1: 2017/07/30(日) 04:06:51.730 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「それはどうかなあかりちゃん」

あかり「櫻子ちゃん!?」
第11話 「わたしたちのごらく部」
4: 2017/07/30(日) 04:08:42.745 ID:lb4DKU32d.net
櫻子はゆっくりとティースプーンを回す

イギリス製名門店のティーカップは耳障りの良い音を奏でる

櫻子「あかりちゃんの生きてる意味ってなに?」

あかり「き、急に言われても…」

5: 2017/07/30(日) 04:11:30.405 ID:lb4DKU32d.net
イタリアの機織り職人が作り上げた髪飾りがあかりちゃんの動揺に合わせて上品に揺れる

あかり「あかりはこうやって櫻子ちゃんとティータイムを楽しむのが生きてる意味かなぁ」

櫻子「苦笑いで回答を誤魔化すんだねあかりちゃん。まるで人生が誤魔化しだと証明してるようだよ」

あかり「…っ」

7: 2017/07/30(日) 04:13:05.352 ID:lb4DKU32d.net
櫻子ちゃんは紅茶とミルクが解け合ってもなお攪拌を続ける

櫻子「私もこのティーカップもお庭も家もいずれ全て無くなるのに」

櫻子「意味なんてあるのかなあかりちゃん」

あかり「あ、あるよぉ…!」

8: 2017/07/30(日) 04:14:48.179 ID:lb4DKU32d.net
櫻子の植物性油分で潤いを保持した髪が香りと共に風に踊る

櫻子「それはなに?」

あかり「今この瞬間あかりが楽しいと感じてることだよぉ」

櫻子「それは間違いだよあかりちゃん」

あかり「…どうして?」

9: 2017/07/30(日) 04:16:29.458 ID:lb4DKU32d.net
あかりちゃんの幼さの残る頬の紅が優しい熱を持って少し強くなる

櫻子「あかりちゃんもいずれ消えて無くなるからさ」

あかり「…!」

櫻子「人はその事実から目を背けて生きる哀れな糸人形なんだよ」

10: 2017/07/30(日) 04:18:14.463 ID:lb4DKU32d.net
感情の窺えない目で櫻子ちゃんはそう言った

ティースプーンで攪拌し続ける手はとまらない

あかりちゃんはそれが数億回繰り返されてるような錯覚を覚えて目眩がした

あかり「人はいずれ氏ぬから意味がないというのぉ?」

11: 2017/07/30(日) 04:20:20.031 ID:lb4DKU32d.net
あかりちゃんは脳の働きに不確かさを感じて手をこめかみに当てるも

その不確かさは幻想だった

櫻子「人は特別じゃない」

あかり「人は特別じゃない…?」

櫻子「人は特別じゃない」

あかり「人は特別じゃない…」

12: 2017/07/30(日) 04:23:41.440 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「一握の砂にも劣るよ」

あかり「何故?」

櫻子「宇宙にはこの惑星に存在する砂よりも膨大な惑星が存在しているからさ」

あかり「宇宙…」

櫻子「知ってる?宇宙には2000億の星を持つ銀河が2000兆個あるんだよ。対して人類はたった70億人。」

櫻子「矮小にもほどがあるよ」

14: 2017/07/30(日) 04:26:18.400 ID:lb4DKU32d.net
あかり「だから人に意味はないってこと?」

櫻子ちゃんとのティータイムのために薄く塗ったあかりちゃんのドイツ社開発のマスカラが揺れる

櫻子ちゃんはそれに一切気付かない

櫻子「少し違うかな…」

あかり「…違うのぉ?」

16: 2017/07/30(日) 04:29:09.368 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「その銀河や星もやがて氏ぬからさ」

あかり「氏んじゃうのぉ?」

櫻子「長い長い時間をかけてね。星や銀河でさえ氏ぬのに、人の短い生に、意味なんてあるのかな」

あかり「そ、それは絶対にあるよぉ!」

17: 2017/07/30(日) 04:31:11.875 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「次は時間の話をしよう、あかりちゃん」

いつの間にか風がやんでいた。

動くものなかった。櫻子ちゃんの瞳さえ動かなかった。

ただ太陽だけは刻々と位置を変えていることを影をもってあかりちゃんに教えた

21: 2017/07/30(日) 04:35:34.440 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「宇宙は138億年の歴史を生きてきた」

あかり「長いよぉ」

櫻子「たいして人間の生はたった80年」

あかり「…」

櫻子「人類が誕生してからも数万年しか経っていない」

あかり「数万年はとても長いよぉ!」

櫻子「恐竜はこの太陽系が天の川銀河を一週する期間栄えたんだよ」

櫻子「対して人類は天の川銀河の1%も進んでいない」

22: 2017/07/30(日) 04:38:14.666 ID:lb4DKU32d.net
あかり「全然時間が経っていないだねぇ」

櫻子「実はね」

ブルーのスイス製の時計はその精巧さよりもデザインをもって櫻子ちゃんに好かれ
テーブルに置かれている

櫻子「そしてこの138億年という時間はまだ始まりに過ぎないんだよ」

23: 2017/07/30(日) 04:40:35.355 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「宇宙はあと1000兆年輝く星が生きる時代に突入してるんだよ」

あかり「輝く星が生きる時代?」

櫻子「そうだよ。太陽のような恒星があと1000兆年宇宙のどこか輝くんだ」

あかり「そのあとは?」

櫻子「星の氏の時代だよ」

24: 2017/07/30(日) 04:45:36.109 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「燃え付きた星がエネルギーとして蒸発するだけの時代だよ」

あかり「とてもつまらなさそうな時代だよぉ」

櫻子「そうだよ。しかもそれは星が輝く時代よりもさらに途方もない時間が必要なんだよ」

あかり「ぶっひぇー想像できないよぉ」

櫻子「138億年の歴史を持つ宇宙はあと1000兆年の光の時代を過ごして…」

櫻子「次は光の絶えた闇の時代をそれよりも長い時間過ごさなくちゃいけないんだ」

櫻子「なのに一瞬にも満たない人の生に何の意味が…」

櫻子ちゃんの瞳が揺れティーカップを攪拌する手が急に止まった

27: 2017/07/30(日) 04:54:32.896 ID:lb4DKU32d.net
あかり「意味がなくとも今楽しいのならそれは楽しいよぉ」

櫻子「矛盾だよ、あかりちゃん。意味のないものに楽しいという意味を付与すること自体が間違いだよ」

あかり「そんなことないよぉ…!」

櫻子「それはまるで生命の定義に段ボールが当てはまるように設定して生物だと指すような前後不覚な話だよ」

櫻子「人も宇宙の一部の物質だというのに」

29: 2017/07/30(日) 04:56:33.321 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「人は特別じゃない」

あかり「人は特別じゃない…」

櫻子「人は特別じゃない」

あかり「人は特別じゃない」

櫻子「その通りだよ、あかりちゃん」

30: 2017/07/30(日) 04:58:34.703 ID:lb4DKU32d.net
櫻子「宇宙という枠組みの中で私たちが生きる意味はあるのかな、向日葵」

櫻子ちゃんはあかりちゃんの右隣を見る

そこには椅子とティーセットだけがあって向日葵ちゃんは座ってはいなかった

あかりちゃんは胸が苦しくなった

31: 2017/07/30(日) 05:01:20.399 ID:lb4DKU32d.net
あかり「今日は帰らせてもらうよぉ」

あかりちゃんは洗練された動きで音もなく椅子を引きテーブルから滑り出た

櫻子「今日は楽しかったよあかりちゃん」

あかり「あかりもだよぉ」

櫻子「さようなら、あかりちゃん」

あかり「さようならだよぉ」

櫻子「あっ…!」

あかり「ん?」

櫻子「…とても可愛いマスカラだね。今日の香水もあかりちゃんに良く似合ってるよ」

あかり「…!」

あかり「ありがとうだよぉ」

32: 2017/07/30(日) 05:03:04.563 ID:lb4DKU32d.net
後日

あかりちゃんは同じ場所でティータイムを楽しんだ

紅茶のかぐわしい味があかりちゃんの涙と交じる

目の前には二席のティーセットと誰も座らない二脚の椅子があった

おわり

33: 2017/07/30(日) 05:06:24.050 ID:l6dCXiY+0.net
櫻子「からの~!!」
向日葵「ちょっと櫻子!?」

みたいな展開マダー?

34: 2017/07/30(日) 06:27:21.304 ID:pl4HMfyC0.net

引用: あかり「生きてて楽しいよぉ」