250: 2008/04/14(月) 22:37:08 ID:KE4gM259


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「ホロ、起きろ。」
とある街、とある宿の一室。開け放たれた木窓から見える空はまだ暗い。
「んー?」
声を受けた自称賢狼はかぶった毛布の中から意味のない声を上げるが、起きる様子はない。
「んー、じゃない。起きろよ。」
少し強めに言うとようやく顔だけ出すが、それでも起き上がる気配は無い。
「・・・お「眠れる美女を起こす方法といったら一つじゃろう?」・・・・・・。」
ロレンスはため息を一つつく。もっと純情な頃にこんなことがあったならば・・・。
しかし今やそうでないどころか、ひとまず時間もない。
「いいから起きろ。置いてくぞ。」
「むぅ・・・まだ暗いではないか。」
ようやく起き上がったホロは窓の外を見ながらぼやく。
「今日は早いって昨日言っただろう?」
「・・・そうだったかや?」
「そうだった。」
「・・・そうだったような、違うような・・・。」
「そうだったんだよ。いいから準備しろ。」
軽く怨みをこめてロレンスを見れば、見向きもせずに荷物をまとめている。
ホロはむぅ、ともう一度唸るとベッドからもそもそと出る。
空は、厚い雲に覆われている。
第1幕 収穫祭と狭くなった御者台
251: 2008/04/14(月) 22:38:44 ID:KE4gM259
荷馬車を操って街の大通りを行く。
多くの商人の朝は早いが、流石に夜明け前から働くものは少ない。
人通りのない道を行くのは楽でよかったが、ロレンスの心は空模様と同じく冴えない。
誰もいない町というのは、好きにはなれない。
「・・・ホロ。」
隣でうつらうつらと舟を漕ぐ旅の道連れに声を掛ける。
「・・・なんじゃ。」
不機嫌な声に気持ちが折れる。別に大した用があるわけでもない。
ただなんとなく、誰かと話がしたかった。
「いや、眠いなら荷台で寝たらどうかと思ってな。落ちたら危ないぞ。」
「ふん、そう思うならもっと寝させてくれれば良かったのじゃ。なにゆえこんなに早く街を出ねばならぬ?」
答えになってないが、軽口に応じてくれるホロの存在がありがたかった。
「早く出れば野宿しないで行ける距離だからだ。昨日言っただろう?」
「・・・そうだったかや?」
「そ「覚えておる。わっちを馬鹿にしておるのか?」・・・・・・。」
この程度でムッとしていては賢狼との旅はもたない。
肩をすくめるロレンスをさもつまらなそうに見た後、ホロは視線を前に戻す。
何気なく、肩に頭を寄せてくる。
一瞬驚いた顔を見せてしまうが、からかってくる様子はない。
街の出口が近づく。

252: 2008/04/14(月) 22:42:44 ID:KE4gM259
守衛の興味深げな視線を受け流しながら門をくぐる。
普段なら軽い優越感を覚えるところだが、今はそんな気持ちにもならない。
「寂しいのかや?」
あっさり見抜かれる。
何も言わないのを肯定と取ったか、ホロは続ける。
「見送る人もおらず、帰る場所もなく、親しくなった人々とも二度と会わないかもしれぬ。」
「行商人とは寂しい仕事じゃな。」
言いながら、挑発的な視線を向けてくる。
ロレンスは正面を向いたままだったが、当然その視線には気づいている。
しばらくしてから大きなため息をつき、口を開く。
やり方はともかく、励まそうとしているのだろう。応えるのが雄の甲斐性というものだ。
「・・・そうだな、寂しいのかもしれない。」
しかし、口から出たのはそんな弱気な言葉だった。
自分が本当に参っていると気づき、体が硬直してしまう。
「わっちがおるではないか。」
その言葉に咄嗟に顔を向ければ、怒ったような顔の少女がいた。
「それでは不満かや?」
心が晴れ渡る。我ながら単純な雄だなと思う。
結局は、その言葉が聞きたかっただけなのかもしれない。
返事の無いのをどう思ったか、ホロは困ったような表情を見せる。
演技かもしれない。励ますためか、あるいはからかうための。
いずれにしろ構わない。
「・・・いや、釣りが出るくらいだ。」
思いのほかすんなりと言えた自分に満足を覚え、笑ってみせる。
もう大丈夫だ。
それを感じ取ったのか、ホロも満面の笑みを見せてくれる。
「分かればよいのじゃ。」
雲を割り、日が昇りだした。


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以上です。平凡な受験生に戻りますです・・・

255: 2008/04/14(月) 23:33:24 ID:VmX6PlY2
受験生……?
浪人かや?

256: 2008/04/14(月) 23:44:23 ID:N/J596+E
狼人です

引用: 【狼と香辛料】支倉凍砂作品 2わっち目