245: 2013/09/07(土) 21:20:50 ID:i.f15hoY
「最弱魔王様」【前編】
魔王城
「魔王様、朝御飯ができたから来てねー」
魔王「ああ、今行くぞ」
「側近さーん、どこにいるの?」
側近「……ここだ」
「……あ」
側近「花を供えにな。魔王様に先を越されていたが」
「やっぱり可愛がっていた筆頭だもんね……私よりも早かったよ」
側近「そうか……ああ、朝食の時間か」
側近「すぐに行くからな、少女」
少女(幼女)「うん、ご飯が冷めないうちにねっ」
「最弱魔王様」少女篇
246: 2013/09/07(土) 21:27:30 ID:i.f15hoY
――――
――
朝食時
魔王「うむ、今日の少女の料理も美味いな」
側近「ええ、最初のころに比べると随分上達しましたね」
少女「本当? 頑張ってきた甲斐があったわね~」
妖精「」モグモグ
少女「ああ、妖精さん。そんなに急いで食べないの! こぼしてるわよ」フキフキ
妖精「♪~」
249: 2013/09/07(土) 23:28:33 ID:i.f15hoY
魔王「それにしても……その小妖精はいつも少女とともにいるな」
少女「だって友達だもの♪」ギュッ
側近「まるで腰巾着のようだな」
妖精「~~~!」ブンッ
側近「おっと」サッ
少女「こら、危ないからスプーン投げちゃダメでしょ? なんでそんなことするの」プンプン
妖精「」ブスッ
側近「ふん……」
魔王(初めて会ってからもう10年になるが……何故側近と小妖精は仲が悪いのだろう……)モグモグ
魔王(予想はつかぬでもないが……側近よ、大人げないぞ)ウンウン
250: 2013/09/07(土) 23:40:07 ID:i.f15hoY
少女「魔王様も側近さんも……よく朝からそんなにお肉を食べられるよね。胃もたれしないの?」
側・王「「大丈夫だ、問題ない」」肉モキュモキュ
少女「それなら良いんだけど……」
側近(こうでもしないと……)肉ガツガツ
魔王(お前が危ないからな)肉ムッシャモグ
妖精「」ペチッ
少女「妖精さん、ご馳走様? ちょっと待っててね~」モグモグ
――――
――
側近「さて、今日もやるのか少女」スッ
少女「うん。ダメもとだけど、これも頑張れば実を結ぶって信じてるから」スッ
251: 2013/09/07(土) 23:51:29 ID:i.f15hoY
妖精「~~~!」ガタガタ
少女「いつも閉じ込めてごめんね妖精さん……でも剣のお稽古の時は危ないから」
側近(小型魔物用のゲージに入れられるのを嫌うのは、それ以外にも理由がありそうだがな……)ジッ
妖精「~~!!」ギロリ
側近(……ちっとも怖くないな)
側近「では、始めよう」
少女「はいっ。今日もよろしくお願いします」ペコリ
――――
――
少女「きゃあっ」カンッ! ペタン
側近「……やはり駄目だな。そもそもお前からは気迫が感じられん」カラン
少女「うう……」ゼイゼイ
側近「木の枝でやってこれだからな……もし真剣を持てはどうなるか」ハア
少女「側近さんだって誰かを傷つける気もないのに……剣が強いのはなんで?」
側近「……唯一、どうしても切らねばならん者がいるからだ」
252: 2013/09/07(土) 23:59:06 ID:i.f15hoY
少女「それって……例の封印の?」
側近「ああ。私の敵はそれ以外に考えられん」チャキ
少女「それだけのために、剣を……やっぱり側近さんは凄いや」フニャッ
側近「……お前には、やはりこんなものは似合わん」ポイッ
側近「お前に似合うのは……」スッ プチッ
少女「ん……」ピクッ
側近「やはり花だ」ソッ
妖精「~! ~~~ッ!!」キーキー
253: 2013/09/08(日) 00:13:12 ID:7iWm6vU6
少女「も、もう、側近さんってば……」カアッ
側近「……思えば、あの髪飾りも随分育ったものだ」
少女「うん……今はお部屋に置いてるけど、いつ見てもとっても綺麗だよ」ニコ
側近「……大事にしてもらえるのは嬉しいが、お前くらいの年の娘はもっと多くの装飾品を持っているものだろう。あれ1つでは寂しくないか?」
少女「他の女の子なんて知らないよ~。たまに都に行く以外はずっと側近さん達と過ごしてきたんだから」ケラケラ
少女「……それに私は、あれがあれば十分だよ」
側近「……だが増える機会が案外近いかもしれんぞ」
少女「え?」ポカン
254: 2013/09/08(日) 00:50:58 ID:7iWm6vU6
側近「まあ、これに関しては近々魔王様からも話があるだろう……」ザッザッ
少女「あ、ありがとうございました! ……妖精さん、もう良いよ」カチャッ
妖精「」パタパタパタ
少女「……一体、何があるんだろうね」
――――
――
魔王「では少女。始めよう」
少女「よろしくお願いしますっ」ペコリ
魔王「うむ……その杖も、そろそろ古くなってきたな」
少女「魔法を習い始めた時から使ってるからね~。でも、私は気に入ってるよ?」ギュッ
魔王「そうか?」
少女「うん! 魔王様から貰った大切なものだもの」ニコッ
魔王「少女……」ウルッ
妖精「」ジーッ
魔王(側近のようにあからさまな敵認定はないが……監視されているようで少し居心地が悪いな)
257: 2013/09/08(日) 11:37:25 ID:7iWm6vU6
魔王「で、ではいつものように精神統一からだ」
少女「はい……」スウ……
魔王「……次に、その身に大気の流れを意識せよ。無理に流れに逆らうのではなく、共に在ろうとする気持ちを忘れるな」
少女「……」
魔王「準備ができたならば、流れをゆっくりと形にしていけ……そして呪文を」
少女「」ブツブツ
魔王「……発動せよ」
少女「」カッ
――ボフンッ
258: 2013/09/08(日) 11:55:43 ID:7iWm6vU6
魔王「……」
少女「うぅ……」ガックリ
魔王「今日も失敗か……」
少女「も、もう1回!」ブツブツ カッ
バフンッ
少女「……」ズーン
妖精「」オロオロ
魔王「実に不思議だ……アレだけができて他の魔法がからっきしだとは」
少女「も、もっと頑張るもん!」
魔王「う、うむ、頑張ろうな」
259: 2013/09/08(日) 15:23:07 ID:7iWm6vU6
少女「……そういえば、さっきの側近さんとの剣のお稽古の時に聞いたんだけど」
魔王「ん?」
少女「私の装飾品が増えるかもしれないってどういうこと?」キョトン
魔王「! ……ああ、その件か」
少女「詳しくは魔王様からお話があるって言われたけど……」
魔王「……最初の、我らからお前への頼み」
少女「!」
魔王「今はそれに関係するということだけを言っておこう……今日はここまでだ」ザッザッ バタン
少女「……いよいよ、なの……?」
260: 2013/09/08(日) 15:33:36 ID:7iWm6vU6
少女(……私がこのお城に来てから約10年。途中で兎さんが氏んでしまったり、この頃2人がよくお肉を食べたりと変化はいくつかあったけど)
少女(あのことに関する動きがないことにすっかり油断してた)
少女(このままずっと、このお城で3人と1匹で暮らしていけるんだと思ってた)
少女「でも……」
妖精「……」パタパタ
少女「妖精さん……ううん、私は大丈夫……だい、じょうぶ」
261: 2013/09/08(日) 16:49:22 ID:7iWm6vU6
――――
――
城の外
少女「うう……」トボトボ
妖精「」パタパタ
少女「何があるんだろう……もしかしていきなり勇者様が乗り込んでくるのかなあ……」
少女「ねえ、貴方はどう思う?」
一角獣「」パカパカ
少女「ここにいられなくなったら、貴方達も満足に呼び出せなくなるのかな?」
大蛇「」ズルズル
少女「そんなのやだな……みんな、大事なお友達だもの」ナデナデ
一角獣「♪」
大蛇「」フシュー
262: 2013/09/08(日) 16:56:33 ID:7iWm6vU6
魔王の部屋
魔王(……)窓ヲ見ル
魔王(召喚術……いや、これは果たして召喚と言えるのだろうか)
魔王(1度呼び出した召喚獣を、呪文も魔法陣もなしに無制限に呼び出せるなど……)
魔王(とても正気の沙汰とは思えぬ……)
側近「……魔王様」コンコン
魔王「側近か……入れ」
263: 2013/09/08(日) 17:14:42 ID:7iWm6vU6
側近「失礼します……今日は一角獣と大蛇ですか」ガチャ チラッ
魔王「そのようだ。あれなら彼女1人で動物の雑技団でも開けそうだ」
側近「冗談でも笑えませんよ……いずれにしろ笑みは作れませんが」
魔王「ああ、すまぬな……」
側近「……今日は如何でしたか」
魔王「いつもと変わらんよ……やはり召喚だけに著しく才が偏っておるようだ」
264: 2013/09/08(日) 17:35:43 ID:7iWm6vU6
側近「それは生まれつきとして……あの現象の説明にはなりませぬ」
魔王「……1つ、これは我の勝手な推測だが」
側近「……」
魔王「少女はあの召喚獣らを……戦力ではなく友として呼んでいるからだとしたら?」
側近「……なっ」
魔王「お前の話だと、彼女からは相手への塵ほどの戦意も感じぬのだろう?」
側近「で、ですが、それは……あまりにも突拍子のない」
魔王「……我らがあの子から小妖精を取り上げた時の事は覚えておるか」
側近「……それが何か」
265: 2013/09/08(日) 17:51:57 ID:7iWm6vU6
魔王「あの時の彼女の落ち込み様と言ったら……見ていて痛ましく感じるほどだった」
側近「……初めての友だと、嬉しそうに申しておりましたからね」
魔王「ああ……そしてそれを奪われた時の心の傷が、今の少女の状態に繋がっておるとしたら?」
側近「……二度と友を奪われまいとする、彼女の無意識の力というわけですか」
魔王「そう取ってもらって構わん。いずれにせよ、あの娘はただ……友と戯れているつもりなのだろう」
側近「……主従ではなく、敵対でもなく、友好……ですか」
魔王「魔族と人間である我らが家族として共に暮らしておるのだ。それも叶わぬことではあるまい」
側近「……」
266: 2013/09/08(日) 23:03:55 ID:7iWm6vU6
魔王「……それに、かような力があるならば我らがいなくても寂しくはあるまいて」
側近「……そうですね」
――――
――
側近「……少女、まだ外にいたのか」
少女「……あ」ボーッ
側近「もうすぐ夕飯の時間だ。この頃はずっとお前に任せきりだった故、久しぶりに私が作った」
少女「ああ、もうそんな時間だったんだ……ごめんなさい、すぐ行くね」スッ
267: 2013/09/08(日) 23:16:39 ID:7iWm6vU6
妖精「」ジーッ
側近「(無視)……お前の友は、もう帰ったのか」
少女「やっぱり気づかれちゃってたか……うん、さっきあっちに帰って行ったよ」スタスタ
側近「……確かにお前のその力は凄いが、あまり頻繁に使うのも良くない」
少女「……」
側近「万が一、後でどんな代償が来るか……」
少女「……また、そうやって私からお友達を取るの?」
側近「ッ! 少女……!」
少女「側近さんのことは大好き。でも……そんなことを言う側近さんは、嫌い」
側近「……」
少女「行こう。妖精さん」
妖精「」パタパタ……クルッ ベーッ
側近(……傷は思った以上に深そうだ。どうしたものか……)
268: 2013/09/08(日) 23:27:33 ID:7iWm6vU6
――――
――
夕飯時
魔王(なんだ……この言い知れぬ気まずさは)モグモグ
少女「……」パクパク
側近「……」モグモグ
妖精「」モキュモキュ
魔王(あの事を話すのは、どうやらこの空気が消えてからの方が良いみたいだな)
少女「……ご馳走様」ガタン スタスタ
幼女「」ペチンッ パタパタパタ
魔王「……側近よ。何があった」
側近「……少し、彼女の心を慮る事が足りなかっただけです」
269: 2013/09/08(日) 23:49:29 ID:7iWm6vU6
魔王「……」
側近「……一体、どのような言葉をかければ良いのでしょうね。こちらの気持ちが伝わるには」
魔王「ありのままを伝えるしか無かろう、と言いたいところだが」
魔王「お前には今、やるべきことがちと多過ぎる……彼女の事はひとまず我に任せ、まずはそちらに専念すると良い」
側近「魔王様、ですが……!」
魔王「しばらく距離を置いて冷静になれ、と言っておるのだ。互いのためにもな」
側近「……御意」
270: 2013/09/09(月) 00:13:47 ID:cHLBAXEI
――――
――
魔王(そうしてあれから数日程経ったが……側近は準備を着々と進めている。表面上は)
魔王(少女の方も、気持ちは落ち着いてきているが……奴にうまく切り出せぬようだな)
魔王(……こんな時こそ、お飾り魔王の数少ない出番だ)
魔王「少女は……外にいるようだな。召喚獣はいない」
魔王「近頃では珍しい事だ」スタスタ
城の外
魔王「やあ、少女。今日も良い天気だな」
少女「! 魔王様……封印の様子は大丈夫なの?」
魔王「ああ、今は調子が良い……それより少し話をしないか? 2人きりで」
妖精「」ピクッ
275: 2013/09/09(月) 23:39:45 ID:4koiZlWw
少女「うん、わかった……妖精さん、悪いけど少しの間何処かで遊んでてくれる?」
妖精「」プクーッ
少女「駄目かな~。妖精さんは良い子でしょ?」ニッコリ
妖精「……」パタパタパタ……
魔王「すまんな……」
少女「気にしないで……いつもお友達と一緒にいられるわけではないもの」
魔王「!」
少女「……そう、頭ではわかってるつもりなんだけどね」
276: 2013/09/09(月) 23:41:51 ID:4koiZlWw
魔王「それは、今のお前と側近との間にできた溝に関係が?」
少女「」コクリ
魔王「やはりそうか……あれはお前のその力のことを常に気にしておるからな」
少女「……あの時のことは、正直今でも許せないよ。側近さんも、魔王様も」
魔王「……そう言われても仕方ないだろうな」
少女「引き離される前に、せめて挨拶をしたかった。ほんの少しでも事情を説明してほしかった」
魔王「……」
少女「今では何となく理解はできるけど、それでも……」
魔王「羨ましいな」
少女「?」
277: 2013/09/10(火) 00:12:57 ID:XMc80vO6
魔王「少女にそこまで大切に想われている者達は。そして、そんな存在を持つことができるお前も」
少女「それって……」
魔王「我も側近も、そのような存在にはとんと縁がなかったのでな」
少女「……!」
魔王「それ故、お前の気持ちを心から十分に理解してやれるとは言えない」
少女「……」
魔王「だからな、その分家族である……お前を本当に大切に思っておるのだ」
少女「私を……?」
278: 2013/09/10(火) 00:15:33 ID:XMc80vO6
魔王「ああ。あの時……勇者の訪れを待つだけの生ける屍であった我らを、お前は救ってくれた。
我らの頼みを聞く見返りに、我らと家族になることを望んだ幼いお前の存在に、時を止めていた我らの心はどれ程癒されただろう」
少女「……」
魔王「封印のために生命を維持する手段でしかなかった食事が、美味しそうに食べるお前を見るだけでこの上なく美味しく感じられた」
魔王「2人で鬱々と我の血で汚れた物を清めていた洗濯が、手伝おうとするお前を見るだけで手の動きが早くなった。幼いお前を魔の血に触れさせないために」
少女「」ポタッ ポタッ
魔王「お前は我らにとって……愛しい宝物だ」
279: 2013/09/10(火) 00:17:41 ID:XMc80vO6
少女「ほん、と……? 私、2人にとって必要?」ポロポロ
魔王「無論だ。だから側近の気持ちもどうかほんの少しはわかってやってほしい。あれはお前から友を再び奪おうとしているわけではないのだ。ただ……それによって大切に育ててきたお前に何かが起きぬか心配なのだ」
少女「でも……今更前みたいに戻れるかなあ……」グスッ
魔王「おや、お前は側近が好きではないのか?」
少女「ううん、大好き! ……でも魔王様も同じくらい好きだよ?」
魔王「それは嬉しいな……なら戻れるとも。この我が保障する」
280: 2013/09/10(火) 00:32:35 ID:XMc80vO6
少女「……ふふっ、それなら安心だね」ゴシゴシ
魔王「だろう?」フワッ
少女「……あ」ポカン
魔王「? 少女、どうかしたのか?」
少女「あの、今ね……ちょっとだけ魔王様が笑ったように見えたの。すぐに戻っちゃったけど」
魔王「な、なにっ! それは真か!?」ペタペタ
少女「うんっ。やったね魔王様!」ニコッ
281: 2013/09/10(火) 00:35:22 ID:XMc80vO6
魔王「ああ……少女のお陰だな」ナデナデ
少女「そんなことないよー。魔王様が自分で笑ったんだよ」
魔王「む、自分ではよくわからんが……まあ、少女がそう言うのならそうなのだろう」
少女「そうそう。じゃあ、魔王様にご褒美ねー」プチプチ
魔王「おお、それは嬉しいな」
少女「ちょっと目を瞑って……私が良いって言うまで開けないでね?」セッセ セッセ
魔王「わかった」スッ
282: 2013/09/10(火) 00:37:19 ID:XMc80vO6
少女「……はい、いいよ」フワリ
魔王「では……おお、花の冠か。可愛らしいな」ポンポン
少女「うん。久しぶりに作ったの……子供っぽいかもしれないけど」テレッ
魔王「いや、我は嬉しいぞ。ありがとう少女」ナデナデ
少女「えへへ……後ね、これはさっきのお礼」チュッ
魔王「!」ポカン
少女「私、頑張って側近さんと仲直りするからね~」タッタッタッ
魔王「……やはりお前は愛おしい。ただ、これを我ら以外にしなければ良いが」ホッペサスサス
286: 2013/09/10(火) 19:51:11 ID:XMc80vO6
――――
――
側近(……粗方準備は整った。だが問題は少女だな)ザッザッ
側近(魔王様はあのように仰ったが……不安がなくなるわけではない)
側近(どうしたものか……)
側近「ん? あれは……少女?」
少女「……お帰りなさい。側近さん」
側近「……ただいま」
少女「」テクテク
側近「?」
少女「……」ギュウ
側近「なっ……しょ、少女?」
少女「……あったかい」
287: 2013/09/10(火) 20:09:03 ID:XMc80vO6
側近「……」
少女「あの頃から、全然変わらないね」スリスリ
側近「……我らの成長は人間より遅いからな」
少女「ううん、そういうのじゃないの……側近さんが、初めて出会った時から変わらず優しいからだよ」
側近「……」
少女「思えば私、ずっとその優しさに甘えてたね……心配してくれている気持ちも知らずにわがままばっかり」
側近「少女、そんなことは……」
少女「私にとって、1番大事なのは側近さんと魔王様なのに」
側近「……!」
288: 2013/09/10(火) 20:21:34 ID:XMc80vO6
少女「2人を大切にしないで、お友達を大切になんて……できるわけないよね」
側近「……」
少女「こんな私だけど……これからも2人のことが好きでいて、良いのかなあ」
側近「何を……馬鹿な事を」ギュウッ
少女「!」
側近「あたりまえだろう」
289: 2013/09/10(火) 20:39:49 ID:XMc80vO6
少女「側近さん……」ウルッ
側近「私は少女の事をわがままだと思った事は1度もないぞ?」
少女「本当?」
側近「ああ」
少女「……これからも、お友達を呼んで良い?」
側近「……程々にな」
少女「! うんっ」ニコッ
290: 2013/09/10(火) 20:52:32 ID:XMc80vO6
側近「では、そろそろ城の中へ入ろう。もう夕飯の時間だろう?」
少女「あ、そうだった! あのね、側近さんと仲直りしたくて今日の夕ご飯奮発したんだよ!」
側近「ほう、それは楽しみだな。……まあ、お前の作る料理は何でも美味しいが」
少女「っ、もう……先に行くからね!」タタタ……ッ
側近「……本当に、お前は愛おしいな。ただ、あのようなことを我ら以外にしなければ良いが」
側近(体は大きくなろうとも、中身はまだまだ子供だからな……)ザッザッザッ
291: 2013/09/10(火) 21:02:45 ID:XMc80vO6
――――
――
夕飯時
魔王「……その様子では、どうやらうまくいったようだな」
少女「うんっ」ニコニコ
側近「……ええ、まあ」
魔王「うむ、これでいつもの我らに戻った。良いことだ」
妖精「」ムスーッ
側近「……小妖精殿は大層ご立腹のようだな。自分だけ蚊帳の外で」
妖精「~~~!」ムキーッ ガシャンッ
少女「よ、妖精さん、暴れちゃダメー!」オロオロ
292: 2013/09/10(火) 21:53:37 ID:XMc80vO6
魔王「……ところで少女よ。この間言っていた例の事なんだが」
少・妖「……」ピタッ
側近「……いよいよ話されるのですね。魔王様」
魔王「ああ。もう時間があまりないからな」
少女「……」ゴクリ
魔王「少女、お前には我らの願いのために……舞踏会へ出てもらう」
少女「……へ?」ポカン
293: 2013/09/10(火) 22:10:43 ID:XMc80vO6
魔王「お前は見た事がないだろうが……都にある城でもうすぐ舞踏会が開かれるのだ」
魔王「そこに住む王の娘が、丁度お前と同じくらいの年でな……その婿探しが主な開催理由だが、普段ほとんどない平民との交流も兼ねて催されるという」
魔王「お前にはそこで、王の娘である姫君と接触してもらいたい」
側近「無論私も参加するが……彼女に近付くにはお前の方が好都合だろう」
魔王「この日のために側近にはこれまで、参加手続きやらドレスの調達やらを……どうした少女?」
少女「……良かった」
魔・側「?」
少女「良かったー……まだ勇者様は来ないんだね」ヘタッ
294: 2013/09/10(火) 22:34:56 ID:XMc80vO6
妖精「」オロオロ
魔王「少女……まさかずっとそう思って……」
側近「もしも勇者がここに来るのなら、こうして悠長に話してなどおれんだろう」
少女「だって~……」
魔王「まあ、誤解が解けて良かったな。それで……行ってくれるな少女」
少女「……はいっ」
295: 2013/09/10(火) 22:45:56 ID:XMc80vO6
――――
――
少女「わあ……綺麗なドレス」
側近「お前には白が1番合う。そう思ってこれにしたが……構わなかったか?」
少女「良いに決まってるよ! 側近さんが私のために選んでくれたんだもん」
側近「それは良かった。サイズは合っているだろうか」
少女「大丈夫だと思うけど……着てみないとわからないね」
側近「……ではそうするか」
少女「え?」
296: 2013/09/10(火) 22:55:02 ID:XMc80vO6
側近「1人では着られんだろう? 悪いがこちらに背を向けて……服を脱いでくれないか」
少女「う、うん……」プチプチ……
側近「ゆっくりで良い……極力見ないようにするから心配するな」
少女(う……ちょっと恥ずかしいな……)スルッ……パサッ
側近「……」
少女「脱いだ……よ……」モジモジ
297: 2013/09/10(火) 23:02:11 ID:XMc80vO6
側近「……」
少女「……側近さん?」
側近「あ、ああ、すまない。ではドレスを……」スッ
少女「……うん」サッ
側近「あとは背中のファスナーを……」
少女「」プルプル
側近「……」スーッ
少女「っ! ひゃあ、ん」ビクッ
298: 2013/09/10(火) 23:10:44 ID:XMc80vO6
側近「……」ツン ツツーッ
少女「あ……側近さ、ん、やあっ……」ガクガク
側近「ッ! す、すまん」ジーッ
少女「どうしたの? いきなり背中触られてびっくりしたよ……」
側近「いや、少しふざけただけだ」
側近(……あまりにも、お前の背中が綺麗だったのでな)
299: 2013/09/10(火) 23:18:35 ID:XMc80vO6
少女「そう? 変な側近さん」クスッ
側近「……それよりどうだ? それで大丈夫そうか?」
少女「うん。ぴったりだよー。腰がいつもよりキュッてなるのが気になるけど……」
側近「なら良い、後は慣れだ。次にこれに合わせる髪形や装飾だが……」
少女「それならあの髪飾りだけで十分だよ」
側近「つけるのは構わんがそういうわけにはいかん。せめて首飾りはどうにかせねば」
少女「うう……舞踏会って大変だね」
300: 2013/09/10(火) 23:56:38 ID:XMc80vO6
側近「貴族だろうが平民だろうが、とにかく着飾らねばならんからな」
少女「……そういえば、側近さんは参加して大丈夫なの?」
側近「流石にあの格好では駄目だな。こちらも礼装し、魔法で姿を今より人間に近く変える」
少女「そんなことできるの?」
側近「1人でその術を長時間持続させるのは困難だが……魔王様の魔力をお借りすれば問題ない」
少女「へえ……」
側近「この舞踏会が、我らの願いへの第一歩だからな。互いに力を出し渋るわけにはいかんよ」
少女「どうして、舞踏会が?」
301: 2013/09/11(水) 00:08:29 ID:tgzC1jZQ
側近「都で勇者を募っているのが王だからだ。勇者となり得る者は、必ず王へ謁見する」
少女「……あ」
側近「わかったようだな。有力な勇者が現れれば、王の娘にそれが伝わるのは容易い。それ故……」
少女「お姫様と仲良くなっておけば、いつでもすぐにそれを教えてもらえるってことだね!」
側近「そういうことだ。伝達手段は幾らでもあるしな。物資の補給以外にこちらが都に赴くのはなるべく避けたい。来る日のために、こちらも無駄な時間を割きたくはないのだ」
少女「……」
側近「……勿論、その分お前と共にいたいという理由もある」ナデナデ
305: 2013/09/11(水) 13:33:05 ID:tgzC1jZQ
少女「……そっか」フニャッ
側近「……できることならいつまでも皆でこの城で暮らせれば良いのだがな」ボソッ
少女「え?」
側近「なんでもない。さあ、後はこの靴を履いてみてくれ」スッ
少女「はーい」
――――
――
その頃の妖精
妖精「」ムスッ
魔王「そうむくれるな。少女は今頃いつもの何倍も綺麗になっておろう」ツン
妖精「」ペチッ
306: 2013/09/11(水) 14:02:05 ID:tgzC1jZQ
魔王「……その調子だと、舞踏会当日も大変だぞ」
妖精「?」
魔王「お前は、我とこの城で留守番だからな」
妖精「!?」
魔王「ここと違って都の方は人の出入りが激しいからな。ましてや舞踏会の日はそれ以上……」
妖精「……」
魔王「小妖精を連れている人間など、あの場では目立つ……それによって少女に危害が及ばないとも限らん」
妖精「!」
魔王「無論、側近はそれを黙って見てはいないだろう。だが下手に騒ぎを起こして計画が失敗しては本末転倒だ」
妖精「……」
魔王「側近はともかく、お前も少女の悲しい顔は見たくないだろう?」
妖精「……」コクコク
308: 2013/09/11(水) 14:16:40 ID:tgzC1jZQ
魔王「ならば、舞踏会の時はここで大人しくできるか? もしそれが約束できるなら」
妖精「?」
魔王「当日は、舞踏会での2人の様子を逐一見せてやろう」
妖精「!!」
魔王「この鏡に魔力を籠めればな、特定の者の様子を見ることができるのだ。これで計画の進行具合を直に見られる」スッ
妖精「」ジーッ
魔王「この事は側近は了承済みだ。少女には後で話す……どうだ?」
妖精「……」渋々コックリ
魔王「うむ。わかってもらえて何よりだ」
310: 2013/09/11(水) 18:23:56 ID:tgzC1jZQ
――――
――
少女「むう……じゃあ、これにしようかな」
側近「やっと決まったか。ではさっそく着けてみよう。髪をあげるんだ」ジャラッ
少女「はーい」スッ
側近「……」シャラッ
少女「どうかな?」クルリ
側近「……ああ、とても似合っている。ドレスとも合っているしな」
少女「ダイヤの首飾りなんて初めて着けたよ……あの髪飾り以外にこういうの着けた事ないから変な感じ」
311: 2013/09/11(水) 18:25:21 ID:tgzC1jZQ
側近「全く、お前はもう少しお洒落というものをだな……」
少女「だって興味ないんだもの。それよりお友達と遊んでた方がずっと良いよ」
側近「……では私は他の装飾品を宝物庫へ入れてくるから、お前は今のうちに着替えると良い。ファスナーは自分で脱げる所まで下げておくから」ジィーッ
少女「ありがとう……ふう、やっと動きにくいのから解放される~」
側近「……この調子では先が思いやられるな」パタン
少女「よいしょ……それにしてもお姫様って毎日こんな服を着てるのかな。何だか大変そう」ヌギヌギ
312: 2013/09/11(水) 18:34:32 ID:tgzC1jZQ
宝物庫
側近「……」バタン
側近「……くそっ」
側近「何故……俺は魔族なんだ」ギリッ……
側近「……すまん、少女」ギュッ ジワリ
魔王「……そこまで追い詰められていたか」バタン
側近「! 魔王様……」ササッ
魔王「手を隠しても、お前の血の匂いは消せぬぞ」
側近「……」
313: 2013/09/11(水) 18:40:19 ID:tgzC1jZQ
魔王「本当に、何故我らは魔族なのだろうな」
側近「……魔族でなければ、このような気持ちも抱かなかったのに」
魔王「だが、魔族でなければ少女に出会えなかった」
側近「……そうですね」
魔王「数奇なものだな。我らの生は」
側近「……ええ」ジャラジャラ
314: 2013/09/11(水) 18:47:07 ID:tgzC1jZQ
魔王「……せっかく少女のために選んだのが、無駄になってしまったな」
側近「いつか気が変わってくれれば良いのですがね」
魔王「どうだろうな」
側近「……魔王様」
魔王「わかっておる。もしもの時のためにちゃんと手は打ってあるから心配するな」
側近「……ありがとうございます」
魔王「だがな、これだけは言っておく……私はお前を信じておるからな、弟よ」
側近「……ありがとう、兄上」バタン
315: 2013/09/11(水) 18:57:34 ID:tgzC1jZQ
魔王「……」
魔王「……あれを今すぐ壊せればどれ程気が楽か」
魔王「弱い兄で……すまない……」
――――
――
側近「……」ザッザッザッ
少女「あ、側近さん」
妖精「」パタパタ
側近「……少女」
少女「ドレスとか首飾りとか、そのままにしておいて良かった?」
側近「……ああ」
少女「って側近さん、手に怪我してるじゃない! 魔王様の血はよく見るけど、側近さんは珍しいね」スッ
側近「! 触るなっ!!」
少女「!」ビクッ
妖精「」キッ
316: 2013/09/11(水) 21:46:34 ID:tgzC1jZQ
側近「あ……す、すまん。この程度の傷はすぐに治る」
少女「ううん、気にしないで……そうだったね、2人の血に触るのは注意しなきゃ」
側近「ああ……洗濯の時もできれば触らせたくはないが」
少女「魔王様の血はある程度時間が経っているから大丈夫なんでしょ?」
側近「……まあな」
少女「ふふ……側近さんって本当に心配性だね~」
側近「我らと違ってお前はか弱い人間だからな。多少過保護にもなるさ」
少女「……ねえ側近さん」
側近「何だ」
少女「……そのか弱い人間なりに、私頑張るから。舞踏会……2人のために」
側近「……ああ。期待している」
妖精「」パタタ……
317: 2013/09/11(水) 23:49:05 ID:tgzC1jZQ
少女(それから舞踏会までの数日間は大変だった)
少女(側近さんから簡単なダンスの手解きを受けたり、あっちのお城での振る舞いの注意などを聞いたり……ドレスにも慣れなきゃいけなかったし)
少女(でも、このお城以外のお城を見るのは初めてなので、とてもわくわくした)
少女(妖精さんが一緒に行けないのは少し残念だけど、久しぶりの側近さんとの都行き)
少女(大切な目的があるとはいえ……やっぱり楽しみだな)
318: 2013/09/12(木) 00:14:43 ID:AnBMRp/E
――――
――
舞踏会当日
側近「少女、準備はできたか?」
少女「うん」ドキドキ
魔王「では2人とも、どうか頼んだぞ」
少女「はい……妖精さん、魔王様と良い子で待っててね」ナデナデ
妖精「」コクコク
側近「では、行って参ります」ブツブツ カッ
少女「行ってきまーす」キィィ……ン
魔王「くれぐれも、無茶はしてくれるなよ?」
319: 2013/09/12(木) 00:25:41 ID:AnBMRp/E
少女「わかってるよー」フッ……
側近「……」ペコリ フッ
魔王「……行ってしまった」
妖精「」パタパタ
魔王「どうか何事もなく、帰ってきてくれよ……」
妖精「」クイクイ
魔王「……おお、そうであったな。早速鏡の術を発動するか」ザッザッ
妖精「」パタパタ
魔王(……それにしても、少女のドレス姿はとても美しかったな)
魔王(悪い虫がつかなければ良いが……ううむ心配だ)
魔王(まあ、あの髪飾りがあるなら大丈夫だろうが……)
323: 2013/09/12(木) 12:57:49 ID:AnBMRp/E
こんにちは。さて、今日もひっそり行きますぞ~(笑)
>>321せやな!(笑)
もうとりあえずカッコ良ければ良いかなって思えてきました←
>>322これから書きますが、一応転移魔法を使っているというところです。
会話だけで表現って本当に難しいですね……。
そ、それは何とも……おっさんの定義って、何でしょうね……。
>>321せやな!(笑)
もうとりあえずカッコ良ければ良いかなって思えてきました←
>>322これから書きますが、一応転移魔法を使っているというところです。
会話だけで表現って本当に難しいですね……。
そ、それは何とも……おっさんの定義って、何でしょうね……。
324: 2013/09/12(木) 13:07:20 ID:AnBMRp/E
――――
――
都の前
シュウウ……
側近「……着いたな」スタッ
少女「わあ……夜の都ってこんなにキラキラしてるのね。おまけに昼間よりもずっと賑やか」スタッ
側近「舞踏会が催されるという理由もあるだろうがな……」
少女「あーあ、もしドレスじゃなかったら側近さんに抱っこしてもらってダダーッて走ってもらえたのに。夜の景色も素敵なんだろうなあ……」
側近「できなくはないが、もうそのような年でもなかろう……だが確かに少々味気なかったな、転移魔法では」
325: 2013/09/12(木) 13:49:00 ID:AnBMRp/E
少女「あ、いっそのことお友達に頼んでも」
側近「それだけは駄目だ」キッパリ
少女「えー」
側近「第一、こんな遅くに呼びだされては迷惑だろう?」
少女「それもそうか……」
側近(なんとか誤魔化せたか)
少女「ところで側近さん、その黒いお面はいつ取るの?」
側近「都に入ったらすぐに取る。今のうちに顔全体にまんべんなく魔力を張り巡らせねば、すぐにでも術は解けてしまうからな」
326: 2013/09/12(木) 14:31:30 ID:AnBMRp/E
少女「そう……」ギュッ
側近「?」
少女「……いつもと全然違う手。でも、この暖かさはやっぱり側近さんのだね」
側近「……そうなのか?」
少女「うん。だから安心するの」
側近「では、そのまま離さずに……行くぞ」ザッザッ
少女「はーい」タッタッ
327: 2013/09/12(木) 16:37:38 ID:AnBMRp/E
都の城
少女「」ポカーン
側近「……魔王城とはまた違った風情があるだろう」
少女「すごい……魔王城と同じくらいかそれ以上か……とにかくおっきいね!」キラキラ
側近「ああ。どちらが先に建てられたのかは知らないが」
少女「魔王城は黒いけど、こっちは真っ白だね~」
側近「我らの城は禍々しさを表しているからな……」
少女「でも、私は魔王城の方が好きだよ?」ニコニコ
側近「そうか……私は入り口で受付を済ませるから、お前は先に中へ入っていても良いぞ」
少女「え、いいの?」
328: 2013/09/12(木) 18:26:02 ID:AnBMRp/E
側近「ああ。ここで待っていても構わんが、その格好では冷えるだろう?」
少女「じゃあ……お言葉に甘えて」テクテク
側近「あまり遠くへは行くなよ?」
少女「うん」
――――
――
少女「人がいっぱい……お城の中にたくさん人が入るとこんなに賑やかになるんだ」
少女「壁の方にはご馳走があんなに! 確か立食っていうんだっけ……」
329: 2013/09/12(木) 18:34:14 ID:AnBMRp/E
男1「ね、ねえ君」
少女「へ? あの……私?」
男1「今日踊る相手は決まってるの? フリーなら俺と……」
男2「おいお前、がっつくなよー」
男3「よく見ろよ、その子の髪。あの花がついてるって事は……わかるだろ?」
男1「……あ。ご、ごめん」シュン
少女「?」
330: 2013/09/12(木) 18:47:36 ID:AnBMRp/E
男2「ごめんねー。ほらいくぞ」グイッ
男1「ああ……」トボトボ
男3「大丈夫だって、女の子はまだ他にもいるんだから……」スタスタ
少女「……この髪飾りが何なんだろう?」キョトン
『ざわざわ』
『見かけない子だな……』
『スタイルが良くて……おまけにかなり可愛いだと!?』
『くそっ! 誰だよ彼女にあの花を贈ったのは!!』
『落ち着けよ、もしかしたら親からかも知れないだろ?』
少女「? 何だか妙に見られてる気がする……側近さん早く来ないかな」ソワソワ
331: 2013/09/12(木) 19:04:35 ID:AnBMRp/E
女1、2「こんばんは」ススッ
少女「あ、こ、こんばんは……」ペコリ
女1「あなたこの辺じゃ見ない顔ね。どこから来たの?」
少女「えっと……ちょっと遠い方の村から」
女2「そお……通りで田舎くさいわけね」ジロジロ
女1「よくドレスを買うお金があったものだわ」ジロジロ
少女「?」
少女(わあ、この人達すごくキラキラしてる……あ、この2人に訊いてみよう)
少女「あの、ちょっといいかな?」
332: 2013/09/12(木) 19:10:26 ID:AnBMRp/E
女1「なにかしら」クスクス
少女「この髪飾りって、一体どんな意味があるの?」
女2「!? ……ぷ、ふふふふ」
女1「ほほほ、あなたその意味も知らずに着けていたの?」
少女「え、ええ……」
女2「全く、おめでたいことだわ。送り主の気も知らずに」
少女「???」
女1「いいわ。無知なあなたに教えて差し上げるわ」
333: 2013/09/12(木) 19:40:05 ID:AnBMRp/E
少女「!」パアアッ
女1「っ、ご、ごほん、その髪飾りはね、値段としては安くも高くもないけれど」
女2「それを送るのは相当な覚悟がいるのよ」
少女「どういうこと?」
女1「何があろうともその人の事を慈しみ、愛おしみ、守り続けるという永遠の誓いを籠めるから」
女2「本当に心から大切に想っている人にしか送らない決まりなのよ」
少女「!」
334: 2013/09/12(木) 20:33:14 ID:AnBMRp/E
女1「花が成長するのは、その想いが変わることなく積もり続けている証で……」
女2「送り主が氏ぬか、想いが消えてしまうと一緒に散ってしまうのよ」
少女「散っ、て……」
女1「そう。だから送られた方は、送り主の気持ちを大切にしなければいけないわ」
女2「送る相手は子供や親だったりと様々。でもやっぱり恋人が一番多いわね」
女1「髪飾りを売っている教会の聖書に記された伝説が元になっているのだけど……この分じゃあなた伝説の方も知らないわね」
335: 2013/09/12(木) 22:32:05 ID:AnBMRp/E
少女「……」ポロポロ
女1「仕方ないからそっちも教えて……ってちょ、あなた何で泣いてるの!?」
女2「やめてよ、何だか私達が泣かせたみたいじゃない!」
少女「ごめんなさい。そんな意味があったなんて知らなくて……私、何にも知らなかった」ゴシゴシ
女1「ああそんなに擦らない! ほら、このハンカチでそっと拭いなさい」スッ
女2「そんなに真剣に泣かれると、何だか毒気を抜かれてしまうわね……」
少女「あう、ありがとう……お姉さん達とっても良い人だね」フキフキ ニコッ
女1「えっ……べ、別にそんなことないわよ!」プイッ
女2「これだから世間知らずの田舎娘は……」カアッ
336: 2013/09/12(木) 22:51:42 ID:AnBMRp/E
少女「えへへ……じゃあ、この髪飾りはお守りみたいなものだね」ナデナデ
女1「そうね。こんなに成長した髪飾りをしている娘を狙う程、酷い人間はここにはいないと思うわ」
女2「あの教会の教えが……私達の主な信仰だから。あなたも今度行ってみれば?」
少女「うんっ、そうするね。色々と教えてくれてありがとう」ペコリ
女1「うっ……別に感謝されるほどの事ではないわ!」
女2「そ、そうよ! ……あ、じゃああなたからも1つ教えなさい!!」ビシッ
少女「へ? 何を?」キョトン
337: 2013/09/12(木) 23:15:55 ID:AnBMRp/E
女1「とぼけないで! その髪飾りをあなたに送った人の事よ!!」
女2「どんな人? ここまで来て親からでしたーとかだったら承知しないわよ!」
女1「あなた田舎娘にしては可愛いんだから、お相手もそれなりに良いんでしょうね」
少女「う……えっと……」オロオロ
『まあ……素敵』
『きゃあー!』
女2「もしかして一緒にこの舞踏会に来てる? きっとそうねそうに違いないわ!」
女1「特徴は? ていうか何処にいるのよー」
『すげ、なんだあのガタイの良さ』
『てかでけえ!』
338: 2013/09/12(木) 23:27:55 ID:AnBMRp/E
少女「その、くれたのは……あ」
女2「……ていうか、何だかやけに騒がしいわね? やっとお姫様のご登場かしら」
女1「え? それにしちゃ何だか反応に違和感が……えっ!!」
女2「? 何よ、私の後ろがどうかしたの?」
少女「……あのね、あなたの後ろにいる人がくれたの」
女2「……~~~ッッ!!」クルリ
側近「待たせたな、少女……会話の邪魔だったか?」
女1、2「……なっ」
女1、2(何なの……何なのよこの美丈夫はッッ!!!!)
339: 2013/09/12(木) 23:42:47 ID:AnBMRp/E
少女「側近さん! あのね、このお姉さん達が首飾りの事を教えてくれたの」ニコニコ
側近「何だ、先に知られてしまったか……少し残念だ。もう少ししたら私から教えようと思ったのに」
少女「そうなの? 何だか悪いことしちゃったかな……」
側近「いや、良い。まあそういうわけで、この髪飾りには私の想いの他に、一応あの御方の分の想いも籠めたつもりだ。だからこれからも大切にな」
少女「はーい」
女1、2「」ボーゼン
側近「……ああ、そこのお嬢さん方」
女1、2「! は、はいっ」ビクッ
340: 2013/09/13(金) 00:17:11 ID:ZivUt93.
側近「うちの少女が世話になったな。礼を言う」ペコリ
女1「い、いいいいいえそんな!!」ブンブン
女2「私達は大したことはしておりませぬうううう!!!!」ブンブン
少女「……あ、そうだ、さっき使っちゃったハンカチ」
女1「あ、ああ良いのよ気にしないでそれくらいあげるわ」
少女「でも……」
女1「遠慮なんていらないわほら行きましょう」ソソクサ
女2「そうよではごきげんようおほほほほ」タタタ……
女1、2(……このリア充めっ)ダーッ
341: 2013/09/13(金) 00:44:09 ID:ZivUt93.
少女「……行っちゃった」ポカン
側近「随分と親しげだったが……もう仲良くなったのか?」
少女「そうみたい。側近さん達以外の人と話すのってすごく久しぶりだよ。いつかハンカチ返せたら良いなあ……」ギュッ
側近「……いつも寂しい思いをさせているな」ナデナデ
少女「ううん、そんなことないよ? お友達もいるしね。そんなことより側近さん、遅かったね」
側近「ああ、それについてだが……実は少々不味い事になった」
少女「何……?」
側近「城の中にいた近衛兵達の話によると……どうやら肝心の姫君がいなくなったらしい」
342: 2013/09/13(金) 00:49:16 ID:ZivUt93.
今回の更新はここまで。
いやー、城のザワザワ感むずいな~(笑)
多分舞踏会の人達には側近はワイルド系イケメンに見えている……筈←
伝説の話もいつか書きたいと思います。
おやすみなさい。
いやー、城のザワザワ感むずいな~(笑)
多分舞踏会の人達には側近はワイルド系イケメンに見えている……筈←
伝説の話もいつか書きたいと思います。
おやすみなさい。
345: 2013/09/13(金) 11:33:13 ID:ZivUt93.
――――
――
その頃の魔王城
魔王「うむ、やはりこうして見ていても少女が1番美しいな。小妖精もそう思わんか?」
妖精「」コクン
魔王「おお……少女が同性の娘達とあんなに親しげに。魔王様は嬉しいぞ」
妖精「」ベシベシ
魔王「こらこら、少女が我のために作ってくれた兎のぬいぐるみに八つ当たりをするでない」
妖精「」プウッ
魔王「心配せずとも、少女にとっての1番の友はお前だ。どんと構えておれば良い」
妖精「……」
魔王「さて、側近の方は……何かあったのか? 兵達の話にさり気なく耳を……」
魔王「……計画に支障が出なければ良いが」
346: 2013/09/13(金) 11:41:10 ID:ZivUt93.
――――
――
都の城
少女「え……? それって」
側近「何でもこの城の姫君は、こういった催し物があまり好きではないらしい。中々に自由奔放なようだ」
少女「じゃあ、どこかに隠れちゃったのかな?」
側近「誘拐でもなければそう考えるのが妥当だな。だが、このまま接触できぬのは不味い」
少女「そうだね……どうする?」
側近「とりあえず、舞踏会の客として怪しまれぬ程度に姫君を探すとしよう」
少女「うん、わかった……ねえ側近さん」
側近「なんだ?」
347: 2013/09/13(金) 12:21:36 ID:ZivUt93.
少女「私達、気のせいかすごい見られているような……側近さんが他の人より大きいからかな?」
ザワ……ザワ……
『身長差のある美男美女……』
『いや、でもあれは男の方がデカ過ぎるだろ。女の子も高い方だし』
『とりあえずリア充爆発しろ』
側近「……これは難しそうだな」ハア……
側近(恐らく、男共は少女の飾らない美しさに惹かれているのだろう……そんなに彼女が物珍しいか。忌々しいことだ)
側近(……と、少し考えが乱暴過ぎたか)
少女(私達と同じようなお顔の側近さん……やっぱりかっこいいんだ)
少女(……いつものお顔も素敵だって、わかってもらえたら良いのにな)
348: 2013/09/13(金) 19:14:55 ID:ZivUt93.
側近「……まあ、まずは腹ごしらえをするか」ザッザッ
少女「うん!」パタパタ
――――
――
側近「ほら、好きなものを食べられる分だけ取るんだ」スッ
少女「ありがとう。どれにしようかな~」ウロウロ
側近「……あまり悩むことはないぞ」
少女「んー、でも美味しそうなものがたくさんあって迷っちゃうよ」
側近「……では、2人で別々のものを少しずつ取って互いに交換するか」
少女「あ、それいいね! じゃあ私こっち~」タタッ
349: 2013/09/13(金) 19:41:26 ID:ZivUt93.
側近「あまり慌て過ぎて転ぶなよ」
少女「大丈夫だって……あっ!」グイッ ズルンッ
『あっ……!』
ザワワッ……!
側近「……ったく、言った傍から」ササッ ギュッ パシッ
少女「……あ」
『おお~……』パチパチ
側近「いくら何度か着たとはいえ、完全に慣れたわけではないのだぞ?」フゥ
少女「ごめんなさい~……」
350: 2013/09/13(金) 22:12:59 ID:ZivUt93.
側近「……私が料理を持ってくるから、お前は飲み物を頼む。ゆっくりな」スタスタ
少女「うん、わかった」
側近「」ザザザザザッ
少女「すいません、飲み物くださいなー」
給仕「はい、こちらをどうぞー」スッ
少女「ありがとう」ニコッ
側近「少女、こちらは粗方盛ったからな」ズオオオ……
少女「はーい」
『あの料理の盛り方……』
『ただ者じゃねえ……てか動きがヤバかったぞ』ヒソヒソ
351: 2013/09/13(金) 22:46:55 ID:ZivUt93.
少女「あ、これね、葡萄酒だって。綺麗な色だねー」
側近「……少女のは別の物に換えよう。これはお前には少し早い」スッ
少女「えー。私も飲みたいー」
側近「……私のグラスからほんの少しだけなら飲ませてやる」
少女「むー……わかった」テクテク
側近「……ふむ、良い香りだ」ホウ……
少女「換えてきたよー。林檎の果汁に炭酸を混ぜたジュースだって」
側近「ああ、それなら良いだろう」
354: 2013/09/13(金) 23:43:31 ID:ZivUt93.
少女「あ、じゃあその葡萄酒飲ませてー」
側近「少しだけだからな」
少女「わかってるよ~……んく、不思議な味だね……これくらい?」
側近「ああ。その辺で止めておけ」
少女「じゃあ、お料理を食べようっと……いただきます」モグモグ
側近「どうだ?」
少女「ふわ……すっごくおいひい!」ムグムグ
側近「それは良かったな。流石は王のお抱え料理人といったところか……」
356: 2013/09/14(土) 00:07:12 ID:DaKK7aRg
少女「ジュースもおいしいなー」ゴクッ
側近「……口についておるぞ」ツン
少女「え? あーほんとだ。気をつけるね」キュッ
『……何だか』
『色気はないがほっこりするな』
『うん』
側近(……そろそろ姫君が来ないことに疑問を覚える者も出てきそうだな)
少女「側近さん、これおいしいよ。あーん」
側近「……うむ、美味いな」モグモグ
357: 2013/09/14(土) 00:13:58 ID:DaKK7aRg
――――
――
その頃の魔王城
魔王「……羨ましい奴め。少女からのあーんとは」モグモグ
妖精「」ムーッ
魔王「ふん、こちらは少女の料理が食べられているから別に良いがなっ」
妖精「」コクコク モグモグ
魔王「それにしても……何故姫の姿が映らぬのか」
魔王「……まあ、焦ってはいかんな。とりあえず様子見だ」ジッ
妖精「」ジッ
358: 2013/09/14(土) 00:30:14 ID:DaKK7aRg
――――
――
都の城
王の側近「えー皆さま、舞踏会は楽しんでおられていますか?」
側・少「!」
王の側近「姫様は只今準備に手間取っておりまして、もう少しお時間がかかられるとのことです。
つきましては、予定を早めて先に皆さんにメインのダンスを楽しんでいただきます」ペコリ
側近(……そう来たか。時間がかかるということは、見つからなければ最終的に影武者でも立てるつもりか)フキフキ
少女「あ、側近さん音楽が変わったよ……! 緊張するな~」ドキドキ
側近「そうだな、まあ練習通りにやれば良い……ごほん。ではお嬢さん、一曲踊っていただけますか?」スッ
少女「! ……はい、喜んで」ソッ
359: 2013/09/14(土) 00:33:24 ID:DaKK7aRg
今回の更新は以上です。
あまり進まなかった……。
ここまで進めましたが、コテは消した方が良いですかね?
少し悩んでいます。
おやすみなさい。
あまり進まなかった……。
ここまで進めましたが、コテは消した方が良いですかね?
少し悩んでいます。
おやすみなさい。
362: 2013/09/14(土) 10:23:05 ID:DaKK7aRg
こんにちは。今日も少しずつ更新していきます。
>>360ありがとうございます。
>>361そうなんですか?
馬鹿みたいに考え込んでしまう質なので……ちゃんと見分けられなきゃ駄目ですね。
完結までは本当に頑張りたいと思います。
>>360ありがとうございます。
>>361そうなんですか?
馬鹿みたいに考え込んでしまう質なので……ちゃんと見分けられなきゃ駄目ですね。
完結までは本当に頑張りたいと思います。
363: 2013/09/14(土) 10:45:48 ID:DaKK7aRg
オオ……
『中々様になっているな』
『まだ王女にお目にかかれないのは残念だが、代わりに良い物が見れた』
『私達も負けてはいられないわね!』
側近(……そうだ、その調子だ)
少女(うう、足がもつれそう……落ち着いて、落ち着いて……)
側近(もう少しで終わる……頑張れ、少女)
少女「……あっ」ガクンッ
側近(っ、と)グイッ
少女「あう、ごめんなさい」ヒソヒソ
側近「問題ない。あと少しの辛抱だ」ヒソッ
少女(側近さんのお顔……近い。何だか恥ずかしいな)カアッ
364: 2013/09/14(土) 11:17:53 ID:DaKK7aRg
――――
――
側近「……終わりのようだな。大丈夫か?」
少女「な、何とか……踊るのってこんなに体力使うんだね」ハァハァ……
側近「ただクルクルと回る事だけなら誰でもできる。楽しむのは大事だが遊びではないのだ」
少女「う~……」
側近「まあ、なにはともあれよく頑張った」ナデナデ
少女「……えへへ」フニャッ
パチパチパチパチ
『少しぎこちないけど良かったぞー!』
『お疲れ様ー』
少女「えっ、そ、側近さん……」チラッ
側近「……やれやれ」ハア
365: 2013/09/14(土) 11:55:22 ID:DaKK7aRg
王の側近「皆さま、楽しんでいただけているようで何よりでございます。まもなく姫様のご登場ですので今しばらくお待ちください」
少女「側近さん、もうすぐお姫様出るんだって!」クイクイ
側近「……いや、十中八九偽物だろう」
少女「え? 何で?」キョトン
側近「よく見なければわからんが、あちこちにいる近衛兵の表情が僅かに強張っている。恐らく動揺を必氏に隠そうとしているのだろう」
少女「すごい、よくわかるね」
側近「お前がよそ見をし過ぎているだけだと思うが」
少女「むう、そんなことないもん」
366: 2013/09/14(土) 19:18:27 ID:DaKK7aRg
側近「どうだか。お前はまだまだ子供だからな」
少女「……暑いからちょっと外の風にあたってくる」テクテク
側近「あまり遠くには行くなよ」
少女「……」プイッ
側近「……しばらく自由にさせるか」ザッザッ
少女「喉乾いたからこれ貰うね」パッ ゴクゴク
給仕「あっ、それは葡萄酒……」
少女「あ……まあいいや」
367: 2013/09/14(土) 22:43:41 ID:DaKK7aRg
――――
――
城の外
少女「はあ……風が気持ちいい」フラフラ
少女「踊るだけでこんなに疲れるなんて……うう」ヨロッ
少女「……側近さんの馬鹿」ヒック
少女「私もうあの時みたいな子供じゃないもん……背だって伸びたし」グスッ
少女「馬鹿、バカ、ばかっ……私だって頑張ってるのにっ!!」ワシャワシャ
スルリ……カランッ
少女「ヒック……風が涼しいのに、まだ熱いよう……」グタッ
368: 2013/09/14(土) 22:55:07 ID:DaKK7aRg
――――
――
その頃の魔王城
魔王「しょ、少女……なんということだ。完全に酔っておるではないか! これでは計画どころでは……」ワナワナ
妖精「」パタパタパタッ
魔王「ま、待て小妖精! 行ってはいかん!! そういう約束だろう!?」ガシッ
妖精「」ムーッ
魔王「我らは2人を信じて待つ……それが家族というものだ」
妖精「……」
魔王「だが……やはり心配だな。側近は一体何をしておるのだ……!!」ハラハラ
370: 2013/09/14(土) 23:07:05 ID:DaKK7aRg
――――
――
都の城
ワイワイ ガヤガヤ
側近(姫君はやはり偽物、か……他の招待客は気づいていないようだが)
側近(……さて、本物は一体何処だ?)キョロキョロ
側近(……少女は)ピタリ
側近(まだまだ子供……一体どの口がそう言っているのだ)
側近(少女はもう、恋人がいてもおかしくはない年頃……少々子供っぽいが、あの容姿なら引く手数多だろう)
側近(……身勝手な願望で、彼女を縛ってはいけない)
側近(そう、わかってはいるのだがな)フゥ
371: 2013/09/14(土) 23:23:01 ID:DaKK7aRg
給仕「……あ、ああ、そこの方!」タタタッ
側近「? 私か?」
給仕「確か、あの白いドレスの……お嬢さんの、お連れの方でしたよね!?」ハアハア
側近「そうだが」
給仕「お聞きしたい事がありまして……お食事の時偶然目にしたのですが、あのお嬢さんはお酒は……」
側近「今日口にしたのが初めてだが……それが何か?」
給仕「実は先程お嬢さんがお外に出られる前、偶然葡萄酒を1杯お飲みに……」
側近「なっ……それは本当か!?」ガシッ
372: 2013/09/14(土) 23:37:55 ID:DaKK7aRg
給仕「本当に申し訳ございません! あまりに咄嗟の事で対処が……至らなかった私の責任です!!」ガバッ
側近「何ということだ……いや、あなたは悪くない。知らせてくれて感謝する」クルッ
側近「あなたはあなたの仕事に戻ってほしい……後は私の役目だ」ザッザッザッザッ
給仕「うう……」
――――
――
城の外
「……これは」スッ ジーッ
「何と立派な……持ち主は何処へ?」キョロキョロ
373: 2013/09/14(土) 23:50:47 ID:DaKK7aRg
少女「ふにゅ、頭がふわふわする……」ヨロヨロ
チャラ男「はあ、遅くなっちまったな……お、可愛い子発見」
少女「はあ、体が熱いよう……」
チャラ男「そんなに熱いなら、そのドレス脱がせてあげようか?」
少女「ふえ? だあれ……?」トロン……
チャラ男(ッ、やべ……髪は乱れてるけど中々の上玉じゃん……言葉もギャップ萌え)ゴクリ
チャラ男「どうしたんだい? 恋人と喧嘩でもした?」ニコッ
少女「んとね……そっきんしゃんにまだまだ子供だっていわれたのぉ……」ウルッ
374: 2013/09/15(日) 00:00:40 ID:8ILR.RH.
チャラ男「そうなんだ。それは酷いな……こんなに可愛くて綺麗なのに」ジッ
少女「ありがとー。おにぃしゃんはひとりできたの……?」ボンヤリ
チャラ男「まあね。君みたいな子との出会いを求めて」ギュッ
少女「そうなの~」ニヘラッ
チャラ男「……ねえ、そっきんさんを見返したいと思わない?」ボソッ
少女「んー……?」
チャラ男「もう子供じゃないって胸を張って言えるようになりたいでしょ?」
少女「あ……うんうん! 私もう子供じゃないもんっ」フラッ
375: 2013/09/15(日) 00:11:13 ID:8ILR.RH.
チャラ男「おっと……じゃあ、手っ取り早く大人になれる方法を教えてあげえるよ」ガシッ
少女「ほんとお? 教えて~おにいさん」ギュッ
チャラ男「ふふ……わかった。まずは人目に付かないところへ行こうか」スタスタ
少女「うん……」フワフワ
――――
――
側近「少女……何処におるのだ!?」ダダダッ
側近「くそっ、やはり目を離すべきではなかった……!!」
側近「少女に何かあったらあの御方に顔向けできん!!」
側近「何より……」
側近(私ガ正気デイラレルダロウカ……?)ドクンッ
376: 2013/09/15(日) 00:27:43 ID:8ILR.RH.
――――
――
その頃の魔王j(パリーンッ)
魔王「糞があああッ!!! あんの男おおおおおおおお!!!!!!」ゴゴゴゴゴ
魔王「少女に何か変な事をしてみろおおおおおおお……!!!!!!!」
魔王「八つ裂きにするだけでは飽き足らん……生きたままその粗末なモノを完膚なきまでに叩き潰してくれるわああああ!!!!!!」ビキビキビキ
妖精「」パタ……パタ……
魔王「どうした小妖精……よもや止めようなどとは思っておらんだろうな」ジロリ
妖精「」スッ
魔王「……ああ、いかん。怒りのあまり我の魔力で鏡が割れてしまったな。我ながららしくない」パキッ
魔王「修復するまでにちと時間がかかる……それまでのことは側近からきっちり聞くとしよう」シュウウ……
377: 2013/09/15(日) 00:53:49 ID:8ILR.RH.
――――
――
城の外
側近「少女……何処だ……」
「あっ……ふぁ……っ」
側近「! こっちかっ!!」ガサガサ
「……ね……こうすると……もっと……」
側近「ッ、少女!!!!」ガサッ
少女「んあっ……しょこらめえ……」ビクッビクッ
チャラ男「ふふ、すごく柔らかいね……大きさも申し分ない」フニフニ
少女「あっ、あ……変な感じぃ……」
側近「……」――ドクンッ
378: 2013/09/15(日) 01:16:39 ID:8ILR.RH.
チャラ男「……あ? あんた何? 一緒にヤりた――ヒイッ!」ゾクッ
側近「……」ザッ……ザッ……ドクン ドクン
チャラ男「何なんだよ……っ、まさかこの子のぶフォアッッ!!」ベキィッ
側近「汚い声ヲあげルな……少女の耳が汚レるだろウ……」ザッ……
チャラ男「ひ、ひゃいぃ……」ガクガク ジュワッ……
側近「……失セロ……俺が正気のウチにな……」ド ク ン
チャラ男「あ、ひゃ、あぁあああぁあ……」ガクンッ ヒョコッ ベチャッ ヒョコッ
側近「……」チラッ
少女「はあ……はあ……」クテッ……
379: 2013/09/15(日) 01:28:42 ID:8ILR.RH.
側近「……少女」スッ
少女「んっ……側近、さん……?」トロン
側近「あの男に何をされた」
少女「ふえ……?」
側近「答えろ」ギロッ
少女「っ! ……頬っぺたと、首にちゅうされて……」ビクビク
側近「……」
少女「おっOいを……ふにふにされたの」
側近「……本当にそれだけか」
少女「」コクコク
380: 2013/09/15(日) 01:41:15 ID:8ILR.RH.
側近「そうか……」
少女「ねえ、側近さん……私、これで大人になれたかなあ?」
側近「!?」
少女「もう子供だって、言わない……?」ヘラッ
側近「……それだけのためにあの男に汚されようとしたのか?」
少女「っ……」ビクッ
側近「……そんな風にお前を育てた覚えはないぞ」グイッ
少女「あ、っ……」トサッ
側近「……仕置きだ」ペロリ
381: 2013/09/15(日) 01:56:01 ID:8ILR.RH.
少女「……あ」ゾクッ
側近「あの男にはどのようにされたのだ……こうか?」チュッ
少女「っん……!」
側近「首の方は……こうか」チュッ カプッ
少女「ひゃ、っ……」ビクッ
側近「ちゃんと言わんとわからんぞ? ほら、ここは……?」フニッ
少女「やっ、側近、さ……っ」ハアッ……
側近「どうした、お前はもう大人なのだろう……? これ位で恥ずかしがってどうする」フニュン
少女「あ……ごめんな、さ……」ポロポロ
側近「こんなに無防備にしておるから……あのような輩に良いように……」クイッ
少女「う、あ……っ」イヤイヤ
?「はい、そこまでー」バシャンッ
385: 2013/09/15(日) 11:29:50 ID:8ILR.RH.
側近「っ!!」ビッショリ
?「いちゃつくのは勝手ですけど、どうか場所を弁えてくださいね~」ニッコリ
側近「……私は何を」ボーゼン
側近(そしてこの娘は……服装的に招待客、ではないが……まさか)マジマジ
?「あら? もしかして自覚がおありでないと?」
側近「! そうだ、少女!」バッ
少女「」グッタリ
側近「……気を失っておるのか」
?「そうみたいですね~……あ、いけない、咄嗟の事とはいえ貴方の綺麗な服が台無しに」
側近「いや、むしろ感謝する。あのままでは私はとんでもないことを……」ペコリ
386: 2013/09/15(日) 11:37:11 ID:8ILR.RH.
?「なら良かった」ホッ
側近「少女……すまない」ギュッ
?「……貴方、余程そのお嬢さんの事を大切にされているのですね」
?「ではもしかして……あ! いけない!!」バッ
側近「どうした?」
?「近衛兵がこちらに近付いてきます! 見つかりたくないならついてきてください!!」ガサッ
側近「わかった」ガサッ
387: 2013/09/15(日) 12:13:53 ID:8ILR.RH.
――――
――
?「ここまで来れば大丈夫です」フウッ
側近「助かったよ、お嬢さん……いや、姫君」
?「! ……何故そうお思いに?」
側近「まず、あなたは兵の事を近衛兵とさも当然のように言った。一般人は兵と略する事が多い。
次に最初はわからなかったが、その服装にしては顔立ちやしぐさに気品がある。それに……」ジッ
?「それに?」
側近「……その帽子から一房、輝く金髪が出ている。余程大切にされているのだろうな、月光で光っているぞ」
姫「……あら、逃げるのに夢中で気がつきませんでしたわ」ニッコリ
388: 2013/09/15(日) 12:26:40 ID:8ILR.RH.
側近「都で姫君の美しさは嫌でも耳に入るからな……その金髪の事も」
姫「はあ……嫌ですわね、頼んでもいないのに自分の噂ばかりが独り歩きするのは」
側近「仮にも一国の王の娘だ。やむおえんことだと思うが」
姫「私は好きで王女として生まれたわけではありませんわ!」
側近「気持ちはわかる。だが誰だって己の出生を決めることはできん」
姫「……そうですわね。これ以上言い合っていても仕方のない事……それに私も私で目的があることですし」
側近「目的?」
姫「ええ。先程あちらの方でこれを拾いまして」スッ
389: 2013/09/15(日) 13:04:29 ID:8ILR.RH.
側近「!」バッ
少女「」ボサボサ
姫「その持ち主を探してお渡ししたいのですが……そのお顔だともう探すのは不要みたいですわね」
側近「ああ。恐らくそれは少女の物だ」
姫「良かった、こんなに綺麗に成長しているんですもの。なくしてしまうのはあまりに残念でしょう」スッ
側近「何から何まですまないな……今更ながら見苦しいところをお見せした」スッ
姫「いえいえ、どういたしまして。その代わり私の事はお城の方には黙っててくださいね?」
側近「勿論だ。まあいずれにせよ、我らはもうすぐ帰るつもりだがな」
390: 2013/09/15(日) 13:31:41 ID:8ILR.RH.
姫「あら、そうなんですか」
側近「ああ。こちらにも目的があってな……」
姫「どのような?」
側近「あなたと接触する事だ、姫君」
姫「! ……まあ、彼女の前で堂々と浮気ですか?」クスクス
側近「からかわないで頂きたい。こちらは至って真剣な話をしたいのだ」
姫「へえ……それは失礼いたしました。それではその真剣なお話、詳しくお聞かせ願えますか?」
側近「ああ。本当はこの子の役目だったのだが、この際仕方がない」
391: 2013/09/15(日) 15:37:51 ID:8ILR.RH.
姫「まあ……確かにこの状態ではお話できそうにもないですわね」
側近「初めて酒を飲んでこの有様だ……普段は決してこんな娘ではない」
姫「ふふっ、とても可愛らしい寝顔ですこと……今度は起きている時にお会いしたいわ」
側近「きっと喜ぶだろう。彼女は……少女は今まで同年代の娘と話した事がほとんどないのでな」
姫「まあ……それは本当ですの?」
側近「ああ。今日の舞踏会で話したのが初めてと言っていいだろう」
姫「……」
側近「話が逸れてしまったな。では早速だが、これは我らの素性を含めて長い話になる……構わぬか?」
姫「ええ……それと、父ではなく直接私へ話すという事は」
側近「ああ。この話はくれぐれも他言無用としていただきたいのだ。あなたの父の耳にでも入れば、恐らく大変な事になる」
姫「それ程までに大切な話を……わかりました、決して誰にも洩らしません。私の名に誓って」グッ
側近「有難い。ではまず、これは信じていただけるかはわからんが……」
392: 2013/09/15(日) 15:58:35 ID:8ILR.RH.
――――
――
その頃の魔王城
魔王「よし。少々手こずってしまったが再び繋がったぞ」キィンッ
妖精「」ジイッ
魔王「おお、少女よ無事であったか……良かった。髪飾りもついておる」ホッ
魔王「でなければ側近があのように平然としている筈が……ん?」
魔王「側近と話している娘は……もしや」ハッ
魔王「……やれやれ、やり方は随分変わってしまったが、どうやら計画はうまくいきそうだな」
魔王「それにしても……ほう、鏡越しでも見事な黄金の髪だ。さすが姫」マジマジ
魔王「……勿論1番美しいのは少女だが、あれは帰ったら髪を整えてやらねばな……」
393: 2013/09/15(日) 16:45:03 ID:8ILR.RH.
――――
――
少女(ん……)ウッスラ
少女(あれ? 私……何時の間に寝ちゃってたんだろう……)
少女(確か、葡萄酒を飲んでから、外に出て……どうなったんだっけ?)
少女「……あ」
側近『仕置きだ』
側近『どうした、お前はもう大人なのだろう……?』
側近『こんなに無防備にしておるから……』
少女「……っ!」カァァ……
少女(確か、私が何か悪い事をして……側近さんから罰としてあんな……っ)ドキドキ
少女(でも……なんでかな)
少女(あんまり、嫌じゃなかった……むしろもっと……って何? 私どうしちゃったの!?)アセアセ
少女(あ、側近さん……誰かと、話してる……?)
395: 2013/09/15(日) 17:57:18 ID:8ILR.RH.
少女(綺麗……髪がキラキラ光ってる……)
少女(もしかして、私がお話するはずだったお姫様……?)
少女(ごめんなさい……側近さん……全然お役に立てなくて)ウルッ
少女(起き上がりたい……けど、体がうまく動かない……)
側近「……では……今度……迎えに……」
少女(え? 何の話をしているの? 迎えにって……魔王城に来るの?)
姫「ええ……楽しみ……」
少女(お姫様が来るなら……私、もういらない子?)ドクンッ
『役立たず』
『お前なんて誰からも必要となどされていないよ』
少女(うあ、あああ……やだ……やだ……)ドクッ……ドクンッ……
『てめえみたいな役立たずは、魔物に喰われるのが……』
少女(……そうだ、食べられたら良いんだ。側近さんか魔王様に)
396: 2013/09/15(日) 18:20:08 ID:8ILR.RH.
少女(こんな私でも、2人ならきっと……)
少女(おいしく、食べて……くれる、かな……?)スウッ
側近「……では、我らは失礼する。このような話を信じていただけて感謝している」
姫「いえいえ。こちらこそとても面白いお話を聞かせてもらって楽しかったですわ」
側近「少女が起きたらすぐに、あなたの事を話しておこう」
姫「お願いします。ああ、もう魔王城へ行く日が待ち遠しく感じますわ」
側近「では明日にでも特殊な魔鳥をこちらに寄越すから、来れる日が決まったらそれで知らせてほしい」
姫「わかりました。どうかお気をつけて……魔王様によろしくお願いしますね」
側近「ああ。では……」ペコリ ザッザッザッ
姫「……魔王様……一体どんな方なのかしら」ワクワク
397: 2013/09/15(日) 18:32:23 ID:8ILR.RH.
――――
――
側近「……ん?」
側近(少女の頬に……新しい涙の痕が)ソッ
側近(怖い夢でも見ているのか……?)
側近「大丈夫だ……お前には私も、魔王様も、小妖精もいる」ナデナデ
側近「……悪い夢など、覚めてしまえばなんということはない」額コツン
少女「ん……役立たずで……ごめんなさい……」ムニャムニャ
側近「お前は役立たずなどではない、絶対にな……」ザッザッ
398: 2013/09/15(日) 18:40:50 ID:8ILR.RH.
――――
――
魔王城
側近「只今戻りました」ペコリ
魔王「おお、2人とも……待ちわびたぞ」
妖精「」パタパタ
側近「少女はまだ眠っております。如何いたしましょう?」
魔王「そうだな……とりあえずドレスを着換えさせて部屋で寝かせてやると良い」
側近「御意」
妖精「」ジーッ
側近「……小妖精、お前も手伝ってくれるか?」
妖精「!」コクコク
魔王「おや、珍しい事もあるものだな」
側近「舞踏会での計画実行により、少々疲れております故……」
400: 2013/09/15(日) 20:34:28 ID:8ILR.RH.
魔王「そうか……とにかく2人とも、御苦労であった」
側近「……は」ペコリ ザッザッザッ……
魔王(……気のせいか? 僅かだが奴の気配が……)
――――
――
少女の部屋
側近「私は少女を固定しつつ極力見ないようにする。お前はファスナーを開け、脱げたドレスの端を持たせてくれぬか」
妖精「」コクッ
側近「では……頼んだぞ」スッ
――――
――
側近「……何とか終わったな。協力感謝するぞ」
妖精「」ジーッ
側近「……何だその目は」
妖精「」プイッ
側近「やはり可愛げがないな。少女とは大違いだ」
401: 2013/09/15(日) 21:10:47 ID:8ILR.RH.
妖精「」パタパタパタ……ピトッ
側近「まあ、離れていた分そうして寄り添っていると良い。私はもう行く……良い夢を」バタン
妖精「」ベーッ
――――
――
魔王の部屋
側近「魔王様」コンコン
魔王「入れ」
側近「失礼します」ガチャ
魔王「では、早速聞かせて貰おうか……計画の進行具合と」
側近「映し鏡が破損している間の、都の城での状況ですね」
魔王「……やはり気づいておったか」
側近「ええ。途中で僅かながら違和感がありましたからね……少女は気づいていないと思いますが」
402: 2013/09/15(日) 21:26:52 ID:8ILR.RH.
魔王「そうか……では改めて」
側近「ええ……まずは計画の方ですが、姫君への接触は思わぬ偶然が重なり……」
――――
――
側近「――というわけです」
魔王「ほう……では我とこの城に興味を持ち、後日行く事への許可と引き換えに承諾した、と」
側近「はい。それと少女にも……恐らく彼女も少女と似たような立場であったからだと考えられます」
魔王「成程な。まあ、順調である事はよくわかった。本当にご苦労であった」
側近「……勿体なきお言葉」
魔王「では次だ……あの時、何があった」
403: 2013/09/15(日) 21:35:26 ID:8ILR.RH.
側近「っ……何処まで、ご覧に?」
魔王「少女が下等な男に肩を抱かれて何処かへ連れ立って歩いて行くところまでだ」
側近「そうですか……あれは私の監督不届きでした。大変申し訳ございません」ガバッ
魔王「よい。お前の様子から最悪の事態にはならなかったようだからな……続けよ」
側近「……私が、駆け付けた時には」
魔王「……」
側近「胸を……触られておりましt」パリンッ
魔王「……と、すまんな。また先程の怒りがぶり返してきおったわ……」
側近「いえ……」ゾクッ
404: 2013/09/15(日) 21:50:41 ID:8ILR.RH.
魔王「で、そ奴はどうなった?」
側近「それ相応の報いを受けさせました。恐らく歯の半分近くは粉々でしょう」
魔王「そうか……まあ、あの下種もその程度で済んで運が良かったな。やったのが我であればもっと重かったであろう」
側近「……ご冗談を」
魔王「そう捉えるのは勝手だがな……嗚呼、少女の事となると本当に我を忘れていかん」
側近「……お気持ちはわかります」
魔王「うむ……ところで少女の被害はそれだけだったのか?」
側近「いえ……後は頬と首に接吻を」ボギンッ
魔王「いや、すまん。壊れた物は寝る前に治しておくから心配するな」
側近「……は」
405: 2013/09/15(日) 22:08:23 ID:8ILR.RH.
魔王「それで、彼女をその後どうした?」
側近「……消毒しました。奴に触れられたと思われる所を」
魔王「そうか……まあ、何をしたのかは聞かないでおこう」
側近「……それが終わった後、姫君に遭遇し、先程の話に至ります」
魔王「ふむ、よくわかった。重ね重ねご苦労であったな。今夜はもう休め」
側近「……は」ペコリ ザッザッ
魔王「……何処の馬の骨ともわからん男にやるより」
側近「……」
魔王「いっそお前が娶ってやった方が、とこの頃よく思うのだ。お前にならば安心して任せられる」
側近「……本当に笑えぬ冗談です」バタン
魔王「……すまぬ、酷な事を……言ってしまったな」
406: 2013/09/15(日) 22:24:33 ID:8ILR.RH.
――――
――
少女の部屋
少女「うう……」パチッ
少女「ここは……そっか、帰ってきたんだ」ギシッ
少女「服も、着換えてある……また迷惑かけちゃったんだ」
妖精「」スウスウ
少女「妖精さん……ごめんね、こんな私で」キュッ
少女「……」スッ
少女「杖……あった。あ、髪飾りは机の上か……」カタン
少女「これも、着けていこう……」フラフラ
少女「……」ガチャ……バタン
407: 2013/09/15(日) 22:39:13 ID:8ILR.RH.
――――
――
魔王の部屋
魔王「これで粗方、壊れた物は修復した」
魔王「魔力をあまり使わぬようにせねばいかんというのに……全く何をやっているのやら」
魔王「……ん? あれは少女か? こんな時間に外へ何を……」タタタッ バタンッ
――――
――
城の外
少女「……」フラフラ
少女「……ここなら良いか」ピタッ
少女「」ブツブツ
魔王(杖に呪文……少女、何かを召喚する気か?)コソッ
ザワッ……
魔王「!?」
ゴゴゴゴゴ……
408: 2013/09/15(日) 22:50:23 ID:8ILR.RH.
少女「うふふ……来てくれたあ……」
魔王(何なのだ、この禍々しい気配はッ……!?)
ズズズズズ……
魔王(少女……一体何を……)
ズ ン
?「は~ああ~~~~~い♪ 呼ばれて来ちゃった死神さんDEATH☆」鎌キランッ
少女「うふふ……こんばんは、そして初めまして死神さん」ニコッ
魔王(し、死神……だと!? 何を考えておるのだ!!)
死神「あら? あららららら~~ん? お嬢ちゃんがオイラを呼びだしちゃったカンジ?」
少女「うん」
409: 2013/09/15(日) 23:03:17 ID:8ILR.RH.
死神「ちょっとちょっとちょっと~? わかってる? ぼくちん死神なのよ? この綺麗な鎌でお嬢ちゃんの首なんかスパーッと刎ねれちゃうのよ?」ギラッ
少女「うん、わかってる。だからお願い死神さん、私を頃して」
魔王(!?)
死神「おんやおやあ~~~~? お嬢ちゃん、あんたそのために俺っち呼びだしちゃったわけ?」
少女「うん」ニコニコ
魔王(くっ……あれに喧嘩を売るのは気が進まぬが……!! 鎌さえどうにかできれば!!!!)ゴオ……
死神「ぬふふふふ~君い~いカンジにクレイジーね♪ 気に入っちゃったよ~」ニカッ
少女「じゃあ……!」
死神「でもダーメーェェェェェ!! 残念無念また来世♪」腕デバツ
少女「えっ……どうして?」
魔王(……!)ピタッ
410: 2013/09/15(日) 23:14:56 ID:8ILR.RH.
死神「死神さんはね~、氏を司ってるから見るだけで相手が何時氏ぬかわかっちゃうんDEATHよぉ~」チラッチラッ
死神「で、見たところお嬢ちゃんの寿命はまだまだ先」
死神「もしそれを無視して君の命を刈り取っちゃったらぼくちん、上からキツーイお仕置きを受けちゃうのよ~ん」ジトッ
死神「よってその願いは聞き届けられましぇんっ!!」ドンッ
少女「……なんで? こんな役立たずがこれ以上生きてる意味なんてないのに……」ウルッ
死神「あ……あ~あ~あ~泣かないでよベイビー。ほら、アメちゃんあげるから」スッ
少女「うう……ありがとう」スッ
魔王(な……何なのだあれは)プルプル
魔王(だが、聞き捨てならない言葉があったな……役立たず、だと?)
411: 2013/09/15(日) 23:30:34 ID:8ILR.RH.
死神「ってお嬢ちゃん……そんな簡単に死神からのプレゼントを受け取っちゃだぁめだよ~」チッチッ
少女「え? だってせっかくくれるんだから……それにお友達の事信じてるもん」
死神「……フレンド? オトモダチ? それわっちにいってんの? 本気で?」ジロジロ
少女「うんっ。召喚した子は皆お友達だよ!」ニコッ
死神「……う、うぉろろろ~~~~~ん!!!! そう言ってくれたのは君が初めてだよぅ」グスグス
死神「ぼくちんを召喚した奴はみんなみんな怖がるか命令するか……そればっかり」シクシク
死神「あちしはこん~な性格だから、他の死神からも敬遠されちゃってるのよ~ん」ビローン
死神「でもお嬢ちゃんは違った! 怖がらずにやつかれを受け入れてくれた!! そればかりか友達とも!!!!」キラキラ
死神「だから死神さんお礼にもれなく君の相談に乗っちゃうよっひょおおおい!!!」パンパカパーン
少女「あ……ありがとう」
魔王(……骸骨がやたら嬉しそうに少女と話しておる)ドン引キ
魔王(突っ込みたいのは山々だが……まずは様子を見てみよう)
魔王(……あの子の能力は折り紙つきだからな)
412: 2013/09/15(日) 23:49:27 ID:8ILR.RH.
――――
――
死神「なあるほど~。その舞踏会で側近さんとやらに迷惑をかけて、自分がやるはずだった事も彼にやってもらっちゃったわけでちか~」
少女「今度はっ……お役にたてると思ったのに……私、子供みたいに迷惑を……」グスッ
死神「それでお姫様がこのお城に来るから、自分は用済みだと~?」
少女「」コクッ
死神「……か」
少女「?」
死神「ばぁかやろおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」キィィィィィィン
少・魔(ッッッッッ!!!!)耳オサエ
死神「あんたねえ、たったそれっぽっちの失敗で何よ!!」キンキン
死神「死神はねえ、そうやって命を大切にしない奴が大っキライなの!!」ガミガミ
死神「ぼくちんがこれまで刈ってきた魂はねぇ、老若男女本っ当に様々だったわよ!!」ゴニョゴニョ
死神「でもね! みんなみんな1つだけ同じ事が言えるんだぜ!!!」ウガーッ
死神「それはね、何があろうと最期まで精一杯生きたってことなのさっ」ビシッ
413: 2013/09/16(月) 00:03:41 ID:fcHEnbGE
死神「同僚にはあんたみたいに下らない理由であっさり氏んだ奴を刈ったのが腐るほどいるさ!」
死神「正直迷惑なんだよこっちは! 転生に値しない矮小な魂刈らせるなってんだ!!」
死神「あんたはまだまだ若いんだからッッ! どんどん失敗してガンガン立ち上がりなさい!! こんの幸せ者がッ!!!」カッ
死神「天寿を全うするって言葉は……そうやって魂を極めた者のためにあるのだから!!!!」ドンッ
少女「……」ポカーン
魔王(死神……)
死神「……それとも、なあに」ズイッ
死神「お嬢ちゃんの大切な家族は、たったそれだけで君を見捨てるような薄情な奴なのかい?」
少女「!」
414: 2013/09/16(月) 00:15:03 ID:fcHEnbGE
死神「どうなんじゃ?」
少女「……ううん、そんなことない」
少女「私の家族は、そんな酷い事しない!!」
魔王(少女……)
死神「そうかい……お嬢ちゃんは本当に幸せ者だ」ポンポン
死神「ああ、夜が明けてきたね……ぼくちゃんはそろそろ消える時間だ。朝は生の時間だからね」スゥ……
少女「死神さん……」
死神「わっちが敬遠されているのはね~、この性格だけじゃないんだよ」
死神「召喚主が無駄に氏にたいって言ったら、こうやってついつい説教しちまう」
死神「刈れりゃ誰でもいいって奴が多いからね、近頃は……」ハハ
415: 2013/09/16(月) 00:24:54 ID:fcHEnbGE
少女「死神さん……私ね、こう言ったらいけないけど、今までお友達は会話できない子がほとんどだったの」
少女「だからね、家族に言えない事があっても、ただ1人で抱え込んじゃうばかりだった」
少女「でも、でも死神さんは、私のお友達の中で初めて相談に乗ってくれた! 叱ってくれた!!」
少女「だから……ありがとう」ニコッ
死神「! ……今までで1番良い笑顔いっただき~♪」ニヤッ
少女「!」
死神「また何かあったら呼びなっさーい! あ、もしそれが頑張った末の今際の際だったら……」
少女「?」
死神「苦しまないように逝かせちゃる!」キュピーン
416: 2013/09/16(月) 00:34:39 ID:fcHEnbGE
少女「死神さん……」
死神「ばーいびー♪」スゥゥゥゥ……
少女「……」
魔王(……少女が気づかぬうちに戻るか)クルッ
魔王(体力を回復させつつ……やらねばならんことがある)ザッザッ
少女「死神さん……またね」杖ト飴ギュウッ
少女(召喚した死神があなたで良かった)ニコッ
420: 2013/09/16(月) 12:39:28 ID:fcHEnbGE
――――
――
少女の部屋
妖精「」パチッ
妖精「」キョロキョロ
妖精「!!!!」パタパタパタパタ
妖精「~~~~~」扉グイグイ
少女「! あ、妖精さん」ガチャッ
妖精「!」ピューッ ピトッ
少女「ごめんね、心配させたみたいだね。今日からまた一緒だよ」ナデナデ
妖精「」スリスリ
421: 2013/09/16(月) 12:50:47 ID:fcHEnbGE
少女「さて、身支度しないと……」スッ カチャッ コロン……
妖精「!」ジーッ
少女「あ、それはね、新しいお友達から貰ったの」
妖精「?」
少女「命を刈り取る死神さんなんだけどね……」ヒソヒソ
妖精「!?」オロオロ
少女「ううん、安心して、別に何ともないから」ニコッ
妖精「」ホッ
少女「とっても面白い死神さんだったよ。悩みの相談に乗ってくれたり、私のために叱ってくれたり」
妖精「」ムッ
少女「そんな事が出来たのは、今まで魔王様と側近さんだけだったから……」
妖精「」プクーッ
422: 2013/09/16(月) 14:15:05 ID:fcHEnbGE
少女「ああ妖精さん、そんなに拗ねないで! 1番のお友達が妖精さんなのは変わらないよ」ヨシヨシ
妖精「」ポフッ
少女「あはは、くすぐったいよ~」
少女(でも……ちょっとおかしいんだよね)
少女(今まで私が見てきた召喚の本の中で)
少女(死神さんって載ってたかな……?)
少女(何であの時、死神さんを呼び出せたんだろう……?)
423: 2013/09/16(月) 14:38:45 ID:fcHEnbGE
――――
――
城の外 兎の墓前
側近「……」スッ ザッザッザッ
側近「」ピィーッ
魔鳥「」バサバサバサッ
側近「……予定より少し早めの活躍になるな」
側近「……行け」サッ
魔鳥「キュエッ!」バッサバッサ
側近「……」
424: 2013/09/16(月) 17:59:36 ID:fcHEnbGE
魔王「側近……今日も早いな」フラフラ
側近「……魔王様! どうなさったのですその目の隈は!?」
魔王「我の事など気にするな。わけは後で話す……それよりも、ちと面倒な事になったようだ」
側近「! どういうことです」
魔王「奴め……我らの痛いところを突いてきおる」
側近「……まさか」
魔王「まだ推測の域だが……恐らく間違いないだろう」
側近「……」
魔王「話は後だ、とりあえず朝食に行くぞ。」ザッザッ
側近「……は」ザッザッ
425: 2013/09/16(月) 18:10:57 ID:fcHEnbGE
――――
――
魔王「少女、昨日の舞踏会はどうであった」モグモグ
少女「すっごく楽しかったよ! とても広間がとってもキラキラしててね、お料理もおいしくてね、たくさんの人がいたの」
魔王「そうか、それは良かったな」
側近「……はしゃぎ過ぎてヘマをやらかしたのは関心せんがな」モグモグ
少女「う……本当にごめんなさい」シュン
側近「まあいい。何はともあれ計画は順調だからな」
少女「本当?」
側近「ああ。お前が寝ている間に姫君と話す事ができてな。お前にいたく興味を示しているようだったぞ」
少女「そうなんだ……」
側近「ああ、それと彼女を計画の進行上、今度こちらに連れてくる事になっていてな」
426: 2013/09/16(月) 18:35:57 ID:fcHEnbGE
少女「……」
側近「うまくいけば初の人間の友となろう……お前の、否、互いにとって」
少女「?」
側近「お前とは少々違うが……姫君の立場でも対等な友などほぼ望まれなかったのだろう。
王族としての厳しい教育の日々に辟易し、度々城を抜け出してはその孤独を埋めていたと彼女は言っていた」
少女「……そんなに、お姫様って大変なの?」
側近「お前の何倍も大変だろうな。礼儀作法や語学など、教養として様々な事を覚えねばならんからな」
少女「そっか……そんな人と仲良くなれるかなあ、私」
側近「なれる。お前ならきっとな」ポンポン
427: 2013/09/16(月) 19:01:42 ID:fcHEnbGE
少女「……えへへ」ニコッ
妖精「」ガツガツ
魔王「……2人とも、話に入れずに小妖精がむくれておるぞ」ツン
少女「妖精さん……そうだ! 妖精さんも紹介してあげたら喜んでくれるかな?」
側近「どうだろうな……嫉妬深く扱いの面倒な者を紹介してもな」
妖精「~~~!!」プンプン
少女「もう、側近さんたら!」
魔王「やれやれ、やはりこの2人はいつも通りだな」
428: 2013/09/16(月) 19:16:37 ID:fcHEnbGE
少女(……うん、本当に何もかもいつも通り)
少女(魔王様も……側近さんも優しい)
少女(なのになんで、あんなこと思っちゃったんだろう……?)
少女(……そういえば、2人は人を食べた事があるのかな?)
少女(って、食事中に何考えてるんだろう私……馬鹿みたい)
少女(でも、2人は一応魔族だし……もしかしたら)
魔王「どうした少女、手が止まっておるぞ? 食欲がないのか?」
少女「え? あ、何でもないよ魔王様、気にしないで~」モグモグ
側近「……」
妖精「」モキュモキュ……ペチンッ
429: 2013/09/16(月) 19:32:55 ID:fcHEnbGE
――――
――
書庫
少女「うーん……やっぱり載ってないなあ、死神さん」パラパラ
妖精「」ジーッ
少女「うう~……私、一体何処で知ったんだろう?」
妖精「」クイクイ
少女「え? ……あ、それは確か見たことない本だ」
少女「ここは本当に沢山本があるからね~……」パラパラ
少女「……ん? この子は……へえ、2体で1体なんだ」
妖精「」ジーッ
少女「妖精さんも気になるの? じゃあ一緒に読もうか!」
妖精「」コクコク
少女「えーっと何々……」ジーッ
妖精「」ジーッ
430: 2013/09/16(月) 19:44:06 ID:fcHEnbGE
――――
――
魔王の部屋
側近「私が寝ている間にそのような事が……」
魔王「ああ。我も目の前の出来事が信じられなかった。そして少女の言っていた事もな……」
側近「……我らは何があっても、少女の家族だというのに」
魔王「そうだな。だが、あの時のような短い時間にあのような事を彼女が思いつめるとはどうにも信じられん」
側近「ええ……それに死神の事が記載された書物も、少女の目の届くところへ置いてはいない筈です」
魔王「うむ。その書物があるのは……」
側近「奴の部屋……ですね」
魔王「……ああ」ギリッ
431: 2013/09/16(月) 20:34:16 ID:fcHEnbGE
側近「……このような事は考えたくはありませぬが」
魔王「我もだ。口にするのも厭わしい」
側近「……奴の魔力が……貴方様の支配下を逃れ、少女へ手を出した、と……?」ギリッ
魔王「それ以外に考えられん。昨夜、映し鏡の術を我が破損させた時」
魔王「ほんの少し、我の魔力の残り香がお前達の方へ残った」
魔王「……我は封印の影響により、常に奴の魔力も背負っておる状態だ」
側近「一時的とはいえ、貴方様の監視から逃れた奴の僅かな魔力が、何らかの形で少女を精神的に急激に追い詰めた……」
432: 2013/09/16(月) 20:43:56 ID:fcHEnbGE
魔王「同時に死神の事も、彼女の無意識下に刷り込んだのだろう」
側近「……しかし、その刷り込まれた召喚さえもいとも簡単に成してしまう少女もまた、普通ではありませぬ」
魔王「ああ……その点は彼女の出自が本当に気になるところだ……ところで側近よ」
側近「何でしょう?」
魔王「一応訊いておくが……お前の方にはあの時何か変わりはなかったか?」
側近「……私ですか? いえ、特には」
魔王「うむ、なら良い。我とお前は奴の魔力にはとうに慣れきっておるからな。抵抗など造作もないだろう」
側近「ええ」
433: 2013/09/16(月) 21:02:23 ID:fcHEnbGE
魔王「何れにせよ、このような事があった以上警戒を強めねばならぬな」
側近「はい。あの部屋へ少女を近付かせないのは勿論……奴の気配にも気をつけましょう」
魔王「我の封印と魔力の管理もより一層慎重に行く。何かあるのは我らだけで十分だ」
側近「そうですね……魔族の問題にこれ以上少女を巻き込むわけにはいきませぬ」
――――
――
側近(……あのように言ったものの)
側近(自分が少女にあんな事をしてどうする……!)
側近(……いっそのこと、彼女にした事も奴が惑わせた事にできれば良いのにな)ギュッ
434: 2013/09/16(月) 23:04:25 ID:fcHEnbGE
側近「……」窓チラッ
少女「あははーくすぐったいよ~」ナデナデ
グリフォン「♪」スリスリ
妖精「」パタパタ
側近「……あの笑顔を、失いたくはない」
――――
――
少女「妖精さんの他に、誰かお友達紹介できないかな~」
少女「あんまり怖くない子が良いと思うけど……」チラッ
グリフォン「」グルルル
大蛇「」フシュー
一角獣「」ブルルル
少女「……もっと小さい子が良いかな」
463: 2013/09/21(土) 12:35:51 ID:2WaLNx/k
少女「ねえ、妖精さんはどう思う?」チラッ
妖精「」ウーン
少女「……あ、そうだ、妖精さんの妖精友達とか連れてこれないかなあ?」キラキラ
妖精「! ……~~」シュン
少女「妖精さん?」
妖精「」フルフル
少女「もしかして……いないの?」
妖精「……」
464: 2013/09/21(土) 12:42:21 ID:2WaLNx/k
少女「ごめんね……私、知らなかったよ。お友達なのに」ギュッ
妖精「!」ブンブン
少女「だからいつも一緒にいてくれてたんだね……ありがとう」ナデナデ
妖精「」スリスリ
少女「……お互い、お姫様と仲良くなれると良いね~」
妖精「」コクン……
少女「それにしても、お姫様ってどんな人なんだろう……?」ワクワク
467: 2013/09/21(土) 13:52:48 ID:2WaLNx/k
魔王「……少女、何をしておるのだ?」ザッザッ
少女「魔王様! あの、これは……」ササッ
魔王「そんな顔をするな。我は側近のようにお前の友の事をとやかく言いはせん」
少女「あ……あのね、お姫様に私のお友達を紹介したくて……でも、あんまり大きな子だとびっくりしちゃうでしょ?」
魔王「確かにそうであろうな……姫は都の城へ無事に返さねばならぬ。万が一の事があれば……」
少女「うん……だから、どんな子が良いか悩んでたの」
魔王「……小妖精だけでは駄目なのか?」
468: 2013/09/21(土) 14:03:10 ID:2WaLNx/k
少女「妖精さんだけ?」
魔王「ああ。姫と1番仲良くしたいのは少女であろう? ならばそれで良いではないか」
少女「そうかなあ……」
魔王「小妖精はお前の1番の友。ならばそれを胸を張って紹介すれば良い。そして姫が望めば、他の友も紹介する」
少女「……わかった、そうしてみる。ありがとう魔王様」ニコッ
魔王「我は何もしておらぬ。お前のためにちと知恵を絞っただけだ」
少女「ううん。そんなことないよ……魔王様は、いつも私の悩みを解決してくれるね」
魔王「……大事な家族だからな」
469: 2013/09/21(土) 14:10:36 ID:2WaLNx/k
魔王「我はこれくらいしかお前にしてやる事ができぬ。それでお前が喜ぶなら容易い事だ」
少女「魔王様……じゃあ、ちょっと質問しても良い?」
魔王「ああ、我に答えられる事なら何でも答えよう」
少女「……じゃあ、訊くね」
少女「――魔王様は、人を食べた事はある?」
470: 2013/09/21(土) 14:19:03 ID:2WaLNx/k
ザアア……ッ……――――
魔王「……少、女。それは」
少女「勿論、2人の事は信じてるよ。でも……何となく、気になっちゃって」
少女「魔王様のお兄さんとお姉さんは、2人の事を食べようとしたんでしょ?」
少女「それに抵抗がないなら、人間を食べるのもそうなんじゃないかって……」
魔王「……」
少女「……ごめんね、こんなこと訊いて。答えたくないなら無理には……」
魔王「いや……良い。我もいつかは話さねばならぬと思っていたからな」
471: 2013/09/21(土) 14:36:27 ID:2WaLNx/k
少女「でも……」
魔王「とりあえず、中に入って話そう。お前の友を元の場所へ帰してやれ」
少女「う、うん」クルリ
妖精「」パタパタ
――――
――
魔王の部屋
魔王「……お前が我らと初めて出会った時の事を覚えているか?」
少女「うん……忘れられるわけないよ」
魔王「あの頃のお前は今よりもずっと幼かった……故に、どうしてもそれを言い出す事ができなかったのだ」
少女「……じゃあ、やっぱり」
魔王「ああ……我と側近は、人間を食べた事がある」
472: 2013/09/21(土) 14:45:33 ID:2WaLNx/k
少女「! ……そっか」
魔王「……我らが、怖くなったか?」ジッ
少女「ううん。そんなことないよ……言ったでしょ? 私は2人の事を信じてるって」
魔王「……なら良かった」ホッ
少女「それに、私を食べるつもりなら……太らせはしても優しくする必要はないでしょ?」
魔王「! ……それもそうだ」
少女「まあ、それでも……やっぱり魔族なんだな、ってはちょっぴり思っちゃうけどね」
魔王「……否定はしない。だが、見苦しいが弁解はさせてくれないか?」
少女「……うん。何か理由があったんでしょう?」
473: 2013/09/21(土) 17:12:30 ID:2WaLNx/k
魔王「ああ……我も側近もな、好きで食べたわけではないのだ」
少女「……」
妖精「」ジーッ
魔王「……昔話をしようか。我と側近がまだ幼かった頃の……お前に過去を話すのはこれで2度目になるな」
――――
――
魔王城(数十年前)
魔王(先代)「今帰ったぞ、お前達」
魔王候補(姉1)「ただいまぁ~」
魔王候補(姉2)「お帰り! ねえ母上、どうだった? 今日は」キラキラ
魔王(先代)「ふっ、いつもとさして変わらん。人間共の抵抗があまりなかったからいささか拍子抜けしたわ」
474: 2013/09/21(土) 17:21:10 ID:2WaLNx/k
魔王候補(兄)「母上、今度の侵略の時は俺を連れてってくれよ!」
魔王(先代)「わかったわかった。ほら、土産をやるから少し落ち着け」スッ
魔王候補(姉2)「わあ……綺麗……」
魔王(先代)「どこぞの人間の娘が着けていた髪飾りだ。気に入ったか?」
魔王候補(姉2)「うんっ! ありがとう母上っ」ガバッ
魔王候補(兄)「こいつはすげえ……丁度前の剣が壊れちまったとこだったんだ。ありがとう母上!」
魔王(先代)「ふふっ、それの持ち主くらいだったな。抵抗らしい抵抗をしてきたのは」クスクス
魔王候補(姉1)「でも、母上あっという間に首をスパンってやっちゃったもんね~」
魔王候補(兄)「あっはははは! なっさけね~」ゲラゲラ
魔王(先代)「……む、そういえばお前達、弟達はどうしたのだ?」
475: 2013/09/21(土) 17:47:14 ID:2WaLNx/k
魔王候補(姉2)「……ああ、あいつら?」
魔王候補(兄)「あいつらなら……ちょっと小突いてやっただけなのに」
――――
――
魔王候補(弟)「ひっく……ぐすっ……」
魔王候補(現魔王)「大丈夫か? くそっ、兄上の奴め……!」ギリッ
魔王候補(弟)「い、良いんだ兄上……僕が、弱いから……ふぐっ……!」ヒックヒック
魔王候補(現魔王)「だからって……こんなに刺す理由にはならないだろう!!」
魔王候補(弟)「うう……僕、別に魔王になる気なんかないのに」
魔王候補(現魔王)「それは俺もだ。毎日こんな調子ではやってられないな」
魔王(先代)「全く……だらしない愚息達だな」
魔王候補(現魔王、弟)「「は、母上!」」
476: 2013/09/21(土) 17:57:26 ID:2WaLNx/k
魔王(先代)「何をだらしない顔をしておるのだ。ほら、もうすぐ食事だぞ。早く来い」スタスタ
魔王候補(現魔王)「母上! 今の話……」
魔王(先代)「……私は別に、お前達に魔王の道を強制するつもりはない」
魔王(先代)「だが、我が息子として生まれた以上は強くなってもらわねばならん!」
魔王(先代)「どの道強さを手に入れなければ、お前達は自由にはなれんぞ……それを忘れるな」
魔王候補(弟)「母上……」
魔王(先代)「……ああ、そうだ。今日の侵略先で少々拾いものをしてな。興味があれば後で地下牢へ行ってみるがいい」ボソッ
魔王候補(現魔王、弟)「「!」」
477: 2013/09/21(土) 18:29:01 ID:2WaLNx/k
――――
――
地下牢
魔王候補(現魔王)「……あ、いた」カツンカツン
魔王候補(弟)「兄上、本当に行くの? 僕達魔王の子供だよ?」カツンカツン
魔王候補(現魔王)「大丈夫だって、ばれなければ。弟だって気になってたんだろ?」
魔王候補(弟)「でも……」
少年「! 誰かいるの? ここから出して!」
魔王候補(現魔王)「……あー、気付かれたか」
男「君達は……?」
魔王候補(現魔王)「俺達は……魔王城に住んでるしがない魔物さ」
478: 2013/09/21(土) 19:36:29 ID:2WaLNx/k
男「そうなのか……なあ、俺達はどうなるんだ?」
魔王候補(弟)「あ……へ、変な事をしなければ開放されると思う」
少年「本当?」
魔王候補(現魔王)「あ、ああ……俺達が魔王に頼んでやるよ」
少年「ありがとう! 僕ね、父さんと一緒にあの町に来たんだけど、いきなり魔王達が攻めてきてびっくりしたよ」
男「こら、あまりこいつらにそんな事を話すんじゃない!」
魔王候補(弟)「大丈夫、魔王の耳には入れないから……」オロオロ
男「ふん……どうだかな」
479: 2013/09/21(土) 20:20:31 ID:2WaLNx/k
魔王候補(現魔王)「あ、あのさ……お前達はどんなところに住んでるんだ?」
少年「え? ……んーっとね……ゴツゴツした岩場があってね」
男「おい息子よ! お前何を話しているんだ!」
少年「でも父さん、この魔物たちは僕と同じくらいだし……悪い奴には見えないよ」
男「だ、だがな……」
魔王候補(弟)「僕達はただ、城の外の世界に興味があるだけなんだ。あまり外には出た事が無いから……」
魔王候補(現魔王)「ここに閉じ込められてたら退屈だろ? 色々話してた方が気が紛れると思うけど」
少年「ねっ、父さん! この2人きっと良い魔物だよ! お話して良いでしょ?」
男「む……う」
魔王候補(現魔王)「あ、くすねてきた食べ物もあるけど。どうせ碌なモノ食わせてもらってないだろ?」ゴソゴソ
480: 2013/09/21(土) 20:33:50 ID:2WaLNx/k
少年「わあ、ありがとう! あれぐらいじゃ足りなかったから丁度よかったよ!」グウ……
男「やめろ、毒が入っているかも……」グウ……
魔王候補(現魔王)「そんなに疑うなら食べてみせるよ」モグモグ
魔王候補(弟)「ほら、大丈夫だから……」ムグムグ
男「……はあ、わかったよ。好きにしろ。どうせ出られないんだ」ゴロン
少年「やったー! ねえ、明日も来てくれる?」
魔王候補(現魔王)「ああ。食べ物と一緒にな」
魔王候補(弟)「その代わり、外の事を色々と話してくれるかな?」
少年「うんっ」ニコニコ
481: 2013/09/21(土) 21:46:37 ID:2WaLNx/k
――――
――
魔王候補(弟)「本当に……大丈夫かなあ」ハラハラ
魔王候補(現魔王)「別に悪い事をしているわけじゃないだろう? お前だって楽しそうだったじゃないか」
魔王候補(弟)「でも……」
魔王候補(兄)「おい、何だよ随分と楽しそうじゃないか。俺も混ぜてくれよ」ニヤニヤ
魔王候補(現魔王)「ッ……別に、あんたには関係ない」
魔王候補(兄)「あ? 弱っちい癖に生意気じゃねえか」ドンッ
魔王候補(弟)「あ、兄上……!」
魔王候補(現魔王)「大丈夫だ……気にするな。行くぞ」ザッザッ
魔王候補(兄)「……フン」ジロリ
482: 2013/09/21(土) 22:14:40 ID:2WaLNx/k
――――
――
数日後の地下牢
少年「2人とも、いつもありがとう!」
魔王候補(弟)「いやいや、こっちだって色々と面白い話を聞かせて貰ってるからお互い様だよ」
少年「あ、そう言えばさ、魔王は僕達をいつになったら出してくれるのかなあ……?」
魔王候補(現魔王、弟)「「!!」」
魔王候補(弟)「あ……一応交渉はしてるんだけどね。あともう少しってとこまできてるんだ」
魔王候補(現魔王)「そ、そうそう! だから心配するなって!」
少年「そっか……でも、そしたら2人とはお別れになっちゃうね。ちょっとさびしいなあ」
483: 2013/09/21(土) 22:18:51 ID:2WaLNx/k
魔王候補(弟)「僕達もだよ……でも、家に帰れるのは嬉しいでしょ?」
少年「そりゃあ、そうだけど」
男「おい、そろそろ戻ったほうがいいんじゃないのか?」
魔王候補(現魔王)「そうだな……じゃあ、また来るから」タタタッ
魔王候補(弟)「また明日ね! 魔王にも交渉しとくから!」タタタッ
少年「ばいばーい!」フリフリ
男「……」フリフリ
魔王候補(兄)「……成程な。そういうことか」ニヤッ
484: 2013/09/21(土) 22:41:56 ID:2WaLNx/k
――――
――
魔王候補(現魔王)「はあ……はあ……」ボロボロ
魔王候補(姉1)「どうしたのぉ愚弟? そんなザマじゃあ魔王になんてとてもなれないわねぇ」クスクス
魔王候補(現魔王)「べ、別に、良い……魔王になんて、なりたくもない……っ」
魔王候補(姉2)「あはは、本当に口だけは元気なんだから~。じゃあもう少しやれるよね?」ケラケラ
魔王候補(弟)「兄……上……」フラフラ
魔王候補(兄)「おらお前もよそ見してんじゃねえよ」ドゴッ
魔王候補(弟)「がはっ……!」ドサッ
魔王候補(兄)「あーあー……母上の子供が俺だけだったらってマジで思うぜ」ハア
魔王候補(姉1)「はあ?」ギラッ
魔王候補(姉2)「それはこっちのセリフなんだけど?」ビキビキ
485: 2013/09/21(土) 22:50:24 ID:2WaLNx/k
魔王候補(兄)「あ? やるのかお前ら」ゴォ……ッ
側近(先代)「皆様、どうかその辺になさってください。夕食のお時間です」ユラッ
魔王候補(姉2)「え? 側近、もうそんな時間?」
魔王候補(姉1)「そういやお腹空いてきたかも……あ、あんた邪魔ぁ」スタスタ ドゴッ
魔王候補(現魔王)「ぐふっ」ゴロッ
魔王候補(弟)「うう……兄上……」ヨロヨロ
側近(先代)「全く……魔王様のご子息なのに情けない……なるべく早くお出でくださいね」チラッ スタスタ
486: 2013/09/21(土) 23:25:30 ID:2WaLNx/k
魔王候補(現魔王)「……くそっ」スッ
魔王候補(弟)「兄上、あまり無理に動かない方が……あうっ」ズキンッ
魔王候補(現魔王)「……それはお互い様だな」
魔王候補(弟)「……みたいだね。早く治癒しないかな」
魔王候補(兄)「……」ニヤニヤ
――――
――
魔王候補(姉2)「うわ……今日はまた豪勢だね。肉がこんなに」ゴクリ
魔王候補(兄)「いつもより良い肉を捌いたんだ。ご馳走だぜ」ニッ
魔王候補(姉1)「何ぃ? まるであんたが料理したみたいじゃない」
魔王(先代)「これで全員揃ったようだな。待ちわびたぞ……では、いただくとしようか」スッ
487: 2013/09/21(土) 23:37:21 ID:2WaLNx/k
魔王候補(姉1、姉2、兄)「」ガツガツ ムシャムシャ
魔王(先代)「お前達……肉はいくらでもある。そんなにがっつくな」モグモグ
魔王候補(現魔王、弟)「いただきます……」モグモグ
魔王候補(兄)「……んぐ、おい、お前ら」バクバク
魔王候補(現魔王)「……何だよ」
魔王候補(兄)「今日の肉は格別に美味いだろう?」ニタッ
魔王候補(弟)「……? そんなに今日の肉はすごいのかな。美味しいけど」モグモグ
魔王候補(現魔王)「ああ……確かに美味なのは認めるがな」ムグムグ
――――
――
地下牢
魔王候補(弟)「おーい、来たよー」カツカツ
魔王候補(現魔王)「!? ……お、弟、牢の中に2人がいないぞ!!」キョロキョロ
488: 2013/09/21(土) 23:48:58 ID:2WaLNx/k
魔王候補(弟)「嘘……どうして!?」バッ
魔王候補(現魔王)「母上に訊きに行こう!!」クルリ
魔王候補(兄)「よお」ニヤニヤ
魔王候補(現魔王)「! ……今はあんたに構っている暇はない。後にしてもらおうか」
魔王候補(兄)「良いのか? そうやって兄上を邪険にして……せっかく良い事を教えに来てやったのによ」
魔王候補(弟)「……な、何が言いたいの?」ビクビク
魔王候補(兄)「そこに入っていた人間共の居場所を俺は知っている」
魔王候補(現魔王)「ほ、本当か!? 一体何処にいるんだ!?」バッ
魔王候補(兄)「まあ待て……それよりお前達、今日の肉は美味かっただろう?」
魔王候補(現魔王)「またそれか……それがどうしたんだ!? 今の話とどう関係がある!?」
489: 2013/09/21(土) 23:58:11 ID:2WaLNx/k
魔王候補(兄)「く、くくくく……あはははははは!!!!」ゲラゲラ
魔王候補(現魔王)「!? 何がおかしい!!」ギリッ
魔王候補(兄)「お前達……くく、まだわからないのか。そこまで愚かか?」
魔王候補(弟)「え……どういうこと?」
魔王候補(兄)「だったら教えてやるよ。そこの奴らは今日別の場所へ移されたんだ」バサッ
魔王候補(弟)「……え?」
魔王候補(兄)「……お前達の腹の中へなぁ」ニタァ……
490: 2013/09/22(日) 00:22:47 ID:crOGGcl6
魔王候補(現魔王)「何を……何を言っているんだあんたは……?」パチパチ
魔王候補(弟)「どうして、兄上があの人達の服を……」カタカタ
魔王候補(兄)「そりゃあ、この俺がそいつらの身ぐるみひん剥いてしめてやったからだよ」グッ
魔王候補(現魔王)「お、俺には……あんたが……何を言っているのかわからない」ガタガタ
魔王候補(兄)「やれやれ、しょうがない愚弟達だな……ならついでだから教えてやるよ」
魔王候補(弟)「や、やめて……兄上」フルフル
魔王候補(兄)「これが初めてじゃないんだぜ? 俺達が人間を食うのは」
魔王候補(兄)「ていうか何度も食ってる。牛や豚と頻度はそう変わらない」
魔王候補(現魔王)「あ……え……?」
491: 2013/09/22(日) 00:44:12 ID:crOGGcl6
魔王候補(兄)「いつもは侵略先でごろごろ落ちてる氏体から、美味そうなのを調達してるけどな」
魔王候補(兄)「今回は気が変わったんだと。たまには新鮮なものも良いだろうってな」
魔王候補(現魔王)「……あ……嘘、嘘だ……」ガクガク
魔王候補(弟)「うう……おええ……ッ」ビチャッ
魔王候補(兄)「……そうだろう? 母上」クルリ
魔王(先代)「別に隠しているつもりはなかったがな……お前達もてっきり知っていると思っていたぞ?」キョトン
魔王候補(弟)「そん、な……はは……うええ……」ゲエゲエ
魔王候補(現魔王)「げほっ……うげええええ……っ」ボタボタ
魔王(先代)「今回、私は実はお前達に感心していたよ。誰に教わるでもなく肉を美味しくする方法を会得していたのかと」
魔王候補(現魔王)「おい、しくする……方法……?」ゼエゼエ
492: 2013/09/22(日) 01:12:12 ID:crOGGcl6
魔王(先代)「ああ。人間の肉はな……仲良くなればなる程美味になるのだ」
魔王候補(現魔王、弟)「「!?」」
魔王(先代)「特に一時の気の迷いで愛情などが湧いてみると凄いぞ……他の食物が味気なく思える程な」トロン
魔王候補(兄)「へえ、そこまでは知らなかったな」クックッ
魔王候補(現魔王)「どうして……そんな事ができる……?」
魔王(先代)「?」
魔王候補(弟)「僕達と……似た姿を、しているのに……」ゲホゲホ
魔王(先代)「何を寝ぼけた事を……お前達だっていずれ共食いはするだろう? ましてや他種族である人間など……家畜と何ら変わらん」
493: 2013/09/22(日) 01:26:06 ID:crOGGcl6
魔王候補(現魔王)「ッ……うああああああああッッッ!!!!!!」ダダダダッ
魔王(先代)「……」バシッ
魔王候補(現魔王)「がっ……げえええ……」ゴホッゴホッ
魔王(先代)「息子よ……お前がどんな幻想を人間に抱いているのかは知らんが」グッ
魔王(先代)「人間だって時に同族を食う事はあるのだぞ? 我らと似たようなものだ……」
魔王候補(現魔王)「ち、ちが……」ブンブン
魔王(先代)「……まあ、いずれ世間知らずのお前達にもわかる時が来る」パッ
魔王(先代)「これからは今以上に励め……魔族としてな」ザッザッ
魔王候補(兄)「……次の食卓が楽しみだなあ? 弟達よ。ぎゃはははっ!」ザッザッ
魔王候補(現魔王)「違う……違うぅ……!」
魔王候補(弟)「うええ……うああああああ……っ!」ボロボロ
494: 2013/09/22(日) 01:47:46 ID:crOGGcl6
――――
――
魔王「――それから我らは一時期、物を思うように食えなくなった」
魔王「特に肉は……見るだけで吐き気が止まらなかったよ」
魔王「だが……周囲がそれを許さなかった」
魔王「元のわからぬ肉を……体を押さえつけられながら無理やり口に入れられ、飲み込むまで許されぬ」
魔王「毎日の数少ない安らぎの時間が一気に地獄と化した瞬間だった……」
少女「……」
魔王「そのうち我らは……慣れてしまった。どうせ今までとしてきた事は変わらぬと」
魔王「自由への望みが薄れ……ただ醜く生にしがみつく手段として、我らはそれを受け入れた」
魔王「……あの日々が終わり、こうして食べる肉を選べるようになってからも……しばらくその実感がなかった」
魔王「今でも知らず知らずのうちに人間を食っているのではないかと……時々怖くなることがある」
少女「……2人が最近、お肉をたくさん食べるのは」
魔王「魔族としての我らが、大切なお前を……万が一にも手にかけてしまう事を防ぐためだ」
495: 2013/09/22(日) 01:52:21 ID:crOGGcl6
今回はここまで。
キャラの書き分けって難しい……。
嫌な部分はすぐに書き終えるに限ります、はい←
おやすみなさい。
キャラの書き分けって難しい……。
嫌な部分はすぐに書き終えるに限ります、はい←
おやすみなさい。
496: 2013/09/22(日) 12:12:32 ID:crOGGcl6
こんにちは。
今日もフリーダムに更新です。
やっぱり一日中書けるのは良いですね……。
……でも、ちょっと話の方向性間違ったかな←
今日もフリーダムに更新です。
やっぱり一日中書けるのは良いですね……。
……でも、ちょっと話の方向性間違ったかな←
497: 2013/09/22(日) 12:38:44 ID:crOGGcl6
少女「でも、今まで食べてきたお肉の中で、人のだって見わけがついた事はないんでしょ?」
魔王「ああ。だがそれでも心配なのだ……今のお前は正直、幼女の時よりも肉付きが良いからな」
少女「そうかな~……」マジマジ
魔王「……少女、これで我らが怖くなったか?」
少女「へ?」
魔王「いつかお前を……思い余って食べてしまうかもしれない我らが」
少女「ううん、全然」ピトッ
妖精「」オロオロ
魔王「! 少女……」
少女「それでも魔王様は魔王様、側近さんは側近さんだよ。私の居場所は2人のところだけ……何も変わらない」
少女「それが終わる時が来たら……食べられるのも、嫌じゃない……かな」
498: 2013/09/22(日) 12:59:42 ID:crOGGcl6
魔王「少女……そのような悲しい事を言うでない」ギュッ
少女「だって、私は今まで人といる時間より2人といる時間の方が長かったんだよ?」
魔王「それはそうだが……」
少女「それに私は、2人の事誰よりも信じてるから」ニコッ
魔王「……ありがとう」
妖精「」ジーッ
少女「妖精さん……大丈夫だから、そんな心配そうな顔しないで」ツンツン
魔王「いや、今の内容的にそれは仕方がないと思うぞ……」
499: 2013/09/22(日) 13:32:48 ID:crOGGcl6
少女「えー? 私はむしろ嬉しいんだけどな」
魔王「な……何がだ?」
少女「魔王様が私に、思い切ってそんな苦しい過去を打ち明けてくれた事が」
魔王「……お前を脅かすための嘘かもしれぬぞ」
少女「魔王様はそんなこと言わないよ。今まで、ずっと苦しかったんだね……」ポンポン
魔王「……」ジワッ
少女「打ち明けてくれてありがとう……大丈夫、私は絶対に2人から離れていかないからね」ナデナデ
魔王「少女……ッ……愛おしい、我らが家族よ……」ギュウウッ……
妖精「……」チョットフクザツ
500: 2013/09/22(日) 14:17:24 ID:crOGGcl6
――――
――
少女「……落ち着いた?」ナデナデ
魔王「う、む……すまぬな、情けない姿を晒した」スッ
少女「んーん、気にしないよ。家族だもん」ニコニコ
魔王「……そうだな。これからもずっと」
少女「うん」
魔王「……そんな大事な家族を、想いが続く限りは食べるわけにはいかぬな」ポンポン
少女「そう?」
魔王「むしろ、注意するべきは……側近の方かもしれぬ」ボソッ
少女「え……? どうして?」キョトン
魔王「他者に抱く愛情には種類がある。家族愛、親子愛、兄弟愛、親愛、恋愛……などというようにな」
魔王「我はその中で、家族愛をお前に抱いておるということはわかるな。」
少女「うん……側近さんも同じじゃないの?」キョトン
501: 2013/09/22(日) 14:38:53 ID:crOGGcl6
魔王「むう……昔はそうであったと思うが、今は……」
少女「?」
魔王「我が見る限り、家族愛とはちと異なると思う」
少女「それが、何で危ないの?」
魔王「……その情が、最も食欲に近いものかもしれぬからだ」
少女「ふうん……よくわからないや」
魔王「まあ、とにかく奴の動向には少しばかり注意しておいた方が良い」
少女「側近さんと……今まで通りに一緒にいちゃ駄目なの?」
魔王「いや、それは変えずとも良い。だが……やはり万が一のためだ」
少女「うーん……とりあえず気をつけるよ」
502: 2013/09/22(日) 15:34:33 ID:crOGGcl6
魔王「一応、小妖精にも言って……まあ、お前は言われずとも理解していそうだがな」
妖精「」グッ
魔王「なんと頼もしい事だ……流石は少女の1番の友。まあ、口実が見つかれば良いのだろうが……」
少女「?」
少女(とりあえず、私が食べられる事があるとすれば……側近さんの可能性が高い、って事になるのかな)
少女(側近さんは……どれくらい辛いんだろう? 一体どんな気持ちで私の事を……)
少女(……本当に、色んな事で迷惑をかけちゃうな)シュン
妖精「?」ジッ
少女「妖精さん……何でもないよ? そろそろご飯の支度しに行こうか」スッ
魔王「少女……このような話をしたが、結局の所は」
少女「ご飯のお肉がたくさんあれば、とりあえずは大丈夫……でしょ?」
魔王「! ああ……頼む」
少女「任せて~」ギュッ
504: 2013/09/22(日) 16:01:45 ID:crOGGcl6
――――
――
少女(――その夜、夢を見た)
少女(側近さんがギラギラした目で私を見下ろしながら、腕や首に噛みついてくる)
少女(ピチャピチャと、すぐ近くで血や肉を啜る音がして……とても生々しい夢だった)
少女(夢の中だからか、痛みは感じなかったし……怖いとも思わなかった)
少女(側近さんの顔が……とても悲しそうだったから。これは私の願望かもしれないけれど)
少女(魔王様や妖精さんも、こうなった私を見てきっと悲しんでくれる)
少女(でも……これで側近さんが苦しまなくなるなら、この優しい魔物の糧になるのも良いと思えた)
少女(だから私は夢の中で……あまり力の入らない腕で側近さんに縋りついた)
少女(その瞳に映った私の顔は――うっすらと唇に笑みを浮かべていた)
505: 2013/09/22(日) 16:26:04 ID:crOGGcl6
――――
――
チュン……チュン……
少女「……朝?」パチリ
妖精「」パタパタ
少女「妖精さん……おはよう」
妖精「」ビシッ
少女「ふふっ。今日も1日頑張ろうね……」ムクリ
妖精「!」ビクッ
少女「? どうしたの妖精さん……あ」ジワッ……
少女「……あれからもう1か月か。早く洗わなきゃ……」ノソノソ
――――
――
少女「今日の朝御飯は……何が良いかな……?」フラフラ
妖精「」オロオロ
少女「大丈夫だよ、病気じゃないんだし。舞踏会の日じゃなくて良かった……」ヨロヨロ
506: 2013/09/22(日) 16:56:29 ID:crOGGcl6
側近「……少女か、おはよう」ザッザッ
少女「おはよう側近さん……」トロン……
側近「っ、……どうした? 随分とふらついているが……寝不足か?」
少女「ううん、始まっちゃっただけだよ……」ソッ……ナデナデ
側近「! そう、か……だから匂いが……」ボソリ
妖精「」キッ
側近「……今日の朝食は私も手伝おう。先に行っているぞ」ザッザッ
少女「あ……ありがとう」ニコ……
507: 2013/09/22(日) 20:35:17 ID:crOGGcl6
側近「……」ギリッ
側近(何故……血の匂いまでがこうも薫るのだ)
側近(先代魔王……忌々しくも貴女が仰った意味が今更になって……)
――――
――
朝食時
魔王「そうか……都に送った魔鳥が今朝早くに戻ったか」モグモグ
側近「はい。脚に羊皮紙を1枚括りつけられていた以外は特に変わりはありませぬ」ムグムグ
少女「何て書いてあったの?」ムシャムシャ
側近「……簡単に言えば、支度を整えて都の前まで待っているから、明日の早朝に迎えに来てほしいと」
魔王「他には?」
側近「父が遠方に行っていて不在である事に加え、影武者に上手い具合に入れ替わってもらう故、心配はないとの事です」
魔王「そうか……どちらもご苦労。魔鳥は後で少女に労わせるか?」
側近「……きっとあれも喜びましょう」
508: 2013/09/22(日) 20:42:47 ID:crOGGcl6
妖精「」ハムハム
少女「魔鳥さんは今、何処にいるの?」
側近「森で羽を休めていると思う。後で呼んでやろう」
少女「わあ、ありがとう! 念入りに毛繕いしてあげよー」ニコニコ
側近「っ……早く食べろ。手が止まっているぞ」ガツガツ
少女「うん」モグモグ
魔・妖「……」
――――
――
城の外
側近「……」ピィィッ
魔鳥「」バッサバッサ
少女「魔鳥さん! 久しぶり~」
509: 2013/09/22(日) 21:23:23 ID:crOGGcl6
魔鳥「キュアッ♪」スリスリ
少女「元気にしてた? あっちのお城ではちゃんとお世話してもらってた?」
側近「……魔鳥に余計な世話などいらん。特にそいつは本来人間には懐かん筈なのだがな」
少女「えー? こんなに可愛いのに?」
魔鳥「」クルルル……
側近「……もう何も言わん」ハア
少女「魔鳥さん、本当にご苦労さま♪ 今から毛繕いしてあげるからじっとしててね~」ストン
魔鳥「♪」バサッ
側近(魔鳥としての威厳も何も感じられんな……)
妖精「」プクーッ
510: 2013/09/22(日) 21:55:16 ID:crOGGcl6
側近「小妖精。お前の友は本当に不思議な存在だな」チラッ
妖精「」プイッ
側近「……仮に、だが。我らがこの魔王城から解放される未来があれば」
妖精「……」
側近「少女の出自を探る事も兼ねて……皆で旅に出てみるのも良いかもしれん」
妖精「」パタパタ
側近「……その時は勿論、お前も来るだろう?」
妖精「」……コクン
最近「あまり外を知らぬ者ばかりの奇妙な旅路……さぞかし愉快だろうな」
妖精「」パタパタ……
少女「……はい、終わったよ。ちゃんと大人しくできたね~良い子良い子」ナデナデ
魔鳥「ギュエ~ッ♪」バサバサバサッ
少女「! きゃっ……」ペタン
511: 2013/09/22(日) 22:07:10 ID:crOGGcl6
側近「!? どうした少女!」
妖精「!」パタパタパタッ
少女「あはは……魔鳥さんの鉤爪でちょっと手を切っちゃった」タラッ……
側近「馬鹿者……! そいつの扱いには気をつけろ! 普通の鳥とはわけが違うのだぞ!?」
魔鳥「」シュン……
少女「ごめんなさい……魔鳥さん、そんな顔しないで。私の不注意なんだから」ナデナデ
側近「全く……ッ!」ドクッ
少女「早く手当てしなきゃ……側近さん?」キョトン
側近「……あまり、傷ををこっちに近付けるな」ドクンッ
少女「?」
側近「早く手当てに……くっ」ガクン……ッ
少女「そ、側近さん!? どうしたの?」
512: 2013/09/22(日) 22:19:22 ID:crOGGcl6
側近「……」
少女「大丈夫? どこか痛いの……え?」グイッ
側近「……」ジーッ
少女「そ、側近さ……ひゃんっ」ビクンッ
側近「……」ペロリ
少女「……あ」
側近「……」スッ ピチャッ……
少女「んっ……や、側近さん……っ」フルフル
側近「……」チュルッ……ズズッ
少女「ふあっ、い、痛い……っ」ジワッ
妖精「~~~ッッッ!」グイグイッ
魔鳥「キュアッ!」ツンツンツンッ
513: 2013/09/22(日) 22:36:58 ID:crOGGcl6
側近「はっ……少女!」バッ
少女「はあっ……はあっ……」クタッ
側近「す、すまん……これは……」
少女「……そんなに」ギュッ
側近「?」
少女「私の血って、美味しいの? ……側近さんにとって」コテン
側近「ッ……!」ザッ……ダダダッ
少女「……」ムクリ
『奴の動向には少しばかり注意しておいた方が良い』
少女「魔王様……こういうことなの?」ジッ……
妖精「」オロオロ
魔鳥「クエエ……」バサッバサッ
514: 2013/09/22(日) 22:51:42 ID:crOGGcl6
――――
――
側近(……甘かった。舞踏会で飲んだ葡萄酒の何倍も)ザッザッザッ
側近(血だけであれなら……肉の方は)ゴクリ
側近「!? う、あぁ……」ブルブル
側近「俺は、一体何を……少女ぉ……こんな家族で」
魔王「あまり自分を責め過ぎるな、側近」
側近「っ、魔王様、ですが……」
魔王「間が悪かったな……少女のあの日と重なって」
側近「……」
魔王「案ずるな。彼女には既に警告をしてある……お前には悪いがあの事を話した」
側近「! そう、でしたか……いえ、ありがとうございます」
515: 2013/09/22(日) 23:21:27 ID:crOGGcl6
魔王「礼には及ばぬよ。後は少女と……お前次第だ」
側近「……はい」
魔王「少女はな、あの話をしても我らを怖がる事はなかった……本心はどうかわからぬが」
魔王「だが、我らから離れていったりしないと確かに言った」
側近「! それは真に……?」
魔王「ああ。家族としてこれ以上にない程に信頼しているようだ」
側近「……」
魔王「まあ、あまり考え込み過ぎるな。そうだ、明日は姫を迎えに行くのだろう?」
側近「それが……何か?」
516: 2013/09/22(日) 23:45:28 ID:crOGGcl6
魔王「その段取りの事でも考えていれば、多少は気も紛れよう」
側近「そちらの準備は既に整っておりますが」
魔王「……そうか。有能過ぎるのもたまには困るものだな」
――――
――
少女「よし、これで手当ては終わり」キュッ
妖精「」パタパタ……
少女「平気だよ、怪我自体は大したことなかったし。ただ……」
少女「さっきの側近さんには、ちょっとびっくりしたな」ソッ……
少女(側近さんのあったかい息が、舌が……この手に)
少女(びっくりしたし、ほんのちょっぴりだけ怖かったけど……)
少女(……もっと、って思ったのは……何でだろう?)ドキドキ
517: 2013/09/22(日) 23:57:36 ID:crOGGcl6
少女(そう言えば、舞踏会の時も似たような事を……)
少女(魔王様にくっついている時は、そんな事思わないのに……何かの病気?)
少女「うぐう……こんな調子で明日、大丈夫かな?」ズーン
妖精「」オロオロ
――――
――
都の城
姫「ふんふ~ん」スタスタ
給仕「姫様、随分とご機嫌でございますね」
姫「あら、わかります?」クスッ
給仕「ええ。姫様が幼少の頃からお仕えしている身ですからね」
姫「ふふっ、そうですわね……ちょっとこの間の舞踏会の事を思い出していたの」
518: 2013/09/23(月) 00:12:43 ID:5Xd9UQBY
給仕「まあ……確か気になる方がいたと仰っておりましたね」
姫「ええ。生憎殿方ではないけれど……全く、お父様は気が早過ぎるわ」
給仕「陛下にとって、姫様はたった1人の愛娘ですもの……その分、幸せになってもらいたいとお思いになるのは当然ですよ」
姫「それでも、私にだって選ぶ権利はあります。でなければ本当の意味で幸せになどなれないわ」
給仕「姫様……ああ、そう言えば私もあの日気になる方が」
姫「え? 給仕、それって……」
給仕「い、いえいえ滅相もない! ただ、一介の給仕である身の上に過ぎない私にとても丁寧に接してくださったというだけで」
519: 2013/09/23(月) 00:23:02 ID:5Xd9UQBY
姫「それでも、印象に残ったのでしょう?」
給仕「ええ……あの時、私はとんでもない過ちを犯してしまって」
姫「なんだか大袈裟ね……」
給仕「いいえ! その方の……お酒を飲むのが初めてのお連れのお嬢さんが葡萄酒を煽るのを止められなかったのです!」
姫「!」ピクッ
給仕「とんでもない事です……嗚呼、今一度あの方にお詫びを言う事ができたら」
姫「……それってもしかして、とっても背が高い殿方ではなくって?」
給仕「ええ、確かに……それも相まって印象に残りましたが、何故それを?」
姫「簡単な事よ、私が気になったうちの1人ですもの。良かったら詳しく聞かせてくれない?」ニッ
給仕「は、はあ……」
520: 2013/09/23(月) 00:33:40 ID:5Xd9UQBY
――――
――
早朝 魔王城前
側近「では、行って参ります」ペコリ
魔王「うむ、頼んだぞ。転移魔法を使うとはいえ、くれぐれも慎重にな」
少女「側近さん……ご馳走もう少しでできるからね!」ドキドキ
側近「あ、ああ……楽しみにしているぞ」ナデナデ
少女「うんっ」
側近「……では」キィ……ン
魔王「……行ったか。さて、出迎えの準備だ。少女、頼んだぞ」クルリ
少女「は、はいっ……!」グッ
524: 2013/09/23(月) 12:32:47 ID:5Xd9UQBY
こんにちは。
三連休最終日ですが、今回もがつがつ進めていきます。
>>523ありがとうございます、お心遣い痛み入ります。
自分でも変な展開にしてしまったり、唐突な工口小話を挿んだりしている手前、どうしてももう誰も見ていないのでは、と思えてしまいまして(笑)
文字だけのやり取りはこういったところが難しいですね。
できればこれからも、完結まで見守っていただけたら幸いです。
三連休最終日ですが、今回もがつがつ進めていきます。
>>523ありがとうございます、お心遣い痛み入ります。
自分でも変な展開にしてしまったり、唐突な工口小話を挿んだりしている手前、どうしてももう誰も見ていないのでは、と思えてしまいまして(笑)
文字だけのやり取りはこういったところが難しいですね。
できればこれからも、完結まで見守っていただけたら幸いです。
525: 2013/09/23(月) 12:44:48 ID:5Xd9UQBY
――――
――
都の前
側近「……」スタッ ザッザッ……
姫「側近さん、こちらですわー!」フリフリ
側近「! ああ、今行く」ザッザッザッ
姫「おはようございます。朝早くのお迎え感謝します」ペコリ
側近「別に大したことではない。最初に頼み事をしたのは我らだからな」
姫「そう仰っていただけると助かりますわ」ニコッ
側近「……では、早速参ろうか。今から貴女を転移魔法により魔王城へと送り届ける」スッ
姫「はい、よろしくお願いします」ペコッ
527: 2013/09/23(月) 13:45:41 ID:5Xd9UQBY
側近「……私の傍へ。良いと言うまで離れずに」スゥゥ……
姫「……あのお嬢さん……少女さんでしたよね? あれからお変わりありません?」ススッ
側近「ああ。お陰様でな……朝から貴女を迎えるために張り切る程度には元気だ」キィ……ン
姫「まあ、そうなんですか! それは朝から良い事を聞きました」フッ……
――――
――
魔王城の外
側近「……よし。姫、もう離れていただいて構わない」スタッ
姫「んっ、はい……」ストッ ジーッ……
側近「姫?」
姫「これが魔王城……古めかしいですが、立派な建物ですわね。私のお城にも引けを取りませんわ」
側近「お褒めにあずかり光栄だ。では中へ……魔王様達がお待ちだ」ギイイ……
528: 2013/09/23(月) 14:48:18 ID:5Xd9UQBY
姫「……はい」ドキドキ
――――
――
謁見の間
魔王「ようこそ、姫君……我が城へ。不本意ながらこの城の仮の主をしている魔王だ」スッ
姫「お初にお目にかかりますわ、魔王様。姫です……ここへ来る事をお許しいただき感謝します」ペコリ ギュッ
魔王「いやいや、このようなみすぼらしい城で良ければ大歓迎だ。我らの頼みを受けてくれるのなら」
姫「ええ、それは勿論。有力な勇者様の情報が入った暁にはすぐにお知らせいたしますわ」ニコッ
魔王「有難い……ああ、では遅れながら我らのもう1人の家族を……ほら、少女。出てくるのだ」
少女「……」コソッ
529: 2013/09/23(月) 15:02:19 ID:5Xd9UQBY
魔王「少女……何をしておるのだ。早くこちらへ」
少女「は、はいっ……きゃんっ!」ズルッ コテンッ
魔王「……」
側近「……お前と言う奴は。姫、お見苦しい所を」ハア
姫「いいえ、構いませんわ」スタスタ
少女「! ……あう、は、初めまして……お姫様」
姫「ふふ、確かに起きている時にお会いするのは初めてですわね、少女さん。姫です」ニッコリ
少女「……しょ、少女、です」カアッ……
姫「そう硬くなさらず……どうか仲良くしてくださいね」スッ
少女「! は、はいっ」ギュッ
魔・側「「……やれやれ」」ホッ
530: 2013/09/23(月) 15:47:56 ID:5Xd9UQBY
魔王「そういえば姫よ、朝食はまだではないか? 今から貴女の歓迎会も兼ねた食事は如何であろうか」
姫「まあ! 喜んでお受けいたしますわ……行きましょう? 少女さん」ソッ
少女「あ、うん……じゃなくてはい!」ヨイショ
姫「ふふ、無理に言葉を改めなくて構いません。何時もの通りで」
少女「……あり、がとう。お姫様」
側近「……緊張してはおりますが、どうやら上手くやっていけそうですな」ヒソヒソ
魔王「ああ。ここで我ら以外の誰かを迎えるのが初めて故の事だろう……いずれ慣れる」ヒソヒソ
少女「魔王様、側近さん、早く行こう! せっかく作ったお料理が冷めちゃうよー」
姫「まあ、少女さんの手作りですの? それはさぞかし美味しいのでしょうね」パアアッ
少女「そ、それ程でも……えへへ」テレテレ
531: 2013/09/23(月) 17:07:53 ID:5Xd9UQBY
魔王「ああ、すぐに行く」
側近「少女、だからと言ってあまり姫君を急かすなよ」
少女「はーい」
姫「ふふ、ここは朝から賑やかですわね」ニコニコ
――――
――
朝食時
姫「美味しい……とても暖かみのある味ですわね」モグモグ
少女「本当? それ自信作なんだ~」ニコニコ
姫「私はこんなお料理は作れないから……羨ましい。少女さんは良いお嫁さんになれますわ、きっと」
少女「そんな~……じゃあほら、これも食べて!」
側近「少女、幾らなんでもはしゃぎ過ぎだ」
魔王「同じ年頃の娘がいて嬉しいのはわかるが、それでは姫がゆっくり食べられないだろう?」
姫「あら、構いませんわ。こんなに賑やかで楽しいお食事の時間は初めてですもの」ニコニコ
532: 2013/09/23(月) 19:13:09 ID:5Xd9UQBY
少女「え? お姫様は毎日すっごいご馳走を食べてるんでしょ? 楽しくないの?」
姫「どうでしょう……確かに上等な食材が使われているとは思いますが、食べる時は1人が多いので味をあまり感じられませんの」
少女「ふうん……」
姫「私はそれよりも……」ツン
妖精「!」ピクッ
姫「こうして誰かと食べる方がずっと楽しいと思いますわ。可愛らしい妖精さんもいますしね」ニッコリ
妖精「~~~ッ!」プイッ
姫「あらら……嫌われちゃいましたか?」
少女「ううん、違うよ。これは照れてるの……さっきの私みたいに」クスクス
姫「少女さんはこの子の事をよく知っているんですね」
少女「小さな頃から一緒にいる、1番のお友達だからね~」
妖精「」コクコク
533: 2013/09/23(月) 20:46:42 ID:5Xd9UQBY
姫「まあ……素敵ですわね」
少女「お姫様もきっと仲良くなれるよ……私も、良かったら仲良くしたいけど」
姫「!」
少女「駄目……かな?」
姫「……そんな、そんなわけありません! 寧ろ願ったりですわ」ギュッ
少女「ほ、本当?」
姫「ええ! そう言ってくれたのは貴女が初めてです……ああ、この素晴らしいご縁に乾杯したい位ですわ……!」
少女「そんな、大袈裟だよ~」
姫「いいえ! うふふ、やはりあの時の私の直感は当たっていた……」
少女「?」
534: 2013/09/23(月) 21:05:35 ID:5Xd9UQBY
魔王「えー、お嬢さん方、話に夢中になるのは結構なことだが……」ゴホン
側近「ゆっくり食べていたつもりの我らよりも遅いとは……料理ももう冷めていよう」
少・姫「「……あっ!」」
妖精「」モキュモキュ……ペチン
――――
――
少女「ごめんなさい……お姫様には1番美味しいうちにお料理を食べて貰いたかったのに」シュン
姫「いえ、私の方こそお話に夢中になってしまいましたし……お互い様ですわ」
少女「お姫様……」
姫「……そうだ、よろしければ後で昼食のお手伝いをさせていただけません事?」
少女「え? でも、お姫様にそんなこと……」オロオロ
姫「私がやりたくて言っているんですわ。何が起きても自己責任ですし……ね? お願い」
少女「んー……ちょっと考えさせて……」
魔王「……あの調子なら心配あるまい」
側近「……そのようですね」ホッ
535: 2013/09/23(月) 21:18:52 ID:5Xd9UQBY
少女「じゃあ、お姫様……これからどうする? とりあえず魔王城の中を見て回る?」
姫「そうですわね……魔王様、よろしいですか?」
魔王「ああ、構わない。ただし、立ち入り禁止の場所もあるので心得ておいていただきたい」
姫「わかりましたわ」
側近「少女、それも含めて姫君を案内できるな?」
少女「任せてっ! 行こうお姫様」テクテク
姫「ええ! とても楽しみですわ~」テクテク
妖精「」パタパタ
魔王「……珍しいな。見ろ、小妖精があんなに大人しくなっておる」
側近「緊張半分、興味半分と言ったところでしょうか……悪い事ではありますまい」
魔王「それはそうだが……我らには中々手厳しいだけに複雑だな」
側近「……少女と同姓か異性かの違いにもよるでしょう。それに我らは1度あれを……」
魔王「……ああ、それならば仕方がないな」
536: 2013/09/23(月) 23:53:09 ID:5Xd9UQBY
――――
――
少女「案内するって言っても、同じようなお部屋が多いんだけどね。何もないお部屋とか」
姫「私の所とは大違いですわね……まあ、使用人部屋が大半ですからね」
少女「……都の城と比べてどう思う? 魔王城」
姫「そうですね、最初はもっとおどろおどろしい所を想像していたんですけど……暗めの配色である以外は、綺麗で住み心地の良さそうな場所だと思いますよ」
少女「そう? 側近さんとちょくちょくお掃除してる甲斐があったよ」
姫「え、この広いお城をたった2人で!?」
少女「うん。ほとんど側近さんがあっという間に終わらせちゃうけどね」
姫「まあ……本当に凄い方なんですね」
537: 2013/09/23(月) 23:54:37 ID:5Xd9UQBY
少女「そうだよっ。それにカッコイイし、厳しいけど優しいし、物知りだし……」
姫「ふふ、少女さんったら……自分の事のように彼の事を話すのね」
少女「大切な家族だからね。あ、でも魔王様も凄いんだよ? 魔術にとっても詳しいし、悩みをあっという間に解決してくれるし……」
姫「そう……ねえ、少女さん」
少女「なあに? お姫様」
姫「貴女は、もしその2人のうちどちらかを選べと言われたら……どうします?」
少女「……え?」キョトン
556: 2013/09/27(金) 21:27:26 ID:lueF5Lu.
>>537の続きです。
姫「……これから先も、少女さん達がずっと一緒にいられるとは限りません」
姫「いえ、お話を聞く限りむしろその可能性は極めて高いでしょう」
少女「お、お姫様、何を言って……」
姫「その過程で、魔王様と側近さんのどちらかとしかいられなくなるとしたら、貴女は……どちらを選びます?」
少女「……何で、そんな悲しい事言うの……? 私、その日の事を考えないようにしていたのに」ジワッ……
姫「……」
少女「酷いよ……」
姫「……少女さんには、後悔をしてほしくないのです……私のように」
姫「……これから先も、少女さん達がずっと一緒にいられるとは限りません」
姫「いえ、お話を聞く限りむしろその可能性は極めて高いでしょう」
少女「お、お姫様、何を言って……」
姫「その過程で、魔王様と側近さんのどちらかとしかいられなくなるとしたら、貴女は……どちらを選びます?」
少女「……何で、そんな悲しい事言うの……? 私、その日の事を考えないようにしていたのに」ジワッ……
姫「……」
少女「酷いよ……」
姫「……少女さんには、後悔をしてほしくないのです……私のように」
557: 2013/09/27(金) 21:55:42 ID:lueF5Lu.
少女「後、悔……?」
姫「ええ……これを、見ていただけますか?」スッ……
少女「その金の首飾りが、どうかしたの?」
姫「これはただの首飾りではありませんわ。ここを押すと……」パカッ
少女「あ……男の子の絵」
姫「……私の、弟です」
少女「! お姫様、弟がいたんだ」
姫「……もうこの世にはいませんけどね」
少女「……!」
姫「これを人に話すのは初めてですが……聞いて頂けますか?」
少女「お姫様……」
姫「貴女の幼い頃の辛さには劣るかもしれませんが……これが私の傷です」
558: 2013/09/27(金) 22:37:09 ID:lueF5Lu.
少女「……わかった」
――――
――
姫「私の弟は、生まれつき体があまり強くはありませんでした」
姫「ですが、それでも王家にとっては大切な後継ぎ……弟はお城の中で大切に大切に育てられました」
姫「そんな弟はいつも、外に出る事を強く望んでいました。豪華で快適な部屋もご馳走も、決してあの子の気を紛らわせましませんでした」
姫「幼かった私は、弟のために毎日外の話を聞かせました。この子の分まで色々なモノを見て、聞いて、知っていこうと思っていました」
姫「弟は私の話をいつも嬉しそうに聞いていました。だから私は、次第に調子に乗るようになってしまったのです」
姫「最初は弟を喜ばせるためにそうしていたはずなのに……何時の間にか、自分の優越感に浸りたいがために外へ出歩くようになりました」
少女「……」
559: 2013/09/27(金) 23:03:21 ID:lueF5Lu.
姫「……ある日、私はいつものように外へ出かけました……弟よりも、自分が楽しむ事の方を優先して」
姫「その日はどういうわけか普段より私の興味を引くものを多く見かけて、ついつい帰りが遅くなってしまいました」
姫「さぞこっ酷く叱られるだろう……そう思いながら私は恐る恐るお城へ帰りました」
姫「……ですが、城に入っても……誰ひとりとして私を叱る者はいませんでした」
姫「代わりに私を出迎えたのは……城の人間達の啜り泣く声でした」
姫「……帰って来るほんの少し前に弟の体調が急変し……そのままあっけなく亡くなってしまっていたのです」
少女「……!」
姫「……ベッドに横たわった弟の体には、何処にも変わった所などありませんでした」
姫「眠っているだけのように見えました。今にも寝惚けながら目を覚ましそうでした」
姫「……ですが……ですが私の前で弟は2度と目を開けなかった!」
560: 2013/09/27(金) 23:20:23 ID:lueF5Lu.
姫「愚かな私は、その時になって初めて後悔したのです……!」
姫「何故、弟の事をもっと見てあげなかったのか! 何故、弟の話をもっと聞いてあげなかったのか!」
姫「何故! ……弟の事をもっと知ろうとしなかったのか」ポロッ
姫「……弟の事なんて途中から考えてもいなかった、馬鹿な自分の身をどれ程呪ったか……こんな私が何故のうのうと生きているのかとも、ね」
少女「お姫、様……」
姫「……それからは流石に、外に出られずにお城に引き籠って泣き暮らす日々が続きました」
姫「ご飯もほとんど喉を通らなくなり、贅沢に慣れきった体は数日後にはあっさりと衰弱して動けなくなりました」
姫「曖昧な意識でぼんやりと天井を見上げながら、弟はいつもこんな狭い所しか見られなかったんだ……と、ますます後悔しました」
561: 2013/09/27(金) 23:42:12 ID:lueF5Lu.
姫「……それから間もなくの事です、私の元へ弟の遺書が届けられたのは」
姫「正確には、氏ぬ直前まで弟が綴っていた日記にも等しい文章ですが」
姫「さぞ、私への恨み事で溢れているのだろう……そう思いながら、無気力に羊皮紙へ目を走らせました」
姫「……様々な事が書いてありました。外への憧れ、毎日の窓の天気、興味深かった本の話……弟は外に出られない代わりに多くの本を読んでいました」
姫「ですが中でも、1番印象に残っていた言葉は2つ……」
少女「……それは?」
姫「……『王子としての身分よりも、外を走り回れる自由な体が欲しかった』」
姫「それから……『いつか姉さまと一緒に外へ出たい』」
少女「! ……そっか」
562: 2013/09/28(土) 00:01:13 ID:7o92exgM
姫「……その後、単純な私は吐くのも構わずに無理やり食べ物を口に入れました」
姫「とにかく一刻も早く回復したいという一心で、馬鹿の1つ覚えのように口に詰め込みました」
姫「それから……この首飾りを両親に頼んで作っていただきました」シャラッ……
姫「私が外へ出る時は、いつも着けています……弟へ、外を見せているつもりでいるのです。愚かにも」
姫「今更このような事をしても、罪滅ぼしになどなりはしないのに……」
少女「……」
姫「それでも……例え仮初でも、弟のあの言葉を叶えたく思ったのです……」
姫「馬鹿な姉に、あんな言葉を遺して逝った哀れなあの子のために……!」パタタッ……
563: 2013/09/28(土) 00:11:25 ID:7o92exgM
少女「お姫様……」
姫「……あら、いけない。みっともない所を」フキフキ
少女「無理、しなくて良いんだよ……よっぽど悲しかったんだね」ギュッ
姫「少女さん……」
少女「何で……私にこの話を?」
姫「言ったでしょう? 私のようにこれから先後悔してほしくないと……ほら、備えあれば憂いなしと言うではありませんか」
少女「……そんな備えは、ちょっとやだな」
姫「……そうですわね、ごめんなさい。少女さん達があまりに楽しそうだからつい意地悪したくなったんです」
少女「お姫様ったら……」
姫「……それに」ジッ
564: 2013/09/28(土) 00:28:08 ID:7o92exgM
少女「?」
姫「少女さんなら、今のお城の者達のように弟の事などなかったかのように振舞わずに」
姫「ただ純粋に、悲しんでくれると思ったんでしょう、きっと……友達として」ニコ……
少女「お姫様……」
妖精「」パタパタパタ……ピトッ
少女「! 妖精さん……」
姫「あら、ごめんなさいね。すっかりあなたを置いてけぼりにして」ナデナデ
妖精「」フルフル
少女「初めて見た……妖精さんが私以外の人にくっつくの。きっと慰めてくれてるんだね……友達として」ニコッ
姫「まあ……そうなんですか?」
妖精「」コクン
565: 2013/09/28(土) 00:37:36 ID:7o92exgM
姫「! ……ふふ、ありがとうございます。あなたみたいな素敵なお友達に慰められるなんて、私は幸せ者です」
妖精「!」スリスリ
少女「うーん、何だか妬けちゃうな~……お姫様の気持ちがちょっとだけわかったかも」
姫「そうでしょうそうでしょう」ニコニコ
少女「むう……あ! もうお日様があんなに高く……お昼ご飯の準備しなきゃ!!」
姫「まあ……ごめんなさいね、せっかく案内してくださろうとしたのに」
少女「ううん、良いの! お城の案内は午後からで良いかな?」
姫「勿論構いませんわ……あ、先程も言いましたけれど、お昼を作るのを手伝わせてくださいね」
少女「……じゃあ、簡単なものにしようかな。お姫様には物足りないかもしれないけれど」
566: 2013/09/28(土) 00:44:42 ID:7o92exgM
姫「いえいえ、一緒に作らせていただくだけで十分満足ですわ」
少女「それなら良かった……じゃあ、行こうか」
姫「ええ」
少女「……あ、そう言えばさっきの質問だけどね」
姫「?」
少女「……やっぱり、私には魔王様と側近さんのどちらかを選ぶ事なんてできないよ」
姫「! ……そうですか」
少女「みなしごの私にとっては、どっちも同じ位大切な家族だからね!!」ニコッ
姫「……そうですわね。意地の悪い事を訊いてしまいましたね」
少女「気にしてないよ~。さ、急ごうっ」タタタッ
姫「ふふっ……ええ」タッタッタッ
妖精「」パタパタパタッ
570: 2013/09/28(土) 12:44:44 ID:7o92exgM
――――
――
昼食時
姫「あの……どうですか?」ドキドキ
魔王「うむ、美味い……これは姫と少女が?」
少女「うん。簡単で初めてでも作りやすいもので咄嗟に浮かんだの」
側近「それでサンドイッチか……確かにな」モグモグ
少女「私が材料を切って、お姫様がパンにはさんで味付けしたの」
妖精「」クイクイ
少女「! そうそう、妖精さんは味見をしてくれたんだよ~」ニコニコ
魔王「そうかそうか、とても楽しそうで何よりだ……姫はどうであろうか」
姫「ええ、本当に楽しい時間を過ごさせていただいております。まさか、自分で作った物がこんなに美味しいと感じられるなんて……」
少女「良かった~」
571: 2013/09/28(土) 13:04:00 ID:7o92exgM
側近「……こうしてサンドイッチを食べていると、昔のピクニックの事を思い出すな」
少女「うふふ、そうだね~」モグモグ
姫「ピクニック……」
魔王「ああ、あの時か……姫、かつて少女が幼女であった頃にな、夜の森に1度だけ3人と1匹でピクニックへ行った事があるのだ」
少女「あの時はね、側近さんが材料を切って、私がそれをはさんで味付けして……」
魔王「そしてやはり小妖精が味見をしたのだったな……いやはや、懐かしい」
少女「妖精さんったらね、私が間違えて味付けを濃くしちゃったのを側近さんの分に混ぜてたの」
魔王「あれを食べた時の側近の顔は実に見物であった……」ウンウン
側近「止めてください……あれは私にとって屈辱でした」
姫「そのような事が……ですが、夜にピクニックなんて珍しいですわね」
魔王「我は封印の影響故、昼間は城の周辺から先には行けぬからな……それを幼女が気遣って提案してくれたのだ」
572: 2013/09/28(土) 13:44:26 ID:7o92exgM
姫「……そう、でしたか。知らなかったとはいえ、私……」
魔王「何、貴女が気に病む事はない。それ以外は特に不便は感じぬしな」
姫「魔王様……」
少女「……あ、そうだ、今度はお姫様も一緒に行かない?」
姫「! 私も、ですか?」
少女「うん! また夜になっちゃうけど……ねえ魔王様、側近さん、良いでしょ?」
魔王「我は構わぬが……」チラッ
側近「少女、少しは姫君の立場も考えろ。本来ならばこのような所にいるのも……」
姫「あ……いえ! お誘いとても嬉しく思います。その時の夜もまたこうして抜け出してきますわ」
少女「本当? じゃあ、絶対行こうね!」
姫「ええ。ピクニックも初めてなので楽しみですわ~」
573: 2013/09/28(土) 13:50:56 ID:7o92exgM
側近「だが姫……」
少女「駄目かな? 側近さん……」ジッ
側近「っ……1晩だけだ。それ以上は許さん」
少女「やったー! ありがとう側近さんっ」ニコッ
側近「……目先の楽しみばかりではなく、姫君の都合も少しは考えられんものか……」
魔王「まあ良いではないか。我ら以外で初めて親しくする人間なのだ、浮かれもしよう……小妖精も異存なかろう?」
妖精「」コクン
574: 2013/09/28(土) 14:41:37 ID:7o92exgM
側近「それはそうなんでしょうが……」
魔王「それとも側近、お前はピクニックへ行くのは嫌か?」
側近「何故そうなるんですか! 勿論行きたいに決まっていま……あ」
魔王「ならそれで良いではないか。ほら、早く食べるぞ」モグモグ
側近「っ……はい」モグモグ
少女「その森はね、悲しい事もあったけど、私と2人が出会った記念すべき場所でもあるのー」
姫「まあ、そうなんですか……」
妖精「」モグモグ……ペチンッ
――――
――
少女「さて、お片づけも終わったし、そろそろ行こうか」
姫「ええ。改めてよろしくお願いしますね」ペコリ
少女「お姫様のお城と似ているとは思うけど……どこか希望はある?」
577: 2013/09/28(土) 21:23:11 ID:7o92exgM
姫「そうですね……では、書庫があれば行ってみたいですわ」
少女「あ、それはもちろんあるよ~。行こう行こう」テクテク
妖精「」パタパタ
――――
――
書庫
姫「まあ……すごい量の書物ですわね。皆さんの勉強熱心さが窺われますわ」
少女「ほとんど魔王様と側近さんが集めた本だけどね。私のは部屋に置いてる絵本とか、娯楽用のばっかり」
姫「でも、少女さんも少なからず読んでいるのでしょう? それだけでも凄いと思います」
少女「そんな……お姫様のお城にはどれくらいの本があるの?」
姫「ここよりは多いと思いますが……あまり面白いものはありませんね。王族としての心得や礼儀作法に関する内容がほとんどです」
少女「ふうん……じゃあ、少し見ていく?」
578: 2013/09/28(土) 21:42:12 ID:7o92exgM
姫「! 良いんですか?」
少女「うん、どうぞ~」ニコニコ
姫「で、では、この魔王城の歴史の本から……」ワクワク
――――
――
姫「ああ……時間を忘れてしまいますわ。何時までも読んでいたい……」
少女「本当に時間を忘れていたね……分厚いのを5冊くらいは読んだんじゃない?」
姫「ここにある本が興味深いものばかりだからですわ……! 許されるなら都へ持ち帰りたい位」
少女「流石にそれは駄目かもだけど……それならまた読みに来れば良いよ」
姫「! ではまた抜け出して来ますわ!! 寧ろお泊まりしたいです……!!」キラキラ
少女「そ、そう……?」
579: 2013/09/28(土) 22:52:34 ID:7o92exgM
姫「……はっ! す、すいません少女さん!! 私のせいでまた案内を中断させてしまって……」ガバッ
少女「あはは、気にしてないから頭を下げて? そんなにここが気に行ったなら案内して良かったよ」
姫「それでもやはり……申し訳ありませんわ」
少女「どうせ他に案内できる程面白そうな場所って思いつかなかったもん。倉庫とかは多分行っちゃいけないし……」
姫「そうですか……」
少女「それでも良いなら、案内だけはしたかったけど……」
姫「……ごめんなさい」
少女「あああだから気にしてないから! ほら、夕ご飯は確か側近さんが作ってくれてると思うから行こう?」
姫「はい……」
580: 2013/09/28(土) 22:59:52 ID:7o92exgM
訂正です。これじゃ全く逆の意味になるorz
少女「あはは、気にしてないから頭を下げて? そんなにここが気に行ったなら案内して良かったよ」
↓
少女「ううん、気にしてないから頭を上げて? そんなにここが気に行ったなら案内して良かったよ」
少女「あはは、気にしてないから頭を下げて? そんなにここが気に行ったなら案内して良かったよ」
↓
少女「ううん、気にしてないから頭を上げて? そんなにここが気に行ったなら案内して良かったよ」
582: 2013/09/28(土) 23:51:06 ID:7o92exgM
妖精「」ピトッ
姫「! 妖精さん……」
少女「ほら、妖精さんも元気出してって」
妖精「」ジーッ
姫「……ありがとう、ございます」ナデナデ
妖精「」ニコッ
少女「……とりあえず、2人にお願いしてみようかな」
――――
――
夕食時
魔王「どうだろうか、側近の料理は」
姫「はい、とても美味しいですわ……朝からこのような数々の素敵なおもてなし、本当に嬉しいです」
魔王「いやいや、こちらはあまり構う事ができなくて申し訳ない……が、喜んでもらえて良かった」
少女「側近さんは私のお料理の先生だからね~。美味しいのは当たり前だよ」エッヘン
側近「お前が得意になってどうする……姫君にそのような言葉をいただけて光栄なのは確かだが」
583: 2013/09/29(日) 00:19:04 ID:JhDr1vPc
姫「……私は、そのような言葉をいただける程の人間ではありませんわ」
少女「そんな事ないと思うけどな~。ねえ、妖精さん」モグモグ
妖精「」コクコク
魔王「うむ、少女の言う通りだ。我らはこのような暮らし方故、他の誰かに感謝されるのが新鮮なのだ。お前もそうだろう?」
側近「ええ。ましてやそれが高貴な身分の人間相手なら新鮮どころの話ではない……」
姫「もう、買い被り過ぎですわ……このようなお転婆を」カアア
少女「私は素敵な人だと思うよ? お姫様は。仲良くなれて嬉しいし」
魔王「ああ。正直な話、我はもっと気位が高い娘を想像していたからな……だが、こうして会ってみれば案外親しみやすいではないか」
側近「何より城に閉じこもらず、常に外に目を向けている柔軟な部分が良い。こちらはそれで助かっているしな」
姫「……今までそう言ってくださったのは、皆さんの前に……2人だけでした」
584: 2013/09/29(日) 00:36:12 ID:JhDr1vPc
少女「! それって……」
姫「ええ、そのうちの1人は少女さんは既にご存じです」
魔・側「……?」
姫「少女さん、後でお2人にも教えてあげてくださいね?」ヒソッ
少女「お姫様がそう言うなら……わかった」ヒソッ
姫「そしてもう1人は……少女と側近さんが会った事のある者ですわ」
側近「……舞踏会の時か?」
姫「ええ……葡萄酒、と言えば恐らくお分かりですよね」
少女「あ、もしかして私が間違えて飲んじゃった葡萄酒を持っていた女の人?」
姫「ご名答!」
側近「……あの時の給仕の者か」
585: 2013/09/29(日) 01:04:38 ID:JhDr1vPc
姫「彼女は私にとっては特別な人間なんです。昔から私に献身的に仕えてくれていて、ある意味姉のような存在です」
少女「そうだったんだ……そう言えば、何だか優しそうな人だったね」
姫「幼い頃の、私が無理やり物を食べようとした時にも……彼女は励ましながらすぐに食べやすい物を用意して私を支えてくれました」
少女「……」
側近「……あの者の進言がなければ、恐らく取り返しのつかない事になっていた。本当に感謝している」
姫「ふふ、その言葉やんわりと伝えておきますね……実は彼女ったら、あの時の事をまだ気に病んでいるみたいなんです」
少女「え?」
姫「私がちゃんと止められていたら……とね。彼女は少々気が弱くて、1度思いつめると中々抜け出せない質なので」
586: 2013/09/29(日) 01:26:27 ID:JhDr1vPc
少女「でも……あれは私が勝手に間違えて飲んだんだよ?」
側近「そうだ。貴女の給仕は何も悪くない」
姫「ええ、ですがそれでも……どうにかしてあげたいのです」
側近「……私が直接会って話せれば良いのだが……この姿ではそうもいかん。感謝の意をしたためた文を書こう」
少女「あ、じゃあ私も!」
側近「姫、それで伝わるだろうか?」
姫「恐らくは……魔鳥である事は伏せていますが、鳥を使って文のやり取りをしている事は知っていますので」
側近「なら良かった。都の城に戻ったらすぐに渡してもらえるか?」
姫「あ……ええ、勿論ですわ! ありがとうございます」ペコリ
側近「礼には及ばん。我らの事でずっと悩まれるのも気分が良くないしな」
少女「ねー。じゃあ、そうと決まればご飯が終わったらすぐに書こう!」
側近「ああ。姫はその間、帰り支度をして待っていてもらえるか? なるべく早く済ませるつもりだが……」
姫「わかりましたわ……あの、その間魔王様とお話ししていても構いませんか?」
587: 2013/09/29(日) 01:42:56 ID:JhDr1vPc
魔王「! 我と……良いのか? 怖がらずにいてくれるのは有難いが……」
姫「ええ。今日ここで過ごして皆さんの無害さは十分にわかりましたし、同時にもっと知りたいとも思いましたので」ニコッ
魔王「……だが、こちらは少女以外の人間の娘と2人きりになるのは初めてだ。正直居心地が……な」
少女「魔王様、それなら妖精さんにもいて貰ったら? お姫様、妖精さん、良いかな?」
妖精「!」コクン
姫「ふふ、構いませんわ」
魔王「ふむ……良い考えだ。では2人とも、食後文を書くのは丁寧に、かつ迅速に終わらせるのだぞ。姫の帰りが遅くなり過ぎるといけないからな」
少女「はいっ!」ビシッ
側近「……御意」スッ
590: 2013/09/29(日) 15:50:22 ID:JhDr1vPc
――――
――
少女「……側近さん」テクテク
側近「何だ」ザッザッ
少女「あの時は……本当にごめんなさい。あんなことになるなんて思ってなかったから……」
側近「……あれは本当に胆を冷やしたぞ」ピタッ
少女「……」シュン
側近「だが、後々冷静になって考えてみれば、お前がはしゃぐ気持ちを理解できなかった私にも非があった。お前だけが悪いわけではない」
少女「でも……それでも私のやった事で計画が失敗する所だったのは変わらないよ」
側近「……」
少女「私……駄目な人間だね、本当n」ギュッ
側近「……」スッ……サラッ……
少女「んっ……側近さん?」
591: 2013/09/29(日) 16:04:38 ID:JhDr1vPc
側近「お前は駄目な人間などではない」ナデナデ
少女「……」
側近「お前は我らにとって必要不可欠な人間だ。お前の代わりなど、この世の何処を探してもおらん」
少女「側近、さん……」
側近「望むなら、お前に笑顔が戻るまで何度でも言おう」
少女「……ありがとう、側近さん」グスッ
側近「少し失敗したからと言って、あまり自分を追い詰めるな……我らは何があってもお前を見捨てはしない」
少女「うん……うん……」ギュウッ
側近「お前は我らの家族なのだからな……少女」
少女「……ふふ、そうだね。家族だよね」
側近「ああ……お前がかつて幼女であった頃に望んだものと何一つ変わらん」
592: 2013/09/29(日) 16:36:26 ID:JhDr1vPc
少女「! そう言えば、それが始まりだったんだよね……」
側近「ああ。あの時はただ、お前の望みを叶えた形だったが……私も魔王様も、何時の間にかそんな事はどうでもよくなっていた」
少女「……そっか。じゃあ、側近さんも私の事を愛してくれてるってこと?」
側近「……ん?」
少女「魔王様がね、よく私の事を愛しているとか、愛おしい家族だって言ってくれるんだ。側近さんもそう?」
側近「……あ、ああ、そうだな。私はお前の事を……」
少女「うん」
側近「家族として、あ、愛……」カアアッ……
少女「? 側近さん……?」
593: 2013/09/29(日) 17:02:52 ID:JhDr1vPc
側近「っ……と、とにかく大切に思っている」ギュッ
少女「むー……愛してないの?」
側近「意味としては同じようなものだ。あまり深く拘るな」パッ
少女「そうかな……私は愛してるけどな、側近さんも魔王様も。勿論妖精さんも」ニコッ
側近「~~~ッ! しょ、少々話し込み過ぎたな。姫君をこれ以上待たせるわけにはいかんから早く文の作成を終わらせるぞ」ザッザッザッ
少女「え? あ、待ってよ側近さーん!」パタパタパタ……
595: 2013/09/29(日) 18:35:20 ID:JhDr1vPc
――――
――
魔王城の外
姫「今日は本当にありがとうございました。都へ戻るのが名残惜しい位素敵な時間でしたわ……」ペコリ
魔王「いやいや、そう言ってもらえて何よりだ。良ければ今度は宿泊も視野に入れて……」
側近「魔王様」ジロリ
魔王「あっ、す、すまぬ側近……」シュン
少女「魔王様、それ良いね! お姫様ここの書庫を気に入ったみたいだから」
側近「少女まで何を言っている! さっきも言っただろう、もう少し姫の立場というものをk」
姫「まあ、良いんですか? 実は私も御迷惑でなければまたお伺いしたいと考えておりましたの……ピクニック以外で」
側近「姫君……しかし」
魔王「うむ、我らの頼みを果たしてくれるなら大歓迎だ。少女もそれを望んでおるようだしな……また都合の良い日に側近に迎えに来させよう」
側近「おいこら魔王様、何さり気なく話を進めてやがるのですか」
596: 2013/09/29(日) 19:12:32 ID:JhDr1vPc
少女「側近さん……私も魔王様も別に無理強いはしてないよ? それにお姫様もこんなに乗り気だし……こっちのお願いも聞いてくれるって言ってるよ?」
側近「ぐ……だがな……」
少女「それとも側近さんは、お姫様がここに来るの、嫌……?」ジッ……
側近「……そうではない。姫君がここに長く滞在する事によって不測の事態が起きる事を危惧しているだけだ」
姫「その点ならご安心を! 今日のように影武者と……給仕にもきっちり話を通しておきますから。彼女はある意味私よりもお父様から信頼されていますし、貴方と少女さんが書いてくださった文を見せればイチコロですわ!」グッ
側近「給仕以下の信用で良いのか貴女は……」
魔王「良いぞ2人とも! もっと言ってやれ!」グッ
側近「頼むから貴方は少し黙っていてくださいませんか!」キッ
妖精「」パタパタ ワーワー
側近「貴様も引っ込め!」ビシッ
妖精「……」ムスーッ
597: 2013/09/29(日) 19:46:58 ID:JhDr1vPc
少女「側近さん……」ジーッ
側近「う……とにかく、少し考えさせてくれないか。仮にここに泊まるとして、まだ次回の日取りも決まってはおらんのだ」
姫「ええ、勿論です。気が急いてしまってすいません……ですが、こちらに来る際は絶対に皆さんにご迷惑をかけるような事はいたしませんわ」
側近「……そろそろ都へ送ろう。行ってくる」クルリ
少女「うん。お姫様、またね~」フリフリ
姫「ええ……ぜひまた近いうちにお会いしたいものです」ニッコリ
魔王「2人とも、気をつけてな」
598: 2013/09/29(日) 21:09:38 ID:JhDr1vPc
妖精「」パタパタ フリフリ
姫「はい……それでは、失礼します」ペコリ
側近「……」スッ パアア……
少女「待ってるからねー!」フリフリ
姫「」ニコッ フッ……
少女「……行っちゃったね」
魔王「そうだな……今日は楽しかったか? 少女」
少女「うん……もっとお話ししたかったな」
魔王「そうか……我もだ。この魔王城に初めて招いた客人であると同時に、お前達以外で久しぶりに我が話をした存在だからかもしれぬな」
少女「だからあんな事を言ったんだね……また来てくれるよね、お姫様」
魔王「ああ……ピクニックの事もあるしな。さて、そろそろ城の中へ入ろうか」ナデナデ
599: 2013/09/29(日) 21:24:58 ID:JhDr1vPc
少女「……側近さん待ってちゃ、駄目かな」
魔王「! ……いいや。だがこのままでは風邪をひいてしまうぞ」フワッ
少女「あ……ありがとう」ギュッ
魔王「今日は特に冷え込むからな……側近が戻ったらすぐに風呂に入ってゆっくり休むのだぞ?」
少女「うん。あ、何なら久しぶりに一緒に入る?」
魔王「……流石にそれは駄目だ。小妖精がいるであろう?」
少女「そうだけど……また前みたいに魔王様の背中を流してあげたいよ」
魔王「気持ちだけ受け取っておこう……側近に殺されるしな」ボソッ
少女「え? 何か言った?」コテン
魔王「いいや」
妖精「!」ピクッ
魔王「……側近が戻ってきたようだな」
少女「本当?」パアッ
600: 2013/09/29(日) 23:17:13 ID:JhDr1vPc
側近「……ただいま戻りました」スウッ……
少女「側近さん、お帰りなさい!」ギュッ
側近「っ……ただいま。わざわざ外で待っていたのか?」ナデナデ
少女「うん! だってこんなに暗いから、側近さんが1人でお城に入るのはきっと寂しいと思ったの」スリスリ
側近「そうか……気にしなくて良かったものを。頬が冷たくなっているぞ」スッ
魔王「側近、ご苦労であった。何事もなかったか?」
側近「はい……とりあえず明日、姫君の元へ再び魔鳥を送っておきます」
魔王「ああ、頼んだ……さあ、今度こそ皆で中へ入ろう」ザッザッ
601: 2013/09/29(日) 23:28:44 ID:JhDr1vPc
妖精「」パタパタ
少女「あ、そうだ側近さんっ」ピトッ
側近「どうした?」
少女「後で一緒にお風呂入らない? 久しぶりに」ニコニコ
側近「」フリーズ
魔王「少女よ、まだ諦めていなかったのか……」
少女「だって、魔王様は駄目って言うから~」ムーッ
側近「……魔王様にも同じ事を言ったのか?」プルプル
少女「うん。ねえ、良いでしょ……?」ジイッ……
魔王「そ、側近よ……少女に他意はないのだ」オロオロ
側近「ええわかっております。わかって、おりますが……!」
602: 2013/09/29(日) 23:47:01 ID:JhDr1vPc
少女「ねえ、やっぱり駄目?」
側近「……良いだろう」
魔王「ファッ!?」ビクッ
妖精「!?」
少女「ホントにっ?」パアアッ
側近「ああ。この際背中だけではなく全身くまなく洗ってやろう……力一杯な」
少女「え……」サーッ
側近「お前の白い肌が真っ赤になってしまうかもしれんが、構わんな? それ程までに私と入りたいのだから……」
少女「そ、それは……うぅ」
側近「ああそうだ、完璧に洗い終わるまで浴場からは出さんからそのつもりでな……?」ジロッ
少女「……ごめんなさい。やっぱり妖精さんと2人で入るよ」
側近「そうか? ……残念だ」シレッ
魔・妖「「……」」ホッ
605: 2013/10/02(水) 21:21:54 ID:gdiT0Acw
こんばんは。
宣言通りちょっとした小話を投下します。
>>587の後の魔王達サイドです。
小話「魔王と姫 時々妖精」
夕食後
魔王「……」
姫「……」
妖精「」パタパタ
魔王(……気まずい)
魔王(少女以外の異性と話すのは本当に久しぶりだからな……)
魔王(側近と少女がいない今、一体どのような話題を出せば良いのやら)ウーン
宣言通りちょっとした小話を投下します。
>>587の後の魔王達サイドです。
小話「魔王と姫 時々妖精」
夕食後
魔王「……」
姫「……」
妖精「」パタパタ
魔王(……気まずい)
魔王(少女以外の異性と話すのは本当に久しぶりだからな……)
魔王(側近と少女がいない今、一体どのような話題を出せば良いのやら)ウーン
606: 2013/10/02(水) 21:34:03 ID:gdiT0Acw
姫「……あの」
魔王(そもそも、姫は本当に我らを怖がってはいないのだろうか? 内心どう思っているのかはわからぬ……)
姫「あの、魔王様!」
妖精「」クイクイ
魔王「!? ……あ、ああ、すまぬな。反応が遅れた……どうした姫よ」ドキドキ
姫「魔王様は……普段はどのようにお過ごしに?」
魔王「……どのように、とは?」
姫「そのままの意味ですわ。封印の負荷に耐えられる日々はさぞかしお辛いでしょう……魔王様は普段それをどのようにして紛らわせていらっしゃるんです?」
魔王「……特に、そなたにとって興味を引かれるような事はしておらぬ。側近や少女と話し、本を読み、ぬいぐるみに語りかけ……」
姫「ぬいぐるみ、ですか?」
607: 2013/10/02(水) 21:51:31 ID:gdiT0Acw
魔王「少女が我のために作ってくれた兎のぬいぐるみだ。我にとって1番の宝物でもある」
姫「そうなんですか……」
魔王「我は数年前まで兎を飼っておってな……その兎も、2人が我のために都で買ってきてくれた土産だった。病気で氏んでしまった時は本当に悲しかったよ」
姫「まあ……」
魔王「そうして落ち込む我を見かねた少女は……睡眠時間を削ってまで、拙いなりに一生懸命ぬいぐるみを作って我にくれた。本当に優しい子だ」
魔王「『あの子だと思って可愛がってね』と言ったあの時の少女の顔は、今でも脳裏に浮かぶ……傷だらけの手もな」
姫「やはり魔王様にとっても、少女さんはとても大切な人なのですね……」
魔王「無論だ……おっと、すまぬな。つまらない話を……」
姫「そんなことありませんわ! 今度、是非そのぬいぐるみを見せていただけません事?」キラキラ
魔王「う、うむ……考えておこう」
608: 2013/10/02(水) 22:15:40 ID:gdiT0Acw
姫「ふふ、こうしてお話していると……貴方が魔王である事が信じられなくなりますね」ジッ
魔王「……魔王らしくないのは、自分でも十分過ぎる程自覚している」
姫「ですが……貴方が身に纏っているものは紛れもなく、上に立つ者の風格ですわ」
魔王「それこそ買い被り過ぎだ。そもそも我はなりたくて魔王になったわけではないしな……相応の力も持ってはおらぬ」
姫「そんなことありません……力だけが王たる条件ではありませんもの」
魔王「姫……」
姫「他者の声に耳を傾け、それを大切にできるのも王として必要不可欠なもの……無闇やたらと力を振るうだけではただの暴君ですわ」
魔王「……」
姫「貴方に仕える側近さんのお気持ちが……私には理解できます。貴方を慕う少女さんのそれも同様に」
609: 2013/10/02(水) 22:34:38 ID:gdiT0Acw
魔王「……そんな事を言われたのは初めてだ。世辞でも嬉しく思うぞ」
姫「お世辞などではありませんのに~……まあ、それはそれとして。魔王様……?」ジリッ
魔王「な、何かな?」
姫「実は私、初めてお目にかかった時から密かに気になっていましたの……」ジリジリ……
魔王「な、何をだ?」ズリズリ
姫「その……ご立派な角ですわ!!」ビシッ
魔王「!?」ビクッ
妖精「」ジッ
姫「何処か蛇に似たお顔と不思議な調和を保つ2本の角……山羊のそれに近いですが、そこの所はどうなんですの!?」キラキラ
魔王「ひ、姫、少々落ち着け……!」アタフタ
610: 2013/10/02(水) 23:09:24 ID:gdiT0Acw
姫「これが落ち着いてなどいられますか! 魔族の方をこんなに近くで見るのは初めてなんですよ!?」
魔王「だからと言って、そんな不用心な……」
姫「ね、お願いします、どうかその角触らせてくださいな……!」
魔王「そ、それは構わぬから……!」
妖精「」ニヤニヤ
姫「本当に!? では失礼して……うふふふふ」スッ
魔王「……どうだ?」
姫「……硬いですね」ツンツン
魔王「角だからな」
613: 2013/10/04(金) 21:24:29 ID:69jO3tz6
姫「……」ピョンッ ツンッ ピョンッ ツンッ
魔王「……その触り方ではきつかろう」屈ム
姫「あ、ありがとうございます」サワサワ
魔王「……姫よ、代わりと言っては何だが」
姫「はい、何でしょう?」ナデナデ
魔王「もし嫌でなければ……姫のその黄金の髪も触らせてもらえぬだろうか」
姫「ふふ、良いですよ。お安いご用です」スッ
魔王「で、では……失礼」スッ
姫「……んっ」ピクッ
614: 2013/10/04(金) 21:45:09 ID:69jO3tz6
魔王「あ、ああ済まぬ。やはり嫌だったか」パッ
姫「い、いいえ。どうぞ続けてくださいな」カアアッ……
姫(そう言えば……お父様以外の殿方に髪を触られるのは初めてでしたわ)
魔王「そ、そうか? では……」サラッ……
姫「……どう、ですか?」モジモジ
魔王「うむ……とても良い手触りだ。いつまでも触っていたくなる」ナデナデ
姫「あ、ありがとうございます……」
魔王「少女の紅茶色の髪とはまた違った趣があるな……こちらはまるで日の光のようだ」マジマジ
姫「そうですか……? 噂はされても、面と向かって感想を言われる事は少ないので……新鮮です」
魔王「まあ、我の個人的な感想だがな……日中はあまり外には出られぬ我にとっては、恋焦がれる太陽が目の前にあるようで嬉しくなる」
姫「! そ、それは良かった……銀よりも金の方がお好きですの?」
魔王「そうだな……銀髪には良い思い出がない。我らの姉達の色だからか……」ズーン
姫「ああ、すいません! 知らなかったとはいえ……」アワアワ
魔王「いや、気にしなくて良い……」
615: 2013/10/04(金) 21:59:16 ID:69jO3tz6
姫「ですが……」
魔王「我らにとってはもう過去の話だからな……」
姫「魔王様……」
魔王「……さて、それより姫よ。我の角には満足していただけただろうか?」
姫「あ……え、ええ! ありがとうございました」ペコリ
魔王「いやいや。どうだ、希望するなら我から頼んで今度は側近のものにも……」
姫「い、いえ、お気持ちは有難いですがそちらは大丈夫ですわ!」ブンブン
魔王「そうか? あの額の1本角も中々立派だと思うがな……」
姫「もう十分堪能させていただきましたから……!」
妖精「!」パタパタッ
616: 2013/10/04(金) 22:31:07 ID:69jO3tz6
魔王「! おお、どうやら2人が戻ってきたようだな」
姫「……あの、魔王様」
魔王「うん?」
姫「今度、もしこちらに来る時があれば……もっとお話を聞かせてくださいませんか?」
魔王「! ああ、それは大歓迎だ。ではその時は、そなたの都での話も聞かせてもらえるか?」
姫「……ええ!」ニコッ
魔王「今日はそなたに会えて本当に嬉しく思う」
姫「……こちらこそ、魔王様にお会いできて嬉しく思います」
魔王(……そう言えば、何時の間にか姫と普通に話ができていた)
魔王(それも嬉しい事だ……少女以外の人間とまともに話ができたのだから)
魔王(他の人間相手では、恐らくこうも上手くは行かぬだろうな……姫の柔軟な人間性があってこそだ)
魔王(……今日は本当に、良い日だった)
小話「魔王と姫 時々妖精」 終わり
617: 2013/10/04(金) 22:50:36 ID:69jO3tz6
少し早いですが、今回はここまで。正直体調が少し悪いので……季節の変わり目って怖い(笑)
皆さんもどうかお気を付けください。
もう1つ、過去の番外編を書こうかとも思いましたが、テンポを考えたら本編を進行した方が良いですよね。
おやすみなさい。
620: 2013/10/05(土) 19:06:40 ID:0Mhh13uQ
>>602の続きからです。
魔王「さあ、そうと決まれば少女よ、早く風呂へ行くと良い。こんなに長く外にいたのだから尚更しっかり温まるのだぞ?」
少女「はーい。行こう、妖精さん」タタタッ
妖精「」パタパタ
魔王「……行ったようだな」
側近「……魔王様」
魔王「何だ」
側近「……もし、今の少女と風呂に入る事があれば……正直、自分を抑えられる自信がありませぬ」
魔王「……そうか」
側近「私は家族失格ですね……このような想いを彼女に対して抱いてしまっているのですから」ギュッ
魔王「さあ、そうと決まれば少女よ、早く風呂へ行くと良い。こんなに長く外にいたのだから尚更しっかり温まるのだぞ?」
少女「はーい。行こう、妖精さん」タタタッ
妖精「」パタパタ
魔王「……行ったようだな」
側近「……魔王様」
魔王「何だ」
側近「……もし、今の少女と風呂に入る事があれば……正直、自分を抑えられる自信がありませぬ」
魔王「……そうか」
側近「私は家族失格ですね……このような想いを彼女に対して抱いてしまっているのですから」ギュッ
621: 2013/10/05(土) 19:30:35 ID:0Mhh13uQ
魔王「……そんな事はないぞ」
側近「ですが、このままでは私は……!」
魔王「お前がそうやって気を引き締めているうちは心配なかろうよ。それに……少なくともあれよりは何倍も信頼できる」ツウッ……ポタッ
側近「っ、魔王様! 目と口から……っ」
魔王「やれやれ、夜に発作が出るのは久々だな……少女や姫に見られなくて良かった」ジッ
側近「何故……そのように平気でいられるのですか!」
魔王「我が氏んでも、お前達が孤独ではない事に安心しておるからだ」
側近「っ……申した筈です。貴方様が氏ぬ時は私も共に……」
魔王「駄目だ。お前は少女と共に生きろ」
側近「魔王様……!」
魔王「そして、我の分まで少女を幸せにしてやれ。魔族としてではなく……家族としてな」
623: 2013/10/05(土) 20:38:47 ID:0Mhh13uQ
側近「そのような事を……軽々しく仰らないでいただきたい!」
魔王「我だってな、できる事ならずっとお前達と暮らしていきたい……だが、あれがおる限りそれは夢のまた夢」
側近「私が……あの時犠牲となっていれば……!」ツウッ
魔王「お前こそ、そんな悲しい事を言うでない。我は大切な弟を守れて満足なのだから、それで良いではないか」
側近「……私にとって、大切な兄である事も……事実で、す……」ポタッ……ポタッ……
魔王「なら、その大切な兄のたった1つの願いを聞いてはくれないか。お前にしか頼めぬのだ」
側近「……い、嫌だ……逝か、ないで……兄上……」ギュッ…… ボロボロ
魔王「どうした? すっかり昔のように泣き虫に戻ってしまったな」ナデナデ
側近「誰の……せいだと……!」
625: 2013/10/05(土) 21:54:52 ID:0Mhh13uQ
>>622ふふふ、どうでしょうね~。
>>624ありがとうございます!
魔王「だが、あの頃に比べてお前は本当に成長した……我にできない家事ができるし、剣術も強い」
側近「……魔術は、きっと貴方に劣るでしょう」
魔王「そうだろうか……まあ、何にせよ、お前は我がいなくともやっていけるという事だ」
側近「そのような事は……ありませぬ……!」
魔王「……おお、そうだ側近よ。我の顔を良く見ていてくれ」
側近「? ……何でしょう」ゴシゴシ ジッ……
魔王「……」……ニコッ
側近「! その顔は……」
>>624ありがとうございます!
魔王「だが、あの頃に比べてお前は本当に成長した……我にできない家事ができるし、剣術も強い」
側近「……魔術は、きっと貴方に劣るでしょう」
魔王「そうだろうか……まあ、何にせよ、お前は我がいなくともやっていけるという事だ」
側近「そのような事は……ありませぬ……!」
魔王「……おお、そうだ側近よ。我の顔を良く見ていてくれ」
側近「? ……何でしょう」ゴシゴシ ジッ……
魔王「……」……ニコッ
側近「! その顔は……」
626: 2013/10/05(土) 22:45:40 ID:0Mhh13uQ
魔王「どうだ? 我はちゃんと笑えているか?」
側近「……ええ」
魔王「お前達という家族がいてくれたからできるようになった表情だ……我は、これとお前達との思い出、そしてあの兎のぬいぐるみがあれば満足なのだよ」
側近「……貴方は無欲過ぎます。それらを抱いてもっと生きたいとは、思われぬのですか……?」
魔王「正直、できる事ならそうしたいが、弱いなりに下剋上の魔王としての責任は果たさねばならぬ」
側近「……それが少女を、悲しませてしまう事だとしても?」
魔王「少女との関係は、元々は契約の上で始まった事だ。それにどの道あれが完全に消えぬ限り、彼女の平穏もまた訪れはしない」
側近「ですが……他に方法がきっと……!」
魔王「お前達が心から愛おしいと思うからこそ、我はあれと共に氏出の道を歩む事を躊躇わずにいられるのだ」
側近「……」
629: 2013/10/05(土) 23:30:37 ID:0Mhh13uQ
魔王「頼む側近、いや……弟よ。どうかお前だけでも魔王の一族としての宿命から解放されてくれ」
側近「ぐっ……うう……ッ!」
魔王「優しいお前には、その資格があるのだから」
側近「兄、上……」
魔王「何、運命の日までまだ時間はある。それまでは封印を続けながら変わりなく過ごさせてもらおう」
側近「……」
魔王「少々話し込み過ぎたな……先に中へ戻っておるぞ」ザッザッ
側近(あの時のように……再びこの御方にすべてを背負わせるなど……ッ)
側近(何か、必ず何か手がある筈……!)
側近(何としても、運命の日までにそれを見つけ出さねば……あの御方と、少女のためにも……!)ギリッ
630: 2013/10/05(土) 23:57:28 ID:0Mhh13uQ
――――
――
大浴場
少女「はあ……あったかい」チャポン……
妖精「♪~」プカプカ
少女「お姫様がここにお泊まりすれば、一緒に入れるかな?」
妖精「」コテン
少女「私達だけで入るには広過ぎるからねー。かと言って他のお友達を呼んだら怒られるし」ブクブク
妖精「」コクコク
少女「……楽しみだな。その時はお姫様の背中を流してあげよう♪」パシャリ
631: 2013/10/06(日) 00:53:08 ID:pzpAtC0w
――――
――
少女「ふう、さっぱりした~」
妖精「♪」パタパタ
少女「何だか悪いな、あの日なのに私が先に入っちゃって……とりあえずお湯は換えたけど」
魔王「……おお、少女。風呂から上がったのか」ザッザッ
少女「魔王様。うん、今上がったところ。お湯は換えたけどもしかしたら何処か汚れてるかも……」
魔王「構わんよ。寧ろお前がその状態だからこそ、何時も以上にきちんと体は清めておくべきだ」
少女「そう?」
魔王「ああ。まあ、お前の体の事を完全に理解できるわけではないがな」
少女「ううん、温まるとお腹の痛みとかも和らぐし、体には良いと思うよ」
魔王「それは良かった。では、次は我が入るとしようか。お前はもう寝ると良い」
632: 2013/10/06(日) 01:06:18 ID:pzpAtC0w
少女「はーい……あ、そうだ魔王様」
魔王「ん?」
少女「お姫様の事で、2人に言わなきゃいけない事が……」
魔王「そうか……それは明日ゆっくり聞いても構わぬか?」
少女「うん。軽々しく話せる事じゃないしね……」
魔王「……姫にも、何か抱えているものがあるのだろうな」
少女「まあ、そんな感じだね……じゃあ、おやすみなさい魔王様」
魔王「ああ……ん、そうだ少女」
少女「何?」
魔王「……今日は朝からご苦労であったな」ナデナデ
少女「! えへへ」ニコニコ
魔王「よし、では改めておやすみ、少女」
少女「おやすみなさいっ」ニコッ
633: 2013/10/06(日) 01:14:48 ID:pzpAtC0w
魔王「……」ザッザッ
魔王「……」……ツウッ
魔王(……あのような事を側近と話したせいであろうか。少女を部屋に返すのが惜しくなるとは)
魔王(一体後どれ程……こうして共に過ごす事が出来るのだろうな)ポタッ……ポタッ……
――――
――
少女「あ、側近さん」
側近「……」
少女「お風呂、今魔王様が入って……」
側近「少女」ガシッ
少女「? なあに?」
妖精「!」ピクッ
634: 2013/10/06(日) 01:26:37 ID:pzpAtC0w
側近「お前は以前言っていたな……この日常が終わる事なく続いて欲しいと」ジッ
少女「う、うん……」
側近「それは今も変わらんか?」
少女「! 勿論、だよ……!」
側近「ならば……私に協力してくれんか」
少女「へ?」
側近「運命の日が過ぎるのををただ指をくわえて見ているだけではなく……その日まで足掻く気はないかと言っている」
少女「それって……」
側近「気が変わったのだ。我らの変わらぬ未来への道を……共に探すぞ、少女」グッ
少女「側近、さん……」
638: 2013/10/06(日) 13:48:40 ID:pzpAtC0w
側近「あの御方は自分1人で氏ぬおつもりだ……だが、封印だけをどうにかする事ができればその必要はなくなる筈」
少女「……」
側近「魔王様に気取られぬ程度に、その方法を探っていきたい。どうか協力してはくれんか?」
少女「……わかった。私もやる」
側近「お前なら、そう言ってくれると思っていたぞ。できる範囲で互いに調べ、何か進展があったらさり気なく報告し合おう」
少女「うん……魔王様も側近さんも、大事な家族。できる事なら失いたくはないからね。頑張ろう、側近さん!」グッ
側近「ああ……話はそれだけだ。おやすみ」ザッザッ
少女「あ……おやすみ、なさい」
側近(……巻き込んですまん、少女)
側近(だが何があろうとも、魔王様だけは氏なせはしないからな……)
639: 2013/10/06(日) 15:47:01 ID:pzpAtC0w
少女(側近さん……どうして突然気が変わっちゃったんだろう?)
少女(そりゃあ、2人にはこれからも生きていてもらいたいと思うけど……)
少女(変な事、考えてないよね……?)
――――
――
翌日 朝食後
魔王「……成程な。姫にそのような過去があったとは」
側近「氏んだ弟のために見聞を広げるとは……志は立派だが、それで危険に巻き込まれては元も子もないというのに」
少女「これを話している時のお姫様、とっても必氏な目をしてた。よっぽど弟君の事が大事なんだね」
魔王「うむ……その姉弟愛に敬意を表して、何とかまた近いうちにこちらへ来れるよう取り計らってやりたいものだが」
側近「魔王様、それは……」
640: 2013/10/06(日) 16:08:04 ID:pzpAtC0w
少女「側近さん、私もお姫様に来て欲しいよ……給仕さんを味方につけられたら良いんでしょ?」
側近「……言うだけなら簡単だがな」
魔王「何、きっと大丈夫だ。少女と側近が心を籠めて書いた文があるのだから。きっと協力してくれよう」
少女「だと良いな~」
側近「……」
妖精「」パタパタ
魔王「弟を想う気持ちは我にも良く分かる。うむ、姫とは気が合いそうだ」ウンウン
少女「魔王様、嬉しい?」
魔王「ああ、嬉しいな。もっと話ができたらどんなに良いか……少女の作ってくれたぬいぐるみを見せる約束もしたしな」
641: 2013/10/06(日) 17:19:37 ID:pzpAtC0w
少女「え!? ま、魔王様、そんなの初耳だよ……」オロオロ
魔王「お前達が文を書きに行っている間にな、そう決まったのだ」
少女「うう……初めてであんまり上手にできなかったのに……恥ずかしいよ」カアア……
魔王「そんな事はない。少女の優しい気遣いが籠っている立派なものだ。我にとっては大事な宝物……」
少女「……ありがとう」
側近「……とにかく、姫からの連絡がなければ何とも言えんからな」
少女「そうだね……魔鳥さん、早く戻ってこないかな」
魔王「少女よ、今にも都へ飛んで行きたそうな顔をしておるな」
少女「そう? ……いっそのこと、本当にお友達に乗って行ってみようかな」
642: 2013/10/06(日) 17:31:08 ID:pzpAtC0w
側近「それはいかん」
少女「えっ。何で?」
側近「変に目立ってしまうからだ。下手をすれば舞踏会の時以上の騒ぎになる」
少女「でも……」
魔王「ああ、我も側近に賛成だ。何より危ないしな」
少女「魔王様まで……」
妖精「」ブンブン
少女「妖精さんも、駄目って言うの?」
妖精「」コクン
魔王「皆、少女の事を思って言っておるのだ。わかってはくれまいか」
少女「……わかった。でも、せめてお城に行けたらなあ……」
643: 2013/10/06(日) 21:56:44 ID:pzpAtC0w
側近「……少女、待てば待つ程、再び会えた時の嬉しさは増すだろう」
少女「!」
側近「ここは大人しく、待ってみる気はないか?」
少女「……んー」
側近「待って待って、どうしても待ちきれなくなった時は……私が都へ連れて行ってやr」
バサバサバサッ……!
魔王「……側近、窓を見よ。魔鳥が戻ってきておる」
少女「あ、ほんとだ!」
側近「……」
妖精「」プッ
644: 2013/10/06(日) 22:25:08 ID:pzpAtC0w
――――
――
城の外
少女「随分早かったね~」
側近「ただ単に戯れに文を送って来たという可能性もある……寧ろそうであってほしいものだ」スッ
魔王「まあまあ……して、姫は何と?」
側近「……これは姫ではありませぬ」
少女「え?」
側近「文面から察するに……どうやら、差出人は給仕の者らしい。姫に頼んだのだろうな」
魔王「……ほう」
側近「溢れんばかりの感謝の念が、紙面からひしひしと伝わってくる……悪い気はせんな」
少女「そうなんだ! 私にも見せてー!」ピトッ
側近「待て、もう少しで読み終わる……何、だと?」ジッ
魔王「どうかしたのか?」
645: 2013/10/06(日) 23:00:23 ID:pzpAtC0w
側近「この文末……要約すると、姫君がこれ程信頼しておられる方々ならばこちらも信頼できる」
側近「今まであの方は、そのような存在を外でお作りになる事はほとんどなかったので、大変嬉しく思う」
側近「今度、再び姫君がそちらへ向かわれる際は何時でも全力で協力させてもらうので、どうかあの方をよろしく頼む……との事です」
魔王「ほう……余程、舞踏会でのお前達の印象が良かったのか」
少女「私達の文が給仕さんの心を動かしたんだねっ」ニコッ
側近「そうなのだろうか……それにしても、何故こんなにあっさりと……」ズーン
魔王「まあ、良い事ではないか。どの道他に協力者がいて困る事はない……あの日のためにもな」
側・少「!」ピクッ
魔王「いやはや、それにしても最近は本当に良い事が多いな……我ながら少し怖い位だ」
646: 2013/10/06(日) 23:31:08 ID:pzpAtC0w
今回はここまで。
あんな事を言っておきながら、大して話が進まなかった事を申し訳なく思います。
どうやら今日は調子が悪かったようです。
さて、今週の平日ですが、せっかくなので最近と、舞踏会の時も少しだけ登場した魔王のぬいぐるみ誕生の話か、魔王の封印の実態についての過去話を書こうかと考えました。
ですが同時に、余計な話を挿まずに次の休日に本編を進めた方が良いのかとも思い、どうするか決めかねています。
……まあ、とりあえず先に体調を整えた方が良いかもしれませんね←
グダグダな>>1ですいません……。
おやすみなさい。
あんな事を言っておきながら、大して話が進まなかった事を申し訳なく思います。
どうやら今日は調子が悪かったようです。
さて、今週の平日ですが、せっかくなので最近と、舞踏会の時も少しだけ登場した魔王のぬいぐるみ誕生の話か、魔王の封印の実態についての過去話を書こうかと考えました。
ですが同時に、余計な話を挿まずに次の休日に本編を進めた方が良いのかとも思い、どうするか決めかねています。
……まあ、とりあえず先に体調を整えた方が良いかもしれませんね←
グダグダな>>1ですいません……。
おやすみなさい。
649: 2013/10/07(月) 14:04:19 ID:KyrxDVkA
引用: 「最弱魔王様」
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