522: 2008/09/23(火) 19:53:48 ID:44zh2kJi

(1/9)

晴れた日、私は基地からの往復切符を手にして、ロンドンにあるオックスフォード・サーカス駅の
中央口に立っていた。

「ごめんなさいねリーネさん。こんな所に連れ出して」

ペリーヌさんがそう言って、少しだけ申し訳なさそうに、目を伏せる。
普段は厳しい事を言うけれど、決して意固地ではないこの先輩が私は嫌いではない。

「いいえ、気にしないでください。私も来るつもりだったんで」

今日の私は、先輩…ペリーヌさんにロンドンへ呼び出されて居た。二人一緒に基地を出るのはまずいと、
それぞれ別行動で駅に集合する程、念が入っている。

ネウロイの巣が消え、ガリア解放と同時にウィッチーズの解散が決まった。昨日は任務完了を
祝したパーティーだった。ふと、扶桑に帰ると言っていた芳佳ちゃんと坂本少佐の顔が浮かび、
心がチクリと痛む。

私は複雑な気分でパーティーを過ごしていた。浮かれたいような、でも浮かれてる場合じゃないような。
そんな時、ペリーヌさんに声を掛けられたのだ。坂本少佐に記念のプレゼントを買いたいから、
ロンドンを案内してくれ、と。

「その、プレゼントってどんな物を考えてるんですか…?」

ロンドンは未だ戦時下にあったけれど、ガリア解放と言う久しぶりの明るいニュースに沸いていた。
まだ道を行く人々の服装はくすんで暗い。だけど表情は心なしか少しだけ明るくなったように思えた。
私達の戦いが世界の役に立ったんだと思うと、自信のようなものが湧いてくるのだった。

「それが、まだ決まりませんの。なにしろ趣味は訓練、て感じですもの…」
「た、確かに…」

私は苦笑を浮かべ、そう答える。であれば、とりあえず商店街に行って商品を見ながら考えるのが
良いかもしれない。

「じゃ、じゃぁノッティング・ヒルに行ってみませんか?アンティークとかもありますし、プレゼントには
良いかも知れませんよ?」
「そうですわね。とりあえず動きましょう」

私達はノッティング・ヒルへ向かうため、今でたばかりの駅のゲートをくぐった。

523: 2008/09/23(火) 19:54:34 ID:44zh2kJi
(2/9)

「はぁ、すごい人出です事…お祭りですの?」
「ここはいつもこんな感じなんです…。はぐれない様に気を付けて下さいね」
「は!はぐれる訳ないでしょう!何を言ってるんですの?あなたは全く…」
「そ、そうですね…」

ノッティング・ヒルのポートベロー・ロードは沢山の人が溢れかえっていた。幅20m程度の
道路の両脇に、ひさしを出した商店がずらっと並び、そこかしこから呼び込みの威勢の
いい声が飛び交っている。私も軍隊に入る前はたまに遊びに来たなぁ、なんて少し懐かしくなる。


「燈台、カトラリー、ティーセット。靴下、国旗にピンバッチとキリがありませんわね」
「まぁ今日は休暇なんですから、ゆっくり探しましょう」

ペリーヌさんが目に付いたお店に近寄っていき、品物を眺め始める。その途端に店主から
元気に声を掛けられ、慌てて「な、なんでもありませんわ!」なんて言いながら店から
逃げ出してくる。
私はその一連の流れが面白くて、つい吹き出してしまう。

「もぅ!笑うなんて失礼ですわ!ガリア貴族は普段買い物なんてしませんの!」
「ごめんなさい、つい…。一緒に見て回りましょうか?」
「あ、あなたがそうしたいのでしたら構いませんわっ」

私はペリーヌさんを連れて手近なお店に入っていく。それを目ざとく見つけた店員さんに
声を掛けられる。

「お、きれいなお譲ちゃん達、今日は何をお探しだい?」
「ええと、上司へのプレゼントです。何か良いものありますかー?」

通りの雑踏に引きずられて、つい私の声も大きくなる。

「そうだねぇ。無難な所でこのハンカチなんかどうだい?ちょっと値は張るが上等だよ!」

私はペリーヌさんを少し振り返る。ペリーヌさんは気まずそうに首を小さく振る。

「ごめん、おじさん!また来るね!」
「おぅ、またヨロシクなっ!あとお兄さんと呼んでくれ!」
「はーい!お兄さん!」

524: 2008/09/23(火) 19:55:20 ID:44zh2kJi
(3/9)

店員さんは機嫌よく手を振ってくれた。私も手を振り返し、店を出る。
ペリーヌさんは何だか浮かない顔だ。

「どうしたんですか?ペリーヌさん」
「あ、あなた随分こう言うやり取りに慣れてらっしゃるのね…」
「昔は良くショッピングに来てたんです。懐かしいなぁ」

普段は講義でも模擬戦でも全然かなわないペリーヌさんの弱点を見つけたみたいで、
私は少し嬉しくなる。

「さっ!次の店に行きましょ!」

私はペリーヌさんの手を取って、通りを歩き始めた。



日も高くなる頃、ようやくペリーヌさんはプレゼントが決まったみたいだった。

すごく大変だった。3つくらいの候補をあれでもない、これでもないと何回もお店とお店を
行ったり来たりしたのだった。最後の方は店員さんに顔を覚えられて「また来たのかい嬢ちゃん」と
冷やかされたりもしたのだった。
だけど、ペリーヌさんは「大事な一品なんですの、妥協なんてありえませんわ」と意にも介さず、
品定めに全力を上げていた。

私はもうプレゼントは決まっていた。可愛らしい花の飾りがついた万年筆と手紙のセット。
手紙を芳佳ちゃんにねだるようで悪いかな?と思ったけど、最後なんだし強気で行かなくっちゃ!
と思って買ったのだった。自分で見ても欲しくなるぐらい、可愛らしい。

「き…決まりましたわ!」

ペリーヌさんが疲れた顔で商品を持ってくる。全体的に元気がなくなっていた、選び疲れって
あるんだなぁ、なんて暢気な事を考える。

「良かったですねペリーヌさん!じゃぁ買って来ましょう?」
「そうですわね、ちょっと行ってきますわ…」
「ペリーヌさんファイト!」

ペリーヌさんが店の奥に入って行き、レジのおばさんに商品を渡した。私をそれを店の外で見ていて、
これで一安心かな、と思った時だった。

聞きなれた高らかな笑い声が聞こえたのだ。

525: 2008/09/23(火) 19:57:10 ID:44zh2kJi
(4/9)

「わっはっは、さすが宮藤だ!私も鼻が高いぞ!」
「もー坂本さんは…。こっちですよ~!」

ミヤ…フジ…?

私は思わずお店の中に隠れてしまう。あれ?なんで隠れるんだろう。なんだか心がチクチクする…。
私はお店の外を見ると、案の定、芳佳ちゃんと坂本少佐が二人で通りを歩いていた。二人とも両手
に荷物を持って、なんだかすごく楽しそうだ。坂本少佐が大股で歩き、芳佳ちゃんがニコニコしながら
それに付いていく。

私は声を掛けそびれ、二人が過ぎていくのを店の中から眺めている事しかできなかった。
芳佳ちゃん、坂本少佐と一緒で楽しそうだったな…。
やっぱり、芳佳ちゃんは坂本少佐といるのが楽しいのかな、だから二人でショッピングに来たのかな、
もしかして芳佳ちゃんは坂本少佐の事が…。事が…。

私はさっきまでの浮かれた気分が一気に消えて、なんだか酷く沈み込んでしまった。
そんな私にペリーヌさんが声を掛ける。ペリーヌさんも二人を見つけたようだった。

「なんで声を掛けないんですの?」
「その…芳佳ちゃんが楽しそうだったから…」
「ま、あなたがそうしたいんなら構いませんけど」

ペリーヌさんの眉が少し吊り上っていた。怒らせちゃったかな…。

526: 2008/09/23(火) 19:57:45 ID:44zh2kJi
(5/9)

あのあと、私達は言葉少なに基地へと向かう地下鉄へ乗り込んだ。
車内でペリーヌさんが気分を変えるように私に話しかける。

「リーネさん、今日は本当にありがとう、あとはこれを少佐にお渡しするだけですわ」
「…」
「リーネさんもあの豆だぬ…宮藤さんに渡すんでしょう?元気お出しなさい」
「その、こんなプレゼント渡して迷惑じゃないでしょうか?」

昼間の芳佳ちゃんと坂本少佐の楽しそうな姿が目に浮かぶ。
私は胸の中のもやもやが、身体中に広がって、涙が滲んでくる。

「見損ないましたわ。リネット・ビショップ軍曹」
「…っ!」

ペリーヌさんは戦闘中を思わせる強い目で、私を見ている。

「貴女は、あのミヤフジさんと過ごした時間を、出来事をなんだと思っていますの?
ねぇ、リーネさん。貴女の気持ちはそんな事でくじけてしまうような、ちっぽけな物
なんですの?そうだとしたら、同じ扶桑の魔女を慕うものとして感じていた、私の、この、
連帯感も考え直す必要がありますわね」

少しの時間。私は声を出すことができず、視線に射すくめられるような気持でいた。

「教えて下さい、リネット・ビショップ軍曹。ううん、リーネさん」

そう言ったペリーヌさんの視線はさっきまでの厳しさが消え、私を後押しするような温かい、
優しいそれになっていた。私は涙を拭い、顔を上げる。

「ううん、私!芳佳ちゃん、宮藤さんが好きです!」
「その調子よ。ブリタニアの女性は強くてしたたかでなくては、ね?」

ペリーヌさんは少しおどけたような調子で、私のおでこをつつく。私はくすぐったくて、
身をよじってしまう。

電車が減速する。基地の最寄駅についたみたいだった。

527: 2008/09/23(火) 19:58:26 ID:44zh2kJi
(6/9)

その日の夜、夕食のあと。
私は芳佳ちゃんの部屋に向かっていた。手にはプレゼントを持って。

ドアを軽くノックする。「はーい、どうぞー」芳佳ちゃんのいつもの声が聞こえる。
私は深呼吸を一回。扉の向こうにいる芳佳ちゃんを思い浮かべる。坂本少佐の
顔も一緒に浮かんでしまうけど、頭を振って意識を集中する。

ペリーヌさん、私がんばります!

「入るね、芳佳ちゃん」

いつも奇麗な芳佳ちゃんの部屋は、今日は特に片付いていた。きっと扶桑に
帰る準備が進んでいるんだろう。

「あ、リーネちゃんどうしたの~?」
「あ、あの、芳佳ちゃんもうすぐ扶桑に変えるでしょ?だから…記念にこれ…」

私は後ろ手に持っていた万年筆の包みを、芳佳ちゃんに差し出す。芳佳ちゃんの眼が
最初おっきくなって、それからすごく嬉しそうに笑う。

「わぁ!ありがとう~!嬉しいよ!リーネちゃん!」
「喜んでもらって、嬉しいよ、芳佳ちゃん」
「ね、これどうしたの?開けて良い?」

言うが早いが芳佳ちゃんは、包みを丁寧に開けて万年筆を取り出した。

「わぁ!これって…っ!」

芳佳ちゃんが驚いたような顔をする、その、嬉しいってだけじゃ済まないぐらいの顔。

「ど、どうしたの…?芳佳ちゃん」

芳佳ちゃんはビックリ顔が直ったかと思った途端、芳佳ちゃんのカバンをあさり出した。

「ほ、本当は最後の日に渡そうかと思ったんだけど!これ!」

528: 2008/09/23(火) 19:59:30 ID:44zh2kJi
(7/9)

そう言って芳佳ちゃんが取り出したのは、私がプレゼントしたのと同じ包み紙。
え?これって…?
私は包みを指さそうとするけど、指が震えてしまう。

「そうだよ!今日ね!リーネちゃんへのプレゼント買いにノッティング・ヒルに行ったんだよ!
坂本さんに手伝って貰ったんだけど、坂本さん、道に迷っちゃって大変だったんだよ~!」

芳佳ちゃんは自分で包みを開けると、万年筆をとりだして私に見せた。
それは、私がプレゼントしたのと同じ、花柄だった。

「ほら!同じだよ、奇跡みたいだよ!すごいよすごいよ!リーネちゃん!」

そうか、芳佳ちゃん私の為に坂本少佐と一緒に…。
私は嬉しくて、自分の早とちりが情けなくて、芳佳ちゃんに申し訳なくて、
だけどとても嬉しくて…。また涙が溢れだしてしまった。

「うぅ…芳佳ちゃん!」
「ひゃわっ!」

私は芳佳ちゃんに抱きつき、強く強く抱き締める。

「リーネちゃん、なんだか分からないけど私、嬉しいよ!」

芳佳ちゃんも私の事を同じくらい強く、抱きしめてくれる。

「芳佳ちゃん、好き…大好きっ!」
「うん!私も好きっ!離れても手紙書くよ!」

その後、私達はしばらく訳も分からずわんわんと大泣きをしてしまった。

529: 2008/09/23(火) 20:00:16 ID:44zh2kJi
(8/9)

深夜、広間から続くバルコニー。芳佳ちゃんと大泣きしてしまった私は、あのあと恥ずかしくなって、
逃げるように部屋から出てきてしまったのだった。とは言え、昂ぶった気持ちのまま部屋にいても
寝られる訳もなく、こうして頭を冷やしに来たのだった。

こ、告白しちゃった…。明日からどんな顔をして芳佳ちゃんに会えばいいのかな…。

バルコニーには先客がいた。見とれるほど奇麗な金髪を持った女性、ペリーヌさんだ。月
に照らされた後ろ姿は、まるで昔読んだ絵本にでてくる妖精みたいだった。

「うまく、渡せたみたいですわね」
「はい、ありがとうございます…」
「全く…。二人の泣き声が基地中に響いてらしてよ?」
「えぇっ!」
「皆さんへの言い訳が大変だったんですから」

顔から火が出そうなほど、恥ずかしくなる。

「ま、リーネさんが良かったんなら構う事ではありませんわ」

ペリーヌさんはそう言って、手すりに寄りかかったまま背伸びをする。私もペリーヌさんの隣へ行き、
海を眺める。
夜の海峡は眠ったように静かで、静かで涼しい夜の風が頬をなでた。

530: 2008/09/23(火) 20:00:56 ID:44zh2kJi
(9/9)

「えっと…、ペリーヌさんの方は…?」
「その…まぁまぁ、ですわね…」
「はぁ…?」
「い、私の事はいいんですの!それよりリーネさん!」

ペリーヌさんが改めてこちらを見る。決意と覚悟に満ちた強い目だ。

「部隊は解散しますけど、これからまた忙しくなりますわね」

そうなのだ。私達はこれから立場を変え、自由ガリア空軍とブリタニア空軍から派遣される
第一次ガリア調査支援大隊として、共に復興に尽くす事が決まっていた。

「わたくしはダラダラと復興をするつもりは有りませんわ。一刻も早く祖国を復興して、そして、
私は扶桑に行きます」
「…はいっ!」
「リネット・ビジョップ軍曹。頼りにしてますわよ?」

ペリーヌさんはそう言うと、お茶目っぽく微笑んだ。

「Yes,ma'am!ペリーヌ・クロステルマン中尉!これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね、"Camarade"」

私達は強く強く手を握り合った。夜空には数えきれないほど沢山の星が輝いていた。



引用: ストライクウィッチーズpart5