1: 2008/05/10(土) 19:13:45.66 ID:5LL7E9Rn0
JUMに思いを寄せる翠星石。
しかし、ある日の夜。彼女は見てしまった。
翠「むにゃ……目が覚めちまったですぅ」
時は深夜零時。
翠星石は鞄から顔を出す。
翠「あれ……机に灯りが。JUMのやつ、まだ起きやがるですか。……っ!」
JUM「真紅……んっ」
紅「JUM……んっ、くちゅっ」
翠「JUM……? 真紅……?」
2人は抱き合い、口付けを交わしていた。
舌と舌を絡めあうそれは、愛する者同士の行う深いキスだった。
JUMと真紅は翠星石が起きたことに気付いていない。
翠「……っ」
翠星石は音を立てないように鞄を閉じると、再び目を閉じた。
閉じた目からは涙が流れていた。

3: 2008/05/10(土) 19:15:01.23 ID:5LL7E9Rn0
――翌日。
紅「ふぁぁ。朝なのだわ」
雛「うにゅ……おはようなのー」
翠「……」
のり「みんなー。朝ごはんできてるわよぅ」
紅「さて、下へ行きましょうか」
雛「あっさごっはんー」
翠「翠星石はいらないです。のりにもそう言っておいて欲しいですぅ」
紅「どうしたの翠星石? 元気がないみたいだけど」
雛「朝ごはん食べないと、元気でないのよー?」
翠「いらないと言ってるですぅ! いいから2人は下に行くですぅ!」
雛「うー、朝ごはん一緒に食べるのー!」
紅「よしなさい雛苺。無理強いはよくないのだわ」
雛「でも……」
紅「翠星石。あなたに何があったかは知らないけれど、あなたが望むならいつでも助けになるわ。姉妹なんだもの」
雛「ヒナも助けてあげるのー」
紅「じゃあ、私達は下にいくわ」
真紅と雛苺は部屋の扉を空け、1階へと降りていった。
翠「……真紅。あなたはとても優しい妹ですけど……。今は、どうしようもなく憎らしい」
翠「翠星石は最低な子ですね……」

5: 2008/05/10(土) 19:17:33.13 ID:5LL7E9Rn0
真紅と雛苺がJUMの部屋に戻ると、翠星石は居なくなっていた。
雛「あれー。どこ行っちゃったなのー?」
紅「鞄もなくなってるわね。きっと蒼星石の所に行ってるのよ」
雛「うー。なら安心なの」
紅「それより、このお寝坊さんを起こすのだわ」
雛「うぃー。JUMーおきてーなのー」
――。
蒼「どうしたんだい? こんな朝早くから」
翠「ちょっと頼みたいことがあるです。詳しい話はnのフィールドでするですぅ」
そういうと、翠星石は鏡の中へと入っていく。
蒼星石もその後を追って鏡の中へと入っていく。
翠「こっちですぅ」
翠星石はnのフィールドを飛んでいく。まるで誰にも見つからないような場所へと向かっていくように。
30分ほど、飛び続けたところで、翠星石は飛ぶのをやめる。
翠「ここなら誰にも邪魔されないですぅ」
そこは草原のような場所だった。

6: 2008/05/10(土) 19:22:45.75 ID:5LL7E9Rn0
蒼「それで、頼みごとっていうのは何なんだい?」
翠「まずは庭師の鋏を出して欲しいです。話はそれからですぅ」
蒼「庭師の鋏を……? わかったよ。レンピカ」
蒼星石は不思議に思いながらも庭師の鋏を出す。
翠「スィドリーム」
翠星石も庭師の如雨露を取り出す。
蒼「庭師の如雨露……。いったい何をするつもりなんだい?」
翠「蒼星石……。こんな最低な姉でごめんですぅ」
蒼「どうしたんだ翠星石……痛っ」
翠星石は如雨露をおもいきり振り、蒼星石の手を叩く。
蒼星石の手から鋏が飛んでいく。
すぐさま翠星石が如雨露から水をかける。
地面から巨大な蔓が蒼星石に絡みついてその身を束縛した。
蒼「くぅっ……。何故なんだ翠星石」
翠「今の翠星石には、庭師の鋏がどうしても必要なのです」
翠星石は落ちている庭師の鋏を広い上げた。

7: 2008/05/10(土) 19:28:48.57 ID:5LL7E9Rn0
翠「明日には開放するです。それまでは我慢していて欲しいですぅ」
蒼「君は……何かやってはいけないことをやろうとしているように思える」
翠「……」
翠星石は答えない。
蒼「僕は妹として、姉が道を外さないようにしなければいけない」
翠「蒼星石……」
蒼星石の言葉に翠星石はとてつもない罪悪感を感じた。
蒼「レンピカッ。この事を真紅に伝えるんだ!」
翠「させるかですぅ」
翠星石が如雨露を振るう。地面から無数の蔓が伸び、レンピカを閉じ込めた。
翠星石には罪悪感を感じる良心があった。
だが、それ以上にこれからやろうとしている事に対する決心が強かった。
翠「もう、覚悟を決めてしまったんですぅ」
そう言った翠星石の顔は今までにないくらい悲しげなものだった。

8: 2008/05/10(土) 19:34:29.72 ID:5LL7E9Rn0
――その日の夕方。
雛「結局翠星石は戻ってこなかったの」
紅「そうね、もしかしたら蒼星石のところで泊まってくるのかもしれないわね」
真紅がそういうと同時に窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
JUM「な、なんなんだ? ……ってあれは」
それは翠星石の人工精霊スィドリームだった。
紅「JUM、窓を開けてちょうだい」
JUM「わかってるよ。ほら」
JUMが窓を開けると、スィドリームが部屋の中に入ってくる。
そして真紅の元へと向かっていった。
紅「翠星石からの伝言ね。……そう、わかったわ」
真紅がそう言うと、スィドリームは窓から外へと飛んでいった。
JUM「なんだったんだ?」
紅「翠星石は今晩蒼星石のところにお泊りだそうよ。私の言った通りね」
JUM「そうか。じゃあ姉ちゃんに夕飯も1人分いらないって言っておかないとな」
こうして翠星石のいない桜田家の1日は終わった。
そして、その晩の深夜1時。
寝ているJUMの枕元に、――翠星石が立っていた。

10: 2008/05/10(土) 19:40:58.98 ID:5LL7E9Rn0
時は数十分前に遡る。
JUMと真紅はまた互いの唇を重ねあっていた。
2人がこういった関係になった日から、この習慣は毎日続いていた。
この日もいつもと同じ、互いの愛を確かめ合う行為に2人は耽っていた。
それを窓の外から眺める者が1人。翠星石だ。
翠「……」
彼女は冷ややかな目で2人を見ていた。
彼女の中に渦巻くのは憎しみ。己の妹と、己の力の媒体に対する憎悪だった。
自分が愛してやまない人と唇を重ねる優しくて大人な妹。
自分に決して真紅と同じ愛情を注いでくれないひねくれものだけど素敵なマスター。
大好きだけど憎らしい。そんな二律背反に彼女は胸が引き裂かれそうになる。
翠「もう……これ以上耐えられないですぅ」
誰にも聞こえる事ないつぶやき。
気付くと、2人は愛を確かめ合うことを止め、寝ようとしていた。
翠「もう後戻りはできないですぅ」

13: 2008/05/10(土) 19:46:43.78 ID:5LL7E9Rn0
……。
…………。
………………。
すやすやと眠るJUMの寝顔を、翠星石は眺める。
そしてJUMの頬をそっとなでながら言う。
翠「もうすぐ、この可愛らしい顔も翠星石のものです」
翠「スィドリーム。夢の扉を」
スィドリームがJUMの頭上を飛び回る。
そして夢の扉が現れた。
翠星石は数秒ほど扉を見つめた後、
翠「……いくです」
JUMの夢の中へと入っていった。

16: 2008/05/10(土) 19:50:57.70 ID:5LL7E9Rn0
JUMの夢の世界。
そこらじゅうにJUMと真紅の思い出が映像のように映っている。
翠星石はそれらを見ないように飛び続ける。
ある程度進むと、ベッドを見つける。その上にはJUMがいた。
JUMは愛おしげに真紅との思い出を見続けている。
翠星石はJUMに見つからないようにこっそりと飛ぶ。
翠「JUMに見つかるわけにはいかないです」
翠「だって……翠星石の目的を知ったらJUMはきっと――」
翠「翠星石の事が大嫌いになってしまうから……」
翠星石は飛び続ける。
そして――。
翠「やっと……着いたですぅ」
JUMの心の樹の元へとたどり着いた。

17: 2008/05/10(土) 19:55:34.78 ID:5LL7E9Rn0
翠「初めて見た時に比べて、随分大きくなったですぅ」
翠星石は成長したJUMの心の樹を見ながら言った。
翠「でもその心の大半を占めるのは……」
翠「真紅との思い出なんですね。……でも」
翠星石は天を見上げる。
JUMと真紅の思い出の映像がいくつも流れている。
翠「スィドリーム」
スィドリームは蒼星石から奪った庭師の鋏を出した。
翠「これがあれば真紅に関する記憶や思い出は全て……」
翠星石はそれ以上を口にしなかった。
翠「ごめんなさいです真紅」
翠星石は鋏を構える。
――。
――――。
―――――――。
JUMの心から、真紅という存在が――消えた。

23: 2008/05/10(土) 20:26:11.50 ID:5LL7E9Rn0
JUMの夢の中が大きく揺れる。
さっきまで流れていたJUMと真紅の思い出は、一瞬にして消え去った。
翠「そして、最後の仕上げですぅ」
翠「スィドリーム」
今度は庭師の如雨露を出す。
翠「これでお終いです」
翠星石は、JUMの心の樹に生えた翠星石に関する記憶の枝に水をかける。
翠「これで……JUMの翠星石に対する想いは強くなるはずですぅ」
JUMの夢の中がまた大きく揺れる。
そして、今度はJUMと翠星石との思い出の映像が、夢の世界に流れはじめた。

24: 2008/05/10(土) 20:31:47.37 ID:5LL7E9Rn0
翠「作戦成功……ですぅ」
翠星石は嬉しそうな表情をする。
否、しようとした。しかし、
翠「どうして……どうして……」
翠星石の頬を涙が伝っていく。
翠「やっと翠星石の願いが叶ったというのに……」
その表情から歓喜の感情はまったく伝わらない。
翠「どうしてこんなに悲しいんですか……!」
涙が、滝のように流れる。
翠「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
翠星石はその場にしゃがみこむ。そして、
涙が枯れるまで、泣き続けた。

25: 2008/05/10(土) 20:36:49.81 ID:5LL7E9Rn0
――翌朝。
紅「朝ごはんも食べたことだし、JUMを起こすのだわ」
雛「うぃー。JUMーあっさーなのー」
JUM「むにゃ……」
雛「JUMおはようなのー」
JUM「ああ、おはよう」
紅「おはようJUM」
JUM「おはよ……ってうわああ、なんだなんだ、何なんだお前は!?」
紅「?」

26: 2008/05/10(土) 20:40:03.55 ID:5LL7E9Rn0
JUM「お前何者だ?」
紅「何を言ってるいるのJUM。まだ寝ぼけてるというの?」
JUM「おい、雛苺。こいつは誰なんだ?」
雛「何いってるのJUM。真紅なのー」
紅「そうよ、私はローゼンメイデン第5ドール、真紅。あなたの人形よ」
JUM「誰だ? 僕はそんなやつ知らないぞ」
紅「いい加減にしなさいJUM! これ以上の悪ふざけはいくら私でも許さないのだわ」
JUM「勝手に人の家に入り込んで何を偉そうな事いってるんだこいつは。出てけ! 出てけよ!」
紅「っ……」
JUMの表情から、真紅はその言葉が本心からということを悟ってしまう。
雛「待って真紅っ」
真紅は涙を流しながら、部屋を出て行ってしまった。

27: 2008/05/10(土) 20:45:16.48 ID:5LL7E9Rn0
雛苺は真紅を追って部屋から出て行ってしまう。
JUM「まったくなんなんだよ。……ん?」
何かが窓の外から飛んでくる。そして、
ガッシャーーーーーーン。
翠「ただいまですぅ」
翠星石が窓をぶち破って部屋の中へと入ってきた。
普段のJUMならばすぐさま翠星石を怒鳴りつけただろう。だが、
JUM「翠星石っ」
JUMは怒ることもせずに翠星石に抱きついた。
翠「ひゃあっ」
JUM「やっと帰ってきたか。こっちはお前がいなくて寂しかったんだぞ」
翠「まったく、JUMは寂しがりやですね」
翠星石は微笑みながらJUMの背中に手を回した。

28: 2008/05/10(土) 20:48:34.17 ID:5LL7E9Rn0
その日、真紅は桜田家に戻らなかった。
さらに、真紅を追いかけていった雛苺までもが行方不明になった。
のりは何故あんな事を真紅にいったのかとJUMを責める。
しかし、JUMはのりの説教をただの理不尽な言葉だとしか思わなかった。
何故なら、JUMの記憶には真紅という人形の記憶など1つもないのだから。
結果、JUMはのりに対して逆に怒鳴り返すと自室へと篭り、出てこなくなった。
JUM「なんなんだまったく。僕が何をしたっていうんだあのブス」
翠「JUMは悪くないのですぅ」
JUM「ありがとう翠星石。お前だけが……僕の味方だ」
JUMが翠星石を抱きしめる。そして、
JUM「翠星石っ」
彼女に唇を重ねる。
翠「んっ……くちゅっ」
舌と舌を絡めあう口付け。それはまさに、昨夜までJUMと真紅が交わしていたそれと同じものだった。

32: 2008/05/10(土) 20:57:54.75 ID:5LL7E9Rn0
翠(真紅は今までこんな素敵なことを独り占めしていたなんて……)
十数分もの間、2人は口を離すことはなかった。
翠「JUM、今日はもう寝て体を休めた方がいいですぅ」
JUM「悪いな翠星石。気を使ってくれて」
翠「いいですよ。だってJUMは、翠星石の大切な人なんですから」
JUMはベッドに横たわると、深い眠りについた。
翠「さて、全てを終わらせにいくとするですぅ」
翠「スィドリーム、夢の扉を」
JUMの頭上に夢と扉が現れる。
翠「真紅、雛苺、のり……。ごめんなさい。そして」
翠「さよなら、ですぅ」
そうつぶやくと、翠星石は夢の世界へと飛びだった。

33: 2008/05/10(土) 21:04:45.63 ID:5LL7E9Rn0
翠「スィドリーム。夢の扉を閉めるですぅ」
翠「よし、これで外部からは誰もここに入れないですぅ。……彼女を除いては」
翠「まずはここを経由してnのフィールドへ行くですぅ」
翠星石は世界樹の葉に乗ると、全速力で飛び始めた。
――。
蒼「翠星石にこうされてから、どれくらい経ったのかな」
蒼星石はつぶやく。しかし、答える人は誰もいない。
蒼「彼女は僕を開放すると言ってくれたけど」
少しの不安。それは、このまま誰も助けてくれないのではないかという恐怖。
しかし、そんな不安は一瞬で消えた。
蒼「あ、あれは」
こちらへと飛んでくる人影。
翠星石だった。

36: 2008/05/10(土) 21:11:23.45 ID:5LL7E9Rn0
蒼「翠星石……」
翠「ずっとこのままにしててごめんなさいですぅ」
蒼「いいんだ。それより早く開放してくれないかな?」
翠「それはちょっと待って欲しいですぅ」
蒼「どうゆうこと?」
翠「とりあえず翠星石の話を聞いて欲しいんですぅ」
蒼「……わかった。君がそう望むのであれば」
翠「ありがとですぅ」
そういうと、翠星石は蒼星石の横へと座る。

37: 2008/05/10(土) 21:15:31.44 ID:5LL7E9Rn0
翠「蒼星石は気付いてると思うですけど……翠星石はJUMの事が好きなんですぅ」
蒼「うん……気付いてたよ」
翠「最初はただの臆病で役立たずなチビ野郎だとしか思っていませんでした」
蒼「それはひどいね」
フフッと笑う蒼星石。
翠「でも……一緒に暮らしている内に、JUMの素敵なところがたくさん分かるようになって」
翠「気付けば大好きになっていました」
蒼「うん」
翠「でも、JUMはいつも、真紅と一緒でした」
蒼「……」
翠「翠星石がJUMに惹かれたところも、JUMが真紅の為に頑張ってるところが多かったですぅ」
翠「それでも……翠星石は諦めませんでした」

39: 2008/05/10(土) 21:22:22.73 ID:5LL7E9Rn0

翠「たとえ2人がどんなに仲がよかろうとも、翠星石にもチャンスがあると思ってました」
翠「そう思わなければ、頑張れなかったんですぅ」
蒼「翠星石……」
翠「けれど、その頑張りが全て無駄になってしまいました」
蒼「それって……」
翠「ある晩、ふと目が覚めて鞄から顔をだすと、そこには唇を重ねあうJUMと真紅がいました」
翠「すべてが、崩れ去りました」
翠「JUMが喜んでくれると思って、スコーンの焼き方を覚えたり、お家のお掃除をしたり、お昼ご飯をつくろうとしたり……」
翠「でも、それらの努力は1つも実らなかったですぅ」
蒼「翠星石……。でもそれらの努力が無駄になったとは思わないで」
蒼「それらは君が頑張った証として残るんだ。だから、投げやりになってはいけない」

38: 2008/05/10(土) 21:21:07.19 ID:5LL7E9Rn0
翠「やっぱり蒼星石は言う事が違うですね。翠星石とは大違いですぅ」
翠「でも、もう遅いんですぅ」
蒼「……どういうこと?」
翠「翠星石は昨日、JUMに対して庭師の鋏を使いました。言ってることはわかるですね?」
蒼「まさか……。本当にやってしまったの?」
翠「JUMの中にある真紅の記憶は全て消えました」
蒼「なんてことだ……。たとえ双子の姉だろうと、それは許す事ができない」
翠「そういうと思ったですぅ。きっと蒼星石を開放したら、JUMの夢の中へ飛んでいくんでしょうね」
蒼「まさか……」

40: 2008/05/10(土) 21:24:31.90 ID:5LL7E9Rn0
翠「だから、蒼星石には悪いですけど……。ここで蒼星石のローザミスティカを貰うことにするです」
蒼「そんなっ」
翠「誰も、JUMの夢の中に入れないようにしなきゃいけません。それに、JUMを守る為に強くならなければいけないです」
蒼「だからって……」
翠「ちょっと前までの翠星石なら、そんなことは絶対にできなかったです」
翠「でも、今の翠星石はもう……JUMしか見えないんです」
蒼「考え直して翠星石っ」
翠「スィドリーム」
翠星石は庭師の鋏を出す。
翠「さよなら……大好きだった妹」
翠星石は、庭師の鋏を蒼星石の胸に――突きたてた。

41: 2008/05/10(土) 21:27:23.88 ID:5LL7E9Rn0
蒼「翠……星……せ……っ」
蒼星石の胸から輝く結晶が飛び出した。
ローザミスティカだ。
翠「これが……ローザミスティカ」
翠星石は掌にローザミスティカをのせる。
そして、それを自らの胸の中へと、取り込んだ。
翠「翠星石はもう泣きません。流す涙などもうないのですから」
翠「翠星石はもう悲しみません。悲しいなんて感情は、昨日壊れてしまったのですから」
翠星石は庭師の鋏でレンピカを閉じ込めていた蔓を切った。
翠「レンピカ、お前は今日から、翠星石の人工精霊ですぅ」
敗者の人工精霊は勝者の下僕に。それがアリスゲームのルール。
翠「これで、夢の世界に行き来できるのは、翠星石だけです」
そういうと、翠星石はその場から飛び去っていった。

43: 2008/05/10(土) 21:33:16.09 ID:5LL7E9Rn0
――とある公園。
紅「もう……あの家に私の居場所はないのだわ……」
紅「JUM……どうして……」
銀「あらぁ、真紅じゃないの」
紅「こんな時に……」
銀「ちょうどよかったわぁ。今とってもむしゃくしゃしてるのよぉ」
銀「だから、ストレス解消も兼ねてあなたのローザミスティカでもいただこうかしらねぇ」
紅「ストレス解消でアリスゲームだなんて。ジャンクの思考はまったく理解できないわ」
銀「ジャンクはあなたよぉ真紅ぅぅぅぅぅ!」

45: 2008/05/10(土) 21:41:45.54 ID:5LL7E9Rn0
水銀燈が背中の羽を飛ばす。
真紅は杖を使ってなんとかしのいでいく。しかし、
紅「体が思うように動かない……」
紅「まさか……螺子がきれかかっているの?」
銀「なぁに? 防戦一方じゃないのぉ。あはははははは」
水銀燈の攻撃は止む気配をみせない。
それどころか真紅の動きはどんどん鈍くなるばかり。
そして、
紅「くぅっ」
とうとう水銀燈の羽が右腕に突き刺さった。

47: 2008/05/10(土) 21:46:33.38 ID:5LL7E9Rn0
痛みでさらに動きが鈍る。
今度は左腕に、右足に、左足に、どんどん羽が突き刺さる。
紅「意……識が……なく……な……」
今度は胸に羽が突き刺さっていく。
まさに蜂の巣状態だ。
銀「これでお終いよぉ真紅ぅ!」
水銀燈は羽の威力を強めた。
紅(もう……口も動かない……。どうしてこんなことに……)
紅(私は……負けるのね。ローゼンメイデンとして、情けない最後だわ)
紅(JUM……最後にもう一度、あなたに会いた……かっ――)
とうとう真紅の胸からローザミスティカが飛び出した。

56: 2008/05/10(土) 22:11:03.54 ID:5LL7E9Rn0
銀「ローザミスティカ!」
水銀燈は攻撃を止め、真紅の元に飛ぶ。
そして、ローザミスティカを掴み取った。
銀「真紅の……真紅のローザミスティカ! やった、やったわぁぁぁぁぁ」
誰も居ない夜の公園で、水銀燈は歓喜の声を上げた。
――。
見覚えのない道を雛苺は歩いていた。
雛「真紅どこー? どこなのー?」
迷子になりながらも、雛苺は真紅を探し続けた。
銀「真紅の……真紅のローザミスティカ! やった、やったわぁぁぁぁぁ」
雛「これは水銀燈の声? それに今真紅って……」
雛苺は水銀燈への恐怖で一瞬迷ったが、真紅を見つけるために声の方へと走っていった。

57: 2008/05/10(土) 22:15:06.25 ID:5LL7E9Rn0
水銀燈は真紅のローザミスティカを自らの胸へと取り込む。
銀「これで、アリスに近づいたわぁ。あははははははっ」
雛「真紅っ!」
雛苺が公園の入り口に立っていた。
銀「あらぁ、負け犬の雛苺じゃないのぉ」
雛「どうして……真紅負けちゃったの?」
銀「そうよぉ。この水銀燈がジャンクにしてやったのよぉ」
雛「そ、そんなぁ」
銀「あぁ、とても気分がいいわぁ」
銀「そうだ、あなたのローザミスティカも、水銀燈に頂戴」

59: 2008/05/10(土) 22:20:16.36 ID:5LL7E9Rn0
雛「いやぁっ」
雛苺はその場から駆け出した。
水銀燈から逃げるために。
銀「逃がさないわぁ」
水銀燈は羽を広げ、飛び出した。
雛「いやっ……いやっ」
雛苺は走る。
しかし、体がだんだん重くなっていくのを感じた。
雛「どうしてっ……螺子この前巻いてもらったばっかりなのにっ……」

60: 2008/05/10(土) 22:26:16.84 ID:5LL7E9Rn0
雛苺が今もこうして動けるのは真紅のおかげだ。
真紅を通してJUMの力を受け取っていた。
しかし、真紅はもうアリスゲームに負けてしまった。
つまりJUMと雛苺の繋がりが消えたのだ。
雛苺は今、真紅に負けた時の状態に戻っていた。
つまり、もうすぐ雛苺の体は動かなくなる。
水銀燈はそのことに気付いていた。
銀「ふふふっ」
だから、あえて本気で追いかけず、上空から雛苺が動かなくなる様を見届けようとした。
雛「いたっ」
雛苺が転ぶ。
雛「足が……足が動かないの」

62: 2008/05/10(土) 22:29:26.06 ID:5LL7E9Rn0
雛「真紅はもう居なくなってしまったから……」
雛苺は全てに気が付いた。
雛「雛ももう動けなくなるのね……」
雛「JUM……巴……のり……」
雛「ヒナ……今までとても楽し……かっ……たの」
雛「人形……と……して……生まれ……てき……て」
雛「これ……まで……で……一……番……幸……せ…だっ……た……の」
雛「あり……がと……さよ……な……ら……な……の――」
雛苺は完全に動かなくなった。

63: 2008/05/10(土) 22:35:25.58 ID:5LL7E9Rn0
雛苺の体から飛び出すローザミスティカ。
水銀燈はそれを掴むと自らに取り込んだ。
銀「1日でローザミスティカを2個も手にいれるなんて」
銀「お父様に会える日もそう遠くないわぁ」
水銀燈は上機嫌で飛びだっていった。
銀「だけど……」
銀「めぐにはもう会えないのね」
水銀灯がむしゃくしゃしていた理由。
それは、めぐの氏だった。

65: 2008/05/10(土) 22:39:49.15 ID:5LL7E9Rn0
数時間前――。
水銀燈がいつものようにめぐの病室に行くと、そこにはたくさんの人がいた。
水銀燈はこっそりと病室を覗く。
ベッドにはめぐが横たわっていた。
だが、その顔には白い布がかけられていた。
水銀燈はそれを見て悟った。あの子はもういない、と。
本当はむしゃくしゃしていたわけではなかった。
ただ、その感情がなんていうものなのかわからなかったから、むしゃくしゃしている事にしていただけ。
銀「忘れかけてたのに思い出しちゃったじゃないの」
銀「どうしてこんな日にいい事があるのよ」
銀「素直に……喜べないじゃない……」
水銀燈は、涙を流していた。

68: 2008/05/10(土) 22:46:27.88 ID:5LL7E9Rn0
――夢の世界。
翠「JUMー」
JUM「翠星石か。なんでここに?」
翠「だって、ここじゃないとJUMと本当に2人っきりになれないですぅ」
JUM「翠星石……」
翠「それに、JUMに理不尽な言葉をぶつけるようなやつがいる世界よりも、こっちの世界の方がいいですよ」
翠「学校にだって行く必要もないんですぅ」
翠「翠星石がずっと側にいてやるです。だから……この世界でずっと一緒に……」
――翌日の正午。
のり「JUM君ー。昨日は言い過ぎたわ。謝るから出てきてくれないかなぁ」
のり「それに今とっても大変なのよ。真紅ちゃんと雛苺ちゃんの両方がいなくなっちゃって」
のり「巴ちゃんも今下にいるわ。学校休んでまで来てくれたのよ」
のり「……部屋、入るわね」
のりは扉を開ける。
そこにはベッドの中で眠り続けるJUMがいた。

69: 2008/05/10(土) 22:50:48.29 ID:5LL7E9Rn0
のり「なんだ、寝てたのね。お姉ちゃんてっきり、無視されてるかと」
のり「起きてJUM君ー。起きてー」
しかし、JUMは目を覚まさない。
のり「ほら、もうお昼なのよ。起きて」
のりはJUMの体を揺らす。しかしJUMはまったく起きない。
のり「こ、こうなったら」
のりはバケツに水を入れて部屋に持って来る。
のり「えーい!」
水がJUMの顔におもいきりかかる。
しかしJUMは起きない。
のりはやっと異常を感じ始めた。
のり「と、巴ちゃーん。大変よ、ちょっときてぇ」

70: 2008/05/10(土) 22:53:10.92 ID:5LL7E9Rn0
――夢の世界。
翠「ずーっと一緒ですよ」
JUM「ああ」
JUMによりそう翠星石。
翠星石を邪魔するものはもういない。
いたとしてもこの世界には入って来れない。
翠「氏ぬまで、ずっと……ずっと……一緒……ですぅ」
翠星石の言葉に感覚が空くようになる。
螺子が、きれはじめたのだ。
翠(螺子……JUMの部屋に忘れたですぅ。でも、取りにいってももう間に合わない……)
翠「スィドリーム」
翠星石は庭師の如雨露を取り出す。
そして地面に水をかけ、細い蔓を出すとJUMと自分の体を縛りはじめた。
翠「こう……すれば…・・・動か……なく……なって……も」
翠「ずっと……ず……と……一緒……で……すぅ」
翠「ず……と……ず――」


翠星石にヤンデレ要素を加えてみた話 完

71: 2008/05/10(土) 22:54:29.61 ID:5LL7E9Rn0
あまりの反応の薄さにくじけそうになったが、
とりあえず頑張った

73: 2008/05/10(土) 22:56:22.19 ID:td17tMUMO
>>1乙
楽しかったんだぜ

79: 2008/05/10(土) 23:13:28.23 ID:5LL7E9Rn0
見てくれた人ありがとう!
ノシ

引用: 翠星石にヤンデレ要素を加えてみた話