1: 2014/02/02(日) 00:07:45 ID:uwKQdfGc

2: 2014/02/02(日) 00:08:33 ID:uwKQdfGc
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■Intermission ─────

……マオという予測不可能な因子による混乱も、からくも収めることができた。
しかし、俺のシャーリーに対する特別な感情は、後程禍根と成り得る事態を残して
しまった。
最後は、彼女から記憶を奪うつもりで、贖罪の意味も込めて彼女に全てを語ったが、
ギアスをかける寸前の彼女の言葉に、俺は怯んでしまった……
俺は、彼女を排除することに失敗したのだった。

復讐の完遂を望むならば、情けや容赦など捨てるべきだったのか。
彼女が拒否しようとも、彼女を精神的に、あるいは物理的にも"頃す"べきで
あったのか……
だが、それは俺のレゾンデートルであるナナリーの存在をも否定することに繋がる。

3: 2014/02/02(日) 00:09:29 ID:uwKQdfGc
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俺は、シャルルとは違う……俺の都合で弱者を切り捨てることなど、絶対にしない!
それでも復讐は成し遂げてみせる……否、それでこそ復讐は、真の意味で成し遂げ
られるはずだからだ……!


■租界 貿易商事務所 ─────

 C.C.「……で、私がクラブハウスに戻る段取りはできたのか?」
    「今度はまともな理由だろうな?」

 ルル「そんなもの、もうあきらめた……」ハァ…

 C.C.「なに?では戻るなというのか?」

4: 2014/02/02(日) 00:13:37 ID:uwKQdfGc
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 ルル「いや、戻ってこい」
    「部屋は咲世子が用意してくれた」

 C.C.「……どういうことだ?」

 ルル「今回の件で、咲世子が俺のことに感づいた」

 C.C.「なに?」

 ルル「シャーリーを入院させた時、俺のそぶりに違和感を感じたらしくてな」
    「俺は全く気付いてなかったんだが……」

 C.C.「ほう?」

5: 2014/02/02(日) 00:14:28 ID:uwKQdfGc
.
 ルル「……で、俺のことをしばらく探っていたらしい」
    「お前、篠崎という家系で思い当たることはないか?」

 C.C.「……さて?」キョトン

 ルル「だろうな、俺も初めて知ったが、彼女は篠崎流という武芸に秀でた一族の、」
    「第37代当主らしい……代々、優秀なSPを輩出してきた家系だそうだ」

 C.C.「なんと……とてもそうは見えないな」

 ルル「だから、優秀だということだろう」
    「で、俺の部屋で先日、自分を騎士団に入れろと言われてな」

 C.C.「ふむ、直球だな」

6: 2014/02/02(日) 00:15:36 ID:uwKQdfGc
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 ルル「何の冗談かと誤魔化そうかと思ったが、彼女は本当に、俺がゼロだと」
    「いうことを調べ上げていた……咲世子曰く、今の俺は隙だらけだそうだ」フッ…
    「それでも、1~2週間の間での話だからな、本当に優秀だ」

 C.C.「ふうん……」

 ルル「ただ、マオの件がなければ俺がゼロだとまでは想像できなかっただろう、」
    「とは言っていたが……」
    「まあ、咲世子にも俺の正体がバレてしまった」…ギシッ

7: 2014/02/02(日) 00:16:32 ID:uwKQdfGc
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俺は、そこまでを一息で説明すると、椅子に深々と腰かけ天井を見上げた。
そのそぶりを見ていたC.C.は、やや訝しげに尋ねる。


 C.C.「……それにしては、随分と気楽そうだな?」

 ルル「フフ……わからないか?」

 C.C.「??」

 ルル「おかげで、彼女にナナリーのことを完全に任せられるようになった……」
    「結果論だが、もっと早く咲世子を引き込んでおけば良かった」ニヤ

 C.C.「なるほど……」

8: 2014/02/02(日) 00:18:01 ID:uwKQdfGc
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 ルル「彼女も、騎士団にシンパシーを感じていたことが幸いした」
    「やはり正義の味方は、演じておくものだな……」…ギシッ

    「……お前の部屋は前のように、俺の部屋の隣だ」
    「だが、ナナリーに対してはこれまでと変わらず、俺達の事については」
    「一切説明をしていない……」
    「接触はなるべく避け、あくまで遊びに来ているふりをしろ」

 C.C.「よかろう、そのくらいは妥協しよう」

 ルル「しかし……なぜ戻りたがる?」
    「別にここでも構わないだろう」ギイッ

9: 2014/02/02(日) 00:18:54 ID:uwKQdfGc
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俺がそう尋ねると……C.C.は、見透かすような視線で俺を見た。


 C.C.「……お前があの娘に溺れないよう、監視しないとならないからな」
    「放っておくと、どこまでのめりこむやら……」ジー

 ルル「!」ピキッ
    「……人を色情狂のように言うな、この間だって、俺は」

 C.C.「俺は?…………なんだ?」

 ルル「!!……とっ、ともかく、俺とシャーリーはそういう関係ではない!」
    「学生らしく、清く正しい交際に徹している、余計なお世話だッ!」

10: 2014/02/02(日) 00:19:42 ID:uwKQdfGc
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 C.C.「顔が赤いぞ、ルルーシュ?」

 ルル「黙れ!お前こそ、この間のは何なんだ!」
    「むしろお前こそ……」

 C.C.「この間?何のことだ?」

 ルル「なッ……!?」
    「こっ、この間、俺にのしかかって、その……」
    「……無理矢理、しただろうがッ!!」

 C.C.「した?何をしたというのだ?」

11: 2014/02/02(日) 00:20:28 ID:uwKQdfGc
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 ルル「!!!…………」
    「……もういい」ガバッ

 C.C.「耳まで赤くなっているぞ、ルルーシュ?」

 ルル「いちいち言うなッ!出かけてくる……!」テクテク…バタン!!

12: 2014/02/02(日) 00:21:17 ID:uwKQdfGc
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ルルーシュが荒々しく扉を閉めると、C.C.はしばらくの間の後、小さくため息を
ついた……と、ふと何かに気付いたように顔をあげる。


 C.C.「……違う、嫉妬などではない……私を誰だと思ってるんだ?」
    「全く……すっかりお目付け役のつもりか……?」

    「……ああ、そうだよ、ルルーシュは自ら困難な道を選んだ、」
    「無理に止めても、聞きはしないだろうしな……お前と同様に、な」

13: 2014/02/02(日) 00:22:06 ID:uwKQdfGc
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■租界 民間TV局 控室 ─────

扇とディートハルト、それに数名の騎士団メンバーは、これからこの局で収録される
公開討論会に出席するため、控室で準備をしていた。
先日の、湾港でのサクラダイトの爆破事件を総督府に黒の騎士団の仕業だと
断定されたことに対する反論や騎士団側の主張を、番組内で行うことが目的だ。


 扇「……しかし、本当に大丈夫なのか?」
   「収録の間に官憲が踏み込んでくることは……」

 ディートハルト「大丈夫ですよ、これは私の仕込みですから……」
       「収録は極秘に行います、それに、討論会の形をとっていますが、」
       「出演者には台本を渡してありますので……」ニヤ

14: 2014/02/02(日) 00:22:55 ID:uwKQdfGc
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 扇「台本?やらせか?」ギロ

 ディートハルト「演出と言ってください、扇さん……」
       「くれぐれも、収録中にそんな険しい顔をしないように」

 扇「あ、ああ……」

 ディートハルト「……これは、遊びではないのですよ?」キッ
       「可能な限り最短距離で我々の目的に到達するための、手段です!」

 扇「……」

 ディートハルト「我々は絶対に、負ける危険は冒せないのです……」
       「たとえ、TV番組の討論会であっても!」

15: 2014/02/02(日) 00:23:48 ID:uwKQdfGc
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 扇「……わかってる、わかってるさ」

 ディートハルト「それにあなたも、本当にガチンコの討論会はマズいでしょう?」
       「百戦錬磨の論客を言い負かす自信がおありで?」

 扇「い、いや、それは……!」キョドキョド

 ディートハルト「……」フゥ

16: 2014/02/02(日) 00:24:31 ID:uwKQdfGc
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と、そこへ番組のディレクターが、扉を開いて入ってきた。
扇たちの姿を認めると、大声で呼びかける。


 番組D「あ、ディートハルトさん!準備できましたよ!」

 ディートハルト「そうか……今日は、よろしく頼むぞ?」

 番組D「任せといてください!」ニカッ
     「扇さん、こちらへどうぞ!」

 扇「ああ!今いきます!」ニカッ!!

17: 2014/02/02(日) 00:25:26 ID:uwKQdfGc
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……先ほどまでの、頼りなさげな雰囲気が瞬時に失せ、自信に満ち溢れた笑顔で
扇はディレクターに応えた。車椅子を操り、迅速にドアの向こうに消えて行く。


 扇「ははは、TV出演なんて初めてだから、緊張します!」シュイイン…

 番組D「ぜんぜんそうは見えませんよ?」
     「大丈夫です!あなたならイケますよ!私が保証します……」…バタン

 ディートハルト(……あの変わり身の早さだけは、目を見張るものがある)
       (ゼロは「役柄を演じることはできる男だ」と言っていたが、)
       (まさしくその通り……ふふ、脱帽ですよ、ゼロ……)ニヤリ

18: 2014/02/02(日) 00:27:09 ID:uwKQdfGc
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■アッシュフォード学園 昼食時 ─────

最近、俺とシャーリーは、学園での昼食を二人で一緒に取るようになった。
学園以外では忙しくて彼女と一緒にいられない代わりの、せめてもの心がけだ。
今日は、比較的暖かな日差しだったので、二人で屋上に出てみた。


 シャーリー「うわー……今日は、あったかいねー」

 ルル「ああ、上着もいらないくらいだな……」ニコ

 シャーリー「うん!」ニコッ

19: 2014/02/02(日) 00:28:01 ID:uwKQdfGc
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 シャーリー「ねね、ルル、今日はちょっと、お弁当作ってみたの……」

 ルル「ん?」


俺は、屋上の段差に腰掛けながら、隣に座った彼女が差し出す弁当を見た。
トマトや野菜の盛り付けがカラフルな、女の子らしい、可愛らしい中身だ。


 ルル「……いいな、美味しそうだ」

 シャーリー「本当!?良かった!」

 ルル「ん?良かったって?」

20: 2014/02/02(日) 00:29:00 ID:uwKQdfGc
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 シャーリー「これ、ルルが食べてくれないかな?」

 ルル「えっ、それ、シャーリーの弁当だろ?」

 シャーリー「私のは別に作ってあるから……」
       「……って、いきなりだったね……良かったら、その……///」モジモジ

 ルル「……本当にいいのか?」

 シャーリー「うん、いいよ!」ニコッ!!

21: 2014/02/02(日) 00:30:03 ID:uwKQdfGc
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満面の笑顔で応えるシャーリー……それを見て、俺も思わず笑みがこぼれる。
あの時、もしシャーリーの記憶を奪っていたら、こんな笑顔は二度と見ることが
できなかったかもしれない。

奴に何と言われようと、俺は、できる限りシャーリーの気持ちに応えるつもりだ。
それが、どれほど困難であろうと……彼女が望んだ、俺が為すべき贖罪だから……


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シャーリー「……ルル、最近は授業が終わったらすぐいなくなるよね?」
       「すごく忙しいんだ?」モグモグ

22: 2014/02/02(日) 00:31:08 ID:uwKQdfGc
.
 ルル「ああ、ますます忙しくなってきてる」モグモグ
    「俺がもう一人欲しいくらいだよ」

 シャーリー「ふーん……」モグ…

 ルル「総督府からの締め付けが厳しくなってくる中、」
    「人々の信頼を得ないとならないからな……大変だ」モグモグ

 シャーリー「そうかー……」ジー…

 ルル「……ん?」モグ…
    「どうしたんだ?」

23: 2014/02/02(日) 00:32:10 ID:uwKQdfGc
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 シャーリー「ルル、あのね……わたしに、手伝えることとかないかな?」

 ルル「……」


……そのシャーリーの問いかけについては、俺はすでに返答を決めていた。
彼女は、決して騎士団に関わらせない。ナナリーと同様に、だ。


 ルル「シャーリー……」

 シャーリー「あっ、もちろん、無理にってことじゃないよ!」
       「どんなことでもいいから、ルルがちょっとでも楽になるなら……」

24: 2014/02/02(日) 00:34:23 ID:uwKQdfGc
.
 ルル「……ありがとう、でも、俺の"仕事"は、俺自身でやるしかないから……」
    「ごめん……」

 シャーリー「そっかあ……」ショボン

 ルル「……」


俺は、しょぼくれたシャーリーの肩に腕を回し、そっと抱きしめる。
すると、彼女は俺に向かってにこっと笑いかけ、そのまま俺の肩に頭をのせた。


 シャーリー「ふふ、ルル……」

25: 2014/02/02(日) 00:35:19 ID:uwKQdfGc
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 ルル「……今度、時間がとれたら、1日使って一緒に出掛けよう」
    「それまでに、どこに行きたいか、計画をしておいてくれ」

 シャーリー「……どこでもいいのかな?」

 ルル「!!……1日で往復できる距離だぞ?」

 シャーリー「うん……考えとく」ニコッ

34: 2014/02/18(火) 21:43:58 ID:UaefCseQ
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■学園 理事長室 ─────

 ミレイ「……えっ!?ルルーシュのことを?」

 理事長「うむ、以前お前に、彼を探してくれと頼まれたことがあっただろう?」
     「その件で彼らが立ち寄ったらしい」

35: 2014/02/18(火) 21:44:32 ID:UaefCseQ
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理事長室でミレイは、彼女の祖父である学園の理事長から奇妙な話を聞いた。
シンジュク事件の折、行方知れずとなったルルーシュを密かに探してもらうよう、
彼女は祖父に頼んだ。
そして祖父は、軍でつながりのあったヴィレッタにその事を依頼していたのだった。

だが、依頼後、彼女自体が消息不明となり、またルルーシュも無事に戻ってきたため、
その件はそのまま忘れ去られていた。

36: 2014/02/18(火) 21:45:07 ID:UaefCseQ
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 ミレイ「……おじい様、でも、何でいまさら……」

 理事長「それがまた不思議でな……」
     「あの時の学生の名を、忘れたから教えろと言うのだ」

 ミレイ「えっ?」

 理事長「しかも、ヴィレッタだけでなく他に2名を連れていたのだが、」
     「みな揃って頭に変な機械のようなものを付けておった……」

 ミレイ「……機械?」

 理事長「そういえば、喋り方も妙でな……」
     「……一応、学生の名はわしも忘れた、と言っておいた」

37: 2014/02/18(火) 21:45:44 ID:UaefCseQ
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異様な姿の3名を想像し、眉をひそめるミレイ。

彼女も、そして理事長も、ルルーシュのいわくについては知っている。
それもあり、あまり公にならないようヴィレッタだけに捜索を依頼していたのだが、
改めて尋ねてきたとあらば、嫌な気配を感じざるをえない。


 ミレイ「ありがとう、おじい様……」
    「彼にも言っておいた方がいいかな?」

 理事長「……うむ、そうした方が良かろう」
      「ああ、それと、例の件じゃが……」

 ミレイ「あ、ああ……うん……」

38: 2014/02/18(火) 21:46:20 ID:UaefCseQ
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理事長に"例の件"と言われたミレイは、やや表情が曇る。
そんな彼女に気付かないのか、理事長はそのまま言葉を続けた。


 理事長「アスプルンド家は、非常に良い家柄だ……」
     「それに伯爵も、やや変わり者だが穏やかな性格の方だと聞いておる」

 ミレイ「うん……」

 理事長「お前の気持ちもわかるが、そう悪い話ではないと思うぞ?」
      「一度、お会いしてみてはどうかね?」

 ミレイ「……お母さんからも同じことを言われてる、」
    「でも……まだ、そんな気になれないのよ……」

39: 2014/02/18(火) 21:46:56 ID:UaefCseQ
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■学園 正面アーチ ─────

 ジェレミア「ふむ……成果はなかったか?」カツカツ

 ヴィレッタ「理事長も忘れているのでしたか……残念のようです」カツカツ

 キューエル「……」カツカツ


コードRの手がかりを求め、アッシュフォード学園の理事長を尋ねた特捜隊。
だが、彼からは手掛かりは得られなかった……

40: 2014/02/18(火) 21:47:43 ID:UaefCseQ
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今は昼食時、学園の生徒たちは思い思いの休息をとるため、校舎の外に出ていた。
正面の門から伸びたアーチの通路を歩く彼らの周囲では、生徒たちが彼らの異様な
姿に興味津々といった様子で見つめ、あるいはひそひそと話をしながらすれ違って
ゆく。だが、彼らはそんな周囲の様子を全く気に留めていない風だった。


 ヴィレッタ「……しかし、学生が関わっていたとは考えにくかったのです」
       「ましてや、黒の騎士団などという大規模なテロ組織を……」

 ジェレミア「先入観は排しようか?」
       「それに、この学園はどうも怪しいのか?」

 キューエル「……」

41: 2014/02/18(火) 21:48:41 ID:UaefCseQ
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 ヴィレッタ「どういうことでしょう?」

 ジェレミア「いますれ違った学生のうちに、コードRに近い反応を感じた?」

 ヴィレッタ「本当でしたか!?」

 キューエル「!!」


彼ら3名は、"コードR"を捜索するにあたって、研究所で特殊な機能を授けられて
いた。実験的な意味で授けたものであったが、うちジェレミアには、脳波を音響のように
感じることができる機能が備わっている。

42: 2014/02/18(火) 21:49:24 ID:UaefCseQ
.
 ジェレミア「うむ、1・2名くらいだが、似た"音"だったか?……」
       「影響を受けた者がいるような?少し、探ってみた方がよさそうか?」

 ヴィレッタ「今は、他に手がかりはありませんでした……」
       「確かに、ここを探るのがよいかと」

 キューエル「……」コクコク

 ジェレミア「……キューエル、君は朝から一言も発していないようだ」

 ヴィレッタ「どうしたのでしょうか?」
       「具合でも悪かったのですか?」

43: 2014/02/18(火) 21:50:28 ID:UaefCseQ
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 キューエル「しゃっ、しゃやややっしゃしゃしゃああああアアアッ!」
        「……口を開くと必ず興奮する癖が治らないので、黙ってることにした」

 ジェレミア「……将軍に、調整し直してもらうようお願いする」

 ヴィレッタ「何とも不憫な……」

 キューエル「のっ、のおおおおおおおろろおおおおおおおおおッ!」
        「……能力さえ使えれば私は問題ないのだ、気にしないでくれ」

 ジェレミア「うむ、君の能力には期待しているか?」

 ヴィレッタ「先を急ぎました……」カツカツ

44: 2014/02/18(火) 21:51:06 ID:UaefCseQ
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■黒の騎士団 トレーラー ─────

 カレン(今日のミーティング、どうしてゼロはいなかったんだろ……)カツカツ


ゲットー内のアジトで行われた今朝の幹部ミーティングでは、気になる報告が2つほど
上がってきた。
ひとつは、キュウシュウ方面。東シナ海にいる中華連邦軍に、きな臭い動きがみられる
とのことだ。部隊が集結しつつあり、あるいはキュウシュウへの侵攻が行われるのでは
ないか、との見通しがある。
もうひとつは、ブリタニアの宰相、シュナイゼルの動きだ。理由はわからないが、
ここエリア11へ来る日程が組まれたらしい。

45: 2014/02/18(火) 21:51:50 ID:UaefCseQ
.
わたしは、それを直接報告するため、トレーラに戻ってきていた。
トレーラー2階のゼロの個室の前に立つ。


 カレン「……カレンです、よろしいですか?」コンコン

 ??『今開ける……』シュイ-ン

 カレン「ゼロ、朝比奈さんから気になる情報……」カツカツ
     「……って、あれ?C.C.だけ?」キョロキョロ


部屋に入ると、ゼロの姿はなかった。
ソファに座り、TVを見てたC.C.はわたしの方に目を向ける。

46: 2014/02/18(火) 21:52:51 ID:UaefCseQ
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 C.C.「……何だ?」

 カレン「いや、ゼロに報告があって……どこに行ったの?」

 C.C.「人と逢う約束があると言って出た」
    「私が代わりに聞こうか?」

 カレン「いや……後でまた報告するわ」クルッ

 C.C.「そうか」
    「……ああ、そうだ、ついでに聞くが」

 カレン「……ん?何?」…ピタ

47: 2014/02/18(火) 21:53:43 ID:UaefCseQ
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C.C.がわたしに質問を投げかけるなんて、珍しい。
わたしは足を止め、彼女の方に向きなおす。


 C.C.「お前たち、あれから逢引きは何度くらいしたのだ?」ニヤ

 カレン「……その、逢引き、って表現、やめてくれない?」ムカ
     「すごくいかがわしいことみたいに感じるし、そんなことしてないから」

 C.C.「まあ呼び方はどうでもいい」
    「あれから奴とデートには行ったのか?」

48: 2014/02/18(火) 21:54:42 ID:UaefCseQ
.
 カレン「……そんなプライベートなことはお答えしません」

 C.C.「なんだ、行ってないのか」

 カレン「!!……行ってるにしろ行ってないにしろ、」
     「あなたには関係のないことでしょ?」クルッ


実際、行ってない。
というか、確かにルルーシュとはあれ以来、プライベートに関することでもよく話を
するようになったけど、別に、デートを重ねるような関係じゃないし……
それにあいつ、いつだって忙しいじゃない、誘ったってそんな時間取れないでしょ。

49: 2014/02/18(火) 21:55:45 ID:UaefCseQ
.
また何かケンカでもふっかけてくる気なのかと思い、わたしはきびすを返した。


 C.C.「私はどうでもいいのだが、お前には、関係あるかもな……」


てっきり、わたしを茶化すのかと思っていたところに、C.C.は何か意味ありげな
言葉を発する。
わたしは再び足を止め、C.C.へゆっくりと向き直した。


 カレン「……なんの話よ?」…ジッ

50: 2014/02/18(火) 21:56:52 ID:UaefCseQ
.
 C.C.「お前、ルルーシュのことが好きなのか?」

 カレン「!……尊敬してるわ、それが何か?」

 C.C.「そうか、ならいい、行っていいぞ」

 カレン「……なんか引っかかる言い方ね」
     「尊敬してるし、好きよ、それで?」

 C.C.「愛情か?」

 カレン「好意!」
     「……何が言いたいのよ、一体?」

51: 2014/02/18(火) 21:57:50 ID:UaefCseQ
.
 C.C.「ふむ……ならよい、それ以上に発展させるな、」
    「最近、奴には相手ができてな……」

 カレン「……相手?」
     「相手って、何の相手よ?」

 C.C.「恋人……というのかな、まだそう深い仲ではないようだが」


……え?うそ……?
恋人……って……マジで?なんで?

52: 2014/02/18(火) 21:58:34 ID:UaefCseQ
.
 C.C.「私も止めたのだが、奴は強情だからな」
    「しようがないので、関係しそうな者には事前に……」


こないだ、付き合ってる相手とかいるのか聞いたら、しれっとした顔で「そんなのを
作る時間はない」とか言ってたくせに……!
なによそれ、わたしには隠しておきたかった、ってこと?
というか、騎士団のトップが色ボケとか、シャレにならないわよ!?


 C.C.「私としては、これ以上のトラブルは避けたい」
    「早めに教えておくのが……」

53: 2014/02/18(火) 22:00:01 ID:UaefCseQ
.
最近って、いつからなの?どのくらいの関係なの?
相手は誰なの?騎士団の中?それとも外?
あれだけシスコンのくせして、彼女とか……


 C.C.「お前のことは、奴も買っているからな……」
    「このことはお前にだけ言っておく、他の奴には……」


……まさか、妹じゃないでしょうね?って、さすがにそれはないか……
相手が誰なのか、調べてみなきゃ……!

54: 2014/02/18(火) 22:01:00 ID:UaefCseQ
.
 C.C.「……カレン?おい、どうした?」

 カレン「!!」


わたしはふと、C.C.の言葉が耳に入らないほど硬直していたことに気付いた。
彼女に見透かされないよう、あわてて取り繕う。


 カレン「……あ、ああ、ありがと……」

55: 2014/02/18(火) 22:01:32 ID:UaefCseQ
.
 C.C.「礼にはおよばない、どうした、大丈夫か?」

 カレン「大丈夫よ……問題、ないわ」
     「じゃあわたし、やることがあるから……」カツカツ

 C.C.「ああ、また後でな」

56: 2014/02/18(火) 22:02:19 ID:UaefCseQ
.
■租界周辺ゲットー スザクの部屋 ─────

先日のマオの件以来、スザクとは連絡がとれないままとなっていた。
俺が電話をしても出ない……ケータイは破棄したわけではなさそうだが……
時間を取って、俺はスザクの部屋があるアパートまで足を運んだ。

扉の前に立ち、聞き耳を立ててみるが、扉の向こうからは特に物音は聞こえない。
思い切って何度かノックをすると、室内から足音が近づいてきて扉が薄く開かれた。
俺は、ドアのチェーン越しに奴の顔を見る……やはり、随分とやつれた様子だ。

57: 2014/02/18(火) 22:03:19 ID:UaefCseQ
.
 ルル「スザク……俺だよ」

 スザク「……」

 ルル「電話を鳴らしても出ないから、来てみたんだ」
    「いま、大丈夫か?」

 スザク「……ああ」

 ルル「……中に、入っても?」

58: 2014/02/18(火) 22:04:01 ID:UaefCseQ
.
そう言うと、視線を落としたスザクだったが、ガチャガチャとチェーンを外す音が
したかと思うと扉はゆっくりと開いた。


 スザク「……入れよ」

 ルル「ああ……」


俺は、スザクに促され、殺風景な和室の中に入った。

59: 2014/02/18(火) 22:05:04 ID:UaefCseQ
.
現在、ゲットーに住むイレヴンは、物欲を満たすことがほとんどできない状況に
あるのだが、俺からの若干の支援があるとはいえ、スザクもそれはほぼ同様だ。
部屋の中には、家電はかろうじて冷蔵庫があるだけ、他は着替えやふとん、
机がある程度だ。

机の上には、昔の写真……俺がまだ幼かった頃、枢木家の世話になっていた
時の写真が置いてあった。微笑むナナリーとスザク……そして、仏頂面の俺が
色あせたフレームに収まっている。
俺はそれを手に取り、眺めた。


 ルル「……この時の写真、持ってたんだな?」

 スザク「……」

60: 2014/02/18(火) 22:06:05 ID:UaefCseQ
.
 ルル「懐かしいな…」
    「確か、日本侵攻の少し前に撮ったんだったかな?」

 スザク「……」


俺の問いかけに、スザクは応じない。部屋の片隅に腰を下ろし、うつむいたまま
ぼうっとしている。とりつくしまもない、という感じだ。
俺はスザクの傍までゆき、その前に腰を下ろした。


 ルル「……何があったんだ?」

 スザク「……」

61: 2014/02/18(火) 22:07:14 ID:UaefCseQ
.
 ルル「……俺にも、相談できないことか?」

 スザク「…………」


……見れば、スザクのあごには無精ひげが目立っていた。頬も削げ落ちたように
なっている。マオの件以来、まともに食事もとっていなかったのではないか。


 ルル「何も……食べてないのか?」
    「何があったのかは知らないが、食べるくらいはした方がいい……」

 スザク「……」

62: 2014/02/18(火) 22:08:22 ID:UaefCseQ
.
 ルル「……おかゆでも作ってやるよ、」
    「台所を使うぞ?」…スック

 スザク「……いいんだ」

 ルル「ん?……何がだ?」

 スザク「オレは……もう、いいんだよ……」

 ルル「……」

63: 2014/02/18(火) 22:09:29 ID:UaefCseQ
.
立ち上がりかけた俺に、スザクはうなだれたまま、力なく、そう答えた。
俺は再び腰を下ろし、奴に優しく話しかける。


 ルル「何が、もういいんだ?」

 スザク「……」

 ルル「お前がそんな調子だと、俺も気になってしようがないんだ」フッ
    「言ってみろよ……秘密なら、絶対に守るから」

 スザク「…………」

64: 2014/02/18(火) 22:10:12 ID:UaefCseQ
.
 ルル「……」

 スザク「……いい……」

 ルル「……ユフィにも、そういう態度なのか?」

 スザク「!」ピク

65: 2014/02/18(火) 22:11:03 ID:UaefCseQ
.
ユフィの名を出すのは卑怯だったかもしれないが、スザクの煮え切らない態度に
俺は多少苛立ちを感じ、つい口にしてしまった。
わずかに反応を見せたスザクだったが……


 スザク「…………」

 ルル(……やはり、だんまり、か……)フゥ…

66: 2014/02/18(火) 22:12:04 ID:UaefCseQ
.
おそらく……
以前、藤堂から聞いたことと、先日シャーリーから聞いたことを併せて考えれば、
枢木ゲンブ自害の真相は、スザクが彼を頃した、ということなのだろう。
そして桐原翁が隠ぺいを行ったため、それが公にならなかったのだ。
確証はないが、当時の状況から推測すれば、それでほぼ間違いないだろう。

己の手で父親を刺し頃した、幼い頃のスザク……
それほどまでに父親を憎んでいた理由はわからないが、憎む理由があっても
おかしくないことは俺もよくわかる。

だが、俺がクロヴィスを頃した時に感じた罪悪感を、こいつは幼い頃に味わった
のだ……どれほどのショックだったか。そのトラウマを、マオに抉られたのだろう。

67: 2014/02/18(火) 22:13:08 ID:UaefCseQ
.
 ルル(……わからないでもない、この変化は)

 スザク「……」


どうにかして気持ちを吐き出させないと、精神が自壊してしまう。
俺は、再びスザクの前に腰を下ろし、言葉を慎重に選びながら、スザクの口を
開かせようとする。


 ルル「スザク……黙って聞いててくれ……ッ?」

68: 2014/02/18(火) 22:15:12 ID:UaefCseQ
.
……その時、俺はふと、膝を抱えているスザクの腕に視線が止まった。
彼の腕には……何かの注射をした後が、ぽつり、ぽつりとついていた。
注射といっても、針ではなく何らかの、インジェクションを利用したような……


 ルル「お前、それは……」
    「……いや、お前まさか!?」

 スザク「……」

69: 2014/02/18(火) 22:16:01 ID:UaefCseQ
.
その注射跡が意味することを察した俺は、ガバッと立ち上がり、部屋の中を見回す。
殆ど物のない部屋だ、"それ"は見当たらない。ということは、入れている場所は
ひとつしかない……写真の立ててあった、机の引き出しの中だ。

俺は机まで駆け寄ると、引き出しを勢いよく開く。
そこには、インジェクション方式の注射器と、すでに使用済みのアンプルのビンが
いくつか転がっていた……

70: 2014/02/18(火) 22:16:38 ID:UaefCseQ
.
 ルル「おい……これは、何だ!」

 スザク「……」

 ルル「まさかお前、"リフレイン"を……!」

 スザク「…………」コクリ

 ルル「……!」

82: 2014/04/22(火) 23:09:43 ID:EPrmGX62
.
■エリア11政庁 空中庭園 ─────

エリア11の厳しい冬も、じき終わりを告げつつある頃……

……トウキョウ租界の中央に位置する巨大な建造物、総督府政庁。
その屋上には、クロヴィスの指示により、ブリタニア本国にあるアリエスの離宮に
模した庭園が設けられている。
庭園では、サクラダイトを利用した気温調節システムが構築されており、冬にも
関わらず至る所で鮮やかな花が咲き誇るという不思議な風景を生み出していた。

その庭園で、ユーフェミアはひとり、芝生の上に腰を下ろしていた。
彼女は先ほどから、周囲の気配を気にしながらこっそりと、耳にケータイをあてて
いたのだが……

83: 2014/04/22(火) 23:10:34 ID:EPrmGX62
.
 ユフィ(……今日も出ないわ……)
     (スザク、一体どうしたのかしら……)フゥ…


"CALLING..."と表示されたままのケータイを切り、ため息をついた。

……1週間ほど前から、スザクに電話をしても彼が出なくなった。
その前あたりから、電話の向こうから聞こえる彼の声に生気がなくなったことを
気にかけていたのだが、彼が電話に出なくなったことでますます心配になった。

84: 2014/04/22(火) 23:11:14 ID:EPrmGX62
.
本当は、スザクの所に直接行って様子を見てみたい。
しかし、それはさすがにできなかった。

ゲットーの旧都庁での件以来、コーネリアは彼女に対し、強力な監視を強いていた
からだ。隙を見て抜け出すことも叶わない。
かろうじて、彼女が公務で政庁を出る時に、あらかじめ彼に連絡をし、行く先で
ほんのわずかの間に顔を合わせることくらいしかできなかった。あるいはこうして、
ケータイで連絡を取り合うくらいだ。

だが、そのケータイにスザクが出ない。
この1週間、ユフィは、自分が何か嫌われることをしたのだろうかとずっと気に病んで
いる状態だった。

85: 2014/04/22(火) 23:11:58 ID:EPrmGX62
.
 ユフィ(やはり、スザクにとって私って、迷惑なのかしら……)
     (夢みたいなことを言って、彼も巻き込んで……)

     (行政特区の件、シュナイゼル兄様は応援してくださるけど、お姉様にはまだ)
     (話せないままで、ぜんぜん前に進まない……でも、スザクは「あせらないで、)
     (ゆっくりと実現しよう」って、励ましてくれていたのに……)


スザクが、旧日本の首相の子息だということが、行政特区のアイデアに繋がって
いた。彼がイレヴンの人々の信頼を集め、やがては行政特区の日本側の代表として
日本人たちを率い、ブリタニアの代表である自分と手を携えることを夢見ていたのだ。
そのために、彼がゲットーの復興を指導する立場となれるよう、色々と配慮をして
きたのだった。

86: 2014/04/22(火) 23:12:43 ID:EPrmGX62
.
 ユフィ(……大丈夫なのかしら、スザク……)

 ??「やはりここにいたのだな、ユフィ」


突然、何者かに背後から声を掛けられた。ユフィは驚き、振り向く。
そこには、微笑みながら彼女に近づくコーネリアの姿があった。
ユフィはにっこりと微笑み返しつつ、そっと後ろ手でケータイを隠し持った。


 ユフィ「お姉様、今日はもう公務はお済みですか?」ニコッ

 コーネリア「いや、合間の休息だよ」テクテク
        「ユフィにひざまくらをしてもらおうと思ってな」…トスッ

87: 2014/04/22(火) 23:13:41 ID:EPrmGX62
.
そう言いながらコーネリアは、ユフィの傍に腰を下ろすと、そのまま寝そべって
頭をユフィの膝の上に預け、目を瞑った。
ユフィは、そんな彼女の顔を優しく見つめながら、そっと頭をなでる。


 コーネリア「久しぶりだな、こういう時間は……」
       「エリア11に来て以来、予想外の事が多すぎた……」スッ…プニプニ

 ユフィ「……きゃっ!?」
     「お姉様、おなかをつままないでください!///」

 コーネリア「ん?デスクワークばかりで、太ったんじゃないか?」ニヤ

 ユフィ「んもう、お姉様ったら……///」

88: 2014/04/22(火) 23:14:37 ID:EPrmGX62
.
……ユフィによるスザクへの援助は、コーネリアも知っている。
勿論快く思っているわけではないが、イレヴンの慰撫にも繋がっている事、そして
スザクとは直接には会っていない(ということにしている)事で、かろうじてお目こぼしを
得ている状況だ。


 ユフィ(電話で話してることを知られたら、取り上げられそうだわ)
     (ましてや、スザクの様子を見に行きたい、なんて言ったら……)
     (……やっぱり、何とか理由を作って抜け出さないと)

89: 2014/04/22(火) 23:15:46 ID:EPrmGX62
.
 コーネリア「……ユフィ、兄上が近々、このエリア11に来られるそうだ」

 ユフィ「シュナイゼル兄様ですか?」

 コーネリア「うむ、何やら、式根島という島に用があるそうだ」
       「その島で、久しぶりに会おうという話になった」

 ユフィ「式根島……聞いたことのない島ですね?」

 コーネリア「ああ、私も初耳だよ、聞けば単なる無人島らしい」
       「兄上がなぜそんな島に興味を示されたのか……」

       「……ユフィはどうする?一緒に来るか?」

90: 2014/04/22(火) 23:17:15 ID:EPrmGX62
.
それを聞き、ユフィはチャンスだとひらめいた。
気にかかっているスザクの様子を見に行く、絶好の機会だ。


 ユフィ「ごめんなさい、あまり気が進みません……」

 コーネリア「そうだな、ユフィはそんな島に行く必要はないさ」
       「兄上をここに連れてくるよ……待っているがいい」ニコッ

 ユフィ「ええ、お待ちしていますとお伝えください」ニッコリ

94: 2014/04/25(金) 22:10:00 ID:Vq2yoxQA
.
■租界 貿易商事務所 ─────

過去の幸せだった頃の記憶を幻視として見せるくすり、"リフレイン"……
最近、イレヴンの間で急速に広まりつつあるものだったが、まさかスザクがそれに
手を出しているとは思わなかった。

スザクの部屋でそのことを知った俺はその日の夜、密かに奴を貿易商の、この間まで
C.C.が使っていた部屋に連れてきた。いや、正確にはそこに監禁することにしたのだ。

95: 2014/04/25(金) 22:11:35 ID:Vq2yoxQA
.
ベッドに寝かせられた状態のスザクは、くすりが与える多幸感がまだ持続しているのか、
時折微笑んでは何事かをつぶやく。


 スザク「……フフ……小鳥は、オレに任せろって……」

 ルル(一体、何を思い出しているんだろうか……)


本来、薬物中毒患者は病院で治療するのがベストだ。
だがそれには専門の知識を備えたスタッフを持つ医療機関が必要であり、今の騎士団
にはそんなツテは全くなかった。エリア11でそれが期待できる所は、総督府が運営を
する警察病院しかない。

96: 2014/04/25(金) 22:12:27 ID:Vq2yoxQA
.
それに、スザクの症状はまだ軽いものと思われた。今なら、誰かの付き添いがあれば、
比較的早期にリフレインを断てるかもしれない。

……実を言えば、行政特区の件でスザクが言った脅しの言葉は、今でも俺の頭の中に
こびりついている。
このままこいつが廃人になれば、ゼロが俺であることやそれをナナリーにバラされる
という心配はなくなる、という考えも浮かんだ。しかし……


 ルル「……スザク、俺に任せてくれ」ニコッ

 スザク「……」

97: 2014/04/25(金) 22:13:02 ID:Vq2yoxQA
.
己の父親に対し、激しい憎悪を抱いていたということについて、俺はスザクへの
新たな共感を感じていた。奴の今の姿は、俺がギアスという"力"を持たなかった
場合に、なっていたかもしれない姿のように思えたのだ。

スザクを捨てる、というルートは、排除した。

とはいえ、ゼロとスザクに個人的なつながりがあることを、他の誰にも知られては
ならない。だから、俺自身がスザクの世話をするしかなかった。
一応、念のため、万が一ということもあるかもと思い、C.C.にもそのことを話して
みたが……

98: 2014/04/25(金) 22:14:33 ID:Vq2yoxQA
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ルル「……というわけだ」
    「俺以外で奴の世話をできる人間は、お前かシャーリーしかいない」

 C.C.「……」モグモグ


俺の部屋で、勝手にベッドへ寝そべりながらピザをつまむC.C.に、俺は先日からの、
スザクにまつわる問題を説明した。
ひととおり話し終えた俺はひと呼吸を置き、改めて彼女に尋ねてみる。

99: 2014/04/25(金) 22:15:15 ID:Vq2yoxQA
.
 ルル「……C.C.、俺が忙し」

 C.C.「お断りだ」モグモグ

 ルル「い時……そう言うだろうと思った」ハァ

 C.C.「シャーリーとやらに頼め」
    「あの娘なら、喜んで手伝うだろう」モグモグ

 ルル「彼女には、俺の仕事は手伝わせないと決めている」

 C.C.「"仕事"ではないだろう?」モグ…
    「お前の個人的な関係じゃないか」ジー

100: 2014/04/25(金) 22:17:28 ID:Vq2yoxQA
.
 ルル「……」

 C.C.「あの娘といいスザクといい……」…ムクッ
    「……お前は最近、少しおかしいぞ?」

 ルル「何だと?何がおかしいと言うんだ」

 C.C.「クロヴィスを撃った時の覚悟が、今は失せている」
    「まるで、ただのアッシュフォードの学生だ……」

 ルル「!!…………」プイ

 C.C.「……その自覚はないのか?」

101: 2014/04/25(金) 22:20:27 ID:Vq2yoxQA
.
 ルル「…………」
    「……今は、騎士団の運営も順調だ、ハデな戦闘もしていない」
    「だからお前には、俺がヒマそうに見えてるだけだろう?」ニッ

 C.C.「……」フゥ


俺の言葉に、C.C.は小さく溜息をつく。
その時俺は、彼女がたびたび、俺の前でため息をつくことに気付いた。

102: 2014/04/25(金) 22:21:07 ID:Vq2yoxQA
.
……思えば、ナリタでこいつは、曲がりなりにも"矜持"を見せた。
かつては家族のように過ごしたという者に銃を向け、引き金を引いたのだ。
契約の成就のためとはいえ、俺の「腹を決めた」という言葉に従って……

……だが、ここ最近の俺は、どうだろうか?
こいつの言う通り、覚悟に鈍りが出ているのだろうか?


 ルル「……」ジ…ッ

 C.C.「……なんだ?」

 ルル「いや……何でもない」プイ

 C.C.「??」

103: 2014/04/25(金) 22:21:48 ID:Vq2yoxQA
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……ナリタでの決断、そして今回のスザクに対する対処も、別に間違って
いると思ってはなかった。
だが、あの時のC.C.の言葉は、俺の心の底にずんと重く沈み込んでいた。


 ルル(……やはり、アッシュフォードを卒業し、全てのしがらみを断ち切ってから)
    (行動を始めるべきだったのだろうか?)
    (であれば、シャーリーも俺の問題に巻き込まれはしなかっただろう)
    (あるいはスザクも、こうなる前に救いがあったのかもしれない……)

104: 2014/04/25(金) 22:22:37 ID:Vq2yoxQA
.
スザクが眠るベッドの傍らで、椅子に腰かけながら物思いに耽っていると、
ポケットの中のケータイが鳴った。騎士団との連絡用のケータイだ。
液晶には「P1」と表示されていた。


 ルル「……どうした?」

 扇『ブリタニアに動きがあった』
   『情報どおり、コーネリアが式根島へ向かうようだ』

105: 2014/04/25(金) 22:23:21 ID:Vq2yoxQA
.
 ルル「そうか……ラクシャータは予定通り合流できそうか?」

 扇『ああ、明日の朝にはトウキョウ湾の沖合に到着するそうだ』

 ルル「わかった、私も後ほどそちらへ戻る」
    「部隊に召集をかけておけ、我々も式根島へ向かうぞ」…ピッ


ケータイを切った俺は、思わず唸った。
このタイミングで、コーネリア達が動くとは……!

106: 2014/04/25(金) 22:24:10 ID:Vq2yoxQA
.
 ルル(くそッ……幸いにして、スザクの中毒症状はまだ軽いから良いものの、)
    (誰も見る者がいなければ再びリフレインに手を出してしまうはずだ!)
    (シュナイゼルがエリア11に来るという絶好のチャンス……)
    (この機は絶対に逃せないが、しかしスザクも放置できない!)
 
    (C.C.を置いていくか?……だが、奴は世話をしないと言い切った以上、)
    (置いても何の役にも立つまい……)
    (となると……あるいは、咲世子か?……いや、咲世子は今回も、)
    (俺が留守をする間のナナリーの世話を任せるつもりだ、)
    (スザクの世話まで見切れまい……)

107: 2014/04/25(金) 22:25:07 ID:Vq2yoxQA
.
俺は、限定されたルートの選択に苦慮していたが……
やがて、ため息をひとつつき、ケータイでとある番号をプッシュした。


 ルル「……俺だよ……遅くにごめん、いま大丈夫か?」
    「詳しいことはまた明日言うけど、ひとつ、頼みがあるんだ……」

111: 2014/04/28(月) 11:56:25 ID:qYIQfpLM
.
■アヴァロン内 デッキ ─────

シュナイゼルが新たに建造させたフラッグシップ、「アヴァロン」は、翌々日に行われる
初の外洋航行へ向けて、ブリタニアのドックで最終調整中にあった。
そのデッキでシュナイゼルは、エリア11の政庁執務室にいるコーネリアと、オンラインで
通話をしていた……


 シュナイゼル「……そうか、随分と早い出発だね?」

 コーネリア『はい、宰相をお出迎えするのに、こちらも警備体制を整える必要が』
       『ありますから……急いで手筈を整えます』

112: 2014/04/28(月) 11:57:14 ID:qYIQfpLM
.
 シュナイゼル「我儘を言ってしまったかな?」

 コーネリア『いえ、お気になさらず』ニコッ
       『……それよりも兄上、なぜ式根島に御来訪を?』

 シュナイゼル「ちょっと、調べものがあってね」ニコッ

 コーネリア『調べもの?』

 シュナイゼル「詳しい事は、現地で話すよ」
       「君にも関係がある……と、言えるかもしれない」

113: 2014/04/28(月) 11:57:58 ID:qYIQfpLM
.
 コーネリア『私にも、ですか……?』
       『……ならば、現地でのお話、楽しみにいたします』ニッ

 シュナイゼル「うん」コックリ
       「それでは、式根島で……」

 コーネリア『良き船旅を』…ピッ


通話を終えたシュナイゼルは、消えたモニタを見つめながら少しの間考え込んだ。
やがて、艦長席に腰掛けると、傍らに立つカノンとバトレーに話しかける。


 シュナイゼル「明日の朝には準備が整うのだったね?」

114: 2014/04/28(月) 11:58:33 ID:qYIQfpLM
.
 バトレー「はっ、夜間も作業を行いますので、ご予定は滞りなく……」

 シュナイゼル「そうか……」
       「カノン、出発を1日遅らせたいのだけど、どうかな?」ニコッ

 カノン「ええっ!?」ギョッ
     「それは……し、少々お待ちを、予定を確認いたします!」パラパラパラ…

 バトレー「殿下、準備は無理のないよう行っておりますが……?」

 シュナイゼル「そうではないよ、別の理由だ」
       「変更が無理なようなら、予定どおりに……」

115: 2014/04/28(月) 11:59:15 ID:qYIQfpLM
.
 カノン「えー……帰国直後にオディッセウス様との会食が入っておりますが?」

 シュナイゼル「兄上か……なら、お願いしてみてくれないか」
       「きっと快く、変更を受け入れてくださるはずだ」ニッコリ
       「ああ、できれば私が戻るまでは、そのことを内密に、と」

 カノン(確かに、あの方なら何の問題もないわね……)ンムー
     「かしこまりました、早速その旨をお伝えいたしますわ」カツカツ…

116: 2014/04/28(月) 11:59:50 ID:qYIQfpLM
.
足早にデッキから姿を消すカノンの後ろ姿を見送るシュナイゼルに、
バトレーはそっと耳打ちをする。


 バトレー「……殿下は、あの遺跡を早くご確認されたい、というお考えだったと、」
      「私は記憶しておりますが……」ボソボソ

 シュナイゼル「うん、そう慌てなくても遺跡は消え去りはしないと思い直したんだ」
       「……それよりも、私の動きを誰が把握しているかを知りたくなってね」

 バトレー「なるほど……」
      「では、配下の者たちにも、計画通りだと思わせておきます」

 シュナイゼル「そうだね、それがいい」コクッ

118: 2014/04/29(火) 18:59:34 ID:zInJUwgY
.
■黒の騎士団 潜水艦内 艦長室 ─────

 ゼロ(このタイミングで、ラクシャータが潜水艦を引き連れて我々に合流できたのは)
    (幸いだった……おかげで、式根島にナイトメアを持ち込むことができる)カタカタ

    (コーネリアは今頃、島に相当の防衛体制を敷いているだろう)
    (だがゲフィオンディスターバのおかげで、探知されずに上陸が可能だ)

    (ククク……シュナイゼルが到着したその鼻先で、祝砲を打ち上げてやる)
    (フフ、連中の驚く顔が想像できるぞ……)カタカタ

119: 2014/04/29(火) 19:00:08 ID:zInJUwgY
.
少し前に俺は、潜水艦内のミーティングルームで、騎士団の組織構成の変更を
発表した。
桐原翁という資金面での強力なバックアップに加え、ラクシャータという強力な
技術開発部門を手に入れたことで、騎士団は本格的な軍隊として機能できる
ようなったからだ。

これまでの、ゲリラ戦を前提とした細胞方式を一新し、即時のトップダウンが可能な
組織構成に変更。各部門には代表を配置し、それら全てを俺が統括する形にした。
つまり、今までは何事を諮るにも最終的には俺の裁可が必要だったのだが、
この変更により、部門単位であれば独断での行動も可能になったのだ。
言ってしまえばオーソドックスな組織構成だが、今後騎士団がますます巨大化する
ことを考えれば、標準的な構成にするのがベストだろう、という判断による。

120: 2014/04/29(火) 19:00:42 ID:zInJUwgY
.
俺は、艦長室のデスクに向かい、コーネリアおよびシュナイゼルを捕縛するための
戦術を練っていた。
ここで連中を捕えることができれば、ブリタニアの名声に計り知れないダメージを
与えることができ、加えて母上暗殺の真相に肉薄できるはずだ。


 ゼロ(さて、どういう布陣でゆくか……)
    (シュナイゼルは旗艦から出ることはあるまい、ならば旗艦を孤立させ、)
    (乗り込むしかないか……?)カタカタ

 C.C.「……スザクはどうしたんだ?」

 ゼロ「!」カタ…

121: 2014/04/29(火) 19:01:18 ID:zInJUwgY
.
デスクの横のベッドに寝そべっていたC.C.は、唐突にそう尋ねた。
俺は奴の方を向き、冷ややかに答える。


 ゼロ「……気になるか?」

 C.C.「別に……」

 ゼロ「別に、という程度の関心なのに聞くのか?」

 C.C.「私は、お前にしか興味がない」

 ゼロ「……どういう意味だ」

122: 2014/04/29(火) 19:01:58 ID:zInJUwgY
.
 C.C.「お前が、どういう選択肢を選んだかが気になっただけだ」
    「言いたくないなら別に構わない」

 ゼロ「……」
    「スザクの事は、シャーリーに任せた」

 C.C.「ふうん……」

 ゼロ「…………」

123: 2014/04/29(火) 19:02:51 ID:zInJUwgY
.
仰向けになり、パイプが多数這っている天井を見つめながら、気のなさそうな
生返事を返すC.C.……
僅かの間、その意図をいくつか想定してみた俺だったが、考えるだけ無駄だという
結論に即座に達し、デスクに向きなおす。

しばらくの後……


 C.C.「……気になるか?」…ゴロリ

 ゼロ「……」カタカタ

124: 2014/04/29(火) 19:03:32 ID:zInJUwgY
.
……彼女は、身体をねじり俺の方を向くと、そう尋ねた。
俺は、PCに向かい式根島での戦術を組み立てながら、その言葉を無視する。


 C.C.「……シャーリーのことが気になるか?」

 ゼロ「答える義務はない……」カタカタ

 C.C.「……」ジー…

 ゼロ「……お前は、俺達が上陸した後もここに残っていろ」カタカタ

 C.C.「なぜだ?」

125: 2014/04/29(火) 19:04:21 ID:zInJUwgY
.
 ゼロ「なぜ、だと?」
    「ナイトメアの操縦もできないのに、上陸する気だったのか?」カタカタ

 C.C.「私は、お前から離れない」ジー

 ゼロ「なら本気で、操縦の練習をしろ!」カタッ
    「玉城も言っていたぞ、お前がまともに練習しないとな!」

 C.C.「……」プイ

 ゼロ「……お前のために、"無頼"を1台余分に用意したんだからな」
    「島から戻ったら、千葉から操縦を教わるんだ」

126: 2014/04/29(火) 19:05:01 ID:zInJUwgY
.
 C.C.「嫌だ、どうして私が、あんな格好悪いものに……」フン

 ゼロ「恰好などどうでもいいだろう!」バン!!

 C.C.「どうでもよくない、恰好こそ重要だ」
    「……ふふっ、しかしカレンも、よくあんなものに嬉々として乗るものだ」
    「ドラマなら悪役だぞ、あの見た目は……」クスクス

 ゼロ「…………お前、カレンに決してそれを言うなよ?」
    「彼女は"紅蓮"を愛しているんだからな……」

127: 2014/04/29(火) 19:05:43 ID:zInJUwgY
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン「……っくしゅん!」

 玉城「おッ、カレン、珍しく風邪でも引いたかァ?」

 カレン「違うわ、ちょっと鼻がむずむずしただけよ……」グスン
     「って、珍しくって何よ!」

 玉城「べえーっつにィー?」ニヤリ
    「頼りにしてるゼェ、零番隊の隊長さンよォ~!」カツカツ…

 カレン(……なんか今、誰かが"紅蓮"をバカにしたような気がする……)
     (誰よ?私の紅蓮にケチつけたら許さないわよ……?)グスグス

128: 2014/04/29(火) 19:06:35 ID:zInJUwgY
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.「人の好みまで否定はしないさ」
    「……そうだ、ルルーシュ、ランスロットを強奪してこい」
    「あれなら乗ってやらないこともない」

 ゼロ「……き……貴様という奴は……ッ!」ギリッ…

 C.C.「それか、私も一緒に乗れるナイトメアを作れ」
    「操縦がへたくそなお前を、私が助けてやろう」ニヤ

 ゼロ「なぜ教習車のようなナイトメアを作らねばならんのだ!」
    「いいな、お前は潜水艦に残ってろッ!」

 C.C.「しようがないな……」ゴロン

131: 2014/05/01(木) 09:12:30 ID:cwVImzK2
.
■租界 貿易商事務所 ─────

……オレは、ふと、自分が今寝ているベッドの置かれたこの場所が、どこだったかを
思い出せないことに気付いた。

どこかのビルの一室に思える……10畳以上の大きさはありそうな、白い壁の部屋。
室内には生活感があった。前に、誰かが暮らしていたかのような、様々な生活用品が
目に付く。ほんのりと、何か香木のような残り香を室内に感じた。


 ??「あっ……起きたんだ?」
.

132: 2014/05/01(木) 09:13:05 ID:cwVImzK2
.
ベッドの傍らから、誰かに声をかけられた。
オレは、声を発した存在へゆっくりと顔を向ける。
そこには、学生服姿の女の子が、椅子に座りニコニコと微笑みながらオレを見ていた。


 スザク「……」

 ??「具合、どうかな?お腹すいてない?」
    「何か食べたかったら、冷蔵庫のものを好きにしていいってルルが言ってたよ」

 スザク「……君は……」
.

133: 2014/05/01(木) 09:13:40 ID:cwVImzK2
.
その時、ようやっと思い出した。
"リフレイン"の効果を楽しんでいた所をルルーシュに見られたオレは、ここの一室に
連れてこられたことを。確かここは、彼の事務所だ……
目の前の女の子は、オレの様子にやや不安そうな表情をした。


 ??「……えっと、スザクくん……大丈夫、かな……?」
    「わたし、誰だかわかる……?」

 スザク「…………シャーリーさん……」 

 シャーリー「!!!」
        「良かったあ、知らないって言われたらどうしようって思ってた!」パアッ!!
.

134: 2014/05/01(木) 09:14:26 ID:cwVImzK2
.
オレに名を呼ばれた彼女……シャーリーは、一気に破顔した。
それから彼女は、自身がここにいる経緯を、かいつまんで説明しようとする。


 シャーリー「えっとね、ルルは今、どこかへ出張に行ってるらしいの」
        「数日の日程らしいんだけど、その間、スザクくんの様子を覗きに」
        「きてくれ、って頼まれてね、さっきここに来たとこだったの」

 スザク「……」

 シャーリー「スザクくん、聞いたよ……中毒性のあるクスリを使ったんだって?」
        「ダメだよ、そういうのは……ルルもすっごく心配してたよ?」
        「もっと症状が重かったらどうしようもなかった、って」
.

135: 2014/05/01(木) 09:27:23 ID:cwVImzK2
.
 スザク「……」

 シャーリー「あっ、でもね、私もずっとはいられないの」
        「学校も行かなきゃいけないし、お母さん心配させられないしね」
        「だから、時間のある時しか来れないんだけど……」

 スザク「……」

 シャーリー「今、具合はどう?大丈夫?」
        「もし、またクスリが欲しくなったら、これを飲んでくれ、って言ってたよ」
        「中毒症状を緩和するんだって……よくわからないけど……」

 スザク「……」
.

136: 2014/05/01(木) 09:27:56 ID:cwVImzK2
.
オレは、オレがあの銀髪の男に心を切り裂かれた時のことを思い出していた。
彼女はあの時、オレ同様に、認めたくない事実を知らされたはずだ。
あれからどうしたんだろうか……オレのように、誰にも言わず、苦しんでるのか?
それを、ルルーシュにも明かさずに……?


 シャーリー「スザクくん、2・3日の辛抱だからね?」
        「ルルが戻ってきたら、ちゃんと面倒見るって言ってたよ」
        「病院も手配してるとこだって、だから安心して……」

 スザク「……シャーリーさん、君は、もう知ってるのか?」

 シャーリー「えっ、何が?」
.

137: 2014/05/01(木) 09:29:26 ID:cwVImzK2
.
 スザク「……………………」
     「…………」

 シャーリー「……」


……あの、銀髪の男から聞かされた"真実"……
ルルーシュがゼロであり、彼女のお父さんはゼロの作戦によって命を奪われた、
ということを、彼女は理解しているんだろうか。それを、尋ねてもいいんだろうか。
でも、彼の手伝いをしているということは、やはり知らないんだろうか……

……オレの沈黙の意味を、彼女は悟ったようだった。
寂しそうな微笑みを浮かべ、彼女は答える。
.

138: 2014/05/01(木) 09:34:48 ID:cwVImzK2
.
 シャーリー「……うん、知ってる……」

 スザク「……」

 シャーリー「あの時、スザクくん、言えなかったんだよね?」
        「私のお父さんのこと……」

 スザク「……」

 シャーリー「でもね、ルルが、ぜんぶ教えてくれた……」
        「済まなかった、って」

 スザク「!!」
.

139: 2014/05/01(木) 09:35:18 ID:cwVImzK2
.
 シャーリー「全部、言ってくれたから……」
        「もう、いいんだ……」


済まなかった?……それだけ?
もしかして、それだけで、彼女は父親が殺されたことを許したのか?
たった一言の謝罪で?告白だけで?本当なのか?

怪訝そうなオレの表情に気付き、彼女はうなだれながら答える。


 シャーリー「………………本当はね、」
        「……もうね、わかんないの、わたし」
.

140: 2014/05/01(木) 09:35:58 ID:cwVImzK2
.
 スザク「……」

 シャーリー「ルルがしてきたこと、そして今してることも、だいたい知ってる」
        「できれば、やめてほしい……って思ってる」

 スザク「……」

 シャーリー「今でも、あのことが突然頭の中に浮かび上がることがある」
        「そのたんびに、動悸が激しくなって、吐きそうになる……」

 スザク「……」

 シャーリー「……でもね、わたし……」
        「……嬉しいの、その、こと……が……」
.

141: 2014/05/01(木) 09:36:34 ID:cwVImzK2
.
 スザク「……?」


そう言って、彼女はゆっくりと顔を上げた。
大きな瞳に、うっすらと涙を浮かべながら……


 シャーリー「……変だよね、でも、すごく、嬉しいの」
        「ルルがいろいろ、話してくれたことが、嬉しく、て……」

 スザク「…………」
.

142: 2014/05/01(木) 09:37:16 ID:cwVImzK2
.
 シャーリー「……あれから、ルルはね、できるだけ、話してくれる」
        「全部じゃないだろうけど、言えることは、教えてくれてる」
        「たぶん、それが、私へのつぐないだって、思ってる……」
        「……そう感じるの」

 スザク「……」

 シャーリー「……だからね、」グスッ
        「スザクくんのことも、ちゃんと見にくるからね?」

 スザク「……」
.

143: 2014/05/01(木) 09:38:01 ID:cwVImzK2
.
 シャーリー「ルル、スザクくんを、ほんとに、心配してた……から……」
        「クスリに逃げちゃ、ダメだよ……?」ニコ…

 スザク「……!」


微笑んでみせた彼女の潤んだ瞳から……ひとつぶの涙が、溢れ出て頬を伝った。
逃げるな、という言葉にオレは、身体を刺し貫かれたような衝撃を受ける。


 スザク「……逃げ……」

 シャーリー「…………えっ?」
.

144: 2014/05/01(木) 09:38:41 ID:cwVImzK2
.
 スザク「…………」

 シャーリー「……あっ、そ、そういう意味じゃないよっ!?」
        「スザクくんが逃げてるって意味じゃなくてね……!」

 スザク「……」

 シャーリー「酒は飲んでも呑まれるな、っていうよね!そういう意味だから!」
        「適量を超えたらダメだよ!……っていうか、クスリの適量って」
        「どのくらいなのか知らないけど、そういう意味だよ!?」

 スザク「……」
.

145: 2014/05/01(木) 09:39:16 ID:cwVImzK2
.
 シャーリー「あのっ、その……ご、ごめんね、変なことばかり言って!」
        「スザクくんこそ今、すごく大変なのに……!」

 スザク「……」

 シャーリー「その……き、今日はとりあえず、帰るよ!」
        「お薬はベッドの傍に置いておくから!」
        「お腹がすいたら冷蔵庫!出歩くのはノーグッド!」

 スザク「……」

 シャーリー「何か読みたい本でもあったら、教えてね!」ガタッ!!
        「代わりに買ってきてあげるから!」
        「じゃあ……また明日!しっかり休んで!」パタパタ…バタン!!
.

146: 2014/05/01(木) 09:39:59 ID:cwVImzK2
.
彼女は、何やら慌ただしく喋ったかと思うと、いきなり帰る宣言をした後に
足早に部屋を出て行った。

ふたたび孤独になったオレは、部屋のベッドにうつぶせになっていた。
何もする気になれなかった。また、眠りにつこうと思った。

しかし……
.

147: 2014/05/01(木) 09:40:32 ID:cwVImzK2
.
 スザク(…………"リフレイン"が欲しい)
     (あの、幸せな瞬間をまた感じていたいな……)

     (ルルーシュや彼女の言うとおりだ、これ以上続けていたらダメになる)
     (もう二度と使うつもりはない……でも、最後に1回だけ……)
     (そうだ、1回くらいなら……それを最後にするから……)

     (……租界だと、どこで手に入るかな……)
     (イレヴンの多い地区に行けば、あるいは売人が……)


……いつの間にかオレは、自分が"リフレイン"のことばかり考えているのに気付いた。
その瞬間、彼女が先ほど語った内容を思い出し、急いで傍に置かれた薬を飲んだ。
.

148: 2014/05/01(木) 09:41:04 ID:cwVImzK2
.
喉を掻きむしりたくなるほどではないが、気を抜いた瞬間にふらりと買いに行って
しまいそうな……そんな心地悪い焦燥感。これがまさに、禁断症状なのだろう。
アパートに一人でいた時は、この欲求には全く逆らえなかった。欲求を感じた途端、
ふらりと、"リフレイン"を求めてゲットーをさまよい歩いていたのだ。

薬を飲み、そんな抑えがたい欲求を必氏に思いとどまる努力をしていたが、
十数分も経過すると徐々に、欲求が行動を促さなくなってきたことに気付く。
ルルーシュが置いて行った薬は、確かに効果があるようだ。


 スザク(……すまない、ルルーシュ……)
     (君には、助けてもらってばかりだ……)
.

150: 2014/05/03(土) 20:24:04 ID:foelh6KI
.
■式根島 ─────

 コーネリア「……なに?兄上は遅れる、だと?」

 司令官「はっ、先ほど司令部にてご連絡を……」
      「式根島への到着は予定よりも多少遅れる、とのことです」

 コーネリア「ふむ……」
        「警備体制は、すでに整えたのだな?」

 司令官「はっ、ぬかりはありません」
      「いつご到着されても問題はありません」

151: 2014/05/03(土) 20:25:32 ID:foelh6KI
.
 コーネリア「そうか……念のため、島内に偵察を派遣せよ」
        「兄上がここに到着され、再び発たれるまでの安全を、」
        「完璧に保証できる体制を維持するのだ!」

 司令官「イエス、ユアハイネス!」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……先発で式根島に送った偵察からの報告によると、コーネリアの乗った軍艦は
すでに港に到着しているものの、シュナイゼルのものと思しき船は未だ見当たらない、
とのことだった。

152: 2014/05/03(土) 20:26:06 ID:foelh6KI
.
潜水艦のブリッジでその報告を聞いた俺は、出撃準備を終えてここに集まっていた
各部隊長の面々を見回す。


 ゼロ「予定が狂ったのか……」
    「常に緻密な計画をし行動に移すシュナイゼルらしくないことだな……」

 藤堂「……どうする、ゼロ?」
    「今回の目的は、シュナイゼルの捕縛にあるのだろう?」

 ゼロ「ああ、それと特派のランスロットの強奪も、だな」

153: 2014/05/03(土) 20:26:53 ID:foelh6KI
.
 ラクシャータ「あんなの、別にいらないと私は思うけどねぇ……」
      「まぁ、ゲフィオンディスターバのテストを兼ねて、」
      「とっ捕まえてみようかね……」ニヤ

 カレン「敵の警備は、どんな感じです?」

 ゼロ「ほぼ想定通りだ、我々が、潜水艦でナイトメアを持ち込んでくることは」
    「前提条件にない警備状況だな」


元々、式根島は戦略拠点として殆ど価値のない島だ……
設置されている基地も、本土防衛としての機能よりも、訓練施設としての側面の
方が遥かに強い。攻めるのはたやすい話だ。

154: 2014/05/03(土) 20:27:43 ID:foelh6KI
.
……だが、そのような島をシュナイゼルが訪問する理由が、現時点でも全く
つかめていなかった。あの男が、大した理由もなくエリア11の島に来るはずが
ないのだ。何か、重要な案件があるはずだが……それがわからない。

俺は先ほどから、その不快感を内心で持て余していた。


 ゼロ「……ラクシャータ、艦のステルスはどのくらいの時間まで有効だ?」

 ラクシャータ「時間制限なんてないよ、アレが機能し続ける限り、」
      「あちらからはこっちを探知しようがないさ」

 ゼロ「ふむ」

155: 2014/05/03(土) 20:29:14 ID:foelh6KI
.
 ラクシャータ「ただ……音響までステルスできるわけじゃないのよ、」
      「あまり相手に近づくと、見つかっちゃうだろうねぇ」

 藤堂「接近してきたら、こちらは停止するしかないわけだな」

 ラクシャータ「そういうこと」

 ゼロ「……状況が始まれば、迅速に作戦を展開し迅速に去る」
    「ステルスについてはその程度で十分だ」
    「だが……作戦開始は、しばし待つ」

 朝比奈「シュナイゼルがいないうちから始めても、意味ないよね」ニッ

 仙波&卜部「うむ」コクリ

156: 2014/05/03(土) 20:30:04 ID:foelh6KI
.
 千葉「では、開始は事態に応じて、ということか?」

 ゼロ「そうだ、全員臨戦態勢を維持したまま一時待機せよ」
    「私は艦長室にいる、偵察からの報告は随時上げてくれ」バッ…カツカツ


……シュナイゼルは、なぜあの島に来るのか?しかも、なぜコーネリアと
落ち合うのか?なぜ、政庁ではないのか?なぜ、あの男はそのような、
奇妙な選択をしたのか……

他の者が相手ならそんなことは気にしない、どういう思惑であろうと、
こちらの戦略に相手をはめ込んでしまえば結果が出せると確信して
いるからだ。

157: 2014/05/03(土) 20:30:46 ID:foelh6KI
.
だが、シュナイゼルは別だ……俺は、チェスですら奴に勝てたことがない。
奴はいつでも、掴みどころのない曖昧な笑顔の下でこちらの手の内を全て読み、
思惑の外から不意に仕掛けてくる。

今回の想定外の状況も、肝心な部分の情報が手に入らないことも、もしそれが、
奴の戦略のうちであるならば……!


 ゼロ(何かが引っかかる、まるで、重要な案件を忘れているような感覚だ……)
    (……ええい、くそッ!奴を捕まえさえすればいい話だ!)
    (早く来い、来るんだ、シュナイゼル……!)

161: 2014/05/05(月) 22:24:08 ID:bPbd2/06
.
■租界 貿易商事務所 ─────

……ルルーシュの置いて行った薬のおかげで、オレは久しぶりに、安らかな眠りを
手に入れた。起きて時計を見れば2~3時間の、ごく短いものだったが……それでも、
身体が休まった感はあった。

目が覚めると、窓の外は夕刻となっていた。


 スザク(……おなか、すいた、な……)


先ほどシャーリーが言っていたことを思い出し、オレは室内にある冷蔵庫の扉を開く。
中には、レンジで調理できるレトルト食品が、数多く収められていた。

162: 2014/05/05(月) 22:24:50 ID:bPbd2/06
.
オレはその奥に、ピザの箱を見つける。


 スザク(ピザか……わけて食べられるし、丁度いいかな……)


箱を取り出し、フタを開ける。
そこにはピザの形をした───しかし全体が緑色の毛のようなカビで覆われた、
ふわふわした物体が2・3切れ入っていた───!


 スザク「なんだこれぇ!」ポイッ

163: 2014/05/05(月) 22:25:38 ID:bPbd2/06
.
オレは驚愕と嫌悪感のあまり、箱を投げてしまった。
緑色のモノは、勢いよく箱から飛び出すともんどりうって床に投げ出され、
くたりと寝そべった。


 スザク(ぇええ……これ、ルルーシュの仕業なのか?)
     (とても彼らしくない不始末だ、後で注意しておかなくちゃ……)


床の上のモノを掃除できる道具が何かないか、オレは部屋の中を見回す。
と、突如、よく聞きなれた音が、どこからか流れ始めた。

164: 2014/05/05(月) 22:26:26 ID:bPbd2/06
.
 スザク(この音、なんだっけ……そうだ、オレのケータイの音だ!)
     (どこから鳴っているんだ?)


オレは、音の出所を探して回る。
それは、オレの着替えが詰めてあったバッグの中からだった。
ルルーシュがオレをここへ連れてきた時、一緒に詰めたのだろう。

バッグを見つけたとたん、音は止まってしまった。
オレはバッグを開き、中からケータイを取り出すと、着信履歴を見る。
そこには、ユフィの名が表示されていた。


 スザク(……ユフィ……!)

165: 2014/05/05(月) 22:27:15 ID:bPbd2/06
.
"リフレイン"に手を出して以降、何度か彼女からのコールがあったが、電話に
出ることが怖くて、どうしても取れなかった。今の惨めな状態を、彼女には知ら
れたくなかったのだ……
オレはしばらく、手の中でケータイを、開いてはまた閉じたりを繰り返しながら、
じっと考えこんでいた。

今のオレを取り巻く状況、そしてユフィを取り巻く状況。
ユフィとの出会いという夢のような出来事から一転、過去という沼の中に引きずり
込まれ、その苦痛から逃れるために"リフレイン"にまで手を出した自分。

しかし、そんなオレでも、彼女はきっと許し、共に目標を目指そうと励ましてくれる
ことだろう……そういう女性だから。だが……

166: 2014/05/05(月) 22:27:49 ID:bPbd2/06
.
 スザク(……これ以上、彼女から"逃げ"るのはだめだ)
     (はっきりと言うべきだ、オレは彼女が思うほど立派な人間ではない、)
     (そして彼女と到底釣り合うような身分でもない……)

     (……彼女は大好きだ、できればオレは、彼女の騎士になりたかった)
     (でも、それはやはりできない話だ……オレはイレヴンで、父親頃しで、)
     (しかも日本の進む道を捻じ曲げてしまった男だ)
     (これ以上、オレと関わるのは、ユフィにとっても不幸だ……)

     (……次に電話があったら、必ず取ろう)
     (そして、感謝の気持ちと……さよならを、伝えよう……)

167: 2014/05/05(月) 22:28:27 ID:bPbd2/06
.
もっと早くに出会っていれば……あのまま、ブリタニア軍の中にいたままなら、
オレは今よりももっと長い時間を、彼女と一緒に過ごせたのかもしれない。
あるいは、いずれは本当に、彼女の騎士にも……


 スザク「……"リフレイン"が欲しいなぁ……」


……オレは思わず、ぽつりと独り言を漏らす。
その、自分の言葉のあまりのひどさに、オレは大きな部屋の中でただひとり、
ヒステリックな笑い声をあげた。
それは、知らず溢れる涙と共に、一向に止む気配がなかった……

170: 2014/05/07(水) 11:13:47 ID:ioURLMm2
.
■式根島 未明 ─────

 ラクシャータ「ほら玉城、なにしてんだい、搬送を急ぐんだよ!」
      「太陽が顔を出すまでに準備を終えないと!」

 玉城『わーッてる、わかってるッてンだよッ!』
    『……ッたく、特務隊っつーから期待すりゃ、要するに雑用じゃねェか……』

 南『ぼやいてるヒマがあるなら動けよ!』
   『隊員にいいトコ見せんだろ?』

 カレン『期待してるわよ、特務隊のた・い・ちょ・う・さん?』

 玉城『うっせえ!ッたくよォ……!』…ピッ

171: 2014/05/07(水) 11:14:36 ID:ioURLMm2
.
 藤堂『紅月隊長、ちょっといいか?』
    『我々の取り得る戦術のオプションについて、打ち合わせをしておきたい』

 カレン『了解です、そちらに向かいます!』ピッ


……シュナイゼルの動きが判明しないまま、俺達が式根島に到着してから2日目を
迎えようとしていた。
このまま何もせず、租界へ引き返すという手もあったが、俺は一つの賭けに出た。

172: 2014/05/07(水) 11:15:29 ID:ioURLMm2
.
 ゼロ(コーネリアの動きから推測すれば、シュナイゼルが到着するのはおそらく、)
    (本日の午前中になるはずだ……コーネリアはそれ以降の予定があるため、)
    (租界に帰らざるを得なくなる、彼女に逢うために呼んだのであれば、たとえ)
    (僅かでも顔を合わせる時間を設けるはずだ……)

    (いかに宰相とはいえ、エリアの総督に対し完全な待ちぼうけを食わせること)
    (はできまい……それに照準を合わせよう)


夜明けを前に、黒の騎士団の面々は数時間後に行われるであろう戦闘の準備に
追われている。俺は、潜水艦のデッキで各方面からの報告を受けながら、同時に
ブリタニア側の動きを逐一追っていた。

173: 2014/05/07(水) 11:16:27 ID:ioURLMm2
.
そこへ、艦長室から出てきたC.C.が俺の所まで歩いてくる。


 C.C.「……ゼロ、後で少し話がある」テクテク

 ゼロ「なんだ?今済ませられないのか?」

 C.C.「……お前とだけ話したいんだ」

 ゼロ「なら、作戦終了まで待て、」
    「俺もじき、"無頼"で島に上陸を……」

 C.C.「その前がいい」

174: 2014/05/07(水) 11:17:14 ID:ioURLMm2
.
 ゼロ「……時間があれば、な」

 C.C.「時間を作れ」テクテク…


それだけ言うと、彼女はまた艦長室の方へ向かった。
俺は、その後ろ姿をため息交じりに見送ると、しばしの間業務をデッキスタッフに
伝え、足早に艦長室へ戻った。

175: 2014/05/07(水) 11:17:54 ID:ioURLMm2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ「……なんだ!俺が忙しいのは分かっているだろう!」バタン!!


俺は、艦長室に入り、後ろ手でドアを閉めるなり、ベッドにねそべっているC.C.を
怒鳴り上げた。この状況で、我儘にも程がある……!


 C.C.「結局、シュナイゼルは来るのか?」

 ゼロ「ああ、そのはずだ!」

176: 2014/05/07(水) 11:18:42 ID:ioURLMm2
.
 C.C.「そうか……」
    「……お前、あの娘が言った言葉を覚えているか?」

 ゼロ「あの娘?誰だ?何のことだ?」

 C.C.「ナリタ山で、シャーリーが言った言葉だ」

 ゼロ「シャーリーが……?」
    「何と言ったことだ?一体、お前は何が言いたい?」

 C.C.「ルルーシュ、お前、シュナイゼルを捕まえて何を話すつもりだ?」

 ゼロ「何を、だと?……分かっているだろう!」
    「母さんが殺された真相を……!」

177: 2014/05/07(水) 11:19:22 ID:ioURLMm2
.
 C.C.「……シュナイゼルは、見逃すんだ」

 ゼロ「……なに?」


俺は、C.C.が放った意外な言葉に、思わず奴の顔を凝視した。
仰向けの彼女は、俺の方を見ようともせず、言葉を続ける。


 C.C.「奴を捕まえても、何もわかりはしない」

 ゼロ「……どういう意味だ?」

 C.C.「言いたかったのはそれだけだ」…ゴロン

178: 2014/05/07(水) 11:20:04 ID:ioURLMm2
.
奴は、それっきり壁の方を向いてしまった。
その、あまりの勝手な言いぐさに、俺は我を忘れ激昂した。


 ゼロ「貴様、俺に母親の氏の真相を調べるなと言いたいのかッ!」
    「俺がどれだけ、母親の仇を追い求めているのかを分かってそう言うか!」

 C.C.「……」

 ゼロ「いや、それよりも……」
    「……なぜ、シュナイゼルを捕まえても意味がないなどと言えるんだ?」

 C.C.「…………」

179: 2014/05/07(水) 11:22:03 ID:ioURLMm2
.
 ゼロ「……フン、例によってだんまりかッ!お前はいつもそうだな!」
    「言いたくないと言っては肝心なことを……ッ?」


……その時、俺はふと思い出した。C.C.は元々、クロヴィスに捕えられていたことを。
そして俺がクロヴィスを誘拐した時も、こいつはクロヴィスを殺さないように言った。

クロヴィス、コーネリア……そしてシュナイゼル。
さらに、こいつに出会ってからの、さまざまな出来事……
俺の頭の中で、それらが全て繋がりそうな……奇妙な感覚を覚えた。

180: 2014/05/07(水) 11:22:53 ID:ioURLMm2
.
 ゼロ(……なんだ、この感覚は?)
    (式根島に来てから、ずっと感じていた違和感はこのことだったのか?)

    (クロヴィスは、なぜこいつを捕まえていたんだ……?)
    (コーネリアも俺と同様、暗殺事件の真相を探っていたと言っていた、)
    (ではシュナイゼルは、なぜこの島に……?)

    (なぜ、こいつは……俺にギアスを与えた……?)
    (マオには与え、クロヴィスには与えず、俺には与えた……)
    (なぜだ?なぜ……)

181: 2014/05/07(水) 11:23:37 ID:ioURLMm2
.
言いかけた言葉を飲み込み、そのまま考え込む俺を、C.C.は静かに見つめる。
その時、机上のマイクロホンから声が流れた。


 団員『ゼロ、もうじき夜が明けます!』
    『式根島へ上陸されるなら、今のうちにお願いいたします!』ピッ

 ゼロ「……わかった、すぐ戻る!」カチッ


応答スイッチを切った俺は、ベッドの上のC.C.を一瞥して小さく舌打ちをする。
そのまま何も言わず、部屋を飛び出した。

182: 2014/05/07(水) 11:24:22 ID:ioURLMm2
.
 ゼロ(くそ……クソッ!どうもこの島は好かん!)
    (とっとと作戦を終わらせ、租界に戻るぞ……!)カツカツ


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.(……V.V.の意識を感じる)
    (あいつも、この事態に注目している……間違いない……)

    (ああ言って釘を刺しておけば、ルルーシュも考えるはずだ)
    (シュナイゼルを捕えることに、それ以上の意味があるということを……)

183: 2014/05/07(水) 11:25:12 ID:ioURLMm2
.
……この先のことを考えていた私は、"声"に気付き身体を起こした。
しばらく黙って聞いていたが、少し腹立たしさを覚える。


 C.C.「……うるさいな、何度言われようと同じだ」
    「お前たちだけですればいい……」
    「……別に妨げる気はない、私の目的を邪魔しない限りはな……」

185: 2014/05/20(火) 00:51:02 ID:2vWR1FX2
.
■式根島 ─────

黒の騎士団の強襲部隊は、夜陰に紛れて式根島に上陸し、森の中に潜んだ。
夜が明け、そして昼になるまでにはシュナイゼルが来るはず……
その時を、全員が息をひそめて待ち構えていた。

やがて……


 卜部『……接近する敵航空機あり、距離3000……』
    『どうやら、あれがシュナイゼルの機体のようだな』

 仙波『しかし……妙に大きくないか、これは……?』

186: 2014/05/20(火) 00:52:06 ID:2vWR1FX2
.
 朝比奈『……大型輸送機?』
      『いや、それにしても……確か、船だという情報のはず……』

 千葉『……藤堂さん……これは?』

 藤堂『……』

 ゼロ『……全員、そのまま待機だ』
    『開始は私が言う、それまでは絶対に動くな』

 カレン『……了解』…ゴクッ

187: 2014/05/20(火) 00:52:58 ID:2vWR1FX2
.
その機体が徐々に近づくにつれ……騎士団のメンバーはみな、息をのんだ。
航空機かと思いきや、それはなんと……空中戦艦だった……!


 ゼロ(……な、なんだこれは!?)
    (シュナイゼルは、こんなものを作らせていたのか……!?)

 ラクシャータ『……やられたわ……フロートシステムを完成させてたなんて……』

 玉城『おッ、おい……どうすンだよゼロォ!?』
    『とりあえず、ミサイルでも撃ち込ンでみッか……?』

 ゼロ『やめろッ!攻撃した途端にこちらの位置が把握されるッ!』
    『ゲフィオンディスターバの効果を台無しにする気かッ!』

 玉城『あ、ああ……』

188: 2014/05/20(火) 00:53:40 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……兄上も、相変わらずだな……」
       「このようなおもちゃを作らせていたのか……」ニヤッ

 ロイド「セシル君、きみの理論が空を飛んできたねぇ~」ニコニコ

 セシル「こうして目の当たりにすると、さすがに感慨深いですわね……」ハァ…

 ジノ「……ロイドさん、あれに新型のナイトメアも積んでるんだろ?」

 ロイド「うん~」
     「複座型のナイトメアだよ、ここで使うんだってー」ニコニコ

 ジノ「ふーん……」

189: 2014/05/20(火) 00:54:21 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 ゼロ(おのれ……船ならば、潜水艦からの魚雷攻撃という手が使えたが、)
    (空中の、しかもあれだけ巨大なものに対しては、小型VTOL向けの)
    (対空ミサイルでは効果が全く期待できない!)

    (ましてやこちらは、奇襲を前提とした構成……)
    (闇雲に攻撃を仕掛ければコーネリアらから総攻撃を受ける!)
    (あの空中戦艦の攻撃力が不明だが、あれで上空からの絨毯爆撃でも)
    (行われた日には、こちらの壊滅的打撃は必至……!)

    (想定外だ……あんなもの、完全に想定外……ッ!)
    (指をくわえて見ているしかないとは……)
    (おのれ、おのれシュナイゼル……ッ!)ギリ…

190: 2014/05/20(火) 00:55:05 ID:2vWR1FX2
.
彼ら黒の騎士団が全く動きをとれない中、シュナイゼルが乗る空中戦艦は、
式根島の基地滑走路に静かに着地した。
基地所属の兵士たちやコーネリアらが出迎える中、降ろされたタラップの上を、
微笑みながらゆったりと歩くその人物は……


 朝比奈『……スコープでシュナイゼルを確認』

 藤堂『きたか……!』

 ゼロ(兄上……!)

191: 2014/05/20(火) 00:55:44 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シュナイゼル「……コーネリア、遅くなって済まなかったね」ニコッ

 バトレー「……」カツカツ

 コーネリア「全く、とんでもないもので乗り付けられたものです、兄上……」ニコッ

 ロイド「ほんとに作っちゃったんですねぇ、殿下~」
     「実用化は、データを取ってからって、言ってませんでした~?」ニコニコ

 シュナイゼル「うん、君たちが作るものは皆興味深いからね……」ニコッ
       「つい実現したくなるんだよ」
       「どうかな、セシル・クルーミーさん……君が、そうだよね?」

192: 2014/05/20(火) 00:56:26 ID:2vWR1FX2
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 セシル「はっ、はい……!///」
     「初めてお目にかかり、大変恐縮です……///」

 シュナイゼル「そうかしこまらずに……」ニコッ
       「君の理論通り、このくらいの大きさでも十分実用化できたよ」
       「もっと大きなものも建造できそうだね」

 セシル「はい……」
     「翼による揚力が不要になりますから、形状も自由になります」

 シュナイゼル「その通りだ……これは本当に素晴らしい技術だよ……」ジー

 セシル「あ、ありがとうございます……///」

193: 2014/05/20(火) 00:57:20 ID:2vWR1FX2
.
 ロイド「殿下~、あのー、僕の理論の方は……」

 シュナイゼル「ああ、アヴァロンに積んできたよ」ニッコリ
       「早速、神根島に持ち込んでみよう」

 コーネリア「ところで兄上……話というのは?」

 シュナイゼル「それは、あちらについてから話そう」
       「君もいっしょについてきてほしい」カツカツ

 コーネリア「はっ……」
       「……ギルフォードとダールトンは戦艦の護衛を」カツカツ

194: 2014/05/20(火) 00:58:16 ID:2vWR1FX2
 ギルフォード「はっ!」

 ダールトン「イエス、ユアハイネス!」

 ジノ「……あのー、殿下、私はどうすればよろしいでしょうか……?」

 シュナイゼル「ジノ、君もここで待っててくれないかな」
       「要件が終わったら一緒に本国へ帰ろう」

 ジノ「イエス、ユアハイネス!」
    (……あ、アーニャへのお土産を買うの、忘れてた……どうしよ……)

195: 2014/05/20(火) 00:58:52 ID:2vWR1FX2
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~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 藤堂『……二手に分かれたぞ』
    『シュナイゼルらは、ここからまた隣の島に移動するようだな……』

 ゼロ(ククク……あちらから状況を作り出してくれるとは!)
    (しかも、お供は少ない……いいぞ、シュナイゼル!)
    (歯軋りしながら辛抱した甲斐があったというものだ!)

    『……これは好機だ!我々も二手に分かれる、藤堂らはここで待機!』
    『零番隊は私と共に、シュナイゼルを追うぞ!』

 藤堂&カレン『了解!』

196: 2014/05/20(火) 00:59:41 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ゼロたちは、シュナイゼルを追って神根島へと移動をする。そして、そこでようやっと
シュナイゼルたちの目的が判明した。彼らは、とある洞窟を目指していたのであった。

洞窟へ到着したシュナイゼルらは、新型ナイトメアを始めとした様々な機器を、
洞窟の中へ設置し始める。準備で慌ただしい中、コーネリアは彼に尋ねた。


 コーネリア「……兄上、ここは……?」

 シュナイゼル「クロヴィスが、生前に発掘していた遺跡だよ」

197: 2014/05/20(火) 01:00:30 ID:2vWR1FX2
.
 コーネリア「クロヴィスが?」
       「……こんなところを、いつ、なぜ……?」

 シュナイゼル「それは、わからない」
       「偶然か、あるいは必然なのか……」

 コーネリア「必然?」
       「……兄上、ここは一体何なのですか?」

 シュナイゼル「それが、私もわからないんだよ」ニッコリ
       「古い遺跡であり……父上の研究の一部らしい、ということしか、ね」

 コーネリア「……皇帝陛下の……?」

198: 2014/05/20(火) 01:01:07 ID:2vWR1FX2
.
 ロイド「ンでも殿下~、僕は考古学は得意じゃないんですが……」
     「特に、"超"のつくようなのは……」ハァ…
 
 シュナイゼル「そう嫌がらないでくれよ、今、ガウェインをちゃんと使えるのは、」
       「君しかいないんだから」

 ロイド「まぁ、そうですけどねぇ~……」

 バトレー「……殿下、準備にもうしばらくかかります、」カツカツ
      「どうかお待ちを……」

 シュナイゼル「そうか、ではそれまで私は、コーネリアと少し話をするよ」
       「コーネリア、いいかな、こちらに……」カツカツ

 コーネリア「はっ……」

199: 2014/05/20(火) 01:02:02 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……シュナイゼルたちは、式根島からVTOL機で運んできた機材やナイトメアを、
洞窟の中へと搬入し始めた。
シュナイゼルの訪問の目的は、この洞窟の中にあると見てほぼ間違いないようだ。


 ゼロ(……しかし、洞窟だと?)
    (外からは何の変哲もない洞窟にしか見えないが……)

 藤堂『……ゼロ、式根島はあれから動きがない』
    『ステルスも十分に効いているようだ』

 ゼロ「こちらは、宰相の目的が把握できた」
    「頃合いを見計らい、同時に行動を起こすぞ」

 藤堂『承知!』

200: 2014/05/20(火) 01:02:55 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……ゼロが?」

 シュナイゼル「うん、おそらく、皇族に相当な恨みを持っている、あるいは……」
       「……彼は、元皇族だろう」

 コーネリア「怨恨の線は、ダールトンも把握しておりましたが……」
       「元皇族?まさか……!」

 シュナイゼル「皇族と一言で言っても、傍流も含めれば人数は相当数になる」
       「どこかの地方で、冷や飯を食わされてきた者かもしれない」

201: 2014/05/20(火) 01:03:32 ID:2vWR1FX2
.
 コーネリア「……しかしそうであっても、このエリア11に関係する者となると、」
       「相当限られてくるのでは?」

 シュナイゼル「すでにその線は洗ってみた……残念ながら、特定に至る者は」
       「いなかったよ」

 コーネリア「むう……」

 シュナイゼル「……コーネリア、嫌な事を思い出させるけど……」

 コーネリア「何でしょうか?」

 シュナイゼル「君は一度、ゼロと接触していたね?」

202: 2014/05/20(火) 01:04:16 ID:2vWR1FX2
.
 コーネリア「……はい、ナリタで」

 シュナイゼル「彼は、君を放置して逃げた、と報告書にはあったけれど、」
       「あの時のことを何も覚えていないのかい?」

 コーネリア「はい……全く……」
       「恥ずかしながら、私は失神をしておりました……」

 シュナイゼル「そのことを疑っているわけではないよ」
       「ただ、何か妙なことはなかったかな、と思ってね」

 コーネリア「妙なこと?」
       「……そういえば、奴が私に向かって歩いてくる途中で、」
       「私は気を失ったようなのです」

203: 2014/05/20(火) 01:05:03 ID:2vWR1FX2
.
 シュナイゼル「途中で?ふむ……」

 コーネリア「それから、ギルフォードが駆けつけてくるまでは……」
       「……ですが、そこまでは意識がはっきりとしていて、
       「記憶も確かなのです、それが不思議で……」

 シュナイゼル「そうだね…………」
       「……困ったな、ますますわからなくなってきたよ」

 コーネリア「というと?」

204: 2014/05/20(火) 01:05:43 ID:2vWR1FX2
.
 シュナイゼル「ゼロの正体として最も疑わしい人物がいたのだが、」
       「もしその人物なら、間違いなく君を頃していたはずだ」

 コーネリア「……」

 シュナイゼル「それに……その人物は、もう氏んでいるはずだからね」ニコッ

 コーネリア「えっ!?」


と、その時、遠方で地響きのような爆発音が響いた。
シュナイゼルとコーネリアは、ハッとして洞窟の出口を見る。

205: 2014/05/20(火) 01:08:41 ID:2vWR1FX2
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 司令官「なっ、バカな!黒の騎士団だと!?」
      「一体どこから現れたんだ!?」


ゼロの合図により、藤堂らの部隊はステルス範囲から飛び出し式根島基地を
襲撃した。基地のレーダーでは、複数のナイトメア部隊が突如近辺の森に出現
したような形になった。


 藤堂『この島の守備連中は大したことはない!』
    『陽動に徹し、連中を混乱させろ!』
    『だが例の白兜には気を付けろ、現れたらケースRだ!』

 四聖剣『承知ッ!』

206: 2014/05/20(火) 01:09:20 ID:2vWR1FX2
.
"無頼"に乗り、歩兵部隊を率いていた特務隊の玉城は、ランチャーを抱えて
空中戦艦、アヴァロンに狙いをつける。


 玉城「へへッ、お前の初めてはオレのモノだぜ……ってな!」
    「……ウラッ、食らいなッ!」ポヒュ!!


ランチャーから放たれたロケット弾は、煙の尾を引きながらアヴァロンの喉元に
喰らいつこうとした……だが、本体に着弾しそうに見えた瞬間、アヴァロンが
眩しい緑色の光に包まれたのが見えた。
そしてロケット弾の爆発後……船体には一切のダメージを与えてない様であった。

207: 2014/05/20(火) 01:10:07 ID:2vWR1FX2
.
 玉城「おッ、おい南、これッて……!」

 南『ブレイズ・ルミナスの、バカでかいやつかよ……!』
   『こんなのに空を飛ばれたら、かなわねえぞ!?』

 玉城「チッ、しゃあねェな……どうやら特務の出番らしいなァ?」
    「……オウ、おメエら!あのデカブツを乗っ取るぞッ!ついて来いッ!」

 団員ら「アイサー!いくぞォッ!」

208: 2014/05/20(火) 01:10:52 ID:2vWR1FX2
.
混乱した戦況の中、滑走路を走りアヴァロンに接近する玉城たちの部隊を見て、
基地の司令官は半狂乱に陥った。


 司令官「ばっ、バカ者どもがあ!」
      「殿下の船が乗っ取られたら我ら全員絞首刑だぞおッ!」
      「船を氏守するんだ、絶対にッ!」

 守備隊「イ、イエスマイロード!」
     「全軍、殿下の船をお守りしろおおおお!」

209: 2014/05/20(火) 01:11:34 ID:2vWR1FX2
.
個別に応戦をしていた基地の守備隊は、泡を食ってアヴァロン周辺に集結する。
それを見て、朝比奈はニヒルに笑う。


 朝比奈『へえ……玉城って人、意外とやるじゃん?』ニヤッ

 仙波『敵は、どうやらアレを奪われると本気で困るようだな……』
    『少佐、あそこに集中砲火を?』

 藤堂『うむ、特務隊を護衛しつつ、敵防衛に応戦せよ!』
    『船を乗っ取れば、こちらの勝利だ!』

 団員たち『了解っ!』

211: 2014/05/23(金) 14:14:31 ID:9sJvEC5U
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

式根島の方から、にぶい爆発音が時折響いてくる中……
神根島では、洞窟の中と外でシュナイゼル達とゼロ率いる部隊が対峙していた。

洞窟の入り口を守っていた連中はカレンら零番隊の奇襲により殲滅。
シュナイゼルらは、中に入ろうとするゼロたちに掃射を浴びせ、侵入をかろうじて
防いでいた。しかし……


 コーネリア「……兄上!このままでは、じき弾薬が尽きます!」ダダッ、ダダダッ!!

 シュナイゼル「それは困った……ものだ!」カチャッ…パァン!!

212: 2014/05/23(金) 14:15:11 ID:9sJvEC5U
.
 団員「ぐは!」…ドサッ!!

 ロイド「一撃必殺ですねぇ、殿下~!」ニコニコ

 シュナイゼル「ロイド、君は早く、ガウェインを起動してくれ!」カチャカチャ

 ロイド「さっきから、そう思ってるんですが~……」
     「あそこまで行くのに、身を隠すものが……」

 バトレー「貴様、こういう時こそ奉公の真心であろうッ!」
      「今すぐあそこまで走れ!弾丸など気合いで避けろッ!」

 ロイド「……じゃあ、将軍がお手本を見せてくださいよ~」ジトー

213: 2014/05/23(金) 14:15:51 ID:9sJvEC5U
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン『ゼロ!どうしますか、全員で一気に突っ込みましょうか?』

 ゼロ「だめだ、突入時に集中砲火を浴びてしまう!」
    「あの新型と思しきナイトメアの性能もわからない状況で、うかつに突入を」
    「するのは危険極まる!……くそッ、奴らを中に閉じ込めたのはいいが、」
    「こちらも中に突入できないとは……!」


煙幕を投入すれば突入そのものはたやすくできるだろう。
だが、それだと誤って作戦目標……シュナイゼルを殺害してしまう恐れがある。
シュナイゼルだけは決して頃すわけにはいかない。今は、母親殺害の真相を知る
可能性のある者は奴しかいないのだから……!

214: 2014/05/23(金) 14:16:30 ID:9sJvEC5U
.
そして、時間をかければかけるほど騎士団側は不利になる、式根島からの応援が
来る可能性が高まるからだ……これ以上、手をこまねいているわけにはいかない。


 ゼロ「……撃ち方、やめえッ!」


通信機を通し、シュナイゼル達を銃撃していた騎士団のメンバーに号令が飛んだ。
彼らは一斉に銃撃を止める……洞窟周辺に、静けさが戻ってきた。


 ロイド「……静かになりましたねぇ……?」…ヒョイ

 コーネリア「頭を出すな!撃たれるぞ!」

215: 2014/05/23(金) 14:17:09 ID:9sJvEC5U
.
 ロイド「うわ!」アタフタ!!

 シュナイゼル「…………さあ、彼らはどう出てくるかな?」…フッ


シュナイゼルのつぶやきの直後、洞窟入口から何者かの声が響く。
ナイトメアの拡声器を通しての声ではあるが、彼らにとっては、犯行声明のビデオや、
あるいは直接に面と向かい、聞いた覚えのある声……ゼロの声だった。


 ゼロ「……洞窟の中にいる者に告げる、何者も今いる場所から動くことを禁じる!」
    「動いた途端、その者を蜂の巣にする!」

 バトレー「……こしゃくな……!」

216: 2014/05/23(金) 14:18:13 ID:9sJvEC5U
.
 ゼロ「……シュナイゼル・エル・ブリタニア、」
    「そこにいるのは把握している、大人しく出てきたまえ!」

 シュナイゼル(……なるほど、君の目的は私か……)

 コーネリア「我が国の宰相を呼び捨てにするとは、いい度胸だな、ゼロ!」

 ゼロ「コーネリア……君には呼びかけていない、黙っていてもらおうか!」

 コーネリア「!!」
        「……貴様ァ……」

 シュナイゼル「……申し訳ないが、その要求には応じかねる!」

217: 2014/05/23(金) 14:19:20 ID:9sJvEC5U
.
 ゼロ「ほう……では、この洞窟を己の墓穴にする、と?」

 シュナイゼル「……君にはわかっているはずだね、そちらが不利だということが!」
       「君には道が2つしか残されていない……」
       「私を頃すか、私をあきらめるか、の2つだ!」

 ゼロ「それは、私が選ぶ道ではない!君が選ぶべき道だ!」
    「私に服従するか、氏を賜るか、二つにひとつだ!」

 シュナイゼル「……どうやら、妥協点は見いだせそうにないね!」

 ゼロ「ふむ……では、君が虐げてきた民衆に氏を以て贖っていただこうか?」

 シュナイゼル「それで君の気が済むのなら……!」ニッ

218: 2014/05/23(金) 14:20:19 ID:9sJvEC5U
.
 コーネリア「兄上!?」

 バトレー「でっ、殿下!」

 シュナイゼル「……コーネリア、君はナリタでゼロに殺されなかった」ボソボソ
       「つまり私を頃すのも彼の目的にはないはずだ」

 コーネリア「……しかしこちらには、弾薬が……」
        「もし、弾が尽きたことが知られたら……」

 シュナイゼル「その時は、覚悟を決めよう」
       「ブリタニアの総督、そして宰相として、ね」ジッ…

 コーネリア「……はっ」ゴクリ

219: 2014/05/23(金) 14:21:07 ID:9sJvEC5U
.
 シュナイゼル「……だけど、多分その覚悟は必要ないだろう」ニコッ


シュナイゼルがそう言うと同時に、再びゼロの声が洞窟内に響く。


 ゼロ「……宰相閣下、私は、あなたに危害を加える気はない」
    「ただ、少し話をしたいのだ、姿を見せてほしい」

 コーネリア「!!」

 シュナイゼル「ね、そういうことだよ」ニッ
       「…………話をしたいなら、このままでさせてもらおう!」

220: 2014/05/23(金) 14:21:57 ID:9sJvEC5U
.
 ゼロ「内密の話なのだ、あなたと、私だけの……!」

 シュナイゼル「……内密の話?」ピク
       「……コーネリア、彼と話をした覚えは?」

 コーネリア「いえ……ああ、カワグチ湖の事件では少し……」
       「ですがあの時は、囚われていたユフィのことで……」

 シュナイゼル「ふむ……」
       「……ゼロ、君はわざわざ私と話をするために、」
       「こんな所まで来たのか!」

 ゼロ「そうだ……話をしたいのだ!」

 シュナイゼル(……どういうつもりだ?)

221: 2014/05/23(金) 14:22:35 ID:9sJvEC5U
.
ゼロの言葉を訝しむ彼らの方へ向けて、何か小さなものが床を滑ってきた。
一瞬緊張が走るが、すぐ近くで止まったそれは通信機のようであった。


 ゼロ「それを耳にあててくれれば通話ができる!」
    「話くらいはしてもよいだろう、シュナイゼル!」

 シュナイゼル「……」

222: 2014/05/23(金) 14:23:44 ID:9sJvEC5U
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 カレン「……ルルーシュ、このあたりでいい?」ボソボソ

 ゼロ「話くらいはしてもよいだろう、シュナイゼル!」
    「……ああ、ここでいい」ボソボソ


ゼロとカレンは、紅蓮で洞窟のちょうど真上あたりの地表に来ていた。
洞窟の入り口でナイトメアに乗り喋っていると見せかけ、実際は紅蓮の通話転送を
用いていたのだった。
紅蓮の遠隔モニタで見る限り、洞窟内のシュナイゼルたちにはまだ動きはないようだ。

223: 2014/05/23(金) 14:24:25 ID:9sJvEC5U
.
見たところ、洞窟の天井はさほど厚くもなさそうだった……地面にパイルを撃ち込み、
紅蓮の輻射波動で天井を打ち砕いて突入、内部にいるナイトメアを破壊する。
ナリタの戦術の応用編といったところだ。


 ゼロ(それでチェックメイトだ……)
    (シュナイゼルを浚ってしまえば、後はこちらの思うがまま……)

 カレン「パイルの撃ち込み、けっこうでかい音がすると思う……」
     「すぐ輻射波動で破壊しないとバレちゃう気がするわ」ボソボソ

 ゼロ「うむ、俺の合図で迅速に行ってくれ」ボソボソ
    「……む、奴がつけたようだな」

224: 2014/05/23(金) 14:25:56 ID:9sJvEC5U
.
 シュナイゼル『……これでいいかな?』

 ゼロ「感謝する、宰相閣下」
    「周囲に誰かいるのか?」

 シュナイゼル『コーネリアがいるが』

 ゼロ「ふむ……まあいいでしょう」
    「今さらですが、あなたがこの島に来た目的は、この洞窟だったのですね」

 シュナイゼル『……隠してもしようがなさそうだね』
       『ここは、君が頃した我が弟の、いわば忘れ形見でね……』

225: 2014/05/23(金) 14:26:47 ID:9sJvEC5U
.
 ゼロ「ただの忘れ形見のために、公務の時間を割いて来るような貴方では」
    「ないでしょう……この洞窟には、何があるのです?」

 シュナイゼル『さあ……それを調べに来たのでね』

 ゼロ「ふむ……」

 シュナイゼル『こちらからもひとつ、聞きたいことがあるのだが』

 カレン「……そろそろいく?」ボソボソ

 ゼロ「何でしょうか?」
    「……よし、」

226: 2014/05/23(金) 14:27:56 ID:9sJvEC5U
.
 シュナイゼル『……ルルーシュ、』

 ゼロ(……な……に……!?)


カレンに合図をすべく、手を降ろそうとしたその瞬間、通信機の向こうから聞こえて
きた己の名に、ゼロは……ルルーシュは、息をのんだ!
シュナイゼルは、まるで通話機を通してこちらの表情を読んでいるかのように、
少し間をあけた後に言葉を続ける。


 シュナイゼル『……どうしてクロヴィスを頃したのだ?』

227: 2014/05/23(金) 14:29:34 ID:9sJvEC5U
.
……だが、次の瞬間にはルルーシュは、内心の驚愕を見事に抑え込んでいた。
ゼロらしさを崩さないよう、慎重に答える。


 ゼロ「民衆の敵の、必然的末路ですよ」
    「それと、私はルルーシュなどという名ではない、ゼロだ」

 カレン(え!?なに、今ルルーシュって……!)
     (シュナイゼルにバレてたの!?)

 シュナイゼル『そうか……私の推理は外れたようだね』

 ゼロ「どのような推理をされたのかお伺いしてみたいものだが、」
    「今はそういう時ではないですな……」

228: 2014/05/23(金) 14:30:49 ID:9sJvEC5U
.
 ゼロ(くそ……くそッ!)
    (このタイミングで母上暗殺のことを尋ねれば、俺がルルーシュだと告白を)
    (するようなものじゃないか!)
    (……いや、逆だ!俺の名を出してくれたおかげで、奴が俺の正体に)
    (肉薄していたことがわかり、今バレてしまう事態を避けることができた!)
    (だが……これで、うかつに母上のことを聞けなくなった……!)

 カレン「……ちょっと、何かこっちに来る!」
     「式根島の方角からよ……すごく速い!」

 ゼロ「なに?」


レーダーが示す方向の上空を見ると、一機のナイトメアがこちらに飛翔してくる姿が
見えた。いや、ナイトメアが飛ぶなど、あり得ないはずだが……!?

229: 2014/05/23(金) 14:31:49 ID:9sJvEC5U
.
 カレン「なに、あれ……って、白兜じゃん!?」

 ゼロ「空中戦艦の奴と同じだ!」
    「くそッ、ナイトメア向けのユニット化にも成功していたのかッ!」

 ジノ『……あら~、予想通り包囲されてるじゃないの!』
    『さてと、次期ナイト・オブ・スリーの実力を、殿下にもしっかりお見せして』
    『おきますかね!』ニコニコ

 セシル『ヴァインベルグ卿!』
     『そのフロートシステム、まだ改良途中だからフィラーがすぐ切れるの!』
     『片道分しかないと思って!』

 ジノ『片道ありゃ十分だよ!』
    『……っと、こりゃついてる……ゼロを発見ッ!』ニヤリ

230: 2014/05/23(金) 14:33:03 ID:9sJvEC5U
.
 カレン「!!……見つかったわ!」
     「ルルーシュ、ここは任せて!」

 ゼロ「カレン、気を付けろ!」
    「決してやられるなよ……!」ダダッ!!

 カレン「わたしはあんたの親衛隊隊長よ!負けるわけないでしょ!」ニッ

     (…………ったく、空飛んでるなんて卑怯だわ……!)
     (スラッシュハーケンみたく、紅蓮の腕も飛ばせたらいいのに……)ググッ…

 ジノ『ハッハァー!ネズミを狙う鷹の気分だぜ!』
    『覚悟しな、赤いの!』ゴオオォォォ!!

231: 2014/05/23(金) 14:34:12 ID:9sJvEC5U
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……シュナイゼルは、やはり侮れぬ敵であった。

洞窟の天井を破壊・侵入しシュナイゼルを浚う作戦は、実行直前に式根島から
飛来してきたランスロットに急襲されたことで失敗に終わった。
カレンは、フロートシステムをつけたランスロットに翻弄され、機体は大破した。
洞窟入口を包囲していた部隊も式根島からのミサイルの飽和攻撃で損害を被った。
我々は、かろうじてカレンを救い出し、隠していた船で島を脱出する有様であった。

式根島では、藤堂たちの部隊はアヴァロン奪取に失敗していた。
そもそも、アヴァロンを奪取する必要はなかったにも関わらず、それに攻撃を集中した
ことで防衛側も戦力を集中することができ、撃退されてしまったのだ。
危ういところで追っ手をゲフィオンディスターバの包囲陣の中に誘い込み、何とか
活路を見出したものの、藤堂達もほうほうの体で潜水艦まで逃れるという始末。

232: 2014/05/23(金) 14:36:18 ID:9sJvEC5U
.
今回の作戦は、大失敗だったと言わざるを得ない……
ブリタニア側の捜索をかいくぐり、トウキョウ租界へ向かう潜水艦の中で我々は、
重苦しい空気に包まれながら総括を行った。
組織改編の直後の敗北というのは、あまりに堪える……


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……俺は、かつてないほど憂鬱な会議を終えた後、艦長室へ戻った。
部屋に入ると、行く前と変わらない様子で、ベッドに寝転ぶC.C.の姿があった。


 C.C.「……おかえり、ルルーシュ」ムクリ

 ゼロ「……」バタン…カツカツ

233: 2014/05/23(金) 14:37:30 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「……お疲れのようだな?」

 ゼロ「ああ……本当に疲れた」…ギシッ


そう言いながら椅子に座った俺は、仮面を外すと背もたれに身体を預けきり、
天井を見上げる。
今回、俺は望む物を何ひとつとして手に入れることができなかった……それが、全て
シュナイゼルの策略のためではないのだが、奴がいなければあるいは、とも思う。


 C.C.「シュナイゼルはどうした?」

 ルル「……逃した」

234: 2014/05/23(金) 14:38:31 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「そうか」…ゴロリ

 ルル「…………お前の望み通りの展開か?」

 C.C.「私の望みは、契約の成就だけだ」

 ルル「……」
    (そう言うだろうと思った……)

 C.C.「先ほど、廊下でカレンが騒いでいたようだったが?」

 ルル「……紅蓮を失ったんだ」

 C.C.「それでか……」

235: 2014/05/23(金) 14:39:31 ID:9sJvEC5U
.
ただ単に失ったわけではない。
今回のランスロットは、ナリタの時とは比べ物にならないほどの機敏さで、紅蓮を
五寸刻みにしてみせた。明らかに、別のパイロットだ。
プライドまでずたずたにされたカレンは、先ほどまでずっと泣き叫んでいたのだ。


 ルル「ラクシャータも随分とショックを受けていたようだ」
    「あのフロートシステム、おそらく今後ブリタニアのナイトメアの標準装備に」
    「なるだろう……早急に対応策をとらないとならん」

 C.C.「……」

 ルル「……それよりも……」
    「シュナイゼルは、俺の正体に薄々気がついている」

236: 2014/05/23(金) 14:42:14 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「ほう?奴と話したのか?」…ムクリ
    「お前をルルーシュだと?」

 ルル「そうだ、奴に、ルルーシュと呼びかけられた」
    「……あまりに唐突だった」

 C.C.「……騎士団の幹部に、裏切り者がいるのか?」

 ルル「いや、奴も確証のなさそうな様子だった」
    「情報漏れではなく、調査や推測による答えだろう」

 C.C.「……」

237: 2014/05/23(金) 14:43:30 ID:9sJvEC5U
.
……公的には、俺はブリタニアの日本侵攻時に氏んだことになっている。
しかしシュナイゼルが、ゼロの正体を俺であると疑っているならば、奴は必ず
俺のその後の消息を調べ直すはずだ。


 ルル「……くそッ……!」
    「俺とルルーシュの繋がりを断つ必要がある……!」
 
 C.C.「お前が、ルルーシュではないフリをするわけか……」
    「だが、お前はすでに多くの人間に知られ過ぎているだろう?」

 ルル「いや……最も問題となるのは、シャーリーとスザク、桐原翁くらいだ」
    「その誰にも、俺はまだギアスを使っていない」
    「最悪、忘れさせる手もある……」

238: 2014/05/23(金) 14:44:36 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「……ふふ、最初からそうしていれば良かったんだ」

 ルル「!!」ガタン!!


奴の言葉が、俺の癇に障った。俺は身体を起こし、C.C.をキッと睨みつける。
だがC.C.は、俺の反応を全く意に介さず、冷ややかな目で俺を見つめていた。


 C.C.「ギアスか、銃か……」
    「そのどちらも選ばないから、こういうことになる……」

 ルル「……何を……」

239: 2014/05/23(金) 14:45:33 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「シャーリーに正体を正直に明かして、お前は何を得られた?」
    「何も、だ……いや、ひとつだけ得たな、自己満足を」…クスッ

 ルル「貴様……」

 C.C.「お前は何者だ?ルルーシュ・ランペルージか?ゼロか?」
    「それともルルーシュ・ヴィ・ブリタニアか?」

    「……私には、今のお前はそのどれでもないようにしか思えない」
    「ふふ、ただの……ガキだ……」

 ルル「……黙れ」

240: 2014/05/23(金) 14:46:47 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「いいや黙らない」
    「シュナイゼルは、必ずお前を追い詰めるだろうな……」
    「あるいは、お前の名を尋ねたのは、奴なりの優しさかな?」
    「早く自首しろ、とな……」クスクス

 ルル「……だ……だまれ……!」プル…

 C.C.「お前はできる奴かと期待していたが……」
    「ふっ、正体がばれそうになると結局記憶を消すのか……」
    「消せなければ、頃す……か?……私はそれでもいいのだけどな」

 ルル「……」ギリ…ッ

241: 2014/05/23(金) 14:48:17 ID:9sJvEC5U
.
 C.C.「……お前はいつか、ナナリーを頃すことになるのかな?」ニッ…

 ルル「だ!……だまれえええええッ!」ガバッ!!


ナナリーの名を出された俺は、瞬時の激昂を抑えきれなかった。
椅子から飛び上がると、ベッドに腰掛ける奴に猛然と襲い掛かった。
そのまま奴の両肩をつかんで乱暴に押し倒す。


 ルル「き……貴様にッ!」
    「貴様に、俺の、俺達の何がわかるというんだッ!」ギュウッ…!!

 C.C.「……」

242: 2014/05/23(金) 14:49:18 ID:9sJvEC5U
.
 ルル「俺が、ナナリーを頃すだと……!」
    「そんなことをするくらいなら、俺が氏んだ方がマシだ!」

 C.C.「……ナナリーからお前の存在がばれそうになったら、どうする?」

 ルル「!!…………そんなことは……」

 C.C.「あり得るだろう?」

 ルル「……いや、ナナリーは……」

 C.C.「……そうなる前に、対策を打つべきではないのか?」

243: 2014/05/23(金) 14:51:11 ID:9sJvEC5U
.
 ルル「!!…………た、対策……?」
    「対策……と、言ったか?…………ッ!」ブル…ブル…!!

 C.C.「…………」

 ルル「……お前は……俺が……俺が!」
    「俺が、ナナリーを頃すことを望んでいるのかアァッ!」バッ!!

 C.C.「!!!」


その瞬間、俺の視界は赤に染まり、視野は失われた。
これまでにない激情が、俺を突き動かした。

244: 2014/05/23(金) 14:51:54 ID:9sJvEC5U
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  :
  :
  :
  :

245: 2014/05/23(金) 14:52:57 ID:9sJvEC5U
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  :
  :

……しばらくの後、俺は、俺の両手が、C.C.の白く細い首を力任せに締め付けている
ことに気付いた。
奴の顔は膨れて紅潮し、苦しげに、弱々しくもがいていた。


 ルル(……俺は……俺は今、なにをしている……!?)

 C.C.「……ぐ……」プル…プル…

 ルル「……!!」

246: 2014/05/23(金) 14:53:58 ID:9sJvEC5U
.
厚ぼったく腫れたC.C.の唇から漏れた、苦しげな呻き声を聞いた瞬間、俺は、自分が
今、何をしていたのかを理性で把握した。

それまで昂ぶっていた感情が一気に醒めてゆくと同時に、得体のしれない恐怖感が、
まるで背中を這い上がるかのように俺の心の中に潜んでくるのを感じ……
俺は、恐る恐る、ゆっくりと、手を奴の首から離した。
ようやっと呼吸のできたC.C.は、胸を大きく上下させながら激しくせき込み、荒々しく
息継ぎをする。

もし、このまま締め続けていたら……俺は、この手でC.C.を"頃した"ことだろう。
俺は、呆然とした面持ちで、ぽつりと呟く。

247: 2014/05/23(金) 14:55:49 ID:9sJvEC5U
.
 ルル「……俺は…………ガキ、か……?」

 C.C.「…………」ハアッ、ハアッ…

 ルル「……ガキ、だよな……」
    「こんな…………愚かな、ことを……」

 C.C.「……」ハア…ハア…

 ルル「…………くそ…………!」ポタッ…

 C.C.「……!」ハア…

248: 2014/05/23(金) 14:56:38 ID:9sJvEC5U
.
……知らず、涙がひとつぶ、こぼれた。

手痛い敗北を喫した上、これまで俺が良かれと思ったことが今、裏目に出かねない
状況にあることを把握しながら、その場しのぎの策で逃れようとする。
あまつさえ、激昂し共犯者の首を絞める己の愚かさに……


 ルル「……くそ…………ッ……!」

 C.C.「…………」
    「……ルルーシュ、」…スッ


……その頬に俺の涙を受けたC.C.は、静かに呼びかけながら俺の頬に手をあてる。
声色には、先ほどまでの冷酷は響きはなくなっていた。

249: 2014/05/23(金) 14:57:52 ID:9sJvEC5U
.
優しく言い聞かせる母親のような暖かさで、彼女は語る。


 C.C.「…………お前は、欲張りすぎなんだ」
    「何もかもを手に入れようとするな……」

 ルル「…………」ポタ…

 C.C.「よく考えるんだ、お前が、本当に欲しいものを……」

 ルル「……ぐぅ……ッ」ポタ…ポタ…ッ

 C.C.「お前は、優しい男だ……しかしそれは、お前の首を締めかねない」
    「そのことを自覚しろ……」

 ルル「…………くそお……ッ!」ポタ、ポタ…

250: 2014/05/23(金) 15:00:41 ID:9sJvEC5U
.
止めどもなく、涙を溢れださせる俺の頭を、彼女は両腕の中に包み込み、
その胸の中に静かに、優しく抱きよせた。
彼女の、精霊の響きを持つ声が、俺の耳元で密やかに囁く。


 C.C.「租界へ戻るまで、このまま、休むといい……」
    「……良いひと区切りだよ、ルルーシュ」

 ルル「ぐ……ぐう……ッ……!」

 C.C.「その後で、この先どうするかを、一緒に考えよう……」
    「共犯者である、私と共に、な……」

251: 2014/05/23(金) 15:02:47 ID:9sJvEC5U
……屈辱と後悔と恥辱と焦燥に同時に苛まれながら俺は、先ほど己が絞め殺そうと
していたC.C.の胸の中で、ただ呻くことしかできなかった。

彼女の表情まではわからなかったが……


 ルル「うう!…………く……ッ!」

 C.C.「……私は、いつまでもお前の傍にいる……」
    「契約を果たすまでは……」


……多分、C.C.は、微笑んでいたのだろう。
それが余計に悔しいと同時に……そうであって欲しい、と俺は思った。

255: 2014/05/25(日) 22:22:43 ID:sgTaPb.Q
.
■エリア11 総督府執務室 ─────

 コーネリア「……東シナ海での動きはどうなっている?」

 ダールトン「はっ、現状では上海沿岸にいくつかの部隊が集結しているものの、」
        「中華連邦が公式に発表している軍事演習の想定規模を超える動きは」
        「今のところありません」

 ギルフォード「何らかの動きがあれば即応できるよう、警戒態勢は上げております」

 コーネリア「うむ……奴らは決して信用するなよ、」
       「宦官どもは笑顔を見せながら、背を向ければ刃を突き立てる連中だ」
       「騎士団の動きはどうだ?」

256: 2014/05/25(日) 22:23:36 ID:sgTaPb.Q
.
 ダールトン「はっ!」
        「現在のところ、エリア内の各拠点は……」


……先日の、式根島での襲撃に失敗をして以来、黒の騎士団は目立った動きを
していなかった。あの戦闘で騎士団側は、相当な痛手を負ったとの分析もある。


 コーネリア(中華連邦が動く前に沈静化してくれて助かったぞ……)
        (二方面作戦となると、今のエリア11の防衛力ではやや手薄に)
        (なる恐れがあったからな)

 ダールトン「……先日、騎士団の扇代表をTV出演させた局の件ですが、」
        「治安維持の名目で捜索を行い……」

257: 2014/05/25(日) 22:25:25 ID:sgTaPb.Q
.
 コーネリア(……しかし、あの時は驚いた)
       (兄上が、まさかゼロをルルーシュだと……)


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シュナイゼル「コーネリアがいるが?」
       「……バトレー、君は下がっていてほしい」ボソボソ

 バトレー「はっ……」…ゴソゴソ

 シュナイゼル「……隠してもしようがなさそうだね、ここは、君が頃した我が弟の……」

 コーネリア(……何の話だ?)
       (奴は、兄上の目的を聞いているのか……?)

258: 2014/05/25(日) 22:26:52 ID:sgTaPb.Q
.
 シュナイゼル「……ルルーシュ、」
       「……どうしてクロヴィスを頃したのだ?」

 コーネリア(……え?)
       (ルルーシュ……と、いま兄上は……?)

 シュナイゼル「そうか……私の推理は外れたようだね」


そう言ったシュナイゼルは、コーネリアの方を向くとにこりと笑う。
その目は言葉とは裏腹に、愉快なことを見つけた時の彼の目そのものだった。

259: 2014/05/25(日) 22:28:03 ID:sgTaPb.Q
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア(……あの後、兄上に話を聞いたが、「あてずっぽうだよ」と、)
       (笑顔で答えられただけだった)
       (……そうだ、ルルーシュ達は、エリア11進出の際に氏んだはずだ、)
       (それが、生きているなど……ましてや、ゼロなどと……)


その時、執務室の通話機が静かにコールを鳴らした。
ダールトンはすぐ応答スイッチを押す。


 ダールトン「何事だ?今会議中だぞ?」

260: 2014/05/25(日) 22:29:33 ID:sgTaPb.Q
.
 警備兵『はっ、申し訳ございません!』
      『私どもでは判断つきかねることがございまして……』

 ダールトン「なんだ?」

 警備兵『はっ、その……総督へのお目通しを、という……』

 ダールトン「何をふざけたことを……」
        「どうせアポイントもないのだろう、追い返せ!」

 警備兵『そ、それが……』
      『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだと言えばわかる、と……』

 ダールトン「ルルーシュ?何者だ……」

261: 2014/05/25(日) 22:30:28 ID:sgTaPb.Q
.
 コーネリア「……!!」
        「ギルフォード、通用門の映像を出せ!!」

 ギルフォード「は?……はっ」カチカチ…ピッ


ギルフォードが手元のリモコンを操作すると、壁にかけてあるモニタに
政庁の通用門の現在の様子が映し出された。
そこには、警備兵に止められた様子の人物が……車椅子に乗った少女と、
それを押してきたと見られる少年の映像が映し出された。


 コーネリア「顔をアップだ!」

 ギルフォード「はっ……」ピピッ

262: 2014/05/25(日) 22:33:06 ID:sgTaPb.Q
.
……モニタいっぱいに映し出された少年の顔……
それを見た瞬間、コーネリアは確信した。


 コーネリア(……ルルーシュ…………間違いない、ルルーシュだ!)
       (幼い頃の顔立ちが残っている……!)


彼女はギルフォードの手からリモコンを奪うと、今度は車椅子の少女に
カメラを向ける……
ぼやけた焦点が合った瞬間、やはり同様に確信を得られた。


 コーネリア(……ナナリー!お前も、生きていたのか……!)
       (マリアンヌ様の面影……間違いない、ナナリーだ……!)

263: 2014/05/25(日) 22:34:25 ID:sgTaPb.Q
.
 ギルフォード「……殿下?」

 コーネリア「……」


彼女は、数秒の間思案をめぐらしていた様子だったが、通話スイッチを押すと
警備兵に命令を下す。


 コーネリア「……その者達を、面会室に通せ」

 警備兵『イエス、ユアハイネス!』

264: 2014/05/25(日) 22:36:23 ID:sgTaPb.Q
.
コーネリアの意外な命令に、2名の専任騎士はやや驚いた様子だった。
彼等は、不思議そうに尋ねる。


 ダールトン「殿下、今の者は……?」

 コーネリア「…………」
        「亡霊、かもしれんな……」

 ギルフォード「はっ?」

267: 2014/05/27(火) 08:18:46 ID:fgjA9Ejs
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……面会室に通されたルルーシュとナナリーは、警備兵からそこでしばらく待つように
言い渡される。
ナナリーは、兄が今まで避けるようにしてきた総督府へ自分を連れてきたことに対し、
不安が隠しきれない様子だった。


 ナナリー「お兄様……」

 ルル「……大丈夫、悪いようにはしないよ、絶対に」ギュ…


妹の手を取り、強く握りしめてやるルルーシュ。
彼も、ナナリーの内心の不安はよく理解していた。

268: 2014/05/27(火) 08:19:46 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル(……だが、これが最善の道なんだ……)
    (俺を信じてくれ、ナナリー……)

 ナナリー「はい……」…ニコ


今回の"作戦"で一番の問題は、自分たちをコーネリアに合わせてくれるかどうか
であった。通常、アポイントもなく要人でもない者を、通していいかどうかと直接
総督に尋ねるバカはいない。優秀な門番であればなおさらだ。

……だが、それは彼にとっては問題にならない事だった。

269: 2014/05/27(火) 08:20:25 ID:fgjA9Ejs
.
 警備兵A「……なにい、総督にお会いしたい、だと?」

 ルル「はい……」ニヤッ

    「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが来た、面会を望んでいる、」
    「と総督にお伝えください」キュイイィ
    「あなたたちには判断できないことですから……」ィィィ…
    「……ですよね?」

 警備兵A「!!……ああ、判断できないな」

 警備兵B「オレにも判断できない……ちょっとここで待つんだ」
      「………………はっ、申し訳ございません……」

270: 2014/05/27(火) 08:21:07 ID:fgjA9Ejs
.
……おそらく先日神根島で、コーネリアはシュナイゼルから何らかの話を聞いて
いるはずだった。であれば、このタイミングで自分が姿を現せば必ず興味を示す。


 ルル(……ここまでは読み通りだ)
    (この先も、おそらく……)


そこへ面会室の扉が開き、事務員らしき女性が現れた。
身なりから察するに、総督の秘書にあたる人物だろうか。
秘書は、手で今入ってきた出入口を指した。

271: 2014/05/27(火) 08:21:46 ID:fgjA9Ejs
.
 秘書「……こちらにいらっしゃって下さい、総督がお待ちです」

 ルル「ありがとうございます」
    「……ナナリー、いくよ?」

 ナナリー「はい……」


車椅子を押しながらルルーシュは、秘書の後をついて、政庁の廊下を歩いてゆく。
クロヴィスを誘拐した時、すでに記憶していた通路ではあるが、彼は物珍しそうに
周囲をキョロキョロと見回す。


 ルル(通用門から今の瞬間まで、コーネリアはずっと俺たちを観察している)
    (俺が本当に本人なのか……そして、ゼロなのか……)
    (その判断材料を求めているはずだ……)

272: 2014/05/27(火) 08:22:42 ID:fgjA9Ejs
.
やがて、彼らは執務室の、大きな扉の前に着いた。
秘書は軽くノックをすると、少し間をあけて扉を押す。


 秘書「……総督、ルルーシュ様をお連れしました」

 コーネリア「うむ」


扉の向こうから聞こえる、コーネリアの声。扉はさらに大きく開かれる……
ルルーシュは、意を決したように、ナナリーを押しながら室内に入った。

ブリタニアの貴族の好みらしい、重厚な装飾で覆われた執務室の窓辺には、
巨大な書斎机が配置されている。その向こう側に、コーネリアが座っていた。
左右には、専任騎士であるダールトンとギルフォードを従えている。

273: 2014/05/27(火) 08:23:24 ID:fgjA9Ejs
.
机の上の小さなモニタを眺めている風の彼女は、こちらも向かずに声をかけた。


 コーネリア「ご苦労……用があればまた呼ぶ」

 秘書「かしこまりました」スッ…カチャッ


秘書は扉の向こう側へ姿を消した。
コーネリアは何も言わず、小さなモニタを無言で眺めている。
ナナリーの背後に立つルルーシュは、不安そうな表情を浮かべ……てみせた。


 ルル(……想定通りの"空気"だ、これでいい……)

274: 2014/05/27(火) 08:24:26 ID:fgjA9Ejs
.
だがナナリーにとっては、全く想定外の"空気"だった。
室内の誰ひとりとして何も言わない状況に、彼女は本当に不安そうな表情を
浮かべていた。ルルーシュは、安心させるように妹の頭をそっとなでる。

コーネリアは、モニタから目を離すと彼らの方を向いた。
だが、その眼つきは鋭かった。


 コーネリア「…………」
        「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア……」

 ルル「はい……!」

275: 2014/05/27(火) 08:25:16 ID:fgjA9Ejs
.
名を呼ばれた彼もまた、コーネリアの顔を強く見返す。
互いの視線が空中でぶつかった。
瞬間、えも言えぬ緊張が室内に走る……だが、


 コーネリア「…………」
        「ナナリーをかばう時は、いつもその目をしていたな……」

 ルル「……!」


そう言うとコーネリアは、口元をほころばせる。
彼女の中で、ひとつの心証を得られたようだった。

276: 2014/05/27(火) 08:26:10 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア「……久しぶりだな、ルルーシュ」ニッ

 ルル「はい……お久しぶりです、姉上」ニコッ

 コーネリア「うむ、元気そうで何よりだ」
        「ナナリー、お前も元気そうだな」

 ナナリー「はい、お姉様……」
       「今までご心配をおかけしました」ニコッ

 コーネリア「うむ……」コクリ
        「今は会議中でな……じきに昼食の時間だ、」
        「案内させるので、屋上の庭園で待っていてくれ」

277: 2014/05/27(火) 08:26:46 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル「よろしいのですか?」
    「お邪魔なら、また次の機会に……」

 コーネリア「是非ともだ」
       「積もる話もある、ゆっくりしてゆけ」

 ルル「では……お言葉に甘えさせていただきます」ペコリ

 コーネリア「うむ」ニッコリ

278: 2014/05/27(火) 08:27:48 ID:fgjA9Ejs
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……アリエス宮を模した屋上庭園で、彼らはかつて過ごした日々のように、
草むらの上で輪を描いて座っていた。
コーネリアと、ルルーシュ、ナナリー……それに、コーネリアから話を聞いて
慌てて飛んできたユーフェミアの4名だ。
ユーフェミアは、ルルーシュらの姿を見ると泣きそうになっていた。


 ユフィ「……二人とも……生きていたのね……!」ウルッ…

 ナナリー「ユフィお姉様……」ポロ…

 ルル「ユフィも、久しぶりだね……」

 ユフィ「はい……!」ニコッ

279: 2014/05/27(火) 08:28:33 ID:fgjA9Ejs
.
ルルーシュは、これまでのことをかいつまんで話した。
日本が消滅して以降、アッシュフォード家が自分たちの面倒を見てくれていたこと、
そのおかげで何一つ不自由なく、学生としての生活を過ごせていること……


 コーネリア「そうか……」
        「アッシュフォードも義理堅いものだな」

 ルル「彼らがいなければ、僕らはあのままのたれ氏にでした」
    「返し尽くせない恩義があります」

 コーネリア「うむ……」

 ユフィ「ナナリーも、ルルーシュと一緒に暮らしてるの?」

280: 2014/05/27(火) 08:29:23 ID:fgjA9Ejs
.
 ナナリー「はい、学園のクラブハウスをお借りしているんです」

 ユフィ「そうか……よかったね……」ニッコリ

 ナナリー「はい!」ニコッ

 コーネリア「ルルーシュ……聞きたいことがある」

 ルル「なんでしょうか?」

 コーネリア「なぜ、もっと早くに出て来なかったのだ?」

281: 2014/05/27(火) 08:30:06 ID:fgjA9Ejs
.
誰でも抱く、想定通りの質問だ。
彼女のその疑問に、ルルーシュは憂鬱げな表情で答えてみせる。


 ルル「……僕たちがエリア11へ来ることになった理由と同じですよ」
    「うかつに出れば、皇位継承の争いにまた巻き込まれるかと……」

 コーネリア「ふむ」

 ルル「でも……もう"日本"は消滅しましたし、」
    「おかげで人質という立場ではなくなりましたからね」
    「今の僕らは、ただの民間人ですよ」ニッ

 ユフィ「……」

282: 2014/05/27(火) 08:30:57 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル「それに、アッシュフォード家にはすでにご迷惑をおかけしている状況で、」
    「さらにナナリーの治療までお願いするわけには……」

 コーネリア「…………それが目的なのだな?」

 ルル「…………はい」

 ナナリー「お兄様……」


ナナリーは、自分がそこまで兄の負担になっているのかと思い、不安な声を漏らす。
そう考えるであろうことは予測できたが、"作戦"のために今回はあえてそれを避け
なかった。

283: 2014/05/27(火) 08:32:10 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル「ナナリー、違うよ……」ニコッ
    「もし俺が突然いなくなっても、ナナリーが生きてゆけるようにしたいんだ」
    「だから……」

 ナナリー「そんなこと!」
      「……そんな、怖い事を言わないでください……」

 コーネリア「……俺、か……」
       「いつの間にか、ルルーシュも男らしくなったものだな……」ニッ

 ユフィ「私もそう感じました」クスッ

 ルル「姉上!……二人とも、からかわないでください!///」

284: 2014/05/27(火) 08:33:00 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア「ふふっ……」
        「……ルルーシュ、ナナリーの治療を望むのか?」

 ルル「……俺たちの立場では、無理な望みなのはわかっています」
    「ですが、俺はもはや、姉上にしかおすがりする事ができません……」

 コーネリア「……精神的なもの、と聞いている」
       「あの頃からは医学も進歩していようが、治せるとは限らないぞ?」

 ルル「それも承知の上です……」
    「姉上、なにとぞ……」

 コーネリア「…………」
       「……私の権限内で、ということになるがな……」

285: 2014/05/27(火) 08:33:57 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル「!!!」

 ユフィ「お姉様!」パアッ!!

 ナナリー「……ありがとうございます!」ポロポロ

 コーネリア「泣くな、ナナリー……」
       「これもマリアンヌ様の恩義への、わずかなお返しだ」ニコッ

 ルル「姉上……」ウルッ…

    (……そうだ、ナナリーに対する心証には何らの瑕疵もない)
    (姉上の性格から、こうなることは容易に推測できた……)
    (さあ……もうひとつ、聞くべきことがあるだろう、コーネリア?)

286: 2014/05/27(火) 08:34:37 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア「……ルルーシュ、お前にはもうひとつ聞きたいことがあるのだ」

 ルル「……なんでしょうか?」ゴシゴシ

 コーネリア「先々週、お前は2・3日ほど、どこかへ旅行に出かけたか?」

 ルル「旅行?……いえ、行っていませんが?」キョトン

 コーネリア「どこへもか?」

 ルル「はい、ここしばらくは、どこへも……」

287: 2014/05/27(火) 08:35:49 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア「……ナナリー、本当か?」ジー

 ナナリー「はい、お兄様は先々週はどこへも……?」キョトン

 コーネリア「ふむ……」

 ルル「姉上、なぜそんなことを?」

 コーネリア「……」


ルルーシュはともかく、ナナリーのごく自然な反応に、彼女は少しの間沈黙した。
こうなる事も推測済みであった。

288: 2014/05/27(火) 08:36:44 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル(咲世子には、俺がいない間、可能な限り俺の代役を務めてくれと言ってあった)
    (長期に渡る遠征だと無理だっただろうが、幸いにして2・3日の間だけ……)
    (彼女は見事に、俺が学園にいたと周囲に思わせてくれた)
    (むしろ、ナナリーをどうやって信じ込ませたのか聞きたいくらいだった)

    (このことを知るのは、学園にいる者ではシャーリーだけ……)
    (もちろん、彼女からこれが漏れる可能性はない)
    (そして、ナナリーの反応を見て、姉上は……)

 コーネリア「……いや、バカバカしい話だがな、」
        「兄上は、お前がゼロだと思っていたようだ」

 ルル「兄上?」
    「……オディッセウス兄様ですか?」

289: 2014/05/27(火) 08:37:32 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア「!!!……い、いや違う!!」
       「シュナイゼル……兄様、だ……!」プル…プル…


オディッセウスの名を出され、コーネリアは吹き出しそうになった。
そう思うのも無理はない、という感じだった。


 ルル「シュナイゼル兄様が……意外です」

 コーネリア「……ゴホン」
       「うむ、兄上も、あてずっぽうだ、と言っていたがな……」

 ルル「あてずっぽうにしても、方向性というものがあります」

 コーネリア「ふふ、兄上にそう伝えておこう」
       「オディッセウス兄様の推理かと思った、とな」ニッ

290: 2014/05/27(火) 08:38:16 ID:fgjA9Ejs
.
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 コーネリア「……ルルーシュ、」

 ルル「何でしょうか?」

 コーネリア「……皇位の復活は望まぬのか?」ジー

 ユフィ「…………」ゴクリ

 ルル「……」

 コーネリア「復活すれば、私にすがらずとも妹の治療を行うことができよう」
       「お前にとっても、悪い話ではないはずだ……」

291: 2014/05/27(火) 08:38:54 ID:fgjA9Ejs
.
 ルル「姉上……」

 ユフィ「お姉様から、おとりなしをされるということですか?」

 コーネリア「ああ、無論だ」コクリ
       「私やシュナイゼル兄様から、皇帝陛下にとりなしを諮ってみる」
       「陛下のお考え次第ではあるがな……」

 ルル「……いえ、それには及びません」
    「皇帝陛下が一度お決めになったこと、そう容易には覆らないはずです」

 ユフィ「ルルーシュ……」

 ルル「……それに俺には、今の生活が合っています」
    「民間人だと言ったのは皮肉ではなく、本当の気持ちです」

292: 2014/05/27(火) 08:39:35 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア「……」

 ルル「……姉上の、愚弟へのお心遣い、感謝いたします」ペコッ

 コーネリア「気に病むなよ……?」
       「身分に関係なく、お前は私の愛する弟なのだ」ニッコリ

 ユフィ「私もよ、あなたたちは私の兄弟なんですから!」ニコッ!!

 ナナリー「ありがとうございます……!」ポロッ…

 ルル「ありがとう……」ウルッ…

293: 2014/05/27(火) 08:41:06 ID:fgjA9Ejs
.
……彼女らの気持ちに対し、俺は自然と目が潤んだ。
そうだ、その気持ちと善意への感謝自体は嘘ではない。
コーネリアはナナリーのために、療養施設に空間を設け、そこから学園へも
通わせてくれることを約束したのだ。偽りなく、感謝の気持ちで胸が詰まりそうだ。

だが俺は、今までどおりクラブハウスに居住する。皇位など不要だ。
ナナリーとは離れてしまうが、学園でも、そして療養施設に足を運べばナナリーに
いつでも会うことができるのだ……しかも、エリア11の中では最高度に安全な
領域で、だ……何も問題はない。

本当に大事なものは、遠ざけておくもの……
かつてC.C.が俺に言った忠告を、俺は実践してみせた。
俺は、俺から論理的に最も遠い場所、ブリタニアの施設内に、ナナリーを預けた。

294: 2014/05/27(火) 08:43:06 ID:fgjA9Ejs
.
■帝都 ペンドラゴン宮殿 宰相執務室 ─────

ルルーシュらがコーネリアを訪ねてから数日後……
シュナイゼルは帝都の宮殿で、彼女からそのことの報告を受けていた。


 シュナイゼル「……それは、本人なのか?」

 コーネリア『はっ、後で調べさせましたが、』
       『間違いなくルルーシュとナナリー本人です』

 シュナイゼル「……」

 コーネリア『ルルーシュは、妹の庇護を求めてきました』
       『兄上……私の裁量で、ナナリーに治療を施すことを決めました』

295: 2014/05/27(火) 08:44:07 ID:fgjA9Ejs
.
 シュナイゼル「……そうか、疑わしさを感じなかったんだね?」

 コーネリア『はい、二人とも、私やユフィが知る、あの二人のままでした』
       『……いや、ルルーシュは幾分、男らしさが身についた様子でしたが』

 シュナイゼル「そうか……」

 コーネリア『………………』


こうして報告をしてくるのは勿論、神根島でシュナイゼルが言った言葉が
彼女の脳裏にあったことを、そして、にもかかわらず独断で動いたことに対し、
コーネリアなりの確固たる確証があったゆえであることを暗に示していた。

296: 2014/05/27(火) 08:44:51 ID:fgjA9Ejs
.
シュナイゼルも、今の時点ではゼロ=ルルーシュであるという確証は殆どない。
可能性としては、8%くらいだった……それも、他の者より行動の理由が強いという
だけであり、今回の彼らの行動はそれを3%くらいまで落とすものだ。

彼は、モニタの中のコーネリアに微笑んでみせる。


 シュナイゼル「……コーネリア、言った通り、この間の事はあてずっぽうだよ」ニコッ
       「彼にそのことを言ったのだろう?どう言っていた?」

297: 2014/05/27(火) 08:45:29 ID:fgjA9Ejs
.
 コーネリア『……オディッセウス兄様の推理かと思った、と』

 シュナイゼル「ふふ、兄上の、か……」ニッ
       「変わっていないようだね、ルルーシュも」

 コーネリア『はい』ニコッ

 シュナイゼル「皇位復活も望まない、か……」
       「陛下に『皇位などいらない』と言い切った、彼らしいな……」

 コーネリア『……………………』
       『……兄上……』

298: 2014/05/27(火) 08:46:09 ID:fgjA9Ejs
.
彼女の、返事を急かすような呼びかけに、シュナイゼルはやれやれといった風だ。
しばらくは思案顔であった彼だが……


 シュナイゼル「………………」
       「……君の裁量の範囲だろう?」…ニコッ
       「私は何も言うことはないよ、最善を尽くしてあげてほしい」

 コーネリア『……はっ、ありがとうございます!』

299: 2014/05/27(火) 08:46:44 ID:fgjA9Ejs
.
コーネリアとの通話を終えると、シュナイゼルは傍らのカノンに目配せをする。
彼は微笑みながら答えた。


 カノン「……殿下、見立てを下げられましたね?」

 シュナイゼル「君は逆のようだね?」

 カノン「タイミングが良すぎますわ」
     「私の所感では13%に上がりました」

 シュナイゼル「ふふっ……君は厳しいね」ニッ

 カノン「私は殿下の補佐ですから」ニコッ

300: 2014/05/27(火) 08:50:11 ID:fgjA9Ejs
.
 シュナイゼル「……では、両面作戦を展開できる案があるかな?」

 カノン「はい!彼の事を話題にさせましょう」ニッ
     「行方不明の元皇太子、エリア11で生存、と」

 シュナイゼル「ふむ……」

 カノン「耳目を集めれば、彼も動き難くなります」
     「そうすれば、ゼロか否かの判断もよりし易くなりますわ」

 シュナイゼル「……彼がゼロでないとしても、名乗り出た以上は、」
       「そのくらいのリスクは覚悟してもらうべきだ、ということだね」

301: 2014/05/27(火) 08:52:47 ID:fgjA9Ejs
.
 カノン「ええ、おっしゃる通りです」
     「弟君への教育上も、ノーリスク・ハイリターンは好ましくないかと」ニッコリ 

 シュナイゼル「うん……その案を採択しよう」ニッコリ

       「カノン、彼らの現状などを調査し、メディアへ適切にリークしてくれ」
       「元皇太子の現民間人、というキーワードがよいだろうね」

 カノン「かしこまりました!」ニコッ

304: 2014/05/29(木) 19:58:40 ID:wTEdJYLY
.
■アッシュフォード学園 理事長室 ─────

 ルル「……事前の相談もなく行動をしました、」
    「申し訳ありません……」

 理事長「いや、わしらは気にしなくてもいいんじゃ」
      「君らの生き方は、君らで決めるべきなのだからな」

 ルル「ありがとうございます……」ペコリ

 ミレイ「でも、ほんとに良かったわね、」
     「総督がナナリーちゃんを見てくれるって……」

 ルル「ええ……覚悟をして思い切ってみましたが、結果が出せて幸いです」ニコッ
    「勿論、ナナリーへの恩義は忘れておりません、いずれは何らかの」
    「形で、お返しを、必ず……」

305: 2014/05/29(木) 19:59:37 ID:wTEdJYLY
.
 ミレイ「それは気にしなくていいんだって!」
     「ね、おじいさま?」

 理事長「うむ……」コクリ

 ミレイ「それよりもさぁ……」
     「……ねえ、ルルーシュ?」

 ルル「何ですか?」

 ミレイ「…………このことも、覚悟してたの?」チラッ…

 ルル「ああ……」チラッ…

306: 2014/05/29(木) 20:00:16 ID:wTEdJYLY
.
彼らが横目で見た理事長室の窓の外には、学園の生徒たちが物珍しそうにピタリと
貼りつき、中を覗き込みながらわいわいと騒いでいた。

先日の報道で、氏んだと思われていた元皇族であるルルーシュが生存していて、
妹と共に政庁を訪れたことが報じられて以降、ずっとこんな状態なのだ。


 ルル「……してなかったですね……」ハァ…

 ミレイ「どうする?」
     「クラブハウスからよそに移る?」

 ルル「それはいいです、寝床にまで入って来るわけじゃないですし」
    「俺は、今までどおりの生活をするだけですよ」ニコッ

307: 2014/05/29(木) 20:01:02 ID:wTEdJYLY
.
 ミレイ「そうお?」
     「ン……ならいいけどね……」ニコッ


元々、生徒会の副会長でもあり、またそのキャラクターとルックスから人気のあった
彼だが、その上元皇太子ともなれば人気が加熱するのは当然ともいえた。
今では、彼の一挙手一投足が話題の的であり、連日彼に好意を寄せる女性が
押し寄せては騒ぎをおこす有様。

……当然、シャーリーはそれが面白くない。


 シャーリー(……私だけのルルだったのに……)ブチブチ

 ルル「……何をスネてるんだ?」

308: 2014/05/29(木) 20:01:38 ID:wTEdJYLY
.
 シャーリー「スネてません!」プイ!!

 ルル「わからないな……」フゥ…
    「今もこうして、お昼は屋上で君とだけ過ごしてるし……」

 シャーリー「……ルルは鈍感だからねー、」
        「ちょっとわかんないかもねー!」ムスッ

 ルル「……その卵焼き、うまそうだな」
    「ひとつくれないか?」ニコッ

 シャーリー「あげません!」プイ

 ルル「なぜだ……前はくれたじゃないか……」

309: 2014/05/29(木) 20:02:33 ID:wTEdJYLY
.
 シャーリー(……この屋上を、何十人もの生徒に双眼鏡とかで見られてて、)
        (どうやってイチャつけっていうの!)プンスカ!!


そう、彼女との仲は公認状態だったため、それを邪魔する奴は許さないと彼が
言いきったおかげでこういう時間も今までどおり維持できたのだが、その代わりに
周囲にはものすごい数のギャラリーが渦巻くようになってしまった。


 シャーリー(うー……ルルとイチャイチャしたい~……)

 ルル「シャーリー……」ス…ッ

310: 2014/05/29(木) 20:03:19 ID:wTEdJYLY
.
いつも通り、自然に彼女の肩に腕を伸ばすルルーシュ。

その途端、周囲300m四方に存在するものすごい人数から発せられた、悲鳴の
ような、呪怨のような空気が屋上をもわあっと包み込む。


 シャーリー「……」ペシッ

 ルル「いて!」

311: 2014/05/29(木) 20:03:59 ID:wTEdJYLY
.
■ゲットー内 騎士団アジト ─────

 玉城「……プッ!今あいつ、手をはたかれたゼェ!?」ケラケラ

 藤堂「うむ……」

 扇「おい、彼もおふざけでやってることじゃないんだ!」
   「そういう見方は控えろよ?」

 玉城「わーッてるッてェ!」アヒャヒャヒャ

 カレン(……シャーリーが、ルルーシュの恋人だったのね……)ムスッ

312: 2014/05/29(木) 20:05:05 ID:wTEdJYLY
.
いま彼らは、トップクラスの幹部専用のミーティングルームで、租界のTV局が報道して
いるニュースを皆で見ていた。
今日の昼間、屋上でルルーシュが彼女に手をはたかれたシーンは、その晩には
「元皇太子 恋は前途多難!?」というタイトルでニュースのワンカットで放映される。

……もちろん、そう仕掛けたのはシュナイゼル達だ。
最初は彼の生存を報道させ、その生い立ちや今の状況などを公表させた。

だが、これが実際に話題になりスポンサーもつき始めると、TV局は新たなスターを
発掘したかの如く、彼の日常を勝手に追い始めたのだった。
今ではこうして、番組内に「元皇太子コーナー」までできているのだ。


 カレン(「イレヴンをビックリドッキリ!」よりタチが悪い番組だわ……)ムスッ

313: 2014/05/29(木) 20:05:46 ID:wTEdJYLY
.
 藤堂「改めて言うまでもないが、彼がゼロだという事は今ここにいる我々しか知らない」
    「決して漏らさぬよう、肝に銘じてくれ」

 扇「勿論だ」

 玉城「あいよッ!」

 南&井上「……」コクリ

 カレン「でも、ほんとにここまでの騒ぎ、予測してたのかしら……」
     「……ったく、あんなにデレッとして……!」ムスッ

314: 2014/05/29(木) 20:06:32 ID:wTEdJYLY
.
映像では、そっぽを向いたシャーリーに必氏に話しかけるルルーシュの姿が、
愉快なBGMやナレーションと共に流れていた。
カレンの顔を見た玉城は、例によって彼女をからかう。


 玉城「……おやァ?随分と不機嫌そうじゃねェの、カレンちゃーン?」

 カレン「わたしは、騎士団の総司令の、あんな姿を見たくないって言いたいの!」

 扇「……カレンがそう思うほどなら、彼の計画通りってことだな」フッ…

 藤堂「うむ」コクリ

 カレン「……まあね」ムスッ

315: 2014/05/29(木) 20:07:17 ID:wTEdJYLY
.
 扇「……」ニヤッ
   「彼の目論見通りなら、いずれはこのバカ騒ぎも収まるだろう」
   「それまでにやらなければいけないことがある」

 藤堂「うむ……ゼロは?」

 扇「ああ、もうじき……」


その時、部屋の壁の一部が音もなく滑って開き、中からゼロとC.C.が姿を現した。
彼等は何も言わず、すぐそばにあった席に座ると、皆と一緒にTVを見る。


 ゼロ「ふむ……今日は卵焼きだったのだな」

316: 2014/05/29(木) 20:07:57 ID:wTEdJYLY
.
 玉城「え!?ンまさか、アレも影武者なのかァ?」ギョッ!!

 ゼロ「そうだ」コクリ

 藤堂「大したものだ……」
    「もはや、本人以外にはわからないな」ニヤリ

 カレン(……そっか……)
     (今日は"お仕事"に集中してたのね……)ジー

 ゼロ「会議を始める前にひとつ確認をしておきたい」
    「ディートハルトはどうしている?」

 藤堂「やはり相当不満に思っているようだ」
    「常に君の傍にいたがってるからな」

317: 2014/05/29(木) 20:08:47 ID:wTEdJYLY
.
 ゼロ「ふむ……だがこれまで同様、彼は"ランクA"だ」
    「"ランク0"をこれ以上増やす気はない」

 玉城「……おう」


ゼロの言葉に、神妙にうなづく玉城。

ランクは、彼の正体にどれだけ近い存在であるかを示す、新しい区分けだ。
ランク0(ゼロ)が、今この部屋にいる者達……その正体を知り、彼に忠誠を
誓う者のみが得られるランクであり、ゼロが今言ったようにこれ以上増える
ことはあり得ない。

318: 2014/05/29(木) 20:09:24 ID:wTEdJYLY
.
組織内での限りない特権があるが、秘密が漏れる危険が訪れた場合は
真っ先に殺される存在だ。ランク0の存在自体、ごく限られた者たちにしか
知らされていない。

そして、その他の団員が成れる、公式のランク最高位がランクAだ。
この部屋に入れないこと、ゼロの正体を決して知ることができないこと以外は、
ランク0にかなり近い権限を与えられる。
ディートハルトはランクAとなったが、0でないことが不満というわけだ。


 ゼロ「理由を言う必要もないからな、」
    「当然だ、とだけ答えろ」

 扇「わかった……」コクリ

 ゼロ「……さて、"とある学生の日常"はもういいだろう」…プチッ
    「今日の議題は、中華連邦の動きだ……」

320: 2014/05/30(金) 21:32:55 ID:Z9fVrQ1U
.
■クラブハウス 深夜 ─────

アジトでの会議を終えたゼロとC.C.は、地下水路を通ってアッシュフォード学園の
クラブハウスまで戻る。廊下の明かりもつけないままに、二人は静かに、二階の
ルルーシュの部屋の前までゆくと扉を開け、中に入った。

部屋の中のベッドでは、誰かが眠っていた……ルルーシュだ。
彼は、人の気配に目を覚ますと、やはり明かりをつけないままそっと身体を起こす。
部屋に入った二人の姿を認めると、彼らは互いに頷きあい、隣のC.C.の部屋へ
入っていった。

……C.C.の部屋は間取りが小さく、また窓がない。元々、ルルーシュの部屋の
物置の扱いだったからだ。彼等は静かに扉を閉めると、部屋の明かりをつける。
三人は、互いを面白そうに見ていた。

321: 2014/05/30(金) 21:33:49 ID:Z9fVrQ1U
.
 ルル「……お疲れ様です、今日の会議はどうでしたか?」

 C.C.「……」クスッ

 ゼロ「君の言う通り、現状の確認と報告だけだった」
    「内容は録画があるので、後で確認してくれ」コクリ

 ルル「そうですか……」コクリ
    「……すっかり板についたな、そのしゃべりも」ニヤリ

 ゼロ「だいぶ成りきれてきました」
    「でも、やはり緊張しますね……」…カポ

322: 2014/05/30(金) 21:34:34 ID:Z9fVrQ1U
.
ゼロはそう言うと、仮面を外した。中から現れたのは……咲世子だった。
今日、学園にいたルルーシュは本物で、騎士団にいたゼロが偽者だったのだ。


 ルル「こちらは、結局シャーリーの機嫌をとれなかったよ……」
    「やはり一度、デートを立案しなければ状況の好転は望めないようだ」
    「次に俺になる時は、その前提でいてくれ……」
    「あと、卵焼きは食べたそうにすることも忘れずにな」ニッ

 咲世子「騎士団では、どなた様も、私が偽物だとは思わなかったようです」ニコッ
     「映像のルルーシュ様が偽物だと信じこまれたようですし……」
     「藤堂様は『もはや本人以外にはわからない』とおっしゃっていました」

323: 2014/05/30(金) 21:35:26 ID:Z9fVrQ1U
.
 ルル「そうだ、彼の言う通りだ」ニヤリ
    「それこそが目的だからな……」

 C.C.「全く……お前の代わりはともかく、ゼロの代わりまでさせるとはな……」
    「ゼロとしての判断を仰がれたらどうするんだ?」

 ルル「考えておく、でもいいし、お前が助け船を出せるなら出せばいい」フン
    「尤も、そういうことがない時に限るけどな」

 咲世子「C.C.様も、ゼロを演じられる時があるというお話ですが?」

 ルル「C.C.に頼む時は、存在していればいい時だけだ」
    「こいつに演技は期待できんからな……」…チラッ

324: 2014/05/30(金) 21:36:33 ID:Z9fVrQ1U
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 C.C.「……言うじゃないか、坊や?」ムカ

 ルル「咲世子みたいに、声色まで真似できないだろう?」ジロッ

 C.C.「物の言い方というのがあるだろう……」ギロッ
    「……年上への礼儀というものを教えてやろうか?」

 咲世子「お二人とも……お静かに願います」コホン


思う通りに事態が進んでいるのが楽しいのか、彼らはまた、前のように口ゲンカを
することが増えてきた。咲世子は軽くたしなめる。

325: 2014/05/30(金) 21:37:18 ID:Z9fVrQ1U
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 C.C.「……ふん」

 ルル「……フン、まあいい」
    「ここしばらくの"実験"は、ほぼ成功だな」

 咲世子「はい……」ニコッ
      「ルルーシュ様ご自身は勿論のこと、私がルルーシュ様を演じたり、」
      「あるいはゼロを演じた場合でも……」
      「……偽物か、本物かを見破った人物は、皆無でした」

 ルル「……C.C.、お前はどうだ?ん?」ニッ

 C.C.「……いちいち癇に障る男だ」フン
    「私も、二人が同じ室内にいる時は、ゼロの中身がどちらなのか、」
    「判断に困る時があるよ」

326: 2014/05/30(金) 21:38:16 ID:Z9fVrQ1U
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 ルル「そうか……最高の確証だよ、C.C.」ニコッ
    「これで俺は、俺であることを知られながら、同時に俺ではなくなった……」
    「……身柄を拘束されない限り、な」

 C.C.「ゼロは元々、その心配はない」
    「そしてルルーシュ・ランペルージも、メディアに姿をさらけ出したことにより、」
    「当局に秘密裡に拘束される可能性は限りなく低くなった」

 ルル「ああ……全て、計画通りだ……」ニヤッ

327: 2014/05/30(金) 21:38:55 ID:Z9fVrQ1U
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神根島から帰路についた潜水艦の中で、彼が得た挫折感および危機感は、
彼に変革をもたらした。

彼は、かけがえのない存在であるナナリーを"捨てる"ことで、代わりに咲世子という
オールマイティを存分に活用できる環境が整った。
彼は、ルルーシュ・ランペルージとゼロが同時に別々の場所に存在する、という
状況を……あるいは、二人のゼロが同時に別の場所に存在することをすら、
演出できることになった。

こうなると、捕まえて正体を確かめてみるしかない。
だが、ルルーシュ・ランペルージというただの学生を……しかも、元皇太子を、
いかに帝国とはいえ簡単にさらうわけにはいかない。ましてや彼は、自分たちが
世間に晒し出してしまったのだ。相応の理由というものが必要になる。

328: 2014/05/30(金) 21:40:11 ID:Z9fVrQ1U
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 ルル(おまけに……だ、万が一俺が捕まっても、咲世子やC.C.も同時に)
    (捕まらない限り、ゼロは出没し続けるのだ)
    (そうなると、いつまでも拘留するわけにいかなくなる……)

    (俺が敗北する時は、本物のルルーシュであり、且つゼロの正体である俺が)
    (捕えられ、さらに他の偽ゼロを偽ゼロだと言い切れる証拠すら奴が手に入れた)
    (場合のみだ……)

    (クク……そんなもの、俺自身にすら不可能だ)
    (もはや盤石……狂いなし……!)

329: 2014/05/30(金) 21:40:48 ID:Z9fVrQ1U
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……ルルーシュは、今この瞬間に初めて、シュナイゼルにチェスでチェックメイトを
かけた気分であった。盤上ではキングが追い詰められているように見えるが、実際は
キングは盤外におり、盤そのものを包囲しようとしているのであった。


 ルル「咲世子、これも数奇な運命、と言うべきなのだろうな……」
    「……君がいなければ、この作戦は成立し得なかった、感謝している」

 咲世子「勿体なきお言葉です……」ニコッ
      「さあ、もう夜も更けました……お二人とも、そろそろお休みになられては?」

 C.C.「ふあああ……私はすぐにでも眠るよ」
    「ルルーシュ、部屋を出る前に私にも感謝の気持ちを示していけ」ニヤッ

330: 2014/05/30(金) 21:41:31 ID:Z9fVrQ1U
.
 ルル「何だと?何かあったか?」ジー

 C.C.「……ほら、あれだ、大事なものは……」

 ルル「……真っ先に食べろ、か?」
    「お前はいつもそれだな……」フゥ…

 C.C.「違うそれじゃない!///」
    「ほら、ナナリーの…………ってお前、わかっているだろ!?」

331: 2014/05/30(金) 21:42:04 ID:Z9fVrQ1U
.
 ルル「咲世子、静かに目立たないように出るぞ」テクテク、ガチャ

 咲世子「電気を消しますね」パチコン
      「お休みなさいませ、C.C.様」テクテク…パタム

 C.C.「あっ、ちょ……おい……!」
    「…………くそっ、感謝くらいしろ、バカが……」


ふてくされたC.C.は、寝る前に隣の部屋側の壁に本をぶん投げる。
だが、本が当たった音にも何の反応も示さないので、むくれた表情のまま、
ベッドに潜り込むのだった……

335: 2014/06/01(日) 22:45:55 ID:SONNQ.3U
.
■租界内 貿易商事務所 夕刻 ─────

ルルーシュの置いていった薬と、様子を見に来るシャーリーのおかげで、スザクは
"リフレイン"の中毒から逃れつつあった。
ここに入れられた時はいつも"リフレイン"の事ばかりを考えていたが、今朝などは
起きてしばらくTVを見ていて、そういえば薬をまだ飲んでなかった、と気づいたくらい
である。

彼女とは、ここ数日で色々なことを話した。
中でも彼が一番気になっていた、ゼロに対する"赦し"の気持ちについて、彼女に
尋ねてみたところ……

336: 2014/06/01(日) 22:46:57 ID:SONNQ.3U
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~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 シャーリー「ううん、許してないよ?」キョトン

 スザク「ええっ!?」

 シャーリー「でもわたし、ルルが好きだし……」
       「ルルの、世界を変えたい、って気持ちはすごくわかったの」

 スザク「……」

 シャーリー「……だから今は、しっこうゆうよ?ってやつ?」
       「ルルが、ほんとに世界を変えちゃったら……」
       「その時初めて、ほんとうに許してあげるの!」ニコッ!!

337: 2014/06/01(日) 22:47:43 ID:SONNQ.3U
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 スザク「そうか……」

 シャーリー「それまで、ルルをずっと傍で見続けるつもり……」
       「……実はね、ルルを主人公に、お話を書いてるんだけどね、」

 スザク「お話?記録ってことかい?」

 シャーリー「ううん、お話!作り話だよ!」
       「子供にも読めるような童話!」

 スザク「へえ……面白そうだね」ニコッ

 シャーリー「ふふっ……これは、ルルには内緒だよ?」
       「ルルがどうなるかで、お話も変わるから……」
       「私も、どういう結末になるのか、まだぜんぜんわからないの!」

338: 2014/06/01(日) 22:48:32 ID:SONNQ.3U
.
 スザク「……ハッピーエンドになるといいね」ニコッ

 シャーリー「うん!」ニコーッ!!


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

……彼女なりの"ケリのつけ方"を聞き、スザクはユーフェミアのことを想った。
もし、別れを告げたら、彼女はどう思うのだろうか……
嘆くだろうか、それともシャーリーのように、強い心で前に進もうとするだろうか。


 スザク(ふっ……いつまでも、何を考えているんだ、オレは!)
     (もう答えは出ている、彼女とは……)

339: 2014/06/01(日) 22:49:28 ID:SONNQ.3U
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その時、事務所の扉のカギががちゃりと回る音がした。
続いて電子ロックの解除音も響く。少しの間の後で、扉が開いた。

扉を開けて入ってきたのは……サングラスをした、金髪の学生だった。
アッシュフォード学園の制服を来た彼は、肩までかかる髪を手ではらうと、黙って
スザクを見つめた。


 学生「…………」ジー

 スザク「……あの、誰、ですか……?」

 学生「……ふむ、これだけでも意外といけるな」ニヤリ

 スザク「え?」

340: 2014/06/01(日) 22:50:25 ID:SONNQ.3U
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スザクの反応を見て笑った学生は、サングラスを取り、髪を両手で持ちあげた。
金髪だと思っていたのはカツラ……中身は、ルルーシュだった。


 ルル「……本当に俺だと思わなかったのか?」

 スザク「いや、だって君、金髪でも長髪でもないし……」

 ルル「まあそうだな」ニッ
    「近々、ある"作戦"があるのでな、ちょっとお前で試させてもらった」

 スザク「変装か……」

 ルル「実際はもっとすごいことをやる」
    「……スザク、待たせたな、調子はどうだ?」

341: 2014/06/01(日) 22:51:24 ID:SONNQ.3U
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 スザク「ああ、おかげさまで……」
     「君にも、シャーリーさんにも迷惑をかけて……済まなかった」

 ルル「いいさ、俺たちの仲じゃないか」ニッコリ

 スザク「……」ニコッ


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

ルルーシュは、コーヒーを二人分淹れると、テーブルにつく。
カップを貰ったスザクも、その前に座った。

342: 2014/06/01(日) 22:52:13 ID:SONNQ.3U
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 ルル「この事務所だが……近日中に閉鎖する予定だ」

 スザク「随分と急だね?」

 ルル「ああ……風雲急を告げる、という奴だ、」
    「じきにここには足を運べなくなるからな、勿体ないが、店じまいをする他ない」

 スザク「???」

 ルル「お前が今持っているケータイは返してくれ」
    「代わりにこのケータイを渡す……ブラックカードってやつだ、」
    「多重債務した破産者が契約したもので、身元はバレない」スッ…

 スザク「……わかった」パシッ

343: 2014/06/01(日) 22:53:03 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「………………スザク、」

 スザク「……何だ?」

 ルル「…………」
    「……俺は、ナナリーを連れ、コーネリアに逢いにゆく」

 スザク「……え!?」
     「そ……それは、一体どういうことだ!?」

 ルル「……身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ、って言うだろう?」ニコッ
    「ただ、その影響でここも潰すことになる」

 スザク「……」

344: 2014/06/01(日) 22:54:14 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「そして、お前のことだ……」ジッ…


ルルーシュは、そこで言葉を止めると、スザクの顔を静かに見つめる。
彼が何を言いたいのか、スザクには全くわからなかった。


 スザク「……オレのこと?」

 ルル「……道を選べ」
    「俺につくのか、それともブリタニアに……ユフィにつくのか……」

 スザク「!?」

345: 2014/06/01(日) 22:55:06 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「もし、お前がユフィにつきたいと願うなら、俺がコーネリアに」
    「とりなしてもいい……あるいは、お前はまた、ブリタニア軍に」
    「戻ることができるかもしれん」

 スザク「き、君は……!?」

 ルル「ただしその場合、お前との関係はそこまでだ」
    「今までお前が俺について知ったことは、"忘れてもらう"……」
    「……お前は、俺にとっての、ただの幼なじみに戻る」

 スザク「……」

346: 2014/06/01(日) 22:56:06 ID:SONNQ.3U
.
彼はそう言うと、目を閉じた。
自分の言葉の意味を、スザクが頭の中で理解するのを待っているようだった。
やがて、ルルーシュは瞼を開くと、言葉を続けた。


 ルル「……そうでなく、俺につくのならば、俺は歓迎する」
    「騎士団では"ランク0"の扱いをするし、お前のために部隊を設ける」
    「いま開発中の新たな機体も、お前に真っ先に回す」

 スザク「……」

 ルル「カワグチ湖のホテルの件で思ったが、お前は、間違いなくエース級の」
    「腕前を持っている……」
    「すでにいる俺の精鋭たちと合わせれば、騎士団はこれまでになく、」
    「強力な戦闘力を保持できるはずだ」

347: 2014/06/01(日) 22:57:29 ID:SONNQ.3U
.
 スザク「……ただし、その場合?」

 ルル「ああ……ユフィとはお別れだ」
    「だが、元々お前は、名誉ブリタニア人の地位もはく奪された者だ……」
    「このままでは、どう足掻いてもユフィの味方にはなれまい」

 スザク「…………」


冷酷に、スザクの悩みを切って捨てるルルーシュ。
その口調に、今までの彼とは違う響きをスザクは感じた。


 スザク「……何があったんだ?」

348: 2014/06/01(日) 22:58:18 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「……言っただろう、スザク?」
    「どちらかを選ばない限り、俺はそれに答えることはできない」

 スザク「……君がゼロだってことがバレたのか?」

 ルル「…………」プイ…ッ


ルルーシュはその問いに答えることなく、静かに窓の外に目を逸らした。
彼の性急な行動や自分への決断の迫り方から、スザクはただならぬ事態が
起きているらしいことを察する。

しかし……

349: 2014/06/01(日) 22:59:06 ID:SONNQ.3U
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 スザク「……決めろ、と言われても……」
     「今までのオレのやり方を続けることはできないというのか?」

 ルル「できなくなる」

 スザク「……それは、君が名乗り出るからか?」

 ルル「そうだ」
    「だから、その代わりにとりなしをしてみると言っている」

 スザク「……オレは、別に……」

 ルル「決断しろ、スザク!」
    「贖いのためでなく、人のためでもなく、お前のために決断をしろ!」

 スザク「!!」

350: 2014/06/01(日) 22:59:51 ID:SONNQ.3U
.
極めて強い口調でスザクに迫るルルーシュ。
彼の気迫にスザクは気圧され、自然と視線が落ちた。
そのようなスザクの様子に気づき、彼は少し優しい口調に戻る。


 ルル「……俺が、ナナリーを大切にしていることは知っているよな」

 スザク「ああ……」

 ルル「これまでも俺は、そのことを第一に考え、行動してきたつもりだった」
    「……でもな、もう行き詰ったんだ」

 スザク「……」

351: 2014/06/01(日) 23:00:43 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「どうしようもない、と絶望に陥ったんだが、その時に思ったのさ、」
    「俺がいなくてもナナリーが幸せであるなら、それでいいじゃないか、と」

 スザク「……お前……!」

 ルル「コーネリアには、ナナリーのことを本気でお願いするつもりだ」
    「その意味を、彼女が察するかどうかはわからないが、」
    「少なくともナナリーだけは大切に扱ってくれるだろう……」
    「……そういう覚悟なんだ」

 スザク「……そういうことか……」

 ルル「ああ……だから、お前も決断をしてくれ」
    「ただし、傍観者を気取るのは俺が許さない」

352: 2014/06/01(日) 23:01:37 ID:SONNQ.3U
.
 スザク「……」

 ルル「俺は、お前が欲しい」
    「だが俺の下に来ないと言うなら、その意思は尊重する」


ルルーシュはそう言うと、スザクの目を正面から見据えた。
どうやら、返事を後日まで待つ気はないようであった。
スザクは、俯きながらルルーシュに尋ねる。


 スザク「……お前、オレが必要なのか……?」

 ルル「そうだ」

353: 2014/06/01(日) 23:02:37 ID:SONNQ.3U
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 スザク「……なぜだ」

 ルル「なぜだ……だと?」
    「……フフ……」

 スザク「……?」

 ルル「……それは、想定外の質問だった」ニヤリ

    「ふむ、そうだな…………同情?……友情?……意地?」
    「いや、どれも一部でしかない……」

 スザク「……」

354: 2014/06/01(日) 23:03:29 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「…………こう言うべきかな、」
    「俺は、お前と組めば、できない事は何もない、と信じているからだ」


スザクは、その言葉にハッとする。
ゆっくりと顔を上げると、ルルーシュの力強い視線とぶつかった。
彼は、あの日……人質として日本に送られた日、スザクと出会った時の……
自分が妹を守るんだ、という強い意志を秘めた、あの目をしていた。

と同時に、スザクの脳裏には、ユーフェミアの笑顔が再びよみがえる。
ここで決めたら、本当に二度と、彼女には会えなくなるかもしれない。
それどころか、騎士団に入ることになれば完全に敵となる。
己の手で、彼女の胸に、剣を突き立てる日が来るかもしれないのだ。

355: 2014/06/01(日) 23:04:22 ID:SONNQ.3U
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……スザクは、再び視線を落とすと、深い懊悩の中に沈み込んだ。
ルルーシュは何も言わず、彼の答えをただ待ち続ける。
静かな夕暮れの中、時計の秒針が刻む音だけが、ひそかに室内に響く……


 スザク「……ルルーシュ、」


10分も経過しただろうか……スザクはようやっと顔を上げた。
今から口にする言葉に、全ての責任を負う覚悟ができた顔だった。

どういう答えであろうと、ルルーシュはその意思を尊重する気であった。
だから、何も言わず、ただ黙って聞いていた。

356: 2014/06/01(日) 23:05:16 ID:SONNQ.3U
.
 ルル「……」

 スザク「オレは……」


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~

 C.C.「……息を吹き返したな、奴は」
    「まさか、妹をブリタニアに預けるとは……」ポーン ポーン


……クラブハウスの、誰もいないルルーシュの部屋の中でC.C.は、ベッドにねそべり、
チーズくん人形を高い高いしながらひとりごとを……否、明らかに誰かを相手にして、
楽しそうにお喋りをしていた。

357: 2014/06/01(日) 23:06:05 ID:SONNQ.3U
.
 C.C.「……同じ、か?……お前たちと同じ道を選んだ?」
    「私には、全く異なるように見えるが……」

    「…………まあ、わからないだろう」クスッ
    「それがわかるなら、お前たちの所に戻るよ」クスクス


彼女はそう言うと、落下してきた人形をキャッチし、腕の中に抱きしめた。
そうして、うっすらと微笑を浮かべながら、己の首筋に、そっと指を触れる。

358: 2014/06/01(日) 23:06:56 ID:SONNQ.3U
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 C.C.「ふふ、今思い出してもぞくぞくする……」
    「あいつは、私の首を絞めたんだ……激情に任せ、力に任せてな……」

    「……恐怖?もちろん感じたさ、」
    「"氏"は何度経験しても慣れるものじゃない……」クスッ…

    「だが、我を失っていたことに気付いた時の、奴の顔……」
    「そして、奴が悔し涙を流したのを見た途端、そんなものは消し飛んでいたんだ」
    「ああ、やはりこいつなんだな、って思ったのさ……」

359: 2014/06/01(日) 23:07:48 ID:SONNQ.3U
.
天井を見つめているC.C.の目が、さらに細くなった。
うっとりとした表情で、彼女は小さく呟く。


 C.C.「……ルルーシュに、殺されたい……」


……しばらくの後、C.C.は"相手"が去ったことに気付く。
彼女は小さく笑うと、人形を抱きかかえたまま横向きに寝転がる。
いつもルルーシュが座っている椅子を見つめながら、誰ともなく言葉を口にする。


 C.C.「……いつ、話そうかな……」
    「私の、望みを……」

360: 2014/06/01(日) 23:10:41 ID:SONNQ.3U
.
彡 ⌒ ミ  C.C.覚醒篇、完了です。
(´・ω・`) 次セクションもここで継続いたします。 脱毛!

361: 2014/06/01(日) 23:26:17 ID:Nj8hzPSM

スザクの分岐が気になる

362: 2014/06/02(月) 02:11:05 ID:se29BLq.
乙です

カレンがコンクエスターとはいえジノに負けるってのは考え難いなぁ(;^_^A

引用: C.C.「わ、私がシOタコンだと!?」マリアンヌ「クスクス」