28: 2008/08/18(月) 15:31:21 ID:l3og6rpU


「宮藤さん、サーニャさん、一日遅れだけどお誕生日おめでとう」
 とみんなを代表してミーナが言うと、主役の二人は27本のろうそくを吹き消した。
 まわりからはおめでとうの声とともに、ぱちぱちと拍手がおこる。
「さ、それじゃケーキを食べましょう。でも私、こういうの切るの苦手なのよね」
 部屋に電気がつくと、ミーナはそう言った。
「あ、私やります。そういうの得意なんです」
 と芳佳が手をあげて言う。
「そう? 誕生日の次の日なのに悪いわね。じゃあお願いできるかしら」
 ろうそくを抜いたケーキに芳佳は包丁をいれていく。
(えっと、まず半分に切ってから……)
 切られたケーキが皿にのせられ、それぞれの前に配られていく――のだが。

「あれ?」

 とペリーヌが声をあげた。
「ちょっと宮藤さん、わたくしのケーキは?」
 語気を荒げてペリーヌは訊いた。
 芳佳はペリーヌの方を向いた。ペリーヌの前にだけケーキが置かれていないことに気づく。
「えっ!? 私、最初半分に切ってそれを五等分に……」
 しばし考え込む芳佳。ハッとそのことに気づく。
「すいません! 間違えて十等分にしちゃいました」
 深く頭を下げて芳佳は言った。
「すいませんで済む問題じゃ……」
「本当にごめんなさい。あの……私の分でよければ代わりに……」
 そう言うと芳佳はおずおずと自分のケーキをペリーヌの前に差し出す。
「わかれば――」
 芳佳のケーキを受け取ろうとするペリーヌ。

「でも今日は宮藤の誕生日の次の日なのにな」

 と、エーリカがぽつりとつぶやく。
 あたりでかわいそう、とか、それはないよな、といった言葉が飛び交う。
「今日はあなたの誕生日の次の日でしょ! これはあなたが食べなさい!」
 ペリーヌは自分の手元にまで引き寄せていたケーキをつき返した。
 ペリーヌの前から、再びなにもなくなった。

「じゃあ私の分を食べるか? 私は甘いものはあまり好きではないし」
 と美緒はそう言うと、ペリーヌの前に皿を差し出す。
「いえそんな! めっそうもない。それは坂本少佐が召し上がってください」
「そうか? じゃあいただくとしよう」
 恐縮そうに断るペリーヌにそれだけ言うと、美緒はさっさとケーキを食べ始めた。
 他のみんなもフォークを手にとってケーキを食べ始める。
 ペリーヌはじっと座ってそれを見ていた。
魔法少女
29: 2008/08/18(月) 15:32:41 ID:l3og6rpU
「あ、シャーリー! 口のまわりにクリームがついてる」
 とルッキーニが声をあげた。
 すっと立ち上がってシャーリーの元に行くと、頬についたクリームをぺろっとなめた。
「ありがと……ん? ルッキーニにもついてるぞ」
 今度はシャーリーがルッキーニの頬についたクリームをなめる。
 そのやりとりに場が一瞬静まり返る。
 が、それはのちにくる嵐の予兆だった。

 エイラはサーニャを見た。
 リーネとゲルトは芳佳を見た。
 ペリーヌは眼鏡をふいていたので美緒を見るのが一瞬遅れた。

「よ、芳佳ちゃん! ほっぺたのところに――」
「宮藤、お口のまわりに――」

 次の瞬間、リーネとゲルトが同時に口を開いた。
 芳佳に向けられた視線を越えて、リーネはゲルトを、ゲルトはリーネをキッと睨んだ。
 ハブとマングース、武蔵と小次郎よろしくお互いに相手を威嚇しあう二人。
 どちらも譲る気配は微塵もない。
 互いの視線が芳佳を素通りして、ばちばちと激しい火花をちらす。

「バルクホルン、宮藤さんがどうかしたのかしら?」

 と、それを遮って、ミーナが穏やかな口調でゲルトに訊ねた。
 ゲルトはリーネをとらえて離さなかった視線をおずおずとミーナの方に向けた。
 ミーナはとてもにこやかに微笑んでいた。
 笑っているけど、笑っていない。
「……いや……宮藤の口のまわりに……」
 おずおずと口をひらくゲルト。
 ――と、
「そういうトゥルーデこそ、口のまわりまっ白だよ」
 誰も気づかぬうちにゲルトのすぐ横に来ていたエーリカが、頬についたクリームをぺろっとなめた。
 いたずらっこの笑みを浮かべるエーリカ。
 いつの間にか食べかけだったはずのゲルトのケーキがなくなっていた。

 その隙をついてリーネは芳佳に近づき、芳佳の頬をぺろぺろと丹念になめた。

 そのころ。
 エイラは横目でちらちらとサーニャを見ていた。

 少し時間をさかのぼって。
「さ、坂本少佐っ!」
 とペリーヌは裏返った声をあげ、美緒の方に顔を向けた。
「どうかしたのか?」
 と訊き返す美緒。
 美緒はすでにケーキを食べ終え、ハンカチで口元をぬぐっていた。

30: 2008/08/18(月) 15:34:38 ID:l3og6rpU
 場の喧騒がようやく静まり、いつもの雰囲気に戻った。
 エイラは已然、横目でちらちらとサーニャを見ていた。
(サーニャのほっぺたに……)
 なにか言いたげな様子だが、なかなか口を開こうとしない。
「サ、サーニャ……」
 意を決して声を出すエイラ。が、それを遮って――

「あれ? サーニャちゃんのほっぺにクリームがついてるよ」

 そう言うと芳佳はサーニャの口のまわりをハンカチでふいてあげた。
 恥ずかしそうにありがとうと言って、うつむいてしまうサーニャ。
 一連の流れを見ていたエイラは、そのまま石のように固まってしまった。
 エイラは、2度と現実へは戻れなかった……。
 恋する乙女とセクハラおやじの中間のキャラクターとなり、永遠に妄想の世界をさまようのだ。
 そして妄想のなかでもサーニャになにもできないので――そのうちエイラは考えるのをやめた。

 そんなエイラの様子を、隣に座っていたサーニャは心配そうに見つめていた。
 と、あることに気づく。
 サーニャはエイラの服の袖をぐいっと引っ張った。
 エイラが氏人の目をサーニャの方に向けると、サーニャはゆっくりと顔を近づけてきた。
 サーニャの舌がぺろっと軽くエイラの頬に触れる。
「…………クリーム、ついてた」
 そう言うとサーニャは、赤くなった顔を隠すようにうつむいてしまう。
 しばし呆然とするエイラ。
 ようやくなにが起こったのか理解すると、その顔はサーニャよりもずっと真っ赤になってしまった。

 ――こうして、一部波乱の誕生会は幕を閉じた。




12: 2008/08/17(日) 23:48:01 ID:8B3NBm/Y

私が自室に帰ると、サーニャがベッドに
腰かけて私を待っていた。眼はいつも通りの無表情。

だけど私にはわかる。その奥にうっすらとした怒りの色がある事を。

「あ、サーニャ。どうしたんダ?」

私は努めて平静を装おう。
サーニャは私の眼を見つめ、ベッドで自分の隣をポンポンと叩く。
…あぁ、ここに座れってこと、なんだよなぁ…。
サーニャの気持ちがすぐにわかってしまう自分が少し恨めしい。

私はおとなしくサーニャの隣に座る。
サーニャの温かな体温が伝わってくる。サーニャは今、布団から出てきた
ばかりのように、下着姿だった。ドキドキしちゃうよ…。

「あのね、エイラ。今日の事なんだけど…」


13: 2008/08/17(日) 23:48:54 ID:8B3NBm/Y

「私のズボン。どうして持って行ったの?」
「だって、それはルッキーニが悪いんダロ…」
反論も力がでない。わかってる、いくら適当に脱ぎ散らかしたって、
サーニャの下着はサーニャのものだし、それに…。

それに、借りて履いた時に背徳的な気持ちを抱いたのだ。
あぁ、私は変態なんだ。サーニャの目をまっすぐ見られない。

「だったら起こして欲しかった…」
「だって!哨戒で疲れて寝てるサーニャを起こすなんて出来ないよ…」
これは私の本心だ。大事な大事なサーニャ。
私がそう言うと、サーニャはクスリと笑う。
「そうね、そう言ってくれると思った」

「なっ…」
サーニャが私を試したような事を言うから、私はちょっと焦った。
だけど次の言葉にはもっと焦った、いやそれどころじゃない。

「ねぇエイラ…キスしても良い…?」
「ばっ!えぇ!!な、なにを…」

14: 2008/08/17(日) 23:49:33 ID:8B3NBm/Y


言うが早いがサーニャは私の首に両腕を回す。サーニャの控えめな
胸の柔らかさと体温が右腕に伝わってくる。私は硬直してしまう。

「…っ!」
「あのね、私はいつも、そうやって私の事を大事にしてくれる
エイラがすごく好きで、すごく感謝したの」

サーニャが私の耳元で囁く。月の光のような優しい声。

「今日ね、エイラが私のズボンを履いた時の顔を見てね、感謝の
気持ちを返す方法が見つかったの。こうやってね」

そう言うとサーニャは私の耳をついばむように口づける。最初はそっと、
次第に耳たぶを唇で挟むように。

「んっ…はっ、く、くすぐったいよサーニャ…」
「ダーメ、やめてあげない。たくさんシテあげるんだから」

薄暗い室内、私とサーニャが体をこすらせる音だけが響く。
サーニャの唇から洩れる吐息が私の耳をくすぐる。吐く息も吸う息も
全てが伝わってくる。


15: 2008/08/17(日) 23:50:19 ID:8B3NBm/Y

「エイラ、エイラ、大好き…っ」

サーニャの両腕に力が入り、唇が耳から下に動く。首筋に、鎖骨に、
顎に、何度も何度も口づける、優しく、そして優しく。

「エイラの肌、きれい…」

サーニャのうっとりとした声が響く。両腕は私の腰にまわされ、
私は逃げられない。眼の前にはサーニャの唇。
私たちは眼が合う。サーニャは視線を逸らせない。

「エイラ…来て」
「こ、こんな時だけ…」
さっきまで好きなだけ攻めておいて、こんな時だけ誘うなんて
卑怯ダゾ、と思ったけど声は出ない。
視界がすごく狭く感じる。心臓がオーバーヒートしそうなほど
早く脈を打つ。

目の前にはサーニャの唇。閉じた瞳。寄り添った二人の身体。
サーニャの胸からサーニャの鼓動を感じる。それは私と同じくらい
早く脈打っていた。

サーニャも…サーニャもドキドキしてるんだな…。

私は腕をサーニャのあげて両頬に手を添える。
少しずつ、顔が近づいてくる。私は首を傾げてサーニャに近寄る。

16: 2008/08/17(日) 23:51:06 ID:8B3NBm/Y


そっと、軽く、触れただけのようなキス。唇は震えていた。
その時、サーニャの両腕が私の背中にまわされ、サーニャが口を開いた。

「はぁっ…、ずっと、ずっとこうしたいと思っていたの…
 もうっ、許してあげないんだから」

今度はサーニャが私に口づける。私なんかよりずっと積極的で強いキス。
サーニャの唇が私の唇を挟むように、包み込むように動く。
小さな舌が私の唇をそっと嘗める。

サーニャが私から少し顔を離して言う。
「こう言うキス、できる…?」
私は頷く事しかできなかった。

三度唇を合わせる。湿ったサーニャの唇と私の唇が触れ合う。

私は初めてキスに音がある事を知った。ひどく純粋なようで、なぜか
いやらしく聞こえる音。耳がしびれてきそうだ。

「エイラ…大好き…はぁ」
「わ、私もだぞ」

唇が絡み合い、二人の手は互いを離さぬよう、身体中を縛り付けるよう、
強く抱き締め合っていた。

窓から洩れる仄かな月明かりで二人の姿が浮かびあがる。
夜はまだ始まったばかりだった。

17: 2008/08/17(日) 23:59:59 ID:6n1F2c15
誕生日おめでとう、サーニャ



19: 2008/08/18(月) 00:49:09 ID:eAkhDmZC
神だな、実に神だな

24: 2008/08/18(月) 02:01:46 ID:7bxY7Kx4
エイラさん乙

引用: ストライクウィッチーズpart2