96: 2018/08/16(木) 16:15:36.42 ID:1RkWeFQA0
弦巻こころ「もしもあたしが↓1だったら」

97: 2018/08/16(木) 16:15:58.80 ID:hsZon/DcO
サイコパス

98: 2018/08/16(木) 16:45:25.12 ID:Y6piV2+VO
(もともとサイコっぽいとこあるような)

101: 2018/08/19(日) 12:41:54.25 ID:L7rMXKsm0

もしも弦巻こころがサイコパスだったら


奥沢美咲(弦巻こころ)

美咲(彼女は常人とはかけ離れた感性を持っている)

美咲(それは世界でも指折りの大富豪である育ちの環境がそうさせたのか、それとも本人が生まれながらに持つ性格なのか)

美咲(もしくはその両方か)

美咲(『サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが――』というのは一昔前に流行ったライトノベルの書き出しだったと思う)

美咲(この話になぞれば、こころが『サンタクロースは実在する』と言えば実在するし、つまるところ、バックにある弦巻財閥の目の眩むような財産力で叶えられることはすべて叶えてしまう)

美咲(こころが右と言えば、彼女を取り囲む世界は右を向く)

美咲(だからだろうか、彼女は人の気持ちに対して鈍感……いや、考えることが少ないのだと思う)

美咲(頭の中にあるのは“楽しいこと”だけ)

美咲(嫌なこと、興味のないことは存在しない)

美咲(出会った当初、あたしの名前を一向に覚える気配がなかったのもそれ故だろう)

美咲(ただ、それでもとんでもないバンド活動を通じて、こころとは分かり合えたつもりでいた)

美咲(そう、『つもりでいた』)

美咲(それが本当に言葉だけでの意味だったと、あたしは痛感していた)

美咲「……ごめん、もう1回言って貰っていい?」

弦巻こころ「いいわよ。お父様がフランスの学校に行きなさいって言うから、8月から1年くらい留学することになったの!」

美咲「…………」

美咲(弦巻邸。東京の一等地に構えるありえないほどの超豪邸)

美咲(一般庶民にはいつまでも場違いなその豪邸の一室で、やっぱりこころはなんでもないようにそんなことを言うのだった)
バンドリ! ガールズバンドパーティ! カバーコレクションVol.7【通常盤】

102: 2018/08/19(日) 12:43:17.23 ID:L7rMXKsm0

美咲「あの、こころ。それってつまり、転校するってことだよね?」

こころ「そういうことになるのかしら?」

美咲「それってどういう意味か分かってる?」

こころ「花咲川女子学園からいなくなるってことよね」

美咲「……ハロハピはどうするのさ」

こころ「どうするって?」

美咲「こころがいなくちゃ活動も何もないでしょ」

こころ「大丈夫よ! その時だけこっちに戻ってくればいいのよ!」

美咲「…………」

美咲(多分、こころは本気で言っているんだろう。確かに自家用ジェットくらい何機も持っているだろうし、日本に来ようと思えばすぐに来れるんだと思う)

美咲(だけど、それだけの問題じゃない)

美咲(時間だってたくさんかかるし、顔を合わせる機会だってよくて週に1回ほどだろう)

美咲(曲を作るのはあたしと花音さんだけど、その大元はこころだ)

美咲(こころがいなければ、多分『ハロー、ハッピーワールド!』は瓦解してしまうだろう)

美咲(そう考えてしまうと、胸の内をチリチリと焦がすような痛みがやってくる)

美咲(どうしてこんな痛みを感じるのか、と考えれば、あたしにとってそれだけこのバンドが大切になっていた、ということ)

美咲(そして、何より大切に思っているだろうと考えていたこころが、想像以上にハロハピという存在を軽く考えていたことに勝手に裏切られた気持ちでいるからだ)

こころ「美咲? どうかしたかしら? なんだか怖い顔をしているわよ」

美咲「…………」

こころ「ほらほら、笑顔よ美咲! レッツスマーイル!」

美咲「ごめん、ちょっと今日は帰る」

こころ「え?」

美咲「ごめん」

美咲(短くそう言って、踵を返す)

美咲(これはあたしのただのワガママだ。弦巻財閥のことに口なんか出せる訳ないし、こころのお父さんから見れば『ハロー、ハッピーワールド!』なんて取るに足らない子供のお遊びだろう)

美咲(でもその事実が胸に深く突き刺さって、色んな感情がごちゃまぜになって、笑うことなんて絶対に出来なさそうだ)

こころ「体調が悪いのかしら? お大事にね!」

美咲(いつもと変わらないこころの声が聞こえる)

美咲(あたしはそれに返事をせず、弦巻邸をあとにするのだった)


……………………

103: 2018/08/19(日) 12:44:27.20 ID:L7rMXKsm0

こころ「……ということがあって、今日は美咲は帰ってしまったわ」

松原花音「…………」

北沢はぐみ「え、こころん転校しちゃうの!?」

瀬田薫「フランス……遠い場所まで行ってしまうんだね」

こころ「平気よ! 飛行機でびゅーんって飛べばすぐじゃない!」

花音「え、えっと……すぐ、とは言えないと思うけど……」

こころ「そうかしら?」

はぐみ「こころん、いなくなっちゃうの?」

こころ「いなくなる? あたしはいなくならないわよ? ちょっと海外に行くだけじゃない」

はぐみ「んー……そういうことじゃない気がするんだけど……なんて言えばいいんだろ」

こころ「美咲も変だったけど、今日ははぐみもおかしいわね」

はぐみ「うーん……」

花音「あ、あの、えっと……」

薫「花音。ここは私に任せてくれ」

花音「え?」

薫「こころ、シェイクスピアの演劇を見たことはあるかい?」

こころ「うーん……あったような気がするけど、覚えていないわ」

薫「そうか。では、ある演目のセリフを送ろう」

薫「時はそれぞれの人によってそれぞれの速さで歩むものです。1つ教えてあげましょうか。時がだれにはのんびり歩きをし、だれにはよちよち歩きをし、だれには全力疾走し、だれには完全停止するか」

薫「きっと美咲とはぐみはそう言いたかったんだろう」

こころ「……? どういうことかしら?」

薫「フッ……つまり、そういうことだよ」

こころ「なるほど、そういうことね!」

花音「分かってないような気がするけど……」

はぐみ「んん~……」

花音「はぐみちゃん、大丈夫?」

はぐみ「うん……なんかすっごくモヤモヤしてるけど……ヘーキだよ」

花音「……そっか」

こころ「それじゃあ今日のハロハピ会議は、今度のライブのことでも決めましょう!」

花音(美咲ちゃん……大丈夫かな……)


……………………

104: 2018/08/19(日) 12:45:19.28 ID:L7rMXKsm0

――奥沢家 美咲の部屋――

美咲「……はぁ」

美咲(見慣れた自室の天井。ベッドに横たわりながら、そこへ今日何度目かも忘れたため息を吐き出した)

美咲(8月になったら、こころはいなくなる)

美咲(いや、いなくなるっていうか、あたしたちの目の前から遠いところへ行ってしまう)

美咲(そう考える度に、胸の中に重苦しい気持ちが渦巻く)

美咲(今は7月の初頭)

美咲(残されたこころとの時間は約3週間)

美咲(好きだった連載漫画が打ち切られるような、納得のいかない唐突の別れ)

美咲(だけど、これが本当にあたしのワガママであって、ただ拗ねているだけだというのも痛いほど理解できる)

美咲(考えてみれば当たり前のことだ)

美咲(こころは頭に『超』をいくつつけても足りないくらいのお嬢様)

美咲(あたしは頭に『超』なんてつけられないただの一般市民)

美咲(一室の天井の高さだって2倍くらい違うし、弦巻邸の庭はあたしん家が5、6個建ってたって、またバッティングセンターを作れそうなくらい広い)

美咲(考えれば考えるほど、嫌になるほど痛感させられる)

美咲(こころとは住む世界も見えている世界も圧倒的に違うのだ)

美咲(でもそんなことはとっくのとうに分かりきっていたことだし、今さらになってこのことで傷付いてしまうのは……)

105: 2018/08/19(日) 12:46:01.97 ID:L7rMXKsm0

美咲「……はぁ」

美咲(何度目かの同じ答えに辿り着いて、あたしはまた何度目かのため息を天井に吐き出す)

美咲(心が痛い。鈍い痛みがやまない)

美咲(どうしてこんな気持ちになってしまうんだろう)

美咲(どうしてこんな気持ちにならなくちゃいけないんだろう)

美咲(かつてのあたしは人生ほどほど、生きる意味なんて寝起き一杯のコーヒーくらいのもんだろう、なんて斜に構えていた)

美咲(それが今じゃ、大切な友達が出来て、唾棄していたハズのセイシュンとやらをこれ以上なく好んでしまっている)

美咲(だからこんな気持ちになってしまうんだ)

美咲(……こんな気持ちなんか、モノ言わぬ機械で出来た生命体みたいに、スイッチ1つで切り替えられればいいのに)

美咲「昔聞いた歌にそんなのがあったな……」

美咲(空想の未来。自分自身もロボットになって、ハートが傷付いたら取り換えればいい。そんな歌だった)

美咲(……いや、いっそミッシェルみたいに心がなければ)

美咲(着ぐるみみたいに命なんてなければ)

美咲(心さえ、心さえ……)

美咲「こころさえ……なかったなら」

美咲(呟いた言葉は、自分でも驚くほど頼りなく震えていた)


……………………

106: 2018/08/19(日) 12:46:41.83 ID:L7rMXKsm0

――翌日 花咲川女子学園――

美咲「……あんまり寝れなかったなぁ」

美咲(堂々巡りの夜を目を瞑ってなんとかやり過ごそうとしたけど、なかなか夢の世界はあたしの元へ訪れてくれなかった)

美咲(明けない夜はない、とはいい意味で使われる言葉だろうけど、今のあたしにとっては残酷な響きの言葉だ)

美咲(学校に来れば嫌でもこころと顔を突き合わせることになるんだから)

美咲(いつもよりも圧倒的に早い時間の教室には、あたし以外の生徒はいない)

美咲(あたしは自分の席に座ると、ただボーっと窓の外を眺める)

美咲「いい天気だなぁ……」

美咲(自分の心の中とまるで正反対な空模様に、吐き捨てるように呟いた)

美咲(しょうもなくイライラしているのが分かる)

美咲(原因も分かっているけど、今は寝不足のせいにしておいた)

美咲(でないとまた昨日と同じことをずっと考えていそうだった)

――ガラ

こころ「……あら?」

美咲(だというのにどうしてこう、神様はあたしに対してイジワルなんだろう)

美咲(今一番会いたくない人の声を、よりにもよってこんな朝早くから聞かなければいけないだなんて)

こころ「おはよう、美咲!」

美咲「……ああ、うん」

美咲(窓の外を眺めたまま、あたしはぶっきらぼうに言葉を返す。放っておいて欲しい、という空気を醸し出しているんだけど、果たしてそれをこころが汲んでくれるかどうか)

こころ「身体の調子はどう? もう良くなったかしら?」

美咲(……まぁ、汲んでくれるわけがないか。あたしは小さくため息を吐いて、窓の方へ顔を向けたまま言葉を返す)

美咲「まぁ」

こころ「それなら良かった! そうだ、昨日ハロハピ会議で決めたことがあるの!」

美咲「……そう」

107: 2018/08/19(日) 12:47:43.22 ID:L7rMXKsm0

美咲(冷たい言葉も全く意に介さず、こころは言葉を吐き出し続ける)

美咲(今度のライブのこと、新曲のこと、新しい演出のこと、やってみたいこと)

美咲(あたしがそっぽを向いていようとお構いなしだ。ただ自分が楽しいと感じることを喋っているのだろう)

美咲(口を噤んでその言葉を右から左に聞き流しながら、ぼんやりと思う)

美咲(こころはいつだってヒーローであり、ヒロインだ)

美咲(天衣無縫で、唯我独尊で、世界に主役として選ばれて祝福されたような人間だ)

美咲(対するあたしはどうだろう)

美咲(考えるまでもない。ありふれた有象無象の内の1人だ)

美咲(こころは『世界中みんな、誰だってヒーロー』だとは言っていたけど、本当の本当にヒーローになれるのは一部の限られた人間だけ)

美咲(もしも明日世界の危機がやってきたとしたら、あたしはただ助かることを願って震えながら祈ることしかできない一般人だ)

美咲(そう思ってしまうからこそ、こころとの違いをまざまざと感じてしまう)

美咲「うるさい」

美咲(それらが寝不足のイライラと相まって、あたしの噤んだ口はとうとう開いてしまった)

こころ「うん? どうしたの?」

美咲「こころ、ちょっと黙ってて」

こころ「どうして?」

美咲「言ったでしょ、うるさいって」

こころ「なんでうるさいと思うのかしら? こーんなに楽しい話なのに」

美咲「楽しくなんかない」

こころ「どうして?」

美咲「……そういう気分じゃないの」

こころ「そうなの? じゃあどんな気分かしら?」

美咲「…………」

108: 2018/08/19(日) 12:48:13.09 ID:L7rMXKsm0

こころ「黙っていたら分からないわよ? ねぇ美咲、どんな気分? どういう話がいいかしら?」

美咲「……っといて」

こころ「んー? 聞こえなかったわ、もう1度言って――」

美咲「ほっといてよっ!」

美咲(空気を読まないこころに、つい語気が荒くなってしまう。しまった、と少し思い、恐る恐るこころへ視線をやる)

こころ「…………」

美咲(こころはキョトンと首を傾げていた)

こころ「珍しいわね、美咲がそんなに大きな声を出すなんて」

美咲「ごっ……」

美咲(出かかった『ごめん』という言葉を飲み込む)

美咲(こころはきっと何も感じていない。そういう日もあるかしら、とか、そんな風にしか思っていない)

美咲(なのにあたしからこのことを謝るのは……なんか癪だ)

美咲(そう思って、再び視線を窓の外へ移す)

美咲「…………」

こころ「美咲が放っておいて欲しいなら仕方ないわね! あたし、楽しいことを探しに行ってくるわ!」

美咲「勝手にすれば」

こころ「ええ。それじゃあね、美咲!」

美咲(パタパタと軽い足音が教室を出て行く)

美咲(それが遠ざかっていって聞こえなくなってから、あたしはため息を吐き出した)

美咲「何やってんだ、あたし……」


……………………

109: 2018/08/19(日) 12:48:54.12 ID:L7rMXKsm0

美咲(それから1週間が経った)

美咲(こころに怒鳴ってしまってから、気まずくなったあたしはハロハピ会議にも練習にも顔を出していない)

美咲(ただ意固地になって拗ねている自分が情けなくて、同時にまったく変わった様子のないこころにイライラしてしまっていた)

美咲(花音さんにはハロハピの活動に顔を出さないことを心配された)

美咲(それには素直に謝って、ちょっと時間が欲しいと言った)

美咲(『うん、分かった』と花音さんは頷いてくれた)

美咲(それに申し訳なさが募ったけど、それでもやっぱり、こころに対する感情が上手く整理できそうにない)

美咲(今みんなと顔を合わせても絶対に空気を悪くしてしまうだけだっていうのが痛いほど理解できる)

美咲(でも、こんなことをしている間にも、こころとの別れは刻一刻と迫ってきてしまっている)

美咲(あたしは……どうすればいいんだろう)


……………………

110: 2018/08/19(日) 12:49:46.79 ID:L7rMXKsm0

――弦巻邸――

はぐみ「今日もみーくん、来ないんだ……」

薫「美咲……心配だね」

こころ「大丈夫よ! きっと美咲にも何か用事があるのよ。クラスではいつも通りぼんやりしているもの」

花音「…………」

はぐみ「なんだかみーくんがいないと……っていうか、いつもの5人とミッシェルがいないと……」

はぐみ「…………」

薫「はぐみ? どうかしたのかい?」

はぐみ「うん……なんかね、こころんが海外に行っちゃうって聞いてから、ずっとモヤモヤしてるんだ」

薫「大丈夫かい? もしどこか調子が悪いのなら……」

はぐみ「ううん、大丈夫、だと思う。1人でいる時の方がね、色んなことが『うあー!』って頭の中に浮かんでくるから」

こころ「はぐみもどこかおかしいのね。夏風邪かしら?」

花音「…………」

薫「花音?」

花音「え……」

薫「君もなんだかぼんやりしているね」

花音「あ、うん、えっと……ちょっと考えごとしてて……」

薫「もし何か悩みがあるなら聞かせてくれないかい?」

花音「…………」

111: 2018/08/19(日) 12:50:41.65 ID:L7rMXKsm0

花音(考えていたのは美咲ちゃんがここに来れない理由……だけど、どうしよう)

花音(このままだと美咲ちゃんはずっとここに来れないかもしれないから……言った方がいいのかもしれない)

花音(きっと私が考えてることは、美咲ちゃんとはぐみちゃんと同じことだと思うから)

花音(でももしかしたら、これを言っちゃったらハロハピがバラバラになっちゃうかもしれないし……)

薫「……何もしなかったら、何も変わらないよ」

花音「か、薫さん?」

花音(どうしよう、と考え込んでいると、いつの間にか薫さんが私に目線を合わせてくれていた)

薫「つまりそういうことだよ、花音。大丈夫。何があったって私はみんなの味方さ」

花音(そして続いた言葉はいつもと変わらないもので、やっぱりそれは失くしたくないものだった)

花音(……そうだ。このまま放っておいたって、もしかしたらみんながバラバラになっちゃうかもしれない。だから……)

花音「ありがとう、薫さん。私、少しだけ、頑張ってみるね」

薫「ふふ、力になれたのならよかった」

花音(私が勇気を出さなくちゃ……!)

112: 2018/08/19(日) 12:51:56.95 ID:L7rMXKsm0

花音「……あ、あの、こころちゃんっ」

こころ「どうしたの、花音?」

花音「こころちゃんは、寂しくないの?」

こころ「寂しい? 何がかしら?」

花音「もしもフランスに行っちゃったら……こうしてみんなに気軽に会えなくなるよ?」

こころ「そんなことないわ。だって世界は繋がっているもの! やろうと思ってできないことなんて――」

花音「ううん。あるんだよ、こころちゃん」

こころ「……花音?」

花音(半ば強引に言葉を遮ると、こころちゃんは不思議そうな顔で私を見つめてきた)

花音(いつもキラキラ輝いている無邪気な瞳が私を射抜く。それにちょっと怯みそうになるけど、一度大きく息を吸って、私は言葉を続ける)

花音「あるんだ。こころちゃんには出来るけど、私や美咲ちゃん、はぐみちゃんや薫さんには出来ないことが、たくさんあるの」

こころ「どういうことかしら?」

花音「私たちはね、こころちゃんに会いたいなって思ったって、すぐにフランスには行けないの」

こころ「それならあたしがこっちに来るわよ?」

花音「違うの。そういうことじゃないんだ」

花音「こころちゃんがね? 私たちの手の届かない場所に、何の迷いもなく行っちゃうのが……みんな寂しいの」

花音「私はもちろんそうだし、はぐみちゃんも……そうだよね?」

113: 2018/08/19(日) 12:52:30.81 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「……うん。はぐみ、仕方ないことかなって思ったんだけど……やっぱりこころんが遠くに行っちゃうのは寂しいな……」

はぐみ「会おうと思えばすぐに会えるって言っても、フランスって飛行機に乗らないといけないんでしょ?」

はぐみ「はぐみの方からこころんに会いにいけないって考えると……楽しいことしてても、急にモヤモヤってしちゃって……」

こころ「…………」

薫「……私もだよ、こころ」

薫「私は王子様だから、みんなの手前、そういう気持ちを出すことはしないようにしようと思っていた」

薫「けど、やっぱり1人になって考えると……こころと離れ離れになってしまうという現実は、胸に大きな穴を空けてしまうんだ」

こころ「…………」

花音「きっと美咲ちゃんが一番強くそう思ってるんだよ」

花音「だからこころちゃんに強く当たっちゃって、気まずくなってここに来れなくて……でもきっと、一番ハロハピを大切に考えて悩んでるの」

花音「それを全部分かって、なんて言えないけど……でも、ちょっとでもいいから、分かってあげて欲しいの」

こころ「……美咲のことを?」

花音「うん」

こころ「それってどういうことかしら」

花音「え……?」

114: 2018/08/19(日) 12:53:13.44 ID:L7rMXKsm0

こころ「美咲は美咲だし、あたしはあたしよ。花音だって花音だわ」

こころ「笑顔になればみーんな幸せってことは共通しているけど、でも、人はそれぞれの好みがあるって、前に美咲が言っていたわ」

こころ「それなのに『あなたはこうだ』って決めつけてしまうの? それが相手のことを『分かる』ってことなのかしら?」

こころ「もしかしたら美咲はお腹が痛いとか、そういうことで来れないだけかもしれないじゃない?」

花音「そ、それは……」

こころ「花音とはぐみと薫の気持ちは分かったわ。確かに気軽に会えなくなるのはちょっと寂しいかもしれないわね」

こころ「けど大丈夫よ! だって永遠に会えなくなる訳じゃないもの」

こころ「だから美咲だってそのうち顔を出すようになるわ!」

花音「……違う」

こころ「……?」

花音「違うよ、こころちゃん……それじゃ、誰も笑顔になれないよ……」

こころ「花音?」

花音「こころちゃんは何にも分かってないよ……私のことも、みんなのことも、何にも」

花音「こんなの……ハローハッピーワールドじゃないよ……」

花音「っ……」ガタッ

――ガチャ、バタン

はぐみ「あ、かのちゃん先輩!」

薫「花音……」

115: 2018/08/19(日) 12:53:44.45 ID:L7rMXKsm0

こころ「どうしたのかしら? お腹でも痛くなったのかしら?」

はぐみ「こ、こころん……」

薫「はぐみ、花音のことをお願いできるかい?」

はぐみ「え?」

薫「こころには私が話をしてみるよ。だから、はぐみは花音を追いかけてほしい」

はぐみ「う、うん、分かった!」ガタッ

こころ「あら、はぐみも用事があるの?」

薫「ああ、大事な用事があるんだ。だから、こころ。少し私と話をしよう」


……………………

116: 2018/08/19(日) 12:54:30.11 ID:L7rMXKsm0

花音「はぁ、はぁ……」

花音「思わず飛び出してきちゃったけど……どうしよう」

花音「こころちゃん……美咲ちゃん……」

花音(やっぱり私、余計なことしちゃったかな……)

花音「…………」

はぐみ「かのちゃんせんぱーい!」

花音「え、はぐみちゃん?」

はぐみ「はぁ、やっと追いついた……意外と足速いね、かのちゃん先輩!」

花音「あ、うん……」

花音(追いかけて来てくれたんだ……)

花音「えっと、はぐみちゃん」

はぐみ「うん?」

花音「その、ごめんね?」

はぐみ「え、なにが?」

花音「こころちゃんの言葉じゃないけど……勝手にはぐみちゃんの気持ちを考えて喋って……」

はぐみ「ううん! それはむしろありがとうだよ、かのちゃん先輩!」

花音「え?」

はぐみ「かのちゃん先輩が言った通りだもん! はぐみ、やっぱりこころんがあんなにあっさり遠くに行っちゃうのってすごくヤだよ!」

はぐみ「ずっとモヤモヤしてた気持ちをかのちゃん先輩が言ってくれたからね、はぐみ、スッキリしたんだ!」

花音「はぐみちゃん……」

117: 2018/08/19(日) 12:54:58.49 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「それにしても、こころんって意外と分からず屋だったんだね」

花音「うん……我が強いのは前からだけど、まさかあそこまで強烈だったなんて」

花音「このままだと……みんなの気持ちが伝わらないままこころちゃんとお別れになっちゃう……」

花音「どうすれば……どうしたら、こころちゃんに気持ちが伝わるかな」

はぐみ「そんなの決まってるよ、かのちゃん先輩!」

花音「はぐみちゃん、何かいい考えがあるの?」

はぐみ「いい考えかは分からないけど、簡単なことだよ! 分からず屋のこころんがしっかり分かるまで、みんなでお話すればいいんだよ!」

花音「分かるまでお話?」

はぐみ「うん! だってずっと一緒に過ごしてたんだもん! きっとみんなでしっかりお話すればすぐに分かり合えるよ!」

花音(はぐみちゃんは胸を張って、自信満々にそう言う)

花音(その様子を見て、気付かないうちにずっと肩に入っていた力がスッと抜けた)

花音「……うん、確かにその通りだね」

花音(そうだ。美咲ちゃんも、はぐみちゃんも、薫さんも、みんな同じようにハロハピのことを考えてるんだ)

花音(1人で気張る必要なんてないんだ)

はぐみ「よーし、そうしたらまず……」

花音「美咲ちゃんをこころちゃんのお家に連れてかなきゃ、だね」

はぐみ「そうだね! こころん、みーくん、薫くん、かのちゃん先輩、ミッシェル、それとはぐみがいて『ハロー、ハッピーワールド!』だもん!」

花音「うん……!」


……………………

118: 2018/08/19(日) 12:55:48.21 ID:L7rMXKsm0

こころ「お話?」

薫「そう、お話だよ。ふふ、こうして2人っきりになることも最近じゃ珍しいし、ね」

こころ「そうね! みんなどうしたのかしら? 流行ってるのかしらね、部屋を出て行くの?」

薫「こころはどうしてみんなが出て行ったんだと思う?」

こころ「うーん、そうね。急用を思い出したり、やっぱりお腹が痛くなったんじゃないかしら」

薫「そうか。こころはそう思うんだね」

こころ「ええ!」

薫「…………」

薫(さて、どうしようか。こころになんと言えばみんなの気持ちを分かろうとしてくれるだろう)

薫(こころはとても強い気持ちを持っている。眩しいくらいだ)

薫(けど、今の私はそれをどうにかして挫けさせる……いや、私たちが入る隙間を作らないといけない)

薫(じゃあ……)

119: 2018/08/19(日) 12:56:52.90 ID:L7rMXKsm0

薫「ところで、こころ」

こころ「なぁに、薫?」

薫「いつも楽しいことを話してばかりいるけれど、たまには逆のことも話してみないかい?」

こころ「逆?」

薫「そう。楽しいことの反対……つまり、こころが嫌なことやつまらないこと。それを教えて欲しい」

こころ「そうね……うーん……」

薫「思い付かないかい?」

こころ「ええ。だって嫌なことって考えるだけでもつまらないじゃない?」

薫「ふふ。それじゃあ、こころにとって嫌なことやつまらないことは、それが何かを考えること自体なのかもしれないね」

こころ「言われてみればそうね!」

薫「では、敢えて私はこう言おう。こころ、嫌なことやつまらないことを他に思いつくまで考えてくれないかい?」

こころ「それは無理ね!」

薫「どうして?」

こころ「したくないもの! そんなことをしていたら、笑顔じゃなくなってしまうわ!」

こころ「そんなことを言うなんて、おかしな薫ね」

薫「……こころ、つまりそういうことなんだ」

こころ「え?」

120: 2018/08/19(日) 12:57:24.61 ID:L7rMXKsm0

薫「こころが感じる嫌なこと、つまらないこと。それを今、こころはみんなに振りまいてしまっているんだ」

薫「みんなにしたくないことを強いてしまっているんだ」

こころ「そうかしら?」

薫「ああ」

こころ「どうしてそうだと思うの?」

薫「私たちがハローハッピーワールドのメンバーだからさ」

こころ「それってどういうことかしら?」

薫「みんな、こころと別れたくないんだ」

こころ「お別れじゃないわ。会おうと思えば会えるもの」

薫「こころはそう思うんだろうね。けど、私たちはそう思わない。これはハッキリと断言できるよ」

こころ「どうしてかしら? 本当にみんなそう思っているのかしら? 本当のことはその人しか分からないじゃない?」

薫「そうだね。こころの言う通り、当人がどう思っているかは本人にしか分からないのかもしれない」

こころ「やっぱりそうよね!」

薫「ああ。では、こころ。どうして君は美咲の心を勝手に決めつけてしまうんだい?」

こころ「え?」

薫「確かに私が思っていることと美咲が思っていることは違うのかもしれない。だけど、こころが考えていることとだって違うかもしれないだろう?」

薫「それなのに、どうして『美咲はお腹が痛いだけかもしれない』なんて、決めつけてしまうんだい?」

こころ「…………」

薫「美咲がどう思っているのか、実際に聞いた訳じゃないだろう?」

こころ「ええ」

薫「それなら、もう1度みんなで話をしよう」

薫「ハローハッピーワールドの6人で……ミッシェルが来れるかは美咲に聞かないと分からないけれど、話をしよう」

薫(じゃないと、きっとみんな、悔いの残る別れになってしまうんだ)

薫(私たちの気持ちがこころに伝わるかは分からないけれど、何もしなければ何も変わらないんだ)

こころ「確かに、言われてみればそうね! 美咲の声、久しぶりに聞きたいわ!」

薫「そうだろう? だから、こころ。みんなで一緒に、幸せについて本気を出して考えてみよう」


……………………

121: 2018/08/19(日) 12:58:16.61 ID:L7rMXKsm0

――同時刻 花咲川女子学園・中庭――

美咲「はぁ……」

美咲「…………」

美咲「……はぁ」

市ヶ谷有咲「……奥沢さん、さっきから何してんの?」

美咲「あ……市ヶ谷さん。どうも」

有咲「ん、どうも。そんで、さっきからベンチに座ってため息吐きまくってるけど、何してんの?」

美咲「あー……まぁ、悩みごと?」

有咲「なんで自分のことなのに疑問なの」

美咲「色々あるんですよ」

有咲「…………」

美咲「…………」

有咲「……話、聞くくらいなら出来るけど」

美咲「え?」

有咲「だから、悩みがあるなら話くらい聞くけどって。恥ずかしいから2回も言わせないでくれよ……」

美咲「ご、ごめん。え、でもどうして?」

有咲「まぁ……奥沢さんは似た者同士だし……その、一応、私は友達だと思ってるからさ……」

有咲「悩んでるなら放っておけないなって……まぁそんなんだよ」

美咲「あー、あー……」

有咲「な、なんだよその反応」

美咲「あ、ごめん。本当に市ヶ谷さんとは似た者同士だなーって思って」

有咲「そうかよ。隣、座るぞ」

美咲「うん」

122: 2018/08/19(日) 12:59:23.01 ID:L7rMXKsm0

有咲「……で、どうしたの?」

美咲「んっと、端的に言うと」

有咲「うん」

美咲「こころと喧嘩? した」

有咲「……奥沢さんと弦巻さんが?」

美咲「そう」

有咲「そりゃよっぽどだな。何かあったのか?」

美咲「まぁ、ちょっとこれこれこういう訳で……」

有咲「……ふーん、弦巻さんの人としての在り方の大きさに打ちひしがれてる訳ね」

美咲「まぁ、うん。そういうことになるのかな」

有咲「そんで意地張ってバンドのみんなともロクに話してない、と」

美咲「うん」

有咲「それは100パーセント奥沢さんが悪いな」

美咲「……随分きっぱり言うね」

有咲「まぁ……私も色々あったからさ。ポピパのみんなとすれ違ったりして」

美咲「そういえば、市ヶ谷さんたちっていつも5人でお弁当食べてたのに、しばらく見なかったね」

有咲「ああ。それな、自分勝手な意地を張ってた奴のせいなんだ」

美咲「え?」

有咲「だから、最低なアホが1人で勝手に全部抱え込んでたせいなんだよ」

美咲「最低なアホって……」

123: 2018/08/19(日) 13:00:20.92 ID:L7rMXKsm0

有咲「奥沢さんもそうなりたいの?」

美咲「……なりたくないかなぁ」

有咲「ならさっさと話ししてこいって」

美咲「そう簡単に言うけどさ……」

有咲「……つか、そんなんで諦められるの、奥沢さんは」

美咲「諦める?」

有咲「柄じゃないから1回しか言わないけど、私にとってポピパは絶対に失くしたくねー場所だよ。何があったって諦めたくない場所なんだ」

美咲「…………」

有咲「だからホント、タイムマシーンでその時の最低なアホのところに行けるんなら、顔引っぱたいてさっさとみんなに謝らせに行かせるよ、私は」

有咲「んでさ、奥沢さんにとってハロハピって、つまんねー意地で捨てられる場所なの?」

美咲「あたしは……」

有咲「うん」

美咲「…………」

有咲「…………」

美咲「うん……無理だ。失くしたくないや」

有咲「ならどうすればいいかもう決まったな。どっかの最低なアホに感謝しとけよ」

美咲「うん。ありがとう、市ヶ谷さん」

有咲「まぁ……別に? 友達の悩みを聞くくらい私だってやぶさかじゃないし?」

美咲「……そっちじゃないんだけどね、お礼を言ったの」

有咲「なんか言ったか」

美咲「ううん、何も。本当にありがとう、市ヶ谷さん」

有咲「ん」

124: 2018/08/19(日) 13:01:29.01 ID:L7rMXKsm0

――pipipipi...

美咲「あれ、花音さんから電話……」

有咲「渡りに船ってやつじゃねーの? 私はこのあと用事あるから、もう行くよ」

美咲「分かった。話、聞いてくれてありがとね、市ヶ谷さん」

有咲「はいよ。そんじゃ」

美咲「うん」

美咲「…………」

美咲「……よし」ピッ

美咲「もしもし、花音さん。ちょうどよかった、今みんな、どこにいます?」


……………………

125: 2018/08/19(日) 13:02:09.07 ID:L7rMXKsm0

こころ「けど、美咲は来てくれるかしら?」

薫「大丈夫。必ず来てくれるさ。その為に花音が勇気を出してきっかけを作ってくれたんだからね」

薫「花音とはぐみもすぐに戻ってくるさ」

薫「シェイクスピアもこう言っている。運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのだ……と」

薫「だから安心してほしい」

こころ「そう! 薫がそう言うのなら安心ね!」

こころ「のんびり待っていましょう!」

薫(花音、はぐみ、美咲……私は信じているよ)


……………………

126: 2018/08/19(日) 13:02:36.93 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「みーくん、なんだって!?」

花音「う、うん! みんなと話したいから、こころちゃんのお家まで来てくれるって……!」

はぐみ「ほんと!? やったー! やっぱりみーくんもハロハピのことが大好きなんだね!」

花音「うん……よかった……」

はぐみ「よーし、そしたらはぐみたちも早く戻らなきゃ!」

花音「そうだね。急ごう」

花音(美咲ちゃん……きっと、いつものみんなになれるよね……?)


……………………

127: 2018/08/19(日) 13:03:09.04 ID:L7rMXKsm0

美咲「はぁ、はぁ……あーきっつー……」

美咲「流石にミッシェルの時よりは動きやすいけど……ミッシェルのおかげで体力はついたけど……」

美咲「こころの家まで走っていくのはキツいなぁ……」

美咲(けど、急がなくちゃ。もう遅いかもだけど、このまま全部が終わっちゃったら絶対後悔してもしきれないし……)

美咲(あーホント、セイシュン大好きだなぁあたしってば……!)


…………………

128: 2018/08/19(日) 13:03:59.07 ID:L7rMXKsm0

――バァン!

こころ「あら?」

薫「……ふふ」

こころ「おかえり、花音、はぐみ!」

はぐみ「ただいま、こころん!」

花音「は、はぐみちゃん……足速すぎだよぉ……はぁ、はぁ……」

はぐみ「あ、ごめんねかのちゃん先輩。みーくんが来てくれるって思ったら嬉しくって」

こころ「美咲が来てくれるの?」

はぐみ「うん! さっき電話してね、そしたらこころんの家まで来てくれるって!」

こころ「そうなのね! 本当に薫の言った通りになったわ!」

薫「ふふ、言ったろう? みんなの気持ちは1つなんだと」

薫「さぁ、あとは……おや、噂をすれば影が差す……だね」

美咲「あー、ドア開いてる……よかったぁ、いつもの部屋だった……」


129: 2018/08/19(日) 13:05:20.35 ID:L7rMXKsm0



こころ「ようこそ、美咲! なんだか久しぶりね、こうやってみんなが揃うの!」

美咲(ハロハピ会議をするいつもの部屋に辿り着くと、こころがいの一番に口を開く)

美咲(部屋に入ってすぐのところで何故かバテていた花音さんは安心したような顔をして、いつもの席に座った)

美咲「……そう、だね」

美咲(あたしもそれに続いて、いつもあたしが腰かける席へ向かいながら、こころに曖昧な返事をした)

美咲(そして椅子に腰を下ろして、自分の気持ちをどう口にしたものかと考える)

美咲(市ヶ谷さんに背中を押されて衝動的にここまで走ってきちゃったから、言いたいことや言わなきゃいけないことが全然整理出来ていなかった)

美咲(やれやれ、なんてわざとらしく息を吐きながら、室内を見回す)

美咲(まず最初にキラキラした顔をしているはぐみと目が合って、視線を横にずらすとしたり顔の薫さんに頷かれた)

美咲(ああ、まぁ、つまりそういうこと、なんだろうなー……なんて、2人の表情を見て思う)

美咲「えっと、みんな……その、1週間も活動サボってごめん」

美咲(だからあたしは、特に何も考えないで思ったことを口にすることにした)

130: 2018/08/19(日) 13:06:27.27 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「ううん! みーくんが元気そうでよかったよ!」

薫「その通りさ。ところで、美咲。ミッシェルは今日は来れないのかい?」

美咲「あーごめんなさい。お盆に実家に帰省するから、その準備で忙しいみたいです」

花音「お盆に帰省……」

こころ「そうなの? それなら仕方ないわね!」

薫「残念だね……でも、美咲が来てくれただけでも重畳なことだよ。ありがとう、美咲」

美咲「いえいえ……ここに顔を出せなかったのは、あたしが勝手に拗ねてたっていうか、意地張って最低のバカになってただけなんで……」

こころ「最低のバカ?」

美咲「……そう。どっかのツンデレチョロインさんに背中を押されないと動けない最低のバカになってただけ」

美咲「だから、ごめん。特に花音さんにはすごい心配かけたみたいで……本当にごめんなさい」

花音「ううん、大丈夫だよ」

美咲「そう言ってくれると助かります」

こころ「そうだ! あたし、美咲に聞きたいことがあったの!」

美咲「なに、こころ?」

131: 2018/08/19(日) 13:08:01.16 ID:L7rMXKsm0

こころ「美咲のホントの気持ちよ! 美咲がここに来れないのは、あたしはお腹が痛いのかしら、って思ってたんだけど、みんなは絶対違うっていうから気になってたの!」

こころ「あ、でも今、拗ねていたり意地を張っていたって言っていたわね? それってどういうことかしら?」

美咲「それは……ごほん!」

美咲(あたしは大きく咳ばらいをする。これから言うことは、本当にあたしが人生で真面目に発することなんて絶対にないと思っていた言葉だ)

美咲(噛むわけにも裏返る訳にも、照れに負けて曖昧に言うことも許されない)

美咲(自分に気合を入れて、大きく息を吸う。そして口を開く)

美咲「あたしは、こころのことが大好きだからだよ」

こころ「大好き?」

美咲「そう。もちろんこころだけじゃない。花音さんも、薫さんも、はぐみも……あと一応ミッシェルも……『ハロー、ハッピーワールド!』が大好きなんだ」

花音「み、美咲ちゃん……」

薫「ふふ、私もみんなのことが好きさ」

はぐみ「うん! はぐみもだーい好きだよ!」

美咲「だから、だからね、こころ?」

美咲「こころがあたしたちの元から遠くに行っちゃうのが嫌なんだ。簡単に会えなくなるのが本当に寂しくて、嫌なんだ」

美咲「こころにとってはすぐそこで、たった1年のことかもしれないけど……あたしにとってのそれは、今生の別れにも思えるくらい……辛くて寂しいことなんだ」

美咲「それなのにこころは何にも悩まず、みんなに相談もしないで決めちゃうから……こころにとってハロハピって、そんなに軽いものなのかなって……裏切られた気持ちになっちゃったんだ」

美咲「世界を笑顔にするどころか、自分自身が笑顔にもなれなくなっちゃうんだ」

美咲「……これがあたしのホントの気持ち」

こころ「美咲……」

132: 2018/08/19(日) 13:08:29.54 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「はぐみも同じ気持ちなんだよ、こころん」

はぐみ「こころんが遠くに行っちゃうのはしょうがないよ。もう決まったことだもん」

はぐみ「でも……こころんが寂しくなさそうなのがね? すっごく寂しいんだ……」

花音「こころちゃん、私も美咲ちゃんと同じ気持ちなんだ」

花音「さっきも言ったけどね、こころちゃんには簡単なことでも、私たちにはすっごく難しいことがあるの」

花音「それを……分かって欲しいんだ」

こころ「はぐみに花音も……」

薫「こころ。私の言った通りだったろう?」

薫「美咲も、はぐみも、花音も、もちろん私も……みんな同じ気持ちなんだ。ただ、こころだけが違う気持ちでいる」

薫「それがたまらなく……寂しいんだ」

こころ「薫……」

133: 2018/08/19(日) 13:08:59.89 ID:L7rMXKsm0

美咲「だから、こころ。みんなの気持ちを少しだけでもいいから汲んで欲しいんだ」

美咲「じゃなきゃ……きっとこころがいなくなってすぐに、ハロハピはハロハピじゃなくなっちゃうよ」

美咲「あたしはそれが一番嫌なんだ」

こころ「…………」

美咲「こころ」

花音「こころちゃん」

はぐみ「こころん!」

薫「こころ……」

こころ「……みんなの気持ちは分かったわ! あたしもみんなが大好きで、ハロハピが大好きだもの!」

美咲「こころ……! それじゃあ……!」

こころ「ええ!」

134: 2018/08/19(日) 13:09:25.97 ID:L7rMXKsm0


こころ「あたし、フランスに行くのやめにするわね!」


135: 2018/08/19(日) 13:09:54.95 ID:L7rMXKsm0

美咲「…………」

花音「…………」

はぐみ「…………」

薫「…………」

美咲「……え? こころ、今なんて?」

136: 2018/08/19(日) 13:10:39.12 ID:L7rMXKsm0

こころ「だから、フランスに行くのはやめるわ! だって、あたしがフランスに行ったらハロハピがなくなってしまうかもしれないんでしょう? そんなの嫌だもの!」

はぐみ「えっと、こころん。お父さんの言うこと聞かないでヘーキなの?」

こころ「ええ、問題ないわ!」

花音「え、で、でも……お家の関係っていうか、お父さんの仕事の関係で行くんじゃ……」

こころ「いいえ、そんなことはないわよ?」

薫「しかし、こころ……フランスにはお父様が行きなさいと言ったと……」

こころ「ああ、それね! それは……」


137: 2018/08/19(日) 13:11:50.15 ID:L7rMXKsm0


―こころの回想―

こころ「ねぇねぇお父様。もっともーっと世界を笑顔にするためにはどうすればいいのかしら?」

こころパパ「そうだねぇ。自分の目で世界中を見てみるのがいいんじゃないかな?」

パパ「世界のことを知らなければ、笑顔にだってしづらいだろう?」

こころ「なるほど! それはいいアイデアね!」

パパ「ふふ、そうかい?」

こころ「流石お父様! とってもクールよ!」

パパ「ハハハ、そんなに褒められたら照れるよ。まったく、こころちゃんはいつも可愛いなぁ。あ、そうだ!」

こころ「どうしたの?」

パパ「パパの知り合いがね、フランスの学校の理事長をやってるんだ。世界のことを見て回りたいならまずそこへ行きなさい。パパがいつでも話をつけてあげるから!」

こころ「本当!? ありがとう、お父様!」

パパ「ところでこころちゃん」

こころ「なぁに?」

パパ「パパのこと、パパって呼んでみない?」

こころ「……? お父様はお父様よ?」

パパ「あーもう、こころちゃんのいけず。でもそんなところも可愛い! こころちゃん可愛い!」ナデナデナデナデ

こころ「きゃーっ、くすぐったいわ、お父様!」


―回想おわり―


138: 2018/08/19(日) 13:12:50.42 ID:L7rMXKsm0

こころ「……ということがあったのよ!」

はぐみ「うーんと……」

美咲「ということは、これは……」

花音「私たちの勘違いと……取り越し苦労……?」

薫「つまり……そういうこと、だね……」

美咲「……はあぁぁ~……」

美咲(全身からドッと力が抜けていくのが実感できた)

美咲(今さらながらに学校からここまで走り続けた足が痛くなってくる。明日はきっと筋肉痛だなぁアハハハハ……)

花音「ぅぅぅ……勘違いであんなこと言っちゃった……」

美咲(花音さんは真っ赤になって椅子の上で縮こまってて……)

はぐみ「じゃあじゃあ、こころんは転校しないんだ!? やったー!!」

美咲(はぐみは素直に飛び跳ねて喜んでて……)

薫「まぁ……過ぎた悲劇は喜劇的であるという説もあるからね。今日はこころが遠くに行かないことを喜ぼう」

美咲(薫さんは澄まし顔でわけ分かんないこと呟いてて……)

こころ「よく分からないけど、みんなが楽しそうであたしも嬉しいわ!」

美咲(……当のこころはいつもとなーんにも変わらない笑顔でいるのだった)

美咲(なんだよそれ……)

139: 2018/08/19(日) 13:13:39.80 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「わーい! こころん、こころーん!」ギュッ

こころ「あら、ダンスがしたいのかしら? いいわよ! 踊りましょう、はぐみ!」

花音「うぅ……」

薫「花音、そう落ち込むことはないさ。シェイクスピアもこう言っている。『所詮は人間、いかに優れた者でも時には我を忘れます』と」

美咲(喜び合って踊るこころとはぐみ、落ち込む花音さんを励ましてるつもりだろう薫さん)

美咲(そんな4人の姿を見ながら、思う)

美咲(こころのためにお屋敷を改造して怪盗ごっこをしたり、黒服を常に側につかせてとんでもない願いでも全部叶えちゃう、弦巻財閥のトップにしてこころのお父さん)

美咲(考えてみれば……そんな人がこころに無理強いしたりなんかする訳ないじゃん……)

美咲(なのにあたしはあんな……『セイシュン、感じちゃってます!』なんてことを……)

美咲「あーもうっ! それもこれもこころの言葉選びが悪いせいだぁ!!」

こころ「あら、今日の美咲はとっても元気なのね! やっぱり久しぶりに5人になれたから嬉しいのね!」

美咲「違うよ! もう、ホント、こころはもう少し人の気持ちを考えられる人になってよ!」

こころ「考える? って言われても、美咲は美咲だし、あたしはあたしじゃない? 1人1人みんな違うからこそ、世界はこーんなに楽しいんだから!」

美咲「はぁぁ……そういう話じゃないのに……」

こころ「あ、そうだ、美咲!」

美咲「今度はなんですか……」

こころ「あたしも美咲のこと、とってもだーい好きよ!」

美咲「えっ」

140: 2018/08/19(日) 13:14:40.13 ID:L7rMXKsm0

はぐみ「こころんこころん、はぐみは?」

こころ「もちろん大好きよ! 花音も薫もミッシェルも、みーんな大好き!」

薫「ふふ……私もだよ、こころ」

花音「あ、う、うん……私も」

こころ「やっぱり世界を笑顔にするためにはあたし1人じゃ駄目ね! みんなといる方がずっと素敵で、笑顔になれるもの!」

美咲「あー……うん、まぁ……そうだね」

美咲(……まぁ、色んな勘違いが重なってこんなことになっちゃったけど……)

美咲(これはこれでいい、のかなぁ?)

こころ「そうだ! いいことを思い付いたわ!」

花音「ど、どうしたの、こころちゃん」

こころ「あたし1人じゃなくて、みんなで行けばいいんだわ!」

薫「と、言うと?」

こころ「ほら、もうすぐ夏休みじゃない! だからみんなで世界中を飛び回って、世界を笑顔にする旅をすればいいんだわ!」

はぐみ「おお! すっごく楽しそうだね!」

こころ「どうしてこんな素敵な考えに気付かなかったのかしら! 早速お父様にお願いしてみるわね!」

美咲「ちょ、待って待って! それ、かなり長い旅行になるでしょ! ちゃんとみんなの予定を合わせてからしっかり日程を決めないと……」

141: 2018/08/19(日) 13:15:25.18 ID:L7rMXKsm0

こころ「大丈夫よ!」

美咲(いつもと変わらずキラキラした瞳で、こころはそう言い切る)

美咲(何が大丈夫なのか、そもそも世界中を笑顔にするってどうするつもりなのか、色々と言いたいことはある……けど)

美咲「…………」

美咲(こうなったら何を言っても絶対無駄だし、そもそも、あたし自身がそれをとても楽しそうだな、なんて思っちゃってるワケであって)

美咲「……まぁいっか」

美咲(相変わらず空気を読まないパワフルでピュアでハッピーなこころ)

美咲(そんなこころと合わせてとんでもないことをしだしたり言い出したりする薫さんとはぐみ)

美咲(それに一緒に振り回されて、苦労を分かち合える花音さん)

美咲(そんなみんなが……あたしは大好きなワケだし)

こころ「今年の夏は楽しそうなことがたーっくさん起こりそうね!」

はぐみ「だね! ミッシェルも来れるかなぁ?」

薫「ふふ……来れるに決まっているさ」

美咲(いつも通りにはしゃぎ始めた3人)

花音「み、美咲ちゃん……旅行中も一人二役で大変そうだね……」

美咲(いつも通りあたしを心配してくれる花音さん)

美咲「まぁ、もう慣れましたし……あたしも、好きでやってますから」

美咲(そしてほんのちょっとだけ素直なあたし)

美咲(……こんな『ハロー、ハッピーワールド!』もあたしは大好きなんだから)

142: 2018/08/19(日) 13:16:15.50 ID:L7rMXKsm0

こころ「ほら、美咲と花音もこっちに来て、旅行のことを考えましょう!」

花音「う、うん!」

美咲「はぁ……。はいはい、行きますよ~」

薫「ここはやはりミッシェルの為にサプライズを――」

はぐみ「あ、いいね! 海の上でバトルしたり――」

美咲「ちょ、何をやらせるつもりなの――」

花音「が、頑張ってね、美咲ちゃん――」

こころ「やっぱりみんながいると、とっても楽しいわね!」



そして件の旅行中、弦巻財閥によって秘密裏に開発されたアンドロイド『ミッシェルM型2号(通称M2)』とミッシェルin美咲が、どちらがハロハピにふさわしいかを賭してバトルすることになるのでしたとさ


もしも弦巻こころがサイコパスだったら おわり

143: 2018/08/19(日) 13:17:16.23 ID:L7rMXKsm0
言うほどサイコパスでもなんでもないし
言うほど安価スレでもなかったなぁという自責の念が強くありますが、お付き合い頂きまして誠にありがとうございました。

144: 2018/08/19(日) 13:18:59.38 ID:dcwZNQGbo
おもしろかった

引用: 【バンドリ安価】戸山香澄「たられば」