1: 2008/07/07(月) 20:26:11.12 ID:0QeZ1eus0
桜田ジュンがゆっくりと目を開ける
少し開いているカーテンからは鉛色の空が覗いている
力強く光を浴びていた若葉は枯れ落ち、もうすっかり冬の景色だ
体を起こし目をこすった。
真紅と翠星石はまだ鞄の中のようだ
のりの結婚から早2ヶ月が過ぎた。
12月も終わりに近づき、町の景色と共に慌しかった桜田家も
落ち着きを取り戻していた。
少し開いているカーテンからは鉛色の空が覗いている
力強く光を浴びていた若葉は枯れ落ち、もうすっかり冬の景色だ
体を起こし目をこすった。
真紅と翠星石はまだ鞄の中のようだ
のりの結婚から早2ヶ月が過ぎた。
12月も終わりに近づき、町の景色と共に慌しかった桜田家も
落ち着きを取り戻していた。
5: 2008/07/07(月) 20:28:36.31 ID:0QeZ1eus0
真紅たちを起こさないよう静かに部屋をでて
洗面台の前、鏡を見る
中学の頃とはずいぶんと容姿も変わったものだ
ジュンは大学に入ってから、メガネをやめコンタクトにし、
髪も茶色に染めた。
翠星石からは笑われるわ、のりには非行にはしるんじゃないかと心配されるわ
巴からは妙に気を使われるわ
イメージチェンジは完璧に失敗に終わっていた。
コンタクトも未だに慣れない。
8: 2008/07/07(月) 20:32:50.84 ID:0QeZ1eus0
顔を洗い鏡を見る。
毎朝顔を洗うのも億劫になるほど水が冷たくなっている
コンタクトをつけると、左手薬指。
真紅と翠星石、二人分の大きな薔薇の指輪が目に入った。
5年前、一度は外れた指輪
真紅が訪れた当初はあんなにも外したかったのに
今ではこの指輪がジュンの覚悟の証となっていた
れんこん
11: 2008/07/07(月) 20:35:24.35 ID:0QeZ1eus0
―――――――――5年前。
「開けますか? 開けませんか?」
「・・・・・・僕は扉を 開ける!」
金糸雀と共に真紅、翠星石、水銀燈を救いに
nのフィールドへ入った後のこと
「あいつら・・・」
指輪の外れた左手薬指。それを眺めながらジュンはつぶやいた
あの小さな人形達が過酷な運命を背負って戦っている
その運命に自分を巻き込むまいと、彼女らは誓いを解いた
むき出しの薬指を見て、ジュンはそう理解した
「開けますか? 開けませんか?」
「・・・・・・僕は扉を 開ける!」
金糸雀と共に真紅、翠星石、水銀燈を救いに
nのフィールドへ入った後のこと
「あいつら・・・」
指輪の外れた左手薬指。それを眺めながらジュンはつぶやいた
あの小さな人形達が過酷な運命を背負って戦っている
その運命に自分を巻き込むまいと、彼女らは誓いを解いた
むき出しの薬指を見て、ジュンはそう理解した
12: 2008/07/07(月) 20:39:30.63 ID:0QeZ1eus0
ジュンの左斜め前。金糸雀が傘をもって滑空している
その表情は普段からは考え付かないほど凛々しいものだ
その小さな姿に
雛苺が重なった
ついさっきベリーベルから雛苺のアリスゲームリタイアを知らされた
ジュンの心は自責の念で一杯だった
自分があんな、きつい言い方をしたせいで雛苺は
あんな目にあってしまったんじゃないか?と
誰よりもやさしい、可愛らしい幼い笑顔。
ジュンはうっとおしい、うっとおしいとばかり言っていたが
その笑顔に、確かに癒されていた
その、かけがえのないものを
自分のせいで失ってしまった
闘う決意は扉の前でしてきたはずだったが
ジュンの顔は少しずつ下を向いていっていた
15: 2008/07/07(月) 20:45:59.31 ID:0QeZ1eus0
「ジュン!」
金糸雀に呼ばれ、はっと顔を上げる
「波の音・・・」
「無意識の海の近くかしら?霧が深いわ」
「どうにかならないのか?」
「ピチカート!瞬いてかしら」
深い霧の中。ピチカートの小さな瞬きを頼りに進む
霧が体に纏わりつくようだ
「・・・ジュン。姉妹の気配がするかしら」
「!! 本当か!?探そう!」
「すぐそこに。」
「!・・・・」
金糸雀に呼ばれ、はっと顔を上げる
「波の音・・・」
「無意識の海の近くかしら?霧が深いわ」
「どうにかならないのか?」
「ピチカート!瞬いてかしら」
深い霧の中。ピチカートの小さな瞬きを頼りに進む
霧が体に纏わりつくようだ
「・・・ジュン。姉妹の気配がするかしら」
「!! 本当か!?探そう!」
「すぐそこに。」
「!・・・・」
18: 2008/07/07(月) 20:50:01.06 ID:0QeZ1eus0
霧に揺れる影が二つ。
「おい金糸雀。二人いるぞ!例の第七ドールかもしれない!
急ごう!」
金糸雀は傘をバイオリンに変え、霧の中を走る
二つの影に近づいたとき、霧が晴れた。
「翠星石!・・・・・ッ!?」
「ジュン!」
そこには停止したはずの蒼星石の姿があった
翠星石に抱きしめられ、美しかった緑色の右目からは真っ白な薔薇の花と茨が伸び
その茨は翠星石にまで絡み付いている
姿形は蒼星石そのものだが、ジュンは明らかに何か異様なものを感じた
「おい金糸雀。二人いるぞ!例の第七ドールかもしれない!
急ごう!」
金糸雀は傘をバイオリンに変え、霧の中を走る
二つの影に近づいたとき、霧が晴れた。
「翠星石!・・・・・ッ!?」
「ジュン!」
そこには停止したはずの蒼星石の姿があった
翠星石に抱きしめられ、美しかった緑色の右目からは真っ白な薔薇の花と茨が伸び
その茨は翠星石にまで絡み付いている
姿形は蒼星石そのものだが、ジュンは明らかに何か異様なものを感じた
19: 2008/07/07(月) 20:54:09.12 ID:0QeZ1eus0
「翠星石!そいつから離れろ!」
「・・・・・ッ・・嫌です!もう翠星石は・・・蒼星石とは離れたくありません!」
「翠星石・・・」
金糸雀はバイオリンを握り締めたまま動けない。
茨はさらに伸び続け、翠星石の体を覆おうとしている
「翠星石!」
痺れを切らしたジュンが翠星石の肩をつかみ引き剥がす
「いやぁ!!蒼星石!蒼星石ぃ!!」
泣き喚きながらバタバタと翠星石が手を伸ばす
「・・・・・ッ・・嫌です!もう翠星石は・・・蒼星石とは離れたくありません!」
「翠星石・・・」
金糸雀はバイオリンを握り締めたまま動けない。
茨はさらに伸び続け、翠星石の体を覆おうとしている
「翠星石!」
痺れを切らしたジュンが翠星石の肩をつかみ引き剥がす
「いやぁ!!蒼星石!蒼星石ぃ!!」
泣き喚きながらバタバタと翠星石が手を伸ばす
20: 2008/07/07(月) 20:58:11.69 ID:0QeZ1eus0
「翠星石・・・!」
彼女の気持ちはわかる。二人の闘いはすぐ傍で見てきたのだから
だが、このままでは翠星石まで失ってしまう
「!・・・蒼星石・・・?」
微かに蒼星石が微笑んだように、ジュンには見えた。
真っ白な茨に包まれた蒼星石は霧と同化し、やがて消えていった
彼女の気持ちはわかる。二人の闘いはすぐ傍で見てきたのだから
だが、このままでは翠星石まで失ってしまう
「!・・・蒼星石・・・?」
微かに蒼星石が微笑んだように、ジュンには見えた。
真っ白な茨に包まれた蒼星石は霧と同化し、やがて消えていった
22: 2008/07/07(月) 21:02:11.65 ID:0QeZ1eus0
「う・・・うぅ・・蒼星石・・・蒼星石ぃ・・・」
翠星石が座り込み、泣いている
こういうとき、どうしたらいいのだろう。ジュンは考えていた。
一度真紅から慰めるのは下手、と言われたことがある
それを今改めて実感する。かける言葉が見つからない
23: 2008/07/07(月) 21:02:44.32 ID:0QeZ1eus0
「翠星石。」
金糸雀が膝をつき、翠星石の頬を両手で持つ。
「しっかりするかしら。今、真紅も危ない状況にあるわ。
貴女の力が必要なの。」
「・・・・真・・紅・・・も・・?」
「えぇ。急がなくちゃ
泣くのはその後かしら」
「・・・・・・」
もうこれ以上姉妹を失うのは嫌だ・・・
ごしごしと袖で涙を拭き、勢いよく翠星石が立ち上がった
「・・・チビ人間!チビカナ!ついてくるです!!」
25: 2008/07/07(月) 21:06:23.33 ID:0QeZ1eus0
「・・・お姉さま。薔薇の誓いを解いたのですね」
無機質な笑みを浮かべ、真っ白なドレスのドールが言う
「・・・えぇ。貴女の・・・思い通りには・・させない・・」
巨大な白い薔薇に飲み込まれながら、真紅が苦しそうに応える
「でも残念でしたわね。お姉さまの媒介は今、すぐそこまで来ていますわ」
「!!・・・ジュン・・!」
27: 2008/07/07(月) 21:11:16.75 ID:0QeZ1eus0
真っ暗な空間にぽっかりと穴が開く
白い茨に包まれてパジャマの女の子が雪華綺晶の元に届けられた
柿崎めぐ。ローゼンメイデン第一ドール水銀燈のミーディアムである。
「・・・その・・子は・・?」
「・・・・・・」
無表情で、めぐの頬を雪華綺晶がやさしく撫でる
雪華綺晶に表情はない、だがどこか愛おしそうに見える
白い茨に包まれてパジャマの女の子が雪華綺晶の元に届けられた
柿崎めぐ。ローゼンメイデン第一ドール水銀燈のミーディアムである。
「・・・その・・子は・・?」
「・・・・・・」
無表情で、めぐの頬を雪華綺晶がやさしく撫でる
雪華綺晶に表情はない、だがどこか愛おしそうに見える
28: 2008/07/07(月) 21:15:57.55 ID:0QeZ1eus0
「雪華綺晶ッ!!」
静寂が破られた
そう叫びながら、閉じかけていた穴から漆黒のドールが飛び込んでくる
「水銀燈!?」
大きく翼をはためかせ、迷いなく雪華綺晶めがけて羽を撃つ
「黒薔薇のお姉さま・・・」
再び雪華綺晶が無機質な笑みを浮かべる。
すると雪華綺晶のまわりには無数の茨が出現し
竜巻のように渦を巻き、羽を叩き落した
漆黒の羽はひとつも雪華綺晶に届くことはなく、闇に消えていった
30: 2008/07/07(月) 21:20:30.57 ID:0QeZ1eus0
スタッと、軽やかに茨の上に足を下ろすと
雪華綺晶を睨みつけ、怒りをこめて声を出した
「雪華綺晶・・・!どういうつもり!?
めぐを返しなさい!」
「・・・約束しておいたはずです・・お姉さま?」
「こっちはした覚えないわよぉ!そもそもあんたなんか信用してないわ!」
怒鳴る水銀燈。
一方、雪華綺晶は、くすくすと笑う
「じゃあ、どうなさいます?ここで貴女の大好きな『ジャンク』にしてあげましょうか?」
「!?」
あっという間に白い茨に囲まれる
無数の茨に叩かれ、水銀燈は地面に落とされた
31: 2008/07/07(月) 21:20:58.31 ID:0QeZ1eus0
「う・・・」
「水・・・銀燈・・」
真紅も水銀燈も身動きが取れなくなってしまった
「さて、と・・・」
雪華綺晶が真紅に近づく、そのとき
「真紅!!」
「・・ジュ・・ン!!」
33: 2008/07/07(月) 21:23:38.29 ID:0QeZ1eus0
間一髪、真紅のもとにたどり着いたはいいが
ジュンは蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなった
白いドレス。髪の長いドール。
顔は笑っているが、目は氷のように冷たい
初めて水銀燈にあった時も同じように動けなくなったが
ジュンはその時以上の恐怖と威圧感を感じていた
「チビ人間!真紅を助けるですよ!」
ビクッと翠星石の言葉で我に返る
ジュンは蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなった
白いドレス。髪の長いドール。
顔は笑っているが、目は氷のように冷たい
初めて水銀燈にあった時も同じように動けなくなったが
ジュンはその時以上の恐怖と威圧感を感じていた
「チビ人間!真紅を助けるですよ!」
ビクッと翠星石の言葉で我に返る
34: 2008/07/07(月) 21:26:17.65 ID:0QeZ1eus0
「・・・真紅!今行くぞ!」
きゅっと、気を引き締めて
白い薔薇を駆け上る。真紅の体はもう腕と頭しか見えていない
しっかりと真紅の手をつかむ
「ジュン・・・!どうして・・ここに・・?」
「雛苺が・・・あいつが教えてくれた」
引っ張るが一向に薔薇から抜ける様子がない
「馬鹿な媒介・・・せっかくお姉さまが契約を解いたというのに・・」
ゆっくりと雪華綺晶が近づいてくる
その右手からは白い茨が伸びている
「ジュン!翠星石!金糸雀!水銀燈をつれてここを離れなさい!
貴方達までやられてしまうわ!」
ガタガタと自分の意思とは関係なく体が震える
ジュンはただ真紅の手を握ることしかできていなかった
そのとき
ちょん、とジュンの背中に何かが触れた
きゅっと、気を引き締めて
白い薔薇を駆け上る。真紅の体はもう腕と頭しか見えていない
しっかりと真紅の手をつかむ
「ジュン・・・!どうして・・ここに・・?」
「雛苺が・・・あいつが教えてくれた」
引っ張るが一向に薔薇から抜ける様子がない
「馬鹿な媒介・・・せっかくお姉さまが契約を解いたというのに・・」
ゆっくりと雪華綺晶が近づいてくる
その右手からは白い茨が伸びている
「ジュン!翠星石!金糸雀!水銀燈をつれてここを離れなさい!
貴方達までやられてしまうわ!」
ガタガタと自分の意思とは関係なく体が震える
ジュンはただ真紅の手を握ることしかできていなかった
そのとき
ちょん、とジュンの背中に何かが触れた
35: 2008/07/07(月) 21:28:09.23 ID:0QeZ1eus0
相変わらず体は動かせなかったので振り返ることは出来なかったが
しっかりと声は聞こえた
(ジュン。大丈夫なのよ。ジュンは負けない、皆がついてるのよ)
体が動く。振り返るがそこには誰もいない
「雛苺・・・」
「ジュン!!前!前をみるかしら!!」
金糸雀が叫んだ
雪華綺晶が茨を鞭の様にして振りかぶっている
38: 2008/07/07(月) 21:31:41.20 ID:0QeZ1eus0
だが
茨はジュン達の一歩手前。光り輝く壁に弾かれた
「ジュン・・?」
キラキラと輝く虹色の光がジュンから発せられている
その光は真紅を捕らえていた薔薇を吹き飛ばし
5人を包んだ
茨はジュン達の一歩手前。光り輝く壁に弾かれた
「ジュン・・?」
キラキラと輝く虹色の光がジュンから発せられている
その光は真紅を捕らえていた薔薇を吹き飛ばし
5人を包んだ
39: 2008/07/07(月) 21:33:21.21 ID:0QeZ1eus0
光に弾かれた雪華綺晶が目を見開く
「これは・・・なに?
薔薇の誓いが解かれたのに媒介にこんな力が宿るはずは・・・」
「・・・・雪華綺晶・・・お前がアリスゲームを望むのなら・・・
お前がこいつらを傷つけ続けるなら・・・・・・・・・
僕が・・僕が何度でもお前を止めてみせる!!
こいつらは・・・・僕が守る!!」
先程まで怯えきっていた少年の目ではない
その目の輝きには確かな、覚悟が宿っていた
「これは・・・なに?
薔薇の誓いが解かれたのに媒介にこんな力が宿るはずは・・・」
「・・・・雪華綺晶・・・お前がアリスゲームを望むのなら・・・
お前がこいつらを傷つけ続けるなら・・・・・・・・・
僕が・・僕が何度でもお前を止めてみせる!!
こいつらは・・・・僕が守る!!」
先程まで怯えきっていた少年の目ではない
その目の輝きには確かな、覚悟が宿っていた
41: 2008/07/07(月) 21:37:12.09 ID:0QeZ1eus0
「これが・・・絆の力・・ですか・・?」
「ジュン・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
無表情だった顔を笑顔に戻し雪華綺晶が下がっていく
「・・・今回は、これでいいですわ・・望みのものはとりあえず一つ手に入ったことですし・・」
めぐと共に雪華綺晶が闇に溶け
静かに消えていった
「めぐっ!!!」
水銀燈の叫びはむなしく
深い闇に吸い込まれていった
「ジュン・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
無表情だった顔を笑顔に戻し雪華綺晶が下がっていく
「・・・今回は、これでいいですわ・・望みのものはとりあえず一つ手に入ったことですし・・」
めぐと共に雪華綺晶が闇に溶け
静かに消えていった
「めぐっ!!!」
水銀燈の叫びはむなしく
深い闇に吸い込まれていった
43: 2008/07/07(月) 21:40:48.90 ID:0QeZ1eus0
流れる静寂。嵐が過ぎ去ったあとのように全員が呆けている
「・・・・・あれが・・・水銀燈のマスターですか?」
「そのようね・・・」
ズシン、と鈍い音を立てて世界が揺れ始めた
「く・・・崩れるかしらー!?」
「急がなくてはいけないようね。」
「来た道を戻ろう!こっちだ!」
ジュン、翠星石、金糸雀が飛んでいく
真紅だけが立ち止まり振り返った
44: 2008/07/07(月) 21:47:47.95 ID:0QeZ1eus0
水銀燈はめぐが消えた方向を見据えたまま、立ち尽くしている
「・・・・・・水銀燈!不本意だけど貴女も来なさい
このままではnのフィールドに閉じ込められてしまうわ」
「・・・・・・・・やぁよ。」
「・・・・・・・・水銀燈?」
「・・・・真紅。・・・・・・・・・貴女も・・立派なマスターをもったのねぇ・・」
「? 水銀燈、早く!!」
「あの子はね・・・・・・私の、天使なの。行かなくっちゃ・・・
・・・・・・・・・ばいばぁい。真紅」
「水銀燈!!!!」
振り返り、微笑んでから
水銀燈は崩れる世界に消えた
「・・・・・・水銀燈!不本意だけど貴女も来なさい
このままではnのフィールドに閉じ込められてしまうわ」
「・・・・・・・・やぁよ。」
「・・・・・・・・水銀燈?」
「・・・・真紅。・・・・・・・・・貴女も・・立派なマスターをもったのねぇ・・」
「? 水銀燈、早く!!」
「あの子はね・・・・・・私の、天使なの。行かなくっちゃ・・・
・・・・・・・・・ばいばぁい。真紅」
「水銀燈!!!!」
振り返り、微笑んでから
水銀燈は崩れる世界に消えた
45: 2008/07/07(月) 21:52:28.54 ID:0QeZ1eus0
「ジュン君!!皆!!」
薄暗い鏡の部屋。のりが駆け寄る
息を切らしながら、ジュンと3体のドールが床に寝そべっている
「・・・・姉ちゃん・・・。夕飯、ある?」
「・・・・・・・・ッ!!・・もちろんよぉ・・」
「ごめん・・よろしく。お腹へったや・・」
「・・・・・お疲れ様。すぐに準備するね」
泣きじゃくるのりに抱きかかえられ、ジュンは心底ホッとした
真紅たちもぎゅっと抱きしめ、涙を拭きながらのりは台所へ向かっていった
「真紅・・・・翠星石・・・大丈夫か?」
「カナは大丈夫かしら!!」
「・・・へ・・平気ですぅ」
「問題ないのだわ」
「・・水銀燈はどうした?」
「・・・・・問題ないわ。彼女もちゃんと逃げたわ」
「・・・そうか。よかった・・・」
そう言って一息つくと
ジュンは真紅と、翠星石の前に跪いた。
薄暗い鏡の部屋。のりが駆け寄る
息を切らしながら、ジュンと3体のドールが床に寝そべっている
「・・・・姉ちゃん・・・。夕飯、ある?」
「・・・・・・・・ッ!!・・もちろんよぉ・・」
「ごめん・・よろしく。お腹へったや・・」
「・・・・・お疲れ様。すぐに準備するね」
泣きじゃくるのりに抱きかかえられ、ジュンは心底ホッとした
真紅たちもぎゅっと抱きしめ、涙を拭きながらのりは台所へ向かっていった
「真紅・・・・翠星石・・・大丈夫か?」
「カナは大丈夫かしら!!」
「・・・へ・・平気ですぅ」
「問題ないのだわ」
「・・水銀燈はどうした?」
「・・・・・問題ないわ。彼女もちゃんと逃げたわ」
「・・・そうか。よかった・・・」
そう言って一息つくと
ジュンは真紅と、翠星石の前に跪いた。
47: 2008/07/07(月) 21:53:23.64 ID:0QeZ1eus0
「真紅、翠星石。もう一度僕と契約してくれ。
・・・もう、僕は逃げない。・・・必ずお前達を守る
雛苺も、蒼星石も、必ず取り戻す!」
「・・・・・・・・・」
翠星石はきょとん、としている
「・・・・・・・・・こんな危険な目にあってしまうのよ?
貴方の開きかけた扉を閉ざしてしまうことになるかもしれないのよ?」
「もう、覚悟は出来てる」
「・・・そう。でも、その前に言うことがあるのだわ」
50: 2008/07/07(月) 21:57:36.06 ID:0QeZ1eus0
「・・・・・・・・・・・ありがとう。もう下僕だなんて呼べないわね」
・・・・・・ずいぶんと立派になったのね、マスター。」
「真紅・・」
真紅が薔薇の指輪を差し出す
「・・・・・・」
翠星石も頬を赤くしながら、指輪を出す
「・・・これからも、よろしくな。」
二つの指輪に口付けをする
再び、誓いと共に薔薇は結ばれた
51: 2008/07/07(月) 22:01:33.47 ID:0QeZ1eus0
――――――5年前の話である。
雪華綺晶も水銀燈もあれ以来姿を見せていなかった
しかし
のりのドレスを追い、nのフィールドへ入った時
確かに白い茨と共にあの恐怖は再び訪れた。
ジュンは、歯車が回り始めたのを感じた・・・
52: 2008/07/07(月) 22:02:34.52 ID:0QeZ1eus0
真っ暗なnのフィールド。
雪華綺晶はめぐをやさしく撫でながらふわふわと宙に浮いている
膝の上に乗せためぐから視線を上げる
「・・・・・・・黒薔薇のお姉さま・・・」
真っ暗なnのフィールド。
ぼろぼろの、漆黒のドールが、ふわりふわりと
力なく漂っていた
54: 2008/07/07(月) 22:05:23.44 ID:0QeZ1eus0
――――――――――遠い遠い昔・・・・・
ぱちっ と大きな目が開かれ金色の瞳がのぞく
綺麗な瞳は左目にしかなく、右目にはぽっかりと暗い空洞が広がっている
綺麗な顔をした女の子だ。しかしその顔には表情は無く、人形のようである
きょろきょろと周りを見渡す
冷たく、湿った狭い石の部屋
古い木の椅子に金髪の男が座っている
56: 2008/07/07(月) 22:06:10.99 ID:0QeZ1eus0
隻眼の女の子は、彼が自分の父親だと直感で理解した
それは鳥類に見られる刷り込みに近いものがあったのかもしれない
両腕を広げ、飛びつく。
愛したかった、愛されたかった。
しかし、男の体を腕はするりと通り抜ける
触れられない
57: 2008/07/07(月) 22:08:46.54 ID:0QeZ1eus0
「お・・・父・・様・・」
「・・・・・・・・」
何度手を伸ばしても、スカスカとすり抜ける
無表情のまま左目から涙がこぼれる
やがて、男はゆっくりと消えていった
58: 2008/07/07(月) 22:09:50.42 ID:0QeZ1eus0
とても長い時間、下を向いて隻眼の少女は泣いていた
ふと顔を上げるとそこは真っ暗な世界だった
「こんにちは、お嬢さん」
「・・・・・・・だれ?」
「私はラプラス。しかし、私のことなど、どうでもいいでしょう。
貴女方ドールズにとって重要なのは、アリスゲーム。それだけです」
「アリス・・・ゲーム?」
「はい。器を持たないお嬢様
貴女より先に6体の姉妹人形が作られました。
貴女方7人のうち、貴女方を創った「お父様」に会えるのはただ一人・・・・。
ただ一人の究極の少女「アリス」が生まれるまで、頃し合いを続ける・・・
それが、アリスゲームです。」
59: 2008/07/07(月) 22:12:32.75 ID:0QeZ1eus0
「・・・・・・・・・・」
冷たく、湿った狭い石の部屋
金髪の男を思い出す・・・
「お父様に会いたい・・・・」
「くくく・・・それでは他の6人が邪魔ですねぇ・・・」
「・・・壊せば・・・いいのでしょう・・?」
みんな・・・みんな・・・」
「くくく・・・・よろしい。貴女は『雪華綺晶』。
冷たく笑う。雪の華・・・・・くくくく・・・」
冷たく、湿った狭い石の部屋
金髪の男を思い出す・・・
「お父様に会いたい・・・・」
「くくく・・・それでは他の6人が邪魔ですねぇ・・・」
「・・・壊せば・・・いいのでしょう・・?」
みんな・・・みんな・・・」
「くくく・・・・よろしい。貴女は『雪華綺晶』。
冷たく笑う。雪の華・・・・・くくくく・・・」
60: 2008/07/07(月) 22:14:15.87 ID:0QeZ1eus0
ぱちっ と目を開く
いつの間にか眠ってしまっていたのか、まったく知らないところにいる
下にはひどく寂れた町。上にはそれに妙にマッチした暗い鉛色の空
自分はその中間、高い時計台のてっ辺にいる
雪華綺晶、と名づけられた人形はふわりと町に降り
無表情で一人静かに、ゲームの相手を探し始めた。
空が暗いので時間の感覚が無かったが、どうやら夜のようだ
町は水をうったように静まり返っている
「お姉さまたちは・・・いないの?」
61: 2008/07/07(月) 22:16:27.01 ID:0QeZ1eus0
「じゃあな。また来るぜ」
ある建物の扉が開き、小汚い男が下品な笑い顔で出て行く
それを扉に寄りかかり、軽く手を振って見送る美しい女がいる
男の姿が小さくなったころ、女はため息をついて扉の中に戻っていった
「・・・・・・?」
雪華綺晶はこの町で見かけた初めての人間の姿を追った。
ガラスにぴったりと顔をつけ、部屋の中を覗く
本当に美しい女。
長い髪に漆黒の瞳。肌は白く、雪原のようだ
「・・・・・・・」
「ん?・・・・・・・きゃあっ!!」
「・・・・・・・・・・・?」
ある建物の扉が開き、小汚い男が下品な笑い顔で出て行く
それを扉に寄りかかり、軽く手を振って見送る美しい女がいる
男の姿が小さくなったころ、女はため息をついて扉の中に戻っていった
「・・・・・・?」
雪華綺晶はこの町で見かけた初めての人間の姿を追った。
ガラスにぴったりと顔をつけ、部屋の中を覗く
本当に美しい女。
長い髪に漆黒の瞳。肌は白く、雪原のようだ
「・・・・・・・」
「ん?・・・・・・・きゃあっ!!」
「・・・・・・・・・・・?」
63: 2008/07/07(月) 22:20:43.05 ID:0QeZ1eus0
数分後。雪華綺晶はガラス越しに覗いていた建物の中にいた
「びっくりしたわぁ~。覗いてないで声を掛けてくれればよかったのに」
「・・・・・・・・・・・・」
落ち着いた綺麗な声。女は二つ椅子を引いて、その一つに座った
「・・・・・・貴女。幽霊?」
頬杖をついて、心なしかわくわくした風に女が問う
「?・・・・・・いいえ?」
「えー嘘ぉ。だって貴女にちょっとも触れないんだもの。幽霊以外の何者でもないわよ」
64: 2008/07/07(月) 22:21:14.55 ID:0QeZ1eus0
「・・・・・・・・・・あ・・」
自らの体験と、ラプラスの言葉を思い出す。器を持たない、と
「幽霊ではありませんわ・・お人形です。」
「・・・へぇ。お人形の幽霊・・・」
「幽霊ではありませんわ。」
「似たようなものよ」
見た目とは違ってけっこう、さばさばとしたしゃべり方だな、と雪華綺晶は思った
65: 2008/07/07(月) 22:22:29.07 ID:0QeZ1eus0
「貴女。名前は?」
「・・・・・・雪華綺晶」
「私はエレーン。よろしくね、雪華綺晶
貴女綺麗ねぇ。惚れ惚れしちゃう」
「・・・・・・・・・」
66: 2008/07/07(月) 22:23:26.67 ID:0QeZ1eus0
それからというもの
雪華綺晶は一日中ふわふわと空を飛んだり
鏡の中を通って姉妹を探したりしていたが
飽きると度々、エレーンのところに行くようになった
美しいものを見るのが嫌いな者などいない
雪華綺晶はエレーンを美しいと思っていたし
相変わらず無表情だったが彼女と話すのはなかなか楽しいと思っていた
雪華綺晶は一日中ふわふわと空を飛んだり
鏡の中を通って姉妹を探したりしていたが
飽きると度々、エレーンのところに行くようになった
美しいものを見るのが嫌いな者などいない
雪華綺晶はエレーンを美しいと思っていたし
相変わらず無表情だったが彼女と話すのはなかなか楽しいと思っていた
68: 2008/07/07(月) 22:28:38.94 ID:0QeZ1eus0
「・・・ねぇ雪華綺晶。」
「どうしました?」
「あなた、ご飯はどうしてるの?」
「・・・・ごはん?」
「お腹減らない?スープあるんだけど?」
スープの入った皿を雪華綺晶の前においた
「あ、でも、貴女が食べるとすり抜け・・・って、えええええええええええええ!!?」
「・・・・・・はい?」
雪華綺晶はバリバリとお皿まで口に入れ、頬張っている
「ちょっ・・・どうしてスープとお皿には触れるのよ!?」
エレーンが笑いと怒りを同時に出したような奇妙な顔をしながら、皿を奪い取る
69: 2008/07/07(月) 22:29:40.22 ID:0QeZ1eus0
「・・・食べるのは、好きですわ。」
口をもにょもにょしながら雪華綺晶が言う
「・・・・・・・・・っぷ。あはははは!」
「・・・・・・・??」
70: 2008/07/07(月) 22:30:30.47 ID:0QeZ1eus0
またある日は、アリスゲームの話をした
「たった一人の究極の少女になれたドールだけが、お父様に会えるのですわ」
「・・・ふぅん。お父様に、ねぇ・・・」
「私達は力を貰うために人間をマスターとし、媒介にするのです。
この、薔薇の指輪を人間の左手の薬指に嵌めさせ、力を送らせる。
・・・・この話はウサギの受け売りなのですけど」
薔薇の指輪を顔の横でひらひら動かしながら雪華綺晶が説明する
「ウサギ!?なにそれ!?その話が聞きたいわ」
「あんなウサギどうだっていいのですわ。」
「たった一人の究極の少女になれたドールだけが、お父様に会えるのですわ」
「・・・ふぅん。お父様に、ねぇ・・・」
「私達は力を貰うために人間をマスターとし、媒介にするのです。
この、薔薇の指輪を人間の左手の薬指に嵌めさせ、力を送らせる。
・・・・この話はウサギの受け売りなのですけど」
薔薇の指輪を顔の横でひらひら動かしながら雪華綺晶が説明する
「ウサギ!?なにそれ!?その話が聞きたいわ」
「あんなウサギどうだっていいのですわ。」
73: 2008/07/07(月) 22:34:05.79 ID:0QeZ1eus0
「・・・ちぇっ。雪華綺晶はマスターを探さないの?」
「・・・・・・エレーンに、私のマスターになってもらいたいと言ったら
・・・・・・どうしますか?」
「・・・・う~ん。ごめんね雪華綺晶。私の左手薬指は予約済みなんだ。」
「・・・・・そう・・・」
無表情だが、悲しそうに。雪華綺晶は下を向いた
「でも、私は貴女を応援するわ。お父様に会えるといいわね」
やさしく微笑み、スカスカとすり抜ける頭をなでた
74: 2008/07/07(月) 22:34:44.88 ID:0QeZ1eus0
空に月が輝いている
雪華綺晶が夜、エレーンの元を訪れるのは、初めて会った時以来だった
まず、窓から中を覗く
いつもならエレーンがそれに気づいて中に入れてくれる
しかしこの日は違った。
「・・・・・・・・誰か・・いる」
安物の木のベッドがぎしぎしとゆれている
微かに聞こえるエレーンの声
もう一人は男だ
「・・・・・・・・・・」
しばらくするとエレーンは裸のままその男から金を受け取り
男は醜い笑い顔で部屋を後にした
雪華綺晶が夜、エレーンの元を訪れるのは、初めて会った時以来だった
まず、窓から中を覗く
いつもならエレーンがそれに気づいて中に入れてくれる
しかしこの日は違った。
「・・・・・・・・誰か・・いる」
安物の木のベッドがぎしぎしとゆれている
微かに聞こえるエレーンの声
もう一人は男だ
「・・・・・・・・・・」
しばらくするとエレーンは裸のままその男から金を受け取り
男は醜い笑い顔で部屋を後にした
76: 2008/07/07(月) 22:40:57.90 ID:0QeZ1eus0
「・・・・・・・・・」
「・・・・・きゃっ!・・・・・・・・来てたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・軽蔑する?」
寂しそうに笑いながらエレーンが聞く
「?・・・別に・・・・何故??」
「・・・・・・そう。ありがと。雪華綺晶」
「??」
正直、無知な雪華綺晶は何に対して軽蔑するのか、何故ありがとうなのか
よくわかっていなかったが
なんだか、エレーンを傷つけたような気がして
心がちくりと痛んだ
77: 2008/07/07(月) 22:41:42.68 ID:0QeZ1eus0
暗い空から冬の結晶が降り注ぐ。
無表情で窓の外を眺める
エレーンの寂しそうな笑みを見てからというもの雪華綺晶は無言だったが
はらはらと舞う雪をみて
「これが冬・・・」
と、つぶやいた。
「雪は珍しい?」
「・・・初めて見ますわ・・」
無表情で窓の外を眺める
エレーンの寂しそうな笑みを見てからというもの雪華綺晶は無言だったが
はらはらと舞う雪をみて
「これが冬・・・」
と、つぶやいた。
「雪は珍しい?」
「・・・初めて見ますわ・・」
78: 2008/07/07(月) 22:44:56.19 ID:0QeZ1eus0
「ふふ・・・貴女の名前にも雪って意味が入ってるのに」
「!・・・本当に?」
「・・・雪はね、こんなちぃ~~~っさな結晶から出来てるの。
その結晶はね、まるでお花みたいなのよ」
「・・・・素敵ですわ・・」
「うふふ・・・みてみる?」
エレーンは窓を開け、深夜の静まり返った町に舞い降りる雪をそっと手に乗せた
「はい。よーく見て。大きい結晶なら目でも見えるはずだから」
79: 2008/07/07(月) 22:47:45.37 ID:0QeZ1eus0
雪華綺晶は左目をしっかりと開けて、雪を見る
「まぁ・・・・」
見えた。自然の奇跡。雪の華
雪華綺晶の顔から自然と笑みがこぼれる
「ふふふ・・・雪華綺晶。貴女笑うと、この雪の華みたい」
「・・・?」
雪が溶けてしまってから雪華綺晶が顔を上げる
「透き通ってて、キラキラしてる。眩しいくらい。
もっと笑えばいいのに。」
雪華綺晶がいつもの無表情に戻る
「・・・・私は人形です。人形は笑ったり泣いたりはしません」
「・・・ぷっ。貴女たった今笑ってたじゃない」
「・・・・・・」
雪華綺晶は頑張って無表情を作っているように見えた
その様子をエレーンがじっと見つめる
80: 2008/07/07(月) 22:48:41.48 ID:0QeZ1eus0
「ねぇ。雪華綺晶。これあげる」
「・・・なんですの、これ」
「貴女、綺麗な顔なのに右目がないから・・・もったいないんだもの
眼帯よ。白い薔薇のブローチをちょっぴり改造したの。
貴女のマスターになれなかったから、お詫びに。私の宝物なんだけど、雪華綺晶にあげる」
「・・・・・・・・・・」
不満そうな顔をしていると、エレーンがことり、とブローチを雪華綺晶の前においた
仕方なく、つける
「わぁ!似合うじゃない、素敵よ雪華綺晶」
「・・・・・・・・・むずむずしますわ」
81: 2008/07/07(月) 22:50:52.86 ID:0QeZ1eus0
すると、パァっと眼帯が光る
光が消えたとき、眼帯は消えて白薔薇はすっぽり、雪華綺晶の右目の空洞に収まっていた
「あ・・・・・・あれ?・・不思議なこともあるのね・・」
「・・・・・・・」
エレーンはこの不可解な現象に戸惑っているが
雪華綺晶はこっそり、エレーンに気づかれないように
嬉しそうに微笑んだ
83: 2008/07/07(月) 22:57:22.08 ID:0QeZ1eus0
時は流れる。
もうこの冬に降る雪はこれが最後であろうか
昼だというのに薄暗い空の下
どこか悲しげにはらり、はらりと
まばらに雪が舞っている
コンコンと、扉を叩く音
「はい?」
エレーンが扉を開ける
「どちらさまですか?」
ずいぶんと汚れた服の男が立っている
よく見るとところどころ血がついている
このスレもしや俺とフェイトしかいないんじゃね?
もうこの冬に降る雪はこれが最後であろうか
昼だというのに薄暗い空の下
どこか悲しげにはらり、はらりと
まばらに雪が舞っている
コンコンと、扉を叩く音
「はい?」
エレーンが扉を開ける
「どちらさまですか?」
ずいぶんと汚れた服の男が立っている
よく見るとところどころ血がついている
このスレもしや俺とフェイトしかいないんじゃね?
86: 2008/07/07(月) 22:59:31.01 ID:0QeZ1eus0
「・・・・・・・これを。預かってきました」
「・・・・これは?・・・・・・・・」
手紙。くしゃくしゃの。
「・・・・・あいつは・・・誰よりも勇敢でした・・・・」
下を向いて涙をこぼしながら、男は唇をかみ締めた
中身を読まずとも、この男の様子から
もう、待ち人は来ないんだな、とエレーンは理解した
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう・・・・でしたか・・・」
地面に落ちた雪は、積もることなく
静かに、黒いしみをつくった
87: 2008/07/07(月) 23:00:44.66 ID:0QeZ1eus0
「エレーン・・いますか?」
あの夜以来、雪華綺晶がエレーンの元を訪れるのは日の昇っている間、と決めていた
エレーンの、あの寂しそうな笑顔を見たくなかったからだ
「・・・・・・・・・エレーン?」
真っ暗だ。この季節は室内が暗いのは当然だが
雰囲気も暗く、重い
89: 2008/07/07(月) 23:02:53.90 ID:0QeZ1eus0
「・・・・・・・・・・雪華綺晶。この前、アリスゲームと・・・究極の少女の話してくれたわよね」
部屋の隅の机の前。椅子に座ったエレーンが俯いたまま声を出す
「・・・・・・・??どうかしたのですか?エレーン」
「お姉さんからアドバイス。そのお父様が人間なら、その人にとっての究極の少女は人間よ。
だって・・・人間が本当に愛せるのは人間だけだから」
「・・・・??」
「雪華綺晶、人間になれるといいね」
「エレーン?」
「恋人が氏んだの」
90: 2008/07/07(月) 23:04:09.71 ID:0QeZ1eus0
部屋の時が止まる
雪が地面に落ちる音まで聞こえて来そうな
静寂
「正確には、氏んでた。ね」
くしゃりと、右手に持っていた紙を握り締める
「・・・・・・・・・・・・・・」
「別に珍しいことじゃないのよ。兵役でね。
無事に帰ってこれたら結婚しようって。
その時渡されたのが貴女の右目の白薔薇のブローチなの」
「・・・・・・」
「このご時世、女一人で生きていくには体売るしかないから・・・」
「エレーン・・・」
歩み寄ろうとする。が、しかしエレーンはふるふると首を横に振る
雪が地面に落ちる音まで聞こえて来そうな
静寂
「正確には、氏んでた。ね」
くしゃりと、右手に持っていた紙を握り締める
「・・・・・・・・・・・・・・」
「別に珍しいことじゃないのよ。兵役でね。
無事に帰ってこれたら結婚しようって。
その時渡されたのが貴女の右目の白薔薇のブローチなの」
「・・・・・・」
「このご時世、女一人で生きていくには体売るしかないから・・・」
「エレーン・・・」
歩み寄ろうとする。が、しかしエレーンはふるふると首を横に振る
91: 2008/07/07(月) 23:05:54.42 ID:0QeZ1eus0
「もういいのよ。人間が本当に愛せるのは人間だけ。思い出は愛せないわ」
右手にはくしゃくしゃの紙。左手には
銀色に輝く、ナイフが握られている
「だめ・・・」
いやいや、と雪華綺晶が首をふる
人形は笑ったり泣いたりしないと言う彼女の目には、確かに涙がにじんでいた
すると
にこりと、やさしく微笑んでエレーンが口を開いた
93: 2008/07/07(月) 23:08:08.35 ID:0QeZ1eus0
「もうひとつ。お姉さんから、アドバイスとお願い。
雪華綺晶はもっと笑ったほうがいいわ。透き通った、雪の華のような笑顔
結局、一度しか見れなかったけど、私貴女の笑顔、大好きよ。
辛い時も、悲しい時も、貴女にはどんなときも笑っていて欲しい。」
「エレー・・」
「・・・お父様も、いつまでも待たせてはダメよ?待つのって結構辛いのよ?」
「エレーン!」
「幽霊同士なら彼と愛しえるかな?」
悲しそうに笑って
エレーンは喉を切り裂いた
94: 2008/07/07(月) 23:13:28.53 ID:0QeZ1eus0
高い高い、時計台の上
雪華綺晶は雪の舞う町を眺める
視線を落とす
さっき、聞いた
お願い。
「どんなときも笑って・・・・」
ひくひくと口元が痙攣する
「わら・・っ・・て・・」
頬を、雫が伝う
「わ・・ら・・・っ・・・・・・う・・・うえ・・・・」
95: 2008/07/07(月) 23:14:56.64 ID:0QeZ1eus0
「えぇぇ・・・・・・・ん・・・」
時計台のてっ辺
膝を抱え、ずっとずっと
泣いた
それから
延々と笑顔の練習をした
笑顔が顔に張り付くまでずっと
彼女が喜ぶ、雪の華を咲かそうと
96: 2008/07/07(月) 23:17:04.85 ID:0QeZ1eus0
永い時が過ぎた。
人間が本当に愛せるのは人間だけ
では、人間になるにはどうすればいいのか?
ラプラスから少しだけ教えてもらった
命を与える、奇跡の結晶「ローザミスティカ」のこと
器の無い自分が人間になるのに必要なのは、肉の器と、ローザミスティカ
そう、雪華綺晶は直感で理解していた
しかし何度か眠りと目覚めを繰り返したが、雪華綺晶は一度も姉妹に会えなかったため
ローザミスティカを手に入れることは叶わなかった
だが、7体が目覚めた今、雪華綺晶の願いは全て叶えられた。
もう一つの願い。肉の器も
その器は、美しく、儚く。かつて慕った人の面影を持っていた。
この器なら、人間に、アリスになれると
105: 2008/07/07(月) 23:23:05.45 ID:0QeZ1eus0
「めぐちゃん。体を拭きますよー」
返事の無い患者。看護師は構わず服を脱がし体を拭く
現実世界、有栖川大学病院。
ここには二人の眠り姫がいた
一人はオディール・フォッセー
眠り姫のまま何年か前に母国に帰っていった
病院を去る最後まで、幸せそうに微笑んだままだったという
昏睡状態の原因は結局わからずじまいである
もう一人は柿崎めぐ。
持病の、心臓の症状は安定しているが、原因不明の昏睡状態で
5年間、彼女の歌は途切れている
そうなってからも、父親が彼女を訪れる頻度は変わらなかった
ゆれるカーテン、もう一人の眠り姫と違って
この眠り姫はどこか、悲しい表情をしていた
107: 2008/07/07(月) 23:25:25.27 ID:0QeZ1eus0
真っ暗なnのフィールド。
「・・・・・・・・エレーン・・・」
膝の上のめぐを撫でて、雪華綺晶がつぶやく
白いドレスはボロボロに破れ。
右足はどこかに行ってしまった
美しい長い髪もぼさぼさだ
雪華綺晶の前、その空中に
天使を目の前にして、地に落とされた第一ドール
水銀燈が
自分の真っ黒な羽と共に漂っている
109: 2008/07/07(月) 23:26:20.88 ID:0QeZ1eus0
もうかれこれ5年。
この景色は変わっていない
水銀燈との戦いで身動きが取れなくなった雪華綺晶は
ただただ、めぐを眺め微笑んでいる
nのフィールドに入った他のドールを攻撃するも
仕留める力はもう残っていなかった
水銀燈の人工精霊メイメイも雪華綺晶が捕らえていたが
ついに逃げられてしまった
111: 2008/07/07(月) 23:27:35.90 ID:0QeZ1eus0
「エレーン・・・」
来る日も来る日も
静かに眠る、めぐを前に
雪華綺晶は雪の華を咲かせる
114: 2008/07/07(月) 23:31:20.27 ID:0QeZ1eus0
―――――――――
「真紅。」
鏡の部屋。真紅がじっと大きな鏡を見ている
開けっ放しのドアにもたれかかりジュンが声をかけた
「・・・気になるのか?」
「・・・・・・・・えぇ。雪華綺晶に・・・水銀燈。
二人が消えて、長い時が過ぎてしまったけど
やはり、アリスゲームは止まらないのね」
・・・・やはり、この間のnのフィールドでの
白い茨の強襲は皆、心に引っかかっているのか。
「・・・・安心しろ。僕がついてる。」
くすっと真紅が笑う
「頼りにしているわ、マスター。」
顔を赤くして、ジュンが頭をぼりぼりと掻いた
115: 2008/07/07(月) 23:31:55.97 ID:0QeZ1eus0
「なぁーにイチャイチャしてるですか、二人とも!
翠星石特製スコーンができたですよ!こっちに来て食べるです!」
「はいはーい。」
「はい、は一回!」
ガスッと脛を蹴られる
「いってぇぇぇ!」
116: 2008/07/07(月) 23:32:42.52 ID:0QeZ1eus0
二人が騒がしく部屋を出て行くのを
微笑みながら真紅が追う。
はらりと、真紅の肩に黒い羽が止まった
続いてメイメイが飛んでくる
「これは・・・メイメイ。・・・・・水銀燈・・・?」
暗い鏡の部屋。最後にみた水銀燈の笑顔がよみがえる
廊下から明るい光が差し込んでいる
翠星石のスコーンは楽しみだけど、行かなくては
ゆらり、ゆらりと波打つ鏡に向かって
真紅は静かにゆっくりと歩を進めた
おわ・・・つづく
微笑みながら真紅が追う。
はらりと、真紅の肩に黒い羽が止まった
続いてメイメイが飛んでくる
「これは・・・メイメイ。・・・・・水銀燈・・・?」
暗い鏡の部屋。最後にみた水銀燈の笑顔がよみがえる
廊下から明るい光が差し込んでいる
翠星石のスコーンは楽しみだけど、行かなくては
ゆらり、ゆらりと波打つ鏡に向かって
真紅は静かにゆっくりと歩を進めた
おわ・・・つづく
117: 2008/07/07(月) 23:33:13.06 ID:Hb4zcOmQ0
やはりつづくのかw
121: 2008/07/07(月) 23:39:13.98 ID:0QeZ1eus0
考えてたのここまでだから
続きはまたいつかスレ立てます
続きはまたいつかスレ立てます
引用: ローゼンメイデン「雪の華」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります