60: 2008/08/18(月) 23:30:11 ID:+SBDbBJ9
「トゥルーデ。」
芳佳とサーニャの誕生会も終え風呂から上がった私は、
部屋のドアの前でミーナに呼び止められた。
「ちょっといいかしら?」
やけに眩しい笑顔を振りまくミーナは、目が笑っていない。怒っている証拠だ。
「どうした、ミーナ。何か────」
「しらばっくれても無駄よv」
氷のように冷たい声が私を威嚇する。ああ、まずいな……。
実のところ、ミーナが何故怒っているのかは顔を見た瞬間わかった。
ついさっきの誕生会で知らず知らずのうちにハイテンションになってしまった私は、
その場の空気に便乗して芳佳にヨカラヌコトをしようとしてしまったのだ。
「ねえ、トゥルーデ。妹想いなのはいいことだけど、時と場合ってものがあるんじゃないのかしら?」
「ぐ……し、しかしだな、その……」
「言い訳する前に何か言うことがあるんじゃなくて?」
笑顔を崩さずに迫ってくるミーナは下手なネウロイよりよっぽど怖い。
「す、すまん、ミーナ。つい……」
「ソレが上官に対する謝罪の仕方!?」
「ひっ、申し訳ありません、中佐!!全て自分の過失であります!!」
ミーナの罵声が廊下いっぱいに響く。遠くのざわめきが一瞬静かになる。勘弁してくれ。
ミーナもそれを察したのか、私の後ろにあったドアノブを乱暴に引っつかんで、
私の許可も無しに部屋の中に入って私を引きずり込み、ガチャン!!と鍵を回した。
芳佳とサーニャの誕生会も終え風呂から上がった私は、
部屋のドアの前でミーナに呼び止められた。
「ちょっといいかしら?」
やけに眩しい笑顔を振りまくミーナは、目が笑っていない。怒っている証拠だ。
「どうした、ミーナ。何か────」
「しらばっくれても無駄よv」
氷のように冷たい声が私を威嚇する。ああ、まずいな……。
実のところ、ミーナが何故怒っているのかは顔を見た瞬間わかった。
ついさっきの誕生会で知らず知らずのうちにハイテンションになってしまった私は、
その場の空気に便乗して芳佳にヨカラヌコトをしようとしてしまったのだ。
「ねえ、トゥルーデ。妹想いなのはいいことだけど、時と場合ってものがあるんじゃないのかしら?」
「ぐ……し、しかしだな、その……」
「言い訳する前に何か言うことがあるんじゃなくて?」
笑顔を崩さずに迫ってくるミーナは下手なネウロイよりよっぽど怖い。
「す、すまん、ミーナ。つい……」
「ソレが上官に対する謝罪の仕方!?」
「ひっ、申し訳ありません、中佐!!全て自分の過失であります!!」
ミーナの罵声が廊下いっぱいに響く。遠くのざわめきが一瞬静かになる。勘弁してくれ。
ミーナもそれを察したのか、私の後ろにあったドアノブを乱暴に引っつかんで、
私の許可も無しに部屋の中に入って私を引きずり込み、ガチャン!!と鍵を回した。
90: 2008/08/19(火) 23:58:01 ID:we0UV5E+
「トゥルーデって、キスしたことある?」
「ぶはっ」
それは真上で燦々と輝いていた太陽が、そろそろ西に向かおうかとしていたティータイムでのできごとだ。
リーネお手製らしいドーナツの輪っかをみながら、
なぜ穴があいているんだろうなんて思案して紅茶を啜っていたときの、事故だ。
そう、これは事故だ!
でなければ空耳に違いない。
「きたないよ」
「ハルトマン、私はどうやら耳が悪くなったようだ」
「ねぇ、トゥルーデってキ」
「復唱するなっ!!!」
聞こえてたんじゃないなんて微笑みながら言うハルトマンをみて、
なるほどこれが悪魔の笑みかと思ったかどうかは置いておくとして、だ。
ネウロイも当分こない、このうららかな昼下がりに、
この、黒の悪魔は可愛らしくドーナツを咀嚼しながら何を言うんだ。
その、何だ、き、きききキ…
「キス?」
「心を読むなっ!!」
オーライ、落ち着け。
状況は芳しくないが私はまだ冷静だ。
しかし皆して私たちの方を見ているのは、よろしく、ない。
おちおち説教もできやしない。
「ハルトマン、部屋に行こうか」
「わたしの?」
「私のだ!お前の部屋は汚すぎる!」
だって掃除キライなんだもんなどと
説教の種が1つ増えるようなことをいう悪魔の腕をぐいと引っ張り部屋へと進む。
61: 2008/08/18(月) 23:31:14 ID:+SBDbBJ9
「ここ最近、ちょっとたるんでるんじゃないの?」
「はい、中佐。」
「クリスに会えなくて寂しいのはわかるけど、限度ってものがあるでしょう?」
「はい、中佐。」
「宮藤さんは確かにいい子だけど、だからってあなたの気持ちを押し付けていい理由にはならないってことくらいわかるでしょう?」
「仰る通りです、中佐。しかし、芳佳は……」
「何が『芳佳』よ!!本人の前じゃ『新人』とか言ってごまかしてるくせに!!」
「申し訳ありません!!」
ミーナの厳しい追及が続く。
あまりの勢いに一瞬酒でも入ったのかと疑ったが、アルコールの匂いはしなかった。
だが、それにしては今日はやけに厳しい。
「大体ね、あなたは私の事実上の副官なのよ。私の言ってる事、わかる?」
「全くもってその通りです、中佐。」
「本当はね、常に二番機に据えて置きたいくらいなのよ。人手が足りないから無理だけど。」
そう思った矢先、ミーナの表情が急に影を落とした。
「は、それはどういう……?」
「ねえ、もっと……」
瞬間、
あたかも鋭いナイフを喉元に突きつけるかのような勢いで、私の唇が塞がれた。
「はい、中佐。」
「クリスに会えなくて寂しいのはわかるけど、限度ってものがあるでしょう?」
「はい、中佐。」
「宮藤さんは確かにいい子だけど、だからってあなたの気持ちを押し付けていい理由にはならないってことくらいわかるでしょう?」
「仰る通りです、中佐。しかし、芳佳は……」
「何が『芳佳』よ!!本人の前じゃ『新人』とか言ってごまかしてるくせに!!」
「申し訳ありません!!」
ミーナの厳しい追及が続く。
あまりの勢いに一瞬酒でも入ったのかと疑ったが、アルコールの匂いはしなかった。
だが、それにしては今日はやけに厳しい。
「大体ね、あなたは私の事実上の副官なのよ。私の言ってる事、わかる?」
「全くもってその通りです、中佐。」
「本当はね、常に二番機に据えて置きたいくらいなのよ。人手が足りないから無理だけど。」
そう思った矢先、ミーナの表情が急に影を落とした。
「は、それはどういう……?」
「ねえ、もっと……」
瞬間、
あたかも鋭いナイフを喉元に突きつけるかのような勢いで、私の唇が塞がれた。
62: 2008/08/18(月) 23:31:58 ID:+SBDbBJ9
「ん……っ!?」
それがミーナの唇だと気付いた時にはもう、両手が背中に回されていた。
両手の動きを封じられ、私はなすがままに立ち尽くすしかない。
触れ合ったままぴくりとも動かない。そんな間が幾分か続いた後、ミーナは腕の力を緩めて唇を離した。
「もっと、私を頼って?」
頬を緩めてにっこりと笑顔を作るミーナの表情に、もう毒気は残っていなかった。
超至近距離で見るその笑顔に、思わず胸がどきりとする。
「……ミーナ」
「寂しくなったら、私が構ってあげるから。だからもう、宮藤さんばっかり贔屓にしないで。ね?」
「……すまない。」
「わかればいいのよ、わかれば。」
今、私は気付いた。
寂しいのは、ミーナも一緒だったのだ。
家族同然の隊員達。その絆の強さを見せられた直後だから、余計に深く考えてしまうのだ。
自分の本当の……血の繋がった家族のことを。
「それじゃ、おやすみ、トゥルーデ。」
「ミーナ。」
部屋を出ようとするミーナを、私は衝動的に呼び止めた。
「何かしら?」
この気持ちを伝えなければならないと思った。
咄嗟のことで沈黙してしまった私を、ミーナはただ黙って見ている。
混乱する頭を無理矢理回転させ、言葉を探す。
「うまく言えないが……隊員たちはみんな私の家族だ。だから全員同じくらい好きだ。これは譲れない。
だが、私の相棒として心から……その、愛しているのは、お前だけなんだ、ミーナ。それをわかってくれ。」
「わかってるわよ。」
私の渾身の科白をミーナはさらっと流し、それから小さく呟いた。
「私も愛してるわ、トゥルーデ。」
「え?」
「おやすみなさい。よい夢を……。」
半開きになったドアの隙間から、夜の涼しい風が吹き込んでくる。
身体をベッドに投げ出して天井を見上げ、火照った頭を冷まして漸く、私は今起きたことの重大さに気が付いた。
「ああ、なんてこった。今のは私のファーストキスじゃないか……」
ENDIF.
それがミーナの唇だと気付いた時にはもう、両手が背中に回されていた。
両手の動きを封じられ、私はなすがままに立ち尽くすしかない。
触れ合ったままぴくりとも動かない。そんな間が幾分か続いた後、ミーナは腕の力を緩めて唇を離した。
「もっと、私を頼って?」
頬を緩めてにっこりと笑顔を作るミーナの表情に、もう毒気は残っていなかった。
超至近距離で見るその笑顔に、思わず胸がどきりとする。
「……ミーナ」
「寂しくなったら、私が構ってあげるから。だからもう、宮藤さんばっかり贔屓にしないで。ね?」
「……すまない。」
「わかればいいのよ、わかれば。」
今、私は気付いた。
寂しいのは、ミーナも一緒だったのだ。
家族同然の隊員達。その絆の強さを見せられた直後だから、余計に深く考えてしまうのだ。
自分の本当の……血の繋がった家族のことを。
「それじゃ、おやすみ、トゥルーデ。」
「ミーナ。」
部屋を出ようとするミーナを、私は衝動的に呼び止めた。
「何かしら?」
この気持ちを伝えなければならないと思った。
咄嗟のことで沈黙してしまった私を、ミーナはただ黙って見ている。
混乱する頭を無理矢理回転させ、言葉を探す。
「うまく言えないが……隊員たちはみんな私の家族だ。だから全員同じくらい好きだ。これは譲れない。
だが、私の相棒として心から……その、愛しているのは、お前だけなんだ、ミーナ。それをわかってくれ。」
「わかってるわよ。」
私の渾身の科白をミーナはさらっと流し、それから小さく呟いた。
「私も愛してるわ、トゥルーデ。」
「え?」
「おやすみなさい。よい夢を……。」
半開きになったドアの隙間から、夜の涼しい風が吹き込んでくる。
身体をベッドに投げ出して天井を見上げ、火照った頭を冷まして漸く、私は今起きたことの重大さに気が付いた。
「ああ、なんてこった。今のは私のファーストキスじゃないか……」
ENDIF.
91: 2008/08/19(火) 23:58:59 ID:we0UV5E+
部屋にはいるなりハルトマンに正気かという目を向けるが向こうは至って正気なようだ。
ますます質問の意図がわからない。
「何を考えているんだお前は!」
「ふと気になって」
「唐突にもほどあるだろう!」
「トゥルーデ、顔真っ赤」
「っ!」
にっこり微笑んで迫ってくるハルトマンに気をとられて背後のベッドに気がつかなかった。
何てことだ!自分の部屋だというのに
少しずつ後退していた足がベッドに触れて、ぴたりと立ち止まる。
しまった
逃げ場がない
尚も距離を詰められる。
気づいたら脈の音が非常に五月蝿い。
「…そういうハルトマンは、あるのか」
「ナイショ」
「………あるさ」
「ん?」
「私だって、したことくらいある!」
信じてない顔だ。
この顔は信じてない顔だ。
内緒の形のままである手の、その近くの口に、
どうしても目が行ってしまう己が嫌になる。
「本当?」
「…っああ」
こい。
きてくれ。
今なら私はネウロイ撃墜に喜び勇んで真っ先に飛び出そうじゃないか。
こい、ネウロイ!
「じゃあ、して?」
祈りも虚しくその気配すらありはしない。
今日も平和だこの基地は。
特にこいつの頭とかが。
92: 2008/08/19(火) 23:59:48 ID:we0UV5E+
「は?」
「キス」
艶めかしく笑うハルトマンの目は笑っていない。
私はさっきから笑っていない。
言うなら笑える冗談にしてはくれないだろうか。
「やっぱりトゥルーデには無理だよね」
「?」
両頬が包まれて
次の瞬間にはハルトマンの長い睫毛がよくみえた。
ほんのり甘い後味を残して唇が離れる。
思考は働かない。
ああさっき食べたドーナツの味だな、これは
なんてどうでもいいことなら考えられた。
「ドーナツに穴があいているのってね」
「熱が通りやすいからなんだってさ」
とんと肩を押され、軽々とベッドに沈む。
座った私を見下ろすようにしてハルトマンが笑う。
――ああ、悪魔だ。
それもとっびきり性質の悪い。
ハルトマンが耳に唇を寄せる。
囁かれた言葉に、私の思考はもう、完全にとまってしまった。
93: 2008/08/20(水) 00:02:26 ID:we0UV5E+
私の身体には穴でも開いているんだろうか
だから熱が冷めることなく全身を支配しているんだろうか
なんて、
過りそうになった甘い考えさえ、二度目の口づけに遮られた。
君の瞳うるんで
そっと I love you なんて
言うから本気だね
Do you Do you love me?
恋する気持ちはドーナツの中
そしてBaby 俺は
甘い想いを のみこんだ
Fin.
初挑戦、ウルトラエース×隊長、
以上です。己の頭が異常です。お粗末さまでしたm(_ _)m
ある機会があって、恋する気持ちはry聴いてから
あの曲が頭から離れない。みんな聴くといいよ。
99: 2008/08/20(水) 04:24:58 ID:aVV2blPf
ドーナツの輪っかにはおまじないがある。
それを教わったのはわたしがずっと幼かったころの話だ。
兄にホットチョコレートを飲まれて泣いてしまったわたしに、おばあちゃんがドーナツをつくってくれたことがあった。
揚げたてのドーナツはサクサクしていて、ちょっと熱いけど甘くておいしかったのを憶えている。
わたしはさっきまで泣いていたことなどすっかり忘れておばあちゃんにたずねた。
『おばあちゃん、なんでどーなつって、あながあいてるの?』
お行儀が悪いことに、もぐもぐとドーナツを頬張りながらしゃべるものだから食べかすがポロポロとこぼれてしまっていた。
おばあちゃんはそれを拾いながらこう答えてくれた。
『ドーナツにはね、すてきなおまじないがあるのよ』
『おまじない?』
『ええ、とってもすてきなおまじない』
ミルクで口のなかのドーナツを流し込むと、わたしは興味津々にたずねかえした。
『おしえておしえて!』
きっと小さな孫にせがまれるのがうれしかったのかもしれない。
おばあちゃんはいいかい、と指を立ててそのおまじないを教えてくれた。
それを教わったのはわたしがずっと幼かったころの話だ。
兄にホットチョコレートを飲まれて泣いてしまったわたしに、おばあちゃんがドーナツをつくってくれたことがあった。
揚げたてのドーナツはサクサクしていて、ちょっと熱いけど甘くておいしかったのを憶えている。
わたしはさっきまで泣いていたことなどすっかり忘れておばあちゃんにたずねた。
『おばあちゃん、なんでどーなつって、あながあいてるの?』
お行儀が悪いことに、もぐもぐとドーナツを頬張りながらしゃべるものだから食べかすがポロポロとこぼれてしまっていた。
おばあちゃんはそれを拾いながらこう答えてくれた。
『ドーナツにはね、すてきなおまじないがあるのよ』
『おまじない?』
『ええ、とってもすてきなおまじない』
ミルクで口のなかのドーナツを流し込むと、わたしは興味津々にたずねかえした。
『おしえておしえて!』
きっと小さな孫にせがまれるのがうれしかったのかもしれない。
おばあちゃんはいいかい、と指を立ててそのおまじないを教えてくれた。
100: 2008/08/20(水) 04:26:01 ID:aVV2blPf
『ドーナツの穴はね、そこから見えるものをみんなすてきなものに変えてしまうちからがあるのよ』
『みーんな、すてきなもの?』
『そう、みーんな、すてきなものに見えるの。空や海はもちろん、いろんなものが特別になるのよ。たとえば、好きな人とかもね』
食べ終わったわたしの手と口をナプキンで拭いてくれると、頭に手をのせて優しく撫でてくれた。
しわくちゃだけど、やわらかくてあたたかい手が心地よかった。
『いつかあなたにも好きな人ができるわ。そのときは、ドーナツの穴からのぞいてごらんなさい。きっと、すてきに見えるからね』
『うん……』
幼かったわたしには好きな人とか、すてきに見えるという意味がわからなくて、あいまいに返事をした。
それがわたしのドーナツにまつわる昔話。
『みーんな、すてきなもの?』
『そう、みーんな、すてきなものに見えるの。空や海はもちろん、いろんなものが特別になるのよ。たとえば、好きな人とかもね』
食べ終わったわたしの手と口をナプキンで拭いてくれると、頭に手をのせて優しく撫でてくれた。
しわくちゃだけど、やわらかくてあたたかい手が心地よかった。
『いつかあなたにも好きな人ができるわ。そのときは、ドーナツの穴からのぞいてごらんなさい。きっと、すてきに見えるからね』
『うん……』
幼かったわたしには好きな人とか、すてきに見えるという意味がわからなくて、あいまいに返事をした。
それがわたしのドーナツにまつわる昔話。
101: 2008/08/20(水) 04:27:05 ID:aVV2blPf
今日のティータイムにはおばあちゃん仕込みのドーナツを用意することにした。
ブリタニアの料理はいまいちみんなのお口に合わないらしく、これからもっと勉強が必要だとは思うけれども、とりあえず紅茶とセットのお菓子くらいはおいしいものをごちそうしてあげたかった。
「みなさん、今日もリーネさんと宮藤さんがおいしいお菓子をつくってくれました。またいつネウロイが現れるかはわかりませんが、せめてこのティータイムだけでもやすらかな時間を楽しみましょう」
中佐の言葉を皮切りに、わたしたちの数少ない平和な午後のひとときが始まった。
それぞれのテーブルで紅茶のカップを、ドーナツを手にするみんなをそれとなく観察する。
中佐は紅茶の香りを楽しんでから口に含み、満足そうに嚥下していた。
そのとなりで少佐がなかなかいけるな、とドーナツをぱくぱくお口に放りこみ、ふと視線が合ったわたしに笑顔でうなずいてくれた。
ルッキーニちゃんとシャーリーさんはいつもと変わらず、おいしそうに食べてくれているみたいだった。
エイラさんたちのテーブルからも、うまいナ、うん、おいしい……、との声が聞こえてホッとする。
みんなにおいしいと言ってもらえるお菓子がつくれて、わたしは少しだけみんなとの距離が縮まったように思えた。
ブリタニアの料理はいまいちみんなのお口に合わないらしく、これからもっと勉強が必要だとは思うけれども、とりあえず紅茶とセットのお菓子くらいはおいしいものをごちそうしてあげたかった。
「みなさん、今日もリーネさんと宮藤さんがおいしいお菓子をつくってくれました。またいつネウロイが現れるかはわかりませんが、せめてこのティータイムだけでもやすらかな時間を楽しみましょう」
中佐の言葉を皮切りに、わたしたちの数少ない平和な午後のひとときが始まった。
それぞれのテーブルで紅茶のカップを、ドーナツを手にするみんなをそれとなく観察する。
中佐は紅茶の香りを楽しんでから口に含み、満足そうに嚥下していた。
そのとなりで少佐がなかなかいけるな、とドーナツをぱくぱくお口に放りこみ、ふと視線が合ったわたしに笑顔でうなずいてくれた。
ルッキーニちゃんとシャーリーさんはいつもと変わらず、おいしそうに食べてくれているみたいだった。
エイラさんたちのテーブルからも、うまいナ、うん、おいしい……、との声が聞こえてホッとする。
みんなにおいしいと言ってもらえるお菓子がつくれて、わたしは少しだけみんなとの距離が縮まったように思えた。
102: 2008/08/20(水) 04:29:14 ID:aVV2blPf
「うわぁ、リーネちゃん、これすごくおいしいよ!」
「ちょっと宮藤さん! 食べながらしゃべるなんて下品にもほどがありましてよ!」
「うう、ごめんなさい」
「まったくあなたは何回いっても何回いっても……」
わたしの両隣に座る二人にもお気に召してもらえたようだ。
芳佳ちゃんは見たままに、ペリーヌさんも紅茶を楽しみながらドーナツを小さくちぎって上品にお口に運んでいた。
みんなに喜んでもらえてうれしい。
ネウロイとの戦いではいつも足手まといになってしまうわたしだけれど、こうやって少しでもみんなのためにできることがあるのなら、ここにいてよかったと思うことができる。
ほんのひとときでもみんなにやすらぎを与えられるなら、わたしもここにいていいのかもしれない、と。
そんな気分に浸っているとカールスラントペアのテーブルから風に乗って声が聞こえてきた。
「ちょっと宮藤さん! 食べながらしゃべるなんて下品にもほどがありましてよ!」
「うう、ごめんなさい」
「まったくあなたは何回いっても何回いっても……」
わたしの両隣に座る二人にもお気に召してもらえたようだ。
芳佳ちゃんは見たままに、ペリーヌさんも紅茶を楽しみながらドーナツを小さくちぎって上品にお口に運んでいた。
みんなに喜んでもらえてうれしい。
ネウロイとの戦いではいつも足手まといになってしまうわたしだけれど、こうやって少しでもみんなのためにできることがあるのなら、ここにいてよかったと思うことができる。
ほんのひとときでもみんなにやすらぎを与えられるなら、わたしもここにいていいのかもしれない、と。
そんな気分に浸っているとカールスラントペアのテーブルから風に乗って声が聞こえてきた。
103: 2008/08/20(水) 04:30:01 ID:aVV2blPf
なにやらバルクホルンさんが慌てているような、そんな気配だけは感じられた。
けれどはっきりとなにを話しているかは聴きとれないし、わざわざ耳をすますのは盗み聞きしているようでよろしくない。
そう考えていたらバルクホルンさんがすっくと立ち上がり、ハルトマン中尉の腕をひっぱって屋内にむかって歩きはじめた。
みんなの視線を集めるなか、ハルトマン中尉だけがわたしに振りかえり、ドーナツおいしかったよ、リーネ、と言ってくれた。
そのまま二人は建物のなかに入っていってしまった。
しんと静寂が生まれ、みんなしばらく二人の消えたほうを見ていたものの昔からの連れ合いである二人のことだから、と特に心配することもなく、ささやかな談笑の声が少しずつ戻ってくる。
たぶん、おおげさな"なにか"が起こったりはしないだろう。
それよりも、ハルトマン中尉にもちゃんと気に入ってもらえたようでなによりだった。
言葉にして「おいしかった」と伝えられる喜びの大きさに、わたしはもっともっとおいしいドーナツをつくりたいと思った。
けれどはっきりとなにを話しているかは聴きとれないし、わざわざ耳をすますのは盗み聞きしているようでよろしくない。
そう考えていたらバルクホルンさんがすっくと立ち上がり、ハルトマン中尉の腕をひっぱって屋内にむかって歩きはじめた。
みんなの視線を集めるなか、ハルトマン中尉だけがわたしに振りかえり、ドーナツおいしかったよ、リーネ、と言ってくれた。
そのまま二人は建物のなかに入っていってしまった。
しんと静寂が生まれ、みんなしばらく二人の消えたほうを見ていたものの昔からの連れ合いである二人のことだから、と特に心配することもなく、ささやかな談笑の声が少しずつ戻ってくる。
たぶん、おおげさな"なにか"が起こったりはしないだろう。
それよりも、ハルトマン中尉にもちゃんと気に入ってもらえたようでなによりだった。
言葉にして「おいしかった」と伝えられる喜びの大きさに、わたしはもっともっとおいしいドーナツをつくりたいと思った。
104: 2008/08/20(水) 04:31:53 ID:aVV2blPf
「あれ、リーネちゃん、ドーナツ食べてる?」
横から割り込んできた元気な声。
わたしとおなじ新人でありながら天賦の才能をもつ親友は、両方のほっぺたをリスのようにふくらませていた。
ぷんぷくりんのほっぺたを指でつついてみたいな、なんて思ったり。
「あなたと同席しているだけで、頭が痛くなってきますわ……」
となりでため息をもらす金髪の優しい人。
なんだかんだときつい物言いをするけれど、その分だけ相手のことを想っている不器用な女性だった。
少佐のことを敬愛しているのはわかるけど、そのために芳佳ちゃんのことばかり意識するのには少しだけ妬けちゃうかもしれない。
わたしには真似できない付き合い方ができてしまうのは、正直、うらやましかった。
「リーネちゃん?」
「あ、ごめんね。わたしもちゃんと食べてるよ。芳佳ちゃんもいっぱい食べてね」
「うん!」
わたしはおいしそうに食べてくれる芳佳ちゃんにならい、自分もひとつドーナツをつまみあげて端っこをかじってみた。
横から割り込んできた元気な声。
わたしとおなじ新人でありながら天賦の才能をもつ親友は、両方のほっぺたをリスのようにふくらませていた。
ぷんぷくりんのほっぺたを指でつついてみたいな、なんて思ったり。
「あなたと同席しているだけで、頭が痛くなってきますわ……」
となりでため息をもらす金髪の優しい人。
なんだかんだときつい物言いをするけれど、その分だけ相手のことを想っている不器用な女性だった。
少佐のことを敬愛しているのはわかるけど、そのために芳佳ちゃんのことばかり意識するのには少しだけ妬けちゃうかもしれない。
わたしには真似できない付き合い方ができてしまうのは、正直、うらやましかった。
「リーネちゃん?」
「あ、ごめんね。わたしもちゃんと食べてるよ。芳佳ちゃんもいっぱい食べてね」
「うん!」
わたしはおいしそうに食べてくれる芳佳ちゃんにならい、自分もひとつドーナツをつまみあげて端っこをかじってみた。
105: 2008/08/20(水) 04:33:26 ID:aVV2blPf
油は少なめ、外はサクサクで中身はふわっと甘く、口いっぱいに幸せが広がるような感覚。
われながら会心の出来だと思う。
また一歩、おばあちゃんの味に近づけた気がした。
みんなにも喜んでもらえたし、なにより芳佳ちゃんの笑顔を見ることができて、わたしはそれだけで満足だった。
まっすぐで元気で、誰とでもすぐ仲良くなれるわたしの一番の友だち。
彼女がいてくれるから、手をとって導いてくれるから、わたしはいままでも、そしてきっとこれからもがんばっていける。
ずっといっしょにいたいと思う。
手をつないで笑いあって、おなじ時間を過ごしていきたい。
いつまでもいつまでもそばにいて、お互いを感じあっていたい。
芳佳ちゃんのとなりにわたしがいて、わたしのとなりに芳佳ちゃんがいるような。
心のどこかを溶けあわせて、どこまでも二人三脚で歩いていきたい。
この願いがどれだけ儚く、叶えるのが困難だとしても、彼女がいるかぎりわたしは祈りつづけるだろう。
われながら会心の出来だと思う。
また一歩、おばあちゃんの味に近づけた気がした。
みんなにも喜んでもらえたし、なにより芳佳ちゃんの笑顔を見ることができて、わたしはそれだけで満足だった。
まっすぐで元気で、誰とでもすぐ仲良くなれるわたしの一番の友だち。
彼女がいてくれるから、手をとって導いてくれるから、わたしはいままでも、そしてきっとこれからもがんばっていける。
ずっといっしょにいたいと思う。
手をつないで笑いあって、おなじ時間を過ごしていきたい。
いつまでもいつまでもそばにいて、お互いを感じあっていたい。
芳佳ちゃんのとなりにわたしがいて、わたしのとなりに芳佳ちゃんがいるような。
心のどこかを溶けあわせて、どこまでも二人三脚で歩いていきたい。
この願いがどれだけ儚く、叶えるのが困難だとしても、彼女がいるかぎりわたしは祈りつづけるだろう。
106: 2008/08/20(水) 04:35:34 ID:aVV2blPf
わたしは新しいドーナツを手に取ると、口もとにもっていくように見せかけてさりげなくその輪っかに芳佳ちゃんの顔をおさめた。
すぐに口へ運んでぱくぱくもぐもぐ、ごくんと呑みこむ。
たぶん、誰も気づかなかったはず。
でもわたしにはちゃんと見えた。
ほんの一瞬だったけど、しっかり見えたのだ。
ドーナツのすてきなおまじないにかかった、とってもとってもすてきな、わたしの好きな人の笑顔が――――
おしまい
すぐに口へ運んでぱくぱくもぐもぐ、ごくんと呑みこむ。
たぶん、誰も気づかなかったはず。
でもわたしにはちゃんと見えた。
ほんの一瞬だったけど、しっかり見えたのだ。
ドーナツのすてきなおまじないにかかった、とってもとってもすてきな、わたしの好きな人の笑顔が――――
おしまい
107: 2008/08/20(水) 04:38:25 ID:aVV2blPf
以上です。読んでくれた人に感謝。
楽しんでもらえたら幸い。
楽しんでもらえたら幸い。
引用: ストライクウィッチーズpart2
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります