287: 2014/05/19(月) 21:41:18 ID:2.oYdV4Q

288: 2014/05/19(月) 21:43:11 ID:2.oYdV4Q

少女「……そう言えば」

白獣「はい?」

少女「今までの事って、妖精さんが白獣さん達に話したの?」

白獣「そうですよ」

少女「妖精さんって……話せるの?」ジッ

妖精「……」チラッ

白獣「! ああ、その事ですね。いえ、異界の妖精は本来こうして普通に話す事はできません」

少女「じゃあ、どうやって?」

白獣「互いに自分の思念を送り合って会話をするんです」

少女「へえ……」
Lv1魔王とワンルーム勇者 4巻 (FUZコミックス)
289: 2014/05/19(月) 21:45:26 ID:2.oYdV4Q

白獣「まあ、例外として……妖精達の長などといったごく僅かな者は音のある会話をする事ができますが」

黒獣「白娘。幾らなんでもベラベラと話し過ぎではないか?」

白獣「あらいけない。少女さん、この事は他言無用でお願いしますね……僧侶さんも」シー

僧侶「はい! 仰せのままに!!」

少女「わ、わかった」コクン

黒獣「ふん……」

戦士「うう……ん」パチッ

側近「気が付いたか……これで借りは返したからな」

戦士「あれ? 俺……」ムクッ

白獣「! あの者も気が付きましたね」

黒獣「……白娘が来た時に近くにいた男か」ジッ

戦士「んああ!?」ビクッ

290: 2014/05/19(月) 21:47:51 ID:2.oYdV4Q

黒獣「……」ノソノソ……ズイッ

戦士「な、な、何だこいつ……白獣、あんたの連れか?」ブルブル

白獣「そうですよ。だからどうか怖がらないで……敵とみなされなければ何もしませんから」

黒獣「白娘に少しでも色目を使ってみろ……その時点で存在を消し去るからな」ボソッ

戦士「ひいいっ」

白獣「もう、黒様! いい加減になさって!!」

僧侶「黒神獣様……何だか楽しそうでいらっしゃいますね」

少女「そ、そうなのかな?」

側近「少女……」ザッザッ

少女「! 側近さん」

妖精「」チッ

291: 2014/05/19(月) 21:50:04 ID:2.oYdV4Q

側近「……」カァッ

少女「?」

側近「! その、今更だが……お前には見られてしまったな」ササッ

少女「何を?」

側近「俺の……記憶の一部を」

少女「……あ」

妖精「」ギリギリギリ……ッ

側近「生の実感が戻ってきてから……改めてそれを考えると……」ゴニョゴニョ

少女「側近さん、私は気にしてないから……」

側近「……だが、怖かっただろう? それに……みっともなかっただろう? 昔の俺は」

少女「そ、そんな事ないよ! 寧ろ昔の側近さんが見られて良かったかなって……」

側近「……!」

292: 2014/05/19(月) 21:52:02 ID:2.oYdV4Q

少女「だから側近さん、もう顔を隠さないで……」オロオロ

側近「いや……しばらくこのままでいさせてくれ。頼むから」

少女「ええ? どうして?」

側近(あの時……『夢で』見た少女が俺の初恋の人だったから、だが……)

側近(そんな事言える訳がないだろう……ッ!)バクバク

僧侶「まあ、これは……うふふふふっ……」ニヤニヤニヨニヨ

妖精「~~~!!」ジタバタ

僧侶「こらこら妖精さん、邪魔をしてはいけませんよ」

側・少「!」ハッ

僧侶「あ、私達の事はお気になさらず……さあ続きを! どうぞ!!」ズイッ

293: 2014/05/19(月) 21:54:41 ID:2.oYdV4Q

側近「……み、見世物ではないぞ!」プイッ

少女「そ、そうだよ!」

僧侶「あら……残念ですね」

側近「……そう言えば、神獣が来るまで俺の傷を癒し続けてくれたのだったな。それに関しては礼を言わせてもらう」

僧侶「お礼を言われる程の事ではありませんよ。私自身、力不足でしたし……」

側近「いや、そんな事はない……俺はあの時、自分が氏ぬと信じて疑わなかった。だが、貴女はそれを覆した」

僧侶「……本当に、息を吹き返されて何よりです」ニコッ

妖精「」ムスッ

少女「側近さん……もう、あんな風になっちゃ嫌だよ?」ギュウッ

側近「少女……」

少女「……今度あんな事があったら私も氏ぬから」ボソッ

側近「ッ……!」

僧侶(嗚呼、本当に助かって良かったですっ……ふふっ、うふふふふ……!)ハァハァ

妖精「」ゾワワワワ……

294: 2014/05/19(月) 21:57:01 ID:2.oYdV4Q

少女「あ、そう言えば側近さん、1つ気になった事があるんだけど」

側近「?」

少女「側近さんの記憶を見た時に聞いた……」

魔王「はあ、はあ……弟よ、生きているか……!?」シュンッ スタッ

姫「……良かった。大丈夫みたいですね」スタッ

魔法使い「ふんっ」トンッ

勇者「……」スタッ

白獣「あらあら皆さんお揃いで」

戦士「お前ら……心配したぜ……! 姫様は特にな!!」

妖精「!」

僧侶「皆さん……無事だったんですね!」ホッ

295: 2014/05/19(月) 21:58:58 ID:2.oYdV4Q

黒獣「ふん……遅いぞ」

魔王「本当はもう少し早く転移する筈だったんだが……先に姫と行こうとしたら魔法使いに阻まれてな」ボロッ

魔法使い「当たり前じゃない。短い間でもお姫様をあんたなんかと2人っきりになんてさせると思う?」ジロッ

勇者「……用心していた筈のあれに乗っ取られるとは……我ながら情けない」

側近「! 兄上、その腕は……!?」

姫「……」キュッ

少女「お姫様……?」

魔王「はは、気にするな……それよりも弟よ、無事であったか……」ザッザッ

側近「あ……」

魔王「ではとりあえず……歯ぁ食いしばれええええええええい!!!!」バキィ……ッ!

『!?』

296: 2014/05/19(月) 22:02:23 ID:2.oYdV4Q

少女「ま、魔王様!?」

側近「ぐ、ッ……」ズザザザザ……

魔王「兄上を刺し、兎を傷つけ、勝手に氏に急ぎ……そして何より一時でも少女を悲しませたその罪は重いッ!!!!」ビシッ

側近「……それは……」ムクッ

魔王「あ?」

側近「……アンタも同じだろうがああああああ!!!!」ダダダッ……ドゴォッ……!

魔王「ふぐぅッッ!?」ゴロゴロゴロ……

側近「大体、先に馬鹿みたいにかっこつけて自分だけ氏のうとしたのはそっちだろう!? 少女の記憶まで消そうとした癖に!!!!」

魔王「だ、だからといってお前まで自殺行為をして良いという理由にはならぬぞ!」ガバッ

側近「うるさい! このネガティブ鈍感阿呆ロン毛が!!」

魔王「何だと!? ではお前は命知らずで鬼畜変態の大馬鹿者だ!!」

側近「鬼畜変態!? 何故そうも言われねばならん!?」

297: 2014/05/19(月) 22:05:17 ID:2.oYdV4Q

魔王「しらばっくれるか愚弟!! 自制できずに少女の血を飲んでおっただろうが!!!!」

側近「そ、それは……というか何故それを!?」

少女「ちょ、ちょっと2人とも……!」オロオロ

姫「魔王様、そんなに動かれては……!」

妖精「」ワーワー

少・姫「妖精さんも煽らないで!」

魔法使い「……何あれ。仲間割れ?」

戦士「お、俺にはただの兄弟喧嘩にしか見えねえけどな……」

僧侶「あわわわわ……」

勇者「……丁度良い。今のうちに手短に話しておこう……あいつらの事について」

魔・戦・僧「!」

勇者「ついでに、俺の目的もな……」

僧侶「……ではその後は私が、ここで起きた事をお話しましょう」

勇者「ああ。頼む」

298: 2014/05/19(月) 22:07:32 ID:2.oYdV4Q

白獣「妖精さん……貴方、そんなにあの者が」

黒獣「おい、私達はまだ還れないのか?」イライラ

白獣「もう……そんなに慌てて還らなくても良いではありませんか」

黒獣「……私はお前と違ってこの世に思い入れなどほとんどないからな」スリスリ

白獣「黒様……」ナデナデ

姫「ま……魔王様!」タタタッ……ヒシッ

少女「お姫様!?」

魔王「なっ……姫! 危ないではないか!!」

側近「! っ、と……」

姫「貴方は……腕を切られてしまったのですよ!? 私のせいで……」ポタッ……

魔王「姫、だから私は気にしていないと……」

姫「そうはいきませんわ! まずは一刻も早く腕をどうにかしなければ……!!」

299: 2014/05/19(月) 22:09:53 ID:2.oYdV4Q

魔王「……はあ。姫よ」スッ

姫「あ、貴方は何ともないように仰いますけど、腕がなくなるというのは一大事で……!」

魔王「……」ギュウッ

姫「……ぇ」パチクリ

側・少「!」

妖精「!?」

白獣「あら」

黒獣「……」

僧侶(キタアアアアッッッ!!!! 『魔王と姫』……この王道な組み合わせがこの目で拝めるとはあああああああ!!!!)グッ

魔法使い「お、お……お姫様に何やってんのよあんたぁ!!!!」バチバチ

戦士「止めろ魔法使い! その魔法は流石に全員ヤバイ事になるから!!」ガシッ

勇者「……話を続けて良いか?」

300: 2014/05/19(月) 22:13:50 ID:2.oYdV4Q

姫「あ、ぅ……ふあああ……ッ」ドキドキドキ……

魔王「……聞こえるか? 私の心臓の音が」ドクッ……ドクッ……

姫「はわ、はわわわわ……!」

魔王「これさえ無事であれば、私達は氏なぬ」ナデナデ

姫「あッ……」ビクンッ

魔王「故に、心臓を損傷した弟にああして呼びかけていただろう? ……って姫?」

姫「はうう……」クタッ……

魔王「ひ、姫? どうしたのだ!?」ユサユサ

少女「お姫様!」

側近「……全く。これだから鈍感は」ハァ……

妖精「~~~!」オロオロ

301: 2014/05/19(月) 22:16:09 ID:2.oYdV4Q

僧侶(ほう、頭皮の調教とは……中々マニアックですねえ……!)ハァハァ

勇者「……僧侶。次はお前の番だぞ」

戦士「その前にこいつをどうにかしてくれ!!」

魔法使い「今できる……最大の魔法をォ……!」フシュー……フシュー……

白獣「まあ、とても楽しそうですこと」クスクス

黒獣「何処がだ白娘……嗚呼、そうだ魔王」

魔王「姫、しっかりするのだ! ……って何だ黒獣よ。というかやはり貴方は神獣であったのだな」

黒獣「今更か。それよりもお前……自分の腕はどうした?」

魔王「……え?」

305: 2014/05/30(金) 00:02:31 ID:hw9u/yz6

黒獣「お前……まさかそのままで良いと本気で思っているのか?」

魔王「な、何を言っておるのだ? 私は貴方がこっそり持って行ったとばかり……」

黒獣「何故私がお前のためにそんな事をせねばならん」フンッ

魔王「だ、だが私が見た時には何処にも……!」

黒獣「私は床に投げ捨てた後は一切触れていない。断じてな」

魔王「ッ……! で、では一体何処に」チラッ

魔法使い「あたしは知らないわよ」フンッ

勇者「……同じく」

306: 2014/05/30(金) 00:04:51 ID:hw9u/yz6

魔王「姫は……首飾りと兎以外は持っていないようだな」

側近「兄上、一体何があったのだ」

少女「魔王様……」

魔王「……そうだな。お前達にも簡単に話しておこう。勇者達もそうしておるようだしな……」

勇者「……」

――――
――

魔王「――その後、寸での所で現れた黒獣に助けられたのだ」

黒獣「随分と無様だったな。あの時のお前は」

白獣「黒様!」

307: 2014/05/30(金) 00:06:41 ID:hw9u/yz6

魔王「……返す言葉もない。だが」ジッ

少女「!」

魔王「彼らを召喚したのは……少女、お前だったんだな」ナデナデ

少女「あ……」

魔王「無茶をして……だが、お陰で助かってしまったのも事実だ」フッ

少女「で、でも、神獣さん達が早く来てくれたのは妖精さんのお陰で……だから……」

魔王「そうか? だがな、お前が喚べなければ小妖精の努力も水の泡だったのだぞ?」ツンツン

妖精「」ドヤッ

魔王「本当にありがとう、お前達」

少女「魔王、様……」

側近「……」

308: 2014/05/30(金) 00:09:00 ID:hw9u/yz6

魔王「……弟よ」

側近「何だ、兄上」

魔王「もう命を粗末にするんじゃないぞ」

側近「……貴方に言われたくはない」

魔王「! ……それもそうだな」フッ

白獣「まあ、余程剣の切れ味が良かったのですね……切り口がとっても綺麗」ジッ

魔王「! は、白獣、何時の間に」

少女「白獣さん! 魔王様の腕、元通りに治せる?」

白獣「うーん……このままでは難しいですね」

309: 2014/05/30(金) 00:10:55 ID:hw9u/yz6

姫「な、何故、ですか……白神獣様……」ググッ……

魔王「姫……気が付いたか」ホッ

姫「復元や治癒に、これ以上ない程長けていらっしゃる貴女様ならば……造作もない、筈では……」ジッ

白獣「……突然ですが姫さん。『物』と『生き物』の違いはわかりますか?」

姫「? それは……自分の意志で動くかどうか……後は、生氏の概念の有無、などでしょうか」

白獣「それらも間違いではありませんが……最も大きな違いは『唯一無二であるか否か』という面ですね」

姫「唯一、無二……」

白獣「勿論例外もありますがね……例えば姫さん。貴女が大切な人を喪ってしまったとして」

姫「!」

白獣「……私が、その人の外見や中身をそっくりそのまま持っている存在を生み出せるとします」

白獣「生き返らせるのではなく、あくまでそれに近い生き物であるというだけですが……貴女はそれを手放しに喜べますか?」

姫「そ、それは……多分無理ですね」

310: 2014/05/30(金) 00:12:52 ID:hw9u/yz6

白獣「あら、何故ですか?」

姫「その人の代わりなどいません……どんなに似ていても、私にとってその存在は全くの別人ですわ」

白獣「……そうですね。私が言いたかった事はそれですよ。そしてそれは部分的な物でも同様」

白獣「私の力は『物』の場合は復元ですが、『生き物』の場合はとにかく『生かす』事に重きを置いているのです」

少女「あ……側近さんの心臓を治した時、心は戻せないって言ってたのも?」

白獣「ええ、同じ原理です。あの時少女さんが失敗していたら、あの者は……息をするだけの屍と化していたでしょうね」

少女「……ッ!」ゾッ

側近「……それはそれで辛いな」

白獣「このように、『生き物』の傷を癒す事はできても……欠けた部分の復元はできないのです。繋ぐお手伝いならば可能ですが」

311: 2014/05/30(金) 00:14:53 ID:hw9u/yz6

魔王「では私の腕は何処にいったというのだ?」

黒獣「知らん」

魔王「うう……」

勇者「魔王」

魔王「何だ勇者」

勇者「ふと思ったんだが……いや、あり得ないならそれに越した事はない」

側近「……何が言いたい?」

勇者「俺やあの子の体を乗っ取っていた奴は……ひょっとすると『一部分』のみそうする事もできるのではないか、とな」

魔・側「……ッ!!!!」バッ

少女「え、どういう事……?」

312: 2014/05/30(金) 00:20:56 ID:hw9u/yz6

白獣「多分、貴女を乗っ取っていた存在が、今はあの者の切り落とされた腕を乗っ取って動かしているのでは、という事でしょう」

黒獣「迂闊だったな」

姫「そ、そんな……!」

魔王「くっ……何故今まで思い至らなかったのだ!?」ギリッ

側近「そうだな、俺も悪かった……」

魔王「考えたくはないが、奴の執念ならば……ッ!」

側近「念のために探して来よう。例の場所もな」ザッザッ

魔王「弟、私も行くぞ!」

側近「兄上は魔力の回復に努めてくれ。その方が……万が一の時にも……」

313: 2014/05/30(金) 00:23:17 ID:hw9u/yz6

魔王「! ……わかった。だが、それはあくまで最後の手段だからな」

側近「ああ」ザッザッザッ……

少女「側近さん!」タタタッ

妖精「」パタパタパタ……

側近「少女……」

少女「さっき言った事……!」

側近「心配するな、もう氏ぬつもりはない……信用してもらえるかはわからんが」ポン

少女「本当……?」ジッ

側近「ああ。だが……」

少女「?」

側近「……後は、兄上に訊いてくれ」クルッ

314: 2014/05/30(金) 00:25:10 ID:hw9u/yz6

妖精「」ジロッ

側近「……ふん。やはり貴様も感づいていたか小妖精」

少女「側近さん……」ス……チュッ

魔・側「!」

妖精「!?」

少女「えと……何にもできない代わりに、おまじない」カアッ

側近「……」ポカン

少女「無事に……終わらせられるっていう、ね」

側近「……こ、これは心強いな」バクバク

僧侶「~~~~ッ!!!!」ビクンビクン

戦士「しっかりしろ僧侶おおおおおおお!!!!」ユッサユッサ

魔法使い「本当に……何なのよこの茶番は」

勇者「……」

315: 2014/05/30(金) 00:28:20 ID:hw9u/yz6

少女「……気をつけて」ジッ

側近「ああ……行って来る」ザッザッザッ

魔王(弟よ……兄上もすぐに行くからな)

姫(側近さん……どうかご無事で)

少女「……」ギュッ

側近「」ギイイッ……バタン

勇者「……戦士、僧侶。念のため後を追ってほしい」

戦士「え!?」

僧侶「ハッ! ……で、でも」

勇者「見る限り、俺達の中で最も消耗が少ないのはお前達だ。あいつのサポートを頼む」

白獣(確かに僧侶さんの力も回復させましたが……よく見抜きましたね)

魔法使い「待って勇者。あたしは納得してないわよ」

勇者「……魔法使い」

316: 2014/05/30(金) 00:30:14 ID:hw9u/yz6

魔法使い「なんであんたはあいつの言う事を鵜呑みにできるわけ?」

勇者「俺が信頼に足ると確信したからだ。危険なあれの事も教えてもらっただろう?」

魔法使い「確かにあれはヤバかったけど……それもあいつらが操っているとしたら?」ギロッ

勇者「腕を犠牲にしてまでは流石にしないだろう」

魔法使い「ふん、どうかしらね。魔物の考える事はおぞましいから」

勇者「……俺が信じられないか」ジッ

魔法使い「! べ、別にそう言ってるわけじゃ」

勇者「それとも……俺が、魔王に操られているとでも?」

魔法使い「ッ……」

魔王(今の私にはそんな事できないぞ……)

勇者「……あの時の、俺を信じてついて行くと言った言葉はうs」

魔法使い「んあああああ! わかったから、信じるからそれ以上はッ……!!」カアッ

勇者「そうか。なら良い」

僧侶(魔法使いさん、隙がなさそうに見えて案外ちょろい所ありますね~)

317: 2014/05/30(金) 00:32:37 ID:hw9u/yz6

戦士「じゃあ、本当に良いんだな? その……あいつらを信用しても」チラッ

勇者「ああ。姫の態度と……この状況で側近をここから離れさせたのが証拠だ」

僧侶「そして何より神獣様がいらっしゃいますしね! 悪しき者が召喚できる存在ではありませんもの!!」グッ

魔法使い「あっそ……ブレずに信じられる物があって本当に羨ましいわ」

僧侶「ふふふ、今からでも遅くありませんよ! 魔法使いさんも是非……!」ズイッ

魔法使い「あんな事をされてなかったら少しは考えたかもね」

勇者「では、頼んだ。俺達もすぐに行く……何かあったら互いに連絡だ」

戦士「ああ!」ダッ

僧侶「なるべくお早くお願いしますね!」タタタッ

僧侶(本当はもっと神獣様方や魔王さん、姫様の絡みを見ていたいですが……仕方ありませんね)

318: 2014/05/30(金) 00:35:23 ID:hw9u/yz6

少女「あの……白獣さん。黒獣さん」

白獣「何でしょう少女さん」

少女「そ、その、2人の力で……今のうちに全部解決する事はできないの?」

白獣「……残念ですが、それはできません」

少女「! どうして……?」

白獣「貴女の願いは『自分の大好きな人達を助けて欲しい』……でしたね」

少女「」コクン

白獣「私達は喚ばれた状況から、それを『彼らの窮地を救って欲しい』と解釈しました」

少女「だったら……!」

白獣「ですが、現時点では目に見える脅威は見当たりません」

姫「つまり、力を持っていても……願いの内容により、力を貸す時はどうしても後手に回ってしまうという事ですの……?」

319: 2014/05/30(金) 00:38:36 ID:hw9u/yz6

白獣「そうなりますね。『あれを倒す』という願いであれば話は簡単だったのですが」

少女「!」

魔王「仕方あるまい、あの時は少女も弟を救うのに必氏であっただろうからな」ナデナデ

白獣「ええ……私もこの選択は間違いではないと思いますよ。それに……」スッ……キラッ

魔王「む、これは……」ポウッ……

魔法使い(嘘、魔力が回復した……!)バッ

勇者「傷が消えたな。体力も……」ワキワキ

白獣「……こうして次なる窮地へ備える事はできます」ニッコリ

少女「白獣さん……!」パアッ

320: 2014/05/30(金) 00:41:50 ID:hw9u/yz6

黒獣「おい白娘、幾らなんでもこれは……!」

白獣「ふふ、主の許可は得ていますよ? 直接手を出さなければ良いと」

黒獣「なッ……!?」

白獣「とりあえず、今の私達にできる事はここまでです。後は貴方達次第」

魔王「……ありがたい」

白獣「ちょっとしたサービスですよ♪ ……腕、無事だと良いですね」

魔王「ああ……なるべく早く弟が見つけてくれれば良いのだが」

姫「……」ギュッ

321: 2014/05/30(金) 00:43:38 ID:hw9u/yz6

――――
――

ズズッ……ズルッ……

(クク……やはり封印主の一部に入り込んだのは正解だったな。巧妙に隠していたようだが、それももう終わりだ)

(魔力の繋がりでようやく見つけた……全く、随分と手こずらせてくれたな……)

(動かし方も慣れてきたし……先程の忌々しいダメージも大分回復した)

(どれ……少し急ぐか。この状態では転移もままならんしな)ズザッ……ザザザザザ……

327: 2014/06/08(日) 21:41:12 ID:sjvevPyw

――――
――

魔王「……」ジャラッ

少女「! 魔王様、それ……」

魔王「ん? ……ああ、少女には言っていなかったな。これは私の持つ唯一の武器だ」

少女「そうなの?」

魔王「今まで黙っていてすまないな。封印が解けてようやく再び使えるようになったのだ」

少女「……」

魔王「うむ。そろそろ行くとするか……」ザッ

勇者「待て、魔王」

魔王「?」

勇者「その前にもう1つ、お前に訊いておきたい事がある」

魔王「何だ? 急いでいるからできれば後に……」

328: 2014/06/08(日) 21:44:18 ID:sjvevPyw

勇者「『末子』とは何だ」

魔王「!」

勇者「お前達が腕輪越しに側近に呼びかけていたあの時……確かにその言葉を言ったな」

魔王「……」

勇者「ただの弟に対する言葉にしては不自然だ。俺の持つ魔王関係の情報にもないが……」

魔王「……そうであろうな。何せ魔王の家系の中でのみ伝わってきたものだからな」

勇者「!」

魔王「ふむ……話しておいた方が良いかもしれん。どの道『魔王』は私の代で終わるのだ」

姫「魔王様、それって……」

魔王「万が一という事もあるしな……その代わり、これを聞いたら今度こそ私達に協力してくれるか?」

勇者「……約束する」

329: 2014/06/08(日) 21:45:51 ID:sjvevPyw

魔法使い「ちょっと勇者、本気で……!?」

勇者「魔法使い、さっきも言っただろう」

魔法使い「そうだけど……」

勇者「それとも、ここで待っていたほうが良いか? こちらとしてはお前がいた方が助かるが……」

魔法使い「冗談! お姫様はともかくこんな異端者と一緒にいるなんてまっぴらごめんよ」

少女「っ……」ズキッ

魔王「魔法使いよ。あまり少女を傷つけるのは止めてもらおうか」

魔法使い「うるさい。あたしに指図するな」

姫「魔法使いさん、貴女……!」

勇者「止めろ魔法使い」

魔法使い「でも……!」

勇者「生きてここから出たければな」

魔法使い「ッ! ……ちっ」ジロッ

勇者「……すまない。続きを話してもらえるか」

魔王「う、うむ……」

330: 2014/06/08(日) 21:48:40 ID:sjvevPyw

――――
――

側近「……」ザッザッザッ……

側近(……魔力にはこれと言った匂いがない)

側近(故に、己で知覚する以外に探す方法がない……それがこれ程厄介だとは思わなんだ)ギリッ

側近「……」スッ

少女『おまじない』

側近(……少女、そして兄上のためにも)ギュッ

側近(間に、合え……ッ!)ザザザザッ……

331: 2014/06/08(日) 21:52:08 ID:sjvevPyw

――――
――

魔王「『末子』は……その名の示す通り魔王の末の子供を指す。こいつは血筋の中で極めて重要な位置にいるのだ」

勇者「それは……強さに関する事か?」

魔王「簡単に言えばそうだな。魔王の末の子供として生を受けた者は、兄弟の中で最も強い力を持っていると言われている」

魔法使い(あの時感じたおぞましいものの正体は……多分それだわね)ブルッ

勇者「その根拠は?」

魔王「家系図の記述によれば、歴代魔王のゆうに八割近くが『末子』とあった。先代である我が母もそうだ」

勇者「純粋に強い者が魔王を継承する……か」

魔王「うむ。そして特に女の魔王から生まれた『末子』は、母体に残留する他の兄や姉の力を吸収して更にその傾向が強くなるという」

勇者「……という事は」

魔王「ああ。我が弟の潜在能力はまず間違いなく奴をも凌ぐ事になるだろう」

332: 2014/06/08(日) 21:54:33 ID:sjvevPyw

魔法使い「……だったらどうしてあたし達をここに誘き寄せたのよ。そんな力があるんならさっさと使えば良いじゃない」ギロリ

魔王「それは……弟が『末子』の力を思うように使えぬからだ」

魔法使い「何それ。大層な力を持っててそれはないでしょ……とんだお笑い草ね」

魔王「仕方のない事だ。魔族の本来の性質に依る物だからな……姫」

姫「は、はい!」

魔王「貴女の父君から、我が母……先代魔王による侵略の模様は聞いた事があるか?」

姫「はい……何でも、言葉にするのも憚られる程凄惨極まりないものだったとか」ブルッ

少女「お姫様……」

魔王「ああ……もしも貴女の都が『聖都』でなければ、周辺諸国と同じ運命を辿っておっただろうな」

少女「え?」

333: 2014/06/08(日) 21:56:48 ID:sjvevPyw

魔王「守られていたのだ。ここにいる神獣達によって」

白獣「……その通りです」

黒獣「……」

魔王「彼らの加護によって、魔王やその手の者は一切都を害する事ができなかった」

白獣「遥か昔、教会設立の折に我らが施しておいた結界が機能したのです。ただ、純粋に守るための力が……」

魔王「生前母上はよく言っておった……『目と鼻の先にあるあれに手出しできないのが何よりも悔しい』とな」

魔法使い「……ずるいわね。そこだけ守られているなんて」

魔王「他の国や都の中で、最も魔王城から近い場所に位置しておるのだ。そのような措置も頷ける」

姫「そのお陰で多くの難民を保護したり、食糧などの物資を他国へ送る事ができたとも聞きました」

白獣「主はそれも見越しておられたんでしょうね……人類にとってわかりやすい希望として」

勇者「……それが『末子』と何の関係がある」

334: 2014/06/08(日) 22:01:17 ID:sjvevPyw

魔王「まあ聴け。我らから見ても、母上の都への執念は本当に深かったように思える……それ程の破壊衝動と共に、その力は母上の中に在り続けた」

魔王「己の欲望のままに頃し、奪い、蹂躙した……魔王として誰よりも魔族らしい方だったのだ」

魔王(それでも一応、次期魔王の母としての務めは果たしていたがな。今更信じてはもらえぬだろうが)

勇者「つまり……先代の魔王は、力に振り回されていたと?」

魔王「いや。力に身を委ねていたからこそ、逆にそれを使いこなせていたという事だ」

魔王「しかも、上にいる兄や姉が多い程『末子』の力は強まる……母上は13人兄弟の中の『末子』だった」

魔王「1人の魔王にこれ程多くの子供がいた例は他になかった。故に歴代でもトップクラスの実力者であっただろうな」

魔法使い(魔王の言っている事が本当なら……そんな化け物に先代勇者は……)ゴクリ

勇者「……」

魔王「そして弟には……そんな力の制御ができない」

335: 2014/06/08(日) 22:06:27 ID:sjvevPyw

――――
――

僧侶「側近さん……脚、お早いですね」

戦士「おい僧侶、だからって何で俺にお前を背負わせるんだ……!」ゼエゼエ

僧侶「え? そんなの戦士さんの方が体力があるからに決まっているじゃないですか」

戦士「あのな……」

僧侶「ほらほら、後でちゃんと回復して差し上げますから脚を動かして下さい。でないと……『蝕んじゃいますよ?』」ニコッ

戦士「うぐっ……それだけは勘弁だ」ダダダダッ

僧侶「……ところで、戦士さんにも聞こえていますよね? これ」スッ

戦士「ん? ……ああ。情報共有のためとはいえちょっとあれだけどな」

僧侶「仕方ありませんよ。恐らくこのためにも敢えて私達をこちらへ向かわせたのだと思います……1つだけならばれるリスクも低いですしね」

戦士「……全く便利な腕輪だぜ。使い方次第で盗聴器にもなっちまうとは」

僧侶「そうですね。あ、側近さんに追いつきそうになったらすぐに切りましょうね」

戦士「当たり前だ。側近に悪いしな……自分の秘密を勝手に知られるのは誰だって良い気はしねえよ」

336: 2014/06/08(日) 22:10:01 ID:sjvevPyw

――――
――

勇者「……力を使うために、魔族として残虐になる事ができないからか」

魔王「」コクリ

魔王「だが、だからと言って力が全く使えぬわけではない。現に私は弟の中に眠る『末子』の力の片鱗を何度か見た事がある」

魔王「……大半は、封印の際に我が魔力と共に封じた筈だがな。皮肉にもそれで封印の強度は高まった」

勇者「そんな事も出来るのか」

魔王「ああ。弟の強い希望でな……だが時間と共に少しずつ綻び、本来の主の許へ戻ったのだろう」

勇者「そして今回、あれの魂の解放と共に力はほぼ完全に側近へと戻った……」

魔王「そうなるな。後はそれを使う引き金を引くだけだ……魔族らしい、負の心を持つという、な」

少女(だから側近さんはあんな目に……! 魔族らしくなるのって、そんなに大事な事なの……!?)ジワッ

337: 2014/06/08(日) 22:14:55 ID:sjvevPyw

勇者「成程。ではもしそうなったら側近は元には戻らないのか?」

魔王「それは……わからない。だが場合によっては奴以上の脅威になるという事だけは言える」

妖精「ッ!」ギリッ

少女(妖精さん……凄く怖い顔してる……)

魔王「その表情……小妖精、もしやお前は気付いておったのか? だからあんなに弟に……」

妖精「……」ツーン

少女「魔王様……側近さん、大丈夫だよね? もうあんな事にはならないよね!?」

魔王「まあ、命はもう捨てはしないだろうが……その代わり」

少女「その代わり……?」

魔王「……奴を頃すために心を捨てるかもしれん」

少女「……!!!!」

338: 2014/06/08(日) 22:22:01 ID:sjvevPyw

魔王「勿論、そうならぬよう私も最善は尽くすがな。正気に戻るまで鎖でふん縛るなどしてな」

少女「……どうして」

魔王「!」

少女「そんな大切な事、今まで黙ってたの……? 私達、家族なのに」ギュウッ

魔王「……最初、あのように言ったのは、お前に怖がられたくなかったからだ」

魔王「あの時のお前の怯え様を目の当たりにしては……とても真実など」

少女「……私の事、信じられなかった……?」

魔王「そんな事はない! 何時かは思い切って話そうとは互いに思っていたが……そのうち言うタイミングを逃してしまった」

魔王「ただでさえあのおぞましい過去をお前に打ち明けたのだ。これ以上に我らに対してお前が怯えの念を抱くのが……怖かったんだろう」

少女「……理由はそれだけ? 本当に?」

魔王「本当だとも」グッ

妖精「……」ジーッ

姫(魔王様。あなた方兄弟は……少女さんにすら明かせない苦悩を、その胸に一体どれ程抱えておられるのですか……?)

魔王「……なあ少女。こんな臆病な我らでも変わらずに……家族でいてくれるか?」

339: 2014/06/08(日) 22:25:02 ID:sjvevPyw

――――
――

戦士「! ……おーい側近!」ダダッ

側近「……戦士! 僧侶も……」

僧侶「やっと追い付きました……! お手伝いいたしますよ側近さん」

戦士「おい、いい加減降りろ」グイッ

僧侶「わかってますよ~」ピョンッ……タタッ

側近「お前達、俺の事は良いから今すぐ戻るんだ! もしもの事があれば本当に危険なんだぞ!?」

戦士「そうはいかねえよ。勇者からの指示だしな」

僧侶「一応結界とかも張れますし、足手まといにはなりませんよ! それに、そのもしもの事があった時に連絡が取れた方が良いでしょう?」

側近「……そのような余裕があれば良いがな」ボソッ

僧侶「え? 何か言いました?」

側近「いや……では、これだけは約束してくれ。ここから先はこれ以上ない位用心していてほしい」

僧侶「それは勿論です」

340: 2014/06/08(日) 22:26:57 ID:sjvevPyw

側近「後、万が一の話だが……もしも俺が豹変してお前達に剣を向けるような事があれば」

僧侶「?」

側近「その時は迷わず逃げろ。間違っても戦おうなどとは考えるな……!」

戦士「……了解。でもよ、また俺がぶん殴って目を覚まさせても良いんだろ?」

側近「……できるものならな」

僧侶(ば、ばれてませんよね? 腕輪の事……)ドキドキ

僧侶「あ、そ、そう言えば側近さん。私達は今何処へ向かっているんですか?」

側近「……宝物庫だ」

戦士「宝物庫ぉ!? そりゃ楽しみだ、心が躍るぜ!」

側近「響きだけを聞けばな。だがそこに奴の……最後の封印がある。くれぐれも気を抜くな」

戦・僧「……」コクッ

344: 2014/06/16(月) 22:25:16 ID:i0w2qurQ

――――
――

少女「……そんなの、決まってる」

魔王「少女……」

少女「でも、今は教えてあげないから」

魔王「!」

少女「答えは、側近さんも揃った時にね」ニコッ

魔王「……ああ」

少女「だから、ちゃんと帰って来てね? 約束だよ?」ジッ

魔王「うむ。約束だ」

魔法使い「……嗚呼、不愉快。気持ち悪い」ボソッ

少女「!」ビクッ

魔法使い「勇者、訊く事訊いたでしょ? さっさと行くわよ。これ以上ここにいるのは耐えられない」クルッ

勇者「……ああ。魔王、その封印の場所に案内してもらえるか」

魔王「わかった……任せておけ」

345: 2014/06/16(月) 22:27:03 ID:i0w2qurQ

魔法使い「……ねえ、もしあいつが『末子』の力とやらでおかしくなってたら」

少女「?」

魔法使い「ぶち頃しちゃって構わないでしょ?」ギョロンッ

少女「!」

魔王「どうしようもない時はやむを得んが……あくまでそれは最後の手段だ」

魔法使い「……ふん」スタスタ

少女「あ……待っ……」

勇者「魔法使いが暴走しそうになったら俺が止める」ボソッ

少女「ゆ、勇者様……」

勇者「だから、どうか安心してほしい」ザッザッ

少女「……ありがとう。お願いします」ペコッ

妖精「」ジーッ

346: 2014/06/16(月) 22:29:06 ID:i0w2qurQ

姫「あ、あ……」

姫(どうしましょう、私も魔王様にお声を……! 早くしないと行ってしまわれますわ!!)オロオロ

姫(何かないかしら、魔王様を元気づけられそうな事……)

姫「ま、魔王様!」

魔王「ん?」

姫「あの……その……」モジモジ

姫(さ、流石に少女さんみたいに頬に口付けなどはできませんわ! 他には……)

魔王「どうしたのだ? 姫」コテン

姫(首を傾げられている魔王様も素敵……ではなくて!)

姫「ま……魔王様、の……」

魔王「うん?」

姫「……お好きな、お料理は何ですか……?」プルプル

347: 2014/06/16(月) 22:31:39 ID:i0w2qurQ

魔王「……」

姫(ああああ何を言っているんですか私は……! 魔王様も呆れていらっしゃいますわ!!)カアッ

魔王「……もしもそれに答えたら、貴女は作ってくれるか?」

姫「あ……は、はいっ! 少女さんに教えてもらいましゅっ……!!」

姫(おまけに噛んでしまいました……! なんて恥かしい……)

魔王「……シチュー」

姫「え?」

魔王「クリームシチュー……だな。南瓜をたっぷり入れた」

姫「!」

魔王「楽しみにしても……良いか?」

姫「……はい。ですからどうか、御無事で」

魔王「うむ。貴女もな」

姫「……」ニコッ

348: 2014/06/16(月) 22:34:47 ID:i0w2qurQ

少女「お姫様……」

魔王「神獣達、少女達の事を……」

白獣「ええ。任せてください」

黒獣「全く面倒な……」

白獣「黒様、そのような事を仰らないでくださいな」ムッ

魔王「……では、行ってくる」ザッザッ

少・姫「……」ギュッ

白獣「お気をつけて」

黒獣「……」

妖精「」ヒラヒラ



ギイイッ……バタン

349: 2014/06/16(月) 22:36:50 ID:i0w2qurQ

少女「……本当に、大丈夫かな」

姫「今はただ、皆さんを信じましょう。私達にできる事はそれだけですわ」

少女「それはわかっているんだけど……」

白獣「嗚呼、そういえば少女さん。これは貴女が持っているべきですね」スッ

少女「! これって」

白獣「ずっと地べたに置かれているのが可哀想だったので、思わず拾い上げたのは良いんですが……」

黒獣「返しそびれたのか。全くうっかりしているな」スリスリ

姫「猫さんのぬいぐるみ……少女さんが側近さんに作ってあげた物ですか?」

少女「うん。ずっと大切にしてくれてた……ここに穴が開いちゃったけど」ナデナデ

350: 2014/06/16(月) 22:38:52 ID:i0w2qurQ

姫「ふふ、この兎さんと同じですね」スッ

妖精「!」

少女「あ……魔王様も、持ってたんだ」

姫「初めて作ったんですよね? それにしては中々……」マジマジ

少女「もう、あんまりジロジロ見ないでよ~」

白獣「ふふふ、良いではありませんか。可愛いですよ?」ツンツン

少女「白獣さんまで!」

姫「……私は、すべてが終わった後に魔王様にこれをお返ししたい」

少女「お姫様……」

姫「勿論、汚れを落として穴も繕った状態で、ですが……少女さんはどうですか?」

少女「……うん。私もだよ」ギュウッ

353: 2014/06/26(木) 00:53:33 ID:eCmtocPg

――――
――

側近「……もうすぐ着く」ダダダッ

戦士「大丈夫なのか? もしも手遅れだったらどうすんだよ……」

側近「心配するな、封印の際に防衛の術もかけてある。兄上が生きている状態でそこに異変があれば……」

?「キャアアアアアア誰かああああああああ!!!!」

戦士「」

僧侶「」

側近「このようにすぐにわかるようになっている。急ぐぞ」

戦士「……おい、どう思う?」ヒソヒソ

僧侶「……こ、ここは側近さんを信じましょう」ヒソヒソ

側近「何をしている? 置いて行くぞ」クルッ

戦士「! ま、待ってくれ!!」ダダダッ

僧侶「すみません、すぐ行きまーす!」タタッ

354: 2014/06/26(木) 00:55:50 ID:eCmtocPg


宝物庫


謎箱(封印箱)「アタシ開けられちゃうううううこのままじゃ開けられちゃうのおおおおおおおおお!!!!」ガタガタ

魔王腕(兄魔王)「耳障りだな……静かにできないのか」

封印箱「魔王さまだけど魔王さまじゃない奴に開けられちゃうううううう!!!!」

兄魔王「ふん、全く厄介な仕掛けを施してくれたものだ……まあこうなってしまえば無駄な足掻きだがな」

封印箱「駄目なのおおおおおお開けちゃ駄目なのよおおおおおお!!!!」

兄魔王「いい加減に大人しくしろ。お前の中にある物の本来の所有者様だぞ」ズズズ……

封印箱「イヤアアアアア助けて側近さまあああああああああ!!!!」ゴトンゴトン

側近「封印箱! まだ開けられていないか!?」バタンッ

封印箱「側近さまあああああ!!!!」

兄魔王「! ……何だ、お前生きていたのか」

355: 2014/06/26(木) 00:57:54 ID:eCmtocPg

戦士「あのガタガタ動いてる箱が封印か?」

僧侶「みたいですね。行きましょう!」タタッ

封印箱「嬉しいわっアタシのために来て下さったのねえええええ!!!!」

側近「遅くなったな。今助けるぞ!」ダッ

兄魔王「助ける? ただのモノに向かって助けるだと? ふざけた事を……」ガサガサ

側近「黙れ! 貴様はここで始末する」ジャキッ……ブンッ

兄魔王「はっ、何処を狙っている」ザザザッ

戦士「あの腕……めっちゃ素早く動き回ってんだけど……」ブルッ

僧侶「何を怯えているんですか! 情けない」

戦士「そ、僧侶は怖くねえのか!?」

僧侶「だって正体がわかっているんですよ? 怖がる理由がありません」

戦士「そりゃそうかもしれねえけど……」

356: 2014/06/26(木) 01:00:53 ID:eCmtocPg

側近「くそっ……ちょこまかと!」ザンッ

兄魔王「ぎゃははっ! どうした? お前の大事な兄の腕は斬れないのか?」ヒュンッ スカッ

僧侶「側近さん! 浄化魔法で援護します!」スゥゥ……

側近「頼む! 腕の安否は心配せず、あくまで奴を消し去る事を最優先にしてくれ!!」ブォンッ

僧侶「わかりました……!」カッ

兄魔王「ほう、俺を消し去ろうというのか……面白い!」ヒョイッ

僧侶「外した……っ!」ギリッ

戦士「そ、側近! こいつは動かせるのか?」

封印箱「あらああああああ良い男ねええええええ!!!!」カタカタ

戦士「ひっ」ビクッ

357: 2014/06/26(木) 01:03:09 ID:eCmtocPg

側近「生憎そいつはそこからは動かせん! だから奴を近付けるな!!」

戦士「マジかよ!? しょうがねえな……」スッ

封印箱「お願いいいいいい守ってねえええええええ!!!!」

戦士「ま、守ってやるから静かにしててくれ!」

兄魔王「ふん。虫けらが幾ら集まった所で……」ザザザザッ

側近「来るぞ!」

戦士「うわあああやっぱり気持ち悪い!」

僧侶「戦士さん! いい加減に腹を括りなさい!!」

兄魔王「同じ事だ」ゴオッ

戦士「!」

僧侶「戦士さん!」ポウッ……バシュンッ

戦士「す、すまねえ僧侶!」

358: 2014/06/26(木) 01:07:18 ID:eCmtocPg

側近「! 結界か……」ホッ

戦士「くっそー……こんな事なら魔法使いにアレを出しといてもらうんだったぜ……」

僧侶「今更そんな事を言っても仕方ありませんよ!」

兄魔王「まだまだ、こんなものではないぞ!」ボボボッ

戦士「ええい、こうなりゃ自棄だ! こいやあっ!!」シャキンッ

側近「馬鹿、無闇に向かって行っては……!」

戦士「てえりゃっ!」ブンッ スパンッ

側近「!」

兄魔王「ほう、貴様も魔力の塊を斬るか」

戦士「俺は力でゴリ押しする事しかできねえからな……!」

僧侶(ですが、たったあれだけでもう対魔剣があんなに……やはりアレでなければ厳しいですか……!)

359: 2014/06/26(木) 01:09:30 ID:eCmtocPg
兄魔王「ならこれはどうだ」ドドドドドッ

戦士「うっ……うおおおおお!!!!」ガガガガッ

僧侶「戦士さんっ!」キィンッ

戦士「はあっ……はあっ……」ポタッ……ポタッ……


側近「すべては防げなかったか……!」ギリッ

兄魔王「無様だなあ人間。たったこれだけでへばるのか?」クックッ

戦士「う……まだ、まだ……!」

僧侶(……私達は、それなりに強いと思っていました。竜も倒せる位だし、これなら魔王も倒せるんじゃないかとも……)

側近「貴様っ!」ザシュッ

兄魔王「おっと危ない。魂にまで手が届くその剣は得体が知れないからな……」ヒョイッ

僧侶(でも、甘かった……やはり先代の頃と今とじゃ、全然……!)

360: 2014/06/26(木) 01:12:13 ID:eCmtocPg

側近「僧侶! 何をしている!!」

僧侶「え?」

兄魔王「まず1人」ゴゥッ

僧侶「! きゃ……っ」キンッ……ボシュッ

戦士「僧侶……!」

僧侶「だ、大丈夫です……」シュウウウウ……

兄魔王「至近距離にも関わらず、結界と相頃したか……少し厄介かもしれんな」

僧侶「……そんな事、思っていもいない癖に……っ」

兄魔王「ぎゃはっ! 当然だ」

僧侶「……こうなったら、奥の手を使うべきですかね」スッ

361: 2014/06/26(木) 01:15:10 ID:eCmtocPg

戦士「! 馬鹿、それはお前の消耗が……っ」

僧侶「側近さんの許可もありますし、ここで使えばすべて終わらせられます……腕1本位なら大丈夫ですよ」

兄魔王「何をするつもりなのかは知らないが……まあ、氏ぬ前に精々足掻くが良い」ズズ……

戦士「や、止めろ、早まるな僧侶……!!」

側近「……ならば使わせるわけにはいかないな」ザクッ

僧侶「! 側近さん……」

兄魔王「ぐがっ……!」

側近「もっと自分を大事にした方が良い……お前達の人生はまだまだこれからだろう?」ググッ

僧侶「あ……」ドキッ

側近「その油断が命取りだったな……これでとどめだ!」ズブッ……

兄魔王「お、おのれっ……うあ、あああああああ……!!!!」シュウウ……

362: 2014/06/26(木) 01:17:46 ID:eCmtocPg

側近「……兄上、腕を取り戻せなくてすまないな」スッ

僧侶「あの……終わったのですか?」

側近「その筈だ」

側近(あまりにも呆気なかったが……まあ、こんなものだろう)

僧侶「で、では早く戦士さんの治療を……」クルッ




封印箱「い……いやあああああああああ助けあひゅっ!」グチャッ

戦士「」ビタッ……ズルリ

側近「!」バッ

僧侶「……ど、どうして……」

363: 2014/06/26(木) 01:20:27 ID:eCmtocPg

兄魔王「お前の結界と我が術が相頃したあの時、発生した煙に紛れて分身とすり替わったのだ」ググッ……

側近「馬鹿な……あんな短時間でそんな真似が……!」

兄魔王「ふん、我が魔力を持ってすれば造作もない事だ。それにここは宝物庫だぞ? 隠れる場所なら腐る程ある!」ドクン……ドクン……

僧侶「あ……嘘……」ガクン……

兄魔王「ククク……どうやら油断したのはそっちの方だったようだな」コォォォ……

側近(近付こうにも……奴の魔力の渦が邪魔を……!)グッ

兄魔王「嗚呼、俺がどれ程この瞬間を待ち侘びたか……お前達にはわかるか?」ズズ……ズズズッ……

側近「……最悪だ……」ギリッ

兄魔王「ぎゃははっ……ぎゃははははははは!!!!」スタッ……バサリ

僧侶「そんな……私の、せい……?」

兄魔王「恐れよ人間! 平伏せ魔物!! 今日は魔王復活の記念日であるぞ!!!!」

374: 2014/07/12(土) 23:17:12 ID:8SEhUmZA

――――
――

少女「……」

姫「……」

妖精「」パタパタ

白獣「……黒様、やはりここで本来の姿に戻るつもりはありませんか?」

黒獣「無論だ。大体お前がその姿でいる事の方がおかしいのだぞ」

白獣「それはそうですが……私は、何時もの貴方の方が好きです」

黒獣「……お前達、しばらく耳を塞いで後ろを向いていろ」ジロッ

少女「えっと、どれ位?」

黒獣「何、ほんの5時間ばかr」

白獣「黒様、あんまり冗談が過ぎると嫌いになりますよ?」ニコッ

黒獣「私が悪かった」ズザザザザッ

375: 2014/07/12(土) 23:23:48 ID:8SEhUmZA

姫(あの黒神獣様が……あんなに頭を擦りつけて許しを請われていらっしゃる……!)

少女(黒獣さんの本当の姿……ちょっと気になるかも)

妖精「……」ハァ……

白獣「もう、黒様ったら……ッ!」バッ

黒獣「! この気配は……」

少女「……!」ガクンッ

妖精「!」フラッ……ペタン

姫「少女さん、妖精さん!」

少女「こ……これって……まさか」ブルブル

白獣「……やはり、貴女にもわかりますか」ギュッ サスサス

376: 2014/07/12(土) 23:24:55 ID:8SEhUmZA

少女「あ、ありがとう……」

姫「白神獣様、一体何が……!」

黒獣「ふん、あの阿呆……目覚めおったか」チッ

姫「え……?」

妖精「……」パタパタ……ピトッ

少女「妖精さん……大丈夫、大丈夫だからね」ギュッ

少女(……側近さん……魔王様……皆……ッ!)

377: 2014/07/12(土) 23:26:49 ID:8SEhUmZA

――――
――

側近「……」ジリッ

僧侶「あ……ぅあ、あ……」カタカタ

兄魔王「本当に最高の気分だな……この腕、脚……仮初めではない、すべて俺の物だ……!」グッ

側近「……ッ」ダッ

兄魔王「さて、早速復活後の最初の食事と行きたいところだが……その前に」ピタッ……

側近「!?」

僧侶(指1本で剣を……ッ!)

兄魔王「準備運動だな」トンッ

側近「……ッがあっ!」ズダンッ ズルリ……

378: 2014/07/12(土) 23:29:00 ID:8SEhUmZA

僧侶「あ……側近さ……」ブルブル

兄魔王「くく、お前は中々良い表情をするなあ。その忌々しい力さえなければ、メインディッシュにはもってこいだろう」ザッ……ザッ……

僧侶「い、嫌……来ないで……」

兄魔王「良いぞ、ゲテモノなりにもっと怯えて俺を楽しませるんだ……!」ゲラゲラ

魔王「弟ッ!」バタンッ

魔法使い「! あんた……僧侶から離れろっ!!」チャキッ

僧侶「あ……魔法使い、さん……私……」

兄魔王「ちっ、邪魔が入ったか」

魔王「貴様……ついに封印を……!」ギリッ

勇者「あれがお前達の言っていた?」スラリ

魔王「……そうだ。そしてお前を乗っ取っていた奴だ」

勇者「……」

379: 2014/07/12(土) 23:31:07 ID:8SEhUmZA

兄魔王「おお弟よ、この姿では久しぶりだなあ……すっかり大きくなって」ニヤニヤ

魔王「ふざけた事を……!」

兄魔王「嗚呼、魔王としてお前達を葬るにはここは相応しくないな……先に行って待つとしよう」シュンッ

魔法使い「待ちな……!」タタタッ

勇者「止めろ魔法使い。もういない」

魔王「僧侶、怪我はないか!?」

僧侶「わ、私の事は良いから……あの2人を……」

側近「ぅ……」ヨロッ……

魔王「弟、しっかりしろ!」ガシッ

側近「兄上……すまない。俺達が不甲斐ないばかりに奴の復活を許してしまった」

僧侶「側近さんのせいではありません……私が、もっと強い結界を張れていれば……」

380: 2014/07/12(土) 23:35:40 ID:8SEhUmZA

すみません、修正です。

側近「兄上……すまない。俺達が不甲斐ないばかりに奴の復活を許してしまった」



側近「兄上……すまない。俺が不甲斐ないばかりに奴の復活を許してしまった」

381: 2014/07/12(土) 23:37:15 ID:8SEhUmZA

魔法使い「全く、アレで復活したてなのが信じられないわ! ……なんて魔力よ」ブルッ

勇者「……戦士は気を失っているだけのようだな。頭から出血しているせいで酷い怪我に見えるが」

魔法使い「あいつ……一体何処に行ったのよ!?」ダンッ

魔王「大方見当はつく。魔王である事に拘る奴の事だ、辿り着く場所は1つしかない」

側近「……ああ」

戦士「うう……俺は……」パチッ

勇者「戦士、気が付いたか」

戦士「勇者か……あいつは、どうなっ……痛っ……!」ズキンッ

勇者「あまり無理に動くな。今僧侶に診て……」

僧侶「ごめんなさい……本当にごめんなさいっ……!!」ポロポロ

魔王「今更、目覚めてしまったものは仕方がない。こうなった以上は全力で奴を倒すまでだ」

382: 2014/07/12(土) 23:40:54 ID:8SEhUmZA

僧侶「ですが……実の兄弟、なのでしょう?」

側近「種違いではあるがな。それに覚悟はとっくにしている」

魔王「こうしている間にも、奴はどんどん以前の力を取り戻していくだろう……ならば、今は一刻も早く奴の元へ行くべきだ」

僧侶「うぅっ……はい!」ゴシゴシ

勇者「……僧侶。戦士の傷を」

戦士「なあ僧侶、俺も油断しちまったのは同じだ。だからそんなに自分ばっか責めるなよ」ポンポン

僧侶「戦士さん……」ポウッ……

383: 2014/07/12(土) 23:42:09 ID:8SEhUmZA

側近「……いや、寧ろ封印の前で気を抜いていた戦士の方に非が」

戦士「うおおいそこ! 何気に俺に全部おっ被せようとすんな!!」

側近「冗談だ」

戦士「おいおい、その顔でかよ……」

側近「失礼な奴だな。俺だって冗談位言う時もある」

魔法使い「ねえ。何時までそんな茶番を演じてるつもり……?」ゴゴゴゴゴ……

側・戦「……すまない(悪い)」

僧侶「……終わり、ました」

勇者「よし」

魔王「では改めて……行くぞ!」ザッ

388: 2014/07/26(土) 22:16:42 ID:ClbiZ.X2

――――
――

白獣「……あら」ピクッ

少女「どうしたの?」

白獣「少女さん、姫さん……勿論妖精さんも。絶対に私達から離れてはいけませんよ?」

姫「白神獣様……?」

黒獣「ちっ……来るぞ」


バタンッ……ズズズッ……

『……ァア……』ゾロゾロ

『ウゥ……グガァ……』ゾロゾロ


少女「な、何……これ」

妖精「!」ギュウウッ

姫「い、一体何が起こっているんですの……!? この者達は……」

389: 2014/07/26(土) 22:20:14 ID:ClbiZ.X2

黒獣「見ればわかるだろう。こいつらは既にこの世の者ではない……あの馬鹿の仕業だろうな」ギロッ

白獣「哀れな氏者に……なんと心ない仕打ちを」ポロッ

少女「こっちに……来る……っ」カタカタ

黒獣「ふん。何のために我らがいると思っている」

白獣「この結界がある限り、彼らはこちらに指1本触れる事は叶いません」フワッ……

『……! ……!!』バンバン

少女「こんなに沢山、何処から……?」

黒獣「……恐らく、過去にこの城で散った者達だ」

少女「え?」

白獣「ここは魔王城です。遥か昔から続く魔王と勇者の戦いで多くの命が消えた場所……」

姫「あ……」

白獣「力を、よりによってこんな事に使うなんて……っ」ポロポロ

390: 2014/07/26(土) 22:24:14 ID:ClbiZ.X2

黒獣「白娘……」スリッ

少女「ひ、酷い……」ジワッ

妖精「!」オロオロ ナデナデ

姫「皆さん……大丈夫でしょうか……」ギュッ

姫(魔王様……!)

――――
――

魔王「こ、こ奴らは……!」

魔法使い「嫌ッ……! 何なのよこれ!?」

戦士「ま、ま、魔法使い、しっかりしろ!!」ガクガク

魔法使い「震える声で言わないでよ!!」

391: 2014/07/26(土) 22:25:37 ID:ClbiZ.X2

勇者「こいつら……氏霊の類か?」

僧侶「お、恐らくは……ここで氏んだ者達が強制的に実体化されているのだと……」ブルブル

側近「奴は……何処まで……ッ!!」ギリッ

戦士「おい、転移はできねえのか!?」

魔法使い「無理よ! さっきよりも妨害が酷くなってる!!」

魔王「……悔しいが私もだ。恐らく奴が完全復活した事が影響しておるのだろう」

魔法使い「何ですって!?」

勇者「……ではこいつらを蹴散らしながら進まなければならないという事か」スッ

側近「! お前、斬るというのか!? 1度氏んだ者達を再び!!」

勇者「そうしなければ奴の元へ行けないのならやむを得ないだろう」

僧侶「ま、待って下さい!」

魔王「僧侶……」

僧侶「ここは……どうか私に任せてください」

397: 2014/08/17(日) 21:51:12 ID:eCt8/NfE

魔法使い「……悔しいけど、確かにこういうのはあんた向きよね」

僧侶「ええ。ですがそれ以上に、このような事態の引き金を引いてしまった責任もあります」

側近「僧侶、だから気にするなと……」

僧侶「そう簡単に気持ちを切り替える事なんてできません!」

魔王「しかし……」

僧侶「それに、今ここで戦って皆さんが消耗してしまう方が痛手になると思います」

勇者「……確かにそれは一理ある。だが……」

僧侶「大丈夫です。奥の手を使う事に比べれば……こちらの方が本来の私の役割ですしね」ニコッ

398: 2014/08/17(日) 21:52:07 ID:eCt8/NfE

戦士「勇者、どうする?」チラッ

勇者「……迷っている暇はないな。僧侶、頼む」

僧侶「はい」スッ

魔王「……氏者を傷つけずに済むならそれに越した事はない、が」

側近「くれぐれも、無理はしないで欲しい」

僧侶「ふふ、ご心配なさらず。では……」

僧侶「これより彼らの浄化に入ります。皆さん、ほんの少しだけ力を貸してください!」キッ

399: 2014/08/17(日) 21:53:35 ID:eCt8/NfE

魔王「僧侶、我らは何をすれば良いだろうか?」

僧侶「浄化を邪魔されないように私を守ってください。結界などを張って貰えれば手っ取り早いのですが……」

側近「……兄上」チラッ

魔王「うむ、それならお安い御用だな」スッ

勇者「魔法使い。お前も協力しろ」

魔法使い「あたしはこういうの不得手だって知ってるでしょ?」

勇者「俺はお前以上に不得手だ。だから個々の消費を少しでも抑えるために魔王に協力して欲しい」

魔法使い「冗談じゃないわ! 只でさえこの状況に耐えられないのに……!」

勇者「ぐずぐずしていたらもっと長引くぞ」

魔法使い「それは……っ」

400: 2014/08/17(日) 21:57:50 ID:eCt8/NfE

魔王「結界位なら私だけでも十分だが……」

勇者「お前は戦力の1人だ。ここで余計に消耗させるわけにはいかないだろう」

戦士「な、なあ、俺は魔法が使えねえから下がってて良いんだよな?」

僧侶「……そうですね。彼らを闇雲に傷つける訳にもいきませんし」

側近「俺も兄上達の援護をした方が良いだろうか」

僧侶「側近さんは、もしもの時のために勇者さん達と下がっていてください」

側近「わかった」

勇者「頼む、魔法使い」

魔法使い「……これっきりだからね」

勇者「ああ」

僧侶「準備は宜しいですか? では……行きます!」

401: 2014/08/17(日) 21:59:30 ID:eCt8/NfE

――――
――

魔法使い「僧侶、余力は?」タッタッタッ

僧侶「まだまだ大丈夫です!」グッ

勇者「僧侶の浄化が効いたのは幸いだな」タタタッ

戦士「おい……何でまたお前を背負わないといけないんだよ」

僧侶「魔王さん達を除けば、この中では戦士さんが1番スタミナがあって私がないんですよ? 当然の結果です」

戦士「いや、おかしいだろ!」

僧侶「ですが、現にそうやって突っ込みながら走る余裕があるじゃないですか」

魔法使い「あんた、さっきは震えてばっかりで何にもやってないじゃない。これ位は役に立ちなさいよ」ジロッ

戦士「うぐ……っ」

402: 2014/08/17(日) 22:03:28 ID:eCt8/NfE

魔王「……彼らは、救われたのだろうか」タタタッ

側近「兄上、浄化された彼らは安らかな顔をしていただろう? きっとそうだ」

魔王「ん……そうだな」ホッ

僧侶「……本当に、情の深い方々です」

魔法使い「ふん、偽善者共が」ボソッ

勇者「魔王、あとどれ位で着く?」

魔王「もう少しだ、この階段を下りれば……ッ!」ピタッ

?「……ふうん、ちゃんと成長はしてるんだぁ」クスクス

?「当たり前でしょ。あれから随分経っているんだから」

側近「兄上……!」

魔王「ま……まさか……嘘だろう」ブルッ

403: 2014/08/17(日) 22:04:55 ID:eCt8/NfE

魔法使い「……何、あいつら」チャキッ

?「だって、あいつに喰われて以来よぉ? 地上に戻って来るのは」

?「それでも少しは察してよ。だから私より先に食べられちゃう……なっさけない」

?「あはぁ。そっちだってあの後すぐに食べられた癖にぃ」

?「……喧嘩売ってる?」

?「だったら何よぅ」

側近「何故ここに……姉上達が……」

僧侶「姉? この方達がですか!?」

魔法使い「へえ、じゃあ中々骨がありそうじゃない。勿論やっちゃって良いんでしょ?」スッ

側近「……ああ」ギリッ

魔王(……自分が喰った者達まで駒にするか……!)ワナワナ

404: 2014/08/17(日) 22:08:27 ID:eCt8/NfE

勇者「……どちらも髪の色が銀色だな。双子か?」

魔王「いや……確かに共に腹の中にはいたが双子ではない。何でも母上が同時期に銀髪の2人の魔族と交わったらしい」

戦士「言われてみれば……背格好は近いが顔はあんまり似てねえな」

僧侶(こうして見てみると、皆さんあまりお顔は似ていないんですね……)

勇者(何にせよ、凄まじい魔力を持っている点だけは変わらない)

魔王姉2「……まあ、今はこうして言い争っている場合じゃあないね」

魔王姉1「そうよぉ。今何よりも優先するべきなのは」

姉1・2「こいつらを氏ぬギリギリまでいたぶる事♪」ニイッ

410: 2014/08/31(日) 21:15:52 ID:mQVuw2nc

勇者(……来る)スッ

魔王姉1「じゃあまずはぁ……いっちばん弱っちそうなあんた!」ジャキンッ

僧侶「ッ……!」ビクッ

戦士「おいおい、俺の事は無視かよ……」

魔法使い「舐められたものね」

魔王姉1「え? もう害のない虫の事なんかいちいち気にしないでしょお?」

戦士「……ぇ」ピキッ

勇者「どうした?」

戦士(う……動けねえ……!? 何時の間に)ギシッ

魔王「戦士!? しっかりしろ!!」

側近「……姉上、戦士に何をした」ギロッ

魔王姉2「あら? まさか彼女の『父親』を忘れたの? それとも知らなかったっけ」クスッ

戦士「あ……が……っ」

魔王姉1「あたしは……淫魔の王の娘よお?」ニヤァ

411: 2014/08/31(日) 21:17:47 ID:mQVuw2nc

魔法使い「……淫魔の魅了の能力ってわけ」ギリッ

魔王姉2「男にしか効かないけどね。それにそこの勇者や愚弟達は無理。でしょ?」チラッ

魔王姉1「そうねえ……でも、あんたには効いて良かったわぁ」

戦士(クソッ! 情けねえがあいつから目が離せねえ……)

魔王姉1「あーあ、それにしても惜しいわねえ。もしも排除する対象じゃなければ氏ぬまでベッドで搾り取ってあげるのにぃ」ペロリ……

戦士(何……だと……)ゴクリ

魔法使い「……汚らわしい」

魔王姉2「ふふっ、そっちばっかり気にしてて良いのかな~」パチンッ

『!?』ズズンッ……ビタッ

魔王姉2「とりあえず、皆まとめて這いつくばっちゃって♪」

412: 2014/08/31(日) 21:19:55 ID:mQVuw2nc

魔王姉1「ちょっとお……これじゃああたしが仕掛けた意味がないじゃない」

魔王姉2「あ、ごめんね? 役立たずにしちゃって……元からだっけ」

魔王姉1「……ねえ、さっきのお返し?」

魔王姉2「さあね~」

魔法使い「……」ブツブツ

魔王姉2「!」

魔法使い「……!」グッ……バヅンッ

魔王姉2「……へえ。人間風情にこれを壊されるなんてね」

魔王姉1「あんたも駄目駄目ねぇ」クスクス

413: 2014/08/31(日) 21:21:50 ID:mQVuw2nc

魔法使い「……ふう、久しぶりの詠唱だからヒヤヒヤしたわ」ムクッ

側近(竜の目の魔力で重力に干渉したのか……)

魔王「皆、大丈夫か!」ガバッ

勇者「ああ」

戦士「いてて……今ので動けるようにはなったな……」サスサス

僧侶「戦士さん、大丈夫ですか? 倒れた衝撃で私の全体重が……」オロオロ

戦士「心配してくれるならとりあえず降りてくれよ」

魔法使い「全く、物理以外には本っ当に弱いんだから……もうあいつの目を見るんじゃないわよ」

戦士「わかってらー」

魔王姉1「あはっ、まさかアレだけがあたしの能だとは思ってないわよね?」

魔王姉2「あんなのはほんの小手調べ……」ジャキッ

魔法使い「……ふん」チャキッ

414: 2014/08/31(日) 21:23:37 ID:mQVuw2nc

戦士「ま、魔法使い、俺の武器……」

魔法使い「あ、忘れてた。ちょっと待ってなさい」

魔王「待て」スッ

側近「兄上?」

魔王「……お前達、ここは私がどうにかするから先に行ってはくれないだろうか」

魔法使い「……は?」

戦士「え、何だって?」

側近「無茶を言うな兄上! 幾ら成長したとはいえ、あの2人に1人で挑もうなど自殺行為だぞ!!」

僧侶「そ、そうですよ! 第一そのような状態で……!」

魔王「僧侶、この2人は貴女でも一筋縄ではいかない。だからどうか私に任せて欲しい」

勇者「……何か秘策があるのか」

魔王「ふ、なければこんな事は言わぬよ」

415: 2014/08/31(日) 21:28:04 ID:mQVuw2nc

側近「それでも、貴方をここに残して行くのは……」

魔王「……大丈夫だ、命を賭すわけではない。ただ今から私がやる事は、お前達が傍にいると非常に都合が悪いんだ」スッ

魔法使い「! ちょっ……」

魔王「失礼」ジャラララッ

姉1・2「!」シュルルッ

戦士「うおおお解けねええええ!!!!」ギチッ

僧侶「ま、魔王さん!」グイグイ

魔法使い「約束が違うじゃない! だから魔物は信用できないのよ!!」

勇者「……」

側近「……信じて良いんだな?」ギュウウッ

魔王「ああ……精々私の心が痛むだけで終わる」グッ

側近「!? 兄上それは……!!」

416: 2014/08/31(日) 21:29:49 ID:mQVuw2nc

魔王「うおおおおお……!!!!」グイイッ……

戦士「え……まさか」ジワッ

魔王「……あああああああああああッッッッ!!!!」ブンッッッ

僧侶「きゃ……きゃあああああ!!!!」

魔法使い「こんの糞野郎があああああ!!!!」

勇者「……!」

戦士「ひぃえええええおおおおあああああああ!!!!」

側近「兄上……無茶は……!」


ヒュウウウウ……ガチャッ バタン


417: 2014/08/31(日) 21:31:52 ID:mQVuw2nc

魔王「……」シュルルルルルル……フッ

魔王「……」チラッ

姉1「……」ブチッ

姉2「やってくれるね」バラバラ

魔王「嗚呼、また鎖が減ってしまったな……多数を縛るのは骨が折れる」

姉1「それだけじゃないでしょお? あたし達が手を出せないように妙な魔力障壁まで張っちゃって」パリンッ

魔王「正直通用するかどうかは賭けだったよ。少し前に初めてやったからな」

姉2「……本当にあの愚弟? 随分と立派になったものだね……武器以外」ジッ

418: 2014/08/31(日) 21:35:09 ID:mQVuw2nc

魔王「そうか? 自分では良くわからないが……」

姉1「1つ訊きたいんだけどさ、それであたし達に勝てるって本気で思ってるのぉ? そんな武器と腕で」ニヤニヤ

魔王「……ふっ」

姉2「何がおかしいの?」

姉1「てかあんた笑えたんだあ? あれと一緒に怯えてる顔しか見た事なかったけど」

魔王「……この表情も、つい最近できるようになったんだ」

姉2「そう。ま、今からまたあの顔しかできなくなっちゃうだろうけどね」クルクル……ブンッ

魔王「それはどうだろうな……それに姉上達は何か勘違いをしている」

姉1・2「?」

魔王「腕は使わん。武器も使わん……ただ、生まれ持った能力のみを使って私は貴女達を地へ還す」

422: 2014/09/21(日) 00:29:05 ID:f1nDpFF.

姉1・2「……」

姉1・2「……ぷっ」

姉1・2「あはははははっ!!!!」ケラケラ

魔王「……」

姉1「生まれ持った能力ぅ? あんたにそんなのあったんだ?」

姉2「ギャグにしては寒過ぎるんだけど」

魔王「……笑いたければ、幾らでも笑うがいいさ」スッ

姉2「言われなくても笑うわよ……うふふふっ」クスクス

魔王「……」ギュッ

423: 2014/09/21(日) 00:31:31 ID:f1nDpFF.

姉1「何? まさか怖気づいちゃったあ? そんなに大層な力なのぉ?」

魔王「そうだな……できれば使いたくなかったよ」ツゥッ……

姉2「!」

姉2(泣いてる……?)

魔王(本当は氏ぬまで使いたくなかったが……大切な者達を守るためだ。腹を括らねば)ポタッ……ポタッ

魔王(落ち着け……2人とも既に氏んでおるのだ……!)グッ

魔王「……ふーっ……姉上」ゴシゴシ

姉1・2「?」



魔王「……さよならだ」ギンッ


424: 2014/09/21(日) 00:34:01 ID:f1nDpFF.

姉2「ッ!? ……なんだ、何も起きないじゃない」

魔王「……」

姉1「きゃははっ、睨むだけで解決するなら苦労しなぷげぇッ!?」ドクンッ

姉2「……え?」クルッ

姉1「ァ、ガッ……ぐげぇあああアァアア……!!!!」ガクガクガク……ビチャッ

姉2「ちょ、ちょっと、どうしたっていうのよ……何でそんなに苦しんでるの!?」

姉1「ヒぐ、あ……ぐて……ぃ……なにを……ガハァッ」ベチャッ ボタボタボタタ……ッ

姉2(どういう事!? あいつが睨んだだけで……こいつの顔の穴という穴から血が……!)ゾクッ

魔王「……先程の言葉を、そっくりそのままお返ししよう」コツッ……コツッ……

姉2「先、程……?」

姉1「ぁ、げェえっ……くるひ……ゴホォッ!」コヒュー……コヒュー……

魔王「私の『父親』が誰か、忘れたか?」

姉2「……ッッッ!?」

425: 2014/09/21(日) 00:37:22 ID:f1nDpFF.

魔王「……貴女の父親は、母上が遠征先で偶然見つけたエルフの屈強な戦士だったと聞く」

姉2「……それがどうしたのよ」ジワッ……

魔王「今でこそ、表へ出る事の少なくなった彼らの一族だが……その原因の一端となったのは」

姉1「かは……ぁ……ッ……」ガクンッ……ビクンッ……

魔王「……ある魔物の襲撃であると書物に記されていた」……ピタッ

姉2「それって……」

魔王「母上……先代の魔王はその事にいたく興味を持ち、貴女達を産んだ後に彼の魔物を次なる種馬とした」

姉2「……」

魔王「ただし、あまりにも危険な魔物だったために……手に入れるのは非常に苦労したようだが」

姉2(そうか……こいつの能力は……!)カタカタ

魔王「……何故ならこの目よりも遥かに早く見る物を氏に至らしめるからな」

姉2(蛇の王……の……)フラッ……ペタン

426: 2014/09/21(日) 00:39:41 ID:f1nDpFF.

魔王「……そろそろか」

姉1「い……だぁイ……ょ……たひゅ……け……」ピク……ピクッ……

魔王「大丈夫だ、じきに楽になる……心臓に」

姉1「ひぅッ……!」ビクンッ……

魔王「『到達』したからな……氏が」

姉1「」シュウウウウ……

魔王「……やはり氏者に効く程強いのだな。この力は」

姉2「……ッ!」ギリッ

魔王「さて、どうする……今のは見せしめだ。同じ道は辿りたくはなかろう?」

姉2「……ないで」

魔王「!」

姉2「ふざけないでッ! 今更退ける訳ないでしょ!? 私は氏んでも魔王の娘なんだから!!!!」キッ

427: 2014/09/21(日) 00:46:30 ID:f1nDpFF.

魔王「……その割には震えておるではないか」

姉2「ッ……く」ギリッ

魔王「では、仕方がない……」

姉2(……あれ?)ピクッ

魔王「一気にいかせてもらおう。弟達が心配だからな」

姉2(体が、動かない……ッ)

魔王「私が意味もなく、こんな事を長々と口にしていたと思うか?」

姉2「あんた……これ以上、何を」

魔王「大した事ではない。ただ、貴女の魔力と体を私の魔力で抑えつけただけだ」

姉2「なに、それ……!?」

魔王「私は一通り魔法を学びはしたが、攻撃系統のそれはあまり思うように使えない……誰かを傷つけるかもしれないという恐れから、な」

姉2「はっ……あんな事、しておいて……よくもそんな口が……」

428: 2014/09/21(日) 00:48:00 ID:f1nDpFF.

魔王「……だが、その代わりにこういった事は得意なようだ」

姉2「くっ……」

魔王「それでも少々骨が折れたよ。何せ貴女の魔力は我らの中で最も強いからな……昔の私ならば間違いなく不可能だった」

姉2「……成長したんだね。憎たらしい位に」ギロッ

魔王「そうだな」

姉2「じゃあさっさとやりなさいよ……一気にいくんでしょ」

魔王「嗚呼、そうだったな……」ジロッ

姉2「……やっぱりあんたも魔王の子供ね」

魔王「そうだな……姉上」

魔王(再び葬る前に力を認められた事が、何故か……ほんの少しだけ嬉しかったよ)

429: 2014/09/21(日) 00:51:44 ID:f1nDpFF.

――――
――

魔王「げェっ……ぅおええええッ……!」ビチャビチャ……ッ

魔王(はっ……何が『誰かを傷つけたくはない』だ)ゼェゼェ

魔王(こんなにおぞましい力を持っておいて……)

魔王「……はぁっ……はぁっ……こんな目など……っ!」スッ

魔王「ッ……ぐ、ぅ……」ピタッ

魔王「……臆病者め」ギュッ

魔王(こうしている時間が惜しい……もう目も戻ったな)

魔王「……今は、とにかく行かねば……大切な家族のためにも」ヨロッ……

魔王(でなければ……姉上達を手にかけた意味がないのだから)テク……テク……

434: 2014/10/05(日) 23:51:18 ID:kjHXBGgk

――――
――

謁見の間

『……ああああぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!!』ヒュルルルルル……

戦士「がふゥっ!!」ドスンッ

僧侶「きゃッ!」ベシャンッ

魔法使い「ぐっ……!」ドシンッ

勇者「……ッ」ドン……ッ

側近(ほう……手加減されていたとはいえ、この状況で受身を取ったか)ドッ……クルンッ

ジャララララ……バタンッ

魔法使い「あ……開けろー! 開けろってのー!!」ドンドン

戦士「くそっ……ビクともしねえな」ガンッガンッ

僧侶「ふ、2人とも! そちらも大事ですが今は扉よりも……」

435: 2014/10/05(日) 23:53:34 ID:kjHXBGgk

『ふん、遅かったな』

側近「ッ!」バッ

兄魔王「待ちくたびれたぞ」クチャクチャ

勇者「……」ジャキンッ

魔法使い「! ……悔しいけど、僧侶の言う通りね」チャキ

戦士「あ、あいつ……ッ!」

僧侶「……!」ブルッ

側近(……一足遅かった……!)

兄魔王「この玉座、中々の……んぐっ、座り心地だなあ。これぞ魔王に相応しい」バリバリ……ゴクンッ

側近「……貴様に座らせるために手入れをしていたわけではないぞ」ギロッ

兄魔王「俺は魔王だ。これはそのためのものだろうが」

436: 2014/10/05(日) 23:55:41 ID:kjHXBGgk

側近「貴様は魔王などではない……そのような器ではない」

兄魔王「俺が勝ちとった座を横から掠め取っておいて良く言う……んん?」

側近「……」ジャキッ

兄魔王「良く見たら1人足りないなあ? 実に残念だ……」ペロリ……

魔法使い「……」スーッ

兄魔王「嗚呼、あいつに見せてやりたかったよ……こうして己の腕が俺に喰われる様をなあ!」ニィィ

側近(すまない……兄上……!)ジワッ

437: 2014/10/05(日) 23:58:16 ID:kjHXBGgk

勇者「……気をつけろ。油断はするな」ボソッ

僧侶「そ、そんなの……頼まれたってしませんよ」

戦士「ま、魔法使い! まだか!?」チラッ

魔法使い「うるさいわね! 集中できないから黙りなさい!!」ススッ

兄魔王「何をするつもりかは知らんが……無駄な事だ」スッ

側近「!? 貴様何を……」

兄魔王「この力の前ではなあ!!!!」ズズズ……ッ

魔法使い「……ッ?」ガクンッ

僧侶「魔法使いさん!?」

438: 2014/10/06(月) 00:01:31 ID:FlyPv/Mw

勇者「……!」

側近「これは……」

戦士「お、お前ら一体どうしたってんだよ!?」

兄魔王「ぎゃはははははは! 魔力を吸い取られる気分はどうだ虫けら共!?」ゲタゲタ

戦士「魔力を吸い取る……だと?」

側近「馬鹿な……以前の貴様にそのような力はなかった筈だ!!」

兄魔王「それはそうだろう。何せ……お前達に封印される少し前に手に入れたものだからなあ!!!!」

側近「!?」

勇者「! ……そう、か」ユラリ

僧侶「ゆ、勇者さん?」

勇者「この能力……そういう事だったのか……」ブツブツ

側近「勇者……?」

勇者「……お前が、祖母の仇だな」ジロッ

439: 2014/10/06(月) 00:07:33 ID:FlyPv/Mw

魔法使い「え……?」

戦士「何だと!?」

僧侶「それってどういう……」

兄魔王「……」ニヤニヤ

側近「貴様……一体何時先代の勇者と接触する暇があった!?」

兄魔王「何時だと? そんなもの、愚妹達を相手取っている時に決まっているだろう……血が絶えていなかった事には驚いたがなあ」

勇者「……自分でも驚いている。俺がこうしてここにいる事自体が奇跡のようなものだしな」

441: 2014/10/06(月) 00:14:53 ID:FlyPv/Mw

兄魔王「だが、同時に納得もした。でなければ……」

側近(……奴は『魔』とは対極の位置にある勇者の体を乗っ取る事が出来た。それが意味するのは……!)

兄魔王「幾ら母上との氏闘で満身創痍だったとはいえ……それでもあの女を」

側近(俄かには信じられん事だが……『勇者』の肉体に体が馴染んでいる状態だった)

兄魔王「喰い頃す事ができなかったかもしれないからなあ!!!!」

側近(その肉を自ら取り込んだ事によって……!)ゾワッ

445: 2014/10/19(日) 22:18:20 ID:H4rqURUI

勇者「……そんなに魔王の地位が欲しかったのか」

兄魔王「お前の祖母殿は中々に美味であったぞ! ……『直前に喰った肉』がなければ今まで食べた中で1番の極上品だったろうなあ!!」

側近「……直前に、喰った肉?」

兄魔王「俺が万が一の事を何も考えずに勇者の肉を喰らうと思ったか? 愚弟」

側近「! まさか……」ワナワナ

兄魔王「……」ニヤニヤ

側近「……『母上も』……喰ったのか……!?」

僧侶「!?」

446: 2014/10/19(日) 22:20:11 ID:H4rqURUI

兄魔王「それがどうした。ああ、本人の許可は得ているぞ? ……勇者の時と違ってなあ」ニヤァ

側近「ふざけるな! 母上を喰らうなど幾ら何でも……!!」

兄魔王「ふざけてなどいないぞ? 考えてもみるがいい……我らは身内で頂点を巡って喰らい合う家系だ」

魔法使い「……」ギロリ

兄魔王「兄弟姉妹の肉が喰えて、親の肉が喰えん道理はあるまい?」クックッ

戦士「……イカれてやがるぜ。本当によ」

勇者「……」

兄魔王「お陰で俺は更なる力を手に入れ、愚妹共を打ち負かし……こうしてここにいる!」ドンッ

側近「ッ……!」ブルブル

僧侶(……なんと恐ろしく……罪深いのでしょう……)カタカタ

447: 2014/10/19(日) 22:21:50 ID:H4rqURUI

勇者「……言いたい事は」

兄魔王「んん?」

勇者「それだけか」ザッ……ザッ……

側近「!」

勇者「お前が祖母を喰らわなければ……あんな事には……」ブツブツ

兄魔王「ふん、今更何ができるというのだ? 魔力もほとんど残ってなどいないというのに」

勇者「……そんなもの必要ない」ザッ……

兄魔王「ほう?」

勇者「これさえあれば戦えるからな」ジャキンッ

側近「!」

兄魔王「……まあ、あっさり終わってもそれはそれでつまらんしなあ」

448: 2014/10/19(日) 22:23:32 ID:H4rqURUI

勇者「それに……俺は」

魔法使い「……ふう。何とか間に合いそうね」ムクッ

僧侶「魔法使いさん……!」

戦士「おい、大丈夫なのか!?」

魔法使い「はっ、四つ目の魔女を舐めんじゃないわよ」スッ……ゴォッ

勇者「……1人で戦っているわけではない」

兄魔王「ふん、仇を前にして仲間に頼るか。みっともない事だなあ……あの女は1人で母上に挑んでいたぞ」

勇者「仲間に頼って何が悪い」

兄魔王「下らんな。本当に」

勇者「……まあ、そういう存在がいないお前にはわからないだろうな」チラッ

側近「! ……確かにな」スッ

449: 2014/10/19(日) 22:26:08 ID:H4rqURUI

兄魔王「愚弟。お前もまだやろうというのか?」

側近「確かに魔力を奪われるのは痛手だが……俺も魔法よりこちらの方が得意だからな」ブンッ

兄魔王「は、その強がりが何時まで続くかなあ?」

側近「何時まで、だと? そんなもの……」





少女『側近さん!』





側近「……守るべき者がいる限りさ」

兄魔王「ほざけ! ならばそいつ諸共あの世へ逝くが良い!!」ゴゴゴ……

450: 2014/10/19(日) 22:27:52 ID:H4rqURUI

魔法使い「これで……いけるわ」ススス……スッ

戦士「ようやく出番だな!」ワキワキ

魔法使い「ええ……遅くなって悪かったわね」ボソッ

僧侶(魔法使いさんが謝罪を……!)

魔法使い「さあ、使い手と共に思う存分暴れなさい……あたしの分までね!」カッ

戦士「っしゃあ!!」ガシッ

魔法使い「狂乱の権化、『元』呪いの大斧ッ……!!」シュウウウウ……

戦士「うおおおおお!!!!」ブンッブンッ……ブンッ

451: 2014/10/19(日) 22:29:37 ID:H4rqURUI

魔法使い「……」フラッ

僧侶「お疲れ様です」ガシッ

魔法使い「ん……悔しいけど、流石にこれ以上はきついみたい」チッ

側近「! 魔法使い、その姿は……」

魔法使い「うるさい黙れ見るなさっさといけ」プイッ

側近「ッ……すまない」クルッ

僧侶「魔法使いさん……」

452: 2014/10/19(日) 22:31:49 ID:H4rqURUI

魔法使い「ねえ僧侶。あたしはまだ『あたし』よね?」

僧侶「……はい。間違いなく何時もの魔法使いさんです」

魔法使い「そう。良かった」

僧侶「例えこんなに……肌が鱗に覆われてしまっていても、魔法使いさんは魔法使いさんですから」サスサス

魔法使い「『眼』だけの分際で生意気よね。本当」

僧侶「あのドラゴンですもの、仕方ありませんよ」

魔法使い「……ふん」

魔法使い(あんたたち……負けるんじゃないわよ)

458: 2014/11/17(月) 00:08:01 ID:cRjQJ3yg

――――
――

少女「……」

姫「……」

妖精「」パタパタ

白獣「浮かない顔ですね」

少女「白獣さん……そりゃあ、そうだよ」

白獣「まあ、周りを彼らに囲まれていてはそうなってしまうのも無理はありませんね」チラッ


『……ヴァ……あぁア……』

ガタガタ……バンッバンッ


少女「……」

白獣「……勿論、それ以外も原因はあるでしょう」

459: 2014/11/17(月) 00:09:36 ID:cRjQJ3yg

姫「あの、白神獣様……本当に私達は何もしなくて良いんですか!?」

少女「お姫様……」

白獣「お気持ちはとてもわかります。ですが、彼らにとってはこれが最善なのですよ」

姫「それは理解しておりますが……!」

黒獣「しつこいぞ小娘。それ以上白娘を困らせるなら噛む」ギラッ

姫「ッ……!」ビクッ

白獣「黒様!」

黒獣「……仮にお前がここから出たとして、一体あいつらのために何ができるというのだ?」

姫「そ、それは……」

460: 2014/11/17(月) 00:11:19 ID:cRjQJ3yg

黒獣「武術の心得もなく、何か術が使えるわけでもなし……それこそ王族であるというだけの非力な人間」

黒獣「それがお前だ」

姫「っ、ぐ……」

黒獣「その事を忘れるな」プイッ

少女「黒獣さん、そんな……あんまりだよ!」

黒獣「黙れ、噛み砕かれたいか」ギロリ

少女「ひっ……!」ビクッ

白獣「黒様、あまり少女さんを脅かさないでください!」

黒獣「ふん……召喚主でなければ今すぐにでも八つ裂きにしてやりたい所だ」

白獣「だからそういう事を言わないでくださいったら!!」

妖精「……!」キーキー

少女(……どうして黒獣さんはこんなに私を嫌うんだろう? 白獣さんと何か関係があるの……?)

少女(なにも……わからないよ……)ギュッ

461: 2014/11/17(月) 00:13:01 ID:cRjQJ3yg

――――
――

戦士「うおおおおおおお……!!!!」ダダダッ

兄魔王「ふん、わかりやすい的めが」ズズッ……ドンッ

戦士「馬ー鹿。それが狙いだっ!」バシュンッ

側近(あの斧……魔力を受け止められるのか……!)ダダッ

戦士「勇者ッ! 側近!!」

勇・側「……ッ!」ブォンッ

兄魔王「甘いわ! そんなものが当たるか!!」スカッ スカッ

側近「くっ……」

462: 2014/11/17(月) 00:16:01 ID:cRjQJ3yg

勇者「戦士、また頼む」チャキッ

戦士「任せろ!!」ザザザッ

兄魔王「何度来ようが同じ事だ」ゴォォ……ッ

側近「……何時もこのような戦い方を?」

勇者「滅多にやらないな。今回は魔法使いがあんな状態だから特別だ」チラッ

魔法使い「……」

僧侶「……大分人の肌に戻ってきましたね」ジッ

魔法使い「でも、同じ事をしたら今度は確実にあいつに吸われる……手詰まりね」チッ

僧侶「吸収される限界まで放出する事は……やっぱりできませんか」

魔法使い「そんな事をしたら『あたし』が消えちゃうわよ! 最悪あいつを倒せても共倒れになる」

僧侶「そうですよね……無茶を言ってごめんなさい」

463: 2014/11/17(月) 00:17:57 ID:cRjQJ3yg

戦士「でりゃああああっ!」

兄魔王「しつこいぞ虫けらぁ!!」ビュッ

戦士「! ……来た」ニヤリ

兄魔王「!?」

戦士「喰らえええええええ!!!!」バシュッ……ギュルルルルル

側近「な……!?」

勇者「……行くぞ側近」ダッ

464: 2014/11/17(月) 00:19:52 ID:cRjQJ3yg

側近「待て! あれは大丈夫なのか!?」ダダッ

勇者「問題ない。あれは魔力を放った相手しか狙わないからな」

側近「そ、そうか……だが、まさか」

兄魔王「ぬうっ……これはあ!」ブシュウウウウ……

戦士「流石にびびっただろ? これがこいつの『今の』力だ……!!」シュルルル……カシャンッ

側近(斧の刃の部分が外れて飛んでいくとは……)

465: 2014/11/17(月) 00:21:55 ID:cRjQJ3yg

勇者「……元々あれにかけられていた呪いは違うものだった」

勇者「だが、魔法使いがその性質を弄り……少しだけ扱いやすくしたんだ」

側近「それでも見ていて危なっかしいな」

勇者「だから普段は魔法使いに厳重に保管して貰っている」

側近「成程、な……ッ!」ブオンッ

勇者「……ッ!!」ヒュッ

兄魔王「おのれ……調子に乗りおって!!」シュンッ

側近「障壁か!」ガキンッ

勇者「……中々固いな」

側近「少し待て……はあっ!」ズン……ッ


パキキ……パァァンッ


466: 2014/11/17(月) 00:24:03 ID:cRjQJ3yg

兄魔王「っ糞がぁッ……!!!!」ギリリリッ

側近「勇者ッ! 今だ!!」

勇者「……感謝する」ダダダッ

兄魔王「くっ……まさかこの俺が……!」

勇者「覚悟しろ……祖母の仇」チャキッ

兄魔王「……などと言うと思ったか?」ニタッ

側近「!?」ゾクッ

兄魔王「ふ……はあああっ!!!!」ゴゴゴゴ……ドゴンッ

勇者「ッ……」ズザザザ……

467: 2014/11/17(月) 00:26:20 ID:cRjQJ3yg

戦士「勇者!」

側近「貴様……」

兄魔王「忘れたか? 俺が喰ったのは母上とあの女だけではない」

側近(……魔力が膨れ上がった……!!)

兄魔王「こちらはまだまだ余裕があるぞ? こんな事もできる位なあ」ボシュッ

戦士「! しまったぁ!!」クルッ

魔・僧「!!」ギュイイイイイ……

兄魔王「そいつらは狙わないと思ったか? 消し炭になるのを見ているがいい!!」

勇者「くっ……」ダッ

468: 2014/11/17(月) 00:27:54 ID:cRjQJ3yg

側近「僧侶! 結界を!!」ジャキッ ダダダッ

兄魔王「馬鹿め、その距離で間に合うと思うか?」ゲタゲタ

魔法使い「畜、生……!」ググッ……

僧侶(は、早……これでは結界が!!!!)


ドゴォッ シュウウウウウウ……


戦士「魔法使い!!!! 僧侶おおおおおおおおお!!!!」

469: 2014/11/17(月) 00:29:19 ID:cRjQJ3yg

魔・僧(……)

魔・僧(……?)パチッ

「ふう……ギリギリだったな」シュウウウ……

勇者「!」

側近「あ……」

戦士「ま……」

僧侶「魔王さんっ!」

魔王「いや皆、遅くなってすまないな」ザッザッ

魔法使い(こいつ、何時の間に……)

470: 2014/11/17(月) 00:32:12 ID:cRjQJ3yg

側近「兄上! 姉上達は……?」

魔王「嗚呼、心配ない。ちゃんと……片をつけた」

側近「……そうか」

兄魔王「ちっ……役立たず共が」

僧侶「あ……た、助けてくださってありがとうございます!!」ペコッ

魔王「いやいや。それより僧侶、もうこのような事がないようにしっかり結界を張っておいてくれ。彼女のためにもな」チラッ

魔法使い「! ……ふん」プイッ

僧侶「わ、わかりました!」スッ……シュンッ

魔王「うむ、それで良い。くれぐれも力の出し惜しみはするなよ……これが最後の戦いだからな!」ジャランッ

475: 2014/11/23(日) 23:14:51 ID:c2Vf9fH.

兄魔王「最後だと? ……笑わせてくれるな! それともお前達の最期という意味か?」

魔王「……」

側近「兄上、気をつけてくれ! 奴はこちらの魔力を吸収する……それに母上と先代勇者の肉を……」

魔王「何!? ……成程な。だから彼女はこうなっているというわけか」ジワッ

魔法使い「……」ジロリ

魔王「だが、それならそれで他にやりようはある」スッ ゴゴゴゴゴ……

兄魔王「!」

魔王「喰らうがいい」ゴゥッ

兄魔王「……お前、聞いていなかったのか? 何故こちらに向かって魔力を放つという真似ができる!!」ズズズ……

魔王「……」ボンッ ドヒュッ

側近「兄上……!?」

476: 2014/11/23(日) 23:16:05 ID:c2Vf9fH.

戦士「何やってんだよ! そんな事したらあいつの思うつぼだろうが!?」

勇者「……そういう事か」

僧侶「え?」

魔法使い「あいつ……わざとやってるわね」

戦士「わざと?」キョトン

側近「! まさか兄上」

側近(奴に限界まで魔力を吸収させて……内側から爆発させようというのか!?)

魔王「……」ボボボ……ッ

兄魔王「ぎゃはははは!! どれだけぶつけて来ようがすべて俺の力になるぞ!!!!」ズズズズズッ

魔王「……本当にそうか?」ドンッ

兄魔王「む……?」ズズ……ドクンッ

477: 2014/11/23(日) 23:17:54 ID:c2Vf9fH.

勇・側「!」

戦士「あ……」

魔王「ようやく、か」フラリ

僧侶「ま、魔王さん!」

魔王「心配するな、短時間で大量の魔力を消費した結果だ。じきに落ち着く」

側近「これ以上無茶はするな兄上。後は俺達に任せてくれ」ガシッ

魔王「はは、すまんな」

兄魔王「ううっ……こ、これはあ……!?」ドクッ……ドクッ……

勇者「……使い慣れない他者の能力を過信したツケが回って来たな」

戦士「な、なあ……これであいつも終わりって事か?」

僧侶「ええ……その筈です」

魔法使い「……」ジッ

兄魔王「ぐおおお……ああああああああああ!!!!」カ……ッ

478: 2014/11/23(日) 23:19:14 ID:c2Vf9fH.

勇者「……」タタッ

戦士「勇者!?」

勇者「……とどめを刺してくる」

戦士「あ……おいっ」

側近「止めるな。自分の身内の仇だ……無理もなかろう」

魔王「我らはただ見届けよう。彼が成し遂げる事を」

魔法使い(……)

魔法使い(……?)ジーッ

僧侶「魔法使いさん?」

魔法使い(おかしい……あいつの中の魔力は確かに溢れ出してるけど)

勇者「……」チャキ……ブオンッ

魔法使い(あいつを突き破って出てきているというより、寧ろ……!)ハッ

戦士「な、何だy」

魔法使い「まずい! 勇者そいつから……ッ」

479: 2014/11/23(日) 23:20:36 ID:c2Vf9fH.

――――
――

少女「……!」ポロ……

妖精「?」

少女「」ポタッ……ボロボロボロッ

妖精「!?」

姫「しょ、少女さん!? 突然どうされたんですか!?」サスサス

少女「あ、わ、わかんない、急に目から勝手に……」ゴシゴシ

白獣「! 少女さん……」

妖精「」オロオロ

少女「妖精さん……何でかわからないけど、凄く悲しいの……どうしてかな?」ボタッ パタタッ

480: 2014/11/23(日) 23:24:31 ID:c2Vf9fH.

白獣「……これは少々厄介な事になったようですね」

姫「白神獣様? それは一体……」

白獣「少女さん。以前もそのような事がありましたか?」

少女「へ? え、えっと……そういえば、ずっと前にこんな事があったかも」ゴシゴシ

白獣「少女さん。落ち着いて聞いてください……今貴女の大切な方達に命の危機が迫っています……或いは既にそうなっているかもしれません」

少女「!?」

姫「そ、それはどういう意味ですか!?」

黒獣「お前は黙っていろ」ギロリ

少女「何を、言っているの……白獣さん……」カタカタ

白獣「詳しく教えている暇はありませんが、本当の事です。貴女がそのような反応を示しているのがその証拠……」

少女「そんな……!」ポロッ

481: 2014/11/23(日) 23:26:16 ID:c2Vf9fH.

白獣「彼らを助けたいですよね?」

少女「も、勿論だよ! できるの?」ゴシゴシ

白獣「……これを」スッ

少女「白い……玉?」キラリ

白獣「私の力を凝縮した宝玉です。触れた者の体力や魔力などを全快させる事ができます」

少女「!」

白獣「これを貴女に托しましょう。彼らの元へ行っておあげなさい」ニコッ

少女「えっ……良いの?」

白獣「本当は乗せて行ってあげたい所ですが……この結界は私しか作れませんからね。かと言って……」チラッ

黒獣「私は乗せてなどやらんぞ。絶対にな」フンッ

白獣「……という訳なので、貴女お1人で行ってもらわなければなりませんが、どうします?」

少女「勿論行くよ! これで魔王様や側近さんが助かるのなら……ありがとう、白獣さん」ギュッ

白獣「いいえ。今の私にはこれ位しか貴女を支援する事ができませんから」

482: 2014/11/23(日) 23:29:18 ID:c2Vf9fH.

妖精「」クイクイ

少女「妖精さん……一緒に行ってくれるの?」

妖精「」コクリ

少女「……ありがとう。とっても心強いよ……白獣さん、良いかな?」

白獣「ええ。少女さんが嫌でないのなら……その代わりしっかりと彼女を支えてあげるのですよ?」

妖精「」グッ

少女「お、大袈裟だな……」

白獣「ふふっ。あ、お守りの杖も忘れずに」ススッ

少女「? ありがとう」スッ

白獣(ここを出たら……少女さん、貴女は今以上に苦しむ事になるでしょうから)

姫「……少女さん」

少女「お姫様、ちょっと行って来るね……大丈夫、ちゃんと戻るから」ニコッ

483: 2014/11/23(日) 23:30:34 ID:c2Vf9fH.

姫「……ごめんなさい。待つ事しかできなくて」

少女「そんな事ないよ! 寧ろお姫様がここにいてくれる事で凄く安心する」ギュッ

姫「……ありがとうございます」

白獣「では今から一時的に結界を開け、同時に数名、数体の亡者を浄化して道を開きます」

白獣「結界が消えたら、絶対に振り向かずに前だけを見てお行きなさい!」

白獣「それができる程度の道は絶対に確保しますので!!」キッ

少女「は……はいっ」ドキドキ

妖精「」ハラハラ

黒獣「とっとと行け。これ以上白娘の手を煩わせるな」

姫「少女さん……お気をつけて」

白獣「準備と覚悟は良いですか? では……行きますよ!」キィィィ……ン

484: 2014/11/23(日) 23:31:19 ID:c2Vf9fH.

――――
――

少女「はっ……はあっ……」タタタタッ

妖精「」パタパタ

少女(待ってて……すぐに行くから……!)


ザワッ……


少女「!?」クルッ


ガタ……ガタガタガタ……


少女(あの部屋から……出てくる!)ゾッ

485: 2014/11/23(日) 23:32:39 ID:c2Vf9fH.

妖精「!」クイッ

少女「あ……そ、そうだね、立ち止まっている暇は……」


バタンッ 


少・妖「!」ハッ

亡者達『……』ズルッ……ズルッ……

少女「ひっ……」

――クルシイ

少女「!」

イタイイタイタスケテモウイヤダオカァサンカエレナクテゴメンナサイマオウサマバンザイイヤダマダシニタクナイマダシヌワケニハイカナインダユウシャサマサヨウナラ……――

少女「!? う、うぅう……あああああ……!!」ペタン

486: 2014/11/23(日) 23:35:43 ID:c2Vf9fH.

妖精「!?」クイックイッ

少女「嫌、やめて……皆もう氏んでるの……!!」ブンブン

少女(流れ込んでくる……この人達の苦しみや悲しみが……!!)ボロボロ

少女(そのすべてに押し潰されそうだ……ぁ……誰か、助け…………)フッ

妖精「!」クイクイッ

少女「……ごめんなさい……何もできなくてごめんなさい……ごめんなさいっ……!」ガタガタ

妖精「~~~~~ッ……!」ブンッ

ペ チ ン ッ

少女「……!」

妖精「ッ……ッッ!!」ペチッ……ペチンッ……

少女「……妖精、さん……?」キョトン

妖精「……」ペチン……ッ

487: 2014/11/23(日) 23:38:36 ID:c2Vf9fH.

少女「私……何を……」

妖精「……」ウルッ

少女「……ごめんね妖精さん。心配かけちゃったみたいだね」ツンッ

妖精「……~~~ッ!!」ヒシッ

少女「もう大丈夫だと思う……ありがとう」

妖精「」スリスリ

少女(でも状況は……全然大丈夫じゃない)チラッ

亡者達『……』ジリ……ジリ……

少女(私が辿り着くまで、皆どうか無事でいて……!)

488: 2014/11/23(日) 23:40:30 ID:c2Vf9fH.

――――
――

僧侶「う……」パチッ

僧侶「あれ? 結界は……!」ガバッ

僧侶「み、皆さん! ご無事ですか!?」

魔王「うう……」ヨロッ

側近「何とかな……」

戦士「……勇者は!?」ズキズキ

魔法使い「……あ……!」スッ

勇者「」ジワッ……ダラダラ

僧侶「勇者さん!」タタッ

僧侶(酷い傷……すぐに回復を!)パァァッ

489: 2014/11/23(日) 23:42:45 ID:c2Vf9fH.

側近「馬鹿な! あそこからここまで吹き飛ばされるなど……!」

兄魔王「……く、くく」

魔王「!?」

兄魔王「嗚呼、生まれ変わった気分だ……魔力の吸収はできなくなってしまったが」ムクッ

側近「あ……何故……」

兄魔王「自分でも驚いているな。まさかこのような事が起こるとは」ニヤニヤ

魔法使い「……強くなってる」ポツリ

戦士「え?」

魔法使い「さっきよりもずっと……なんでよ……」

兄魔王「俺にもわからんなあ。まあ、1つ心当たりがあるとすれば」チラリ

魔王「!」

兄魔王「お前の腕を喰らった事位か」ペロリ

490: 2014/11/23(日) 23:44:29 ID:c2Vf9fH.

魔王「! ……ッぐ」ズキッ

魔法使い「あ……まさか」

兄魔王「どうやらお前の左腕と魔力は」ポゥッ

僧侶「……え」

兄魔王「俺を更なる高みへと導いてくれたようだ」ヒュッ

僧侶「!? がっ……」ドゴォッ シュウウウウ……

戦士「僧侶ッ!!!!」

側近「くっ」ダダダッ

魔法使い「魔王の腕が、魔王の過剰な魔力を無理なく肉体に馴染ませたというの……?」

兄魔王「そのようだな。馬鹿正直な解説ご苦労」ニタァ

魔法使い「……ッ」ギリッ

491: 2014/11/23(日) 23:46:08 ID:c2Vf9fH.

戦士「う、嘘だろ……? 勇者と僧侶があんな状態だってのに」

魔王(もしもそれが本当だとしたら、私は……何という事を……!)

兄魔王「ふっ、そんな顔をする事はない。今のお前には感謝しているのだからなあ……今までの恨みが」スッ

側近「!」

兄魔王「こんな風に消し飛びかねない位に」ゴォッ

側近「ぐ……あ……ッ」ズザザザザ……ビチャッビチャッ

魔王「お、弟!」

魔法使い「ちっ……」チャキッ

戦士「何だよこれ……悪い夢なのか……?」

兄魔王「現実に決まっているだろうが! ……俺に更なる力を与えてくれてありがとう、親愛なる我が愚弟よ!!!!」

497: 2014/12/20(土) 21:15:19 ID:IIOC6AX.

――――
――

少女「……!」ブンッ

亡者達『ぁう……があァ……』ズルッ……ズルッ……

妖精「」シュッシュッ ビシッ

亡者達『ァァ……』ジリジリ……

少女「妖精さん、無理に立ち向かわないで……!」

妖精「……」ピタッ

少女(でも、このままずっとこうしている訳にはいかない……)

少女「うぅ……」ギュ……ッ




『もう、なんてしけた顔してるの? 今すぐ啼かせてあげちゃいたいわね』フワッ……ギュウッ

498: 2014/12/20(土) 21:16:34 ID:IIOC6AX.

少女「!?」

妖精「……!!!!?」ギョッ

『……まあ、幾らあたしでも流石に空気は読むけれど』

少女「え……い、淫魔、さん……?」

淫魔「ハァイ、お嬢さん♪ こうして現実で会うのは初めてね」ニィッ

少女「ど、どうしてここに……?」

淫魔「うーん、何だか貴女が困っているような気がしたから……かしら? 丁度暇だったし」スリスリ

少女「ひゃっ……!」ビクッ

妖精「……」ワナワナ

淫魔「……それに」ピタッ

少女「?」

淫魔「『お友達』を助けたいって思うのは、変な事?」コテン

少女「淫魔さん……」

499: 2014/12/20(土) 21:17:47 ID:IIOC6AX.

淫魔「……なーんてね。それにあたしだけじゃないわよ?」クイッ

少女「え? ……あ」クルリ

グリフォン「」バサッ

一角獣「」ブルルル……

大蛇「」シャァーッ





ザワザワ……ギャアギャア……

少女「み、皆……!」

淫魔「貴女って変わったお友達が多いのねえ」クスクス

500: 2014/12/20(土) 21:19:47 ID:IIOC6AX.

少女「で、でも、私が喚びたいと思った訳じゃないし……魔王様の結界だって」

淫魔「その事だけれど……お嬢さん、貴女とんでもないのを喚び出したでしょう?」

少女「え? それって白獣さん達の事?」

淫魔「ええ。恐らくその影響で異界からの訪問が何時もよりも容易くなったんじゃない?」

少女「そうなの、かな……」

淫魔「まっ、詳しい事はあたしにはわからないわ。あたしは彼らに便乗して来ただけだし」パッ スタスタ

少女「あ……」

淫魔「ふうん……何人か生前良い男っぽかったのがいるじゃない」ペロリ……

少女「淫魔さん……?」

淫魔「とりあえず景気づけに1発……魅了っ♪」バチコーン

亡者達『……』シーン

少女「……」

妖精「……」

召喚獣達「……」

501: 2014/12/20(土) 21:21:32 ID:IIOC6AX.

淫魔「……ふ」

少女「?」

淫魔「っざけんじゃないわよおおおおおお!!!!」ゴォオオオオ……

少女「ひゃ!?」ビクッ

淫魔「何なの!? 氏んで生き返ると見る目まで腐っちゃうのかしら!?」

妖精「」ガクガク

淫魔「それとも何? あたしの爆乳よりもあっちのが良いってか? ああん?」ビキビキ

少女「い、淫魔さん、落ち着いて……」

淫魔「落ち着け……? サキュバスとしてのプライドが傷つけられて黙ってられっかあああああああああ!!!!」ウガーッ

少女「ひいいいっ」

召喚獣達「」ビクビク

淫魔「……ふんっ。てな訳でお嬢さん、ここはあたし達に任せて行きなさい」ポン

少女「あ……え……?」

502: 2014/12/20(土) 21:22:54 ID:IIOC6AX.

淫魔「急いでいるんでしょう? こいつらからは見返りとしてしっかり搾り取っておくから」ニコッ

少女「でも……」

淫魔「……また、夢の中みたいにされたい?」シュルル……

少女「!! い、行く! 行きます!!」ササッ

淫魔「うふふ、それで良いのよ」

少女「……でもあんまり酷い事はしないであげてね……」

淫魔「善処するわ~」ヒラヒラ

少女「ありがとう。行こう妖精さん」クルッ タタタッ

妖精「!」ハッ パタタタタッ

亡者達『!』ズルズルズル……

淫魔「おおっと、あの子の所へは行かせないわよお? 代わりにたっぷりあたしの魅力を教えてあげるわ」シュルルルルル

召喚獣達「……」

淫魔「貴方達もあたしに構わず適当に暴れたら? そのためにここに来たんでしょう?」

淫魔「……それに貴方も」チラッ

503: 2014/12/20(土) 21:25:02 ID:IIOC6AX.

『……ありゃりゃ、バレちった』

淫魔「これでも上級魔族ですから……まさか貴方みたいなのまで来るなんてね、氏神殿」

氏神「ぼかぁ君達と違って自分の力でここに来ましたともさ~」ヒョコッ

淫魔「訊いてないわよそんな事……どうしてすぐに顔を出さなかったの? 貴方ならその気になれば一掃できる筈でしょう、ここ」チラリ

氏神「そりゃ、幾ら魔王城といえど吾輩の全力を出したら危ないじゃんよー」カラカラ

淫魔「……それもそうね」

氏神「それにさー……もうしばらくは少女ちゃんとは会わないと決めてるんでね、あちしゃあ」

淫魔「ふうん。まあ貴方達の事を詮索をするつもりはないけど」

氏神「賢明な判断だと思いまっせ。んじゃ用も済んだしおいとましようかね」クルリ

淫魔「え? もうお帰り?」キョトン

氏神「心の友の顔を見に来ただけだかんね。君達の獲物を取るつもりはこれっぽっちもないですぞ」

淫魔「そ、そう」

504: 2014/12/20(土) 21:26:33 ID:IIOC6AX.

氏神「……お互い嘘を吐くのも大変だね」ボソッ

淫魔「ッ!」

氏神「アヒャヒャヒャ! ごゆっくりお楽しみを~」シュンッ

淫魔「……いなくなったみたいね」ホッ

淫魔(やっぱり、あの子には何かあるのね。でなければ……)

淫魔「まあ、とにかく今はあいつらをどうにかしましょう」

亡者達『ヴぉあ……ぁ……』

召喚獣達「!」ギャアギャア ワーワー

505: 2014/12/20(土) 21:28:04 ID:IIOC6AX.

――――
――

魔法使い「……」ドシュドシュドシュッ

兄魔王「ふっ」ヒュンッ ドババババッ

魔法使い「ち、全部防ぎやがって……!」

兄魔王「いい加減諦めたらどうだ。虫ケラ」

魔法使い「ッ……誰がああああああッッッ!!!!」ボシュッ ボボボボボ……ッ

戦士「止めろ魔法使い! 残りの魔力も少ねえのにあんまり無茶すんじゃねえ!!」ヨロッ

魔法使い「うるさい! そんな体になってるあんたに言われたくないわよ」

魔法使い(第1、あたしが諦めたら……)チラッ

勇者「」ポタポタ

僧侶「」グタッ……

魔法使い(……確実に全滅する)ギュッ

506: 2014/12/20(土) 21:29:57 ID:IIOC6AX.

側近「はあっ……はあっ……」

魔王「……」ジャラ……

兄魔王「ふん、今更そんな物で我が身をどうにかできると思っているのか?」

魔王「……例え通じずとも、この鎖尽きるまで何度だってやる」

兄魔王「馬鹿め! 俺は母上やそれを討った勇者の力に加え、お前の力まで手に入れたのだぞ?」

兄魔王「それでも勝てるとほざくか? なあ!?」

魔王「勝つ。絶対にな」

魔王「……いや、私達は勝たねばならぬ! 貴様をここで倒さねばならぬ!!」

魔王「大切な者達のためにもな……そうだろう!? 弟よ!!!!」

側近「……無論、だ……」ジャキッ

507: 2014/12/20(土) 21:31:45 ID:IIOC6AX.

魔王「わかるか? 貴様と我らとではこの戦いにおける覚悟の重さが違うのだよ……最初からな」

兄魔王「誰だって口ではどうとでも言えるものだ……力が伴っていなければ意味がないがなあ!!!!」キィィィィ

戦士「!? うぁあああああ……!!!!」ガクッ

魔王(超音波……何処までも陰湿な奴め……)

側近「ッ……!」

魔法使い「……戦士、あんたやっぱり馬鹿ね」ツカツカ

魔王「魔法使い……何故平気で……」

戦士「……あ」

魔法使い「ずっと前にあんたたちにはあげたでしょう? こういう対聴覚攻撃用のアイテム」

508: 2014/12/20(土) 21:33:16 ID:IIOC6AX.

戦士「わ、悪い、忘れてた……!」ゴソゴソ……キュッ

魔法使い「かなり貴重なのよ? 耳なし兎の耳の名残で作った耳栓」スッ

魔王「う、兎?」ピクッ

側近「兄上、今そこに反応しては駄目だ」

魔法使い「防げる攻撃にはきちんと対処しないと無駄に消耗するわ」ゴソッ……ブンッ

兄魔王「!」カッ……ドゴォッ

魔王「今のは!?」

魔法使い「爆弾岩で作った小型爆弾。魔力をこめて相手に投げれば爆発する」ゴソゴソ キュポッ

509: 2014/12/20(土) 21:37:12 ID:IIOC6AX.

戦士「ちょ、おまそれ……」

魔法使い「……」ポワワッ……ベシャッ

兄魔王「ッ!! ぐお、おおお……」ジュワァ……

側近「な、何を投げた? ただの水球では……」

魔法使い「流酸を吐く巨大蝙蝠から手に入れた流酸。あいつにも効いて良かったわ」シュルッ

戦士「よく平気で使えるよな……あんなヤバかったのを」ブルッ

魔法使い「寧ろ使い所があって喜ぶべき所でしょ? こんな状況だしある道具は何でも使わないと」シュルルルル……

魔王「それは……」

魔法使い「蜘蛛女の糸で作った捕縛用ロープ。あんたの鎖とどっちが丈夫かしらね」ギュルルルッ

兄魔王「くっ……」ギチッ……

510: 2014/12/20(土) 21:38:31 ID:IIOC6AX.

側近(魔法を思うように使えん腹いせか……中々にえげつない戦い方をする)

魔法使い「……ちょっと」

戦士「?」

魔法使い「ここまでお膳立てしてやったんだからとっとと行きなさいよ。気休めにしかならないかもしれないけどね」ギロリ

戦士「! あ、ああ!!」ダダッ

側近「す、すまん、恩に着る」ダッ

魔法使い「……本当はこんな事氏んでもしたくないのよ……ったく……」ブツブツ

魔王「魔法使い……」

魔法使い「気安く呼ぶな」ギロッ

魔王「うっ……すまない」

511: 2014/12/20(土) 21:41:06 ID:IIOC6AX.

戦士「うおおおおおお……!!!!」ブンッ

側近「勇者には悪いが、これで……決めさせてもらう!」

兄魔王「……ぎゃは」ムクッ……ブチブチ

魔王「!」

兄魔王「ぎゃははははははッ! 舐められたものだ、こんな物が本当に効くとでも?」ガシッ

戦士「なっ……糞っ、放しやがれ!」

兄魔王「何、そんなに喚かずともすぐに放してやる……そおら!」ブンッ

戦士「う……うおわあああああああ!!!!」ヒュオオオオオ……

側近「戦士!」

兄魔王「今度こそ消えろ、目障りだ」ボッ……

戦士「……ッ!」ドゴォッ パラパラ……ズルリ

側近「あ……」

512: 2014/12/20(土) 21:45:19 ID:IIOC6AX.

魔法使い「ちっ……」ゴソッ

兄魔王「お前達もな」ボシュンッ

魔王「!? く……っ」バッ

魔法使い「ちょっ……」

ドッ……ゴォォォォ……

魔王「」ドサッ…… ジワァ……

魔法使い「」ポタッ……パタタッ

側近「兄、上……魔法使い……」

兄魔王「馬鹿な奴だ。人間を庇って体に風穴を開けるとは……それに結局守り切れていない」

側近「ぅ……あ……」

513: 2014/12/20(土) 21:46:49 ID:IIOC6AX.

兄魔王「あのような事をほざいていた癖にだらしないなあ」ニタァ

側近「――ッ」ブツン

兄魔王「それにしてもこの力は素晴らしい……これさえあれば、母上を超える魔王になる事も最早夢では」

側近「ああああああああ!!!!」ブンッ

兄魔王「嗚呼そうだった。まだお前がいたな」バキィッ

側近「ッ……がああああああああ!!!!」ズザザ……ダダダダッ

兄魔王「しつこいな。やはりこれでないと倒れんか」ボッ

側近「こんなもの……効く、かッ!」ズパンッ

兄魔王「! くっ」ジャキッ……

側近「貴様は……貴様だけは……」


ギィン……カキンカキンカキンッ ヒュオンッ ギチギチギチ……ッ

514: 2014/12/20(土) 21:47:56 ID:IIOC6AX.

兄魔王「ふん。まさかこの俺に武器を使わせるとはな……だが」ググッ

側近「!」

兄魔王「俺の剣には絶対に勝てん」ガキィンッ

側近「……!!」ヨロッ

兄魔王「生み出す際に……相対したいかなる武器よりも強く丈夫になるという能力をつけたからな」ギラッ

側近「そんな……出鱈目な能力など……」

兄魔王「認めたくはない、か? 己の武器の能力も明かさない奴に言われても説得力がないぞ」

側近「ふん、貴様のようにひけらかす趣味がないだけ……だっ!」ブンッ

兄魔王「まだわからんか! やはり何処までも愚かな奴だお前達は!!」キィィン……ッ

側近「! 剣が……」クルクルクル……シュンッ

515: 2014/12/20(土) 21:50:23 ID:IIOC6AX.

兄魔王「壊れはしなかったか。だが、それさえ消せば」ドスッ

側近「!!」ゴプ……

兄魔王「お前を串刺しにする事など容易だ」グリィッ

側近「……~~~~ッッッ!!!!」ゴパァッ ブシュウウウウ……ッ

兄魔王「完全復活する前はよくもやってくれたなあ……そっくりそのまま返すとするか」ドスッドスッ

側近「がっ……ぁぐあ……っ」ビクッビクンッ

兄魔王「まだだ、まだ楽になどしてやらん……お前にこれ以上にない絶望を見せつけるまではなあ」クックッ

側近「……ッ……ッッ」ビシャアッ

側近(ま、不味い……意識が……)クラッ

側近(このままでは……本当、に……)ギリッ



『――勝ちたい? こいつに』

516: 2014/12/20(土) 21:52:29 ID:IIOC6AX.

側近(……!?)

『勝ちたいよね? ううん勝って貰わなきゃ困るよ……でないとボクも氏んじゃうし』

側近(お、お前は……)

『あははっ、わかってる癖に~。ボクは君で、君はボクだよ? 第1勝手に2つに分かれたのは君の方だ』

側近(ッ……何故、表に……)

『さあね。肉体の防衛本能か何かじゃない? 今の君がこんな状態だし』クスクス

側近(……自業自得か)

『ボクを……力を拒絶するからこうなるんだよ。ざまあないね』

側近(くっ……)

517: 2014/12/20(土) 21:55:24 ID:IIOC6AX.

『とは言っても、このままだと本当に不味い……悔しいけどそれは事実だ』

側近(……そうだな)

『そこでだ、とりあえずこいつの事はボクに任せなよ』ドクンッ

側近(! まさかお前……だ、駄目だ、それだけは……!!)

『五月蠅い、今の君に決定権なんてないんだよ氏に損ない。ほら、つべこべ言わずに……』ドクッ……ドクッ……

側近(止めろおおおお……ッッッ!!!!)


『 ボ ク に 、 代 わ れ 』 ド ク ン ッ

518: 2014/12/20(土) 21:57:48 ID:IIOC6AX.

兄魔王「ぎゃはははは!!!! 痛かろう? 苦しかろう!? みっともなく泣き叫んでも良いんだぞ!?」ズプッ ドシュッ

側近「……」

兄魔王「まあ、そんな気力はもうないだろうが……なっ!」ブンッ

側近「……」ス……ガシッ

兄魔王「!? 馬鹿な、虫の息だった筈……!」

側近「……」ムクッ……ボコボコボコッ

兄魔王「再生だと……!? それに魔力まで……ッ」ジャキッ

側近「……」ニィィッ

兄魔王「……!!!!」ゾクッ

519: 2014/12/20(土) 21:58:46 ID:IIOC6AX.

側近「……」ジャキッ……ピタリ

兄魔王「……まさか、お前」

側近「……」

兄魔王「『末子』……なのか?」

側近「……」

側近(末子)『――だったら、何だい?』

523: 2015/01/12(月) 21:19:43 ID:KceyChzw

兄魔王「……ふ」

末子『?』

兄魔王「ふふ、ははは……ぎゃはははははははは!!!! ようやくか、まだ殺さなくて本当に良かった!!!!」

末子『……』

兄魔王「やっと覚醒したんだなあ……兄上は嬉しいぞ」

末子『……ボクは、お前を兄だと思った事は1度もないけどね』

兄魔王「可愛げのない事を言う……だが許そう。これで俺は真の意味で最強になれるのだからなあ」ニヤァ

末子『ふうん、どうやって?』

兄魔王「無論、『末子』として覚醒したお前を喰らってだ!!!!」グオオオオッ

524: 2015/01/12(月) 21:23:44 ID:KceyChzw

末子『……それは本気で言っているのかい?』ガシッ パシン

兄魔王「!」

末子『幾ら強い奴の肉を食べようが、多少の力にはなってもそれ自体になれる訳じゃないんだよ?』クスクス

兄魔王「ぐっ……」

末子『例えボクや母上を食べようがそれは変わらない……お前は永遠に末子にはなれないんだ』

兄魔王「きっ、貴様……ッッッ!」ビキッ

末子『そんなに母上に認められたかった? 期待されたかった? そうだよね、お前は只の長子だもんね』

兄魔王「黙れ……」

末子『本当に残念だったね! 末子として生まれる事ができなくて!! お前は所詮紛い物……』

兄魔王「黙れえええええええ!!!!」ゴオオオオッ

525: 2015/01/12(月) 21:25:11 ID:KceyChzw

末子『堪え性ないな~。そんなんで魔王になろうとか片腹痛いよ』ボシュンッ

兄魔王「黙れ、黙れ、黙れ……」ボボボボッ……ドゴォッ

末子『良いのかい? せっかく手に入れた魔力をこんなに消耗して』ヒョイッ ボゴンッ

兄魔王「俺はお前を……お前を喰らって絶対に……!」ブツブツ

末子『……ねえ』ゴ……

兄魔王「!」

末子『母上にそういう想いを抱いていたのが自分だけだと思わないでよね』ピッ ドシュウウ……ッ

兄魔王「……がぁっ!!」ズザァッ

兄魔王(なんという……魔力だ……軽い一撃でこれ程……ッ!)シュウウウウ……ベシャッ

526: 2015/01/12(月) 21:26:57 ID:KceyChzw

末子『お前はまだ良いよ。ちゃんと母上の前に存在する事ができた。話す事ができた。見てもらえる事ができた』コツ……コツ……

末子『……だが、ボクはどうだ』シュンッ

兄魔王「!」

末子『力を使いたくないと駄々をこねるこいつのせいで、別人格として切り離され……ずっとこいつの奥深くに封じられていた』ドスッ

兄魔王「ぐっ……げえええええ……」ビチャビチャ

末子『お前達に痛めつけられている時だって、反撃1つできずにただ悪戯に痛みを感じている事しかできなかった』ガンッ ゴンッ

兄魔王「ゴホッ! がはあっ……!!」

末子『そんなボクの気持ちがお前にわかるかい? ねえ?』バキッ

兄魔王「ぐぶっ……そんなもの、知る、か……ッ」ゼエゼエ

527: 2015/01/12(月) 21:29:28 ID:KceyChzw

末子『……じゃあ教えてあげるよ』ニヤァ

兄魔王「ッ……!」ゾワッ

末子『ん~……これでいっか』ガシッ

兄魔王「そ、それは……」

末子『こんなに立派なのが3本も生えてるんだから、1本位なくなっても良いよね?』ツンツン

兄魔王「お、お前、何を考えている!? 角は魔王の力の象徴で……傷ついても再生しない唯一の部分なのだぞ!?」

末子『 だ か ら 何 ? 』

兄魔王「――ッ!」ゾワッ

末子『今までお前達がボクにしてきた事に比べれば、これ位どうって事ないでしょ?』メキメキ……

528: 2015/01/12(月) 21:31:29 ID:KceyChzw

兄魔王「い、嫌だ……そ、それだけは……!」

末子『散々ボクの体で遊んでおいてさあ……いざ自分がやられる時になるとそうやって怯えるなんて』ググ……ッ

兄魔王「や、止めろ……放せ……放してくれ……!!」ブルブル

末子『みっともないよね♪』


ボ ギ ン ッ


兄魔王「あ、がっ……ぎひぁぁあああああああッッッ!!!!」ブシャアアアアッ……ドクッドクッ

末子『嗚呼、そういえばボク達の体で痛覚が1番集中しているのもここだったっけ? 別にどうでも良いけど』ポイッ……カラン

兄魔王「ひぎぁっ……あ、あァ……」ビクッビクッ

529: 2015/01/12(月) 21:33:29 ID:KceyChzw

末子『だらしないなあ、ボクにはこれ以上の事をしておいてさあ……』

兄魔王「……ッ……~~~ッッ!!」

末子『まだほんの序の口なのに……先が思いやられるよ』

兄魔王「ま、まだ……やる気、か……」コヒュー……コヒュー……

末子『当たり前でしょ。まさかこれで終わると思ってた? おめでたい頭だね』

兄魔王「ぁ……」

末子『次は……そうだね、何時かやってくれたみたいに首を切り離して蹴っ飛ばしちゃおうか』

兄魔王「!!!!」

末子『その後は……心臓以外の内臓を全部取り出してみるのも良いね!』

兄魔王「あ……あ」カタカタ

530: 2015/01/12(月) 21:36:25 ID:KceyChzw

末子『あ、大丈夫だよ! まだ命まではとらないからさ~』

魔王「……弟?」

末子『!』

魔王「お前……何をして……」ヨロッ

末子『……そっか、再生したんだね。考えてみれば当たり前の事だった』

魔王(何時もの弟ではないな……あいつはこんな事はしない。だとすれば答えは1つ)

魔王「お前は……何だ? 弟の力の部分が人格化したのか?」ジリッ

末子『それは間違いじゃあないけどさ……そんな言い方はないと思うよ? ボクだってこいつである事は変わらないんだし』

兄魔王「ぅあ……た、助け……」

531: 2015/01/12(月) 21:38:31 ID:KceyChzw

末子『だからそういうのみっともないって』グシャッ

兄魔王「がふぁ……っ!」

魔王「――ッ!」

末子『ねえ、ボクは貴方だけは『兄』として認めているんだよ? 弱いなりにこいつを守ってくれていたし……でも』ポゥッ……

魔王「!」

末子『ボクの封印に力を貸した事だけは許せないな』ボシュッ

魔王「ぐっ……」シュンッ……ギュオオオオ

末子『あ、防がれちゃった。でもさ』

魔王「……!」ピシッ

末子『何時までもつかな、それ』ニッ

532: 2015/01/12(月) 21:41:16 ID:KceyChzw

魔王「……末子の力は伊達ではないようだな」ツウッ……

末子『でしょ?』

魔王(駄目だ……今ある分の魔力ではこれ以上防ぎ切れぬ……ッ)パキキ……

末子『貴方の事は生かしておいてあげる。かつての母上と側近みたいに』

魔王「弟よ……元、に……」

末子『でも、それだけは素直に喰らってよ』

魔王「くそっ……ぐああああッ!!!!」パァンッ……ドゴオッ

末子『でないとボクの気持ちが収まらない』

魔王「……」ガクン

533: 2015/01/12(月) 21:43:58 ID:KceyChzw

末子『……さてと。邪魔もなくなったし続きといこうか』クルッ

兄魔王「!」ビクッ

末子『何その顔。さっきまでの勢いが全然ないね~。こうして誰かに踏み躙られるのが初めてだからかな?』

兄魔王「ッ……!」

末子『弱者の苦しみを知るのも良い経験になると思うよ。まあ、お前の生はこの先そう長くはないけどね』

兄魔王「!!!!」

末子『せいぜい氏ぬ前に沢山苦しんでよ。オニイサマ』ニコッ


――ガチャッ


兄魔王「!」

末子『またか、今度は一体誰……』

少女「はあっ……はあっ……」バタン……ヨロッ

妖精「……」パタパタ

末子『……少、女?』

539: 2015/02/14(土) 19:38:43 ID:5zTLUdgw

末子『あ……』ゴシゴシ パチパチ

少女「げほっ……そ、側近さん、皆……」

妖精「!」ゾクッ

末子『少女……本物の少女ぉっ!!』パアアッ

少女「!? 側近さん……?」ビクッ

末子『夢じゃないんだね? 嬉しいな、君に会える日をずっと夢見ていたよ!』ザッザッ

少女(……側近さん、の筈だよね……?)

末子『嗚呼やっぱり可愛いな……それにとても柔らかそうだ』ペロリ

少女「え……?」

540: 2015/02/14(土) 19:39:52 ID:5zTLUdgw

末子『早く君に触れた……』ガシッ

少女「魔王様……!」

魔王「止、めろ……少女に手を、出すな……」

末子『……邪魔しないでよ』ドゴッ

魔王「がッ……!」

少女「魔王様、しっかりして!! さあ、この玉を握って……」タタッ……ゴソゴソ スッ

末子『……』ムッ

魔王「うぅ……」スゥッ

少女(良かった、顔色が良くなってきた……でも)

少女「側近さん……一体どうしちゃったの!? 魔王様にこんな酷い事をするなんて……」

541: 2015/02/14(土) 19:43:32 ID:5zTLUdgw

末子『酷いのは君の方じゃないか……少女。君はボクの事だけを見ていれば良いのに』

少女「!?」

末子『……それともそいつを殺せばそうなってくれるかな』コキッ

少女「な……何を言ってるの? 貴方は本当に側近さん?」

末子『そうだよ? ボクはあいつの一部だし、この体は君が大好きなあいつのだ』

少女「どういう、事……?」

末子『そのままの意味だよ……うん、やっぱり近くで見ると一段と可愛いね』スッ

少女「……ッ!」ビクッ

末子『!』

542: 2015/02/14(土) 19:46:24 ID:5zTLUdgw

少女「あ……」

末子『その顔……まさか、君もなの?』

少女「ち、違……」

末子『君までボクを拒絶するの!? あいつの方が良いのか!?』ガシッ

少女「い、痛ッ……!」カランッ

妖精「!」パタタタッ ペチッペチッ

末子『わっ……こいつ!』ブンッ

妖精「……ッ!」ベチンッ……ドサリ

少女「妖精さん!!」

末子『どいつも、こいつも……ボクの邪魔ばかりして……』ギリッ

少女「放して側近さん……妖精さんが……!!」

末子『放す? 何で? ……ボクはずっと君に会いたかったんだよ? 夢の中で出会ったあの日から!!』

少女「夢の、中……?」

543: 2015/02/14(土) 19:47:46 ID:5zTLUdgw

末子『君だったらボクを受け入れてくれると思っていた……それなのにどうして君は他の奴らばかり見るんだ!?』グググ……

少女「ッ……ぅ……」ズキッ

末子『ただ末子として強く生まれてきただけなのに! ボクだってこいつなのに!!』ポロッ

少女「……あ、あ……ッ」

末子『お願い、ボクを愛して……愛してよ……』ポタッ……

少女「側近、さん……」

末子『……ぐすっ』ドサッ

少女「ひゃっ……!」

末子『甘い……この匂い、とっても落ち着くなあ……』スンスン

少女「や、止めて、側近さん……ッ」カアアッ

末子『君の白い肌には……ふふっ、真っ赤な血が良く映えそうだ』ニッ

少女「!」

544: 2015/02/14(土) 19:49:31 ID:5zTLUdgw

末子『今の君がボクを拒絶するなら……』グイッ……ビリビリッ

少女「あ、ぁ……!」ブルブル

末子『お腹の中に入れて……ボクとひとつになれば愛してくれる?』

少女「……」ゾクッ

少女(何時もの側近さんはこんな事も……こんな顔もしない)

末子『ねえ……少女』スリスリ

少女(でも、これもまた……側近さんの一部、なら)グッ

末子『少女……? 答えてよ……』

少女(……『心の導くまま』に)ス……ギュウッ

末子『!』

545: 2015/02/14(土) 19:51:59 ID:5zTLUdgw

少女「……ごめんなさい。さっきは、ちょっとびっくりしちゃったから」

末子『少、女……』キョトン

少女「でも、それで……貴方の気持ちが満たされるなら」ジッ

末子『あ……』

少女「私は貴方の血肉になって……ずっと一緒に……」ニコッ

末子『……本当に? ボクとずーっと一緒にいてくれる?』

少女「……」コクン

末子『でも、でもボクはあいつであってあいつじゃないんだよ? それでも……!』

少女「貴方は側近さんの一部なんでしょ? それなら貴方も私の大好きで大切な家族だよ」

末子『少女……』

546: 2015/02/14(土) 19:53:22 ID:5zTLUdgw

少女(これで、少しはちゃんと恩返し……できる、かな)

末子『嬉しい……凄く嬉しいよ……』スッ……ジャキッ

少女「! その剣……」

末子『だから、なるべく痛みがないように一瞬で終わらせて……それから少しずつ食べてあげるね』ニコッ

少女(ごめんね……魔王様……妖精さん)ギュッ

末子『少女……だぁい好きだよ』ヒュッ……ドスッ

547: 2015/02/14(土) 19:55:26 ID:5zTLUdgw

少女「ッ……!」

少女「……?」

少女(あれ……痛くない?)パチッ

少女「……!?」

末子『ぐ……お、お前ッ……』ポタッ……ポタッ……

少女(どうして……私じゃなくて自分を……!?)

末子『そんなに……少女を独り占め……したいのか?』ギリッ

少女「早く手当てを……あ、あの玉を……」オロオロ

末子『い、行かないで少女……ぐああっ!!』ズプッ……ザクッ

少女(今度は自分の腕を……!)

548: 2015/02/14(土) 19:57:08 ID:5zTLUdgw

末子『い、嫌だ……もうあんな姿で閉じ込められるのは嫌だぁ……!!』ジワッ

少女「あ……」

末子『……助けて……少女ぉ……母、上……』ガクンッ

少女「! 側近さん? 側近さん!!」ガバッ

『……』

少女「しっかりして! 側近さん……!!」ユサユサ

『……う……っ』ピクッ……パチッ

少女「!」

側近「……少女……? 俺、は……ッ!」ハッ

549: 2015/02/14(土) 20:00:04 ID:5zTLUdgw

少女「大丈夫? 側近さん……」

側近「だ、駄目だ、離れろ少女!」

少女「! ど、どうして?」

側近「……会ったのだろう? おぞましいもう1人の俺と」

少女「おぞましいなんて……」

側近「お前にだけは……知られたくなかった」

少女「……」

側近「こんな俺に、お前の家族でいる資格など……」

少女「そんな訳ないでしょ! 寧ろ私は隠されている事の方が辛かった!!」ギュウッ

側近「!」

550: 2015/02/14(土) 20:01:12 ID:5zTLUdgw

少女「例えどんな力を持っていても、側近さんは側近さんだよ……私を救ってくれた家族だよ!!」

側近「少女……」

少女「お願い、もうそんな悲しい事言わないで……私は側近さんの事なら何だって受け止められるから」ジッ

側近「くっ……」

側近(お前にそんな事を言われたら、俺は……)ググ……ッ

僧侶「……」ジーッ

側近「!」

少女「ひっ」

僧侶「……」ハァハァハァ

側・少「」

554: 2015/03/02(月) 00:12:48 ID:ho0kewJs

僧侶「……はっ! ごめんなさい、素敵な光景についつい回復も忘れて見入ってしまいました~」テヘペロ

側近「そ、そ、僧侶……何故そんなにピンピンしているんだ」

僧侶「その事なんですが、どうやらこれのお陰の様で……」ゴソッ

少女「あっ、どうしてそれを?」

僧侶「私も目を覚ましてから気付いたんですが……恥ずかしながら、ここで姫様からお預かりしていたのをすっかり忘れていたんです」

側近「首飾り……それであの攻撃を受けても」

僧侶「ええ、無傷ではありませんが何とか生き延びられました……他の皆さんも」チラッ

勇者「……」

戦士「うおお、痛みが消えたー!」ブンブン

魔王「それは良かった……この玉の効力は凄いな」

妖精「」パタパタ

魔法使い「またこいつに助けられるなんて……うああいっそ氏にたいいい……」ブツブツ

555: 2015/03/02(月) 00:13:45 ID:ho0kewJs

少女「皆……! 良かった、大丈夫そうで」ホッ

側近「若干大丈夫ではなさそうな者もいるがな……」

僧侶「あはは……」

妖精「!」ピューッ ピトッ

少女「妖精さんも……床に叩きつけられた時はどうなる事かと思ったよ」ナデナデ

側近「! ……そうか。俺はそんな事をしたのか」

妖精「」ギロッ

側近「……悪かったな、小妖精」

妖精「!?」ビクッ

少女(わ、側近さんが妖精さんに頭を下げてる……! 珍しいな)

556: 2015/03/02(月) 00:17:52 ID:ho0kewJs

側近「それから少女……先程の、俺であって俺でない者の事だが」

少女「……うん」

側近「後で……きちんとすべてを話したいと思う。聞いてくれるか?」

少女「! 勿論だよっ」ニコッ

僧侶「……やはり何時見てもお熱いですねえ……滾りますよ本当に」ニヨニヨ

側近「!? な、何の事だ!?」カアッ

僧侶「誤魔化さないでくださいよこのムッツリ! 私にはすべてお見通しなんですようふふふふ……」ズイッ

側近「い、いきなり何を言い出す!?」

僧侶「じゃあ、どうしてこんなあられもない姿の少女さんをこのままにしているんです?」

側近「!」ハッ

少女「あ……」カアッ

側近「……しょ、少女、こんな物しかないがこれで隠してくれ」スルッ……パサリ

少女「あ、ありがとう……」ギュッ

僧侶(ふむ、彼シャツならぬ彼マントと言った所でしょうか……未来の)ニヤニヤ

妖精「」ジーッ

557: 2015/03/02(月) 00:20:33 ID:ho0kewJs

魔王「弟! 戻って来れたんだな」ダダッ

少女「魔王様、もう傷は大丈夫なの!?」

魔王「ああ、お陰様でな。この白玉は……白獣からか?」キラッ

少女「うん、そうだよ……元気になって本当に良かった」

側近「……すまない、兄上。心配をかけてしまって」

魔王「全くだ。まあ、こちらも人の事は言えぬが……さて」チラッ

兄魔王「……おのれ……おのれぇ……!」ズルッ……ビチャビチャ

側近「奴はかなりのダメージを受けているが……またあのような事があっては困る」ジャキッ

魔王「ああ……勇者」

勇者「何だ」スラッ

魔王「すまないが、まだ奴の元へ行くのは少し待って欲しい。完全に倒すために、こちらで少しやっておきたい事がある」

勇者「……わかった」スッ

558: 2015/03/02(月) 00:21:52 ID:ho0kewJs

魔法使い「ちょっ……ここまでやっておいて!?」

勇者「良いんだ。魔法使い」

魔法使い「……ッ」ギリッ

側近「本当に良いんだな? 兄上」ジッ

魔王「ああ……奴の中にある私の魔力が、またお前達を傷つける可能性があるのなら……それで良い」

側近「……」グッ

少女「側近さん?」

側近「! 大丈夫だ……少女」カタカタ……ポタッポタッ

少女(嘘……こんなに震えてるのに。それに傷だってまだ……)

魔王「弟……」

魔王(やはり無理をさせるべきではないか……だがこればかりは……!)

559: 2015/03/02(月) 00:23:49 ID:ho0kewJs

側近「大丈夫だ兄上。今度こそ……やれる」

側近(少女や兄上達のためにも……冷酷に、ならねば)

少女「……」ス……ギュウッ

側近「!」

妖精「!?」

魔王「少女……」

少女「私も一緒にやる。こんな状態の側近さんを放ってはおけないよ」キッ

側近「放せ少女、お前はこんな物を持ってはいけない……!!」

少女「嫌! そうやってまた守られてばっかりになるのは絶対に嫌だから!!」

側近「少女!!」

少女「……お願い、私にも側近さんの苦しみを背負わせて……家族、でしょ?」ウルッ

側近「ぐ……だが、俺はお前に血に染まって欲しくはない」

少女「もう、そんなの今更じゃない。こんなに……側近さんや魔王様の血に触っているのに」スッ

魔・側「……ッ!」

560: 2015/03/02(月) 00:25:53 ID:ho0kewJs

少女「思えば、心の何処かで覚悟してたのかもね。2人と家族になりたいって願った時から……自分も似たようなモノになるかもしれないって」

魔王「少女……お前は、それで良いのか?」

少女「うん。私が選んだ事だしね……こうして貴方達の傍にいる事は」ニコッ

僧侶「少女さん……」

側近「……」

少女「魔王様、側近さんにその玉を渡してあげて。あんなに刺していたもの……今だって凄く痛い筈だよ」

魔王「あ、ああ……そうだな……!?」シュッ

側近「! 貴様……!!」

兄魔王「ぎゃは、は……お喋りが過ぎた、な……愚弟達」ギュッ

少女「あ……玉が!!」

僧侶「何時の間に……」

561: 2015/03/02(月) 00:27:48 ID:ho0kewJs

魔法使い「ふん、文字通り最後の力を振り絞ったって訳か。氏に損ないめ」スッ

戦士「野郎……往生際が悪いぜ」

兄魔王「何とでも言うがいい……角が元に戻らずとも、これさえあればこっちのものだ……!」グッ

魔王「しまった!」

勇者「っ……」タタッ

兄魔王「これで改めて貴様らを……ぬおおっ!?」パァン……ッ

少女「え!?」

勇者「割れた……?」ピタッ

『貴方は……』

妖精「!」ピクッ

白神獣『私の加護の対象外ですよーだ!』

562: 2015/03/02(月) 00:29:33 ID:ho0kewJs

兄魔王「な……ぐあッ!!」

兄魔王(目に破片が……ええい忌々しい!!)ブンブン

僧侶「し、白神獣様? 何処かにおられるのですか!?」キョロキョロ

魔法使い「……成程、恐らくあいつが触れたらそうなる仕掛けだったって訳ね。全く神獣サマは良く考えていらっしゃる」

側近(……やるなら今か。僧侶に回復して貰う余裕はない)

側近「……少女」スッ

少女「!」

側近「情けない事だが、今の俺の状態では心許ない……先程はああ言ってしまったが、力を貸してくれるか?」

少女「……はいっ!」ギュッ

563: 2015/03/02(月) 00:33:42 ID:ho0kewJs

兄魔王「小癪なァ……真似を……ッ」

側近「少女、絶対に手を放すなよ!!」グッ……タタッ

少女「……!」コクンッ タタタ……

妖精「!」パタタッ

僧侶「ふふ、邪魔してはいけませんよ妖精さん……少女さんの想いを」ガシッ

妖精「~~~!」ジタバタ

戦士「お、おい魔王、大丈夫なのかよ……少女ちゃんをあいつと一緒に行かせて!」

魔王「心配するな。一撃を見届けたらすぐに私も行く」

側近「……冥土の土産に、教えてやろうか」ボソッ

少女「? 側近さん……?」

564: 2015/03/02(月) 00:34:39 ID:ho0kewJs

魔法使い「なんでわざわざあいつらに……!」

魔王「今こそ弟の武器の能力が必要だからだ」

僧侶「あの、それは一体……どんな能力なのですか?」

魔王「うむ……あれはただ振り回すだけでは何も斬る事はできぬ、ある意味かなり使い勝手の悪い武器だ」

勇者「……ほう」

魔王「だが、それでも弟が自分の魔力で生み出した武器だ。あいつなりに色々と考えて……」

魔法使い「さっさと言いなさいよ……!」カツンッ

僧侶「魔法使いさん!」

魔王「……すまない。それであの剣の能力だが……」

565: 2015/03/02(月) 00:40:11 ID:ho0kewJs

側近(少女、お前と一緒だからか……今度こそ、気持ちが固まった)

兄魔王「はっ……そんな体で、何を……仕掛けて……」

側近「俺の剣の、能力は」ブンッ

側近(このような事をさせるのは心苦しいが……本当はお前の言葉が、気持ちが嬉しかった)

戦士「……」ゴクッ

魔王「あいつが『斬る』と真に決意した対象限定で」

妖精「」ハラハラ

少女「……ッ!」ギュウッ

魔王「……物や魔力といったほぼあらゆる存在を……斬る」

勇者一行「……!」

側近(ありがとう……少女)

566: 2015/03/02(月) 00:43:39 ID:ho0kewJs

側近「う、おおおおおお……!!!!」ザクッ……

兄魔王「が、ふ……ッ」

魔王「そして今、斬ってもらったのは」

兄魔王「!? こ、れは……」シュウウウウ……

魔王「奴に喰われた私の右腕……及びそれが持つであろう魔力だ」

魔法使い「! あいつの中から」ギョロンッ

兄魔王(力、が……魔力が抜けていく……!)

側近「どうだ……実に、つまらん能力だろう……? 聞こえているかは、わからんが」グラッ

少女「側近さん……!」ガシッ

572: 2015/03/30(月) 23:17:14 ID:S5C9Yrvo

魔王「2人とも良くやった! 早く戻れ!!」ダダダッ

戦士「お、おい……何する気だよ」

魔王「念には念を入れて……駄目押しだ!」ガシッ

兄魔王「何を……は、放せッ!」

魔王(私の腕が消えた今なら効く筈だ……!)ガブッ

兄魔王「ッ! こ……の……愚弟がッ……」ギリィッ

魔王「なんひょひぇも……ひひゅがふぃ(何とでも言うが良い)」

少女「魔王様……!?」

側近「少女……今の、うちに……」フラッ

少女「あっ……うん!」テク……テク……

573: 2015/03/30(月) 23:18:30 ID:S5C9Yrvo

戦士「お、思いっきり……噛みついてやがる」

魔法使い「何やってんのよあいつ……」

魔王(……そろそろか)

兄魔王「! ぐぅ……ッ」ドクンッ

魔王「……」パッ

戦士「な、なんだ? あいつの顔色がどんどん悪くなって……」

側近「兄上の……牙の毒が、効き始めたんだ」

魔法使い「毒……」ピクッ

側近「恐らく奴の中に……兄上の腕が残ったままでは……効かなかっただろう」

兄魔王「がぁああ……!」ボゴゴッ……

574: 2015/03/30(月) 23:19:48 ID:S5C9Yrvo

側近「……だが、蛇の毒としてはアレ以上に……凶悪で強力なものはない」

魔王「……皮肉なものだな」ペッ

魔王(我が呪わしき2つの特性を……初めてまともに使った相手がよりによって身内とは)

兄魔王「おのれ……おのれおのれおのれおのれえええええええ!!!!」ゴゴゴゴゴ……

魔法使い「ちょっ……何処までしぶといのよあいつ!?」

僧侶「な、何が見えたんですか魔法使いさん!」

魔法使い「僧侶、結界! あいつの残りの魔力が暴走してる……このまま近寄ればタダじゃ済まないわ」ギョロン

戦士「はあっ!? まだそんな力が残ってんのか!? 底なしかよ……」

僧侶「今度こそ……最期の悪足掻き、なんでしょうか」パアアッ……

魔法使い「多分ね。まああのまま放っておいても毒で自滅はするだろうけど……そんなのは嫌でしょ? 勇者」チラッ

勇者「……ああ」ザッ……

575: 2015/03/30(月) 23:22:38 ID:S5C9Yrvo

魔王「随分と待たせてしまったな、勇者……我らはもう手は出さない」スッ……ポゥッ

側近「……兄上……」

魔王「辛い役目を負わせてしまってすまない……もう休むのだ」

側近「それは……兄上も同じだろう……いや、それ以上だ」

少女「……」

魔王「それにしても、勇者達と共同戦線を張る事になるとは思わなんだ……あの時はすっかり氏ぬつもりでおったからな」

少女「魔王様……!」キッ

魔王「も、勿論今は違うぞ少女!」

576: 2015/03/30(月) 23:24:30 ID:S5C9Yrvo

妖精「~~~!」パタタッ

少女「あ……妖精さん」ナデナデ

側近「……考えてみればお前も意外な活躍だったな」

妖精「」ドヤァァァァ

側近(くっ……憎たらしい面構えだ)

魔王「さあ、ここからは彼らの番だ……あまり長くはかからぬだろうが」

少女「う、うん……」

側近「……」ギュッ

577: 2015/03/30(月) 23:26:45 ID:S5C9Yrvo

勇者「魔法使い」

魔法使い「ん」

勇者「お前の『眼』から見て魔力の薄い部分はあるか?」

魔法使い「そうね……絶え間なく渦巻いてるから一見わかりにくいけど」スッ

魔法使い「あいつのやや右側……丁度心臓に近い所が、他に比べればほんの少しだけ」ギョロギョロ

戦士「それを訊いてどうすんだ?」

勇者「……僧侶。戦士に持っている首飾りを渡してほしい」

僧侶「え? で、ですが……」チラッ

578: 2015/03/30(月) 23:28:10 ID:S5C9Yrvo

魔王「それが必要なのか? ならば使ってもらって構わない。少女、良いな?」

少女「あ……元々魔王様から貰った物だし、魔王様が良いっていうなら」

勇者「だそうだ」

僧侶「では……」スッ

戦士「お、おう……これをどうしろってんだ?」

勇者「投げろ」ビシッ

戦士「」

579: 2015/03/30(月) 23:31:15 ID:S5C9Yrvo

魔・少(えっ)

側(なっ……!?)

勇者「お前の腕力をもってすればそれで魔力の渦に穴をあける事ができる筈だ」

戦士「で、でもよ……そう上手くいくか? いっそ斧で打ち出した方が……」

魔法使い「馬鹿! そんな事すれば命中させる前に木ッ端微塵になるでしょうが!!」

戦士「そ、それもそうか」

勇者「きっと上手くいく。自信を持ってくれ……お前は俺にとって初めてできた仲間なんだ」ジッ

僧侶「勇者さん……」

戦士「……」

580: 2015/03/30(月) 23:32:30 ID:S5C9Yrvo

魔法使い「ちょっと、そんなうだうだ言ってる暇はないわよ! そんなに不安ならあたしが強化魔法をかけて……」

戦士「いや、大丈夫だ」ギュッ

魔法使い「!」

戦士「これがお前への恩返しになるなら……やるだけやってやるさ」ザッザッ

勇者「……ありがとう」

魔王(……彼らにも様々な事情があるようだな)

戦士「あの辺りにブン投げりゃ良いのか?」

魔法使い「え、ええ」

581: 2015/03/30(月) 23:33:49 ID:S5C9Yrvo

戦士「……ッ」ビキッ

魔王「!」

戦士「……おおおおおおおお……!!!!」ビキビキ

側近(薬も魔法もなしに……あれ程の筋肉の肥大か……!)

勇者「僧侶」

僧侶「今結界の一部を開きます……戦士さん、いけますか?」スゥッ……

戦士「ああ、頼む……そうさ、野郎が相手なら大丈夫だ」ググッ

魔法使い「全く、提案して損したわ」

戦士「心置きなく……全ッ力でなッッッ!!!!」ブンッ

582: 2015/03/30(月) 23:36:14 ID:S5C9Yrvo


ギュオオオオオオ…………パァァァンッ


兄魔王「!?」

戦士「よっしゃあッ!」

魔法使い「うん、無事に大穴あいたわね……首飾りも見事に砕け散ったけど」

僧侶「今です、勇者さん!!」

勇者「……すまない」ダダダッ

戦士「いけえええええ勇者ぁぁぁぁッッッ!!!!」

魔法使い「気をつけなさい! 完全に霧散した訳じゃないから!!」ギロッ

兄魔王「来るなッ、来るなああああああ!!!!」ボゴゴゴ……ギュンッ ボシュッ

勇者「……これ位なら」バシュンッ

兄魔王「!」

勇者「魔法であしらえる」ジャキン

583: 2015/03/30(月) 23:37:23 ID:S5C9Yrvo

魔王「……」

側近「……」

少女「……」ギュッ

魔・側「「! ……大丈夫だ」」ナデナデ

少女「……うん」

妖精「」パタパタ

勇者「今度こそ終わりだ……憎き祖母の仇よ」ブンッ

魔王(……さらば、だ)

勇者「ッ……!」ザクッシュパッザクザクザクザクッ

側近(ひとりぼっちの『魔王』よ)

勇者「……」……キィンッ

兄魔王「ッッ……ぁ、あ……ッ」ユラ……ドサッ

588: 2015/04/12(日) 23:29:27 ID:Je6ZYKSc

――――
――

白獣「……あら」ピクリ

姫「白神獣様……?」

黒獣「どうやら終わったようだな。さっさと行くぞ」ノソッ

姫「! という事は……」

白獣「もう、ここから出ても大丈夫だという事ですよ。ほら」スッ

姫「あ……」

亡者達「……」スゥゥ……

姫(消えていく……あんなに沢山いた亡者の群れが)

589: 2015/04/12(日) 23:31:46 ID:Je6ZYKSc

白獣「どうか安らかに眠ってください……そして我らが主の元へ……」スッ

黒獣「……」

姫「……」ギュッ

白獣「……さて、少女さん達の所へ参りましょうか」

姫「はい! ……あ」ヘナッ

黒獣「どうした。さっさと立て」

姫「ご、ごめんなさい、腰が抜けてしまって……すべてが終わって気が抜けてしまったせいでしょうか」

白獣「まあ! それはいけませんね」パチン

黒獣「ちっ、面倒な」

590: 2015/04/12(日) 23:33:48 ID:Je6ZYKSc

姫「本当に申し訳ありません……」シュン

白獣「なら……ちょっと失礼」ヒョイッ

姫「え? あ……えええええ!?」

黒獣「し、白娘……!」

白獣「では、改めて行きましょう。戸を開けて貰えますか? 黒様」スタスタ

黒獣「あ……う、む」ノソノソ……キィ

白獣「ふふ、ありがとうございます」

姫(お、女の人……しかも白神獣様に横抱きにされるなんて……!!)アワアワ

591: 2015/04/12(日) 23:36:41 ID:Je6ZYKSc

――――
――

淫魔「……ん?」パンパン

亡者「」ビクンビクン……スゥゥ

淫魔「終わったみたいね……良いとこだったからちょっと残念だけど」スッ

召喚獣達「!」ピタッ

淫魔「まだまだあたしは吸い足りないし、そうとわかればとっとと行きましょう」スタスタ……バサッ

召喚獣達「……」グル……

淫魔「ん? 貴方達の事なんて知らないわよ。用がないなら異界なり何なり元いた場所へ帰ったら?」

召喚獣達「……」スゥッ……

淫魔「あら……見かけによらず素直なのね。かーわいい……またね、お嬢さん」ヒュォォォ……バサバサバサッ……バサッ……

592: 2015/04/12(日) 23:38:29 ID:Je6ZYKSc

――――
――

勇者「……」

戦士「な、なあ……今度こそ、勝ったんだよ、な?」

魔法使い「見ればわかるでしょ? あいつは心臓をきっちり切り刻まれた……勇者によってね」ジロッ

兄魔王「……ぅう……ッ」シュゥゥ……

僧侶「! か、体が……」

少女(透けて……消えていく……)

兄魔王「やって……くれた、な……人間共……愚弟、共……」ズズ……ッ

魔王「……兄上」

593: 2015/04/12(日) 23:41:52 ID:Je6ZYKSc

兄魔王「! ……今更、俺を……兄と呼ぶか……」

魔王「今だからこそだ。せめて最期位は……貴方の弟として」

側近「……」コクッ

兄魔王「……ふん……それで俺が喜ぶと、本気で……思っているのか?」

側近「……いいや。これは俺達の単なる自己満足だ」

兄魔王「ず、随分と……安っぽい、な……下らない……」ゴホッ

魔王「貴方にとってはそうだろうな……悲しい事だ、本当に」

兄魔王「それは……こちらの台詞だ、魔族の面汚し共……力を使わぬ愚か者」

側近「……貴方達の思い通りにならなくて残念だったな」

兄魔王「……だが、忘れるな……どんなに安っぽい……家族ごっこ、をしようが……お前達は……」ギロッ

魔王「……」

兄魔王「この世の魔族の、頂点たる……魔王の……」シュウゥゥゥ……フッ

594: 2015/04/12(日) 23:45:03 ID:Je6ZYKSc

魔王「……」ヨロッ……ガクン

少女「魔王様!」

側近「兄上……」

魔王「す、すまない……何だかな、力が抜けてしまってな」

少女「魔王様……大丈夫だよ、もう大丈夫なんだよ……そうだよね? 側近さん」ギュウッ

側近「ああ、そうだ。もう兄上は……魔王として生きる必要はない」

魔王「少女……弟……」

595: 2015/04/12(日) 23:47:38 ID:Je6ZYKSc

妖精「」パタパタ……ツンツン

魔王「はは、お前も慰めてくれるのか……小妖精よ」

側近「珍しい事もあるものだな」

少女「……側近さんも」スッ

側近「!」

少女「もう苦しまなくて良いんだよ……全部、終わったんだから」ギュッ

側近「少女……」スッ



魔法使い「……何が『全部終わった』よ」ボソッ

596: 2015/04/12(日) 23:49:22 ID:Je6ZYKSc

今回は以上です。

おやすみなさい。

597: 2015/04/13(月) 00:43:45 ID:Gvm8QwJo
乙!

598: 2015/04/28(火) 17:28:51 ID:yAmvLJFQ
今追いついた
乙!!
「最弱魔王の決戦」【後編】

引用: 「最弱魔王の決戦」