424: 2011/04/24(日) 09:40:45.16 ID:8nBMcSTDO
【けいおん】聡「刻を越えて」【前編】
タイムマシンはしばらくタイムトンネル内を進んだあと、目的の2032年に到着した。
聡美「懐かしいな……」
2032年、もはや琴吹グループが国を動かしてると言ってもいいような時代。
その辺の店や、そこに建っている家、さらには軽い病気なら治せる特殊な音波を出せる機能がついた携帯電話も全て琴吹グループ製だ。
俺達は、琴吹グループ本社へと、足を進めていった――
425: 2011/04/24(日) 10:00:25.84 ID:8nBMcSTDO
琴吹グループ本社の前に着く。相変わらず凄いなこの建物は。
中に入ると、斉藤さん(息子の方)が俺達の身元を確認したあと、ムギさん――琴吹グループ現社長のもとへと案内してくれた。
俺達は一つのかなり豪華な扉の前に立つ。
扉には、ホログラムで「社長室」と書いてあった。
扉の上のモニターに、ムギさんがうつる。
30代になっても変わらないなムギさん……美しい。
扉のロックが外れ、扉が開く。
紬「久しぶりね……聡くん」
聡美「ご無沙汰してます、ムギさん」
ムギさんは放課後ティータイム解散後、まさに超エリートという感じの道を進んでいった。
ただし、放課後ティータイム時代のような好奇心旺盛な雰囲気は消え去っていた。
簡単に言えば、この世界の全てがつまらなそうな様子だった。
紬「今回聡くんを呼んだのは、私達琴吹グループが極秘に開発したとあるものを渡すためよ」
極秘に開発した……だと?
一体ムギさんは何を……?
ムギさんがボタンを押すと、後ろの扉から秘書らしき人が現れた。
その人物は……
聡美「み、澪姉!?」
澪「久しぶりだな、聡」
見間違えるはずがない、黒髪ロングのつり目の美人。
俺の幼なじみが、そこに立っていた。
中に入ると、斉藤さん(息子の方)が俺達の身元を確認したあと、ムギさん――琴吹グループ現社長のもとへと案内してくれた。
俺達は一つのかなり豪華な扉の前に立つ。
扉には、ホログラムで「社長室」と書いてあった。
扉の上のモニターに、ムギさんがうつる。
30代になっても変わらないなムギさん……美しい。
扉のロックが外れ、扉が開く。
紬「久しぶりね……聡くん」
聡美「ご無沙汰してます、ムギさん」
ムギさんは放課後ティータイム解散後、まさに超エリートという感じの道を進んでいった。
ただし、放課後ティータイム時代のような好奇心旺盛な雰囲気は消え去っていた。
簡単に言えば、この世界の全てがつまらなそうな様子だった。
紬「今回聡くんを呼んだのは、私達琴吹グループが極秘に開発したとあるものを渡すためよ」
極秘に開発した……だと?
一体ムギさんは何を……?
ムギさんがボタンを押すと、後ろの扉から秘書らしき人が現れた。
その人物は……
聡美「み、澪姉!?」
澪「久しぶりだな、聡」
見間違えるはずがない、黒髪ロングのつり目の美人。
俺の幼なじみが、そこに立っていた。
426: 2011/04/24(日) 10:22:02.70 ID:8nBMcSTDO
澪姉だけ行方が分からなかったが、そういうこと、だったのか……
紬「澪ちゃん、アレを」
澪「ああ」
澪姉が腕時計を見せる。
……え?腕時計?
俺達がポカンとしていると、澪姉が腕時計を近くで見せる。
なんか、腕時計にしては少し大きいな……
そう思っていると、澪姉が腕時計の横のボタンを押す。
するとどうだろう。何か出てきた。
えっと……
タイナカリツ 2010/03/31 PM1:44 D
まさかこれ……
紬「そう……これは登録した人の氏のタイミングが分かる腕時計なの」
というか……どんだけ凄いんだよ琴吹グループ……まぁ、俺も人のこと言えないんだけどね。
紬「澪ちゃん、アレを」
澪「ああ」
澪姉が腕時計を見せる。
……え?腕時計?
俺達がポカンとしていると、澪姉が腕時計を近くで見せる。
なんか、腕時計にしては少し大きいな……
そう思っていると、澪姉が腕時計の横のボタンを押す。
するとどうだろう。何か出てきた。
えっと……
タイナカリツ 2010/03/31 PM1:44 D
まさかこれ……
紬「そう……これは登録した人の氏のタイミングが分かる腕時計なの」
というか……どんだけ凄いんだよ琴吹グループ……まぁ、俺も人のこと言えないんだけどね。
427: 2011/04/24(日) 10:37:05.63 ID:8nBMcSTDO
聡美「これを俺にくれるんですか?」
紬「ええ。ただし、条件があるわ」
聡美「なんですか?」
紬「りっちゃんを助けて。放課後ティータイムを解散させないで。それが条件よ」
聡美「分かってます」
紬「ありがとう。じゃあ、使い方を説明するわね」
ムギさんによると、誰かを登録するには、その人の遺伝子をこの腕時計に登録する必要があるらしい。
血でも毛でも何でもいいらしい。
ちなみにこの時計、電池は切れないらしい。
氏のタイミングが近づくと、振動するらしい。
完全防水で、ロックをかければあとは何があっても外れないらしい。
使用されているのはコトブキングという金属で、まず壊れないらしい。
あと、サイズ自動調整機能つき。
それにしても、凄いな……
さすがは琴吹グループだ。
俺はムギさんから腕時計を受けとると、早速腕にはめてロックをかけた。
紬「ええ。ただし、条件があるわ」
聡美「なんですか?」
紬「りっちゃんを助けて。放課後ティータイムを解散させないで。それが条件よ」
聡美「分かってます」
紬「ありがとう。じゃあ、使い方を説明するわね」
ムギさんによると、誰かを登録するには、その人の遺伝子をこの腕時計に登録する必要があるらしい。
血でも毛でも何でもいいらしい。
ちなみにこの時計、電池は切れないらしい。
氏のタイミングが近づくと、振動するらしい。
完全防水で、ロックをかければあとは何があっても外れないらしい。
使用されているのはコトブキングという金属で、まず壊れないらしい。
あと、サイズ自動調整機能つき。
それにしても、凄いな……
さすがは琴吹グループだ。
俺はムギさんから腕時計を受けとると、早速腕にはめてロックをかけた。
428: 2011/04/24(日) 10:47:07.28 ID:8nBMcSTDO
すると皆が赤い液体が入ったカプセルを出す。
それには、俺達の関係者の名前が書かれていた。
なるほど……だから皆ついてきたのか。
俺達の関係者を全員登録した。
紬「これでいいわね。じゃあ、早く戻りなさい。元の時代に」
唯さんと梓さんと憂さんがうなずき、部屋を出る。
俺も部屋から出ようとすると、ムギさんに呼び止められた。
紬「いざとなったら、ロックを外して、タイミング表示の裏側のボタンを押しなさい」
あぁ……これね。
聡美「分かりました……では」
俺はそう言うと、社長室をあとにした――
それには、俺達の関係者の名前が書かれていた。
なるほど……だから皆ついてきたのか。
俺達の関係者を全員登録した。
紬「これでいいわね。じゃあ、早く戻りなさい。元の時代に」
唯さんと梓さんと憂さんがうなずき、部屋を出る。
俺も部屋から出ようとすると、ムギさんに呼び止められた。
紬「いざとなったら、ロックを外して、タイミング表示の裏側のボタンを押しなさい」
あぁ……これね。
聡美「分かりました……では」
俺はそう言うと、社長室をあとにした――
429: 2011/04/24(日) 11:03:47.09 ID:8nBMcSTDO
俺達は琴吹グループ本社をあとにする。
タイムマシンは、ロックをかけておいたので、盗まれてはいなかった。
まぁ、144桁の暗号を百四十四重にかけておいたから、そう簡単には解けないだろう。
4115299444100044444*4115234444433と。
ロックが解除され、皆が乗る。
最後に俺が乗り、タイムトンネルを作り、俺達は刻を越えた――
?「……」
タイムマシンは、ロックをかけておいたので、盗まれてはいなかった。
まぁ、144桁の暗号を百四十四重にかけておいたから、そう簡単には解けないだろう。
4115299444100044444*4115234444433と。
ロックが解除され、皆が乗る。
最後に俺が乗り、タイムトンネルを作り、俺達は刻を越えた――
?「……」
434: 2011/04/30(土) 08:53:10.77 ID:BhJuYcdDO
タイムトンネルを抜け、俺達は戻ってきた。タイムマシンを唯さん達に任せ、俺は姉ちゃんのいる避難場所へ向かった。
避難場所に着くと、姉ちゃんが眠っていた。多分澪姉が寝かしたんだろう。
俺は澪姉に小さな声でお礼を言い、姉ちゃんの顔を見た。
すやすやと眠っている。こんなに幸せそうな顔をして……ズルいな、姉ちゃんは……
それから一週間後、余震も収まり、俺達は家に帰った。幸い今回の地震で氏んだ人はいなかったが、演芸大会は中止になった。唯さんと梓さんは、非常に残念そうな顔をしていた。
避難場所に着くと、姉ちゃんが眠っていた。多分澪姉が寝かしたんだろう。
俺は澪姉に小さな声でお礼を言い、姉ちゃんの顔を見た。
すやすやと眠っている。こんなに幸せそうな顔をして……ズルいな、姉ちゃんは……
それから一週間後、余震も収まり、俺達は家に帰った。幸い今回の地震で氏んだ人はいなかったが、演芸大会は中止になった。唯さんと梓さんは、非常に残念そうな顔をしていた。
435: 2011/04/30(土) 08:57:31.94 ID:BhJuYcdDO
では引き続き10話いきます
アニメデータが無いので、かなり手探り(勘)になります。
ではいきます
アニメデータが無いので、かなり手探り(勘)になります。
ではいきます
436: 2011/04/30(土) 09:06:56.22 ID:BhJuYcdDO
部室に着くと、なんか盛り上がっていた。どうやら、さわ子先生に彼氏ができたという疑いがあるらしい。まぁ、先生外見は美人だからなぁ……
その日の帰り、俺達は挙動不審なさわ子先生を見つけた。まさかマジなのか?
姉ちゃんと澪姉がまたじゃれあっていたが、いつもの光景なのでスルーしておこう。
そして誰かが来たと思ったら、女の人だった。
紬「女の人……」
いやいや、深読みしなくていいから……俺まで変な想像してしまったじゃないか……
その日の帰り、俺達は挙動不審なさわ子先生を見つけた。まさかマジなのか?
姉ちゃんと澪姉がまたじゃれあっていたが、いつもの光景なのでスルーしておこう。
そして誰かが来たと思ったら、女の人だった。
紬「女の人……」
いやいや、深読みしなくていいから……俺まで変な想像してしまったじゃないか……
437: 2011/04/30(土) 09:29:19.55 ID:BhJuYcdDO
俺達は、探偵のように先生と女の人を尾行した。
でも、先生の知り合いらしき人にはバレてるっぽいな。こっちをチラチラ見てくるし。
店を出たあと、女の人に見つかった。女の人はクリスティーナと名乗った。
昔の軽音部の写真と比べると……確かに面影は残ってるな。
近くのおでん屋で、紀美(本名らしい)さんと話した。
話の途中で、紀美さんは意味深い表情を浮かべたあと、衝撃の発言をした。
紀美「さわ子……結婚することになったんだ」
……
一同「ええーーっ!?」
でも、先生の知り合いらしき人にはバレてるっぽいな。こっちをチラチラ見てくるし。
店を出たあと、女の人に見つかった。女の人はクリスティーナと名乗った。
昔の軽音部の写真と比べると……確かに面影は残ってるな。
近くのおでん屋で、紀美(本名らしい)さんと話した。
話の途中で、紀美さんは意味深い表情を浮かべたあと、衝撃の発言をした。
紀美「さわ子……結婚することになったんだ」
……
一同「ええーーっ!?」
441: 2011/04/30(土) 21:27:38.66 ID:BhJuYcdDO
紀美「というのは冗談でっ」
ガクッ。
冗談ですか……ビックリした……
紀美さんの話によると、同級生が結婚することになり、式でバンド演奏するから、さわ子先生を説得しようとしていたらしい。
でも、さわ子先生は今はアレだし、丁重に断られたらしい。
まぁ、あの人の性格なら、挑発すればいいと思うけど……
紀美「あと、もし説得できなかったら、特訓が待ってると思いなさい」
おいおいちょっと待て。
OBの特訓とか……ヤバいだろ。実際経験したことあるから分かる。あれは地獄だった。
そのあと、俺達は紀美さんと別れ、自宅で各自どうするか考えた。
ガクッ。
冗談ですか……ビックリした……
紀美さんの話によると、同級生が結婚することになり、式でバンド演奏するから、さわ子先生を説得しようとしていたらしい。
でも、さわ子先生は今はアレだし、丁重に断られたらしい。
まぁ、あの人の性格なら、挑発すればいいと思うけど……
紀美「あと、もし説得できなかったら、特訓が待ってると思いなさい」
おいおいちょっと待て。
OBの特訓とか……ヤバいだろ。実際経験したことあるから分かる。あれは地獄だった。
そのあと、俺達は紀美さんと別れ、自宅で各自どうするか考えた。
442: 2011/04/30(土) 21:32:10.65 ID:BhJuYcdDO
次の日。
俺達は改めて、さわ子先生が変わったと実感した。
そのことを紀美さんに話すと、悲しげな表情で諦めたっぽい発言をした。
ちなみに特訓は冗談で、先生の代わりに演奏してくれと頼まれた。
適任は、唯さんか俺か。
絶対音感の唯さんと、準絶対音感の俺が、耳コピをすることになった。
俺達は改めて、さわ子先生が変わったと実感した。
そのことを紀美さんに話すと、悲しげな表情で諦めたっぽい発言をした。
ちなみに特訓は冗談で、先生の代わりに演奏してくれと頼まれた。
適任は、唯さんか俺か。
絶対音感の唯さんと、準絶対音感の俺が、耳コピをすることになった。
443: 2011/04/30(土) 21:41:39.87 ID:BhJuYcdDO
そして当日。
俺達は耳コピに成功したが、唯さんは間違えまくりなので、俺がすることになった。
思ったのだが、V系バンドなのかなデスデビルは。こんなメイクしたこと無いぞ……
そしていよいよ本番。
スゲー緊張するな……これ。
……待てよ。
聡美「唯さん、やっぱり貴女がやってください」
唯「えっ!? で、でも……」
聡美「俺に考えがあります。間違えてもいいです。いつものテンションでライブしてください」
唯「う、うん……」
唯さんのテンションなら、先生は挑発されるだろう。
そして、ライブが始まった。
俺達は耳コピに成功したが、唯さんは間違えまくりなので、俺がすることになった。
思ったのだが、V系バンドなのかなデスデビルは。こんなメイクしたこと無いぞ……
そしていよいよ本番。
スゲー緊張するな……これ。
……待てよ。
聡美「唯さん、やっぱり貴女がやってください」
唯「えっ!? で、でも……」
聡美「俺に考えがあります。間違えてもいいです。いつものテンションでライブしてください」
唯「う、うん……」
唯さんのテンションなら、先生は挑発されるだろう。
そして、ライブが始まった。
444: 2011/04/30(土) 21:52:01.19 ID:BhJuYcdDO
早速イントロで唯さんは間違えて、ノロノロトークが始まった。
俺は先生の方を見る。間違いない。あの人は目覚める。
俺はそう確信した。
唯さんのトーク中に、急に照明が消えた。
足音が聞こえる。さわ子先生だ。
先生がステージに跳ぶと同時に照明が点いた。なんというご都合展開。
さわ子「てめーら……デスデビルはこんな甘っちい音楽じゃ無え!!!」
さわ子先生が覚醒した。この人はもう止まらない。
ドラムの人がスティックを叩き、演奏が再スタートした。
やべえかっけえええ!!!
こんな人達がOBなのか……凄すぎる。
思わずノリノリになってしまう。この曲、なにかがある。
俺は先生の方を見る。間違いない。あの人は目覚める。
俺はそう確信した。
唯さんのトーク中に、急に照明が消えた。
足音が聞こえる。さわ子先生だ。
先生がステージに跳ぶと同時に照明が点いた。なんというご都合展開。
さわ子「てめーら……デスデビルはこんな甘っちい音楽じゃ無え!!!」
さわ子先生が覚醒した。この人はもう止まらない。
ドラムの人がスティックを叩き、演奏が再スタートした。
やべえかっけえええ!!!
こんな人達がOBなのか……凄すぎる。
思わずノリノリになってしまう。この曲、なにかがある。
445: 2011/04/30(土) 22:05:34.17 ID:BhJuYcdDO
演奏後、さわ子先生はやっと自分のしたことに気づいた。
今頃後悔しても遅いよ、先生。
次の日。
さわ子先生の人気は相変わらずだった。
まぁ、よかったな……いろいろと。
俺はふと腕時計を見る。
そこには……
タイナカサトシ 2009/06/26 PM6:28 D
な……に……?
今日、だと……!?
部活の帰り……か?こんなことしてる場合じゃない。
俺は先生に早退すると言い、急いで俺の中学へと向かった――
今頃後悔しても遅いよ、先生。
次の日。
さわ子先生の人気は相変わらずだった。
まぁ、よかったな……いろいろと。
俺はふと腕時計を見る。
そこには……
タイナカサトシ 2009/06/26 PM6:28 D
な……に……?
今日、だと……!?
部活の帰り……か?こんなことしてる場合じゃない。
俺は先生に早退すると言い、急いで俺の中学へと向かった――
446: 2011/04/30(土) 22:12:56.52 ID:BhJuYcdDO
俺に氏のタイミングが訪れる――
来るだろうとは思っていたが、まさか今日とは。
正確には、この時代の俺が氏ぬ。
もしそうなれば……俺は消える。そして、姉ちゃんを救えず、未練を残したまま終わる。
そして、未来は変わらず、姉ちゃんのいない、琴吹グループによる世界にたどり着く。
それだけは阻止しなければ。
約束、したのだから。
来るだろうとは思っていたが、まさか今日とは。
正確には、この時代の俺が氏ぬ。
もしそうなれば……俺は消える。そして、姉ちゃんを救えず、未練を残したまま終わる。
そして、未来は変わらず、姉ちゃんのいない、琴吹グループによる世界にたどり着く。
それだけは阻止しなければ。
約束、したのだから。
447: 2011/04/30(土) 22:23:12.33 ID:BhJuYcdDO
俺の中学に着く。
今の時間は……午後6時。ちょうど、部活が終わる頃だ。
校門から、この時代の俺達がやって来る。
聡美「聡くん」
聡「えっ、聡美さん!?」
新庄「あっ、聡美さん、こんばんは」
鈴木「ご無沙汰してます」
聡美「こんばんは。聡くん、姉ちゃんが早く帰って来いだって」
聡「! そうですか。鈴木、新庄、じゃあな!」
この時代の俺は、親友に別れを告げ、歩き出した。
今の時間は……午後6時。ちょうど、部活が終わる頃だ。
校門から、この時代の俺達がやって来る。
聡美「聡くん」
聡「えっ、聡美さん!?」
新庄「あっ、聡美さん、こんばんは」
鈴木「ご無沙汰してます」
聡美「こんばんは。聡くん、姉ちゃんが早く帰って来いだって」
聡「! そうですか。鈴木、新庄、じゃあな!」
この時代の俺は、親友に別れを告げ、歩き出した。
448: 2011/04/30(土) 22:34:31.53 ID:BhJuYcdDO
今の時間は、午後6時20分。
近くには、建設中のビルがある。なるほど……大体分かった。
あと8分か……その時。
ヒュー……
俺達が立っている所が暗くなる。俺はこの時代の俺を突き飛ばす。
ドオオォォン!!
聡美「はぁ……はぁ……」
聡「……」
この時代の俺は呆然としている。上から降ってきた鉄骨は、道を少し破壊していた。
俺はさらなる危険を感じ、この時代の俺を連れて、その場を立ち去った――
?「……ちっ……惜しかったなぁ……時間ずらしたのに……」
近くには、建設中のビルがある。なるほど……大体分かった。
あと8分か……その時。
ヒュー……
俺達が立っている所が暗くなる。俺はこの時代の俺を突き飛ばす。
ドオオォォン!!
聡美「はぁ……はぁ……」
聡「……」
この時代の俺は呆然としている。上から降ってきた鉄骨は、道を少し破壊していた。
俺はさらなる危険を感じ、この時代の俺を連れて、その場を立ち去った――
?「……ちっ……惜しかったなぁ……時間ずらしたのに……」
451: 2011/05/01(日) 12:26:42.98 ID:X07rjUCDO
……暑い。
やはり地球温暖化の影響か。
あっちでは、琴吹グループが温暖化の原因を突き止め、なんとか解決したからまだしも、こっちは絶賛温暖化進行中だ。
それにしても暑い。
これは練習にも支障が出るな。
そして部室。
やはり、唯さんは暑さで倒れた。
ふとあの日を思い出す。
唯さんが妊娠中、暑さで倒れた日のことを――
やはり地球温暖化の影響か。
あっちでは、琴吹グループが温暖化の原因を突き止め、なんとか解決したからまだしも、こっちは絶賛温暖化進行中だ。
それにしても暑い。
これは練習にも支障が出るな。
そして部室。
やはり、唯さんは暑さで倒れた。
ふとあの日を思い出す。
唯さんが妊娠中、暑さで倒れた日のことを――
452: 2011/05/01(日) 12:34:56.93 ID:X07rjUCDO
俺はあの時、自分は男として、夫として、そして父親として最低だと思った。
当たり前のことなのに、俺はそのことをおろそかにしていた。
その後、唯さんは無事に、子供にも何の影響もなく、元気になった。
ホント、あの時は大変だったなぁ……
唯「夏なんて無くなればいいのに……」
何度も聞いて、聞き慣れた言葉が聞こえ、俺は現実に引き戻された。
唯さんは、毎年夏と冬に、それぞれ同じことを言う。まぁ、唯さんの体質だし、仕方がないのだが。
当たり前のことなのに、俺はそのことをおろそかにしていた。
その後、唯さんは無事に、子供にも何の影響もなく、元気になった。
ホント、あの時は大変だったなぁ……
唯「夏なんて無くなればいいのに……」
何度も聞いて、聞き慣れた言葉が聞こえ、俺は現実に引き戻された。
唯さんは、毎年夏と冬に、それぞれ同じことを言う。まぁ、唯さんの体質だし、仕方がないのだが。
453: 2011/05/01(日) 12:43:29.77 ID:X07rjUCDO
唯さんが、水着で練習しないかと言った。ホント、この人は分からない。
それに水着持ってきてないし。
唯さん以外に誰が着るのかと思っていたが、ムギさんが悪ノリした。天然ってすごいね!
ムギさんのかき氷で、少し暑さはやわらいだ。
唯「りっちゃん! かき氷を一気に食べると……!」
律「あー……キーンってなるんだろ?」
唯「うーん、この感じがたまらないよ!」
あ、今キーンって効果音がしたような……唯さんのリアクションは面白い。姉ちゃんほどではないけど。
それに水着持ってきてないし。
唯さん以外に誰が着るのかと思っていたが、ムギさんが悪ノリした。天然ってすごいね!
ムギさんのかき氷で、少し暑さはやわらいだ。
唯「りっちゃん! かき氷を一気に食べると……!」
律「あー……キーンってなるんだろ?」
唯「うーん、この感じがたまらないよ!」
あ、今キーンって効果音がしたような……唯さんのリアクションは面白い。姉ちゃんほどではないけど。
454: 2011/05/01(日) 12:50:09.18 ID:X07rjUCDO
唯「そういえば最近さわちゃん来ないね?」
そりゃそうだろうな。この前職員室に行ったら……
クーラーがあったのだから。
律「案外どっかで倒れてるんじゃない?」
聡美「それはないですね。職員室にクーラーありましたし」
一同「何っ!?」
てか皆、知らなかったのかよ……
律「こうしちゃいられん! 唯、職員室に突撃だー!」
唯「らじゃー!」
ガチャバタン。
姉ちゃん達は走っていってしまった。
てか唯さん、元気じゃないか……
そりゃそうだろうな。この前職員室に行ったら……
クーラーがあったのだから。
律「案外どっかで倒れてるんじゃない?」
聡美「それはないですね。職員室にクーラーありましたし」
一同「何っ!?」
てか皆、知らなかったのかよ……
律「こうしちゃいられん! 唯、職員室に突撃だー!」
唯「らじゃー!」
ガチャバタン。
姉ちゃん達は走っていってしまった。
てか唯さん、元気じゃないか……
455: 2011/05/01(日) 12:57:56.79 ID:X07rjUCDO
しばらくして、姉ちゃん達がさわ子先生を連れて戻ってきた。先生は早速、暑さでダウンした。
先生にスタジオ代のことを相談してみたが、額が少ないと言われた。
律「じゃあクーラー買おうぜクーラー!」
そんな金……一応あるけど、俺の生活費だからダメだな。
バイトも、受験生だから却下。問題でも起こしたらヤバい。
さわ子「……生徒会に頼んでみるとか」
それだ!!
先生にスタジオ代のことを相談してみたが、額が少ないと言われた。
律「じゃあクーラー買おうぜクーラー!」
そんな金……一応あるけど、俺の生活費だからダメだな。
バイトも、受験生だから却下。問題でも起こしたらヤバい。
さわ子「……生徒会に頼んでみるとか」
それだ!!
456: 2011/05/01(日) 13:06:19.39 ID:X07rjUCDO
姉ちゃんは、どうやったら聞き入れてもらえるか作戦をたてることにした。
俺にも一応考えはあるのだが、これはかなりの演技力が試される。
まぁ、何もしないよりはマシなので、俺の作戦が採用された。
生徒会室。
聡美「和さん!」
できるだけ息をこらして言う。
和「あら、聡美。どうしたのよ、そんなにあわてて」
聡美「唯さんが……暑さで倒れた」
和「なんですって!? 場所は……部室ね?」
聡美「早く来てください!」
俺と和さんは、部室に急いで向かった――
俺にも一応考えはあるのだが、これはかなりの演技力が試される。
まぁ、何もしないよりはマシなので、俺の作戦が採用された。
生徒会室。
聡美「和さん!」
できるだけ息をこらして言う。
和「あら、聡美。どうしたのよ、そんなにあわてて」
聡美「唯さんが……暑さで倒れた」
和「なんですって!? 場所は……部室ね?」
聡美「早く来てください!」
俺と和さんは、部室に急いで向かった――
457: 2011/05/01(日) 13:15:16.28 ID:X07rjUCDO
俺と和さんは部室に着く。
そこには、ソファーに横たわる唯さんの姿が。
和「唯、大丈夫!?」
唯「の、和ちゃん……」
ここまでは完璧……さぁ次は……
和「それにしても暑いわね……あら? この部屋、クーラー無いじゃない。この前部長会議で言ったのに……」
……は?
聡美「和さん、どういうことですか?」
和「だから、この前の部長会議で、クーラー欲しいクラブは申請してって」
聡美「……姉ちゃん?」
澪「……律?」
律「あっ……出るの忘れてた」
そこには、ソファーに横たわる唯さんの姿が。
和「唯、大丈夫!?」
唯「の、和ちゃん……」
ここまでは完璧……さぁ次は……
和「それにしても暑いわね……あら? この部屋、クーラー無いじゃない。この前部長会議で言ったのに……」
……は?
聡美「和さん、どういうことですか?」
和「だから、この前の部長会議で、クーラー欲しいクラブは申請してって」
聡美「……姉ちゃん?」
澪「……律?」
律「あっ……出るの忘れてた」
458: 2011/05/01(日) 13:20:39.12 ID:X07rjUCDO
次の瞬間、姉ちゃんの頭にはたんこぶができていた。
澪「今からでも間に合う!?」
和「た、多分……」
こうして、めでたく部室にクーラーが設置されることになった。
……が、しかし。
またしても、唯さんは倒れた。
唯「私……クーラー苦手なの忘れてた……」
あ、そういえばそうでしたね。
澪「どうすればいいんだよもう!」
澪「今からでも間に合う!?」
和「た、多分……」
こうして、めでたく部室にクーラーが設置されることになった。
……が、しかし。
またしても、唯さんは倒れた。
唯「私……クーラー苦手なの忘れてた……」
あ、そういえばそうでしたね。
澪「どうすればいいんだよもう!」
459: 2011/05/01(日) 13:23:42.74 ID:X07rjUCDO
ふぅ……。
どんどんつまらなくなってる……OTL
少し休憩します。
休憩終わったら再開します。
ではまた
どんどんつまらなくなってる……OTL
少し休憩します。
休憩終わったら再開します。
ではまた
460: 2011/05/01(日) 15:34:13.48 ID:X07rjUCDO
休日。
今日は姉ちゃんと遊びに行く日だ。まぁ、いつもみたいにゲーセンとかだろうけど。
てか姉ちゃん、その格好けっこう危ない……
ん?あれは……ムギさん?
律「……」
うわ、何かする気マンマンだ……
律「驚かしてやろう」
やっぱり……まぁ、面白そうだしいいか。
今日は姉ちゃんと遊びに行く日だ。まぁ、いつもみたいにゲーセンとかだろうけど。
てか姉ちゃん、その格好けっこう危ない……
ん?あれは……ムギさん?
律「……」
うわ、何かする気マンマンだ……
律「驚かしてやろう」
やっぱり……まぁ、面白そうだしいいか。
462: 2011/05/01(日) 20:16:09.85 ID:X07rjUCDO
うわあああぁぁぁ風呂で寝てたあああぁぁぁ
危ない危ない……お湯が少なかったのが命拾いだったぜ……
りっちゃんが使ってる、LAMYのシャーペンの黄色の黒クリップ版が見つからない……
とりあえず再開します
危ない危ない……お湯が少なかったのが命拾いだったぜ……
りっちゃんが使ってる、LAMYのシャーペンの黄色の黒クリップ版が見つからない……
とりあえず再開します
463: 2011/05/01(日) 20:24:33.26 ID:X07rjUCDO
ムギさんは、そこの路地に入っていった。姉ちゃんはムギさんを追う。
トントン。
……ん?
紬「シーッ……」
あ、ムギさん。なるほど……逆に驚かしてやろうということですね。
俺は姉ちゃんの横に並ぶ。
聡美「姉ちゃん、あそこなんか怪しくない?」
俺は適当にとある店を指差す。
律「そうだな……よーし……」
紬「わっ!」
律「うわああああぁぁ!?」
トントン。
……ん?
紬「シーッ……」
あ、ムギさん。なるほど……逆に驚かしてやろうということですね。
俺は姉ちゃんの横に並ぶ。
聡美「姉ちゃん、あそこなんか怪しくない?」
俺は適当にとある店を指差す。
律「そうだな……よーし……」
紬「わっ!」
律「うわああああぁぁ!?」
464: 2011/05/01(日) 20:36:00.63 ID:X07rjUCDO
紬「りっちゃんのこと見えたから驚かせようと思ったんだけど……」
律「く、くそー……やられた~……それにしても、なんで聡美は驚かないんだ?」
姉ちゃんはまだ震えている。意外と怖がりだからなぁ……
聡美「グルだからね」
紬「ね~♪」
律「ち、ちくしょう……」
姉ちゃんは悔しそうな顔をする。
聡美「それにしてもムギさん、お出かけなんて珍しいですね」
律「そういえばそうだな」
紬「ちょっとね。避暑地に持っていく物買いに行くところだったの」
避暑地、か。そういえば二年生の時、フィンランドに避暑してたな……今年はどこなんだろう?
律「く、くそー……やられた~……それにしても、なんで聡美は驚かないんだ?」
姉ちゃんはまだ震えている。意外と怖がりだからなぁ……
聡美「グルだからね」
紬「ね~♪」
律「ち、ちくしょう……」
姉ちゃんは悔しそうな顔をする。
聡美「それにしてもムギさん、お出かけなんて珍しいですね」
律「そういえばそうだな」
紬「ちょっとね。避暑地に持っていく物買いに行くところだったの」
避暑地、か。そういえば二年生の時、フィンランドに避暑してたな……今年はどこなんだろう?
465: 2011/05/01(日) 20:45:44.66 ID:X07rjUCDO
律「そっか……暇なら一緒に遊びに行こうと思ったのに……」
そういえば、ムギさんとこうして遊んだことなかったな……意外と謎多いな、ムギさんは。
紬「もしもし、私です……今日のアレ、キャンセルで……ええ、別の日に……」
……はい?
ちょ、何やってるんですかムギさん!?
紬「……ヒマ! すごくヒマです!」
強引過ぎるだろムギさん……唯さん並みに分からない人だ……
そういえば、ムギさんとこうして遊んだことなかったな……意外と謎多いな、ムギさんは。
紬「もしもし、私です……今日のアレ、キャンセルで……ええ、別の日に……」
……はい?
ちょ、何やってるんですかムギさん!?
紬「……ヒマ! すごくヒマです!」
強引過ぎるだろムギさん……唯さん並みに分からない人だ……
466: 2011/05/01(日) 20:55:40.87 ID:X07rjUCDO
律「よーしそれじゃどこ行こうか?」
紬「うーん……良く分からないからりっちゃんにおまかせするわ」
聡美「ムギさん、姉ちゃんにまかせるとロクなことにならないよ?」
律「なにおう!? 生意気だなこの~!」
姉ちゃんにグリグリされる。懐かしい……何十年ぶりだろう。
紬「ふふっ……じゃあ、お二人におまかせするわ」
とは言ってもなぁ……正直姉ちゃんと同じところしか思いつかない。
ならば……
聡美「ムギさんが普段行かなそうなところにすればいいんじゃない?」
律「そうだな……よーし、行くぞ!」
紬「おー♪」
こうして、俺にとって最初で最後の、ムギさんとのお出かけが始まった――
紬「うーん……良く分からないからりっちゃんにおまかせするわ」
聡美「ムギさん、姉ちゃんにまかせるとロクなことにならないよ?」
律「なにおう!? 生意気だなこの~!」
姉ちゃんにグリグリされる。懐かしい……何十年ぶりだろう。
紬「ふふっ……じゃあ、お二人におまかせするわ」
とは言ってもなぁ……正直姉ちゃんと同じところしか思いつかない。
ならば……
聡美「ムギさんが普段行かなそうなところにすればいいんじゃない?」
律「そうだな……よーし、行くぞ!」
紬「おー♪」
こうして、俺にとって最初で最後の、ムギさんとのお出かけが始まった――
467: 2011/05/01(日) 21:05:32.00 ID:X07rjUCDO
姉ちゃんが最初に連れてきたのは、ゲーセンだった。確かに、ムギさんはゲーセンに来なそうだな……
紬「ここは……俗にいうゲーセンよね?」
律「さすがに知ってたか。ゲーセン来たことあるのか?」
紬「来たのは初めてよ。私、友達とゲーセンに行くのが夢だったの~♪」
夢……か。
俺の夢は、叶いそうにないけどな……
聡美「姉ちゃん、ドラマニあるよ?」
でも、俺は今を大事にしよう。姉ちゃんが幸せなら、それでいいから……
律「ドラマニか……周りに合わせるのは苦手だけど、やってみるか!」
そう意気込んだはいいが……結果は散々だった。しまいには逆ギレ寸前だった。
紬「ここは……俗にいうゲーセンよね?」
律「さすがに知ってたか。ゲーセン来たことあるのか?」
紬「来たのは初めてよ。私、友達とゲーセンに行くのが夢だったの~♪」
夢……か。
俺の夢は、叶いそうにないけどな……
聡美「姉ちゃん、ドラマニあるよ?」
でも、俺は今を大事にしよう。姉ちゃんが幸せなら、それでいいから……
律「ドラマニか……周りに合わせるのは苦手だけど、やってみるか!」
そう意気込んだはいいが……結果は散々だった。しまいには逆ギレ寸前だった。
468: 2011/05/01(日) 21:19:30.02 ID:X07rjUCDO
次に姉ちゃんはクレーンゲームをしていた。ムギさんと一緒にそれを見ていると、ムギさんが話しかけてきた。
紬「聡美ちゃん、りっちゃんは、家ではどんな感じなの?」
聡美「そうですね……ん?」
ちょっと待て。ムギさん、なんで俺が姉ちゃんの家に居候してると知ってるんだ……?
紬「……?」
聞きたい。
でも……なんだろう。聞いちゃいけないことのような気がする……!
聡美「そういえばムギさん、避暑地ってどこなんですか!?」
紬「えっと……今年もフィンランドよ。気に入ったの~」
聡美「そ、そうなんですか」
半端強引に話をそらした。
なんだろう、今初めて、人が怖いと感じた。
そんなこんなで話しているうちに、姉ちゃんはクレーンゲームでぬいぐるみを獲得した。
そして、姉ちゃんはゲーセンを出た。次は姉ちゃんどこに連れていくつもりなんだろう?
紬「聡美ちゃん、りっちゃんは、家ではどんな感じなの?」
聡美「そうですね……ん?」
ちょっと待て。ムギさん、なんで俺が姉ちゃんの家に居候してると知ってるんだ……?
紬「……?」
聞きたい。
でも……なんだろう。聞いちゃいけないことのような気がする……!
聡美「そういえばムギさん、避暑地ってどこなんですか!?」
紬「えっと……今年もフィンランドよ。気に入ったの~」
聡美「そ、そうなんですか」
半端強引に話をそらした。
なんだろう、今初めて、人が怖いと感じた。
そんなこんなで話しているうちに、姉ちゃんはクレーンゲームでぬいぐるみを獲得した。
そして、姉ちゃんはゲーセンを出た。次は姉ちゃんどこに連れていくつもりなんだろう?
469: 2011/05/01(日) 21:25:09.03 ID:X07rjUCDO
次に姉ちゃんが連れてきたのは……あぁ、ここは……!
駄 菓 子 屋 !
ちくしょう懐かしすぎる。しかもここは……
俺が初めて来た駄菓子屋だ……!
そう、あれは俺が小学生の頃――
駄 菓 子 屋 !
ちくしょう懐かしすぎる。しかもここは……
俺が初めて来た駄菓子屋だ……!
そう、あれは俺が小学生の頃――
470: 2011/05/01(日) 21:43:06.24 ID:X07rjUCDO
姉ちゃんにもらった駄菓子が美味しくて、それを探し回った時、偶然ここにたどり着いたんだよなぁ……そしたらどうだ。
あったんだよここに。
探していた駄菓子が……!
でも……
幼聡「あれ、あれ?」
そう、お金を落としてしまったんだ。
俺は駄菓子を手に、戸惑ってたんだ。
そしたら……
婆「おやおや坊っちゃん、どうしたんだい?」
駄菓子屋のお婆さんが、声をかけてきたんだ。
幼聡「え、えっと……あの、その……」
するとお婆さんは、俺の様子からお金が無いってことを察したのか、
婆「持っていきな、坊っちゃん。特別だよ?」
と言ったんだ。
その日食べたその駄菓子は、すごく美味しかった。
後日、今度はお金を持っていったら……
婆「おやおや坊っちゃん。これは、おまけだよ?」
そう言って、毎回、あの駄菓子をおまけで一個多くつけてくれたんだ。
まぁ、そのうち行かなくなったんだけど……
あのお婆さん、まだいるのかな……
あったんだよここに。
探していた駄菓子が……!
でも……
幼聡「あれ、あれ?」
そう、お金を落としてしまったんだ。
俺は駄菓子を手に、戸惑ってたんだ。
そしたら……
婆「おやおや坊っちゃん、どうしたんだい?」
駄菓子屋のお婆さんが、声をかけてきたんだ。
幼聡「え、えっと……あの、その……」
するとお婆さんは、俺の様子からお金が無いってことを察したのか、
婆「持っていきな、坊っちゃん。特別だよ?」
と言ったんだ。
その日食べたその駄菓子は、すごく美味しかった。
後日、今度はお金を持っていったら……
婆「おやおや坊っちゃん。これは、おまけだよ?」
そう言って、毎回、あの駄菓子をおまけで一個多くつけてくれたんだ。
まぁ、そのうち行かなくなったんだけど……
あのお婆さん、まだいるのかな……
471: 2011/05/01(日) 21:55:20.81 ID:X07rjUCDO
婆「おやおや、もしかして、りっちゃんじゃないかい?」
……え?
律「あ、お婆さん! 久しぶり!」
婆「おやまあ、こんなに大きくなって……」
律「へへ……///」
お婆さんだ……あの時のお婆さんだ……!
紬「りっちゃん、どなた?」
律「あぁ、私が小さい頃、よくここに来て会ってたんだ」
紬「そうなの? あ、はじめまして。りっちゃんのお友達の琴吹紬です」
婆「あらまあ可愛いわねぇ。ムギちゃん……でいいかい?」
……なんだろう。
思考回路が誰かさんに似てる気がする。気のせいだと思うけど。
婆「それで、そちらの子は?」
あ、そうか。お婆さんは知らないか。
聡美「田井中、聡美です」
婆「聡美ちゃん、ねぇ……なんだか、聡くんに似てるわねぇ」
まぁ、本人ですから。
それからいろいろと話したり遊んだり食べたり、懐かしく、楽しい時間を過ごした。
……え?
律「あ、お婆さん! 久しぶり!」
婆「おやまあ、こんなに大きくなって……」
律「へへ……///」
お婆さんだ……あの時のお婆さんだ……!
紬「りっちゃん、どなた?」
律「あぁ、私が小さい頃、よくここに来て会ってたんだ」
紬「そうなの? あ、はじめまして。りっちゃんのお友達の琴吹紬です」
婆「あらまあ可愛いわねぇ。ムギちゃん……でいいかい?」
……なんだろう。
思考回路が誰かさんに似てる気がする。気のせいだと思うけど。
婆「それで、そちらの子は?」
あ、そうか。お婆さんは知らないか。
聡美「田井中、聡美です」
婆「聡美ちゃん、ねぇ……なんだか、聡くんに似てるわねぇ」
まぁ、本人ですから。
それからいろいろと話したり遊んだり食べたり、懐かしく、楽しい時間を過ごした。
472: 2011/05/01(日) 22:05:08.50 ID:X07rjUCDO
紬「すっごく楽しかったぁ~♪」
ムギさんは満面の笑顔で言う。
律「そりゃ良かった」
なんで女の子はこんなにも笑顔が似合うのだろう。
紬「あとね……りっちゃん、聡美ちゃん」
律・聡美「ん?」
紬「わ、私のこと、叩いてほしいの!」
律・聡美「……はい?」
ムギさん……そういう趣味もあったのか?
ムギさんは満面の笑顔で言う。
律「そりゃ良かった」
なんで女の子はこんなにも笑顔が似合うのだろう。
紬「あとね……りっちゃん、聡美ちゃん」
律・聡美「ん?」
紬「わ、私のこと、叩いてほしいの!」
律・聡美「……はい?」
ムギさん……そういう趣味もあったのか?
473: 2011/05/01(日) 22:17:05.97 ID:X07rjUCDO
律「えーっと……それじゃ叩けばいいのね?」
姉ちゃんは少し戸惑いつつも、ムギさんに問う。当然だろう。
叩かれたいなんて、普通じゃない。
紬「お願いしますっ!」
ほんでもって準備万端なムギさん。でもプルプル震えてる。
律「だーっ! 無理! 叩けない!」
紬「えっ……」
ムギさんはしゅんとした様子だ。ていうか、お願いされた方が逆に叩きにくい。
抵抗するならまだしも、無防備だとちょっとな……
律「だってこういうのはタイミングだしな……」
紬「分かったわ! 私りっちゃんに叩かれるのを楽しみにしてる!」
ってムギさん!?声が大きいです!
うわぁ、周りの人がこっち見てるよ!?
姉ちゃんは少し戸惑いつつも、ムギさんに問う。当然だろう。
叩かれたいなんて、普通じゃない。
紬「お願いしますっ!」
ほんでもって準備万端なムギさん。でもプルプル震えてる。
律「だーっ! 無理! 叩けない!」
紬「えっ……」
ムギさんはしゅんとした様子だ。ていうか、お願いされた方が逆に叩きにくい。
抵抗するならまだしも、無防備だとちょっとな……
律「だってこういうのはタイミングだしな……」
紬「分かったわ! 私りっちゃんに叩かれるのを楽しみにしてる!」
ってムギさん!?声が大きいです!
うわぁ、周りの人がこっち見てるよ!?
474: 2011/05/01(日) 22:29:09.25 ID:X07rjUCDO
なんとか周りの人の誤解を解いて、夕方。
紬「今日はありがとね、りっちゃん、聡美ちゃん」
夕日に照らされ、なんか雰囲気が出ている。やっぱりお嬢様なんだなぁ……ムギさんは。
紬「それにしてもりっちゃんってエスコートがすごくうまいわ~」
律「そうか? 私はそういうのあんまり分かんないんだけど……」
それには同意できる。
姉ちゃんは女の子なのに、イケメンみたいなエスコートするからなぁ……
紬「りっちゃんが男の子だったら、きっと女の子にモテモテね!」
律「…………」
姉ちゃんは反応に困っている。きっと複雑な心情なんだろう。
紬「……あれ?」
律「どう反応すりゃいいんだコラーッ!」
ポコーン。
紬「あいたーっ!」
……まさに結果オーライ、か。
こうして、俺にとって最初で最後の、ムギさんとのお出かけが終わった――
紬「今日はありがとね、りっちゃん、聡美ちゃん」
夕日に照らされ、なんか雰囲気が出ている。やっぱりお嬢様なんだなぁ……ムギさんは。
紬「それにしてもりっちゃんってエスコートがすごくうまいわ~」
律「そうか? 私はそういうのあんまり分かんないんだけど……」
それには同意できる。
姉ちゃんは女の子なのに、イケメンみたいなエスコートするからなぁ……
紬「りっちゃんが男の子だったら、きっと女の子にモテモテね!」
律「…………」
姉ちゃんは反応に困っている。きっと複雑な心情なんだろう。
紬「……あれ?」
律「どう反応すりゃいいんだコラーッ!」
ポコーン。
紬「あいたーっ!」
……まさに結果オーライ、か。
こうして、俺にとって最初で最後の、ムギさんとのお出かけが終わった――
477: 2011/05/03(火) 17:27:03.81 ID:EGQVFusDO
今俺は、公園にいる。なぜ公園にいるかというと、ある人を待っているからだ。
そしてその人は、たった今やって来た。
唯「ごめ~ん、待った?」
聡美「いえ、今来たところです」
何回もやったことのあるやりとりをする。
今日は、唯さんと二人で出かける日だ。もちろんこっちの唯さんではなく、あっちの唯さんとだ。
唯「それじゃ行こうか、聡くん」
聡美「はい、唯さん」
久々だなぁ……こういうの。
そしてその人は、たった今やって来た。
唯「ごめ~ん、待った?」
聡美「いえ、今来たところです」
何回もやったことのあるやりとりをする。
今日は、唯さんと二人で出かける日だ。もちろんこっちの唯さんではなく、あっちの唯さんとだ。
唯「それじゃ行こうか、聡くん」
聡美「はい、唯さん」
久々だなぁ……こういうの。
478: 2011/05/03(火) 17:37:20.90 ID:EGQVFusDO
俺は、唯さんをあの駄菓子屋へと連れていった。あのお婆さんとは、多分かなり気が合うだろう。
だがしかし。
駄菓子屋は無かった。
聡美「……は?」
唯「聡くん、ここがどうかしたの?」
……なぜ?
だがしかし。
駄菓子屋は無かった。
聡美「……は?」
唯「聡くん、ここがどうかしたの?」
……なぜ?
479: 2011/05/03(火) 17:45:57.17 ID:EGQVFusDO
ちょうど近くを通りかかった人がいたので、聞いてみた。
聡美「あの、ここにあった駄菓子屋は……?」
通「えっと……二年前くらいにこの店のお婆さんが亡くなったみたいで、潰れたらしいです」
聡美「亡くなった……?」
いやいやおかしいだろ。
数日前に会ったばっかりじゃないか。
……いや、おかしいことは前もあった。
演芸大会が、二回あった。
まぁ、そのうち一回は中止になったけど。
聡美「あの、ここにあった駄菓子屋は……?」
通「えっと……二年前くらいにこの店のお婆さんが亡くなったみたいで、潰れたらしいです」
聡美「亡くなった……?」
いやいやおかしいだろ。
数日前に会ったばっかりじゃないか。
……いや、おかしいことは前もあった。
演芸大会が、二回あった。
まぁ、そのうち一回は中止になったけど。
480: 2011/05/03(火) 17:54:14.19 ID:EGQVFusDO
これは何だ?
世界そのものが、狂い始めた……?
通「あの……?」
聡美「あ、すいません。ありがとうございました」
そして、辺りが静まる。
唯「聡くん、どうしたの……?」
聡美「唯さん……何かがおかしいんだ」
唯「おかしい?」
聡美「演芸大会が二回あったり、数日前会ったお婆さんが二年前に亡くなってたり……とにかくおかしいんだ」
唯「……もしかして」
唯さんは、俺の左手首の腕時計を指で指す。
聡美「ムギさんの、腕時計……」
この腕時計は、未知の存在だ。こんなことが起こっても、なんらおかしくはない。
世界そのものが、狂い始めた……?
通「あの……?」
聡美「あ、すいません。ありがとうございました」
そして、辺りが静まる。
唯「聡くん、どうしたの……?」
聡美「唯さん……何かがおかしいんだ」
唯「おかしい?」
聡美「演芸大会が二回あったり、数日前会ったお婆さんが二年前に亡くなってたり……とにかくおかしいんだ」
唯「……もしかして」
唯さんは、俺の左手首の腕時計を指で指す。
聡美「ムギさんの、腕時計……」
この腕時計は、未知の存在だ。こんなことが起こっても、なんらおかしくはない。
481: 2011/05/03(火) 18:21:27.66 ID:EGQVFusDO
紬『いざとなったら、ロックを外して、タイミング表示の裏側のボタンを押しなさい』
ふとムギさんの言葉が頭を横切る。でもダメだ。何が起こるか分かったものではない。
聡美「唯さん、あっちのムギさんと連絡はとれる?」
唯「うん、できるよ。……ちょっと待ってて」
そう言うと唯さんは、携帯を弄る。携帯、なんかしてもらったのか……?
唯「はい、聡くん」
聡美「ありがと、唯さん」
唯さんから携帯を受け取ると、俺は通話ボタンを押す。
紬『もしもし唯ちゃん?』
聡美「もしもしムギさん、私です」
紬『あら聡くん、どうしたの?』
聡美「この腕時計をはめてから、氏んでない人が氏んでたり、時が狂ったり、いろいろおかしいんです」
紬『やっぱり……!』
何がやっぱりなのだろう。ムギさんが動揺しているのだから、よっぽどのことに違いない。
紬『実はその腕時計……氏のタイミングを計る時、ある特殊な音波が時を巡るのよ。通常、人体に影響は出ないはずなんだけど……』
そんなに危険なものだったのか、この腕時計……!
ふとムギさんの言葉が頭を横切る。でもダメだ。何が起こるか分かったものではない。
聡美「唯さん、あっちのムギさんと連絡はとれる?」
唯「うん、できるよ。……ちょっと待ってて」
そう言うと唯さんは、携帯を弄る。携帯、なんかしてもらったのか……?
唯「はい、聡くん」
聡美「ありがと、唯さん」
唯さんから携帯を受け取ると、俺は通話ボタンを押す。
紬『もしもし唯ちゃん?』
聡美「もしもしムギさん、私です」
紬『あら聡くん、どうしたの?』
聡美「この腕時計をはめてから、氏んでない人が氏んでたり、時が狂ったり、いろいろおかしいんです」
紬『やっぱり……!』
何がやっぱりなのだろう。ムギさんが動揺しているのだから、よっぽどのことに違いない。
紬『実はその腕時計……氏のタイミングを計る時、ある特殊な音波が時を巡るのよ。通常、人体に影響は出ないはずなんだけど……』
そんなに危険なものだったのか、この腕時計……!
482: 2011/05/03(火) 18:30:08.74 ID:EGQVFusDO
聡美「じゃあどうするんですか! このままじゃ……」
紬『落ちついて聡くん。いざとなったらのボタン……あれを押して』
聡美「は、はい」
俺はムギさんに言われた通り、あのボタンを押す。
すると……
聡美「っ!?」
俺は一気に意識が飛んだ。
紬『落ちついて聡くん。いざとなったらのボタン……あれを押して』
聡美「は、はい」
俺はムギさんに言われた通り、あのボタンを押す。
すると……
聡美「っ!?」
俺は一気に意識が飛んだ。
483: 2011/05/03(火) 19:28:13.51 ID:EGQVFusDO
目を覚ますと、周りは数字ばかり。なんだここは……
紬『聡くん』
ムギさんの声が、頭に響く。まるでテレパシーだ。
紬『そこにある数字は、音波が記録した情報よ。歴史の変化は、その数字で分かるわ。まぁ……いろいろな世界、パラレルワールドの情報もあるけど……聡くんが影響した世界の歴史は、必ず144という数字になるはずなんだけど……』
144……か。後ろを振り返る。
144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 145 144 144 144 144 144 144 144
……145?
聡美「ムギさん、144の中に145があるんですが……」
紬『やっぱりね。おそらく、音波による影響だわ。じゃあ、145に触ってみて』
聡美「はい」
145に触れると、さらに小さい数字が現れる。
0 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233 377 610 987……
聡美「これ……フィボナッチ数列……?」
紬『ええ。フィボナッチ数列は自然界の多くに現れる数列で、当然歴史にも現れるみたい』
0 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233 377 610 987 1597 2584 4181 6765 10946 17711 28657 46368 75025 121393 196419 317811 514229 832040 1346269 2178309 3524578 5702887 9227465 14930352 24157817 39088169 63245986 102334155 165580141
……あれ?
聡美「ムギさん、違う数字があるんですが……196418が196419です」
紬『じゃあ、触れて回して直して』
聡美「はい」
俺はダイヤルみたいに回して直した。
聡美「直しました」
紬『これで、145が144になったはずよ。あとは、二回連続で腕時計のボタンを押して』
聡美「はい」
ボタンを押すと、144の塊が腕時計に吸い込まれ、赤い光が出た。
そして再び、意識が飛んだ――
紬『聡くん』
ムギさんの声が、頭に響く。まるでテレパシーだ。
紬『そこにある数字は、音波が記録した情報よ。歴史の変化は、その数字で分かるわ。まぁ……いろいろな世界、パラレルワールドの情報もあるけど……聡くんが影響した世界の歴史は、必ず144という数字になるはずなんだけど……』
144……か。後ろを振り返る。
144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 144 145 144 144 144 144 144 144 144
……145?
聡美「ムギさん、144の中に145があるんですが……」
紬『やっぱりね。おそらく、音波による影響だわ。じゃあ、145に触ってみて』
聡美「はい」
145に触れると、さらに小さい数字が現れる。
0 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233 377 610 987……
聡美「これ……フィボナッチ数列……?」
紬『ええ。フィボナッチ数列は自然界の多くに現れる数列で、当然歴史にも現れるみたい』
0 1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 89 144 233 377 610 987 1597 2584 4181 6765 10946 17711 28657 46368 75025 121393 196419 317811 514229 832040 1346269 2178309 3524578 5702887 9227465 14930352 24157817 39088169 63245986 102334155 165580141
……あれ?
聡美「ムギさん、違う数字があるんですが……196418が196419です」
紬『じゃあ、触れて回して直して』
聡美「はい」
俺はダイヤルみたいに回して直した。
聡美「直しました」
紬『これで、145が144になったはずよ。あとは、二回連続で腕時計のボタンを押して』
聡美「はい」
ボタンを押すと、144の塊が腕時計に吸い込まれ、赤い光が出た。
そして再び、意識が飛んだ――
484: 2011/05/03(火) 19:58:58.64 ID:EGQVFusDO
……くん!……しくん!
この声は……
唯「聡くん!」
聡美「唯さん……」
俺は起き上がる。
唯「聡くん! ほら見て、そこ!」
唯さんが指差す方を見ると、そこには――
婆「……」
お婆さんが、駄菓子屋の中にいた。
聡美「やった……」
紬『聡くん、今回は多分、初期不良よ。これからは起こらないと思うわ』
唯さんの携帯から、ムギさんの声がする。よかった~……
聡美「ありがとうございますムギさん、では」
俺は電話を切り、唯さんに携帯を返す。
唯「……それで聡くん、ここは?」
聡美「あ、はい。そこの店、俺がよく来たことのある駄菓子屋なんですよ」
唯「そうなんだ~! じゃあ行こうよ!」
聡美「はい」
駄菓子屋に向かう。お婆さんは、俺達に気づいたみたいだ。
婆「おやおや、聡美ちゃんと……お友達かい?」
唯「はい! 平沢唯です!」
婆「唯ちゃんね……可愛いわね」
唯「えへへ……ありがとうございます」
やっぱり、気は合うみたいだ。
そして俺と唯さんは、駄菓子屋を堪能した――
この声は……
唯「聡くん!」
聡美「唯さん……」
俺は起き上がる。
唯「聡くん! ほら見て、そこ!」
唯さんが指差す方を見ると、そこには――
婆「……」
お婆さんが、駄菓子屋の中にいた。
聡美「やった……」
紬『聡くん、今回は多分、初期不良よ。これからは起こらないと思うわ』
唯さんの携帯から、ムギさんの声がする。よかった~……
聡美「ありがとうございますムギさん、では」
俺は電話を切り、唯さんに携帯を返す。
唯「……それで聡くん、ここは?」
聡美「あ、はい。そこの店、俺がよく来たことのある駄菓子屋なんですよ」
唯「そうなんだ~! じゃあ行こうよ!」
聡美「はい」
駄菓子屋に向かう。お婆さんは、俺達に気づいたみたいだ。
婆「おやおや、聡美ちゃんと……お友達かい?」
唯「はい! 平沢唯です!」
婆「唯ちゃんね……可愛いわね」
唯「えへへ……ありがとうございます」
やっぱり、気は合うみたいだ。
そして俺と唯さんは、駄菓子屋を堪能した――
485: 2011/05/03(火) 20:33:23.03 ID:EGQVFusDO
その後も、俺達はデート(?)を楽しんだ。やっぱりこういうのっていいな……唯さんノリいいし。
唯「聡くん」
聡美「なんですか?」
唯「夏フェスの日……お願いね」
聡美「もちろんです」
さて……どうするか。
どうやって、防ぐ?
唯「聡くん」
聡美「今度はなんですか?」
唯「えへへ……なんでもないよお」
聡美「なんですかそれ」
まぁ……考えるのは帰ってからにしよう。
今は、唯さんとの時間を大事にしよう。
もう、こんなことできないかもしれないから――
唯「聡くん」
聡美「なんですか?」
唯「夏フェスの日……お願いね」
聡美「もちろんです」
さて……どうするか。
どうやって、防ぐ?
唯「聡くん」
聡美「今度はなんですか?」
唯「えへへ……なんでもないよお」
聡美「なんですかそれ」
まぁ……考えるのは帰ってからにしよう。
今は、唯さんとの時間を大事にしよう。
もう、こんなことできないかもしれないから――
493: 2011/05/14(土) 23:46:47.87 ID:rK4wnn1DO
今日は合宿の打ち合わせの日だ。まぁ、夏フェスに行くことになると思うけど。
俺は、集合時間より三時間も前に家を出た。なぜなら、打ち合わせよりも大事な用事があるからだ。
駅に着くと、金髪ロングで上品な雰囲気を出している女性を見つけた。その女性は、俺に気づくと俺に近寄ってきた。
紬「聡くん、こんにちは」
聡美「こんにちは、ムギさん」
そう……俺の用事とは、こっちのムギさんではなく、あっちのムギさんに会うことだったのだ。
俺達は近くの喫茶店で、例のことを話していた。
聡美「それでムギさん……事故は、防げるんですか?」
紬「ええ、こちらで手配をしておいたわ。もう、何十人もの人が氏ぬことはないわ」
聡美「ありがとうございます!」
よかった……これで、何十人もの犠牲者は出ない……!
本当に、よかった……!
三十分後、俺はムギさんの愚痴を聞いていた。やっぱり、誰でも愚痴りたくなるよなぁ……姉ちゃんはしょっちゅうだし。
俺は、集合時間より三時間も前に家を出た。なぜなら、打ち合わせよりも大事な用事があるからだ。
駅に着くと、金髪ロングで上品な雰囲気を出している女性を見つけた。その女性は、俺に気づくと俺に近寄ってきた。
紬「聡くん、こんにちは」
聡美「こんにちは、ムギさん」
そう……俺の用事とは、こっちのムギさんではなく、あっちのムギさんに会うことだったのだ。
俺達は近くの喫茶店で、例のことを話していた。
聡美「それでムギさん……事故は、防げるんですか?」
紬「ええ、こちらで手配をしておいたわ。もう、何十人もの人が氏ぬことはないわ」
聡美「ありがとうございます!」
よかった……これで、何十人もの犠牲者は出ない……!
本当に、よかった……!
三十分後、俺はムギさんの愚痴を聞いていた。やっぱり、誰でも愚痴りたくなるよなぁ……姉ちゃんはしょっちゅうだし。
494: 2011/05/14(土) 23:57:49.24 ID:rK4wnn1DO
しばらくして、俺はあっちのムギさんの愚痴り地獄から解放されたあと、ムギさんと別れた。
ふと腕時計を見ると、集合時間まであまり時間がない。
俺は急いで唯さんの家へと足を進める。
人気のない歩道へ来た時、それは起こった。
ブオオオオォォォォン!!!!
一瞬何が起こったのか分からなかった。
俺のすぐ横を、バイクが走り抜けていったのだ。
ここは歩道……なのに、バイクは俺のすぐ横を走り抜けていった。
俺は直感した。
何者かに、命を狙われているということを。
うすうす前から感じてはいたが、今のはそれを明白にする出来事だった。
しばらくの間、俺はその場でボーッとしていたが、姉ちゃんから遅刻だぞと連絡が来て、我にかえり、唯さんの家へと急いだ。
ふと腕時計を見ると、集合時間まであまり時間がない。
俺は急いで唯さんの家へと足を進める。
人気のない歩道へ来た時、それは起こった。
ブオオオオォォォォン!!!!
一瞬何が起こったのか分からなかった。
俺のすぐ横を、バイクが走り抜けていったのだ。
ここは歩道……なのに、バイクは俺のすぐ横を走り抜けていった。
俺は直感した。
何者かに、命を狙われているということを。
うすうす前から感じてはいたが、今のはそれを明白にする出来事だった。
しばらくの間、俺はその場でボーッとしていたが、姉ちゃんから遅刻だぞと連絡が来て、我にかえり、唯さんの家へと急いだ。
495: 2011/05/15(日) 00:10:55.98 ID:51zDlQFDO
唯さんの家に着くと、遅刻したのに皆から温かく迎えられた。日頃の行いがいいからだろうか。
律「それで、今年は夏フェスに行こうかと考えてるんだけど……聡美はどう思う?」
聡美「いいですね! 私、生でプロの演奏聴いたこと無いので……楽しみです」
律「いよぅし! 決定ー!」
唯・紬「わ~!」
唯さんとムギさんは拍手しながら言う。ノリいいなぁこの二人。
聡美「それで、チケットとかはあるんですか?」
さわ子「チケットならあるわよ、ここに」
聡美「あ、ありがとうございます」
律「……ってさわちゃん!? 神出鬼没だなあんた!」
あまりにも自然すぎて俺も気づかなかった……さわ子先生って何者なんだよ……
律「それで、今年は夏フェスに行こうかと考えてるんだけど……聡美はどう思う?」
聡美「いいですね! 私、生でプロの演奏聴いたこと無いので……楽しみです」
律「いよぅし! 決定ー!」
唯・紬「わ~!」
唯さんとムギさんは拍手しながら言う。ノリいいなぁこの二人。
聡美「それで、チケットとかはあるんですか?」
さわ子「チケットならあるわよ、ここに」
聡美「あ、ありがとうございます」
律「……ってさわちゃん!? 神出鬼没だなあんた!」
あまりにも自然すぎて俺も気づかなかった……さわ子先生って何者なんだよ……
496: 2011/05/15(日) 00:17:26.89 ID:51zDlQFDO
そして夏フェス当日。
朝早いのはなかなかキツかった。
念のため腕時計を見る。氏のタイミングは今日ではなくなっていた。本当に防いでくれたんだな……あっちのムギさん。
……一体何をしたんだろう?
皆が集合し、バスに乗る。
朝早かったせいか、座席に座ると、一気に睡魔が押し寄せてきた。
俺は、まぶたを閉じた――
朝早いのはなかなかキツかった。
念のため腕時計を見る。氏のタイミングは今日ではなくなっていた。本当に防いでくれたんだな……あっちのムギさん。
……一体何をしたんだろう?
皆が集合し、バスに乗る。
朝早かったせいか、座席に座ると、一気に睡魔が押し寄せてきた。
俺は、まぶたを閉じた――
501: 2011/05/15(日) 09:47:02.47 ID:51zDlQFDO
ふと気がつくと、俺は見覚えのない部屋にいた。
部屋の中央にはテーブルがあり、その上にはケーキが置いてあった。
ケーキには、一番上のプレートに文字が書かれていた。でもなぜか、文字がはっきり見えず、この部分しか読めなかった。
―――、誕生日おめでとうございます
そのはっきりしない文字を見ようとすると、急に意識が遠のいていった――
部屋の中央にはテーブルがあり、その上にはケーキが置いてあった。
ケーキには、一番上のプレートに文字が書かれていた。でもなぜか、文字がはっきり見えず、この部分しか読めなかった。
―――、誕生日おめでとうございます
そのはっきりしない文字を見ようとすると、急に意識が遠のいていった――
502: 2011/05/15(日) 10:16:38.80 ID:51zDlQFDO
目を覚ますと、バスは既に夏フェスの会場に着いていたようで、俺達以外乗っていなかった。
唯「あ、やっと起きた~。聡美ちゃん、早く行こうよ~」
唯さんは俺を両手で揺する。こら、寝起きの人を揺すっちゃいけません。気持ち悪くなります。
聡美「うっ……は、はい」
俺ははっきりしない頭をフル回転させ、急いで準備する。
それにして気になるな……さっきの。
夢にしては生々しすぎる。
切り替えよう……今日は楽しむぞ!
そう俺は決意した。
唯「あ、やっと起きた~。聡美ちゃん、早く行こうよ~」
唯さんは俺を両手で揺する。こら、寝起きの人を揺すっちゃいけません。気持ち悪くなります。
聡美「うっ……は、はい」
俺ははっきりしない頭をフル回転させ、急いで準備する。
それにして気になるな……さっきの。
夢にしては生々しすぎる。
切り替えよう……今日は楽しむぞ!
そう俺は決意した。
503: 2011/05/15(日) 10:27:01.01 ID:51zDlQFDO
唯「うおー! 山だーっ! 来たぞ山~っ!」
梓「なんですかそれ……」
相変わらずだ……どこに行っても変わらないな、このコンビは。
律「それにしても……さわちゃんよくチケット持ってたよな」
さわ子「ふふふ……このフェスには毎年来てるのよ」
なんだそんなことだったのか……でも。
律「なんで七枚も?」
さわ子「七枚? 私は六枚しか持ってないけど……」
澪「でも、七枚ありますよ?」
紬「いつの間にか増えるチケット……不思議」
聡美「なんか怖いですね……」
まぁ、俺の分が自腹なだけなんだけどね。
梓「なんですかそれ……」
相変わらずだ……どこに行っても変わらないな、このコンビは。
律「それにしても……さわちゃんよくチケット持ってたよな」
さわ子「ふふふ……このフェスには毎年来てるのよ」
なんだそんなことだったのか……でも。
律「なんで七枚も?」
さわ子「七枚? 私は六枚しか持ってないけど……」
澪「でも、七枚ありますよ?」
紬「いつの間にか増えるチケット……不思議」
聡美「なんか怖いですね……」
まぁ、俺の分が自腹なだけなんだけどね。
504: 2011/05/15(日) 10:37:25.24 ID:51zDlQFDO
さわ子「さあみんな! のんびりムードはここまでよっ!」
入り口の近くに来ると、急にさわ子先生が言い出した。
さわ子「ここから先は戦場よ! しっかり心構えなさい!」
律「そんな大げさな……」
姉ちゃんがあきれてる……さすがにちょっとなぁ……うん。
唯「大丈夫だよー、熱中症対策もばっちり……」
さわ子「水じゃだめよ! スポーツドリンクにしなさい!」
聡美「……唯さん、こうすれば少しはましになりますよ」
俺はそう言うと、唯さんのペットボトルの中に塩を入れる。
唯「ありがと~」
さわ子「まぁ確かに、少しはましね……」
さわ子先生、まだまだ仕切るの甘いですよ……
入り口の近くに来ると、急にさわ子先生が言い出した。
さわ子「ここから先は戦場よ! しっかり心構えなさい!」
律「そんな大げさな……」
姉ちゃんがあきれてる……さすがにちょっとなぁ……うん。
唯「大丈夫だよー、熱中症対策もばっちり……」
さわ子「水じゃだめよ! スポーツドリンクにしなさい!」
聡美「……唯さん、こうすれば少しはましになりますよ」
俺はそう言うと、唯さんのペットボトルの中に塩を入れる。
唯「ありがと~」
さわ子「まぁ確かに、少しはましね……」
さわ子先生、まだまだ仕切るの甘いですよ……
505: 2011/05/15(日) 10:51:43.71 ID:51zDlQFDO
紬「はい虫よけスプレー」
唯「あ、ムギちゃんありがとー」
ほのぼの……小学校の遠足みたい。
唯「それじゃ今度は私がムギちゃんにスプレーしたげる!」
紬「自分で出来るから大丈夫よ」
唯「えー! 私もプシューッてやりたい!」
聡美「えい」
唯さんがムギさんにプシューッてする前に俺がやる。
唯「あっ……」
紬「あら、ありがとう聡美ちゃん」
唯「うぅ……」
唯さんが涙目になってる。やりすぎたか?
聡美「す、すいません唯さん! 代わりに私にプシューッてしていいから!」
唯「いいの!?」
聡美「はい!」
この人の扱い方はもう慣れてる。一回下げてから上げればいいのだ。
唯「あ、ムギちゃんありがとー」
ほのぼの……小学校の遠足みたい。
唯「それじゃ今度は私がムギちゃんにスプレーしたげる!」
紬「自分で出来るから大丈夫よ」
唯「えー! 私もプシューッてやりたい!」
聡美「えい」
唯さんがムギさんにプシューッてする前に俺がやる。
唯「あっ……」
紬「あら、ありがとう聡美ちゃん」
唯「うぅ……」
唯さんが涙目になってる。やりすぎたか?
聡美「す、すいません唯さん! 代わりに私にプシューッてしていいから!」
唯「いいの!?」
聡美「はい!」
この人の扱い方はもう慣れてる。一回下げてから上げればいいのだ。
506: 2011/05/15(日) 11:05:08.09 ID:51zDlQFDO
それからしばらくして、ライブが始まった。
さすがプロ。俺達とは全然違う。ずっと聞いていたい、そんな感じだ。
さわ子「みんな! 移動するわよ!」
……は?
さわ子「私のイチオシバンドがB会場でやるのよ!」
俺はパンフレットを見る。
B会場はと……って、メタルバンドじゃないか。
忘れてた……さわ子先生はメタラーだということを。
聡美「メタルバンドじゃないですか……なら、俺だけ一緒に行きます。姉ちゃん達はここにいて」
律「あぁ、耳壊すなよ~?」
聡美「壊しませんよ……じゃあ行きましょう、先生」
さわ子「ええ」
唯「気をつけてね~!」
その言葉、貴女にそのまま返しましょう。
そして俺と先生は、B会場へと向かった――
さすがプロ。俺達とは全然違う。ずっと聞いていたい、そんな感じだ。
さわ子「みんな! 移動するわよ!」
……は?
さわ子「私のイチオシバンドがB会場でやるのよ!」
俺はパンフレットを見る。
B会場はと……って、メタルバンドじゃないか。
忘れてた……さわ子先生はメタラーだということを。
聡美「メタルバンドじゃないですか……なら、俺だけ一緒に行きます。姉ちゃん達はここにいて」
律「あぁ、耳壊すなよ~?」
聡美「壊しませんよ……じゃあ行きましょう、先生」
さわ子「ええ」
唯「気をつけてね~!」
その言葉、貴女にそのまま返しましょう。
そして俺と先生は、B会場へと向かった――
507: 2011/05/15(日) 11:13:01.62 ID:51zDlQFDO
ドンッ。
?「きゃっ!」
走っていると、誰かにぶつかってしまった。女の人かな?
聡美「す、すみません……って」
なんかこの人見覚えがある。えーっと……
?「で、では私はこれで!」
女の人は、走っていってしまった。
あの人……見覚えはあるけど、思い出せない。
さわ子「聡美ちゃん、早く行くわよ!」
聡美「は、はい!」
……まぁいいか。
?「……」
?「きゃっ!」
走っていると、誰かにぶつかってしまった。女の人かな?
聡美「す、すみません……って」
なんかこの人見覚えがある。えーっと……
?「で、では私はこれで!」
女の人は、走っていってしまった。
あの人……見覚えはあるけど、思い出せない。
さわ子「聡美ちゃん、早く行くわよ!」
聡美「は、はい!」
……まぁいいか。
?「……」
508: 2011/05/15(日) 11:22:15.45 ID:51zDlQFDO
B会場に着く。
意外とメタラーって多いんだな……会場の中の人口密度を見て思った。
しばらくすると、メタルバンドのメンバーが出てきた。
ワァァァァァァァァ!
すっげ……歓声半端ねえ……
ライブが始まると、まわりはよりいっそう盛り上がった。
隣を見ると、先生はヘドバンしていた。
気がつくと、俺もいつの間にかノリノリになっていた。
俺はこの日、メタラーに目覚めてしまった。
意外とメタラーって多いんだな……会場の中の人口密度を見て思った。
しばらくすると、メタルバンドのメンバーが出てきた。
ワァァァァァァァァ!
すっげ……歓声半端ねえ……
ライブが始まると、まわりはよりいっそう盛り上がった。
隣を見ると、先生はヘドバンしていた。
気がつくと、俺もいつの間にかノリノリになっていた。
俺はこの日、メタラーに目覚めてしまった。
509: 2011/05/15(日) 11:38:10.58 ID:51zDlQFDO
それからのことは、あまり覚えていない。
走り回ったとか、何のご飯を食べたとか、そういうのは覚えていない。
ただ唯一覚えていることは、俺はさわ子先生と一緒にメタルバンドのライブだけを聞いたということ。
気がつくと、いつの間にか夜になっていた。
俺達のテントあたりで、姉ちゃん達と合流する。
律「おつかれ~。聡美、どうだった?」
聡美「姉ちゃん……メタルは、最高だよ」
律「あちゃ~……見事に染まっちゃったか」
さわ子「じゃあ私、悪いけど先に寝るわ……」
唯「え? さわちゃんもう寝ちゃうの?」
さわ子「ヘドバンしすぎて首がね……」
唯「……」
さわ子「……今私のこと年だと思ったでしょ?」
唯「ギクッ」
唯さん分かりやすっ!
さわ子「はぁ……もういいわ。おやすみ……」
聡美「おやすみなさい、先生」
危ない危ない……俺と比較されたら事実になるからなぁ……
走り回ったとか、何のご飯を食べたとか、そういうのは覚えていない。
ただ唯一覚えていることは、俺はさわ子先生と一緒にメタルバンドのライブだけを聞いたということ。
気がつくと、いつの間にか夜になっていた。
俺達のテントあたりで、姉ちゃん達と合流する。
律「おつかれ~。聡美、どうだった?」
聡美「姉ちゃん……メタルは、最高だよ」
律「あちゃ~……見事に染まっちゃったか」
さわ子「じゃあ私、悪いけど先に寝るわ……」
唯「え? さわちゃんもう寝ちゃうの?」
さわ子「ヘドバンしすぎて首がね……」
唯「……」
さわ子「……今私のこと年だと思ったでしょ?」
唯「ギクッ」
唯さん分かりやすっ!
さわ子「はぁ……もういいわ。おやすみ……」
聡美「おやすみなさい、先生」
危ない危ない……俺と比較されたら事実になるからなぁ……
510: 2011/05/15(日) 11:44:01.77 ID:51zDlQFDO
澪「梓は今年も真っ黒だな……」
梓「日焼け止め塗ったんですけど効きませんでした……」
紬「でも、可愛いからいいんじゃない?」
唯「そうだよ可愛いよっ!」
律「やっぱ相変わらずだな……私達」
聡美「まぁ、それが私達の売りだからいいんじゃない?」
律「だな」
そんな感じに、時間は過ぎていった……
梓「日焼け止め塗ったんですけど効きませんでした……」
紬「でも、可愛いからいいんじゃない?」
唯「そうだよ可愛いよっ!」
律「やっぱ相変わらずだな……私達」
聡美「まぁ、それが私達の売りだからいいんじゃない?」
律「だな」
そんな感じに、時間は過ぎていった……
513: 2011/05/15(日) 13:22:40.84 ID:51zDlQFDO
俺は丘の上で、音楽を聞いていた。本当に一日中やってるんだなぁ……
聡美「あと半年、か……」
本当にあっという間だった。高校に入ったのが、まるで昨日のことのように感じた。
それほどにまで、今まで楽しかった。
この楽しいと思えることこそが、幸せというものなんだと俺は思った。
聡美「そういえば……」
幸せってなんだろう?
唯「何してるの? 聡美ちゃん」
聡美「唯さん……」
唯さんは俺の隣に座る。
唯「曲聞いてたの?」
聡美「はい」
唯「そっか……一緒だね。私も曲聞こうと思ってたんだ~」
聡美「そうなんですか」
それからしばらくの間、沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは、唯さんだった。
聡美「あと半年、か……」
本当にあっという間だった。高校に入ったのが、まるで昨日のことのように感じた。
それほどにまで、今まで楽しかった。
この楽しいと思えることこそが、幸せというものなんだと俺は思った。
聡美「そういえば……」
幸せってなんだろう?
唯「何してるの? 聡美ちゃん」
聡美「唯さん……」
唯さんは俺の隣に座る。
唯「曲聞いてたの?」
聡美「はい」
唯「そっか……一緒だね。私も曲聞こうと思ってたんだ~」
聡美「そうなんですか」
それからしばらくの間、沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは、唯さんだった。
514: 2011/05/15(日) 13:47:43.98 ID:51zDlQFDO
唯「どれもいい曲、だね……」
聡美「そうですね……」
唯さん、こういう感覚はいいんだよなぁ……
聡美「……唯さん」
唯「ん? なあに? 聡美ちゃん」
先ほどの疑問を唯さんに言う。
聡美「幸せって、なんなんでしょう?」
唯「う~ん……」
唯さんは少し考えたあと、俺の目を見ながら言った。
唯「私は、今が幸せだよ。聡美ちゃんがいて、みんながいて、部活して、遊んで……ずっと、続けばいいなぁ……」
聡美「そうですね……でも……」
唯「うん……幸せって、ずっと続かないよね……だから」
唯さんは一度夜空を見てから、俺の方に振り返り、口を開いた。
唯「今を満喫しないとね!」
聡美「……はい!」
そうだよな……たとえ幸せがなんなのか分からなくても、今を満喫すれば、いいんだよな……
一度失った時間は、取り戻せないから……そして、忘れられないから……
そして、思い出として、ちゃんと残るから……
聡美「そうですね……」
唯さん、こういう感覚はいいんだよなぁ……
聡美「……唯さん」
唯「ん? なあに? 聡美ちゃん」
先ほどの疑問を唯さんに言う。
聡美「幸せって、なんなんでしょう?」
唯「う~ん……」
唯さんは少し考えたあと、俺の目を見ながら言った。
唯「私は、今が幸せだよ。聡美ちゃんがいて、みんながいて、部活して、遊んで……ずっと、続けばいいなぁ……」
聡美「そうですね……でも……」
唯「うん……幸せって、ずっと続かないよね……だから」
唯さんは一度夜空を見てから、俺の方に振り返り、口を開いた。
唯「今を満喫しないとね!」
聡美「……はい!」
そうだよな……たとえ幸せがなんなのか分からなくても、今を満喫すれば、いいんだよな……
一度失った時間は、取り戻せないから……そして、忘れられないから……
そして、思い出として、ちゃんと残るから……
515: 2011/05/15(日) 14:04:50.43 ID:51zDlQFDO
しばらく二人で音楽を聞いていると、梓さんがやってきた。
梓「こんな所で何してるんですか?」
唯「聡美ちゃんと、遠くから聞こえる曲聞いてたの! あずにゃんも座りなよ」
梓「じっとしてたら虫に刺されますよ?」
すごくまっとうな意見だ。でも……
唯「私たち、虫除けバンドしてるから!」
俺たちは両手をクロスさせる。
梓「こんな所で何してるんですか?」
唯「聡美ちゃんと、遠くから聞こえる曲聞いてたの! あずにゃんも座りなよ」
梓「じっとしてたら虫に刺されますよ?」
すごくまっとうな意見だ。でも……
唯「私たち、虫除けバンドしてるから!」
俺たちは両手をクロスさせる。
516: 2011/05/15(日) 14:22:19.91 ID:51zDlQFDO
俺と唯さんは、梓さんに一つずつ虫除けバンドを分ける。
その時だった。
律「あらお二人さん、こんな所で内緒のお話?」
梓「べ、別にたわいもない話してただけですっ!」
梓さんって、間違いなくツンデレだよなぁ……
澪「三人とも勝手にいなくなるなよ……心配しただろ」
唯「ごめんごめん」
澪「それにしても……どのバンドも格好よかったなあ」
紬「音の勢いというか迫力がすごかったわね!」
そうだなぁ……もっと聞いていたいって思えるからなぁ……
唯「でも、私たちの演奏の方がすごいよね?」
……はい?
その時だった。
律「あらお二人さん、こんな所で内緒のお話?」
梓「べ、別にたわいもない話してただけですっ!」
梓さんって、間違いなくツンデレだよなぁ……
澪「三人とも勝手にいなくなるなよ……心配しただろ」
唯「ごめんごめん」
澪「それにしても……どのバンドも格好よかったなあ」
紬「音の勢いというか迫力がすごかったわね!」
そうだなぁ……もっと聞いていたいって思えるからなぁ……
唯「でも、私たちの演奏の方がすごいよね?」
……はい?
517: 2011/05/15(日) 14:37:08.44 ID:51zDlQFDO
きゅ、急に何を言い出すんだ唯さんは……
律「そんな口きくようになる前に、まずはギター間違えずに弾けるようになりなさい」
唯「あう……痛いところを……」
姉ちゃんの華麗なツッコミ。あと、姉ちゃんもドラム走らないようにしようね。
唯「でもでも、やっぱり私たちの方がすごいよ! 一体感というか、何というか……」
唯「そう、オーラが!」
聡美「唯さん、オーラって意味分かりますか?」
唯「さあ?」
……だめだこの人。
梓「そうですよ! 私たちはプロにも負けません!」
あ、梓さん!?
どんどん唯さんに染められてくなぁ……
唯「……これからもずーっと、みんなでバンド出来たらいいねぇ」
皆「……そう(です)ね)だな」
梓「……」
この梓さん……もしかして、あっちの梓さん?
泣いてるのを隠してる……
見ていて、辛い……
律「そんな口きくようになる前に、まずはギター間違えずに弾けるようになりなさい」
唯「あう……痛いところを……」
姉ちゃんの華麗なツッコミ。あと、姉ちゃんもドラム走らないようにしようね。
唯「でもでも、やっぱり私たちの方がすごいよ! 一体感というか、何というか……」
唯「そう、オーラが!」
聡美「唯さん、オーラって意味分かりますか?」
唯「さあ?」
……だめだこの人。
梓「そうですよ! 私たちはプロにも負けません!」
あ、梓さん!?
どんどん唯さんに染められてくなぁ……
唯「……これからもずーっと、みんなでバンド出来たらいいねぇ」
皆「……そう(です)ね)だな」
梓「……」
この梓さん……もしかして、あっちの梓さん?
泣いてるのを隠してる……
見ていて、辛い……
519: 2011/05/15(日) 19:25:10.81 ID:51zDlQFDO
その後いろいろおしゃべりしたあと、
俺は寝たフリをして、みんなが寝るのを待った。
夜中の三時くらいだろうか……誰かがテントを出ていった。俺はうっすらと目を開け、その人が誰かを確かめ、追いかけた。
聡美「梓さん……」
梓さんは、さっきの丘に座っていた。まるで、何かを思い詰めるように。
聡美「梓さん……こんな時間に何を……」
梓「聡くん……」
俺は梓さんの隣に座る。
梓「あと半年、だね」
聡美「はい。ここまで来たからには、必ず……姉ちゃんを救ってみせます」
これは、自分への忠告だ。失敗は許されない。
俺は寝たフリをして、みんなが寝るのを待った。
夜中の三時くらいだろうか……誰かがテントを出ていった。俺はうっすらと目を開け、その人が誰かを確かめ、追いかけた。
聡美「梓さん……」
梓さんは、さっきの丘に座っていた。まるで、何かを思い詰めるように。
聡美「梓さん……こんな時間に何を……」
梓「聡くん……」
俺は梓さんの隣に座る。
梓「あと半年、だね」
聡美「はい。ここまで来たからには、必ず……姉ちゃんを救ってみせます」
これは、自分への忠告だ。失敗は許されない。
520: 2011/05/15(日) 20:11:06.73 ID:51zDlQFDO
梓さんと話していると、急に背中に寒気が走る。ヤバい、風邪引くかも。
聡美「梓さん、寒気が……」
梓「あっ、ごめんね聡くん……じゃあ、戻ろっか」
聡美「そうですね……っ!?」
ゾクッと、よりいっそう強い寒気が走る。いや、違う……これは、目線……!
聡美「……梓さん」
梓「うん……見られてるね、誰かに」
未来から戻った時から感じる、とても嫌な感じ。
憎しみの感情。
今、その元凶が近くにいる。
俺たちには、恐怖という名の感情が植え付けられた。
聡美「……どうします?」
梓さんの耳元で、できるだけ小さな声で話す。
梓「逃げても無駄なら、捕まえるしかないじゃない」
聡美「そうですね……では」
俺たちは走り出すフリをする。必然的に、何者かは飛び出す。俺は振り向き、こう言った。
聡美「隠れても無駄ですよ……どこかの誰かさん」
?「……!?」
その人物は、マスクを被っていた。顔は見えないが、体型からしておそらく女性だろう。
聡美「何が目的なんですか?」
?「……」
何も答えない。ていうか、彼女が持っているものは……ナイフ!?
聡美「梓さん、下がっててください……うし!」
梓「っ! ……うん」
梓さんは離れる。つまり、俺は彼女と一対一になる。
?「……」
聡美「……」
お互いに距離をつめる。そして……
?「……っ!?」
梓「ふふふ……後ろががら空きですよ?」
憎しみのあまり、周りが見えてなかったみたいだ。だから、こうも簡単に決着がつく。
聡美「ナイスです梓さん……さて」
?「……!」
聡美「話してもらいましょうか」
梓「くっ……力強っ」
聡美「まずはこのマスクを……」
ブォン!
梓「きゃっ!」
聡美「しまっ……」
女性だからってなめすぎた……!
そして彼女は、逃げていってしまった……
聡美「梓さん、寒気が……」
梓「あっ、ごめんね聡くん……じゃあ、戻ろっか」
聡美「そうですね……っ!?」
ゾクッと、よりいっそう強い寒気が走る。いや、違う……これは、目線……!
聡美「……梓さん」
梓「うん……見られてるね、誰かに」
未来から戻った時から感じる、とても嫌な感じ。
憎しみの感情。
今、その元凶が近くにいる。
俺たちには、恐怖という名の感情が植え付けられた。
聡美「……どうします?」
梓さんの耳元で、できるだけ小さな声で話す。
梓「逃げても無駄なら、捕まえるしかないじゃない」
聡美「そうですね……では」
俺たちは走り出すフリをする。必然的に、何者かは飛び出す。俺は振り向き、こう言った。
聡美「隠れても無駄ですよ……どこかの誰かさん」
?「……!?」
その人物は、マスクを被っていた。顔は見えないが、体型からしておそらく女性だろう。
聡美「何が目的なんですか?」
?「……」
何も答えない。ていうか、彼女が持っているものは……ナイフ!?
聡美「梓さん、下がっててください……うし!」
梓「っ! ……うん」
梓さんは離れる。つまり、俺は彼女と一対一になる。
?「……」
聡美「……」
お互いに距離をつめる。そして……
?「……っ!?」
梓「ふふふ……後ろががら空きですよ?」
憎しみのあまり、周りが見えてなかったみたいだ。だから、こうも簡単に決着がつく。
聡美「ナイスです梓さん……さて」
?「……!」
聡美「話してもらいましょうか」
梓「くっ……力強っ」
聡美「まずはこのマスクを……」
ブォン!
梓「きゃっ!」
聡美「しまっ……」
女性だからってなめすぎた……!
そして彼女は、逃げていってしまった……
528: 2011/05/29(日) 14:51:06.88 ID:mSsJsvjDO
彼女が逃げ去ったあと、俺たちはしばらくその場で固まっていた。
沈黙が続いたあと、梓さんが口を開いた。
梓「今の人……私、知ってるかも……」
梓さんは、彼女のことを知っている……
俺には全然分からなかったが、彼女は梓さんが知っている人物で、かつ俺に恨みを持っている……一体何者なんだ。
聡美「とりあえずここは危ないですし、戻りましょうか」
梓「そうだね……」
俺と梓さんは、その場を立ち去った――
沈黙が続いたあと、梓さんが口を開いた。
梓「今の人……私、知ってるかも……」
梓さんは、彼女のことを知っている……
俺には全然分からなかったが、彼女は梓さんが知っている人物で、かつ俺に恨みを持っている……一体何者なんだ。
聡美「とりあえずここは危ないですし、戻りましょうか」
梓「そうだね……」
俺と梓さんは、その場を立ち去った――
529: 2011/05/29(日) 15:01:01.52 ID:mSsJsvjDO
翌朝。
俺と梓さんは、起きるのが一番遅かったらしく、テントの中には俺たち以外誰もいなかった。
テントの外に出ると、空一面に青空が広がっていた。昨日は雨が降っていたため、どこかすがすがしい気分になった。
律「おっ、やっと起きたか」
唯「二人ともぐっすり眠ってたよ~、ほらっ」
唯さんはそう言いながら、携帯の画面を見せる。
そこには、俺と梓さんの寝顔が……
梓「うわあああ!? ///」
聡美「け、消してください唯さん! ///」
必氏に抗議をしたが、それもかなわず、写真は永久保存されることになってしまった……
唯「軽音部のアルバムにも貼ろうよ!」
律「そうだな……『夏フェス後の寝顔ドッキリ!』ってか?」
聡美「頼むからやめてくださあああい!」
あとから見返したら絶対恥ずかしいだろ!
でも……
俺には、見返す日が来るのだろうか……?
俺と梓さんは、起きるのが一番遅かったらしく、テントの中には俺たち以外誰もいなかった。
テントの外に出ると、空一面に青空が広がっていた。昨日は雨が降っていたため、どこかすがすがしい気分になった。
律「おっ、やっと起きたか」
唯「二人ともぐっすり眠ってたよ~、ほらっ」
唯さんはそう言いながら、携帯の画面を見せる。
そこには、俺と梓さんの寝顔が……
梓「うわあああ!? ///」
聡美「け、消してください唯さん! ///」
必氏に抗議をしたが、それもかなわず、写真は永久保存されることになってしまった……
唯「軽音部のアルバムにも貼ろうよ!」
律「そうだな……『夏フェス後の寝顔ドッキリ!』ってか?」
聡美「頼むからやめてくださあああい!」
あとから見返したら絶対恥ずかしいだろ!
でも……
俺には、見返す日が来るのだろうか……?
530: 2011/05/29(日) 15:09:48.36 ID:mSsJsvjDO
しばらくすると、澪姉とムギさんが朝ごはんを持って来た。
みんなで朝ごはんを食べたあと、テントを片付け、帰りの準備をする。
帰りも当然バスだが、酔い止め薬を飲み忘れてしまったため、気持ち悪くなってしまった。
気づけば、寝てしまっていた――
おかしい。
目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていた。
何も見えない、と言うより、地面以外何もない、の方が正しいのだろうか?
いくら歩いても何にもぶつからないし、辺りは真っ暗なまま。
俺は生ぬるい風が吹いていることに気づき、指を舐めて宙にかざす。この生ぬるい風は、右の方から吹いているようだった。
俺は風に向かって歩いた。
みんなで朝ごはんを食べたあと、テントを片付け、帰りの準備をする。
帰りも当然バスだが、酔い止め薬を飲み忘れてしまったため、気持ち悪くなってしまった。
気づけば、寝てしまっていた――
おかしい。
目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていた。
何も見えない、と言うより、地面以外何もない、の方が正しいのだろうか?
いくら歩いても何にもぶつからないし、辺りは真っ暗なまま。
俺は生ぬるい風が吹いていることに気づき、指を舐めて宙にかざす。この生ぬるい風は、右の方から吹いているようだった。
俺は風に向かって歩いた。
531: 2011/05/29(日) 15:15:38.17 ID:mSsJsvjDO
風が少し強くなり、遠くに明かりが見えた。目をこらして見ると、扉が光っているようだった。扉に向かって歩き、扉の前に立つ。この生ぬるい風は、扉から吹き込んでいるようだった。
扉の取っ手に手を掛ける。
聡美「……っ!?」
その瞬間、とてつもない寒気がした。
開けてはいけない。俺は本能で感じ取った。
でも、ここ以外に行くところがないので……
俺は扉を開けた――
扉の取っ手に手を掛ける。
聡美「……っ!?」
その瞬間、とてつもない寒気がした。
開けてはいけない。俺は本能で感じ取った。
でも、ここ以外に行くところがないので……
俺は扉を開けた――
532: 2011/05/29(日) 15:26:35.70 ID:mSsJsvjDO
扉の向こう側は、普通の街中の風景が広がっていた。
空はオレンジ色に染まっていて、夕方のようだった。
後ろを振り返ると、普通の一般住宅があった。
さっきの扉は、この家の玄関扉だったようだ。
もう一度開けてみる。
すると、さっきまで何もなかった空間には、普通の家の玄関のそれに変わっていた。
空はオレンジ色に染まっていて、夕方のようだった。
後ろを振り返ると、普通の一般住宅があった。
さっきの扉は、この家の玄関扉だったようだ。
もう一度開けてみる。
すると、さっきまで何もなかった空間には、普通の家の玄関のそれに変わっていた。
533: 2011/05/29(日) 15:33:27.82 ID:mSsJsvjDO
聡美「……は?」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
そりゃそうである。さっきまで何もなかった空間に、突然家の中身が現れたのだから。
……これは夢か? 一瞬そう思ったが、頬をつねってみて痛みを感じたので、夢ではないようだ。
じゃあこれはなんだ? 現実? いや、それはない。俺はバスに乗っていたのだから。
記憶が飛んでる? いや、そんなことより。
聡美「……」
俺は家を見る。
突然現れた空間。消えた真っ暗な空間。ならば、何かあるはずだ。
俺は、家の中に入った――
俺は思わず声を漏らしてしまった。
そりゃそうである。さっきまで何もなかった空間に、突然家の中身が現れたのだから。
……これは夢か? 一瞬そう思ったが、頬をつねってみて痛みを感じたので、夢ではないようだ。
じゃあこれはなんだ? 現実? いや、それはない。俺はバスに乗っていたのだから。
記憶が飛んでる? いや、そんなことより。
聡美「……」
俺は家を見る。
突然現れた空間。消えた真っ暗な空間。ならば、何かあるはずだ。
俺は、家の中に入った――
534: 2011/05/29(日) 15:39:32.24 ID:mSsJsvjDO
家の中は、どこか見覚えがあった。この家がなんなのか分からないのに。
そして俺は、とある部屋の前に立つ。
『―――のへや』
聡美「……っっっっっっ!?!?!?」
部屋の前に立った瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの寒気がした。
入ってはいけない。中を見てはいけない。知ってはいけない。
足の震えが止まらなかったが、俺は扉を開けた。
そこには、行きの時に見た部屋があった。
そして俺は、とある部屋の前に立つ。
『―――のへや』
聡美「……っっっっっっ!?!?!?」
部屋の前に立った瞬間、先ほどとは比べ物にならないほどの寒気がした。
入ってはいけない。中を見てはいけない。知ってはいけない。
足の震えが止まらなかったが、俺は扉を開けた。
そこには、行きの時に見た部屋があった。
535: 2011/05/29(日) 15:44:51.78 ID:mSsJsvjDO
部屋の中は、前とあまり変わってなかった。
ただ、気になることがあるとすれば、カレンダーの日付が変わっていること。
4月7日……『いよいよ明日っ!!』と書いてあった。
4月8日に何があるのだろうか。
そして、何故俺の身体はこんなにも震えているのだろうか。
……トン……トン……
ただ、気になることがあるとすれば、カレンダーの日付が変わっていること。
4月7日……『いよいよ明日っ!!』と書いてあった。
4月8日に何があるのだろうか。
そして、何故俺の身体はこんなにも震えているのだろうか。
……トン……トン……
536: 2011/05/29(日) 15:53:18.03 ID:mSsJsvjDO
聡美「っ!?」
『何か』が、階段を上ってくる。
……トン……トン……トン……
そしてその音は、確実に近づいてくる。
……トントントントントントン……
『何か』が、近づいてくる。
……トン、トン。
そして扉の前で、足音は止まった。
俺はとっさに扉のそばに立つ。
ガチャ
扉が開かれ、『何か』はベッドに直行。扉は開けっ放しだ。
そのスキに、俺は部屋から出る。
『何か』が、階段を上ってくる。
……トン……トン……トン……
そしてその音は、確実に近づいてくる。
……トントントントントントン……
『何か』が、近づいてくる。
……トン、トン。
そして扉の前で、足音は止まった。
俺はとっさに扉のそばに立つ。
ガチャ
扉が開かれ、『何か』はベッドに直行。扉は開けっ放しだ。
そのスキに、俺は部屋から出る。
537: 2011/05/29(日) 15:59:56.79 ID:mSsJsvjDO
俺は逃げるように家から出て、とにかく走る。
……恐怖。
人間が逆らえない感情の一つ。
今まさに俺は、恐怖に支配されていた。
疲れはてて止まった場所は、俺の家の近所だった。
自宅というのは、人間が安心できる場所だ。
家の前に立ち、扉を開ける。
ガシッ
聡美「っ!?」
その瞬間、『何か』に肩を掴まれたが、俺が振り向く前に辺りは真っ暗になり、俺の意識は遠のいていった――
……恐怖。
人間が逆らえない感情の一つ。
今まさに俺は、恐怖に支配されていた。
疲れはてて止まった場所は、俺の家の近所だった。
自宅というのは、人間が安心できる場所だ。
家の前に立ち、扉を開ける。
ガシッ
聡美「っ!?」
その瞬間、『何か』に肩を掴まれたが、俺が振り向く前に辺りは真っ暗になり、俺の意識は遠のいていった――
538: 2011/05/29(日) 16:05:14.78 ID:mSsJsvjDO
目を覚ますと、俺はバスの中にいた。
サービスエリアに止まっていたようで、人は少なかった。
窓の外で姉ちゃんが俺を呼んでいたので、俺は席を立ち、バスを降りて、姉ちゃんたちと合流した。
その日から夏祭りまで、特に変わった出来事はなかった。
そう、怖いくらいに何も――
サービスエリアに止まっていたようで、人は少なかった。
窓の外で姉ちゃんが俺を呼んでいたので、俺は席を立ち、バスを降りて、姉ちゃんたちと合流した。
その日から夏祭りまで、特に変わった出来事はなかった。
そう、怖いくらいに何も――
548: 2011/07/10(日) 06:50:05.64 ID:DeeS/iJDO
今日は近くの川原で夏祭りがある。花火や屋台など、俺的にかなり懐かしいものもある。
そういえば、昔はよく姉ちゃん達に連れていってもらったなぁ……
ちなみに俺は今、夏期講習に参加している。まぁ……参加しなくても多分大丈夫だろうけど。
でも、姉ちゃんや唯さんが心配だからなぁ……特に。
数時間にも及ぶ夏期講習の後、俺達は梓さん達と合流して、夏祭りに向かった。
そういえば、昔はよく姉ちゃん達に連れていってもらったなぁ……
ちなみに俺は今、夏期講習に参加している。まぁ……参加しなくても多分大丈夫だろうけど。
でも、姉ちゃんや唯さんが心配だからなぁ……特に。
数時間にも及ぶ夏期講習の後、俺達は梓さん達と合流して、夏祭りに向かった。
549: 2011/07/10(日) 07:01:32.69 ID:DeeS/iJDO
夏祭りの会場である川原に着くと、既に人がたくさんいた。これははぐれやすいな……
唯「りっちゃん、クレープ食べようよ!」
律「何を言っておる唯隊員、夏といえばかき氷だろう?」
唯「はっ! りっちゃん隊員のおっしゃる通りです!」
本当に楽しそうだな姉ちゃん……これが幸せ。自分はどうなってもいいから、姉ちゃんは……
澪「聡美? ……どうかしたのか? これ、お前の分だぞ?」
俺の目の前には、ブルーハワイのかき氷が差し出されていた。
聡美「あぁ、ありがとうございます澪さん」
かき氷を一気に口のなかに入れる。頭がキーンとなる。この感覚がたまらない。
ふと周りを見ると、俺と姉ちゃんと澪姉と唯さんと憂さんはかき氷を、ムギさんは焼きそばを、梓さんは……たい焼き?
みんなそれぞれ夏祭りを堪能しているようだった。
唯「りっちゃん、クレープ食べようよ!」
律「何を言っておる唯隊員、夏といえばかき氷だろう?」
唯「はっ! りっちゃん隊員のおっしゃる通りです!」
本当に楽しそうだな姉ちゃん……これが幸せ。自分はどうなってもいいから、姉ちゃんは……
澪「聡美? ……どうかしたのか? これ、お前の分だぞ?」
俺の目の前には、ブルーハワイのかき氷が差し出されていた。
聡美「あぁ、ありがとうございます澪さん」
かき氷を一気に口のなかに入れる。頭がキーンとなる。この感覚がたまらない。
ふと周りを見ると、俺と姉ちゃんと澪姉と唯さんと憂さんはかき氷を、ムギさんは焼きそばを、梓さんは……たい焼き?
みんなそれぞれ夏祭りを堪能しているようだった。
550: 2011/07/10(日) 07:05:42.25 ID:DeeS/iJDO
それからしばらくすると、花火があがった。
みんな走り出したので、俺も走り出そうとする……が、既に人ごみにまぎれてしまい、はぐれてしまったようだ。
仕方がないので、川原の近くの、花火がよく見えそうな丘に向かった。
――自分を尾行している影がいるのにも気づかずに――
みんな走り出したので、俺も走り出そうとする……が、既に人ごみにまぎれてしまい、はぐれてしまったようだ。
仕方がないので、川原の近くの、花火がよく見えそうな丘に向かった。
――自分を尾行している影がいるのにも気づかずに――
551: 2011/07/10(日) 07:24:00.89 ID:DeeS/iJDO
丘に立つと、思った通り、花火がよく見えた。
聡美「きれいだな……」
花火なんて何年ぶりだろう。ほとんどタイムマシンの開発に時間を費やしたからなぁ……
?「聡く~ん!」
名前を呼ばれたので振り向くと、そこには……
純「こんなところで何してるの? みんな待ってるよ?」
憂さんと梓さんの友達である鈴木純さんが立っていた。
聡美「あ、純さん……実はさっき、みんなとちょっとはぐれて……」
純「そうなんだ、相変わらずだね聡くん」
聡美「あはは………………ん?」
ちょっと待て。今純さんはなんて言った? 聡くん? なんで純さんはそのことを知っている?
それどころか、なんでここまで仲良く話せる? まるで、前もどこかで何回も会い、話したことがあるみたいに……
純「それじゃあ、早く行こうよ! 『みんな』待ってるよ?」
純さんが、妙に『みんな』を強調した。
嫌な予感がしたが、その瞬間、俺の体に電流が走った。
聡美「スタン、ガン……」
意識が遠のいていく中、聞こえたのは……
純「みんなで元に戻って、それからまた二人でやり直そうよ、聡くん」
やり、直す……?
そこで、俺の意識は途絶えた。
聡美「きれいだな……」
花火なんて何年ぶりだろう。ほとんどタイムマシンの開発に時間を費やしたからなぁ……
?「聡く~ん!」
名前を呼ばれたので振り向くと、そこには……
純「こんなところで何してるの? みんな待ってるよ?」
憂さんと梓さんの友達である鈴木純さんが立っていた。
聡美「あ、純さん……実はさっき、みんなとちょっとはぐれて……」
純「そうなんだ、相変わらずだね聡くん」
聡美「あはは………………ん?」
ちょっと待て。今純さんはなんて言った? 聡くん? なんで純さんはそのことを知っている?
それどころか、なんでここまで仲良く話せる? まるで、前もどこかで何回も会い、話したことがあるみたいに……
純「それじゃあ、早く行こうよ! 『みんな』待ってるよ?」
純さんが、妙に『みんな』を強調した。
嫌な予感がしたが、その瞬間、俺の体に電流が走った。
聡美「スタン、ガン……」
意識が遠のいていく中、聞こえたのは……
純「みんなで元に戻って、それからまた二人でやり直そうよ、聡くん」
やり、直す……?
そこで、俺の意識は途絶えた。
552: 2011/07/10(日) 07:33:03.84 ID:DeeS/iJDO
目を覚ますと、そこは見知らぬ場所。
とはいえ、かなり近代的な場所だということは分かる。
ちょうどいいことに窓があったので、そこから外の風景を見る。
大抵の場合、窓から見える風景だけで自分がどの辺にいるのか分かる。
しかし、自分の目にうつった光景は……
聡美「う、嘘だろ……? なんで、俺は……ここにいる?」
俺は、未来……2032年のホテル・コトブキ桜ヶ丘第23区店の一室にいた。
とはいえ、かなり近代的な場所だということは分かる。
ちょうどいいことに窓があったので、そこから外の風景を見る。
大抵の場合、窓から見える風景だけで自分がどの辺にいるのか分かる。
しかし、自分の目にうつった光景は……
聡美「う、嘘だろ……? なんで、俺は……ここにいる?」
俺は、未来……2032年のホテル・コトブキ桜ヶ丘第23区店の一室にいた。
553: 2011/07/10(日) 07:37:01.37 ID:DeeS/iJDO
は……?
なんで俺は今、瞬時に理解できた?
大体の場所は分かっても、店の名前までは普通分からないのに……
まさか……
ここに、来たことがある?
何かがおかしい。
まるで、誰かと記憶を共有しているみたいだ。
なんで俺は今、瞬時に理解できた?
大体の場所は分かっても、店の名前までは普通分からないのに……
まさか……
ここに、来たことがある?
何かがおかしい。
まるで、誰かと記憶を共有しているみたいだ。
554: 2011/07/10(日) 07:46:03.32 ID:DeeS/iJDO
いや、そもそも何故、俺はここにいる?
体の調子からするに、あまり長い時間はたってないはず。
ならば……その答えは――
ガチャ
純「あ、起きたんだね。聡くん」
――純さんだ。
聡美「純さん……何のつもりですか?」
純「やだなぁ聡くん、私が聡くんに変なことするわけないじゃん」
聡美「……じゃあなんで、俺はここにいるんですか?」
純「決まってるじゃん。私が連れてきたんだよ……二人でやり直すために」
やり直す……どういう意味だ?
聡美「どういう、意味なんですか……?」
純「あっ、そっか。聡くんは知らないんだっけ? じゃあ、一から説明するよ」
体の調子からするに、あまり長い時間はたってないはず。
ならば……その答えは――
ガチャ
純「あ、起きたんだね。聡くん」
――純さんだ。
聡美「純さん……何のつもりですか?」
純「やだなぁ聡くん、私が聡くんに変なことするわけないじゃん」
聡美「……じゃあなんで、俺はここにいるんですか?」
純「決まってるじゃん。私が連れてきたんだよ……二人でやり直すために」
やり直す……どういう意味だ?
聡美「どういう、意味なんですか……?」
純「あっ、そっか。聡くんは知らないんだっけ? じゃあ、一から説明するよ」
555: 2011/07/10(日) 07:53:26.36 ID:DeeS/iJDO
純「まず、同じ世界に同じ人間は3人以上は存在できないってことは知ってる?」
聡美「えっ……」
あれ? 確か、同じ世界には1人だけのはず。だから、体の時間軸をわずかにずらして、性別も変えたのだが……
純「どうしてかは知らないけど、2人までなら大丈夫なんだよ。でもね……聡くんは3人目になっちゃったの。3人目はどうなるか知ってる?
消えるんだよ、存在が」
聡美「えっ……」
あれ? 確か、同じ世界には1人だけのはず。だから、体の時間軸をわずかにずらして、性別も変えたのだが……
純「どうしてかは知らないけど、2人までなら大丈夫なんだよ。でもね……聡くんは3人目になっちゃったの。3人目はどうなるか知ってる?
消えるんだよ、存在が」
556: 2011/07/10(日) 07:58:51.66 ID:DeeS/iJDO
そうか……
そういうこと、だったのか……
だからこの純さんは……この俺は……
3人目の『俺』が消えたとき、記憶を共有したのか……わずかながら。
純「もう分かってると思うけど……私が愛した聡くんは消えた。けど……あなたの頭の中にはまだ聡くんが生きてる。だから……
やり直そう? 二人で
ね? 聡くん」
そういうこと、だったのか……
だからこの純さんは……この俺は……
3人目の『俺』が消えたとき、記憶を共有したのか……わずかながら。
純「もう分かってると思うけど……私が愛した聡くんは消えた。けど……あなたの頭の中にはまだ聡くんが生きてる。だから……
やり直そう? 二人で
ね? 聡くん」
557: 2011/07/10(日) 08:08:57.30 ID:DeeS/iJDO
怖い。
これが、純さん?
怖すぎる。
でも……分からないことがまだ残っている。
聞かなければ。
聡美「じゃあ……あの時、俺を殺そうとしたのは?」
俺は確信している。あれは、純さんだということを。
純「あれは……タイムマシンのせいで、いろんなものが歪んで、聡くんが消えた。だから……憎かったの。タイムマシンを作った……あなたが」
なるほど……だけど、まだ分からないことがある。
聡美「なんで急に……こんなことを?」
純「それは……あなたの中に、聡くんが生きてるって分かったからだよ。だって……
これが、純さん?
怖すぎる。
でも……分からないことがまだ残っている。
聞かなければ。
聡美「じゃあ……あの時、俺を殺そうとしたのは?」
俺は確信している。あれは、純さんだということを。
純「あれは……タイムマシンのせいで、いろんなものが歪んで、聡くんが消えた。だから……憎かったの。タイムマシンを作った……あなたが」
なるほど……だけど、まだ分からないことがある。
聡美「なんで急に……こんなことを?」
純「それは……あなたの中に、聡くんが生きてるって分かったからだよ。だって……
558: 2011/07/10(日) 08:12:01.94 ID:DeeS/iJDO
私と同じ夢を見ててくれたもん
……覚えてない? ほら、私が聡くんの肩を叩いたじゃない
あの時だよ」
559: 2011/07/10(日) 08:26:31.29 ID:DeeS/iJDO
そうか……あれは、そういうこと、だったのか……
聡美「分かった。でも……純さんごめん。俺には、他にやるべきことがあるから……だから、純さんとは一緒には居れない」
純「……どうして?」
聡美「……ごめん」
純「私はこんなに聡くんを愛してるのに……ねぇ、どうして? どうしてなの?」
聡美「俺はもう行くよ。さよなら、純さん」
純「っ! ま、待って!」
ギュ
後ろから純さんが抱きついてくる。
純「聡くん……行かないで……私を一人にしないで……」
聡美「純さん……純さんが愛した『俺』はもういない。たとえ俺の中で生きていても……同じ俺でも……それは、他人なんだよ……」
純「……」
聡美「じゃあね、純さん」
俺は純さんを振り払い、部屋を出ようとする。
純「……フ、フフ」
聡美「……?」
純「そう、だよね……聡くんはもう……いなくて……私を愛してくれないんだよね……それじゃあ……
あなたを頃しても、問題ないよね?」
聡美「分かった。でも……純さんごめん。俺には、他にやるべきことがあるから……だから、純さんとは一緒には居れない」
純「……どうして?」
聡美「……ごめん」
純「私はこんなに聡くんを愛してるのに……ねぇ、どうして? どうしてなの?」
聡美「俺はもう行くよ。さよなら、純さん」
純「っ! ま、待って!」
ギュ
後ろから純さんが抱きついてくる。
純「聡くん……行かないで……私を一人にしないで……」
聡美「純さん……純さんが愛した『俺』はもういない。たとえ俺の中で生きていても……同じ俺でも……それは、他人なんだよ……」
純「……」
聡美「じゃあね、純さん」
俺は純さんを振り払い、部屋を出ようとする。
純「……フ、フフ」
聡美「……?」
純「そう、だよね……聡くんはもう……いなくて……私を愛してくれないんだよね……それじゃあ……
あなたを頃しても、問題ないよね?」
560: 2011/07/10(日) 08:37:06.13 ID:DeeS/iJDO
聡美「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はとっさに部屋を出て、走り出す。
背後でも、純さんが走り出すのが分かった。
ホテルを出て、必氏に逃げる。でも、どこへ?
この純さんは、間違いなく刻を越えてでも追いかけてくる。
……どうする? 考えろ。純さんを動けなくする、方法を。
あっ……あった。
桜ヶ丘第7区の、琴吹グループ本社に駆け込んで、ムギさんに助けを求めよう。
さすがの純さんでも、あそこなら……
でも、ここから第7区までは、約10kmくらいある。
体力、持つか……?
その言葉を聞いた瞬間、俺はとっさに部屋を出て、走り出す。
背後でも、純さんが走り出すのが分かった。
ホテルを出て、必氏に逃げる。でも、どこへ?
この純さんは、間違いなく刻を越えてでも追いかけてくる。
……どうする? 考えろ。純さんを動けなくする、方法を。
あっ……あった。
桜ヶ丘第7区の、琴吹グループ本社に駆け込んで、ムギさんに助けを求めよう。
さすがの純さんでも、あそこなら……
でも、ここから第7区までは、約10kmくらいある。
体力、持つか……?
561: 2011/07/10(日) 08:47:10.94 ID:DeeS/iJDO
俺は走る。
絶対に振り向いてはいけない。
とにかく走る。
第7区に向かって、まっすぐ。
2kmほどダッシュして、もう足が震えてきた。
おいおい、はやすぎるだろ……ちくしょう……
俺はその場に崩れる。
その時――
キキイイイイイイィィィィィィ
ブレーキ音。
あぁ……終わったな……俺の人生……
姉ちゃん……ごめん……
守れなかった……
ドンッ
誰かに、背中を押された。
絶対に振り向いてはいけない。
とにかく走る。
第7区に向かって、まっすぐ。
2kmほどダッシュして、もう足が震えてきた。
おいおい、はやすぎるだろ……ちくしょう……
俺はその場に崩れる。
その時――
キキイイイイイイィィィィィィ
ブレーキ音。
あぁ……終わったな……俺の人生……
姉ちゃん……ごめん……
守れなかった……
ドンッ
誰かに、背中を押された。
562: 2011/07/10(日) 08:54:18.96 ID:DeeS/iJDO
聡美「!?」
道路に転がる。後ろを振り向くと……
純「あれ……? おかしいなぁ……体が勝tt」
その瞬間、純さんは俺の目の前から消えた。
ヤ、ヤダ……
オンナノコガクルマニフキトバサレタ……
アァ……アンナニチガ……
聡美「純、さん……?」
道路に転がる。後ろを振り向くと……
純「あれ……? おかしいなぁ……体が勝tt」
その瞬間、純さんは俺の目の前から消えた。
ヤ、ヤダ……
オンナノコガクルマニフキトバサレタ……
アァ……アンナニチガ……
聡美「純、さん……?」
563: 2011/07/10(日) 09:10:18.97 ID:DeeS/iJDO
聡美「純さんっ!」
俺は純さんに駆け寄る。
純「あ、はは……ざまあ……ない、よね……私はあなたを……殺そうと……したの、に……体が勝手に、あなたを……守ろ、うとして……こうなるなんて……」
聡美「もう喋らないでください……! すぐに救急車を……」
俺は電話を取り出す……が、純さんに止められた。
純「ううん……いいよ……今、思えば……最初から……こうしと、けば……聡、くんのところに……行けたんだね……」
聡美「バカなこと言わないでください!」
純「あり、がと……これで……私も……聡くんのところに………………」
ガクッ
聡美「純、さん……?」
純「……」
聡美「嘘、だろ……?」
純「……」
純さんは、とても嬉しそうな顔で、冷たくなっていった。
聡美「なんでそんな顔できるんだよ……純……」
聡美「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
俺は純さんに駆け寄る。
純「あ、はは……ざまあ……ない、よね……私はあなたを……殺そうと……したの、に……体が勝手に、あなたを……守ろ、うとして……こうなるなんて……」
聡美「もう喋らないでください……! すぐに救急車を……」
俺は電話を取り出す……が、純さんに止められた。
純「ううん……いいよ……今、思えば……最初から……こうしと、けば……聡、くんのところに……行けたんだね……」
聡美「バカなこと言わないでください!」
純「あり、がと……これで……私も……聡くんのところに………………」
ガクッ
聡美「純、さん……?」
純「……」
聡美「嘘、だろ……?」
純「……」
純さんは、とても嬉しそうな顔で、冷たくなっていった。
聡美「なんでそんな顔できるんだよ……純……」
聡美「うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
564: 2011/07/10(日) 09:27:57.69 ID:DeeS/iJDO
救急隊の人達が、純さんを救急車の中へと運んでいく。
救急車が走り出し、サイレンが遠のいていく。
俺はその場で、ただただ泣いていた。
聡美「純……俺のせいで……純は……」
あの『俺』の記憶を持つからか、涙は止まりそうになかった。
しばらくすると、ムギさんがやって来た。
紬「聡くん!? 純ちゃんが事故にあったって聞いたけど……」
聡美「ムギさん……俺のせいで……純は……」
紬「……そう……今、琴吹グループの技術を最大限に使って手術してるわ。もしかしたら助かるかもしれないわ……」
聡美「っ! どこ、ですか……?」
紬「これを使って。場所は……琴吹病院桜ヶ丘第14区支部よ」
聡美「となると……あそこか!」
俺は病院に向かって走り出す。
病院までの距離は500mも無い。
救急車が走り出し、サイレンが遠のいていく。
俺はその場で、ただただ泣いていた。
聡美「純……俺のせいで……純は……」
あの『俺』の記憶を持つからか、涙は止まりそうになかった。
しばらくすると、ムギさんがやって来た。
紬「聡くん!? 純ちゃんが事故にあったって聞いたけど……」
聡美「ムギさん……俺のせいで……純は……」
紬「……そう……今、琴吹グループの技術を最大限に使って手術してるわ。もしかしたら助かるかもしれないわ……」
聡美「っ! どこ、ですか……?」
紬「これを使って。場所は……琴吹病院桜ヶ丘第14区支部よ」
聡美「となると……あそこか!」
俺は病院に向かって走り出す。
病院までの距離は500mも無い。
565: 2011/07/10(日) 09:46:35.25 ID:DeeS/iJDO
病院に入る。
ムギさんに手渡されたパスを使って、手術室の前へと向かう。そして、ソファーに座る。
聡美「純……」
俺はただ、願い続ける。
神様……もしいるのなら……たった一人の女の子を……助けてくれ……!
しばらくすると、手術中のランプが消え、医者が出てきた。
医者「君は……田井中聡美……いや、聡くんかね?」
聡美「は、はい! あの……純は……?」
医者は、首を横に振る。
聡美「そ、んな……」
俺はその場で崩れ落ちる。
医者「見るかい?」
聡美「……はい……」
手術室に入る。純さんは、ベッドの上で寝ていた。
聡美「純………………ん?」
その横に、見慣れない、小さな物体がある。
聡美「あの、これは……?」
それを指差しながら、医者に問う。
医者「彼女……妊娠していたんだ……君の子だよ、これは」
聡美「妊、娠……」
それは、今の俺にとって、氏刑宣告だった。
人を、二人も、頃してしまった。
純と……赤ちゃんを。
聡美「純……純……!」
その場に泣き崩れる。
聡美「ごめん……ごめん……ごめん……!」
聡美「うっ……」
医者「……っ!」
俺の意識は、そこで飛んだ。
ムギさんに手渡されたパスを使って、手術室の前へと向かう。そして、ソファーに座る。
聡美「純……」
俺はただ、願い続ける。
神様……もしいるのなら……たった一人の女の子を……助けてくれ……!
しばらくすると、手術中のランプが消え、医者が出てきた。
医者「君は……田井中聡美……いや、聡くんかね?」
聡美「は、はい! あの……純は……?」
医者は、首を横に振る。
聡美「そ、んな……」
俺はその場で崩れ落ちる。
医者「見るかい?」
聡美「……はい……」
手術室に入る。純さんは、ベッドの上で寝ていた。
聡美「純………………ん?」
その横に、見慣れない、小さな物体がある。
聡美「あの、これは……?」
それを指差しながら、医者に問う。
医者「彼女……妊娠していたんだ……君の子だよ、これは」
聡美「妊、娠……」
それは、今の俺にとって、氏刑宣告だった。
人を、二人も、頃してしまった。
純と……赤ちゃんを。
聡美「純……純……!」
その場に泣き崩れる。
聡美「ごめん……ごめん……ごめん……!」
聡美「うっ……」
医者「……っ!」
俺の意識は、そこで飛んだ。
566: 2011/07/10(日) 10:01:25.79 ID:DeeS/iJDO
目を覚ますと、そこはベッドの上。
横を見ると、ムギさんがいた。
聡美「ムギ、さん……」
紬「聡くん……」
それから、ムギさんは話してくれた。
純さんは、内臓も滅茶苦茶で、もう取り返しがつかなかったこと。
あの赤ちゃんが、俺の子であるのは、間違いないこと。
すべて、思い出した。
『俺』の、記憶を……
紬「どうするの? また、あの時間に行くの?」
聡美「……」
あの時間へ戻れば、おそらく純さんがいる。
でも……出会った瞬間、禁断症状が発症する可能性がある。
聡美「考えて、おきます」
紬「そう……今は、一旦休みなさい。そうしてから、考えて」
聡美「はい……ありがとうございますムギさん……忙しいのに」
紬「いいのよ。少しくらい。」
少しくらいって……。なんだろう、大物は違うなぁ……
紬「それじゃあね、聡くん」
ムギさんは病室を出ていく。
一人になったので、考える。
聡美「俺は……」
横を見ると、ムギさんがいた。
聡美「ムギ、さん……」
紬「聡くん……」
それから、ムギさんは話してくれた。
純さんは、内臓も滅茶苦茶で、もう取り返しがつかなかったこと。
あの赤ちゃんが、俺の子であるのは、間違いないこと。
すべて、思い出した。
『俺』の、記憶を……
紬「どうするの? また、あの時間に行くの?」
聡美「……」
あの時間へ戻れば、おそらく純さんがいる。
でも……出会った瞬間、禁断症状が発症する可能性がある。
聡美「考えて、おきます」
紬「そう……今は、一旦休みなさい。そうしてから、考えて」
聡美「はい……ありがとうございますムギさん……忙しいのに」
紬「いいのよ。少しくらい。」
少しくらいって……。なんだろう、大物は違うなぁ……
紬「それじゃあね、聡くん」
ムギさんは病室を出ていく。
一人になったので、考える。
聡美「俺は……」
577: 2011/09/11(日) 10:24:10.58 ID:mmEAEuiDO
それから数時間、ついさっきムギさんに言われた事について考えていた。
過去の記憶の中にその答えがあるのではないかと考えた俺は、これまでの人生を思い出す。
姉ちゃんに想いを告げられないまま、先に旅立たれてしまったこと、それから数年、心を閉ざし、そしてタイムマシンを造ることを決意し、必氏に猛勉強したこと。
それは、今でも非常に役に立っている。
なんとか東大に合格し、物理学などを中心に学び、さらには時間の研究もした。
その時も唯さんや憂さん、梓さんが支えてくれたこと、そしてやっと、タイムマシンを完成させたこと。
その時、俺は誓ったはずだ。
姉ちゃんを必ず助け出してみせると。
刻を越えて、過去に戻り、それから姉ちゃん達と共に歩んだこと、唯さん達が未来からやってきて、協力してくれたこと。
そして時が過ぎ、いつの間にか三年生になっていたこと。
修学旅行の夜、和さんから新しく発見されたルールを告げられたこと、その後、俺は再び固く誓った。
たとえ俺がどうなっても、姉ちゃんを助けると。
そして、純さんからの妨害。
あの時は本当に驚いた。まさか、平行世界と繋がってしまうとは。
俺が造ったタイムマシンが不完全だったのか、それとも未知の機能があるのか、それは分からない。
もしかしたら、あちらの世界から干渉してきたのかもしれないからだ。
そして、今に至る。
このまま諦めていいのか。良いわけがない。
ならば、答えは一つだ。
……戻ろう、あの時間に。
過去の記憶の中にその答えがあるのではないかと考えた俺は、これまでの人生を思い出す。
姉ちゃんに想いを告げられないまま、先に旅立たれてしまったこと、それから数年、心を閉ざし、そしてタイムマシンを造ることを決意し、必氏に猛勉強したこと。
それは、今でも非常に役に立っている。
なんとか東大に合格し、物理学などを中心に学び、さらには時間の研究もした。
その時も唯さんや憂さん、梓さんが支えてくれたこと、そしてやっと、タイムマシンを完成させたこと。
その時、俺は誓ったはずだ。
姉ちゃんを必ず助け出してみせると。
刻を越えて、過去に戻り、それから姉ちゃん達と共に歩んだこと、唯さん達が未来からやってきて、協力してくれたこと。
そして時が過ぎ、いつの間にか三年生になっていたこと。
修学旅行の夜、和さんから新しく発見されたルールを告げられたこと、その後、俺は再び固く誓った。
たとえ俺がどうなっても、姉ちゃんを助けると。
そして、純さんからの妨害。
あの時は本当に驚いた。まさか、平行世界と繋がってしまうとは。
俺が造ったタイムマシンが不完全だったのか、それとも未知の機能があるのか、それは分からない。
もしかしたら、あちらの世界から干渉してきたのかもしれないからだ。
そして、今に至る。
このまま諦めていいのか。良いわけがない。
ならば、答えは一つだ。
……戻ろう、あの時間に。
578: 2011/09/11(日) 10:30:30.86 ID:mmEAEuiDO
決心がついた俺は、ムギさんに自分の答えを告げ、タイムマシンを使わせてもらった。
言い忘れていたが、純さんの件もあり、タイムマシンは今、世界最高級のセキュリティーを誇る琴吹グループが保管・管理している。このことは、一部の人間しか知らない。
そして俺は、あの夏祭りの日に還った――
言い忘れていたが、純さんの件もあり、タイムマシンは今、世界最高級のセキュリティーを誇る琴吹グループが保管・管理している。このことは、一部の人間しか知らない。
そして俺は、あの夏祭りの日に還った――
579: 2011/09/11(日) 10:37:54.67 ID:mmEAEuiDO
目的の時間に着くと、花火の音が聞こえてきた。
……無事にあの日に戻ってこれたようだ。
きっと今頃姉ちゃん達は、突然俺がいなくなったことで騒いでいるだろう。
あまり公共の場で騒がれても困るので、俺は姉ちゃんと連絡をとろうと、携帯を取り出す。
……姉ちゃん達からは着信もメールも何も無い。
とりあえず、私はこのあと用事があるから先に帰りますと、メールを打っておいた。
姉ちゃんからの返信メールには、気をつけて帰れよ、とだけ書かれていた。
……無事にあの日に戻ってこれたようだ。
きっと今頃姉ちゃん達は、突然俺がいなくなったことで騒いでいるだろう。
あまり公共の場で騒がれても困るので、俺は姉ちゃんと連絡をとろうと、携帯を取り出す。
……姉ちゃん達からは着信もメールも何も無い。
とりあえず、私はこのあと用事があるから先に帰りますと、メールを打っておいた。
姉ちゃんからの返信メールには、気をつけて帰れよ、とだけ書かれていた。
580: 2011/09/11(日) 10:50:39.21 ID:mmEAEuiDO
次に連絡をとるのは、憂さんだ。
prrrrrrr……
憂『はい。どうしたんですか? 聡美さん』
聡美「憂さん、話したいことがあるので、ちょっと外に出てきてもらえませんか?」
憂『えっ……いいですけど、今の時間は、その……』
警戒するのも無理はない。憂さんは、女の子なのだから。
男はそういうのあまりないからなぁ……
聡美「大丈夫ですよ。今日は夏祭りですから、みんなあっちに行ってますよ」
それに、今日のこの時間、あの場所には誰も来ないことを俺は知っている。
憂『分かりました。ところで……アクター、ですよね?』
未来人の、合い言葉。
聡美「はい、その通りです。それでは、桜高で待ってます」
電話を切る。そして、俺は桜高へと足を進めた。
prrrrrrr……
憂『はい。どうしたんですか? 聡美さん』
聡美「憂さん、話したいことがあるので、ちょっと外に出てきてもらえませんか?」
憂『えっ……いいですけど、今の時間は、その……』
警戒するのも無理はない。憂さんは、女の子なのだから。
男はそういうのあまりないからなぁ……
聡美「大丈夫ですよ。今日は夏祭りですから、みんなあっちに行ってますよ」
それに、今日のこの時間、あの場所には誰も来ないことを俺は知っている。
憂『分かりました。ところで……アクター、ですよね?』
未来人の、合い言葉。
聡美「はい、その通りです。それでは、桜高で待ってます」
電話を切る。そして、俺は桜高へと足を進めた。
581: 2011/09/11(日) 11:03:56.93 ID:mmEAEuiDO
桜高。
いつもは夏休み中でも必ず誰かいるのだが、今日に限っては誰もいない。
なぜならこの日、俺は鈴木達とここで肝試しをしたからだ。
だが、今回はこの時代の俺達もここにはいない。
あの冬の日のバイク事件の後、この時代の俺達はこういうことを避けるようになったからだ。
校門前でしばらく待っていると、憂さんがやって来た。
憂「ごめんね、遅くなっちゃった」
いや、俺が早すぎただけなんだけどな。
聡美「別にいいですよ。では、ちょっと移動しましょうか」
憂「そうだね。じゃあ、昇降口の前にでも座ろうよ」
聡美「そうですね。俺もそうしようと思ってましたから」
昇降口の前には、センサー式の照明がある。
今日に限っては、反応しても管理する人はいないので、別に問題は無いのだ。
むしろ、明るくて話しやすい。
俺と憂さんは、昇降口に向かった。
いつもは夏休み中でも必ず誰かいるのだが、今日に限っては誰もいない。
なぜならこの日、俺は鈴木達とここで肝試しをしたからだ。
だが、今回はこの時代の俺達もここにはいない。
あの冬の日のバイク事件の後、この時代の俺達はこういうことを避けるようになったからだ。
校門前でしばらく待っていると、憂さんがやって来た。
憂「ごめんね、遅くなっちゃった」
いや、俺が早すぎただけなんだけどな。
聡美「別にいいですよ。では、ちょっと移動しましょうか」
憂「そうだね。じゃあ、昇降口の前にでも座ろうよ」
聡美「そうですね。俺もそうしようと思ってましたから」
昇降口の前には、センサー式の照明がある。
今日に限っては、反応しても管理する人はいないので、別に問題は無いのだ。
むしろ、明るくて話しやすい。
俺と憂さんは、昇降口に向かった。
582: 2011/09/11(日) 11:25:00.07 ID:mmEAEuiDO
昇降口に近づくと、例の照明が点く。ここでいいだろう。
俺が座るのに合わせて、憂さんも座った。
憂「顔が見えるっていいね。ちょっと眩しいけど」
聡美「そうですね。でも、真っ暗よりはマシですけど」
憂「それもそうだね……それで、話って?」
話すことは一つしかない。純さんのことだ。
俺は憂さんに、未来であったことを話し、純さんと俺が接触することをそちら側からも避けてほしいと頼んだ。
憂「えっと……うん、仕方ないよね……うん、分かった。これからお姉ちゃん達と私達が会う機会ってあまりなかったから、大丈夫だと思う」
憂さんがこう言うのだからまず大丈夫だろう。
聡美「ありがとうございます、憂さん」
これで、いざという時のための保険はOKだ。
俺はふと、最近例の腕時計を見ていないことに気づき、腕時計を見た。すると……
タイナカリツ 2010/11/03 15:07 D
俺の中の時間が一瞬止まった。
俺が座るのに合わせて、憂さんも座った。
憂「顔が見えるっていいね。ちょっと眩しいけど」
聡美「そうですね。でも、真っ暗よりはマシですけど」
憂「それもそうだね……それで、話って?」
話すことは一つしかない。純さんのことだ。
俺は憂さんに、未来であったことを話し、純さんと俺が接触することをそちら側からも避けてほしいと頼んだ。
憂「えっと……うん、仕方ないよね……うん、分かった。これからお姉ちゃん達と私達が会う機会ってあまりなかったから、大丈夫だと思う」
憂さんがこう言うのだからまず大丈夫だろう。
聡美「ありがとうございます、憂さん」
これで、いざという時のための保険はOKだ。
俺はふと、最近例の腕時計を見ていないことに気づき、腕時計を見た。すると……
タイナカリツ 2010/11/03 15:07 D
俺の中の時間が一瞬止まった。
583: 2011/09/11(日) 11:54:23.25 ID:mmEAEuiDO
腕時計に表示されているのは姉ちゃんの名前と、学園祭一日目の日付、そして俗に言うおやつの時間。
ウソだろ……!? しかも、よりにもよって姉ちゃんだ。
しかも、ライブの前日。このままでは、高校最後のライブもできなくなる。
しかし……これは一体、どういうことだ?
姉ちゃんはあの日、桜高の敷地からは出ていないはずだ。
それに、表示されているのは昼間の時刻。
……有り得ない。不審者とかも、侵入しようがない。
何故こんな時に、姉ちゃんが氏ぬんだ?
まさか……即氏ではないのか?
これは最悪のパターンだ。
今まではほとんど即氏のところをギリギリで助けたから、氏因や氏亡時刻を気にしないでよかった。
だが、今回はどうだ?
姉ちゃんが氏亡する原因を取り除き、それから午後三時七分に代わりに何かを頃す……そのためには、まず原因を知っておかなければならない。
病気? 無いな。そこまで歴史は狂ってないはずだ。
そもそも、この時間、姉ちゃんは何をしていた? 俺は学園祭を二日とも見に行った。
姉ちゃんは、今年の学園祭で、ライブ以外に何をした?
思い出せ、あの日のことを。
……?
……おいおい……まさか……そりゃないだろう……?
……思い、出せなかった。
ウソだろ……!? しかも、よりにもよって姉ちゃんだ。
しかも、ライブの前日。このままでは、高校最後のライブもできなくなる。
しかし……これは一体、どういうことだ?
姉ちゃんはあの日、桜高の敷地からは出ていないはずだ。
それに、表示されているのは昼間の時刻。
……有り得ない。不審者とかも、侵入しようがない。
何故こんな時に、姉ちゃんが氏ぬんだ?
まさか……即氏ではないのか?
これは最悪のパターンだ。
今まではほとんど即氏のところをギリギリで助けたから、氏因や氏亡時刻を気にしないでよかった。
だが、今回はどうだ?
姉ちゃんが氏亡する原因を取り除き、それから午後三時七分に代わりに何かを頃す……そのためには、まず原因を知っておかなければならない。
病気? 無いな。そこまで歴史は狂ってないはずだ。
そもそも、この時間、姉ちゃんは何をしていた? 俺は学園祭を二日とも見に行った。
姉ちゃんは、今年の学園祭で、ライブ以外に何をした?
思い出せ、あの日のことを。
……?
……おいおい……まさか……そりゃないだろう……?
……思い、出せなかった。
584: 2011/09/11(日) 12:17:19.24 ID:mmEAEuiDO
意味が分からない。
あの日の記憶だけが抜け落ちている。
憂「聡くん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
憂さん……
そうだ、憂さんに聞けばいいじゃないか。
聡美「憂さん……今年の学園祭で、姉ちゃんはライブの他に、何をしましたか?」
憂「律さんがしたこと? う~ん…………あれ?」
まさか……
憂「思い出せない……どうして?」
二人とも、あの日のことが思い出せない。
……どういうことだ?
憂「どうして? 次の日のライブのことは思い出せるのに……その前日の記憶だけが無い……」
記憶……歴史……もしかするとこれは……
歴史の改変に伴う、未来人の記憶の書き換え。
つまり、歴史が狂いに狂い、これまでにない大改変が起こる。
姉ちゃんが学園祭一日目に氏ぬことが、正史になりつつある。
こういうのは、第三者による妨害行為でしか普通はならない。
また純さんが?
いや、あの人には、こんな大掛かりなことは出来ない。
それなら……一体、誰が?
あの日の記憶だけが抜け落ちている。
憂「聡くん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
憂さん……
そうだ、憂さんに聞けばいいじゃないか。
聡美「憂さん……今年の学園祭で、姉ちゃんはライブの他に、何をしましたか?」
憂「律さんがしたこと? う~ん…………あれ?」
まさか……
憂「思い出せない……どうして?」
二人とも、あの日のことが思い出せない。
……どういうことだ?
憂「どうして? 次の日のライブのことは思い出せるのに……その前日の記憶だけが無い……」
記憶……歴史……もしかするとこれは……
歴史の改変に伴う、未来人の記憶の書き換え。
つまり、歴史が狂いに狂い、これまでにない大改変が起こる。
姉ちゃんが学園祭一日目に氏ぬことが、正史になりつつある。
こういうのは、第三者による妨害行為でしか普通はならない。
また純さんが?
いや、あの人には、こんな大掛かりなことは出来ない。
それなら……一体、誰が?
585: 2011/09/11(日) 12:48:01.00 ID:mmEAEuiDO
記憶が無い以上、今は何をすればいいのか分からない。
だが、学園祭の予定を知り、そこから整理して、氏の可能性を全てあぶり出し、それを一つずつ処理していくことで、何とかすることはできる。
というか、それしかない。
憂さんに早速話そうとしたところ……
prrrrrrr……
俺の携帯ではない。憂さんのだ。
憂「あ、ごめんね。えっと……お姉ちゃん!?」
憂さんはすぐさま通話ボタンを押す。
憂「お姉ちゃん?」
唯『う~い~……どうしよう……お腹痛い……』
憂「一体どうしたの!?」
唯『夏祭りでかき氷食べて……そのあとお昼の残り食べたからぁ……』
……食べ合わせですか……やれやれ。
それから憂さんは家に戻り、俺も家に帰った。
しかし、この時の俺はまだ気がついてなかった。
あの時した約束を破り、とある人物からマークされていたことを、そして、改変の原因である第三者も、同一人物であることを――――
だが、学園祭の予定を知り、そこから整理して、氏の可能性を全てあぶり出し、それを一つずつ処理していくことで、何とかすることはできる。
というか、それしかない。
憂さんに早速話そうとしたところ……
prrrrrrr……
俺の携帯ではない。憂さんのだ。
憂「あ、ごめんね。えっと……お姉ちゃん!?」
憂さんはすぐさま通話ボタンを押す。
憂「お姉ちゃん?」
唯『う~い~……どうしよう……お腹痛い……』
憂「一体どうしたの!?」
唯『夏祭りでかき氷食べて……そのあとお昼の残り食べたからぁ……』
……食べ合わせですか……やれやれ。
それから憂さんは家に戻り、俺も家に帰った。
しかし、この時の俺はまだ気がついてなかった。
あの時した約束を破り、とある人物からマークされていたことを、そして、改変の原因である第三者も、同一人物であることを――――
588: 2011/09/20(火) 19:20:00.59 ID:/v2qg5bDO
夏休みもあとわずかというこの時期に、誰もが苦しんだであろうあの地獄は、受験生ならばとっくに乗り越えてなければいけないのに、どうも未だに受験生であるということを自覚していない人がいるようで……
何が言いたいのかというと、なんと姉ちゃんと唯さんは、まだ夏休みの課題が終わっていないのだ。
澪「ほら、夏休みはあと三日しかないんだぞ!」
律「わかってるよ……わかってるんだけど、さすがにこれは無理だろ!?」
唯「あと三日で終わる気がしないよ~……」
梓「こんな時期までため込むのが悪いんですよ」
その通りだ。要するに自業自得だ。
でも、この人たちは集中力がなかなか凄いから、三日もあれば普通に間に合いそうなんだが。
紬「ちゃんと始業式まで終わらせてきたら、とっても美味しいもの持ってきてあげるから、頑張って!」
とっても美味しいもの、というキーワードに、姉ちゃんたちは反応した。
唯・律「いえっさー!」
さすがムギさん。
まぁそんな感じで、残りわずかな夏休みは過ぎていった。
何が言いたいのかというと、なんと姉ちゃんと唯さんは、まだ夏休みの課題が終わっていないのだ。
澪「ほら、夏休みはあと三日しかないんだぞ!」
律「わかってるよ……わかってるんだけど、さすがにこれは無理だろ!?」
唯「あと三日で終わる気がしないよ~……」
梓「こんな時期までため込むのが悪いんですよ」
その通りだ。要するに自業自得だ。
でも、この人たちは集中力がなかなか凄いから、三日もあれば普通に間に合いそうなんだが。
紬「ちゃんと始業式まで終わらせてきたら、とっても美味しいもの持ってきてあげるから、頑張って!」
とっても美味しいもの、というキーワードに、姉ちゃんたちは反応した。
唯・律「いえっさー!」
さすがムギさん。
まぁそんな感じで、残りわずかな夏休みは過ぎていった。
589: 2011/09/20(火) 19:40:01.01 ID:/v2qg5bDO
9月1日。
今日から新学期である。
某小説みたいに、夏休みを繰り返す、なんてことは当然なかった。
いつもの交差点で合流し、しばらくして学校に到着すると、ツインテールの女の子が笑顔で俺たちに近づいてきた。
梓「こんにちは先輩方! 二学期始まりましたね! 二学期!」
ま、まぶしい……!
なんなんだこの梓さんのテンションの高さは。
ふと横を見ると、姉ちゃんたちも梓さんの笑顔がまぶしすぎて直視できないみたいだ。
さて、皆さんおなじみの軽音楽部の部室である。
梓「二学期と言えば学祭ですね! ライブですね!」
律「あぁ……だからテンション高かったのね……」
なるほど、そういうことか。
俺たち三年生にとっての最後の学園祭ライブ。
でも……梓さんからしてみれば、今回のライブは三年生と一緒にやる最後のライブ。
最後だからこそ、大成功させて終わりたい、という気持ちがあるのだろうか。
別に大学でも一緒にできるのだが、最後のライブというのは一度現実になってしまった。
しかも今回は、姉ちゃんの危機もある。
このままでは、今年の学園祭は桜校史上最悪の学園祭になってしまう。
絶対に、そんなことはさせない。
俺がここにいる理由は、姉ちゃんを救うことと、歴史をあるべき姿にするためなのだから。
俺がそんなことを考えているうちに、いつのまにか今回のライブで演奏する曲の歌詞は、各自で考えてくることになった。
歌詞、ねぇ……
今日から新学期である。
某小説みたいに、夏休みを繰り返す、なんてことは当然なかった。
いつもの交差点で合流し、しばらくして学校に到着すると、ツインテールの女の子が笑顔で俺たちに近づいてきた。
梓「こんにちは先輩方! 二学期始まりましたね! 二学期!」
ま、まぶしい……!
なんなんだこの梓さんのテンションの高さは。
ふと横を見ると、姉ちゃんたちも梓さんの笑顔がまぶしすぎて直視できないみたいだ。
さて、皆さんおなじみの軽音楽部の部室である。
梓「二学期と言えば学祭ですね! ライブですね!」
律「あぁ……だからテンション高かったのね……」
なるほど、そういうことか。
俺たち三年生にとっての最後の学園祭ライブ。
でも……梓さんからしてみれば、今回のライブは三年生と一緒にやる最後のライブ。
最後だからこそ、大成功させて終わりたい、という気持ちがあるのだろうか。
別に大学でも一緒にできるのだが、最後のライブというのは一度現実になってしまった。
しかも今回は、姉ちゃんの危機もある。
このままでは、今年の学園祭は桜校史上最悪の学園祭になってしまう。
絶対に、そんなことはさせない。
俺がここにいる理由は、姉ちゃんを救うことと、歴史をあるべき姿にするためなのだから。
俺がそんなことを考えているうちに、いつのまにか今回のライブで演奏する曲の歌詞は、各自で考えてくることになった。
歌詞、ねぇ……
590: 2011/09/20(火) 19:58:59.14 ID:/v2qg5bDO
よく考えてみると、俺の考えた歌詞が採用されたら、歴史が大きく変わってしまうのではないか?
ならば、歌詞は考えないことにする。これが最善の選択だろう。
適当にそれっぽい理由をつけて。
その日の夜、姉ちゃんが歌詞考えるの手伝ってくれとか言ってきたが、これまた適当に追っ払っておいた。
翌日、姉ちゃんがいつまでたっても起きてこないので起こしにいったら、姉ちゃんはテーブルに突っ伏して寝ていた。
どうやら一晩中考えていたようだ。
白紙のままなのは少々いただけないが。
部室に集まり、みんなで歌詞制作の進行状況を確認する。
俺と姉ちゃんはご存知の通り、全く進んでなかった。
さすがの梓さんも、この時はまだ歌詞制作は苦手なようで、まだ出来ていないようだった。
澪姉とムギさんは、内容はともかく、とりあえず一つは出来ていた。
そして唯さんは……
唯「もちのろん! もう三つも作ったよ!」
なんだって? あの唯さんが?
てかもちのろんって、どこのボーイですかあなたは。
唯さんが作った歌詞だが、なかなか素晴らしい出来だった。
でも……
律「これ、本当に唯が書いたのか!?」
そう、それが問題である。
なぜなら平沢家には、あの人がいるのだから。
唯「ちょこーっとだけ憂に手伝ってもらった!」
この言葉を聞いた時、今現在ここにいる誰もが思っただろう。
絶対ちょこーっとじゃないな……と。
ならば、歌詞は考えないことにする。これが最善の選択だろう。
適当にそれっぽい理由をつけて。
その日の夜、姉ちゃんが歌詞考えるの手伝ってくれとか言ってきたが、これまた適当に追っ払っておいた。
翌日、姉ちゃんがいつまでたっても起きてこないので起こしにいったら、姉ちゃんはテーブルに突っ伏して寝ていた。
どうやら一晩中考えていたようだ。
白紙のままなのは少々いただけないが。
部室に集まり、みんなで歌詞制作の進行状況を確認する。
俺と姉ちゃんはご存知の通り、全く進んでなかった。
さすがの梓さんも、この時はまだ歌詞制作は苦手なようで、まだ出来ていないようだった。
澪姉とムギさんは、内容はともかく、とりあえず一つは出来ていた。
そして唯さんは……
唯「もちのろん! もう三つも作ったよ!」
なんだって? あの唯さんが?
てかもちのろんって、どこのボーイですかあなたは。
唯さんが作った歌詞だが、なかなか素晴らしい出来だった。
でも……
律「これ、本当に唯が書いたのか!?」
そう、それが問題である。
なぜなら平沢家には、あの人がいるのだから。
唯「ちょこーっとだけ憂に手伝ってもらった!」
この言葉を聞いた時、今現在ここにいる誰もが思っただろう。
絶対ちょこーっとじゃないな……と。
591: 2011/09/20(火) 20:14:43.00 ID:/v2qg5bDO
さて、軽音部では恒例のティータイムである。
昔、姉ちゃんがよく軽音部の話をしてくれたのだが、ほぼ毎日出てくるティータイムの話に、俺は一つの疑問を抱いていた。
ほぼ毎日お菓子やお茶を食べたり飲んだりしているのにもかかわらず、何故誰も体調を崩さないのだろうか。
その答えは、数年後に明らかになった。
姉ちゃんたちが食べたり飲んだりしていたお菓子やお茶は、いくら摂取しても体には何の影響も出ないというのがウリの開発中の商品だったらしい。
約三年間の実験と、数年間の琴吹グループ繁栄期間。
しかし……実の娘とその友人を実験台にするというのは、なんという腐った考えなのだろうか。
唯「ふわぁ~……」
はぁ……今ので全部吹っ飛んでいったよ。
この人には、生まれつき精神安定系の能力があるのか? と思うくらい、気持ちが落ち着いた。
昔、姉ちゃんがよく軽音部の話をしてくれたのだが、ほぼ毎日出てくるティータイムの話に、俺は一つの疑問を抱いていた。
ほぼ毎日お菓子やお茶を食べたり飲んだりしているのにもかかわらず、何故誰も体調を崩さないのだろうか。
その答えは、数年後に明らかになった。
姉ちゃんたちが食べたり飲んだりしていたお菓子やお茶は、いくら摂取しても体には何の影響も出ないというのがウリの開発中の商品だったらしい。
約三年間の実験と、数年間の琴吹グループ繁栄期間。
しかし……実の娘とその友人を実験台にするというのは、なんという腐った考えなのだろうか。
唯「ふわぁ~……」
はぁ……今ので全部吹っ飛んでいったよ。
この人には、生まれつき精神安定系の能力があるのか? と思うくらい、気持ちが落ち着いた。
592: 2011/09/20(火) 20:24:16.67 ID:/v2qg5bDO
唯「えへへ……昨日詞を書くのに夢中であんまり寝てないんだ」
澪「……去年の二の舞だけは勘弁してくれよ?」
まったくだ。でも、風邪をひくのは憂さんだけだと分かっていたからか、あまりあせらなかった。
唯「大丈夫だよ! おみかん様がついてるし!」
唯さんはそう言って、自分の手を見せる。見事に指先が真っ黄色だ。
しかしその夜。
澪さんから、唯さんが風邪をひいたという知らせを受け、姉ちゃんと共に平沢家へと直行する。
玄関先でムギさんたちと合流し、インターホンを鳴らす。
しばらくすると、唯さんではなく、憂さんが出てきた。
フラフラの状態で。
593: 2011/09/20(火) 20:38:52.63 ID:/v2qg5bDO
なんと、平沢姉妹の両方とも風邪をひいてしまったらしい。
姉ちゃんから聞いた話と違う。
やはり少しずつ歴史がくるっていってる。
だが、今の時点ではさほど気にすることではないだろう。
そんなこと、百も承知だ。
学園祭を、無事成功させる。
今はそれが、最優先事項だ。
平沢姉妹の看病は、交代交代ですることになった。
俺と姉ちゃんが担当する日が多いのは、気のせいだろうか?
唯「ごめんね聡美ちゃん……」
聡美「いえいえ。今はゆっくり休んで、早く風邪を治すことが最優先ですよ」
姉ちゃんから聞いた話と違う。
やはり少しずつ歴史がくるっていってる。
だが、今の時点ではさほど気にすることではないだろう。
そんなこと、百も承知だ。
学園祭を、無事成功させる。
今はそれが、最優先事項だ。
平沢姉妹の看病は、交代交代ですることになった。
俺と姉ちゃんが担当する日が多いのは、気のせいだろうか?
唯「ごめんね聡美ちゃん……」
聡美「いえいえ。今はゆっくり休んで、早く風邪を治すことが最優先ですよ」
594: 2011/09/20(火) 21:00:00.13 ID:/v2qg5bDO
唯「そう、だね……」
唯さんが申し訳なさそうに、そして切なそうに笑う。
その笑顔は、とても弱々しいものだった。
初日……つまり今日は、憂さんの看病を姉ちゃんが、唯さんの看病を俺がすることになった。
なんでも、軽音部の中で一番面倒見が良さそうだからだと。
当然、泊まり込みである。
唯「えへへ……だめだね私……またみんなに迷惑かけて……」
聡美「……」
こういう時は、気が済むまで話させ、それからゆっくりと寝かせるのがいいとどこかで聞いた覚えがある。
唯「私……みんなの邪魔とかになってないよね……?」
唯「いつもいつも私が迷惑かけて……一年生の時の追試もそうだし……集合にいつも遅れるし……私だけ初心者で、本当は早くみんなに追いつくために一番練習しなきゃいけないのに……いつもお茶食べてばっかりだし……」
唯さん……お茶は食べれませんよ……
唯「それに去年だって……風邪ひいて、治ったと思ったら家にギター忘れて……みんなにも、さわちゃんにも迷惑かけて……考えてみれば、私邪魔なだけみたいだし……」
風邪ひいててまともな思考なんて出来るわけないでしょう……
唯「私って、みんなに必要とされてるのかな……?」
唯「あ、ごめんね聡美ちゃん……私だけ話しちゃって……」
唯「これくらいの気配りも出来ないんだね私は……やっぱりだめだね……」
595: 2011/09/20(火) 21:19:00.84 ID:/v2qg5bDO
聡美「駄目なんかじゃありませんよ」
唯「え……?」
聡美「唯さんは、駄目なんかじゃありません」
これだけは、俺は自信を持って言える。
唯さんは駄目なんかじゃない。
とても素晴らしい人だ。
唯「でもでも……」
聡美「確かに、いつもお茶してばっかりで、部活ではあまり練習してませんが……でも、私は知ってるんですよ?」
聡美「唯さんが、家では毎日一生懸命練習してるってことを」
その言葉を聞いた唯さんは、一度きょとんとした表情を見せ、少し経ってから再び口を開いた。
唯「誰から聞いたの……?」
聡美「憂さんからです。憂さん、それを嬉しそうに話すんです。あんなに愛されて、正直うらやましいですよ」
唯「憂……ギー太の音、うるさくないのかな……」
聡美「嬉しそうに話す人が、うるさいなんて思ってるはずがないでしょう。だから、これからもじゃんじゃん練習してくださいね」
唯「うん…………ありがとね、聡美ちゃん」
聡美「どういたしまして」
そう言うと唯さんは、ゆっくりと目を閉じた。
しばらくすると、唯さんは寝息を出し始めた。
顔を見ると、まだ少し赤いが、心地良そうな寝顔をしていた。
相変わらず寝つきのいい人だ……
596: 2011/09/20(火) 21:34:05.13 ID:/v2qg5bDO
……ん……?
周りが明るい。
朝か……いつのまにか寝てしまっていたようだ。
唯「……zzz……」
隣を見ると、唯さんが心地良そうに眠っていた。
赤かった顔からは、少し赤みが引いていた。
熱は……結構下がっているな。
ガチャ。
律「聡美、唯はどうだ?」
聡美「見ての通り、だいぶマシになったよ」
律「どれどれ……」
姉ちゃんが自分のおでこを唯さんのおでこにくっつける。
律「そうみたいだな」
姉ちゃんが満足そうに言う。
聡美「憂さんはどうなの?」
俺がそう言うと、隣の部屋に連れて行かれた。
そこには……
憂「……zzz……」
唯さんと同様に、心地良そうな顔をして眠っている憂さんがいた。
597: 2011/09/20(火) 21:40:25.87 ID:/v2qg5bDO
それから数日後、唯さんと憂さんは学校に来た。
よかった……山場は越えたみたいだ。
あとは……学園祭だ。
姉ちゃんの氏の原因を探り当て、阻止する。
失敗は許されない。
最後の学園祭、必ず成功させてやる。
この時、既に気付いていればよかったのかもしれない。
どんな小さなズレでも、後々大きなズレに発展していくことを――
よかった……山場は越えたみたいだ。
あとは……学園祭だ。
姉ちゃんの氏の原因を探り当て、阻止する。
失敗は許されない。
最後の学園祭、必ず成功させてやる。
この時、既に気付いていればよかったのかもしれない。
どんな小さなズレでも、後々大きなズレに発展していくことを――
600: 2011/09/21(水) 00:56:35.87 ID:458LHdtDO
もうすぐ学園祭というこの時期、普通ならば心身共に出し物や文化部の発表の準備に集中するのだが、俺は普通ではなかった。
なぜなら、今年の学園祭では、人が氏ぬ可能性があるからである。それも、自分の大好きな人が。
だが、現時点では回避の方法が見つからないので、こうして表面上は普通に出し物の準備をしているのだが……
和「……ということで、三年二組の学園祭の出し物『ロミオとジュリエット』のロミオ役は、秋山澪さんに決定しました!」
俺たち三年二組は、学園祭で『ロミオとジュリエット』をすることになった。
さすがに『ロミオとジュリエット』というタイトルは知ってるが、実を言うと読んだことはない。
この機会に読んでみようかな……童話って元の話は結構ヤバいらしいし。
とりあえずクラス投票で、ロミオ役は澪姉に決定した。
……?
澪姉が無反応。これはつまり……
律「気絶してるな」
やっぱり……そうか、この時はまだ治ってなかったのか。
なぜなら、今年の学園祭では、人が氏ぬ可能性があるからである。それも、自分の大好きな人が。
だが、現時点では回避の方法が見つからないので、こうして表面上は普通に出し物の準備をしているのだが……
和「……ということで、三年二組の学園祭の出し物『ロミオとジュリエット』のロミオ役は、秋山澪さんに決定しました!」
俺たち三年二組は、学園祭で『ロミオとジュリエット』をすることになった。
さすがに『ロミオとジュリエット』というタイトルは知ってるが、実を言うと読んだことはない。
この機会に読んでみようかな……童話って元の話は結構ヤバいらしいし。
とりあえずクラス投票で、ロミオ役は澪姉に決定した。
……?
澪姉が無反応。これはつまり……
律「気絶してるな」
やっぱり……そうか、この時はまだ治ってなかったのか。
601: 2011/09/21(水) 01:06:16.63 ID:458LHdtDO
澪「な、何で私が主役なんだよ!」
お、立ち直り早いな。
和「い、一応投票の結果だし……」
投票、ねぇ……こういう時、必ずいる人種がいる。
適任だからではなく、面白そうだから票を入れる奴とかな。
律「いいじゃんか澪! 面白そうじゃん!」
そう……こういう人が、
和「ジュリエット役は田井中さんね」
律「……へ?」
大抵の場合、後々痛い目にあうのだ。
604: 2011/09/24(土) 02:15:31.20 ID:CWTIZSVDO
律「い、意義ありーっ!」
姉ちゃんは、某法廷バトルゲームのよいに、大きな声で意義を申し立てる。
だけどね姉ちゃん、ここには何の矛盾もないんだ。
和「投票の結果なんだから仕方ないじゃない」
律「だってさ、私よりも適役がいるじゃん! 聡美とか!」
お、俺!?
確かに、俺と姉ちゃんは数票差しかないが……
モブ1「だめだよ! りっちゃんがやったほうがギャップあるじゃん!」
モブ2「わ、私は聡美さんに票を入れたけど……」
モブ3「こうなったらどっちもやっちゃえば?」
どっちもやるって……どうするんだよ。
途中で入れ替わるとか?
紬「そうねぇ……脚本は私だから、どっちも主役になるように書き換えればいいのかしら」
どこをどう書き換えるつもりですかムギさん。
ジュリエットは実は双子の姉で、妹は別にいましたとかするつもりですか?
紬「それは名案ね、聡美ちゃん」
人の心の中を読まないでください!
605: 2011/09/24(土) 02:36:37.33 ID:CWTIZSVDO
それから俺と姉ちゃんは猛抗議したが、俺たち以外のクラスメート全員の意見が見事に一致し、俺と姉ちゃんと澪姉が主役の『ロミオとキャピュレット姉妹』が確定してしまった。
ムギさんがどのように脚本を書き直すのか不安だったが、出来上がったのはほんの少し違和感があるだけだった。
ムギさんによると、俺はジュリエットの双子の妹、ジュリアの役がピッタリらしい。
普段から控えめな性格なので、あまり練習しなくても支障は無いとのこと。台詞も少なめなようだし。
これは後々聞いた話だが、姉ちゃんと澪姉は、普段とは全く逆なので、かなり苦戦したらしい。
それから三日後の放課後、俺はあることに気づき、急いで部室に向かった。
梓さんは今、一人きりになっているのではないか?
一人ぼっちになっている後輩の気持ちというものは、一体どういうものなのだろうか。
あのプライドの高い梓さんのことだ。誰もいないところでたった一人、ひっそりと泣いているなんてことも有り得なくはない。
畜生……先輩として最低だ。後輩に寂しい思いをさせるなんて。
部室の前に立ち、扉を開く。そこには――
脇目も振らず、一心不乱に練習しているツインテールの少女がいた。
ムギさんがどのように脚本を書き直すのか不安だったが、出来上がったのはほんの少し違和感があるだけだった。
ムギさんによると、俺はジュリエットの双子の妹、ジュリアの役がピッタリらしい。
普段から控えめな性格なので、あまり練習しなくても支障は無いとのこと。台詞も少なめなようだし。
これは後々聞いた話だが、姉ちゃんと澪姉は、普段とは全く逆なので、かなり苦戦したらしい。
それから三日後の放課後、俺はあることに気づき、急いで部室に向かった。
梓さんは今、一人きりになっているのではないか?
一人ぼっちになっている後輩の気持ちというものは、一体どういうものなのだろうか。
あのプライドの高い梓さんのことだ。誰もいないところでたった一人、ひっそりと泣いているなんてことも有り得なくはない。
畜生……先輩として最低だ。後輩に寂しい思いをさせるなんて。
部室の前に立ち、扉を開く。そこには――
脇目も振らず、一心不乱に練習しているツインテールの少女がいた。
606: 2011/09/24(土) 02:46:05.89 ID:CWTIZSVDO
ツインテールの少女……梓さんは、俺が来たことに気づいていない。
周りの音が聞こえなくなるくらい集中しているということか。
こんな時、どうすればいいのか。
簡単なことだ。
俺はギターケースからマイギターを取り出し、構えた。
そして……サビの所から、梓さんとセッションし始めた。
ごはんはおかず。
唯さんが作詞した曲の一つで、俺たちが演奏してきた曲の中ではなかなかテンポが早く、ノリもいい曲だ。
ちなみに唯さんが作詞した曲はもう一つある。
さすがに梓さんもきづいたらしく、俺の方に向き直った。
そして二人で、最後まで演奏した。
周りの音が聞こえなくなるくらい集中しているということか。
こんな時、どうすればいいのか。
簡単なことだ。
俺はギターケースからマイギターを取り出し、構えた。
そして……サビの所から、梓さんとセッションし始めた。
ごはんはおかず。
唯さんが作詞した曲の一つで、俺たちが演奏してきた曲の中ではなかなかテンポが早く、ノリもいい曲だ。
ちなみに唯さんが作詞した曲はもう一つある。
さすがに梓さんもきづいたらしく、俺の方に向き直った。
そして二人で、最後まで演奏した。
607: 2011/09/24(土) 03:01:40.66 ID:CWTIZSVDO
演奏を終えると、梓さんはようやく口を開いた。
梓「まさか、来てくれるとは思いませんでした」
そんなに信用されてないのか、俺は。
梓「あ、そういうわけじゃなくて……出し物の準備で忙しいのかと」
そういうことね。…………ん?
梓「どうかしたの? 聡くん」
あぁ、あっちの梓さんか。通りで勘が鋭いわけだ。
それにしても……
聡美「梓さん、どうしてここに?」
梓「えっとね、久々にここでギター弾きたくなったの。それだけ」
なるほど……枕が違うと眠れないみたいなものなのだろうか。
梓「ギター、上手いんだね」
聡美「えぇ。このために、必氏に練習しましたから」
梓「そう……なんだ」
人を一人助けるためにギターを練習するというのは、案外珍しいのかもしれない。
おそらく、日本にも二桁いるかどうかってところだろう。
梓「まさか、来てくれるとは思いませんでした」
そんなに信用されてないのか、俺は。
梓「あ、そういうわけじゃなくて……出し物の準備で忙しいのかと」
そういうことね。…………ん?
梓「どうかしたの? 聡くん」
あぁ、あっちの梓さんか。通りで勘が鋭いわけだ。
それにしても……
聡美「梓さん、どうしてここに?」
梓「えっとね、久々にここでギター弾きたくなったの。それだけ」
なるほど……枕が違うと眠れないみたいなものなのだろうか。
梓「ギター、上手いんだね」
聡美「えぇ。このために、必氏に練習しましたから」
梓「そう……なんだ」
人を一人助けるためにギターを練習するというのは、案外珍しいのかもしれない。
おそらく、日本にも二桁いるかどうかってところだろう。
608: 2011/09/24(土) 03:09:46.80 ID:CWTIZSVDO
梓「あ……」
聡美「どうかしましたか? 梓さん」
梓「ごめんね、もう時間みたい」
あ、そうか。
向こうじゃ梓さんは……
梓「聡くん」
聡美「はい、なんですか?」
梓「こっちの私に、優しくしてあげてね? この時、ものすごく寂しかったんだから」
やっぱり寂しかったんですね……
そう言いかけたところで、梓さんの体が傾いた。
俺は瞬時に反応して梓さんを抱きかかえる。
というか、どうにかならんのかね、この倒れる仕様は。
609: 2011/09/24(土) 03:17:06.61 ID:CWTIZSVDO
しばらくして、俺は起きた梓さんと一緒に練習した。
梓さんは、俺たちの劇を楽しみにしてくれてる様子だった。
実は梓さんが、軽音部の中で一番しっかりしてるんじゃないか、と思ってしまった。
まぁ……まだまだ子供っぽさが抜けないのは仕方ないか。
学園祭まで、あと少し。
だが……俺たち三年二組の劇が、あんな形で終わることになるなんて、この時は予想もつかなかった。
梓さんは、俺たちの劇を楽しみにしてくれてる様子だった。
実は梓さんが、軽音部の中で一番しっかりしてるんじゃないか、と思ってしまった。
まぁ……まだまだ子供っぽさが抜けないのは仕方ないか。
学園祭まで、あと少し。
だが……俺たち三年二組の劇が、あんな形で終わることになるなんて、この時は予想もつかなかった。
613: 2011/09/24(土) 12:58:00.65 ID:CWTIZSVDO
学園祭一日目。
講堂の中は、これでもかというくらい、大勢の観客で賑わっていた。
『ロミオとキャピュレット姉妹』。
俺たち三年二組が今日の午後に発表する劇だ。
もしもジュリエットに双子の妹がいたら、物語の結末はどうなっていたか。
実際のところ、序盤のほうはあまり変わらない。
ジュリエットの双子の妹であるジュリアは、ものすごく引っ込み思案で、ほとんど自分の部屋から出ようとしなかった。
たとえ出たとしても、いつもジュリエットにくっついていた。
まぁ、ようするに極度のお姉ちゃん大好きっ子なのだ。
例えるならば、パワ○ケ10の芳○桜空ちゃんみたいな感じだ。分からない人もいるかもしれないが。
とりあえず、ここではこれ以上あまり他言しないことにしよう。
講堂の中は、これでもかというくらい、大勢の観客で賑わっていた。
『ロミオとキャピュレット姉妹』。
俺たち三年二組が今日の午後に発表する劇だ。
もしもジュリエットに双子の妹がいたら、物語の結末はどうなっていたか。
実際のところ、序盤のほうはあまり変わらない。
ジュリエットの双子の妹であるジュリアは、ものすごく引っ込み思案で、ほとんど自分の部屋から出ようとしなかった。
たとえ出たとしても、いつもジュリエットにくっついていた。
まぁ、ようするに極度のお姉ちゃん大好きっ子なのだ。
例えるならば、パワ○ケ10の芳○桜空ちゃんみたいな感じだ。分からない人もいるかもしれないが。
とりあえず、ここではこれ以上あまり他言しないことにしよう。
614: 2011/09/24(土) 13:10:19.52 ID:CWTIZSVDO
さて、俺たちが発表するのは午後からだ。まだ時間はたっぷりある。
とりあえず、劇に使うマジックナイフや、墓石もどき、唯さんが部室に忘れていった木(G)の厚紙を舞台裏に用意しておく。念のため、唯さんにメールを送っておいた。
しかし……木役ってそんなに要るか?
フラフラと校内を歩いていると、メイド喫茶があった。
あぁ、梓さんたちのクラスか。たしかそうだったはず。
生まれてからメイド喫茶なんか入ったことがない俺は、興味をそそられて入ってしまった。
へぇ……受付は梓さんか。
梓「あ、先輩。いらっしゃいませ」
聡美「あれ? ネコ耳は?」
おかしいな。梓さん=ネコ耳なはずだが。
梓「すみません……ちょっとした都合があるんです」
残念だ……
店の中は混んでいたが、やっと俺に順番が来たので、空いてる席に案内される。
しばらくすると、ウェイトレスが注文を聞きに来た。
とりあえず、劇に使うマジックナイフや、墓石もどき、唯さんが部室に忘れていった木(G)の厚紙を舞台裏に用意しておく。念のため、唯さんにメールを送っておいた。
しかし……木役ってそんなに要るか?
フラフラと校内を歩いていると、メイド喫茶があった。
あぁ、梓さんたちのクラスか。たしかそうだったはず。
生まれてからメイド喫茶なんか入ったことがない俺は、興味をそそられて入ってしまった。
へぇ……受付は梓さんか。
梓「あ、先輩。いらっしゃいませ」
聡美「あれ? ネコ耳は?」
おかしいな。梓さん=ネコ耳なはずだが。
梓「すみません……ちょっとした都合があるんです」
残念だ……
店の中は混んでいたが、やっと俺に順番が来たので、空いてる席に案内される。
しばらくすると、ウェイトレスが注文を聞きに来た。
615: 2011/09/24(土) 13:22:06.90 ID:CWTIZSVDO
純「いらっしゃいませご主人様、ご注文は何にしますか?」
ご主人様だと……背中が痒い。
……ん?
この人……
純さんっ!?
それがはっきりと理解した瞬間、あの場面が脳内再生される。
血まみれになった純。
本来曲がるはずのない方向に腕が曲がっている。
痛々しい、変わり果てた姿。
猛烈にこみ上げてくる吐き気。
ぐるぐると回る世界。
もう、何も見えない。何も聞こえない。
もう何も、分からない……
616: 2011/09/24(土) 13:27:28.51 ID:CWTIZSVDO
ふと気がつくと、俺は何か柔らかいものに頭を乗せていた。
暖かい……そんなことを思っていると、
「あ、気がつきましたか?」
と、声をかけられた。
この声は……梓さん?
……ん?
じゃあこの柔らかいのは……
あ、梓さんの……!
暖かい……そんなことを思っていると、
「あ、気がつきましたか?」
と、声をかけられた。
この声は……梓さん?
……ん?
じゃあこの柔らかいのは……
あ、梓さんの……!
617: 2011/09/24(土) 13:40:10.17 ID:CWTIZSVDO
その瞬間、俺は梓さんから離れる。
俺も心は男だ。紳士だ。
でも、この破壊力はヤバすぎる。
梓「あっ、すみません先輩。つい……」
聡美「い、いいよ別に……それに」
気持ちよかったしなぁ……
梓「それに……なんですか?」
聡美「う、ううん? なんでもないよ?」
梓「あ、はい」
危ない危ない……それにしても、これはうっかりしてた。
純さんが梓さんや憂さんと同じクラスだってこと、すっかり忘れてた。
次からは気をつけなければ。
俺が倒れたことは、結構な騒ぎになったらしく、まだ少しザワザワしていた。
すみません、梓さん憂さん、そして純さん。
店の裏口から出て、そのまま急いで講堂に向かう。
俺たちの劇の開始予定時刻まで、もうすでに一時間をきっている。
かなりの時間、俺は眠っていたらしい。
もう少し起きるのが遅かったらと思うと……恐ろしい。
俺は主役を任されたんだ。しっかりしなければ。
俺も心は男だ。紳士だ。
でも、この破壊力はヤバすぎる。
梓「あっ、すみません先輩。つい……」
聡美「い、いいよ別に……それに」
気持ちよかったしなぁ……
梓「それに……なんですか?」
聡美「う、ううん? なんでもないよ?」
梓「あ、はい」
危ない危ない……それにしても、これはうっかりしてた。
純さんが梓さんや憂さんと同じクラスだってこと、すっかり忘れてた。
次からは気をつけなければ。
俺が倒れたことは、結構な騒ぎになったらしく、まだ少しザワザワしていた。
すみません、梓さん憂さん、そして純さん。
店の裏口から出て、そのまま急いで講堂に向かう。
俺たちの劇の開始予定時刻まで、もうすでに一時間をきっている。
かなりの時間、俺は眠っていたらしい。
もう少し起きるのが遅かったらと思うと……恐ろしい。
俺は主役を任されたんだ。しっかりしなければ。
618: 2011/09/24(土) 13:55:22.04 ID:CWTIZSVDO
舞台裏に着くと、すでに三年二組のみんなが集まっていた。
律「遅いぞ~、聡美」
姉ちゃん……可愛い。似合ってる。
澪「全く……主役なんだから、もう少し早く来てくれないと」
澪姉ごめ…………カッコいい。男の俺より、断然。
しかし……案外やる気満々だな。ついこの間まではあんなに嫌がっていたのに。
唯「遅刻だよ聡美ちゃん! いや、ジュリアちゃんか……」
悪意むき出しですね、唯さん。こういう小悪魔的な性格、いつからなんだろう。
それにしても……似合ってますよ、木(G)さん。
台本を見て、台詞の最終確認。
まぁ姉ちゃんたちに比べたら、半分くらいしかないんだけどね。
三十分くらいすると、和さんが来た。
和「みんな、前のグループがもう終わりそうだから、少し早くなると思うんだけど……準備はいい?」
え、そうなのか。
まぁ、多分みんな大丈夫だろう。
みんなで円陣を組む。
律「それじゃあ」
聡美「三年」
澪「……二組」
皆「ファイトぉー!」
絶対に、成功させてやる……!
律「遅いぞ~、聡美」
姉ちゃん……可愛い。似合ってる。
澪「全く……主役なんだから、もう少し早く来てくれないと」
澪姉ごめ…………カッコいい。男の俺より、断然。
しかし……案外やる気満々だな。ついこの間まではあんなに嫌がっていたのに。
唯「遅刻だよ聡美ちゃん! いや、ジュリアちゃんか……」
悪意むき出しですね、唯さん。こういう小悪魔的な性格、いつからなんだろう。
それにしても……似合ってますよ、木(G)さん。
台本を見て、台詞の最終確認。
まぁ姉ちゃんたちに比べたら、半分くらいしかないんだけどね。
三十分くらいすると、和さんが来た。
和「みんな、前のグループがもう終わりそうだから、少し早くなると思うんだけど……準備はいい?」
え、そうなのか。
まぁ、多分みんな大丈夫だろう。
みんなで円陣を組む。
律「それじゃあ」
聡美「三年」
澪「……二組」
皆「ファイトぉー!」
絶対に、成功させてやる……!
619: 2011/09/24(土) 14:08:25.40 ID:CWTIZSVDO
(中略)
キャピュレット一家には、双子の姉妹がいました。
その名はジュリエットとジュリア。
ジュリエットは比較的しっかりしてましたが、ジュリアはとにかく引っ込み思案で、いつもジュリエットにくっついていました。
お姉ちゃんだけがいればいい。
ジュリアはそう思っていました。
しかし、ある時ジュリエットに、想い人ができます。
その名はロミオ。モンタギュー一家の長男です。
ジュリアはそんなことも知らず、今日もまた、ジュリエットにくっついていました。
しかし、ロミオのことは、いずれジュリアの耳にも届きました。
ジュリアはとにかく引っ込み思案でしたが、根はとても優しい子でした。
それも、自分よりもお姉ちゃんのことを最優先に考えるほど、そして……
お姉ちゃんのためならば何でもやるほど、優しすぎる子だったのです。
620: 2011/09/24(土) 14:21:16.30 ID:CWTIZSVDO
ジュリアはふと、こういうことを思うようになりました。
私がお姉ちゃんとロミオ様のために氏ねば、娘を亡くしたキャピュレット一家が、自分たちがやっていたことがどんなにバカらしかったのか気づき、モンタギュー一家との争いもおさまるのではないかと。
双子の姉妹のどちらかを、パリスに嫁がせる。
キャピュレット一家では、そんな話が出されていました。
ジュリアは自分から名乗り出て、ジュリエットを守ろうとします。
お姉ちゃんは今幸せなんだ。絶対に邪魔なんかさせない。
しかし、この時は誰も気づきませんでした。
ジュリアがこれから、何をしようとするのかを。
パリスの元へと行ったジュリアは、世間知らずなフリをして、パリスの部屋にあったナイフを指差し、これは何? とパリスに聞きました。
ジュリアが引っ込み思案であまり外に出なかったという情報は、パリスの耳にも届いていたので、こんな物騒なものは知らないのかと思い、これはナイフだよ、と優しく教えました。
私がお姉ちゃんとロミオ様のために氏ねば、娘を亡くしたキャピュレット一家が、自分たちがやっていたことがどんなにバカらしかったのか気づき、モンタギュー一家との争いもおさまるのではないかと。
双子の姉妹のどちらかを、パリスに嫁がせる。
キャピュレット一家では、そんな話が出されていました。
ジュリアは自分から名乗り出て、ジュリエットを守ろうとします。
お姉ちゃんは今幸せなんだ。絶対に邪魔なんかさせない。
しかし、この時は誰も気づきませんでした。
ジュリアがこれから、何をしようとするのかを。
パリスの元へと行ったジュリアは、世間知らずなフリをして、パリスの部屋にあったナイフを指差し、これは何? とパリスに聞きました。
ジュリアが引っ込み思案であまり外に出なかったという情報は、パリスの耳にも届いていたので、こんな物騒なものは知らないのかと思い、これはナイフだよ、と優しく教えました。
621: 2011/09/24(土) 14:28:21.53 ID:CWTIZSVDO
実際にやってみると、かなり雑なストーリーだなぁ……
そんなことを思いながら、今自分が持っているマジックナイフを見る。
100円ショップで買ったものだが、なかなか機能は充実している。
液体(今回は赤インク)を入れれるし、付属の重りを付けることで、本物そっくりの重量感を出せる。
ちなみに今このマジックナイフは、最大重量になっている。
自分の手に当てて引っ込み機能と液体機能を確認すると、俺はパリス役の○○さんに、ナイフを突き刺した。
そんなことを思いながら、今自分が持っているマジックナイフを見る。
100円ショップで買ったものだが、なかなか機能は充実している。
液体(今回は赤インク)を入れれるし、付属の重りを付けることで、本物そっくりの重量感を出せる。
ちなみに今このマジックナイフは、最大重量になっている。
自分の手に当てて引っ込み機能と液体機能を確認すると、俺はパリス役の○○さんに、ナイフを突き刺した。
622: 2011/09/24(土) 14:43:24.05 ID:CWTIZSVDO
パリスは不意を突かれ、ジュリアの攻撃をもろに受け、氏んでしまいます。
ジュリアはここで嘘泣きをしながら、自ら捏造したパリス殺害のシーンを皆に話し、ジュリアでもモンタギュー一家の者でもなく、正体不明な誰かが刺した、という形に事態は収まります。
ジュリアには最低限の知識しかありませんでしたが、モンタギュー一家の者を見分けるための知識は教えてもらっていたので、それを逆手にとり、ジュリアは誰にもバレることなく、パリスを殺害したのです。
しかしジュリアの計画は、こんな所では終わりません。
ジュリアの最終目的は、ジュリエットとロミオを幸せにすることなのだから。
この後、ジュリエットとロレンスは、ある計画を練り始めます。
仮氏薬を使い、目覚めた後、ロミオと結ばれるようにする計画。
しかしジュリアは、それよりもいい方法があると言い、何かと言われた時には、お姉ちゃんたちは先にロミオ様の所に行ってて、とだけ言いました。
この計画を、ジュリエットたちに知られたくなかったから。
ジュリアはここで嘘泣きをしながら、自ら捏造したパリス殺害のシーンを皆に話し、ジュリアでもモンタギュー一家の者でもなく、正体不明な誰かが刺した、という形に事態は収まります。
ジュリアには最低限の知識しかありませんでしたが、モンタギュー一家の者を見分けるための知識は教えてもらっていたので、それを逆手にとり、ジュリアは誰にもバレることなく、パリスを殺害したのです。
しかしジュリアの計画は、こんな所では終わりません。
ジュリアの最終目的は、ジュリエットとロミオを幸せにすることなのだから。
この後、ジュリエットとロレンスは、ある計画を練り始めます。
仮氏薬を使い、目覚めた後、ロミオと結ばれるようにする計画。
しかしジュリアは、それよりもいい方法があると言い、何かと言われた時には、お姉ちゃんたちは先にロミオ様の所に行ってて、とだけ言いました。
この計画を、ジュリエットたちに知られたくなかったから。
623: 2011/09/24(土) 14:55:28.09 ID:CWTIZSVDO
ジュリエットがロミオの所へ向かったのを確認すると、ジュリアは自室にこもりはじめます。
そして、遺書を書き始めます。
モンタギュー一家とキャピュレット一家の争いにうんざりしたこと、争いをやめて和解してほしいということ、パリスを頃したのは自分だということ、ロミオとジュリエットが愛し合ってること。
それらを全て書き、最後に、
お姉様、ロミオ様、どうかお幸せに
と書き、ペンを置きます。
そして――
パリスを刺した時のナイフを取り出し、自分の胸の前に構えます。
窓の鍵も扉の鍵も閉めてあり、この部屋は完全な密室です。
これなら、間違いなく自殺ということになるでしょう。
そして、遺書を書き始めます。
モンタギュー一家とキャピュレット一家の争いにうんざりしたこと、争いをやめて和解してほしいということ、パリスを頃したのは自分だということ、ロミオとジュリエットが愛し合ってること。
それらを全て書き、最後に、
お姉様、ロミオ様、どうかお幸せに
と書き、ペンを置きます。
そして――
パリスを刺した時のナイフを取り出し、自分の胸の前に構えます。
窓の鍵も扉の鍵も閉めてあり、この部屋は完全な密室です。
これなら、間違いなく自殺ということになるでしょう。
624: 2011/09/24(土) 15:00:54.82 ID:CWTIZSVDO
この物語は少々暗い内容ではあるが、まぁまだ許容範囲内だろう。
できるだけリアルに見えるように、
俺はナイフを、
自分の胸へと突き刺した。
できるだけリアルに見えるように、
俺はナイフを、
自分の胸へと突き刺した。
626: 2011/09/24(土) 15:10:47.81 ID:CWTIZSVDO
ズブリ。
そんな音が聞こえたような気がした。
胸に走る激痛。
とてつもなく胸が熱い。
力が抜け、その場に倒れる。
もしかしたら俺は役者に向いているのかもしれない。
だがこれは演技ではなく、マジだ。
この時、俺はあの思い出せなかった記憶を、完璧に思い出すことができた。
あのままいけば、ナイフを刺したのは姉ちゃんだった。
あぁ……そうか……
姉ちゃんの氏を、回避することができたんだ……
627: 2011/09/24(土) 15:15:32.55 ID:CWTIZSVDO
幕が降り始める。
俺の人生の幕も降りるのかな……
もうろうとした意識の中で、俺はそんなことを思う。
姉ちゃんたちが近づいてくる。
観客席もざわめき始めている。
あ……ヤバい……
意識が……
姉ちゃん……
ごめん……
俺の意識は、ここで途切れた――
俺の人生の幕も降りるのかな……
もうろうとした意識の中で、俺はそんなことを思う。
姉ちゃんたちが近づいてくる。
観客席もざわめき始めている。
あ……ヤバい……
意識が……
姉ちゃん……
ごめん……
俺の意識は、ここで途切れた――
631: 2011/09/24(土) 19:11:34.99 ID:CWTIZSVDO
気がつくと、そこは病院のベッドの上。
何回もこういったことは経験してるので、わかってしまう。
なんとか氏なずに済んだようだ。
横には……誰もいないか。
これまではほぼ必ずと言っていいほど誰かいたので、なんだか少し寂しいな。
いや、今までが特別だっただけで、実はこれが普通なのかもしれない。
横には誰もいないが、脇のテーブルには僅かだが、涙の跡がついてる。……まだ新しい。
ということは、誰かいたのか?
そう思っていると、病室のドアがスライドして開いた。
「……え……聡美、ちゃん?」
……唯さんか。
聡美「唯さん、どうも」
唯「あ……あ……!」
唯さんは口をあんぐりと開けて、言葉になってない声を出していたかと思うと、
「聡美ちゃーん!」
勢いよく俺に抱きついてきた。
何回もこういったことは経験してるので、わかってしまう。
なんとか氏なずに済んだようだ。
横には……誰もいないか。
これまではほぼ必ずと言っていいほど誰かいたので、なんだか少し寂しいな。
いや、今までが特別だっただけで、実はこれが普通なのかもしれない。
横には誰もいないが、脇のテーブルには僅かだが、涙の跡がついてる。……まだ新しい。
ということは、誰かいたのか?
そう思っていると、病室のドアがスライドして開いた。
「……え……聡美、ちゃん?」
……唯さんか。
聡美「唯さん、どうも」
唯「あ……あ……!」
唯さんは口をあんぐりと開けて、言葉になってない声を出していたかと思うと、
「聡美ちゃーん!」
勢いよく俺に抱きついてきた。
632: 2011/09/24(土) 19:22:51.63 ID:CWTIZSVDO
ちょ、痛い痛い痛い!
あれからどれだけ経っているのかは分からないですけど、俺は患者ですよ!?
唯「……ん? あっ、ごめんね聡美ちゃん。つい……」
最近、つい……が流行っているのだろうか?
聡美「いいですよ別に。あ、そうだ。あの後どうなったんですか?」
唯「うん……えっとね……」
唯さんは話してくれた。
俺が意識を失って幕が降りた後、ナレーションのみで劇を継続したこと、一般の人には事実を隠し、学校側も一部の人間……三年二組のみんなしか知らないこと、あのナイフは本物だったこと、そして今は、あれから五時間くらいしか経ってないこと。
聡美「そうなんですか……すみません、迷惑かけて」
唯「ううん、別にいいよ。聡美ちゃんはしばらく休んでて」
聡美「そうですね。早く回復しないと、明日のライブに間に合いませんから」
唯「……えっ?」
あれからどれだけ経っているのかは分からないですけど、俺は患者ですよ!?
唯「……ん? あっ、ごめんね聡美ちゃん。つい……」
最近、つい……が流行っているのだろうか?
聡美「いいですよ別に。あ、そうだ。あの後どうなったんですか?」
唯「うん……えっとね……」
唯さんは話してくれた。
俺が意識を失って幕が降りた後、ナレーションのみで劇を継続したこと、一般の人には事実を隠し、学校側も一部の人間……三年二組のみんなしか知らないこと、あのナイフは本物だったこと、そして今は、あれから五時間くらいしか経ってないこと。
聡美「そうなんですか……すみません、迷惑かけて」
唯「ううん、別にいいよ。聡美ちゃんはしばらく休んでて」
聡美「そうですね。早く回復しないと、明日のライブに間に合いませんから」
唯「……えっ?」
633: 2011/09/24(土) 19:30:48.82 ID:CWTIZSVDO
唯さんは不意を突かれたような顔をしている。
俺、何かマズいこと言ったか?
唯「えっと……聡美ちゃん?」
聡美「はい」
唯「明日……出るつもりなの?」
あぁ……そういうことね。
聡美「そのつもりですけど……最後の学園祭ですし」
唯「駄目っ!」
聡美「えぇっ!?」
唯「駄目だよ聡美ちゃん! お医者さんは、少なくとも三ヶ月安静にしないとって……」
聡美「さ、三ヶ月……?」
これは予想外だ。
五時間しか眠ってないのだから、もう大丈夫かと思ったのだが。
仕方ない、あの手を使うか……
聡美「……アクター」
俺、何かマズいこと言ったか?
唯「えっと……聡美ちゃん?」
聡美「はい」
唯「明日……出るつもりなの?」
あぁ……そういうことね。
聡美「そのつもりですけど……最後の学園祭ですし」
唯「駄目っ!」
聡美「えぇっ!?」
唯「駄目だよ聡美ちゃん! お医者さんは、少なくとも三ヶ月安静にしないとって……」
聡美「さ、三ヶ月……?」
これは予想外だ。
五時間しか眠ってないのだから、もう大丈夫かと思ったのだが。
仕方ない、あの手を使うか……
聡美「……アクター」
634: 2011/09/24(土) 19:45:47.64 ID:CWTIZSVDO
唯「……っ……なにかな? 聡くん」
聡美「唯さん……状況、分かりますよね」
唯「うん」
聡美「何か方法はありませんか?」
唯「ちょっと待ってね…………うん、脱走……かな?」
聡美「え」
唯「この病室は514号室。ベランダの端っこに非常はしごがあるから、そこから出れるよ」
えーと……
唯さん、今何やったんですか?
唯「気にしないで」
もしかしたら、向こうで新たな技術が開発されたのかもしれない。
あの和さんのことだ。絶対的時空平面理論(通称:時空理論)を発表したあの人のことだから、また何かやってくれたのだろう。
聡美「まさか、それだけですか?」
唯「私の権限じゃ、あっちの治療器具は持って来れないからね」
聡美「そうですか……」
病院を脱走とか……どんなドラマ展開だよ。
いや、刻を越える方がドラマ展開か。
唯「聡くん」
聡美「何ですか? 唯さn……」
635: 2011/09/24(土) 19:48:03.22 ID:CWTIZSVDO
久々に触れた唯さんの唇は、柔らかかった。
636: 2011/09/24(土) 19:52:13.93 ID:CWTIZSVDO
唯「んっ……」
聡美「……」
唯「えへへ……じゃあね、聡くん」
そして唯さんは、俺に抱きつくような形で気を失った。
聡美「……」
俺は思わず自分の唇に触れた。
キス……か。
637: 2011/09/24(土) 20:17:52.25 ID:CWTIZSVDO
それからのことはというと、起きた唯さんを家に帰した後、ベッドに金を置き、書き置きを書き、着替えをして、窓を開ける。
五階……か。
多分、大丈夫だろう。
まだ胸が痛いが、それもしばらくの辛抱だ。なんとかなるだろう。
唯さんの話通り、ベランダの端には非常はしごがあったので、そこから降りる。
幸い雨などは降ってなく、満天の星空だったので、夜にしては明るかった。
一時間くらい経っただろうか。
家の近所の電灯の下で、自分の姿を確認する。
ほんの少し血が出ているが、あまり問題は無いだろう。
家に着くと、インターホンを鳴らして家に入った。
小さな頃のトラウマがある自分の部屋に行き、机の引き出しを開ける。
ボールペンの芯を引き出しの二つ目の底にある小さな穴に挿して、引き出しの一つ目の底を持ち上げる。
デスノートのアレの要領だ。
そこにある秘密の隠し場所から、袋を取り出す。
これは、未来の琴吹グループで開発された、人間の自己再生能力の速度を一時的に数十倍も上げる薬だ。
これを服用すれば、治るまで普通ならば三ヶ月かかる傷は、個人差はあるが、一日~三日で完治してしまう。
もちろん、副作用はある。
服用して三分後に強制的に眠ってしまううえに、人間本来の寿命が約半分減る。
だから、一人一回しか使えない。
まさに諸刃の剣だ。最終手段として、出発前にムギさんから譲ってもらった。
今はやむを得ない状況だ。
俺は迷わずこの薬を服用した。
五階……か。
多分、大丈夫だろう。
まだ胸が痛いが、それもしばらくの辛抱だ。なんとかなるだろう。
唯さんの話通り、ベランダの端には非常はしごがあったので、そこから降りる。
幸い雨などは降ってなく、満天の星空だったので、夜にしては明るかった。
一時間くらい経っただろうか。
家の近所の電灯の下で、自分の姿を確認する。
ほんの少し血が出ているが、あまり問題は無いだろう。
家に着くと、インターホンを鳴らして家に入った。
小さな頃のトラウマがある自分の部屋に行き、机の引き出しを開ける。
ボールペンの芯を引き出しの二つ目の底にある小さな穴に挿して、引き出しの一つ目の底を持ち上げる。
デスノートのアレの要領だ。
そこにある秘密の隠し場所から、袋を取り出す。
これは、未来の琴吹グループで開発された、人間の自己再生能力の速度を一時的に数十倍も上げる薬だ。
これを服用すれば、治るまで普通ならば三ヶ月かかる傷は、個人差はあるが、一日~三日で完治してしまう。
もちろん、副作用はある。
服用して三分後に強制的に眠ってしまううえに、人間本来の寿命が約半分減る。
だから、一人一回しか使えない。
まさに諸刃の剣だ。最終手段として、出発前にムギさんから譲ってもらった。
今はやむを得ない状況だ。
俺は迷わずこの薬を服用した。
638: 2011/09/24(土) 20:35:30.85 ID:CWTIZSVDO
翌日。
俺が目覚めた時には、すでに二時を過ぎていた。
これはマズい。ライブは三時からだったはず。
もしかしたら間に合わないかもしれない。
いくら回復しても、それじゃ意味がない。
まだ身体中がズキズキするが、俺は構わず桜高へと向かった。
一時間くらいして、ようやく学校に着いた。
もうライブは始まっているはずだ。急がなければ。
部室へ行き、ギターを背負う。
ふと机を見ると、シャツが置いてあった。
柄は……なるほどね。そういうことか。
俺はシャツに着替え、急いで講堂へと向かった。
講堂の扉を開ける。
よかった……今ちょうど三曲目が終わった所のようだ。
俺はステージに向かって歩く。
周りの人がみんな驚いている。特に三年二組の人が。
ステージの前に立ち、ゆっくりと昇る。
俺が目覚めた時には、すでに二時を過ぎていた。
これはマズい。ライブは三時からだったはず。
もしかしたら間に合わないかもしれない。
いくら回復しても、それじゃ意味がない。
まだ身体中がズキズキするが、俺は構わず桜高へと向かった。
一時間くらいして、ようやく学校に着いた。
もうライブは始まっているはずだ。急がなければ。
部室へ行き、ギターを背負う。
ふと机を見ると、シャツが置いてあった。
柄は……なるほどね。そういうことか。
俺はシャツに着替え、急いで講堂へと向かった。
講堂の扉を開ける。
よかった……今ちょうど三曲目が終わった所のようだ。
俺はステージに向かって歩く。
周りの人がみんな驚いている。特に三年二組の人が。
ステージの前に立ち、ゆっくりと昇る。
639: 2011/09/24(土) 20:48:26.89 ID:CWTIZSVDO
聡美「去年とは逆ですね……唯さん」
唯「聡美ちゃん……なんで……?」
姉ちゃんたちも驚いている。
そりゃ驚くだろうな……普通は。
とりあえず、
聡美「ヒーローは遅れて登場するもんなんですよ。あと、この話は後でにしましょう」
ギターを取り出し、チューニングとウォーミングアップをする。
聡美「はい。ではいきましょう、唯さん」
唯「う、うん……」
唯『えとえと、今来たこの子は、田井中聡美ちゃんです!』
聡美『どうも。えーと、今日は訳あって遅れてしまいました。すみません』
唯『……それでは最後の曲、聞いてください!』
唯さんはこちらを見て、そして姉ちゃんたちを見る。
前に向き直って、深呼吸する。そして……
唯『 U & I !』
俺にとって最後の学園祭ライブ、最後の演奏が始まった。
640: 2011/09/24(土) 20:59:33.11 ID:CWTIZSVDO
……俺たちは今、部室にいる。
夕方の部室……なんと美しい光景だろうか。
結論から言うと、大成功だった。
本当に、あっという間だった。
自分でもちゃんと演奏できてたのかよく覚えてないが、とにかく大成功だった。
……楽しかった。もう悔いはない。
これで残された俺の役目は、あと二つ。
自分の命を犠牲にして姉ちゃんを助けることと、姉ちゃんたちを全員N女子大に合格させること。
今日の所は、考えるのをやめにしよう。
今日はもう、疲れた。
まぶたを閉じると、一気に睡魔が俺を襲ってきた――
641: 2011/09/24(土) 21:13:11.60 ID:CWTIZSVDO
……しくん! 聡くん!
誰だ……? 俺の名前を呼んでいるのは……
梓「聡くん!」
……あぁ、梓さん……どうかしましたか?
梓「とりあえず起きて」
聡美「はいはい……何ですか?」
梓「一応私の方が年上なんだけど……まぁいっか。今回のことなんだけど……」
聡美「あぁ……」
自分の胸に手を添える。
梓「あのナイフ……どうやらこっちの物みたい」
聡美「……つまり未来人がすり替えたということですか?」
梓「うん。すり替えた犯人はまだ分からないけど」
聡美「そうですか……」
すり替えた犯人……絶対に許さない。
一体姉ちゃんに何の恨みがあるというんだ。
642: 2011/09/24(土) 21:28:18.92 ID:CWTIZSVDO
聡美「そういえば唯さんは?」
今ここにいるのは俺と梓さんだけ。
すでに辺りは暗くなっている。夜になったのか。
梓「唯先輩は……ちょっとね」
聡美「そうですか……」
少し気になるな。
梓「とにかく、ありがとね聡くん。学園祭を無事に成功させてくれて」
聡美「いえいえ……」
あのことは一般の人には隠してはいるが、勘のいい人は気づいていただろう。
それを晴らすため、俺はライブに出たのだ。
あの大怪我が、一日で治るわけないのだから。
つまり、あれは一般の人から見れば本当に演技だった、ということになり、学園祭は気持ちよく成功したのだ。
ちなみに三年二組のみんなには、ドッキリということにしてある。心が痛い。
おそらく真実を知っているのは軽音部のメンバーだけだろう。
643: 2011/09/24(土) 21:39:49.83 ID:CWTIZSVDO
梓「本当にありがとね……」
梓さんに抱きしめられる。
あ、梓さん!?
梓「君が今、女の子だからできるんだよ……男の子だと、恥ずかしいし」
聡美「梓さん……」
暖かい。
これが梓さんの……温もり。
心の……暖かさ。
俺たちはしばらく、夜の部室で抱き合っていた。
梓「あ、そろそろ時間かな」
梓さんは俺から離れる。
梓「さよなら聡くん、またね」
梓さんはそう言うと、部室から出ていった。
……って!?
聡美「梓さん!」
急いで梓さんを追いかけて部室から出たが、そこには……
誰もいなかった。
644: 2011/09/24(土) 21:47:19.23 ID:CWTIZSVDO
おかしいな……未来人は戻る際、倒れるはずだが……何の物音もしない。
……無音。
……暗闇。
消えた梓さん。
なるほどね……それが新しい帰還システムか。
俺は後ろに振り返る。
部室の扉は鍵ごと閉まっていた。
……無音。
……暗闇。
消えた梓さん。
なるほどね……それが新しい帰還システムか。
俺は後ろに振り返る。
部室の扉は鍵ごと閉まっていた。
645: 2011/09/24(土) 21:54:29.27 ID:CWTIZSVDO
……はぁ!?
意味が分からない。
仕方ない……今日はこのまま帰るか。
そう思ったのだが……
校内すべてのシャッターが閉まっていた。
まるで、俺をここに閉じ込めようとしているかのように。
後ろから何かの気配がする。
気のせいだと思うが、一応振り向いてみるか?
クルッ
意味が分からない。
仕方ない……今日はこのまま帰るか。
そう思ったのだが……
校内すべてのシャッターが閉まっていた。
まるで、俺をここに閉じ込めようとしているかのように。
後ろから何かの気配がする。
気のせいだと思うが、一応振り向いてみるか?
クルッ
646: 2011/09/24(土) 22:09:22.39 ID:CWTIZSVDO
振り向いてみると、そこには穏やかな表情をした男が立っていた。
はて……どこかで会ったような……
男「君には失望したよ……あの時の約束を破るなんてね」
約束……?
何のことだ。
男「まぁいい。これは警告だ。これからはよく考えて行動するんだな」
男「……さぁ、戻れ。元の時空に」
男がそう言うと、俺はすぐに意識を失った。
次に意識を取り戻した時、そこは夕方の部室だった。
周りには姉ちゃんたちが寝ている。
夢……だったのか?
いや、違う。
夢ならば、あの梓さんの温もりは感じられない。
夢じゃないのならば……あれは一体なんだったんだ?
あの男は、何者なんだ?
あの男は、俺に何を伝えたかったんだ……?
はて……どこかで会ったような……
男「君には失望したよ……あの時の約束を破るなんてね」
約束……?
何のことだ。
男「まぁいい。これは警告だ。これからはよく考えて行動するんだな」
男「……さぁ、戻れ。元の時空に」
男がそう言うと、俺はすぐに意識を失った。
次に意識を取り戻した時、そこは夕方の部室だった。
周りには姉ちゃんたちが寝ている。
夢……だったのか?
いや、違う。
夢ならば、あの梓さんの温もりは感じられない。
夢じゃないのならば……あれは一体なんだったんだ?
あの男は、何者なんだ?
あの男は、俺に何を伝えたかったんだ……?
656: 2011/10/09(日) 19:26:24.38 ID:/vFDeiDDO
学園祭を終え、休日を挟み、次の週の月曜日。
これから俺たち三年生は、本来の姿である受験生の身へと、身を投じていくことになる。
しかしそこで、とある問題が生じてしまった。
どこで勉強するか。
俺たち軽音部の三年生はそのことで悩んでいた。
定番と言えば教室や図書館なのだが、あいにく他の生徒もたくさんいるわけで、はっきり言うと集中できない可能性がある。
ならば部室はどうだろうか?
大抵の場合、俺たち軽音部員しか使わないので、環境としては最高なのだが、ここでも問題が発生する。
そう……梓さんの存在である。
梓さんは来年の新入生歓迎会でライブをし、新入部員を確保しなければならない。
俺たちが部室にいるせいで、梓さんの邪魔とかになったりはしないのか。
いや、それ以前に、姉ちゃんや唯さんが我慢できずに梓さんの練習に混ざってしまい、勉強しなくなる可能性がある。
ついつい音楽に反応してしまう……なんという悲しい習性だろうか。
これから俺たち三年生は、本来の姿である受験生の身へと、身を投じていくことになる。
しかしそこで、とある問題が生じてしまった。
どこで勉強するか。
俺たち軽音部の三年生はそのことで悩んでいた。
定番と言えば教室や図書館なのだが、あいにく他の生徒もたくさんいるわけで、はっきり言うと集中できない可能性がある。
ならば部室はどうだろうか?
大抵の場合、俺たち軽音部員しか使わないので、環境としては最高なのだが、ここでも問題が発生する。
そう……梓さんの存在である。
梓さんは来年の新入生歓迎会でライブをし、新入部員を確保しなければならない。
俺たちが部室にいるせいで、梓さんの邪魔とかになったりはしないのか。
いや、それ以前に、姉ちゃんや唯さんが我慢できずに梓さんの練習に混ざってしまい、勉強しなくなる可能性がある。
ついつい音楽に反応してしまう……なんという悲しい習性だろうか。
657: 2011/10/09(日) 19:37:17.88 ID:/vFDeiDDO
そして放課後。
みんなで部室に行くと、まだ梓さんは来てなかった。掃除当番だろうか?
それぞれの定位置に座ると、早速ティータイムが始まった。
おいおい大丈夫か?
しばらくすると、梓さんが息を切らして部室に入ってきた。
どうしたんだろう? そんなに慌てて。
唯「早くムギちゃんのおやつ食べたかったんだよね!」
唯さんはそう言いながら梓さんにアーンする。
完全にからかってるな、あれは。
梓さんはそっぽを向いてしまった。
律「私たちが引退して部室に来なくなったのかと思ったんじゃないの?」
姉ちゃんはからかうように言う。
梓さんの表情を見るに、どうやら図星だったようだ。
姉ちゃんはホントするどいからなぁ……それだけ周りをよく見てるってことか。
梓さんの反応を見た姉ちゃんと唯さんは、頭を撫でたりして、梓さんを愛でていた。
梓さんは満更でもなさそうだった。
みんなで部室に行くと、まだ梓さんは来てなかった。掃除当番だろうか?
それぞれの定位置に座ると、早速ティータイムが始まった。
おいおい大丈夫か?
しばらくすると、梓さんが息を切らして部室に入ってきた。
どうしたんだろう? そんなに慌てて。
唯「早くムギちゃんのおやつ食べたかったんだよね!」
唯さんはそう言いながら梓さんにアーンする。
完全にからかってるな、あれは。
梓さんはそっぽを向いてしまった。
律「私たちが引退して部室に来なくなったのかと思ったんじゃないの?」
姉ちゃんはからかうように言う。
梓さんの表情を見るに、どうやら図星だったようだ。
姉ちゃんはホントするどいからなぁ……それだけ周りをよく見てるってことか。
梓さんの反応を見た姉ちゃんと唯さんは、頭を撫でたりして、梓さんを愛でていた。
梓さんは満更でもなさそうだった。
658: 2011/10/09(日) 19:51:05.83 ID:/vFDeiDDO
梓「だーーーっ!」
梓さんが二人から離れる。照れ隠しのつもりなのだろうが、全く隠しきれてない。
梓さんは俺たちがなぜ部室にいるのかと聞いてきたが、これまでの経緯を話すと、部室で勉強することを快く了承してくれた。
案外あっさりだったな……
さわ子「ところでりっちゃん唯ちゃん……さすがにもう進路は決めたわよね?」
さわ子先生がそう言うと、姉ちゃんと唯さんはビクッ! と震えた。
おいおい……まだ決めてなかったのか? バーロー。
唯「わ、私さわちゃんみたいになりたいな!」
さわ子「まぁ! うれしいこと言ってくれるじゃない!」
あ、この流れは……
唯「さわちゃんみたいにお菓子食べてお茶飲んでだらだらしたい!」
さわ子「ちゃんと仕事してるわよ!」
やっぱりか……
楽な仕事なんかそうそう無い。
この時代ではまだ好景気不景気があったから、おそらくそうだろう。
さわ子「私だってちゃんと勉強して大学入ったのよ?」
姉ちゃんと唯さんはそれを聞くと、まさに「ほえ~」という感じの顔をしていた。
さわ子「……何よその顔……」
そりゃそうなるわな。さすがにあの顔は……うん、ヤバい。
659: 2011/10/09(日) 20:05:28.93 ID:/vFDeiDDO
姉ちゃんたちはさわ子先生に、どうして先生になろうと思ったのかを聞いていた。どうも、好きな人に便乗したらしい。
先生……そういうのは結婚を前提にした恋人を作ってからにしましょうよ……
さわ子「まぁ最近はやりたいことが分からないからとりあえず大学行くっていう人も多いし、まずはセンター試験に向けて勉強したら?」
律「センター!?」
センター試験。
基本的な問題が多く、マークシート式なため、やろうと思えば満点を取れる試験だ。
ちなみに俺はセンターで満点を取って点数を稼いだ。
律「マークシートならまかせとけ!」
さすがの姉ちゃんも知ってたか……ん? 六角鉛筆?
でも確かセンターって……
澪「……センターは0から9まで数字あるぞ?」
そう……いくらセンターといっても、そこらの1から6までしか数字が無いやつとはレベルが違う。
十角鉛筆でもあれば別なのだが。
姉ちゃんの隣で期待していた唯さんも、澪姉の言葉を聞いた途端、姉ちゃんと一緒に「じゃあ不合格だー」と言って落ち込んでしまった。
そんな姉ちゃんたちに澪姉が喝を入れて勉強させ始めた。
こういう時に頼りになるなぁ澪姉。
俺にはできないよ。
しかし……
先生……そういうのは結婚を前提にした恋人を作ってからにしましょうよ……
さわ子「まぁ最近はやりたいことが分からないからとりあえず大学行くっていう人も多いし、まずはセンター試験に向けて勉強したら?」
律「センター!?」
センター試験。
基本的な問題が多く、マークシート式なため、やろうと思えば満点を取れる試験だ。
ちなみに俺はセンターで満点を取って点数を稼いだ。
律「マークシートならまかせとけ!」
さすがの姉ちゃんも知ってたか……ん? 六角鉛筆?
でも確かセンターって……
澪「……センターは0から9まで数字あるぞ?」
そう……いくらセンターといっても、そこらの1から6までしか数字が無いやつとはレベルが違う。
十角鉛筆でもあれば別なのだが。
姉ちゃんの隣で期待していた唯さんも、澪姉の言葉を聞いた途端、姉ちゃんと一緒に「じゃあ不合格だー」と言って落ち込んでしまった。
そんな姉ちゃんたちに澪姉が喝を入れて勉強させ始めた。
こういう時に頼りになるなぁ澪姉。
俺にはできないよ。
しかし……
660: 2011/10/09(日) 20:18:05.12 ID:/vFDeiDDO
勉強し始めて少し経った。
どうも姉ちゃんと唯さんの様子がおかしいので見てみると、梓さんが練習する音に合わせて動いていた。
さて、用意していた特製の耳栓を……
澪「集・中!」
唯・律「ひゃいっ!」
すごい気迫だ。
その後、姉ちゃんたちには耳栓をつけて勉強させた。
……梓さん、少しずつだが上手くなってる。
さすがだな。
集中してると時間があっという間に過ぎるというのはどうやら本当のことらしく、いつの間にか下校時間30分前になっていた。
さわ子「あ、澪ちゃん。今から職員室に行きましょう」
澪「あ、はい!」
澪姉とさわ子先生は、そのまま部室から出て行ってしまった。
……え?
澪姉なんかしたの?
もしこの世界が漫画の世界だとしたら、この場にいる全員の頭の上に、クエスチョンマークが浮かんでいることだろう。
成績優秀な澪姉が、職員室に呼び出された。
一体、何の呼び出しだろう?
どうも姉ちゃんと唯さんの様子がおかしいので見てみると、梓さんが練習する音に合わせて動いていた。
さて、用意していた特製の耳栓を……
澪「集・中!」
唯・律「ひゃいっ!」
すごい気迫だ。
その後、姉ちゃんたちには耳栓をつけて勉強させた。
……梓さん、少しずつだが上手くなってる。
さすがだな。
集中してると時間があっという間に過ぎるというのはどうやら本当のことらしく、いつの間にか下校時間30分前になっていた。
さわ子「あ、澪ちゃん。今から職員室に行きましょう」
澪「あ、はい!」
澪姉とさわ子先生は、そのまま部室から出て行ってしまった。
……え?
澪姉なんかしたの?
もしこの世界が漫画の世界だとしたら、この場にいる全員の頭の上に、クエスチョンマークが浮かんでいることだろう。
成績優秀な澪姉が、職員室に呼び出された。
一体、何の呼び出しだろう?
661: 2011/10/09(日) 20:27:55.49 ID:/vFDeiDDO
唯「どうしたんだろう澪ちゃん?」
律「さぁ……? 時期が時期だし、進路のことなんじゃね?」
進路……成績優秀……あ。
聡美「もしかして、推薦断ったとかかな?」
紬「あ、そういえば澪ちゃん前に言ってたわね」
梓「澪先輩って推薦もらってたんですか!?」
唯「そうだよ~。澪ちゃんすごいよね~」
律「推薦が何か分からなかったヤツが何を言う」
唯「りっちゃん厳しい……」
紬「でもそうなると、澪ちゃんが勉強してたのにも説明がつくわね」
聡美「……」
姉ちゃんから聞いた話通りだ。
このまま行けば、全員がN女子大志望になる。
そうなれば、あとは姉ちゃんたちを合格させればいい。
唯「ねえねえ、職員室行ってみようよ!」
律「……そうだな」
さて……今度は改変とかされないよな?
662: 2011/10/09(日) 20:39:31.21 ID:/vFDeiDDO
職員室の前で待ち伏せしていると、澪姉が出てきた。
唯「澪ちゃーん! 呼び出しって何だったのーっ!?」
紬「……もしかして推薦入試断ったとか?」
澪「な、何でそれを!?」
律「やっぱりな……勉強してたからおかしいなと思ってたんだ」
姉ちゃんは犯人に追い討ちをかける刑事みたいな口調で言ったが、それ俺たちの意見だからな?
ちゃっかり調子に乗る姉ちゃんかわいい。
唯「でも何で断ったの? もったいないよ~……」
澪姉は一呼吸おいてから言った。
澪「私もみんなと一緒に勉強して……出来たら一緒の大学に行ければいいな……って」
唯「一緒の……」
紬「大学……」
律「……やれやれ」
おいこらそこ、キョンの真似するな。
唯「澪ちゃーん! 呼び出しって何だったのーっ!?」
紬「……もしかして推薦入試断ったとか?」
澪「な、何でそれを!?」
律「やっぱりな……勉強してたからおかしいなと思ってたんだ」
姉ちゃんは犯人に追い討ちをかける刑事みたいな口調で言ったが、それ俺たちの意見だからな?
ちゃっかり調子に乗る姉ちゃんかわいい。
唯「でも何で断ったの? もったいないよ~……」
澪姉は一呼吸おいてから言った。
澪「私もみんなと一緒に勉強して……出来たら一緒の大学に行ければいいな……って」
唯「一緒の……」
紬「大学……」
律「……やれやれ」
おいこらそこ、キョンの真似するな。
663: 2011/10/09(日) 21:06:10.85 ID:/vFDeiDDO
その日の夜、姉ちゃんが俺の部屋に入ってきた。大方、大学のことだろう。
姉ちゃんは俺と向かい合うように座ると、話し始めた。
律「なぁ聡美、今日のことだけどさ……ほら、聡美もムギもN女子大志望だろ? だからさ……
私もN女子大行こうかなって思ってるんだけど……どうかな?」
よし来た。
これで……
聡美「……その言葉を待っていた」
律「え?」
聡美「何でもない。……うん、姉ちゃんなら大丈夫だよ。私も協力するし」
あとは……
律「……分かった。ありがとな、聡美」
合格させる。絶対に。
聡美「じゃあ早速やるよ、姉ちゃん。分からないところとかある?」
律「……へ?」
聡美「え? N女子大行くならたくさん勉強しなきゃ。ほら、早く」
律「……ふk」
聡美「言わせないよ。ほら、早くやるよ」
律「……へ~い」
その夜、俺と姉ちゃんの勉強会は、姉ちゃんが机に突っ伏して寝るまで続いた。
姉ちゃんは俺と向かい合うように座ると、話し始めた。
律「なぁ聡美、今日のことだけどさ……ほら、聡美もムギもN女子大志望だろ? だからさ……
私もN女子大行こうかなって思ってるんだけど……どうかな?」
よし来た。
これで……
聡美「……その言葉を待っていた」
律「え?」
聡美「何でもない。……うん、姉ちゃんなら大丈夫だよ。私も協力するし」
あとは……
律「……分かった。ありがとな、聡美」
合格させる。絶対に。
聡美「じゃあ早速やるよ、姉ちゃん。分からないところとかある?」
律「……へ?」
聡美「え? N女子大行くならたくさん勉強しなきゃ。ほら、早く」
律「……ふk」
聡美「言わせないよ。ほら、早くやるよ」
律「……へ~い」
その夜、俺と姉ちゃんの勉強会は、姉ちゃんが机に突っ伏して寝るまで続いた。
664: 2011/10/09(日) 21:12:36.91 ID:/vFDeiDDO
次の日、姉ちゃんたちは全員N女子大にしたようだ。
よし……順調だ。
しかし……あの男が気になるな。
どこかで会ったような気がするが、分からない。
約束ってなんなんだ……?
それにあの現象……まったく理解できない。
絶対的時空平面理論じゃ説明がつかない。
警告ってことは、後々何かあるってことだ。
気をつけなければ――
よし……順調だ。
しかし……あの男が気になるな。
どこかで会ったような気がするが、分からない。
約束ってなんなんだ……?
それにあの現象……まったく理解できない。
絶対的時空平面理論じゃ説明がつかない。
警告ってことは、後々何かあるってことだ。
気をつけなければ――
667: 2011/10/10(月) 17:16:24.21 ID:XMOboOJDO
最近、急に寒くなってきた気がする。
もう冬か……と思うようになった今日この頃、俺は部室の物置で暖房器具を探していた。
聡美「ここにも無いな……どこにいったんだろう……」
最後に仕舞ったのは確か大掃除の時だ。
あの時あれを仕舞ったのは誰だっけか。
この一年間、いろんなことがありすぎたから、そういう記憶は暖味になってる。
仕方ない、全員そろってからにするか……
それにしてもここ、意外と暖かいな。
梓『こんにちは~』
お、梓さん来たのか。
そうだな……しばらくここに隠れてようかな。梓さんが一人きりの時に何をするか気になるし。
梓『わ、ムギ先輩!? どうしたんですか!?』
おや、ムギ先輩も来てたのか。暖房器具を探すのに集中してたから気がつかなかった。
紬『あ、梓ちゃんおはよう……』
おはようって……寝てたんですか……
まぁ……ここでなら寝れそうだけど。
もう冬か……と思うようになった今日この頃、俺は部室の物置で暖房器具を探していた。
聡美「ここにも無いな……どこにいったんだろう……」
最後に仕舞ったのは確か大掃除の時だ。
あの時あれを仕舞ったのは誰だっけか。
この一年間、いろんなことがありすぎたから、そういう記憶は暖味になってる。
仕方ない、全員そろってからにするか……
それにしてもここ、意外と暖かいな。
梓『こんにちは~』
お、梓さん来たのか。
そうだな……しばらくここに隠れてようかな。梓さんが一人きりの時に何をするか気になるし。
梓『わ、ムギ先輩!? どうしたんですか!?』
おや、ムギ先輩も来てたのか。暖房器具を探すのに集中してたから気がつかなかった。
紬『あ、梓ちゃんおはよう……』
おはようって……寝てたんですか……
まぁ……ここでなら寝れそうだけど。
668: 2011/10/10(月) 17:24:48.46 ID:XMOboOJDO
梓『でもそんな所で何してたんですか?』
確かに気になるな。ムギさんの意外な一面があるかもしれないし。
紬『誰か来たら驚かせようと思って隠れてたの~』
意外と可愛いこと考えるんだな……想像もつかないや。
おそらく、梓さんも同じようなことを考えているだろう。
紬『あ! わーっ! わーーっ!』
……いやいや、意味無いだろう。
推理小説でネタバレされたようなもんだぞ。
ほんの少しの沈黙。
梓『わ、わーっ! わーーっ!』
何だろう。
第三者の視点から見ると、この組み合わせ、案外面白い。
669: 2011/10/10(月) 17:38:04.53 ID:XMOboOJDO
梓『唯先輩はまだですか?』
紬『唯ちゃんたちは掃除当番で遅くなるって』
そうなのか。
なんだか、スネークの気分にでもなったようだ。
隠れて情報を入手するとか……なんだか罪悪感が。
これって悪く言えば……盗み聞き、だよな。
梓『わ、私ギターの練習します!』
なぜか梓さんは動揺している。
なにを緊張しているのだろうか?
もしかしてこの組み合わせ……初めてなのか?
ならば、なおさら盗みg……情報収集しなければ。
梓『わーっ、近っ!』
紬『え!? ご、ごめんなさい!?』
ええぇぇ!?
今いったい何があった!?
畜生、漫画みたいに壁に穴でもあれば…………ん?
扉に、小さい穴が空いていた。
なんだ、覗k……今度は視覚的な情報収集もできるじゃないか。
俺はその穴から、視覚的な情報収集を試みた。
670: 2011/10/10(月) 18:09:38.29 ID:XMOboOJDO
ムギさんが梓さんのギターを持っていた。なかなか様になってるな。
紬『はい、ありがとう梓ちゃん』
あれ、もう満足?
と思ったのだが、梓さんは弾かないのかと言い、ムギさんは梓さんとギターの練習をし始めた。
そういえば春頃にもやったな、ああいうの。あの時は姉ちゃんだったけどね。
ペロロロン♪
Fか……俺も昔苦戦したんだよな~……
ペコン、ペコン。
……可愛い。
音もムギさんも。
まぁ、あの時の姉ちゃんほどではないけど。
あの時はもう……何だろう。お持ち帰りしたいくらいヤバかった。
紬『はい、ありがとう梓ちゃん』
あれ、もう満足?
と思ったのだが、梓さんは弾かないのかと言い、ムギさんは梓さんとギターの練習をし始めた。
そういえば春頃にもやったな、ああいうの。あの時は姉ちゃんだったけどね。
ペロロロン♪
Fか……俺も昔苦戦したんだよな~……
ペコン、ペコン。
……可愛い。
音もムギさんも。
まぁ、あの時の姉ちゃんほどではないけど。
あの時はもう……何だろう。お持ち帰りしたいくらいヤバかった。
671: 2011/10/10(月) 18:21:13.44 ID:XMOboOJDO
紬『指が痛い……』
まぁ、最初はそうなるわな。
それ以上やると、ムギさんの綺麗な手の指の皮が剥けてしまう。
そうなると、少なからずいろんなことに影響が出るだろう。
俺は、指の皮が剥けてからも練習し続けたせいで、ギターに血がべっとりとついてしまったことがあった。
あれはヤバかったな。思い出したくもない。
紬『はい、ありがとう。ギターって難しいのね』
梓『やっぱり根気がいるかもですね~』
慣れればそんなでも無いけどなぁ……
アンジェロラッシュだっけか?
あれは未だに完璧にできない。カッコいいけど難しい。
紬『そっか! ギターってどれだけ痛いのに耐えられるのかが重要なのね……』
ドMだ。前から思ってたけどドMだよこの人。
というかM率高いなこの部活。
そういえば俺はどっちなんだろう?
672: 2011/10/10(月) 18:32:22.60 ID:XMOboOJDO
紬『はい、梓ちゃん』
梓『ありがとうございます』
ムギさんがお茶を出す。
あぁ……飲みたい。
おそらく例のアレだろうけど、飲みたい。暖まりたい。
紬『さ、さっきから私の顔見てどうしたの? 何か付いてる?』
梓『え、あ、あの……』
梓さんは一生懸命に何かを探している様子だった。
ムギさんの顔…………あ。
梓『……ほっぺにクリームが……』
紬『えっ!? どこどこ!?』
つまみ食いでもしたのだろうか。
俺もたまにつまみg……お菓子の安全性についての事前調査を体をはってやっている。
人のことは言えないな。
梓『じっとしててください』
梓さんはそう言ってムギさんの頬についているクリームを拭き取る。
……なぜにムギさんは目を閉じているのだろうか?
673: 2011/10/10(月) 18:37:54.23 ID:XMOboOJDO
紬『つまみ食いしてたのがばれちゃった……』
自白しちゃったよこの人。
梓『もしかして今までも……』
紬『たま~に(はぁと』
ぷぷっ。
紬『あれ? 物置から何か音が……』
……あ。
これは間違いなくばれたな。
姉ちゃんたちも部室の扉を少し開けて覗いているが、あれもばれるな。
ガチャ……
674: 2011/10/10(月) 18:46:15.12 ID:XMOboOJDO
紬「あれ? 聡くん?」
聡美「ど、どうも……あはは……」
やっぱりばれたか……何なんだよこの人の勘は。
どうやら姉ちゃんたちもばれちゃったみたいだし、物置を出るか。
律「あれ? なんだよ~、聡美も隠れて覗いてたのか?」
聡美「あはは……ただの情報収集だよ……」
律「なんだか聡みたいな言い訳だな……」
そりゃ、本人ですから。
何回目だろう、こういうこと言われたの。
675: 2011/10/10(月) 18:53:04.17 ID:XMOboOJDO
唯「ムギちゃん今日のケーキもおいひいよ~(はぁと」
紬「本当? よかったわ~」
ムギさんはものすごく生き生きしていた。
実はあのお茶、特別な淹れ方があるんだよなぁ……一般には知れ渡ってないが。
さわ子「ムギちゃーん、私のお茶まだー?」
相変わらず先生は神出鬼没で遠慮が無いな。
この光景……ホッとするっていうか、暖かい。
なんだか、とても安心するなぁ……
676: 2011/10/10(月) 19:11:10.07 ID:XMOboOJDO
下校時間になり、俺たちは外に出る。
今日もたくさん教えたなぁ……主に姉ちゃんに。
律「あーーさびーー」
よく喋れるな姉ちゃん……こっちは喋る気力も寒さによって奪われているというのに。
紬「ねぇ、聡美ちゃん」
ムギさんが小さな声で話しかけてきた。
紬「ちょっとこの後……いい?」
これは……あ、そういえばさっき俺の名前を……
おそらくこのムギさんはあのムギさんだろう。雰囲気が違いすぎる。
聡美「いいですけど……何の話ですか?」
ムギさんは一呼吸おいてから答えた。
紬「聡くんが疑問に思っていることについてよ」
……!
聡美「……分かりました」
俺が疑問に思っていること……たくさんありすぎる。
でも、そのうちの一つでも解決できずにあの日を迎えてしまったら、何らかのトラブルが起こる可能性が高い。
3月31日までに、全てを解決しなければ。
紬「それじゃ私たちはここで……梓ちゃん、ギター教えてくれてありがとうね」
梓「あ、いえ、とんでもないです!」
唯「ムギちゃん、聡美ちゃんと何か用事があるの~?」
紬「ええ、ちょっとね」
唯「……そっか……じゃあね、ムギちゃん、聡美ちゃん」
聡美「さようなら~」
今日もたくさん教えたなぁ……主に姉ちゃんに。
律「あーーさびーー」
よく喋れるな姉ちゃん……こっちは喋る気力も寒さによって奪われているというのに。
紬「ねぇ、聡美ちゃん」
ムギさんが小さな声で話しかけてきた。
紬「ちょっとこの後……いい?」
これは……あ、そういえばさっき俺の名前を……
おそらくこのムギさんはあのムギさんだろう。雰囲気が違いすぎる。
聡美「いいですけど……何の話ですか?」
ムギさんは一呼吸おいてから答えた。
紬「聡くんが疑問に思っていることについてよ」
……!
聡美「……分かりました」
俺が疑問に思っていること……たくさんありすぎる。
でも、そのうちの一つでも解決できずにあの日を迎えてしまったら、何らかのトラブルが起こる可能性が高い。
3月31日までに、全てを解決しなければ。
紬「それじゃ私たちはここで……梓ちゃん、ギター教えてくれてありがとうね」
梓「あ、いえ、とんでもないです!」
唯「ムギちゃん、聡美ちゃんと何か用事があるの~?」
紬「ええ、ちょっとね」
唯「……そっか……じゃあね、ムギちゃん、聡美ちゃん」
聡美「さようなら~」
677: 2011/10/10(月) 19:18:03.76 ID:XMOboOJDO
紬「それじゃ聡くん、行くわよ」
聡美「行くってどk……!?」
そう言いかけたところで、一瞬めまいによく似た感覚がした。
そして次の瞬間には、周りの雰囲気が変わっていた。
さっきまで姉ちゃんたちがいた所には、誰もいなかった。
それどころか、辺りを見回しても、俺とムギさん以外誰もいなかった。
そう……ここはまるで、あの男と出会った場所のようだった――
681: 2011/10/17(月) 21:20:51.61 ID:u8cKjAoDO
今俺とムギさんがいるこの場所は、まるで時間が止まっているかのような雰囲気だった。
なんなんだ……? この気持ち悪い空間は?
聡美「ムギさん、ここはどこなんですか?」
紬「その前に、これを見てくれる?」
ムギさんが取り出したそれは……指輪?
紬「実はね、聡くんが作ったタイムマシンには、結構無駄があったみたいなの」
まぁ……そうだろうな。
あのタイムマシン、俺にもよく分からないところがあるからな……
紬「それで……その無駄の中から、タイムマシンに隠された、もう一つの機能が見つかったの」
……なんだって?
もう一つの機能……?
紬「平行世界への移動機能……違う世界の純ちゃんがこの世界に来たのも、この機能の副産物だと、私は思ってるわ」
聡美「ということは、その指輪が……」
紬「そう……その機能を指輪の形にしたものよ。でも……」
……でも?
紬「何度も試してみたんだけど、これだけじゃ、私たちが今いるようなところにしか来れないみたいなの」
聡美「じゃあここは……なんなんですか?」
平行世界でないなら……ここは一体どこなんだ?
なんなんだ……? この気持ち悪い空間は?
聡美「ムギさん、ここはどこなんですか?」
紬「その前に、これを見てくれる?」
ムギさんが取り出したそれは……指輪?
紬「実はね、聡くんが作ったタイムマシンには、結構無駄があったみたいなの」
まぁ……そうだろうな。
あのタイムマシン、俺にもよく分からないところがあるからな……
紬「それで……その無駄の中から、タイムマシンに隠された、もう一つの機能が見つかったの」
……なんだって?
もう一つの機能……?
紬「平行世界への移動機能……違う世界の純ちゃんがこの世界に来たのも、この機能の副産物だと、私は思ってるわ」
聡美「ということは、その指輪が……」
紬「そう……その機能を指輪の形にしたものよ。でも……」
……でも?
紬「何度も試してみたんだけど、これだけじゃ、私たちが今いるようなところにしか来れないみたいなの」
聡美「じゃあここは……なんなんですか?」
平行世界でないなら……ここは一体どこなんだ?
682: 2011/10/17(月) 21:30:49.07 ID:u8cKjAoDO
紬「ここは……世界と世界の狭間。つまりこの指輪だけでは完全な移動はできないってことよ」
なるほど……でも待てよ?
じゃああの時のは……?
紬「前にこっちの梓ちゃんがこれを使ってみたんだけど、話を聞くに、どうも聡くんも巻き込まれたみたいね」
聡美「え、えぇ……じゃあ、あの男はいったい……」
紬「……男?」
ムギさんの表情が変わる。
聡美「はい。俺が巻き込まれた時、話しかけてきたんです。約束を破ったとかなんとか……」
紬「そう……」
ムギさんはしばらく考えたあと、口を開いた。
紬「……聡くん、おそらくその男が、あのナイフをすり替えた張本人よ」
聡美「……あいつが……!」
あの男が犯人……確かに、そう考えるとつじつまが合う。
あの不可解な現象も気になるし。
紬「それで……その男の特徴は?」
聡美「ええと……」
683: 2011/10/17(月) 21:47:17.70 ID:u8cKjAoDO
聡美「……またか……」
紬「どうしたの?」
聡美「はっきりと思い出せません……記憶が曖昧になってます」
紬「おかしいわね……私は何の異常も無いけど……歴史の改変なら、私にも影響が出るはずなのに……そんな技術、まだ開発されてないし……」
聡美「そうですか……」
紬「…………うん、今確認したけど唯ちゃんも無いわね」
その技術……!
聡美「ムギさん、今のって……」
紬「え? あ、言ってなかったわね。絶対的時空平面理論に基づいた、新しい技術よ。同じ世界……つながってる時間同士なら、間接的に情報を得ることができるわ。使える人間が限られてるけど」
すごく便利な技術だな……
聡美「それ、俺にも使えますか?」
紬「ええと……この技術は、絶対音感がないと使えないの。私と唯ちゃんは使えるけど……ほら、前に渡した腕時計の応用よ。特殊な音波で情報をやり取りするの。でも、さすがに情報量が多いから、特殊な音で読み取るの。だから、絶対音感がないと……」
つまり、俺には無理ってことか。
684: 2011/10/17(月) 22:01:12.60 ID:u8cKjAoDO
聡美「そうですか……とりあえず、ここまでの話を整理しましょうか」
まず、あの男と出会った空間は、ムギさんが今持っている指輪の、平行世界への移動機能によって侵入できる、世界と世界の狭間ならしい。ちなみにその指輪は、俺が作ったタイムマシンの中の無駄な部分をまとめたものだということ。
平行世界への移動を行うと、原因は不明だが、誰かが巻き込まれるとのこと。
前は別の世界の純さんとその世界の俺、そしてあの時はこの俺。
そして、あそこで会ったあの男が、ナイフをすり替えた犯人ならしい。
おそらくあの男も、ここに来ることができる。
確かに、ここからならナイフのすり替えなど朝飯前だろう。
ちなみに、なぜ完全な移動ができないのかは不明。
俺に正体を知られないために、あの男は何らかの手段で俺の記憶を曖昧にした。
唯さんやムギさんが使ったあの便利な技術は、絶対音感所有者じゃなければ使用できないとのこと。
だいぶ明らかになってきたな……
聡美「とにかく、あの男に関しては手が出せませんね。向こうの出方を見るしか……」
紬「そうね…………ん?」
ムギさんは後ろに振り返り、曲がり角の方を見る。
聡美「どうかしましたか?」
紬「……ううん、なんでもないわ」
聡美「……そうですか」
685: 2011/10/17(月) 22:08:49.86 ID:u8cKjAoDO
一つ、気になることがある。
聡美「……ムギさん」
紬「ん? 何? 聡くん」
さっきまでの話を聞いていて、一番疑問となったことを話す。
聡美「その指輪があるってことは、タイムマシンを分解したんですよね?」
紬「……ええ。唯ちゃんが、ね」
聡美「唯さんが……?」
そういえば……
最近、あっちの唯さんに会ってない。
聡美「唯さんは……どうしてます?」
紬「唯ちゃんは……あなたの子供の世話をしてるわ」
……あ。
そうか……唯さんは今、
一人なんだ……
686: 2011/10/17(月) 22:15:14.13 ID:u8cKjAoDO
聡美「唯さん……」
紬「……あなたは、目の前のことに集中して。そうしないと、唯ちゃんをあっちに置いてきた意味が無いでしょ?」
聡美「……はい」
唯さん……すみません。
聡美「それで……なぜ唯さんが?」
紬「唯ちゃんは意外と鋭いからね……たまたま気づいたとしか……」
聡美「なるほど」
確かに、あの人ならやりそうだ。
紬「そろそろ戻りましょう、聡くん」
聡美「……はい」
俺がそう言った瞬間、先ほどと同じ感覚が俺を襲ってきた――
687: 2011/10/17(月) 22:24:26.06 ID:u8cKjAoDO
それからムギさんに例の指輪を渡され、俺たちは別れた。
時間移動技術……タイムマシンを作ってから、まだ2年くらいしか経ってない。
だから、新たな要素、技術、危険性が出てくるのは分かっていたが、これほど厄介だとは。
それに……あの男。
純さんと同じように、別の世界……平行世界から来たのだろうか?
一体何が目的なんだ?
あの男が言っている、約束ってなんだ?
あの男……間違いなく、純さん以上に厄介な存在だ。
これは推測だが、おそらくあの男は未来の技術をフル活用できる。
記憶の曖昧化、平行世界への移動……
慎重に動かなければ……
姉ちゃんを助けるために――――
時間移動技術……タイムマシンを作ってから、まだ2年くらいしか経ってない。
だから、新たな要素、技術、危険性が出てくるのは分かっていたが、これほど厄介だとは。
それに……あの男。
純さんと同じように、別の世界……平行世界から来たのだろうか?
一体何が目的なんだ?
あの男が言っている、約束ってなんだ?
あの男……間違いなく、純さん以上に厄介な存在だ。
これは推測だが、おそらくあの男は未来の技術をフル活用できる。
記憶の曖昧化、平行世界への移動……
慎重に動かなければ……
姉ちゃんを助けるために――――
693: 2011/10/23(日) 14:29:57.75 ID:A+Ko5hHDO
朝のHR。
おそらく、学校生活で一番だるい時間だろう。
担任の意味不明な話を聞く時間というのは、もはや拷問に等しい。
さわ子先生は比較的まだマシな方だが、今日は副担の先生が担当だった。
あぁ……だるい。
副担の話によると、さわ子先生は風邪をひいて休みらしい。
あの人が風邪で寝込んでいるのは想像もつかないが、先生は普通の人間だ。こういうこともあるだろう。
おそらく、学校生活で一番だるい時間だろう。
担任の意味不明な話を聞く時間というのは、もはや拷問に等しい。
さわ子先生は比較的まだマシな方だが、今日は副担の先生が担当だった。
あぁ……だるい。
副担の話によると、さわ子先生は風邪をひいて休みらしい。
あの人が風邪で寝込んでいるのは想像もつかないが、先生は普通の人間だ。こういうこともあるだろう。
694: 2011/10/23(日) 14:48:20.33 ID:A+Ko5hHDO
HRの後、教室は少しざわめいていた。もちろん、俺たちも例外ではない。
律「さわちゃんが風邪で休みとか、かなり珍しいよな」
唯「そうだね~何か起こりそうだよね」
紬「月が赤い……」
酷い言われようだな。
聡美「あの~……今日、お見舞いに行きませんか?」
澪「う~ん……先生に迷惑じゃないか?」
確かに。
そのうえ、風邪をうつされたらたまったもんじゃない。
唯「でもでも、さわちゃんの私生活とか……私見てみたいな~」
律「……よし、そうと決まれば今日学校終わったら行こうぜ」
紬「でも……先生の家、誰か知ってるの?」
聡美「職員室に行けば住所くらい教えてくれると思いますけど」
澪「ちょ、ちょっと待て」
澪姉が話を中断させる。
律「なんだよ澪ー、多数決で決まってるんだぞ~」
澪「そ、そういうことじゃなくて……」
澪姉はなかなか言葉を発しない。
何なんだろう?
澪「……か、彼氏さんとかいたら迷惑じゃ……」
その一言で、姉ちゃんたちのスイッチが入った。
律「! これはもう行くしかないな!」
澪「お、おい!?」
紬「梓ちゃんも連れて行きましょう」
唯「そうだね! みんなで行った方が楽しいよ!」
……一応確認するけど、お見舞いに行くんだよな?
遊びに行くわけじゃないよな?
澪「まったく……仕方ないな」
澪姉もまんざらじゃなさそうだし。
なんでこの人は素直になれないんだろうねぇ……
律「さわちゃんが風邪で休みとか、かなり珍しいよな」
唯「そうだね~何か起こりそうだよね」
紬「月が赤い……」
酷い言われようだな。
聡美「あの~……今日、お見舞いに行きませんか?」
澪「う~ん……先生に迷惑じゃないか?」
確かに。
そのうえ、風邪をうつされたらたまったもんじゃない。
唯「でもでも、さわちゃんの私生活とか……私見てみたいな~」
律「……よし、そうと決まれば今日学校終わったら行こうぜ」
紬「でも……先生の家、誰か知ってるの?」
聡美「職員室に行けば住所くらい教えてくれると思いますけど」
澪「ちょ、ちょっと待て」
澪姉が話を中断させる。
律「なんだよ澪ー、多数決で決まってるんだぞ~」
澪「そ、そういうことじゃなくて……」
澪姉はなかなか言葉を発しない。
何なんだろう?
澪「……か、彼氏さんとかいたら迷惑じゃ……」
その一言で、姉ちゃんたちのスイッチが入った。
律「! これはもう行くしかないな!」
澪「お、おい!?」
紬「梓ちゃんも連れて行きましょう」
唯「そうだね! みんなで行った方が楽しいよ!」
……一応確認するけど、お見舞いに行くんだよな?
遊びに行くわけじゃないよな?
澪「まったく……仕方ないな」
澪姉もまんざらじゃなさそうだし。
なんでこの人は素直になれないんだろうねぇ……
695: 2011/10/23(日) 15:03:02.45 ID:A+Ko5hHDO
そして放課後。
部室で勉強し、梓さんが来た後ティータイムして、今は軽音部の六人でさわ子先生の家に向かっている。
唯「さわちゃん家ってどんな感じなのかな?」
律「そうだなー……やっぱりロックな感じの家なんじゃないか?」
唯「チャイムの音がデスメタルとか!」
どんな家だよ……てかその前に、そんなの取り付けたら間違いなく近所迷惑だ。
律「教えてもらった住所の通りだとこのマンションみたいだけど……」
そのマンションは……なんというか、普通だった。
律「なんかすっごい普通だな……」
唯「でもでも、まだ彼氏さんの可能性は残ってるよ!」
さわ子先生の部屋の前に立ち、チャイムを鳴らす。
ピンポーン。
律「……普通だな」
唯「普通だね」
澪「いや、当たり前だろ」
しばらくすると、先生が出てきた。
さわ子「あら? あなたたち……」
先生の格好は……ボサボサの髪にジャージ。
どう見ても彼氏なんかがいる格好には見えない。
姉ちゃんも同じことを考えてたらしく、しかもそれを口に出してしまっていた。
さわ子「……何よいきなり」
部室で勉強し、梓さんが来た後ティータイムして、今は軽音部の六人でさわ子先生の家に向かっている。
唯「さわちゃん家ってどんな感じなのかな?」
律「そうだなー……やっぱりロックな感じの家なんじゃないか?」
唯「チャイムの音がデスメタルとか!」
どんな家だよ……てかその前に、そんなの取り付けたら間違いなく近所迷惑だ。
律「教えてもらった住所の通りだとこのマンションみたいだけど……」
そのマンションは……なんというか、普通だった。
律「なんかすっごい普通だな……」
唯「でもでも、まだ彼氏さんの可能性は残ってるよ!」
さわ子先生の部屋の前に立ち、チャイムを鳴らす。
ピンポーン。
律「……普通だな」
唯「普通だね」
澪「いや、当たり前だろ」
しばらくすると、先生が出てきた。
さわ子「あら? あなたたち……」
先生の格好は……ボサボサの髪にジャージ。
どう見ても彼氏なんかがいる格好には見えない。
姉ちゃんも同じことを考えてたらしく、しかもそれを口に出してしまっていた。
さわ子「……何よいきなり」
696: 2011/10/23(日) 15:23:11.18 ID:A+Ko5hHDO
澪「突然すいません……体の調子、どうですか?」
さわ子「あら! お見舞いに来てくれたの?」
澪姉、ナイスフォローです。
紬「わ、まだガラガラ声ですね」
さわ子「全快にはあと一歩ってところかしらね……っ!?」
突然、さわ子先生がビクッとなる。
先生の目線の先には……姉ちゃんと唯さん?
うわぁ……家に入れてほしい的なオーラを出してる。
さわ子「も、もう完璧に治ったから! 心配してくれなくて大丈夫よ!」
律「いやいやいや! 治りかけの時が一番危ないんですよ!」
確かにそれはそうだが……迷惑になってるんじゃないか? これ?
部屋の中は、少し汚かったが、それ以外はすごい普通だった。
梓「先生、熱はあるんですか?」
さわ子「昼まであったけど今は下がったわよ」
顔色を見る限り、どうやら本当のようだ。
無理してるわけではなさそうだ。
唯「さわちゃんの昔の衣装みっけ!」
さわ子「また上がりそうだけど……」
あー……あの人は何しに来たんだか。
697: 2011/10/23(日) 15:33:29.38 ID:A+Ko5hHDO
唯「熱あるならベッドで寝なきゃ!」
さわ子「あんたたちが帰ったらすぐ良くなりそうなんだけど……」
紬「先生、お腹すいてませんか? 何か作りましょうか?」
さわ子「まあ! 作ってくれるの?」
聡美「はい。私が作ります」
さわ子「聡美ちゃんが……?」
さわ子先生は不安そうな表情をしている。
おそらく、先生はムギさんに作ってもらいたいのだろう。
律「大丈夫だって! 聡美はこの中で一番料理上手いから!」
唯「そうだよ~! 憂の師匠なんだから!」
さわ子「あらそうなの? じゃあお願いしちゃおうかな」
聡美「任せてください!」
俺はそう言うと、材料を持ってキッチンへと向かった。
ちなみに姉ちゃんたちは残りの役割を決めていた。
698: 2011/10/23(日) 15:51:16.51 ID:A+Ko5hHDO
聡美「できました」
律「はやっ!」
まぁ……時間優先で作ったからな。あまり遅くまで居座るわけにもいかないし。
俺が作ったのは、ごく一般的な料理だ。ほんの少し工夫はしてあるけどね。
さわ子「ありがと。どれ……」
さて、どうだ……?
さわ子「なにこれ……すごくおいしい……」
聡美「それは光栄です」
唯「さわちゃんいいな~」
聡美「あ、みなさんの分もありますよ?」
皆「なんであるの!?」
聡美「なんでって……こうなることは薄々分かってましたし」
そう……俺たちは全員、腹が減っていた。(特に唯さんが)
ならばいっそ、ここで食べてしまえというわけだ。
ちなみに各家庭への連絡は済んでいる。
夕食終了後。
律「そういやさ、さわちゃんが高校の時の卒アルってどこにあんの?」
唯「あ、見たい見たい!」
さわ子「ええと……」
聡美「これ、ですよね?」
実はさっき、本棚から拝借しておいたのだ。
さわ子「何で持ってるの!?」
律「おお、聡美ナイス!」
唯「じゃあ早速……」
さわ子「聡美ちゃん、あなた怖いわ……」
聡美「いや、先生ほどではありませんよ?」
少なくとも二階とか三階から侵入するほど俺はぶっ飛んではないつもりだ。
699: 2011/10/23(日) 16:02:55.71 ID:A+Ko5hHDO
紬「そういえば、先生の時の軽音楽はどんな感じだったんですか?」
お、その話になるか。
さわ子「そうねえ……ほら、私たちのバンドってあれでしょ? だから堀込先生に目付けられてたのよ。でも、すごく楽しかったわ」
梓「堀込先生って……あの古文のですか?」
さわ子「そうそう! ここだけの話だけど、堀込先生カツラなのよ」
皆「えーっ!?」
今のは俺も驚いた。
堀込先生がカツラ? そう言われればそんな気もしてきた。
姉ちゃんたちは笑いをこらえるのに精一杯なようだ。
律「ははは……ということは、さわちゃんたちに比べれば私たちはまだまだかわいいってことか!」
さわ子「……ティーセットの持ち込みはさすがに前例がないと思うわよ?」
そりゃそうだろうな……
700: 2011/10/23(日) 16:15:04.14 ID:A+Ko5hHDO
唯「さわちゃんわかーい!」
さわ子「今でも若いわよ!」
律「写真写りはいいなぁ」
さわ子「……どういう意味よ」
おそらくそういう意味だろう。
次々とメールをめくる。そして、最後のページ……メッセージを書くページは、もういっぱいだった。
澪「……すごいな」
うまってるのがすごいのではなく、メッセージ自体がすごいのだ。
掲示板に書いたら間違いなく規制されそうな単語が沢山使われていたのだ。
紬「……」
ムギさんはまじまじと見ている。規制単語が珍しいのだろうか?
確かに、ムギさんみたいな人には縁がない単語ではあるが。
ほら、例えばこれとか……『高校生はなァ、ミイラなンだよ』……
……見てはいけないものを見た気がする。
……気のせいだ。気のせいに違いない。
もう一度見てみる。
……ほら、無い。
……ん?
『キッチンの左上の棚に鍵がある』
……え?
701: 2011/10/23(日) 16:25:25.80 ID:A+Ko5hHDO
念のため、もう一度見てみる。
『キッチンの左上の棚に鍵がある』
……気のせいではないようだ。
無記名のメッセージ。
鍵って……おいおい、これじゃまるで消失じゃないか。
聡美「先生、このメッセージは……?」
さわ子「ああ……それね。そのメッセージ、誰に書かれたのか分からないのよ。気ついたらもう書かれてたわ」
澪「ひぃ!?」
唯「ミステリーだね!」
さわ子「でも……私の実家のキッチンには、左上に棚なんか無かったわ。換気扇があったから」
紬「りっちゃん探偵、どう思いますか?」
律「そうだな……暗号の類かもしれないな」
梓「いや、ただの間違いとかイタズラじゃ……」
まぁ、普通の人だったらそう思うだろうな。
だけど、今までいろんなことを経験してきた俺には、そういう普通のことは考えられなかった。
『キッチンの左上の棚に鍵がある』
……気のせいではないようだ。
無記名のメッセージ。
鍵って……おいおい、これじゃまるで消失じゃないか。
聡美「先生、このメッセージは……?」
さわ子「ああ……それね。そのメッセージ、誰に書かれたのか分からないのよ。気ついたらもう書かれてたわ」
澪「ひぃ!?」
唯「ミステリーだね!」
さわ子「でも……私の実家のキッチンには、左上に棚なんか無かったわ。換気扇があったから」
紬「りっちゃん探偵、どう思いますか?」
律「そうだな……暗号の類かもしれないな」
梓「いや、ただの間違いとかイタズラじゃ……」
まぁ、普通の人だったらそう思うだろうな。
だけど、今までいろんなことを経験してきた俺には、そういう普通のことは考えられなかった。
702: 2011/10/23(日) 16:33:47.14 ID:A+Ko5hHDO
聡美「もしかしたら……」
律「何か分かったのか? 聡美」
そうだな……明日、実行することにしよう。
聡美「ただのイタズラですね、これは」
唯「……そっか~……」
律「……まぁ、そうだとは思ってたけどさ」
澪「ただのイタズラなのか……安心したよ」
梓「いや、当たり前でしょう」
さわ子「……あ、もうこんな時間ね。そろそろ帰った方がいいかも」
腕時計を確認すると、たしかにもうそろそろ危ない時間だった。
あの機能も、3月31日に姉ちゃんが氏ぬ可能性があるということを意味する表示しかなかった。
聡美「じゃあ、帰りましょうか」
そう言って、俺たちは帰り支度を始めた。
703: 2011/10/23(日) 16:38:23.60 ID:A+Ko5hHDO
帰り支度を終え、寄せ書きをテーブルの上に置き、俺たちはさわ子先生の家を後にした。
帰る途中で俺とムギさん以外が同時にクシャミをした。
なんだろう……いやな予感しかしない。
そして次の日に、俺のこのいやな予感は的中することになる。
帰る途中で俺とムギさん以外が同時にクシャミをした。
なんだろう……いやな予感しかしない。
そして次の日に、俺のこのいやな予感は的中することになる。
704: 2011/10/23(日) 16:42:15.60 ID:A+Ko5hHDO
よし。一話終わったけど、ペースアップのために今日はもっと頑張ってみる。
700行ったが、まだまだ先は長いな……
何かあればどうぞ。
では再びいきます
700行ったが、まだまだ先は長いな……
何かあればどうぞ。
では再びいきます
705: 2011/10/23(日) 16:57:41.62 ID:A+Ko5hHDO
さわ子先生のお見舞いに行った次の日の放課後。
紬「はい、聡美ちゃん」
聡美「あ、ありがとうございます」
今部室にいるのは、俺とムギさんだけだ。
なぜ姉ちゃんたちがいないのかと言うと、どうも先生の風邪をもらってしまったらしい。
今日はやることがあるので、姉ちゃんの看病はこの時代の俺に任せている。
やることというのは、昨日先生のお見舞いに行ったとき、気になることがあったので、今日それを調べにいくことだ。
気になることというのはもちろん、あのメッセージである。
『キッチンの左上の棚に鍵がある』
先生の話によると、先生の実家のキッチンには、左上に棚などなかったらしい。
つまりどういうことか。
このメッセージの謎には、二通りの解釈がある。
まず一つ目は、このメッセージは先生に向けられたものではなかったということ。
つまり昨日言った通り、このメッセージは何かの間違いか、イタズラだったということ。
だがおそらく、この線は薄いだろう。
そして二つ目は、キッチンというのは「先生の実家」のキッチンではないということ。
俺は今日、これについて調べに行く。
そのためには、あの人が来ないことには話が始まらない。
だから、今もこうして待っているのだが……なかなか来ないな。
紬「はい、聡美ちゃん」
聡美「あ、ありがとうございます」
今部室にいるのは、俺とムギさんだけだ。
なぜ姉ちゃんたちがいないのかと言うと、どうも先生の風邪をもらってしまったらしい。
今日はやることがあるので、姉ちゃんの看病はこの時代の俺に任せている。
やることというのは、昨日先生のお見舞いに行ったとき、気になることがあったので、今日それを調べにいくことだ。
気になることというのはもちろん、あのメッセージである。
『キッチンの左上の棚に鍵がある』
先生の話によると、先生の実家のキッチンには、左上に棚などなかったらしい。
つまりどういうことか。
このメッセージの謎には、二通りの解釈がある。
まず一つ目は、このメッセージは先生に向けられたものではなかったということ。
つまり昨日言った通り、このメッセージは何かの間違いか、イタズラだったということ。
だがおそらく、この線は薄いだろう。
そして二つ目は、キッチンというのは「先生の実家」のキッチンではないということ。
俺は今日、これについて調べに行く。
そのためには、あの人が来ないことには話が始まらない。
だから、今もこうして待っているのだが……なかなか来ないな。
706: 2011/10/23(日) 17:14:16.04 ID:A+Ko5hHDO
結論から言うと、さわ子先生は部室に来なかった。
先生を待っているうちに下校時間になってしまったので、仕方なく帰ることにした。
いつもの交差点でムギさんと別れ、俺はさわ子先生のマンションへと向かう。
俺の予想では、キッチンというのは「先生の部屋」のキッチンだ。
確か、昨日見た記憶では、左上に小さな棚があったはずだ。
鍵というのがどういうものなのかは俺には分からない。
だが、俺がまだ解決していないことを解決するヒントくらいにはなってくれるだろう。
そんなことを考えているうちに、部屋の前に辿り着いてしまった。
インターホンを押すと、先生が出てきた。
さわ子「あら、聡美ちゃん? どうしたのこんな時間に」
聡美「実は昨日、忘れ物しちゃったみたいで……」
さわ子「あらそうなの? とりあえず入りなさい」
聡美「はい。お邪魔しま~す」
先生の部屋に入ると、俺は真っ先にキッチンに向かった。
やはり、左上に小さな棚があった。
俺は棚を開けた。そこには――
先生を待っているうちに下校時間になってしまったので、仕方なく帰ることにした。
いつもの交差点でムギさんと別れ、俺はさわ子先生のマンションへと向かう。
俺の予想では、キッチンというのは「先生の部屋」のキッチンだ。
確か、昨日見た記憶では、左上に小さな棚があったはずだ。
鍵というのがどういうものなのかは俺には分からない。
だが、俺がまだ解決していないことを解決するヒントくらいにはなってくれるだろう。
そんなことを考えているうちに、部屋の前に辿り着いてしまった。
インターホンを押すと、先生が出てきた。
さわ子「あら、聡美ちゃん? どうしたのこんな時間に」
聡美「実は昨日、忘れ物しちゃったみたいで……」
さわ子「あらそうなの? とりあえず入りなさい」
聡美「はい。お邪魔しま~す」
先生の部屋に入ると、俺は真っ先にキッチンに向かった。
やはり、左上に小さな棚があった。
俺は棚を開けた。そこには――
707: 2011/10/23(日) 17:16:08.27 ID:A+Ko5hHDO
何も無かった。
708: 2011/10/23(日) 17:21:23.06 ID:A+Ko5hHDO
聡美「……は?」
なんで。
なんで何も無いんだ?
もう一度確認してみたが、やはりそこには何も無く、棚は空っぽだった。
ということは、本当にあのメッセージは……
ただの、イタズラだった?
709: 2011/10/23(日) 17:30:16.35 ID:A+Ko5hHDO
聡美「そんな……」
棚を閉め、その場でがっくりとうなだれる。
まだ明らかになってないこと、解決できていないこと。
それらを一つでも、解決できると思ったのに。
ヒントらしきメッセージ。
それがただのイタズラだったとは。
聡美「……いや」
こんなことをしている場合ではない。
失敗したらまた立ち上がればいい。
あの時だってそうだったじゃないか。
俺は立ち上がり、玄関へと向かう。
さわ子「あら、もう見つかったの?」
聡美「はい。ありがとうございました」
さわ子「気をつけて帰るのよ?」
聡美「はい。お邪魔しました」
ドアを閉め、田井中家へと進路をとる。
あのメッセージを書いた人物は……
一体何がしたかったんだろう――
715: 2011/10/23(日) 19:29:16.24 ID:A+Ko5hHDO
……
……ちょっと待て。
もう一つ、確認しなければならない場所がある。
一つ目の解釈……
あのメッセージは、「さわ子先生」に向けられたものではなかった。
……もしかしたら。
俺は足を速めた。
716: 2011/10/23(日) 19:37:20.00 ID:A+Ko5hHDO
聡美「ただいま~……」
聡「あ、聡美さん。遅かったですね」
聡美「姉ちゃんは?」
聡「うん、もうだいぶよくなったよ。明日からは学校に行けると思う」
聡美「ありがと、聡くん」
ありがとな……この時代の俺。
聡美「晩御飯は食べた?」
聡「姉ちゃんには俺がおかゆ作って食べさせたけど……俺はまだだよ」
聡美「そっか。じゃあ、今から作るから待ってて」
聡「うん」
俺は「キッチン」に向かった。
717: 2011/10/23(日) 19:39:48.39 ID:A+Ko5hHDO
聡美「左上……」
俺の家のキッチンには、左上に棚がある。
確かここには、まだ何も入っていないはずだ。
でも、もしかしたら。
そう思いながら、棚を開けた。
718: 2011/10/23(日) 19:42:33.21 ID:A+Ko5hHDO
聡美「これは……」
そこにあったのは――
聡美「特別、起動部品……!」
あの時唯さんに渡された、特別起動部品があった。
719: 2011/10/23(日) 19:50:59.47 ID:A+Ko5hHDO
特別起動部品……
あの時、唯さんから無言で渡されたものだ。
そう言われてみれば、あの純さんが現れたのは、特別起動部品をタイムマシンにはめ、未来へ行き、腕時計を受け取ってからだ。
ということは……だ。
おそらくこの特別起動部品こそが、平行世界への完全移動を可能にする物だろう。
鍵というのはこういう意味か。
つまりあのメッセージは、俺に向けられたものだったということか。
となると……あのメッセージを書き、特別起動部品を届けてくれた人物は……
さわ子先生が俺たちの担任になることを知っていて、先生が風邪をひき、俺たちがお見舞いに行くことも知っていて、田井中家のキッチンの左上の棚にはまだ何も無いことを知っている人物。
……一人しかいない。
あの時、唯さんから無言で渡されたものだ。
そう言われてみれば、あの純さんが現れたのは、特別起動部品をタイムマシンにはめ、未来へ行き、腕時計を受け取ってからだ。
ということは……だ。
おそらくこの特別起動部品こそが、平行世界への完全移動を可能にする物だろう。
鍵というのはこういう意味か。
つまりあのメッセージは、俺に向けられたものだったということか。
となると……あのメッセージを書き、特別起動部品を届けてくれた人物は……
さわ子先生が俺たちの担任になることを知っていて、先生が風邪をひき、俺たちがお見舞いに行くことも知っていて、田井中家のキッチンの左上の棚にはまだ何も無いことを知っている人物。
……一人しかいない。
720: 2011/10/23(日) 19:52:03.93 ID:A+Ko5hHDO
……唯さんだ。
721: 2011/10/23(日) 20:04:21.36 ID:A+Ko5hHDO
唯さんは、俺と結婚して子供が産まれてから、本格的に料理をし始めた。
その時、唯さんは聞いてきたのだ。
唯『ねえ聡くん、ここの棚には何も入ってないけど、使っていいのかな?』
聡『あー、うん。そこは俺が子供の頃からいつも空っぽだったよ。だから……別にいいと思う』
その時、こんな会話をした記憶がある。
唯さん……貴女は一体、何を知っているんですか?
タイムマシンの中にある、平行世界への移動機能を見つけ……
……いや、違うな。
もし唯さんが、あの機能を取り付けた張本人だとしたら。
この特別起動部品だってそうだ。
あの時は何もためらわずに受け取ってしまったが、これを持ってきたのは唯さんだ。
……何のために?
唯さんは一体何のために、あんなことをしたんだ?
その時、唯さんは聞いてきたのだ。
唯『ねえ聡くん、ここの棚には何も入ってないけど、使っていいのかな?』
聡『あー、うん。そこは俺が子供の頃からいつも空っぽだったよ。だから……別にいいと思う』
その時、こんな会話をした記憶がある。
唯さん……貴女は一体、何を知っているんですか?
タイムマシンの中にある、平行世界への移動機能を見つけ……
……いや、違うな。
もし唯さんが、あの機能を取り付けた張本人だとしたら。
この特別起動部品だってそうだ。
あの時は何もためらわずに受け取ってしまったが、これを持ってきたのは唯さんだ。
……何のために?
唯さんは一体何のために、あんなことをしたんだ?
722: 2011/10/23(日) 20:09:19.02 ID:A+Ko5hHDO
まぁ……唯さんに聞けば全て分かるだろう。
今日は疲れた。
さっさと寝るか……
聡『聡美さん、まだ~?』
……そうだった。
俺は急いで料理を作り、そして食べ、風呂に入り、姉ちゃんの様子を見てから、眠りについた。
今日は疲れた。
さっさと寝るか……
聡『聡美さん、まだ~?』
……そうだった。
俺は急いで料理を作り、そして食べ、風呂に入り、姉ちゃんの様子を見てから、眠りについた。
727: 2011/10/29(土) 17:01:18.80 ID:6JN5nhfDO
唯さんが学校に来たのは、ちょうどこの前の模試の結果の返却日のことだった。
病み上がりに返却とか、精神的ダメージが大きいな。
聞きたいことはたくさんあるが、放課後まで待つことにしよう。
さわ子「田井中聡美さーん」
聡美「あ、はい」
俺は結果を受け取りに行く。
妙な視線を感じるのは気のせいだろうか?
さわ子「あなた本当にN女子大でいいの? K大も十分狙えるわよ?」
聡美「いえ、いいんです。みんなと同じ大学に進みたいので」
さわ子「そう……」
結果を受け取る。
……A判定だった。
病み上がりに返却とか、精神的ダメージが大きいな。
聞きたいことはたくさんあるが、放課後まで待つことにしよう。
さわ子「田井中聡美さーん」
聡美「あ、はい」
俺は結果を受け取りに行く。
妙な視線を感じるのは気のせいだろうか?
さわ子「あなた本当にN女子大でいいの? K大も十分狙えるわよ?」
聡美「いえ、いいんです。みんなと同じ大学に進みたいので」
さわ子「そう……」
結果を受け取る。
……A判定だった。
728: 2011/10/29(土) 17:12:08.22 ID:6JN5nhfDO
律「聡美、どうだった?」
席に座ると、姉ちゃんから声をかけられた。
聡美「A判定だったよ」
律「うっわ、相変わらずだな……」
聡美「ほら、次は姉ちゃんだよ」
律「え、あ、あぁ……」
先生は結果を持ったまま、こちらをジーッと見ていた。怖え。
姉ちゃんが結果を受け取って戻ってくる。
その表情は、まぁ……その……なんだ。うん。
聡美「どうだった?」
律「C判定だってよ。微妙だな」
聡美「そんなことないよ」
たしか俺の記憶では、前回の姉ちゃんの模試の結果はD判定だったはずだ。
ゆっくりだが、確実に上がっている。
それ以上に喜ばしいことはない。
そして唯さんは……
唯「りっちゃんどうだった……?」
律「C判定だよ。唯はどうなんだ?」
唯「はい……」
唯さんは結果を見せる。
……D判定だった。
729: 2011/10/29(土) 17:24:16.85 ID:6JN5nhfDO
放課後、澪姉の提案で唯さんは和さんと、姉ちゃんは俺とでそれぞれの家で勉強会をすることになった。。
唯さんにあのことを聞きそびれたが、それはまたの機会にしよう。
聡美「じゃあ始めるよ、姉ちゃん。模試の結果、もう一度見せて」
律「ほい」
聡美「う~ん、教えたところはできてるんだけどなぁ……ふむふむ、なるほど」
とりあえず、どこを勉強すればいいのかは分かった。
律「あの~……聡美先生、いかがでしょうか?」
聡美「そんなに悪くはないよ。教えたところはちゃんとできてるし。じゃあ今日は……これだね」
俺は姉ちゃんが一番苦手な教科……数学を勉強させることにした。
律「うわ~……よりにもよって数学か」
聡美「文句言わない。姉ちゃんは理数系がダメなんだから、理解すれば解ける数学をまず伸ばさないと」
律「理解すればって……もっと頭が良ければなぁ……」
聡美「確かに数学的センスってのもあるけど……やっぱりやる気だよ、やる気」
姉ちゃんに集中力はあるから、あとはやる気なんだよなぁ……
聡美「じゃあ……ここからね」
俺と姉ちゃんの勉強会が始まった。
唯さんにあのことを聞きそびれたが、それはまたの機会にしよう。
聡美「じゃあ始めるよ、姉ちゃん。模試の結果、もう一度見せて」
律「ほい」
聡美「う~ん、教えたところはできてるんだけどなぁ……ふむふむ、なるほど」
とりあえず、どこを勉強すればいいのかは分かった。
律「あの~……聡美先生、いかがでしょうか?」
聡美「そんなに悪くはないよ。教えたところはちゃんとできてるし。じゃあ今日は……これだね」
俺は姉ちゃんが一番苦手な教科……数学を勉強させることにした。
律「うわ~……よりにもよって数学か」
聡美「文句言わない。姉ちゃんは理数系がダメなんだから、理解すれば解ける数学をまず伸ばさないと」
律「理解すればって……もっと頭が良ければなぁ……」
聡美「確かに数学的センスってのもあるけど……やっぱりやる気だよ、やる気」
姉ちゃんに集中力はあるから、あとはやる気なんだよなぁ……
聡美「じゃあ……ここからね」
俺と姉ちゃんの勉強会が始まった。
730: 2011/10/29(土) 17:38:29.16 ID:6JN5nhfDO
聡美「さぁ姉ちゃん、ここはどうするんだっけ?」
律「えっと…………お?」
……解けてる。
聡美「……正解」
律「やばい……なんか楽しくなってきた」
聡美「数学はやればやるほど楽しいからね。うーん……そうだな……」
俺は空きスペースに、難関校レベルの応用問題を書く。
聡美「これやってみて」
律「よーし……ふむ……うーんと……」
さすがに時間がかかるか。
律「こう……かな?」
ええと……あ、おしいな。
聡美「おしいね。これはかなりの応用問題だからね……ここからさらに計算して……」
律「模試より難しいな、それ」
聡美「まぁね。そしてこうやると、答えが出るの」
律「おお……やっぱすごいな聡美は」
安心しろ、自覚はある。
律「聡美は理数系なんだっけ?」
聡美「え? あ、うん」
理数系というより、俺の場合は物理学専攻かな?
聡美「……って、話をそらさない。次はここね」
律「うっ……ふk」
聡美「言わせないよ。というか不幸だなんて言わないで」
律「へいへい……」
姉ちゃんは下を向き、勉強を再開する。
律「……なぁ聡美」
聡美「何?」
律「もし辛かったら……遠慮なく甘えていいんだぞ?」
731: 2011/10/29(土) 17:49:16.49 ID:6JN5nhfDO
聡美「えっ……?」
律「いや……その、だな……聡美が今までどんな不幸な目にあってきたのかは分からないけど……辛かったんだろ?」
聡美「あ……うん」
不幸なんて、もう御免だ。
姉ちゃんがいなくなったことが、どんなに悲しかったか……どんなに不幸だったか……
でももうすでに、俺の運命は決まっている。氏だ。
腕時計に表示されている、3月1日という日付。
俺はもう、幸せにはなれない。
でも、姉ちゃんの不幸を阻止することはできる。
だから……
聡美「私は今、幸せだよ。でも……もしその時が来たら、甘えるよ」
律「おう、どんと来い! なんてったって……
私は聡美の姉ちゃんだからな!」
732: 2011/10/29(土) 18:02:07.13 ID:6JN5nhfDO
聡美「うん……頼りにしてるよ」
律「おう!」
また一つ、姉弟……いや、姉妹なのか?
お互いの仲が深まった気がした。
律「なぁ聡美、ここはどうするんだ?」
聡美「えっと、そこはね……」
こんな感じで、勉強会は深夜まで続いた。
次の模試の返却日。
俺は相変わらずのA判定だった。
さて……姉ちゃんはどうかな?
律「さっとみぃ~♪」
聡美「姉ちゃん、どうだった?」
姉ちゃんは意気揚々とした様子で模試の結果を見せる。
律「B判定だってよ!」
聡美「おぉ~! すごいよ姉ちゃん!」
まさかこんな短時間でこんなに上がるとは思っていなかった。
律「この調子で聡美を追い越そうかな~」
本当にやりそうだから困る。でも……
聡美「師弟関係は、そう簡単に崩れはしないよ」
律「なんだと~!?」
だって……
俺(おとうと)と姉ちゃんの、姉弟(師弟)だという関係は、絶対に崩れたりなんかしないから――
734: 2011/10/29(土) 18:17:14.11 ID:6JN5nhfDO
何かがおかしい。
このことに気づいたのは、姉ちゃんが模試でB判定を取った日のことだった。
最近、なんだか唯さんに避けられている気がする。
俺のことを妙に気にしてるし、それに何よりも、あのことを 聞く機会が無くなっていたのだ。
俺はそのことを姉ちゃんに相談しようかと思い、姉ちゃんの部屋の前に立っている。
ドアをノックする。
律『聡美か? 入っていいぞ~』
ドアを開ける。
律「どうかしたのか?」
聡美「ちょっと相談したいことがあって……」
律「相談したいこと? あ、座っていいぞ」
俺はテーブルを挟み、姉ちゃんと向かい合うように座る。
律「それで……相談したいことって?」
聡美「なんか最近、唯さんに避けられている気がするんですけど」
このことに気づいたのは、姉ちゃんが模試でB判定を取った日のことだった。
最近、なんだか唯さんに避けられている気がする。
俺のことを妙に気にしてるし、それに何よりも、あのことを 聞く機会が無くなっていたのだ。
俺はそのことを姉ちゃんに相談しようかと思い、姉ちゃんの部屋の前に立っている。
ドアをノックする。
律『聡美か? 入っていいぞ~』
ドアを開ける。
律「どうかしたのか?」
聡美「ちょっと相談したいことがあって……」
律「相談したいこと? あ、座っていいぞ」
俺はテーブルを挟み、姉ちゃんと向かい合うように座る。
律「それで……相談したいことって?」
聡美「なんか最近、唯さんに避けられている気がするんですけど」
735: 2011/10/29(土) 18:24:15.95 ID:6JN5nhfDO
俺がそう言った途端に、姉ちゃんの表情が変わる。
律「…………悪い聡美、こればっかりは無理だ」
聡美「え……」
律「あの唯のことだからなぁ……何考えてるか分かんないようなヤツだし」
聡美「……」
まさか……ね。
聡美「そっか。ありがと、姉ちゃん」
律「お、おう……ごめんな」
俺は立ち上がり、姉ちゃんの部屋を出る。
まさか姉ちゃんにも避けられてるなんて……そんなこと、あるわけないよな?
律「…………悪い聡美、こればっかりは無理だ」
聡美「え……」
律「あの唯のことだからなぁ……何考えてるか分かんないようなヤツだし」
聡美「……」
まさか……ね。
聡美「そっか。ありがと、姉ちゃん」
律「お、おう……ごめんな」
俺は立ち上がり、姉ちゃんの部屋を出る。
まさか姉ちゃんにも避けられてるなんて……そんなこと、あるわけないよな?
736: 2011/10/29(土) 18:36:01.05 ID:6JN5nhfDO
もやもやとした気持ちのまま、町を歩く。
しばらく歩いていると、懐かしい顔を見つけた。
……曽我部先輩?
聡美「あの~……曽我部先輩?」
恵「あら、あなたは……田井中聡美さんね。久しぶり」
聡美「はい、ご無沙汰してます。大学、お休みなんですか?」
恵「ええ。今日はちょっと気分転換してたの」
聡美「そうなんですか。あ、先輩はどこの大学でしたっけ?」
この人、どこの大学に行ったんだろう?
恵「私? 私はN女子大よ。そういえばあなたたち、もうすぐ受験だったわね」
……N女子大?
聡美「それ本当ですか? 実は私たち、全員N女子大志望なんですよ!」
恵「本当に!? ということは、また秋山さんに会えるのね!」
あ、そういやこの人はこういう人だったな。
しばらく歩いていると、懐かしい顔を見つけた。
……曽我部先輩?
聡美「あの~……曽我部先輩?」
恵「あら、あなたは……田井中聡美さんね。久しぶり」
聡美「はい、ご無沙汰してます。大学、お休みなんですか?」
恵「ええ。今日はちょっと気分転換してたの」
聡美「そうなんですか。あ、先輩はどこの大学でしたっけ?」
この人、どこの大学に行ったんだろう?
恵「私? 私はN女子大よ。そういえばあなたたち、もうすぐ受験だったわね」
……N女子大?
聡美「それ本当ですか? 実は私たち、全員N女子大志望なんですよ!」
恵「本当に!? ということは、また秋山さんに会えるのね!」
あ、そういやこの人はこういう人だったな。
737: 2011/10/29(土) 18:45:38.64 ID:6JN5nhfDO
それから俺は曽我部先輩といろんなことを話し、N女子大の去年の入試問題と過去問題集を譲ってもらえることになった。
それから数日が経った。
にしても……
未だに原因が分からない。
俺が何かしたか?
唯さんに避けられ、姉ちゃんにも避けられている。
何も思い当たることがない。
一体何なんだ……?
ヴーヴー
突然、携帯のバイブが鳴る。
誰からのメールだろう?
……姉ちゃん?
受信ボックスを開く。
『今すぐ唯ん家に来い』
……どういうことだ?
最近避けられていたことに何か関係があるのだろうか?
聡美「……とりあえず行ってみるか」
ここからなら、結構近いし。
それから数日が経った。
にしても……
未だに原因が分からない。
俺が何かしたか?
唯さんに避けられ、姉ちゃんにも避けられている。
何も思い当たることがない。
一体何なんだ……?
ヴーヴー
突然、携帯のバイブが鳴る。
誰からのメールだろう?
……姉ちゃん?
受信ボックスを開く。
『今すぐ唯ん家に来い』
……どういうことだ?
最近避けられていたことに何か関係があるのだろうか?
聡美「……とりあえず行ってみるか」
ここからなら、結構近いし。
738: 2011/10/29(土) 18:55:46.97 ID:6JN5nhfDO
平沢家の玄関前に立つと、再び携帯のバイブが鳴る。
また姉ちゃんからだ。
『中に入って、二階のリビングに上がって来い』
本当に何なんだろう?
玄関のドアを開け、靴を並べ、二階に向かった。
階段を上りきり、リビングに入ったその瞬間、
パーーーン!!!
銃声っ!? ……って、そんなわけないか。
自分に降りかかったものを見て、そう判断する。
これはクラッカー……か?
「聡美(ちゃん)(さん)(先輩)!」
「「「「「「誕生日、おめでとう(ございます)!」」」」」」
聡美「……え?」
思考回路が、停止した。
また姉ちゃんからだ。
『中に入って、二階のリビングに上がって来い』
本当に何なんだろう?
玄関のドアを開け、靴を並べ、二階に向かった。
階段を上りきり、リビングに入ったその瞬間、
パーーーン!!!
銃声っ!? ……って、そんなわけないか。
自分に降りかかったものを見て、そう判断する。
これはクラッカー……か?
「聡美(ちゃん)(さん)(先輩)!」
「「「「「「誕生日、おめでとう(ございます)!」」」」」」
聡美「……え?」
思考回路が、停止した。
741: 2011/10/29(土) 20:40:57.30 ID:6JN5nhfDO
しばらくの間ボーッとしていると、姉ちゃんに声をかけられる。
律「何ボーッとしてんだ聡美? 今日が何の日か分かるだろ?」
今日……?
カレンダーを見る。
今日は12月14日……
……思い出した。
俺が考えた、田井中聡美の誕生日だ。
さすがにこの時代の俺と誕生日が一緒だと変だからな。
律「何ボーッとしてんだ聡美? 今日が何の日か分かるだろ?」
今日……?
カレンダーを見る。
今日は12月14日……
……思い出した。
俺が考えた、田井中聡美の誕生日だ。
さすがにこの時代の俺と誕生日が一緒だと変だからな。
742: 2011/10/29(土) 20:52:47.94 ID:6JN5nhfDO
唯「聡美ちゃんのこと、避けててごめんね……」
律「あー……悪かったな、聡美。隠すためとはいえ、冷たくして」
姉ちゃんと唯さんからの、謝罪の言葉。
聡美「別に謝らなくても……こんなサプライズ、初めてですし」
昔、姉ちゃんがしてくれたサプライズよりも、高低差がある。ここまで落としてから上げられたのは初めてだ。
梓「それで……これが、プレゼントです」
梓さんの右手の平の上にある、綺麗に包装された箱を、俺は両手で受け取る。
……なぜに片手?
まさか……ビックリ箱、ではないよな?
聡美「開けていいですか?」
律「もっちろん!」
俺は包装を解き、箱を開けた。
743: 2011/10/29(土) 21:05:42.82 ID:6JN5nhfDO
箱の中には、手袋があった。
聡美「……手袋?」
しかも、片方だけ。
律「……みんな」
姉ちゃんの合図で、みんなはコタツから左手を出す。
その左手には、俺と同じ手袋がはめられていた。
聡美「……?」
理解できない。
律「聡美、手首の所見てみろ」
姉ちゃんに言われた通りに手首の部分を見てみると、そこには『S.T』と刻まれていた。
S.T……Satomi Tainaka……なるほどね。
ということは……
姉ちゃんの方を見ると、姉ちゃんはニヤニヤしていた。
聡美「……手袋?」
しかも、片方だけ。
律「……みんな」
姉ちゃんの合図で、みんなはコタツから左手を出す。
その左手には、俺と同じ手袋がはめられていた。
聡美「……?」
理解できない。
律「聡美、手首の所見てみろ」
姉ちゃんに言われた通りに手首の部分を見てみると、そこには『S.T』と刻まれていた。
S.T……Satomi Tainaka……なるほどね。
ということは……
姉ちゃんの方を見ると、姉ちゃんはニヤニヤしていた。
744: 2011/10/29(土) 21:27:54.49 ID:6JN5nhfDO
聡美「なんでニヤニヤしてるの?」
律「いやぁ~……自分が作ったものみると、ニヤニヤしないか?」
そういうものなのか?
聡美「というか、なんで誕生日に……?」
律「えっとだな……なんというか、Sの文字のバランスが難しかったから、遅くなっただけ……あ、でも、聡美のは特別仕様だぞ!」
……どの辺が特別仕様なんだろう?
律「唯の提案でな……指の付け根のところの太さを自由に変えられるんだ。ほら、ここに目立たなくて短いひもがあるだろ?これで調節するんだ。勝手に手袋が外れなくなるんだぞ!」
ええと……
なんというか、無駄すぎる仕様だなオイ。
でもまぁ……勝手に手袋が外れなくなるのはいいな。
747: 2011/10/30(日) 14:43:15.61 ID:5X1a5tLDO
憂「みなさん、これ、ケーキです」
憂さんがケーキを持ってくる。
これは……すごいな。
聡美「すごく……おいしそうだね」
憂「はい、前聡美さんに教えてもらったことをふまえて作りました!」
前よりは、確実に上手くなってる。
これが平沢家の遺伝子か……
律「それじゃ聡美、早速乾杯しようぜ」
聡美「そうだね」
俺はコップになっちゃん(オレンジ)を注ぎ、構える。
みんなの準備が整ったことを確認し、そして……
聡美「かんぱーい!」
「「「「「「かんぱーい!!!!!!」」」」」」
田井中聡美の誕生日パーティーが始まった。
748: 2011/10/30(日) 15:00:50.21 ID:5X1a5tLDO
それから、時間があっという間に過ぎていった。
さすがに今回はさわ子先生が乱入してくることはなかった。
一発芸やコントもした。
桃鉄や人生ゲーム、スマブラもした。
本当の誕生日じゃないのに、みんなは心の底から祝ってくれた。
嬉しさもあるが、それ以上に罪悪感が大きく、違う意味で涙が出そうにもなった。
有意義な時間は、本当に短い。
気がつけば、いつの間にか夜になっていた。
唯「ありゃ、もうこんな時間だ」
律「そろそろお開きにするか?」
現在時刻は午後9時。女の子が街中を出歩くとすれば、かなり危ない時間帯だ。
聡美「そうだね。最近物騒だし」
俺たちはすぐに帰る支度をし、
「「「「「お邪魔しましたー!」」」」」
平沢家を後にした。
さすがに今回はさわ子先生が乱入してくることはなかった。
一発芸やコントもした。
桃鉄や人生ゲーム、スマブラもした。
本当の誕生日じゃないのに、みんなは心の底から祝ってくれた。
嬉しさもあるが、それ以上に罪悪感が大きく、違う意味で涙が出そうにもなった。
有意義な時間は、本当に短い。
気がつけば、いつの間にか夜になっていた。
唯「ありゃ、もうこんな時間だ」
律「そろそろお開きにするか?」
現在時刻は午後9時。女の子が街中を出歩くとすれば、かなり危ない時間帯だ。
聡美「そうだね。最近物騒だし」
俺たちはすぐに帰る支度をし、
「「「「「お邪魔しましたー!」」」」」
平沢家を後にした。
749: 2011/10/30(日) 15:16:34.04 ID:5X1a5tLDO
ムギさんや梓さんと別れ、三人で夜の住宅街を歩く。
律「いやー、楽しかった」
澪「そうだな……それにしても律ってスマブラ弱いんだな」
律「う、うるさい! マルスとかロボットとかなんなんだよ! チートじゃねーか!」
確かにあいつらはチートだ。
でも姉ちゃんも、さすがに終点でリンクは無いと思う。
澪「意外に聡美は強いんだな……私もネスとかガノン、使ってみようかな……」
聡美「そうかな……あとネスとかガノンは、コツ掴むの大変だよ」
ちなみにプリンは意外と強い。
律「……」
澪「……」
聡美「……」
しばらくの間、俺たちは夜空を見上げていた。
今日は星が綺麗だな……
今がチャンス……だな。
聡美「あの~……」
律「ん? どした?」
聡美「私ちょっと用事があるので、先に帰ります。では」
そう言って、俺は走り出す。
曲がり角を左に曲がり、また次の曲がり角で左に曲がる。
そして俺は、自分の家ではなく、平沢家へと向かった。
律「いやー、楽しかった」
澪「そうだな……それにしても律ってスマブラ弱いんだな」
律「う、うるさい! マルスとかロボットとかなんなんだよ! チートじゃねーか!」
確かにあいつらはチートだ。
でも姉ちゃんも、さすがに終点でリンクは無いと思う。
澪「意外に聡美は強いんだな……私もネスとかガノン、使ってみようかな……」
聡美「そうかな……あとネスとかガノンは、コツ掴むの大変だよ」
ちなみにプリンは意外と強い。
律「……」
澪「……」
聡美「……」
しばらくの間、俺たちは夜空を見上げていた。
今日は星が綺麗だな……
今がチャンス……だな。
聡美「あの~……」
律「ん? どした?」
聡美「私ちょっと用事があるので、先に帰ります。では」
そう言って、俺は走り出す。
曲がり角を左に曲がり、また次の曲がり角で左に曲がる。
そして俺は、自分の家ではなく、平沢家へと向かった。
750: 2011/10/30(日) 15:30:24.12 ID:5X1a5tLDO
平沢家の玄関前に立ち、インターホンを押す。
憂『はーい』
憂さんが出てくる。
憂「え~と……あれ? 聡美さん?」
聡美「うん。ちょっと忘れ物しちゃってね」
憂「そうなんですか。あ、どうぞ」
俺は家の中に入る。
憂「では、私は洗い物が残っているので。帰る時には一言言ってください。それでは」
憂さんはそう言うとキッチンに戻っていった。
聡美「さて……と」
俺は忘れ物などしていない。
憂さんの姿が見えなくなると俺は三階に上り、唯さんの部屋へと向かった。
憂『はーい』
憂さんが出てくる。
憂「え~と……あれ? 聡美さん?」
聡美「うん。ちょっと忘れ物しちゃってね」
憂「そうなんですか。あ、どうぞ」
俺は家の中に入る。
憂「では、私は洗い物が残っているので。帰る時には一言言ってください。それでは」
憂さんはそう言うとキッチンに戻っていった。
聡美「さて……と」
俺は忘れ物などしていない。
憂さんの姿が見えなくなると俺は三階に上り、唯さんの部屋へと向かった。
751: 2011/10/31(月) 21:47:34.10 ID:ZUQVFhVDO
唯さんの部屋のドアをノックする。
唯『ん~? 憂~?』
聡美「私です、田井中聡美です」
唯『え!? さ、聡美ちゃん!? ど、どうしたのかな!?』
……なんでそんなに慌てているのだろうか?
聡美「ちょっとね……入っていいですか?」
唯『う、うん……いいよ』
唯さんの許可が下りたので、ドアを開ける。
唯「こ、こんばんわ……えへへ」
唯さんはパジャマ姿だった。
恒例の文字はと……『プリティー』か。
唯さんの足元に服があるところを見るに、どうやらさっき慌てていたのは着替え中だったからなのだろうか?
唯「それで……何かな?」
俺は何度口にしたか分からない、あの言葉を口にした。
聡美「……アクター」
唯『ん~? 憂~?』
聡美「私です、田井中聡美です」
唯『え!? さ、聡美ちゃん!? ど、どうしたのかな!?』
……なんでそんなに慌てているのだろうか?
聡美「ちょっとね……入っていいですか?」
唯『う、うん……いいよ』
唯さんの許可が下りたので、ドアを開ける。
唯「こ、こんばんわ……えへへ」
唯さんはパジャマ姿だった。
恒例の文字はと……『プリティー』か。
唯さんの足元に服があるところを見るに、どうやらさっき慌てていたのは着替え中だったからなのだろうか?
唯「それで……何かな?」
俺は何度口にしたか分からない、あの言葉を口にした。
聡美「……アクター」
752: 2011/10/31(月) 21:57:17.00 ID:ZUQVFhVDO
唯「……?」
聡美「唯さん……聞きたいことがあります」
唯「ふぇっ!? い、いきなりどうしたの聡美ちゃん」
聡美「え……?」
聡美……ちゃん?
どうしてその呼び方なんだ?
聡美「平行世界……ここまで言えばもう分かりますよね?」
唯「聡美ちゃん……なんだか怖いよ? 急に怖い顔になるし……」
……まさか。
聡美「唯さん……あなたはどっちの唯さんですか?」
唯「どっちの? もしかして私がもう一人いるの?」
……間違いない。
この人はあっちの唯さんではなく、この時代の唯さんだ。
だがなぜだ?
唯さんはこの時代に来れなくなったのか……?
753: 2011/10/31(月) 22:07:56.49 ID:ZUQVFhVDO
唯「どうしたの聡美ちゃん? さっきからおかしいよ?」
聡美「……」
まさかとは思うが……
……あの男の仕業か?
俺だけじゃなく、唯さんにも手をかけたのか?
……ふざけるな。
本当に何がしたいんだよあの男は。
唯「聡美ちゃん? また顔が怖くなってるよ?」
聡美「あ……す、すみません。ちょっと考えことしてました」
あっちの唯さんがこの時代に来れないため、ムギさんとも連絡が取れない。
一人でやるしかない、か……
聡美「ちょっと忘れ物したみたいなんですけど、どうやら勘違いだったようです。もう、夜も遅いので帰ります。では」
唯「そっか~……気をつけてね!」
聡美「はい。では」
俺は唯さんの部屋を出る。
下の階に下り、憂さんに一言断ってから帰宅した。
754: 2011/10/31(月) 22:23:29.84 ID:ZUQVFhVDO
……あの男。
目的は分からないが、おそらくタイムマシン関係だろう。
俺は無理だから、唯さんを狙った?
……腐ってる。
それとも……俺のバックに琴吹グループがついてるから、まずはそれを潰すために唯さんを?
だとしたらあの男は、俺と協力している人物が誰なのか知っているということになる。
……俺が傷つくだけならまだいい。
でも、俺のせいで周りの人が巻き込まれるのは御免だ。
早急に対処する必要があるが、おそらくあの男は未来の技術をフル活用出来る。
向こうの動きを待つという選択が、こんな結果になるとは。
唯さんが今、どうなっているのか……なんというか、勘で分かる。
少なくとも、危険な目にはあってないはずだ。
あの男が誰なのか。
それさえ分かればなんとかなるんだけどなぁ……
目的は分からないが、おそらくタイムマシン関係だろう。
俺は無理だから、唯さんを狙った?
……腐ってる。
それとも……俺のバックに琴吹グループがついてるから、まずはそれを潰すために唯さんを?
だとしたらあの男は、俺と協力している人物が誰なのか知っているということになる。
……俺が傷つくだけならまだいい。
でも、俺のせいで周りの人が巻き込まれるのは御免だ。
早急に対処する必要があるが、おそらくあの男は未来の技術をフル活用出来る。
向こうの動きを待つという選択が、こんな結果になるとは。
唯さんが今、どうなっているのか……なんというか、勘で分かる。
少なくとも、危険な目にはあってないはずだ。
あの男が誰なのか。
それさえ分かればなんとかなるんだけどなぁ……
756: 2011/10/31(月) 22:41:42.20 ID:ZUQVFhVDO
もうすぐで12月24日。
クリスマスイブであり、終業式でもある特別な日が近づいてきていた。
今年はクリスマスパーティーやらないだろうなぁ……センター試験も近いし。
その日の放課後、クリスマスパーティーは今年はやらないと公式に決まった。
12月24日。
例年ならばバカ騒ぎしていることだろうけど、今年はそんな余裕は無い。
今年というか、来年は姉ちゃんたちの受験がある。
だから俺は真っ先に家に帰り、姉ちゃんに勉強を教える準備をしていたのだが……
ヴ、ヴ、ヴ……
携帯のバイブが鳴る。
これは電話のパターンだな……誰からだ?
……姉ちゃん?
通話ボタンを押す。
律『もしもーし、聡美か? 今どこで何してんの?』
それはこっちの台詞だ。
聡美「姉ちゃんこそなんでこんなに遅いの? 勉強の準備、もう少しで終わるよ?」
律『あー……悪いんだけど、今から部室来てくれないか?』
部室……? ……やっぱりやることになったんだろうか?
聡美「クリスマスパーティーでもするの?」
律『いや……それとはちょっと違うんだよな……とにかく早く来てくれよ! じゃな!』
電話が切れる。
聡美「……?」
何か分からないが、とりあえず行ってみるか。
クリスマスイブであり、終業式でもある特別な日が近づいてきていた。
今年はクリスマスパーティーやらないだろうなぁ……センター試験も近いし。
その日の放課後、クリスマスパーティーは今年はやらないと公式に決まった。
12月24日。
例年ならばバカ騒ぎしていることだろうけど、今年はそんな余裕は無い。
今年というか、来年は姉ちゃんたちの受験がある。
だから俺は真っ先に家に帰り、姉ちゃんに勉強を教える準備をしていたのだが……
ヴ、ヴ、ヴ……
携帯のバイブが鳴る。
これは電話のパターンだな……誰からだ?
……姉ちゃん?
通話ボタンを押す。
律『もしもーし、聡美か? 今どこで何してんの?』
それはこっちの台詞だ。
聡美「姉ちゃんこそなんでこんなに遅いの? 勉強の準備、もう少しで終わるよ?」
律『あー……悪いんだけど、今から部室来てくれないか?』
部室……? ……やっぱりやることになったんだろうか?
聡美「クリスマスパーティーでもするの?」
律『いや……それとはちょっと違うんだよな……とにかく早く来てくれよ! じゃな!』
電話が切れる。
聡美「……?」
何か分からないが、とりあえず行ってみるか。
757: 2011/10/31(月) 23:09:44.11 ID:ZUQVFhVDO
部室の扉を開けると、みんな揃っていた。
軽音部のみんなに……憂さんと…………純さん!?
視界が少し揺れたが、なんとかこらえる。
ふう……トラウマ克服。
時間というものは恐ろしいな……まったく。
それにしても、精神力ついたな……俺。
それで……梓さんたち後輩組はそれぞれ楽器持ってるけど……ライブでもするのか?
聡美「もしかして……梓さんたちが今からライブするの?」
律「さっすが聡美! 理解力あるな!」
梓「はい。今日は先輩方にクリスマスライブを……」
聡美「そうなんだ……すごいね」
唯「早く聞かせてー!」
そうだな……早く聞きたい。
仮にも後輩なんだし。
それと……
澪「…………」
なんで澪姉は気絶してるんだろう。
さわ子「……?」
……なるほどね。
とどのつまり、アンタが原因ってことか。
軽音部のみんなに……憂さんと…………純さん!?
視界が少し揺れたが、なんとかこらえる。
ふう……トラウマ克服。
時間というものは恐ろしいな……まったく。
それにしても、精神力ついたな……俺。
それで……梓さんたち後輩組はそれぞれ楽器持ってるけど……ライブでもするのか?
聡美「もしかして……梓さんたちが今からライブするの?」
律「さっすが聡美! 理解力あるな!」
梓「はい。今日は先輩方にクリスマスライブを……」
聡美「そうなんだ……すごいね」
唯「早く聞かせてー!」
そうだな……早く聞きたい。
仮にも後輩なんだし。
それと……
澪「…………」
なんで澪姉は気絶してるんだろう。
さわ子「……?」
……なるほどね。
とどのつまり、アンタが原因ってことか。
758: 2011/10/31(月) 23:13:22.01 ID:ZUQVFhVDO
まぁ……なんというか、梓さんたち後輩組は普通に上手かった。
これなら来年の軽音部も安泰だな。
……俺が失敗しなければ……な。
俺はもう一度自覚する。
俺の手には、みんなの未来がかかっていることを――
759: 2011/10/31(月) 23:26:36.87 ID:ZUQVFhVDO
大晦日。
俺は姉ちゃんに勉強を教えていた。
ことの始まりは、数時間前に至る。
聡美『とりあえずこの問題集、除夜の鐘が終わるまでに終わらしてね』
律『うわっ、これ……どんだけ分厚いんだよ!?』
聡美『大丈夫だよ。今の姉ちゃんならスラスラ解けるよ。半日くらいで』
律『半日っ!?』
聡美『うん。二時間ごとの20分休憩は許してあげるよ。十分でしょ?』
律『お、鬼だ……鬼がここにいる……』
聡美『文句言わずにやる!』
律『へいへい』
……まぁそんな感じで、今まで勉強してきたのだ。
まぁ……このスケジュール、かなり甘々なんだけどね。
prrrrrrr……
姉ちゃんの携帯が鳴る。
律「あー……今私手が出せないから、聡美出てくれ」
聡美「うん分かった」
俺は姉ちゃんの携帯を取り、部屋を出る。
唯さんか……なんだろう?
通話ボタンを押す。
俺は姉ちゃんに勉強を教えていた。
ことの始まりは、数時間前に至る。
聡美『とりあえずこの問題集、除夜の鐘が終わるまでに終わらしてね』
律『うわっ、これ……どんだけ分厚いんだよ!?』
聡美『大丈夫だよ。今の姉ちゃんならスラスラ解けるよ。半日くらいで』
律『半日っ!?』
聡美『うん。二時間ごとの20分休憩は許してあげるよ。十分でしょ?』
律『お、鬼だ……鬼がここにいる……』
聡美『文句言わずにやる!』
律『へいへい』
……まぁそんな感じで、今まで勉強してきたのだ。
まぁ……このスケジュール、かなり甘々なんだけどね。
prrrrrrr……
姉ちゃんの携帯が鳴る。
律「あー……今私手が出せないから、聡美出てくれ」
聡美「うん分かった」
俺は姉ちゃんの携帯を取り、部屋を出る。
唯さんか……なんだろう?
通話ボタンを押す。
760: 2011/10/31(月) 23:33:48.34 ID:ZUQVFhVDO
聡美「……はい」
唯『もしもーし! ……あれ? 聡美ちゃん?』
聡美「そうですけど。あ、姉ちゃんは今勉強してます」
唯『勉強……そうだ! ねえ聡美ちゃん、勉強教えてよ!』
ああ……そういうことね。
……あ、それじゃなんで姉ちゃんに電話かけたんだろう?
聡美「いいですよ。それじゃ、家に来てください。待ってます」
電話を切る。
さて……姉ちゃんの様子を見てみるか。
ドアを開ける。
律「……」
姉ちゃんは真面目に勉強していた。
それももう、周りが見えていないかのように。
761: 2011/10/31(月) 23:41:48.76 ID:ZUQVFhVDO
聡美「……フフッ……」
おっといけない。
姉ちゃんのこんな姿は久々に見るから、ついつい笑ってしまった。
邪魔しちゃいけないな……
聡美「がんばってね、姉ちゃん」
ドアを閉める。
ドアが完全に閉まる間際に、姉ちゃんの『おう』という声が聞こえてきた。
聡美「……あ、唯さん」
道の向こうに見えるのは、唯さんだ。
唯「聡美ちゃん! どうしてここにいるの?」
聡美「姉ちゃんは今真面目に勉強しているんです。だから、インターホンとか鳴らされるのは困るんですよ」
唯「私そんなことしないよ!?」
いや、絶対するだろうな……この人は。
762: 2011/10/31(月) 23:52:23.57 ID:ZUQVFhVDO
姉ちゃんは自分の部屋で勉強しているので、俺と唯さんは俺の部屋で勉強することにした。
聡美「えーと、ここはね……」
唯「ふむふむ……あ、分かった! こうだね!」
聡美「……!」
唯さんは俺よりも先に答えを見つけてしまった。
……やはりこの人は天才か。
俺みたいな秀才とはベクトルが違う。
唯「ふぅ~……終わった~」
唯さんが持ってきた問題集が終わった。
さて、姉ちゃんの様子でも見に行くか……
部屋を出て、姉ちゃんの部屋のドアを開ける。
姉ちゃんがテーブルに突っ伏して寝ていた。
問題集は……うん、終わってるな。
予定よりも少し早いじゃないか。
採点は後でするとして……今は午後の5時か。
うん、ちょうどいいかもな。
聡美「えーと、ここはね……」
唯「ふむふむ……あ、分かった! こうだね!」
聡美「……!」
唯さんは俺よりも先に答えを見つけてしまった。
……やはりこの人は天才か。
俺みたいな秀才とはベクトルが違う。
唯「ふぅ~……終わった~」
唯さんが持ってきた問題集が終わった。
さて、姉ちゃんの様子でも見に行くか……
部屋を出て、姉ちゃんの部屋のドアを開ける。
姉ちゃんがテーブルに突っ伏して寝ていた。
問題集は……うん、終わってるな。
予定よりも少し早いじゃないか。
採点は後でするとして……今は午後の5時か。
うん、ちょうどいいかもな。
763: 2011/11/01(火) 00:00:59.52 ID:JMgwSdIDO
聡美「唯さん、憂さんをここに呼んでくれませんか?」
唯「えっ? いいけど」
聡美「軽音部のみなさんも呼んで、年越しパーティーをしましょう。受験も近いですし、最後の息抜きってやつですよ」
今ならまだ、憂さんはそばを作っていないはず。
そばを作って食べる、適切な時間を教えたのはこの俺なのだから。
唯さんは憂さんに連絡している。
俺は軽音部のみんなにメールをしていく。
唯「憂、すぐ来るって」
聡美「そうですか。みなさんも来るみたいです」
全員からOKが出た。
少なくとも、俺はみんなから信頼というか、軽音部の中で高い地位にいるのは間違いないようだ。
姉ちゃんがメール送っても多分無理だからなぁ……
764: 2011/11/01(火) 00:13:14.66 ID:JMgwSdIDO
それからしばらくすると、憂さんと澪姉が来た。
年越しそばは、俺と憂さんで教えあいながら作った。
まぁ……そばを作ってる間に他の人が来て、姉ちゃんも起きたから、姉ちゃんの部屋が騒がしくて多少集中できなかったんだけどね。
結局、例年通り、いつも通りの年末になったってわけだ。
さて……もうすぐでN女子大受験日か……
何も起こらなければいいけど……
しかし、そんな平和的な願いが叶うはずもなく、N女子大受験日は俺の記憶に深く残る日になった――
年越しそばは、俺と憂さんで教えあいながら作った。
まぁ……そばを作ってる間に他の人が来て、姉ちゃんも起きたから、姉ちゃんの部屋が騒がしくて多少集中できなかったんだけどね。
結局、例年通り、いつも通りの年末になったってわけだ。
さて……もうすぐでN女子大受験日か……
何も起こらなければいいけど……
しかし、そんな平和的な願いが叶うはずもなく、N女子大受験日は俺の記憶に深く残る日になった――
768: 2011/11/07(月) 21:16:56.48 ID:m3k71DsDO
今日はN女子大受験日だ。
これまでみんなの学力を観察してきたわけだが、この数ヶ月で姉ちゃんたちの学力はかなり向上した。
これなら、おそらく大丈夫だろう。
だがしかし、一つだけ心配なことがある。
いくら学力が高くても、試験を受けられなければ意味がない。
例えば……寝坊による遅刻、とかでな。
聡美「姉ちゃん、起きてる?」
律『ああ、起きてるけど……もう出るのか?』
聡美「うん。唯さんが寝坊しそうだから、心配でね」
律『あー、確かに……』
実際、唯さんにさっきメールを送ったんだが、返信がこない。
……絶対まだ寝てるだろ、あの人。
これまでみんなの学力を観察してきたわけだが、この数ヶ月で姉ちゃんたちの学力はかなり向上した。
これなら、おそらく大丈夫だろう。
だがしかし、一つだけ心配なことがある。
いくら学力が高くても、試験を受けられなければ意味がない。
例えば……寝坊による遅刻、とかでな。
聡美「姉ちゃん、起きてる?」
律『ああ、起きてるけど……もう出るのか?』
聡美「うん。唯さんが寝坊しそうだから、心配でね」
律『あー、確かに……』
実際、唯さんにさっきメールを送ったんだが、返信がこない。
……絶対まだ寝てるだろ、あの人。
769: 2011/11/07(月) 21:26:18.91 ID:m3k71DsDO
受験の準備をし、家を出る。
途中で澪姉と合流した時、俺は確信した。
多分……みんな同じことを考えている。
梓さんやムギさんもいるだろうな……平沢家に。
平沢家に着くと、案の定梓さんとムギさんがいた。
唯さん愛されてるなぁ……いろんな意味で。
姉ちゃんたちを唯さんの部屋に向かわせ、俺は階段を上る。
憂さんが作ったごはんはどういうごはんなのだろうか。
少し興味が出てきたし、見てみるか……
そう思って二階に上り……
俺はリビングで、信じられない光景を見た。
途中で澪姉と合流した時、俺は確信した。
多分……みんな同じことを考えている。
梓さんやムギさんもいるだろうな……平沢家に。
平沢家に着くと、案の定梓さんとムギさんがいた。
唯さん愛されてるなぁ……いろんな意味で。
姉ちゃんたちを唯さんの部屋に向かわせ、俺は階段を上る。
憂さんが作ったごはんはどういうごはんなのだろうか。
少し興味が出てきたし、見てみるか……
そう思って二階に上り……
俺はリビングで、信じられない光景を見た。
770: 2011/11/07(月) 21:34:02.54 ID:m3k71DsDO
「あら? もしかしてあなたが……田井中聡美さん? はじめまして。唯の母です」
唯さんのお母さん……お義母さんか。
いや……そんなことはどうでもいい。
お義母さんと向かい合っている人物……間違いない。
穏やかな表情をした男……
唯さんの父親であり、お義父さん。
……あの男……だ。
771: 2011/11/07(月) 21:45:18.09 ID:m3k71DsDO
唯父「どうしたんだい? そんな顔をして」
聡美「お、お前は……!」
唯母「あらあら、聡美ちゃんはおとなしい子って聞いてたけど」
唯父「なぁに、君が言いたいことは分かるよ、聡くん」
聡美「……!」
唯母「どういうこと? 聡くんって……誰?」
唯父「ああ、何でもないよ。……で、やっぱり君はことの重大さを理解してないようだね」
聡美「……え?」
なんとなく、嫌な予感がする。
唯父「つまり……こういうことだ」
お義父さんがそう言うと、一瞬にして周りの雰囲気が変わった。
聡美「……平行世界……」
唯父「おや、もうそこまで知っていたか。でもまあ……うん、そうだな。調度いい機会だ」
……何の話だ?
唯父「君がしたことの重大さを……理解してもらうよ」
772: 2011/11/07(月) 21:51:41.89 ID:m3k71DsDO
……確かに、俺は重大なことをしたと思うが……
聡美「……タイムマシンを作ったこと?」
唯父「それもあるが……そうだな。なら、最初から説明するとしよう」
お義父さんは話し始めた。
唯父「まず……僕たちは昔、家を空けることが多かった。何故だか分かるか?」
聡美「……二人でよく旅行に行くから……ですよね?」
唯父「あぁ……確かに、唯たちにはそう話していた。でも本当は……
君が研究を始める前から、僕たちは時間の研究をしていたのさ」
聡美「……タイムマシンを作ったこと?」
唯父「それもあるが……そうだな。なら、最初から説明するとしよう」
お義父さんは話し始めた。
唯父「まず……僕たちは昔、家を空けることが多かった。何故だか分かるか?」
聡美「……二人でよく旅行に行くから……ですよね?」
唯父「あぁ……確かに、唯たちにはそう話していた。でも本当は……
君が研究を始める前から、僕たちは時間の研究をしていたのさ」
773: 2011/11/07(月) 22:13:32.69 ID:m3k71DsDO
聡美「時間の研究……タイムマシンを作ることが目的だったんですか?」
唯父「そうだ。国から極秘に依頼されてな……日本では僕たちを含めて約20人が時間の研究をしていたんだよ。秘密裏にね」
なるほどね……これで平沢家の生活費の謎は解けた。
唯父「世界全土では、およそ500人くらいだ。そして……日本が一番研究が進んでいたのさ。そしてある時……一つの技術が作られた」
……まさか!
唯父「平行世界への移動技術さ。僕たちは時間ではなく……世界を超える技術を作ってしまった。でも……この技術を使うことができるのは、限られた場所にいる限られた人間だけだ。おそらく、この地球上で5人いるかどうかってところだな」
そんな技術……
唯父「ああ。この技術は没になり、僕たちはこれについての研究データを自分たちの家の奥底に隠した」
そうか……それを唯さんが見つけて……
唯父「僕たちは、なぜ時間を越えることができなかったのか、必氏に原因を調査した。後で分かったことだが……僕たちの研究には、とある一つの理論が抜けていたのさ」
……和さんの、絶対的時空平面理論。
唯父「真鍋さんの娘……和ちゃんが、それを一番先に編み出し、それを真っ先に活用して、タイムマシンを作り上げたのが君と唯ってわけさ」
……待て。
ならば何故、俺の邪魔をする?
774: 2011/11/07(月) 22:35:03.29 ID:m3k71DsDO
唯父「でもね……僕たちが隠した、平行世界への移動技術のデータをたまたま見つけてしまった唯は、その技術をタイムマシンに取り付けてしまった。その結果、どうなった?」
……平行世界から、純さんがやってきた。
あれは完全に、想定外だった。
唯父「僕たちにも、なぜああなったかは分からない。しかも……その……鈴木純、だったか?」
聡美「純さんが、どうかしたんですか?」
お義父さんの表情が真剣になったかと思うと、すぐに怒りが混ざったような表情になる。
唯父「僕の妻は……その鈴木純から殺されたんだ! 君と同じ、時間の研究をしているという理由だけで!
775: 2011/11/08(火) 15:40:32.45 ID:zbuD2scDO
聡美「……なんだって……?」
あの純さんが……お義母さんを頃した?
……理不尽すぎる。とばっちりじゃないか。
唯父「それから僕はすぐに、唯の無事を調べた。そしたらどうだ……
唯はたった一人で、子育てに君のサポート……泣きながらやってたんだぞ!」
聡美「……え……?」
唯さんが……泣いていた?
唯父「君は僕の幸せだけじゃなく……唯の幸せまでも奪うのか!?」
そ、そんなこと……!
唯父「君は約束したはずだ!
唯と共に支え合って生きていくと!
唯を一人にさせないと!
永遠に唯だけを愛すると!
絶対に唯を幸せにすると!
君はその約束を平然と破り、自分勝手な都合だけで、たくさんの幸せを奪っている!
なぜ君は……そんな残酷なことができるんだ!?」
776: 2011/11/08(火) 15:51:53.05 ID:zbuD2scDO
聡美「そ、それは……!」
唯父「僕は鈴木純を……そして君を憎んだ! 君が未来に来たあの時、チャンスだと思い、君を殺そうとした! 結果的には鈴木純が君をかばって氏んだが……でも、君が氏なない限り、僕たちや唯に、幸せは訪れないんだ!
だから……」
その瞬間、とてつもなく嫌な予感がしたので、俺は一歩後ろに下がった。
唯父「僕は今ここで……君を頃す!」
お義父さんがナイフを構え、俺に切りかかってきた。
それにしてもみんな好きだなナイフ。
……いや、そんなことを言ってる場合じゃない。
お義父さんが振るったナイフは、俺のすぐ前を通り過ぎていった。
さっき一歩下がってなければ、危ないところだったな。
777: 2011/11/08(火) 16:03:28.39 ID:zbuD2scDO
聡美「くっ……」
今のところは逃げるしかない。
なぜなら、俺は武器を一つも持ってないからだ。
それに……力も不利だと
ならば、唯一勝てそうな足腰で勝負するしかない。
俺はその場を離れ、玄関から脱出しようとしたが……
……開かなかった。
聡美「クソッ! 何で開かない!」
唯父「当たり前だ。ここは平行世界……学園祭の時と同じだ。ドアは開かない」
聡美「クソッ! 開けよ! 壊れろ!」
ドアを壊そうとするが……女の力では壊れない。
聡美「ぐっ……」
お義父さんとの距離は、もう3mもない。
絶体絶命だ……!
778: 2011/11/08(火) 16:09:10.32 ID:zbuD2scDO
しかし。
聡美「!? う、うわっ!?」
お義父さんが消え、誰かに手をつかまれた。
その誰かは、さっきまで開かなかった玄関のドアを開け、俺を外に連れ出した。
……この手の感触……
……唯さん?
唯「聡くん、大丈夫? 怪我は無い?」
その手の主は……唯さんだった。
779: 2011/11/08(火) 16:17:14.58 ID:zbuD2scDO
聡美「唯さん……どうして?」
唯「話は後! 今は逃げるよ!」
聡美「……はい!」
俺たちは、走り出した。
聡美「……唯さん、どこに向かっているんですか?」
唯「桜高だよ! そこに行けば……助かるよ!」
唯さんはそう言うと、スピードを速めた。
聡美「はぁ……はぁ……」
唯「……はぁ…………はぁ……」
息が乱れてきた。
だが……桜高までもう少し。
これならなんとか持つだろう。
唯「……見えた!」
桜高が見える位置まで来た。
後は一気に……!
しかし。
桜高……いや、周りの建物が、一瞬にして廃墟に変わった。
780: 2011/11/08(火) 16:41:00.27 ID:zbuD2scDO
唯「えっ!?」
聡美「……平行世界……!」
唯父「その通りだ。僕の技術ならば、多少距離が離れていても、平行世界に引きずり込める」
お義父さん……
唯「お父さん……なんでこんなことするの!?」
唯父「……唯……分かってくれ。その男の傍にいては、お前は幸せにはなれない。お前のお母さんも……その男のせいで氏んだんだ」
聡美「唯さん……」
唯「それが何?
りっちゃんが氏んじゃった時……放課後ティータイムが解散した時……友達を失った時から、もう私は幸せじゃないんだよ!
でも聡くんは……私……いや、私たちの幸せを取り戻すために頑張ってくれてる!
聡くんのことはずっと前、初めて見たあの時から好きだった!
私が好きな人で、幸せを取り戻そうと頑張ってくれる人と、一緒にいて何が悪いの!?
もう私たちの邪魔はしないでよ! お父さん!」
781: 2011/11/08(火) 17:31:05.58 ID:zbuD2scDO
聡美「唯さん……」
紬「その通りよ」
唯「あ、ムギちゃん!」
唯父「なっ……琴吹グループ社長……琴吹紬だと!?」
ムギさん……
唯さんか助かると言ってたのは、このことか。
紬「平沢○○……貴方に、私たちの邪魔をする資格はありません。これ以上何かしようとするのならば……貴方を拘束します」
唯父「くっ…………なっ!?」
お義父さんは何かをしようとしたが……失敗した。
紬「貴方にはもう平行世界への移動はできません……」
そう言うムギさんの手の平には、指輪が乗っていた。
唯父「…………分かった。……唯」
唯「……何?」
唯父「お前は本当に……それでいいんだな?」
唯「……うん」
唯父「そうか…………聡くん」
聡美「何ですか?」
唯父「僕は君を許すつもりはない。でも……」
お義父さんは一息おく。
唯父「お願いだ。唯に……幸せを取り戻してやってくれ。絶対にな」
聡美「……! はい!」
唯父「……じゃあな、唯……聡くん」
そう言うとお義父さんは、ムギさんに……いや、正しくはその部下的な人たちに連れて行かれた。
782: 2011/11/08(火) 17:39:05.24 ID:zbuD2scDO
聡美「ふぅ……」
唯「聡くん……」
聡美「何ですか?」
唯「……戻ろっか」
聡美「……そうですね」
俺たちは手を繋いだまま、平沢家へと向かった。
桜高から平沢家までは意外と遠い。
よく走れたな……俺たち。
聡美「すみません……唯さん」
唯「え? 何が?」
唯さんはキョトンとした様子で俺を見るが、俺は構わず続ける。
聡美「俺は……唯さんを一人にしてしまいました。だから……」
唯「聡くん」
俺は続けようとしたが、唯さんによって妨げられる。
唯「さっきも言ったでしょ? だから聡くんは……
絶対にりっちゃんを……私たちを、助けてね?」
783: 2011/11/08(火) 17:50:20.41 ID:zbuD2scDO
聡美「……はい!」
唯「……さてと。その前に……どこから戻る?」
聡美「……そういえばそうですね」
ここは平行世界。
何もないところから、急に俺たちが現れたらビックリするだろう。
聡美「そうですね……唯さんの家のバルコニーとかどうですか?」
唯「あ! 私、あそこ大好きなんだよ! それじゃ行こっ!」
聡美「あ、はい……」
俺は少々引き気味に返事をし、平沢家のバルコニーへと向かった。
平沢家には、屋上にバルコニーがある。
広さもなかなかで、めったに誰も来ないから暇つぶしや気分転換には最適だ。
バルコニーへのドアを開ける。
唯「うわぁ~……! 懐かしいなぁ……ここ」
聡美「そうですね……でも、今日がN女子大の受験日ですから、あまり長居はできませんけど」
唯「あ~……そっか。もうそんな時期なんだね……
もう、少ししかないね……」
784: 2011/11/08(火) 18:01:22.90 ID:zbuD2scDO
聡美「はい……もう、2ヶ月しかありませんね」
3月1日……あの日まで、あと少し。
唯「……頑張ってね、聡くん」
聡美「……はい」
唯「それじゃ……行くよ」
唯さんと抱き合い、キスをしながら元の世界へと移動する。
唯「ぷはぁ……聡くん……りっちゃんを……みんなを頼んだよ」
聡美「……分かりました」
唯「うん……じゃあ……またね――」
唯さんは意識を失う。
さよなら……唯さん。
俺がここまで来れたのは、貴女のおかげです。
そして……すみません、唯さん。
こんな人間で……
本当に、すみませんでした。
でも……もしまた会えたなら……
その時は――
785: 2011/11/08(火) 19:00:58.88 ID:zbuD2scDO
しばらくして、目を覚ました唯さんを連れて下の階に下り、姉ちゃんたちと合流し、試験会場へと向かった。
N女子大の試験会場には、おびただしい数の人がいた。
あ、あの人胸大きいな。
さすがは名門校だな。
澪「い、いっぱいいる……」
唯「だ、大丈夫だよ澪ちゃん! あんなに頑張ったんだから!」
確かに、俺たちは頑張った。
一応みんなA判定だったし、多分いけるだろう。
律「Go for broke! 当たって砕けろだ! 頑張るぞ、みんな!」
皆「お、おー!」
……いやいや姉ちゃん、砕けちゃダメでしょ……
N女子大の試験会場には、おびただしい数の人がいた。
あ、あの人胸大きいな。
さすがは名門校だな。
澪「い、いっぱいいる……」
唯「だ、大丈夫だよ澪ちゃん! あんなに頑張ったんだから!」
確かに、俺たちは頑張った。
一応みんなA判定だったし、多分いけるだろう。
律「Go for broke! 当たって砕けろだ! 頑張るぞ、みんな!」
皆「お、おー!」
……いやいや姉ちゃん、砕けちゃダメでしょ……
786: 2011/11/08(火) 19:08:30.98 ID:zbuD2scDO
受験というのは、思ったよりも時間が短く感じ、あっという間に終わる。
やはり本番の中の本番というのは、集中力が違うな。
みんな全力を出し切った。
後は結果を待つのみ。
唯さんはこれから滑り止めの学校を受験するみたいだが、俺はしない。
俺にとって、実質合否なんかどうでもいい。
金がかかるというのもあるが、それよりも……
俺は3月1日に氏ぬ。
だから、大学には行けない。
残り2ヶ月の人生……
後悔しないように、最後の瞬間まで、精一杯生きることにしよう――――
やはり本番の中の本番というのは、集中力が違うな。
みんな全力を出し切った。
後は結果を待つのみ。
唯さんはこれから滑り止めの学校を受験するみたいだが、俺はしない。
俺にとって、実質合否なんかどうでもいい。
金がかかるというのもあるが、それよりも……
俺は3月1日に氏ぬ。
だから、大学には行けない。
残り2ヶ月の人生……
後悔しないように、最後の瞬間まで、精一杯生きることにしよう――――
788: 2011/11/08(火) 19:25:50.94 ID:zbuD2scDO
もうすぐ、2月14日。
バレンタインでもあり、N女子大の合格発表日でもある。
そういや男の時は、姉ちゃんや澪姉、あと母さんくらいにしかチョコもらったことないな。
唯さんのは……四年に一度はプロ級の出来になるが、それ以外は普通のものから、得体の知れない黒い物体まで高低差が激しいからなぁ……
どうしたらああなるのやら。
さて……俺が今どこにいるのかというと、梓さんの家にいる。
なぜかって?
道端で、ちょうど学校帰りの梓さんたちに会い……
梓『チョコの作り方教えてください!』
と頼まれたからだ。
ところで……
純「澪先輩に!」
梓「えーっ!? だめだよ私があげるんだから!」
人気だなぁ澪姉……
純「それじゃ唯先輩でいいや~……」
梓「あー……唯先輩ならいいよ」
憂「お姉ちゃん余り物……?」
憂さんは少し涙目になる。
梓・純「うそうそ」
さすがの俺でも、あの涙目攻撃は耐えられないだろうなぁ……
バレンタインでもあり、N女子大の合格発表日でもある。
そういや男の時は、姉ちゃんや澪姉、あと母さんくらいにしかチョコもらったことないな。
唯さんのは……四年に一度はプロ級の出来になるが、それ以外は普通のものから、得体の知れない黒い物体まで高低差が激しいからなぁ……
どうしたらああなるのやら。
さて……俺が今どこにいるのかというと、梓さんの家にいる。
なぜかって?
道端で、ちょうど学校帰りの梓さんたちに会い……
梓『チョコの作り方教えてください!』
と頼まれたからだ。
ところで……
純「澪先輩に!」
梓「えーっ!? だめだよ私があげるんだから!」
人気だなぁ澪姉……
純「それじゃ唯先輩でいいや~……」
梓「あー……唯先輩ならいいよ」
憂「お姉ちゃん余り物……?」
憂さんは少し涙目になる。
梓・純「うそうそ」
さすがの俺でも、あの涙目攻撃は耐えられないだろうなぁ……
789: 2011/11/08(火) 19:31:16.87 ID:zbuD2scDO
聡美「それじゃ、早速はじめようか」
憂・梓・純「はい!」
唯さんのあのプロ級のチョコには負けるだろうけど、俺は俺で頑張ってみよう。
そうだな……プチケーキなんかどうだろうか。
……よし。
今年のバレンタイン……俺にとっての最後のバレンタインは、プチケーキに決定だな。
俺たちは試行錯誤を繰り返しながら、最高のプチケーキを作った。
790: 2011/11/08(火) 19:40:13.06 ID:zbuD2scDO
2月14日。
バレンタインデーであり、N女子大の合格発表日でもある。
俺たち軽音部の三年生は、合格発表会場の最後列に並んでいた。
唯「ありゃりゃ……読めないや……」
澪「あの時……長文を間違えなければ……」
律「そう悲観になるなって澪! きっと合格してるって!」
紬「う~ん……あ、確か聡美ちゃんって目いいのよね?」
聡美「あ、はい」
この距離か……
……見えるわけがねえ。
紬「あ、これ使って?」
ムギさんは双眼鏡を取り出す。
……って。
聡美「最初からそれ出してくださいよ……」
紬「そういえばそうね」
……えーと……
姉ちゃんの……あった。
唯さんのも……ある。
澪姉のも、ムギさんのもある。
……俺のは……
バレンタインデーであり、N女子大の合格発表日でもある。
俺たち軽音部の三年生は、合格発表会場の最後列に並んでいた。
唯「ありゃりゃ……読めないや……」
澪「あの時……長文を間違えなければ……」
律「そう悲観になるなって澪! きっと合格してるって!」
紬「う~ん……あ、確か聡美ちゃんって目いいのよね?」
聡美「あ、はい」
この距離か……
……見えるわけがねえ。
紬「あ、これ使って?」
ムギさんは双眼鏡を取り出す。
……って。
聡美「最初からそれ出してくださいよ……」
紬「そういえばそうね」
……えーと……
姉ちゃんの……あった。
唯さんのも……ある。
澪姉のも、ムギさんのもある。
……俺のは……
791: 2011/11/08(火) 19:41:30.73 ID:zbuD2scDO
……あ。
……あった。
792: 2011/11/08(火) 19:56:10.37 ID:zbuD2scDO
聡美「……みんな、合格してます」
律「マジかっ!?」
唯「ほ、本当に!?」
紬「澪ちゃん、使う?」
澪「ありがと。……ほんとだ……みんな、合格してる……」
「「「「「や……やったー!!!!!」」」」」
俺たちは円を作って喜ぶ。
よかったな……姉ちゃんたち。
無事に受かって。
律「……聡美? うれしくないのか?」
聡美「……あぁ、うれしいに決まってるよ。ただ……なんか実感が湧かなくて……」
俺は今まで、何回ウソをついただろう。
我ながら心が痛い。
唯「そうだ! あずにゃんにメールメール♪」
律「……唯。ここは、直接報告に行った方がよくないか?」
唯「それもそうだね……うん、そうしよう!」
そうだな……確かにそっちの方が、インパクトも増すだろうし。
俺たちは、桜高へと向かった。
793: 2011/11/08(火) 20:05:56.10 ID:zbuD2scDO
部室の扉を開けると、まず純さんが振り向き、その後梓さんが振り向いて俺たちを見た。
梓「あれ……みんな……いる……」
唯「あずにゃんおひさしぶりー!」
唯さんは勢い良く梓さんに抱きつく。
梓「ゆ、唯先輩……今日学校に来たってことは……」
唯「えへへー……合格したよN女子大!」
律「しかも……」
澪「全員、な」
紬「うふふ……」
憂さんと純さんは、光琳とした表情で俺たちを見ている。
さわ子先生は……プチケーキをおいしそうに食べている。
梓「唯……先輩……」
唯「なぁに? あずにゃ……ふおおーっ!?」
梓さんは、唯さんを思い切り抱きしめた。
おお……
梓「あれ……みんな……いる……」
唯「あずにゃんおひさしぶりー!」
唯さんは勢い良く梓さんに抱きつく。
梓「ゆ、唯先輩……今日学校に来たってことは……」
唯「えへへー……合格したよN女子大!」
律「しかも……」
澪「全員、な」
紬「うふふ……」
憂さんと純さんは、光琳とした表情で俺たちを見ている。
さわ子先生は……プチケーキをおいしそうに食べている。
梓「唯……先輩……」
唯「なぁに? あずにゃ……ふおおーっ!?」
梓さんは、唯さんを思い切り抱きしめた。
おお……
794: 2011/11/08(火) 20:10:48.96 ID:zbuD2scDO
それから憂さんと純さん、さわ子先生や和さんも一緒に、みんなでお祝いした。
姉ちゃんが裏口入学かと疑われたり、姉ちゃんが仕返しをしたりと、いろいろあったが、まさにハッピーエンドまっしぐらな雰囲気だった。
あとは……
3月1日。
運命の分岐点。
姉ちゃんを救い、ハッピーエンドにしてやる。
残り半月……
さて……準備を進めよう。
俺の最後の晴れ舞台だ――――
姉ちゃんが裏口入学かと疑われたり、姉ちゃんが仕返しをしたりと、いろいろあったが、まさにハッピーエンドまっしぐらな雰囲気だった。
あとは……
3月1日。
運命の分岐点。
姉ちゃんを救い、ハッピーエンドにしてやる。
残り半月……
さて……準備を進めよう。
俺の最後の晴れ舞台だ――――
800: 2011/12/01(木) 20:15:32.53 ID:XDTRJeLDO
3月1日。
桜高卒業式。
そして……
俺にとっての、最後の24時間だ。
ハッピーエンドにするための準備は、すでに整っている。
あれは一週間ほど前だったか――
紬『聡くん……特定の人物に関する記憶を消す技術が、完成したわ。かなり限定的な技術だけど』
聡美『どういうものですか?』
紬『身体ごと刻を越えた人物……聡くんのことね。その人物の生命活動が停止すると同時に、その人物に関する記憶が全て消える技術……簡単にいえば、聡くんが刻を越えた証拠を全て消滅させる技術ね。唯ちゃんのお父さんが持っていたデータをもとにしたわ』
聡美『やっと完成しましたか……ありがとうございます』
……長かった。
どれだけこの時を待ったことか。
これで……ハッピーエンドになる。
俺が氏んでも、誰も悲しまない。
……完璧じゃないか。
紬『本当に……これでいいのよね?』
聡美『はい。では早速お願いします』
紬『分かったわ……』
ムギさんがそう言った瞬間、俺の頭に激痛が走る。
聡美『ぐっ……あああぁぁぁ!!!』
紬『…………はい、これで終わりよ』
頭から痛みが抜ける。
聡美『はぁ……はぁ……』
紬『じゃあね、聡くん……また会えたら……覚えていたら、会いましょう。
この技術は……同じ時空平面上、同じ世界なら、こっちにも効果があるわ。
未来人の記憶の書き換え……それに似たものだから……
あと、通り魔は後ろから来るわ……それじゃあ……
さよなら、聡くん……』
そして、電話が切れた。
桜高卒業式。
そして……
俺にとっての、最後の24時間だ。
ハッピーエンドにするための準備は、すでに整っている。
あれは一週間ほど前だったか――
紬『聡くん……特定の人物に関する記憶を消す技術が、完成したわ。かなり限定的な技術だけど』
聡美『どういうものですか?』
紬『身体ごと刻を越えた人物……聡くんのことね。その人物の生命活動が停止すると同時に、その人物に関する記憶が全て消える技術……簡単にいえば、聡くんが刻を越えた証拠を全て消滅させる技術ね。唯ちゃんのお父さんが持っていたデータをもとにしたわ』
聡美『やっと完成しましたか……ありがとうございます』
……長かった。
どれだけこの時を待ったことか。
これで……ハッピーエンドになる。
俺が氏んでも、誰も悲しまない。
……完璧じゃないか。
紬『本当に……これでいいのよね?』
聡美『はい。では早速お願いします』
紬『分かったわ……』
ムギさんがそう言った瞬間、俺の頭に激痛が走る。
聡美『ぐっ……あああぁぁぁ!!!』
紬『…………はい、これで終わりよ』
頭から痛みが抜ける。
聡美『はぁ……はぁ……』
紬『じゃあね、聡くん……また会えたら……覚えていたら、会いましょう。
この技術は……同じ時空平面上、同じ世界なら、こっちにも効果があるわ。
未来人の記憶の書き換え……それに似たものだから……
あと、通り魔は後ろから来るわ……それじゃあ……
さよなら、聡くん……』
そして、電話が切れた。
801: 2011/12/01(木) 20:22:22.05 ID:XDTRJeLDO
――そして今。
卒業式も無事終了し、俺たちは部室であの曲を演奏しようとしている。
――天使にふれたよ。
梓さんのために、俺たちが全員で協力して作った曲だ。
梓さん……泣き止んでくれるかな??
喜んでくれるかな?
姉ちゃんがドラムスティックを掲げる。
そして……
俺にとってのラストライブが始まった――
802: 2011/12/01(木) 20:33:38.30 ID:XDTRJeLDO
――ねぇ
思い出のカケラに
名前をつけて保存するなら
”宝物”がぴったりだね――
この三年間……本当に楽しかった。
あの世に唯一持っていけるもの……
それは思い出という名の、かけがえのない宝物だ。
――そう
ココロの容量が
いっぱいになるくらいに
過ごしたね
ときめき色の毎日――
俺はもう、笑えないと思っていた。
でも……姉ちゃんと再会してから、俺は毎日、笑っていた。
――なじんだ制服と上履き
ホワイトボードの落書き
明日の入り口に
置いてかなくちゃいけないのかな
でもね、会えたよ
すてきな天使に
卒業は終わりじゃない
これからも仲間だから
一緒の写真たち
おそろいのキーホルダー
いつまでも輝いてる
ずっと
その笑顔
ありがとう――
本当に、ありがとう……
803: 2011/12/01(木) 20:41:04.24 ID:XDTRJeLDO
――駅のホーム
川原の道
離れてても
同じ空見上げて
ユニゾンで歌おう――
俺と唯さんの、ギターの音が重なる。
……そうだな……
たとえ離れても、証拠が消えても、
仲間だったという事実は消えない。
いつまでも。
いつまでも……!
――でもね、会えたよ
すてきな天使に
卒業は終わりじゃない
これからも仲間だから
大好きって言うなら
大大好きって返すよ
忘れ物もうないよね
ずっと
永遠に
一緒だよ――
忘れ物は……もうない。
みんな……
ありがとう――
804: 2011/12/01(木) 20:55:00.03 ID:XDTRJeLDO
演奏が終わる。
梓さんは、まだ泣いていたが……
その表情は、さっきまでとは違い――
――笑っていた。
律「ほら、泣いてる場合じゃないぞ。今度は梓が部長なんだから!」
唯「どんな軽音部になるんだろ……あずにゃんの軽音部!」
梓さんは涙を拭く。
梓「い、今の軽音部より全然すごい部にしてやるです!」
澪「その意気だ!」
紬「学園祭ライブ、絶対見に来るからね!」
聡美「頑張ってください、梓さん」
梓「……はい!」
最後に見た梓さんの顔は……
自信満々な笑顔だった。
律「それじゃ、そろそろ行くか」
澪「そうだな」
聡美「では、私はちょっと準備してきます」
俺は一足先に部室を出る。
校舎を出て、校門付近で待つ。
準備はとっくの昔に完了している。
しばらくすると、姉ちゃんたちが来た。
例の交差点で、みんなと別れる。
澪姉は、ムギさんと一緒にいる。
まぁ……そうなるように俺が少し細工したんだがな。
記憶が消されるからと言っても、現場はできるだけ見られたくないからな。
姉ちゃんと二人きりになり、無言が続く。
805: 2011/12/01(木) 21:00:20.45 ID:XDTRJeLDO
先に話を切り出したのは、姉ちゃんからだった。
律「聡美……卒業、しちゃったな……」
聡美「そうだね……」
律「聡美って、いつまでも不思議なヤツだよな……家が無いなんて」
聡美「あはは……それはあまり、聞かないでほしいかな……そうだ、大学で時間があったら、話すよ」
律「そっか」
そこで会話が止まる。
携帯のサブカメラで、後ろを見る。
――居た。
あいつが……通り魔。
806: 2011/12/01(木) 21:05:18.32 ID:XDTRJeLDO
右手をポケットに突っ込んでるな……
おそらく、あの手にナイフが握られているのだろう。
徐々に距離が狭まる。
通り魔が走り出した時……俺は姉ちゃんを前に突き飛ばし、通り魔のほうに振り向いた。
その瞬間、
俺の腹に、激痛が走った。
807: 2011/12/01(木) 21:16:23.02 ID:XDTRJeLDO
聡美「がっ……!?」
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
そして……熱い。
律「さ……さと、み……?」
姉ちゃん……
聡美「逃げて……通報して……!」
律「あ……あ……あ……!」
聡美「早くっっっ!!!」
律「……っ!」
姉ちゃんは足が震えていたが、俺の剣幕によって、なんとか逃げ出した。
姉ちゃんは少し奥の曲がり角を右に曲がる。
あの道を行けば……ムギさんたちと合流する。
姉ちゃんの行動パターンを把握したからこそ……だな。
まさに計算通りだ。
通り魔「……っ!」
通り魔は姉ちゃんを追いかけようとする。
しかし……
聡美「……!」
痛みが、ひいた?
傷は……ある。
これは…………
火事場の、馬鹿力か?
808: 2011/12/01(木) 21:22:02.77 ID:XDTRJeLDO
聡美「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」
俺は通り魔からナイフを奪い、そのまま通り魔を押し倒す。
通り魔は抵抗するが、その力は弱かった。
俺は奪ったナイフで何度も、
腹を、
胸を、
脚を、
腕を、
何度も何度も突き刺した。
809: 2011/12/01(木) 21:25:32.99 ID:XDTRJeLDO
返り血が、自分の顔につく。
俺はその血を舌で舐める。
聡美「……アハハッ」
聡美「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
810: 2011/12/01(木) 21:35:36.65 ID:XDTRJeLDO
人間の指は、計20本。
それらを全て切り取る。
眼球をくり貫き、耳を切断する。
髪を引きちぎる。
通り魔「……こ……ろ……して……く…………れ……」
通り魔は、かすれた声で言う。
頃してくれ?
なんで?
早く楽になりたいから?
聡美「アハハハハァッ!!!! すぐには氏なせねえよ! お前には苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで氏ンでもらわなけりゃ割に合わねえンだよォォォォォ!!!!!」
俺は……通り魔の、男の証を切り取った。
811: 2011/12/01(木) 21:42:11.52 ID:XDTRJeLDO
通り魔「……! ……っ……!」
通り魔はもう声がかすれすぎて出なくなっていた。
聡美「あっれェ~? キンタマッテキンイロジャナカッタンダナァ~?」
通り魔「……っ……」
聡美「……ン?」
通り魔「…………」
聡美「オイオイ……ナンダヨ……モウ氏ンジマッタノカヨ…………っ!?」
その瞬間、激痛が俺を再び襲ってきた。
812: 2011/12/01(木) 21:48:41.88 ID:XDTRJeLDO
俺はその場に倒れる。
誰かが駆け寄ってきた。
律「聡美! 聡美ぃっ!」
ねえ……ちゃん……
紬「聡美ちゃん! もうすぐ、来るから!」
何が来るんですか……ムギさん……
澪姉は……ああ……あそこで震えてるな……
やっべ……意識が……
その時、生まれた時から……今までの記憶が、ゆっくりと流れる。
これが……走馬灯……
あぁ……
姉ちゃん……
どうか、お幸せに……
愛してました……
813: 2011/12/01(木) 21:51:53.70 ID:XDTRJeLDO
俺の視界が完全に真っ暗になり、
感覚もなくなり、
思い出だけが残り、
意識も途切れ、
俺の人生は、
終わりを遂げた――――――
814: 2011/12/01(木) 21:54:07.63 ID:XDTRJeLDO
815: 2011/12/01(木) 22:06:02.23 ID:XDTRJeLDO
~律Side~
聡美が、刺された。
私を庇って。
律「さ……さと、み……?」
私の頭の中がめちゃくちゃになる。
聡美「逃げて……通報して……!」
律「あ……あ……あ……!」
足が、動かなかった。
聡美「早くっっっ!!!」
気がつけば、足が勝手に動いていた。
少し奥の曲がり角を右に曲がり、私は走った。
澪とムギを見つけたので、私は通報してと頼んだ。
事情を説明できるほど、私は落ち着いていなかったが、ムギは冷静に通報してくれた。
澪になだめられ、少し落ち着いた私は、なんとなく嫌な予感がしたので、さっき聡美が刺された場所に行く。
すると……
聡美「アハハハハァッ!!!! すぐには氏なせねえよ! お前には苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで苦しンで氏ンでもらわなけりゃ割に合わねえンだよォォォォォ!!!!!」
聡美が、血塗れになりながら、通り魔を何度も何度も刺していた。
そして……聡美は男性のアレを切り取った。
816: 2011/12/01(木) 22:15:50.25 ID:XDTRJeLDO
猛烈な吐き気が、私を襲う。
聡美「あっれェ~? キンタマッテキンイロジャナカッタンダナァ~?」
今のあの聡美には……もう、今までの聡美の面影は残っていなかった。
聡美「オイオイ……ナンダヨ……モウ氏ンジマッタノカヨ……っ!?」
聡美が急に倒れる。
私は思わず、聡美に向かって走り出した。
律「聡美! 聡美ぃっ!」
私がいくら呼びかけても、聡美は言葉を返してはくれなかった。
それどころか、目がどんどん細くなっていき、それと同時に、力も抜けていった。
紬「聡美ちゃん! もうすぐ、来るから!」
ムギ……
澪は……なにやってんだよ……震えてないで、こっち来いよ……
聡美の目が閉じ、
聡美の身体から、完全に力が抜けた――
817: 2011/12/01(木) 22:17:50.28 ID:XDTRJeLDO
律「聡美……?
さとみいいいいぃぃぃぃっっっっ!!!!」
818: 2011/12/01(木) 22:22:46.36 ID:XDTRJeLDO
その時、何かが起こった。
律「えっ……?」
聡美の身体が、消えていく。
それと同時に、聡美に関する記憶が、消えていく。
なんだ……これ……?
通り魔も、
血の跡も、
全てが消えた時、
私とムギと澪は、
なぜか道路に座っていた――
819: 2011/12/01(木) 22:34:01.71 ID:XDTRJeLDO
律「あ、あれ……?」
なんで私、こんな所に座っているんだ?
紬「私も……なんだか、何かとても大切なことを忘れているような……」
澪も……なんでそこで震えているんだ?
澪「なんでだろ……なんだか、すごく恐ろしいものを見てたみたいな……」
律「……? なんなんだ……?」
その時、黒いリムジンが近くに止まった。
リムジンのドアが開く。
斉藤「どうなさいました!?」
ええと……もしかして……斉藤、さん?
ムギん家の執事……だよな?
紬「あら……? 私、呼んだかしら?」
斉藤「え、ええ。『今すぐ来て頂戴! 場所は分かるでしょ!?』と……」
紬「そうだったかしら?」
確かに……ムギがそう言った記憶はある。
でも……その理由が、分からない。
820: 2011/12/01(木) 22:44:49.71 ID:XDTRJeLDO
斉藤「お言葉ですが……紬お嬢様。今日は桜高の卒業式ではないのですか? それで、お嬢様とそのご学友様のために、卒業祝いのパーティーの準備を私めに頼むためにお呼びになられたのでは?」
律「そうなのか? ムギ」
紬「なんだか……そんな感じがするわ」
それなら……一応、つじつまは合う。
でも……
それとは違う、何か大切なことを忘れている気がする。
だから……
律「ムギ、今日の所は、やめにしないか?」
紬「そうね……そうした方がいい気がするわ」
斉藤「そうですか……では、ご自宅までお送りしましょうか?」
紬「そうね……じゃあ二人とも、乗って」
私と澪とムギは、リムジンに乗る。
スゲーな……これがお嬢様か。
821: 2011/12/01(木) 22:53:09.71 ID:XDTRJeLDO
私の家の前に着く。
律「ありがとうございました」
紬「さよなら、りっちゃん」
律「おう」
リムジンのドアを閉め、家の中に入る。
聡「あ、姉ちゃんおかえりー」
律「ただいま。……あれ? 今日は遊びに行くんじゃなかったのか?」
聡「そうだったけど……ちょっとね。姉ちゃんに話したいことがあってね」
律「…………え?」
話したい、こと?
聡「姉ちゃん……いや、律さん」
名前で、呼ばれる。
聡「僕は貴女のことが好きです……一人の女性として」
822: 2011/12/01(木) 23:02:03.54 ID:XDTRJeLDO
……え?
聞き間違い……じゃないよな?
律「えっと……その……マジ、なのか?」
聡「うん……マジだよ」
嬉しい……
律「私たち、姉弟なんだよ?」
嬉しいけど……なぜか素直になれない。
聡「そうだけど……好きになっちゃったんだよ……」
律「……っ!」
私は聡を抱きしめる。
聡「わっ……ね、姉ちゃん!?」
律「わ、私も……聡が好き……」
聡「ね、姉ちゃん……」
律「さっきみたいに……な、名前で……」
聡「……律」
律「聡……」
私たちは長い間、お互いのことを抱きしめ合っていた――
END「田井中律」
823: 2011/12/01(木) 23:17:29.04 ID:XDTRJeLDO
~唯Side~
唯「見せつけてくれるなぁ……」
この時代の聡くんとりっちゃんは、玄関を開けっ放しで抱き合っていた。
聡美ちゃん……いや、こっちの、私の聡くんのことを覚えてる人は、私以外誰もいなかった。
ムギちゃんとも連絡がとれなくなるし……
やっぱり、身体ごと刻を越えたせいかな?
あの技術……記憶消去技術は、私には効かなかったみたい。
この左手だけの手袋……
手首の部分には、S.Tの文字。
無論、聡くんのイニシャルだ。
私が提案した、指の付け根の太さを変えられる機能がついてる。
まぁ……だから、中に指輪を仕込めるんだけど。
これから私がやることに、必要だし。
唯「聡くん……」
私は、平行世界への移動を行った。
次の世界では……きっと聡くんと……
BAD END「親友と想い人」
824: 2011/12/01(木) 23:24:56.78 ID:XDTRJeLDO
ふぅ……
終わった……
いや、実際は終わってないけどね?
こんな駄作をここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
映画公開まで、本当にあと少しですね。
第二部は、これより遥かに短くなりそうです。
第一部は約三年間ですが、第二部は一年もないと思います。
明日はテスト二日目なので、今日のところは少し勉強してから寝ます。
ではノシ
終わった……
いや、実際は終わってないけどね?
こんな駄作をここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
映画公開まで、本当にあと少しですね。
第二部は、これより遥かに短くなりそうです。
第一部は約三年間ですが、第二部は一年もないと思います。
明日はテスト二日目なので、今日のところは少し勉強してから寝ます。
ではノシ
827: 2011/12/06(火) 20:02:33.75 ID:Ai4gnp9i0
長い間お疲れ様でした
828: 2011/12/14(水) 01:13:22.30 ID:xjGQ+PuDO
依頼出してきました。
第二部は年が明けてからになると思います。
けいおん一期の再放送がもうすぐ終わるので、寝ます。
ではノシ
第二部は年が明けてからになると思います。
けいおん一期の再放送がもうすぐ終わるので、寝ます。
ではノシ
引用: 聡「刻を越えて」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります