1: 2017/05/08(月) 21:02:50.854 ID:2Hcfyk3j0.net
―コンビニ―

女(えーっと……アクエリアス、胃薬、シュークリーム、ティラミス……)

女(あとるるぶも買っておこう! 今度の連休で旅行行きたいし!)

女「お願いします」

店員「ちょうどいただきます」

店員「レシートはご利用になられますか?」

女「いえ、結構です」

レシート「……待ちな」ピラッ
ふらいんぐうぃっち(13) (週刊少年マガジンコミックス)
4: 2017/05/08(月) 21:05:43.281 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「悪いことはいわねえ。俺を持ち帰りな……」

女「なに、この声?」

店員「なんでしょうかね……?」

女(他に客はいないし……)キョロキョロ

女「分かった! あなたが腹話術してるんでしょ! からかわないでよ!」

店員「し、してませんよ!」

レシート「腹話術なんかじゃねえさ……俺は意志を持ったレシートなのさ」ピラリン

女「なんですって!?」

9: 2017/05/08(月) 21:08:35.961 ID:2Hcfyk3j0.net
女「どうしてレシートがしゃべってるわけ!?」

レシート「どうして、はこっちのセリフだ」

レシート「どうして俺を持ち帰らない?」

女「だって、お財布に入れてもかさばるし……」

レシート「レシートってのはようするに領収書だ」

レシート「あんたと店がちゃんと取引しました、っつう証でもある」

レシート「それをないがしろにするってのは……よくないことだと俺は思うぜ!」

女「うぐっ……!」

13: 2017/05/08(月) 21:11:17.993 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「それにレシートってのは紙が使われており……」

レシート「紙を粗末に扱うのは自然保護の観点からいっても……」クドクド…

女「あ~もう! 分かった! 分かったわよ!」

女「これ以上説教喰らいたくないし、持って帰ってあげる!」ピッ

レシート「へへ……毎度あり!」

店員「ありがとうございました~!」

17: 2017/05/08(月) 21:14:47.160 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「じゃ、とっとと家に帰ろうぜ」

女「あいにく、私はこれから病院にお見舞いして……彼氏とデートなのよ」

レシート「ほう……レシートを見捨てるような女にも彼氏がいるとは!」

レシート「彼氏に告げ口しちゃおっかな~……あんたも見捨てられるかもって」

女「余計なことしたらやぶくからね!」

レシート「へいへい」

プルルルルル…

女「あら、会社から電話!」

19: 2017/05/08(月) 21:17:50.880 ID:2Hcfyk3j0.net
女「はい……あ、はい! すぐメモを取ります!」

女「――ってあら! しまった! 手帳、会社に忘れてきちゃった!」

女「どうしよう~!」

レシート「お~い」ヒラヒラ

女「?」

レシート「ここに一枚の紙があるのを忘れてねえか?」

女「あっ、そうか! あんたにメモすれば……!」

22: 2017/05/08(月) 21:21:03.664 ID:2Hcfyk3j0.net
女「ふぅ~、どうにかなったわ」

女「あんたがいなきゃ、暗記しなきゃいけないとこだったわ。どうもありがとう」

レシート「な? レシートってのも結構役に立つもんだろ?」

女「まぁね……」

女(――って、たまたまのくせに偉そうに!)

24: 2017/05/08(月) 21:25:21.443 ID:2Hcfyk3j0.net
ホスト「そこのお姉さん、さっきからなにブツブツいってんの?」

女「な、なんですか?」

ホスト「まだ早いけどさ、ちょっとウチの店で飲んでかない? ドンペリとかでパァーッとさ」

女「結構です!」

ホスト「頼むよぉ~、今月全然売上なくってやべぇんだよぉ~!」ガシッ

女「は、はなして!」

女(とんだ悪徳ホストだわ! んもう、今日はさっきから次から次へとなんなのよ!)

26: 2017/05/08(月) 21:28:27.179 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「やめときな」ピラッ

ホスト「!?」

女「レシート……!」

ホスト「なんだ今のやたら渋い声は……!?」

レシート「女も満足に口説けねえナマクラホストに……レシートの切れ味見せてやるぜ!」ヒラヒラ…

レシート「レシートカッター!」

ズババババババッ!

ホスト「……へ」バササッ…

27: 2017/05/08(月) 21:31:33.379 ID:2Hcfyk3j0.net
ホスト「うぎゃぁぁぁっ! スーツが切れてパンツ一丁に!」ブヨン…

女(うわぁ……顔はわりとイケメンだけど体はだらしない……)

レシート「そんな体じゃ、夏にプール行くのも恥ずかしいだろ。心と体を鍛え直してこい!」

ホスト「おふぅぅぅ……」ブヨヨン…

ホスト「すみませんでしたぁ~!」タタタタタッ



女「あんた強いのね~」

レシート「俺に惚れるなよ。切り傷ができるぜ」ピラッ

30: 2017/05/08(月) 21:36:42.737 ID:2Hcfyk3j0.net
女「さて、おかげで病院に行けるわ」

レシート「そういやお見舞いっていってたな」

レシート「会社の同僚でも入院してるのかい?」

女「ううん……知り合いの子供よ」

女「だけど、長い入院生活ですっかり気力をなくしててね……なんとか元気づけてあげたいんだけど……」

レシート「ふうん……」

32: 2017/05/08(月) 21:40:18.368 ID:2Hcfyk3j0.net
―病院―

子供「……」

女「ね? すぐ退院できるから、ほら元気出して!」

子供「無理だよ……ぼくはこの病院で一生を終えるんだ……」

レシート(こりゃあかなりの重症だな……すっかり落ち込んでやがる)

レシート(ま、入院暮らしが長くなりゃこうなるのも無理はないが……)

レシート(だったら――)ピラッ

33: 2017/05/08(月) 21:43:40.736 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「……」ヒソヒソ

女「! ……うん、なるほど!」

女「ねえ坊や、私が作った紙飛行機が、この部屋を自在に飛び回るなんてあると思う?」

子供「あるわけないじゃない。そんな夢物語みたいなこと」

女「じゃあもし……そんな夢物語みたいなことが起こったら……」

女「あなたも少しは勇気をもらえるんじゃない?」

子供「もし起こったら……ね。だけど無理だよ」

女「よーし、じゃあ紙飛行機折ってあげるわ」スッスッ…

レシート「も、もっと優しく折ってぇん!」ビクビクッ

女「気持ち悪い声あげないでよ!」

35: 2017/05/08(月) 21:46:10.639 ID:2Hcfyk3j0.net
女「そらっ!」シュッ

レシート「いくぜえ!」ギュオオオオオオッ




子供「!!??」

37: 2017/05/08(月) 21:50:45.770 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「きりもみ飛行!」ギュルルルルッ

レシート「宙返り!」グルンッ

レシート「8の字!」ギュンギュン



子供「すごいすごい! すごいや! この紙飛行機、まるで生きてるみたいだ!」

女(ちょっとやりすぎな気も……)

38: 2017/05/08(月) 21:54:25.847 ID:2Hcfyk3j0.net
女「どうだった? 私の紙飛行機は?」

子供「お姉さん、どうもありがとう!」

子供「ぼく、おかげで勇気出たよ! がんばってこの病気治す!」

女「坊やが頑張れば、すぐ退院できるわよ」

レシート「ふっ……さすがの俺もちょいと疲れちまったぜ」ハァハァ…

41: 2017/05/08(月) 21:58:17.274 ID:2Hcfyk3j0.net
女「レシート、どうもありがとう!」

女「あの子のあんな笑顔を見たのはじめてだわ!」

レシート「人々に笑顔を届けるのがレシートの使命だからな……」

女(そんなご大層な使命があるとは……)

女「とにかく、これで心おきなくデートに――」



刑事「もしもし、そこのお嬢さん」

43: 2017/05/08(月) 22:02:53.002 ID:2Hcfyk3j0.net
女「なんですか?」

刑事「私、こういう者でしてねぇ」スッ

女「刑事さんがなんの用です?」

刑事「実は先ほど、この近くで銃撃事件がありましてねえ……犯人を捜しているのです」

女「はぁ……」

刑事「事件が起きた時刻、あなたのアリバイはありますか?」

女「いきなりアリバイなんていわれても……」

44: 2017/05/08(月) 22:05:27.190 ID:2Hcfyk3j0.net
刑事「アリバイがないのであれば、逮捕するしかありませんねぇ」ニヤニヤ

女「え、なんで!?」

刑事「なぜなら、アリバイがないというのは、犯人である証明だからです」

女「そんな無茶な推理、眠ってない毛利小五郎だってやらないわよ!」

女「だいたい、こんないきなり逮捕だなんて――」

刑事「私の異名は“中世刑事(デカ)”……あなたはもう逃れられないのですよ」

刑事「さ、手錠をかけてあげましょう。逮捕します」

女「ちょ、ちょっと――」



レシート「……待ちな」ピラッ

46: 2017/05/08(月) 22:09:35.468 ID:2Hcfyk3j0.net
刑事「何者ですか、あなたは?」

レシート「その女のレシートさ」

刑事「おやおや、しゃべるレシートとは面妖な」

レシート「俺がその女のアリバイを証明してやらぁ」

刑事「ほう……どうやって?」

レシート「簡単さ……俺を見ろ!」バン!

刑事「む! 事件のあった△時頃……ここから随分離れたコンビニで買い物をしている……!」

レシート「だろ? つまりこの女は犯人じゃない!」

刑事「ぐぬぬ……どうやらそのようですねぇ……この私としたことが……!」

47: 2017/05/08(月) 22:12:41.126 ID:2Hcfyk3j0.net
刑事「このレシートのおかげで、あなたが犯人でないことは分かりました」

刑事「しかし、この近くを銃撃犯がうろついているのは確かなのです」

刑事「くれぐれも気をつけて下さい」



女「ふぅ~……とんでもない刑事だったわ」

女「またもやあんたに助けられちゃったわね」

レシート「俺を持ってりゃ、アリバイ証明だってできるのさ!」ビシッ

51: 2017/05/08(月) 22:15:19.723 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「ところで、デートの時間は大丈夫かい?」

女「あっ、そうだわ……遅れちゃう!」

女「走らないと!」タタタッ

レシート「おいおい、ちゃんと俺を持ってってくれよ」スポッ


ドンッ!


女「あ、ごめんなさい!」

52: 2017/05/08(月) 22:18:54.115 ID:2Hcfyk3j0.net
犯人「ぐへへへ……」

女(な、なにこいつ……!? 明らかに目つきがおかしいけど……!)

犯人「次は女を撃つってのもいいかぁ~」チャッ

女「!?」

女(まさか、こいつ――さっきの刑事さんがいってた銃撃犯人!? 私、今日運悪すぎじゃない!?)

犯人「一発で胸を撃ち抜いてやるぜぇ~」

女「やっ、やめ――」

54: 2017/05/08(月) 22:20:48.656 ID:2Hcfyk3j0.net
犯人「ヒャハァッ!」


パンッ!


女「いやぁぁぁぁぁっ!」

58: 2017/05/08(月) 22:23:32.748 ID:2Hcfyk3j0.net
犯人「ぐへへへ……」

女「……あら? ピストルで撃たれたはずなのに……」

犯人「てめえ、なぜ生きてる!?」

女「レシートを胸ポケットに入れておいたおかげで助かったわ!」サッ

犯人「な、なにぃぃぃぃぃ!?」



レシート(いくら俺でも……銃弾を受け止めるのはかなりキツかったぜ……)ピラリンッ

60: 2017/05/08(月) 22:27:52.816 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「さっきの贅肉ホストは服だけにしてやったが……今度は容赦しねえ!」ヒラヒラ…

レシート「レシートスラァーッシュッ!」


ズバババババッ!


犯人「ぐはああああああああっ!!!」

62: 2017/05/08(月) 22:30:24.440 ID:2Hcfyk3j0.net
刑事「お嬢さん、レシートさん、あなた方のおかげで犯人を逮捕できました」

女「まあ、私はなにもしてないけどね」

レシート「俺もちょいと犯人を切り刻んだだけさ」

刑事「あなた方には借りができましたねぇ……」

刑事「私も“中世刑事”の異名を返上できるよう、これからは努力しますよ」

女「そうしてもらえると、一市民としてもありがたいわ」

刑事「では、失礼します」

ファンファンファン…

65: 2017/05/08(月) 22:33:51.937 ID:2Hcfyk3j0.net
―駅前―

女「お待たせ~!」

男「……」

女「ごめんね、待った?」

男「いや……」

女「どうしたの?」

男「実は今日はデートじゃなく……君に話をするために呼んだんだ」

女(え、なに!? まさか……プロポーズ!?)

68: 2017/05/08(月) 22:36:51.366 ID:2Hcfyk3j0.net
男「僕たち、別れよう」

女「は!?」

女「ちょっと待ってよ! なんで、いきなり……!?」

女「もしかして、他に好きな人が――」

男「いや、そうじゃない。君は女性として本当に素晴らしい人だ」

女「だったらどうして……」

男「だが……素晴らしすぎるんだ。僕とはあまりにも格差がありすぎる……」

男「僕には自信がないんだ……これからもずっと君に愛され続ける自信が」

男「いや……そもそも今愛されてる自信すらない!」

男「だから……別れよう」

女「そ、そんな……! 私はあなたのこと……!」



レシート「待ちやがれッ!!!」

73: 2017/05/08(月) 22:41:13.698 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「おい、ダメ男」

男「レシートがしゃべった!?」

レシート「レシートだってたまにゃしゃべりたい時くらいあるんだぜ。いや、それより」

レシート「今……お前はこの女が自分を愛してないっていったな?」

男「ああ……彼女のような才女が僕を愛してるとは思えない」

レシート「だが、この女がお前を愛してる証拠なら、ある!」

男「なんだって!?」

レシート「俺をよぉく見てみるんだな……」

77: 2017/05/08(月) 22:46:54.935 ID:2Hcfyk3j0.net
アクエリアス

胃薬

シュークリーム

ティラミス

るるぶ



男「こ、これは……ッ!」

レシート「頭文字を読むと、≪アイシテル≫……この女がお前を愛しすぎたゆえの奇跡だ!」

レシート「お前はこれを見てもまだ疑うのか!」

レシート「レシートに印字されるほどの……彼女の……愛を……ッ!」

男「うっ、うわあああああああああああ!!!」

80: 2017/05/08(月) 22:54:21.599 ID:2Hcfyk3j0.net
男「すまなかった……」

男「僕は自分への自信のなさを君に転化して……ひどいことを……」

女「ううん、いいのよ……」

男「本音をいおう」

男「僕だって君を愛してる! これからもずっと付き合って下さい!」

女「……はいっ!」

女(よかった、この人と別れずに済んだ……。気弱だけど本当にいい人だから……)

女(これも……レシートのおかげだわ)

女「レシート……本当にありが――」

女「!?」

83: 2017/05/08(月) 22:57:46.272 ID:2Hcfyk3j0.net
レシート「……」シュゥゥゥ…

女「レシート!?」

レシート「ちと力を使いすぎた……というより役目は果たした……」シュゥゥゥ…

レシート「俺はここまでだぜ……」シュゥゥゥ…

女「そんなっ! ちょっと待ってよ! もっとお礼をいいたいのに!」

レシート「いや……礼なんかいらねえさ……俺はもう満足してる……」シュゥゥゥ…

レシート「おい、ダメ男……またこの女悲しませたら……承知、しねえぜ……」シュゥゥゥ…

男「は、はいっ!」

レシート「じゃあな……ほんの数時間だが……楽しかっ……」ヒラッ

女「レシートォォォォォ!!!!!」

84: 2017/05/08(月) 23:01:10.649 ID:2Hcfyk3j0.net
――

――――


十年後――

少女「ねえねえ、ママー」

女「なあに?」

少女「なんでこのレシート、額縁に飾ってあるの?」

女「それはね……このレシートはパパとママの愛のキューピッドだからよ」







~おわり~

90: 2017/05/08(月) 23:03:58.627 ID:m0mXdHPOp.net
お疲れ様でした

引用: 店員「レシートはご利用ですか?」女「結構です」レシート「……待ちな」