650: 2013/10/10(木) 21:34:35 ID:PJvPwl3w
こんばんは、数日ぶりです。
ご心配をおかけしましたが、お陰様で順調に回復中です。
「最弱魔王様」【前編】
「最弱魔王様」【中編】


651: 2013/10/10(木) 21:48:00 ID:PJvPwl3w

少女「そ、そう? でも悪い事じゃないでしょ?」

魔王「ああ」

側近「……もう1枚重なっておりました。こちらは姫君からのようです」ペラッ

少女「本当!? 何て書いてあるの?」

側近「……給仕をこちら側に引き込む事に成功した。よって数日後に再び来るのでその許可をいただきたい」

魔王「! そうか……」

側近「しかも今度は……宿泊を希望する、との事」ガックリ

少女「お姫様がお泊まりに来る……!」パアアッ

魔王「……うむ、また1つ良い事があったな」

側近「……私は胃が痛いですがね」
Lv1魔王とワンルーム勇者 4巻 (FUZコミックス)
652: 2013/10/10(木) 22:02:15 ID:PJvPwl3w

少女「ね、側近さん、良いよね? お姫様がお泊まりに来ても」ワクワク

側近「……好きにするがいい。その代わり返事はお前が書くんだぞ」グッタリ

少女「やったー! じゃあすぐにお返事書くねっ」タタタッ

魔王「良かったな。少女……」

側近「……魔王様も嬉しそうですね」

魔王「そうか? 少女が嬉しそうだからだろう。それに再び外の話が聞けるからな」

側近「果たしてそれだけでしょうか」

魔王「?」

側近「……まあ、今はそういう事にしておきましょう」

魔王「変な側近だな……」

少女(お姫様……早く会いたいな。ね、妖精さん?)チラッ

妖精「♪」パタパタ

653: 2013/10/10(木) 22:19:11 ID:PJvPwl3w
というわけで、ここから少し小話です。


小話「魔王城日記 魔王篇」

―月―日(曇り、時々雨)

封印には特に変化なし。
だが、幼女と弟が都で買ってきてくれた兎が病気にかかった。
昨日からなんとなく食欲がなさそうだったが、今朝ゲージの隅でぐったりしているのを発見し、異変に気付く。何故もっと早く気付いてやれなかったのだろう。
水と餌を与えるも、水を僅かに飲むだけで動かない。
治癒魔法をかけるも効果なし。

2人に知らせるとすぐに部屋へ飛んできた。泣きそうな顔でゲージを見つめる少女を見ていると、こちらも胸が痛む。小妖精は間近で兎を観察し、顔を曇らせた。
私も内心泣きたい気持ちだったが、少女の手前、堪える。
弟は一見いつもと変わらない様子だったが、部屋へ来る前に書庫から持ってきた、大量の治癒と動物に関する書物の頁をめくる手は微かに震えていた。
3人と1匹でしばらくゲージを見守っていたが、おもむろに弟が都へ兎用の薬を買いに行くと言い出した。少女も行くと言ったが、ここで兎を看ているように説得され、渋々頷いていた。
出発前に、弟は私達のために軽食を作ってくれた。サンドイッチなど久しぶりに食べた。昔を思い出し、思わず目頭が熱くなる。
恐らく寝食を忘れて兎に付きっきりになるのを見越しての事だろう。本当にしっかりした奴だ。
少女はほとんど食べなかった。

私も少女も、トイレに行く時以外は自室から出なかった。小妖精は時折兎の体を撫でてやっていた。毛布で体を包んでやったり、水を与えたりするが、一向に様子は変わらない。
弟は昼過ぎに帰ってきた。売ってある中で1番上等な薬を買ってきたという。よくやった。すぐに兎に与え、様子を見る。時折弱々しく体を動かすのが痛々しい。
少女は夜中近くまで頑張っていたが、何時の間にか私にもたれかかって眠ってしまっていた。後は私達に任せ、そのまま朝までゆっくり休むと良い。
後は朝まで弟と交代で眠りながら看病する事にする。今は仮眠をとる彼の隣でこれを書いている。

兎よ、頼むから早く元気になってほしい。

657: 2013/10/12(土) 09:38:21 ID:MdEAiC9k

―月―日(曇り)

兎は相変わらず元気がない。もう1度治癒魔法をかけてみるが、やはり何も変わらない。少し吐血してしまったが、兎の味わっている苦しみに比べればこんなものは微々たるものだ。
兎のために全力を使ってやれない自分の身が呪わしい。

弟が私達にちゃんとした食事を摂れと言ってきた。自分達が倒れてしまっては元も子もないという言葉は正論以外の何物でもない。
それでも少女がケージにしがみ付いて離れようとしなかったので、仕方なく料理は自室へ運んだ。少女はいらないと言ったが、弟が半ば強制的に口の中へ押し込んだ。
その間小妖精は彼を睨んでいたが、心なしか視線にはいつもより力がなかった。
兎さんは食べれないのに、と少女が涙目で文句を言ったが、兎の分までお前が食べてやれば良かろう、と言う弟の言葉に渋々納得したようだった。

薬は説明書通りに適量与えている筈だが、効力が表れた様子はない。もしや偽物を掴まされたのか? と弟が静かに怒っていたが、恐らくそういう事ではないだろう。
目を凝らして見れば、微かに兎の体から生命の力が抜け出ていくのがわかるからだ。弟も多分気付いている筈だが、現実から目を背けているのかもしれない。
こんな事は口が裂けても少女には言えまい。

それよりも、泣きながら私にしがみ付いてくる彼女を慰める方法を誰か教えてほしい。

夕方、突如兎の容体が急変した。全身を苦しげに痙攣させ、口からは泡を吹いていた。
ケージの前で「いやだ」と「氏なないで」を繰り返す少女を尻目に、できる事を思いつくまま試してみる。
弟も顔には出にくいが、動作の端々から焦っている事がわかった。
今夜が山だろうか。

658: 2013/10/12(土) 09:52:27 ID:MdEAiC9k

―月―日(雨)

激しい雨の音と、それに混じった少女のすすり泣く声で目が覚めた。
何時の間にか眠ってしまっていたらしい。
大きな目から涙を流しながら、彼女は兎を胸に抱いていた。
私に気がつくと、兎さんが動かないの、冷たいのと呟いた。昨日まであんなに温かかったのに、とも。
少し遠くから時折聞こえてくる打撃音は、弟が自分の力不足を悔やんでいるのだろうか。
小妖精はケージに座って項垂れていた。皆、憔悴しきっていた。
呑気に眠りこけていた自分が憎らしい。実質的な飼い主だったというのに。

どんな命も、氏ぬ時は案外呆気ない。
だからこそ尊いと思えるのかもしれない。
こう思う私は、本当に魔王らしくないと自分でも痛い程理解している。先代の母はあんなにも多くの罪なき命を踏み躙ってきたというのに。
だが、こんな自分でなければ恐らく少女達に出会うことはなかっただろう。
神に感謝をしたいと願う魔王も、傍から見ればきっと滑稽だ。

午後から雨足が弱くなったので、城の裏で兎の埋葬を行った。
打撃音は棺を作っていたからだと弟は言ったが、真偽の程はわからない。
だが、棺を持って自室へ戻ってきた彼の目元が微かに赤くなっていたのは、恐らく気のせいではないだろう。
弟が穴を掘り、棺を埋めている間、少女は顔を覆って泣いていた。
小妖精はふらふらと何処からか花を持ってきて、墓の上から落としていた。
私も、心の中にぽっかりと穴が開いてしまったかのような気分だ。
自分の頬から零れ落ちる物が、雨粒なのか涙なのかもわからなかった。

こうして私達は今日、かけがえのない家族を静かに見送った。

659: 2013/10/12(土) 10:03:39 ID:MdEAiC9k

――――
――

兎の墓前

少女「ごめんね……ごめんね兎さん……助けてあげられなくて……」ボロボロ

妖精「……」パタ……パタ……

側近「……動物を飼うというのはこういう事だ。彼らは人間や魔族よりも遥かに寿命が短いからな」

少女「うう……ぐすっ……」

魔王「……我が……もっと早く異変に気づいておれば……兎は助かっただろうか」

側近「魔王様……あまり御自分を責めてはなりませぬ。力不足であったのは私も同様です」

魔王「側近……」

側近「ですが、足りないなりに私達は手を尽くした……違いますか?」

魔王「……そう、だな」

側近「……これ以上外にいてはお体に障ります。名残惜しいですがそろそろ中へ入りましょう。少女、行くぞ」

少女「やだ……まだ兎さんの傍にいる……!」

660: 2013/10/12(土) 10:46:16 ID:MdEAiC9k

魔王「少女……これ以上いては風邪を引いてしまうぞ。また明日来れば良いではないか」ポンッ

少女「やだっ……家族だから一緒にいる……!」

側近「……少女、あまり聞き分けのない事を言うな」

少女「でも……!」

側近「少しは魔王様のお気持ちを考えろ……恐らくお前以上に悲しんでおられる」

少女「ッ……!」ハッ

魔王「良い、側近。少女も悲しんでおる……その気持ちに優劣などなかろう?」

側近「……そうですね。軽率な発言でした、申し訳ありません」

魔王「わかれば良い。少女……お前が風邪を引いたら兎だって悲しむと思うぞ」ナデナデ

少女「……それは、やだな」

661: 2013/10/12(土) 20:15:24 ID:MdEAiC9k

魔王「だろう? 今のお前はしっかりした休養が必要だ。その後に改めて、ここに来よう」

少女「……うん……っ。兎さん、また来るからね」ナデナデ

妖精「」パタパタ

少女「側近さん。困らせて……ごめんなさい」

側近「……いや。私こそ配慮が足りなかったな」

少女「ううん……それとね、兎さんを埋めてくれてありがとう」

魔王「うむ、我からも礼を言うぞ」

側近「……私は大した事はしておりませぬ」

魔王「そんな事はないぞ」

少女「そうだよ。私は泣いてばっかりで何もできなかったし」

側近「……とにかく、中へ入るぞ」クルッ ザッザッ

少女「うん……魔王様」スッ

魔王「! ……ああ」ギュッ

妖精「」パタパタ……

662: 2013/10/12(土) 20:53:35 ID:MdEAiC9k

――――
――

夕食時

魔王「……ご馳走様」スッ

少女「魔王様、もう良いの? まだ結構残ってるよ?」

魔王「ああ、今日は何だか食欲がないのだ。せっかく作ってくれたのにすまぬな」

側近「……いえ、お気になさらず」

魔王「ではな」ガタッ……バタン

少女「魔王様……」

側近「……少女、もし良ければ、食後に魔王様のご様子を見に行っては貰えないだろうか」

少女「わかった」

妖精「……」モグモグ……ペチン

663: 2013/10/12(土) 21:08:46 ID:MdEAiC9k

――――
――

魔王の部屋前

少女「! 魔王様……」

魔王「ううっ……す、すまぬ、兎……私が……不甲斐ないばっかりに……ッ」ガンッ

魔王「お前のお陰で……私は寂しさから救われたというのに……私は何も返してやれなかった」ギュッ

魔王「兎よ……せめて、安らかに……眠っておくれよ……!」ポタッポタッ

少女「……」クルッ……トボトボ……

664: 2013/10/13(日) 00:11:04 ID:awOSImF6

側近「! 少女、魔王様のご様子は……」

少女「側近さん。明日都へ連れてってくれる? 急ぎで欲しい物があるの」ジッ

側近「……良いだろう」

少女「私じゃ、力になれるかわからないけど……魔王様が元気になってくれるなら」ギュッ

側近「お前のその気持ちがあれば大丈夫だ。明日は晴れると良いな」ナデナデ

少女「……うん」

側近「私もできる限り協力するからな」

少女「ありがとう、側近さん」ニコッ

665: 2013/10/13(日) 00:21:59 ID:awOSImF6

――――
――

翌日の夕方

少女「ふう……思ったよりも大分時間がかかっちゃったね」

側近「ああ。だが何時ものあの御方の出迎えがない所を見ると、やはり昨日の事が……」

少女「……」

側近「少女、お前は今すぐ部屋で、買った物を使うと良い。夕食は私が用意しておくから」

少女「本当? ありがとう……じゃあ、悪いけどお願いするね」タタタッ

側近「ああ。こっちは任せておけ」

666: 2013/10/13(日) 00:27:53 ID:awOSImF6

少女の部屋

少女「妖精さん、ただいま!」

妖精「!」パタタッ ピトッ

少女「ふふ、お留守番ご苦労様。さて、夕ご飯まで頑張ろうっと」ナデナデ

妖精「?」コテン

少女「初めて作るけど……上手くできると良いな」ドサドサドサッ

妖精「」ポカン

少女「ごめんね妖精さん、しばらく一緒に遊べないけど……我慢してね? 魔王様のためだから」ナデナデ

妖精「!」

少女「さて、まずは……」ペラッ

667: 2013/10/13(日) 01:23:25 ID:awOSImF6

――――
――

少女「あうっ……いたた、また刺しちゃった」ジワッ……

側近「少女、入るぞ」コンコン

少女「あ、もうそんな時間か。ちょっと待ってね……どうぞー」ササッ

側近「……どうだ、調子は」ガチャッ

少女「寸法を測って、布を切って……今やっと縫えるようになった所~……」

側近「そうか。あまり無理はするn……おい、その指は何だ」グイッ

少女「あっ……見つかっちゃった」

側近「こんなに刺し傷が……針の扱いには気をつけろといっただろう!」

少女「ごめんなさい……つい焦っちゃって」シュン……

側近「それでお前が怪我をしたら元も子もないだろう……ほら、手当てをしたら夕飯だ」

少女「はーい」

側近「……その手、あまり魔王様に見られないようにな」

少女「……うん」

671: 2013/10/13(日) 12:07:55 ID:awOSImF6

――――
――

夕食時

魔王「……ご馳走様」ガタンッ……ガチャッ

側近「また残されておいでか……少女の手の心配は無用だったようだな」

少女「うん……心ここにあらずって感じだったしね」

側近「しかし、このままでは不味いな……魔王様の優し過ぎる心が仇になっている。下手をすれば封印の崩壊にも繋がりかねん」

少女「! そんな……」

側近「今まで辛うじて封印は維持されてきたが……あの日以来、これ程精神の均衡を崩されたのは初めてだからな」

少女「……」

側近「まさかこのような形で運命の日が早まるとは……勿論、あの御方の強さを信頼していないわけではないが」

少女「……ご、ご馳走様っ」ガタンッ

673: 2013/10/13(日) 13:05:00 ID:awOSImF6

側近「!」

妖精「……!」ムグムグッ ペチンッ

少女「ごめんなさい側近さん! お片付けお願いねっ」ガチャッ バタバタ……

側近「少女……お前もあまり無茶はするなよ」

――――
――

少女の部屋

少女「えっと、次はここをこう縫って……」チクチク

妖精「」ワーワー

少女「妖精さん……もしかして応援してくれてるの?」

妖精「」ニコッ

少女「……ありがとう。私頑張るねっ」

674: 2013/10/13(日) 13:08:53 ID:awOSImF6

――――
――

少女「うう……糸を白にしたのは失敗だったかな。生地も白だからわかりにくいや」

少女「……あ、端がずれてる……! うう、またやり直しだ……」

側近「……」パタン……

少女「あと……ちょっと……で、足が……うぅ……」コックリコックリ

側近「……今日はもう止めておけ」パシッ

少女「側近さ……まだ……だいじょ……ぶ……くう」ガクリ

675: 2013/10/13(日) 13:16:33 ID:awOSImF6

側近「……」カチャカチャ……スッ フワッ

妖精「」ジーッ

側近「……お前も少女が大切ならこうなる前に止めろ。それでも1番の友か?」ソッ……ファサッ

妖精「!」ムッ

側近「……甘やかすだけが友ではないぞ」ガチャッ……ザッザッザッ

妖精「……」

――――
――

少女「……よし、後は胴体と顔……妖精さん?」

妖精「」ブンブン

少女「それがなきゃ続きが作れないよ……どうしてそんな事するの?」

妖精「」ビシッ

少女「……もう休めって事?」

妖精「……」コクコク

676: 2013/10/13(日) 14:23:51 ID:awOSImF6

少女「うう……本当はもっとやりたいけど、仕方ないね」カチャカチャ

妖精「」ホッ

少女「良く考えてみれば、針とか危ないもんね……これからはちゃんと時間を決めてやろうかな。その分早く作れるようにしよう」ウンウン

妖精「!」パタパタ……スッ

少女「お手伝いしてくれるの? ありがとう」ニコッ

――――
――

少女「中の綿は……これ位かな。あんまり入れ過ぎてもフワフワ感がなくなっちゃうからね」グイグイ

妖精「」グイグイ

側近「少女、良いか?」コンコン

少女「どうぞ~」ギュッギュッ

677: 2013/10/13(日) 14:42:32 ID:awOSImF6

側近「ほう……随分進んだな」ガチャッ

少女「えへへ……早く魔王様に元気になってほしいからね。妖精さんも少し手伝ってくれてるんだよ~」ニコニコ

妖精「」エッヘン

側近「そうか……それは良かったな」

少女「うんっ。中身を入れ終わったら後は体を繋げるだけだよ」グイグイ

側近「……」ソッ

少女「側近さん……?」

側近「すまんな……お前の白い手がこんなに傷だらけになっているのに、私は……」サスサス

少女「側近さんだって、少ない量で栄養がたくさんとれる献立を考えてくれてるでしょ? 十分だよ~」

側近「少女……ありがとう。では、私は魔王様のご様子を見てくるとしようか」スッ

少女「うん、行ってらっしゃい……魔王様、大丈夫だよね?」

側近「……ああ」ガチャッ……

少女「……お願い兎さん、どうか魔王様を守って……」ギュッ

678: 2013/10/13(日) 14:54:41 ID:awOSImF6

――――
――

魔王の部屋前

側近「魔王様、お茶をお持ちしました」コンコン

魔王「……」

側近「? ……失礼します」ガチャッ

魔王「」ユラリ…… ブツブツ

側近「ッ! 魔王様……どうかお気を確かに」コトッ

魔王「」ゴオオ……ッ

側近「……チッ」スウッ……チャキッ スパッ

魔王「」バリバリバリ

側近「……このように作っておいて良かったな」タタタッ ザクッ

魔王「!」バタッ……

側近「全く……しぶとい奴だ」スウッ グイッ……ドサッ

679: 2013/10/13(日) 15:09:04 ID:awOSImF6

魔王「……兎よ……すまぬ……」

側近「……奴を封印して間もない頃を思い出すな。今は吐血をされていないだけマシか」ギュッ

魔王「……」グッタリ

側近「本当に……私達は弱い。魔族の癖にな」

側近「……頑張れ、少女。こっちは私が抑えるから心配するな」

――――
――

少女「……で、できた……!」バッ

妖精「!」パチパチパチ……

少女「さっそく魔王様に届けに……!」ガタッ

妖精「!」ブンブン

少女「……あ、そうだね。針とかはちゃんと片付けておかないと……」ゴソゴソ カチャカチャ

妖精「」スッ ササッ

少女「これでよし。じゃあ気を取り直して行こうか」ガタッ

妖精「」コクン

680: 2013/10/13(日) 17:10:39 ID:awOSImF6

――――
――

魔王の部屋

少女「魔王様~。入って良い?」コンコン

側近「……魔王様は眠っておられる。静かにな」

少女「! はーい」カチャッ……

側近「その様子だと、完成したようだな」

少女「うん……どうかな? 兎さんに見えるかな」スッ

側近「……ああ。初めて作ったにしては上出来だ」ナデナデ

少女「良かった~。魔王様も喜んでくれれば良いな」

魔王「……うぅ……っ」ピクッ

側近「! 魔王様」バッ

少女「目が覚めたの?」

魔王「……側近か。それに……少女もいるではないか……」ボンヤリ

681: 2013/10/13(日) 17:24:22 ID:awOSImF6

少女「……今までお部屋に引き籠っててごめんなさい。魔王様を元気づけたくて頑張ってたの」

魔王「そうか……もっと良く顔を見せておくれ」スッ

少女「うん……」ギュッ

魔王「……心配をかけてすまぬな、本当に……お前達も、心の中ではさぞ呆れている事だろう」

側近「そんな事はありませぬ。自分はただ、以前の魔王様に戻っていただける事を願います」

少女「そうだよ……早く元気になって、魔王様」ウルッ

魔王「少女……その傍らにあるのは」

少女「あ……これね、兎さんにそっくりに作ったつもりなんだけど……」スッ

魔王「! これを……お前が1人で?」

少女「うん。妖精さんにも少しだけ手伝ってもらったけどね……魔王様のために作ったんだよ」

魔王「我の、ために……良く見ればお前の手……傷だらけではないか」

少女「魔王様が元気になってくれるなら、これ位平気だよ」ニコッ

682: 2013/10/13(日) 17:48:13 ID:awOSImF6

魔王「少女……」ツウッ……

少女「本物には負けちゃうかもしれないけど……あの子だと思って可愛がってね」フワッ

魔王「! ……ありがとう……お前が頑張って作ってくれた物だ……一生大切にするからな」ナデナデ

少女「うんっ。喜んでくれて良かった」

魔王「……我は幸せ者だ……こんなに素晴らしい物を愛しいお前から送られるなんてな……」ポロポロ

少女「ま、魔王様……!」オロオロ

側近「狼狽えるな。好きなだけ泣いたら気持ちも落ち着かれるだろう……今はそっとしておいて差し上げろ」

少女「わ、わかった……」

魔王「うう……兎よ……情けない飼い主で……すまぬ……」ギュウッ ポタッポタッ……

少女「……」

683: 2013/10/13(日) 18:32:40 ID:awOSImF6

妖精「……!」パタパタ……クゥ

少女「! 妖精さん、お腹空いたの?」

妖精「~~~ッ!」カアアッ

側近「仕方のない奴だ……まあ、そろそろ夕食の時間か。少女、今日は久しぶりに共に作らないか?」スッ

少女「うんっ! 一緒に作ろ~」ギュッ

側近「では、先程と同様に静かにな……」カチャッ

少女「はーい」テクテク……パタン

魔王「……」ギュッ……ポロポロ

684: 2013/10/13(日) 18:45:00 ID:awOSImF6

――――
――

少女「魔王様、今日はちゃんと食べてくれるかな……」グツグツ

側近「……」シャッシャッ

少女「……側近さん、どうしたの? さっきからずっと黙ってるけど」コテン

側近「……笑わずに、聞いてくれるか?」クルッ

少女「? うん」

側近「その……何だ」カアッ……

少女「え?」

側近「……お前からぬいぐるみを貰った魔王様が……ほんの少しだけ羨ましいと思っていたんだ」ポリポリ

少女「……!」

側近「今までああいった物を、持った事がないからかもしれんがな……」

妖精「!」プークスクス

側近「笑うな小妖精! ……私が子供っぽくて、幻滅しただろう?」

少女「ううん、そんな事ないよ! ……じゃあ、今度は側近さんに作ってあげるね」ニコッ

686: 2013/10/13(日) 19:31:31 ID:awOSImF6

側近「! それは本当か……?」

少女「うん! 時間はかかるかもしれないけど、大丈夫?」

側近「勿論だ。幾らでも待とう」ウキウキ

少女(無表情だけど……側近さん、何だか嬉しそうだな)

少女「どんなのが良い? やっぱり兎?」

側近「少女が作ってくれるなら何でも構わん」

少女「ふふ、じゃあ楽しみにしててね」

側近「ああ……む、その鍋はそろそろ良いのではないか?」スッ

少女「! 本当だ、じゃあ火を止めて……」バタバタ

687: 2013/10/13(日) 19:44:46 ID:awOSImF6

――――
――

少女「! 魔王様」

魔王「待ち切れずに来てしまったよ。良い匂いだな……」

少女「もう大丈夫なの?」コトッ

魔王「ああ、まだ完全にとはいかぬが大分落ち着いたよ……先程はみっともない所を見せてしまったな」

少女「ううん、気にしてないよ! 魔王様が元気になってくれて良かった」ギュッ

魔王「お前が作ってくれたぬいぐるみのお陰だ……本当にありがとうな」チュッ

少女「えへへ~……あ、側近さん! 魔王様が元気になったよー!」

側近「……」ワナワナ ……ゴトンッ

魔王「そ、側近……どうしたのだその顔は……?」

側近「……何時もと変わりませんが何か?」ジロッ

魔王「なな、何でもない! さあて我も運ぶのを手伝おう!」ガタッ

魔王(何この側近怖い)ブルブル

689: 2013/10/13(日) 20:47:26 ID:awOSImF6

夕食時


魔王「少女、これのおかわりはあるか?」

少女「! うん、勿論っ」

側近「……少し前とは見違える食欲ですな」

魔王「今まで採れなかった分の栄養も摂らねばな……何より、お前達の作ってくれた料理が美味いのだ」モグモグ

側近「突然そんなに召し上がっても、体は受け付けませんよ。どうか程々になさってください」

魔王「何、これ位平気だ。少女、これも頼む」スッ

少女「はーい」ニコニコ

側近「……どうなっても知りませんよ」ハア

690: 2013/10/13(日) 20:52:11 ID:awOSImF6

妖精「」モグモグ

少女(良かった。魔王様本当に大丈夫そう)

少女(兎さん……こんな私達を、どうか最後まで見守っていてね)スッ


小話「魔王城日記 魔王篇」 終わり?



魔王「うっぷ……気持ち悪い……」グッタリ

側近(……言わんこっちゃない)ハア

少女「ま、魔王様~!」サスサス

妖精「」パタパタ


本当に終わり

691: 2013/10/13(日) 21:15:10 ID:awOSImF6
ここから>>652の続きです。


拝啓 お姫様

こうしてお姫様宛に文を送るのは初めてだね。うまく書けているか少しだけ不安です。
側近さんから許可をもらう事が出来ました。だから、心配せずに来てください。
多分、側近さんがまた迎えに来てくれると思う。

お姫様に会える日を、とっても楽しみにしています!

少女

――――
――

数日後 都の前

姫「……というわけで、またお世話になりますわ」ペコリ

側近「……展開が早過ぎてついていけん」ガックリ

姫「ですが、貴方は許可してくださったんでしょう?」ニコニコ

側近「……とにかく時間が惜しい。行こう」スッ

姫「……ええ♪」タタッ

692: 2013/10/13(日) 22:12:45 ID:awOSImF6

――――
――

魔王城

少女「お姫様久しぶりー! 会いたかったよ~」タタタッ

妖精「~♪」パタタッ

姫「ふふ、最後に別れてから1週間も経っていませんよ? ……ですが、私もお会いしたかったです」

魔王「側近、ご苦労だった……姫、また会えて嬉しいぞ」

姫「魔王様……それに側近さんも、宿泊の許可を下さって感謝します」ペコリ

側近「……本当に大丈夫なのだろうな?」

姫「ええ。給仕は本当に信用できます……皆さんにご迷惑はおかけしませんわ」

少女「お姫様がそう言うなら、大丈夫だよ。さあ、ご飯食べよう?」グイグイ

魔王「こら少女、あまり姫を引っ張るでない」

姫「いえ、構いませんわ……もう慣れましたしね」ニコニコ

693: 2013/10/13(日) 22:42:24 ID:awOSImF6

――――
――

朝食時

少女「そう言えば、お姫様が寝る場所の事だけどね……私の部屋の隣で良かった?」

姫「ええ、構いませんわ……でも、できれば少女さんと一緒が良かったです」

少女「え? でも……2人じゃ少し狭いかもよ?」パチクリ

姫「良いんです。実は私、昔から夜遅くまで友人と語り合いながら眠るという事に憧れていまして……寝る時は、何時も1人ですから」

少女「お姫様……」

姫「……すいません、私の我儘に無理に付き合っていただかなくても……」

少女「ううん、私も……お姫様とたくさんお話したいし、良いよ!」

姫「まあ、本当ですの? ありがとうございます」ニコニコ

少女「どういたしまして~」ニコーッ

姫「……ああ、そうだわ。妖精さん、お部屋はご一緒して構いませんか?」

妖精「♪~」モグモグ コクコク

姫「ふふ、ありがとうございます」ナデナデ

694: 2013/10/13(日) 23:44:19 ID:awOSImF6

少・姫・妖「」ワーワー キャーキャー

魔王「……何だろうな、この可愛らしい空気は」

側近「……私にもわかりませぬ」

魔王「ほう、お前にもわからん事があったか……新鮮だな」

側近「からかわないでください……」

魔王「だが、少女の顔を見よ。とても楽しそうではないか」

側近「……ええ。それだけは私にもわかります」

魔王「この顔を見られただけでも、我らの選択は間違っていなかったと言えるのではないか?」

側近「……そうかも、しれませんね」

魔王「うむ。ただ手元の料理がほとんど減っていないのは気になるが……」チラッ

側近「もうこの際、放っておきましょう。今更話に水を差すのも無粋ですし」

魔王「……だな」

695: 2013/10/14(月) 00:00:13 ID:7ixYctXs

側近「ですが、あまり遅くなり過ぎれば……声をかけざるを得ません」

魔王「まあ、消化にも悪いしな……それにしても側近よ」

側近「何でしょう」

魔王「もし、ここにいるのが姫ではなく……王子であったらどうすr」

側近「あり得ません。その前に舞踏会になど行かせない……そうする位なら私が1人で行って脅してでも協力させます」ギンッ

魔王「……ちと物騒だが、我も似たような考えだ。だが、たかが戯言にそこまで殺気を飛ばさずとも良かろう?」

側近「貴方様が妙な事を仰るからです」

魔王「や、すまんすまん……まあ、とりあえず落ち着け。食事をしよう」モグモグ

側近「……そうですね」モグモグ

魔・側「……」黙々

696: 2013/10/14(月) 00:15:40 ID:7ixYctXs
今回の更新はここまでです。予想以上に小話が長くなってしまったorz
いっそこのまま本編を完結まで突っ走るべきか……? 
でも良い息抜きになるしなー。
だがこのままばんばん小話書けばスレ内で終わらない可能性も……!

それにしても少女の「お友達」が他に思いつかない……幻獣本何処行ったし←

……以上、ダラダラと失礼しました。

おやすみなさい。

699: 2013/10/14(月) 11:57:26 ID:7ixYctXs

――――
――

少女「さて、これからどうする? 書庫に行く?」

姫「そうですね……とりあえずお部屋に荷物を置いてきても?」

少女「あ、そうだった! ごめんね、ご飯よりも先にそっちだったね……」オロオロ

姫「いえいえ。お腹も空いていましたし、構いませんわ」ニコニコ

側近「全く、だからはしゃぎ過ぎるなとあれ程……」

魔王「まあまあ……少女よ、そんなに姫がここに泊まるのが嬉しいか? まあ、我も嬉しいがな」

姫「! そ、そうですか……」ポッ

少女「?」キョトン

側近「……」

妖精「」パタパタ

700: 2013/10/14(月) 12:28:06 ID:7ixYctXs

少女「じゃあ、お姫様のお部屋に案内するね」

姫「ええ、よろしくお願いします」ペコリ

魔王「うむ、頼んだぞ……また後で」ザッザッ

側近「あまり姫を振り回すなよ」ザッザッ

少女「はーい。お姫様、こっちだよ~」スタスタ

妖精「」パタパタ クイクイ

姫「! ふふ、そんなに急かさずとも、すぐに行きますわ……」スタスタ

701: 2013/10/14(月) 18:58:12 ID:7ixYctXs

――――
――

姫の部屋

少女「適当な所に荷物を置いてね~」ガチャッ

姫「はい……まあ、とても過ごしやすそうなお部屋ですわね」キョロキョロ

少女「ありがとう。お姫様のために何時もより念入りにお掃除した甲斐があったよ」ニコニコ

姫「ふふ……この窓から、魔王城のお庭が良く見えますわね」ドサッ ガチャッ

少女「日当たりも良いよ~。あ、後ね、書庫からお姫様が好きそうな本も何冊か持ってきておいたの」スッ

姫「! ありがとうございます……!」

少女「暇な時にでも、本棚から自由に読んでね。じゃあ、隣だし私の部屋に行く?」

姫「ええ」

妖精「」パタパタパタ……

702: 2013/10/14(月) 22:18:21 ID:7ixYctXs


少女の部屋

少女「ようこそ、私の部屋へ」ガチャッ

姫「ふふ、お招きいただきありがとうございます」ペコリ

妖精「~♪」パタパタ

少女「お姫様のお城の部屋に比べたら、狭いかもしれないけど……」

姫「そんな事ありませんわ。私の部屋はただ広いだけですもの……こんなに素敵な品々もありませんし」

少女「大袈裟だな~。ただぬいぐるみとか絵本とかが置いてあるだけなのに」

姫「私にとっては羨ましいですわ……これ、少し見てみても?」

少女「どうぞ~」

703: 2013/10/14(月) 22:47:35 ID:7ixYctXs

姫「では失礼して……」スッ パラッ……

少女「……私ね、魔王城に来て間もない頃は読み書きが全然できなかったから、側近さんに教えて貰ってたの」

姫「そうだったんですか? ではこの絵本はその後に……?」パラッ

少女「ううん、それもあるけど……ほとんどは初めて都に連れて行ってくれた時に買ってくれたの。読めるようになるまでは、絵を見て楽しみにしておけって」

姫「ふふっ、出会って間もない頃から、側近さんは少女さんを大切にしていらっしゃったんですね」

少女「そうみたい。魔王様も、その頃からとっても優しかったよ」

妖精「……」パタタタッ……ポフポフ

姫「あら、妖精さんは何時もそこで眠っているんですか?」

妖精「」コクコク

708: 2013/10/17(木) 22:15:56 ID:4YD0S9h2

少女「簡単に作った寝床だけどね……妖精さんが気に入ってくれて良かったよ」

姫「ふふふ、寝心地が良さそうですわね」

妖精「♪」コテン

姫「……お話は変わりますけど、少女さんは、都へはどの位の頻度で行かれるのですか?」

少女「うーん……昔は数日から1週間に1回は連れて行ってもらってたんだけど、今は10日とか、長い時には1カ月に1度行けたら良い方になってるね」

姫「そうなんですか……もっと行きたいとは思わないんですか?」

少女「昔は何でも珍しかったからそうだったけど、今はそうでもないかな。必要な物は大体揃っているし、魔王様達と過ごす方が楽しいからね」

姫「……」

少女「まあ、お料理関係で好きな食材を選びたい時とかは行くけど」

姫「そう言えば、野菜を育てたりなどはされないのですか? せっかく広いお庭があるのですから、ある程度の自給自足も出来そうなものですが」

少女「!」ビクッ

709: 2013/10/17(木) 22:30:09 ID:4YD0S9h2

姫「? どうかされましたか?」

少女「畑は……駄目……」ガクガク

姫「え?」

少女「あの時の……暗黒野菜事件の再来だけは……」ブルブル

姫「い、一体何があったんですの……!?」

少女「お庭で畑を作ろうとした時に……ちょっとね……」

姫「あ、む、無理に話されなくて結構です! 気にはなりますけれど!」

少女「あはは、まあ何時か必ず話すよ……そんな訳だから食料は都で買わないと駄目なんだよね。魔王様も側近さんもたくさん食べるしね」

姫「ちょっと不便ですわね……私も何かご協力できれば良いんですけれど」

少女「そんなの良いよ! お姫様は大事なお客様なんだし!」

姫「客ではなく、少女さんのお友達として力になりたいのです」ジッ

少女「お姫様……」ジーン

710: 2013/10/17(木) 22:48:40 ID:4YD0S9h2

姫「とりあえず……給仕に頼んで裏ルートから大量の食料をy」

少女「気持ちだけで十分だよお姫様! もしもこっちの事がばれちゃったら困るし……」

姫「ああ、それはいけませんわね。ですが……何かできないものでしょうか」ウーン

少女「……じゃあ、1つだけお願いできるかな」

姫「! ええ、何でも仰ってくださいな!」ドン

少女「えっと……側近さんみたいな人でも、気軽にお買い物できるようにならないかな」

姫「……それ、は」

少女「側近さん、都に行く時は何時もあの格好だから、凄く窮屈な思いをしていると思うの。ずっと一緒に行ってるから良く分かる……」

姫「……」

少女「魔力の消費が激しいから、舞踏会の時みたいに外見を変える訳にもいかないし……何とかならない?」ジッ

711: 2013/10/17(木) 23:09:51 ID:4YD0S9h2

姫「少女さん……」

少女「側近さんね、見かけは怖いかもしれないけれど何もしないよ? お買い物で嫌な事があっても文句1つ言わないし……でも、悲しそうな顔はするの」

姫「っ……ごめんなさい、少女さん。お気持ちは本当に良くわかりますが、それは難しいでしょう」

少女「!」

姫「……実は私も、最初にお城を訪問した日に迎えに来てくださった側近さんの姿を見て……正直、少し怖いと思ってしまいました」

少女「……そっか」

姫「勿論、舞踏会でそのお人柄は良く知っていますから、すぐにそのような気持ちもなくなりましたが……初対面の方は中々そうはいかないでしょう」

少女「……」

姫「人間と魔族の確執は深く……ちょっとやそっとで解消できるものではありません。ましてや側近さんは魔王の身内、理解を得られるのは並大抵ではないでしょう」

少女「……ただ、そう生まれただけなのに……」

姫「ええ……生まれとは時に残酷なものです……私にとっても」

少女「……」

姫「お力になれなくてすいません……」ペコリ

712: 2013/10/17(木) 23:34:38 ID:4YD0S9h2

少女「……ううん、良いの。言ってみただけ。本当に気持ちだけで十分だから」

姫「少女さん……」

少女「少なくとも、お姫様は魔王様も側近さんも好きでいてくれるでしょう? 今は……それだけで良いよ」ニコッ

姫「……ええ! 何があっても私は絶対に皆さんを嫌ったりなどしません……この名に誓って」スッ

少女「……ありがとう」

姫「どちらも、本当に素敵な方ですもの……特に魔王様は、ここに来てみたいと言った図々しい私にも良くしてくださって……また会えて嬉しいとまで」ポッ

少女「魔王様は、久しぶりに私達以外とお話ができるのが嬉しいんだよ。私だって嬉しいし、側近さんも多分……」

姫「ええ、それはわかっております。わかってはいるのですが……あんな風に髪を……」モジモジ

少女「?」

姫「少女さんだから言えますけど、私……魔王様の事が、好きになってしまったかもしれませんわ」カアア……ッ

716: 2013/10/19(土) 11:40:50 ID:KdPMqDSE

少女「? 知ってるよ?」

姫「本当はこの気持ちを、胸にずっとしまっておくべきか悩んでいたのですが……ってご存知でしたの!?」

少女「改めて言う程の事ではないと思うけどなあ……だってお姫様は、私達の事を好きでいてくれているんでしょ?」

姫「……あの、少女さん? 私が言っている『好き』はそれとは恐らく別種のものですわ」

少女「どう違うの? ……もしかして親愛とか、恋愛とか、そういう違いなのかな?」

姫「そう! 私のはまさにそれですわ!」ビシッ

少女「魔王様から聞いた事はあるけど……私には正直違いがよくわからないな~。好きな事には変わりないんでしょ?」

姫「……もしかして少女さん、恋をご存じないのですか?」

少女「うーん……多分、知らないなあ」

姫「恋愛小説を読んだり、魔王様方以外の殿方と交流された経験は?」

少女「本は実用系とか、勉強関係とか……童話位しか読まないよ。男の人とは、舞踏会の時と……村にいた時位かな。まともに話したのは」

姫「で、ですが童話でも、物語の中でそういうシーンはあったりしますよね? 憧れたりはしないんですか?」

少女「そうだけど、あんまり現実味が持てないからね~。こっちは色々と大変だし、物語と現実は違うでしょ?」

姫「それはそうですけど……」

717: 2013/10/19(土) 12:03:13 ID:KdPMqDSE

少女「それに、私には魔王様達がいてくれれば良いから……正直、他の人と関わるのに少し抵抗もあるしね」

姫「少女さん……」

少女「あ、お姫様は違うからね? 大切なお友達だからね?」

姫「わかっております……考えてみれば、少女さんと私達を同じ物差しで見る事が間違っていましたわね。生き方が全く違うというのに」

少女「……私、何処かおかしいのかな?」

姫「そんな事はありませんわ。ただ、都では私達位の年頃の女の子は、皆誰かしらに恋をしている事が多いですからね……」

少女「そうなんだ……ねえお姫様、恋ってどんな感じなんだろうね」

姫「うーん、言葉で表すのは難しいですわね……好きな人が近くにいると、とにかくどきどきしたり、幸せな気分になったり……」

少女「魔王様達といると、とっても幸せな気持ちになるよ? 抱き締められたり、頭を撫でられたりすると嬉しいし……胸が温かくなるよ」

姫「……多分それは家族としての気持ち、ですかね」

少女「そっか……あ、でもそう言えば」

718: 2013/10/19(土) 13:21:08 ID:KdPMqDSE

姫「?」

少女「舞踏会の準備で、側近さんに初めてドレスを着せて貰った時とか……」

姫「!」ピクッ

少女「舞踏会の日に一緒に踊った時……どきどきした、かも」

姫「……そ」

少女「そ?」

姫「 そ れ で す わ 」カッ

少女「!?」ビクッ

姫「やっぱり少女さんも乙女なんですね~♪ 私とっても嬉しく思います」

少女「え? え? でも側近さんは家族だし、普段はそんな事ないし……」

姫「見ている限り、魔王様とより側近さんといる時間の方が長いようですね……そう言えば、初めて見た時の少女さんは心なしか……うふふふふ」

少女「お姫様~!」オロオロ

719: 2013/10/19(土) 20:24:46 ID:KdPMqDSE

姫「! あらいけない、あんまり嬉しかったものでつい……」クスクス

少女「もうっ……大体、この気持ちがお姫様の言う恋なのかどうかもわからないのに」

姫「ですが、魔王様にどきどきした事はないのでしょう?」

少女「それはそうだけど……」

姫「なら、きっと恋ですわ。私が保証します」ドンッ

少女「えー……? そう、なのかな……」

姫「そこまで疑うなら、そうですね……側近さんが少女さん以外の女の子と一緒にいる時、何だか嫌な気持ちになった事はありませんか?」

少女「うーん……あ」

姫「ありましたか?」

少女「そう言えば、舞踏会の時……お姫様が側近さんとお話してた時だったかな」

姫「! 起きていたんですか?」

720: 2013/10/19(土) 21:55:55 ID:KdPMqDSE

少女「ちょっとだけね……2人がお話ししてるのを聞いて、何でか知らないけどすごく悲しくなったの」

姫「それは……!」

少女「昔の事を思い出す位、気持ちが落ち込んじゃって……目的が果たせたから、私の事、もう要らないのかなって……」ジワッ

姫「ああ、どうか泣かないでくださいな……! そんな事、ある筈がないでしょう?」ギュッ ヨシヨシ

少女「うん……でも、とにかく凄く嫌な気分になったんだよ」

姫「きっと、初めての事ばかりの1日で、疲れていたのでしょうね……」ポンポン

少女「そうなのかな」

姫「そうですわ。だから、あまり気に病んではいけませんよ」

少女「うん……」ゴシゴシ

姫「ああ、そんなに擦ってはいけませんわ。良かったら、これを使ってくださいな」ゴソゴソ スッ

少女「ありがとう……あ」

721: 2013/10/19(土) 22:14:13 ID:KdPMqDSE

姫「? このハンカチがどうかしましたか?」

少女「そうだ、私舞踏会で知り合ったお姉さんからハンカチを借りっぱなしにしてたんだった!」

姫「お姉さん?」

少女「うん。私の髪飾りの事を教えてくれた人でね。何時か返せれば良いんだけど……ああ、あの時伝説の事も聞きたかったなあ」

姫「伝説……教会の聖書に記されたあのお話ですね」

少女「お姫様は知ってるの?」

姫「勿論。教会にはよく行きますしね」

少女「どんなお話なの?」

姫「それは……もしかしたら、側近さんに訊いた方が良いかもしれませんね」

少女「え?」

姫「髪飾りを買ってくださったのはあの方でしょう? なら、きっとご存じの筈ですわ」

少女「そっか……」

722: 2013/10/19(土) 23:02:39 ID:KdPMqDSE

姫「もしかしたら、ご自分の聖書をお持ちかも知れませんね。教会は来る者は誰であろうと拒みませんから」

少女「私も行ってみたいなー」

姫「ふふ……もし今の状況が落ち着いたら行ってみると良いでしょう。ご案内しますわ」

少女「! そう、だね……」

姫「それと……もう1つ、少女さんのお力になれる事を思いつきました」

少女「?」

姫「先程お聞きした……ハンカチの持ち主の方を探す事です。お返ししたい時は仰ってくださいね」ニコッ

少女「あ……ありがとう!」パアッ

姫「どういたしまして……まあ! もうこんなに太陽が上に」バッ

少女「ほ、ほんとだ! お昼ご飯また作るの遅くなっちゃう……側近さん怒ってるだろうなあ」

姫「……怒られる時は、私もご一緒しますわ」

少女「え!? で、でも……」

723: 2013/10/19(土) 23:21:07 ID:KdPMqDSE

姫「これは少女さんだけのせいではありませんもの……それに、1人よりも2人の方が心強いものですわ」ニコッ

少女「お姫様……」

妖精「……」ムニャムニャ……パチッ

姫「ほら、丁度眠り込んでいた妖精さんも起きたみたいですし、急いで行きましょう?」

少女「……うんっ」

妖精「」ムクリ パタ……パタ……

少女「妖精さん、大丈夫? あんまりふらふらするなら肩に乗せるよ?」

妖精「」コクン……ストン

少女「よし、じゃあ行こうかお姫様」クルッ

姫「ええ」テクテク

姫(……そう言えば、何故今まで気がつかなかったのでしょう?)

724: 2013/10/19(土) 23:48:47 ID:KdPMqDSE

少女「何が良いかな……お姫様、何か希望はある?」テクテク ガチャッ

姫「そうですね……良ければまたご一緒にサンドイッチを作りたいですわ」テクテク

少女「そんな事で良いの?」

姫「ええ。あんな風に自分で作るのはとても楽しかったですから」

少女「それなら、今回はあのメニューの他にスープを作ろうかな……それも一緒にやる?」パタン

姫「勿論! ぜひお手伝いさせてくださいな」

少女「じゃあ決まりだね。中身はどうしようかな~……」

妖精「」ウトウト

姫「楽しみですわ~♪」

姫(この方達の……伝説との共通点に。勿論、伝説は伝説ですが……果たしてこれは偶然なんでしょうか?)

727: 2013/10/20(日) 12:35:24 ID:coGVVbYI

――――
――

少女「え……」

姫「あ……」

妖精「」ウトウト

魔王「どうしたのだ2人とも? そんな顔をして」

側近「今日の昼食は私が用意したが……何か不都合だったか?」

少女「ううん、そんな事はないけど……助かった、けど……」シュン

姫「ええ、有難いのですけれど……」

側近「では、早く席に着くと良い。料理が冷めてしまうぞ」

少女「……はーい」ストン

姫「ええ……」ストン

魔王「少女……姫も、何故そんなに元気がないのだ?」オロオロ

728: 2013/10/20(日) 13:21:13 ID:coGVVbYI

少・姫「……」

側近「……少女」ガタッ スタスタ

少女「?」

側近「……夕飯は任せる。だから遅れるなよ?」ボソッ

少女「! うんっ」パアアッ

魔王「おお……側近よ、何を言ったのだ?」

側近「……今の少女に効くと思った、魔法の言葉ですよ」ストン

魔王「?」

姫「……まあ、本当ですか!」ニコニコ

少女「うん! だから、今度はもっと時間に気をつけよー」

魔王「少女だけではなく、姫まで元気に……凄いな」

側近「……大した事ではありませぬ」

729: 2013/10/20(日) 16:31:59 ID:coGVVbYI

魔王「そう謙遜するな。まあ、それはそれとして……早速いただこうか」スッ

少・姫「「いただきます」」スッ

妖精「」ウツラウツラ……ペチン

側近「……」スッ

――――
――

昼食後

少女「ご馳走様でした……ふう、美味しかったー」

姫「ええ、本当に……これに負けないように、夕ご飯は頑張りますよ」グッ

少女「張り切ってるね、お姫様」

姫「私の城ではできない事ですからね。とは言ってもまだ2回目ですから、何処までできるかわかりませんが……」

少女「まあ、あまり難しく考えなくても良いよ。でも夕食となると、あんまり軽過ぎるのもちょっとなあ……」ウーン

730: 2013/10/20(日) 16:46:39 ID:coGVVbYI

姫「メニューを考え直しますか?」

少女「そうだね……あ、その前に食器を洗わなきゃ」スッ

魔王「少女、これは我と側近で洗うからお前は姫とゆっくり過ごしていてほしい」

少女「え? でも……」

側近「お前が食器洗いをやるなら、恐らく……姫君も手伝おうとするだろう」チラッ

姫「勿論ですわ!」グッ

側近「簡単な料理は辛うじて許したが……流石に、そこまではさせられん」

姫「私は構いませんのに……」

少女「……わかった、お姫様の手を荒れさせるわけにはいかないもんね。じゃあお姫様、行こうか」

姫「……ええ」渋々

731: 2013/10/20(日) 17:17:53 ID:coGVVbYI

少女「……その代わりに、天気が良いからお茶会の準備をしない? お菓子も作って」ニカッ

姫「! それは素敵ですわね!」キラキラ

魔王「え? ちょ、少女……」

少女「もう決めちゃったもん♪ そっちの食器は洗うからね~」タタタッ

姫「ふふふ、ではごきげんよう魔王様、側近さん」タタタッ

妖精「♪~」パタパタパタッ

側近「こら、勝手に決めるな! ……行ってしまったか」ガクリ

魔王「本当に変わっておるな、あの姫は……」

側近「……全くです」

732: 2013/10/20(日) 18:17:45 ID:coGVVbYI

魔王「だが、ここが賑やかなのは良い事だ……少女も喜んでおるし」

側近「そうですね、少々はしゃぎ過ぎではありますが」

魔王「あの調子ならば……我が氏んでも、あの子は大丈夫だろう」

側近「っ……!」

魔王「さて、我は部屋へ戻っておるよ。姫が泊まるのだから何時も以上に封印を念入りにせねば」ザッザッ

側近「……」

――――
――

少女「お姫様は、お茶会は好き?」

姫「ええ。私の城でも外出していない時はよく給仕と一緒に楽しみますわ」

少女「そっか~。ここでもお掃除がなくて天気が良い日はよくやるんだよ」

姫「ここは自然も多いし、景色も綺麗ですからね……さぞ楽しいでしょう」

少女「でも、それと魔王様の調子も良くないとできないけどね……」

733: 2013/10/20(日) 22:30:02 ID:coGVVbYI

姫「そうなんですか……表にこそ出されませんが、魔王様は毎日お辛いのでしょうね」

少女「うん……私も側近さんも、毎日それを紛らわせる方法を考えているんだけどね……中々新しい事は思いつかないよ」

姫「……では少女さん、せめてお茶会は何時もの何倍も楽しくできるように頑張りましょう」ギュッ

少女「! うん……!」

妖精「」パタパタ……

姫「そうと決まれば、まずお菓子は何を作りましょうか?」

少女「うーん……よく作るのはスコーンだね。たまにプチケーキとかタルトとか、クッキーにもなるよ」

姫「ふむふむ。やはり定番を行きますわね……因みに1番最近作った物は?」

少女「木の実入りのタルトだよ」

734: 2013/10/20(日) 22:50:58 ID:coGVVbYI

姫「では、次はフルーツを添えるか、中に入れて作ってみませんか?」

少女「そうだね……そうしよう!」

姫「後はどんなお菓子にするかですが……少女さん」

少女「何?」

姫「たまには少し趣向を変えてみませんか? 私に考えがあるのですが」ニッコリ

――――
――

城の外

側近「少女……姫君に無茶をさせてはいないだろうな」ガタッ

魔王「何、そんなに心配する事はなかろう。菓子作りは混ぜて焼く事が主だからな」ヨイショ

側近「果物を切ったりする事はあります。万が一姫にやらせて怪我でもさせたら……」

魔王「心配性だな、側近……」

735: 2013/10/20(日) 23:09:00 ID:coGVVbYI

側近「準備の際に姫君に何かあって、茶会が台無しになっては元も子もありませんからね」

魔王「まあ、茶会が楽しめなくなるのはいけないな……それにしても」

側近「はい?」

魔王「思えば我が魔王になる前は……楽しい茶会などした事がなかったな」

側近「……ここに2人きりだった頃も、似たようなものでしたよ」

魔王「……そうだな。あの頃は確か茶だけで、菓子は作る気にもならなかった」

側近「ええ。それに魔王様の封印がまだ不安定で……よくテーブルの上が真っ赤になりましたね」

魔王「あれは洗うのに苦労したな。今は大分安定したのが救いだ」

側近「本当に良い事です……と、昔を振り返るのは一先ずここまでですな」

魔王「ああ、少女達が来たようだな……甘くて良い香りがする」

736: 2013/10/20(日) 23:25:51 ID:coGVVbYI

側近「こちらの準備も終わりましたし、手伝いに行きましょうか」スッ

魔王「そうだな……ん? 小妖精?」

妖精「」パタパタパタ……キュルルルル

側近「どうした? お前の胃袋の準備は整っているようだが……」

妖精「」サッ ブンブン

魔王「……これ程効果がなさそうな通せんぼも初めてだな」

側近「ええ。精々少女位でしょうね、これで止められるのは」

魔王「うむ……小妖精よ、お前はその少女に頼まれて来たのか? 我らをここに留めるように」

妖精「」コクコク

737: 2013/10/20(日) 23:37:27 ID:coGVVbYI

側近「また体よく使われたようだな……だが、少女がここに留まれと言うならそれに従おう」ストン

魔王「一応姫もいるしな……多分大丈夫だろう」ストン

側近「……余程、自信作でもできたのでしょうか。茶請けの菓子が」

魔王「うむ、そうかもしれぬな。楽しみだ」ワクワク

妖精「♪」ルンルン

側近「おい小妖精。作ったのは一体どんな菓子だ」

妖精「」プイッ

側近「……ふん、答えは最初から期待していない」

魔王「ああ、少女が姫と共に一生懸命菓子を作る姿を想像するだけで……何だか嬉しくなるな」ホワン

側近「魔王様……まあ、否定はしませんがね」

738: 2013/10/20(日) 23:52:36 ID:coGVVbYI

少女「魔王様ー、側近さーん! お外の準備ありがとー」トコトコ

姫「お待たせしました~」トコトコ

魔王「おお2人とも。待ち侘びたぞ」

側近「あの時の不意打ちの提案には驚いた……楽しかったか?」

少女「うんっ。あ、今日のお菓子はね、何時もとちょっと違うの」

魔王「ほう」

姫「あの……どうぞ」スッ

魔王「ありがとう。これは……パンケーキか? ……ふぉっ!」ジッ

側近「茶会でこれを食べるのは久しぶりだな……添えてあるのは柑橘類か」

姫「ええ……お気に召していただけましたか?」

魔王「表面に……生クリームで兎が描いてあるではないか……!」キラキラ

側近「……私のは、ブルーベリーソースの猫か」ジッ

739: 2013/10/21(月) 00:19:02 ID:hyHr1CJs

少女「うん。2人にあげたぬいぐるみと、同じ……」テレッ

姫「魔王様の兎は私が、側近さんの猫は少女さんがそれぞれ描きました。似ているかはわかりませんが……」オズオズ

魔王「そうか……いや、嬉しいよ。ありがとう」フワッ……

姫「! い、いえ……そんな、大した事では……」カァッ

少女「魔王様が笑うなんて……それ程気に入ってくれたんだね」

側近」「よく見ろ、うっすらとだが涙まで浮かべておられる」

少女「あ……ほんとだ。ねえ、私が描いた猫さんはどうかな?」

側近「……ああ、勿論嬉しい。ありがとうな」ナデナデ

少女「えへへ(むー……笑ってはくれないか)」

魔王「……そう言えば、『兎の分』もあるのか?」

姫「あ、はい……ここに。こちらは小さな兎を描きました」コトッ

魔王「うむ、こちらも可愛いな……本当にありがとう」

742: 2013/10/22(火) 22:58:55 ID:gnHu56UU

少女「これなら、兎さんも喜んでくれるよー」ニコニコ

姫「それは良かったです。目には見えませんが、こうして兎さんもお茶会に参加するんですね……」

魔王「この庭は我が兎とよく散歩した場所であると同時に……兎が眠る場所でもあるからな。ささやかな供養にもなろう」

姫「だから、こうして兎さんの分までお菓子を?」

側近「ああ……発案したのは少女だがな」

少女「それにしても、お菓子にこうやって絵を描いたのは初めてだな……今までは上手くできる自信がなかったし。お姫様のお陰だね」

姫「ふふ、以前の昼食の時のお返しですわ。給仕に教えて貰った甲斐がありました」

側近「中々に器用なのだな、貴女も給仕も」

姫「それ程でもありませんわ。ただ、給仕の教え方が上手なのです」

妖精「」クイクイ

少女「! ああごめんね、早く食べたいよね……じゃあ、お茶を注ぐね」トポポ……

743: 2013/10/22(火) 23:14:07 ID:gnHu56UU

魔王「うむ、良い香りだ……」スッ

側近「ええ、本当に……食すのが勿体ないが、こっちもいただこうか」カチャッ

少女「うふふ、どうぞ召し上がれ~」

姫「今度はまた別のお菓子も一緒に作りたいですね」

少女「うんっ……えへへ、パンケーキ美味しいな」モグモグ

妖精「」ムグムグ

魔王「ああ、本当に美味いな……また作ってほしい位だ」モグモグ

姫「……本当に、作った甲斐がありましたわ」

少女「ね~」

妖精「」兎ノパンケーキムシャムシャ

側近「……小妖精。もう自分の分を食べ終えたのか。本当に食い意地が張っているな」

妖精「!」ムーッ

744: 2013/10/22(火) 23:27:31 ID:gnHu56UU

魔王「側近よ、何時もの事ではないか……供養後の兎の分を小妖精が食べるのは」

側近「それはそうですが……毎度毎度、これの食い意地には本当に呆れますよ」チラッ

妖精「~~~!」サッ モグモグ

側近「! 貴様、自分が今何をしたのかわかっているか……?」ユラリ

妖精「」ベーッ

側近「よくも……私がとっておいた最後の一口を……覚悟はできているのだろうな」

妖精「!」シュッシュッ ビシッ

少女「ふ、2人ともやめてよ~」オロオロ

姫「あらら……もっと作ればよかったかしら?」コテン

魔王「……やれやれ、これも何時もの事だな」ムグムグ

749: 2013/10/26(土) 10:54:47 ID:cEwbQ7ck

――――
――

魔王「うむ、とても楽しい茶会であった。少女も姫も本当にありがとうな」ナデナデ

少女「えへへ、どういたしましてっ」

妖精「」クイクイ

魔王「! ああ、勿論小妖精も頑張ったな」ツン

妖精「」ドヤッ

姫「大した事では……ありませんわ」ジーッ

少女「……魔王様。お姫様の頭も撫でてあげたら?」

魔王「う、だがな少女よ、姫は高貴な出の者だからな……我のような者がおいそれと頭を撫でる訳には」

少女「大丈夫! お姫様はそんな事気にしないと思うよ? それにあのパンケーキはお姫様の案だし……」

魔王「……確かにそうだな。姫……良いか?」チラッ

750: 2013/10/26(土) 11:09:24 ID:cEwbQ7ck

姫「! え、ええ、勿論ですわ……!」スッ

姫(感謝しますわ少女さん!)グッ

魔王「では……」――サラッ ナデナデ

姫「ん……」カアッ

魔王「……うむ、やはり美しいな。貴女の髪は」

姫「あ、そそ、それ程でも……!」モジモジ

少女(お姫様顔真っ赤~)ニコニコ

側近「……少女、では片付けは私達がやろう」スッ

少女「あ、ううん、ティーセットとかは私達がやる! その代わりまた椅子とかを運んでくれる?」

側近「……わかった。姫君に力仕事をさせるよりはマシだしな。この際仕方がない」

妖精「」パタパタ……グイグイ

751: 2013/10/26(土) 14:46:21 ID:cEwbQ7ck

少女「あ、じゃあ妖精さんにはティースプーンを持ってもらおうかな」スッ

妖精「」コクン パタパタ……

少女「……ねえ側近さん」

側近「なんだ」

少女「魔王様がね、ああしてお姫様とお話する事で……自分の命を捨てるのを止めてくれないかな」

側近「! ……まさか少女、それを狙って姫君をここへ呼びたいと?」

少女「そりゃあ、私自信が会いたかったのも本当だよ? でも、お姫様といる時の魔王様はとっても楽しそうだから……」

側近「だから、姫君を通して外の世界をもっと知りたいと思わせ、自滅を思いとどまらせようという事か」

少女「うん……駄目、かな?」

側近「……いや、私は姫君に危害が及ぶのを恐れるあまり、そのような考えには至らなかった」

側近「お前らしい、良い考えだと思うぞ」ナデナデ

少女「側近さん……」

752: 2013/10/26(土) 14:59:51 ID:cEwbQ7ck
誤字ありました、すいません。

私自信 → 私自身



姫「……少女さん」ジーッ

少女「わわっ! お姫様何時の間に……!」ビクッ

姫「ふふふ、側近さんが少女さんの頭を撫でてあげている所からいましたわ」

側近「では、今来たばかりか……」ホッ

少女「んじゃあお片づけしようか。お姫様はお皿を運んでくれる?」ヒョイッ

姫「わかりました」ヨイショ

753: 2013/10/26(土) 15:56:31 ID:cEwbQ7ck

側近「2人とも、気をつけて運ぶんだぞ」ヒョイッ

少女「はーい」テクテク

姫「ええ」テクテク

側近「……では魔王様。私達も行きましょうか……魔王様?」

魔王「ん、あ、ああ……」ジッ

側近「どうなされたのです? 手など眺めて」

魔王「いや……姫の黄金の髪があまりに良い手触りだったからな。その余韻に浸っておったのだ」ワキワキ

側近「! ……そうですか」

魔王「我の髪も、もう少し手入れに気をつけた方が良いな……」スッ

側近「貴方様の髪も、特に目立つ痛みは見受けられませんが」

魔王「そうか? 自分ではよくわからぬからな……」ウーン

754: 2013/10/26(土) 16:18:07 ID:cEwbQ7ck

側近「……先代も」

魔王「うん?」

側近「何時も燃えるような紅い髪を靡かせておられましたね」

魔王「……そうだな」

側近「思えば、貴方様が髪を伸ばされるようになったのは……魔王となってからですね」

魔王「まあ、な……外見と言葉遣いだけでもそれらしくしようと足掻いているに過ぎないが」ポリポリ

側近「どのようなお姿であろうと、貴方様が魔王である事に変わりはありません。無理に変わる必要はないかと思います」

魔王「む……そうだろうか」

側近「と言うわけで、よろしければそのうっとおしい髪を切って差し上げますが」

魔王「いや待て唐突に何をいっておるのだお前は!? というか今まで我の髪をうっとおしいと思っておったのか!?」

側近「……冗談です」

魔王「冗談なら今の間は何だ……まあ、ここで何時までもだらだらと話している訳にもいかぬし、とりあえず中へ入ろう」スッ

755: 2013/10/26(土) 17:50:53 ID:cEwbQ7ck

側近「……ええ」ザッザッ

魔王「側近」ザッザッ

側近「はい」

魔王「……外の世界に興味はあるが、我にとってお前たち以上に大切なものはないからな」

側近「ッ……!!」

魔王「それだけだ」ザッザッ

側近「……」グッ

――――
――

台所

少女「落とさないように気をつけてね~」バシャバシャ

姫「はい」キュッキュッ

756: 2013/10/26(土) 18:18:47 ID:cEwbQ7ck

妖精「」ウツラウツラ

姫「ふふ、妖精さんはまたまた眠そうですわね」ツン

少女「時々こうなるんだよね~。妖精さんってみんなこうなのかな?」ゴシゴシ

姫「どうでしょうね……」フキフキ

少女「……よし、これで終わり」キュッ

姫「お疲れ様です」キュキュッ

少女「お姫様もお疲れ様……っ」ズキッ

姫「少女さんどうされました!?」ガバッ

少女「あはは、気にしないで……今日、あの……女の子の……」

姫「! ああ、成程……何時もこのように痛むのですか?」サスサス

少女「時々ね……お風呂に入ったりして体を温かくすれば結構楽にはなるかな」

姫「確かにそれはわかります。私はあまり痛みはありませんが、やたらと眠くなるんですよね~」

757: 2013/10/26(土) 19:51:48 ID:cEwbQ7ck

少女「そうなんだ……やっぱり痛みって個人差があるんだね」

姫「ええ。あんまり痛みが酷い時は薬を飲んだりするのも手ですわ」ポンポン

少女「んー……そこまではないかな。今も大分落ち着いてきたし……ありがとう、お姫様」

姫「いえいえ。こればかりは女である以上どうしようもありませんからね」

少女「……そう言えばお姫様は、子供をどうやって作るか知ってる?」

姫「へっ!? な、少女さん何を……!」

少女「子供を産むためにこうなるってのはわかるんだけど……その過程がわからなくて。魔王様と側近さんに訊いても教えてくれないし」

姫「そ、それは……」

少女「良かったら教えてくれない?」

姫「……と、とりあえず私から言える事は」

少女「うんうん」

姫「……と、殿方と不用意に寝所を共にしないことですわ……そうすれば子供はできません」カアアッ……

758: 2013/10/26(土) 20:02:18 ID:cEwbQ7ck

少女「? えっと、つまり男の人と寝れば子供ができるって事?」キョトン

姫「ひ、平たく言えばそうですわね……」冷汗ダラダラ

少女「じゃあ、魔王様や側近さんと寝れb」

姫「駄目ですっ! 魔王様はともかく側近さんは危険ですわ! もっとご自愛ください!!」ビシッ

少女「!? う、うん……」

姫「子供を産むという事は、体に大変負担がかかるんですよ? お母様が大変な思いをして、私達は生まれてきたのです」

少女「……私も、そうやって?」

姫「ええ」

少女「じゃあ、何で……私はあの村に置いて行かれたんだろう」

姫「! しょ、少女さんそれは……」

少女「私を産んだ人達にとって、私は……いらない子だったのかな?」ポロポロ

759: 2013/10/26(土) 20:21:08 ID:cEwbQ7ck

姫「そんな事はありません! ……きっと、何か事情があったのです」

少女「事情……?」

姫「ええ、貴女を育てるためのお金が足りなかったとか……」

少女「……お姫様がそう言うんなら、そうなのかな……」

姫「そうですとも! それに……今の少女さんには必要としてくれる方々がいらっしゃるではありませんか」

少女「!」

姫「あの村に捨てられたから、魔王様や側近さんに会えた……そんな風に前向きにお考えになってみては?」ニコッ

少女「お姫様……」

姫「勿論、私にとっても貴女は必要不可欠な人です。初めてのお友達ですもの!」

少女「……うう、ありがとう……」ヒシッ

姫「いいえ~」ナデナデ

少女「……もし、何時の日か私を産んだ人に再会できたら」

760: 2013/10/26(土) 21:09:48 ID:cEwbQ7ck

姫「……」

少女「……どうして私を産んだのかを訊いてみたいな」

姫「……そうですか」

少女「うん」

姫「会えると、良いですね」

少女「うん……」

姫「……では、気を取り直して夕食の献立を考えましょう!」グッ

少女「!」

姫「側近さんに任されたのでしょう? 今は目先の事を頑張りましょう……その日が来るまで」

少女「……うんっ。じゃあ、どんなお料理を作ろうか……」

姫「そうですね……」

761: 2013/10/26(土) 21:52:01 ID:cEwbQ7ck

――――
――

夕食時

側近「ローストチキンにグラタンか……これならあまり危険はなかったろう、良い判断だ」

少女「えへへ」

姫「具を乗せたり、詰めたりするのを手伝っただけですが……」

魔王「いや、それでも一緒に作った事には変わりなかろう? 美味しそうだ」

姫「……ありがとうございます」テレッ

側近「グラタンの表面が何時もより鮮やかだが……南瓜を入れたのか」

少女「うん。今日の昼食で南瓜のポタージュを作る予定だったからその代わりにね」ニコニコ

側近「そうだったのか……」マジマジ

魔王「では、せっかく2人が作ってくれた料理だ。冷めないうちにいただこうか」スッ

762: 2013/10/26(土) 22:06:15 ID:cEwbQ7ck

少女「うんっ、召し上がれ~」ニコニコ

姫「味見はしましたが……緊張しますね」ドキドキ

妖精「」ショボン

側近「こいつは今回は手伝っていないのか?」チラッ

少女「妖精さんは眠かったみたいだから、夕食ができるまで寝かせておいたの」

側近「ふっ、情けないな……まあ、変なものを盛られる心配がないのは結構だが」

妖精「~~~ッ!」ムキーッ

魔王「まあ、たまにはそんな日もあろう……改めて、いただくぞ」

姫「はい……」

側近「……いただきます」スッ

少女「♪」ニコニコ

763: 2013/10/26(土) 22:28:41 ID:cEwbQ7ck

魔王「では、まずはグラタンから……うむ、やはり美味しいな。チーズと南瓜が絶妙に合っている」モグモグ

少女「本当? やったねお姫様っ!」パチンッ

姫「ええ……!」パチンッ

妖精「」ションボリ

少女「妖精さん、私達は気にしてないから大丈夫だよ……今日は本当に眠そうだったしね。それより妖精さんにも食べてほしいな」ナデナデ

妖精「」コクン……モキュモキュ

側近「チキンも香ばしいな……ハーブの香りが食欲をそそる」ガブッ

姫「まあ……豪快ですわね」

側近「ああ、失礼。気を悪くされたなら謝る」

姫「いいえ、そのような事は……側近さんには、寧ろそちらの方が合っていると思いますわ」

側近「そうか? まあ確かにそうかもしれんな……この狼に近い顔には」

764: 2013/10/26(土) 23:00:30 ID:cEwbQ7ck

姫「ですが、本当の狼よりもずっと品があって穏やかですわ……ねえ少女さん?」チラッ

少女「むぐっ……お、お姫様、食べてる途中でいきなり話しかけないで……」ムグムグ ゴクン

姫「ああ、すいません……つい」

少女「ん……確かに、側近さんはお顔は少し怖いかもしれないけど、とっても素敵な人だと思うよ」

側近「! ……そ、そうか」

少女「うん。こういうお料理だって、側近さんに教えて貰ったからできるようになったしね」

側近「今やお前に教える事は何もなくなってしまったがな……寧ろ、いつ追い抜かれてもおかしくない位だ」

少女「そんな事ないよ~」

姫「ふふ、先程のお礼ですわ……」ニコニコ

妖精「」ムスーッ

姫「ああ妖精さん……このチキンを一切れ差し上げますから、どうか拗ねないでくださいな」スッ

妖精「!」スッ ペコリ

765: 2013/10/26(土) 23:10:50 ID:cEwbQ7ck

姫「ふふ、どういたしまして」

魔王「姫と小妖精はすっかり仲良しだな」

姫「へっ? そ、そうですか?」

魔王「ああ。我らに対するよりもずっと気を許しておるようだし……」

姫「す、素直に喜んで良いのでしょうか……」

魔王「勿論だ。我も側近も、貴女がこうして小妖精や少女と仲良くしてくれている事を嬉しく思っているのだから」

姫「魔王様……」

魔王「これからも、ぜひ仲良くしてやってはくれないか?」

姫「……喜んで!」パアッ

妖精「」モキュモキュ……ペチンッ

769: 2013/10/27(日) 22:41:49 ID:EjzaR.YY

――――
――

台所

少女「夕ご飯は大成功だったね、お姫様」ゴシゴシ

姫「ええ! お陰様で僅かながら自信がつきました……次回はもう少し難易度の高いお料理を作ってみたいですわ~」キュッキュッ

少女「そう? でも慎重にね……? 慢心は怪我の元って側近さんも言ってたし」

姫「わかっておりますわ。ですがゆくゆくは魔王様に……私が1人で作ったお料理を……」ポッ

少女「ふふ、目標があるのは良い事だよ~。一緒に頑張ろう?」

姫「はいっ」ニコニコ

妖精「」パタパタ

少女「あ、妖精さんお帰りなさい。もう良い感じ?」バシャバシャ

妖精「」コクン

770: 2013/10/27(日) 22:57:02 ID:EjzaR.YY

姫「妖精さんは何をしに行っていたんですの?」コテン

少女「ちょっとお風呂の湯加減を見にね。魔王様が先にお姫様と入りなさいって言ってたから……てな訳でこれを洗い終わったら入りに行こう?」

姫「まあ! そう言えば魔王城のお風呂に入るのは初めてですわ……とても楽しみです」ウキウキ

少女「結構広いよ~。何時も妖精さんと入っているんだけどちょっと寂しい位」

姫「そうなんですか……私は入浴時は何時も給仕や他の召使達にもみくちゃにされていますから、そのような事はありませんね」

少女「ひえ~……何だか大変そうだね」

姫「大変なんてものではありません。こっちは1人でゆっくり入りたいのに……本当にうんざりしますわ」ハア……

少女「でも、今日は違うでしょ?」

姫「ええ! それが本当に嬉しく思います……! 自分のペースで入浴できるのですから」

少女「あ……あのね、もし嫌じゃないなら背中の流しっことかもしない?」

姫「!」

少女「駄目かな?」

771: 2013/10/27(日) 23:12:57 ID:EjzaR.YY

姫「面白そう……是非やりましょう!」キラキラ

少女「本当? やったー! 小さい頃よく魔王様や側近さんとやってたんだ~」

姫「! ……あのお2人と……」ゴクリ

少女「うん、少しだけ覚えているけど、側近さんの体は確か凄く筋肉がついててがっちりしてた」

姫「……ま、魔王様は……?」

少女「んー……側近さん程じゃないけど、それなりに筋肉はあったよ」

姫「……!」ボンッ

少女「でも、封印の紋様が痛々しかったな……それがなくても2人とも傷だらけだったし……ってお姫様!?」

姫「」プシュー……フラッ

少女「あわわわ……! 食器ごと倒れちゃ危ないよ~!」ガシッ

妖精「ッ~~~!」オロオロ

姫「す、すみません……つい想像してしまったので」ムクリ

772: 2013/10/27(日) 23:54:47 ID:EjzaR.YY

少女「びっくりした……今度からは気をつけてね?」

姫「ええ……」

妖精「」ホッ

少女「じゃあ、気を取り直してラストスパート行くよー!」

姫「ええ! 頑張りましょう!」グッ

妖精「」オー

――――
――

大浴場

姫「まあ……広いですわね……」ホウッ……

少女「でしょ~。あの大きな噴水からお湯が出てるんだよ」スッ

姫「お湯の水量や温度などの調整はどうやって?」

少女「詳しくはわからないんだけど……作られる際にそれ用に凝縮した魔力が散りばめられたんだって」

773: 2013/10/28(月) 00:12:21 ID:GvD.9tRU

少女「噴水の周りに幾つか光っている球が浮いているのはわかる? あれに秘密があるらしいんだけど……」スッ

姫「魔王城の技術は凄いですわね……」

少女「入りたての頃は、魔物用の凄く熱いお湯しか出なかったんだけど……魔王様が私のために温度を下げられるようにしてくれたの」

姫「この程良い温度になるように……魔王様が大浴場に手を加えたんですの!?」チャプン……

少女「そうみたい。凄いよね~」

姫「凄いなんてものではありませんわ……」

少女「とりあえず、このままじゃ風邪ひいちゃうから入ろう? かけ湯して大分経つし」ソッ……

姫「ええ、そうですね……では」チャプ……

少女「ふう……気持ち良いね」パシャッ

妖精「」フー

姫「ええ……疲れが癒されますわ……」チャプン

777: 2013/11/02(土) 13:26:16 ID:kG/QufUQ

妖精「」チャプチャプ

少女「お姫様、お肌がとっても白くて綺麗だね~。羨ましいよ」

姫「そうですか? ありがとうございます。でも少女さんも……」フニッ

少女「ふえっ!」

姫「こんなに立派なものをお持ちではありませんか~」フニフニ

少女「や、やだお姫様くすぐったいよ~! それにお姫様の胸だって大きいじゃない」ケラケラ

姫「いえいえ、少女さんには敵いませんわ。背もお高いし、本当に羨ましいです」

少女「そうかな? 側近さん達が大きいから、私も大きくなりたいなって思ってたらこれぐらいになったんだよ。まだ全然足りないけどね」

姫「まあ確かに……あのお2人に並んだら小さく見えますわね」

少女「でしょー? でも、これでも来たばっかりの頃に比べたらマシな方だよ」

妖精「♪~」プカプカ

778: 2013/11/02(土) 19:04:49 ID:kG/QufUQ

姫「そうでしょうね。もしかしたら、魔族に張り合う方がどうかしているのかもしれませんが」

少女「そうかな? 大きくならないとお洗濯のお手伝いをさせないっていうから頑張ってご飯を食べたんだけどね」

姫「お洗濯ですか?」

少女「うん。今は、魔王様の血がついてて危ないからっていうのがわかってるんだけど、あの頃はそうやって誤魔化されてたの」

姫「魔族の血とは……そんなに恐ろしい物なんですか」

少女「んー……少なくとも、人の血とは全然違うっていうのはわかるよ。暗黒野菜事件で嫌という程それを知ったからね……」ブルッ

姫「だから何ですかその暗黒野菜事件とは!」

少女「えへへ……今度話すよ。とりあえず今はあったまろー」ブクブク

姫「うう……気になりますわ……」ブクブク

779: 2013/11/02(土) 20:00:39 ID:kG/QufUQ

少女「ふう……それにしても、こんなに楽しくお風呂に入るのは久しぶりだな~」ニコニコ

妖精「」プク……

姫「少女さん……」

少女「何時からだろう、魔王様や側近さんと一緒に入らなくなったのは……それでお風呂場が前より広く感じるようになったのは」

姫「……仕方のない事だと思いますわ。少女さんはどんどん大人に近づいていくのですから……何時までも殿方と一緒に入るわけには」

少女「魔王様も側近さんも同じ事を言ってたけど、なんで駄目なの? ただ体が大きくなるだけなのに」

姫「それは……」

少女「こうなるなら、大きくなんてならなければ良かった……!」

姫「少女さん! そんな事を言ってはいけません!」

少女「!」ビクッ

780: 2013/11/02(土) 21:35:00 ID:kG/QufUQ

姫「魔王様も側近さんも、貴女に成長してほしいと願っている筈です……!」

少女「でも……」

姫「不変な人間は……最早心なき人形に等しいでしょう。生きとし生けるものはすべて、心であれ体であれ変化するのが世の理ですわ」

少女「……」

姫「例えば少女さんが舞踏会に行った日……着飾った姿を見て魔王様は喜んでくださらなかったですか? 側近さんは?」

少女「それは……」

姫「貴女の成長を、家族であるお2人は嬉しく思っている筈……だから、そんな悲しい事を仰ってはいけません……!」

少女「お姫様……」

妖精「」パタタ……

姫「……つい熱くなってしまいましたね。そろそろ体を洗いましょうか」バシャッ

少女「……」ギュッ

781: 2013/11/02(土) 21:53:08 ID:kG/QufUQ

姫「! 少女さん……?」

少女「……あのね、今日だけじゃなくて、また一緒にお風呂に入ってくれる? ……子供っぽいかもしれないけど」モジモジ

姫「……勿論ですわ。またこうしてお話しましょう」ギュッ

少女「うんっ」

妖精「……!」ファッ……クチュンッ

少・姫「! ぷっ……あはははは!」ケラケラ

妖精「!」プンスカ

姫「ごめんなさい妖精さん。あなたのくしゃみがあんまり可愛かったものですから」ツンツン

少女「洗うの、待っててくれたんだよね……ありがとう。今行くからね」バシャッ

姫「ええ。早くしないと妖精さんが風邪を引いてしまいますからね」

782: 2013/11/02(土) 23:15:59 ID:kG/QufUQ

――――
――

魔王の部屋

魔王「そろそろ少女達が上がる頃だろうか……なあ兎よ」

兎(ぬいぐるみ)「……」

魔王「何時も風呂上がりは少し寂しそうな顔をしていたからな……姫との話に夢中になるあまりのぼせてはいないだろうか」ウーン

魔王「後で冷たい水を用意してやらねばな……ついでに我と側近の分も」

魔王「……我もたまにはあいつと一緒に入るかな。体が温まれば普段とは違った本音が聞けるやもしれぬし」

魔王「あ、そう言えば側近、久々に夜の大剣素振りに行ってくると言っていたな」ポン

魔王「そろそろ戻ってくる頃か……って」

魔王「あああああああーーーッッッッッ!!!!!」ガタンッ

783: 2013/11/02(土) 23:27:43 ID:kG/QufUQ

魔王「不味い……側近には少女達が風呂に入っている事を言っていない……」ガタガタ

魔王「素振りが終わった後の奴の行動パターンを考えると……こうしてはおれぬ!」ダダダッ……ガチャッ バタンッ

兎(ぬいぐるみ)「……」

――――
――

脱衣所

姫「気持ち良かったですわ~」ホカホカ

少女「そう? それは良かったよ」ホカホカ

妖精「」クテッ……

少女「あはは、妖精さんちょっとのぼせちゃったみたいだね」フキフキ

姫「私達も早く拭き終わりましょう。特に少女さんは早く服を着なければ」フキフキ

784: 2013/11/02(土) 23:41:22 ID:kG/QufUQ

少女「そうだね……よし、そろそろ下着を」スッ

ガチャッ

側近「……」

少・姫「……へ?」パチクリ

側近「」フリーズ

少女「……ぁ」姫ノ体隠ス

姫「しょ、少女さんお気持ちは嬉しいですがまずは自分の心配を」カアアッ

側近「! す、すまん」ペコリガチャザザザザッ

少女「……側近さん、もしかして素振りしてたのかな」キョトン

姫「少女さんちょっとは慌てましょう! 恥じらいましょう! 殿方に裸を見られたんですよ!?」

少女「でも、突然だったし……」

785: 2013/11/02(土) 23:57:08 ID:kG/QufUQ

姫「でもも何もありません! 殿方の、それも好きな方に見られたんですよ? 何とも思いませんの!?」

少女「……」ウーン

姫「少女さん!」

少女「……そ、そう言われると……」ボンッ……フラリ

姫「ちょ、倒れるのはせめて服を着てからにしてくださいな!」アタフタ

――――
――

魔王「奴は素振り後は必ず風呂場へ直行する……急がねば!」ダダダッ

側近「! 魔王、様……」ザザザザザッ

魔王「側近……そちらにいたという事はまさか……!」

786: 2013/11/03(日) 00:09:25 ID:AZ1nkccg

側近「どうか煩悩を粉砕するために再び外へ行く許可をどうか」ザザザザッ

魔王「う、うむわかったすぐに行って来い!(お そ か っ た !)」

側近「ありがとうございます有難き幸せ」ザザザザザッ

魔王「あの超高速早歩きと言葉……余程衝撃を受けてしまったのだな……すまぬ、弟よ……」ウルッ

側近「……」ザザザザザザッ……プシュープシュー……

――――
――

厨房

姫「……落ち着かれましたか?」

少女「うん、何とか~」

妖精「」コクコク……プハーッ

789: 2013/11/03(日) 11:51:36 ID:AZ1nkccg

姫「あの時はついあんな事を言ってしまいました……ごめんなさい」シュン

少女「いいよ、気にしないで……私、やっぱり他の女の子とは色々と違ってるんだね。お洒落にもあんまり興味ないし、世間知らずだし」

姫「今までほとんどの時間を、この魔王城で過ごしてきたんですもの……無理もありませんわ」ポンポン

少女「そうかな……」

妖精「」ヨシヨシ

少女「妖精さん……」

姫「でも、私はそんな少女さんが大好きですよ? 妖精さんだってそうでしょう」

妖精「」コクコク

少女「……ありがとう、私もお姫様が大好きだよ。妖精さんもね?」

妖精「」ニコッ

790: 2013/11/03(日) 12:01:37 ID:AZ1nkccg

魔王「しょ、少女……姫……」バタンッ……ヨロヨロ

少女「魔王様! どうしたの……!?」

魔王「すまぬ……我が側近にお前達が風呂へ入っている事を伝え忘れたばっかりに……」ズーン

姫「! ああ……その事ですか。確かにあれはびっくりしました」

魔王「本当にすまぬ……姫にも迷惑を……」

姫「い、いいえ、私は意外とそんなには……寧ろ少女さんの方が」チラッ

少女「え? 私も大丈夫だよ?」

魔王「本当か? てっきりショックを受けているかと……」

少女「本当に大丈夫だから……そう言えば、側近さんは?」

魔王「奴なら……今頃森の奥中を全力疾走だ」

少女「?」

姫「あらら……」

791: 2013/11/03(日) 15:05:25 ID:AZ1nkccg
すいません誤字です……。

魔王「奴なら……今頃森の奥中を全力疾走だ」



魔王「奴なら……今頃森の中を全力疾走している」


魔王「煩悩を振り切るのに必氏だよ。側近には本当に悪い事をした……」

姫「魔王様、あまりご自分を責めないでくださいな……あれは不慮の事故ですわ」

魔王「姫……」

妖精「?」キョトン

少女「妖精さんは何があったか知らないんだっけ? 実h」

魔・姫「黙っているのだ(いるのです)少女(さん)!」クワッ

少女「!? う、うん……」コクコク

792: 2013/11/03(日) 15:35:59 ID:AZ1nkccg

魔王(もし今の側近に妖精が何か仕掛ければ……)

姫(まさに泣きっ面に蜂ですわ……!)

少女「側近さん……幾ら体力があるとはいえ、心配だなあ」

妖精「……」パタパタ

――――
――

森の中

側近「……うああああああああああ!」ダダダダダダッ

ギャアギャア バサバサバサッ

794: 2013/11/03(日) 17:07:31 ID:AZ1nkccg

――――
――

少女の部屋

姫「色んな事がありましたが、とても楽しい1日でしたわ」ポフンッ

少女「本当?」

姫「ええ。明日にはもう帰らないといけないというのが信じられません……」フウ……

少女「もう少しいられたら良いのにね~」ギシッ

姫「でも、仕方ありませんわ。あまり少女さん達にご迷惑をおかけするわけにはいきませんし」

少女「お姫様……また絶対お泊まりに来てね? 何時でも歓迎するから!」ギュッ

姫「ええ……! ありがとうございます」ギュウッ

妖精「」クイクイ

姫「! ふふ、妖精さんもありがとうございます」スッ

妖精「♪」ヒシッ

795: 2013/11/03(日) 17:25:48 ID:AZ1nkccg
>>793果たしてどうなりますかねふはははは!←



少女「……お姫様、眠い?」

姫「いえ、全然!」キラキラ

妖精「」グッ

少女「妖精さんは昼間いっぱい寝たもんね~」クスクス

姫「ふふ、夜はまだまだ始まったばかりですわ……!」

妖精「♪」パタパタパタッ

少女「じゃあお姫様、都のお城の事をもっと教えてくれる?」

姫「お安いご用ですわ……では少女さんもここでの日々を聞かせてくださいな♪」

796: 2013/11/03(日) 17:39:23 ID:AZ1nkccg

少女「勿論だよ! 魔王様の事とか色々教えちゃうね~」

姫「まあ、それはとても眠ってなどいられませんわね……!」

妖精「」ニコニコ

少女「妖精さんも楽しそうだけど、せっかくこうしてお話するんだから何かできたらな……」

姫「それなら、机に紙と墨を置いて羽ペンを渡してみては? 簡単な絵ならもしかして……」

少女「あ……妖精さん、大丈夫?」

妖精「!」コクンッ

少女「じゃあ、ちょっと待ってね……」ゴソゴソ

姫「ふふ……妖精さんの事も、たくさん聞かせてくださいね」

妖精「」コクコクッ

少女「お待たせ、これなら妖精さんでも持てるかな?」スッ

797: 2013/11/03(日) 20:10:05 ID:AZ1nkccg

妖精「!」パアアッ

姫「良かったですわね、妖精さん」ツンツン

少女「妖精さんが描く絵……楽しみだな~」ワクワク

姫「少女さんはこのようなやり取りは普段はしませんの?」

少女「うん。大体こっちが妖精さんの身振り手振りで伝えたい事を酌んであげれば足りるから」

姫「お付き合いに年季が入っているからこそできる芸当ですわね……」

少女「まあねっ」ドヤッ

妖精「♪~」ニコーッ

姫「では、改めて……女の子だけのお話会といきましょう♪」フワッ

少女「うんっ」

妖精「」カキカキ……

798: 2013/11/03(日) 20:19:02 ID:AZ1nkccg

――――
――

チュン……チュン……

少女「ん……朝? 何時の間にか寝ちゃってたんだ……」パチッ ゴシゴシ

姫「むにゃ……魔王様ぁ……」スヤスヤ

妖精「……」スピスピ

少女「昨日は楽しかったな~……って今何時!?」ガバッ

姫「んん……」パチリ

少女「た、大変……! 何時もよりかなり遅いよ!」バタバタ

姫「少女、さん……?」ムクリ

少女「あ、お姫様おはよう!」

姫「おはようございます……」ボンヤリ

799: 2013/11/03(日) 20:53:34 ID:AZ1nkccg

少女「急いで支度しよう! 何時もの時間より大分遅いよ!」

姫「んぅ~……はいい……」ノソノソ

少女「ほら、妖精さんも!」ツンツン

妖精「……」パチッ

姫「うー……もう朝ですか……」ゴシゴシ

少女「そうだよ! きっと魔王様達先に食道に行ってるよ!」ゴソゴソ

姫「……魔王様……そうですわ、聞いてくださいな少女さん夢の中で……!」キラキラ

少女「と、とりあえず後で聞くから準備してー!」

姫「はい……うふふ……」ポーッ

妖精「」パタパタ……

800: 2013/11/03(日) 21:00:52 ID:AZ1nkccg
またまた誤字すみません!

食道 → 食堂


――――
――

魔王「……おはよう。随分と遅かったな」

少女「おはよう……うう、ごめんなさい」ショボン

姫「おはようございます……」

妖精「」パタパタ

魔王「はしゃぐ気持ちはわかるが、夜はちゃんと睡眠を取らねばな? なあ側近」

側近「そうですね」

少女「あ、側近さんおはよう」

側近「! ……お、おはよう」プイッ

801: 2013/11/03(日) 21:13:35 ID:AZ1nkccg

少女「?」

姫「おはようございます。ご迷惑をおかけしてすいません……私のせいですわ」ペコリ

側近「……いや、もう良い。すぐに朝食にするぞ」スッ

姫「! は、はい(もしかして、昨日の事をまだ……)」

妖精「……」パタパタ

少女「妖精さん? どうしたの側近さんの方に飛んでって」ガタッ

妖精「」ジッ

側近「……」プイッ

妖精「」ジーッ……

側近「……」冷汗ダラダラ

802: 2013/11/03(日) 21:27:29 ID:AZ1nkccg

魔王(小妖精の奴……もしや疑っておるのか!? 自分が知らないうちに側近が少女達に何かしたのを)

側近「くっ……小妖精、何をしている……早くあっちへ戻れ」

魔王(そっぽを向いて言っても説得力がないぞ側近よ……! せめてもっと自然に!)ハラハラ

妖精「……」ニヤー

側近(くそっ……やましい事がなければこ奴など……ッ!)ギリッ

少女「何してるの妖精さん、早く食べるよ~!」

妖精「」チッ パタパタパタ……

側近(危なかった……それにしても少女、昨日あんな事があったというのになんと気丈な……)

姫(妖精さんって案外勘が鋭いんですね……あの時見られていなくて本当に良かったです)ホッ

803: 2013/11/03(日) 21:44:07 ID:AZ1nkccg

魔王(こんな時、何時もならば側近も注意をするからな……姫がいるというのもあると思うが、やはり妙に映るか)

少女「じゃあ、食べようか。側近さん、今日の朝食作ってくれて本当にありがとう。助かったよ!」ニコッ

側近「! い、いや……大した事ではない」

魔・姫(少女(さん)はあんまり気にしてない……のか?(のでしょうか?))

妖精「」ギリギリギリ……

少女「? どうしたの皆、食べないの?」キョトン

魔王「! おおそうだな、いただこうか」スッ

姫「え、ええ、いただきましょう!」

側近「……」スッ

少女「えへへ、いただきますっ」ニコニコ

妖精「」ムー……ペチンッ

804: 2013/11/03(日) 23:13:00 ID:AZ1nkccg

――――
――

魔王城前

姫「本当にお世話になりました。こんな私の我儘を聞いてくださり心から感謝します……」ペコリ

魔王「いやいや、こちらこそ楽しかったしな……お互い様だ」

少女「お姫様、もう行っちゃうんだ……今度は何時会えるかな?」

側近「少女。協力者がいるとはいえあまり頻繁に会うのは……」

姫「そうですね、私も心ではそれをわかっているつもりですが……ここでの時間が本当に楽しくて……」ジワッ

少女「お姫様~!」ギュッ

側近「……料理などであまり無茶をしないと約束できるなら、また来る事に目を瞑らんでもない」ボソッ

少女「え、本当!?」パアアッ

姫「まあ、ありがとうございます!」ニコニコ

805: 2013/11/03(日) 23:24:30 ID:AZ1nkccg

側近「なっ……!?」

魔王「ほう、お前が娘達の涙に騙されるとは……見物だな」

側近「魔王様……!」

妖精「~~~!」ケラケラ

側近「くっ……!」ギロッ

妖精「♪~」ツーン

側近「……と、とにかく行くぞ!」

姫「はい……では皆さん、ごきげんよう」ペコリ

少女「またねー!」ブンブン

魔王「給仕殿によろしくなー」ヒラヒラ

妖精「」ブンブン

姫「……」フワッ……フッ

806: 2013/11/03(日) 23:51:04 ID:AZ1nkccg

少女「……」スッ

妖精「」パタパタ……ストン

魔王「……今回も、楽しかったか?」

少女「うん……あのね魔王様、お姫様と会うたびにね……」

魔王「ん?」

少女「会えて嬉しいって気持ちがどんどん大きくなっていくの。それと同じ位……こうしてお別れするのも悲しくなる」

魔王「そうか……実は我もだ。我らはいつも共に住んでおるからな……常に会えぬ者と親しくなるのはこれが初めての事だ」ナデナデ

少女「うん……何だか、胸の奥が苦しくなるね」ポテッ

魔王「ああ。このような気持ちは新鮮だ……本当にな」

妖精「」クスン

少女「妖精さんも初めてみたいだね。皆初めて仲間だ~」ニコッ

魔王「そうだな」

807: 2013/11/04(月) 00:00:51 ID:KE9pX4VI

側近「……ただいま戻りました」フッ……スタッ

少女「お帰りなさい側近さん」

魔王「おお、ご苦労。何時もすまぬな側近」

側近「いえ。それよりも如何されましたか? 揃ってしんみりして……」

少女「……初めて仲間なの」

側近「?」

魔王「そうだ、初めて仲間だ。勿論側近もな」ウンウン

側近「?? 仰る意味がわかりませぬが……」

少女「ふふっ。中に入ったらちゃんと教えるよ♪」

側近「そうか?」

少女「うんっ」

808: 2013/11/04(月) 00:16:53 ID:KE9pX4VI

――――
――

少女(こうして私達は、お姫様と出会ってから少しだけ変わった)

少女(それはちょっぴり苦しいけれど……決して嫌なものじゃない)

少女(魔王城の中がほぼ世界のすべてだった私達が……ほんの少しだけ外へと顔を出した瞬間だった)

少女(これからも、こんな変化が私達に起こるのかもしれないと思うと、少し怖くもあったけど……楽しみでもあった)

少女(……それなのに)

少女(運命って……どうしてこんなに残酷なの?)

少女(せっかく変わろうとした矢先に……どうしてこの喜びを奪っていくの……?)

813: 2013/11/04(月) 15:04:31 ID:KE9pX4VI

――――
――

数週間後の魔王城 厨房

少女「今日は久しぶりのおっ茶会~♪」ランラン

妖精「♪~」ルンルン

少女「お外は晴れだし、魔王様の調子は良いし、良い事ずくめだねっ」コポポ……

妖精「」コクコク

少女「ただ、お姫様がいないのがちょっと残念だけど……」

妖精「……」ポンポン

少女「妖精さん……そうだね、あんまり贅沢は言っちゃ駄目だよね」

妖精「……!」ピクッ

少女「あ、もうそろそろかな? 久しぶりに作ったからちゃんと焼けてると良いけど……」テクテク

814: 2013/11/04(月) 16:53:16 ID:KE9pX4VI

妖精「」パタパタ

少女「よいしょ……わあ、良い匂い!」

妖精「!」クンクン

少女「見た目は大丈夫……ナッツも焦げてない。後は……」スッ

妖精「」ドキドキ

少女「少し冷ましてから味見をしなきゃね」

妖精「」コクン

少女「喜んでもらえると良いな~」

815: 2013/11/04(月) 17:00:35 ID:KE9pX4VI

――――
――

魔王城の外

少女「魔王様、側近さん、お待たせー」テクテク

妖精「」パタパタ

少女「今回のお茶菓子はクッキーだよ~……ってあれ?」キョロキョロ

妖精「?」キョロキョロ

少女「椅子とテーブルはあるけど……2人がいないねえ」カタン

少女「……あ、いたー!」

妖精「!」パタパタ

少女「よし、せっかくだからクッキーを先に食べて貰おうっと」テクテク

魔・側「……」

少女「どうしたんだろう……何を見てるのかな?」テクテク

816: 2013/11/04(月) 17:10:07 ID:KE9pX4VI

魔鳥「」バサバサッ

少女「魔鳥さんだ! ……もしかしてお姫様からのお手紙!?」タタタッ

妖精「」パタタタ……

少女「あ、待ってよ妖精さーん!」

魔・側「……」

少女「2人とも、準備ができたよ! これ、今日のお茶菓子の……何を見てるの?」ピタッ

魔王「! ……あ、ああ、少女か」クルリ

側近「……」

少女「どうしたの? 魔鳥さんがいるって事はお姫様からでしょ? あっちに戻ってからで良いから私にも見せて~」

側近「……少女、茶会は中止だ」

少女「……え?」

817: 2013/11/04(月) 17:23:45 ID:KE9pX4VI

妖精「!?」ムッ

少女「ど、どうして!? ほら、クッキーも焼いたんだよ?」スッ

魔王「すまん、少女……せっかく焼いてくれたのに」ザッザッ

少女「あ、魔王様……!」

側近「少女、確かにこれは姫君からの文だが……内容は何時もと全く違う」カサリ

少女「え……?」

側近「……彼女が、本来の役目を果たしたのだ」

少女「……まさか」

側近「この日々は終わりだ……身の回りを整えておくと良い」クルリ ザッザッ

少女「あ……ああ……」カタカタ

グラッ……ガシャンッ バララッ……

妖精「……」ペタン

818: 2013/11/04(月) 17:34:27 ID:KE9pX4VI

――――
――

少女の部屋

少女「……あれ?」ハッ

妖精「」オロオロ

少女「私……お茶会の準備をしていたはずなのに何で部屋に? ……夢だったのかな?」

少女「そうでなきゃ、あんな質の悪い冗談……!」

妖精「……」

少女「あれ……妖精さん、何でそんな顔をしてるの?」 

妖精「……」シュン

少女「ねえ、嘘だよね……? だってあんな、突然……」ジワッ

妖精「……」パタタ……

819: 2013/11/04(月) 17:47:58 ID:KE9pX4VI

少女「だって、私も、側近さんも……まだ見つけてないよ?」ツウッ……

少女「魔王様を、救う方法……」ポタッ……ポタッ……

妖精「……」

少女「ねえ、妖精さん。お願いだから嘘だって……悪い夢だって言って?」

少女「言ってよ……!」バンッ

妖精「……」フルフル

少女「やだ……こんな、の……」ボロボロ

少女「う、あ……ああああああああ……っ」

妖精「……」

820: 2013/11/04(月) 18:27:25 ID:KE9pX4VI

――――
――

夕食時

魔王「……少女はまだ部屋か。無理もないだろうな……」

側近「あの後脇目も振らずに城の中へ入って行きましたからね……」

魔王「……我らがおかしいのかもしれぬな。自分の命がかかっておるというのにこうして何時ものように食卓についておるのだから」

側近「……ええ」

魔・側「……」

――――
――

少女の部屋

側近「少女……いるか?」コンコン

少女「……」

821: 2013/11/04(月) 19:01:22 ID:KE9pX4VI

側近「(気配はするな……)入るぞ」ガチャッ

少女「……」スウスウ

妖精「!」キッ

側近「泣き疲れて眠ってしまったのか……こんなに目の周りを腫らして」スッ

妖精「」ペチッ

側近「……小妖精。これはお前が我らと出会う前から決まっていた事だ。お前にどうこうできる問題ではない」ジロッ

妖精「……!」ギリッ……

側近「ただ、これだけは言っておく……我らも少女を泣かせたいわけではない」スッ フワッ……

妖精「」ジッ

側近「お前は精々、そのちっぽけな頭で今の少女をどうすれば支えてやれるかを考えるんだな」スッ ファサッ……

妖精「!」キーッ

側近「ふん……少女と共に憔悴しきっていると思ったが、そうやって怒る元気は残っていたのか」ピンッ

822: 2013/11/04(月) 19:26:12 ID:KE9pX4VI

妖精「ッ!!!!」サスサス ムキーッ

側近「こちらの用は終わった。お前と話していても時間の無駄にしかならん……もう行くぞ」スタスタ

妖精「……」キッ

側近「……最後に1つ。お前だけは何があろうとも少女の傍にいてやれ」ガチャッ

妖精「!」

側近「こんな事をお前に頼むのは癪だがな」バタン……

妖精「……」

少女「んぅ……2人とも……何処にもいっちゃやだ……」ムニャムニャ

823: 2013/11/04(月) 19:44:02 ID:KE9pX4VI

――――
――

魔王の部屋

魔王「どうであった? 少女の様子は……」

側近「……泣き疲れて眠っておりました」バタン……

魔王「そうか……だが、それでも準備は進めねばならぬ……勇者を迎え入れるためにな」

側近「……ええ」

魔王「……そんな顔をするな側近よ。この10年、我は今まで生きてきた中で1番楽しかったぞ」

側近「! 魔王様……そんな事を仰るのはまだ」

魔王「酷な事を言うが、我の最期の時まで……しっかり頼むぞ」ジッ

側近「……」ギリッ

824: 2013/11/04(月) 20:09:00 ID:KE9pX4VI

魔王「ただ、やはり少女の事が気がかりだな……まあそこは忘却の魔法でもかけてどうにかするか」

側近「!? 少女に……ここでの日々を忘れさせると……?」

魔王「ああ。その方が都合が良いだろう? ついでにお前に拾われてここに住んでいたとでも改竄すれば良い」

側近「それは……あまりにも……」ワナワナ

魔王「何、発動させるのは我が氏んだ直後にするから心配するな。それ位なら今の魔力でも十分できるだろう。姫にはお前から言っておいてくれ」

側近「そういう問題ではありません……! 大体彼女の意志はどうなるんですか!」

魔王「確かに少女に黙ってこんな事をするのは心が痛む……だが、それで少女が悲しまずに済むなら良いではないか」

側近「あ……貴方という方は……何故そこまで……!」

魔王「どの道犠牲がなくては未来はない。それを嫌という程理解しておるだけだ」

側近「……ッ」グッ

825: 2013/11/04(月) 21:00:05 ID:KE9pX4VI

魔王「まあ、後は……私がお前の兄だからか」ポン

側近「!」バッ

魔王「本でしか見た事はないが、本来兄弟とはそういうものだろう? 私は姉上達や……こいつとは違う」グッ

側近「……兄上」

魔王「それを、行動で示したい……本当はそれだけなのかもしれぬな」

側近「……どっちなんだ、一体」

魔王「さあな。とりあえず今のは戯言として聞き流して……今日は休め」

側近「! だが……」

魔王「1度に多くの事を詰め込み過ぎただろう。それをゆっくり整理すると良い……『側近』よ」

側近「ッ……御意」ペコリ ガチャッ……バタン

826: 2013/11/04(月) 22:31:45 ID:KE9pX4VI

魔王「……我は酷い奴だな。兎よ」ポンポン

兎(ぬいぐるみ)「……」

魔王「だが、まあ……これぐらい非道な方が少しは魔王らしいかもしれぬ」

魔王「……嫌だと思うが、お前を道連れにして逝く事を許してくれないか?」

兎(ぬいぐるみ)「……」

魔王「でなければ……正直、挫けそうだ。この10年間は本当に幸せだったからな」モフッ……

兎(ぬいぐるみ)「……」

魔王「さて、我もそろそろ寝るか……体力を温存してできる限り最期までこいつを抑えておかねばならぬからな」

魔王「おやすみ……兎」ギュッ

兎(ぬいぐるみ)「……」

827: 2013/11/04(月) 22:54:42 ID:KE9pX4VI

――――
――

少女「はあっ……はあっ……!」タタタタッ……

少女「来ないで……お願い、来ないでっ……!」ゼエゼエ

『お前の願いを聞いてやる筋合いはない』ズズズ……

少女「い、いや……」

『ぎゃははははは! ほら、捕まえたぞ』ズルッ

少女「いやああああ! た、助けて側近さん……魔王様ぁ!!」ジタバタ

『んん~? 何をふざけた事を……そいつらなら』


『アソコデ首ダケニナッテ転ガッテイルダロウ?』

828: 2013/11/04(月) 23:15:04 ID:KE9pX4VI

少女「……!」パチッ

側近「ッ!」ギシッ

少女「え? そ、側近さん? ……良かった、生きてる……」ギュウッ

側近「しょ、少女……!」

少女「……あれ? 私寝惚けて……ってどうして側近さんがここにむぐっ!」

側近「すまんが少し静かにしてくれ……小妖精の奴が起きてしまう」グッ

妖精「」クゥクゥ……

側近「……」ホッ

少女「ん、んん~」ジタバタ

側近「! す、すまん」パッ

829: 2013/11/04(月) 23:34:19 ID:KE9pX4VI

少女「ぷはっ! はあっ……はあっ……」ウルッ

側近「……っ」ゾクッ

少女「く、苦しかった……それで、どうして側近さんが私の部屋に……?」ムクッ

側近「あ、ああ……そうだった。少女……」ジッ

少女「! な、何……?」ドキドキ

側近「今宵、お前にこれからの事について3つの選択肢を示しに来た……昼間のお前の状態を見て、早い方が良いと判断しこんな時間に……すまん」スッ

少女「あ……ううん、良いの。私の事を考えてくれたんでしょ? ありがとう……それで、その選択肢って?」

側近「ああ、まず1つは……このまま運命の日まで泣いて過ごして魔王様に記憶を消されるか」

少女「……え? な、何それ……記憶を消される?」パチパチ

側近「就寝前に魔王様がそう仰られたのだ……氏ぬ自分の事を忘れればお前は悲しまずに済むという、何とも愚かな考えをな」

少女「そ、そんな……!」

830: 2013/11/04(月) 23:48:30 ID:KE9pX4VI

側近「私も最初に聞いた時は驚いた……そうされるのは、嫌だろう?」

少女「やだ……魔王様の事を忘れるなんて絶対に……!」フルフル

側近「っ、そ、そして次に、とにかくすぐにでも立ち直って私と共に足掻くか」

少女「あ……でも」

側近「有力な勇者が見つかったからと言って、すぐにこちらへ誘導するわけではない……実は意外と猶予はある」

少女「え? そうなの……?」

側近「ああ。あの時すぐにお前にそれを伝えられなくてすまなかった」

少女「ううん、あの時の私に言ってもきっと耳に入ってこなかったよ……それを聞いてちょっと安心した」

側近「そうか……なら良かった」

少女「うん。私、できればそれを選びたいな……でも一応最後の1つも教えてくれる?」コテン

側近「……最後は、な。最も手っ取り早い」ドサッ

831: 2013/11/05(火) 00:28:13 ID:6rKzh1ts

少女「え? そ、側近さん……?」キョトン

側近「……今この場で私に喰われ、運命の日の苦しみから解放される事だ」ジッ

少女「側近さんに……食べられる……?」ドクン……ッ

側近「ああ。魔王様があのような事を仰った以上……私も覚悟を決めた」

少女(まるであの時の……夢の中みたい)

側近「怯えてくれても、嫌ってくれても構わん。だがお前が魔王様に記憶を捻じ曲げられる様を見る位なら、いっその事……」スッ

少女「ん……っ」ビクッ

側近「今の状態のお前を……私の一部にしてしまった方がマシだと思うのだ、私は」グルル……

少女「側近さんの……一部に?」

側近「魔王様から話は聞いているだろう? ……私がお前を食べたいと思っているけだものであるという事を」ペロッ……

少女「あ……」ゾクッ

側近「嫌なら拒め。そうすれば私は潔く身を引く……金輪際お前の近くにも行かん。お前にはそれを望む権利がある」

837: 2013/11/09(土) 13:12:51 ID:1JXF/1I.

少女「……」

側近「……恐怖のために声も出ないk」グイッ

少女「……側近さん」ギュッ

側近「!? 少女、お前……!」

少女「……私が魔王城に来てから10年。色んな事を貴方から教えられた」

側近「……」

少女「読み書き、お料理、お裁縫にお掃除……村にいた頃には考えられなかった生きる喜び」

少女「だからね、側近さんと魔王様に出逢えて……私は本当に幸せだったよ」

側近「少女……何を考えて」

少女「ねえ側近さん。貴方が食べたいと思っている私を目の前にして……何か辛い事はないの?」

側近「それは……」

少女「隠さないで言って? お願いだから……」ジッ

838: 2013/11/09(土) 13:27:51 ID:1JXF/1I.

側近「……ここが」スッ

少女(胸……?)ソッ

側近「お前が視界に入る度に酷く痛むのだ……お前を大切にしたいと思う気持ちと、食べたいという気持ちが相まってな」

少女「そっか……」ピトッ

側近「!」

ドクン……ドクン……

少女「えへへ、すごくどきどきしてるね……私とおんなじ」

側近「少女……」

少女「これは苦しいから? ……私を食べたら、側近さんの胸の痛みはなくなるの?」

側近「……」

少女「じゃあ……いいよ。側近さんになら、食べられてもいい。それで貴方の役に立てるなら」

側近「!」

839: 2013/11/09(土) 18:11:20 ID:1JXF/1I.

少女「今まで、側近さんが私に与えてくれたものには程遠いかもしれないけれど……私があげられるのはこの体位しかないから」

側近「少、女……」

少女「あ、できればあんまり痛くない方が嬉しいな……ひと思いにガブッてやって?」スッ

側近「何故……お前はそう簡単に自分の命を投げ出すのだ……!」

少女「違うよ……私は側近さんの中で生きていくの。側近さんの血になって、肉になって……一緒に生きるの」

側近「……!」

少女「だから、側近さんに私を捧げる事は、命を粗末にする事じゃないの」ニコッ

側近「あ……ああ……」ブルブル

側近(俺は……ずっと昔、同じような事を……ただ、あの時は一方的にこちらが……)

少女「……側近さん?」

840: 2013/11/09(土) 18:30:20 ID:1JXF/1I.

側近(あの時の貴方も……このような気持ちだったのか? いや、恐らくあの方はこんな醜い自分と違って純粋に……)

少女「側近さん……どうして泣いているの?」

側近「! あ……」ツウッ……

少女「そんなに胸が痛いの? じゃあ早く食べなくちゃ……! あ、食べやすいように脱ごうか?」グイッ

側近「……や、やめろ!」ガッ

少女「!」

側近「私が悪かった……だから、もうそんな事は言わないでくれ……!」ブルブル

少女「側近さん……でも……」オロオロ

側近(俺はなんて愚かなんだ。自分の欲ばかりが先走って……考えてみればすぐわかる事じゃないか)

側近(もし彼女を食べてしまえば……この愛らしい声も、笑顔も永遠に……)

側近「失われてしまうではないか……」ギュウッ……

841: 2013/11/09(土) 20:34:43 ID:1JXF/1I.

少女「?」キョトン

側近「少女」ジッ

少女「! は、はいっ」

側近「……すまんが、お前の血を少し飲んでも構わんか」

少女「血を?」

側近「ああ。拒んでも良い。だが、今湧き上がるこの醜い衝動を抑えるためには必要なのだ……」

少女「私を食べなくても良いの?」ズイッ

側近「もうそれは言うな……頼むから。このままでは別の意味で食べてしまいそうだ」

少女「? よくわからないけど、いいよ。でもどこから飲むの?」

側近「……手首だ」

少女「手首?」

側近「ああ。そこから貰う……本当に良いんだな?」

少女「う、うん……」ドキドキ

842: 2013/11/09(土) 21:38:30 ID:1JXF/1I.

側近「……では、いただこう」スッ

少女「ど、どうぞ……」

側近「……」カプッ……ブツンッ

少女「ッ……!」ビクッ

側近「ん……」ジュルッ……ゴクッゴクッ……

少女「ぅ、あ……」ゾワゾワ

側近「……」ピチャッ ゴクン……ッ

少女「そ、きんさ……ふああっ……」ガクガク

側近「……! す、すまん、飲み過ぎたか」ペロリ

少女「あ、ううん、大丈夫……どう? 痛みは楽になった?」クテッ……

側近「……ああ、お陰様でな」ナデナデ

843: 2013/11/09(土) 23:28:24 ID:1JXF/1I.

少女「良かった~……ねえ、私の血はどんな味なの?」フワッ

側近「……ノーコメントだ。それよりも痛かっただろう? すぐに手当てをしよう……お前の綺麗な肌に傷が残ってはいかん」

少女「そんなに、急がなくても大丈夫だよ……酷い噛み傷じゃないし」

側近「……お前は怖くないのか? お前を食べたいと思う私が」

少女「そりゃあ、最初はびっくりしたけど……側近さんだから、怖くないよ?」

側近「なっ……! ま、また何時お前を食べようとするかわからんのだぞ!? それでもか!?」

少女「うん、私は別に構わないよ……それで側近さんに恩返しができるなら。血だって……何度でもあげる」ニコッ

側近「……く、薬類を持ってくる。大人しくしていろ」ガチャッ……バタン

少女「あっ……行っちゃった」

少女「もう、大袈裟なんだから……もうほとんど血も止まりかけているのに」

少女「きっと手加減してくれたんだよね……やっぱり側近さんは優しいや」ヘラッ

少女「……」ジッ

844: 2013/11/10(日) 00:25:02 ID:Q0ZXtKWM

少女「ここから側近さんが……私の血を」ドキドキ

少女「なんでかな? 今更ながらどきどきしてきた……うう」カアアッ

少女「……」チュッ

少女「!? わ、私、何やってるの……!!? 側近さんがつけた傷跡に……!」アワアワ

少女「こんな所見られたらきっと変な子だって思われちゃう……!」ブンブン

少女「うう~……そんなのやだよ……」

少女「……側近さん。こんな子でごめんなさい……お願い、嫌いにならないで……っ」グスッ

側近「……遅くなったな、では手当てを……どうした少女! 傷が痛むのか!?」ガチャッ

少女「あ、そ、側近さん……私の事嫌いにならないで~」ウルッ

側近「!? な、何を言っている……そんな事ある筈がなかろう!」

少女「ふええっ……本当?」ギュウッ

側近「本当だ! だ、だから少女、とりあえず落ち着け! このままでは再びお前の血を飲まねば……!」オロオロ

845: 2013/11/10(日) 00:29:57 ID:Q0ZXtKWM

今回はここまで。
進まない……本当に進まない……!
どうやら側近と魔王は彼女の育て方を色々と間違えたようです(笑)
同じ人間よりも魔族の方が好きな人間……表現が難しいなー。

おやすみなさい。

847: 2013/11/10(日) 12:06:03 ID:Q0ZXtKWM

少女「あうう……はい」スッ

側近「こら、手当てしたばかりの手首を私の鼻先へ持っていくな! ……はっ」バッ

妖精「」ジトーッ

側近「しまった……」サーッ

少女「あ、妖精さん。起こしちゃってごめんね?」

妖精「」ワナワナ

側近「くっ……私はもう行く、おやすみ少女」バッ

少女「あ、う、うん……おやすみなさい。手当てありがとう」

妖精「……!」パタパタパタッ ガブッ

側近「痛っ、しょ、小妖精よ、やめろ……!」

少女「妖精さんっ、駄目だよ噛みついちゃー!」アワアワ

妖精「~~~!」キーキー

848: 2013/11/10(日) 12:34:40 ID:Q0ZXtKWM

側近「だからこいつを起こしたくなかったんだ! ぐ、離れろ小妖精!」

妖精「……! ……!!」ガブッガブッ

少女「よ、妖精さーん!」オロオロ

――――
――

翌朝 朝食時

魔王「少女……もう、大丈夫なのか? 気持ちの整理は……」

少女「うん、大丈夫。まだ時間があるって事は側近さんに教えて貰ったし……」

魔王「なら良いが……それにしても側近よ、その目の隈はどうした?」

側近「お気になさらず」

魔王「だが……」

側近「お 気 に な さ ら ず」ギンッ

魔王「う、わ、わかった……」

849: 2013/11/10(日) 15:10:30 ID:Q0ZXtKWM

側近(あの後、一晩中小妖精に追い回されながら噛まれていたと知られたら……)

妖精「♪~」モグモグ

少女「そういえば魔王様、勇者様が来るまでどうするの?」

魔王「うむ、それだがな……まずどうすれば彼らを上手い具合にこの城へ向かわせる事ができるかを考える」

少女「そっか……そこからなんだ」

魔王「ああ。今はまだ都からそう遠くは離れていまい。だが、ぐずぐずしていれば魔物が猛威を振るう地へと足早に去ってしまうだろうからな」

側近「勇者一行の動向がわかりやすい今のうちに……その問題をどうにかせねばならん」

少女「うう……ね、ねえ、また別の勇者様じゃ駄目なの? そんなに急がなくても……」

魔王「何を言っている」ジロッ

少女「っ!」ビクッ

魔王「我らは少女が生まれる前から待っていた……本当に強き者の出現を。これを逃せばまた何時になるかわからんのだぞ?」

少女「あ……(普段はあんまり怒らない魔王様が……こんな怖い顔を)」カタカタ

魔王「悪いが、こればかりは少女の意見を聞いてやるわけにはいかぬ」モグモグ

850: 2013/11/10(日) 17:55:24 ID:Q0ZXtKWM

側近「……」モグモグ チラッ

少女「……!」

側近「……」コクッ

少女「!」コクコク モグモグ

魔・妖「?」

少女(そうだよ……私も側近さんも、まだ諦めたわけじゃない)

少女(勇者様達が来る前に、絶対魔王様を助ける方法を見つけるんだ!)グッ

魔王「ご馳走様……おや?」チラッ

側近「どうかなさいましたか、魔王様……! あれは魔鳥?」

少女「魔鳥さん? お姫様からまた何か情報かな?」ガタッ

側近「少女。気が急くのはわかるが行くのは食べ終わってからだ」スッ

魔王「先に行っているぞ」ガタッ スタスタ……

851: 2013/11/10(日) 18:04:52 ID:Q0ZXtKWM

少女「あ、わ、私も……」ムグムグ

側近「あまり急ぐと喉に詰まらせるぞ? 待っているからゆっくり食べるんだ」

少女「んぐ……あ、ありがとう側近さん」

妖精「」ムーッ モキュモキュ……ペチンッ

――――
――

城の外

魔王「」フリーズ

側近「!? ま、魔王様……!」ザザザッ

少女「どうしたの!?」タタタッ

妖精「」パタパタ

魔王「……ああ、来たか。ちょっとこれを見てほしい……そして書かれている事を確かめてくれ」スッ

852: 2013/11/10(日) 19:58:25 ID:Q0ZXtKWM

側近「勿論です……拝見いたします」ジッ

少女「魔鳥さん、ありがとう」ナデナデ

魔鳥「♪」スリスリ

少女「あはは、くすぐったい~」クスクス

妖精「」パタパタ……ピトッ

少女「妖精さんも? ……ふふ」ナデナデ

妖精「……♪」スリスリ

側近「なっ……一体何を考えているんだあの姫君は」ワナワナ

少女「!? そ、側近さん、お姫様からは何て……?」

側近「……近いうちに自分を迎えに来てほしい、さもなくばもう勇者一行の情報は流さない。更に父……王に我らの事を暴露する、と」クシャッ……

少女「え……そ、そんな、どうして?」

魔王「……やはりそう書いてあったか」ハア……

853: 2013/11/10(日) 20:18:51 ID:Q0ZXtKWM

少女「何かの間違いじゃ……私にも読ませて!」バッ

側近「……そうだな、自分で見た方が納得するだろう」スッ

少女「……嘘……なんで……これ、確かにお姫様の字だよ」ペタン

魔王「本当に何を考えているんだ……姫」

側近「何時までも呆けていても仕方ありません……如何なさいますか」

魔王「くっ……やむを得ん、明後日に迎えに行くと返事をしておけ」

側近「……御意」ザッザッ

少女「お姫様……」

妖精「」オロオロ

魔鳥「クエェ……」ショボン

854: 2013/11/10(日) 23:17:00 ID:Q0ZXtKWM

――――
――

二日後 都前

姫「……お久しぶりです」ペコリ

側近「まさか、貴女があのような事を書いて寄越してくるとはな……」ジロリ

姫「返す言葉もございません……ですがどうか、申し開きをさせてください」

側近「我らがどんな思いで貴女にすべてを打ち明けたのか……理解していただけていると思っていたのだが」

姫「……それは痛い程承知しております」

側近「では何故あのような事を!? 事と次第によっては……」ギリッ

姫「覚悟はできております。下手をすれば、あなた方の信頼を踏み躙ってしまうような事を書いたのですからね」スッ

側近(……僅かとはいえ、殺気を飛ばしているにも関わらず……物怖じせずこちらを見返してくるか)

855: 2013/11/10(日) 23:28:39 ID:Q0ZXtKWM

姫「ですが……私も後悔はしたくないのです」

側近(変わり者であろうと……やはり姫だな)

側近「……続きは我らの城で聞こうか」クルリ

姫「……ええ、お願いします」スタスタ

――――
――

魔王城 謁見の間

魔王「姫……」

少女「お姫様……どうして……」

姫「……流石に、今回はお出迎えはなしですよね。わかっておりました」

魔王「……我は悲しみよりも、怒りよりも……驚きが大きい。正直、今でも信じられぬ」

姫「ごめんなさい……ですが、あなた方にそんな顔をしてほしくて文を送ったわけではありませんの」

856: 2013/11/10(日) 23:39:43 ID:Q0ZXtKWM

少女「じゃあ、なんで? 何か理由があるんでしょ!?」

魔王「こんな事は言いたくはないのだが……我らはもう、貴女に付き合っている余裕はない。それは姫、貴女が1番良く分かっている筈だ」

姫「ええ。わかっております……これは私の我儘ですわ」

側近「……聞こう」

姫「……あなた方のお役に立ちたいのです。私の……かけがえのない親愛なる友人達」

魔王「姫……まさか」

姫「単刀直入に言いますわ。どうか私に……勇者様ご一行をこちらへ誘導する手助けをさせてください」

865: 2013/11/16(土) 21:14:10 ID:aunY53pk

少女「!? 何を……何を言っているのお姫様!」

側近「貴女は奴の恐ろしさを知らない……こうしている今も魔力を通して貴女の事を値踏みしているやもしれんのだぞ!?」

魔王「……姫。我らは貴女をこれ以上巻き込みたくはない。これは貴女の立場を気にしているだけではなく……貴女と同じ様な気持ちを抱いているからだ。どうかそれを……わかってほしい」

姫「……ありがとうございます。ですが、だからこそ私は皆さんに協力したいと思うのです」

少女「協力って……お姫様はもう十分……!」

姫「こんな事を言って、あなた方を困らせているのは自分でもよくわかります」

姫「ですが、私はもう……これ以上目の前で大切な人を失いたくない。弟の時のような思いは2度としたくないのです……!」ツウッ……ポタッ

側近「姫……」

姫「私の業を良く知っているあなた方なら……わかって、くださると……」ボロボロ

魔王「……」

866: 2013/11/16(土) 21:31:30 ID:aunY53pk

姫「姫の癖にみっともないと……呆れてくださっても、笑ってくださっても構いません」

姫「ですが、どうか……ほんの少しでも良いから……わた、くしの……きもちも……」ポタッ……ポタッ……

魔王「……姫、もう良い」

姫「!」

魔王「正直、我も……貴女を利用するという手を、考えた事がないと言えば嘘になる」

側・少「「!」」

魔王「このような外道を……貴女はそれでも親愛なる友人と胸を張って言えるか? まだ助力したいとお思いか?」ジッ

姫「! ……はい。貴方が何の迷いも躊躇いもなく、そんな事を考えるような方ではない事は良く知っておりますから」ゴシゴシ キッ

867: 2013/11/16(土) 22:26:24 ID:aunY53pk

側近「……姫はこう言っておりますが、如何なさいますか」

少女「魔王様……」

魔王「……貴女が」

姫「え?」

魔王「貴女が城のみならず都そのものからいなくなった事を知っている者は?」

少女「!」

姫「……今の所は給仕のみです。彼女には……私から3日間何の音沙汰もない時は、周囲にさらわれたと知らせるよう言いつけております」

魔王「誰に」

姫「っ……魔王、様に」

魔王「……成程」

姫「ごめんなさい……幾ら事が一刻を争うとはいえ、このような事を勝手に……」

魔王「……やはりそれしかないか」

868: 2013/11/16(土) 23:16:16 ID:aunY53pk

側近「! では……」

魔王「ああ。正直気は進まぬが、だからと言ってここまで我らのために腹を括ってくれている姫の気持ちを無碍にしては……悔いが残る」

側近「……貴方様がそう仰るなら、私はそれに従いましょう。同じく気は進みませんが」

少女「で、でも魔王様……!」

姫「魔王様……ありがとうございます」ペコリ

魔王「姫、本当に良いのだな? ここまで来ればもう後戻りはできぬ……下手をすれば命を落とすかも知れんのだぞ」

姫「何と言われようと、私の意志は変わりません。私は姫ではなく……友人として最後まであなた方と共に在りたいと思うのですから」

少女「お姫様……」

魔王「それにしても側近よ、我もお前の事は言えぬな。少女以外の娘の涙に負けるとは……女の涙は恐ろしいな」

側近「……理解していただきありがたく思います」

869: 2013/11/16(土) 23:47:19 ID:aunY53pk

――――
――

少女の部屋

姫「少女さん、まだ……怒っていますか?」

少女「……」プイッ

妖精「」オロオロ

姫「あなた方の事に深入りし過ぎてしまい、本当に申し訳なく思っています。足手まといにはならないようにしますから……」

少女「……には」

姫「え?」

少女「私は……お姫様には待っていてほしかった!」クルッ

姫「!」

少女「思えば唐突に……本当に唐突に勇者様の事をお姫様は知らせてきたよね?」

姫「少女さん……」

870: 2013/11/17(日) 00:01:12 ID:./ng8Quk

少女「わかってる、ちゃんとわかってるんだよ!? お姫様にそれを頼んだのは私達なんだから……!」

少女「でも私は……こんな日が来なければいいって、ずっと思ってた!」

姫「……そうですわね、本当に」

少女「その後、側近さんと改めて魔王様のために頑張るって決めて……やっと少しずつ落ち着いてきたんだよ? 私」

少女「魔王様の封印の問題をちゃんと解決して、完全に自由になれて……その後に改めて、お姫様と会いたかった」

少女「それなのに……どうして!」キッ

姫「……貴女の心中も知らず、勝手な事をしてごめんなさい。ですが」ギュッ

少女「!」

姫「やっぱり、待つのは私の性に合いませんわ」

871: 2013/11/17(日) 00:29:50 ID:./ng8Quk

少女「お姫様……」

姫「肝心な時に指をくわえて見ているだけだなんて、そんなのお友達失格ですしね」ナデナデ

少女「……うう」

姫「それに、今のうちからそんなに気を張っていては勇者様が来た時に何か失敗してしまうかも……」

少女「! それは駄目!」

姫「でしょう? ならその日までできるだけ何時も通りに近い気持ちでいましょうよ。リラックスして」

少女「……お姫様はあの怖さを知らないから、そんな事が言えるんだよ」

姫「あら、どれだけ怖い存在でも、勇者様と魔王様、それに側近さんがいれば無敵ですわ」

少女「そうかな?」

姫「ええ、きっとそうです!」ニコッ

少女「……だと良いな」ギュッ

872: 2013/11/17(日) 00:34:02 ID:./ng8Quk
少し変えます。

姫「あら、どれだけ怖い存在でも、勇者様と魔王様、それに側近さんがいれば無敵ですわ」



姫「あら、どんなに恐ろしい存在でも、魔王様と側近さん、それに勇者様がいれば負けませんわ」

873: 2013/11/17(日) 00:46:47 ID:./ng8Quk

姫「! 許してくれるんですの?」

少女「……完全にじゃないけど」

姫「それでも構いません」

少女「……本当はね」

姫「はい」

少女「お姫様が来た時……少しだけ嬉しかったんだ。おかしいよね? こんな時なのに」

姫「! いいえ、そんな事はありません。そう思っていただけて私こそ嬉しいです」

少女「お姫様……」ジワッ

姫「一緒に運命の日を乗り切りましょう……ね?」ニコッ

少女「……うん……!」ポロポロ……

妖精「」ホッ

877: 2013/11/17(日) 13:19:48 ID:./ng8Quk

姫「妖精さんも」クルッ

妖精「!」

姫「……私がここにいる事をどうか許してはくださいませんか?」

妖精「」パタパタ……ピトッ

少女「……妖精さんは元から大歓迎みたいだね。何だか妬けちゃうよ」

姫「妖精さん……ありがとうございます」ナデナデ

妖精「♪」スリスリ

少女「あ……そろそろお昼の時間だから、行こうか」チラッ スッ

姫「ええ、もうお腹ペコペコですわ~」スッ

少女「ほ、本当にのんきだねお姫様」

姫「せめて強かと仰ってくださいな。腹が減っては戦はできぬ、と言いますでしょう?」ニコッ

少女「それはそうだけど……」

姫「さあさあ、行きましょう!」グイグイ

878: 2013/11/17(日) 13:34:20 ID:./ng8Quk

少女「ちょ、行くからそんなに押さないで……!」アワアワ

妖精「」パタパタ……ニコッ

――――
――

昼食時

魔王「……食べ終えたら、今後の事について少し話したいと思う」モグモグ

少女「! もう決まったの?」

側近「元々、さっきも魔王様が仰ったように姫君を使うという手を考えていなかったわけでもないからな。ただ、叶わぬ事を前提としていたが」

魔王「そういう事だ。姫、こうなったら遠慮なく貴女の身を使わせて貰うぞ」

姫「望むところです。あなた方のためになるのなら、この身など全く惜しくなどありません。とことん利用してくださいませ!」ドンッ

魔王「……どうかそのような事は言わないでくれ。我はできれば貴女にはこれからも生きていて欲しい」

姫「勿論、生への希望も捨ててはいませんわ! 皆さんの分もね」ニコッ

少女「お姫様……」

魔・側「……」

879: 2013/11/17(日) 14:51:02 ID:./ng8Quk

姫「それにしても、側近さんの作るご飯は本当に美味しいですね……少女さんのもそうですが」モグモグ

側近「……そうか」

姫「ええ。できることなら、これからも食べたいものですわ……」

妖精「……」モグモグ ゴクンッ……ペチン

――――
――

魔王「まず、すぐにでも姫がここにいる事を勇者達に知らせる必要がある。そこで側近、お前には明日にでも都に行ってもらう」

側近「……御意」

魔王「到着後はすぐに……姫の情報を酒場なり市場なり、とにかく人の多い場所へ流すのだ……まあ、お前がその場でローブを剥ぎ取ってしまえば話は早いかもしれんな」

少女「! 魔王様、それは流石に……」

側近「そうですね。騒ぎになって更に情報の広がりが早くなりましょう」

少女「側近さん……!」

880: 2013/11/17(日) 15:06:51 ID:./ng8Quk

魔王「うむ、後は駄目押しでその場で転移魔法でも使えば完璧だな……その間、我は城内の準備をしておこう」

姫「準備とは……どのような事を?」

魔王「奴が封印されている部屋の術を、更に強固なものにし……それに並行してこの魔王城全体を覆う結界を展開する」

少女「やっぱり……そんなに大きな戦いになるの?」

魔王「恐らくな。だが、それ以外の理由もある」

少女「?」

魔王「本命の勇者一行以外の者達をな、間違っても中へ入れないようにするのだ」

少女「! それって……」

魔王「犠牲はやはり少ない方が良いだろう? 故に我らと、一定以上の力を持つ者以外は入れぬように設定しておく」

姫「魔王様……貴方はそこまで考えて……」

881: 2013/11/17(日) 15:29:24 ID:./ng8Quk

魔王「我の今ある魔力でできる精一杯の配慮だ……ないよりはマシだろう」

姫「十分過ぎる程ですわ……嗚呼、貴方の真実を人々に伝えられればどんなに良いか」

魔王「それは無理だ。先代を含め、これまでの魔王が悉く人間を虐げてきた事は紛れもない事実。まず信用されぬだろう」

側近「……故に、こうして行動で示さねばならない。本当に難儀な事です」

魔王「ああ。骨が折れる作業だが、今やらねばこれまでやってきた事が水の泡となるからな」

少女「あの……その間私達はどうするの?」

側近「お前達にやらせる事は、今の所これといってないが……せいぜい、姫に危険な場所を把握させる事位か」

少女「……なら、私側近さんの都行きに着いていきたい」

側近「なっ……!」

魔王「何を言っておるのだ少女! そうすればお前まで悪目立ちしてしまうぞ!?」

882: 2013/11/17(日) 16:16:54 ID:./ng8Quk

少女「でも、もしかしたらそれが役に立つかもしれないでしょ? 都では私をどう使っても良いから! それに、これを逃したらもう2度と一緒には……」

姫「少女さん……」

少女「……我儘言ってごめんなさい。やっぱり駄目だよね」

側近「……良いだろう」

魔王「側近!?」

妖精「!?」

側近「魔王様、お気持ちはわかりますが少女の申す事にも一理あります……どうか許可を」

魔王「だが……!」

姫「……要は今日のうちに危険な場所を覚えてしまえば良いんですよね? 少女さん」

少女「お姫様……!」

魔王「ひ、姫まで何を言い出すのだ……!」

883: 2013/11/17(日) 17:28:24 ID:./ng8Quk

姫「魔王様……貴方はご自分に悔いが残るのは嫌で、少女さんは良しとなさるのですか?」

魔王「ッ……!」

姫「そうでないなら……私が言えた義理ではございませんが、彼女の可愛い我儘を聞いてやってはどうですか」

魔王「くっ……少女」

少女「は、はいっ……」ビクッ

魔王「……都へ行っても、側近の許可なく勝手な行動をしないと約束できるか?」

少女「! ……はい! 魔王様ありがとうっ!」

妖精「~~~!」ブンブン

少女「妖精さん。心配してくれるのはわかるけど……私も後悔したくないの」

妖精「……」

少女「ごめんね……」ギュッ……

妖精「」パタタ……ギロッ

側近「……ふん。お前にそんな顔をされずともわかっている」

884: 2013/11/17(日) 17:51:09 ID:./ng8Quk

――――
――

少女「側近さん、無理を言ってごめんなさい……でもありがとう」パタパタ

側近「いや……それよりも少女、先程の言葉に嘘偽りはないか?」ザッザッ……ピタッ

少女「え?」

側近「お前を……どう使っても良いと」ジッ

少女「あ……う、うん」コクン

側近「では、私が都でお前に何をしようと……例えそれを不快に感じても」スッ……トン

少女「……っ」ビクッ

側近「……文句は言わんな?」

少女「……言わ、ない……私が、言いだした事だから」フルフル

側近「なら良い。そうと決まればすぐに姫君に教え終えるんだぞ?」スッ……ザッザッザッ

少女「うん……」ドキドキ

885: 2013/11/17(日) 18:04:24 ID:./ng8Quk

――――
――

姫「まあ、側近さんが……部屋の確認の途中でそんな事を?」テクテク

少女「うん……いきなり壁に追い詰められちゃって、少しびっくりしたよ」テクテク

姫「それで改めて都行きに関する確認をされた……と言う事は」

少女「と言う事は?」

姫「……側近さんは都で、余程少女さんにとってとんでもない事をするのでは」

少女「! そ、そうなのかな……?」

姫「そうとしか考えられませんわ。そうやって追い詰めて、これ以上の事をすると言外に……嗚呼っ」カアッ……

少女「な、なんでお姫様が赤くなるの……!」

姫「し、仕方ないじゃありませんか! 寧ろ少女さんが鈍過ぎるんですよ!」

少女「そうかなー」

886: 2013/11/17(日) 18:17:34 ID:./ng8Quk

姫「そうですよ! もしも妖精さんがその場にいたらどうなっていた事か……」

少女「……前にもあったけど、お姫様に改めてそう言われると」

姫「?」

少女「今更ながら……は、恥ずかしくなっちゃうよ……! どうしようお姫様!」アワアワ

姫「お、落ち着いてください少女さん! ほ、ほら、もうすぐ少女さんのご案内はおしまいでしょう?」ギュッ

少女「あうぅ……うん」モジモジ

姫「とにかく早く済ませてしまいませんと……お部屋でお昼寝している妖精さんが起きてしまいますわ!」スタスタスタ……

少女「そ、そうだね」パタパタパタ……

少女(これじゃあどっちが案内されているのかわかんないや……もっとしっかりしないと)キッ

887: 2013/11/17(日) 18:36:56 ID:./ng8Quk

姫「……それで、あの扉が」スタスタ……ピタッ

少女「うん……封印のお部屋だよ。ずっと昔に妖精さんと入って以来1度も入ってないけど」ピタッ スッ

姫「気のせいでしょうか……いるだけでじわじわと怖気がこみ上げてきますわ」ブルッ

少女「扉からこれだけ離れていてもこうだからね……どう? 少しは危機感を持ってもらえたかな」

姫「はい……正直、甘くみておりました。この扉を開けた先に、何が待っているのかを考えただけで……」クラッ

少女「お姫様、しっかり!」ギュッ

姫「す、すいません……とにかくここには絶対に近付きませんわ」

少女「それが賢明な判断だよ。じゃあ、戻ろう」クルッ

姫「ええ」クルッ

――「ククク……玩具が2つに増えたな」

少・姫「!」ビクッ

888: 2013/11/17(日) 18:44:32 ID:./ng8Quk

――「この忌々しい拘束から……解放される日が楽しみだ……」クスクス

少・姫「――ッ!!」ダダダッ……

――――
――

少女の部屋

ガチャッ……バタンッ

少女「はあっ……はあっ……」

姫「はーっ……はーっ……あ、あの声……!」ブルブル

少女「うん……」

姫「少女さん……貴方達は一体どれ程のものを背負っているんですか……!」

少女「あはは……1番辛いのは魔王様だけどね」

姫「! そうでした……あんなものを長い間ずっと……」

889: 2013/11/17(日) 20:57:04 ID:./ng8Quk

少女「うん……そのせいで私なんかじゃ全然想像つかない位長い間、魔王様はこのお城に縛り付けられてる」

姫「……」

少女「側近さんも、それを支えるために……同じようにここに囚われてる」

姫「……ええ」

少女「私は、そんな2人に自由になってほしい。お姫様もそう思うでしょ?」

姫「それは……言うまでもない事です」

少女「……じゃあ、改めてお願い。あの扉を見せた後で悪いけど……そのために一緒に戦って。最後まで」ジッ

姫「少女さん……」

少女「こんな事を頼めるのは……お姫様しかいないの……!」ジワッ

姫「……」ギュッ

少女「!」

姫「言った筈です。友人として最後まで貴女方と共にありたいと。その気持ちは変わりません」

少女「お……ひめ、さ……」ポタッ……

890: 2013/11/17(日) 21:14:55 ID:./ng8Quk

姫「今まで、この城の唯一の人の身であれと共に10年も……よく頑張りましたね」ナデナデ

少女「――ッ!」ボロボロボロッ……

姫「……ごめんなさい、また泣かせてしまって」ポンポン

少女「~~~!」ブンブン

妖精「……!」パチッ……パタパタパタッ

姫「あら妖精さん、丁度良いタイミングで……どうか少女さんを落ち着かせるのを手伝ってくださいな」

妖精「!」コクンッ

――――
――

夕食時

魔王「少女」

少女「なあに? 魔王様」モグモグ

魔王「……昼よりも少し表情が穏やかになったな」

891: 2013/11/17(日) 21:30:48 ID:./ng8Quk

少女「そうかな?」

魔王「ああ。お前もそう思うだろう? 側近」

側近「ええ……何かあったのか?」

少女「んーと……」チラッ

姫「ふふ、ただ単に気持ちがすっきりしただけですわよね、少女さん?」ニコッ

少女「! うん、そうだね」

魔・側「?」

妖精「♪」

少女「さて、明日のためにしっかり食べなくちゃ!」ムグムグ

姫「ええ!」モグモグ

892: 2013/11/17(日) 21:40:43 ID:./ng8Quk

魔王「……まあ、何にせよ少女が元気な事は良い事だ」

側近「本当に……そうですね」

魔・側((もしや姫の存在が、一種の安定剤になっているのやもしれんな……))

妖精「」ハムハム……ペチン

――――
――

少女の部屋

少女「そういえばお姫様、今日もここで寝るの?」

姫「ええ、できればそうしたいのですが……いけませんか?」

少女「ううん、そんな事ないよ。寧ろ大歓迎!」

姫「それは良かった」

妖精「♪」ルンルン

少女「ほら、妖精さんも喜んでるしね」

893: 2013/11/17(日) 22:05:44 ID:./ng8Quk

姫「では、今夜も……嗚呼、程々にしなければいけませんね。明日のためにも」クスクス

少女「そうだね……あ、そう言えばお姫様」

姫「何ですか?」

少女「……私が都に行きたいって言った時、加勢してくれてありがとう」ペコッ

姫「そんな、私は大したことはしておりませんわ。下心だってありましたし」

少女「下心?」

姫「ええ。だって少女さんが側近さんと都に行けば、その間私はほぼ魔王様とお城で……ふふっ」

少女「! あ、そっか」

姫「そういう事です。もしかしたらお話する暇もないかもしれませんが……」

少女「うん……きっと大量に魔力を消費するから疲れちゃうと思う。だから、私達がいない間、もしそうなったらできる範囲で支えてあげてくれる?」

姫「お任せください!」グッ

894: 2013/11/17(日) 22:25:01 ID:./ng8Quk

妖精「」クイクイ

少女「! うん、勿論妖精さんも忘れてないよ」ナデナデ

姫「思えば何時も置いてけぼりでごめんなさいね……」ツンツン

妖精「」フルフル

姫「良く考えてみたら、妖精さんはずっとお友達として少女さんを支えてきたんですよね……感服しますわ」

少女「うん。初めて会った日から何度も助けて貰ってるよ」

妖精「……」テレテレ

少女「離れ離れになってた時もあったけど、ほとんどずっと一緒だもんねー」ニコニコ

姫「そういえば、たまには元いた場所へ帰らなくて良いんですの? 今更ですが」

妖精「」コクン……クイクイ

895: 2013/11/17(日) 22:33:52 ID:./ng8Quk

少女「! はいはい、インクと羽ペンと紙ね」ゴソゴソ

姫「ふふ、今回はどんな事を教えていただけるんでしょうね?」

妖精「♪~」

少女「はい、どうぞ」スッ

妖精「!」ペコッ スッ カキカキ……

姫「焦らず、ゆっくり書いて良いですからね~」ワクワク

少女「そうそう」ニコニコ

妖精「」カキカキ……ニコッ

899: 2013/11/23(土) 16:04:44 ID:aFLtvoWM

――――
――

翌日


側近「……それでは、行って参ります」ペコリ

魔王「うむ……頼んだぞ」

姫「お2人とも、どうかお気をつけて」

妖精「」パタパタ……

少女「魔王様も、あまり無理はしないようにね」

魔王「わかっておる……少女もな」ナデナデ

少女「うん……じゃあ、行ってきます」ペコッ

側近「……」シュウッ……――

少女「」フワッ……スッ

魔・姫「……」

妖精「」ハラハラ

900: 2013/11/23(土) 16:15:17 ID:aFLtvoWM
名前欄、お見苦しい所を失礼しました。


――――
――

都の前

少女「……」ドキドキ

側近「……緊張するか」

少女「う、うん……久しぶりの都だし、それに……」

少女(人の目を引きつけるために……側近さんにどんな事をされるのかも……)

側近「……とにかく、私から絶対に離れるなよ?」ザッザッ

少女「は、はい……っ」テクテク

側近「……」

901: 2013/11/23(土) 16:32:02 ID:aFLtvoWM



ザワ……ザワ……

少女「ま、待って側近さん……」

側近「……」

チラッ……ヒソヒソ……

少女(変だな……まだ何もしていない筈なのに、やたらと見られている気がする)

側近「……そろそろか」スッ

少女「え?(まだ人通りはそんなに多くないのに……?)」

側近「」バサッ

少女「!」

『!?』

『な、なんだあいつ……人間じゃねえ! 魔物だ!!』

『ば、化け物!!』

『キャーッ!』

902: 2013/11/23(土) 17:35:45 ID:aFLtvoWM

側近「ククク……愚かな人間共よ……たった数十年間の平和の味はどうであった?」

少女(そ、側近さん……)

側近「今や偉大なる我らが魔王様は復活を遂げられ、その景気づけに昨日……ここの姫をさらわせてもらったぞ」

『何だと!?』

『そう言えば昨日から全然お姿を……』

『姫様あ……!』

側近「お前達がそうやって間抜け面を晒している間にも、姫は魔王様から絶え間なく辱めを受けているぞ」クックッ

側近「こんな風にな」クイッ

少女(!? 体が勝手に……側近さんの方へ)トンッ

側近「んっ……」カプ……ブツンッ

少女「ッ、うあ、あああ……!」ズキンッ

903: 2013/11/23(土) 18:05:42 ID:aFLtvoWM

『ひ、ひでえ……あの子の首から血を啜ってやがる……っ』

『このけだもの! その子を放しなさいよ!!』

『姫様を返しやがれ!!』

側近「はあ……やはり処Oの生き血は美味いな。だが魔王様はこの程度では済まさんぞ?」ジュルルッ……ペロッ

少女「うう、い、痛い……」ポロポロ

側近「口先だけで何もできない愚かな豚共よ……薄っぺらい正義感で姫とこいつを開放したければ見苦しく泣きつくがいい」

側近「王に、兵士に、勇者に……これは魔王城からの宣戦布告だと伝えるが良い。魔王様は目覚めたばかりで退屈しておられる……精々足掻いて我を楽しませろとの仰せだ」

側近「本当はお前達も皆頃しにしてやるところだが……今回ばかりはそれを広めるための駒として特別に生かしておいてやろう」フワッ

少女「あ……ああ……」グッタリ

側近「今再び、我ら魔族の時代が始まるのだ……!」キィィン……フッ

『た、大変だ……』

『王に知らせなければ……!』

『都の近くにいる猛者達にも……これは一大事だ!!』

904: 2013/11/23(土) 20:01:40 ID:aFLtvoWM

――――
――

森の中

側近「……」スタッ

少女「う……」ドクドク……

側近「少女……すまない。さぞ痛かっただろう……不快だっただろう」ギュウッ

少女「側近……さん……」

側近「本当はあんなに飲むつもりはなかった……だが、お前の血は……俺を……っ」ブルブル

少女「……」ギュ……

側近「!」

少女「い……やじゃ、ないよ……ちょっと、痛かったけど」ニコ……

側近「少女……」

少女「あの時、側近さんが……苦しそうな顔をしてたの、知ってるから……」

側近「……!」スッ……ポゥッ……

905: 2013/11/23(土) 21:37:23 ID:aFLtvoWM

少女「! あった、かい……」トロン

側近「……そういえば治癒魔法をかけたのは初めてか」

少女「うん……思えば何時も、怪我や病気になった時は包帯やお薬を使ってくれてるよね」

側近「何でも魔術に頼り過ぎるのはよくないからな……もしも使えない状態に陥った時に大変な事になる」

少女「だからお料理もお掃除も自分でやるんだね……」

側近「ああ……お前もだろう?」

少女「うん、側近さんが教えてくれたから」ニコッ

側近「……」カアッ……

少女「そう言えば、さっきも何か術を使ったの? すぐにあんなに注目されたのは」

側近「そうだ。あの時のお前は傍目から……ボロボロの服を纏い、首と手足が鎖で繋がれた状態に見えていた。幻術でな」

少女「なるほど……それは気付かなかったよ」

906: 2013/11/23(土) 21:52:07 ID:aFLtvoWM

側近「……不快だろう」

少女「え?」

側近「知らなかったとはいえ、自分が他人からそのように見えていたのは」

少女「ううん、大丈夫! 私がついてくるって言いだしたんだしね。それに……これで側近さんの役に立てたんだし」

側近「本当にそう思っているか?」

少女「うん。それでも、少しでも私のそんな姿を見られる時間を減らすために、側近さんは……早めにあんな事をして、都から出てくれたんでしょ?」

側近「……」

少女「流石に、首から血を飲まれたのはびっくりしたけど……」

側近「まだ、痛むか?」

少女「もう平気だよ。側近さん、ありがとう」フワッ

側近「……私がつけた傷に責任を取っただけだ。大した事はしていない」

907: 2013/11/23(土) 22:07:35 ID:aFLtvoWM

少女「それでも嬉しいよ。お陰ですっかり傷も治ったしね」

側近「そうか」

少女「あ、でも側近さん。もっと飲まなくて大丈b」

側近「大丈夫だ、問題ない」

少女「そう? なら良いけど……」

側近「はあ……お前はよくそんな余裕があるな。考えても見ろ」

少女「?」

側近「……今この場には、お前の血を啜るけだものとお前しかいないんだぞ?」

少女「側近さん……私はそんな風には」

側近「いや、血だけではない……こうやって」ドサッ

少女「!」

側近「下手をすれば、お前のすべてを奪いつくしてしまいかねん」

908: 2013/11/23(土) 22:25:58 ID:aFLtvoWM

少女「……前も言ったでしょ? 私は側近さんになら食べられても良いし……何をされても構わないよ?」

側近「! 本当に、お前と言う奴は……」スッ……

少女「? 何で隣の木に……」

側近「……」ゴンッ!

バキッ、メリメリメリ……バササッ、バサバサバサッ!!

少女「! あ、あわわ……側近さん、木が……それに頭……!」オロオロ

側近「落ち着け、自分へのちょっとした戒めだ」

少女「でも……」ソッ……ナデナデ

側近「……」

少女「痛いでしょ?」ウルッ

側近「~~~ッ! こ、これでは意味が……!」

少女「?」

側近「……はあ、もう良い」ポスンッ

909: 2013/11/23(土) 22:38:28 ID:aFLtvoWM

少女「!」

側近「お前の気持ちに付け込んで悪いが……気力が回復するまで少しの間だけ肩を貸してくれ。体重はなるべくかけないよう努める故」

少女「……えっと」スッ

側近「?」

少女「よいしょ……こっちの方が楽じゃない?」ナデナデ

側近(!? 膝枕……だと……)

少女「やっぱり嫌……?」

側近「そんな事を言ったら罰が当たる」

少女「そう?」

側近「ああ。では……遠慮なく」スッ

少女「ふふ、どうぞ~」ニコニコ

910: 2013/11/23(土) 22:50:14 ID:aFLtvoWM

側近「……」ボーッ

少女「♪~」ナデナデ

側近「……魔王様が大変な時にこうしているとは……私は側近失格だな」

少女「魔王様は優しいから、きっと許してくれるよ。何より側近さんは何時も頑張っているし……これ位大丈夫だよ」ナデナデ

側近「だと良いが……少女、注文をつけて悪いが……」

少女「なあに?」

側近「……良ければそのまま、頭を撫で続けていてくれないか」ウツラウツラ

少女「! お安い御用だよ」ナデナデ……

側近「ありがとう……思えば、こうされるのも……こんなに安らいだ気持ちになるのも……」

側近「初めて……だ……」スウッ……

911: 2013/11/23(土) 23:10:47 ID:aFLtvoWM

少女「……側近さん、寝ちゃったの?」コテン

側近「……」

少女「余程気を張っていたんだね……何時もお疲れ様」ナデナデ

少女(……そう言えば、こうして側近さんの寝顔を間近で見るのは初めてだな)ジッ

少女(短くて硬めの青い髪……額に角がある少し狼に似た顔……人とは似ても似つかないけれど、私は大好き)

少女(それでも魔王様と似通っているんだから、兄弟って凄いな~)マジマジ

少女(……あれ? な、何だかどきどきしてきた……お姫様もいないのに)カアッ……

少女(考えてみたら、こうして誰かに膝枕するのは初めてかも……)

少女(というか、どうしてあんなに普通の流れでこうなったの……?)

少女(帰ったら、お、お姫様に……相談、しなきゃ……!)アワアワ ナデナデ

少女(……そう言えば、魔王様達は大丈夫かな?)

913: 2013/11/24(日) 14:34:41 ID:o.tIGLPk
こんにちは。
最近ますますPCの調子がおかしな事に……名前欄もすぐ真っ白になるし。

とりあえず今回も進めていきます。

914: 2013/11/24(日) 14:47:51 ID:o.tIGLPk

――――
――

同時刻 魔王城

魔王「……」ザッザッ

姫「……」テクテク

妖精「」パタパタ

魔王「……そなたにはここでしばし待っていてもらう」ピタッ

姫「ここは……確か宝物庫、でしたか」

魔王「そうだ。よく覚えていてくれたな」

姫「少女さんが一生懸命教えてくださいましたからね。それで、ここに何が?」

魔王「……そなたと少女に今のうちに渡しておきたい物がある」

姫「渡しておきたい物……ですか」

魔王「ああ。所謂万が一の時の備えというものだ……では」ガチャッ……バタン

915: 2013/11/24(日) 15:14:24 ID:o.tIGLPk

姫「……」

妖精「」ピトッ

姫「妖精さん……少女さんも、側近さんも……本当に大丈夫でしょうか」ツンツン

妖精「!」

姫「勿論、信じていないわけではありませんが……」

魔王「ぐ、あぁ……っ」

姫「!? 魔王様、如何なさいました!?」ギュッ

魔王「あ、開けるな姫! 心配ない……」

姫「魔王様……ですが」

魔王「頼む……」

姫「っ……わかり、ました……」グッ

妖精「」オロオロ

916: 2013/11/24(日) 16:25:05 ID:o.tIGLPk

魔王「……待たせてしまったな」ガチャッ……

姫「いえ、そんな事は……魔王様、その手っ……!」

魔王「大した事はない……むしろ効力が保たれていて安心した」

姫「効力って……」

魔王「さあ、これを……」シャラッ

姫「これは……首飾り?」

魔王「ああ。あらゆる『魔』を時に退け、時に排除する効力を持つ……聖なる首飾りだ」

姫「そんな貴重な品を……私に?」

魔王「幸い2つあってな……ずっと昔、先代が原形を留めぬ両手で辛うじて持って帰って来たのだ」

姫「ッ……!」

魔王「……このような血生臭い物でも、そなたや少女の助けにはなろう。どうか……受け取ってはもらえぬだろうか」

917: 2013/11/24(日) 16:43:33 ID:o.tIGLPk

姫「……貴方から頂く物を、拒む道理が何処にありましょう? ましてや、そんなにお手を傷だらけにされてまで私にくださるのに……」スッ

魔王「姫……」

姫「ありがとうございます。大切にします……」ギュウッ……

魔王「大袈裟だな……それが奴に何処まで通用するかはわからぬというのに。魔王の一族の者が、こうして触れた部分にダメージを受ける程度の効力だからな……」

姫「それでも心強く思いますわ。嗚呼、それよりも早く手当てを……!」

魔王「平気だ、これ位……少し治りは遅くなるがじきに癒える。魔族の回復力を侮らないでいただきたい」

姫「ですが、痛むのでしょう……?」ウルッ

魔王「う……まあな。ああそうだ、良ければ少女の分まで預かって……」シャラッ……

姫「まだお持ちでしたの!? 早くお渡しくださいませ!!」サッ

魔王「あ、す、すまぬ……どちらも念入りに拭ったが、我の血は付着してはいないだろうか?」ハラハラ

姫「大丈夫ですわ! それよりも魔王様は御自分の身を案じてくださいな!!」ビシッ

魔王「う、うむ……」タジタジ

918: 2013/11/24(日) 17:01:09 ID:o.tIGLPk

妖精「」ジーッ

姫「はっ……! ご、ごめんなさい私ったら……つい」カアッ……

魔王「い、いや……寧ろ悪い気はしない。そんなに我の事を気遣って貰えるのは」

姫「魔王様……」

魔王「そなたと、少女位だろうな……人の身で我の事を案じてくれるのは」

姫「そんな事はありません……貴方の事情と内面を知れば、きっと……」

魔王「だが何れにせよ、皆我の前からいなくなるのだ……そういった事は無意味というもの」

姫「ッ! ……それは……魔王様が少女さんの記憶を消されるからですか?」キッ

魔王「なっ……!」

姫「……もしかして、私の記憶も同様になさるおつもりでしたか?」

919: 2013/11/24(日) 21:53:58 ID:o.tIGLPk

魔王「いや、そのような事は……」

魔王(側近……話すのが少々早過ぎだ……!)

姫「何にせよ、幾ら魔王様でもそのような横暴は許せませんわ! 少女さんの気持ちも知らないで……!」

魔王「……少女のためなのだ。何時までもあの子をここへ縛り付けたくはない」

姫「そうやって、自分以外を遠ざけて……貴方は、何もかも1人で抱え込み過ぎです。どうか私にもそれを共有させてください……!」

魔王「……何故そうする必要がある。そなたは元々部外者だろう? ……あまり調子に乗るな」ジロッ

姫「! ……そう、でしたわね……出過ぎた真似をして申し訳ありません。部屋に戻っております」ペコリ……タタタッ ポタッ……ポタッ……

妖精「……」ワナワナ……ギロッ パタパタパタッ……

魔王「……」

魔王(これで、良い。私だけが悪者になり……消えてしまえば)

魔王(だが、この胸の苦しみは堪えるな……姫を見送った時の苦しさとは違い、不快だ)

魔王(このような苦痛を味わう位ならば……やはり姫と必要以上に関わるべきではなかったか?)

920: 2013/11/24(日) 22:16:25 ID:o.tIGLPk

魔王(いや、少女は人間の友人ができたと喜んでいた。小妖精も同様に)

魔王(側近も……最初は姫がここに来る事に抵抗があったが、今はもう……)

魔王(……では、私はどうなのだ? あの黄金の髪に触れた時の私の気持ちは……)ズキッ

魔王「! ……そうだ、私にそのような無駄な事を考えている暇はない」グッ

魔王「さあ、早い所結界を張り……封印を強化しなければ」ザッザッ……

――――
――

姫の部屋

姫「……」ポロポロ

妖精「」オロオロ

姫「嗚呼、妖精さん……大丈夫。魔王様が本心であのような事を仰る筈がありません」ニコ……

妖精「……」

921: 2013/11/24(日) 22:35:10 ID:o.tIGLPk

姫「それでもやはり……お慕いする方からあのような事を言われるのは悲しい」

姫「……このような気持ちは初めてですわ」

妖精「……」

姫「……ですが、何時までもめそめそしている訳にはいきません!」スッ フキフキ

妖精「!」

姫「少女さんからあんな事を聞いた以上、私はそれを阻止したい……」ギュッ……

姫「妖精さん、どうか協力していただけませんか?」

妖精「……」……コクン

姫「……ありがとうございます」ナデナデ

妖精「」ポンポン

姫「ふふ、お返しですか? 嬉しいですわ」ニコッ

922: 2013/11/24(日) 23:12:39 ID:o.tIGLPk

――――
――

魔王の部屋

魔王「……」グッタリ

魔王(流石に2つを続けてやるのは無理があったか……体が動かん)

魔王(先にやった封印強化はともかく、結界の方は不安が残る)

魔王(後でもう1度確認をせねばな……)

姫「……魔王様、いらっしゃいますか。入ってもよろしいですか?」コンコン

魔王「!? 姫……?」

姫「失礼します」ガチャッ……

魔王「姫……何故」

923: 2013/11/24(日) 23:40:42 ID:o.tIGLPk

姫「あのお2人から、魔王様の事は任されていますからね」ニコッ

魔王「……我はそなたにあのような事を言ったのだぞ。嫌にならないのか」

姫「確かに悲しくはなりましたが……嫌いになど、なりません。あれが魔王様の本心ではない事はお見通しですから」

魔王「……」

姫「それに今だって、私がここに来るのを拒まずにいてくださるではありませんか」

魔王「! ……そなたには敵わぬな」

姫「ふふ」スタスタ……ストン

魔王「……姫は本当に変わっておる。仮にも魔王の部屋に来て平然としておるなど……」

姫「きっと魔王ではなく、友人として見ているからでしょうか(本当はとても緊張しておりますわ……!)」

魔王「そういうものか?」

姫「そういうものですわ」

924: 2013/11/24(日) 23:57:57 ID:o.tIGLPk

魔王「……人間が」

姫「はい」

魔王「皆少なからず姫のような心を持っていれば、側近は……弟はあのような思いをしなくて済むのだろうか」

姫「……」

魔王「ローブのフードを目深に被らなければ満足に買い物ができず、うっかり見られてしまえば……考えたくもない」

姫「魔王様……」

魔王「……このような生活を始めて間もない頃、あ奴は都へ行った日は必ずと言っていい程泣きそうな顔で帰ってきていた」

姫「!」

魔王「そしてやがて……外へ出ても何の表情も出さなくなった。あんなに外の世界を求めていたというのに」

姫「……」

魔王「忘却の魔法で人間の記憶は消せても、こちらの心の傷は消せない……難儀な事だ」

925: 2013/11/25(月) 00:12:04 ID:kd.3AkO2

姫「……私達が、至らないばかりに……!」

魔王「姫のせいではない。寧ろそなたには感謝しているしな……」

姫「ですが……」

魔王「それに、姫にそんな顔をさせたくてこのような事を話したわけではない」

姫「!」

魔王「先程、そなたが言った事を思い出してな……」

姫「あ……」

魔王「これはまだ、ほんの一部でしかないが……やはり酷であったか」

姫「いえ……そんな事はありません! 話してくださり、ありがとうございます……!」ペコッ

魔王「礼など、大袈裟だ……それにしても、やはり姫には」

姫「?」

魔王「そのような明るい表情が1番相応しい。少女と同じくな」フッ

926: 2013/11/25(月) 00:21:32 ID:kd.3AkO2

姫「ッ……! そ、そそ、そんな、そんな事……!」カアアッ……

魔王「?」

姫(不意打ちですわ……! これは少女さんがお戻りになったら報告しなければ!)ドキドキ

姫(と、とりあえず今は話題を換えないと……そうですわ!)

姫「そう言えば魔王様! 以前した約束を覚えていらっしゃいますか?」

魔王「約束?」

姫「ええ。何時か少女さんが作られたぬいぐるみを見せてくださるという……」

魔王「! ああ……」

姫「このような時に言うのは、緊張感が足りないのかも知れませんが……」

魔王「……いや、丁度良い機会だ。少し待っていてくれ」スッ……

姫「ええ……」ホッ

927: 2013/11/25(月) 00:35:43 ID:kd.3AkO2

魔王「……姫、これがその兎のぬいぐるみだ」

姫「まあ、これが……とっても可愛らしいですわね」モフッ ナデナデ

魔王「少々古ぼけてしまっているがな……可笑しいだろう? 仮にも魔王がこのような物を宝物にしているのだから」

姫「いいえ! それが魔王様、貴方らしいと思いますわ……」ニコッ

魔王「! ……ありがとう」

姫「……これで、魔王様との約束は皆でピクニック以外、なくなってしまいましたわね」

魔王「それは……いや、そうだな」

姫「……嗚呼、そう言えば私、魔王様にお伝えしたい事が」

魔王「?」

姫「それは……ふふっ、今度お話しましょう。ぬいぐるみお返しします」スッ

魔王「……え?」ポカン

928: 2013/11/25(月) 00:48:03 ID:kd.3AkO2

姫「次の約束ですわ。運命の日が終わった後……貴方に大切な言葉を伝えます」

魔王「! 姫、それは……」

姫「だから、どうか……生きてください。これからも」スッ

魔王「姫……」

姫「……そろそろ、お2人がお戻りになる頃でしょうか。先にお迎えに行きますね」スタスタ……ガチャッ パタン

魔王「……」

姫(あああ、少々強引でしたでしょうか……! 一生の不覚ですわ……!)パタパタパタ……

姫(これは一刻も早く少女さんにお伝えしなければ……ああ、それにしても思い出すだけで恥ずかしい……っ!)カアアッ

932: 2013/11/30(土) 20:59:45 ID:tWZKzeEc

――――
――

森の中


側近「ん……」パチッ

少女「あ、側近さん目が覚めた?」ナデナデ

側近「! ……少女、まさかずっと撫でていてくれたのか?」カアッ……

少女「うん。少しは楽になった?」

側近「お陰様でな……だが、お前こそ腕や膝が疲れただろう」ムクッ

少女「平気だよ。そんなに時間は経ってないしね……側近さんは、もう大丈夫?」

側近「大丈夫も何も、これ以上魔王様達を待たせる訳にはいかん……行くぞ」スッ

少女「……無理、しないでね?」ギュッ

側近「! ……ああ」ギュッ

933: 2013/11/30(土) 21:03:42 ID:tWZKzeEc

――――
――

魔王城前


少女「……あ、お姫様だ! お姫様~!」フリフリ

側近「どうやら魔王様は相当お疲れのようだな……」

姫「~~~!」フリフリ

少女「? お姫様の声が聞こえない……」

側近「ふむ、結界が正常に働いている証拠だな……この分ではこちらの声もあちらには届いていないだろう」

少女「そうなんだ。じゃあ、気をつけて中に入らないとね……」

側近「ああ……私の手を離すなよ」ザッザッ

少女「う、うん……」テクテク

934: 2013/11/30(土) 22:19:50 ID:tWZKzeEc

側近「……」ブツブツ

少女「?」

側近「……」ザッザッ……スウッ

少女「!」スタスタ……スウッ

側近「ふう……初めてにしては上手くいったな」

少女「側近さん、今の呪文は?」

側近「結界に少しの間1人分の隙間を開ける……簡単に言うなら、結界という名の扉を開ける鍵のようなものだな。少し前に魔王様と私で独自に編み出したんだ」

少女「へえ……じゃあ、その呪文がなくても入れる勇者様って、何だか私達の生活を盗む泥棒みたいだね」

側近「……例えとしてはあんまりだが、確かにそれ以外思いつかんな」

少女「でしょ?」クスクス

935: 2013/11/30(土) 22:34:58 ID:tWZKzeEc

姫「少女さん! 側近さん!」パタパタパタ……

少女「お姫様、ただいまー!」

姫「お帰りなさいませ! 本当にお疲れさまでした……お2人ともご無事で何よりですわ!」ギュッ……

少女「あはは、大袈裟だな~」

側近「姫君、我らの留守中に何か異変はなかったか?」

姫「ええ……魔王様も、何時も以上にお疲れでいらっしゃる以外は特にお変わりありませんわ」

側近「そうか……良かった」

少女「お姫様もお疲れ様~。本当に大丈夫だった?」

姫「ええ、大丈夫ですわ。ところで私、少女さんにお伝えしたい事が……」ニコッ

少女「奇遇だね、私もだよ!」ニコッ

側近「全く……これでは緊張感があるのかないのかわからんな」

936: 2013/11/30(土) 23:28:31 ID:tWZKzeEc

姫「すぐにでもお話したいですが……まずはお2人とも魔王様の所へ向かわれた方がよろしいですわね」

少女「そうだね……行こう、側近さん」

側近「ああ」

姫「私は仮の自室へと戻っていますね。妖精さんをお待たせしていますから」スタスタ

少女「うん、わかった。また後でね~」パタパタ

側近「……」ザッザッ

――――
――

魔王の部屋


魔王「……2人とも、よく無事に戻ってきてくれた」

少女「もう、魔王様ったらお姫様とおんなじ事言ってる」クスクス

魔王「! そ、そうなのか……」

少女「?」

937: 2013/11/30(土) 23:49:14 ID:tWZKzeEc

魔王「と、ところで側近よ、そちらの首尾はどうだ?」

側近「は……慣れない言動をしたのでやや不安がありますが……多くの人間の恐怖を煽る事ができたのは、確かです」ギュッ……

魔王「そうか……何はともあれご苦労であった。お前がそこまで頑張ったんだ、きっと上手くいく」

側近「……魔王様も、我らがいない間無事に術を施されたようで何よりです」

魔王「うむ、その事なのだが……実は少し結界の調子に不安があってな」

側近「! 我らが先程通り抜けた際は何の異常も見受けられませんでしたが……念のためもう1度確認して参ります」

魔王「そうか? ではすまぬがよろしく頼む……勇者達以外は何人たりとも入れてはならぬからな」

少女「魔王様……体、大丈夫? 動けない位辛いの?」ギュッ

魔王「いや、平気だ……これでも大分回復してきたしな。お前が心配する事は何もない」ナデナデ

側近「……」

941: 2013/12/01(日) 17:25:30 ID:HAJXmu/s

こんばんは。
頂いたお言葉があまりに嬉しかったからか、ネタが更に分裂しました(ぇ)
書くとしたらどれを書こうか……。

因みに今の流れ的に書けそうなのは、

・衣装を取り換えてみた
・暗黒野菜事件(幼女時代のトラウマ←)
・髪形変えてみた
・思い切って姫に友達を紹介する少女
・妖精の画力
・膝枕
・花占い

と言った所ですかね。
新旧入り混じり、かつ暗黒野菜事件以外はほとんど短い&小ネタ的な話です。
話のキリが良い所で、気が向いたらどれかを投下するかもしれません。
もしもこの中で優先的に読みたいものがあればお知らせください←
残りレス数の都合上、次スレに持ち越しになるかもしれませんが……変則的な書き方ですいません。

とりあえず本編を進めていきます。

942: 2013/12/01(日) 17:32:24 ID:HAJXmu/s

――――
――

姫の部屋


妖精「」スリスリ

少女「妖精さん、ただいま。こっちに来るのが遅くなっちゃったね」ギュッ

姫「少女さん達が魔王様のお部屋へ行っている間、心配のあまり部屋中を飛び回っていたんですよ?」クスクス

少女「そうなの?」

妖精「」ピトーッ

姫「大方、側近さんに何をされたのか不安だったんでしょうね……」

少女「何をされたか……あ」カアッ

姫・妖「!」

943: 2013/12/01(日) 17:44:18 ID:HAJXmu/s

少女「その事なんだけど……」ドキドキ

姫「何ですか? 一体何がおありになったんですか? 大変気になりますわ……!」

妖精「」ゴゴゴゴゴ……

少女「そ、そんな期待するほどの事でもないかもしれないよ?」

姫「少女さんのそのお顔を見ればわかります……ただならぬ事があったのだと」

少女「うう……思い出すだけで恥ずかしくなってきた。ねえ、良かったらお姫様から話してくれない?」

姫「! ……わかりました。私こそ、あまり面白い進展はありませんが」

少女「ううん、そんな事ないよ! 是非聞きたいな~」

姫「で、では……」ドキドキ

妖精「」パタパタ

944: 2013/12/01(日) 20:28:34 ID:HAJXmu/s

――――
――

姫「……と、こんな所でしょうか」ポッ

少女「……」プルプル

姫「? 少女さん?」

少女「私の初めて作ったぬいぐるみ……ついにお姫様に見られちゃったんだね」

姫「あの、本当に良くできていると思いましたわ」オロオロ

少女「うう……ありがとう。それにしてもお姫様」

姫「はい?」

少女「……魔王様との距離、少し近付いたみたいで良かったね」ニコッ

姫「! そ、そうでしょうか……」ドキドキ

少女「うん。だって魔王様ったら普段あんまり私達の前で弱音を吐かないからね~。側近さん以上に」

945: 2013/12/01(日) 21:44:36 ID:HAJXmu/s

妖精「」コクコク

少女「私にもたまにしかそういう事言わないし、お姫様はもっと自信持っていいと思うよ」

姫「少女さん……ありがとうございます。この調子で魔王様の苦しみを少しずつ軽くできたら良いのですが……」

少女「きっと大丈夫だよ~」

妖精「」グッ

姫「……そうだわ、すっかり遅くなってしまいましたが魔王様からの預かり物をお渡ししなければ」ゴソゴソ

少女「ああ、さっき言ってた魔除けの首飾り?」

姫「ええ。少女さんがこちらに来た時にすぐに渡すつもりが……ごめんなさいね。ああ、これですわ」スッ

少女「わあ……綺麗だね」キラキラ

姫「運命の日、これを肌身離さず持っておくようにとの仰せですわ……私も」シャラッ……

946: 2013/12/01(日) 21:50:19 ID:HAJXmu/s

少女「ふふ、お揃いだね」ニコッ

姫「ええ、お揃いですわ」ニコーッ

少女「じゃあ、確かに受け取ったからね」シャラッ

姫「はい……では次は、いよいよ少女さんの番ですわね」

少女「あ……」

姫「何があったのか、じっくり聞かせてくださいね~」ズイッ

妖精「」ジーッ

少女「あ、あはは……うん」タジタジ

947: 2013/12/01(日) 22:05:05 ID:HAJXmu/s

――――
――

少女「……ってな感じだったんだけど……」

姫「……」

妖精「」プルプルプル……

少女「あ、あの……お姫様?」

姫「……はうっ」ボンッ

少女「!?」

姫「公開吸血に……膝枕……お2人とも幾らなんでも飛ばし過ぎですわ……」プスプスプス……

少女「あの、血を吸われたのは作戦のうちだからね……?」

妖精「……~~~~!!」ウガーッ

少女「!? よ、妖精さん!?」

948: 2013/12/01(日) 22:22:15 ID:HAJXmu/s

妖精「」ガチンガチンッ……パタタタタッ

少女「ちょ、そんな歯を鳴らしながら何処に行くつもりなの妖精さんっ!」ガシッ

妖精「~~! ~~~~ッ!!」ジタバタ

姫「ああもう、本当にご馳走様ですわ……うふふふふ……!」ポワーン

少女「お姫様も止めてよ~!」

――――
――

夕食時

側近「ッ!?」ブファッ

魔・少・姫「!?」ビクッ

側近「げほっ……しょ、少女……このスープに何を入れた……?」ゴホゴホ

949: 2013/12/01(日) 22:45:38 ID:HAJXmu/s

少女「何をって……特別な物は入れてないよ?」オロオロ

側近「……! 底の方に砂糖の塊が……」ジャリジャリ

少女「え……? このスープはお砂糖は使わないのに……」

妖精「」ニヤニヤ

側近「ッ……貴様か」ジロリ

魔王「大丈夫か側近……ほら、水を飲んで落ち着くのだ」スッ

側近「は、はい……」ゴクゴク

姫「妖精さん、駄目でしょうそんな事をしては」

少女「そうだよ! ほら、側近さんに謝って!」

妖精「」プイッ

側近「……陰険な奴だな、全く」ガブッ……ガチンッ

魔王「!?」

950: 2013/12/01(日) 22:57:41 ID:HAJXmu/s

側近「! ……今度はパンの中にヘアピンか」

妖精「」プークスクス

側近「これ以上……少女の料理を粗末にするのは許さんぞ」ユラリ……

魔王「怒る所はそこなのか側近よ……!」

姫「伊達に妖精さんと対立してはいませんわね……」ゴクリ

少女「ふ、2人とも止めてよ~」オロオロ

妖精「」ベーッ

側近「少女、止めるな……お前の作った物をこのようにされて黙っているわけにはいかん」

少女「で、でも……」

妖精「!」ゴゴゴ……

側近「来い、小妖精……貴様に屈辱の2文字を教えてやる……」ゴゴゴゴ……

954: 2013/12/08(日) 15:30:10 ID:Wf/TbkOM

――――
――

少女の部屋

少女「妖精さんも、側近さんも、本当にいい加減にしてよね! 勇者様が何時来るかわからないのに……」

姫「まあまあ、少女さん。妖精さんも反省しているようですし、その辺で勘弁して差し上げたら如何ですか?」

妖精「……」ショボン……

少女「そう言われても、あれは絶対やり過ぎだよ!」

姫「妖精さんなりに、きっとこの緊張した状態を和らげようと頑張ったんですよ。そうでしょう?(本当の事は伏せておきましょう)」

妖精「」コクン……

少女「でも……」

姫「もうしませんよね? 妖精さん」ニコッ

妖精「」コクコク

姫「ほら、1番のお友達を信じてあげましょうよ。ね?」

955: 2013/12/08(日) 15:31:22 ID:Wf/TbkOM

少女「……わかった、お姫様に免じて許してあげる。でももうあんな事しちゃ駄目だよ?」

妖精「!」コクンッ

姫「……」ホッ

少女「じゃあ、そろそろ寝よう。色々あって疲れたしね」ポフンッ

姫「ええ、そうですわね。体力もつけておかなければいけませんし」ポフッ

妖精「」パタパタパタ……モフッ

少・姫「おやすみなさい」

――――
――

少女「……」パチッ……ムクッ チラッ

姫・妖「」スヤスヤ

少女「……よし」スッ……ガチャッ パタン

956: 2013/12/08(日) 17:20:00 ID:Wf/TbkOM

――――
――

側近の部屋

側近「……」カリカリ

側近(そろそろ寝るか……)パタン ゴソゴソ

少女「側近さん……今、大丈夫?」コンコン

側近「!? 少女……」

少女「遅くにごめんね。お姫様と妖精さんが眠るのを待ってたらこんな時間になっちゃった」

側近「……とりあえず入れ」

少女「……」ガチャッ……パタン

側近「どうした? 家族とはいえ、うら若き娘が夜遅くに男の部屋に来るのは感心できるものではないな……ましてや私はお前にあんな事をしたというのに」

少女「ごめんなさい……どうしても知りたい事があったから。勇者様が来る前に」テクテク

957: 2013/12/08(日) 18:42:08 ID:Wf/TbkOM

側近「そうか……」

少女「……あ、この猫さん」

側近「ああ。お前が私のために作ってくれたものだ」

少女「大切にしてくれてるんだね……嬉しいな」ナデナデモフモフ

側近「お前が作った物を無碍に扱うわけがなかろう?」

少女「えへへ……そっかー」フニャッ

側近「それにしても、魔王様の兎に対して碧眼の黒猫とはな……」

少女「目の色は側近さんとお揃いだから、良いと思ったの」

側近「……もう、傷は癒えたか?」

少女「うん……あんな事は、側近さんも魔王様もしないってわかってるしね」

側近「ほんの少しとはいえ、泣きながらあれを贈られた時は驚いたぞ」

少女「そうだよね……ごめんね。縫いながらついあの時の事を思い出しちゃったから」

958: 2013/12/08(日) 19:03:28 ID:Wf/TbkOM

側近「……思えば、お前と出会ってから」

少女「ん?」

側近「本当の意味で『人間』を知る事が出来たような気がする。お前達も、本質は我らと変わらんのだな」

少女「……そうだね。でも、私は今でも人が少し怖いよ。これって変かな?」

側近「いや……変ではない。あのような目に遭っていたのだから尚更だ」ナデナデ

少女「側近さん……」ギュッ

側近「……それで、どのような要件でここへ来た? こうして昔話をするためではないだろう?」

少女「あ……そうだった。まずは謝らないと!」パッ

側近「謝る?」

少女「ほら、以前側近さんが、魔王様が自由になるために協力してくれって私に言ったでしょ? なのに私、何も……っ」ウルッ

側近「! その事か……」

959: 2013/12/08(日) 23:48:40 ID:Wf/TbkOM

少女「本当に、ごめんなさ……っ!」

側近「良いんだ。あまり気に病むな」ギュッ……ナデナデ

少女「側近さん、でも……」

側近「良く考えてみれば、魔王様と2人で過ごすようになってからの数十年間見つからなかったそれが、今更あっさり見つかる筈がない」

少女「数十年……そういえば都でも言ってたけど、2人だけでここで過ごした年月ってどれ位?」

側近「ふむ……そうだな。ざっと30年程か」

少女「30年!? えええっ!」マジマジ

側近「それ程意識した事はなかったがな。魔族は特定の成長期以外はほとんど外見が変わらんからな」

少女「……知らなかった。10年も一緒にいたのに」シュン……

側近「話す必要がないと思ったからだ。別に秘密にしていたわけではない」

960: 2013/12/09(月) 00:03:13 ID:4qdcvwZY

少女「うー……それでも、何だか悔しいな」

側近「そうか。それは悪かったな……では詫びの印に今なら何でも答えてやろう」

少女「! 本当に?」キラキラ

側近「ああ。勿論ある程度の限界はあるがな」

少女「じゃあ……ここに来た目的のメインについて訊こうかな」

側近「……話してみると良い。遠慮せずに」

少女「うん。あのね……私の髪飾りを売ってた教会の伝説が知りたいの」

側近「!」

少女「舞踏会では聞きそびれちゃったし、お姫様は知ってるけど、買った側近さんに訊くのが良いって言ったから……」

側近「……そう来たか」

961: 2013/12/09(月) 00:18:45 ID:4qdcvwZY

少女「ずっと気になってたんだ……教えてくれる?」ジッ

側近「……」スッ ゴソゴソ

少女「?」

側近「……これを」

少女「随分と年季が入ってる感じの本だね……」マジマジ

側近「その教会の聖書だ。主な伝説の部分は冒頭にあるからわかりやすいだろう……貸してやるから自分で読むと良い」

少女「えっ……私は側近さんから訊きたいんだよ!」

側近「私の口から語るには、これは……酷だ。お前が怖がるかもしれん」

少女「大丈夫だよ。お願い、聞かせて?」ジーッ

側近「……後悔しても知らんぞ」

962: 2013/12/09(月) 00:34:44 ID:4qdcvwZY

少女「しないよ。きっと」ニコッ

側近「……わかった。ではそこへ座れ」ペラッ……

少女「あ、できれば側近さんの膝に座りたいな。昔みたいに」

側近「! な……」

少女「何度かそうやって読み聞かせしてくれた事があったでしょ? お願いっ!」ギュッ

側近「お前……一体いくつになったt」

少女「……」ウルッ

側近「……仕方ないな。これっきりだぞ」ポンポン

少女「!」パアッ

側近「そんなお子様なお前には……語る伝説も子供向けの簡単な記述の方で良いな」ペラッ

少女「うん♪」ストンッ ワクワク

963: 2013/12/09(月) 00:52:11 ID:4qdcvwZY

側近「では、始めるぞ……(理性よ、堪えてくれ……!)」スッ

少女「」ドキドキ

側近「……『むかしむかしあるところに、いったいのまものがおりました。』」

――――
――

側近「……どうだった?」パタン……

少女「……」ポロポロ

側近「! 少女……」

少女「……側近、さん……ぐすっ、私……これからも大切にするから……髪飾り……」

側近「……ああ」ナデナデ

少女「だから……これからも、ずっと一緒にいてね?」ギュッ

側近「……勿論だ」ギュッ

964: 2013/12/09(月) 01:09:40 ID:4qdcvwZY

少女「」ホッ

側近「……少女。この話を聞いた後で悪いが」

少女「何?」

側近「……今、お前の血を飲んでも構わんか? できれば……首からが良い。都でやったようには絶対にしない……頼む」サラッ……ペロリ

少女「んっ……勿論、良いよ」

側近「すまん……っ」ガッ……ブツリ

少女「っ……あ」ビクンッ

側近(嗚呼、俺は……本当にけだものだな)ゴクッ……ジュルリ

側近(痛そうな少女の声を聞いて……密かに喜んでいるのだから)ズルルッ……ペロッ

側近(……その上嘘吐きだ)ゴクン……ッ

965: 2013/12/09(月) 01:22:45 ID:4qdcvwZY

少女「はあっ……落ち着いた?」クタッ……

側近「ああ……何度も本当にすまない」ポウッ

少女「大丈夫だよ……えへへ、治癒魔法2回目だね」

側近「……そうだな」

少女「側近さん……私は、絶対に貴方を嫌いにはならないからね?」スッ……チュッ

側近「!」

少女「ふふっ……あ、もう治ったみたいだから行くね。色々とありがとう、おやすみなさい」

側近「……あ、ああ、おやすみ」

少女「♪」ニコッ テクテク……ガチャッ パタン

側近(少女……何があってもお前だけは……)ギュッ……

969: 2013/12/10(火) 17:47:19 ID:JNgA98Qc

小話「2人の花占い」


少女「お姫様あー! 何処~?」タタタッ キョロキョロ

妖精「」パタパタ

少女「もう、この大変な時に……何処行っちゃったんだろう。ねえ、妖精さん?」

妖精「」コクコク

少女(もし、この事が魔王様と側近さんにばれたら……考えたくもないなー……)ブルッ

少女「城内の心当たりのある場所は粗方探したし……後はお庭かな。流石に敷地内にはいるよね」

妖精「」パタパタ

少女「そうと決まれば、行こう妖精さん!」タタタッ

妖精「!」コクンッ パタタタ……

971: 2013/12/10(火) 18:22:54 ID:JNgA98Qc


城の庭

少女「……あ、いたー!」タタタッ

姫「! 少女さん、妖精さん」

少女「探したよー。このまま見つからなかったらどうしようって思ったよ~」フウッ

姫「ごめんなさい、ご心配をおかけしました」ペコリ

少女「魔王様と側近さんには気付かれなかったから良かったけど、今度からは気をつけてね……そう言えば、どうしてここに?」

姫「お茶会の時に拝見してから、改めてこのお庭をゆっくり眺めてみたいと思っていたんです」

少女「そうなの? お姫様のお城にもあるでしょ?」

姫「私の所は、庭師が定期的に整えてくれますからあの状態を保っていますが……このあるがままの風景もとても美しいと思うのです」

少女「ふうん……こっちはたまに側近さんと手入れをする位だからなー」

972: 2013/12/10(火) 18:41:01 ID:JNgA98Qc

姫「ふむふむ、完全にそのままにしているというわけでもないんですね」

少女「うん。少しは草むしりをしたりするよ。魔王様も調子が良い時に手伝ってくれるし……」

妖精「」クイクイ

少女「あ、勿論妖精さんもだよ!」ツンツン

姫「ふふ……思い浮かべると微笑ましい光景ですわね。これらの植物の中で、改めて自分達で植えた物はありますか?」

少女「ううん、特にないかな……迂闊に種を植える事も出来ないしね」ズーン

姫「……嗚呼、あの事件でですね」

少女「うん……栽培はこりごりだよ。村にいた頃は毎日のようにやってたけどね」

妖精「」パタパタ クイクイ

姫「! 妖精さん、どうしました?」

少女「あ、そうだね。せっかくだから行こうか……私達のもう1人の家族の所に」

973: 2013/12/11(水) 00:06:01 ID:QqBSc0hc

――――
――

兎の墓

少女「ここだよ」

姫「この下に……兎さんが」

妖精「」パタパタ スッ……パラパラッ

姫「! 妖精さん、何時の間にお花を……」

少女「そこが妖精さんの不思議な所なんだよね~」プチプチッ……スッ

姫「あ、私も……」プチッ スッ

少女「兎さん、紹介するのが遅くなっちゃってごめんね……私にとって、初めての人間のお友達だよ」

姫「初めまして……姫と申します」ペコッ

974: 2013/12/11(水) 00:21:32 ID:QqBSc0hc

妖精「」パラパラ……

少女「私達、もうすぐ大きな転機を迎えるよ……勇者様が来るから」

姫「……」

少女「魔王様は、その事ですべてを背負いこもうとしているの。酷いよね、私達にも少しは持たせてくれても良いのに」

妖精「」パタパタ

少女「……だからお願い、魔王様の事をどうか守って……私達も頑張るから、まだそっちに連れて行かないで……っ」ジワッ……

姫「少女さん……」ギュッ

少女「あ、ご、ごめんね。お姫様の紹介なのにこんな……」ゴシゴシ

姫「構いませんわ……兎さん、私も少女さんの友として精一杯協力しますので、どうかよろしくお願いします」ペコッ

妖精「」パタパタ……ペコリ

978: 2013/12/15(日) 19:15:12 ID:VmFUbns6

少女「お姫様はね、魔王様の事が好きなんだよー」ニコニコ

姫「しょ、少女さん、幾ら私達しかいないとはいえ恥ずかしいですわ……!」カアッ

少女「そう? でもこの事も兎さんに報告した方が良いと思って」

妖精「」ウンウン

姫「うう……と、と言うわけですから兎さん、改めてお願いします……どうか魔王様をお守りください」ペコリ

少女「お姫様は本当に良い人なんだよ。魔王様の事も、側近さんの事も受け入れてくれたの……この前のパンケーキだって……」

――――
――

姫「す、すっかり……兎さんの墓前での報告に夢中になってしまいましたわね」

少女「そうだね……2人共私達の事探しているかも……」ズーン

妖精「」オロオロ

姫「と、とりあえずあのお2人には正直にお伝えしましょう! きっと許してくださいますわ」ギュッ

少女「だと良いけどね……」

979: 2013/12/15(日) 19:52:57 ID:VmFUbns6

姫「じゃあ、お城の中に入る前に……少し気持ちを落ち着けましょうか」スッ……プチッ

少女「? お花でどうやって……花輪でも作るの?」

姫「それも良いですが、今回はもう少し乙女なやり方でいきましょう」

少女「?」

姫「花占いをご存知ですか? 好きな相手の事を思い浮かべながら、こうやって花弁を1枚1枚ちぎります」プチップチッ

少女「へえ……」

姫「1枚ちぎるごとに『好き』『嫌い』と交互に唱え、最後に残った1枚で『好き』が出たら……両想いになれるというおまじないですわ」

少女「成程ね~。でも、それで『嫌い』が出たら何だか悲しいね……」

姫「……そ、その時は別のお花でもう1回ですわ!」ビシッ

少女「も、もう1回?」

980: 2013/12/15(日) 22:53:10 ID:VmFUbns6

姫「とりあえず1回やってみましょう! はいっ」スッ

少女「う、うん……ありがとう」

姫「好き、嫌い、好き……」プチッ プチッ……

少女「す、好き……嫌い……」プチッ……プチッ……

姫「……好き! やりましたわ!」プチッ

少女「……嫌い」プチッ……

姫「あ……」

少女「……」ウルッ

姫「あああ少女さん泣かないでくださいな~!」オロオロ

妖精「」オロオロ

姫「さ、さあもう1度!」スッ

981: 2013/12/15(日) 22:59:35 ID:VmFUbns6

少女「うん……好き、嫌い……」プチップチッ

姫「今度こそ……」

少女「……嫌い」プチッ

姫「……!」

少女「……」

姫「あ……諦めてはなりません! さあ、もう1度!」スッ

少女「でも……」

姫「大丈夫、どうか私を信じてください!」

少女「う……わかった」

妖精「」フレーフレー ワーワー

982: 2013/12/16(月) 00:05:39 ID:PG0/rSjk

――――
――

少女「好き……嫌い……好き……嫌い……」プチップチッ

姫・妖「……」ドキドキ

少女「好き……嫌い……好き! やったー!」ピョンッ

姫「ついにやりましたわね!」

妖精「!」キャッキャッ

少女「うんっ! 諦めずにやった甲斐があったね!」

姫「でしょう? さあ、中へ入りましょう! この調子ならきっと大丈夫です」

側近「ほう、何が大丈夫なんだ? 姫君」

少・姫・妖「」

側近「是非教えて頂きたいものだ」ゴゴゴゴゴ……

986: 2013/12/24(火) 16:57:32 ID:GgD4ouuQ

――――
――

側近「花占い、か……確かにお前達にとって楽しいものかもしれんが、だからといって今の状況で勝手に城から出るのは感心できんな……」

少女「うう……」

姫「ごめんなさい側近さん。ですが、勝手に外へ出たのは私です。少女さんは探しに来てくださっただけですわ」

側近「……とにかく、今後はこのような事がないように」

少女「はーい……戻ろう、お姫様」

姫「ええ……」

妖精「」ベーッ パタタタ……

少女「……お姫様」ヒソッ

姫「?」

少女「……楽しかったよ。またやろうね?」

姫「! ……はい」ニコッ

987: 2013/12/24(火) 17:14:07 ID:GgD4ouuQ

側近「……」

側近「……」スッ……プチッ

側近「……」プチッ……プチッ……

側近「……」……プチッ

側近「……何をやっているんだ俺は」ハアッ……

側近「兎よ、お前の周りを花弁だらけにしてしまってすまんな」サッサッ

側近「あの方はまだお前の元へは行かせん……どんな手を使ってでもな」

側近「……お前だって、それを望んではいないだろう?」スッ

フワッ……ザアアッ……

小話「2人の花占い」終わり

989: 2013/12/24(火) 19:05:16 ID:GgD4ouuQ

これにて本スレは終了です。以下が次スレとなります。

「最弱魔王の決戦」【前編】

991: 2014/01/08(水) 02:05:15 ID:bvcAD9T2

引用: 「最弱魔王様」