1: 2012/01/28(土) 21:43:19.68 ID:OgGbePyto
オリジナルSS「妹の手を握るまで」
前スレで納まらなかったのでこちらで続きを書きます。そんなに長くはならない予定です。
前スレ
妹の手を握るまで【その1】
妹の手を握るまで【その2】
妹の手を握るまで【その3】
妹の手を握るまで【その4】
妹の手を握るまで【その5】
前スレで納まらなかったのでこちらで続きを書きます。そんなに長くはならない予定です。
前スレ
妹の手を握るまで【その1】
妹の手を握るまで【その2】
妹の手を握るまで【その3】
妹の手を握るまで【その4】
妹の手を握るまで【その5】
3: 2012/01/28(土) 23:07:01.02 ID:OgGbePyto
翌朝目が覚めたとき、あたしはお兄ちゃんの腕の中で裸で抱かれていた。
・・・・・・本当の幸せというのはこういうことを言うんだろうな。部屋の温度はすごく低かったけどあたしはお兄ちゃんの暖かい腕の中で守られ少しも寒いとは思わなかった。丸裸だったのに。
あたしは顔を動かしてお兄ちゃんの顔が見られるようにした。お兄ちゃんの寝顔が見たかったから。
でもお兄ちゃんは起きていた。そして何か難しい考え事をしているような表情だった。その表情に少し不安を覚えたあたしだったけど、すぐに好きな男の人に愛された女の幸せがその不安を打ち消してくれた。
「・・・・・・・お兄ちゃん」
あたしはお兄ちゃんの胸に顔をこすり付けるようにして甘えながらお兄ちゃんを呼んだ。
「え」
「何考えてるの」
あたしはその姿勢のまま微笑んだ。
「起きてたのか」
お兄ちゃんはびっくっりしたように言った。
「何か難しい顔してたよ」
あたしは、重なり合って寝ているせいで不自由な両手を苦労して何とかお兄ちゃんの体にしっかり廻して抱きついて、そしてお兄ちゃんにキスした。
「おはよ」
「ああ。おはよう」
難しい顔をしていたお兄ちゃんが意外と穏やかな声で言った。
あたしを悩ますその声、その手、その表情。
あたしはお兄ちゃんに再び告白した。今度は穏やかな落ち着いた気持ちで。
「お兄ちゃん、好きだよ」
「・・・・・・うん。俺もおまえのこと好きだ」
お兄ちゃんは静かに言った。
その時あたしの心の中でお兄ちゃんと過ごしてきた17年間の記憶が一気に押し寄せてきた。辛い日々もあったけどようやくお兄ちゃんはあたしを好きと言ってくれたのだ。
「やっと言った・・・・・・長かったな」
あたしは小さく呟いた。それ以上はっきり喋ろうとすると涙声になってしまいそうだから。
あたしはもうお兄ちゃんと相思相愛の仲だった。
今ではお兄ちゃんのためなら何でもできるとあたしは思った。
「・・・・・・今何て言ったの?」
お兄ちゃんが聞いた。あたしはそれには答えずにお兄ちゃんの硬く大きくなっているところに初めて手を這わした。ためらいも恥じらいすらなく。
「何でもないよ。それより昨日の夜みたいにまた大きくなってるよ」
「おい」
お兄ちゃんは慌てたように言ったけどあたしの手の中のそれは更に膨張したみたいだった。
「また変な声出しちゃってごめんね」
もうあたしはそのことはあまり気にしていなかった。
「・・・・・・いや。おまえの声可愛かった。ずっと聞いていたかったよ」
お兄ちゃんは初めて聞くような優しい口調であたしに言った。
「そか」
あたしはあたしの恋人に再び微笑んだ。
「結構寝たの遅かったけど、もう少し寝るか?」
「今日学校お休みだし、今日はここでゆっくりする」
「うん。俺も大学さぼるよ」
「いいの?」
「俺も今日はずっとこうしていたいし」
・・・・・・本当の幸せというのはこういうことを言うんだろうな。部屋の温度はすごく低かったけどあたしはお兄ちゃんの暖かい腕の中で守られ少しも寒いとは思わなかった。丸裸だったのに。
あたしは顔を動かしてお兄ちゃんの顔が見られるようにした。お兄ちゃんの寝顔が見たかったから。
でもお兄ちゃんは起きていた。そして何か難しい考え事をしているような表情だった。その表情に少し不安を覚えたあたしだったけど、すぐに好きな男の人に愛された女の幸せがその不安を打ち消してくれた。
「・・・・・・・お兄ちゃん」
あたしはお兄ちゃんの胸に顔をこすり付けるようにして甘えながらお兄ちゃんを呼んだ。
「え」
「何考えてるの」
あたしはその姿勢のまま微笑んだ。
「起きてたのか」
お兄ちゃんはびっくっりしたように言った。
「何か難しい顔してたよ」
あたしは、重なり合って寝ているせいで不自由な両手を苦労して何とかお兄ちゃんの体にしっかり廻して抱きついて、そしてお兄ちゃんにキスした。
「おはよ」
「ああ。おはよう」
難しい顔をしていたお兄ちゃんが意外と穏やかな声で言った。
あたしを悩ますその声、その手、その表情。
あたしはお兄ちゃんに再び告白した。今度は穏やかな落ち着いた気持ちで。
「お兄ちゃん、好きだよ」
「・・・・・・うん。俺もおまえのこと好きだ」
お兄ちゃんは静かに言った。
その時あたしの心の中でお兄ちゃんと過ごしてきた17年間の記憶が一気に押し寄せてきた。辛い日々もあったけどようやくお兄ちゃんはあたしを好きと言ってくれたのだ。
「やっと言った・・・・・・長かったな」
あたしは小さく呟いた。それ以上はっきり喋ろうとすると涙声になってしまいそうだから。
あたしはもうお兄ちゃんと相思相愛の仲だった。
今ではお兄ちゃんのためなら何でもできるとあたしは思った。
「・・・・・・今何て言ったの?」
お兄ちゃんが聞いた。あたしはそれには答えずにお兄ちゃんの硬く大きくなっているところに初めて手を這わした。ためらいも恥じらいすらなく。
「何でもないよ。それより昨日の夜みたいにまた大きくなってるよ」
「おい」
お兄ちゃんは慌てたように言ったけどあたしの手の中のそれは更に膨張したみたいだった。
「また変な声出しちゃってごめんね」
もうあたしはそのことはあまり気にしていなかった。
「・・・・・・いや。おまえの声可愛かった。ずっと聞いていたかったよ」
お兄ちゃんは初めて聞くような優しい口調であたしに言った。
「そか」
あたしはあたしの恋人に再び微笑んだ。
「結構寝たの遅かったけど、もう少し寝るか?」
「今日学校お休みだし、今日はここでゆっくりする」
「うん。俺も大学さぼるよ」
「いいの?」
「俺も今日はずっとこうしていたいし」
4: 2012/01/28(土) 23:09:38.03 ID:OgGbePyto
その朝の幸せな記憶をあたしは一生忘れないだろう。
あたしは出来立ての彼氏にあたしの体の下を触ることを許した。
その最中、いつのまにか帰宅していたお母さんがお兄ちゃんを起こそうとお兄ちゃんの部屋の近くまでやってきたトラブルもあったけど、あたしは慌てているお兄ちゃんを宥めながらお兄ちゃんをお母さんの待つダイニングに派遣した。
慌てることはなかった。お母さんは部屋の前まで来ることはあるけど子どもたちの部屋のドアを勝手に開けて入ってくるような人ではない。あたしはお兄ちゃんを着替えさせるとお母さんのところに行ってもらい、その間に自分の部屋に避難した。
あたしは今日が学校が休みなのでお母さんが出社前にあたしを起こしに来ることはないだろう。あたしはまだ裸のままだった。どういうわけかお兄ちゃんのベッドを捜索してもあたしの下着は出てこなかったのだけど、じっくりと下着を捜索している場合ではなかったので、あたしはとりあえず身に何もまとわないまま自分の部屋に移った。
自分の部屋に戻ったあたしはとりあえず暖房を入れた。さすがに裸のままでは寒い。もちろん下着や服を身にまとえばいいんだけど、お母さんを見送ったあとあたしの部屋を訪れるお兄ちゃんをあたしはこのままの姿で迎えたかったのだ。
我ながら何という恥知らずな行動なんだろう。でもあたしはお兄ちゃんさえ望むならさっきの続きをしたかった。さすがに最後まで許すのはためらわれたけど愛撫される分にはどこを触られてもよかったし、お兄ちゃんが喜ぶならあたしもお兄ちゃんの体を触りたいと思っていた。
玄関のドアが閉まる音がして、それからしばらくして2階に上ってくる足音が聞こえた。やがてドアが静かにノックされた。
「・・・・・・誰?」
わかっていたけれど一応あたしはノックの主に声をかけた。
「俺。母さん仕事行ったよ」
あたしはドアを勢いよく開き、ドアの前に立っているお兄ちゃんに抱きついた。
「お兄ちゃん」
「うん。もう大丈夫だよ」
お兄ちゃんがあたしを抱き返してくれた。
「・・・・・・お母さん、あたしたちのこと何か気がついてなかった?」
「大丈夫だ。昨日のおまえの声も聞かれてなかったっぽいし」
「・・・・・・お母さんもう出かけたの?」
あたしは念のために確認した。
「うん」
「よかった。入って」
じゃあ、障害はもうないんだ。あたしはお兄ちゃんを自分の部屋に招いた。
でもお兄ちゃんは部屋に入ろうとしなかった。
「お兄ちゃん?」
「ちょっと待て」
お兄ちゃんが言った。
「・・・・・・え?」
「ちょっとだけ話させてくれ」
「う、うん」
一瞬あたしの脳裏に恐ろしい想像が浮かんだ。兄妹の禁断の恋。お母さんに見つかりかけたことで、お兄ちゃんのあたしが好きという気持ちが揺らいだのだろうか。
「ちゃんと言わせてくれ。この家には二人きりだから大丈夫」
「・・・・・・どうしたの」
あたしの声は多分震えていたと思う。
でもお兄ちゃんが続けた言葉はその想像とは全く異なったものだった。
「俺さ、おまえのこと・・・・・・女としてしか見られねえ」
あたしは絶句した。
「おまえのこと、実の妹じゃなくて一人の女としか見られねえ」
「俺、おまえのこと好きだ、愛してる。おまえを俺のものにしたい」
「おまえと最後まで、その、セ、だってしたい」
「お、俺の彼女になってくれ」
あたしは出来立ての彼氏にあたしの体の下を触ることを許した。
その最中、いつのまにか帰宅していたお母さんがお兄ちゃんを起こそうとお兄ちゃんの部屋の近くまでやってきたトラブルもあったけど、あたしは慌てているお兄ちゃんを宥めながらお兄ちゃんをお母さんの待つダイニングに派遣した。
慌てることはなかった。お母さんは部屋の前まで来ることはあるけど子どもたちの部屋のドアを勝手に開けて入ってくるような人ではない。あたしはお兄ちゃんを着替えさせるとお母さんのところに行ってもらい、その間に自分の部屋に避難した。
あたしは今日が学校が休みなのでお母さんが出社前にあたしを起こしに来ることはないだろう。あたしはまだ裸のままだった。どういうわけかお兄ちゃんのベッドを捜索してもあたしの下着は出てこなかったのだけど、じっくりと下着を捜索している場合ではなかったので、あたしはとりあえず身に何もまとわないまま自分の部屋に移った。
自分の部屋に戻ったあたしはとりあえず暖房を入れた。さすがに裸のままでは寒い。もちろん下着や服を身にまとえばいいんだけど、お母さんを見送ったあとあたしの部屋を訪れるお兄ちゃんをあたしはこのままの姿で迎えたかったのだ。
我ながら何という恥知らずな行動なんだろう。でもあたしはお兄ちゃんさえ望むならさっきの続きをしたかった。さすがに最後まで許すのはためらわれたけど愛撫される分にはどこを触られてもよかったし、お兄ちゃんが喜ぶならあたしもお兄ちゃんの体を触りたいと思っていた。
玄関のドアが閉まる音がして、それからしばらくして2階に上ってくる足音が聞こえた。やがてドアが静かにノックされた。
「・・・・・・誰?」
わかっていたけれど一応あたしはノックの主に声をかけた。
「俺。母さん仕事行ったよ」
あたしはドアを勢いよく開き、ドアの前に立っているお兄ちゃんに抱きついた。
「お兄ちゃん」
「うん。もう大丈夫だよ」
お兄ちゃんがあたしを抱き返してくれた。
「・・・・・・お母さん、あたしたちのこと何か気がついてなかった?」
「大丈夫だ。昨日のおまえの声も聞かれてなかったっぽいし」
「・・・・・・お母さんもう出かけたの?」
あたしは念のために確認した。
「うん」
「よかった。入って」
じゃあ、障害はもうないんだ。あたしはお兄ちゃんを自分の部屋に招いた。
でもお兄ちゃんは部屋に入ろうとしなかった。
「お兄ちゃん?」
「ちょっと待て」
お兄ちゃんが言った。
「・・・・・・え?」
「ちょっとだけ話させてくれ」
「う、うん」
一瞬あたしの脳裏に恐ろしい想像が浮かんだ。兄妹の禁断の恋。お母さんに見つかりかけたことで、お兄ちゃんのあたしが好きという気持ちが揺らいだのだろうか。
「ちゃんと言わせてくれ。この家には二人きりだから大丈夫」
「・・・・・・どうしたの」
あたしの声は多分震えていたと思う。
でもお兄ちゃんが続けた言葉はその想像とは全く異なったものだった。
「俺さ、おまえのこと・・・・・・女としてしか見られねえ」
あたしは絶句した。
「おまえのこと、実の妹じゃなくて一人の女としか見られねえ」
「俺、おまえのこと好きだ、愛してる。おまえを俺のものにしたい」
「おまえと最後まで、その、セ、だってしたい」
「お、俺の彼女になってくれ」
5: 2012/01/28(土) 23:14:03.61 ID:OgGbePyto
あたしはお兄ちゃんに愛されることを望んで、その願いはかなえられた。あたしにとって完璧な形で。
でも愛されるということ、付き合うということはもっと生々しい側面を含んでいる。あたしはあまりそのことを考えようとはしなかった。
あたしは十分に自分をお兄ちゃんに捧げているつもりだった。裸の肌に自由に触れることまで許していたのだし。
でも。
本当に付き合うということ。本当に愛し合うということの前にはそれは単なるままごとに過ぎなかったのだろう。
お兄ちゃんの言うことは正しかった。あたしがお兄ちゃんと結ばれるということの意味。お兄ちゃんの言うように最後までまでしたいというのは男の人の、女の子の彼氏としての正常な欲求なのだろう。
もちろんあたしは求められればお兄ちゃんにそのことを許す覚悟は十分にあった。
・・・・・・でもその前にあたしには整理しなければいけないことがあったのだ。
「お兄ちゃん」
あたしはそっと言った。
「お兄ちゃんの顔、何か怖い」
そんなことを言いたいのではなかったけど。
「ああ、ごめんな。緊張しているせいだ」
「・・・・・・・裸で廊下にいると寒い。あたしの部屋、暖房つけたから、とにかくあたしの部屋に入って」
「うん」
お兄ちゃんはようやくあたしの部屋に入ってきてくれた。
「・・・・・・エアコンついててもこの格好だとまだ寒いかな」
「あ、そうだ。ベッドに入って毛布にくるまればいいんだ」
あたしは乱れる思考をまとめる間、どうでもいいことをお兄ちゃんに話しかけ、お兄ちゃんはとりあえずあたしに話をあわせてくれた。
「・・・・・・普通に服着ればいいんじゃないか?」
「それはそうだけど・・・・・・。何かつまんないし」
「な、何が?」
「何でもない。お兄ちゃん?」
あたしは決心を固めて言った。
「うん」
「・・・・・・あたしもね、お兄ちゃんのこと好きだよ」
「うん」
お兄ちゃんはあまり納得していないようだった。
「お兄ちゃんのこと彼氏より好きって言ったよね」
「・・・・・・うん」
「それにあたしがお兄ちゃんに身体触られるのを嫌がってないんだから」
「・・・・・・」
「それだけじゃだめなの?」
つまらない言い訳。つまらない時間稼ぎ。
「お兄ちゃん?」
「・・・・・・おまえさ」
お兄ちゃんはあたしの目を真っ直ぐに見て静かに言った。
「うん」
「全然俺の質問に答えてねえじゃん」
「そうかな」
そのとおりだった。
「そうだよ! 俺のことどういう意味で好きなのかって聞いてるんだよ」
突然お兄ちゃんは声を荒げた。
「だから、彼より好きだって」
あたしは狼狽しながらようやくそう言った。
6: 2012/01/28(土) 23:18:41.98 ID:OgGbePyto
「おまえの彼氏のことなんかどうでもいいよ。俺はおまえが何を考えているのか知りたいんだよ!」
お兄ちゃんは続けた。
「・・・・・・俺はおまえの全部が欲しいんだよ。おまえが何を考えているのか全部知りたいんだ」
「おまえの全てを理解したいんだよ! 俺の言ってること変か?」
「・・・・・・頼むから教えてくれよ。おまえが何を考えてるのか。俺のこと本当はどう考えてるのか」
「おまえが何で俺のベッドで一緒に寝ようとするのか。何で俺に身体を触らせるのか」
「このままじゃ、俺どうしていいかわかんねえよ」
お兄ちゃんが立て続けに畳み掛ける言葉を聞きながらあたしはあたしは先輩のことを思い浮かべた。
昨日の夜とか今朝の出来事だけでも十分に先輩を裏切っている。そしてそれをどんなに責められても仕方ないけど、あたしはそのことを後悔はしていなかった。
でもこれ以上はこのままなし崩しに進むわけにはいかなかった。
「・・・・・・ごめんね」
「え」
「混乱させてごめんね、お兄ちゃんの言ってること、別に変じゃないよ」
「・・・・・・そうか。変じゃなくてよかった」
お兄ちゃんは落ち着きを取り戻したようだった。
「お兄ちゃんのこと好きだけど・・・・・・でも、もう少し待って」
「・・・・・・どうして」
「もう少し待って」
「わかんねえよ。おまえ、俺のベッドで一緒に寝たり裸の体触らせたりキスしてきたり・・・・・・」
お兄ちゃんは混乱したように言い、あたしはそのことに胸が痛んだ。
「待つって、いつまでだよ」
「だからもう少し」
「もう少しっていつまでなんだよ!」
お兄ちゃんが再び声を荒げた。そういうお兄ちゃんの姿は何だか先輩が荒れている姿を思い出させるようだった。
あたしは卑劣な手段を使った。お兄ちゃんはどういうわけか女っぽさのかけらもないあたしの体を好きなようだった。
だからあたしは裸のままでお兄ちゃんに迫った。
「お兄ちゃん」
「・・・・・・ああ」
お兄ちゃんは納得していない様子で答えた。
「お母さん出かけたんでしょ?」
「ああ」
お兄ちゃんは同じ言葉を繰り返した。
「じゃ、ベッドに入ろう。裸だと寒いし、さっきの続きして」
身じろぎしないお兄ちゃんを無視してあたしは自分のベッドに裸で横たわった。
・・・・・・しばらくしてお兄ちゃんがあたしの傍らに横たわるようにベッドに入ってきた。
お兄ちゃんは続けた。
「・・・・・・俺はおまえの全部が欲しいんだよ。おまえが何を考えているのか全部知りたいんだ」
「おまえの全てを理解したいんだよ! 俺の言ってること変か?」
「・・・・・・頼むから教えてくれよ。おまえが何を考えてるのか。俺のこと本当はどう考えてるのか」
「おまえが何で俺のベッドで一緒に寝ようとするのか。何で俺に身体を触らせるのか」
「このままじゃ、俺どうしていいかわかんねえよ」
お兄ちゃんが立て続けに畳み掛ける言葉を聞きながらあたしはあたしは先輩のことを思い浮かべた。
昨日の夜とか今朝の出来事だけでも十分に先輩を裏切っている。そしてそれをどんなに責められても仕方ないけど、あたしはそのことを後悔はしていなかった。
でもこれ以上はこのままなし崩しに進むわけにはいかなかった。
「・・・・・・ごめんね」
「え」
「混乱させてごめんね、お兄ちゃんの言ってること、別に変じゃないよ」
「・・・・・・そうか。変じゃなくてよかった」
お兄ちゃんは落ち着きを取り戻したようだった。
「お兄ちゃんのこと好きだけど・・・・・・でも、もう少し待って」
「・・・・・・どうして」
「もう少し待って」
「わかんねえよ。おまえ、俺のベッドで一緒に寝たり裸の体触らせたりキスしてきたり・・・・・・」
お兄ちゃんは混乱したように言い、あたしはそのことに胸が痛んだ。
「待つって、いつまでだよ」
「だからもう少し」
「もう少しっていつまでなんだよ!」
お兄ちゃんが再び声を荒げた。そういうお兄ちゃんの姿は何だか先輩が荒れている姿を思い出させるようだった。
あたしは卑劣な手段を使った。お兄ちゃんはどういうわけか女っぽさのかけらもないあたしの体を好きなようだった。
だからあたしは裸のままでお兄ちゃんに迫った。
「お兄ちゃん」
「・・・・・・ああ」
お兄ちゃんは納得していない様子で答えた。
「お母さん出かけたんでしょ?」
「ああ」
お兄ちゃんは同じ言葉を繰り返した。
「じゃ、ベッドに入ろう。裸だと寒いし、さっきの続きして」
身じろぎしないお兄ちゃんを無視してあたしは自分のベッドに裸で横たわった。
・・・・・・しばらくしてお兄ちゃんがあたしの傍らに横たわるようにベッドに入ってきた。
12: 2012/01/29(日) 21:50:46.56 ID:EQn04HIIo
学園祭の翌々日、あたしは授業中もずっとお兄ちゃんの言葉を繰り返し思い出していた。
「おまえのこと、実の妹じゃなくて一人の女としか見られねえ」
「俺、おまえのこと好きだ、愛してる。おまえを俺のものにしたい」
「お、俺の彼女になってくれ」
もう勘違いのしようもなかった。お兄ちゃんは本心からあたしを求めてくれているのだ。
それはあたしのように長く密かに想い暖めていた恋情ではないだろうけど、とにかくお兄ちゃんもあたしと同じように実の兄妹であるにもかかわらず、あたしを求めているのだ。
昨日お兄ちゃんに真剣な目で告白された時、あたしはお兄ちゃんの胸に飛び込みたかった。でもそれはまだできなかった。あたしの彼氏は先輩なのだから。
あたしは酷いことをしようとしている。最近時折先輩が委員長ちゃんを見つめる目が気にはなっていたけど、それでも先輩があたしのことを好きなのは確かだった。
あたしはお兄ちゃんを忘れようとして先輩と付き合い出した。あたしはそれなりに先輩のことが好きだったし、このまま時が過ぎればもっと先輩のことが好きになり先輩との距離も縮まっていたかもしれない。
でもお兄ちゃんがあたしのことを求めていることを知った時から先輩への想いは急速に薄れてしまった。
あたしは酷いことをしようとしていた。少し待ってとあたしはお兄ちゃんに答えた。あたしはお兄ちゃんが待ってくれているうちに決着をつけなければならなかった。
先輩はいつも最後にはあたしの思うとおりにさせてくれた。きっとあたしが別れてとお願いすれば大騒ぎの末にあたしのことを思いやって別れてくれるだろう。たとえ自分がぼろぼろに傷付いたとしても。
それでもあたしは先輩に別れを告げるつもりだった。どんなに悪い女となってしまうにしても。
先輩をメールで呼び出そう。あたしはどこか静かなところでメールするつもりで席を立った。
その時、妹友ちゃんがあたしの方を見つめているのに気がついた。あたしと目が合った妹友ちゃんは席を立った。あたしは思わず妹友ちゃんから目を逸らした。
「妹ちゃん、ちょっといい?」
近づいてきた妹友ちゃんが声をかけた。あたしは妹友ちゃんの顔を見られなかった。先輩に続いて再びあたしは妹友ちゃんの恋を邪魔することになるのだから。
あたしの中では罪悪感とお兄ちゃんが選んだのはあたしだという密かな優越感がせめぎあっていた。
「ごめん、ちょっと用があるから」
あたしは妹友ちゃんから目を逸らして呟くように話した。
「あ、そうなんだ。うん。ちょっと話があったんだけど後でいいや」
「・・・・・・話って?」
話? お兄ちゃんについての相談だろうか。
「うん。ちょっとお兄さんのことでお話があるの」
あたしは席を立った。お兄ちゃんの話なんか今できるはずがなかった。
「ごめん、用事があるから行くね」
あたしは逃げるようにして教室から出た。
「おまえのこと、実の妹じゃなくて一人の女としか見られねえ」
「俺、おまえのこと好きだ、愛してる。おまえを俺のものにしたい」
「お、俺の彼女になってくれ」
もう勘違いのしようもなかった。お兄ちゃんは本心からあたしを求めてくれているのだ。
それはあたしのように長く密かに想い暖めていた恋情ではないだろうけど、とにかくお兄ちゃんもあたしと同じように実の兄妹であるにもかかわらず、あたしを求めているのだ。
昨日お兄ちゃんに真剣な目で告白された時、あたしはお兄ちゃんの胸に飛び込みたかった。でもそれはまだできなかった。あたしの彼氏は先輩なのだから。
あたしは酷いことをしようとしている。最近時折先輩が委員長ちゃんを見つめる目が気にはなっていたけど、それでも先輩があたしのことを好きなのは確かだった。
あたしはお兄ちゃんを忘れようとして先輩と付き合い出した。あたしはそれなりに先輩のことが好きだったし、このまま時が過ぎればもっと先輩のことが好きになり先輩との距離も縮まっていたかもしれない。
でもお兄ちゃんがあたしのことを求めていることを知った時から先輩への想いは急速に薄れてしまった。
あたしは酷いことをしようとしていた。少し待ってとあたしはお兄ちゃんに答えた。あたしはお兄ちゃんが待ってくれているうちに決着をつけなければならなかった。
先輩はいつも最後にはあたしの思うとおりにさせてくれた。きっとあたしが別れてとお願いすれば大騒ぎの末にあたしのことを思いやって別れてくれるだろう。たとえ自分がぼろぼろに傷付いたとしても。
それでもあたしは先輩に別れを告げるつもりだった。どんなに悪い女となってしまうにしても。
先輩をメールで呼び出そう。あたしはどこか静かなところでメールするつもりで席を立った。
その時、妹友ちゃんがあたしの方を見つめているのに気がついた。あたしと目が合った妹友ちゃんは席を立った。あたしは思わず妹友ちゃんから目を逸らした。
「妹ちゃん、ちょっといい?」
近づいてきた妹友ちゃんが声をかけた。あたしは妹友ちゃんの顔を見られなかった。先輩に続いて再びあたしは妹友ちゃんの恋を邪魔することになるのだから。
あたしの中では罪悪感とお兄ちゃんが選んだのはあたしだという密かな優越感がせめぎあっていた。
「ごめん、ちょっと用があるから」
あたしは妹友ちゃんから目を逸らして呟くように話した。
「あ、そうなんだ。うん。ちょっと話があったんだけど後でいいや」
「・・・・・・話って?」
話? お兄ちゃんについての相談だろうか。
「うん。ちょっとお兄さんのことでお話があるの」
あたしは席を立った。お兄ちゃんの話なんか今できるはずがなかった。
「ごめん、用事があるから行くね」
あたしは逃げるようにして教室から出た。
13: 2012/01/29(日) 21:54:56.38 ID:EQn04HIIo
あたしが先輩に会いたいとメールすると先輩はお昼に学食で待ってると返事してきた。
昼休みが近づいてきた。あたしはこれから言わなければいけないことを考えると気が重かった。でもあそこまではっきりあたしに告白してくれたお兄ちゃんを待たせてしまったことを考えるとどんなに気が重くてもすべきことはしなくてはならなかった。
きっと友だちをなくすだろうな、あたしは思った。でもお兄ちゃんと結ばれることを考えればこの先学校でひとりぼっちになっても我慢できる。
午前中の授業が終わるとあたしはすぐに教室を出て学食に向かった。学食の入り口まで来たところで後ろから走ってきたらしい妹友ちゃんに呼び止められた。
「妹ちゃん、ちょっといい?」
妹ちゃんにあたしの正面に回りこみ立ちはだかるようにして言った。
「ごめん、妹友ちゃん。今日は先輩とお昼の約束してて」
正直あたしは今妹友ちゃんと話すのは辛かった。妹友ちゃんに辛い想いをさせるだろうという罪悪感もあったし、これから先輩に話さなければいけないことに集中したいという気持ちもあり、自然にあたしの言葉はは弱々しく歯切れの悪いものとなった。
「そんなに時間はかかんないって。5分、いいえ2分でもいいの」
それでも妹友ちゃんは微笑を浮かべながら続けた。
「どうしたの? 妹友ちゃん」
あたしは諦めて妹友ちゃんの話を聞くことにした。
「うん。あたしね、一番先に妹ちゃんに報告したくて」
え? 正直今まで全く気にしていなかったある考えが頭に浮かんだ。そして悪いことにそれは事実だった。
「あたしね、一昨日学祭でお兄さんに好きって告白したの」
「そうなの」
あたしの心はざわめいた。
「で、お兄ちゃんは何て言ったの?」
あたしはようやく妹友ちゃんの顔を見た。
「うん、お兄さんとお付き合いすることになったの。あたし、絶対振られると思ってたからびっくりしちゃって」
一瞬衝撃で何も考えられなかったあたしの中で、その恐ろしい時系列がゆっくりと姿を現してきた。
学祭で妹友ちゃんに告白され妹友ちゃんの想いに答えたお兄ちゃん。
お兄ちゃんは妹友ちゃんと付き合い出したその夜、あたしと一緒のベッドで一夜を過ごした。
その翌日、お兄ちゃんはあたしが欲しいとあたしに真剣に告白してくれた。
その全ては妹友ちゃんの「彼氏」になった後の出来事だったのだ。
あたしは必氏に自分の心を抑えて、妹友ちゃんの手を握った。
「お兄ちゃんの彼女が妹友ちゃんでよかった」
あたしは震えずしっかりと声が出せているだろうか。あたしの手は見苦しく震えていないだろうか。
「お兄ちゃんのことよろしくね」
そして妹友ちゃんの目を見つめたあたしの瞳には涙が浮かんではいないだろうか。
その時、学食の方から待たされていらいらしている先輩があたしを見つけて呼びかえる声が聞こえてきた。それはあたしにとって救いの声だった。あたしはじゃあねと言って妹友ちゃんに手をひらひら振って学食で待つ先輩の方に駆けて行った。
昼休みが近づいてきた。あたしはこれから言わなければいけないことを考えると気が重かった。でもあそこまではっきりあたしに告白してくれたお兄ちゃんを待たせてしまったことを考えるとどんなに気が重くてもすべきことはしなくてはならなかった。
きっと友だちをなくすだろうな、あたしは思った。でもお兄ちゃんと結ばれることを考えればこの先学校でひとりぼっちになっても我慢できる。
午前中の授業が終わるとあたしはすぐに教室を出て学食に向かった。学食の入り口まで来たところで後ろから走ってきたらしい妹友ちゃんに呼び止められた。
「妹ちゃん、ちょっといい?」
妹ちゃんにあたしの正面に回りこみ立ちはだかるようにして言った。
「ごめん、妹友ちゃん。今日は先輩とお昼の約束してて」
正直あたしは今妹友ちゃんと話すのは辛かった。妹友ちゃんに辛い想いをさせるだろうという罪悪感もあったし、これから先輩に話さなければいけないことに集中したいという気持ちもあり、自然にあたしの言葉はは弱々しく歯切れの悪いものとなった。
「そんなに時間はかかんないって。5分、いいえ2分でもいいの」
それでも妹友ちゃんは微笑を浮かべながら続けた。
「どうしたの? 妹友ちゃん」
あたしは諦めて妹友ちゃんの話を聞くことにした。
「うん。あたしね、一番先に妹ちゃんに報告したくて」
え? 正直今まで全く気にしていなかったある考えが頭に浮かんだ。そして悪いことにそれは事実だった。
「あたしね、一昨日学祭でお兄さんに好きって告白したの」
「そうなの」
あたしの心はざわめいた。
「で、お兄ちゃんは何て言ったの?」
あたしはようやく妹友ちゃんの顔を見た。
「うん、お兄さんとお付き合いすることになったの。あたし、絶対振られると思ってたからびっくりしちゃって」
一瞬衝撃で何も考えられなかったあたしの中で、その恐ろしい時系列がゆっくりと姿を現してきた。
学祭で妹友ちゃんに告白され妹友ちゃんの想いに答えたお兄ちゃん。
お兄ちゃんは妹友ちゃんと付き合い出したその夜、あたしと一緒のベッドで一夜を過ごした。
その翌日、お兄ちゃんはあたしが欲しいとあたしに真剣に告白してくれた。
その全ては妹友ちゃんの「彼氏」になった後の出来事だったのだ。
あたしは必氏に自分の心を抑えて、妹友ちゃんの手を握った。
「お兄ちゃんの彼女が妹友ちゃんでよかった」
あたしは震えずしっかりと声が出せているだろうか。あたしの手は見苦しく震えていないだろうか。
「お兄ちゃんのことよろしくね」
そして妹友ちゃんの目を見つめたあたしの瞳には涙が浮かんではいないだろうか。
その時、学食の方から待たされていらいらしている先輩があたしを見つけて呼びかえる声が聞こえてきた。それはあたしにとって救いの声だった。あたしはじゃあねと言って妹友ちゃんに手をひらひら振って学食で待つ先輩の方に駆けて行った。
14: 2012/01/29(日) 21:57:26.34 ID:EQn04HIIo
その日の学食であたしは予定を変え先輩とは世間話をして別れた。
先輩は少し不審そうだった。
「おまえがただお喋りしたくて俺を呼び出すなんて珍しいな」
先輩は言った。
「たまにはいいじゃん」
あたしは気軽に答えたけど心の中では絶望と怒りが黒々と胸の中に溢れていた。でもその感情をここで持ち出すわけにはいかなかった。
「まあ、おまえと会えたんだからいいや。あ、そうだ」
先輩は少し真面目な顔で話し出した。
「あのさ、俺もうすぐ受験じゃん」
「うん」
先輩の受験予定の大学は名前さえ間違わずに記入すれば合格すると学内で揶揄されていた大学だった。
「だからさ、しばらく俺受験勉強に専念するから」
「うん。頑張ってね」
「おう。つうわけでおまえともしばらく遊べないからな」
「・・・・・・そうか」
あたしはポツリと言った。本当に一人ぼっちになってしまうのかもしれない。先輩からしばらく会えないと言われて初めてあたしはどれほど先輩の存在で自分の心のバランスを取っていたかを思い知らされた。
「まあ、受験終わったら派手に遊ぼうぜ。あとさ、しばらく会えない分今晩どっか行かねえ?」
「いいよ」
あたしはすぐに答えた。
「やった。じゃあ久しぶりにボーリングでもするか」
「任せるよ。どこでもいい」
今晩はお母さんが帰ってくるのでお兄ちゃんと二人きりにはならないだろうけど、それでもお兄ちゃんと顔を合わせるのが嫌だったあたしには、先輩の誘いは好都合だった。
「じゃあ後で電話するな」
先輩と別れて教室に戻ったあたしにはもう妹友ちゃんは近づいてこなかった。妹友ちゃんは明らかにいつもよりはしゃいだ様子で友だちと何か話している。言うべきことを言い終えたのでもうあたしには用がないということなのか。
あたしは混乱する気持ちを持て余しながらそんな卑屈なことを考えていた。
先輩は少し不審そうだった。
「おまえがただお喋りしたくて俺を呼び出すなんて珍しいな」
先輩は言った。
「たまにはいいじゃん」
あたしは気軽に答えたけど心の中では絶望と怒りが黒々と胸の中に溢れていた。でもその感情をここで持ち出すわけにはいかなかった。
「まあ、おまえと会えたんだからいいや。あ、そうだ」
先輩は少し真面目な顔で話し出した。
「あのさ、俺もうすぐ受験じゃん」
「うん」
先輩の受験予定の大学は名前さえ間違わずに記入すれば合格すると学内で揶揄されていた大学だった。
「だからさ、しばらく俺受験勉強に専念するから」
「うん。頑張ってね」
「おう。つうわけでおまえともしばらく遊べないからな」
「・・・・・・そうか」
あたしはポツリと言った。本当に一人ぼっちになってしまうのかもしれない。先輩からしばらく会えないと言われて初めてあたしはどれほど先輩の存在で自分の心のバランスを取っていたかを思い知らされた。
「まあ、受験終わったら派手に遊ぼうぜ。あとさ、しばらく会えない分今晩どっか行かねえ?」
「いいよ」
あたしはすぐに答えた。
「やった。じゃあ久しぶりにボーリングでもするか」
「任せるよ。どこでもいい」
今晩はお母さんが帰ってくるのでお兄ちゃんと二人きりにはならないだろうけど、それでもお兄ちゃんと顔を合わせるのが嫌だったあたしには、先輩の誘いは好都合だった。
「じゃあ後で電話するな」
先輩と別れて教室に戻ったあたしにはもう妹友ちゃんは近づいてこなかった。妹友ちゃんは明らかにいつもよりはしゃいだ様子で友だちと何か話している。言うべきことを言い終えたのでもうあたしには用がないということなのか。
あたしは混乱する気持ちを持て余しながらそんな卑屈なことを考えていた。
15: 2012/01/29(日) 22:02:24.58 ID:EQn04HIIo
あたしは下校途中、ずっと同じ考えをぐるぐると心の中で弄んでいた。
妹友ちゃんがお兄ちゃんに片想いしているだけならあたしは遠慮しなかったろう。先輩の時の酷い仕打ちを妹友ちゃんに繰り返すことになったとしてもあたしを求めてくれたお兄ちゃんを諦めることはできなかっただろう。
でもお兄ちゃんは妹友ちゃんの恋を受け入れた。この段階ではもうあたしには妹友ちゃんの高校になって初めて成就した恋愛を邪魔することはできかった。というより相思相愛ならその二人の邪魔なんてしようと思ってもする手段などなかった。
そして、それ以上にあたしはお兄ちゃんのあたしへの求愛の言葉を疑うようになっていた。妹友ちゃんと恋人同士になったその夜にあたしの体を求めたお兄ちゃん。確かに先に誘惑したのはあたしの方かもしれないけど、恋人ができたその夜に他の女の体を愛撫するお兄ちゃんはあたしの理解の範疇を超えていた。そう、あたしはさっきまで恋焦がれていたお兄ちゃんに対して嫌悪感すら感じていたのだ。
携帯の着信音があたしの混乱した思考を邪魔してくれた。携帯の画面はメールの受信を知らせていた。あたしはメールを開いた。
お母さんからで今日も帰れないという連絡だった。最悪だ。先輩と約束があって本当によかったとあたしは考えた。
あたしが帰宅した時、お兄ちゃんはまだ帰っていなかった。どうせならお兄ちゃんが帰って来る前に着替えて出かけてしまおう。
でも、あたしは身支度をして玄関ホールまで出たところで帰宅したお兄ちゃんと出くわした。
あたしを見て急に笑顔になるお兄ちゃん。嫌悪感を感じていたはずのその人の笑顔は再びあたしを混乱させた。このまま何も知らない振りをしてお兄ちゃんに抱きつけたら幸せになれるのだろうか。
だめ。もう何も考えちゃだめ。あたしは必氏で自分に言い聞かせた。
「ただいま」
お兄ちゃんがあたしに言った。
あたしは必氏になって冷静で事務的な声で言った。
「お母さんたち、今日遅くなるって。電話のとこにお金置いてあるからそれで適当に夕食すませてだって」
「どうする?」
お兄ちゃんが呑気にあたしに聞いた。
「何が?」
あたしは冷たく答えた。
「何がって、夕食どうすんだ? ファミレスでも行く?」
「あたしは彼氏とでかけるから。お兄ちゃんは好きなようにして」
あたしは「彼氏」のところを強調して言った。
「・・・・・・おまえ、あいつとは夜でかけるのやめたんじゃなかった?」
お兄ちゃんは困惑したようだった。
「今夜は俺の部屋に来ないのか」
お兄ちゃんは続けた。
「行かない」
その時あたしの携帯の着信音がが鳴リ響いた。
妹友ちゃんがお兄ちゃんに片想いしているだけならあたしは遠慮しなかったろう。先輩の時の酷い仕打ちを妹友ちゃんに繰り返すことになったとしてもあたしを求めてくれたお兄ちゃんを諦めることはできなかっただろう。
でもお兄ちゃんは妹友ちゃんの恋を受け入れた。この段階ではもうあたしには妹友ちゃんの高校になって初めて成就した恋愛を邪魔することはできかった。というより相思相愛ならその二人の邪魔なんてしようと思ってもする手段などなかった。
そして、それ以上にあたしはお兄ちゃんのあたしへの求愛の言葉を疑うようになっていた。妹友ちゃんと恋人同士になったその夜にあたしの体を求めたお兄ちゃん。確かに先に誘惑したのはあたしの方かもしれないけど、恋人ができたその夜に他の女の体を愛撫するお兄ちゃんはあたしの理解の範疇を超えていた。そう、あたしはさっきまで恋焦がれていたお兄ちゃんに対して嫌悪感すら感じていたのだ。
携帯の着信音があたしの混乱した思考を邪魔してくれた。携帯の画面はメールの受信を知らせていた。あたしはメールを開いた。
お母さんからで今日も帰れないという連絡だった。最悪だ。先輩と約束があって本当によかったとあたしは考えた。
あたしが帰宅した時、お兄ちゃんはまだ帰っていなかった。どうせならお兄ちゃんが帰って来る前に着替えて出かけてしまおう。
でも、あたしは身支度をして玄関ホールまで出たところで帰宅したお兄ちゃんと出くわした。
あたしを見て急に笑顔になるお兄ちゃん。嫌悪感を感じていたはずのその人の笑顔は再びあたしを混乱させた。このまま何も知らない振りをしてお兄ちゃんに抱きつけたら幸せになれるのだろうか。
だめ。もう何も考えちゃだめ。あたしは必氏で自分に言い聞かせた。
「ただいま」
お兄ちゃんがあたしに言った。
あたしは必氏になって冷静で事務的な声で言った。
「お母さんたち、今日遅くなるって。電話のとこにお金置いてあるからそれで適当に夕食すませてだって」
「どうする?」
お兄ちゃんが呑気にあたしに聞いた。
「何が?」
あたしは冷たく答えた。
「何がって、夕食どうすんだ? ファミレスでも行く?」
「あたしは彼氏とでかけるから。お兄ちゃんは好きなようにして」
あたしは「彼氏」のところを強調して言った。
「・・・・・・おまえ、あいつとは夜でかけるのやめたんじゃなかった?」
お兄ちゃんは困惑したようだった。
「今夜は俺の部屋に来ないのか」
お兄ちゃんは続けた。
「行かない」
その時あたしの携帯の着信音がが鳴リ響いた。
16: 2012/01/29(日) 22:13:14.85 ID:EQn04HIIo
「はい。ああ、あたし。」
あたしは先輩に答えた。なるべく優しい甘えるような声で。
「わかってる、着替えたらすぐ出かけるから。いつものカラオケだよね?」
「じゃ、あとでね」
あたしは携帯を切った。
「あいつから?」
「お兄ちゃんが聞いた。
「少し出かけるから。お母さんには黙ってて」
「何で」
お兄ちゃんの声は今では震えていた。
あたしはお兄ちゃんの心を乱している。悪いのはお兄ちゃんだと思いながらもあたしの心は痛んだ。
「何でだよ! 俺のこと嫌いになったのかよ」
お兄ちゃんはきなりあたしの腕を掴んだ。
「・・・・・・別に。腕痛いよ、離して」
「待ってろっておまえが言うから待ってるんだぞ。それなのに何であいつと会いに夜出かけたりされなきゃいけねえんだよ」
「・・・・・・そうだね」
「・・・・・何だよ」
「これ以上は妹友ちゃんに悪いから」
あたしはついにその言葉を口にした。
「あ・・・・・・」
お兄ちゃんは呆然としてあたしの腕を放した。
「だからもうおしまいなの」
「ちょっと待ってくれ。話を聞いてくれよ」
「聞かない」
もう何も聞きたくない。あたしは必氏でお兄ちゃんの言い訳を遮った。
「俺、おまえへの気持ちに気がつく前に妹友ちゃんに告白されて、それで」
お兄ちゃんは構わず話を続けた。
「・・・・・・付き合ってるんでしょ? 妹友ちゃんと」
あたしは静かに聞いた。
「いや、付き合っているっていうか」
「妹友ちゃんは親友なの」
「だ、だから聞けって」
「聞かない。あと、妹友ちゃんを傷つけたらお兄ちゃんのこと許さない」
「妹・・・・・・」
「出かけてくるね。お母さんに言いつけたかったら言いつけてもいいから」
立ちすくんでいるお兄ちゃんの横を通り過ぎあたしは家の外に出た。その間お兄ちゃんを見ないようにして。
あたしは先輩に答えた。なるべく優しい甘えるような声で。
「わかってる、着替えたらすぐ出かけるから。いつものカラオケだよね?」
「じゃ、あとでね」
あたしは携帯を切った。
「あいつから?」
「お兄ちゃんが聞いた。
「少し出かけるから。お母さんには黙ってて」
「何で」
お兄ちゃんの声は今では震えていた。
あたしはお兄ちゃんの心を乱している。悪いのはお兄ちゃんだと思いながらもあたしの心は痛んだ。
「何でだよ! 俺のこと嫌いになったのかよ」
お兄ちゃんはきなりあたしの腕を掴んだ。
「・・・・・・別に。腕痛いよ、離して」
「待ってろっておまえが言うから待ってるんだぞ。それなのに何であいつと会いに夜出かけたりされなきゃいけねえんだよ」
「・・・・・・そうだね」
「・・・・・何だよ」
「これ以上は妹友ちゃんに悪いから」
あたしはついにその言葉を口にした。
「あ・・・・・・」
お兄ちゃんは呆然としてあたしの腕を放した。
「だからもうおしまいなの」
「ちょっと待ってくれ。話を聞いてくれよ」
「聞かない」
もう何も聞きたくない。あたしは必氏でお兄ちゃんの言い訳を遮った。
「俺、おまえへの気持ちに気がつく前に妹友ちゃんに告白されて、それで」
お兄ちゃんは構わず話を続けた。
「・・・・・・付き合ってるんでしょ? 妹友ちゃんと」
あたしは静かに聞いた。
「いや、付き合っているっていうか」
「妹友ちゃんは親友なの」
「だ、だから聞けって」
「聞かない。あと、妹友ちゃんを傷つけたらお兄ちゃんのこと許さない」
「妹・・・・・・」
「出かけてくるね。お母さんに言いつけたかったら言いつけてもいいから」
立ちすくんでいるお兄ちゃんの横を通り過ぎあたしは家の外に出た。その間お兄ちゃんを見ないようにして。
17: 2012/01/29(日) 22:15:57.62 ID:EQn04HIIo
それからしばらくしてお兄ちゃんは大学の近くにアパートを探して家を出て行った。
両親が留守がちな家にあたし一人残ることになるので、お母さんは大分お兄ちゃんの一人暮らしに反対したようだったけど、最後にはお兄ちゃんに折れた形となって決着がついた。
それから当然だけどお兄ちゃんは全く実家に戻らないようになった。
そして、先輩も受験を目前にしてあたしとは会わないようになった。「妹断ち」って先輩は言ってたっけ。
それよりあたしにとって大きかったのは両親の仕事が年末でこれまで以上に多忙になり、今ではほとんど家に帰って来なくなったことだった。
今ではあたしは一人ぼっち。
学校では妹友ちゃんとあたしはどちらからともなく距離を置くようになっていた。それにあたしは何となくこれまで一緒に行動していたグループから距離を置くようになっていたから、今やあたしは学校でも一人ぼっちだった。それはあんまり社交的ではないあたしにはそれほど気にならならなかったけど、夜自宅でも誰とも会話できないのは相当こたえた。
お兄ちゃんがいないのは仕方ないけど、お母さんともお父さんとも全く会えない日々が続いたのだ。これではまるであたしがひとり暮らししているみたいだ。
お兄ちゃんが下宿する時お母さんはお兄ちゃんへの仕送り用の口座を開設したけど、ついでにあたし用の口座も開設してくれた。家に帰れないので電話のところに生活費を置くことさえできなくなったのだ。
ひどい時には学校で全く誰とも会話をせず、家に帰っても言葉を出さない日々が続いていた。
先輩でもお兄ちゃんでも誰でもいいから話をしたい。気が弱くなった時にそう考えて携帯のメモリーを呼び出すことは何度もしたけど、そのたびに電話することは思いとどまっていた。
年が明ければお母さんたちも家に帰ってくれるだろう。一時に寂しさに気を迷わせちゃだめ。あたしは自分にそう言い聞かせた。
そんなある日、あたしは久しぶりに委員長ちゃんに話しかけられた。
両親が留守がちな家にあたし一人残ることになるので、お母さんは大分お兄ちゃんの一人暮らしに反対したようだったけど、最後にはお兄ちゃんに折れた形となって決着がついた。
それから当然だけどお兄ちゃんは全く実家に戻らないようになった。
そして、先輩も受験を目前にしてあたしとは会わないようになった。「妹断ち」って先輩は言ってたっけ。
それよりあたしにとって大きかったのは両親の仕事が年末でこれまで以上に多忙になり、今ではほとんど家に帰って来なくなったことだった。
今ではあたしは一人ぼっち。
学校では妹友ちゃんとあたしはどちらからともなく距離を置くようになっていた。それにあたしは何となくこれまで一緒に行動していたグループから距離を置くようになっていたから、今やあたしは学校でも一人ぼっちだった。それはあんまり社交的ではないあたしにはそれほど気にならならなかったけど、夜自宅でも誰とも会話できないのは相当こたえた。
お兄ちゃんがいないのは仕方ないけど、お母さんともお父さんとも全く会えない日々が続いたのだ。これではまるであたしがひとり暮らししているみたいだ。
お兄ちゃんが下宿する時お母さんはお兄ちゃんへの仕送り用の口座を開設したけど、ついでにあたし用の口座も開設してくれた。家に帰れないので電話のところに生活費を置くことさえできなくなったのだ。
ひどい時には学校で全く誰とも会話をせず、家に帰っても言葉を出さない日々が続いていた。
先輩でもお兄ちゃんでも誰でもいいから話をしたい。気が弱くなった時にそう考えて携帯のメモリーを呼び出すことは何度もしたけど、そのたびに電話することは思いとどまっていた。
年が明ければお母さんたちも家に帰ってくれるだろう。一時に寂しさに気を迷わせちゃだめ。あたしは自分にそう言い聞かせた。
そんなある日、あたしは久しぶりに委員長ちゃんに話しかけられた。
35: 2012/01/30(月) 23:26:01.09 ID:eVa5ekcTo
クリスマスイヴの晩、あたしは久しぶりに先輩と会った。
受験が終わるまで試験勉強に専念しあたしとも会わないと宣言した先輩だけど、前日に急に電話して来てイヴだし食事くらいしないかと誘われたのだった。
普段のあたしならそんなことしている場合じゃないでしょ、くらいのことは言って先輩をたしなめたと思うけど、その時のあたしはイヴの夜に一人で自宅でテレビを見て過ごすのが怖かった。最近学校では委員長ちゃんが声をかけてくれ行動を共にしてくれているせいで、一時期ほど孤独ではなくなっていたあたしだけど、帰宅後、家で一人きりなのは相変わらずだった。
夜一人で時間を過ごすことにはだいぶ慣れてきたあたしだったけど、さすがに華やかなイルミネーションで飾られた街を一人で帰宅しイヴの夜を一人きりでテレビを見て過ごすのは嫌だったのだ。お兄ちゃんがいなくなってからはファミレスに行くこともなくなっていたので、食事もコンビニか近所のおそば屋さんの出前になるだろうし。
もといたグループの中でも特定の相手がいない子たちはクリスマスパーティを企画しているようだったけど、もうあたしに声がかかることはなかった。また、最近あたしが仲良くしている委員長ちゃんのグループの子たちはイヴに遊ぶという発想自体がないみたいで、それぞれの家族が待つ家にさっさと帰ってしまった。きっと両親や兄弟が揃った自宅でケーキを囲むのだろう。
お兄ちゃんとあのまま関係が続いていたらどういうイヴがあたしを待っていたのだろう。考えても無益なことだと思いながらもあたしはイヴが近づくにつれ何回かお兄ちゃんと過ごしているイヴを想像した。きっとお兄ちゃんはあたしを外に連れ出したがるだろうから予約したレストランで食事をしたかもしれない。一方あたしは始めてのイヴはお兄ちゃんと二人きりがいいと思っていたから外でデートしたがるお兄ちゃんにお願いして、両親不在の自宅で二人きりのパーティーをしていただろう。もちろんあたしの手作りの料理を囲んで。
そういう妄想も最後にはむなしくなって考えるのを止めてしまった。そしてその後にあたしの脳裏を訪れるのは兄ちゃんは今年のイブをどういう風に過ごすのだろうという疑問だった。もちろん答えはわかっていたんだけど。あのグループの今年のイヴのパーティーには妹友ちゃんの姿はないだろう。そして他の女の子たちは妹友ちゃんが今誰と過ごしているのかという噂に興じるのだ。
そういう無意味で消耗するだけだけの思考から開放された後に残っているのは、あたしはイヴを一人きりでコンビニのお弁当を食べながらテレビを見て過ごすのだという現実だけだった。
そういうわけであたしは先輩の誘いをいそいそと二つ返事で受けたのだった。
受験が終わるまで試験勉強に専念しあたしとも会わないと宣言した先輩だけど、前日に急に電話して来てイヴだし食事くらいしないかと誘われたのだった。
普段のあたしならそんなことしている場合じゃないでしょ、くらいのことは言って先輩をたしなめたと思うけど、その時のあたしはイヴの夜に一人で自宅でテレビを見て過ごすのが怖かった。最近学校では委員長ちゃんが声をかけてくれ行動を共にしてくれているせいで、一時期ほど孤独ではなくなっていたあたしだけど、帰宅後、家で一人きりなのは相変わらずだった。
夜一人で時間を過ごすことにはだいぶ慣れてきたあたしだったけど、さすがに華やかなイルミネーションで飾られた街を一人で帰宅しイヴの夜を一人きりでテレビを見て過ごすのは嫌だったのだ。お兄ちゃんがいなくなってからはファミレスに行くこともなくなっていたので、食事もコンビニか近所のおそば屋さんの出前になるだろうし。
もといたグループの中でも特定の相手がいない子たちはクリスマスパーティを企画しているようだったけど、もうあたしに声がかかることはなかった。また、最近あたしが仲良くしている委員長ちゃんのグループの子たちはイヴに遊ぶという発想自体がないみたいで、それぞれの家族が待つ家にさっさと帰ってしまった。きっと両親や兄弟が揃った自宅でケーキを囲むのだろう。
お兄ちゃんとあのまま関係が続いていたらどういうイヴがあたしを待っていたのだろう。考えても無益なことだと思いながらもあたしはイヴが近づくにつれ何回かお兄ちゃんと過ごしているイヴを想像した。きっとお兄ちゃんはあたしを外に連れ出したがるだろうから予約したレストランで食事をしたかもしれない。一方あたしは始めてのイヴはお兄ちゃんと二人きりがいいと思っていたから外でデートしたがるお兄ちゃんにお願いして、両親不在の自宅で二人きりのパーティーをしていただろう。もちろんあたしの手作りの料理を囲んで。
そういう妄想も最後にはむなしくなって考えるのを止めてしまった。そしてその後にあたしの脳裏を訪れるのは兄ちゃんは今年のイブをどういう風に過ごすのだろうという疑問だった。もちろん答えはわかっていたんだけど。あのグループの今年のイヴのパーティーには妹友ちゃんの姿はないだろう。そして他の女の子たちは妹友ちゃんが今誰と過ごしているのかという噂に興じるのだ。
そういう無意味で消耗するだけだけの思考から開放された後に残っているのは、あたしはイヴを一人きりでコンビニのお弁当を食べながらテレビを見て過ごすのだという現実だけだった。
そういうわけであたしは先輩の誘いをいそいそと二つ返事で受けたのだった。
36: 2012/01/30(月) 23:30:23.70 ID:eVa5ekcTo
待ち合わせ場所に行く途中、とりあえずあたしは先輩へのプレゼントを買った。急に今日のデートが決まったために吟味する時間もなく選んだプレゼントは受験勉強に励んでいる先輩のための外国の老舗ブランドのシャープペンシルだった。無難と言えば無難な品物だった。
あたしは先輩と待ち合わせしている駅前広場の方に足を早めた。夜に人と会うこと自体久しぶりだったし、イヴに久しぶりにお洒落して外出できたのも望外の喜びだった。あたしが先輩と会うのをこんなに楽しみにしているのは付き合い出してから初めてだったかもしれない。
先輩とのデートを楽しみにしている反面、先輩に対する罪悪感もあった。この間、先輩を学食に呼び出したのは先輩と別れるためだった。結果としてあたしが別れを切り出さなかったのはお兄ちゃんが妹友ちゃんの告白を受け入れたことを知り、とっさにもうお兄ちゃんとの関係を終わらせようと決めたからだ。先輩と別れようとしたのも、それを思い直して先輩と別れないことにしたのも全てあたしの都合だった。そして今、一人きりで寂しいあたしは再び先輩によって救われようとしている。
都合のいい考え方かもしれないけど、これからは先輩をもっと大切にしようとあたしは考えた。お兄ちゃんが妹友ちゃんと本当に相思相愛ならお兄ちゃんのことは忘れないといけない。
正直に言うとこの頃には、妹友ちゃんの話を聞いた後のお兄ちゃんへの嫌悪感は時間が経つにつれ少しづつ薄れてきていた。お兄ちゃんも自分の気持ちに気がつかなかったということもあり得るだろう。あの時お兄ちゃんの言い訳を聞いていたらどうなっていただろうか。寂びしかったせいもあってそういうことをテレビを眺めながら考えたことは一度や二度ではなかった。でも最後にはいつもあたしには妹友ちゃんの恋を邪魔する権利はないという結論に至るのだった。先輩を諦めてからは他の男の子に少しも関心を抱けなかった妹友ちゃんがようやく好きになった人はあたしのお兄ちゃんなのだから。あたしにはその恋を邪魔する権利はないのだ。
これからは先輩のことをもっと真剣に見詰めよう。再びあたしはそう思った。自分に都合のいい考え方だったけど、先輩もあたしのことが好きなら何となく先輩とあたしには新しいスタートが、もっと本音で親密に語リあえる関係へのスタートが準備されているような気がした。
あたしは先輩と待ち合わせしている駅前広場の方に足を早めた。夜に人と会うこと自体久しぶりだったし、イヴに久しぶりにお洒落して外出できたのも望外の喜びだった。あたしが先輩と会うのをこんなに楽しみにしているのは付き合い出してから初めてだったかもしれない。
先輩とのデートを楽しみにしている反面、先輩に対する罪悪感もあった。この間、先輩を学食に呼び出したのは先輩と別れるためだった。結果としてあたしが別れを切り出さなかったのはお兄ちゃんが妹友ちゃんの告白を受け入れたことを知り、とっさにもうお兄ちゃんとの関係を終わらせようと決めたからだ。先輩と別れようとしたのも、それを思い直して先輩と別れないことにしたのも全てあたしの都合だった。そして今、一人きりで寂しいあたしは再び先輩によって救われようとしている。
都合のいい考え方かもしれないけど、これからは先輩をもっと大切にしようとあたしは考えた。お兄ちゃんが妹友ちゃんと本当に相思相愛ならお兄ちゃんのことは忘れないといけない。
正直に言うとこの頃には、妹友ちゃんの話を聞いた後のお兄ちゃんへの嫌悪感は時間が経つにつれ少しづつ薄れてきていた。お兄ちゃんも自分の気持ちに気がつかなかったということもあり得るだろう。あの時お兄ちゃんの言い訳を聞いていたらどうなっていただろうか。寂びしかったせいもあってそういうことをテレビを眺めながら考えたことは一度や二度ではなかった。でも最後にはいつもあたしには妹友ちゃんの恋を邪魔する権利はないという結論に至るのだった。先輩を諦めてからは他の男の子に少しも関心を抱けなかった妹友ちゃんがようやく好きになった人はあたしのお兄ちゃんなのだから。あたしにはその恋を邪魔する権利はないのだ。
これからは先輩のことをもっと真剣に見詰めよう。再びあたしはそう思った。自分に都合のいい考え方だったけど、先輩もあたしのことが好きなら何となく先輩とあたしには新しいスタートが、もっと本音で親密に語リあえる関係へのスタートが準備されているような気がした。
37: 2012/01/30(月) 23:33:03.13 ID:eVa5ekcTo
先輩が予約してくれた小さなビストロは高校生同士のカップルが入るには敷居が高い場所だったけど、先輩は気臆した様子もなく堂々とあたしをエスコートしてくれた。部活とは別に小さい頃から通っている空手道場で、一緒に学んでいる人がオーナーシェフの店だそうだ。あたしは少し先輩を見直した。先輩にはまだあたしに見せていない部分があるのだった。
お兄ちゃんだったらこういうお店にあたしを連れて行こうという発想はなかったろうな。柔らかな間接照明に照らされた店内で、テーブルにキャンドルが置かれた席に座りながらたしは考えた。せいぜい頑張っても駅中とか集合ビル内のレストランを予約する程度だろう。でも何でこんな時にお兄ちゃんのことを考えるのだろう。あたしはその想いを頭から振り払った。
「今日は家帰って勉強しなきゃいけないから酒は抜きだな」
先輩はそう言った。今まで好きにさせていた先輩の飲酒だけど、これからはこういうところもあたしが管理しなきゃいけないな。あたしはぼんやリと考えた。とにかく未成年なんだし。
こういうことを先輩に対して考えること自体が初めてで新鮮だった。
料理はコースで予約してあるということでメニューを開く必要はなかった。
ノンアルコールのソフトドリンクで乾杯したあと、しばらくは先輩の勉強に対する愚痴が続いた。あたしは微笑んでその話を聞いていた。
少なくとも今夜のあたしは孤独でもなく寂しくもなかった。
コースもメインが終わる頃、突然先輩がこれまでと違う真面目な表情になった。プレゼントかな。何となくあたしは考えて自分が用意したプレゼントが見劣りしないといいななんて考えていたその時だった。
お兄ちゃんだったらこういうお店にあたしを連れて行こうという発想はなかったろうな。柔らかな間接照明に照らされた店内で、テーブルにキャンドルが置かれた席に座りながらたしは考えた。せいぜい頑張っても駅中とか集合ビル内のレストランを予約する程度だろう。でも何でこんな時にお兄ちゃんのことを考えるのだろう。あたしはその想いを頭から振り払った。
「今日は家帰って勉強しなきゃいけないから酒は抜きだな」
先輩はそう言った。今まで好きにさせていた先輩の飲酒だけど、これからはこういうところもあたしが管理しなきゃいけないな。あたしはぼんやリと考えた。とにかく未成年なんだし。
こういうことを先輩に対して考えること自体が初めてで新鮮だった。
料理はコースで予約してあるということでメニューを開く必要はなかった。
ノンアルコールのソフトドリンクで乾杯したあと、しばらくは先輩の勉強に対する愚痴が続いた。あたしは微笑んでその話を聞いていた。
少なくとも今夜のあたしは孤独でもなく寂しくもなかった。
コースもメインが終わる頃、突然先輩がこれまでと違う真面目な表情になった。プレゼントかな。何となくあたしは考えて自分が用意したプレゼントが見劣りしないといいななんて考えていたその時だった。
38: 2012/01/30(月) 23:37:37.79 ID:eVa5ekcTo
「あのさ」
先輩が真面目な表情で言った。
「今日で俺たち別れようぜ」
一瞬何の話か理解できないままあたしは凍りついた。そのまま頭の中が真っ白になったあたしに先輩の言葉が続いた。
「もうこれ以上付き合っていてもお互い疲れるだけだしさ」
これは何かの冗談なのだろうか。あたしは先輩との仲を修復しようと決めたばかりなのに。
これは何かの誤解なのだろうか。あたしはお兄ちゃんと破局したばかりなのに。
「おまえを責めるつもりはねえよ」
先輩は淡々と続けた。
「俺だって正直浮気みたいなこともしたことあるしさ。でも俺のは本当に浮気だったんだけど」
でもよ、先輩は言った。
「おまえはさ、兄貴のこと本気で好きだろ? 男として」
あたしはここまで先輩の言葉に一言も反論できなかった。これまで先輩が我慢してくれていた方が不思議なのだ。それなのにあたしはそういう先輩に一方的に甘えてきたのだから。
そしてようやく働き出した頭の中では今先輩が話した言葉がぐるぐると回っていた。
『おまえ、兄貴のこと本気で好きだろ? 男として』
そうだ。先輩の話を聞いてようやくはっきりとわかった自分の感情。
今まで感じていた寂しさや喪失感は学校で仲の良い友だちがいないとか、自宅で家族がいないから感じていたのではなかったのだ。
あたしはお兄ちゃんのことを今でも求めている。あたしの感じていた寂寥感や喪失感はお兄ちゃんを失ったからなのだ。
あたしはまだお兄ちゃんを、妹友ちゃんの愛を受けとめたその夜にあたしの体を弄んだひどい男のことを、あたしの実のお兄ちゃんのことをまだ男性として好きなのだ。
「俺さ。今でもおまえが好きなんだぜ、これは本当」
先輩は続けた。
「だけどおまえの一番は兄貴じゃん? 俺最初は二番目でもいいやって思ってた。実の兄貴なんだからおまえらが結ばれるわけねえやって。そのうちおまえも俺のところに来てくれるって」
「おまえ一途だもんな。これ以上そういうおまえを見てる俺のほうが辛くなっちゃってな」
先輩はいつもとはまるで別人のようにあたしに優しい目を向けた。
「だから別れてやるよ。そんでどうしても兄貴との関係がうまく行かなくて、辛くてどうしようもなくなったらまた俺に電話して来い」
先輩は笑った。
「そしたらいつでも、他に女がいてもおまえのところに行ってやるから」
先輩が真面目な表情で言った。
「今日で俺たち別れようぜ」
一瞬何の話か理解できないままあたしは凍りついた。そのまま頭の中が真っ白になったあたしに先輩の言葉が続いた。
「もうこれ以上付き合っていてもお互い疲れるだけだしさ」
これは何かの冗談なのだろうか。あたしは先輩との仲を修復しようと決めたばかりなのに。
これは何かの誤解なのだろうか。あたしはお兄ちゃんと破局したばかりなのに。
「おまえを責めるつもりはねえよ」
先輩は淡々と続けた。
「俺だって正直浮気みたいなこともしたことあるしさ。でも俺のは本当に浮気だったんだけど」
でもよ、先輩は言った。
「おまえはさ、兄貴のこと本気で好きだろ? 男として」
あたしはここまで先輩の言葉に一言も反論できなかった。これまで先輩が我慢してくれていた方が不思議なのだ。それなのにあたしはそういう先輩に一方的に甘えてきたのだから。
そしてようやく働き出した頭の中では今先輩が話した言葉がぐるぐると回っていた。
『おまえ、兄貴のこと本気で好きだろ? 男として』
そうだ。先輩の話を聞いてようやくはっきりとわかった自分の感情。
今まで感じていた寂しさや喪失感は学校で仲の良い友だちがいないとか、自宅で家族がいないから感じていたのではなかったのだ。
あたしはお兄ちゃんのことを今でも求めている。あたしの感じていた寂寥感や喪失感はお兄ちゃんを失ったからなのだ。
あたしはまだお兄ちゃんを、妹友ちゃんの愛を受けとめたその夜にあたしの体を弄んだひどい男のことを、あたしの実のお兄ちゃんのことをまだ男性として好きなのだ。
「俺さ。今でもおまえが好きなんだぜ、これは本当」
先輩は続けた。
「だけどおまえの一番は兄貴じゃん? 俺最初は二番目でもいいやって思ってた。実の兄貴なんだからおまえらが結ばれるわけねえやって。そのうちおまえも俺のところに来てくれるって」
「おまえ一途だもんな。これ以上そういうおまえを見てる俺のほうが辛くなっちゃってな」
先輩はいつもとはまるで別人のようにあたしに優しい目を向けた。
「だから別れてやるよ。そんでどうしても兄貴との関係がうまく行かなくて、辛くてどうしようもなくなったらまた俺に電話して来い」
先輩は笑った。
「そしたらいつでも、他に女がいてもおまえのところに行ってやるから」
39: 2012/01/30(月) 23:39:21.68 ID:eVa5ekcTo
あたしはその頃にはもう涙を浮かべていた。今更自分がまだお兄ちゃんを好きなことに気がついてもどうしようもない。お兄ちゃんと妹友ちゃんは今も一緒にイヴを過ごしている。
でも、先輩をこれ以上悩ませ傷つけるわけにはいかなかった。たとえあたしが本当に一人ぼっちになってしまうとしても。
「ごめんなさい」
あたしは先輩に言った。
「これまで本当にごめんなさい」
あたしは泣きながら繰り返した。
「泣くなよ。おまえのために別れてやるのに泣かれたら別れる意味がねえじゃんか」
先輩があたしの頭を撫でた。こういうコミュニケーションは初めてだった。そしてこれが最後でもあったのだ。
その時、まだ泣いてはいたけどだいぶ落ち着いてきたあたしの脳裏にふと一つの光景が浮かんだ。これを言ってもいいのかわからないけど、今ではあたしにとって大切な友だちのことでもあった。
「先輩?」
「うん」
先輩はまた微笑んでくれた。
こういう場で聞くことではなかったかもしれないけど、あたしの脳裏には学園祭の後夜祭で委員長ちゃんが先輩に寄り添うように立っていた光景が浮かんでいた。
「先輩、委員長ちゃんのことどう思う?」
「委員長? どうって言われても」
先輩は少し驚いたように言った。
あたしが次の言葉を出そうとした時、あたしの携帯が鳴った。
でも、先輩をこれ以上悩ませ傷つけるわけにはいかなかった。たとえあたしが本当に一人ぼっちになってしまうとしても。
「ごめんなさい」
あたしは先輩に言った。
「これまで本当にごめんなさい」
あたしは泣きながら繰り返した。
「泣くなよ。おまえのために別れてやるのに泣かれたら別れる意味がねえじゃんか」
先輩があたしの頭を撫でた。こういうコミュニケーションは初めてだった。そしてこれが最後でもあったのだ。
その時、まだ泣いてはいたけどだいぶ落ち着いてきたあたしの脳裏にふと一つの光景が浮かんだ。これを言ってもいいのかわからないけど、今ではあたしにとって大切な友だちのことでもあった。
「先輩?」
「うん」
先輩はまた微笑んでくれた。
こういう場で聞くことではなかったかもしれないけど、あたしの脳裏には学園祭の後夜祭で委員長ちゃんが先輩に寄り添うように立っていた光景が浮かんでいた。
「先輩、委員長ちゃんのことどう思う?」
「委員長? どうって言われても」
先輩は少し驚いたように言った。
あたしが次の言葉を出そうとした時、あたしの携帯が鳴った。
40: 2012/01/30(月) 23:42:40.84 ID:eVa5ekcTo
妹友ちゃんからの着信だった。いったいどうしてこのタイミングで電話なんてかけてきたんだろう。
でも出ないでいられるほどあたしは強い人間ではなかった。イブの夜の妹友ちゃんの電話に出なかったら、その後徹夜で何の用だったか悩むことになるだろう。妹友ちゃんはこの瞬間もお兄ちゃんと二人で過ごしているはずだった。
「ちょっとごめんね」
あたしは先輩に断って電話に出た。先輩があたしの顔をじっと見つめているのを感じながら。
『あ、ごめんね。イヴで楽しんでる最中に。あたし、妹友だよ』
妹友ちゃんが電話のむこうで妙に冷静な口調で話した。
「どうしたの? 妹友ちゃん」
とりあえずあたしは聞いた。
『先輩と一緒だった?』
「う、うん」
『そうか。先輩と仲良くやってるんだ・・・・・・』
意味深な妹友ちゃんの言葉があたしに届く。いったい何のために電話してきたのだろう。先輩をあたしに盗られた嫌がらせ? それともお兄ちゃんと二人で過ごしている自慢?
「・・・・・・妹友ちゃんは? 今お兄ちゃんと一緒なの?」
冷静に聞いたつもりだったけどあたしの声は少し震えていた。
『あ、うん。お兄さんの部屋に二人でいるとこ。でさ・・・・・・妹ちゃん?』
妹友ちゃんはそれが当然だというようにあっさりと言った。あたしはその言葉に沈黙した。
『妹ちゃん、どうした? 急に黙っちゃって』
「何でもないよ」
あたしはかすれた声でかろうじて返事をした。
『・・・・・大丈夫? うん、そか。よかった』
そして。妹友ちゃんは続けた。
『すごく言いづらいんだけど、口裏合わせてもらえないかな?』
ここまで直接的な話をイブの晩に聞かされるとは思っていなかった。あたしは再びパニックに陥った。
「な、何言ってるのかわからないよ」
あたしは弱々しい声で答えた。
『だから、今説明するって。そのさ。ちょっと頼みづらいんだけど。今日は、妹ちゃんの家でお泊りパーティーしてたことにしてくれないかな』
妹友ちゃんは落ち着いて話を続けた。
「・・・・・・したことにって。妹友ちゃんのお母さんに対してってこと?」
あたしは尋ねた。
『あ、うん。うちの親って必ず先方のお家にお礼言わないとって名目で確認するから』
「・・・・・・妹友ちゃん、本気なの」
あたしは思わず反論するように聞いた。
『何でそんなこと聞くの?』
妹友ちゃんは相変わらず落ちついていた。
「妹友ちゃん・・・・・・本当にあたしのお兄ちゃんのこと好きなんでしょうね?」
それはまるで敗者の精一杯の嫌がらせのような言葉だった。
『うん・・・・・・本当にお兄さんのこと大好きだよ。だから今日はお兄さんのアパートに泊まりたいの』
妹友ちゃんのその言葉にあたしは更に追い討ちをかけられた。
もう本当に終わりだ。お兄ちゃんとも先輩とも。そしてあたしは一人ぼっちなのだ。イヴの夜なのに。
・・・・・・あたしは結局は妹友の親から電話があった場合に口裏を合わせることを了解した。そしてそのためには先輩との最後のデートもこれで終わらせて家に帰らなくてはならなかった。
いつ妹友ちゃんのお母さんから家に電話があるかもしれないから。
「大丈夫か?」
先輩が心配そうにあたしの方を見た。
帰宅したあたしは結局先輩に渡せなかった綺麗に包装されたプレゼントをごみ箱に捨てた。
でも出ないでいられるほどあたしは強い人間ではなかった。イブの夜の妹友ちゃんの電話に出なかったら、その後徹夜で何の用だったか悩むことになるだろう。妹友ちゃんはこの瞬間もお兄ちゃんと二人で過ごしているはずだった。
「ちょっとごめんね」
あたしは先輩に断って電話に出た。先輩があたしの顔をじっと見つめているのを感じながら。
『あ、ごめんね。イヴで楽しんでる最中に。あたし、妹友だよ』
妹友ちゃんが電話のむこうで妙に冷静な口調で話した。
「どうしたの? 妹友ちゃん」
とりあえずあたしは聞いた。
『先輩と一緒だった?』
「う、うん」
『そうか。先輩と仲良くやってるんだ・・・・・・』
意味深な妹友ちゃんの言葉があたしに届く。いったい何のために電話してきたのだろう。先輩をあたしに盗られた嫌がらせ? それともお兄ちゃんと二人で過ごしている自慢?
「・・・・・・妹友ちゃんは? 今お兄ちゃんと一緒なの?」
冷静に聞いたつもりだったけどあたしの声は少し震えていた。
『あ、うん。お兄さんの部屋に二人でいるとこ。でさ・・・・・・妹ちゃん?』
妹友ちゃんはそれが当然だというようにあっさりと言った。あたしはその言葉に沈黙した。
『妹ちゃん、どうした? 急に黙っちゃって』
「何でもないよ」
あたしはかすれた声でかろうじて返事をした。
『・・・・・大丈夫? うん、そか。よかった』
そして。妹友ちゃんは続けた。
『すごく言いづらいんだけど、口裏合わせてもらえないかな?』
ここまで直接的な話をイブの晩に聞かされるとは思っていなかった。あたしは再びパニックに陥った。
「な、何言ってるのかわからないよ」
あたしは弱々しい声で答えた。
『だから、今説明するって。そのさ。ちょっと頼みづらいんだけど。今日は、妹ちゃんの家でお泊りパーティーしてたことにしてくれないかな』
妹友ちゃんは落ち着いて話を続けた。
「・・・・・・したことにって。妹友ちゃんのお母さんに対してってこと?」
あたしは尋ねた。
『あ、うん。うちの親って必ず先方のお家にお礼言わないとって名目で確認するから』
「・・・・・・妹友ちゃん、本気なの」
あたしは思わず反論するように聞いた。
『何でそんなこと聞くの?』
妹友ちゃんは相変わらず落ちついていた。
「妹友ちゃん・・・・・・本当にあたしのお兄ちゃんのこと好きなんでしょうね?」
それはまるで敗者の精一杯の嫌がらせのような言葉だった。
『うん・・・・・・本当にお兄さんのこと大好きだよ。だから今日はお兄さんのアパートに泊まりたいの』
妹友ちゃんのその言葉にあたしは更に追い討ちをかけられた。
もう本当に終わりだ。お兄ちゃんとも先輩とも。そしてあたしは一人ぼっちなのだ。イヴの夜なのに。
・・・・・・あたしは結局は妹友の親から電話があった場合に口裏を合わせることを了解した。そしてそのためには先輩との最後のデートもこれで終わらせて家に帰らなくてはならなかった。
いつ妹友ちゃんのお母さんから家に電話があるかもしれないから。
「大丈夫か?」
先輩が心配そうにあたしの方を見た。
帰宅したあたしは結局先輩に渡せなかった綺麗に包装されたプレゼントをごみ箱に捨てた。
51: 2012/01/31(火) 22:47:37.24 ID:St0G50lio
これがイヴの晩あたしに起こった出来事だった。寂しいのにはだいぶ慣れてきたあたしだったけど、さすがに聖夜にお兄ちゃんと先輩を一度に失うとは考えてもいなかった。くよくよ悩むとかショ
ックだとかそういう段階は通り過ぎていたから、その夜のあたしは妙に頭が冴えていてかえって冷静だったかもしれない。
先輩へのプレゼントをごみ箱から回収し(さすがに1万円近くしたものだったし使い道はなかったけど少し落ち着いたあたしはとりあえずごみ箱から回収したのだった)、あたしは自室のベッドに横になった。もうお兄ちゃんと妹友ちゃんのことは考えるのをよそう。今頃二人がお兄ちゃんの部屋で過ごしていることとか、今日妹友ちゃんがお兄ちゃんの部屋に泊まることとか、そういうことは忘れよう。そう思ったけどもちろん忘れることなんてできなかった。
あたしはお兄ちゃんのことを考えないために無理にほかの事を考えようとした。さっきあたしに別れを告げた先輩のことを。
あたしが先輩との仲を真剣に修復しようと思い立ったのはお兄ちゃんと妹友ちゃんが付き合い出して、あたしがお兄ちゃんのことを忘れようと決めてからだった。もしあの日、妹友ちゃんの報告がなかったとしたらあたしは先輩を呼び出したあの学食で先輩に別れを告げていただろう。
先輩があたしを振ったのはあたしのことを考えてくれたからかもしれない。でも、少し気になるのは委員長ちゃんと先輩がけんか腰の会話をしながらもお互い微妙に息を合わせているように感じら
れたこと、それから後夜祭の夜、誘いを断って帰宅する間際にあたしが見かけた、意味深に寄り添っていた先輩と委員長ちゃんのシルエットのことだった。
あたしはそのことで先輩を責めるつもりは全くなかったしあたしにはそれを責める資格もなかった。
むしろあたしが考えたのは、これだけ苦しめたのにあたしのことを気遣って別れようといった先輩や、妹友ちゃんと疎遠になり学校で孤立していいたあたしにさりげなく声をかけてくれた委員長ちゃんに、何かしてあげることはないのかということだった。
先輩は前から浮気性だったけど、本当に大切にしている子とは軽々しく付き合わない。それは先輩があたしに告白する前にあらかじめ当時付き合っていた女の子たちとの関係を清算したことからも
わかっていたことだった。
先輩と委員長ちゃんはお互いに気にしながらもあたしのせいで動きが取れなくなっているのかもしれない。委員長ちゃんの恋を邪魔したのはある意味あたしだし、先輩の想いを踏みにじったのもあ
たしだった。それでも二人ともあたしのことを思いやってくれた。委員長ちゃんは孤立していたあたしに声をかけてくれ、先輩はあたしのために別れようと言ってくれた。
そうだ。あたしは少し元気が出てきた。もう全てを失ったあたしだけど、それでもまだこの二人にしてあげられることがあるかもしれない。
大きなお世話だったかもしれない。それでもあたしは目標が出来たことに少しだけ満足してそのまま眠りについた。
ックだとかそういう段階は通り過ぎていたから、その夜のあたしは妙に頭が冴えていてかえって冷静だったかもしれない。
先輩へのプレゼントをごみ箱から回収し(さすがに1万円近くしたものだったし使い道はなかったけど少し落ち着いたあたしはとりあえずごみ箱から回収したのだった)、あたしは自室のベッドに横になった。もうお兄ちゃんと妹友ちゃんのことは考えるのをよそう。今頃二人がお兄ちゃんの部屋で過ごしていることとか、今日妹友ちゃんがお兄ちゃんの部屋に泊まることとか、そういうことは忘れよう。そう思ったけどもちろん忘れることなんてできなかった。
あたしはお兄ちゃんのことを考えないために無理にほかの事を考えようとした。さっきあたしに別れを告げた先輩のことを。
あたしが先輩との仲を真剣に修復しようと思い立ったのはお兄ちゃんと妹友ちゃんが付き合い出して、あたしがお兄ちゃんのことを忘れようと決めてからだった。もしあの日、妹友ちゃんの報告がなかったとしたらあたしは先輩を呼び出したあの学食で先輩に別れを告げていただろう。
先輩があたしを振ったのはあたしのことを考えてくれたからかもしれない。でも、少し気になるのは委員長ちゃんと先輩がけんか腰の会話をしながらもお互い微妙に息を合わせているように感じら
れたこと、それから後夜祭の夜、誘いを断って帰宅する間際にあたしが見かけた、意味深に寄り添っていた先輩と委員長ちゃんのシルエットのことだった。
あたしはそのことで先輩を責めるつもりは全くなかったしあたしにはそれを責める資格もなかった。
むしろあたしが考えたのは、これだけ苦しめたのにあたしのことを気遣って別れようといった先輩や、妹友ちゃんと疎遠になり学校で孤立していいたあたしにさりげなく声をかけてくれた委員長ちゃんに、何かしてあげることはないのかということだった。
先輩は前から浮気性だったけど、本当に大切にしている子とは軽々しく付き合わない。それは先輩があたしに告白する前にあらかじめ当時付き合っていた女の子たちとの関係を清算したことからも
わかっていたことだった。
先輩と委員長ちゃんはお互いに気にしながらもあたしのせいで動きが取れなくなっているのかもしれない。委員長ちゃんの恋を邪魔したのはある意味あたしだし、先輩の想いを踏みにじったのもあ
たしだった。それでも二人ともあたしのことを思いやってくれた。委員長ちゃんは孤立していたあたしに声をかけてくれ、先輩はあたしのために別れようと言ってくれた。
そうだ。あたしは少し元気が出てきた。もう全てを失ったあたしだけど、それでもまだこの二人にしてあげられることがあるかもしれない。
大きなお世話だったかもしれない。それでもあたしは目標が出来たことに少しだけ満足してそのまま眠りについた。
52: 2012/01/31(火) 22:51:43.53 ID:St0G50lio
翌朝、あたしは先輩の携帯に電話をかけた。振られた翌日のクリスマスの朝に電話すること自体ためらわれたけど、あたしが思っているとおりならお互いに惹かれつつもあたしの存在で一歩踏み込めない二人をけしかけるには早い方がいいと思ったのだ。何より今日はまだクリスマスだった。
しばらくコール音が続いた後、先輩が電話に出た。
『俺だけど、妹か?』
「うん。おはよう先輩」
あたしは明るい声を出すように努めた。
「ごめんね、朝からいきなり電話しちゃって」
『どうかしたか? まさかもう俺に相談したいことができちゃったのか』
先輩は笑った。昨日会ったばかりなのにその笑い声はひどく懐かしく感じられた。
「違うよ」
あたしもつられるように笑った。
「まさか昨日の今日で先輩に泣きついたりしないって」
『まあそうだよな。で、どうした?』
先輩はのんびりした口調で言った。
「昨日の夜途中になっちゃた話なんだけど」
あたしは妹友ちゃんの電話で中断された会話を思い出しながら言った。
回想
「先輩?」
「うん」
「先輩、委員長ちゃんのことどう思う?」
「委員長? どうって言われても」
回想終了
先輩はあの時戸惑っている様子だったけど、先輩が委員長ちゃんのことが気になっているのは間違いないとあたしは考えていた。
「委員長ちゃんが先輩のこと好きなの知ってる?」
あたしはストレートに聞くことにした。
先輩は黙ってしまった。
「考えたんだけど、あたし先輩と付き合って委員長ちゃんの恋を邪魔してたんだよね。それで昨日あたし先輩と別れたじゃん?」
相変わらず電話の向こうでは先輩は黙っていたけど、あたしは構わず話を続けた。
「でね、先輩もきっと委員長ちゃんのことが気になってると思うから・・・・・・」
『おまえさ』
突然先輩の低い声があたしの話しに割り込んだ。
『いったい何のつもり?』
それはさっきまでの優しい先輩の声とはうって変った声だった。取り巻きに囲まれている時の怒鳴り声でもなく、静かに低く話すその声はあたしが初めて聞くものだった。
『おまえが俺から解放されて心が軽くなってるのはわかるけどよ』
もともとそのために別れようと思ったんだから、と先輩は話を続けた。
『でも俺のことを哀れんで余計なことを考えるのは止めてくれ』
「ち、違うよ」
あたしは必氏に弁解した。あたしの心は軽いどころか重苦しく沈んでいたのだから。
『委員長の気持ちを自分の罪悪感をを軽くするために利用するな。たとえおまえが本当に俺のことを考えてくれたんだとしてもだ』
先輩の口調は静かだったけどその奥の部分に深い怒りとか悲しみのようなものが感じられた。
あたしは沈黙した。
『あいつの気持ちなんか最初からわかってるよ』
先輩が続けた。
『でも俺が好きだったのはおまえなんだよ。今でも一番好きなのはあいつじゃなくておまえなんだよ』
あたしは携帯を握り締めたまま凍りついた。
『そのことで俺はあいつに罪悪感を感じてたんだ。ずっと前から』
だからよ、先輩は話をまとめた。
『あいつと俺のことは放っておいてくれ。おまえは兄貴のことだけ考えてろ。そのために俺はおまえを諦めたんだから』
そう言って先輩は一方的に電話を切った。
しばらくコール音が続いた後、先輩が電話に出た。
『俺だけど、妹か?』
「うん。おはよう先輩」
あたしは明るい声を出すように努めた。
「ごめんね、朝からいきなり電話しちゃって」
『どうかしたか? まさかもう俺に相談したいことができちゃったのか』
先輩は笑った。昨日会ったばかりなのにその笑い声はひどく懐かしく感じられた。
「違うよ」
あたしもつられるように笑った。
「まさか昨日の今日で先輩に泣きついたりしないって」
『まあそうだよな。で、どうした?』
先輩はのんびりした口調で言った。
「昨日の夜途中になっちゃた話なんだけど」
あたしは妹友ちゃんの電話で中断された会話を思い出しながら言った。
回想
「先輩?」
「うん」
「先輩、委員長ちゃんのことどう思う?」
「委員長? どうって言われても」
回想終了
先輩はあの時戸惑っている様子だったけど、先輩が委員長ちゃんのことが気になっているのは間違いないとあたしは考えていた。
「委員長ちゃんが先輩のこと好きなの知ってる?」
あたしはストレートに聞くことにした。
先輩は黙ってしまった。
「考えたんだけど、あたし先輩と付き合って委員長ちゃんの恋を邪魔してたんだよね。それで昨日あたし先輩と別れたじゃん?」
相変わらず電話の向こうでは先輩は黙っていたけど、あたしは構わず話を続けた。
「でね、先輩もきっと委員長ちゃんのことが気になってると思うから・・・・・・」
『おまえさ』
突然先輩の低い声があたしの話しに割り込んだ。
『いったい何のつもり?』
それはさっきまでの優しい先輩の声とはうって変った声だった。取り巻きに囲まれている時の怒鳴り声でもなく、静かに低く話すその声はあたしが初めて聞くものだった。
『おまえが俺から解放されて心が軽くなってるのはわかるけどよ』
もともとそのために別れようと思ったんだから、と先輩は話を続けた。
『でも俺のことを哀れんで余計なことを考えるのは止めてくれ』
「ち、違うよ」
あたしは必氏に弁解した。あたしの心は軽いどころか重苦しく沈んでいたのだから。
『委員長の気持ちを自分の罪悪感をを軽くするために利用するな。たとえおまえが本当に俺のことを考えてくれたんだとしてもだ』
先輩の口調は静かだったけどその奥の部分に深い怒りとか悲しみのようなものが感じられた。
あたしは沈黙した。
『あいつの気持ちなんか最初からわかってるよ』
先輩が続けた。
『でも俺が好きだったのはおまえなんだよ。今でも一番好きなのはあいつじゃなくておまえなんだよ』
あたしは携帯を握り締めたまま凍りついた。
『そのことで俺はあいつに罪悪感を感じてたんだ。ずっと前から』
だからよ、先輩は話をまとめた。
『あいつと俺のことは放っておいてくれ。おまえは兄貴のことだけ考えてろ。そのために俺はおまえを諦めたんだから』
そう言って先輩は一方的に電話を切った。
53: 2012/01/31(火) 22:55:53.67 ID:St0G50lio
あたしは呆然として切られた電話を握り締めていた。自分の贖罪のための行動というつもりはなかった。自分の軽はずみな恋愛のために仲を裂いてしまった委員長ちゃんと先輩を思っての行動だったとあたしは思っていたのだ。
でも、その中にエゴのようなものがなかったと言い切れるだろうか。恋に破れたあたしは友人のために行動することで気を紛わせようとしていたのではないのか。そうだとするとそれは結局自分のためのエゴイスティックな行動に過ぎなかった。
あたしは泣いた。ついに先輩にまで見放されたのだ。あたしはもうこれ以上落ちるところがないくらいに深い場所に落ちたのだ。あたしはそう考えた。
その時携帯が着信音を奏でメールの到着を知らせた。あたしはまだ震える心を持て余したままぼんやりとディスプレイを見た。それは妹友ちゃんからのメールだった。
from:妹友
sub:昨日はありがとう!
『昨日は先輩とイヴのデート中に邪魔しちゃってごめんね。本当に助かったよ! で、妹ちゃんには報告する義務しなきゃだと思うのでメールしました。あたし、お兄さんと結ばれちゃった(汗)』
『昨日勇気を出してお兄さんに泊まってもいいですかって聞いたときは本当に恥ずかしかったよ。お兄さんは少しびっくりしたみたいで、だけど家は大丈夫なのって言っただけでした。もちろん大丈夫じゃないんで、妹ちゃんには悪かったけど協力してもらちゃった。本当にありがと! 一生恩に着るからね(はーと)』
『それでさっきまでお兄さんとベッドの中でいちゃラブ状態だったんだけど(恥ずかしいぃぃぃぃ!)、今は江の島にドライブしている途中だよ。そう言えば妹ちゃんもお兄さんと江の島にドライブしたって言ってたけど何食べた? 何かああゆうことするとお腹へっちゃって(汗)』
『あ、あと、お兄さんから部屋の合鍵をもらったよ。すごく嬉しかった。何もかも妹ちゃんのおかげです。これからも親友だよ(はーと)、つうか妹ちゃんがあたしの義妹になったりして←気が早い(汗)。じゃ、またね。ほんとにありがとね!』
それは今のあたしには厳しい追い討ちだった。もうあたしは何も考えられずにとりあえず機械的に返信の文章を打ってすぐに送信した。
from:妹
sub:Re昨日はありがとう!
『よかったね。そんなにあたしに気を遣わなくていいから』
そんな生まれて初めて経験する鬱々とした状態の中で、あたしは機械的にいつもの習慣になっている家事をすることにした。何も考えないためには体を動かした方がいい。
午前中から夜まであたしは何かに憑かれたように一人きりの家を徹底的に整理し掃除した。もう年末の大掃除が不要なくらいに。クリスマスの夜なのに。
気がつくと結構遅い時間になっていた。
あたしは朝から何も食べていなかったけど全然空腹を感じなかった。
最後に残った玄関ホールの掃除をちょうど終えた時、外からドアの鍵を開ける音がして、やがて玄関のドアが開いた。
「・・・・・・ただいま」
突然帰宅したお兄ちゃんはあたしに気がつく前に誰にともなくぼそっと言って家に入って来た。
「・・・・・・あ」
あたしは思わず声をもらした。
「・・・・・・た、ただいま」
あたしに気がついたお兄ちゃんが気まずそうに言った。
「・・・・・・」
あたしは声もなく呆然として突然現れたお兄ちゃんを見詰めていた。
「今日泊まって行くから」
お兄ちゃんが言った。
その時、どういうわけか今日一日冷たく固く凍り付いていたあたしの心が氷解した。気のまであんなにも嫌悪していたお兄ちゃんにあたしは自然に話しかけた。
「うん・・・・・・おかえり、お兄ちゃん」
でも、その中にエゴのようなものがなかったと言い切れるだろうか。恋に破れたあたしは友人のために行動することで気を紛わせようとしていたのではないのか。そうだとするとそれは結局自分のためのエゴイスティックな行動に過ぎなかった。
あたしは泣いた。ついに先輩にまで見放されたのだ。あたしはもうこれ以上落ちるところがないくらいに深い場所に落ちたのだ。あたしはそう考えた。
その時携帯が着信音を奏でメールの到着を知らせた。あたしはまだ震える心を持て余したままぼんやりとディスプレイを見た。それは妹友ちゃんからのメールだった。
from:妹友
sub:昨日はありがとう!
『昨日は先輩とイヴのデート中に邪魔しちゃってごめんね。本当に助かったよ! で、妹ちゃんには報告する義務しなきゃだと思うのでメールしました。あたし、お兄さんと結ばれちゃった(汗)』
『昨日勇気を出してお兄さんに泊まってもいいですかって聞いたときは本当に恥ずかしかったよ。お兄さんは少しびっくりしたみたいで、だけど家は大丈夫なのって言っただけでした。もちろん大丈夫じゃないんで、妹ちゃんには悪かったけど協力してもらちゃった。本当にありがと! 一生恩に着るからね(はーと)』
『それでさっきまでお兄さんとベッドの中でいちゃラブ状態だったんだけど(恥ずかしいぃぃぃぃ!)、今は江の島にドライブしている途中だよ。そう言えば妹ちゃんもお兄さんと江の島にドライブしたって言ってたけど何食べた? 何かああゆうことするとお腹へっちゃって(汗)』
『あ、あと、お兄さんから部屋の合鍵をもらったよ。すごく嬉しかった。何もかも妹ちゃんのおかげです。これからも親友だよ(はーと)、つうか妹ちゃんがあたしの義妹になったりして←気が早い(汗)。じゃ、またね。ほんとにありがとね!』
それは今のあたしには厳しい追い討ちだった。もうあたしは何も考えられずにとりあえず機械的に返信の文章を打ってすぐに送信した。
from:妹
sub:Re昨日はありがとう!
『よかったね。そんなにあたしに気を遣わなくていいから』
そんな生まれて初めて経験する鬱々とした状態の中で、あたしは機械的にいつもの習慣になっている家事をすることにした。何も考えないためには体を動かした方がいい。
午前中から夜まであたしは何かに憑かれたように一人きりの家を徹底的に整理し掃除した。もう年末の大掃除が不要なくらいに。クリスマスの夜なのに。
気がつくと結構遅い時間になっていた。
あたしは朝から何も食べていなかったけど全然空腹を感じなかった。
最後に残った玄関ホールの掃除をちょうど終えた時、外からドアの鍵を開ける音がして、やがて玄関のドアが開いた。
「・・・・・・ただいま」
突然帰宅したお兄ちゃんはあたしに気がつく前に誰にともなくぼそっと言って家に入って来た。
「・・・・・・あ」
あたしは思わず声をもらした。
「・・・・・・た、ただいま」
あたしに気がついたお兄ちゃんが気まずそうに言った。
「・・・・・・」
あたしは声もなく呆然として突然現れたお兄ちゃんを見詰めていた。
「今日泊まって行くから」
お兄ちゃんが言った。
その時、どういうわけか今日一日冷たく固く凍り付いていたあたしの心が氷解した。気のまであんなにも嫌悪していたお兄ちゃんにあたしは自然に話しかけた。
「うん・・・・・・おかえり、お兄ちゃん」
60: 2012/02/01(水) 22:15:17.96 ID:X1jTuQ8lo
「・・・・・・おまえ、家にいたんだ」
お兄ちゃんはあたしから目を逸らしたままで言った。
「うん」
あたしはお兄ちゃんに答えた。その時あたしが気になっていたのは久しぶりにお兄ちゃんに会ったあたしのひどい格好のことだった。一日家の大掃除をしていたあたしは上下のスウェットは埃とか汚れだらけだし髪もポニテに普通の輪ゴムで縛っていて手にはぼろ雑巾を抱えていたから。
「毎晩彼氏といちゃいちゃしてたんじゃなかったのかよ」
お兄ちゃんのそんな嫌がらせみたいな言葉。お兄ちゃんが妹友ちゃんを受け入れたあの日なら、あたしがお兄ちゃんとこれ以上関係を深めることを拒否したあの日に同じセリフを聞いていたら、あたしはきっとひどい拒否反応を示したろう。
でも一人ぼっちで弱りきり一日中家を掃除することで精神の安定を保っていたあたしには、むしろその言葉はお兄ちゃんがあたしに嫉妬しているようなあたしを求めているような言葉に聞こえ、あたしは密かに狼狽した。
「最近は夜は出かけてないよ。先輩も受験勉強始めたし」
あたしはそれだけ答えて気を引き締めた。何も考えずに先輩とは別れたよってお兄ちゃんに暴露しそうになることが怖かった。
「始めたって、もう年明けには受験じゃねえか」
「・・・・・・先輩の志望校、偏差値すごく低いとこだし」
「って、あれ?」
お兄ちゃんは何かに気がついたように言った。
「じゃあ、おまえ親いない日はずっと一人なのか?」
「12月になってお仕事が年末進行なんだって」
お兄ちゃんはお母さんたちが健康を害してしまいそうなほど多忙だということを全く知らされていないようだった。
「・・・・・・それじゃ」
お兄ちゃんが少し気まずそうに言った。
「うん。ここ半月くらいお母さんとお父さんに会ってない」
あたしは淡々と答えた。あたしは確かに孤独だったけど、ここでお兄ちゃんに寂しさアピールを、もっと構ってアピールをする気はなかった。
「おまえ・・・・・・」
でもお兄ちゃんはあたしの返答にショックを受けたようだった。
「寂しくないのかよ」
そんな質問に答えられるわけがなかった。寂しいに決まっていたけどそれをお兄ちゃんに言えるわけがないい。そのままお兄ちゃんはしばらく黙ってしまった。
「・・・・・・お兄ちゃん?」
お兄ちゃんの沈黙が長かったので少し不安になったあたしは黙ってしまったお兄ちゃんに話しかけた。でも、その後にお兄ちゃんが言った言葉はあたしの憂鬱を一気に晴らしてくれた。
「俺大学休みになったから、今日から新学期までここで暮らすから」
「え・・・・・・本当?」
あたしは思わず聞き返した。
「ああ、本当だよ」
「・・・・・・うん」
今までいろいろ辛かったことや寂しかったことが少しづつあたしの心から失われていった。もう新学期までひとりぼっちじゃない。今のあたしは失恋とか本当の恋とかそういうことを全く考えずにいられた。ただ家族と、お兄ちゃんと一緒にしばらく暮らせる喜びだけが胸中にみちていた。
あたしは呆然と考えていた。この孤独からお兄ちゃんが助けてくれる。全てを失ったあたしに手を差し伸べてくれたのは、やはりあたしのお兄ちゃんだったのだ。それが妹友ちゃんの彼氏であっても。あたしは嬉しそうな顔を隠せなかったに違いない。
お兄ちゃんはあたしから目を逸らしたままで言った。
「うん」
あたしはお兄ちゃんに答えた。その時あたしが気になっていたのは久しぶりにお兄ちゃんに会ったあたしのひどい格好のことだった。一日家の大掃除をしていたあたしは上下のスウェットは埃とか汚れだらけだし髪もポニテに普通の輪ゴムで縛っていて手にはぼろ雑巾を抱えていたから。
「毎晩彼氏といちゃいちゃしてたんじゃなかったのかよ」
お兄ちゃんのそんな嫌がらせみたいな言葉。お兄ちゃんが妹友ちゃんを受け入れたあの日なら、あたしがお兄ちゃんとこれ以上関係を深めることを拒否したあの日に同じセリフを聞いていたら、あたしはきっとひどい拒否反応を示したろう。
でも一人ぼっちで弱りきり一日中家を掃除することで精神の安定を保っていたあたしには、むしろその言葉はお兄ちゃんがあたしに嫉妬しているようなあたしを求めているような言葉に聞こえ、あたしは密かに狼狽した。
「最近は夜は出かけてないよ。先輩も受験勉強始めたし」
あたしはそれだけ答えて気を引き締めた。何も考えずに先輩とは別れたよってお兄ちゃんに暴露しそうになることが怖かった。
「始めたって、もう年明けには受験じゃねえか」
「・・・・・・先輩の志望校、偏差値すごく低いとこだし」
「って、あれ?」
お兄ちゃんは何かに気がついたように言った。
「じゃあ、おまえ親いない日はずっと一人なのか?」
「12月になってお仕事が年末進行なんだって」
お兄ちゃんはお母さんたちが健康を害してしまいそうなほど多忙だということを全く知らされていないようだった。
「・・・・・・それじゃ」
お兄ちゃんが少し気まずそうに言った。
「うん。ここ半月くらいお母さんとお父さんに会ってない」
あたしは淡々と答えた。あたしは確かに孤独だったけど、ここでお兄ちゃんに寂しさアピールを、もっと構ってアピールをする気はなかった。
「おまえ・・・・・・」
でもお兄ちゃんはあたしの返答にショックを受けたようだった。
「寂しくないのかよ」
そんな質問に答えられるわけがなかった。寂しいに決まっていたけどそれをお兄ちゃんに言えるわけがないい。そのままお兄ちゃんはしばらく黙ってしまった。
「・・・・・・お兄ちゃん?」
お兄ちゃんの沈黙が長かったので少し不安になったあたしは黙ってしまったお兄ちゃんに話しかけた。でも、その後にお兄ちゃんが言った言葉はあたしの憂鬱を一気に晴らしてくれた。
「俺大学休みになったから、今日から新学期までここで暮らすから」
「え・・・・・・本当?」
あたしは思わず聞き返した。
「ああ、本当だよ」
「・・・・・・うん」
今までいろいろ辛かったことや寂しかったことが少しづつあたしの心から失われていった。もう新学期までひとりぼっちじゃない。今のあたしは失恋とか本当の恋とかそういうことを全く考えずにいられた。ただ家族と、お兄ちゃんと一緒にしばらく暮らせる喜びだけが胸中にみちていた。
あたしは呆然と考えていた。この孤独からお兄ちゃんが助けてくれる。全てを失ったあたしに手を差し伸べてくれたのは、やはりあたしのお兄ちゃんだったのだ。それが妹友ちゃんの彼氏であっても。あたしは嬉しそうな顔を隠せなかったに違いない。
61: 2012/02/01(水) 22:19:14.23 ID:X1jTuQ8lo
「おまえ、親いない時夕飯とかどうしてたの?」
リビングに移ったところでお兄ちゃんが聞いた。あたしは正直に答えた。
「冷凍食品とかコンビニとか。でも、何か最近あまり食欲なくて」
「下宿してる俺と変んねえのな。今日はもう夕飯食ったのか」
「・・・・・・まだ」
夕ご飯どころか起きてから何も食べていなかったし食欲もなかったけどそれは黙っていた。
「あのさ。おまえさえよかったらだけど、一緒にファミレスに行く?」
お兄ちゃんは少し赤くなってあたしを誘ってくれた。
「うん、行きたい」
あたしはその言葉に飛びついた。お兄ちゃんの気が変るのを恐れるたのだ。そしてその時お兄ちゃんが顔を赤くした意味については無理に考えないようにして。
「じゃあ、すぐ出られるか?」
お兄ちゃんはその気になったみたいだった。
「・・・・・・着替えないと」
一日掃除をしていたこの汚れた格好で外出はできない。埃にまみれ汚い雑巾を握っているこの状態でお兄ちゃんとお出かけはできない。これまで自分の格好なんかどうでもいいと思っていたあたしだけど、急に女の子の本能が蘇ったようだった。
「じゃ、待ってるから着替えてくれば」
お兄ちゃんが車のキーをポケットに探りながら言った。イヴの外出ほど気合を入れた格好をする必要はないと思うけど、少しはお洒落しておきたかった。それほどあたしはわくわくしていたのだ。
「・・・・・・お兄ちゃん?」
あたしは着替えに行く前にお兄ちゃんに言った。
「うん?」
「・・・・・・ありがとう」
あたしは自分部屋に行く前にお兄ちゃんにそっと言った。
リビングに移ったところでお兄ちゃんが聞いた。あたしは正直に答えた。
「冷凍食品とかコンビニとか。でも、何か最近あまり食欲なくて」
「下宿してる俺と変んねえのな。今日はもう夕飯食ったのか」
「・・・・・・まだ」
夕ご飯どころか起きてから何も食べていなかったし食欲もなかったけどそれは黙っていた。
「あのさ。おまえさえよかったらだけど、一緒にファミレスに行く?」
お兄ちゃんは少し赤くなってあたしを誘ってくれた。
「うん、行きたい」
あたしはその言葉に飛びついた。お兄ちゃんの気が変るのを恐れるたのだ。そしてその時お兄ちゃんが顔を赤くした意味については無理に考えないようにして。
「じゃあ、すぐ出られるか?」
お兄ちゃんはその気になったみたいだった。
「・・・・・・着替えないと」
一日掃除をしていたこの汚れた格好で外出はできない。埃にまみれ汚い雑巾を握っているこの状態でお兄ちゃんとお出かけはできない。これまで自分の格好なんかどうでもいいと思っていたあたしだけど、急に女の子の本能が蘇ったようだった。
「じゃ、待ってるから着替えてくれば」
お兄ちゃんが車のキーをポケットに探りながら言った。イヴの外出ほど気合を入れた格好をする必要はないと思うけど、少しはお洒落しておきたかった。それほどあたしはわくわくしていたのだ。
「・・・・・・お兄ちゃん?」
あたしは着替えに行く前にお兄ちゃんに言った。
「うん?」
「・・・・・・ありがとう」
あたしは自分部屋に行く前にお兄ちゃんにそっと言った。
62: 2012/02/01(水) 22:22:27.99 ID:X1jTuQ8lo
何日かぶりにあたしはお兄ちゃんの車の助手席に納まった。近所のファミレスに向かったのだけどその間の車中ではほとんど会話はなかった。
お兄ちゃんと再会したらきっと気まずいだろうとあたしはこれまで考えていた。けれども、今はそういう感覚は全くなく、かといって昨日の夜イヴのデートに先輩と待ち合わした場所に赴いている時のようなドキドキもなかった。何か懐かしいような心が落ち着くような感じがしていて、あたしはこれまでお兄ちゃんと恋人になれなければもう二度と会わない方がいいと思うくらい思いつめていたのだけれど、やはり兄妹として家族としての関係や居場所もあるのかもしれないとあたしは考え直した。
いつものファミレスの席について注文した料理が届いた時、お兄ちゃんがあたしに話しかけた。
「またそういうデザートみたいのを食う。おまえ、最近食欲ないんじゃなかったのかよ」
「何かお腹がすいてきちゃって」
あたしはさっきまでの寂寥や焦燥や孤独が嘘のように、自分でも意外なほどリラックスしていた。
「・・・・・・だったらだな。普通に料理っぽいのとか食べたら」
「でも、パフェ食べるのって久しぶりだし」
「俺も人のことは言えねえけどさ。おまえ、そんな食生活してて体壊さねえのか」
お兄ちゃんは飽きれたように言った。
「朝はパン食べてるし、お昼ご飯は学食で普通に食べてるから」
「でもさ。おまえ少し痩せたんじゃね?」
「そうかな? 最近体重図ってないんだけど」
「どれ」
お兄ちゃんに他意はなかったんだろうけど、その種の視線に敏感になっていたあたしは思わず胸元を手で覆った。
お兄ちゃんがあたしから目を逸らしたので、あたしは自分のとっさの行動を少し後悔した。
あたしも改めてお兄ちゃんを見た。
「・・・・・・お兄ちゃんは少し太ったかな」
「変んないと思うよ。まあ、カップ麺ばっか食ってるけどさ」
お兄ちゃんは何気なく言ったけど、妹友ちゃんがお兄ちゃんの食事を用意しているくらいのことはありそうだった。
「だって・・・・・・。妹友ちゃんが食事作ってくれてるんでしょ」
これは嫉妬心からの質問ではなかった。お兄ちゃんの部屋で一晩を過ごすくらいなら手作りの食事の支度くらいはしているだろう。あたしと違い妹友ちゃんは料理が得意だった。
「はい?」
でもお兄ちゃんは面食らったように答えた。
「確かに作ってもらったことあるけど、よくってことはないなあ」
「そうなんだ」
「結局一番多いのは一人でカップラーメン食うパターンで、次が兄友、ああ、兄友って大学の友だちなんだけどさ」
「うん」
「そいつが部屋に押しかけてきて飲み会になるって感じだな」
「そうか・・・・・・。妹友ちゃん、毎日お兄ちゃんの部屋に来てるわけじゃないんだ」
「ねえよ。週末に来るか来ないかって感じだな」
お兄ちゃんの話はあたしをますますリラックスさせた。妹友ちゃんとお兄ちゃんの仲が思っていたより進展していなかったことに安心したわけではない。食事を用意しようがしまいがお兄ちゃんと妹友ちゃんは昨晩共に過ごしたのだから。
それでもあたしのあたしの心はざわめかなかった。むしろお兄ちゃんが一人暮らしをして以来初めて心底リラックスしていた。
別に空腹ではないけど、あたしはお兄ちゃんの頼んだハンバーグを一口勝手に食べた。そんなことが気軽にできることが、今のあたしにとっては何より幸せだった。
お兄ちゃんと再会したらきっと気まずいだろうとあたしはこれまで考えていた。けれども、今はそういう感覚は全くなく、かといって昨日の夜イヴのデートに先輩と待ち合わした場所に赴いている時のようなドキドキもなかった。何か懐かしいような心が落ち着くような感じがしていて、あたしはこれまでお兄ちゃんと恋人になれなければもう二度と会わない方がいいと思うくらい思いつめていたのだけれど、やはり兄妹として家族としての関係や居場所もあるのかもしれないとあたしは考え直した。
いつものファミレスの席について注文した料理が届いた時、お兄ちゃんがあたしに話しかけた。
「またそういうデザートみたいのを食う。おまえ、最近食欲ないんじゃなかったのかよ」
「何かお腹がすいてきちゃって」
あたしはさっきまでの寂寥や焦燥や孤独が嘘のように、自分でも意外なほどリラックスしていた。
「・・・・・・だったらだな。普通に料理っぽいのとか食べたら」
「でも、パフェ食べるのって久しぶりだし」
「俺も人のことは言えねえけどさ。おまえ、そんな食生活してて体壊さねえのか」
お兄ちゃんは飽きれたように言った。
「朝はパン食べてるし、お昼ご飯は学食で普通に食べてるから」
「でもさ。おまえ少し痩せたんじゃね?」
「そうかな? 最近体重図ってないんだけど」
「どれ」
お兄ちゃんに他意はなかったんだろうけど、その種の視線に敏感になっていたあたしは思わず胸元を手で覆った。
お兄ちゃんがあたしから目を逸らしたので、あたしは自分のとっさの行動を少し後悔した。
あたしも改めてお兄ちゃんを見た。
「・・・・・・お兄ちゃんは少し太ったかな」
「変んないと思うよ。まあ、カップ麺ばっか食ってるけどさ」
お兄ちゃんは何気なく言ったけど、妹友ちゃんがお兄ちゃんの食事を用意しているくらいのことはありそうだった。
「だって・・・・・・。妹友ちゃんが食事作ってくれてるんでしょ」
これは嫉妬心からの質問ではなかった。お兄ちゃんの部屋で一晩を過ごすくらいなら手作りの食事の支度くらいはしているだろう。あたしと違い妹友ちゃんは料理が得意だった。
「はい?」
でもお兄ちゃんは面食らったように答えた。
「確かに作ってもらったことあるけど、よくってことはないなあ」
「そうなんだ」
「結局一番多いのは一人でカップラーメン食うパターンで、次が兄友、ああ、兄友って大学の友だちなんだけどさ」
「うん」
「そいつが部屋に押しかけてきて飲み会になるって感じだな」
「そうか・・・・・・。妹友ちゃん、毎日お兄ちゃんの部屋に来てるわけじゃないんだ」
「ねえよ。週末に来るか来ないかって感じだな」
お兄ちゃんの話はあたしをますますリラックスさせた。妹友ちゃんとお兄ちゃんの仲が思っていたより進展していなかったことに安心したわけではない。食事を用意しようがしまいがお兄ちゃんと妹友ちゃんは昨晩共に過ごしたのだから。
それでもあたしのあたしの心はざわめかなかった。むしろお兄ちゃんが一人暮らしをして以来初めて心底リラックスしていた。
別に空腹ではないけど、あたしはお兄ちゃんの頼んだハンバーグを一口勝手に食べた。そんなことが気軽にできることが、今のあたしにとっては何より幸せだった。
63: 2012/02/01(水) 22:25:50.90 ID:X1jTuQ8lo
自宅に戻ったあたしは完全に以前のペースを取り戻していた。あたしの行動はお兄ちゃんから見て、まるではしゃいでいるみたいに見えたに違いない。
「お風呂沸かすから先に入っちゃって」
「ああ」
「その間に乾燥機でお兄ちゃんの布団を暖めておくから」
お兄ちゃんの布団は最近全く使われていなかったから乾燥機でもかけないと湿っていてとても寝られないに違いなかった。
「・・・・・・いいよ、そんなの」
お兄ちゃんはあたしにの行動に戸惑っているようだった。でもあたしはお兄ちゃんの遠慮を聞く気はなかった。
「2月以上使ってないからそうしないと」
「悪い」
「お兄ちゃん、着替えとかアパートから持ってきたの?」
あたしはふと気になってお兄ちゃんに聞いた。
「ああ、そういや何も持ってきてないな。明日にでもアパートに行っていろいろ持って来ないとな」
お兄ちゃんは気にしていない様子で答えた。やっぱりこの人は・・・・・・風呂上りに同じ下着を着るつもりなのか。
「今日は家に置いて行った服とか探しておくから」
お兄ちゃんの部屋には置いていった下着とか部屋着とかが残っているのをあたしは知っていた。
「あ、ああ」
「洗面所に予備の歯ブラシ出しておくから」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんは素直にうなずいた。
お兄ちゃんがお風呂から出た後、あたしもお風呂に入った。あたしは湯船につかることなく、いつもより手早くシャワーを済ませた。一刻も早くお兄ちゃんの側に戻りたかったのだ。
あたしがお風呂から出てリビングに戻るとお兄ちゃんがリビングのソファに座っていた。
「ああ、お風呂上りは暑いね、でも温まった」
あたしはソファのお兄ちゃんの隣に座った。
「最近、夜は冷え込むからな」
「うん。リビングのエアコンちゃんと動いてよかった」
最近はエアコンを点けたことがないのであたしは安心した。
「え? おまえ普段エアコンつけねえの」
「だって、普段は寂しいからリビングになんていないし」
「そうか。自分の部屋にこもってるんだ」
お兄ちゃんの声が心なしか少し湿ったようだった。
「一人でいるとリビングは広すぎるし」
あたしは素直に普段感じていたことをお兄ちゃんに話した。
「・・・・・・そうかもな」
「でも、今日はなんか狭く感じるね」
あたしは微笑んで言った。
「何で?」
「お兄ちゃんと一緒だからかな」
それは別に愛情表現でもお兄ちゃんを誘っているのでもなく孤独から開放されたあたしの本心から出た言葉だった。そしてそのことはお兄ちゃんに正しく伝わったようだった。
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんがポツリと答えた。
「お兄ちゃん?」
「ああ」
「・・・・・・久しぶりに今日もお兄ちゃんの部屋で一緒に寝てもいい?」
本当に性的な誘惑とかお兄ちゃんの気持ちを取り戻すとかそういう意図はなく自然に口から出てしまった言葉だったけど、その言葉にお兄ちゃんは混乱した様子だった。
お兄ちゃんの反応を見てあたしは自分が何を言ってしまったかということに気がつかされた。あたしもまた狼狽して余計なことを口走った。
「・・・・・・それともやっぱり妹友ちゃんに悪いかな」
でもそれは正直な反応だったのだろう。
「い、いや」
お兄ちゃんの返事もまた混乱し煮え切らないものだった。
「お風呂沸かすから先に入っちゃって」
「ああ」
「その間に乾燥機でお兄ちゃんの布団を暖めておくから」
お兄ちゃんの布団は最近全く使われていなかったから乾燥機でもかけないと湿っていてとても寝られないに違いなかった。
「・・・・・・いいよ、そんなの」
お兄ちゃんはあたしにの行動に戸惑っているようだった。でもあたしはお兄ちゃんの遠慮を聞く気はなかった。
「2月以上使ってないからそうしないと」
「悪い」
「お兄ちゃん、着替えとかアパートから持ってきたの?」
あたしはふと気になってお兄ちゃんに聞いた。
「ああ、そういや何も持ってきてないな。明日にでもアパートに行っていろいろ持って来ないとな」
お兄ちゃんは気にしていない様子で答えた。やっぱりこの人は・・・・・・風呂上りに同じ下着を着るつもりなのか。
「今日は家に置いて行った服とか探しておくから」
お兄ちゃんの部屋には置いていった下着とか部屋着とかが残っているのをあたしは知っていた。
「あ、ああ」
「洗面所に予備の歯ブラシ出しておくから」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんは素直にうなずいた。
お兄ちゃんがお風呂から出た後、あたしもお風呂に入った。あたしは湯船につかることなく、いつもより手早くシャワーを済ませた。一刻も早くお兄ちゃんの側に戻りたかったのだ。
あたしがお風呂から出てリビングに戻るとお兄ちゃんがリビングのソファに座っていた。
「ああ、お風呂上りは暑いね、でも温まった」
あたしはソファのお兄ちゃんの隣に座った。
「最近、夜は冷え込むからな」
「うん。リビングのエアコンちゃんと動いてよかった」
最近はエアコンを点けたことがないのであたしは安心した。
「え? おまえ普段エアコンつけねえの」
「だって、普段は寂しいからリビングになんていないし」
「そうか。自分の部屋にこもってるんだ」
お兄ちゃんの声が心なしか少し湿ったようだった。
「一人でいるとリビングは広すぎるし」
あたしは素直に普段感じていたことをお兄ちゃんに話した。
「・・・・・・そうかもな」
「でも、今日はなんか狭く感じるね」
あたしは微笑んで言った。
「何で?」
「お兄ちゃんと一緒だからかな」
それは別に愛情表現でもお兄ちゃんを誘っているのでもなく孤独から開放されたあたしの本心から出た言葉だった。そしてそのことはお兄ちゃんに正しく伝わったようだった。
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんがポツリと答えた。
「お兄ちゃん?」
「ああ」
「・・・・・・久しぶりに今日もお兄ちゃんの部屋で一緒に寝てもいい?」
本当に性的な誘惑とかお兄ちゃんの気持ちを取り戻すとかそういう意図はなく自然に口から出てしまった言葉だったけど、その言葉にお兄ちゃんは混乱した様子だった。
お兄ちゃんの反応を見てあたしは自分が何を言ってしまったかということに気がつかされた。あたしもまた狼狽して余計なことを口走った。
「・・・・・・それともやっぱり妹友ちゃんに悪いかな」
でもそれは正直な反応だったのだろう。
「い、いや」
お兄ちゃんの返事もまた混乱し煮え切らないものだった。
70: 2012/02/02(木) 21:53:49.52 ID:8lpwf8Ujo
あたしは自分の部屋に戻りマットレスと毛布を抱えてお兄ちゃんの部屋に向かった。孤独な夜から解放されて舞い上がっていたかもしれないけど、あたしは以前のように妹友ちゃんとお付き合いしているお兄ちゃんのベッドに潜り込むわけにはいかないことくらい
考えるだけの落ち着きは保っていた。あたしはおにいちゃんの部屋のドアを開けた。
「お兄ちゃん、入るよ」
「ああ、どうぞ」
お兄ちゃんの視線があたしの抱えている寝具に不審そうに向けられた。
「重かった。床に敷いていい?」
あたしは抱えていた物をお兄ちゃんの部屋の床に下ろした。
「うん」
お兄ちゃんが物思いから覚めたように答えた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「いや。床に布団敷くならそこのテーブル動かした方がいいな。俺がテーブルどけるから、おまえそこに布団敷けよ」
お兄ちゃんがベッド脇の丸いガラステーブルを動かして寝具を広げるスペースを作ってくれた。
「ありがと」
「いいよ」
あたしはマットレスを拡げその上に毛布を乗せて位置を整えた。
「できた。あたし今日は床で寝るからね」
あたしは言った。
「おまえの好きなようにしなよ」
お兄ちゃんのその口調が少し寂しげに聞こえたせいで、あたしは思わず聞き返してしまった。
「・・・・・・え?」
「どした?」
その時にはもうお兄ちゃんの声は平静なものに戻っていた。
「何でもない。まだ、寝るには早いね」
「うん。テレビでも付けるか?」
お兄ちゃんは滅多にテレビを見ない人なので、これはテレビを見るの習慣になってしまっていたあたしに気を遣ってくれたのだろう。
考えるだけの落ち着きは保っていた。あたしはおにいちゃんの部屋のドアを開けた。
「お兄ちゃん、入るよ」
「ああ、どうぞ」
お兄ちゃんの視線があたしの抱えている寝具に不審そうに向けられた。
「重かった。床に敷いていい?」
あたしは抱えていた物をお兄ちゃんの部屋の床に下ろした。
「うん」
お兄ちゃんが物思いから覚めたように答えた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「いや。床に布団敷くならそこのテーブル動かした方がいいな。俺がテーブルどけるから、おまえそこに布団敷けよ」
お兄ちゃんがベッド脇の丸いガラステーブルを動かして寝具を広げるスペースを作ってくれた。
「ありがと」
「いいよ」
あたしはマットレスを拡げその上に毛布を乗せて位置を整えた。
「できた。あたし今日は床で寝るからね」
あたしは言った。
「おまえの好きなようにしなよ」
お兄ちゃんのその口調が少し寂しげに聞こえたせいで、あたしは思わず聞き返してしまった。
「・・・・・・え?」
「どした?」
その時にはもうお兄ちゃんの声は平静なものに戻っていた。
「何でもない。まだ、寝るには早いね」
「うん。テレビでも付けるか?」
お兄ちゃんは滅多にテレビを見ない人なので、これはテレビを見るの習慣になってしまっていたあたしに気を遣ってくれたのだろう。
71: 2012/02/02(木) 21:59:26.74 ID:8lpwf8Ujo
そこからしばらくテレビについてお兄ちゃんと話をした。お兄ちゃんは自分の部屋のテレビをあたしにくれるそうだ。普段は実家にいないし、実家にいる時でも滅多にテレビなんか見ないからと。
どういうわけかお兄ちゃんはあたしにテレビをあげるという考えが気に入ったようで、これからすぐあたしの部屋にテレビを移して見えるようにしてやると言い出したけど、あたしはそれを断った。
「ううん。まだいい」
「へ? 何で。すぐにできるぜ」
お兄ちゃんはどういうわけか残念そうだった。今あたしの部屋にテレビを持って行かれたら、テレビを見る名目でお兄ちゃんの部屋を訪れることができなくなってしまう。今のあたしは、ちょっと前のあたしがしていたみたいに何の口実もなくお兄ちゃんの部屋を
訪れることはできなくなってしまっていた。そしてそれができるのは今では妹友ちゃんだけだった。
「年末年始にお兄ちゃんがいる間はお兄ちゃんの部屋でテレビ見たいから」
あたしはそれだけ言った。
「・・・・・・そうか。そうだな」
お兄ちゃんにもあたしの気持ちが何となく伝わったみたいだった。お兄ちゃんはそれ以上テレビの移設のことは口にしなかった。
あたしは今がお兄ちゃんに謝るチャンスだと思った。あの時お兄ちゃんの求めを断ったのは間違っていない。これだけ寂しい境遇になってもあたしはあの時の判断が間違っているとは思わなかった。
でも物には言い方というものがある。あたしがお兄ちゃんを断った時の言葉にはお兄ちゃんへの配慮なんてかけらもなかった。今までは自分の寂しさにかまけてあまり考えなかったけど、今はあの時のお兄ちゃんの呆然とした辛そうな表情を思い出すとあたしの胸は痛んだ。そしてお兄ちゃんはその後あたしには何の断りもなく逃げるように一人暮らしを始めのだ。
この先、いい妹としてお兄ちゃんと仲直りするためにもあの時の言い方や態度は謝らなければいけないとあたしは考えた。
「ごめんなさい」
あたしはお兄ちゃんの目を真っ直ぐに見つめた。
「え?」
お兄ちゃんは戸惑っているようだった。
「最後にお兄ちゃんと話した時、あたし少し動揺してたから」
あたしは続けた。お兄ちゃんはに何のことかすぐにわかったようだった。
「・・・・・・別に。おまえが言ってたことは正しいよ。俺は」
お兄ちゃんは言った。
「俺は・・・・・・。妹友の告白にOKしたのに、おまえにあんなことを」
「・・・・・・呼び捨てで呼んでるんだ。妹友ちゃんのこと」
あたしはその呼び方に思わず反応してしまった。
「うん」
「そうだよね。恋人だもんね」
そしてすぐにそのことを後悔した。今はそんな話をしているのではない。
「・・・・・・まあな」
「とにかくごめん」
あたしはこれでこの話を終わらせたかったけど、お兄ちゃんは再びあたしに聞き返した。
「だから何で謝る。理由を話してくれよ」
「大好きなお兄ちゃんを傷つけるような言い方だったから」
あたしは言った。正直な想いを。
「大好きって」
お兄ちゃんはまだ理解していないようだった。
「それは前にも言ったでしょ。彼よりお兄ちゃんの方が好きだって」
お兄ちゃんは黙ってしまった。
「だから、妹友ちゃんのメール見た時、すごく慌てちゃって。妹友ちゃんのことは応援しようと思ってたのに」
お兄ちゃんはまだ沈黙していた。
「あの時の気持ちは変わってないけど」
それに構わずあたしは話を続けた。
「でも、お兄ちゃんの気持ちを傷つけた。ごめん」
どういうわけかお兄ちゃんはあたしにテレビをあげるという考えが気に入ったようで、これからすぐあたしの部屋にテレビを移して見えるようにしてやると言い出したけど、あたしはそれを断った。
「ううん。まだいい」
「へ? 何で。すぐにできるぜ」
お兄ちゃんはどういうわけか残念そうだった。今あたしの部屋にテレビを持って行かれたら、テレビを見る名目でお兄ちゃんの部屋を訪れることができなくなってしまう。今のあたしは、ちょっと前のあたしがしていたみたいに何の口実もなくお兄ちゃんの部屋を
訪れることはできなくなってしまっていた。そしてそれができるのは今では妹友ちゃんだけだった。
「年末年始にお兄ちゃんがいる間はお兄ちゃんの部屋でテレビ見たいから」
あたしはそれだけ言った。
「・・・・・・そうか。そうだな」
お兄ちゃんにもあたしの気持ちが何となく伝わったみたいだった。お兄ちゃんはそれ以上テレビの移設のことは口にしなかった。
あたしは今がお兄ちゃんに謝るチャンスだと思った。あの時お兄ちゃんの求めを断ったのは間違っていない。これだけ寂しい境遇になってもあたしはあの時の判断が間違っているとは思わなかった。
でも物には言い方というものがある。あたしがお兄ちゃんを断った時の言葉にはお兄ちゃんへの配慮なんてかけらもなかった。今までは自分の寂しさにかまけてあまり考えなかったけど、今はあの時のお兄ちゃんの呆然とした辛そうな表情を思い出すとあたしの胸は痛んだ。そしてお兄ちゃんはその後あたしには何の断りもなく逃げるように一人暮らしを始めのだ。
この先、いい妹としてお兄ちゃんと仲直りするためにもあの時の言い方や態度は謝らなければいけないとあたしは考えた。
「ごめんなさい」
あたしはお兄ちゃんの目を真っ直ぐに見つめた。
「え?」
お兄ちゃんは戸惑っているようだった。
「最後にお兄ちゃんと話した時、あたし少し動揺してたから」
あたしは続けた。お兄ちゃんはに何のことかすぐにわかったようだった。
「・・・・・・別に。おまえが言ってたことは正しいよ。俺は」
お兄ちゃんは言った。
「俺は・・・・・・。妹友の告白にOKしたのに、おまえにあんなことを」
「・・・・・・呼び捨てで呼んでるんだ。妹友ちゃんのこと」
あたしはその呼び方に思わず反応してしまった。
「うん」
「そうだよね。恋人だもんね」
そしてすぐにそのことを後悔した。今はそんな話をしているのではない。
「・・・・・・まあな」
「とにかくごめん」
あたしはこれでこの話を終わらせたかったけど、お兄ちゃんは再びあたしに聞き返した。
「だから何で謝る。理由を話してくれよ」
「大好きなお兄ちゃんを傷つけるような言い方だったから」
あたしは言った。正直な想いを。
「大好きって」
お兄ちゃんはまだ理解していないようだった。
「それは前にも言ったでしょ。彼よりお兄ちゃんの方が好きだって」
お兄ちゃんは黙ってしまった。
「だから、妹友ちゃんのメール見た時、すごく慌てちゃって。妹友ちゃんのことは応援しようと思ってたのに」
お兄ちゃんはまだ沈黙していた。
「あの時の気持ちは変わってないけど」
それに構わずあたしは話を続けた。
「でも、お兄ちゃんの気持ちを傷つけた。ごめん」
72: 2012/02/02(木) 22:01:24.03 ID:8lpwf8Ujo
それからあたしとお兄ちゃんはベッドに二人並んで座り、お互いに会話もなくテレビのバラエティ番組を見た。テレビもクリスマス気分が落ち着いたようでクリスマスとは関係ない通常の番組編成に戻っていた。
見ていた番組が終わったところであたしはお兄ちゃんに話しかけた。
「お兄ちゃん?」
「おう」
「・・・・・・明日の予定は?」
明日はクリスマス休暇の最終日だった。学校は休みだけどあたしにはもう何も予定がなかった。今日一日で家の掃除も終わってしまい、この家には家事をする余地すら残っていなかった。そういうわけで自分勝手な話しだけどお兄ちゃんがデートでいなくなるとあたしはまた孤独を持て余すようになってしまう。でもお兄ちゃんはあっさりとこう言った。
「特にねえんだけどさ。とりあえず車でアパートに戻って着替えとか取って来るわ」
「妹友ちゃんとは?」
あたしは思わず聞いてしまった。
「明日は会う約束はねえけど」
「そか」
あたしは決心した。妹がお兄ちゃんの部屋を見に行くくらいなら別にお兄ちゃんの彼女も気にしないだろう。
「一緒に行ってもいい?」
・・・・・・でもそれは自分についた大きな嘘だった。
「え」
「お兄ちゃんのアパートまで付いて行っていい?」
・・・・・・妹友ちゃんが気にしないわけはなかった。
「おまえは予定ねえの?」
「うん」
でもあたしは兄妹の関係のままでもお兄ちゃんと一緒にいたかった。
「着替えとか取りに行くだけだぞ」
お兄ちゃんは不審そうに言った。
「お兄ちゃんの部屋、見たことないし」
「そうか。別にいいけど」
「じゃあ、行く」
あたしは明日は孤独ではなくおにいちゃんと一緒にいられるという喜びと妹友ちゃんへの後ろめたさが交じり合った複雑な気持ちを感じながらも迷わず言った。
「うん」
お兄ちゃんが短く答えた。
見ていた番組が終わったところであたしはお兄ちゃんに話しかけた。
「お兄ちゃん?」
「おう」
「・・・・・・明日の予定は?」
明日はクリスマス休暇の最終日だった。学校は休みだけどあたしにはもう何も予定がなかった。今日一日で家の掃除も終わってしまい、この家には家事をする余地すら残っていなかった。そういうわけで自分勝手な話しだけどお兄ちゃんがデートでいなくなるとあたしはまた孤独を持て余すようになってしまう。でもお兄ちゃんはあっさりとこう言った。
「特にねえんだけどさ。とりあえず車でアパートに戻って着替えとか取って来るわ」
「妹友ちゃんとは?」
あたしは思わず聞いてしまった。
「明日は会う約束はねえけど」
「そか」
あたしは決心した。妹がお兄ちゃんの部屋を見に行くくらいなら別にお兄ちゃんの彼女も気にしないだろう。
「一緒に行ってもいい?」
・・・・・・でもそれは自分についた大きな嘘だった。
「え」
「お兄ちゃんのアパートまで付いて行っていい?」
・・・・・・妹友ちゃんが気にしないわけはなかった。
「おまえは予定ねえの?」
「うん」
でもあたしは兄妹の関係のままでもお兄ちゃんと一緒にいたかった。
「着替えとか取りに行くだけだぞ」
お兄ちゃんは不審そうに言った。
「お兄ちゃんの部屋、見たことないし」
「そうか。別にいいけど」
「じゃあ、行く」
あたしは明日は孤独ではなくおにいちゃんと一緒にいられるという喜びと妹友ちゃんへの後ろめたさが交じり合った複雑な気持ちを感じながらも迷わず言った。
「うん」
お兄ちゃんが短く答えた。
73: 2012/02/02(木) 22:02:55.21 ID:8lpwf8Ujo
「そろそろ寝るか」
お兄ちゃんが壁にかけられた時計をちらっと見て言った。もう日付が変る頃だった。
「うん」
あたしは答えてベッドから床に敷かれた寝具の方に移動した。
「じゃあ、おやすみ」
お兄ちゃんもベッドに横になった。ベッドの中で寄り添って抱き合った時より距離は開いていたけど、それでもベッドのお兄ちゃんと床に寝たあたしとの距離はそんなに遠くはなかった。
「あ、お兄ちゃん」
あたしは小さく言った。こんな小声でもはっきりとお兄ちゃんにあたしの声が届く距離。
「何だよ」
「朝ごはんどうする? あたしはいつもはパンくらいしか食べないんだけど」
「ああ、そう言ってたな」
「お兄ちゃんがちゃんと食べたいなら何か作るけど」
「ああ。俺、朝飯食わねえからいいや」
お兄ちゃんは何やら少し慌てたように言った。
「いいの?」
あたしに遠慮してるのだろうか。それとも遠お兄ちゃんが慮をしたのは妹友ちゃんにだったのか。
「うん、いらねえ」
お兄ちゃんがキッパリと言ったのであたしはお兄ちゃんの朝ごはんを作ることを諦めた。
「じゃ、電気消すぞ」
お兄ちゃんが灯りを消し部屋は薄闇に包まれた。
お兄ちゃんが壁にかけられた時計をちらっと見て言った。もう日付が変る頃だった。
「うん」
あたしは答えてベッドから床に敷かれた寝具の方に移動した。
「じゃあ、おやすみ」
お兄ちゃんもベッドに横になった。ベッドの中で寄り添って抱き合った時より距離は開いていたけど、それでもベッドのお兄ちゃんと床に寝たあたしとの距離はそんなに遠くはなかった。
「あ、お兄ちゃん」
あたしは小さく言った。こんな小声でもはっきりとお兄ちゃんにあたしの声が届く距離。
「何だよ」
「朝ごはんどうする? あたしはいつもはパンくらいしか食べないんだけど」
「ああ、そう言ってたな」
「お兄ちゃんがちゃんと食べたいなら何か作るけど」
「ああ。俺、朝飯食わねえからいいや」
お兄ちゃんは何やら少し慌てたように言った。
「いいの?」
あたしに遠慮してるのだろうか。それとも遠お兄ちゃんが慮をしたのは妹友ちゃんにだったのか。
「うん、いらねえ」
お兄ちゃんがキッパリと言ったのであたしはお兄ちゃんの朝ごはんを作ることを諦めた。
「じゃ、電気消すぞ」
お兄ちゃんが灯りを消し部屋は薄闇に包まれた。
74: 2012/02/02(木) 22:08:56.12 ID:8lpwf8Ujo
朝目覚めた時、あたしは同時に浅い夢からも目覚めたようだった。夢の中のあたしは裸でお兄ちゃんに愛撫され、お兄ちゃんの舌に肌をなぶられていた。そしてあたしは自分ではどうにも抑えられない悩ましい声をあげながら必氏でお兄ちゃんに抱きついていた。
それは最後にお兄ちゃんと一緒にベッドで寝た時の記憶の忠実な再現だった。あたしが夢から覚めるとあたしの顔のすぐ横にお兄ちゃんの顔があった。これはお兄ちゃんと愛し合った後の朝なのだ。あたしは何となくそう考えこんでいた。お兄ちゃんも目を覚ましているようで少し照れたような表情であたしのことを慈しむように見つめていた。
「もう起きてたの?」
あたしはお兄ちゃんの首に両腕を廻した。
「・・・・・・ああ。おはよう」
「おはよ、お兄ちゃん」
あたしはお兄ちゃんにキスした。kれど、どういうわけかお兄ちゃんは酷く慌てた様子で言った。
「お、おい」
あたしはそれで完全に目が覚めた。昨日は別々な場所に寝ていたはずだった。もちろん裸の肌をを愛撫されるなんてことはなかったはずだった。
「キスって。お、おまえ。何で」
「・・・・・・やだ」
あたしは寝ぼけて以前の幸せだった頃の関係を勝手に夢見て、そのままお兄ちゃんにキスしてしまったのだ。
「俺とはもう終わりだって言ってたじゃん。それに妹友を泣かせたら許さないって」
お兄ちゃんはあたしの意図を勘違いしたようだった。無理もないことだけど。
「ごめんなさい」
あたしは気分が再び落ち込んでいくのを感じながら謝った。
「それに何でおまえが俺の布団に入って来てるんだよ」
あたしは夢遊病者のようにお兄ちゃんのベッドに潜り込んだのだろうか。そう思って周囲を見回すと、あたしとお兄ちゃんは床の上に広げた寝具の中で一緒に密着していた。あたしではなくお兄ちゃんが寝ぼけてあたしの毛布の中に入ってきたのだろう。そしてそれであたしは混乱しあんな夢を見たのだろう。
「これ、あたしの布団だから。お兄ちゃんがあたしの側に来ちゃったんでしょ。寝ぼけてた?」
あたしにはお兄ちゃんを責めるつもりはなかったのでなるべくさりげなく言った。
「・・・・・・あのさあ」
どういうわけかお兄ちゃんはあたしに飽きれたようだった。
「うん」
「おまえ、夜のこと全然覚えてないの?」
「え?」
いったいお兄ちゃんは何を言っているのだろう。
「もともと、おまえが俺のベッドに潜り込んできたんだぜ?」
「・・・・・・嘘」
あたしにはそんな記憶はなかった。
「ほんと。しかたないから俺の方が床の布団に避難したんだけどさ」
お兄ちゃんは困惑したように話を続けた。
「起きたらまたおまえが俺の横に潜り込んで抱きついてた」
では無意識のうちにあたしはお兄ちゃんの側にすり寄ってしまったのだ。
「・・・・・・ごめん、お兄ちゃん」
あたしはしょげた声で小さく謝った。
「俺は別にいいけどさ」
「・・・・・妹友ちゃんに悪いことしちゃった」
「まあ、わざとじゃないんだし。黙ってればわかんねえんじゃね」
「・・・・・・うん。ごめん」
あたしはまた謝った。
「何度も謝るなよ。それよか、道が混む前にアパートに荷物取りに行きたいんだけど。おまえ、どうする?」
「・・・・・・お兄ちゃんが嫌じゃなかったらついていってもいい?」
昨日の高揚感はなく今ではひどく落ち込んではいたけど、それでもあたしは今日を一人で過ごすのは嫌だったのだ。自分でも図々しく嫌な女だとあたしは思ったけど。
「別にいいよ」
でもお兄ちゃんはなぜか気軽に言ってくれた。あたしは再び謝った。
「ごめん」
「・・・・・・だからもう謝るなって」
「うん。ごめん」
今度こそお兄ちゃんは困ったように沈黙してしまった。
それは最後にお兄ちゃんと一緒にベッドで寝た時の記憶の忠実な再現だった。あたしが夢から覚めるとあたしの顔のすぐ横にお兄ちゃんの顔があった。これはお兄ちゃんと愛し合った後の朝なのだ。あたしは何となくそう考えこんでいた。お兄ちゃんも目を覚ましているようで少し照れたような表情であたしのことを慈しむように見つめていた。
「もう起きてたの?」
あたしはお兄ちゃんの首に両腕を廻した。
「・・・・・・ああ。おはよう」
「おはよ、お兄ちゃん」
あたしはお兄ちゃんにキスした。kれど、どういうわけかお兄ちゃんは酷く慌てた様子で言った。
「お、おい」
あたしはそれで完全に目が覚めた。昨日は別々な場所に寝ていたはずだった。もちろん裸の肌をを愛撫されるなんてことはなかったはずだった。
「キスって。お、おまえ。何で」
「・・・・・・やだ」
あたしは寝ぼけて以前の幸せだった頃の関係を勝手に夢見て、そのままお兄ちゃんにキスしてしまったのだ。
「俺とはもう終わりだって言ってたじゃん。それに妹友を泣かせたら許さないって」
お兄ちゃんはあたしの意図を勘違いしたようだった。無理もないことだけど。
「ごめんなさい」
あたしは気分が再び落ち込んでいくのを感じながら謝った。
「それに何でおまえが俺の布団に入って来てるんだよ」
あたしは夢遊病者のようにお兄ちゃんのベッドに潜り込んだのだろうか。そう思って周囲を見回すと、あたしとお兄ちゃんは床の上に広げた寝具の中で一緒に密着していた。あたしではなくお兄ちゃんが寝ぼけてあたしの毛布の中に入ってきたのだろう。そしてそれであたしは混乱しあんな夢を見たのだろう。
「これ、あたしの布団だから。お兄ちゃんがあたしの側に来ちゃったんでしょ。寝ぼけてた?」
あたしにはお兄ちゃんを責めるつもりはなかったのでなるべくさりげなく言った。
「・・・・・・あのさあ」
どういうわけかお兄ちゃんはあたしに飽きれたようだった。
「うん」
「おまえ、夜のこと全然覚えてないの?」
「え?」
いったいお兄ちゃんは何を言っているのだろう。
「もともと、おまえが俺のベッドに潜り込んできたんだぜ?」
「・・・・・・嘘」
あたしにはそんな記憶はなかった。
「ほんと。しかたないから俺の方が床の布団に避難したんだけどさ」
お兄ちゃんは困惑したように話を続けた。
「起きたらまたおまえが俺の横に潜り込んで抱きついてた」
では無意識のうちにあたしはお兄ちゃんの側にすり寄ってしまったのだ。
「・・・・・・ごめん、お兄ちゃん」
あたしはしょげた声で小さく謝った。
「俺は別にいいけどさ」
「・・・・・妹友ちゃんに悪いことしちゃった」
「まあ、わざとじゃないんだし。黙ってればわかんねえんじゃね」
「・・・・・・うん。ごめん」
あたしはまた謝った。
「何度も謝るなよ。それよか、道が混む前にアパートに荷物取りに行きたいんだけど。おまえ、どうする?」
「・・・・・・お兄ちゃんが嫌じゃなかったらついていってもいい?」
昨日の高揚感はなく今ではひどく落ち込んではいたけど、それでもあたしは今日を一人で過ごすのは嫌だったのだ。自分でも図々しく嫌な女だとあたしは思ったけど。
「別にいいよ」
でもお兄ちゃんはなぜか気軽に言ってくれた。あたしは再び謝った。
「ごめん」
「・・・・・・だからもう謝るなって」
「うん。ごめん」
今度こそお兄ちゃんは困ったように沈黙してしまった。
78: 2012/02/04(土) 22:28:32.92 ID:Sm2qxcamo
その時のあたしは寂しさと懐かしさからとにかくお兄ちゃんと一緒に、お兄ちゃんのそばにいたいだけだと思っていた。お兄ちゃんが妹友ちゃんのことが好きでもいい。一番お兄ちゃんと関係が深まったあの時に戻れなくてもいい。それでもお兄ちゃんが家を出て下宿するようになったあの
頃の寂しさとさよならできるだけでいいと。
でもあたしは無意識のうちにお兄ちゃんのベッドに潜り込み、朝目覚めた瞬間にお兄ちゃんに抱きつきキスしてしまったようだった。認めたくはなかったけど認めるしかなかった。あたしはまだお兄ちゃんを異性として求めているのだ。
その日、お兄ちゃんのアパートに向かう途中、お兄ちゃんの車の助手席に座ってあたしは俯いていた。お兄ちゃんにも妹友ちゃんにも申し訳ない気持ちでいっぱいだったし、何よりお兄ちゃんに敬遠されただろうと考えると胸が痛んだ。お兄ちゃんは何も言わずに運転していたけど、会
話がないまま30分くらいが過ぎた頃、お兄ちゃんがぽつんとあたしに話しかけてきた。
「なあ」
「・・・・・・うん」
あたしは俯いたまま答えた。
「俺さ。前におまえを俺のものにしたいとかキモイこと言って、おまえを困らせたじゃん?」
「・・・・・・お兄ちゃん、何言ってるの」
お兄ちゃんは突然何を言おうとしているのだろう?あたしは少し困惑しながらお兄ちゃんの話を聞いていた。
「あれ、正直な気持ちだったんだけどさ。でも、その後でおまえに振られて、正直ショックだったけど」
「・・・・・・そのことは謝ったでしょ」
あたしはかろうじて小さな声を絞り出した。
「いや、違うよ。何ていうか、もうおまえの男にはなれないかもしれないけどさ」
でもお兄ちゃんは気にせず話し続けた。
「・・・・・・あ。兄貴からこういう話されるの気持ち悪かったらそう言えよ? すぐに止めてもう二度と言わないから」
お兄ちゃんのその言葉にあたしはなぜか寂しい気持ちになったけどそれを表情や口調には出さずにすんだと思う。
「・・・・・・別に」
あたしは小さく答えた。
「うん?」
聞き取れなかったのだろう、お兄ちゃんが聞き返した。
「別に気持ち悪くない」
「そうか。でさ」
お兄ちゃんは話を戻した。
「しばらくおまえの顔見たくなくて、実家に帰らないようにしてたんだけどさ。何というか恋人でも恋人じゃなくても俺たちって家族で兄妹じゃん? だからさ、俺の方こそ悪かったよ。親がいない家におまえを一人で放置してさ」
お兄ちゃんの言葉に呆然としたせいで、そして泣き出さないように自分を抑えるのに精一杯で、あたしはしばらくは声も出せなかった。
「もうおまえには迫らない。おまえの彼氏に嫉妬して夜外出させないいとかしない。でも、兄貴としてはおまえのことを守りたい」
そんなあたしに構わずお兄ちゃんは続けた。
「それすらダメか? 以上、気持ちの悪い兄貴の話はおしまい・・・・・・って、泣くなよ」
お兄ちゃんは我慢できずに泣き出したあたしに狼狽した様子だった。しばらく泣いた後、やっとあたしはお兄ちゃんに向かって微笑みかけることができた。
「わかった。ありがと、お兄ちゃん」
頃の寂しさとさよならできるだけでいいと。
でもあたしは無意識のうちにお兄ちゃんのベッドに潜り込み、朝目覚めた瞬間にお兄ちゃんに抱きつきキスしてしまったようだった。認めたくはなかったけど認めるしかなかった。あたしはまだお兄ちゃんを異性として求めているのだ。
その日、お兄ちゃんのアパートに向かう途中、お兄ちゃんの車の助手席に座ってあたしは俯いていた。お兄ちゃんにも妹友ちゃんにも申し訳ない気持ちでいっぱいだったし、何よりお兄ちゃんに敬遠されただろうと考えると胸が痛んだ。お兄ちゃんは何も言わずに運転していたけど、会
話がないまま30分くらいが過ぎた頃、お兄ちゃんがぽつんとあたしに話しかけてきた。
「なあ」
「・・・・・・うん」
あたしは俯いたまま答えた。
「俺さ。前におまえを俺のものにしたいとかキモイこと言って、おまえを困らせたじゃん?」
「・・・・・・お兄ちゃん、何言ってるの」
お兄ちゃんは突然何を言おうとしているのだろう?あたしは少し困惑しながらお兄ちゃんの話を聞いていた。
「あれ、正直な気持ちだったんだけどさ。でも、その後でおまえに振られて、正直ショックだったけど」
「・・・・・・そのことは謝ったでしょ」
あたしはかろうじて小さな声を絞り出した。
「いや、違うよ。何ていうか、もうおまえの男にはなれないかもしれないけどさ」
でもお兄ちゃんは気にせず話し続けた。
「・・・・・・あ。兄貴からこういう話されるの気持ち悪かったらそう言えよ? すぐに止めてもう二度と言わないから」
お兄ちゃんのその言葉にあたしはなぜか寂しい気持ちになったけどそれを表情や口調には出さずにすんだと思う。
「・・・・・・別に」
あたしは小さく答えた。
「うん?」
聞き取れなかったのだろう、お兄ちゃんが聞き返した。
「別に気持ち悪くない」
「そうか。でさ」
お兄ちゃんは話を戻した。
「しばらくおまえの顔見たくなくて、実家に帰らないようにしてたんだけどさ。何というか恋人でも恋人じゃなくても俺たちって家族で兄妹じゃん? だからさ、俺の方こそ悪かったよ。親がいない家におまえを一人で放置してさ」
お兄ちゃんの言葉に呆然としたせいで、そして泣き出さないように自分を抑えるのに精一杯で、あたしはしばらくは声も出せなかった。
「もうおまえには迫らない。おまえの彼氏に嫉妬して夜外出させないいとかしない。でも、兄貴としてはおまえのことを守りたい」
そんなあたしに構わずお兄ちゃんは続けた。
「それすらダメか? 以上、気持ちの悪い兄貴の話はおしまい・・・・・・って、泣くなよ」
お兄ちゃんは我慢できずに泣き出したあたしに狼狽した様子だった。しばらく泣いた後、やっとあたしはお兄ちゃんに向かって微笑みかけることができた。
「わかった。ありがと、お兄ちゃん」
79: 2012/02/04(土) 22:32:28.77 ID:Sm2qxcamo
しばらくしてやっとあたしは落ち着いて喋れるようになった。その時は再び心が軽くなっているのを感じていた。
「お兄ちゃん?」
あたしはもうすっかり平静になった声でお兄ちゃんに言った。
「うん」
お兄ちゃんはハンドルを握りながら前を見ていた視線を一瞬だけあたしの方に向けた。
「何かおなか好いちゃった。朝に食欲あるのって久しぶり」
「途中で何か食ってくか。朝マックでもする?」
お兄ちゃんは笑っているあたしにようやく安心したように気軽な口調で言った。
「うん」
あたしもそれに答えて笑った。その時にはもうお兄ちゃんの視線はフロントガラスの方に戻ってしまっていたけれども。
お兄ちゃんのアパートは新しくはないけどそれなりに広かった。何となくワンルームとかって思っていたあたしは少し意外だった。
「まあ、築年数が古いんで安いんだけどな」
お兄ちゃんは笑って言った。
お兄ちゃんが言うにはここは大学に近いそうでそれでこのアパートに決めたそうだ。あたしは自分の受験のことをふと思い出した。それだけ心が回復してきたのだろう。あたしはお兄ちゃんに聞いてみた。
「今度、お兄ちゃんの大学、案内してくれる?」
「別ににいいけど。いったい何で?」
お兄ちゃんはあたしがお兄ちゃんと同じ大学を志望していることを知らないだろうから、それは当然の反応だった。
「だって・・・・・・。妹友ちゃんがお兄ちゃんの大学志望してるし」
とりあえずあたしはそう言い訳した。
「だからどんなとこか見てみたいし」
「・・・・・・おまえは?」
意外なことにその話には乗らずに。お兄ちゃんは静かに聞き返してきた。
「え」
「おまえはどこを志望してるんだ」
「え、えと。その」
あたしは突然の問いに慌ててすぐには答えられなかった。すると、お兄ちゃんは静かに優しい目であたしを見つめてくれた。
「・・・・・・おまえ、俺に遠慮するな」
「・・・・・・何言ってるの」
「おまえ、俺の大学志望してるんだろ?」
何で・・・・・・あたしは絶句した。何でお兄ちゃんがそれをと一瞬考えたけど、こんなことをお兄ちゃんに言うお喋りちゃんは一人だけだった。
「・・・・・・妹友ちゃんから聞いたの?」
「兄貴と同じ大学志望したって恥ずかしいことねえよ」
お兄ちゃんはそれには答えずに言った。
「キャンパスならいくらでも案内してやる」
「お兄ちゃん・・・・・・」
「偏差値が届かないなら勉強だって見てやるよ」
「・・・・・・うん」
あたしはようやくそれだけ返事した。そして何か暖かいものがあたしの体に満ち溢れてくるのを感じていた。
「兄貴をもっと頼れよ。俺だっておまえにしてやれることがある方が嬉しいんだぜ」
お兄ちゃんは話し終わった。
「わかった。キャンパス今度案内してくれる?」
「おう」
「勉強もみてもらっていい? 年明けに模試あるし」
「おう・・・・・・まあ、俺が覚えてる範囲でな」
「ありがと、お兄ちゃん」
あたしはそっと言った。
「お兄ちゃん?」
あたしはもうすっかり平静になった声でお兄ちゃんに言った。
「うん」
お兄ちゃんはハンドルを握りながら前を見ていた視線を一瞬だけあたしの方に向けた。
「何かおなか好いちゃった。朝に食欲あるのって久しぶり」
「途中で何か食ってくか。朝マックでもする?」
お兄ちゃんは笑っているあたしにようやく安心したように気軽な口調で言った。
「うん」
あたしもそれに答えて笑った。その時にはもうお兄ちゃんの視線はフロントガラスの方に戻ってしまっていたけれども。
お兄ちゃんのアパートは新しくはないけどそれなりに広かった。何となくワンルームとかって思っていたあたしは少し意外だった。
「まあ、築年数が古いんで安いんだけどな」
お兄ちゃんは笑って言った。
お兄ちゃんが言うにはここは大学に近いそうでそれでこのアパートに決めたそうだ。あたしは自分の受験のことをふと思い出した。それだけ心が回復してきたのだろう。あたしはお兄ちゃんに聞いてみた。
「今度、お兄ちゃんの大学、案内してくれる?」
「別ににいいけど。いったい何で?」
お兄ちゃんはあたしがお兄ちゃんと同じ大学を志望していることを知らないだろうから、それは当然の反応だった。
「だって・・・・・・。妹友ちゃんがお兄ちゃんの大学志望してるし」
とりあえずあたしはそう言い訳した。
「だからどんなとこか見てみたいし」
「・・・・・・おまえは?」
意外なことにその話には乗らずに。お兄ちゃんは静かに聞き返してきた。
「え」
「おまえはどこを志望してるんだ」
「え、えと。その」
あたしは突然の問いに慌ててすぐには答えられなかった。すると、お兄ちゃんは静かに優しい目であたしを見つめてくれた。
「・・・・・・おまえ、俺に遠慮するな」
「・・・・・・何言ってるの」
「おまえ、俺の大学志望してるんだろ?」
何で・・・・・・あたしは絶句した。何でお兄ちゃんがそれをと一瞬考えたけど、こんなことをお兄ちゃんに言うお喋りちゃんは一人だけだった。
「・・・・・・妹友ちゃんから聞いたの?」
「兄貴と同じ大学志望したって恥ずかしいことねえよ」
お兄ちゃんはそれには答えずに言った。
「キャンパスならいくらでも案内してやる」
「お兄ちゃん・・・・・・」
「偏差値が届かないなら勉強だって見てやるよ」
「・・・・・・うん」
あたしはようやくそれだけ返事した。そして何か暖かいものがあたしの体に満ち溢れてくるのを感じていた。
「兄貴をもっと頼れよ。俺だっておまえにしてやれることがある方が嬉しいんだぜ」
お兄ちゃんは話し終わった。
「わかった。キャンパス今度案内してくれる?」
「おう」
「勉強もみてもらっていい? 年明けに模試あるし」
「おう・・・・・・まあ、俺が覚えてる範囲でな」
「ありがと、お兄ちゃん」
あたしはそっと言った。
80: 2012/02/04(土) 22:32:59.90 ID:Sm2qxcamo
「いいよ、別に。一々礼なんか言うなよ」
「うん。ちょっと、この部屋掃除していい?」
あたしはこの時最初におにいちゃんの部屋に入ったときからしたくてたまらなかったことをお兄ちゃんに告げる余裕ができていたのだ。
「おう、って何で?」
「妹友ちゃん、普段は来てないんだね。散らかりすぎ」
あたしは抵抗なくお兄ちゃんの彼女、あたしの親友の名前を出すことができた。
「まあね」
お兄ちゃんもそんなあたしの様子に安心したのだろう。そう自然に答えた。
「じゃ、お兄ちゃんが着替えとか用意してる間に掃除しちゃうね」
あたしは何か少し前とはうって変ってはしゃぎ気味にお兄ちゃんの部屋の掃除に取り掛かろうとした時だった。
お兄ちゃんの携帯が鳴り響いた。
「妹友ちゃんからメールだ・・・・・・」
お兄ちゃんがぽつんと言った。
「・・・・・・メールみてあげて」
あたしはお兄ちゃんに言った。お兄ちゃんの恋人からのメール。
あたしは今ようやくいい妹になれていい兄妹関係になれてそれで十分満足したはずなので、妹友ちゃんからお兄ちゃんにメールが来たくらいで動揺するはずもなかった。
そう、なかったはずだけど。
「うん・・・・・・」
お兄ちゃんはイルミネーションが点灯してメールの着信を知らせる携帯を眺めて言った。
「うん。ちょっと、この部屋掃除していい?」
あたしはこの時最初におにいちゃんの部屋に入ったときからしたくてたまらなかったことをお兄ちゃんに告げる余裕ができていたのだ。
「おう、って何で?」
「妹友ちゃん、普段は来てないんだね。散らかりすぎ」
あたしは抵抗なくお兄ちゃんの彼女、あたしの親友の名前を出すことができた。
「まあね」
お兄ちゃんもそんなあたしの様子に安心したのだろう。そう自然に答えた。
「じゃ、お兄ちゃんが着替えとか用意してる間に掃除しちゃうね」
あたしは何か少し前とはうって変ってはしゃぎ気味にお兄ちゃんの部屋の掃除に取り掛かろうとした時だった。
お兄ちゃんの携帯が鳴り響いた。
「妹友ちゃんからメールだ・・・・・・」
お兄ちゃんがぽつんと言った。
「・・・・・・メールみてあげて」
あたしはお兄ちゃんに言った。お兄ちゃんの恋人からのメール。
あたしは今ようやくいい妹になれていい兄妹関係になれてそれで十分満足したはずなので、妹友ちゃんからお兄ちゃんにメールが来たくらいで動揺するはずもなかった。
そう、なかったはずだけど。
「うん・・・・・・」
お兄ちゃんはイルミネーションが点灯してメールの着信を知らせる携帯を眺めて言った。
81: 2012/02/04(土) 22:42:41.96 ID:Sm2qxcamo
翌日はクリスマス休暇が終わって最初の登校日っだった。あたしは相変わらず妹友ちゃんと話すこともなく学校で一人で過ごしていた。その日の午前中ずっとあたしの頭の中では昨日のお兄ちゃんとの出来事や妹友ちゃんのメールとかがぐるぐる回っていた
昨日はお兄ちゃんと仲直りして仲の良い兄妹になれたのだった。お兄ちゃんがあたしのことを気にしてくれているとわかった瞬間、あたしはそれまで感じていたひどい寂しさから開放されたのだった。でも妹友ちゃんのメールはあたしとお兄ちゃんの穏やかな時間を壊したのだった。
・・・・・・お兄ちゃんの恋人じゃなくてもよかったはずだったのに。お兄ちゃんといい兄妹になれたらもうそれで幸せだとあの時の孤独なあたしは考えたのではなかったのか。あたしは強欲なのだろうか。お兄ちゃんがあたしにやさしく関心を示してくれた途端に、妹友ちゃんの存在が疎ましく思えてきたのか。でも、『妹友からメールだ』とぽつんと言ったお兄ちゃんの表情は、あたしの思い込みかもしれないけどあたしとの穏やかな時間に邪魔が入って残念そうに見えたのだ。
こんな勝手な想像をしてちゃだめだ。あたしは気分を変えるため学食に行こうと思い席を立った。
あたしは暗い顔をしていたのだろう。午前の授業が終わったその時、委員長ちゃんがあたしを食事に誘ってくれた。寒いけど中庭で一緒に食事しようと彼女は言った。あたしはいつものとおりお弁当持参ではなかったので購買でパンを買ってから中庭に向かうと、もう委員長ちゃんは噴水脇のベンチで待っていてくれた。
他愛もない話をしながらの食事が終わり、お互いにすぐ近くの自販機で買った暖かい飲み物で手を温めていた時だった。こんな寒い時期に外で食事をする生徒は少なくてあたりにはほとんど人影はなかった。委員長ちゃんが自分の飲み物で両手を暖めながら何気ない調子で言った。
「そういえば妹ちゃんってさ、最近妹友ちゃんと一緒じゃないけど喧嘩でもしたの?」
「別に喧嘩なんかしてないよ」
あたしは普通に答えられたと思う。
「もしかしてさ、妹友ちゃんとお兄さんが付き合い出したから?」
でも委員長ちゃんは納得していないようだった。
あたしはその質問とあたしの顔を覗き込む委員長ちゃんに狼狽した。これは今まで周りの女の子たちがあたしをブラコンだと囃し立てていたのと同じような軽い質問なのだろうか。あたしは委員長ちゃんの顔を見てみたけどその表情はすごく真面目なものであたしをからかっている様子は全く窺えなかった。そしてどういうわけかその時あたしの脳裏に辛そうに話していた先輩の言葉が浮かんだ。
『委員長が俺を好きなことなんか最初からわかってるよ』
『でも俺が好きだったのはおまえなんだよ。今でも一番好きなのはあいつじゃなくておまえなんだよ』
『そのことで俺はあいつに罪悪感を感じてたんだ。ずっと前から』
『あいつと俺のことは放っておいてくれ。おまえは兄貴のことだけ考えてろ。そのために俺はおまえを諦めたんだから』
誰かに相談したいという気持ちがあったのかもしれない。それとも先輩のことについての委員長ちゃんへの罪悪感もあったのだろうか。どういう動機かは自分でも判然としないけどあたしはその時素直に委員長ちゃんに答えたのだった。
「・・・・・・うん」
「やっぱりね。大好きなお兄さんが妹友ちゃんに盗られちゃって寂びしいんでしょ?」
委員長ちゃんはあたしのことをからかう気配すらなく、、そういう感情が特別なことではなくさも一般的な普通の感情であるかのように聞き返した。
「正直寂しい。お兄ちゃんのこと好きだから」
あたしは答えた。手が震え出し止めようと必氏になっても自分の意思の力ではどうにもならなかった。
その時、突然あたしは委員長ちゃんに肩を抱かれ抱き寄せられた。
「妹ちゃん・・・・・・かわいそうに」
あたしは委員長ちゃんの手から逃れようとしたけど、委員長ちゃんはそれを許さず、かえってあたしは委員長ちゃんの方にに引き寄せられていた。
「もう一人で悩むのはやめなよ」
委員長ちゃんは話を続けた。
「前から気が付いていたよ。あんたはブラコンとかそういうんじゃなくて、お兄さんのこと男として好きなんでしょ?」
あたしは生まれて初めて他人からあたしの秘密をはっきり口に出して指摘されたのだった。
少し間をおいてあたしは泣き出した。委員長ちゃんはそっとあたしの頭をく撫でてくれた。
「全部話してくれる? きっと力になれると思うから」
委員長ちゃんが囁いた。
昨日はお兄ちゃんと仲直りして仲の良い兄妹になれたのだった。お兄ちゃんがあたしのことを気にしてくれているとわかった瞬間、あたしはそれまで感じていたひどい寂しさから開放されたのだった。でも妹友ちゃんのメールはあたしとお兄ちゃんの穏やかな時間を壊したのだった。
・・・・・・お兄ちゃんの恋人じゃなくてもよかったはずだったのに。お兄ちゃんといい兄妹になれたらもうそれで幸せだとあの時の孤独なあたしは考えたのではなかったのか。あたしは強欲なのだろうか。お兄ちゃんがあたしにやさしく関心を示してくれた途端に、妹友ちゃんの存在が疎ましく思えてきたのか。でも、『妹友からメールだ』とぽつんと言ったお兄ちゃんの表情は、あたしの思い込みかもしれないけどあたしとの穏やかな時間に邪魔が入って残念そうに見えたのだ。
こんな勝手な想像をしてちゃだめだ。あたしは気分を変えるため学食に行こうと思い席を立った。
あたしは暗い顔をしていたのだろう。午前の授業が終わったその時、委員長ちゃんがあたしを食事に誘ってくれた。寒いけど中庭で一緒に食事しようと彼女は言った。あたしはいつものとおりお弁当持参ではなかったので購買でパンを買ってから中庭に向かうと、もう委員長ちゃんは噴水脇のベンチで待っていてくれた。
他愛もない話をしながらの食事が終わり、お互いにすぐ近くの自販機で買った暖かい飲み物で手を温めていた時だった。こんな寒い時期に外で食事をする生徒は少なくてあたりにはほとんど人影はなかった。委員長ちゃんが自分の飲み物で両手を暖めながら何気ない調子で言った。
「そういえば妹ちゃんってさ、最近妹友ちゃんと一緒じゃないけど喧嘩でもしたの?」
「別に喧嘩なんかしてないよ」
あたしは普通に答えられたと思う。
「もしかしてさ、妹友ちゃんとお兄さんが付き合い出したから?」
でも委員長ちゃんは納得していないようだった。
あたしはその質問とあたしの顔を覗き込む委員長ちゃんに狼狽した。これは今まで周りの女の子たちがあたしをブラコンだと囃し立てていたのと同じような軽い質問なのだろうか。あたしは委員長ちゃんの顔を見てみたけどその表情はすごく真面目なものであたしをからかっている様子は全く窺えなかった。そしてどういうわけかその時あたしの脳裏に辛そうに話していた先輩の言葉が浮かんだ。
『委員長が俺を好きなことなんか最初からわかってるよ』
『でも俺が好きだったのはおまえなんだよ。今でも一番好きなのはあいつじゃなくておまえなんだよ』
『そのことで俺はあいつに罪悪感を感じてたんだ。ずっと前から』
『あいつと俺のことは放っておいてくれ。おまえは兄貴のことだけ考えてろ。そのために俺はおまえを諦めたんだから』
誰かに相談したいという気持ちがあったのかもしれない。それとも先輩のことについての委員長ちゃんへの罪悪感もあったのだろうか。どういう動機かは自分でも判然としないけどあたしはその時素直に委員長ちゃんに答えたのだった。
「・・・・・・うん」
「やっぱりね。大好きなお兄さんが妹友ちゃんに盗られちゃって寂びしいんでしょ?」
委員長ちゃんはあたしのことをからかう気配すらなく、、そういう感情が特別なことではなくさも一般的な普通の感情であるかのように聞き返した。
「正直寂しい。お兄ちゃんのこと好きだから」
あたしは答えた。手が震え出し止めようと必氏になっても自分の意思の力ではどうにもならなかった。
その時、突然あたしは委員長ちゃんに肩を抱かれ抱き寄せられた。
「妹ちゃん・・・・・・かわいそうに」
あたしは委員長ちゃんの手から逃れようとしたけど、委員長ちゃんはそれを許さず、かえってあたしは委員長ちゃんの方にに引き寄せられていた。
「もう一人で悩むのはやめなよ」
委員長ちゃんは話を続けた。
「前から気が付いていたよ。あんたはブラコンとかそういうんじゃなくて、お兄さんのこと男として好きなんでしょ?」
あたしは生まれて初めて他人からあたしの秘密をはっきり口に出して指摘されたのだった。
少し間をおいてあたしは泣き出した。委員長ちゃんはそっとあたしの頭をく撫でてくれた。
「全部話してくれる? きっと力になれると思うから」
委員長ちゃんが囁いた。
85: 2012/02/05(日) 21:29:08.11 ID:AKymYdgWo
何で泣いてしまったのだろう。あたしはお兄ちゃんと仲直りして普通に仲の良い兄妹に戻ることができた。もうお兄ちゃんと特別な関係にはなれないかもしれないけど、その頃の寂しかったあたしはそれで十分に幸せだったのに。生まれて初めて自分の秘密を委員長ちゃんに知られたという動揺からだろうか。それともお兄ちゃんとどんなに仲良く過ごしていても、結局妹友ちゃんからお兄ちゃんにメールが着くだけで気まずくなり沈黙が続くようなあたしたちの関係の脆弱さに気がついてしまったからだろうか。
あたしはこの日今までの出来事を洗いざらい委員長ちゃんに話してしまった。話し出すと止まらなくなって結構長い時間あたしは話し続けたのだけど、委員長ちゃんはそれを黙って聞いてくれた。あたしは何も包み隠さず話した。ただ一つ先輩と別れたことは除いて。
委員長ちゃんはあたしの話が終わってもしばらく何も言わずに考えていた。そしてゆっくりとあたしのほうを見た。何か怖いほどの決意のようなものを湛えた目で。
「妹ちゃん、本当に言いにくいんだけどさ」
委員長ちゃんはようやく口を開いた。
「妹友ちゃんはあんたのお兄さんのこと全然好きじゃないと思うよ」
あたしには委員長ちゃんが何を言っているのか理解できなかった。あたしは何も把握できない混乱した状態で委員長ちゃんの方を見た。
「妹友ちゃんは自分からあいつを奪って行ったあんたに仕返しがしたかったんだろうね」
あたしの様子に構わず委員長ちゃんは話を進めた。
「先輩を奪った妹ちゃんの大切な人を奪ってあんたを苦しめたかった。だからお兄さんはあの子に騙されてるの。それだけでもひどいけど、次はあんたの大事なお兄さんを手ひどく振って苦しませることとか考えてるんじゃないかな」
ようやく委員長ちゃんがあたしに理解させようとしている内容がわかってきたが、これは本当のことなのだろうか。
先輩への恋愛を親友のあたしによって無残に散らされてしまった妹友ちゃんがようやく次の恋の相手に選んだのはあたしのお兄ちゃんだった。だからあたしはこれまで妹友ちゃんの恋を応援するしかなかった。親友の妹友ちゃんへの贖罪としてあたしはお兄ちゃんを諦めることになっても妹友ちゃんの邪魔をしようとは思わなかった。先輩を奪ったあたしに自信持ちなよ、頑張ってねって動揺を隠してあたしに言ってくれた妹友ちゃん。それはあたしの原罪だった。あたしとお兄ちゃんは一時期お互いを求め合ったけどやっぱり聖書のとおり罪を犯したイブの恋は実らないようになっていたのだ。
その妹友ちゃんの恋は嘘なのだと委員長ちゃんは落ち着いて断言した。あたしからお兄ちゃんを取り上げあたしを苦しめることが妹友ちゃんの目的だと委員長ちゃんは言う。さらに自分に夢中になったお兄ちゃんを手ひどく振ることでお兄ちゃんを苦しませ、それを見ているあたしに追い討ちをかけることも妹友ちゃんは考えているのではないかと。
あたしは半信半疑だったけど、そんなわけないよと見過ごすには委員長ちゃんの話はあまりにも刺激的だった。仮に委員長ちゃんのいうとおり妹友ちゃんがあたしへの復讐心を抱いているとしても、あたしはそこまでは理解できたし許容できた。あたしが妹友ちゃんにした仕打ちを考えればそれはあたしが受け入れなければいけないことかもしれなかった。
でも、その手段として何も関係のないお兄ちゃんを巻き込み、さらにお兄ちゃんを苦しめることであたしを傷つけようとしているならそれはあたしの許容の範囲を超えていた。仮にそうだとしたらあたしは一生妹友ちゃんを許さないだろう。
委員長ちゃんが再び話し始めたのであたしは混乱する思考を中断して委員長ちゃんの話を聞いた。
「・・・・・・これ以上あんたもあたしももう妹友ちゃんに遠慮しなくていいと思う」
そして委員長ちゃんは不思議な提案をした。
あたしはこの日今までの出来事を洗いざらい委員長ちゃんに話してしまった。話し出すと止まらなくなって結構長い時間あたしは話し続けたのだけど、委員長ちゃんはそれを黙って聞いてくれた。あたしは何も包み隠さず話した。ただ一つ先輩と別れたことは除いて。
委員長ちゃんはあたしの話が終わってもしばらく何も言わずに考えていた。そしてゆっくりとあたしのほうを見た。何か怖いほどの決意のようなものを湛えた目で。
「妹ちゃん、本当に言いにくいんだけどさ」
委員長ちゃんはようやく口を開いた。
「妹友ちゃんはあんたのお兄さんのこと全然好きじゃないと思うよ」
あたしには委員長ちゃんが何を言っているのか理解できなかった。あたしは何も把握できない混乱した状態で委員長ちゃんの方を見た。
「妹友ちゃんは自分からあいつを奪って行ったあんたに仕返しがしたかったんだろうね」
あたしの様子に構わず委員長ちゃんは話を進めた。
「先輩を奪った妹ちゃんの大切な人を奪ってあんたを苦しめたかった。だからお兄さんはあの子に騙されてるの。それだけでもひどいけど、次はあんたの大事なお兄さんを手ひどく振って苦しませることとか考えてるんじゃないかな」
ようやく委員長ちゃんがあたしに理解させようとしている内容がわかってきたが、これは本当のことなのだろうか。
先輩への恋愛を親友のあたしによって無残に散らされてしまった妹友ちゃんがようやく次の恋の相手に選んだのはあたしのお兄ちゃんだった。だからあたしはこれまで妹友ちゃんの恋を応援するしかなかった。親友の妹友ちゃんへの贖罪としてあたしはお兄ちゃんを諦めることになっても妹友ちゃんの邪魔をしようとは思わなかった。先輩を奪ったあたしに自信持ちなよ、頑張ってねって動揺を隠してあたしに言ってくれた妹友ちゃん。それはあたしの原罪だった。あたしとお兄ちゃんは一時期お互いを求め合ったけどやっぱり聖書のとおり罪を犯したイブの恋は実らないようになっていたのだ。
その妹友ちゃんの恋は嘘なのだと委員長ちゃんは落ち着いて断言した。あたしからお兄ちゃんを取り上げあたしを苦しめることが妹友ちゃんの目的だと委員長ちゃんは言う。さらに自分に夢中になったお兄ちゃんを手ひどく振ることでお兄ちゃんを苦しませ、それを見ているあたしに追い討ちをかけることも妹友ちゃんは考えているのではないかと。
あたしは半信半疑だったけど、そんなわけないよと見過ごすには委員長ちゃんの話はあまりにも刺激的だった。仮に委員長ちゃんのいうとおり妹友ちゃんがあたしへの復讐心を抱いているとしても、あたしはそこまでは理解できたし許容できた。あたしが妹友ちゃんにした仕打ちを考えればそれはあたしが受け入れなければいけないことかもしれなかった。
でも、その手段として何も関係のないお兄ちゃんを巻き込み、さらにお兄ちゃんを苦しめることであたしを傷つけようとしているならそれはあたしの許容の範囲を超えていた。仮にそうだとしたらあたしは一生妹友ちゃんを許さないだろう。
委員長ちゃんが再び話し始めたのであたしは混乱する思考を中断して委員長ちゃんの話を聞いた。
「・・・・・・これ以上あんたもあたしももう妹友ちゃんに遠慮しなくていいと思う」
そして委員長ちゃんは不思議な提案をした。
86: 2012/02/05(日) 21:32:57.99 ID:AKymYdgWo
委員長ちゃんは妹友ちゃんに遠慮せずにお兄ちゃんにもっと言い寄るようにと言った。近親相Oな恋の負の側面のこととかは全く頭に無いようだった。あたかもあたしがクラスの男子に密かに想いを寄せているのと同じだというように委員長ちゃんはあっさりと言うのだった。そしてそのためにはあたしが先輩と別れなければならないと委員長ちゃんは言った。委員長ちゃんには伝えてなかったけどあたしはもう先輩とはお別れしていた。あたしがそのことを委員長ちゃんに伝えようとした時、委員長ちゃんが今度は自分がしようとしていることを話し始めた。
「あたしもあいつに対して行動を起こそうと思うんだ。これまで臆病だったけど本当にあいつのことを好きな気持ちをもうこれ以上隠せないから」
委員長ちゃんはこれまでとちょっと違った柔らかい口調で言った。
あたしはその時再び先輩の言葉を思い出した。
『委員長が俺を好きなことなんか最初からわかってるよ』
『でも俺が好きだったのはおまえなんだよ。今でも一番好きなのはあいつじゃなくておまえなんだよ』
『そのことで俺はあいつに罪悪感を感じてたんだ。ずっと前から』
『あいつと俺のことは放っておいてくれ。おまえは兄貴のことだけ考えてろ。そのために俺はおまえを諦めたんだから』
先輩の言葉が真実なら委員長ちゃんの想いは報われないことになる。あたしはためらった。とりあえず委員長ちゃんのことは保留するとしても、あたしにはまだ妹友ちゃんの動機が信じられなかった。そこを曖昧にしたままで勝手に妹友ちゃんの恋を邪魔するわけにはいかなかった。
正直に言うとあたしは委員長ちゃんの言葉に乗れるものなら乗りたかった。それほどあたしにとっては魅力的な提案だったから。あたしの自分勝手な恋のためではなく、お兄ちゃんを妹友ちゃんから救うためという大義名分の下にあたしはお兄ちゃんに素直に時分の想いを告白できるのだ。一方で妹友ちゃんが本当にもう先輩のことは忘れてお兄ちゃんのことが好きになったのだとしたら、あたしは先輩の時に続いて二度目の過ちを犯すことになる。そればかりかお兄ちゃんの初めての両想いの恋愛を邪魔することにもなってしまうのだった。
かと言って性善説にたって結果的に委員長ちゃんの言うとおりだったとしたら。初めてできた彼女が自分のことを好きでなかったと知らされるお兄ちゃんは、いったいどれほど苦しむことになるのだろうか。あたしはそっとため息をついた。できることは一つしかなさそうだった。妹友ちゃんの真意を探ること。そのためにあたしは委員長ちゃんの提案に同意することにしたのだ。
でも委員長ちゃんが期待しているようにそれは委員長ちゃんが先輩と結ばれる道ではないかもしれなかった。また、あたしとお兄ちゃんが結ばれると言う保証もなかった。とりあえず委員長ちゃんの提案は、あたしが先輩と別れお兄ちゃんに言い寄る、そして委員長ちゃんが先輩と付き合うところまでしか計画されていなかった。それでは駄目なのだ。あたしは委員長ちゃんの提案に乗る振りをして、その実自分の計画を練り出した。それは寂しい時にあたしを救ってくれた委員長ちゃんを利用するようなものだったけど、せめて委員長ちゃんには辛い思いをさせないように配慮はしよう。あたしはこの時本当に嫌な女だったけど、妹友ちゃんの意図を知るまでは絶対にこれを止めるつもりはなかった。
「あたしもあいつに対して行動を起こそうと思うんだ。これまで臆病だったけど本当にあいつのことを好きな気持ちをもうこれ以上隠せないから」
委員長ちゃんはこれまでとちょっと違った柔らかい口調で言った。
あたしはその時再び先輩の言葉を思い出した。
『委員長が俺を好きなことなんか最初からわかってるよ』
『でも俺が好きだったのはおまえなんだよ。今でも一番好きなのはあいつじゃなくておまえなんだよ』
『そのことで俺はあいつに罪悪感を感じてたんだ。ずっと前から』
『あいつと俺のことは放っておいてくれ。おまえは兄貴のことだけ考えてろ。そのために俺はおまえを諦めたんだから』
先輩の言葉が真実なら委員長ちゃんの想いは報われないことになる。あたしはためらった。とりあえず委員長ちゃんのことは保留するとしても、あたしにはまだ妹友ちゃんの動機が信じられなかった。そこを曖昧にしたままで勝手に妹友ちゃんの恋を邪魔するわけにはいかなかった。
正直に言うとあたしは委員長ちゃんの言葉に乗れるものなら乗りたかった。それほどあたしにとっては魅力的な提案だったから。あたしの自分勝手な恋のためではなく、お兄ちゃんを妹友ちゃんから救うためという大義名分の下にあたしはお兄ちゃんに素直に時分の想いを告白できるのだ。一方で妹友ちゃんが本当にもう先輩のことは忘れてお兄ちゃんのことが好きになったのだとしたら、あたしは先輩の時に続いて二度目の過ちを犯すことになる。そればかりかお兄ちゃんの初めての両想いの恋愛を邪魔することにもなってしまうのだった。
かと言って性善説にたって結果的に委員長ちゃんの言うとおりだったとしたら。初めてできた彼女が自分のことを好きでなかったと知らされるお兄ちゃんは、いったいどれほど苦しむことになるのだろうか。あたしはそっとため息をついた。できることは一つしかなさそうだった。妹友ちゃんの真意を探ること。そのためにあたしは委員長ちゃんの提案に同意することにしたのだ。
でも委員長ちゃんが期待しているようにそれは委員長ちゃんが先輩と結ばれる道ではないかもしれなかった。また、あたしとお兄ちゃんが結ばれると言う保証もなかった。とりあえず委員長ちゃんの提案は、あたしが先輩と別れお兄ちゃんに言い寄る、そして委員長ちゃんが先輩と付き合うところまでしか計画されていなかった。それでは駄目なのだ。あたしは委員長ちゃんの提案に乗る振りをして、その実自分の計画を練り出した。それは寂しい時にあたしを救ってくれた委員長ちゃんを利用するようなものだったけど、せめて委員長ちゃんには辛い思いをさせないように配慮はしよう。あたしはこの時本当に嫌な女だったけど、妹友ちゃんの意図を知るまでは絶対にこれを止めるつもりはなかった。
87: 2012/02/05(日) 21:36:06.88 ID:AKymYdgWo
委員長ちゃんと別れたあたしは、放課後先輩に電話した。まだ校内に残ってたらしい先輩はすぐに電話に出てくれた。
『どうした? 兄貴とうまくいってないのか?』
先輩がからかうように、でも優しい口調で言った。この前の怖い声とは大違いだった。あたしは密かに胸を痛めたけど、この次のセリフを撤回する気はなかった。
「さっき委員長ちゃんに相談されたの」
あたしは先輩に切り出した。
『相談って?』
先輩は怪訝そうに言った。
「委員長ちゃん、先輩への気持ちをもう抑えられないって。だから先輩に告るって」
あたしは淡々と話した。しばらく沈黙していた先輩は突然低い声で話し出した。先輩が本当に怒っている時は怒鳴ったりしないのだ。
『俺、おまえに言ったよな? 俺と委員長のことは放っておいてくれって』
先輩は静かに続けた。
『そんで俺が一番好きなのはおまえだってのも言っただろ』
「待って。違うの」
あたしは口を挟んだ。あたしは少し躊躇したけどそれでも落ち着いて先輩に話すことができたと思う。
「あたしがけしかけたとかじゃないの。委員長ちゃんから思いつめたような表情で相談を受けたの」
あたしは何か口を挟もうとした先輩を遮って続けた。
「あたしは別にお節介なことはしようとは思わないけど。でも委員長ちゃんに言われたことを詳しく話したいから明日の放課後スタバに来て。待ってるから」
あたしはそれだけ言って電話を切った。先輩から電話が来ても出ないつもりだったけど結局先輩からの着信はなかった。あたしと先輩はもう別れている。そしてあたしは先輩のやさしさをよく知っていた。お兄ちゃんを忘れようとして先輩と付きあい先輩を傷つけたあたし。そのあたしのことを考えてあたしと別れてくれた先輩。その先輩の優しさに再びあたしは付込もうとしていた。先輩が一番好きなのはあたしかもしれないけど、先輩が昔から一番大事にしてきたのは委員長ちゃんだった。その委員長ちゃんが勇気を振り絞って先輩に告白してたら。
ふとあたしは自分のやっていることが怖くなってきた。あたしは人の気持ちを先読みし自由に操作しているような気がした。妹友ちゃんの動機が最悪のものだったという結果になったとしても、もうあたしも同じ穴の狢なのかもしれなかった。
『どうした? 兄貴とうまくいってないのか?』
先輩がからかうように、でも優しい口調で言った。この前の怖い声とは大違いだった。あたしは密かに胸を痛めたけど、この次のセリフを撤回する気はなかった。
「さっき委員長ちゃんに相談されたの」
あたしは先輩に切り出した。
『相談って?』
先輩は怪訝そうに言った。
「委員長ちゃん、先輩への気持ちをもう抑えられないって。だから先輩に告るって」
あたしは淡々と話した。しばらく沈黙していた先輩は突然低い声で話し出した。先輩が本当に怒っている時は怒鳴ったりしないのだ。
『俺、おまえに言ったよな? 俺と委員長のことは放っておいてくれって』
先輩は静かに続けた。
『そんで俺が一番好きなのはおまえだってのも言っただろ』
「待って。違うの」
あたしは口を挟んだ。あたしは少し躊躇したけどそれでも落ち着いて先輩に話すことができたと思う。
「あたしがけしかけたとかじゃないの。委員長ちゃんから思いつめたような表情で相談を受けたの」
あたしは何か口を挟もうとした先輩を遮って続けた。
「あたしは別にお節介なことはしようとは思わないけど。でも委員長ちゃんに言われたことを詳しく話したいから明日の放課後スタバに来て。待ってるから」
あたしはそれだけ言って電話を切った。先輩から電話が来ても出ないつもりだったけど結局先輩からの着信はなかった。あたしと先輩はもう別れている。そしてあたしは先輩のやさしさをよく知っていた。お兄ちゃんを忘れようとして先輩と付きあい先輩を傷つけたあたし。そのあたしのことを考えてあたしと別れてくれた先輩。その先輩の優しさに再びあたしは付込もうとしていた。先輩が一番好きなのはあたしかもしれないけど、先輩が昔から一番大事にしてきたのは委員長ちゃんだった。その委員長ちゃんが勇気を振り絞って先輩に告白してたら。
ふとあたしは自分のやっていることが怖くなってきた。あたしは人の気持ちを先読みし自由に操作しているような気がした。妹友ちゃんの動機が最悪のものだったという結果になったとしても、もうあたしも同じ穴の狢なのかもしれなかった。
88: 2012/02/05(日) 21:39:59.97 ID:AKymYdgWo
結果だけを話すと、先輩は委員長ちゃんの気持ちを受け入れた。
あたしに呼び出された先輩は待ち合わせのスタバに委員長ちゃんが一緒にいることに驚いたようだった。
「何で委員長がいるの?」
先輩は混乱した様子で言った。あたしはそれには答えなかった。あたしが仕掛けたのはここまでだった。ここから先は委員長ちゃんの気持ち次第だった。あたしがいくら酷いことを仕掛けたとしてもここは黙った見ている以外にすることはなかったのだ。
しばらくの沈黙の後、委員長ちゃんは突然先輩にに抱きつき、驚いて硬直している先輩にキスした。
「ちょっとおい」
驚いた声で先輩はうめいたけど、思ったとおり委員長ちゃんをを無理に振りほどこうとする様子はなかった。本能的にそれが委員長ちゃんを傷つけると悟っていたのだろう。
「お願い。あんたのこと好きなの。小さな時からあんたのことだけを見てきた・・・・・・もうこれ以上気持ちを抑えられない」
委員長ちゃんは震える声で言った。
「あたしのこと嫌い? 何か言ってよ」
委員長ちゃんは今では涙目で先輩を見上げていた。
「だ、だってよ。いきなりそんな・・・・・・だいたいおまえいつだって俺のことクズとかカスとか呼んでて。俺のこと好きだったってマジかよ」
先輩らしからぬ混乱した声。
「それに俺には妹が」
先輩はそう言って複雑な表情であたしを見た。委員長ちゃんには付き合っているあたしのことを考えての言葉だと受け取られたかもしれないけど、それは実はそんなに単純な感情の発露ではなかったろう。もっと複雑な先輩の思いだったと思う。でもあたしは委員長ちゃんに話をあわせようとした。
「いいよ。もう許してあげるよ。先輩が前から委員長ちゃんのこと気にしているのは何となくわかってた」
とっくに別れたいたあたしだったけど、委員長ちゃんのためには先輩はあたしではなく委員長ちゃんを選んだと思わせなければならなかった。委員長ちゃんはプライドが高い。自分を傷付けたくないという気持ちから先輩が委員長ちゃんを受け入れたと知ったら、委員長ちゃんは先輩を拒否しそしてひどく傷付くことになるだろう。それに先輩があたしの演技に会わせてくれることを今のあたしは疑っていなかった。
「二人とも不器用なんだね。これだけ長い間常に側にいたのにね」
あたしは言った。そして静かに先輩の言葉を待った。
先輩は少しだけあたしをじっと見つめたけど、すぐに委員長ちゃんに手を廻して彼女をしっかり抱きしめた。
「妹ごめん」
先輩は言った。
「ごめんな、俺やっと自分の気持ちに気づいた。俺、委員長のことが好きだ」
それは先輩の即興の演技だった。これで本当に先輩に嫌われたな。あたしはそう思った。
「・・・・・・うれしい」
委員長ちゃんがかすれた声をようやく口にした。
「ごめんね、妹ちゃん。今日はこんなこと言うつもりで来たんじゃなかったのに」
委員長ちゃんは作戦だということも忘れて本気で泣いているようだった。
「いいよ、許してあげる。二人とも」
あたしは言った。
「妹、本当に悪い」
先輩の演技は完璧だった。打ち合わせもしていなのに。
「先輩、これまでありがとう。じゃあ、あたしは帰るね。お幸せに」
あたしはは静かに微笑んで席を立った。スタバの外に出たとき、あたしは初めて涙を流した。先輩を傷つけたからだろうか。委員長ちゃんを騙して利用したからだろうか。それとも・・・・・・。
あたしに呼び出された先輩は待ち合わせのスタバに委員長ちゃんが一緒にいることに驚いたようだった。
「何で委員長がいるの?」
先輩は混乱した様子で言った。あたしはそれには答えなかった。あたしが仕掛けたのはここまでだった。ここから先は委員長ちゃんの気持ち次第だった。あたしがいくら酷いことを仕掛けたとしてもここは黙った見ている以外にすることはなかったのだ。
しばらくの沈黙の後、委員長ちゃんは突然先輩にに抱きつき、驚いて硬直している先輩にキスした。
「ちょっとおい」
驚いた声で先輩はうめいたけど、思ったとおり委員長ちゃんをを無理に振りほどこうとする様子はなかった。本能的にそれが委員長ちゃんを傷つけると悟っていたのだろう。
「お願い。あんたのこと好きなの。小さな時からあんたのことだけを見てきた・・・・・・もうこれ以上気持ちを抑えられない」
委員長ちゃんは震える声で言った。
「あたしのこと嫌い? 何か言ってよ」
委員長ちゃんは今では涙目で先輩を見上げていた。
「だ、だってよ。いきなりそんな・・・・・・だいたいおまえいつだって俺のことクズとかカスとか呼んでて。俺のこと好きだったってマジかよ」
先輩らしからぬ混乱した声。
「それに俺には妹が」
先輩はそう言って複雑な表情であたしを見た。委員長ちゃんには付き合っているあたしのことを考えての言葉だと受け取られたかもしれないけど、それは実はそんなに単純な感情の発露ではなかったろう。もっと複雑な先輩の思いだったと思う。でもあたしは委員長ちゃんに話をあわせようとした。
「いいよ。もう許してあげるよ。先輩が前から委員長ちゃんのこと気にしているのは何となくわかってた」
とっくに別れたいたあたしだったけど、委員長ちゃんのためには先輩はあたしではなく委員長ちゃんを選んだと思わせなければならなかった。委員長ちゃんはプライドが高い。自分を傷付けたくないという気持ちから先輩が委員長ちゃんを受け入れたと知ったら、委員長ちゃんは先輩を拒否しそしてひどく傷付くことになるだろう。それに先輩があたしの演技に会わせてくれることを今のあたしは疑っていなかった。
「二人とも不器用なんだね。これだけ長い間常に側にいたのにね」
あたしは言った。そして静かに先輩の言葉を待った。
先輩は少しだけあたしをじっと見つめたけど、すぐに委員長ちゃんに手を廻して彼女をしっかり抱きしめた。
「妹ごめん」
先輩は言った。
「ごめんな、俺やっと自分の気持ちに気づいた。俺、委員長のことが好きだ」
それは先輩の即興の演技だった。これで本当に先輩に嫌われたな。あたしはそう思った。
「・・・・・・うれしい」
委員長ちゃんがかすれた声をようやく口にした。
「ごめんね、妹ちゃん。今日はこんなこと言うつもりで来たんじゃなかったのに」
委員長ちゃんは作戦だということも忘れて本気で泣いているようだった。
「いいよ、許してあげる。二人とも」
あたしは言った。
「妹、本当に悪い」
先輩の演技は完璧だった。打ち合わせもしていなのに。
「先輩、これまでありがとう。じゃあ、あたしは帰るね。お幸せに」
あたしはは静かに微笑んで席を立った。スタバの外に出たとき、あたしは初めて涙を流した。先輩を傷つけたからだろうか。委員長ちゃんを騙して利用したからだろうか。それとも・・・・・・。
98: 2012/02/06(月) 22:35:02.79 ID:m6rj4fZwo
お兄ちゃんがお風呂に行き、残されたあたしがお兄ちゃんの部屋でテレビを見ていた時、あたしの携帯が着信を告げた。
妹友ちゃんから直接電話を貰うのは久しぶりだった。あたしの中には妹友ちゃんへの疑念が渦巻いていたけど、それは確かめるまでは真実かどうかわからなかった。なのであたしはいつもどおりの口調で妹友ちゃんと話すように努めた。幸いしばらく妹友ちゃんとは疎遠になっていたこと
もあり、あたしのぎこちない話し方は妹友ちゃんに違和感を感じさせなかったようだった。
「先輩が受験勉強に専念しちゃってるんで妹ちゃんも寂しいでしょ」
妹友ちゃんは先輩の「妹断ち」のことを耳にしているみたいだった。そして当然だけど妹ちゃんはあたしが先輩と別れたことは知らなかった。あたしはお兄ちゃんから初詣のことを聞いていたから妹友ちゃんが何で電話をかけてきたのかはわかっていた。
「ご両親、相変わらずお仕事忙しいんでしょ」
妹友ちゃんは心配しているような口調で言った。うん、と答えながらあたしは考え出した。妹友ちゃんがお兄ちゃんのことを本当に好きなら付き合い出して最初の初詣くらいは二人きりで行きたいと思うのが自然なのではないか。それなのにあたしを誘う理由は何だろう。
善意で考えれば「親友」のあたしのことを、先輩とも両親とも会えずに一人で大晦日の晩を過ごすあたしのことを心配してくれているのかもしれなかった。ただ、それにしては学園祭の日以降妹友ちゃんは学校でひとりぼっちのあたしのことをあまり気にしている様子はなかった。何で急に
あたしのことを心配し、せっかくの初詣のデートにまであたしを誘おうと考えたのかよくわからなかった。
一方で、委員長ちゃんの言うとおり妹友ちゃんはお兄ちゃんのことを好きではないと仮定すると、いくつかあたしを誘う理由が考えられた。妹友ちゃんはあたしがお兄ちゃんのことを好きなことを知っている。あたしがお兄ちゃんのことを異性として好きということまでは考えていないとしても、
他の女の子がお兄ちゃんといちゃいちゃしているところを、あたしが平然と見ていられないことはよく知っている。だから、あたしにお兄ちゃんとの親密さをアピールしあたしを苦しめることが目的ということは考えられた。もう一つは妹友ちゃんが本当に好きな相手がまだ先輩だとすると、演
技で好きでもないお兄ちゃんといつまでも二人きりでいることに疲れたのかもしれなかった。妹友ちゃんだって人間だから四六時中好きではない相手が大好きなふりをするのは辛いだろう。あたしが一緒にいればあたしに配慮するという名目でお兄ちゃんと必要以上にべたべたする必要
はなくなるのだから。
いずれにしてもどちらもまだ仮定の話だった。あたしは委員長ちゃんがあれだけはっきりと妹友ちゃんの動機を決め付けたことが気になっていた。あたしが知らない何かを委員長ちゃんは知っているのだろう。そして委員長ちゃんが一度秘密にすると決めたことを彼女から聞き出すのが難
しいことはこれまでの付き合いを通じてあたしにもよくわかっていた。やはり直接自分で確かめるしかない。あたしのことはともかくお兄ちゃんが傷付くかもしれない以上、この疑念を放置しておくことはできなかった。
あたしは妹友ちゃんと初詣の計画を話し合った。それは、多少混むことは覚悟のうえでお兄ちゃんの車で鎌倉まで初詣に行くというものだった。
妹友ちゃんから直接電話を貰うのは久しぶりだった。あたしの中には妹友ちゃんへの疑念が渦巻いていたけど、それは確かめるまでは真実かどうかわからなかった。なのであたしはいつもどおりの口調で妹友ちゃんと話すように努めた。幸いしばらく妹友ちゃんとは疎遠になっていたこと
もあり、あたしのぎこちない話し方は妹友ちゃんに違和感を感じさせなかったようだった。
「先輩が受験勉強に専念しちゃってるんで妹ちゃんも寂しいでしょ」
妹友ちゃんは先輩の「妹断ち」のことを耳にしているみたいだった。そして当然だけど妹ちゃんはあたしが先輩と別れたことは知らなかった。あたしはお兄ちゃんから初詣のことを聞いていたから妹友ちゃんが何で電話をかけてきたのかはわかっていた。
「ご両親、相変わらずお仕事忙しいんでしょ」
妹友ちゃんは心配しているような口調で言った。うん、と答えながらあたしは考え出した。妹友ちゃんがお兄ちゃんのことを本当に好きなら付き合い出して最初の初詣くらいは二人きりで行きたいと思うのが自然なのではないか。それなのにあたしを誘う理由は何だろう。
善意で考えれば「親友」のあたしのことを、先輩とも両親とも会えずに一人で大晦日の晩を過ごすあたしのことを心配してくれているのかもしれなかった。ただ、それにしては学園祭の日以降妹友ちゃんは学校でひとりぼっちのあたしのことをあまり気にしている様子はなかった。何で急に
あたしのことを心配し、せっかくの初詣のデートにまであたしを誘おうと考えたのかよくわからなかった。
一方で、委員長ちゃんの言うとおり妹友ちゃんはお兄ちゃんのことを好きではないと仮定すると、いくつかあたしを誘う理由が考えられた。妹友ちゃんはあたしがお兄ちゃんのことを好きなことを知っている。あたしがお兄ちゃんのことを異性として好きということまでは考えていないとしても、
他の女の子がお兄ちゃんといちゃいちゃしているところを、あたしが平然と見ていられないことはよく知っている。だから、あたしにお兄ちゃんとの親密さをアピールしあたしを苦しめることが目的ということは考えられた。もう一つは妹友ちゃんが本当に好きな相手がまだ先輩だとすると、演
技で好きでもないお兄ちゃんといつまでも二人きりでいることに疲れたのかもしれなかった。妹友ちゃんだって人間だから四六時中好きではない相手が大好きなふりをするのは辛いだろう。あたしが一緒にいればあたしに配慮するという名目でお兄ちゃんと必要以上にべたべたする必要
はなくなるのだから。
いずれにしてもどちらもまだ仮定の話だった。あたしは委員長ちゃんがあれだけはっきりと妹友ちゃんの動機を決め付けたことが気になっていた。あたしが知らない何かを委員長ちゃんは知っているのだろう。そして委員長ちゃんが一度秘密にすると決めたことを彼女から聞き出すのが難
しいことはこれまでの付き合いを通じてあたしにもよくわかっていた。やはり直接自分で確かめるしかない。あたしのことはともかくお兄ちゃんが傷付くかもしれない以上、この疑念を放置しておくことはできなかった。
あたしは妹友ちゃんと初詣の計画を話し合った。それは、多少混むことは覚悟のうえでお兄ちゃんの車で鎌倉まで初詣に行くというものだった。
99: 2012/02/06(月) 22:37:40.26 ID:m6rj4fZwo
妹友ちゃんと初詣の打ち合わせを済ませたあと、電話を切ったあたしは考えた。妹友ちゃんとお兄ちゃんのデートに同行するだけでは妹友ちゃんの本心なんて判るはずがなかった。何か手を考えないといけないのだ。そういえば妹友ちゃんはあたしと先輩が別れたことを知らない。あたしはそのことが持つ意味について考えた。妹友ちゃんがまだ先輩に未練がある場合、あたしと先輩がもう付き合っていないことを知ったらどうするだろう。あたしへの復讐とお兄ちゃんへの嘘の態度をやめて先輩にアプローチするのだろうか。でも、これもまだ誰も知らないけど先輩は委員長ちゃんの告白を受け入れた。半ばあたしに騙されて不意打ちを仕掛けられてではあるけれども、あの委員長ちゃんのことを大事にしている先輩がそのことを委員長ちゃんに告げる心配はなかった。あたしと先輩の破局や委員長ちゃんと先輩のお付き合いが校内に広まるのも時間の問題だろう。それを知った妹友ちゃんはどういう態度に出るのだろうか。
きっとかなりショックを受けるだろうな。あたしは考えた。あたしと先輩が別れたことは妹友ちゃんにとっていい話だけど、あたしと別れた先輩が選んだのが妹友ちゃんではなく委員長ちゃんであることを妹友ちゃんが知ったら。妹友ちゃんの先輩への片想いは一時期広く噂になっていたし先輩もそのことはよく知っていたのだから。あたしと別れても自分が選ばれなかったことは妹友ちゃんにとっては屈辱的な出来事に違いなかった。
その時あたしはふと気がついた。まだ妹友ちゃんはあたしが先輩と別れたこと、委員長ちゃんと先輩が付き合い出したことを知らない。校内の噂で知ることになっても、その瞬間の妹友ちゃんの一瞬の動揺とかを確かめることはできないだろう。でも。初詣の最中にそれが起きたとしたらど
うだろう。あたしは妹友ちゃんのすぐ隣で妹友ちゃんの態度を観察することができるのだ。妹友ちゃんが先輩のことを完全に吹っ切れていて、お兄ちゃんのことが本当に好きなのだとしたら、妹友ちゃんは動揺することなく先輩の浮気(と彼女は考えるだろう)に傷付くあたしのことを気遣うはずだった。一方で、妹友ちゃんが本心では先輩のことが好きだったとしたら・・・・・・不意打ちで委員長ちゃんと先輩のツーショットを目撃したら。
あたしは心を決め委員長ちゃんに電話した。
きっとかなりショックを受けるだろうな。あたしは考えた。あたしと先輩が別れたことは妹友ちゃんにとっていい話だけど、あたしと別れた先輩が選んだのが妹友ちゃんではなく委員長ちゃんであることを妹友ちゃんが知ったら。妹友ちゃんの先輩への片想いは一時期広く噂になっていたし先輩もそのことはよく知っていたのだから。あたしと別れても自分が選ばれなかったことは妹友ちゃんにとっては屈辱的な出来事に違いなかった。
その時あたしはふと気がついた。まだ妹友ちゃんはあたしが先輩と別れたこと、委員長ちゃんと先輩が付き合い出したことを知らない。校内の噂で知ることになっても、その瞬間の妹友ちゃんの一瞬の動揺とかを確かめることはできないだろう。でも。初詣の最中にそれが起きたとしたらど
うだろう。あたしは妹友ちゃんのすぐ隣で妹友ちゃんの態度を観察することができるのだ。妹友ちゃんが先輩のことを完全に吹っ切れていて、お兄ちゃんのことが本当に好きなのだとしたら、妹友ちゃんは動揺することなく先輩の浮気(と彼女は考えるだろう)に傷付くあたしのことを気遣うはずだった。一方で、妹友ちゃんが本心では先輩のことが好きだったとしたら・・・・・・不意打ちで委員長ちゃんと先輩のツーショットを目撃したら。
あたしは心を決め委員長ちゃんに電話した。
100: 2012/02/06(月) 22:40:15.04 ID:m6rj4fZwo
電話に出た委員長ちゃんはまだ長年の思いが報われたその余韻に浸っているようだった。こういう委員長ちゃんも珍しい。その感傷を邪魔するのは少し気が引けたけどあたしはそれでも委員長ちゃんに報告した。
「妹友ちゃんから鎌倉に初詣に行こうって誘われたの。お兄ちゃんと三人で」
あたしの言葉に委員長ちゃんは気を取り直したようだった。そして妹友ちゃんがあたしを初詣に誘ったことに委員長ちゃんは全く驚いていなかった。やっぱり彼女は何か隠された事実を知っているのかもしれなかった。
『じゃあ、あいつの次はお兄さんの目を覚まさそう。お兄さんはまだあんたがあいつと付き合ってると思ってるんでしょ?』
委員長ちゃんはいつもようにてきぱきとした口調に戻って聞いた。
「うん。先輩と別れたことはまだ話してない」
あたしは委員長ちゃんの指示を待った。自分から言い出しても良かったけれど、こういうことに長けている委員長ちゃんに期待している気持ちがあったからだった。
『初詣の時にあいつと一緒に同じ場所に行くからさ、お兄さんとあんたはあたしたちが一緒にいるところを目撃して』
委員長ちゃんはあたしに指示した。それはあたしが思っていたとおりの指示だった。
「わかったけど、そうするとどうなるの?」
委員長ちゃんもあたしと同じこと結論に達していたのだろうか。あたしは念のために尋ねてみた。それに対して委員長ちゃんが答えてくれた作戦の意図は委員長ちゃんにしてはあまりにお粗末なものだった。
『あんたは彼氏に浮気された傷心のヒロインになるのよ。お兄さんが見逃せないくらい傷つき助けを求める女の子にね』
あたしは思わずため息をつきそうになって慌ててそれを押し隠した。そんな絵に描いたような行動を恋人の前でお兄ちゃんが取ってくれるわけはない。でもまあ無理はないのかもしれない。ずっと好きだった浮気性の幼馴染とようやく結ばれたばかりの委員長ちゃんに深い思考を求めるのが酷なのだろう。何といっても委員長ちゃんも今では一人の恋する女の子なのだし。
「・・・・・・お兄ちゃんには妹友ちゃんがいるんだよ?」
失望を隠しながらあたしは委員長ちゃんに答えた。
「いい兄貴としてあたしを慰めるだけなんじゃ」
『そんなのやってみなきゃわからないよ。まあ、それで駄目でも次の手を考えるからさ。あんたは逐一現在地と到着予想時間をあたしに密かにメールしなよ。できる?』
委員長ちゃんが提案したのはやっぱりだめもとの作戦だった。でも、あたしはそれに乗ろうと思った。委員長ちゃんの思惑とは関係なく妹友ちゃんが委員長ちゃんと先輩を見かけた時の反応を、あたしは知りたかったのだ。多分それで答えが出るだろうとあたしは考えた。
「うん、やってみる」
そこまで考えるとあたしは委員長ちゃんに言った。ちょうど電話を切った時、お兄ちゃんがお風呂から上がりあたしの側に来た。
「妹友ちゃんから鎌倉に初詣に行こうって誘われたの。お兄ちゃんと三人で」
あたしの言葉に委員長ちゃんは気を取り直したようだった。そして妹友ちゃんがあたしを初詣に誘ったことに委員長ちゃんは全く驚いていなかった。やっぱり彼女は何か隠された事実を知っているのかもしれなかった。
『じゃあ、あいつの次はお兄さんの目を覚まさそう。お兄さんはまだあんたがあいつと付き合ってると思ってるんでしょ?』
委員長ちゃんはいつもようにてきぱきとした口調に戻って聞いた。
「うん。先輩と別れたことはまだ話してない」
あたしは委員長ちゃんの指示を待った。自分から言い出しても良かったけれど、こういうことに長けている委員長ちゃんに期待している気持ちがあったからだった。
『初詣の時にあいつと一緒に同じ場所に行くからさ、お兄さんとあんたはあたしたちが一緒にいるところを目撃して』
委員長ちゃんはあたしに指示した。それはあたしが思っていたとおりの指示だった。
「わかったけど、そうするとどうなるの?」
委員長ちゃんもあたしと同じこと結論に達していたのだろうか。あたしは念のために尋ねてみた。それに対して委員長ちゃんが答えてくれた作戦の意図は委員長ちゃんにしてはあまりにお粗末なものだった。
『あんたは彼氏に浮気された傷心のヒロインになるのよ。お兄さんが見逃せないくらい傷つき助けを求める女の子にね』
あたしは思わずため息をつきそうになって慌ててそれを押し隠した。そんな絵に描いたような行動を恋人の前でお兄ちゃんが取ってくれるわけはない。でもまあ無理はないのかもしれない。ずっと好きだった浮気性の幼馴染とようやく結ばれたばかりの委員長ちゃんに深い思考を求めるのが酷なのだろう。何といっても委員長ちゃんも今では一人の恋する女の子なのだし。
「・・・・・・お兄ちゃんには妹友ちゃんがいるんだよ?」
失望を隠しながらあたしは委員長ちゃんに答えた。
「いい兄貴としてあたしを慰めるだけなんじゃ」
『そんなのやってみなきゃわからないよ。まあ、それで駄目でも次の手を考えるからさ。あんたは逐一現在地と到着予想時間をあたしに密かにメールしなよ。できる?』
委員長ちゃんが提案したのはやっぱりだめもとの作戦だった。でも、あたしはそれに乗ろうと思った。委員長ちゃんの思惑とは関係なく妹友ちゃんが委員長ちゃんと先輩を見かけた時の反応を、あたしは知りたかったのだ。多分それで答えが出るだろうとあたしは考えた。
「うん、やってみる」
そこまで考えるとあたしは委員長ちゃんに言った。ちょうど電話を切った時、お兄ちゃんがお風呂から上がりあたしの側に来た。
109: 2012/02/07(火) 22:37:11.53 ID:JWhLMdQYo
それから新年を迎えるまでの間は心穏やかな日々の生活が過ぎていった。委員長ちゃんから明かされた妹友ちゃんの意図への疑念は相変わらず心の底に沈潜していたけれども、あたしは極力そのことを考えないようにして過ごした。まだ確証のない話なので妹友ちゃんへも極力偏
見を持たないように努めた。初詣の日が来ればはっきりするだろうし、それまでは予断を持たない方がいい。それに何よりもあたしも冬休みに入り、一足先に休みになっていたお兄ちゃんと二人で過ごせたことが、あたしの心の平穏に一役買ってくれていた。
お兄ちゃんはクリスマスのデート以来、初詣での日まで妹友ちゃんとの約束がないようだった。そして約束どおり休みの間はアパートに戻らず、この家であたしと一緒に暮らしてくれた。この頃小さな編集プロダクションに勤めているお母さんは、年末年始の休みに向けたいわゆる年末進行の仕事で会社に缶詰になっていて結局新年の2日になるまで戻ってこなかった。
一度電話があった時にお母さんはあたしに田舎のおじいちゃんたちの家で休暇を過ごしたらどうかと言ったけど、あたしはそれを断った。お兄ちゃんも戻って来ていて一人じゃないから大丈夫だよって言って。それはお母さんを喜ばせたようだった。兄が戻っていてあんたと一緒なら平気か。お母さんはそう言って電話を切った。香港に行ったきりのお父さんからは電話もなかった。
お兄ちゃんとあたしは休み中特に何もせずに過ごした。もともとお兄ちゃんは外出があまり好きではないのだ。それであたしも別に日常の買い物以外は外出する必要もなかったので、あたしたちは二人きりで家の中で休み中の大部分の時間を過ごした。お兄ちゃんは一日の大半を古いパソコンのゲームをして過ごしていた。あたしはもう特に遠慮することなくお兄ちゃんの部屋に入り込み、ゲームをしているお兄ちゃんの横に座ってテレビを見たり、床に置いてあるガラス製の丸テーブルに教材を広げて休み中の宿題をしたりして過ごした。お兄ちゃんはあたしがお兄ちゃんの部屋に入り浸っていることについて特に何も言わなかった。
あたしはそれだけで満足だった。新年の日には真実がわかる。そして妹友ちゃんのお兄ちゃんへの好意が嘘でないとわかった時、もうこういう退屈だけど平穏で幸せな時間をお兄ちゃんと共有することはないだろう。これはたった6日間のモラトリアムだった。あたしとお兄ちゃんはお
兄ちゃんの部屋でお互いに別なことをして長い時間を過ごし、お昼になるとお兄ちゃんの車で食事をしに出かけ、その帰りに買い物をした。お兄ちゃんはスーパーマーケットの中で律儀にカートを押しながらあたしと一緒に食品売り場をうろうろとしてくれた。退屈なら車の中とか本屋と
かで待っていてもいいよとあたしは言ったけど、お兄ちゃんは荷物もあるからなと言って買い物をするあたしの隣にいてくれた。
あたしはその6日間本当に幸せだった。お兄ちゃんを拒否したあの夜以来で初めて平穏な日々があたしに訪れたのだった。ただ、その幸せには学校の図書館で借りた本のように返却期限が付いていた。
見を持たないように努めた。初詣の日が来ればはっきりするだろうし、それまでは予断を持たない方がいい。それに何よりもあたしも冬休みに入り、一足先に休みになっていたお兄ちゃんと二人で過ごせたことが、あたしの心の平穏に一役買ってくれていた。
お兄ちゃんはクリスマスのデート以来、初詣での日まで妹友ちゃんとの約束がないようだった。そして約束どおり休みの間はアパートに戻らず、この家であたしと一緒に暮らしてくれた。この頃小さな編集プロダクションに勤めているお母さんは、年末年始の休みに向けたいわゆる年末進行の仕事で会社に缶詰になっていて結局新年の2日になるまで戻ってこなかった。
一度電話があった時にお母さんはあたしに田舎のおじいちゃんたちの家で休暇を過ごしたらどうかと言ったけど、あたしはそれを断った。お兄ちゃんも戻って来ていて一人じゃないから大丈夫だよって言って。それはお母さんを喜ばせたようだった。兄が戻っていてあんたと一緒なら平気か。お母さんはそう言って電話を切った。香港に行ったきりのお父さんからは電話もなかった。
お兄ちゃんとあたしは休み中特に何もせずに過ごした。もともとお兄ちゃんは外出があまり好きではないのだ。それであたしも別に日常の買い物以外は外出する必要もなかったので、あたしたちは二人きりで家の中で休み中の大部分の時間を過ごした。お兄ちゃんは一日の大半を古いパソコンのゲームをして過ごしていた。あたしはもう特に遠慮することなくお兄ちゃんの部屋に入り込み、ゲームをしているお兄ちゃんの横に座ってテレビを見たり、床に置いてあるガラス製の丸テーブルに教材を広げて休み中の宿題をしたりして過ごした。お兄ちゃんはあたしがお兄ちゃんの部屋に入り浸っていることについて特に何も言わなかった。
あたしはそれだけで満足だった。新年の日には真実がわかる。そして妹友ちゃんのお兄ちゃんへの好意が嘘でないとわかった時、もうこういう退屈だけど平穏で幸せな時間をお兄ちゃんと共有することはないだろう。これはたった6日間のモラトリアムだった。あたしとお兄ちゃんはお
兄ちゃんの部屋でお互いに別なことをして長い時間を過ごし、お昼になるとお兄ちゃんの車で食事をしに出かけ、その帰りに買い物をした。お兄ちゃんはスーパーマーケットの中で律儀にカートを押しながらあたしと一緒に食品売り場をうろうろとしてくれた。退屈なら車の中とか本屋と
かで待っていてもいいよとあたしは言ったけど、お兄ちゃんは荷物もあるからなと言って買い物をするあたしの隣にいてくれた。
あたしはその6日間本当に幸せだった。お兄ちゃんを拒否したあの夜以来で初めて平穏な日々があたしに訪れたのだった。ただ、その幸せには学校の図書館で借りた本のように返却期限が付いていた。
110: 2012/02/07(火) 22:40:20.24 ID:JWhLMdQYo
あたしとお兄ちゃんがお兄ちゃんの部屋で過ごしていた寒い日の昼下がり、お兄ちゃんがゲームのディスプレーからあたしの方に目を移してあたしに聞いてきたことがあった。
「おまえ、休み中は彼氏と全然会う予定ないの?」
「うん。先輩受験勉強してるし」
あたしはあっさり答えた。先輩と別れたことはお兄ちゃんには話しいていなかったけど、この理由だけで十分だった。何といっても先輩は入試間近だったし、それに先輩の成績はあまり良くなかったし。
「お兄ちゃんこそ、妹友ちゃんとは初詣でまで会わないの?」
あたしはそれまで疑問に思っていたことを聞いてみた。
「うん。次は初詣での時に会いましょうって言われてるし」
お兄ちゃんは平然と言ったけど、それを聞いて、付き合い出しばかりの恋人同士の行動とは思えないなとあたしは思った。休み中でお互いに時間を持て余しているはずなのに。
あたしはこれまで先輩としか付き合ってないけど、先輩は毎日あたしと夜に会いたがった。本当に妹友ちゃんはお兄ちゃんのことが好きなのだろうか。あたしはこれまで考えないようにしていたことを再び考え出してしまった。妹友ちゃんがお兄ちゃんのことを好きなら毎日でも会いたくなるのではないのだろうか。何で学校もないこの時期に6日間も会わないっていう選択肢を選べるのだろう。あたしは疑念を抱いたけれどすぐにそれを頭から振り払った。それは初詣の日にはわかるだろう。今考えても結論は出ない。それよりも不思議なのはお兄ちゃんの態度だった。お兄ちゃんにとって妹友ちゃんは初めての彼女のはずだった。しかも学校であれだけ男子に人気のある綺麗な妹友ちゃんと付き合い出したばかりで、なぜもっと会いたいとか思わないんだろう。あまりに淡白なお兄ちゃんの態度を考えると、考えないようにしている淡い期待が再びあたしの心の中を占めていくようだった。お兄ちゃんは出来たての恋人をデートに誘うこともなく電話やメールをするでもなく、あたしと一緒に家にこもっていることに満足しているようだったから。
「おまえ、休み中は彼氏と全然会う予定ないの?」
「うん。先輩受験勉強してるし」
あたしはあっさり答えた。先輩と別れたことはお兄ちゃんには話しいていなかったけど、この理由だけで十分だった。何といっても先輩は入試間近だったし、それに先輩の成績はあまり良くなかったし。
「お兄ちゃんこそ、妹友ちゃんとは初詣でまで会わないの?」
あたしはそれまで疑問に思っていたことを聞いてみた。
「うん。次は初詣での時に会いましょうって言われてるし」
お兄ちゃんは平然と言ったけど、それを聞いて、付き合い出しばかりの恋人同士の行動とは思えないなとあたしは思った。休み中でお互いに時間を持て余しているはずなのに。
あたしはこれまで先輩としか付き合ってないけど、先輩は毎日あたしと夜に会いたがった。本当に妹友ちゃんはお兄ちゃんのことが好きなのだろうか。あたしはこれまで考えないようにしていたことを再び考え出してしまった。妹友ちゃんがお兄ちゃんのことを好きなら毎日でも会いたくなるのではないのだろうか。何で学校もないこの時期に6日間も会わないっていう選択肢を選べるのだろう。あたしは疑念を抱いたけれどすぐにそれを頭から振り払った。それは初詣の日にはわかるだろう。今考えても結論は出ない。それよりも不思議なのはお兄ちゃんの態度だった。お兄ちゃんにとって妹友ちゃんは初めての彼女のはずだった。しかも学校であれだけ男子に人気のある綺麗な妹友ちゃんと付き合い出したばかりで、なぜもっと会いたいとか思わないんだろう。あまりに淡白なお兄ちゃんの態度を考えると、考えないようにしている淡い期待が再びあたしの心の中を占めていくようだった。お兄ちゃんは出来たての恋人をデートに誘うこともなく電話やメールをするでもなく、あたしと一緒に家にこもっていることに満足しているようだったから。
111: 2012/02/07(火) 22:43:23.91 ID:JWhLMdQYo
紅白が終わり行く年来る年も終わった。大晦日の夜はお兄ちゃんの部屋ではなく、リビングで二人で過ごした。あたしが用意した年越しそばを食べると、そろそろ妹友ちゃんを迎えに行く時間だった。あたしは平静に振る舞っていたけど、この6日間の幸せで平穏な気分はだんだんと失われていっていた。もう数時間後には妹友ちゃんの本心がわかる。そしてあたしとお兄ちゃんの今後の関係も明白になるのだった。あたしの緊張をよそにお兄ちゃんは呑気だった。自分の彼女と彼女の親友である妹と3人で初詣でに行くとしか思っていないお兄ちゃんには当然の気分だったろうけど。
お兄ちゃんが車庫からお父さんの車を出してきた。あたしは一瞬考えて、そしてさほど悩まずにお兄ちゃんの隣の助手席に乗り込んだ。その時、あたしの脳裏にはあの雨の日、妹友ちゃんがあたしの専用席だと考えていた助手席に座ってお兄ちゃんと談笑していた姿が浮かんですぐに消えた。別に妹友ちゃんに嫌がらせをするつもりはなかった。ただ、これがお兄ちゃんの隣に座れる最後の機会かもしれないという考えが頭に浮かんだだけだった。
思ったより時間がかかったけどあたしたち三人は無事に鶴岡八幡宮で参拝を終えた。そして、メールで打ち合わせていた時間、打ち合わせていた場所に手を繋いで寄り添う委員長ちゃんと先輩の姿があった。あたしはお兄ちゃんと妹友ちゃんに委員長ちゃんがいるって言った。
「あ、本当だ。委員長ちゃんも来てたのか」
妹友ちゃんには先輩の姿が良く見えていないようだった。
その時、お兄ちゃんがあたしに気を遣ったのか気まずそうな声で言った。
「何かあいつら手繋いでるんじゃ・・・・・・」
ついにその時が来たのだ。
ようやくこの時が来た今、あたしは妙に落ち着いていた。そして、あたしはもうお兄ちゃんのことを気にせず妹友ちゃんのことだけを見つめていた。
妹友ちゃんは先輩の彼女であるあたしに気遣う様子はなく、身じろぎもせず呆然として委員長ちゃんと先輩を見詰めていた。妹友ちゃんの変異に気が付いたお兄ちゃんが声をかけた。
「妹友どうした?」
妹友ちゃんは振り向きもしなかった。
「妹友? 大丈夫か」
お兄ちゃんは再び心配いそうに妹友ちゃんに声をかける。その時妹友ちゃんが何か言った。混乱している彼女の思考をそのまま口に出したような、聞き取りづらい声。
「・・・・・・るさ・・・・・・」
「え?」
自分の彼女のその返事にお兄ちゃんは戸惑ったようだった。次の瞬間、妹友ちゃんはお兄ちゃんの方を見て、大声で怒鳴った。
「うるさい! あたしのことは放っておいてよ!」
お兄ちゃんが車庫からお父さんの車を出してきた。あたしは一瞬考えて、そしてさほど悩まずにお兄ちゃんの隣の助手席に乗り込んだ。その時、あたしの脳裏にはあの雨の日、妹友ちゃんがあたしの専用席だと考えていた助手席に座ってお兄ちゃんと談笑していた姿が浮かんですぐに消えた。別に妹友ちゃんに嫌がらせをするつもりはなかった。ただ、これがお兄ちゃんの隣に座れる最後の機会かもしれないという考えが頭に浮かんだだけだった。
思ったより時間がかかったけどあたしたち三人は無事に鶴岡八幡宮で参拝を終えた。そして、メールで打ち合わせていた時間、打ち合わせていた場所に手を繋いで寄り添う委員長ちゃんと先輩の姿があった。あたしはお兄ちゃんと妹友ちゃんに委員長ちゃんがいるって言った。
「あ、本当だ。委員長ちゃんも来てたのか」
妹友ちゃんには先輩の姿が良く見えていないようだった。
その時、お兄ちゃんがあたしに気を遣ったのか気まずそうな声で言った。
「何かあいつら手繋いでるんじゃ・・・・・・」
ついにその時が来たのだ。
ようやくこの時が来た今、あたしは妙に落ち着いていた。そして、あたしはもうお兄ちゃんのことを気にせず妹友ちゃんのことだけを見つめていた。
妹友ちゃんは先輩の彼女であるあたしに気遣う様子はなく、身じろぎもせず呆然として委員長ちゃんと先輩を見詰めていた。妹友ちゃんの変異に気が付いたお兄ちゃんが声をかけた。
「妹友どうした?」
妹友ちゃんは振り向きもしなかった。
「妹友? 大丈夫か」
お兄ちゃんは再び心配いそうに妹友ちゃんに声をかける。その時妹友ちゃんが何か言った。混乱している彼女の思考をそのまま口に出したような、聞き取りづらい声。
「・・・・・・るさ・・・・・・」
「え?」
自分の彼女のその返事にお兄ちゃんは戸惑ったようだった。次の瞬間、妹友ちゃんはお兄ちゃんの方を見て、大声で怒鳴った。
「うるさい! あたしのことは放っておいてよ!」
116: 2012/02/08(水) 22:12:26.23 ID:oyDYgtJgo
妹友ちゃんはそう叫んだ後、すぐに我に返ったようだった。お兄ちゃんに謝りあたしには、あんな先輩を見てショックだったでしょと無理に体の中から搾り出したような言葉をかけて、妹もちゃんはちょっと具合が悪いからと一人で電車で帰ってしまった。もう委員長ちゃんたちのことは振り返
りもしないで。
そういうわけであたしとお兄ちゃんは二人きりでお兄ちゃんの車に乗って、今度は帰宅ラッシュが始って渋滞している国道をのろのろと帰宅し始めた。委員長ちゃんの計画では先輩の浮気現場を目撃して落ち込んでいるあたしをお兄ちゃんは優しく気遣って慰めてくれるということだったけ
れど、生まれて初めて出来た彼女に怒鳴られたお兄ちゃんにそんな余裕があるわけがなかった。予想していたことではあるけれども、妹友ちゃんが本当に好きな人がお兄ちゃんではなくて先輩なら、妹友ちゃんが動揺しないわけはないのだ。そんな妹友ちゃんを目撃してなお平然とあたし
を慰めるなんてことをお兄ちゃんに期待する方が間違っている。委員長ちゃんも自分の長年の恋が成就して少し計画に手を抜いてるのかな。あたしはそんなことを考えたけど、今はそのことを考えている場合ではなかった。
あたしは委員長ちゃんが言ったこと、妹友ちゃんはあたしに嫌がらせをするためえにお兄ちゃんと付き合い出したということを鵜呑みにはしていなかった。それはな何の証拠もない話だった。あるいは委員長ちゃんにはそう断言するだけの事実を知っているのかもしれないけど、委員長ちゃんはそれをあたしには説明してくれなかった。委員長ちゃんはやはり何かをあたしに隠しているようだった。
あたしはさっきの妹友ちゃんの行動や態度を思い浮かべてみた。妹友ちゃんは、あたしが予想いていた以上に狼狽し混乱していたように見えた。たとえ妹友ちゃんが本当に先輩のことをまだ好きでお兄ちゃんと付き合っているのはあたしへの意趣返しのためだったとしても、もっと妹友ちゃんは自制するだろうとあたしは思っていた。なので妹友ちゃんの目に見えないくらいの小さな動揺を見逃すまいと、あたしはその瞬間の妹友ちゃんを注視していたのだ。でもそんな必要はないくらい妹友ちゃんは我を忘れお兄ちゃんに怒鳴るくらいに動揺していた。
もうこれは誤解ではないだろう。妹友ちゃんは今でも先輩のことを好きなのだ。そしてその先輩が女の子と一緒に寄り添っているところを目撃した。その相手はあたしではない。あたしが先輩に浮気されたこと自体は妹ちゃんにとってどうでもいいことなのだろうけど、問題は先輩があたしに隠れて声をかけていた相手が自分ではなく委員長ちゃんだったということだった。妹友ちゃんはかつて自分の先輩への好意を周囲に隠さなかったから、当然それは噂になっていたし先輩の耳にも届いていた。それなのに、先輩が声をかけたのは妹友ちゃんではなく、妹友ちゃんの友だちの委員長ちゃんだったのだ。
・・・・・・妹友ちゃんにとってそれは許せないほどの屈辱だったろう。また、妹友ちゃんが今まで憎んでいたのはあたし一人だったろうけど、これからは委員長ちゃんのことも妹友ちゃんの憎悪の対象に加わったはずだった。委員長ちゃんも妹友ちゃんの先輩への片想いを知っていたし、委員長がそれを知っていてなお先輩の想いを受け入れたことも妹友ちゃんは知っていたのだろうから。
りもしないで。
そういうわけであたしとお兄ちゃんは二人きりでお兄ちゃんの車に乗って、今度は帰宅ラッシュが始って渋滞している国道をのろのろと帰宅し始めた。委員長ちゃんの計画では先輩の浮気現場を目撃して落ち込んでいるあたしをお兄ちゃんは優しく気遣って慰めてくれるということだったけ
れど、生まれて初めて出来た彼女に怒鳴られたお兄ちゃんにそんな余裕があるわけがなかった。予想していたことではあるけれども、妹友ちゃんが本当に好きな人がお兄ちゃんではなくて先輩なら、妹友ちゃんが動揺しないわけはないのだ。そんな妹友ちゃんを目撃してなお平然とあたし
を慰めるなんてことをお兄ちゃんに期待する方が間違っている。委員長ちゃんも自分の長年の恋が成就して少し計画に手を抜いてるのかな。あたしはそんなことを考えたけど、今はそのことを考えている場合ではなかった。
あたしは委員長ちゃんが言ったこと、妹友ちゃんはあたしに嫌がらせをするためえにお兄ちゃんと付き合い出したということを鵜呑みにはしていなかった。それはな何の証拠もない話だった。あるいは委員長ちゃんにはそう断言するだけの事実を知っているのかもしれないけど、委員長ちゃんはそれをあたしには説明してくれなかった。委員長ちゃんはやはり何かをあたしに隠しているようだった。
あたしはさっきの妹友ちゃんの行動や態度を思い浮かべてみた。妹友ちゃんは、あたしが予想いていた以上に狼狽し混乱していたように見えた。たとえ妹友ちゃんが本当に先輩のことをまだ好きでお兄ちゃんと付き合っているのはあたしへの意趣返しのためだったとしても、もっと妹友ちゃんは自制するだろうとあたしは思っていた。なので妹友ちゃんの目に見えないくらいの小さな動揺を見逃すまいと、あたしはその瞬間の妹友ちゃんを注視していたのだ。でもそんな必要はないくらい妹友ちゃんは我を忘れお兄ちゃんに怒鳴るくらいに動揺していた。
もうこれは誤解ではないだろう。妹友ちゃんは今でも先輩のことを好きなのだ。そしてその先輩が女の子と一緒に寄り添っているところを目撃した。その相手はあたしではない。あたしが先輩に浮気されたこと自体は妹ちゃんにとってどうでもいいことなのだろうけど、問題は先輩があたしに隠れて声をかけていた相手が自分ではなく委員長ちゃんだったということだった。妹友ちゃんはかつて自分の先輩への好意を周囲に隠さなかったから、当然それは噂になっていたし先輩の耳にも届いていた。それなのに、先輩が声をかけたのは妹友ちゃんではなく、妹友ちゃんの友だちの委員長ちゃんだったのだ。
・・・・・・妹友ちゃんにとってそれは許せないほどの屈辱だったろう。また、妹友ちゃんが今まで憎んでいたのはあたし一人だったろうけど、これからは委員長ちゃんのことも妹友ちゃんの憎悪の対象に加わったはずだった。委員長ちゃんも妹友ちゃんの先輩への片想いを知っていたし、委員長がそれを知っていてなお先輩の想いを受け入れたことも妹友ちゃんは知っていたのだろうから。
117: 2012/02/08(水) 22:13:11.89 ID:oyDYgtJgo
相変わらず帰り道は渋滞していた。あたしは助手席に座って時々お兄ちゃんの方をちらちら眺めていた。妹友ちゃんがお兄ちゃんのことが本当に好きだと確信できていたとしていたら、この帰り道にあたしが助手席に座ることはなかったろう。あたしはもうこれ以上考えることをやめた。妹友ちゃんの行動については疑う余地はない。今は疑問や戸惑いよりもあたし個人への復讐にあたしのお兄ちゃんを巻き込むという酷いことを考えた妹友ちゃんへの憎しみに近い感情があたしの心を支配していた。あたしは憎まれてもしかたない。確かにあたしは親友である妹友ちゃんの先輩への好意を知りながら先輩の告白に応え先輩と付き合った。それは長く苦しいお兄ちゃんへの想いを断ち切るためだったけど、そんなことはあたしの勝手であってそのことによって傷付いただろう妹友ちゃんへのい言い訳にはならなかった。でも妹友ちゃんがどんなに酷いことをあたしに対して仕掛けてもそれを許容したであろうあたしも、全くこの件に無関係なお兄ちゃんを傷つけることによってあたしに仕返しをしようとした妹友ちゃんを許すことは出来なかった。でもその時信じられないことにお兄ちゃんがそっと、遠慮がちにあたしの手を握った。
・・・・・・こんな時なのにお兄ちゃんはあたしのことを心配してくれたのだ。
「おまえ大丈夫か」
あたしの手を握ったお兄ちゃんがあいかわらず進まない前の車を眺めながら行った。もう薄暗くなってきていた。前方の車の列のブレーキランプがお兄ちゃんの顔に赤く照り返している。
あたしは一瞬何を言われているのかわからなかった。あたしの妹友ちゃんへの憎悪はお兄ちゃん心配するほど顔に出ていたのだろうか。一瞬そんなありえない感想が浮かんだけど、すぐにお兄ちゃんはあたしが先輩に浮気されて落ち込んでいるのだと思って、あたしをしなp氏してくれていることに気づいた。何だかあれだけ馬鹿にしていた委員長ちゃんの計画が意外と正しかったような気さえしてきた。
「うん。よくあることだし、先輩、もてるから」
あたしはお兄ちゃんに言った。
「今までもあたしに隠れて他の女の子と遊ぶことなんてよくあったもん」
「おまえなあ。堂々と彼氏に浮気されて黙ってるんじゃねえよ」
お兄ちゃんが平静な声で言った。お兄ちゃんは妹友ちゃんの態度に傷付いているはずなのに、あたしを思いやる余裕があるのだろうか。
「あたしも先輩のこと非難できる立場じゃないし」
あたしはもう先輩とは別れていたのだけれど、そして今回の先輩の「浮気」はあたしと委員長ちゃんが企んだもので先輩には罪がないのだけれど、それをお兄ちゃんに言う訳にはいかなかった。
「あたしもお兄ちゃんと浮気してたようなものだし」
「・・・・・・そうか」
お兄ちゃんがぽつんと言った。
・・・・・・こんな時なのにお兄ちゃんはあたしのことを心配してくれたのだ。
「おまえ大丈夫か」
あたしの手を握ったお兄ちゃんがあいかわらず進まない前の車を眺めながら行った。もう薄暗くなってきていた。前方の車の列のブレーキランプがお兄ちゃんの顔に赤く照り返している。
あたしは一瞬何を言われているのかわからなかった。あたしの妹友ちゃんへの憎悪はお兄ちゃん心配するほど顔に出ていたのだろうか。一瞬そんなありえない感想が浮かんだけど、すぐにお兄ちゃんはあたしが先輩に浮気されて落ち込んでいるのだと思って、あたしをしなp氏してくれていることに気づいた。何だかあれだけ馬鹿にしていた委員長ちゃんの計画が意外と正しかったような気さえしてきた。
「うん。よくあることだし、先輩、もてるから」
あたしはお兄ちゃんに言った。
「今までもあたしに隠れて他の女の子と遊ぶことなんてよくあったもん」
「おまえなあ。堂々と彼氏に浮気されて黙ってるんじゃねえよ」
お兄ちゃんが平静な声で言った。お兄ちゃんは妹友ちゃんの態度に傷付いているはずなのに、あたしを思いやる余裕があるのだろうか。
「あたしも先輩のこと非難できる立場じゃないし」
あたしはもう先輩とは別れていたのだけれど、そして今回の先輩の「浮気」はあたしと委員長ちゃんが企んだもので先輩には罪がないのだけれど、それをお兄ちゃんに言う訳にはいかなかった。
「あたしもお兄ちゃんと浮気してたようなものだし」
「・・・・・・そうか」
お兄ちゃんがぽつんと言った。
118: 2012/02/08(水) 22:16:47.67 ID:oyDYgtJgo
考えてみれば朝から何も食べていなかった。あたしはお兄ちゃんに空腹を伝えと沿道のファミレスに寄ってもらった。席について注文する時になると、いつもとは逆にあたしはオムライスとパフェを注文したのにお兄ちゃんはコーヒーしか頼もうとしなかった。
「何か食べなきゃ駄目だよ。今日何も食べてないんだから」
あたしはお兄ちゃんに言ったけど内心ではお兄ちゃんに食欲がなくても無理はないと考えていた。この頃になるとあたしはもうお兄ちゃんにあたしが知っている限りの情報は伝えようといういう決心がついていた。もちろん信じる信じないとか、真実を聞いたお兄ちゃんが妹友ちゃんとの関係をどうするかについては干渉するつもりはなかった。あたしは長い間待ち続けてきたのだ。それに一度は終わった思った恋だったし、全てを伝えたうえでお兄ちゃんがどうするのかを待つつもりだった。あたしはお兄ちゃんを見て話を始めた。
「・・・・・・お兄ちゃん。さっきの妹友ちゃんの態度、驚いたでしょ」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんはあっさりそれを認めた。
「お兄ちゃんに言う方がいいのかどうかはわからない」
「なあ、頼むよ。おまえが彼氏と大変な時にこんなこと頼んで悪いけど」
こんな時になってもまだお兄ちゃんはあたしと彼氏のことを気にしてくれていた。これから話すことはお兄ちゃんを傷つけるだろう。あたしはそのことがすごく嫌だったけど、言わないで済ませると結局今知る以上の苦しみがお兄ちゃんに襲い掛かるようになってしまっていた。
あたしは思い切って話し始めた。
「妹友ちゃんはね、入学した時からずっと彼氏先輩に憧れていたの」
「やっぱりそうか・・・・・・」
意外なことにお兄ちゃんは今日の妹友ちゃんの態度からそのことを推察していたようだった。
「でも・・・・・・、先輩は、あたしのことがずっと気になっていて、それで、先輩って人気もあったし。告白された時に思わずはいって返事しちゃって」
お兄ちゃんは黙ってあたしの話を聞いていた。
「妹友ちゃんの気持ちも知ってたのに・・・・・・悪いことしちゃったの。それでも妹友ちゃんは自分の気持ちを隠して祝福してくれた」
「妹友ちゃんは完璧な人間じゃないよ。嫉妬もするしずるいこともするし人のことを傷付けもする」
「でも、あの時はあたしに気を遣ってくれて、よかったねって言ってくれた」
「だから、あたしは妹友ちゃんの親友なの」
あたしはそこまでを一気に話した。もう後戻りは出来なかった。
「雨の日にお兄ちゃんが学校まで迎えに来てくれたでしょ?」
「ああ、妹友に初めてあった日ね」
お兄ちゃん意外なくらい冷静にあたしの話を聞いてくれていた。
「その時、それまで先輩以外に関心を示さなかった妹友ちゃんが、初めてお兄ちゃんのメアドを教えてって・・・・・・本当はお兄ちゃんが女の子と付き合うの嫌だった。でも、妹友ちゃんがあの日以来初めて自分から行動を起こそうとしていたし」
「あたしは、応援するしかなかったの」
「お兄ちゃんと妹友ちゃんが付き合い出して、お泊りもする仲になったし、だから、もう大丈夫だと思った・・・・・・寂しかったけど、妹友ちゃんからメールを貰った時、もうお兄ちゃんとああいうことをするのは止めようと思った」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんが言った。
ここまではお兄ちゃんにも納得できる話だったろう。あたしがお兄ちゃんを好きなのになぜ妹友ちゃんのお兄ちゃんへの恋を応援するようなことをしたのか。それをお兄ちゃんにわかってもらえてあたしはとりあえずほっとしたけど、ここで終わらせるわけにはいかなかった。ここから先はお兄ちゃんにはショックだろうけど、あたしにはもうここで止めることは出来なかった。この先はるかに辛い想いをお兄ちゃんにさせるよりはまだいいい。あたしは自分にそう言い聞かせた。
「何か食べなきゃ駄目だよ。今日何も食べてないんだから」
あたしはお兄ちゃんに言ったけど内心ではお兄ちゃんに食欲がなくても無理はないと考えていた。この頃になるとあたしはもうお兄ちゃんにあたしが知っている限りの情報は伝えようといういう決心がついていた。もちろん信じる信じないとか、真実を聞いたお兄ちゃんが妹友ちゃんとの関係をどうするかについては干渉するつもりはなかった。あたしは長い間待ち続けてきたのだ。それに一度は終わった思った恋だったし、全てを伝えたうえでお兄ちゃんがどうするのかを待つつもりだった。あたしはお兄ちゃんを見て話を始めた。
「・・・・・・お兄ちゃん。さっきの妹友ちゃんの態度、驚いたでしょ」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんはあっさりそれを認めた。
「お兄ちゃんに言う方がいいのかどうかはわからない」
「なあ、頼むよ。おまえが彼氏と大変な時にこんなこと頼んで悪いけど」
こんな時になってもまだお兄ちゃんはあたしと彼氏のことを気にしてくれていた。これから話すことはお兄ちゃんを傷つけるだろう。あたしはそのことがすごく嫌だったけど、言わないで済ませると結局今知る以上の苦しみがお兄ちゃんに襲い掛かるようになってしまっていた。
あたしは思い切って話し始めた。
「妹友ちゃんはね、入学した時からずっと彼氏先輩に憧れていたの」
「やっぱりそうか・・・・・・」
意外なことにお兄ちゃんは今日の妹友ちゃんの態度からそのことを推察していたようだった。
「でも・・・・・・、先輩は、あたしのことがずっと気になっていて、それで、先輩って人気もあったし。告白された時に思わずはいって返事しちゃって」
お兄ちゃんは黙ってあたしの話を聞いていた。
「妹友ちゃんの気持ちも知ってたのに・・・・・・悪いことしちゃったの。それでも妹友ちゃんは自分の気持ちを隠して祝福してくれた」
「妹友ちゃんは完璧な人間じゃないよ。嫉妬もするしずるいこともするし人のことを傷付けもする」
「でも、あの時はあたしに気を遣ってくれて、よかったねって言ってくれた」
「だから、あたしは妹友ちゃんの親友なの」
あたしはそこまでを一気に話した。もう後戻りは出来なかった。
「雨の日にお兄ちゃんが学校まで迎えに来てくれたでしょ?」
「ああ、妹友に初めてあった日ね」
お兄ちゃん意外なくらい冷静にあたしの話を聞いてくれていた。
「その時、それまで先輩以外に関心を示さなかった妹友ちゃんが、初めてお兄ちゃんのメアドを教えてって・・・・・・本当はお兄ちゃんが女の子と付き合うの嫌だった。でも、妹友ちゃんがあの日以来初めて自分から行動を起こそうとしていたし」
「あたしは、応援するしかなかったの」
「お兄ちゃんと妹友ちゃんが付き合い出して、お泊りもする仲になったし、だから、もう大丈夫だと思った・・・・・・寂しかったけど、妹友ちゃんからメールを貰った時、もうお兄ちゃんとああいうことをするのは止めようと思った」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんが言った。
ここまではお兄ちゃんにも納得できる話だったろう。あたしがお兄ちゃんを好きなのになぜ妹友ちゃんのお兄ちゃんへの恋を応援するようなことをしたのか。それをお兄ちゃんにわかってもらえてあたしはとりあえずほっとしたけど、ここで終わらせるわけにはいかなかった。ここから先はお兄ちゃんにはショックだろうけど、あたしにはもうここで止めることは出来なかった。この先はるかに辛い想いをお兄ちゃんにさせるよりはまだいいい。あたしは自分にそう言い聞かせた。
119: 2012/02/08(水) 22:17:18.73 ID:oyDYgtJgo
「俺にもわからねえよ。今の話だと妹友は俺のこと好きになったってことだろ?」
お兄ちゃんは聞き返した。
「さっき、おまえの彼氏のほうを睨んでいた表情とか、俺にうるさいって叫んだ声とか絶対好きな男に対する態度じゃねえよ。女性経験なんて無いに等しい俺でもそれくらいはわかるよ」
「そうだね」
あたしは次の言葉を決めてお兄ちゃんに告げた。
「今日ね、妹友ちゃんを見て、きっと、あたしのことも本当に許してないんだと思った」
「え?」
「お兄ちゃんごめんね」
「何でおまえが謝る」
「妹友ちゃんがお兄ちゃんと付き合ったのは、あたしへの復讐だったんじゃないかって思う。あたしが一番大切にしている人が誰か、妹友ちゃんは知ってたし。大切な人を奪って行ったあたしに同じ想いをさせたかったのかも」
「じゃ、じゃあ」
初めてお兄ちゃんの声が震えた。
「多分、妹友ちゃんが好きなのはお兄ちゃんじゃなく、妹友ちゃんは今でも先輩のことしか好きじゃないんじゃないかな」
お兄ちゃんは聞き返した。
「さっき、おまえの彼氏のほうを睨んでいた表情とか、俺にうるさいって叫んだ声とか絶対好きな男に対する態度じゃねえよ。女性経験なんて無いに等しい俺でもそれくらいはわかるよ」
「そうだね」
あたしは次の言葉を決めてお兄ちゃんに告げた。
「今日ね、妹友ちゃんを見て、きっと、あたしのことも本当に許してないんだと思った」
「え?」
「お兄ちゃんごめんね」
「何でおまえが謝る」
「妹友ちゃんがお兄ちゃんと付き合ったのは、あたしへの復讐だったんじゃないかって思う。あたしが一番大切にしている人が誰か、妹友ちゃんは知ってたし。大切な人を奪って行ったあたしに同じ想いをさせたかったのかも」
「じゃ、じゃあ」
初めてお兄ちゃんの声が震えた。
「多分、妹友ちゃんが好きなのはお兄ちゃんじゃなく、妹友ちゃんは今でも先輩のことしか好きじゃないんじゃないかな」
128: 2012/02/09(木) 22:43:07.71 ID:qCFnZTnso
「・・・・・・そうか」
しばらくの沈黙の後、お兄ちゃんはぽつんと言った。
「ごめんね、お兄ちゃん。こんなことに巻き込んじゃって」
そう謝ったあたしをお兄ちゃんはなおも気遣ってくれた。
「何度も謝るなよ。どっちかって言うとおまえも被害者なんだから」
「それによ」
お兄ちゃんが話を続けた。
「これを言うとおまえに嫌われそうだけどさ」
お兄ちゃんは妹友ちゃんの気持ちを知ってショックではないのだろうか。あたしはお兄ちゃんが真実を知って傷付くことを心配していたのだけれど、お兄ちゃんが今考えていることはそういうことではないようだった。
「妹友の本当の気持ちを知ってショックだったけど。俺、少しだけほっとしているかも」
お兄ちゃんは意外なことを口にした。
「え? 何で」
思わずあたしは聞き返した。妹友ちゃんが本当は自分ではなく先輩のことが好きだったことを知ってほっとするというのはどういうことだろう。
「俺さ、妹友の告白にOKしたその日におまえと、その・・・・・・」
「・・・・・・あたしとペッティングしたこと?」
お兄ちゃんが言いにくそうにしていたのであたしはそう口を挟んだ。
「そうはっきり言うなよ」
お兄ちゃんが顔を赤くしてぼそっと言った。
「ああ、ごめん」
「それって結構罪悪感感じててさ。妹友と一緒にいてもいつも重く心にのしかかってたんだけど、妹友が俺を利用しているだけだとしたら、そんなに罪悪感感じなくてもいいからさ」
お兄ちゃんの話を聞きながらだんだん心の中に一つの期待があたしの心に浮かんできていた。もちろんお兄ちゃんは、妹友ちゃんよりあたしの方が好きだと言ったわけではない。それでも、自分の恋人が自分のことを好きではなく他の目的でお兄ちゃんに告白しお兄ちゃんとベッドを共にしたかもしれないという事実を知ってもなお、お兄ちゃんはほっとしていると言うのだ。
妹友ちゃんの彼氏になったその夜、あたしと一晩を共にしたお兄ちゃんはそのことに罪悪感を感じていた。そしてその次の朝、お兄ちゃんは言ったのだった。あたしは最近までなるべく思い出さないようにしていた甘美な記憶を呼び起こした。
しばらくの沈黙の後、お兄ちゃんはぽつんと言った。
「ごめんね、お兄ちゃん。こんなことに巻き込んじゃって」
そう謝ったあたしをお兄ちゃんはなおも気遣ってくれた。
「何度も謝るなよ。どっちかって言うとおまえも被害者なんだから」
「それによ」
お兄ちゃんが話を続けた。
「これを言うとおまえに嫌われそうだけどさ」
お兄ちゃんは妹友ちゃんの気持ちを知ってショックではないのだろうか。あたしはお兄ちゃんが真実を知って傷付くことを心配していたのだけれど、お兄ちゃんが今考えていることはそういうことではないようだった。
「妹友の本当の気持ちを知ってショックだったけど。俺、少しだけほっとしているかも」
お兄ちゃんは意外なことを口にした。
「え? 何で」
思わずあたしは聞き返した。妹友ちゃんが本当は自分ではなく先輩のことが好きだったことを知ってほっとするというのはどういうことだろう。
「俺さ、妹友の告白にOKしたその日におまえと、その・・・・・・」
「・・・・・・あたしとペッティングしたこと?」
お兄ちゃんが言いにくそうにしていたのであたしはそう口を挟んだ。
「そうはっきり言うなよ」
お兄ちゃんが顔を赤くしてぼそっと言った。
「ああ、ごめん」
「それって結構罪悪感感じててさ。妹友と一緒にいてもいつも重く心にのしかかってたんだけど、妹友が俺を利用しているだけだとしたら、そんなに罪悪感感じなくてもいいからさ」
お兄ちゃんの話を聞きながらだんだん心の中に一つの期待があたしの心に浮かんできていた。もちろんお兄ちゃんは、妹友ちゃんよりあたしの方が好きだと言ったわけではない。それでも、自分の恋人が自分のことを好きではなく他の目的でお兄ちゃんに告白しお兄ちゃんとベッドを共にしたかもしれないという事実を知ってもなお、お兄ちゃんはほっとしていると言うのだ。
妹友ちゃんの彼氏になったその夜、あたしと一晩を共にしたお兄ちゃんはそのことに罪悪感を感じていた。そしてその次の朝、お兄ちゃんは言ったのだった。あたしは最近までなるべく思い出さないようにしていた甘美な記憶を呼び起こした。
129: 2012/02/09(木) 22:46:36.95 ID:qCFnZTnso
回想
「俺さ」
「おまえのこと・・・・・・女としてしか見られねえ」
「おまえへのこと、実の妹じゃなくて一人の女としか見られねえ」
「俺、おまえのこと好きだ、愛してる。おまえを俺のものにしたい」
「おまえと最後まで、その、セ、だってしたい」
「お、俺の彼女になってくれ」
回想終了
これはお兄ちゃんが妹友ちゃんに告白された次の朝のことだった。その後、学校で妹友ちゃんからお兄ちゃんと付き合うことになったという話を聞かされたあたしはお兄ちゃんに嫌悪感を感じ、この記憶も封印してきたのだった。だけど、妹友ちゃんがその時からお兄ちゃんのことを騙して利用しようとしていたのだとしたら。お兄ちゃんの取った行動自体は変らないけれども、少なくとも妹友ちゃんへの罪悪感や遠慮は感じる必要がなくなる。お兄ちゃんも同じことを言ったけど、あたしにとってもそれは同じことだった。あたしはあの時軽薄な行動をしたお兄ちゃんのことを嫌ったけれども、その感情の中のどこかにあたしが先輩と付き合い出してからずっと感じてきた妹友ちゃんへの負い目とか遠慮とかも含まれていたに違いない。
あたしは自分の心が軽くなっていくのを感じた。もう妹友ちゃんに遠慮する必要はないんだ。そしてお兄ちゃんもやはりショックを受け傷付くよりもお兄ちゃんが今話してくれたように安堵しているような表情を見せていた。でも、その後に続けたおにいちゃんの言葉にはやはり一抹の寂しさが感じられた。
「まあ、妹友の目的が何にせよ、俺の人生初の恋人は最初から俺のことを好きにじゃなかったってことだな」
「お兄ちゃん」
あたしはもうためらわずにお兄ちゃんの手を強く握った。
「だからそこで手を握るとか優しくするなよ・・・・・・また勘違いしちゃうだろ」
お兄ちゃんの顔がまた赤くなった。
「別に勘違いじゃないんだけど」
あたしは俯いて小さく言ったけどお兄ちゃんには聞き取れなかったようだった。
「お兄ちゃん、妹友ちゃんと別れるの?」
あたしはお兄ちゃんに聞いてみた。
「別れるって・・・・・・。もう連絡も来ないだろ」
お兄ちゃんはあまり妹友ちゃんとの今後のことを考えていないようだった。
「それはわからないよ。ここで話してることって妹友ちゃんは知らないわけだし、普通に昨日はごめんなさいって言われたらどうするの?」
「・・・・・・わかんねえ」
「やっぱり妹友ちゃんに未練ある?」
あたしはお兄ちゃんに確認した。この頃になるともうあたしの決心は半ば決まってきていた。
「・・・・・・おまえは?」
お兄ちゃんが聞き返した。
「何も無かったようにあいつと付き合うの?」
あたしはもう先輩とは付き合っていない。そればかりか委員長ちゃんと先輩の仲を、先輩の意向を無視して半ば無理やりくっつけさせたのもあたしだった。だけどそのことはお兄ちゃんにはまだ話していなかったし、今がそのタイミングかもわからなかった。
「それとも、あいつの浮気を咎める?」
お兄ちゃんがまた聞いた。あたしは曖昧に答えた。
「・・・・・・わかんない」
でもその応えはお兄ちゃんの共感を呼んだようだった。きっとお兄ちゃんにも先のことはわからないのだろう。あたしは久しぶりに緊張した。もう言わなければならないことはわかっていた。
「・・・・・・。お兄ちゃん?」
あたしは声の震えを抑えてお兄ちゃんに言った。
「あたし、やっぱり・・・・・・お兄ちゃんのことが好き」
あたしはようやく自分で抱え込んでいた妹友ちゃんの呪縛から開放されたのだった。
「俺さ」
「おまえのこと・・・・・・女としてしか見られねえ」
「おまえへのこと、実の妹じゃなくて一人の女としか見られねえ」
「俺、おまえのこと好きだ、愛してる。おまえを俺のものにしたい」
「おまえと最後まで、その、セ、だってしたい」
「お、俺の彼女になってくれ」
回想終了
これはお兄ちゃんが妹友ちゃんに告白された次の朝のことだった。その後、学校で妹友ちゃんからお兄ちゃんと付き合うことになったという話を聞かされたあたしはお兄ちゃんに嫌悪感を感じ、この記憶も封印してきたのだった。だけど、妹友ちゃんがその時からお兄ちゃんのことを騙して利用しようとしていたのだとしたら。お兄ちゃんの取った行動自体は変らないけれども、少なくとも妹友ちゃんへの罪悪感や遠慮は感じる必要がなくなる。お兄ちゃんも同じことを言ったけど、あたしにとってもそれは同じことだった。あたしはあの時軽薄な行動をしたお兄ちゃんのことを嫌ったけれども、その感情の中のどこかにあたしが先輩と付き合い出してからずっと感じてきた妹友ちゃんへの負い目とか遠慮とかも含まれていたに違いない。
あたしは自分の心が軽くなっていくのを感じた。もう妹友ちゃんに遠慮する必要はないんだ。そしてお兄ちゃんもやはりショックを受け傷付くよりもお兄ちゃんが今話してくれたように安堵しているような表情を見せていた。でも、その後に続けたおにいちゃんの言葉にはやはり一抹の寂しさが感じられた。
「まあ、妹友の目的が何にせよ、俺の人生初の恋人は最初から俺のことを好きにじゃなかったってことだな」
「お兄ちゃん」
あたしはもうためらわずにお兄ちゃんの手を強く握った。
「だからそこで手を握るとか優しくするなよ・・・・・・また勘違いしちゃうだろ」
お兄ちゃんの顔がまた赤くなった。
「別に勘違いじゃないんだけど」
あたしは俯いて小さく言ったけどお兄ちゃんには聞き取れなかったようだった。
「お兄ちゃん、妹友ちゃんと別れるの?」
あたしはお兄ちゃんに聞いてみた。
「別れるって・・・・・・。もう連絡も来ないだろ」
お兄ちゃんはあまり妹友ちゃんとの今後のことを考えていないようだった。
「それはわからないよ。ここで話してることって妹友ちゃんは知らないわけだし、普通に昨日はごめんなさいって言われたらどうするの?」
「・・・・・・わかんねえ」
「やっぱり妹友ちゃんに未練ある?」
あたしはお兄ちゃんに確認した。この頃になるともうあたしの決心は半ば決まってきていた。
「・・・・・・おまえは?」
お兄ちゃんが聞き返した。
「何も無かったようにあいつと付き合うの?」
あたしはもう先輩とは付き合っていない。そればかりか委員長ちゃんと先輩の仲を、先輩の意向を無視して半ば無理やりくっつけさせたのもあたしだった。だけどそのことはお兄ちゃんにはまだ話していなかったし、今がそのタイミングかもわからなかった。
「それとも、あいつの浮気を咎める?」
お兄ちゃんがまた聞いた。あたしは曖昧に答えた。
「・・・・・・わかんない」
でもその応えはお兄ちゃんの共感を呼んだようだった。きっとお兄ちゃんにも先のことはわからないのだろう。あたしは久しぶりに緊張した。もう言わなければならないことはわかっていた。
「・・・・・・。お兄ちゃん?」
あたしは声の震えを抑えてお兄ちゃんに言った。
「あたし、やっぱり・・・・・・お兄ちゃんのことが好き」
あたしはようやく自分で抱え込んでいた妹友ちゃんの呪縛から開放されたのだった。
130: 2012/02/09(木) 22:48:30.02 ID:qCFnZTnso
帰宅してお風呂からあがったあたしは、お兄ちゃんの部屋に行った。お兄ちゃんは催促しないとなかなかお風呂に行こうとしないのだ。ドアの外からお兄ちゃんに呼びかけたあたしに気づいたお兄ちゃんは、あたしを部屋に呼び入れて自分の携帯をあたしに渡した。開きっぱなしの画面には妹友ちゃんからのメールが表示されていた。それはひどい内容のメールだった。
from::妹友
sub :今日はありがとうございました
『遅い時間にごめんなさい。今日は初詣に付き合ってもらってありがとうございました。最後に、ちょっと気持ち悪くなっちゃってお兄さんに失礼な態度をとってしまってごめんなさい。お兄さんにそういう自分を見せたくなかったので、先に帰らせてもらいました。気を悪くしましたよね? 本当にごめんね。妹ちゃんにも謝っておいてくださいね。それで、明日会えませんか? 今日は中途半端になっちゃったのでまたお兄さんに会いたいです。できれば妹ちゃん抜きで二人で。ではあまり体調もよくないのでもう寝ます。メールくださいね。おやすみお兄さん。愛してます(はあと)』
委員長ちゃんと先輩の寄り添う姿を目撃した妹ちゃんは、あんな態度をお兄ちゃんに見せた以上、少なくともお兄ちゃんからは手を引くだろうとあたしは考えていた、あたしへの復讐はもっと直接的で単純な手段に切り替えるだろうと。でも妹友ちゃんは落ち着きを取り戻しお兄ちゃんを納得させて、妹友ちゃんが自ら始めたこの嫌がらせをまだ続けようとしていたのだ。あたしは妹友ちゃんへの怒りに震えた。そして思わず内心をそのまま声に出してしまった。お兄ちゃんは心配そうにあたしを見ていた。
「・・・・・・あたしのお兄ちゃんを何だと思ってるの」
「あたしに復讐したいなら、あたしにひどいことすればいい。何でお兄ちゃんを巻き込むのよ」
「こんなメール無視していいよ、お兄ちゃんは」
あたしはお兄ちゃんの方を見て言った。
「お兄ちゃんがこれ以上困ることはないよ」
「あたしが妹友に会うから」
あたしは怒りのあまり妹友ちゃんのことを呼び捨てしていたようだ。
「あたしが憎いんだったらあたしに言えばいい」
「ちょっと落ちつけ、妹」
あたしの話を聞いていたお兄ちゃんがは不安になったようだった。
「妹友のこと・・・・・・絶対に許さない」
これは今のあたしの心からの本心だった。
131: 2012/02/09(木) 22:51:45.79 ID:qCFnZTnso
しばらく時間が経つとあたしもだんだん落ち着いてきた。妹友ちゃんにここまでわかりやすい手段を取られたため、かえってあたしの決意も強く固まってきていた。あたしがようやく冷静さを取り戻した頃、お兄ちゃんがお風呂から戻って来た。
「少しは落ち着いたか?」
お兄ちゃんはベッドのあたしの隣に座って濡れた髪をバスタオルでこすりながら言った。そしてお兄ちゃんは何でもない予定を話すかのように言った。
「俺やっぱり明日妹友に会うわ」
「・・・・・・お兄ちゃんはもうこんなくだらないことに巻き込まれることないよ」
あたしはそれには反対だった。お兄ちゃんは騙されやすく、流されやすく、基本的には人が良すぎるくらいにいい。あたしはお兄ちゃんが妹友ちゃんの話に納得させられてしまうのが怖かったのだ。でも、お兄ちゃんは意外なことを話し始めた。
「おまえの気持ちはすげえ嬉しいけど妹友とちゃんと話してくるよ」
あたしは黙ってお兄ちゃんの話を聞いた。
「ちゃんと話聞いて、けじめをつけてきたいんだ」
お兄ちゃんは今何を話しているのだろう。何をあたしに言いたいのだろう。
次の瞬間、あたしにとっては望んでさえいなかった言葉がお兄ちゃんの口から出た。
「・・・・・・俺、やっぱりおまえのこと好きみたいだ」
あたしはお兄ちゃんの言葉に混乱して何も返事できなかった。あたしはもう妹友ちゃんに遠慮しないと考えていたのだけれど、こんなに早くお兄ちゃんの気持ちがはっきりとした言葉で聞かされるとは夢にも思っていなかったのだ。
「キモイ兄だけどさ。やっぱり俺、おまえを俺のものにしたい。誰にも渡したくない」
「・・・・・・うん」
あたしはようやくそれだけ言った。混乱しているあたしに構わずお兄ちゃんは話を続けた。
「だから。妹友とちゃんとけじめつけられたら、おまえも彼氏と別れて俺の女になってくれ」
あたしの真っ白になった頭の中にようやくお兄ちゃんに返事する言葉が浮かんできた。それは今考えても舌足らずな言葉だった。17年間の片想いを考えればもっと感情豊かに、たとえばお兄ちゃんに抱き付くとかしてもいいくらいだったけど。長年の孤独に慣れ感情表現が乏しくなっていたあたしは、せめてそのそっけない言葉にありったけの想いを込めたのだった。
「・・・・・・うん。それでいいよ」
「・・・・・・妹」
お兄ちゃんはあたしの名前をそっと呼んだ。こんなそっけない返事でもお兄ちゃんにはちゃんと気持ちが伝わったようだった。
「あたしもそれでいい」
あたしは言葉足らずの返事を繰り返した。
やはりお兄ちゃんにはそれで気持ちが通じたのだろう。お兄ちゃんはあたしの気持ちを確認することなく言った。
「・・・・・・メールに返信するな」
「少しは落ち着いたか?」
お兄ちゃんはベッドのあたしの隣に座って濡れた髪をバスタオルでこすりながら言った。そしてお兄ちゃんは何でもない予定を話すかのように言った。
「俺やっぱり明日妹友に会うわ」
「・・・・・・お兄ちゃんはもうこんなくだらないことに巻き込まれることないよ」
あたしはそれには反対だった。お兄ちゃんは騙されやすく、流されやすく、基本的には人が良すぎるくらいにいい。あたしはお兄ちゃんが妹友ちゃんの話に納得させられてしまうのが怖かったのだ。でも、お兄ちゃんは意外なことを話し始めた。
「おまえの気持ちはすげえ嬉しいけど妹友とちゃんと話してくるよ」
あたしは黙ってお兄ちゃんの話を聞いた。
「ちゃんと話聞いて、けじめをつけてきたいんだ」
お兄ちゃんは今何を話しているのだろう。何をあたしに言いたいのだろう。
次の瞬間、あたしにとっては望んでさえいなかった言葉がお兄ちゃんの口から出た。
「・・・・・・俺、やっぱりおまえのこと好きみたいだ」
あたしはお兄ちゃんの言葉に混乱して何も返事できなかった。あたしはもう妹友ちゃんに遠慮しないと考えていたのだけれど、こんなに早くお兄ちゃんの気持ちがはっきりとした言葉で聞かされるとは夢にも思っていなかったのだ。
「キモイ兄だけどさ。やっぱり俺、おまえを俺のものにしたい。誰にも渡したくない」
「・・・・・・うん」
あたしはようやくそれだけ言った。混乱しているあたしに構わずお兄ちゃんは話を続けた。
「だから。妹友とちゃんとけじめつけられたら、おまえも彼氏と別れて俺の女になってくれ」
あたしの真っ白になった頭の中にようやくお兄ちゃんに返事する言葉が浮かんできた。それは今考えても舌足らずな言葉だった。17年間の片想いを考えればもっと感情豊かに、たとえばお兄ちゃんに抱き付くとかしてもいいくらいだったけど。長年の孤独に慣れ感情表現が乏しくなっていたあたしは、せめてそのそっけない言葉にありったけの想いを込めたのだった。
「・・・・・・うん。それでいいよ」
「・・・・・・妹」
お兄ちゃんはあたしの名前をそっと呼んだ。こんなそっけない返事でもお兄ちゃんにはちゃんと気持ちが伝わったようだった。
「あたしもそれでいい」
あたしは言葉足らずの返事を繰り返した。
やはりお兄ちゃんにはそれで気持ちが通じたのだろう。お兄ちゃんはあたしの気持ちを確認することなく言った。
「・・・・・・メールに返信するな」
142: 2012/02/10(金) 20:58:49.72 ID:kaeni3gxo
でも、妹友ちゃんと会いに行ったお兄ちゃんは結局彼女と別れることはできなかった。あたしはその夜は自分の全てをお兄ちゃんに許すつもりだったったから、買い物から帰宅したあたしは玄関にお兄ちゃんの靴があることに気づいて真っ直ぐにお兄ちゃんの部屋に行った。
お兄ちゃんは寝ているようだった。転寝しているお兄ちゃんの表情は安らかなものではなく疲れきっているようだった。それも無理はない。あたしや妹友ちゃんや委員長ちゃんまで巻き込んだこの不毛な争いの真の犠牲者はある意味お兄ちゃんだとも言えるのだから。あたしはお兄ちゃん
にキスした。そして浅い眠りから目覚めたお兄ちゃんに抱きついた。
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
あたしはお兄ちゃんに囁いた。
「・・・・・・おまえ、何してんの」
慌てているお兄ちゃんの声が耳元で響いた。
「お兄ちゃんに抱きついてる」
あたしは答えた。
「おいおい」
お兄ちゃんの顔が赤くなった
「大好きだよ、お兄ちゃん」
あたしは更に強くお兄ちゃんの体に密着した
「ちょっと待て」
お兄ちゃんは慌てて言った。
「・・・・・・ずっと待ったんだもん、もう待たないよ」
それはあたしの真実の言葉だった。あたしはここで初めてお兄ちゃんに嘘を言った。本当はイヴの晩には先輩と別れていたのだけれど、今日先輩に呼び出されて振られたことにしたのだ。それはあたしはお兄ちゃんについた初めての嘘だった。
「何? おまえが振られたってこと?」
どういうわけかお兄ちゃんはそれを聞いて困ったようだった。あたしは構わずに話しを進めた。今ではお兄ちゃんもあたしも晴れてフリーになっていたはずだったのだから。
「振る前に振られちゃった。一気に解決しちゃったね」
「おまえ、未練とかねえの?」
「ないよ。もう彼氏とかいらない。これからはお兄ちゃんがあたしの彼氏」
短い言葉だけどあたしは思い切ってお兄ちゃんに自分の想いをぶつけた。でも、お兄ちゃんは相変わらずどうしていいかわからないという風だった。
・・・・・・結局お兄ちゃんは妹友ちゃんの弁解を受け入れ、妹友ちゃんと別れられなかったのだ。
お兄ちゃんは寝ているようだった。転寝しているお兄ちゃんの表情は安らかなものではなく疲れきっているようだった。それも無理はない。あたしや妹友ちゃんや委員長ちゃんまで巻き込んだこの不毛な争いの真の犠牲者はある意味お兄ちゃんだとも言えるのだから。あたしはお兄ちゃん
にキスした。そして浅い眠りから目覚めたお兄ちゃんに抱きついた。
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
あたしはお兄ちゃんに囁いた。
「・・・・・・おまえ、何してんの」
慌てているお兄ちゃんの声が耳元で響いた。
「お兄ちゃんに抱きついてる」
あたしは答えた。
「おいおい」
お兄ちゃんの顔が赤くなった
「大好きだよ、お兄ちゃん」
あたしは更に強くお兄ちゃんの体に密着した
「ちょっと待て」
お兄ちゃんは慌てて言った。
「・・・・・・ずっと待ったんだもん、もう待たないよ」
それはあたしの真実の言葉だった。あたしはここで初めてお兄ちゃんに嘘を言った。本当はイヴの晩には先輩と別れていたのだけれど、今日先輩に呼び出されて振られたことにしたのだ。それはあたしはお兄ちゃんについた初めての嘘だった。
「何? おまえが振られたってこと?」
どういうわけかお兄ちゃんはそれを聞いて困ったようだった。あたしは構わずに話しを進めた。今ではお兄ちゃんもあたしも晴れてフリーになっていたはずだったのだから。
「振る前に振られちゃった。一気に解決しちゃったね」
「おまえ、未練とかねえの?」
「ないよ。もう彼氏とかいらない。これからはお兄ちゃんがあたしの彼氏」
短い言葉だけどあたしは思い切ってお兄ちゃんに自分の想いをぶつけた。でも、お兄ちゃんは相変わらずどうしていいかわからないという風だった。
・・・・・・結局お兄ちゃんは妹友ちゃんの弁解を受け入れ、妹友ちゃんと別れられなかったのだ。
143: 2012/02/10(金) 21:01:28.44 ID:kaeni3gxo
お兄ちゃんにとっては無理のない話だった。妹友ちゃんがお兄ちゃんに話したであろう弁明を嘘と決め付けるだけの証拠はお兄ちゃんにはなかった。それにあたしへの嫌がらせだけのために自分に処Oを許すなんてことがあろうとはお兄ちゃんの想像の範囲を超えているみたいだった。それでもお兄ちゃんは最後に言った。
「俺さ、おまえが一番好きだ」
あたしはその時、これまであまり考えないようにしていた記憶を思い出した。あれはまだあたしが先輩に告白される前、お兄ちゃんへの満たされない気持ちを抱えながら毎日を過ごしていた時のことだった。妹友ちゃんといつものように学食で食事を終えたあたしたちは中庭のベンチに並んで座って話をしていた。前の夜にテレビの前でつい夜更かししてしまったせいか、暖かい日差しに照らされたあたしは妹友ちゃんの話を聞きながらつい寝入ってしまったようだった。
寝入りながらもあたしは自分の肌にある感触を覚えた。それは柔らかく冷たい手の感触だった。その手はあたしの頬をそっと撫で、あたしの唇にかすかに触れそしてあたしの髪を優しく撫でた。
半分眠りながら、あたしは妹友ちゃんが何であたしを触っているのだろうと不思議に思ったけど、次の瞬間体に冷気を感じてあたしは完全に目が覚めた。あたしは目覚めたけど目を開かずじっと身動きできないでいた。ネクタイが解かれ制服のブラウスの前ボタンがいくつか外されている
ようだった。そして冷たい手があたしの首筋からボタンを外されたブラウスの中に入り込み、胸やお腹やわき腹の辺りを撫で回した。もう片方の手の仕業だろうか、スカートの中の内腿の辺りにも冷たい手の感触があった。あたしが寝た振りをしているとその手はやがて体から去り、もぞも
ぞとブラウスのボタンやスカートを元に戻しているような気配がした。
「妹ちゃん、もう起きないと授業始っちゃうよ」
妹友ちゃんがあたしを起こした。あたしはそこで初めて目を覚ました振りをして、妹友ちゃんを見た。妹友ちゃんは一生懸命普段どおりに振る舞おうとしていたようだったけど、上気した顔の赤さがそれを裏切っていた。教室に入る前に、あたしは妹友ちゃんが直し忘れたネクタイの歪みを
そっと元に戻した。
「俺さ、おまえが一番好きだ」
あたしはその時、これまであまり考えないようにしていた記憶を思い出した。あれはまだあたしが先輩に告白される前、お兄ちゃんへの満たされない気持ちを抱えながら毎日を過ごしていた時のことだった。妹友ちゃんといつものように学食で食事を終えたあたしたちは中庭のベンチに並んで座って話をしていた。前の夜にテレビの前でつい夜更かししてしまったせいか、暖かい日差しに照らされたあたしは妹友ちゃんの話を聞きながらつい寝入ってしまったようだった。
寝入りながらもあたしは自分の肌にある感触を覚えた。それは柔らかく冷たい手の感触だった。その手はあたしの頬をそっと撫で、あたしの唇にかすかに触れそしてあたしの髪を優しく撫でた。
半分眠りながら、あたしは妹友ちゃんが何であたしを触っているのだろうと不思議に思ったけど、次の瞬間体に冷気を感じてあたしは完全に目が覚めた。あたしは目覚めたけど目を開かずじっと身動きできないでいた。ネクタイが解かれ制服のブラウスの前ボタンがいくつか外されている
ようだった。そして冷たい手があたしの首筋からボタンを外されたブラウスの中に入り込み、胸やお腹やわき腹の辺りを撫で回した。もう片方の手の仕業だろうか、スカートの中の内腿の辺りにも冷たい手の感触があった。あたしが寝た振りをしているとその手はやがて体から去り、もぞも
ぞとブラウスのボタンやスカートを元に戻しているような気配がした。
「妹ちゃん、もう起きないと授業始っちゃうよ」
妹友ちゃんがあたしを起こした。あたしはそこで初めて目を覚ました振りをして、妹友ちゃんを見た。妹友ちゃんは一生懸命普段どおりに振る舞おうとしていたようだったけど、上気した顔の赤さがそれを裏切っていた。教室に入る前に、あたしは妹友ちゃんが直し忘れたネクタイの歪みを
そっと元に戻した。
144: 2012/02/10(金) 21:04:50.43 ID:kaeni3gxo
結局、あたしも妹友ちゃんも委員長ちゃんも自分の恋愛感情を優先して行動していた。あたしの場合はその結果、先輩を傷付け妹友ちゃんを傷つけた。妹友ちゃんはおそらくレOビアンなのだろう。一時期の委員長ちゃんにべったりくっついていた妹友ちゃんを見ていた頃からあたしは何となくそれを感じ、判っていたかもしれない。だけど妹友ちゃん恋愛感情は突然あたしに向けられた。あたしは自分が世間一般で許されない恋愛感情、実のお兄ちゃんと結ばれたいという感情をずっと抱いていたから、レOビアンの妹友ちゃんを蔑げずむつもりはなかった。でも、妹友ちゃんの愛に応えることもできなかったのだ。あたしにの心の中にはお兄ちゃんがいたのだから。あたしはそのことで妹友ちゃんに悪いと考えたことは一度もなかった。
妹友ちゃんがあたしへの恋を忘れ男性に恋するようになったのが、先輩が最初なのかお兄ちゃんが最初なのかは今でもわからないけど、妹友ちゃんは男の人を恋愛対象にするようになった。でも、妹友ちゃんのお兄ちゃんへのアプローチが、本当にお兄ちゃんを愛してしまったからなのか、先輩を奪ったあたしへの腹いせなのかは今でも判然としなかった。
そして、その時あたしは第三の可能性に気がついた。それは妹友ちゃんの冷たい手の感触とともにあたしの心に浮かんだのだった。妹友ちゃんはまだあたしのことを諦めていないのだとしたら。
・・・・・・そして妹友ちゃんがあたしがお兄ちゃんのことを好きなことを知っているとしたら。その場合あたしの恋が成就するのは妹友ちゃんにとって都合が悪いだろう。そしてあたしとお兄ちゃんの仲が進展することを邪魔するために、妹友ちゃんがお兄ちゃんに近づいたとしたら。一時期のあたしはお兄ちゃんの話ばかりしていた。お兄ちゃんとの仲が疎遠の頃からそうしていたのだけれど、それなりにお兄ちゃんとの仲が近くなってからはまるで惚気のような話をしていたのだから、妹友ちゃんがあたしの気持ちに気がついたとしても不思議はなかった。
妹友ちゃんがあたしへの恋を忘れ男性に恋するようになったのが、先輩が最初なのかお兄ちゃんが最初なのかは今でもわからないけど、妹友ちゃんは男の人を恋愛対象にするようになった。でも、妹友ちゃんのお兄ちゃんへのアプローチが、本当にお兄ちゃんを愛してしまったからなのか、先輩を奪ったあたしへの腹いせなのかは今でも判然としなかった。
そして、その時あたしは第三の可能性に気がついた。それは妹友ちゃんの冷たい手の感触とともにあたしの心に浮かんだのだった。妹友ちゃんはまだあたしのことを諦めていないのだとしたら。
・・・・・・そして妹友ちゃんがあたしがお兄ちゃんのことを好きなことを知っているとしたら。その場合あたしの恋が成就するのは妹友ちゃんにとって都合が悪いだろう。そしてあたしとお兄ちゃんの仲が進展することを邪魔するために、妹友ちゃんがお兄ちゃんに近づいたとしたら。一時期のあたしはお兄ちゃんの話ばかりしていた。お兄ちゃんとの仲が疎遠の頃からそうしていたのだけれど、それなりにお兄ちゃんとの仲が近くなってからはまるで惚気のような話をしていたのだから、妹友ちゃんがあたしの気持ちに気がついたとしても不思議はなかった。
145: 2012/02/10(金) 21:05:40.41 ID:kaeni3gxo
もうあれこれ妹友ちゃんの意図を考えることは止めよう。あたしはそう思った。最初からこの一連の出来事はみんな自分勝手なゲームだのだ。あたしはこれまで妹友ちゃんの自分勝手な行動の被害者だと委員長ちゃんに聞かされていたし自分でもそう思っていた。でも実はそうじゃない。
あたしたちはみな被害者でもあり加害者でもあるのだ。あたしももう奇麗事を言うだけで嘆くのはやめよう。どんなに恨まれてもどんなに非難されても。
ここにきてようやくあたしもこのゲームに積極的に参加する気になったのだ。
その頃あたしとお兄ちゃんの関係は微妙な感じだった。相変わらず妹友ちゃんと付き合っているお兄ちゃんだけど、それでもお兄ちゃんはデートのあとはあたしのところに戻ってきてくれた。あたしは妹友ちゃんのことを気にするのをもう止めていた。お兄ちゃんが妹友ちゃんと過ごしている
時間は、あたしにとって辛い時間だけどそんな厳しい試練からあたしを守ってくれたのは、あの時のお兄ちゃんの言葉だった。
「俺さ、おまえが一番好きだ」
そんなある日、あたしはついに決心した。明日はお兄ちゃんを誘惑しよう。拒否されるにしても受け入れられるにしてももう決着をつけよう。その時あたしの頭の中には、寝ているあたしの体を愛撫し弄んだ妹友ちゃんへの対抗心とか憎悪とかが浮かんでいたのかもしれない。
あたしたちはみな被害者でもあり加害者でもあるのだ。あたしももう奇麗事を言うだけで嘆くのはやめよう。どんなに恨まれてもどんなに非難されても。
ここにきてようやくあたしもこのゲームに積極的に参加する気になったのだ。
その頃あたしとお兄ちゃんの関係は微妙な感じだった。相変わらず妹友ちゃんと付き合っているお兄ちゃんだけど、それでもお兄ちゃんはデートのあとはあたしのところに戻ってきてくれた。あたしは妹友ちゃんのことを気にするのをもう止めていた。お兄ちゃんが妹友ちゃんと過ごしている
時間は、あたしにとって辛い時間だけどそんな厳しい試練からあたしを守ってくれたのは、あの時のお兄ちゃんの言葉だった。
「俺さ、おまえが一番好きだ」
そんなある日、あたしはついに決心した。明日はお兄ちゃんを誘惑しよう。拒否されるにしても受け入れられるにしてももう決着をつけよう。その時あたしの頭の中には、寝ているあたしの体を愛撫し弄んだ妹友ちゃんへの対抗心とか憎悪とかが浮かんでいたのかもしれない。
149: 2012/02/10(金) 22:07:01.34 ID:kaeni3gxo
「・・・・・・さっき、暗い顔してたね」
軽口を収めたあたしはようやくこれまで言おうとしていたことを話し始めた。
「・・・・・・見てたの?」
「うん。寝た振りしてチラチラ見てた」
「そうか」
「お兄ちゃん、あまり考えすぎないで」
あたしはもう迷わずに考えていたことを口にしていた。
「考えてもどうしようもないこともあるから」
「・・・・・・どういうこと?」
お兄ちゃんは戸惑っているようだった。あたしと体が結ばれた後もなお誠実に妹友ちゃんのことを考えようとしているお兄ちゃんはあたしがずっと好きだったお兄ちゃんそのものだったけど、やはり妹友ちゃんのことを考えているお兄ちゃんにあたしは思わず少し嫉妬していたようだ。
「あたしは昨日の夜のこと後悔してない。初めてがお兄ちゃんで本当によかった」
それでも、それはお兄ちゃんに向けたあたしの心からの言葉だった。
「ああ」
「本当はね、お兄ちゃんのこと独り占めしたい。長い間待ったんだから」
あたしは我慢できずに妹友ちゃんへの嫉妬心を暴露してしまった。
「・・・・・・うん」
でもお兄ちゃんは静かに聞いているだけだった。
「でも、お兄ちゃんの気持ちもよくわかる」
あたしは嫉妬を押さえ何とか軌道修正した。
「俺の気持ちって・・・・・・」
「だから、お兄ちゃんは悩まないで。お兄ちゃんが妹友ちゃんの彼氏でもいい」
「おい」
「あたしは妹友ちゃんにはもう遠慮しないけど」
「・・・・・・だけど、妹友には悪意なんてなかったんだぞ」
お兄ちゃんとしてはそういう以外にはなかっただろう。
「それでも・・・・・・あたし、自分に正直になることにしたの」
あたしはこの言葉をお兄ちゃんに言った。それは正直な思いだった。
「だから、あたしはもう妹友ちゃんに恨まれてもいいの」
「だけど、お兄ちゃんは妹友ちゃんと別れられないでしょ」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんもついに頷いてくれた。あたしの想いがようやく通じたのだろうか。
「だからお兄ちゃんは何も考えないで。もう、あたしからおねだりはしないから」
「・・・・・・妹」
「でも、お兄ちゃんが、その・・・・・・あたしのことを可愛がりたくなった時はいつでもあたしの部屋に来て。あたしはもう二度とお兄ちゃんを拒否しないから」
お兄ちゃんはしばらく俯いていた。その永遠の瞬間、あたしは黙って静かにお兄ちゃんを待った。あたしは妹友ちゃんのことを配慮したように言ったけど、本当はそんなことはどうでもよかった。これだけ聞いたお兄ちゃんがあたしにどう答えるかだけが、今のあたしが気にしていることなのだった。
・・・・・・これが本当にあたしのお兄ちゃんへのプロポーズなのだった。
あたしは妹友ちゃんに勝った。お兄ちゃんはあたしのプロポーズに応え、あたしを乱暴に仰向けにして、あたしに乱暴にキスした。そして・・・・・・。
軽口を収めたあたしはようやくこれまで言おうとしていたことを話し始めた。
「・・・・・・見てたの?」
「うん。寝た振りしてチラチラ見てた」
「そうか」
「お兄ちゃん、あまり考えすぎないで」
あたしはもう迷わずに考えていたことを口にしていた。
「考えてもどうしようもないこともあるから」
「・・・・・・どういうこと?」
お兄ちゃんは戸惑っているようだった。あたしと体が結ばれた後もなお誠実に妹友ちゃんのことを考えようとしているお兄ちゃんはあたしがずっと好きだったお兄ちゃんそのものだったけど、やはり妹友ちゃんのことを考えているお兄ちゃんにあたしは思わず少し嫉妬していたようだ。
「あたしは昨日の夜のこと後悔してない。初めてがお兄ちゃんで本当によかった」
それでも、それはお兄ちゃんに向けたあたしの心からの言葉だった。
「ああ」
「本当はね、お兄ちゃんのこと独り占めしたい。長い間待ったんだから」
あたしは我慢できずに妹友ちゃんへの嫉妬心を暴露してしまった。
「・・・・・・うん」
でもお兄ちゃんは静かに聞いているだけだった。
「でも、お兄ちゃんの気持ちもよくわかる」
あたしは嫉妬を押さえ何とか軌道修正した。
「俺の気持ちって・・・・・・」
「だから、お兄ちゃんは悩まないで。お兄ちゃんが妹友ちゃんの彼氏でもいい」
「おい」
「あたしは妹友ちゃんにはもう遠慮しないけど」
「・・・・・・だけど、妹友には悪意なんてなかったんだぞ」
お兄ちゃんとしてはそういう以外にはなかっただろう。
「それでも・・・・・・あたし、自分に正直になることにしたの」
あたしはこの言葉をお兄ちゃんに言った。それは正直な思いだった。
「だから、あたしはもう妹友ちゃんに恨まれてもいいの」
「だけど、お兄ちゃんは妹友ちゃんと別れられないでしょ」
「・・・・・・うん」
お兄ちゃんもついに頷いてくれた。あたしの想いがようやく通じたのだろうか。
「だからお兄ちゃんは何も考えないで。もう、あたしからおねだりはしないから」
「・・・・・・妹」
「でも、お兄ちゃんが、その・・・・・・あたしのことを可愛がりたくなった時はいつでもあたしの部屋に来て。あたしはもう二度とお兄ちゃんを拒否しないから」
お兄ちゃんはしばらく俯いていた。その永遠の瞬間、あたしは黙って静かにお兄ちゃんを待った。あたしは妹友ちゃんのことを配慮したように言ったけど、本当はそんなことはどうでもよかった。これだけ聞いたお兄ちゃんがあたしにどう答えるかだけが、今のあたしが気にしていることなのだった。
・・・・・・これが本当にあたしのお兄ちゃんへのプロポーズなのだった。
あたしは妹友ちゃんに勝った。お兄ちゃんはあたしのプロポーズに応え、あたしを乱暴に仰向けにして、あたしに乱暴にキスした。そして・・・・・・。
158: 2012/02/11(土) 23:32:36.80 ID:xa0PSXiAo
4月に入り新学期が始ると、それまでのように妹と一日中家の中で二人きりで過ごすことはなくなった。大学が終われば最近始めた中学受験塾の講師のアルバイトがあり、それを終える頃には慣れない仕事でぐったりと疲れていて、とても実家まで戻る気がしなかった。だから俺が妹に会
えるのはバイトがない日の夜と週末(土曜日には塾のバイトがあったけど昼間の時間帯だった)だけになっていた。しかも母さんが少し仕事に余裕が出来たため、夜に妹との二人きりで過ごせる時間はあまり無くなっていた。
それでも俺と結ばれたばかりの妹は文句を言わなかった。平日は毎日バイトから下宿に帰宅する時間を見計らったように妹からメールが届いた。『お兄ちゃんバイトおつかれさま』とか『ちゃんと今日ご飯食べた?』とか『今夜は寒いみたいだから暖かくしてね』とか『明日午後は雨! 朝降
っていなくても絶対に傘を持っていくこと』とか他愛ない内容だったけど、妹からのメールは大げさに言えば講義とバイトで疲れていた俺に生きていこうという勇気を与えてくれた。それでも文字のメールや電話だけのやり取りでは我慢できなくなることもあった。
週末の夜、普通に母さんが家にいるために妹を抱けなくなって少し寂しかった俺は、妹を俺のアパートに来るよう誘うようになった。土曜日のバイトから帰ってアパートに入った時、おかえりって言って俺に抱きついてきた妹の表情を俺は生涯忘れないだろう。その夜はお互いに久しぶり
に何の遠慮も注意もせずに二人きりで抱き合った。そうして過ごした朝は二人とも寝過ごし、昼過ぎの日差しの中でお互いに一糸もまとわない格好で抱き合ったまま目覚めるのだった。
妹友が引っ越して転校したことは妹から聞いていた。あの時、妹と抱き合って妹にキスしていたところを妹友に見られた時。俺は狼狽したし妹友の心中を思いやるといても立ってもいられない気持ちになったけど、実は内心少しほっとしていたことは否めなかった。自分から妹に対して妹友と別れると言ったものの、もし妹友の俺への愛情が嘘でなかったらと考えると妹友に別れを告げることが俺にはすごく怖かったのだ。その頃になるとさすがに鈍い俺でも妹や妹友、そして委員長という子や妹の元彼の間に何やら葛藤というか確執というか適当な言葉が思い浮ばないけど、俺には隠された事実があることも気がついてきていた。
妹友に最後に会ったあの日。家の前で、抱き合う俺と妹を呆然として眺めて凍り付いていた妹友。そして次の瞬間妹友は身を翻して駆け去って行った。
俺はとりあえず妹友を追いかけようとして妹に止められた。あの時も妹は相変わらず冷静だった。
「よしなよ」
あの時妹はそう言ったのだった。
「追いかけて何を話すの?」
俺は凍りついた。そしていったい妹友を追いかけて何を話すつもりだったのだろうと、今更ながら間抜けな感想を抱いた。
「誤解を解く?」
妹は冷静に続けた。そして俺はその質問に答えられなかった。
「もう誤解じゃないじゃん。あたしたち恋人同士になったんでしょ・・・・・・こんな時に妹友ちゃんを捕まえて別れ話をするの?」
「それともあれは一時の気の迷いであたしとは何でもない、本当に好きなのは妹友だとかって話すの?」
その時、一見冷静そうに話している妹の手がブルブルと震えていることに俺は気づいた。
えるのはバイトがない日の夜と週末(土曜日には塾のバイトがあったけど昼間の時間帯だった)だけになっていた。しかも母さんが少し仕事に余裕が出来たため、夜に妹との二人きりで過ごせる時間はあまり無くなっていた。
それでも俺と結ばれたばかりの妹は文句を言わなかった。平日は毎日バイトから下宿に帰宅する時間を見計らったように妹からメールが届いた。『お兄ちゃんバイトおつかれさま』とか『ちゃんと今日ご飯食べた?』とか『今夜は寒いみたいだから暖かくしてね』とか『明日午後は雨! 朝降
っていなくても絶対に傘を持っていくこと』とか他愛ない内容だったけど、妹からのメールは大げさに言えば講義とバイトで疲れていた俺に生きていこうという勇気を与えてくれた。それでも文字のメールや電話だけのやり取りでは我慢できなくなることもあった。
週末の夜、普通に母さんが家にいるために妹を抱けなくなって少し寂しかった俺は、妹を俺のアパートに来るよう誘うようになった。土曜日のバイトから帰ってアパートに入った時、おかえりって言って俺に抱きついてきた妹の表情を俺は生涯忘れないだろう。その夜はお互いに久しぶり
に何の遠慮も注意もせずに二人きりで抱き合った。そうして過ごした朝は二人とも寝過ごし、昼過ぎの日差しの中でお互いに一糸もまとわない格好で抱き合ったまま目覚めるのだった。
妹友が引っ越して転校したことは妹から聞いていた。あの時、妹と抱き合って妹にキスしていたところを妹友に見られた時。俺は狼狽したし妹友の心中を思いやるといても立ってもいられない気持ちになったけど、実は内心少しほっとしていたことは否めなかった。自分から妹に対して妹友と別れると言ったものの、もし妹友の俺への愛情が嘘でなかったらと考えると妹友に別れを告げることが俺にはすごく怖かったのだ。その頃になるとさすがに鈍い俺でも妹や妹友、そして委員長という子や妹の元彼の間に何やら葛藤というか確執というか適当な言葉が思い浮ばないけど、俺には隠された事実があることも気がついてきていた。
妹友に最後に会ったあの日。家の前で、抱き合う俺と妹を呆然として眺めて凍り付いていた妹友。そして次の瞬間妹友は身を翻して駆け去って行った。
俺はとりあえず妹友を追いかけようとして妹に止められた。あの時も妹は相変わらず冷静だった。
「よしなよ」
あの時妹はそう言ったのだった。
「追いかけて何を話すの?」
俺は凍りついた。そしていったい妹友を追いかけて何を話すつもりだったのだろうと、今更ながら間抜けな感想を抱いた。
「誤解を解く?」
妹は冷静に続けた。そして俺はその質問に答えられなかった。
「もう誤解じゃないじゃん。あたしたち恋人同士になったんでしょ・・・・・・こんな時に妹友ちゃんを捕まえて別れ話をするの?」
「それともあれは一時の気の迷いであたしとは何でもない、本当に好きなのは妹友だとかって話すの?」
その時、一見冷静そうに話している妹の手がブルブルと震えていることに俺は気づいた。
159: 2012/02/11(土) 23:35:26.54 ID:xa0PSXiAo
その後、妹友を追いかけるのを諦めた俺が妹を助手席に乗せてアパートに向かっていた時、突然妹が話し出した。気軽そうに話しているようだったけど、妹の表情は緊張で強張っていた。
「まだ、引き返せるよ」
渋滞にはまってのろのろと動いていた車の中で妹が言った。
「何言ってんだよ、おまえ」
俺は慌てて答えた。こいつは何を言おうとしているのだろう。
「今ならまだ妹友ちゃんに謝って、あたしとのことはなかったことにできるよ」
妹は狼狽する俺に構わず話を続けた。
「・・・・・・どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。あたしはお兄ちゃんのこと大好きだから、お兄ちゃんがそうしたいならあたしもそれでいい。我慢するよ」
妹とはもうしっかりと結ばれていたつもりだったけど、妹の言葉にはいろいろな意味が込められていることに俺は気づいた。もちろん妹友と復縁してもいいよという意味はあったのだろうけど、それよりももう少し広い意味がこの妹の言葉には込められたいた。
実の兄妹が愛し合い寄り添ってこの先を暮らしていくということの意味。近親相Oという社会的には認知されない関係が持つ意味。俺は妹を愛してやることは出来るけど、法律的に正しく結婚してやることもできなければ二人の子どもを父母として慈しんで育てていくこともできない。今まで
状況や誘惑に流されてきた俺が、本当に覚悟を決めたのはこの時だった。もう妹をこの手から離さない。妹の手を握るまで俺と妹が払った代償とか、妹と一緒にいることでこの先払わされる代償は必ず俺だけでなく妹をも苦しめるだろう。でももう後戻りする気はなかった。長い時間をかけ
てようやく俺はこいつのところに帰って来たのだった。
俺は自分を殴ってやりたかった。妹がいろいろ不安を抱えて悩んでいるのに、それを考えないでただ妹と一緒にいられる幸せに酔っていた自分を。
「・・・・・・ふざけんな」
俺はぼそっと呟いた。
「え?」
俺の呟きをよく聞き取れなかったのだろう、妹が聞き返した。
「ふざけんなよ、おまえ」
俺は腹の下に力を込め声を大きくした。
「お兄ちゃん・・・・・・」
妹が戸惑ったように俺の方を見上げた。
「俺はおまえに惚れてんだよ。おまえが嫌がって逃げたってストーカーみたいに追いかけるくらいに」
「おまえが嫌がっても抱き寄せてキスする」
俺は前を向いたまま畳み掛けるように話した。勢いで話しているように見えたかもしれないけど、全て今の俺の本心だった。
「・・・・・・うん」
「おまえが拒否してもおまえを裸にして・・・・・・え?」
いつのまにか俺は妹の反応を無視して一人で盛り上がってしまっていたようだった。改めて妹の顔を見ると、妹は真っ赤になり涙を浮かべていた。
「ありがと、お兄ちゃん
妹が俺の手を握った。俺は握られた手を強く握り返した。
そうだ。こいつは今ままで密かにずっと俺のことを見て来てくれたのだ。俺は妹の手を握るまで、今までどんなに無駄な時間を過ごしてきたのだろうか。
「まだ、引き返せるよ」
渋滞にはまってのろのろと動いていた車の中で妹が言った。
「何言ってんだよ、おまえ」
俺は慌てて答えた。こいつは何を言おうとしているのだろう。
「今ならまだ妹友ちゃんに謝って、あたしとのことはなかったことにできるよ」
妹は狼狽する俺に構わず話を続けた。
「・・・・・・どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ。あたしはお兄ちゃんのこと大好きだから、お兄ちゃんがそうしたいならあたしもそれでいい。我慢するよ」
妹とはもうしっかりと結ばれていたつもりだったけど、妹の言葉にはいろいろな意味が込められていることに俺は気づいた。もちろん妹友と復縁してもいいよという意味はあったのだろうけど、それよりももう少し広い意味がこの妹の言葉には込められたいた。
実の兄妹が愛し合い寄り添ってこの先を暮らしていくということの意味。近親相Oという社会的には認知されない関係が持つ意味。俺は妹を愛してやることは出来るけど、法律的に正しく結婚してやることもできなければ二人の子どもを父母として慈しんで育てていくこともできない。今まで
状況や誘惑に流されてきた俺が、本当に覚悟を決めたのはこの時だった。もう妹をこの手から離さない。妹の手を握るまで俺と妹が払った代償とか、妹と一緒にいることでこの先払わされる代償は必ず俺だけでなく妹をも苦しめるだろう。でももう後戻りする気はなかった。長い時間をかけ
てようやく俺はこいつのところに帰って来たのだった。
俺は自分を殴ってやりたかった。妹がいろいろ不安を抱えて悩んでいるのに、それを考えないでただ妹と一緒にいられる幸せに酔っていた自分を。
「・・・・・・ふざけんな」
俺はぼそっと呟いた。
「え?」
俺の呟きをよく聞き取れなかったのだろう、妹が聞き返した。
「ふざけんなよ、おまえ」
俺は腹の下に力を込め声を大きくした。
「お兄ちゃん・・・・・・」
妹が戸惑ったように俺の方を見上げた。
「俺はおまえに惚れてんだよ。おまえが嫌がって逃げたってストーカーみたいに追いかけるくらいに」
「おまえが嫌がっても抱き寄せてキスする」
俺は前を向いたまま畳み掛けるように話した。勢いで話しているように見えたかもしれないけど、全て今の俺の本心だった。
「・・・・・・うん」
「おまえが拒否してもおまえを裸にして・・・・・・え?」
いつのまにか俺は妹の反応を無視して一人で盛り上がってしまっていたようだった。改めて妹の顔を見ると、妹は真っ赤になり涙を浮かべていた。
「ありがと、お兄ちゃん
妹が俺の手を握った。俺は握られた手を強く握り返した。
そうだ。こいつは今ままで密かにずっと俺のことを見て来てくれたのだ。俺は妹の手を握るまで、今までどんなに無駄な時間を過ごしてきたのだろうか。
160: 2012/02/11(土) 23:36:48.66 ID:xa0PSXiAo
4月中旬 兄のアパート
妹「お兄ちゃん」
兄「うん」
妹「・・・・・・またそのゲームやってる」
兄「おまえが家事とかしてる間くらいはいいじゃんか」
妹「まあ、それやっててくれるとお兄ちゃん大人しくしてるからいいんだけどね」
兄「それよかどうした? もう実家に帰る?」
妹「ううん・・・・・・ご飯できたよ」
兄「え?」
妹「え? って何よ」
兄「今日はおまえを実家に送って行く途中で」ファミレス行くって言ってなかったっけ」
妹「あたし考えたんだけど」
兄「うん」
妹「今はさ、前みたいにお母さんがいなくていつも生活費が振り込まれてるわけじゃないじゃん」
兄「そんなの俺が払うから気にしなくていいって」
妹「・・・・・・でもお兄ちゃんバイト始めたでしょ? お金とか最近厳しいんじゃないの」
兄「・・・・・・心配させてごめんな。でも大丈夫だから。塾講って割がいいバイトだし」
妹「うん。でも節約できるとことは節約しようよ」
兄「まあ、わかったけどよ。で、何作ったの?」
妹「雑炊」
兄「・・・・・・え」
妹「・・・・・・ふふ」
兄「な、何だよ?」
妹「もう無理しなくていいよ。お兄ちゃんがあたしの料理を食べたくないって考えてたのはよくわかってるから」
兄「べ、別にそんなこと」
妹「あたしも料理下手なのは自覚してたし。お兄ちゃん、あたしといると外食ばっかりしたがるだもん。いくらあたしだってお兄ちゃんが考えていることに気がつくよ」
兄「・・・・・・悪い」
妹「いいよ。あたしも反省しなから少し料理をお母さんに教わったの。お母さん最近家にいるし」
兄(それを聞くとますます不安になるな。母さんって料理うまいとは言えないし)
妹「はい、どうぞ。まだ熱いから気をつけてね」
兄「・・・・・・うん」
妹ジー
兄パクモグモグ(あ・・・・・・うまい)
妹「・・・・・・どう?」
兄「美味しい。マジで」
妹「よかった」
兄「・・・・・・」
妹「どうしたの? あ」キャ
兄「愛してるよ」ダキ
妹「・・・・・・お兄ちゃん、いきなりどうしたの?」ギュ
妹「お兄ちゃん」
兄「うん」
妹「・・・・・・またそのゲームやってる」
兄「おまえが家事とかしてる間くらいはいいじゃんか」
妹「まあ、それやっててくれるとお兄ちゃん大人しくしてるからいいんだけどね」
兄「それよかどうした? もう実家に帰る?」
妹「ううん・・・・・・ご飯できたよ」
兄「え?」
妹「え? って何よ」
兄「今日はおまえを実家に送って行く途中で」ファミレス行くって言ってなかったっけ」
妹「あたし考えたんだけど」
兄「うん」
妹「今はさ、前みたいにお母さんがいなくていつも生活費が振り込まれてるわけじゃないじゃん」
兄「そんなの俺が払うから気にしなくていいって」
妹「・・・・・・でもお兄ちゃんバイト始めたでしょ? お金とか最近厳しいんじゃないの」
兄「・・・・・・心配させてごめんな。でも大丈夫だから。塾講って割がいいバイトだし」
妹「うん。でも節約できるとことは節約しようよ」
兄「まあ、わかったけどよ。で、何作ったの?」
妹「雑炊」
兄「・・・・・・え」
妹「・・・・・・ふふ」
兄「な、何だよ?」
妹「もう無理しなくていいよ。お兄ちゃんがあたしの料理を食べたくないって考えてたのはよくわかってるから」
兄「べ、別にそんなこと」
妹「あたしも料理下手なのは自覚してたし。お兄ちゃん、あたしといると外食ばっかりしたがるだもん。いくらあたしだってお兄ちゃんが考えていることに気がつくよ」
兄「・・・・・・悪い」
妹「いいよ。あたしも反省しなから少し料理をお母さんに教わったの。お母さん最近家にいるし」
兄(それを聞くとますます不安になるな。母さんって料理うまいとは言えないし)
妹「はい、どうぞ。まだ熱いから気をつけてね」
兄「・・・・・・うん」
妹ジー
兄パクモグモグ(あ・・・・・・うまい)
妹「・・・・・・どう?」
兄「美味しい。マジで」
妹「よかった」
兄「・・・・・・」
妹「どうしたの? あ」キャ
兄「愛してるよ」ダキ
妹「・・・・・・お兄ちゃん、いきなりどうしたの?」ギュ
161: 2012/02/11(土) 23:47:30.11 ID:xa0PSXiAo
4月も終わりになる頃、そのメールは突然俺の携帯に届いた。塾で受験を控えている新6年生に講義していた時に着信の振動を感じたけど、今は講義中だったので俺は小学生相手にフェーン現象についての説明を続けた。
きっと妹からだろう。明日の日曜日のデートのことだろう。俺は平日に妹に会えないこともあり、最近は妹のメールを心待ちにするようになっていた。着信があれば即座に携帯を開くくらいに。そうして開いたメールが兄友やイケヤマカらだった時はひどく落ち込むほど俺は妹といつも繋がっ
ていたかったのだ。バイトを終えて塾が入居するビルから出ると俺はすぐにメールを開いた。
from :妹友
sub :無題
『このメールもし迷惑だったら削除してください』
それは久しぶりの妹友からのメールだった。しかも新しいアドレスからだった。
『知ってると思いますけど、あたしお父さんの転勤で東京に引っ越しました。この学年で転校するとは思わなかったけどいいタイミングだったのかもしれません。新しい学校は女子校ですけど、進学校ってわけじゃないので何とか3年次編入でも授業についていける感じです』
『これまでお兄さんの電話やメールに返事しなくてごめんなさい。あの頃はいろいろ考えが混乱していてお兄さんと話が出来る余裕なんてあたしにはなかったのです。でも、少し離れた場所で落ち着いて考えると最後にお兄さんには説明する義務があたしにはあるんじゃないかと思いました
』
何だよ、これ。俺はその時そう思った。読む方がいいのか妹友が言っているようにら削除した方がいいのか。でも、俺は自分が妹友にひどいことをしたという自覚があったし、それはまだ俺の中で大きな胸の痛みとして妹と仲良く過ごしている時でも常に俺を苛んでいた。俺は覚悟を決めて携帯の画面をスクロールした。
『何でそう思ったかと言うと、お兄さんは純粋に被害者だからです。確かにあたしや妹ちゃんはお兄ちゃんに無理強いや強要は何もしていません。告白したり誘ったりは、あたしは(多分妹ちゃんも)しましたけど、決めたのはお兄さんだとは思います。そしてそういう意味ではお兄さんは主人公でした。先輩が脇役だったのと対照的に』
『でも、このことはもともとお兄さんとは関係ないところで始ったのです。でもいろいろな出来事が進んでいくうちに、それはお兄さんを巻き込み、そして最後にはお兄さんが全てを決める主人公になったんだと今では思います』
『ごめんなさい。何を言ってるのかわかりませんよね。最後だから勇気を振り絞って言いますけど、あたしは同性愛者でした。あたしはあの高校に入学してすぐ委員長ちゃんを好きになり、そして失恋しました。その後であたしが一目ぼれしたのが妹ちゃんだったのです。あたしは結局最後まで妹ちゃんに自分の気持ちを告白しませんでした。一度うたたねしている妹ちゃんの体に悪戯したことはあったけど、多分妹ちゃんはそれに気づいていないはずです。それはともかく、あたしは片想いをしている妹ちゃんの隣にいるだけで幸せでした。お兄さん、あたしが昔先輩のことを好きだったことを覚えていますか? あれ本当は嘘です。あたしは男の人を好きになったことは無いのですから。あたしは、妹ちゃんにあたしが同性愛者だと知られあたしから距離を置かれることが怖かった。だからあたしにも好きな人がいる振りをしただけなのです』
『そうして妹ちゃんと過ごしているうちにあたしは妹ちゃんにも好きな人がいることに気がつきました。そう、お兄さんです。』
『お兄さんはあの頃妹ちゃんの好意に気がついていなかった。それはあたしにとって唯一の救いでした』
『あたしは嫉妬し苦しみました。妹ちゃんがあたしの恋を受け入れてくれないのは仕方ない。でも妹ちゃんが他の人を見つめていることには我慢が出来なかったのです。あたしは考えました。妹ちゃんにお兄さんを諦めさせるにはどうしたらいいか。そうです、お兄さん本当にごめんなさい。あたしはお兄さんを利用しようと思ったのです。お兄さんが結果として傷付いてかもしれないことは全く考えずに』
『ここから先はお兄さんもよくご存知のとおりです。あたしはお兄さんに近づきこれでもかというくらい好意を示し、お兄さんに受け入れてもらいました。これであたしは目的を果たしたのです。』
『くどいようですけど、あたしは先輩のことが好きになったことは一度もありません。お兄さんは多分あたしが先輩を奪った妹ちゃんに嫌がらせをするためにお兄さんを妹ちゃんから奪ったって思っているでしょうね。でもそれは真実ではないのです。あたしが好きだったのは妹ちゃんだけ。でも妹ちゃんが好きな人はお兄さんだけだった』
『あたしがお兄さんに最後にメールしたのは、あたしのせめてもの良心からです。お兄さんは何も気に病む必要はありません。あたしはお兄さんを利用しただけなのですから、お兄さんはあたしを傷つけたとか考える必要は本当にないのです。そして、ここまで話したらこれは信じてもらえないでしょうけど、あたしはお兄さんのことは嫌いではありませんでした。むしろ、お兄さんと付き合っているうちに、ある時は妹ちゃんのことを忘れるほどお兄さんにのめりこんだこともありました。でも、言い訳がましいからそのことはもう話さないほうがいいでしょうね』
『お兄さん、本当にごめんなさい。もうあたしがお兄さんや妹ちゃんと会うことはないと思います。あたしは東京の大学に志望校を変えましたし』
『お兄さんと妹ちゃんのことは正直祝福できませんけど、それでもお兄さんと妹ちゃんがあまり辛い思いをしないように祈ってます。繰り返しますけど、お兄さんは何も悪くない。もう、あたしのことは忘れてくださいね』
『妹ちゃんにはこのメールのことは黙っていてくれると嬉しいです。それでは今度こそ本当にさよなら。お兄さん』
俺は携帯を操作しそのメールを削除した。このメールのことを妹に話すことはないだろう。その時、着信音が鳴り妹から電話がかかってきた。俺は涙を拭き平静に電話に出た。
きっと妹からだろう。明日の日曜日のデートのことだろう。俺は平日に妹に会えないこともあり、最近は妹のメールを心待ちにするようになっていた。着信があれば即座に携帯を開くくらいに。そうして開いたメールが兄友やイケヤマカらだった時はひどく落ち込むほど俺は妹といつも繋がっ
ていたかったのだ。バイトを終えて塾が入居するビルから出ると俺はすぐにメールを開いた。
from :妹友
sub :無題
『このメールもし迷惑だったら削除してください』
それは久しぶりの妹友からのメールだった。しかも新しいアドレスからだった。
『知ってると思いますけど、あたしお父さんの転勤で東京に引っ越しました。この学年で転校するとは思わなかったけどいいタイミングだったのかもしれません。新しい学校は女子校ですけど、進学校ってわけじゃないので何とか3年次編入でも授業についていける感じです』
『これまでお兄さんの電話やメールに返事しなくてごめんなさい。あの頃はいろいろ考えが混乱していてお兄さんと話が出来る余裕なんてあたしにはなかったのです。でも、少し離れた場所で落ち着いて考えると最後にお兄さんには説明する義務があたしにはあるんじゃないかと思いました
』
何だよ、これ。俺はその時そう思った。読む方がいいのか妹友が言っているようにら削除した方がいいのか。でも、俺は自分が妹友にひどいことをしたという自覚があったし、それはまだ俺の中で大きな胸の痛みとして妹と仲良く過ごしている時でも常に俺を苛んでいた。俺は覚悟を決めて携帯の画面をスクロールした。
『何でそう思ったかと言うと、お兄さんは純粋に被害者だからです。確かにあたしや妹ちゃんはお兄ちゃんに無理強いや強要は何もしていません。告白したり誘ったりは、あたしは(多分妹ちゃんも)しましたけど、決めたのはお兄さんだとは思います。そしてそういう意味ではお兄さんは主人公でした。先輩が脇役だったのと対照的に』
『でも、このことはもともとお兄さんとは関係ないところで始ったのです。でもいろいろな出来事が進んでいくうちに、それはお兄さんを巻き込み、そして最後にはお兄さんが全てを決める主人公になったんだと今では思います』
『ごめんなさい。何を言ってるのかわかりませんよね。最後だから勇気を振り絞って言いますけど、あたしは同性愛者でした。あたしはあの高校に入学してすぐ委員長ちゃんを好きになり、そして失恋しました。その後であたしが一目ぼれしたのが妹ちゃんだったのです。あたしは結局最後まで妹ちゃんに自分の気持ちを告白しませんでした。一度うたたねしている妹ちゃんの体に悪戯したことはあったけど、多分妹ちゃんはそれに気づいていないはずです。それはともかく、あたしは片想いをしている妹ちゃんの隣にいるだけで幸せでした。お兄さん、あたしが昔先輩のことを好きだったことを覚えていますか? あれ本当は嘘です。あたしは男の人を好きになったことは無いのですから。あたしは、妹ちゃんにあたしが同性愛者だと知られあたしから距離を置かれることが怖かった。だからあたしにも好きな人がいる振りをしただけなのです』
『そうして妹ちゃんと過ごしているうちにあたしは妹ちゃんにも好きな人がいることに気がつきました。そう、お兄さんです。』
『お兄さんはあの頃妹ちゃんの好意に気がついていなかった。それはあたしにとって唯一の救いでした』
『あたしは嫉妬し苦しみました。妹ちゃんがあたしの恋を受け入れてくれないのは仕方ない。でも妹ちゃんが他の人を見つめていることには我慢が出来なかったのです。あたしは考えました。妹ちゃんにお兄さんを諦めさせるにはどうしたらいいか。そうです、お兄さん本当にごめんなさい。あたしはお兄さんを利用しようと思ったのです。お兄さんが結果として傷付いてかもしれないことは全く考えずに』
『ここから先はお兄さんもよくご存知のとおりです。あたしはお兄さんに近づきこれでもかというくらい好意を示し、お兄さんに受け入れてもらいました。これであたしは目的を果たしたのです。』
『くどいようですけど、あたしは先輩のことが好きになったことは一度もありません。お兄さんは多分あたしが先輩を奪った妹ちゃんに嫌がらせをするためにお兄さんを妹ちゃんから奪ったって思っているでしょうね。でもそれは真実ではないのです。あたしが好きだったのは妹ちゃんだけ。でも妹ちゃんが好きな人はお兄さんだけだった』
『あたしがお兄さんに最後にメールしたのは、あたしのせめてもの良心からです。お兄さんは何も気に病む必要はありません。あたしはお兄さんを利用しただけなのですから、お兄さんはあたしを傷つけたとか考える必要は本当にないのです。そして、ここまで話したらこれは信じてもらえないでしょうけど、あたしはお兄さんのことは嫌いではありませんでした。むしろ、お兄さんと付き合っているうちに、ある時は妹ちゃんのことを忘れるほどお兄さんにのめりこんだこともありました。でも、言い訳がましいからそのことはもう話さないほうがいいでしょうね』
『お兄さん、本当にごめんなさい。もうあたしがお兄さんや妹ちゃんと会うことはないと思います。あたしは東京の大学に志望校を変えましたし』
『お兄さんと妹ちゃんのことは正直祝福できませんけど、それでもお兄さんと妹ちゃんがあまり辛い思いをしないように祈ってます。繰り返しますけど、お兄さんは何も悪くない。もう、あたしのことは忘れてくださいね』
『妹ちゃんにはこのメールのことは黙っていてくれると嬉しいです。それでは今度こそ本当にさよなら。お兄さん』
俺は携帯を操作しそのメールを削除した。このメールのことを妹に話すことはないだろう。その時、着信音が鳴り妹から電話がかかってきた。俺は涙を拭き平静に電話に出た。
162: 2012/02/11(土) 23:50:36.89 ID:xa0PSXiAo
あたしはお兄ちゃんと手を繋ぎながらお兄ちゃんの大学のキャンパス内を散歩していた。この日は大学はオープンキャンパスで、校内には受験生らしき大群があちこちでたむろしていた。さっきからお兄ちゃんはあたしの手を握ったままで、得意顔でキャンパス内の説明をしている。あたしは学食の説明をしてくれているお兄ちゃんの声を聞きながらぼんやりと考えていた。
お兄ちゃんと手を繋いで人前を歩けるようになるこの過程でいくつもの不幸が生まれたのだろう。
先輩はあたしのことを諦めてくれた。そして先輩の言うことが本当なら、今先輩は本心を偽って委員長ちゃんと付き合っている。幼馴染の子を傷つけないために。
委員長ちゃんは今は幸せの絶頂だと思うけど、聡い委員長ちゃんのことだからいつ先輩の本当の気持ちに気がつくかわからなかった。
妹友ちゃんは・・・・・・。
妹友ちゃんのあたしへの愛は別に唾棄すべきものだとは思わなかった。同性を愛する嗜好がそんなに変だとは思わない。でもあたしには好きな人がいた。17年間ずっと思い続けていた人が。
そして。
お兄ちゃん。
あたしと結ばれたことがお兄ちゃんにとって最善の結果だなんて自惚れる気は全然なかった。むしろ、世間的に考えたら妹友ちゃんと結ばれた方がお兄ちゃんにとっては幸せだったこもしれない。妹友ちゃんは美人だし、あたしへの想いを生涯秘めてお兄ちゃんのことが好きな振りをしていてくれるなら、お兄ちゃんにとってはその方が幸せだったろう。
でも。あたしの心の中に生涯忘れることはないだろうお兄ちゃんの大きな声が再生された。これを思い出すのもう何度目かも忘れるほどだったけど。
「・・・・・・ふざけんな」
「ふざけんなよ、おまえ」
「俺はおまえに惚れてんだよ。おまえが嫌がって逃げたってストーカーみたいに追いかけるくらいに」
「おまえが嫌がっても抱き寄せてキスする」
あたしにはもう友だちを思いやるという贅沢な選択肢はないのだ。それでもあたしは幸せだった。長かった片想いがようやく実を結んだのだかから。
「お兄ちゃん?」
あたしはお兄ちゃんの手を強く握り締めてお兄ちゃんを見上げて微笑んだ。
「うん? どうした」
お兄ちゃんは図書館の貸し出しシステムの説明を中断してあたしの方を見て笑った。
「何、真剣な顔してるんだよ」
あたしはお兄ちゃんの片腕に抱きついて言った。
「お兄ちゃん、愛してるよ」
fin
お兄ちゃんと手を繋いで人前を歩けるようになるこの過程でいくつもの不幸が生まれたのだろう。
先輩はあたしのことを諦めてくれた。そして先輩の言うことが本当なら、今先輩は本心を偽って委員長ちゃんと付き合っている。幼馴染の子を傷つけないために。
委員長ちゃんは今は幸せの絶頂だと思うけど、聡い委員長ちゃんのことだからいつ先輩の本当の気持ちに気がつくかわからなかった。
妹友ちゃんは・・・・・・。
妹友ちゃんのあたしへの愛は別に唾棄すべきものだとは思わなかった。同性を愛する嗜好がそんなに変だとは思わない。でもあたしには好きな人がいた。17年間ずっと思い続けていた人が。
そして。
お兄ちゃん。
あたしと結ばれたことがお兄ちゃんにとって最善の結果だなんて自惚れる気は全然なかった。むしろ、世間的に考えたら妹友ちゃんと結ばれた方がお兄ちゃんにとっては幸せだったこもしれない。妹友ちゃんは美人だし、あたしへの想いを生涯秘めてお兄ちゃんのことが好きな振りをしていてくれるなら、お兄ちゃんにとってはその方が幸せだったろう。
でも。あたしの心の中に生涯忘れることはないだろうお兄ちゃんの大きな声が再生された。これを思い出すのもう何度目かも忘れるほどだったけど。
「・・・・・・ふざけんな」
「ふざけんなよ、おまえ」
「俺はおまえに惚れてんだよ。おまえが嫌がって逃げたってストーカーみたいに追いかけるくらいに」
「おまえが嫌がっても抱き寄せてキスする」
あたしにはもう友だちを思いやるという贅沢な選択肢はないのだ。それでもあたしは幸せだった。長かった片想いがようやく実を結んだのだかから。
「お兄ちゃん?」
あたしはお兄ちゃんの手を強く握り締めてお兄ちゃんを見上げて微笑んだ。
「うん? どうした」
お兄ちゃんは図書館の貸し出しシステムの説明を中断してあたしの方を見て笑った。
「何、真剣な顔してるんだよ」
あたしはお兄ちゃんの片腕に抱きついて言った。
「お兄ちゃん、愛してるよ」
fin
163: 2012/02/11(土) 23:53:13.74 ID:xa0PSXiAo
これでおしまいです。ご愛読、ご批評、ご批判ありがとうございました
これでようやく明日からは別スレに専念できます
誤字脱字、設定矛盾、伏線回収漏れなどいっぱい突っ込みどころはあると思うけどこの辺がワタクシの限界です
では、またどこかでお会いしましょう
おやすみなさい
これでようやく明日からは別スレに専念できます
誤字脱字、設定矛盾、伏線回収漏れなどいっぱい突っ込みどころはあると思うけどこの辺がワタクシの限界です
では、またどこかでお会いしましょう
おやすみなさい
172: 2012/02/12(日) 00:31:12.99 ID:l0qYcqYao
乙
176: 2012/02/12(日) 05:39:55.24 ID:+hdQQbt+o
乙
またなんか書いてね
またなんか書いてね
引用: 妹の手を握るまで(その2)
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