでいった
日本銀行、中之島図書館、中央公会堂を外から見て回った
特に施設の中に入ったりはしなかった
2人で手を繋ぎながら、雑談しているだけで十分満足だったから
不思議と疲れは感じなかった。この雨の中を傘をさしながら歩いているはずなのに
疲れを感じるより、この人ともっと話していたいという気持ちの方が強かったのかもしれない
こんなに幸せでいいのだろうか、俺?
京太郎「ねえ、洋榎さん。なんだか最近、世界が輝いて見えるんですよね」
洋榎「なんやそれ、夢でも見てるんちゃう?」
そうかもしれない
眠い
538: 2014/08/25(月) 22:41:04.86 ID:XldGYtG70
─毛馬桜ノ宮公園
3連アーチの美しい天神橋を北に渡り、少し東方面に進んだ
途中、喫茶店で少し休憩を挟んで、銀橋を渡って毛馬桜ノ宮公園にやってきた
ここは、桜の名所として有名だが、まだ桜は咲いておらずつぼみの状態だ
周りに人の気配はない
洋榎「なぁなぁ、ここ来るとなんだか懐かしく感じる気ぃせえへん?」
京太郎「ええと…ここ来るの初めてだったような」
洋榎「覚えてへんのかい!薄情なやっちゃなぁ」
京太郎「うっ、申し訳ないです」
洋榎「ほら、初めて会うた時、ここで追いかけっこしたやろ?」
京太郎「…ああ、そういやここら辺来たような覚えあります」
洋榎「せやろせやろ。だからここは思い出の場所やねん」
京太郎「あの時は、かなり警戒されてましたけどね」
京太郎「最初、助けを断られたときは結構ダメージ大きかったですよ」
洋榎「正直、すまんかっと思うてる」
京太郎「はは、あれはあれで仕方ないと思います。むしろ、家においてもらったりしてかなり感謝してますから」
539: 2014/08/25(月) 22:42:02.10 ID:XldGYtG70
洋榎「あれから色々あったなぁ」
京太郎「そうですね」
洋榎「何かいつも間にうち、大食いキャラになってるし」
京太郎「それにはいつも感謝しています」
洋榎「阪神の応援にも行ったなぁ」
京太郎「正直、もう洋榎さんと雅枝さんとは一緒に観戦したくないです」
洋榎「あんなん慣れや慣れ!来シーズンには、もう阪神無しでは生きられない身体になってるはずや」
京太郎「なにそれ怖い」
洋榎「一緒に心斎橋とか天王寺とかにも行ったなぁ。覚えてる?」
京太郎「もちろんです。看板とマレーグマと映画館ですね」
洋榎「チョイスがなんちゅーか、アレやな…」
540: 2014/08/25(月) 22:43:12.30 ID:XldGYtG70
京太郎「試験勉強もしましたね。まさか洋榎さんが勉強できない人とは思いませんでしたけど」
洋榎「誰にでも、得手不得手があるんやで」ニコ
京太郎「数学は流石でしたけどね。今度またおもしろい話でもしてあげますよ」
洋榎「はは、楽しみにしとくわ。京太郎センセ」
京太郎「その後も、クリスマスとか正月の初詣とか」
洋榎「なつかしいなぁ」
京太郎「最後はやっぱり、あれですね。麻雀の試合」
洋榎「うわー!!恥ずいからその話はやめやめ!」
京太郎「いいじゃないですか。洋榎さんの色んな部分が見えてよかったと思いますよ」
洋榎「絶対いらんとこ見せてもうたわ…年上の威厳が…」
京太郎「見かけによらず、結構打たれ弱いですもんね」
洋榎「ああー、もうっ!//」
京太郎「でも、全国飛び回ったのは、今からすればいい思い出です。また皆さんに会いたいですね」
洋榎「そうやなぁ」
ああ、眠い
541: 2014/08/25(月) 22:44:16.39 ID:XldGYtG70
洋榎「でも、京太郎がいてくれたから、うち最後まで頑張れたんやで」
京太郎「俺だって洋榎さんがいてくれたからここまで」
洋榎「京太郎…」
京太郎「洋榎さん…」
握った手から互いの熱が伝わる
洋榎「雨、止んだな」
京太郎「そう、ですね」
洋榎「……」
京太郎「……」
洋榎「よ、よしっ」グッ
京太郎「?」
洋榎「あんな…その…うち…ずっと京太郎に言おう思うてたことあんねん」
洋榎「うち、うち…京太郎のことめっちゃ──」
京太郎「ちょっと待ってください」
洋榎「え…」
京太郎「洋榎さんが何を言おうとしたのか、全然これっぽちも分かりません」
京太郎「けどその先の台詞は、俺がちゃんと元に戻れたら言いますから」
京太郎「だから、もう少しだけ待ってもらえませんか?」
洋榎「う、うん…約束やからな//」
京太郎「はい、約束です」
542: 2014/08/25(月) 22:45:01.13 ID:XldGYtG70
京太郎「俺、こんな身体になって、最初は色んなものを恨んだんです」
洋榎「……」
京太郎「もしこんなことをした神様がいたなら、絶対ぶん殴ってるやる、てくらいに」
洋榎「……」
京太郎「でも、おかげで色んなものを見れました」
洋榎「……」
京太郎「洋榎さんに出会えました」
洋榎「……」
京太郎「ほんの少し、自分を好きになることができました」
洋榎「……」
京太郎「全部、あなたのおかげです」
543: 2014/08/25(月) 22:45:59.39 ID:XldGYtG70
洋榎「うちは何もしてへんよ」
京太郎「そうでしょうか?」
洋榎「それにうちだって、京太郎からもらったもんいっぱいあるし」
洋榎「だから…その、あいこやな//」
京太郎「…はい」
目頭が熱くなる
だめだ。我慢してたのに、どうしても溢れてくる
洋榎「ああ、涙が…」
京太郎「ごめんなさい、ちょっと我慢が…」
洋榎「え、あれ…?見えてる……」
544: 2014/08/25(月) 22:47:05.97 ID:XldGYtG70
京太郎「何がですか?」
洋榎「い、いや、だから身体が…京太郎が」
京太郎「は」
洋榎「見えてる見えてる!やったやんか、京太郎!!」
京太郎「え、でも…」
洋榎「元に戻ったんやで!!」
京太郎「ほ、本当ですか…?」
洋榎「ほんまやほんま!!なんなら、あそこのおっちゃんに話し掛けてみぃ!」
京太郎「そ、そうですね」
京太郎「あのー…俺のこと見えてます?」
なんだこの質問
「何や言うてるんや兄ちゃん、頭大丈夫か…?」
京太郎「!!」
546: 2014/08/25(月) 22:52:16.33 ID:XldGYtG70
京太郎「や、やった!!でもなんでだ…?」
洋榎「んなもん、どうでもええわ!ほらっ!」
京太郎「なんです、その手は?」
洋榎「嬉しいときは、躍るもんやろっ!!」
京太郎「わっ、ちょっと──」
太陽が後ろから姿を現した
その光は、まだ乾ききらない桜の花びらをうまい具合に反射して煌めいて映る
洋榎さんの手に引かれながら、桜並木の道をテンポよく跳ねながら踊る
風が吹いて、桜が舞う中、洋榎さんの髪も一緒にダンスする
時間が止まったかのような感覚
ああ…なんて綺麗な人なんだろう
547: 2014/08/25(月) 22:52:59.35 ID:XldGYtG70
だめだ、眠い
548: 2014/08/25(月) 22:53:45.24 ID:XldGYtG70
伝えなきゃ、このことを
え、桜?
洋榎「ん、どないしたん?」
ああ、ちょっと眠いだけなんです。大丈夫
─榎「えーと、きょ…う……大…丈……?」
すみません、──さん。もう少しはっきり喋ってもらわないと
誰?
ああ、眠い
549: 2014/08/25(月) 22:54:28.12 ID:XldGYtG70
ええと、なんだっけ?大事な事は…?
『離さないことです、決して』
何のことだ?髪?神?紙?ああ…そういえば、ポケットに…?
──さん?
ああ、ほら、見てください。虹が見えますよ。あんなに綺麗に、はっきりと
虹?
虹の見方?
大事なこと、大事な人…?
ええと、何のこと?誰のことだ…?
550: 2014/08/25(月) 22:55:18.96 ID:XldGYtG70
確か赤い…?えーと、物理の話?数学か?赤方偏移?ほら、スペクトルがずれるんだよ
膨張する宇宙、重ね合わせの世界、夢…?現実と見分けがつかない夢は、本当に夢なのか?
認めること、認められること?多様性?自分を好きになること?世界の見方の変化?
いや、大事なのはバランスだ。でも、俺にとって本当に大事なのは…?
もう少しで、ああ…もう少しで思い出せそうな気が…そう──
ジリリリ…
うるさいな
ジリリリリリリ
あとちょっとなんだよ、少し静かにしてくれ
552: 2014/08/25(月) 22:55:55.84 ID:XldGYtG70
ジリリリリリリリリリリ!!!!
ああ、うるさい
この音って……?
鐘の音?いや、目覚ましか?起きろって?
いやだ、ここは居心地がいいんだ
ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!
京太郎「うるさいっ!!」
バンッ!!
何かが壊れる音がした
553: 2014/08/25(月) 22:56:27.38 ID:XldGYtG70
__
____
________
「きょ……た…」
554: 2014/08/25(月) 22:56:56.17 ID:XldGYtG70
__
____
________
「京……た…ろ……」
555: 2014/08/25(月) 22:57:27.39 ID:XldGYtG70
__
____
________
「京……太郎」
556: 2014/08/25(月) 22:58:39.26 ID:XldGYtG70
「京太郎っ!!」
京太郎「っ……!」
母「すごい音したから来てみれば……自分で目覚まし時計買いなさいね」
京太郎「え……あれっ?もう朝…?」
母「まだ寝ぼけてるみたいね」
京太郎「母……さん…?」
母「どうしたの?」
京太郎「いや…その……」
母「まるで、電車の中で急に便意を催してしまったけど、しばらく電車は駅に止まりそうはなくて」
母「脂汗を流しながら我慢に我慢を重ねて、暴発しないようにロボット歩行をしながらトイレに着いたはいいけれど」
母「個室が全部使用中だった時のような顔をしてるわよ」
京太郎「どんな顔だよ…」
母「ふふ、冗談よ。でも、豆鉄砲食らった鳩みたいな顔してたわよ」
京太郎「いや…」
母「まあ、いいわ。早く降りてきて朝ごはん食べちゃいなさい」
バタン
557: 2014/08/25(月) 22:59:14.41 ID:XldGYtG70
――9月上旬 長野
首を少し傾けると、無残に破壊された目覚まし時計が目に入る
京太郎「やべぇ…壊しちまった…新しく買わないとな、とほほ」
ベットから上半身を起こして、思いっきりカーテンを開ける
うっ…
京太郎「眩しい…」
朝ってこんなに明るかったっけ?
すごく爽やかな気分だ。さっきまであったダルさが嘘のよう
早く起き上がって、朝食を食べて、歯を磨いて、登校して、勉強して、麻雀して……
とにかく、力が湧いてくる。今なら何でもできそうだ
京太郎「あほか」
558: 2014/08/25(月) 22:59:53.29 ID:XldGYtG70
まぁ、いいか。着替えよう
京太郎「…あれっ、なんだこれ?」
いつの間に手に何かを持っている
紙くず…?ゴミか。なら捨て──
『重要に見えないことが、後になって──』
いや、やっぱり引き出しにしまっておこう
まだ時間には余裕があるし、今日はゆっくり学校に行けるな
559: 2014/08/25(月) 23:00:38.14 ID:XldGYtG70
階段を降りて、台所に向かう
なんだろう、まるでホテルにでも来たような変な感覚だ。俺の家なのに
懐かしい
母「今日はトーストでよかったかしら?」
京太郎「ああ、うん」
母「じゃあ、はい、どうぞ」
京太郎「ありがとう」
綺麗に焼けたパンに、市販の安いバターを塗る。なんていい香りなんだ
京太郎「おいしい…」
母「そう?なら、愛の力ね」
京太郎「パン変えた?」
母「いえ、いつもと同じスーパーで買ってくる、いつもの食パンよ」
おかしい、味が全然違う。こんなにおいしいものだったか?
560: 2014/08/25(月) 23:01:22.40 ID:XldGYtG70
食事を済ませて、制服に袖を通す。なんだがすごい新鮮な感じがする
まるで初めて着た時みたいな
京太郎「じゃあ、母さん。行ってくるよ」
母「ええ、行ってらっしゃい」
京太郎「行ってきます」
京太郎「カピも行ってくるな、元気にしてるんだぞ?」
カピ「キュ~!」
なんだろうこの気持ちは
ただの挨拶のはずなのに、涙が出てきそうになるくらい、嬉しい
561: 2014/08/25(月) 23:02:03.60 ID:XldGYtG70
家を出て少しすると、近所のおばちゃんが目に入った
何やら、花の手入れをしているようだ
すごく繊細で綺麗な花だ。美しい黄色い花を咲かしている
京太郎「おはようございまーす!」
「あら、おはよう京太郎ちゃん。今日もバッチリ決まってるわね!」
京太郎「はは、どうも。その花、綺麗ですね」
「あらー、分かる―?うちの主人はこういうのダメでねぇ、まいっちゃうわ」
京太郎「そうなんですか?こんなに綺麗なのに…」
「わたしもこれくらい可愛かったら、京太郎ちゃんみたいないい男をゲットできたのにねぇ」
京太郎「ははは…」
なんと反応してよいやら
京太郎「あれ、その余ってるのは植えてやらないんですか?」
「ああ、適当にやってたら植える場所がなくなっちゃって…」
京太郎「そうなんですか…もったいない」
「そうだ!せっかくだから京太郎ちゃんにあげるわ。ほら、持っていって!」
京太郎「いや、俺これから学校──」
「いいからいいから。ほらっ!!」
562: 2014/08/25(月) 23:02:42.60 ID:XldGYtG70
半ば無理やり花を持たされてしまったが、家に戻るのも面倒なのでそのまま登校する
京太郎「すぅー……はぁー…」
天気は晴れ。まだ夏の暑さは残っているが、朝の空気は澄んでいて、深呼吸をすると肺に溜まった毒が抜けるようだ
太陽に照らされて、木々の葉が煌めいて見える
そこに風が吹くと、サラサラと葉っぱが音を出しながら揺らめいて、いとも簡単に心を落ち着かせてくれる
さらに歩を進めていくと、小川が目に入った
やはりこれも、太陽の光に照らされて、その不規則な光の反射がとても美しい
そこを魚が力いっぱい元気に泳いでいる。生命の躍動
いや、木や小川や魚だけじゃない
朝の何気ないやりとりや朝食のトースト、そこら辺の石ころや雑草でさえも、愛おしく感じてしまう
世界ってのは、こんなに輝いているものだったか?
563: 2014/08/25(月) 23:03:17.08 ID:XldGYtG70
________
_____
__
ガラガラガラ
京太郎「おはよー」
「須賀君、おはよう」
「Good mornig! スガサン」
「おはようさん」
「おう、おはよー」
京太郎「……」
咲「京ちゃん、おはよう」
京太郎「咲…ああ、おはよう」
咲「どうかした?なんか変かな?」
京太郎「…いや、変なのは俺みたいだ」
咲「?」
564: 2014/08/25(月) 23:04:02.11 ID:XldGYtG70
席に着こうとすると、男子の会話が耳に入ってくる
「昨日の試合見たか、おい?すごかったよな!」
「ああ、かなり燃える展開だったな。やっぱ首位攻防戦はこうでなくちゃな」
「7回に追加点取られたときは、正直もうダメかと思ったね」
「そこで、9回のあのホームランだろ。俺はどっちのファンでもないけど痺れたよ」
「そういえば、阪神は?」
「また負けた。ありゃあ、Aクラスも厳しいかも分からないね」
「「阪神(笑)」」
むっ…
京太郎「そんなことない、ここから阪神は追い上げていって、最後は優勝するに決まってるだろ!」
咲「きょ、京ちゃん!?」
565: 2014/08/25(月) 23:04:51.92 ID:XldGYtG70
「おーおー、須賀は阪神ファンだったか。すまんな」
「けどあの調子じゃあ無理だろ。チームはバラバラ、投打もかみ合わない」
「監督の采配もことごとく外れるしな」
「正直言って、5位にいられるのがおかしいくらいだぜ」
「優勝なんて夢のまた夢、CS行けたら奇跡だね」
そんなことない!
京太郎「……」
京太郎「いいぜ、だったら賭けしないか?」
「「はぁ…!?」」
咲「ちょっと!」
京太郎「阪神がもしCSに進んで、最終的に優勝したら俺の勝ち」
京太郎「阪神の優勝の可能性がゼロになったら、その時点で俺の負け。簡単だろ?」
「おいおい、そこまでムキにならんでも…」
「別に俺たちだって、阪神をバカにしてるわけではなくてだな…」
「いや、いいじゃねーか。おもしろそうだから、やってみようぜ」
「おい…」
「うーん」
566: 2014/08/25(月) 23:05:34.38 ID:XldGYtG70
咲「どうしたの、京ちゃん!?止めようよ、こんなこと」
京太郎「……」
咲「野球に興味なんてなかったじゃん、どうしたの急に?」
京太郎「大丈夫だ、安心しろ、咲。阪神は勝つよ」
咲「え?」
京太郎「負けるわけないだろ?だって」
だって、──さんが、あんなにも
京太郎「……」
咲「京、ちゃん?」
京太郎「ん、どうかしたか?」
咲「それはこっちの台詞だよ…」
567: 2014/08/25(月) 23:06:21.01 ID:XldGYtG70
「結局どうするんだ?」
京太郎「もちろんやるぜ」
「うーん…まあ、いいけどね」
「でも、賭けるって何賭けんの?」
京太郎「お金」
「え」
京太郎「バレット・ストロングのヒット曲で、ビートルズがカバーした曲としても有名なのは?」
「Money」
「That's What I Want……俺も金が欲しいぜ」
京太郎「もちろん、そんな大金は賭けるつもりはねえよ」ニヤリ
「巻き上げるみたいでいい気はしないなぁ…」
京太郎「言ってろ」
「止めた方がいいと思うけど…」
京太郎「詳しいことはまた後で決めようぜ、先生にばれると怒られちまう」
「そうだな」
咲「もうっ、私知らないからね!」
京太郎「そうしてくれ」
568: 2014/08/25(月) 23:07:04.03 ID:XldGYtG70
咲「まあ、それは別にいいんだけどさ」
京太郎「うん」
咲「それなに?」
京太郎「花」
咲「見れば分かるよ…なんでそんなもの」
京太郎「えーとだな、運命のいたずらというか、おばちゃんの強引さが生んだ結果というか」
咲「意味が分からないよ…」
京太郎「すまん、俺にもよく分からん」
咲「ふふ、なんだか今日の京ちゃんちょっとおかしいみたい」
京太郎「…そうかもな」
咲「綺麗だね、それ」
京太郎「ああ」
本当に綺麗だ
569: 2014/08/25(月) 23:08:04.86 ID:XldGYtG70
授業が始まった。数学の時間、なんだかウキウキする
おもしろいな、もっと色んなことを知りたい
先生「じゃあ、この問題、誰かにやってもらおうかな?」
シーン…
先生「うーん…ちょっと難しかったか。では――」
いや、なんだか解けそうだぞ
京太郎「はいはい、俺やります!」
先生「はい!?」
咲「はい!?」
京太郎「おいおい、先生はともかく。咲、その反応なんだよ…」
咲「え、いや…だって」
570: 2014/08/25(月) 23:08:48.41 ID:XldGYtG70
先生「じゃあ、須賀。頼んだぞ」
京太郎「了解っす」
京太郎「……」
京太郎「……」
京太郎「……」
先生「おい、どうした?」
京太郎「先生、これってどうやって解くんですか?」
先生「って、分からないのかよっ!!」
ドッ
咲「ああもう、こっちまで恥ずかしくなってくるよ…//」
京太郎「ははは…まいったまいった」
おかしいな、こんな問題簡単に解けると思ったんだけど…
571: 2014/08/25(月) 23:09:34.07 ID:XldGYtG70
________
_____
__
京太郎「さて、今日は何を食べるかな」
咲「普通のB定食でも食べれば?」
京太郎「つれないなー、咲さん。いつもの頼むよ」
咲「はぁー…またー?」
また?そうだったけ…?
京太郎「なっ、この通り!」
咲「…調子いいなぁ。わかったよ」
京太郎「恩に着るぜ」
572: 2014/08/25(月) 23:10:27.33 ID:XldGYtG70
咲「じゃあ、はい。どうぞ、京太郎くん」
京太郎「ありがとうな、咲。金はいつものところに振り込んでおくから」
咲「ああ、すまねえな……って違うでしょ!今すぐ払ってよ!」
京太郎「残念、騙されないか」
咲「もうっ、京ちゃんは…」
京太郎「悪い悪い」
いつも通りの日替わりレディースランチ。今日もうまそうだ
今日も?
京太郎「……」
咲「どうしたの?食べないの?」
京太郎「いや、食べるよ。いただきます」
パクッ
京太郎「……」
咲「またボーっとして。もしかして味変?」
京太郎「変というより…変わった?よく分からねぇ」
咲「?」
でも、うまいのは確かだ。おいしい。昨日と全然違う
いや、味付けや風味や食感は大差ない。なのに、なんでこんなに……
573: 2014/08/25(月) 23:11:17.44 ID:XldGYtG70
________
_____
__
ガチャ
京太郎「こんにちはー」
まこ「おお、京太郎か。早いな」
京太郎「ああ、ホームルームが早く終わったんで、先に来ました」
まこ「咲の奴はどうしたんじゃ?」
京太郎「日直で少し遅れるそうです」
まこ「おお、そうか」
京太郎「部長は何してたんですか?こんな早くに」
まこ「これか?次の大会で当たりそうなところの牌譜見たり、対策練ったり、いろいろな」
机の上を見ると、牌譜の山とそこに記されたびっしりと埋め尽くされたメモ
各校のデータと、三年がいなくなってからの新しいメンバーの情報をまとめた紙の束
さらに、教師に提出しなくてはいけない書類もいくつか見える。しかし、手つかず
これは少しやり過ぎだ
しかも、俺の視線に気付くと、すぐにそれらを鞄の中にしまってしまった
いじらしい人だ
574: 2014/08/25(月) 23:12:04.39 ID:XldGYtG70
こういう時はどうすればいいんだ?
えーと、たしか──
『困ったときは、みんながあなたの手をとってくれるから』
京太郎「あー…実は先生に、部の書類を早く提出しろをせっつかれていまして」
まこ「そ、そうか…」
京太郎「今日はたまたま時間もありますし、俺がやっときますよ。たしか部長が持ってるんですよね?」
まこ「お、おう」
京太郎「なら、それちょっと借りますね。家でパパっと片づけてきちまうんで」
まこ「いや、でもこれは…」
京太郎「あー、あと咲のやつが今度の大会で当たるところのデータ欲しがってましたよ」
京太郎「あいつ、今暇してるっぽいんでついでに分析させとくといいですよ。俺も手伝いますし」
まこ「これはわしの仕事じゃから──」
575: 2014/08/25(月) 23:13:05.36 ID:XldGYtG70
京太郎「部長の仕事は、みんなをまとめることだと思います」
京太郎「決して、全部を一人でやるのが部長ってなわけじゃないです」
京太郎「ほら、竹井先輩も俺によく雑用させてたじゃないですか?あんなんでいいんですよ」
まこ「…もしかして、京太郎はMの人なんか?」
京太郎「ええ、そうです。実は他人にいじめられることに、極度の快感を覚えることを最近発見しまして」
京太郎「特に言葉攻めにはたまらなく憧れますね」
京太郎「和にジト目で見下され軽蔑されながら、なお且つ敬語で罵られるのが今月の目標なんです」キリッ
まこ「すまん、正直気持ち悪い」
京太郎「そんなぁ~…」
まこ「……」
まこ「ぷっ、あはは!分かった分かった!なら、この書類頼むけぇの」
京太郎「…了解です、部長!!」
576: 2014/08/25(月) 23:13:42.52 ID:XldGYtG70
ガチャ
久「あら、須賀くんに京太郎くんにまこじゃない?早いわね」
京太郎「いつの間に俺、分裂したんですかねえ…」
まこ「まったく…」
ガチャ
和「こんにちは」
咲「こんにちはー」
優希「こんちはー」
まこ「よしっ。一人部外者がいるが、みんな来おったか」
久「それって私のことかしら?」
まこ「はは、冗談じゃ冗談。さっ、部活始めるとするかのう」
577: 2014/08/25(月) 23:14:22.13 ID:XldGYtG70
部活が始まる。そう、いつも通り、いつも通りだ
久「うーん……」ペラペラ
和「勉強なら家でやればいいんじゃないでしょうか?」
久「やあね、私が一人でそんなことできると思う?」
優希「思わないじぇ」
咲「思いません」
京太郎「残念ながら」
久「何気にみんな酷いわね」
まこ「普段の行いが悪いんじゃな」
久「ちぇ」
578: 2014/08/25(月) 23:15:12.95 ID:XldGYtG70
久「うーん…」ジー
京太郎「何ですか、ジロジロと?」
久「ねぇ、須賀くん。気のせいかもしれないんだけど、あなた今日少し変な感じするわね」
京太郎「なんすか、それ?」
久「女の勘」
京太郎「はぁ?」
咲「そうなんですよ、先輩。朝から京ちゃんちょっとおかしくて」
京太郎「おい、俺を変な人扱いするなよ」
咲「あ、ごめん」
久「なーんか、顔つきが変わったわね。恋でもしたのかしら?」
京太郎「恋をすると可愛くなるって、女性の話でしょう…?勘弁してくださいよ」
久「それに、花なんか持って色気づいちゃって。私へのプレゼントと考えていいのかしら?」
咲「それ、近所の人にもらったらしいですよ」
久「あ、そう」
まこ「ぷっ」
久「こら」
579: 2014/08/25(月) 23:16:06.65 ID:XldGYtG70
咲「その花って何なんでしょう?見たことはありますけど」
和「よく分からないですね。私はそんなに詳しくありませんし」
和「ですが、そんな咲さんにはこの素敵な百合の花が似合うと──」
咲「優希ちゃんは分かる?」
和「ちっ……」
優希「うむ、これは新種の花に違いないじぇ。そうだ、タコス花と命名しよう」
京太郎「全然タコスに見えねえよ」
久「ふふふ、ここは私の出番のようね。それはオミナ──」
まこ「オミナエシじゃな」
久「エシ……」
咲「さすが、部長!」
優希「よっ、日本一!!」
京太郎「花に詳しい人って素敵ですよね」
まこ「おいおい、そんなに褒めても何もでんぞ…///」
久「オミナエシ……」ボソッ
580: 2014/08/25(月) 23:16:55.34 ID:XldGYtG70
京太郎「素朴ですけど、黄色くて小さな花が綺麗ですよね」
まこ「秋の七草の一つじゃな」
和「女性の一人としては、やはり花言葉が気になりますね」
咲「確かに」
まこ「すまん、さすがにそこまでは分からんのう…」
久「……」
久「くぁー!どーせ、愛だの恋だのに決まってるわよ!!まったく!」
京太郎「なんで怒るんですか…」
まぁ、花言葉なんて大体そんなもんだとは思うけど
久「あーいやだいやだ!もう少し世間様は受験生に気を使うべきだと思うのよね!」
まこ「これは、受験勉強で脳がだいぶやられてきておるようじゃな…」
久「そういうわけで、今日はもう帰るわね。おつかれさんさん、さんころり~」
久「なーんてね。若人よ頑張りたまえ。んじゃ」
バタン
581: 2014/08/25(月) 23:17:36.99 ID:XldGYtG70
「「……」」
京太郎「相変らず自由っすね」
まこ「引退して、吹っ切れた感があるな…」
和「あれ?何か忘れていったようですけど」
咲「写真だね。ああ、インターハイのときの…」
どうやら、わざと置いていったみたいだ
和「ああ、こんな写真まで…あとでデータを買う必要があるようですね」
咲「ダメに決まってるでしょ」
和「ちぇ…」
ハラリ
京太郎「あっ、何か落ちたぞ」
まこ「なんじゃろ?」
咲「ああ、これは…」
みんなで、最後に撮った集合写真だ
582: 2014/08/25(月) 23:18:29.96 ID:XldGYtG70
優希「懐かしいじぇ」
和「そうですね」
咲「この頃はまだ、和ちゃんまともだったのにね…」
まこ「そうじゃな…」
和「皆さん最近、私に対する扱い酷くないですか…」
咲「でも、こういうの見ちゃうと来年もみんなでここに行きたくなっちゃうね」
優希「うん」
和「行けますよ。私たちなら」
まこ「そうじゃな」
……
京太郎「あれっ、それって俺も入ってるの?」
咲「当たり前じゃん、何言ってるの京ちゃん」
優希「まあその前に、地区予選を突破するための地獄の練習が京太郎には必要だじぇ」
京太郎「うげぇ…」
和「まずは、基本をしっかりですね」
咲「大丈夫。私たちが教えれば、間違いなく、いやたぶん、おそらく……えーと、とにかく大丈夫だよ!」
京太郎「どんどん確率下がって行ってるんですけど、咲さん…」
まこ「ははは…」
そうか、俺もそこにいていいんだ
583: 2014/08/25(月) 23:19:18.52 ID:XldGYtG70
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__
「「おつかれさまー!!」」
京太郎「んじゃ、帰りますか」
優希「なぁーに言ってるのかな、京太郎くん」
和「今日の対局のおさらいをしましょう。正直、理解不能な打ち方してましたよ」
まこ「たしかに今日のは特に酷かったのう」
京太郎「ひぇー」
咲「うーん……みんなは先に帰っていいよ。私が見るから」
和「いや、ですけど」
優希「咲ちゃんの指導じゃ甘すぎるじぇ。もっとこう鞭で叩くような──」
咲「大丈夫、私にまかせて」
優希「うーん、咲ちゃんがそこまで言うなら…」
和「須賀くん、くれぐれも咲さんに粗相のないように」
京太郎「粗相ってなんだよ…」
まこ「分かった、じゃあ部室の鍵よろしく頼む」
京太郎「了解です」
584: 2014/08/25(月) 23:20:06.78 ID:XldGYtG70
まこ「おつかれさま」
優希「おつかれだじぇ」
和「お疲れ様です」
何か言い忘れているような…気が
『誰かが壁にならないといけないと思うんです』
京太郎「あーと、和」
和「なんですか?」
京太郎「咲のこと、いつもありがとな」
和「…なんのことだかさっぱりですね」
京太郎「すまん、俺にもよく分からん」
和「はは、なんですかそれ。ああ…なら、私からも」
和「いつもありがとうございます」
京太郎「何だそれ?」
和「私にもよく分かりません」
585: 2014/08/25(月) 23:21:14.29 ID:XldGYtG70
咲「さっきのは何だったの?」
京太郎「いや、俺にもよく分からないんだよな」
京太郎「でも、なんだか言わなきゃいけないような気がして…」
咲「変なの」
咲「変と言えば、今日の対局どうしたの?明らかにおかしかったよ」
京太郎「ええ、咲までかー。どこがおかしかったんだ?」
咲「なんでその牌切るの?、って場面が多すぎるよ」
京太郎「んー…だってなぁ。なんだか危ないな感じがして、『それはダメ』、みたいな気になるんだよ」
咲「何言ってるの?それでめちゃくちゃにされてたじゃん…」
京太郎「それはそうなんだが、おかしいなぁ」
咲「これは、優希ちゃんが言うみたいにスパルタが必要かもしれないね」ゴッ
京太郎「それだけはやめてください。氏んでしまいます」
586: 2014/08/25(月) 23:21:58.19 ID:XldGYtG70
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京太郎「ただいまー」
母「お帰りなさい。遅かったじゃない」
京太郎「鬼教官の指導がきつくてさ」
母「何言ってるんだか」
母「あら、綺麗な花ねえ。オミナエシじゃないかしら。どうしたの、それ?」
京太郎「登校中に近所のおばさんにもらった」
母「誰から?」
京太郎「ほら、あのコンビニの角曲がったところの」
母「そうなの?後でお礼言わないとね」
587: 2014/08/25(月) 23:22:52.95 ID:XldGYtG70
京太郎「ねぇ、母さん。この花の花言葉って分かるかな?」
母「いやぁ、ちょっと分からないわね」
京太郎「そう」
母「でも、どうせ、愛だの恋だの決まってるわよ」
京太郎「うちの先輩と同じこと言ってる」
母「それは、まだ私が女子高生でも通用するくらいピチピチってことかしら?」
京太郎「何言ってんだよ…その二の腕のたるみを見てから言ってくれ」
母「ひっどーい!」
母「ねえ、お父さん。京太郎が私のこといじめるの…助けて」シクシク
父「なんだとっ、京太郎!!」
京太郎「な、なんだよ」
父「一つ良いことを教えておいてやる!」
父「母さんをいじめていいのは、この世でたった一人。俺だけだ!!」
母「あなた…」
父「おまえ…」
うげぇ…
京太郎「ごちそうさま…」
588: 2014/08/25(月) 23:24:04.34 ID:XldGYtG70
帰って早々こんなのを見せられては堪らないので、そそくさと自室に行く
制服を脱ぎ捨て、上半身裸になり、鏡の前でポーズをとる
京太郎「ふんっ!、ふんっ!!……いいじゃん」
ああ、何やってんだろ俺
花言葉か…
パソコンの電源を入れて、『オミナエシ 花言葉』でググる
瞬時に検索結果が表示される。グー○ル様様だな、本当に
上の方から、順に見ていく
『親切』、『美人』、『はかない恋』、『深い愛』、『心づくし』、……
まじで、愛だの恋だのなんだな。ていうか、多いなぁ。もう少し統一した方がいいと思うけど
というか、これ以外にもまだあるのかよ…
えーと、なになに
『約束を守る』
約束……約束か
あっ、そうだ!そういえば、隣のクラスの松井くんににDVD返すの忘れてたわ
今度ニューヨークに留学に行くらしいから早く返さないと
あれ…、それだけだったけ?もっと大事な…
京太郎「……」
母「京太郎ー!ご飯よー!降りてらっしゃーい!」
京太郎「あ、ああ。今行くよ」
589: 2014/08/25(月) 23:25:01.06 ID:XldGYtG70
_______
____
__
京太郎「母さん。そういえば、さっきの花言葉分かったよ」
母「へえ、何だって?」
京太郎「約束守れ、ってさ」
母「あら、いい言葉じゃない」
京太郎「そうだけど、当たり前のことすぎない?せっかくだから、もっとこう、捻りをね」
母「ふふ、あなたもまだまだ若いわね」
京太郎「?」
母「歳をとってくると、当たり前のことが当たり前にできなくなってくるから」
母「だから、そのことを忘れないよう、昔の人は私たちのためにそういう言葉を選んでくれたのよ」
京太郎「…ふーん」
父「うんうん、そうだぞ京太郎。約束を忘れちゃあいかん」
父「特に、結婚記念日の約束だけは覚えておいた方がいい」
京太郎「でないとどうなるの?」
父「……」ツー…
何かを悟った風な顔をしながら、親指を首に当ててゆっくりと横に引き、首を切る仕草をした
いったい何があったんだい、父さん……
母「あらあら、うふふ」
590: 2014/08/25(月) 23:26:36.19 ID:XldGYtG70
母「でもいいのよ、あなた。今まで一つだけ、それだけは守っていてくれているから」
父「はて、なんだっけ?」
母「ずっと私のこと愛してくれる、って」
父「……いやん///」
母「きゃー!!言っちゃった、言っちゃった!!」
何この夫婦…
母「京太郎、あなた何でもほどほどにこなすくせに、肝心なことはダメだったりするから」
父「麻雀とかね」
京太郎「うっせ」
母「だから、その言葉肝に銘じておくといいわ」
京太郎「うん」
母「それにね、京太郎」
京太郎「?」
人差し指を口元に持っていき、こう言った
母「約束を守れない男の子はモテないわよ」
京太郎「……」
やっぱり、女子高生でも通用するかも
591: 2014/08/25(月) 23:27:17.71 ID:XldGYtG70
──10月中旬 長野 清澄高校
担任「えー、皆もう聞いているとは思うが──」
なんだか最近ボーっとしっぱなしだ
使い古された言い方をするなら、心にぽっかり穴が空いたような感覚
表面はうまく取り繕ってはいるが、中身に何か一番大事なものが抜けているような、そんな感じだ
咲「どうしたの?」
京太郎「思い出せないことがあるんだよ」
咲「若年性アルツハイマーの気があるね。早く病院に行くのをおすすめするよ」
京太郎「おいこら」
592: 2014/08/25(月) 23:27:59.38 ID:XldGYtG70
担任「3月に予定している、修学旅行の行き先は──」
咲「うそうそ、冗談。何か悩み事でもあるの?」
京太郎「悩み事…なのか?それすら、よく分からん」
咲「ふーん」
京太郎「こう喉まで出かかってはいるんだが…」
京太郎「例えて言うなら、福神漬けのないカレーライスを食べている感覚みたいな」
咲「ごめん、私らっきょう派なんだ」
京太郎「くしゃみが出そうになるんだけど、結局出なかった時のようなやるせなさというか」
咲「あ、それは分かるかも」
593: 2014/08/25(月) 23:28:48.87 ID:XldGYtG70
担任「各班の行き先をまとめて、私に提出して──」
咲「今度の修学旅行、京都、奈良、大阪だってね」
大阪、か
京太郎「『修学』してないのに、修学旅行とはこれいかに」
咲「最近はうちみたいに、1年生の内にやっちゃうところも結構あるらしいよ」
京太郎「世も末だな」
咲「でも、京都、奈良、大阪って……ちょっと無難過ぎないかな」
咲「それに私、大阪にあまりいいイメージ持ってなくて…」
京太郎「いや、そんなことないぞ、咲」
京太郎「ミナミは確かにごちゃごちゃしたイメージがあるかもしれないが」
京太郎「活気あふれるいい街だし戎橋・道頓堀は有名だよな千日前なんて」
京太郎「道具屋筋商店街みたいなマニア心をくすぐるものもあるしそこから」
京太郎「少し下って行くと天王寺があるんだが天王寺といえばパリのエッフェル塔を」
京太郎「模した通天閣が有名だ動物園、美術館、公園もあって遊ぶのには困らないし」
京太郎「じゃりン子チエの舞台にもなっているジャンジャン横丁は今も昔も愛される」
京太郎「新世界の名物だなでも阿倍野周辺は再開発が進んでしまって」
京太郎「もうすでに魔法商店街の面影は見られないが、キューズモールやハルカス」
京太郎「ができてキタに行くまでもなくショッピングが楽しめてしまうなけどそういう」
京太郎「商業施設だけじゃなく四天王寺に行けば寺だって楽しめるし近くには大江神社っていう」
京太郎「阪神ファンの聖地ともされる場所があって──」
594: 2014/08/25(月) 23:29:47.40 ID:XldGYtG70
咲「長い」
京太郎「あ、すまん」
咲「別にいいけどね」
まだ全然言い足りないんだけど
だって、ほら。日本一小さい天保山とか奇抜な外観の海遊館とかいかにもおもしろいし
住吉大社でぶらぶらするのもいい、長居公園で朝の散歩をするのは最高だ
キタはちょっとハイソだけど、それはそれでいいものだし、梅田の地下街で迷ってみるのも一興かもしれない
京太郎「まあ、つまり、大阪はいい街なんだよ」
『せやろ!』
咲「そうなんだ。京ちゃん、もう修学旅行の下調べしてくれてたんだ」
咲「これなら、私達の班は大丈夫そうだね。ありがとう」
京太郎「あ、ああ…」
そんなことしてないような
595: 2014/08/25(月) 23:30:46.72 ID:XldGYtG70
________
_____
__
京太郎「あ~…、疲れだー」
咲「あんなんでへばってたら、インターハイなんて夢のまた夢だよ」
京太郎「へいへい」
咲「まぁ、でも、最近は前にあった変な癖も直ってきたみたいだし。そこは進歩かな?」
京太郎「へへ~、それもこれも咲様のおかげです」
咲「調子いいんだから」
時間は夕方、部活の帰り道。咲と二人
日が沈む少し前、影のできない特別な時間。マジックアワーだ
全てのものが際立って見えて、宙に浮いているような気さえしてくる
ああ、世界ってのはなんて綺麗なんだろう
596: 2014/08/25(月) 23:32:06.50 ID:XldGYtG70
咲「最近京ちゃん変わったね」
京太郎「そうか?」
咲「そうだよ」
京太郎「どんなとこが?」
咲「うーん、RPGに例えてみるとね」
京太郎「例えるなよ」
咲「前はね、小さな町の入口に立ってる村人Aで、主人公たちに『ようこそ』って言って町の案内をしてくれるんだけど」
咲「その夜町が魔物に襲われて、残念ながらあっけなく氏んでしまう。そんな感じだったんだ」
京太郎「ひでぇ」
咲「でも今はね、序盤は主人公たちの親友ポジションなんだけど」
咲「中盤に裏切って、ラストバトル直前に主人公たちに戦いを挑んで儚く散っていく。そんな感じにランクアップしたよ」
京太郎「結局氏ぬんじゃねえか!」
咲「途中でいなくなる奴に限って結構強キャラだから、種とか使って大事に育てたりしちゃうんだよね……嫌になっちゃうよ」
京太郎「咲に『種は全部キーファにあげるといいよ』、と笑顔でアドバイスされたことは一生忘れません」
咲「ごめんごめん。あれは若気の至りで、ついね」テヘ
京太郎「あの時の俺の気持ちを、お前に教えてやりたいよ…」
597: 2014/08/25(月) 23:33:01.44 ID:XldGYtG70
咲「最近はやたら真面目に勉強するようになったし、麻雀だって少しは上達してきてるし」
咲「なにより、うーん…性格?顔つき?うまく言えないんだけど、そう、かっこよくなったよ」
京太郎「そうか?でも、そう言われると悪い気はしない、かな…///」ポリポリ
咲「ふふ、どういたしまして」
京太郎「そういう咲だって、インターハイが終わってから変わったぞ」
咲「そう?」
京太郎「前は泣く子も黙る、カンするマシーン、清澄の白い悪魔、ってな感じだったけど」
咲「何それっ、初めて聞いたよ!?」
京太郎「初めて言ったからな」
咲「京ちゃん、私のことそんな風に見てたんだね…ひどい」ジー
京太郎「へっ、さっきのお返しだ」
咲「ふんっ!」プイッ
598: 2014/08/25(月) 23:33:54.16 ID:XldGYtG70
京太郎「すまんすまん。でも最近はほんと、楽しそうに打つようになったよな」
咲「そうかな?自分ではよく分からないけど」
京太郎「そうだな…あえて言うなら、かわいくなったよ。ほんと」
咲「何それ、落とし文句?だとしたら、20点以下の赤点だね」
京太郎「うっせー、そんなんじゃねぇよ。たくっ、正直に褒めなきゃよかったぜ…」
咲「あはは」
こんなバカみたいな会話をできることが、何よりも嬉しい
京太郎「修学旅行、楽しみだな」
咲「そうだね」
599: 2014/08/25(月) 23:35:01.39 ID:XldGYtG70
──3月下旬 大阪 修学旅行
咲「大阪っ!」
京太郎「うん、大阪だな」
俺たちの班は、大阪駅まで来ていた
咲がはしゃぐのもよく分かる。長野の片田舎に比べれば、このビル群は圧倒的だ
東京もすごかったが、ここも中々のものだ
咲「ここが大阪駅かぁ…思ってた以上に思ってた以上だよ」
「ここから少し行けば、甲子園に行けるのか…なんだか感慨深いぜ」
「ここから少し行けば、京セラドームに行けるのか…なんだか感慨深いぜ」
京太郎「お前ら何しに来たんだよ…」
咲「あっ、見て見て京ちゃん!高速道路がビルに突っ込んでる!」
京太郎「ゲートタワービルだな。大阪のスケールのでかさをよく表してるよ」
咲「そうだね」
京太郎「まあ、ほんとは土地関係でいろいろあって、あんなんになっただけらしいけど」
咲「…現実は夢がないね」
京太郎「そう言うな、咲」
京太郎「さて、とりあえ予定通り梅田駅に行こうか」
「「おおー!」」
601: 2014/08/25(月) 23:35:34.01 ID:XldGYtG70
________
_____
__
まだ朝ということもあり、結構人ごみがすごい
お上りさんよろしく、少し道に迷いながらも梅田駅に到着した
京太郎「おーい、みんな着いてきてるか?」
咲「う、うん…なんとか」
「……」
京太郎「あれ?咲だけ?」
咲「え、おかしいなぁ。さっきまでここに…」
京太郎「おいおい、さっそく迷子かよ…勘弁してくれ」
602: 2014/08/25(月) 23:36:27.91 ID:XldGYtG70
ブーブーブー
京太郎「なんだよ、こんな時に、メール?えーと…」
『やっぱ我慢できなかった。芝の感触を確かめてくる』
京太郎「お前らが試合するわけじゃねぇだろうが…」プルプル
咲「きょ、京ちゃん落ち着いて」
『追伸 おみやげは甲子園の砂でいいかな?』
京太郎「ちきしょう…あいつら帰ってきたら縛り上げて、頭部氏球喰らわせてやる」プルプル
咲「ま、まあまあ。子供じゃないんだし、大丈夫だよ。最悪連絡とれば、ね」
今だけは、咲が天使に見える
京太郎「咲さんかわいい」
咲「何言ってるの!?」
603: 2014/08/25(月) 23:37:13.21 ID:XldGYtG70
京太郎「もういいや…行こうぜ、咲」
咲「うん」
駅のホームで電車を待っていると、前方に水色の髪をした美少女が目に入った
その後ろには、明らかに怪しいおっさんがいる
おっさん「デュフフ、デュフ…」
なんだ、このむさ苦しいおっさんは
今日は対して暑くもないのに、大量の汗をかいている
そして、地面には荷物と思われる鞄が無造作に置いてある
キラッ
今光ったな
京太郎「ふーむ」
なるほど、そういうことか
604: 2014/08/25(月) 23:37:53.67 ID:XldGYtG70
まあ、これはあれだろうな……盗撮だ
自分で使うためか、あるいはよそに売るためか
どういうことかは知らんが、卑劣な行為であることには変わりない
ましてや、こんな国の重要文化財級のおもちの持ち主に対して行うとは
おもちマイスターの風上にもおけぬ!
京太郎「余の顔を見忘れたか!!」
京太郎「成敗!!」
咲「急に何っ!?」
京太郎「すみません、駅員さん?あそこに盗撮魔が──」
駅員「なんやて!兄ちゃん、ありがとな」
咲「自分でやらないんだ!?」
605: 2014/08/25(月) 23:38:46.94 ID:XldGYtG70
タッタッタッ
おっさん「な、なんですか、あなた達!?」
駅員「ちょっと、鞄の中を見せてもらってもいいかな?」
おっさん「い、いやだ。何の事だかさっぱりだ。見せるもんか!」
駅員「うーん…いや、あんた前に見たことあるなぁ……」
おっさん「!!」ビクッ
駅員「ああ、確か前にもっ!!」
おっさん「今はやってない、やってないんだ…!」アタフタ
ゴトッ
おっさん「あ」
駅員「あ」
おっさん「…ビデオカメラですね」
駅員「…ビデオカメラやな」
おっさん「…駅員室ってどこでしたっけ?」
駅員「あっち」
606: 2014/08/25(月) 23:39:39.33 ID:XldGYtG70
おっさん「い、いやだー!!もうあそこは、あそこだけは…!!」
駅員「はいはい、中身確認するだけだからこっち来ようねー」
おっさん「いやだー!!もう、今度こそ……ケツが、ケツが……!!」
おっさん「いやーーー!!!!」
ふっ、勝利とは空しいものだな
でも、ケツってなんだろう?うん、知らない方がいいな
咲「京ちゃん、えらい!でも、よく分かったね?」
京太郎「ああ、それはな――」
あれっ…?何で分かったんだ…?証拠なんてほとんどなかったはずなのに…
京太郎「……」
咲「京、ちゃん?」
607: 2014/08/25(月) 23:40:44.14 ID:XldGYtG70
??「……」ジー
京太郎「えーと、何か…?」
さっき見た美少女だ。こっちを見ている
水色の髪をした、活発そうな女の子だ。赤みがかったツーブリッジのメガネをしている、珍しい
どうやら眼鏡にはこだわりがあるようだ
そしてなにより、かなりのおもちの持ち主である。うむ
??「さっきの、なんやったんやろ?知ってます?」
京太郎「ああ、盗撮魔らしいですよ」
??「そうやったんやぁ。怖いなぁ」
京太郎「ですねぇ」
??「……」ジー
京太郎「……」ジー
??「えーと、前にどこかでおうたこと…?」
京太郎「奇遇ですね、俺もどこかであなたとあったことがあるような…」
しかも、一度や二度じゃない。もっと、ずっと…
608: 2014/08/25(月) 23:41:40.97 ID:XldGYtG70
咲「ああ、誰かと思ったら愛宕さんですね?」
??「えと……ああ、あなた清澄の!」
咲「宮永咲です。お久しぶりです、愛宕絹恵さん」
絹恵「宮永さん、久しぶりやなぁ。せやけど、何で大阪に?」
咲「修学旅行でこっちに来てるんですよ」
絹恵「そうなんやぁ。せっかくやから、案内したいとこやねんけど…」
咲「別にいいですよ。京ちゃんいますし、大丈夫です」
絹恵「京ちゃん?」
咲「隣のこれです」
京太郎「これとか言うな。どこかで見たと思ったら、インターハイの時ですね」
絹恵「ああ、なるほど!あん時かぁ。ということは麻雀部なんやね」
京太郎「その通りです」
609: 2014/08/25(月) 23:42:49.81 ID:XldGYtG70
咲「結構荷物ありますけど、買い物ですか?」
絹恵「そうそう、お姉ちゃんと梅田で買い物してん」
お姉ちゃん…?
咲「あれ、でも今は一人みたいですけど?」
絹恵「ああ、よう知らんけど『用事思いだした』、言うてどっか行ってもうた」
咲「うちの部長みたいな人ですね…」
京太郎「あ、電車来ましたね。愛宕さんもこれに?」
絹恵「絹恵でええよ、お姉ちゃんと間違えてまうから」
そうだよ、この人にはお姉さんがいたんだ……えーと、たしか
咲「京ちゃん、電車に乗り遅れるよ」
京太郎「…ああ」
絹恵「私は別のやから、ここでお別れやな」
咲「そうですね、また大会で会いましょう」
絹恵「ほなな、宮永さん」
京太郎「さようなら、絹恵さん」
絹恵「うん、また会おな…京太郎くん」
610: 2014/08/25(月) 23:43:44.20 ID:XldGYtG70
絹恵さんと別れてから、御堂筋線を使って心斎橋まで来た
心斎橋商店街を見て回って、途中に買い物も少しした
戎橋を渡ったし、グリコのアレも見た
『アレアレ言うな!』
道頓堀の名物看板を見た
くいだおれ太郎、かに道楽のカニ、龍に牛にふぐにマグロの握りずし、全部
そして、お昼頃
京太郎「そろそろ、昼ご飯食べるか」
咲「そうだね。でも、どこにしよう。お店がいっぱいあり過ぎて決められないよ…」
京太郎「うーん、そうだな。どっか適当なところで済ますか」
京太郎「おっ、あの店がいいんじゃないか?」
咲「本当に適当だね…」
京太郎「他の店は人が多いみたいだし、あそこでいいだろ」
京太郎「それにあの店、外見はあんなんだけど、味は最高なんだぜ」
咲「京ちゃんがそこまで言うなら…」
611: 2014/08/25(月) 23:45:01.08 ID:XldGYtG70
─食事処『男女兼用』
店長「あら~、いらっしゃ~い」ニコリ
女性だ。おもちはあまり無いが、容姿は整っており儚げな美人と言ったところか
でも、なぜか俺の中の防衛本能が、この人物に対してヤバイと警報を鳴らしている
京太郎「ども」
店長「……お、おとこぉ!?久しぶりにフィーーシュ!!きたきた、来ましたわー!!」
京太郎「ひっ…」
咲「ん」ゴッ
店長「あら、私としたことが。仕事中だったわね。さっ、席に座ってちょうだい」
さすが咲さん
京太郎「は、はい」
咲「どうも」
店長「さ、何にする?といっても、定食以外ないんだけどね!」
京太郎「ああ、じゃあこの男日照り定食と行かず後家定食を一つずつ」
咲「私まだ決めてないんだけど!?」
京太郎「大丈夫。これでいいんだ」
店長「了解!お兄さん、お嬢ちゃんちょっと待っててね」
612: 2014/08/25(月) 23:46:16.43 ID:XldGYtG70
________
_____
__
食事が終わり、簡単に自己紹介を済ませると、会話が始まった
店長「へぇ、京太郎ちゃん達は麻雀部員だったのね」
京太郎「俺はてんでダメですけど、こいつは正直かなりのもんですよ」
咲「ちょ、ちょっと…恥ずかしいから//」
店長「ふーん…うちの常連の娘にもね、麻雀やってる娘がいるんだけど、これがまた滅法強いらしいわよ」
咲「へぇ、誰だろう?プロの人かな?」
店長「さあ、私にもよく分からないの。けど、なかなか見どころのある嬢さんなのよ」
咲「そうなんですか?」
店長「ああ……今でこそうちは、女の人も受け入れているけど、昔は女人禁制だったの」
咲「うわぁ」
613: 2014/08/25(月) 23:46:54.30 ID:XldGYtG70
店長「そんな時に、颯爽とうちの暖簾をくぐってきたのが、そのお嬢さんだったんだ」
店長「最初は追い返そうとしたのよ?けど、逆にこっちに喧嘩を売る始末」
店長「試すつもりで、うちでも一番の量の料理を出したら難なく食べてちゃってねぇ…」
店長「あれは今でも忘れられないわ。あの時の彼女は間違いなくイイ漢だった」
咲「うーん…すごいの、かな?」
店長「それ以来、店の名前を変えて、こうやって営業してるってわけ」
咲「へぇ」
店長「実は、京太郎ちゃん達が来る少し前まで。ここにいたんだけどね。その前に帰っちゃった」
咲「そうなんですか、ちょっと見てみてたかったですね」
店長「ちょっと時間がずれてればね。会わせてやりたかったわ」
京太郎「……」
614: 2014/08/25(月) 23:48:13.96 ID:XldGYtG70
食事を食べ終わり、会計を済ませた
京太郎・咲「ごちそうさまでした」
店長「ありがとう。久しぶりにイイ男と会話できて、若返った気分だわ」
京太郎「ははは…でも、あんなにおいしい料理がたったワンコインだなんてすごいですよ」
咲「正直、外見で判断してました。とてもおいしかったです」
店長「そう言ってもらえると嬉しいわ。こっちにいる間、また来てちょうだいね」
カランカラン
咲「いやー、おいしかったね」
京太郎「そう、だな」
咲「?、でもよかったの、さっきからちょくちょくお金払ってもらったりしてるけど」
京太郎「大丈夫大丈夫。賭けで儲けた金なんざ、さっさと使っちまうに限る」
咲「ああ、野球の…一体いくら稼いだのさ?」
京太郎「内緒だ」ニヤリ
615: 2014/08/25(月) 23:48:54.04 ID:XldGYtG70
その後は、天王寺をブラブラした
通天閣、天王寺公園、そして天王寺動物園
動物園には『カミマス』看板は無かったけど、『ツッツキマス』や『アブナイ』看板はあった
これぞ、大阪文化というものだろう
『んなもん、知らんわ!』
京太郎「はは」
咲「何いきなり笑って…気持ち悪い」
京太郎「え、今俺笑ってたか?」
咲「そうだよ。前は冗談で言ったけど、ほんと頭に異常があるじゃない?」
京太郎「そんなことねえよ……ないよね?」
616: 2014/08/25(月) 23:49:37.53 ID:XldGYtG70
そして、天王寺動物園を出てすぐに、それは起こった
京太郎「あれ、咲……?」
そう、俺は忘れていたのだ
京太郎「どこ行った?」
最近、咲と出掛けることもなかったので心に留めていなかった
京太郎「咲……?」
あいつは、少し目を離したら、迷子になってしまう奴だということを…
京太郎「あ、雨。そういえば、傘忘れたな」
617: 2014/08/25(月) 23:50:24.05 ID:XldGYtG70
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
咲「京ちゃん、京ちゃん!見て、あれあれ……えーと、あれっ?」
咲「京ちゃん?」
咲「……」
咲「……」
咲「……」
うーんと、これはあれだね。久しぶりだから、油断してたみたいだよ。はは
咲「ま、迷った~…」グスッ
どどどどど、どうしよ~…?
ここら辺の地理、全く分からないよ…
こういうの京ちゃんに任せっきりだったからなぁ。まったく、まいっちゃうよね
咲「うぅ…京ちゃ~ん」ウルウル
618: 2014/08/25(月) 23:51:46.24 ID:XldGYtG70
仕方なく人気のない道を恐る恐る進んでいく
しかし、周りに人はおらず道を尋ねることすらできない
咲「な、なんで~…」オロオロ
あっ、人がいた!あの人たちに尋ねれば……
咲「あ、あの、道をお尋ねしたいんですけど…」
「なにかなお嬢ちゃん。迷子かなー?」ニヤニヤ
「ふふふ…」
「じゅるり…」
あ、ヤバイ。人選間違えた…明らかにガラの悪い女の人たち
「へぇ、中々ええ足してるやないか…どーれ」
咲「ひゃ、ひゃい!!」ビクッ
「あらあら、初々しい反応してくれるやないの」
や、やばい…この人たち、アレだ。あっち側の人たちだ
咲「いいいいいい、いえ。わわわた、私、急いでますので…!!」
「でも、迷子なんやろ。ええやん、一緒にあ・そ・ぼ」
咲「ひっ…!!」
今更だけど、まず京ちゃんに電話すればよかったんじゃん!
私のバカ!ポンコツ!貧O!……品乳!!
619: 2014/08/25(月) 23:52:53.42 ID:XldGYtG70
あばばばばばば…まずいよ。貞操の危機だよ!!
何だよ、京ちゃん!
大阪いいとこ、一度はおいで。酒はうまいし、姉ちゃんは綺麗だ。とか抜かして…
全然、全く、これっぽちもよくないよ!ただ今身の危険を感じてるよ!
咲「……」ブルブル
「震えちゃって。かーわいー!」
気分は生まれたての子羊だよ!
「さあ、はよこっちに来ぃや。新しい世界見せてあげるで」
そういうのは、読書で十分間に合ってますから!
「あまり痛い目はみとうないやろ?さあ、さあ!」
万事休す!
さあ、こういう時はあれだね。懺悔タイム!!
もうやけくそだよっ!
620: 2014/08/25(月) 23:53:59.89 ID:XldGYtG70
京ちゃん、ごめんね。練習とはいえ、10回連続で飛ばしたのはさすがに謝るよ
でも、最近少し打てるようになったからって、調子に乗るのはいけないよね?
優希ちゃん、ごめん。勝手にタコス食べちゃって。でも、ダイエット中だったから仕方ないよね?
和ちゃん、ごめん。えーと…あれ?うん、特に何もないかな
部長、ごめんなさい。前部室に置いてあった少しBL風味な本、実は私のだったんです。後で返してくださいね?
もし気に入ったようでしたら、今度『BANANA FISH』と『日出処の天子』貸してあげます
竹井先輩、ごめんなさい。私──
って、あー、もうっ!!いちいち考えるのが面倒くさい!!
もう、この際誰でもいいから、誰か──!!
助け──
?「おやおや、私の咲さんを涙目にさせるとは趣味のいい……じゃなかった」
?「なんたる悪逆非道の行い。許せませんね」キリッ
??「まったく、のどちゃんが急いでるのを見かけて、何だと思ったら…」
621: 2014/08/25(月) 23:54:56.04 ID:XldGYtG70
?「少し教育をしてあげましょう」
咲「あ、あなたは…!」
咲「和ちゃん!!」
和「ごめんなさい、少し遅れてしまいました」
??「間に合ってよかったじぇ」
咲「それに、優希ちゃんもっ!!」
優希「一人ということは、また迷子か咲ちゃん…?」
咲「うっ、恥ずかしながら」
和「さて、私が来たからにはもう安心してください」
和「こんな雑魚ども、三分もあれば伸び切ったカップ麺状態にしてあげますよ」
「な、なんやと…!」
「くっ…」
「ほう」
咲「ごめん、『こいつ、できるっ…!!』みたいな反応されても、正直よく分からないです」
622: 2014/08/25(月) 23:55:50.37 ID:XldGYtG70
「調子に乗ってっ!!」
ヒュッ
和「残像です。後ろですよ」
「な、なにっ、いつの間に!?」
「見えへんかった…」
「は、速い…」
咲「ねえねえ優希ちゃん。喉乾かない?自販機で何か買ってくるよ」
優希「なら、力水で」
咲「りょーかい。あれ結構おいしいよね」
623: 2014/08/25(月) 23:56:48.34 ID:XldGYtG70
和「ああ、そのまま動かない方がいいですよ。私はレOです」
「……」
和「おや、驚かないんですね?」
「大阪の女をなめたらアカンで。うちもレOや」
和「ほう、少しは楽しめそうですね」
咲「優希ちゃんは天王寺動物園行った?」
優希「行った行った。ヌートリアが可愛かったじぇ」
咲「ああ、たしかに。でも何といっても一番は?」
咲・優希「マレーグマ!!」
624: 2014/08/25(月) 23:57:29.59 ID:XldGYtG70
和「しかし、私とやるのはやめておいた方がいいですよ」
和「なにしろ──」
和「私の性闘力は53万です」
「なっ、なんやと?せやけど、私だってっ!!」
和「なるほど、威勢だけいいようですね」
和「ですが、それだけで私に勝てるほど、世の中甘くないはないのだということを教えてあげますよ」
和「手とり足とり、ね」ニヤリ
咲「でさぁ、途中に寄った定食屋さんがすごかったんだよ」
優希「それは、私も行きたかったじぇ」
咲「なら、明日一緒に行こうよ。もう、班なんてあってないようなものだし」
優希「やった!」
626: 2014/08/25(月) 23:58:05.95 ID:XldGYtG70
和「あ、そうそう。一つ言い忘れていました」
「まだ、何かあるんか…!?」
和「私はまだ、変身を3回残しています」
「な、な、な……」プシャー
和「ふっ、他愛のない。きたねぇ花火ですね」
和「さて、残りのあなたたちは、これでもまだ戦うつもりですか?」
「二人同時にかかれば、あるいはっ…!」
「……いや、もうやめよう」
「せ、せやけど」
「うち、聞いたことあんねん。長野には、超ド級の淫乱レOピンクがおるって」
「まさか、こいつが!?」
和「さて、私にはよく分かりませんが」ニヤリ
「ちっ…」
「ずらかるで!」
627: 2014/08/25(月) 23:58:39.75 ID:XldGYtG70
和「ふっ、行ったか…」キリッ
咲「かっこつけてるところ悪いんだけど、全然かっこよくないからね」
和「そ、そんなぁ~」
優希「これぽっちも見習いたくないけど、さすがのどちゃん。すごかったじぇ」
和「それ、褒めてないですよね?」
和「ああ、せっかく咲さんの評価をあげる絶好の機会だったのに」
優希「普段の行いが悪いから、こうなるんだじぇ」
和「まあ、でもいいんです。私は咲さんが無事なら、それで」ボソッ
優希「……」
629: 2014/08/25(月) 23:59:29.36 ID:XldGYtG70
和「さっ、厄介事も片づきましたし、行きましょうか」
優希「うん」
咲「あっ、ちょっと待って」
和「?」
咲「言いたいことは山ほどあるけど、今回のは本当に感謝してるよ」
咲「ありがとう、和ちゃん」ニコ
和「……」
和「……」
和「……」ポロポロ
咲「ど、どうしたの!?」
和「い、いえ…何でもないんです…私、それだけで……十分ですから…」ポロポロ
優希「ふぅー、まったく。世話のかかる友人だじょ……やれやれだじぇ」
優希「うーん、でも何か忘れているような…」
優希「あっそうだ。京太郎は?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
630: 2014/08/26(火) 00:00:16.77 ID:2fwUPHB10
京太郎「電話出ねー、咲の奴マナーモードにでもしてるのか?」
京太郎「いやいや、もしかしたら事件に巻き込まれて、出るに出られないという可能性も…」
京太郎「例えば、とりあえずどうすればいいか分からなくて、彷徨っているうちに」
京太郎「人気のない場所に紛れ込んでしまい、運よく人を発見し道を尋ねようとするも」
京太郎「その人たちは、実はあっちな気の3人組の女性で、今頃とても俺の口からは言えないような」
京太郎「責苦という名の快楽調教の真っ最中なのかもしれない」
京太郎「くそっ……」ムラムラ
あ、間違えた
京太郎「くそっ……」ムカムカ
京太郎「うぁ~…、考えれば考えるほど不安になる…」
京太郎「ていうか、ここどこだ?」
631: 2014/08/26(火) 00:01:14.93 ID:2fwUPHB10
さっと周囲を見回すと、でかいビルが一本ニョキっと地面から生えているの目に付く
さらに、注意してみると、ショッピングモールらしきものも
あべのハルカスとキューズモールだ。ということは、ここは阿倍野か
阿倍野?
ええと、今やキタ・ミナミに次ぐ第三の繁華街は天王寺・阿倍野って?
いや、違うな…
京太郎「あ、チン電。上町線か」
そうだ、上町線、阪堺電気軌道。──館の帰りに、いつもあれに乗って帰ってたじゃないか
帰る?どこへ…?
『ほな、帰ろか』
─榎さん?
632: 2014/08/26(火) 00:02:00.85 ID:2fwUPHB10
ドンッ
京太郎「す、すみません」
やべぇ、ボーとしてたみたいだ
「どこ見とんじゃ、こらぁ!!」
「ああー、今ので骨折れたたなぁ、こりゃあ」ニタニタ
京太郎「はっ、そんなわけ」
「せやから、慰謝料として財布おいていきな。分かるやろ?」
分からねえよ
どうやら、頭のネジの緩いやばい奴らみたいだ。数は5人、しかも武器も所持と
こりゃ絶対に勝てないな
仕方ない、こういう時は──逃げるっ!!
「逃がさねえぜ、兄ちゃんよぉ」
「へっへっへ」
ちっ、やばい囲まれた!?
633: 2014/08/26(火) 00:02:54.50 ID:2fwUPHB10
咲の奴もまだ見つけてないっていうのに、こんなこと!
ああ、全くなんてツイてないんだ俺
「さあて、もう逃げられないよん」
「こいつ、たぶん修学旅行生だぜ。金持ってるぜきっと。他にもいねえか見てこようぜ」
「あっ、それいいかも!ギャハハ!!」
こんな馬鹿共に、これから何されるか想像するだけでも、怖気が湧く
ちくしょう、せめて他に仲間がいれば──
??「あら、京太郎ちゃんじゃない。傘も差さずにこんなところでどうしたの?」
京太郎「あ、あなたは!?」
京太郎「店長!!」
「なぁんだ、こいつ?」
「こいつもまとめてヤッちゃおうぜ」
店長「ふぅむ、どうやらやばい感じのようね…」
634: 2014/08/26(火) 00:04:08.58 ID:2fwUPHB10
ダメだ、いくら店長が常人離れした、男日照りの行かず後家女でも、この数は…
店長「ねぇ、あなた達。この子は私のお客さんなの、見逃してあげてくれないかしら?」
「ははっ、こいつ何言うてるんや。アホやろ」
「あんたも財布置いていったら考えてもやらんこともない、かもよ?」
店長「馬鹿な子達」
店長「……」
店長「108、よ」
「は?」
店長「108……この数字の意味が分かるかしら?」
「?」
確か、煩悩の数だったような…
「これは、私が今まで男に言い寄って逃げられてきた数よ」
やっぱり煩悩だ!!
「このババア、何言って――」
グシャ
「おげぇぇぇ……」ビシャビシャ
昼飯はお好み焼きか……
店長「お姉さん、でしょ?」ニコリ
京太郎「お姉さん」
店長「あらあら、うちじゃあもんじゃ焼きは扱ってないんだけど」
店長「男を追いかけてるうちに、未だ人類が到達したことがない一つの頂を踏破してしまった私の女子力、見せてあげるわ」
女、子…?
635: 2014/08/26(火) 00:04:41.97 ID:2fwUPHB10
「なんだ、こいつ!?尋常じゃねえ!」
「ちくしょう、こうなったら…!お前ら、出合え!出合え!!」
あ、僕それ、時代劇で見たことあります
ゾロゾロゾロゾロゾロ
店長「ゴキブリみたいな連中ね」
京太郎「いくら、なんでもこれは…」
店長「うーん、確かにねえ」
京太郎「やっぱり…」
店長「夜の営業に間に合うか心配だわ~」
京太郎「そこですかっ!?」
「いっくぜっー!!!」
来る!!
ファッサー
「ぎゃあー、目がっ!目がぁー…!!」
636: 2014/08/26(火) 00:05:29.93 ID:2fwUPHB10
「たくっ、こんなところで甲子園の砂を使っちまうことになるとはなぁ」
「念のために、サイン入りバット買っといてよかったぜ」
京太郎「お、お前ら!」
「ヒーローは遅れてやってくるってね」
「たまたまだけどね」
「おい、ここで借り作っておけばさっきまでの自由行動、先生にチクられないよう頼めるだろ!」
京太郎「おい、聞こえてんぞお前ら」
「俺らだけじゃないぜ」
ズバン!!
「150キロのストレートなんていらないんですよ。アウトロー(顔面)に決まればいいんです」
京太郎「隣のクラスの桑田くん!」
「僕が言いたいのは『永遠』」
京太郎「外国語科の有くんも!!」
「それだけじゃねえぜ。前田、中村、k原、t浪、──他にもみんな来てる」
京太郎「みんな…」
637: 2014/08/26(火) 00:06:41.00 ID:2fwUPHB10
店長「どうやら、役者は揃ったようね」
店長「終わったら、みんなうちに来なさい。サービスするわよ」
「「いっやほー!」」
店長「よっしゃー!!男子高校生、ゲットだぜっ!!」
「「……」」
店長「さ、京太郎ちゃん。さっさと行きない。あと、傘は貸しておくわ」
京太郎「いや、俺も!」
店長「だーめ。さっき一緒にいた、咲ちゃんだったかしら?、いないわよね。迷子じゃないのかしら」
京太郎「ぐっ…」
店長「あなたにはあなたの仕事があるわ。さ、早く行きない」
京太郎「…この恩は、必ず」
店長「ふふ、なら明日私とデートしてちょうだい」
638: 2014/08/26(火) 00:07:30.07 ID:2fwUPHB10
京太郎「……一回だけですからね」
店長「わかってるわ。だって、あなたには――」
京太郎「?」
店長「……なんだったかしら?忘れちゃった」
京太郎「」ズルッ
店長「まあ、いいわ。デートの場所考えておかないと、だ・め・よ」
京太郎「ああ、それならいい場所が!映画館に行きましょう!!」
『初恋なんて実らないものなのかもね』
店長「映画館、か……あれ以来、避けていたんだけど」ボソ
京太郎「?」
店長「うーん、ベタだけど悪くは無いわね。楽しみにしてるわ」
639: 2014/08/26(火) 00:08:32.40 ID:2fwUPHB10
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
店長「行ったわね…」
店長「さあ、行くわよ野郎ども!!少し早めのオールスターと洒落込もうじゃない!!」
「「おう!!」」
店長「ん、何かしらこれ?」
店長「財布と、携帯ね……学生証?ああ、京太郎ちゃんのか」
「どうやら、さっきのいざこざで落としてしまっていたようですね」
店長「そう見たいね」
店長「悪いけどあなたたち、後でこれ届けておいてくれないかしら?」
「いいっすよ」
店長「……」ジー
「どうしたんですか、そんなにじっと見て?」
店長「……はは、なるほど。そういうことだったのね。私も歳かもしれないわ」
「?」
店長「いつもありがとう、京太郎ちゃん」
店長「またあの時みたいに、二人でうちの暖簾くぐってくれるのを待っているわ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
640: 2014/08/26(火) 00:09:20.41 ID:2fwUPHB10
ちっ、2人?3人…?何人か追ってきやがる
とりあえず、ここは逃げねえと
「待ちやがれー!!!」
待つかよ!
それから、必氏に走った。道も分からず、雨の中
「こらぁー!!」
あべの筋から横に逸れて、右へ左へ迷い込み、上り下りを繰り返した
「おい…ま……」
古びたアパートとマンションの間を抜けて、猫も通らないような細い道を行った
「…………」
民家と民家の間にあった石畳を渡って、意味不明で錆びついた看板を何回も見た
そして…
641: 2014/08/26(火) 00:10:22.59 ID:2fwUPHB10
京太郎「はぁはぁ…さすがにもう追ってこないか」
京太郎「えーと…」
なんだ、この建物
京太郎「映画館…?」
言い方は悪いかもしれないが、随分寂れた映画館だ
だが、その古臭さがアクセントになって、逆にある種の荘厳さがそこにあった
うーん、なんというか
京太郎「ラストアクションヒーローに出てきそうな映画館だな」
京太郎「あっ、そうだ。咲に電話しないと」
……あれ?ん、あれ?…ない?ないじゃん!
京太郎「ちくしょー…さっきので落としたか、ツイてねぇ…」
さすがにまた、あの地獄絵図の中に飛び込む勇気は俺にはない
仕方ない、この映画館の人に電話借りるか
雨でだいぶ濡れてしまったし、乾かすついでだ
642: 2014/08/26(火) 00:11:04.97 ID:2fwUPHB10
入口を通ると、外観とは打って変わって清潔感に溢れた綺麗な造りだ
通りにはルージュの絨毯が敷かれており、歴史的な建造物を彷彿とさせる
天井には大きさは控えめながらも、煌びやかなシャンデリア
頭を横に向ければ、和・洋・中様々な調度品が所狭しと並べられている
一見するとちぐはぐな印象だが、全体として見れば調和がそこを支配している
それら全てが、異様な雰囲気を漂わせ、まるで白昼夢を見ているかのような気分になる
カウンターには、一人の若い男性がいた
その若さは、年季の入ったこの場からは明らかに浮いており、ミスマッチにさえ思える
しかし、それでもやはり、不思議とここに馴染んでいた
643: 2014/08/26(火) 00:11:46.61 ID:2fwUPHB10
京太郎「あの、すみません」
館長「はい、なんでしょう?」
京太郎「不躾なんですが、電話を貸してもらえないでしょうか?」
館長「ええ、もちろん構わないですよ。さあ、どうぞ」
京太郎「ありがとうございます」
早速、咲の携帯に電話を掛ける
咲『はい、もしもし』
掛かった!
京太郎「おお、咲!無事か、今どこだ?」
咲『京ちゃん?知らない番号だったから、誰かと思ったよ』
京太郎「まぁ、色々あってな」
咲『そう?今、和ちゃんと優希ちゃんと一緒にいるの』
咲「こっちも色々あったけど、大丈夫。どうする、合流する?」
645: 2014/08/26(火) 00:12:42.62 ID:2fwUPHB10
京太郎「うん、そうだな──」
館長「いえ、それは止めておいた方が良いかと」
京太郎「え」
館長「まだびしょ濡れですし、それに雨風も強くなっているようです」
館長「ここでしばらく一休みしておくのが賢明でしょう」
うーん、そうだな…
咲『京ちゃん?』
京太郎「あ、ああ。すまんが雨が強くなってるみたいだし、ホテルで合流しよう。だから、またな」
咲『うん、了解』
京太郎「気をつけてな」
咲『分かった、じゃあね』
646: 2014/08/26(火) 00:13:21.15 ID:2fwUPHB10
どうやら、無事だったようだ。ひとまず安心だ
京太郎「電話、ありがとうございました。とても助かりました」
館長「いえ、お役に立てたようでなによりです」
うーむしかし、ここで待つといっても、何もしないというのは気が引けるというもの
京太郎「ここって映画館なんですよね?」
館長「はい」
京太郎「今日は何の映画を上映しているんですか?面白いですか?」
館長「見てからのお楽しみです」
京太郎「変わってるんですね」
館長「当館の方針でして、私の選んだ映画しか上映しないことになっております」
京太郎「へぇ…」
館長「それに…面白いか、面白くないかはあなた次第です」
館長「しかし、絶対に後悔はしないと思いますよ」
647: 2014/08/26(火) 00:13:54.38 ID:2fwUPHB10
京太郎「分かりました、ならチケット一枚もらえますか?」
館長「かしこまりました」
京太郎「じゃあ、これ……あれ?、あれ…?」
館長「どうされました?」
京太郎「あ、あああ……しくったー…」
京太郎「携帯はおろか財布まで落としてしまっていたとは……」ガクッ
館長「……」
京太郎「すみません。そういうことなので、さっきのは無しということに」
館長「それは残念ですね」
京太郎「そう、ですね…」シクシク
仕方がない、ラウンジの椅子を貸してもらって、しばらく時間を潰すしかないか
とほほ…ジュースすら買えないとは
648: 2014/08/26(火) 00:14:33.01 ID:2fwUPHB10
館長「ですが──」
京太郎「?」
館長「ですが、あなたの場合は違うようだ。だって、ほら」
そう言うと、自分のポケットを指でトントンと叩く仕草をする
ポケット?
京太郎「この中には何も……」
いや、紙くずの感触。開いてみると、これは
京太郎「入場引換券…?」
館長「ふふっ、だから言ったでしょう?」
館長「それは単なる紙ですが、それ以上の意味を持つことがある、と」
館長「今のあなたにとって一番大事なものは何か、思い出すんです」
館長「そうすれば、きっと…」
館長「さあ、行ってらっしゃい。どうやら、私にできるのはここまでのようだ」
京太郎「あなたは、一体…」
俺の疑問に答えることはなく、二度だけ首を振り、ニコリと笑ってこう言った
館長「お客様がお待ちですよ」
649: 2014/08/26(火) 00:15:10.16 ID:2fwUPHB10
中に入る。小さめのスクリーンと少ない座席が目に入った
先客は一人しかいない。よく見ると、女性らしかった
ピンクと赤のちょうど中間の色をした髪を後ろに束ねている。所謂ポニーテールというやつだ
その色は、なんというか…濃い桜の花びらのような、そんな印象を受けた
『寒緋桜』
タレ目だが、気の強そうな雰囲気を漂わせている。おもちはない
でも、とても綺麗な人だ。そう、今まで見た誰よりも
京太郎「……」
??「ん、どないしたん?」
この声を聞くだけで、どうしようもなく懐かしい気持ちになる
ああ、またこの感じだ。あと少しで思い出せそうな…大事な
651: 2014/08/26(火) 00:15:55.18 ID:2fwUPHB10
京太郎「ああ、えと…すみません、そこ俺の席なんですけど」
??「せやったん?ごめんごめん」
??「けど、これだけガラガラなら別にええやろ?館長さんに前聞いたら、『かまわないですよ』言うてたし」
京太郎「自由に座っていいってことですか?」
??「そゆこと。それに滅多にお客さん来ることなんてあれへんから安心してええで」
京太郎「そうですか。ではお言葉に甘えて」
ボスン
??「…なんで、うちの隣に座るんや」
京太郎「だって、ここがベストポジションなんですもん」
??「いやいやいやいや、もっと席空いてるやん」
??「なんで、わざわざ隣り合って座らなあかんねん」
京太郎「そう思うなら、あなたこそ別の所にいけばいいじゃないですか」
京太郎「俺だけに譲歩を求めるのは、公平じゃないですよ」
??「ぐぬぬ…」
??「はぁ…まあええか。勝手なこと言うてすまんかったな」
京太郎「はは、俺そういうの結構好きですよ」
??「あほか」
652: 2014/08/26(火) 00:16:38.33 ID:2fwUPHB10
京太郎「ここへはよく?」
??「まあ、映画好きやし」
京太郎「へぇ、そうなんですか。なら、あのテディベアの見ました?」
京太郎「あれ、結構面白いですよね」
??「何言うてん、あんなの薬中・パロディ・お下劣テディベアのクソ映画やないか」
京太郎「は、はぁ!?何言ってるんですか!」
京太郎「あなたの『コマンドー』に比べれば、はるかにマシですよ!」
??「き、きさま…言うてはならんことを」
京太郎「……」
??「……」
京太郎・??「えーと…」
京太郎「ごめんなさい、少し興奮しすぎてしまいました」
京太郎「正直、俺もあの映画好きなんですよ。セリフ回しのユーモアは群を抜いてると思います」
??「いや、うちも…。ナイトライダーのシーンは思わず吹き出してしもたし」
京太郎「なら、あいこですね」
??「はは、せやな」
653: 2014/08/26(火) 00:17:36.07 ID:2fwUPHB10
照明が落ちて、辺りが暗くなり、上映が始まった
隣り合って座り、映画鑑賞。見ようによってはデートだな
デート?
こんな素敵な人とそんなことをできる人間がいたなら、そいつはさぞ幸せな奴に違いない
きっと、そいつには世界が輝いて見えるはずだ
『ねえ、──さん。なんだか最近、世界が輝いて見えるんですよね』
しかし、酷い映画だ
B級以下のC級映画。それこそ最後までキチンと見ることができるか、疑わしいほどの
あまりに退屈で、内容が頭に入ってこない
映画の音が遠ざかって聞こえてくる
眠い
瞼が妙に重い
現実感がぼやけて、思考が曖昧になっていくのが分かる
『夢でも見てるんちゃう?』
そうかもしれない
654: 2014/08/26(火) 00:18:11.16 ID:2fwUPHB10
『だぁーかーらー、大事なものは──』
ありきたりな台詞。知らないよ、そんなものは
『最近変わったね」
そうか?でも、なんでだっけ?
「それはですね、ほんの少し見方を変えるだけで世の中の別の側面が」
意味が分からないな。もう少し分かるように言ってくれ
「はぁー…、ここまで言っても分からないとは、ほんとに救いがたいアホ犬だじぇ」
なんだと!?
「これはさすがにわしも、擁護できんのう」
そんなぁー
655: 2014/08/26(火) 00:18:51.14 ID:2fwUPHB10
「デートはどこに行ったのかしら?」
えーと、たしか今日と同じように雨が降っていてですね
「へぇ、それで?」
阿倍野で映画見た後、梅田で買い物して、中之島でぶらぶらして
「あら、妬けるわね。じゃあ、その前は?」
大会があったんですけど、そのための修業が思いのほか楽しかったんですよ
「どこへ行ったの?」
岩手から鹿児島、その他もろもろです
「鹿児島と言えば、おっOいオバケの人かしら?」
そうですそうです!!あれはもうすごいとしか言いようがなかったですね
「その前は?」
正月に住吉大社に初詣に行きました。いいところなんですよ
「ふーん」
656: 2014/08/26(火) 00:19:35.25 ID:2fwUPHB10
「その前は?」
クリスマスがありましたし、少し前には試験勉強を手伝いましたね
「試験勉強?ああ…もうその言葉だけは聞きたくなかったわ」
別に本当に役に立つと思って勉強していたわけではないんですけどね
「その前は?」
大阪観光ですね。心斎橋、難波、天王寺、阿倍野。楽しかったなぁ
「その前は?」
日本シリーズに半ば無理やり観戦に…
「その前は?」
家事を手伝ったり
「その前は?」
「何のために?」
「誰と?」
「私には一番大事な部分が抜けているような気がするけどね」
誰と?
657: 2014/08/26(火) 00:20:19.29 ID:2fwUPHB10
『約束やからな』
オミナエシ
『早く元に戻れますように、って』
住吉大社、祈り、願い
『うちがついてる』
一人ぼっち、寄り添ってくれた人
『ほな、帰ろか』
もう一つの家
『ああ、うちか?』
はい
『うちはな──』
あなたは
658: 2014/08/26(火) 00:21:17.84 ID:2fwUPHB10
________
_____
__
??「あっ、起きた」
京太郎「……ん。あれ、寝てた…のか?」
??「そうみたいやな」
京太郎「待っててくれたんですか?」
??「まぁ、な」
京太郎「ありがとうございます」
??「起きたとき一人っきりやと、さすがに寂しいやろ?」
京太郎「そうですね」
??「しっかし、こないおもろい映画で寝てまうなんて、ほんまもんのアホやな」
京太郎「……ええ、その通りです。さっき、ようやくそのことに気付くことができました」
京太郎「どうやら俺は、ドの付くほどのアホだったみたいです」
??「そう、か」
京太郎「ええ」
659: 2014/08/26(火) 00:22:19.83 ID:2fwUPHB10
京太郎「そうそう、まだ名前言ってませんでしたね」
京太郎「俺の名前は──」
??「須賀京太郎、やな?」
京太郎「……ええ、その通りです」
??「ああ、うちはな──」
京太郎「愛宕洋榎さん、でしょう?」
洋榎「……そうや」
660: 2014/08/26(火) 00:23:04.14 ID:2fwUPHB10
京太郎「……」
洋榎「……」
京太郎「……」
洋榎「で、何か言うことあるんちゃう…?///」
京太郎「なんのことでしたっけ?」
洋榎「こらぁ!」
京太郎「はは、嘘ですごめんなさい。ちゃんと戻ったら、ってやつですよね」
そう、大事な大事な約束だ
洋榎「ぅ……はい///」
京太郎「あんまりごちゃごちゃしたのは嫌いなんで単刀直入に言います」
洋榎「はい」
京太郎「俺は──」
661: 2014/08/26(火) 00:24:13.14 ID:2fwUPHB10
________
_____
__
館長「今日の映画は如何だったでしょう?」
洋榎「最高でした」
京太郎「いや、無しですね無し」
館長「でも、どうやら後悔はしなかったようですね」
京太郎「…そうですね」
京太郎「あっ、そうだ。明日ある女性とここに遊びに来るんで、その時はよろしくお願いします」
洋榎「なっ…早速…う、浮気やと…!?」
京太郎「店長とです」
洋榎「あ、そう」
この、店長の信用されっぷりよ
店長「そうですか。それは楽しみです」
662: 2014/08/26(火) 00:24:56.47 ID:2fwUPHB10
挨拶もそこそこに、映画館を後にした
洋榎「それにしても、よくここまで来れたなぁ」
京太郎「ああ、それはですね。オミナエシです」
洋榎「は?」
京太郎「みんなのおかげここまで来れたってことですよ」
洋榎「ますます意味分からん」
京太郎「はは、違いないです」
京太郎「そういえば、試験勉強は大丈夫でしたか?」
洋榎「ぼちぼちやな」
京太郎「プロテストは?」
洋榎「ばっちしや」
京太郎「よかった。案外神頼みって言うのもバカにならのないかもしれませんね」
洋榎「?」
京太郎「こっちの話です」
666: 2014/08/26(火) 00:28:35.26 ID:2fwUPHB10
京太郎「さて、どこ行きましょうか?」
洋榎「デートの続きに決まってるやろ///」
京太郎「はは、そうですね。じゃあ、はい。お手をどうぞ」
洋榎「ぅ…は、はい…///」
やっぱり、なんて可愛らしい人なんだ
手を繋ぎながら、大通りを歩いていく
京太郎「雨、止みましたね」
洋榎「そうやな」
京太郎「あ」
太陽が
京太郎「洋榎さん、前に雨なんて最悪だって言ってましたよね?」
洋榎「うん」
京太郎「でも、そんなことはありません。それを今から証明してみせます」
京太郎「だから、ほんの少しの間目をつぶっていてもらえませんか?」
洋榎「う、うん」
667: 2014/08/26(火) 00:29:27.48 ID:2fwUPHB10
京太郎「すぅー……はぁー……」
思いっきり深呼吸をする
ああ、世界ってのなんて綺麗なんだろうか
以前までくすんで見えていたものが、今ならはっきりと見える
以前までつまらなかったことが、今なら楽しくてしょうがない
来シーズンは洋榎さんと一緒に、阪神の応援に行こう
絹恵さんと、少しエキサイティングなサッカー観戦をするのもいい
雅枝さんと、夕飯のメニューをどうするか悩んでみるのも一興だ
勉強をしよう、麻雀をしよう
きっと何度も間違えて、何度も負けるんだろう
楽しみでたまらない
世界が変わった。いや、俺が変わったんだ。この人のおかげで
668: 2014/08/26(火) 00:30:50.94 ID:2fwUPHB10
そうだ!今なら、雨の日だって楽しめるはず
だから、こんな日は、傘を片手に、思い切って外に出掛けてみよう
そして、雨があがって、雲の隙間から太陽が顔を出したら
それを背にしてこう言うんだ
そうすれば、きっと
京太郎「ねえ、洋榎さん」
洋榎「ん?」
京太郎「虹の見方を覚えてますか?」
ほら、見えた!
669: 2014/08/26(火) 00:32:29.57 ID:2fwUPHB10
終わりです
670: 2014/08/26(火) 00:33:05.18 ID:FIc/48CFO
乙!!面白かったよ
671: 2014/08/26(火) 00:33:40.88 ID:3J7UI0xHO
乙
良かったよ
良かったよ
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