919: 2013/04/28(日) 22:48:20.30 ID:y++k1O6co

【まどマギ】ほむら「時の卵?」【前編】
【まどマギ】ほむら「時の卵?」【中編】
【まどマギ】ほむら「時の卵?」【後編】


第10話(マルチイベント編-1)「勇者の墓」


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920: 2013/04/28(日) 22:55:02.94 ID:y++k1O6co
A.D.600 ガルディア城


騎士団長「勇者様のご来訪! 全員、整列して面甲をあげ、粛々としてお出迎えせよ!」


さやか「わ、わ……。なにこれ……」

クロノ「そういえば、さやかは勇者だって思われているんだっけ」

カエル「良かったな。これだけの敬意を集めることなんてそうはないぞ」

さやか「いや、あのね? 騎士のみなさーん! 実はあたしは勇者じゃないんですけどお~……」


騎士団長「勇者様、謁見の間へどうぞ。陛下がお待ちです」

さやか「聞いてよ!」
夢の中で逢った、ような……

921: 2013/04/28(日) 22:58:47.36 ID:y++k1O6co
A.D.600 ガルディア城 謁見の間


ガルディア21世「おお、勇者殿。よく来てくれた」

リーネ「魔王軍を撃退してくださったそうですね。これでこの国も平和になるでしょう」

さやか「あ~、もう! どこから説明したらいいのやら……」


カエル「恐れながら、陛下。お尋ねしたき儀がございます」

ガルディア21世「カエルか、しばらくぶりじゃな。かまわん、申せ」

カエル「10年前消息不明となった前騎士団長、サイラスという男のこと、ご存知かと」

リーネ「……!」


ガルディア21世「サイラスか……。彼はよき友人であった」

ガルディア21世「だが今では、生きておるのか、氏んでしまったのかさえ分からぬ……」

ガルディア21世「いや、サイラスは生きておれば必ず戻ってくると誓ったのだ」

ガルディア21世「あの者はその誓いを反故にするような人物ではない。だとすれば……もはや……」

リーネ「……」

922: 2013/04/28(日) 23:01:50.84 ID:y++k1O6co
カエル「……ご明察のとおり、サイラスは戦氏いたしました」

ガルディア21世「……だろうな」

リーネ「……ああ……」

ガルディア21世「リーネ、気をしっかり持て。お前も覚悟していたことだろう」

リーネ「……はい……」


カエル「なぜ私がそのことを知っているのか、お聞きにならないのですか?」

ガルディア21世「……いや、聞かん」

カエル「……」

923: 2013/04/28(日) 23:08:04.91 ID:y++k1O6co
ガルディア21世「カエルよ。お前の聞きたいことが分かったぞ。サイラスの遺体のことだな?」

カエル「左様でございます」

ガルディア21世「残念ながら、その所在も不明だ」

カエル「……」


さやか「あ、あの!」

ガルディア21世「なんじゃ、勇者殿?」

さやか「サイラスさんは、王様にとっても大切な人だったんでしょ……」

ガルディア21世「む……。それはそうだが……」

さやか「じゃあ、なんで探してあげないのさ! 氏んじゃったからって、それでもう終わりだなんて……!」

カエル「さやか、やめろ! 陛下に対してなんという不敬なことを!」

さやか「なんでよ師匠! おかしいじゃん、こんなの!」

924: 2013/04/28(日) 23:12:48.01 ID:y++k1O6co
ガルディア21世「いや、いい。勇者殿の申すとおりだ……」

ガルディア21世「国王などと言ってふんぞり返っておっても、所詮この程度よ」

カエル「そのようなことは……」

ガルディア21世「王とは窮屈なものだな、カエルよ。友人を弔うために奔走することすら許されぬ……」

リーネ「陛下……」


ガルディア21世「勇者殿、良ければ今日はこの城に泊まっていってくれぬか。客間を用意させよう」

ガルディア21世「城の者たちもそなたの話を聞きたがっておるのでな」

さやか「……」


ガルディア21世「……少し疲れたな。すまぬが、休ませてくれぬか……」

925: 2013/04/28(日) 23:18:50.70 ID:y++k1O6co
A.D.600 ガルディア城 客間


クロノ「いやー、すごいご馳走だったね。王族っていつもあんなの食べてるのかな?」

カエル「どうだろうな。勇者ご一行ってんで、特別に腕を振るってくれた可能性もあるぞ」

クロノ「ちょっと食べ過ぎたかもしれないなあ。腹ごなしに素振りでもしてこようかな」

カエル「付き合ってやろうか。組み手なら、より実践的だろ」

クロノ「いいね、それ。じゃ、これ使ってくれ。片方は僕が使う」

カエル「竹刀か。いつも持ち歩いているのか?」

クロノ「いつもってわけじゃないけど、稽古には欠かせないからね」


カエル「おい、さやか。俺たちは少し出てくるから……」

さやか「……」

カエル「なんだ、まだ意地を張っているのか? お前もおとなげないな」

さやか「どうせあたしはガキですよーだ」

クロノ「そんなに王様のことが気に入らないのかい?」

さやか「王様だけじゃないよ……」

カエル「なに?」

926: 2013/04/28(日) 23:23:07.57 ID:y++k1O6co
さやか「会う人会う人、みーんなあたしらのこと持ち上げてさ、ゴマすって……」

さやか「勇者だー魔王討伐の英雄だーって。こっちの話なんか聞こうともしない」

さやか「あたしは違うっつってんのに。魔王だって、実際に負かしたわけでもないのに……」


カエル「別にかまわんだろ。この時代から魔王がいなくなったことには変わりあるまい」

さやか「汚いよ、師匠は! なんでそれで納得できるのさ!」

カエル「……」


さやか「それに……誰ひとり、サイラスさんのこと一言も触れようとしなかった!」

さやか「なんで? 負けちゃったから勇者じゃないの? 役に立たなきゃ忘れちゃうの?」

さやか「おかしいよ。勇者ってなんなのさ。正義の味方って誰のために戦ってるのさ!」

927: 2013/04/28(日) 23:26:13.17 ID:y++k1O6co
カエル「お前はいったい何を期待しているんだ。見返りを求めて戦っているのか?」

さやか「そういうお説教はもうたくさんだよ。あたしは、ありがとうすら言えないヤツがムカつくだけ」

カエル「お前は感謝されてるだろ」

さやか「あたしのことじゃなくて、今はサイラスさんの話でしょ!」

カエル「誰も彼もが、サイラスをどうでもいいと思っているわけじゃない」


さやか「それでいいの、師匠は……。サイラスさんの親友である師匠が、そういう考えでいいの!?」

カエル「……」

さやか「見損なったよ、師匠」

カエル「やれやれ……。お前はどうも、潔癖症すぎるな」

928: 2013/04/28(日) 23:34:02.24 ID:y++k1O6co
さやか「もういい! あたしは寝るから!」

クロノ「あ、さやか! ……出て行っちゃったぞ。いいのかい、カエル?」

カエル「ほっておけ。今のあいつは何を言っても聞かないだろう」


クロノ「さやかの言うことは僕も分かるよ。カエルだって、思うところがないわけじゃないんだろう?」

カエル「……」

クロノ「勇者ってなんだ、か……。僕も少し、世の中の『正義』ってやつが分からなくなってきたよ」

カエル「悩めばいいさ。いつか、自分なりの答えが見つかるだろ」

クロノ「カエルにはその『答え』ってのがあるのかい?」

カエル「……さあな。おい、稽古するんだろ。早く行くぞ」

クロノ「……」

929: 2013/04/28(日) 23:37:28.26 ID:y++k1O6co
A.D.600 ガルディア城

翌日


カエル「さて、どうしたものか。サイラスのこと、陛下に聞けば何か分かるかと思ったが……」

さやか「……」

カエル(一晩寝れば機嫌が直るかと思ったが……。厄介だな、これは)


クロノ「カエル、王妃様が来たみたいだよ」

カエル「なに?」

930: 2013/04/28(日) 23:40:08.46 ID:y++k1O6co
リーネ「カエル、良かった……。まだ出発していなかったのですね」

カエル「王妃様、わざわざご足労いただき恐縮です。何かご用命でも?」

リーネ「……サイラスのことです」

カエル「!」


リーネ「私、噂を聞きました。彼のなきがらが、魔族によって運ばれた可能性があると……」

クロノ「魔族が……!?」

リーネ「真実のほどは分かりません。ですが、あなたたちの助けになればと思って」

カエル「貴重な情報をありがとうございます。早速、調べてまいります」

931: 2013/04/28(日) 23:42:49.33 ID:y++k1O6co
さやか「……」

リーネ「勇者様……。陛下とて、何もサイラスをないがしろにしているわけではないのです」

リーネ「魔王軍との戦い……そして今は、国の復興……。陛下には責任があり、自由に動けないのです」

カエル「分かっています、王妃様。こいつとてバカではありません。その辺の事情は察しているはず」


カエル「だよな? さやか」

さやか「そりゃ、もちろん……」

カエル「不出来な弟子に成り代わり、謝罪いたします。陛下へのご無礼、お許しください」

リーネ「ふふ。可愛いお弟子さんですね、カエル」


さやか「……あの、王妃様……」

リーネ「勇者様。またいらしてください。あなたのことは、いつでも歓迎いたしますわ」

さやか「! ……はい、また来ます!」

932: 2013/04/28(日) 23:45:17.66 ID:y++k1O6co
A.D.1000 ボッシュの小屋


ボッシュ「勇者の墓じゃと?」

クロノ「400年前、魔族がどこかに運んだらしいんだ」

カエル「魔族と親交があるじいさんなら、何か知ってるんじゃないかと思ってな」

ボッシュ「ふむ……。勇者かどうかは知らんが、ここから南の大陸に廃墟がある」

さやか「廃墟……? それがどうかしたんすか?」


ボッシュ「……出るんじゃよ……その廃墟に……『亡霊』がな……!」

933: 2013/04/28(日) 23:47:01.90 ID:y++k1O6co
さやか「わざわざ部屋のカーテン閉めて暗くして、懐中電灯を顔の下から当ててるよ、この人……」

クロノ「ボッシュ、カーテンの隙間から光が漏れ出てるぞ」

カエル「昼だからな」

ボッシュ「チッ、つまらん。もっと怖がらんか。メディーナ村の魔族兄弟ならチビっておったぞ」


クロノ「で、その亡霊は魔族なのかい?」

ボッシュ「分からん。少なくとも魔族連中は、あんなヤツは見たことがないと言っておった」

カエル「とりあえず行ってみるか」

934: 2013/04/28(日) 23:51:44.13 ID:y++k1O6co
A.D.1000 北の廃墟


"魔王に戦いを挑んだ、おろかな男サイラス、ここに眠る"



カエル「……」

クロノ「ここだったのか……。それにしてもこれは……」

さやか「ひどい! なんて侮辱的な墓標……」

クロノ「この埋葬地も、荒れ果てて見る影もないな。本当に廃墟同然だよ」

カエル「この墓はおそらく、魔族が建てたものだろう。サイラスを、氏後も冒涜するためにな……」

さやか「許せないよ! これじゃサイラスさんがかわいそう……」

935: 2013/04/28(日) 23:53:45.88 ID:y++k1O6co
???「ヌグォォォォァァッ!」

クロノ「!? なんだ、今の咆哮は!」

さやか「あ、あれ見て!」


亡霊騎士「ゴオオオォォ……」

クロノ「ぼ、亡霊!? ボッシュが言ってたのは、これか!」

さやか「なんか、めちゃくちゃ怒ってますけど……襲い掛かってくる気マンマンじゃん!」

カエル「まさか……!」

936: 2013/04/28(日) 23:55:50.66 ID:y++k1O6co
カエル「サイラス! アンタ……サイラスか!?」

さやか「え、ウソ!?」


亡霊騎士「……グ……レン……」

クロノ「カエルの名を呼んだ!? じゃあ、やっぱり彼は本当にサイラスさん!?」

さやか「そんな……。成仏もできずに、ずっと苦しんでたの……?」

カエル「サイラス……。こんな姿になってまで……」


亡霊騎士「グレエエエェェェン!!!」ブオン!!

カエル「!?」ガキイィン!!

937: 2013/04/28(日) 23:57:32.61 ID:y++k1O6co
さやか「な!? なんで師匠を攻撃するの!? サイラスさんなんでしょ!?」

カエル「……これは……。サイラス……アンタ……」

亡霊騎士「ゴアァァッ! グレエェン!!」


クロノ「ダメだ、見境がなくなってしまっている! ここはひとまず退却しよう!」

さやか「言われなくてもスタコラサッサだぜぇ!」

カエル「……」



亡霊騎士「グレェン! オオォォアッ!! グレエエエェェェン!!!」


…………



938: 2013/04/29(月) 00:04:12.28 ID:KYQy5C0Qo
年代不明 時の最果て


ほむら「で、逃げ帰ってきたというわけね」

さやか「しょうがないじゃん。サイラスさんをやっつけちゃうわけにもいかないでしょ」


クロノ「どうしたらいいかな、ルッカ?」

ルッカ「なんで私に振るのよ」

クロノ「いや、君なら何かいい案を出してくれるんじゃないかと」

ほむら「頼られてるわね、あなた」

ルッカ「なんでもかんでも私に頼るのはやめなさい」

939: 2013/04/29(月) 00:07:16.41 ID:KYQy5C0Qo
ロボ「サイラスさんの暴走ハ、やはり墓所の荒れ具合によるものではないデショウカ」

エイラ「エイラ、知ってる! 墓、氏者のネドコ! 静か、いい! うるさい、ダメ!」

マミ「ということは、廃墟と化したサイラスさんのお墓を建て直す必要があるってことよね」

クロノ「土木工事か……。僕らだけじゃ無理だよな……」

マール「父上に頼んであげよっか?」

さやか「いきなり国家権力っすか!?」

クロノ「さすがにそれは悪いよ。かと言って、職人さんのアテもないしなあ……」


ルッカ「仕方ないわね。クロノ、父さんに会ってきなさい」

クロノ「タバンさんに? なんでだ?」

ルッカ「仕事柄、職人の知り合いは多いのよ。土木建築関係にもツテがあるかもしれないわ」

さやか「なるほど。じゃ、早速行ってみます!」


ほむら「なんだかんだ文句言いつつも、結局助けてあげるのね……」

ルッカ「聞こえてるわよ」

940: 2013/04/29(月) 00:09:42.00 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「ところで、あの3人は何やってるんだ?」


まどか「もう、どうしてそんなことしたの! サイラスさんがかわいそうでしょ!」

杏子「いやホント、知らなかったんだよ。ビネガーのヤツが勝手にやったことでさ……」

まどか「言い訳しない!」

魔王「……」


ほむら「お姉ちゃん風を吹かせるまどかも可愛いわ」ホムホム

ルッカ「正座させられる魔王って前代未聞よね」

941: 2013/04/29(月) 00:13:07.07 ID:KYQy5C0Qo
カエル「……」

さやか「師匠、何ぼさーっとしてんの。トルース町に行くんでしょ」

カエル「ああ、そうだったな……。悪い、すぐに支度する」


クロノ「……サイラスさんのことか? ビックリしたよな、突然斬りかかってくるんだから」

クロノ「やっぱり、すぐそばにいたからカエルが狙われたのかな?」

カエル「……」

さやか「……本当にそうかなあ」

クロノ「え?」


さやか「あたし、あれは偶然じゃないと思うけど。サイラスさん、怒ってるんだよ」

さやか「だって師匠、冷たいもんね。親友のくせにサイラスさんのこと、ちゃんと分かってあげてないもん」

さやか「あたしだったらそんなヤツ、一発ガツンとぶちかましてやるよ。そういうことでしょ」

クロノ「おい、さやか……。何もそこまで……」

カエル「……」

942: 2013/04/29(月) 00:16:07.60 ID:KYQy5C0Qo
さやか「……何も言い返さないんだね。あたしが間違ってるなら、そう言ってよ」

カエル「お前は間違っていない。何も言うことはない」

さやか「っ……! なんでさ、師匠! あたしのこともどうだってよくなっちゃったの!?」

さやか「教えてよ……師匠なんでしょ……。迷ってるときに、どうして突き放すのさ……」

カエル「……」

さやか「……師匠のバカ……。根性なし……」


ほむら「なにやら雲行きが怪しいわね」

ルッカ「リーダーとして仲裁してきなさいよ、ほむら」

ほむら「いや……私にそういう類の能力を求められるのはちょっと」

944: 2013/04/29(月) 00:19:02.46 ID:KYQy5C0Qo
A.D.1000 トルース町 ルッカの家


タバン「よう、クロノ! 久しぶりだな。ルッカのヤツは一緒じゃねえのか?」

クロノ「ええ、まあ。今日はタバンさんに用がありましたんで」

タバン「俺に?」


…………


タバン「なるほどねえ……。大工の知り合いか……」

クロノ「心当たりありませんか?」

タバン「いるぜ。ちょうどいいヤツがよ」

さやか「マジっすか!」

タバン「待ってろ。今、紹介状を書いてやる。これを持ってチョラス町に行きな」

カエル「タバン殿、感謝いたします」

945: 2013/04/29(月) 00:23:26.35 ID:KYQy5C0Qo
A.D.1000 チョラス町 大工の家


14代目大工のゲンさん「ほお……。あんたら、あのタバンの知り合いか」

クロノ「はい。事情はその紹介状に書いてあるとおりなんですけど……」

14代目ゲン「北の廃墟か。確かにあそこは、機会があれば手をつけてえと思っていたところよ」

さやか「それじゃあ!」


14代目ゲン「……が、無理だな」

さやか「……ええ? な、なんでなんすか?」

14代目ゲン「あそこに行ったなら分かんだろ? 亡霊をどうにかしないことには、入ることすら不可能だ」

14代目ゲン「修理なんて、とてもじゃねえが危なくてやってられねえよ」

クロノ「そうですか……」

さやか「うーん。どうしよう……」

946: 2013/04/29(月) 00:26:19.14 ID:KYQy5C0Qo
カエル「……サイラスは、400年分のうらみつらみを募らせ、ああなってしまった」

カエル「その無念を晴らすことができれば、あるいは亡霊と化すこともなくなるかもしれん」

クロノ「つまり……お墓を修繕するなら、400年前じゃないとダメだってことか?」

カエル「おそらくな」


クロノ「でもさ、僕らはともかくとして、大工さんを400年前に連れていくわけにはいかないよな?」

カエル「……まあな」

クロノ「ってことは、向こうで改めて大工さんを見つけるしかないか……」

さやか「うええ……。またそっからっすかあ……」


14代目ゲン「よく分からんが、あんたらは400年前の時代に飛べるんだな?」

さやか「あ、はい。まー、そうなんですけど」

14代目ゲン「タイムマシンだなんだのと吹聴してやがったのは、酒の席の与太話じゃなかったか」

14代目ゲン「タバンの野郎……やるじゃねえか」

947: 2013/04/29(月) 00:28:19.26 ID:KYQy5C0Qo
14代目ゲン「これを持っていきな」

クロノ「これは……大工道具?」


14代目ゲン「うちの家系は、400年以上前から大工業を営んでいてな。これはその時代から伝わるものだ」

14代目ゲン「こいつを見せりゃあ、ご先祖様もあんたらに力を貸してくれるかもしれんぜ?」

さやか「いいんですか? そんな大事なもの……」

14代目ゲン「なあに、今じゃ骨董品みたいなもんよ。だが、そうだな……」

14代目ゲン「全部終わったら、話を聞かせてくれ。ご先祖様の仕事ぶりってのは興味があるからな」

クロノ「ありがとうございます!」


カエル「さて……お次は中世か」

948: 2013/04/29(月) 00:31:08.48 ID:KYQy5C0Qo
A.D.600 チョラス村 大工の家


初代大工のゲンさん「こいつは……! なぜあんたらがこれを?」

さやか「まあまあ。細かいことは言いっこなしってことで」

クロノ「北の廃墟、なんとか修理してもらえませんか?」

初代ゲン「……久々にデカい仕事だな。やりがいがありそうだぜ」

さやか「それじゃあ!」


初代ゲン「……が、無理だな」

さやか「がくーん。ま、またっすか……」

クロノ「今度は何が問題なんです?」

初代ゲン「あそこは今、魔族どものたまり場だ。危なくて近寄れねえ」

クロノ「そういえば、あのお墓は魔族が建てたんだっけ?」

カエル「推測だがな。まあ……魔王の様子を見る限り、間違ってはいなかろう」

クロノ「ただの魔族なら、僕たちでなんとかできるかも知れないな……」

949: 2013/04/29(月) 00:34:04.57 ID:KYQy5C0Qo
初代ゲン「ほう。あんたら、ヤツらとやりあえるのか。こいつはいい」

初代ゲン「交換条件だ。魔族どもはこのチョラス村でも問題になっている」

初代ゲン「それに、ヤツらが巣食っている場所では仕事はできねえ。全滅させるんだ」


クロノ「すべて退治できれば、そのときはお墓を修理してもらえるんですよね?」

初代ゲン「任せろ。ただ修理するだけじゃねえ、立派な墓に造り替えてやるよ」


さやか「決まりだね! よーし、腕が鳴るわー! 師匠なんかに任せておけないもんねー」

さやか「サイラスさんの安眠は、この魔法少女さやかちゃんがガンガン守りまくっちゃいますからね!」

カエル「……」

クロノ「はあ……。これは気苦労が絶えないな」

950: 2013/04/29(月) 00:36:16.28 ID:KYQy5C0Qo
A.D.600 北の廃墟


ボーンナム「オッパイノペラペラソース!!」

クロノ「こいつで最後か。あとはサイラスさんのお墓がある部屋だけだな」


さやか「いつつ……」

クロノ「大丈夫か、さやか。割と手痛いのをもらっちゃってたみたいだけど」

さやか「へーき、へーき! これぐらい!」

カエル「後先考えずに突っ込むからだ。まだ直ってないな、その癖は……」

さやか「うっさいなー。いーじゃん、どうせ魔力で治るんだし」


カエル「『ケアルガ』!!」

さやか「っ……! あ……これ……回復魔法……」

カエル「俺たちと違って、お前の魔法は命を削るんだろ。使わないなら、それに越したことはない」

さやか「……」

951: 2013/04/29(月) 00:38:11.27 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「カエル、魔法使えたっけ?」

カエル「スペッキオに引き出してもらった。まあ、今までなかなか使う機会に恵まれなかったがな」


カエル「さやか、いいか。何度も言うようだが、さっきのような戦い方はよくない」

カエル「最後まで気を抜くな。勝利に酔いしれた瞬間こそ、隙が生じるものであって……」

さやか「おせっかいはいいよ! 何さ、こんなときだけ師匠ヅラして!」

カエル「……」


さやか「いいんだよ、別に……あたしは。魔女になっちゃう前に、さっさと氏んだほうが……」

952: 2013/04/29(月) 00:40:37.72 ID:KYQy5C0Qo
カエル「ふざけるなよ、お前!!」

さやか「……っ!」

カエル「氏んでも別にいいだと? 自分の命をなんだと思っている!」

さやか「師匠には分かんないんだよ! あたしの苦しみなんか!」


カエル「ああ、分からねえな。氏にたがりの精神なんて、理解したくもねえ」

カエル「テメェの命も救えねえで、他の誰の命を救える?」

カエル「テメェの命の管理もできてなかったから、大切なヤツを失っちまう羽目になったんだ……!」

さやか「……!」

953: 2013/04/29(月) 00:43:03.30 ID:KYQy5C0Qo
カエル「お前は氏ぬために生きているのか? 泣きながら氏にたいのか? 後悔したまま氏にたいのか!」

カエル「生きることは、辛く苦しいことばかりだ。格好良く生きるためには、裏で無様に足掻くしかねえ」

カエル「それがイヤなのか? だからやめるのか、投げ出すのか!」


カエル「何もしねえで身も心も真っ白なまま氏ぬのがお前の望みか?」

カエル「ちょっとでも汚れたら生きていたくないのか? 答えろよ、馬鹿弟子が!!」

955: 2013/04/29(月) 00:45:00.58 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「カエル、よせ……。さやかが怖がってる」

カエル「……。……すまん……」

さやか「……」


カエル「……俺はお前に、なんにも伝えられなかったみたいだな」

さやか「……」

カエル「見限ってくれていいぜ。汚い大人のやり方に、愛想も尽きただろう……」

クロノ「カエル……」


カエル「……行くぞ。この先がサイラスの墓だ」


…………



956: 2013/04/29(月) 00:49:02.86 ID:KYQy5C0Qo
"魔王に戦いを挑んだ、おろかな男サイラス、ここに眠る"


カエル「サイラス……。サイラスよ! 俺は帰ってきたぞ」

カエル「幼き日の誓いを。そしてアンタとの、最後の邂逅を果たすために!」

さやか「師匠……」


カエル「いるんだろう、サイラス! さあ、姿を見せろ!」

クロノ「え?」

957: 2013/04/29(月) 00:51:40.80 ID:KYQy5C0Qo
サイラス「……」

さやか「あ……! これが本当のサイラスさん……?」

クロノ「間違いないよ。立派な騎士の姿をした、勇者サイラスさんだ!」


サイラス「よく来てくれたな、グレン。会いたかった……」

カエル「……アンタは、ずっとここにいたんだな? こころざし半ばで倒れた無念さに苛まれながら……」

サイラス「この体を魔王の炎に焼かれた時、私の心はこの世に残された人のことを思い、千々にみだれた」

サイラス「ガルディア王……リーネ王妃……魔王……」

カエル「……」


サイラス「そして、グレン……。親友の……お前のことをな……!」

カエル「!」

クロノ「サイラスさんが消えた……!? どこに行ったんだ!」

958: 2013/04/29(月) 00:53:59.74 ID:KYQy5C0Qo
さやか「! ……う……あ……!?」

カエル「さやか!?」



さやか「フ……。やはりだ……。この者の心は今、猜疑心と虚無感で満ちている……」

クロノ「えっ……!?」

さやか「私と同じだ……。世を呪い、人を呪い、そして……グレン、お前のことを……」

カエル「ま、まさか……サイラス……!!」


さやか「グレンと切り結ぶため、少し体を借りるぞ、少女よ!!」ヒュカァッ!!

カエル「くっ!?」ガキイィン!!

959: 2013/04/29(月) 00:56:14.79 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「そんな馬鹿な!? さやかの体にサイラスさんが乗り移ったのか!?」

カエル「サイラス……!」

クロノ「それに、なぜカエルを攻撃するんだ! まだ亡霊になったわけでもないのに!?」


さやか「今のはすばらしい反応だったな、グレン」

カエル「……」

さやか「まるでこの私が、お前に斬りかかることをあらかじめ予想していたかのごとき動きだった……」

クロノ「なんだって……!?」

960: 2013/04/29(月) 00:58:46.55 ID:KYQy5C0Qo
カエル「一合切り結んだだけだが、あの時確かに感じた……」

カエル「サイラス。アンタは俺をうらんでいる。魔王よりも……いや、他の誰よりも……」

さやか「そのとおりだ、グレン! お前が……貴様が……! 貴様さえ、いなければ……!」

クロノ「ウ、ウソだろ……」



さやか「貴様が私を頃したのだ! 氏ね、グレン! 『ニルヴァーナ・スラッシュ』!!」

カエル「ぐあっ!?」

961: 2013/04/29(月) 01:01:25.02 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「くそっ! どうする……。さやかの体を傷つけるわけには……」


カエル「クロノ……竹刀を貸せ。持っていただろ」

クロノ「え……? た、確かにまだ持ってるけど……」

カエル「悪いな、さやか。少し痛めつけるが、あとで回復してやるから」


さやか「フ……。女相手に暴力とは、見下げ果てたヤツだな、グレン」

カエル「なあに、ちょっとばかしキツイ修行と思ってくれりゃあいいぜ。模擬戦は、何度かやったしな」

カエル「……それに、サイラス。どうやらアンタは、俺自身が乗り越えなければいけない壁のようだ……」

さやか「……」

クロノ「カエル……。分かった、グランドリオンは僕が預かる。がんばれ!」

962: 2013/04/29(月) 01:04:04.18 ID:KYQy5C0Qo
カエル「さやか、聞こえるか? よく見ておけ。勇者というものが、どういうものなのかを」

カエル「人の……弱さってやつを……」

さやか「……貴様がそれを言える立場か、グレン? 貴様は弱い。力も、心も……」


カエル「そうだな……。俺は、ずっと……サイラス、アンタに守ってもらってきた」

さやか「……」

カエル「いや、今とてそう変わりはしない。事実、俺では魔王は倒せなかった」

カエル「魔王以上の力を持つであろうラヴォスに、俺がどこまで役に立てるものか……」


さやか「弱いだけならば良し。だが貴様はそれだけでなく、私の後ろをうろちょろと……」

さやか「目障りで仕方がなかった! 貴様の存在はずっと重荷だったんだ! 『タイフーン』!!」ビュオン!!

カエル「っ!」


さやか「チッ……。よけられたか……」

クロノ「回転斬り!? いや、あれは……さやかの技か……!」

963: 2013/04/29(月) 01:07:46.68 ID:KYQy5C0Qo
さやか「グレン、貴様は……私にとって弟のような存在だったんだ」

カエル「ああ……。俺だって、アンタのことは実の兄貴のように思っていたぜ……」


さやか「男兄弟とは! 家族であり無二の親友であると同時に、最大のライバル!」

さやか「兄にとって弟とは! 仲が良かろうと悪かろうと、邪魔者以外の何者でもない!」

さやか「貴様がそれだ、グレン! 『スクワルタトーレ』!!」ヒュオオッ!

カエル「くっ!?」


さやか「貴様に分かるか!? 後ろから見られていることの恐怖が!」

さやか「貴様に理解できたか!? 背中を追われる、あの焦燥感を!」

さやか「私は……! 貴様に無様な姿を見せぬため、理想の兄を演じなければならなかった!」


スパアアァンッ!!

カエル「……!」

クロノ「竹刀がバラバラに……! くそ、カエル! 予備を受け取ってくれ!」

964: 2013/04/29(月) 01:10:21.57 ID:KYQy5C0Qo
カエル「格好良かったぜ、アンタは……。俺の知っている、誰よりもな……」

カエル「そして同時に恨めしかった。なぜアンタだけが先に行ける!? 俺だって努力していたのに!」

カエル「名声も、信頼も、勇者の称号も! すべてアンタを選んでしまったんだ!」

カエル「腹が立つぜ……。ふがいない自分自身と、そしてアンタによ! 『ベロロン斬り』!!」シュバッ!

さやか「効かんッ!」バシッ!

カエル「……クソ……!」


さやか「それは貴様が甘いからだ! 努力だと? 貴様が何をした!」

さやか「ただついてきただけだろう! そして、おいしいところだけを狙っていた!」

カエル「そうすることでしか、アンタについていけなかったからだ!」

965: 2013/04/29(月) 01:13:22.66 ID:KYQy5C0Qo
さやか「そのようなこと、私は望んでいない! 『スティンガー』!!」

カエル「ふざけるな! アンタが言ったんだろう……。一緒に来い、って! 『ダッシュ斬り』!!」


ズバァン!!!



カエル「ぐ、うぐっ……」

さやか「ちいっ……浅かったか。しかも、切り抜けざまに一撃もらってしまうとは、我ながらうかつ……」

966: 2013/04/29(月) 01:15:27.99 ID:KYQy5C0Qo
カエル「ウソだったのか、サイラス……! ともに来いと言ったあの言葉は、ウソだったのか!?」

さやか「私は対等の関係を望んでいたんだ。金魚の糞がごとき醜態をさらせと言った覚えはない!」

カエル「俺の気持ちはどうなる!? アンタをずっと追い続けてきた、俺の気持ちは!」


さやか「こちらの意を介さず、おのれの言い分だけを通そうとする……。小僧か、貴様は!」

さやか「解ってもらおうなどというのが、そもそもの間違いなのだ!」

カエル「解れなんて言っていない! どうしてそのことを、少しだけでも考えてくれないんだってことだ!」



カエル「サイラス! アンタこそ自分の主張を押し付けているだけだろう! 『ジャンプ斬り』!!」

さやか「私が悪いのか!? 私に責を問うのか、グレン! 『シューティングスティンガー』!!」


ドドオオオォォン!!!

967: 2013/04/29(月) 01:17:32.22 ID:KYQy5C0Qo
カエル「俺はアンタに……何も与えられなかったって言うのか、サイラス!」

カエル「どんなときでも、アンタとともにいた! その恩は、感じてくれなかったのか!?」


さやか「それだ、グレン! その言い方に、私は怒りを覚える!」

さやか「恩だと? その言葉を口にした時点で、貴様から受け取ったものは薄っぺらなものになる!」

さやか「感謝していたのに! 結局貴様は、本心では私に恩を売って優越感に浸っていたのか!」

カエル「! ち、違う! 俺はそんなこと……!」


さやか「違うものか! 語るに落ちたな、グレン! 『ニルヴァーナ・スラッシュ』!!」

カエル「うぐああっ!!」

968: 2013/04/29(月) 01:20:02.01 ID:KYQy5C0Qo
さやか「みな、そうだ……。勇者などともてはやし、過度の重圧を与え追い込んでおきながら……」

さやか「失敗すれば、すべて私の責! 誰も彼もが、侮蔑と失望を向ける!」


さやか「魔女を頃すだけしか意味がない石ころのあたしに、誰が何をしてくれるって言うの?」

さやか「あたしのために人間やめる覚悟もないくせに、口だけで丸め込もうってのが気に入らない!」


さやか「勇者など、ただのいけにえではないか! 貴様たちはそうやって陰で笑っていたのだろう!?」

さやか「私は一体、なんのために戦ったのだ! 誰のために戦ったのだ!?」


さやか「ねえ、この世界って守る価値あるの? あたし、なんのために戦ってたの?」

さやか「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。その仕組み、変えられないの!?」


さやか「私の生涯に意味はあったのか!?」

さやか「教えてよ、今すぐあんたが教えてよ! でないと、あたし……!!」

969: 2013/04/29(月) 01:26:01.80 ID:KYQy5C0Qo
カエル「く……。……ア、アンタが……! そんなセリフを言っちゃいけない!」

さやか「貴様がそれを言うのか……! 私をこんな風にした、貴様が……!」

カエル「何もかもを覚悟していたはずだ! いまさら……泣き言かよ! ダサいぜ、サイラス!」

さやか「私は弱いのだ! なぜそれが分からん、グレン……」

カエル「聞きたくねえ、見たくねえ。今のアンタは、かつての俺のようだぜ」

さやか「何……!?」

970: 2013/04/29(月) 01:29:34.98 ID:KYQy5C0Qo
カエル「さやか、お前の駄々は聞き飽きたぜ。悪いが、俺はそこまでできた人間じゃねえ」

さやか「見捨てるの、師匠!? 結局師匠も、あたしを見捨てるの!?」

カエル「人間はみな弱い。だが、いつまでもそれをさらけ出していてどうする?」

カエル「たまには弱音を吐くのもいいさ。だが最後には……泥臭かろうが、必氏に生きるんだ!」

さやか「そんなの耐えられないよ……。だから助けてよ、師匠……」

カエル「知らねえな。俺はお前じゃない。解ってやることも、助けてやることもできねえ」


カエル「だが、見せてやることはできる。俺の『答え』ってやつをな……」

さやか「え……」

971: 2013/04/29(月) 01:31:12.92 ID:KYQy5C0Qo
カエル「目ン玉ひんむいてよく見とけよ、さやか……」


カエル「そしてサイラス……。これが……俺が追いかけた、アンタの姿だ!」



カエル「『ニルヴァーナ・スラッシュ』!!」

972: 2013/04/29(月) 01:34:02.42 ID:KYQy5C0Qo
さやか「ぐおっ!? ……ば、馬鹿な……! 貴様が、『ニルヴァーナ・スラッシュ』を……!!」

カエル「どうだ! 目が覚めたか、ふたりとも!」



さやか「……貴様は……いつもそうやって……私のすべてを奪っていく……」

さやか「守られるだけのひな鳥だったくせに……いつの間にか……私を飛び越えて……」

さやか「生涯をかけて編み出した私の必殺技をも……。そして……私が想いを寄せたリーネ様ですら……」


カエル「アンタの背中をずっと見てきた。アンタの生き様を、ずっとなぞってきた」

カエル「自分でも気持ち悪いぐらいにな。俺の人生は、アンタ抜きには語れない……」

さやか「……」

973: 2013/04/29(月) 01:38:31.56 ID:KYQy5C0Qo
カエル「今なら俺にも分かるぜ……。背中を追われ、見られていることの恐怖が……」

カエル「前を進むものは、格好つけなくちゃならない。後ろから来るヤツが迷わないようにな……」

さやか「師匠……」


カエル「俺は、今の俺は……! アンタがいなければ、ここに立ってはいなかった!」

カエル「アンタが俺を生かしたんだ! それだけは信じてくれ、サイラス!!」

カエル「アンタの生涯に意味がなかったなんて、そんな悲しいことだけは言わないでくれ!!」


さやか「泣くなあッ、グレン! 貴様はいつもそうだ!」

さやか「泣けばすべてが許されると思っている! それでも男か!!」


カエル「アンタだって泣いているだろう!!」

さやか「……!!」

974: 2013/04/29(月) 01:41:26.75 ID:KYQy5C0Qo
さやか「なぜだ……! この……感情……私の中の少女が泣いているのか……?」

さやか「い、いや……それだけではない……。これは、私自身の涙……」

カエル「サイラス……」

さやか「グレン、貴様が……お前が泣かせた……! この、私を……お前が泣かせたのだ!」


カエル「あのころの俺が、もう少し今のように考えられていたら……」

カエル「あのころの俺が、さやかのように、追いかけるものの隣に立てるぐらい戦えていれば……」

カエル「アンタを氏なせはしなかっただろうに……。すまなかった……サイラス……」

さやか「……いまさら、だな……グレン……。本当にお前は、手がかかる……」

975: 2013/04/29(月) 01:44:41.05 ID:KYQy5C0Qo
さやか「これで最後だ。構えろ、グレン」

カエル「……」

さやか「すべてのわだかまりを吐き出した今、道を決めるのはおのれの剣のみ」

カエル「俺とアンタの、『ニルヴァーナ・スラッシュ』……」

さやか「どちらが『先』に進むに値するか、ここで決着をつけよう……」


カエル「……」

さやか「……」


さやか「長い時間をかけて得たお前の強さは本物のはずだ」

カエル「……」

さやか「これで心おきなく眠りにつける……。グレン……。リーネ様を、頼んだぞ……」

976: 2013/04/29(月) 01:48:07.85 ID:KYQy5C0Qo


「『ニルヴァーナ・スラッシュ』!!!」



977: 2013/04/29(月) 01:51:34.35 ID:KYQy5C0Qo
カエル「……」

サイラス「……」


サイラス「フ……。お前の剣閃のほうが、正確で力強く、何より速かったな……」

カエル「……サイラス……」

サイラス「こちらを振り返るなよ、グレン。お前が見据えるべきは、未来だ」

カエル「……」


サイラス「お前が憎い。私の届かなかったその先に、進むことができるお前が……」

サイラス「だが……なぜだろうな。あとを継ぐものが、自分を乗り越えていくということ……」

サイラス「……こんなにも……気分がいいもの……なのか……」

978: 2013/04/29(月) 01:55:35.49 ID:KYQy5C0Qo


サイラス「立派に……なったな……。……我が友にして弟……グレン……」

カエル「……さらばだ……サイラス……。我が友にして兄よ……」


…………



3: 2013/04/29(月) 02:04:24.96 ID:KYQy5C0Qo
現在、第10話(マルチイベント編-1)「勇者の墓」 進行中

↓より投下開始

4: 2013/04/29(月) 02:08:18.99 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「僕も男だからさ、『勇者』ってのにあこがれてたんだ」

カエル「……そうか」

クロノ「でも、実際は御伽噺のようにはいかないよな……。勇者だって、ひとりの人間なんだ……」

カエル「……」


さやか「師匠……」

カエル「おい、動くな。まだ完全に治りきっていないだろうが」

さやか「ヘヘ……。やり過ぎだっての、師匠は……。ほんと、女の子の扱いがヘタクソなんだから……」

カエル「減らず口が叩けるなら、大丈夫だな」

5: 2013/04/29(月) 02:13:29.81 ID:KYQy5C0Qo
さやか「ね、師匠……。『正義』って、なんなんだろう?」

さやか「サイラスさんは、誰かを救うために、あんなにがんばってたのに……こんな終わり方……」

カエル「……」


さやか「やっぱりこの世の中には、正義なんてないのかな?」

さやか「見方が違うってだけで……結局は自己満足で、押し付けでしかないのかな……?」

さやか「人のために祈り続けるのって……やっぱり、無理なのかな……」

6: 2013/04/29(月) 02:16:15.23 ID:KYQy5C0Qo
カエル「そうだな……。俺は正義の道とは、『道化』の道だと思う」

さやか「道化……?」


カエル「以前、王妃様の修道院視察に随行した時、こんな話を聞いたことがある」

カエル「『我々人間ははるか昔、堕天使ルシファーにそそのかされ禁忌の果実に触れてしまった』」

カエル「『そのせいで神の怒りを買い、楽園を追い出された』……と」

さやか「それって、有名な神話の……」


カエル「俺たち人間は、本質的には道徳的に『悪』とされていることを好む種族なのだろう」

カエル「その真逆である正義をなすということは、人をだまし、何より自らをだまし続けなければならない」

さやか「……」

7: 2013/04/29(月) 02:18:59.59 ID:KYQy5C0Qo
カエル「しかし、だ。そんな本性に人々はみな、もがき苦しんでいる。助けを求めている」

カエル「誰かに『違う』と言ってほしいから、英雄譚は求められ、語り継がれる」

カエル「勧善懲悪の物語に出てくるような『正義』は……この世の中で必要とされている」


カエル「さやか。ハッピーエンドは嫌いか?」

さやか「そんなわけないじゃん……」

カエル「俺もだ。物語の最後は、笑って見ていられるほうが好きでな」

カエル「だから俺は、演じ続ける。みんなを笑わせるために……」

さやか「……」


カエル「『人のために』ってお前の想い……俺は格好いいと思うぞ」

カエル「うらやましいぜ。汚れちまった俺には、到底できない考え方だ……」

さやか「師匠……」

8: 2013/04/29(月) 02:23:16.46 ID:KYQy5C0Qo
カエル「絶望するな、さやか。人に、世の中に……。自分に……」

カエル「醜い部分が見えたとしても、ヘラヘラ笑って許してやれ。受け入れてやれ」

カエル「だまし続けるんだ。そして追い続けろ。そうすればいつか……それが、『本物』になる」

さやか「なんか……無責任だよね、それって」

カエル「ハハ。そうだな、俺もそう思う」


カエル「お前は以前、一度は『正義の味方』を志し、道半ばで挫折したと言っていたな」

カエル「今はどうだ? ……考えが、変わったか?」

さやか「……わかんないよ……まだ……」

カエル「そうか。答えが出たら、ぜひ教えてくれ」

9: 2013/04/29(月) 02:26:30.77 ID:KYQy5C0Qo
クロノ「! カエル……君の、グランドリオンが!」

カエル「おお、輝いているな……。これは一体?」

クロノ「まさか、剣の精霊である彼らが……?」


「フフ……」

「そうさ!」


さやか「グラン! それに、リオンも!」

リオン「お兄ちゃんは、悩んでたよね?」

グラン「勇者の強さは、意志の強ささ!」

リオン「罪ほろぼしのだめなんかじゃない」

グラン「あんたの意志が、今、本当の強さを持ったのさ!」

カエル「俺の……意志……!」

10: 2013/04/29(月) 02:29:30.66 ID:KYQy5C0Qo
>>9
失礼、誤字がありました。正しくはこっち。


クロノ「! カエル……君の、グランドリオンが!」

カエル「おお、輝いているな……。これは一体?」

クロノ「まさか、剣の精霊である彼らが……?」


「フフ……」

「そうさ!」


さやか「グラン! それに、リオンも!」

リオン「お兄ちゃんは、悩んでたよね?」

グラン「勇者の強さは、意志の強ささ!」

リオン「罪ほろぼしのためなんかじゃない」

グラン「あんたの意志が、今、本当の強さを持ったのさ!」

カエル「俺の……意志……!」

11: 2013/04/29(月) 02:31:42.20 ID:KYQy5C0Qo
リオン「これで、心おきなくボクらも力を出せるね、兄ちゃん!」

グラン「そうだな、リオン! 行くぜ!」

カエル「これは……!」


クロノ「グランドリオンの意匠が変わった!」

カエル「外見だけじゃない。このみなぎる力……! これが、グランドリオンの本当の姿なのか!」

さやか「つまり、『新生グランドリオン』!?」


カエル「……サイラス、見てるか……?」

カエル「アンタのくれたグランドリオンが、今、俺に力を与えてくれているぜ……」

12: 2013/04/29(月) 02:34:38.33 ID:KYQy5C0Qo
カエル「サイラスよ、俺は行く。アンタのこころざし……受け取ったもの……のちの世に伝えるために」

カエル「アンタはいつまで自分にしがみついているつもりだと笑うだろうが……」

カエル「あいにくと、別の生き方を知らんものでな。もう少し付き合ってもらうぜ」

カエル「それが……! アンタへの、最後のはなむけだ!!」


カエル「見ていてくれ、サイラス。俺が進む、その先をな!!」


…………



13: 2013/04/29(月) 02:36:59.47 ID:KYQy5C0Qo
A.D.600 勇者の墓


大工A「親方! 東側の改築、終わりました!」

初代ゲン「ご苦労さん。西側が予定より遅れがちだ。応援に行ってやってくれ」

大工A「あいよ!」


杏子「親方。この土嚢、こっちに積み上げりゃいいんだよな?」

初代ゲン「おう、わりぃな。あんたはホントよく働いてくれるねえ」

杏子「ま、昔いろいろやってたからな……。日雇いとかでさ」

初代ゲン「まあ仕事さえキチッとやってくれりゃあ、何でもいいぜ」

初代ゲン「しかし、キョーコちゃんに比べてあいつときたら……」


魔王「くそ……。なぜ王であるこの俺が、土いじりなぞ……」

大工B「おうおうおう! ぶつぶつ言う暇があったら手と足を動かしな!」

魔王「チッ……」

14: 2013/04/29(月) 02:40:50.79 ID:KYQy5C0Qo
まどか「こんにちは! お弁当の差し入れ、持ってきましたよ」

初代ゲン「おう、まどかちゃんじゃねえか」

大工A「ヒャッホウ! まどかちゃんの手作り弁当だぜ!」

初代ゲン「てめぇら、飯食う前にやることがあるだろ! ちゃっちゃと終わらせねえと、昼休憩抜きだぜ!」

大工B「そりゃないっすよ! チクショー、やるぜおめぇら!」

大工たち「押忍!」

15: 2013/04/29(月) 02:42:45.02 ID:KYQy5C0Qo
まどか「杏子ちゃんとジャキくんは、ちゃんと働いてますか?」

初代ゲン「まずまずだな。助かったぜ、わざわざ人手を紹介してくれるなんてよ」

まどか「いえいえ、これはふたりがやるべきことですから」

初代ゲン「?」


まどか「ちなみに、正体がバレると大変だから、ふたりともツナギを着てるよ!」

まどか「杏子ちゃんは髪をおろしてて、ジャキくんは角刈りカツラとマジックで描いたヒゲのおまけつき!」

初代ゲン「……誰に説明してるんだい?」

まどか「ウェヒヒ! なんでもないでーす!」

16: 2013/04/29(月) 02:45:12.32 ID:KYQy5C0Qo
大工A「親方! 墓石の新しいやつが届きましたよ」

初代ゲン「ほう、もう来たか。早いな」

まどか「見せてもらってもいいですか?」

初代ゲン「かまわねえよ」

まどか「ありがとうございます。……わあ、ちゃんと墓標も書き換えられてますね」

初代ゲン「前のやつはあまりにもひどすぎたからな」


まどか「これなら、きっと……サイラスさんも、安心して眠れますよね……」

初代ゲン「そうだな……」

17: 2013/04/29(月) 02:47:07.07 ID:KYQy5C0Qo


"その想いを親友グレンに託して、勇者サイラス、ここに眠る"



18: 2013/04/29(月) 02:49:05.83 ID:KYQy5C0Qo
第10話(マルチイベント編-1)「勇者の墓」 終了


  セーブしてつづける(マルチイベント編-2へすすむ)

ニアセーブしておわる

  セーブしないでおわる

26: 2013/04/29(月) 22:37:39.53 ID:KYQy5C0Qo
第11話(マルチイベント編-2)「ビネガーの館」


このセーブデータをロードします。よろしいですか?


ニアよろしい

  よろしくない

28: 2013/04/29(月) 22:40:52.03 ID:KYQy5C0Qo
A.D.600 ビネガーの館上空


まどか「あれがビネガーさんのお屋敷?」

杏子「ああ、そうだよ。相変わらず趣味の悪いつくりしてやがんなあ……」

まどか「杏子ちゃんたちはここに来たことがあるの?」

杏子「……昔はここに住んでたよ」

まどか「え?」


魔王「雑談はあとにしろ。行くぞ」

29: 2013/04/29(月) 22:43:41.83 ID:KYQy5C0Qo
A.D.600 ビネガーの館 入り口


ビネガー「ウエ~ルカ~ム! ここは大魔王ビネガーの……ん?」

魔王「……」

ビネガー「おぴょおっ!! あ、あなたは、魔王様!」

魔王「……いい身分だな、ビネガー」

杏子「大魔王ってなんだよ。ジャキがいなくなったからテメェがトップだってか?」

ビネガー「オフィーリア……貴様まで……」


まどか「オフィーリア?」

杏子「あー、まあ……そう呼ばれてるってことにしといてくれ」

30: 2013/04/29(月) 22:50:51.95 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「……フン! 貴様らにどうこう言われる筋合いはないわ」

ビネガー「魔王様、あなたにもだ。魔族の世を築くための戦いを捨て……」

ビネガー「人間どもにこびへつらうあなたなぞ、もはや我らの王ではない!」

魔王「……」


ビネガー「なぜ我らを裏切った……」

ビネガー「貴様もだ、オフィーリア! 拾ってやった恩を忘れたのか!」

杏子「……」


――――

―――



31: 2013/04/29(月) 22:54:10.51 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「おい、杏子。杏子ってば」

杏子「呼び捨てにすんなよ、ガキのくせに……。で、なんだ?」

ジャキ「なんだじゃない。いつになったらこの森を抜けられるんだ」

ジャキ「ここ、前も通ったんじゃないか? お前、ちゃんと道分かってるのかよ」

杏子「……アタシに聞くな」

ジャキ「迷ってるのにウロウロしてたのかよ! ただの悪あがきじゃないか!」

杏子「ああ、うるせー! それ以上ごちゃごちゃ言うと、おいてくからな!」

ジャキ「なんだよそれ! 助けたんなら最後まで面倒見ろよな!」

杏子「こ、このヤロウ……」

32: 2013/04/29(月) 22:57:03.57 ID:KYQy5C0Qo
杏子「!」

ジャキ「? どうかした……」

杏子「怪しいヤツがいる」

ジャキ「え?」


魔族「ゲヒヒヒ!」

ジャキ「な!? なんだコイツ!」

杏子「どう見ても仲良くしましょうってツラじゃねえよな……。下がってろ、ジャキ!」


…………



33: 2013/04/29(月) 22:59:28.99 ID:KYQy5C0Qo
杏子「ふう。なんとかなったな」

ジャキ「杏子……お前……その姿……」

杏子「ん? あー……そっか。思わず変身しちまったか……」

杏子「えっとな、何から説明すっかなー……」


???「ほう……。我がしもべを、いともたやすく……。人間のくせに、なかなかやりおるわ」

杏子「! 誰だテメェは!」

34: 2013/04/29(月) 23:01:03.87 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「フヒヒヒ! 我が名はビネガー!! いずれ魔族の王となる男よ!」

杏子「次から次へと……。おかわり頼んだ覚えはないんだけどね」

ビネガー「カスどもが! ここで氏ねい!」


ジャキ「杏子、来るぞ!」

杏子「分かってら、クソッ……! やるしかねえ!」

ビネガー「我が覇道の踏み台としてくれるわあ!!」

35: 2013/04/29(月) 23:03:18.71 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「あの、すいませんでした」

杏子「……」

ジャキ「……すげー、これが有名な『DOGEZA』か」

ビネガー「ほんとに、もう……身の程もわきまえず、みなさま方にたてつこうなどという愚行を……」


杏子「もういい、消えな。二度とそのツラ見せんじゃないよ」

ビネガー「あなた様のご慈悲にこのビネガー、感涙に心打ち震えまして……」

杏子「早く消えろっての!」

ビネガー「は、ははーっ。それでは……」

36: 2013/04/29(月) 23:05:46.89 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「いいのか、杏子?」

杏子「調子狂っちまったよ。おら、さっさと行こうぜ……」


ビネガー「引っかかったなあ!!」

ジャキ「!?」

杏子「テ、テメェ! 不意討ちかよ、きたねえな!」

ビネガー「なんとでも言え! 勝てば官軍よお!」


ジャキ「杏子、来るぞ!」

杏子「分かってら、クソッ……! やるしかねえ!」

ビネガー「我が覇道の踏み台としてくれるわあ!!」

37: 2013/04/29(月) 23:08:34.44 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「あの、すいませんでした」

杏子「……」

ジャキ「……」

ビネガー「ほんとに、もう……身の程もわきまえず、みなさま方にたてつこうなどという愚行を……」


杏子「頃していい?」

ビネガー「そそそそんな! どうかご慈悲を!」

ジャキ「慈悲はさっきやっただろ」

38: 2013/04/29(月) 23:12:09.07 ID:KYQy5C0Qo
???「……何をしている、ビネガー」

???「あらん、可愛い男の子ネ~」

ジャキ「!」


ビネガー「おお、ソイソーにマヨネー! ナイスタイミングだ!」

杏子「チッ……お仲間がいやがったのかよ……」

ビネガー「フヒヒヒ! 形勢逆転だな!」

ジャキ「コイツ……急に元気になりやがった」


ソイソー「人間か。お前たち個人に恨みはないが……こんなところに迷い込んだのが運のつきだ」

マヨネー「この子、あたいがもらっちゃっていい?」

杏子「3対1かよ……。さすがにやばいな……」

ビネガー「お前ら! このカスどもをやってしまえ!」


…………



39: 2013/04/29(月) 23:14:18.43 ID:KYQy5C0Qo
杏子「いってぇ……ちくしょう……」


ジャキ「杏子! ……くそ、放せよ!」

マヨネー「いや~ん、元気があってかわいらしいのヨネ~」


ソイソー「かなりの手だれだった……。1対1なら、負けていただろうな」

マヨネー「ほ~んと。おかげであたいのキレイな肌にキズがついちゃったのヨネ」

ソイソー「ビネガーは早々にやられていたしな……」


ビネガー「……」チーン

40: 2013/04/29(月) 23:17:31.31 ID:KYQy5C0Qo
ソイソー「何か言い残すことはあるか? 武士の情けだ、聞いてやる」

杏子「……ジャキは……その少年は、逃がしてやってくれ」

ジャキ「! ……お前……」

マヨネー「イヤよン! この子はあたいのものなのヨネ~」

ソイソー「だ、そうだ。残念ながらその頼みは聞けそうもないな」


杏子「……ああ、そうか……よッ!!」バッ!

ソイソー「!? ぐ、くお……! 土が目に……!」

ジャキ「いいぞ、杏子!」

杏子「ジャキ! 今助けるからな!」

41: 2013/04/29(月) 23:20:12.55 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「!?」

マヨネー「はい、そこまでなのヨネ~。姑息な手を使ってくれるじゃないのヨ」


杏子「テ、テメェ……ジャキをどうするつもりだ!」

マヨネー「どうするかはアナタ次第ヨ。ちょ~っとばかし惜しいけど……」

マヨネー「抵抗するならこの子、頃しちゃうわヨン?」

杏子「くそったれ……」

マヨネー「ソイソー、いつまでもがいてるつもりヨ?」

杏子「!」


ソイソー「目くらましとは……やってくれるじゃないか」

杏子「……万事休すか」

42: 2013/04/29(月) 23:23:40.97 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「……ウザいんだよお前ら……」

マヨネー「ヨネ?」


ジャキ「勝手に助けたり面倒見たり……襲ってきたり、殺そうとしたり……」

ジャキ「挙句の果てには身を挺して守るとか……ヒーロー気取りかよ……」

ソイソー「なんだ、貴様……何を言っている?」

ジャキ「ボクにかかわるとみんな不幸になるんだ……」

杏子「……」

ジャキ「もういいよ、杏子……。ボクのことはほっといてくれ……」

43: 2013/04/29(月) 23:25:13.02 ID:KYQy5C0Qo
杏子「いやだね」

ジャキ「! ……なんで」


杏子「いいかどうかは自分で決める。アタシはお前を助けてやるって決めたんだ」

杏子「助けたんなら最後まで。お前が言ったことだろ」

杏子「ガキはガキらしく、杏子お姉ちゃんに守られてりゃいいんだよ」

ジャキ「……やめろよ……そういうの……姉上、みたいな……」

44: 2013/04/29(月) 23:27:35.51 ID:KYQy5C0Qo
マヨネー「もういいわ。めんどくさいからこの子、頃しちゃうのヨネ」

杏子「! やらせるかっ!!」

ソイソー「おっと、私を忘れてもらっては困る。背後からとはいささか不本意だが……な!」

杏子「!? しまっ……!」

ジャキ「杏子!?」


マヨネー「いや~ん、背中バッサリ! あれじゃ間違いなく氏んだのヨネ~」

ジャキ「……ふ、ふざけんなよ……! おい、杏子……!!」

杏子「……」


マヨネー「だ~いじょうぶヨ。あなたもすぐにあとを追うんだから……」

マヨネー「ふたり仲良くあの世で暮らしなァ!!」

45: 2013/04/29(月) 23:30:01.89 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「……お前らあああああッ!!!」

マヨネー「えっ!?」

ソイソー「なんだ!? この巨大な魔力は!」


ジャキ「よくも杏子を……! 氏ぬ覚悟はできてるんだろうな!!」

ソイソー「うおおおおッ!?」

マヨネー「なあああっ!?」


…………



46: 2013/04/29(月) 23:33:17.44 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「あの、すいませんでした」

ジャキ「……」

マヨネー「ほんとに、もう……身の程もわきまえず……」

ソイソー「みなさま方にたてつこうなどという愚行を……」

杏子「……なんだよこれ? 気が付いてみたら全員DOGEZAとか……」


ジャキ「よく生きてたな、お前……」

杏子「ヘッ、アタシが氏んだと思ったか? 残念でした」

杏子(ソウルジェムは無事だったからな……。背後じゃなく、前から斬られてたらやばかったけど)

47: 2013/04/29(月) 23:35:16.50 ID:KYQy5C0Qo
杏子「で、どーすんのコイツら?」

ジャキ「……部下にする」

杏子「はぁ!? 本気かよ。殺されかけた相手だぜ?」

ジャキ「それはお前が弱いからだろ。ボクならこいつらを抑えられる」

杏子「……言ってくれるね」

ジャキ「1対1なら杏子だって勝てるだろ。なんならボクが守ってやってもいい」

杏子「どういう心境の変化だよ? アタシを守るだあ?」

ジャキ「……別にどうでもいいだろ」

48: 2013/04/29(月) 23:38:22.21 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「おい、えーっと……緑のデブ」

ビネガー「ハッ! ビネガーでございます、魔王様!」

ジャキ「魔王?」


ソイソー「先ほどの強大な魔力、まさしく魔族の王。我が主君にふさわしきお力」

マヨネー「あたいたちを導き、魔族が安心して暮らせる世の中を築き上げてほしいのヨネ!」

杏子「よく言うぜ……。カスだなんだって馬鹿にしやがったくせによ」

ソイソー「その非礼には、このビネガーめが割腹してお詫びを!」

ビネガー「だが断る」

杏子「……」

49: 2013/04/29(月) 23:43:25.87 ID:KYQy5C0Qo
ジャキ「もういい。それより、この森はどうやって抜けるんだ?」

ビネガー「ははーっ。それでは、この先にあるワシの超豪華な屋敷にご案内いたします!」

杏子「さりげなく自慢してやがる……」

ビネガー「こちらです! ささ、お足元にお気をつけて!」


…………


杏子「おい、ジャキ。さっきの『魔族の世』っての、本気で作るつもりか?」

ジャキ「……気が向いたらな」

杏子「……」

ジャキ「それよりお前、いつまでついてくるんだよ。森は抜けたし、もうどっか行けよ」

杏子「どっか行ってもいいのか?」

ジャキ「……」

50: 2013/04/29(月) 23:46:23.29 ID:KYQy5C0Qo
杏子「中途半端は気持ちわりいしな。もうちょっとだけ付き合ってやるよ」

ジャキ「……頼んでない」

杏子「言ったろ? アタシの行くところはアタシが決めるって」

杏子「それにお前、色々危ないんだよ。考え方とか、無駄にでかい魔力とか……」

ジャキ「勝手にしろよ……」

杏子「はいはい。お前がもうちょっと大人になったら、言われなくても勝手に出て行ってやるよ」

ジャキ「大きなお世話だよ、杏子お姉ちゃん」

杏子「……ん? おい、ジャキ。今なんて……」

ジャキ「……」

51: 2013/04/29(月) 23:48:43.55 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「キョーコ! 魔王様と密談とは、けしからんな! ワシもまぜろ!」

杏子「うるせーぞ、デブ。またDOGEZAしたいのか?」

ビネガー「はい、すいませんでした」



ジャキ「……変なヤツらだよ、お前ら……。わざわざボクなんかのために、さ……」


――――

―――



52: 2013/04/29(月) 23:53:48.91 ID:KYQy5C0Qo
杏子「大丈夫か、まどか?」

まどか「うん。でもビックリしちゃった。ビネガーさん、いきなり魔物をけしかけてくるんだもん」

魔王「自らは撤退し、手下を使うか。変わらんな」

杏子「そういうヤツだよ、アイツは。よし、追うぜ!」


…………


ビネガー「チッ、もう追いついてきやがったか!」

杏子「足おせーなあ……」

まどか「あの……失礼かもしれないですけど、もう少し痩せたほうがいいんじゃ……」

ビネガー「うるさいわ!」

53: 2013/04/29(月) 23:56:03.98 ID:KYQy5C0Qo
ビネガー「しつこいヤツらめ。こうなったら……マヨネーッ!」


マヨネー「は~い! あたいを、呼・ん・だ?」

杏子「うげっ……マヨネーかよ……」

まどか「強いの?」

杏子「強いって言うか、キモい」

まどか「キモい……?」


マヨネー「あ~ら、これは魔王様にオフィーリア。どのツラ下げて来られたのかしらネ~?」

マヨネー「人間に味方するような裏切り者は、このオネーサンがおしおきヨネ~」

杏子「何がオネーサンだ。テメェ、男だろ」

まどか「え!?」

55: 2013/04/29(月) 23:58:55.60 ID:KYQy5C0Qo
マヨネー「フフン、相変わらず口の減らないコ……。すぐに生意気言えないようにしてあげるのヨネ」

マヨネー「さ、大魔王ビネガー様は下がってて。このコたちのシマツは、このあたいにまかせてヨネ~」

ビネガー「たのんだぞ、マヨネー!」


まどか「男のひと……? ええ~……こんなにキレイなのに……」

魔王「鹿目まどか。ほうけている場合ではないぞ」

まどか「はっ! あ、ご、ごめんなさい!」



マヨネー「さ~、オ・シ・オ・キ・ヨ!!!」


――――

―――



57: 2013/04/30(火) 00:02:24.72 ID:fTX7Dw+Uo
ジャキ「イヤだって言ってんだろ! はーなーせー!」

マヨネー「もう~。わがままばっかり言ってちゃメッ! なのヨネ」


杏子「おいおい、なんの騒ぎだよ」

ジャキ「杏子! 助けろ!」

杏子「はあ?」


マヨネー「ああん、キョーコちゃんからも言ってあげてほしいのヨネ」

マヨネー「魔王様ったらあたいとオフロ入るの、絶対イヤだって言うのヨ」

杏子「……くだらねえな、オイ」

59: 2013/04/30(火) 00:08:18.93 ID:fTX7Dw+Uo
ジャキ「ひとりで入れるって言ってんだろ!」

マヨネー「ダメよお~。オネーサンが魔王様をキレイにしてあげるんだから~」

マヨネー「そう……スミズミまで、ネ」ジュルリ

杏子「よだれ出てんぞ、セクハラ女。いい加減にしてやれよ」


マヨネー「キョーコちゃんは魔王様に甘いわネ~。じゃあアナタが一緒に入ってくれる?」

杏子「なんでだよ。必要ねえだろ」

マヨネー「ひとりで入ってもつまんないのヨネ!」

杏子「……はいはい、分かったよ。ったく、女同士で何が楽しいんだか……」

マヨネー「裸の付き合いは大事なのヨネ。これでキョーコちゃんともっと仲良くなれるのヨネ~」

杏子「超ウゼェ」

マヨネー「さー! そうと決まれば早く行くのヨネ!」

60: 2013/04/30(火) 00:12:01.60 ID:fTX7Dw+Uo
ジャキ「……助かった……」


ソイソー「おや? 魔王様ではないですか」

ジャキ「ソイソー……」

ソイソー「奇遇ですな。ところで、キョーコに所用があるのですが、見かけませんでしたか?」

ジャキ「アイツならマヨネーと一緒に風呂に行ったよ」

ソイソー「マヨネーと? それはまた……キョーコも思い切ったことをしますな」

ジャキ「え?」



「うぎゃああああああああああああああ!!!???」

61: 2013/04/30(火) 00:15:28.12 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「ぞっ、ぞぞぞぞぞゾウさんがああーっ!!!」

ジャキ「っ!?」


ソイソー「落ち着け、キョーコ。象がどうかしたのか?」

杏子「まっ、マヨネーのっ、股のところにぃ……お、おっきなゾウさんが……!」

ソイソー「ああ、陰茎のことか? 当然だろう、アイツは男だからな」

杏子「き、聞いてねえぞ! ていうか、胸が……」

ソイソー「あれは豊胸手術だ。そういえばふたりには言ってなかったか……」


杏子「そういう大事なことは早く……ん? どうしたジャキ?」

ジャキ「……」

杏子「顔真っ赤にしやがって……熱でもあるのか?」

ジャキ「ち、近づくな!」

杏子「なんだよ、こっち向けよ」

62: 2013/04/30(火) 00:18:10.73 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「ところでキョーコ。ひとつ疑問があるのだが」

杏子「あん?」

ソイソー「人間は風呂上りに全裸で徘徊する習慣があるのか?」

杏子「えっ……? ……あっ!!!」

ジャキ「……」

杏子「テ、テテテメェ、ジャキ! 見るんじゃねえ!」

ジャキ「見てないよ! ……ちょっとしか……」

杏子「見てんじゃねえか、この工口ガキ!」

63: 2013/04/30(火) 00:20:44.65 ID:fTX7Dw+Uo
マヨネー「あ~ん。勝手に上がっちゃダメヨ、キョーコちゃん」

杏子「! マ、マヨネー!」

マヨネー「さ、早く来てン。ちゃんとお肌のお手入れしないと~」

杏子「やめろ! 引きずるな!」

マヨネー「キョーコちゃんのお肌、せっかくキレイなんだからン。オンナのあたいでもうらやましいのヨネ」

杏子「なにが女だ! ひっ、ぃや……き、汚いもん揺らすな、バカ!!」

マヨネー「ひどお~い! 汚くないわヨ~」


ジャキ「……」

ソイソー「魔王様はああいうのに興奮するのですか?」

ジャキ「……」

ソイソー「人間の性的嗜好はよく分かりませんな……」

64: 2013/04/30(火) 00:24:06.09 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「そんな魔王様のために、不肖ビネガー、工口本を購入いたしましたぞ!」

ソイソー「ビネガー……お前いたのか」

ビネガー「ささ、どうぞご覧ください!!」

ジャキ「……『デブ専のアナタに贈る! DAVE[デイブ] ~魅惑の肉だんご~』……」


ビネガー「やはり、おなごはウエスト100cm以上に限りますなあ! フヒヒヒヒ!」

ソイソー「……」

ジャキ「……」


――――

―――



65: 2013/04/30(火) 00:26:59.22 ID:fTX7Dw+Uo
マヨネー「キ~ッ! くやし~い!! おぼえてらっしゃい!」


杏子「マヨネーのヤツ、前よりも強くなってなかったか?」

魔王「魔王城消滅より時を経た。ヤツらも遊んでいたわけではないということだろう……」

まどか「だいぶ時間がかかっちゃったね。ビネガーさんに追いつけるかなあ……」

魔王「安心しろ。おそらく……」


…………



66: 2013/04/30(火) 00:29:10.68 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「な~いす・とう・みーちゅ~!」


まどか「ま、待ち伏せ!?」

魔王「……やはりな」

杏子「あー、あったな。こんな場所」

まどか「ここは? 通路みたいだけど……。横のこの床、なんだろ?」

杏子「ベルトコンベアだよ。前後にしか進めないこの場所で、左右から挟撃するためのな」

杏子「あそこにいるビネガーがレバーをまわすと、奥から魔物が運ばれてくるって寸法さ」

ビネガー「ネタバレすんなよ!!」

67: 2013/04/30(火) 00:32:13.65 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「フン、いくら仕掛けを把握していたところで、止められなければ意味があるまい……」

ビネガー「しかあ~もッ! 今回は魔王城の時のような失敗はありえんぞ!」

ビネガー「ごちゃごちゃと待遇にうるさい正社員のクビを切り、派遣社員を雇ってあるからな!」

まどか「魔王軍って雇用制なの……?」

ビネガー「カマーン! 優秀なる派遣社員よ!」キコキコキコ!!


QB「やあ、まどか! 僕と契約して、社畜になってよ!」

まどか「キュ、キュゥべえ!?」

ビネガー「キュゥべえ君はすごいぞ。彼の営業のおかげで、わが社の業績はうなぎのぼりなのだ!」

杏子「お前なにやってんだよ……」

ビネガー「さあ、キュゥべえ君の営業タイムスタートだ! れっつら・ご~!」キコキコキコ!!

68: 2013/04/30(火) 00:34:14.31 ID:fTX7Dw+Uo
QB「未経験のあなたでも安心! 魔王城では友達感覚の上司が丁寧に教えてくれます」

QB「熱意さえあれば誰でもOK! アットホームで家庭的な雰囲気の職場ですよ」

QB「学歴年齢不問、将来は独立も可能! 社員のほとんどが異業種からの転職者!」

QB「がっつり稼いでやりがいも感じられる、あなたの『夢』を一緒にサポート!」

QB「まずは会って話をしようぜ! あなたのご応募、お待ちしております! キュップイ!!」


杏子「……」

魔王「……」

まどか「……ガッツポーズして、そのままフェードアウトしていったけど……」

ビネガー「……」キコキコ...キコ...

70: 2013/04/30(火) 00:36:55.09 ID:fTX7Dw+Uo
>>68訂正
魔王城→魔王軍

72: 2013/04/30(火) 00:38:52.29 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「……ビ……」

ビネガー「ビネガーピ~ンチッ!! さらばだっ!」



杏子「……」

魔王「……」

まどか「えっ、それだけ!?」


杏子「さて……追いかけるか」

魔王「うむ」

まどか「えっ、えっ? 今の、なんの意味があったの!?」


…………



73: 2013/04/30(火) 00:42:05.34 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「ま、まだ追ってくる気か!? こうなったら……ソイソ~ッ!!」


ソイソー「お呼びになられましたか?」

魔王「ソイソーか……。ようやくマトモなヤツが出てきたな」

ビネガー「ソイソー、まかせたぞ!」

ソイソー「かつて主君とあおいだ方と剣を交えるのは不本意ではあるが……これも運命か。仕方あるまい」

まどか「な、なんか強そうな人……」

杏子「コイツは手ごわいぜ。気合入れろよ」



ソイソー「覚悟はいいか!? 参るッ!!」


――――

―――



74: 2013/04/30(火) 00:45:09.17 ID:fTX7Dw+Uo
ジャキ「この料理は出来損ないだ、食べられないよ」

杏子「食い物を粗末にするんじゃねえ、頃すぞ」

ジャキ「じゃあ杏子はこれ、食えるのかよ」

杏子「……」

ジャキ「……」

杏子「ビネガー、テメェ! 大切な食料をワケの分からねぇアンノウンに変えやがって!」

ビネガー「ワシの手料理を愚弄する気か!」

杏子「緑色のゲル状物質のどこが手料理だ!」

75: 2013/04/30(火) 00:48:20.84 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「フン、イヤなら食べなければいい!」

ビネガー「そもそもそれは、魔族の食事が口に合わないと仰る魔王様のために作ったのだからな!」


ジャキ「ボクだってこんなの要らないよ」

ビネガー「しょんな!」

ジャキ「マヨネー、お前にやる」

マヨネー「あたいだってお断りヨ~。それに、もう外で食べてきたし」

杏子「店あんのかよ、この辺……」

マヨネー「魔族用のネ。ギンギー料理屋さんとかオススメヨン」

76: 2013/04/30(火) 00:51:15.66 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「やれやれ、こんなことだろうと思った」

杏子「ソイソー。どこ行ってたんだ?」

ソイソー「変装して人里に下り、食材を分けてもらってきた」

杏子「は?」


ソイソー「ずっと気になっていたのだ……」

ソイソー「魔王様が口にされるものといえば、キョーコが森で採ってくる果実や獣肉ばかり」

ソイソー「しばらくはそれでもいい。だがこのままでは、確実に栄養バランスが偏ってしまう!」

ジャキ「お前……」


ソイソー「ご安心めされよ。今日よりこのソイソーめが、魔王様の食生活を規則正しいものにいたします」

マヨネー「ソイソー、料理できるのン?」

ソイソー「今日は鮭の香味蒸し、青菜のごま和え、キャベツとわかめの味噌汁に大豆ご飯もつけるか……」

杏子「アンタどこ出身だよ!? ていうかホントに魔族かよ!?」


…………



78: 2013/04/30(火) 00:53:35.11 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「マヨネー、貴様! 服を脱ぎ散らかすなと何度言ったら分かる!」

マヨネー「だってぇ~ン……」

ソイソー「だってじゃない! せめて洗濯所にひとまとめにしておけ。あとで洗っておいてやるから」

ソイソー「下着と靴下は別にしておけよ。下洗いするからな。あとできれば靴下は裏返しておいてくれ」

マヨネー「はぁ~い……」


…………



80: 2013/04/30(火) 00:55:19.19 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「キョーコ、貴様! カップアイスの容器をそのまま捨てたな! 虫がたかるだろうが!」

杏子「え、ダメなの?」

ソイソー「軽く洗って乾かしておけ。捨てるときもちゃんとつぶせよ。かさが減るからな」

ソイソー「それから、今飲んでるペットボトルもキャップとラベルは分別しろ」

杏子「め、面倒くせー……」


…………



85: 2013/04/30(火) 01:02:01.64 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「ビネガー、貴様! 魔王様の部屋を掃除しておけと言っただろうが!」

ビネガー「な、なぜ怒る。ちゃんとやったぞ?」

ソイソー「隅にホコリが溜まっているだろうが! 『四角い部屋を丸く掃く』を地で行きおって……」

ソイソー「罰としてお前は風呂掃除だ。タイルの目地の汚れも落とせよ」

ビネガー「ひいい~……」


ソイソー「まったく……ん? これは……魔王様が寝台の下に隠されていた春画か」

ソイソー「嗜好別に整理して机の上に置いておこう」


…………



87: 2013/04/30(火) 01:05:50.69 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「魔王様、いけません! 歯磨きの最中に水を出しっぱなしになさっては!」

ジャキ「ふぇ?」

ソイソー「もったいないではないですか。それに見たところ、奥歯がしっかり磨けておりません」

ソイソー「虫歯になってしまいますぞ。ささ、こちらへ。このソイソーめが代わりに磨いて差し上げます」

ジャキ「い、いいよ! ひゃめ、ひゃめろってば!!」


…………



89: 2013/04/30(火) 01:08:33.76 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「便所の明かりがつけっぱなしだぞ!」

マヨネー「あ、忘れてたのヨネ……」


ソイソー「買い物カゴにこっそり菓子をしのばせるな! 欲しいならちゃんと言え!」

杏子「わ、悪い……」


ソイソー「お出かけ前の戸締り確認はしたのかあッ!?」

ビネガー「い、今やっとる……」


ソイソー「夜更かしはなりませぬぞ、魔王様」

ジャキ「まだ8時だよ……」

90: 2013/04/30(火) 01:10:05.26 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「まったく、貴様らは! だらしないにも程がある!!」

杏子&ジャキ&ビネガー&マヨネー「ゴメンナサイ...」


――――

―――



91: 2013/04/30(火) 01:14:12.35 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「クッ、ぬかったわ! このままでは済まさぬぞ……」


まどか「あんなにマジメで実力もある人が、どうしてビネガーさんなんかの下で働いてるんだろ?」

魔王「……地味に毒舌だな、鹿目まどか」

杏子「しがらみとかあるんだろ。責任感も強いしな」

まどか「抜け出せなくなった古参バイトみたいだね……」


…………



92: 2013/04/30(火) 01:17:42.60 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「は~う・あー・ゆ~?」


まどか「また待ち伏せだよ……」

ビネガー「かま~ん、べいべ~!」

杏子「なんかすげーイラッとする」

魔王「来いと言うなら行ってやろうではないか」


ビネガー「ちょちょ、ちょっとストップ!」

まどか「え?」

ビネガー「あの~、宝箱は? そこにあるでしょ。取ってかないんすか?」

杏子「ああ……あるな」

魔王「すぐそばにギロチンが待ち構えている宝箱が、な」

まどか「どう見ても罠だよ! 取るわけないよ!」

93: 2013/04/30(火) 01:19:54.63 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「いや~、取ったほうがいいと思いますよ? きっといいものが入ってますって!」

杏子「んじゃ、テメェをぶっ飛ばしてから取るよ」

ビネガー「ヘイヘイヘイ! そんなこと言わずに! 誰かに取られたらどうするんすか!」

魔王「……よほど高価なものでも入っているとみえるな」


ビネガー「さっすが魔王様! そうそう、そのとおりですわ。確か、えっと……グリーフ……なんとか?」

まどか「グリーフシード!?」

ビネガー「それそれ!」

杏子「なんでテメェがグリーフシードを!?」

まどか「まずいよ、もし孵化しかかってたりしたら……!」

94: 2013/04/30(火) 01:22:46.94 ID:fTX7Dw+Uo
QB「あ、社長。休憩いただきます」

ビネガー「ん? キュゥべえ君か。うむ、好きにしてくれたまえ」

QB「ありがとうございます。ところで、僕のグリーフシードが行方不明なんですけど知りませんか?」

ビネガー「あ、えーと……」

杏子「キュゥべえのかよ! パクりやがったのか、コイツ!」


ビネガー「人聞きの悪いことを言うな! 机の上に放置してあったから、なくなったらいかんと思って……」

QB「なんだ、保管箱にしまってくださったんですか? それならそうと言ってくださいよ」

ビネガー「いや、すまんすまん! ワシとしたことが!」

95: 2013/04/30(火) 01:24:12.94 ID:fTX7Dw+Uo
QB「えーと、あの箱ですね。わざわざすみません」

ビネガー「気にしなさんな! さ、持っていきたまえ!」

QB「では失礼して……。よいしょ……おや?」


ガラガラガラ...

QB「キュップイ!?」 グシャッ!!


杏子「……」

魔王「……」

まどか「……あ~あ……。キュゥべえがギロチンでバッサリ……」

ビネガー「……」

96: 2013/04/30(火) 01:26:03.31 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「……ビ……」

ビネガー「ビネガーショ~ック!! さらばだっ!」


杏子「……」

魔王「……」

まどか「ギロチンは止まったし、グリーフシード回収しなきゃ。良かった、まだ新品だ」


杏子「さて……追いかけるか」

魔王「うむ」

まどか「だんだんわたしも慣れてきたよ」


…………



97: 2013/04/30(火) 01:28:21.91 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「フッフッフッ、三度目の正直。今度は、そうカンタンにはやられんぞ」

まどか「二度あることは三度あるとも言うよね」

魔王「鹿目まどかがスレてきていないか?」

杏子「アタシに聞くなよ……」


ビネガー「ソイソー! マヨネー! ヤツらにジェットストリームアタックをかけるぞ!!」

ソイソー「承知!」

マヨネー「はいは~い!」

ビネガー「我らが三位一体の攻撃! 止められるものなら止めてみるがいい!」

魔王「3人同時か……。最初からそうすべきだったな」

杏子「来るぞ!」



ビネガー「貴様たちをメッタメタのギッタンギッタンにしてくれるわ~!」


――――

―――



98: 2013/04/30(火) 01:31:20.96 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「なんだ、キョーコ。お前だけか。魔王様はどうした?」

杏子「ジャキならマヨネーのヤツと遊んでるよ」

ビネガー「遊ばれている、の間違いだろう」

杏子「……ま、そうとも言うかな。ソイソーは向こうでジャキ用のマントを縫ってる」

ビネガー「手縫いか……。アイツも主婦業が板についてきおったわ」

杏子「まったくだぜ。いつの間にかオカン気取りだ」

ビネガー「まんざらでもないようだな?」

杏子「誰が。うっとうしくてかなわないよ」

ビネガー「ワシはソイソーのことを言っておるのだ。なんだ、お前は母親が恋しかったのか? んん?」

杏子「ニヤニヤすんな。ウゼェ……」

99: 2013/04/30(火) 01:34:52.82 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「ソイソーが母親なら、一家の大黒柱たる父親は当然ワシというわけだ! フヒヒヒ!」

杏子「ダメ親父の典型だけどな」

ビネガー「聞こえんな。おい、キョーコ。酒を取ってくれ」

杏子「昼間から飲むなよ……」

ビネガー「ついでに酌もしてくれ」

杏子「……」ドバドバ

ビネガー「おまっ、あほっ! こぼれてる! メチャクチャこぼれとるだろーが!!」

杏子「いい気味だぜ」


ビネガー「ああ、もったいない……」

杏子「こぼれた分までなめ取るなよ。いじきたねえな」

ビネガー「食い物を粗末にしたら殺されるんじゃなかったか?」

杏子「……」


…………



100: 2013/04/30(火) 01:36:52.22 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「ワシはなあ~……これでもなあ~……がんばっとるんだぞお?」

杏子「もう酔ったのかよ……。しかも絡み酒とか勘弁してくれ」

ビネガー「聞いとるのか、キョーコ!」

杏子「はいはい、聞いてますよ」


ビネガー「ワシはな、魔王様を立派な王に育て上げ、魔族の世を築くんじゃ~」

ビネガー「魔族は人間どもに迫害されておる。それをひっくり返すには、力による支配しかない!」

杏子「……」

ビネガー「見ておれ、人間どもめ~。いつの日か、化け物とののしられた屈辱を晴らして見せるわ!」

ビネガー「魔王様にならそれができるのじゃ~。あの方こそがワシらの救いなのじゃあ!」

杏子「……あんまり人に期待しすぎると、痛い目見ると思うけどね」

ビネガー「フン。知ったような口を聞きおる」

102: 2013/04/30(火) 01:39:39.99 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「アンタらはよ、結局はジャキを王に仕立て上げるために、アタシらの世話を焼いてるってわけだ」

ビネガー「もちろん、それが第一であーる! しかし、まあ……それだけではあるまい」

杏子「……へえ?」


ビネガー「ワシら魔族は縦社会だが、それゆえ横のつながりをより大事とする」

ビネガー「世間のはみ出し者ゆえな。つまりは同僚、友人……そして家族」

ビネガー「魔王様はワシらの王ではあるが……同時に、大切なファミリーでもある」

ビネガー「それはキョーコ、お前もだ」

ビネガー「でなければ魔王様はともかく、お前まで置いておく理由はあるまい?」

杏子「……」


ビネガー「我ら魔族の鉄の掟を知っているか?」

杏子「知らねえな」

ビネガー「『報恩報復』。受けたものに必ず報い、奪われたものに必ず報いる」

ビネガー「キョーコ。お前が我らに家族の情を抱いているのならば、ワシらはそれに応えよう」

杏子「別に、アタシは……」

103: 2013/04/30(火) 01:42:19.45 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「人間は敵だ。しかし例外というものはどこにでもある。魔王様やお前のように、な」

杏子「アタシは人間じゃねえし……」

ビネガー「フヒヒヒ! 魔法少女とやらの話か?」

ビネガー「ちょうど良いではないか。お前がゾンビだというのなら、より我らに近いということになる!」

杏子「……」


ビネガー「悔しいかな、魔王様はお前になついておる。ソイソーやマヨネーもお前を認めている」

ビネガー「ワシも、まあ……認めてやらんこともないような気がする」

杏子「どっちだよ……」

ビネガー「キョーコ。お前はこの家に必要なのだ。分かるか、ん?」

杏子「……」

104: 2013/04/30(火) 01:44:47.65 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「フヒヒヒ! たまにはこういう話もせんとな!」

ビネガー「ワシがおちゃらけてばかりと思われたらかなわんわ。……ヒック」

杏子「酒くせえな。やっぱ酔ってんだろ」

ビネガー「酔っとらん、酔っとらん。この程度で……おえっぷ」

杏子「テメェ、ここで吐いたらしょうちしねえぞ」


ビネガー「う~む。やはり飲みすぎたか? キョーコの姿が複数見えるわ」

杏子「……」

ビネガー「1、2、3……おお! 13人のキョーコがおるわい! 圧巻だな、フヒヒヒ!」

杏子「……!」

ビネガー「それだけおればお前ひとりで……人間どもを……ギッタンギッタン……に……」


ビネガー「……zzz……」

105: 2013/04/30(火) 01:46:45.00 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「……こんなとこで寝るんじゃねーよ……。風邪引くだろうが……」

杏子「……」

杏子「……ビネガー、おい……。熟睡してやがんのか……?」

杏子「……」


杏子「……すぅ……」

杏子「『ロッソ・ファンタズマ』……!」


杏子「……っ!」

杏子「なんで使えるんだよ……クソッ……」

杏子「……」



杏子「……家族……か……」


――――

―――



106: 2013/04/30(火) 01:48:27.48 ID:fTX7Dw+Uo
マヨネー「いや~ん!」

ソイソー「くっ、3人がかりでも太刀打ちできぬか……!」

ビネガー「んな、アホな!」

杏子「さすがにもう、どうしようもねえだろ?」


ビネガー「まだだ……まだ終わらんぞ!」

まどか「すごい執念だね」

魔王「逃がさん……」

杏子「ソイソーとマヨネーはこのままでいいのかよ?」

魔王「捨て置け。そいつらよりもビネガーのほうが厄介だ」

ソイソー「……」

107: 2013/04/30(火) 01:50:30.61 ID:fTX7Dw+Uo
A.D.600 ビネガーの館 最奥


ビネガー「魔王様……。あくまで、ワシを倒そうとされるか……」

魔王「……」

ビネガー「ともに戦い、魔族の世界を作ろうという夢は、ウソだったのか!」

魔王「……私は力がほしかっただけだ。ラヴォスを呼び出すため、貴様らを利用しただけのこと……」

杏子「……」

ビネガー「ワシは負けぬ! ワシが負けたら、魔族の未来はどうなる!」



ビネガー「ワシは……ワシは、負けるわけにはいかんのだ!!」

108: 2013/04/30(火) 01:52:22.47 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「ビネガー……バリアーッ!!!」

まどか「えっ!?」

杏子「チッ……。そういやまだこれがあったか」


ビネガー「あらゆる攻撃をうけつけぬこの無敵のバリアー! 突破できるものなら突破してみろ!」

杏子「わりいが、その手は通じねえよ」

まどか「どういうこと?」

杏子「本人に攻撃する必要はねえ……。仕掛けを作動させるため、背後のスイッチを……こうするのさ!」

109: 2013/04/30(火) 01:54:43.99 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「むっ! 多節棍を伸ばしてスイッチを押しただと!」

魔王「さらばだ、ビネガー……」


ビネガー「……フヒヒヒヒヒヒ! 引っかかったな!!」

魔王「なに!?」

ビネガー「貴様らが仕掛けを作動することなどお見通しよお!!」

杏子「しまった! フェイクか!」

まどか「お、落とし穴が!」

ビネガー「アディオス! アミ~ゴ!」


――――

―――



110: 2013/04/30(火) 01:57:37.44 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「どういうことだよ、人間の領地に侵攻するだって!?」

杏子「そんなことしたら戦争になるだろ! 分かってんのか、オイ!」

ビネガー「Gフロッグが人間どもに殺されたのだぞ? 黙っているつもりか!」

杏子「それは、あいつが……ひとのモンを盗んだりするから……」


ソイソー「そうだな。それはアイツの責任だ。……お前にも覚えがあるようだが」

杏子「……」

ソイソー「しかし同胞、それも幹部が殺された以上、静観するわけにはいかん。魔族全体の威信にかかわる」

111: 2013/04/30(火) 01:59:05.51 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「首領であるGフロッグがいなくなったことで、ヤツの領地は同族相食む無法地帯……」

ビネガー「それもこれも、すべて人間どものせいだ!」

杏子「言いがかりだろ、それは……」


ソイソー「くどいぞ。事ここに至ってはやむなし。もはや、今までのような小競り合いでは済まされん」

マヨネー「あきらめなさいヨ。ど~せ、遅かれ早かれこうなる運命だったのヨネ」

ビネガー「『報恩報復』の掟、まさか忘れたわけではあるまいな!?」

113: 2013/04/30(火) 02:01:09.12 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「……ジャキ! お前はそれでいいのかよ!?」

魔王「……ラヴォスを呼び出すための儀式、そのための魔王城建設……。財が要る」

魔王「人間どもが我が領地を騒がすというのであれば、邪魔者であるヤツらは排除せねばならん」

杏子「そんな……」


ビネガー「キョーコ。魔王様に対してその呼び方は、もうやめるのだ」

ビネガー「王たる器にふさわしきお姿に成長された魔王様を、いつまでも子ども扱いするな」

杏子「……んだよ、それ……。ジャキは、ジャキだろ……」

魔王「……」

ビネガー「魔王様はこれより我ら魔族を率い、にっくき人間どもを駆逐し、世界を征服なさるのだ!」

114: 2013/04/30(火) 02:05:26.75 ID:fTX7Dw+Uo
魔王「杏子。選ばせてやる」

杏子「え?」

魔王「魔族としてここに残り、私に忠誠を誓うか……」

魔王「それとも人間として去り、好きに生きるか……」

魔王「どちらの道を選ぼうとも、我らは口出しせん。お前が決めろ」


魔王「自分の行くところは自分で……だろう?」

杏子「……」

115: 2013/04/30(火) 02:07:30.32 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「……アタシは……魔族じゃねえ……」

マヨネー「……」

杏子「けど、人間でもねえ……。どっちにもなれねえ半端者だ……」

ソイソー「……」

杏子「なら……一緒にいてくれよ。ひとりぼっちは……さびしいもんな……」

魔王「……そういうことだ、ビネガー」


ビネガー「ハッ。……ならばキョーコよ。お前はもう『佐倉杏子』ではない……」

ビネガー「魔王四大将軍がひとり、『幻魔戦士オフィーリア』だ!!」


――――

―――



116: 2013/04/30(火) 02:11:24.09 ID:fTX7Dw+Uo
「――ちゃん! 杏子ちゃん!」


杏子「……ん……あ……?」

まどか「杏子ちゃん! 大丈夫?」

杏子「まどか……。あ、いてっ……」

まどか「どこか打ったの!?」

魔王「情けないヤツだ。受身も満足に取れんとは」


杏子「そうか、ビネガーの野郎に落とし穴にハメられたんだっけか……」

魔王「ただ下の階に落とされるだけのものであったのは不幸中の幸いだ。特にお前にはな」

杏子「はいはい、油断してスイマセンでした。まどかは大丈夫だったのか?」

まどか「ジャキくんがとっさにかばってくれたからね!」

杏子「ほーお?」

魔王「……フン」

117: 2013/04/30(火) 02:13:50.61 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「で、アタシはどれくらい気絶してたんだ?」

まどか「数分ぐらいだと思うけど……」

杏子「なら、アイツらはまだ逃げおおせちゃいねえよな」

魔王「数分だろうが数時間だろうが同じこと」

魔王「ヤツらに逃げ場など、もはやない。ここで我らと雌雄を決するしかないのだ」

杏子「……」

魔王「行くぞ。今度こそ決着をつけてやる」


…………



118: 2013/04/30(火) 02:15:28.78 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「ムダ、ムダ、ムダァァァァァッ! 何度来ても同じことよ!」


杏子「もう同じ手は通じねえぞ!」

ビネガー「フフン、それはどうかな? 見るがいい!」

魔王「これは……!?」

まどか「スイッチがいっぱいあるよ!? どれが本物なの……?」

ビネガー「フヒヒヒ! どうだ、分かるまい!」

杏子「テメェ……どうやってこれだけのダミーを……」

ビネガー「ジェバンニが数分でやってくれました」

杏子「誰だよ!!」

119: 2013/04/30(火) 02:17:29.34 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「どうしたあ? 端から順に押していったらどうだ。もしかしたら当たるかもしれんぞ!」

まどか「そのたびに落とし穴だよね……」

魔王「戻ってくるあいだにさらにダミーが増えることも考えられるな」


ビネガー「貴様たちではワシは倒せん! とっとと帰れ!」

杏子「クソっ、ジリ貧かよ……! どうする、ジャキ!」

魔王「……知らん」

杏子「使えねえな!?」


まどか「……」

120: 2013/04/30(火) 02:19:00.75 ID:fTX7Dw+Uo
まどか「あーあ。これじゃどうしようもないよね」

杏子「オイ、音を上げてる場合じゃ……」

まどか「誰か助けてほしいなあ。正解のスイッチ押してくれないかな?」

まどか「そうしたらわたし、感激して思わず契約とかしちゃうかも」

杏子「……は?」



QB「そそそそれは本当かい、まどか!!」

ビネガー「キュゥべえ君!? なんで生きてるの!」

121: 2013/04/30(火) 02:21:19.91 ID:fTX7Dw+Uo
QB「任せてよ! 僕は内部の者だ。どれが本物のスイッチか分かっている」

QB「実は、見えているものは全部フェイクで、正解は柱の陰にあるコレさ」

ビネガー「そ、そのスイッチは! おのれ……『スイッチ』を押させるなーッ!」

QB「いいや! 限界だ! 押すね! 今だッ! ……ぽちっとな」

ビネガー「うおおおおっ、謀ったなシャア!!」



パカーン!

ビネガー「ビネガー王国に栄光あれえーッ!!!」ヒュウウウウウ...


杏子「……」

魔王「……」

まどか「ビネガーさん、ボッシュートです」チャラッチャラッチャーン

122: 2013/04/30(火) 02:23:16.82 ID:fTX7Dw+Uo
QB「どうだいまどか! 僕は役に立ったろう?」

まどか「うん。ありがとう、キュゥべえ」


QB「そ、そ、それじゃあ宣言どおり、契約してもらおうかな……?」

QB「こ、この業績が認められれば……僕も晴れて中央勤務だ! グッバイ、辛く苦しい地方業務!」

QB「こんなにうれしいことはない! さあまどか、願いを早く! ハリー! ハリーハリー!」

QB「そうか、さっきの『スイッチ押してくれ』ってのが願いだったんだね!?」

QB「そ、それならもう契約しちゃっても、い、いいよね? よよよよし……!」

QB「こんなビッグな仕事は久しぶりだ! もう僕自身がエントロピーを凌駕しそうだよ!」

123: 2013/04/30(火) 02:25:34.88 ID:fTX7Dw+Uo
まどか「キュゥべえ」

QB「なんだい、まどか!」

まどか「契約すると言ったな。あれはウソだ」

QB「……」



QB「えっ」

126: 2013/04/30(火) 02:27:57.51 ID:fTX7Dw+Uo
まどか「……」

QB「な、なんのつもりだい? 僕を持ち上げたりして……」

まどか「今ならできる気がする……」


まどか「『フィニトラ・フレティア』ーッ!!!」

QB「キュップウウウウウウウウイイイィィィィィ...!!!」



杏子「落ちてったな……落とし穴の中に……」

魔王「燃えるゴミは月・水・金」

129: 2013/04/30(火) 02:29:46.53 ID:fTX7Dw+Uo
まどか「……人間ってずるい生き物だよね……」

杏子「……」

魔王「……」



まどか「クラスのみんなには、内緒だよっ☆」

杏子「……」

魔王「……」

130: 2013/04/30(火) 02:32:15.19 ID:fTX7Dw+Uo
A.D.600 ビネガーの館 宝物庫


まどか「ここは……?」

魔王「宝物庫だ。ビネガーめ、やはり魔王城から財物を持ち込んでいたようだな」

杏子「せっかくだから頂戴していこうぜ」

まどか「いいのかな?」

魔王「元は私のものだ。問題ない」


杏子「おっ? あの一番奥にある宝箱、装飾が段違いに派手だな」

杏子「かなり大事なものが入ってると見たね。まずはこいつをいただくか」

131: 2013/04/30(火) 02:34:24.45 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「……?」

まどか「何が入ってたの? これ……額縁とズタ袋かな?」

杏子「額縁に入ってんのは……絵か」

魔王「! ……それは……」

まどか「子供が描いたものだね。タツヤがよくこういう感じの描いてたなあ」

杏子「これがビネガーの大事なもの……?」


ソイソー「分からんのか、キョーコ」

杏子「! ソイソー……それにマヨネーまで……」

132: 2013/04/30(火) 02:36:25.19 ID:fTX7Dw+Uo
マヨネー「キョーコちゃん。それはあたいたちヨン」

杏子「え?」

まどか「あ、そうか! 真ん中にいるのが杏子ちゃんで、ソイソーさんとマヨネーさんと……」

まどか「後ろにいるのはビネガーさんかな? じゃあこの中央の子供は……」

杏子「まさか……ジャキ、アンタ……」

魔王「……」


ソイソー「察しのとおり、それは魔王様が幼少のみぎりに描かれた我らの集合絵だ」

マヨネー「魔王城が消滅した時、ビネガーはそれを持って逃げ出してきたのヨ……」


――――

―――



133: 2013/04/30(火) 02:38:12.60 ID:fTX7Dw+Uo
ソイソー「なんということだ。我らの象徴……魔王城が……」

マヨネー「跡形もなく消えちゃったのヨネ……。ラヴォス……アイツのせいで……」


ソイソー「我々はとんでもないものを呼び起こしてしまったのかもしれんな」

マヨネー「結局、不思議な光に包まれてまた地中に戻って行っちゃったけど、もし暴れだしていたら……」

ソイソー「魔王様はあんなヤツと戦うおつもりだったのか……」

134: 2013/04/30(火) 02:40:08.43 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「おう、ソイソーにマヨネー。お前らも無事だったか」

マヨネー「ビネガー……」

ビネガー「な~にをしょぼくれておる。見ろ。部下どもに運ばせたゆえ、魔王城の財産はほれこのとおり」

ソイソー「相変わらず抜け目のないヤツだ」

ビネガー「ワシの館に戻るぞ。この財産と我ら3人が残っていれば、再起は可能!」


マヨネー「再起ったって、魔王様もいないのに……ん? 何か落ちたのヨネ、ビネガー」

ビネガー「おっと、いかんいかん」

ソイソー「それは……幼きころの魔王様が描かれた絵ではないか」

ビネガー「これだけは部下どもに運ばせるわけにはいかんからな」

マヨネー「アンタ……」

135: 2013/04/30(火) 02:43:16.98 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「魔王様もキョーコもきっと戻ってくる。その時にワシらがおらんかったらどうする!」

ソイソー「なぜそう言い切れる? 生氏も不明であるのに……」

ビネガー「あのふたりがそう易々と氏ぬと思うのか?」

マヨネー「それはそうだけど……戻ってくるとは限らないわヨ?」



ビネガー「何年たとうが、どれだけ離れていようが、根っこの部分ではつながっておる」

ビネガー「そしていつの日か、必ず帰ってくる場所……」


ビネガー「そういうもんじゃろが、『家族』ってのは! フヒヒヒ!!」


――――

―――



136: 2013/04/30(火) 02:46:01.61 ID:fTX7Dw+Uo
魔王「……」

杏子「……あの野郎……」

魔王「……それがどうした? そのような話をして、いまさら命乞いか?」

まどか「ジャキくん……」


ソイソー「そうではありませぬ。ただ知って欲しかっただけのこと」

マヨネー「人間と戦ううち、あたいらの心はバラバラになっちゃったけど……」

ソイソー「ヤツだけは、信じていたのです。いつの日かまた、昔のような日が来るということを……」

魔王「……」


ソイソー「もはや未練はありませぬ。魔王様に討ち取られるならば、本望というもの」

マヨネー「あ~あ。美人薄命ってやっぱりホントだったのヨネ」

ソイソー「さあ、ひとおもいに……」

137: 2013/04/30(火) 02:48:18.99 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「まだ聞いてねえことがあるぞ」

ソイソー「なに?」

杏子「このズタ袋、これはなんだよ。こいつもビネガーの宝だってのか?」


マヨネー「それはキョーコちゃんへのあたいたちからの贈り物よ」

ソイソー「いつの日かお前が戻ってきた時、渡そうと思っていた」

ソイソー「我ら魔王四大将軍が再結集し、新たな門出を誓う証としてな……」

杏子「……」


まどか「……開けてみたら? 杏子ちゃん……」

杏子「……ああ……」

138: 2013/04/30(火) 02:51:00.41 ID:fTX7Dw+Uo
魔王「ほう、これは……」

まどか「わあ、刀だ! なんだかすごい値打ちものっぽいけど……」

ソイソー「我が愛刀、『ソイソー刀2』。杏子は槍使いだが……器用だからな。刀も使いこなせるだろう」

ソイソー「副武器にでもしてくれ。必要なければ、得意な者に譲ってもいい」


まどか「二刀流だよ、杏子ちゃん! あ、それともクロノさんかさやかちゃんに渡す?」

杏子「……」

まどか「どうしたの? 気に入らないの?」

杏子「いや、刀はいいんだよ。ソイソーらしい、実用的な品だしな」

ソイソー「喜んでもらえたようでなによりだ」

杏子「けど……けどな……」



杏子「なんであとのふたつがブラとパンツなんだよ!!!」

139: 2013/04/30(火) 02:53:35.50 ID:fTX7Dw+Uo
マヨネー「あ、そのブラはあたいのヨ」

杏子「だと思ったよ!!」

マヨネー「女の子の必需品ヨネ? お気に入りの柄なのヨ~」

杏子「なんで自分のを渡すんだよ!! サイズが合わねえだろ!!」

マヨネー「……パッドもつけてあるわヨ?」

杏子「いらねえよ!! 嫌味か!!!」


杏子「てことはこのパンツ、ビネガーのだろ!! なに考えてんだ、あのヘンタイ!!」

ソイソー「買ったばかりでまだ一度もはいてないそうだぞ?」

杏子「知らねえよ!! そういう問題かよ!!」



杏子「アホふたりのせいで何もかも台無しだよ!! ふざけんな!!!」

140: 2013/04/30(火) 02:56:23.86 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「ちくしょう、ツッコミが追いつかねえ! ほむら呼んで来い、ほむら!」

まどか「きょ、杏子ちゃん、落ち着いて……」

杏子「帰る! アタシはもう帰るからな! やってられっか!!」


マヨネー「あのー……あたいらの処遇は……」

杏子「勝手にしろよ! もうどうでもいいわ!!」

マヨネー「えー……」


ソイソー「魔王様……」

魔王「ビネガーに伝えろ。魔族の残党をまとめ上げ、ひっそりと暮らせとな……」

ソイソー「……寛大なるご処置、感謝いたします」

魔王「……フン……」

141: 2013/04/30(火) 02:58:29.31 ID:fTX7Dw+Uo
杏子「クソッ、イライラする……。糖分が足りねえ、糖分が!」

杏子「帰ったらポッキー箱食いしねえと……」


まどか「待って、待って。杏子ちゃん、忘れもの。はい、刀とブラとパンツ」

杏子「なんで持ってくんだよ! 捨てろよ!!」

まどか「ダメだよ。せっかくビネガーさんたちが選んでくれたものなのに」

杏子「いらねええっつってんだろがあああ!!!」



まどか(ティヒヒ。良かったね、杏子ちゃん。みんなと仲直りできて……)

まどか「……」

まどか「あれ? そういえば、何か忘れてるような……」

142: 2013/04/30(火) 03:01:04.10 ID:fTX7Dw+Uo
ビネガー「おいィ!? ワシを忘れるな、クソ!」

ビネガー「落とし穴の途中で体が挟まった! ビネガーピ~ンチッ!!」

ビネガー「オイ、誰かいないのか!? ワシを助けろ!!」


QB「それが君の願いかい?」

ビネガー「キュゥべえ貴様ァ! よくも裏切りおったな!」

QB「社長! 僕と契約して、魔法少女に……いや、少女じゃなかったね」



QB「僕と契約して、魔法豚になってよ!」

ビネガー「豚扱いはやめろォォォォォッ!!!

143: 2013/04/30(火) 03:02:59.71 ID:fTX7Dw+Uo
第11話(マルチイベント編-2)「ビネガーの館」 終了


  セーブしてつづける(マルチイベント編-3へすすむ)

ニアセーブしておわる

  セーブしないでおわる

144: 2013/04/30(火) 03:07:58.11 ID:fTX7Dw+Uo
今回はここまでです。次回投下は1日あいて5/1(水)夜予定。
それでは、また。

145: 2013/04/30(火) 03:08:55.00 ID:TqmRTbNpo
乙!
杏子ちゃんprpr

146: 2013/04/30(火) 03:14:32.85 ID:QyrmXUQDO

引用: ほむら「時の卵?」 その2