1: 2008/06/09(月) 18:45:23.21 ID:cZk6Pjh+O
ある昼下がりのこと…

「お、お前ら~っ!!」
ジュンの怒声が家中に響いた。
四人のドールにより部屋中ガラスの破片と落書きだらけになっていたからだ。

ジュン「今日という今日は絶対に許さん!」
蒼「ご、ごめんジュン君…!ボクは止めようと思ったけど…」
真「全く…ちょっと部屋が散らかった程度でうるさい下僕なのだわ」
雛「あ、ジュンお帰りなの~」
翠「帰ってきて早々五月蝿い人間ですぅ」
ジュン「なにぃ~!?」

ひょいっ
ぽいっ
バタン!!

真「追い出されてしまったのだわ」

5: 2008/06/09(月) 18:49:56.41 ID:cZk6Pjh+O
翠「全く、チビ人間の奴、心が狭すぎるです!」
蒼「いや、あれはボク達が悪いよ…いつものことだけど…」
雛「うにゅー食べたいの~」
真「しかし追い出されても行くあてが無いのだわ」

真紅は頬に人差し指をあて、腕組みしながら「むむむ…」とうなった。

雛「じゃあトモエのおうちに行くの~!」
真「まぁ、たまにはそういうのもいいわね」
翠「そうと決まれば早速出発ですぅ!」

9: 2008/06/09(月) 18:52:52.75 ID:cZk6Pjh+O
~1時間後~

翠「や、やっと…ついた…ですぅ」
蒼「以外と…歩くと遠いんだね……いつも鞄でとべたから…気付かなかったよ……」
真「それよりも…背中の雛苺……下ろしていいかしら……?ねぇ、雛苺?」
翠「寝てるですよ…」

ドシャァ

雛「きゃーっ!痛いのーっ!」
真「下部の分際で主の背中で寝るとは何事なのだわ!」
蒼「まぁまぁ…それより雛苺、トモエの家についたんだけど…」
雛「えっと…あ!そうなの!あそこのぼこってしたところ!」

雛苺は表札の真下にある呼び鈴を指差した。

雛「あれを押すと、じどーてきに人が出てくるの!」

ピンポーン……

10: 2008/06/09(月) 18:55:03.88 ID:cZk6Pjh+O
雛「………………」
真「………………」
蒼「………………」
翠「誰もでねぇじゃねぇですか」
雛「あれぇ…?おかしいの……」

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

ドタドタドタドタドタドタドタドタ!

巴「は、はーい!……って雛苺?」
雛「トモエぇぇぇぇ!!!」

だきっ!

巴「おっと…」

雛苺に飛び付かれた巴が少しよろける。

雛「トモエトモエトモエぇぇぇぇ!」
巴「ちょっ、雛、落ち着い…やっ!そこは…っ、当たってるっ…!わかったから雛、ハァ…頭押し付けてぐりぐりしないで…ひゃあっ!」

真「サービスシーンなのだわ」
翠「あざとすぎるですぅ…」
蒼「そもそも巴のサービスシーンって需要あんの?」

12: 2008/06/09(月) 18:57:55.17 ID:cZk6Pjh+O
~その頃のジュン君~

ジュン「はぁ、まーた片付けなくちゃだよ…あいつらも困ったもんだ…」
ジュン「……それにしても、ついほっぽりだしちゃったけど、大丈夫か…?」
ジュン「…あと二時間もすれば日も暮れるしな。そのうち帰ってくるだろ」
ジュン「いや…やっぱ片付け終わったら探しに行くか……でも……」

のり「……………」

ジュン「…っ!い、いつからそこにっ!?」
のり「『あいつらも困ったもんだ』から♪」
ジュン「!!!!!」

13: 2008/06/09(月) 19:00:25.86 ID:cZk6Pjh+O
~さらに1時間後~

翠「だからチビ人間は心が狭くて嫌ですぅ!」

翠星石は口いっぱいにお菓子を頬張りながら未だに怒っている

蒼「いや、でもボクたちが散らかしたんだし……」
翠「散らかしたんじゃないですぅ~!」
蒼「いや、結果的には……って、雛苺もいつまでしょげてるのさ」
雛「うにゅー…」
巴「ごめんね雛苺、次に来るときは連絡さえくれれば、うにゅー沢山買っておいてあげるから」

雛苺は巴の方に向き直り、怒っているとも笑っているともつかない表情で
雛「…約束!」

とだけ言った。

14: 2008/06/09(月) 19:05:20.42 ID:cZk6Pjh+O
~その頃のジュン君~

のり「ジュン君~いい加減機嫌直して~?」
ジュン「僕は別に怒ってなんかいない」
のり「…真紅ちゃん達、探しに行かないの?」
ジュン「別に。あいつらなら平気だろ。いなくなったらなったで清々するよ」

のりは小さくため息をついてから口を開いた

のり「翠星石ちゃんたち、いつも世話になってるチビ人間の部屋を片付けてやるです!って言ってたのよ…」
ジュン「え?だってこんなに散らかって…」

22: 2008/06/09(月) 19:27:01.24 ID:cZk6Pjh+O
のり「掃除なんて初めてだったんじゃないかしら?翠星石ちゃん特にがんばってたんだけど、箒で窓割っちゃうし、雛苺ちゃんは落書きを始めちゃうしで…」
ジュン「そこに僕が帰ってきた…と?」

のりは静かに頷いた

のり「お姉ちゃんがちょっとジュン君をからかっちゃったのは謝るわ…だから…」
ジュン「ったく、わかったよ…じゃあこのガラスだけ片付けたら…っ痛!」
のり「ど、どうしたの!?」
ジュン「ガラスの破片が小指に…いてて…」
のり「た、大変!ちょっと待ってて!きゅ、救急箱~!!」

24: 2008/06/09(月) 19:33:13.09 ID:cZk6Pjh+O
巴「あら、もうこんな時間…雛苺たち、そろそろ帰った方がいいよ」
真「そうね、そろそろジュンの怒りも収まってるはずだわ」
蒼「雛苺も眠そうだしね」
雛「うにゅー……」
翠「またあの道を帰るですか…」

25: 2008/06/09(月) 19:35:54.10 ID:cZk6Pjh+O
真「じゃあ、お邪魔したのだわ」
巴「じゃあまた…桜田くんによろしく」
翠「ほらチビ苺!ちゃんと立つです!」
雛「トモエ…」
巴「ん、何?雛苺」
雛「……約束」
巴「わかった、約束。」

そう言うと巴は雛苺を抱き上げ、ユビキリをした。


しかし、その約束が叶うことは、二度となかった

26: 2008/06/09(月) 19:38:32.72 ID:cZk6Pjh+O
翠「この道、夕方になるとすごい混むですね…」
蒼「かと言って違う道を行くと迷子になりかねない」
真「ほら雛苺、いい加減しっかり立つ!もうおぶらないのだわ」
雛「うにゃー」

しばらく歩くと大きな十字交差点にたどりついた。

27: 2008/06/09(月) 19:42:01.49 ID:cZk6Pjh+O
真「す…すごい人だわ…」
翠「あ、あのピカピカが緑のときに渡らないとダメだってチビ人間が言ってたですぅ!」
蒼「!な、なんか点灯しだしたけど…!」
翠「は、はやく渡らないとずっとここから先に進めないんですぅ!」
真「なんですって!?ほ、ほら、はやく渡るのだわ!」

人形達は巧みに人間の足をすりぬけ、白黒の橋の上を駆けていった。

真「な…なんとか渡りきったのだわ…」
翠「し、真紅!!」
真「どうしたの翠星石、そんなに声を荒げて…」
翠「チビ苺は…チビ苺はどこに行ったですか?」


ちなみに今書き溜めた分の1割強終了くらい。

29: 2008/06/09(月) 19:48:12.73 ID:cZk6Pjh+O
鼻歌を歌いながら2つの影が夕暮れの街を歩く。

み「~♪」
金「みっちゃん、なんだかご機嫌かしら~?」
み「そりゃあね!今日は知り合いのスタジオ貸しきって、1日中かわいーい金糸雀の撮影会だったんだから!ふふふん♪」
金「えへへ…みっちゃんが嬉しいとなんだかカナも嬉しいかしら~」

屈託の無い笑顔に思わずみつは金糸雀を抱き寄せて頬擦りする

金「いちち…みっちゃん、ほっぺがまさちゅーせっつかしら!」
み「いやん金糸雀ったらぷりちー!このドレスもとーっても似合ってるわ!」
金「それはみっちゃんがこのところ毎日寝ないで作ってくれたからかしら!」


2つの影は歩き続ける。
この先の運命なんて知るよしもなかった。

32: 2008/06/09(月) 19:56:45.85 ID:cZk6Pjh+O
~とある公園の公衆トイレ~

雛「きゃあっ!!」

雛苺は床に叩きつけられた。

雛「あ、あなたたち誰?真紅は?ジュンは??」

男は低く突き刺すような、それでいて舐めるような厭らしい声で雛苺に話しかけた

A「しんく…?お友達かな?ははは…残念だけど君、もうその子には会えないんだ」
雛「え…、う、嘘なの!だって、真紅は雛の友達……」

33: 2008/06/09(月) 19:58:49.64 ID:cZk6Pjh+O
言い終わらないうちにトイレの入り口からまた男が二人現れた

B「ちゃーっす…ってまたこれは…ずいぶん若い…というか幼いの連れてきましたね…」
C「つかキンパって…ガイジンじゃないっすか」
A「おぅ、おめーらおせえよ。カメラは?」
B「あ、今セットします」

目の前で何が起きているのか、雛苺には全く理解できなかった。

34: 2008/06/09(月) 20:00:04.65 ID:cZk6Pjh+O
雛「お…おじちゃんたち…誰……ジュン、ジュンのおうちに…帰して……」
A「おじちゃんたちはね、今から君とお友達になりたいんだよ……おい、カメラもう回したか!?」
B「うい」
雛「嫌…雛はなりたくない…っ!」

必氏に抵抗するが男は体格が良く、両肩を痛いくらいに押さえつけられてしまっている

A「そんな寂しいこと言うなよ…?」

そう言うと男はおもむろに雛苺の口に強引に舌をねじ込んだ。

35: 2008/06/09(月) 20:01:50.67 ID:cZk6Pjh+O
雛「ひっ…い、いゃああつ!!!」

なめくじを口いっぱいに含んだような嫌悪感が広がる。
すぐにでもここから逃げ出したい思いに駆られ、力一杯に暴れる。

A「ちっ…大人しくしとけや!!」

ゴスッ……

何が起きたのか理解するまでに30秒はかかった。
頬がじんじんする。
その間にも男は腹部を執拗に攻め立てる。

雛「い…いやああああああ!!!」

悲鳴をあげたとたん、すかさず何発か殴られる。

36: 2008/06/09(月) 20:04:42.50 ID:cZk6Pjh+O
C「お、おいっ、さすがにやばいって…これじゃ売れねえだろ…!」

ただならぬ雰囲気を察した他の男が制止に入ったが、カメラを回してる男がさらにそれを止めた。

B「いいんだよ…今回は『そういうの』専門でいくんだから…」

そのやり取りの間にもまた、雛苺に拳が入る。こんどは腹と頭。

雛「あぁ…いや…やめ…て……」

41: 2008/06/09(月) 20:15:12.90 ID:cZk6Pjh+O
「雛苺になにしてるかしら!!」

金糸雀とみつだった

A「て、てめぇ……どっから……」
金「雛苺の悲鳴を聞いてとんできたかしら!!」
B「おい、お前らしゃしゃり出てきちゃって、どうなるかわかってんのか…!?」

みつは男の嚇しにも屈せず、逆に挑発的な態度で食って掛かった

みつ「そんなことより、あなたたち早く逃げた方がいいんじゃない?もうすぐあんたらの大嫌いなポリスマンがやって来るんだけど?」

42: 2008/06/09(月) 20:16:41.92 ID:cZk6Pjh+O
そう言ってポケットから携帯を取り出してわざとらしく見せびらかした。

無論恐怖がないわけがなかった。
しかし、この状況で弱さを見せることは氏に繋がるということを草吹みつは知っていた。

43: 2008/06/09(月) 20:19:33.36 ID:cZk6Pjh+O
その隙に金糸雀は雛苺を抱き上げる。

金「雛苺!大丈夫かしら!?」

しかし雛苺はぶつぶつとうわごとを呟いていて、目はどこにも焦点があってなかった。

A「ちっ…!」

男達は一気に走りだし、出口に向かった。

44: 2008/06/09(月) 20:21:14.02 ID:cZk6Pjh+O
しかしみつはそれを追おうとはせず、もう一度警察に連絡しようと携帯を取り出した時だった…

「――――逃がさない」

一瞬、その空間で時が止まった。
その時が再び動き出したとき、男達は元が人だったのかもわからないカタチになっていた。

46: 2008/06/09(月) 20:23:09.44 ID:cZk6Pjh+O
ジュン「くそ…いくらなんでも遅すぎる…!」

焦りからか、上手く靴紐が結べない。

ジュン「今日に限って…なんだってんだよ!」

ようやく紐を通し終わったとき、玄関のドアが勢い良く開いた。

ジュン「し…真紅!お前ら、今まで一体…」

言い終わる前に真紅が叫んだ

47: 2008/06/09(月) 20:23:44.00 ID:cZk6Pjh+O
真「雛苺が…雛苺がいなくなって……!!」
ジュン「なに…?いつ!?」
真「わからない…多分大きな十字の道を渡るときに…」
翠「赤と緑のピカピカが…それで、急いで渡らなきゃって…!」
ジュン「ピカピカ…信号か?まさかそんな遠くまで!?」
蒼「ぼくらも探したんだけど…見つからないんだっ!!」

49: 2008/06/09(月) 20:24:50.18 ID:cZk6Pjh+O
皆それぞれが焦りと後悔で泣き出しそうな顔をしてる。

ジュン「わ、わかった…とにかく僕が見てくるからお前たちはここで待っ……!?」

バタン…

言い終わらないうちにジュンの体が地面に放り出されてた。

50: 2008/06/09(月) 20:26:01.37 ID:cZk6Pjh+O
ジュン「…!?」

翠「な、なにしてるですかチビ人間!!」

ジュン自身、何が起きたかわからない

ジュン「か…体が…動かないんだ…っ!!」

ふと真紅が、ジュンの指で不気味に光るあるものを見つけた

真紅「これは…!?」

雛苺の薔薇の指輪だった。

56: 2008/06/09(月) 20:33:15.88 ID:cZk6Pjh+O
みつと金糸雀は立ち尽くしていた。
周りを見渡す。巨大な薔薇のツルが延びている。

「あぁ、きっとこの男達はこの棘に刺され、すり潰されたからこんな姿なんだ」

その事実だけがそこにあった。

雛苺が立ち上がった。

雛「嫌だ…つい頃しちゃったわ」

雛苺は雛苺でなくなっていた。

59: 2008/06/09(月) 20:36:32.61 ID:cZk6Pjh+O
金「雛…苺……?」

金糸雀が恐る恐る声をかける。

すると雛苺は金糸雀がいることに今気付いたかのように答えた。

雛「あら、あなた…たしか……か…かなりあ?金糸雀でしょう!?」

雛苺は少しはしゃいだような声を出した。
金糸雀にはそれがたまらなく不快だった。

金「…そう。金糸雀、かしら…あ、あなたは…本当に雛苺?」
雛「もちろん。『私』が雛苺。『お父様』に作られた…第…えっと…4?3?…まぁいいわ。雛苺よ。よろしく」
金「う…嘘かしら!ねぇ、雛をどこにやったのかしら!?」
雛「失礼ねぇ~。だから私が雛苺。そんなことより、あなたもアリスゲームってのに参加してるのよね?」
金「も、もちろんかしら…」

雛苺の口が歪んだ

60: 2008/06/09(月) 20:40:14.47 ID:cZk6Pjh+O
雛「そう…私、アリスゲームとやらには興味が無いのだけど、ローザミスティカっていうのにはちょっと興味があるわ」
金「……………」

雛「綺麗なのか泥々なのか、大きいのか小さいのか、赤なのか青なのか……ねぇ、だから…」

金糸雀の全身に鳥肌が立った

雛「貴女の『それ』…ちょうだい?」

64: 2008/06/09(月) 20:46:09.69 ID:cZk6Pjh+O
言い終わると同時に鋭い薔薇のツルが雛苺の掌から伸びる。

金「―――ッ!!」

精一杯身を翻してその攻撃をかわす。

雛「ざーんねん♪」

雛苺の言葉にハッと振り返る

金「みっちゃんッ!あぶな……!」

ドスッ

み「え………?」

67: 2008/06/09(月) 20:49:22.86 ID:cZk6Pjh+O
状況が全く把握できてなかったみつが、自分の右足を見つめる。

ふくらはぎがギリギリ薄い肉と皮で繋がってる程度。その真ん中には大きな赤い孔が空いていた。

み「あ…あぁ…あああああああああああ!!!」
金「みっちゃん!みっちゃん!!」

金糸雀がみつに駆け寄る

み「か…カナ…あ…熱いよ…っ!!」

ドスッ…

今度はツルから成長した棘がみつの胸を貫いた。

みつ「あ……」

そして、みつは、そのまま地面になった。

68: 2008/06/09(月) 20:50:17.20 ID:cZk6Pjh+O
金「ひ、雛…苺おおおぉぉ!!!」

金糸雀は無我夢中で雛苺に向かって走り出した。
しかし、それもむなしく、金糸雀はすぐにツルで縛られ宙吊りにされてしまった。

雛「…あなたたちって馬鹿ばっかりよね」

宙吊りになってるから、実際雛苺は金糸雀を見上げる形になる。
しかし、その恐ろしさから、物理的な上下なんて全く意味がないことだと金糸雀は思った。

雛「こうやってマスターさえ先にやっちゃえば、簡単にローザミスティカが手に入るのに」

70: 2008/06/09(月) 20:51:42.69 ID:cZk6Pjh+O
ふと雛苺が自分自身の身体を見る

雛「やだ…そういや私服破かれたんだった…」

そして金糸雀をちらと見る

雛「しょうがない、貴女のその、だっさい服で我慢するわ」

そう言って器用に薔薇を使い、金糸雀から服を剥ぎ取った。

72: 2008/06/09(月) 20:52:33.37 ID:cZk6Pjh+O
雛「さて…そろそろローザミスティカを頂くけど、最後に一言ある?」

金「………ちゃ……の……」

雛「ん?」

金「みっちゃんのお洋服…を……バカにするな……!!」
雛「あっそう」

ドスッ……

73: 2008/06/09(月) 20:55:52.67 ID:cZk6Pjh+O
テレビのニュースでレポーターが興奮気味に叫ぶ

事件は夕方、人気のない公園で起こった。

一人の女性が氏体で見つかった。
現場にはおびただしい量の血が撒かれていて、おそらく二人以上の人間がそこに『すりつぶされて』いる。
また、現場付近に胸に穴があいた人形が落ちていた。

74: 2008/06/09(月) 20:57:09.37 ID:cZk6Pjh+O
真「……………」
翠「真紅、これ…」

翠星石が震えた声で話しかける

真「間違いない…金糸雀とそのマスターだわ…」
蒼「ということは…」
真「おそらく、雛苺が何か関わっていたはずよ…」

ジュンはあれからどんどん熱が上がって、今は部屋でのりが付きっきりで看病している。

翠「チビ苺…っ!」

76: 2008/06/09(月) 20:58:47.02 ID:cZk6Pjh+O

家全体に重たい空気が流れる。
そのときだった――

バリン!!

二階から大きな物音がした。直後のりの叫び声が聞こえる

真「ジュンっ!!」



翠「ち…チビ苺……?」

二階には雛苺がいた。
だけどそれは、雛苺の形をした何かだった。

77: 2008/06/09(月) 21:00:49.52 ID:cZk6Pjh+O
雛「真紅に…翠星石、蒼星石ね。はじめまして…って言うべき?」

雛苺の異様な雰囲気に、誰もが恐怖を感じた。

真「あなた…誰!?何故雛苺の姿をしているの!?」
雛「はぁ…またそれか…。だから私が雛苺なのよ」
翠「嘘です!確かに見た目はチビ苺そっくりですけど…」
蒼「待って……」

蒼星石が翠星石を制止して一歩前に出る

81: 2008/06/09(月) 21:03:58.63 ID:cZk6Pjh+O
蒼「公園で…金糸雀とそのマスターをやったのは……君かい?」

蒼星石は静かに雛苺を見つめる

雛「かなりあ…?あぁ、緑のおでこちゃんね!そうよ、私が……」

ひゅんッ

雛苺が話終わる前に蒼星石の鋏が雛苺の腕をかすめた

雛「………なにするのよ」
蒼「君は雛苺じゃない」
雛「はぁ?だから…
蒼「雛苺は…!彼女は、どんなことがあっても…絶対に人を傷つけたりしない」

82: 2008/06/09(月) 21:07:40.75 ID:cZk6Pjh+O
雛苺は、はぁ…とため息をついた

雛「あなた、一体『雛苺』の何を知ってるっていうの?」
蒼「……?どういうこと…?」
雛「いいわ、教えてあげるわよ」

84: 2008/06/09(月) 21:09:59.88 ID:cZk6Pjh+O
『雛苺』は…お父様の最高傑作。
他のドールに比べて圧倒的な強さを誇った。
…しかし、その絶対的な力ゆえに、お父様は私を恐れた。
『もし雛苺が他のローザミスティカを手に入れたら…自分もこの人形に取り込まれてしまう…』
だから、お父様は私に他の魂を入れた。
それが今までの雛苺…
どのドールより幼い精神を入れることで、その力を抑え、もとの『雛苺』を封印した――――

85: 2008/06/09(月) 21:12:23.04 ID:cZk6Pjh+O
雛「そして、その封印は雛苺の精神の崩壊によって解かれた。
貴女たちが言う『雛苺』は、私を押さえつけるためだけの鎖だったの!
貴女たちのお友達の雛苺なんて、最初からいなかったのよ…
あは、あはははは!」

言葉遣い、表情、声が、もうそれが雛苺じゃないということを実感させた。

86: 2008/06/09(月) 21:13:59.90 ID:cZk6Pjh+O
蒼「じゃあ君は…ボクたちのローザミスティカを捕りにきたってこと?」
蒼星石が身構えながら、それに話しかける

雛「それもいいんだけど…今はおでこちゃんので、おなかいっぱいだから……こっちをもらうわ」

そう言うと薔薇のツルが勢いよく伸びて、ジュンをしばりつけた。

真「ジュンっ!!」

ジュンは何本もの薔薇に巻かれ、雛苺の隣で浮いている

雛「いくら私でも、マスターがいなきゃ力を出せないものねぇ…」

雛苺はジュンの顔を見つめ、頬をなでた。

87: 2008/06/09(月) 21:17:40.17 ID:cZk6Pjh+O
雛「でもこれはいらないわね…ほら、返すわ」

そう言うとジュンの指から真紅と翠星石の指輪を外し、二人に向かって投げた。

雛「そういうことだから、私はそろそろ行くわ。じゃあまた会いましょう」

窓に足をかける

翠「ま、待つですぅ!」

翠星石の言葉に耳を貸す様子もない

のり「ま、待って雛ちゃん…!ジュン君…!!」

状況を把握できていないのりが、懇願するように叫んでいる


「―――待ちなさい、ジャンク」

90: 2008/06/09(月) 21:21:05.26 ID:cZk6Pjh+O
雛「ジャンクって…私のこと?」

雛苺がゆっくり振り返る

真「他に誰がいるっていうの?まさか自覚がないのかしら?」

真紅はいつにも増して強い口調で続ける

真「逃げるつもり?私たちが怖いの?」

雛苺の顔に怒りが浮かぶ

雛「氏にたいようね…?」
真「あら、氏にはしないのだわ」

その瞬間、鋭い薔薇が真紅に向かって伸びた。

92: 2008/06/09(月) 21:24:12.44 ID:cZk6Pjh+O
翠「真紅っ!危ないっ!!」
蒼「いや……」

あの速さなら…避けられる…!
そう蒼星石が続けようとしたときだった。

ドスッ…

真紅はそれを受け止めた。


右腕を代償にして

96: 2008/06/09(月) 21:30:10.89 ID:cZk6Pjh+O
蒼「し…真紅っ!なん…」

真紅が後ろを指差した。
ハッとする。

蒼「のり…っ!」
真「私が避けたら…こいつはのりを…攻撃してたの…だわ」

のりはすでに気絶していた。

雛「まさか本当に受け止めるとはねぇ…。マスターでもなんでもないあの子を…」

雛苺は目を細め、口を歪めた

97: 2008/06/09(月) 21:31:42.42 ID:cZk6Pjh+O
雛「せっかくの可愛い手が台無し…ふふっ、ジャンクになったのは貴女の……っ!?」

最後の言葉を待たずに真紅は雛苺に向かって走り出した

雛「…っ!」

真紅の蹴りが雛苺の頬をかすめる

雛「うざいんだよっ!!」

雛苺薔薇が真紅を捉え、地面に叩き付ける

真「うあっ!!」

すかさず薔薇の棘が真紅の左腕を突き刺し、引きちぎる

真「つ!!ああぁあ!!!」
翠「真紅っ!!」

98: 2008/06/09(月) 21:35:03.00 ID:cZk6Pjh+O
翠星石が真紅に駆け寄り、蒼星石はのりを庇うようにして立った。

雛「ふふっ、真紅…貴女もうすぐ氏んじゃうんだけど…気分はどう?」

何本ものツルが真紅に巻き付き、真紅の身体は宙に浮いた。

真「言った…でしょう……?貴女になんか…絶対殺されたりしない……!」

そう言うや否や、今度は右足が棘に斬り付けられ、胴体を離れ地面に落ちた。

100: 2008/06/09(月) 21:38:25.33 ID:cZk6Pjh+O
翠「し…真紅!いやだ…!もう止めるです!氏んじゃうですっ!!」

泣きながら叫ぶ翠星石に真紅は微笑みながら言った

真「翠星石…泣かないで頂戴…。言ったでしょう?私は氏なない…こんなジャンクに……あぅっ!!」

最後の一本も、薔薇によって切り離された。

真「翠星石…私たちは…いつ氏ぬか、わかるかしら……?」

真紅は痛みに顔を歪めながら、それでも懸命に最期の言葉を伝えた。

101: 2008/06/09(月) 21:40:35.32 ID:cZk6Pjh+O
真「私たちは人形…。血も流れてないし、心臓も…動いてない……はぁ……生氏の概念なんて元々無いのだわ……でも、」

雛苺が何かを呟いたと同時に空間に大きな孔が開いた。

真「私たちは、誇りを失ったら……氏ぬのよ…!強者に屈し、誇り高き心をなくしてしまった時が…私たちの終わり…!!」

大きな孔は真っ暗で何も見えなかった。
雛苺はそこに本体から離れてしまった真紅の部品を次々と投げ込む。

102: 2008/06/09(月) 21:42:06.00 ID:cZk6Pjh+O
真「だからこそ、私は氏なない…!身体は無くなっても…心は……誇りは無くならないもの!…そうでしょうっ!?」

雛苺が真紅の首を掴む

真「ぐっ……貴女は可哀想ね…最初から…誇り高き心なんて…ないんだものっ!…とんだジャンクなのだわっ!」

雛苺は顔色ひとつ変えずに真紅を真っ暗な孔に放り込んだ。

雛「………つまらない演説だったわ」

103: 2008/06/09(月) 21:45:18.95 ID:cZk6Pjh+O
翠「あんた…し、真紅をどこにやったですかっ!!」

孔は閉じてしまった

雛「五月蝿いな…。そんなの私にもわからないわよ」
翠「どういうことです!?」
雛「この孔はね…時空に繋がってるの。だから私にもどこにいったのか、わからない。」

翠星石はその場にへたれこんだ。

翠「そんな…真紅…っ」

105: 2008/06/09(月) 21:49:22.12 ID:cZk6Pjh+O
雛苺が歩き出す。
蒼星石は素早く翠星石を引き寄せ、構えた。

雛「…さすがに疲れた。帰るわ」

雛苺はジュンを連れて窓に足をかけて、

雛「あ、そういえば真紅のローザミスティカ取り忘れちゃった…まいっか」

それだけ言うと一瞬のうちに何処かへ消えた。

107: 2008/06/09(月) 21:50:34.97 ID:cZk6Pjh+O
翠「お腹すいたですぅ…」

翠星石と蒼星石はここ数日、空き家で生活していた。

蒼「仕方ないよ…こうなった以上ボクらがのりの近くにいるのは…とても危険だ」
翠「わかってるですぅ…」

二人は途方にくれていた。

108: 2008/06/09(月) 21:51:51.00 ID:cZk6Pjh+O
翠「それにしても…どうするですか?真紅も、金糸雀もいない…」
蒼「………………」
翠「水銀燈を頼るわけにはいかないですし…っていうかどこにいるかもわからないです…」
蒼「………………」
翠「もう一人のドールは見たこともないですぅ」
蒼「……打つ手なし…か」
翠「打つ手なし……ですぅ」



~その頃~

雛「あはっ、貴女…自分から喧嘩売ってきた割には、すごぉく弱いのね…?」

側には、ぼろぼろの雪華綺晶が倒れていた。

110: 2008/06/09(月) 21:55:07.92 ID:cZk6Pjh+O
雛「ちょうど、そろそろ新しローザミスティカが欲しかったのよ」
雪「くっ……!」

雛苺はぺろっと舌を出すと、薔薇の棘で雪華綺晶の胸を突き刺した。
雪華綺晶のローザミスティカが浮かび上がる。

111: 2008/06/09(月) 21:56:41.82 ID:cZk6Pjh+O
雛「悪魔の様に黒く…地獄の様に熱く…接吻のように甘い…!!久しぶりのローザミスティカはやっぱりイィわぁ…」

雛苺は足元の雪華綺晶を気にする様子もなく、ふむ、と一呼吸置いて窓際まで歩く。

雛「ん~、なんだか今日はもう一個くらい、欲しいき・ぶ・ん♪」

112: 2008/06/09(月) 21:58:16.20 ID:J6RWl1EM0
雛苺強すぎだろwwwwwwwwww

116: 2008/06/09(月) 22:03:36.40 ID:cZk6Pjh+O
銀「あらぁ、雛苺…よく此処がわかったわねぇ…」

ある病室の一室…いきなり現れた雛苺に水銀燈は少々動揺していた。

銀「今日は真紅のおばかさんは一緒じゃないのぉ?」
雛苺「真紅は氏んだわ」

121: 2008/06/09(月) 22:06:18.13 ID:cZk6Pjh+O
間髪入れずに答えた雛苺に異様な気配を感じる

銀「し…?ふぅん、つまらない冗談だわぁ」
雛「そんなことはどうでもいいの。貴女のローザミスティカを貰うわ」

その言葉に水銀燈は意外にも歓びを感じた。
雛苺の様子が違う事なんてどうでもよくなっていた。

銀「あらぁ、やっとやる気になったのねぇ…ならこっちも…本気で行くわよっ!!」

漆黒の羽根が雛苺に向かって飛ぶ
雛苺はその間をぬって薔薇を伸ばす。

銀「…っ!」

123: 2008/06/09(月) 22:09:36.14 ID:cZk6Pjh+O
以前の雛苺とは比べ物にならないほどの力に水銀燈は一瞬気圧されたが、すぐに立て直し、薔薇を避けようとした。

銀「……っ?」

その瞬間に雛苺が見せた不気味な笑いを水銀燈は見逃さなかった。

銀「……なるほどっ…!!」

すかさず後ろに回って、めぐを引っ張り上げ、薔薇をかわす。

124: 2008/06/09(月) 22:12:07.45 ID:cZk6Pjh+O
雛「あら…これを完全に避けるなんて……、っ!?」

雛苺の後ろの鏡から、さっきの羽根が反射して撃たれた。

雛「しまっ…!!」

上手く避けたが、それでも何本か喰らってしまう。
その隙に水銀燈は雛苺に斬りかかる。

雛「うっ…!」

ドレスの一部が裂ける。

126: 2008/06/09(月) 22:14:27.83 ID:cZk6Pjh+O
銀「あらぁ、これも避けるなんて、やるわねぇ雛苺…」
雛「あは…あははっははは!!」
銀「………?」

雛苺は楽しそうに笑った

雛「ふふふ…確かに貴女強いわ……久々に本気で遊べそう…!」

雛苺は両手を前に構え、今度は両手から6本の薔薇を伸ばした

128: 2008/06/09(月) 22:16:18.81 ID:cZk6Pjh+O
銀「ちっ…!!」

水銀燈は素早く飛び回り、4本の薔薇を叩き斬る。

雛「ほらほら、あと2本っ!!」

2本の薔薇はめぐに向かって突進している。

銀「くっ…めぐっ!!」

そのうち1本を漆黒の羽根で切り刻み、最後の1本もなんとか、めぐの手前で止めた。

銀「あ…あぶなかっ……」
めぐ「水銀燈っ!危ないっ!!」

129: 2008/06/09(月) 22:18:10.39 ID:cZk6Pjh+O
切れた薔薇から、鋭い棘が水銀燈に向かって猛スピードで伸びてきた。

ドスッ…

その棘は水銀燈を庇った、めぐの掌に風穴を開けた。

めぐ「くっ……!!」

めぐが痛みに目をしかめる。

銀「め…めぐっ!何してるのっ!!」

混乱してる水銀燈にまた、棘が襲いかかる。

めぐ「くぅっ…!!」

めぐが水銀燈を突飛ばし、その棘はめぐの肩に刺さった。

131: 2008/06/09(月) 22:20:07.73 ID:cZk6Pjh+O
しまった…目をしかめるっておかしいな…
すまん、適当に脳内変換してくれ

132: 2008/06/09(月) 22:21:31.24 ID:cZk6Pjh+O
銀「めぐっ!めぐっ!!」

駆け寄ろうとする水銀燈に叫ぶ

めぐ「来るなっ!!」

あまりの大声に水銀燈はびくっ、と身体を強張らせる

めぐ「…水銀燈、あなたは…自分の心配だけしなさい……私のことは庇わなくていいから…!」
銀「でも…それじゃあめぐが…!」
めぐ「私は平気…だから、泣かないで…?あの子をやっつけるんでしょう…?」

140: 2008/06/09(月) 22:24:41.58 ID:cZk6Pjh+O
ぱちぱち…と雛苺は小さな手を叩く。

雛「美しい友情じゃない…。まぁ、心配しなくてもどっちも氏ぬわ。安心しなさい」

雛苺が二人を嘲笑してる間に、めぐが水銀燈にそっと囁いた。
水銀燈は一瞬うつむき、そして覚悟を決めたように、雛苺に向かっていった。

146: 2008/06/09(月) 22:27:20.53 ID:cZk6Pjh+O
雛苺の両手からは、めぐに向かって薔薇が伸びる

雛「ほら、かかってきな!!」

雛苺はすでに狙いを定めていた。
水銀燈がミーディアムを守りに向かった瞬間に薔薇の照準を素早く水銀燈に向け、射つ。

しかし、水銀燈はいつになっても引き返す素振りを見せなかった。

雛「えっ……?」

ドスドスッ…

ついに薔薇は、めぐの肩と足を貫いた。

雛「ほんとうに庇わなかった…!?」

雛苺が驚いてるうちに、水銀燈は目の前で剣を構えていた。

銀「やあああああああっ!!」

ザッ……!

雛苺の腕が落ちた。

153: 2008/06/09(月) 22:31:08.06 ID:cZk6Pjh+O
雛「くっ、うあああっ…!!」

痛みに身体をよじらせながら、後ずさる。

雛「な……何故ミーディアムを庇わないっ!?」

水銀燈は唇を噛んで俯いた。

めぐ「教えてあげましょうか…」

めぐが、にやっと笑う

めぐ「私は…あと数日のうちに…病気で氏ぬっ!今度こそね……」
雛「っ!?」
めぐ「私なんて守ろうが守るまいが同じなのよ……どうせ氏ぬっ!!…いい様ね…あなた…」

159: 2008/06/09(月) 22:33:26.95 ID:cZk6Pjh+O
めぐの目を見たとき、雛苺はぞっとした。
あの時の真紅と同じ目をしていた。
雛苺の身体が震えた。

恐怖……?
私が…あの人間に…人間なんかに……
恐怖を感じてるというの……?

雛「う…うわああぁぁ!!」

165: 2008/06/09(月) 22:35:00.74 ID:cZk6Pjh+O
雛苺は、めぐに向かって今までにないほど本気で薔薇を放った。
あまりに力を出しすぎたせいで、上手くコントロールできず、10本のうち2本しか当たらなかった。
しかし、弱りきっためぐにはそれだけで十分だった。

めぐ「水銀……燈……」

それだけ言うと、めぐは動かなくなった。

171: 2008/06/09(月) 22:38:12.40 ID:cZk6Pjh+O
雛「はぁ、はぁ…はは、これで水銀燈は力を出せない!あははっ、はははは!!」

高笑いする雛苺に、何千もの羽根が突き刺さった。

雛「……!?」
銀「うおおおぉぉ!!!」

水銀燈が向かってくる。

雛「な…なんで…っ!?もう水銀燈のマスターは…」

雛苺はもう一度めぐを見る。間違いなく氏んでいる。

雛「じゃあ…どうして……!…まさか……」

178: 2008/06/09(月) 22:41:11.19 ID:cZk6Pjh+O
あの人間は病気で近いうちに氏ぬと言っていた。
そんな人間がドールに力を与えることができるだろうか…

雛「じゃあ今まで…あんた、人間の力無しで戦ってたの!?」
銀「よくも…っ!雛苺おおぉ!!」

水銀燈が目の前まで迫ってきた。

179: 2008/06/09(月) 22:42:16.13 ID:cZk6Pjh+O
雛「くっ…!!」

逃げなきゃ…っ!

しかし焦りとは裏腹に雛苺の足は全く動かなかった。

銀「うおおおぉぉ!!」
雛「ひっ…!!」

ドスッ……!

――――氏。

雛苺はそれを覚悟した。

銀「くっ、ああぁあぁぁぁ!!!」

しかし断末魔をあげたのは水銀燈だった。

181: 2008/06/09(月) 22:43:36.99 ID:cZk6Pjh+O
水銀に、薔薇の棘が突き刺さっている。
さっき、めぐに攻撃したときに外れた薔薇が、今になって鏡から反射されて…水銀燈を攻撃していた。


全くの偶然だった。

183: 2008/06/09(月) 22:47:25.60 ID:cZk6Pjh+O
ちなみに…これ見てる人ってどのくらいいるのかな?

194: 2008/06/09(月) 22:51:51.83 ID:cZk6Pjh+O
見てくれてる人、ありがとう。
ここで重大なお知らせがあるんだ。


書き溜めのストックが切れた(´・ω・`)

203: 2008/06/09(月) 22:55:23.67 ID:cZk6Pjh+O
とりあえず私は遅筆なうえに、
書いてすぐ見直し、で次の章書いてまた見直し

この流れを持ってやっと完成になるんだ。
こうしないと矛盾とかいろいろおかしくなるから。
だから次の投稿まで少し時間が空くと思う。

すまん!!!

217: 2008/06/09(月) 23:11:31.71 ID:cZk6Pjh+O
―――ここは何処?

真っ暗な世界で水銀燈は漂っていた。

―――雛…苺は?めぐは……?

声をだしてるはずなのに、何も聞こえない。

―――ローザミスティカを取られたら、こんな風になるのね…。ん…?

ふと、何かが水銀燈の手に触れた。

―――これは…手……?一体、誰の……?

218: 2008/06/09(月) 23:13:00.71 ID:cZk6Pjh+O
雛「いてて…ちょっと、もう少し優しくしてよ」

ジュンが壊れた雛苺の腕を縫う。

雛「しかし…貴方まさか壊れた人形に再び命を吹き込む能力があったなんて……」
ジュン「……………」
雛「しかもこうして、私のために働いてくれる…最高のミーディアムね」

そう言ってジュンの頬にキスをする。

ジュン「できましたよ…雛苺…」
雛「んっ」

ぐるぐると腕を回す。

雛「完璧ね。私の腕も…貴方の方も」

ふふふっ、と楽しそうに笑い、窓の外を見た。

雛「水銀燈のローザミスティカを手に入れてから10日…案外回復に時間がかかっちゃったわね」

ぐっと伸びをする。

雛「そろそろ…双子のところに遊びに行きましょうか」

219: 2008/06/09(月) 23:14:38.61 ID:cZk6Pjh+O
桜田ジュンは夜道を歩いていた。

ジュン「ったく…あの店長、在庫管理くらい自分でやれよ…」

ぶつぶつ独り言を言ってるうちに家につく。

ボロアパート。前の住人の表札がかけっぱなしだ。

ジュン「ただいま…って誰もいないんだけど……ん?」

部屋の真ん中に大きな荷物が置いてある。

ジュン「あの大家…また勝手に宅配入れたな…」

ばりばりと包装紙を破いた。

ジュン「………なんだこれ…?」

なかみは大きな本だった。

ジュン「週刊…少女の作り方…?」

220: 2008/06/09(月) 23:15:55.33 ID:cZk6Pjh+O
ぱらぱらとページをめくる。

ジュン「なんでこんな本が…隣と間違えたか?」


―まきますか?まきませんか?


ジュン「―っ!?」

途中、真っ白な見開きページにそれだけが書いてあった。

ジュン「な、なんだ今の……?乱丁?」

ジュンは動悸を抑えるために一度深呼吸をし、再びページをめくる。

最後のページに、人形の足と思われるものが、丁寧な包装紙にくるまっていた。

229: 2008/06/09(月) 23:34:26.51 ID:cZk6Pjh+O
~次の日~

ジュン「……きてる………」

昨日と同じ本が置いてあった。

ジュン「勘弁してくれ…どこが『週刊』なんだ…って、なんだこりゃ」

本を開くと同時に一枚の紙切れがジュンの足元に落ちてきた。


『桜田ジュン様
突然このような物をお送りする無礼をお許し下さい。
本誌は貴方専用であり、付属品のドール…【真紅】を完成させることができるのは

あなただけなのです』


ジュン「真紅…?」

本を開くと、今度は人形の胴体とそれに着せる服が入っていた。

ジュンは不思議な懐かしさを感じた

233: 2008/06/09(月) 23:45:31.74 ID:cZk6Pjh+O
水銀燈「あとは指輪だけ…っ!」

なんとか右腕、左足、そして胴体を送ることに成功した。
他の部品もすでに揃っていたが、薔薇の指輪だけが見つからなかった。

金「…駄目っ!指輪の位置がどうしても感じられないかしら…!」

金糸雀は額に汗を浮かばせながら叫んだ。

銀「…雪華綺晶…だったけ…?あなたもこっち手伝いなさいよぉ!」
雪「無理…私は平行世界の桜田ジュンとコンタクトをとるだけで…精一杯…」
銀「面倒ねぇ…この人間が起きれば少しはマシになるのにっ!」

水銀燈の足元はジュンが眠っていた。

234: 2008/06/09(月) 23:46:57.25 ID:cZk6Pjh+O
雪「今、桜田ジュンの身体には、雛苺に都合のいい、違う桜田ジュンが強制的に埋め込まれてる…。
ここに転がっている桜田ジュンは身体を追い出された、精神のみの存在。」
金「何故目を開けないのかしら!?」
雪「雛苺の薔薇で心を縛られているから…少なくとも物理的な衝撃では目を覚まさない…それより、早く…指輪を」

金糸雀と水銀燈はまた指輪を探しに行った。

雪「はやくしないと…時間が…」

235: 2008/06/09(月) 23:47:31.31 ID:cZk6Pjh+O
ジュン「ふぅ…ようやく完成か」

最初のパーツが送られてきた一週間後、ジュンは真紅を完成させていた。

ジュン「ネジを巻けばいいのか…よしっ」

きりきり…きりきり…

真紅の身体が震え、独りでに立ち上がった

ジュン「すげ…自分で歩いた…最新式なのか…?」

真紅はジュンの目の前で静止し…


パチーンッ


おもいっきりジュンの頬を叩いた。

238: 2008/06/09(月) 23:58:16.03 ID:cZk6Pjh+O
ジュン「な…な、ななな……?」

混乱しているジュンを気にもとめずに真紅はあたりをキョロキョロと見渡す。

真「ここはどこ?あなた一体だ……」

ジュンの顔を覗き込み、息を飲んだ。

真「……ジュン?無事だったの…!?」

ジュンはしきりに身体をぺたぺた触る真紅を引き剥がす。

ジュン「しゃ…喋った…ていうかお前…まさか生きて……」

バチバチッ

小さな雷のような音と共に空間が裂け、一枚の紙切れが落ちてきた

239: 2008/06/09(月) 23:58:54.55 ID:cZk6Pjh+O
『桜田ジュン様
おめでとうございます。
貴方は見事【真紅】を作りあげることに成功しました。
つきましては、薔薇の誓いを起てるため【時空の海】へおいでくださいませ』

ジュン「じ…時空の海…?なんだそりゃ…」

バチバチッ

再び雷鳴が聞こえたかと思ったら、ジュンと真紅は一瞬のうちにその場から消え去った。

248: 2008/06/10(火) 00:15:36.48 ID:P79TGwo0O
雪「ようこそ…桜田ジュン」

ジュンはその状況を理解するのにたっぷり30秒はかかった

ジュン「なんだこりゃ…おい、なんだここは…?」
雪「時空の海…迷い込んだ羊、輪廻に加わることの出来なかった悪しき魂…
また、『過去の自分』…全ての者が時、場所、存在を越えて集う場所」

雪華綺晶がゆっくりと告げた。
その何とも言えない威圧感に、雪華綺晶があの本の送り主だとジュンは確信した

249: 2008/06/10(火) 00:16:10.48 ID:P79TGwo0O
ジュン「…っ、正直わけがわからない…君は誰なんだ?」
雪「私はローゼンメイデン第7ドール…雪華綺晶…
彼女たちは水銀燈と金糸雀」

金糸雀は頭をぺこっと下げ、水銀燈ははなを鳴らした。

ジュン「雪華綺晶…だったか…?よければ、いちから全て説明してくれないか」
雪「全ては無理…時間がない…簡単な説明だけする、よく聞いて」

雪華綺晶は素早く、しかし丁寧に説明した。

250: 2008/06/10(火) 00:17:06.25 ID:P79TGwo0O
もう1人の桜田ジュンが呼ばれた理由
アリスゲームや雛苺のこと
そして自分達がローザミスティカを奪われたのに動くことができるのは
おそらく真紅のローザミスティカの力が少し自分達にも流れているからであろうこと
(しかし肉体は現世にあり、実際には精神のみが活動している)

真紅も、ただ黙ってそれを聞いていた

ジュン「事情はわかった…ていうか、この状況じゃ信じない方が非現実的だ……」

ジュンはふぅと息を吐き、雪華綺晶の方に向き直った

ジュン「で…僕は何をすればいいんだ?」

251: 2008/06/10(火) 00:24:08.65 ID:P79TGwo0O
雪「真紅と薔薇の契約を結び、雛苺を止めてほしい。
そうしないとそこにいる小さい貴方も身体に戻ることが出来ない。ただ…」
金「薔薇の指輪が…どうしても…見つからないかしら…」
ジュン「おいおい…じゃあどうしようもないじゃねぇか…」

そのとき、倒れているジュンの身体が揺れた

雪「まずい…はじまった…」
銀「はじまったって…」
金「雛苺が翠星石と蒼星石を攻撃しはじめたってことかしら!?」
真「…っ!二人とも…なんとか、耐えて頂戴っ…」

253: 2008/06/10(火) 00:47:56.51 ID:P79TGwo0O
翠「くっ…!!」

翠星石が必氏に薔薇を避ける

雛「ほら、こっちよ!!」

鋭い棘が翠星石に向かってくる

蒼「危ないっ!」

蒼星石がなんとか食い止める

翠「蒼星石…サンキューです…」
蒼「あぁ…それより、ジュン君がおかしいっ…」

254: 2008/06/10(火) 00:48:35.98 ID:P79TGwo0O
翠「わ、わかってるですぅ…」

翠星石がすっと息を吸い込む

翠「チビ人間ーっ!そんな奴に味方するんじゃねーです!!」
ジュン「………………」

ジュンは翠星石の言葉を無視し続ける

雛「あははは、ジュンはねぇ、あんたみたいな奴嫌いだってよ!!」

雛苺の薔薇がとぶ。

255: 2008/06/10(火) 00:49:20.92 ID:P79TGwo0O
翠「っ!嘘です!チビ人間は…そんな奴じゃないですっ!」

そんな言葉に耳も貸さずに雛苺は攻撃を続ける

蒼「翠星石っ…大丈夫かっ!?」
翠「だ…大丈夫ですぅっ!」

実際、二人ともさっきから致命傷は一度もくらっていなかった。

蒼(おかしいっ…今の雛苺なら、もうケリがついててもおかしくないくらいなのに…
それにこの攻撃…ボクたちを引き離すように……しまった!!)
蒼「翠星石っ!後ろだっ!!」
翠「えっ?」

蒼星石が叫ぶのとほぼ同時に、翠星石の身体が宙に浮いた。

翠「うわぁっ!!」

翠星石を攻撃したのは、ジュンだった。

256: 2008/06/10(火) 00:50:12.08 ID:P79TGwo0O
翠「な…なにするですか…チビ人間…っあぁっ!!」

ジュンの蹴りが翠星石に当たる。

翠「あぁう!!」
蒼「翠星石!!」

蒼星石が駆け寄ろうとするも、雛苺の薔薇が邪魔をする

雛「貴女の相手は私よ」蒼「くっ…」

そうする間にも、ジュンは翠星石に攻撃し続ける

翠「や…やめるです…どうしたんですか、チビ人間っ!!」
蒼「翠星石っ!逃げるんだ、もうそれはジュン君じゃないっ!」

257: 2008/06/10(火) 00:50:41.54 ID:P79TGwo0O
雛苺とジュンの攻撃は止まらなかった。
蒼星石はすでに気を失う直前だった。

蒼「翠…星石……」

翠星石もぼろぼろで、涙でぐしゃぐしゃの顔でジュンの足にしがみついていた。

翠「チビ…人間…ごめん…です……」

振り落とされても、何度もしがみついた。

翠「私が…部屋を散らかしたりしなければ…」

258: 2008/06/10(火) 00:51:12.48 ID:P79TGwo0O
ジュンの拳が翠星石をなんども叩き付けるが、決して手を離さない

翠「チビ人間…雛苺…みんな、ごめん…ですぅ……」

翠星石はやっとの思いでジュンの小指を握った

翠「さよなら……」

翠星石と蒼星石が、同時に地面に倒れた。

271: 2008/06/10(火) 01:18:33.85 ID:P79TGwo0O
ジュン「………いてっ…」

ずっと目を覚まさなかったジュンの心が、不意に目を覚ました。

ジュン「こ、ここは…」

雪「桜田ジュン…!」

金「目が覚めたかしらっ!」
ジュン「金糸雀に…真紅…水銀燈!?」

ジュンは飛び起きた

ジュン「な、なんだ、どういうことだ?」

273: 2008/06/10(火) 01:20:25.97 ID:P79TGwo0O
混乱しているジュンにまた、雪華綺晶が現状を説明した。

雪「ひとつだけわからないのは…何故急に貴方が目覚めたのか」
ジュン「ん…なんか、指に痛みを感じてさ…。ホレ」

ジュンは包帯が巻いてある小指を見せた。

ジュン「誰かに捕まれた気がしたんだけど…」
真「誰もジュンに触れていないのだわ」

ジュンは小指をじっと見つめた。
窓ガラスを拾っていたときの、あの気持ちが蘇る。

ジュン「全部終わったらさ…」
真紅「え?」

ジュンが笑う

ジュン「全部終わったら、どっか、遊びに連れてってやるよ。お前ら全員さ」

274: 2008/06/10(火) 01:21:12.29 ID:P79TGwo0O
ジュン「しっかし、あんたが僕…なのか?」
島ジュン「僕だって信じられないさ」
ジュン「なんか髪とか染めちゃって…やめろよな、北の国からみたいなの」
島「なっ…!!それが大学生に対しての口の利き方か?」
ジュン「え?大学行ってんの?…偉いじゃん」
島「ま、まあ…な(嘘は言ってないもんな)」
銀「ちょっとぉ…!」

自分との対話で盛り上がってるジュン達に水銀燈が文句を言う

銀「貴方達、今の状況わかってるの?遊んでんじゃないわよぉ」

275: 2008/06/10(火) 01:22:05.10 ID:P79TGwo0O
島「そうは言っても…その、真紅の薔薇の指輪が無いとどうしようもないんだろ?」
ジュン「え?」

ジュンが自分の指を見る

ジュン「指輪…あるけど…?」

ジュンが指輪をすっと外す

ジュン「これだろ?」

確かに真紅の指輪だった。


276: 2008/06/10(火) 01:22:39.26 ID:P79TGwo0O
雪「な…なんで…?」
金「さっきまで、付いてなかったかしら!」
ジュン「……?」
真「きっと…指輪は自然とジュンを求めたのね…だからジュンの心に隠れた…」

真紅はジュンから指輪を受け取り、もう1人のジュンに手渡した

真「さぁ貴方、この指輪にキスしなさい!」

真紅が指を差し出す

島「ていうか…こいつ目ぇ覚めたなら、こいつが行けばいいんじゃ…」
雪「それは無理。ここから現世に戻れるのは肉体を持つ者だけ。だから私達も行けない。」
金「雛苺を止められるのは、ジュンと真紅…二人だけなの」

285: 2008/06/10(火) 01:52:55.27 ID:P79TGwo0O
雛「これで……後は真紅を探し出すだけね…」

双子の人形からローザミスティカか浮き上がる

雛「んじゃ、いただきま…」

それを手にとろうとした瞬間だった。

真「それは貴女みたいな者が手触れていいものじゃないのだわ」

真紅が、2つのローザミスティカを抱きかかえていた。

286: 2008/06/10(火) 01:54:04.96 ID:P79TGwo0O
雛「真紅…!?何故……!その人間は…!?」
真「答える必要はないのだわ」

そう言って腕をあげると、それに呼応するように周りの家具が浮き上がる。

雛「なんなの…その力っ!?」

真紅にとっても初めて発揮する力だったが、不思議とその使い方はわかっていた。
そしてこの力が翠星石と蒼星石がくれた力だということも理解した。

287: 2008/06/10(火) 01:54:36.88 ID:P79TGwo0O
真「行きなさいっ!」

真紅の合図と共に家具が一斉に雛苺に向かって飛ぶ。

雛「くっ、なめるなぁ!」

雛苺の薔薇は器用に全ての家具を撃ち落とし、真紅に向かって猛進した

真「無駄よ」

すると真紅の前の床がめくれ、盾となり薔薇を防いだ

雛「…なにっ……!?」

真紅は鏡を持ち上げ、雛苺に向かって飛ばす。
雛苺は身体を仰け反らせ、それをかわす。

鏡が音を立てて割れた。

288: 2008/06/10(火) 01:55:06.04 ID:P79TGwo0O
雛「はぁっ…はぁっ!!」
真「わかったわ……」
雛「………?」
真「この能力…物体を操作、強化…複製する力ね…」
雛「っ!しまった!!」

雛苺の後ろにある割れた鏡の中から、いくつもの砕けた鏡や家具の破片が飛んできた。

雛「うぁあっ!!」

いくつもの破片が雛苺に刺さる。

290: 2008/06/10(火) 01:55:35.57 ID:P79TGwo0O
雛「よくもやったわね……!!」

雛苺が両手を構えたときだった

雛「…………!?か、身体が…動かない…なぜっ!?」

雛苺は目を見開いて止まっている

真「わからない…?あなたが奪ったその、水銀燈と雪華綺晶、金糸雀のローザミスティカが、あなたに反発しているのよ…!」

真紅が雛苺の肩を掴む

真「翠星石、蒼星石、金糸雀、雪華綺晶、水銀燈……もう少しだけ貴女達の力、借りるわよ…!」
雛「な…何を…?」

真紅がふっ、と笑う

真「貴女をもう一度…封印……いや、消し去るわっ!二度と目覚めないように…!!」

294: 2008/06/10(火) 02:14:15.74 ID:P79TGwo0O
5つのローザミスティカが雛苺にまとわる。

雛「や…やめなさいっ!!そんなことして…あ、アリスゲーム自体崩壊するわっ!!」

雛苺は必氏に抵抗するが、身体はぴくりとも動かない。

真「アリスゲームは…ここで終わりなのだわっ!!」

ローザミスティカが雛苺の身体はに入り込んでいく。

真「終わりよ…」
雛苺「や、やめろ!やめて、お願いっ!!やっと…やっと自由になれたのにぃっ……!」

カッと鋭い閃光がジュンの目を突き刺した。
そして光が緩んだとき、雛苺がそこに倒れていた。

295: 2008/06/10(火) 02:15:01.43 ID:P79TGwo0O
ジュン「おっ…?」
ジュンの精神が再び身体に戻った。
島「目が覚めたか」

ジュンは辺りを見渡す

ジュン「真紅…は?」

もう1人のジュンが指を指す。
真紅は、もう動かない雛苺、翠星石、蒼星石の身を繕っていた。

ジュン「真紅……」

ジュンも理解する。
あいつらはもう動かない。

小指に鋭い痛みが走る

296: 2008/06/10(火) 02:15:42.96 ID:P79TGwo0O
真「あらジュン…目が覚めたのね」

そう言うと真紅はとぼとぼと二人のジュンに向かって歩き出した

真「じゃあ…そっちのジュン」

茶髪で、背も高くなって大人びたジュンを指差す

真「この中に入って歩き続けて。そうすれば元の世界に戻れるのだわ」

真紅の隣に暗い孔があく。

297: 2008/06/10(火) 02:16:08.31 ID:P79TGwo0O
ジュン「…行くのか」
島「そりゃなぁ…」

奇妙な沈黙が流れる。

島「お前にとっては、この人形達だったんだな…」
ジュン「え?」
島「俺たちを変えてくれる『変化の種』さ」

ジュンは動かなくなった人形を見つめる

ジュン「あぁ…。あんたは?」
島「俺は…」

大人びたジュンは少し間を開けてから

島「あの娘…だったらいいんだけど」

と、顔を赤くして言った。


そしてそれから一年して、真紅は止まってしまった。

305: 2008/06/10(火) 02:49:57.25 ID:P79TGwo0O
それから15年の時が流れた


ジュン「これでよしっ…!」

最後の修復作業が終わる。

ジュン「ふぅ……。長かった」

棚には7体の人形が並んでいる

水銀燈、雪華綺晶、金糸雀、翠星石、蒼星石、雛苺、真紅―――

306: 2008/06/10(火) 02:50:23.67 ID:P79TGwo0O
ドールは全てジュンが買い戻した。
思った通り、水銀燈と金糸雀は呪い人形として出回っていた。

雪華綺晶だけは最近まで噂すら入ってこなかった。

しかし、海外から店に来たという老婆が持っていてそれを強引に譲り受けた。

307: 2008/06/10(火) 02:50:55.77 ID:P79TGwo0O
ジュン「………………」

いくらネジを回しても、もう動かない。

ジュン「…紅茶でも入れるか…。」

あれからジュンは紅茶を入れるのがとても上手くなった。
お客さんにも評判で、それを飲むためにこんな怪しい店に来る客もいるくらいだ。

ジュン「ふぅ。」

ドールは全て修復された。15年もの間、それを生き甲斐にしてきた。
何故なのだろうか。
後悔なのか、期待だったのか。

308: 2008/06/10(火) 02:51:13.40 ID:P79TGwo0O
ジュンは今、個人で人形屋をやっていた。
人形本体や衣装の制作、また修理も請け負っていて、
そのテの世界では知らない人はいないほど有名だった。
しかし、この道入ったのも、きっとなにか、やりきれない思いがあったからなんだろう。

315: 2008/06/10(火) 03:13:34.70 ID:P79TGwo0O
ドンドンドンドン!!

そんなジュンの思いを吹きとばすかのようにドアが叩かれた。


「ちょ、ちょっと!そんなに叩いたら迷惑だよ!!」

何やら数人の女の子の様だ。

ジュン「はいはい、そんなに叩かなくても…」

ドアを開ける。案の定女の子が数人。

316: 2008/06/10(火) 03:14:52.70 ID:P79TGwo0O
ジュン「…………っ!!?」

ジュンは心臓が止まるかと思った。

「あ…あの、どうかしましたか?」
ショートカットでボーイッシュなのに礼儀正しさを感じさせる少女が
心配そうにジュンの顔を覗き込む。

「どーせ、私達が日本人じゃないからびびってるんですぅ!」
緑の長い髪をなびかせて気の強そうな子がふんっと鼻をならした。

「まぁ、確かに私達、髪の色なんかも珍しいし…驚かれるのも無理ないんじゃないかしらぁ?」
絡みつくようなしゃべり方をする銀髪の少女が、にやっと笑う。

「……………いつものこと」
いかにも無口そうな眼帯をした少女が呟く。

「ふふふ、子供だと思ってなめてると、痛い目見るかしら!!」
かわいらしいおでこの少女がかわいらしい声で喧嘩を売ってくる

「それよりおじちゃん、『ましゅまろ』は無いかしら…?」
金髪の、いかにも幼い少女がよだれをたらしている


「全く、あなたたち、何しに此処に来たのかわからないのだわ……」
大人びた…(いや、大人ぶった…と言うほうが正しいか)少女がため息をついた。

318: 2008/06/10(火) 03:15:50.24 ID:P79TGwo0O
ジュン「しん………く……」

呆気にとられる。

「あ、あの…」

ショートカットの少女の声でやっと気を取り直した。

ジュン「あ…あぁ……ようこそ。【ローゼンメイデンの館】へ……私が主の人形師ローゼンだ」

いつものように挨拶をする。

「ここはすごく良い人形が売ってるって聞いたんですけど…」
「ここではお菓子をもらえるってお友達が言ってたの!」
「とぉーっても変な店主がいるって噂なんだけど、あなたかしらぁ?」
「紅茶を頂けると聞いたのだわ」
「それよりマフィンはあるかしら!?」

少女達は口々に騒ぎ立てた。

ジュン「わ、わかったわかった…とりあえず、お入りなさい」

ジュンは少女達を館の中に案内した

319: 2008/06/10(火) 03:16:27.88 ID:P79TGwo0O
「ましゅまろ!ましゅまろ!」
「マフィン!マフィン!」

比較的幼い二人組がはしゃいでいる。

ジュン「ごめんねぇ、ましゅまろとマフィンはおいてないんだよ」

「な、なんてことかしらーっ!!」
「ましゅまろー!!」

ジュン「お詫びと言ってはなんだけど、どうだいこれなんか…」

そう言ってジュンは苺大福と玉子焼きを差し出した。

「これはなんなのかしら?」

二人はフォークでそれらをつつく。

ジュン「こっちの黄色いのが玉子焼きで、白いのがいちご……」

「いちご?」

ジュン「いや、『うにゅー』って言うんだ。面白いだろう?」

321: 2008/06/10(火) 03:17:15.76 ID:P79TGwo0O
「うにゅー?おもしろいのーっ」

金髪の少女がはしゃぐ。

「あーっ、このおじさん、嘘教えてやがるですぅ!!」
ジュン「おじさんて……」

「それは本当は苺大福っていうんですっ!」

ジュン「はっはっは。君は博識だねぇ」

緑の髪の少女は褒められたからか、少し顔を赤らめる。

ジュン「でも、うちで出すときは『うにゅー』に変身するんだ。おいしさ百倍さ」

「なんですかそれは…」

今度は呆れたようにこっちを見つめる。

ジュン「さぁ、とにかくお食べ、きっと美味しいよ」

329: 2008/06/10(火) 03:31:40.66 ID:P79TGwo0O
「いただきまーすなの!」
「いただきます…かしらあ」
「しょーがねぇから食べてやるですぅ!」

三人は次々と口の中へと放り込む

「お…おいしいの!うにゅー!不思議なのーっ」

金髪の少女が興奮して叫ぶ

ジュン「はっはっはー、不思議だろう?」

「この玉子焼きっていうのも…かなり美味しいかしら…」
「おかしいですぅ…前に食べた苺大福は…なんていうか、皮がべちょべちょなのに中がパサパサだった…
でもこの苺大福はしっとりとしていて…しかも嫌らしい甘味じゃなくて、口の中でさっと広がる…爽やかな甘味ですぅ!」

ジュンはまた、はっは。と笑う。

330: 2008/06/10(火) 03:32:44.72 ID:P79TGwo0O
ジュン「当然さ!このお菓子は全部、この私、人形師ローゼンの手作りだからさ!!」

「て、手作りかしらっ!!」
「すごいのぉー!」
「な、なかなかやるですね…!」

ジュン「お代わりも沢山あるぞーっ!」


「ちょっとあなたぁ」

銀髪の少女と、薄紫色をした髪の無口な少女が裾をひっぱった。

「あなた、とぉっても変な人だって、この辺りじゃ噂になってるわよぉ?」

ジュン「まぁ…良い歳した兄ちゃんが人形屋なんてやってりゃねぇ」

「……なんか、面白い話でも聞かせなさいよぉ。退屈だわぁ」

ジュン「面白い話かー。じゃあこんな話はどうだい…?」

334: 2008/06/10(火) 03:51:41.90 ID:P79TGwo0O
ジュン「そこで翠星石は何て言ったと思う?『チビ人間のくせに生意気ですぅ!!』ってな!?」

「あはは、なにそれ、かわいいじゃなぁい、あははは」
「ふふふ………」

二人の少女はジュンの話を熱心に聞いていた。

ジュン「そうしたら蒼星石がな『このゲームは三人用なんだ』って…」

「………ねぇ」

ジュン「みんな真紅を頼りにするんだけど、真紅にも苦手なものがあるんだ…何だと思う?『猫』だなんだよ!」

「猫?ださぁい」
「ふふふっ………」

「ねぇってば!!」

大人しそうな少女が叫んだ

335: 2008/06/10(火) 03:52:12.96 ID:P79TGwo0O
ジュン「ん?どうした?」

「どうしたじゃないのだわ、はやく私の紅茶を煎れて頂戴」

ジュン「あ…あぁ、しまったしまった…すまん二人とも、続きは後でな!」

そう言うとジュンは台所へと姿を消した。


ジュン「さぁどうぞお姫様」

「頂くわ」

少女は上品に紅茶を飲む。

ジュン「ど…どうだい?」

「………美味しい」

ジュンの顔がぱっと明るくなる

336: 2008/06/10(火) 03:54:10.50 ID:P79TGwo0O
ジュン「そ、そうか!よかった……」

ら「えぇ…。貴方にお茶の煎れ方を教えた方は、さぞ優秀だったのでしょうね……」

ジュン「あぁ、とても…素晴らしい『人』だったよ」

ジュンは誇らしい気持ちでいっぱいだった。

「でも、それ以上に…」
ジュン「……それ以上に?」

「とても…優しい味だわ…」

ジュン「…………っ!!」

その言葉に、ジュンの目から涙が溢れてた。

ジュン「あぁ…ありがとう…」

ありがとう、真紅――――

341: 2008/06/10(火) 04:07:11.86 ID:P79TGwo0O
涙を隠すために

「じゃあ、ごゆっくり」

とだけ言うとジュンは立ち去った。

しばらくしたら人形棚をじっと見ているボーイッシュな少女を見つけた。

ジュン「何をしているんだい?」

少女はジュンがいることに驚いてびくっと震えた。

「あ…いや…かわいい人形だなぁって……」

そこにはジュンが作った、割りと高価な人形が置いてあった

ジュン「買っていくかい?」

そのうちのひとつを少女に渡そうとしたが、受け取ってもらえなかった。

342: 2008/06/10(火) 04:07:37.59 ID:P79TGwo0O
「あ…すいません、あのボクそんなにお金持ってなくて……」

少女は恥ずかしそうに言う

ジュン「そっか……」

ジュンは少し考えたあと

ジュン「よし、とりあえず皆のところに行こうっ!」

そう言って少女の手を引いて歩き出した。

344: 2008/06/10(火) 04:08:03.76 ID:P79TGwo0O
ジュン「重大発表ーっ!!!」

ジュンの大声が部屋に響いた。

「な、なんですか騒がしい奴ですねぇ!!」
「なにかしら?」
「ねぇ、それより話の続きはぁ?」

ぞろぞろと少女達が集まってきた

ジュン「今日はボーナスデーです!!!」

「ぼうなすでい……?」

金髪の少女が繰り返す。

345: 2008/06/10(火) 04:08:32.38 ID:P79TGwo0O
ジュン「そう!ボーナスデー!君たちはラッキー!!」

「何がラッキーなのかしら?」

ジュンがびしっと指差す

ジュン「よくぞ聞いてくれましたおでこちゃん!」
「おでこちゃん……」

ジュン「本日に限り、君たちひとりひとりに人形をひとつプレゼントします!!」

358: 2008/06/10(火) 04:40:39.94 ID:P79TGwo0O
「な、それは本当ですかおじさん!!」

ジュン「本当だとも!あとお兄さんと呼ぶように!」

「わーい、お人形もらえるのぉ!」

「気前が良い男は好かれるのだわ、いい心がけじゃない」

「そ、そんな、悪いですよ…!!」

「なぁんか怪しいけど…まぁちょっと興味あるわねぇ」

「………どんな人形をもらえるんですか……?」

360: 2008/06/10(火) 04:41:21.52 ID:P79TGwo0O
ジュンはまたびしっと指を差した

ジュン「よくぞ聞いてくれました眼帯ちゃん!」
「眼帯ちゃん……て……」

ジュン「今からそれを御披露目しようと思う!ついて来なさい!!」

そう言ってジュンは少女達を部屋へ案内した。

361: 2008/06/10(火) 04:42:06.74 ID:P79TGwo0O
こざっぱりした部屋に、人形棚がひとつだけあり、そこに7つの人形が飾られていた。

ジュン「今日修復……いや、完成したばかりの人形師ローゼン最高傑作……」

ジュン「ローゼンメイデンだ」

「す…すごいですぅ……」
「まるで生きてる様なのだわ…」
「ていうか、これちょっと私達に似てなぁい?」
「綺麗かしらー」

皆、感嘆の声をあげた。

362: 2008/06/10(火) 04:42:42.54 ID:P79TGwo0O
「で、でも本当に良いんですか?ボクらお金は……」

戸惑う少女の頭にポンと手をのせる。

ジュン「いいんだ…君たちにはお金以上の物をたくさん貰った」

「…………?」

ジュン「その代わり…って言うのもおかしいんだけど、たまに、うちに遊びに来てくれ…歓迎するよ」

「もちろんかしらー!」

少女が跳び跳ねる

ジュン「はは、ありがとう」

363: 2008/06/10(火) 04:43:11.15 ID:P79TGwo0O
「ねーねー、この子達なんて名前なのぉ?」

金髪の少女がジュンの裾をぐいぐいひっぱる。

ジュン「あぁ…君が抱いているのが…雛苺。」

雪華綺晶、水銀燈、翠星石、蒼星石、金糸雀、そして真紅。

ジュン「誇り高きローゼンメイデンさ」

364: 2008/06/10(火) 04:44:01.00 ID:P79TGwo0O
「じゃあ、おじゃましました」
「また来るのだわ」
「明日来るかしらー!」
「明日は私達は学校ですぅ!」
「じゃあがっこーの帰りに来る!」
「………貴女はまだ学校言ってないでしょう」
「話の続き、今度必ず教えるのよぉ」

少女達は家に向かって歩き出した。

すると急に、大人びた少女が真紅をかかえて戻ってきた。

366: 2008/06/10(火) 04:44:27.45 ID:P79TGwo0O
「そういえば、あの話の女の子とこの人形の名前…おなじなのだわ」

ジュン「あ、君もあの話聞いてたんだ?
…そりゃあ、その人形も仲良し姉妹だからね」

「……ねぇ、あの話の姉妹は最後どうなるの?」

ジュン「おいおい、いきなりネタバレか?」

「いいから!」

大人しそうな彼女は意外にも声をあらげた。

ジュン「彼女達はね…」

367: 2008/06/10(火) 04:46:56.81 ID:P79TGwo0O
ジュン「今もどこかで、変わらずに仲良く暮らしているよ」

ジュン「喧嘩することも、もちろんあるけど。君たちや、その人形と同じようにね」

「…そう。………良かったのだわ」

少女の顔を見てジュンは満足そうに笑う。

ジュン「ほら、はやく行かないとみんな行っちゃうぞ?」

「あ!ほんとだ!ちょっと貴女たち少しは待つのだわっ!!」


そう言って少女は走り出した。



腕の中で眠る真紅が微笑んでいるように見えた――。



368: 2008/06/10(火) 04:47:19.47 ID:blLmpPnX0
おつ

369: 2008/06/10(火) 04:47:59.50 ID:C2XIj6Dt0
激乙
たのしかった

引用: 雛苺「真紅は死んだわ」