145: 2018/08/19(日) 13:21:57.21 ID:L7rMXKsm0
戸山香澄「たられば」
※小説版のネタバレが少しあります
146: 2018/08/19(日) 13:22:27.51 ID:L7rMXKsm0
「たられば?」
「そう。もしも自分が生まれ変われるならどうなりたい?」
「ベンケー殿、藪から棒にどうした」
「昨日テレビでそんな番組があったのよ」
「生まれ変われるならっすか……」
「それなら私、定時じゃなくて普通の時間に学校に通いたいな。豹変するクラベン系有咲ちゃん、生で見てみたいよ」
「残念、今は別にそんなでもないから」
「……そうかなぁ」
「かすみん? あんたも人のことあんま言えないからね?」
「ま、前よりはマシになった……と思うから……」
「でも確かに1人だけ違う時間って寂しいっすよね。自分にはその気持ちがよく分かるっす」
「うさぎ殿だけクラスが離れ離れだもんな」
「っす。毎朝寂しいっす……」
「だからって今生の別れみたいなこと毎朝やらないでよ……」
「ベンケー殿は薄情者だ」
「うるさいエセニンジャ」
「あはは、やっぱり楽しそう。もしも生まれ変われるなら、やっぱり私もみんなと同じクラスで同じ時間に授業が受けたいな」
「うん。わたしも沙綾ちゃんと一緒に勉強したいな」
「そしたら机のやり取りじゃなくて、普通に香澄ちゃんに声かけるよ」
「うんっ。また初めての友達になってね」
147: 2018/08/19(日) 13:23:02.44 ID:L7rMXKsm0
「はぁぁ……自分も生まれ変わってみなさんと同じクラスになりたいっす」
「しかしうさぎ殿は進級でクラスが同じになる可能性もあるのではないか」
「あ、言われてみれば」
「じゃあ他のたらればね」
「え、えっと……それじゃあ、何事にも動じない人間になりたいっす」
「例えば?」
「こう……自分の芯をしっかり持って、好きなものは好きだとハッキリ言える人間、っすかね」
「たえちゃんがそういう人間……」
「想像が出来ないわ」
「それ……分かる」
「流石かすみんセンパイ……やっぱりセンパイは自分の良き理解者っす」
「その良き理解者が自分と同類だと知った瞬間のうさぎ殿がこちら」カチ
『ええええっ! そうなんすか? こっちがホント? マジで!? そうなの? ねえ、そうなの? かすみん』
「え、ちょっ……」
『元気だしてってば、かすみん! きっといい返事があるって。めそめそすんなって!』
「ニンジャセンパイ、いつ録ってたんですかこれ!?」
「これぞタンバ流ニンジュツのシンズイ……」
「確かに芯がぶれっぶれだわ」
「へぇー、たえちゃんってこうやって喋る時もあるんだ」
「あ、あああの、これはなんと言いますか、ついテンションがサンダーボルトだったというか……ごめんなさい、かすみんセンパイほんとごめんなさい、反省してます、ごめんなさい」
「え、えっと、わたしはあの時、励ましてくれて嬉しかったよ」
「か、かすみんセンパイ……! やっぱりセンパイは自分の最大の理解者っす!」
148: 2018/08/19(日) 13:23:38.87 ID:L7rMXKsm0
「まぁ……おたえのそれは正真正銘生まれ変わらないと治らないわね」
「せっかくの美形がもったいない。うちのように泰然としてればいいのに」
「そういうりみちゃんはないの? 生まれ変われるなら、って」
「うちにはない。うちは何度生まれ変わろうと師匠と出会って、日本一のバンドに入ってん本一の仲間たちを支え続ける」
「りみりん……」
「だからガマガエルの親分はうちが倒すねんよ。みんなは安心しててなー」
「意味分からない。りみはホント、今すぐにでも生まれ変わって、そういうヘンテコなとこがなくなった謙虚で可愛げのある女の子になればいいのに」
「失礼な。うちは今でもキュートでパーフェクトなピンク色の女子高生である。ヒキコモリのクラベン系女子とは違うのだよ」
「もうヒキコモリじゃありませーん」
「ではここで半年前のベンケー殿を振り返って頂こう」カチ
『うるさいわね。別に怖くないわよ。あたしは自分の属性のフィールドにいないと能力が制限されるのよ』
「ちょ、なんで録って……!」
『あたしはただ、周りにこんなにJKがいるなんて、ギャルゲーみたいだなって緊張してるだけよ』
「すっごいか細い声だねえ」
「これが学校でのベンケー殿の標準なのであった」
「へぇ~」
「この時の有咲ちゃん、小動物みたいで可愛かったなぁ」
「~~っ!」
「有咲センパイ、顔真っ赤っすね。でも恥じることなんてないっすよ、自分がついてるっすから」
「そうだよ有咲ちゃん。わたしもいるから」
「フォローになってないわよ、それ!」
149: 2018/08/19(日) 13:24:12.60 ID:L7rMXKsm0
「まぁまぁ。ベンケー殿、そのうちいい事が起こるだろうさ」
「あんたがそれを言うか!」
「それで、有咲ちゃんは生まれ変われるならどうしたい?」
「えっ。えーっと……あたしは……」
「言い辛いことなんすか? ま、まさか、かすみんセンパイを独り占めして手籠めにしたいとか……」
「え、そ、そうなの……?」
「ち、違うわよ! どうしてそんな方向に行っちゃうのよ!」
「だって……あの公園の叱咤って半分告白だったじゃないっすか」
「確かに」
「え、なにそれ?」
「うむ。獅子メタル殿をバンドに登用する際にな、『どんなかすみんでもあたしは大大だーい好き! でも可愛い可愛いかすみんの為にも心を鬼にして怒らなきゃ』ってことがあったのだ」
「……へぇ~」
「ちょ、違う! 違うから! 沙綾、なんであたしから距離取るの!?」
「ううん、なんでもないから気にしないで。それよりなんかごめんね? 私のせいで大好きな香澄ちゃんを叱るようなことにしちゃって」
「やめて、その気の遣い方ほんとやめて! 違うから! そういうんじゃないから!」
「…………」
「あ、かすみんセンパイがなんか打ちひしがれてるっす」
「『有咲ちゃん、そこまで否定するってことは……』とネガティブ師匠になってそうだな」
「えっ!? い、いや、そんなことないからね!? あたしは生まれ変わりたくないくらい今が好きだからね? それもこれも全部かすみんのおかげだし、嫌いじゃないわよ? むしろ、その……ね?」
「有咲ちゃん……」
「感謝してるっていうか、ね? みんなに出会えたのもかすみんのおかげだし、生まれ変わったらかすみんと同じクラスで授業を受けることもなくなっちゃうかもだし……ね?」
「うん……わたしも有咲ちゃんと同じクラスで幸せだよ……!」
「……やっぱり有咲ちゃんて……」
「自分たちには入り込めない空気っすね……」
「待て。うちも師匠とベンケー殿と同じクラスだ。何故除外されている」
150: 2018/08/19(日) 13:24:44.65 ID:L7rMXKsm0
「それで、かすみんはどうなの? もしも生まれ変われるなら、どうなりたい?」
「わたし……わたしは……うーん」
「あ、かすみんセンパイ、ランダムスターどうぞ」
「……うん、わたし、もっと明るい女の子になりたい!」
「……おたえも最近、かすみんの扱いに慣れてきたわね」
「いやぁ恐縮っす」
「ほんとに人が変わるよね、ギター装備すると」
「歌が好きだって胸を張って言って、それで、またみんなと出会って、キラキラしてる夢を撃ち抜くんだ!」
「普段もこれくらいハキハキ元気よく喋ればいいのにねぇ」
「そうなったらそうなったで『少しは落ち着きを持て』とベンケー殿は言いそうだ」
「あー……目に浮かぶっす。自分も常時キマッてるかすみんセンパイがいると大変そうだなぁって思うっす」
「あはは、この香澄ちゃんなら誰とでもすぐに友達になれそう」
「それでね、可愛くて元気で前向きな、みんなに勇気を届けるロックなヒロインになりたい! ぎゅいーんってして、ぎゅーんってなって、ばばーんってキメるんだ!」
「うん、まぁ中間くらいのかすみんが見てみたいかな」
「程よく元気で程よく大人しい香澄ちゃん……」
「かすみんセンパイぽくないっすね、それ」
「うむ。突き抜けていた方が師匠らしい」
151: 2018/08/19(日) 13:25:23.16 ID:L7rMXKsm0
「あ、そうだ! 今日は次のライブのこと決めるんだったよね! えへへ、そしたら新しい曲、やりたいな! もう大体のイメージは出来てるんだ!」
「へぇ、いいんじゃないかしら」
「どんな曲なの?」
「うん、えっとね、あふれる意思と勇気の歌! 始まりの歌! 青春の歌でもあって、わたしもこうなりたかったって歌!」
「イメージ出来るような、出来ないような……」
「ドントシンクフィール! 聞けばきっと分かるよ!」
「一理ある。音楽とは元来そういうものだ」
「夢は夢じゃないと歌う旅~♪」
「あー分かった分かった、あとで聞くわよ。それより先に決めることがあるでしょう」
「決めること……報酬(ギャラ)の分配率だな」
「全然違うっす。ライブ、どこでやるかってことっす」
「うん。それとセトリもね。新曲をどこで使うかとか決めないと」
「知ってた!」
「みんな色の奇跡だ!」
「かすみん、1回ギターを装備から外そうか」
「ライブハウスはこの近辺だとどこがいいんすかね」
「あ、それならガールズバンドの聖地って呼ばれてるところがあって……」
「リボンを緩めたらミュージックのスタート♪」
「あー……やっぱりかすみんはいつものかすみんの方がいいや……。いやでもあんまりネガティブなのも……うーん……」
「無い物ねだりの尽きないタワゴト、というものだな、その悩みは」
おわり
152: 2018/08/19(日) 13:27:11.59 ID:L7rMXKsm0
下記の楽曲を参考にしました
amazarashi 『たられば』
https://youtu.be/QuJBdDS3dOM
今さらですが小説版を読みました。とても面白かったです。
そしてこんな話を書きたくなったがためにスレを立てたのが正直な話です。
お粗末な話ばかりでしたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
HTML化依頼出してきます。
153: 2018/08/19(日) 14:23:30.58 ID:o54TH5KN0
乙
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