1: 2011/06/15(水) 01:46:20.00 ID:ho8EPbo50
※この作品はフィクションです。実在の人物、番組、ゲームなどにはいっさい関係ありません※
台本形式だったり地の文だったりします。
2: 2011/06/15(水) 01:46:52.46 ID:ho8EPbo50
ラジオ『背伸び寝転びクッション完備』
ラジオ『あなたに届けるお喋りセラピー』
ラジオ『はじまるよっ!』
垣根「はぁー、木曜日はやっぱりこれだよなぁ…」
ラジオ『豊崎愛生のおかえりらじお』
ラジオ『みなさん、おかえりなさい。豊崎愛生です』
垣根「ただいま」
ラジオ『さぁ、この番組はお疲れモードで帰宅した貴方を私、豊崎
愛生がおかえり!っとお出迎え』
ラジオ『心通わすほっこりトークで、溜まった疲れをゆる~りとほぐしてしまおうというリアルタイムプログラムです』
3: 2011/06/15(水) 01:47:41.75 ID:ho8EPbo50
ラジオ『9月最後じゃん!今日!』
ラジオ『おかえりラジオは半年になりました♪』
垣根「はぁ…冒頭だけでも超癒されるぜ……」
心理「ねぇ、」
垣根「うるせぇなぶっ頃すぞ出てけ」
心理「……」イラッ
心理(ピンセット強奪が迫ってるっていうのに、ふざけないでよ)
スタスタ
バタン
垣根(もっとドアゆっくり閉めろよ。音うるせぇだろクソが…!)
4: 2011/06/15(水) 01:48:55.63 ID:ho8EPbo50
ラジオ『今日はぁ、リスナーの皆さまに何を聞きたいかっていうと』
ラジオ『許せない食べ物!を聞きたいと思います』
垣根「メール送るか」メルメル
垣根「読まれないかなぁ……」
ラジオ『まずはDillの話をしますね!』
垣根「きたきたきた!え、クラムボン!?愛生ちゃんすげぇ!!」
ラジオ『え、じゃあここで一曲お届けしたいと思います』
ラジオ『発売日は11月10日です!』
ラジオ『豊崎愛生でDill!』
ラジオ<~♪~♪
垣根「うおおおお!!なんだこの曲、神曲じゃねぇか…」
垣根「やべぇ…はやくCD欲しいぜ……」
垣根「とかくに感想メール送るか」メルメル
垣根「けいおん!の映画も楽しみだ。舞台挨拶とかあんのか?」
垣根「ちょ、なんだ今の声…可愛すぎんだろ…」
垣根「アキオきたーーー!!!」
垣根「やっべぇwww腹いてぇwww」
5: 2011/06/15(水) 01:50:12.01 ID:ho8EPbo50
ラジオ『番組中に届いたお便りもどんどん読んでいきますね!』
ラジオ『おかえりネーム、“ゼロさん”からです。いつもありがとねー!』
ラジオ『“豊崎さん、ただいま”』
ラジオ『おかえり!あ、これ今日のテーマですね』
ラジオ『“僕の許せない食べ物はシャケ弁です”』
ラジオ『えぇー、なんで?美味しいよねぇ?シャケ弁。私好きですよ?』
ラジオ『“なぜなら、今の上司がシャケ弁が好きだからです”』
ラジオ『“その上司は僕にとても厳しく横暴です”』
ラジオ『“しかもファミレスで店のメニューを頼まずシャケ弁を貪ってます”』
ラジオ『へへっへぇー!すごー!普通、そんなこと出来ないよ、おもしろーい、ふふふぇっ』
ラジオ『“店員は慣れているのか何も言ってきません。そして周りのお客さんの目が痛いです”』
ラジオ『“そのせいでシャケ弁を見ると上司を思い出してしまいます”』
ラジオ『“シャケ弁は悪くないと分かっているのですが、ストレスを感じてしまうので許せません!”』
ラジオ『上司が嫌なんだぁ…。どんなお仕事してるか分からないけど、大変そう…』
6: 2011/06/15(水) 01:52:15.22 ID:ho8EPbo50
ラジオ『厳しくて横暴か…。でも、厳しいっていうのは嫌なことばかりじゃないと思うんですよ』
ラジオ『確かに自分ばかりに厳しいと心折れちゃうよね』
ラジオ『でもねでもね、厳しいっていうのはゼロさんに期待してるからだと思いますよ?』
ラジオ『だってさ、考えてみて』
ラジオ『何も出来ない人には誰も期待なんかしないでしょ?』
ラジオ『上司の厳しさは期待の裏返しなんですよ!』
ラジオ『と、私は思いますねー。お便りありがとうございました!』
垣根「読まれなかったか…。つーかこのゼロってやつ、最近よく読まれてるよな……羨ましい」
ラジオ『次のお便りは、私生活のことですね!これはおんにゃのこからですね!!』
ラジオ『おかえりネーム“つぼつぼさん”ありがとうございます』
ラジオ『“あきちゃんただいま”おかえり~』
ラジオ『“私は今好きな人が居ます。でも何をどうしたらいいか分かりません”』
ラジオ『いいね!いいねこういうの!!…すいません、ちょっとテンション上がっちゃった、ふえへへへ』
垣根「恋バナでテンション上がるなんて……女の子らしいじゃねぇか……可愛い……」
7: 2011/06/15(水) 01:54:00.14 ID:ho8EPbo50
ジオ『“好きな人は同じ職場の人なんですが、職場には魅力的な女の人がたくさん居ます”』
ラジオ『“なので心配です。あきちゃん、助けて”』
ラジオ『おー…恋愛相談ですよ!?恋愛相談!』
ラジオ『おかえりラジオで恋愛相談なんて前代未聞じゃないですか!?』
ラジオ『えーっとねぇ、とにかく優しくしてあげればいいんじゃないですかね!』
ラジオ『ぜんぜん、アドバイスになってないー…すいません。でも応援してるよ!』
ラジオ『良い報告まってるよー!』
ラジオ『こういうお便りもいいですよね。じゃんじゃん送ってきて下さい!』
垣根「……また読まれなかった」
ラジオ『もう一つ!生放送中に届いたお便りです』
ラジオ『おかえりネーム“オジギソウさん”です。ありがとう』
ラジオ『“豊崎さん、ただいマカロニ”。おかえリンゴ!』
ラジオ『“Dill初めて聞きました!すっごい良い曲で興奮しました!”』
ラジオ『“発売日まで待てません!”』
ラジオ『本当にありがとうござます!Dillの感想、たくさん来てますよー』
8: 2011/06/15(水) 01:54:58.46 ID:ho8EPbo50
ラジオ『本当に、本当に、すっごく嬉しいです!』
ラジオ『Dillはヘッドフォン推奨ですよー』
垣根「俺もDillの感想送ったのに…」
垣根「つーか、このオジギソウってやつもよく読まれてるよな…。
しかもおかえりラジオに限ったことじゃねぇし……いいなぁ…」
ラジオ『どんどん、メール読んでいきますねぇ!』
ラジオ『そんなわけで、この番組ではリスナーの皆から話たいこと報告したいことまだまだ募集しています』
ラジオ『ではでは、今週はこれにておしまい!』
ラジオ『豊崎愛生のおかえりラジオ、明日も貴方にとって素敵な一日になりますよーに!』
ラジオ『おやすみなさーい!』
垣根「おやすみ!」
垣根「……」
垣根「もう終わりか…」
垣根「はぁ…一日の疲れが超取れたぜ……」
垣根「でも、またメール読まれなかったな……。ちくしょうッ…!!」
9: 2011/06/15(水) 01:56:11.30 ID:ho8EPbo50
―――翌日
心理「ねぇ、ピンセットのことなんだけど」
垣根「俺が取りに行く。そんでお前は追ってきたやつをどうにかしろ」
心理「ピンセットって一人で持てるの?大きいんでしょ?」
垣根「能力使えば平気だろ。未元物質に常識は通用しねぇからな」
心理「……いい加減ね。そんなので上手くいくの?」
垣根「どうせ他の組織の妨害があんだろ。緻密な計画立てたって無駄だ」
心理「そうだけど…」
垣根「馬鹿共が暗殺騒動に夢中になってれば上手くいく。平気だ」
心理「すぐ気付きそうだけどね。追ってきたらどうするの?レベル5なんて相手にしたくないわ」
垣根「能力使えば逃げるくらいはできるだろ。頑張れ」
心理「はぁ…」
垣根「ピンセットが無事回収できたら合流する。いいな?」
心理「はいはい」
垣根「あと、一番大切なことなんだけど」
心理「なに?」
垣根「当日はおかえりラジオがある。だから時間までには必ず帰るぞ」
心理「…………………………」
垣根「あとは当日まで待つだけだなー。一応ラジオの録音は予約しとくか」
心理「…………………………」
心理「ねぇ、ピンセットのことなんだけど」
垣根「俺が取りに行く。そんでお前は追ってきたやつをどうにかしろ」
心理「ピンセットって一人で持てるの?大きいんでしょ?」
垣根「能力使えば平気だろ。未元物質に常識は通用しねぇからな」
心理「……いい加減ね。そんなので上手くいくの?」
垣根「どうせ他の組織の妨害があんだろ。緻密な計画立てたって無駄だ」
心理「そうだけど…」
垣根「馬鹿共が暗殺騒動に夢中になってれば上手くいく。平気だ」
心理「すぐ気付きそうだけどね。追ってきたらどうするの?レベル5なんて相手にしたくないわ」
垣根「能力使えば逃げるくらいはできるだろ。頑張れ」
心理「はぁ…」
垣根「ピンセットが無事回収できたら合流する。いいな?」
心理「はいはい」
垣根「あと、一番大切なことなんだけど」
心理「なに?」
垣根「当日はおかえりラジオがある。だから時間までには必ず帰るぞ」
心理「…………………………」
垣根「あとは当日まで待つだけだなー。一応ラジオの録音は予約しとくか」
心理「…………………………」
10: 2011/06/15(水) 01:57:26.01 ID:ho8EPbo50
この日をどんなに待ちわびたことだろうか。
今日は、週に一回楽しみしているおかえりラジオの日だ。
違う。間違えた。
今日は、ピンセット強奪計画を実行に移す日だ。
この日の為に、普段はお便りの内容を考えることにしか使ってない頭を必氏に回転させたのだ。
アレイスターへの突破口を必ず手に入れてやる。
腐った学園都市を変えるのは、この俺だ。
心理「順調に進んでるみたいよ。みんな暗殺に夢中だわ」
垣根「分かりやすい目くらましだと思ったが、馬鹿が多くて助かったな」
心理「狙撃手が殺された時は、ヒヤッとしたけどね」
垣根「あんなモン飾りだろ。急いで補充したことを気にされるかもしれねぇけど」
心理「そしたら厄介なんじゃない?施設で足止めされるかもしれないわよ」
垣根「狙撃手をやったのは『アイテム』の連中だ。来るとしたらアイツらだろうな」
戦力ねぇしどうにでもなんだろ、と余裕そうに言う。
そんな彼の横顔は心理定規の不安を和らげさせた。
11: 2011/06/15(水) 01:59:01.06 ID:ho8EPbo50
心理定規は垣根のことが嫌いだ。なぜならキモいからだ。
声優のラジオを熱心に聞く垣根の姿はキモオタそのもので吐き気がする。
前に握手会に行こうとしたが外出許可がおりず本気で涙していた。
これらの行動は、唯一の長所である顔をもってしてもカバー出来ないほどに気持ち悪い。
心理(いつもこういう顔してればいいのに…)
垣根「やべぇな。今すっげぇ愛生ちゃんの声が聞きてぇ」
心理(氏ね)
垣根「そろそろ時間だ。もし他の組織が居たら俺がどうにかする」
行くぞ、と声を掛けられ心理定規は頭を切り替える。
気持ち悪い声オタだけれど、頼りになるのだ。
垣根が学園都市の何が気に喰わないかは知らない。
垣根が学園都市の何を変えたいのは知らない。
でも彼が命をかけてこの街に革命を起こすというのなら、少しくらいは手伝っても良い。
心理「油断しすぎて殺されたりしないでよ」
垣根「ねーよ馬鹿」
下っ端が待機させているステーションワゴンに乗り込む。目指すは素粒子工学研究所。
車の中では“たくさんの奇跡が待ってる こんな何気ない一日”と優しい声が唄っていた。
12: 2011/06/15(水) 02:00:09.01 ID:ho8EPbo50
こんな感じで声オタていとくんの日常を書いていく物語です。
読んでくれてありがとうございます。
読んでくれてありがとうございます。
20: 2011/06/16(木) 02:42:13.44 ID:NUWSiTSU0
警備が手薄になった施設に侵入するのは簡単だった。
張り合いがなくて拍子抜けしたが、計画通りに事が進んでいる証拠だ。
垣根の端整な顔に笑みが浮かぶ。
この調子ならおかえりラジオまでには余裕で帰れそうだ。
と考えた瞬間、ドゴォンという音と共にドアが吹っ飛んできた。
いやドアだけではない。普通では考えられないほどの強力な光線も飛んできた。
その全てを防ぎながら垣根は舌打ちする。
垣根(そんなに上手くはいかねーか…。つーかあいつは何やってんだ)
垣根はスクールの構成員の男の顔を思い浮かべる。
垣根(氏んだのか?まぁ、そんな強いヤツでもねぇし仕方ないか)
目をやると、明るい色の半そで秋物コートを着た女が立っていた。
自分と同じレベル5、第4位の麦野沈利。
垣根「何だ?新手のナンパか?」
麦野「氏ねよクソ野郎。その荷物置いてさっさと失せろ」
垣根「いくら顔が綺麗でも言動が汚いと意味ねぇぞ」
麦野「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇホスト崩れ」
明確な殺意を持った瞳が垣根を射抜く。
それでも余裕そうにしている態度は余計に麦野をイラつかせた。
21: 2011/06/16(木) 02:44:47.87 ID:NUWSiTSU0
麦野「暗殺騒動は囮でそれが本命か。手の込んだことしてるのね」
垣根「それに気付いてわざわざ来てくれるなんて、お前って俺のこと好きなわけ?」
からかうように垣根が言う。
ブチブチィ、という音が聞こえそうなくらいに麦野の顔が歪んだ。
麦野「んなわけねぇだろぉぉぉぉ!!!テメェみてぇなチャラ男に発情する女が居るわけねぇだろうがぁあぁぁぁ!!!」
麦野は垣根に向かって、光線を放つ。
ズバァと空気を切り裂きながら光線は雨のように垣根に降り注いだ。
大きな音を立てて壁が崩れていく。
攻撃を防いだとしても、瓦礫の下敷きになれば氏んでしまうだろう。
いつもならこれで戦闘が終わる。しかし今日の相手はいつもと違うのだ。
垣根「すげぇな。研究所倒壊するぞこれ」
関心したように垣根は言う。
傷など一つもついていない。おまけに先ほどの余裕そうな顔のままだ。
攻撃前と何一つ変わっていない垣根の様子を見て麦野は唇を噛み締めた。
麦野(くそっ……2位と4位とじゃここまで力の差があるのかよ……!)
自分より上の相手と戦うことは前に一度あったけれど、目の前の男はその時とは比べ物にならない。
攻撃を防ぐ時に不自然な風が生じるが、彼の能力はそんなものではないだろう。
垣根「次はこっちの番だよな?」
そう言った瞬間、大きな瓦礫が垣根に向かって飛んできた。
しかし垣根が潰れることはなく代わりに瓦礫の方が粉々に砕けた。
垣根「不意打ちかよ。マナーわりぃな」
絹旗「人を頃すのにそんなもの超いらないですから」
垣根「それもそうだな」
瓦礫が飛んで来たほうに目を向ける。
そこには髪の短い少女が立っていた。
22: 2011/06/16(木) 02:47:07.52 ID:NUWSiTSU0
絹旗「流石は第2位ですね。私と麦野を前にしても超焦らないなんて」
垣根「焦ってるぜ?二人の女から、こんなに激しく迫られたのは初めてだからな」
絹旗「超黙って下さい」
麦野の殺意が膨らむ気配がした。
気が短いなんて女として致命的な欠点だろう。
俺の愛生ちゃんを見習え。
垣根(どうするか…。こいつらは別にどうにでも出来る。でも戦闘に巻き込まれてピンセットが壊れたらまずいな)
垣根(ここは逃げるか。ピンセット回収した後にこいつら潰せばいいし)
垣根(そういや、Dillの初回版は予約したけど通常版はどうするかな…?どうせ欲しくなるだろうし予約しとくか)
アイテムの二人に緊張が走る。
垣根は何かを考えている。自分達をどう処分するかでも考えているのかもしれない。
無防備な行動だが、垣根と二人とではそんな余裕を与えるほどに戦力が開いている。
麦野(クソ野郎が…、何仕掛けて来やがる…)
麦野はいつでも反応できるように、全神経を垣根に向ける。
油断すれば一瞬で殺されるだろう。
しかし垣根は二人に背を向けると、そのまま走って行った。
23: 2011/06/16(木) 02:51:19.69 ID:NUWSiTSU0
不意の行動に麦野は頭がついていかなかった。
どう考えても向こうが有利なこの状況で、垣根が逃げ出すなど思わなかったからだ。
麦野「に、逃げてんじゃねぇぞ!!こっち来て戦え租チン野郎!!!」
光線を打ちながら垣根を追いかける。
攻撃は背中に飛んでいくのに、一つも当たらない。
垣根の周りだけが綺麗に崩れていく。
麦野(私の攻撃を防ぐのに見る必要はないってのか…!)
絹旗「麦野、超待って下さい!無暗に攻撃しては私たちも超危ないです」
そんな声を麦野は無視した。
確かに施設は半分くらい壊れていつ全倒壊してもおかしくない。
しかしそれで垣根が氏ねばラッキーなのだ。そんなことありえないが。
もう一発撃ち込んでやろうと垣根に標準を合わせていると、不意にこちらを向いた。
麦野(不味い!何かしかけて、)
そう思った瞬間、麦野は床に叩きつけられていた。
何をされたかは分からない。自分が攻撃されたことだけしか分からなかった。
垣根「ごめん、車走らせるまで大人しくしててくれ」
軽い口調で言う。命を狙われている自覚が全くないようだ。
そんな態度は麦野をさらにイラつかせた。
麦野(いつ車なんか呼びやがった…!まさか、逃げながら連絡取ってたのかよ…!)
24: 2011/06/16(木) 02:53:05.16 ID:NUWSiTSU0
床に転がったまま、麦野は舌打ちした。
戦力の差が開いていると分かっていたが、ここまでとは。
悔しい。ぶち頃したい。
殺意だけが麦野を支配する。
麦野「絹旗、立て。追いかけるわ」
返事がない。
どうやら小柄な少女は麦野より吹っ飛ばされてしまったようだ。
それでも心配する暇も探す暇もない。
麦野(そういえばフレンダはどうした?建物に潰されて氏んだか?)
建物に入ってから一回も会ってない同僚の顔を思い出した。
まぁいい。今はあっちが先だ。
考えながらゆっくりと立ち上がる。それと同時にステーションワゴンが走り出した。
車の中の垣根と目が合った。
手を振りながらウィンクしている。
麦野(あの野郎っ……!!!!)
麦野は後を追う為に走り出した。
しかしステーションワゴンはスピードをあげ、アイテムの下っ端と緑のジャージの女の横を通り過ぎて行った。
25: 2011/06/16(木) 02:54:47.33 ID:NUWSiTSU0
垣根が窓から後ろを見ると、アイテムがこちらを追いかけようとしていた。
前に向きなおすとタイミング良く垣根のポケットに入った携帯が震えた。
そんな様子を後ろの席から見ている少女が一人。
フレ(ど、どうしよう…)
アイテムの構成員であるフレンダはピンチだった。
麦野達と研究所に入ったのはいい。
別れてスクールを探していたのが……
フレ(変なドレスの女に捕まっちゃうし、しかもあいつの言うことに逆らえなかったし!!)
そのドレスの少女に車に乗れと言われて、スクールのステーションワゴンに乗っているのだ。
前に座っている男は電話で話している。
第2位の垣根帝督。自分がどうにかして勝てる相手じゃない。
垣根「あ?適当に足止めしとけ。頃してもいいから」
フレ「……」
垣根「え?なんで捕まえさせたかったって?」
フレ(やばい!これって私の話じゃん!!!)
垣根「決まってんだろ」
言いながら垣根が振りかえる。
鋭い眼差しと目が合い、フレンダは心臓が停まりそうになった。
垣根「こいつにアイテムの隠れ家を聞き出すためだ」
フレ(あーーーー!!!麦野!絹旗!滝壺!助けてーーーー!!!!)
垣根「じゃあな」
ブチッっと電話が切られる。
ガタガタと震えるフレンダを無視して、垣根は運転手に声をかけた。
26: 2011/06/16(木) 02:59:17.72 ID:NUWSiTSU0
垣根「おい、曲流せ」
運転手「わかりました。本当に好きですよね」
垣根「好きじゃねぇよ。愛してるんだ」
運転手と垣根の会話などフレンダの耳には入ってこない。
後ろを見るとアイテムの車が鉄球で潰されている。
息を飲んでフレンダは窓に張り付いた。
フロントガラスから脱出したらしく麦野、滝壺、浜面の三人がバラバラに走る。
先ほど自分を捕まえたドレスの女が浜面の後を追いかけるのが見えて、ホッとした。
あの男なら氏んでも問題ない。
フレ(結局私はここで終わりって訳よ……麦野の胸、揉みたかったな…)
組織のリーダーの顔、仲間の顔を思い浮かべた。
きっと皆とはもう会えない。
そしてファミレスで好きなことしながら皆で駄弁るのも出来ないし、
大好きなサバ缶も食べることは出来なくなる。
そう思うと涙が溢れてきた。
垣根「泣いてんじゃねぇよ」
いきなり声をかけられ肩がビクッと揺れる。
フレンダは涙目で垣根を見つめた。
垣根「別に頃すなんて言ってないだろ」
フレ「……へ」
意外すぎる言葉に首をかしげる。
この言葉が本当であるかどうかは分からないが少しだけ肩の力が抜けた。
垣根「アイテムの隠れ家と構成員、それぞれの能力をきちんと教えてくれたら、生かしてやってもいいぜ?」
フレ「え……えっと……」
垣根は意地の悪そうな笑みを浮かべながら、フレンダを見た。
思った通りかなり動揺している。
アイテムの中で一番口が軽そうなやつを選んだが、どうやら正解だったみたいだ。
教える気の無い奴はすぐに否定を口にする。
動揺するのは仲間を売ろうかどうか考えてる証拠だ。
27: 2011/06/16(木) 03:01:24.26 ID:NUWSiTSU0
垣根「どうすんの?」
フレ「そ、それは、できな」
垣根「へー」
プシュッと、音がした。
フレンダが音の方を見ると小さい穴が空き煙が出ている。
垣根「サイレンサーってすげぇな。本当に音が全然しねぇ」
運転手「弾、無駄にしないで下さいね」
垣根「分かってるよ」
その会話でフレンダはようやく気付いた。
垣根が銃を撃ったのだ。
垣根「車の中が血まみれになるのは気分が良くねぇ。話してくれると助かるんだけど」
ゴリッと銃口がおでこに押し付けられる。
フレンダはごくりと唾を飲んだ。
垣根「黙るなよ。それとも質問忘れたのか?」
フレ「えー…っと、その……」
長いこと暗部で働いているが、ここまでピンチになったのは初めてだ。
頭に銃を向けられるなんて数時間前は考えてもいなかった。
もし、言ったらどうなるのだろう。
きっと麦野はそんなことを許さないだろう。間違いなく殺される。
しかし言わなくても殺されるのだ。
先ほど垣根は正直に言えば生かすと言った。
それが本当ならば、正確に情報を言ってしまえばよい。
でも、そのせいでアイテムのメンバーに危機が及ぶ。
でも、言わなければこの場で殺される
フレ(どうしよう……、でも、どっちにしろ氏ぬんだから、)
氏ぬのなら、麦野に殺されよう。
ここで訳の分からない男に殺されるよりかはマシだ。
28: 2011/06/16(木) 03:04:12.39 ID:NUWSiTSU0
フレ「分かったって訳よ……。教えるから銃をおろして」
垣根「賢い選択だ。隠れ家はこれに書け」
ボールペンと紙が渡される。
全部書けよ?と念を押された。
フレンダは震える手で隠れ家の場所を記入した。
情報を伝え終わった後、垣根は安心したように言った。
垣根「前に入手した情報と違う所はないのか。良かった良かった」
フレ(知ってたなら、私に聞かなくてもいいじゃん!!)
いちゃもんをつけたかったが、そんな勇気と度胸はない。
生かして貰えるというのに垣根の機嫌を損ねるようなことなど出来なかった。
垣根「もう少ししたらお前はおろしてやるよ」
フレ「……」
垣根「後は好きにしろ。つーか早く曲かけろよ」
運転手「あ、すいません」
運転手がCDの再生ボタンを押す。
暗部の車内には相応しくない優しいメロディーが流れ始めた。
優しく甘い女性の唄声が三人を包む。
フレ(あれ、これって……もしかして、)
フレンダはその曲を知っている。最近、大好きでよく聞いている曲だった。
歌手は知らないけれど、作詞作曲の人のファンでmp3に入れているのだ。
フレ「この唄が人生最後の曲か……悪くないって訳よ……」
ポツリと独り言をつぶやく。
聞き入るために目を瞑ると、涙が頬に流れた。
垣根「おまえ、いま、なんつった?」
フレ「へ?」
29: 2011/06/16(木) 03:05:43.23 ID:NUWSiTSU0
垣根が不意に話しかけてきた。
表情は驚愕に染まり、声は震えている。しかしどこか嬉しそうだ。
フレ「今って…」
垣根「この唄、知ってんのか?」
フレ「え、う、うん」
フレンダは訳が分からなかった。この男はなんでこんなに動揺しているのだろうか。
今流れている曲に何かあるのか?
この曲に“スクールの機密事項”が隠されているのだろうか…。
フレ(もし、そうだったら形勢逆転のチャンスがあるかもしれない!結局、まだ氏ねないって訳よ!)
フレンダはこれでも暗部の人間だ。今まで敵の不安や動揺を利用して生き延びてきたのだ。
今回だって、頑張ればどうにかなる、と自分に言い聞かせて涙をとめた。
垣根「なぁ、お前、愛生ちゃん知ってるのか?」
フレ「…………は?」
誰だそれ。
恥ずかしそうに聞いてくる垣根を見た。もしかして、歌手の名前だろうか。
フレンダは自分のmp3を取り出し操作し始めた。
作曲者のカテゴリ“谷山浩子”をすると、豊崎愛生という歌手名があった。
30: 2011/06/16(木) 03:07:04.53 ID:NUWSiTSU0
フレ「あんたの言ってる愛生ちゃんって豊崎愛生のこと?」
垣根「ちゃんをつけろよデコ助野郎!!!!」
フレ「ご、ごごごめんなさい!」
光の速さでフレンダのひたいに銃口が突き付けられた。
垣根は今にも引き金を引きそうだ。怒りで手が震えている。
フレ「ちょおおおお落ち着いてってわけよ!今は豊崎愛生ちゃんの話じゃないの!?」
顔も知らない女性の名前をフレンダは口にした。
きっと彼女がこの状況を打破するキーとなるだろう。
フレ「銃なんてあったら愛生ちゃんの話なんて出来ないでしょ!」
その言葉を聞くと垣根は満足そうに笑い銃をおろした。
垣根「お前が知ってるとはな。アイテムにも話が分かるやつが居るじゃねぇか」
フレ「あー……実は知らなくて、」
垣根「え」
垣根の嬉しそうな顔は一瞬で曇った。
絹旗が普通に面白い映画を見終わった時の顔と同じだ。彼は落胆しているらしい。
31: 2011/06/16(木) 03:09:19.14 ID:NUWSiTSU0
フレ「この曲作ってる人のファンって訳よ!みんなのうたとかでよく流れるんだけど」
垣根「あ?作曲者?気にしたことねぇな」
言いながら、垣根は歌詞カードを取り出した。
なんですぐ出てくるんだ。
垣根「谷山浩子か…。もしかして、まっくら森の歌とか作ってる人?あれトラウマなんだよな…」
フレ「そう!だから“何かが空を飛んでくる”を知ってるの」
垣根「なるほどな…」
垣根は俯いて難しそうな顔している。
そして、顔をあげフレンダを真っ直ぐ見つめた。
垣根は少し緊張した声でフレンダに問いかけた。
垣根「どう思った?」
フレ「何が?」
垣根「作曲者が好きなお前は、愛生ちゃんの唄声を聞いてどう思った?」
フレンダは別に声など気にしていなかった。
歌詞と曲調が好きなだけで、あとはどうでも良かったからだ。
しかしこの男は“豊崎愛生”という女性が大切らしい。
ならば、それを利用しない手はない。
フレ「結局、素晴らしいって訳よ!谷山さんの曲と愛生ちゃんの唄声は相性抜群だと思うわけ!!!」
垣根「そうだよな!お前はやっぱり話が分かるやつだよ!」
32: 2011/06/16(木) 03:10:41.41 ID:NUWSiTSU0
フレ「サビに入る前の所が好き。可愛いと思う」
垣根「もうちょっとでその部分だな」
CD<指をくわえてみーてるだけー♪
フレ垣根「「ライッ♪」」
フレ「そうそうここ!結局、最高って訳よ!」
垣根「分かる!すっげぇ分かる!!お前いい奴だな!!」
垣根は暗部のリーダーを務めている男とは思えないほどの眩しい笑顔だった。
鋭い眼光は消え失せ、少年のような無邪気の笑みだ。
垣根「ファン意外の人からそう言って貰えるなんてすっげぇ嬉しいぜ!」
フレ「ファン……?えっと、その豊崎愛生ちゃんって何なの?」
垣根「天使だよ」
フレ「は?だから、誰?」
垣根「豊崎愛生(とよさき あき、1986年10月28日 - )日本の声優・歌手・女優。
ミュージックレイン所属。徳島県出身。血液型はAB型。身長169cm」
フレ「え?は?」
33: 2011/06/16(木) 03:15:00.20 ID:NUWSiTSU0
垣根「来歴:高校生時代は地元徳島のローカル局四国放送(JRT)のテレビ番組『土曜はナイショ!!』に出演していた。
なお、その縁で2008年6月12日放送の『530フォーカス徳島』の取材を受けている。
2005年から2006年にかけて開催された「ミュージックレイン スーパー声優オーディション」に応募・合格し、
声優としてデビューする。声優を目指したきっかけとして、『土曜はナイショ!!』に届いた視聴者からの手紙で、
それまで嫌悪していた自分の声を励みにしてくれる視聴者の存在を感じ、「声の仕事に就いて恩返ししたい」
と思ったことを挙げている。
テレビアニメでは、2007年の『ケンコー全裸系水泳部 ウミショー』(蜷川あむろ役)で
自身初のレギュラーを獲得するとともに主役デビュー。以降、名前のある役を演じるようになるとともに、
『しゅごキャラ!』シリーズ(スゥ役)といった長期レギュラー作品へも出演するようになる。
2009年2月15日に開催された「ミュージックレインgirls 春のチョコまつり」において、
同じミュージックレイン所属の寿美菜子・高垣彩陽・戸松遥とともに声優ユニット「スフィア」の
結成を発表(所属レーベルはGloryHeaven)。
2009年4月に放送されたアニメけいおん!の平沢唯役で知名度を大きく上げる。
自身23歳の誕生日となる2009年10月28日に、『love your life』で歌手デビューを果たした。
本人曰く、「偶々、誕生日の10月28日が水曜日だったからデビューの話が進んだ」とのこと。
2010年3月6日に発表された第4回声優アワードにて、新人女優賞を受賞すると同時に、
テレビアニメ『けいおん!』の劇中にて結成したユニット"放課後ティータイム"として、
日笠陽子、佐藤聡美、寿美菜子、竹達彩奈とともに歌唱賞も受賞[5]。
アニメージュ第32回アニメグランプリ声優部門においてもグランプリを受賞している(出典wikipedia)」
フレ「ちょ、待って!」
垣根「なんだよ。俺はお前の質問に答えただけだぜ?」
フレ「……声優なの?」
垣根「そうだよ!今をトキメク女性声優さんだよ!」
垣根「顔も可愛いし、演技も上手い!ラジオのトークも面白い!」
垣根「イラストを描いたり、ゲーム趣味だったり、料理が上手だったり、女の子としても超魅力的だ!!!」
垣根「八重歯と笑顔がチャームポイントなんだよ!」
垣根「巨人とか言われるけど、180㎝ある俺には関係ねぇ!むしろヒール履いて横に立ってほしいぜ!!」
垣根「愛生ちゃんのせいでアニメも大好きになっちまったよ!これは愛生ちゃんに責任とって貰うしかねぇ!!!」
垣根「これから、たくさん活躍するに決まってる!でも無理して倒れたりして欲しくないぜ…」
垣根「それに、」
フレ「すとーーーっぷ!!分かった!分かったから!」
垣根「そうか。なら良い。それでな、」
フレ(まだ、続けるんかい!?)
34: 2011/06/16(木) 03:18:33.86 ID:NUWSiTSU0
愛のトークは続けられた。
フレンダはマシンガントークに相槌を打ちつつ全てを聞き流していた。
途中で携帯に電話が着たが“ばーか氏ね”と一言だけ言うとブチリと切り、キモい話は続行された。
フレンダはもう垣根に恐怖を感じていなかった。その代わり心の底から気持ち悪さを感じていた。
この日、フレンダは生まれて初めて“声オタ”と接したのだった。
垣根「そろそろ降りろ」
フレ「……話に満足したから用済みなの?」
垣根「ちげぇよ。ここに隠れてろ」
垣根から小さい紙が渡された。
広げると住所と簡単な地図が描かれている。
フレ「は?何言ってんの?」
垣根「このままじゃお前、あの怖いお姉さんに殺されるだろ」
フレ「あー…麦野のことね…」
垣根「だから、そこに身を隠せって言ってるんだよ」
フレ「へ?」
その言葉にフレンダは目を見開いた。この男は一体どういうつもりなのか。
自分を生かしておいて何か価値があるのだろうか?
絹旗や麦野のように戦闘力なんかない。滝壺のように便利な能力もない。
生かしておくメリットはない筈だ。
フレ「ど、どうして?これってスクールの隠れ家じゃ…」
垣根「そうだけど?」
フレ「だって、私はアイテムで、あんたの敵じゃない」
垣根「そうだな。でも、」
垣根は一呼吸置いてから言った。
垣根「愛生ちゃんの魅力を分かるやつを、見頃しにできる訳ねぇだろ」
.
35: 2011/06/16(木) 03:21:50.04 ID:NUWSiTSU0
それはとても優しい声で心底フレンダを心配していると分かる。
しかし、台詞が台詞だ。
“お前が可愛いから”だの“運命を感じた”だの言われたら、
ロマンスが始まったかもしれない。けれど残念ながらそれはない。
正直ありがたいとは思わなかったが、フレンダは顔を引きつらせてお礼を言っておいた。
垣根「じゃあなー。そこの隠れ家におかえりラジオの録音したやつあるから聞いてていいぜー」
意味の分からないこと言いながら上機嫌に去って行った。
殺されなくて良かったけれど、なんだか素直に喜べなかった。
フレ「なんだったの。……結局、意味分からないって訳よ」
フレ(麦野達に連絡した方がいいかな、…って携帯はドレスの女に取られたんだった!)
今の地点からだとアイテムの隠れ家は遠い。
しかし他に行く宛てなどない。
はぁ……とため息をつくと、垣根に渡されたメモの住所に足を向けた。
42: 2011/06/17(金) 02:26:37.86 ID:WY7TuRtv0
レスありがとうございます。
今のところ、このSSは恋愛ものになる予定はありません。
初春は出てきますが帝春にはなりません。
期待してる人はすいません。
投下します。
今のところ、このSSは恋愛ものになる予定はありません。
初春は出てきますが帝春にはなりません。
期待してる人はすいません。
投下します。
43: 2011/06/17(金) 02:29:48.87 ID:WY7TuRtv0
フレンダと別れた垣根達は第四学区に居た。
この学区は料理店が多く、食品に関する施設も多い。
それらの一つである食肉用の冷凍倉庫の中にステーションワゴンを隠していた。
運転手「いいんですか?『アイテム』の構成員を生かしておいて」
垣根「いいんだよ。愛生ちゃんの魅力を理解できるヤツに悪人は居ない」
運転手「……」
垣根「でも『アイテム』の存在は潰さないとな。あいつらの役割は計画の邪魔になるだろうし」
運転手「役割……確か、上層部や極秘集団の暴走を防ぐこと、でしたっけ?」
垣根「そうだ。しかもプライド高そうな女がリーダーやってんだ。きっと地獄の底まで追いかけてくるぜ?」
運転手「……厄介ですね」
垣根「力は大したことねぇから平気だろ。それに隠れ家も分かってる」
運転手「隠れ家はたくさんありますけど、目星はついてるんですか?」
垣根「下っ端に全ての隠れ家を見張らせてんだよ。『アイテム』の連中が来たら俺に連絡が入る」
垣根は会話を打ち切り強奪したピンセットを開け、小さくするために組み直し始めた。
壊してしまうんですか?と部下に問われたが手を休めることなく作業に集中した。
44: 2011/06/17(金) 02:31:59.38 ID:WY7TuRtv0
そういえば、あの女はおかえりラジオを聞いているだろうか?
でも録音だとリアルタイムでメールを送ることが出来ない。
もしかしたらあの女は歯がゆい気持ちでラジオを聴いているかもしれない。
そして放送中にメールを送りたいが為に、おかえりラジオを聴き始めるのだろう。
やったね愛生ちゃん、リスナーが増えたぜ!
とか考えていると、バギン!という鋭い金属音が倉庫に響いた。
倉庫の分厚い壁が崩れて外から光が差し込んでいる。
光は差し込んでいるけれど、そこには誰も立っていなかった。
垣根(誰だ?思ったよりも早く見つかったな。もしかしてアイテムの連中か?)
運転手「ぎゃっ。ぐああああああああああああああああッ!?」
いきなり運転手が悲鳴をあげた。
目を向けると、運転手の顔の皮膚や脂肪、筋肉が順番に消えていく。
最後には脳みそもなくなり、服と骨だけになって地面に崩れた。
垣根(おいおい、なんだこのグロいのは。
やべぇな…愛生ちゃんがこんなの見たら泣いちまうだろ……優しく抱きしめてあげてぇな…)
馬鹿げた妄想にニヤけそうになったが、敵は近くに居るので不抜けた顔は晒せない。
垣根はわずかに眉をひそめてニヤけるのを我慢した。
しかし人影は一切見えない。中年男性の声だけが倉庫に響いてきた。
男「垣根帝督か。レベル5をここで失うのは惜しい事だ」
垣根(……どこに居やがる。テメェの気持ち悪い声なんて不愉快なだけだクソ野郎。愛生ちゃん連れてこいコラ)
垣根は全方位に注意を向けながら、ピンセットを起動した。
45: 2011/06/17(金) 02:33:54.06 ID:WY7TuRtv0
垣根「……『グループ』か、それとも『アイテム』か」
男「残念だが、私は『メンバー』だ。時に垣根少年、君は煙草を吸ったことがあるかね?」
垣根「……」
男「箱から煙草を取り出す時、指でトントンと叩くだろう?私は子供の頃、あの動作の意味が分からなかった」
垣根(……愛生ちゃんに俺のをトントンして貰いてぇな)
男「しかしとにかく見栄え良く思えたんだな。だから私は、菓子箱をトントンと叩いたものだ」
垣根「ああ?」
男「今の君がしているのは、そういう事だと言っているのだよ」
垣根「ナメてやがるな。よほど愉快な氏体になりてぇと見える」
ピンセットからピッと電子音が鳴る。
モニタに目をやると、採取した空気中の粒子の中に機械の粒のようなものが見えた。
電子顕微鏡サイズの世界の中に明らかな人工物が混じっている。
垣根「ナノデバイスか。人間の細胞を一つ一つ毟り取っていやがったんだな」
男「いや、私のはそんなに大層なものではないよ。回路も動力もない。
特定の周波数に応じて特定の反応を示すだけの、単なる反射合金の粒だ」
垣根(つまんねぇ話だな。さっさとぶっ頃したい…)
男「私は、“オジギソウ”と呼んでいるがね」
垣根「!!!!?」
垣根は酷く動揺した。
“オジギソウ”
その単語には酷く聞き覚えがあった。
スフィアのラジオでも、らじおん!でも、おかえりラジオでも、
愛生ちゃんが携わっているラジオでは必ず耳にするラジオネーム。
垣根が尊敬すると同時に嫉妬しているリスナーの名前だ。
46: 2011/06/17(金) 02:38:10.96 ID:WY7TuRtv0
垣根(馬鹿な…!こいつがあの“オジギソウ”なのか…!)
垣根が動揺している間も中年男は何かを言っていたが、何も耳に入ってこなかった。
垣根(いや、たまたまだ。暗部に所属してる人間のお便りなんかが、頻繁に読まれるわけがねぇ……!!!)
ザァ!!という音が垣根をの周囲を取り囲む。
戦闘から思考が離れていた頭がようやく現実に引き戻された。
辺りを見たが、逃げ道を見つける前に襲いかかってくる。
垣根(これが“オジギソウ”?…なんだ、大したことねぇな……ラジオでは無双してるくせによ)
中年男性の声が聞こえる。
芸術に絶望したのは12の冬だったとか、見所が多くて疲れるだの、数式が大好きだとか、アレイスターの犬でもいいだの……。
内容は興味を持てなかったが、彼の言い廻しは耳触りが良かった。
頭の良い人物なのだろう。でなければ、こういう話し方はできない。
垣根(こいつが“オジギソウ”だったら納得できるな……。頭使って思わず読みたくなるようなお便り送ってんだろ……)
垣根(クソッ……もしそうだったら秘訣とか聞きてぇけど、こいつ敵だしな……)
垣根(つーか、今はこの状況をどうにかしねぇと)
オジギソウを能力で防いで垣根は思考を巡らす。
反射合金の粒。
目に見えないほどの小さい粒が空気に乗って細胞を毟り取るなど恐ろしいな、と思う。
だが空気中の粒子と共に滞空しているのなら、簡単に風に流されてしまうだろう。
垣根(……だったら、爆風でも起こしてどっかにやっちまえばいいだろ)
別に未元物質で防ぎながら戦うことも出来たのだが、それはめんどうすぎる。
まとめて薙ぎ払ってしまった方が簡単だ。
47: 2011/06/17(金) 02:39:58.44 ID:WY7TuRtv0
垣根(『メンバー』のクソ野郎は完全に油断してやがる。……チャンスだな)
この世にはない物質を使い、大爆発を起こす。
ゴッ!という音と共に倉庫の壁が粉々に吹き飛ばされた。
あまりの爆発力に周囲のビルが崩れ、人々が逃げ惑っている。
そんな光景には目もくれず、垣根はゆっくりと歩き出した。
外に出ると驚いた顔をした中年男性が居る。
こいつが『メンバー』なのだろう。
垣根「よぉ、絶望したのは12歳の冬っつったよな」
目の前の中年男性は小型端末を慌てて操作するが何も起こらない。
オジギソウを遠くへ追いやるのは成功したみたいだ。
それでも男性はカチカチと操作を繰り返す。
もちろん反応が無く、彼は不思議そうにキョロキョロしている。
いい年した大人が慌てるのは、とても滑稽だ。
可笑しくて我慢できす、垣根は笑いながら言った。
垣根「もう一度ここで絶望しろコラ」
.
48: 2011/06/17(金) 02:41:29.15 ID:WY7TuRtv0
目の前の中年男性は諦めたようにため息をついた。
小型端末を白衣のポケットにしまい、垣根に向き直る。
垣根「ずい分、潔いじゃねぇか?さっきまで慌ててたくせによ」
男「現状を打破する策がなければ何をしても無駄だからな。残念だが私に切り札はない」
垣根「へぇ、殺されるのが怖くねぇってのか?」
男「怖くない訳ではない。しかしこんな生き方を選んだ以上は仕方の無いことだ」
垣根「そりゃそうだな。じゃあ氏ね」
男「少し待ってもらっても良いかな?垣根少年」
垣根「あ?何言ってんだテメェ」
男「電話がしたい。安心したまえ、仲間を呼んだりなどしない」
垣根「……呼んでも意味ねぇから、別にいいけどよ」
男「君は案外優しいのだな」
垣根「うるせぇな。早くしねぇと頃すぞコラ」
男は薄く笑いながら、携帯電話を取り出した。
使い古した黒い携帯電話は彼の雰囲気に似合っている。
49: 2011/06/17(金) 02:44:16.77 ID:WY7TuRtv0
垣根(何のつもりだ?もしかして家族とかに電話すんのか?それって俺が悪役みたいじゃねぇか……)
男「あぁ、私だ。いや、平気だ。ただ、頼みたいことがある」
垣根(最後の頼みなんてよっぽど大切なことなんだろうな。俺には関係ねぇけど)
男「来月の件についてだ。あぁ、そうだ。私が行くと言ったが行けそうにない」
通話をしている男を垣根は警戒しながら見つめる。
男は実に残念そうな顔をしながら通話を続けた。
男「別に曲を聞くことが出来なくても、売上に貢献できれば良いのだよ」
垣根(……曲?来月の件?売上?…………まさか、な)
一つの予想が垣根の頭を過る。
いや、でもありえない。こんな男性が、まさか……。
垣根が自分の考えを否定していると、男性の口から決定的な言葉がはきだされた。
男「……いいさ、“オジギソウ”の名は君が使いたまえ」
垣根「!?」
通話を終了すると男は携帯をしまった。
ゆっくりとした動作で、再び垣根に向き直る。
男「電話が終わるまで待つとは暗部のリーダーらしからぬ行為だな」
垣根「テメェ……」
男「どうした垣根少年。敵は速やかに処分するのがこの世界の基本だろう?遠慮はしなくていい」
垣根「………」
50: 2011/06/17(金) 02:46:03.77 ID:WY7TuRtv0
男「垣根少年?」
垣根「……」
男「……」
垣根「……」
男「……」
垣根「背伸び寝転び?」
男「クッション完備!」
垣根「あなにとどける?」
男「お喋りセラピー!」
垣根男「「はじまるよっ!」」
垣根「……」
男「……」
垣根「……おまえ、まさか、本当に、」
男「君がそのフレーズを知っているとは想定外だったな」
垣根「おま、お前のラジオネームは、も、もしかして」
男「“オジギソウ”という」
垣根「!!!!!!!!!!!」
男「ずい分驚いているな垣根少年。私は運が良く人より多く読まれているから一度くらいは耳にしているのかな?」
垣根「一度なんかじゃねぇ……!!」
男「……」
垣根「愛生ちゃんが出てるラジオを聞いた限りじゃ絶対に耳にする名前だ!!」
男「……」
51: 2011/06/17(金) 02:47:39.65 ID:WY7TuRtv0
垣根「ネットじゃ伝説になっている“オジギソウ”がテメェだとは…」
男「……そうか。君も豊崎さんのファンだったのか」
垣根「“も”ってことは……」
男「そうさ。私も彼女の甘く優しい声に心が癒されている一人なのだよ」
垣根「……マジかよ」
男「同士に殺されるのなら思い残すことはない。来月にリリースされるDillを聞けないのは残念だがね……」
垣根「……だろ」
男「?」
垣根「殺せるわけねぇだろ!!」
男「……」
垣根「愛生ちゃんが収録を頑張って、一人でも多くの人間に届けたいと思ってる曲が来月リリースだぞ!?」
男「……」
垣根「あんな神曲を聞かずに氏ぬなんて、俺が許さねぇ!!!」
垣根「それに、今日はおかえりラジオの日だ。
愛生ちゃんはあんたの、“オジギソウ”のお便りを待ってるに決まってる!」
垣根「彼女が“おかえり”って言ってくれるのに、テメェは“ただいま”を言わねぇつもりかよ!!」
男「……」
垣根「何とか言えよクソ野郎」
男「……君の言いたいことは、とてもよく分かる。しかし私を殺そうとしているのは君だろう」
垣根「……あ」
男「君は馬鹿なのだな」
垣根「はぁ!?」
52: 2011/06/17(金) 02:52:39.78 ID:WY7TuRtv0
男「しかし今の言葉、胸に響いたよ」
垣根「……」
男「そうだな。Dillを聞くまでは私は氏ねない。少し悪あがきをしようじゃないか」
そう言うと『メンバー』の男は懐から銃を取り出した。
銃を持っているのなら、もっと抵抗できた筈だ。
それでも何もしなかったのは本当に氏ぬつもりだったのだろう。
男「レベル5の君に、こんな物が通用するとは思えないがね」
銃口は真っ直ぐ垣根を捉えていた。
引き金が惹かれる。
パンと乾いた音が響いた。
垣根「――っ!」
男「な、なんのつもりだ」
レベル5に銃など通用するわけがない。
それなのに、弾は垣根の肩を貫き、肉を抉っていた。
垣根「痛ってぇな……クソッ」
男「何故防がなかった、垣根少年」
垣根「これは戒めだ」
男「戒め?」
垣根「伝説のリスナーを消そうとしちまった、俺への罰だ」
男「……」
53: 2011/06/17(金) 02:54:59.62 ID:WY7TuRtv0
垣根「『スクール』のリーダーは負傷。テメェの前から逃げ出す。追ったがテメェは俺を見失う。いいな?」
男「君は、本当に馬鹿だな」
垣根「何とでも言えクソジジィ」
くくく、と喉をならして男が笑う。
それにつられて垣根も笑った。
垣根「オッサン、名前は?」
博士「皆からは“博士”と呼ばれているよ」
垣根「博士、か……。あと、もう一つだけ教えてくれ」
博士「なんだね?」
垣根「メールを読まれる秘訣は?」
博士「ふむ……。少々長くなるがいいかな?」
垣根「……時間がない。次の行動に移らねぇと」
博士「ならメールアドレスを教えたまえ。私の心掛けていることを全て教えようじゃないか」
垣根「本当か!?」
博士「その代わり君がなぜ学園都市に逆らうのか、何を変えたいのか、教えて貰ってもいいかな?」
垣根「……聞いても面白くねぇぞ?」
博士「構わない。ただ純粋に興味があるのだよ」
垣根「……分かった」
54: 2011/06/17(金) 02:56:55.19 ID:WY7TuRtv0
二人は携帯を取り出し、赤外線通信でお互いのアドレスを送り合った。
そして垣根は、博士に全てを話した。
自分がこの街に何をされたのか。
自分がこの街の何を変えたいのか。
垣根はそれを誰にも話したことはない。
なぜなら悲劇を口にするのは嫌だったからだ。
しかし、目の前の男になら話すべきだと思った。
博士「…………」
垣根「これが俺の命をかける理由だ」
博士「……」
垣根「つまらねぇだろ?」
博士「そんなことないさ。君が、少し羨ましい」
垣根「は?」
博士「若いというのは良いことだな。悲しみを行動に変える力がある」
垣根「……」
博士「私もその経験をしたことがある。きっと、同じ悲劇を味わった者はたくさん居るだろう」
垣根「やっぱりそうか。この街は腐ってやがる……!」
博士「何も出来ないがひっそりと応援しようじゃないか」
垣根「心強いぜ“オジギソウ”」
博士「……リアルでラジオネームを呼ばれるのは少し恥ずかしいものだな」
垣根「ふーん。そうかよ」
55: 2011/06/17(金) 02:58:53.96 ID:WY7TuRtv0
博士「ところで垣根少年、さっきからニヤけているがどうかしたか?」
垣根「いや、……愛生ちゃんファンとメアド交換したのなんて初めてで……」
博士「そんな些細なことに喜びを感じる男だったとはな」
垣根「うっせーな。……なぁ、ラジオの感想とかアニメの感想もメールしていい?」
博士「勿論だとも。豊崎さんについて語ろうじゃないか」
垣根「やった!さっそく今日送るからな!無視すんなよ!?無視したら泣くぞ!?」
博士「ああ、待っているよ」
垣根「氏ぬなよ博士。少しでも長生きして愛生ちゃんを応援してくれ」
博士「言われるまでもないさ」
そう言うと、背を向けゆっくりと手を振る。
二人はそれぞれ、別の道を歩いて行く。
二人は振り返らない。
振り返る必要などない。
今夜の“おかえり”と言ってくれるあのラジオで、“ただいま”が言えれば同じ場所に居ることになるのだから。
こうして男達は別れた。
頃し合う筈の二人の男は一人の女性により、“友”となったのだった。
67: 2011/06/18(土) 01:16:31.59 ID:VCCMkA5A0
運転手が居なくなったのをいいことに、車の中では自分で編集した
“うんたん♪うんたん♪”をループさせていた。
いい気分に浸っていると、第三学区の隠れ家に『アイテム』が来たという連絡を受けた。
車で行けばあまり時間はかからなかったけれど、車内の居心地の良さに、つい遠回りをしてしまった。
数十分後、第三学区に着くと名残惜しそうに曲(?)を消して車を止めた。
垣根(さっき撃たれた所は能力で止血したし、腕は動くし平気だな)
垣根「……」
垣根(俺の能力ってマジ便利だよな。なのになんで2位なんだよ……)
どうでもいいことを考えながら、連絡を受けた地点に向かう。
アイテムの隠れ家があるらしい高層ビルの一角。
スポーツジムやプールなどの屋内レジャーを利用するのにはそれなりの資格が要る。
建物に入るだけで会員証を求められたり、各施設を利用するのに会員証のランクを調べられたりするのだ。
垣根はいつか憧れの女性と二人で来る時のために、会員証は発行したが一度も使ったことがない。
垣根(こんな目立つ所を隠れ家に選ぶなんて『アイテム』はアホか?)
ビルを見上げ垣根は目を細めた。
金持ち共が乳繰り合いながら屋内レジャーで遊んでいると思うと腹が立つ。リア充氏ね。
絶対に愛生ちゃんと来てやる。
垣根は一つの決意を胸に『アイテム』の元へ向かった。
68: 2011/06/18(土) 01:19:19.31 ID:VCCMkA5A0
―――――――――――――――――――――
麦野と絹旗と滝壺、そして浜面の四人はVIP用の個室に居た。
研究所の襲撃以来、フレンダの姿はない。
もちろんリーダーの麦野は探しに行くなどせず、『スクール』への反撃を考えていた。
麦野「『アイテム』の存在意義は上層部や極秘集団の暴走を防ぐこと。そいつをまっとうしてやろうじゃない」
滝壺「検索対象は『未元物質』でいい?」
浜面「誰だそりゃ」
麦野「第2位のレベル5。『スクール』を指揮してるクソ野郎だよ」
浜面「ふーん……」
そういえば、と浜面は思った。
今日は浜面が楽しみにしているラジオの日だ。
今日は色々あるが夜には帰れるのだろうか?
聞き逃したとしても、録音はセットしてあるので問題ないけれど、やはりリアルタイムで聞きたい。
浜面(最近よくお便り読まれるし、今日も読まれたりして……)
期待を膨らませながら、『アイテム』のメンバーに目をやると滝壺が『体晶』を使用してる。
絹旗「滝壺さんも超難儀していますよね。『体晶』がないと能力を発動できないなんて」
滝壺「別に。私にとってはこっちの方が普通だから」
能力者も色々居るらしい。
浜面は興味無さそうにそのやりとりを見る。
今日のラジオのテーマは何だろうか?と考えていると滝壺が口を開いた。
69: 2011/06/18(土) 01:21:50.49 ID:VCCMkA5A0
滝壺「結論。『未元物質』は、この建物の中に居る」
麦野「――ッ!?」
絹旗「!?」
二人の目が見開かれる。
何故、こんなに早く?
何故、隠れ家がバレている?
しらみつぶしに探して辿り着ける筈がない。
誰かがこの場所をリークしたというのだろうか?
そんな疑問を無視するようにサロンの壁が蹴り破られる。
蹴り破ったのが誰かなんて見なくても分かる。
研究所で対峙した忌々しい男。
麦野「『未元物質』………ッ!」
垣根「名前で呼んで欲しいもんだな。俺には垣根帝督って名前があるんだからよ」
垣根の手にはピンセットが装着されている。
機械でできた奇妙な『爪』だ。
それを見て浜面はだせぇ、と思った。口には絶対に出せないが。
麦野「『ピンセット』か……」
垣根「カッコイーだろ。勝利宣言しに来たぜ」
レベル5同士のやりとりに部屋の空気が張り詰める。
垣根と麦野は睨みあったまま会話を続けていたが、いきなり途切れた。
ソファに座った絹旗が垣根に向かって数十キロありそうなテーブルを投げつけたからだ。
しかし、テーブルが垣根にダメージを与えることは出来ない。
70: 2011/06/18(土) 01:24:16.87 ID:VCCMkA5A0
垣根「痛ってぇなぁ」
浜面(いや、全然痛そうじゃねぇよ……。やっぱりレベル5ってキチOイばっかりだな)
垣根「そしてムカついた。まずはテメェから粉々にしてやるよ」
垣根はとても機嫌が悪かった。
ここに来る間、仲の良さそうなカップルをたくさん見て来たからだ。
それに加え、絹旗は垣根の頭を狙ってテーブルを投げつけてきた。
能力が無かったら、垣根の頭部に直撃していただろう。
そんなことになったらどうなる?
氏ぬかもしれない。
氏なないとしても、耳が聞こえなくなるかもしれない。
耳が聞こえなくなったら?
耳が聞こえなくなったら、おかえりラジオを聞くことは出来ない。
いや、おかえりラジオだけではない。
マイエンジェル愛生ちゃんのほっこりヴォイスが聞けなくなってしまうのだ。
垣根(このクソガキ、絶対に許さない!)
垣根がくだらないことを考えていると(本人にとっては深刻なことだが)、
絹旗は二人の手を取って麦野に目配せし、壊れた壁の奥に飛び込んでいった。
麦野「テメェの相手は私だ。包茎野郎」
垣根「見たこともねぇのに勝手に決めんな」
麦野「テメェの狙いは『能力追跡』だな?」
垣根「さぁ?お前かもよ?あぁ、でもお前って口汚いからタイプじゃねぇや。わりぃな」
麦野「氏ね!」
麦野の言葉を合図に二人は同時に動き出した。
71: 2011/06/18(土) 01:26:33.59 ID:VCCMkA5A0
―――――――――――――――――――――
浜面と滝壺はエレベーターホールまで来ていた。
一緒に居た絹旗は二人を逃がす為に再び戦場へと戻って行ったのだった。
絹旗の話によれば、能力追跡を持っている滝壺が『アイテム』の要らしい。
彼女さえいれば状況が巻き返せるというのだ。
だから滝壺を車に乗せ逃げろ、と言われたのだが……。
浜面(あの二人は待たなくていいのか?つーか車なんかで第2位から逃げ切れるのかよ)
滝壺(はまづら、不安そうな顔してる……。だいじょうぶかな?)
この緊迫した状況で滝壺は場違いなことを考えていた。
自分を逃がす為に『アイテム』の仲間が危険な戦いに挑んでいることは十分に理解している。
している、けれど。
時として乙女は、理性が感情に押し流されてしまうのである。
不安と緊張と殺伐がまじった空間で、滝壺は胸を高鳴らせていた。
滝壺(こんなに長くはまづらと二人きりで居るの、はじめて……)
そう。滝壺理后は浜面仕上に恋をしているのだ。
72: 2011/06/18(土) 01:28:53.65 ID:VCCMkA5A0
彼女が浜面を好きになった理由はとても単純だ。
浜面が優しいからだ。
役に立たない人間はゴミとして扱う暗部で、滝壺はずっと過ごしてきた。
そんな彼女にとって人を頃す依頼で嫌そうな顔をしたり、
誰かも分からない氏体の処理で心痛める少年の姿は眩しかった。
最初は少し気になっていただけのだが、今では大好きになってしまっている。
滝壺(どうしよう……二人きり、それに、エレベーターって密室……)
浜面「……」
―――とにかく優しくしてあげればいいんじゃないですかね!
滝壺(……あきちゃんはそう言ってたけど、優しくってどうすればいいのかな?)
すっかり恋する乙女モードになってしまった滝壺は頭を悩ませていた。
そんな彼女を現実に引き戻すように、エレベーターが止まった。
扉がゆっくりと開いていく。
垣根「いたいた」
浜面(嘘だろっ!何でこんなに早く……!む、麦野は?絹旗は?)
滝壺(はまづら、あせってる…)
73: 2011/06/18(土) 01:30:26.81 ID:VCCMkA5A0
垣根は二人に向かって何かを投げてきた。
それは二人がよく見たことのある小柄な少女。
絹旗最愛。レベル4の窒素装甲。
可愛らしい外見だが、戦闘力の高さは確かだった。
なのに、それなのに……。
ぐったりと倒れる絹旗を見て、浜面はレベル5の強さに恐怖を覚えた。
垣根「そいつの判断は良かったな」
二人が言葉を返さなくても垣根は一人でベラベラ喋っている。
浜面は、絶望的な顔していた。汗が頬をつたう。
一方で滝壺はこの状況に希望を感じていた。
滝壺(はまづらが怖いなら、私が助ける)
滝壺(きっとそれが“優しくする”っていうことだから)
滝壺(これが俗に言うアピールチャンス。頑張らなきゃ)
優しくすれば自分の想いに浜面は答えてくれるかもしれない。
そう思うと目の前のレベル5なんか怖くなかった。
恋する乙女は、強いのだ。
74: 2011/06/18(土) 01:32:43.83 ID:VCCMkA5A0
不意に隣に居る想い人が小声で話かけてくる。
いつもより吐息が多くて低い声に、滝壺はドキッとした。
浜面「…(お前はエレベーターに乗って降りろ)」
滝壺「…(でも、はまづら)」
浜面「…(どっちみち、ここでテメェを見捨てて『スクール』から逃げたって、
そんな事をすれば『アイテム』に潰されんだ!板挟みなんだよ、ちくしょう!!)」
垣根「で、どうするよ?別れのあいさつってどれくらい時間がかかるものなんだ?」
別れ?
滝壺はその言葉に反応して垣根の顔を見る。
目の前の男が自分たちを引き裂くというのなら手段は選ばない。
滝壺が垣根を倒すなんて奇跡が起きても不可能だ。
でも、大丈夫。
滝壺には、とっておきの切り札がある。
これを使えば愛おしい彼を助けることができる筈だ。
浜面「―――ッ!!行け!!」
浜面は滝壺の体をエレベーターに押しこもうとしたが、逆に押し込まれてしまった。
滝壺の行動が予想外だったため、浜面は尻もちをついた。
75: 2011/06/18(土) 01:34:29.06 ID:VCCMkA5A0
浜面「テメェ、何してん―――」
滝壺「ごめん、はまづら」
浜面の顔は驚きに染まっていた。
何か言いたそうに口を開いているが、言葉を出すことはできなかった。
滝壺「大丈夫。私はレベル4だから。レベル0のはまづらを、きっと守ってみせる」
閉じていく扉の向こうに微笑んで、彼を見送った。
高速でエレベーターが降りていくのを見て安心する。
垣根「すげぇな。レベル0の役立たずを守るために自分を犠牲にするとは」
滝壺「……」
垣根は笑いながら言った。
その言葉に滝壺は激しい怒りを覚えた。
滝壺「役立たずじゃないよ」
垣根「あ?」
滝壺「はまづらは役立たずじゃないよ。何も知らないのに、そんなこと言わないで」
垣根「……っく、ははは」
堪え切れない、というように垣根は笑いだした。
滝壺は黙ってそれを見えていた。
76: 2011/06/18(土) 01:36:06.89 ID:VCCMkA5A0
垣根「お前バッカじゃねぇの?組織の要の自覚が全然ねぇな」
滝壺「……」
垣根「あの男が殺されてる間に逃げれば良かっただろーが」
滝壺「それは無理」
滝壺は即答した。
それに対して垣根は眉を潜めた。
『アイテム』の要である女が命張って守る男に何の価値ある?
もしかして、あの男が『アイテム』の要だったりするのか?
下っ端という役職はカモフラージュで、本当はリーダーだったり?
いくつかの可能性を考えたが、フレンダが提供した情報と合致せず頭から考えを消した。
滝壺「たとえ『アイテム』が無くなってもはまづらは無くしたくない」
垣根「はぁ?」
滝壺「それに、優しくすればいいってあきちゃんが言ってた」
垣根「…………あ?」
滝壺「だからはまづらを置いて逃げるなんて、そんな酷いこと絶対にできない」
滝壺はジャージのポケットに手を突っ込んだ。
何かしてくるのか、と垣根は身構える。
78: 2011/06/18(土) 01:39:19.53 ID:VCCMkA5A0
緊迫した雰囲気で彼女が取りだしたのは、一枚の小さな紙だった。
滝壺「これ、何かわかるよね?」
垣根「!?」
垣根の目が大きく見開かれる。
滝壺が手に持っている紙は人によってはゴミになるが、一部の人にとっては宝物になる紙だった。
そして垣根は後者に当てはまる。
滝壺が持っている物は正確には紙ではなく、栞だった。
栞には赤いリボンが付いている。
表面にはチューリップが描かれていた。
チューリップの隣には可愛らしいフォントでこう書かれている。
“豊崎愛生のおかえりラジオ”
それはラジオでお便りを採用された者だけに送られる栄光の証だった。
栞を手放すのは少し寂しいけれど、守りたいものがあるのだ。
大切な物を失ったとしても、好きな人は助けて見せる。
自分も絶対に生き延びる。
そして、この想いを彼に伝えたい。
強い決心を胸に垣根を見据えた。
その目には迷いも恐怖もない。
恋する乙女は、強いのだ。
79: 2011/06/18(土) 01:41:48.40 ID:VCCMkA5A0
ネットの画像でしか見たことのない栞が目の前にある。
初めて生で見た感動が垣根を興奮させた。
滝壺はその様子を見て、内心ニヤリとする。
滝壺「これ欲しい?」
垣根「!?」
滝壺「あげるよ」
垣根「!!!!???」
それは喜ばしい提案だった。しかし栞を譲ってもらって手に入れるなど邪道すぎる。
垣根の顔が歪む。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。
けれど、自分のお便りが読まれてこそ手にする意味があるのだ。
しかし、欲しい。
垣根(クソがッ……!!なんで、この女がこの栞を持ってやがる……!!!)
滝壺「あと10秒で返事しないと破いちゃうよ?」
垣根「あ?え、は、ちょっと、ま―――」
滝壺「本気だよ?」
垣根は唇を噛み締めた。
全身に嫌な汗を搔いている。
80: 2011/06/18(土) 01:42:52.46 ID:VCCMkA5A0
滝壺「1、2、3、」
垣根「!?」
淡々とした声でカウントが始まる。
滝壺「4、5、6、」
滝壺は栞を両手で持った。
滝壺「7、」
栞はいつでも破ける状態だ。
滝壺「8、」
でも、指に力は入っていない。
滝壺「9、」
カウントと同時に指に力がこもる。
垣根「おい、待て、そんなこと、」
あとは、裂くだけ。
滝壺「じゅ、」
垣根「欲しい!!!!!!!!!!!」
堪え切れなくなった垣根は力一杯に叫んだ。
叫びと共に滝壺は栞を破こうとするのを止めた。
81: 2011/06/18(土) 01:44:19.67 ID:VCCMkA5A0
滝壺「……でもね、条件がある」
垣根「……」
栞が彼女の手にある限りは一歩も動けない。
垣根は滝壺を睨みつけることしか出来なかった。
滝壺「『アイテム』を見逃して」
垣根「却下だ」
吐き捨てるように返した。
栞は欲しい。
しかし『アイテム』を見逃すなどできるわけなかった。
滝壺「……そっか。じゃあこれはあげられない」
そう言うと滝壺は栞をくしゃくしゃに丸めようとした。
垣根「待て待て待て待てぇぇぇぇぇ!!!!」
滝壺「だっていらないんでしょ?」
垣根「いらないなんて言ってねぇだろ!!」
滝壺「『アイテム』を見逃さない=栞はいらないってことだよ?」
垣根はこめかみを引きつらせた。
長いこと暗部に身を置いている垣根だったが、ここまで外道な女は見たことが無い。
82: 2011/06/18(土) 01:46:43.79 ID:VCCMkA5A0
いっそのこと、この女を頃して栞を奪いとればいいのではないか?
―――しかし、それは、
滝壺「私を頃して栞を手に入れるの?そんなことしたら、この栞は汚れちゃうと思う」
垣根「……ッ!!」
考えが読まれた垣根はビクリと体を震わせた。
垣根の両手は血で染まっている。
今までの人生も汚れて腐りきっている。
でも、それでも。
愛生ちゃんだけは、汚すことが出来なかった。
滝壺「『スクール』の人員を全て撤退させたら交渉成立。あと、これからも『アイテム』の邪魔はしないで欲しい」
垣根「要求することが増えてねぇか?」
滝壺「ないよ。『アイテム』を見逃せばいいだけだよ」
滝壺はまっすぐ垣根を見つめている。
その瞳には一歩も引かない、という強い意志が表れている。
垣根(クソッ、こんな女の言うことなんざ聞きたくねぇ!
愛生ちゃんを交渉手段に利用するゲスが……!!)
滝壺(本当は、しおりをこんなことに使いたくない。でも、今はこれしかないから…)
83: 2011/06/18(土) 01:48:32.42 ID:VCCMkA5A0
突然、滝壺の後ろの扉が開いた。
下に降りた筈のエレベーターが戻ってきたのだ。
このタイミングで誰が来るというのだろうか?
二人は同時に視線をそちらに送る。
浜面「滝壺!無事か!?」
エレベーターの中からは、逃げた筈のレベル0が走ってきた。
そのまま滝壺の前に立ち垣根を睨みつける。
滝壺「…な、なんで?はまづら、」
浜面「一人で逃げれる訳ねぇだろ!!怪我はしてないか?」
てっきりレベル5にコテンパにやられてると思ったけれど外傷は無いようだ。
別れる前と違う所と言えば、滝壺が手に持つ小さい紙。
浜面「あれ、その栞、おかえりラジオのやつ?」
滝壺「……え、うん」
浜面「それ、俺も持ってる」
その言葉に、滝壺と垣根は驚きを隠せなかった。
なんでこの男が栞の存在、ラジオの存在を知っているのか?
垣根(どうなってやがる…!!なんで『アイテム』の連中が栞のことを…。もしかして、こいつらも、)
滝壺(なんで、はまづらがあきちゃんのラジオを……)
垣根(しかも、お便りを読まれてる、だと……?)
浜面「なんでこんな状況で栞?」
浜面の疑問は当然のことだ。
レベル5に追い詰められて、いつ殺されても可笑しくない状況。
栞はこの雰囲気に相応しくない。
84: 2011/06/18(土) 01:49:39.73 ID:VCCMkA5A0
滝壺「……交渉中」
浜面「は?」
垣根「その栞を譲る代わりに『アイテム』を見逃せだとよ」
浜面「……え」
浜面は垣根と滝壺を交互に見た。
その顔は驚いてるようにも怒っているようにも見える。
浜面「ふざけるなよ…」
滝壺「……」
垣根「……」
浜面の声は震えていた。
垣根に背を向けて、滝壺を見ている。
浜面「その栞を持ってるってことはお前も聞いてんだろ!?」
浜面「しかも、メール読まれたんだろ!?」
浜面「ふざけんな、ふざけんなよっ……!!!」
浜面は滝壺の肩に手を置いた。
悲しそうな瞳で彼女を見つめる。
滝壺は浜面のこんな顔を見るのは、こんな声を聞くのは初めてだった。
85: 2011/06/18(土) 01:51:03.02 ID:VCCMkA5A0
浜面「どんな理由があろうとも、読まれた証を他人に譲るなんてしちゃいけねぇ!!」
浜面「しかも、こんなクソ野郎に!!」
浜面「お便り送るほど好きなんだろ?だったら本当はそれを手放したくないんだろ!!」
滝壺「……はまづら」
浜面「それが家に送られてきた時の喜びを思い出してみろよ!!」
滝壺は栞を優しく握り、俯いた。
初めて、家に届いた時のこと――
とても嬉しく、一生の宝物にしようと思った。
滝壺「ごめんね、はまづら。これしか突破口がなかったから」
浜面「……」
垣根「……」
浜面を助けることが優しさだと思っていた。
そうすれば、自分の恋が報われるのではないかと期待していた。
滝壺「……」
浜面「……」
でも、愛おしい彼は怒りをぶつけてきた。
浜面が自分を助けようとしてくれた時は、嬉しかったのに……。
86: 2011/06/18(土) 01:52:54.15 ID:VCCMkA5A0
滝壺は目から溢れて来そうな感情を必氏に堪え顔を上げる。
滝壺「……優しくするって難しいね」
浜面「え?」
いつもボーッとしている滝壺の顔は悲しそうだった。
その顔に浜面は酷く動揺する。
滝壺は他の『アイテム』のメンバーと違い、浜面に優しかった。
だから逃げずに戻って来たのだ。
浜面(こいつのこんな顔、見たくねぇのに……言いすぎたか?)
二人のやり取りを見ている垣根は完全に置いてけぼりだった。
暇すぎて欠伸がでそうだ。
垣根(優しく、ねぇ……。そういえばこいつら、
どんな内容のお便り送ったんだ?…………参考まで教えてくれねぇかな……)
垣根「……」
垣根(つーか俺空気過ぎんだろ。こいつら見つめ合ってるし……
もしかして、そういう関係なのか?ちくしょう…リア充し、)
垣根「……ん?」
垣根「……」
垣根「!?」
87: 2011/06/18(土) 01:54:25.63 ID:VCCMkA5A0
一つの予想が垣根の頭をよぎる。
こないだの放送で、愛生ちゃんが“優しくしてあげればいい”とアドバイスをしていたお便りがあった。
強気な態度。必氏な行動。選ばない手段。
ここまで女が頑張ることなんて一つしかない。
それが分からないほど、垣根は馬鹿ではなかった。
垣根「おい、能力追跡、ちょっとこっち来い」
浜面「はぁ!?お前なんか、」
垣根「テメェが居ると出来ない話だ」
滝壺「?」
いきなりの提案に二人が振り向く。
浜面は警戒している。
それに引き換え滝壺は落ち着いているみたいだ。
垣根「無理に栞取ったりしねぇよ。あと殺さないし」
浜面「行くな滝壺!」
滝壺は垣根の顔をジッと見た。嘘を吐いているようには見えない。
何かあったとしても、手の中に栞があれば平気だろう。
そう判断し滝壺は足を動かした。
滝壺「平気だよ。待ってて、はまづら」
垣根「テメェは来るなよ?絶対来るなよ?来たら怒るからな」
浜面「くそ…」
浜面は戻ってきても滝壺を守れない無力さに情けなくなった。
何かあったら銃で……しかし、相手はレベル5。
こんな物が効くとは思えない。
ギリッと奥歯を噛み締める。
浜面が出来ることは二人を見ることだけだった。
88: 2011/06/18(土) 01:55:31.61 ID:VCCMkA5A0
滝壺「何?」
垣根「お前“つぼつぼ”だろ」ボソボソ
滝壺「!?」
垣根「そんで好きな男はあそこのレベル0か」ボソボソ
滝壺「……何でわかったの?」ボソボソ
垣根「第2位の頭脳舐めんな」ボソボソ
滝壺「すごいね」ボソボソ
垣根「で、あいつを助けるのが優しさだと思ったわけだ」ボソボソ
滝壺「……」コクン
垣根「なるほどな……」ハァ
滝壺「?」
垣根「お前のしたこと、許してやるよ」
滝壺「え?」
垣根「愛生ちゃんは、アンタを応援するって言ってたろ?
だから栞をそんな風に使っても、愛生ちゃんは怒らねぇよ」
滝壺「……」
垣根「だから俺も怒らねぇ。上手くいくといいな?」
滝壺「……ありがとう」
89: 2011/06/18(土) 01:56:34.52 ID:VCCMkA5A0
垣根「礼なんかいらねぇよ。同士だろ?」
滝壺「……優しいんだね」
垣根「そんなことない。つーか何で俺が愛生ちゃん好きって知ってたんだ?」
滝壺「とうちょう」
垣根「あ?」
滝壺「盗聴したの。車に仕掛けて」
垣根「……いつだよ。全然気付かなかったんだけど」
滝壺「研究所でつけてみた」
垣根「つけてみたって……」
滝壺「ごめん」
垣根「いや、別にいいけど……」
垣根(こいつ、大人しそうな顔しておっかねぇな……。やっぱり要だ……)
滝壺「どうかした?」
90: 2011/06/18(土) 01:58:24.96 ID:VCCMkA5A0
垣根「別に。あと俺からのアドバイス」
滝壺「なに?」
垣根「優しくするのもいいけど、お前はスタイルがいいんだ。
それも使え。あと病院行っとけよ。能力使って体に負担かかってんだろ」ボソボソ
滝壺「……わかった」ボソボソ
垣根「ここでは見逃してやるが、それでも『アイテム』が
追ってくるなら殺さなきゃならねぇ。それだけ覚えとけ」
滝壺「へいき。追いかけたりしない。元々そういう指示を受けた訳ではないし」
垣根「でもお前らのリーダーが黙ってるとは思えねぇよ」
滝壺「むぎのは話が分かる人だよ?」
垣根「あと、ハーフっぽい女はどうするつもりだ?盗聴してたなら知ってんだろ?」
滝壺「それにも平気。フレンダは私がちゃんと迎えに行くから」
垣根「まぁ、『アイテム』の内部事情は俺には関係ねぇし……。頑張れ」
滝壺「うん」
91: 2011/06/18(土) 01:59:42.63 ID:VCCMkA5A0
垣根「じゃあな。俺はもう行くぜ」
話が終わり垣根は歩き出した。
滝壺は慌てて垣根の袖を掴む。
垣根が振り向くと、名残惜しそうに栞を差し出しだ。
垣根「何だよ?」
滝壺「これ、」
垣根「いらねぇよ。自分で手に入れなきゃ意味がねぇ」
滝壺「……見逃してくれるの?」
垣根「ピンセットは手に入れたんだ。雑魚には用はねぇよ」
垣根は言いながらポケットから何かを取り出した。
小さいケースに入った粉。それは体晶だった。
滝壺は急いで自分のポケットに手を入れる。
そこには何も入っていない。
体晶は滝壺が能力を使用する際に使う特殊な粉だ。
これが無いと滝壺は何も出来ない。
無力な女の子になってしまう。
滝壺「いつの間に……」
垣根「内緒話してる時だよ。これでお前は無害だ。頃す必要はねぇ」
92: 2011/06/18(土) 02:01:43.08 ID:VCCMkA5A0
浜面「おい!!!!!」
浜面は二人の会話を遮るように叫んだ。
仲良く内緒話をしたあげく爽やかに別れようとしている。
状況が理解出来ない浜面は、駆け足で二人の近くへ行った。
浜面「何でいきなり見逃すなんて流れになってんだよ」
垣根「うるせぇな。殺さないでやるんだからもっと喜べよ」
浜面「訳分かんねぇよ……」
垣根「説明してやれ。じゃ、今度こそ行くから」
滝壺「うん」
滝壺は垣根の背中を見つめた。
頃し合う、いや、一方的に虐殺されるかもしれなかったのに、恋の応援までしてくれた。
頑張ろう。
滝壺「はまづら、未元物質が私達を見逃してくれた理由、話すね」
浜面「おう……」
滝壺は話した。
垣根が豊崎愛生を大好きなこと。
自分が彼女のラジオ聴いていること。
垣根は同士である滝壺を見逃したこと。
でも、自分の恋愛については一言も言わなかった。
浜面「アイツが、おかえりラジオ大好きだったとはな……」
滝壺「だから栞で交渉してたの」
浜面「なるほど……」
93: 2011/06/18(土) 02:02:58.72 ID:VCCMkA5A0
滝壺「はまづらも知ってるんだよね?」
浜面「おう。俺もお便り読まれたことあるんだぜ!」
滝壺「どんな内容?」
浜面「それは……えっと、秘密。そういうお前は?」
滝壺「私もひみつ」
浜面「何だよ……」
浜面はお便りの内容を言えなかった。
オブラートに包んでいるとはいえ麦野への不満だったからだ。
滝壺もお便りの内容を言えなかった。
自分の想いを伝えるのは、もっと別の方法が良かったからだ。
滝壺「はまづら、むぎのを探そう。それで『スクール』から手を引いてもらおう」
浜面「え……それは無理だろ…」
滝壺「平気だよ。私が説得してみる」
そして、滝壺は浜面に抱きついた。
彼女の豊満な膨らみがダイレクトに伝わってきて浜面は赤面した。
94: 2011/06/18(土) 02:04:42.89 ID:VCCMkA5A0
浜面「な!?いいいきなりどうした!?」
滝壺「こうしたかったから」
浜面「ええええ」
滝壺「いや?」
浜面「そうじゃないけど、え、えっと……その」
滝壺「?」
浜面「言いにくいんだけど、その…」
滝壺「はまづら、いいの」
浜面「へ?」
滝壺は少し背伸びをして、浜面の耳元で囁いた。
滝壺「あててるから」
浜面「!?」
滝壺「あと、今日のらじお、一緒に聞きたい」
浜面「ももももちもちろんいいですよ」
滝壺が何を言ったか一瞬理解出来なかった。
理解した途端、赤い顔がますます赤くなる。
その様子を見て、満足した滝壺は浜面から離れる。
95: 2011/06/18(土) 02:10:51.10 ID:VCCMkA5A0
滝壺「きぬはたを運んであげないと」
浜面「そうだな。麦野も怪我してるかもしれないし、早く行こう」
滝壺「うん」
合流した麦野はブチ切れていた。
二人で麦野を宥めたが全く効果は無い。
そこで滝壺は、麦野と二人で話をすると言って個室に籠ってしまった。
浜面は滝壺が殺されないか、不安だったのだが……
数分後、個室から出てきた滝壺はいつもと変わらずボーっとしていた。
そして、麦野は真っ赤になり俯いていた。
浜面「……どうした?」
麦野「……なんでも、ない」
浜面「?」
とにかく滝壺の説得(?)が通じたのか『スクール』を追うのは中止となったのだった。
その後、絹旗の病院に運んだ。
命に関わるような怪我ではなく、すぐに目を覚ました。
『スクール』を追うのを中止、と聞くと意外そうな顔していたが、不満を言うことなくそれに従った。
そして、滝壺がどこからかフレンダを連れてきた。
フレンダは泣きながら麦野に抱きつき、“ごめんね”と言っていたが、麦野は怒ることなくフレンダを撫でた。
浜面はその光景を見て、胸が温かくなった。
『アイテム』はあまり好きじゃない組織だったけれど、
彼女たちにの為にもっと働いてやってもいいのではないかと思った。
108: 2011/06/19(日) 03:32:25.55 ID:LbhXluK00
レスありがとうございます。
恋愛要素を期待している人が居るようですが、前にも言った通りないです。
投下します
恋愛要素を期待している人が居るようですが、前にも言った通りないです。
投下します
109: 2011/06/19(日) 03:34:23.76 ID:LbhXluK00
隠れ家に戻ってきた垣根は、解析を始めていた。
『滞空回線』なんて代物があったことに驚いたけれど、
アレイスターの情報収集力を考えれば、納得がいった。
『滞空回線』からは凄まじい量の情報を得ることが出来る。
しかしアレイスターと対等に渡り合うには不十分だ。
垣根(ちくしょう……やっぱりこれだけじゃ駄目か)
ガチャリと扉が開く。
目だけでそちら見ると、『スクール』の構成員である心理定規が居た。
垣根「お前、どこ行ってた訳?」
心理「ちょっとお小遣いを稼ぎに。やっぱり学者はダメね。
基本料金をきっちり計算していて、ちっともチップを弾んでくれない」
垣根「ふーん。一時間って時間が生々しいな」
心理「別にやましい事はしてないんだけど。
ホテルの一室に入ったって言っても、雑誌をめくりながら少し話をしたくらいだし」
垣根「……工口い事しないの?」
心理「しないわよ。する必要もないし。場合によっては―――」
彼女は話を続けていたが、興味がない垣根はあまり聞いていなかった。
それよりも、さっさと解析を進めなくてはならない。
垣根が興味なさそうな声で相槌を打っていると、彼女は話を止め、話題を変えた。
110: 2011/06/19(日) 03:35:50.27 ID:LbhXluK00
心理「そういえば『アイテム』ってどうなったの?」
垣根「能力追跡は無力になった。俺達を追って来れねぇよ」
言いながら心理定規に向かって小さいケースを投げる。
心理「これって、体晶?そういえば『アイテム』の能力追跡は意図的に能力を暴走させてたんだっけ」
垣根「そうだ。あの女弱ってたし、俺が頃すまでもなかった。あと数回、能力を使えば確実に氏ぬだろうし」
心理「それで殺さなかったのね。能力が使えなきゃ確かに無害だけど……」
垣根「なんだよ?」
心理「体晶を奪うなんて、まるでその女を助けたみたいね」
垣根は内心動揺したが表には出さない。
おかえりラジオのリスナーだから助けた、なんて言ったら心理定規に殺されるだろう。
垣根「俺が他の女に優しくすんのが気に喰わないの?」
心理「自惚れるなよキモオタ」
垣根「あ?キモオタじゃねぇし」
心理「声優なんかに夢中になってるなんてキモいわよ。氏んだ方がいいわ」
垣根「うっせぇな。テメェに迷惑かけてねぇんだから別にいいだろ」
二人はお互いに、こいつマジうぜぇ氏ねと思いながら会話を続ける。
同じ組織の者同士が話しているのに、殺伐としている雰囲気は異様だった。
111: 2011/06/19(日) 03:37:38.32 ID:LbhXluK00
心理「解析結果は?」
垣根「ダメだな」
滞空回線には膨大な情報があるが、アレイスターと対等にやり合える立場になれるようなものではない。
このデータにプラスして、もう一押しする必要がある。
垣根は心理定規に、そう話した。
垣根の言葉を聞いた彼女はため息を吐く。
心理「なら、やっぱりやるのね」
垣根「……ああ。学園都市第1位を頃す。そしれしか道はねぇな。
アレイスターと交渉を優位に進めるためには、やっぱり『第2候補』じゃダメだ。
代わりの利かない『第1候補』の核にならなくっちゃな」
心理「そう。何でも良いけど、私は一方通行戦に関わるつもりはないから」
垣根「ふーん。で、暇な時間はまた小遣い稼ぎにでも行くのかクソビXチ」
心理「だからエOチなことはしてないって言ってるでしょ底辺声オタ」
心理定規は汚物を見るような目で垣根を見た。
そして結果が分かったら教えろ、と言い『スクール』の隠れ家から立ち去った。
垣根は『ピンセット』を眺めながら、ゆったりと笑った。
垣根「―――『一方通行』か」
112: 2011/06/19(日) 03:40:41.41 ID:LbhXluK00
―――――――――――――――――――――――
垣根は“最終信号”を探すために隠れ家から出た。
幼い少女を利用するのは気が進まないけれど、交渉権を手に入れる為だ。
手段など選んでられない。
一刻も早く、野望を実現させたかった。
垣根(……確か、この辺りだよな?)
厄介なのは最終信号が一人ではないことだ。
そのうえ、今は行方を暗ましてしまっている。
入手した情報に寄ると、暗部でも何でもない一般人と行動を共にしているらしい。
まぁ、たかが一般人だし愛想良くヘラヘラしとけば警戒されないだろう、と思いながらターゲットに近づいて行く。
ターゲットの少女は、幸せそうにパフェを食べていた。
その少女は風紀委員の腕章が付いている。
しかし、彼女に戦闘力があるとは思えない。
変わった所といえば頭の花だけで、他には特徴がなくどこにでも居そうな普通の中学生だ。
垣根(人の良さそうな顔してるし、最終信号がどこに行ったかはすぐに教えてくれんだろ)
垣根は、完全に油断していた。
少女はそこまで馬鹿ではないし、垣根が思っているほど弱くもない。
そして、何より―――。
垣根はこの少女が特別な存在になるなんて、今は知らなかった。
.
113: 2011/06/19(日) 03:41:40.83 ID:LbhXluK00
―――――――――――――――――――――――
初春飾利はオープンカフェに居た。
見知らぬ女の子の世話した自分にご褒美でも
あげようと思い、大型甘味パフェに挑戦中だ。
元気なアホ毛を持つ女の子は一人でどっかに行ってしまった。
追いかけるべきなのだろうが、パフェを食べ始めた初春は席を立つなど出来なかった。
そして、初春はパフェのアイスクリームゾーンへ突入したのだったが、
「失礼、お嬢さん」
不意に横からそんなこと言われた。
目をやるとガラの悪そうでチャラい少年が立っていた。
手には奇妙な爪のようなものを装着している。
見るからに妖しい。
でも、顔はけっこう好みかもしれない。
少年は胡散臭い笑みを浮かべて初春を見つめている。
正直かかわりたくなかったけれど、無視する訳にもいかず言葉を返す。
初春「はぁ。どちら様ですか?」
少年「……」
初春「?」
初春飾利はオープンカフェに居た。
見知らぬ女の子の世話した自分にご褒美でも
あげようと思い、大型甘味パフェに挑戦中だ。
元気なアホ毛を持つ女の子は一人でどっかに行ってしまった。
追いかけるべきなのだろうが、パフェを食べ始めた初春は席を立つなど出来なかった。
そして、初春はパフェのアイスクリームゾーンへ突入したのだったが、
「失礼、お嬢さん」
不意に横からそんなこと言われた。
目をやるとガラの悪そうでチャラい少年が立っていた。
手には奇妙な爪のようなものを装着している。
見るからに妖しい。
でも、顔はけっこう好みかもしれない。
少年は胡散臭い笑みを浮かべて初春を見つめている。
正直かかわりたくなかったけれど、無視する訳にもいかず言葉を返す。
初春「はぁ。どちら様ですか?」
少年「……」
初春「?」
114: 2011/06/19(日) 03:43:36.10 ID:LbhXluK00
少年「失礼、お嬢さん」
初春「はい?何ですか?」
少年「……」
初春「……」
少年「……」
初春「……」
少年「失礼、お嬢さん」
初春「ちゃんと聞こえてますけど……。何か用ですか?」
そう言った瞬間、少年は倒れた。
別に初春飾利は何もしていない。
そもそも、そんな力は彼女にはない。
しかし垣根を動揺させる要素を彼女は持っているのだ。
もちろん本人は全く自覚していない。
運命かどうかは分からないけれど、とにかく二人は出会ってしまったのだった。
.
126: 2011/06/20(月) 01:16:23.75 ID:vKSqMx2S0
どこだ、ここ。
俺は何をしてたんだっけ?
あれ?
何かやるべきことがあったんじゃないか?
でも、何かすっげぇ驚いたことがあって……
驚いたこと?
なんだ、それ?
そういえば俺、倒れたような気が……
??「ねぇねぇ」
―――あ?誰だよ?
127: 2011/06/20(月) 01:19:42.47 ID:vKSqMx2S0
蜷川「倒れてないで、一緒に泳ごうよっ!海、すーっごく気持ち良いよ!」
―――あれ、あむろちゃんじゃねぇか……。スク水似合ってるな……。
スゥ「倒れるなんて疲れちゃってるんですかぁ?スゥがスタミナ料理作ってあげるですぅ!」
―――スゥの手料理か……。そんなの食べれたら、氏んでも後悔しないだろうな……。
天空寺「無理しちゃだめだよ。帝督ちゃんはなじみの大切な人なんだから」
―――なじみちゃんにそんなこと言ってもらえるなんて、これは夢か?
町中「今の仕事つらいの?だったら、新風新聞専売所にきなよ?皆、優しい人ばっかりだよ!」
―――……今すぐ『スクール』止めよう。配達なんて能力使えば一瞬で終わるぜ。
平沢「寝てないで一緒にケーキ食べようよぉ~。早くしないと全部食べちゃうぞぉ」
―――相変わらず唯ちゃんは食いしん坊だな。そんな所が好きなんだけど。
別所「お兄ちゃん!頭打ったんでしょ?大丈夫?小宵、すっごく心配したんだよ!?」
―――小宵ちゃんのアニキになれるなら、頭打つくらい安いもんだぜ。
山辺「燈が膝枕してあげるね。ほら、恥ずかしがらないで?」
―――膝枕もいいけどソーマも欲しい……でも、燈ちゃんにそんなこと言ったら恥ずかしがるだろうな。見たい。
「まだ、起きないんですか?早くしてくれないと、帰れないですよ」
―――誰だ、お前
128: 2011/06/20(月) 01:21:24.86 ID:vKSqMx2S0
「はぁ……アホ毛ちゃんだけじゃなくて、知らない男の人にまで振り回されるとは……ついてないですね」
―――よく知ってる声なのに、知らねぇな。
「起きて下さいよぉ……はぁ……」
―――うるせぇな。起きればいいんだろ。
だから、俺の好きな声で、ため息なんか吐くんじゃねぇよ
.
129: 2011/06/20(月) 01:23:53.15 ID:vKSqMx2S0
―――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
―――――
―――
長い夢を見ていた気がする。
内容は覚えていないが、暖かくてとても嬉しい夢だったと思う。
垣根はゆっくりと目を開けると、見知らぬ場所に居た。
天井が白い。
薬品の匂いがする。
ここは自分の家ではない。
自分がどこに居るのかを確認する為に体を起した。
窓からはオレンジの光が差し込んでいて、日が落ち始めていることを知らせていた。
「起きたんですか?」
可愛らしい高音が耳に触れる。
垣根は声の持ち主を見た。
少女「連絡先も何も分からなかったので、私が付き添ったんです」
垣根「……」
少女「覚えてますか?貴方、倒れたんですよ?ちなみにここは病院です」
花飾りの少女がふんわりと笑う。
少女は飴玉を転がすような甘ったるい声だった。
甘さが心地が良く、ずっと聞いていたかった。
―――――――――――
――――――――
―――――
―――
長い夢を見ていた気がする。
内容は覚えていないが、暖かくてとても嬉しい夢だったと思う。
垣根はゆっくりと目を開けると、見知らぬ場所に居た。
天井が白い。
薬品の匂いがする。
ここは自分の家ではない。
自分がどこに居るのかを確認する為に体を起した。
窓からはオレンジの光が差し込んでいて、日が落ち始めていることを知らせていた。
「起きたんですか?」
可愛らしい高音が耳に触れる。
垣根は声の持ち主を見た。
少女「連絡先も何も分からなかったので、私が付き添ったんです」
垣根「……」
少女「覚えてますか?貴方、倒れたんですよ?ちなみにここは病院です」
花飾りの少女がふんわりと笑う。
少女は飴玉を転がすような甘ったるい声だった。
甘さが心地が良く、ずっと聞いていたかった。
130: 2011/06/20(月) 01:26:52.56 ID:vKSqMx2S0
少女「あ、いきなり知らないヤツが居たら驚きますよね?」
確かに垣根はとても驚いている。
でも、別に知らない人間が居るからではない。
少女「私は風紀委員の“初春飾利”と言います。妖しい者ではありません」
垣根が驚いている理由は、知らない間に病院に運ばれていたからでもない。
目の前の少女の発する音が、どうしようもなく愛おしい声だったからだ。
初春と名乗った少女は、垣根の溺愛する彼女と声が似ていた。
もし初春飾利がアニメのキャラクターだったのなら、声をあてるのは間違いなく“豊崎愛生”になるだろう。
それくらいに初春の声は、甘くて優しいほっこりボイスだった。
打止「あ!イケメンのお兄ちゃん起きたんだ!ってミサカはミサカは安心してみる!」
ガラッと勢いよく扉が開かれた。
ヒマワリの様に眩しい笑顔をした少女が、ベッドに駆け寄ってくる。
初春「あ、アホ毛ちゃん。ちゃんと苺おでん買って来てくれました?」
打止「それくらいミサカにもできるよ!ってミサカはミサカは
缶を落とした事実は隠ぺいしつつ、頼まれた物を差し出してみたり」
初春「落したんですか!?あー……缶ヘコんでるじゃないですか」
131: 2011/06/20(月) 01:29:06.68 ID:vKSqMx2S0
医者「ほらほら、病室では静かにして欲しいんだね?」
立派なアホ毛を持つ少女が開けたままの扉から、白衣を着た男が入って来た。
カエルのような顔をしている。
医者「目が覚めたようだね?入院する必要はないから、帰って安静にするんだね?」
垣根「俺は、一体どうなったんだ?」
垣根の質問に医者はのんびりと答えた。
オープンカフェで倒れた垣根は、救急車でこの病院へ運ばれたそうだ。
身分証明書や連絡先が分からなかった為、近くに居た風紀委員が一緒に救急車に乗った。
騒ぎを聞きつけたアホ毛少女は、なんとなく一緒に来たらしい。
垣根「……なるほどな。大体分かった」
医者「何かよほどショックを受けたようだね?無理はしないで欲しいんだね?」
それだけ言うと医者は病室から出て行った。
垣根は医者の背中を見ながらぼんやりしていた。
垣根(無理はするな、か……)
でも、それはできない。
垣根は目が覚めてからも、ずっと驚き続けている。
垣根は初春を見た。
132: 2011/06/20(月) 01:31:44.03 ID:vKSqMx2S0
初春「どうかしました?それよりも私、帰ってもいいですか?」
打止「ミサカも帰らなきゃ……結局、迷子は見つからなかったってミサカはミサカは落ち込んでみる……」
垣根(このお嬢ちゃんが最終信号か……。いや、今は最終信号に構ってる暇なんかねぇ)
垣根はベッドから降りると、初春の前に立った。
大きいくりくりとした目が垣根を見上げる。
垣根「迷惑かけちまったみたいだな。お詫びに送ってやるよ」
打止「ミサカも初春のお姉ちゃんを送ってあげるってミサカはミサカはやる気満々!」
初春「一人で帰れますから結構です」
即答だった。
その言葉には送ってもらうのなんて悪いから……とかではなく、
さっさと知らないヤツ等から解放されたいという願いが込められていた。
垣根「いいから送るって。可愛いお嬢さんが一人で帰るなんて危ないだろ?」
初春「……そこまで言うなら仕方ないですね。送らせてあげますよ」
垣根「……」
可愛らしい声なのに全然可愛くない女だな、と垣根は思った。
初春は垣根を見て“帰りたいので早くして下さい”と言い歩き出してしまった。
やっぱりこいつ、可愛くねぇ。
133: 2011/06/20(月) 01:34:40.50 ID:vKSqMx2S0
―――――――――――――――――――――
打止「はぁ……迷子はどこに行っちゃったのかなってミサカはミサカはうな垂れてみたり」
病院から出た、打ち止めはシュンとしていた。
立派なアホ毛もうな垂れている。
初春「迷子って結局何だったんですか?」
打止「迷子は迷子だよってミサカはミサカは事実をぼかしてみる」
垣根「お嬢ちゃんが言ってる迷子って、一方通行じゃないのか?」
垣根は打ち止めが第1位を探しまわっていることを知っていた。
1位の男が、こんな少女に迷子と呼ばれているなんて面白すぎる。
打止「お兄ちゃん、あの人のこと知ってるのってミサカはミサカは質問してみる!!」
初春「良かったですね。手がかりが見つかったみたいなので私はこれで……」
垣根「勝手に帰るな」
そう言うと垣根は、強引に初春の手を取る。
初春の体が強張るのが伝わって来た。
打止「あ!ミサカも手を繋ぐってミサカはミサカは初春のお姉ちゃんの手に飛びついてみたり!」
初春「わっ!……何するんですか、もう」
二人に手を繋がれた初春は、観念したように歩き出した。
134: 2011/06/20(月) 01:37:20.51 ID:vKSqMx2S0
垣根は初春を見つめた。
幼さが残る顔は全く好みではない。
胸はペッタンコで全くそそられない。
頭の髪かざりは意味不明だ。
大きい瞳は子どもそのもので見つめられてもドキドキしない。
握った手は細く幼くて女性特有の柔らかさが足りない。
足は細いだけで微塵も色気を感じられない。
けれど―――
初春「垣根さん、でしたっけ?倒れてるんですから、無理しないで下さいね」
彼女の声を聞くと、胸が締め付けられ切なくなる。
高鳴る心音はうるさいけれど、悪い気はしなかった。
初春「そういえば、私に何か用だったんですか?」
垣根「忘れた」
初春「なんですか。それ」
打止「ねぇねぇ、イケメンのお兄ちゃん、あの人のこと知ってるの?ってミサカはミサカは会話に割り込んでみる」
打ち止めが垣根を見上げた。
そういえば、最初は打ち止めを探していた筈だった。
しかし今はどうでもいい。
交渉権は手に入れたいが、今は甘い声に耳を傾けていたかった。
135: 2011/06/20(月) 01:39:16.18 ID:vKSqMx2S0
初春「アホ毛ちゃん、真剣に探してるみたいなんですよ。
何か知っていたら教えてあげてくれませんか?」
お願いしますよ、ね?
甘い声は優しく問いかけてきた。
その聞き方は卑怯だ。断れる訳ないだろう。
けれど、垣根だって一方通行がどこに居るかは知らなかった。
垣根「……教えてやりたいけど、俺も居場所は知らねぇ」
打止「なら、仕方ないかって、ミサカはミサカは……」
初春「落ち込まないで下さいよ。きっと見つかりますって」
初春は宥めるように言った。
打ち止めに付き合ってるのは嫌そうに見えたが、それなりに心配はしているようだ。
初春「だから元気出して下さい。暇な時はまた付き合ってあげますから」
打止「本当!?ミサカはミサカは」
打ち止めが元気にパァっと笑った瞬間、ぐぅ~っと大きい音が響いた。
可愛らしいお腹からの音だとは思えないほどの、でかい音だった。
垣根「すげぇな。そんなに腹減ってるのか」
打止「ちが……ちがうってミサカはミサカは……」
初春「一日中、歩き回ってたから仕方ないですよ」
打止「うぅ……」
136: 2011/06/20(月) 01:42:57.93 ID:vKSqMx2S0
初春「ファミレスでも寄ります?でも、アホ毛ちゃんの保護者は心配しちゃいますか……」
初春は口に指をあてて、どうしようかな、んー?と考え事をしている。
“んー?”
これ、破壊力やばい。
別に愛生ちゃん本人ではない。
しかし、ほっこりエンジェルボイスであることには変わりない。
もう少しだけ彼女の声を聞いていたい。
でも、初春に“お前の声をもっと聞かせてくれ”なんて言ったら、何か誤解されそうだ。
ならば……
垣根「なら、俺がアホ毛の嬢ちゃんの家に連絡してやるよ。迷子になってる所を保護して夕飯食べさせてるって」
打止「アホ毛じゃないもんってミサカはミサカは抗議してみる!」
初春「へ?アホ毛ちゃんを任せてもいいんですか?」
垣根「ついでだし、花飾りのお嬢さんも来いよ」
打止「やったー!新しいお友達とご飯だってミサカはミサカは喜んでみたり!」
初春「え?」
戸惑う初春を引きずるようにして、三人はファミレスに向かった。
垣根は心の中でニヤニヤしていた。
ご飯食べる、というのはけっこう色々な声が聞けるのだ。
137: 2011/06/20(月) 01:45:14.90 ID:vKSqMx2S0
打ち止めの家に電話をすると、気だるげな声が聞こえてきた。
声の主は、今日は愛穂の帰りが遅いから助かったわ、と言うと一方的に電話を切った。
この女からは駄目人間の臭いがする。
まぁ、そんな訳で、会って間もない三人はファミレスで食事をすることになったのだ。
完璧な笑顔の店員に席を案内されて、三人はメニューを開いた。
夕飯の時間のせいか店内は賑やかだ。
ざわついた店内でも、初春の声は最高だった。
垣根「奢ってやるから、遠慮すんなよ?」
打止「やったーってミサカはミサカはお子様ランチを希望してみたり」
初春「えぇ……奢りなんて悪いですよぉ……。
私は、このパスタと苺のパフェと苺のミルフィーユだけでいいです」
垣根「全く遠慮する気がねぇな」
初春「冗談ですよ。本当は…」
垣根「別に構わねぇよ。金はあるから。全部頼んでやるよ」
初春「へ!?いや、ほ、本当に悪いですよ」
垣根「病院まで付き添ってくれた礼だよ。気にするな」
言いながら店員の呼び出しボタンを押した。
にこやかな笑顔の店員に手際良く注文をする。
138: 2011/06/20(月) 01:47:05.74 ID:vKSqMx2S0
店員「少々お待ち下さいませー」
初春「すいません……ご馳走になっちゃって」
垣根「気にすんなって」
垣根は、笑顔で言った。
そう、気にしなくていい。
ファミレスに入って数分しか経っていないのに、ほっこりボイスの冗談や悪びれた声を聴けたのだ。
でも、全然足りない。
垣根「なぁ、うんたん♪うんたん♪って言ってみてくれ」
初春「はい?」
垣根「うんたん♪うんたん♪ repeat after me?」
初春「……うんたん?うんたん?」
垣根「?じゃねーよ!♪だよ!」
初春「……う、んたん♪うんたん♪」
垣根(こ、これは、“うんたん”だ―――!!!!)
初春(なんだろう、この人、気持ち悪い、かもしれないです)
微笑ましい談笑をしていると、料理が運ばれてきた。
パスタを見た初春は“美味しそうですねぇ”と上機嫌に言った。
正直パスタなんかよりも、その声の方が甘くて美味しそうだと垣根は思う。
139: 2011/06/20(月) 01:50:47.05 ID:vKSqMx2S0
打止「いただきますってミサカはミサカは手を合わせてみる」
初春「いただきます……貴方は食べないんですか?」
垣根「腹減ってないんだ」
それは嘘だった。
でも、せっかく良い声が身近に居るのに、食べ物を咀嚼してる音で掻き消してしまったら勿体ない。
だから食べないのだ。
打止「初春のお姉ちゃんにプレゼントあげるってミサカはミサカはピーマンをお皿に乗せてみたり」
初春「好き嫌いは駄目ですよ」
打止「あ!戻さないでってミサカはミサカは涙目になってみる」
初春「そんな顔しても駄目です。ピーマン美味しいじゃないですか?」
打止「おいしくないもんってミサカはミサカは不貞腐れてみたり」
初春「美味しいですって。ほら、一口食べてみて下さい。一口だけでいいので」
打止「……なら、一口ってミサカはミサカは忌々しい緑をかじってみる」
垣根は微笑ましいやりとりを見てほっこりする。
幼い子を諭すような声も素晴らしい。
やはり、ファミレスに来て正解だ。
そして初春飾利の声の良さを実感していた。
140: 2011/06/20(月) 01:52:39.99 ID:vKSqMx2S0
打止「やっぱり無理ってミサカはミサカは残りのピーマンを初春のお姉ちゃんに押し付けてみたり!」
初春「あ!駄目ですって!」
垣根「……」
初春「あの、垣根さんも黙ってるだけじゃなくて、何とか言って下さいよ」
垣根「え?俺?」
初春「はい、お願いします」
彼女の声は魔力がある。
“お願いします”
その言葉だけで、垣根の思考は停止して、初春の言うことを聞かなくてはならないと思ってしまう。
垣根は箸でピーマンをつまむと打ち止めの口元に持っていった。
垣根「ほら、食え」
打止「やー!絶対にやー!」
打ち止めはそう言うとそっぽを向いた。
しかし、垣根は諦めない。
なぜなら初春の“声”にお願いされたからだ。
141: 2011/06/20(月) 01:54:44.61 ID:vKSqMx2S0
垣根「ほら、食えって」
打止「むー!」
打ち止めは口を絶対に開けずに、涙目で睨みつけてくる。
垣根は大人げなく、睨み返す。
そんな二人のやりとりを眺めながら初春はパスタを口に運んだ。
垣根「いい加減にしろよクソガキ」
打止「……」
垣根「こっち向いて口開けろ」
打止「……」
垣根が強硬手段に移ろうと打ち止めに手を伸ばした。
その瞬間。
ガゴォン!という音がファミレス中に響き渡った。
他の席から、イスが飛んできたのだった。
その一撃を喰らったことで垣根はバランスを崩す。
打ち止めに食べさせる予定だったピーマンは机の上に落ちていた。
142: 2011/06/20(月) 01:57:13.06 ID:vKSqMx2S0
それでもパスタを食べることを止めない初春飾利は確かに聞いた。
「……ったく、シケた遊びでハシャいでンじゃねェよ。三下」
白熱し白濁し白狂した、
学園都市最強の、悪魔のようなレベル5の声を。
「もっと面白いことして、」
最強がそう言いかけた時、言葉を遮るように大きな着ボイスが店内に響き渡った。
携帯<プロデューサー、あのぅ、メールですよぉ……。
え、えっと私、どうすればいいんでしょうか……。
うぅ、とにかく確認してください~。
おどおどしたその声は、透き通るウィスパーボイスだった。
149: 2011/06/20(月) 20:05:02.53 ID:vKSqMx2S0
ただごとではない雰囲気に、初春は打ち止めを連れて避難した。
打ち止めは嫌がっていたけれど、無理矢理にでも連れて行かないと危険だ。
遠巻きに二人を見つめる。
くだらない会話だけれど、殺伐とした雰囲気がこちらまで伝わって来た。
垣根「痛ってぇな」
垣根帝督はピーマンから一方通行に視線を向けると、静かに言った。
垣根「痛すぎるぜオマエ。アイマスが好きな上に、着ボイスが雪歩だと?」
一方「……」
垣根「流石は第1位。大したキモオタぶりだ。
公の場で気持ち悪い着ボイス披露してんじゃねぇぞ?」
一方「ハッ。類似品に惹かれて目的を見失ったアホ野郎が何言ってンだ。
声オタなンつー最底辺の時点で、テメェのがキモオタなンだよ」
垣根「バッカじゃねぇの。マナーモードにするのを
忘れてたクソ野郎に、人を最底辺呼ばわりする資格はねぇよ」
学園都市の第1位と第2位。
一方通行も垣根帝督も、コソコソと会話をする気はなかった。
周りにキモオタとバレても、何も問題はない。
150: 2011/06/20(月) 20:07:25.75 ID:vKSqMx2S0
一方「大体、豊崎愛生なンか、にわかが好きになる代表声優じゃねェか」
垣根「あ?」
一方「声域が広いとか言われてるけどよォ、
シOタ声からお姉さん声まで出せる女性声優さンはたくさン居るンだよ」
垣根「愛生ちゃんはその中でも魅力的なんだ」
一方「なンであいなまさンってスフィアメンバーとの写真の時、一人だけ前に出てンの?」
垣根「……」
一方「背が高いっつーか、全体的にデカイよなァ?」
垣根「テメェ……!」
一方「進撃の愛生」
垣根「ぶっ頃す!!!!」
一方「キレたらすぐ手を出すのかァ?あいなまファンがゆとり丸出しのDQNってのは本当なのかよ」ニヤニヤ
垣根「ぐっ…クソッ……!!!」
一方「三下が。嫌がってるガキに無理矢理ピーマン
食べさせようとするから、好きな声優がディスられンだよォ」
垣根「……」
一方「これに懲りたら、あのガキには手を出すンじゃねェぞ?いいなァ?」
垣根「……」
一方「……」
151: 2011/06/20(月) 20:08:45.97 ID:vKSqMx2S0
垣根「……」
一方「……」
垣根「……萩原雪歩って、声がゆりしーだっけ?」
一方「あ?」
垣根「それだけでプロデュースする気なくなるよな?」
一方「テメェ、」
垣根「あ、でも、キャスト変わったか?誰だっけ?」
一方「……」
垣根「まぁ、ゆりしーじゃなくなって、心置きなくプロデュースできる人が増えただろ。いいことだ」
一方「…………」
垣根「ゆりしーって大した都合がねぇのに、アイマスライブ欠席してんだろ?
忙しいのに予定調整して、大事なライブには顔出すくぎゅを見習えよ」
一方「屁だな」
垣根「……」
一方「テメェの言ってることは事実だ。でも、それは散々ネット上で言われてンだよ。
正論並べたつもりかもしれねェが、実際は汚ねェ口からプープー漏れてんのは屁だ」
152: 2011/06/20(月) 20:10:54.98 ID:vKSqMx2S0
垣根「テメェが萩原雪歩を好きなのは分かった。
でも、テメェはプロデューサーとして彼女を応援しきれてねぇだろ?」
一方「そンなことねェよ。俺は、」
垣根「アイマスライブに一度も行ったことの無い野郎が何言ってやがる」
一方「!?」
垣根「アイマスのキャラって中の人の性格が反映されることが珍しくねぇよな?」
一方「……そうだ」
垣根「ライブに行って声優に声援送るのは、キャラに声援を送るのと同じことだ」
一方「……」
垣根「それに、物販じゃライブ限定のグッズが売られたりすんだろ?」
一方「……ッ!!」
垣根「アイマスのビッグイベントに参加したことないヤツがプロデューサーとは、笑えるな」
一方「……」
153: 2011/06/20(月) 20:12:21.25 ID:vKSqMx2S0
垣根「しかも、アイマス2は男が出てくんだろ?」
一方「!!」
垣根「テメェは何もできずに、画面の向こうで萩原雪歩の処Oが
切られるのを黙って見てることしかできねぇんだろ?」
一方「……や、めろ」
垣根「“団結”がテーマとか言うくせに、
水瀬伊織、三浦あずさ、双海亜美はプロデュース対象外だしな」
一方「やめろ」
垣根「人の好きなモンをディスったら自分の好きなモンもディスられんだよバーカ」
一方「テメェ!!!」
「いい加減にしろよ!!!!!」
垣根と一方通行の騒ぎのせいで、二人の周りには人が居なかった筈だ。
それなのに、垣根でも一方通行でもない人間の怒号が響いた。
垣根は、第三者を睨みつける。
154: 2011/06/20(月) 20:14:09.48 ID:vKSqMx2S0
垣根「何だテメェ?人の会話を盗み聞きしてんじゃねぇよ」
??「お前らでかい声で喋ってるからだろうが!聞きたくもない会話が聞こえるんだよ!」
垣根「なら失せろ」
??「嫌だ」
垣根「あ?」
垣根は眉をひそめた。
この男は何を考えているのだろうか?
一方通行がイスを投げた瞬間、ほとんどの客が逃げ出した。
それは当然だろう。イスは普通に投げたとは思えないほどの威力だった。
しかも垣根はイスを受けても平然としていた。
その異様な光景に、恐怖を覚えない客は居ないだろう。
なのに、なんだこいつは。
??「黙って聞いてれば、好きな物のディスり合いだと!?」
垣根「それが何だよ?よくあることだろ」
??「よくあるからって許されることじゃない!」
??「お前らが何でいがみ合ってたかなんて知らない。興味もない!」
??「でもな、いくらお前らの好きな物であっても、テメェらの喧嘩には無関係なんだよ!巻き込んでんじゃねぇ!」
??「アイドルマスターも萩原雪歩ちゃんも豊崎愛生ちゃんも全部素晴らしいじゃないか!?」
??「なんでそれが分からねぇんだよ!」
155: 2011/06/20(月) 20:15:50.73 ID:vKSqMx2S0
垣根「いきなり出て来て説教かよ。つーか、やめろよ」
??「何を?」
垣根「愛生ちゃんとキモオタ童O専用のゲームを同列に扱うな」
??「!?」
垣根「……」
??「ふざけるな…………!!」
垣根「あ?」
??「その言い方からして、お前はアイマスをやったことないな?」
垣根「あんなの、やるわけねぇだろ」
一方通行は、黙って二人を見ていた。
いや、見ていることしか出来なかった。
一方通行はいきなり割り込んできた少年を知っていたからだ。
別に友達ではない。
けれど、その少年は――――
156: 2011/06/20(月) 20:17:16.71 ID:vKSqMx2S0
??「やったことねぇくせに、ネット上で拾った情報でアイマスを馬鹿にしてたのか」
垣根「馬鹿にしてねぇよ。事実を言ったまでだ」
??「……」
垣根「……」
??「……いいぜ」
垣根「は?」
??「テメェがアイドルマスターを童O専用ゲームだと思ってるなら」
上条「―まずは、そのふざけた幻想をぶち頃す……ッ! 」
.
164: 2011/06/21(火) 02:45:08.75 ID:6qlme6k/0
垣根はウニのようにツンツンした髪形の男を睨みつけた。
いきなり出て来て、アイマスとかいうキモゲーと愛生ちゃんを同列に扱いやがった。
ぶっ頃すしかない。
垣根「テメェ、俺が誰だか知って喧嘩ふっかけてるのか?」
上条「お前が誰かなんて関係ない。ただ、あんなこと言ったヤツを見過ごせないだけだ」
哀れな目で男を見つめる。
こいつは自分のことを誰だか知らないらしい。
軽く捻ってやろうと思い、未元物質で男の周りの物理法則を変える。
垣根「お前、すっげぇムカつくやつだな」
ボゴォッ!という音と共に、見えない何かが上条を襲った。
何かに腹を殴られたようだ。
その衝撃に上条の体が前のめりになる。
上条「かはっ、……ぅッ!」
倒れそうになったけれど、どうにかその場に踏み止まった。
そして垣根を睨みつける。
こいつの能力は何だ?
分からなければ反撃のしようがない。
165: 2011/06/21(火) 02:46:31.31 ID:6qlme6k/0
垣根「何驚いた顔してんだ?テメェはレベル5に喧嘩売ったんだぜ?」
上条「……レベル5?」
垣根「今更怖気づいてんじゃねぇぞコラ」
上条(……何か来る!何かは分からないけど、嫌な予感がする!)
見えない何かが、顔に向かってくるような気がして右手を動かす。
上条の予感は的中した。
垣根は未元物質で上条の顔を潰してやろうとしていたのだ。
しかし男の右手が顔を庇うように差し出され、強制的に未元物質が掻き消される。
垣根(なんだ、今の―――)
演算に間違いはなかった。
手で防いだくらいでは垣根の能力は止められない。
でも、手に触れた瞬間、手応えがなくなった。
驚きのせいで、垣根の思考が乱れる。
166: 2011/06/21(火) 02:47:59.69 ID:6qlme6k/0
わずかに動揺を見せたチャンスを逃さずに、上条は垣根の間合いを詰めていた。
垣根がそれに気付いた時、既に上条は殴りつけるモーションに入っていた。
普通に防ぐのでは間に合わない。
垣根(でも素手での攻撃なんざ、)
能力で拳を破壊してやろうと、演算をする。
レベル0の拳とレベル5の演算。
その速さには絶望的な差があった。もちろん、垣根の演算の方が速い。
それなのに、垣根の顔には拳がのめり込み、体は無様に床へと叩きつけられた。
垣根(何が起こった?何で俺は殴られた?何で未元物質が通用しない?)
レベル5の頭脳を持ってしても、考えがまとまらない。
相手が能力を使った素振りは一切なかった。
混乱した頭が落ち着かないうちに、胸倉が掴まれる。
上条「ゆりしーを、雪歩を、アイマスを馬鹿にしてんじゃねぇ!!!!」
容赦ない鉄拳が、垣根を襲う。
一発。
二発。
三発。
四発。
五発。
六発。
七発。
八発。
九発。
十発。
十、
167: 2011/06/21(火) 02:49:31.19 ID:6qlme6k/0
不意に拳が止まった。
垣根が目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
避難していた筈の初春飾利が、上条当麻の腕を力いっぱい押さえ付けていたのだ。
垣根「テメェ……なんで、」
上条「離してくれないか?」
低い声で上条は言う。
その声には怒りが込められていて、聞くだけで身震いするほどだ。
それでも初春は動かない。
腕にしがみ付き、ふるふると首を横にふった。
初春「やり過ぎです」
上条「……」
初春「……それ以上、彼を殴らないで下さい」
それは小さい声だけれど、強い意志を持っていた。
上条は腕から力を抜く。
殴るのを止めたことを確信した初春は腕を離し、垣根に向き直った。
初春「あ、顔、すっごい腫れちゃってるじゃないですか……」
柔らかい手が垣根に触れる。
殴られて熱を持った顔に、彼女の冷たい手は気持ち良かった。
初春「……平気ですか?変な痕が残らなきゃいいですけど」
飴玉を転がすような甘い声が垣根を包む。
目を閉じて、聞き入った。
182: 2011/06/24(金) 00:31:18.76 ID:xGPWznW10
上条は心配そうな顔の初春を見て、殴り過ぎたと反省する。
二人のやりとりを静かに見ていると肩を叩かれた。
誰だ?と思い振り返る。
一方「オマエも、その、アイマスが好きなのかァ?」
第1位が俯きながら問い掛けてきた。
声は震え、普段は真っ白な彼の頬は少し赤くなっている。
おそらく彼は緊張しているのだ。
その様子を見て、上条は満面な笑みで答えた。
上条「ああ、好きだ。面白いよな?」
一方「……!!」
一方通行は顔を上げて、上条を見る。
彼はアイドルマスターを好きな男に初めて出会ったのだ。
木原には“気持ちわりぃ氏ねよクソガキ”と罵られた。
芳川には“まさに童Oって感じね。似合ってるわ”と笑われた。
天井には“ゲームなんていいから実験に専念しろ”と呆れられた。
妹達には“第1位がギャルゲー……”と軽蔑された目で見られた。
黄泉川と打ち止めは“趣味は人それぞれ”と言ってくれたけれど、同士では無かった。
一方(こいつ、ヒーロー兼プロデューサーかよ…!)
上条「お前がプロデューサーだったとは思わなかったな」
一方「……」
上条「どうせだしメアド交換しとこうぜ?」
一方「!!!」
上条「9・18騒動で心が折れかけてたけど、同士が居れば励まし合えるもんな」
183: 2011/06/24(金) 00:32:51.96 ID:xGPWznW10
ニカッと上条は笑った。
その笑顔に一方通行は泣きそうになった。
上条は一方通行が行っていた実験を知っている。
それなのに自分を同士だと受け入れてくれた。
一方「……」
一方通行は俯いたまま携帯電話を取り出す。
上条も取り出すと、アドレスを交換し合った。
一方「テメェは俺のこと、」
上条「お前のしたことは許されることじゃない」
一方「……」
上条「でも、もう過ぎたことだ。お前を責められるのは御坂と妹達だけだろ?」
だからこれからヨロシクな、と手を差し出した。
一方通行はその手を恐る恐る握った。
かつて自分を殴った右手は暖かくて大きくて、こいつは頼りになるプロデューサーなのだと思った。
上条「アイマスライブとか一緒に行こうな。俺、いつも一人で寂しかったんだよ」
一方「……」
それは嬉しい提案だった。
けれど、一方通行にはアイマスライブに行けない理由があった。
一度だけチケットが当選したことがあるのだけれど、会場に向かうことは無かった。
184: 2011/06/24(金) 00:34:06.34 ID:xGPWznW10
垣根「おい、テメェら何で仲良くなってんだクソ」
いつの間にか立ち上がった垣根が二人を睨みつけている。
後ろでは初春が垣根を止めようとしていたけれど、無意味だった。
垣根「いきなり人をボコボコにしといて良いと思ってんのか?」
一方「テメェ、まだ動けンのか」
上条「あ、悪いな。お前がアイマスのこと悪く言うから、つい熱くなって」
垣根「そんな軽いノリで許されると思ってんのか?つーか第1位だって愛生ちゃんを馬鹿にしたんだぜ?」
上条「そういえば、そうだったな」
上条はそう言うと、一方通行に向き合った。
そして、右手が振り上げられる。
一方「え?」
上条の拳は一方通行を容赦なく殴りつけた。
細い体は、抵抗する暇なく床に転ぶ。
一方通行はさっきまで仲良くしていた男に殴りつけられ、少しショックを受けた。
そして、その行動に垣根も驚いていた。
185: 2011/06/24(金) 00:35:13.05 ID:xGPWznW10
一方「テメェ、何しや」
上条「声優に身長は関係無い」
一方「……」
上条「豊崎さんの演技は素晴らしいし、ほっこりした声は聞いてるだけで癒されるだろ?」
一方「……」
上条「豊崎さんのラジオ、最高だぞ?」
垣根「……」
上条「一度聞いて見てくれよ一方通行。アイマスは素晴らしい。でも素晴らしい物はこの世にたくさんあるんだよ」
一方「……オマエがそう言うなら、聞いてみてやンよ」
垣根「……」
垣根(……素晴らしい物はこの世にたくさんある、か。そんなこと考えたことなかったな)
上条「殴って悪かった。あと、お前も本当に悪かった」
垣根「……」
一方「……」
上条「えっと、いきなり出て来て殴るなんて最低だよな……」
一方「別にィ……」
垣根「……」
186: 2011/06/24(金) 00:36:34.54 ID:xGPWznW10
垣根(……愛生ちゃんの悪口言う奴らは、ボコしてきたけど、
そんな奴らに魅力を教えるのもファンの務めじゃねぇのか?)
一方「ラジオ聴いてみるかァ……」
上条「今日やるぞ?ちなみに文化放送」
垣根(それに、やってもいないゲームを馬鹿にするなんて、ゲーマーの愛生ちゃんに怒られちまう)
一方「……」
垣根(俺は、最低じゃねぇか……!)
垣根「おい、一方通行」
一方「あ?」
垣根「俺が持ってる、愛生ちゃんのCDとか貸すからよ、」
一方「?」
垣根「アイドルマスター、貸してくれないか?」
一方「……オマエ」
上条「それいいな!お互い良い物をもっと知るべきだ!」
垣根「テメェの言ったことで気付かされたんだよ。お前の名前は?」
上条「上条当麻だ。お前は?」
垣根「垣根帝督」
187: 2011/06/24(金) 00:37:57.32 ID:xGPWznW10
上条「そういえば今度Dill出るよな?楽しみだよな?」
垣根「おう!!!クラムボンだぜ?すっげぇ楽しみ!氏にそう!」
一方「Dill?」
垣根「愛生ちゃんの新曲だ。貸すから聞けよ」
一方「……いらねェよ」
垣根「あ?」
一方「…………買ってみる」
垣根「……」
一方「……」
垣根「なぁ、お前、何で俺が愛生ちゃん好きって知ってたの?」
一方「電話で男から聞いた」
垣根「……ふーん」
一方「まァ、俺は帰るぜ。色々悪かったな、垣根くン」
垣根「え……」
上条「じゃあなー」
垣根「おい、待て!一方通行!」
一方「なンだよ?」
垣根「俺の方が酷い事たくさん言ったじゃねぇか!」
一方「……」
垣根「俺の方こそ、悪かった」
一方「ハッ、別に?ゲームやったことなけりゃ仕方ねェよ。
許してやるから、さっさとプロデューサーになれよォ?」
垣根「…………おう」
188: 2011/06/24(金) 00:39:46.27 ID:xGPWznW10
打止「捕まえた!ってミサカはミサカは会話が終わったのを見計らって飛びついてみる!」
一方「おわっ!?」
男達の会話が終わった瞬間、一方通行の腰に少女が飛び付いた。
一方通行はしまったという顔して、ため息を吐いた。
そんな一方通行のことを、ニコニコした笑顔で見つめる。
打止「お友達できて良かったね、紅白P!ってミサカはミサカは自分のことのように喜んでみる!」
一方「……」
打止「逃がさないからねってミサカはミサカ警戒しながら貴方を見上げてみたり」
一方「……クソ」
打止「早く帰ろう?貴方の部屋は弄ってないよ?
ってミサカはミサカは貴方の雪歩コレクションが無事なことを伝えてみる」
一方「……」
打止「貴方の部屋で、雪歩が待ってるよってミサカはミサカは手を引いてみる」
一方「…………」
こうして、一方通行は打ち止めの元へと帰って行った。
その背中からは喜びと嬉しさが溢れ出ていた。
190: 2011/06/24(金) 00:41:08.31 ID:xGPWznW10
垣根「さて、俺も帰るかな」
上条「俺も帰ろう。そうだ、えっと、その子にも悪いことしちゃったな」
初春「へ?」
ずっと放置されていた初春は、不意に話し掛けられて顔を上げた。
初春は上条に何かされた訳ではないので疑問が頭に浮かぶ。
初春「別に私は何も」
上条「だって、垣根のこと何回も殴っちゃったし」
初春「いえ、私は別に……。謝るのは垣根さんにだけで十分です」
垣根「いいんだよ。俺は殴られるだけのことをしちまったんだ」
上条「そうかもしれないけどさ、」
上条はそこで言葉を区切る。
そして、二人を見つめて申し訳なさそうに言う。
上条「彼氏が殴られたら、彼女はショックだろ?」
初春「は?」
垣根「あ?」
上条は勘違いしていた。
一緒に夕飯を食べる男女。
そして殴られる男を助けるのに危険を顧みない女。
上条はそれを見ていたのだ、勘違いするのも無理はない。
191: 2011/06/24(金) 00:43:04.66 ID:xGPWznW10
上条「本当にごめ、」
初春「違いますよ!!!!!!!!付き合ってなんかいません!!!!!!!」
大人しそうな初春からは想像できないほどの大声だった。
心外だ、信じられない、という顔をしている。
垣根はそこまで嫌がらなくてもと思ったけれど、初春の言葉を聞いて固まった。
初春「ずっと聞いてて分かったんですけど、垣根さんってオタクなんですよね?」
上条「まぁ、そうだよな?」
垣根「まぁ、そうだな」
初春「オタクなんて、絶対に嫌です」
初春「それに声優が好きとかありえないですよ」
初春「どうせ、アニメにも夢中なんでしょう?良い年してみっともないですよ、恥ずかしい」
初春「貶し合いをしてたみたいですけど、目くそ鼻くそです。普通の人から見れば両方同じクソですよ」
初春「正直に言います」
初春「すっごく気持ち悪いですよ?」
.
192: 2011/06/24(金) 00:44:05.45 ID:xGPWznW10
垣根の思考はショートした。
愛おしいほっこりボイスに“気持ち悪い”だの“クソ”だの言われたのだ。
別に愛生ちゃん本人ではないけれど、けっこう、かなり、ショックだ。
ほっこり癒しボイスで、そんな言葉を使って欲しくない。
上条「まぁ、オタクを気持ち悪いと思うのは当然だからいいけど」
初春「はい?」
上条「なら、何で垣根を助けたんだ?」
初春「風紀委員だからですよ」
上条「責任感強いんだなー」
初春「そんなことないです。それに、」
上条「ん?」
初春「垣根さんの顔が、とても格好良いからですよ!」
.
193: 2011/06/24(金) 00:45:06.80 ID:xGPWznW10
――――――――――――――――
ラジオ『背伸び寝転びクッション完備』
ラジオ『あなたに届けるお喋りセラピー』
ラジオ『はじまるよっ!』
ラジオ『豊崎愛生のおかえりらじお』
ラジオ『みなさん、おかえりなさい。豊崎愛生です』
垣根「ただいま!!!!」
木曜日のお決まりである、ラジオ聴く。
今日は色々なことがあった。
本当に疲れた。
嬉しいことも、嫌なこともたくさんあった。
でも、愛生ちゃんの声とトークはその全てを溶かして、垣根に癒しを与えてくれる。
ラジオ『おやすみなさーい!』
垣根「おやすみ!」
垣根「はぁ…また読まれなかったか……」
垣根(博士のメールの心得を参考にしたんだがな……クソッ…)
ラジオを消して、ベッドに横になる。
愛生ちゃんのほっこりボイスが垣根の耳に残っていた。
不意に今日出会った少女のことを思い出す。
垣根は頭を横に振った。
あのクソガキを思い出すと、おかえりラジオの余韻が台無しになってしまう。
寝ようと目を閉じるとフェミレスでの出来事が蘇ってきて、垣根は舌打ちした。
ラジオ『背伸び寝転びクッション完備』
ラジオ『あなたに届けるお喋りセラピー』
ラジオ『はじまるよっ!』
ラジオ『豊崎愛生のおかえりらじお』
ラジオ『みなさん、おかえりなさい。豊崎愛生です』
垣根「ただいま!!!!」
木曜日のお決まりである、ラジオ聴く。
今日は色々なことがあった。
本当に疲れた。
嬉しいことも、嫌なこともたくさんあった。
でも、愛生ちゃんの声とトークはその全てを溶かして、垣根に癒しを与えてくれる。
ラジオ『おやすみなさーい!』
垣根「おやすみ!」
垣根「はぁ…また読まれなかったか……」
垣根(博士のメールの心得を参考にしたんだがな……クソッ…)
ラジオを消して、ベッドに横になる。
愛生ちゃんのほっこりボイスが垣根の耳に残っていた。
不意に今日出会った少女のことを思い出す。
垣根は頭を横に振った。
あのクソガキを思い出すと、おかえりラジオの余韻が台無しになってしまう。
寝ようと目を閉じるとフェミレスでの出来事が蘇ってきて、垣根は舌打ちした。
195: 2011/06/24(金) 00:46:08.54 ID:xGPWznW10
―――――――――――――――――――――――
初春「垣根さんの顔が、とても格好良いからですよ」
垣根「…………は?」
上条「まぁ、確かに、イケメンだな」
初春「そう思いますか!?そうですよね!」
垣根「あ?」
初春「すべすべの肌!整った唇!スッと通ってる鼻筋!」
垣根「……」
初春「程よい大きさの綺麗な目!きちんと整えられた眉!」
垣根「……」
初春「瞳を飾る長い睫毛!似合ってる茶髪!眩しくて白い歯!」
上条「……」
初春「どこを見ても最高にイケメンです!素晴らしいです!国宝級です!」
上条「だから、助けたのか?」
初春「はい!」
垣根「……」
初春「私の理想を具現化したような“顔”がこの世に存在するなんて思いもしなかったです!」
垣根「……」
初春「垣根さんの顔が、とても格好良いからですよ」
垣根「…………は?」
上条「まぁ、確かに、イケメンだな」
初春「そう思いますか!?そうですよね!」
垣根「あ?」
初春「すべすべの肌!整った唇!スッと通ってる鼻筋!」
垣根「……」
初春「程よい大きさの綺麗な目!きちんと整えられた眉!」
垣根「……」
初春「瞳を飾る長い睫毛!似合ってる茶髪!眩しくて白い歯!」
上条「……」
初春「どこを見ても最高にイケメンです!素晴らしいです!国宝級です!」
上条「だから、助けたのか?」
初春「はい!」
垣根「……」
初春「私の理想を具現化したような“顔”がこの世に存在するなんて思いもしなかったです!」
垣根「……」
196: 2011/06/24(金) 00:47:35.50 ID:xGPWznW10
初春「だから、垣根さんの顔を殴るなんて私が許しませんよ!ほら、垣根さんの顔に謝って下さい!」
上条「へ?」
初春「はやく!垣根さんの“顔”に謝って下さいよ!」
上条「垣根の顔?」
初春「はい。垣根さん自体には興味はないので。垣根さんが痛い思いをしても私には関係ないですし」
垣根「…………………………………」
初春「風紀委員ですから、目の前で殴られてたら流石に止めますけど……」
上条「……」
初春「そもそも垣根さんも自分の顔に謝るべきですよ」
垣根「あ?」
初春「だって、そんなに格好良くて素晴らしい顔してるのに、」
垣根「……」
初春「オタクだなんて、台無しですよ」
垣根「……」
初春「なんとく気味の悪い人だなぁと思ってましたけど納得しました」
垣根「……」
初春「オタクだったら仕方ないですよね。気味が悪いのは」
垣根「……」
初春「なんていうか幻滅ですよね。せっかく、超格好良い男の人と知り合えたっていうのに、オタクだったなんて」
垣根「……」
198: 2011/06/24(金) 00:49:29.65 ID:xGPWznW10
垣根は初春の頭を鷲掴みにした。
初春の頭を潰す勢いで力強く、掴んだ。
初春「痛っ!痛いですよ!」
垣根「俺はテメェみたいに顔しか見ないスイーツ脳女が大嫌いなんだよっ!」
ギリギリと初春の頭が軋む。
垣根の手を剥がそうと、初春は抵抗するが少しも手は動かない。
垣根「愛生ちゃんに似てる声で、胸糞悪いこと言ってんじゃねぇぞクソボケ!」
初春「いたたたた!あきって誰ですか!?私知りませんよ!」
垣根「声優だ。俺の天使だよ馬鹿野郎」
初春「いたいたい!て、天使とかキモいです!頭腐ってるんじゃないですか!」
垣根「あ!?腐ってねぇよアホタレ!!!!」
初春「いたっ!いたいです!離して下さいよ!
あきさんって方も災難ですね!キモい人に好かれるなんて!!」
垣根「テメェ、愛生ちゃんに似てる声でそんなこと言うんじゃねぇ!!!」
初春「えええ!?私の声って垣根さんが好きな声優に似てるんですか!?
最悪です!!ショックですよ!!きもい!超きもいです!!!」
垣根「だから、その声でそんなこと言うんじゃねぇ!!!!」
初春「ッ!いい加減離して下さい!痛いんですよ!」
199: 2011/06/24(金) 00:50:54.93 ID:xGPWznW10
そう言うと初春は垣根のスネに強烈なキックを叩きこんだ。
手が緩むと、初春は垣根の手を振り払った。
二人は睨み合う。
そして小学生のように取っ組み合いを始めた。
垣根は容赦なく初春にチョップをかます、負けずに初春は垣根の手に噛みつく。
その光景はポメラニアンとゴールデンレトリバーのじゃれ合いにも見えた。
しかし実際には、そんなに微笑ましいものではない。
髪を引っ張りあったり、肌を引っかいたり、耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言が飛び交う。
見かねた上条が止めに入ったけれど、二人は止まらなかった。
上条(……ど、どうしよう)
上条がオロオロしている間も二人は取っ組み合いをしていた。
上条がもう一度止めようと足を動かそうとした時、争いを吹き飛ばすような大きい声が響いた。
黄泉川「アンチスキルじゃんよ!!!全員大人しくしろ!!!」
200: 2011/06/24(金) 00:53:25.96 ID:xGPWznW10
―――――――――――――――――――――
どうやら店員がアンチスキルを呼んだらしい。
アンチスキルにより拘束された三人は連行された。
車で移動するから乗れと言われ、三人は渋々と搭乗する。
すると先客がいた。
先ほど帰った筈の少年と少女。
一方通行と打ち止めも乗っていのだ。
垣根「お前も捕まったのか」
一方「店の外に出た瞬間に捕まったァ……」
打止「黄泉川も貴方に会えて嬉しそうだったねってミサカはミサカはニコニコしながら言ってみたり」
初春「私、風紀委員なのに……はぁ……」
上条「先に帰れって言ったけど、インデックス平気かなぁ……」
黄泉川「喧嘩の理由は後でたっぷり聞いてやる。だから、今は静かにするじゃんよ」
そう言うと、アンチスキルの女性は車を発進させた。
どんよりした車内で打ち止めだけが上機嫌だった。
目的地に着き、事情を聴くために子ども達を部屋へと通す。
すぐに終わるから別の部屋で待ってるじゃん、と打ち止めに優しい声をかけた後、黄泉川は悪ガキどもを見る。
一方通行の姿に頬が緩みそうになったが、仕事中だと言い聞かせ気を引き締めた。
黄泉川「で?何でファミレスなんかで喧嘩してたんだ?」
垣根「だって、こいつが」
初春「だって、この人が」
一方「俺は、別にィ……」
上条「つい頭に血がのぼっちゃって」
どうやら店員がアンチスキルを呼んだらしい。
アンチスキルにより拘束された三人は連行された。
車で移動するから乗れと言われ、三人は渋々と搭乗する。
すると先客がいた。
先ほど帰った筈の少年と少女。
一方通行と打ち止めも乗っていのだ。
垣根「お前も捕まったのか」
一方「店の外に出た瞬間に捕まったァ……」
打止「黄泉川も貴方に会えて嬉しそうだったねってミサカはミサカはニコニコしながら言ってみたり」
初春「私、風紀委員なのに……はぁ……」
上条「先に帰れって言ったけど、インデックス平気かなぁ……」
黄泉川「喧嘩の理由は後でたっぷり聞いてやる。だから、今は静かにするじゃんよ」
そう言うと、アンチスキルの女性は車を発進させた。
どんよりした車内で打ち止めだけが上機嫌だった。
目的地に着き、事情を聴くために子ども達を部屋へと通す。
すぐに終わるから別の部屋で待ってるじゃん、と打ち止めに優しい声をかけた後、黄泉川は悪ガキどもを見る。
一方通行の姿に頬が緩みそうになったが、仕事中だと言い聞かせ気を引き締めた。
黄泉川「で?何でファミレスなんかで喧嘩してたんだ?」
垣根「だって、こいつが」
初春「だって、この人が」
一方「俺は、別にィ……」
上条「つい頭に血がのぼっちゃって」
201: 2011/06/24(金) 00:55:21.64 ID:xGPWznW10
黄泉川「一人ずつ話すじゃんよ。まずは一方通行」
一方「俺は、垣根くンが打ち止めに危害を加えようとしたから、イスを投げたンだよ」
垣根「あ?危害なんて加えようとしてねぇよ(最初はその予定だったけど……)」
黄泉川「お前は黙るじゃんよ」
垣根「はい」
黄泉川「打ち止めは元気そうだけど、何をされそうになってたんだ?」
一方「ピーマンを、無理矢理食べさせられそうに、」
黄泉川「アホか!!!!」
怒鳴りながら一方通行の頭に容赦なくゲンコツした。
ゴン!と良い音して、一方通行は涙目になる。
見ているだけでも痛そうで、垣根達は頭を触った。
黄泉川「好き嫌いさせるなっていつも言ってるじゃん!!
甘やかしてばっかりじゃ、打ち止めの為にならないじゃん!?」
一方「でも、アイツは普通の人間より長く生きられねェンだぞ!?
だったら好きなモンをたくさん食べたほうがいいに決まってる!!」
黄泉川「嫌いな物から目を背ける人間っていうのは、
将来ゴミみたいになるじゃん。打ち止めがそうなってもいいの?」
一方「……それは、そのォ」
黄泉川「それくらいの理由でイス投げちゃ駄目じゃん?お店の人がどう思うか想像できるじゃんよ」
一方「…………ン」
202: 2011/06/24(金) 00:56:18.07 ID:xGPWznW10
黄泉川「よし、反省してるな。で、次は髪の長い子に聞こうか?名前は?」
垣根「……垣根帝督です」
黄泉川「レベルは?」
垣根「……5です。第2位です」
黄泉川「はぁ……1位も2位も情けないじゃんよ」
垣根「俺は喧嘩売られただけだよ」
黄泉川「いちいち買うな」
垣根「でも、ムカついたし」
黄泉川「馬鹿かお前は。ムカついたって理由で喧嘩してたら友達できないじゃん」
垣根「…………すいません」
黄泉川「次は上条。小萌先生が泣くぞ?」
上条「俺は、その……頭に血が登っちゃって。すいません……」
黄泉川「……そこの少年の顔腫れさせたのは?」
上条「すいません……俺、です」
一方「でも、三下は悪くねェ!」
垣根「そうだ!俺があんなこと言っちまったのがわりぃんだよ!」
黄泉川「へぇ……とにかく、経緯を聞かせてもらうじゃんよ」
203: 2011/06/24(金) 00:58:02.85 ID:xGPWznW10
―――説明中
黄泉川「…………お前らは馬鹿じゃん」ハァ
垣根「な!」
黄泉川「自分の好きな物馬鹿にされたら、腹が立つのは分かる。でも人様に迷惑かけるなんて最低じゃんよ」
上条「ごもっともです……」
黄泉川「喧嘩なら河原とかでやるじゃんよ。夕日をバックに拳を交わせば友情が深まるじゃん?」
一方「それはねェよ……」
黄泉川「で、最後は花飾りの女の子。名前は?」
初春「初春飾利です。すいません……私、風紀委員なのに……」
黄泉川「男相手に取っ組み合いするなんてヤンチャじゃんよ」
初春「えーっと、その、私もその、少しムカッときちゃって…」
黄泉川「大人しそうな外見なのに意外じゃん。この男に何かされたの?」
垣根「何もしてねぇし」
初春「頭、掴まれました」
垣根「それはテメェが悪いんだろ」
初春「別に私変なこと言ってないじゃないですか」
垣根「あ?人を外見で勝手に判断しやがっただろうが!」
初春「外見については褒めてるじゃないですか?何が不満なんですか?」
黄泉川「…………お前らは馬鹿じゃん」ハァ
垣根「な!」
黄泉川「自分の好きな物馬鹿にされたら、腹が立つのは分かる。でも人様に迷惑かけるなんて最低じゃんよ」
上条「ごもっともです……」
黄泉川「喧嘩なら河原とかでやるじゃんよ。夕日をバックに拳を交わせば友情が深まるじゃん?」
一方「それはねェよ……」
黄泉川「で、最後は花飾りの女の子。名前は?」
初春「初春飾利です。すいません……私、風紀委員なのに……」
黄泉川「男相手に取っ組み合いするなんてヤンチャじゃんよ」
初春「えーっと、その、私もその、少しムカッときちゃって…」
黄泉川「大人しそうな外見なのに意外じゃん。この男に何かされたの?」
垣根「何もしてねぇし」
初春「頭、掴まれました」
垣根「それはテメェが悪いんだろ」
初春「別に私変なこと言ってないじゃないですか」
垣根「あ?人を外見で勝手に判断しやがっただろうが!」
初春「外見については褒めてるじゃないですか?何が不満なんですか?」
204: 2011/06/24(金) 00:59:44.39 ID:xGPWznW10
垣根「外見しか見ない女が大っっっっっっっ嫌いなんだよ!」
垣根「いつも、いつも、顔と第2位って肩書のせいで頭カラッポのアホ女に好かれんだよ!」
垣根「そのくせ、性格知った途端バイバイだぜ!ふざけんな!」
垣根「幼い頃から、ずっと、ずーーーっと、だ!ウザったいんだよクソ!いい加減にしろ!!」
垣根「女なんかクソだ。俺には愛生ちゃんしか居ねぇんだよ!!」
初春「別に私は性格については否定してないですよ?オタクなのが嫌なだけで」
垣根「うるせぇな。どうせテメェだって俺がオタクじゃなさそうって
外見で勝手に判断しやがったんだろ?そういうのが氏ぬほどうぜぇんだよ」
初春「そうなんですか。でも、私はオタクっていう人種が氏ぬほど嫌いなんですよ」
垣根「価値観狭い女はモテねぇぞ?」
初春「そんな心配、貴方にされたくありません」
垣根「あ?心配なんかしてねぇよ自惚れるなガキ」
初春「ガキって言いますけど、貴方だって学生じゃないですか?図体でかいだけで、ガキですよ」
垣根「口の減らねぇガキだな。抓るぞコラ」
初春「触らないで下さい。汚いです」
垣根「あぁ!?テメェふざけんなよ!!」ツネッ
初春「ふがっ!ふえらないへふらはい!!」
黄泉川「何で喧嘩になるじゃんよ…………ほら、やめるじゃん?」
垣根「……こいつが悪い」
初春「……この人が悪いです」
205: 2011/06/24(金) 01:01:20.29 ID:xGPWznW10
黄泉川「どっちもどっちじゃんよ。そもそも何でそんなにオタクを嫌ってるじゃん?」
初春「……」
黄泉川「あ、言いたくないことだったらいいじゃん。無理には聞かないよ」
初春「……別にいいですよ」
垣根「どうせくだらない理由だろ」
初春「気持ち悪いからです。それに怖いですし」
黄泉川「怖い?」
初春「私、幼い頃にオタクの男の人に誘拐されたことがあるんです」
上条「……」
一方「……」
垣根「……」
初春「凄い幼かった時のことなので、うろ覚えなんですけど部屋だけは覚えてるんです」
黄泉川「部屋?」
初春「はい。アニメのポスターが壁一面に張ってあったことだけは覚えてるんです」
上条「……」
初春「それが、すっごく怖かった記憶が強くて……」
黄泉川「なるほど。それがトラウマになってるわけか。辛いこと話させて悪かったじゃん」
初春「いえ、平気です。それに、誘拐がオタクを嫌いになるきっかけではありません」
206: 2011/06/24(金) 01:03:33.17 ID:xGPWznW10
黄泉川「それ以降も何かあったの?」
初春「……何でか分からないんですけど、そういう類の人に好かれやすいみたいなんです」
黄泉川「ほうほう」
初春「今までに5人からストーカーされたことがあるんです。それが5人ともオタクで……」
黄泉川「5人もか……。でも、そのストーカー全員がオタクだって何で分かったじゃんよ?」
初春「一人目はアニメの女の子がプリントされたTシャツを着ていました」
初春「二人目はアニメの女の子の人形?フィギュアっていうんですかね?それを常に持っていました」
初春「三人目はアニメの女の子がプリントされたでかいクッションみたいなのを持っていました」
初春「四人目は、漫画の女の子のキャラクターの衣装を着ていました。
私は知らなかったんですけど、漫画に詳しい先輩が教えてくれました」
初春「五人目は、“お兄ちゃん”とか“ご主人様”って声を録音させてくれって付け廻してきました」
黄泉川「あー……災難じゃん」
初春「もちろん、頭ではそういう人ばかりではないって分かってるんですよ?分かってるんですけど……」
黄泉川「それだけのことされたら、仕方ないじゃん」
207: 2011/06/24(金) 01:04:39.47 ID:xGPWznW10
上条「……」
一方「……」
垣根「……」
黄泉川「何でさっきから三人は俯いてるじゃんよ?」
初春「その人達、三人ともオタクなんですよ」
黄泉川「そういえばそうだったじゃん。でもアホだけど悪いヤツらじゃないじゃん?」
初春「……まぁ、そうかもしれませんね」
黄泉川「まぁ、お店の人は反省してればお咎め無しでいいって言ってたから、今日は帰ってもいいじゃん」
初春「……すいません」
黄泉川「二度とこんなことしちゃ駄目じゃんよ?」
垣根「はい」
一方「ン」
上条「はい」
初春「はい」
黄泉川「よし、遅いし女子は私が送っていくじゃん」
初春「あ、すいません。ありがとうございます」
プルルル
黄泉川「ちょっと待つじゃんよ」
初春「はい」
208: 2011/06/24(金) 01:06:36.91 ID:xGPWznW10
黄泉川「はい?え?また喧嘩?……分かった。すぐ行くじゃんよ」
黄泉川「ということで、私は用事ができたから、男子はきちんとその子を送ってやること」
上条「はい」
黄泉川「二度と店で暴れちゃだめじゃん?じゃあ、気をつけるじゃんよー」
そう言うと、黄泉川は慌ただしく出て行った。
それに入れ替わり、打ち止めが入ってくる。
小走りで一方通行の近くに行き、裾を掴み上目遣いで彼を見る。
打止「早く帰ろう?ってミサカはミサカは目をこすりながら言ってみる」
一方「歩いてる途中で寝ンなよォ?」
打ち止めと一方通行は手を繋ぎ、アンチスキルの建物から出て行く。
残りの三人もそれに続いた。
前を歩く少年と少女が微笑ましく、初春は口元を綻ばせた。
すると、隣にいるツンツン頭が話しかけてくる。
上条「えーっと、名前は?」
初春「へ?私ですか?初春飾利です」
上条「初春さんか。俺が途中まで送っていくよ」
上条はそう言うと爽やかに笑う。
スッとした背筋に人の良さそうな笑顔。
初春の中にあるオタクのイメージとはかけ離れたものだった。
初春「……上条さんは、少し乱暴ですけど、悪い人では無さそうですね」
上条「え?そうかな…?」
初春「なんだか気持ち悪いと思わないので。でも、暴力はダメですよ!」
上条「……はい」
209: 2011/06/24(金) 01:08:44.61 ID:xGPWznW10
上条と話していると初春の腰に何かがまとわりついた。
視線をそちらにやると打ち止めが、初春をじっと見ていた。
何かを訴えたそうな眼差しに初春は首をかしげる。
打止「この人も気持ち悪くないよってミサカはミサカは訴えてみたり」
初春「へ?」
打止「少し、ミサカを甘やかしすぎな所があるけど本当は優しいんだよってミサカはミサカは真実を言ってみる!」
初春「……アホ毛ちゃん」
打止「確かにこの人は雪歩しか見てないけど、それは3次元に
雪歩以上の女の子が居ないだけなのってミサカはミサカはさらに訴えてみる!!」
打ち止めの瞳は真剣で、初春をまっすぐ射抜く。
その迫力に押されて初春は後ろに下がった。
初春「分かりましたよ。この白くて赤い人は気持ち悪くありません」
打止「白くて赤いって……この人は一方通行って言うんだよってミサカはミサカは紹介してみる」
初春「はぁ、そうですか。とにかく帰りましょうか」
そう言って初春は顔上げる。すると、垣根と目があった。
垣根は自分と打ち止めのやりとりを見ていたらしい。
痛々しく腫れた垣根の顔を見て、初春は目を細める。
210: 2011/06/24(金) 01:10:38.77 ID:xGPWznW10
初春(はぁ……せっかく綺麗な顔なのに、勿体ないです。もっと大事にしないと駄目ですよ」
垣根「全部駄々漏れだぞクソガキ」
初春「クソガキじゃないです。初春飾利です」
垣根「わりぃな。興味無いことは覚えられないんだよ」
初春「学園都市第2位って言っても大したことないんですね。
人の名前も覚えられないなんて。あ、そっか。だから第2位なんですね」
垣根「あ!?」
初春「レベル5って言っても私よりも記憶力ないんですね。
そんなんだから頭カラッポの女の人にしか好かれないんですよ」
垣根「……てめぇ」
徐々に険悪に雰囲気になってく空気に、上条は焦る。
止めないとまた、さっきみたいに……
打止「あ、なんだか嫌な雰囲気、早く逃げたほうがいいかもってミサカはミサカはしがみついてみたり」
一方「だなァ。じゃあな三下、また明日」
上条「え、おい!逃げるなよ!」
一方通行は能力を使い打ち止めを抱き上げて、光の速さで帰って行った。
上条は、恐る恐る垣根と初春を見る。
案の定、二人は取っ組み合いを始めていた。
ちょっと目を離しただけだというのに……。
上条は帰りたくなった。
けれど、そういう訳にもいかない。
どうせ止めても無駄なので、二人をぼんやりと眺めることにした。
211: 2011/06/24(金) 01:12:29.28 ID:xGPWznW10
――――――――――――――――――――――――――――――
上条(もう、30分くらいは経ってるぞ……よく飽きないな……)
初春「はぁ、はぁ、……大人げない、ですね、バカきねさん」
垣根「はぁ、はぁ、……諦め、悪いんだよ、悪趣味花畑」
初春「……ホントにムカつく人ですね、あなたは」
垣根「それはこっちの台詞だコラ」
初春「早く、顔の腫れ治して下さいね?じゃないと垣根さんの存在意義が無いままですよ」
垣根「氏ね」
初春「私が氏んだら、垣根さんの一番身近に居るほっこり(笑)ボイスとやらが聞けなくなりますよ?」
垣根「…………声だけ残して氏ね」
初春「アホなんじゃないですか?バカきねさん」
垣根「その呼び方止めろ。声だけ天使」
初春「なら、その気色悪い呼び方も止めて下さい」
垣根「つーか、テメェの存在意義だって声だけだろ。せいぜい唯一の長所を大事にするんだな」
初春「……氏んで下さい」
垣根「俺が氏んだら、お前の理想の顔とやらが消滅すんぞ?」
初春「…………顔だけ残して氏んで下さい」
垣根「生首かよ!怖い事言うな馬鹿!」
初春「でも、生首のほうがいいかもしれませんよ?喋ったら残念マックスになるので」
垣根「こいつ……」
上条(もう、30分くらいは経ってるぞ……よく飽きないな……)
初春「はぁ、はぁ、……大人げない、ですね、バカきねさん」
垣根「はぁ、はぁ、……諦め、悪いんだよ、悪趣味花畑」
初春「……ホントにムカつく人ですね、あなたは」
垣根「それはこっちの台詞だコラ」
初春「早く、顔の腫れ治して下さいね?じゃないと垣根さんの存在意義が無いままですよ」
垣根「氏ね」
初春「私が氏んだら、垣根さんの一番身近に居るほっこり(笑)ボイスとやらが聞けなくなりますよ?」
垣根「…………声だけ残して氏ね」
初春「アホなんじゃないですか?バカきねさん」
垣根「その呼び方止めろ。声だけ天使」
初春「なら、その気色悪い呼び方も止めて下さい」
垣根「つーか、テメェの存在意義だって声だけだろ。せいぜい唯一の長所を大事にするんだな」
初春「……氏んで下さい」
垣根「俺が氏んだら、お前の理想の顔とやらが消滅すんぞ?」
初春「…………顔だけ残して氏んで下さい」
垣根「生首かよ!怖い事言うな馬鹿!」
初春「でも、生首のほうがいいかもしれませんよ?喋ったら残念マックスになるので」
垣根「こいつ……」
212: 2011/06/24(金) 01:13:52.45 ID:xGPWznW10
初春「垣根さんって、オタクとかじゃなくて、ただ単にムカつく人ですよね」
垣根「うぜぇよクソボケ。自分の声の価値にも気付いてねぇ愚か者が」
初春「というか、垣根さんってかませっぽい雰囲気が漂ってるんですよね」
垣根「あ?」
初春「なんか、格好つけて大口叩いたくせに数ページでさっくり倒されちゃう感じです」
垣根「テメェ!意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!?」
上条「ほらほら、いい加減にしろって。帰るぞ初春さん」
初春「あ!すいません。待たせてしまって。このチンピラみたいな人がしつこくて」
垣根「テメェが挑発してくんのが悪いんだろうが。ぶっ頃すぞ」ビキビキ
上条「今日はおかえりラジオだぞ?早く帰った方がいいと思うけど」
垣根「そうだな。あばよクソガキ。二度とその面見せんな。でも声は聞かせろ」
初春「はい。さようなら。垣根さんは私の視界に入ったら、一言もしゃべらないで下さいね?」
垣根「テメェ……」
上条「いい加減にしろって!!」
213: 2011/06/24(金) 01:15:52.38 ID:xGPWznW10
――――――――――――――――――――
忌々しい出来事を思い出して、垣根は目を開いた。
今日は、谷山浩子ファンの女に愛生ちゃんを褒められたり、
伝説のリスナーと知り合ったり、栞を生で拝めたり、
恋するリスナーにも会えたし、上条や一方通行とも知り合うことも出来た。
良いこと尽くしの筈なのに、気分は最悪だ。
それも全部、あの花ガキのせいだ。
せっかく良い声してるというのに、糞なことしか言わない。
あのガキにあの声は勿体無さ過ぎる。贅沢だ。
垣根(こんなに人を嫌いになったのは初めてだクソ……!!)
垣根「……」
そもそも誰かを嫌いになったことは生まれて初めてかもしれない。
今まではムカついた人間はその場で全て排除してきた。
だから嫌いという感情が生まれる間もなく、気に喰わない人間は居なくなっていたのだ。
初春だって排除すれば問題は解決するのだが、彼女を頃すなど、垣根には出来ない。
あの声で泣かれてしまったら、垣根は平謝りするしかないだろう。
垣根(やべぇ、アイツに謝るとか、想像しただけで胃に穴が開きそうだ……!!!!!)
初春は垣根にとって厄介な存在だ。
消したくても消すことができない。
はぁ、と重いため息が漏れる。
初春飾利は垣根帝督にとって、ある意味特別な存在になったのだった。
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忌々しい出来事を思い出して、垣根は目を開いた。
今日は、谷山浩子ファンの女に愛生ちゃんを褒められたり、
伝説のリスナーと知り合ったり、栞を生で拝めたり、
恋するリスナーにも会えたし、上条や一方通行とも知り合うことも出来た。
良いこと尽くしの筈なのに、気分は最悪だ。
それも全部、あの花ガキのせいだ。
せっかく良い声してるというのに、糞なことしか言わない。
あのガキにあの声は勿体無さ過ぎる。贅沢だ。
垣根(こんなに人を嫌いになったのは初めてだクソ……!!)
垣根「……」
そもそも誰かを嫌いになったことは生まれて初めてかもしれない。
今まではムカついた人間はその場で全て排除してきた。
だから嫌いという感情が生まれる間もなく、気に喰わない人間は居なくなっていたのだ。
初春だって排除すれば問題は解決するのだが、彼女を頃すなど、垣根には出来ない。
あの声で泣かれてしまったら、垣根は平謝りするしかないだろう。
垣根(やべぇ、アイツに謝るとか、想像しただけで胃に穴が開きそうだ……!!!!!)
初春は垣根にとって厄介な存在だ。
消したくても消すことができない。
はぁ、と重いため息が漏れる。
初春飾利は垣根帝督にとって、ある意味特別な存在になったのだった。
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214: 2011/06/24(金) 01:17:59.34 ID:xGPWznW10
ここまでです。
読んでくれてありがとうございます。
アイマスネタについてはググってみて下さい。
ググるのめんどくせぇよって方は気軽に質問して下さい。
読んでくれてありがとうございます。
アイマスネタについてはググってみて下さい。
ググるのめんどくせぇよって方は気軽に質問して下さい。
215: 2011/06/24(金) 01:20:40.27 ID:ZByR87+2o
乙!!
ある意味フラグ立ちまくってて吹いた
ある意味フラグ立ちまくってて吹いた
216: 2011/06/24(金) 01:23:33.82 ID:yS2GuXUv0
引用: 垣根「ただいま」
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