霧切「……暇だわ」

霧切「名探偵ったってそんなに大掛かりな捜査はさせてもらえないもの。行く先々で事件が起こる訳でもないし」

霧切「浮気調査、浮気調査、浮気調査、ねこ探し、浮気調査、浮気調査……」

霧切「まぁ楽な割には高い報酬のお陰でお金には困らないし、浮気調査スキルだけはやたら身に付いたのだけれど」

霧切「これじゃあ超高校級の浮気調査員じゃない……」ｽﾞｽﾞｽﾞ

霧切「あー、２８にもなってこんな事してる自分に対してちょっと絶望してきたわ。父の気持ちが少し分かった。おのれモノクマ」

TV『大リーグ中継です。注目の日本人ピッチャー桑田怜恩、投げたっ』

TV『打たれた！あーっとホームラン！これで３回５失点ノックアウトとなってしまいました！』

霧切「１２０km台のスライダーと140km台前半のお辞儀するストレートで抑えられるわけないじゃない……日本に帰ってくればいいのに」ｽﾞｽﾞｽﾞ

霧切「気持ちは高校の時のまま、か……馬鹿ね」

霧切(私も人の事は言えないのだけれどもね)

霧切「……立て込んでる案件から片付けましょうか。なになに『２日以内に夫の浮気の証拠を入手してください、報酬はいくらでも』」

霧切り「はいはい。女の恨みは怖いわねーっと」ｶﾞｻｶﾞｻ

ピリリリリリリッ

霧切「……はい」ﾋﾟｯ

母「結婚」

霧切「やかましい」ﾋﾟｯ

霧切(……結婚、かぁ)

霧切「苗木君、今何してるのかしら」ﾎﾞｿｯ

霧切「別に興味ある訳じゃないけど。ただ元クラスメイトとして気になっただけだけど」

霧切(そういえば最近めっきり連絡取らなくなったわね)

霧切(電話番号とアドレス、変えるたびに送りなおしてるんだけどな……)

霧切(それとなく普段から連絡取るように心がけてもいたのだけれど)

霧切(最近は忙しくなったって、メールの返事も遅くなってきたし。返してくれるだけでもありがたいと思うべきなのかしら？)

霧切「……」ﾊｧ

ピリリリリリリッ

霧切「！」

『着信：苗木くん』

霧切(……こういう時ばっかり空気読むんだから)

霧切「はい？」ﾋﾟｯ

苗木『あ、霧切さん？昨日舞園さんから食事でもしませんかって誘いが来たんだけど』

苗木『多分またあの時の皆で集まろうって事だと思うんだ』

霧切「……」ﾋﾟｼｯ

苗木『霧切さんも来るよね？』

舞園さやかの先制攻撃だべ！

舞園さん的にも大誤算だな

霧切「苗木君、喧嘩売ってるのかしら」ｲﾗｯ

苗木『えっごめん僕そんなつもりじゃ』

霧切「舞園さんって独身よね？」

苗木『らしいよ。自分で言ってた』

霧切「苗木君。あの時の面子で集まるなら全員に連絡がいってる筈よね？でも私にそのお誘いは来てないわ」

霧切「あの舞園さんがそういう気配りを忘れるとは思えない。つまり……」

霧切「あなただけが食事の誘いを受けた……と考えるのが自然。苗木君、ここまで言えば分かるわね？」

苗木『……？えっと、ごめん。どういう事かな？』

霧切(この反応……)

霧切「……苗木君ってまだ独身よね？」

苗木「うん」

霧切「それでいて童Ｏ？」

苗木『えぇっ！？』

霧切「こ　　　　た　　　　え　　　　な　　　　さ　　　　い」

苗木『ど、童Ｏです……』ｸﾞｽｯ

この霧切さん、携帯に「苗木誠」じゃなくて「苗木くん」で登録してるのか
可愛いな

霧切「キスもまだ？」

苗木『彼女いない歴＝年齢です……キスもしたことないです……生まれてきてごめんなさい……』

霧切「……そう」ｸｽｯ

霧切「その食事の誘い、やっぱりお断りするわ。最近忙しいのよ。あと、他の人を誘うのもやめておきなさい」

苗木『そ、そっか……分かったよ』ｼｭﾝ

霧切「でも、そうね……一応、時間と場所を教えてもらえるかしら」

苗木『一週間後の夜１９：３０に銀座の寿司屋”松”だよ』

霧切「えっ」

苗木『えっ』

霧切「ワリカン？」

苗木『舞園さんが奢ってくれるって』

霧切(ザギンでシースー……タダ飯……苗木君(と舞園さん)と……二次会でうまい事二人っきりになってそのまま……)

霧切(……)

霧切(行こうかしら)ﾀﾞﾗｰ

苗木『霧切さん？』

霧切「はっ……いえ、なんでもないわ。他に行くところはあるのかしら？」ｼﾞｭﾙｯ

苗木『一応腹ごなしって事で舞園さんといろんな所見て回るつもりだけど』

霧切「なるほどね……分かったわ。もし仕事が早く片付いたらお邪魔するわね」

苗木『うん！それじゃあね』ﾋﾟｯ

霧切「……フフフ」ﾊﾟﾀﾝ

ストーカー探偵霧切ですか

霧切(あの女狐、ついに痺れをきらして仕掛けてきたわね……でも残念、あなたの思っている以上に苗木君はピュアなのよ)

霧切(一週間後のお食事とやらも妨害しまくってやろうかしら)

霧切(いえ、してやるわ。しまくってやるわ)

霧切(人が唾つけたモノに手を出したらどうなるかその身に思い知らせてあげる……)

霧切「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

霧切「久々に燃えてきたわ……！」

～～一週間後～～

舞園「苗木くーん！お待たせしました！」ﾊﾟﾀﾊﾟﾀ

苗木「あっ、まいぞ……もがっ」

舞園「ダメですよ、私変装してるんですから」ﾋｿﾋｿ

苗木、そうだね……でも何て呼べば」

舞園「下の名前でお願いします。怪しまれないようなるべく自然に、ですよ？」ﾆｺｯ

苗木「えぇ！？」

舞園「バレたらスキャンダルになっちゃうんですよ。そこの所、お願いしますね。さ・や・かですよさ・や・か」

苗木「う、うん」

舞園「じゃあ練習しましょう。苗木くんっ」

苗木「……うぅ」

舞園「な・え・ぎ・くんっ」

苗木「さ、さやか……」

舞園「はいっ」ﾆｺｯ

舞園「……ふふ、呼び捨てにしてもらえるんですね」

苗木「あっ……ごっごめんさやかさん！」

舞園「謝らないで下さい。……嬉しかったんですから」ﾎﾞｿｯ

苗木「えっ……」

舞園「なんでもありませんよ？」

苗木(な、なんか舞園さん今日は随分色っぽく見えるような……)ｶｧｧ

舞園「ふむ……私も誠くんって呼んだ方がいいですかね？」

苗木「そ、それはちょっと……！」

舞園「恥ずかしい、ですよね？心配しなくても、ちゃーんと分かってます。な・え・ぎ・くんっ……としか呼びませんから。安心してください」

苗木「っ……」ｶｧｧ

舞園「さ、いきましょう苗木くん！」ｷﾞｭｯ

苗木「わわっ！？う、腕を絡める必要はないんじゃないかな……？」

舞園「いえ、必要です。勘ですけど」

苗木「え？」

舞園「エスパーですから」

苗木「？？？」

舞園「それより苗木くん、あっちの方で面白い事やってるらしいですよ」

苗木「そうなの？じゃ、そっち行ってみようか」ｸﾙｯ

舞園「はいっ」ｸﾙｯ

？？？「……っ！？」ｶｼｬｯ

舞園「あっ間違えちゃった！あっちでした！」ｸﾙｯ

苗木「うわっとっと……」ｸﾙｯ

？？？「ちぃっ……」ｶｼｬｯ

ーー霧切サイド

霧切「方向転換のタイミングが完璧すぎるわ……私の浮気調査スキルをもってしても予測できないほどに」

霧切(アイドルの本能って奴かしら)

霧切「あと少しで決定的な写真が撮れるところだったのに……腕まで組んで……」

霧切(苗木くん、鼻の下伸ばしてたわね……)

霧切「なるほど……これがリア充爆発しろという感情なのね」ｷﾞﾘｯ

霧切「本気で氏ねばいいのにと思ったのは生まれてはじめてよ」

霧切「舞園さやか……おそろしい子」

霧切(……にしても)

霧切(アレは本気ね……本気で苗木君を、このたった一回のデートで、急転直下に堕とすつもりだわ)

霧切(あの子は自分ならそれが出来ると確信しているし、実際その実力もある)

霧切(ただそうそう上手くいかないのが世の中ってこと、教えてあげなきゃね……)ｸｽｯ

霧切「お忍びデート、楽しめるといいわね舞園さん。うーふーふーふーふー」ﾕﾗﾕﾗ

霧切(腹の底からモノクマみたいな笑いがこみ上げて来てしまったわ……いけないいけない。全てはこれからよ霧切響子！)

ーー中央通り

『えー、本日のパレードは延期という形に……』

舞園「ご、ごめんなさい……こんなことになるなんて」ｼｭﾝ

苗木「いやっ僕はそもそもここでパレードがあるのは知らなかったし、急な延期みたいだから仕方ないよ！」ｱﾀﾌﾀ

通行人「なぁ、何でこのパレード中止になったんだ？」

通行人「なんでも道路から突然馬鹿でかい白黒のクマ人形が出てきたらしいぜ」

舞園「……？」ﾋﾟｸｯ

苗木「舞園さん？どうしたの？」

舞園「いえ、なんでもありません。結構歩いちゃいましたし、どこか喫茶店にでも入って休憩しましょうか」

苗木「そうだね！」

舞園「この辺の喫茶店ってマスターがお年寄りの方で、落ち着いた雰囲気で休憩できる隠れ家的名店ばっかりなんです」

舞園「私もよく利用してるんですけど、チーズケーキが美味しいんですよ」

苗木「へぇー……」

ーー人通りの少ない所にあるカフェ

『本日臨時店休』

苗木「うわ、ここも店休日か。こんなに店休日が重なるなんて変な地域だなぁ」

舞園「……」ｼﾞｰｯ

苗木「舞園さん、次行ってみようか」

舞園「……んー」

苗木「舞園さん？」

舞園「そうですね、次に行ってみましょう」

舞園(……)

こんな童Ｏ簡単に落ちるのに二人は何を争ってんだよ

ーー霧切サイド

霧切(残念、そこいらの喫茶店の店長は全員旅行に行ってるわよ)

霧切(一週間で信用を勝ち取り、各店舗に繋がりを持たせたところで旅行に誘う……確かに困難な事だったけれど)

霧切(超高校級の探偵に不可能はないわ)ﾌｯ

霧切(これでおっしゃれーな隠れ家的名店は封じた)

霧切(更にお忍びデートともなればそろそろ行くところが無くなってくるはず)

霧切(そうなれば後は無為に時間を過ごすか、無理に人通りの多い所に突っ込んでもみくちゃにされた挙句パパラッチに激写されて週刊誌の種になるかのどちらか)

霧切(そして気分が滅入った苗木君の前に私が現れて慰めれば……)

霧切「フフフ……」

たんていって　すげー　！

ーー公園のベンチ

舞園「えいっ」ﾋﾟﾄｯ

苗木「うあっ！？」ﾋﾞｸｯ

舞園「えへへ、びっくりしました？あったかーいコーヒーですよー」

苗木「ありがとう舞園さん」

舞園「……苗木くん、さ・や・かです。さっき喫茶店巡ってる時も忘れてましたね？」ﾑｽｯ

苗木「あっ……そ、そうだったね。ごめんさやかさん」

舞園「呼び捨てにしてくれないと許しません」ﾂｰﾝ

苗木「そ、そんなぁ」

舞園「ふーん」ﾂｰﾝ

苗木「わ、分かったよ……さやか」

舞園「……ふふ。ごーかくです。補欠ですけどね」ｷﾞｭｯ

苗木「まっまいぞっ……じゃなくてさやか！？」ﾄﾞｷｯ

舞園「寒いのでちょっと手を貸してもらうだけです、心配しないで下さい。ね？」ﾆｺｯ

苗木「う、うん……さやかがそれでいいなら、僕はその」ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｭ

舞園「～♪」

苗木「……」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

舞園「あったかいですね」

苗木「そ、ソウダネ」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

舞園「ずっとこうしていたいくらい……」ﾄｻｯ

苗木(まっ舞薗さんが僕の肩に頭を預けてってってってっててててててててててっ！)ﾊﾞｯｸﾝﾊﾞｯｸﾝ

ピリリリリリリリッ

苗木「あっ、ちょっとごめん」ﾋﾟｯ

霧切『苗木君、今どこにいるのかしら？』

苗木「公園だよ」

舞園(……これは)

霧切『……そう。何してるの？』

苗木「えっ！？……た、たまには童心に帰って遊ぼうかなって」ｱﾀﾌﾀ

舞園(嘘が下手ですね、苗木君……)

霧切『そうね。童心に帰る事は大切よね。楽しんでるかしら？』

苗木「とっても楽しんでるよー！あはは……はは……で、その、霧切さん？何の用だったの？」

霧切『苗木君が好きそうなものを見つけたから買っておこうか迷ってるところなの』

苗木「な、何かな」

霧切『アイドル物のAVよ。落ち目のアイドルがやってる奴。公にはまだ出てないらしい裏モノをツテで手に入れられそうなの』

おわり

さすが超高校級の不幸

七海ちゃんはまだですかね

２８歳で超高校級の探偵ってレベル的にはどうなんだろう