313: 2008/08/22(金) 22:36:16 ID:WwjEB+pe
タイトルは「鏡像」
「リーネちゃん、入っていい?」
と、ノックの音とともに扉の向こうから芳佳ちゃんの声。
朝ごはんの準備にはまだ少し早い時間だけど、私のこと迎えにきてくれたのかな。
「うん、入って」
私がそう言うと芳佳ちゃんは扉をあけて私の部屋に入ってきた。
「ごめんね、まだ朝の支度終わってなくって。ベッドでよかったら座ってて」
私はいつもの三つ編みをほどいて、鏡の前に座っていた。
「ううん、私が早すぎただけだよ」
芳佳ちゃんがベッドに座ったのを、私は鏡ごしに見た。
と、鏡に映った芳佳ちゃんと目と目があう。
そのまま吸い込まれていってしまいそうな深いまなざし。
芳佳ちゃんのどこかぼうとした表情は、まるでお酒を飲んで気分がいいみたい。
そんなにじっと見つめられるとなんだか息がつまりそうになる。
「どうかしたの?」
おずおずと私は訊いた。
「ううん、ただちょっと、リーネちゃんがかわいいなぁって」
「そ、そんなことないよ」
「そうかな、すごく女の子って感じだよ。おだやかでやさしくって。
料理も上手だし、お裁縫もできて――」
「もう、おだてたってなにも出ないんだからね」
たとえ嘘でもその言葉がとても嬉しくって。
こうしている今がずっとずっと続けばいいのに。
314: 2008/08/22(金) 22:37:46 ID:WwjEB+pe
ベッドから腰をあげ、私のすぐ後ろに芳佳ちゃんは立つ。
「ねぇ、私が髪編んでいい?」
「う……うん」
「ありがと。じゃ、前向いて」
芳佳ちゃんは慣れた手つきで私の髪に櫛を入れていく。
「私、くせっ毛だから髪伸ばせなくって。だからリーネちゃんみたいな長い髪に憧れてるんだ」
「そんなことないよ。長いと洗うのも乾かすのも大変だし……。
それに芳佳ちゃんは今の髪型がすごく似合ってるよ」
「えへへ、ありがと」
照れくさそうに笑う芳佳ちゃん。
お世辞と思われたかな。本当にそう思ってるのに。
「でもこうしてると扶桑にいたころのこと思い出すな」
……扶桑。
そっと口のなかでその言葉を繰り返す。
ブリタニアからは地球の反対側と言っていいくらい遠い国。
芳佳ちゃんの生まれ育った国。
どんなところなんだろう。ぜんぜん想像できない。 ふと、私は思った。
私と出会ってから今までよりも、ずっとずっと長い時間を芳佳ちゃんは扶桑で暮らしてきたんだ。
私が芳佳ちゃんの知らない時間をブリタニアで過ごしてきたように。
それは私には知りようのない芳佳ちゃんの時間なんだ。
私がそんなことを考えている間に、芳佳ちゃんは私の髪を三つ編みにしていく。
「ずいぶん慣れてるみたい」
「よくこんな風に友だちの髪を触らせてもらってたの。だから結構得意なんだ」「へえ……」
私はとりあえず相づちだけはした。
聞きたい。
でもそれはなんだか私の踏みいっちゃいけないことな気がして、なにも言葉にできない。
「とっても仲良しの友だちだった」
「ふぅん」
私とどっちが?
訊けるはずのない質問が頭の中に取り憑いて離れない。
他の人にもこんな風にしてたなんて思うと、胸がぎゅっと締め付けられる痛みに襲われる。
それは声にできない痛み。なんで私はこんなに痛いんだろう。
「……扶桑が、懐かしい?」
「まあね」
鏡に映った芳佳ちゃんが、少し寂しそうな表情をしているのがわかった。
「そうだよね……」
それだけ言うと、私の口からはもうなにも言えることはなかった。
「ねぇ、私が髪編んでいい?」
「う……うん」
「ありがと。じゃ、前向いて」
芳佳ちゃんは慣れた手つきで私の髪に櫛を入れていく。
「私、くせっ毛だから髪伸ばせなくって。だからリーネちゃんみたいな長い髪に憧れてるんだ」
「そんなことないよ。長いと洗うのも乾かすのも大変だし……。
それに芳佳ちゃんは今の髪型がすごく似合ってるよ」
「えへへ、ありがと」
照れくさそうに笑う芳佳ちゃん。
お世辞と思われたかな。本当にそう思ってるのに。
「でもこうしてると扶桑にいたころのこと思い出すな」
……扶桑。
そっと口のなかでその言葉を繰り返す。
ブリタニアからは地球の反対側と言っていいくらい遠い国。
芳佳ちゃんの生まれ育った国。
どんなところなんだろう。ぜんぜん想像できない。 ふと、私は思った。
私と出会ってから今までよりも、ずっとずっと長い時間を芳佳ちゃんは扶桑で暮らしてきたんだ。
私が芳佳ちゃんの知らない時間をブリタニアで過ごしてきたように。
それは私には知りようのない芳佳ちゃんの時間なんだ。
私がそんなことを考えている間に、芳佳ちゃんは私の髪を三つ編みにしていく。
「ずいぶん慣れてるみたい」
「よくこんな風に友だちの髪を触らせてもらってたの。だから結構得意なんだ」「へえ……」
私はとりあえず相づちだけはした。
聞きたい。
でもそれはなんだか私の踏みいっちゃいけないことな気がして、なにも言葉にできない。
「とっても仲良しの友だちだった」
「ふぅん」
私とどっちが?
訊けるはずのない質問が頭の中に取り憑いて離れない。
他の人にもこんな風にしてたなんて思うと、胸がぎゅっと締め付けられる痛みに襲われる。
それは声にできない痛み。なんで私はこんなに痛いんだろう。
「……扶桑が、懐かしい?」
「まあね」
鏡に映った芳佳ちゃんが、少し寂しそうな表情をしているのがわかった。
「そうだよね……」
それだけ言うと、私の口からはもうなにも言えることはなかった。
315: 2008/08/22(金) 22:39:30 ID:WwjEB+pe
「――――ちゃん!」
その声に私の意識が戻る。
「リーネちゃん! どうかしたの!?」
「いや、なんでも……ちょっとぼーっとしてて」
いったいどれくらいの時間が経ったんだろう。
私は自然とうつむいていた顔をあげた。
鏡に私の顔が映る。
私はぎょっとした。
今私はなんてイヤな顔をしてるんだろう。
こんな顔してちゃ芳佳ちゃんに嫌われちゃう。
私は鏡から顔を背けるように、再びうつむいた。
「ごめん、私何か気にさわること言った?」
ううん、違うの。
悪いのは全部私の方だ。
「なんでもないから。気にしないで」
精一杯声を絞り出して私は言った。
「なんでもなくなんてないよ。だってリーネちゃん泣いてるじゃない」
その言葉にハッとして、私はまぶたに手をやった。
たしかに、私は涙を流している。
「あれ? 私、おかしい。本当になんでもないのに……」
一度自覚してしまうともう涙は止めらない。
「ねぇ、話して。一人で抱え込まないで」
「……放っておいて」
私は懸命に首を横に振った。
「そんなことできるわけないよ。だって私たち――」
「言わないで!」
芳佳ちゃんにとっての私が、たとえその言葉のとおりだとしても、
私にとっての芳佳ちゃんはもうそんな言葉ではごまかせない。
だからお願い、その言葉を口にするのはやめて。
私は立ち上がって芳佳ちゃんと向き合った。
せっかく編んでくれた髪がばらばらと宙を舞う。
そして、芳佳ちゃんの唇を塞ぐように、私の唇を重ねあわせた。
それはほんの数秒間の出来事。
でも私には、今まで経験してきたどんな時間よりも長く感じた。
その声に私の意識が戻る。
「リーネちゃん! どうかしたの!?」
「いや、なんでも……ちょっとぼーっとしてて」
いったいどれくらいの時間が経ったんだろう。
私は自然とうつむいていた顔をあげた。
鏡に私の顔が映る。
私はぎょっとした。
今私はなんてイヤな顔をしてるんだろう。
こんな顔してちゃ芳佳ちゃんに嫌われちゃう。
私は鏡から顔を背けるように、再びうつむいた。
「ごめん、私何か気にさわること言った?」
ううん、違うの。
悪いのは全部私の方だ。
「なんでもないから。気にしないで」
精一杯声を絞り出して私は言った。
「なんでもなくなんてないよ。だってリーネちゃん泣いてるじゃない」
その言葉にハッとして、私はまぶたに手をやった。
たしかに、私は涙を流している。
「あれ? 私、おかしい。本当になんでもないのに……」
一度自覚してしまうともう涙は止めらない。
「ねぇ、話して。一人で抱え込まないで」
「……放っておいて」
私は懸命に首を横に振った。
「そんなことできるわけないよ。だって私たち――」
「言わないで!」
芳佳ちゃんにとっての私が、たとえその言葉のとおりだとしても、
私にとっての芳佳ちゃんはもうそんな言葉ではごまかせない。
だからお願い、その言葉を口にするのはやめて。
私は立ち上がって芳佳ちゃんと向き合った。
せっかく編んでくれた髪がばらばらと宙を舞う。
そして、芳佳ちゃんの唇を塞ぐように、私の唇を重ねあわせた。
それはほんの数秒間の出来事。
でも私には、今まで経験してきたどんな時間よりも長く感じた。
317: 2008/08/22(金) 22:41:34 ID:WwjEB+pe
「私すごくイヤな人間なの。芳佳ちゃんが言ってくれたような女の子じゃ全然ない」
芳佳ちゃんをとらえていた唇を離し、私は言った。
「私は芳佳ちゃんとずっとこうしていたい。離れたくない。
でも芳佳ちゃんは扶桑のことが恋しいんだよね。
私にもその気持ちはわかってるつもりだよ。
でもずっと芳佳ちゃんと一緒にいたい――そう思うと自分で自分が抑えられなくって。
ねぇ、芳佳ちゃんは戦いが終わったら扶桑に帰っちゃうの?」
芳佳ちゃんはなにも言わなかった。
「……ごめんなさい。私の気持ちを一方的に押し付けちゃって。
それにあんなこと――気持ち悪いって思ったよね。私のこと嫌いになったよね」
私は自分がしてしまったことの重さを実感すると、そのまま押し潰されそうになる。
「そんなことないよ。いきなりだったからちょっとびっくりしたけど」
芳佳ちゃんの声はいつものようにやさしい。
でもそれは嘘。
やさしい言葉をかけてくれるのも嘘。
私は嫌われてしまった。
「ね、顔あげて」
「イヤ」
「お願いだから、さ」
うつむく私の顔を芳佳ちゃんは強引にあげて、そして――
そっと、再び、唇と唇が重なりあった。
「どうして……?」
どうしてキスしてくれるの?
「だから言ったでしょ、イヤじゃないよって。
私も、リーネちゃんとキスできて、その……嬉しかったから」
顔を赤らめて芳佳ちゃんは言った。
「ほんと?」
「うん。リーネちゃんと、何度だってしたい」
芳佳ちゃんは恥ずかしそうに微笑みを浮かべる。
「……じゃあもう一回キスしていい?」
芳佳ちゃんはうなずいた。
どちらともなく近づけあった唇が、もう一度重なりあう。
芳佳ちゃんをとらえていた唇を離し、私は言った。
「私は芳佳ちゃんとずっとこうしていたい。離れたくない。
でも芳佳ちゃんは扶桑のことが恋しいんだよね。
私にもその気持ちはわかってるつもりだよ。
でもずっと芳佳ちゃんと一緒にいたい――そう思うと自分で自分が抑えられなくって。
ねぇ、芳佳ちゃんは戦いが終わったら扶桑に帰っちゃうの?」
芳佳ちゃんはなにも言わなかった。
「……ごめんなさい。私の気持ちを一方的に押し付けちゃって。
それにあんなこと――気持ち悪いって思ったよね。私のこと嫌いになったよね」
私は自分がしてしまったことの重さを実感すると、そのまま押し潰されそうになる。
「そんなことないよ。いきなりだったからちょっとびっくりしたけど」
芳佳ちゃんの声はいつものようにやさしい。
でもそれは嘘。
やさしい言葉をかけてくれるのも嘘。
私は嫌われてしまった。
「ね、顔あげて」
「イヤ」
「お願いだから、さ」
うつむく私の顔を芳佳ちゃんは強引にあげて、そして――
そっと、再び、唇と唇が重なりあった。
「どうして……?」
どうしてキスしてくれるの?
「だから言ったでしょ、イヤじゃないよって。
私も、リーネちゃんとキスできて、その……嬉しかったから」
顔を赤らめて芳佳ちゃんは言った。
「ほんと?」
「うん。リーネちゃんと、何度だってしたい」
芳佳ちゃんは恥ずかしそうに微笑みを浮かべる。
「……じゃあもう一回キスしていい?」
芳佳ちゃんはうなずいた。
どちらともなく近づけあった唇が、もう一度重なりあう。
318: 2008/08/22(金) 22:42:55 ID:WwjEB+pe
「髪の毛ばらばらになっちゃったね。ねぇ、また私にさせてくれない?」
「うん、ありがとう」
私は再び鏡の前に座った。
芳佳ちゃんの手は丁寧に私の髪に触れていく。
「ねぇ、リーネちゃん言ったよね。扶桑に帰りたいかって。
うん、いつかそういう日がきたら、私は帰りたい」
「そう……」
「扶桑はすごくいい国だよ。
みんないい人だし、食べ物も美味しいし。……ペリーヌさんは嫌いって言うけど」
あんな人の言うこと、気にすることないのに。
「私は好きだよ。納豆もお味噌汁も」
そう言うと芳佳ちゃんはよかった、となんだかホッとみたい。
「扶桑かぁ……きっとすごくいい国なんだろうね。
だって芳佳ちゃんの生まれた国だから」
「うん。だからね、リーネちゃんに見せてあげたいの。私の生まれた国を。
もっと知ってほしい、扶桑のことも、私のことも。
それでみんなに紹介したい――私の一番大好きな人だって。
……もしリーネちゃんがイヤじゃなかったらだけど」
「ううん、とっても嬉しい……!」
「よかった」
芳佳ちゃんが今まで私にくれたもの、その一つ一つの大きさを思い出す。
とてもこの胸だけに閉じ込めておけない。
伝えなきゃいけない。そう強く思った。
「さ、できた」
と芳佳ちゃんの手は私の髪をそっと離した。
「どうかな?」
私は立ち上がって鏡の前でくるっと回ってみる。
「うん、すっごく上手」
いつもと同じ髪型なのに、なんだかいつもと違って見える。とっても素敵。
「ねぇ、もう行かないと。大遅刻だよ」
「うん」
走り出す芳佳ちゃんに私はついていく。
とその前に、私は振り返ってもう一度鏡を見た。
泣きはらしたその目は真っ赤に染まり、まるでウサギのそれだ。みんなにはなんて言い訳しよう。
ええいままよ。なるようになれ。
前をいく芳佳ちゃんの背を追いかけ、私は今日も、新しい一歩を踏み出す。
戦いのない世界、いつかきっと、そうなる日が来ると信じて。
以上です。
俺にしてはかなり真面目。苦手です。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
あと保管庫の管理人様、入れるときは作者をOsqVefuYとこにお願いします。
「うん、ありがとう」
私は再び鏡の前に座った。
芳佳ちゃんの手は丁寧に私の髪に触れていく。
「ねぇ、リーネちゃん言ったよね。扶桑に帰りたいかって。
うん、いつかそういう日がきたら、私は帰りたい」
「そう……」
「扶桑はすごくいい国だよ。
みんないい人だし、食べ物も美味しいし。……ペリーヌさんは嫌いって言うけど」
あんな人の言うこと、気にすることないのに。
「私は好きだよ。納豆もお味噌汁も」
そう言うと芳佳ちゃんはよかった、となんだかホッとみたい。
「扶桑かぁ……きっとすごくいい国なんだろうね。
だって芳佳ちゃんの生まれた国だから」
「うん。だからね、リーネちゃんに見せてあげたいの。私の生まれた国を。
もっと知ってほしい、扶桑のことも、私のことも。
それでみんなに紹介したい――私の一番大好きな人だって。
……もしリーネちゃんがイヤじゃなかったらだけど」
「ううん、とっても嬉しい……!」
「よかった」
芳佳ちゃんが今まで私にくれたもの、その一つ一つの大きさを思い出す。
とてもこの胸だけに閉じ込めておけない。
伝えなきゃいけない。そう強く思った。
「さ、できた」
と芳佳ちゃんの手は私の髪をそっと離した。
「どうかな?」
私は立ち上がって鏡の前でくるっと回ってみる。
「うん、すっごく上手」
いつもと同じ髪型なのに、なんだかいつもと違って見える。とっても素敵。
「ねぇ、もう行かないと。大遅刻だよ」
「うん」
走り出す芳佳ちゃんに私はついていく。
とその前に、私は振り返ってもう一度鏡を見た。
泣きはらしたその目は真っ赤に染まり、まるでウサギのそれだ。みんなにはなんて言い訳しよう。
ええいままよ。なるようになれ。
前をいく芳佳ちゃんの背を追いかけ、私は今日も、新しい一歩を踏み出す。
戦いのない世界、いつかきっと、そうなる日が来ると信じて。
以上です。
俺にしてはかなり真面目。苦手です。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
あと保管庫の管理人様、入れるときは作者をOsqVefuYとこにお願いします。
320: 2008/08/22(金) 22:53:44 ID:Ybz5buzR
GJ。やっぱり芳佳リーネだな。
引用: ストライクウィッチーズpart2
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