327: ◆VmgLZocIfs 2015/08/30(日) 00:09:27.64 ID:YbqnwBiJo
長らく放置していました、>>1です
8/29 23:59にE7クリア、イベント海域制覇しましたので8/30日曜か8/31月曜には更新しようかと思います
【艦これ】曙「クソ提督と手を繋いだら放れなくなった」【前編】

331: 2015/08/30(日) 22:26:53.69 ID:YbqnwBiJo
カポーン、というお風呂特有の擬音は、いったい誰が考えたんだろうね。

そんな事を考えてしまうのは、間違いなく僕の心が平静を保てていないからだ。

だって。


漣「ほらほら、ご主人サマ、行きますよ?」

朧「漣、お風呂に入るのはちゃんと身体を洗ってから…って、わわ」

湯船に飛び込もうとする漣さんを引きとめようとして、間違って一緒にダイブしてしまう朧さんと。


潮「漣ちゃん、朧ちゃん大丈夫って、ひゃわわ~!?」


それを見て慌てて何もないところですっ転ぶ潮さん。お風呂のタイルに尻餅を付いている。

これが第七駆逐隊の日常だと考えると、何だか微笑ましいものがあったけれど。


そんな、元気いっぱいの彼女たちと一緒に、僕はお風呂に入ることになったんだから!
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 水雷戦隊クロニクル(1) (角川コミックス・エース)
332: 2015/08/30(日) 22:29:35.98 ID:YbqnwBiJo
だ、だから、そう。た、多少緊張するのは許して欲しい。

もっとも、態度的には平静を装っているけれど。

お姉さん艦娘たちに見られたら鼻で笑われてしまうような威厳だって、保つのは重要な仕事なのだ。


…いやまあ、それにお互い水着だしね。ハダカな訳ないしね。

べ、ちょっとは期待したとか、そういう訳じゃないんだ…いや、ほんとに。



漣「いや~、でもテンション上がりますなあ!」

朧「そうだね。いつもと違うお風呂の入り方だと、新鮮だね」


潮「うぅ…私はちょっと、というか凄く恥ずかしいですぅ」

朧「でも、提督と一緒にお風呂に入るのは、何だか楽しいな」

333: 2015/08/30(日) 22:35:35.44 ID:YbqnwBiJo
うん、そう言ってくれると幾分僕の心が落ち着く。

けれども、まだ納得しきってないというか、開き直れていない子が一人、いる訳で。

だけれども僕と手を繋いでいる分、その子の姿が一番、僕の目に映る訳で。


提督「あ、あのさ、曙さんも」

曙「こっち見んな、このクソ提督っ」


提督「いや僕まだ喋ってないんだけど!?」

漣「おやおや、ぼのタンはま~だ照れてるのかにゃ?」


いつの間にか湯船にダイブしていた漣さんが上がってきて、要らないちょっかいを出してくる。

今は彼女のピンク色の髪の毛を縛るものはなくて…だから、いつもよりほんのちょっぴりだけ、大人っぽく見える。

334: 2015/08/30(日) 22:38:18.44 ID:YbqnwBiJo
…いや、やってる事はいつもの漣さんそのものなんだけどね。

でも、曙さんをからかう時のイタズラっぽい顔も、上気した頬のせいか、濡れた髪のせいか。

可愛さが2割増しくらいされてるみたいで、ちょっとだけ僕をドキリとさせた。


曙「て、照れてない!っていうか人を変な呼び名で呼ぶな!」

提督「ま、まあまあ。お互い水着なんだしさ、曙さんも」

曙「こっち見んなクソ提督!」

提督「だから僕まだ何も喋れて無いんですけど!?」


助け舟を出そうとしたのに…もう、いいかげん話を前に進めさせて欲しい。

いくら混浴といっても、お互い水着なんだから…そう恥ずかしがる事も無いハズ。

335: 2015/08/30(日) 22:38:58.75 ID:YbqnwBiJo
提督「しかし…」


漣「ん?」

朧「どうしたの、提督」

潮「ひゃわああ、あ、あんまり見ないでくださぃ」


もにゅ、もにゅ、ぽよん、か。

…やっぱりちょっとは恥ずかしがってもいいのかもしれないな、この娘たちは。

336: 2015/08/30(日) 22:42:38.32 ID:YbqnwBiJo
そして、一方で。


曙「な、何よ」


ぺたーん。


滅茶苦茶恥ずかしがっているけれど。

状況的には一番恥ずかしがらないでも良い様な娘もいる訳で。

…なんて、本人に知られたら殺されてしまうくらい失礼な事を思った。


いや、あんまり高い山だと登るのも疲れちゃうしね、うん!

342: 2015/08/31(月) 22:06:11.74 ID:YruetWIOo
神通!浴衣!!浴衣神通!!!
ああ、生きてて良かった…これで神通ちゃんと一緒に夏祭りに行けるんだね・・・

りんご飴を一緒に食べたりかき氷を交換したり、慣れない下駄につまずいて急接近しちゃったりするんだね。
人ごみではぐれない様に、けれども手を握ることは出来なくて真っ赤な顔を俯いて隠しながら提督の浴衣の裾だけを摘む。
少し休憩を、と脇道に逸れた先に人気の無い神社があったりして、静まり返った境内で一大決心をした神通が・・・

っていうカンジの同人、誰かお願いします(真顔)

343: 2015/08/31(月) 22:07:04.55 ID:YruetWIOo
水着だから、大丈夫。
水着だから、健全。


そんな風に考えていた先ほどの僕をぶっ飛ばしてやりたい。


朧「ちょっと、漣。冷たいってば」

漣「え~、気持ちいいっしょ~?ほれほれ~」

朧「きゃっ…もう、おかえし!」

漣「回避」


冷水をかけあって遊んでいる漣さんと朧さん。

でも、漣さんが避けた先には…。

344: 2015/08/31(月) 22:07:42.72 ID:YruetWIOo
潮「ひゃわわ!?」

朧「わ、潮ごめん!」

潮「つ、冷たいですぅ」



大浴場ではしゃぐ水着の女の子たち。

これは…何というか、もしかして相当けしからん光景なんじゃなかろうか!?


海で見る水着よりも、お風呂場で見る水着の方が何故かイケナイ雰囲気を感じるような。

そんな気がするのは、気のせいだろうか(いや、気のせいではないのだ)



朧さんって、意外とスタイルいいんだな…。

345: 2015/08/31(月) 22:09:20.53 ID:YruetWIOo
曙「まったく。お風呂でくらい、大人しく出来ないのかしら」


はしゃぐ自分以外の第七駆逐隊を見て、僕の隣で呆れた声がする。

あいつら幼稚ね、なんて切り捨てている曙さんだけれども、それは口調だけだ。

きっと、僕と手を繋いでいるこの状況じゃなかったら、あの騒ぎに加わっていたに違いないんだから。



そんな曙さんらしい虚勢にくすりときて僕は、今まで意識的に見ないことにしていた隣を。

つまり、自分のすぐ横にいる彼女の水着姿に視線を向けた。向けて、しまった。

346: 2015/08/31(月) 22:11:28.87 ID:YruetWIOo
セーラー風の艤装は、洋上に降り注ぐ真夏の太陽から見事、彼女の肌を守りきったらしい。

彼女の、水着に覆われていない部分が女の子特有の柔らかさを表現していて、それが僕の視線を捉えて放さなかった。


撫で方のほっそりとした体型が、夢に思い描くような僕の理想に限りなく近くて。

ああ、やっぱり僕は華奢な女の子に惹かれるんだなあと、無意識にそう思った。



提督「危なかったなあ」


誰にも聞こえない大きさで、そう呟く。

347: 2015/08/31(月) 22:14:21.07 ID:YruetWIOo
風呂場で、水着姿で隣り合っているという、このヘンテコな状況でなかったら。

曙さんのか細い腕を思い切り引っ張って、抱きしめてしまっていたかもしれない。

曙さんの身体が軋んで悲鳴を上げてしまうほど、強く、強く、強く。



白磁のような肌を風呂場の熱でうっすらと上気させて、頬を赤らめた横顔。

痩せすぎているけれど、やはり女の子なんだという事を主張する薄い胸。

そして、スカートの奥に隠されていた、意外にもスラリと伸びた健康的な脚。



曙さんの全てが僕の心臓を絡め取って、それでもなお、ギリギリのところで理性が働いて。

だから、この突拍子もなく湧いてでた欲望は、どうにかして唾と一緒に飲み込むことが出来た。

348: 2015/08/31(月) 22:15:17.41 ID:YruetWIOo
曙「な、何よ」


僕の視線に気がついたのか、曙さんが話しかけてくる。

水着姿を僕に見せるのがまだ恥ずかしいのか、つり目の顔だけをこちらに向けて。

まさか、普段は見れない君の身体に見蕩れていました、なんて言えない。



だから。



提督「水着、とっても似合ってるなって思って」


嘘ではないけれども、本音ではない答えを返して。

もうのぼせてしまったのだろう、曙さんの頬がさらに赤みを増した。


そういう事に、しておこう。

356: 2015/09/14(月) 21:39:09.56 ID:x8JeRaXlo

23:00

神通「今日の演習はこれで。ゆっくりお休みになって下さいね」

提督「(いつもより早く終わったぞ!)」

神通「では、また明日」

提督「(優しい神通ちゃんきゃわわ)」


00:00

神通「さあ提督。演習のお時間です」

提督「え」

神通「え」

357: 2015/09/14(月) 21:42:58.78 ID:x8JeRaXlo
バカばっかやってないで投下します

358: 2015/09/14(月) 21:43:54.54 ID:x8JeRaXlo
鎮守府の大浴場は、一般的な銭湯と同じ構造だと思ってくれていい。

ただの銭湯と違う唯一の点は、ここが鎮守府内の施設であるため、艦娘が使用することだろうか。



沢山の艦娘――つまりは年頃の女の子たちと、男である僕一人がここの使用者である。

……これだけで、普段僕がどれだけ肩身の狭い思いをしているか、分かって欲しい。

359: 2015/09/14(月) 21:45:06.64 ID:x8JeRaXlo
漣「はい、じゃあご主人様、そこに座って」

提督「え?」


浴場の洗い場の一角に腰掛けるようにと、漣さんが僕に言う。

まずは身体を洗えってことだと思うんだけれど、何でわざわざ僕に?



漣「一人だと身体、洗えないっしょ?」


ああ、確かにそうだ。片手だもんね。

これは思ったよりも大変そうだ、と僕が思っていると。

360: 2015/09/14(月) 21:46:36.92 ID:x8JeRaXlo
潮「私たちがその、お、お手伝いしますっ」

潮「あ、も、もちろん曙ちゃんの方も!」

曙「へえ、潮。何だか私がついでみたいな扱いだけれど?」



僕の隣りで曙さんが減らず口を叩いて、潮さんを困らせている。

まあでも、僕も曙さんも、片手じゃあ洗いにくいもんね、良かった良かったって。



提督「えええええええええええええええええ!?」

361: 2015/09/14(月) 21:47:40.67 ID:x8JeRaXlo
曙「うるっさいわね、クソ提督。いまは耳が近いんだから気をつけなさいよ!」


いやいや、今そんな事言ってる場合じゃないから!

むしろ何で曙さんは慌ててないの!?だっておかしいだろ、これ。


漣さんや潮さん、朧さんが僕の身体を洗ってくれる?

それはもう確実に何かの法律に引っかかること間違い無しなんじゃなかろうか。

こんなの絶対、イカガワシイお店でやってそうな事じゃないかっ。


漣「大丈夫ですよご主人さま。お金は取りませんからセーフです」

提督「勝手に僕の心読まないでくれる!?」

362: 2015/09/14(月) 21:48:39.92 ID:x8JeRaXlo
それにむしろ、この場合お金を取らない方がアウトなんじゃ?

上司と部下、セクハラ、不祥事……なんて言葉が、目に浮かんでは消えてゆく。



提督「やっぱりそんな事をしてもらう訳には……」

朧「これくらい大丈夫です!お任せ下さい!」  だから何でそんなイイ笑顔なの!?



朧さんだけはマトモな感性を持っていると信じていたのに……。

それとも何か、お風呂を上がった後に僕をセクハラで訴える計画でもあるんだろうか。

100%敗訴する未来しか見えないんですけど。僕が。

363: 2015/09/14(月) 21:49:06.97 ID:x8JeRaXlo
ぐるぐるとそんな心配をしつつも、目の前には水着姿の美少女たちがいるわけで。

しかも、僕と曙さんを洗い場に座らせようとするせいか、妙に距離が近い。


そのせいで僕の思考はまさに、イケナイピンク色に染められつつあった。

そして、そうやって惚けている間にも、状況はどんどん進んでいく。

364: 2015/09/14(月) 21:49:33.00 ID:x8JeRaXlo
漣「ささ、ご主人さま。お覚悟~!」

曙「ちょっと、私の方もしっかりやってよね」

提督「え、ちょっと、駄目だってばあ!?」



ちょっと待ってくれ。

僕、これから一体どうなっちゃうのさあああ!?

370: 2015/09/17(木) 19:27:57.02 ID:pU9NX4qko
どうなっちゃうも何も。


漣「ご主人さま、かゆいところはないっすか~?」


まあ、普通に髪を洗ってもらっているだけなんだけれどね。

いやうん、こういうオチだって分かってたから。他の期待なんて全然してなかったし。


だから、残念な気持ちがこもらない様に。

至って冷静なフリをして、漣さんの問いかけに答えることにする。


提督「ん~、特にないです」

371: 2015/09/17(木) 19:28:46.71 ID:pU9NX4qko
わしゃわしゃと、漣さんの繊細な指が僕の頭を撫でていく。か細い、女の子の手だ。

時に優しく、時に激しく、漣さんの指が僕の髪の毛をかき分けて。

その度に僕は、ほう、と息を漏らして押し寄せる快感に身を委ねることになる。



まるでプロの美容師さんにしてもらうみたいに気持ちがいい。

どれくらい気持ちが良いかというと。

このままして貰ってていいのかなって迷うくらいには。



……あれ、僕、ただ髪を洗って貰っているだけだよね?

何でこんな後ろめたい気持ちになるんだろう?

372: 2015/09/17(木) 19:29:51.88 ID:pU9NX4qko
提督「ね、ねえ」

漣「ほら、喋らない、喋らない。口に泡が入るっしょ?」


突然耳元で漣さんの声がして、僕はますますドキリとした。

いま僕の目は、掻き立てられたシャンプーの泡で塞がれていて、視界の自由はない。



漣「私の指、良いっしょ?気持ちいい?」

提督「うん……って、何を言わせるのさ!?」


隙あらば提督にセクハラしよう、なんて艦娘は、駆逐艦ではこの娘くらいだなと考えて。

そう言えば、漣さん以外の三人はどうしているだろうと思い至ると、丁度声が聞こえてきた。

373: 2015/09/17(木) 19:30:33.07 ID:pU9NX4qko
潮「曙ちゃんは、かゆいところないですか?」

曙「潮、もうちょっと強くやって」


潮「うん……こう、かな?」

曙「そんな感じ、そんな感じ」


どうやら僕の隣りでは曙&潮コンビが同じことをしているらしい。

とすると、残るあと一人は……?

374: 2015/09/17(木) 19:31:39.86 ID:pU9NX4qko
朧「漣、ちょっと代わってくれない。私もやってみたい」

漣「しょうがいないにゃあ」



僕の頭を洗うのって、そんなに楽しそうだろうか?

それとも退屈だっただけか、朧さんも美容師ごっこに名乗りを上げたけど。



い、いや。朧さんにまでしてもらうわけには……。

何だかちょっと悪い気がしたので、もういい、と断ろうとした。

けれど。

375: 2015/09/17(木) 19:32:08.75 ID:pU9NX4qko
提督「あ、あのさ」

朧「駄目?」

提督「オネガイシマス」


さっきの漣さんと同じように……。

お願いする様に耳元で囁かれたら、断るものも断れないじゃないか!



朧「じゃあ、いくね。提督」


背中から気配が伝わってきて、漣さんの代わりに朧さんが僕の後ろに立ったのが分かった。

380: 2015/09/21(月) 20:59:21.83 ID:n8i5YUaZo
朧さんの、漣さんよりも少しだけ大きくて長い指が僕の頭をかき分けるのを感じて。

髪の洗い方一つとっても、個性って出るもんなんだなあと、そんな事を思う。


ガシ、ガシと、かゆいところを潰していくようなやや強い感じ。

朧さんは、自分でする時もこうして、引っ掻くようにするのだろうか。



朧「ふふ」

提督「どうしたの」


彼女から漏れ出た笑い声が何だかおかしくて、つい反応してしまう。

381: 2015/09/21(月) 21:00:52.37 ID:n8i5YUaZo
朧「提督とこんなに近くで話すの、初めてかも」

提督「あ~、確かにそうかもしれないね」



もちろんそれは任務以外で、という意味。

第七駆逐ではムードメーカーの漣さんに旗艦を、真面目な朧さんに補佐を任せる事が多い。


だから、僕の目がまず行くのはお騒がせな漣さんな訳だ。

ちなみにその次が跳ねっ返りの曙さん、そして怖がりな潮さんかな?

382: 2015/09/21(月) 21:01:32.96 ID:n8i5YUaZo
思い返すと今まで、朧さんだけを見る機会、というものが無かったのかもしれない。

いかんいかん、僕ってば、これは相当もったいない事をしていたのかもしれないぞ。



そう思ったから、しばらく、僕は朧さんと任務以外の事を話してみた。

わしわしと、朧さんが僕の髪を洗っている間に、文字通り、すごく近い距離で。


それはお互いが好きな本のことだったり、七駆の休日の過ごし方だったり……

そして、彼女が今度買おうとして悩んでいる浴衣の色だったりした。

383: 2015/09/21(月) 21:02:08.97 ID:n8i5YUaZo
提督「朧さんの浴衣姿かあ」

朧「はい。今度漣たちと4人で、見に行こうと――」


提督「どんなだろうなあ。すごく見てみたい」

朧「えっ」


頭の中で朧さんの可憐な浴衣姿を想像していると、思わず本心が転げでた。

それで、さっきまで勢いよく僕の髪を撫でていた朧さんの指が、ぴたりと止まる。

384: 2015/09/21(月) 21:04:11.94 ID:n8i5YUaZo
あれ、どうしたんだろう。

椅子に座って前を向いているうえに、僕の視界はシャンプーの泡で塞がれている。

だから僕は動きを止めた朧さんの表情を確かめることが出来ずに、心の中で首を傾げた。



僕の頭を洗い終わった、というよりも。

何だろう、思わず固まっちゃったみたいな、そんな雰囲気を背中から感じた。

385: 2015/09/21(月) 21:06:46.56 ID:n8i5YUaZo
提督「あ、もしかしてハードル上げすぎちゃったかな?」

提督「朧さんなら、どんな浴衣でも似合うと思うから気にしなくていいと思うよ」



だってここは美少女揃いの横須賀鎮守府。

衣装だけが美しい、なんていう馬子はいないのだ。

どうせ異性の目も僕だけなんだから、そんなに気負う必要もないだろうし。

386: 2015/09/21(月) 21:08:49.49 ID:n8i5YUaZo
朧「え、やっ……。あの、あの」

提督「あー、なんかホント、余計なこと言っちゃったね。気にしないで?」



どうやら朧さんを困らせちゃったみたいだと思って、もう一度挽回を図る。

最後はどうにか僕の期待をわかってくれたみたいで、

387: 2015/09/21(月) 21:11:11.97 ID:n8i5YUaZo
提督「買ったら見せてね。朧さんの浴衣姿」

朧「わ、私の、浴衣姿、ですか」


提督「うん。駄目かな?」

朧「はい……。わ、わかりました」



短く返事をしてくれた。

ちなみにその際、加減を間違えたのか、シャンプーの泡がごっそりと僕の耳にかかって。

388: 2015/09/21(月) 21:11:41.42 ID:n8i5YUaZo
漣「ふふーん、ついにオボロンもご主人様の毒牙にかかったか~」

朧「ち、違うからっ。全然、そんなのじゃないから!」


漣「”そんなの”って、何ジャラホイ?」

朧「漣うるさいっ」



だから、かろうじて僕に聞こえたのは、くぐもった誰かの声と。

そして、珍しく声を張り上げた、悲鳴の様な朧さんの声だった。

389: 2015/09/21(月) 21:12:39.27 ID:n8i5YUaZo
曙「こんの、クソ提督はぁぁぁ!」

提督「痛い痛い。曙さん手、強く握りすぎ!」

曙「ふんっ」



さらにさらに次の瞬間。

全然関係ないハズの曙さんから、何故か攻撃されてしまったのであった。

394: 2015/09/23(水) 18:56:45.73 ID:sCSwdDYLo
次のネタやりたいんだ、次のネタ。
このスレも200レス程度で終わらせる予定だったのです(根拠は無し)

ではいきます

395: 2015/09/23(水) 18:57:21.58 ID:sCSwdDYLo
ザブン、と風呂桶に汲まれたお湯が真っ逆さまに落ちてきて。

先程までの至福の時間はシャンプーの泡とともに流されてしまった。



提督「ふぅ、落ち着いたよ。漣さん、朧さん、ありがとう」

潮「あ、あのぅ……」

提督「?」


そういえば、お風呂に入ってから潮さんとは会話をしていない。

ずっと、曙さんの方を世話していたからだ。普段から二人は仲が良いしね、当然か。

396: 2015/09/23(水) 18:58:08.17 ID:sCSwdDYLo
でも、もう髪の方は洗ってもらったし……。

潮さんに手伝って貰わなきゃいけない事は、もう無い気がする。


提督「どうしたの、潮さん。曙さんの方は終わった?」



だから、僕はすっかり油断していた。とてもとても、油断していた。

何かの世間話だろうかと、何気なく水を向けた僕のその一言に。


潮「こ、今度は私が、お、背中……お流ししますね」

提督「へ?」


いきなりものすごい破壊力を持った答えをぶちまけて来たのだ。

397: 2015/09/23(水) 18:58:46.37 ID:sCSwdDYLo
ボディソープを染みこませたスポンジが、僕の背中を走る。

いつも自分の丁度良い力加減でやるそれも、なんだか今日は落ち着かない。


髪よりも、背中を洗ってもらう方が妙に緊張するのは何故なんだろう?

その理由は、背中の方が肌を晒しているからなのか、それとも。



提督「あ、あの、潮さん」

潮「ひゃあああ!?」

提督「ええ!?」

398: 2015/09/23(水) 18:59:30.21 ID:sCSwdDYLo
担当してくれている艦娘が、大方の予想通り、ことのほかおどおどしているからか。

そう。要するに、僕にビビりまくって、背中を洗う手に全く力が入っていないのだ。



提督「力、もう少し強くしてくれるとありがたいな」

潮「ふぇ……こう、ですか?」



だから何でそう泣きそうなの??

はたから見ると僕が無理矢理させているみたいで困るんだけど……。

399: 2015/09/23(水) 19:04:46.91 ID:sCSwdDYLo
漣「嫌がる潮をオトナのケンリョクで」

提督「冗談じゃなくなるからそれ以上やめようね」



氏ぬから。おもに僕が、正規空母の容赦ない爆撃で。

彼女に新型の爆撃機を配備するんじゃなかったと、今更ながらに後悔する。

せめて加賀さんにしておけば……あ、これも駄目だ、多分こっちも氏んじゃう。

400: 2015/09/23(水) 19:09:17.55 ID:sCSwdDYLo
曙「ちょっと!潮に変なことさせないでよっ」

提督「させてないからっ」


曙「……信用出来ないわ」

朧「曙。私が見張ってるから大丈夫」



だから何でこう僕ばっかり責められますかね!?

曙さんは少し、冗談を間に受ける傾向があるなあ…まあ、仕方ないか。

一番仲の良い潮さんの事となると余計、必氏になるんだろう。


……朧さんが警戒しているのは説明がつかなくて泣きそうだけど。

朧さんとはさっき仲良く話たのに、どうしてこうなったのさ?

401: 2015/09/23(水) 19:10:03.93 ID:sCSwdDYLo
曙「潮も潮よ、嫌ならやらなくていいんだから!」

提督「嫌がってる前提で話進めるのやめてくれないかな!?」



そりゃあ僕も、女の子にモテる方だ、とは言わないけどさあ。

ハッキリ事実を突きつけられると、地味に傷つくんですけど……。

402: 2015/09/23(水) 19:11:48.76 ID:sCSwdDYLo
でも、そうなのだ。曙さんの発言で思い至った。

潮さんの様子を見るに、大方、漣さんや朧さんが僕の髪を洗ってくれたから。

だから、自分も上官に何かしなければいけないか、と気にしてしまったんだろう。



これは、良くない。

上官だからといって、何でも要求して良いわけじゃあないんだから。



少しでも艦娘たちがそんな空気を感じてしまっていたとしたら。

それは僕の失態だ、すぐに修正しないと。なるべく優しい声色を心がけて……

403: 2015/09/23(水) 19:12:31.05 ID:sCSwdDYLo
提督「潮さん。僕は気にしないから、無理しないで――」

潮「い、嫌じゃないですっ!」

提督「へ?」



潮さんを説得しようとしたら、いきなり出鼻をくじかれた。

震えながら、目を伏せながらだけれども、潮さんは。

さっきの悲鳴と同じくらい大きな声を、鎮守府の大浴場に響かせるのだ。

409: 2015/10/02(金) 19:52:32.12 ID:5VRUiUH5o
曙「ちょっと、潮。あんた何言ってんの」

曙「こんなクソ提督なんかに気を使わなくたって」


うん、君はもう少し僕に気を遣おうか。
知らないと思うけどクソ提督はね、実は君の上官なんだよ?



潮「あぅぅ……曙ちゃん……」


いつもなら、曙さんの一喝で尻込みしてしまう潮さん。

だけど、今日は何故だか、少しだけいつもと違うようだ。

410: 2015/10/02(金) 19:53:30.20 ID:5VRUiUH5o
潮「そんなんじゃ、ないの…」

曙「え」


いつもと違って、潮さんのことばに、曙さんのほうが身体をこわばらせる。


潮「その、提督は、いつもこわがりな私にも優しくしてくれるから、だから…」

潮「提督が困ったときくらい、少しでも助けになりたいな、って」

曙「な、なによあんた。そんなクソ真面目な考え方、良くできるわね?」


曙さんお得意の憎まれ口も、こんな真っ正直なことばを前にしては分が悪かった。

皮肉屋にはストレートな思いのぶつけ方が一番効果的なのだと、僕も思うんだ。

411: 2015/10/02(金) 19:53:58.25 ID:5VRUiUH5o
だって…


漣「メインヒロインキターーー!」

朧「確かに、この優しさはメインヒロインなのかな?」

漣「ねね、提督はどう思――」


そうやって外野が盛り上がっているなかで、僕は。


提督「……やばい、なんか泣きそう」

漣・朧「そんなに!?」


ど直球の優しさ(しかも、爆撃なし)に、これ以上ないくらいの衝撃を受けていたのだから。

412: 2015/10/02(金) 19:57:03.56 ID:5VRUiUH5o
そう。

今日の鎮守府の日常を物語にするとしたら…

ヒロイン役は間違いなく潮さんだろうと、心の中で呟きながら、僕はしばらく感動に打ち震えた。



提督「いまなら潮さんの優しさについて、論文一本書けそう」

潮「ふぇぇ!?」

朧「だから、そんなに!?」


朧さんの素っ頓狂な声って、かなり珍しいかもしれない。

413: 2015/10/02(金) 19:57:55.39 ID:5VRUiUH5o
でも、何がおかしいのさ、当然のことだろう?
むしろ僕は潮さんの聖母のような優しさにを後世に伝える義務があるのかもしれない。


潮「そ、そんな事されたら、恥ずかしくて氏んじゃいますぅ」

曙「なんでクソ提督の頭がおかしくなってるのよ」

漣「…しばらくおちょくるのやめようかな」


あの漣さんが、何故だか深刻そうな声色で呟くのが聞こえて。

意味が分からない僕は、ますます首を傾げることになるのだった。

421: 2015/10/04(日) 19:16:14.12 ID:CDg47iD4o
辛くて見れなかった四月は君の嘘のラスト2話見てきました
では、いきます

422: 2015/10/04(日) 19:16:39.82 ID:CDg47iD4o
潮「あ、あのう……こう、でしょうか?」


不安げな潮さんが尋ねてくる。

こればかりは妥協出来ないので、僕は注文を追加した。



提督「うーん、やっぱりもう少し強く、かな」

潮「ふぇぇ……」


ゴシゴシと、僕はけっこう強い力で擦られるのが好きなのだ。

423: 2015/10/04(日) 19:17:05.71 ID:CDg47iD4o
漣「提督は強く擦られるのが好き、っと。メモメモ」

提督「身体を洗うときの話だよねそうだよね!?」

漣「そうです、身体を洗う時の話ですよ?」


漣さんが言うともう、他意があるようにしか聞こえないんだけれども。

それも、すっごく邪な意味での。

424: 2015/10/04(日) 19:17:47.01 ID:CDg47iD4o
提督「潮さん、まだ足りないかなあ」

潮「ご、ごめんなさいぃ」


スポンジにまるで力が入っていないのだから、それも仕方がない。

背中を向けているけれども、潮さんがへっぴり腰なのが簡単に想像できた。

でもそんな事を言うと、また僕の発言を曲解してセクハラしようとする娘がいるので、何も言わないでおく。

425: 2015/10/04(日) 19:18:37.80 ID:CDg47iD4o
朧「潮、もうちょっと腰に力を入れて――」

提督「だからセクハラだってば、それ!」


反射的に反応する僕だけれども、これは決定的な失敗だった。


朧「え?」

提督「は?」

漣「ほう」


だって、そう、今のは。

もしかしなくても、今発言したのは漣さんではなく朧さん、でしたかね……?

426: 2015/10/04(日) 19:20:15.61 ID:CDg47iD4o
漣さんではなく、朧さんが発言したということ。

つまりそれは、”そういう”意味ではなくて、純粋なアドバイスだった訳で。

にゅふふ、と漣さんが、猫のような不気味な笑い声をあげる。


提督「あ、いや、あの……」

漣「ご主人様ご主人様、なんで腰を入れるとセクハラなんですか~?」

曙「さささ、サイッテー!氏ね、クソ提督、クソ提督、クソ提督っー!」


潮「?」

朧「潮は気づかない方が良いよ?」


次の瞬間。

朧さんの忠告もむなしく、潮さんのスポンジを動かす手がピタリと止まる。

427: 2015/10/04(日) 19:21:03.56 ID:CDg47iD4o
潮「え……あ、あっ!?」


ボン、と、潮さんの顔が茹で上がる音がした。

やばいやばい、これはやばい!お風呂場で、水着姿の駆逐艦娘にセクハラだなんて!


提督「う、潮さん!」


僕の声かけが引き金となって、


潮「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

提督「ぎゃあああああ!?」


艦娘の怪力で走らされたスポンジは、まるで僕の背中の肉をごっそりと削り落とせるかのような摩擦を引き起こしたのだ。

……背中、ホントに大丈夫だよね?

428: 2015/10/04(日) 19:21:46.83 ID:CDg47iD4o
潮「ご、ごめんなさいぃっ」

曙「ちょっと、大丈夫なの!?」


漣「これが究極のダイエット方法……」

提督「大丈夫だし、しかも僕、ダイエットする必要ないし」


朧「提督、今無駄に敵を増やす発言はやめてくださいね口を開かないでください」


429: 2015/10/04(日) 19:22:25.23 ID:CDg47iD4o
なんで別方向から怒られるの!?

みんな痩せる必要ないし、別にじゃないか。

朧さんだって、見たところ大分スマートな……いやうんやめよう。




そう、こういう時こそ落ち着かなければならない。

大体の場合、ここからさらに余計な事をして騒ぎが起こるのだから。


それで、そんな意思は全くないのに、セクハラだとか言われて爆撃をくらうのだ。

ここでは曙さんにクソ提督クソ提督と言われて、漣さんにおちょくられるくらいだと思うけれど。

430: 2015/10/04(日) 19:23:16.03 ID:CDg47iD4o
提督「落ち着け、落ち着け。僕が何もしなければ大丈夫、大丈夫」


漣「これだからご主人様をからかうの、やめられないよね~」

朧「漣、あんたって本当に」

曙「どうしようもないわね」


うん、大丈夫。僕が用心していれば、もう何も起こるわけがないんだから。

435: 2015/10/16(金) 21:50:05.72 ID:eg6fnnl8o
曙が可愛すぎて最近つらいので投下します

436: 2015/10/16(金) 21:50:49.35 ID:eg6fnnl8o
提督「うう、背中が、背中が染みる……」

潮「提督、大丈夫ですか?」

曙「自業自得でしょ、馬鹿なんだから」


曙さんのことばが辛辣だけれども、おっしゃる通りで、今回ばかりは仕方がない。

潮さんが気にしすぎないように、なるべく平気なふりをしよう。

437: 2015/10/16(金) 21:51:17.75 ID:eg6fnnl8o
朧「さて、二人共、背中は流し終わりましたね」

提督「うん、ありがとう。助かったよ」

曙「片手が塞がってると、やっぱり不便よねえ」



まあその不便というのも、あと数時間のはなしだ。

一緒にお風呂、と聞いたときはどうなることかと思ったけれども、後は問題無いだろう。

438: 2015/10/16(金) 21:52:07.03 ID:eg6fnnl8o
……そうやって、僕が油断した時に声をかけてくるのは。


漣「んじゃ、ご主人さま、こっち向いて下さい」


そう、決まって漣さんなんだ。



提督「? 漣さんのほう?」

漣「あー、違う違う、身体ごとです!」

提督「え? ああ、うん?」

439: 2015/10/16(金) 21:52:41.13 ID:eg6fnnl8o
風呂椅子に腰掛けたまま、首だけ回そうとした僕だけど、それじゃ駄目らしい。

良く分からないけれど、それじゃあ曙さんにも協力してもらわないといけない。

手が繋がった状態では、身軽にくるりとターンを決めるわけにはいかないからだ。



提督「曙さん、一緒に」

曙「ん」


濡れたタイルに足を取られないように気をつけて、慎重に立ち上がる。

ゆっくりとした動作で、ちょうど僕が中腰になったところで、気になって聞いてみる。



それがいけなかった。

440: 2015/10/16(金) 21:53:12.56 ID:eg6fnnl8o
提督「でも、何で急に立て、だなんて?」

漣「だって、前も洗わないといけないっしょ~?」

提督「は? ま、前っ!?」



それはつまり、漣さんたちが洗うつもりだったのが背中だけじゃないという訳で。

多分それはみんな、親切心から出たことばで、悪気はないわけで。

純粋な少女たちの好意は、それだけに僕を慌てさせるのに十分だった。

441: 2015/10/16(金) 21:53:40.77 ID:eg6fnnl8o
提督「いいい、いい! いいから! 自分で洗うからっ」

朧「提督、そんなに遠慮しくても――」



遠慮しなかったらそれこそ犯罪だよ!

そう言おうとして――いったい、いつから僕は鳥頭になったというのだろうか。

ついさっきまで注意していた事をすっかり忘れて、勢いよく振り返ろうとしてしまった。

442: 2015/10/16(金) 21:54:08.14 ID:eg6fnnl8o
曙「ちょっ、クソ提督危ないっ」

提督「しまっ――!」


つるり、と、足元を滑らせる音がして。


443: 2015/10/16(金) 21:55:03.31 ID:eg6fnnl8o
ドンガラガッシャ!

提督「ふぎゃ!?」


風呂桶をひっくり返し、石鹸があらぬ方向へ飛び出して、おまけに僕は仰向けにすっ転んだ。

目をつむったまま、背中をしたたかに打ち付けた衝撃に悲鳴を上げる前に、さらにもう一撃。



ドン、と、何かが僕の全身に落ちてきた。軽いような、重たいような……そんな中途半端な印象。

不思議と”それ”は、背中に感じるタイルと違って、柔らかくて、なめらかな感触を僕の全身に伝えてきた。



これ、いったい何だろう?

444: 2015/10/16(金) 21:58:05.22 ID:eg6fnnl8o
提督「いたたた、何?」


目がまだチカチカする。思考が回らない。
降ってきたモノの正体を確かめようと、自由な方の手でそいつを触ってみた。


ふに。


??「ひゃんっ!?」

提督「あれ?」


何だか、聞き覚えのある声が耳元でしたような?

右手で”曙さん”の手を繋ぎながら……曙さん?

どこからか沸いた疑惑を振り払うように、僕はもう一度左手を走らせた。

445: 2015/10/16(金) 21:59:00.50 ID:eg6fnnl8o
曙「ばっ、ばか、だから、どこ触ってるのよ!」

提督「……」

曙「ひゃ、んっ……ちょっ、もうやめっ」



僕の上にある物体の感触を確かめようとする度に、曙さんの悲鳴があがる。

ここから導き出される結論はというと、やはり。




まさか。

いや、まさか、ね?

446: 2015/10/16(金) 21:59:35.91 ID:eg6fnnl8o
だけれども、そんな僕の現実逃避は、そう長くは続かない。

視界から闇が徐々に晴れて、じんわりとした景色の中、僕が見上げていたのは。


提督「や、やあ、曙さん」

曙「こ、こ、こ、こ……!」

あれ、ニワトリだったかな?

曙「この、クソバカセクハラ提督ーっ!」



涙目になりながら、拳を作った利き手を存分に振りかぶって。

僕の頬に狙いを済ましている、曙さんの姿だった。

447: 2015/10/16(金) 22:00:27.58 ID:eg6fnnl8o
漣「あちゃあ、流石ご主人サマ」

朧「もしかして漣、狙ってたでしょ」

漣「まさか。何か起こらないかなあ、とは思ってたけど」

潮「提督、大丈夫ですかあ!?」


曙さんの見事なストレートを受けて、ぐわん、ぐわんと揺れる頭が考えていたのは。

いったい、曙さんの”どこ”を触ってしまったのだろう、ということだけ。


たぶん、伝わって来た感触からして、背中だとは思うんだけれど。

万一、違った場合のことを考えて……何故そう思ったのかは、ことばにしないことにする。


そんな下ならない、邪な思考を働かせながら、僕は意識を手放した。

448: 2015/10/16(金) 22:01:51.32 ID:eg6fnnl8o
やっとお風呂編が終わりました、あとは布団に入るだけじゃ

454: 2015/10/18(日) 20:37:41.57 ID:UGKAAHWXo
提督「いやあ、でもこれで一日を乗りきったなあ」



どうにかこうにか(社会的には)無事に入浴を済ませることが出来た。

大浴場を出たところで待っていた夕張さんの最終チェックを受けたけれども、特に異常は無し。

明け方、起きる頃には二人の手をつなぎ止めている磁力も切れて、解放されるだろうとの事だった。



つまり、後は本当に寝るだけでよしという訳だ。女の子たちと同じ部屋で寝るのは褒められたことじゃないけれども、今回は非常事態。

先例もあることだし、仕方がないと思う。

455: 2015/10/18(日) 20:38:13.37 ID:UGKAAHWXo
これでようやく、僕と曙さんのドタバタ劇も、目出度く終わりを告げることとなる。

だから、曙さんもほっとしているだろうと思って、隣の様子を窺ってみた。



曙「う、うん。そうね」

提督「曙さん?」



何だか、様子がおかしい。ちょっと、僕の思っていたのと違う態度だ。

”やっと離れることができて、せいせいする”くらいは言われると思ったけれど……

456: 2015/10/18(日) 20:38:46.00 ID:UGKAAHWXo
提督「どうしたの、曙さん。元気ないみたいだけれど?」

曙「え、あっ……う、うん」


提督「大丈夫? どこか調子、悪い?」

曙「いや、あの……そういう、わけじゃ」



湯あたりでもしたのだろうか。大浴場でもかなりドタバタしたし、心配だ。

いつもと違っていまの曙さんはしおらしい表情で、僕の問いかけにも生返事。

それに戸惑った僕は、救いを求めようと他の三人へと視線を向けてみるけれど……

457: 2015/10/18(日) 20:39:13.52 ID:UGKAAHWXo
漣「ねえねえ、おぼろん、潮」


どうやら曙さんの心配をするよりも、彼女たちは内緒話に夢中な様子だった。

漣さんがしきりにこちらを見ながら、目を見張る朧さんや潮さんに何か言っている。



提督「あの三人、何を話しているんだろうね?」

曙「さあ」

提督「?」


うーん、曙さんはやっぱり元気が無いみたいだけれど……

他の三人が慌てていないところを見ると、あまり焦る必要が無いんだろうか?

458: 2015/10/18(日) 20:39:47.55 ID:UGKAAHWXo
などと僕が首を傾げていると、こそこそとした話し合いが終わったようだ。

漣さんが妙に得意げな顔をして、発言権を得ようと手を上げた。


提督「どうしたの、漣さん」


挙手の必要はないんだけどなあ、と苦笑しながら、僕。


漣「ではでは、私たちはここで失礼しようかと思います!」

提督「は?」

459: 2015/10/18(日) 20:40:14.88 ID:UGKAAHWXo
しばし、ことばの意味が分からずに固まる僕に、今度は朧さんが、


朧「ですから、私たち三人はいつもの部屋で寝るので」

潮「曙ちゃんと提督には、ここでお別れを、と」



二人のことばで、今更ながらに気づいた。

僕たち一行は丁度、執務室へ繋がる通路と、第七駆逐専用の寮部屋へ続く階段との分岐に差し掛かっていたのだ。

460: 2015/10/18(日) 20:41:30.40 ID:UGKAAHWXo
でも、僕が……僕たちが指摘すべきなのは当然、そこじゃない。


曙「って、ええええええええええ!?」


僕と四人の他には誰もいない鎮守府の廊下に、悲鳴が染み渡っていく。




漣さんたちの発言の意味するところを理解した曙さんは、一瞬のうちに僕のやろうとしたことを全部済ませてしまった。


すなわち、悲鳴をあげて顔を真っ赤にして、全身を硬直するところまで、一切合切を。

どうやら、もうひと波乱ありそうだぞ、と、僕は覚悟を決める事にした。

461: 2015/10/18(日) 20:45:27.55 ID:UGKAAHWXo
今日は下準備したところまでです
曙視点も組み込みつつまとめていきたいです

467: 2015/10/19(月) 21:35:41.58 ID:jTipsPbNo
第七駆逐の部屋にある私の布団は、漣たち三人の手で後から運ばれてきた。

元々執務室にはクソ提督仮眠用の布団がひと組置かれていたため、用意するのは私の分だけ。

それを見た漣がふざけて「もしかして、持ってくる必要無かった?」とかほざいたので、三人まとめて怒鳴って追っ払ってやった。

逃げ足だけは速い奴らだ。



曙「これでよし、っと」


残された私とクソ提督でも、あとの作業はなんとか出来たし。

テーブルや来客用の椅子なんかを部屋の端に片付けてスペースを作り、布団を並べて準備完了。


468: 2015/10/19(月) 21:36:22.58 ID:jTipsPbNo
うん、あとは……


提督「後は寝るだけ、だね」

曙「そ、そうね」



そう、後は寝るだけだ。

大きな本棚と執務机と端に追いやった家具に囲まれた状態で、二人並んで寝るにしては狭く感じるこの部屋で。

そう、この部屋で、クソ提督と私が、寝るだけだ。

469: 2015/10/19(月) 21:37:06.51 ID:jTipsPbNo
って、無理、無理、無理~っ!



お風呂に入る前は、初めての秘書艦業務の疲れもあってか、意識していなかったけれども。

改めて仕切りなおして『さあ、一緒に寝ましょう』なんて、ハードルが高すぎる。

もちろんただ一緒に眠るだけなんだから、何かあるが訳無いのは分かってる。



分かってるんだけれども……

それでも、敷かれた布団を前にすると、心臓の高鳴りが抑えられない。

もうこれ以上は早くならない、って、痛いくらいに私の心臓は脈打っていたのだ。

470: 2015/10/19(月) 21:37:46.23 ID:jTipsPbNo
そう言えば、クソ提督はどう思っているんだろうか。

私と……女の子と二人きりで、寝る事について?



全然ちっとも、何とも思っていないのかな?

それとも……ちょっとは、ドキドキしてくれているんだろうか。

いまの私の……百万分の一くらいには、ドキドキ、してくれているんだろうか。



ねえ、クソ提督。

どっち、なの?

私といて、ちょっとは緊張してくれているの?

471: 2015/10/19(月) 21:38:49.40 ID:jTipsPbNo
提督「ねえ、曙さん」

曙「な、何よ」


平静を装って、私はクソ提督に返事をするけれども、続くことばが来ない。

彼はじっと、何かを試すように私のことを見つめている。


海のように碧く、美しい瞳。

耳に溶け込んでいく、ボーイ・ソプラノの声。


そのすべてが私に向けられていると気が付くと、何故だか涙が出てきそうになる。

472: 2015/10/19(月) 21:39:41.52 ID:jTipsPbNo
提督「どっちかな?」

曙「は?えっ、ななな、何がよ!?」



内心が見透かされたようで焦る私を見て、クソ提督はきょとんとした。

あ、危ない危ない。ここで余計なことを口走ったら、朝まで後悔で寝られなくなってしまう。

ことばだけでは意味が分からない、と彼の手元に視線をやって、ああ、先走らないで良かったと、私は胸をなで下ろした。

473: 2015/10/19(月) 21:40:55.97 ID:jTipsPbNo
提督「部屋の明かり、曙さんはどっちが良いのかなって。僕は真っ暗派なんだけどね」

提督「第七駆逐の部屋では、寝るとき、いつもどうなのかな」



執務室の照明を操作するリモコンを手にして、もう一度クソ提督が口をひらいた。

寝る際に部屋の明かりを全部消すのか、それとも残すのかということだろう。


……ええ、そうね。

そりゃあ、それを持ったまま聞かれれば、どんな要件かなんてすぐに分かるでしょうけどっ!

474: 2015/10/19(月) 21:42:09.54 ID:jTipsPbNo
もう、なんなのよっ。私は心の中で毒づく。声の方はというと、呆れすぎて出てこない。

こっちはこれだけ固くなってるってのに、あんたが気にするトコロはそこなワケ!?

緊張とともにやるせなさまでもが、私の中で最高潮に高まった。



それでも、いまのはタイミングがおかしかっただけで、相手に悪気は無い。

だから、この怒りはストレートにぶつけられない。万が一ぶつけたら、怒っている理由まで話さなくちゃならなくなるし、そんな事は出来ないから。

それでもこのモヤモヤを少しでも解消したかったので、せめて照明の件は譲ってもらう事にした。



第七駆逐の部屋は、真っ暗派ではないのだ。

475: 2015/10/19(月) 21:43:02.25 ID:jTipsPbNo
曙「茶色よ」

提督「へ? 茶色?」


分かんないの、と私はリモコンを奪い取って、カチカチっとボタンを押していく。

小さく電子音が鳴って、執務室は小さな豆電球の明かりを残し、薄暗さを得た。

その様子をみて納得したのか、クソ提督が、



提督「ああ、だから茶色かあ」

曙「いいから、もう寝るわよ」

茶色って言い方、あまり一般的ではないのかしら?

第七駆逐のみんながそう言ってるから、私も使っているんだけれど。

476: 2015/10/19(月) 21:44:02.90 ID:jTipsPbNo
それにしても、クソ提督の呑気さったら、なんて腹立たしいんだろう!

こっちはすごく、すごく緊張していたというのに……


部屋のあかりだなんて、どうでもいい事を真っ先に聞いてくるなんて、そんなの。

私と二人きりで夜を明かすことを、なんとも思っていない証拠じゃない!


なんだか過剰に反応してしまった私の方がバカみたいだと。

そうやって毒気を抜かれて、すっかり油断している私に。

布団に潜り込みながら、薄暗がりの中で、クソ提督が呟いた。

477: 2015/10/19(月) 21:45:00.66 ID:jTipsPbNo
提督「やっぱり、緊張するよね」

曙「えっ?」


ね、ねえ。い、いまの、何?

さっきのが私の聞き間違いはなかったとしたら……

クソ提督の方も、ちょっとはドキドキしているって……

……そういうこと、なんだろうか。


さっきの、部屋の明かりをどうするか、だなんてどうでもいい質問。

あれは、本音を言えなかったクソ提督がとっさにこぼした照れ隠し?

暗闇にしなくって、良かった。でも、まだ明かりが足りないから、同じことだろうか。

隣で寝るクソ提督がどんな顔をしているか確かめるにはもう、室内は暗すぎた。

492: 2015/10/25(日) 19:27:07.75 ID:G5exw76So
ああ、駄目だ。やっぱり、眠れる気がしない。

小さな豆球だけがぽつんと一つ、星のように執務室の夜空に瞬いているのを見上げながら、私は心の中でため息をついた。

その明かりが頼りなく、私の隣で寝ている人が確かにクソ提督なんだということを教えてくれている。



彼に握られた手が熱い。

身体はというと、まるで茨のうえで寝ているかのように固くなっているし、心臓のドキドキは収まってくれるどころか激しさを増していて、いまも時を刻んでいるはずの大時計の音すらかき消してしまっていた。



とんでもない一日だったからとても疲れているはずなのに、ぜんぜん寝付ける気がしない。

493: 2015/10/25(日) 19:27:43.14 ID:G5exw76So
曙「んっ……」


私はあまり寝相が良い方じゃない。

こういう日は布団の中でもぞもぞしながら眠りに落ちるのを待つのだけれど、すぐ隣にクソ提督がいるんじゃそれも出来やしない。



提督「やっぱり眠れそうにないや」

曙「えっ」


思考が内側に潜っていたためか、クソ提督のことばは頭の中に入らずに抜けていった。

そんな私の反応をどう勘違いしたのか、隣から少し慌てた口調が続く。

494: 2015/10/25(日) 19:28:25.51 ID:G5exw76So
提督「あ、ご、ごめん。起こしちゃったかな?」

曙「べ、別に……私、寝つきが悪い方だから」


嘘だ。寝つきが悪いのは本当。だけどいま寝れないのは、そのせいじゃない。

だけれども鈍感なコイツは私のことばを疑おうともせずに、



提督「そっか。じゃあ、僕と同じだね」

提督「僕も、不安だったり、気分が高ぶっていたりするとなかなか眠れないから」

495: 2015/10/25(日) 19:29:01.00 ID:G5exw76So
相手の顔が見えないのに、クソ提督が私に笑いかけたのが分かった。

いつものあの、柔らかで繊細な……こちらを包み込むようなあの笑顔。


曙「な、なによ。私と一緒に寝るんじゃ、不安だっていうの?」


何なんだろう。胸が締め付けられる。

それを誤魔化すためにいつもの憎まれ口を叩いたのに、


提督「違うよ、曙さんと一緒に寝てるかと思うと、ドキドキしちゃうから――」

提督「ああ、えっと。違うんだ、これは決してやましい意味なんてないからっ!」


とどめを刺しに来るなんて、本当に……

本当にずるいやつなんだと、思った。

496: 2015/10/25(日) 19:29:33.32 ID:G5exw76So
提督「だからさ」

提督「眠くなるまででいいから……少しだけ、お話しない?」

曙「えっ」

提督「駄目、かな?」


動揺して、こいつのこと以外何も考えられなくなっている状態の時に、そんな事言われたら。



曙「うん……」

曙「いいわよ」


素直にそう答えるしか、ないじゃない。

503: 2015/11/08(日) 21:11:09.03 ID:o0VXrM4Go
声を潜めて、クソ提督が、ぽつりぽつりと語りだす。


提督「今日は本当に、色々なことがあったね」

曙「ありすぎて、疲れたわよ」


そうやってぼやく私に、そうだねと薄く笑う気配がして。

それにつられて、私も少しだけ笑った。

なんだか枕が心地いい気がするのは、落ち着いてきた証拠かもしれない。


504: 2015/11/08(日) 21:11:55.58 ID:o0VXrM4Go
提督「夕張さんや青葉さんには困ったものだよ」

曙「鎮守府の騒ぎの半分はあの二人のせいよ」


提督「ふふ、かもしれない」

曙「そうよ、まったく」


それでも、クソ提督が二人を責めることはしないと思う。

あの二人のドタバタに巻き込まれるのは迷惑だけれども。

本当に本当に、迷惑で、たまったものじゃないんだけれども。


でも、あいつらの起こす騒ぎは嫌いじゃない。

私がそう思うんだから、多分コイツも同じ気持ちのはず。

505: 2015/11/08(日) 21:12:50.42 ID:o0VXrM4Go
提督「でもそのおかげで、今日は楽しかった」

提督「歳下の艦娘を秘書艦にしたのも、初めてだったしね」


曙「いつもと違って、手を抜けたから……かしら?」


提督「ち、違うよぅ」



少し慌てて否定するところが、なんだか可愛い。

いつも鈴谷がからかっている理由が分かる気がする。

歳上組の艦娘からすれば、クソ提督なんか絶好の獲物だろうし。

506: 2015/11/08(日) 21:13:56.04 ID:o0VXrM4Go
提督「でも、明日からが大変なのは本当」

提督「瑞鶴さんたちが大規模演習から帰ってくるから、その事後処理があるし」



ああ、そっか。演習自体は今日で終わりって、昼間の報告書にあったっけ。

きっと、参加した各艦娘への評価だったり、色々とやることがあるんだろう。

507: 2015/11/08(日) 21:14:23.88 ID:o0VXrM4Go
提督「何故か鈴谷さんは不機嫌だったし、夕張さんには名目だけでも罰則がいるし」

曙「……」



ほんっと、年上のお姉さま方に振り回されているのね。

夕張の方は大丈夫そうだけれども、コイツ、鈴谷が不機嫌になった理由が分かるかしら?

……分からないでしょうね。だってそれが分かるなら、そもそも鈴谷が不機嫌になるはずがないもの。

508: 2015/11/08(日) 21:15:47.90 ID:o0VXrM4Go
提督「後は暁たちか。第六駆逐隊の四人の連携」

曙「今日の七駆との演習、酷かったものね」


私抜きの、三人の第七駆逐隊に、暁たち第六駆逐隊はボロ負けだった。

クソ提督の言うとおり、連携がなってないんだから当然の結果だけれども。




曙「旗艦をかえるとか、するの?」


私が思いつくのはそれくらい。暁が旗艦だと悪い、なんて言うつもりはないけれど。

例えばいつも冷静な響に任せれば、それなりに落ち着くかもしれないと思って。

509: 2015/11/08(日) 21:16:49.40 ID:o0VXrM4Go
提督「ふわぁ……」

大きなあくびを一つついて、クソ提督。


提督「誰に替えても、あの四人はデコボコするさ」

提督「普段は大人しい電だって、実はけっこう頑固なんだよ?」



ああ、なんだかそれは分かる気がするわ。

相槌を打とうとしたけれども、クソ提督につられてあくびが出たので、上手くいかなかった。

これ以上難しい話を受け付けるのを、眠気を感じてきた脳が拒否しているのかもしれない。

510: 2015/11/08(日) 21:17:31.51 ID:o0VXrM4Go
それに、とクソ提督。


提督「暁が旗艦なのは、かわらないよ」

提督「雷でも響でも、電でもない」


第六駆逐隊の旗艦は暁にしか任せないから、と。

そう言うクソ提督の考えを、もっと聞いてみたいけれども。

何故だか不意に、別のことが気になってしまって、上手くことばが出てこなかった。

511: 2015/11/08(日) 21:20:56.51 ID:o0VXrM4Go
そんな私の無言を、”もう寝る”という意思表示だと捉えたのか……

それきりクソ提督も、口を開くことはなかった。



カチ、コチと、思い出したかのように大時計の音が戻ってくる。

クソ提督はもう、眠ってしまっただろう。だから私は、ちょっとだけ素直になって。



そう、ちょっとだけ素直になって、こう口にした。

512: 2015/11/08(日) 21:21:39.25 ID:o0VXrM4Go





曙「なんで私のことは、呼び捨てで呼んでくれないの?」

513: 2015/11/08(日) 21:22:10.21 ID:o0VXrM4Go
普段ひねくれている私にしては、驚くほどあっさりと。

心に芽生えた気持ちを、まっすぐに放つことが出来た。

520: 2015/11/10(火) 21:40:13.10 ID:rPbUc+mFo
ずっとずっと、気になっていた。

瑞鶴や鈴谷たちみたいに歳上の艦娘たちは”さん”づけで。

暁や雷たち歳下のチビっ子たちは呼び捨てにしているクソ提督。



だけど、同じように歳下なはずの第七駆逐隊――いや、違う。

なんで”私”のことまで”さん”づけにするんだろうって。

それがどうしようもなく気になっていた。

521: 2015/11/10(火) 21:40:39.27 ID:rPbUc+mFo
曙さん、曙さんとコイツに呼ばれるたびに、何だか知らないけれど私は……

クソ提督と自分との間に、距離があるように感じてしまうのだ。


それは、何故だか分からないけれども、嫌だ。とっても、とっても、嫌だ。

522: 2015/11/10(火) 21:41:07.27 ID:rPbUc+mFo
何で嫌なのかは、眠気を感じた頭が上手く働かなくて、よく分からない。

でも、とにかく自分のことは、呼び捨てで呼んで欲しい。その気持ちは、変わらない。

薄れていく意識の中で呟いた最後の一言は、ちゃんとことばになったかどうかも疑わしい。

523: 2015/11/10(火) 21:41:36.51 ID:rPbUc+mFo
曙「”曙”って呼びなさいよ、クソ提督」



でも、まあいっか。

どうせクソ提督も、寝ちゃっているんだし。



繋いだ手から伝わる心地よい感覚に浸りながら、私は静かに意識を手放した。

524: 2015/11/10(火) 21:43:23.52 ID:rPbUc+mFo
今日はここまで、200レス程度で終わらせるつもりだった気がするのですが長くなったものです。
それにしても、曙ちゃん俺のこと好きすぎるやろ・・・

531: 2015/11/12(木) 22:51:13.22 ID:vy9Eak6eo
提督「んっ……くぅ、もう起きる時間か……ふわぁ」


海風が運ぶ朝の日差しを感じて、僕の意識はゆっくり覚醒へと向かっていく。

着任した頃は空母艦娘の部屋のソファなんかで寝ていたこともあり、朝は強い方だ。



鎮守府の主として一番に起きていないと……という理由ではなく、寝ぼけた翔鶴さんが、僕を妹と間違えて抱きつかないように自衛するためだ。

だってそんな現場を見られたら、僕は命がいくつあっても足りやしない。

……もっともそれは、穏やかに照れる姉ではなく、激怒した妹の少々過激なお仕置きによって、だけれども。



そんなわけで、他の誰よりも早く起きるという悲しい習性が身体に染み付いてしまったんだ。

532: 2015/11/12(木) 22:51:57.54 ID:vy9Eak6eo
提督「でも、まだ眠いや。昨日は色々なことがあったから……」


寝癖のついた髪の毛をいじりながら、もう片方の手で布団を払い半身を起こして、


提督「あれ……?」


気がついた。




提督「手が! 繋いだ手が、ちゃんと放れてる!」


やった、これで晴れて自由の身だ!

寝ぼけながらも、半分の脳を使って歓声を上げた。

533: 2015/11/12(木) 22:52:52.97 ID:vy9Eak6eo
思えば昨日は、大変な苦労をした一日だった。

あと少しで、部下の艦娘との醜聞という誤報が広まるところだったし、

水着の女の子たちとお風呂に入った後意識を失うなんて、一歩間違えばセクハラだ。



それでも、自由になってしまえば、いつも通りの執務が出来る。

今日の騒ぎを知らない艦娘たちには、落ち着いてゆっくりと説明できるし。

それに曙さんだって僕から解放されれば、第七駆逐隊に戻ることが……って。



提督「あれ、そういえば曙さんは?」


まだ霧がかかった思考をどうにか回転させて、ようやく彼女の姿が見えない事に気が付いた。

534: 2015/11/12(木) 22:54:01.25 ID:vy9Eak6eo
提督「ええと、たしかにいっしょに眠りについた……よね?」



意味なく呟きながら、昨日の夜の記憶を頭の中で必氏に手繰り寄せる。

手を繋ぎながらお互い眠りについたのは確かだった……はず。

そうだ、二人で昨日一日のことを振り返りながら……ええと、最後に何を話したっけ?



隣に敷いた布団に目をやれば、見事に平坦で膨らみがないのが分かる。

いくら細くて華奢な体つきの彼女であっても、毛布に包まっているのならもう少し膨らんでいるはずだろう。

535: 2015/11/12(木) 22:54:54.24 ID:vy9Eak6eo
提督「……先に起きて、出て行っちゃったのかな?」


だとしたら、僕に負けず劣らずの早起きさんってことになるけれど……

手が繋がって苦労したのは彼女も同じはずだから、解放された嬉しさのあまり?




提督「だとしたら、ちょっと寂しいかな」


そりゃあ、男の僕と一日いっしょというのは、嫌だったのかもしれないけれど。

ほんのちょっとでも楽しかったという気持ちがあれば、朝も言葉を交わしてくれただろうから。

536: 2015/11/12(木) 22:56:26.77 ID:vy9Eak6eo
提督「でも、昨日のあの態度から言っても、そこまで嫌われているとは」

……断言出来ないけれども、嫌われていないと信じたい。



曙「んっ……んぅ」



などと感傷に浸っていると、あれ?

どこからか、聞き覚えのある声が……?

537: 2015/11/12(木) 22:56:58.77 ID:vy9Eak6eo
曙「んんぅ……むにゅ、あしゃなのに、真っ暗?」

曙「……ふぁ、またわたし、もーふにくるまって寝ちゃったのかぁ……」



もう一度隣に目をやる僕だけれども、やはりさっき見たとおり、本来いるべき場所に主の姿はない。



でも。

538: 2015/11/12(木) 22:57:45.11 ID:vy9Eak6eo
もぞもぞと、毛布が動くのを身体で感じる。

それは隣の、空っぽの布団の上の、ではなく……僕の、だ。


提督「ま、まさか……」


頭では必氏にその事実を否定するけれど。

まだ毛布をかけたままの、僕の腰のあたり……そこが、ごそごそと……?



そう、丁度寝相の悪い女の子が、”人の布団に転がり込んできたらこんな感じになります”
と言わんばかりの膨らみが、確かに動いていた。

539: 2015/11/12(木) 22:59:59.90 ID:vy9Eak6eo
提督「いやいやいや、まさかね」


なんて目を背けてばかりはいられない。覚悟を決めないと。

これから起こりうる騒ぎを最小限にするべく、脳内であらゆるシミュレートをしながら。

僕は恐る恐る、くしゃくしゃになった毛布に手をかけて、



提督「お、おはよう、あけぼ――」

曙「んっ……ほはよ……クソてい――」



提督「……」

曙「……」


降りる沈黙。

540: 2015/11/12(木) 23:00:35.46 ID:vy9Eak6eo
提督「あのね、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」


なるべく優しく声をかけながら、それでも次に来る展開が何となく見えてしまって。


曙「ぴにゃあああああああああああ!?」

提督「やっぱりこうなったぁ!?」


執務室をに響き渡る悲鳴が、どうか他の艦娘たちに聞こえていませんように、と。

それだけを祈りながら、僕は動揺する彼女をなだめるのだった。


ちなみに、ボヤけていた意識なんて、この頃にはとっくに覚醒していた。

541: 2015/11/12(木) 23:01:22.78 ID:vy9Eak6eo
提督「……ごめん」

曙「べ、別にクソ提督が悪い訳じゃないでしょ」

曙「わ、私の寝相が悪かっただけなんだから」



提督「……」

曙「な、なによ」


僕に食ってかかるんじゃなくて、自分の非を認めるなんて珍しい。

でも素直にそう言ったら怒られるだろうから、口に出さない事にしよう。

542: 2015/11/12(木) 23:02:00.29 ID:vy9Eak6eo
曙「怒らないから、言ってみてよね」

提督「ホントに怒らない?」

曙「うん」


じゃあ、言うけど。


提督「素直に謝るなんて珍し……ごめんない睨まないで」


怒らないって言ったくせに。

543: 2015/11/12(木) 23:02:53.38 ID:vy9Eak6eo
そんな、今までにない会話が照れくさくて、二人して笑う。

あれ……でもこれ、よく考えたら相当アブナイ状況じゃないだろうか?



事故で手が繋がっていたとはいえ、女の子と二人きりで一夜を明かす。

そして、目が覚めたら同じ布団の上で、はにかみながら見つめ合っている。

言い訳……じゃない、原因だったお互いの手は、とっくに解放されている訳だし。



……何も知らない人が見たら、完全にアウトだ。

544: 2015/11/12(木) 23:04:15.30 ID:vy9Eak6eo
曙「?」

曙「どうしたのよ、クソ提督?」

提督「い、いや、何でもないよ、アハハ……」


寝汗なんてかいてないのに、背筋がベットリと湿っているのは。


(1)昨日の騒ぎを一切知らない。
(2)そして、僕のこの場面を見て、烈火のごとく怒りそうな……

脳裏に、条件を満たす一つの可能性が浮かび上がってきたからだ。

545: 2015/11/12(木) 23:05:18.03 ID:vy9Eak6eo
その可能性を、心の中で慌てて(必氏に)否定しようとする僕。


提督「(ないない、うん。だって、演習の終わりは昨日の夕方だよ?)」

提督「(演習先で夜を明かして、早朝から出発するとしたら……)」

提督「(うん……どんなに早くても、帰ってくるのは今日の昼前のはず)」

曙「ふふ、変なクソ提督」


僕の百面相が笑われているのなんて、今はどうでもいい。

だって、考えられる限り最悪の、恐ろしい事態が起きないって分かったのだから。

546: 2015/11/12(木) 23:05:57.67 ID:vy9Eak6eo
提督「うん、問題無いから大丈――」

瑞鶴「演習から帰還したよ、提督クン!」

提督「――夫」



ああ、忘れていた。

この人は、僕がせっせと頭の中で考えて、やっとこさ導き出した答えを……

一足飛びに超えてきてしまうっていうことを。

547: 2015/11/12(木) 23:07:06.24 ID:vy9Eak6eo
執務室の扉が元気よく開いて、浅葱色の髪が、舞い込んできた風と踊っている。

紅色のスカートから伸びた脚と、太陽の様な微笑み。勝気な瞳が真っ直ぐに僕を見据えて。



……。

…………。

………………。



考えうる、最悪の事態に直面して、心の中でこう呟いた。

僕にとっての波乱の一日というのは、どうやら昨日ではなく今日だったらしい。

557: 2015/11/15(日) 18:44:45.48 ID:Ow42Nwyxo
演習が終わってから、ロクに睡眠も取らないで航行してきたのかしら?

目元に真っ黒な隈をこさえた瑞鶴が、ヒステリックにわめき散らしている。



瑞鶴「……あ、アンタ、駆逐艦の子に何してるの!?」

提督「だから誤解なんだってば、瑞鶴さん!」

瑞鶴「誤解って何がよ!?」



一番に執務室で出迎えを受けようとして、アテが外れてしまった瑞鶴の怒りは収まらない。

慌てて弁解しようとするクソ提督だけれども……これじゃ火に油だわ。

558: 2015/11/15(日) 18:45:44.93 ID:Ow42Nwyxo
提督「その……僕たちは別に、いやらしいことを」

瑞鶴「いやらしいことをしてたって言うの!? サイッテーっ!!」

提督「だからそうじゃないって!」

瑞鶴「じゃあ、この状況は何だって言うのよ!?」


……昨日の鈴谷の気持ちがよく分かる。

蚊帳の外に置かれるのって、本当に面白くない。


ううん、違うか。

クソ提督が私じゃなくて他の女の子の方を見ているから、面白くないんだわ。

だって昨日あんなに近くに感じることが出来た距離が、いまは遠く遠く感じるもの。


何故だか、昨日のことが全部夢だったんじゃないかって、そんなことまで思ってしまう。

559: 2015/11/15(日) 18:46:35.67 ID:Ow42Nwyxo
瑞鶴に言い訳をしながら、ちらちらとクソ提督がこちらに視線を送ってくる。

たぶん、上手く話を合わせて欲しいというお願いだろう。



一緒に手を繋いで、押し倒されて、他の七駆ともお風呂で、おまけに朝は一緒の布団。

……うん、正直に話しても話さなくても、爆撃決定ね。

560: 2015/11/15(日) 18:47:32.02 ID:Ow42Nwyxo
曙「はぁ、仕方ないんだから」



こうやって頼られるのも悪くはないかもと、私はどこか諦めたようなため息を一つ。

そうだ、どうせ私たち二人が一緒に過ごしたという確かな証なんて、何もないんだし……



この状況に適当な理由をつけて、”彗星”が”九九艦爆”になる、そのくらいの手助けはしてあげようと思った。

どうやったところで、私とクソ提督の関係は、何も変わらないんだから。

561: 2015/11/15(日) 18:47:59.71 ID:Ow42Nwyxo
そう思って口を開きかけた私だけれども、続くクソ提督のことばを聞いて。

考えが、変わった。



提督「そうだ、ねえ。 曙の説明も聞いてあげてよ、瑞鶴さん」

曙「へ?」



呆気にとられて、中途半端に開きかけた口がそのまんまになる。

いま、クソ提督は、なんて……?

562: 2015/11/15(日) 18:48:38.48 ID:Ow42Nwyxo
瑞鶴「……!」


瑞鶴はいまのささやかな違いにすぐに気がついて、かたちの良い眉を吊り上げた。

それに対して私はというと、


曙「へぇ、ふーーん」

提督「?」

提督「どうしたのさ、曙。急にニヤニヤしちゃって」


クソ提督の指摘通り、頬が緩んでしまって仕方がない。

なのにコイツは、自分がどんなことを仕出かしたのか全く分かっていないみたいで。

563: 2015/11/15(日) 18:49:30.91 ID:Ow42Nwyxo
提督「えっ、なに、なに。何で瑞鶴さんが余計不機嫌になるの?」

曙「さあ、なんでかしらね、”瑞鶴さん”?」

瑞鶴「あああ、アンタ、くくく、駆逐艦のくせに、いい度胸してるじゃないっ」



今までは遠くから見ているだけだったけれど、今日からは違う。

……ううん、正確に言えば昨日から、ね。



その事を、今のところ一歩も二歩も前を走っているライバルに宣言するには。

さっきの挑発だけじゃちょっと、いや……全然、足りやしない。

564: 2015/11/15(日) 18:50:10.77 ID:Ow42Nwyxo
駆逐艦は、限界まで突っ込んでいってナンボだってことを。

瑞鶴にも教えてあげないといけないわね。


曙「いけない、もう七駆で集まる時間だわ」


そう言って自由になった身体で駆け出して、すれ違いざまに。



曙「でもね瑞鶴、本当に何もなかったのよ?」

瑞鶴「そうなの?」


おや、と小首を傾げる空母艦娘に頷いて、私は続ける。

565: 2015/11/15(日) 18:51:04.58 ID:Ow42Nwyxo
曙「うん」

曙「一日中手を繋いで鎮守府を歩いて、抱き合うみたいに押し倒して、一緒にお風呂に入って」

曙「おまけにクソ提督の布団に私が潜り込んじゃったこと以外は、何も無かったわ」

提督「ちょっ……あ、曙!?」



ああ、それから、一番大事なことがひとつ。



曙「後は……これからコイツが私のことを、呼び捨てるようになったこと以外は何も、ね?」

提督「い゛っ!?」

566: 2015/11/15(日) 18:52:04.72 ID:Ow42Nwyxo
さらりと手を振りながら別れを告げて、執務室をあとにする。

背後から殺気と、それに怯える気配を感じるけれど気にしない。



廊下に出た私は漣たちに合流するために、第七駆逐隊の部屋を目指す。

何かが爆発する音と、男の子の悲鳴に振り返りながら一言。



「ばーか」



ペ口リと舌を出しながら、満面の笑みを浮かべて。

いま、私はスタートを切ったんだ。





567: 2015/11/15(日) 19:00:35.11 ID:Ow42Nwyxo
【艦これ】キスから始まる提督業!【ラノベSS】

既にご承知かもしれませんが、スレ立て以来一度も貼ってないらしいので。
少年提督、瑞鶴はここから持ってきています。曙は当スレが初登場です。

6月から始めたスレがここまで長期化するとは思いませんでしたが、無事着地出来ました。
反省点も多いですが、まずはお話を締められたことに満足したいと思います。

それでは、最後までお読みくださった方がいましたら、ありがとうございました。

569: 2015/11/15(日) 19:24:43.50 ID:Ow42Nwyxo
そうそう、漫画を勧めてくれた方ありがとうございます。
ラノベ、小説、アニメに比べ不思議と漫画はそんなに読まないので、興味をもったやつは読んでみます。
多分最後に心動かされた漫画は、数年前に完結したガンスリンガー・ガールですね。

ちなみにもう一つのスレはどうするか考え中ですので、しばらく生かしておきます。
時間稼ぎに投稿スレでやったやつを投下しておきます。

570: 2015/11/15(日) 19:25:00.56 ID:8QdQYh0Y0
乙です
楽しかった

引用: 【艦これ】曙「クソ提督と手を繋いだら放れなくなった」【ラノベSS】