1: 2011/05/08(日) 14:56:23.95 ID:VanRBjpeo

マミ「やっぱり働いたあとの一杯は格別ね」

QB「夜間にカフェインを取り過ぎるのはおすすめしないよ。いつものことだけど」

マミ「平気よ。いつものことだもの」

QB「……。まぁ、君がいいのなら、いいんだけどね」

マミ「そうよ。女の子のティータイムに口を挟むものじゃないわ」

QB「そういうものかな」

マミ「そういうものなの」

マミ「……あぁ、美味しい」

2: 2011/05/08(日) 14:57:30.76 ID:VanRBjpeo





   第一話  シナモンは香りが強い





3: 2011/05/08(日) 14:58:27.37 ID:VanRBjpeo

マミ「キュウべえ、おかわりは?」

QB「遠慮しておくよ」

マミ「もう? まだカップ半分しか飲んでないじゃない。クッキーも少ししか」

QB「もうお腹いっぱいだよ」

マミ「男の子なんだから、もっとしっかり食べなきゃだめよ」

QB「僕に人間の基準を求められてもね。まずサイズの違いを考えてくれないと」

マミ「ちゃんと食べないから大きくならないのよ?」

QB「僕はこれ以上大きくならないよ」

マミ「わがままばっかり」

QB「全部事実だよ。どうしろっていうのさ」

4: 2011/05/08(日) 14:59:40.27 ID:VanRBjpeo

マミ「……クッキー、美味しくなかった?」

QB「うん? いいや、美味しかったよ」

マミ「ほんとう?」

QB「嘘なんか言わないさ。いつもとは違う風味だったけど、とても美味しかったよ」

マミ「そ、そうよね。今日はシナモンを入れてみたんだけど、」

QB「それは最初に聞いたよ」

マミ「……」

QB「……?」

5: 2011/05/08(日) 15:00:38.70 ID:VanRBjpeo

マミ「キュウべえのいじわる」

QB「そういうつもりはないんだけどな」

マミ「そういうデリカシーのないこと言ってると、女の子に嫌われちゃうわよ?」

QB「……。それは困るね」

マミ「でしょう?」

QB「うん。魔法少女の契約が結べなくなる」

マミ「……」

QB「ん?」

マミ「……もういいわ」

6: 2011/05/08(日) 15:02:08.57 ID:VanRBjpeo

マミ「ハァ……やっぱりあなたって、人間とは違う生き物なのね……」

QB「そりゃそうさ。僕は契約の獣。それ以外の何物でもないよ」

マミ「そうなのよね……」

マミ「最初見たときは天使かと思ったのに……」

マミ「そうじゃなくても、すごくかわいい子だと思ったのに……」

マミ「それがこんな生意気なわからず屋さんだったなんて! いちいち理屈っぽいし!」

QB「残念だったね」

マミ「……」

マミ「……まぁ、いいわ」

マミ「そんなあなたのこと、私はやっぱり好きだもの」

QB「……」

マミ「そろそろ寝ましょうか」





7: 2011/05/08(日) 15:03:52.78 ID:VanRBjpeo

マミ「さ。おいで、キュウべえ」

QB「また一緒に寝るのかい?」

マミ「いや?」

QB「僕は構わないけど、生き物を抱えて寝るにはそろそろ蒸す季節なんじゃないかな?」

マミ「熱と温もりは全然別なの」

QB「どう考えても同じだよ」

マミ「気持ちの問題ってことよ。いいからほら、いらっしゃい」

QB「ま、君がいいならいいけどさ」

マミ「照れちゃって」 クスッ

QB「……」

8: 2011/05/08(日) 15:05:06.84 ID:VanRBjpeo

マミ「おやすみ、キュウべえ」

QB「おやすみ、マミ」

マミ「……」

QB「……」

マミ「……」

QB「……」

マミ「……」 クンクン

QB「……」

マミ「……キュウべえ?」 ムックリ

QB「どうしたんだい?」

マミ「ちょっと口、開けてみて?」

9: 2011/05/08(日) 15:06:15.74 ID:VanRBjpeo

QB「いいけど……」 アーン

マミ「……」

マミ「……」 クンクン

QB《何をしているんだい?》

マミ「!?」 ビクッ

マミ「……もう、いきなりテレパシーで話しかけないでよ」

QB《しょうがないじゃないか。この体勢で口を動かしたら、君の鼻を噛んじゃうよ》

QB《それで、何をしているんだい?》

マミ「口臭チェックよ」

QB《口臭チェック?》

10: 2011/05/08(日) 15:07:36.92 ID:VanRBjpeo

マミ「キュウべえ。あなた、ちゃんと歯を磨いた? シナモンの香りがするわ」

QB「磨くわけないじゃないか」

マミ「……」

マミ「なに当り前みたいに言ってるの! ちゃんと磨きなさい!」

QB「必要ないよ。僕は虫歯にはならない」

マミ「歯磨きしない子はみんなそう言うんです」

QB「大丈夫だってば。どんな種類の細菌もウィルスも、この身体には棲んでいないんだから」

マミ「でも……そうだとしても、匂いが残ってるじゃない」

QB「そりゃ、さっき食べたばっかりだしね。でもあともう一時間もすれば消えるはずだよ」

マミ「だからって……なんだか気持ち悪いわ」

QB「それじゃあ逆に聞くけど、マミは魔法少女の姿のときに着ている服を洗濯したことはあるかい?」

マミ「そんなの……あるわけない、けど」

QB「それと同じさ」

11: 2011/05/08(日) 15:09:03.08 ID:VanRBjpeo

マミ「つまり、魔法できれいにしてるってこと?」

QB「人間が問題にする種類の汚れや臭いとは、最初から無縁だ、ってことさ」

マミ「ふーん……」

QB「納得してくれたかい?」

マミ「うーん……まぁ、それはわかったけど……」

QB「他に何か?」

マミ「そんな話、初めて聞いたわ。もう何年も一緒にいるのに」

QB「聞かれなかったからね」

マミ「……」

QB「それに、そんなことを気にした子は今までいなかったよ。君が初めてだ」

マミ「……何よそれ。それじゃ私が、変な子みたいじゃない」

QB「個性的では、あるね」

マミ「いじわるっ」

12: 2011/05/08(日) 15:10:14.64 ID:VanRBjpeo

QB「そもそも、マミ。君は今まで僕に歯磨き道具を用意してくれたことなんかなかったじゃないか」

マミ「……」

マミ「……あぁ」

QB「そういうことだよ」

マミ「も、もう! わかったわよ! でもやっぱり気になるから口だけゆすいできなさい!」

QB「どうしてそうなるんだい?」

マミ「イヤだっていうなら一緒に寝てあげないわよ!」

QB「僕は別にそれでもかまわないよ」

マミ「いいから行ってきなさい! コップは私の使っていいから!」

QB「やれやれ、わかったよ」



QB「まったく……わけがわからない」 トコトコ





18: 2011/05/09(月) 19:41:01.34 ID:vxez3NkSo



マミ「さて……放課後か。今日もパトロールに……」

モブA「巴さーん」

マミ「え?」

モブA「ねえ、今日ヒマ?」

モブB「私たちこのあとお茶しに行くんだけど、巴さんも来ない?」

マミ「え、でも……」

モブA「いいじゃん、たまには一緒に遊ぼうよ」

マミ「うーん……」

マミ(おととい、昨日と続けて当たりだったから、確率的には今日は大丈夫だけど……)

マミ「ちょっと待ってもらえるかしら。バイト先にメールで聞いてみるわ」

モブs「はーい」

19: 2011/05/09(月) 19:41:57.51 ID:vxez3NkSo





   第二話  魔法少女の貴重な休息





20: 2011/05/09(月) 19:44:14.32 ID:vxez3NkSo

マミ(携帯を出して……アラームを二分後にセットして……)

マミ《……キュウべえ、いる?》

QB《――いるよ。なんだい、マミ》

マミ《あなたのわかる範囲でいいんだけど、魔女の気配は近くにあるかしら》

QB《ちょっと待って》

マミ「……」

モブA「ってゆーか、巴さんってアルバイトなんてしてたんだ。ねぇねぇ、どんなところなの?」

マブB「あ、私も聞きたい。マック? ファミレス?」

マミ「いいえ。知り合いの方の事務所で、宛名書きとか書類届けのお使いとかをしてるだけよ。
   私に接客業なんて、むりむり」

モブA「えー、そんなことないよー。エプロンドレスとかすっごく似合いそうなのに」

モブB「でも考えてみれば私たちまだ中学生だもんね。普通のお店は無理かも」

マミ「ふふっ、そうね」

21: 2011/05/09(月) 19:45:59.55 ID:vxez3NkSo

QB《――マミ。今のところ、魔女の気配は見当たらない。100%の保証はできないけどね》

マミ《わかったわ。……それじゃあ、今日のパトロールは一時間ぐらい遅らせてもいいかしら?
   クラスのお友だちに誘われちゃったの》

   ヴーン ヴーン ブーン

マミ(おっと)

QB《いいんじゃないかな。息抜きは大事だ》

マミ《ありがとう、キュウべえ》 パカ カチカチ…

マミ「ん、大丈夫みたい。でも向こうの人達に悪いから、一時間ぐらいでいいかしら?」

モブA「一時間かー……それじゃホントにお茶ぐらいしかできないなー」

モブB「仕方ないわよ。また今度ゆっくり行けば」

マミ「ええ。お詫び、っていうのも変だけど、紅茶の美味しいお店を知ってるから案内するわ」

モブA「おおっ。それは期待しちゃおっかなー」

モブB「うん、楽しみ」



22: 2011/05/09(月) 19:47:36.47 ID:vxez3NkSo

   キャッキャウフフ

マミ「あ……そろそろ時間だわ。行かないと」

モブA「え、もうそんな経っちゃった?」

モブB「あっという間だったわね……」

マミ「ごめんなさい。お会計、これで一緒に払っておいてもらえる?」

モブA「任せて。ってか、ケーキも紅茶もすっごく美味しかったよ。ここはいい店だー」

モブB「教えてくれてありがとう、巴さん」

マミ「どうしたしまして。レジのところに置いているクッキーもおすすめだから、よかったら」

モブA「うん。じゃあまた、今度はゆっくり遊ぼうねー」 ブンブン

モブB「また明日学校で」

マミ「ええ。また明日」

   カランカラン…



23: 2011/05/09(月) 19:48:41.86 ID:vxez3NkSo

マミ《お待たせ、キュウべえ》

QB《もういいのかい?》

マミ《いいのよ。そんなに長いことサボるわけにはいかないわ》

QB《そうかい。ま、君がいいならいいさ》

   テテテテテ… ストッ

QB「それじゃ行こうか」

マミ《ええ。キュウべえは、どの辺りを見張ってくれていたの?》

QB「駅の南、橋よりこっち側だよ」

マミ《じゃあ、北の方から廻ってみましょう》





24: 2011/05/09(月) 19:50:10.85 ID:vxez3NkSo

マミ「ふぅ……ただいま、っと」

QB「結局。魔女にも使い魔にも当たらなかったね」

マミ「そうねえ……」

マミ「……いいえ、それでいいのよ。魔女なんか出ないに越したことないわ」

QB「そうは言っても、ここのところグリフシードを拾っていないじゃないか。そろそろ当たらないと」

マミ「まだ平気よ。……いえ、というかキュウべえ」

QB「なんだい?」

マミ「その考え方は危険よ。グリフシードはあくまで副産物。目的にしちゃいけないわ」

QB「ソウルジェムの浄化を軽視する方がよっぽど危険だよ」

マミ「駄目よ」

QB「……」

マミ「魔女から街の人たちを守る、それが一番大事なの。
   魔法が使えなくなる危険から自分を守ることは、あくまで二の次でなければならないわ」

25: 2011/05/09(月) 19:52:36.43 ID:vxez3NkSo

マミ「魔法少女は、機械じゃないの」

マミ「普通の人間とは違うモノかも知れないけれど、心まで無くしてはいけない」

マミ「少なくとも私は、そうありたいと願うわ」

QB「……」

マミ「だってキュウべえ、考えてもみて?」

マミ「護るべき人たちのことを忘れて、自らが永らえるためだけに獲物を狩り続ける……」

マミ「そんなもの、魔女と何も変わらないじゃない」

QB「……」

QB「そうだね。そのとおりだ」

QB「魔法少女は常に、自らが魔女に堕ちる危険をはらんでいる」

マミ「……」

26: 2011/05/09(月) 19:54:03.54 ID:vxez3NkSo

QB「マミ」

マミ「なぁに、キュウべえ」

QB「僕も長いこと、色々な魔法少女を見てきたけれど、君ほどの信念を持った子は稀だったよ」

マミ「……そう」

QB「その高潔さは、かつて『英雄』や『聖女』と呼ばれたような子たちに匹敵するものだ」

QB「君ほどの魂の持ち主に出会えたことは、奇跡とも呼ぶべき幸運だと僕は思うよ」

マミ「……」 クスッ

QB「嘘でも、冗談でも、お世辞でもない。本当にそう思う」

マミ「ありがとう。でも、そんなんじゃないわ。私は英雄でも聖女でもない」

マミ「ただの『魔法少女』よ」



27: 2011/05/09(月) 19:55:00.13 ID:vxez3NkSo

マミ「……キュウべえ、こっちに来て」

QB「なんだい?」

マミ「素敵なことを言ってくれたお礼に、あなたを幸運で包んであげる」

QB「? どうやって?」

マミ「抱っこしてあげるってことよ」

QB「なんだ、いつもやってることじゃないか」

マミ「贅沢いわないの。――えいっ!」

QB「うわっ」

マミ「あったかーい」

QB「そりゃどうも」

マミ「ふふっ。…………でも、私自身はあまり幸運ではないわよねぇ……」

QB「何がだい?」

マミ「今日誘ってくれた子たちのこと。もったいないことしちゃったなぁ……」

28: 2011/05/09(月) 19:56:16.07 ID:vxez3NkSo

QB「いいって言ってたじゃないか」

マミ「そんなの強がりに決まってるでしょ、ばかっ」

QB「……」

マミ「あーん! 女の子同士でお茶会なんて久しぶりだったのにー!」 ジタバタ

QB「ちょ、マミ、締って」

マミ「それぐらい我慢しなさい! 男の子でしょ!」

QB「正確にはどっちでもっキュイイ」

マミ「ハァ……あの子たち、また誘ってくれるかなぁ……私から誘って、来てくれるかなぁ……」

QB「……。僕でよければ付き合うよ」

マミ「……」

マミ「いつもやってることじゃない」

QB「まぁね」





44: 2011/05/11(水) 19:14:44.00 ID:kWroeCGwo



  『キヒィィィィィィィィィ……』

   シュウゥゥゥ…

マミ「ふぅ、厄介な魔女だったわね……でも」

   ――コロン

マミ「その甲斐はあった、かな?」

QB「マミ、怪我は大丈夫かい?」

マミ「平気よ、あとで治すから。それよりその子の様子はどう?」

QB「気を失っているだけだよ。転んだときの擦り傷が少しあるけど、問題はないと思う」

マミ「そう。よかった」





45: 2011/05/11(水) 19:15:43.02 ID:kWroeCGwo





   第三話  Prego!





46: 2011/05/11(水) 19:17:14.65 ID:kWroeCGwo

少女「……ん……う、ん……?」

マミ「気がついた?」

少女「え……?」

少女「ここ……公園? あれ? 私、どうしてこんなところに……」

マミ「そこの芝生に倒れていたのよ、あなた」

少女「そう、なんですか……?」

マミ「ええ。覚えてないのかしら」

少女「はぁ……あ、痛」

マミ「膝を擦りむいてるわね。ちょっと待ってて、水飲み場でハンカチを濡らしてくるから」

少女「あ、はい……あの、ところであなたは?」

マミ「私? 私はただの通りすがり」





47: 2011/05/11(水) 19:18:40.48 ID:kWroeCGwo

少女「えっと、お世話になりました……」

マミ「本当に病院に行かなくて大丈夫?」

少女「はい、たぶん……それじゃ失礼します」

マミ「気をつけてね」

   テッテッテッテッテ…

マミ「……」

QB「よかったのかい? 何の説明もしなくて。彼女、君のことを不審がっているようにも見えたよ?」

マミ「無理もないわ。別におかしな反応じゃない」

QB「……」

QB「確かに、ありえない反応ではなかったけど」

マミ「私の方も、ちょっと余裕ぶりすぎだったかも知れないわね。
   人が倒れて怪我してたんだから、もうちょっと慌てたように振る舞えばよかったかしら」

48: 2011/05/11(水) 19:20:07.47 ID:kWroeCGwo

マミ「何にしても……彼女は何も覚えていないし、あなたのことも見えていなかったんでしょう?」

QB「そのようだったね」

マミ「だったら、説明したところで信じてもらえないわ。逆におかしな人だと思われるだけ」

マミ「普通の人は、こんな世界のことは知らないままでいた方がいいのよ」

マミ「あなたたちが魔女の存在を大々的に訴えたりしないで、隠れるように活動しているのだって、
   同じような理由なんでしょう?」

QB「……」

QB「そうだね。そんなことをしてみたところで、僕らにとっていい結果になるとは思えない」

マミ「そうよね……」

QB「……」

49: 2011/05/11(水) 19:21:45.31 ID:kWroeCGwo

マミ「……どうにかして、みんなに魔女の危険を知らせることはできないかしら……」

QB「……。難しいと思うよ」

マミ「あなたたちも、やっぱり色々と試してきたの?」

QB「ああ。魔法少女のシステムは、僕らがこれまでに積み重ねたさまざまな試行錯誤の結果さ。
   これが一番効率がいいというのが現時点での結論だね」

マミ「そっか……せめてキュウべえだけでもみんなに見えてくれたらいいのに」

QB「……。色々なことが変わるだろうね、もしそうなったら」

マミ「ええ」 クスッ

QB「……?」

マミ「まず第一に、私にはこんな素敵な友だちがいるって、みんなに自慢できるようになるわ」

QB「マミらしい考えだね」

マミ「ふふっ」

50: 2011/05/11(水) 19:23:28.37 ID:kWroeCGwo

マミ「……さて、今日はもう終わりにしましょうか」

QB「いつもよりだいぶ早くないかい?」

マミ「ごめんなさい。でも今日は、ちょっと疲れちゃったから」

QB「別に責めてるわけじゃないよ。さっきの魔女も手強かったし、無理することはないよ」

マミ「ありがとう、キュウべえ」

QB「どういたしまして」

マミ「……」 クスッ

マミ「それじゃ、お買い物して帰りましょうか。今日はゆっくり回れそう」





51: 2011/05/11(水) 19:25:04.14 ID:kWroeCGwo

店員「いらっしゃいませー」

マミ《キュウべえは何が食べたい?》

QB「なんでもいいよ」

マミ《それが一番困るのに……》

マミ《あ、リンゴが安いわ。そういえばしばらくアップルパイは作ってなかったっけ》

QB「晩ごはんには向かないんじゃないかな」

マミ《そんなわけないでしょ》

QB「まぁ、マミが食べたいのなら反対はしないけど」

マミ《そうじゃなくて、夕飯にするわけないでしょ、ってことよ。これは今度のおやつ用》

QB「ああ、なるほど」

マミ《まったくもう》



52: 2011/05/11(水) 19:26:20.73 ID:kWroeCGwo

マミ「ん~……」

マミ《……ねぇ、キュウべえ。お味噌ってまだ残ってたかしら?》

QB「さぁ?」

マミ《頼りにならないわね。これだから男の子は》

QB「そう言われてもなぁ」

マミ《まあいいわ。今日は使わないメニューにして、なかったら明日買うことにしましょう》

QB「そうだね」

マミ《久しぶりに和食もよかったけど……仕方がない、中華でいいか》

QB「そういえば、紅茶がそろそろ切れるって言ってなかったかい?」

マミ《それはいつものお店じゃないと》

QB「ふ~ん」



53: 2011/05/11(水) 19:27:24.38 ID:kWroeCGwo

マミ「~♪」

マミ《やっぱり早い時間だと色々残ってていいわね》

QB「明日からも早めに切り上げるかい?」

マミ《そういうわけにはいかないわよ》

マミ《今日は特別。……あの女の子を助けることができた、ご褒美みたいなものかしら?》

QB「まぁ、君がそういうなら」

店員「お次にお待ちのお客様ー、どうぞー」

マミ「あ、はい」

   ピッ
   ピッ
   ピッ…

店員「1,218円になりまーす」

54: 2011/05/11(水) 19:28:27.02 ID:kWroeCGwo

店員「1,300円からお預かりしまーす。82円のお返しでーす。袋はお付けしますかー?」

マミ「お願いします」

店員「ありがとうございましたー」

マミ「……」 テクテク

マミ「……」 ドサ、ゴソゴソ、ゴソゴソ

マミ「……」



マミ「……どういたしまして……」 ボソッ



QB「? 何か言ったかい、マミ?」

マミ《なんでもないわ》 ニコ





63: 2011/05/15(日) 19:01:15.01 ID:pSU8VOl9o

>>62
まさにそれを狙って書いてるからなあ


さて、1です
投下

64: 2011/05/15(日) 19:02:10.48 ID:pSU8VOl9o



マミ(明日は終業式……明後日から夏休み、か……)

マミ(できれば一日ぐらいおばさまたちに顔を見せに行きたいところだけど……あら?)

マミ(ロッカーに封筒が……何かしら?)

マミ(……!)

マミ(……)

マミ(……)

マミ(……)

マミ(……ラブレター、だわ……)

マミ(……どうしよう……断らなきゃ……)





65: 2011/05/15(日) 19:03:30.68 ID:pSU8VOl9o





   第四話  恋の魔法はまだ使えない




66: 2011/05/15(日) 19:04:50.75 ID:pSU8VOl9o

マミ「うーん……」

A子「巴さん、お昼一緒に食べよう」

B子「あ、私も……どうしたの?」

マミ「ううん、なんでもないわ。お昼ね。どこで食べる?」

A子「食堂行こうよ。冷房入ってるし」

マミ「そうね。屋上や中庭は、この時期はちょっとね」

B子「混んでないといいけど」





67: 2011/05/15(日) 19:06:20.52 ID:pSU8VOl9o

   ガヤガヤガヤ

A子「むぅ……巴さんのお弁当、いつもきれいだよねー」

マミ「なぁに? あらたまって」

A子「だってさー、自分で作ってるんでしょー? 見るたびにすごいなって思っちゃうよ」

マミ「好きだからやってるだけよ。もう慣れてるし、大したことないわ」

A子「またまたー。ないことないって。慣れるまで続けられないんだから、普通は。
   それにこれ全部手作りでしょ? 冷凍食品とか使ってないんでしょ?」

マミ「それはまぁ。……でもああいうものって、あまり使いたくないのよ」

A子「どうして?」

マミ「ん~……、だって、冷凍食品でもいいなら、お弁当を買ってもいいわけでしょう?」

A子「え? ……まぁ、うん」

マミ「そうしたら今度は購買でパンと野菜ジュースでも買った方がよっぽど簡単だし、
   さらに言うなら毎日学校でじゃなくてスーパーで買いだめした方が安くつくでしょう?
   そんなふうに、一つ緩めたら緩むところまで緩みきっちゃうと思ったら、ね。
   最終的には、サプリメントとゼリー飲料で三食をすませる毎日よ? ゾッとしちゃう。
   それを思うと、少し早起きしてお弁当を作るぐらい、なんてことないわよ」

68: 2011/05/15(日) 19:07:37.00 ID:pSU8VOl9o

A子「……」

B子「……」

マミ「……あら?」

A子「あ、いや、なんていうか……普通そこまで考えないというか、中学生離れしてるというか、
   むしろ逆にものすごく中学二年生っぽいというか……とにかく凄いですね」

B子「なんで敬語……?」

マミ「……ごめんなさい。一人で喋りすぎちゃったわね」

A子「いや、うん。あ、いや。ちょっと面白い話だったよ」

マミ「そう? なら、いいんだけど」

A子「先を見据えてるって感じで、いいと思う。やっぱり将来のこととかも考えてるんだ?」

マミ「将来……?」

A子「うん。……あれ?」

マミ「将来、か……あんまり考えてないわね……」


69: 2011/05/15(日) 19:09:37.77 ID:pSU8VOl9o

A子「え、マジで? さっきの計画性は食べもの関係限定ですか?」

マミ「そういうわけじゃ……怪我とか病気とか、不測の事態への備えなら考えてるけど……
   将来の夢とか、そういうことはちょっと。自分には関係ないことのような気がしちゃって」

A子「……いや、関係はあるでしょ。私もあんまり考えてないけど」

マミ「そう……なのかしら……」

B子「……」

A子「……巴さん?」

マミ「――あ。……ごめんなさい。私、また……」

A子「ん、うん。OK。巴さんの意外な一面って感じでむしろOKだよ」

マミ「……あなたも、ごめんなさい。私、考えることが変に走っちゃう癖があって……」

B子「え? あ、いや、私は別に……」

マミ「でも、さっきから全然喋ってないから……」

A子「あー、そっちは放っといていいよ」

マミ「え? でも」

70: 2011/05/15(日) 19:11:12.78 ID:pSU8VOl9o

A子「いーんだってば。彼氏とケンカ中でへこんでるだけだから」

B子「ちょ」

マミ「まぁ……」

B子「い、いいから。私のことは気にしないで、巴さん」

A子「それとも興味ある?」

マミ「えっ」

B子「やめてって、ば……?」

A子「お? ちょい反応アリ? そーいや巴さん、浮いた話とかないよね。美人なのに」

マミ「えっ? そんな、私は別に、ないわよ?」

A子「あー、やっぱり何かあるんだ。聞きたいな、巴さんの恋バナ」 ニマッ

B子「……」 チラ、チラ

マミ「えっと……」

マミ(…………言っていいのかしら?)





71: 2011/05/15(日) 19:12:20.01 ID:pSU8VOl9o



   カチャリ

QB「それで、どうしたんだい?」

マミ「……話したわ」

QB「うん」

マミ「…………応援されちゃった」

QB「ふぅん? 応援されるべきは差出人の男性の方だと思うけど」

マミ「……」 ジトッ

QB「なんだい?」

マミ「そういう問題じゃないわよ……」

QB「というと?」

マミ「だから……恋っていうのはそういうものじゃないの。もっとこう……」

QB「?」

72: 2011/05/15(日) 19:13:52.65 ID:pSU8VOl9o

マミ「なんていうかつまり……そんな簡単に、どっちがどうとか言えるようなものじゃないのよ。
   もっと繊細で複雑なことがらなの」

QB「……」 モグモグ

QB「そうみたいだね。人間の恋愛感情は複雑すぎて、僕には理解できない」

マミ「またそんなあっさり……」

QB「事実さ。でも、気を悪くしたのなら謝るよ」

マミ「ハァ……」

   ゴロン

QB「……」 モグモグ

マミ「……」

マミ「……ねえ、キュウべえ」

QB「なんだい?」

マミ「あなた、本当にわからないの? あなたにも同じ種族の仲間がいるんでしょう?」

QB「仲間というか、全員 “僕” だからね」

マミ「……」


73: 2011/05/15(日) 19:15:12.93 ID:pSU8VOl9o

QB「前に話したよね? 僕らは意識も記憶も、全員が同じものを共有している。
   経験に基づく細かな個体差もあるにはあるけど、人間のそれと比べたら無いに等しいよ」

QB「だから選ぶ理由も意味もない。そもそもの繁殖方法が違うから、必要すらない」

マミ「……やめて……」

QB「君たちの知る他の生き物たちと比べたら、確かに異質に映るかも知れない。だけど」

QB「危険と隣り合わせの魔法少女に付き添うモノとしては、極めて合理的なつくりだと思うよ」

マミ「やめて!」 ガバッ!!

QB「……」

マミ「……そんな言い方、やめて。自分を使い捨ての道具みたいに言わないで」

QB「……」

QB「しかしね、マミ。それが僕ら、契約の獣の在り方なんだ。否定されても困るよ」

マミ「っ……」

74: 2011/05/15(日) 19:16:45.41 ID:pSU8VOl9o

マミ「……ごめんなさい」

QB「いや、責めてるわけじゃないんだ」

マミ「……」

QB「むしろ、僕こそすまなかった。言いたかったことと少しずれてしまったよ」

マミ「言いたかったこと……?」

QB「僕では恋愛相談には乗れない、ということさ」

マミ「……」

マミ「ハァ……」

マミ「あぁ、もぅ……………………どぅしよぅかなぁ……」

QB「迷っているね」

マミ「……そういうわけじゃないわ。ただ……どう言って断るかなって……それだけよ」

QB「断るのかい?」

マミ「……ええ」

75: 2011/05/15(日) 19:19:16.58 ID:pSU8VOl9o

QB「どうして?」

マミ「どうしてって……私、魔法少女なのよ? 恋人なんか、作れるわけないじゃない……」

QB「いや、そんなことはないよ」

マミ「……え?」

QB「魔法少女と恋人付き合いの両立は、確かに難しいようだけど、決して不可能ではないはずだよ。
   実際にそれをなした、あるいはなしている子の例はいくらでもある」

QB「異性との出会いや、意中の相手との交際や結婚を契約の対価にした子も大勢いるしね」

マミ「……」

QB「もちろん、君と同じ考えの子も同じぐらいいるから、どちらが正しいという話でもないけど」

マミ「……」

マミ「……その子たちは……」

QB「うん?」

マミ「その子たちは、幸せになれたの……?」

76: 2011/05/15(日) 19:20:38.16 ID:pSU8VOl9o

QB「……」

QB「何をもって幸せとするかは人それぞれだけど……」

マミ「……」

QB「当人が思い描いた 『幸せ』 を掴んだ子も、ちゃんといるよ」

マミ「そう……」

QB「……」

マミ「……好きな人が、できて、」

QB「うん?」

マミ「恋人になって、結婚して……子供を産んで、家庭を築いた……そんな魔法少女は、いるの?」

QB「ああ、いたよ」

マミ「……」

マミ「……過去形なのね」

77: 2011/05/15(日) 19:22:07.37 ID:pSU8VOl9o

QB「……。それは、」

マミ「いいの。わかってる」

QB「……」

マミ「おなかに赤ちゃんを宿しながら勝てるほど、魔女との戦いは甘くなんてない」

マミ「少なくとも私にそんな真似ができるとは思えない。わかってるわ」

QB「……」

QB「僕を恨んでいるかい?」

マミ「どうかしらね」 クス

QB「……」

マミ「……冗談よ」





90: 2011/05/19(木) 19:05:00.46 ID:a78uVSfzo

第五話

今回は戦闘シーンとかあるので字の文はいります
あと、今回出てくる使い魔と魔女(こっちは次回)はオリジナルです
あと、技名のイタリア語は語感重視で意味はわりと適当です
あと、今回も紅茶飲んでません

そんじゃスタート

91: 2011/05/19(木) 19:06:24.95 ID:a78uVSfzo



   何が起きたのか、わからなかった。

   ただ、熱くて、狭くて身動きが取れなくて、そして痛かったことを覚えている。
   何かが破裂する音を耳元で聞いた。

   何も考えられなかった。

   ただ、熱いのがイヤで、狭いのも動けないのもイヤで、何より痛いのがイヤだった。

   それでも何も考えられずに、私はただ叫んでいた。

   助けて。

   助けて。

   助けて、と。

   そして、




















   《――それが君の願いだね?》



   そして私は、天使の声を聞いた。






92: 2011/05/19(木) 19:08:01.94 ID:a78uVSfzo





   第五話  鋏とリボン 前編






93: 2011/05/19(木) 19:09:13.68 ID:a78uVSfzo



マミ「ごめんなさい」

少年「……そ、か」

マミ「…………ごめんなさい」

少年「いいよ。……いいんだ。こっちこそごめん。時間取らせて、悪かった」

マミ「……」







マミ「はぁ……」

マミ「…………ちょっと、格好いい人だったな……優しそうだったし……」

QB「そう思うなら受ければよかったのに」

マミ「っ!?」 ビクッ

マミ「のぞ――」

マミ《……覗きなんて、趣味が悪いわよ》

94: 2011/05/19(木) 19:10:30.82 ID:a78uVSfzo

QB「それは悪かった。君の選択を見てみたくてね」

マミ《興味本位ってことじゃないの、それ》

QB「そうとも言うかな」

マミ《まったく……》

QB「ところで、どうして断ったのか聞いてもいいかい?」

マミ「……」

マミ《だめ》

QB「それは残念」

マミ《あなたがもう少し大人になったら教えてあげるわ》

QB「……。一応、君よりだいぶ年上なんだけどね」





95: 2011/05/19(木) 19:11:37.95 ID:a78uVSfzo

マミ《それじゃあ、行きましょうか》

QB「パトロールかい? こんな日ぐらい、休んでもよさそうなものなのに」

マミ《下手な気を使わなくていいの》

QB「加減が難しいなぁ」

マミ《そういうこと言うのはもっと駄目》

QB「……」

マミ《……まぁ、先にお買い物を済ませて、一旦帰るぐらいなら、いいかな》

QB「そうだね」





96: 2011/05/19(木) 19:12:52.41 ID:a78uVSfzo





マミ「……使い魔が二匹、か」

QB「今日も外れだったね」

マミ「小さいけど当たりよ。誰も襲わせずにすんだんだから」

QB「そうだったね」

マミ「……帰りましょうか」





97: 2011/05/19(木) 19:14:41.85 ID:a78uVSfzo





マミ「……今日も使い魔だけ、か……」

QB「昨日やこの間と同じやつだね」

マミ「やりにくいったらなかったわ……刃物の身体なんて、相性最悪じゃない」

QB「確かに、リボンではね。まるでジャンケンだ」

マミ「どうにかしたいところね……」

QB「難しいよ。一度固定された能力を変更するのは」

QB「気持ちはわかるけどね。君の魔法は、威力の高さを差し引いても燃費が悪すぎる。
   これまでどうにかなっていたのは、はっきりいって、元々の素質と運に恵まれたおかげだ」

マミ「……」

QB「そろそろ厳しいんじゃないかい? ソウルジェム」

マミ「……そうね」

98: 2011/05/19(木) 19:16:48.53 ID:a78uVSfzo

QB「だから少しはペース配分を考えて……と言ったところで、君は聞き入れてはくれないか」

マミ「……」

マミ「……ええ、そうね。聞き入れないわ」

マミ「妥協はしない。絶対に緩めない」

QB「フゥ……」

マミ「まったく、本当にキュウべえはいつまでたっても女心を理解しないんだから」

QB「少しは理解できてるつもりなんだけどな」

マミ「ぜんぜんダメ。逆効果よ、そんなこと言われたら。余計に意固地になっちゃうじゃない」

QB「そうだね。君はそういう子だ」

マミ「何よ、偉そうに」 クスッ

99: 2011/05/19(木) 19:18:10.08 ID:a78uVSfzo

マミ「……けど、確かに少し、焦りを感じるわね」

QB「無理もない。むしろそれが普通だよ」

マミ「次か、その次の魔女がグリフシードを落とさなかったら……私もいよいよ引退、かな」

QB「……」

QB「そうだね。君とはずいぶん長かったけど、そろそろお別れかも知れない」

マミ「……」

QB「……」

マミ「……ねえ、キュウべえ」

QB「なんだい、マミ?」

マミ「もしそうなっても、私のこと、ちゃんと覚えていてくれる?」

QB「もちろんさ。
   君だけじゃない。今までに契約した魔法少女のことは、僕は全部覚えているよ」

マミ「そう……」

マミ「……だったら、怖がることは何もないわね」

QB「……」

100: 2011/05/19(木) 19:19:25.73 ID:a78uVSfzo





QB「……………………」






101: 2011/05/19(木) 19:21:10.48 ID:a78uVSfzo

QB「ねえ、マミ」

マミ「ん……なぁに、キュウべえ?」

QB「実は、僕はまだ、君に言ってないことがあるんだ」

マミ「……なにかしら」

QB「ソウルジェムが濁り切ってしまったときのことさ」

マミ「……」

マミ「……どうして、今それを?」

QB「終わりが近付いていることを先に示唆したのは君だよ」

マミ「……」

QB「君は、ソウルジェムの性質と、これが魔法少女の力の源であるという事実から、
   『濁り切ると魔法が使えなくなる』 と解釈しているよね。
   僕はこれまで、その誤りをあえて看過してきたけれど、今ここで訂正しよう」

マミ「……待って」

102: 2011/05/19(木) 19:22:51.94 ID:a78uVSfzo

QB「だめだ。最後まで聞いてくれ」

マミ「違うの! これを見て!」



   ポゥ…



QB「これは……」

マミ「ソウルジェムが反応している……しかもこのパターンは、間違いないわ。
   この間から出現している使い魔たちの親玉よ」

QB「……」

マミ「向こうね……行くわよ、キュウべえ!」 ダダッ

QB「やれやれ、なんてタイミングだ」 タタタッ





103: 2011/05/19(木) 19:24:32.14 ID:a78uVSfzo


   ポゥ… ポゥ… ポゥ…


マミ「廃ビル……ここね」

QB「これは……」

マミ「どうしたの?」

QB「人間においだ。それも複数」

マミ「……! 急ぐわよ!」





104: 2011/05/19(木) 19:26:51.78 ID:a78uVSfzo


        ◆


   『キィー』
   『キキー』

マミ「急いでるっていうのに……」

   結界に入るなり、使い魔の群れに行く手を阻まれた。
   その姿は刃物。
   ハサミにナイフ、包丁、カッター、鉈にカミソリ、のこぎり、さらには日本刀まで。
   さまざまな刃物を束ねたような体を揺らし、細い二本の足でひょこひょこと歩み寄ってくる。

マミ「悪いけど、道を空けてもらうわよ!」

   魔力を練り、リボンを形成。
   群れの中心に向けて解き放つ。

マミ「――拘束〈レゴ〉!」

   数匹をまとめて縛り上げる。
   いつもならこのまま振り回して、別の群れにぶつけるところだけれど、
   刃物が相手ではそうもいかない。

105: 2011/05/19(木) 19:28:39.85 ID:a78uVSfzo

   だからすかさず魔力を流し込み、

マミ「――点火〈フォーコ〉!」

   瞬間。
   バァンと破裂音が鳴り響く。
   リボンの先端が爆発し、使い魔たちを木っ端みじんに打ち砕いた。

   が、安心するのはまだ早い。
   まだ十分に長さの残るリボンを手放し、さらに跳躍して距離をとる。
   なぜなら、

   ――カッ!

   バババババババババババババババババババババババババババンッ!!

   先端から根元まで、全て弾け切るまで爆発は止まらないから。



   これが私の武装。爆ぜるリボン――〈ナストロ・ヴルカーノ〉。



   もちろん、余りも無駄にはしない。
   跳ぶ方向と手放すタイミングを計算すれば、他の標的もちゃんと爆発に巻き込めるのだ。

106: 2011/05/19(木) 19:30:15.42 ID:a78uVSfzo

   そして、展開と拘束、点火と離脱を二回ほど繰り返したころには、敵は一掃されていた。

QB「お見事」

マミ「ふぅ……キュウべえ、捕えられた人たちは、どっち?」

QB「向こうだ」

   相棒が鼻先で示した方角に目を凝らす。
   洞窟の中を思わせる結界は薄暗く、遠くまでは見渡せないけど、言われてみると確かに
   そちらから何か聞こえてくる気がした。

   キュウべえを肩に乗せ、駆ける。



QB「それにしても……どうしてリボンなんだろうね?」

マミ「え?」

QB「君の武器さ」

マミ「……何よ、今さら」

107: 2011/05/19(木) 19:31:41.37 ID:a78uVSfzo

QB「いや、前々から疑問ではあったんだけどね」

QB「縛り付け、自由を奪った上で焼き頃す――その “手順” については理解できる。
   契約したときの状況を考えればね。
   あのとき君が抱いていた “氏” のイメージは、まさにそれだっただろう?」

マミ「……」

   契約したとき。初めてこの子と出会ったとき。
   もう三年ほど前になるか。
   家族で出かけたドライブの途中、大規模な交通事故に巻き込まれた。
   両親は即氏。
   辛うじて生きていた私も、シートに挟まれ身動きが取れず、炎に巻かれようとしていた。
   氏ぬんだな、と思った。

   氏にたくない、と思った。

QB「だけどどうして、リボンなんだろうね?」

マミ「キュウべえ」

QB「なんだい?」

マミ「あなたって、たまにひどく無神経だわ」

108: 2011/05/19(木) 19:33:07.48 ID:a78uVSfzo

QB「……。気に障ったかい?」

マミ「ええ、とっても……――拘束〈レゴ〉!」

   『キギッ!?』
   『ギィー!!』

   道すがらにいた使い魔を絡め捕る。
   跳びこしざまに点火。爆風を背に受け、加速に充てる。

QB「それは悪かったね」

マミ「別にいいわよ。それより方向は?」

QB「……。左手だよ」

マミ「よし」

   行く先からの物音が大きくなってきている。

マミ(いえ、これは……獣の吠え声のような……)

   心に浮かんだわずかな疑問は、カーブを抜けて開けた場所に出たところで、解けた。

109: 2011/05/19(木) 19:34:41.28 ID:a78uVSfzo



   「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

   「ぐあああああああああああああああああああああああああ!!」

   「きえええええええええええええええええええええええええええええ!!」



マミ「なっ……!?」

   獣ではなく、人間だった。
   だけどその有様は、まるで獣のようだった。

QB「これは……人間同士で頃し合っているのか……?」

   叫び声とよだれを撒き散らし、理性を失った瞳で、凶器を手にして、互いに互いを傷付け合う人びと。
   その数は六人。
   大人の男性が三人。
   若い女性が二人。
   そして、

QB「……みんな魔女の口づけを受けてる。凶暴性か攻撃性を引き出されているようだ」

   私と同い年ぐらいの――いや、同い年の少年が、一人。

110: 2011/05/19(木) 19:36:16.97 ID:a78uVSfzo

マミ「うそ……」

QB「マミ? 何をやっているんだ。早く止めないと」

   キュウべえの声も半ば頭に入らない。
   目の前の光景が信じられず、だから逆に目が離せなくなっていた。

マミ「……」

QB「マミ! どうしたんだ!」

マミ「……」

QB「一体何を見て…………あ」



少年「ああああっ! うおあああっ! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」



QB「あれは……君が振った、例の少年じゃないか」

マミ「っ……!」

   本当に。
   この子はたまに、ひどく無神経だ。






117: 2011/05/22(日) 13:57:28.61 ID:paFekokho



   キュウべえは、たまにひどく無神経なことを言う。

   『どれだって同じだろう?』
   『どうしてそんなことを気にするんだい?』
   『わけがわからないよ』

   そんな言葉を聞くたびに、腹が立ったり、白けたり、悲しい気持ちになったりする。
   私はこの子と、本当に心を通わせられているのかと、不安になる。

   だけど、今回は、



QB「あれは……君が振った、例の少年じゃないか」



   その無神経さに救われた。



118: 2011/05/22(日) 13:58:11.45 ID:paFekokho





   第六話  鋏とリボン 後編






119: 2011/05/22(日) 13:59:38.44 ID:paFekokho

   気配を追って飛び込んだ結界の中で見た光景。
   それは魔女に魅入られ正気を失い、凶器を手にして互いに頃し合う六人の男女の姿だった。
   その中の一人は、確かに、
   終業式の前日に、私にラブレターをくれた、あの少年だった。

マミ「っ……!」

   そんな受け入れがたい現実を、時間差で突き付けられたことによって、
   私は辛うじて我に返ることができた。



マミ「――拘束〈レゴ〉!」



   瞬時の判断で魔力を構築。
   左手から無数のリボンを解き放ち、暴れる彼らを縛りつけ、抑え込む。

マミ「はっ!」

   同時に一足で彼らとの距離を詰め、全員に素早く当て身を食らわせ昏倒させると、
   私は慎重にリボンをほどいた。

120: 2011/05/22(日) 14:01:09.79 ID:paFekokho

   倒れこむ六人。

   一拍遅れて、冷や汗が流れた。

マミ「ハァ……」

   爆ぜるリボン。
   私の唯一の武装。魔女を頃すための凶器。
   他に方法がなかったとはいえ、こんなものを人間に巻きつけるなんて、正気の沙汰じゃない。

マミ「――いえ。今はそれよりも治療を……、……?」

   呟きつつ、一歩彼らに歩み寄りかけ、奇妙なことに気がついた。
   みんな完全に気を失っているはずなのに、それぞれの凶器を持った腕だけが、
   痙攣するように動き続けている。

マミ「これは……」

QB「使い魔だ」

   足元から、キュウべえの声。

QB「彼らの手にしている刃物、これ、魔女の使い魔だよ。ばらけて単一の刃物になっているけど、
   まだ生きているみたいだね」

マミ「なんですって……!?」

121: 2011/05/22(日) 14:03:23.03 ID:paFekokho

   それは、つまり。
   意図的だというのか。
   ただ狂気を垂れ流しているのではなく、人間同士が頃し合う状況を、わざと作り上げていると。

マミ「……許せない!」

   食いしばった歯の隙間から呻きが漏れた。

   ――同じタイミングで、背後で巨大な気配が持ち上がる。

マミ「出たわね……」

   振りかえる。
   蟹――そう見えた。
   だけどよく見るとだいぶ違う。
   二メートルはある巨大な鋏が、全部で三つ。それがウニのような刺だらけの胴体から生えている。
   鋏の魔女、といったところか。嫌な感じだ。

   『……』

   目が合った。

   そう、直感した。
   一見したところどこにも目玉などついていないのに、舐め回すような視線を感じた。

   やはりこいつは、観ている。
   私を、キュウべえを、そして倒れている人たちを。

   早く頃し合いを再開しないかと、期待に満ちた目で見つめてきている。

122: 2011/05/22(日) 14:04:55.13 ID:paFekokho

   つまり、すぐに襲ってくるつもりはない、ということか。
   なら先にこっちを済ませよう。

   倒れている人たちに向き直る。
   みんな出血がひどい。ギリギリだ。
   その身体に直接魔力を流し込み、止血し、傷をふさぎ、さらに血を補う。
   治癒魔法。
   癒しの祈りをもって契約した私が、最も得意とする術だ。
   心理的なトリガーとしての呪文すら必要としない。

少年「――」

マミ「……」



   『――こっちこそごめん。時間取らせて、悪かった』

   『ああああっ! うおあああっ! おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』



マミ「っ……」   

123: 2011/05/22(日) 14:06:45.73 ID:paFekokho

   全員、全快の数歩手前ぐらいまで癒したところで、ひとまず止める。
   あとは終わってからでいいだろう。

マミ「……待たせたわね。でも、もうショウは終わりよ」

   リボンを伸ばし、倒れている人たちの持つ凶器――使い魔の残骸に巻きつけ、奪い取る。
   そのまま一つに束ねて、魔女へと投げる。

   点火。そし爆破。

   『ヂイイイイイイイイイイイイイイイイイイ――!?』

   魔女が大げさな悲鳴を上げる。
   そう、大げさだ。見たところ大したダメージはない。驚いただけなのだろう。

   なるほど、それはそうだ。

   容易に想像がつく。
   この魔女にとって “攻撃” とは、他者が別の他者に向けるものでしかなかったはずだ。
   自身はただそれを眺めるだけ。

   だけど、それも今日まで。

マミ「思い知りなさい。あなたが今までしてきたことを」

124: 2011/05/22(日) 14:08:00.23 ID:paFekokho

   リボンを放つ。
   ねらうのは鋏。
   あの無数に生えている刺もどうやら刃物のようだから、きっと簡単に切り裂かれてしまう。
   そもそも胴体は大きすぎて縛るだけでも一苦労だ。

   だから突き出た鋏をねらう。
   胴体との接続部分に巻きつけて、

マミ「点火〈フォーコ〉!」

   爆破で、もぎ取る。

  『ヂギャ!?』

   すかさず別の一本で、噛み合わされた刃を絡め取り、振り回し――突き刺した!



  『ヂャァアアアアァァァァアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』



   よし。
   さすがにこれは手ごたえあり。

125: 2011/05/22(日) 14:09:41.18 ID:paFekokho

   魔女は奇声を撒き散らし、巨体を揺らしてのたうちまわる。
   表層からいくつもの刺が抜け落ちて……

マミ「――違う?」

   あの刺は、やはり刃物で、しかしただの刃物ではなかった。
   使い魔だ。

   産み落としたのか、鎧代わりに纏っていたのか、どちらかは知らないけれど。
   ぽろぽろと零れ落ちたそいつら “だけ” がこちらに向かってくる。

マミ「……」

   不快感に顔がゆがむ。
   どうやらこの魔女は、この期に及んでも自分が戦う気はないらしい。

   が、そんなことを気にしている場合でもない。
   リボンの防壁を展開し、跳びかかってくる使い魔の何割かを弾き、残りを絡め取る。
   投げ返し、点火。

   爆発。爆発。爆発。――不発。爆発。不発。

  『ヂュィィィィィィイイイイイイイィィィィィィィィィィイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイィィィィ!!!』

   悲鳴を上げて魔女がもだえる。

126: 2011/05/22(日) 14:11:12.65 ID:paFekokho

   だけど、やはり大して効いていない。
   私のリボンは途中で断ち切られると魔力を注げないため、何発かは不発に終わってしまった。
   そもそも一発あたりの効きが弱い。
   当たったら当たったで新たな使い魔が次々と生み出されるし、はっきりいって切りがない。

   もっと強力な一撃が欲しい。
   しかし私の武器はこれだけだ。鋏ねらいも、警戒されてしまって上手くいかない。

   どうすれば……



QB「――マミ! 危ない!」



マミ「え――」



   ――――ズバッ!



127: 2011/05/22(日) 14:12:31.23 ID:paFekokho

マミ「っ!!」

   キュウべえの声とほとんど同時に、背後から切りつけられた。

   衝撃で前方に転がされながら、反射的に傷の具合を探る。
   右肩。
   そう深くはない。
   瞬時に治癒の魔力を巡らせて止血。

   けど、一体いつの間に後ろに――――

マミ「――えっ!?」

   顔を上げて、瞬間、思考が止まった。

   倒れていた人たちが起き上がっていた。

   虚ろな目をして、手に手に武器を――魔女の使い魔を持たされて。

   彼らに、斬られたのだ。



マミ「っっっ……!!」



   止まった思考が、一気に沸騰した。

128: 2011/05/22(日) 14:14:09.31 ID:paFekokho

   この魔女は。
   この魔女は、どこまで。

   どこまで人を弄べば気が済むのか。



マミ「――拘束〈レゴ〉!!」

   再び、彼らをリボンで拘束。
   爆発物で人を縛る。やはり、凶器の沙汰だが、要は点火さえしなければそれでいいのだ。
   そんなふうに割り切ることも、今ならできた。

マミ「許さない……」

   こんな気持ちで敵を見るのは初めてだ。
   こんなにも魔女を憎いと思うなんて、初めてだ。

   呪いから生み出され、自らもまた人を呪うことしかできない “彼女たち” のことは、
   むしろ憐みの対象だった。
   それはこの魔女に対しても例外ではない。

   だけど、これはだめだ。
   こんな呪い方は、絶対にだめだ。

マミ「あなただけは――絶対に許さない!」



129: 2011/05/22(日) 14:15:53.61 ID:paFekokho

マミ「……キュウべえ、下がってて」

QB「マミ? 何をする気だい?」

マミ「いいから、できるだけ離れていて。上手くいく自信はないの」

   言い捨て、こちらからも距離をとる。
   血止めの魔法を全身に巡らせる。
   こうすればいくら斬られても致命的な出血は避けられる。この際、使い魔は無視だ。

   目を閉じる。

   魔力を練り、リボンを形成。
   だけどこれでは足りない。だけど私にはこれしかない。

   ならば答えは一つ。

   一本で足りなければ二本。二本でもだめなら、五本。
   それでも及ばないなら、十本。二十本。五十本――百本。必要なだけ紡ぎ出す。

   そして束ねる。

   束ねる、束ねる、束ねる。束ねる。

130: 2011/05/22(日) 14:17:24.09 ID:paFekokho

   重要なのはイメージだ。
   破壊の力を一点に凝縮し、無駄に拡散させることなく一方向にのみ解き放つ。

   そのために必要なのは、道。
   エネルギーに指向性を与えるための、逃げ場のない通り道。

   薄いリボンを幾重にも重ね、螺旋状に巻きあげて、鋼の硬度を実現させる。

   それを、前へと、敵へと伸ばす。
   逆に、力の起点は手前に集める。

   

QB「マミ、それは……」

   キュウべえの珍しい――本当に珍しい、驚きに上ずった声。
   それを聞いて、私は成功を確信した。

   目を開く。

   はたしてそれは、顕現していた。

   破壊の権化。
   重厚にして長大な、超広口径の、マスケットライフルが。

131: 2011/05/22(日) 14:18:39.13 ID:paFekokho

   『――ヂュイィ!?』

   異変を察知したのか、魔女が悲鳴を上げる。
   だけどもう遅い。
   今さら逃げても間に合わない。

   『ギッ!?』
   『ギキキ!!』
   『ギィー!!』

   使い魔たちが、主を守るべく、折り重なって防壁を築く。
   だけど、足りない。
   その程度の壁では防げない。

   照準、セット。

   醜悪な鋏の魔女。
   感謝する。
   あなたがいたから実現できた。
   これが私の新しい力。

   食らいなさい。

   至高の一撃。



マミ「――――〈 ティロ ・ フィナーレ 〉!!」










133: 2011/05/22(日) 14:19:36.44 ID:paFekokho



QB「……驚いた」

QB「本当に、驚いたよ。マミ」

QB「君はまだ伸びるというのか」

QB「通常、一年ももてば長生きと呼ばれる魔法少女の世界の中で、その三倍近くを
   生き延びているだけでも稀有だというのに」

QB「君は、その上さらに成長を遂げたというのか」

QB「……」

QB「おもしろい」

QB「実に興味深い」

QB「さっきは終わりが近いなんて言ったけど、撤回しよう」

QB「君とはまだもう少しだけ、長い付き合いになりそうだよ。巴マミ」



134: 2011/05/22(日) 14:20:37.69 ID:paFekokho















135: 2011/05/22(日) 14:22:27.05 ID:paFekokho


        ◆


マミ「おはよう」

A子「おはよー。ねえ、登校日とか氏ねって思わない?」

B子「朝から何言ってるの。――おはよう、巴さん」

A子「だってなんで夏休みに学校なんか来なきゃなんないのさー…………お?」

B子「え? ……あ」

   ガヤガヤ
   ワイワイ
   キャッキャ
   テレテレ

A子「おお、英雄殿のご登校だ」

マミ「……英雄?」

A子「あれ? 巴さん、知らない? なんかチンピラから女の人を助けたんだって、あの男子」

マミ「ああ……あの噂ね」

B子「しかも三対一だって。勇気あるよね」

A子「絡まれてた女の人二人も加勢したって話だけどね。ま、それでも凄いか」

136: 2011/05/22(日) 14:23:53.33 ID:paFekokho

マミ「……」

A子「ってかさ、これも噂で聞いたんだけどさ。彼って、例の、巴さんに……の人だ、って……」

マミ「…………ええ、まぁ」

B子「ええっ? 本当だったんだ……」

A子「うわーやっぱりかー! 受けてりゃ今ごろお姫様だよ、もったいない!
   てか今からでもOKしてきなよ! 向こうも絶対期待してるって! 英雄ゲットできるって!」

マミ「……ううん、やめておくわ。今さらそんなみっともないことできないもの」

A子「ええー? もったいないと思うけどなぁ……」

B子「うん。私だったらたぶん未練持っちゃうなぁ」

A子「実際あんたは彼氏とヨリ戻したもんね。ケッ」

マミ「ふふっ」



少年「――本当に、よく覚えてないんだよ。でも、ありがとう。ははは」



マミ(……もう、大丈夫よね……)





148: 2011/05/27(金) 21:21:31.50 ID:mDBv0ahqo



マミ「――点火〈フォーコ〉!」

QB「……」

マミ「……」

QB「爆発しないね」

マミ「というか、マスケットになっちゃったわ。魔力を込めたら」

QB「ふむ……」

マミ「……」

   バン!

   ……カチッ。カチ、カチッ。

マミ「で、一発しか撃てない、と。結局使い捨てなのね」

QB「マスケット銃というのは本来そういうものらしいね。さすがに本体ごと捨てはしないだろうけど」

マミ「うーん……弾丸の再装填もできないみたい」

149: 2011/05/27(金) 21:22:30.23 ID:mDBv0ahqo

QB「魔力の消費についてはどうだい?」

マミ「そうねぇ…………だいぶ軽くなってる気もするけど、まだよくわからないわ。
   リボンのときは長さによってまちまちだったから、戦い方次第だと思う」

QB「そうか。なら、戦闘の型を練り直さないといけなくなるね」

マミ「どっちにしろそれは必要よ。使い勝手がまるで違うもの」

   シュイーン

マミ「ふぅ……パワーアップできたと思ったんだけどなぁ。これじゃあ実質的にレベルダウンじゃない」

QB「上手くいかないものだね」

マミ「まったく、ね。……ん?」

   ポツッ

   ポツッ、ポツッ、ポツポツポツポツ…

マミ「あ……」

QB「雨、だね」



150: 2011/05/27(金) 21:23:10.24 ID:mDBv0ahqo





   第七話  雨の日に誓いを立てる





151: 2011/05/27(金) 21:24:10.63 ID:mDBv0ahqo



   ザーーーーーーーー…………………………

マミ「……本降りになってきたわね」

QB「ああ」

マミ「困ったわ。傘なんて持ってきてないし……すぐに止んでくれるかしら?」

QB「……」

QB「無理みたいだよ」

マミ「え?」

QB「雨雲は西の方までずっと続いてる。少なくとも夜までは止みそうにないね」

マミ「……見えるの?」

QB「ああ。――といっても、“この僕” にはもちろん見えないよ。西の方にいる個体から
   情報をもらったのさ」

マミ「……………………そう」

QB「……。君は、そんなにこの話が嫌いかい?」

マミ「そういうわけじゃ……」

152: 2011/05/27(金) 21:25:31.43 ID:mDBv0ahqo

マミ「……あなたたちの在り方を否定する気はないわ。でも、そのことを言うときの
   キュウべえって、自分を使い捨て扱いしてるみたいで……それがイヤなの」

QB「無駄に使い潰すつもりはないさ」

マミ「……必要だったら?」

QB「それが必要なら、そうする」

マミ「……」

マミ「……」 ギュッ

QB「マミ?」

マミ「……」 ギュウ…

QB「マミ。そんなに抱きしめられたら、ちょっと苦しいよ」

マミ「……その『苦しい』って感覚も、他のあなたたちに伝わっているの?」

QB「え? いいや、さすがにそんな細かいことまではやりとりしてないよ」

マミ「そう……」

153: 2011/05/27(金) 21:26:38.66 ID:mDBv0ahqo

QB「……。君がそうしてほしいというのなら、他の僕らにも伝えるけど」

マミ「やめて」

QB「わかった。まぁ、そんなことをしても意味があるとは思えないしね」

マミ「ええ。少なくとも私は、嬉しくはないわ」

QB「そうかい」

マミ「あなた一人が知っていてくれれば、それでいいの」

QB「……。よく理解できないけど、君がそれでいいのなら」

マミ「ええ。そうして」

QB「……」

マミ「……」




154: 2011/05/27(金) 21:27:24.78 ID:mDBv0ahqo



   ザーーーーーーーー…………………………

マミ「……本当に、止む気配がないわね」

QB「そうだね」

マミ「どうしよう……」

QB「僕としては、走って帰って、それから身体を温め直すことをおすすめするよ」

マミ「うーん……」

QB「……」

マミ「……」

マミ「あ、そうだわ」 ピコン

マミ「――変身!」

   シュイーン、キラッ

QB「? 何をする気だい?」

マミ「まぁ見てて」

155: 2011/05/27(金) 21:28:11.94 ID:mDBv0ahqo

マミ(……イメージ……)

マミ(……中心に鉄の棒……芯に据えて……骨組みを伸ばして……リボンを張る……!)

   ――パッ

マミ「できたわっ」

QB「へぇ……これは、傘、かい?」

マミ「ええ! ……ちょっと、不格好だけど」

QB「……不格好、というか」

マミ「……」

QB「柄の部分がマスケット銃そのままだね」

マミ「い、いいじゃない」

マミ「――ほら、ちゃんと雨も防げるし」

QB「引き金に指をかけたら危ないんじゃないかな」

マミ「だ、大丈夫よ。気をつけるから」

156: 2011/05/27(金) 21:29:02.87 ID:mDBv0ahqo

マミ「それじゃ、行きましょ」

QB「え?」

マミ「え?」

QB「いや、その格好のまま街中を歩く気なのかい?」

マミ「あ……」

QB「……」

マミ「へ、変身解除っ」 シュイーン

マミ「よ、よしこれで」



   ザーーーーーーーー…………………………



マミ「……」

QB「……まあ、そりゃ、消えるよね。傘も」

157: 2011/05/27(金) 21:30:02.99 ID:mDBv0ahqo

マミ「うぅっ……」

QB「しかし、これは……ふーむ……」

マミ「何よ。言いたいことがあるならはっきり言ってよ」

QB「ああ。どうやらマミの魔法は、進化や成長を遂げたというのではなく、ようやくあるべき形に
   完成した、ということなのではないか、と」

マミ「え? えっと……どういうこと?」

QB「リボンのまま点火しようとしても、銃以外のものを作ろうとしても銃になるということは、
   つまりそれがマミの中に眠っていた力の本来の形だということさ」

QB「君たちが使える魔法の種類は、大きく分けて三つ。
   攻撃魔法と、防御魔法。そして治癒や身体強化などの補助魔法」

QB「この三つは、それぞれ異なる形をとって表われるのがほとんどだ。
   だけど君は、攻撃も防御も、まったく同じリボンで行っていた。
   攻防一体型――前例もいくらかいるから、てっきり君もそうだと思っていたんだけど……」

マミ「そうではなかった、と?」

QB「恐らくね。まだ仮説だけど、君は防御魔法を無理やり攻撃に転用していたんじゃないかな。
   魔力を暴走させることによってね。そう考えれば、あの燃費の悪さにも納得がいく」

158: 2011/05/27(金) 21:31:04.62 ID:mDBv0ahqo

マミ「つまり……私は、今さらようやくスタート地点に立った、ということ?」

QB「そういうう言い方もできるだろうね。
   でも逆に、スタート地点に立つことすらなく、合わせて数百体もの魔女や使い魔と戦い、
   勝利し続けてきた、とも言える」

マミ「……」

QB「素直に称賛に値すると僕は思うよ」

マミ「そう、なのかな……」

QB「ああ、自信を持っていい。
   君は、以前からかなりの強さを誇る魔法少女だったけど、こうして本来の力を手にした今、
   これからの努力次第では、歴代――とまでは行かなくても、現役最強も夢ではないだろう」

マミ「そんな……私は別に……」

QB「それはつまり、誰よりもたくさんの未来を守ることができるようになる、ということでもある。
   これは君が求めていることにも近いんじゃないのかい?」

マミ「……」

マミ「そうね……それは、素敵ね」

QB「ああ。素晴らしいことだ」

マミ「……未来、か……」

159: 2011/05/27(金) 21:32:47.44 ID:mDBv0ahqo

マミ「……ねえ、キュウべえ」

QB「なんだい?」

マミ「もし、あの鋏の魔女がグリフシードを落としてなかったら、私はやっぱり、終わってたのよね」

マミ「ソウルジェムが、完全に濁り切って」

QB「……」

マミ「もし、仮に、そうなってたら……キュウべえ、あなた、あの直前に何か言いかけてたわよね?」

QB「……」

マミ「……」

QB「あのとき、ああ言いかけたのは、判断ミスだったと思ってる。
   君の持つ可能性を見誤っていたんだ。もう余計なことは言うべきではないと、今はそう思う」

QB「だけど、君が聞きたいというのなら、話すよ」

マミ「……」

マミ「……いいえ。いいわ、言わなくて」

QB「そうかい」

160: 2011/05/27(金) 21:33:52.13 ID:mDBv0ahqo

マミ「実は、だいたいわかってるのよ」

QB「え?」

マミ「本当は、もっとずっと前からね。なんとなく想像はついてたの」

QB「……」

マミ「ヒントは十分にあったわ。
   恋愛感情を理解できないあなたが、どうして恋の祈りで契約できるのか。
   どうして、祈りの内容が魔法少女それぞれの能力に影響を及ぼすのか」

マミ「願いを叶えているのは、契約者自身の魔力なんでしょう?
   あなたはそれを引き出して、扱い方を教えてくれているだけ。違う?」

QB「……。不公平だと、そう言いたいのかな?」

マミ「ううん、そんなことが言いたいんじゃない。あなたには感謝しているわ。ただ……」

QB「ただ?」

マミ「……私の祈りは、延命。魔法の力で生きながらえた」

マミ「そんな私が魔力を使い果たすということは、つまり……ってね」

QB「……」

161: 2011/05/27(金) 21:34:46.47 ID:mDBv0ahqo

QB「そうか……」

QB「それが、君の出した答えなんだね」

マミ「恨んではいないわよ。あなたがいなければ、私はとっくの昔にそうなっていたんだもの」

QB「……」

QB「マミ、君は――そう理解した上でなお、戦い続けるというのかい?」

マミ「ええ」

QB「どうして?」

マミ「あら、あなたがさっき言ったことじゃない」

QB「……。何か言ったかな」

マミ「言ったわ。そうすれば、より多くの人の未来を守ることができるって」

QB「……」

162: 2011/05/27(金) 21:35:41.70 ID:mDBv0ahqo

マミ「……ただ、ね」

QB「なんだい?」

マミ「ええ……ただ、一つだけ、お願いがあるの」

QB「僕にできることなら」

マミ「じゃあ……そのときには、あなたにそばにいてほしい」

QB「……」

QB「ああ、いいよ」

マミ「本当?」

QB「嘘なんか言わないさ。契約の願いはすでに叶えてしまったから、ただの口約束になるけど」

QB「終わりのときは、僕は君のそばにいる。
   君の最後の言葉を聞いて、そして僕からも、君への最後の言葉を贈ろう」

マミ「……ありがとう、キュウべえ」

QB「いいや」

QB「お礼を言うのは、こっちの方さ」





181: 2011/06/03(金) 22:30:53.55 ID:vr1MJOnKo



   カチャリ

マミ「ふぅ……」

QB「……」 モグモグ

マミ「……」

QB「……」 チビチビ

マミ「今夜は……」

QB「うん?」

マミ「……今夜は、月が綺麗ね……」

QB「……。ああ。中秋の名月、というやつだね」

マミ「……こんな日は、思い出すわ。彼女のこと」

QB「彼女というと……“ユリ” のことかい?」

マミ「ええ……あの日もこんなふうに、綺麗な満月だったわね……」



182: 2011/06/03(金) 22:31:24.18 ID:vr1MJOnKo





   第八話  満ちる月






183: 2011/06/03(金) 22:32:03.73 ID:vr1MJOnKo

   ◆
   (一年前)



マミ「これで止め――点火〈フォーコ〉!!」

   バン――ババババババババババババババババババババババババババンッ!!

   『ギュォォォォォ……!!』

   シュウゥゥゥ…

マミ「ふぅ……一丁上がりっと」

QB「お疲れさま。マミももうすっかりベテランだね」

マミ「……そうね、だいぶ慣れてきた気はするわ」

   シュイーン

マミ「あ……もうすっかり夜になっちゃってるのね……」

QB「日が落ちるのが早くなってきたね」

マミ「…………月が綺麗ね……」



184: 2011/06/03(金) 22:33:03.18 ID:vr1MJOnKo

マミ「ねぇ、キュウべえ。この街には本当に、私以外の魔法少女はいないの?」

QB「うーん……そうだね。素質がある、というだけの子なら何人かいるんだけど、
   エントロピーを凌駕するだけの願いを抱いているかとなると、なかなかいないね」

マミ「……どういうこと?」

QB「素質があるだけではだめなんだよ。
   素質、すなわち魔力に火をつけるだけの強い強い願いの力がないと、契約はできないんだ」

QB「飛び抜けて大きな、それこそ歴史に残る聖人クラスの魔力でもあれば話は別だけどね」

マミ「ふぅん……」

QB「だから、マミ。悪いけど、まだしばらくは君一人で――」

QB「……」

マミ「……どうしたの? キュウべえ」

QB「いや、これは……噂をすれば影、というやつなのかな」

マミ「え?」

QB「呼ばれたよ。たぶん、この先の公園だ」

QB「素質と、それに見合う願いを抱いた魂が、現れた」

マミ「……!」



185: 2011/06/03(金) 22:34:03.41 ID:vr1MJOnKo



   キィコ… キィコ…

少女「……」

少女「……ハァ……」

マミ「こんばんは」

少女「え……?」

マミ「お月見ですか? でも、こんな時間に一人だと危ないですよ」

少女「……誰ですか、あなた?」

少女「……ううん、誰でもいい……放っといてください」

QB「そうはいかないよ」

少女「えっ?」

QB「君には悩みが――叶えたい願いがあるはずだ。僕はそれを叶えてあげられる」

少女「え、え? なんですか、それ?」



QB「だから僕と契約して、魔法少女になってよ!」



186: 2011/06/03(金) 22:35:03.22 ID:vr1MJOnKo

少女「……」 ポカーン

マミ「こーら、ダメでしょキュウべえ。もっとちゃんと説明しなさい」 コツン

QB「きゅっ。……痛いよ、マミ」

少女「あ、あの。なんなんですか、ソレ? 生き物? ってゆーか喋ってる……?」

マミ「ごめんなさい、順を追って説明しますね。
   まず、私は巴マミ。市内にある見滝原中学の、一年生です」

少女「え……と、年下?」

マミ「そうみたいですね」 クスッ

マミ「そして、この子はキュウべえ。魔法の国からの使者、みたいなものだと思ってください」

QB「よろしくね」

少女「あ、うん。よろしく……」

マミ「じゃあ、次。あなたは?」

少女「……ユリ、よ。宮古ユリ」

マミ「そう。それじゃあ、宮古さん」

少女「『ユリ』」

マミ「え?」

少女「『ユリ』って、呼んで。私はたぶん、もうすぐ『宮古』じゃなくなるから」

QB「どういうことだい?」

少女「…………両親が、離婚するの」



187: 2011/06/03(金) 22:35:52.82 ID:vr1MJOnKo

マミ「そうですか……お父さんが仕事を……」

ユリ「うん。そのせいで……つい、さっきよ。もう離婚するしかないって、はっきり言われて……
   それで私、思わず、家を飛び出しちゃって……」

QB「なるほど、それをどうにかしたい、というのが君の願いだね?」

ユリ「……」 コクリ

ユリ「私は……離婚なんかして欲しくない!
   お父さんともお母さんとも、お兄ちゃんとも、離れ離れになんかなりたくない!」

マミ「……」

ユリ「ねえ、キュウべえだっけ。あんた、なんでもお願い、叶えてくれるんだよね?」

QB「ああ、そうだよ。君は十分にその条件を満たしている」

ユリ「だったら――」



マミ「――ま、待って!」



188: 2011/06/03(金) 22:36:52.42 ID:vr1MJOnKo

ユリ「え、マミちゃん。なんで止めるの?」

マミ「いえ、あの……もう少しよく考えませんか? 命懸け、なんですよ?」

ユリ「それって、魔女とかっていう化け物と戦わないといけないって話?」

マミ「……はい」

マミ「でもそれ、マミちゃんもやってるんだよね? それも小学生の時から。だったら私にだって」

マミ「それは……」

QB「ユリの言うとおりだよ、マミ」

マミ「キュウべえ……」

QB「確かに危険なことだ。命の保証なんてとてもできない。
   だけど魔法少女には、魔女と戦うための力がちゃんと与えられるんだ。
   よほど強力な相手でもない限り、互角以上に戦えるはずさ」

QB「君がそうだったように、ね」

マミ「……」

QB「どうしたんだい、マミ? 君だって一緒に闘う仲間を欲しがっていたじゃないか。
   それにユリの願いは、君にこそ共感できるもののはずだろう?」

マミ「っ……」

189: 2011/06/03(金) 22:37:52.31 ID:vr1MJOnKo

マミ「ユリさんの気持ちは、確かにわかるわ……私だって、家族と…………」

ユリ「……マミちゃん?」

マミ「でも、それでも……命懸けなんです!」

マミ「祈りの力で家族といられるようになっても、
   そのためにユリさんが氏んだりなんかしたら、なんの意味もないじゃないですか!」

ユリ「……!」

マミ「お願いです、ユリさん。せめて一日……いいえ、今夜一晩だけでも、よく考えてください」

ユリ「マミちゃん……」

マミ「魔女との戦いは、本当に大変なんです。痛いし、怖いし、遊ぶ時間なんかもないんです。
   キュウべえの言うとおり、一人じゃ嫌だって泣いちゃうぐらい、辛いんです……
   後悔なんかしないって、決めてますけど、でも…………」

ユリ「……」

マミ「……ユリさん。あなたには、考えるだけの余裕があるんです。あなたはまだ選べるんです」

マミ「例え離れ離れになっても……氏んじゃったりしたら、本当にもう、二度と会えない……」

マミ「お願いです。どうかよく考えてください。どうか……」

ユリ「……」



190: 2011/06/03(金) 22:38:52.67 ID:vr1MJOnKo

QB「どういうつもりなんだい、マミ?」

マミ「……」

QB「君が何を考えているのか、僕にはわからないよ」

マミ「……言った通りよ。ちゃんと考えて欲しいだけ」

QB「フゥ……」

QB「君の言葉には、確かに一理ある。だけど同じぐらい、ユリも正しいと僕は思う。
   それに何より、一晩程度じゃあ、きっと何も変わらないよ」

マミ「そうかも知れないわね……ええ、これは私のわがままよ」

QB「……」

マミ「キュウべえ、今日は、ユリさんと一緒にいてあげて」

QB「別にかまわないけど、どうして?」

マミ「いいから。彼女も、まだ色々と聞きたいこととか、あるはずよ。答えてあげて」

QB「……。わかったよ。じゃあ明日、学校が終わったらさっきの公園で落ち合おう」

マミ「ええ」



191: 2011/06/03(金) 22:39:33.68 ID:vr1MJOnKo



   ガチャ、バタン

マミ「……ただいま……」

マミ「……」

   シーン…

マミ(誰もいない……当りまえだけど、ずいぶんと久しぶり……)

マミ(……)

マミ(とりあえずお風呂に入って、お夕飯を作って、それから……)

マミ(……紅茶は、今日はもう、いいや)







マミ(ふぅ……)

マミ(……おやすみなさい)



192: 2011/06/03(金) 22:40:13.68 ID:vr1MJOnKo



マミ(……)

マミ(……)

マミ(……ベッドって、こんなに広かったっけ……)

マミ(それに、ちょっと寒い……毛布出そうかな……)

マミ(……いいや。面倒くさい)

マミ(……)

マミ(……)

マミ(……キュウべえ……)

マミ(あの子がいないだけで、私、こんなに……) ジワ…

マミ「っ……」 ゴシゴシ

マミ(ううん、違うわ。今日だけ。今晩だけよ。明日になったら……)

マミ(……そうよ。明日になったら、仲間ができる)

193: 2011/06/03(金) 22:40:52.82 ID:vr1MJOnKo

マミ(私はもう一人ぼっちじゃない)

マミ(隠し事なんか、何もしないで済む、本当の友達ができるの。だから……)

マミ(……)

マミ(……最低だわ、私)

マミ(あんなこと言って、引き止めたくせに、結局はユリさんが契約してくれることを望んでる……)

マミ(……)

マミ(……でも)

マミ(仕方ないわ。……そうよ。仕方がないのよ)

マミ(私の願望だけじゃない。ユリさんは明らかに乗り気だった)

マミ(だから、仕方がないのよ)

マミ(それに……それに、命の危険からは、私が守ってあげればいい)

マミ(攻撃は大雑把だけど、防御と治癒は得意だもの)

マミ(ええ、そうよ。守れるわ。絶対に守れる……)

194: 2011/06/03(金) 22:41:43.12 ID:vr1MJOnKo

マミ(……)

マミ(……ユリさんは、どんな魔法少女になるのかな……)

マミ(……剣とか、似合いそうだな……槍とか……鉄砲なんかも、いいな……)

マミ(……ふふ……魔法のステッキ、なんてのも、意外と似合うかも……)

マミ(……ちゃんと連携できるかな……私のリボン、危険だから……気をつけないと……)

マミ(……パートナー……)

マミ(……嬉しいな……)

マミ(……)

マミ(……そうだ……明日は、早起きして……)

マミ(……ケーキを……焼いて…………キュウべえと……三人で……)

マミ(……)

マミ(……)

マミ(……………………)





202: 2011/06/06(月) 21:54:20.66 ID:edO39CxRo



   キーンコーン カーンコーン

   ガヤガヤザワザワ

マミ「よし――」 ガタッ

モブA「あ、巴さん。今日これから……」

マミ「ごめんなさい! 先約があるの!」

   タッタッタッタッタ…

モブA「……」

モブB「……」

モブA「……まぁ、そんな気はしてた」

モブB「朝から浮かれてたもんね、巴さん」

モブA「男、かな?」

モブB「……かも」



203: 2011/06/06(月) 21:55:16.56 ID:edO39CxRo



マミ「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」 タッタッタッタッタ

マミ(昨日の公園。昨日の公園。昨日の公園。昨日の――)



QB《――マミ。聞こえるかい、マミ》



マミ「――!?」 ズザザッ!!

マミ《――キュウべえ? どうしたの?》

QB《待ち合わせ場所の変更だ。
   昨日の公園から、西に500メートルぐらいのところにある、建設中のビルに来て》

マミ《い、いいけど、どうしたの? ……まさか》

QB《そのまさかさ。魔女じゃなくて使い魔だけどね。たぶん、昨日の狩り残しだと思う》

マミ《わかったわ》 ダッ

マミ《ところで、ユリさんは?》

ユリ《一緒にいるわ。現場にね》

マミ《え……》

204: 2011/06/06(月) 21:57:39.49 ID:edO39CxRo

マミ《え、え? ユリさん? どういうことですか?》

QB《聞いた通りさ。現場に展開された結界の中に、僕とユリは一緒にいる》

マミ《そんな……嘘でしょう? そんなに離れてたら、テレパシーの圏外……》

QB《ユリの特性だね。不和の解消……すなわち結束の祈りで契約した彼女には、
   広範で強力なテレパシー能力が備わったんだ》

マミ《もう契約したの!?》

QB《ああ、夕べのうちにね》

ユリ《ごめんね、マミちゃん》

マミ《い、いえ、別に……それより、逃げてください!
   使い魔が相手だからって、契約したてのユリさん一人じゃ危険です!》

QB《僕もそう言ったんだけどね。巻き込まれている一般人もいるんだよ》

マミ《なっ……!?》

QB《妊婦さんだ。しかも気を失っている。とてもじゃないけど、ユリ一人じゃ運べないよ》

ユリ《そういうこと――おっと、危ない》

マミ《……!》

205: 2011/06/06(月) 21:58:42.59 ID:edO39CxRo

マミ《ユ――いえ、キュウべえ。ユリさんは今、戦ってるの?》

QB《ああ。だから話しかけるなら僕の方にしてくれると助かるよ》

マミ《大丈夫なの!?》

QB《そうだね。僕の見たところ、すぐに殺されるということは、とりあえずなさそうだ》

マミ《そう……》

マミ《……サポートしてあげてね。絶対に無理はさせないで》

QB《わかっているさ。君も、必要ないとは思うけど、念のため急いでくれ》

マミ《ええ!》

   ポゥ…

マミ(身体能力強化!)

マミ(夕べの魔女の使い魔なら、確かに致命的な相手じゃない……でも、絶対じゃない)

マミ(少しぐらい、人に見られても構わない)

マミ(最速で、駆け抜ける……!)



206: 2011/06/06(月) 21:59:53.25 ID:edO39CxRo



マミ「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」

マミ(建設中のビル……ここね)

マミ(……魔力の反応がない……ということは)

マミ《ユリさん! キュウべえ!》

QB《マミ……もう来たのかい》

ユリ《早かったわね、マミちゃん。裏手にいるわ。右の方から回り込めるから》

マミ《わ、わかりました》

ユリ《もう終わってるけどね》

マミ《え……》

ユリ《だから言ったでしょう? 大丈夫だ、って。意外と楽勝だったわよ?》

マミ「……」

マミ「ハァ……よかった……」



207: 2011/06/06(月) 22:00:56.28 ID:edO39CxRo

マミ「ユリさん、キュウべえ」

ユリ「や、マミちゃん。一日ぶり」

マミ「はい。……その人ですね」

妊婦「――」

ユリ「うん。表に運びましょう。一応、救急車かな?」

マミ「そうですね」







ユリ「さて……ごめんね、心配させちゃって」

マミ「いえ、いいんです。無事ならそれで」

ユリ「あと、忠告も無駄にしちゃって、ごめん。
   昨日、あのあと、帰ったあとさ。また言い合いが始まっちゃって、我慢できなくて……」

マミ「そうですか……」

208: 2011/06/06(月) 22:01:56.49 ID:edO39CxRo

マミ「……でも、いいんです。昨日はあんなこと言いましたけど、私も本当はこうなることを
   望んでたんです」

ユリ「そっか。そう言ってくれると、気が楽だわ」

ユリ「でも、すごいねキュウべえって。みんなすぐにケンカをやめてくれて、
   お父さんの仕事も、朝になったらもう決まってたんだよ。本当ありがとうね、キュウべえ」

QB「お礼を言う必要はないよ。こっちにも見返りのあることなんだから。
   魔女退治、がんばってね」

ユリ「うんっ!」

マミ「私も手伝います。コンビで、一緒にがんばりましょうね」

ユリ「あ……」

マミ「? どうしたんですか?」

QB「ああ、マミ。それなんだけどね」

マミ「え?」

ユリ「……」

QB「ユリはこの街を離れることになったんだ」

マミ「え……」

209: 2011/06/06(月) 22:03:23.48 ID:edO39CxRo

QB「彼女の父親の再就職先がね、ちょっと遠いんだ。引っ越さないといけない」

マミ「そんな……」

QB「両親の故郷らしい。より円満な家族生活を送れる環境に、ということだと思う」

ユリ「……私も、別に、そんなことまで望んだつもりはなかったんだけどね……」

マミ「……そう、ですか……」

ユリ「ほんとにごめんね、マミちゃん。コンビは組めなくなるけど……でも心配しないで。
   向こうにも魔法少女の人がいるんだって」

QB「ああ、強くて面倒見のいい子だよ。マミほどじゃないけど、キャリアもある」

マミ「そう…………なら、安心ですね」

マミ「それで、いつ、発つんですか?」

ユリ「明後日……」

マミ「え……そんな、どうして、そんなに……」

QB「運命に干渉するというのは、そういうことなのさ。多少の無理はどうしても出る」

マミ「……」

ユリ「えっと……そんな顔しないで、マミちゃん。
   今日と明日はまだ一緒に街を回れるから、魔女が出たら、よろしくね?」

マミ「っ…………はい」



210: 2011/06/06(月) 22:04:31.77 ID:edO39CxRo



マミ「……」

ユリ「……」

QB「結局、魔女も使い魔も出なかったね」

マミ「……そうね」

ユリ「……」

ユリ「ごめん。私もう、行かないと」

マミ「はい……」

ユリ「それじゃ、マミちゃん。元気でね」

マミ「ユリさんも。がんばってください」

ユリ「うん。電話する。メールも」

マミ「はい」

ユリ「じゃあ……ばいばい」

マミ「さようなら」

   タッタッタッタッタ…

211: 2011/06/06(月) 22:05:37.61 ID:edO39CxRo

マミ「……」

QB「残念だったね、マミ」

マミ「仕方ないわよ……」

QB「……」

マミ「……キュウべえ。あなたは、ユリさんについて行ってあげて」

QB「どうして? 見送りなら、君も一緒に来ればいいじゃないか」

マミ「引っ越し先まで、よ。放っておくわけにはいかないでしょう? 私は一人で大丈夫だから」

QB「そういう意味か。でもその必要はないよ。向こうにも僕はいるんだから」

マミ「でも…………え? 『僕』?」

QB「ああ、そう言えばこれはまだ話してなかったっけ」

QB「僕ら契約の獣はね、全ての個体が同じ、一つの意識と記憶を共有しているんだ。
   この『僕』も、向こうにいる『僕』も、どれも同じ『僕』だから、ついて行く必要はないのさ」

マミ「え……え? え?」

QB「理解できないなら気にしなくていいよ。別に大したことじゃない」

マミ「……」

QB「それじゃあ、帰ろうか。今日はもう魔女も出ないだろう」

マミ「え、ええ……」





212: 2011/06/06(月) 22:06:26.20 ID:edO39CxRo





   第九話  欠ける月






213: 2011/06/06(月) 22:07:25.39 ID:edO39CxRo

   ◆

マミ「……」

マミ「……」 チラ

QB「……ん? なんだい、マミ?」

マミ「え? えっと、その……」

マミ「……お茶、おかわりは?」

QB「遠慮しておくよ」

マミ「そう……」



マミ(ユリさんのテレパシー能力は、本当に、桁外れに優れているらしい)

マミ(“自分”が何人かで中継すれば、この部屋からでも話ができるとキュウべえは言った)

マミ(でも……この子をそんなふうに使うなんて、嫌だ)

マミ(それにこの時間なら、きっと家族と過ごしているわよね……)

214: 2011/06/06(月) 22:08:42.56 ID:edO39CxRo

マミ(……)

マミ(ユリさん、元気にしてるかな……)

マミ(向こうにいる人とちゃんと仲良くできてるかな……)

マミ(どんな魔法少女になってるのかな……)

マミ(キュウべえでさえ『珍しい』と言っていた、あの大きなハサミを武器にして、
   どんなふうに魔女と戦ってるのかな……)

マミ(いつかまた……会えるといいな…………)



マミ「……」

QB「……」

QB「……」 モグモグ





226: 2011/06/12(日) 16:19:14.82 ID:eqG/yXgno



マミ「……」 カリカリ

マミ「うーん……」

マミ「……」 カリカリカリ…



マミ「辞書辞書……」

マミ「……」 パラパラ…

マミ「……あぁ、こっちね……」

マミ「……」 カリカリ



マミ「……」 カリカリカリ ペラ カリ…カリカリカリ…

QB「マミ。そこ、綴りが間違ってるよ」

マミ「え?」

QB「castle。ss じゃなくて st だよ」

マミ「ああ……ありがとう、キュウべえ」

227: 2011/06/12(日) 16:19:52.13 ID:eqG/yXgno





   第十話  挑戦するという意味






228: 2011/06/12(日) 16:21:42.43 ID:eqG/yXgno

マミ「それにしても、キュウべえの発音はキレイね」

QB「必要だからね」

マミ「そっか。魔法少女は世界中にいるんだものね」

マミ「ハァ……それに比べて、私たちはどうしてこんな勉強をしなくちゃいけないのかしら」

QB「仕方ないよ。君たち自身が決めたルールだ」

マミ「……大人が勝手に決めたことだもん。私知らないもん」

QB「それはその通りではあるけどね。
   しかしその大人たちだって、その時々の先人が定めたルールに従っていたんだ」

QB「そして先の世代の子供たちも、恐らくは今の君たちが定めるルールに沿って
   生きることになる。そうやって続いて行くんだよ」

マミ「……」

マミ「だからって、こんなのやっぱり役に立たないわよ。
   どうして日本の英語教育って単語と文法ばっかりなのかしら」

QB「そう言うわりには、君はいつもイタリア語の単語を熱心に調べてるよね?」

マミ「あ、あれはいいのよ。とにかく、もっと発音やリスニングに力を入れてくれないと
   実際の会話で使えないわ」

QB「そうかな? そんなことないと思うけど」

229: 2011/06/12(日) 16:22:38.86 ID:eqG/yXgno

マミ「どうしてよ? 喋れなきゃ話にならないわ。筆談ってわけにはいかないじゃない」

QB「確かに、少し昔ならそうだけど、現代では文書の交換も主流になりつつあるじゃないか」

マミ「どこの世界の話をしているのよ。もしかしてあなたの故郷?」

QB「違うよ。インターネットだよ」

マミ「え? ……あ!」

QB「単語と文法を身につければ、掲示板で世界中の人と話ができるんじゃないのかい?」

マミ「それは……」

QB「それは?」

マミ「そ、それは…………関係、ないわよ」

QB「どうして?」

マミ「どうしても! それより――ちょっと休憩しましょう。お茶にしましょう」

QB「……? ……まぁ、君がそうしたいなら」



230: 2011/06/12(日) 16:23:52.51 ID:eqG/yXgno

マミ「ふぅ……」

QB「……」 モグモグ

マミ「――でもやっぱり、納得いかないわ」

QB「何がだい?」

マミ「英語教育の在り方よ。単語の綴りが少し間違ってるぐらい別にいいじゃない。
   要は意味が通ればいいんでしょう?」

QB「僕に言われても困るけど……一文字違いで全然別の意味になる単語だってあるよ」

マミ「そうだけど、例えばさっきのキャッスルはキュウべえには通じたわ」

QB「まぁ、確かに」

マミ「英語だけじゃなく、そういったケアレスミスで減点されるのって、なんだか理不尽だわ」

QB「うーん……それはたぶん、採点する側の都合だろうね」

マミ「え?」

231: 2011/06/12(日) 16:25:29.66 ID:eqG/yXgno

QB「ケアレスミスか、間違って覚えているのか、なんて、見ただけではわからないだろう?
   一人ならともかく大勢を評価するなら、基準は曖昧でない方がスムーズだ」

マミ「…………理不尽だわ」

QB「そうだね。僕も、どちらかと言えばマミの意見に賛成だよ。
   学校のそれに限らず、人間の作るシステムは無駄な部分と無理な省略が多すぎる」

QB「総じて言えば、思慮が浅く短絡的だ」

マミ「……?」

QB「人類全体がもっと長期的な視野を持ってくれれば、僕らとしても助かるんだけどね」

マミ「えっと……キュウべえ?」

QB「……」

QB「……なんでもないよ。僕らも僕らで、面倒なルールに縛られているのさ」

マミ「そうなの……」

QB「マミのやりたいようにすればいいと思うよ。君の言うとおり、
   テストでの成績が悪かったからといって実際に通用しないとは限らないんだ」

マミ「うん……」

232: 2011/06/12(日) 16:26:41.77 ID:eqG/yXgno

マミ「……そうね。でもやっぱり、成績を落とすわけにはいかないわ。
   援助してくださってるおばさまたちにも申し訳が立たないもの」

QB「そうかい」

マミ「ええ」 クイッ ゴックン

   カチャリ

マミ「さて――それじゃあもうひと頑張りと行きますか」



233: 2011/06/12(日) 16:27:56.82 ID:eqG/yXgno





マミ「――ふぅ。今日の分、終了っと」

QB「お疲れさま」

マミ「ありがとう、キュウべえ」

QB「別に何もしてないけどね、僕は」

マミ「ふふっ。……けどやっぱり、以前と比べるとだいぶ楽になったわ」

QB「そうだね。去年の辺りまでは、もっとずっとバタバタしていた覚えがあるよ」

マミ「そうよねぇ……」



234: 2011/06/12(日) 16:29:21.17 ID:eqG/yXgno

   ◆

マミ「……」 ゴソゴソ バタバタ

QB「……」

マミ「……」 バタバタ ゴソゴソ

QB「ねえ、マミ」

マミ「ん……なぁに、キュウべえ?」

QB「どうして急に部屋の模様替えなんて始めたんだい?」

マミ「……」

マミ「いいじゃない。気分転換よ」

QB「テスト勉強はいいのかい?」

マミ「だから、その気分転換よ。これが終わったらちゃんとやるわ」

QB「……」

QB「まぁ、君がいいというのなら、いいんだけどね」



235: 2011/06/12(日) 16:30:19.24 ID:eqG/yXgno

   ◆

マミ「……」 カリカリカリ

マミ「……うーん……」

マミ「……」 カリカリカリカリ、カリ…

マミ「……」

   シュイーン

マミ「……」

QB「マミ? 急にソウルジェムを取り出したりなんかして、どうかしたのかい?」

マミ「魔女が出そうな気がするわ」

QB「……。反応はないようだけど」

マミ「出そうな気がするの。行くわよ、キュウべえ」

QB「……」

QB「まぁ、反対する理由もないけど」



236: 2011/06/12(日) 16:31:12.64 ID:eqG/yXgno

   ◆

マミ「~~♪」 チャッカチャッカチャッカチャッカ

QB「あれ? マミ、お菓子を作っているのかい?」

マミ「ええ。シブースト、フランスのお菓子よ」

QB「ふぅん。ずいぶんと手間のかかるものを選んだね」

マミ「あら、詳しいのね?
   そうよ。パイ生地を焼いて寝かせて、土台を焼いて冷まして、カスタードとメレンゲを
   少しずつ少しずつ混ぜ合わせて、仕上げのキャラメリゼは焼きごてで焼いて」

QB「うん」

マミ「今はメレンゲを作ってるところ♪」

QB「へえ」

マミ「安心してね? キュウべえの分もちゃんと作ってあげるから」

QB「そうかい。ありがとう」

マミ「……」 チャッカチャッカチャッカチャッカ

QB「……」

マミ「だ、大丈夫よ。ちゃんと勉強もしているわ」

QB「何も言ってないじゃないか」



237: 2011/06/12(日) 16:32:00.54 ID:eqG/yXgno

   ◆

マミ「うぅ……なんてひどい点数……」

QB「残念だったね」

マミ「……もっとちゃんと勉強していれば……」

QB「十分にやるだけのことをやった上での結果だろう? なら受け入れるしかないよ」

マミ「うぅ……」

QB「次また頑張ればいい」

マミ「……ごめんなさい……」

QB「うん? どうして僕に謝るんだい?」

マミ「い、いえ。間違えたわ。ありがとう、キュウべえ。励ましてくれて。次はがんばるわ」

QB「おかしな間違いだね。どういたしまして」



238: 2011/06/12(日) 16:32:56.31 ID:eqG/yXgno

   ◆

マミ「ふふ……そんなに昔のことでもないのに、懐かしいわね。今となってはいい思い出よ」

QB「そうだね」

マミ「……あのころはテストのたびに現実逃避して、挙句に世界を呪ったりしてたのよね……」

QB「……」

マミ「ダメよね。希望を振りまくはずの魔法少女が、呪いを抱いたりなんかしたら」

QB「……」

QB「いいや、駄目だなんてことはないよ」

マミ「え?」

QB「魔法少女といえど、ものの考え方や価値観は普通の人間と変わりはないんだ。
   何かを呪いたくなることだって当然あるさ」

QB「少なくとも僕は、君たちのそんな感情の動きを禁止しようなんて思わないよ」

マミ「……そう」

239: 2011/06/12(日) 16:33:50.92 ID:eqG/yXgno

マミ「でも、やっぱりよくないわ。魔法少女は夢と希望の象徴でいなくっちゃ」

マミ「それに、少なくとももうテストのせいで呪ったりなんかしないだろうから、大丈夫」

QB「そうかい」

マミ「そうよ。今の私には強い味方が付いてるんですもの」

QB「あぁ、あの新しいテキストのことだね?」

マミ「ええ。通信講座は塾なんかと違って好きな時間にできるのがいいわね。
   魔法少女にはぴったりだと思うわ。
   中身も、教科書に合わせて要点をまとめてくれているし」

マミ「始めてよかったわ。進研ゼミ」






248: 2011/06/16(木) 19:56:24.96 ID:wtNOGC0To



   楽な相手だった。

   砂漠を模したような結界内は、障害物がなく走りやすかった。
   ぎゃあぎゃあとやかましいだけの使い魔は、槍の一薙ぎで蹴散らせた。
   親玉の魔女も、図体はデカいくせに笑えるぐらいノロマだった。

   結界に入って、ものの数分。
   ほとんど何の苦労もなく、アタシの槍はヤツの脳天をぶち抜いた。

   それと同時に、ヤツの触手もアタシのドテっ腹をぶち抜いた。

杏子「あ……?」

   気がついたときには、世界は真っ黒で。



   痛みも何も感じなくて。





   ああ、これでようやく楽になれるんだな、と、そんなことを思わせてくれる相手だった。






249: 2011/06/16(木) 19:57:14.32 ID:wtNOGC0To





   第十一話  魔女と魔女






250: 2011/06/16(木) 19:58:14.36 ID:wtNOGC0To



   だからこんなのは、おかしいんだ。

   もう一度目を覚ますなんて、おかしいんだ。
   腹の傷がふさがってるなんて、おかしいんだ。
   こんなにもふかふかのベッドに寝かされてるなんて、どう考えてもおかしいんだ。

杏子「……なんで……」



   「――あら、目が覚めたのね」

   声がした。

   ちらりと目を向けると、アタシと同い年ぐらいの女が一人。どこかで見た顔だ。
   上体を起こしながら、さりげなく辺りも見回す。

   清潔な部屋。
   洒落た感じの家具や小物類。
   窓の外の景色は、もう夜になっているようでわかりづらかったが、視点が高い。
   マンションの上階だろう。

   金のある人間の棲家、だな。

251: 2011/06/16(木) 19:58:52.59 ID:wtNOGC0To

   「起きて大丈夫なの?」

杏子「……誰だ」

   端的に尋ねると、そいつは左手を掲げて見せた。

   中指に、見覚えのある銀の指輪がはまっている。さらに爪にはシルシもあった。
   つまり同業者。
   なるほど、だいたいわかった。

   「巴マミよ。あなたは?」

   問い返してきた。
   が、アタシは答えず、そいつの斜め後ろを見やる。

杏子「聞いてねぇのか。そいつから」

   猫のようなウサギのような、ぬいぐるみのような白い生物がそこにいた。
   契約の獣。キュゥべえ。
   アタシを今の生活に叩き落してくれた、ある意味で全ての元凶。

   ……なんてのは、逆恨みか。

252: 2011/06/16(木) 19:59:40.97 ID:wtNOGC0To

マミ「……あなたが氏んでたなら、そうしたわ。
   でも生きてたんだから、本人から聞きたいじゃない? 名前ぐらい」

杏子「……」

   チッ。

杏子「……佐倉杏子だ」

マミ「そう。佐倉さん、身体の具合はどう?
   目に見える傷は一応全部ふさいだけど、どこかおかしかったら遠慮なく言って?」

杏子「……いや。どこも悪くねぇ」

マミ「そう、よかった。何か食べる?」

杏子「……とりあえず、水だけくれ。ノドが渇いた」

マミ「わかったわ。待ってて」





杏子「……」 ゴクゴクゴク

マミ「ねぇ、佐倉さん」

253: 2011/06/16(木) 20:00:35.08 ID:wtNOGC0To

杏子「プハッ……なんだ」

マミ「あなた、隣町の魔法少女なのよね?」

杏子「隣? ……ってか、そういやここ、どこだ」

マミ「え? あ、ああ、そうね。ここは見滝原市よ」

杏子「見滝原……」

QB「君が倒れていた林のこっち側――君から見れば 『向こう側』 だね」

杏子「……」

   くそ、やっぱりか。
   巴マミ。
   なんか聞いたことがある気がしたんだ。

   魔法少女同士のネットワークなんてものはほとんどない。少なくともアタシは絡んでない。
   それなのに噂が入ってくるという時点で、その異常のほどが知れる。

   三年にも渡って、一つの街をたった一人で、使い魔まで全て狩って護ってるっていうバケモノ。

   まともに遣り合っても勝てる相手じゃねぇな……
   どうするか……

254: 2011/06/16(木) 20:01:10.71 ID:wtNOGC0To

   幸い、こいつの方には遣り合う気はないようだ。今はまだ。
   と、なると。
   速攻で行くしかねぇな。

杏子「……」

   コップをベッドサイドに置いて、おもむろに指輪をジェムに戻す。
   さて、上手く隙を……

杏子「――ん?」

   待て。なんで輝きが戻ってるんだ。

杏子「おい」

マミ「なぁに?」

杏子「お前か、これ」

マミ「ジェムの浄化? ええ」

杏子「……どういうつもりだ。貴重なグリフシードを、他人なんかのために使うなんて」

マミ「困ったときはお互いさまよ。それに、使ったのはあなたのグリフシードだし」

255: 2011/06/16(木) 20:01:59.28 ID:wtNOGC0To

杏子「あ? んなワケあるか。ストックは切れてた」

マミ「嘘なんかじゃ……」

QB「そのとおりさ、嘘じゃない。マミが使ったのは、倒れていた君のそばに落ちていたものだ。
   状況から見て、君と相討ちになった魔女が落としたんだろうね」

杏子「チッ……そうかよ」

マミ「……」

QB「随分と不満そうだね、杏子」

杏子「テメェは――」
マミ「キュウべえ。やめなさい」

QB「……」

杏子「……」

マミ「ごめんなさい、佐倉さん。どうやら私は、あなたの誇りを傷つけてしまったようね」

杏子「……」

マミ「……どうすれば、償えるかしら」

256: 2011/06/16(木) 20:02:42.08 ID:wtNOGC0To

杏子「……」

マミ「……」

   チッ。

杏子「……後ろ、向け」

マミ「え?」

杏子「聞こえただろ。後ろ向いてろ」

   繰り返すと、ヤツは訝しみながらも素直に背を向けた。
   お人好しだ。
   そして、バカだ。
   やっぱ噂なんて当てにならない。こんなのが “見滝原の女王” だってのか。

   握りしめたままだったソウルジェムから槍を伸ばす。

杏子(別に変身しなくたって魔法は使えるんだぜ?)

   ま、頃すつもりはないけどな。
   ただしばらく、この絶好の狩り場と、現役最強とやらの座を貸してもらうだけだ。

   返すかどうかは、テメェ次第だけどな――!



257: 2011/06/16(木) 20:03:43.91 ID:wtNOGC0To





















杏子「……」

マミ「……」

杏子「……な、」

マミ「ふぅ……」

258: 2011/06/16(木) 20:04:23.71 ID:wtNOGC0To

   嘘だろ。
   止められた。

   私の槍は、音もなく一瞬で伸びてきた黄色いリボンみたいなのに絡め取られて、
   完全に固定されてしまった。

   マジかよ。
   しかも、コイツ。
   背を向けたまま、それをしやがった。

マミ「そんな顔しなくても、別に後ろに目がついてたりなんかしないわよ」

   そして静かに言いながら。

マミ「それにしても……銃を出せるようになってて助かったわ」

   これまたいつのまに出現させていたのか、銀色の長銃を掲げて見せた。

   マスケット銃、というヤツか。
   その、細かな装飾が施された銃身の中の、わずかな隙間のような平面の向こうに。
   どこか憐れむような、ヤツの目が。
   確かに映り込んでいた。

杏子(冗……談、きついぞ、バカヤロウ)

杏子(ペルセウスじゃねぇんだ。鏡越しの標的なんて、まともに捉えられるわけねぇだろうが。
    どんだけ遠近感狂うと思ってんだ)

259: 2011/06/16(木) 20:05:18.76 ID:wtNOGC0To

マミ「さて……理由を聞かせてもらえるかしら」

   ヤツが半身になって、こちらを向く。
   今さらになって冷や汗が流れる。

杏子「ハッ……わかりきったこと聞くんじゃねぇよ。グリフシードの数は限られてんだ」

マミ「……」

杏子「ライバルを助けようとするテメェの方がどうかしてるのさ」

マミ「……」

   なんか言えよ、ちくしょう。
   質問したのはそっちだろうが。

杏子「……あんたのことは聞いてるよ、巴マミ。使い魔まで残らず狩ってんだってな」

マミ「……それが、何か悪いのかしら」

杏子「悪いさ。テメーみたいなヤツを見てるとイライラするんだよ」

杏子「街のみんなを守るだぁ? 思いあがるんじゃねぇ!
    人が何を考えて、何を本当に欲しがってるかなんて、誰にもわかりゃしねぇんだ!」

マミ「……」

杏子「他人なんかのために命張って、それで何の得があるってんだ……!」

260: 2011/06/16(木) 20:06:10.39 ID:wtNOGC0To

マミ「……」

マミ「あるわよ。得をすることなら」

杏子「へぇ? なんだよ。言ってみろ」

マミ「魔女から人を助けたあとはね、紅茶とお菓子が美味しいの」

杏子「……は?」

マミ「逆に助けられなかったときは、紅茶もご飯も美味しくないし、夜もぐっすり眠れないの」

杏子「……」

   なに、言ってんだ。こいつ。

マミ「理解できないかしら? でも、食事と睡眠――人が生きる上で大事なことよ?」

杏子「知るか! 好きに食って好きに寝りゃいいじゃねぇか!」

マミ「それができたら苦労はしないわ」

マミ「助けた結果、逆に恨まれることになったとしても、見頃しにするよりはずっと気が楽。
   そういう性分なのよ」

マミ「逆に言えば、助けたあと、その人がどうなるかまでは責任は負えないわ。
   あくまで私は、私自身の気の済むようにやっているだけよ」

杏子「……」 ギリッ

   ふざけやがって……

261: 2011/06/16(木) 20:06:47.03 ID:wtNOGC0To

マミ「……あなたのことも、聞いているわ。佐倉さん」

杏子「……あ?」

マミ「隣町では乱暴な手口の空き巣や、ATM荒らしなんかが頻発しているんですってね。
   さらに、使い魔に襲われる人が他の地域よりも明らかに多いとか」

杏子「……だったらどうだってんだ」

マミ「……」

マミ「……改めてくれないかしら」

杏子「嫌だね」

マミ「……」

杏子「テメェと同じさ。アタシの魔法はアタシのモンだ。アタシのためだけにしか使わない」

杏子「もう二度と、他人なんかのために使うもんか……!」

マミ「そう……」

   シュル…

杏子「!」

   リボンが、ほどけた。
   槍が自由になる。

262: 2011/06/16(木) 20:07:38.95 ID:wtNOGC0To

   一瞬迷ったが、ひとまず今は収納する。
   ヤツもリボンと銃を消した。

杏子「……なんのつもりだ」

マミ「力づくをするつもりはない……それだけよ」

杏子「チッ……」

マミ「私だって偉そうなことは言えないわ。この見滝原の外のことは、どうしようもないと
   切り捨てているんだもの」

マミ「それに何より、キュウべえがあなたを咎めようとはしていない」

杏子「……」

マミ「だけどせめて、使い魔に人を襲わせることだけはやめてもらえないかしら?」

杏子「……」



マミ「だってそんなやり方――魔女と何も変わらないじゃない」



杏子「っ……!?」

263: 2011/06/16(木) 20:08:14.54 ID:wtNOGC0To

杏子「アタシが……魔女だと……!!」

   シュイン――ジャキン!!

マミ「!?」

杏子「取り消せぇ!!」



   ――ガキィィン!!



   気が付いたら、変身して、飛び出していた。

   槍を突きだし、マスケットの銃身で受け止められていた。ヤツも変身を終えている。
   リボンが伸びてくる。

杏子「甘めぇ!」

   逆に切り裂く。

マミ「っ!」

264: 2011/06/16(木) 20:09:15.72 ID:wtNOGC0To

杏子「ハッ! 薄っぺらなんだよ! テメェの言葉と同じでなぁ!」

   勢いに乗せて袈裟斬りに振り下ろす。
   止められる。
   ならばと連続で突きを繰り出す。
   防がれ、弾かれ、受け流される。

マミ「待って佐倉さん! 何を急に――」

杏子「うるせぇ!」

   当たらない。
   だがヤツも防戦一方だ。
   狭い――いや、そこそこ広いが、所詮は屋内。あっという間に壁際まで追い詰める。

マミ「くっ!」

   そこまで来て、ようやくの反撃。腰だめに構えての発砲。

   が、避けるまでもなかった。
   弾丸は大きく逸れて、背後の壁に着弾。穴を穿つ。

杏子「どこ狙ってやがる!」

   それとも、この期に及んで威嚇のつもりなのか。どこまでも舐めた野郎だ。

265: 2011/06/16(木) 20:09:55.98 ID:wtNOGC0To

   何がみんなを守るだ。

   何が自分はそれで満足だ、だ。

   挙句の果てに、アタシを魔女だと?

   ふざけるなよ……親父と同じことばっかり言いやがって……!!



杏子「――うらァ!!」

   その手から銃を弾き飛ばす。

   こいつは潰す。
   アタシの全てを賭けて否定してやる。

マミ「くぅ……!」

杏子「――!」

   が、流石は現役最強といったところか。
   ほぼノータイムで新たな銃を召喚。今度は両手に一丁ずつ。
   さらにリボンが、左右と上から迫ってくる。

   五点同時攻撃。
   対するこちらの武器は槍。防ぎきれない。

266: 2011/06/16(木) 20:10:25.71 ID:wtNOGC0To




   ――そう思ったか?





267: 2011/06/16(木) 20:11:29.59 ID:wtNOGC0To

杏子「甘めぇんだよ!」

   瞬時に魔力を注ぎ込み、槍を――『ほどく』。

   一本の長い棒だった柄が、鎖で繋がれたいくつもの短い棒へと別れる。

   多節槍。
   正式な名前は知らないが、三節棍をさらにバラしたような形なのでそう呼んでいる。
   これがアタシの武器の、真の姿だ。

杏子「――ハァッ!!」

   全方位に向けて振り回し、五方向からの攻撃を全て同時に叩き落した。
   リボンは千々に引き裂かれ、銃弾は弾き返され壁と床の穴になった。

マミ「……!」

   驚きに目を見開いたヤツの間抜けヅラに満足感を覚えつつ、
   再び、すばやく長槍の形に戻すと、穂先を喉元へと突き付けた。

杏子「……舐めんな。ただの槍じゃねぇんだよ」

268: 2011/06/16(木) 20:12:20.61 ID:wtNOGC0To

マミ「そうみたいね……でも、」

   ……ん?
   どうしてコイツ、笑ってやが――る!?

マミ「私もなの」

   腕が。
   足が。
   槍が。
   視界の外から伸びてきたリボンに、絡め取られた。
   動けない。

杏子「なっ――後ろ!?」

   どうにか首だけで振り返る。
   そして見た。
   アタシを縛るリボンが、壁と床に穿たれた弾痕から生えているのを。

マミ「私のこの銃も、弾も、全てリボンでできているのよ」

   言いながら、ヤツもマスケットを 『ほどいた』。

   言葉通りそれはリボンへと変化し――いや、戻り――アタシへと伸ばされる。

269: 2011/06/16(木) 20:13:14.49 ID:wtNOGC0To

杏子「テメェ……」

マミ「ごめんなさいね」

   首に、巻きつけられた。締まる。

杏子「ッ――」

マミ「本当はこんなことしたくないんだけど……意識を落とさせてもらうわね」

   なんでだよ。

マミ「できるなら、貴方とは仲良くしたい。少なくとも敵対はしたくない」

   ふざけんなよ。

マミ「目が覚めたら……そしてその気になれたら、もう一度会いに来て」

   お前みたいなやつが、なんてそんなに強いんだ。

マミ「――おやすみなさい」

   なんで――



270: 2011/06/16(木) 20:13:44.28 ID:wtNOGC0To















271: 2011/06/16(木) 20:15:22.54 ID:wtNOGC0To



   『……』

   ん……?

   なんだよ、親父。また新聞見て泣いてんのか?

   『……交通事故だそうだ……何人もの人が亡くなっているよ……』

   そっか。

   『私の教えが受け入れられても、それでも救われない人はいる……』

   ……事故じゃぁ、どうしようもないよ。

   『だけど……たった一人だけ、生き残った子がいるみたいなんだ』

   ん?

   『ほら、見てごらん、杏子。お前と同い年の女の子だよ』

   へぇ、そりゃよかっ…………え? こいつは……

   『しかもほとんど無傷だそうだ。まさに奇跡だよ。神さまは見てくださってるんだね……』

   待って。違うよ、親父。こいつは違う。そんなんじゃない。

   こいつも私と同じなんだ。神さまなんかじゃない。アタシと同じで、アイツと契約しただけなんだ。

   『神よ……どうかこの子に、祝福を……』

   なんでだよ。

   やめろよ。

   同じなのに、なんでそいつにだけ祈るんだよ。アタシのことはあんな風に言ったのに。

   なんでだよ。

   なんで、なんだよぉ……!



272: 2011/06/16(木) 20:15:58.32 ID:wtNOGC0To





杏子「――っ」

   そうしてまた、目が覚めた。

杏子「……ここは……」

QB「君の父親の教会――かつてそうだった場所さ」

杏子「っ!?」

   声に振り向くと、白い獣がいた。

QB「おはよう、杏子」

杏子「……どういうことだ」

QB「何がかな?」

杏子「なんでアタシはここにいる。あれからどうなった」

273: 2011/06/16(木) 20:16:45.14 ID:wtNOGC0To

QB「マミが君を気絶させて、ここまで運んだ。それだけさ」

杏子「……」

QB「この場所のことは、聞かれたから僕が教えた。秘密だとは言ってなかったよね?」

杏子「……」

   チッ。

QB「それと、君を締め落とす直前にマミが言っていたことは、ちゃんと聞こえていたかい?」

杏子「……うるせぇ」

QB「聞こえていなかったのなら改めて伝えるように言われているんだけど――」

杏子「うるせぇ! 消えろ!」

   掛けられていた毛布を投げつける。

QB「おっと」

   キュウべえはひらりと身をかわす。

QB「やれやれ……わかった、退散するよ。でも一つだけ」

QB「マミの方から会いに来るつもりはないそうだ。再会はあくまで君次第だ、とね」

274: 2011/06/16(木) 20:17:21.58 ID:wtNOGC0To

QB「それじゃあ、さようなら。用があったらいつでも呼んでくれ」

杏子「……」

杏子「……待て」

QB「なんだい?」

杏子「……」

杏子「……アタシは、魔女か?」

QB「……」

QB「いいや、君は魔法少女さ。今も昔もね」

杏子「……」

QB「……。じゃあね」

杏子「……」

杏子「……」

杏子「……」

杏子「……くそったれが……」



275: 2011/06/16(木) 20:18:19.46 ID:wtNOGC0To

   ◆

マミ「はぁ……お部屋がボロボロ……」

マミ「……下の階の人に、変に思われてたらどうしよう……?」

QB「ただいま、マミ」

マミ「あ……おかえりなさい、キュウべえ。佐倉さんの様子は、どうだった?」

QB「問題なく目を覚ましたよ。ただ、君の希望は叶えられそうもないね」

マミ「そう……」

QB「残念だったね」

マミ「仕方ないわ……」

QB「……」

マミ「……ねぇ、キュウべえ」

QB「なんだい?」

マミ「買っておいたケーキなんだけど……あなた、二人分、食べる?」

QB「遠慮しておくよ」

マミ「……」

マミ「……そこは任せてって言ってよぉ、ばかぁ」 グスン





276: 2011/06/16(木) 20:19:16.28 ID:wtNOGC0To

以上
杏子が弱すぎると思われるかも知れませんが、
マミさんの手の内を知らないならこんなもんだと思います
予備のGSもないしね

277: 2011/06/16(木) 20:24:19.46 ID:f8ldAskPo

引用: マミ「今日も紅茶が美味しいわ」