266: 2008/09/10(水) 00:24:11 ID:3zXWSi05

 体温計の目盛りは三十八度二分。
「特に変なところもないので、ただの風邪だと思います」
 ミヤフジの診断は一言で終わった。
「ウー、ミヤフジの魔法で治せないのカ?」
「怪我なら治せるんですが、病気だとちょっと……ごめんなさい」
「それじゃあ、今日はエイラさんはお休みね。ちゃんと安静にしていること」
「了解……」

 そんなわけでワタシ――エイラ・イルマタル・ユーティライネンはミーナ中佐に休暇を
言い渡され、自室のベッドで療養中ナノダ。
 あー、頭がぼおっとするナ……さっき飲んだ薬が効いてるのかナ……そのくせあんまり
眠くないからヘンな感じダ……。

 かちゃり、とドアの開く音がした。
「ん……」
 ぼやける視界の中には、ベッドの横に腰掛ける少女の姿。
「さー、にゃ……?」
 返事はない。
 そりゃそうか、サーニャは夜間哨戒を終えて眠ってる頃だもんナ……。
 唐突に、右手に感じる違和感。
 包まれるような、慈愛に満ちたぬくもり。
 手を、握ってくれているのだろうか?
 あったかいな……これならよく、眠れそうダナ……。
 手……サーニャと、繋ぎたいナァ……。

   ◇

 ふと、とてもすっきりと目が覚めた。
「エイラ」
「……サーニャ?」
 ワタシが寝ているベッドの隣には、サーニャがちょこんと椅子に腰掛けていた。
 よく見ると、彼女の両手は、ワタシの右手に――!?
ストライクウィッチーズ 劇場版 501部隊発進しますっ!
267: 2008/09/10(水) 00:24:59 ID:3zXWSi05
「あ、ゥ……」
 眠る前のあの手は、ワタシの思い違いではなく、正真正銘サーニャの手だったのだ。
 一気に頭に血が上ってくるのがわかる。
 繋いでいるのは恥ずかしく、かといって振りほどくことも出来ず、ワタシノキモチは私
の中で暴れるだけ。
「エイラ、顔真っ赤……」
「ゥエ!?」
 思わず変な声が出てしまった。
「熱、下がってないのかな……」
 そう言いながらサーニャはワタシの額に手を伸ばす。
「ァ、ァヮヮ……」
 サーニャの手はひんやりして、とても柔らかかった。
「まだちょっと、熱っぽいかな」
「イヤ、コレハソノ……」
 これは風邪がどうこうの問題ではない。
 そう、ワタシは既に別の病にかかってしまっているのだから……。
「その?」
「えーと、うんと」
 返答に困っていると代わりに答えたのは、
 ――ぐるるる。
「……」
「……」
 ワタシの胃袋だった。
 確かに朝から何も食べてないけど、なにもこのタイミングで……。
「くすっ」
 ああっ、サーニャに笑われた。
「ごはん、食べられそう?」
「エ、ァ、もちろん! 余裕ダゾ!」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
 ワタシの返事を聞いたサーニャは立ち上がり、部屋から出て行った。
 体調は今朝と比べて随分良い。明日には通常任務に復帰できることだろう。
 窓の外に目をやる。空は橙から藍へと移り変わろうとしていた。ずいぶんと長いこと眠っ
ていたようだ。
 サーニャの温度が残った右手は汗ばんでいた。
 眠っている間ずっと、サーニャはそばにいてくれたのだろうか。
 ずっと――ワタシの手を握っていてくれたのだろうか。

268: 2008/09/10(水) 00:25:39 ID:3zXWSi05
 かちゃりと音がして。
 戻ってきたサーニャが持っているトレイには、ほんのり湯気を立てるチキンスープ。
「あんまり味が濃いのは、ダメだと思ったから」
「サーニャが、作ってくれたのカ?」
「うん、あんまり自信ないけど……」
「そんなことないゾ! サーニャが作ったんならおいしいに決まってるゾ!」
「……エイラ」
 はっ。
 無意識にワタシは何を言ってしまってるんだ。
 てっきり彼女を引かせてしまったのではないかと慌てるが、
「ありがと、エイラ」
 ワタシに微笑みを向けてくれるサーニャの前では、どうでもいいことだナ!
「……はい」
「ン?」
 サーニャはスプーンでスープをすくい、ワタシの口元へ持ってくる。
 これは? もしかして? もしかしなくても?
「あーん」
「!?」
 え、いや、待っ、エェー!?
「サ、サーニャ……!」
「ほら、エイラ、あーん」
 ちょっと待ってクレ。頭が追いつかない。熱が下がってきたのに、知恵熱その他諸々で
 ぶり返しそうだ。
「ィヤ、ソノ、一人で食べられる、カラ……」
「あーん」
「サ、サーニャ……」
「あーん……」
 サーニャの声と顔が拗ね始めた。
 そうだ。
 サーニャはいつもおとなしくて、あまり自分の気持ちを出さなくて……そのくせ、今み
たいに、ヘンに頑固な時があって……。
「わ、わかったヨ」
 意を決し、ゆっくりと口を開く。
「ァ、アー」
「ん」
 温かいスープが舌に味を残し、喉を抜けて胃へと下りていく。
「……どう?」
「ん、おいしいゾ」
 サーニャに本当のことを言うと、不安そうだった顔が一気にほころんだ。
「よかった」
 彼女の笑顔は、本当に綺麗だ。
『私は実は人間じゃなくて、月夜の妖精なの』と言われても、ワタシは一片たりとも疑う
ことをしないだろう。

269: 2008/09/10(水) 00:26:49 ID:3zXWSi05
「……サーニャ」
「なに?」
「その、今日、ずっと、テ、手を……」
「うん」
 彼女は笑顔のままで頷いた。
「ずっと、つないでたよ」
 彼女の頬に赤みが差しているのは、ワタシの気のせいなのだろうか。
「風邪をひいてひとりになるのは、私だったら寂しいから……」
「サーニャ……」
「その、イヤだったらごめんね」
 その子は、
「イヤじゃナイ!」
 何よりも純粋で、
「イヤなんかじゃ、ナイ」
 何よりもキレイで、
「……その、」
 誰よりも思いやりがある、
「……ありがと、ナ」
 ワタシの一番大切なおんなのこ。

   ◇

「……風邪ですね」
 ミヤフジの診断はいつも一言で終わる。
「それじゃあ、今日はゆっくり休んでね。ちゃんと安静にしていること」
「……はい」
「エイラさん、あとはお願いね」
「ン」
 ミーナ中佐から休暇をもらった彼女。
「エイラ」
 二人残された部屋、ベッドのサーニャはワタシに右手を差し出す。
「……今日ダケダカンナ」
 風邪をひいてひとりになるのは、ワタシだったら寂しいからナ。
 彼女の汗ばんだ手を取る。

 この間、寝顔を見られた分、今日はワタシが見てやることにしよう。

 Fin.


以上です。
自分の好みで、とにかくキレイでニヤニヤなエイラーニャを目指しました。
楽しんでいただければ幸いです。

270: 2008/09/10(水) 00:30:28 ID:ABpE3vNM
乙です!
ニヤニヤが止まらねぇwwwwwwww
これはいい夢が見れそうだ

引用: ストライクウィッチーズ