1: 2012/12/18(火) 22:26:49 ID:glxwtHz60
地の文注意
2: 2012/12/18(火) 22:27:36 ID:glxwtHz60
自分の事を分かっています。
より正確に言うならば、他人から見た私自身のことを理解しています。
だから、平気な顔してこんな事が言えるのです。
笑って人を、傷つけるのです。
「ごめんねぇ。でも、嬉しいよ。良かったら、これからも友達でいてね」
口調は間延びして、けれど所々悲痛な色を滲ませて、私は演出する。
よく聞き、見知った、彼の中の私を。
緩やかな速度で、彼の表情が融解するのを、私は黙って眺める。
均衡を保っていた不恰好な唇の両端は、静かに震えている。
より正確に言うならば、他人から見た私自身のことを理解しています。
だから、平気な顔してこんな事が言えるのです。
笑って人を、傷つけるのです。
「ごめんねぇ。でも、嬉しいよ。良かったら、これからも友達でいてね」
口調は間延びして、けれど所々悲痛な色を滲ませて、私は演出する。
よく聞き、見知った、彼の中の私を。
緩やかな速度で、彼の表情が融解するのを、私は黙って眺める。
均衡を保っていた不恰好な唇の両端は、静かに震えている。
3: 2012/12/18(火) 22:28:43 ID:glxwtHz60
泣かせたとか、悲しませたとか、そんな事を私が考えなければいけないのだろうか。
他人の無責任な、自己の満足だけを追求した感情に、私が応えなければいけないのだろうか。
『食い下がる。奴らは食い下がるぞ。その気持ちが純粋であれば程、奴らは繰り返し言うのだ。』
言葉の節々で、諦めすら感じさせない粘着質な塊が私を見つめる。
憐憫を湛えた、抑えきれないエゴを刺激する瞳。
けれど私は、流されない。
「ごめん……」
他人の無責任な、自己の満足だけを追求した感情に、私が応えなければいけないのだろうか。
『食い下がる。奴らは食い下がるぞ。その気持ちが純粋であれば程、奴らは繰り返し言うのだ。』
言葉の節々で、諦めすら感じさせない粘着質な塊が私を見つめる。
憐憫を湛えた、抑えきれないエゴを刺激する瞳。
けれど私は、流されない。
「ごめん……」
4: 2012/12/18(火) 22:29:19 ID:glxwtHz60
これっぽっちも、悪いだなんて思うものか。
嘘は得意だ。演技もお手の物。
今度は、望みのない事を理解してくれた彼が、私から手を引いて顔を上げる
いくらか言葉を交わした。
涙以上に、彼の内を語ったものはない。
偶に物思いに耽る事が有る。
取り留めがなく、また特に意味のない事だ。
嘘は得意だ。演技もお手の物。
今度は、望みのない事を理解してくれた彼が、私から手を引いて顔を上げる
いくらか言葉を交わした。
涙以上に、彼の内を語ったものはない。
偶に物思いに耽る事が有る。
取り留めがなく、また特に意味のない事だ。
5: 2012/12/18(火) 22:30:38 ID:glxwtHz60
そして、人を好きになったことが無い、私だからこそ浮かぶ思想と言えるだろう。
『恋愛は即ち自己愛だ。他人にすら、自分を愛する事を強いようとする感情がそれ以外の何であろう‼一体化したいという願望、
羨望、要は存在に対する嫉妬だ、傲慢だ……自身を拡大せんとする欲望なのだ……不潔な熱を帯びた屹立する生命の具現化。
私は逃げなければならない、私は決して屈してはいけない……』
迫り来る虚構の繁栄。
私と言う性別を手に入れた彼の完全性。つまり、男は女を抱く事で存在の価値が上がるのだ。
『恋愛は即ち自己愛だ。他人にすら、自分を愛する事を強いようとする感情がそれ以外の何であろう‼一体化したいという願望、
羨望、要は存在に対する嫉妬だ、傲慢だ……自身を拡大せんとする欲望なのだ……不潔な熱を帯びた屹立する生命の具現化。
私は逃げなければならない、私は決して屈してはいけない……』
迫り来る虚構の繁栄。
私と言う性別を手に入れた彼の完全性。つまり、男は女を抱く事で存在の価値が上がるのだ。
6: 2012/12/18(火) 22:32:01 ID:glxwtHz60
何て、また空想が脳に巣食う。
静けさの中、漂う空気の中、そして、物言わぬ私と彼女の表情の中。
目には映らず、何かを共有してきた。
そんな関係。親友、幼馴染。
「唯は、結局分からないのよ。そんな机上の、何の経験も伴わない理論を垂れて。
間違っているとは言わないけど、正しくもないわね」
「和ちゃんはじゃあ、人を好きになった事があるの?」
「あるわよ。だからこそ、あなたに反論できる」
7: 2012/12/18(火) 22:33:54 ID:glxwtHz60
「どうして?結局は、和ちゃんだって相手の存在を自分に取り込みたいだけじゃあないの?
少なくとも、私の所に来た人間は皆そうだった。並んで歩こうだとか、考えてない野蛮な奴らだった」
「極論ね。お互いの足りない部分を補おうとするのは恋愛の上で当然の事だわ。
唯の言い方は恣意的で、感情論にしか聞こえない」
「だから、補おうとかじゃないんだよ。
奪うの。私から、私の特徴や形を奪うんだよ。誰も私の事を好きじゃなかった、もし姿が変わったら?性格が違ったら?
あり得る事なんだよ。ほんの些細な事なんだ。けど、きっと結果は変わってた」
「そうかも知れない。その人たちに限らず、いくらかの人は。
けれど、何故それをその他大勢の人にも当て嵌める事が出来るの?唯はその事が自然だと思う?」
「思うよ。私の事を理解できる人なんて居ないんだ。
そんな、解ってもいやしない私の事、好きだなんて言わないで欲しいんだよ。そんなの、ただの嘘でしかない」
自ら進んで演技する癖に何を言う。言葉こそが偽りである。本音は決して表面化しない。
なら、私の口から出る言葉は嘘なのか?
いや、それも違う……ならば一体何だろう……
8: 2012/12/18(火) 22:34:46 ID:glxwtHz60
「なら、私も唯の事が解らないのかも知れない」
彼女は、妙な冷静さを舌に乗せていた。包まった言葉が零れ落ちてくる。
私の意見のブーメラン。
空論が、途端に眼前に立ち上がるのが見えた。
冷たい感触、巧妙な罠。
そんな、そんな酷い、哀しい言葉を投げるなんて……
予想だにしなかった返事。
私は何を言うべきか、血迷った挙句に、更に呟いた。
「私も、和ちゃんの事が解らないよ」
9: 2012/12/18(火) 22:35:58 ID:glxwtHz60
決壊した意識のダムが、膿の様に粘つく後悔を垂れ流す。
何故、私はこんな、こんな下らない……
「でも、私は唯のこと、何も解って居ないのかも知れないけれど、
それでも好きよ。あなたのそんな見えない所も含めて」
偶に浮かんでくる感情がある。
普段は意識の奥に沈んだ、中々姿を現さない陰鬱な光だ。
けれど確かに光っているから、存外それは陰鬱ではなく、恥ずかしがり屋なだけかも知れない。
私は恋愛とは別の『好き』を知っている、それも沢山。
そして、その上も知っている。
10: 2012/12/18(火) 22:36:42 ID:glxwtHz60
「あぅ……えっと……」
照れた私に対して、あっけらかんと彼女は言った。
「これは勿論友達として、だけどね。けど、それなら延長線上で、同じ様に想ってくれている人も居るわよ、きっと」
和ちゃんはややこしい。
そして、誤解を生みやすい。
或いは起爆剤で、私はその時ふとしたきっかけによってそう言えば、同性愛について思考して見た。
照れた私に対して、あっけらかんと彼女は言った。
「これは勿論友達として、だけどね。けど、それなら延長線上で、同じ様に想ってくれている人も居るわよ、きっと」
和ちゃんはややこしい。
そして、誤解を生みやすい。
或いは起爆剤で、私はその時ふとしたきっかけによってそう言えば、同性愛について思考して見た。
11: 2012/12/18(火) 22:37:18 ID:glxwtHz60
次の日。
朝、眩い割に柔らかくて優しげな光が、地面とそこに張り付く私の影を見下ろす。
冬の澄んだ空気の中、初めての感覚に耳を澄ましながら私は歩く。
妙な緊張と、震える様な楽しさを織り交ぜて、私の歩はリズムを刻んだ。
これは期待にも似ている。
学校へ向かう道の途中、驚いたのは、私の気持ちには思い遣りに似たような感覚がある、と言う事だった。
終わり。
朝、眩い割に柔らかくて優しげな光が、地面とそこに張り付く私の影を見下ろす。
冬の澄んだ空気の中、初めての感覚に耳を澄ましながら私は歩く。
妙な緊張と、震える様な楽しさを織り交ぜて、私の歩はリズムを刻んだ。
これは期待にも似ている。
学校へ向かう道の途中、驚いたのは、私の気持ちには思い遣りに似たような感覚がある、と言う事だった。
終わり。
13: 2012/12/21(金) 22:33:33 ID:DGWlLU5Q0
面白い
この唯はなんか原作っぽい気がする
この唯はなんか原作っぽい気がする
12: 2012/12/19(水) 07:09:45 ID:dKs0cAJc0
武田泰淳あたりの昭和文学っぽいな
読んだことないけど
この書き方なら三人称として唯の内面を外から解説する方が合うと思う
読んだことないけど
この書き方なら三人称として唯の内面を外から解説する方が合うと思う
引用: 唯「反抗と芽生え」
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