226: 2008/11/10(月) 00:08:15 ID:F1BXtwDV

「もしサーニャがペリーヌの部屋に間違えて入ったら」

「なんなんですの!」
ペリーヌはベッドがいきなり何の前触れもなく揺れたので、基地が爆撃されたのかとあわてて起きあがった。
周囲は何事もなく爆撃の煙も、炎もない。
普段と変りがないのでペリーヌは安心した。
気のせいかと思ったペリーヌは、坂本少佐との朝の訓練に出る前にもう一度寝直そうとしてふと横を見た。
なんとサーニャ・リトヴャク中尉が自分の隣に寝ていたのだった。
一瞬サーニャの部屋に間違って来てしまったのかとペリーヌは思ったのだが、周りの調度品や部屋の作りは自分の部屋のものであって、間違ったのはサーニャの方だった。

「あの……サーニャさん?」
呼びかけてみる。
返事はない……というか寝入ってしまってるサーニャはそもそも返事なんて出来ない。
「お、お部屋、間違っておりましてよ?」
冷静を装いつつペリーヌは注意してみるが、もちろんサーニャに何の反応もない。
「あの……」
ちょんちょんと彼女の手をつついてみる。
「ううん……」
サーニャは少しうなると煩わしそうに手を動かしてペリーヌの手を逃れようとした。
「ちょ、ちょっとなんですの、その態度は!人の部屋に無断で入って、人のベッドで無断に寝て!」
怒るペリーヌにもサーニャは反応しない。
よほど深く寝入ってしまったらしい。
「お起きなさい!サーニャ・リトヴャク中尉!起きなさいったら!」
ペリーヌはなにがなんでも起こそうと、サーニャの肩を持ってゆさゆさと揺すってみる。
迷惑そうな顔をするものの、サーニャが目を開けることはなかった。
「まったく……いい根性してますわね」
起きないサーニャに呆れつつもどうすべきかペリーヌは考えた。

227: 2008/11/10(月) 00:09:10 ID:tody4xs+
上官であるミーナ中佐や坂本少佐に言いに行くべきか?
あるいは彼女と仲がいいユーティライネン少尉を呼んでみるか?
それとも……。
ペリーヌはサーニャを見た。

きっと彼らは夜間哨戒で疲れたサーニャを優しく起こすか、もしかしたらここで少しの間寝させておくように言うかもしれない。
ほんとは疲れた仲間を思いやるなら自分もそうすべきなのかもしれない。
(でも……)
そうするのはペリーヌにとってなにか面白くなかった。

「かくなる上は……!」
ペリーヌの身体から薄青い光が立ち上り、同時に頭に獣耳が出て、ネグリジェの裾から細くて長い尻尾がのぞく。
ペリーヌはサーニャに近づきその身体に触れようとするが。

『お母さま……』
サーニャの口から出た言葉にペリーヌは凍りついた。
サーニャの国のオラーシャの言葉ではあったけれどペリーヌにもその言葉の意味はわかる。
その響きはガリアの国の言葉にも似ていたからだ。
それは自分もかつては毎日当たり前のように口にした、そして今は言うことさえなくなってしまった言葉だった。
サーニャの閉じられた目からは涙がこぼれ落ちた。
ペリーヌはハンカチを出してサーニャの涙を拭いてやり、肩を落としてため息をつく。
「そんな顔をされてはもう追い出せないじゃありませんの」
猫耳と尻尾はいつの間にか消えていた。
ペリーヌは毛布をサーニャに掛け、自分は制服に着替えた。
そしてベッドの端に腰掛け、サーニャの頭を恐る恐るなでてやる。
「私のベッドで寝るんですから、悪夢を見たら承知いたしませんわよ?」
ペリーヌはそう言うと立ち上がり、部屋を出たのだった。

228: 2008/11/10(月) 00:10:30 ID:tody4xs+
「少し早すぎましたかしら?」
ペリーヌは滑走路にいた。
坂本美緒少佐の朝の訓練はここで行われる。
だがほかの仲間どころか坂本少佐すらいなかった。
レイピアを抱え朝焼けを見ながら、ペリーヌはサーニャのことを考えた。
彼女と話したことはほとんどないから彼女の過去になにがあったかペリーヌは知らない。
伝え聞くオラーシャの状況やここにいることを考えると彼女はおそらく自分と似たような状況なのだろう。
その状況は隊員の大部分にもいえることでもあった。

「早いな、ペリーヌ」
「坂本少佐!」
ペリーヌは振り返った。
竹刀を持った坂本が穏やかな表情で立っていた。
坂本を見ていると、思わずペリーヌの口をついて出た。
「あの……」
「なんだ?」
「私たちはガリアを……ネウロイから取り戻せるでしょうか?」
「私は扶桑人だから国を失ったおまえの気持ちは本当にはわからないのかもしれない。しかしネウロイを憎む気持ちは同じだ。私だってネウロイのために失ったものはある」
言いながら坂本は普段見せないような寂しげな表情をした。
だがすぐに寂しげな表情を消し、ペリーヌに、そして自分にも言い聞かせるよう決意に満ちた顔をした。
「……ペリーヌ、私たちは取り戻すのではない。取り戻さねばならないのだ。人々のためにも、自分のためにも」
なにも言わずまじまじと見つめるペリーヌに坂本は少し赤くなった。
「ん、まぁ……これくらいの心意気でないと取り戻せるものも取り戻せないからな」
ペリーヌは坂本の決意がうれしく、顔をほころばせた。
「私、少しナーバスになってました。そのようではネウロイに負けてしまいますわね。少佐の心意気を見習って私も精進いたしますわ」
「そうか。ならば訓練開始と行くか。ビシビシ行くぞ!」
「は、はい!」
パッとかけ出す坂本に遅れないようペリーヌも続いた。
朝日が走る二人を応援するかのように背中を温かく照らしていた。

229: 2008/11/10(月) 00:14:25 ID:tody4xs+
以上3レスです。

なんだかうpしたのを見ると改行が微妙に残念なことに。

230: 2008/11/10(月) 00:25:08 ID:0bjliLvV
>>229
あら・・・素敵なお話・・この優しさ流石はペリーヌさんですわ

引用: ストライクウィッチーズpart9