1: 2008/07/18(金) 18:56:34.75 ID:Lg30nKxV0

12月も終わりに近づいた寒空。
暖房のついた暖かな室内。曇ったガラスの内側

翠星石がせっせとオーブンからスコーンを運び出している


のりが結婚して家を出てから、翠星石が家事全般を担当するようになった
はじめのうちは危なっかしかったものの、もう大分、板についてきている

翠星石はいつも忙しそうにしているが
寂しがり屋の翠星石にとってはちょっと忙しいぐらいが丁度いいのかもしれない


「真紅遅いな・・・何やってるんだ?」
ジュンが頬杖をついて翠星石に聞いた。

「さぁ?本でも漁ってるんじゃないですか?」
翠星石が背を向けたまま答える


2: 2008/07/18(金) 19:01:03.62 ID:Lg30nKxV0
2ヶ月前。

のりの結婚式の日。

nのフィールドで雪華綺晶の攻撃を受けて以来
明らかに真紅の様子はおかしかった


前までも時々、鏡を心配そうに見つめていることはあったが
2ヶ月前からは鏡を見る頻度が急激に増した

日に十回以上、鏡を見つめていることもあった。




4: 2008/07/18(金) 19:05:40.94 ID:Lg30nKxV0

「おまたせですぅ。ホイップクリームいるですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・む。」

「・・・・・・・」

「ジュン!!」

「うわぁ!!」

「翠星石を無視するとはいい度胸です・・・。出来立て熱々のこのスコーンは
 真紅と二人で食べてしまうですかね・・・」

「・・・・わ・・わるかったよ・・ちょっと真紅見てくる」



「・・・チビ人間のスコーンにはわさびでも忍ばせとくです・・・」




5: 2008/07/18(金) 19:08:12.62 ID:Lg30nKxV0







コツ、コツと音を立てて微かに照らされた暗闇を真紅が歩く
少し前には水銀燈の人工精霊、メイメイが飛んでいる


「水銀燈・・・」


メイメイから知らされた。
水銀燈が敗北したことを・・・もう、ずっと前に。




6: 2008/07/18(金) 19:10:56.50 ID:Lg30nKxV0
自分が安穏と平和を楽しんでいるときに、あの子は一人
マスターのために闘っていた


自分なりのやり方でアリスゲームを制する。
自分なりのやり方、それは、闘わないこと。


でもそれは、自分達ローゼンメイデンの宿命から目をそらした
『逃げ』だったのではないか

闘いを避け、逃げ続けたせいで雛苺が犠牲になってしまったのではないか

だが蒼星石は闘いの末、動かなくなった

あれでよかったのか、闘うべきだったのか


・・・わからない。何が正しかったのか。

だが、メイメイが自分の前に現れた時点で、真紅はある一つの使命を感じていた

8: 2008/07/18(金) 19:16:52.87 ID:Lg30nKxV0


メイメイが飛行を止め強く瞬いた。

「・・・・・・・雪華綺晶。」


めぐを膝に乗せ、微笑んでいた雪華綺晶がゆっくりと顔を上げる
ボロボロになったドレス。無い右足。ぼさぼさの髪

視線を外すと、少し離れた所に水銀燈がふわふわと浮いている
そのドレスもまた、ボロボロであった。

ここであった戦闘の激しさが窺い知れる


「・・・まぁ・・・お姉さま」

雪華綺晶が口を開く


9: 2008/07/18(金) 19:21:00.15 ID:Lg30nKxV0


「貴女・・・どういうつもりなの?ドール同士のアリスゲームならまだしも
 人間を巻き込むなんて、お父様の考えに背いているわ」


「・・・・それはお互い様ではないのですか?
 ゲームを放棄し逃げ回っているお姉さまに言われたくはありませんわ。」


「・・・・・・・・・・・・」


沈黙。
それを破ったのは雪華綺晶だった



10: 2008/07/18(金) 19:21:50.78 ID:Lg30nKxV0
「あぅっ!!」
白い茨を伸ばし、真紅を叩いた。

「要らないのでしたら私にください・・・貴女のローザミスティカ・・」

「・・・・お断りするわ」

ヨロヨロと力なく立ち上がり、両手から薔薇の花びらを出す


アリスゲームをするわけじゃない。

水銀燈があんなにボロボロになってまで取り返したかったあの人間を

自分が取り返す。
それが逃げ続けた自分に与えられた使命だ


紅と白が激しくぶつかった



11: 2008/07/18(金) 19:26:41.80 ID:Lg30nKxV0
「おーい。真紅ー。」

真紅が居るであろう鏡の部屋に着く前に
廊下からジュンが真紅を呼ぶ

「スコーン食べちゃうぞー」

返事は無い

「真紅?」

鏡の部屋のドアを開ける。
誰も居ない。暗い部屋の中、鏡がゆらゆらと光を放っている

「あいつ・・・ッ!
 翠星石!!来てくれ!!」

どたどたと足音を立てて翠星石が飛び込んでくる


「何事ですか!?」

ゆれる鏡面を見て、翠星石も一瞬で事態を理解した


「・・・・・・・・・!!ジュン!いくですよ!」

二人が真紅を追って鏡に飛び込んだ。

13: 2008/07/18(金) 19:30:05.41 ID:Lg30nKxV0
見てる人いるかな?

ゴメン1時間位したら戻るから
少しの間保守しててくれますか?

http://rozeen.rdy.jp/up/vipww28324.jpg

23: 2008/07/18(金) 20:39:07.70 ID:Lg30nKxV0
「みっちゃんは~今日もお仕事~かしら~」

奇妙な歌を歌いながら金糸雀がnのフィールドを歩く
目的地は桜田家だ。

みつが仕事の時はほとんど毎日桜田家に顔を出すようになっていた

ただ単に暇だから、ということもあるが
桜田家に顔を出すのは、翠星石や真紅のためにもなると信じていたからだ


「翠星石、卵焼き上達したかしら。
 前のはみっちゃんの卵焼きには遠く及ばなかったかしら~」

独り言を漏らしながら、金糸雀が軽やかに歩を進める


その先、目ではまだ捉えられない程遠い距離

そこで闘いは続いていた

25: 2008/07/18(金) 20:45:51.05 ID:Lg30nKxV0





「くっ!」
真紅が弾かれる

水銀燈と闘い、満身創痍とは思えないほど雪華綺晶は強かった
真紅の放つ薔薇の花びらは全て、白い茨にさえぎられる

一方、雪華綺晶の茨は確実に真紅の身を削る


くるっと反転し、体制を立て直すと

一か八か。真紅はステッキを片手に雪華綺晶に突進した

しかし、捨て身も通用せず
雪華綺晶の目の前、真紅は茨に押さえつけられた


「う・・・」

26: 2008/07/18(金) 20:46:46.94 ID:Lg30nKxV0

「終わりです・・お姉さま。」

右足を失い、立つことの出来ない雪華綺晶が
それほど高くない位置から声をかける

「・・・雪華綺晶。貴女はこんなことをして本当にアリスになれると思ってるの?」

「・・・・・」

「どんな花よりも気高くて!どんな宝石よりも無垢で!一点の穢れも無い!
 そんな少女が・・・!アリスゲームとは名ばかりの・・・こんな頃し合いで生まれると思っているの!?」

「・・・・・・いいえ。」

「!!?」

「思えば・・・いつからか・・私がなりたいのはアリスではなくなったのかもしれません」

「・・・何をいって・・・」

「エレーンという、美しい女性がいました。しなやかで暖かくて、儚かった。
 ・・・私にとっては母のような存在でした」

「・・・・?」


27: 2008/07/18(金) 20:47:42.67 ID:Lg30nKxV0

「私はあんなふうになりたいと・・・」

「・・・貴女・・・まさか人間に・・?」

「・・・そのためにはローザミスティカとこの娘が必要なのです


 ・・・・・・・少し・・・話しすぎました。」


「・・・・・っあぁ!!」

茨の圧が増す。ミシミシと真紅の体が音を立てる

28: 2008/07/18(金) 20:49:44.69 ID:Lg30nKxV0






「真紅!!!!」



瞬間。視界が輝いた。


5年前と同じ。暖かな光
まるでその人の持つ可能性を表したかのような虹色。

真紅を押さえつけていた茨は砕け散っていた。


「・・・・大丈夫か?真紅?」

「・・・・・・ほんとに・・・立派になったわね。ジュン」
いつでも、自分がピンチの時には助けに来てくれる
下僕どころか、白馬の王子様だ

29: 2008/07/18(金) 20:51:55.51 ID:Lg30nKxV0
「真紅!」

翠星石が駆け寄る。
ジュンは視線を真紅から水銀燈に移した

「・・・水銀燈・・・」
唇を噛み締める。守れなかった・・・

キッと雪華綺晶を睨む
「雪華綺晶・・・もうやめるんだ。こんなことをしてもアリスには・・」
「無駄よ。無駄なのジュン。」

ボロボロになった真紅がジュンに抱かれながら言った

「?」

「彼女の目的は別のところにある。」

「・・・・・・・・・・・・」
雪華綺晶は表情を変えない

31: 2008/07/18(金) 21:01:22.50 ID:Lg30nKxV0

「あーーーーーーーーーー!!!!」


けたたましい叫び声が響く。
金糸雀がいつの間にか水銀燈の傍らに来ていたのだ

「水銀燈が・・・水銀燈が・・・」

オロオロとしながら水銀燈の肩を揺さぶる
水銀燈は力なくカタカタゆれる

「何やってるですか金糸雀!ここは危ないです!離れるですぅ!!」
翠星石。こっちも大声。


その時

「・・・あ・・・」

ジュンが何かに気づき、ぽかん、と口を開ける





32: 2008/07/18(金) 21:02:36.63 ID:Lg30nKxV0




今まで眠ったままだっためぐが

ゆっくりと、目を開けた





雪華綺晶が目を見開く。雪華綺晶にとっても予想外の出来事らしい

「・・・水銀燈・・・?どこ・・・?」

きょろきょろと周りを見渡す

「・・あ・・ぅ・・」
雪華綺晶は口をぱくぱくさせている


35: 2008/07/18(金) 21:13:00.67 ID:Lg30nKxV0

「・・・・! 水銀燈!!」

少し離れた所にいるボロボロの真っ黒な天使が目に入る。
ずっと眠っていたせいか、うまく体を動かせないめぐは
這って水銀燈のもとへ向かっていった


金糸雀が後ずさる。

手を震わせながら、めぐが水銀燈をつかんだ

「・・・水銀燈?ねぇ?おきて?」

反応がない。体を揺するが首がカタカタと揺れるだけ


「・・・・・あ・・あぁ・・水銀燈・・・水銀燈ーー!!」

水銀燈を抱きかかえ
黒衣に顔をうずめためぐの泣き声が、暗いnのフィールドに響いた。



37: 2008/07/18(金) 21:16:08.79 ID:Lg30nKxV0


ずっと笑顔か、無表情だった雪華綺晶の顔が明らかに困惑している

あの日がフラッシュバックする。


氏んでしまったとっても大切な、優しいあの人。



エレーンは涙を流していなかったが、笑顔から深い深い悲しみが伝わってきた
大事な人を失った、深い悲しみが



「あ・・・ぁ・・エレーン・・・ッ」
雪華綺晶の目に涙が浮ぶ

38: 2008/07/18(金) 21:17:33.37 ID:Lg30nKxV0

あの日エレーンが味わった悲しみを、今度は自分が他人に味あわせている


右足を失った雪華綺晶もまた、這って動く。涙を流し体を引きずりながら。
そして、やっとのことで大声で泣き続けるめぐの背中をきゅっと、つかむ



「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」



泣きながら何度も何度も、謝った。




41: 2008/07/18(金) 21:23:30.10 ID:Lg30nKxV0


「なんだ・・・どうなってるんだ?」
状況が飲み込めていないジュンが、独り言のように言った

「・・・・面影を重ねていたのね。」

「・・・?」

「・・・あの子も、もう闘えないわ」


水銀燈を抱き大声で泣き続けるめぐ、それにすがりつく雪華綺晶
少し離れたところで見守る金糸雀、翠星石、真紅にジュン

もう、この場にアリスゲームを続ける気のある者は居なかった


42: 2008/07/18(金) 21:24:32.73 ID:Lg30nKxV0
静寂。
めぐと雪華綺晶のすすり泣く声だけが響いている






カチャ・・・





どこからか、扉の開く音がした

46: 2008/07/18(金) 21:29:48.31 ID:Lg30nKxV0
「どうやら、おわったみたいだね」


いつの間にか階段が出来ている、その上から声。


初めて聞く、男の声
泣いている二人を除いて、その声に視線が集った


「う・・・・さぎ?」



そこにいたのは
本当に、まるっとしていて小さい
真っ白な、赤い目のウサギだった。


51: 2008/07/18(金) 21:37:26.94 ID:Lg30nKxV0
「今、完全にアリスゲームは停止した。敵意と、恐怖に包まれ続けていた
 このnのフィールドもようやく、ありのままの姿にもどれそうだ」

白いウサギはお構いなしに喋り続ける


「ちょ・・・ちょっと待つです!お前何者ですか!」

誰もが思っていた疑問を翠星石がぶつけた




「僕はラプラス。ラプラスの聖」



「!!?」


「ラプラスの魔のせいで、君達が頃し合いをするようになって
 ずっとこのnのフィールドは負の感情に包まれていた。

 だから今の、この世界の番人の僕は姿を現すことが出来なかった」



52: 2008/07/18(金) 21:39:16.98 ID:Lg30nKxV0
ジュンが周りを見渡す。
そういえばいつの間にか真っ暗だったnのフィールドが明るくなっている。

口をもぐもぐ動かして白兎が続ける

「メイメイ、ピチカート、スィドリーム、レンピカ、ホーリエ、ベリーベル
 長いこと待たせたね。ローゼンが待っているよ」



「!!!」
「な・・・何をいってるかしら?」



聞きなれた人工精霊の名。だがそれは明らかに
ドールズに向かって呼ばれていた


56: 2008/07/18(金) 21:43:49.94 ID:Lg30nKxV0
「僕も、ラプラスの魔も、このnのフィールドも。
 全て人間の心そのものなんだ。

 人間の暗い心の部分。
 イタズラ好きのラプラスの魔は君達を使ってゲームをしていたけど
 僕は、ローゼンの望みを叶えてあげたい」


「お・・・おい!意味がわからないぞ!」
ジュンが言う

「・・・一から説明しないといけないみたいだね」





「君達ローゼンメイデンはもともと人間だったんだ。
 それぞれメイメイ、ピチカート、スィドリーム、レンピカ、ホーリエ、ベリーベル
 という名のね。」


「・・・・・・・・・!!」


61: 2008/07/18(金) 21:51:46.91 ID:Lg30nKxV0

「君達は数奇な運命に巻き込まれ、命を落とした。でも
 君達を命より大事に思っていたローゼンが君達を蘇生させようと試みたんだ。そうして作られたのが
 ローゼンメイデン。君達なんだ」



「・・・私たちが・・・人間だった・・・?」


全員、信じられないといった表情だった。

真紅はぽかんと口を開け、翠星石は胸に手を当てる。

ジュンはウサギの次の言葉を待っていた。



「・・・そう。だから。ローゼンに会うのはローゼンメイデンの君達じゃあない。
 君達のオリジナル。6人の少女だ」





「・・・え?」




64: 2008/07/18(金) 21:55:35.02 ID:Lg30nKxV0



空気が凍る
とてつもなく長く感じられる静寂

唐突に
「・・・・今・・・なんて・・?」
真紅が俯いて聞いた

「君達はローゼンには会えない」
淡々と白兎が答える

「・・・じゃあ私たちが今までしてきたことはなんだったの・・・・」
声を震わせながら真紅が質問を続ける

「・・・無駄だったね。」


「ふざけないでッ!!!!!」

真紅が叫ぶ。
翠星石がビクッと体を細める。

それと同時に白兎がふわりと目の前に下りてきた

「周りを見てごらん」

「・・・?」

65: 2008/07/18(金) 21:55:57.48 ID:Lg30nKxV0
>>63
亜音速乙

67: 2008/07/18(金) 22:00:11.82 ID:Lg30nKxV0


「・・・・・・・・・ッ!!」




真紅、翠星石、金糸雀、ジュンが目を見開き声にならない声を出した
そして、数秒置いて叫んだ




「蒼星石っ!!!!」「雛苺っ!!!!」






74: 2008/07/18(金) 22:10:44.47 ID:Lg30nKxV0


そこには、蒼星石と雛苺がいた。


「あ・・・あれ?僕はいったい何を?・・ぅわっ!!」
「うわぁぁぁぁん!!蒼星石!蒼星石ぃ!!」


泣きじゃくる翠星石に抱きつかれ蒼星石が倒れる。

「翠星石!?どうしたの?」



「うゆ・・?ここはどこなの?」

「ほ・・・ほんとに雛苺かしら・・・?」
疑り深いまなざしで、恐る恐る雛苺に近づく金糸雀。

「あーカナだぁ!こんにちわなの!」

消えてしまう前と、なんら変わりない雛苺。
「うぅ・・・・雛苺ぉ・・・」

「カナ!?どうしたの?」

金糸雀は安堵のあまり、涙してしまった


76: 2008/07/18(金) 22:11:37.81 ID:Lg30nKxV0


少し離れたところ。
泣き続けるめぐの腕のなか


「・・・・・・・・・・・めぐ・・・?」

気だるそうに水銀燈が目を開けた。

「!!!!!!水銀燈!!?」

ワンテンポおいて、再び大声を出してめぐが泣き始めた
腕にいっそう力がこもる

「ちょっとぉ!苦しいわよ!離しなさぁい!!」



「・・お姉さま・・・!?」

雪華綺晶もハッと右足の異変に気づく
足が治っている


78: 2008/07/18(金) 22:15:56.99 ID:Lg30nKxV0


「こ・・これは・・・」

「どういうことなの・・・?」
真紅とジュンはただただ驚いている

対照的にラプラスの聖は落ち着き払って話し出す

「君の力を借りたんだ、真紅。正確には君のローザミスティカの力をね」
白兎は当然のことのように話し続ける



「ローザミスティカはあらゆる奇跡の力を持つ可能性の結晶。

 それは物を壊したり、生み出したり。
 心を育てたり、壊したりもする。
 ローゼンはそれを君達に命を与えるためだけに使ったんだろうけど
 
 ローザミスティカの持つ『ある力』は分けられ、真紅。君に与えられた」


81: 2008/07/18(金) 22:18:17.69 ID:Lg30nKxV0






「・・・・・・・・時の・・・ゼンマイ・・・?」
ジュンが零す





「そう。時のゼンマイは失くしてしまった時を巻き戻す。
 桜田ジュン。この運命に彼女達を導いてくれた君だからこそ。僕もがんばろう」

「?」
ジュンの足元にラプラスが近寄る。

「このnのフィールドは僕が全力で抑えてもたぶん3日程で前までの
 ラプラスの魔が支配する混沌の世界になってしまう。
 そうなればもう彼女達の望みは永遠に叶わなくなってしまう」

「なんだって!?」

「ここは様々な人間の心の干渉を受けているからね
 ・・・・でも、3日間。僕が全力でこの世界を保つ」

「・・・・・・?」

88: 2008/07/18(金) 22:26:12.29 ID:Lg30nKxV0
「・・・だから・・・その間に彼女達との別れを済ませてくれ。
 それが終わったら・・・
 ・・・・真紅の時のゼンマイで。ローゼンが失ってしまった時を巻き戻す
 ・・・・・そうなれば・・・・











 ローゼンメイデンは、この世界から消える」





「・・・・・・・え?」

途中から雛苺に抱きつかれ倒れていた真紅にも、話は聞こえた



あと3日。
別れは突然にやってきた

94: 2008/07/18(金) 22:33:02.40 ID:Lg30nKxV0


桜田家。鏡の部屋


「蒼星石~蒼星石ぃ~」
「翠星石・・・苦しいよ。」

泣きじゃくる翠星石に抱きつかれたまま、蒼星石が鏡からでてくる。

雛苺と金糸雀も元気いっぱいに飛び出してきた。

「ただいまーなのー!のりー!?」

「雛苺。ちょっと前にのりは結婚してこの家にはいないかしら。」

「!!・・・・うゅ・・・」

「大丈夫だよ雛苺。すぐに会えるよきっと。」
寂しそうにする雛苺を見て
ふらふらと安定がなさそうに蒼星石が言う。



95: 2008/07/18(金) 22:36:01.94 ID:Lg30nKxV0

鏡の向こう側。nのフィールド
桜田家へとつながる穴の手前、ジュンが足元のウサギと話す。


「・・・時のゼンマイを巻いたら本当にあいつらはいなくなっちゃうのか?」


「・・・うん。時が巻き戻ってもローゼンだけは記憶を保てる。
 そうして6人の少女が生きている頃に戻ればローゼンはもう彼女達を失うことはしないはずだ。
 そうなれば、ローゼンメイデンが作られるきっかけが無くなる」

「・・・つまり。あいつらは存在しなかったことになるのか・・・」

「・・・・・君達の記憶からも、きっと。ローゼンメイデンは消えるだろうね・・・」

「そう・・・か。」
ジュンが眉間に皺を寄せる。

「・・・・・・それじゃあ。」



心配そうに見つめる真紅の頭にジュンがポン、と手を乗せる
ウサギに背中を見送られ二人はnのフィールドを後にした



99: 2008/07/18(金) 22:38:18.38 ID:Lg30nKxV0


有栖川大学病院。

真紅たちとは別の出口で出てきた水銀燈とめぐ

それから
雪華綺晶。

「水銀燈・・・うっ・・・げほっ!げほっ!!」

「めぐ!?」

咳き込み、胸を押さえ、体を縮めるめぐ
長い間精神を引っ張り出されていた影響か
めぐの心臓は発作を起こした

「めぐ!!しっかりしなさい!!今お医者さんが来るわよぉ!」
水銀燈がガチャガチャとナースコールを連打する

「あ・・・あぅ・・・」
雪華綺晶はオロオロしながら手を口に当てている


101: 2008/07/18(金) 22:41:37.24 ID:Lg30nKxV0
「雪華綺晶!何してるの!人間が来るからこっちにかくれなさい!!」

水銀燈が窓の向こう側からぶんぶん手を振っている。
雪華綺晶は引っ張られる様に窓の外へ出た。

「ふぅ・・・大丈夫なんでしょうね・・・めぐ・・・」

窓の下の僅かなスペースに腰を下ろし、水銀燈がため息をついた


「・・・・・」

「・・・・・めぐがわんわんうるさかったけど、あのウサギの話聞こえた?」

「・・・・・・はい。」

「そう。アリスゲームは終わったのよねぇ・・・何の結果も、意味も見出せないまま」

「・・・・・・・・」

「私たち消えちゃうのよ、3日後には」

「・・・・・・・あの・・」

「?」
どたどたと病室に人がなだれ込んでくる音が聞こえる
めぐの処置が始まったようだ


103: 2008/07/18(金) 22:44:06.13 ID:Lg30nKxV0
「怒らないのですか?」

「・・・怒る意味も、気力もないわよ
 めぐは、まぁ無事だったし。何百年も続けてきたことに意味がなかったのよ?
 なんだかどっと疲れがでちゃったわぁ」

「・・・・・・・・」

「・・・・どっちにしても、あと・・3日で消えちゃうんだもの
 喧嘩・・・しても・・しょうがないわ・・」

顔を隠すように水銀燈が下を向く
震えている。

「・・・・・・お姉さま・・・」

「・・・あっち向いて頂戴。」

「・・・・・・・・・はい」

バタバタと病室が騒がしくしているのを後ろに聞きながら
雪華綺晶は夜空を眺めた

104: 2008/07/18(金) 22:46:02.94 ID:Lg30nKxV0




「・・・・ただいまー」
ジュンと真紅が、みんなより少し遅れて鏡の部屋に戻る

「おかえり!ジュン」

雛苺がにっこりと笑って迎える
その後ろに翠星石、蒼星石、金糸雀がいる

「・・・ただいま。雛苺。」
ジュンの視界が滲む。

この娘がいなくなってから、自分は氏ぬ気でがんばってきた
もしいつか、この娘が帰ってきたら、この娘に失望されないように。

そんなこと忘れてしまうほど、目の前に雛苺がいることが嬉しかった。
反射的に雛苺を抱きしめる

「うゆ!・・・くるしいのージュンー・・・」

こいつらは本当にわかっているのだろうか。
あと3日。一緒に過ごしたこの日々に終わりが来ようとしていることを

108: 2008/07/18(金) 22:52:10.03 ID:Lg30nKxV0
「チビ人間!なーにやってるですか!べそべそ泣くなです!」

「・・・・お前が言うか。性悪人形」

「!!・・・チビ人間~~~!!」
翠星石が顔を赤くする

ひょいっと雛苺を抱き上げる
「スコーン食べるとこだったんだよな。いこう」

「スコーン!いただくかしら!翠星石のスコーンは絶品かしら!!」
金糸雀が一足先にリビングに走りだした

真紅と蒼星石がやさしく微笑み、翠星石は頬を膨らましている

「ジュン大きくなったのー!」
喜ぶ雛苺に笑いかけ、ジュンはゆっくりとリビングに向かって歩き出した



まだ3日ある。今、泣いてなんかいられない




たどり着いたリビングでは
金糸雀がわさび入りスコーンに苦しんでいた

109: 2008/07/18(金) 22:53:55.00 ID:Lg30nKxV0






早朝。

ジュンが顔を洗い、着替えて、時計を見る
4時半。
冬のこの時間はほとんど夜だ。

真紅達と一緒にいられる時間を出来るだけとるために早起きしたのだが
肝心の真紅たちが眠ったままでは意味が無いことにジュンは今、気がついた

「はぁ・・・」

白いため息をつきながらカレンダーを見る
今日は12月23日。
真紅たちと別れなければならないのは12月25日

とんだクリスマスだ、とジュンは思った

昨晩のりにもメールをした
クリスマスには料理を作りにきてくれるらしい


手がかじかむほど寒いリビングで
ジュンは皆が起きてくるのを待った

110: 2008/07/18(金) 22:55:07.22 ID:Lg30nKxV0


「え?」



ジュンが聞き返す

「だからー。ちょっと出かけてくるです。ね?蒼星石」

「うん。ちょっと行きたいところがあって」

「そ・・・・・・そうか・・・二人で大丈夫か?ついて・・・」

「あー!構うなです!いくですよ蒼星石」

翠星石と蒼星石は起きてくるなり出かけていってしまった



「・・・・雛い
「ジュン!ヒナ、巴に会いにいってくるの!」

「・・・・そうか・・・」



113: 2008/07/18(金) 22:56:50.99 ID:Lg30nKxV0



「・・・・・・・・・・元気を出しなさい。私がいるでしょう?」

「・・・・・・うん。」

真紅に励まされて、少し涙がでた。
なんだか本当にみんなもうすぐいなくなってしまうのか分からなくなってしまうほど
今まで通りの日常。

ウサギの言葉は嘘だったんじゃないかと思えるほどの・・・



「はっ!くんくんの時間だわ!!ジュン!!録画の準備を!」

「・・・はいはーい・・・」



117: 2008/07/18(金) 22:58:52.87 ID:Lg30nKxV0




「やっぱりなかなか遠いですねー」

「そうだね。」

坂道の上。薔薇屋敷に向けて鞄に乗った双子が飛ぶ

翠星石は蒼星石に久しぶりに会えたことでにこにこと、常に顔が緩んでいる。
それを見て、蒼星石も嬉しそうにしている。


「マスターは元気にしてる?」
蒼星石が聞く

「・・・・・です。」

「?」

5年前、蒼星石が綺麗に手入れした薔薇園の上を通る
今も相変わらず綺麗に咲いている

大きなガラスが貼られているテラス。
二人の鞄は着地した

119: 2008/07/18(金) 23:00:47.03 ID:Lg30nKxV0

「おーい!執事!あけるです!」
ガンガンとガラスを叩く翠星石

ガラスの向こうからパタパタと走ってくる初老の男性が見える。

「はいはい。お待たせしました。・・・・・!その方は!?」

「妹の蒼星石ですぅ。・・・早速案内するです」

「この方が・・・」

「?どういうことだい?翠星石」
事情を飲み込めない蒼星石が首をかしげる。

「・・・・・・もうおじじはいないです」

「・・え・・・?」

「・・・おじじは、もし蒼星石が元に戻ったなら
 是非、蒼星石に見せたいものがあると言っていたです」


121: 2008/07/18(金) 23:02:33.82 ID:Lg30nKxV0




屋敷から外へでる。開けた広場には一面、色とりどりの薔薇が咲いている
その奥から子供達の楽しそうな声

「旦那様は貴女が動かなくなった後、この薔薇園を一般開放しました。
 このような郊外にある薔薇園にこんなに人が集るということは
 貴女が手入れをした薔薇が相当美しいからということでしょう

 私は話でしか貴女のことを知りませんが、聞いたとおり素晴らしいお方のようですね。」

蒼星石と翠星石の少し前を歩きながら執事が笑顔で褒める。


「・・・いえ、そんな・・」
遠くに聞こえる子供達の声の方を眺めながら蒼星石が力なく言う

翠星石はそんな蒼星石を心配そうに見ていた

「こちらです」

人の声のする方とは違う方向に案内される
細い道の先、門がある。
執事がキィ、とゆっくりその門を開けた


「わぁ・・・」

130: 2008/07/18(金) 23:12:28.51 ID:Lg30nKxV0


蒼星石の視界に青い世界が広がる。

広場から離れた、隔離された空間いっぱいに
見たことの無い、青い薔薇が植えられている


「これは・・!?」
蒼星石が目を輝かせて聞く


「品種改良で生まれた、名も無い薔薇です。
 旦那様はずっと『蒼星石』と呼んでいましたがね」

執事が微笑んで答える。

「おじじは運がよかったです。雪華綺晶に捕まったあとも
 しぶとく逃げ切って、この薔薇を育て始めたです」

「そう。しばらく眠ったままの状態が続いていましたが、目覚めるや否や
 この薔薇を仕入れ、ここで特別に旦那様が手入れをなされたのです」


「マスターが・・・」


138: 2008/07/18(金) 23:19:21.39 ID:Lg30nKxV0
「・・・おじじは、絶対蒼星石が帰ってくると信じていたですよ。
 だから、蒼星石を喜ばせようと、車椅子で必氏に手入れをしていたです」


「・・・マスター・・・」
一つの美しく、青く咲く薔薇の前に蒼星石が跪いた。


「・・・この薔薇は、本当は絶対に咲くはずの無い薔薇なのです。
 誰かがこの青い薔薇を見たいと、強く想っていなければここにはありえないのです。
 ・・・蒼星石も同じです。きっと・・・
 おじじがこんなにも強く想っていなければ蒼星石は帰ってこれなかったです。」

「・・・・・・・」


140: 2008/07/18(金) 23:21:45.16 ID:Lg30nKxV0
「はい・・・。旦那様は薔薇の手入れをしながら何度も私に
 『蒼星石は喜んでくれるかな』と心配そうに、しかし愛おしそうに聞いておられました。」

「・・・・・・・」
蒼星石が顔を上げ、執事を見る。
優しく微笑んでいる。

 
「私は貴女の先ほどの目を見て安心しました。

 旦那様の想いは、無事貴女に届いたようです」


「・・・・・・・・ッ」
蒼星石が帽子をぎゅうっと目深にかぶり
手を震わせて一つの薔薇をすっと引き寄せる。




142: 2008/07/18(金) 23:23:12.58 ID:Lg30nKxV0



「・・・とても・・・き・・れい・・です・・。マスター・・・・・」



青い薔薇に雫が落ちる。
肩を震わす妹を、翠星石はぎゅっと抱きしめる





やさしい青と翠に包まれて、蒼星石はしばらくの間
涙を流した


149: 2008/07/18(金) 23:29:52.45 ID:Lg30nKxV0




「・・・・・・」

柏葉家。
柏葉巴が携帯を睨んでいる
今日は12月23日。

「桜田君・・・・」

巴は誰が見ても相当な美女だ。そのためか、隠してはいたが昔からかなりモテていて
現在もクリスマスを前にしてかなりの人数から誘いがあったが
ことごとく断ってきた。

今、名前をつぶやいた男のために。

不機嫌そうに目を細めて携帯の液晶を睨む

オルゴール音が流れた。巴の着信音だ
「桜田君!?」
急いでメールを開く

155: 2008/07/18(金) 23:37:22.80 ID:Lg30nKxV0

[連絡遅れてゴメン。雛苺が戻った
 そっちに行ったから、話し聞いて、遊んであげて]

「え?・・・雛苺が?・・・??」

クリスマスの誘いじゃなかったことに対する不満と

雛苺が戻ったという、にわかには信じがたい情報とが混ざって
巴の頭は混乱した


156: 2008/07/18(金) 23:38:03.85 ID:Lg30nKxV0


「巴。」


不意に後ろから声を掛けられた
聞き覚えのある。懐かしい大好きな声。

「・・・・・・・・・・雛苺?」

「ただいま。」
にっこりと笑って金髪の可愛らしい女の子が立っている

固まったままだった巴の表情が徐々にゆがむ
「ひ・・・な・・・ひないちごぉ~~~!!」


ぼろぼろと涙をこぼしながら、力いっぱい抱きしめた。

「うわぁぁぁーーー!!」
「泣かないでなの。はい。元気のおまじない。」

頭をやさしくなでられる
相変わらずくすぐったい、小さな手

袖で次々とあふれ出てくる涙を拭く


「・・・おかえり。雛苺。・・・くすぐったいよ」
雛苺は満足そうに、より一層笑顔を輝かせた。

162: 2008/07/18(金) 23:44:01.42 ID:Lg30nKxV0




お皿に山積みされた苺大福、雛苺に言わせれば『うにゅー』。

それに目をきらきらさせて雛苺が飛びつく

「う・・・うにゅーなのー!!!」
パクパクと口に放り込んでいく

「ふふふ。喉に詰まらせないでね。」
先ほどまでの巴の不機嫌さはどこかに吹き飛び、笑顔で雛苺を眺める

「んぐんぐ・・・巴、ますます綺麗になったのー!雛嬉しいの!」

「まぁ、ありがとう。雛苺」
割と慣れた感じで、巴が応える。

「ねぇねぇ。のりは結婚したのよ。巴はしないの?」

雛苺の純粋な笑顔にぴきっと巴が固まる。
「・・・・・・はぁ」

「巴はジュンと結婚すればいいのにー。」

「・・・できることならね。」
近くに転がっていたクッションに真っ赤になった顔をうずめ
巴がつぶやいた

163: 2008/07/18(金) 23:45:13.88 ID:Lg30nKxV0
「! それならヒナにお任せなのー!」

そういうと、雛苺の遊び道具が収納してあるクローゼットへ飛び込んでいった
この収納場所は5年前から変わらないままだ

雛苺も、5年前とまったく変わらない。元気なまま。

安心した巴は、雛苺がクローゼットの中でなにかしているうちに
ジュンに電話をかけた


164: 2008/07/18(金) 23:50:33.11 ID:Lg30nKxV0
「もしもし?」

「柏葉か。雛苺はもう来てる?」

「うん。どうして急に?何があったの?」

「・・・うん。少し長くなるけど・・・・」


――――――・・・・



「あと・・・3日・・・?」
巴の携帯を持つ手がじんわりと汗ばむ

「・・・あぁ。だから、それまで僕はこいつらの望むことをしてあげたい」

「・・・・・・・・・」
嫌だ。
せっかくまた会えたのに、もう会えなくなるなんて嫌だ
無言の巴の頭の中にはそのことだけが浮んでいた

「・・・・また連絡するよ。」
長い間沈黙していたせいか、ぷちっと電話を切られた

166: 2008/07/18(金) 23:51:43.64 ID:Lg30nKxV0
「・・・・・・」
無言のまま。巴は立ち尽くしていた


くいっと、スカートを引っ張られる。

「巴・・・?」

「雛苺・・・」

雛苺が寂しそうに笑う
「きいたのね?」

「・・・・・・」

「ヒナも、真紅も、ローゼンメイデンは皆、この世界には存在しなかったことになるのよ」

「・・・・・・ね・・ねぇヒナ?何か私にしてもらいたいことある?」

動揺が表に出ないように、必氏に感情を頃して声を出したつもりだが
巴の声は震え、目には涙がたまっていた

雛苺がぶんぶん首を振る
「今の、私たちローゼンメイデンの願いは一つなのよ
 巴やジュンや、のりに。いっぱい幸せになってもらいたいの。それだけなの」

「雛苺・・・」

167: 2008/07/18(金) 23:53:23.21 ID:Lg30nKxV0
雛苺がにっこりと笑う。

「それと・・・巴。ヒナの螺子を巻いてくれてありがとう。
 巴が螺子を巻いてくれたおかげでヒナはみんなに会えたのよ。
 とっても楽しくて、幸せだったのよ」


ダメだ。

巴は涙をこらえきれず
雛苺を再び抱きしめた、雛苺に泣き顔は見せられない。


雛苺はただにっこり笑って、巴を抱きしめかえした

169: 2008/07/18(金) 23:58:53.24 ID:Lg30nKxV0



桜田家。

「・・・・また連絡するよ。」
ジュンが電話を切る。

「望むことを・・・ね・・・」

「?」

ソファーに座ってくんくん探偵を見ている真紅がつぶやいた

今日のくんくんはクリスマス直前スペシャルだ。
くんくんが可愛らしい猫と手をつないでキラキラ輝くクリスマスの町を歩いている。

真紅はそれに対してぶつぶつと文句を言っていた


「あら。ジュン。くんくんに夢中になって紅茶が冷めてしまったわ
 淹れ直して頂戴。」

「・・・・・・はいはい。真紅さまー」

「はい、は一回よ」

画面に向き直る。
場面はまだ、キラキラ輝くクリスマスの町だった。

170: 2008/07/19(土) 00:01:13.46 ID:/wdXGCXt0



あっという間に夜になる。
明後日の夜にはもうドール達はいなくなるのかと思うと
ジュンの気持ちは暗くなった

リビングにカチャカチャと食器の音が響く
テレビには今日録画したくんくん探偵クリスマス直前スペシャルが流れている。

「ジュン。貴方の料理は果てしなく微妙ね。」

「美味しくもないし、不味くも無いです。」

「ヒナうにゅーが食べたいのー」


がんばって作った手料理の評価でジュンの気持ちは更に沈んだ。

「そ・・・そうか・・・食べたくなかったら残してくれ・・・」
一人ソファーに座って、うなだれる

「・・・ふう。まぁ。もう9時10分前じゃない。眠りの時間だわ」

「え!?」
そこまでいつも通りなのか
しかし、文句を言うわけにもいかない。

171: 2008/07/19(土) 00:02:54.37 ID:/wdXGCXt0
雛苺と真紅が階段を上がっていく
それを見送った後。
ジュンはため息を吐いて、片づけをはじめた


「ん。翠星石?」

「片付け手伝うですよ」

「・・・・お前は寝ないのか?」

「・・・・・」

「あ」

よく見ると、ジュンの料理は綺麗に平らげてあった

「・・・素直じゃないですよ。あの子達は」

「おまえもな。」
にやっと笑ってジュンが翠星石の皿を指差す。真紅たち同様、綺麗に平らげてある

「うっ・・・うるせーです!」
腕をぶんぶん振り、さっさとお皿を運んで行ってしまった。


173: 2008/07/19(土) 00:07:59.60 ID:/wdXGCXt0


流れる水の音。
キッチンでは翠星石がお皿を洗っている。

「おまたせー。代わるぞ翠星石」
風呂に入って来いといわれたジュンが頭にタオルをのせて戻ってくる

「もう終わるですよ」

「えっ!?早いな!僕5分位で上がったのに」

「翠星石をなめるなですぅ」
淡々と言う翠星石の手元のお皿はほとんど全て綺麗に片付いている


仕上げに自分の手を洗う翠星石を眺めながらジュンが口を開いた
「今日蒼星石とどこ行ってたんだ?」

「・・・・・・おじじのところです」

「・・・・・・そうか。蒼星石、大丈夫だったか?」

「・・・私たちドールは沢山の人間との別れを経験してきました。でも
 今回は特別なようです。あの子にとっても・・・・・私にとっても」

「・・・・・・翠星石。」

177: 2008/07/19(土) 00:10:50.42 ID:/wdXGCXt0
「蒼星石は残り時間ギリギリまでおじじの想いと過ごすといっていました
 寂しいですけど。ここには帰ってきません」

「・・・・そうか。」

沈黙。ジュンが時計に目をやる。
いつの間にか11時を回っている。

「・・っと。翠星石そろそろ寝ないと今日は疲れただろ?・・・ん?」

翠星石の顔が赤いことに気づく。

181: 2008/07/19(土) 00:13:06.74 ID:/wdXGCXt0
「ど・・・どうした?翠星石?」

「・・・・・・今日は・・・翠星石は寝ません。ジュンとずっと一緒にいます」

「・・・・・え?」

「~~~~~~~~~~~ッ!!!」
更に顔を赤くして続ける

「だから!今晩は翠星石と一緒にずっと起きてろといってるのですチビ人間!!」

「・・・・・・・・・」
ジュンは、ぽかんとしていたが
ふ、っと笑って

「お安い御用だよ。いこう、翠星石。」
ひょいっとジュンに抱っこされ運ばれる

「わっ!ジュン・・・!」
湯気が出そうなほど真っ赤になった翠星石はジュンの胸に顔をうずめた


186: 2008/07/19(土) 00:16:54.33 ID:/wdXGCXt0


ジュンのベッドの上。

「っていっても、何するんだ一晩中。」

真紅たちの鞄を見ながらひそひそ声で話す。
視線を移す。
真っ赤な顔の翠星石。
つられてジュンも真っ赤になる

「~~~ッ!!変なこと考えるなです!」

「な・・・!!考えてない!!じゃあお前は何考えてたんだよ!?」

「え・・・・・・・・・し・・・しり・・・」

「尻!?」

「違うです!よく聞けです!!しりとりをやろうと思ってたです!!」

188: 2008/07/19(土) 00:17:43.83 ID:/wdXGCXt0
「しりとり~?」
ジュンが不満そうに言う。しかし翠星石はお構いなし

「はい!食べ物限定しりとり!!栗の~~『り』!」

パカっと鞄が開く
「『りんご』なのだわ」

「!!」

更にもう一個
「『ごま』なの~」

「!!!」

「真紅・・・雛苺・・・」

「面白そうね。私たちも付き合うわ」

「お・・・おう」

「・・・・・・・・・しんく~・・・・・」
恨めしそうな翠星石。その反面
ジュンは嬉しそうに笑って、勢いよく言った。

「『まり』!」
「食べ物限定ですぅ。」



199: 2008/07/19(土) 00:21:30.94 ID:/wdXGCXt0







翌日。


クリスマスイブ。雪は降っていないが、空はどんよりと曇っている


あれから結局みんな寝てしまった。

少しずつ高くなる冬の太陽に、部屋中が暖かく照らされる。


膝の上で眠る3人の寝顔をみてジュンは今までのことをゆっくり、ゆっくり思い出していた
もう、2日後には忘れてしまう、大事な記憶。


203: 2008/07/19(土) 00:28:50.33 ID:/wdXGCXt0
「ん・・・」
真紅が体を起こす

「真紅。・・・おはよう。」

「おはよう、ジュン」
眠そうに目をこすりながら真紅が返事をした

「・・・・・・・ジュン?」

「ん?」

「私たちの望みを・・・叶えてくれるの?」

電話の話のことだな、と分かった
「ああ。僕にできることなら、なんでも」

「・・・そう。じゃあ一つおねがい」

「なんだ?」




「貴方の今日一日。私に頂戴。」



204: 2008/07/19(土) 00:30:03.26 ID:/wdXGCXt0




「むにゃ・・・はっ!ジュン!!」

「・・・ぅゅ・・・うるさいの・・・翠星石」

「ジュンがいねぇです!!真紅が連れ去りやがったです!!」

「・・・・あふ・・」
大きくあくびをして、雛苺は鞄にむかう。

「チビチビー!!まじめに聞けです!!」

「翠星石。くまが出来てるのよ。
 そんなんじゃジュンががっかりしちゃうのよ。
 今はゆっくりねましょう?」

「・・・・・・・・・・」
たしかにふらふらする

「寝る子には・・・勝てんですぅ・・・」

「何なの?それ」

パタン、とふたりの鞄が閉じた

205: 2008/07/19(土) 00:32:05.69 ID:/wdXGCXt0
ゆれるバスケット
中には金髪の少女


「ん・・・。まだ全然早かったわね。」
少し開いたバスケットから外を覗き、真紅がつぶやく。

「?何がしたいんだ?お前は」

「秘密よ。」

昼下がりの町を、大きなバスケットを下げてジュンが歩く

「そこの喫茶店に入りなさい。ジュン」
バスケットの中から指差す

「はいはーい」

「紅茶を頼むのよ。」



落ち着いた雰囲気の店。
何をするでもなしに、出されたコーヒーを飲む
真紅もバスケットの中で紅茶を飲んでいる


208: 2008/07/19(土) 00:36:45.01 ID:/wdXGCXt0

「なぁ真紅?なにがしたいんだ?」

「・・・おねがい。もうちょっとまって。ね?」


上目遣い。困ったような顔
昔から真紅のこういうところには弱かった。


「はいはい・・・いくらでも付き合いますよ真紅さまー」
顔を赤くしてジュンが言った。

209: 2008/07/19(土) 00:38:02.91 ID:/wdXGCXt0



――――――・・・・・





パチッと目を開ける
外が暗い、いつの間にか寝てしまっていたのか。
昨日は徹夜したしな、と思いつつバスケットの中を見た

「!!! 真紅!?」

いない。

真紅がバスケットの中にいない。
店内を駆け回って探したが、いない。外にでていったのか


会計のとき、かなり店員の目が痛かったが気にしていられない
空のバスケットを持ってジュンは夜の街に駆け出していった


211: 2008/07/19(土) 00:39:20.34 ID:/wdXGCXt0



オルゴール音。
巴の着信音だ。

「桜田君!!」
未だにクリスマスを諦めきれていない巴は液晶に表示された桜田の文字に過剰反応した

「・・・もしもし?」
深呼吸して、声を出す

「柏葉か!?真紅そっちに来てないか?いきなりいなくなっちゃたんだ」

「! 来てないわ!今どこにいるの?」

「中心街の方!クリスマスで人多くて・・・!なかなか捜せないんだ」

「・・・分かった!私も行ってみるね!!」

「ああ!頼む!」

電話が切れる。

待ちうけ画面になった携帯をみて。真紅に対する心配と
クリスマスに対することで
巴は大きくため息をついた

212: 2008/07/19(土) 00:40:48.89 ID:/wdXGCXt0



プルルルルと桜田家に電子音が響く


「はい、もしもし桜田ですぅ」
慣れた様子で翠星石が電話を取る

「あっ 翠星石か!?」

「あーーー!!チビ人間!!貴様真紅とーー!!」

「わかった!ごめん!帰ったら好きなだけ付き合ってやるから!」

「むー・・・?どうかしたですか?」

「真紅がいなくなった!街中なんだけど・・・お前らどうにか捜せないか?」

「それは大変です!チビ苺と手分けして空から捜すです!」



218: 2008/07/19(土) 00:47:19.02 ID:/wdXGCXt0



「・・・・・・」
トントントン、と包丁の音が響く

草笛みつが、キッチンで料理を作っている


「・・・・・・・」
それを寂しげな表情で遠くから眺めているのが第二ドール金糸雀



一昨日の晩。仕事から帰ったみつに金糸雀は全てを話した

あと3日でお別れしなければならないこと
自分達に関する記憶は消えてしまうこと
全て、正直に。


それ以来、みつはどこか金糸雀と距離を置いているように見えた

221: 2008/07/19(土) 00:48:23.01 ID:/wdXGCXt0

「・・・・・・ねぇ。みっちゃん・・・」

「んー?なーに?金糸雀?」

「・・・いつもみたいにぎゅーってしてくれないの?」

「・・・・・・・・・」

トントントンと包丁の音が続く

金糸雀が立ち上がり、みつの足をぎゅっと抱きしめた

「みっちゃん・・・カナのこと嫌いになったのかしら?・・・・カナが・・・・
 急に・・・いなくなるなんて言ったから?・・・」



ぼろぼろ涙をこぼしながら金糸雀が聞いた
みつの足にはぶるぶると金糸雀の震えが伝わる

227: 2008/07/19(土) 00:53:04.35 ID:/wdXGCXt0

「・・・・・・・・嫌いになんか・・・・なるわけ無いじゃん・・・」

トン、と包丁が止まる

「みっちゃん・・・・」
金糸雀が涙でずるずるになった顔を上げ、みつの顔をみる


「いつもみたいに・・・・ぎゅーってしたら

 私、カナを離せなくなるもん」


ポツリと、金糸雀の額に涙が落ちる

「私・・・・・カナと離れたくないよ・・・・?」
みつが唇を噛み、必氏に涙をこらえている

「・・・みっちゃん・・・きゃ!?」
ガバッとみつが金糸雀に抱きつく

「う・・・うぇぇ・・ん・・・嫌だよぉ・・・・」
「・・・・・・・・」

ぼろぼろと涙を流して
二人はずうっと抱き合った

部屋の隅で携帯電話が着信を知らせていた

231: 2008/07/19(土) 00:56:35.88 ID:/wdXGCXt0


「・・・・くそっ!草笛さんでないな・・
 薔薇屋敷はここからは遠すぎるし・・・

 やっぱりこのあたりか・・・」

しかし、大分人通りの無い道まで来てしまった
クリスマスイルミネーションだけが賑やかだ


「ジュン!」

「!!!・・・・・・・真紅!!?」
てくてくと何事も無かったかのように真紅が前から歩いてくる。

「まったく、捜したわよ。」

「・・・・ッ!!こっちの台詞だ!!」
ぜぇぜぇと息を切らしてジュンが叫ぶ

「・・・でも、丁度よかったわ。」
真紅が右手をスッと差し出す

「?」

「手をつないで、一緒に歩いてくれる?それが、私のお願い。」

「・・・・・・!」

245: 2008/07/19(土) 01:03:30.80 ID:/wdXGCXt0


キラキラ輝くイルミネーションの下に影が二つ、ゆっくりと歩いている

「・・・お前。何してたんだ?」

「貴方が気持ちよさそうに眠っているから、起こしては悪いと思って一人でいい場所を探していたのよ」

「いい場所?」

「そう。昨日のくんくんのように、とびっきりキラキラした道を・・・・」

「・・・?」

「・・・だ・・・大好きな人と・・・」

「!」
二人とも頬が赤くなる。


249: 2008/07/19(土) 01:05:14.96 ID:/wdXGCXt0


「・・・ごめんなさい・・・そんな人通りの少ない道を探していたら、遠くまで来てしまって・・・」

「・・・もういいよ。心配したけど。」

「・・・・ふふ・・・でも。綺麗でしょ?」


立ち止まり二人が顔を上げる。
赤、青、黄色、緑にピンク。色とりどりのイルミネーション。

「・・・ああ。すっごく綺麗だ。」
ジュンが腰を下ろして言う。

「・・・・・・」
決意するようにぎゅっと手をつないで、真紅は唇をジュンの頬に近づけた

253: 2008/07/19(土) 01:13:51.60 ID:/wdXGCXt0
「ジューーーーーーーン!!」


勢いよく、鞄に乗った翠星石が飛んでくる

「翠星石!」

「!!」
ぴたっと真紅の動きが止まる

「あー!真紅もいるのー」
雛苺も一緒だ。

「なーんだちゃんと見つけてるじゃないですか。とんだ手間を掛けさせやがるです」

「あぁ。悪かったな。」

「・・・・・すいせいせき~・・・・・」
真紅は悔しそうに歯をならした


256: 2008/07/19(土) 01:15:35.09 ID:/wdXGCXt0





暗い、夜の病室。
ピッピッと機械音だけが響いている。

めぐの眠るベッドの脇
水銀燈と雪華綺晶が並んで座っている

「・・・・しばらく起きそうにないわねぇ」
水銀燈がこぼす。

「・・・・すみません」

「・・・謝ることないわよ。この子ならきっと乗り越えるわ」

「・・・・・・・・・お姉さま。」

「? どうしたの?」

「私、もう消えます。」

「!」

261: 2008/07/19(土) 01:19:46.62 ID:/wdXGCXt0

「大事な人を傷つけてしまった。その人の大事な人まで壊してしまった。
 だから・・・・私は、私の意志で消えます。」

「貴女・・・・」

「私の一番大事な人は、私にいつでも笑っていなさい、といいました
 でも、私本当に笑えたのはその人と一緒にいた時だけなんです。」

「・・・・・」

「嘘の・・・作り笑いを続けるうちに、本当の笑い方はおろか・・・
 あの人のことまで忘れていたのかも知れません・・・
 でも・・・もう、いいんです。作り笑いも疲れました。」

あきらめたように悲しく微笑む。



ピッピッと機械音が鳴る

シューッと呼吸器から音が漏れた


「・・・・めぐ?」

262: 2008/07/19(土) 01:20:42.00 ID:/wdXGCXt0

依然、柿崎めぐに意識は無い。しかし


ぷるぷると左手が上がる。雪華綺晶の頭の上。



スカスカと、触れない頭を、めぐの手が撫でた


「・・・・・・・・・・!」
雪華綺晶のやさしい思い出。
椅子に座って、向かいあって話した
あの日々

「・・・・・さようなら。」

にっこりとわらって
雪華綺晶の左目から一筋、雫がこぼれた

すると、雪華綺晶はふわりと窓の外に出て行った


265: 2008/07/19(土) 01:26:33.48 ID:/wdXGCXt0
「雪華綺晶・・・」
心配そうな顔で水銀燈が見る

「お姉さまも、さようなら。
 そんな顔をしないでください。

 ・・・実は私、幽霊なんです。」

ニカッと笑う。どこか、子供らしい、末妹にふさわしい笑顔

「はぁ?」
呆れたように水銀燈が言う。

「・・・だから・・・彼女にも会えるはずです。お空の上で」


更ににっこりと笑って
雪華綺晶はふわり、雪のように星空に溶けていった

「・・・・おばかさぁん・・・」



イブの終わりの空には、ひらひらと雪の華が舞い始めていた



266: 2008/07/19(土) 01:27:08.57 ID:/wdXGCXt0






ジュンたちがローゼンメイデンと過ごす最後の朝。
ジュンは一番最後に起きた。
窓の外は雪で真っ白だ。ロマンチックに言えば、ホワイトクリスマス。


「・・・・あれ?まだ7時になったばかりなのに
 みんな早起きだな・・・」

なんとなく、コンタクトをつける気にならず、メガネを掛ける。
落ち着く。

ゆっくりと背伸びをして
立ち上がると、どすどすと足音がする。この足音は翠星石だ

271: 2008/07/19(土) 01:31:09.07 ID:/wdXGCXt0

「こらーチビ人間!もうみんな集ってるですよ!!早く起きろです!!」

「・・・やっぱり。もう起きてるよ。
 ・・・? 何隠してるんだ?」

「!」
急に翠星石の顔が赤くなる。

「こここここここれは・・・まだ心の準備が・・・というか」

「・・・?・・・ん?スコーンだよな、それ?」

「・・・・・・・・・はいです。・・・あの・・・
 
 ・・・あ~・・・ん・・・・です・・・」

「!」
照れながらも、腰をかがめてジュンがスコーンに口を伸ばす

275: 2008/07/19(土) 01:34:28.16 ID:/wdXGCXt0




ちゅっ





と、翠星石がジュンの頬にキスをした。

「なななななな!!!!!」
後ずさりしながら、顔を真っ赤にしてジュンが叫ぶ

「あー!うるさいです!!」
ガボッとスコーンをジュンの口に突っ込む。


「・・・・これが翠星石の最後の願い事ですぅ。

 大好きですよ。ジュン。」

そう、はっきり言うと、顔を赤くしてどたどたと駆け足で階段を下りていった


ジュンは嵐の後のように呆けていたが、急に嬉しさと一緒に寂しさがこみ上げる
これが・・・最後の日なんだと。

278: 2008/07/19(土) 01:35:30.68 ID:/wdXGCXt0


階段を下りるとのりに巴、みつに金糸雀。蒼星石も来ていた。

最後の日を賑やかに過ごそうと
のりがその料理の腕を存分に振るっている



一見、いつもの日常。


でもみんな今日が終わりだと知っている。

280: 2008/07/19(土) 01:36:30.79 ID:/wdXGCXt0
落ち着き払って紅茶を飲んでいる真紅や、元気な雛苺や金糸雀
顔を真っ赤にして目を合わせてくれない翠星石
それを心配する蒼星石

ここにはいないが水銀燈に雪華綺晶。


今日で何もかも無くなってしまう。

真紅に出会ったことや
水銀燈に殺されかけたこと
夢の世界に行ったり
蒼星石と闘ったり
皆でケーキを食べたりしたこと
・・・雪華綺晶と闘ったこと

全部、全部
今日で・・・


「・・・ジュン?」



「・・・僕・・・お前らと離れたくないな・・・」


ボロボロと涙を流し、ぐしゃぐしゃになった顔を腕で隠して
ジュンは膝をついて泣いてしまった

286: 2008/07/19(土) 01:40:19.44 ID:/wdXGCXt0



「ん・・・・」

「!・・・めぐ・・・」

有栖川大学病院。
薄暗い病室。
水銀燈とめぐの二人っきりになった部屋
昼過ぎとはいえ、電気のついていない部屋は薄暗い。

そこで、ゆっくりとめぐが目を開けた。

「水銀燈・・・。よかった・・・帰ってきてくれた。私の天使さん。」

「天使なんかじゃないっていってるでしょ」
口を歪めて水銀燈が即答する

「ふふ・・・」

この日は、当然
水銀燈にとっても、最後の日

めぐのために、何を伝えられるか、託せるか。
めぐが眠っている間中考えていた。

「・・・めぐ。聞きなさい。」

「?」

293: 2008/07/19(土) 01:42:39.63 ID:/wdXGCXt0

「認めたくないけど、私は貴女と過ごせた日々が・・・とても幸せだったわぁ」

「! 水銀燈・・・」
めぐが嬉しそうに微笑む

「だからね。早く氏にたいなんて言わないことよ。

 貴女と触れ合ったことで、私のように幸せになれる人がきっといるのよ。」

「・・・・・そんな人・・・いるわけ・・・」
めぐが視線を落とす。

「それどころか、今もすでに私以外にいるかもしれない」

「?」

295: 2008/07/19(土) 01:44:31.29 ID:/wdXGCXt0


「・・・だから

 ・・・生きて。

 これが水銀燈の最後の願い。」


「最後・・?水銀燈?!」

バサッと大きな翼を広げ、にこりと微笑みかけた


「ばいばぁい。私の天使さん」



「水・・・・」

めぐが名前を呼び終わるより先に
真っ黒な天使は手の届かないずっと遠くへ飛んでいってしまった

297: 2008/07/19(土) 01:46:44.73 ID:/wdXGCXt0



桜田家の庭。
いつから降っているのか知らないが、庭は雪で敷き詰められていた。


縁側に座ったジュンがぐすっと鼻をすすって
雪の降る空を眺めた

急に泣いてしまった。
あの後皆が必氏に励ましてくれた。みんな同じ気持ちのはずなのに
自分が情けない。


ガラッと窓を開けてお盆をもった真紅が庭に出てきた。
お盆には大きなティーカップと小さなティーカップ。
それと、ティーポットが乗っている。

「寒くないの?ジュン?」

心配そうに聞く。喋る口から白い息が出ている

「・・・さむい。」

「そうでしょう。ここに座りなさい。私がホットココアを入れてあげたわ」

「・・・ありがとう。」

298: 2008/07/19(土) 01:48:30.11 ID:/wdXGCXt0
隣同士、縁側に座る
ホットココアが冷えた体に心地良かった

「・・・・泣かないで頂戴。私がつらくなってしまうわ」

「・・・ゴメン。」

「・・・・やっぱり、貴女はメガネのほうがりりしく見えるわ。」
にこりと微笑んで真紅が言う

「・・・お前までコンタクトにダメ出しか・・・」
ジュンが苦笑いをする

299: 2008/07/19(土) 01:49:12.78 ID:/wdXGCXt0


「・・・・・・・・・」
ここ3日ジュンの頭の中には、一つの思いがぐるぐると回っていた


もう、ローゼンのことは放って置いて
このまま真紅たちと暮らせばいいじゃないか、と

真紅がnのフィールドに行かなければ、この生活は続く。

ずっとこらえていた気持ちが口からあふれ出そうになる

「・・・・真紅・・・」

「? なぁに?ジュン」

「・・・・・・・・・・・」







301: 2008/07/19(土) 01:51:43.02 ID:/wdXGCXt0

「・・・・・・・・・・・・・っ・・・・」


言えない。
ずっと。何百年も待っていたローゼンを
自分のわがままで更に苦しめる訳にはいかない

なにより、それはこいつらが望まないはずだ

「・・・どうしたの?ジュン?」
心配そうに真紅が顔を傾けて訊く。

「・・・うぅん。ココアおいしいな。ありがとう」

「・・・ふふ。どういたしまして。」


「そろそろ中に入ろう。寒いだろ?」

「私はいいわ。もうしばらくここにいる。」

「・・・・そうか。」

静かに窓を閉めて、ジュンが室内に戻る。
真紅はティーポットから新しく紅茶を注ぐ。
その水面に黒い羽が映ったのが見えた。

302: 2008/07/19(土) 01:54:53.84 ID:/wdXGCXt0

「・・・・水銀燈。」
バサッと軽やかに水銀燈が桜田家の庭に降り立つ。

「こんにちわ、真紅」

「・・・・・なんの用・・・って・・・用も何も無いわね。いつもの癖で言ってしまうわ。」

お互い、少し黙って、ようやく水銀燈が口を開いた。

「・・・・・真紅。貴女・・・巻くの?」

「・・・・・決まってるじゃない。私たちは会えなくても、ローゼンは私たちのお父様に変わりはないもの」

「・・・・・そう」
水銀燈の肩に、頭に、雪が降り積もる。
しんしんと雪が降る中、二人はまた、黙ったままだ

「なにかこの世界に未練があるの?・・・無い方がおかしいでしょうけど」
真紅が静寂を破る。


304: 2008/07/19(土) 01:56:46.93 ID:/wdXGCXt0



「・・・別に。・・・・私のマスターも、強くなったところが見たかったってだけよ。
 ・・・・・貴女のマスターみたいにね。」

水銀燈が下を向いて微笑む。
少し悲しみを帯びた、優しい笑顔。


「・・・・なんだか、今の貴女なら少しだけ仲良くなれる気がするわ。」

「なによぉ。それ。あんたとなんか仲良くしないわよ」


「・・・・・・。水銀燈。紅茶はどう?温まるわよ。」

「・・・・・・・・」
真紅と向かい合って立っていた水銀燈が真紅の横に静かに座る

「・・・いただくわぁ。」

「はい。どうぞ。」

水銀燈についた雪を真紅がパタパタと払い落とし、紅茶を渡す。
止みそうにない雪の中、空を見上げて二人はしばらく紅茶を楽しんだ。

308: 2008/07/19(土) 02:01:10.44 ID:/wdXGCXt0




パーティーの後。そこらじゅう散らかって
のりの作った料理がほとんど全部片付いている

夜9時。


そろそろ行かなくては。
みんな無言になり。下を向いている。

「さぁ。みんな。行きましょう」
真紅がスッと立ち上がり、鏡の部屋へ入っていく。

「・・・・」
無言で皆が後に続く
足取りが重い

「ジュン!巴!」
鏡の部屋の前の廊下。雛苺が大声を出す

「・・・なんだよ、ひないち・・・わっ!!」
「きゃっ!!」


ジュンと巴に白いシーツがかぶせられた。

313: 2008/07/19(土) 02:09:20.39 ID:/wdXGCXt0
「・・・っ!なんのつもりだ雛苺!!」

「ぱかぱかーん。ぱかぱかーん。」

「?・・・」
巴の頭上には?マークが浮んでいる

「ぱかぱかん、ぱかぱかん、ぱかぱかん、ぱかぱかん」
雛苺がごそごそとポケットを探る

「ぱんぱーんぱーんぱぱんぱんぱんぱん」

ぐいっと二人の左手を引っ張りよせ薬指に何かをつけた

「結婚指輪なのよ。巴。」
にんまりと笑う雛苺。

二人の指にはカラーモールで出来た可愛い指輪がはまっている

318: 2008/07/19(土) 02:12:48.43 ID:/wdXGCXt0
「・・・っ!おま・・・ばっ・・・」
「ひ・・・雛苺!」
二人が顔を赤くする

「ジュン。巴をいつまでも待たせてはだめなのよ!」

「ふふふ・・・お祝いするわ・・・お二人ともぉ・・」
のりがにやにやしている

「・・・・・・・・・ッ!!行くぞ!ウサギがもう限界かも知れないんだぞ!」

どすどすと足早に鏡に向かうジュン。
真紅と翠星石はそのジュンを睨みながらついて行った

「・・・雛苺。」

「はいなの。」

「・・・・・・ありがとう。」
やさしく微笑みかけ。巴が頭をなでた

「えへへー。どういたしましてなの!」

320: 2008/07/19(土) 02:14:45.85 ID:/wdXGCXt0


明るかったnのフィールドにノイズがかかっている
やはり3日が限界なのか、ラプラスも苦しそうだ


「おそいわよぉ。ウサギさんが可哀想じゃない。こんなにプルプルしてるわぁ」
一足先に水銀燈が来ている。

「・・・悪かったわ、水銀燈。・・・雪華綺晶は?来ていないの?」

「・・・・あの子は・・・先に行ったわ。」

「・・・・・そう。」


真紅と水銀燈がいくらか言葉を交わし。そろって下を向いた


326: 2008/07/19(土) 02:17:03.92 ID:/wdXGCXt0


ラプラスの聖がジュンに気づき声をかける

「・・・やぁ。こないのかも、とか思ってたよ。」

「・・・そんなこと・・・」
ジュンがドキッとする


「・・・それじゃあ早速。真紅。君の力を借りるよ。」

「・・・ええ。」
ドールズが前にでる

人間達は皆、涙目で見守っている。
これが・・・・・最後。



328: 2008/07/19(土) 02:19:32.30 ID:/wdXGCXt0


「いやぁ!!カナぁ!!」


突然の大声。

金糸雀がびくっと後ろを振り向く。
みつが泣き喚きながら金糸雀の名前を呼んでいる

「みっちゃん・・・」



「草笛さん・・・」
のりがみつの肩をつかむ。
それを振りほどき、みつは金糸雀のほうに駆け出していった

しかし

バンっと壁のようなものにあたり、前に進めない。
「カナ!!カナぁ!!」

パントマイムのように空中に手をかざし、金糸雀の名を叫ぶ。

「・・・みっちゃん」
金糸雀がゆっくりとみつに近づき、その前でしゃがんだ。


333: 2008/07/19(土) 02:23:25.66 ID:/wdXGCXt0
「う・・・うぅ・・・カナぁ・・・」

「カナはね・・・みっちゃんがマスターになってくれて嬉しかったかしら。
 毎日楽しくて、玉子焼きはおいしくて。みっちゃんは綺麗で

 今までずっと生きてきた中で、一番楽しい時間だったかしら。」


みつはひっくひっくと体を揺らしている


「みっちゃん。玉子焼き、また作ってくれるかしら?」
ぺたり、と見えない壁越しにみつと手を合わせる

「カナは、みっちゃんと、みっちゃんの玉子焼きが宇宙一大好きかしら!!」

「う・・・うう・・・カナぁ・・・・」

みつはボロボロと涙を流し、ぺたんと座っている
金糸雀はにこっと笑うと颯爽と他のドールズのところに駆けていった


みつに背中を向けるまで、涙がこぼれないように
気をつけて。


340: 2008/07/19(土) 02:25:44.99 ID:/wdXGCXt0



「真紅。本当にいいですか?・・・これで」

「・・・・・・」

「君が力を使わなければ、この世界でこれからも生きていくことができる・・・」
双子が真紅に問う。

「・・・ええ。そうね。」

「ぅゆ・・・」

「でも、私にも信じていることがあるの。
 だから、私は力を使う。お父様・・・いや、ローゼンを救うわ。」


「・・・いいんじゃなぁい?私はこの世界に託すものは託したわ。

 貴女たちだってそのためにこの3日間過ごしたんじゃないの?
 ・・・・・あとは、私たちの生みの親のために出来ることをするべきよ」

少し離れたところから水銀燈が口をだす。
喋り終えると、口をへの字にして下を向いた

「・・・・そうです・・・ね。」

344: 2008/07/19(土) 02:27:07.67 ID:/wdXGCXt0
6体のドールズが沈黙する。
不意に


「ジュン!!」


翠星石が叫んだ


「翠星石はジュンのことが大好きでした!!
 どうか・・・翠星石がいなくなっても・・・幸せになるですよー!!!」

翠星石が泣いている。

ジュンはボロボロとこぼれる涙を拭くこともせず

「おう!!」
と大きく返事をした。

345: 2008/07/19(土) 02:28:21.98 ID:/wdXGCXt0

「ともえー!!今までずっとありがとうなの!!
 ジュンと仲良くするのよー!!」

続いて雛苺が叫ぶ。


「ちょっ・・・雛苺!!」

巴が顔を真っ赤にして雛苺とジュンを交互に見る
少し落ち着いて、

「雛苺!私こそありがとう!!」

泣きながら、手を振る。

雛苺はそれをみて、ニッと歯をみせて笑い
ぶんぶんと頭の上で手を振った



350: 2008/07/19(土) 02:32:03.39 ID:/wdXGCXt0

「みっちゃーーん!!元気でねー!かしらーー!!」

「・・・カナ・・・」

ぴょんぴょんと跳ね、手を振る金糸雀
みつは返事が返せない。


水銀燈と蒼星石はじっと立っている。

蒼星石は懐から一輪だけ貰ってきた青い薔薇をとりだし
ぎゅっと胸に当てた。

「さようなら、マスター。」


水銀燈は目を瞑って、めぐのことを考えた。
大丈夫、あの子はきっと生きられる。

「私の、天使さん。」
目を開け、ふっと微笑んだ



352: 2008/07/19(土) 02:32:49.66 ID:/wdXGCXt0


「ジュン、のり。」

真紅が落ち着いた声で言う


「今まで本当にお世話になったわね。ありがとう。」

「あらあら、いいのよぅ。真紅ちゃん」
のりがパタパタと手をひらめかせて言う

「のり・・・幸せにね。」

「・・・・」
ジュンは無言だ。

「ジュン。」

「・・・真紅・・・」

「最後に貴方とデートできて嬉しかったわ。
 あの時、本当は迷子になっててすごく怖かったのよ?」

「・・・・・・・・」


355: 2008/07/19(土) 02:35:30.17 ID:/wdXGCXt0

「いつも私を支えて、助けてくれてありがとう。
 私の白馬の王子様。」

「・・・・また、大げさなことを・・・」
ジュンの顔が赤い


「別れを受け入れ、望むことをしてあげようとする人。受け入れられず、苦しむ人。
 それぞれいるけど、私たちドールにとってはどれも嬉しい、喜ぶべきこと。」


ウサギがぴょんと真紅の足元に跳ねる
真紅はそれをチラッとみて、微笑んで続けた



「私たちはローゼンメイデン。貴方達の幸せなお人形。


 ・・・・貴方達に出会えて、本当によかった。



 私は、時の薇をまくわ。」





358: 2008/07/19(土) 02:37:09.97 ID:/wdXGCXt0




ぱぁっと視界が光り輝く。







「さよなら」








真紅の声が

聞こえた。

364: 2008/07/19(土) 02:44:55.21 ID:/wdXGCXt0





「・・・・桜田ジュン。」

・・・・あんた誰だ?

「・・・・・僕はただの迷子だよ。でも君が僕を呼んでくれたお陰でもうすぐ戻れそうなんだ
 ・・・気づくのに随分時間がかかったけどね」

・・・・・あんたなんか呼んだ覚えないぞ

「そうかもしれないね。でも君はだれよりもあの子達を想ってくれていた。
 それが結果的に私を呼ぶことにつながったんだ」

・・・ふぅ~ん

「誰かの呼ぶ声に気づければ、誰も壊れた子になんかならない。
 あの子のいう通りだ。自分が作った子に教えられるとはね」

!・・・・・あんた、まさか・・・・

「時間だ、桜田ジュン。また・・・会うときが来るのかな・・?」

・・・おいっ!まってくれ・・・・


ゴッと流れに巻き込まれ      意識が真っ白になった。

369: 2008/07/19(土) 02:47:29.97 ID:/wdXGCXt0














規則正しく並べられた石畳。
美しい町並み。
冬の町を歩く人々の吐く息はどれも真っ白だ。


その町並みの中の一つ。
割と大きな家。その二階。

「ローゼン。お店あけるわよぉ?」
メイメイが階段を上り、ひょいっと顔を出し聞く。

372: 2008/07/19(土) 02:52:02.28 ID:/wdXGCXt0

「あぁ。もうそんな時間かい?今行くよ。」

金髪の美しい男が応える。
その手元。机の上には美しい人形が並んでいる。

「ねぇローゼン。このお人形さんたちはいつお店にだすのかしら?」
ピチカートが机の端につかまり、問う。

「ピチカート。これは売り物じゃないんだ。僕の恩人へのプレゼントなんだ。
 僕の人形を誰よりも愛してくれた、大事な人への、ね。」

「ふぅーん・・・あ!この子私に似てるかしら!」

「ピチカート!ローゼンの邪魔しないの。お勉強してなさい。」

「はーいかしら!ピチカートはいっぱい勉強して『さくし』になるかしら!」
パタパタと駆けていく。

「分かってて言ってんのかしらねぇ・・・」

「良いじゃないか、どっちにしろ。勉強はいいことだよ。」

ポン、とメイメイの肩を軽く叩き、階段を下りる。

373: 2008/07/19(土) 02:53:09.71 ID:/wdXGCXt0
降りきったところで二人の女の子と鉢合わせになった。


「あ。ローゼン、私たちはあのヤブ医者からお薬もらってくるですぅ」

「ヤブ医者って・・・こんなに元気にしてもらってそれは無いんじゃないかな、スィドリーム。」

髪の長い姉が口を尖がらせて悪口を言うと、髪の短い妹がそれを注意する。
双子の会話はいつもこんな感じだ

「あぁ。気をつけていっておいで。レンピカ、スィドリーム。
 ちゃんとお医者さんにお礼をいうんだよ。」

「はいはーいですぅ」

「ローゼン。いってきます。」

ドアを開け二人が出て行く。
レンピカがブンブンと手を振っている。

あの二人の病気も随分と良くなったものだ

377: 2008/07/19(土) 02:55:08.12 ID:/wdXGCXt0

メイメイが外に出て、『close』の札を下げた。
ローゼンはカウンターに座り、お客を待つ。

さっそく、扉が開き、人が飛び込んでくる。

「いらっしゃいま・・・なんだぁ、あんた達ぃ?」

「なんだとはなにかしら、メイメイ。」

「ただいまなのーローゼン!」
ホーリエとベリーベルが大きな鞄を三個ずつ持って帰ってきた。

「ようやくできたのだわ。鞄屋さん、力作だって言っていたわ。」

「ありがとう。ホーリエ、ベリーベル。後で持って上がるからそこに置いておいてくれ。」

「ベリーベルが持っていくのー!!」
「そうね。ローゼンはしっかり働きなさい。」

二人がずるずると鞄を持って二階へ上がっていく。


378: 2008/07/19(土) 02:56:36.82 ID:/wdXGCXt0
その姿を見送って、くすっとローゼンが微笑む。
「大家族だね。まるで。」

「あらぁ・・・今更ね、ローゼン。私たちはとっくに家族でしょう?」

「・・・そうだったね。それじゃあメイメイはお母さんかな?」
二カッとわらってローゼンが言う

「おばかさぁん。それならお父さんは貴方よ。」
照れたようにそっぽを向いてメイメイが返す。



あの小さな村から引っ越して、一年がたった。

383: 2008/07/19(土) 02:58:33.95 ID:/wdXGCXt0
ある程度は名が売れた人形師とはいえ、ほとんどゼロからのスタート。
でもここまで頑張れたのは、この子達がいたからとしか言えない。

それに、自分を呼び戻してくれた、あの青年も。



「ローゼン。お客さん来るわよぉ」

窓ガラスに顔を近づけそう言うと
ササッと定位置につきしゃんと背筋を伸ばした


扉が開く。

「いらっしゃいませ、ドールショップ・ローゼンへ。」




390: 2008/07/19(土) 03:04:21.23 ID:/wdXGCXt0







そんな様子を小さなウサギ穴から覗く。ラプラスの聖

「・・・・・・・ラプラスの魔かい?」
小さなウサギが聞く。

「・・・これはまた・・・つまらないことをしましたね・・・くくく」

ラプラスの魔が背後からするりと近づき
声をかけた。

「・・・君の悪趣味よりは100倍ましさ。」
ラプラスの聖はそのまるっとした背中をラプラスの魔に向けたまま
返事を返した

391: 2008/07/19(土) 03:05:29.98 ID:/wdXGCXt0


「ラプラスの聖。貴方がどう動こうと、運命を決めるのは人間達自身。
 人形達がこの世界から消えなかったとしても、前までの彼女達に戻るとは限りませんよ?」


「・・・・心配ないさ。彼ならきっと呼び戻せる。迷子になる子なんていないさ」


「・・・・くくく・・・・・まぁ・・・いいでしょう。」
燕尾服のウサギが踵を返す。


「君はこれからどうするんだい?」


「また・・・新しい遊びを探しますよ。
 ・・・今度貴方に会えるのはいつになるでしょね?」



「・・・・さぁね。」


ザザッと世界にノイズが走る。
黒い波に白いウサギが飲み込まれる。

「イーニー
 ミーニー
 マイニー・モー・・・・神様の言うとおり・・・・くくく・・・」

392: 2008/07/19(土) 03:06:04.70 ID:/wdXGCXt0











人混み。
キラキラ光るイルミネーション。


何度か季節がめぐり
またクリスマスの時期がやってきた

ところどころにサンタの格好をした人がいて
ツリーも沢山立っている


雪は今年も降りそうだ


395: 2008/07/19(土) 03:08:21.66 ID:/wdXGCXt0




「ねぇ、桜田君。ケーキは何がいいかな?」


「・・・・巴。お前も桜田だろ。」


「あ・・・・・。・・・つい・・・癖で・・・」
巴が苦笑いをする。

ジュンと巴。

二人は結婚した。

披露宴も式も終え、名実共に夫婦になったのだ

相変わらず二人はオクテで、なかなか進展が無かったが
ジュンがプロポーズし、ようやく結ばれた。


二人の左手薬指には結婚指輪とカラーモールの可愛い指輪がついている




この日は二人の結婚祝いとクリスマスを兼ねてみつが桜田家に来てパーティーをするのだが
ケーキを買いに出て行ったのは何故か主役のこの二人だった

398: 2008/07/19(土) 03:10:15.72 ID:/wdXGCXt0


「草笛さんはチョコが良いって言ってたな」

「じゃあチョコかしらね。」

巴がホールのチョコケーキを指差す。
可愛らしい女の子のサンタがケーキの上に立っている

「・・・ふふ。真紅みたいね」

「・・・そうだな」
二人が微笑む。




何故か、ローゼンメイデンの記憶は無くならなかった。



401: 2008/07/19(土) 03:11:50.50 ID:/wdXGCXt0
喜ぶべきなのか、どうか
みんな記憶が残ったが故に、残された寂しさに苦しんだりもした


しかし、ようやく悲しみも癒え、ローゼンメイデンに関わった人々は
前を向き始めていた

自分達だけの特別で、素敵な記憶
生きた人形達と過ごした日々。


ローゼンメイデンに関わった人々はそれを宝物にして




今を生きている。











「おしまい、おしまい。」

402: 2008/07/19(土) 03:12:59.33 ID:aZQOBiAG0
ハッピーエンドなんだろうが・・・

すごくやりきれねぇ気分だ・・・

404: 2008/07/19(土) 03:13:19.29 ID:xTo8pums0
終わりかな?
おつー!

411: 2008/07/19(土) 03:15:13.82 ID:/wdXGCXt0















「・・・・・・人形劇だ。」

コンクリートの道の脇。建物の前。
ケーキを買って帰路に着いた二人の目の前に子供達が集っている。

子供達の前には木の枠、その中では小さな人形がお辞儀をしている
丁度、劇が終わったところのようだ。

「めずらしわね。こんなところで・・・」

417: 2008/07/19(土) 03:17:41.10 ID:/wdXGCXt0

老人のやけに響く「おしまい」の言葉にジュンと巴はついつい足を止めた。

子供達が飴玉を貰い散っていく。寒いのに最後まで観ていたということは
面白い内容だったのだろう


劇をしていた、白い髭をたくわえた老人が道具を片付けて建物に入る。
どうやらその建物はあの老人がやっている店らしい。


ジュンが駆け寄り、ショーウィンドウを覗いた

「アンティークドールがおいてある。人形屋さんかなぁ」

ジュンの目がキラキラ輝く
巴がクスっと笑って言う

「みていこっか?」

「うん!」

二人が店内に入った。



421: 2008/07/19(土) 03:19:35.71 ID:/wdXGCXt0
綺麗な人形達が色とりどりのドレスを来て、優雅に座っている
先ほど人形劇をしていた老人はニコニコとカウンターの向こうからこちらを眺めている


「すごいなー。綺麗な人形ばかりだ。」
ジュンがほぅ、とため息をつく

「ねぇねぇ桜田君!これ生きてるみたい!」
巴がはしゃいで言う

「・・・・・・・だからー・・・お前も桜田だって・・・」

言い終わるころ

店主であろう老人が目を見開いてジュンの傍に来ていた


423: 2008/07/19(土) 03:21:37.27 ID:/wdXGCXt0


「い・・・今なんと?」
どもりながら、店主が尋ねる。

「え・・・?いや・・お前も桜田ー・・・・?」

「失礼ですが貴方、ファーストネームは?」

「ファーストネーム?・・・え・・と・・ジュン?」

「・・・・・・・・!! 少々お待ちください!!」
店主の老人が駆け足で奥に引っ込んでいく。

「なにかしらね・・・」
巴が心配そうにしている

しばらくすると老人が荷物をいくつかに分けて持ってきた

「・・・これは・・・」
ジュンと巴がほぼ同時に声をだした

427: 2008/07/19(土) 03:23:45.44 ID:/wdXGCXt0
「これは・・・初代店主が『桜田ジュン』いう者が店を訪れたら渡しなさいと。
 代々この店に伝わってきた人形です。当店は当初イギリスに店を構えていたのですが
 その初代の伝言の人物の名が日本人だったため、先代が日本に店を移したのです。」


確かにこの老人、目の色も顔の作りも日本人離れしている

そして
6つの大きな黒い鞄。外面には薔薇の飾り、そこには美しい男の横顔の装飾が施されている


「・・・・あの・・・この店って・・・」


「はい。「ドールショップ・ローゼン」でございます」



「・・・・・・・!!!」
聞きなれた、男の名前。


「当店はずっと桜田様をお待ちしておりました。」
髭で口元は見えないが、優しい目で微笑んで、店主が言った。

434: 2008/07/19(土) 03:27:26.97 ID:/wdXGCXt0


「・・・本当に・・僕が貰って良いんですか?」


「ええ。もし人違いであっても、先代の言い伝えによると
 『ふさわしくなければ人形が自らはなれていく』と」



数十秒、黙って、ジュンが口を開いた。
「・・・・・・・・・・・巴。」


「え?」










435: 2008/07/19(土) 03:28:48.15 ID:/wdXGCXt0


「おっかえりー!!巴ちゃん!」



みつが元気よく出迎える。いいにおいがする
のりといっしょに料理を作って待っていてくれたのだろう

「ただいま。みつさん。」

「あれー?ジュンジュンは?巴ちゃんに荷物持たせるなんて、ダメねージュンジュンは。」


「いえ・・・桜田君は・・・
 もっとずっと重いものを背負ってきています。」


「?」

にこにこ顔でのりが奥からでてきた

「巴ちゃんも桜田よぅ。」



441: 2008/07/19(土) 03:34:10.81 ID:/wdXGCXt0


「・・・う・・・ぐ」

6つの鞄を持ってジュンがよたよたと歩く。かなり無理な体勢


巴は先に帰らせた

これは僕が全部運ぶ、と

中身は見なかった。見なくても確信していた



その重さを。
大切さを、噛みしめるように

ジュンはゆっくりと家に向かっていった。

442: 2008/07/19(土) 03:35:57.39 ID:/wdXGCXt0


「おそいわねぇジュン君・・・」

「ねぇ巴ちゃん。ジュンジュンは何を運んでるの?」



「・・・それは・・・」



ドン!
とドアが鳴った
巴が急いで玄関を開ける

「・・・・ただいま」
6つの見覚えのある鞄を抱いて、ジュンが家に帰ってきた
息が切れて、冬だというのに汗だくである

「ちょ・・・ジュンジュン・・・それ・・・」

「ジュンくぅん・・・それ・・もしかして・・」



ぜぇぜぇと息を切らしながらも
しっかりと、ジュンはうなずいた


447: 2008/07/19(土) 03:40:32.68 ID:/wdXGCXt0



丁寧に鞄を開ける
6体。
共に過ごした日々がよみがえる


「真紅・・・・翠星石・・・蒼星石・・・水銀燈」

「雛苺に・・・」

「カナ!!」

いなくなったはずの6体の人形達。


4人の目から涙があふれる
ジュンが静かに口を開く


「いまさらに二択は要らないよな?


 ・・・・巻こう。ゼンマイを。」





451: 2008/07/19(土) 03:42:27.85 ID:/wdXGCXt0
カチリ、と雛苺の螺子を巻き終わる。
キリキリキリと、見覚えのある光景。

「・・・・・ん・・・ジュン・・・ですか?」

「翠星石・・・・」

「うゅ・・・・ともえー?」

「雛苺・・・」

「・・・・みっちゃん!」

「・・・・カナぁ~~~・・・・」

「・・・あらぁ・・・?ここは?」

「ここは・・・ジュン君の家・・・」

「・・・あふ・・・ジュン!紅茶を淹れて頂戴!」

「水銀燈、蒼星石・・・・真紅・・・・!

 ・・・・・みんなーーー!!ぶッ!」

感情を抑えきれずジュンが6体のドールを抱きしめた。何発か反撃を食らう。
後に続いて巴、みつ、のりが雪崩のように、人形たちに抱きついていく


みんな、涙を流して喜んでいた。

458: 2008/07/19(土) 03:44:35.80 ID:/wdXGCXt0










「めぐ・・・・・・!!」
水銀燈が翼を広げて空を飛ぶ
目的地は有栖川大学病院。


桜田家でのみんなの大はしゃぎから脱出し
めぐに会うため猛スピードで空を飛ぶ

木の横の窓。思い出の病室がある。


「めぐ!!」

ばんっと窓を開けた。



465: 2008/07/19(土) 03:47:29.77 ID:/wdXGCXt0

・・・・・・・・・・


綺麗にされた病室。
布団のしかれていないベッド。
電気のついていない、薄暗い人気の無い部屋。





カーテンだけが静かに風に揺れていた。






「・・・・そんな・・・・・・・生きてって・・・・・・・
 ・・・・・・・生きてって言ったのに!!」



水銀燈が泣き崩れる。

せっかく、戻ってこれたのに

絶望に打ちひしがれ、水銀燈は下を向いたまま動かなくなった

473: 2008/07/19(土) 03:50:24.83 ID:/wdXGCXt0












「めぐちゃーん。またその病室かってに使うのー?」

「いいのよ。ここは私と天使さんの思い出の場所なの。
 私はここで休憩したいのよ。」

「また変なこと言って・・・ばれて怒られてもしらないよー」

「そのときは佐原さんのせいにしちゃおっかな」

「ちょっ・・・めぐちゃん・・・」



ははは、と笑いながら黒い、長い髪の女性が316号室に入る。
病室の中をみて、ぴたりと動きが止まった



483: 2008/07/19(土) 03:53:37.47 ID:/wdXGCXt0


薄暗い部屋にうずくまる、小さな影。
見覚えのある翼のシルエット



「・・・・・・水・・・銀燈?」



「!!・・・・・・・・め・・・ぐ・・・?」



やっぱりそうだ。
天使さん・・・

「・・・・水銀燈ーーーーー!!」

がばっと抱きつく。
「め・・・めぐぅ・・・!? 貴女・・・」

「水銀燈ぉ!!会いたかったよお!」
ぎゅうっと更に強く抱きしめる


486: 2008/07/19(土) 03:55:14.84 ID:/wdXGCXt0


「・・う・・貴女・・・・・・体は大丈夫なの?・・・入院は?」
抱きしめられ、苦しそうに水銀燈が聞く

「・・・・・うん。大丈夫よ・・実はね・・・
 パパがずっとドナーの相手を世界中から探してくれてたんだ。
 世界中飛び回って、ずっと、ね」

「!!」


「すごい大変なことなのよ?ものすごい順番待ちがあるのに
 私が手術できたのは奇跡だって言ってた。」

「・・・・」

「水銀燈の言うとおり。私がいることで幸せを感じてくれる人。いたよ。

 パパ、私が手術終わって元気になった時。
 『良かった。めぐが元気になってくれて幸せだ』って。

 言ってくれたの。」


「・・・・・めぐ・・・・」

ぎゅうっと抱きしめ返す


490: 2008/07/19(土) 03:57:54.27 ID:/wdXGCXt0

「急にいなくなったから心配したよ。水銀燈。
 私ね今ここで看護師見習いやってるんだ。水銀燈に言われた通り


 がんばって、生きてるよ。」


「・・・・・・・・・」

ボロボロと涙がこぼれる。
私の天使はこんなにも立派になってくれた


散々悩んだが、結局言うことに決めた。
自分らしくない、かっこ悪いせりふ。

「めぐ・・・これから、ずっと・・・いっしょにいてくれるぅ?・・・」

頬を赤くして、めぐを見上げる。


「!・・・・もちろんよ!水銀燈。」




冬の風が静かな病室のカーテンを揺らす
真っ白な四角い部屋
天使が二人。やさしく抱き合っていた。

495: 2008/07/19(土) 03:59:56.70 ID:/wdXGCXt0





「うわあぁぁぁ・・・カナぁぁぁ・・・」

「みっちゃん!ほっぺが!ほっぺがまさちゅーせっちゅ!!」

「ずっと一緒よー!!カナぁぁ!!」

「・・・当たり前かしらっ!みっちゃん!」
にっこり笑って、嬉しそうに金糸雀が言う。




「うっ・・・うっ・・・真紅・・・翠星石・・・蒼星石・・」

「ジュン・・・いい加減泣き止むのだわ。」

「うっとおしいことこの上ないですぅ!」

「ジュンくん・・・大丈夫?」



499: 2008/07/19(土) 04:01:01.12 ID:/wdXGCXt0

三人に心配されながら泣き続けるジュン。
それを雛苺と巴が眺めている

「あははージュンおかしいのー」

「ふふ・・・そうね。」

「・・・・・・巴・・・おめでとうなの。」
左手の指輪をなでて、雛苺が言う。

「ありがと。雛苺のおかげよ。」
頬を染めて、巴が雛苺の頭をなでた


「みんなー。シチューができたわよぅ。」
のりが元気よく叫ぶ。



「はーい!!」



鞄も開けっ放しで、皆、思い思いに今までの想いをぶつけていた
再会を喜んで。

502: 2008/07/19(土) 04:03:59.70 ID:/wdXGCXt0



「・・・でも・・・どうして?真紅?
 貴女達は存在しなくなるはずだったんじゃ・・・」

膝の上の雛苺にシチューを食べさせながら巴が聞く。


「・・・どうしてかしらね。私たちが存在していたことは変わらなかったみたいね。」
真紅が応える


「・・・お父様。何故だか・・・理由は分からないけど。
 またローゼンメイデンを作られたようね。」



「あ。」



510: 2008/07/19(土) 04:09:17.35 ID:/wdXGCXt0


ジュンが思い出したようにドール達が入っていた鞄を取り上げ
観察する

外側には美しい男の横顔と「Doll Shop Rozen」の文字。
内側、クッションになっている布地に


「For Jum」の文字。


「JU・・・M・・・・?」


鞄を閉じ、再び外側の装飾を見る
美しい、男の横顔
あのときの言葉が思い出される


(桜田ジュン。また・・・会うときが来るのかな・・?)


「・・・ローゼン・・・」

また会えたな、と心の中でつぶやいた。

512: 2008/07/19(土) 04:12:13.87 ID:/wdXGCXt0

「ジュン。」
「わ」

いつの間にか真紅が肩の後ろから覗き込んでいる。

「お人形は人に愛されて、人を幸せにするためにあるのだわ。
 お父様は、それを良く分かってらっしゃるわ。」

「・・・ローゼンは僕達のために?」

「ええ。きっとね。貴方なら私たちを大事にしてくれるでしょうからね。」

ジュンを試すような、悪戯な笑み。
ジュンは何か反論しようとしたが、止めた。


「・・・・・・・・これからもずっと一緒にいられるかな?」



514: 2008/07/19(土) 04:13:26.98 ID:/wdXGCXt0

「ええ。
 私たちはローゼンメイデン。貴方達の幸せなお人形。


 これからも、ずっと、ね。」



優しい笑顔。
暖かな団欒。



12月も終わりに近づいた寒空。
外は雪が降り始めている。


少年と人形達の物語は
まだまだずっと

続いていくことだろう







おしまい

528: 2008/07/19(土) 04:17:03.46 ID:tLP8xDWK0
感動した!

535: 2008/07/19(土) 04:21:19.37 ID:/wdXGCXt0







朝の桜田家。
巴が洗濯物を干している。
その左手には結婚指輪とカラーモールの指輪が輝いている。



「真紅。・・・・翠星石が合図したら思いっきりこの紐をひっぱるですよ」

「ええ。わかっているわ。」

巴がベランダから部屋に戻ってくる。
「! 今です!!」

539: 2008/07/19(土) 04:22:16.44 ID:/wdXGCXt0
「きゃあっ!!」
ゴンっと鈍い音をたてて、巴が頭から床に倒れこんだ。

「うっし!です!!」

「うまくいったのだわ」
二人がハイタッチをする

「い・・・いったぁい・・・真紅・・・翠星石・・・
 二人ともなんでこんなことを・・・」

ヨロヨロと巴が半身を起こす。


「自分の胸に聞いてみろですぅ!!!」

そう吐き捨てると
サササーッと二人は走って逃げていった。



「???」




おしまい?

544: 2008/07/19(土) 04:23:44.08 ID:/wdXGCXt0
みんなありがとー
みんな乙ー

長くなってすまんね
これでこのシリーズはおしまい。


本当によんでくれてありがとう

618: 2008/07/19(土) 14:49:38.70 ID:/wdXGCXt0
まだ残ってるwwww

620: 2008/07/19(土) 15:05:54.82 ID:/wdXGCXt0
次は予告どおり
再びのり主体で書きます


殺伐欝なのを



それにしても
ぷん太かわいいよぷん太

引用: 「私たちはローゼンメイデン」