13: 2007/04/16(月) 18:56:32 ID:hvJE4PlG

ある夜、旅商人であるクラフト・ロレンスは、突然、目を覚ました。

「……なんだ。まだ夜中か」

ロレンスは、再び床につこうとしたが、思いの外しっかりと目が覚めてしまったのか、眠気は一向に訪れない。
隣で人の分の毛布までとって眠っているのは、ひょんな事から一緒に旅をする事になった相棒のホロ。
人の姿でありながら獣の耳と尾を有する少女。一度、本来の姿になれば、神という呼び名に相応しい巨大な狼となるが、今、ロレンスの隣で眠っているそのあどけない顔は、年相応の愛くるしい少女にしか見えない。
(いつも、こうだったらなぁ。)
ロレンスは苦笑しながら、まだ燻っている火を再び起こし、干し肉を取り出し、火を眺めながら、少しずつそれを口にする。
「……ぬし……まだ、起きておったのか?」
パチパチという、焚き火の音に目を覚ましたのか、のそのそと毛布から顔を覗かせるホロ。

「いや…さっき目が覚めた。すまない。起こしてしまったか?」
「気にするでない。わっちも似たようなものじゃ。」
そう言ってどこか遠い場所を眺めるホロ。その横顔には誤魔化しきれない「何か」があった。「どうしたんだ、ホロ?」
ロレンスの問いにホロは、不機嫌そうな声で
「嫌な夢を見た。」
とだけ言って、毛布の中へと潜り込んでしまった。

14: 2007/04/16(月) 20:28:46 ID:hvJE4PlG
「そうか…」
ロレンスは短くそう言って、焚き火に枯れ枝を投げ込む。



沈黙のなか、パチパチという枯れ枝の燃える音だけが響く。


そしてしばらくたってから
「聞かぬのか?」
ボソッとホロが呟いた。
「聞いて欲しいのか?」
ロレンスがそう切り返すとホロは不満げに鼻を鳴らした。
「ぬしは相変わらず、女の扱いをわかっておらぬの。」
ホロはそう言いながら毛布から抜け出してロレンスの隣に座る。
「あぁ。しかし、年取った狼の扱いは少しずつ分かってきた。」
そう言ってロレンスが取り出したのは、葡萄酒が並々と注がれた木の器だった。
「ふむ…。これは…」
最初は不愉快そうに顔をしかめていたホロだったが、酒を一口飲むとその表情が途端に緩む。
「…これは…」
「…この間の大儲けの礼だと思ってくれ。」
「ふむ……ならば、遠慮なくいただこうかの」
ホロはそう言って器の中身を一気に飲み干した。
「いい月だ。今夜は飲もう。」
ロレンスがそう言ったのを聞いてホロが空を見上げると、そこには、白銀に光る満月があったのだった。







次の日の朝ホロが二日酔いで動けなかったのは言うまでもない。

23: 2007/04/19(木) 22:47:41 ID:LT36hK2M


「これだけかや」
不満を隠そうともしない声に、ロレンスは溜息をついた。
「質を上げれば量は下がる。買う時に説明したし、お前も納得しただろう」
むう、と唸るホロを横目にロレンスは自分の分の干し肉を一口かじった。
口いっぱいに広がる肉の旨味を味わいながら、今朝の市場でのやりとりを思い返す。

そもそも、街を出立する前に保存食の見立てを頼んだのは、ロレンスの方だった。
賢狼たるホロなら上質のものを見抜く事ぐらい容易いだろうと軽い気持ちで口にしたのだが、すぐさまホロが真剣な目で市場を徘徊し始めた時は、少し後悔した。
結局、ホロが選んだ干し肉は普段のものとは比べ物にならないくらい上等なものであり、予算以上の出費を断固拒否したロレンスは量を減らすという妥協案でその場を収めたのだった。

「腹が減っては働く頭も働かんと言うぞ。わっちの頭は頼りにならんかや?」
「そうか、それはいいことを聞いた。お前の頭を頼らずに済むようにちゃんと食事をしておこう」
さらりと切り返してやると、ホロは一瞬驚いたような顔になった。
「……ぬしも口が回るようになったのう」
「誰かさんのおかげでな」
そう言って干し肉をくわえ、ホロに振り向いたロレンスは息を呑んだ。
ホロがとても寂しそうな顔をしていたのだ。
「ぬしがわっちを頼らぬようになったら、わっちはどう借金を返せばよい?」
その力無い声に、ロレンスは固まった。
ロレンスは、借金など互いにとって旅を続けるための口実に過ぎないと思っている。
その口実が無くては二人の旅はおそらく始まらなかっただろう。
しかし、今は、ホロもこの旅を終わらせたくないはずだとロレンスは確信している。
役に立たなくなった口実は、しかしデメリットだけを残す。すなわち、ホロの借金だ。
ロレンスは思う。
ひょっとしてホロは、借金を完済し、その上で続ける二人の旅を望んでいるのではないか。
本心を明かさぬ賢狼の、胸の内を垣間見た気がした。

24: 2007/04/19(木) 22:48:23 ID:LT36hK2M
「ホロ……」
肩に手を回してやると、しっかりと身を寄せてきた。
衣服越しにじんわりと体温が伝わってくる。
「借金は――」
驚きのあまり、いまだ干し肉をくわえたままのロレンスの言葉は、不意にホロが顔を近づけてきたため、あっけなく途切れた。
ロレンスの視界の中、ホロの幼さの残る顔が、大きな潤んだ瞳が、柔らかそうな唇が大きくなっていき、


一瞬で、遠ざかっていった。
それも、その口に干し肉をくわえて。


「なっ……」
呆然とするロレンスの口にさっきまで存在した干し肉は、既に手を伸ばしても届かない所まで逃げてしまっていた。
代わりに唇に残ったのは、甘いような、くすぐったいような、柔らかい感触。
「うふふふふ。ぬしは本当にからかい甲斐があるのう」
満面の笑みで干し肉を噛む相棒の姿に、ロレンスは溜息混じりの苦笑をするほか無かったのだった。




以上です。
工口なしオチなしの期待外れだったと思いますが、ご容赦のほどを。

15: 2007/04/16(月) 20:34:50 ID:hvJE4PlG

携帯だったので改行がおかしくなってませんか?

携帯でも立派な作品を書いている方はたくさんおられるので言い訳はしません。
いや、それにしても突っ込みどころ満載ですね。

吊ってきます。

では

引用: 【狼と香辛料】支倉凍砂作品の