18: 2008/09/13(土) 17:32:18.37 ID:ARNOGq8JO
翠「こうやって飲むですよ」

そう言って、翠星石は音を立てずにスープを飲む。

ジュン「別にいいじゃないか、僕の勝手だろ」

真紅「あなたの勝手かもしれないけど、少しだけ気になるわ」

雛苺「ヒナも飲めるのよ」

翠星石に続いて雛苺も飲み始めた。
ズズっと音を立てて。

翠「やーい、チビ苺、全然できてないですぅ」

雛苺「うゆ……おかしいの」

20: 2008/09/13(土) 17:43:25.37 ID:ARNOGq8JO
ジュン「だいたい病院の料理はまずいんだ」

真紅「そんなことを言ってはダメよ」

翠「文句言ってねーで、いっぱい食べて早く元気になるです」

翠星石は何故かスプーンと茶碗を持つ。

翠「ほら、あ、あー…」

真紅「なっ、翠星石!」

22: 2008/09/13(土) 17:46:43.21 ID:ARNOGq8JO
何日もこのやりとりをするので、僕はさすがに慣れた。

翠「チビ苺、スプーンをとるなです」

雛苺「抜け駆けはダメなのよ」

だんだんと騒がしくなっていく。

ジュン「こら静かにしろ、看護婦さんが来るだろ」

雛、翠「はい(です/なの)」

23: 2008/09/13(土) 17:50:28.38 ID:ARNOGq8JO
病院。
それが、今僕のいる場所だ。

なんでいるのか?
理由はよく分からない。
気付いたらここにいた。

気を失ったときのことを思い出そうとしても頭が痛む。
たしか…扉を……

ジュン「うっ……」

真紅「ジュン!?」

翠「ち、チビ人間!?」

ジュン「いや、大丈夫。大丈夫だよ」

24: 2008/09/13(土) 17:56:38.52 ID:ARNOGq8JO
翠「チビ人間………ほら、元気になるためにこれを食べるです」

ジュン「あぁ……」

翠星石がご飯をスプーンで掬って、こちらへ向ける。
僕はそれを食べる。
初めてやられたときは、かなり恥ずかしかったが、今ではもう慣れてしまった。

ジュン「うん、マズイな」

翠「あったり前です、おいしい病院食なんでないですよ」

ジュン「探したらあるかもしれないぞ」

翠「ないったら、ないですぅ」

そう言って翠星石は再びご飯を掬って、僕の前に突き出した。

26: 2008/09/13(土) 18:02:58.46 ID:ARNOGq8JO
病院食を食べ終え、少し横になる。

隣を見ると、いつも通り真紅が分厚い本を読んでいた。
人形って本読んで意味あるのか。
前に真紅にそんな質問をしたことがある。
たしか真紅は
「私たちは何年、何十年と眠り続けているのよ、新しい知識を入れなければいけないわ」
とか言ってたっけ。

27: 2008/09/13(土) 18:08:46.64 ID:ARNOGq8JO
翠「真紅なんか見てどうしたですか?」

ジュン「あ、いや平和だなぁと」

本当に平和だ。
前までアリスゲームとかいうのをやっていたのが嘘みたいだ。

翠「チビ人間にそんな言葉は似合わねーです」

ジュン「うるさいな」

なんだか恥ずかしくなり、「寝る」と言って布団に潜る。
なんか翠星石が、逃げたですぅとか言ってたが、この際無視だ。

28: 2008/09/13(土) 18:15:10.80 ID:ARNOGq8JO
ジュン「ん……」

布団に潜っていたら、いつの間にか寝ていたようだ。
時計を見ると6時になっていた。
沈みかけの太陽が白い部屋を赤く染めていた。

ジュン「静かだな」

辺りを見回すと、真紅たちはもういなかった。
代わりに、テーブルに何か文字が書かれた紙が置いてある。

それには『のりが迎えに来たからかえるのー。ジュンは早く元気になるのよ』
と汚い字で書かれていた。

30: 2008/09/13(土) 18:26:11.47 ID:ARNOGq8JO
ジュン「字、うまくなったな」

あの霊感商法みたいな手紙からは、ものすごい進歩だ。

紙をテーブルに戻し、病室を見渡す。
悲しくなるほど静かだった。
こんなとき、子供子供してる雛苺や毒舌をはく翠星石が恋しく思う。

ジュン「僕は何考えてるんだ」

翠星石や雛苺がいたらいいなぁ、なんて思うのは初めてだ。

寝よう、そう決めて布団に潜る。
寝れば何も寂しくない。
さっきまで寝てたがお構いなしだ。

31: 2008/09/13(土) 18:34:06.49 ID:ARNOGq8JO
こんな生活が何日も続いたある日だった。

ジュン「退院?」

のり「そうなのよぅジュン君。先生がもう大丈夫だろうってぇ」

ジュン「やっとここから出れるのか」

そう思うと、自然とため息が出た。
もともと、どんな理由で入院したのかも分からないので、この退院という言葉はとても嬉しかった。

姉ちゃんの話によると、明日には退院できるそうだ。
明日、やっと自分の家に帰れるのか……

35: 2008/09/13(土) 18:42:27.55 ID:ARNOGq8JO
退院当日。
荷物の整理は思ったより早く終わった。
そもそも、病室にあったのが真紅の本と雛苺のクレヨンとノートだけだったので当たり前だった。




久しぶりの家を見る。
こうして見ると、とても安心するんだな。
そんなことを思いつつ、僕は玄関のドアを開けた。

36: 2008/09/13(土) 18:50:20.49 ID:ARNOGq8JO
雛苺「ジュゥゥンー」

ドアを開けた途端、雛苺が飛び込んできた。
驚きつつも、僕は雛苺を抱き留めた。

雛苺「おかえりジュン」

ジュン「あぁ、ただいま」

翠「あああぁ!!何やってるですかチビ苺!1番初めにおかえりって言うのは翠星石ですよ!」

真紅「翠星石、静かにしなさい」

翠「でも、でも、せっかくジャンケンで勝ったのに………」

なんだか、よく分からないけど、どうやらジャンケンで何か決めていたみたいだ。

翠「まぁいいです。チビ苺と違って、翠星石が大人ですからね」

雛苺「むぅ、ヒナだって大人なの!!」

翠「うるせぇです。いいからさっさとジュンから降りるですぅ」

40: 2008/09/13(土) 19:30:36.74 ID:ARNOGq8JO
真紅「雛苺降りなさい」

雛苺「う~……わかったの」

真紅の声にしぶしぶ頷き、雛苺は僕から降りた。

真紅「ジュン、夕食ができているわ。早くリビングに行きましょ」

真紅はくるりと後ろを向き、リビングへと入って行った。

翠「ほら早く行くですよ」

雛苺「ヒナもお腹ペコペコなのー」

翠星石と雛苺に足を押され、僕たちもリビングへと入って行った。

43: 2008/09/13(土) 19:39:23.16 ID:ARNOGq8JO
リビングに入ると、カレーのいい匂いがした。

のり「あらジュン君、おかえり」

ジュン「あぁただいま」

ちょうど調理を終えたのか、姉ちゃんがカレーが盛られた皿を持って、キッチンが出て来る。

のり「ほら、早速ご飯にしましょうよぅ。座って座って」

ジュン「あ、うん」

真紅「みんな揃ったわね」

雛苺「みんなでの夕食は久しぶりなのよ」

翠「チビ人間が入院してるのが悪いです」

のり「翠星石ちゃん、そんなこと言っちゃダメなのよぅ」

真紅「そんなことより、早く食べましょ。お腹が減ってしかたがないわ」

のり「そうね、じゃあいただきま~す」

46: 2008/09/13(土) 19:46:07.57 ID:ARNOGq8JO
病院食に飽き飽きしていた僕にとって、久しぶりのまともな料理はとてもおいしかった。
おかげで、かなりおかわりしてしまった。

ジュン「あぁ、腹が痛いな…」

少し苦しいので、ベットに横になる。

ジュン「あぁ……なんか眠いな」

今日は色々あって疲れたことや、満腹なこともあって、すぐに睡魔が襲ってきた。

今日はこのまま寝よう。
そう思い、目をつむると、僕の意識はすぐに眠りに落ちた。

47: 2008/09/13(土) 19:55:11.91 ID:ARNOGq8JO
翠「さっさと起きやがれです」

ドスドスと、僕のお腹が踏まれる感覚に目を覚ます。

翠「やっと起きたですか」

ジュン「こんなことされれば誰だって起きるだろ……」

翠「うるせーです。朝食ができたですから、さっさと下にくるですよ」

ジュン「あぁ、分かったよ……」

50: 2008/09/13(土) 20:07:08.30 ID:ARNOGq8JO
朝食を終え、自分の部屋に戻ると、先に戻って本を読む真紅がいた。

ジュン「相変わらず本が好きなんだな」

真紅「ええ、色んなことが載っていて楽しいわ」

ジュン「そんなもんか?」

真紅の隣に腰掛ける。

真紅「ねぇジュン、あなたは今幸せ?」

すると、真紅はそんなことを聞いてきた。

51: 2008/09/13(土) 20:07:41.61 ID:ARNOGq8JO
飯行ってくる

54: 2008/09/13(土) 20:30:02.10 ID:ARNOGq8JO
ジュン「幸せ……ねぇ」

ジュン「そういうお前はどうなんだよ」

真紅「質問に質問で返すべきではないわ。あなたが先に答えて頂戴」

相変わらず、うるさいやつだな。
幸せねぇ…考えたこともなかった。
ただ食事をして、ただ睡眠をとって……
それが幸せなのだろうか。

真紅「少し難しかったようね。質問を変えるわ」

真紅「あなたはこのまま生活したい?それとも、したくないかしら?」

ジュン「なんだよ、その質問」

真紅「いいから答えて頂戴」

面倒くさいな…
僕はその質問にこう答えた。
>>56
したいorしたくない

56: 2008/09/13(土) 20:37:18.87 ID:pnBQC7Ok0
童Oのままじゃ嫌だ

58: 2008/09/13(土) 20:42:46.56 ID:ARNOGq8JO
ジュン「童Oのままじゃ嫌だ」

真紅「何を言っているのジュン?」

ジュン「いや、その」

真紅「それは、したくないってこと?」


>>59
1、そうだ
2、違う

59: 2008/09/13(土) 20:46:11.04 ID:bhjOB/G70
童Oのままじゃ嫌だ

64: 2008/09/13(土) 20:54:30.89 ID:ARNOGq8JO
ジュン「童Oのままじゃ…」

真紅「いい加減にして頂戴」

どうやら真紅はお怒りのようだ。
ここは真面目に答えないとな。

>>65
したいorしたくない

65: 2008/09/13(土) 20:54:58.10 ID:2JOk/1+c0
したい

67: 2008/09/13(土) 20:57:15.74 ID:ARNOGq8JO
ジュン「したい……かな」

真紅「そう……あなたはこの中での生活を望むのね」

ジュン「何言ってるんだよ真紅」

真紅「なんでもないわ。気にしないで」





雪華綺晶「気にしないで……偽りの夢の中でおやすみなさい」

BadEnd

68: 2008/09/13(土) 20:58:50.75 ID:2gYdyd4Q0
な、なんだってーっ!

69: 2008/09/13(土) 21:01:26.72 ID:HPtxq3Im0
軽く終わったw

77: 2008/09/13(土) 21:10:36.06 ID:ARNOGq8JO
ロードか………



>>67

ジュン「僕はこのままの生活を……」

>>80
1、望む
2、望まない

80: 2008/09/13(土) 21:12:30.88 ID:wr7/a6A30

81: 2008/09/13(土) 21:18:17.60 ID:ARNOGq8JO
真紅「そう、望むのね」

ジュン「あぁ」

真紅「それは……たとえ、この世界が夢の中でも?」

ジュン「夢の中?」

真紅「例えばの話よ」

ジュン「夢の中か…」

夢の中…
夢で幸せな生活も悪くないのかもしれない。
でも、それは所詮夢で…

ジュン「その夢は覚めないのか?」

83: 2008/09/13(土) 21:21:18.07 ID:ARNOGq8JO
真紅「あなたが望むなら覚ますことができる」

僕が望むなら…

ジュン「なら覚ましてくれ」

真紅「え?ジュン、あなたはさっきこの生活を続けたいと言ったわ」

ジュン「あぁ、でもそれは現実ならだ。夢の中なんて僕は嫌だからな」

真紅「………なら、これから言うことを聞いて頂戴」

ジュン「わかった」

86: 2008/09/13(土) 21:25:00.85 ID:ARNOGq8JO
真紅「あなたは雪華綺晶に挑んで、眠らされた」

ジュン「え?」

真紅「ジュン、この世界はどこかおかしいとは思わない?」

おかしい?
一体どこがおかしいんだ。

真紅「なぜ、"雛苺"がいるの?」

ジュン「雛苺?あいつはお前の下僕に」

真紅「そうではないわ。よく思い出して頂戴」

思い出す?
一体何を……
たしか雛苺は……

87: 2008/09/13(土) 21:28:38.60 ID:ARNOGq8JO
ジュン「いて……」

頭が痛み始める。

真紅「頑張ってジュン」

雛苺……
雪華綺晶…?

ジュン「そうだ」

真紅「思い出したかしら?」

ジュン「あぁ、思い出したよ」

雛苺は雪華綺晶に食べたれたんだ。
そして僕は真紅たちを助けるためにnのフィールドに行ったんだ。

88: 2008/09/13(土) 21:31:53.53 ID:ARNOGq8JO
ジュン「今、外はどうなってるんだ?」

真紅「金糸雀がなんとか持ちこたえているわ」

ジュン「そうか……どうしたら戻れる?」

真紅「あなたが強く願えば戻れるわ」

強く願えば…
よし、待ってろ、今戻ってやる。

91: 2008/09/13(土) 21:36:07.70 ID:ARNOGq8JO
真紅「待って頂戴ジュン」

ジュン「なんだよ」

真紅「あなたと金糸雀だけでは白薔薇には勝てないわ」

ジュン「なっ………じゃあどうすればいいんだよ…」

真紅「絵画にされた私たちをもとに戻して…」

ジュン「絵画にされた?」

真紅「えぇ…それでも勝てるかは分からないわ。
でも少なくとも、そうしなければ勝つ可能性はないのだわ」

ジュン「わかった。絶対にもとに戻してやる」

真紅「ジュン………お願いね」

94: 2008/09/13(土) 21:41:11.52 ID:ARNOGq8JO
ジュン「…」

目をつむり、もとの世界に戻りたいと強く願う。

ジュン「……」

だんだんとこの世界から切り離されていくのがわかる。
あと少し、あと少しだ…

96: 2008/09/13(土) 21:47:17.06 ID:ARNOGq8JO
意識が戻ってくる。

ジュン「ん……ここは」

さっきまでの自分の部屋とは違う。
何もない空間。
nのフィールド。

ラプラス「ブラボー!!」

パチパチと拍手が聞こえる。

ジュン「ラプラスの魔?」

ラプラス「まさか、あの空間から戻ってくるとは……これも運命というものなのでしょうか」

ジュン「今はお前に構ってる暇はないんだ」

ラプラスを無視して、歩き出す。

ラプラス「おや、あなたを案内しようとして来たというのに…
これは酷い仕打ちですね」

ジュン「僕を案内?」

ラプラス「ええ」

98: 2008/09/13(土) 21:52:55.94 ID:ARNOGq8JO
ラプラス「こちらをご覧になって下さい」

目の前に、絵画が貼られた扉が三枚現れる。

ジュン「みんな……」

ラプラス「人を他の場所へと移動させる、それが扉の役割
その先に何が待っているかは、開けてからのお楽しみ
さて、あなたはどの扉を開けますか?」

>>100
1、真紅
2、翠星石
3、水銀燈

100: 2008/09/13(土) 21:54:22.74 ID:2gYdyd4Q0
まあ、ここは素直に真紅…か?

102: 2008/09/13(土) 22:00:23.92 ID:ARNOGq8JO
ジュン「これだ」

僕は真紅の絵画が貼られた扉の前に立った。

ラプラス「美しく気高い紅薔薇の扉
あなたの選択が吉とでるか凶とでるか
では、よい旅を」

106: 2008/09/13(土) 22:06:17.72 ID:ARNOGq8JO
~エピソード真紅~


ジュンの部屋で本を読む、それが私の習慣になっていた。
別に本が格別好きというわけではない。
ただ他にやることがなかった、と言うべきだろうか。
そんなことを考えながら、ペラっとまた1ページめくる。

真紅「ジュンはまだかしら」

ジュンが学校に通うようになって、大体半月が過ぎた。
嬉しい半面、それはなんだか寂しくもあった。

108: 2008/09/13(土) 22:10:55.22 ID:ARNOGq8JO
ガチャと玄関のドアが開く音がする。
ジュンが帰って来たのだろうか。
少しだけ嬉しい気分になる。

ドタドタと慌ただしく階段を駆け登る音が聞こえる。

真紅「全く、もう少し静かにしてほしいわ」

どんな注意をしてあげようか。
そんなことを考えるだけで、私はとても楽しかった。

111: 2008/09/13(土) 22:16:09.00 ID:ARNOGq8JO
ジュン「真紅!!」

バタン、と大きな音を立ててジュンが部屋に入ってくる。

真紅「静かにして頂戴」

ジュン「はぁはぁ……そ、それどころじゃないんだ」

部屋に入ってきたジュンは、なんだかとても慌てていた。
それに違和感を感じた。
一体何だろうと、ジュンをよく見る。

そうだ、制服だ。
家を出るときのジュンは制服で、このジュンはいつもの服なのだ。

113: 2008/09/13(土) 22:20:29.66 ID:ARNOGq8JO
真紅「ジュン、制服はどうしたの?」

ジュン「制服?」

目の前のジュンは何だよそれ、といった顔をしている。
どうして、そんな顔をするのだろう。

真紅「ジュン?」

ジュン「すまない真紅、あんまり説明してる暇はないんだ」

ジュンが私の手を握る。
いつもなら嬉しいのだけれど、今回は恐怖を感じた。

真紅「やめて!!」

そして気がつくと、私はジュンの手を振り払っていた。

118: 2008/09/13(土) 22:32:42.48 ID:ARNOGq8JO
ローゼンSS書くのは二回目だから、話方とか表現とか心配だ

なんか変なとこあったら言ってください

120: 2008/09/13(土) 22:37:04.81 ID:ARNOGq8JO
――ジュン目線

一瞬何が起きたのか分からなかった。
真紅を掴んだはずの手が、その真紅によって振り払われていた。

ジュン「なんで……」

真紅「ジュン?あなた一体どうしたの?学校は?」

ジュン「学校?」

学校?
一体なんのことを言ってるんだ?

ジュン「どういうことだ真紅?」

真紅「え?」

ジュン「頼む真紅、説明してくれ」

真紅「わ、わかったわ」

122: 2008/09/13(土) 22:42:25.17 ID:ARNOGq8JO
真紅の説明によると、僕は復学に成功し、毎日楽しい学校生活を送ってるそうだった。
一体どういうことだ?
頭の中にハテナが飛び交う。

真紅「ジュン、一体どうしたの?なんだか今日のあなたはおかしいわ」

真紅が心配そうに僕の顔を覗きこむ。

なんだろうこの感じは…
この世界では、桜田ジュンは普通の中学生で、引きこもっていない。

もしかして、この世界は……

125: 2008/09/13(土) 22:47:19.42 ID:ARNOGq8JO
ジュン「なぁ真紅、僕が引きこもってるとき、お前の願いはなんだった?」

真紅「私の願い……?」

どうしてそんなことを聞くの?といった顔をして、真紅は何かを考え始める。

真紅「私の願いはアリスになって……」

ジュン「違う、そうじゃなくて……
他になんかなかったか?」

真紅「他に?えっと……」

顎にてをあて、真剣に考え始める。
そして、何かを思い付いたように顔をあげた。

127: 2008/09/13(土) 22:52:33.89 ID:ARNOGq8JO
真紅「そう……たしか、ジュンがきちんと学校に行って、幸せに暮らしてほしいと思っていたのだわ」

ジュン「……真紅」

やっぱりそうだ。
どうやら、この世界では願っていたものが叶っているようだ。

それにしても真紅…
いつもは素っ気ないようなふりして、そんなことを考えていたのか。
その事実に僕の心が温かくなる。

そしてすぐに、それは冷める。
僕がこれからしなくちゃならないこと……
それは、真紅の幸せを壊すことなんだと……

129: 2008/09/13(土) 22:56:58.23 ID:ARNOGq8JO
ジュン「真紅、これから僕がいうことをよく聞いてくれ」

真紅「え、ええ、わかったわ」

僕の真剣な顔に、真紅が唾の飲むのがわかった。

ジュン「この世界は夢なんだ」

真紅「………夢?ジュン、あなた何をいって」

ジュン「お願いだ、信じてくれ」

この世界はたしかに幸せかもしれない。
でも、偽りの世界で幸せになっても、それは不幸でしかないんだ。

130: 2008/09/13(土) 23:02:27.84 ID:ARNOGq8JO
ジュン「頼む真紅、目を覚ましてくれ」

真紅「…………」

ジュン「真紅…?」

真紅「あなたを信じるわ」

ジュン「…え?」

願っていたことだけど、こうも簡単に認められるとビックリする。

ジュン「本当か?」

真紅「ええ、あなたは私の下僕ですもの。下僕の言うことを信じるのは、主として当たり前ではないかしら?」

下僕か……
なんとも真紅らしい解釈だった。
そんな変わっていない真紅を見て、僕は何故かホッとした。

131: 2008/09/13(土) 23:07:04.31 ID:ARNOGq8JO
ラプラス「まさか、こんなに早く説得していまうとは……
私も少々びっくりしております
あぁ、なんと美しい主従愛でしょうか」

ラプラスの魔が、僕のパソコンの液晶から出て来る。
こんなところからも出て来れるんだな……

真紅「ラプラス…!?」

真紅が警戒の体制に入る。
僕はそれを何とか説得して、その警戒体制をといた。

133: 2008/09/13(土) 23:14:05.41 ID:ARNOGq8JO
ジュン「ラプラス、僕たちを雪華綺晶のところへ」

早く行かないと、金糸雀が危ない。

ラプラス「おや、たったお二人で行くのですか?」

ジュン「え?」

ラプラス「あなたは紅薔薇の言ったことをお忘れで?」

真紅「私が言ったこと?」

ラプラス「おや、これは失敬、あなたではなく、彼の夢の世界のあなたです」

僕の夢の世界の真紅?
何か言っていたっけ……

そうだ、みんなを助けないと白薔薇には…!!

ラプラス「そのお顔、思い出したようで何よりです
では、次はどの扉を?」


>>135
1、翠星石
2、水銀燈

135: 2008/09/13(土) 23:15:11.96 ID:W0zpbt/Z0
1

139: 2008/09/13(土) 23:20:54.99 ID:ARNOGq8JO
真紅「ジュン」

ジュン「あぁわかってる」

僕は真紅を抱き抱え、翠星石が描かれている絵画の前に立った。

ラプラス「優しく全てを包みこむ、それはまるで大木のよう
あなたの選択は正しいのでしょうか
では、お気をつけて」

142: 2008/09/13(土) 23:25:43.40 ID:ARNOGq8JO
~エピソード翠星石~

花がたくさん咲いている原っぱを駆け回る。
片手にはサンドイッチの入ったバスケット、そしてもう片方は大切な妹の手を掴んで。

蒼「あんまり急ぐとこけるよ、翠星石」

妹が息を少しだけきらしながらそう言った。

翠「大丈夫ですよ、こけたときは蒼星石も一緒ですから」

その言葉に蒼星石は大丈夫じゃないよ、とため息をついた。

143: 2008/09/13(土) 23:32:34.07 ID:ARNOGq8JO
翠「そろそろお昼にするですぅ」

いっぱい遊んで、少しお腹が減ってきた。
蒼星石も同じだったようで、その言葉にすぐに頷いた。

翠「どこで食べるですか?」

蒼「あそこがいいんじゃないかな?」

スッと原っぱの中心にある、大きな木を指差す。
たしかにあそこなら涼しく、とても楽しい昼食が楽しめそうだ。

翠「じゃああそこまで競争ですよ蒼星石」

私はそんな昼食を早く楽しみたくて、駆け出す。
その後を、やれやれといった感じで蒼星石がついてくる。

私はそんな蒼星石が大好きで、1番大切だった。

147: 2008/09/13(土) 23:40:09.33 ID:ARNOGq8JO
翠「ほら、食べさせてやるです」

蒼「い、いいよ。僕は自分で食べれるから」

翠「遠慮するなです」

蒼「はぁ、わかった」

あきらめたように、あーんと口を開ける蒼星石。
その顔が、エサを待つヒナのようでとても可愛かった。

翠「あ~んですぅ」

蒼「ん、モグモグ……うん、やっぱり翠星石の料理はおいしいね」

そんなことを笑顔で言ってくるので、私はたまらなくなり、蒼星石を抱きしめた。

蒼「ちょ、翠星石、危ないよ」

翠「気にするなです」

蒼「そうだね」

そして、蒼星石も私を抱き返す。
私は今、世界で1番幸せだな、と感じた。

150: 2008/09/13(土) 23:45:35.12 ID:ARNOGq8JO
――ジュン目線

さて、一体ここはどこなんだろう。
真紅も同じことを考えているようで、目を点にしていた。

ジュン「なぁ真紅」

真紅「何?ジュン」

ジュン「ここはどこだ」

真紅「さぁ?私の記憶には、全くないわ」

それもそうだろう。
こんな原っぱ、日本のどこにもないさ。

152: 2008/09/13(土) 23:51:14.83 ID:ARNOGq8JO
ジュン「とりあえずさ」

真紅「どうしたの?」

ジュン「あそこに行ってみないか?」

ちょうど丘の上にある、たった一つの木を指差す。

真紅「ジュン、あなたにしてはいい考えね」

ジュン「僕にしてはは余計だ」

真紅「さ、行きましょ」

真紅が先に歩きだす。
かと、思ったらすぐに止まり、こちらを向く。

ジュン「行かないのか?」

真紅「抱っこして頂戴」

ジュン「は?」

真紅「抱っこして頂戴と言っているの」

ジュン「あぁ、わかったわかった。だからあんまり怖い顔するなよ」

真紅「ふん…!」

全く、困った主だな。

154: 2008/09/13(土) 23:55:04.64 ID:ARNOGq8JO
木に近づくにつれて、木の下に誰かがいることに気付く。

あれは…蒼星石と……翠星石!!

ジュン「真紅走るぞ!」

真紅「え?ちょ、まっ……」

真紅が何か言っていた気がしたが、そんなのに構わず走り出した。

156: 2008/09/14(日) 00:01:39.20 ID:FodK6rJnO
ジュン「翠星石!」

木までの距離が大体十メートルをきった位で、僕は翠星石の名前を叫んでいた。

翠星石「え?チビ人間?」

ジュン「久しぶりに会った瞬間それか……」

真紅「私には何もないの?」

翠「真紅まで……遊びにきたですか?」

やはり翠星石も状況を忘れているようで、全く緊張感がなかった。

ジュン「いいや、翠星石、僕の言うことを聞いてくれ」

隣に蒼星石がいることが気になったが、今はそんな場合でもないので、手早く説明を始めた。

158: 2008/09/14(日) 00:11:10.90 ID:FodK6rJnO
翠「だって…だって……!!
蒼星石はこうしてここにいるんですよ!!」

蒼星石「翠星石……」

翠「なんで、翠星石と蒼星石を離そうとするですか?」

俯いている翠星石から、キラリと光る何かが落ちる。

ジュン「翠星石…?」

翠「嫌いです…」

ジュン「嫌い?」

翠「チビ人間も!真紅も!だいっきらいです!!」

真紅「なっ……」

159: 2008/09/14(日) 00:15:17.23 ID:FodK6rJnO
翠「翠星石は絶対に蒼星石と離れないって決めたんです」

そう言って、翠星石は手から如雨露を取り出す。

真紅「落ち着きなさい翠星石!」

翠「うるさいです……翠星石と蒼星石の邪魔をするやつは……」

翠「全部翠星石が壊してやるです!!」

翠星石が如雨露を振り上げる。
しかし、攻撃が来ることはなかった。

160: 2008/09/14(日) 00:20:37.66 ID:FodK6rJnO
翠「蒼せ……」

蒼「やめて、翠星石」

翠星石が振り上げたその手を、蒼星石が優しく握って、攻撃を妨げていた。

翠「どうして……」

へにゃり、と力が抜けたように、翠星石がその場に崩れ落ちる。

翠「なんで…ですか……蒼星石は、翠星石と一緒にいたくないですか……?」

目に涙をいっぱいに溜め、翠星石は蒼星石を見上げる。

蒼「いたいよ。僕は翠星石が大好きだからね」

翠「じゃあなんで……!」

興奮状態にある翠星石を、蒼星石が優しく諭す。

161: 2008/09/14(日) 00:27:10.86 ID:FodK6rJnO
蒼「翠星石……たぶん真紅たちの言っていることは本当だよ」

翠「でも、なんで蒼星石が……」

蒼「君が願った、からじゃないかな」

翠「翠星石が?」

蒼「うん、ここは願いが叶った世界みたいだからね……
あは、翠星石が僕との時間を望んでたなんて嬉しいな」

翠「蒼星石……」

涙を流す翠星石の頭を、蒼星石が大切な人を触るように撫でる。
まるで、一枚の絵のように……

蒼「翠星石…夢はとても楽しいかもしれない。
でも、それでも夢からは覚めなくちゃならないんだ……」

翠星石の頭を撫でながら、蒼星石は話を続ける。

162: 2008/09/14(日) 00:33:49.84 ID:FodK6rJnO
蒼「それに僕の好きな翠星石は、逃げてばかりじゃなくて、ここぞってときに立ち向かって行く翠星石なんだよ」

翠「蒼星石……」

蒼「ほら、いつまでも座ってないで、立って」

蒼星石がのばした手を、翠星石が掴み立ち上がる。

蒼「こんなに汚れてるじゃないか」

パンパンと蒼星石が、ドレスについた砂をはらう。

蒼「ほら、いってらっしゃい」

翠「………いってきますです」

蒼「うん、それでこそ僕の大好きな翠星石だ」

翠「蒼星石!!」

翠星石が蒼星石を抱きしめる。
初めは驚いていた蒼星石も、笑って抱き返す。

そのとき、七姉妹で1番中のいい双子は、今までで1番の笑顔で笑った気がした。

164: 2008/09/14(日) 00:38:24.22 ID:FodK6rJnO
抱き合う二人を見つめていると、パンパンと手を叩く音が聞こえた。

ラプラス「今回はなかなか時間がかかりましたね」

ジュン「うるさいな」

ラプラス「あまり怒らないでください」

ジュン「別に怒ってないさ」

ラプラス「では最後の選択を……」

165: 2008/09/14(日) 00:42:16.79 ID:FodK6rJnO
翠「ほら、さっさと行くですよ」

そう言って僕の足を翠星石が引っ張った。
さっきまで泣いていたのに、もう泣き止んでやがる。
お姉ちゃんは強いんだな。

真紅「最後の扉……」

水銀燈が描かれた絵画。
それが貼られた扉の前に立つ。

ラプラス「一見冷たいように見え、本当は心やさしい黒薔薇
その優しさは一体なんなのでしょうね
お早い帰りを願っています」

172: 2008/09/14(日) 01:18:16.66 ID:FodK6rJnO
~エピソード水銀燈~

真っ白い部屋の中。
そこに私は佇んでいる。

めぐ「ねぇ水銀燈」

その部屋にあるベットに寝ている少女が私に話かける。

水銀燈「なによ…」

めぐ「人間って、氏んだら本当にお星さまになるのかな」

またおかしなことを言う。
この少女はいつでもそうだった。
氏にたい、早く氏にたい。
ホントに馬鹿みたい。

173: 2008/09/14(日) 01:21:50.98 ID:FodK6rJnO
水銀燈「おバカさぁん、そんなの嘘に決まってるじゃなぁい」

私がそういうと、めぐはムスッとした表情になる。

めぐ「じゃあ人魚姫みたいに泡に?」

水銀燈「そんなことも、絶対にないわ」

全く、頭の中が一回見てみたい。
人間は、星にも泡にもなるわけないじゃない。
ただ、土に還るだけ。
そう、それだけ……

175: 2008/09/14(日) 01:26:49.35 ID:FodK6rJnO
めぐ「じゃあ…」

水銀燈「もういいわよ。あなたの何々になるのかなぁは聞き飽きたわぁ」

それを聞いて、一瞬めぐの表情が曇る。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに表現を輝かせる。

めぐ「ねぇ、水銀燈。契約しましょ」

はぁ……
またこれだ。
何回このやりとりをしただろうか。
いい加減に呆れてくる。

177: 2008/09/14(日) 01:31:47.75 ID:FodK6rJnO
水銀燈「いい?あなたにはまだ早いと言ったら何度わかるの?」

めぐ「う~……ケチ」

水銀燈「け、けっ……」

この子は全く…
なんで私がケチなのよ。

水銀燈「別にケチでもいいわよ」

めぐ「ふーん。じゃあケチ、ケチ、水銀燈のケチ」

う……
なにもそこまで連発しなくてもいいじゃない。
正直、なんだか少し傷ついた気がした……


この病室の中では、時がゆっくりと流れる。
私はこの雰囲気を割と気に入っていた。

180: 2008/09/14(日) 01:36:39.15 ID:FodK6rJnO
――ジュン目線

ジュン「ここは……」

翠「病院ですね」

目の前にそびえ立つ白い建物。
人間が生きていれば、必ず一回は行くだろう。

真紅「この中に水銀燈が?」

ジュン「たぶん……そうなんだろうけど」

なんで病院なのだろう。
僕の常識では、お墓の次くらいに幸せから遠い場所だ。
水銀燈は、こんなところに叶えたい願いがあったのか………?

184: 2008/09/14(日) 01:43:34.36 ID:FodK6rJnO
外でうだうだしてても意味がないので、病院の中に入る。

ジュン「なんだ……これ」

翠「誰もいないです」

病院に入って、まず驚いたこと、それは誰もいない。
そしてあまりにも無機質で、何かがそこにある、という感じが全くしなかった。

真紅「恐らく……」

真紅が自分の推測を話し始める。
真紅の予想では、水銀燈はこの病院の外見と外、部屋の一部しか知らないのだろうというものだった。

翠「たしかにそんな感じです」

ジュン「そうだな」

でもそのイメージのおかげで、階段、長い廊下はあっても、入口がある部屋はただ一つだった。

185: 2008/09/14(日) 01:47:42.67 ID:FodK6rJnO
たった一つの入口の前に立つ。

ジュン「たぶんここだよな」

真紅「えぇ」

翠「中から水銀燈と誰かの声がするですよ」

扉に耳を押し付けている翠星石がそう言った。
誰か…?
一体誰だろう。

真紅「とりあえず、入りましょう」

ジュン「あ、あぁ」

ドアノブに手をかける、鍵はかかっていないようで、簡単に開けることができた。

186: 2008/09/14(日) 01:52:39.43 ID:FodK6rJnO
めぐ「あら、ノックもなしに何のよう?」

中に入ると、パジャマを着て、白いシーツの中に足を入れている少女がいた。

ジュン「いや、その…」

めぐ「あれ?その子たちもしかして」

少女の目がキラキラ輝きだす。
その目線と追えば、真紅と翠星石を行き来していた。

翠「な、なんなんですかあの人間」

真紅「どうやら、私たちがなんなのか知っているようね」

187: 2008/09/14(日) 01:57:02.91 ID:FodK6rJnO
めぐ「もしかして、あなたたちも天使さん?」

真紅たちを何回か見つめ、やっと何かを言ったかと思ったら、天使……??
一体何のことを言っているのだろうか。

真紅「私たちは天使じゃないわ」

めぐ「そうなの?あっ、羽がないものね」

翠「そ、そういう問題じゃねーですぅ」

なんなのだろうこの子は。
どこか一本くらいネジが抜けていそうな雰囲気だった。

189: 2008/09/14(日) 02:03:50.46 ID:FodK6rJnO
めぐ「あっ、そうだ」

何か悪戯を思い付いたような子供のように、少女は顔をパッと明るくさせた。

めぐ「水銀燈、大丈夫だから出てきて」

ジュン「水銀燈……」

どうやら、やっぱりここにいたようだ。
少女が窓を開けると、バサッと黒い羽が空を二つに分ける。
その姿は天に見捨てられた、堕天使のようだった。

190: 2008/09/14(日) 02:09:26.50 ID:FodK6rJnO
真紅「水銀燈…やっぱりここにいたのね」

水銀燈「うるさいわね…だいたいなんでわかったのよ」

真紅「安心して、私はあなたとアリスゲームをしにきたわけじゃないわ」

水銀燈「じゃあ何しにきたのよ。なんのようもないなんて、ただのおバカさんよ」

ジュン「実はな水銀燈」

真紅「まってジュン」

僕が説明を始めようとすると、真紅がそれを遮った。

真紅「彼女には私から説明するわ」

そう言って真紅が前に出る。
そして、水銀燈の前に立つと、今の状況の説明を始めた。

192: 2008/09/14(日) 02:17:17.01 ID:FodK6rJnO
水銀燈「………そう」

説明を聞き終わった水銀燈が、興味なさ気に返事をする。

真紅「水銀燈」

水銀燈「真紅ってホントにおバカさん」

真紅「なっ…!!!ん……」

罵りの言葉を受け、少しキレそうなった真紅がなんとか気を落ち着ける。

水銀燈「なぁに?言い返さないなんて、真紅らしくないじゃない」

真紅「…………」

水銀燈「だいたい願いが叶う空間なら、お父様に逢いたいに決まってるわ」

たしかにそうだ。
僕は、初めからそれだけが疑問だった。
ここは彼女の願いが叶った空間。
でも、幸せな要素が全くない。
一体何が水銀燈の願いなのだろう……

193: 2008/09/14(日) 02:23:39.91 ID:FodK6rJnO
ジュン「なぁ水銀燈、お前って……」

水銀燈「何よ、私はあなたになんか興味ないわぁ」

なんかムカつくな。
その感情を押し頃して、話を続ける。

ジュン「お前は、この普通な日常を望んだんじゃないのか?」

水銀燈「…………私が?」

ジュン「あぁ…」

水銀燈「私がお父様より大切な物なんであるはず……」

真紅「でも、この空間はあなたの願いを叶えるのよ?」

水銀燈「じゃあ……私は……」

今まで、病室の窓の外を飛んでいた水銀燈が、少女の寝ているベットの上に降り立つ。

194: 2008/09/14(日) 02:31:06.84 ID:FodK6rJnO
水銀燈「私が…お父様よりめぐとの日常を……?」

水銀燈が、めぐと呼んだ少女へと近づく。

めぐ「水銀燈……?」

水銀燈「めぐ……私、私は……」

すぐに少女のもとへ水銀燈がたどり着く。

水銀燈「私…う……私はとんだジャンクだわ……グス」

そして、そのまま少女に抱き着き、涙を流し始めた。

水銀燈「お父様より、あなたと……めぐとの日常が大事だなんて……」

めぐ「水銀燈、大丈夫?」

水銀燈「嫌なのよ…」

めぐ「……え?」

195: 2008/09/14(日) 02:37:38.49 ID:FodK6rJnO
水銀燈「あなたが氏ぬのは見たくないのよ」

めぐ「…………」

ダムが崩壊して水が流れ出すように、水銀燈は話し続ける。

水銀燈「氏にたいなんて言わないで……
あなたが氏んで悲しむ人もいるのよ」

めぐ「前にも言ったけどそんな人は」

水銀燈「いるわよ!!」

ビックリするくらいの大きな声が、病室に響き渡る。

水銀燈「あなたのお父様やお母様が、あなたを本当に見捨てたと思うの?」

めぐ「だって…」

水銀燈「私は思わない、思いたくないだけなのかもしれないけれど……」

めぐ「…水銀燈」

199: 2008/09/14(日) 02:45:25.11 ID:FodK6rJnO
水銀燈「人は氏んでも、土に還るだけ
絶対に星や泡になったりなんかしないわ
綺麗な氏に方なんてないのよ…」

めぐ「…………」

水銀燈「あなたの病気は治らないかもしれない
でも、それでも、希望を持ちなさいよ!
最後の最後まであきらめちゃダメなのよ」

めぐ「うん……」

今まで、水銀燈の話に対して、否定的な意見だった少女が、初めて肯定的な意見を出した。

めぐ「水銀燈…あなたがそこまで言うなら、私は頑張ってみる」

水銀燈「めぐ……」

めぐ「あ~あ……氏にたいなんて思ってた私が馬鹿みたい」

水銀燈「ふふ…あなたは本当におバカさんよ」

203: 2008/09/14(日) 02:55:52.77 ID:FodK6rJnO
めぐ「水銀燈……私、あなたが世界で1番大好きよ」

少女はそう言って、水銀燈を抱きしめる。

水銀燈「私はだいっきらいよ」

めぐ「あら?さっきまでの発言だと両想いだと思ったのに」

水銀燈「本当に気が狂ってるわね、あなた。
私がお父様以外の人間を好きになるわけないじゃなぁい」

そう言って水銀燈は少しだけ微笑んだ。

めぐ「水銀燈が私を好きになるまでは氏ねないなぁ」

水銀燈「じゃあ一生氏ねないわね」

めぐ「水銀燈って、やっぱりケチ」

水銀燈「うるさいわね……」

204: 2008/09/14(日) 03:02:35.80 ID:FodK6rJnO
ラプラス「ビューティフル
なんと美しい愛でしょうか」

水銀燈「ラプラスの魔?」

めぐ「なに?あのウサギ?」

ラプラス「おや、そんなに睨まないで下さい」

水銀燈「何をしに来たの?」

ジュン「落ち着いてくれ水銀燈」

警戒を解こうとしない水銀燈をなだめる。

水銀燈「無理だわ。私はあのウサギがだいっきらいなの」

ラプラス「私も嫌われたものですね
はてさて、そんなことより駒は全て揃いましたね」

ジュン「あぁ」

206: 2008/09/14(日) 03:05:40.99 ID:FodK6rJnO
ラプラス「では、これが最後の扉」

今までいた病室が消え、真っ暗闇の中に扉が現れる。

水銀燈「めぐ?一体どうなってるのよ」

真紅「私にもよく分からないわ、でも無理矢理にでも理解するしかないでしょう」

翠「そうですよ、水銀燈」

水銀燈「わかったわよ…」

207: 2008/09/14(日) 03:10:05.55 ID:FodK6rJnO
ラプラス「お話はおしまいでしょうか?」

真紅「ええ」

ラプラス「そうですか
この扉を開くも開かないもあなたしだい
この先に待つのは希望の光か、それとも絶望の闇か
これ以上はあなたの選択次第」

ラプラス「さぁ最後の選択を



開けますか?

開けませんか?」

228: 2008/09/14(日) 09:24:15.73 ID:FodK6rJnO
何分経っただろうか。

金糸雀「はぁ…はぁ…」

雪華綺晶「………」

私の攻撃を受けても、白薔薇は平気な顔で立ち続けていた。
これはさすがに危ないかしら……

金糸雀「……!終りのない追走曲!!」

また技を繰り出す。
しかし、それもまた荊で防がれる。

金糸雀「くっ……クレッシェンド!」

なんとか威力を強める。
しかし、それも1番最初の攻撃よりは明らかに威力は衰えていた。

229: 2008/09/14(日) 09:30:34.45 ID:FodK6rJnO
案の定、威力の衰えた攻撃は弾かれた。
その反動に少し地に膝をつく。
さすがに限界だった……

金糸雀「ふぃ……あっ、しまっ」

なんとか息を調えようとしたとき、下から荊が現れ、私を縛りつける。

金糸雀「くっ、うっ……」

刺の痛みにバイオリンとその弓を落とす。

金糸雀「絶体絶命かしら」

雪華綺晶「可哀相なお姉様。大丈夫、今楽にしてあげます」

ふふふ、と白薔薇が不気味に笑う。
そこで、私の意識は途絶えた。

230: 2008/09/14(日) 09:38:58.46 ID:FodK6rJnO
――ジュン目線

扉を開けた先は、真っ白な平原だった。
下を見ると、その白の正体が薔薇であることがわかる。

ジュン「どこなんだ、ここは」

辺りを見渡しても、白、白、白…

水銀燈「なんか不気味な世界ね」

翠「お前の世界も十分不気味だったですぅ」

水銀燈「なんですって」

翠星石の発言に、少しだけ憎しみの念をこめて、発言者を睨む水銀燈。

翠「ひっ、や、やるですか…?」

水銀燈「あなたとは決着をつけないといけないわぁ」

翠「ど、どこからでもかかって来やがれです!」

はぁ。
全く何をしてるんだか。

真紅「あなたたち、喧嘩はやめなさい」

僕が呆れたため息をついていると、真紅が二人の仲裁に入っていた。
なんだか、またややこしくなりそうだ。

231: 2008/09/14(日) 09:44:02.40 ID:FodK6rJnO
あのあと、やっぱり喧嘩になった。
全く、みんな子供かよ…
水銀燈はもっと大人かと思っていたのに、ほとんど喧嘩の中心だった。
それを止める僕の気持ちにもなってくれよ。

そんなことを考えながら、このヘンテコな世界を歩き回る。

翠「変です」

翠星石が、何かに気付いたように立ち止まる。

真紅「どうしたの?」

翠「景色が全く変わってないんですよ」

景色が変わってない?
どういうことだろうか。
僕たちはちゃんと歩いてるし……

233: 2008/09/14(日) 09:48:36.68 ID:FodK6rJnO
翠「水銀燈、ちょっと上から見てきてほしいです」

水銀燈「はぁ?なんで私が」

真紅「飛べるのはあなたしかいない。私からもお願いするわ、水銀燈」

水銀燈「……わかったわよ」

仕方ないわね、といった感じに、水銀燈は漆黒の翼を伸ばし、空高く舞い上がる。

そのとき僕も翼が欲しいな、と思ったのは恥ずかしいから秘密にしておこう。

234: 2008/09/14(日) 09:57:56.92 ID:FodK6rJnO

空で、ここ一帯を見渡し、水銀燈が地に降りてくる。

翠「どうだったですか?」

水銀燈「ちょ、近いわよ」

翠「あ、ごめんなさいです」

水銀燈「まぁいいけど……」

はぁ、と水銀燈はため息をつき、話を始めた。

水銀燈の話によると、なんら問題はないそうだ。
ただ、同じような平原が続いてるだけらしい。

236: 2008/09/14(日) 10:15:55.90 ID:FodK6rJnO
平原を歩いていると、やっと今までとは違う景色が現れる?

ジュン「小屋?」

何もない平原に、ただ一つだけ小さな家があった。

ジュン「よし、早く行くぞ」

やっとの変化が嬉しくて、僕は小屋に走り出した。




翠「きゅ、急に走りだすなですぅ……」

真紅「全く……」

水銀燈「………」

ジュン「しょうがないだろ、なんか嬉しかったんだから」

三人が三人、僕に何かを言っていたが、僕はそれを無視して小屋を調べ続けた。

237: 2008/09/14(日) 10:20:51.49 ID:FodK6rJnO
ジュン「ん……?」

小屋の裏にまわると、扉があった。

ジュン「開けるぞ」

真紅「え?ま、まちなさいジュン」

真紅が僕を止めてきたが、これ以上はあまり時間がなさそうなので、少しだけ警戒をしながら扉を開けた。

ジュン「なんだ、これ?」

小屋の中にたった一つだけある机に絵本が置かれていた。
何気ない気持ちで、僕はそれを開いた。

238: 2008/09/14(日) 10:35:02.76 ID:FodK6rJnO
~エピソード雪華綺晶~

ふわふわ、ふわふわと空間を漂う。
何もない。ここには何もなかった。

身体を捻り、仰向けから俯せになる。
そのまま水の中を泳ぐように、空間を漂う。

251: 2008/09/14(日) 13:41:39.12 ID:FodK6rJnO
ぼーって漂い続ける。
だんだんと前に進む。
すると、目の前に一枚の鏡が現れる。

中を覗くと、小さな男の子と大人の女性が歩いていた。
手を繋ぎ、小さな男の子のが何かを言う。
それを大人の女性は笑顔で見守る。

分からない…分からない…
どうして笑っているの?
ねぇどうして……?

教えてお父様……

253: 2008/09/14(日) 13:42:51.69 ID:FodK6rJnO
誤字が多いね……
ごめん、脳内で変換しといてください

255: 2008/09/14(日) 13:47:34.31 ID:FodK6rJnO
もちろん返事はない。
胸がチクりと痛む。
なんだろう、この気持ちは。

鏡が別の映像を映し出す。

雪華綺晶「これは……」

鏡の中には、紅薔薇のお姉さま、そして人間の男の子がいた。
笑顔はないけれど、どこか温かい感じがした。

256: 2008/09/14(日) 13:52:49.83 ID:FodK6rJnO
また映像が変わる。
今度は、双子のお姉さまたちが映し出される。
広い草原で、手を繋ぎ、笑顔で走りまわる二人が。

何故だか、また胸が痛む。
チクチク、まるで針でつつかれているように。

257: 2008/09/14(日) 13:57:05.36 ID:FodK6rJnO
その痛みのせいなのか、目から水が流れる。
なんなのだろうこれは……

泣いているの……?
どうして、泣いているの?

鏡を再び見る。
中には、黒薔薇のお姉さまと白いシーツに包まれている少女がいた。

少女が一方的に話し掛けている。
それに、面倒くさそうに返事をするお姉さま。
でも、どこか嬉しそうだった。

258: 2008/09/14(日) 14:03:23.18 ID:FodK6rJnO
その映像を見て、さらに涙が溢れ出る……
なんだろう、この気持ちは。
胸の中に穴が開いた気持ちになる……

―――寂しい

寂しい?

初めて聞く言葉だった。
孤独……寂しい……

雪華綺晶「なんで………なんで……」

なんで私は一人なの?

259: 2008/09/14(日) 14:08:29.28 ID:FodK6rJnO
――ジュン目線

パンパンと手を叩く音で、現実に引き戻される。
辺りを見ると、さっきまでの小屋ではなく、闇が広がっていた。

ラプラス「どうでしたか、彼女の心の世界は?」

ジュン「雪華綺晶の心の世界?」

ラプラス「ええ…
感情なき子が初めて覚えた感情
それは喜びでも怒りでもなく、悲しみ
あぁ、なんと可哀相な白薔薇」

悲しみ、寂しさ。
まるでそれしかないような世界が、あいつの中だと?

260: 2008/09/14(日) 14:12:39.23 ID:FodK6rJnO
真紅「あの子………」

水銀燈「白薔薇…なんなのよ……一体」

翠「あんなに悲しい世界は初めてです…」

三人が少し動揺を見せる。
たしかにあんなものを見せられれば、こんな感情も出るだろう。

真紅「ジュン、行くわよ」

真紅が顔をあげる。
その目には決意のようなものが見えた。

262: 2008/09/14(日) 14:17:45.05 ID:FodK6rJnO
真紅「水銀燈、翠星石」

真紅が振り返り、水銀燈と翠星石を見つめる。

水銀燈「そんな目で見なくたって、わかってるわよ」

翠「絶対に救いだしてやるですよ」

三人が同時に、うんと頷く。

ラプラス「これはこれは美しいかな
姉妹の愛情はきれないものですね
では、幸運を祈っています」

暗闇の中に扉が現れ、開く。

ジュン「行くぞ」

僕がそう言うと、三人は黙って頷いた。

263: 2008/09/14(日) 14:21:28.65 ID:FodK6rJnO
扉の中に入ると、まばゆい光が差し込んできて、一瞬目を閉じる。
それを我慢して、ゆっくりを目を開けていく。

ジュン「金糸雀!!」

目を開け、まず目に入ったのが、服がボロボロになり、地面に倒れている金糸雀だった。

雪華綺晶「あら、帰ってきたのですか?」

その言葉を無視して、金糸雀に駆け寄る。

ジュン「おい!大丈夫か!?」

金糸雀の身体を抱き上げ、ペチペチと頬を軽く叩く。

264: 2008/09/14(日) 14:27:32.45 ID:FodK6rJnO
金糸雀「ん……」

気を失っていた金糸雀の顔が歪み、目が開かれる。
そして、今にも消えそうな声で『す……少し遅かったかしら』と言った。

ジュン「金糸雀……遅くなってごめん」

僕がそう言うと、金糸雀はニコリを笑顔を浮かべ、再び目を閉じた。

265: 2008/09/14(日) 14:31:09.85 ID:FodK6rJnO
真紅「白薔薇」

僕が金糸雀を優しく抱いて立ち上がると同時に、真紅たちは雪華綺晶の前に立った。

雪華綺晶「どうしたのですか、お姉さま方?」

雪華綺晶はあくまで感情のない笑顔で、首を傾げた。

その笑顔に臆さず、真紅は雪華綺晶へと歩みよる。

267: 2008/09/14(日) 14:34:21.37 ID:FodK6rJnO
真紅「ごめんなさい」

真紅が話ながら、雪華綺晶へと近づく。

雪華綺晶「何を謝っているのですか?」

真紅「寂しかったのでしょう」

その言葉に、雪華綺晶の顔が怒りに歪む。

雪華綺晶「お姉さま…あなたに何がわかるんですか?」

どこからともなく荊が現れ、ただ歩みよる真紅を襲う。

268: 2008/09/14(日) 14:39:47.52 ID:FodK6rJnO
真紅「くっ……」

ザシュッと音を立てて、真紅のドレスが裂かれる。
かすかに身体に当たったのか真紅の顔が歪む。

ジュン「真紅!!」

僕が真紅に駆け寄ろうとすると、目の前に翠星石と水銀燈が立ちはだかる。

ジュン「どいてくれよ」

翠「ダメです」

ジュン「なんで……」

水銀燈「あれは真紅が決めたことよ。あなたにそれを邪魔する権利なんでないわ」

真紅が決めたこと…
自分が痛い思いをしても、雪華綺晶を助ける…か。

269: 2008/09/14(日) 14:44:13.40 ID:FodK6rJnO
真紅「ごめんなさい……一人で……」

雪華綺晶「うるさい、うるさい……」

雪華綺晶の攻撃が早さを増す。
それでも、真紅は避けることをせず、ただ自分の妹に歩み寄る。

真紅「…………雪華綺晶」

そして、真紅が雪華綺晶のもとへたどり着く。

雪華綺晶「な、なんで……なんで、貴方は………」

動揺をしはじめている雪華綺晶を真紅が、ギュッと抱きしめた。

272: 2008/09/14(日) 15:00:50.07 ID:FodK6rJnO
真紅「一人は辛かったでしょう」

抱きしめたまま、左手で雪華綺晶の頭を撫でる。

真紅「孤独ほどの不幸はないわ」

雪華綺晶「……う…あぁ…」

雪華綺晶が涙を流し始める。
それに気付いた真紅はさらに強く抱きしめた。

真紅「泣きなさい……私が全て受け止めてあげるわ」

雪華綺晶「ああぁ……うっ……」

275: 2008/09/14(日) 15:06:19.22 ID:FodK6rJnO
雪華綺晶「お姉さま、ごめんなさい…ごめんなさい」

泣き続ける雪華綺晶を、真紅は撫で続けた。

真紅「あなたがやったことは消えるわけではないわ」

雪華綺晶「……う……は、はい」

真紅「あなたは色々な人に迷惑をかけた」

真紅は微笑みを浮かべながら、話を続ける。

277: 2008/09/14(日) 15:13:25.30 ID:FodK6rJnO
雪華綺晶「ありがとうごさいます、お姉さま」

そう言って、雪華綺晶は真紅から離れる。

雪華綺晶「今、眠っていた、全てのミーディアムが目を覚ましました」

真紅「そう」

どうやら、雪華綺晶は呪縛を解いたようだ。

雪華綺晶「この身体もお返ししますね」

そう言うと、雪華綺晶の身体が光り始め、二つに分離する。
一つは実体、もう一つは器を持たない幻に。

280: 2008/09/14(日) 15:19:49.04 ID:FodK6rJnO
ジュン「雛苺!」

分離した実体のほうが、雛苺へと変わる。

雪華綺晶「ごめんなさい、紅薔薇のお姉さまのマスター…」

雛苺の身体に駆け寄った僕に、雪華綺晶が話しかける。

ジュン「気にしてないって言ったら嘘になる……」

雪華綺晶「はい……」

ジュン「許せないか許せるかと言ったら、いつまで経っても許すことはできない」

雪華綺晶「はい……ごめんなさい……」

僕の言葉を聞いた雪華綺晶が、少し残念そうな顔をして、すぐに優しい微笑みに変わる。

282: 2008/09/14(日) 15:23:15.82 ID:FodK6rJnO
雪華綺晶「私はこれで消えますね……」

ジュン「え?」

雪華綺晶「私は幻のようなもの……夢が必ず覚めるのならば、幻も消えるのが運命……」

幻?
何を言ってるんだよ。

ジュン「お前は消えちゃいけない」

雪華綺晶「……え?」

283: 2008/09/14(日) 15:28:28.17 ID:FodK6rJnO
ジュン「お前は幻なんかじゃない」

雪華綺晶「………」

僕の言葉に雪華綺晶は耳をかたむける。

ジュン「お前には感情があるんだ」

そう、感情があるんだ。
まだ、悲しみ、寂しさだけだけど……

ジュン「だからお前は幻じゃなくて、ちゃんと生きてるんだ」

雪華綺晶「でも、身体が……」

ジュン「それなら僕が作ってやる!」

雪華綺晶「え?……できるわけないですよ」

お父様でもないかぎり、そんなことは無理です。
雪華綺晶はそう続けた。

284: 2008/09/14(日) 15:33:31.13 ID:FodK6rJnO
ジュン「いいから、消えるんじゃない」

雪華綺晶「でも……」

真紅「いつまでそんなことを続けるのよ」

水銀燈「ほんとぉにおバカさんね、あなたたち」

翠「もう、消えてなくなっちまえです」

真紅「ちょっと翠星石!!」

痺れを切らしたのか、三人が僕らの会話に入ってくる。

286: 2008/09/14(日) 15:38:50.48 ID:FodK6rJnO
翠「チビ人間!そんなやつの身体つくるなら、翠星石に新しいドレス作りやがれですぅ」

ジュン「ま、まて、足を引っ張るな!」

真紅「あとジュン…あなたはいつまで金糸雀を抱いているの?
だいたい金糸雀!あなたも起きてるでしょう!う」

金糸雀「ぎ、ギクゥ!な、なんでばれたかしらー」

ジュン「お前起きてたのかよ」

水銀燈「…………はぁ…全く付き合ってられなぁい…」

雪華綺晶「ぷっ……ふふふ……」

みんな「え?」

287: 2008/09/14(日) 15:42:56.33 ID:FodK6rJnO
ジュン「笑った……」

翠「なぁに勝手に笑ってるですか」

雪華綺晶「ごめんなさい。本当に……」

雪華綺晶が笑いをこらえる。

雪華綺晶「わかりました、消えません」

真紅「そう、消えないのね」

雪華綺晶「こんなに楽しいことがあるのなら……私も楽しんでみたいです」

そう言って雪華綺晶は微笑んだ。
たぶん、心の底からの笑みだった。

289: 2008/09/14(日) 15:47:38.98 ID:FodK6rJnO
~水銀燈~


めぐ「ねぇ水銀燈」

水銀燈「なによ」

めぐ「私のこと好き?」

水銀燈「その質問何回目?」

めぐ「いいじゃない、もしかしたら変わってるかもしてないでしょ?」

水銀燈「まだまだだいっきらいよ」

めぐ「ケチね」

水銀燈「うるさいわね……」

291: 2008/09/14(日) 16:00:36.25 ID:FodK6rJnO
~翠星石~

翠「おじじ!遊びに来てやったですよ」

一葉「今日はガラスを割らないんだね」

翠「毎回毎回ガラスを割ったら、おじじが可哀相です」

一葉「そうか…」

翠「ほら、さっさと紅茶をいれやがれですぅ」

一葉「はいはい」

295: 2008/09/14(日) 16:04:08.67 ID:FodK6rJnO
~金糸雀~

みつ「今日はパーティーよ」

金糸雀「鍋なのかしらー」

みつ「ふっふっーん、もちろんカナの大好きなタマゴ焼も入ってるわよ」

金糸雀「え?」

みつ「鍋はいろんなものを入れるから楽しいのよー」

金糸雀「今日も、みっちゃんは暴走してるかしら…」

297: 2008/09/14(日) 16:08:44.33 ID:FodK6rJnO
~真紅~

真紅「ジュン、起きなさい」

ジュン「…ん……」

真紅「起きないわ……
そうだ、この本で……」

バン!

ジュン「ぐぁ……」

真紅「目が覚めた?朝食を作ってほしいから、早く下に来て頂戴」

ジュン「いてて…もうちょっと、起こし方をだな……」

真紅「ふふ、いいじゃない
ジュン、早く下にきて紅茶をいれて頂戴」

299: 2008/09/14(日) 16:12:22.18 ID:FodK6rJnO
~ジュン~

あのあと、みんなは自分の好きな生活をしている。
翠星石は毎日おじいさんの家に遊びに行っているし、金糸雀はあいかわらず、僕の家にくる。

水銀燈は………
最近、全然襲ってこないな……
アリスになるのはどうしたんだろう。

300: 2008/09/14(日) 16:15:50.60 ID:FodK6rJnO
ジュン「ふぅ……」

僕は頑張って勉強して、復学をしようと頑張っている。

ジュン「疲れた……少し休むか」

椅子から立ち上がり、ベットへと向かう。
そして、ベットに座ろうとした瞬間、真紅が僕の部屋に入ってきた。

302: 2008/09/14(日) 16:19:34.21 ID:FodK6rJnO
真紅「あらジュン。もう勉強はいいの?」

ジュン「あんまり詰め込んでも意味がないんだよ」

真紅「そう」

トテトテと真紅が僕に近づいてくる。

真紅「今日は行かないの?」

ジュン「雪華綺晶のところか?」

真紅「ええ」

真紅が僕の顔をじっと見る。
だが恥ずかしくなったのか、僕が目をそらす前に、真紅が目をそらす。

303: 2008/09/14(日) 16:23:12.84 ID:FodK6rJnO
真紅「だいたい、いつになったらあの子の身体を作るの?」

ジュン「今作ってるんだよ」

真紅「いつになったらできるのかと、あの子は楽しみにしていたわ」

ジュン「そうなのか」

その言葉に顔がひきつる。
実は、まだ全然できてない。
作ってるときに、初めてローゼンってすごいんだなと思った。

306: 2008/09/14(日) 16:29:09.71 ID:FodK6rJnO
ジュン「というか、なんでお前が、そんなに急かすんだよ」

真紅「そ、それは…」

僕の質問に、珍しく真紅が口を濁す。

真紅「あの子がいれば、簡単にローザミスティカが集まりそう……」

そうか…
まだアリスゲームは終わってないんだな。
僕はとっくに終わったと思ってたよ……

真紅「もう、そんなことはどうでもいいわ!」

真紅はいきなり大声を出して、僕の手を握る。

真紅「ほら、さっさと行くのだわ」

僕の手をひき、真紅が部屋から出ようとする。
あぁ、こんな普通の生活もいいな。

307: 2008/09/14(日) 16:34:19.92 ID:FodK6rJnO
人の幸せにはいろんなものがあるみたいだ。

姉妹や兄弟で暮らすことだったり
好きな人のそばにいることだったり
普通の日常だったり


真紅「ほら、早く歩きなさい」

ジュン「わかったよ」

その中でも僕の幸せは………


閉幕

308: 2008/09/14(日) 16:38:06.18 ID:FodK6rJnO
以上乗っ取りでした
最後のほう、かなりgdgdですが許してください…

軽く読み返すと、我ながら文章力ないなと思ったよ……

309: 2008/09/14(日) 16:39:17.74 ID:EMSABZW+0
乙!
俺は面白いと思ったぜw

引用: 翠星石「チビ人間やめるです・・・大きな音を立てて飲むなですぅ!」